仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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ホーム画面で水着マミさんをひたすらタップしてニヤニヤしてます。
多分おれ今マギレコ界隈で一番気持ち悪いと思う。




第44話 大好きな貴女へ へ女貴なき好大 話44第

 

 

場面は大聖堂から逃げた龍騎達に移る。

誰しもが先ほどの光景を思い出し沈黙していた。

現在彼らはドラグレッダーに乗ってキリカがいた場所に向かっている。

皆の無事を考えるべきなのだろうが、先ほどの光景しか頭には入ってこない。

 

 

「………」

 

 

その中でも、やはりまどかのダメージは大きいようだ。放心しきっている。

せっかく分かりあえるかもしれないと言う希望を持った後にあの行動。

杏子はモモを殺す時に笑っていた。何よりも大切なはずの家族を笑いながら殺したのだ。

人を殺す事に何の抵抗も、欠片の罪悪感を感じていないと言う事がハッキリと伝わってしまった。

 

なによりも同じ兄妹を持つものとして、あの光景は余計に突き刺さる。

龍騎としても何か声をかけてあげたい所ではあったが、何と声をかけていいのか分からない。

まどかの後ろにいた仁美は、悲しげな顔でまどかを抱きしめる事しかできなかった。

 

 

「……!」

 

 

しばらく本部を進んだ時だ。

遠くに見知った影を発見する。

龍騎はドラグレッダーに合図を送ると、停止させて声を掛ける。

 

 

「東條くんだよな?」

 

「城戸さん……」

 

 

そこにいたのはタイガだ。

しかし気になるのは一人だと言う事。確か手塚と一緒にいたはずだが?

龍騎は何かあったのかと心配になって詳細を求めた。

するとタイガは先ほど起こった一連の出来事を皆に報告していく。

 

マーゴットを退けたはいいが、そこから現れたオーディンペアに自分達はなす術なく敗北してしまったと。キリカのパートナーと言う事もあってか、唯一タイガだけは攻撃もされずに見逃されたと言う事も説明する。

 

 

「全員やられたのか!? たった二人に?」

 

「変なモンスターもいたけど……。とにかく、強いんだ」

 

 

その言葉を聞いてゾルダは頭を抱える。

13個もデッキがあるのだからパワーバランスは均一ではないとは思っていたが、まさかそこまでの実力者がいるとは。

そしてそんなヤツがまだココにいると言う不安感。

ゾルダとて自分の力はよく分かっている。今の状態じゃ間違いなくやられてしまうだろう。

 

 

「み、皆は! 蓮達は無事なのか!?」

 

「うん、織莉子さんも命を奪うまではしなかったし――」

 

 

とりあえず蓮達は、部屋の一つに休ませてあると言う。

 

 

「じゃあどうして東條くんは今一人で――?」

 

「それは……」

 

「?」

 

「いや。とにかくまだオーディン達がいるかもしれないし。僕達じゃ皆を守れないし。助けを呼ぼうかなって」

 

「そっか、分かった! とりあえず皆と合流しよう」

 

 

オーディンはまだ上にいるかもしれない。

龍騎はドラグレッダーを消滅させて様子を伺いに階段を上がろうとする。

しかし、動きが止まった。無言で振り返る。ゾルダは顔を逸らした。

 

 

「き、北岡さん……!」

 

「嫌だよ」

 

「………」

 

 

龍騎ひとりじゃオーディンに勝てるかどうか分からない。

だからゾルダに応援を頼むが、拒否された。

 

 

(待てよ)

 

 

ゾルダは考える。

龍騎だけをいかせてオーディンに襲われたとする。

そうしたら龍騎は死ぬだろう。それはゾルダ的には有りである。

しかし龍騎を放置して、待機している自分たちが襲われたとする。

なれば逆にゾルダが危険な目になってしまう。

逃げてもいいが、そうすると王蛇とのエンカウントの危険性もあるし、まだ他の参加者がいないとも限らない。

それじゃあ結局同じ事ではないか、難しい所だ。

 

 

「うぉッ!!」

 

 

その時、空中にキラキラ光るものが見えたかと思うとゾルダの立っていた地面が爆発を始める。

怯むゾルダやまどか。爆竹を撒き散らしたような衝撃の中で、ゾルダは自分に向かってくる二つのチャクラムを確認する。

 

 

「――……ッ」

 

 

