仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
「ちょ、ちょっと待て! 俺は戦う気は無いんだ!!」
迫るガイを制止させようと。龍騎は両手を前に出す。
しかしガイに止まる気配は無かった。むしろ龍騎の言葉を聞いて、ダルそうに首を振る。
「あ、そう。じゃあ――」
そして、サムズダウンを一発。
「死ねよ」
「うっ! わあああ!!」
ガイのタックルが龍騎にヒットする。
巨体から繰り出される一撃は、龍騎を吹き飛ばして地面に叩きつけた。
同時に拍手を行うあやせ。キラキラした瞳でガイを見つめている。
「おまえッ! やめ……!」
「やだよ」『ソードベント』
「ウグッ!!」
立ち上がろうとした龍騎の腹部に、ガイの蹴りが抉り込んだ。
再び倒れる龍騎。しかしガイに首を掴まれ、強制的に立ち上がる。
ふと、腹部に衝撃を感じた。ガイの足裏がヒットしたのだ。
フラつきながら後退していくと、見る。
ガイの手にメタルゲラスをイメージした大剣、メタルセイバーが握られた。
ガイは巨大な剣を軽々と振るい、龍騎の装甲に大きな傷を作っていく。
「ぐあぁああッッ!!」
火花が血のように舞う。
まずい、このままじゃ本当にヤバイ。龍騎は仕方なく反撃を行う事に。
幸いガイは龍騎が反撃する気がないと思っている。だからこそ、ふいに放った蹴りはしっかりと命中した。
「うぉ!」
怯むガイ。
その隙に龍騎は地面を転がり、距離を取る。
「何だよ。戦わないとか言っときながらさ、結局蹴ってんじゃん」
「はぁっ!?」
「アンタ、何だかんだ言って仕方ないから殺すパターンだよね」
「何言ってんだよお前!」
「いるよなー、そう言うヤツ。あーあー、マジでガッカリだわーッッ!!」
ガイはわざとらしく大きなため息をついて、しゃがみ込む。
「っていうかさ、戦いを止める為に戦うって矛盾してない?」
「してる訳ないだろ! 今ココでお前が攻撃を止めたら終わりだ!」
「おれ、止める気ないし。だったらアンタはおれを動けなくするまで殴ったり蹴るしかないじゃん」
「なんでそうな――……」
そこで佐野に言われた言葉が脳裏にフラッシュバックする。
背負っている物が違う。それは覚悟が違うと言う事だろう。
龍騎の戦いを止めたいと言う覚悟は、他者の覚悟を踏みにじってまで突き通すものなのか。
「酷いっ! 戦う気が無いとか言っておきながら、淳くんを蹴るなんて! 最低ッ!!」
「えっ」
あやせは悲しそうな表情で龍騎に言葉をぶつける。
「いやいや! だからッ! 襲ってきたのはソッチだろ!」
龍騎は叫ぶが、あやせはそれを無視して言葉を続けた。
「戦わないなんて嘘つき! やっぱり貴方もゲームに乗ってるんだ! 言葉だけの上っ面なヤツぅ、最低な人!!」
「違う! 誤解だ!」
龍騎はガイ達に近づいて弁解を始める。
自分は本当に戦いを止めたくて変身しているのだと必死に言葉を並べた。
それを興味なさそうに聞いているガイ。ある程度龍騎の話を聞くと――
「どうでもいいや」
「は?」
「そらッッ!!」
「うわああああっっ!!」
ガイは頷くとメタルセイバーを突き出して龍騎の胴に突きを叩き込む。
胸を押さえながらうずくまる龍騎。それを見てケラケラとあやせは笑っていた。
先ほどとは対照的に、素晴らしいほどの笑顔である。
「よっわーい! これなら淳君の敵じゃないね☆」
「ホントだよ。コイツ弱すぎ。何で今まで生き残れてんのか不思議だよ!」
倒れる龍騎に次々と追撃の剣を浴びせていくガイ。
龍騎は必死に抵抗するが。ダメージは蓄積されていくばかりだった。
しばらくそれが続いていたが、龍騎は一瞬の隙をついて何とか地面を転がり、回避に成功。
デッキからガードベントのカードをドローする。
「やめてくれ! どうして戦う必要があるんだ!」『ガードベント』
「それがルールだからに決まってるじゃん」『コンファインベント』
現れて早々粉々に砕けるドラグシールド。
龍騎は信じられないと言う様子でそれを見た。
だがガイに何も変化が起きない事を見るに、今の『コンファイン』のカードの効果と言う事か。
「ルールなら皆で協力する方もあるだろ!」
「おれ、協力プレイより対人プレイの方が好きなんだよね」
「戦いはゲームじゃないんだぞ!!」
「あー、もういいって。マジで萎えるわお前」
空気読もうよ。
ガイはうんざりだった。本当に龍騎のようなプレイヤーは嫌いなのだ。
「別に協力派でもいいけどさぁ。せめて参戦派前にしたら戦えよ」
「俺は誰も犠牲にしたくないんだ!!」
「じゃあ殺さなきゃいいじゃん。戦わない理由にはならないよね?」
必死に叫ぶ龍騎だが、ガイの心には何も届いていないらしい。
「おれ、優勝した願いで神様になろうと思うんだ」
「はぁ!?」
「そんで弱い人間を使って遊ぶんだよ。素敵な願いでしょ?」
あやせも、うっとりとした表情を浮かべてため息をつく。
彼女は彼女で願いが別にあるらしい。
可愛いものに囲まれて暮らしたい。もちろんそれは普通の女の子が願う様な物ではない。
あやせは自分のソウルジェムを取り出すと、ペロリと舌でそれをなぞる。
「ソウルジェムって綺麗でしょ? いつかコレクションしたいって思ってて」
「な、何言って――」
「あーん、でも淳君の隣にいる女神様になるのもいいなぁ♪」
見て分かるでしょ?
