仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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ちょっと最後の方追記しました。



第39話 理想と現実 実現と想理 話93第

 

 

ガキンと、槍が何かにぶつかる音がした。

 

 

「……っ!」

 

 

もし、変身して結界を構築していなければ、今頃まどかは串刺しになっていただろう。

それだけの力を感じた。明確な殺意。杏子は、確かにまどかを殺そうとしたのだ。

 

 

「杏子ちゃん……!」

 

「ハッ! 助けてくれたから協力すると思ったか?」

 

「それは違うよ、わたしはただ!」

 

「うるせぇ! その上っ面の慈悲が。報酬目当ての偽善がイライラするんだよ!」

 

 

杏子はそう吐き捨てると、魔力を解放して巨大な多節棍を背後に出現させた。

最後の審判。まるで生き物の様にうなる槍にに杏子は飛び乗っていく。

 

 

「わたしは、あれがユウリちゃんでも同じ事をしてたよ」

 

「だから? アタシがアンタを殺すのは決定事項さ! これはフールズゲーム! 殺すのがルールってもんだろ!!」

 

「………」

 

 

まどかは天に向かって手を掲げる。

昼間だと言うのに空には眩く輝く星の群れが生まれる。

 

 

「輝け、天上の星々アスモデル!」

 

「ハッ! また天使様か!?」

 

「煌け、雄雄しきタウラスッ!!」

 

 

まどかの背後に牡牛座の光が並ぶ。

それを見て笑みを浮かべる杏子。そうだ、戦えばいい。

相手を殺す事によって強さは証明される。

 

 

「創造を叶えし闘揮(とうき)の光よ。万物を破壊する矢と変わり、我を照らしたまえ!!」

 

「何ゴチャゴチャ言ってんだよ! マミに影響されすぎだろ!」

 

 

やはり杏子がマミの元弟子なのか。

まどかは複雑な思いを胸に宿しながら、弦を引き絞る。

少しだけ時間がズレていたのなら、杏子と一緒に戦っていた世界もあったのかもしれない。

しかし全ては過去の事だ。ありえたかもしれない世界に縋るのは虚しいだけだ。

 

 

「壊せ! 雄牛!!」

 

「死ね! 鹿目まどか! お前は目障りなんだよォオオオ!!」

 

 

光が最大となり、まどかは弦から手を離す。

同時に槍を発射する杏子。血の様に光る力と、穢れ無き純白の光がぶつかり合う。

 

 

「スターライトアロー!!」

 

 

発射されるのは矢ではなく巨大な光の『牛』だった。

豊かさの天使であるアスモデル。雄牛とは言うが、巨大な二本の角がある。

牛と槍がぶつかり合った。アスモデルはスピード、威力共にまどかが以前使った『射手座』よりは劣る。

 

しかし雄牛座にはある特殊能力が存在していた。

それは『相手の攻撃』に牡牛座をぶつけた場合、その攻撃を打ち破る為の力が倍増すると言う事だ。

つまり攻撃に当てる攻撃と言うこと。巨大な二本の角は溢れんばかりの光を放ち、雄牛は杏子の槍を破壊するために空を翔る。

 

 

「!」

 

 

アスモデルが杏子の槍を粉々に破壊した。

これでいい。まどかは悲しげな眼で崩壊していく槍の残骸を見ていた。

 

 

「っ!?」

 

 

しかしそこで気づく。槍を発射させた杏子がどこにもいない。

 

 

「ウラアアアアアアアアアアアア!!」

 

「!!」

 

 

槍は囮。杏子はまどかが槍を破壊している間に、距離を詰めていた。

まどかはすぐに結界を形成して拳を受け止めようとするが、その瞬間に真下から槍が生えてくる。

異端審問。まどかが主に使用する結界はドーム状のバリアや、前方に形成する板状のバリアだ。

いずれにしても地面から槍を生やす攻撃を防ぐことはできない。

 

 

「あぐっ!」

 

 

槍が皮膚を裂いた。

痛みが魔力の配分を狂わせ、結界の強度が弱くなってしまう。

杏子はまどかの結界を蹴りで打ち破ると、拳をまどかの頬に思い切り打ち込んだ。

揺れる視界。まどかの動きが鈍る。杏子は槍を構え、まどかの頭部を一突きにしようと踏み込んでいった。

 

 

「はい、そこまでー」

 

「!!」

 

 

銃声が聞こた。

飛んできた弾丸は杏子の槍を弾き、まどかを守ってみせる。

ゾルダ。どこから湧いてきたのかは知らないが、いい所で邪魔をする。

 

 

「お前――ッ!」

 

 

どうせ一発二発撃ち込まれた所で致命傷にはならない。

杏子はゾルダを無視するようにして槍をまどかへと向ける。

だがその瞬間、再び銃声が。それも連射だ。槍を持っている手に次々と弾丸がめり込んでいく。

 

 

「痛いな! おい、邪魔するんじゃねぇーよ!!」

 

 

杏子は腕をまどかの首に回して、盾にする。

 

 

「動くとコイツの喉を掻っ切るぜ」

 

「どうせ、動かなくても殺すでしょ」

 

「テメェ……!」

 

 

ひょうひょうとした態度のゾルダ。

なるほど、浅倉がコイツを嫌うのも納得だと杏子は思う。

つくづくこう言うタイプは気に入らない。

 

 

「ごめん、杏子ちゃん!」

 

「!」

 

 

まどかの背中から光の翼が生え、杏子を吹き飛ばしていた。

厄介な能力ではないか。杏子はカウンターにと槍を発射するが、まどかの結界を破壊するには威力が足りないようだ。

 

 

「なんどだって止めてみせる!」

 

 

羽ばたくと槍が飛んでいく。

信念に満ちた光が、まどかの瞳にはあった。

 

 

「ああ! クソッ!」

 

 

どちらにせよ、ゾルダは攻撃できない。

 

 

「次は本当に殺す。たとえ騎士がいても、絶対にぶっ殺す!」

 

 

杏子は頭を掻き毟ると、ポケットからグリーフシードを取り出してまどかに投げる。

 

 

「え? これって……」

 

 

ポカンとするまどか。

しかし杏子はもう既に飛び去っていった。

複雑な女心と言うものなのだろうか? ゾルダは軽蔑混じりに鼻を鳴らすと変身を解除した。

 

同じく変身を解除したまどか。

すると自然に膝が折れた。震える手で、殴られた所をを撫でていく。

殴られた事に対して悲しんでいるよりも、襲われた事に対して悲しんでいるのだろう。

 

 

「女の喧嘩ってのは怖いねぇ」

 

「そんなのじゃないですよ。それより、ありがとうございます。助けてもらっちゃって」

 

「俺も王蛇ペアは敵みたいなモンだし。利害が一致したって事さ」

 

 

同じくリーベエリス本部に向かおうとしていた北岡は、その途中に杏子達を発見する。

しばらく様子を見ていたのが、まどかが襲われた所でチャンスと踏んで登場したわけだ。

 

