仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
感動やで(´・ω・)
「黄金の騎士――ッッ」
ユウリにはその姿に心当たりがあった。
間違いない。あの姿は『力のデッキ』が齎した力。
つまり、優勝候補であると。
(織莉子ッ! 契約を果たしていたか!!)
そこでユウリは気づいた。
オーディンの姿がいつの間にか消えているじゃないか。
辺りには金色の羽が舞っているだけだった。
「ッッッ!!」
そこで頬に走る衝撃。
気がつけばオーディンが目の前に立っており、裏拳でユウリを吹き飛ばしていた。
女でも容赦しない一撃、普通の人間ならば頭が粉々になっていただろう。
ユウリは素早く地面を転がるとリベンジャーを連射していく。
「あれっ?」
しかし、またもオーディンの姿が見えない。
戸惑うユウリ。すると背中に焼けるような痛みが走る。
「アぐッ!!」
背中を切り裂かれた?
すぐに回し蹴りを仕掛けるが、そこには何も無し。
(どこだ? どこに消えた!?)
ユウリは身体を激しく回転させて、三百六十度、銃弾の雨を乱射する。
これならばと思ったが――
「甘いよ」
「ッッ!!」
突如オーディンが目の前に現れ、ユウリの腕を掴んだ。
オーディンの固有能力である瞬間移動だ。ユウリは足払いを仕掛けるが、既にオーディンの姿はなかった。
「ああッ、くそ! ウザすぎ!」
次は右にオーディンが出現する。
いつの間にかソードベントで生み出した"ゴルトセイバー"を二刀流にしており、黄金の一線がユウリに刻まれていく。
一度だけじゃない、二度、三度。ユウリは必死に標的を探すが、どこにもいないのだから攻撃のしようがない。
ワープの度に舞い落ちる黄金の羽。
そこにはユウリの血液が付着しているのが見える。
自分がやられている。当たり前の事実に、ユウリは表情を歪めた。
「チィイイッッ!! ローザシャーン! ズライカ!」『『アドベント』』
暗闇の魔女の力で辺りを黒に染める。
さらにそこで素早い動きの『玩具の魔女』を仕向ける。
「成る程。考えたね」
そこでオーディンは姿を見せる。
見える景色は真っ暗。なるほど、これならユウリを攻撃するのは不可能だ。
一方で魔女はしっかり見えているらしい。近づいてくる殺気が分かる。
しかしゴルトバイザーに自動でセットされるカード。
オーディン本人は腕を組み合わせて立ち尽くすだけだ。
焦りなど欠片もない。
『スキルベント』
圧倒的だった。
ローザシャーンの攻撃を全て回避していくオーディン。
なぜ、なぜだ? ユウリは暗闇の中でそれを確認していた。
オーディンには何も見えていない筈。なのにどんなに攻撃の手を増やしても。確実に瞬間移動でかわしてみせる。
「不思議かい、ユウリ」
「!」
「僕には見えているよ、"未来"がね」『シュートベント』
光が溢れる。
暗闇が吹き飛び、オーディンが姿を見せる。
「何言ってんだ! ああああ! 鬱陶しくてドキドキしちゃう!」
ユウリは身をよじらせ、苛立ちから全身を掻き毟る。
すると背後から、鈴を鳴らした様な綺麗な声が耳を貫いてくる。
「おやめなさい。下品な振る舞いは女性の価値を腐らせるわ」
「あぁ?」
「気をつけた方がいいんじゃないかしら」
織莉子、キリカ、インペラーの三人がやって来る。
汗を浮かべてニヤリと笑みを浮かべるユウリ。
流石に自分が置かれている状況が穏やかなものではないと察したようだ。
「これはこれは……、大集合な事で」
そして背後にはオーディン。
ユウリはリベンジャーを投げ捨てると両手を広げる。
「あら、随分と素直なのね」
織莉子はすぐにユウリの周りにオラクルを発射。
一つ一つのオラクルからレーザーが伸び出て互いを連結していく。
それは檻だ。が、しかし、隙間はある。
ユウリはニヤリと笑うと、捨てた筈のリベンジャーを一瞬で手元に引き寄せる。
「なんてなバァアアアカッ!! 死ね死ね死ね死ねぇええッッ!」
引き金を無茶苦茶に引いた。
しかしそれは全て『視』えていた事でしかない。
織莉子達は何の焦りもなく、全ての銃弾の前にオラクルを配置して攻撃を防ぎきる。
叫び声を上げるユウリ。仕方ない仕方ないと連呼していた。
「今回は殺されてやるよ織莉子ォオオ! でも勘違いしないで! 最期の
ギャーギャーと騒ぐユウリを、織莉子たちは冷めた目で見つめている。
特にキリカは一度織莉子を殺されたとだけあって、殺意をむき出しにしていた。
「覚悟しろよゴミクズカスザコクサレェエ!! できるならば私がお前が引き裂いてやりたいよ!」
だがユウリもユウリで、そんなキリカが気に入らない様だ。
「ウゼェなクソガキがァア! あんまりギャーギャー言ってると臓物引きずりだして刺身にするぞッッ!!」
「!!」
キリカは舌を出すと、素早く織莉子の背中に隠れる。
一方でユウリを刺し殺さんとばかりに睨む織莉子。
どうやらキリカに暴言をぶつけた事にスイッチが入ったらしい。
ユウリを睨みながら、冷ややかな声で言い放つ。
「オーディン。アレはもう目障りです」『ユニオン』『ファイナルベント』
「同感だね。必要のない害虫には消えてもらおうか」『ファイナルベント』
両手を広げて空中に浮かび上がるオーディン。同時に織莉子は無数のオラクルを出現させて、自身の周りに待機させる。
同じくして織莉子の元へ飛来してくるゴルトフェニックス。不死鳥は途中で炎となり、織莉子と融合。彼女に巨大な黄金の翼を与える。
さらに浮かび上がったオーディンが光となって分裂。
織莉子が出現させたオラクルの一つ一つに融合していった。
瞬く間に黄金に染まるオラクル。それは文字通り『卵』だ。
そしてそこから生まれるのは、無数の『不死鳥』だった。
「消えなさい、ユウリ」
「覚えておけ美国織莉子ォオ! 今回はサービスで死んでやるだけだって事を! アタシはすぐに復活して、お前等を殺――」
「黙れ」
織莉子の周りに何羽もの光の鳥が群がっていく。
そして織莉子がユウリを指差したとき、その鳥達は一勢に羽ばたいてユウリを狙った。
「ウグァアアアッッ! ハ……、ハハ! ハハハハハ! ヒャハハハハハハハハッッ!!」
猛スピードで着弾していく不死鳥の群れ。
ユウリは光の中に消えて行きながらも、狂った様に笑っていた。
オーディンが光の力を織莉子のオラクルに与え、無数の不死鳥を相手に飛来させる複合ファイナルベント・『インフィニティ・フェザー』。
十秒後、ユウリが居た場所には何も残っていなかった。
完全なる消滅。跡形も無く消え去ったのだ。
「案外簡単に死んだものだね。騎士も呼ばなかったし」
「ええ。あの発言通りでしょう。ここで騎士を呼んで長引かせるより、早々に自分を切ったんです」
「構わないよ。邪魔ならまた消すだけさ」
そう言って変身を解除する上条。
インペラーやキリカも変身を解除して情報を交換する事に。
その中で佐野は疎外感を感じてしまい、思わず汗を浮かべる。
「しかし本当にキミの言った通りになったね」
「はい、未来はこの光景を映していました」
既に織莉子は未来予知の魔法で芝浦たちの行動を知っていた。
そして上条もまた同じだ。そしてそこで多くの報酬を得た。
多くの魔法少女、そして騎士。あの中にさやかのパートナーがいる可能性も十分に考えられる。
「できれば接触したい所だけど……」
「そうですね。あと私からも一つ提案があるのですが」
織莉子は涼しげな顔で言い放つ。
「志筑仁美を、殺しましょう」
「!!」
上条はピクリと眉を動かし、佐野は大きく首を振って織莉子見る。そしてヘラヘラと笑うキリカ。
織莉子は凛とした態度でその言葉を言い放った。
しかしどこか儚げなのが織莉子の雰囲気なのだが。
「理由を聞いてもいいかい?」
上条も志筑仁美の事はよく知っている。
上品で美しい少女。さやかの友達であり中沢の想い人だ。
上条としてはそれほど親密な関係でないにせよ、中沢やさやかの事を考えると乗り気ではない提案である。
「ココで志筑さんを殺せば、さやかを蘇生した後に悲しむ」
「……鹿目まどか、暁美ほむら、立花かずみ。彼女達が魔法少女だということは?」
「ああ、さっき確認した」
「でしたら、理解していただけるかと」
沈黙する上条。やがて、頷いた。
「どう言うこと?」
「つまり――」
上条はオーディンに変身している際によくポーズである腕組みを行いながら、佐野やキリカに事情を説明する。
織莉子が何故、志筑仁美を殺そうと言うのか? それは織莉子の目的が関係している。
「志筑さんは今分かっている魔法少女に共通する友人だ」
まどか、ほむら、かずみ。
彼女達と楽しげに登校している仁美を何度も見ていた。
「佐野さんは未来を変える最も簡単な方法が何かご存知ですか?」
「ん、んーッ? なんだろ……?」
複雑に笑う佐野。上条は頷くと答えを告げる。
「死ですよ」
「死……」
織莉子もまた頷く。
未来とはそれ即ち、人によって紡がれるもの。
人と人の繋がりが未来を創り、未来を繋げていく。
例えば『佐野満』は、佐野の父親と母親が愛し合った末に生まれた存在だ。
もし佐野の両親のどちらかが死んでいれば、佐野が生まれると言う未来は無かった。
未来と言うものはそもそもが複雑なものだ。
簡単に変わる時は変わるし、変わらない時は何をしても変わらない。
ともあれ、大抵は『後者』である。要するに何をしても些細な違いしか起こらず、結末は一点に収束していく。
「Aと言う目的地に行く未来に収束していく中、電車を使おうが、バスを使おうが、徒歩で行こうが、目的地に行くことをやめなければ未来は同じです」
未来を変えようと思っていても、何も変わらないのはこの点を攻略できていないからだ。
乗り物を変えるだけでは時間の差はあれど、過程の差はあれど、最終的には同じ場所に辿りついてしまう。
だが、もしも運転手が死ねば?
