仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第31話 双樹あやせ カル樹双 話13第

 

 

「こ、ここは?」

 

 

ギガゼールに連れられて上の階に上がった仁美。

襲い掛かる使い魔は全てギガゼールが追い払ってくれたが、途中で何故か消滅してしまった。

理由は佐野が死んだからなのだが、仁美にはそれを知る由もない。

しかも運悪く、取り残された場所は魔女の目の前だった。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

 

雪の魔女『Cornelia(コーネリア)』は、新たに迷い込んだ獲物を捕食しようと能力を思う存分に発揮していた。

魔女と仁美がいる場所は食堂なのだが、そこは今現在多くの雪によって覆われている。

魂まで凍ってしまいそうな冷気が仁美を弱らせていった。

コーネリアは直接殺す事はしない。仁美を一旦凍死させてから死体を頂く上品な魔女なのだ。

文字通りその姿は氷の女王に相応しい。クリオネをイメージした使い魔の"コルルス"も笑いながら仁美の周りを浮遊するだけだ。

 

 

「―――」

 

 

仁美は眠気を感じて地面に倒れる。

既に冷たさは無い。あるのはぼんやりとした感覚。

 

 

「……うぅっ」

 

 

そして自身を包む罪悪感だけだ。仁美は先ほどの事を思い出して涙を流す。

仁美はまどか達の事を変わらぬ友人だと言った。

しかし、初めて魔法を見た時に一瞬だけ思ってしまった。

 

 

『怖い』

 

 

「まどか――、さん」

 

 

ごめんなさい。仁美はそれを繰り返した。

 

 

(きっと罰が当たったんですわ、親友の貴女を怖いと思ってしまった罰が)

 

 

だから仁美は抵抗しない。

ただ襲い掛かる眠気に身を任せるだけだった。

だから仁美はゆっくりと目を閉じる。

 

 

「諦めないで」

 

「……ッ?」

 

 

誰かの声が聞こえる。鮮明に、しっかりと。

 

 

「貴女はココで死んでは駄目よ」

 

「え――……」

 

 

目を開ける仁美。目の前に。長い黒髪をなびかせる少女が見えた。

そして暖かな光を感じ、仁美は意識を覚醒させる。

寒さで麻痺していた為に分からなかったが、手を握ってくれている誰かがいる。

 

「あ……」

 

「もう大丈夫だよ、仁美ちゃん!」

 

 

まどかだった。

対して暁美ほむらは魔女へ一勢放火を仕掛ける。

雪の魔女であるが故に熱には弱いのか、爆弾や重火器に対して魔女は大きく悲鳴をあげていた。

使い魔達もほむらを刺し殺さんとばかりに氷柱に姿を変えて飛んでいくが、ほむらは盾を操作、『クロックアップ』を発動させて自分のスピードを強化させる。

 

 

「フッ!」

 

 

氷柱は全て回避。

さらに銃に魔力を与えている為、反動はキャンセルされている。

ほむらは両手に構えたショットガンを使ってコーネリアを仁美達に近づけまいと連射していった。

狙い通りダメージの反動で後退していく魔女。ある程度離れると、ほむらは時間を停止して魔女の体中に爆弾を設置。

そして、時は動き出す。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

上品ではない断末魔を上げて消し飛ぶコーネリア。

すると部屋を覆っていた雪が消滅して部屋の温度は元に戻る。

 

髪をかき上げて踵を返すほむら。

見えたのは仁美を治療し終えたまどかの姿だった。

ココにはまどかとほむらしかいない。二階は部屋が多いため、一同は分担して三階へ続く階段を探していたのだ。

その途中でまどか達が仁美を見つけたと。

 

 

「まどかさん……」

 

「大丈夫? 仁美ちゃん」

 

 

まどかは仁美を心配そうに見つめてくる。

それが嬉しくて、申し訳なくて、仁美は一筋の涙を流した。

やはりどんな力を持ったとしても、どんな姿になったとしても、まどかはまどかだ。

それを強く思い、仁美はまどかの手を強く握り返す。

 

 

「ッ! 見て、まどか」

 

「?」

 

 

雪が溶けた事で部屋の全体が露になるが、そこに階段が姿を現した。

つまりこの部屋が上階へ続く道だったと言う事になる。

すぐに仲間に連絡を取るほむら。駆けつける龍騎達だが、そこでインペラーペアが死亡したアナウンスが頭の中に流れ込まれた。

 

 

「佐野さん……っ!」

 

「佐野……」

 

 

決して仲がいい訳ではなかったが、知っている人間が死ぬ事は心に刺さる。

ゆまの死も改めて突きつけられる。真司もまどかも、打ちのめされた様に力を失ってしまった。

一方で冷静に分析を始めるナイトペアやライアペア。

と言うのも、アナウンスに強い違和感を感じたらしい。

 

 

「復活の可能性が無しと言う事は、何かしらの形で復活はできると言う事か?」

 

「知らないんですか?」

 

 

東條が一同に復活のルールを説明する。

既にキリカを通して情報を得ていたらしい。

他者を殺す事で魂を現世に呼び寄せる禁忌。それを聞いたサキは怒りで拳を強く握り締める。

 

 

「どこまでも狂ったゲームだ……ッッ! 吐き気がする!」

 

 

人の命をどこまでも玩具だとしか思っていないルール。

妹の事もあるため、サキは強い憤りを感じた。

 

一方で沈黙を保つライアペア。

ほむらは腕を組んで、目を閉じている。心の中ではいろいろと思う事があるのだろう。

 

 

「暁美」

 

「………」

 

 

無視しているのか言葉を待っているのか。手塚はほむらの反応を気にせずに言葉を続けた。

ほむらとしても手塚が何を言おうとしていたのかは、何となく分かっていたが。

 

 

「あのルールは忘れろ」

 

「………」

 

 

ほむらは目を閉じて沈黙している。

 

 

「俺はお前が死んでもルールを使う気は無い。だからお前も絶対に俺を蘇生させるな」

 

 

手塚はほむらから目を反らしていた。

そこでゆっくりと目を開けるほむら。何の感情も含まぬ言葉で呟く。

 

 

「分かったわ」

 

 

そして一同は仁美が何故あそこにいたのかを知る事になる。

安全な保健室が襲われた。既にサキは様子を見に向かっている。

中沢はどうなったか知らないが、少なくとも下宮は一度攻撃を受けてしまったと。

 

 

『あー、お前等聞いてるー? あ、参加者の奴ねー』

 

 

そこで芝浦からの放送が入ったために、一同は反応せざるを得なかった。

 

 

『なんかダレてきたなぁ。さっさとおれの所に来いよ』

 

『早くしないと、魔女を外に開放しちゃうかも。ふふ♪』

 

 

結局芝浦の狙いはソレだったと言う事だ。

生徒達を使った殺し合いは余興でしかない。

全ては自分達のほうが上の存在だと言う事を実感する為のショーである。

芝浦の本当の狙いはゲーム参加者を集めて『数を変える』事だ。芝浦も当然参戦派である。ゲームを有利に進め、勝ちを目指そうとする事は何もおかしな事ではない。

 

しかし人の命を散々ゴミのように扱っておきながら飽きた?

