仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第41話 メランコリック クッリコンラメ 話14第

 

 

「かずみって言ったか。お前は普通じゃねぇ」

 

「……ッ」

 

「もちろん自分でも分かってるよな、それくらい」

 

 

マミから教わった。

グリーフシードは魔法少女にとって魔力を回復する重要なアイテムだ。

事と場合によっては、それを奪い合うために魔法少女同士で争いになるケースも珍しくは無い。

 

ましてあの頃の杏子達は見返りよりも正義の為に行動していた。

それが面白くないと思う者達も多かったろう。

だからマミは魔法少女同士の戦いになった時の対象方法を教えてくれた。

 

 

「相手のソウルジェムを狙うことだ」

 

 

尤もあの頃はまさかソウルジェムが砕かれれば死ぬとは思っていなかったが。

とにかく分かっていたのは魔法少女にとってソウルジェムは急所だと言う事だ。

そこを攻撃し排出させるかすれば、相手は怯んで魔力がブレる。

そこで変身が解除されるケースがある。その間に逃げればいいと。

 

 

「やっぱ魔法少女と戦う時は見るよな、ソウルジェムがどこにあるのか」

 

 

ソウルジェムは卵の形をした状態から変形して、衣装のどこかに付いている。

杏子は共感覚のようなものを持っており、魔力を匂いで嗅ぎ分けていた。

魔法少女の場合はやはりソウルジェムから最も強い匂いが放たれる。

 

 

「始め、アンタのソウルジェムがどこにあるか全く分からなかった」

 

 

だから匂いに集中した。

今、間近で嗅いで確信する。

 

 

「お前。何で"ソウルジェムが二つ"ある?」

 

「……!」

 

「耳のピアス、それがそうなんだろ?」

 

 

かずみの両耳にある鈴の形をしたピアスから、同じ強さの匂いがした。

ただ分かれているだけと言えばそれだけだが、杏子にはどうにも引っかかってしまう。

 

たとえばそれは不利なのではないかと言う事。

ソウルジェムとはすなわち魔法少女の魂そのものだ。破壊されれば待っているのは死である。

かずみはその急所をわざわざ二つに分けたと言うのか?

 

魔法少女の衣装は契約者の心情を反映して構築される。

あまりにも気に入らないデザインだった場合は、インキュベーターに言えば変えてくれるとか言う噂を聞いた事がある。

 

それは置いておいて。

かずみはゲーム参加者だ。一人だけ急所が二つあるなんて不公平ではないか。

ハンデ? かずみの魔法が強力だから? いや、確かにそれも可能性の一つではあるが、鈴型と言うのも気になる。

 

ここで杏子は様々な可能性を考えてみた。

例えば二つのソウルジェムは、一つが破壊されてももう一つが残っていれば大丈夫であるとか。

それならば、このデザインでも問題はないだろう。

 

しかしどうしても気になるのは、何故かずみだけがそんなデザインなのか?

杏子は今まで多くの魔法少女を見てきた。しかしかずみのようにソウルジェムが二つに分かれていると言うタイプは誰一人いなかった。

 

 

「なあ、ソウルジェム見せてよ」

 

「!」

 

 

杏子は自分のソウルジェムを取り出して見せる。

卵型の宝石。もしもかずみがそれを見せてくれたら、今回は見逃すと杏子は言った。

 

 

「信じられないかもしれねぇけど、神に誓う」

 

「……嫌だ」

 

「なんで?」

 

「信じられない。見せたらグサーッ! とか!」

 

「違うだろ?」

 

「……ッ」

 

「できないんだよな、お前のソウルジェムの形は根本からしてアタシ達とは違うんだろ!?」

 

「!」

 

 

今までいろいろな魔法少女を見てきた。

格好。武器。魔法形態。しかし取り外したソウルジェムだけは皆同じ形だ。

しかし、かずみは違うと?

 

 

「腕前を見るに、わりと昔には契約してたと見える」

 

 

例えば、キュゥべえが今日からデザインを変更しようと決めて、その契約者第一号がかずみならば納得できる話かもしれない。

しかしどうにもそのような様子はない。

 

 

「お前、何者だ?」

 

「おしえて――」

 

「?」

 

 

かずみはベッと舌を出して杏子を煽る。

 

 

「あーげない!!」

 

「……ハッ! そうかい。だったら死ねよ!!」

 

 

杏子は思い切りかずみの頭部を殴りつけた。

すると彼女の体が鏡の様に割れて消滅したではないか。

 

 

「ッ、へえ! 成程ね!」

 

 

槍を横に構える杏子。

そこにかずみの十字架が命中する。思えば先ほどカードを使っていたか。

トリックベント。つまりあれはかずみの分身だった訳だ。分身は細部までコピーできるため匂いもちゃんとコピーしていたようだ。

だがいずれにせよ杏子は十字架を受け止めた。これで仕切りなおしか。

 

 

「イル――」

 

「しまった!」

 

 

二段構え。

 

 

「フラース!!」

 

「ウグォオオオオオ!!」

 

 

かずみの体から黒い電撃が迸る。

帯電しながら吹き飛ぶ杏子。かずみはその隙に地面を蹴ってゾルダを回収した。

極限まで身体能力を強化しているため、かずみは片手でゾルダを持ち上げると、そのままナイトも掴んで逃げていく。

 

 

「お、おい!」

 

「ここは引こう! 蓮さん!!」

 

 

王蛇はすぐに腕を伸ばすが、掴んだのは黒い残像だった。

あっと言う間にフェードアウトしていくナイト達。

王蛇達の耳には、かずみのソウルジェムが鳴らしたチリンと言う音しか残っていない。

 

 

「クソッ! また逃げんのかッッ! どいつもこいつもワンパなチキンばっかりだ!!」

 

 

杏子は壁を蹴りつけて吼えた。

王蛇も壁を殴りつけ、静かに唸る。

 

 

「……対処法を考えないとな。盛り上がってきた所で切られるのは腹が立つ」

 

 

ふと、杏子の目にもっとイラつくものが目に入ってきた。

自分達の戦いを見ていたのか、廊下の隅で震えているエリスのメンバーだ。

杏子はそれを確認すると、イライラを全て踏み潰す様にして足を叩きつけた。

直後聞こえてくる悲鳴と断末魔。異端審問は目に入ったところならば、どこでも槍を出現させる事ができる。

 

 

「何だ? 参加者か?」

 

「いや、一般人。なあ浅倉、ちょっと提案があるんだけどさ」

 

「あン?」

 

「今だけルールを少し変更しないか? 特別ルールだ」

 

 

杏子は一点を見つめながら淡々と口にしていく。

一応口では笑みを浮かべているものの、その心に楽しさなど欠片とて無かった。

 

 

「エリスのバッジを付けた奴。何人殺せるか」

 

「張り合いが無い連中ばかりだ。つまらん」

 

「そういうなよ。中には化け物に変わるやつだっている。どういう原理か知らないけど」

 

「………」

 

「別に、乗らなくてもアタシだけでやるからいいけど」

 

 

杏子はたい焼きを取り出して口に咥えた。

 

 

「………」

 

 

王蛇は唸ると、変身を解除して杏子の咥えていたたい焼きを奪い取る。

そしてガツガツと一瞬で平らげると、ニヤリと舌を出して笑った。

 

 

「リーベには昔、いろいろ世話になった、イラつくヤツらばっかりだった」

 

「お、おお? つまり?」

 

「俺が勝ったら久しぶりに殴らせろ」

 

「ハッ、そうこなくっちゃ!」

 

 

杏子は浅倉の背中を軽く叩くと、嬉しそうに走り出す。

 

 

「殴ってきたら、殴り返すけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、どしてココきらきらぁ?」

 

「これはステンドグラスって言うんですのよ」

 

「すてんどぐらしゅ?」

 

「うーん、どう説明したらいいのでしょうか? ごめんねタツヤくん」

 

 

志筑仁美はタツヤの頭を優しく撫でながら呟いた。

二人がいる部屋には大きなステンドグラスがあり、天使の描かれている。

優しい光が仁美達を包み込んでいるが、とてもじゃないが穏やかな気持ちにはなれない。

 

仁美としても、暴徒はタツヤを狙っているように感じた。

結局、サキの家では何も出来ずに捕まってしまったが、これからの事を考えると不安で仕方ない。

しかしその場でタツヤが殺されそうものならば、仁美は暴徒達の靴を舐めてでも守ると覚悟していた。

 

だが激情にかられた行動とは裏腹に、自分達はこうして幽閉されている。

話を聞いて察するには、どうやらボスであるコルディアが指揮した事らしいが……。

何が狙いなのかはサッパリ分からない。とは言え、『処刑』と言う単語が聞こえてきたので油断はできない。

 

 

「それにしても……」

 

 

改めて周囲を確認する。

自分達が今いる個室の外には柵があった。つまりココは『牢屋』なのだ。

何故支援事業を主とする団体の本部に牢屋など作る必要があるのか?