 

「アイツ等、俺の事務所まで燃やしやがった」

 

「わたしも、多分きっと弟があそこに」

 

 

北岡としては犯人を見つけて銃弾をブチ込んでやりたい気分だった。

放っておけば真司達が何とかする可能性もあるが、そんなのを待っていられるほど暇じゃない。

それに北岡には一刻も早くゲームを終わらせなければならない理由があった。

故に参加者が集まるだろうエリス本部は好都合でもある。

 

 

「ま、まどかちゃん大丈夫!?」

 

 

しばらくして連絡を受けた真司が駆けつける。

どうやら蓮や美穂達は既にリーベエリスに侵入して黒幕と思われる魔法少女を探しているらしい。

 

 

「北岡さんは?」

 

「俺も行こうかね。今回ばかりは仕方ないし」

 

 

馴れ合いは性に合わないが、本部には既に話の通じない連中ばかりだ。

それに加えて敵の魔法少女も何かしらの対策はとっているだろう。

 

 

「それにおそらく、王蛇ペアも必ず本部にやってくる」

 

「あぁ、まあ、それは確かに」

 

「俺にも良心はある。浅倉をあんな風にした原因の一つは俺だ」

 

 

決着をつけるという程のものじゃないが、13階段から叩き落す役割くらは担っても良いと思っていた。

 

 

「いやッ、だから殺すのは――」

 

「はいはい、行くぞ。今回は俺も協力してやる」

 

 

自分にはパートナーがいないのだから。

それを言う事は無かったが、不利であることには変わりない。

現実的な話し、勝ちを目指すならばなるべく危険そうなヤツから消していきたいのが本音であった。

 

 

「利害も一致してるし、一時的に手を組みますか」

 

「あ、ああ……、よろしくな先生」

 

 

手を差し出す真司だが、北岡はそれを華麗にスルーするとまどかに声をかけた。

北岡は知りたかった。あの状況で殴られたまどかの気持ちをだ。

北岡からしてもまどかは少し異常とも言える『善意』をかざしている。

純粋と言うにはあまりにも無謀。とはいえ、無知な馬鹿と言うには少し違う。

 

 

「助けても、結局アイツ等は君の望む行動をしない」

 

 

現に杏子はまどかを殺そうとした。

 

 

「無駄だと思わないのか?」

 

「それは――」

 

 

まどかはしっかりと首を振る。

 

 

「わたしが杏子ちゃんを助けたのは、傷ついていたからで、それは嘘じゃないです」

 

 

あのままならば確実にユウリは杏子を殺していた。

だから止めた。助けたからと恩を売るのでなく、本当に杏子を守りたかったから守った。

守れる力があったから行動した。それだけだと、まどかは言う。

 

 

「もちろん、それで杏子ちゃんが分かってくれたら……、って思いも少しはあったんだろうけど」

 

「分からないよ。あんな屑は絶対」

 

「そんな……」

 

「もう見てて分かるだろ、本気でそう思っているとしたら、お前は愚か者だ」

 

 

分かってきた。

きっとまどかは何度だって杏子に手を差し伸べるだろう。

だがその手は何度と無く振り払われ、あげくには切り落とされるかもしれない。

何度と無く裏切られ、何度と無く傷つけられ、好意を無駄にされてまで守る価値はあるのか?

裏切られると分かっているのに信じる意味はあるのだろうか? 北岡は疑問だった。

 

 

「それでもわたしは、手を出すよ」

 

「………」

 

「何度裏切られても、何度だって信じます」

 

「あー……、自分が馬鹿だなって思う時は?」

 

 

まどかは笑う。

確かに馬鹿な考えだとは思うが、これが『自分』なんだから仕方ない。

そうしなければ自分の心の中にモヤモヤが残る。だから自分は、最後まで『鹿目まどか』であるために手を伸ばす。

 

 

「分かってもらえなくても、傷ついている人がそこにいれば、わたしは助けたい」

 

「あぁ、そう」

 

 

それは確かに立派な事だ。

北岡は理解できない部分もあるが、意味が分からない訳ではない。

しかしその行動には一つ、大きな問題が存在している。

それをまどかは分かっているのだろうか?

 

 

「君がアイツを助けた事で、もっと多くの死体が出るかもしれない」

 

「――ッ!」

 

 

まどかは苦しげな顔をして胸を掴む。

理解していなかった訳じゃないが、その問題に直面する事を考えないようにしていた所もあるかもしれない。

確かに治療した杏子がその後に人を殺せば、それはまどかが殺したも同じかもしれない。

 

 

「わたしは――……」

 

 

明確な答えが見つからない。

分かる。理解する。どうして自分の行為が偽善だと言われるのかを。

 

 

「わたしは……」

 

 

言葉が出なかった。まどかは苦しそうに地面を見る。

 

 

「俺はどっちかって言うと参戦よりだけど、もしも本当に戦いを止めたいなら佐倉杏子は殺さなくちゃいけない」

 

「………」

 

「それが戦いを止めるって言う道を選んだ覚悟と責任じゃないのか? そうだろ? 中学生」

 

「う、うぅぅ」

 

 

言い返したいとは思えど、北岡の言葉に反論できる自信が無かった。

 

 

「もしも佐倉杏子がさ。治った足で君の親なんかを殺したりしたら、君は本当に自分の行動が正しかったと思えるのかね?」

 

「それは、その……、あの、えっと――ッ」

 

「間違ってない」

 

「!」「!」

 

 

まどかと北岡は眼を丸くする。見れば真司がまどかの前に立っていた。

 

 

「まどかちゃんが杏子ちゃんを助けた事は、絶対に間違ってないだろ!」

 

「なんでだよ?」

 

 

真司は頭をかいて唸る。

 

 

「いやッ、それはちゃんと説明はできないけど……」

 

「なんだそれ、結局馬鹿が呟いただけか」

 

「馬鹿って言うな! 馬鹿って! 確かに……、まどかちゃんのやった事は100パーセント正しいとは限らないかも」

 

 

現に杏子は今からリーベエリスに向かって、メンバーを皆殺しにする勢いだった。

その責任は多少なりともまどかにあるかもしれない。

 

 

「でもだからって見殺しにしたり、殺すなんて違うだろ! そんなのゲームに乗っているのと同じじゃないか!」

 

 

自分達はゲームを否定し、あくまでも人間として生きたいんだ。

それに殺せば終わる。死ねば終わるという考えも、真司は納得できないものだった。

 

 

「殺す覚悟ってなんだよ。そんなのただ――ッ、ゲームに飲み込まれてるだけじゃないか。分かり合えないから、言っても無駄だからって殺すのかよ!」

 

 

何のためにこの世界に法律があるのか?

なんの為に罪を裁くルールがあるのか?

