仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第37話 暴徒 徒暴 話73第

 

 

「城戸真司だな」

 

「え? ああはい、そうですけど……」

 

 

こうして、城戸真司は逮捕されたのだ。

ユウリが自作自演で作った映像を警察に届けていたため、すぐに連行となった。

変身魔法は骨格はもちろん、指紋や声紋まで完全に一致させることができる。

真司に言い逃れは不可能だった。

 

 

「な、なんなんだよッ!!」

 

 

頭を掻き毟り、鉄の棒を強く掴む。

当然真司としては納得がいかない。何もしていないのに手錠を掛けられて牢に入れられるのは人間として屈辱だ。

とは言え、携帯も取られてしまったし一体全体どうなるのやら。

 

 

「うおっ!」

 

 

しかし没収されたと思っていたが、気がつけばポケットの中にデッキがあった。

そういうシステムなのだ。一瞬龍騎に変身して抜け出す事も考えたが、そんな事をしても後々余計に疑われるだけだ。

真司は考えた結果、しばらくこのままで過ごす事に。

 

 

そして。どれだけ時間が経ったろうか?

ぐったりしていると担当者に名前を呼ばれて面会を許された。

すぐに向かうと、BOKUジャーナルのメンバーが。

 

 

「編集長! 島田さん! 令子さん!」

 

「おお真司、災難だったな」

 

 

等と言っている編集長だが、ちゃっかり真司とは距離をとっている。

 

 

「ちょ! ちょっと! 俺本当に何もやってないですって!!」

 

「ああ、いやッ、その冗談冗談! なはははは!!」

 

 

絶対嘘だ。真司は冷めた目で編集長を見る。

しかし今は本当に冗談を言っている場合じゃない。

真司は必死に自分が無実だと言う事を訴えた。

すると真剣な表情で令子が頷いてくれる。どうやら彼女達は真司が無実だと言う事を信じている様だ。

 

 

「実は似たような事件が数件あって……」

 

 

島田はメガネを光らせた。

真司と同じ様な被害にあった人物が複数いると告げる。

全く別の場所にいた筈なのに、何故か殺人の証拠映像が撮られていると言った具合だった。

 

 

「でだ真司! お前の為に優秀な弁護士様を連れてきてやったぞ」

 

「へ?」

 

 

まさかと顔を顰める。そのまさかである。

その言葉と共に面会室に現れたのは北岡だった。

彼は真司と同じく、ジットリと重苦しい表情だった。

「……ちょっと待ってろ」

 

「は、はあ」

 

 

その言葉と共に部屋を出て行った北岡。

そしてすぐに真司は解放される事となる。

 

北岡は既に、真司が美穂たちと飲みに行っていた居酒屋の店員に証言を貰っていた。

監視カメラにも真司の姿はハッキリと映っており、犯行時間に飲んでいると言うアリバイが成立した。

 

警察は何かしらのトリックを使ったのではないかと疑いを持ったが、そこはそれ、北岡が警察に誤認逮捕の責任をチラつかせて脅しを掛けたのだ。

それが効いたのか、真司はスムーズに外に出れた。

それにもう一人、重要な協力者が存在した事も幸いしたと言えよう。

 

 

「大変だったわね、本当」

 

「ああ、はあ……」

 

 

北岡のアシストを行ってくれたのは警察関係者である美佐子だった。

彼女が必死に真司の無実を証明しようと頑張ってくれたらしい。

 

 

「ったく、何なんだよアイツらは!」

 

「そうなると先生も?」

 

 

男子トイレ。北岡はイライラしたように鏡を睨む。

相当イライラしている様だ。どうやら北岡も真司と同じような目に合ったらしい。

その時間にクライアントとの話し合いがあった為、アリバイをすぐに証明する事ができたが、それでもやはり腕に残った手錠の感触は忘れられない。

 

 

「クソッ、警察(あいつら)まとめて訴えてやる!」

 

「お、落ち着けよ!」

 

「じゃあ何だ! お前は何とも思わないのか? 本当に屈辱だよ!」

 

「そりゃまあムカつくけどさ、今はどうしてこうなったのかを調べるのが先でしょ」

 

 

意外そうに目を丸くする北岡。

 

 

「な、なんですか?」

 

「単純な馬鹿だと思っていたら意外と考えが回るらしいな」

 

「失礼だぞ!!」

 

 

確かに今はこの不可解な事件の真相を暴くのが先だ。

何故何もしていない自分達が捕まるまでに至ったのか。

 

 

「ま、正直答えなんて一つしか無いけどさ」

 

「え? な、なんでそんな事分かるんだ!?」

 

「逆に分からないのがビックリだよ俺は……」

 

 

脳みそ牢屋の中に忘れてきたんじゃない?

そう言って北岡はツンツンと真司の頭を突く。

 

 

「参加者に決まってるだろ」

 

「ええい! 鬱陶しい!」

 

 

その手を振り払う真司。

やっぱりコイツはムカつく! そうは思えど、恩人だ。言葉をグッと飲み込んだ。

真司はとりあえず北岡に頭を下げて礼を言う。

 

 

「お前の為じゃない。令子さんの為さ。男に感謝されてもキモイだけだっての」

 

「なっ! 最近令子さんに付きまとってる奴ってアンタだったのか!!」

 

 

そんな事を職場で聞いた。

ストーカーかと思って心配していたが、まさか知り合いだったとは。

なにやら以前令子に取材を受けてからと言うもの、すっかり彼女に惚れてしまったらしい。

 

 

「付きまとうなんて言い方は止めてほしいね。これは運命だ」

 

「何が運命だよ!」

 

「ま、そういう訳で特別に今回はタダでいいよ。令子さんに頼まれちゃ、俺もそうするしかないからさ」

 

「アンタそれでよく仕事になるな……」

 

「それだけ俺が優秀って事さ」

 

 

北岡は自慢げに胸を張る。

 

 

「そう言えばあの綺麗な刑事さん、お前の彼女?」

 

「そ、そんな訳ないだろ!」

 

「それにしてはお前の無実を必死に訴え――」

 

 

北岡は真司の表情を見て察した。

悪いくせだ。真司はバツが悪くなると頭をかく癖がある。

 

 

「お前、教えたな? ゲームの事を」

 

「う゛ッ!」

 

「本当に顔に出やすいねぇ」

 

「ほ、ほっとけ!」

 

「まあでも、実際警察関係者は使えるな」

 

「使うって、そんな物みたいに言うなよ」

 

「はいはい。それに最近の見滝原を見てると、知っている方が注意できるのかもしれない」

 

 

リーベエリスが現れてからまた殺人の頻度が上がってきた気がする。

誰がやったかなんてだいたい想像がつくが。

 

 

「まあいい、とにかくコレから令子さんと楽しいお話しだ。お前は犯人でも見つけといてよ」

 

「む、無茶言うなよ! 手がかりもないのに!」

 

「それを探すのがジャーナリストの仕事だろうが。向こうも手を考えなくなってきた、街を巻き込んで戦いを展開するって事でしょ? 早くした方がいいと思うけど?」

 

「そんな……!」

 

「ゲーム終了が近いから一気に詰めに来たのか。それとも単純に抑えていたモノを爆発させたのか」

 

 

なんにせよ厄介な事には変わりない。

王蛇ペアもココに来て殺人数を上げてきた。

ミラーモンスターに人を食わせればそれだけレベルが上がっていく。

 

 

「俺は浅倉に恨まれてるんだ。アイツが力をつける前に消しておきたい」

 

「消すって……! 俺は戦いを止めたいんだ! 先生はどうなんだよ」

 

「や、だからさ、俺は最初っから乗り気だよ」

 

 

真司は北岡の言葉に怯んでしまう。

今はこうして普通に会話をしている訳だが、北岡は勝利を目指すと言う。

なんだかよく分からなかった。参戦派なら普通、ここで戦いを始めようものだが?

だから真司は思うのだ。

 

 

「俺は……、そのッ、北岡さんは悪い人じゃないと思ってるから」

 

「何だよ気持ち悪いな。お前に俺の何が分かるんだよ」

 

「俺じゃない」

 

 

真司は複雑に顔を歪ませ、頭をかいた。

 

 

「は?」

 

「だから俺じゃなくて……、その、さやかちゃんが――」

 

「あいつが?」

 

 

以前真司はさやかと街中で出会った時に、それとなく言った事がある。

あんな卑屈で意地悪そうな人の所なんて辞めたほうがいい。金なら貸してやると。

しかしさやかはお礼こそ言えど、真司の提案に乗る事は無かった。

そして笑いながら真司に言ったのだ。

 

 

『確かに意地悪だし卑屈だし、絶対友達いなさそうだけど――』

 

 

 

おいおい、酷い言い草だな。

北岡は頭を抱えてため息を。

 

 

『でも、悪い人には思えないからさ。なんだかんだでちょこっとは優しい所もあるし』

 

「………」

 

 

北岡はそれを聞くと、意外にも舌打ちを零す。

 

 

「俺はそういうのが嫌なんだよ」

 

「な、なんだよそれ」

 

「他人に俺の何が分かる? 所詮お前もアイツも、上辺だけの考えに縛られるつまらない人間だ」

 

『誰も殺さないでね?』

 

 