ましてや自分が死ねば?
「目的地にはたどり着けない」
上条が言う。織莉子は頷いた。
「死は他者に大きな影響を与えます。未来や運命を大きく変える力を、簡単に齎す」
死ねば、影響を与えることも、影響されることも無い。
未来は大きく形を変えて、新しい世界を創造する。
「小説で、重要な登場人物の台詞を全てマーカーで消してみてください。以後の話は、物語として成立しますか?」
「なるほどね」
「物語に影響を与えない人物ならばまだしも、少なくとも私達ゲーム参加者は全てが等しく、重要人物です」
「だからこそ復活ルールがある。あれは織莉子のワンサイドゲームを防ぐためのものさ」
「はぁ、なるほど」
本来、人の死と言うのは一度きりだ。
しかしそれがいくつも起こりうる事で、織莉子にとってはかなりのノイズになる。
織莉子は見たい未来をピンポイントで見られる訳じゃない。
未来が変わる要因が連続で発生すれば、織莉子も対処に追われると言うわけだ。
「死が未来に齎す影響にも強弱があります。近い存在の者が消えれば、観測はまだ容易です」
人の死は他者に衝撃と悲しみ、あるいは狂喜を与えるかもしれない物。
さやかが死んで、未来は変わった。そして次は仁美が死んで齎す世界を視たかった。
さやかと仁美は『近い』。死が束ねる未来は、そこまで異常な影響を齎すものではないだろう。
しかしそこに最悪の絶望がいれば、確実に『視える』筈だと思っていた。
「つまり簡単に言えば、志筑仁美が死ねば多くの魔法少女に影響を与える事ができるのです」
友人が死んだとあれば人はどうなる?
決まっている、大きな悲しみに包まれる筈だ。
それは絶望に至る病。悲しみに包まれた魔法少女達は、一つの未来を映しだす。
己が、絶望する未来を。
「うまくいけば誰が絶望の魔女になるのかを知る事ができます」
「でもッ、もしかしたら殺した瞬間魔女になるって可能性もあるんでしょ?」
「ですので、注意をしてください」
沈黙する上条たち。
織莉子の言う事は理解できる。
理解できるから――
「それが世界を救う為なら仕方ない」
「!!」
理解できるから断る理由も無い。上条は織莉子に笑みを返す。
上条にとっては美樹さやかと幸せになる事こそが勝利だ。
そこに絶望はいらない。世界を無に返してしまう魔女は邪魔でしかないのだ。
それを排除できるならば織莉子に協力は惜しまない。
たしかに志筑仁美はさやかの大切な友人だ。
だが仁美だけしか友達がいない訳じゃないだろう。
一人くらい減っても許してくれるはず。
そうだ、さやかには鹿目まどかが残っている。
仮にまどかが死んでも、さやかは社交性がある。
誰とでも仲良くなれる筈だ。
「ちょ、ちょっと待って! え? いやッ、それはちょっとやり過ぎじゃないかなぁ?」
「……佐野さん?」
佐野はあたふたと言葉を述べる。
「流石にゲームと無関係な女の子を殺すのは抵抗があるというか」
織莉子は柔らかな笑みを浮かべて首を振る。
「お気持ちは理解できます。しかしもはや志筑仁美はゲームと無関係ではない。彼女の死は結果としてよりよい未来を齎してくれるはずです」
言わば、これは必要な死として捉える事ができる。
「佐野さん、優しさだけでは世界は救えません」
「それは……、分かってるけれども」
「どうしたんですか? 迷いが見えます」
「え……?」
迷い。確かにと思う。
以前ならば、きっと割り切れた筈なのに。
「大丈夫。殺すのは彼が受け持ってくれる。ガルドサンダー!」
上条が指を鳴らすと、上空から火の鳥が現れる。
姿を見せたのは使役しているモンスターであるガルドサンダーだ。
「僕達が手を汚す必要は無いし、殺すところも見なくて済むだろう」
「それなら大丈夫でしょう?」
「ま、まあ――」
そうだ。別に自分が気にする事じゃないだろ。
佐野は心の中でそれを強く自分に言い聞かせる。
そもそも志筑仁美とは無関係の筈なのに、何故うしろめたさを感じているのか。
佐野は自分でもよく分からなかった。
「バイトくんはさ、織莉子の言う事を素直に聞いていればよいのだよ~」
「あ、ああ……。だよねぇキリカちゃん」
そうだ、キリカの言うとおりだ。
佐野は少しぎこちない笑みを浮かべながらも仁美の殺害を了解した。
何を今更こんな弱気になる必要があるのか。今までだって、何の躊躇いも無く人を傷つけられたはずなのに。
『本当だよ。佐野さんは優しい人ですから』
まどかの笑顔が佐野の脳裏に焼きつく。
まどかの友達が狙われている。ただそれだけの事だ。
佐野は何故か痛みを放つ胸を押さえながら、それ以上意見を言うことは無かった。
そして、佐野は知らない。
「ハァ! ハァ……!」
学校の周りで息を切らしている女性が一人。酷い息切れと汗だ。
こんなに汗をかくなんて今まで無かった事である。
生まれて初めての感覚、そうまでして彼女が走った理由は――
「佐野さん……、どこにいったんだろう?」
そう。百合絵は佐野の後を追っていた。
もちろん彼女の足では佐野に追いつく訳も無いが、それでも何とか食いついて来たつもりだ。
心臓が張り裂けそうな程の鼓動を刻んでいる。呼吸をするのも精一杯だが、それでも必死に佐野を探していた。
見つかるわけも無いのに。それでも彼女は探し続けるだろう。
「ここは?」
「保健室。元だけど」
一方のまどか達は、美穂とサキに連れられて一つの部屋に入る。
言葉通り、元々は保健室だった場所だ。今は魔女結界の影響を受けて不気味な造りになっていた。
とはいえ、元の保健室よりかなり広くなっており、中には多くの生徒達が居る。
どうやら美穂とサキはこの部屋に生徒達を避難させているようだった。
「上条くんがいない!」
「あれ!? そういえば!!」
焦る一同だが、中沢の携帯に連絡があった。どうやら外部との通信はできないようだが、学校内では使えるらしい。
メッセージで無事だという一文が入っていた。
どうやらブランウイングから落ちてしまったらしいが、安全な場所を見つけて隠れているというのだ。
ただし場所がどこか分からないため、騒動が終わるまではココに隠れているという事。
できれば探しに行きたいが複雑な魔女結界だ。手がかりなしに探すのは不可能かもしれない。
それに安全な教室というのが引っかかる。
「実は教室が教室だからなのか、この部屋にも魔女や使い魔が入ってこれないんだ」
「そ、そうなのか!」
芝浦が狙って作ったものなのかは知らないが、安全なポイントが存在しているらしい。
美穂たちの作戦としてはココに生徒達を匿っておき、その間に自分達が芝浦を止めると言うものだった。
こんなゲームを仕掛けるくらいだ。きっと出口はもっと意地悪な場所につくってある筈。
だとしたら元を断ったほうがいいんじゃないか? それが美穂とサキの思いだった。
既にかずみ、蓮も向かっている状況。ココは合流した方が得策ではないかと。
「そういえば……、アンタがさやかちゃんのパートナーなんだって?」
「え? ああ、そうそう」
そこで美穂は北岡の姿を確認する。
現在は離れた所にある椅子に座って、携帯を弄っていた。
「ふーん、確かに凄いね。圏外って出てるのにメールが送れるよ」
北岡は、無理やり教えられた真司の携帯アドレスに先ほどから悪戯メールを送りまくっている。
「だからさっきからメールが止まないのか! 納得納得――ッて馬鹿! 止めろ!!」
「つまんないねぇ、お前のノリツッコミ」
「ほ、ほっとけ! でもどうして北岡さんはここに?」
「まあ何となく。俺はなるべく早くゲームを終わらせたいのよ。って言うかさ、俺の事は気にせずやってよ」
まるで興味がないと言った北岡。
いつもは突っかかる真司であるが、どうやら今はそんな気が起きない様だ。
「くそっ! それにしても芝浦の奴!!」
真司は思い切り拳を壁に打ち付ける。真司は一同に、以前芝浦と会った時の事を端的に話した。
あの時もっとしっかり止めておけば、こんな事にはならなかったかもしれない。
移動中に見かけた死体を思い出して、目をギュッと瞑る。
「………」
少し離れた所で座っているまどかも同じだった。
魔女に食い殺されている早乙女を黙ってみているだけしかできなかった。
自分には力があったのに。
「まどか」
「ほむらちゃん――」
ほむらが優しく肩に触れる。
もう今のまどかは泣くことすらできず、ただ力なくへたり込むだけだった。
まどかは一点を見つめ、震える声で呟く。
「どうして……、こうなっちゃうんだろうね?」
「………」
虚ろな目をしていた。
ほむらはまどかに視線を合わせると、しっかりと首を振る。
「落ち込むのは早いわ」
「え?」
ほむらは保健室に避難している生徒達を指し示す。
怯えている彼等は何もできずに嘆いている事だろう。