真司は激しい怒りを覚える。しかしそんな感情が芝浦に届くはずも無い。

飄々とした声がまた聞こえてくる。

 

 

『三階はホールがメインになってる。んで、その先に校長室がある』

 

『出口は三階だよ♪ 残ってる子は頑張って逃げてね♪』

 

 

全てを明かしていく芝浦。

仕掛けたメッセージがひしひしと伝わってくる。

要するに全部教えてやったからさっさと来い、コッチはもう飽きてきたと言う事だろう。

 

 

『ミスったんだよなぁ。予想以上に魔女が生徒殺したせいで全然殺し合いにならないもん』

 

『安全地帯に逃げてるみんなは大人しいし、退屈だね!』

 

 

鼻を鳴らす蓮。

これ以上下らない愚痴を聞く気にはならなかった。

 

 

「だったら、望み通りにしてやる」

 

「あ! 待ってよ蓮さん!」

 

 

さっさと階段に向かう蓮とかずみ。

一瞬罠かとも思ったが、いずれにせよ三階には向かうしかない。

真司達も頷くと蓮の後を追いかける事に。まどかは仁美に笑いかけて、立ち上がった。

 

 

「もう少しだけ我慢しててね、仁美ちゃん」

 

「まどかさん……。あ、あの」

 

「なぁに?」

 

「無事に帰れたら、全てを教えてください」

 

 

まどかは一瞬迷ったように沈黙していたが、結論はしっかりと頷く事だった。

芝浦を止めたら、全てを仁美に話す。小指と小指を絡めて二人は誓いの言葉を歌う。

 

 

「ちょっといいかな」

 

 

それを見て、真司は提案を行う。

仁美をこれ以上危険な目にあわせる訳にはいかない。

という事で、仁美とまどかにはココに残ってもらおうと。

 

聞けば敵は仁美を狙う様な行動をとっていたとか。

もしもまだ敵が諦めていないなら、仁美を一人にするのは危険だ。

 

 

「そっか、そうですよね」

 

「こっちの事はいいからさ。頼むよ、まどかちゃん」

 

 

念のために美穂もまどか達につく事に。

ココにいると他の参加者がやってくる可能性もある。

まどか達は保健室に行ったサキに合流しようと決める。

 

 

「仁美ちゃんとまどかちゃんは私が絶対守るから。任せて!」

 

 

そう言って二人を連れて行く美穂。

真司、手塚、ほむら、東條の四人は、すぐに蓮達を追いかけて階段を駆け上がっていく。

ボスに続くだけあってか豪華な装飾が目立ってくる。しばらくすると大きな扉が見えてきた。

真司はそれを蹴破るようにして中に入っていく。

 

 

「――ッ?」

 

 

そこは芝浦の言う通り、巨大なホールだった。

向こうには校長室へ続く階段が見える。その向こうに芝浦がいるのだろう。

しかし蓮とかずみは扉から出てすぐの場所に立っていた。

 

何故か?

それはホールの中心に既に参加者が立っていたからだ。

黒、白、金。三色の参加者は真司達を確認するとアクションを起こす。

 

 

「皆さんには――」

 

 

美国織莉子はスカートの端を掴み、深々と頭を下げた。

儚げに笑うと、全ての参加者達へ等しく視線を送る。

 

 

「愛する人が、いますか?」

 

 

ピクリと眉を動かすのは、蓮とほむら。かずみは不安そうな表情で二人を見た。

織莉子達は既にホールにたどり着いていたのだ。そして真司達が来るのを待っていた。

隣にはキリカとオーディンが変身した状態で待機している。

蓮としても織莉子たちが黙って通してくれる筈がないと、様子を伺っていたのだ。

 

 

「キリカ……」

 

「………」

 

 

東條はパートナーの姿を見つけて悲しげに呟く。

すぐにキリカも東條に気づいたようだが、無視して織莉子の言葉を待った。

織莉子は問うた、参加者達には愛する者がいるのかと。

 

 

「家族や恋人」

 

 

織莉子は蓮とかずみを見る。

 

 

「友人」

 

 

最後に手塚、ほむら、真司を。

 

 

「心から慈しみ、自らを投げ打ってでも守りたい人がいますか?」

 

 

織莉子は一瞬だけキリカに視線を移して、すぐにまた真司達を見つめる。

その眼差しは悲しみを含んでおり、同時に強い決意を感じた。

佐野の言葉を思い出す真司。背負うものがそれぞれにはある筈だ。

織莉子も譲れない何かを背負っているのだろうか?

 

 

「そして、その人たちを守るに至らぬ自分の無力を嘆いた事はありますか?」

 

 

織莉子は一同に訴えかける。

優雅な姿とは裏腹に、ある種の『必死さ』がそこにはあった。

 

 

「今、世界は危機に陥っています」

 

「………」

 

 

ほむらは無言で話を聞いていたが、無表情とは裏腹に拳をギリギリと握り締めている。

それに気がついた手塚はトークベントを発動する。

ほむらは冷静な性格だとは思っているが、所々で感情を露にする癖がある。

そしてその時は決まって、『まどか』が関係している時だ。

ならばおそらくは今回も――?

 

 

『どうした?』

 

『……なんでもないわ』

 

『あの白い奴とは知り合いなのか?』

 

『知り合いと言う程では無いけれど……』

 

『?』

 

『私は、彼女が嫌いなのよ』

 

 

手塚は改めて織莉子を見る。

そこまで危険そうな人物には見えないが? どうやらほむらとは因縁があるらしい。

とは言え、織莉子がほむらに反応している素振りは無い。一方的な感情があると言うことなのか。

などと手塚が考えている間にも、織莉子は話を続けている。

 

 

「絶対的な悪意と暴力。それを具現した存在が降臨しようとしています」

 

 

誰もが織莉子が何を言っているか分からなかった。

しかしその鬼気迫る雰囲気を見て、嘘を言っているとも思わなかった。

 

 

「しかし、私は戦う」

 

 

織莉子は表情を変え、殺意を瞳に宿す。

 

 

「お話は終わりだ。これ以上はもういい」

 

 

痺れを切らした蓮。

事実、織莉子の言葉はやや抽象的すぎる。

重要な事を言っている様だが、肝心な部分を隠している様にしか思えないのだ。

 

 

「言いたい事があるならハッキリ言ったらどうだ?」

 

「……そうですね」

 

 

ならばと織莉子は話を切り出す。

 

 

「貴方達は、魔法少女が一体どんな結末を迎えるのかご存知ですか?」。

 

「!」

 

 