一瞬だけ涙で顔を歪ませたさやかが目に浮かぶ。

気に入らない、ああ気に入らないな。

北岡はつくづくそう思い、もう一度舌打ちを行った。

 

 

「まあいい。行けよ」

 

「え?」

 

「いやだからさ、俺とお前だけじゃないでしょ、狙われたのは」

 

「――ッ!!」

 

 

そうだ。真司は美佐子から返してもらった携帯を確認する。

サイレントにしていた為に全く気づかなかったが、画面には美穂やまどかからの着信履歴が無数に記載されている。

 

 

「まずい――ッ!」

 

 

嫌な予感がする。

真司はすぐに走り出してトイレを出て行った。

 

 

「あらあら」

 

 

北岡は対照的に笑みを浮かべると、鏡を確認して身なりを整える。

さあ令子さんとの楽しい話し合いだ。焦っていても仕方ないのだからゆっくり行こうじゃないか。

しかしその時だった。

 

 

「――ッ!」

 

 

口を押さえて咳き込む。

むせただけにしては顔を真っ青にして、大量の脂汗を浮かべていた。

頭痛がするのか、頭を抑えて近くの壁に手を添える。

耳鳴りも酷い。しかも咳き込むときに口に添えた手には赤いものが。

 

 

「……クソッ!」

 

 

北岡は首を振る。

まるで痛みを振り払う様に。まるで雑念を振り払う様に。

 

 

 

 

一方で飛び出していった真司は、一番最近の履歴である美穂に電話をかける。

幸いにもすぐに繋がった。電話の向こうでは、美穂が息を荒げている。

 

 

「どうした? 大丈夫か!?」

 

『おお! 無事だったか真司ぃ!』

 

 

相当疲れているのか、声が掠れていた。

やはり彼女も何らかのトラブルに巻き込まれていたと言う訳だ。

二人は素早く情報を交換し合う事に。

 

分かったのが、美穂も真司と同じく警察に連れて行かれたこと。

しかし犯行時間にコンビニに寄っていた為、その防犯カメラの映像でアリバイを証明できた。

だが問題はここからだった。

 

 

「い、家が燃えてた!?」

 

『さいッッあくだよ! さいッッていだよ本当ッ!! どこのどいつが仕組んだか知らないけど絶対許さないからな!!』

 

 

アパートに帰ってみれば、そこには轟々と燃える炎が。

あまりにもの光景に頭が真っ白になったと言う。

無理もないだろう。警察に逮捕されて帰ってみれば、自分の家が燃えてました。

 

 

「確実に人生最悪な日だ!」

 

 

しかし、まだまだ負の連鎖は終わらない。

家の前にはご丁寧にガソリンの入れ物とライターを持った人が立っていた。

早い話が放火である。しかもその放火魔は一人なんて生易しいモノじゃない。

 

 

『五人はいた。そいつ等がアタシの家を燃やしたのよ!』

 

「う、嘘だろ……!?」

 

『私もそう思いたいね! でもまだ終わりじゃないんだよ!』

 

 

唖然とする美穂に気づいた放火魔たち。

すると彼らは『悪魔がいたぞ!』だとか、『外道を殺せ!』などと叫びながらバットやナイフを構えて走ってきたのだ。

 

そこで我に返った美穂。

確実にあいつ等はヤバイ! こうしてしばらく鬼ごっこを続け、一瞬の隙を見てブランウイングを召喚して空に逃げたのだ。

 

 

『今は適当なビルの屋上にいるんだけど……! ああ思い出しただけでムカツク!』

 

 

お気に入りの洋服や通帳などを全部燃やされたわけだ。美穂は怒りを露にしている。

しかしそうなると気になるのは他のメンバーの現在である。

真司はすぐに次の履歴にあったまどかに連絡を取る事に。

 

 

「じゃあな美穂! しっかりやれよ!」

 

『おいもっと私を慰めんかい! 聞いてんのか真――』

 

 

申し訳ないがそこで電話を切った。

すぐにまどかの携帯へ連絡を入れるが繋がらない。

もしかしたら逃げている途中かも。次は蓮に連絡を。

 

 

「蓮? 大丈夫か!?」

 

『おい、コレはどうなってる!?』

 

 

蓮の呼吸も荒い。話を聞いてみれば、美穂とだいたい同じだった。

店に警察がやってきて他の従業員が自分のアリバイを証明してくれたまではいいが、次に店に押しかけてきたのは年齢も性別もバラバラの集団だった。

 

彼らは店に蓮がいるのを発見するやいなや、武器を持って襲い掛かってきたと言う。

結果として、蓮とかずみは店を飛び出して連中をおびき寄せる事に。

 

 

「で、どうしたんだよ!」

 

『ああ、全員倒した』

 

「た、倒したぁ!?」

 

「安心しろ、殺してはない」

 

 

しかし気絶した面々を見ても、会った記憶が無いと言う。

昔はそこそこ喧嘩もしたが、中には女まで混じっている始末だ。

さすがに女を殴った記憶は無かった。

 

 

「分かった! 気をつけろよ!」

 

『お、おい!』

 

 

蓮の返答を待たずに電話を切る。続いて手塚に連絡を取った。

しかし繋がらない、もしかすると逃げ回っている途中なのかも。

だがこうなると北岡の言っていた事が嫌でも理解できるものだ。

 

敵はとんでもない方法に出た。

真司はすぐにスクーターを飛ばして、まどか達がいるだろうサキの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

少し時間を巻き戻し、サキの家。

朝から遊びに来ていた仁美を交えて、三人は紅茶を飲んでいる。

隣の部屋では昨日夜更かしをさせてしまった為か、未だぐっすりと眠るタツヤがいる。

 

 

「――って事でしたの」

 

「へぇ、凄いじゃないか」

 

 

何気ない会話を繰り返す三人、するとインターホンが鳴った。

 

 

「誰だろう?」

 

 

真司か美穂辺りか。

サキは心当たりの無い訪問者に疑問を覚えながら、扉を開いた。

チェーンロックの向こうにはリクルートスーツを着た若い女性が立っている。

見た事はない。知り合いではなかったようだ。

 

 

「あぁ、もしかしてセールスとかですか? 申し訳ないのですが――」

 

「いえ! そうじゃないんです! あの、すいません! 浅海サキさんですか?」

 

「え? そうですが」

 

「ご両親はいますか?」

 

「いえ、今は……」

 

 

父は死んだ。

母はその事故が原因で体調や精神を悪くして病院に入院していた。

それを知らないと言うことは、深い関わりを持った人物ではないようだ。

 

 

「失礼ですが、貴女は?」

 

「私ですか? 私は――」

 

 

女性はにこやかな笑顔を浮かべていたが――

 

 

「私は、お前に殺された男の子供だ!!」

 

「!?」

 

 

女性は扉の隙間から何かを投げてきた。

それを確認するサキ。一瞬何が起こったのか、理解する事ができなかった。

 

なぜならばそれはこの見滝原で普通に生きていれば絶対に見ない物。

スーツ姿の女性からは絶対に連想できない物だったからだ。

言ってしまえばそれは"手榴弾"。玩具かと思われたが、鬼気迫る表情がその可能性を否定する。

 

 

「!?」

 

 

轟音と衝撃が響き渡り、まどか達は大きく肩を震わせた。

ガラスが割れる音が聞こえる。まどかはもちろん、仁美も不安げに辺りを確認していく。

この音でタツヤも目を覚ましてしまったようだ。

しかし未だ何が起こったのかはわからない。すると怒号と共に無数の人間が流れ込んできた。

 

 

「え? え!?」

 

「いたぞ! 鹿目まどかとその弟だ!!」

 

「おのれ魔女めぇえ!!」

 

 

さらに窓を破ってくる者も。皆、土足で進入して来た。

まどかは混乱する。年齢も性別もバラバラな人々が、各々武器を手に取り睨んでくるのだ。

訳が分からないが、そういうのはゲーム関係と決まっている。

 

しかし目の前の人達はどう見ても一般人だ。

と言う事は操られているか、ソレに近い事になっているに違いないと見た。

 

 

「逃げて仁美ちゃん! タツヤをお願いできる!?」

 

「わ、分かりましたわ!」

 

 

仁美はすぐに隣室のタツヤを連れて逃げ道を探す。

玄関の方からは『殺せ』だの『化け物』だのと聞こえてくるので、向かうのは危険だろう。

外に逃げたとしても集団が待機している可能性はある。

ここはまどかとサキの実力を信じて、仁美は二階へ向かった。

 

一方、玄関ではサキが立ち上がっていた。

かろうじて魔法少女に変身した為に爆発のダメージを抑える事はできたが、もしもタイミングが遅れていたら足が吹っ飛んでいただろう。

 

 

「何故だ……!」

 

 

サキの視線の先には先ほどの爆発の衝撃で吹き飛ばされた女性が見えた。

扉が吹き飛び、飾っていた花瓶も割れ、いろいろな破片が女性に突き刺さっている。

おびただしい量の血が見えた。病院に? 回復魔法を? そうは思えど、前からはまだ人が流れ込んでくる。

 

 

「爆弾を受けても死んでいない……! やはり魔女は実在していたのか!」

 

「じゃあやっぱりコイツ等が俺たちを家族を! 許せねぇ!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんの話しだ! 落ち着いてくれ!!」

 

 

そうは言うが、誰一人聞く耳を持たなかった。

サキは混乱している。一体何故恨まれているのか?