ガイはそう言ってデッキに手を掛ける。
つまりは二人には叶えたい願いが一つではないと言う事だ。
これじゃあワルプルギスを倒す理由は無い。
協力エンドは一つしか願いを叶えられない上に、誰が叶えられるかすら決まっていないんだから。
「そんな訳でさー、コッチとしては協力する気なんてサラサラ無いんだよねぇ」
「ッッ!」
何て奴だ。龍騎はつくづくそう思いながら、一旦ココを離れる事にした。
今は無理でも日を変えて話し合いを持ちかけるしかない。
そう決めてアドベントを発動する。ドラグレッダーに時間を稼いでもらえばココを脱出できる筈だと。
「へー、龍じゃん。かっこいいね」『コンファインベント』
「!?」
咆哮をあげて飛んできたドラグレッダーだが、直後、粉々に砕け散る。
「そんな馬鹿な!」
コンファインベントは先ほど使った筈。
いくら何でも再構築の時間が早すぎる。驚く龍騎、そして満足そうに笑うガイ。
どうやら龍騎のリアクションが望んでいた物の様で、満足したようだ。
「カードは一枚だけじゃないって事」
「ッ!」
「おれ、全部のカードを二枚ずつ持ってるんだよね」
相手が直前に使ったカードを無効化する『コンファインベント』。
破壊では無いため、龍騎がブランク体になる事は無かったが、再使用までは時間がかかるようだ。
一方でガイはファイナルベントのカードを抜き取る。
コチラも二枚存在しているようだ。
「や、やめろ!」
「やーだよ雑魚」『ファイナルベント』
粉々になるメタルセイバー。同時に現れるメタルホーン。
ガイはヘビープレッシャーを発動して突進してくる。
何とか回避できないかと力を入れる龍騎だが、そこで周りに着弾していく炎。
どうやらあやせは手を出さない訳では無い様だ。
炎が龍騎の退避のルートを潰していき、気がつけばメタルホーンが目の前にあった。
「うわあああああああああああああああッッ!!」
ファイナルベントが直撃。
龍騎は大きく吹き飛ばされて変身が解除されてしまう。
そのまま地面に直撃する真司。苦しそうに呻きながら、地面を這い蹲る形に。
「う……、ぁ―――」
真司の意識はそこでブラックアウトだ。
血を流し、倒れて動かなくなる。しかし命の鼓動は弱まる気配を見せない。
つまりは真司は気絶しただけに終わったのだ。
その事に首を傾げるのはあやせだ。
ファイナルベントを受けてこの程度とは、つまり威力がそれだけ弱かったと言う事になる。
「あれぇ? 淳君、どうして手加減なんかしたの?」
「んー、やっぱり気が変わってさ」
ガイは変身を解除して、真司を足蹴にする。
「こんな雑魚、いつでも殺せるし」
だからこそ、今殺すのは少しもったいない。
「ちょっと試したい事があってさ」
「?」
芝浦は真司の身体を探ってデッキを手にする。
どうやらわざと破壊しなかったらしい。そこから抜き出すのはドラグレッダーが書かれた、アドベントのカードだ。
芝浦はそれをつかんで思い切り力を込める。どうやらカードを破ろうとしているらしい。
『無駄だよ』
「!」
そこで聞こえるのはキュゥべえの声。
見ればいつの間にか芝浦の前方に立っていた。
『【アドベントカードは如何なる力を持っても破られる事は無い】。ただそれはイコールで頑丈と言う訳ではないよ。盾にしようとしても意味は無いんじゃないかな』
「あっそ。じゃ、このカードってパクれるの?」
首を振るキュゥべえ。
カードもデッキ同様に、持ち主から一定の距離を離すと自動的に戻るようになっているらしい。
まして他人のカードをバイザーにセットしても効果は自分には適応されない。
『つまりデッキやカードを奪っても意味は無いんだ』
「ふーん、つまんないの。じゃあいいや、帰ろうかな」
「殺さないの?」
頷き、ニヤリと笑う芝浦。
「どうせ明日くらいには孵るんだし。ねえ、そうでしょ?」
「?」
芝浦はポケットに手を突っ込んで後ろを振り向く。
後ろ? あやせも釣られる様に視線を移した。
するとそこにいたのはコートに身を包んだ魔法少女、ユウリである。
「さすがガイ。お強いお強い!」
「当然でしょ。淳くんはゲーム参加者の誰よりも強いもん!」
芝浦の前に立ち、ムスッとした表情を浮かべるあやせ。
このユウリと言う魔法少女。少し前に芝浦達の前に現れ、面白い『玩具』を提供すると近づいてきたが、どうにもあやせとしては胡散臭いところだ。
加えて露出の多い魔法少女の衣装。
(まさか淳くんを誘惑するつもり!?)
などと、あやせはユウリ対して露骨な敵意をむき出しにする。
対して挑発的な笑みをユウリに向ける芝浦。
「アンタに貰った種、本当に使えんのー?」
芝浦はユウリが提供するといった玩具に食いついた。
「おれとしては罠でもなんでもいいんだよ。ゲームが面白くなれば」
「フフフフ! もちろん、安心してほしいよね」
ユウリが懐から取り出すのは、芝浦に授けた
「この"イーブルナッツ"は、魔女の成長を加速させる効果を持ってる」
ユウリは試しにと、お菓子の魔女であるシャルロッテの使い魔・ピョートルを召喚させる。
そこへ手に持っていたイーブルナッツを埋め込む様にして合成。
「へぇ!」
「すごい! 魔女になった!」
するとピョートルの身体が鏡の様に割れ、そこからシャルロッテが現れた。
ユウリは生まれたばかりのシャルロッテにリベンジャーの銃弾を浴びせていく。
数十秒で蜂の巣になり死亡するシャルロッテ。すると死体からはグリーフシードが排出される。
「こんな風に、ドロップもできるかもね」
「ふーん、じゃあお前はグリーフシードには困らないんだ」
「そのとおり、豆苗はタコとガーリックで炒めるのがオススメ」
「???」
苗をカットしたあと、豆と根の部分を水に浸けておくとまた苗が生えてくる。
こうする事でまた食べられるのだ。ユウリも同じである。使い魔をすぐに魔女に出来る彼女にとっては、グリーフシードが枯渇すると言う状況はこない。
「扱い方は前に説明したとおり」
ユウリはニヤリと笑って腕を組む。
今見せたイーブルナッツを、複数芝浦に渡していたのだ。
「グリーフシードにイーブルナッツを埋め込んだ場合、すぐに孵化させる事ができる」
「これ、何に使ってもいいんだよね」
「どうぞご自由に。ちなみに前にも言ったけど、イーブルナッツで孵化させた魔女は使用者の駒となりますので」
「いいじゃん、魔女を使ってゲームを加速させてやるよ」
じゃあ遠慮無くと芝浦は踵を返して歩きだす。
ついて行くあやせ。最後に芝浦は、ユウリに何故自分達にイーブルナッツを渡したのか理由を問うた。
「別に。アンタ等に渡した方が面白く調理してくれそうだっただけ」
「へぇ。まあ期待しない程度に期待しててよ」
そう言って完全に歩き去る二人。
ユウリはそこで倒れている真司を見た。
黒い笑みを浮かべる。真司の頭を踏みにじると、ある種の恍惚な表情を浮かべる。
そしてその隣では赤い目を光らせているリュウガの姿があった。
リュウガは何も言わずに真司を見ていた。
そして手に持った黒いドラグセイバーを振り上げる。
「待て。まだその時じゃないだろ」
「………」
リュウガの動きが止まり、ドラグセイバーを消滅させる。
どうやらリュウガは真司と関わりがあるらしい。
だから騎士の姿も似ているのだろうか?