仁美はゾッとしながらも、タツヤを怖がらせまいと気丈に振舞った。

幸いタツヤは幼い。自分が置かれている状況には気づいていないようだ。

ただ目の前に広がるステンドグラスに目を輝かせ、いずれくるだろう姉の到着を待っているだけ。

 

 

「………」

 

 

それに仁美が危惧するのはエリスメンバーだけではない。

部屋に飾ってある花瓶の中、そこから聞こえる小さな笑い声を確かに聞いていた。

いる。いるのだ、あの中に。異形、それは使い魔。でも自分じゃ勝てない、殺される。

 

 

(どうすれば……?)

 

 

仁美はギュッと目を閉じてひたすらに祈った。

 

 

(まどかさん、どうか早く――ッッ!!)

 

 

そうやって震える仁美を、隠し部屋でユウリがエリーを通して観察していた。

 

 

「ククク! さあ、早く来い鹿目まどか!」

 

 

まどかがあの部屋に来たら、花瓶の中にいる使い魔にタツヤを殺してもらう。

子供ならば不意打ちで即死させられるだろう。

運が良ければ呆気に取られている仁美も殺してしまおう。

脳を狙えばおそらく一発で死ぬ。それを見たまどかがどんなリアクションをするのか、想像するだけでゾクゾクする。

 

――などと、考えいたユウリ。

だが彼女は一つ重要なものを見落としていた。

それは牢の中に忍ばせておいたのは使い魔だけではないという事だ。

あの部屋にはもう一体、別の異形が存在している。

 

 

「緑の髪のお嬢様はついつい感情移入してしまいますな。誰だい、緑色の髪が不人気だとか言ったヤツぁ」

 

 

喫茶店でコーヒーを飲んでいるニコ。

彼女は自分の黄緑色の髪の毛を弄りながら、仁美達の映像を見ていた。

ビジョンベントの力により、ミラーモンスターが見ている景色を携帯に映し出す事ができる。

つまりあの部屋に潜んでいるもう一つの異形は、透明になっているバイオグリーザであった。

 

 

「さてと」

 

 

ニコはメールで仁美達の場所を他の参加者に送信する。

順調だった。このままならば、ニコの思い描いていた通りになる。

とは言え、ニコの表情は複雑だ。笑みを浮かべているが、額には汗が滲んでいる

理由は分かっている。だがその理由を口にする事は許されるのだろうか?

確かめたいと行動に移す事は――、許されるのだろうか?

 

 

「……余計な事は考えないようにしないと」

 

 

これで参加者は仁美達の所に向かうだろう。

助けれられればそれでいいし、死なせてもまあそれはそれで。

 

 

「はぁ……! ハァ!」

 

「大丈夫まどかちゃん?」

 

「う、うん!」

 

 

そのメッセージを見たまどか達は、ニコの予想通りと言うべきか、迷わずその場所に向かっていた。

もちろんそれを止めようとリーベエリスのメンバー達は各々武器を持って襲い掛かってくるが、まどかの結界の前では全てが無力といって良い物。

だがそうしていると襲い掛かってくるのだ、魔女とも付かぬ異形が。

 

 

「またかよ!」

 

「ッ!」

 

 

周りがステンドグラスに囲まれたホール。

二人の行く手を阻むように現れたのは巨大な蝙蝠『バット』だ。

耳が裂ける様な怪音波を撒き散らしながら、二人の元へ向かってくる。

気になるのは怪音波を他のメンバーに構わず放っていると言う事。

おそらくあの化け物に変われば味方の区別も付かなくなり、理性も失われるのだろう。

 

だが救いもある。

あの化け物に変われば、死ぬほどのダメージを受けても変身が解除されて人間が輩出されるだけ。

つまり思い切り攻撃しても問題はない。むしろ思い切り攻撃したほうがいい。

特に今は人質の居場所が分かった大事な時だ。ココで足止めを食らっている時間は無かった。

 

 

「降り注げ! 天上の矢!」

 

 

まどかが手をかざすとバットの頭上にに魔法陣が出現。

まどかは矢を引き絞り、そこへ光の矢を一発放った。

狙いはバットからまるで外れているが、まどかが狙ったのは初めから魔法陣だ。

矢が魔法陣に吸収されると、魔法陣から光の矢が雨のように降り注いでいく。

 

『マジカルスコール』。

体の大きいバットはそれだけ当たり判定がある。

連続で矢を背中に受けてしまい、怪音波が止まった。

そこを狙うのは龍騎だ。ドラグアローの矢がバットの頭部へ突き刺さると、菱形の鏃が分離して埋め込まれる形になった。

 

 

「トドメだッ!」『ストライクベント』

 

 

ドラグレッダーが龍騎の周りをゆっくりと旋回する。

ドラグクローを構える龍騎。バットはそれを確認すれど、マジカルスコールが継続中のため逃げることができなかった。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ギギギギギィイイイイイ!!」

 

 

昇竜突破。巨大な炎の塊がバットに直撃。さらに埋め込まれていた菱形の燃料に共鳴してさらなる爆発が起こる。爆風で周囲にあったステンドグラスが粉々になり、バットに変身していた人が地面に倒れた。

 

 

「魔女じゃないなら、アレは一体……」

 

「と、とにかく今は仁美ちゃんとタツヤを!」

 

「そっか! 了解!」

 

 

龍騎達は頷きあい、足を進める事に。

ホールを抜けて突き当たりの角を曲がり、そのまま真っ直ぐに進めば、仁美たちが幽閉されている牢屋部屋に繋がる隠し階段があるとメールには書いてあった。

 

罠の可能性もあったが、今のまどか達にその危険性を考える余裕は無い。

とにかく親友と、大切な家族を救いたい。もう失うのは嫌だった。もう友達を守れないのは嫌だった。だからまどかは一心不乱に曲がり角を目指す。

 

 

「!!」「ッ!」

 

 

しかし二人は足を止める事に。

広い廊下だった。中心に、胡坐をかいて座っている魔法少女が一人。

知り合いと言えばそう。しかしあまり良い関係とは言えないが。

 

 

「んもーう、遅いんだよぉ!」

 

「キリカさん……!」

 

 

キリカはまどか達を確認すると、あくびをしながら立ち上がり、大きく伸びを行う。

 

 

「な、なんでここに――?」

 

「なーんで? うへへへぇ、決まっているじゃない――ッ! かッ!!」

 

 

キリカは首をダランと力なく下げる。

さらにそのままぐるぐると首を回す。異常めいた行動に、まどかは思わずゴクリと喉を鳴らした。

申し訳ないが、プラスのイメージが持てなかった。

そしてこの世の定理と言うべきか、嫌な予感ほどに当たると言うものだ。

キリカは黒い爪を伸ばし、それをまどかに向ける。

 

 

「ゴメンねピンクちゃん、ココは通せない」

 

「どッ、どうして!」

 

「あれ? ピンクちゃん、怖い顔をしてる」

 

「お、お願い! 大切な友達がいるの! そこを通して!!」

 