そしてまどか達の心配もある。ああ、爆発のせいで耳鳴りも酷い。

 

 

「ま、待ってくれ! まずはその人を病院に!!」

 

 

手榴弾に巻き込まれた女性からは今も尚、血が流れていく。

しかし次々と聞こえてくる声。勇気ある行動だの、聖戦のための礎だの、聖なる血が魔女を滅するだの、全く理解できない意見ばかりだ。

 

 

(何なんだッ! それにあの手榴弾は一体どこで――)

 

 

そこで衝撃が。

サキがサキのわき腹に、ナイフがあった。

 

 

「死ねぇエッッ!!」

 

「くッ!!」

 

 

もちろんただの小さなナイフが魔法少女の衣服を貫く筈はない。

が、しかし、向こうの力は本気。もう迷って入られないようだ。

ましてや姿を見られてしまった以上はそれなりの動き方をするしかない。

 

サキは襲い掛かってきた男たちへ次々に掌底を打ち込んでいく。

直撃の瞬間に電気ショックを流し込んで気絶させる。

異形の力を見てざわつき始める侵入者達。しかしあっと言う間に全ての者が地面に倒れた。

 

 

「……ッ」

 

 

助けられる命は助けなければ。

サキは気絶している女性に回復魔法をかけると、すぐにリビングに向けて走り出した。

しかし改めて考えても、仇だのと言われる覚えがない。

 

 

わざわざ名前を口にしていた以上、人違いではないのだろうが、本当に身に覚えがない。

 

 

「浅海先輩!」

 

「仁美ッ! 大丈夫か!?」

 

 

階段付近でサキは仁美に接触。

 

 

「まどかさんがリビングで!」

 

「分かった!」

 

助けなければ。サキは仁美達を連れてリビングに向かう。

だがその時リビングに続く扉が破れ、まどかが吹き飛んでくる。

壁に叩きつけられて苦痛の声を漏らすまどか。

 

だがそれも考えてみればおかしな話だ。

彼女はしっかりと魔法少女の衣装を身に纏っている。

にも関わらず、人間相手に吹き飛ばされた?

 

 

「参加者か!」

 

 

サキはまどかを庇う様にリビングへと足を踏み入れた。

そこで見えたものは、これまた全く予想していなかった光景だった。

 

 

「な――ッ!!」

 

 

絶句するサキ。

リビングにいたのは、参加者でも何でもなかった。

 

 

『ギギギギギギギッ!!』

 

 

巨大な目がギラリと光る。

今まで過ごしてきたリビングはもうボロボロで、見る影もなく荒れ果てていた。

ソファは切り刻まれ、テレビは真っ二つ、食器や小物も全て破壊されている。

唯一、妹が残したスズランの花だけは何も変わらずに残っているのが寂しげだ。

 

 

「あ、ああ! これが本当に神の力なのか――ッ!」

 

「悪を滅ぼす正義の力。ああ神々しいッ!」

 

 

侵入者達がうっとりと目を輝かせている。

そこにいたのは何て大きな蟷螂(かまきり)だろうか。

鋭利な刃、巨大な目、鋭い牙が特徴的だった。

 

 

「魔女!?」

 

 

いや、それにしては独特の耳鳴りがしない。

ましてや魔女結界も構成されておらず、近くには使い魔の姿も見えない。

 

 

『ギィイイイイイイイイイイ!!』

 

「へ――?」

 

 

その時、叫び声を上げた蟷螂が腕の武器を滅茶苦茶に振り回した。

そう、滅茶苦茶に。だから近くにいた侵入者たちは一瞬で体を刻まれて絶命していく。

瞬く間にあがる叫び声。誰しもが意味を理解せずに逃げ回る。

なんだ、なんなんだ? これは一体どういう事なんだ!?

そんな言葉と共に腕が飛び、首が舞い、臓器が零れていった。

 

 

「しま――ッッ!!」

 

 

サキもまどかも目の前で人を死なせてしまった喪失感に打ちひしがれる。

だがまだ諦めてはいけない。まどかはすぐに守護魔法を発動しようと試みる。

だが揺れる視界。逃げ惑う人々に止めを刺したのはフィールドだった。

 

 

「ッッ!!」

 

「これは!」

 

 

今度はしっかりと耳鳴りがした。

するとサキの部屋が魔女結界へと姿を変える。

範囲はリビング。だから廊下にいた仁美達は巻き込まれなかったものの、侵入者たちは例外なく引きずり込まれる。

 

生まれた魔女結界は『空』をモチーフにしており、そこに無数の『線』が足場として存在しているのみである。

助かるのは綱渡りが得意な者くらいだろうか。当然そんな人間が都合よくいるものか。

 

次々に落下していく人々。

そのまま遥か下にある地面に激突して、魔女が食べやすい状態になっていくのだろう。

 

 

「っ!!」

 

 

しかしまどかは素早く空に結界を構築して、光の壁を生成する。

それは陸地だ。結界はそのまま人々をラッピングするように球体となって空に留まる。

中にいる人はショックからか全員気絶しており、それはまどか達にとってはありがたい展開だった。

そして足場のはるか先、結界を構築した魔女が姿を現す。

 

セーラー服を着た少女なのだが、頭が存在せず、スカートや上着からは『腕』だけが蜘蛛の脚のごとく生えていた。

見れば電線のような足場も、蜘蛛の巣を模した物と思えば納得がいく。

さらに電線にはセーラー服や体操着が干されている異様な魔女結界だった。

 

委員長の魔女である『Patricia(パトリシア)』は魔法少女を発見すると、早速攻撃を開始。

どこからか大量の椅子や机を出現させて、それを弾丸の様に飛ばしていった。

ただの学習道具もスピードと魔力が加われば立派な凶器だ。

 

 

「クッ、足場が悪いな!」

 

「大丈夫っ! わたしに任せて!」

 

「え?」

 

 

まどかは板状の結界を空中に張って、それを足場に変える。

そのままサキの前に走ると、両手を広げて結界を展開させた。

 

「ディフェンデレハホヤー!」

 

 

魔法技。

他者を庇う時に使うとスピードが倍になるのが特徴であるが、もう一つ別の利点があった。

それは結界の範囲が広い事だ。左右に広がる桃色の結界。見ればそれは『翼』の形をしている。

 

 

「なッ、なんだそれは!」

 

 

サキが驚いたのは、まどかから何かが出てきたことだ。

まどかの肩に手を乗せているのは防御の天使"ハホヤー"。

天使が微笑むと、結界が後ろに移動していき、まどかを通過する。

結界は背中で止まり、サイズが縮む。つまりまどかに光の翼が装備されたのだ。

 

 

「ハァア!!」

 

 

 

まどかの意思ひとつで翼は大きさを変えられるらしい。

まずは右の翼を巨大化させ、跳んで来た椅子や文房具やらを全て受け止めてみせる。

 

 

「リバースレイエル!」

 

 

別の天使が出現。

目を閉じた天使が開眼すると、受け止めた武器が全てパトリシアに返っていく。

しかし後ろから迫るのは謎の巨大な蟷螂『マンティス』。線の上を移動していき、まどかへ鎌を向ける。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「ああ! 任せろ!」

 

 

サキが飛び出した。まどかが結界で作ってくれた足場を走り、マンティスに蹴りを撃ち当てる。

マンティスは帯電しながら落下するが、すぐに羽を使って戻ってくる。

 

 

『ギギギギギギギギギギ!!』

 

 

目を細めるサキ。

改めて見ても魔女とは思えない。

ましてやパトリシアの使い魔にも見えなかった。

 

 

「止まれッ!!」

 

 

鞭を伸ばして、マンティスを縛り上げる。

しかし凄まじいパワーだ。魔女と大差はない。

さらに踏ん張っていたが、マンティスは鎌で鞭を切り裂いて脱出する。

それなりに強度がある鞭を切り裂くのならば、鎌の威力もそれなりだろう。

 

 

「ピエトラディ・トゥオーノ!」

 

 

サキの両手に雷のヨーヨーが装備される。

円盤状に回転する雷を発射。それは複雑な軌跡を描いて再びマンティスを縛り上げた。

雷のヨーヨー故、縛られるだけでダメージが蓄積されていく。

 

 

『ギギ! ガガッ!』

 

 

マンティスは拘束を抜け出す為に鎌を振るうが、糸に触れた途端、雷撃が伝達されて更なるダメージが入る。

サキはそれを見て、ヨーヨーのボディをパージ。

雷の糸で相手を縛り上げつつ、ボディの部分は回転しながらサキに戻っていく。

 

雷の円盤はそのままサキの右足に二つとも直撃した。

自分の魔力を吸収し、そして一点に集めるのだ。

 

 

「フッ! ハッッ!!」

 

 

サキは両足を揃えて地面を蹴った。

そのまま電撃を集中させた右足を突き出して飛び蹴りをしかける。

雷光の一閃はマンティスを蹴り破ると、粉々に爆散させる。

 

 

「!?」

 

 

そこで不可解な事が起こった。

爆発の中から、気を失った人間が降ってきたのだ。

爆風で飛ばされたのだろうか? サキは戸惑いつつも、その人間を鞭でキャッチして引き寄せる。

 