「今コイツを殺ったとして、完全に殺せる訳じゃないだろ」
「………」
「そう、お前の目的は達成できないって事」
その言葉を聞くと、リュウガは頷いて一歩後ろへ下がる。
どうやらココで真司に止めを刺す事は無いようだ。
リュウガは何も言わず、ただ機械的なリズムで呼吸を繰り返すだけ。
「フフ。やっぱりアンタを"貰って"正解だった。お礼に今は殺さないであ・げ・る!」
それに、ただ殺すだけじゃつまらない。
それは真司だけじゃなく参加者全員に言える事だ。
ユウリの目的は参加者全員の殺害。それはあの芝浦達だって例外じゃない。躍らせて躍らせて、最後は殺す。
「苦しめて、絶望させて、それで殺しちゃうからさぁ! アハハハハハ!!」
ユウリはそうやって、笑いながら消えていくのだった。
真司が気絶して放置という状況にあるのだが、残念ながらパートナーのまどかにソレを知る由も無い。
彼女は日の沈むかどうかの見滝原を歩いていた。
そして目的地につくと、笑みを浮かべてインターホンを押す。
「ほーむらちゃん」
「まどか……、どうしたの?」
扉を開けるのはほむら。
家に訪ねてくる人物なんて、せいぜい手塚だけだと思っていたが、まさかまどかがやって来るなんて思ってもみなかった。
しかし何故?
ほむらは少し首を傾げて問う。
すると笑みを浮かべて、袋を差し出すまどか。何でも父親がクッキーを作りすぎたので友達に渡して回っているのだと。
「一人で来たの?」
「うん、どうして?」
「あまり関心はできないわ。外にはゲーム参加者がいるかもしれないのに」
「そっか、ごめんね」
まどかは申し訳なさそうに笑ってほむらに謝罪する。
「いえ、分かればいいのよ」
「うん、じゃあコレどうぞ」
まどかは友達に配ると言うクッキーをほむらに渡す。
心なしか少し暗い表情に変わるほむら。無意識に、呟く。
「貴女は……、私を友達だと言ってくれるのね」
「え? どうしたの」
「いえ。なんでもないわ」
ほむらはまた暗い表情に変わってしまった。
それを見て、まどかは考える。
「ほむらちゃん。都合が悪いなら言って欲しいんだけど」
「?」
「ほむらちゃんのお家に、お邪魔してもいいかな?」
「へぇ、すごいお部屋だね」
「え、ええ」
普通の部屋に、ほむらの魔法がかけられている為、そこは随分と別世界に見える。
魔法で少し広くなった空間に、歯車の様な装飾。壁には様々な魔女のデータや文献が貼り付けられていた。
中でも目立つのは、巨大な魔女の姿が記されている文献だ。
それらは全て一つの魔女を指し示している。
「ワルプルギスの夜……」
「ええ。いずれ私達が戦うだろう魔女よ」
イラストにはピエロの様な帽子をかぶった女性が逆さまに写っていた。
その女性の表情は、見ているだけで不安になりそうな『狂気』が浮かんでいる。
しかし所詮イラストだ。数々の伝承はあれど、本物を見た人間は未だにいないと言われている。
よくある話だが、本物を見て帰ってきた人間はいないのだ。
残されたビデオテープに、僅かな映像が残っているだけだとか何とか。
「……私も見た事がないから、本当にそんな姿をしているとは言えないけれど」
ほむらの声色が少しだけ変わる。
もちろんそれは微弱なもの。まどかが気づく訳もなし。
「待っていて、今お茶を淹れてくるわ」
「手伝うよ」
「……ええ、ありがとう」
カップを用意するまどかとほむら。途中で彼女達は他愛も無い会話を繰り広げる。
学校であった事、まどかの家族の事。それは殺し合いと言う凄惨な状況を忘れさせてくれる時間でもあった。
「じゃあ運ぶね」
「ええ」
リビングに戻っていくまどか。
それを見て、ほむらは自分の胸を押さえる。
まどかの声が聞こえる度に、まどかの笑顔が見れる度に、心臓が心地よいリズムを奏でているのが分かる。
まるで恋をしている様じゃないか。
ほむらは思わず笑みを浮かべる。バカな話だ。
「あ!」
「え?」
まどかは、ほむらを見て何かを発見した様に笑う。
戸惑うほむらと、嬉しそうに近づいて来るまどか。
「やっぱりほむらちゃんは笑った方が素敵だと思うな」
「そんな事……」
「ほんとだよ~。えへへ」
まどかは屈託の無い笑みを浮かべて、ほむらをくすぐる。
「ちょ、ちょっと……」
「ほらほら、笑って笑って! こちょこちょ!」
「まどか、やめて……! ふ、ふふっ!」
半ば強制的に笑みを浮かべるほむら。
しばらくは楽しげなじゃれ合いが続いていたのだが、次第にまどかの笑みが憂いを持った物に変わっていく。
「気のせいかな。わたし、やっぱり前にほむらちゃんと会った事があるような気がして」
「え?」
まどかは寂しげに呟く。
もちろんそんな事は無いと分かっていながらも、何故かほむらを見るとそう思う様になってしまうと。
「心の奥が、締め付けられる様に苦しい」
そんな感覚をいつも覚えてしまう。
「変かな。ごめんね、急に」
「………」
気がつけば、ほむらはまどかの手を握り締めていた。
目を丸くするまどか。ほむらは少し照れた様に笑みを浮かべる。そのまま、まどかの目を見て頷いた。
「あなたは何も心配する必要は無いわ。私がちゃんと……、守るから」
「う、うん……。ありがとう」
徐々にまた柔らかい笑顔に戻るまどか。
ほむらはたった今口にした言葉を、もう一度心の中で復唱する。
そうだ、まどかは――
必ず私が守る。
「じゃ、じゃあクッキー食べよっか!」
「ええ」
この笑顔を守るためにも。
一方、織莉子邸。
「わざわざすいません。毎回コチラに来てもらって」
「いえいえ、お嬢さんの様な美しい方にお呼ばれされるなんて光栄ですよ」
「まあ、お上手ですね」
そう言って笑みを浮かべる織莉子の前では、スーツを正す青年が一人。
「なんだか今日はお顔が違って見えますね」
「いい事があったんですよ。なんかこう、運命的な出会いを果たしたっていうか」
「まあまあ!」
そう言って織莉子は笑う。
対面するのは同じく笑みを浮かべた弁護士、北岡秀一だった。
何故彼がココにいるのか。
それは織莉子が北岡を雇ったからだ。
織莉子は北岡の噂を聞いていた。事務所こそ小さいが、腕は確かな物だと。
なによりも北岡には評判があった、金さえあれば仕事はこなす男。
「それで、いかがでした?」
織莉子は笑みを消す。
北岡もまた笑みを消すと、カバンの中から資料を取り出していく。
「確かに、お嬢さんの言う通り、おかしな点がチラホラと」
北岡は次々に資料を渡して、不可解な点を説明していく。
まず見せたのは警察の捜査記録や議員名簿、その他もろもろである。
織莉子が北岡に依頼したのは、父親の自殺に対する各組織の対応、及び裁判の結果である。
「久臣議員の経費の改ざんによる不正疑惑はまだしも、自殺の部分が引っかかる。どうにもココがおかしいんですよね」
「ええ。私もそう思っていました。父があんな形で死ぬ事は無いと」
織莉子の誕生日に、織莉子の父は死んだ。
あれだけ娘を可愛がっていた久臣が、よりにもよってその日を選ぶだろうか?