「俺からも頼む!」

 

 

頭を下げる龍騎とまどか。

しかしキリカは鼻を鳴らす。

友達のため。立派なことだ。なぜならキリカもまた、大切な親友の為に戦っている。

だからココは引けない。織莉子の為に、織莉子が望む世界を手に入れるために。

 

 

「私の目的はキミ達を足止めすることだ。それだけ全てなんだよ」

 

「……ッ!」

 

 

結局、戦うしかないのか。

まどかも弓を構えて目を細める。

スターライトアローで相手を牽制し、隙を見て一気に駆け抜けるしかない。

キリカの魔法は減速魔法。長期戦は圧倒的に不利なのだから。

 

 

「じゃあピンクちゃんとドラゴンくんには消えて――って、わわわ!!」

 

 

キリカが一歩足を踏み出すと、バチュンと音がして火花が散った。

すると黒い髪をなびかせて、暁美ほむらが走ってくる。

 

 

「お、おまえぇぇえ!」

 

「退きなさい呉キリカ。でないと、殺すわよ!」

 

 

キリカは歯を食いしばる。

ほむらの魔法は厄介だ。減速魔法は時間停止に対抗できるものの、問題は減速スピードが時間に比例していることだ。

まだそこまでスピードが落ちていない。時間停止を発動されたら終わりだ。

 

さらにここでキリカにとって絶望的な状況が生まれる。

メールを見たのはもちろん他のメンバーもだ。

つまりまどかの仲間が続々とココにやって来ると言う事だった。

 

 

「大丈夫かまどか!」

 

「サキお姉ちゃん!」

 

「生きてる? 真司!」

 

「あ、ああ!」

 

 

ファムペアがほむらの背後から駆け寄ってくる。

さらにナイトペアもまた姿を見せた。

続々と集まってくる龍騎陣営、キリカは悔しそうに歯を食いしばりながら後退を始める。

 

 

「!」

 

 

さらに、ほむらのパートナーである手塚。

そしてその隣には、東條の姿があった。

 

 

「とーじょぉぉおおお……ッ!」

 

「………」

 

 

キリカは悔しそうに歯を食いしばり、東條を睨みつける。

東條にリアクションは無い。無言で目を逸らしている。

何度もピリピリとした空気を経験してきたが、今日は今までの比ではない。

どれだけ嫌悪し合おうが、今まではまだ命のやり取りは存在しなかった。

だが今この瞬間、タイがペアは殺しあう関係へと明確に変化したのだ。

 

 

「もう一度言うわよ呉キリカ。そこを退きなさい。殺すわよ」

 

「ふざけ――ッ!」

 

「勝てると思っているの?」

 

「ぐぐぅッ!」

 

 

周りを見るキリカ、まどかの仲間がたくさんだ。

きっと彼女は人気者。自分と違って人気者。だから皆が味方する。

鹿目まどかは大馬鹿で●●の●●なのに味方する。

 

自分はどうだ?

今、大切な人の為に命を賭け様としている。

だけれどもそれを誰も認めない、私が悪者、私が悪役。

 

 

「へへ……!」

 

 

ああ、私らしくないなコリャあ。キリカは笑う。泣きそうだから笑う。

織莉子の役に立てないから泣きそうになる。

足掻いても暁美ほむらが時間を止めて眉間をバッキュン。

それでハイおしまい、何もできずにハイ終わり。

織莉子には使えないガラクタだと思われるのだろうか?

それはこの世界に存在するどんな拷問よりも辛い事だ。

 

 

「………」

 

 

キリカは織莉子に嫌われる事を想像して、思わず一筋の涙を流す。

それを呆気にとられた表情で東條は見ていた。

まどかも一瞬怯んだが、ここで引き下がっては仁美を救えない。

 

 

「ほむらちゃん、本当に殺したりなんか……、しないよね」

 

「………」

 

 

ほむらは少し沈黙するが、ゆっくりと首を振った。

 

 

「え?」

 

 

戸惑うまどかを無視して、ほむらはキリカを睨みつける。

 

 

「呉キリカ、美国織莉子……! 貴女達はどれだけ私の邪魔をすれば気が済むの?」

 

「……何を言っているのか私には分からないな。暁美ボムラ。ん? ベムラー?」

 

「チッ」

 

 

いい加減うざいのよ。

ほむらは溜まりに溜まった怒りを胸に、キリカを睨みつける。

 

そのキリカは、周りを見ていた。

皆同じだ。手塚も美穂も蓮も真司も、みんなみんなパートナーの魔法少女を庇う様に立っている。

騎士が魔法少女を守るべき存在だと自負しているからだ。

なによりも、守りたいと思うから守っているんだ。だから騎士は魔法少女の前に立っている。

 

 

「ねえ、とぉじょぉ。私このままじゃ殺されてしまうんだよ……」

 

「………」

 

「助けてくれないのかい?」

 

 

無理だよと――、目が語っている。

それを見てキリカは大きくうな垂れた。

 

 

「そうだね。また意味不明な英雄論で君は誤魔化すんだ」

 

 

なんだよそれ。

なんなんだよソレ――ッ! なんだよそれ!!

どうして、なんで、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうッ!!

なんでなんでなんでなーんでどうしてどうしてさー! どうして味方をしてくれないんだよ!

パートナーは味方なんだぞー! 最後の希望なんだぞぉ! なのに君は私にイジワルしようとしてる!そんなのおかしいょぉお! ありえないだろー! なんだよ、私がお前に何したっていうんだよ馬鹿ぁ!!

 

 

「……ちくしょう」

 

「!」

 

 

目に涙を貯めて、キリカは顔を上げる。

その手にはソウルジェムがあった。さらに一気に広がっていく魔法陣。

減速魔法の範囲が拡大されていく。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

これほどまでに一気に魔法を展開できるものなのか?

そこで手塚は気づいた。キリカのソウルジェムが真っ黒に濁りきっている。

だから魔法陣がこれほどまでに強大に展開できた。キリカは自分の魔力の全てを使って減速結界を構築したのだから。

 

 

「まさかアイツ……ッ!!」

 

「ええ、そうね」

 

 

本当に、芸の無い女。

ほむらは目を細めてキリカを睨み続けていた。

 

 

「織莉子……」

 

 

キリカは濁った目で、濁ったソウルジェムを見つめる。

 

 

(君は、自分のしたい事をすればいい。自分が望む事をすればいい)

 

 

世界が歪む。

景色が変わっていく。

 

 

 

「私は、いつだって君の味方だから」

 

 

だからせめて『アレ』だけは封じる。

 

 

「愛してるよ――」

 

 

キリカはソウルジェムにキスをすると、それを宙に放り投げた。

崩れ落ちる魂、現れたグリーフシード。

キリカは電池が切れたように崩れ、地面へと倒れた。

 

 

 

 

「上条くん」

 

「……?」

 

 

オーディンと織莉子は地面を蹴りながらリーベエリス本部に向かっていた。

その跳躍力はもはや飛んでいると言っても過言ではない。

そんな中で、織莉子は嫌悪の感情を告げる。

 

 

「私。キリカを裏切ってしまいました……」

 

「どういう事だい?」

 

 

織莉子は未来を知る事ができる。

あの時、父の情報を知りたいと願った時にキリカが足止めを申し出てくれた。

だがその時織莉子は視てしまった。キリカが魔女になっている光景を。

 

親友が魔女になる姿。それを止める方法はごく簡単だった。

行かないでと言えばいいだけ。父の死の真相を知る事を後回しにすればいいだけだ。

ただそれだけで織莉子はキリカが魔女になる事を止められた。

にも関わらず織莉子はキリカを行かせた。一時的な感情の高ぶりを解消したいがために、親友を絶望の化身へ変えた。

 

 

「最低だわ、私」

 

 

キリカを捨てたのだから。

天秤にかかったのは、後から絶対に分かる情報と、親友の尊厳だ。

それを織莉子は……。

 

 

「友人は大切にするべきだよ、織莉子」

 

 