空気が変わる。知らないのは真司だけだった。

蓮もかずみから聞いており、東條もキリカから聞いていた末路。

魔女になるのだ。魔法少女はやがて皆。

織莉子は答えを口にする事は無かったが、一同のリアクションでだいたいを察したらしい。

 

 

「このゲームの結末は既に決まっています」

 

「何?」

 

 

織莉子は言い放つ。ネタバレ、と言うやつだ。

 

 

「滅び、全ては消え去るのです」

 

 

美国織莉子は未来を知っている。それは当然ゲームの結末をも。

そんな彼女が視た未来は、文字通り『滅び』だった。

何も無い。何も残らない。見滝原にいる生命は全て消え去り、同時にそれは世界中へと進行していく。

 

"連鎖"、全ては終わりに導かれる未来。

家族も、恋人も、友人も、誰しもが持っている大切な物が全て消え去ってしまう。

とてもバカらしい話だった。ゼロになるために戦うなんて。まさしく愚か者だ。

 

 

「その未来を、私は変えたいと戦ってきました」

 

「何を根拠に」

 

 

蓮が食いかかるが、それを止めたのはほむらだった。

 

 

「本当よ。彼女の魔法は未来を知る物なのだから」

 

「何だと?」

 

「……ッ」

 

 

何故自分の魔法を知っているのか?

織莉子はほむらに対して訝しげな視線を送った。

が、しかし、そうなると話が早いのも事実だ。

 

 

「その通りです。私の魔法は未来予知です」

 

 

その上で織莉子は先ほどの話を繰り返す。

このまま自分達が戦ったとしても、世界は必ず滅びの結末を迎えると。

 

 

「皆さんの中には、これが不信を煽る罠だと考えている人もいるかもしれません。ですが必ず世界は滅びを迎える。これは真実なのです」

 

 

だからこそ美国織莉子は戦うと言った。

織莉子の目的は初めから何も変わってなどいない。

魔法少女になったあの日からずっと。それはただ一つ、この世界を守る事だ。

 

 

「私は初めから見滝原を――、この星を守る為に戦っているんです」

 

「なら、どうすれば滅びの運命を変えられる?」

 

 

手塚の問いかけに、織莉子はオラクルを出現させるという答えを示した。

それは酷く矛盾した行動にも思えるかもしれない。

戦いを否定した織莉子が、戦いの道具を生み出したのだから。

しかしこれにもまた、一つの意味があることだ。

 

 

「もはや一刻の猶予もありません」

 

「………」

 

「危険な因子は排除しなければならないのです!」

 

 

織莉子はその言葉と共に一勢にオラクルを発射し、真司達の周りに設置する。

そして爆破。オラクルから炎が噴出し、真司達は悲鳴と共に爆炎に消えた。

 

 

「――!」

 

しかし炎はすぐに吹き飛ぶ。見えたのは巨大な『龍騎の紋章』だった。

目を細める織莉子。そして龍騎の紋章が音を立てて割れると、そこには変身を済ませた一同が立っていた。

 

 

「お、おぉ……! ちょっと焦った!」

 

 

龍騎は気づいてなかったが、まどかとの関わりでカードが増えていたのだ。

スキルベント・ドラゴンハート。ライアのトークベントのように、同変身していなくても発動できるカードだった。

 

と言うより、ドラゴンハートは変身していない状態でしか発動できないカードである。

生身の状態で致命傷を負うだろう攻撃が飛んできた時、龍騎の紋章が結界となって真司を守り、自動的に変身する効果であった。

 

 

「キリカ!」

 

「了解!」

 

 

戦闘の時間だった。

織莉子が叫ぶと、キリカは前が前に出る。

 

 

「ホラホラホラホラホラ!!」

 

 

キリカは魔法技であるステッピングファングを使用して黒い爪を発射していく。

それを武器で弾くナイトとかずみ。盾で吹き飛ばすライアとほむら。

厄介な話だった。芝浦へ続く道がすぐそこにあるというのに、なぜこうなるのか。

 

 

「おい! 危険因子とはどういう意味だ!!」

 

「そのままの意味です」

 

「意味がわから――」

 

 

そして面倒な事は連鎖する。

龍騎達の背後から聞こえてくるのは蛇の声。

龍騎以外はその意味に気づいてホール入り口から一気に離れる。

 

 

「え? え? 何、皆どうしたの?」

 

 

ウロウロとする龍騎。

それに気づいたライアがダッシュで近づいて、肩を掴んだ。

 

 

「あれは恐らく――ッ」

 

「って、おわああああああ!!」

 

 

扉を破壊し、二人のスレスレで通り抜けるのはベノスネーカー。

巨大な大蛇は龍騎達を通り抜け、一気にホールの中心へと移動する。

そこで気づく。ベノスネーカーの上には騎士と魔法少女の姿が見えた。

ベノスネーカーが弾け、消滅すると、二つのシルエットはホールに降り立つ。

 

 

「ここかァ、祭りの場所は!」

 

 

ベノサーベルを構えた王蛇はクルリと一回転して参加者を見定めた。

隣では杏子が槍を持ってニヤニヤと笑っている。ポッキーを齧り、目を細める。

 

 

「最近戦えなくてイライラしてたんだ。だから思う存分――」

 

 

杏子は地面を蹴り、走り出す。

 

 

「暴れさせてもらうぜッ!!」

 

 

同時に王蛇も前に出た。

とりあえず目に付いた参加者に有無を言わさず攻撃を仕掛けていく。

まず杏子が目をつけたのは織莉子だった。織莉子が見ていた未来はもっと先のものだ、この乱入は予想外だったのか、織莉子は不快感に顔を歪ませる。

 

 

「佐倉杏子。未来を惑わせるノイズめ!」

 

「それって褒め言葉?」

 

 

杏子は迫るオラクルを力任せにガンガンと弾いていく。

しかし力だけが杏子の実力では無い。複雑に迫るオラクルを多節棍で弾く技術力も備えている。

だがそこで黒が迫ってきた。

 

 

「織莉子に近づくなァア!!」

 

 

キリカが鬼のような形相で杏子に近づいていく。

そのスピード、杏子が気づいた時には既に目の前に。

 

 

「あ、ヤベ」

 

 

とは言え、そこでキリカが吹き飛んだ。

 

 

「にょわわーッ!」「げへッッ!!」

 

 

何かが飛んできて、キリカにぶつかったためだ。

それもまた黒。キリカに直撃したのは『かずみ』だった。

 

 

「そっちはお前がやれ」

 

「おー、サンキュー!」

 

 

かずみを投げ飛ばした王蛇は、ベノサーベルを振り回し、ナイトを狙う。

打ち付けあう刃と刃。弾かれるのはナイトの剣だ。

手がビリビリと痺れを残す。そうしていると、王蛇の蹴りが胴体に叩き込まれる。

 

 

「蓮ッ!」

 

 

ナイトを助けようとした龍騎だが、そこでライアに引き止められる。

 