もちろん死ぬと決めた久臣が織莉子の事などどうでもいいと思ったならば別だ。
しかしご丁寧にケーキまで予約していたのだ。
「警察は既に捜査を打ち切っています。まあ当然でしょう、これだけ時間が経ったんだ。ただ、中にはお嬢さんと同じく疑問に思っている刑事もいまして」
石島美佐子と言う女刑事から、北岡は面白い情報を聞けたと言う。
「彼女は偽装自殺と言う可能性も考えたらしい」
「偽装?」
「ええ。わざとケーキを買っておいて、あたかも自分がその日自殺するつもりなどなかった様に見せる」
しかし美佐子は捜査の中でそれを否定した。
「どうやら当時、違法な取調べがあったらしく」
「違法な、ですか」
「どこの警察組織でもたびたびあるらしいですよ。ある種、拷問に近いものです」
「―――ッ!」
歯を食いしばる織莉子。北岡は構わず話を続ける。
久臣への取調べには、暴力や睡眠を取らせない等と違法行為が頻繁に行われていたと言う。
そしてそれらの記録は、美佐子が調べなければ見つからなかった訳で。
「要するに、大きな圧力が掛かっていたのではないかと」
それも強大な物だ。
警察すらも手中に収め、かつ人一人の命を簡単に奪い、今も尚姿が分からない相手。
「お嬢さんの依頼は、不当な裁判を行ったすべての組織に損害を求める事ですね?」
「はい。父の無念、屈辱は私の物でもあります」
ため息をつく北岡。
「覚悟は立派だが、お勧めはできません」
「ッ、どう言うことですか?」
「正直言って、私も相手の大きさに驚いています。おそらく織莉子さんが太刀打ちできる相手ではないでしょう」
北岡としてはゾルダの力があるため、恐れはない。
そしてそれは織莉子も同じだ。北岡も織莉子も互いが参加者だとは知らないからこそ、この場にいられる。
「私はそれでも、父に何があったのか知りたいんです」
「綺麗な方が危険な目に合うのは賛成できないんですけどね」
「お金は払います。ですから、どうか」
「……そう言われては仕方ない」
とりあえずと、北岡は集めた資料を全て織莉子に渡す事に。
そして報酬を受け取ると、去り際に最後の言葉を。
「もし裁判をお望みでしたら、このスーパー弁護士にお任せください」
「ええ、期待しています」
そう言って家を出て行く北岡。
それと入れ替わるようにしてキリカが顔を見せる。
すぐに織莉子へ飛びつくキリカ。深刻な表情を浮かべている織莉子が心配になったようだ。
「織莉子は笑顔の方が三億倍可愛いよぉ~!」
「ふふ、ありがとうキリカ」
「あ、何だよーッ。頑張って口説いたんだから、そこはもっと赤面するべきだぞ!」
織莉子は少し吹き出す様に笑い、キリカの頭を撫でる。
しばらくすると連絡を受けた上条がやって来る。
「相変わらず二人は仲がいいね」
織莉子は上条に気づくと、申し訳なさそうに頭を下げる。
「すいません、わざわざ……」
「別にいいよ。それより本当なのかい? 連絡で言っていた事は」
「ええ、明日ですね」
織莉子の目が金色に変わる。
どうやら明日何か大きなイベントが起こる様で、その対応と作戦をこれから考えたいと言う事だった。
大まかな事は既に織莉子から聞いているため、上条はココに着く前に答えを決めていた。
「わかった、特に止めるつもりは無いけど」
「………」
二人の表情が変わる。
「邪魔なら、消す方針で行こうか」
「はい」
無邪気に笑うキリカと、対照的に真顔の織莉子たち。
ゲームなんて最初からコチラが全て決める決定論だ。
未来は未だにオーディンペアの勝利を提示している。
ある意味、これからは茶番にしか過ぎない。
しかして、その未来は簡単に崩れる物だとも、織莉子は知っている。
だからこそ油断はできなかった。
翌日、月曜ともあって、眠気がいつもより酷い気がする。
まどかはまだ少し重い瞼を擦りながらサキの家に到着する。
「おはよう、サキお姉ちゃん」
「ああ、おはよう」
既にサキは家の前に立っており、まどかとは違ってキリッとした目をしている。
二人は朝の挨拶を交わすと、昨日の事を話しながら学校を目指す。
「実は休日中にジュゥべえに会ってな」
「え!? ど、どうだったの?」
「特に情報は貰えなかった。ワルプルギスの出現時期について聞いたんだが……」
アバウトにしか言わなかった。
ただ一言、まだ現れる事は無いとだけ。
まどか達からすればワルプルギスには早く来てもらった方がいい。
しかしジュゥべえの話を聞くにあまり期待はできなさそうだ。
残念な話だが、キュゥべえ達が望むのは殺し合いの筈。だとしたらワルプルギスはなるべく最後の方に出て来るのではないかと。
「まあ、あまり気にしすぎてもな」