 

「サキお姉ちゃん! 離れて!」

 

「ああッ!」

 

 

まどかが結界を張ってくれたので、サキは一旦魔女から距離を取る。

すぐに気絶した人を安全な場所に避難させて、まどかに加勢しようと思っていたのだが――。

 

 

 

「輝け! 天上の星々! アドナキエル!!」

 

「んッ!?」

 

 

聞きなれない口上。

サキが振り返ると、パトリシアと対峙していたまどかが腕を天に向かって強く突き上げていた。

するとどうだろう。まどかを照らす様にして、強い輝きを放つ光が点々と浮かび上がった。

まさに夜空に輝く星のようだ。魔力の塊が星座を創り、まどかの意思に呼応してその輝きをさらに強めていく。

 

 

「煌け! 瞬光(しゅんこう)のサジタリウス!!」

 

 

まどかは弓を思い切り振り絞ってパトリシアに標準を合わせる。

望むは解放だ。魔女の呪いに囚われた意思を、ここで解き放つのだ。

 

聖澄(せいちょう)なる軌跡を与えられし徒となる光よ! 万物を貫く矢と変わり、我を照らしたまえ!」

 

 

詠唱と共に、星の光が最大に変わる。

覚醒によって力を上げたのは守護魔法だけではない。

攻撃面に関してもまたパワーアップを果たしていたのだ。

まどかの必殺技であるスターライトアロー。今までは光を纏って一直線に飛んでいくだけだったが、今は違う。

 

 

「な、なんだアレは――ッ!」

 

 

思わずサキも口にする。

まどかの技はそれほどまでに進化を遂げていた。

輝いた星の並びは『射手座』・サジタリウスの形そのものだった。

 

そして弓に付いている蕾のギミックが展開して華が咲いた時、魔力がまどかの体に吸収される。

すると弓が光と共に姿を変え、より巨大で、より壮大な物へと変わる。

反っているリムの部分が『翼』になっていた。それはやはり、天使をイメージさせる。

 

いや、と言うよりも天使なのだ。

まどかが呼び出したのは『弓』の形をした天使・アドナキエル。

弓を構えると、光の糸が生まれて弦になる。

まどかはそれを思い切り振り絞り、さらに光を集中させていく。

 

 

「撃ち抜けッ! 射手よ!!」

 

 

まどかは、弦から手を離した。

 

 

「スターライトアローッッ!!」

 

『―――ッッ!!』

 

 

神弓(アドナキエル)から放たれたのは、サジタリウスの矢。

それは今までのスターライトアローとはスピード、威力、共に桁違いのレベルだった。

光を振りまきながら飛んでいく矢は、一撃で魔女を貫いて爆発させる。

サキは絶句して固まっている。本当に強い。最早、自分よりも確実に。

 

 

(いや、だがッ、いくらなんでも異質すぎる――ッ!)

 

 

サキもイルフラースを強化させたし、戦いの中で成長していく魔法少女は珍しくないと思っている。

だがまどかの進化はあまりにも極端だ。天使召喚と言い、今の攻撃と言い。

 

 

「ありがとう、天使様」

 

 

まどかは探求の天使・アドナキエルにお礼を告げる。

射手座を司る天使でもあり、12種類の一つ。

 

 

「まどか、君は一体……!」

 

「結構練習したんだよ、えへへ!」

 

 

サキは曖昧に笑うだけしかできなかった。

明らかに他の魔法とは質も桁も違っている様に感じる。

 

 

(あれは魔法のアレンジで済むレベルじゃなかった……)

 

 

感情の高ぶり、一度の覚醒においてアレだけの進化を遂げるものなのだろうか?

魔法で意思を持った別の生物、それも天使と言うイメージに難しい物を召喚するなんて――。

 

 

(もしかすると、まどかにはとても大きな才能があるのかもしれない)

 

 

まどかは自分に自信が無かったと言っていた。

確かに特別勉強ができる訳ではないし、運動が得意なわけでもない。

しかし人間には皆、何かしらの才能と言うものが確実に備わっているものなのだ。

 

もしかしたら、まどかの場合はそれが『魔法少女』だったのかもしれない。

それがこの絶望のゲームの中で解放されたとしたら?

 

 

(もしかしたら彼女は、いや彼女達は――)

 

 

この見滝原と言う閉鎖された空間は、まさに箱庭だ。

突き詰めれば箱。その中で行われる絶望のゲーム。

なんだか、神話で言う『パンドラの箱』と似ているじゃないか。

 

神話において、パンドラと言う女性は、絶対に開けてはならない箱を開けてしまった。

そして中に入っていた多くの絶望を解放してしまったのだ。

しかし、パンドラの箱には最後に僅かな希望が入っていた。

 

見滝原が箱の中なら、同じ様に僅かな希望が残っている筈だ。

その最後の希望が、サキにはまどかと真司に思えて仕方ない。

 

このゲームにおいて他者を守りたいと言う意思を持ち続ける限り、いつか必ず希望はチャンスを与えてくれるだろう。

その最初のチャンスが、今の天使なのだとしたら?

 

 

「!?」

 

 

だが現実は容赦なく牙を剥いてくる。

パトリシアが死んだことで、魔女結界が崩壊していく。

するとどうだ、荒れていた家の中がもっと酷い状態になっているじゃないか。

 

 

「まさか――ッ!」

 

 

廊下に走ると、破壊された仁美の携帯電話が落ちていた。

 

 

「しまったッ!!」

 

 

つまり、まどか達が魔女結界の中に送られた間にも、サキの家には暴徒がやって来ていたのだ。

そうすると無防備だった仁美達はどうなる? サキ達はゾッとして辺りをすぐに探し回った。

しかしどこを探しても仁美達は見つからない。

 

 

「私はなんてバカな事を――ッッ!!」

 

 

サキは自分の愚かさを恥じた。

仁美たちからは絶対に目を離してはいけなかった。

しかし色々と混乱することが起きたため、気が回らなかった。

 

 

「まどかッ!」

 

 

見滝原の異変に気づいたのか。そこで、ほむらがやって来た。

どうやら彼女も例外ではないらしく、暴徒によって自宅を燃やされてしまったらしい。

とりあえず時を止めて逃げたが、パートナーとも連絡がつかない為にココにやってきたと言う。

 

 

「ココもなのね……!」

 

「ああ、私にはもう何がなんだか」

 

 

今まで過ごしてきた家が壊される。

それは悲しい事だ。サキは苦悶の表情を浮かべながら、スズランの花が入ったケースに手を伸ばす。

いつまた暴徒が来るか分からない。少し悩んだが、サキは花を取り出すと、それを結ってブレスレットを作った。

 

この花はサキの願いがあるため、どんな事をしても枯れる事はない。

妹が笑顔で見せてくれたあの時と永遠に同じなのだ。

 

 

(許せ、美幸……)

 

 

サキはブレスレットを右手につけると、状況をほむらに説明していく。

ポイントとなるのは、何故自分達が狙われる事になったのか?

そして何よりも仁美とタツヤの行方だ。

 

 

「携帯は壊されていたが、血液の痕は無い。逃げたか、もしくは捕まったのか……」

 

「私がここに来た時にはもう志筑仁美と鹿目タツヤの姿は無かったわ。外にも、それらしい人影は無かった」

 

「仁美ちゃん……! タツヤ――っ!」

 

 

どうか無事でいてほしい。まどかは目に涙を浮かべて、祈る様なポーズをとった。

ほむらも、まどかを励まそうと――

 

 

「大丈夫だよまどか、きっと彼女達は無事さ」

 

「うん、そうだよねお姉ちゃん……!」

 

「………」

 

 

ほむらよりも先に、サキがまどかの肩を持つ。

釈然としない。ほむらはムスっとした表情でサキをじっとりと睨む。

 

 

「な、なんだ?」

 

「いえ……」

 

「とにかく仁美たちを探そう。まどか真司さんに連絡を。ほむらは周りを見張っていてくれ」

 

「う、うん!」

 

「……了解」

 

 

サキは気絶していた暴徒を起こす事に。

 

 

「――ッ!」

 

 

目覚めた男は状況を把握すると、目の前にいる魔法少女達を睨んだ。

 

 

「やはりッ、お前らは悪魔だ! 魔女だ!!」

 

「落ち着いてください。貴方は何かを誤解してる!」

 

「うるさいッ! うるさいッッ!!」

 

 

男は懐から手榴弾を取り出すと、乱暴に栓を抜いた。

 

 

「ッ!」

 

 

ヒヤリとしたが、次の瞬間、男の手から手榴弾が消える。

どうやらほむらが時間停止で奪ってくれたらしい。

 

 

「……?」

 

 

ほむらは目を細めて手榴弾を見る。

 

 

「どうして一般人がこんな物を……?」

 

 

その時、普通の主婦に見える女性が立ち上がった。

なんだろう? 注意していると、次の瞬間その女性が『爆発』する。

どうやら服の裏にダイナマイトを仕込んでいたらしい。轟音と共に体が後ろへ吹き飛ぶ。

 

 

「うぐぁッッ!!」

 

 

まさかこんな事になるとは。ダイナマイトなんて想像もつかない。

だが結果としては周りの暴徒たちは爆発に巻き込まれて死亡と言う、最悪の展開だった。

 

