仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第43話 姉妹愛 愛妹姉 話34第

 

 

ある所に一人の女の子がいました。

 

 

女の子は優しいお母さんと優しいお父さん。そして大好きなお姉ちゃんと一緒に暮らしていました。

女の子のお家はお世辞にもいい暮らしとは言えませんでした。

毎日毎日、おなかいっぱい食べられた事はありません。

家も狭くて。夏は死んでしまいそうになるほど暑く、冬は死んでしまいそうになるくらい寒いのです。

 

でも女の子はそんな生活が嫌いではありませんでした。

たしかに辛い事はあったけど、眠るときはみんな一緒に並んで寝ます。

お風呂は必ずお姉ちゃんと入ります。貧しいけれど、女の子の心は裕福で幸せでした。

それに生活も少しずつ良くなり、こんな日がずっと続けばいいのにと思っていました。

 

しかし幸せを自覚した時には、既に崩壊が始まっていると言うものです。

 

ある日、お父さんの様子がおかしくなりました。

お姉ちゃんと言い争いが増え、毎日毎日お酒を飲んでいました。

ある日、お父さんは、お母さんの頬を叩きました。次の日は髪を引っ張っていました。

 

ある日、お家に火がつきました。

 

女の子は眠っていたから記憶はありませんが、お父さんとお母さんは燃えてしまいました。

女の子は泣きました、たくさんたくさん泣きました。

お姉ちゃんと施設に移った後も、女の子は泣いていました。

でも女の子には希望がありました。それは大好きで優しいお姉ちゃんです。

 

家族がいる。

どんな時だって、どこへだって、お姉ちゃんがいれば耐えられると女の子は思いました。

それに施設には女の子の傷ついた心を癒してくれる沢山のお友達がいました。

 

そして優しい優しい、お母さんの代わりになってくれる人がいました。

女の子は、もう一度幸せになれるかもしれないと思っていました。

希望が、自分には大切な希望があるから!

 

 

そして、お姉ちゃんはいなくなりました。

もう一人のお母さんもいなくなりました。

女の子は必死に二人を探しました。でも見つかりません、他の人は口を揃えて言います。

 

二人とも、死んだのだと。

 

ああそうか、女の子は確信しました。

自分は幸せになってはいけないのだと、自分は幸せになれないのだと。

何をしても自分の希望は離れて行ってしまう。何をしても絶望が自分の身を包む。

 

しかし同時に生まれるのも新しい希望でした。

女の子は思います。自分の苦しみを他の人たちに味あわせてはいけないのだと。

自分の不幸を、世界の不幸は無くさなければならないのだと。

 

そうすれば自分の様な苦しみはもう生まれない。

だから自分は路頭に迷う子羊たちを救済する立場にならなければならないのだと!

それが自分の生きる道、それが生き残った自分に残された使命!

そう、それはリーベの様に!

 

女の子は懇願しました。自分をリーベに入れて欲しいと。

そうすれば意外と大人達はすんなりと了解してくれました。

新たなる顔が必要だと向こうも思っていたのでしょう。

 

そして少女はいろいろな事を教えられました。

少女はルールを知りました。この世界はどうあっても幸せになれない人がいる。

そうした人たちは他の人を幸せにする為の道具となる事が与えられた役割なのだと。

だから女の子はリーベの裏の顔といわれている物を嫌悪する事はなく、むしろ素晴らしい事だとより一層リーベを好きになりました。

 

行き場の無い子供達を保護して、その後はちゃんと役割を与えてあげるなんて素晴らしい組織ではありませんか。

臓器を売られると言う役割、手足をもがれて置物になると言う役割。

ただ性を貪られる為に生きる道具、永遠に働き続けると言う道具。

皆役割を与えられて出荷されていく。

彼らはきっと自分と同じ、生きていても幸せになんかなれない。

なら他の人を幸せにする礎となる事で生きている意味を全うできる。

この世界に生み出された意味を持てるのですから。

 

尤も『出荷』が嫌だと泣き叫び、最後まで拒む子は殺されてしまいますが、少女はそれもまた一つの幸せではないかと気づきました。

苦痛から開放される死と言う安息、それを与えてあげるの最後の希望ではないかと。

みんな言っています。新しい扉を開く行為なのです。

 

 

人は、世界は幸せになるべきです。

幸福で包まれるべきなのです。その美しい世界こそが女の子の目指す全て。

世界のあり方、世界の形、世界の全て、幸福と希望に満ち満ちた優しい優しい世界なのです!

 

そして同時に、その幸福を誘う者が必要なのだと自覚します。

優しい世界を教えてあげる指導者が必要だと理解します。

それは自分に与えられた使命であると言う事を察します。

"導く者"、そして誘う管理者が自分なのだと女の子は信じます。

 

 

『リーベエリスは駅です。幸福へ導く分岐点なのです』

 

 

そして自らがその管理者なのだとエリスは説いた。

 

 

『私が望む世界は、皆が望む幸福。人は私が導いてあげます!』

 

 

その幸福の障害となるのが龍騎達なのだ。

エリスは既に腰までステンドグラス化している仁美達を見て笑みを浮かべた。

 

 

『貴方達が死ぬ事で、多くの人々が希望を覚えます』

 

 

その生贄に選ばれたのだから、胸を張って死んで欲しい。

エリスの翼が大聖堂を破壊しながら飛び回る。

まどかは結界を張って必死に耐えるが、何とも虚しいものだと思わないのか? 全ての受け入れれば楽になれる。

そこに苦しみはあるかもしれないが、所詮は一瞬だと。

 

 

『受け入れなさい、死を!』

 

「――ッ」

 

『貴女たちだって望めばいい! ねえそうでしょう!?』

 

 

エリスは仁美を見た。

下半身がガラスになっていく感触に仁美は怯えている。

青ざめ、唇が震えていた。

 

 

「お断りします

 

『は?』

 

「ですから、お断りしますわ」

 

 

だが仁美は、キッパリとエリスの言葉を否定した。笑顔を浮かべて。

 

 

『何を?』

 

「私は、まだ生きたいんですの……!」

 

『!!』

 

 

負が巻き起こる。埋め込まれたイーブルナッツが思考を蝕む。

 

 

『なぜ! 苦痛なき死、名誉ある死。罪を受け入れる為に行われる処刑! それを拒むと言うのか!?』

 

「何を言っているのか、私には分かりませんわ」

 

『だからッ! 貴女はまだ罪を重ねると言う意味ですか!』

 

「私には理解できない所を貴女は見ているのですね。私の理由はとても簡単ですわよ」

 

『ゥッ?』

 

「私はまだ、まどかさんと一緒にいたいんですの。この世界で笑い合って、生きていきたい」

 

『だからッ、つまり! 私の管理を! 私欲の為にッ! 拒もうと言うのですか!!』

 

 

仁美はステンドグラスの一部となり、正義の処刑を受けた者としてリーベエリスに刻まれる。

それを見た信者は、悪魔の友人が死んだと安心し、そして同時にそれを行ったモモを称えるだろう。

その素晴らしいサイクルを、ただの友達と一緒にいたいなどと言う理由で拒むと言うのか?

エリスは連呼するかの如く仁美に詰め寄っていく。

 

 

「まどかさんは何もしていません。私がお約束します」

 

『だから! してるかしていないかはもう関係ないのです! 人々を苦しめたことが既に罪なんですよ!!』

 

「しかし私はまどかさんに助けてもらいました!」

 

『うるさい! 神である私が正しいのでス! その救済を、貴様は拒むのかぁァ!?』

 

「神……?」

 

 

仁美は呆れたように笑う。

 

 

「貴女は私のお友達を傷つけましたわ」

 

 

そんな存在が神であっていい訳が無い。

いや、もしも目の前にいるエリスが本物の神であったとしても構わない。

仁美は屈しないからだ。親友を傷つけ、親友の家族を殺そうとするヤツは――!

 

 

「そんな物は、神とは認めませんわ!!」

 

『!』

 

「このままなら貴女は結局、ただの人殺しです!」

 

『神を冒涜するとは……救いがたい――ッ!!』

 

 

ならばもう救う必要は無い。

エリスは光の手を握り締め、それで仁美を殴りつけて殺すつもりだった。

今日から仁美はギュッと目を閉じる。しかしそこで爆発音がしてエリスは苦痛の声を漏らす。

見ればゾルダが構えたギガランチャーが火を噴いている所であった。

 

 

「ごちゃごちゃ煩いんだよお前は」

 

 

仁美に気を取られていたからか、エリスは翼の操作を怠っていたのだ。

だからこそゾルダは安定した射撃を行う事ができた。

何よりも仮面越しに感じるゾルダの殺気、それが不愉快だとエリスは表情を歪ませる。

 

 

「そのレディの言う通りだ糞ガキ。神様ごっこはもう終わりだ」

 

『ごっこ――?』

 

「正義? 幸福? 管理? どれもこれも本当に下らない糞ガキの妄想だな」

 

 

ゾルダは吐き捨てた。

どんなお花畑なフィルターを掛けているかは知らないが、結局なんだかんだ言ってエリスのやってきた事は闇社会の重鎮達を喜ばせる仕事の加担だろうて。

 

ああ反吐が出る。

話を聞くに、自分達は今まで夢見る女の子の自慰行為に付き合わされていたのか。

見滝原と言う都合のいい玩具箱で弄ばれていたと?