沢山殺したからソイツをすぐ殺して連鎖を止めましょう。

言っている事は分かるが、どこか納得できなかった。

 

 

「アイツは即死刑だよ。殺した責任なんて欠片とて感じてない」

 

 

それは浅倉やユウリにも言える事だろう。

奴等は狂っている。もう人じゃない、だから罪の意識なんて生まれる訳も無い。

サイコに狂った化け物は、言葉を聴かずして始末する以外は無いんだと北岡は考えている。

 

 

「街に野獣が現れたら、即射殺するだろうと?」

 

「たとえどんなに狂っていたとしてもアイツらは人間じゃないか!」

 

 

どんなに似ていたとしても、人は人だ。

その事実から逃げてはいけない。その事実を軽視してはいけないと真司は思っている。

最も大切なのは、杏子達に自分の罪を自覚してもらう事じゃないのか?

 

 

「人を超えた力を持つ俺たちだからッ! 人の命を簡単に諦めちゃ駄目なんだろ!!」

 

 

参戦派の誰もが簡単に人を殺す。

まるでそれが当たり前だと言う様に他者の命を奪っていく。

真司としても参戦派の連中はブン殴ってやりたいほどに大嫌いだ。

ただ、だからといって死んでいいのか? それは疑問だった。

真司はジャーナリストだ。理解できないから記事が書けないなんて言ったら編集長と令子に死ぬほど怒られるに決まってる。

 

 

「人を殺す事は絶対に、正当化しちゃいけない事だろ!」

 

 

たとえソレがどんな罪人だったとしても。

たとえ世界のルールが変わったとしても。

杏子達はあまりにも人を殺しすぎている。だからといって死ねば、杏子達がどんな想いを抱いていようが許されるのだろうか?

 

 

「死ねば全てが終わっちゃうだろ。だからこそ、生きないと……」

 

 

たとえその後に罪の意識に押しつぶされて死のうが、まずはその過程が抜けているとしか思えなかった。

 

 

「だから早くこんなゲーム止めないと駄目なんだよ」

 

 

人の命の重さを狂わせるゲームをだ。

既に犠牲者は100人以上を越えている。復活の為に殺した50人など、浅倉達は顔さえ覚えていないはずだ。殺す事が当たり前になり、そこに何の疑問も持たなくなる。

 

彼らは人間だ、その事を彼ら自身が忘れているのではないだろうか?

それを思い出させる為にも、簡単に死んで終わらせるなんて許せない。

 

 

「だからまどかちゃんは、間違ってない」

 

 

何よりも、傷ついた者を救いたいと思う気持ちが罪になっていい訳が無い。

 

 

「真司さん……」

 

「なるほどね、ただの馬鹿かと思ったら馬鹿なりに考えてるんじゃない」

 

「アンタ、やっぱ失礼だな!!」

 

 

それにと、まどかは口を開いた。

可能性はある筈だ。杏子は自分にお礼を言ってくれた。

 

 

「お礼?」

 

「うん、ありがとうって……」

 

「でも、その後殺そうとしただろ」

 

「そうかもしれない。でも、魔法少女にとって一番大切なグリーフシードだってくれた」

 

 

根っからの悪人なんてこの世には存在しない。

たとえどんな残忍な性格の持ち主だって、心のどこかにほんの僅かな良心。優しさを持っている筈だ。

 

現に杏子は少し前までは、マミと笑い合っていたじゃないか。

浅倉だって杏子とはうまく行っている筈。ユウリだってきっとそんな人がいる筈だ。

それはリュウガなのか、他の者なのかは知らないが。

 

 

「きっと分かってくれるよ。わたしは今日のお礼を信じたい」

 

「………」

 

 

無理だろ。

そう思いつつも、北岡はそれ以上何も言わなかった。

別に、まどかの心を否定する意味も無い。浅いとは思うが。

 

思うが――、それは北岡に起こっている問題でもあった。

何故、参戦派を目指そうとするのにさやかを蘇生させないのか?

何故北岡は人を殺さないのか。何故燻っているのか?

 

それは別に人を殺す事が怖いからではない。

人を傷つける事に後ろめたさを感じているのではない。

知っているからだ。浅倉を、杏子を見て、人が人で無くなると言う事を。

そしてまだ北岡の心を刺激するいくつかの要素がある。

 

 

『先生は、最後まで人でいてください』

 

 

いつか、いつの日か、言われた言葉があった。

 

 

『センセーは……、誰も殺さないでね――』

 

 

どうでもいいと思っていたヤツに言われた言葉がある。

全ては、人である事を望んだ言葉だった。

北岡は知っている。人は誰しも、『獣』に変わるスイッチを持っている。

それを押した者は、人である事を放棄する。人である事を忘れる。

押す理由? それはいろいろある。北岡はいくつか心当たりがあった。

 

その一つが、人を殺す事をなんとも思わなくなる時。当たり前だと思ってしまう時だ。

だから北岡は引き金を引けなかった。勝ち残るにはモンスターにならなければならない。

それを自分は受け入れられるとばかり思っていたが、果たして本当にそうなのだろうか?

 

 

「………」

 

 

城戸真司は馬鹿だ。鹿目まどかは愚かだ。

自分達が行っている行動が不可能な事だと知っている筈なのに、それを認めようとしない。

そして必ず希望があると信じている。愚直、愚鈍、ああなんて愚かなんだ。

北岡は心の底から彼らを軽蔑した事もあったし、今だって馬鹿なヤツだと思ってる。

 

結局彼らは何も変えられないだろう。

いつか裏切られて死ぬに違いない。

 

しかし、彼らは人間だ。

他の参加者の誰よりも人として輝いているのではないだろうか?

もちろんその龍騎ペアがゲームの途中で闇に堕ちる可能性だってある。

 

しかし何故か北岡はそう思わなかった。

龍騎ペアはきっと最後まで愚かな馬鹿でい続けるんだろう。

そして同時に、最期の瞬間まで『人』であるのだろう。

 

北岡は、ソレを少し羨ましいと思った。

北岡は自分が大好きだ。自分に自信がある。美味い物が好きだ。ゴルフも好きだ。

美しい顔をしている自分が大好きだ。

 

人間である北岡秀一が大好きなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ついた」

 

 

あれから歩くこと十五分ほど。

北岡は冷めた表情でリーベエリス本部を見上げた。

 

 

「誰もいない」

 

 

無音だった。

いつも本部の周りには多くのエリスメンバーが挨拶活動や、本部の案内をしてたり活気付いている。

だが今は世界が滅んだかのように静かだった。

 

 

「あ、何か貼ってあるよ」

 

 

まどかは壁にあった張り紙を見てなるほどと唸る。

エリスは昨日からメンバー以外の人間を、立ち入り禁止にしているようだ。

 

 

「だから誰もいないんだ」

 

 

実際、少し歩くと立ち入り禁止の張り紙と、柵が用意されていた。

 

 

「あれ壊してよ」

 

「え? い、いんですか?」

 

「いいからいいから。訴えられたら無実にしてやるさ」

 