回避を行えばチャクラムは後ろにいる仁美達に当たる。

ゾルダは舌打ちを行い、一発目のチャクラムをその身で受け止めた。

装甲から散る火花と痛み、そして衝撃。しかし二発目のチャクラムはしっかりバイザーで撃ち弾き、投げてきた者へとお返しする。

 

 

「お前は?」

 

「………」

 

 

上層から飛び降りてきたか。

ゾルダの視線の先には着地のポーズを決めていたガルドミラージュが。

彼は意思を持ったように戻ってきたチャクラムを背中に戻した。

そして手にあるかぎ爪を構えてゆっくりと歩き出す。

 

 

「仕方ない、お前らはココに残れ!」

 

 

ゾルダはまどかとタイガを押さえるようなジェスチャーを取ると、ガルドミラージュへ向けて走り出した。

 

 

「北岡さん!」

 

 

龍騎が物音を聞いて急いで戻ってきた。

すぐに戦闘中のゾルダ達を発見。自らも加勢しようと走り出すが――

 

 

「!?」

 

 

階段を飛び降りようとしたところで、誰かに掴まれた感触があった。

反射的に振り返ると、そこには黄金の鎧を纏ったオーディンの姿が。

突然の事に龍騎の頭は真っ白になってしまう。そんな龍騎へ、オーディンがエコー掛かった声で話しかける。

 

 

「悪いが――」

 

「うっ!!」

 

 

掌底。

さらに羽を噴射する事で突風に似た衝撃が龍騎を襲った。

既に一撃目で龍騎は気絶しており、階段の踊り場に激突した衝撃で目を覚ました。

しかし状況を把握するだけの時間は無い。掌底と同時に噴射された羽が、ちょうど龍騎のもとへ舞い落ちてきた。

叫ぶ龍騎。羽が触れたところから爆発がおき、衝撃でまたも頭が真っ白になる。

 

 

「抵抗はオススメしないな」

 

「あ――ッ! ぐっっ!!」

 

 

呻く龍騎。

何とか立ち上がろうと力を込めるが、そこで背中に大きな衝撃を感じて再び地面にへばりつく。

オーディンは落ちた龍騎のもとへ一瞬でワープを行うと、背中を踏みつけた。

 

 

「力とは絶対だ。キミにも分かるだろう?」

 

「な! 何言ってんだよお前――ッ!」

 

 

オーディンは龍騎の首を掴むと階段の方へと投げ飛ばす。

階段を転げ落ちていく龍騎。オーディンはワープを行い、再び龍騎を踊り場の壁に叩きつけた。

 

 

「身の程を知るがいい」『シュートベント』

 

 

龍騎を照らす幾重もの光。

倒れたままでは危険だと感じ、龍騎は跳ね起きた。

 

 

「ぐああぁぁッッ!!」

 

 

しかし降り注ぐ光のスピードは速い。

龍騎は何とか直撃こそ免れたが、右脚に光を受けてしまった。

オーディンのシュートベントであるソーラーレイの威力高い。

脚はしっかりと龍騎の移動手段を鈍らせていく。

 

 

「フフフ……!」

 

「ぐっ! つぅうッッ!!」

 

 

脚を押さえて苦痛にもがく龍騎。

オーディンは腕を組んだまま笑い、龍騎を蹴り飛ばして仰向けにさせる。

そしてそのまま龍騎のデッキを引き抜くと粉々に握り潰して見せた。

 

 

「な――ッ!」

 

「見えるか? コレが力の差と言う物だよ」

 

 

変身が解除される真司。

一瞬終わりを察して頭が真っ白になるが、予想とは裏腹にオーディンは止めを刺そうとはしなかった。オーディン視点、正直に言えば邪魔な存在は消していきたいが、未来は人の死によって大きくその姿を変えるものだ。真司が何かしらの分岐を作ってしまう可能性はある。

24時間を経過しないとデッキは再生されない。機能は十分停止した筈だ。

 

 

一方でゾルダとガルドミラージュ。

ガルドサンダーやガルドストームも十分強力なモンスターではあるが、このガルドミラージュは他の二体よりも少しだけスペックが高い。

相手の攻撃を見極める知能。そして的確な反撃ルートを見出す力。

今もゾルダの弾丸を最小限の動きで交わしながら蹴りやチャクラムを駆使してインファイトに持ち込んでいる。

 