 

「待て城戸。コレはチャンスだ」

 

「ええ、この混乱に紛れて芝浦の所へ行きましょう」

 

「えッ! 芝浦の所に!?」

 

「こ、声が大きい……!」

 

 

ライアとほむらは同時に龍騎の口に手を当てる。

王蛇ペアが乱入したせいで織莉子達も其方の対応に追われている。

行くならば今しかない。龍騎だってナイトの実力は知っている。

確かに今は芝浦を止めるのが先だとも、思う。

 

 

「馬鹿かよ! 行かせる訳ねぇだろうが!!」

 

 

少し離れていたにも関わらず、杏子は多節棍を伸ばして妨害を行う。

鞭のようにしなる槍が龍騎達の胴体を打った。

 

 

「イッデ! ど、どうして俺達の行動がバレたんだ!?」

 

「馬鹿みたいな大声出して! 気がつかない訳ないだろ!」

 

 

そう言って杏子は連続して槍を投げてくる。

最初の数発はほむらが射撃で弾き、後はライアが呼び出したエビルダイバーが体を盾にして防いでくれた。

 

 

「ご、ごめん!」

 

「ま、まあ、気にするな。そういう事もある」

 

「手塚、アレを使いましょう」

 

 

ほむらの言葉に頷くライア。

すぐにデッキからファイナルベントのカードを取り出した。

同時にユニオンの音声が流れ、ほむらの体を中心にライアの紋章が一瞬浮かび上がった。

複合ファイナルベントの発動の合図だ。

 

 

「走れ、城戸!」

 

「あ、ああ!」

 

 

龍騎は言われたとおり、校長室へ続く階段を目指して走り出す。

もちろん杏子は止めようと動くが、そこへ電流と水流を纏ったエビルダイバーが迫る。

エビルダイバーにはほむらとライアが乗っており、まずほむらが手に持ったショットガンで織莉子達を牽制していく。

これで龍騎の邪魔をする参加者は杏子だけだ。

 

 

「おいおい、そんなバカみたいな直線でアタシを止められるとでも思ってんのかよ!!」

 

 

確かにエビルダイバーはスピードはあるが、軌道は真っ直ぐのストレートだ。

一応はハンドガンを連射するほむら。しかし杏子はそれを槍で簡単に弾いてしまう。

だがそれでいい。全て分かっていた事だ。これは囮なのだから。

 

 

「!」

 

 

杏子は気づいた。いつの間にかほむら達の姿が消えていたのだ。

 

 

「あ? どこ行――ッ、ぐあッッ!!」

 

 

背後から絶大な衝撃。吹き飛んでいく杏子。

後ろを見ればそこにはほむらとライアがいるじゃないか。

 

 

「ば、馬鹿な! いつの間に!?」

 

 

混乱しながら地面に叩きつけられる。

手加減があったのか、ダメージはそれほどだが。

 

 

(どういう事だ、オイ!)

 

 

背中をさすりながら立ち上がる杏子。

すると気づく。自分の周りに大量の爆弾が置いてあったのを。

ピーと音を立ててライトが青から赤に変わる。それを見て杏子もヤレヤレと首を振った。

 

 

「マジかよ……ッッ!!」

 

 

大爆発。

キリカやかずみが思わず声をあげるほどの衝撃がホールに響いた。

ほむらが銃弾で相手の注意を引き、時間停止を行う。その隙にライアがエビルダイバーを操作して相手の背後に回るのだ。

エビルダイバーは一瞬で最高速度に達するため、ハイドベノンの威力が下がる事は無い。

そうやって相手に奇襲をかけ、再びほむらが追撃を加える。

これが二人のファイナルベント、『パーフェクトライアー』だった。

 

 

「行くぞ!」

 

「ええ」

 

「おわっ!」

 

 

エビルダイバーに乗ったまま芝浦の元へ向かうライア達。龍騎も掴んで一気に階段を抜けていく。

無言でそれを見ている織莉子。どうやら全力で止めたいと言う訳でもないらしい。

だが好きにさせるのも良くないのか。織莉子はキリカを見る。

 

 

「行ける?」

 

「もちろん!」

 

 

キリカは倒れているかずみを踏みつけ、ライア達のところへ走り出す。

だが彼女達は気づいてない。ライアがファイナルベントを発動した時に、もう一人カードを発動させていた人物がいたと言う事を。

 

王蛇だ。

彼もほむらの銃弾による妨害を受けていたのだが、その中でしっかりと新たなカードを発動していた。

 

 

『コピーベント』

 

 

ライアも同じ物を持っているが、同名のカードが同じ効果を齎すとは限らない。

ソードベント一つでもいろいろな種類の剣が装備されるように、コピーベントもライアのものとは効果が大きく変わっていた。

 

ライアの場合は一度見た武器を複製して自分のものにすると言う効果だが、王蛇がコピーするのは武器では無い。

さらに王蛇のコピーベントは"一度しか使えない"のだ。

 

何故か?

それはコピーした物が以後ずっと王蛇の力となるからだ。

要するにコピーベントは使用すると、新しいカードに変わると言う事。

 

 

「行け」『アドベント』

 

「!」

 

 

階段に差し掛かったキリカが、何かに押し出されて吹き飛ばされた。

何だ? 一同が視線を移すと、そこに存在する筈の無い物が存在していた。

 

 

「いててっ! なんだよぉ、アッチ行ったんじゃないのかー!」

 

 

吼えるキリカ。彼女を吹き飛ばしたのはライアのミラーモンスターである『エビルダイバー』だった。しかしライアは芝浦の所に行った筈だ。

わざわざキリカが後を追うことを予想していたのだろうか?

 

 

「これは……!」

 

 

織莉子が初めに気づいた。

現れたエビルダイバーは、よく見ると色が違う様に思える。

ライアのエビルダイバーは赤紫だ。しかしココに飛んでいるエビルダイバーは紫色ではないか。

それに刻まれている模様も違う。

 

そうだ。ココにいるのはエビルダイバーではない。

その名も"ベノダイバー"、手塚のミラーモンスターではないのだ。

では誰の? 決まっている。それは――

 

 

「よッ!」

 

「!」

 

 

意味を理解し、ベノダイバーに飛び乗る杏子。

そう、これが王蛇のコピーベントの効果だった。相手のミラーモンスターを複製して自分のミラーモンスターとして使役する。

王蛇は先ほどのライアのファイナルベント時にエビルダイバーをコピーした。

 

そしてコピーするのはミラーモンスターだけではない。

そこから生まれるカードも全て王蛇の力に変わるのだ。

つまりライアがパートナースキルで手に入れたカードを除いた物が、同じように王蛇の物になっていく。

 

 

「ほらほら! いつまでそうしてるんだよ眼帯女ァ!!」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

倒れたキリカへ猛スピードで向かっていく杏子。

激流と電撃を纏っているベノダイバー、完全にハイドベノンと同一の技だった。

ファイナルベントでさえコピーできるのが王蛇の強さである。

 

 

「う、うわッッ!!」

 

 

何とか立ち上がり横へ跳ぶキリカ、ギリギリでかわした?