「うん。それまでに皆とお友達になれたらいいな」
それからまたしばらく他愛ない会話が続けられる。
サキは昨日まどかに貰ったクッキーの感想を述べていた。
やはりまどかの父親は料理の天才だとか何とか、まどかとしても親が褒められると言うのも嬉しい。
そうしていると仁美、かずみが輪に加わる。
「おはようございます」
「おはよー! 昨日クッキーありがとね!」
そして最後にほむらだ。
「おはよう……」
こうして五人は学校を目指す。
その中で、まどかはかずみと話すことに。
「秋山さんと仲良しなんだね」
「うん。わたしね、蓮さんにすっごいお世話になったんだ!」
とはいえ、肝心の蓮は覚えていない様だけど。
かずみはそう言って悲しそうに笑う。
「だったらその時の事を話してみたら?」
まどかはそうアドバイスしてみるが、かずみは首を振った。
「うん、実はね。あんまり言いたくない事もあって」
「そうなんだ」
言いたいのに言えない、それが今のかずみの状況らしい。
何故言えないのかまでは聞く事ができなかったが、只ならぬ事情があるのだろう。
とにかく立花かずみは、秋山蓮に絶大な恩があると言う事だった。
「わたし、どんな事をしてもその恩を返したかった」
「かずみちゃん、もしかして――」
「うん、それはわたしが魔法少女になった理由でもあるの」
どんな事をしてでもその恩だけは返したい。いや、返さなければならない。
だからこそかずみは蓮を慕うし、蓮の尊重する道を歩みたいと願う。
たとえそれが戦いの道であったとしてもだ。
「そんなに……。でも、だったらどうして秋山さんは覚えてないのかな?」
「まだ――、知らないからだよ」
「え?」
まどかは、その言葉は聞き取れなかった。かずみも何でもないと笑ってみせる。
「とにかく、わたしは、蓮さんの味方なの!」
蓮が望むなら戦う。それが、かずみなのだ。
たとえそれが自分の思いを押し殺す事になったとしても、構わない。
「ねえ、まどか」
「ん?」
かずみはうつむき、震える声で呟く。
「魔法少女にとって一番大切な物って……、なんなのかな?」
「どう、かな? わたしも分からない」
だけど――
「分からないけど、わたしはこの戦いを止めたい。ただそれだけ」
「………」
そこでちょうど学校に到着する一同。
かずみは何も言わずに頷き、それぞれは自分の靴を入れに向かう。
一人になったかずみは、周りに誰もいない事を確認すると、消え入りそうな声で呟いた。
「海香、カオル……、皆――!」
わたしは、間違ってないよね?
皆、登校も終わり、教室にて朝のホームルームを待つ時間が始まる。
談笑に勤しむ者がほとんどの空間。それは上条たちも例外では無かった。
前のケーキ作りで中沢はますます仁美に惚れ込んでしまったようで、チラチラと視線を移しては幸せそうにニンマリとしている。
「あまり見ていると変態だと思われてしまうよ」
「えっ! あ、ああそうだな」
バッと目を反らす中沢、それを見て上条はクスクスと笑う。
「冗談だよ。中沢は志筑さんのどこが好きなんだい?」
「そりゃ雰囲気とか、性格とかッ、いろいろだよ~」
語る中沢。
自分の様な中途半端な人間とは違う上品な雰囲気。
とは言え、まどか達と一緒にいる時の年相応な女の子感。
それはギャップ萌え。上品な口調は一見近寄りがたいポイントだが、その口調で話しかけられた時など跳んで喜びたくなる。
「それから、それから――」
「「………」」
顔を見合わせてヤレヤレと笑う上条と下宮。
その中で、上条はそっと中沢に問い掛ける。
仁美の事を好きなのは十分に理解できた。上条だって今、さやかを思うだけで心が締め付けられる程に苦しいのだから。
だからこそ、今、中沢に聞きたい。
「中沢、キミは志筑さんの為に命を賭けられるかい?」
「え? いきなり何んだよ」
そんな途方も無い質問に、中沢は沈黙していしまう。
確かに仁美の事は好きだが、命を賭けられるかなんて考えた事も無かった。
「そりゃあ好きな人のために頑張るのはカッコいいと思うけど……、そんな状況なんて来ないでしょ」
「そう」
納得したのかどうかは知らないが、上条はそれ以上、質問を広げる事はなかった。
不思議に思う中沢と下宮。しかし特に追及する必要もないと、談笑を再開する。
そうこうしている内に時間は経ち、教室には早乙女先生がやって来た。
今日も今日とて不機嫌そうである。どうやらまた彼氏とうまくいっていない様だ。
怯えたように構える中沢。だいたいこういう場合は自分に怒りの矛先が――
「中沢君、ビアンカ派ですか? フローラ派ですか?」
「………」
は?