しかし自分達は違う、自ら運命を変える力を持っているじゃないか。
救えなかったと嘆くより、今は彼等を救える可能性を信じた方がずっといい。
「貴女の願いは何?」
「わたしの願いは……」
誰かを守れる様に強くなりたいと願ったじゃないか。
まどかはそれを思い出して、徐々に目の光を強くしていく。
そうだ、ここで諦めちゃいけない。まだ彼等が残っているんだから。
「うん、そうだね……! わたしが諦めちゃ駄目だよね!」
頷くほむら。
まどかは手を握り返して、ありがとうと笑みを浮かべた。
同時に真司達の方も話し合いの答えが出た様だ。
サキは勢いよく立ち上がると、一同に向かって力強く宣言する。
「芝浦と双樹を止める!」
サキの宣言に同意を示す一同。
「とにかくアイツは一発ぶん殴ってやらないと気がすまない!」
ナイトペアと合流できるならそうして、それから芝浦がいる部屋を探し出せばオーケーだ。
すると、まるでタイミングに合わせる様にして放送が鳴った。
『あー、ちなみにおれは最上階の校長室にいまーす。あと学校内には化け物が入ってこれない場所が幾つかあるんで』
保健室、男子トイレ、女子トイレ、あとはプールの更衣室とシャワー室です。
まあそこを見つけて隠れてるのもいいんじゃないかな。一生学校で暮らす事になるかもしれないけど。芝浦はそう言いながら放送を切る。
恐らくコチラの会話を聞いていたのか、それとも映像だけで判断したのか。
「だが分かったこともある」
芝浦達は最上階。そしてとりあえずこの教室は安全だと言うことだ。
「やはり皆をココに残し、私達は芝浦を探そう」
サキはそう言うが、そこで立ち上がる北岡。
「どうした、先生」
「面倒だからパス」
「は?」
北岡はそう言ってさっさと教室を出て行ってしまう。
止めようとした真司だが、北岡はサラリとかわしてどこかへ行ってしまった。
「な、何しに来たのよアイツ」
美穂が呆れ顔で言う。
まあ北岡がよく分からないのは今更だ。
一人は危ないかもしれないが、北岡だって騎士である。一階の魔女もほとんど残っていないだろうし、今は芝浦に集中したい。
「でも本当に上にいると思う?」
そこは気になったが、芝浦はゲーム感覚でこの状況をしかけている。
言わば芝浦はゲームマスター。だとしたら嘘の情報を教える事はないだろう。
仮に罠であったとしても、今は情報が少ないため、一度上に行くのは悪くない手だった。
皆をココに残すという事は少し不安だが、結界をちゃんとほどこしておけば安全の筈。
「まどかさん……、行ってしまうんですか?」
「うん、ごめんね仁美ちゃん。すぐに戻ってくるから」
仁美の手を握るまどか。
後ろでは不安そうな中沢と、訝しげな表情を浮かべている下宮が見える。
「僕としては、事情を説明してもらいたいのだけど……」
「ほ、本当にココって安全なのかな?」
その言葉に答えるのはサキだった。
「大丈夫。雷の結界を追加してある、これならば魔女や使い魔の攻撃を防げる筈だ」
それに学校内なら連絡が取り合える。
魔女が出てからイルフラースを使えば、すぐに戻ってくる事ができると。
「正直、広範囲で攻撃してくる魔女に出会ったら守れる自信は無い。ココにいてくれたほうが助かる」
「ま、まあ、それは……。でも本当に一体何がどうなって――?」
「今は話せない。悪いが、理解してくれ」
「……まあ、僕らとしても理解できる話ではないかもしれませんしね」
下宮は少し納得がいかないようだったが、頷いて後ろへ下がる。
さあもう時間は無い。すぐにでも向かわなければと部屋を出て行く一同。
仁美とまどかも名残惜しそうだったが手を離す事に。
「ま、まどかさん!」
「?」
仁美は離れていくまどかを見てしっかりと言った。
「まどかさんがどんな人でも! 私はッ、私は友達ですわ!!」
「仁美ちゃん……! ありがとう!」
まどかは強く頷き、保健室を出て行く。
残された仁美達。本当にココに魔女がこないのかは知らないが、自分達にできる事はただ祈る事だけだ。
一体何が起こっているのかは知らないが。
一つだけ分かる事があるのなら、まどか達はこの事態に対抗できるだけの力を持っている。
もしかしたら自分の知らない所で戦い続けていたのだろうか? そう思うと胸が苦しくなる。
いろいろな意味でだ。助けてあげられなかった事、知らなかったと言う事、内緒にされていたという事。
様々な想いが、志筑仁美の心を締め付けた。
「まどかさん……、お願いだから無事に帰ってきてください」
仁美は祈るように目を閉じる。
隣では不安そうに震える中沢と、機械的にメガネを整えている下宮がいた。
(なるほど。間違ってない。きっと、彼女も)
さて、一同が芝浦を倒す事を決めた頃。
先に上層へ向かったかずみは魔女との交戦中だった。
場所は音楽室。
なにやら悲鳴が聞こえて駆けつけてみれば、魔女が生徒を襲っている所を見つけたのだ。
すぐに割り入り、生徒を逃がしたかずみは、歌姫の魔女『
長い髪にギターの身体を持ったクラリーチェは、その身体をかき鳴らして音楽を奏でる。
さらに口からは耳が裂けるほどの怪音波を発生させてかずみを狙う。
「うーるーさーいーっっ!!」
音楽室のあちらこちらに、使い魔であるスピーカー型のウサギ、『アイザック』が配置され、音波攻撃を増徴させていた。
すぐに聴覚切断を行ったかずみだが、どうやらこれは脳に直接流れ込んでくるらしい。
このままでは狂ってしまう。かずみはすぐに魔法を発動する事に。
「イクス・フィーレ!」
かずみの手に巨大な本が装備される。
魔女の怪音波が本に触れる度に、そこへ文字が刻まれていくじゃないか。
あっという間に本は文字で埋め尽くされる。
それを素早く読み抜くかずみ。フムフムと唸り、本を閉じた。
解析魔法『イクス・フィーレ』。
魔女の攻撃を本で受けると、そこに文字が刻まれて敵の情報や、どうやって倒せばいいのかを教えてくれる便利な魔法だった。
かずみは早速、記載されていた手順で魔女を倒す事に。
「まずは使い魔を封じる! ラ・ベスティア!!」
天に向けた十字架から光が溢れる。
それを見た使い魔達は、一勢に動きを止め、スピーカーの役割も放棄した。
音が弱まり、さらに使い魔達は何故か主人であるはずのクラリーチェに襲い掛かる。
これが使い魔を自分の操り人形とする魔法、"ラ・ベスティア"なのだ。
使い魔は魔女に群がり動きを鈍らせる。
次は部屋に設置されている無数のマイクの破壊だ。
これもまた魔女の奏でる音を増徴させる厄介な機械。
そしてこの機械は一勢に破壊しなければならない。
同時でなければ個々が瞬時に再生してしまうのだ。
この様に、イクスフィーレを使えば厄介な情報も一発で理解できる。
「ハァアアアアアアアアアアアア!!」
かずみの周りに無数の大砲が現れる。
それらの砲口は、全てのマイクを的確に捉えていた。
溢れる光、かずみはマミからコピーしていた魔法技を発動する。
「ティロ・リチェルカーレ!!」
弾丸は全てのマイクを破壊して、魔女をさらに弱体化させる。
一方で使い魔達の攻撃を受けてよろける魔女。後は簡単だ、マスケット銃の弾丸をぶつけていくかずみ。ある程度ダメージを与えると、次は武器を杏子の多節棍に変えて魔女を縛り上げる。
「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」
魔法で腕力を強化して魔女を振り回すかずみ。
次々に部屋の壁に魔女をぶつけていき、最後は空へ放り投げる。
悲鳴をあげながらバランスを崩すクラリーチェ。かずみは無防備な魔女へと十字架を向けた。
「リーミティ・エステールニ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
光に包まれて消滅する魔女、
先ほどまでは音が溢れていた音楽室も、今は静寂に包まれる。
しかし程なくして背後から足音。かずみは振り返りながら十字架を其方に向けた。
てっきり新しい敵かと思ったが、そこにいたのはナイトであった。
「蓮さん!」
「やたらでかい音が聞こえて来たと思えば、お前だったか」
二人は合流と共に情報を交換する。
「二階は造りは簡単だよ。廊下があって、お部屋があるだけ。でも部屋が多くてさ、一体どこが校長室に続くのかがさっぱり!」
「向こうでも大きな音がしてるな。誰かいるかもしれない、行ってみるか」
「了解しました!」
二人はさっそくその音がしていると言う教室に向かう。
「ごめんください!!」
かずみが扉を蹴破ると、そこは美術室。
そこには魔女と交戦を繰り広げている騎士の姿があった。
絶望をテーマにした
春の魔女『
問題は少女の姿といえどそれは歪。
そして髪は手の様な形をしており、複雑に動いているのが不気味さを強調している。