などと友人の首を跳ね飛ばした男が、さも当然の様に言う。

おまけに上条は下宮が生死不明だと言うのにたいした興味も示さない。

だが上条は死が安息だと考え、下宮が死んでいるのならば、それはとっても幸せな事なのだろうと思っているらしい。

要は、考え方一つである。

 

 

「後ろめたい心があるのなら、彼女を助ければいい。それを可能にする力を僕達は持っている筈だ」

 

 

オーディンはそう告げた。

どんな手を使ってもキリカが救われる未来を作ればいい。

そして未来と言うものが人の死によって大きく変わるのなら――。

 

 

「僕が、その未来が提示されるまで殺し続けてあげるよ」

 

「………」

 

 

ありがとうとは言わない。織莉子はただ曖昧な笑みを浮かべて頷くだけ。

オーディンの考えは間違っている。しかし織莉子にとってはその言葉が何よりも都合のいいものだった。甘えようではないか。ありがたく。

一方で学校では、まどかやほむら達が構えている。

 

 

「あれが、呉キリカの……」

 

 

倒れたキリカと入れ替わる様にして現れたのは、『MARGOT(マーゴット)

裸のマネキンを三つ重ね合わせ、頂点の体は目玉のついたハットをかぶっている。

友愛の魔女。その性質は自己犠牲。キリカはただ織莉子の役に立ちたいと言う純粋な気持ちを掲げて魔女になった。それは絶望からじゃない、友情からだ。

 

 

「エビルダイバー!!」『アドベント』

 

 

手塚は変身を済ませるとエビルダイバーを召喚して、まどかと龍騎を背中へ乗せる。

魔女が生まれれば当然魔女結界が構築される訳だが、そうなれば隔離世界へ閉じ込められてしまう。

ならば仁美たちが危険な状態になっても助ける事ができない。

 

だからライアは魔女結界が構築される前にまどか達をこの場から引き剥がさなければならなかった。

とは言え既に魔女結界は広がっている。ましてや減速魔法が発動している状態だ。当然、エビルダイバーのスピードも遅くなっている。

 

 

『フリーズベント』

 

「!」

 

 

マーゴットの動きが停止する。見ればタイガがカードを発動していた。

魔女、使い魔、およびミラーモンスターの動きを停止させるフリーズベント。

マーゴットもその例に漏れず、彼女の時間が停止した事で魔女結界の構築も中断される。

 

 

「いいぞ東條!」

 

「うん。だから今の内に逃げたらいいんじゃないかな?」

 

 

エビルダイバーはそのまま魔女の脇を通り抜けると龍騎達を魔女結界の外に運んでいく。

さらにキリカが魔女化したのは好都合ではあった。

何故ならばルールにおいて、『パートナーが魔女化した場合は騎士が使役できる』のだから。

 

キリカはそれを知らなかったのだろうか?

とにかく既にタイガとパートナー契約を結んでいる以上、簡単に彼女を操る事ができるのだ。

現にフリーズベントの効果が切れた後もマーゴットは動かなかった。

 

 

「消しましょう」

 

 

ほむらが盾から武器を抜こうとする。

その時だ。タイガの背中から火花が散ったのは。

 

 

「なッ、何!?」

 

 

タイガは背中を押さえながら背後を見る。

そこには斧を持っているインディアンの様なモンスターが。

 

 

「ゲゲゲゲゲェ!!」

 

「うあッ!!」

 

 

オーディンの使役モンスター・ガルドストームは、咆哮あげて斧を振るう。

切られるというより叩かれる様な感覚。それだけじゃない、斧を振った時に嵐が発生。

タイガはまるで洗濯機の中に入れられた様に回転して意識を失った。

気絶したことで指示が途絶え、マーゴットは再び活動を再開する。

 

 

「東條! 大丈夫か!!」

 

「……っ」

 

 

返事は無かった。

その隙にマーゴットは魔女結界を完成させる。

幸い龍騎達を逃がす事ができただけでも良しとしよう。

ブティックの様な場所に変わるリーベエリス本部。

さらにここで異変が起きる。どうやらマーゴットはちゃんと『味方』を認識している様だ。

 

ガルドストームのスピードが一気に高速に変わった。

と言うよりも、マーゴットは減速魔法をガルドストームには掛けていなかったのだ。

対象を認識するだけの知能が、理性があるとでも?

 

 

「厄介な!」

 

 

ナイトやかずみが武器を振るうものの、ガルドストームから見れば止まっている様にしか見えない。

キリカが発動していた分と、マーゴットが発動している分が重なり、減速スピードは十分だった。

 

 

「ゲゲゲェッッ!!」

 

 

斧を構え、疾風を纏うガルドストーム。

高速で移動する彼を捉える事は不可能か?

 

 

「ゲ―――」

 

 

ガチャリと、時計の動く音が聞こえた。世界が無音に変わる。

ほむらは相変わらず冷めた目でマーゴット達を睨んでいた。

思い出す。過去のループ、キリカのせいで苦しみが一つ増えた事を。

 

故にこれは復讐だ。

減速魔法? そんな物、時間停止の前には無力だと言う事を教えてやろう。

確かに『以前』は応用で対策の手を取られてしまったが、今回はそうはいかない。

 

 

「………」

 

 

減速魔法は時間と共に強力になっていく。つまりほむら達はどんどん遅くなっていくのだ。

盾の砂を多めに使っても、確実に仕留めなければならない。

前回は銃弾を撃っても、着弾する前に反応されてしまった。

 

だから今回は逃げ場を無くせばいいだけの話だ。

ほむらはガルドストームの前後左右、さらに頭部と足を狙ってハンドガンの弾丸を放っておく。

計八発の銃弾はまさに檻だ。どこに逃げようとも確実に弾丸が命中する配置になっている。

ほむらはそれを確認すると、再び時間の流れを元に戻した。

 

 

「!」

 

 

目の前に迫る弾丸。

ノロノロ動く弾丸だ。反応はすれど、体をどう動かしても弾丸が当たってしまう事に気づいた。

 

 

「ゲェエエエエエッッ!!」

 

 

ガルドストームが吼えた。

すると自身を中心として小規模の嵐を発生させる。

ハンドガンの銃弾ともあってか、風が全ての弾丸を吹き飛ばす。

 

 

「………」

 

 

ほむらは髪をかき上げて怪しげに微笑む。

ガルドストームの発生させる嵐は、台風のようなものだ。

台風には中心部分に、風の影響を受けない『台風の目』と言うものが存在している訳で。

 

 

「ギゲェエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

ほむらは全て予想していた。

故に八発の弾丸とは別に、もう一つ攻撃を行っていたのだ。

それはガルドストームの真上。そこにロケットランチャーの弾丸を発射しておいた。

ガルドストームは周りにある銃弾を打ち消した事で、頭上の注意を怠っていた。

魔力を込めた重火器だ。弾丸の威力、スピード、機動性はそれだけ上がっている。

ましてや距離が誓い。弾丸はガルドストームの脳天に直撃すると、断末魔さえあげる暇なく粉々にしてみせた。

 

爆風で震えるフィールド。

呆気に取られるファム達をよそに、ほむらは再び時間を停止させるために盾のギミックを操作する。

不動の世界。同じ手で粉砕してやればいいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン

 

 

「――え?」

 

 

ほむらの前には高速で移動するマーゴットが。

次の瞬間、ほむらの体に黒い爪が刻まれる。

 

 

「え? 何で?」

 

 

スローになるほむらの世界。

何で時間が止まらないんだ?