 

 

「そんなもん、一人でお人形相手にやってろ!」

 

 

巨大な弾丸が発射される。

エリスはすばやく翼を盾にするが、限界がきたのか、盾に使用した翼が粉々に砕けた。

さらにゾルダは再びギガキャノンを装備、二対の砲口が爆音を上げて弾丸を発射した。

それは風を切り裂き、一つの翼とエリスの腹部に直撃していく。

 

 

『ギャ! がはっ!!』

 

「ッ!」

 

 

まどかは、仁美の言葉に心を揺れ動かされていた。

そう、そうだ。仁美とタツヤを救えるのは――

 

 

「……ッ」

 

 

そこで自分達を見て、震える子供達が見えた。

目の前で死なせてしまった人が見えた。

 

 

「ッッ!!」

 

 

けれども、やはり仁美の笑顔が浮かんでくるのだ。

タツヤを抱きしめた感触が腕に蘇るのだ。

たとえ呪われた力だとしても、血に塗れた魔法だとしても。

今、二人を守れるのは自分だけだ!

 

 

「輝け! 天上の星々ハナエル!!」

 

『!』

 

 

友達一人守れなくて何が天使だ――ッ! 何が魔法少女だ!

まどかの意思に呼応して、星は強く光り輝く。

 

 

「煌け、覇光(はこう)のカプリコーン!!」

 

 

まどかは歯を食い縛って狙いを定める。

こんな時に――、いやこんな時だからこそ。

仁美と出会った時、仁美と過ごした時の記憶がフラッシュバックしてくるものだ。

 

 

『仁美ちゃんって呼ぶね! わたしはまどかって呼んで!』

 

『は、はい……! はい、まどかさん!!』

 

 

幻影乱舞(げんえいらんぶ)幻想蓮華(げんそうれんげ)幻惑昇華(げんわくしょうか)!」

 

 

いつも三人で一緒だった。

いつもお昼を一緒に食べた。いつか旅行をしようと約束をしていた。

いつの日か、一緒に泊まって朝まで喋っていた日があった。

ずっと、ずっとこれからも――。

 

 

「万物を惑わす夢幻(むげん)の矢となり、我を照らしたまえ!」

 

 

ずっとこれからも親友でいようと約束をした。

だから、わたしは――!

 

 

「惑え! 山羊(やぎ)よ!」

 

 

だから、わたしはその約束を守りたい!

 

 

「スターライトアローッ!!」

 

『!』

 

 

弓から放たれるのは山羊の形をした天使ハナエル。

山羊は湾曲した角をエリスに向けて空を疾走する。

当然エリスは翼のシールドを展開させてガードを行った。

山羊は翼に命中すると進行を阻まれ、競り合うまでもなく消滅してしまう。

あっけない、エリスはその弱さに悲しささえ覚えた。

 

 

『ガァアアッ!!』

 

 

しかしその数秒後、エリスは背中に大きな衝撃を感じてまどかの方へ吹き飛んでいく。

つまり仁美達が磔になっているステンドグラスから大きく距離を開けたのだ。

 

 

『背後から攻撃? 誰が――!』

 

 

エリスがすぐに視線を移動させると、そこには消滅していくハナエルの姿があった。

 

 

『な、何故!?』

 

 

スターライトアロー・カプリコーンの特性である。

一発目の矢は、まどかの意思一つで『幻の矢』とする事ができるのだ。

そして二発目は、まどかの好きな位置から発射する事ができる。

威力は他の矢に比べると低めだが、背後から攻撃ができると言う点を考えれば非常に強力な効果だろう。

 

 

「ハッ!」『ミラージュベント』

 

 

ゾルダは一つのカードを発動した後、再びギガランチャーを構えて狙いを定める。

しかし何故かゾルダが銃を向けているのは、倒れているエリスではなく壁に磔になっている仁美達じゃないか。

 

 

「アンタ何やって!」

 

「き、北岡さん!?」

 

 

止めようとする龍騎と、慌てるまどか。

しかしここでゾルダはたった一言だけ言葉をぶつける。

 

 

「信じろ」

 

「……ッ」

 

「………」

 

 

少しだけの沈黙。

だがすぐに龍騎とまどかは強く頷いた。

 

 

「「わかった!」」

 

 

見事に声が重なる。それが少し間抜けに思えて、ゾルダは唇を吊り上げる。

同時にランチャーから放たれる巨大な弾丸。やはりそれはエリスからみても明らかに自分ではなく仁美を狙っているものと分かる。

 

 

『狙いが外れたのですか?』

 

 

エリスは弾丸を防ぐのではなく放置と言う手を取った。

それで仁美達は死ぬ、裁きは決行されるのだから。

 

 

『仲間割れとは愚かな』

 

「………」

 

 

確かに。ゾルダは思う。

龍騎達はゾルダがう裏切ると言う可能性を考えなかったのだろうか?

あんな簡単に人を信じるから今まで馬鹿を見てきているんだ。

が、しかし。彼らは運がいい。そもそもココで裏切る理由はないし、あとは何よりも――

 

 

「やっぱ子供(おまえ)は嫌いでね」

 

『!』

 

 

仁美達の前に出現する巨大な鏡・ギガミラーだ。

どうやら瞬間的に呼び出すことができるらしく、さらに空中に留まる機能もあるときた。

弾丸はミラーに命中して反射。リフレクトショットは油断していたエリスの背中に直撃する。

 

 

『アアアアアアアアア!』

 

 

さらに龍騎達の方へ近づいてくるエリス。

完全に壁からは遠ざかった。今がチャンスだ。

 

 

「まどかちゃん!」

 

「うん!」『ユニオン』『アドベント』

 

 

仁美とタツヤは既に胸辺りまでステングラスになっている。これ以上の負担は掛けられない。

まどかはドラグレッダーに飛び乗ると、再び仁美達の所を目指した。

しかし未だ5枚の翼と、二つの光の手が存在している。

高威力のマギアドラグーンか、ドラゴンライダーキックを撃ちたい所ではあるが、どちらも発動までには少し時間がかかる。

その間に妨害されるのは目に見えていた。何かせめて、きっかけがあればいいのだが。

 

 

「クッ!」

 

 

そうしている間に翼のブーメランがゾルダに襲い掛かる。

ギガランチャーを放棄して回避するゾルダ。

さらに光の手がまどかに向かって襲い掛かる。これではまた引き離されてしまう。

 

 

『私の管理は絶対! そう、絶対なのです!!』

 

 

エリスが叫んだ『管理』と言う言葉を聞いて、龍騎の脳裏に震えていた子供達が浮かんだ。

怯え、泣きじゃくる子供達。何も知らず、与えられた幸福を全てと信じて、エリスが希望の神であると教えられる。

 

龍騎達が死ねば、モモは絶望を倒した神としてもっと多くの支持を得られるのだろう。

本当の犯人は別にいるのに。しかしモモはそれが大切な事ではないと説いた。

人を騙す事によって得られる仮初の幸福を真実だと信じて――。

あの子供達は、笑顔を浮かべるのか。

 

 

「そんなの、そんなのおかしいだろッ!!」

 

「!」

 

『何――ッ!』

 

 

その時、龍騎の複眼が赤く光る。

どうにも納得がいかない。真司は仮にもジャーナリストだ。真実を追究する男だ。

嘘や虚構で塗り固められた世界は気に入らない。

 

幸福とは何か、幸せとは何か、希望が何か。

そんなものは龍騎にだって分からない。だが、そんな彼にも一つだけ分かる事がある。

 

 

「コルディア、アンタの幸せは間違ってる!!」

 

『!』

 

「こんなの何も変わらない! 結局悲しみが先延ばしになるだけじゃないか!」

 

 

真面目に相手をしなくていいのに。ゾルダはそう思うが、龍騎は本気で怒っていた。

どんな事情があるかは知らない。それを調べるのもジャーナリストだが、そこまで真司はできていない。

 