全く意味の分からないホームルームが始まった頃、一階下の教室では一年生が同じくホームルームを始めていた。
今日一日の注意事項、これからの連絡。淡々と行われていく時間を、つまらなさそうに過ごす者がチラホラと見える。
やる気の無い朝。それは誰だってあるものだろう。
「………」
芝浦淳、彼もまたそんな一人である。
教師が話しているにも関わらず、堂々と携帯をいじっていた。
ゲームをしながら確認するのは時間だ。この学校に着いてからどれだけ経ったろうか? 芝浦は頭の中で計算を行いながら、ニヤニヤとしていた。
「おい芝浦。携帯はもうしまえ!」
教師から注意を受ける。
普段ならば渋々従っていたが、今日は違っていた。
「さーてと、そろそろかな」
「お、おい芝浦!!」
芝浦は机を蹴り飛ばすと、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。
当たり前の様に教室を抜け出す芝浦。当然教師は連れ戻そうと声をかけるが、芝浦に聞く耳など無かった。
「ウザいなぁ、離せよ」
「おまえッ! 教師に向かって何て口の利き方――」
教師の言葉が急に止まる。
まるで人形の様に吹き飛び、壁に叩きつけられた後に動かなくなったのだから。
教師を吹き飛ばしたのは巨大なサイ、メタルゲラス。
芝浦はニヤリと笑うと、メタルゲラスを消滅させて再び歩き出す。
最初に向かうのは職員室だ。扉を開けると、そこには血塗れの教師達が転がっているのが目に付いた。
「へぇ、上等じゃーん」
「あ! 淳くん!!」
血に染まったサーベルを振るうのは双樹あやせ。
彼女もまた学校を休んで、わざわざコチラに来ていたと言う事だ。
あやせの持つ剣の名前は『フランベルジュ』。炎の力を宿したサーベルに人間が叶うわけもなく、この場にいる全員が血塗れになって苦しそうに呻いている。
芝浦はそんな教師を蹴り飛ばして、あやせの元へ。
「準備は整った。行こうか」
「うん♪」
そして二人は次の目的地へ足を運ぶ。
それは校長室だ。いきなり入ってきた二人に驚く校長だが、何か声を出す前に、突進してきたメタルゲラスの餌食となる。
巨体に突進され、角の一撃を受ければ人間は即死だ。
そのまま食事を始めるメタルゲラス。
「よしよし、ゲラスちゃん。いっぱい食べて大きくなってね♪」
あやせに撫でられ、メタルゲラスも嬉しそうに唸る。
ペットを可愛がる女の子と言う、微笑ましい光景にも見えるが、既に命が奪われている状況だ。
なのに芝浦は笑みを浮かべて校長室の椅子にどっかりと座り込んだ。
「悪くない」
目を閉じてその感触を堪能する。
しかし本番はこれから、芝浦は時計を確認して楽しそうに笑う。
「もう全員登校してるだろ。じゃあ始めようかな」
「うん! 任せてね淳くん!」
あやせは懐からグリーフシードを取り出して、それを校長室の隅に投げる。
同時に芝浦はイーブルナッツを取り出して、それをグリーフシードにぶつけるように投げた。
「ルチョラ・フォーコ」
オレンジ色の淡い光を放つ球体が、イーブルナッツとグリーフシードを包み込むようにしてセットされた。
あやせが行ったのは設置形の魔法である。
簡単に言えばこのルチョラ・フォーコは小規模の爆弾だ。
この中にイーブルナッツをグリーフシードに合わせた物を置いておく。
芝浦はコレと同じ物を既に学校中にしかけていた。
オクタヴィアの時に芝浦が姿を見せず、今の今まで行動を控えていたのは、全てこの時の為に用意するべきグリーフシードを集める為だったのだ。
「バースト☆」
あやせが指を鳴らすと、ルチョラフォーコが爆発。
範囲事態は小規模な物ではあったが、それはグリーフシードとイーブルナッツに刺激を与えるには十分だった。
砕けたグリーフシードにイーブルナッツが融合していく。そして急激に成長を促がすのだ。
そう、成長促進。学校中に散らばった魔女の卵が次々に音を立てて砕けていく。
それが意味するのはただ一つ、魔女が孵ると言う事だ。
校長室が次第に摩訶不思議な空間に変化していく。
芝浦はテーブルに肘をついて、ニヤリと笑った。
「さあ、ゲームスタートだ」
場所はまどかの教室に戻る。
相変わらずの無茶振りを行う早乙女先生と、それを受ける中沢。
またやられてるよ可哀想に。誰もがそんな事を思いつつも、当たり前と化した光景に違和感を感じる事は無かった。
ボトリ、そんな音がするまでは。
「?」
早乙女が振り返ると、そこにはリボンを巻いたクラゲのぬいぐるみが落ちているじゃないか。
しかもその数は一つだけじゃない。同じデザインの物がもう一つ少し離れた所にあった。
「もう。誰ですか? 学校にぬいぐるみを持ってきてるのは」
早乙女はぬいぐるみを掴み、生徒達に持ち主がいないかを問い掛ける。
そこで初めて生徒達はまともに早乙女へ視線を移した。
というよりも、早乙女が持っているぬいぐるみを。
(あ、かわいい)
まどかは早乙女が持っているぬいぐるみを見てそう思う。
デフォルメされたファンシーな『クラゲ』のキャラクター。
ぬいぐるみは口をあけて動き出すと、自分を掴んでいた早乙女に勢い良くかぶりついた。
「え?」
「は?」
誰もが――、早乙女でさえ意味が分からずに間抜けな声をあげる。
さらに早乙女が持っていたもう一つのぬいぐるみも、鋭い牙を向けて齧りついてきた。
かわいいクラゲのキャラクターから発せられるのは、早乙女の肉に食い込む牙の音と、骨を砕く生々しい音声だった。
「っっッ!!??」
同時にまどか、ほむら、かずみは頭を抑えてうずくまる。
と言うのも魔女の登場を知らせる耳鳴りが聞こえたのだが、それがいつもの比ではないくらいの衝撃だった。
耳鳴りが何重にも重なって、脳が爆音と共に揺れ動く。思わず一瞬意識を失う程だった。
しばらくはその耳鳴りが続き、それが晴れて意識が鮮明になると、三人は言葉を失った。
「な……、なに?」
絶句するまどか。
なぜなら先ほどまで自分は教室にいたはずなのに、今はもう全く違う場所にいるではないか。
この独特なサイケデリックな世界、まさにそれは魔女結界そのものだった。
「先生……?」
意識が戻ったまどかに飛び込んできた景色。
それは天井から先ほどのクラゲが大量に降ってきて、倒れている早乙女に群がっていく所だった。
まどかをはじめ、クラス全員がその光景をぼんやりと見ている。
まるで狐につままれた様に、これが幻想なのではないかと。
「ペッ!」
口の周りを血で汚した可愛いクラゲが何かを吐き出した。
それは砕けた早乙女のメガネ。食事を終えて散らばるクラゲと、数分前まで早乙女だった白骨。
「いやぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
誰かが叫んだ。
それを合図にして一勢にパニックになる生徒達。
いきなりクラゲのぬいぐるみが振ってきたと思えばそれが担任を食い殺した。
そんな馬鹿げた光景をこの目で見てしまったのだから仕方ない。
タチの悪いB級ホラーの様な展開に、生徒達はどうしていいか分からずに逃げ惑うだけ。
「な、なんだよコレッ!!」
「出してッ! 出してよォオオオオオ!!」
教室だった空間は、完全にロックされていた。
歪に変わった世界はグロテスクさを増して、生徒達の混乱と恐怖を加速させていく。
対して怯むまどかと、やっと耳鳴りから解放されたかずみとほむら。
素早く状況を理解して、クラゲ達を睨みつける。
間違いなく魔女。しかし現在クラゲ達は止まっており、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
『はーい。じゃあお前らちょっと落ち着こうか』
「!」
突如鳴り響く放送。聞こえてきたのは少年の声だ。
『たった今、この学校を支配しました芝浦でーす』
この放送は全ての学年、全てのクラスに聞こえているらしい。
どうやら他のクラスでも、見せしめの意味を込めてまずは担任が犠牲になった様だ。
『まあ簡単に言うと、今からお前らには脱出ゲームをしてもらいます』
ルールは簡単です。
学校は今、悪い化け物によって恐怖のフィールドと化しました。
敵は結託して皆を餌にしようと企んでいます。当然獲物を逃がさない様に結界は複雑にしてあります。
今ココが果たして何階なのか、そもそも階層の概念はあるのか?