 

 

「グぅッッ!!」

 

「!!」

 

 

すぐにライアがほむらを庇う様に立った。

アクセルベントで少しでも減速魔法に抵抗している様だ。

しかしそれでもマーゴットのスピードには追いつけない。

ライアは背中に無数の斬撃を受け、さらに巨体に押されて地面を転がっていた。

 

 

「……ッ」

 

 

マーゴットは他の参加者を狙い始める。

倒れていたほむらは、目を見開いて青ざめていた。

気づいたのだろう。何故時間が止まらないのか。それは盾の中に内蔵されている砂時計のギミックが原因だった。

 

ユウリに石化されたり、ルカによって氷で覆われた場合、時間は止められなかった。

これはつまり時間を止めるには盾にある砂時計のギミックを作動させなければならないからだ。

そこに異変が起きると、時間は止められない。

そして一番重要なのは砂時計だ。砂がある分だけ、ほむらは時間を停止させる事ができる。

 

 

「……嘘」

 

 

思わず、言葉に出てしまう。

ほむらの視線の先。砂時計の中には、大事な砂が一粒も残っていなかった。

しばらくの間、何が起こったのか全く理解できなかった。砂のストックが完全に切れたと言う事を認められなかった。

 

 

(何で――ッ!? 嘘ッ! そんな馬鹿な事が!!)

 

 

 

確かに普段よりは使用していたが、しっかりとペース配分を行っていた筈だ。

しかしそこには一つのカラクリが存在していた。

ガルドストームは囮だったのだ。ほむらはマーゴットが仕掛けトラップに掛かったのである。

 

マーゴットは、減速魔法を部分的に解除した。

場所は、ほむらの盾。正確には『砂時計』の部分だ。

これによってほむらの動きは遅くなるが、砂時計の落ちるスピードは通常時と同じになる。

 

ほむらはそれに気づかず、ガルドストームを確実に仕留める為に長時間の時間停止を行ってしまった。いくら時間を止めていても、環境が変わるわけではない。分かりやすく言えば水の中で時間を止めたとしても呼吸はできない。

それと同じだ。魔女結界中に存在している『減速魔法』からは逃げられない。

時間を停止していた後も減速魔法は適応されていた。

例えば、ほむらの一秒が実際は10秒だとしたら? ああ、それだけ砂が落ちていく。

 

 

「やられた……ッッ!!」

 

 

やられた、やられた! やられたッ! やられたッッ!!

ほむらは歯を食いしばり、マーゴットに対するありったけの憎悪を向けて睨みつける。

悔しさでおかしくなりそうだ。また邪魔をされるのか! しかも自分の存在意義を奪われた。

自分の切り札、メイン武器、強みが全て!

 

 

「許さないッッ! アァアァ!」

 

 

思わず頭を抱えて吼えた。

つまり以後、ほむらは時間を停止する事ができなくなった。

砂は『ある行動』を行わない限り回復する事はない。

それは簡単に行える事ではないし、おそらくもう無理だ。

要するにほむらは固有魔法を失ったのだ。完全なる弱体化である。

 

 

「呉キリカァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

ほむらは怒りに震える手でマシンガンの引き金を引く。

かつてない怒りだった。同時に、かつてない不安がほむらを蝕んでいった。

 

 

 

「……ッ?」

 

 

怒号が聞こえる。吹き飛ばされ、気絶していたタイガが目を覚ます。

まだ少しぼんやりしている。体を起こすと、ブティックの奥から光が漏れているのに気づいた。

タイガが最も先にすべき事はマーゴットを制御して皆を助ける事だろうが、タイガは何故かその光の正体を確かめたくて仕方なかった。

だから這うようにして光の場所を目指す。

 

 

「これ……」

 

 

試着室の向こうにあったのはテレビだった。

もちろん魔女結界にあるのだから、一般的な番組を映す訳ではない。

タイガは不思議とそのテレビの中に映る映像に釘付けになってしまった。

 

 

「………」

 

 

テレビの中に映っていたのは小さな女の子だった。

普通の女の子だ。友達と笑い合い、未来に希望を持ち、その笑顔は幸福と言うもので満ち溢れていた。少なくともタイガにはそう見えた。

しかし亀裂が走る。女の子の親友が、家庭の事情で引っ越すことになったのだ。

女の子は悲しんだ。同時に、病んでいく親友を止めたいと願った。

 

結果は失敗だった。

女の子は誤解が生んだとは言え、犯罪者扱いだ。

詳しい理由は分からなかったが。女の子にとってそれはとても悲しい事だった。

親友に裏切られたと思ってしまったのかもしれない。

 

女の子自身も、環境の拗れで徐々に笑顔を失っていった。

はじめはあれだけ笑顔だったのに、女の子の顔から笑みと希望が消えていく。

 

女の子は中学生になった。

過去の事があったからか、友人は一人もいなかった。

目立ったいじめを受けている訳でもないが、皆が女の子に対して関心を持たない。

ただそこにいるだけ。空気の様に毎日を送っていた。

 

家族ともろくに会話をしない。誰とも会話をしない。

気が付けば彼女の声は、自分でもビックリするくらい小さくなってしまった。

 

 

「誰も私を見ていない」

 

 

このまま死んでも、誰も興味を示してくれないのではないか。そんな妄想が続いた。

葬式も開かれない、誰も来ない、誰も自分の死を悲しまない。

それは自分が空気だから。この世界に存在する価値なんて無いから。

いてもいなくても一緒だから。

 

 

「………」

 

 

いつの間にか、タイガは食い入る様にテレビを見ていた。

強烈な既視感。彼女の想いが、気持ちが、感情が自分の心に入っていく様な感覚だった。

なんだか鏡を見ているような気分だった。

時間の概念が狂う。減速も減速。タイガの時間は止まっているように進んだ。

 

 

『ねえねえ、昨日のテレビ見たー?』

 

『見たよー、ってか今度映画いかない? ほら話題になってるじゃんアレ!』

 

『おい知ってるか? あの野郎、昨日女の子と歩いてたぜ!』

 

『この前さ、コンビニで新作のお菓子があったから食べたんだけど――』

 

 

クラスでは皆、毎日楽しそうに会話を行っている。

女の子はクラスの後ろでそれをジッと見ているだけだった。

立ち尽くしてジッと見ていた。ジッと聞き耳をたてていた。

そして思うことはただ一つ。

 

 

(くだらない)

 

 

そう、どいつもこいつも毎日毎日同じような事ばっか話して。

低俗で話題で盛り上がって。下品に笑って。くだらない、ああくだらない!

馬鹿みたいな連中ばかりだ、頭の悪い連中ばかりだ。

でも私は違う、私はこんなヤツより余程マシなんだ。女の子はそう思って毎日を過ごしていた。

 

 

本当に?

 

 

『呉さんっていつも一人だよね』

 

『暗いもん。不気味って言うか、何考えてるか分からないし』

 

 

聞こえているよ。

会話が無くなったら、会話に困ったらみんな私を馬鹿にする。

そうやってクッションを挟む。呉キリカは舌打ちをしていつも下を見ていた。

いい訳だ。全部いい訳だ。彼女は分かっていた。

 

 

『チッ、うぜぇな』

 

『モタモタしないでよ』

 

『邪魔なんだよなぁ』

 

 

ある日、コンビニで小銭落とした。

みんな後ろで文句を言うくせに、誰もキリカを手伝おうとはしない。

無関心。けれども悪口だけは立派に叩く。本当にくだらない連中ばかりだ。

キリカは苛立ちを覚えながらも散らばった小銭を拾い集めていた。

するとそこへ白い手が。

 

 

「!」

 

「手伝います」

 

 

美しい肌と同じく、美しい髪が見えた。

サイドテールの少女がキリカに微笑みかけて、小銭を拾ってくれた。

それが美国織莉子だった。

 

 

「あ……り――ぅ」

 

 

人と会話をしていなかったせいで、緊張して声がでない。。

キリカは掠れた声で織莉子へ小さなお礼を告げた。

きっと聞こえていないだろうが、織莉子は微笑んでくれた。そのままキリカに別れを告げて行ってしまった。

 

 

「………」

 

 

キリカはポカンと口を開けたまま立ち尽くす。

織莉子は自分を見ていたのか。自分に話しかけてきたのか。助けてくれたのか。

織莉子は――

 

 

「私を見てくれていたのか」

 

 

いや、違う。キリカはすぐに否定した。

織莉子は自分が邪魔だったから早く事態を収拾したかっただけだ。

微笑みなんて簡単に作れる。作り笑いなんて誰だってできる。

 