だがゾルダも当然負けてはいられない。

病と言う大きなハンデを背負ってはいるが、騎士としての実力ならば北岡はトップクラスだ。

ガルドミラージュの攻撃パターンを記憶すると、バーストベントを発動。

同じくインファイトを仕掛ける。

 

 

「真司さん、北岡さん……っ」

 

 

まどかは複雑そうに表情を歪めていた。

加勢したい所ではあるが、織莉子の武器であるオラクルの事は話に聞いていた。

縦横無尽に動き回る攻撃装置の事を考えると結界は常に張った状態でなければ危険である。

オーディンとガルドミラージュがいれば、その近くに織莉子がいると言うのは想像に難しくは無い。

まどかは仁美とタツヤの前に立ち、注意を働かせる。仁美は眠っているタツヤを抱いており、その前方にはタイガが二人を守る様に立っていくれているが、油断はできなかった

 

 

「……ッ」

 

 

そして一番危惧しているのは、ソウルジェムである。

少し前に浄化した筈なのに、既にどんよりとした濁りが見えた。

それだけ先ほどの光景がまどかにとってショックだったと言うわけだ。

必死に落ち着こうとするが、マイナスのイメージが膨れ上がっていく。黒いものに蝕まれていく感覚があった。

ただひたすらに悲しい。苦しい。辛い。

信じれば、必ず裏切られる――?

 

 

(そんな事……ッ、無い!)

 

 

言い切れるのか?

まどかの脳裏に、ユウリに言われた言葉がフラッシュバックしてきた。

 

 

『ゲームに勝つために殺すのと、生き残るために殺すの。そこに何の違いが?』

 

 

生きるために殺す。

ゲームの為に殺す。

それを自分は止められない。変えられない。だったら――……。

 

そうだ。

だったら自分は何もできないんじゃないか。

証明したかった。人は闇に呑まれるだけの生き物ではないと。

だが他の参加者にとって殺人と言う行為が『闇』ではなかったとしたら?

全ての独りよがりな常識とルールだけに囚われていたら?

 

 

(駄目、考えちゃ駄目――ッ!)

 

 

心が弱くなれば、それだけ結界の強度は低くなる。

まどかは必死にマイナスのイメージを払拭する様に力を込める。

大丈夫、自分が今まで信じてきた事をこれからも信じればいい。

信じれば――!

 

 

「………」

 

 

そんな鹿目まどかを見つめる者が一人。

 

 

「フッ!」

 

 

いや、もう一人。

オーディンは状況を確認すると、真司を蹴り飛ばしてワープ消失する。

向かったのはこの場から少し離れた部屋の一室だ。

そこには織莉子がいて――、さらに目覚めていた蓮達も座っていた。

 

 

「お前……」

 

 

目覚めた一同は、織莉子に促されて適当な部屋の一室に集められていた。

手足を縛るなどの拘束はしていない。

しかしデッキを破壊されて変身できない蓮達では織莉子を超えて逃げるなど不可能だ。

織莉子も織莉子で、オラクルをチラつかせて無言の圧力をかけていた。

 

まして蓮達が受けたダメージも大きい。

トドメに、織莉子が入り口を防ぐ様に座っている始末。

サキやかずみは与えられたグリーフシードによって魔力は回復したが、変身できない騎士達を守りながら織莉子とオーディンを突破するのは不可能と判断し、暴れる事はできなかったのだ。

 

 

「あら、オーディン」

 

 

今に戻る。

オーディンの出現を確認すると、織莉子は小さく唇を吊り上げた。

 

 

「織莉子。時が来た」

 

「そうですか?」

 

「待て。何を企んでいる」

 

 

手塚が問うと、織莉子はクスリと笑って立ち上がる。

 

 

「皆さん、答え合わせを始めましょうか」

 

「―――ッ!?」

 

 

手塚はそこで思い出す。

織莉子は階段の下にいたほむらに攻撃が命中したと思い、目もくれなかった。

しかしそれは本当にそう思っていたのか? 織莉子の魔法は未来予知なのに。

 

 

「ライアは――」

 

 

織莉子はドアノブに手をかけて言葉を放った。

 

 

「暁美ほむらを助ける」

 

(やられたッ!)

