仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第40話 進入の園 園の入進 話04第

 

 

 

リーベエリス本部では、参加者を止めるべく多くの信者達が射太興業を通して手に入れた武器を手にしていた。

彼らは信じている。目の前から迫る者達が悪意の塊であり、自分達はそれを打ち砕く正義なのだと言う事を。

 

 

「気をつけろ、かずみ!」

 

「うん! 分かってるよ蓮さん!」

 

 

いくらリーベエリスが広いとは言え、建物内部の構造はマップがあるために迷う事はない。

 

 

「おそらく、リーダーのコルディアの近くに敵の魔法少女がいる筈だ」

 

 

ナイトとかずみはその犯人を探すべく、エリス本部を駆け抜ける。

目の前から迫ってくるのは魔女ではなく、ともあれば使い魔でもない。

正真正銘の人間達だった。

 

 

「奴等をコルディア様に近づけるな!」

 

「ば、化け物めッ!!」

 

 

皆口々に憎悪を浮かべ、今まで使った事もない武器を振るう。

銃の反動で倒れる人。ナイフを持つ手が震えている人。

にも関わらず。彼らは戦った。コルディアや自分の守りたい物を守るために。

 

 

「虚しい奴らだ」『アドベント』

 

 

ダークウイングがエリスメンバー達を弾き飛ばして鳴き声をあげる。

ナイトとしては、それで諦めてくれるだろうと思っていたが、一部の信者達は腰に巻いていた爆弾を晒して特攻を試みた。

 

 

「!」

 

 

おそらくはコルディアか幹部の誰かが命じたのだろう。

殺せないと思ったら特攻してでも侵入者を止めろと。

かずみはそれを想像してゾッとする。なぜそこまでするのか、理解が――

 

 

「………」

 

「かずみ! ボケッとするな! 洗脳魔法を使え!!」

 

「まかせて蓮さん! ファンタズマ・ビスビーリオ!」

 

 

かずみは襲い掛かってきたメンバーを洗脳すると、すぐに爆弾を外して情報を引き出す事に。

自分達が化け物だと誰に教えられたのか?

そして自分達を傷つける様に指示したのは誰か?

加えてその人物はどこにいるのか。最後に仁美達はどこにいるのかだ。

 

 

「私達は…、皆さんに聞いたのです……」

 

 

リーベエリスの幹部連中に、かずみ達が恐ろしい化け物だと告げられた。

幹部に指示を出せるのは、もっと上の立場の人間。つまりコルディアくらいだ。

 

 

「そのコルディアはどこにいる?」

 

「分かりません……」

 

「………」

 

 

もちろん幹部が独断で行った可能性もあり、コルディアが巻き込まれた者だと言う可能性もあるため、決つける事はできないが。

仁美達の居場所は誰も知らないらしい。どうやら幹部連中だけが知っている牢屋に入れられているとか。

 

 

「牢屋か。福祉施設が聞いて呆れるな」

 

「でもまだ生きてるって事が分かっただけマシだよ。早く見つけてあげないと」

 

「待て。まだ聞きたい事はある。銃や爆弾はどこで手に入れた?」

 

 

信者が言うには、それらも幹部達から与えられたらしい。

 

 

「一部の方は……、奇跡の種を…与えられていました……」

 

「奇跡の種?」

 

「はい、奇跡の力を手に入れられる……、種です」

 

 

そんな物はナイトもかずみも聞いた事が無い。

種が武器になるわけが無いのだから、何かを言い換えたモノだろう。

 

 

「ッ?」

 

 

その時、上部から聞こえてくる羽音。

二人は反射的に武器を構えて上を見る。

吹き抜けになった空間の二層目。ステンドグラスが照らす空間から、何かが飛び出してきた。

 

 

「「は?」」

 

 

思わず二人の声が重なる。

そこから現れたのは巨大な"カブト虫"だったからだ。

文字通り巨大な角を持ったカブト虫だ。しかし大きさが普通じゃない。ダークウイングくらいある。それに角も、なにやら模様が入ってたり、少し禍々しく見えた。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!?」

 

 

普通カブト虫は鳴かない。だがこの『ビートル』は違った。

ギラつちた目でナイト達を睨むと、そのまま自慢の角で貫こうと突進してくる。

 

 

「な、なに!? わわわわ!」

 

 

かずみは反射的に、まどかのアイギスアカヤーを発動する。

巨大な盾が出現してビートルの突きをなんとか防いだ。

しかし劣化版であるからか、一撃で盾にヒビが入る。

 

 

「な、ななな何コレ蓮さん!?」

 

「落ち着け! 来るぞ!!」

 

 

ナイトが叫ぶと同時に、再びビートルが空を駆けた。

シュートベントであるウインドカッターで応戦するが、ビートルの鎧は硬く、風の刃を寄せ付けない。ナイトは舌打ちを行うと剣を構えて神経を集中させる。

 

 

「危ないよ蓮さん!」

 

「大丈夫だ、お前は自分の心配をしろ!」

 

 

空中を旋回して再びナイトに向かうビートル。

同時に走り出すナイト。まずはスライディングを行い、地面を擦りながら姿勢を低くした。

おかげでビートルの突きを回避し、真下に潜り込む。

ビートルは背中の部分は硬いが、下には柔らかい部分も少しは存在していた。

ナイトはそこへ剣を突き入れる。

 

 

「ギアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

痛みからかビートルは叫び声をあげた。

陸地に着地すると、そのまま滅茶苦茶に角を振り回してナイトを攻撃していく。

柱や壁が破壊されていく。このまま自由にさせてはまずいが、角と剣ではリーチで負けていた。

そうしているとビートルの真下から地面を突き破る様に生えていく十字架。

杏子の異端審問をコピーしていた、かずみのアシストだ。

 

 

「ギギッ! ガガガガガ!!」

 

 

もがくビートルだが、体が大きい分突き刺さる十字架もそれだけ多い。

さらに十字架で持ち上げられる形になったため、踏ん張りが利かずに思うように動けないようだ。

 

 

「よくやった、かずみ」『ファイナルベント』

 

 

飛び上がるナイト。

ダークウイングが背中に装備され、マントが剣を包む。

 

 

「ハァアアアアッッ!!」『ファイナルベント』

 

 

ドリルのように回転しながら飛んでいく疾風斬。

それはビートルの硬い鎧を貫くと粉々に爆散させた。

しかし勝利の余韻に浸る暇は無い。ビートルが巻き上げた爆炎から排出されるようにして、人間が放り出されたのだ。

 

 

「ッ? 魔女じゃないのか?」

 

「そう言えば結界構築されてない! あちゃー、こんな事なら調べればよかったね」

 

「待て、まだ意識がある」

 

 

ナイトは倒れた青年を掴みあげると、すぐに詳細を問いつめた。

一体あれはなんだったのか? すると青年はやはりと言うべきか、憎悪の目でナイト達を睨みつける。

 

 

「だま――、れ! 父を、母を殺した――ッ! お前らを……ッ、許さないッ!」

 

「!」

 

 

その時かずみの表情が険しく変わった。

結局青年はそのまま何も告げずに意識を失ってしまった。

 

 

「なんなんだ」

 

 

ナイトは首を振ると、青年を廊下の端に寝かせて先を急ぐ事に。

 

 

「どうした、酷い顔だぞ」

 

「え? あ……、うん」

 

 

かずみの様子が少しおかしい。

一気にテンションが下がったと言うか、おまけに少し泣きそうではないか。

別に放っておいても良かったが、ナイトは少し肩を落とすと、詳細を問うた。

 

 

「ちょっと……、分かっちゃうから」

 

「?」

 

「あの人、お父さんもお母さんも死んじゃったんだね。しかも殺されて」

 

「お前、親がいないのか?」

 

「一応いるっちゃいるけど。ううん、やっぱりいないって言うか……。でもいるって言われれば、いるのかも」

 

「???」

 

「複雑なの!」

 

 

歯切れの悪いかずみ。

自分から悲しげな雰囲気出しておいて聞かないでと舌を出して笑っている。

しかし考えてもみれば、今かずみは家出をしている状況だ。

にも関わらず一向に両親が探しにくる気配は無い。死んでいるような素振りではなかったし、どうやら家庭で上手くいっていないのだろう。

 