 

「―――ッ」

 

 

キリカはふと、窓ガラスに映った自分の顔を確認した。

つくり笑いすらできなかった。歪で気持ち悪い表情がそこにあった。

たまらなく惨めになる。情けなくて、周りに当たってしまう。

 

だって何も楽しい事なんて無いじゃないか。

笑みを浮かべられる事なんて何も無い。

辛いと感じる事はあっても、楽しいと感じられる事なんて無かった。

 

きっとそうしている間に自分は辛いと思うことすらできなくなるんだろう。

そうしたら本当に空気になる。生きているなんて言えなくなる。

嫌だ? ううん、その感情すらも湧かない。

それほど、呉キリカと言う少女は冷めていたのだ。

 

 

「おはよう」

 

「!」

 

 

だが、三日ほど経ったある日、キリカは駅で織莉子と再び出会う。

話しかけてくれるなんて思っていなかった。

織莉子は以前と変わらない笑顔を浮かべてくれた。

 

 

「今日はショッピング?」

 

「ぁ……んぁ――っ! ち、ちがぅ。私……! と、友達いない――……しッ!」

 

 

詰まりながら、どもりながら、キリカは何とか言葉を紡いでいく。

しかし我ながら何を言っているのか。何て挙動不審なのか。

自分で自分が気持ち悪いとつくづく思う。しかし織莉子は優しげな笑みを崩さない。

 

 

「あ、あぁあのぉ……」

 

「?」

 

 

この間はありがとう。

そう言おうとしたが、キリカにはできなかった。

そうすると織莉子は何かを思いついたように手を叩く。

 

 

「そうだ、もし良かったらこれから一緒にショッピングに行きません?」

 

「???」

 

「私も一人なの」

 

 

怯むキリカと、笑う織莉子。

なんだって自分みたいなヤツを――?

何か裏があるのか? キリカはそう思うと怖くなって首をブンブン横に振ってしまった。

すると織莉子は残念そうに眉を落とす。

 

 

「そうですよね。ごめんなさい、いきなり」

 

「あ……、い、いゃ」

 

 

そう言って織莉子はキリカの前から姿を消した。

何だったんだ。キリカは心の奥に違和感を覚える。

不思議な動機だ。気持ち悪い、ザワザワして落ち着かない。

何故、誘ってくれたのだろう? 優しい性格だったのか。それともからかうつもりだったのか。

 

 

「……ッ」

 

 

キリカは気が付けば織莉子の事だけを考える様になっていた。

そしてあの時感じた嫌な動機は、後悔だったのではないかと考える様になる。

いつも下らないと見下してきたクラスメイトの行動を、いつの間にか自分と織莉子に置き換えていたからだ。

 

一緒にお弁当を食べる事。くだらない事で笑いあう事。一緒に帰る事。

馬鹿みたいだと思っていた光景に、いつしか羨ましさを覚えていた。

キリカにとっては、まだ名前も知らないあの人なのに。

 

 

「………」

 

 

でも駄目だ、キリカは強烈な自己嫌悪に陥る。

織莉子の様な素敵な人が、自分みたいなのを友人に欲しがる訳が無い。

きっと織莉子には何倍も素敵な人が周りにいる。

 

もしかしたら愛し合っている彼氏だっているかもしれない。

織莉子の人生に自分は必要ない、自分みたいなヤツは関わる価値もない。

キリカはそう結論付けた。それでいい、これでいい、なのにキリカの目からは涙が溢れていた。

かつてない深い悲しみだった。なんでこんな目に合わなければならないのか。

 

 

「………」

 

 

奇行だったのかもしれない。

織莉子に出会えるかもしれないという事で、毎日彼女が行きそうな場所をうろついた。

運よく織莉子を見かけたときも、マイナスのイメージが出てきて話しかけられなかった。

いっそ後をつけようと思った事もあるが、キリカの中にある良心と嫌悪感がそれを防ぐ。

 

そうしている内に、織莉子の事を夢で見る様にもなった。

夢では、キリカと織莉子は親友同士だった。

楽しかった。でも夢から目が覚めれば死にたくなる。

 

キリカの想いは日々強くなっていく。まだキリカからしてみれば名前も知らない、性格だって知らない織莉子と友達になりたかった。

そんな希望を抱いても、すぐに嫌悪感や劣等感に苛まれる。

つまらない自分が、織莉子と同じ気持ちを共有できる訳が無い。

 

 

『おめでとう。君は選ばれた』

 

 

そして――

 

 

『成程。もはやその募る想いは、恋慕と言っても差し支えは無いね』

 

 

キリカの前に究極の希望が現れたの。

 

 

『劣等感などボクに理解できる物ではないが、それが苦しみとして存在している事はよく知っているよ呉キリカ』

 

 

彼は言った。

望みさえすれば、願いさえすれば手に入るのだと。

 

 

『君は思っているんじゃないのかな、彼女と友人関係になるのは不可能だと』

 

 

だがその考えは根底の部分で間違っていると妖精は言った。

この世界には不可能な事など一つも無い。

ありとあらゆる事柄において、絶対など存在しないのだと。

 

 

『だから君の願いも叶う筈だ』

 

 

キリカが、それを望むのなら。

 

 

『ボクはキュゥべえ。さあ呉キリカ。彼女の名を知りたいのなら、彼女と友愛を築き上げたいのなら、君の取る行動は一つではないのかな?』

 

 

キリカにはその資格がある。

願いを、己の欲望を叶える権利があるのだから。

 

 

『ボクと契約して、魔法少女になってよ!!』

 

 

もはやキリカに迷う事など何も無かった。

動く死体だった自分に生きる希望と苦しみを教えてくれたのは織莉子だ。

たとえ彼女がどんな人間でも構わない。自分もくだらない事で笑いあいたかったのだと気づかせてくれた彼女に、少しでも近づきたい――ッ!

 

 

「か――ぇて」

 

『?』

 

 

掠れた声で、ぼそぼそとした声で、キリカは懇願する。

 

 

「かなぇて!」

 

『ああ。では君の望みはなんだい?』

 

「――りたぃ」

 

 

キリカは必死に叫ぶ。

 

 

「変わりたい!」

 

 

今の自分から、織莉子に見合う姿に、性格になりたい!

 

 

「私は、違う自分に変わりたい!!」

 

『分かったよ。君の願いはエントロピーを凌駕する!』

 

 

ただの人形だったキリカは喜怒哀楽を手に入れ、違う『呉キリカ』に生まれ変わる事が出来た。

 

 

『アイツなんなんだよ急に……!』

 

『なんか気持ち悪いよね』

 

『壊れたんじゃね?』

 

 

変貌ぶりに皆驚く。

だがそんなクラスメイトなんてキリカには眼中に無いというもの。

キリカの全ては、白いあの娘だけなのだから。

 

 

「るーん! るんるん♪ るるんるーん♪ るるるるー! りゅん!!」

 

『ごきげんだね』

 

「うーん! もっちろーんさー! しかし緊張するね、しろまる!」

 

『ボクはしろまるじゃないよ、キュゥべえだよ』

 

 

キュゥべえは表情ひとつ変えずに呟く。

しかし疑問だった。キリカの願いは少々ナンセンスだ。

 

 

『願いであの娘と仲良くなりたいと言えば良かったじゃないか』

 

「ばっかちーん! そんな無理やりなんてヤラシーだけじゃないか! どすけべがぁ!!」

 

 

ちゃんと自分の言葉で伝えないと。

キリカはキュゥべえの額を弾いて足を進める。

そしてキリカはついに織莉子を発見した。気品のある姿は間違え様のない、唯一無二の存在。

 

 

「ああ、緊張するよ。私のハートは張り裂けてしまいそうだ!」

 

『まるで男女のソレだね』

 

「もちろん、これは告白なんだから」

 

 

緊張してうまく話しかけられるだろうか?