 

 

手塚は歯を食い縛って織莉子の涼しげな顔を睨んだ。

 

 

「暁美ほむらは一旦手塚を起こそうと試みるが、それが叶わないと知ると――」

 

 

織莉子は最初から全てを知っていた。

手塚達は決められたルートに乗せられ、踊らされていただけだ。

 

 

「暁美ほむらは態勢を立て直す為に、一度階段を降りて近くの部屋に身を隠す」

 

「ッ」

 

「回復魔法を己ににかけながら何らかの能力でパートナーと連絡を取っていた。ですよね? 手塚さん」

 

 

トークベントで会話をしていた事も読まれていたのか。

汗を浮かべる手塚と、笑みを崩さぬ織莉子。彼女は本気だった。魔力を大幅に消費してここに至るまでの未来を細部に至るまで確認していた。

既にオーディンがストックしてくれたグリーフシードを二つも消費している。

それほどまでに膨大な魔力を使ってまで、織莉子はここに勝負をかけていた。

 

 

「暁美ほむらは、外から騒がしい音がするのを確認します」

 

 

――敵が来たのかと思い、銃を構えて一度物陰に身を隠します。

しかしいつまで経っても部屋には誰も来ない。

彼女は自分が標的ではないと判断して、一度部屋の扉を開けて外の様子を確認する事にしました。

 

 

「そこで彼女はとんでもない物を見てしまう」

 

 

故に。

 

 

「叫ぶ」

 

「!!」

 

 

織莉子が扉を開いたと同時に、ほむらがまどかの名前を叫ぶ声が一同の耳に入ってくる。

 

 

「冷静な彼女が叫ぶほど、とんでもない光景だったと言う事ですね」

 

 

織莉子は一同に部屋から出ろと言うジェスチャーを送る。

引っかかる物もあるが、とにかく状況が状況だ。美穂や蓮、かずみ達は次々と織莉子を警戒しつつ部屋を飛び出していった。

最後に残されたのは手塚だ。

彼もまた部屋を出て行こうとするが、そこで織莉子は小さな紙を渡す。

 

 

「っ?」

 

「部屋を出た暁美ほむらが見たのは――……、おそらくそう」

 

 

織莉子は部屋を出て行く手塚の背中を見つめながら目を細めていた。

少しだけ時間を巻き戻してみようか。

織莉子の言う通り、ほむらが見たのは戦闘中のゾルダ達だった。

特に傷を負っていないまどかを見てホッと安心するほむらであったが、そんな安心をすぐに消し飛ばす光景が目に映った。

 

 

「まどかぁあああああああ!!」

 

「え! ほ、ほむらちゃ――」

 

 

だからほむらは叫ぶ。

織莉子が言った通りだ。とんでもない物を見てしまい叫んだ。

そして織莉子は先ほどの言葉の続きを口にする。

 

 

「部屋を出たほむらが見たのは――……、おそらくそう」

 

 

織莉子は目を細め、冷たく、何よりも冷たく、そして鋭く言葉を並べた。

 

 

「鹿目まどかの――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどかあぁあッ! ソイツから離れてえええええッッ!!」

 

「え?」

 

 

いつもクールなほむらからは想像できない姿だった。

青ざめ、そして叫んでいる。まどかは名前を叫ばれ、ドキッとしてしまう。

ソイツから離れて? 誰? まどかは辺りを確認するが何も無い。

と言う事は――、後ろだ。

 

 

「まどかの背後に、斧を振り上げたタイガが立っていたから」

 

「東條さん?」

 

 

斧型のデストバイザーを振り上げているタイガが見えた。

何がどうなって――、こうなっているの?

まどかはポカンとして停止している。だって斧を振り上げられている理由が分からない。

敵がいるのか、だったら戦わないと。そう思っていると謝罪が飛んできた。

 

 

「ごめんね。でもこうするしかないんだ」

 

「……嘘」

 

 

上では織莉子がまだ言葉を続けていた。

それを聞くのは背後に立っていたオーディンしかいない。

手塚たちは飛び出すようにして、下に降りていったからだ。

織莉子は声はやはり冷たく抑えられているが、恐ろしい程に美しい。

 

 

「タイガは斧を振り上げていましたが、すぐには振り下ろさなかった」

 

 

迷いがあったのだろうか?