 

「かずみ」

 

「ん?」

 

「親は先に死ぬ。言ってしまえば、自分の人生の踏み台だ」

 

「ど、どうしたの急に?」

 

「俺も親がいない。まあ、父親だけだが」

 

 

蓮の父は交番に勤務する警官だった。

誰からも慕われ、街の平和を守る事を誇りに思っていた。

そんな勇敢な父を蓮は尊敬していたし、いつか自分だってああなりたいと思っていたのかもしれない。

 

しかしある時、街に通り魔が現れた時があった。

精神に異常をきたした犯人はナイフを持って見境なく暴れまわり、子供や老人にも容赦なく危害を加えようとする。

蓮の父は拳銃の使用を許可され、犯人を制止するためにそれを構えた。

だがその時犯人は激高。余計に危険な状態となってしまった。

威嚇射撃を物ともせずに暴れる犯人。だから蓮の父親は決断するしかなかった。

 

 

「親父は犯人を撃ち殺した」

 

 

もちろんそれは本意では無い。

結果としてそれが多くの人を救う事になったとしても、蓮の父にとっては少し違うものだったのだ。

助かった人や、父の友人はその行動を責めず、むしろ勇気ある『決意』の結果だと称えた。

しかし父は違う、決意などしていなかった。

 

 

「親父は勇敢であり、優しくもあり、故に大きな弱さがあった」

 

 

人を守るために警官になったのに、自らの手で人を殺めた。

その責任と重さが父を狂わせていったのだろう。

 

 

「親父はおかしくなった。見えないモノに恐怖し、自らに恐怖してな」

 

 

犯人には仲間がいて、自分に復讐しに来るのではないかと毎日怯えていた。

人を殺したから、相応の罪が下る。蓮の父は来るかも分からない裁きに恐怖した。

 

 

「ある日、親父は母さんを殴った」

 

 

料理に毒が入っているというのだ。

もちろんそんな訳は無い。しかし父は母を殴った。

何故か? 怖かったからだ、母に化けた犯人の仲間が自分を殺しに来るのではないかと。

人を殺した自分を地獄に引きずり込もうとする悪魔がいるのではないかと。

すぐに自らの過ちに気づき、何度と無く頭を下げていた父の姿を、蓮はどんな気持ちで見ていたのだろうか?

 

 

「病院にも何度となく通ったが、親父が良くなる事は無かった」

 

 

夜は眠れず、食事も喉を通らない。

数日入院した日もあったが、心の影が晴れる事は無かったのだ。

 

そして蓮の父親は自ら命を絶った。ロープを使って首を吊って。

自分の罪を自分で裁いた。絞首刑を自らの手で執行したのだ。

死体を蓮が見る事は無かったが、母はしっかりと見てしまった様だ。

 

だから蓮はすぐに立花を頼った。立花の所へ行きたかった。

近所の人たちから、よく蓮は父親に似ていると言われた。

ならば母は蓮の顔を見れば、父の事を思い出してしまうかもしれない。

そうすれば精神をすり減らし、母もまたおかしくなってしまう。

だから蓮は家を出た。

 

 

「そうなんだ。ショックだね……」

 

「慣れた。要はそういうモンだ」

 

 

そう言ってナイトはかずみの前を行く。

いつかは慣れるから、そう気を落とすなと言う事なのだろうか?

意味不明にも思えるほどに不器用な優しさを感じて、かずみは思わず吹き出してしまう。

 

 

「笑うな、耳障りだ」

 

「へへへ、ごめんごめん」

 

 

ナイトの心に若干の嫌悪感が湧いた。

何故かずみにそこまで話してしまったのだろう。

この話は恵里だけに話した。恵里だけが知っておいて欲しかった。

だから唯一友人と認めている真司と美穂にすら話していないのだ。

それなのに出会って間もない、かずみに話す事になるとは。

 

 

「………」

 

 

何なんだろうか。

ナイトは心にある『引っ掛かり』の正体が分からずに苛立ちを覚えた。

恋だの愛だのと恵里に抱いていた感情とはまるで違うが。どうでもいい感情でもなかった。

 

 

「フン」

 

 

まあいい、ナイトは思う。

自分にとって一番大切なのは恵里だ。それが揺らぐ事は無い。

そう割り切って先に進む。

 

 

「知ってたよ――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メールが届いた。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

参加者の多くが無事本部についた様で何よりです。

しかし皆さん、お気をつけて。黒幕である筈の魔法少女は自らの姿を他の人間に変えられると言う特殊能力を持っています。

 

彼女は他の信者に化け変わり、追跡を逃れるつもりかもしれません。

ですので今から私が彼女の居場所を常に地図上に表示させていただきます。

私としても争う事は本心では無いのですが、彼女を倒さない限りこの混乱は終わらぬ様にも感じるのです。

 

どうか、このゲームがより良き終わりになる事を願っております。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

メールを見たナイトは呆れた様にため息をつく。

 

 

「コイツも胡散臭いな」

 

「うん、どうやってわたし達がここにきた事を知ったんだろう?」

 

 

メールには携帯のアプリが添付されており、それを起動するとリーベエリス本部の地図が表示されて赤い点が見えた。

どうやらこの赤い点が、黒幕とやらの居場所らしい。

メッセージにあった通り、赤点は黒幕の動きとリアルタイムでシンクロするらしく、普通に考えればかなり有利な状況だ。

とは言え、いくらなんでも怪しすぎる。この赤点がトラップの様な気がしてならない。

 

 

「でも、トラップでも行ってみる価値あるかも。ここちゃんとコルディアって人の部屋だし」

 

「虎穴に――、と言うヤツか」

 

 

いいだろう。信じてみようじゃないか。

ナイトとかずみは頷くと、この赤点を目指す事に。

その途中で仁美が見つかればいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、うまい」

 

 

見滝原にある喫茶店の一つ。

オープンテラスのカフェで、少女はコーヒーとケーキを楽しんでいた。

外は涼しい風が吹くものの、逆にそれが心地いい。

おまけに今日は平日だ。世の中は忙しいと言うのに、自分は優雅にティータイム。

優越感、開放感。気分が高まる。

 

 

「しかし景色がいいですな、ココは」

 

 

携帯片手にみる景色。

ふと目を移せば、リーベエリス本部も視界に入る。

 

 

「いやいや、本当に皆さん忙しそうで大変だ」

 

 

神那ニコはアンニュイな表情で呟いた。

携帯にはリーベの地図が映っており、そこにいる参加者の情報が全て筒抜けである。

この喫茶店はレジーナアイの範囲内ギリギリにあった。だからこそ、リアルタイムで情報を送信できる。

 

そうだ、メールを送っていたのはニコだった。

理由はいろいろあるが、やはりユウリにはここで消えてもらいたいと言うのが一番である。

 

 

(向こうが何を考えているのかは知らんが、どうせ馬鹿そうだし、適当に場をかき乱したいだけだろ)

 

 

タツヤを狙ったのは面白い試みだとは思う。

ニコとしてもまどかを絶望させると言うのは面白そうな話しではあるが、この場はまどか側についた方が懸命だとも思っていた。

とはいえ簡単に仁美の情報を教えるのも、それはそれで面白くは無い。

できる限り潰しあってもらうシチュエーションがニコにとってはベストなのだから。

 

 

「にしても、便利になったねぇ」

 

 

時間経過によって手に入れたビジョンベント。

それを使えば、バイオグリーザが見た景色を自分も確認できると言うものだった。

そのメリットは何と言っても音声も拾える事だ。ニコは既にバイオグリーザをリーベ本部内に忍ばせておいた。

 

透明になっておけば、誰も気づかない。

つまり動く監視カメラをリーベエリスに忍ばせている事と同じなのだ。

分かったのはユウリは現在シルヴィスとか言う人間に化けている事。

レジーナアイには死亡数まで記載されている。ユウリは一度死んでいる。ここでももう一度死んでくれれば、次がファイナルチャンスだ。

 

 

「うーん、うまい……」

 

 

他の連中が命を賭けて戦っている時に、安全な場所で食べるスイーツはたまらない。

別にバイオグリーザが見つかってしまったとして、透明のまま死ねば相手にたいした情報を与えずに済む。

それに見つかったとしてニコの居場所がバレる訳ではないし、バイオグリーザも時間がたてば復活できる。ユウリもユウリでニコと高見沢の存在にはまだ気づいておらず、信者をけしかけることはできなかった。

 

 

「そういえば今日はリーベエリスに行かないんだ」

 

「うん、なんか電気の故障が見つかったから、しばらく休みなんだって」

 

「施設にも近寄れなんだよね。ああ、早く無料でケーキ食べたいな」

 

「あはは、あそこタダだし超おいしいよねー!」

 

 

耳を澄ませば、そんな声が聞こえてくる。

 

 

(おいおい、お嬢ちゃん。タダより怖いものは無いって知らないの?)