いや杏子は槍を伸ばして振るっていた。キリカの胴体に電撃と水を纏った槍が――

 

 

「うおッ!?」

 

 

何か硬い物に当たる感触がして、杏子は思わず槍を手から離す。

本来、槍はキリカに当たるはずだったが、そこに巨大な金色の盾を構えた騎士が割り入ってくる。

オーディンだ。ガードベントで生み出された『ゴルトシールド』を構えて瞬間移動を行い、キリカの前に来たのだ。

 

 

「ありがとう! 助かったよ! お礼に後でナデナデしちゃうもん!」

 

「別にいいよ。それより、お前……」

 

 

冷たい声でオーディンは杏子に問い掛けた。

 

 

「もしかして佐倉杏子か」

 

「は? そうだけど?」

 

「美樹さやかを……、覚えているか?」

 

「ハァ? さやか? ああ、アイツか!」

 

 

はいはいと言いながら、杏子はニヤリと笑みを浮かべる。

一旦ベノダイバーから降りて、オーディンに向かって挑発的な笑みを向けた。

 

 

「アイツはアタシらが殺った。目を閉じれば思い出すよ、最後の断末魔!」

 

「――ッッ!」

 

「絶望して死んだんだっけ? 雑魚にはお似合いの末路だろ」

 

 

消えるオーディン。次に現れたのは杏子の隣だった。

そのまま拳を握り締めて渾身のストレートを繰り出す。

怒りに任せた一撃だ。しかし杏子はそれを紙一重ではあるがかわしてみせた。

 

何と言う反射神経か。

オーディンはすぐにワープで杏子の背後に回ると、ゴルトセイバーで切りつける。

流石に二回目は防げなかったようだが、ゴルトセイバーを受けても杏子は少し苦痛の声を漏らすだけだった。

 

固有魔法がない分、肉体強化に魔力が回っているのだ。

オーディンとしても、まるで鉄の塊を切っている錯覚に陥るほどである。

しかしオーディンは怯まない。防御力があるなら、それを上回る攻撃を繰り返せばいいだけだ。

 

 

「お前だけは殺すッッ!!」

 

「はンッ! なんだか知らないけどさぁ、殺れるモンなら殺ってみろってね!」

 

 

すると、既にオーディンの真下から何本もの槍が生えていた。

冷静さを失っているのか、それを回避できずに受けてしまったオーディン。

美しい金色の鎧から火花が散り、気がつけば杏子の拳が脳を揺らしていた所だった。

 

 

「おい!」

 

「わかってるよ! 殺しはしないさ。ただ今回はゴチャゴチャしてるからさァ、アンタも魔法少女を攻撃してもいいよ」

 

 

王蛇も納得したのか、言い返すことは無かった。

一方でナイトを助けるために向かってきたかずみの十字架を掴む。

 

 

「うわっ!」

 

「ハッ!」

 

「ぐッッ!!」

 

 

かずみの腹部に蹴りを入れる王蛇。

怯んだ所を回し蹴りで吹き飛ばし、一方でまた距離をつめてきたナイトと剣をぶつけ合う。

ギリギリと音を立ててせめぎ合う両者。だがパワーは完全に王蛇の方に味方していた。

 

 

「クッ……!」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

耐えるナイトと、笑う王蛇。

だが注目したいのはナイトが持っていた武器がウイングランサーだと言う点だ。

不利に見えたナイトだが実はそうでない。腰についていたダークバイザーを抜くと、王蛇の腰に向けて振るう。

 

 

「ッ!」

 

「ハッ!!」

 

 

突然の二刀流。不意打ちに対処できず、王蛇はダメージに怯んだ。

その隙をついてナイトは二つの武器で思い切り王蛇を突いた。

槍と剣の刃が走行を強く打ち、王蛇は後ろに下がっていく。

 

だが、タダでは転ばないのが浅倉と言う男だ。

フラつき、後退していく中でベノバイザーを取り出すと、それを投げる。

まさに投げ槍だ。ナイトの肩にダメージが入る。

しかも既にカードは装填済み。ベノバイザーはナイトにぶつかった衝撃でカードを取り込み、発動させる。

 

 

『アドベント』

 

「ぐああッッ!!」

 

 

ナイトの真下から飛び出してくるベノスネーカー。

しかもその衝撃でベノバイザーは再び宙を舞って王蛇の手に収まる。

何と言う戦闘センスか。王蛇はそのまま別のカードを抜き取ってバイザーに入れようと――

 

 

「チッ!」

 

 

だがそう簡単にはいかせない。

カードをセットしようとした王蛇に向かって、小型の黒い十字架が次々に襲い掛かっていった。

十字架はまるで手裏剣だ。回転しながらナイトを守るように浮遊する。

 

 

「イラつかせる……ッ!」

 

 

ベノサーベルで十字架をなぎ払う王蛇。

"シビュラ"、かずみが織莉子のオラクルをコピーして生み出した十字架型の支援ビットである。

複雑な動きで王蛇を攻撃していくシビュラだが、王蛇はわずかな時間で見切るとカードを発動。

 

 

『スチールベント』

 

「あっ!」

 

 

かずみの手から消える十字架。王蛇はカードの力でかずみの武器を盗んだのだ。

どうやら十字架を持っているものの意思でシビュラは操れるらしい。王蛇はシビュラを一箇所に集めると、ベノスネーカーの毒液で全て排除する。

 

首を回す王蛇。

向かってきたナイトの攻撃を十字架とベノサーベルの二刀流で受け流すと、蹴りや乱舞で反撃を行っていく。

 

 

「ハハッ!」

 

「ウォオオオッッ!!」

 

 

二人の武器がぶつかり合い、激しい火花を散らせる。

激しい戦いを繰り広げるホール。その一方で階段を駆け上がるライア達。

ライアは龍騎に視線を移した。無言で俯く龍騎、恐らくコレから始まる戦いに迷いを抱いているのだろう。

 

 

「城戸。この先に進むと言う事は、芝浦と戦うと言う事だ」

 

「あ、ああ……。分かってるよ」

 

「俺は芝浦を殺す気は無いが、それでも戦う事は仕方ないと思っている。お前は芝浦やあやせを攻撃できるか?」

 

 

ライアの言葉に沈黙する龍騎。

だが今まで見てきた生徒達の表情を思い出す。恐怖に怯え、絶望に震えていた生徒達を。

 

 

「俺は――」

 

 

龍騎が何かを言おうとした時、扉が見えてきた。

校長室だ。ライアとほむらは何やら軽く言葉を交わし、直後ほむらはエビルダイバーから飛び降りた。

一方で龍騎とライアはエビルダイバーに乗ったまま扉に突進する。

 