 

まどかとしては初めて行うかもしれない規則を破る事。

しかし仁美達の命がかかっているのだから仕方ない。

矢で柵を吹き飛ばすと、そのまま突き進んでいく。

 

始めに庭園が出迎えてくれる。

石畳の道。噴水や小鳥達がさえずる庭は、まるで楽園のようだ

 

 

「天国かもね。文字通り」

 

「……っ」

 

 

入り口の前にやってくる三人。

ドアはロックされている様だ。北岡は一歩後ろへ下がってデッキを突き出す。

装着されるVバックル。北岡はそのまま『牛の角』現すように、肘を曲げて腕を広げる。

 

 

「変身」

 

 

デッキをセットした北岡、彼の姿がゾルダへと変身を遂げる。

マグナバイザーを構えると、何の躊躇いも無く入り口のガラスを破壊する。

 

 

「「………」」

 

 

本当は良くない事だ。

良くない事だが――、そうしなければならない。そうしなければ間に合わない。

真司とまどかも、それぞれ騎士と魔法少女に変身する。

 

二人の姿が変わった時、エントランスホールのどこかから小さな悲鳴が聞こえた。

それは紛れも無く『誰かがどこかで見ている』と言う証拠だった。

悲鳴を上げると言うことは、その人物達は紛れも無く騎士の姿に恐怖しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

一方、エリス本部からは離れた場所。

見滝原の外れにあるのは射太興業の事務所である。

そこでは、先ほどから何度となく銃声が響いている。

怒号を吐き出し、引き金を引く男達。同じく叫びながら刃物を振るう男達。

しかし悲しいかな。彼らは強いが――、ただの人間でしかない。

 

 

「戦え――」

 

 

鳴き声をあげて斧を振るう怪鳥に、誰も何もできない。

 

 

「戦え――」

 

 

幻影を纏い、不規則な動きを描くチャクラムからは誰も逃げられない。

 

 

「戦え」

 

 

金色の羽が事務所に舞い落ちていく。誰も逃げられない、誰も逃がさない。

入り口の傍では、腕を組んでいる金色の騎士が立っているからだ。

その隣では哀れみの視線を送っている少女が一人。

火種を生まなければ、生き永らえたのに。

 

 

「戦え、僕の為に」

 

 

オーディンが言う。

その命令をガルドストームとガルドミラージュは速やかに遂行するまでだ。

織莉子達はあれから射太興業に向かい、どうして自分達が狙われているのかを調べる事にした。

情報の出所はどこなのか? それを指示した魔法少女は誰なのか? 手がかりを探るためだ。

そしてなによりも、自分達の邪魔をする障害を排除する為に。

 

 

「ゲルルルル!!」

 

「………」

 

 

ガルドストームが回転すればそこに小規模の嵐が巻き起こる。

ガルドミラージュが光を放てば幻影が空間を支配する。

瞬く間に潰えていく命。聞こえてくる断末魔。

どれだけ数がいるのかは知らないが、少なくとも事務所にいた人間は一人残らず命を枯らしただろう。

 

 

「脆い」

 

「ええ、本当に」

 

 

オーディンはゴルトフェニックスを呼び寄せると、事務所にあった死体のみを焼き尽くす。

そして排出された魂をミラーモンスター達は食事として取り込むのだ。

 

 

「へぇ、綺麗になったねー!」

 

「そうね、あとは少し調べ物をしましょうか」

 

 

三人はここに来る途中、エリスのバッジをつけた人間達に『銃』で狙われた。

彼らはキリカが始末したが、織莉子たちにはどうにも引っ掛かる部分がある。

組員を殺して回る途中、だいたいの情報は手に入れた。

ユウリが上条やキリカに変身して組の幹部達を殺した。

そして最後はユウリが織莉子に化けて組長を殺したのだ。

 

それははじめから予想ついていた事だ。

もう一つ浮かぶ疑問は、何故一般市民である筈のリーベエリスメンバーが武器を持っていたのかだ。

織莉子と上条は、この射太興業に秘密があると睨んだ。

 

 

「これは……」

 

 

オーディンは上条に戻ると、事務所のパソコンにあるデータを覗いてみる。

丁度整理していた途中なのだろう。画面には、なにやら取引の内容が記載されているではないか。

 

 

「織莉子、これを見てくれないか」

 

「なるほど、そういう事でしたか」

 

 

モニタに記載されていたのは、銃や爆弾等の武器を中心とした売買の記録だった。

海外から射太興行は武器を仕入れ、それを国内にて違法販売する。

警察にも数名の協力者がいるらしく、そしてその中にはリーベエリスの名前もあった。

 

 

「まさかチャリティーを中心とした団体が、裏で暴力団と武器の取引をしていたとは」

 

「あの集団はあまりにも胡散臭いものでしたからね」

 

 

それに取引をしていたのは武器だけではない。

なにやらよく分からない文字列や、その隣には数字が記載されている。

 

 

「エリス側も何かしらの売買を射太興行と共に行っているのかしら」

 

「しかし引っ掛かるな。何故そんな面倒な事を彼らは行っているんだろう」

 

 

そもそもリーベエリスの本当の目的はなんなのだろうか?

チャリティーそのものを重要としているならば、射太興行とは関わりを持たぬ筈。

取引を行うと言う事は、金銭のやり取りがまず浮かぶ訳だが、リーベエリスには資産家のスポンサーまでついている。

 

 

「純粋な金が欲しいのならば何も知らないメンバーから搾り取れる筈だろう」

 

 

その違和感がどうしてもリーベエリスにあった。

明確な目的があやふやで、さらにそれが胡散臭いと来る。

 

 

「評価が欲しいのであれば、こんな危ない取引はしないものね」

 

 

現にこうして織莉子達はリーベエリスの秘密を知った。

確かに暴力団の事務所に忍び込もうと言う人間はいないだろうが、こうしてパソコンにはロックすらかけない始末だ。

さらに言えば、いずれこの秘密をネタに、射太興業に揺すられる可能性を考えなかったのか?

 

 

「つまり金銭以外の目的があると?」

 

「武器を手に入れる為でしょうか? テロリストの類だとすれば?」

 

「しかしリーベエリスは――、その前のリーベの歴史は古い。それまでは目立った行動を起こしていない」

 

「確かに。武器を持ち出してきたのも今回が始めてのようですし」

 

 

一体彼らは何がしたくてリーベエリスを確立させたのだろうか?

人を助ける救いの団体か。それとも暴力団と取引を行う裏の目的なのか。

そしてその先にある筈の、彼らの真の目的とは何なのか。

 

 

「リーダーのコルディアなら、何か知っているかもしれないね」

 

「最悪、一度話を聞く必要があるかもしれません」

 

「それに、気になる事はまだあるんだ」

 

 

リーベエリスが関わりを持った裏の組織は、果たして見滝原の射太興行だけなのだろうか?