 

 

なんだか笑えてくる。

ニコからしてみてもリーベエリスは意味不明の集団だ。

慈善事業でいい子ちゃんと思えば、裏では人身売買から殺人依頼の仲介まで行ってると来た。

ユウリの会話を盗聴してニコも団体の裏を知ったが、本当に意味が分からない。

だから同時に恐怖する。そんな団体が人間の手で作り上げられ、今も見滝原を侵食しようとしているのだから。

 

 

「ま、せいぜい頑張りたまえよ諸君」

 

 

ニコはリーベエリス本部を見ながら再びコーヒーをすする。

人は守るものがあるとそれが弱さになってしまう。ああ、可哀想に。

では守るものが無い者は、それはそれでどうなんだろう? 

 

 

「羨ましいね」

 

 

そこでニコの耳に、再び女性達の声が聞こえてきた。

 

 

「それにしてもココのケーキ……、おいしくないよね」

 

「コーヒーも苦い割りに薄いって評判だからね」

 

「………」

 

 

どうりで周りには人がいない訳だ。

ニコはカップから手を離すと、再びケーキを口に入れる。

 

 

「……まずっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! なんなんだよコイツ!」

 

「喋ってないで攻撃しろ! ああもう、俺はこういうの駄目なんだって」

 

「二人とも危ない!」

 

 

まどかの結界が龍騎とゾルダを保護する。

そこへ降り注ぐヘドロ状の物体。ドロドロの物体は何なのか理解できない分、絶対に触りたくはないものだ。三人もまた、ナイトと同じく魔女でも使い魔でもない異形に襲われていた。

名は『コスメ』。スライムの様にドロドロで、ゾルダの銃弾を物ともせずに暴れまわる。

 

 

「このッ!!」

 

 

龍騎は隙をみて昇竜突破を発動。

巨大な炎弾がコスメを襲うが、その体を広げて炎をしっかりと受け止めた。

さらに炎弾を覆い隠す様に広がり、鎮火してみせる。

 

 

「む、むちゃくちゃだ!!」

 

 

まどかの光の矢も、コスメの液状化された肉体を通過していき、ダメージが入っていないようだ。非常に厄介な相手ではないか。ゾルダは舌打ちをすると金色のカードを構えた。

 

 

「銃弾は聞かないって!」

 

「まあ見てな」『ファイナルベント』

 

 

マグナギガの背中にバイザーをセットするゾルダ。

全身の武装が展開していき、そのまま引き金に指をかける。

エンドオブワールド。加減をしたのか、発射される弾丸は少量で範囲も小さいが、それでもコスメにとっては十分すぎる威力だった。

 

 

「ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 

一発の弾丸を液状化して回避するコスメだが、その瞬間に次の弾丸が着弾していく。

次々に打ち抜かれるコスメの肉体、再生の頻度が追いつかない!。

そうしている内にレーザーも加わり、肉体が蒸発していく。

こうして完全に消え去ると、どこからともなく一人の女性を『排出』して消え去った。

 

 

「ッ! やっぱり!!」

 

「人?」

 

 

まどかは結界で女性を受け止めると、素早く女性の様子を確認する。

気絶している様だが、体のどこにも魔女の口付けらしき痕は無い。

 

 

「魔女に取り込まれた訳じゃないんだ」

 

「つまり――?」

 

「この人がさっきのスライムみたいなモンスターだったんです!」

 

 

まさか。ゾルダと龍騎は顔を見合わせる。

そうしていると、まどかは女性を抱えていた。

 

 

「どこか、休ませる場所があるといいんだけど」

 

 

この施設、部屋は多い。とりあえず適当に目に付く所から開けることに。

中にあったのは特に何の変哲も無い部屋だった。

都合の言いことにソファがある。まどかはそこへ女性を眠らせ、また仁美達を探そうとする。

 

 

「ちょっと待て、誰かいるぞ」

 

「え?」

 

 

ゾルダはクローゼットを指差す。

耳を澄ませれば、確かに呼吸の気配や、小さな声が聞こえてくる。

龍騎はゾルダとまどかに離れる様に言うと、クローゼットの扉をゆっくりと開いた。

 

 

「「「!!」」」

 

 

絶句する三人。

そこにいたのは身を寄せ合って震えている子供達。

そして、それを守るようにしていた若い女性職員だった。

どうやらメンバーの子供達を預けておく保育所のエリアだったらしい。

一般人は寄せ付けずとも、エリスメンバー達は通常運営だった。

故に龍騎たちが侵入してきたと聞いて、避難できずに隠れていたのだろう。

 

しかしそれよりも龍騎とまどかが気になったのは子供達の表情だ。

みんな、自分達を見て怯えている。当然か、彼らにとって龍騎達は悪魔にも近い存在なのだ。

騎士なんてのは特に人間らしい見た目じゃない。

 

 

「う、うあああああああああああ!!」

 

 

見つかってしまった。

子供達は殺されると思ったのか、みんな声をあげて泣き始める。

まどかは言葉を失った。子供達は皆、その未来に希望を見て笑いあうべきだ。

しかし今、みんな絶望したような表情だ。

それはまどか自身のせいなのだと。

 

それだけじゃない。

女性職員は子供達を守るために、渡された銃で龍騎たちを殺そうと発砲してくる

 

 

「ウッ! ちょ、ちょっと待って! 俺達は――ッ!!」

 

 

何度誤解だと言う事を説明しても、それは子供達の泣き声でかき消される。

半ば錯乱しながら銃を乱射する女性。

まどかも龍騎も、銃弾を受けるが意味はない。我ながら、人間じゃないと思う。

 

 

「ッ!」

 

 

そうしていると、ゾルダが女性の手から銃を奪って投げ捨てる。

抵抗の手段を失った女性が次に取った行動は、子供達を守るための命乞いだった。

女性は飛び出し、子供達の前で土下座を行う。

 

 

「お願いします! 私はどうなってもいいから!!」

 

「………ッ!」

 

 

誤解だと言えばいいのに。

龍騎はその光景を見て、何も言えなくなってしまった。

言葉が出ないのだ。すぐに顔を上げてくれと言えれば良かったのにそれができなかった。

女性の後ろでは迫る死に怯えて震えている子供達が目に焼きつく。

 

 

「―――」

 

 

まどかはそれを見て泣いていた。肩を震わせて、職員や子供達を見る。

龍騎もグッと拳を握り締めて立ち尽くしていた。

言葉が出ないのだ。騎士の力は、人を守るために使いたかった。

それが過去に見ていたヒーローのあるべき姿だと信じたからだ。

真司だとすれば、昔好きだったヒーローは赤い龍と共に多くの悪と戦い、テレビの向こうにいる自分に希望をくれた。なのに今、龍騎を見て子供達が絶望している。

 

 

「………」

 

 

龍騎は部屋にあった鏡を見た。

そうだ、なんの事は無い。根本たる事を忘れていたのかもしれない。

龍騎の姿は、どこから見ても人じゃないじゃないか。

何も知らない人から見たら、怖いんだ。

きっと、目の前にいる人たちはトラウマになる。

 

 

「俺は……ッッ」

 

 

ヒーローはフィクションだ。現実では本当の正義などどこにも存在しない。

メッセージを見た。それを信じるなら魔法少女が龍騎か真司に変身して人を殺したのだろう。

その秘密を知らない人間は、一生城戸真司を恨み続ける。

 

 

「俺は――ッ! 殺してないんだ……!」

 