だが、仁美やタツヤは苦しんでる。現にあの子供達は苦しんでいる。

モモが始めに言っていたのは幸福な世界だ。今もしきりにそんな事を言ってる。

支配がどうのこうの、救済がどうのこうの言葉を濁しているが、それでもより良い世界を作りたいと思っていたはずだ。

なのに裏では良からぬ事をやっている様にも聞こえた。

 

 

「そんな嘘だらけの幸せなんて、間違ってる!!」

 

 

龍騎の叫びに応えるようにしてドラグレッダーの目が光った。

身体をグルンと一回転させると、乗っていたまどかを宙に放り投げる。

 

「えぇぇ!? わわわっ!」

 

 

放物線を描いて仁美たちの所へ飛んでいくまどか。

一瞬焦ったが、すぐにディフェンデレハホヤーを使用して光の翼を広げる。

一方でドラグレッダー口から火炎を発射。今までの火炎弾ではなく、強力な火炎放射だ。

龍騎の心に強い意志が宿れば、それに呼応して分身である彼も強化されていく。

 

 

『おのれぇえエエエエエエエエエエッ!』

 

 

赤い火炎は、光の手を焼き尽くし、動きを鈍らせる。

さらにドラグレッダーはそのまま尻尾についているドラグセイバーを振るうように身体を旋回。

強力な刃の一閃は、二つの手を完全に切断して粒子化させた。

 

 

「まだだ! まだ羽がある! おい、何とかしろ!」

 

「む、無茶言うなよ!!」

 

 

その言葉を聞いたまどかは、すぐに魔法を発動させた。

とは言え、すぐにエリスは翼をブーメランにしてまどか達の方向へ発射する。

仁美達ごと始末するつもりなのだろう。結界を展開しても、自由に動かせる翼を全て防ぐのは不可能に近い。

だからと言って広範囲の結界にしては翼の威力に負けて破壊されてしまう。

だからまどかはパートナーに任せることに。

そのためにもまずは自分がエリスの動きを封じなければ。

 

 

「エンブレス・ヴェヴリヤー!!」

 

『な、なんですかコレは!!』

 

 

エリスの背後に出現する巨大な天使。

そのまま覆うように抱きしめると、エリスの動きが完全に停止する。

支配の天使ヴェヴリアーの抱擁。しかし効果を継続するには、まどかも動きを止めていなければならないルールがあった。

 

それは正確には自分の意思で体を動かしてはいけないと言うことだ。

まどかは空中の勢い――、慣性に身をまかせて落下していく。

止められる時間は限りなく少ないかもしれないが、その間に出来る事は多い。

 

 

「お前のパートナー賢いな、お前と違って!」

 

「うるさいなアンタはいつも!」『ガードベント』

 

 

ドラグケープを振り回す龍騎。

翼のブーメランが一勢に龍騎の方へと向かっていく。

 

 

「いいぞ! で、あの翼をどうするつもりなんだ!」

 

「考えてない!」

 

「さすが馬鹿!」

 

 

取りあえず背中を向けて逃げ出す龍騎とゾルダ。

 

 

「きゃ! あうッあ!」

 

 

ジッと動きを止めていたまどかだが、そこで地面と言うゴールが待っていた。

まどかは墜落、地面に叩きつけられる。地面を乱暴に転がっていき苦痛の声を漏らす。

しかしまどかは転がる中でしっかりと弓を構え、狙いを定めていた。

 

 

「ん゛ッ! 救え――ッ! くっ! 乙女ぇ!」

 

 

落下中に詠唱は完了していた。

揺れる視界と襲い掛かる衝撃の中で、まどかは親友と家族の姿を見た。

不思議とこういう時ほど場面はスローになる。仁美、いつも一緒だった親友。

タツヤ。時には親の愛情を独り占めする彼に嫉妬した事もあったが、でも今は何よりも大切なたった一人の弟だ。

 

 

『ウアァァッ!!』

 

 

まどかが動いた事によりヴェヴリアーの拘束が引きはがされる。

しかし弦を引いていた手を離した。

 

 

「もしも神様が仁美ちゃんとタツヤの死を望むなら――!」

 

『!』

 

「わたしも、神を否定するッ!!」

 

 

エリスは、ステンドグラスが眩い光を放っているのに気づいた。

先程見た美しい『乙女』が翼を広げているではないか。

そしてその手には二つの命が大切そうに握られている。

 

 

『そんなッ!』

 

 

まどかの放ったスターライトアロー・ヴァルゴが、仁美とタツヤにかけられたステンドグラス化を解除した。エリスは怒りに身体を震わせ、憎悪の表情を浮かべる。

 

 

『許せない! 救いの手を払いのけようなど――ッ! 何故、ああ! 何故ッッ!!』

 

 

残っている手でビームを放とうとするが、身体にミサイルが直撃して爆発していく。

ゾルダの前にマグナギガが立っていた。アドベント?

いや、違う。

 

 

「決まってるだろ」

 

『!?』

 

 

マグナギガが次々に武器を展開してチャージを開始するのを確認した。

ゾルダが使ったのはアドベントではない、ファイナルベントだ。

 

 

『グッッ!!』

 

「お?」

 

 

無数の翼を受け止めるために龍騎が選んだのはドラグシールド二枚重ねと言う何とも頭の悪い方法だった。

しかし危険を感じたエリスは龍騎に向かわせていた翼の全てを自分の方へと引き戻す。

 

 

「せ、セーフ!」

 

 

一方エリスは戻した翼を重ねて盾を作り上げる。

納得がいかなかった。何が決まっているというのか。

自分は今まで聖女として、人々を救済する存在として君臨してきた。

その役割に自身はプライドを持ち、そして人は救いを、幸せを求める筈なのに――ッ!

そんな中で、ゾルダは少し笑いながら言い放つ。

 

 

「お前、胡散臭いよ」

 

『な、なんで――……!?』

 

 

ゾルダは叫ぶ。

 

 

「シールドを張れ!」

 

『!』

 

 

部屋の隅に移動していたまどかは、気絶しているタツヤと仁美の前に立ち、強固な盾を出現させる。

さらに龍騎の前にも桃色のシールドを置いた。龍騎も意味を理解したのか、結局ドラグシールドを二枚重ねにして蹲る。

 

 

『くッ!!』

 

 

引き金を引くゾルダ。

展開された武器が次々に火を放ち、圧倒的な火力を解放するエンドオブワールドが放たれた。

爆炎がエリスの視界を埋め尽くす。広範囲の衝撃は当然まどか達にも届くため、魔力を注ぎ込み盾を強化して言った。

 

 

『オッ! オォォオオオオォオツッ!!』

 

 

あまりの衝撃でエリスの体が震え始める。

その時、バキンッと嫌な音が聞こえてきた。

 

 

『ま、まさか!!』

 

 

爆風を受けとめるマグナギガ。

その後ろでゾルダの笑い声が聞こえてくる。

 

 

「あぁ、ダメダメ。(それ)――、薄すぎ」

 

『!!』

 

 

不安定な精神状態も関係していたのだろう。

翼のシールドに亀裂が走り、次の瞬間、粉々に消し飛ぶ。

 

 

『アアアアアアアアア!!』

 

 

そこでファイナルベントが終了した。

散らばっていく羽。金の細工も粉々になり、エリスの最大の武器が破壊された。

威力を上げる為に精神力を削ったか、ゾルダは膝をついて息を吐く。

だがそこでもう一度叫び声を。

 

 

「城戸!」

 

「ああ!」『ファイナルベント』

 

 

龍騎は両手を突き出すと、引き戻し、激しく旋回させる

合わせてドラグレッダーも龍騎の周りをうねり、旋回していく。

 

 

『させ……、させない――ッ!!』

 

 

エリスは腕のビーム砲を龍騎に向けた。

まずいな。ゾルダは思う。ドラグレッダーが盾となっているおかげで、多少の攻撃は防げるだろうが、万が一にも力を込められて光弾の威力が上がり、ドラグレッダーが吹き飛ばされてしまうとファイナルベントが中断される。

 

 

「くそ、何で俺が――ッ!」

 

 

首を振って立ち上がるゾルダ。

 

 

『私は――、私は皆を幸せにするのです! 邪魔なんてさせない!!』

 

「ぐっ!」

 

 

腕から放たれる光弾。

それが先程の何倍も大きい。

これはマズイ、龍騎はファイナルベントを中断して逃げようと。

 

 

「あぐッ! おおおお!!」

 

「え! 北岡さん!?」

 

 

突如龍騎の前に飛び出したのはゾルダ。ビームを受けて龍騎の横を転がっていく。

ゾルダが考えたのは自分を盾にして龍騎を守る事だった。

ガードベントを構えたい所であったが、そんな暇は無い。

煙をあげながら龍騎の斜め後ろに倒れたゾルダ、ダメージは負えど命に別状は無い様子だ。

ゾルダは他の騎士よりも防御力が高い、それが功を奏した訳だ。

 