そしてパルミラはその手を使って美術品を投げたり、直接バラバラに引き裂こうとしていた。
「あの髪が厄介だな!」
ライアは、エビルバイザーで次々に飛んでくる彫刻等を防御していく。
そしてその隣では東條悟が変身した騎士が並んでいた。
美しい銀と白、そして青のラインを刻んだ騎士・『タイガ』。
「じゃあ僕が何とかするよ」
タイガの所持するデストバイザーは、文字通り斧として機能する武器だ。
タイガはそれを構えて、パルミラの髪を切り裂こうと走り出す。
しかし斧と髪。リーチはパルミラが圧倒的に勝っており、激しい乱舞の嵐にタイガは近づけない状況だった。
「うかつに近づくと危険だぞ!」『アドベント』
パルミラの背後から猛スピードで飛来してくるエビルダイバー。
電撃で怯ませた後に、突進で魔女を吹き飛ばす。
しかし倒れながらも髪の毛を伸ばすパルミラ。エビルダイバーをしっかりと掴んで、ギリギリと締め上げた。
「―――!!」
かなりの力があるのか、グシャリと音を立ててエビルダイバーは潰されてしまう。
自分のせいでと戸惑うタイガだが、ライアへ平然としており、ましてやブランク体になる気配も無い。
それもその筈。潰されたエビルダイバーが、鏡の割れる音と共にはじけ飛ぶ。
「!?」
焦るパルミラ。掴んでいたのはジョーカーのカードだった。
その時フィールドに響き渡るトリックベントの音声。スケイプジョーカーは攻撃を無効化できるカードだ。攻撃を受けた後に発動すれば、『偽者』が受けたという事にできる。
文字通りそれは運命を変えるカード、かなり強力な能力だ。
そして戸惑うパルミラには大きな隙が生まれる。
「今だ! 東條!」
「分かった!」『ファイナルベント』
タイガの腕に、鋭利な爪が備えたガントレット・『デストクロー』が装備される。
その爪を構えて跳躍するタイガ。隙だらけのパルミラへ、その爪を深く突き入れる。
「ハァアアアアアア……ッッ!!」
悲鳴をあげる魔女。
タイガはより深く爪を刺し入れて、冷気を流し込む。
数秒もしない内に魔女は完全に凍りつく。
タイガは爪を引き抜くと結晶爆発が起こり魔女は消え去った。
これがタイガのファイナルベント、『クリスタルブレイク』なのだが――
「東條。お前、ミラーモンスターはいないのか?」
ファイナルベントは通常、契約したモンスターと協力して放つ必殺技だ。
しかし今の技にはどこにもモンスターが絡む要素がなかった。
「僕には契約モンスターがいないんだ」
「どういう事だ? ありえるのかそんな事が」
契約モンスターとは自分の分身。
東條がここにいる以上、モンスターは生まれる筈なのだが。
「ジュゥべえが教えてくれたんだ。僕はまだ本当の自分に出会えてないって」
「?」
「僕が英雄になれば……、ミラーモンスターがやって来てくれるんだ」
よく分からないが、東條が変身した時に託した『想い』ではミラーモンスターを誕生させる事ができなかったと言う事らしい。
しかしそうなってくると気になるのは東條の言う英雄だ。
しきりになりたいと言っているが、明確に英雄とは何かと聞かれればライアには分からない。
「その英雄ってヤツには、どうやったらなれるんだ?」
「僕にも分からないよ」
「そ、そうか……」
まあライアとしても占い師になる方法がイマイチ分からない状況だ。人の夢にどうこう言える立場ではないだろう。そこはスルーして状況を整理する事に。
ある程度の情報はトークベントでほむらとやり取りをしている為に把握できている。
芝浦を止める選択をしたのなら、自分達も校長室を目指したい。
「ねえ、その前に一つ聞いてもいいかな」
「なんだ?」
「キミはパートナーと仲がいいの?」
「………」
ライアは考える。フラッシュバックする思い出の数々。
話しかければ50パーセントで無視されていたのが、今では30パーセントくらいにはなった気がする。
あと最初は自分の事を虫けらを見る目でみていたほむらが、最近では冷たい目で見てくれる気がする。
「……普通」
「そうなんだ、僕は最悪だよ。話せば死ねって言われる」
「それは……、何と言うか、大変だったな」
ちょっとだけ優越感を覚えたライアは、タイガのパートナーの事を尋ねる事に。
「名前は呉キリカ。他の参加者を殺して勝利を掴むってプレイヤーではないけれど……」
「そうか。協力はできそうか?」
「無理だよ、きっと。彼女はあの人のいいなりだから」
「あの人?」
「うん。美国織莉子、美国議員の娘さんなんだって」
美国議員は手塚も聞いたことがある。
汚職議員だのと騒がれたニュースは、うんざりするほど特集されていたものだ。
(成程、やはりゲーム参加するプレイヤーは……)
ある程度『戦う理由』を持った者。
簡単に協力を選ばない為か。いやらしく考えられているものだ。
(しかしそうなるとパートナーも考えがあって決められているのか?)
キュゥべえ達は何を考えて自分達をパートナーにしたのやら?
そんな事を考えていると、ナイトとかずみが入ってくる。
「そいつは?」
ナイトはタイガを指し示す。
変身を解除して自己紹介を行う東條。
ナイトは新しい参加者だと知ると、表情を険しく変えた。
いくら今は戦いを保留しているとは言え、恵里が助かる方法を見つけられなかった時、蓮はゲームに乗るつもりである。
つまり手塚も東條も、いずれは殺す対象に変わる可能性を持っているのだから。
「まあいい。あまり俺に関わるな。分かったな」
「………」
「ま、まあまあ蓮さん!」
「おいよせ。とにかく今は芝浦を倒す事を考えるぞ」
ライアの言葉にナイトも納得したのか、それ以上尖った発言をする事は無かった。
二階は教室こそ多いが、通路自体は非常にシンプルな造りになっている。
だが逆に、二階のどこにも三階に続く階段は無かった。
おそらくはどこかの教室にあるのだろうが、まだまだ教室の数は多い。
「どこでもいい。さっさと扉を開けて、中に階段がないか確認すればいいだけだ」
そう言うとナイトはさっさと部屋を出て行った。
まどか達がいなくなった後の保健室。
絶対安全という言葉は本当らしく、一向に使い魔たちに襲われる気配は無かった。
逃げ込んでくる生徒達も増えていく中、誰もパニックを起こさなかったのは仁美達が必死に生徒達を落ち着けているからだ。
ここは安全。もうすぐ助かる。そんな言葉を必死に連呼する。
しかしそれでもやはり不安は募る。仁美が表情を暗くすると、中沢が反応を示した。
「だ、大丈夫だって志筑さん! もし何かあったら……、その!」
「?」
「そのッ、お、俺が守るからさ!!」
「中沢くん……、フフ、ありがとうございます」
笑顔でお礼を言う仁美。
それを見て中沢も顔を真っ赤に染める。
「な、何かあったらいつでも言ってね! 俺ッ、その、志筑さんのためなら何でもするから!」
「まあ、それは頼もしいですわね。でも、どうしてそこまで……?」
なぜ自分の事を気にかけてくれるのか?
仁美は何の躊躇いもなく、中沢に問い掛けた。
中沢はたじろぐものの、フニャフニャと理由を話し始めた。
先ほどもまどかを助けようとしたところなど、仁美は気品の中にしっかりと自分の芯を持っている。
「俺はどっちかって言うと優柔不断だから……、しッ、志筑さんは、憧れなんだ! だ、だからその――」
「ふふっ、ありがとうございます」
少し柔らかな雰囲気が二人の間に流れる。
それを見ていた下宮。邪魔をするのは悪いとは思えど、話しておきたい事があったので中沢に声をかけた。
「上条くんから連絡は?」
「さっき連絡したんだ。"おれたちは保健室にいる"って」
「返事は?」
「あったよ。上条も安全地帯にいて、外に出ると危ないからコッチには来ないって」
納得する下宮。
見れば他の生徒達もだいぶと落ち着いてきたらしい。
安全地帯にいる事と、事前に下宮が嘘ではあるが、殺す方法では脱出できない事を告げていたため、暴走しそうな生徒もいなかった。
「僕らも少し休もうか」
下宮に促され、中沢と仁美は端の方に座り込む。
「それにしても、彼女達は何者なんだろうね?」
下宮はもう一度まどか達のことを話題にあげた。
現実離れした化け物が現れたかと思えば、同じくしてクラスメイトが不思議な力で撃退を始めた。
「でも、ちょっと羨ましいかも」
「え?」
中沢は素直にそう思えた。
力があれば化け物に怯える事も無くなる。力があれば大切な人を守る事ができる。
そう言ってチラリと仁美を見た。彼女がそれに気づくことは無かったが。
「ヒーローじゃん。カッコいいよ」
「でも、あの芝浦って人も同じ力を持ってるみたいだった」
「あぁ、それは確かに……」
「力があっても、それをどう使うかを決めるのは結局人の心次第って事なんだ」
そんな物だろうか?