「ひぃぃいッ!!」

 

 

前に進むと、皆後ろに下がった。

誰もが怯えている。それでも真司は自分が無実だと言う事を必死に訴えるしかなかった。

 

 

「もういいだろ。何やってんのよ。こんな所にいても意味なんて無いだろ」

 

「真司さん……」

 

「ああ」

 

 

ゾルダは先に行くと言って、部屋を出て行く。

そして次はまどかだ。彼女も子供達に自分は無実だと言う事を訴えると、簡易的な結界を施して後ろへ下がる。

 

 

「信じてもらえないと思うけど……、俺達は本当に誰も殺したりなんかしてないんだ!!」

 

 

しかし植えつけられた恐怖は何をしても無駄なのか、誰も龍騎の言葉を信用しなかった。

だったらもうココにいても無意味に怖がらせるだけだ。

龍騎はまどかとアイコンタクトを行うと、部屋を出て行く。

 

 

「ッ! 北岡さん!?」

 

 

外に出た龍騎達だったが、先に部屋を出ていたゾルダが膝をついて苦しげに呻いているのを発見する。周りに敵はいないが、穏やかな状況ではない。

ついには変身も解除され、北岡は倒れてしまう。

 

 

「ど、どうなって――ッ!!」

 

「真司さん! とりあえず隣の部屋に!」

 

「あ、ああ!」

 

 

龍騎は北岡を抱えると、無人の個室に運ぶ。

物置なのか、適当にスペースを作って北岡を寝かせると、まどかは回復魔法をかけはじめた。

 

 

「お、おい……、そうじゃない」

 

「え!?」

 

「薬が……、俺のスーツのポケットに――ッ!」

 

 

スーツ?

龍騎は一度変身を解除すると、北岡の服を探る。

すると確かにケースに入った錠剤があった。

北岡はそれを苦しそうにしながらも口に含むと、一気に飲んで呼吸を整える。

 

 

「北岡さん。これって……」

 

 

二人が戸惑っていると、ピョコンとファンシーな音を立てて部屋に侵入してくる影が。

 

 

『あーあ。またかよ北岡ぁ。ほんとうに人間はボロっちぃなオイ!』

 

「ジュゥべえ!?」

 

 

自分から現れるという事は、特殊ルールを告げるのだろうか?

とも思えば、北岡から黒い靄の様な物が出てきて、それがジュゥべえの背中へと吸い込まれていくじゃないか。

 

 

「う……! ぐッ!」

 

 

北岡の顔色が少し良くなった。

痛み弱まったのか、呼吸の調子元に戻っていく。

 

 

「な、なんだよコレ」

 

『んん、それは――』

 

「おいッ!」

 

 

ジュゥべえを睨む北岡。

しかしジュゥべえはフッと笑って、視線をヒラリとかわす。

 

 

『いいじゃねぇか、ここまで見られちゃ一緒だろ』

 

「それは――! ガハッ!」

 

 

次は咳き込む北岡。

ただ咽ただけかと思ったが、手に血がついているのを確認する。

 

 

「き、北岡さん!? アンタまさか――ッ!」

 

『どうやらそろそろ限界は近いってか? 大変だねぇ』

 

 

だがそうしてもらった方が話しやすいとジュゥべえは笑う。

 

 

『演出の一環だ。なあ、そうだろ北岡秀一』

 

「……ッ」

 

『お察しの通り、コイツは腹と頭に爆弾(やまい)を抱えてやがるんだよ』

 

 

すげーよな、ダブルパンチってヤツだぜ。

ジュゥべえは軽い調子で笑っていたが、真司達からしてみれば絶句物の情報である。

北岡は舌打ちをするだけで何も言わない。つまり本当の事であると。

 

 

「でも北岡さん、今まではそんな雰囲気じゃなかったのに」

 

『オイラがアシストしてんのさ。じゃなかったら今頃コイツはもうお陀仏よ』

 

 

鎮痛剤と進行を抑える薬を、ジュゥべえが独自に強化を施して北岡に与えている。

さらに先ほどのように、一定の期間で広がる病魔を払っているのだと告げた。

しかし痛みや苦痛はしっかりと北岡を蝕む。それだけではなく、進行を抑えると言うだけなのだから、そのサイクルは無限ではない。

日に日に北岡は確実に弱り、最後には――

 

 

『くたばる!』

 

「!」

 

『まあ、オイラは騎士側のサポーターだからよ』

 

 

北岡を放置してしまっては、今頃病院でチューブまみれになっていた事だろう。

そうなるとゲームのプレイヤーとしては機能しない。

と言う事で、北岡が『ある程度』動けるだけの状態にしているわけだ。

 

 

「そこまでするなら治してやれよ! できるんだろ? お前らなら!」

 

『まあ可能ではあるぜ。でもそしたらつまんねぇだろ?』

 

「なっ!」

 

『願いを叶える為に戦うのがこのゲームだ。叶えたい願いの候補は多いほうがいいじゃねぇか』

 

「だ、だったら北岡さんの戦う理由って……」

 

「――まあ、それもある」

 

 

また何も言えなくなる。

現代の医療でどうにもならないなら、願いで病気を治す以外には方法は無い。

しかし、もしもワルプルギスを倒す方法ならば叶えられる願いは一つだけだ。

北岡が病気を治せば蓮は恵里を助ける事ができず、魔法少女も呪いから逃れる事はできない。

 

 

「もちろんそれだけじゃないぞ。俺には、まだどうしても願いがあるんだよね」

 

「え?」

 

「まあ、言えないけど」

 

 

北岡に協力してくれと言うのは、『死ね』と言っているようなものだ。何も言えなくなる。

 

 

「ほら、もう大丈夫だ。さっさと行こう」

 

「で、でも! 休んでた方がいいんじゃ……」

 

「休んだくらいで治るもんじゃない。今は早くこのアホみたいな事態を終わらせることだ」

 

 

北岡はそう言って部屋を出て行った。

真司たちもついていくしかない。その後も、武器を持ったエリスメンバーは容赦なく真司達に襲い掛かっていった。

避難しておけばよかったものを、それほどまでに憎悪の炎が膨れ上がっているのか。

 

 

「俺達は何もしていない、何もしない!」

 

 

何度と無く言ったが、誰も龍騎の言葉を聞こうとはしなかった。

 

 

「黙れ! お前らの仲間が俺の家族を殺してるのを、俺は目の前で見たんだ!!」

 

「ッッ!」

 

 

誤解だと言えど、心に宿した憎しみはそう簡単には消えはしない。

それに彼らは本当に見ていたのだから。リーベエリスメンバーを殺す騎士を。

彼らは騎士がみんな仲間だと思っている。

故に龍騎の言葉も、油断させる為の嘘にしか聞こえないのだ。

 

 

「お願いです! 本当にわたし達は何もしてないんです!!」

 

 

騎士はまだしも、まどかの言葉には、みんな戸惑いを見せる。

もしかしたら説得できるかもしれない。まどかは一瞬、笑みを浮かべるが――

 

 

「!?」

 

 

その時、ステンドグラスを模した床が赤く染まっていく。

意味を知っているまどかとゾルダは、すぐに力の限り叫んだ。

 

 

「逃げて!」「逃げろ!!」

 

「な、何を――」

 

 

まどかは地面に両手をつけて、素早く結界を張りめぐらせる。

が、しかし人の叫び声の様な音と共に、禍々しい槍が飛び出してきた。

それらはまどかの結界を破壊すると、さらに上に昇っていく。

 

 

「ごがァァっ!」

 

「ァァアァアァアァア!!」

 

 

槍が足から、股から入り、次々に人が『裂けていく』。

かろうじて回避に成功した者や、初めから範囲外にいた者は真っ青になって逃げて言った。

 

 

「やっぱりッ! 騙すつもりだったのか!!」

 

「違う! そうじゃない!!」

 

 

まどかは叫んだ。誤解を解くために手を伸ばした。

すると逃げている人間の頭部に槍が突き刺さった。

悲鳴が木霊する。次々に倒れていく人々。その向こうから現れたのは、やはりと言うか王蛇ペアだった。杏子は既にジェノサイダーと融合しており、まどかを見つけるとニヤリと笑ってみせる。