 

「あぁクソ……、本当に何でこんな事しなくちゃならないのよ!」

 

「ちょ! だ、大丈夫ですか!?」

 

「いいから! 早くアレなんとかしてよ……!」

 

 

そうだ。龍騎はエリスの方を見る。

ゾルダが時間を稼いでくれたおかげで準備は整った。

地面を蹴ると飛び蹴りの構えを取る。

 

 

『くっそォオオオ!!』

 

 

エリスは最後の武器である天使の輪を投げた。

投げたが――

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『私は、私はぁぁぁああ!!』

 

 

赤く燃え滾る飛び蹴りは、向かってきた輪を何の抵抗もなく破壊すると、そのまま猛スピードでエリスに直撃する。

それはまさにロケットだ。飛び蹴りが胴体を貫くと、龍騎はまどかの隣に着地した。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

そして爆発。

変身者であったコルディア――、つまりモモが地面に倒れてうめき声を上げる。

 

 

「………」

 

 

全てが終わった訳ではないが、とりあえず落ち着いた。

龍騎は力を抜くと辺りを見回した。まどかは気絶していた仁美達に声をかけている。

 

 

「まろかぁぁぁ!」

 

「うーん! えへへ、びっくりしたねぇ。でももう大丈夫だよ」

 

 

混乱しているのか、タツヤは泣きながらまどかにしがみつく。

まどかは弟を優しく抱きしめながら、頭を撫でていた。

 

 

「これはね、夢なの」

 

「ゆめ?」

 

「うん。見ててね!」

 

 

まどかはタツヤに微笑みかけると、何故か変身と解除を繰り返す。

 

 

「ほら、いきなりお着替えできるなんて不思議でしょ? これは夢だからだよ!」

 

「うん! ゆめ!」

 

 

さらにまどかは天使を呼び出す。

 

 

「ベルスーズシェーヤー」

 

 

安楽の天使シェーヤーは、桃色のシャボンの中にタツヤを閉じ込めた。

そう言えばと龍騎。あれは確か自分も受けた事がある。

そうしている内にシェーヤーはシャボンの上に座って指を鳴らす。すると中にいるタツヤはあっという間に眠りに落ちてしまった。

相手を眠らせる魔法だ。人に恐怖を与えず、安らぎを与える魔法はまどかの望みである。

まどかはタツヤが眠ったのを確認すると、隣にいた仁美に視線を向ける。

その表情はどこか寂しげだった。

 

 

「ごめんね仁美ちゃん、巻き込んじゃって――ッ! 本当になんて言ったらいいか……」

 

「何を言っていますの」

 

 

仁美は疲れた様にぐったりとしていたが、それでもまどかの手を握って微笑んだ。

 

 

「貴女がいなければ、私は死んでいましたわ」

 

「でも――」

 

「まどかさん、助けてくれて……、本当にありがとう」

 

 

笑みを浮かべるまどか。

しかしそれでも仁美やタツヤを巻き込んでしまったと言う罪の意識がある。

仁美は将来を約束されている令嬢だ。彼女の人生に、自分は必要だろうか?

 

 

「ねえ、仁美ちゃん」

 

「はい?」

 

「やっぱり、ゴメン」

 

「え?」

 

「だって、もしも仁美ちゃんがわたしと知り合わなければ、こんな怖い想いはさせなかったのに」

 

 

仁美はわざわざ学校のレベルを落としてくれた。本当はもっと良い中学校に入るはずだったのに。

そしたら事件には巻き込まれなかったし、今だって他の人のように見滝原を離れて幸せになっていたかもしれない。

まどかは知っていた。仁美の両親は最近の状況を見て、見滝原から引っ越したいらしい。

しかし仁美が頑なに拒んでいるのだ。

 

 

「仁美ちゃん、この事件が終わったら逃げたほうがいいよ」

 

 

見滝原にいればゲームに巻き込まれる。

今日みたいな事があったら、また守れるとは限らない。

今だってギリギリだった。そんな事が続いたらと思うと、胸が張り裂けそうだったのだ。

 

 

「仁美ちゃんは、わたしと一緒にいると不幸になっちゃうよ……」

 

「――ッ」

 

 

その時、パチンと乾いた音が響く。

ハッとする龍騎。仁美がまどかの頬を叩いていた。

それほど強くは無いから痛くは無かったが、まどかは呆気に取られて固まってしまう。

叩いた仁美は、目に涙を浮かべていた。

 

 

「そんな事、二度と言わないで!」

 

「仁美ちゃん……。ご、ごめん」

 

「あッ! い、いえッ、その……、私もごめんなさい」

 

 

すぐに叩いた事を謝罪する仁美。

しかしこれだけはまどかに分かってもらいたいと食い下がる。

 

 

「まどかさんと出会って、私は本当に幸せでした」

 

「……!」

 

「まどかさんと、さやかさんがいたから! 私は笑顔になれました!」

 

 

稽古が多くてノリが悪いだの、暮らしが違うから合わない等と、今まで多くの人間が自分の元を離れていった。しかしまどかとさやかだけは違う。

自分を本当に理解してくれる友達に出会えたのだから。

 

 

「私にとって、まどかさんは最高の親友ですわ。だからそんな事、絶対に言わないで!」

 

 

その言葉を聞いてまどかは涙を零し、けれどもすぐに拭って笑みを浮かべた。

 

 

「うん! ありがとう!」

 

「はい!」

 

 

二人は笑い合うと、抱きしめあってお互いの体温をしっかりと感じた。

これが生きていると言う証だ。ただ仁美としても、まどかの言う事は痛いほどに理解できる。

叩いておいてなんだが、今回は自分の存在を利用され、まどかを危険に晒してしまった。

殺し合いのサバイバルゲームだからこそ。少しでも長くまどかと一緒に過ごしたかったが、それは汚いエゴだ。

 

 

「私がいると、まどかさんの足を引っ張ってしまいますわ」

 

「そ、そんな事――」

 

「今回の事で、私は無力だと言う事を実感させられました」

 

 

タツヤを守れず、人質となってまどかを傷つけた。

仁美には力が無い。使い魔から逃げる事も、使い魔達から誰かを守る事もできない。

だからこそ、仁美は決断を下した。

 

 

「まどかさん、私は見滝原を離れたほうがいいのでしょうか」

 

「うん、そうだね……」

 

 

「分かりました。けれど勘違いはしないでくださいませ。まどかさんと離れたくないけれど、ゲームがあるからと言う――」

 

「えへへ! わかってるよ、大丈夫大丈夫!」

 

 

仁美は申し訳なさそうに微笑む。

近い内にワルプルギスの夜も来る筈だ。

そうなれば見滝原がどうなってしまうのか分からない。

それも踏まえ、仁美はこの見滝原を離れる決断を取る。

 

 

「絶対にわたしは生き残るから、安心してよ仁美ちゃん」

 

「まどかさん……」

 

「ワルプルギスの夜を倒したら戻ってきてね! 一緒にパーティしよ!」

 

 

言葉を詰まらせる仁美。何を言っていいのか、分からない。

するとそんな彼女に気づいたか、まどかは彼女の手を持ってグイっと前のめりに。

 

 

「そうだ! ワルプルギスを倒したら何て言わずに! ここから出たらケーキ食べに行こう!」

 

「え? え、ええ!」

 

 

まどかの迫力にコクコクと頷く仁美。

そして最後にまどかは少しだけ悲しげに微笑んで――

 

 

「大丈夫、全部終わったら……、もっと色んな事して遊べるからね」

 

「はい……」

 

 

お互いにはお互いの道がある。

それを望んだかどうかは別としても。

しかし全てが終われば、また二人の道は交わるだろう。

お互いはそれを察して微笑みあった。悲しい運命に変わりは無いが、きっとまたいつか。

 

 

「………」

 

 

龍騎は安心したように頷くと、踵を返して倒れているゾルダの元へ。

 

 

「アンタ良いヤツだったんだな。さっきは助かったよ先生。ありがとう」

 

「お前が決めなきゃ長引いてたからな。ケースバイケースだ」

 

 

ゾルダは大きく息を吐きながら立ち上がる。

 

 

「大丈夫ですか? まだ寝てたら?」

 

「おいおい、俺達にはまだやるべき事があるだろ」

 

 

ゾルダは倒れているモモの所へ向かう。

そうだ、残っているリーベエリスのメンバー全員に、モモの口から龍騎達が無実であると告げてもらわなければ。

さっそくゾルダは倒れているモモを引き起こそうと近づいていった。

 

 

「ん?」

 

 