それとも踏み込み力を込めていたのか。

とにかく鹿目まどかが気づいても、タイガはすぐに斧を振り下ろさなかった。

だから攻撃までにタイムラグが起きる。

 

 

「ほむらはタイガを攻撃する為に銃を構えました。彼女の技術があれば斧に銃弾を当てて弾き飛ばす事も可能だったでしょう」

 

「しかし鹿目さんが結界を張っていたおかげで、それは叶わない」

 

「その通りです。皮肉にも弟や友人を守ろうと張っていたバリアが。暁美ほむらの助けを阻む壁になってしまった」

 

 

タイガは結界の中にいた。

銃弾は虚しく弾かれ、一方で斧はまどかに振り下ろされる。

 

 

「暁美ほむらはその光景を見て、悲鳴をあげました」

 

 

織莉子がその言葉を口にしたとほぼ同時に、ほむらの悲鳴が聞こえてくる。

全ては織莉子の言ったとおりに事が進んでいた。

これが未来予知の本質であり、美国織莉子の本気と言っても差し支えないものだ。

 

 

「しかし、希望の光は存在していた」

 

 

タイガが斧を振り上げるのを、いち早く確認している者がいたのです。

攻撃を行うまでのタイムラグ、そこで動く事を許された者がいた。

まどかの結界の中で自由に動ける者がいた。

それが鹿目まどかの希望であり、命を繋ぎ止めた存在なのです。

 

 

「神は……、未来は鹿目まどかを救いました」

 

 

つまり、鹿目まどかは死なない。

 

 

「ましてや傷つきもしない――!」

 

 

だが斧は振り下ろされる。その未来が変わる事は無かった。

現に今、まどかは振り下ろされるタイガの斧をしっかりと確認していた。

だが、織莉子の言葉通りまどかは無傷だ。

 

 

「鹿目まどかは助けられたのです」

 

 

織莉子の瞳は冷め切っていた。

余計な事を考えないように。覚悟が揺らいではいけない。

だから織莉子は迷ってはいけない。彼女は目を閉じた。

 

 

「かけがえの無い親友が、彼女を助けたのです」

 

「………」

 

 

オーディンはワープで階段の踊り場に出現する。ここからならば下の様子が見えるからだ。

そこには織莉子が言ったとおり、無傷のまどかが人形のように無表情でへたり込んでいた。

あれは本当に生きているのか? オーディンは一瞬そんな事を思ってしまう。

目の焦点が合っていない。カクカクと壊れた人形の様に震えている。

顔は驚く程に青ざめ、人の生気を纏っていない。

そしてその隣には――

 

 

「斧を受け、血を吹き出す志筑仁美がいた」

 

 

ゆっくりと目を開けて、拳を握り締める織莉子。

 

 

「仁美ちゃん……?」

 

「まど……か――さ――無事で――」

 

 

ドサリと倒れる仁美。

あっという間に血が広がり、へたり込むまどかにも仁美の血液が触れた。

温かい、たった今流れ出た血が水溜りになっていく。

 

 

「なにこれ?」

 

 

まどかは掠れた声で反射的に言葉に出した。

それを未来で確認していた織莉子。

 

 

「パーフェクト、全て予測通りです」

 

 

織莉子は踊り場から下の様子を確認して言葉を終わらせる。

その光景は全ての人間が確認していただろう。

足を怪我している為、仲間達に支えられて階段を降りてきた真司も、もちろん支えていた蓮や美穂も。

 

コンマで間に合わなかったサキとかずみも。

安心とショックの狭間で複雑な表情を浮かべているほむらも。

表情を複雑に歪ませる手塚も。何よりも守られたまどか自身が。

皆、それをしっかりと確認していた。

 

仁美はタイガの行動に気づいたと同時にタツヤを寝かせて立ち上がった。

思い浮かんだのは二つの選択肢だ。一つはタイガにタックルを仕掛けて狙いを逸らす事。

しかし向こうは人を超越した力を持った騎士だ。非力な仁美では何も出来ない可能性があった。

だから仁美は残った消去法で動いた。まどかを移動させると言う方法を選んだのだ。

 

仁美は地面を蹴った。

今までの体育ではそれほど力を出していなかったが、護身術を習ったり水泳を習ったりする中で体力は身についていたのだ。

だから彼女はありったけの跳躍力で飛び出し、そしてタイガの脇を抜けてまどかを突き飛ばした。

そして代わりに斧を受けた。

 

 

「それが、未来」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ォ」

 

 

止まっていた時間が動き出す。

そこにある現実が一同を突き動かしていた。

 