言ってしまえば暴力団など日本中に存在している筈だ。

そしてリーベエリスの起源は見滝原では無い筈。

世界中の組織と関わりを持っているのか? そうなると余計に正体が分からない。

 

 

「リーベエリスは確かにチャリティー活動を行っている面もある」

 

 

上条もつい最近、リーベエリスのドキュメント番組を見かけた程だ。

なにやら学校が無い国に学校を作ったり、災害があった地域には必ず支援を行いに向かう。

そういった確かな実績も組織には存在している。それに闇の組織との繋がりがあると知っているのは一部の者達だけだろう。

 

 

「F・Gには関係ないのでしょうが。少し、気になりますね……」

 

 

織莉子は心に引っ掛かる物を感じていた。

と言うのも、父が過去に掲げていた目標として暴力団の追放があった。

そもそも織莉子は、今日のこの日まで見滝原に暴力団の類が存在していた事を知らなかったのだ。

未来を視た時、その存在が見滝原にいる事に驚きを隠せなかったほどである。

 

 

「仕方ないさ、僕だって知らなかった」

 

「ええ、目立って活動する筈もないですし……」

 

 

ザワザワと嫌な悪寒が背中に走る。

射太興業に関してのニュースを見かけた時は無い。

それだけ彼らは表で目立った活動をしていなかった。

 

 

(父は、射太興業の存在を知っていたのだろうか?)

 

 

織莉子は取り付かれた様に次の部屋に向かう。

不可解な死を遂げた父。それに通ずる手掛かりがココにはあるんじゃないだろうか?

織莉子にはそう思えてならなかったのだ。

 

 

「織莉子ぉ、さっきさ、変なヤツが変なモノもって逃げようとしてたんだよ」

 

「?」

 

 

組長の部屋を漁っていると、キリカが声をかけてきた。

なにやら射太興行にとって一番大切なモノがどうのこうのと言っていたらしい。

織莉子はキリカからその『変なモノ』とやらを受け取る。

上条も少し興味があるのか、織莉子のところにやって来た。

 

 

「USBメモリかい」

 

「データを移したんでしょうか」

 

 

織莉子は早速それを使って、中のデータを確認しようと試みる。

しかし流石にコレにはロックが施してあり、そこから三人の悪戦苦闘が始まる。

とりあえず事務所にパスワードの手がかりを探し、そして手当たり次第に試してみる。

気の遠くなる作業かと思われたが、ある時にキリカが適当にボタンを押すと――

 

 

「「!?」」

 

 

ロックが解除されて様々なデータがそこに晒された。

なんて運の強い。織莉子はキリカを抱きしめてお礼を告げていた。

 

 

「ありがとうキリカ、ああ! 愛してる」

 

「!!」

 

 

キリカは真っ赤になって嬉しそうな顔を浮かべた。

しかしそこで織莉子の表情が険しくなる。未来が微弱な変化を遂げた様だ、それは佐倉杏子とまどかの会話から。

 

 

「鹿目まどかが少し早めに着きそうですね」

 

「僕らもそろそろ向かおうか。データーをコピーすれば後からでも確認できるし」

 

「………」

 

 

未来を視れる織莉子。

自分達はこのUSBの中身を確認できる事が約束されている。

現に中身を見ている所を予知できた。

 

しかし織莉子の表情は暗い。馬鹿な事だとは思うが、未来を変えてまで今ココでUSBを確認したいと言う感情があるのだ。

一人の魔法少女としてでなく、一人の中学生として、慕っていた父の死の秘密を知りたい。

 

 

「織莉子、気になるなら確認すればいいよ」

 

「え?」

 

 

背中を押してくれたのはキリカだった。

織莉子は言葉にしていないのに、キリカは自分の胸を叩いてみせる。

つまり自分に任せろと言うことだった。

 

 

「私がピンクちゃん達の足止めをする」

 

「キリカ……」

 

「気になるんだろう? だったら、見ちゃえばいいじゃない」

 

 

織莉子は頷いた。

キリカにお礼を言うと、ココに残る選択を取った。

視ていた未来を無視するという、たまらなく愚かな行為だ。

しかしそれでも織莉子は父の死の手がかりを知りたかったのだ。

 

 

「ごめんなさい、上条くん……」

 

「かまわないよ。多少の未来は、僕が変えて見せる」

 

 

上条はそういって特に何も言う事は無かった。

キリカは早速魔法少女へと変身すると、エリス本部に走った。

上条はガルドストームをキリカの護衛につかせると、USBの方へと視線を移す。

 

 

「取引についての明確な詳細だね。凄い、相当過去の記録もある」

 

「ええ、それだけじゃなくて他の事もいろいろと記載して――」

 

 

ハッと目を見開く織莉子。

そこにあったのは先ほどの見滝原についての記録だった。

隠されていた取引の内容は、『人』を意味すると言うのが分かった。

 

 

「人身売買……!」

 

 

マウスを激しく動かして情報を得ていく。

 

 

「おそらくリーベエリスは、メンバーの数人を生贄と称して臓器売買や奴隷にする為の商品として利用していたのでしょう」

 

「なんと言う……」

 

 

中には子供の記録も存在する。

何人もの命を奪った自分達が言える立場ではないが、それでもエリスのやり方は卑劣だった。

 

 

「しかし何故そこまで……。他のメンバーは疑問を持たないのか?」

 

「洗脳が強いという事でしょうか」

 

「あのコルディアと言う少女にそんな事ができるとは思えないけど」

 

「前リーダーはシルヴィス・ジェリーと言う名の女性でした。おそらくは彼女が強い影響力を持っているのではないでしょうか」

 

「あれだけの人間を洗脳するとは、只者ではないね」

 

「しかし当然後継者にも裏側は見せている筈。現リーダーのコルディアも恐ろしい少女なのでしょうか……」

 

「しかしますます分からないな。この人身売買、結局リーベエリス側が得たのはお金だけじゃないか」

 

「ですが、だからこそあの施設の整備やサービスも理解できます」

 

 

何をするにも無料と言うのは、それだけリーベエリス側に財力があったからだ。

いくらスポンサーがいるとは言え、金はいつの時だって必要になってくる。

だから彼女達は一部のメンバーを犠牲にし、人を助ける力を経ているのだろうか?