そこで大聖堂の扉が大きな音を立てて開かれる。

いやいや、既にエンドオブワールドによってボロボロの扉だ。

それは蹴破られると言った表現が近い。中に入ってきた二人は会話中のようで、まだ龍騎達には気づいていない。

 

 

「おいおい、だからブラックホールの中に吸い込んだら殺した数を数えられねーだろうが!」

 

「ざっと100人だ、お互いにな」

 

「アバウトすぎるってのそれじゃあ……」

 

 

王蛇と杏子は、中にいるメンバーと、破壊されている大聖堂を見て沈黙する。

リーベエリスのメンバーをどれだけ殺せるか競い合っていた二人であるが、その中で大聖堂ならば多くの人がいるのではないかとやって来た。

しかしいざ中に入ればそこには参加者達が。

 

 

「……最悪だ」

 

 

ゾルダがため息混じりに呟く。

妖精たちが仕組んでるのではと思うほどのエンカウント率である。

 

 

「最悪? 何を言っている。最高の間違いだろ?」

 

 

王蛇は龍騎とゾルダに視線を合わせると、ゆっくりと首を回した。

 

 

「――ッ! 待て!!」

 

「うン?」

 

 

王蛇を制す様に、杏子が手を出す。

獲物である筈のまどかには一切目もくれず、ただひたすらに一点を見つめていた。

汗を浮かべ、なにやら様子が普通ではない。

 

 

「何だ?」

 

 

イライラしたように問いかける王蛇。

すると杏子は答えではなく、単語を口にした。

 

 

「……モモ?」

 

「―――ッ!」

 

 

倒れていたモモはその言葉に反応して杏子の方を見る。

目を見開いて信じられないと言った表情だった。

 

 

「おねえ……、ちゃん?」

 

「ハァ?」

 

 

王蛇もまた、モモに視線を移した。

 

 

「アイツ……、アァ、そういう事か」

 

 

浅倉も杏子に妹がいる事は知っていた。

施設にいた頃は部屋に監禁状態だったため、見た事はないが。

しかし言われてみれば似ている。まさかココで姉妹の再会とは。

 

 

「お姉ちゃんなの!?」

 

「モモなのかッ? またユウリでしたなんてオチは勘弁してくれよ」

 

 

杏子は警戒しているようだ。

 

 

「………」

 

 

ゾルダもそう言えばと思い出す。

覗き見していたユウリと杏子の戦い、優勢だった杏子が敗北したのは、ユウリがあのモモに変身したからだ。

 

 

「妹だったか」

 

 

しかし厄介な話である。

さっさと話をつけて帰りたいのに、下手に手を出せない。

とは言え大聖堂に入ってきた王蛇ペアの話を聞くに、本部にいる人間は杏子達は殺して回っているらしい。

通りで途中から人の姿が減ったと思った。いっその事全員殺してくれたほうが都合が良いが、問題はこの状況をどう切り抜けるかである。

 

グルグルグルグルとゾルダは思考をめぐらせる。

今の状態では王蛇に勝つ事はできない。

向こうもカードを消費していればいいが、元気そうなのが絶望的である。

 

 

「お姉ちゃんっっ!!」

 

「「「!」」」

 

 

モモはフラフラと立ち上がり、こけそうになりながらも一心不乱に杏子の所を目指した。

それを見て決意を固めたように目を光らせた杏子。

あれはモモだ。小さく呟くと、自らも走る。

 

 

「おねえぢゃん!! あいだがっだぁ!!」

 

「アタシも、ひょっとしたらアンタがいるんじゃないかって! 心のどこかで思ってた!!」

 

「本当にお姉ちゃんなの?」

 

「へッ、当たり前だろ。見れば分かるってもんさ」

 

 

先程までのモモとは別人だった。

表情をぐしゃぐしゃにして、涙と鼻水を流している。

間抜けなものに見えたかもしれないが、死んかと思っていた姉との再会だ。

それも大好きなたった一人の家族。モモが我を忘れるには十分な要素ではないか。

 

 

「今までどこに行ってたの!? 私寂しかった! 本当に寂しかった!!」

 

「悪いな、ちょっと孤児院に戻れない理由があったんだよ」

 

「私おねえちゃんが死んじゃったんじゃないかって! ずっとそれで泣いてて――ッ!!」

 

 

モモは跪き、杏子に縋るように身を寄せる。

杏子はしばらく沈黙していたが、モモの頭に優しく手を置くと、包み込む様に抱きしめた。

なんと優しい抱擁だろうか。今までの想いが溢れて、モモは堰を切ったように涙を流す。

 

 

「オイ、いい加減にしろ。何がしたいんだお前は」

 

 

ダルそうに王蛇が言い放つ。

 

 

「まさかココにきてお涙頂戴の寸劇を始めたいのか? ふざけるなよ、反吐が出る」

 

「家族のいないお前には分からない。家族を愛してないお前には理解できないよ」

 

 

そして杏子は『王蛇にだけ』に聞こえるように言う。

 

 

「頼む浅倉。ココはアタシに任せて欲しい」

 

「ふざけ――」

 

「これは、決着だ」

 

「――………」

 

 

ねっとりとした言い方だった。何故か王蛇は沈黙して動きを止める。

苛立ちを抑えてまで、何かを感じ取ったか。

そのまま動かなくなると杏子をジッと見つめるだけ。

 

 

「なあ、まどか」

 

「えっ?」

 

 

緊張が一同に走る。

しかし柔らかな声色だった。

 

 

「モモをアタシに任せて欲しい。コイツは、アタシのたった一人の家族なんだ」

 

「杏子ちゃんの家族――ッ」

 

「ああそうさ、アタシにとって大切な妹だ」

 

 

杏子はまっすぐな目でまどかを見つめた。

そこに濁りはない、そこに迷いは無い、それは純粋な眼差し。

 

 

「まどか、コイツをアタシに任せちゃくれないか」

 

「え……?」

 

「アタシを信じてくれ、モモと会話がしたい」

 

 

呆気に取られる一同。

だが王蛇達と戦闘になればタダでは済まない。

もちろんそれこそ仁美達はどうなる? 誤解を解けないまま終わるのは癪だが、まずは己の安全だ。

 

 

「逃げるぞ」

 

「あ、ああ」

 

 

ゾルダは早速出口へ走る。龍騎としても今の状態で戦闘は避けたい。

まどかに合図を送り、タツヤを抱えて走り出す。

何よりも杏子の態度。彼女にも大切な人はいたのだと、まどかは少し安心した様に微笑んだ。

 

 

「分かった」

 

「悪い、助かるよ」

 

 

まどかは仁美を連れて大聖堂を抜けだす事に。

しかし本当に意外だ。まさか王蛇が何も言わないなんて。

ゾルダはチラリと杏子を見る。それほどまでに杏子が王蛇に影響を与えたのか?

 

 

「まどか!」

 

「……!!」

 

 

入り口に差し掛かったところで、杏子はまどかの名前を呼ぶ。

 

 

「ありがとな、信じてくれて」

 

「う、ううん! いいよ杏子ちゃん!」

 

 

杏子の態度にまどかは笑みを浮かべた。

確かに杏子は今まで多くの血を浴び、そして多くの人を傷つけてきた。

だが今あそこにいるのは、大切な妹をあやしている優しいお姉ちゃんだ。

 

杏子との協力は非常に困難を極めるかと思ったが、今の様子を見れば希望がみるみる湧いてくる。

モモの存在が杏子の凍てついた心を溶かしてくれる筈だ。

まどかも同じ姉だからこそ分かる。そんな中、杏子はモモの頭を軽く叩いた。

 

 

「ほら、お前アイツらに何かしたんだろ? 謝りな」

 

「え? で、でも――ッ!」

 

「でもじゃねぇ! 謝れ!」

 

「あ、うん! ごめんなさい!」

 

 

モモはリーベエリスの長であるコルディアではなく、ただ佐倉杏子の妹である佐倉桃子としての顔を見せた。まどか達が知る由も無いが、モモもまたシルヴィスに洗脳された被害者なのだから。

 

 

「まどか、本当にありがとな! モモを渡してくれて」

 

 

杏子は自分の頬をモモの頬に重ねて笑った。

一恥ずかしそうにしながらも、モモは頬ずりを行う。

美しい姉妹愛がそこにはあったのだ。

 

 

「コイツといるとアタシは優しくなれるんだ」

 

「えへへ、くすぐったいよお姉ちゃん」

 

 

まどかはその言葉を聞いて強い希望の光を感じた。

杏子と協力ができる。この戦いを終わらせる望みが湧いた。

 

 

「なあモモ、アタシの事が好きか?」

 

「うん、当たり前だよぉ! お姉ちゃんが生きてて本当に良かった!」

 

「嬉しい事を言ってくれるね! ほら、抱っこだ!」

 

 

杏子はモモを横抱きにすると、クルクル回り始める。

キャッキャとはしゃぐモモ。杏子もまた笑顔だった。

初めて見た純粋で無垢な笑顔だった。

 

 

「なつかしいな。金無かったからこうやってメリーゴーラウンドとか言ってたっけ?」

 

「コーヒーカップだよ」

 

「あぁ、そうか。よく覚えてるね」

 

「だってお姉ちゃんとの大切な思い出だから」

 

「サンキュー。なあモモ、アタシもアンタが好きさ。大好きだ!」

 

 

世界で一番と言っても良い。

 

 

 

 

疑問だった。謎だった。訳が分からなかった。意味不明だった。

と言うのは、杏子がはしゃぎまわる中、地面から何かが生えてきたのだ。

何だアレ? 一同が目を細めると、それは杏子がいつも使っている武器。赤い槍だと言うのが分かった。何故一本だけ生えている? 何故一本だけ生やす必要が?