 

 

「杏子ちゃん……ッ! なんで! どうして!!」

 

「意外と早く会えたねぇ。アンタのおかげですっかり元通りさ」

 

 

北岡に言われた事が、こんなに早く現実になるなんて。

覚悟していた事とは言え、心が抉られる気分だ。

もしもまどかが杏子を助けていなければ、今の人達は死ななかったのだから。

 

 

「う――ッ!」

 

 

罪悪感が不快感に代わり、まどかは口を押さえて蹲った。

それを見て杏子は声をあげて笑い始める。

すぐにそこへ浅倉の笑い声も重なった。

 

 

「北岡ァ! また会ったな」

 

「会いたくなかったけどね」

 

 

睨み合う王蛇とゾルダ。

面倒なシチュエーションだが、ゲームを続ける以上は仕方ない。

 

 

「城戸。ピンクいのを連れてに先に行け」

 

「え!?」

 

「浅倉は俺が引き受ける。佐倉杏子は騎士には攻撃しないルールを自分に作ってるから大丈夫だ」

 

「それはできない! 北岡さんを置いていくなんて!」

 

「そうですよ! わたしも残ります!」

 

「友達と弟がいるんだろ? 全部守るなんてお花畑みたいな事言ってないで、優先順位ははっきり決めたら?」

 

「……!」

 

 

戸惑うまどかだが、真司はその言葉を胸にしっかりと受け止める。

たしかに守りたいとは思うが、譲れないモノもある。

 

 

「行こう、まどかちゃん!」

 

「え!? で、でも!」

 

「それでいい、早く行け!」

 

 

龍騎はまどかの手を掴むと、廊下を走っていく。

今は助けられなかった人を悔やむより、残した北岡の心配をするより、もっと大切な事があるのかもしれない。

真司は自分の心を必死に騙しながらまどかの手を引いていく。

この繋いだ手の感触がある限り、『独断』で動く事はできない。

 

 

「言ったよな、次は殺すって!!」

 

 

もちろん杏子も逃がす気は無かった。まどかを追いかけるために走り出す。

だが既にゾルダはアドベントのカードを発動していた。龍騎達と杏子の間に、マグナギガが割り入って壁となる。廊下を埋め尽くす鋼の巨人。杏子はイライラしたように笑うと、すぐに槍を振り上げた。

 

 

「……待てよ?」

 

 

マグナギガは騎士の一部だ。

杏子がゆっくり後ろを見ると、王蛇が首を振ってるのが見えた。

触るな、触れるな、さっさと退け。無言の圧力を感じて杏子は後ろに下がっていく。

 

 

「浅倉! あれ邪魔なんだ! 早く殺せよな!」

 

「冗談だろ? もっと楽しませろ、しばらく退屈してたんだ」

 

「チッ!」

 

 

杏子は廊下の端にドガっと座ると、不機嫌そうにポケットからどら焼きを取り出して食べ始める。

ゾルダは一旦マグナギガを解除すると、同じ場所に素早くギガミラーを設置。

これでミラーモンスターを召喚できる状態に持っていった。

 

 

「浅倉ぁ! あの鏡でもダメなのか!」

 

「ああ」

 

「なんだよ! もう知らない!」

 

「あららら、浅倉さん、根に持つ男はモテませんよ」

 

「アァァア、別にあの時の事はどうだっていい!」

 

 

そうだ。過去の事はどうでもいい。

大切なのは今だ。今ココにムカツク奴が同じ参加者として同じ場所に立っていると言う事だ。

 

 

「戦えばいい、最後の一組になるまでな!」

 

「……ま、勝つのは俺だけどね!」

 

 

銃を構えるゾルダ。

そして同じくベノサーベルを構える王蛇。

つまらなそうに見つめる杏子。

 

 

「遊ぼうぜ――ッ!」

 

「やれやれ」

 

 

走り出す王蛇。

ゾルダはすぐに銃を乱射して近づけさせまいと試みる。

しかし王蛇は足に向けて放たれた弾丸はステップで回避。

上半身に向けて放たれた弾はサーベルで弾いて近づいてくる。

 

 

「チッ! 銃を剣で弾くなよ!!」

 

 

ゾルダは後退しながら銃を連射していく。そして近くにあった階段を下りる事に。

高低差のある場所ならば王蛇も銃を回避しにくい筈だ。

踊り場についたゾルダは迫ってくるだろう王蛇に備えて。ギガキャノンを召喚させた。

これで迎え撃つ準備は完璧だが――。

 

 

「下らん」『アドベント』

 

「しまっ!」

 

 

王蛇が発動したのはベノダイバーのカードだ。

ゾルダの足元が水面の様に揺らめくのを確認すると、心の中で舌打ちを行う。

ユウリと杏子の戦いを見ていたゾルダ。その存在を確認していたのに忘れていた。

すぐに武装をパージすると床を蹴って階段を転がり落ちていく。

しかしその判断のおかげで、地面から飛び出したベノダイバーの突進は避ける事ができた。

 

 

「ハハァッ!」

 

 

だが王蛇にとってはそれはチャンス。

ゾルダが階段から転げ落ちる間に、手すりを掴んで跳躍。一気に階段を飛び降りていく。

そのまま勢いに乗せてベノサーベルを振り上げる王蛇。

しかしゾルダも倒れた際に、カードをしっかりと抜いていた。

 

 

『アドベント』

 

「!」

 

 

ゾルダの前方に出現するのはマグナギガ。

その巨体で振り下ろされたベノサーベルを受け止めると、すばやくガトリングを発射して王蛇の装甲にガリガリと無数の傷をつけていく。

 

 

「グゥッ!」

 

 

ベノサーベルを盾にするが、そんなものでは衝撃は防げない。

すぐに後ろに仰け反りながら後退していく。

 

 

「………」

 

 

ゾルダの脳裏に、先ほどの子供達が過ぎった。

ここで暴れては建物の倒壊を招く可能性もある。

 

 

「うんざりだな」

 

 

ゾルダはアドベントを解除すると、全力で走り出した。

少しはなれたところに食堂があるはずだ。それにあの子供達から王蛇を遠ざけることが出来る。

 

 

「鬼ごっこか? 嫌いじゃないぜ」『アドベント』

 

 

現れたのはベノスネーカー。

廊下を這うと、猛スピードでゾルダに向かっていく。

 

 

「アホが! 知能の差を見せてやる!」『シュートベント』

 

 

ゾルダは振り返ると、ギガランチャーを取り出した。

廊下と言う一直線の場所だ、ましてやベノスネーカーは巨体。

弾丸は絶対に避けられない。ギガランチャーは通常カードでありながら、魔女や使い魔を粉砕する威力を持っている。当然ミラーモンスターとて受ければタダではすまない筈だ。

 

 

「吹き飛べ!!」

 

 

ギガランチャーから弾丸が発射され、反動でゾルダは大きく後ろへ下がっていく。

 

 

「ハハハハハッ!」『ユナイトベント』

 

「何ッ!?」

 

 

だが王蛇も考え無しの召喚ではなかった。むしろ、ベノスネーカーを召喚した目的はココにあった。

つまり最初から囮だったのだ。王蛇はベノスネーカーに銃弾が当たる瞬間、合成のカードを発動させた。それが意味する所はただ一つ。

 

 

「クッ!」

 

 

ゾルダはギガランチャーを抱えて走る。

ただの力まかせに暴れるだけのファイターかと思えば、考える所はしっかりと考えているじゃないか。厄介な話しだ。ゾルダが視線をベノスネーカーに移すと、既に銃弾と融合は完了していた。

 

 

「シャアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

吼えるベノスネーカー。

体が機械的になり、金色の鎧が追加されている。『ストライクスネーク』と呼称しよう。

 

 

「ァアァァァ……! 殺れ」

 

 

王蛇が命令を下すと、なんとストライクスネークの体が変形を始めた。

トランスフォームと言うのか。巨大な円柱の先に半円の顔がつく。

 

 

「マジか――ッ!」

 

 

呆れる様に言い捨てたゾルダ。

間違いない『弾丸』の形だった。

 

 

「シャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

やはりと言うか。ストライクスネークは猛スピードでゾルダに向けて突進を仕掛けていく。

だが早いとは言え一直線の軌道だ。ゾルダは再びギガランチャーを発射して、弾丸をぶつけていく。

 

 

「くっ!」

 

 

ストライクスネークが動きを鈍った。

だが鈍っただけだ。また飛んでくる。

それはそうか。ギガランチャーの弾丸と、ベノスネーカーの力を持っているのだから。

ただ動きが鈍る事は回避のチャンスが生まれる事だ。

ゾルダはその場に倒れ、姿勢を低くする。すると虚しく上を通過していくストライクスネーク。

 

 

「ハッ! 飼い主に似てバカな蛇だな!」

 

 

ゾルダが立ち上がると――、そこへベノダイバーが突っ込んできた。

二段構えの突進だった。ゾルダは苦痛の声をあげて吹き飛んでいく。

 

 

「うぉオオ!」

 

 

だが吹き飛ばされたおかげで少し開けたところに出た。

食堂だ。並んだ椅子を蹴り飛ばしながらゾルダは中央に向かって走る。

同時に空中を旋回して戻ってくるベノダイバー。しかしゾルダはマグナバイザーを連射してベノダイバーを射撃していく。いくら早いとは言え、予測して撃てばいいだけだ。

防御力はそれほど無いのか、すぐにベノダイバーは墜落して動きを止めた。

 

 

「ハァァアッ!!」

 

 

だが背後から笑い声。

王蛇がメタルホーン――、正確には『ベノホーン』を構えて向かってくるではないか。

ゾルダは引き返し、地面に落としていたギガランチャーのもとへ走る。

 

 

「ハハァッ!」

 

「チッ!」

 

 

しかし王蛇の方が僅かに早かった。

ゾルダはギガランチャーを掴みはしたが、そこでベノホーンによって腕を叩かれた。

衝撃で武器を放してしまう。向こうも向こうでギャンブルをしかけてくる。

もしもゾルダが武器を先に構えていたら、王者の体には風穴が開いていたかもしれないのに。

 

だが結果は結果だ。ゾルダはギガランチャーを諦めてバックステップ。マグナバイザーで王蛇を狙う。しかしベノホーンは盾の役割を持っている。上半身を狙う弾丸は全てガードされてしまった。

だったら下半身だ。ゾルダはさらにバックステップを行いながら足元を狙っていく。

 

 

「うォ!!」

 

 

しかし王蛇は前転。

一気にゾルダの方まで転がると、勢いに乗せて武器を突き出してくる。

 

 

「グアッ!」

 

「ハッ! 命中だァ!」

 

「やってくれるね!」『ストライクベント』

 

 

ゾルダはギガホーンを構えて王蛇と対峙した。

ふと思う。浅倉には背負うものが無いのだろう。きっとそうだ。

だからあれだけ振り切れる。殺す事を躊躇わない王蛇と、殺す事に怯えを抱いたゾルダ。

 

 

「――ッ」

 

 

しかし、だからどうしたと言う話である。

人を殺す事に躊躇いを覚えたとしても、目指す勝利はあくまでも『一人勝ち』である。

ならばいずれにせよ王者の存在は邪魔。

そう、邪魔。邪魔、邪魔、邪魔。

 

 

(だったらどうする?)

 

 

決まってる、殺すんだ。

向こうは異常者だ。痛み、恐怖、戦いの緊張感を快楽に変えるヤツなのだ。

普通に戦えばゾルダに希望は無い。いつか根気負けしてしまう。

 

 

「だったら――ッ!」

 

「ハッ! どこを狙って――」

 

 

銃を撃つ。外す。

違う――。王蛇はすぐに顔を上げた。

確かにゾルダは狙いを外し過ぎた。王蛇の『上』を撃ったのは、狙ってやったと思われても仕方ない。

 

 

(とは言え、もう遅い)

 

「グッ! オォオォオオオ!!」

 

 

踏みとどまろうとする王蛇だが、少しタイミングが遅かった。

王蛇の頭上、ふきぬけの空間の上に、大きなシャンデリアがあった。

銃弾によって接合部が切り離され、シャンデリアは真下にいた王蛇に容赦なく襲い掛かった。

 

 

「綺麗だな」

 

 

シャンデリアは粉々になり、キラキラと光る破片を撒き散らす。

 

 

『ファイナルベント』

 

「!?」

 

 

獣の咆哮が背後から聞こえた。

ゾルダが振り返ると、空間を破壊してベノゲラスが突進してくる。

 

 

「おぅわ!!」

 

 

角がゾルダを吹き飛ばし、ベノゲラスはそのままシャンデリアの残骸に向かって走っていく。

 

 

「そうだ……ッ! 三体目がいたか――ッッ!」

 

 

これは予想外だったか。ゾルダはすぐに立ち上がる。

一方でシャンデリアの残骸から聞こえてくる笑い声。

 

 

「はいはいそうですかそうですか!」

 

 

ゾルダはもううんざりだった。

まさかアレに潰されてまだ笑えるなんて。

 

 

「悪くない! ただ突っ込んでくる馬鹿はつまらないからなァ!」

 

 

そう言ったのに王蛇はヘビープレッシャーでただただ突っ込んでくる。

鎧には多くの傷が見えたが、中身は随分と元気そうだ。

いやもちろんダメージは受けているが、それを上回る興奮が王者の痛みを和らげていた。

異常なアドレナリンの分泌、王蛇は死に近づけば近づく程に興奮していく。

 

 

「………」

 

 

だがゾルダもまた選ばれたものには変わりない。

死に近づけば近づくほど、冷静さを発揮するものだ。

死に対してどこか達観し、客観的に見ることができるゾルダならではだろうか。

 

 

「あんまりこう言うのは好きじゃないんだけどな」

 

 

一か八か。ゾルダは向かってくる王蛇をギリギリまで引きつけて地面を転がる。

ヘビープレッシャーは確かに貫通力と威力は高いかもしれないが、その射程はあくまでもメタルホーンを突き出している範囲に限定されている。

そして王蛇とベノゲラスの体勢を見るに、常に動いていなければならないことになる。

 

王蛇は地面と平行になる様にしてベノゲラスの肩に乗っている。

乗っていると言うよりは加速を利用してくっ付いていると言えばいいか。

とにかく、ベノゲラスが停止すれば王蛇はその態勢を維持できずファイナルベントは中断される。

 

だからゾルダは地面を転がる。

当然そのままではベノゲラスに蹴られて踏まれるので、何度も地面を転がってなるべく離れる様にした。さらに途中、銃弾をベノゲラスの足に撃ち込む事で勢いを殺していく。

プラス――、目。

 

 

「ほう!」

 

 

結果は成功だった。足と急所を撃たれてベノゲラスは悲鳴をあげた。

スピードが弱まる。ましてやゾルダは射程外。

王蛇ははすぐにベノゲラスから降りると、地面を転がって体勢を立て直す。

 

 

「ォオオ!!」

 

 

ゾルダはマグナバイザーを連射。

王蛇の鎧が銃弾の雨によってガリガリと削られていく。

振りそそぐ衝撃と、激しい痛み。殺したい相手である北岡から受ける攻撃は、より王蛇の体に苦痛を植えつける。

 

だがそれがどんどんと王蛇のテンションを上げていくのだ。

王蛇は銃弾の中、かまわずカードを抜いてバイザーにセットしていく。

常人は痛みを植えつけられれば恐怖し、体の動きが鈍っていく筈だが、王蛇はよりヒートアップしていくのだ。

 

 

「ハハハハハハッ!!」『ファイナルベント』

 

「!」

 

 

二枚目。王蛇はミラーモンスターを複数所持している

それはつまりカードもそれだけ存在していると言う事だ。

もちろん、ファイナルベントのカードだって例外ではない。

 

 

「ウラァアアアアアアアアア!!」

 

「ッッ!!」

 

 

毒液を纏った王蛇の蹴りが迫る。

どうする? ゾルダは反射的にガードベントを発動。盾である『ギガアーマー』を構えた。

しかし盾で、あの攻撃を真っ向から受けても大丈夫なのか?