中沢は唸り声をあげて首を傾げた。
対して仁美は先程と同じ事をもう一度口にした。
「たとえまどかさんがどんな力を持っていようとも、彼女が私の親友である事には変わりませんわ。現にまどかさんは私達を助けてくれました」
確かに初めは少し驚いたが、中身はまどかのままだった。
「私はただ、まどかさんを助けたい。今はそう思っています」
「そうだね。力ある者故の恐怖があるのかもしれないし、僕たちにしかできない事もあると思う」
「まあ、おかげで今ココにいられる訳だしな。鹿目さんたちには本当に感謝しないと……」
そこで中沢はまた仁美の表情が重く沈んでいるのに気づいた。
だからグッと拳を握り締め、震える声で言う。
「で、でも志筑さんの言葉は鹿目さんにちゃんと届いてると――、思うよ」
「そうでしょうか? だったらいいんですけれど」
「ああ。だって鹿目さんすごく嬉しそうだったからさ」
その言葉を聞いて目を丸くする仁美。
中沢としても嘘は言っていなかった。見たままを口にしている。
「だから鹿目さんの助けになったんじゃないかな? 志筑さんの言葉は」
「中沢くん……! ありがとうございます。うれしいですわ!」
仁美は桜色に頬を染めて彼に笑いかけた。
下宮は二人の様子を安心した様に見つめる。
釣り橋効果も合わさって仲が加速してくれれば良いのだが。
その時だった。轟音が鳴り響き、保健室の扉が吹き飛んだのは。
「――!?」
幸い、扉が誰かにぶつかる事は無かったが、問題はそこからだった。
「グエェエエエエエエエエエエッッ!!」
現れたのは鳳凰型のモンスター、ガルドサンダー。
突如現れた異形に、保健室内の生徒達は一勢に悲鳴をあげる。
ココは安全じゃ無かったのか。叫び、パニックになる生徒達。仁美達も言葉を失う。
だがそこで激しいスパークが巻き起こる。まどかが施した結界と、サキが施した雷のベールがガルドサンダーを停止させたのだ。
「グゲェッ!?」
ガルドサンダーは弾き飛ばされ、体からは煙が上がっている。
結界があるのを察知すると、すぐに火の鳥となって空を疾走。再び結界に突撃していった。
が、しかし、またもスパーク。激しい光に包まれて、ガルドサンダーは地面を転がる。
「グゥウウ!!」
床を殴りつけるガルドサンダー。
立ち上がり、炎弾を連射するが、やはり桃色の結界が崩れることはなかった。
「よし! 入って来れないんだ!」
「でも油断できない! 鹿目さんに連絡を――」
携帯を取り出した下宮。
しかしそこで凄まじい光を感じ、思わず目を瞑ってしまう。
ガルドサンダーの隣から神々しい光を放った鳥が飛来してきた。
ゴルトフェニックス、その突進は一瞬でサキとまどかの結界を破壊してしまう。
さらにそこで大量のガゼルモンスターが流れ込んできた。
メガゼール達は何の障害もなしに保健室の生徒達を取り押さえ始める。
悲鳴が木霊する。ともあれ、メガゼールたちは生徒達を取り押さえるだけで、攻撃はしてこなかった。
ただ、唯一、仁美たちには飛びかかってきた。
「ど、どうなって!! うわぁあああああ!!」
中沢は適当に腕を振り回す。
もちろんこんな事でモンスターが止まるわけも無いが、痛みは一向に襲ってこない。
そこで下宮は気づいた。ガゼルモンスター達に敵意がないことを。
「落ち着け中沢くん! こいつ等――、僕たちは狙ってない」
「え!? で、でも!」
「抑えようとしてるだけだ! 取り合えず暴れて!!」
現に下宮がメガゼールを蹴っても、向こうは反撃をしてこない。
掴みかかろうとはするが、それだけだった。
「きゃあ!!」
が、しかし、ガルドサンダーだけは違う。
紅蓮の炎を拳に宿し、仁美に向かって飛びかかる。
仁美は全力で走り、なんとか一撃は回避したが、それは紛れも無い殺意の証明だった。
ましてや恐怖で足がもつれる。フラつく仁美に、二撃目が避けられる筈もない。
「えッ、志筑さん!?」
中沢が反射的に名前を呼ぶと、ガルドサンダーは動きを止めて中沢を見た。
「うッ!」
マズイ。そうは思うが、ガルドサンダーはすぐに仁美を睨みつける。
「よせッ!!」
メガゼールを強引にかき分け、下宮は全速力でガルドサンダーの前に立つ。
危ない――、中沢は叫ぶが、ガルドサンダーは困ったように動きを止めるだけだった。
「間違いない! 中沢くん! コイツは志筑さんだけを狙ってる!」
「えぇ!? そ、そんなッ」
「このままじゃ彼女が危険だ!」
下宮はそのままガルドサンダーの腰に掴みかかって動きを止める。
「志筑さんを連れて逃げろ!!」
「そ、そんな! でも!!」
「いいから! はや――」
下宮一人に何ができると言うのか。
ガルドサンダーは簡単に腕を振りほどくと、下宮の首を掴んで投げ飛ばす。
壁に叩きつけられ、地面に落ちた友を見て中沢の足が竦む。しかし確かにガルドサンダーは仁美を狙っているように思えた。
だから、助けなけばと思うのだが、足が震える。怖い。恐怖が体を重くする。
「うわァア!!」
そこでガルドサンダーは掌から炎を発射。
中沢の目の前、地面に着弾させる。
威嚇射撃と言うものだろう。しかし中沢にはそんな事は分からない。目の前で燃える炎を見て、完全に心が折れてしまった。
「うッッ! ま、まじかよぉ」
ガクガクと震える中沢。
そうしているとガルドサンダーは彼を通り抜け、仁美に向かっていく。
腕から『鞭』を出現させ、それを振った。
仁美の悲鳴が聞こえる。
中沢は真っ青になり、目を見開いた。
嫌だ、嫌だ。泣きそうになりながらも、何とか声を出してガルドサンダーを止めようと試みる。
「やめろォおおおおおッ!!」
「ガアアアアァッ!!」
「ひッ、ひぃい!」
ガルドサンダーは、黙れと言わんばかりに吼えた。
効果はあったようで、中沢は完全に沈黙して震えるだけ。
「あ……ッ! ぐっっ!!」
一方でまた仁美の美しい脚に、赤い線が刻まれる。
苦痛の声を漏らす仁美。ガルドサンダーに下された命令は、なるべく仁美を痛めつけて殺す事だ。
そのほうが死体も凄惨な物となる。ソレを見せた時の魔法少女達の絶望も膨れ上がるはずだ。
しかしあまりにも酷いと絶望しすぎて魔女になる可能性がある。
ある程度の傷を作れば、あとは即死させる。
それで終わりだった。
「う……、うぁ!」
中沢は仁美を見る。見ているだけだった。
身体が動かない。いや正確には動くし、立ち上がっていたのだが、仁美を助けると言う事ができなかった。
いろいろな意味もあるが、何よりも恐怖が心を支配する。
「――ッ」
その時、中沢と仁美の視線がぶつかった。
痛みと恐怖で涙を浮かべている仁美。その目が、中沢の目に重なる。
仁美の表情が中沢に語っていた。そして口も、その言葉をなぞる。
中沢には聞こえない距離だったが、形がはっきりと分かってしまったのだ。
『たすけて』
「――ァ」
中沢は青ざめて走り出す。
「ウワアァァアアァアアアアァァアアアア!!」
「ッ! 中沢君!!」
中沢は走り出した。
仁美を助ける為ではなく、仁美に背を向けて保健室を出て行ったのだ。
恐怖には勝てなかった。ただそれだけの事だ。
そしてガルドサンダーは仁美に向かって炎を――
「クッソォオオオオオオオオオオオオっっ!!」
「グガッ!」
ガルドサンダーが発射した炎は、仁美の隣に着弾する。
理由は炎を発射する直前で、下宮がガルドサンダーにタックルを仕掛けたからだ。
下宮は再びガルドサンダーに掴み掛かると、仁美に逃げるように叫んだ。
「ご、ごめんなさい!!」
仁美も自分だけが狙われている事を理解している為、下宮にお礼を言うと脚を抑えながら保健室を飛び出していく。
「よし、これで――」
「グエェエッッ!!」
「ウグッ!!」
ガルドサンダーの肘が下宮の背中を打った。
呼吸が止まり、動きを止めた下宮に今度はアッパーが命中。あまりの衝撃にえび反りになる。
ガルドサンダーはさらに下宮の胴体に向けて炎を発射した。
「ガァアアアアアアアッッ!!」
炎が全身に回る事はなかったが、腹部からは煙があがり、下宮は熱と痛みに表情を歪ませる。
衝撃もあったのか、下宮は倒れると動かなくなってしまった。
ガルドサンダーは鼻を鳴らすと、仁美を始末する為に保健室を出て行く。
「さ、最低だ……、おれ!」
一方、中沢は廊下を走りながら泣いていた。
好きだったのに。本当に好きだったのに、仁美を見捨てて逃げている。
涙と絶望で、顔をグシャグシャにして尚も走り続ける。
「こ、こんな筈じゃなかったのに! ちくしょう……!」
もっと力があれば良かったのか?
もっと勇気があれば良かったのか?
もっと『覚悟』があればよかったのか?
しかし中沢は人間、あくまでも弱い人間。中学生の子供にそんな決断を迫るのは酷と言うものだ。
「志筑さん――ッ!!」
今頃はもう?
守れなかったと言う悔しさと、彼女を見捨てて逃げている自分への劣等感で中沢は狂いそうだった。
そんな中沢の前に意外な人物が姿を見せる。
「お前っ!」
「どうしたんだい中沢、酷い顔だよ」
上条恭介を見つけ、中沢はすがる様に近づいていく。
今起こった事を、すぐに包み隠さず話した。
「お前は前に言ったよな? 好きな人の為に命を賭けられるのかって! おれ、無理だった……! 志筑さんを見捨てて、最低だ!」
中沢はパニックになりながら仁美への謝罪と自虐の念を吐露していく。
上条はしばらくその言葉を無言で聞いていたが、やがて言葉を遮るように口を開いた。
「大丈夫だよ中沢。後悔しているなら、志筑さんにちゃんと謝ればいい」
「だけど――ッ! もしかしたらもう彼女は!!」
「ああ。だから天国でね」
ドスッ!
そんな音が、静寂の中で響き渡る。
「え……?」
中沢はゆっくりと下を向く。そこには床一面に広がる赤黒い液体が見えた。
そして自分の腹部に突き刺さっている黄金の剣。それを持っているのは上条。
なんて綺麗なんだろう。中沢がそんな事を考えていると、上条が剣を引き抜いた。
すると血が噴水のように流れ出ていく。
「え? な、なんで……? あれ? どッ、どうして――? カハッ、ウブッ!」
中沢は涙を浮かべて上条に問い掛ける。
咳き込むと血が出てきた。苦しい。止まらない。
ダラダラダラダラ流れ出ていく赤。
「どうして? 決まっているじゃないか」
上条は持っていたゴルトセイバーを振るい、血を払う。
そして笑みを中沢に向けた。
「中沢、キミが僕の友達だからだよ」
「あ……」
上条は偽りの無い笑みを浮かべて、もう一度剣を振った。
中沢の首が、飛んだ。若干のタイムラグを経て倒れる体。
上条は中沢が死んだ事を確認するとデッキを取り出してオーディンの姿に変わる。
同じくして彼の元へ駆けつける織莉子達。
当然中沢の死体を確認する訳だが、織莉子もキリカも特にコメントは無かった。
しかし一人だけは大きく動揺したようで。
「か、上条くん!? コイツ君の友達だったんだろ? なのにッ、どうしてこんな――!」
少なくとも佐野満の頭では、上条の行動を理解する事はできなかった。
普通、友人を大切にこそすれど殺すなんて事はしない。
なのに上条は『中沢の為』に中沢を殺すという行動を取った。
その意味が佐野には全く理解できなかったのだ。
逆にそれは大きな恐怖にも変わる。上条は仲間ですら簡単に殺してしまうんじゃないだろうか?