 

 

「え?」

 

 

誰しもが、無意識に漏らした言葉。

龍騎であり、まどかであり、仁美であり、よもやゾルダでさえ呟いた言葉かもしれない。

はしゃぎ回っていた杏子とモモ。仲睦まじく微笑ましい光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして杏子は、その一本だけ生えている槍に向かってモモを投げた。

 

 

「え?」

 

 

モモもまた呟く。

何コレ。モモは自分の腹部から生えている槍を見つめてそう言った。

いや、もしかしたら言葉にはなっていなかったかもしれない。

なにせ槍はモモをしっかりと貫通しているのだから。

槍のサイズはいつも杏子が使う物よりも若干細いため、即死する事はなかったが、みるみる赤い点が広がっていく。

 

 

「あれ? え――?」

 

 

腹部が熱くなる。

モモは襲い掛かる痛みを感じて、思わず涙を流す。

痛い。何だ、何だ、何だコレ。どうして自分は今こうなっているんだろう。

モモは何が起こっているのか分からずに、姉を見た。

 

 

「あぶっ、げぶ……ッ! んばっ、パ……!」

 

 

お姉ちゃんと呼ぶつもりだったのに、口から血が出てきて上手く喋れない。

息ができない。苦しい。でも大丈夫。お姉ちゃんはいつも自分を助けてくれた。

熱が出た時は、ずっと一緒にいてくれた。いじめっ子がいたらどんな相手でも姉は立ち向かってくれた。

 

いつも守ってくれたお姉ちゃん。

いつも助けてくれたお姉ちゃん。

いつも自分の側にいてくれた大好きな――

 

 

「おねえ――、ぢゃん――! ぃたぃ」

 

 

ゴポっと音がして口からまた血が溢れた。うまく喋れない、うまく言葉にならない。

しかし姉は笑みを浮かべているじゃないか。だからモモは安心していた。お姉ちゃんが微笑んでくれるなら大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ……。

 

 

「杏子ちゃん……? 何してるの」

 

 

まどかは思わず言った。

言わなければならなかった。この嘘のような状況を否定するために。

 

 

「言ったよな、アタシ」

 

 

モモがいれば優しくなれる。

モモが大好きだって。

 

 

「だからさ」

 

 

杏子は浮かべていた笑みを消した。

そしてモモを――、たった一人の妹を睨みつけた。

まるでゴミを見る様な眼で。

 

 

「お前、邪魔」

 

「……ぇ?」

 

 

杏子が指を鳴らすと、異端審問が発動されてモモの背中から何本の槍が出現していく。

 

 

「ごッ! ギッッ! ぎゃぁぶぇえッ! べびッッ!」

 

 

濁った声が聞こえてきた。肉を裂く音がいくつも聞こえてきた。

思考が停止しているまどか達へ杏子はもう一度お礼を告げる。

 

 

「サンキュー、鹿目まどかァ。信じてくれてさぁ!」

 

「―――……」

 

「ッ! 逃げるぞ!!」

 

 

ゾルダが吼える。

ああそうだ。忘れていた忘れていた。アイツ、イカレてたんだ。

龍騎とゾルダはこの場から逃げるため、全速力で走りだす。

しかしゾルダが振り向くと。まどかが立ちすくんでいるのが見えた。

 

 

「クソ!!」

 

「北岡さん!」

 

 

龍騎は仁美とタツヤを抱えている為、両手が塞がっている。

だからゾルダがまどかを抱える事に。まどかは目を虚ろにしてその光景を確認していた。

さっき、希望を抱いた。モモの存在が杏子を救うのだと。

しかし目の前では杏子が、その希望を串刺しにしている。

 

 

「おねえ……、ぢゃん」

 

 

モモは手を伸ばす。

視界は涙で歪んでいて確認できない。きっと声は出ていない。刃が喉を突き破ったからだ。

しかしモモは安心していた。モモの知っている『おねえちゃん』であれば、きっと手を握り返してくれるからだ。きっと優しい言葉をかけてくれる筈だからだ。

きっと、ずっと傍にいてくれる筈だから。

 

 

「モモ、愛してる」

 

 

杏子はそう言って槍を持った。

そして一瞬だけ、まどかに視線を移した。

杏子は確かに笑っていた。

 

 

「愛してるから――!」

 

 

杏子は槍をモモの心臓に突き入れる。

 

 

「愛してるから、死んでくれ!」

 

「ぉ―――」

 

 

モモは薄れいく意識の中で、否定を行った。

お姉ちゃんは自分にそんな事はしない。自分を傷つける様な事はしない。

だってお姉ちゃんは誰よりも優しかった。自分が両親に怒られていてもいつも味方をしてくれた。

 

 

お姉ちゃんは、世界一優しかった。

 

 

だから目の前にいたのは、姉ではなかった。

 

 

「――はは」

 

「………」

 

「ははは! ハハハハ! ハハハハハハハハハッッ!!」

 

 

王蛇の笑い声が大聖堂に木霊する。

何故王蛇が龍騎達を止めなかったのか。

それは杏子のしようとしている事を察知したからに他ならない。

あの時の杏子の言葉には狂気と殺意が潜んでいた。だから王蛇はその先が見たくなった。

 

 

「面白いな。佐倉杏子。退屈しないぜェ、お前といると」

 

「悪いなぁモモ!」

 

 

杏子は槍を消滅させて倒れた妹を掴み上げる。

 

 

「でもずっと一緒だ」『ユニオン』『アドベント』『アドベント』『アドベント』

 

 

三体のミラーモンスターを呼び出して、そこへ妹だった肉塊を放り投げる。

 

 

「――――」

 

 

違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

これは姉ではない、大好きだったお姉ちゃんなんかじゃない。

悪魔、絶望を世界に広める巨大な悪そのものではないか。

誰? どこ? 私のお姉ちゃんはどこにいるの? また抱きしめて、また愛して、誰か――!

 

 

「―――」

 

 

そうだ、やはり私の味方はお母様しかいない。

お母様は色々な事を教えてくれた。私を愛してくれた。

今だって、コッチを見て微笑んでくれているじゃないか。

手を伸ばせば届きそうだ。そこにいる。上にいる。

モモは微笑みながら『彼女』に向かって手を伸ばそうと試みる。

あれは幻なんかじゃない、そうでしょう? お母――

 

 

「食え」

 

 

モモが伸ばした腕に、ベノスネーカーがかぶりついた。

すぐにベノダイバーとベノゲラスも加わっていく。

 

 

「う――ッ!」

 

 

まどかは思わず口を押さえた。

ダメだ。直視できなかった。

涙を流し、そして震える声でなんとか言葉を搾り出す。

 

 

「なんで――?」

 

「おい! 何やってる! 早く逃げるぞ!!」

 

 

そこでゾルダに持ち上げられて大聖堂を離れていく。

残された杏子だが、一応は約束だ。まどか達を追うことは無かった。

と言うよりも今自分を流れる興奮の余韻に浸りたいからか。

 

 

「くはっ! アハハハハハハハ!!」

 

 

杏子が何故モモを殺したのか?