 

「東ォオォォオォ條ォォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

身体は限界を迎えていたが、サキは二度目のイルフラースを発動させて地面を蹴った。

音速を超えるスピード。しかし制御ができず、すぐに暴走が始まった。

髪がみるみる伸びていき、身体も成長と言う事から少しずつ大きくなっていく。しかし急激な変化に身体がついていかず、全身が軋む様に痛みを発した。

しかしサキは止まらない。雷を纏ったストレートでまどかの結界を破壊すると、そのままタイガに拳を当てていく。

 

 

「何故裏切ったァア!!」

 

 

雷の翼を広げてタイガをまどか達から引き剥がす。

しかしどこかが千切れる様な音が聞こえたかと思うと、全身の至る所から血が噴き出してくる。

だがこうなっては引けない物がある。サキは電磁砲を発射しようと手を振り上げた。

その動きに合わせて舞い上がる羽。ゴルトフェニックスが飛翔し、サキを真横に吹き飛ばす。

 

 

「ぐあァッ!」

 

 

サキは近くの壁に叩きつけるが、しっかりと不死鳥の頭を掴んでいた。

やはり不安定な精神の中でイルフラースを使ったために、既に限界が来ている。

サキはタイガを狙うのではなくオーディンを弱体化させる事を選んだ。

どんなに強力な能力を持っていても、契約しているミラーモンスターが死ねばブランク態にはなる筈だ。サキはそれを狙って電力を上げていく。

 

 

「吹き飛べエェエェエエエエエッッ!!」

 

 

背中にあった雷の翼が巨大化してゴルトフェニックスを包み込む。

ゴルトフェニックスはすぐに離れ様ともがくが、サキはそれを許さなかった。鞭を取り出すとお互いの身体を合わせるように縛り上げて放電していく。

織莉子のオラクルもそれに触れれば一瞬で蒸発する程のバリアだ。ゴルトフェニックスは逃げることを諦め、炎を吹き出してサキを焼き尽くそうと試みる。どちらが先に限界を迎えるのか、我慢比べのようなものが始まった。

 

 

「………」

 

 

激しい光が辺りを包み、それが晴れれば立っていたのはサキだった。

イルフラースによる電撃が先にゴルトフェニックスを塵に変えたのだ。

ミラーモンスターを失った事により、オーディンは色を失いブランク体となる。しかし彼は焦る素振りを見せない。むしろ腕を組んだままで、そこには余裕が見えた。

 

 

「皆さん、私達や東條さんを攻撃しても何の意味もありませんよ」

 

 

だってそうでしょう?

織莉子は必死に回復魔法を発動させて仁美の名を呼んでいるまどかを見ていた。

 

 

「我々を攻撃すれば彼女は助かるのですか?」

 

 

そんな事をひょうひょうと言う織莉子を睨みつけながら、かずみは走った。

言われたとおりオーディンペアに攻撃するのではなく、まどかの所に駆け寄って一緒に回復魔法を発動する。

 

 

「仁美ちゃん! 仁美ちゃんッッ!!」

 

「しっかりして仁美ッ! 待っててね、今治すから!」

 

 

"ローシェルヒール"。

回復の天使が放つ光を浴びながら仁美はまどかに抱きしめられている。

見ればまどかの可愛らしい魔法少女の衣装が血で汚れていた。

もちろんまどかは気にしない。ただ必死に仁美の名前を叫んでいた。

 

しかしいくら天使を呼べる程の魔力がまどかにあったとして、本来の魔法形態が守護である事には変わりない。似ているようで回復と守護は違うのだ。

さらにかずみはその劣化。いくら二人掛りであろうとも限界や限度と言うものがある。

 

仁美の傷は即死レベルの物だった。

すぐにまどかが回復魔法を使用したおかげで何とか首の皮が一枚繋がった状態になったが、そこから仁美の状態を安定したレベルに持っていく事など不可能に近い事なのだ。

 

 

「………」

 

「クッ! おい!!」

 

 

少し離れていた所で戦っていたゾルダもまどか達の状況を確認した。

するとガルドミラージュは蹴りでゾルダを怯ませ、跳躍でオーディン達の所へと舞い戻っていく。

どうやら初めからゾルダを遠ざける事が目的だったらしい。

もちろん逃がすまいと銃を構えるが、すぐに銃を下ろした。

抵抗はもう……。ゾルダは頭がいい。

 