 

「なんでこんな――ッ! 大丈夫か! ほむら、まどか!」

 

「ええ、なんとか……」

 

「わたしも大丈夫だけど――ッ」

 

「とにかく一旦外に出よう! 前が、見えない……!」

 

 

爆煙を掻き分けて前に出る。

 

 

「!!」

 

 

滅茶苦茶だった。

入り口では先ほど助けた女性が舌を噛んで死んでいるのを見つけた。

 

 

「なんなんだ……ッ、なんなんだッッ!?」

 

 

サキは怒りの思いで壁を殴る。

まどかも守るべき人達を目の前で死なせてしまった責任と、言いようの無い虚しさで言葉が出ない様だ。

しかしこのままでは色々な意味でまずい。

三人はボロボロになった家を出ると、近くの公園に向かい、変身を解除する。

 

 

「どうなっているんだ。もう意味が分からない……!」

 

「確かに。異常ね、あんな武器を一般人が持っている事もおかしいわ」

 

「ああ、何がどうなっているのか。それになんであんな簡単に命を……」

 

 

すぐにサイレンの音が聞こえてくる。

あれだけの轟音だ、周りの人間が気づかないわけが無い。

 

 

「どうするの?」

 

「どうするって……、あの状況をどうやって説明すればいいんだ」

 

「だけど逃げれば逃げたで面倒な事になるかも」

 

「確かに。警察には石島さんがいるから、彼女に説明すれば……」

 

 

すると意外にもまどかが首を振った。

 

 

「ごめんお姉ちゃん。わたし、このまま仁美ちゃんとタツヤを探したい」

 

 

警察に行けばそれだけ拘束されるだろう。

それはまどかとしては、不安が募る一方だった。

 

 

「わたし、見たんだ。サキお姉ちゃんが戦ったあの蟷螂」

 

「ああ、あれか」

 

 

魔女とも言えぬ化け物だった。

その正体を、まどかはその目で確認していた。

最初は信じられずに見間違いかとも思ったが、ここはもう見たものを信じるしかない。

 

 

「人間!?」

 

「うん、蟷螂を倒した時に人が降って来たよね」

 

「確かに、爆発の中から現れたようにも見えたが……」

 

 

まどかが言うには、あの人物こそがマンティスの正体だと言うのだ。

つまり暴徒の一人が、あの巨大な蟷螂となって自分達に襲い掛かってきたと。

 

 

「本当なのか? 人間が化け物になるなんて」

 

「でも、わたし見ちゃったから……」

 

 

何をしたかは知らないが、『何か』を額に押し当てたら化け物に変わったと言う。

今までそんな事例がないだけに信じられぬ話ではある。

だが何が起こるか分からないのがF・Gだ。疑う事も馬鹿らしい。

 

 

「信じましょう」

 

 

ほむらの言葉に頷くサキ。

もしも仁美達が同じような化け物に襲われたのなら、助けられるのは参加者だけだ。

 

 

「仕方ない、後から事情を説明すれば分かってくれるだろう」

 

「うん、早く仁美ちゃん達を探さないと!」

 

 

三人はサイレンの音から逃げる様にして場を離れた。

まずは様子が見たいと言う事で、まどかの家に向かうことに。

幸い、家族は今誰もいない状態だが、やはりと言うべきか。鍵が壊され、中に進入された形跡がある。

 

 

「そう言えばまどか、真司さんに連絡は?」

 

「かけたけど、ダメだった。大丈夫かな……」

 

 

幸い携帯電話は魔法少女の衣装に守られていたからか、壊れてはない。

サキは美穂に連絡を取り、情報を交換する。

そこで気づく。ほむらや美穂は家に火を放たれると言う強引な手を使われた。

だがサキやまどかは違う。直接進入してきたのだ。

 

 

「何かあるんだろうか?」

 

 

サキは顎を触りながら考える。

例えば火をつけると言うのは、安否確認をせずに事を終わらせるものだ。

しかし直接進入してくるのは違う。確実に殺すため? 

 

 

「いやッ、或いは初めから捕らえるためだったとか……?」

 

「え? じゃあ初めから仁美ちゃんとタツヤを狙って?」

 

「……考えすぎか」

 

 

そこでほむらが手を挙げた。

どうやらトークベントを通じて手塚と連絡が取れたようだ。

 

 

『緊急事態なの、今から貴方の家に寄ってもいいかしら』

 

『すまない、俺も大変な事になってる』

 

『?』

 

 

さらにタイミングの良い事に、まどかの携帯電話が音を立てた。

 

 

「真司さんだ! もしもし? 真司さん!?」

 

 

そこで一同は情報の交換を行った。

聞けば聞くほど、それぞれは大変なことに巻き込まれているらしい。

 

 

「………」

 

 

例えば手塚海之は狭い部屋の中で頭を抱えていた。

檻、である。登校途中に警察に声を掛けられてこうなった。

殺人容疑。もちろん身に覚えが無いので必死に無実を訴えたが、どうやら証拠があるらしい。

これから少年院の手続きがどうのこうのと。それが終わるまで仕方なく座っていたのだが、物音がして顔を上げてみれば、日本刀を持って立っているパートナーの姿があった。

 

 

「迎えに来たわ」

 

「あ、ああ……」

 

 

どうやら時間を止めてココまで進入してきたようだ。

ふと後ろを見れば日本刀でたたっ切ったのか、真っ二つになっている鉄の棒が。

魔力で強化したのか。それはどうでもいいが、これは良いのだろうか?

 

 

「行きましょう」

 

「だ、脱走しろと?」

 

「覚悟を決めて。無実を訴えている時間は無いの」

 

「どういう事だ?」

 

「コレは私達を陥れる罠だと言う事よ」

 

 

ほむらは今まで起こったことを大まかに説明してみせる。

騎士と魔法少女の数名が何故か一般人に敵視され、暴徒と化した連中はやり方を問わず殺そうとしてくる。

しかもどういう訳か相手は人を超える力を持っているらしい。

 

 

「ハッキリ言えば、参加者の誰かが裏にいるのね」

 

「……芝浦の件があって嫌な予感はしていたが、やはり街を巻き込んでも構わないと思ってる参加者がいるみたいだな」

 

「しかも敵は一般人を使って来ている」

 

「成る程。だから俺は逮捕されたのか」

 

 

誤解を解くと言う事は、おそらく不可能だろう。

一度憎悪の対象になっている自分達が何を言おうが、相手の神経を逆撫でするだけの気もする。

それこそ偽者でも出てきてくれない限りは不可能だ。

 

 

「とにかくココを離れましょう」

 

「前科がッ、ぐッッ!」

 

「大丈夫よ。まどかの知り合いに警察関係者がいて、何とかしてみるって言っているから」

 

「……それに賭けるか」

 

 

それよりと、ほむらは話を切り替える。

 

 

「ココにくる前、東條――、だったかしら? 彼に会ったわ」

 

「ッ? アイツは無事だったのか」

 

 

なんでも一緒に登校していたらしい。にも関わらず手塚だけ捕まるとは。

少し考える。敵は全ての騎士を把握している訳ではない?

それとも織莉子達が仕組んだから、キリカのパートナーである東條は避けた?

 

だがこのやり方は織莉子らしくない。

彼女は見滝原の平和を願っていた。その言葉を信じるならば、一般人を大きく巻き込むやり方は矛盾している。

 

 

「手塚?」

 

「ああ……、いや、すまない。なんでもない」

 

「ココで考えても仕方ないわ。とにかく東條を回収して離れましょう」

 

 

手塚達としても鹿目タツヤと仁美は助けたい。

二人は頷くと、時間を停止して警察を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……ッ!」

 

 

東條と合流した後、一度手塚の家で作戦を練る事にした。

東條も協力してくれると言ってくれたので、その点はありがたい。

しかしいざ家に到着してみると、そこには轟々と燃える赤い炎が。

 

 

「煙が見えたからもしかしたらと思ったけど、予想通りね」

 

「へぇ、結構派手に燃えてるね」

 

「お前ら他に言う事無いのか。少し泣きそうなんだが……」

 

 

やはり暴徒は手塚の家にも押しかけていたらしい。

消防士の怒号が聞こえ、激しい水流が発射されている。

手塚は思わずしゃがみ込んだ。周りの住人達には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 

「ふざけてる……ッ!」

 

「逆を言えば、向こうもそれだけ本気と言う事かしら」

 

 

ほむらは髪をかき上げて憂いの表情を浮かべる。言うて彼女も家に火をつけられた。

とにかく向こうは周りを犠牲にしたとしても自分達を殺したいらしい。

それほどまでに憎悪している。

 

逆に、黒幕はそれ程の憎悪を手塚達へ向ける事に成功したと言う事だ。

相当の実力者なのか、あるいはそういう能力なのか。

織莉子もキリカもその手の能力ではない筈。

騎士か、あるいは他の参加者か? ほむらも爪を噛んで考えていた。

 

 

「お前も狙われたのか」

 

「ええ。警察は大丈夫だったけど、家はもう駄目」

 

「そ、そうか……。まあお互い無事でよかったな」

 

 

身に染みて分かる。

最悪の気分だった。特に思い出がある訳でもないし、実家ですらないが、帰る場所が無くなると言うのは想像以上にダメージが大きい。

手塚は大きくため息をついて立ち上がった。

 

 

「ええ、ありがとう。あなたもその……、元気を出して」

 

 

ほむらも流石に手塚が気の毒に思ったのか少し励ましてみる。

そのやり取りを不満そうに東條は見ていた。

それに気づく手塚、どうしたのだろうか?