 

ここが運命の分岐点かもしれない。

とりあえず勢いを殺す為、王蛇の足に向かって銃を一発撃ってみた。

だが毒液はいとも簡単に弾丸を溶かして無効化するじゃないか。

 

 

「クソッ!」

 

 

結局博打しかない。

 

 

「間に合うか――ッ!」

 

 

すぐに炸裂弾を撃てるバーストベントを発動しなければ。

ゾルダはデッキに手をかけるが、もう王蛇はすぐ目の前だった。

駄目だ、カードは発動できない。ゾルダはマグナバイザーを腰へ戻すと、両手でギガアーマーを構えて歯を食いしばる。

 

 

「ハハハハハハハ!!」

 

「グゥウウウウウ!!」

 

 

着弾していく蹴りの嵐。

気を抜けばシールドが吹き飛ばされそうになる。

しかもそれだけじゃなく確実に盾が融解していくのが分かった。

あと三発は耐えられない。ゾルダは意を決して行動を取る事に。

 

 

「だがッ、俺は賭けでも負けない男だ!」

 

「!」

 

 

ゾルダは両手で持っていた盾を片手に構えると、もう一方の手でマグナバイザーを抜いて王蛇の足に突きつけた。

タイミング勝負だった。連続で振るわれた足が目の前に来るその一瞬。

ゾルダはそのタイミングに合わせて銃を撃った。本当はバーストベントで強化した弾丸の方が良かったが仕方ない。距離が近いため、毒液にて溶かされる前に衝撃が伝わっていく。

 

 

「チィイイイイイッ!」

 

「ウラァアアアア!!」

 

 

しかしベノクラッシュは片手では防げない。

王蛇は蹴り上げで、ギガアーマーを吹き飛ばす。

最後の蹴り上げでゾルダを蹴るが、大分盾で防がれたため、勢いや毒液の量が足りなかった。

とは言え、それでもファイナルベントはファイナルベントだ。

蹴り上げられたゾルダは宙を舞い、机やら椅子やらを巻き込んで倒れていく。

 

 

「ウグ……ッ!」

 

「アァァァァア! 中々やる」『ファイナルベント』

 

「は!?」

 

 

すぐに起き上がる。

嘘だろ、ゾルダは思わず叫んだ。

だがおかしな話じゃない。三枚目があるのだから使うのは当然だ。

王蛇はゆっくりと首を回し、その隣にはベノダイバーがつく。

 

 

「あれは卑怯じゃないのか! 糞運営!」

 

 

ジュゥべえの蜂の巣にしてやりたいと切に思う。

仕方ない、出来れば温存しておきたい所だったがファイナルベントを切るしかない。

コスメ戦では威力を弱めていたため、もう再構築は済んでいた。

 

 

「―――――」

 

 

カードをデッキから抜き取ったはいいが、何故かそこで動きを止めてしまう。

ゾルダは力なくカードを落として沈黙した。

一言でいうなれば蠢いたのだ。蟲が、頭の中で。

ざわざわ、ワシャワシャ、グジュグジュ。

 

 

(こんな……、時にか――……ッッ)

 

 

ふざけるなよジュゥべえ。

明らかに前回よりも感覚が早くなっているじゃないか。

 

 

「………」

 

 

違う。そうか、違うのか。

そうだな、そうだ。効力は変わってない、なのに感覚は早くなった。

それはつまり体がそれだけガラクタに近づいたって事なんだろう?

 

 

「あ」

 

 

ゾルダが気づいた時には、目の前にベノダイバーの『目』があった。

殺意を孕んだ目だ。そしてすぐにゾルダの意識はブラックアウトする。

 

しかし別の景色が広がった。

なつかしい光景だった。ハイドベノンの衝撃で、脳にあった記憶がフラッシュバックしているのだろう。

 

 

『先生は、最後まで人でいてください』

 

 

そうだ。俺だってそれを望んだんだ。

俺は高貴な人間だ、才能や容姿に恵まれた素晴らしい人間だ。汚らしい獣なんかじゃない。

人は俺を称えるべきだ。俺は人の上に立つべきだ。やりたい事をやって、好きな物を食って、好きな女と付き合う。

そうだ、世界は俺の望むように動くべきだ。

 

 

『センセー!』

 

 

ん? ああ、お前か。

お前はお気楽でいいな。それが原因で死んだのかもしれないが。

いや、だとしたらお似合いだ。俺は子供が嫌いなんだざまあみろ。

 

 

悪くない人生だったんじゃないか?

友達がいて、好きなヤツがいて、ソイツの為に頑張ろうと奮闘する。

どれもこれも俺には理解できない生き方だ。特に報われない恋に心を締め付けられるなんて――。

 

ああ、いや。俺にもそれは理解できるか。

知ってるか? 令子さんって言う人がいるんだが、あれは久しぶりに運命を感じたね。

でも困った事に彼女は俺の魅力にまだ気づいてくれてないんだ。

珍しいね、でもそれが逆に燃えてくるって言うか。

 

そうだ。

それにもう一つだって理解できたか。

俺にも友達がいたんだ。たった一人だが、ゴロちゃんは最高の……。

 

 

『センセーは……、誰も殺さないでね――』

 

 

なんでお前はあんな事を俺に言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ゾルダが意識を取り戻したとき、彼は仰向けに倒れていた。

吹き抜けになっているため、天井部分は遥か上にある。

天井にもステンドグラスがあり、青白い光が自分を照らしている気がした。

 

体中が痛くて仕方ないと言う事だ。

どうやらハイドベノンを真っ向から受けてしまったらしい。

ゾルダは元々装甲が厚く、防御力は他の騎士よりも高い方だ。

変身解除とまではいかなかったが、痛くて動けないのだからあまり変わらない。

何と言うか、非常にマズイ展開である。

 

 

「終わったな」

 

 

杏子は上の階から食堂の様子を覗いていた。

その顔はなんとも不満げである。これより王蛇はゾルダを殺害して一ポイントを手に入れるのだから。

 

 

「楽しかったぜェ、北岡ァ!」

 

 

王蛇はベノサーベルを構えてゆっくりと歩いてくる。

 

 

(そうか、死ぬのか俺は……)

 

 

ゾルダはゆっくりとため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんて、思うわけねぇだろうが!)

 

 

自分は高貴な存在だ。世界にとって必要なスーパー弁護士だ。

こんなふざけた所で終わるわけにはいかない。

たとえ体が動かなくとも、なんとかしてチャンスを作ってほえ面かかせてやればいい。

本当に強いのが誰なのか。弱者を操り、利益を得る者が誰なのかを教えてやる。

ゾルダは心の中で強かな想いを燃やしていく。

 

 

「何をしている」

 

「アァ?」

 

 

その想いに呼応したのか、足音が聞こえた。

王蛇が振り返ると、そこには漆黒の騎士と魔法少女が立っていた。

ナイトとかずみだ。本部内を移動している所に鉢合わせたのだろう。

 

 

「騒がしいと思って来てれば。なるほどな」

 

「お前、確かにガイの時にホールにいたな」

 

「ナイトだ」

 

 

重要なのは、お互いが敵同士だったということだ。

 

 

「む」

 

 

かずみは、倒れているゾルダを発見する。

緑色の騎士。それは記憶にあった会話を呼び起こさせる。

バスの中にてまどかと会話をしていた、そしてさやかのパートナーの話題も。

 

 

「蓮さん、あの人助けよう」

 

「は?」

 

「知り合い!」

 

 

地面を蹴るかずみ。

十字型支援ビットであるシビュラを展開して王蛇を狙う。

まさに無数の手裏剣。王蛇はそれをベノサーベルでガードすると、無言で停止する。

抵抗も考えたが、かずみは魔法少女だ。自分が動く相手ではない。

 

 

「ひゃッッほう!!」

 

「!」

 

 

上から杏子が降ってきた。

 

 

「丁度いい所で!」

 

 

これなら自分も戦う事ができる。

丁度北岡の前に着地したため、かずみからしてみれば何とも邪魔な存在である。

 

 

「どいて! その人助けたいの?」

 

「や・だ・ねッ!」

 

 

すかさず杏子は槍をふるって攻撃を仕掛けていく。

 

 

「もうッ、なんなの!?」

 

 

襲われたら防ぐしかない。

十字架と槍が激しくぶつかっていった。ならばと杏子はすぐに槍を引き戻し、右から振るった攻撃を次は左から振るっていく。

 

 

「フッ!」

 

「お!」

 

 

かずみは逆からの攻撃を十字架ではなく、腕でガードした。

いくら魔法少女の防御力があったとしても、杏子のパワーならば骨折くらいはしている筈。。

しかしかずみは自らの体を鋼に変える魔法を使って、腕の防御力を最大にまで上げていた。

 

 

「そういえばそんなんあったっけな!」

 

 

地面を踏みつける杏子。

するとかずみの立っている部分が赤く光る。

異端審問。かずみはこの技をコピーしているため効果は分かっている。

すぐに地面を蹴って後ろへ跳び、マスケット銃を構えた。

 

 

(アレはマミの――! ああそうか、そういう魔法だっけ?)