勢いよく打ち破られる扉と、広がる景色。

広い校長室には多くのモニターが設置してあり、学校中の景色を写していた。

ほとんどの生徒が安全地帯に避難している中で、それをジッと見ている人物が。

 

 

「やっと来たんだ、遅かったね」

 

「芝浦……ッ!」

 

 

校長室の椅子にどっかりと座っている芝浦が姿を現した。

椅子を回して自分の姿を龍騎達の前にさらけ出す。

隣では慎ましく控えているあやせの姿もあった。

何も言わず、目を閉じて芝浦の言葉を待っている。

 

 

「芝浦淳だな。今すぐこの結界を解除してくれ」

 

 

戦う意思は無いと、変身を解除する手塚。

龍騎も同じように変身を解除して、芝浦と平等に話す姿勢をとる。

一方の芝浦は何よりもまず真司の姿に反応する。

 

 

「お、生きてたんだねアンタ。もしかして復讐しに?」

 

「そんな訳ないだろ! 今すぐ皆を解放してくれ!!」

 

 

必死に訴える真司と手塚。

しかし芝浦は相変わらずニヤニヤと笑っているだけだった。

椅子に乗ったままクルクルと周り、ふざけた素振りを見せる。

 

 

「えー? どーしよーかなー?」

 

「お前ッ、どれだけの人が犠牲になったか分かってんのかよ!!」

 

 

真司はモニタに映る数々の死体を指して叫ぶ。

本当は今すぐにでも芝浦をブン殴ってやりたかった。

しかしそれでは戦いの火が起こるだけだ。グッと歯を食い縛って、芝浦の良心に訴えかける。

 

 

「芝浦。これ以上、無関係な人たちを犠牲にする事に何の意味がある?」

 

「んー、まあね。暇つぶしにはなったし。確かに解放してあげてもいいけどさぁ」

 

 

芝浦は立ち上がり二人を指差す。

そもそもまず、大切な物が二人には足りていないと言った。

 

 

「大切な物だと?」

 

「そう。態度だよ、誠意ってモンがないよ。あんた等はさ」

 

「は、はぁ?」

 

「……何をすればいい?」

 

 

戸惑う真司だが、手塚は何となく意味を理解した様だ。

芝浦は何度か頷くと再び椅子に座って、地面を指差した。

相変わらず人を小馬鹿にした様な笑みを浮かべて。

 

 

「じゃあまず、土下座でもしてもらおっかなー?」

 

「なっ!!」

 

「………」

 

 

戸惑う真司。

手塚も一瞬表情を歪め、呆れたように鼻を鳴らす。が、しかし、そのまま前に出る。

 

 

「土下座をすれば生徒達を解放してくれるのか?」

 

 

それを聞くと芝浦はニヤニヤと腕を組んで唸ってみせる。

 

 

「そうだな、考えてあげてもいいよ」

 

「そうか」

 

 

それを聞くと膝をつく手塚。真司は突然の彼の行動に思わず目を丸くする。

どうやら本当に手塚は芝浦に土下座するつもりらしい。

その行動には芝浦も少し予想外だったのか、冷めた目で彼を見下していた。

 

 

「おいおい。アンタさぁ、プライドとか無いの? 超だっせーよ土下座なんて」

 

「これで他の生徒が助かるなら、安いもんさ」

 

 

そう言って手塚が地面に手を着こうとした時だった。

 

 

「い゛ッッッ!!」

 

「!?」

 

 

突如現れる黒。

暁美ほむらが現れて芝浦を殴り飛ばしたのだ。

ほむらは身を乗り出す程の勢いで芝浦の顔面を殴りつけた。芝浦としても一瞬で現れたほむらに対応できる訳もなく、思い切り後ろへ吹き飛んでいく。

 

魔法少女の力で殴ったため、芝浦はしばらくバウンドしながら壁に叩きつけられる。

しかしほむらは気づいていた。芝浦を殴った感触がおかしい。あやせの魔法で防御力を強化していたのか? 感触が硬い。事実起き上がった芝浦の頬は少し赤くなっているだけだった。むしろ地面に打ち付けた背中のほうが痛むのか、しきりにそちらを摩っている。

 

 

「いってぇ……」

 

 

しかし、だったら追撃を加えればいい。

立ち上がろうとした芝浦の前に再びほむらが現れる。抵抗しようとした芝浦の手を蹴り飛ばすと、素早く彼を組み伏せた。

 

 

「おわッ!」

 

 

そしてその頭にハンドガンを突き付け、睨みつける。

その眼光はナイフのように鋭く、そして氷の様に冷たい。

真司も手塚も一瞬、ほむらがそのまま引き金を引いてしまうのではないかと思ってしまった程だ。

 

 

「じゅ、淳くん!? なにするのよ貴女!!」

 

 

あやせは大きく目を見開き、芝浦を助けようとする。

しかしほむらは銃口をさらに芝浦に押し付け、引き金に指を伸ばす。

 

 

「動かないで」

 

「ッ!」

 

 

その威圧感と殺意に、あやせは言葉を失い立ち止まる。

どうしようもない。あやせは汗を浮かべて、悔しそうに歯を食いしばっていた。

 

 

「その顔、その目、すっごく嫌……! 好きくない――ッ!」

 

「聞こえなかった? 黙りなさい。これ以上耳障りな声を出せば、この頭を吹き飛ばすわ」

 

「……ッ」

 

 

舌打ちを放つ芝浦。とは言え戸惑っているのは手塚達も同じだった。

そもそも本来は何かあった時の為にほむらを待機させる作戦だったが、打ち合わせと全く違う展開ではないか。

 

 

「暁美……、お前」

 

「手塚、あんな事をしても無駄よ。こいつ等は絶対に結界を解除なんてしないわ」

 

「それは、まあ……」

 

「やるならば力ずくで強制的に解除するしかない」

 

 

ほむらの言葉に押し黙る手塚。本当は彼だってそのくらい分かっていた筈だ。

しかしあえて手塚は話し合いと言う形で事を解決したかった。

だが、やはり無駄だったのかもしれない。手塚は目の色を変えると強く頷いた。

こうなったら仕方ない。手塚もほむらと同じような目に変わる。

 

 

「芝浦、そういう事だ。悪く思うなよ」

 

「へ、へぇ……! 結局そういう方法でいくつもりだったんだ」

 

「俺は城戸とは違う。戦いを止めたいと思う気持ちは同じだが、それを聞き入れないヤツには無理やりにでも協力してもらうしかない」

 

 

手塚はそう言って立ち上がると、あやせを睨む。

無言の圧力だ。言いたい事はほむらと変わりない。

抵抗すれば芝浦の頭に鉛球が撃ち込まれるのだ。あやせもそれくらい分かっていた。

 

 

「今すぐ学校を元に戻せ。どれだけの命が犠牲になったと思っている」

 

 