 

 

「羨ましいよ、僕は」

 

「え?」

 

「パートナーって感じがしてさ。僕はもうどうしようも無いんじゃないかな」

 

 

手塚とほむらは、ある程度目的が同じであり、協力できる関係であった。

しかし東條とキリカは別のベクトルを行っているため、歯車がかみ合わない。

織莉子が言うには、キリカと東條は似ていると言う。

雰囲気と言うのか。それにキリカとタイガは共通して爪と言う武器もある。

 

とは言え、東條はピンと来ていなかった。

性格はまるで違うし、爪なんて見た目だけだ。

東條としてはもっと根本的な部分が繋がっていないとパートナーにはなれないと思っていた。

 

 

「貴方は呉キリカと連絡は取れないの?」

 

「駄目だよ。僕からの連絡は絶対無視するんだもん、彼女」

 

 

うまく行けば織莉子たちから情報を得られると思っていたがそうもいかない様だ。

 

 

「織莉子に連絡をしたらどうか?」

 

「それも無理じゃないかな。僕、美国さんの連絡先知らないし」

 

 

織莉子が東條に連絡する時は、キリカの携帯を使っているのだとか。

それはきっと少しでもキリカと東條繋げたいと言う願いだろう。

 

 

「彼女はきっと、僕に興味が無いんだ……」

 

「どうして? わざわざ仲直りの場を設けてくれた以上、それは無いと思うが」

 

「あれは全部キリカのためさ。美国さんって、そういう所あるっぽいし」

 

 

東條が織莉子と関わる中で、そういう点に目が言った。

キリカを注意したりはすれど、基本的にはキリカを第一においている。

 

 

「キリカ、キリカ、キリカキリカキリカキリカキリカ。彼女はそればっかり……、かも」

 

「確かに関わりは深そうだったが……」

 

「そうだよ。だから美国さんは僕の事なんてどうだっていいんじゃないかな? キリカさえ幸せになってくれれば、後はどうでもいいんだ」

 

 

手塚とほむらは沈黙した。

大きい小さいは別として魔法少女は皆、心のどこかに闇を抱えている。

それは騎士や、他の一般人にも言えることかもしれないが、それでもその闇を媒体に魔法(ねがい)が決まるケースも多いはず。

要するに、織莉子もまた何か『闇』を持ち、それに呉キリカが何らかの影響を与えたとすれば――?

 

 

(ある種の依存か)

 

 

手塚は複雑な表情を浮かべる。何か思い当たる節があるのか。

そうしているうちに一同は東條の家にやって来た。

警察に追われなかったと言う点で期待したが、やはり敵は東條の存在には気づいていなかった様だ。

鍵を開けられた形跡はなく、怪しい人物の気配もない。

 

 

「何か飲む?」

 

「えっと、そうだな、水でいい」

 

「私はいらないわ」

 

 

東條が水を用意しているなかで、手塚はほむらをチラリと見た。

 

 

「何?」

 

「いや……、お前、鹿目まどかについて行かなくて大丈夫なのか?」

 

「………」

 

 

ほむらは少し眉をピクリと動かした。手塚を睨むようにして腕を組む。

 

 

「本当はそうしたかったわ。貴方よりも彼女といたかった」

 

「ストレートすぎるだろ。それは結構傷つくぞ」

 

「でも、そのまどかが貴方の所へ行ってほしいと」

 

 

『大丈夫、わたしにはサキお姉ちゃんがついてるから!』

 

 

「そう言って、そう言われて」

 

「そ、そうか」

 

なんだかピリピリしている気がする。

サキに嫉妬でもしているのか? 嫌な空気だ。胃が痛くなる空気だ。

手塚はほむらの視線から逃げるため、リモコンを手に取った。

 

 

「テレビでも見よう」

 

『見滝原警察署から逃走したのは手塚――』

 

「テレビはやめよう」

 

 

現実から逃げよう。

手塚は辺りを見回す。

 

 

「立派な家だな」

 

「別に――……どうだっていいよ、そんな事」

 

 

そこで東條が水を持ってきた。

それに一つ気づいたが、何故かゴミ箱に現金が捨ててあった。

何か、とてつもない闇を感じるのだが、触れてはいけない問題と言うのもある。

ここは黙って、今後のことを考えることに。

 

 

「今、まどか達は必死に志筑仁美達を探している所よ」

 

 

しかし行方は全く持って不明である。

携帯が壊れてしまっている事に加えて、暴徒に追われている事を考えると、隠れているのか? それとも捕まってしまったのか? なんとでも言える。

 

 

「つまり早い話が八方塞がりか」

 

 

考えたくは無いが、殺される可能性だってある。

とにかく今はエビルダイバーや、自分たちの足を使って探すしかない。

丁度その時、三人の携帯が一勢に音を立てた。

 

 

「!?」

 

 

それは手塚達だけじゃない。

まどかや真司の携帯にも同じ様にメールが届いた。

 

 

「もしかして仁美ちゃん!?」

 

 

仁美たちを探していたまどかは、すぐにメールを確認する。

そこにあったのは仁美の名前ではなかった。

なぜか相手のメールアドレスが記載されておらず、そこにはただ一つ『お知らせ』の文字が。

そういえば前にも似た様な展開があった。あれはさやかの居場所が分からなかった時だ。

 

 

「これって……ッ!」

 

 

 

 

 

『おしらせ』

 

参加者の皆様。

現在は身に覚えの無い恨みを突きつけられて焦っているのではないでしょうか?

 

私はその答えを知っている者です。

 

どうでしょう?

襲い掛かる暴徒達が身に着けている共通点を見つけてみては。

そうすれば必ず暴徒達が何者で、どこに繋がっているのかが分かる筈です。

 

私は何故、皆さんがこんな事件に巻き込まれているのか、その理由は知りません。

ですが魔法少女の一人が暴徒達の拠点にいる事を考えれば、彼女がこれを仕組んだのではないかと思います。

 

もしも皆様がこの状況を打破したい。もしくは変えたいと願っているのであれば、この魔法少女を止める事をお勧めしたい。

 

あともう一つ。

この暴徒達が緑色の髪の少女と、小さな男の子を本部にて監禁しております。

心当たりがある方は、何としても助けてあげてほしいですわ。

 

失礼。悪ふざけでしたか?

では私からの情報提供は終わりです。

このゲームを是非とも、より良い方法で終わらせる事を願っております。

 

 

 

 

「これって……」

 

 

誰がこれを送ったかなんて、どうでも良かった。

まどかが注目したのは最後の部分だ。これは間違いなく仁美達の事を言っているのではないだろうか?

だとしたら無事で良かったと言う安堵はあるが、監禁されている事になってしまう。

 

 

「た、たすけないと!!」

 

 

まどかは焦る。

暴徒達の共通点を見つけろとメールには書いてあるが、一体それはどういう事なのだろうか?

悩んでいると、近くにいたサキから電話がきた。

サキもまたメールの内容を確認していたらしく、暴徒達の共通点を探ってみた。

するとあったのだ。最初は気づかなかったが、注意深く記憶を探ってみるとピンときた。

 

 

『バッジだ! 彼らはみんな同じバッジをつけていたんだ!』

 

「バッジ……?」

 

 

襲われている時は服なんてマジマジと見る機会がなかったが、確かに言われてみると小さいながらも同じ様なデザインのバッジをつけていた様な。

同時にゾッとした。もしもそれが本当ならば、あのバッジが意味する事はただ一つ。

 

 

「そんな! まさか!?」

 

『そうだ。どういう訳かは知らないが、私達はリーベエリスのメンバーに襲われているらしい』

 

「ッ!!」

 

『メールを見るに、エリスの中に魔法少女がいるらしい。ソイツが関係しているとしか思えない』

 

「それは誰なの!?」

 

 

 

 

 

 

 

「間違いなくユウリね」

 

「めんどくさい事しやがってアイツぅぅうッッ!!」

 

 

メールはもちろん、織莉子達にも届いていた。

同時にユウリも織莉子達をターゲットにしていた。

まどか達に向けた悪意よりももっと大きくて強力なものを向かわせていたのだ。

 

今日織莉子の家に乗り込んできたのは、黒服に銃を構えた男たちであった。

暴力団と言うものだ。彼らは窓ガラスを破り織莉子邸に侵入。ターゲットである織莉子たちを見つけると、話し合いの時間すら設けずに銃を発砲してきた。

 

 

「せっかくのカーペットが台無し」

 

「ああ! ごめんよ織莉子!」

 

「いえ、いいのよキリカ……」

 

 

だが、織莉子は未来予知によって既に暴力団が来る事は知っていた。

織莉子としては抑えてもらいたい所ではあったが、キリカとしては織莉子を傷つけようとする者を許せる訳がない。

 

結果、織莉子邸のエントランスは死体と血で溢れていた。

普通の人間がキリカの減速魔法に勝てるわけも無い。

銃弾や爆弾も魔法少女の前では無力だ。

 