 

 

学校のホールで戦ったときに何となく観察していたが、かずみは相手の魔法をコピーできる。

杏子は迫る弾丸をなんなく弾いて様子を伺った。

杏子は曲がりなりにもマミの弟子だ。魔法少女とその魔力管理に関する訓練は、嫌と言う程させられた。

 

さらに杏子は固有魔法を失ったゆえ、独自に訓練を重ねた。

その一つが、魔法少女と魔女の気配を感じる事だ。

これは魔法少女が各々もつ才能のようなものである。たとえばかずみのアホ毛のように、魔法少女の中には離れていても魔女の気配を感じることができるものがいる。

それは魔力を感じているからだ。その感じ方も各々で異なるが、杏子のそれは『嗅覚』に似ていた。

文字に色を感じたり、音に色を感じる共感覚のようなものだ。

 

 

「……?」

 

 

杏子は目を細める。

ホールで戦ったときは多くの参加者がいた為、匂いが混じりに混じっていたが、こうして対峙してみると何やら強烈な違和感がある。

杏子はその正体を確定づける為、神経を集中させていく。

 

一方で王蛇とナイトもぶつかり合っていた。

ホールで戦った記憶があった為、敵対する流れはスムーズなものだ。

ナイトはゾルダをそれほどよく知らないが、少なくともかずみが助けようと言っている異常、優先して排除すべきは王蛇の方だと睨んだ。

 

 

「お前も俺と遊んでくれるのか?」

 

「下らん。すぐに終わらせてやる」

 

 

ゾルダにトドメを刺したいところではあったが、新しい獲物が来たのならそれはそれで。

それが王蛇と言う者の性質である。対してナイトも、そろそろ決断したかった。

真司には悪いが、殺してもいい相手は存在すると思っている。

覚悟を決めなければならないのではないか。ずっと思っていた事だ。

そろそろ向き合うべきなのだ。恵里は放置しておいても絶対に治らないことを。

 

 

「予行練習だ。来い、俺がお前を殺してやる」

 

「威勢が良いのは嫌いじゃないぜ」

 

 

互いに剣を構えて走り出す両者。

戦う事でしか叶えられない願いがある。戦う事でしか至らぬ境地がある。

それを考えてナイトは剣を振るった。ぶつかり合うベノサーベルとダークバイザー、二人は顔を近づけて威嚇を行う。

 

 

「お前は何故戦っている?」

 

「ァア?」

 

「ゲームに勝って、何を叶える!」

 

 

剣の扱いならがナイトの方が上だったか、王蛇の剣を下から弾き、大きな隙をつくらせる。

がら空きになった胴体へ一閃。王蛇は胸の鎧から火花をあげて後退していった。

しかし痛みに怯む素振りは見せない。むしろ刻まれた傷をなぞり、戦いと言うものを実感している様だった。

 

 

「そんなのどうだっていい」

 

「何?」

 

「大事なのは殺しあう事、このゲームそのものだ」

 

 

人を超えた力を使って殺しあう。これほどまでに興奮する事は無い。

故に王蛇にとって最も大事なのはこの瞬間であり、勝ち残ったが故に与えられる商品はどうでも良かった。

ただ戦えればいい、ただ食えればいい。

しかし今改めて言われると叶えたい願いと言うモノが明確になった。

それは――

 

 

「そうだな、ずっとこのゲームが続く様に願ってやるよ」

 

「フン……!」

 

 

呆れたが、ソレで良かった。良心が痛まずに済む。

恵里の命がかかっている。彼女の未来がかかっている。

今も彼女の時間は失われていく。時の価値はあまりにも大きい。

あれがしたい、これがしたい。その可能性が消えていく。

だったら早く恵里を解放させなければならないのではないか?

それがナイトに出来る――、贖罪ではないのか。

 

 

「お前を、殺す」

 

「やってみろ。やれるモンならなァ?」

 

 

互いに殺意を上乗せした一撃をぶつけていく。

しかしそれを見て、かずみは表情を歪めた。蓮は確実に参戦派に乗り換えつつある。

もちろんかずみとしては、どちらを選んだとしてもナイトについていくつもりだ。

いや、むしろ参戦派である方が良かった。

 

 

「………」

 

 

だが、ふと思い出してしまうのだ。

バスでまどかに言われた言葉。

 

 

『わたしはね、かずみちゃんがどんな答えを出しても……、友達でいたい』

 

「………」

 

 

わたしも、わたしだって――!

 

 

(海香……! カオル――ッ!)

 

 

どうすればいいんだ。

かずみは拳を握り締めて目を閉じた。

何が本当に正しい事なのか。自分はどうすればいいのか。ココに来て心がグラついてしまう。

とにかく優先するべきは何かを考えなければ。そうだ、考えるのだ。見失ってはいけない。

 

 

「あ」

 

 

と、思っていたら、自分の真下が赤く光っていた。

 

 

「キャッッ!!」

 

「おいおい、ボーっとしてると死ぬぜ!!」

 

 

異端審問がかずみの体に傷をつける。

だが痛みが、冷静にさせてくれた。

とにかくココはまずゾルダを助けて、そしてナイトを落ち着かせる。

それはまどかと戦いたくないから? それはまだかずみ自身も分からないが、とにかくここで戦っても何もならない。

 

考えた結果、かずみはココを逃げる事に。

バックステップで杏子から距離をとるとマントを広げて自分を覆い隠す。

その隙にナイトのカードを使用した。

 

 

『ユニオン』

 

「ハッ! 今更何をしようが無駄だっての!」

 

 

杏子は多節棍にモードチェンジを行うと、マントを縛り上げるようにしてかずみを捕らえる。

 

 

「あッ!」

 

 

かずみは縛られ、引き寄せられるとそのまま押し倒された。

杏子はかずみ腕を膝で押さえ、香りをかぐ様にして首に鼻を近づける。

 

 

「な、なに! なんでクンクンするの!?」

 

「……アンタさぁ」

 

 

気になっていた事がある。

相手の魔法をコピーすると言うのは、強力な魔法形態だ。

何故か体からは魔女の匂いもするが――、それはまだいい。

 

何故ならばいかにして強力な魔法だろうとも、元はその人間の願いの強さや才能に比例するからだ。

それはまどかにも言えることで、要するに魔法少女としての才能があったからこそ、強力な魔法形態や、質の高い魔力を獲得することができる。

かずみは変わっているが、そういう魔法少女だからと言えば説明がついた。

しかしその中で、一つだけどうしても分からない部分がある。

 

 

「アンタ、魔法少女じゃないだろ」

 

「……ッ」

 

 

かずみの表情は微妙だった。

驚いているとも取れれば、それほど変わっていないとも取れる。

そんな微妙な違いが杏子に分かる訳も無い。

 

 

「アハハハ! 悪い悪い、まあちょっと言い方が悪かったね」

 

 

かずみは確かに魔法少女だ。

杏子と同じく魔法を使い、杏子と同じようにキュゥべえと契約して願いを叶えた。

そしてその結果、大きな呪いを背負う様になった筈だ。

だからかずみが魔法少女ではないと言うのはおかしい。

では言い方を変えようじゃないか。

 

 

「お前、何で普通じゃない?」

 

「……ッ」

 

 

魔法少女と言う点は揺ぎ無い。

だがかずみには、明らかにおかしい部分があったのだ。

 

 

 

 

 

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