などと言っていたキリカだが、スライディングで織莉子の前にやってくるとバッと立ち上がる。

あまりにも奇抜な登場だ。織莉子も汗を浮かべて目を丸くするだけ。

 

 

「あ……、ああ! 貴女は――」

 

「私は呉キリカ! この前は調子が悪かったんで申し訳なーい!」

 

「え? あ、うん。気にしていないわ」

 

「キミのお名前は!?」

 

「私は美国織莉子。よろしくね」

 

 

織莉子は微笑んで手を差し出した。

キリカは興奮したように頬を赤らめると、両手で織莉子の手を包み込む。

柔らかくて温かくてスベスベの手だ。キリカは涎を浮かべてその感触を確かめた。

 

 

「ハァハァ」

 

「あ、あの……」

 

「おーッと! これは申し訳なーい! 嬉しすぎて興奮してしまったのさ!」

 

 

キリカは名残惜しそうに手を離す。

 

 

「織莉子、さっそくだけど今日はキミをお誘いにきたんだ」

 

「え?」

 

「前に小銭を拾うのを助けてくれたろ? だからお礼にお茶でもご馳走しようかなって」

 

 

その言葉に少し呆気に取られる織莉子だが、すぐに満面の笑みになって頷いた。

 

 

「いいのかい?」

 

「ええ、もちろん!」

 

 

じゃあ行こう。キリカはそう笑って織莉子の手を握った。

ハッとして少し頬を染める織莉子。悪戯っぽくキリカは微笑むと舌を出してウインクを行った。

 

 

「嫌かな?」

 

「い、いえ。別に」

 

「だったらこのままだ」

 

 

そうやって二人は近くの喫茶店でケーキと紅茶を楽しむ事に。

 

 

「呉さん、お砂糖入れすぎよ! フフフ!」

 

「私は甘いのが大好きでね。死ぬときはお砂糖に包まれて昇天したいよ」

 

 

キリカにとってそれからの時間は天国とも言えるものだった。

今まで馬鹿みたいに見えていた行動がこんなに楽しいなんて知らなかった。

破天荒なキリカと上品な織莉子。一見すれば正反対の二人だが、だからこそお互いの知らない世界を話し、それだけ時間がつぶれていく。

 

 

「呉さんとお話するの、とっても楽しいわ」

 

 

夕焼けに照らされた織莉子の笑顔はこの世の物とは思えない美しさだった。

思わずキリカは見惚れてしまう。

 

 

「え? あ、ああ! まあ私はお友達がいない根暗ヤローなんだけど」

 

「またそんな嘘をついて!」

 

「嘘じゃないさー! キミの様な美人さんには分からないんだよー!」

 

 

ケラケラ笑いながら言ったキリカだが、反面織莉子の表情は少し暗くなる。

 

 

「?」

 

「呉さん。実はね……、友達がいないのは私なの」

 

「えぇ?」

 

「私、お友達が一人もいないの」

 

「それこそ嘘だ!」

 

 

キリカは吼える。

 

 

「織莉子を放っておくなんて世界遺産を冒涜している事と同じだ! 織莉子は人類の宝、人類が敬わない訳が無い!」

 

 

キリカは訳の分からない理論を振りかざして必死だった。

けれども、それが面白かったのか、織莉子は少し笑顔を取り戻す。

 

 

「でも本当なの」

 

「………」

 

 

正確には、友達と思っていた人達は友達なんかじゃなかった。

織莉子はそう言って悲しげに微笑んだ。

言われてみれば、織莉子を見かけた時はいつも一人だった様な。

 

 

「だから、今日はとっても楽しかった! 誘ってくれて本当にありがとう呉さん!」

 

 

などと聞いてしまえばキリカはもう自然に体を動かしていた。

織莉子の手を取ると真剣な表情で織莉子の目を見る。

 

 

「だったら、友達になろう! いや、親友になってください!!」

 

「え……、えぇ!?」

 

 

照れたように笑う織莉子。

 

 

「イエス? ノー!?」

 

 

キリカは必死な形相で寄っていく。

なんともまあ威圧的な友情確認である。

今にも刺さんとばかりの迫力ではないか。

 

 

「ノーなら私はもうキミに近づかない! 多分! いやおそらく! やっぱり……、ちょっと約束はできないかもだけど!」

 

「―――」

 

 

目を丸くする織莉子。

今までの人生。キリカの様な人は一切現れなかった筈だ。

織莉子にとっては何よりも新鮮なものだった。必死なキリカを見て、思わずプッと吹き出してしまう。

 

 

「わ、私でいいのかしら?」

 

「当たり前だろ! むしろ私は100人知らないヤツが友人になるより、キミ一人が友達になってくれた方が嬉しい!!」

 

「じゃ、じゃあ……! よろしくお願いします」

 

「本当かいッッ!? わーいやったぁああああああ! やっびゅぅううううううう!! んほおおおおおおおおおお!!」

 

 

キリカはガタガタとオーバーリアクションで喜びを表す。

しかし織莉子にとってはそんなキリカの純粋さが何よりも新鮮で楽しかった。

上辺だけの友情しか感じなかった織莉子にとって、まさにキリカの存在は救いだったろう。

 

 

「私も嬉しいわ呉さん」

 

「おいおい! 冗談だろ織莉子! 私達はもう親友なんだから名前で呼んでくれよ!」

 

「えっ? でも……」

 

「いいから! あ、でもキミに名前を呼ばれたら耳がとろけてしまうかも!」

 

 

そう言ってキリカは笑う。

 

 

「じゃ、じゃあ。よろしくねキリカ」

 

「んんんんんッ! やっぱり親友じゃなくて唇を重ねあう仲でもいいよーッ!」

 

「な、何を言っているの!?」

 

 

赤くなる織莉子。しかし笑顔だった。

こうして友達となった二人。しかしこれより先に友人と呼べる者はできなかった。

二人は互いに依存とも呼べる友情を育んだ。

それが不満だったわけではないが、もしもどちらかが死ねば、また孤独になってしまう。

それは少し悲しかった。しかし二人はジュゥべえと出会い、その話を聞かされる。

 

 

『パートナーはお前らにとって信用するべき価値のある存在だ』

 

 

パートナー同士は傷つけあえない。

疑心暗鬼が発生するゲームで、これほど信頼できる事があろうだろうか?

力を分け合った関係だ。そしてそこから新たに得られる力を考えれば、互いの絆はより深いものへと昇華する筈。

 

 

『その絆を否定するな。受け入れろ』

 

 

パートナーは、お前達にとって最後の希望となるだろう。

ジュゥべえは二人に騎士システムが魔法少女にとって有益な物だと説明する。

 

 

『だからお前らも仲良くしてやれよ』

 

「………」

 

 

それを聞いて織莉子は複雑に顔を歪める。

互いに攻撃できないからと言う理由だけで盲目的に信頼できるものなのだろうか?

答えはノーだ。ジュゥべえが何を意図して『希望』と言ったのかは不明だが、たったそれだけの理由で絆を育めと言うのも無理な話ではないか?

 

確かにパートナーが決まる事は悪い事ではない。

だが織莉子は不安と言う文字を払拭できないでいた。

攻撃できないと言うだけで、利用ならばいくらでもできるからだ。

 

 

「………!」

 

 

しかし隣のキリカは、満面の笑みを浮かべてその話を聞いていた。

ウキウキと楽しそうに体を動かしながら、ジュゥべえに詳細を聞いていく。

本当に味方なのか? 本当に希望なのか? つまりその人と自分は友達になれるのかと。

 

 

『お前によく似たヤツをチョイスしておいた。見つかるといいな。応援してるぜぇ』

 

「えへへ! ホントーかい!? うえへへへ!!」

 

 

友達が増える。

織莉子とは別のベクトルで結ばれた相手が増える。

それを思うだけでキリカは幸せだった。もしも出会えたら何をしよう?

一緒に魚でも釣ろうか、一緒にお茶をしようか?