 

 

「人を助けるための犠牲か、おかしな話だね」

 

「他者の命によって成り立つサービスを受けていると知れば、一体どれだけの人が絶望するのやら……」

 

 

違和感は拭えないが、全ての目的が金銭に収束するとしか説明がつかない。

だが今の織莉子にはもっと気になる事がある。

それは自分の父の事。美国久臣議員の死に関してだ。

このデータには様々な記録やレポートが記載されている。そして中には見滝原の記録がいくつもあった。

 

 

「まずは検索したらどうだい?」

 

「流石にそこまでは――」

 

 

とは思いつつ、織莉子は自分の父の名をメモリ内の検索にかけてみる。

結果はゼロだった。織莉子は少しだけ安心したような表情を浮かべる。

父親の死の真相を知りたいと思う一面で、知りたくないと思っている自分もいるのかもしれない。

 

 

「待って、隠しファイルの可能性もある」

 

「え……?」

 

 

上条は一度設定を変更して、再び織莉子の父の名で検索をかけた。

すると――

 

 

「―――ッッ!!」

 

「驚いたな、まさか本当にあるなんて」

 

 

確かに『美国久臣』と言うデータが存在していた。

ファイルが存在するフォルダには、久臣だけでなく多くの人間の名前が羅列されていた。

これらは誰なのか? 織莉子は首を傾げるが、上条はいくつか見かけた名前を見つける。

 

 

「入院中はテレビを見るくらいしか気を紛らわせる方法が無かったから覚えてるんだ」

 

 

『児童行方不明』の事件を追っていた刑事が、当時捜査中に自殺したと言う出来事があった。

その自殺した刑事の名前が、このフォルダにはあったのだ。

 

 

「………」

 

 

織莉子は青ざめ、震えていた。上条の言葉も途中から耳に入ってこなかった。

この名前をクリックすれば、その先には一体何が待っているのだろうか?

織莉子は震える手でカーソルを合わせる。

 

 

「……っ」

 

「怖いのかい?」

 

「はい、少し」

 

 

ずっと知りたかった。

しかしいざ直面すると、どうにも気が引けてしまう。

色々なものを利用してまで願ったのに、ココに来て迷うのか。

 

 

「そう言えば聞いてなかったけど、君は何を願って魔法少女に?」

 

「………」

 

 

上条としては聞く必要も無かったし、まして興味も無かった。

しかし話せば少しは気持ちも落ち着くだろう。上条なりの気遣いである。

そんな彼の気持ちを汲んでか、織莉子は頷くと、自らの事情を打ち明ける事に。

そうすれば少しは『パートナー』になれるのだろか?

都合のいい傀儡にしておきながら、それでも絆を望むのはいけない事だろうか?

 

 

「私が魔法少女を目指したのは――」

 

 

織莉子がまだ幼い時に母が亡くなった。

兄妹がいない彼女は。たった一人の家族である父と生活していく事に。

それまで子育てを母にまかせっきりにしていた美国久臣は、初めこそつまずいていたものの、大いなる愛情を持って織莉子に接した。

 

その気持ちが伝わったのだろう。

元々優しい性格の織莉子は、『母の死』と言う悲しみを乗り越えて、大好きな父との生活に幸せを、希望を抱くようになっていた。

 

 

『おはようございます! 美国久臣をよろしくお願いします!』

 

 

織莉子が小さい時から父は政治活動に励んでいた。

見滝原を本気でよりよくしたいと言う真っ直ぐな父が、織莉子は何よりも自慢だった。

 

 

『おとうさん、おりこは、おとうさんの一番のみかただからね!』

 

『はは、ありがとう織莉子』

 

『うん、がんばって! あ、でもわいろはだめだよ!!』

 

 

もちろんだと笑って、久臣は織莉子の頭を撫でていた。

織莉子は父の財力と人間性を受けて、良い環境で育つ事ができた。

良い学校にも行かせてもらえたし、織莉子自身が持つ美しさと気品で、すぐに人気者になった。

 

 

『ごきげんよう美国さん。今日もお綺麗で羨ましいわ』

 

『ふふ、ありがとう。だけど褒めても何も出ませんよ』

 

『いえ、これは皆が思う事。美国さんは本当にみんなの憧れですわ』

 

 

友達も多かった。勉強だって問題なかったし、将来は有望だと思っていた。

誰もが織莉子を慕い、誰もが織莉子の幸せを願う。幸せだった。

過去に負った心の傷を癒してくれる程、毎日がうまくいっていた。

 

何よりも父との関係がある。

織莉子は父を心から慕い、久臣も見滝原を良くしたいと言う信念を曲げる事なく政治活動を行っていた。父に味方してくれる人も多く、本当に良い人たちに恵まれたものだと織莉子は思っていた。

 

 

「幸せでした。世界は幸福に満ちている。未来はとても明るいと信じていました……」

 

 

毎日が順調だったが、その時がきた。

美国久臣にかかった汚職の容疑。正義感に燃える政治家が、実は経費改ざんと言う行為を裏で行っていたと報道は告げる。

 

 

「ありえない、どうせ父の行為を邪魔に思った何者かが作ったゴシップだと信じていました」

 

 

父にも問いかけた。

どうか信じてくれと言われたから、信じたのだ。

 

 

「父は立派な人です。絶対に不正行為には手を出さないと誓えます」

 

「………」

 

 

なんとなく上条も記憶にあった。

当時はよくマスコミが騒ぎ立てていた気がする。

週刊誌もある事ない事を書いて、みんな久臣が黒だと印象を植え付けられていく。

現に上条の両親も久臣が黒だと話していたような記憶があった。

 

 

「私は信じていました。父は何も間違った事などしていない。だからいつか疑いは晴れると」

 

 

久臣は織莉子に心配をかけまいと、普通に振舞っていた。

あの時は何も感じなかったが、今にして思えば相当無理をしていたのではないだろうか。

評判は地に落ち、しかしそれでも見滝原の平和だけを切に願い、考えていた。

 

 

「父には味方も多い、私には友達がいる。周りがなんと言おうとも、分かってくれる人がいればきっと何とかなると」

 

「………」

 

「時期は、私の誕生日が近い時でした」

 

 

久臣は織莉子の誕生日にはちゃんと家で祝ってくれると言っていた。

色々と大変な時期であったろうが、しっかりと娘との時間を作ってくれたのだ。

暗い気持ちばかりだったが、織莉子はそれが楽しみだった。

 

 

「そして誕生日当日、父は自ら命を絶ちました」

 

「……ニュースで見たのを覚えているよ」

 

 

何もしていないのならば死ぬ必要など無かった

結局は責任逃れだと。世間は久臣の死を尊ぶ所か、卑劣な汚職議員として見下す様に。

 

 

「父の仲間達は、父が死んだ途端ッ! 実は怪しいと思っていただのと!!」

 

 

要は上辺だけの関係だったのだ。本人が死んだ途端、手のひらを返して黒だと言う。

そして織莉子本人もまた、周囲の手のひら返しを受ける事になった。

登校しても誰も挨拶をしてくれない。教室でも無視が続いた。

 

 

『あら美国さん。貴女良く学校にこれるものね』

 

『泥棒の娘と話していたら、こっちの品位まで落ちるのよね』

 

『犯罪者の娘と仲良くできる訳ないじゃない』

 

 

批判、嫉妬、負の感情が、次々に織莉子へ降りかかる。

今まで友人だと思っていた人間は、織莉子を汚い者として認識していたのだ。

周りからは軽蔑され、父を侮辱される。織莉子は怒りに狂い、悲しみに打ちひしがれた。

 

 

「私は何度も父の無罪を訴えました」

 

 

しかし父は死んだ。

なぜ何もしていないのに死ぬ必要があったのか?