 

「―――ッ」

 

 

ほむらもまどか達に駆けつけたが、回復魔法は応急処置程度のもの。

一応は手を貸すが、仁美の傷はまったく塞がらなかった。

むしろほむらは理解してしまう。これは、逆効果だ。中途半端な延命は苦しむ時間を長引かせる悪手でしかない。

それを皆分かり始めたから何も言えなかった。

まどかが仁美の名前を泣きながら叫ぶ声しか聞こえなかった。

 

 

「仁美ちゃん! 嫌だよぉ! 仁美ちゃんッッ!!」

 

 

まどかの悲痛な叫びを受けて、手塚はその状況を作った本人を睨む。

 

 

「東條ッ! お前、自分が何をしたのか分かってるのか!?」

 

「……うん」

 

「だったら! なぜこんな事を――ッッ!!」

 

 

タイガは少し怯えている様子だったが、同時に大きな興奮を抑えている様にも思えた。

声を震わせ、歓喜した様に言い放つ。

 

 

「仕方ないよ。これがっ、英雄になる為の方法だったんだ――!」

 

「英雄? 英雄だと!? お前ッ、そんな理由で――?」

 

 

何かが切れる音がした。頭の中で。

 

 

「ふざッけんなぁアアッ!」

 

「!」

 

 

飛び出したのは美穂だ。怒りの形相でタイガに掴みかかろうとしていた。

変身できないのにそれは無謀な事だ。しかし美穂も少し前に感情的な理由でゲームに乗るかを苦悩していた身。

それも重なって、東條の馬鹿げた理由がより一層愚かに見えた。

 

 

「見ろよッ! コレが本当に『英雄様』がやる事なの!?」

 

 

そんな美穂の前にオーディンがワープで割り入った。

 

 

「馬鹿なッ!」

 

 

サキの声が聞こえた。

オーディンはブランク態となった筈だ。

なのに美穂の目の前にいるのは黄金の鎧を身に着けたオーディンである。

 

 

「僕のミラーモンスターは不死鳥、その意味が理解できるかな?」

 

「まさか――ッ!」

 

 

ゴルトフェニックスは破壊されても『三分』と言う短時間で復活するのだ。

そうすれば再びワープ等の強力な力を手に出来る。

まさにそれはモチーフが不死鳥だからこその能力と言えよう。

オーディンはタイガに迫ろうとする美穂に手をかざす。

 

 

「このまま進めば、どうなるのか? よく考えて欲しい」

 

「私をナメるなよッッ!」

 

「よせ霧島、死ぬぞ――ッ!」

 

「美穂……ッッ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 

蓮と真司の言葉で、美穂は悔しそうにしながらも動きを止めた。

しかし真司とて美穂と同じ気持ちである。

足さえまともに動けば、自分も同じく突っ込んでいた事だろう。

冷静さが失われる、そんな状況だったのだ。しかしその中でも蓮と手塚は冷静だった。

タイガが突如この行動に走ったのには必ず何か理由がある筈だ。

 

 

「お前、美国織莉子に何を吹き込まれた?」

 

「吹き込まれただなんて嫌ですわ。私は東條さんに教えてあげただけです。英雄のなり方と言うモノをね」

 

 

するとタイガは大きく首を動かして、何度も頷いていた。

 

 

「そうッ、聞いたんだ! こんな話があるんだよ!」

 

 

タイガは嬉しそうに話し始める。

自分が今行った事を何とも思っていない様子で。

どうやら、ようやく道しるべが見えたらしい。

 

 

「人を一人殺しちゃうと犯罪者なんだ」

 

 

いけない事だよね。タイガはまるで子供の様に、どこか他人事で話していた。

人を殺めてはいけない。それは色々なドラマや漫画で言っている事だ。

だからそれは英雄らしくない。英雄は人に好かれなければならないからだ。

だからタイガはフールズゲームにも難色を示し、多数を犠牲にする織莉子には協力できないとしてきた。

 

 

「でも美国さんは頭が良かった。彼女はその行為が褒められたものではないと知っていたんだ」

 

 

それでも行うにはちゃんと意味があった。

それを教えてもらったのだ。

 

 

「一人を殺せば犯罪者」

 

 

でも――、タイガは仮面の裏で確かに笑みを浮かべている。

 

 

「でも、数千人を殺せば英雄なんだって!!」

 

 

織莉子にその言葉を言われ、東條は一度携帯を使って検索をかけた。

するとどうだ? 確かにその言葉は世に伝わり、人々に認知されていたではないか!