すると芝浦はやはりと言うべきなのか、笑い始めた。

 

 

「は、はは……! 別にいいじゃん。あんな雑魚共、せめて余興に散った方がまだ人生に役割持てて得したと思うけど?」

 

「そんな事は聞いていないわ。どうでもいいから今すぐに学校を戻しなさい」

 

 

銃を少し動かしてその存在をアピールするほむら。

しかし芝浦は相変わらず余裕そうに笑っており、構わず話を続ける。

そもそも何故、手塚やほむらは学校なんかに拘るのか? 芝浦にはそれが疑問に思えて仕方ない。

 

 

「お前等だって選ばれたんだろ? だったら、何であんなゴミみたいな連中に構うんだよ」

 

 

虫けらみたいに毎日毎日世の中っていう地面を這いずり回っている群れの中で、自分達は羽を手に入れた。

地面にいる連中とは違う力を手に入れた。食物連鎖は変動を遂げる。

もはや自分達は人間というカテゴリーではない、一歩先を行った存在なのだと。

 

 

「お前らだって本当はそう思ってるんだろ?」

 

「ふざけ――ッ!」

 

 

イライラも限界だった。

ほむらは芝浦の脚に一発銃弾を命中させるつもりで引き金を――

 

 

「つぅッッ!!」

 

「!?」

 

 

しかしその時、ほむらは芝浦から離れてしまう。抑えていた腕が凄まじい熱を感じたのだ。

手塚と真司も、突然仰け反ったほむらへ視線を移した。

同時にニヤリと笑って変身を行うあやせ。

 

 

「カローレ・アルマトゥーラは熱の鎧、残念だったね♪」

 

 

そう、既にあやせは魔法を発動していたのだ。

芝浦が合図を出すと、彼の体の周りに熱のベールが現れる魔法を。

直接的な攻撃ではないが、凄まじい熱はほむらの反射行動を引き起こすには十分だった。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!?」

 

 

空間を突き破り現れるメタルゲラス。

アドベントを使用したようには思えない。どうやら芝浦は懐かれているらしい。

メタルゲラスは角を光らせ、一直線にほむらへと突進をしかけていく。

 

ともあれ、ほむらはすぐに時間停止で軌道から外れる。

静止した時間の中で、ほむらは盾からバズーカを取り出した。

 

 

「……ッ!」

 

 

狙うは芝浦。

思えば最初から話し合いなど無意味だったのか。

 

 

「残念ね」

 

 

ほむらは弾丸を芝浦へ向かって発射する。

そして自分は爆風の影響がない位置、つまり手塚達の所まで走って時間を戻す。

 

 

「!!」

 

 

爆炎の中に消える芝浦とあやせ。

思わず声をあげる真司だが、手塚とほむらは涼しそうな顔でソレを見ている。

 

ほむらとしては、こうするしか無かったという理由。

危険な参加者を排除するという都合のいい理由を振りかざした行動なのかもしれない。

そこに少し、複雑なものを感じて沈黙していた。

 

一方で手塚が目を細めていた理由は、ほむらとは違う。

彼は着弾の瞬間に、芝浦がデッキをセットしている事に注目していた。

 

 

「暁美、まだだぞ」

 

「え?」

 

 

爆炎を振り払う様に現れたのは騎士になったガイとあやせだった。

ガードベント・メタルコートによってバズーカの弾丸を防ぎきったのだ。

ニヤニヤと笑うあやせ、そして不動のガイ。

 

 

「結局さ、コレが一番早いんだよね」

 

「そうそう♪」

 

 

武器を構えるあやせを見て、手塚は深いため息をつく。

自分もデッキを取り出して、Vバックルを装備する。

 

 

「暁美。どうして最初のプランを無視したんだ?」

 

「………」

 

 

デッキを構え前に突き出す真司と手塚。

一方でほむらは手塚から目を反らし、理由を口にする。

本来は待機が作戦だった。しかし――

 

 

「あんな話合いも行動も、全て無駄だと思ったのよ」

 

「しかしそうするしか無い」

 

「……それに、少し腹が立ったのよ」

 

「そう、か」

 

 

そこで唸り始める真司。

違う。そうじゃない。叫びたかった。

真司としてはそうじゃないのだ。

 

 

「おいちょっと待ってくれよ! やっぱり戦うなんて――、おかしい!!」

 

 

とは言え、当然届くわけが無く。

ガイはうんざりしたように首を振った。

 

 

「マジかよ。この状況でまだ言ってんの? じゃあさ、お前マジで何で変身したんだよ?」

 

「そ、それは……」

 

 

肩を落とす真司。

そんな中、手塚が龍騎の肩を叩いた。

 

 

 

「城戸、俺たちは戦いを止める」

 

「あ、ああ」

 

「だが戦いを止めると言う事は武器を持ち、傷つけあう事を止める事じゃない。争いを生む心を正す事にあるんだ」

 

 

人はどんな人間でも悪意やソレに近い感情を持つ生き物だ。

そこに殺意を混ぜては人は人でなくなってしまう。芝浦とあやせは現に多くの命を奪い、自分達が人より優れた存在である事を説いた。

それは騎士や魔法少女の力と、F・Gのルールが生んだ事なのか?

 

 

「いずれにせよ、ヤツ等は自分達が人である事を否定した」

 

 

だが違う。

たとえどんな力を手に入れようが。

たとえ人の命を簡単に奪える存在となろうが――

 

 

「俺たちは、どこまで行っても弱い人間なんだ」

 

「……!!」

 

 

それを芝浦達に教えなければならない。

そして傷つけあう事の愚かさを教えなければならない。

だからその愚かさを自分達も背負い、脚を踏み入れる。

それが戦いを止める事に繋がるのなら、希望を生んでくれるのなら。

 

 

「俺は、命を賭けて戦うだけだ」

 

 

そう言ってライアはデッキをVバックルに装填した。

真司も目の色を変え、強く頷く。

 

 

「俺は……、いや俺もッ! 戦いを止める! 変身ッ!!」

 

 

 

現れる龍騎とライア。

一瞬で決める。ほむらと共に二人は走り出した。

 

 

「ふふ♪ 殺しちゃうから!!」

 

「………」

 

 

同じく走り出すあやせと、ゆっくり歩き始めるガイ。

だがほむらはソコで時間を停止させた。同時にライアが既に持っていたカードの一つ、"タイムベント"がその瞬間に発動する。

 

トークベントと同じだ。バイザーを介さずとも発動できる。

ほむらが時間を止めたとき、彼女に触れていなくとも動くことができるのだ。

 

 

 

「殺すなよ」『ストライクベント』

 

「……ええ」

 

 

少し不満そうにしながらも、魔力で強化したスタンガンを手にするほむら。そのままあやせの背後に回りこむ。

対してライアはストライクベントによってバイザーを強化した。

そしてガイのデッキに向けて三日月状のビームを連続で発射する。

 

 

「時間を戻すわ」

 