だとすれば織莉子の仲間でいる事の安全性が疑われてしまう。
「佐野さん、簡単な話ですよ」
オーディンは腕を組んだまま中沢の死体を見る。
「彼は志筑さんの事が好きだった。そして、志筑さんはもうすぐ死ぬ」
「……だ、だから?」
「愛する人が先に死ぬ。その苦しみが貴方には分かりますか?」
沈黙する佐野、百合絵が先に死ねば確かにそれは。
つまりオーディンは仁美が死ぬと言う事で、一緒に中沢も殺すと言う決断に至ったのだ。
「これで彼もあの世で志筑さんと一緒に暮らせるはずだ、誰の邪魔も受けずに」
「――ヵ」
「僕は彼の愛を守るために、彼を殺したんですよ。フフフ」
佐野は確信した。上条は純粋なまでに狂っている。
優しさを伴った狂気。恐ろしさに震える佐野の隣では、織莉子が反応を示した。
眼の色が金色に変わった。未来が視えているのだ。
「まもなくココに志筑仁美がやって来ます」
「では殺そう」
頷くオーディン。
ゴルトセイバーを両手に構えて仁美がやって来るのを待つ。
「織莉子ォ、カミジョー! 私がバラバラにしてもいいんだよね?」
「ふふっ、駄目よ形をちゃんと残さないと」
「あはは、キリカは加減ができないからね」
「………」
殺す気満々のキリカを落ち着ける織莉子。そして二人の様子に笑みを浮かべるオーディン。
これがもうすぐ人を殺す者達の態度なのか? 佐野はゾッとして言葉を失った。
ふと、見つめるのは首がない中沢の体だ。
あまりにも凄惨な死体に、佐野の欠片ほど残っていた良心が狂った様に暴れだす。
「ッ!」
通路を曲がってき仁美は、オーディンたちを見つけた。
そしてオーディンたちも仁美を見つける。何の問題も無い、未来がやって来ただけ。
仁美はすぐに危険を感じて逃げようとするが、背後から迫るのはガルドサンダー。
「あ……、あぁ」
へたり込む仁美。どうやら自分の運命を悟ったようだ。
ギュッと眼を閉じて祈るようなポーズをとる。眼から溢れる涙、ガタガタと震える彼女の姿は何とも悲しげだった。
「たすけて……ッ! まどかさん――!」
仁美は消え入りそうな声で弱弱しく呟く。
対して笑いながら歩き出すオーディン。まだゴルトセイバーには中沢の血が付着している。
コレで葬れば、きっと中沢も満足だろう。それはオーディンの罪滅ぼしだ。
仁美の首だけを残して、後は中沢と共に消滅させる。
オーディンのプランは完璧だった。仁美を殺す事こそが、中沢に友情を示す何よりの証なのだと。
「………」
佐野はそれを見ているだけだ。
可哀想だが仕方ない。仕方ないのだ。
『本当だよ。佐野さんは優しい人ですから』
「……ッッ」
仕方ない筈なのに。見ているだけでいいのに。佐野の頭には色々な言葉が張り付いていく。
例えばそれはまどかの笑顔。仁美が死んだと知れば、まどかはきっと絶望してしまうだろう。
佐野を優しいと言ってくれたまどかは、仁美を見捨てた佐野を憎悪するのだろうか?
まどかから恨まれる事を想像して、佐野の足が何故だか震えだす。
具合が悪い。なんだこれは? 佐野は目を細めて、表情を歪める。
『私は佐野さんが優しい事を知っていますから』
「――ッッ」
百合絵の笑顔がそこにはあった。
佐野は息を呑む。自分の事を優しいと言ってくれた百合絵。
自分と一緒にいたいと言ってくれた百合絵。
百合絵のためだったら何をしてもいいと思えた。
(彼女と一緒にいたいからこそ自分は戦えた。誰を犠牲にしてもいいと思ってた)
それが佐野満の想いと言うものだ。
(そう、だからあんな女が死んでもオレには関係ない! 百合絵さんさえいてくれれば――ッ!)
では――、その百合絵は、佐野が女の子を見捨てたと知ればどうするだろうか?
佐野の中で時間が止まったような気がした。それは世界が色を失っていく感覚だった。
死にたくないと泣いている仁美を見捨てて、それでも百合絵同じ事を言ってくれるだろうか?
その事実を知っても、以前と変わらない笑みを向けてくれるだろうか?
(違う……! バカな事だ!)
そうだ、おかしな話だ。
だって考えてもみてほしい。そもそも百合絵と言う女は佐野が騎士だと言う事も知らないのだ。
彼女は何も知らない。何も知らなくていい。知らないからいいんだ。
笑ってくれればいい。褒めてくれればいい。気持ちよくしてくれれば、百合絵の役目は完了だ。
そこで――、佐野の目の前に『自分』が見えた。
百合絵は何も知らない。が、しかし、自分は知っている。知ってしまっている。
罪が過ぎ去り。それを隠すのであれば、確かに百合絵は何ひとつ変わらない笑顔を向けてくれるだろう。
だがココで仁美を見捨てた佐野は、果たしていつもと変わらない笑顔を百合絵に向けられるだろうか?
答えはきっとノーだ。ただでさえ、何かあるのかと聞かれている。
作り笑いが下手になったのだ。
『あそこに、戻りたくない』
「―――」
仁美の美しい緑色の髪が、千歳ゆまと重なる。
(何でだよ、どうしてオレと関係ないお前がッ、オレの頭から離れないんだ……!)
恨んでいるのか? お前を騙したオレを。
幻想に向かって佐野は叫んだ。答えは返ってこない。
(あんなの恨むような事じゃないだろ! オレは何も悪くなかっただろ!!)
止めてくれ、オレは優しくなんてないんだ。だからオレに期待するのは止めてくれ。
オレはそんな凄い人間じゃないんだ! なのにどうして皆オレに善意を求めるんだ?
オレはもっと汚い人間なのに、どうしてそれを否定したがるんだよ!
皆オレの何を知ってるんだ! どうしてそんな――ッッ!!
「助けて……! お母様、お父様――ッ」
「………」
仁美の言葉が佐野の記憶を刺激する。
泣いてばかりだった母。家族を顧みなかった父。
あんな風にはなりたくないと思うどこかで、きっと自分は家族の幸せを願っていたんだろうか?
分からない。分からないが、分からなくても生きていた。
『人を悲しませる様な事だけはしたら駄目よ』
などと、誰もが親から言われたであろう言葉が、母の最期の言葉だったかもしれない。
明確な記憶ではない。忘れるほど薄い言葉だ。
しかし何故か今はその言葉が、何度も何度も頭の中に再生された。
(嫌だ! オレは母さんみたいにはならない!)
佐野の記憶にいた母は、泣いてばかりだったじゃないか。
母だっていつも自分の様な人生を歩ませたくないと佐野に訴えかけていた。
と、思う。
(駄目だ、嫌だ! オレは母さんみたいになっちゃいけないんだ!!)
佐野はもう一度仁美を見る。
死への恐怖で怯えている姿が色々な人物と重なっていく。
それは自分を信じた鹿目まどか。それは何もしてやれなかった千歳ゆま。
それは可哀想だった母。そして、それは――
『佐野さん!』
(オレは、百合絵さんの為にもココで死ねないんだッッ!!)
愛した、百合絵。
愛してくれた、百合絵だ。
彼女は自分の気分をよくしてくれる道具でしかない。百合絵がもしも佐野の嫌がることを言うのなら、きっと佐野は百合絵を嫌いになる。
「さようなら」
「ひッ!」
オーディンがへたり込む仁美に向かって剣を振り上げた。
そして何の迷いも無く、剣を振り下ろす。
コレで中沢と一緒に天国で幸せに――
「ッ!?」
「え……」
が、しかし。剣が仁美に触れる直前だった。
空間が割れ、メガゼールが飛び出して仁美を突き飛ばした。
剣から離れる仁美と、代わりに切り裂かれるメガゼール。
一瞬の出来事に、オーディンや織莉子達は言葉を失うだけだった。
「―――ァ」
「?」
そして。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「!」「!」
自分でも何が起こったのか分からない。
分からないが――、佐野はしっかりと自分の意思で両手を前に突き出していた。
左手には自身の紋章が描かれたデッキ。顔の前でクロスした手は。親指と人差し指を立ててエックスの文字を形成している様に見えた。
そのまま手首を回して左右に両手を広げる。小指を立てて、手を契約モンスターのモデルとなった動物を表した。
「変身ッッ!!」
佐野はデッキをバックルへセットする。
現れる鏡像。インペラーへの変身を完了させると、一気に駆け出した。
同時に発動するのはアドベントだ、織莉子やキリカ、オーディンを邪魔する様にして無数のメガゼールが出現する。
さらにガルドサンダーの前にはリーダーのギガゼールが出現して、仁美を守る様に立ちはだかった。
「……佐野さん、これは一体どういう事ですか?」
織莉子は冷たい目でインペラーを睨む。
そのインペラーは言葉を無視して、仁美を狙うガルドサンダーに飛び蹴りを食らわせていた。
吹き飛ぶガルドサンダー。インペラーはギガゼールに命令を出し、仁美を抱え上げた。
「逃げろ! 早く!! その娘だけは守り抜けッッ!!」
「ギギッ!」
「え……! ええ!?」
インペラーの言葉に頷くギガゼール。戸惑う仁美を無視して、横抱きにして走り出す。
逃がさないと言わんばかりに鞭を伸ばすガルドサンダー。
しかし割り入るインペラー。ソードベント・"ガゼルダガー"によって、鞭を切り裂いた。
おかげで仁美は完全にオーディンたちの前から姿を消す事に。
「グググェ……ッッ!!」
ガルドサンダーは拳を握り締めて怒りを爆発させる。
獲物を逃がしたインペラーを完全に敵と認識したようだ。
次々に炎を放ち、焼き殺さんと走り出す。
「ウラァッッ!!」
しかしインペラーも負けてはいない。
ストライクベントを発動。ガゼルクローを脚に装備して炎を蹴散らしていく。
激しい蹴りの乱舞。踊るようにして繰り出されていく足技はあっという間にガルドサンダーに直撃していく。
「グガァアアアアアアア!!」
「ッ! うぐぁっ!!」
しかし痺れを切らしたのか、ガルドサンダーは火の鳥へフォームチェンジ。
轟々と赤く燃える翼を広げてインペラーに突撃していく。
スピード、威力、インペラーの予想を超えていた。次々に突進を受けてダメージが蓄積されていく。
そうしていると地面に倒れるインペラー。
そこで自分の姿が客観視できた。なんとまあ無様な姿か、思わず笑えて来る。
(百合絵さん――ッ!)