 

 

「ぬふふふ! 楽しみだよ織莉子ぉ」

 

「あら、嫉妬しちゃうわ」

 

「大丈夫、もちろん一番は織莉子だからぁ!」

 

 

そうは言うが、やはりキリカは楽しそうだった。

まだ見ぬ未来のパートナーに希望を持っていたんだろう。

キリカは画面いっぱいの笑顔を見せていた。

 

 

「!」

 

 

そこでテレビの映像は砂嵐に変わった。

我に返るタイガ。長い追体験だった。実際の時間はそれほど経っていない。

むしろ1分にも満たなかったかもしれない。

 

 

「キリカ……」

 

 

そう言えば初めて会った時、お茶を誘われた。断ると釣りに誘われた。

断ると、悲しそうな顔で俯いていた。それが今更になって思い浮かんでくる。

そうか、キリカは希望を持っていたのか。

そして映像を見て分かった。何故自分達がパートナーに選ばれたのかを。

 

 

「キリカ……」

 

 

彼女は、自分だった。

全てではないかもしれないが、限りなく東條はキリカと同質だったのだ。

キリカは希望を知った。だからまだ見ぬ東條にも希望を重ねる事ができたんだ。

 

 

(じゃあ僕は?)

 

 

何も知らなかったから何も期待をしなかったのか。それがキリカとの違い。

 

 

「ッ!!」

 

 

突如停止するマーゴットの攻撃。それはタイガが命令を下したからだ。

 

 

「気づいたのか! 東條――ッ!」

 

「……うん」

 

 

タイガはゆっくりとライア達のもとへ歩いていく。

マーゴットはそれに合わせる様にして蹲り、動きを停止させた。

帽子についている目が、ギョロリとタイガを見ている。

 

 

「ごめん」

 

『―――』

 

 

ただ一言、タイガは呟いた。

誰よりも彼女の悲しみを、苦しみを理解できる筈なのに。

でも逆に考えれば、弱い自分を殺す事ができれば英雄に近づけるんじゃないだろうか?

タイガはほんの一瞬だけマーゴットを撫でた。そして踵を返すと皆に合図を出す。

 

 

「……今だよ」

 

 

皆頷いた。

動きが止まっている、このチャンスを逃す訳には行かない。

 

 

「美穂」『ユニオン』

 

「……仕方ないわね」『『ファイナルベント』』

 

 

次々とマーゴットの周りに出現していく雷の柱。

それは檻の様に魔女を取り囲むと、一気に収束して一本の巨大な柱へと変わる。

雷の中に閉じ込められるマーゴット。苦痛の叫びを上げながらも、動く事は無い。

タイガがそう命令しているからだ。

 

 

「………」

 

 

タイガは耳を塞いだ。

今、東條がどんな表情をしているのか、仮面がそれを隠しているため全く分からない。

そうしているとファムとサキは地面を蹴って飛び上がる。

二人の足に宿る雷。ファムは右足を、サキは左足を突き出して飛び蹴りを仕掛けた。

ミスティックセイヴァー。雷光の軌跡は、まさに剣のようだ。

マーゴットはその体に風穴を開けて、ゆっくりと地面に倒れた。

 

 

『―――』

 

 

マーゴットの体に電流が迸り、直後爆発して命を散らした。

粒子化していくキリカを見つめながら、ため息をつくファム。やはり割り切っていたとしても心には嫌な引っ掛かりができるものだ。

だがこれで魔女結界は剥がれ落ちる。

これで自分たちも仁美達の所へと向かうことができるのだ。

 

 

「「「!」」」

 

 

結界が剥がれ落ち、元の場所に戻る。

 

 

「ごきげんよう」

 

 

一同の前に美国織莉子とオーディンが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【呉キリカ死亡】【残り18人・10組】

 

 

 

 

「………」

 

ユウリは椅子にふんぞり返り、エリーのモニタを確認していた。

もうすぐまどかがやって来る。それはいい事だが、どうにも引っかかる。

いくらなんでも人質の場所が簡単に割れすぎじゃないか?

 

まどか達は特に迷う事もなく仁美達の場所を目指している。

まどか達だけならばまだしも。他の面子も同じだ。

まるで最初から場所を知っていた様な素振りじゃないか。

 

かとも思えば、王蛇ペアなんかは適当に辺りをうろついているだけ。

好戦的なあの二人ならば、迷わず参加者が固まっている場所に向かいそうなものだが?

そこでユウリは気づいた。どうにも、まどか達は携帯を確認しながら走っている。

 

 

「考えられる理由は一つか……」

 

 

はじめは仲間同士連絡を取り合っているものかと思ったが、メールを打っている素振りもない。

思い出すのはオクタヴィア戦。あの時も参加者が妙に集まってきていた。

 

 

(リークしてるヤツがいる。誰だ? 織莉子は――、違うだろ?)

 

 

まあいいか。ユウリは考えるのを止めた。

どうせおしまいなんだ。仁美達を殺す為、ユウリは使い魔に命令を送る。

できれば目の前で殺したかったが、なんだか騒がしい状況だ。

早めに処理しておいた方がいい。考えてみればいいシチュエーションではないか、頑張って助けにきたらもう死んでましたなんて。

 

 

「!!」

 

 

だがココでまたもユウリにとってイレギュラーが発生する。

エリーの映像が突如切れたのだ。真っ暗になった画面。カメラは仁美達を始末するために用意していた使い魔の視界だ。

その映像が途切れたと言う事は――。

 

 

「使い魔が殺られた! なんで!?」

 

 

仁美達では絶対にない。

確かに使い魔くらいならば硬い物で殴るなどすれば怯ませる事は可能だろう。

しかしそんな動きはなかった。

 

 

「………」

 

 

これもまた仁美達の居場所をリークした何者かの仕業と言うことか。

 

 

「……七番か?」

 

 

正解である。携帯を見ていたニコは何度も頷いていていた。

使い魔が動いたのを見て、バイオグリーザに始末させた。簡単だ、舌を伸ばして絡めとり、あとはモグモグ。

確かに、仁美達が目の前で死ねば、まどかはどんなリアクションをするのだろう? それはニコも興味があった。しかし重要なことに気づいたのだ。だからユウリの邪魔をした。

 

 

「やれやれ」

 

 

まどかは覚醒を果たし、他の魔法少女とは比べ物にならない魔力を手に入れた。

そこに注目して少し考えれば分かることだった。

ましてや存在があやふやで、ソウルジェムの構造が他とは違う立花かずみもいる。

なるべくうかつな事はしてほしくない。

 

 

「ユウリたんってば意外とドジっ娘?」

 

 

取り返しの付かない黒ひげゲームで剣をポンポン刺すようなものだ。

ニコは楽をして勝ちたいのに、面倒な事をされるのは好きじゃない。

参加者は参加者だけ殺していればいい、そして勝手に死んでいけばいい。

 

 

「……チッ!」

 

 

そのユウリは、椅子から立ち上がってシルヴィスに変身した。

とにかく邪魔をされたからには次の手にでるしかない。

そのまま部屋を出ていくと、モモの所へと向かう。

 

 

「うッ!」

 

 

ユウリは思わず怯んでしまう。

モモは目を閉じ、全身にナイフを突き入れている所だったのだ。

ステンドグラスから差し込む光が、モモのの華奢な体から流れ出る血液を強調する様に照らしている。

 

 

「うぅ、ぐすっ」

 

 

モモは泣いていた。痛いからか、それとも周りが苦しんでいるからか。

白い肌から流れ出る赤い血液。そして全身に刻まれた傷跡。

まさにそれは全ての罪を背負う天使の様ではないか?

 

 

(コイツ、ヤバ過ぎ)

 

 

妄信だ。

モモは本当に自分が救済の天使だと錯覚している。

自分が置かれている世界が、正義と悪の両極端に分かれている物だと信じている。

そして自らが傷つく事で、少しでも世界の痛みが和らぐと本気で思っている。

 

 

(まあどうでもいいか)

 

 

ユウリは咳払いをすると、優しい声色でモモへ話しかけた。

 

 

 

 

 

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