皆さんで考えてください。
まあ、とにかく。
皆は一刻も早くこの学校を脱出しなければ死んでしまいまーす。
どこかにあるだろう出口を目指してどうぞ頑張ってください。
ちなみに鍵だとか謎解きなんて面倒な仕掛けはないので、純粋に出口を目指すだけ。
『ただ、出口を目指すのが面倒な人の為に救済処置があります♪』
次に聞こえてきたのはあやせの声だ。
出口を目指すには様々な危険が伴います。そんな人の為に、特別ルールを設けました。
『それは誰でも良いからこの学校にいる生徒さんを殺す事♪』
「!」
まどかは放送の無いように耳を疑う。
『三人殺して、殺した人の生徒手帳を奪ってください☆』
『そしたら出してやるからさ』
じゃあそろそろ始めまーす。その言葉と共に教室の扉が勢い良く開いた。
同時に始まる芝浦のカウントダウン。見滝原中学校に通う誰しもが、訳の分からない放送を聴きながら、ただその時を待つだけだった。
『3……2……1――、0!』
その言葉と共にクラゲのぬいぐるみ――
ではなく、古代の海の魔女『
まどかのクラスメイト達を噛み殺すために。
「ぎゃァああああああああああああぁあああぁああああ!!」
生徒の悲鳴が学校中に響く中で、芝浦達の笑い声が放送からは聞こえていた。
既に誰も聞いていないかもしれないが、彼は見滝原中学校の生徒を使った殺人ゲームの開始を宣言する。その名も――
『じゃあ、マトリックスのスタートだ!』
ゲームスタート。
その言葉と共に、動き出したプンペ達。
彼女達は小さな身体ながらも、鋭い牙で生徒達を食い破ろうと跳躍していく。
同時にパニックになり散らばる生徒達。
誰しもが芝浦の言葉を妄信するしかない。
ここから出るには出口を見つけるか、他の生徒を殺すしかないのだと。
状況としては教室を飛び出していく生徒。恐怖で動けなくなる生徒。未だに何が起こっているのか分からない生徒と別れている。
まどかもまた、動かずに早乙女の死体をジッと見つめるだけだった。
早乙女は詢子《ははおや》と友人だった。もちろんまどかだって、よく話した事がある。
そんな早乙女先生があっという間に死んで、目の前で骨になっているなんて信じられるわけが無かった。
「まどか! 危ない!!」
「!」
目の前には牙、気がつけばプンペが自分の顔に噛み付く寸前だった。
しかしそこでプンペの体中に弾丸が撃ち込まれる。
吹き飛ぶ魔女と、まどかの前に立つほむら。
そこでやっとまどかは我に返った、
状況をくまなく理解。既にほむら、かずみは魔法少女として変身しており、プンペの群れと交戦中だった。
「もう、迷ってる暇は無いんだねッ」
「………」
一筋の涙を流して、まどかは手を斜めに突き上げた。
「へんしん!」
服が弾け飛び、同時に魔法少女の衣装に変わった。
まどかは、すぐに教室に残っているクラスメイト達全員に守護魔法をかける。
"ヘズディエル・ベール"、光の幕が生徒達を守るバリアとなった。
「う、うわああああああ!!」
しかし生徒達は自分に守護魔法がかけられた事に気づいていないものがほとんどだった。
教室に残っていたのは、身を低くして逃げ惑う中沢。
「くっ! 寄るな魔女め!!」
椅子を振り回して、プンペを追い払おうとしている下宮。
「………」
プンペの攻撃をひたすらに無言でかわしている上条。
「――っ」
そしてへたり込んでブルブルと震えている仁美だった。
教室にはプンペに首をかまれて即死した女生徒が転がっている。
それを見てしまい、仁美は腰を抜かしてしまったのだろう。
声にもならない悲鳴をあげて仁美は震えるだけだった。
「仁美ちゃん!」
「!!」
そんな仁美の前に立つまどか。
襲い掛かるプンペだが、守護魔法の前には成すすべなく攻撃が防がれていく。
だが問題はそこではない。仁美は、まどかが放った淡い光の結界をしっかりと目で見ている。
「まどか……ッ、さん?」
「ッ」
まどかは一瞬複雑そうに表情を曇らせるが、仁美の方へ振り向いた時には笑顔を浮かべていた。
もちろん、それは作られたものではあったのだが。
「今まで内緒にしててごめんね、仁美ちゃん」
「え?」
まどかは弓を出現させると、光の矢をプンペ達に命中させていく。
仁美は信じられないと言う表情でまどかを見た。
目の前にいる親友は、確実に人間には成せない技を使っている。
「わたしね、魔法が使えるんだ」
「ま、魔法――?」
その時教室が光に包まれる。
無限の魔弾を発動させたかずみ。マスケット銃から放たれる大量の弾丸が、プンペの群れを全て撃ち捉えていく。
「みんな! 逃げよう!!」
叫ぶかずみ。
既に多くの生徒達が教室を抜け出している。
それはこのクラスだけに言えた事では無いだろう。
とにかくココを出ることが先決だ。ほむらは頷いて、まどかとアイコンタクトを取った。
「はやく!」
上条たちを逃がすように促がす。
言われるがまま、一同は教室の外に出ていくのだが――
「なっ!」
「嘘……」
そこにあった景色は、もはや自分達の知っている見滝原中学校などではない。
学校を侵食した魔女結界。廊下はますますサイコなデザインを強調しており、生徒達は溢れる使い魔に襲われているじゃないか。
逃げ惑う生徒達。
既に事切れている者も少なくは無い。
それだけでなく、返り血を浴びている生徒手帳を持った者の姿も見えた。
「まさかアイツ……ッ!」
中沢は先ほどの放送を思い出してゾッとする。
出口を見つける以外にも、生徒を殺して生徒手帳を三つ集めればココから出してもらえると言われた。
だとすればあの生徒はそれを実行したと言う事なのだろう。
死体は使い魔が食い散らかし、処理を行う。
それが連鎖の引き金になる。
「皆止めてッッ!!」
「それだけは駄目だよ!!」
かずみやまどかが叫ぶが、狂った歯車は急激に加速していくのみ。
パニック状態も合わさってか、生徒たちで殺し合いを始めようとする者がチラホラと現れる。
すぐにその生徒を気絶させに走るほむらだが、周りには無数の使い魔が。
つまり凶行に走る生徒を気絶させても、その場に放置しておけば使い魔に食われる運命なのだ。
(厄介な――ッ!)