だが、悪い気分では無かった。
(今のオレなら! キミに変わらない笑顔を向ける事ができると思う? ねえ、百合絵さんッ、百合絵さん!!)
立ち上がるインペラーだが、再び火の鳥の突進を受けて倒れる。
さらに次々と降りかかる炎。身を焦がす痛みは、より心を動かしていく。
インペラーの契約モンスターである『ガゼルモンスター』のモデルは、佐野が子供の時に見たテレビがルーツだろう。
肉食獣に食べられているレイヨウ。その姿を見て佐野は可哀想と思った。
その感性。佐野は殺されそうになっている仁美を可哀想としか思えなかった。
佐野は人間である。だから仁美を殺せなかった。
(オレは百合絵さんのために、オレを
別に佐野だけなら仁美を見捨てることはできた。それも簡単にだ。
だが、もうそういう訳にはいかないんだ。百合絵は『道具』だ。だからこそ大切にしたい、だからこそ自分も使ってほしい。
百合絵に、自分がいたから良かったと思って欲しい。
話していると楽しいだとか、一緒にいると気持ちいと思って欲しい。
「ッッ!!」
インペラーは火の鳥を見た。
だからこそ蹴り飛ばし、強制的に地面へ叩き落す。
転がるガルドサンダー。立ち上がりざまに追撃のドロップキックをブチ込んでやる。
「キミには分からないよ。おこちゃまにはさ」
小さく呟く。それが答えだ。
恋愛とは対等な関係が望ましい。格差や劣等感があってはいけない。
お互いがフラットな関係だからこそ、気兼ねなく過ごせるのだ。落ち着くのだ。
だから、百合絵に合う人間になりたい。それが佐野の本心だった。
犯罪を犯すヤツは百合絵の傍にいてはいけない。彼女が汚れる。
乱暴なヤツは百合絵の傍にいてはいけない。悪い噂が流れれば、彼女の評判が落ちる。
ましてや、そう、女の子を見捨てるようなヤツは――……。
(オレは――)
デッキからカードを引き抜くインペラー。
それは紋章が煌くカードだった。
(オレは――ッッ!!)
吹き飛んだガルドサンダーはダメージが大きいのか立ち上がるのに失敗していた。
隙だらけだ、止めを刺すなら今しかない。インペラーはそのカードを迷わずバイザーへセットした。
「ウオオオオオオオッ! ハァァアアアアアアアア!!」
「グガァッ! ゲゲェエエエエッッ!!」
構えるインペラー。その背後から無数のガゼルモンスターが跳躍していく。
次々に爪や蹴りでガルドサンダーを攻撃していくガゼル達。
そして最後に叫び声を上げながらインペラーの飛び蹴りがトドメの一撃を叩き込む。
「グゴアアエエエエエッッ!!」
ファイナルベントである"ドライブディバイダー"を受けて吹き飛び爆発するガルドサンダー。
この戦いは誰が見てもインペラーの勝利だった。
とは言え、複雑なものだ。思い描いていたプランじゃない。
人生とは、なかなか上手くいかないものである。
「アグァアッッ!!」
インペラーの背中に激痛が走り、反射的に後ろを向いた。
そこにいたのは黒い爪をつき立てているキリカだった。
鬼のような形相でインペラーを睨んでいる。
「おっ、おおおッ! 織莉子を裏切るなんて……! 許さないぞッッ!!」
「ウ――ッ! あぁあ゛ッッ!!」
インペラーはキリカを振り払い、すぐに回し蹴りを繰り出す。
しかし既にキリカの姿はソコには無かった。音速とも言える動きで、次々にインペラーの身体を切り刻んでいく。
舞い散る火花。
インペラーは反撃を繰り出そうとするが、どれだけやってもキリカの姿を捉える事はできなかった。
対してキリカは尚も加速し、次々にインペラーへダメージを与えていく。
「クソッ! クソォオオッッ!!」
さらに起こる爆発。見ればオーディン達がメガゼールを倒してコチラに向かっていた。
立ち上がろうと力を込めるインペラーに次々と降りかかるオラクルの雨。
強制的に地面へ押し倒され、織莉子は冷たく笑った。
「残念です、こんな事になるなんて」
「ウッ! グゥウウウッッ!!」
「でも予想外でした。この未来は視えませんでしたもの」
残念だが、貴重な
「でもこれでやっと分かりました」
オーディンは錫杖に、自分の紋章が刻まれたカードを装填する。
「貴方が未来にいなかった――、理由が」
「!」
「残念ですよ。貴方とは良い関係を築けると思ったんですが」『ファイナルベント』
オーディンの背後に現れるゴルトフェニックス。
そのままオーディンの背に重なるように融合すると、巨大な光の翼をオーディンに与える。
それを広げて空に浮かび上がるオーディン。
全身からは眩い光とエネルギーが溢れていき、巨大な光の柱を形成する。
光の本流は徐々に巨大化していき――
「あぁ……ァ」
光に包まれるインペラー。
オーディンのファイナルベントである"エターナルカオス"は、全てを光の中に誘っていく。
愛も、悲しみも、苦しみも、痛みも、そして命さえも。
光が晴れたとき、そこにはデッキが粉々になった佐野が倒れていた。
それを見て笑みを浮かべるキリカ。
しかしすぐに表情を険しい物へ変える。佐野は呼吸をしていたのだ。
「あれ? あれれ? あれれれれー? どうして殺さなかったの?」
佐野はまだ呼吸をしていた。生きているのだ。
「だって流石に殺すのは可哀想だよ。今まで色々と協力してもらったんだ、そのお礼だよ」
「ええ。オーディンの言うとおりです」
そこで佐野も目を開ける。
「ちく――ッしょおぉお……ッッ!!」
佐野は苦しそうに呻きながら、何とか立ち上がり、オーディン達に背を向けてフラフラと走り出す。
それを不満そうに見つめるキリカ。佐野を追いかけて殺すつもりだったが、ソレも織莉子達に止められる。結局佐野はそのまま見えなくなってしまったではないか。
「それにしても――」
オーディンは織莉子を見る。
「スキルベントを使えば、キミの未来予知の力が、僕にもある程度使えるようになる。便利なものだね」
既にオーディンはそれを発動していた。
未来を視たのだ。だから佐野を逃がしたのだ。
「志筑仁美を追うのは止めましょう。都合が悪い」
「ああ、それよりも今は芝浦の方を追おうか。その途中でいろいろと面白い事になる」
頷きあう二人。
しかし相変わらずキリカは不満そうである。織莉子を裏切った佐野をどうしても許せないらしい。
「どーしてさ織莉子ぉ! 私が怒りでトマトみたいに赤く膨れ上がって爆発してもいいのかい!!」
「ふふっ、大丈夫なのよキリカ」
織莉子の目が金色に変わる。
彼女はその状態でもう一度大丈夫なのだと口にする。
そしてキリカの頭を優しく撫でた。織莉子に笑いかけられて渋々納得したのか、キリカもそれ以上文句を言うことは無かった。
「ハァハァ! ア――ッ! ぐぅッッ!」
佐野は、壁を伝う様にして廊下を移動していた。
苦しい、痛い。心のどこかで最期を予期していた。
だから最期くらいはカッコよく、まどかの友達を守った事を誇りに思って死に――
「死にたい訳、ねぇえだろうがアアッ!!」
彼は、人間である。
「クソッ! クソォおっ! あんな女助けなければよかった!!」
どこまで行っても、佐野満は純粋な人間だった。
襲い掛かるのは死へ恐怖と後悔。この溢れる悲しみと憎悪は、誰かのせいにしなければならない。
こんなの、望んだ結末ではないのだから。
「何考えてんだよオレは! 何考えてんだよ織莉子達はァ!」
でなければ壊れてしまう。
何故? どうして仁美なんかを助けたんだ、関係なかったのに。
織莉子の仲間でいれば安全にゲームを終えられたかもしれなかったのに!
「鹿目まどか……! アイツのせいだ! アイツが全部悪いんだッッ!!」
それに織莉子達だってどうかしてる。
あれだけ協力してやったのに、いざ少し歯向かっただけでコレかよ。
佐野の怒りは頂点に達していた。
「こんな事ならはじめっから50人殺しておくんだった!!」
ふざけんな、ふざけんな!
佐野はそう叫びながら地面に倒れる。
エターナルカオスの影響は大きく、佐野の体力は限界に近かった。
「嫌だ……! 嫌だ! オレは死にたくない!! 百合絵さん! 百合絵さんと一緒にいるんだ!!」
佐野は意識が飛びそうになりながらも、百合絵の姿を追い求める。
「オレは帰らなくちゃいけないんだ! オレの世界に!! こんな所で終わるなんて絶対に嫌なんだよォオッッ!!」
いつも百合絵は自分の事を想ってくれていた。笑いかけてくれていた。
きっと今の姿を見ても百合絵は笑顔でいてくれる。
自分の事を分かってくれる筈だ、だから彼女に会わせてくれ! 彼女の笑顔を見せてくれ!!