そんなのは決まっている。モモが何よりも大切で、モモを傷つけたく無かったからだ。

だから杏子はユウリに負けた。最高の屈辱と言うモノを味わった。

あの時、杏子は自分の中にまだ優しさと言うモノが存在していた事に気づく。

傷つけたくない心。守りたいと思う心。

 

 

「ハハハハハ! アーッハハハハハ!!」

 

 

それは、どれもこれもゲームには不必要な感情だ。

生き残りをかけた殺し合いに、愛はいらない。

だから杏子はその愛を――、つまる自分を縛る楔を断ち切りたかったのだ。

失う物が無いのなら、自分は最強になれる。ユウリのような者に惑わされることはない。

そうだ、考えてもみればシルヴィスに良い様に使われる事はなかった。

 

罪悪感と良心の十字架を構成していたのはモモだ。

そしてそこへ打ち込まれた杭は二本。マミとゆまだ。

ゆまは刺さりが浅かったため、すぐに抜けた。しかしマミはなかなか抜けてくれない。

が、しかし、マミは死んだ。死んでくれた。これは非常にありがたい話だった。

そして今、モモを排除した。愛をと優しさを杏子自身が否定する事により、彼女は文字通り躊躇いをなくした。

戦いにおいて最も不必要な躊躇いをだ。

 

 

「「ハハハハハハハハ!!」」

 

 

王蛇と杏子は声を合わせて笑う。

後ろでは三体のミラーモンスター達も笑っている様に吼えていた。

するとその笑い声に気づいたのか。頭上にあった大きな穴から大聖堂に入ってくる者が。

エルザマリアの翼を広げて着地するユウリだ。

 

 

「じゃんじゃじゃーん! ユウリ様さんじょ……う」

 

 

ユウリは辺りを見回してポカンと口を開いた。

何だコレ。確か数分前まで、まどか達とエリスが戦っていた筈なのにどうして誰もいないのか。

それに、どうして関係無かった杏子たちがココにいるのか。

確かに監視につけておいた使い魔が、ゾルダファイナルベントによる爆風で消されたから時間は経ったが――。

 

 

「おいおい、まさかアンタら全員殺したっての?」

 

「……まどか達はアタシが逃がした」

 

 

その言葉を聞いてユウリは再び沈黙して停止する。

 

 

「は? 何? 逃がした? 誰が? えッ? あの戦えだの、殺すだの、馬鹿みたいに連呼していた杏子さんが自分の意思で人を逃がしたって!?」

 

「うるせぇな、お前は本当に」

 

「あははははは! 何ソレ! リアルか!? 落ちたな佐倉杏子!!」

 

「……安心しろよ」

 

「いひひひひひ! な、何が!? あはははは!!」

 

「お前は逃がさねぇ」

 

 

杏子は冷めた目でユウリを指差した。

 

 

「やってみろクズ。戦う意思を失った参戦派に価値は無いぞ」

 

 

もういらなーい。ユウリは舌を出し、両手を広げて杏子を煽る。

同時に呼び出すリベンジャー。杏子もまた槍を構えると、ユウリの所へ歩き出す。

距離が詰まっていく。ふと、ユウリはクルリと一回転。するとその姿がユウリのものではなくなる。

 

 

「お姉ちゃん! やめて!! 私ユウリって人の魔法で身体を一緒にされてるの!!」

 

「モモか?」

 

「そう! この前は私じゃなくてユウリが私の姿を借り――」

 

 

その時だ。杏子が地面を蹴った。

次の瞬間、握り締めた拳がモモの顔面に抉り込む。

 

 

「え?」

 

 

ユウリは自分の身体が吹き飛んでいる事に気づく。

そのまま崩壊した瓦礫の中に直撃。流石に同じ手は食わないと?

いや、それよりも速さと威力が前回より桁が違うような。

一切の迷いが無い。欠片もモモが埋め込まれている事を気にしていない威力だ。

 

 

「さ、佐倉さん酷いわ! いきなり攻撃するなんて!」

 

 

起き上がったユウリはマミの姿になり、杏子を落ち着けようと試みる。

設定は何にするか? そう、実はマミは死んでおらず、ユウリに取り込まれた事にしておけば――

 

 

「黙らせろ」

 

「おッ!?」

 

 

待機していたベノダイバーが杏子のわきをすり抜けて、猛スピードでユウリへ突進していく。

ユウリはすぐに地面を転がして回避行動を行うが、先程までたっていた場所をベノダイバーが通過している。それも一切スピードを緩めずに。

やはり今の杏子に小細工は効かないという事か。何があったかは知らないが、どうやら弱体化した訳ではないと。

 

 

「浅倉ァ! イライラも溜まってんだろ、アタシが許す! アレで決めるぞ!!」『ユニオン』

 

「なるほどなァ。なら参加させてもらうぜ」『『ファイナルベント』』

 

 

粉々に砕け散るベノダイバー。待機していた他の二体も砕け散り、その破片が一箇所に収束していく。すると杏子の背後にジェノサイダーが出現。とも思えば、すぐに融合する杏子とジェノサイダー。

 

 

「チッ、またあのコスプレかよ」

 

 

融合を完了させた杏子はすぐに地面に膝をつき、神に祈るポーズをとりながら詠唱を始める。

 

 

「ッ?」

 

 

あれは知らない技だ。

ユウリは舌打ちを行いカードを取り出した。

とりあえず妨害をしなければ。

 

 

「あ?」

 

「俺と遊んでくれよ」

 

 

王蛇は首を回しながら杏子の前に立つ。

手にはバイザーとカードを持っており、戦闘態勢である事が分かる。

首を傾げるユウリ。同属同士でしか攻撃できないルールがあった筈だ。

 

 

(もう止めた? いや、それとも――)

 

 

目を凝らす。王蛇の体に赤い光が纏わり付いている。

これは間違いない、杏子の魔力だ。

そして耳には、杏子の声が聞こえてくる。

 

 

「我を過ぐれば憂ひの都あり――」

 

「!」

 

 

なるほど、ユウリは確信する。

あんな台詞は脳筋の杏子(バカ)がこの場で口にする言葉ではない。

つまりアレは魔法の詠唱。それもファイナルベントと名がつく以上、相当強力なものだろう。

そして前に出た王蛇。全てが繋がったとユウリは理解する。

 

 

(あの状態で攻撃を食らったら中断されて終わりって事ね)

 

 

だったら話は早い。

ユウリは既に身に着けていたエルザマリアのマントをを翼に変え、思い切り地面を蹴って空へ舞い上がる。

 

いくら王蛇が守護するといっても所詮翼の無い騎士。

ましてミラーモンスターも杏子に融合している為、誰も呼べはしない。

ここからリベンジャーを撃てばそれで終わりだ。

 

 

「フッ!」

 

「がっ! な、何!?」

 

 

だがユウリはユウリはすぐに墜落する事になる。

見れば王蛇がアッパーのモーションを取っていた。

もちろんあそこで拳を振り上げた所で、空中にいるユウリに届くわけが無い。

なのに感じた衝撃。拳の動きに合わせるように赤いエネルギーオーラが発射されたのだ。

 

 

(ちゃんと王蛇が強化されていると。成る程、面倒な!)

 

 

だったら魔女で囲めばいい。

ユウリは魔女のカードを適当に五枚ほど抜き取ると、それを投げて標準を合わせる。

 

 

『ベノムベント』

 

「遅いッ! 今更何しても無駄!」

 

 

もらった。

ユウリは銃の引き金を引いてカードを撃っていく。

 

 

『ベノム』

 

「あ?」

 

 

カードが砕けて発動もされない。

呆気にとられるユウリ。そうしていると、まるで酸をかけられた様にリベンジャーが融解していくではないか。

 

 

「はッ!? 何だコレ!!」

 

 

すぐにリベンジャーを放棄して、新たなリベンジャーを出現させようと試みる。

しかし何度念じても、ユウリの手に新しい二丁拳銃が現れる事は無かった。

 

 

「どういう事!? リベンジャーが無ければ何も出来ないんだけど!」

 

 

そんな事を考えていると、走ってくる王蛇の姿が目についた。

 

 

「おいおいおいおいおい! あれはマズイんじゃ――ッッ!!

 

「ハハハハハッ!!」

 

「うっ!」

 

 

全身を乗り出すようにして蹴りを仕掛ける王蛇。

ユウリも全身を投げ出して回避を行った。すぐに振り向くと、王蛇の前方が消し飛んでいるのが見えた。

 

 

(やはり王蛇の攻撃の範囲と威力を上げる魔法が掛けられている!)