それは織莉子には全く理解できない事。ゆえに完全な否定ができない。

 

 

『週刊誌には織莉子さんの体を使った接待もあったって書いてありましたわ、クスクス!』

 

『本当に汚らわしい。もう学校にこないでくれる? 下女が』

 

『学校の品位が落ちるのよね。貴女みたいなのがいると』

 

 

女として、人としての尊厳を踏み握られる日々。

言い返したかった。しかしもう言い返す気力も無かった。

だから織莉子は父の無実を、自分だけが信じる事にした。

自宅に引きこもり一切外に出なくなった。

 

だが家には毎日誰かしらが悪戯をしにくる。

さっさと消えろだとか、出て行け犯罪者だとか。

家の壁には落書きをされる事も多い。それを深夜の誰も見ていない時に消す事は、織莉子のプライドをズタズタにしていくには十分すぎた。

 

 

「努力もしたんです。だって父の死は明らかにおかしかった」

 

 

父はケーキを予約してくれていた。プレゼントを用意してくれていた。

なのにそれを渡さずに死んだ。一緒に祝ってくれると言った誕生日があった。

その事に疑問を持ち、捜査してくれた二人組みの刑事もいたが、すぐに事件は闇の中に。

 

 

「絶望しかなかった。本当に辛かったわ……」

 

 

毎日自室で毛布に包まり、恐怖から逃げる様にうずくまっていた。

もう精神は限界に近く、彼ついに父を疑い始める。裏切りモノ、信じてたのに、大好きだったのに。

一緒に見滝原を平和な町にしようって約束したのに。うそつき、うそつき、うそつき。

織莉子は呪いの様にその言葉を連呼し、心を磨り減らす。

 

 

「そんな時でした、彼が――」

 

 

あの白い悪魔が。

 

 

「インキュベーターが現れたのは」

 

 

今でも思い出す。絶望に染まっていた自分に、一筋の光を齎した声を。

 

 

『やあ、美国織莉子』

 

 

赤くて丸い目が織莉子をしっかりと捉えていた。

キュゥべえ口も動かさず、直接織莉子の脳内に言葉を放り込んでくる。

 

 

『父の無実を晴らすのも、今キミが置かれている辛い現実を変えるのも、全てはキミの意思一つだ』

 

 

意思は心。心は可能性。そして可能性は奇跡へと繋がる道しるべだ。

キュゥべえは饒舌に語りながら織莉子の回りを歩いていく。

辛いなら変えればいい、変えたいのなら願えばいい。

 

 

『君には、その資格がある』

 

『資格?』

 

『ああ、そうだとも。ボクはキュゥべえ』

 

 

キュゥべえは無表情。しかし織莉子には彼が笑っている様に思えた。

そしてキュゥべえの言っている事を疑う事無く信じる事ができたのは、きっと彼が大きな希望に見えたからだ。

 

 

『美国織莉子、ボクと契約して魔法少女になってよ!』

 

 

昔、父が読んでくれた絵本では、魔女や悪魔は決まって最初は優しげな言葉を掛けるんだ。

だがこの時の織莉子には、そんな囁きがどれだけ希望に思えただろうか。

どれだけキュゥべえの言葉で救われただろうか。

生きる意味も、生きる価値も無いと蔑まれていた自分に話しかけてくれただけで、本当に嬉しかった。

 

 

『本当に、どんな願いも叶えてくれるんですか?』

 

『当然だよ、君が望むならば』

 

 

織莉子は、笑う。

 

 

『だったら――』

 

『父の無罪を証明するかい?』

 

 

それもあった。いや、今にして思えばそうするべきだったのか。

しかしあの時の織莉子には一つの想いがあったのだ。

もしもそこで父の無罪を証明したとして、自分はどうするんだろう?

 

確かに無実が証明される事は望む事でもある。

しかしそれを願ったとして、父は帰ってこない。

では父を蘇生させたとて世間の目をどう回避すればいい?

駄目だ、父のためを思うのならば蘇生はできない。

本当の事を言えば、織莉子が一番望むのは蘇生だった。

だが織莉子は愛する父親の為に、蘇生を候補から外す。

 

 

『私の願いは――』

 

 

無実が証明されれば、幸せが戻ってくるかもしれない。

幸福。すぐに掌を返す友人達や、父の知り合いがまた微笑んでくれるかもしれない。

自分を下女呼ばわりした友人と、また楽しいティータイムを楽しめるかもしれない。

 

 

(なんて――、ふざけるな)

 

 

結局自分が信じていた人たちは味方なんかじゃなかった。

なんだったんだ。自分が今までしてきた事や、関わった人たち。

過ごした時間は一体なんだったんだ。見滝原を平和にしたいだけなのに、結局自分のしてきた事は、信じていたモノは全て幻想だったのか?

 

 

美国織莉子(わたし)の人生とは、なんだったのか。

 

 

『知りたい――っ!』

 

『?』

 

『私は、知りたい!!』

 

 

だから織莉子は願った。

だから織莉子はその願いを託した。

だから織莉子は、魔法少女になったのだ。

 

 

「私の願いは、"私の生きる意味を知りたい"――、です」

 

「そう……」

 

 

織莉子は頷くと、マウスをクリックする。

ファイルが表示され、織莉子と上条は真実を目にする事になる。

 

 

「見つかったのかい? 君の生きる意味は」

 

「ええ。やはりお父様の意思を受け継ぐ事にあったんです」

 

 

だから自分は見滝原を守らなければならない。

見滝原に住む人達が幸せになる為には、多少の犠牲は仕方ない。

そしてなによりも見滝原だけでなく、この地球を守るためには、何としても絶望の魔女を殺さなければならない。

 

未来は辛いものだ。だから変えなければならない。

そのためにはパートナーを利用しても、親友を利用しても、そして自らの命を犠牲にしても、必ず成し遂げなければならない事がある。

だが今は、ただ一人の女子中学生として父の死の真相が知りたかった。

織莉子は食い入るように画面を見つめた。

 

 

「な、なんだコレは……?」

 

 

上条の方が先に声をあげてしまう。

そこにあったのは、メールをメモ長にコピーしたテキストファイルだった。

はじまりの文にはこのメールをコピーして保存しておく様にと言うリーベエリス、正確には旧リーベ側からの支持があり、射太興業がそれに従ったようだ。

 

強烈な違和感を感じるのは、その内容である。

どうやら取引のメール自体は頻繁に行われているらしく、取引の概要やその他の特殊事項を記載してあるらしい。

 

メールの内容は、こうだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

件名:美国久臣議員

 

 

このメールはメモ帳などのテキストファイルにコピーして、指定されたUSBに移してください。

 