織莉子としてもドライに割り切っているのか、それとも過剰に反応しているのか。

キリカの行為をゴミ掃除と称した。

 

 

「街を汚す存在は不要です」

 

 

見滝原に蔓延る悪意には、少々敏感のようだ。

 

 

「彼にも助けられましたね」

 

『………』

 

『ゲェェエエエ!!』

 

 

織莉子の家に集まっていた暴力団は、全て絶命している。

キリカが全員殺した訳ではない。上条の使役モンスターであるガルドミラージュとガルドストームの援護があったのだ。

 

 

「無事だったようだね」

 

「上条くん……」

 

 

しばらくしてモンスターの主人が顔を見せる。

その様子を見るに、なんとなく織莉子は彼の現状を察する事ができた。

黙っていようと思ったが、キリカに空気を読む技術はない。ぐいぐい近づき、顔を覗きこむ。

 

 

「おや、元気が無いぞカミジョー」

 

「………」

 

 

上条は床に転がっている死体を見つめる。

どうやらユウリは彼の家にも暴力団を向かわせたらしい。

 

 

「彼らは僕を組長の仇だと言っていた」

 

「……ユウリが変身魔法で貴方の姿に化けて、組の重鎮を殺害したのでしょう」

 

「父と母が殺されたよ」

 

「そう、ですか」

 

 

ミラーモンスター達は織莉子達の護衛に回していた為、上条が気づいた時にはもう手遅れだった。

 

 

「厳しい人たちだった。僕の才能を信じる故に、プレッシャーにも感じていた」

 

「………」

 

「だけど、死ねば解放される物でもないね」

 

「そうですか――」

 

「嫌いだったわけじゃないんだ。父さんも、母さんも、音楽も……」

 

 

上条も、両親の死には動揺を隠し切れない様だ。

しかし織莉子はそれを分かった上で、かけなければならない言葉がある。

改めて、理解する。やはり自分達は本当の意味でパートナーにはなれないのだと。

 

 

「上条くん、貴方は両親の死を乗り越え、美樹さやかと幸せになるべきなのです」

 

「ッ!」

 

傀儡でなければならない。

人を捨ててもらわなければならない。両親の死で悲しむような人ではいけないのだ。

ここでもしも上条に優しい言葉を掛けようものならば、彼はきっと心のどこかに大きな弱さを抱えてしまう筈だ。

 

上条の心は繊細で、美しく、そして同時に脆さが伴っている。

彼がこの戦いでオーディンとして役割を全うする為には、『壊れ』なければならない。

美樹さやかを助けるために、自分の大切な物や邪魔な物を全て排除するマシーンでなければならないのだ。

 

 

「彼女ならば、きっとご両親を失った貴方の苦しみを癒してくれるでしょう」

 

「そう――、か。そうだね」

 

 

上条は歪な笑みを浮かべると、静かに頷いた。

それでいい。織莉子は何も言わない。

 

 

「それにしてもさ、これからどうするんだい織莉子」

 

「もちろん目障りなユウリを潰すわ」

 

 

ただこの『メール』の送り主も気になる所ではある。

 

 

「おそらくはステルスを保っている七番でしょうね。まだ気配を見せない」

 

「どうにも胡散臭いな。なぜこんな情報を持っているんだろう?」

 

「そうですね。もしかしたらユウリと組んでいる可能性もあります」

 

 

そして気になるのは最後の部分だ。

 

 

「志筑仁美、でしょうか。この最後の部分」

 

「なるほど。仮にコレが志筑仁美だとすれば、この小さな男の子と言うのは?」

 

 

上条は考える。

仁美の家族に弟がいたと言う記憶は無い。

友人である可能性。もしくは従兄弟だとか、親戚である可能性もある。

 

 

「まあでも、ちょうどいいんじゃなーい? どうせお嬢様には死んでほしいって計画だったよねぇ?」

 

「微妙な所よ、キリカ」

 

 

ユウリの狙いだとしたら、それはまずい。

地雷原を全速力で走るようなものだ。勝手にボンボン爆発させられたらと思うと頭が痛くなる。

 

 

「未来はどうなんだい?」

 

「今は問題ありません。邪魔なユウリを消しましょう」

 

 

そこで上条はハッと顔をあげる。

 

 

「そういえば鹿目まどかにはタツヤと言う弟がいた」

 

「成程。本命はそちらかもしれませんね」

 

「ユウリめ、面倒な事を……」

 

「ようし! 決まりだよ織莉子! カミジョー!とにかく今からアイツをぶっ倒しに――」

 

 

そこで聞こえる怒号と銃弾。

どうやら暴力団の応援が駆けつけたらしい。

 

 

「やれやれ――……」

 

「織莉子、まずは先に邪魔な存在を散らそうか」

 

 

上条が指を鳴らすと、鳳凰型のモンスター達が暴力団に襲い掛かっていく。

そこからの作業は淡々としていた。暴力団を一人だけ残して後は全滅させる。

そして残った一人から『組』の名前を吐かせる事に成功した。

どうやら町外れにある射太興業と言う所らしい。

 

 

「ご苦労様」

 

 

その言葉と共にガルドストームが斧を振り下ろした。

 

 

「まずはその射太興業を潰さなければ」

 

「そうですね――」

 

三人は冷たい雰囲気で頷き合うと、そのまま足を進める。

 

 

「行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方コチラはリーベエリス本拠地。

元々は鉄道関係の会社だったが、近年はモノレールを中心とした企業形態のレベルアップにより、会社は既に別の場所に移転したらしい。

まだ解体されていなかったため、そこをリーベエリスが譲り受け、簡単な改装を施して本部として利用している。

 

譲り受けたというのは、その会社の社長がリーベエリスの幹部であるからだ。

ステンドグラスや、隠し部屋がもともとあったのはそのためだろうか?

 

 

(しかし本当に凄いなシルヴィス・ジェリーってヤツ。よくこんなババアの信者になれるな。それだけマインドコントロールが上手いのか?)

 

 

しかしまあ、死人は死人だ。

 

 

(馬鹿共を洗脳してくれたおかげで、コッチは動きやすくて助かる)

 

 

善意がどうのこうのと本気で信じている奴等はお気の毒だ。

その善意の裏に、ソレを凌駕する程の悪意があるとも知らずに。

 

一般の信者たちは、まさか自分達が『世を忍ぶ仮の姿』を作るための駒だったなんて思わないだろう。その滑稽さ、笑うしかない。

 

ただ、同時に心に引っかかるモノもある。

自分が利用しておいて言える事じゃないかもしれないが、何かこの組織はおかしい。

何というか、存在自体がフワフワと雲の様に曖昧ではないか?

やや盲目的と言えばいいか、幻想的と言えばいいか。

 

いやにリアリティが無い。

実際存在している組織であり、現にこうして活動しているのだからおかしな表現かもしれないが、ユウリには少し引っかかる部分があったのだ。

 

 

「ま、いっか」『アドベント』

 

 

要は勝てばいいのだ。勝てば全てを終わらせる事だってできる。

こんなちっぽけで、ただの人間共が構築した闇のシステムなんて一捻りにできる力だって手に入れられる。

 

ユウリはエリーを呼び出すと、街に放っておいた使い魔達の視点をモニターに表示させる。

エリーの使い魔であるダニエル&ジェニファーが見た景色を、ユウリはここで確認できるのだ。

 

 

「んー? 何々、もう気づいちゃったの?」

 

 

険しい剣幕で走っているサキとまどかを見つけた。

他のメンバーはどうか知らないが、確実にまどか達はエリス本部に近づいてきている。

 

 

「アイツらバッジ外さないもんなぁ。あんなクソダセェの、チョコエッグに入ってたらチョコだけ食べて中身捨てるレベル」

 

 

ユウリは映像を切り替える。

そこには確かに志筑仁美と、鹿目タツヤが映っていた。

 

 

「ああ。早くしないと弟ちゃんとお友達がバラバラにされちゃうかも!」

 

 

ユウリはまどかを見ながら舌なめずり。そしてまどかを撫でる様に画面へ触れた。

 

 

「凄いなまどかちゃんは。あんな凄まじい魔力レベルに覚醒して、それでもまだ戦いを止めたいなんて。人間ができてるなぁ」

 

 

戦いを本気で止めたいと願う少女。

人を守るために魔法少女の力を振るう彼女。

ああ、何て素晴らしい性格の持ち主なんだろう?

なんて美しい心の持ち主なんだろう?

 

 

「でも、ちょぉおおおおおおおおウッゼェエエエエエエエエ!!」

 

 

糞雑魚まどかちゃんは強くなって調子乗ってるよねぇ!

ユウリは画面を叩き割りそうな勢いでまどかを睨んだ。

まどかは馬鹿だ。放置すると必ず厄介な事になりかねない。

それだけの力を秘めているのは事実なのだから。だから死んで貰わなければならないし、何よりも死んでほしい。

 

故にユウリはタツヤと仁美を狙った。

あの希望に満ちた表情を絶望に染め上げるのは、近いものを狙うことだ。

 

 

「ん? んんんん!?」

 

 

ユウリはニヤリと笑い、『もうひとつ』の映像を見る。

どうやら気づいたのは、まどか達だけではないようだ。

もしくは刺激しすぎたから怒ってしまったのだろうか?