佐野は叫び続ける。
「出してくれ……!」
声が掠れる。本人は叫んでいるつもりでも、その声量は随分小さい。
佐野は足掻く、何とか見つけた廊下の窓。外を見れば、現実世界の景色が見えた。
だがいくら窓を破ろうとしても叶わない。人間の力では破壊できるわけもない。
外にいる人間にも知られない。それが佐野に突きつけられた現実と言う物だった。
佐野はそれを認められずに叫び続ける。弱く、強く、ありったけに百合絵を求めた。
「出してくれよ! ココから出してくれよッ! 出してぇエエエエエエエッッッ!!!」
そんな佐野の願いが届いたのか、廊下に響く足音が聞こえてくる。
まどか達かもしれない! 佐野はすがる様に走り出して足音の主が誰なのかを確かめようとした。
「まどかちゃん!? 先輩!! いるんだろ? 助けて、オレを助けてよッッ!!」
生きたいと願った佐野の前に現れたのは、鹿目まどか
では、なく。
「ァアァァアア……ッッ」
蛇の様な眼光が佐野を捕らえる。
学校に侵入した浅倉威と佐倉杏子は、一番初めに佐野を発見したのだ。
絶望の表情を浮かべて動きを止める佐野へ、浅倉はニヤリと笑ってデッキを取り出す。
「誰だお前? あァ、誰でもいい。退屈なんだ。俺と戦え」
「まあ服装的に参加者じゃないの? アンタ、さっさと変身しないと死ぬよ」
杏子はたい焼きをかじりながら不満そうに頬を膨らませる。
冗談じゃない、佐野は狂いそうになる感情を押さえつけてなんとか声をあげる。
「ちょ、ちょっと待て! ちょっと待って! オレ、今デッキ壊れちゃって!!」
「アァ? チッ、おい!」
浅倉は舌打ち交じりに杏子を見る。
「へーへー、分かりました分かりましたよ」
杏子は槍を一本出現させると、ソレを佐野に投げ渡す。
「えッ?」
「これでいいだろ? さっさと戦えェエ!」
生身で走り出す浅倉。
「じ、冗談だろ!?」
佐野にはもう考えるだけの力すらない。
とにかく目の前にある槍を掴んで、生きる為にソレを振るった。
「ハッ! ハハァ!!」
「うぐぁぁああッッ!」
浅倉は佐野の一撃を簡単にかわして、拳を叩き込む。
無理だ、こんな状態で勝てるわけが無い。
吹き飛んだ佐野は槍を投げ捨てると、浅倉に背中を向けて走り出した。
笑みを浮かべてソレを見ている杏子。
「あらあら情けない。簡単に終わったな、一発じゃん」
「つまらん……! だが、勝ちは勝ちだ」
変身を行う浅倉。
王蛇は歩き出して勝利の笑みを浮かべる。
「ハハハハハァア」
首をゆっくりと回し、王蛇は最後のカードをちらつかせた。
一方の佐野は狂った様に百合絵の名前を呼ぶ。
助けて、助けて、何度もココにいない百合絵に助けを求めて。
「百合絵さん……! 嫌だ、嫌だッッ! 死にたくないんだ百合絵さん!!」
背後から蛇の鳴き声が聞こえる。
それでも佐野は走り続けた。嫌だと何度も叫び、百合絵の名前を呼ぶ。
それに反して、どこか心の中に冷静な部分があったのも事実だ。
だから佐野は口で百合絵の名を。心の中でゆまの名を呼んだ。
(お前も、一緒だった)
オレも、お前も、求めていたのは同じ物だったんだよな。
でも、それを手にする事はできなかった。そうだろ?
あっちじゃ、ちょっとは優しくしてあげようかな。
佐野は泣きながら一瞬だけ笑みを浮かべた。
だがすぐに歯を食いしばる。もう涙のせいで何も景色は見えなかった。
(どうしてこうなるんだよ――ッッ)
こんなの、望んだ結果じゃない。
「オレは……! オレはただ、幸せになりかっただけなのに……ッ!」
ベノスネーカーが発射した毒が王蛇に力と勢いを与える。
そのまま放つ連続蹴り、"ベノクラッシュ"が佐野に命中したのはその時だった。
断末魔をあげてきりもみ状に吹き飛ぶ佐野。地面に直撃したのを見て、杏子は笑みを浮かべながら近づいていく。
「お疲れ、食うかい?」
食いかけのたい焼きを差し出す杏子。だが佐野からの返事は無い。
「ありゃ、死んでるよもう」
杏子は首を振ると、絶命した佐野に槍を刺して放り投げる。
それをキャッチするのはベノスネーカーだ。佐野を二度程度租借して、一気に飲み込んでいった。
「これで一ポイントリードだな」
「雑魚狩りで調子乗ってんじゃないよ。騎士同士だったらアンタが負けてたかもな」
「そりゃあいい。殺したのが残念だ」
笑う王蛇と舌打ちを放つ杏子。
確かに王蛇としては万全の状態で戦いたかったが、杏子とのゲームでリードできるのは良い気分だった。
「ん?」
そんな時、杏子は窓の外に何かを見つける。
そういえば佐野は先程から何か人の名前を連呼していたような。
「佐野さん?」
学校の外では、百合絵が相変わらず佐野を探し回っていた。
「気のせいかな? 今、一瞬だけ声が聞こえたような……」
悲しそうで、自分を呼ぶ声が。
「佐野さーん!」
呼んでみるが返事は無い。
百合絵は強い違和感を感じながら佐野を探し続けていた。
何かがソコにあるような、そしてそこから佐野の言葉が聞こえてきたような――?
「なあ、アンタ。百合絵って名前なのか?」
「え? は、はいそうですけど……」
どこからか声をかけられ、立ち止まる百合絵。しかし誰に話しかけられたのか分からない。
周りを見るが、それらしい人物がいないのだ。
「誰ですか?」
虚空に向かって尋ねる。
「コッチだよ」
「え?」
左から声がしたので、百合絵は其方の方に頭を向ける。
そこにあったのは――
「あ」
口。
百合絵の身体が浮き上がる。上半身を覆うのは巨大なコブラの口だった。
何も無いと思っていた場所は、魔女の結界が施された学校。
そこからベノスネーカーが現れて百合絵に噛み付いたのだ。
一撃で即死した百合絵は、佐野と同じく数回の租借を得て腹の中に消えていく。
校内にて彼女は死んだ、それを杏子は冷めた笑みを浮かべて見ていた。
「何をしてる?」
浅倉が問い掛けると、杏子は相変わらず口だけを吊り上げて答えた。
「独りぼっちは寂しいもんなァ? ずっと一緒にいてやれよ。ハハハハ!」
嬉しいだろ? 愛する彼女とずっと腹の中で再会さ。
杏子は適当に手で十字架を切って笑っていた。
さて、杏子と浅倉は一旦立ち止まって行き先を決める事に。
教会から学校の異変を感じてやってきたはいいが、一体何が起こっているのか?
ましてや他の参加者がどこにいるのかサッパリだ。
「とりあえず上に行ってみるか。こんな馬鹿デカイ魔女結界は初めてだよ」
「なんだっていい、楽しめればな……!」
二人は頷き、早速他の参加者を求めて歩き出すのだった。
「およ!?」
一方、学校の外で一人の少女が間抜けな声をあげた。
名は神那ニコ。隣にはパートナーの高見沢も立っていた。
ニコは持っていた携帯を高見沢に見せる。既にレジーナアイのアプリは起動済みなのだが、そこにある名前の一覧から『佐野満』の文字が赤字に変わった。
それはつまり佐野が死んだと言う事を意味するものだった。
「さのまん、殉職したもよう。なむなむ」
「ハッ、どうせもうすぐ頭に直接情報がくるだろ」
今日は珍しく高見沢もニコに付き合っている様だ。
それもその筈、今回もまた多くの参加者が集まる絶好のチャンス。
ココを逃す手は無いだろう。
あまりにも戦いが激しいならば観戦にまわり、仕留められそうならば殺す。
レジーナアイには既に学校内のマップが詳しく表示されており、この二人には芝浦がどこにいるのかも明白だった。
「うーん、しっかし貴重なロリ枠が……! ゆまちゃんをペロペロする前に終わったか」
「どうでもいいさ。どうせ最後には俺達以外はいないんだからな」
「それもそうか。ほんじゃま――」
ニコと高見沢はそれぞれソウルジェムとデッキを取り出して前に突き出す。
ニコは左腕、高見沢は右腕を曲げて構えた。
二人はそれぞれ対照的にポーズを取る。そして――
「「変身」」
パチン! 指を鳴らしてデッキを入れる高見沢。ジェムを光らせるニコ。
鏡像が高見沢に重なると、そこから緑色の騎士が現れる。
カメレオンのデザインを持った騎士・"ベルデ"。
さらに隣では飛行士の様なメカニックな衣装を纏ったニコが立っていた。
二人は何の障害も無く学校の中へ、すると入り口が消滅してしまう。
どうやら入る時はどこからでも入れる様だが、出口は一つらしい。
「さあ、いくぞ」『クリアーベント』
「おけ。ま、余裕っしょ」『ユニオン』『クリアーベント』
二人の姿が完全に消え去る。
ここにまた、新たな参戦者が学校に侵入していくのだった。
【ユウリ・死亡】
【佐野満】【千歳ゆま】【インペラーチーム・両名死亡】【これにより、両者復活の可能性は無し。よって、インペラーチーム完全敗退】
【残り20人・11組】
没案で佐野が使い魔に群がられて食われるってのがありました。
ただなんだかんだ本編に似せてしまうという。
そう、そこなんです。
これはきっと僕だけじゃないと思うんですが、皆さんはこんな作品を見たことがないでしょうか?
オリ主やオリキャラが変身するライダーなのに、原作キャラと同じ決め台詞を言ってしまう、使ってしまう。ええ、現に私はそれをしました。
これはつまり、台詞も含めてそのライダーの魅力になってしまうからだと思っています。
ましてやデスゲームものって言うのはある意味、死ぬところがメインと言うか、そこが一番サブキャラが輝く場面というか。主人公になる場所というか。
つまり簡単に言えば、龍騎という作品は非常にキャラクターの死に方が完璧なんですな。だからこそ佐野なんてあの台詞にあの死に方がなければもはや魅力が落ちてしまうんじゃないと思ってしまう。
ましてや、じゃあ佐野が出ます。インペラーが出ますってなったら、絶対最期を想像するし、あの最期だったからこそインペラーって人気もあると思うんですよ。
だからこそ、なぞってしまう。なぞらなければならないんじゃないかと思ってしまう。
オリジナルにしないといけないのに真似を――、オマージュしてしまう。
こういう現象を私は『インペラーのパラドックス』、もしくは『
ごめんなさい、本当に適当です。
今現在眠すぎて何かいてるかイマイチ分かってません。
とにかく、まあ、そんな感じです。お茶会は次か次の次くらいに更新予定です。