舌打ちを放つほむら。
まさか敵が本格的に一般人を巻き込んでくるとは思わなかった。
(どういう仕掛けを使ったのかは知らないけど、耳鳴りが多重に鳴っていたと言う事は、一勢に魔女が出現したと言う事ね……)
だとしたら学校を丸ごと魔女結界に変えて、全校生徒を引きずり込む強大さも納得がいく。
よく見てみれば、生徒達を襲っている使い魔の種類もバラバラだ。
以前シャルロッテの結界に、コールサインプロローグが結界を構築していた事があったが。今回もそのパターンと見て間違いない。
プンペ以外にも大量に魔女が潜んでいると言う事だ。
おまけに芝浦の態度を考えるに、彼らは魔女に攻撃される心配が無い?
カラクリは分からないが、ほむらにとって非常に厄介な状況である事は間違いなかった。
(手塚、聞こえる?)『ユニオン』『トークベント』
自分達だけでは事態を変える事は不可能。
ほむらはそう判断し、騎士側に助けを求めた。
『なんだ?』
「よかった。実は――」
手塚はほむらから事情を聞くと、適当な理由をつけて教室を飛び出していく。
『迂闊だったなッ、予想はできたが――ッ!』
『ええ。でもまさか、本当にこんな堂々と行動に出るなんて……』
既に見滝原中学校は外界から隔離されている状況になっていた。
手塚は適当に人を見つけて話しかけてみたが、返って来た言葉はどれも同じだった。
「見滝原中学校? 何ソレ」
取り合えずジュゥべえを呼んでみる。
来るかどうかは賭けだったが、意外にも彼はすんなりと現れて状況を説明してくれた。
あくまでも簡易的な物だったが、今回の件は妖精サイドにとっても予想外だったらしい。
『今何が起きているかくらいは説明してやるよ。しかしまあ、面白い事をしたな。向こうも』
「敵は見滝原中学校に何をしたんだ!?」
階段をジャンプで飛び降りていく手塚。その肩に乗ってジュゥべえは説明を行っていく。
『敵が行ったのは学校中にグリーフシードを散りばめて、一勢にそれを孵化させたんだ』
生まれた魔女は互いの結界を合成させて、強大な一つの結界を作り上げた。
『その存在はあまりにも強く、外界から中学校の認識を消させる程さ』
「現在認識できるのはゲーム参加者だけと言う事か」
『その通りだ。魔法少女は魔女の力に抵抗できる。騎士もユニオンの関係上、その力の中に魔法少女と同質のエネルギーがわずかに流れている。だからこそ魔女結界を認識できるのさ』
つまり現在、警察に連絡をしても無駄と言うわけだ。
ネットも繋がらないし、中は圏外扱いになるから携帯で助けを求めることはできない。
ましてや、警察にはどうする事もできないだろうが。
『まあ他の奴も結界がはれた時点で再認識を行うだろうけどな』
「しかしグリーフシードはいきなり孵る訳では無い!」
確実にその過程で耳鳴りが起こり誰かが気づくはずでは?
ほむらが事前に対処できなかったのなら、対処する時間が無いほど急速だったと?
『その理由については、後日オイラか先輩を見つけるこった』
「……チッ」
手塚の舌打ちと共に消滅するジュゥべえ。手塚は校門を飛び出してデッキを構える。
今からエビルダイバーに乗っていけば三分と掛からずに中学校へ飛んでいく事ができるだろう。
(……いや)
向こうでは何が起こるか分からない。
エビルダイバーにもスタミナと言うものがある。
ここで無闇に露出させるよりは、温存させておいたほうがいいか?
近くのスーパーにバイクは停めてある。向こうにはほむらもいるし。
「キミ、もしかしたら見滝原中学校に行くんじゃないかな?」
「!?」
そんな声が聞こえてきて、手塚は後ろを振り向く。
そこに立っていたのは東條悟だった。
「お前――ッ」
いつの間にか手塚の背後に立っていた。
気になるのは今言った、『見滝原中学校』と言う単語だ。
この世界から切り離されたその名を知るのは、ゲーム参加者以外には有り得ない。
(コイツやっぱり――ッ)
以前占いで、東條に騎士の影が出ていた事があった。
やはり占いは間違っていなかったわけだ。しかしどうする? ココではいそうですと言ってしまえば面倒な事になるかもしれない。
東條が敵であるケースも十分考えられる話だ。手塚は結局うやむやにする事に。
「いや、俺はただ具合が悪いから帰るだけだ」
「……ほら、おかしいよソレ」
「?」
「みんな見滝原中学校って何? って聞くのに、キミはそうじゃない」
「!」
意外と鋭い様だ。手塚は痛いところを突かれてしまう。
「早くしないと大変な事になるよ。キミ、助けに行くんでしょ?」
「………」
手塚は言い訳を諦めてデッキを取り出してみせる。
どうせいずれは出会う事になっていた相手だ。それが遅いか今かだけの話だろう。
しかしまだ東條を信用する訳ではない。
「お前が俺の敵になる可能性が無いとは言えない」
「僕は……、戦わないよ。僕は英雄になりたいだけなんだ」
「何?」
東條はデッキを取り出すと、それを苦しそうに見つめる。
ゲームの事はもちろん知っていた。しかし戦う気など無いと、殺し合いなどする気は無いと、必死に説いた。
手塚はしばらく考えたが、こうしている間にもほむら達が危険な目に合っている。
迷っている暇はないのだ。
「だったら一緒に行くか」
「え、いいの?」
疑っていてはゲームを止める事など不可能か。
手塚は東條の言っている事を信じる事に。
「俺は戦いを止めたい。そして犠牲者を出すことも望まない」
「僕もだよ……。英雄は、皆を救う物だから」
「分かった。俺は手塚、ライアだ」
「東條、騎士の名前はタイガ」
二人は頷くと、中学校を目指す。