 

 

「しかしどちらにせよ面白い! そろそろ座りっぱなしも飽きてきた」

 

 

シルヴィスの様な丁寧な淑女を演じるのは体が痒くて仕方ない。

そろそろ溜まった鬱憤を晴らさせてもらおうじゃないか。

ちょうど暴れたくてウズウズしていたのもあって、全てが丁度いい。

 

 

「っていうかあの娘! 携帯持ってないってのがマジ終わってる! ホント漬物みたいな女の子!!」

 

 

だったら直接お話しだ。

 

 

「って事でギーゼラァアアァァア!!」『アドベント』

 

 

勢い良く窓を飛び出したユウリは、銀の魔女『Gisela(ギーゼラ)』を召喚して背中に飛び乗った。

すると金属が擦れる音が響き、瞬く間に魔女の体が変形していき、『バイク』に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィイイ! ごポォ……ッ!!」

 

 

男の胸を刺し貫く赤い槍。

それを引き抜きながら、佐倉杏子はもう片方の手にあった"頭"を握りつぶす。

ザクロの様にはじける人の頭部。もはや杏子の善悪の感覚は狂ったまま、元には戻らない。

 

人は脆く、そして自分は強い。

強いものが弱者を殺すのは自然の摂理。ルールと言うものだ。

故にもう人を殺す事の罪悪感は微塵も無かった。

 

今も目に付いたリーベエリスのメンバーを適当に殺した後だ。

杏子は頬についた血を舐めとると、連中からバッジを毟り取ってその場で握りつぶす。

 

 

「………」

 

 

イライラする。

どれだけ殺してもそれは収まるどころか、むしろどんどんと増していくようだ。

ソレも全てこの糞ッたれな組織のおかげであると杏子は分かっていた。

だから大きく舌打ちを行った。今でも目を閉じれば思い出す。

何も疑わず、ただ都合のいい存在であった自分と、それを利用して笑っていたシルヴィス。

 

写真にあった孤児達の行く末は、過去に見た時には心が壊される程凄惨なモノだと感じたが、今にして思えばアレは何もおかしな事ではない。

結局この世は力がある者が生き残り、娯楽を得る事ができる。

 

弱いものは強いものを楽しませるための玩具でしかない。

傷つけ、壊され、絶望する様子こそが強者にとっての最大の娯楽。

 

 

(アタシは違う。アタシは強者だ! だからこそアタシを弱者としたリーベエリスだけは許せねぇ!)

 

 

杏子はその想いを胸に、槍を振るっていた。血が飛び散り、肉が散乱する。

それで良かった。あのバッジをつけているヤツは皆殺しだ。

殺して殺して殺しつくす。その先にしか杏子の安定はない。

 

 

「ハハハ! アハハハハ!!」

 

 

殺せば少しだけスッキリする。

死体の中で杏子は笑ってた。

その姿はまさに魔女だ。人間らしさなど欠片もない。

だがソレでよかった。誰もがその光景に恐怖するだろう。怯え、自分が狩られる獲物であると自覚してくれた方がいい。

 

現在、杏子がいるのはリーベエリス本部近くの住宅街だった。

周りを見ればどいつもこいつも胸糞悪いバッジをつけているじゃないか。

 

 

「オラァアアアアッッ!!」

 

 

最後の一人を殴り殺した杏子だが、そうするとまたイライラしてくる。

 

 

「チッ! 食え!!」『ユニオン』『アドベント』

 

 

ベノダイバーとベノゲラスが出現する。

新入りの彼らにも力を蓄えてもらわなければ。

杏子は積み上げた死体を彼らに振舞って、食事を見ている。

 

 

「……チッ! クソ!」

 

 

イライラする。

もう限界だ、根本を絶たなければならない。

そうだ、巣を潰せばいい。杏子はリーベエリス本部をギロリと睨んだ。

今はゲームの参加者を殺すよりも、リーベエリスを潰す事の方が優先度が高いようだ。

それほどまでに不愉快な存在であった。

 

 

「あん?」

 

 

しかしふと目を細める。

なんだ? 本部の方から何かが煙を上げて近づいてくるような。

 

 

「キョォオオオオオオオッッウッコちゃあああああああああん!!」

 

「!!」

 

 

轟音を上げてエンジンを吹かしてくるバイク。

そうだ、巨大なバイクが空を駆け、飛んできたのだ。

このままだと確実に潰される!。杏子は立ち上がると、思い切り後ろへ跳んだ。

 

 

「何だァ?」

 

 

着地したバイクを睨む。ただのバイクじゃない、魔女だ。

そう言えば見た事がある。あれは銀の魔女・ギーゼラ。

杏子が知っている姿は錆付いた雑魚だったが、目の前にいるギーゼラは文字通り『銀』の輝きを保った状態だった。

 

あれがギーゼラ本来の姿だったと言う事か。

そして最も注目する点は、そのギーゼラを運転してきた人物がいると言うことだ。

金色のツインテールの少女。

 

 

「あーそびーまぁあぁあああぁあしょオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

ユウリは大げさに、過剰に叫び、杏子を煽る。

 

 

「はーん……! どうしよっかなーッ!」

 

 

ニヤリと笑う杏子。

今のイライラを消すにはもってこいの相手ではないか。。

 

 

「なんでアタシの場所が分かった?」

 

「ヒ・ミ・ツ! うふっ!」

 

 

ユウリはギーゼラから降りると一旦召喚を解除する。

モモの関係があるため、なるべく放置しておきたかったが、悪戯に駒を減らされるのユウリとしても不本意だ。

よって決める。佐倉杏子は自分が殺すと。

 

 

「最近カルシウム足りてないんじゃないのクソ女。ユウリ様がお乳でも搾ってあげよっかー?」

 

 

中指を立てながらゲラゲラ笑うユウリ。

杏子は鼻で笑うと、槍を持って一歩前に出る。

 

 

「キメェなクソアマが。細切れにするぞ!」

 

「やれないくせに」

 

 

どこから取り出したのか、杏子はたい焼きを齧りながら進む。

二人は互いを煽り合いながら徐々にその距離をつめていく。

 

 

「いろいろ邪魔なんだよね杏子ちゃんは。だからアタシ、ずっと殺したいって思ってた! アハ!」

 

「おーおー、アタシも有名人か? サインの練習しとかないとねぇ!」

 

 

ユウリもまたリベンジャーを構えて歩くスピードを速めていく。

 

 

「アンタ十三番だろ? 全員殺すとか言ってたヤツ――!」

 

「アタリ。ってな訳で殺しちゃうから、文句は言わないで」

 

 

走り出す両者。

片方は二丁拳銃、片方は槍を構えて。

双方笑みこそ浮かべているものの、その心内ではギラギラとした殺意を隠す事なく放出していく。

 

ユウリは一回、そして杏子もまた一回死亡していた。

つまりまだチャンスはあるのだと双方は思っている。

死ぬのは二度まで許される。狂ったルールはお互いが持つ命の価値をも狂わせていた。

だから全力で戦える。恐怖せず、躊躇わず、向こうからやってくる敵を殺す事ができる。

 

 

「ゴメン無理、アタシがいる限り皆殺しは無理なんだよ! 逆にぶっ殺してやるから泣くんじゃねーぞ!」

 

「言ってくれるよねクソガキがッ! テメェのそのゴマみたいに小さい脳みそで実力の差ってモンをよく刻み付けとけよ!」

 

「へッ! アンタこそイカれた格好してるくせに良く言うよ。露出狂の変態なんかに、この杏子様が負ける訳ねぇだろ!!」

 

 

その瞬間、杏子とユウリの武器がぶつかり合う。

杏子の槍を拳銃で受け止めたユウリ。二人は競り合い、睨み合い、お互いの瞳の中に敵を捉える。

その瞬間本能で察知する。コイツとは分かり合えない、コイツは理由が無くとも嫌いだと。

 

 

「服? あぁ、セクシーでしょ? 自信あるのよね、敵の攻撃が当たらないっていう自信がさ!」

 

 

申し訳程度に肌を隠す程度のユウリの魔法少女衣装。

それは『攻撃を当てられるモンなら当ててみろ』と言うユウリなりの挑発の意味があった。

それは杏子に対しても言える事だ。

 

 

「雑魚の攻撃なんか、このユウリ様を掠める事すらできない!」

 

「ムカつくヤツだ――ッ!」

 

「その言葉、そのままプレゼントフォーユーしてもいい?」

 

 

お互いは武器を弾き、距離をとる。

どちらも参戦派として優勝を目指す立場にある訳だが、だからこそ同じ考えを持った参加者は非常に目障りなものだったのだろう。

 

 

「「ブッ殺す!」」

 

 

奇しくも、声が完全に重なった。

嬉しくないシンクロの中で、ユウリは引き金を。杏子は槍を握りなおして一気に突進を仕掛ける!

そうだ、そうだそうだそうだ! あまりにも簡単な話しなのだ。

イラつくヤツは、邪魔なヤツは、目障りな参加者は、殺してしまえばいい!

 

 

「雑魚が、死ねよユウリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

「テメェが死ねよ佐倉杏子ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

お互いは殺意を全開にして、目の前にいる獲物を狩る為に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

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