「ああ」

 

 

そして動き出す時間。

スタンガンが直撃したあやせは、悲鳴をあげて膝をついた。

その隙に、ほむらはあやせのソウルジェムを強引に剥ぎ取る。

 

 

「うグッッ!!」

 

 

対してビームが次々にガイのデッキに命中していく。

デッキの強度はダメージの度合いによって決まるが、流石に連続で攻撃を浴びれば限界は簡単にやって来た。

ましてやライアは追撃を行っていた。

渾身のストレートがデッキに入り、あっと言う間に粉々に砕け散る。

 

 

「グオオオオオオオオオオ!!」

 

「おっと!!」

 

 

粒子化しながらも抵抗しようと突進してくるメタルゲラスは龍騎がガードベントで受け止めた。

そういしてるとメタルゲラスは完全に消滅。同時にデッキが壊れた事で、ガイの姿もガラスが割れる様にして消滅した。

 

 

「うっ!」

 

「勝負あったな。芝浦」

 

 

芝浦はあやせを見る。

しかしまだスタンガンのダメージが残っているのか、あやせは苦しそうにへたり込んで動かない。

ましてや。あやせのソウルジェムを手で弄るほむらの姿が見えるじゃないか。

 

ソウルジェムは魔法少女の魂だ。

それが体から一定以上の距離離れてしまうと、器の肉体は死体と変わらない状態になる。

それをほむらも分かっている。何かおかしな動きをすれば時間を止めて逃げればいい。それであやせは終わりだ。

 

 

「早く学校を戻さないと、彼女が腐るわよ」

 

 

芝浦もソウルジェムの仕組みは知っているのか、苛立ちに表情を歪ませる。

そこでライアはため息をついて芝浦を見た。

 

 

「頼む芝浦、もうこれ以上無意味な事はやめてくれ」

 

「………」

 

 

そこで、芝浦は確かに笑った。

 

 

「アンタさ、自分が勝ったと思ってる?」

 

「何?」

 

 

するとライアが吹き飛んだ。

まさに一瞬。ほむらが反射的にライアを見る中で、龍騎が叫び声をあげる。

 

 

「ほむらちゃん! 前ッ!!」

 

「え……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暁美ほむら、いとをかし」

 

「ッッ!!」

 

 

ほむらは凄まじい冷気を感じた。

するとピキピキと音を立てて腕にあった盾が凍結していく。

まずい。ほむらは腕を振るい、数種類の武器を地面に落とす。

 

 

いや、それよりも目を見張るのは先ほどまでへたり込んでいたあやせが一瞬で立ち上がったことだ。

すり足で距離をつめられ、そして掌を胴に押し当てられる。

だがほむらは冷静だった。持っていたソウルジェムを思い切り後ろへ放り投げる。

 

魔女結界の恩恵を受けた校長室はかなり広い。

魔法少女の強肩があれば一瞬で入り口を越えた階段部分までソウルジェムを投げ飛ばすのは容易だった。

それは確実にソウルジェムが魂を供給できる距離を超えている。

つまりあやせは行動不能と言う事だ。電池の切れた人間が動ける訳がない。

 

 

「カーゾ・フレッド!!」

 

「うくぁあ! あ――! ぅウ゛ッッ!!」

 

 

冷たいが、焼け付くような痛みが走った。

あやせの掌から放たれたのは鋭利な『氷柱(ツララ)』だ。

それはほむらの腹部に突き刺さると、大きく後ろへ吹き飛ばす。

 

赤い点が広がり、赤い雫が落ちる。しかし痛みよりも驚きが勝る。

なぜならば目の前にはしっかりと立っている双樹あやせがいたからだ。

 

 

「そんな、どうなって……!」

 

 

ソウルジェムが肉体から100メートルほど離れると、機能が停止するはず。

確実にその条件は見たいしていた。にも関わらずあやせは立って、笑っている。

いやそれだけじゃない。なんと階段の方向からあやせのソウルジェムが空中を疾走してきたじゃないか。

魂の宝石はそのままほむらを通り過ぎると、あやせの手に収まった。

 

 

「やれやれ」

 

 

あやせは自分のソウルジェムを身体に戻すと呆れたように首を振る。

本来はあり得ない事だ。ジェムを失った魔法少女が自分で動けるなんて。

 

 

「何で……ッッ!!」

 

 

同じくライアも驚愕していた。

吹き飛ばされた原因は『メタルゲラス』なのだ。

しかしこれはおかしい。先ほどデッキは破壊した筈。芝浦はガイの力を一時的とは言え完全に失っている筈なのに、どうしてミラーモンスターを呼べるのだろうか。

 

 

「ごっめーん。おれさぁ、デッキ一回壊されても大丈夫なんだよねぇ」

 

 

芝浦はカードだけでなく、デッキも二つ所持していると言う事だった。

さらに芝浦の隣についたあやせの雰囲気が変だ。穏やかな表情から、キリッとした切れ目に変わっている様な気がする。

 

 

「フッ、愚かな!」

 

 

純白だったドレスも真っ赤に染まっている。

目の大きな網タイツも、今は黒いタイツになっている。

さらに、あやせのドレスは左肩が露出していたが、現在は右肩の部分が露出していた。

そして声は同じだが、トーンが違う。

 

 

「まさか……ッ!」

 

 

ほむらの表情が変わる。

それは答えだ。芝浦は新たなデッキでガイに変身し、正解と指を鳴らした。

 

 

「そゆこと、コイツ"二重人格"なんだ」

 

「「「!?」」」

 

 

つまり、双樹あやせは一つの身体に二つの心を持っている。

そしてその二つの心が、別々に魔法少女になったと言うのだ。

しかしそれならば今までの行動が説明できる。

あやせのジェムが無かったとしても、もう一人のジェムがあれば体は動かせるのだから。

一つの体に二つのソウルジェム。その矛盾をキュゥべえは個性と解釈し、一方のソウルジェムの復元能力まで与えたほどだ。

 

 

「淳。喋りすぎです」

 

「いいじゃん、ココまで来たサービスで教えてあげようよ」

 

「全く、困った人」

 

 

とは言え、存在がバレてしまったのなら仕方ない。

 

 

「これよりは正々堂々と、淳の敵になる貴様等を排除する」

 

 

あやせは告げた。

いや違う、彼女は双樹あやせではない。

 

 

「私の名は双樹ルカ!」

 

 

あやせに非ず。

 

 

「私はあやせと同じ身体に宿りし、二つ目の心なり!」

 

 

ルカは氷の力が宿ったサーベル・"アルマス"を構えて、一同に一礼を行う。

 

 

「城戸真司、手塚、そして暁美ほむら!」

 

 

ルカは顔を上げると、パートナーとそっくりの笑顔を浮かべて走り出した。

 

 

「お命、頂戴!!」

 

 

冷たい風が、校長室に通り抜けていった。

 

 

 

 

 

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