今回記載するのは見滝原在住の国会議員、美国久臣についての処理依頼の記載。

おおまかな処理過程、最後に処理結果、および各詳細である。

本件は甲と乙の明確な了解の上に行われた契約である。

今回の依頼内容は美国議員を、経費改ざんによる汚職事件の容疑者にする事であり、加えて美国議員の殺害を最優先事項とする。

本件は――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「やはり……やはり父は――ッ! お父様はッッ!!」

 

「殺害依頼……ッ! つまり、君のお父さんは誰かに依頼されて殺されたと言う事か!」

 

「ッッ!」

 

「それにこれは……、リーベ側からの依頼の様だ」

 

 

テキストを読み解く限りはこうだ。

まずリーベが当時行っていた人身売買の関係者の一人に、経費を改ざんして不当な利益を得ていた政治家がいた。

しかしそれが久臣によって暴かれそうになったから、リーベに相談を持ちかけたのだ。

 

結果、リーベは関わりがあった射太興業に久臣を殺すように持ち掛ける。

射太興業としても暴力団を追放しようとする久臣の存在は邪魔でしかない。

お互いは利害の一致として、契約を結んだと言う事だった。

リーベには既にマスコミ関係者の信者がいた。ましてや警察関係者も。

それらメンバーとも協力し、スムーズに殺害と規制をおこなったのだ。

もちろん――、書かれている内容から予想するにはだが。

 

 

「馬鹿げてる!!」

 

「確かに、なんて現実離れした……」

 

 

織莉子はキーボードを壊す勢いで両手を叩きつけた。

警察とマスコミにも信者? そんなもの、探偵小説で言うなら下の下のトリックだ。

ありえない、そんな都合のいい集団がいてたまるか。織莉子は鬼のような形相で画面を睨みつける。

しかし現実に織莉子の父は殺された。

自殺に見せかけた他殺。警察も必死に捜査したが、証拠が少ないと言う点と早々に捜査が打ち切られた事によって、真実を有耶無耶にされた訳だ。

 

 

「しかし本当に信じられないな、それほどまでに力のあるリーベとは一体――?」

 

「……コルディアは二代目です。襲名時期からして今件には全く関わっていないと見ていいでしょう」

 

 

メールにあった名は創設者であるシルヴィス・ジェリーだ。

コルディアに変わるまでは全て彼女がリーベを動かしてきたと言うことである。

 

 

「たとえば元々暴力団と関わりのあった警察関係者がシルヴィスだったと言うのはどうだろうか?」

 

「いえ。彼女は元々は見滝原の外でリーベを運営していた筈です。それならば見滝原の警察にコネクションがあるのは疑問が……」

 

「まあ、名前を見ても日本人では無いみたいだし」

 

「シルヴィスとやらが何者なのかは知りません――」

 

 

織莉子はゾッとする程冷たい声で言葉を放つ。

その目は憎悪と怒りで染まっていた。

 

 

「ですが、やはり父は、無実の罪で世間から悪人とされ殺された」

 

 

どれだけ無念だったろうか、それを想像するだけで狂いそうだ。

 

 

「織莉子、ソウルジェムが……」

 

「――ッ、そうですね。すいません」

 

 

織莉子は上条が差し出したグリーフシードを受け取ると、ソウルジェムをすぐに浄化する。

心を落ち着けなければ今にも魔女になってしまいそうだ。

織莉子はその文を目に焼き付けると、椅子から立ち上がる。どうやらリーベエリス本拠地へと向かう様だ。

 

 

「USBにあったファイルは美国久臣の項目だけではない。あの名前の全てを秘密裏に殺害し、かつ隠蔽してきたのだろうか?」

 

 

馬鹿な、いくらなんでもただの一般組織ができる範囲を遥かに超えている。

人々を洗脳し、暴力団との繋がりを持ち、それでなく警察やマスコミにもない通者が存在しているだと?

 

 

「化け物か……? どうやってそんな事を」

 

 

今まで何も知らなかった自分達。

しかしその裏ではこうやって巨大な悪意が蠢いていたのだ。

想像するだけで恐ろしい、腕を組みながら上条は小さく笑う。

 

 

「ええ、それが根本だったと言う事を私達は忘れていたのかもしれません」

 

「根本?」

 

 

頷く織莉子。

そうだ、この魔法少女と言うシステムを覚えた時から、少しだけ自分達の価値観は狂ってしまったのだろう。

恐ろしい魔女、狂気に満ちた参加者、ああ何を勘違いしていたのか自分達は。

それら全ての元をたどれば、そこにいるのは皆同じではないか。

 

 

「この世で、一番恐ろしいのは人間だと言う事です」

 

「………」

 

「誰もが化け物になる可能性を秘めている生き物、なんて愚かな生き物。もちろん、それは私も含めて」

 

 

なるほど、間違っていないか。

上条は何も言わずに頷くと織莉子の後をついていく。

――が、しかし、上条は冷静だった。織莉子は父が無実である事で安堵しているのか、感情が怒りのほうへシフトしているようだが、上条としてはまだまだ疑問が残っている。

 

 

(しかし何故わざわざこんなデータを? 記録を残しておくには、お粗末だ)

 

 

彼らは、文の終わりを見てはいなかった。

織莉子は最後までスクロールする事をせずにファイルを閉じた。

空白の果て、まだ続きはあった。これは射太興業側が書き加えたものだったが。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

リーベは今ケースの美国久臣を『成功例』と称していた。

 

さらに同時に『契約成功例』と言うキーワードも確認している。

我々にはそれが何を意味するのかは不明だが、『杏里家』殺害でも同様のワードが確認された。

この人物らと美国久臣の共通点は不明であり、おそらくは無関係だと思われる。

 

しかし杏里家はごく一般的な家庭であり、殺害は他の組によって行われたとデータにはあった。

管轄外である我々に考察の余地はない物と思われ、調査は不要。

 

リーベは裏で行っている作業を、『下ごしらえ』と暗喩していた事も報告されている。

この事を問い詰めても、向こうは詳細を明かさない事を考え、我々射太興業はいずれリーベが裏切ると考えてこの文章を作成した。

 

もう一つ『箱庭』と言うキーワードをリーベ側が使用していたが、コチラに関しては関係性があるかどうかも不明である。

 

 

現在××××年、○月×日。

我々射太興業とリーベは協力関係にあるが、いずれは対立の可能性もあると考え、よく注意してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、美国久臣は「深淵を視た」と言っていた。

これが何を意味するのかは不明である。

手帳に簡単な日記をつける癖があるとの事だったので、所謂『美国手記』を探したが、コチラも見つかる事は無かった。

 

 

 

 

 





射太興業ちゅうんは、アニメに出てきた暴力団事務所の名前じぇけぇの( ^ω^ メ)

ほむほむが武器盗んだところじゃけぇの。使わせてもらいましたわ( ^ω^ メ)

井上のオジキちゅうんは、龍騎の脚本家の一人じゃけぇの。
小林の姐さんとの絶妙なバランスが、良かったんじゃのぉ( ^ω^ メ)
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