 

 

ベノムベントは相手のバイザーを封じる力。

ユウリのリベンジャーはバイザーとしても認識される為に、こうなったと言う訳だ。

 

 

「おせェッ!」

 

「グッ! ガァッ!!」

 

 

逃げたユウリに合わせて腕を振るう王蛇。

通常ならば絶対に当たらない位置にいるのに、エネルギーエフェクトが追尾してユウリの頬を打つ。

 

 

「お前ッ! 女殴って恥ずかしくないのかしら!!」

 

「気持ちいいぜ? お前も遠慮せずにもっと来い」

 

「アァァ! クソ! コンビ揃って頭にカニミソでも詰まってんじゃない!?」

 

 

ユウリにはまだエルザマリアがいる。

影の魔女は明確な形を持たない為、ある程度自由に姿を変える事ができる。

ユウリはエルザマリアを鞭に変えると、王蛇を超えて杏子に叩き込もうと振るってみる。

 

 

「ハァ!」

 

「!?」

 

 

しかし、王蛇はいとも簡単に鞭を掴み取った。

と言うより、王蛇が何も無い場所を掴むと、その先に紫色のエネルギーで構成された手が出現。

それが鞭を掴み取ったのだ。リーチが拡大するとは知っていたが、まさか手のエフェクトすら構築されるなんて予想外だった。

 

そんなユウリにさらなるサプライズが襲い掛かる。

鞭を――、つまりエルザマリアを掴み取った王蛇。

その時、仮面に変化が起きる。

 

 

「!」

 

 

王蛇の仮面の下部分が展開した。

正確にはクラッシャーが開いた。文字通り、王蛇は口を開いたのだ。

そのまま掴み取ったエルザマリアを思い切り引っぱって、ユウリの手から奪い取ってみせる。

 

 

『ピギイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』

 

「………」

 

 

青ざめながら笑みを浮かべるユウリ。王蛇はエルザマリアを食い始めた。

魔女を食う? 人間が? バリバリと音を立ててエルザマリアを体内に入れていく王蛇。魔女の悲痛な断末魔がユウリの耳を貫く。

 

 

「やべぇ……。美味い? ソレ」

 

「アァァ! 最高にマズイな」

 

 

王蛇はエルザマリアを全て平らげてみせた。

綺麗に食べて偉いね。なんて話じゃない。馬鹿げてる、ふざけてる。なぜ食った? どこに食す意味が? 思考が理解できない。ユウリは本能でバックステップを行っていた。

 

リベンジャーがなくても魔法技ならば発動は十分に可能だ。

範囲攻撃イル・トリアンゴロ。磁場フィールドの中に相手を閉じ込めて爆発させる。

要は離れていても場所を指定して攻撃は可能と言うことだ。

ユウリは杏子を中心として、三角形の魔法陣を構築する。

 

 

「なんだその落書きは?」

 

「!?」

 

 

ベノム発動中は王蛇もカードは発動できない。

だがバイザーだけならば武器として使用は可能だ。

王蛇はベノバイザーを手に持つと、ソレを思い切り地面へ突き立てる。

すると杖を中心に王蛇の紋章が出現し、上書きするようにユウリの魔法陣を消滅させた。

 

 

「なんだよソレは! そんな簡単に消してんじゃねーッ!!」

 

 

ユウリは歯を食い縛り、さらに後ろへ下がっていく。

 

 

「――我より先に造られしはなし」

 

 

既に杏子の詠唱は後半に差し掛かっている。

そして嫌でも目につくのが、杏子の背後に現れていく巨大な門だ。

あれが全て出てくればどうなるのかなんて、容易に想像がつく。

ユウリはイライラした様に笑みを浮かべると、身体を震わせた。

 

 

「ふざけんな……!!」

 

 

だから嫌いなんだ。力でゴリ押すバカは――ッ!

 

 

「ざッけんなよぉォォ……!!」

 

 

後退していくユウリと、ゆっくりと近づいてくる王蛇。

 

 

(なーんてね)

 

 

ユウリは内心で舌を出して笑っていた。演技派女優ユウリ様になんちゃら賞をあげたい気分。

 

 

(さすが杏子(バカ)王蛇(バカ)が組んだだけはある)

 

 

魔女を食ったのは完全に予想外でドン引きだったが、それだけだ。

あるのだ、切り札ってヤツが。ユウリが指を鳴らすと杏子の背後に闇が収束してリュウガが出現する。完璧だった。杏子は目を閉じて詠唱を行っている為リュウガには気づいていない。

ましてや王蛇はユウリに釣られて杏子から距離を置いている。

つまり杏子は隙だらけ。リュウガはそのまま杏子に蹴りを入れようと踏み込み。

そして、後ろへと吹き飛んだ。

 

 

「!?」

 

 

リュウガの胸に突き刺さっているのはベノバイザーだ。

そのまま後方へと吹き飛んで、壁に叩きつけられる。

ベノバイザーはリュウガの身体を貫通しており、楔としてリュウガを磔にした。

 

 

「………」

 

 

口を開けて佇むユウリ。

王蛇はリュウガが現れたと同時にバイザーを後ろへ投げた。

ご覧の通りリュウガの胴体に突き刺り、杏子から引き離したと言う訳だ。

しかも跪いている杏子の脳天スレスレを通ってリュウガに突き刺さった。

なんと言うコントロール、なんと言う反射神経。

いやそもそも反射神経なのか? ユウリは今起こった超人的なシーンを全く理解できないでいた。

王蛇はユウリを見ていた、つまりリュウガの姿は確認できなかった筈。

だったら耳で、聴力でその存在を確認したとでも?

 

 

「爽快だぜ。気分がスッキリする」

 

「………」

 

 

そんな炭酸飲料のCMみたいな事を言われても。

 

 

「汝等」

 

「ッ! やっばい、逃げろリュウガぁぁアアア!!」

 

 

ユウリが叫ぶと、磔にされていたリュウガが鏡の様に砕けて姿を消す。

ワープの類なのか? 王蛇は面白い芸当だと関心してみせる。

対して落ち着いたトーンで言葉を並べていく杏子。普段の荒々しい喋り方が故に気づかなかったが、杏子声はなんとも美しい。

 

 

「――こゝに入るもの一切の望みを棄てよ」

 

「ッッ!!」

 

 

ユウリは踵を返して走り出す。

杏子はゆっくりと目を開けて、そして口を三日月の様に吊り上げた。

真後ろにはその姿を現した『地獄の門』が聳え立っている。

杏子が立ち上がると光が門を駆け巡り、一瞬だけ王蛇の紋章を浮かび上がらせる。

 

 

「悪いな、もう遅いぜユウリ」

 

「――ッッ!!」

 

「あばよ」

 

 

大きな音を立てて扉が開かれる。

 

 

「あが――ッ!!」

 

 

門から音速で飛び出してくるのはバラである。

茎の先端が鋭利に尖っており、ユウリの背中に突き刺さった。

どうやら茎には毒が塗られていたのか、ユウリは体が重くなるのを感じる。

動けない。しびれる。そうしていると、地面にへたり込んだ。

 

 

「くそ――ッ!」

 

 

そこでユウリは見つけた。

肉片。顎の一部。見たことあるような傷だらけの腕を。

 

 

「まさか……、お前妹を殺したのか?」

 

「いい顔で泣いてたよ。迷いを断ち切るには十分だった」

 

「ンハハッ! いいな! 狂ってるねアンタ!」

 

 

バラに続いて、門から無数の『蝶』が溢れてきた。毒々しい色の羽を持った蝶々だ。

美しくもあり、禍々しくもある。無数の蝶達はユウリに刺さったバラに群がっていき、『歯』をむき出しにした。

そう、この蝶には牙がある。口がある。

蝶達はバリバリと花を食い散らかすと、次はその茎を食べ散らかす。

そしてその茎の先にいるのはユウリ。

 

 

「佐倉杏子ォオオ、浅倉ァアァ! これで終わりだと思うなよォッッ!」

 

 

ユウリ様は何度だって蘇り、そして必ずお前らに復讐してやる!

そう言いながらユウリの全身に蝶が群がっていった。

 

 

「負け犬の遠吠えとしてはお馴染みだな」

 

「ハッ!」

 

 

蝶の群からは肉を噛み千切る音、骨を噛み砕く音。

そしてユウリの悲鳴が間隔をあけて聞こえてくる。

それを笑みを浮かべながら見ている杏子と王蛇。

 

そして数十秒後、音が消えた。

ヒラヒラと羽を広げて飛び立つ蝶達。もう何も残っていなかった。

バラも、茎も、そしてユウリの姿も。全てを平らげた蝶達は一勢に地獄の門へと舞い戻っていき、扉が閉まると門は地中に消えていった。

 

 

「アァァァ、やはり戦いはいい」

 

「ああ、スッキリしたよ。でもやるなら徹底的にだ」

 

 

杏子は槍を投げて崩れかけのステンドグラスにぶつけた。

神だか天使だかが描かれているが、その眉間に槍が突き刺さると巨大なステンドグラスは音をたてて完全に崩壊する。

 

 

「全てブッ壊す。こんな偽りに塗り固められた場所なんて、全部な!」

 

 

怒りと喜びで体が震える。

杏子は踵を返すと、次の獲物を求めて歩き出した。

 

 

【ユウリ死亡】【残り17人・10組】

 

 

 

 

 

 

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