つまりそれは人々が認めたからに他ならないのでは?

 

 

「無意味な言葉は後世には残らないでしょ?」

 

 

東條はその時、織莉子が今までやって来た事と、これからやろうとしている事が、むしろ英雄に近づいている事だと悟った。そしてこの瞬間、東條悟と言う人間の中に、言いようも無い興奮が芽生える。長年追い求めてきたが、分からなかった問題の答えがそこにはあったのだから。

東條は織莉子の言葉を聞き、自分の中に抱いていた疑問の答えにたどり着いた。

 

そうだ、そうすればいい。

殺害は決して英雄から遠ざかる唾棄すべき行為ではない。

むしろ英雄として認められる近道ではないか。

 

 

「僕はやっと英雄になれるかもしれない……!」

 

 

織莉子は続けた。この言葉には裏に隠された意味もあると。

それはただ殺し続ければいいと言う訳ではない事。一人を殺しても、数千人を殺しても、そこに『ある物』が無ければどれだけ殺人を重ねた所で気が狂った犯罪者で終わるだけ。

では何を加えればいいのか? それは『明確な目標』だと織莉子は東條に説明した。

 

 

「彼女は見滝原の為に犠牲を出している。それはとっても素晴らしい事なんじゃないかな?」

 

 

見滝原を、世界を守るために殺人を行う。

救済の為には尊い犠牲がつきものだ。

いや、違う。ヒーローものだってそうだろ? 町を守るためには悪党は倒さなければならない。

悪は爆発して死ぬ。それを聞いた途端、東條の中にあった織莉子のイメージがガラリと変わった。

 

 

『彼女は何て素晴らしい人なのだろう』

 

 

東條は絶望の魔女の話も聞いた。

この世界に生きる全ての命を守るためには多少の犠牲は仕方ない。

むしろそれを乗り越えなければ守れないと!

 

 

「いつの時代も、戦いを終わらせるのは戦いだったでしょ」

 

 

犠牲の上に成り立つ幸福だ。

人々はそうして生まれた安泰の為、敵を傷つけた者を英雄と称する。

 

 

「僕は決めたよ。織莉子さんの味方をしようって!」

 

 

そして織莉子が目指す目標の中で出てくる犠牲を、自分が受け持つ。

そうすれば世界は救われ、救済された人々は自分達を英雄として認めてくれると言われたからだ。

だから東條は織莉子に付いた、オーディン達の仲間になったのだ。

そうなれば話は早い。世界を脅かす存在は排除しなければ。

 

 

「まず、鹿目まどか」

 

 

そしてそれを邪魔しようとする者だ。

仁美もまた平和を妨害しようとする存在だったのだ。

それを殺したタイガは、今はまだ分かってもらえないかもしれないが、全てが終われば報われる。

邪魔者を殺していけば、いつか周りの人はタイガを英雄として見てくれる。

 

 

「そう、皆がやっと僕を見てくれるんだ!!」

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「「「!」」」

 

 

吼えるタイガの声に重なるように虎の咆哮が聞こえた。

タイガの隣に真っ白な虎のモンスターが出現する。

 

 

「見て、手塚くん。織莉子さんの言葉を聞いた時ッ、出たんだ!」

 

「それは……!」

 

「そうだよ、僕のミラーモンスター。デストワイルダー!!」

 

 

タイガは英雄になる為の道を見つけるができた。

だから自分の中にある英雄に向き合う事ができる。

それは覚醒だ。心が東條悟の形を明確に作り上げて具現した。

 

 

「美国さんの言ったとおりだ。彼女の言った通りにすれば、僕は前に進める!」

 

 

織莉子が自分の道を教えてくれた女神なんだ。

タイガはもうすっかり美国織莉子の虜になっていたのかもしれない。

 

 

「ジュゥべえも教えてくれたよ?」

 

 

ミラーモンスターの誕生を察知し、ジュゥべえタイガにデストワイルダーの性質を教えて消えた。

 

 

「何か分かるかな?」

 

 

タイガはウキウキとした声色で嬉しそうに問い掛ける。

まどかが泣く声に重なり、場は異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

「分からない? じゃあ教えてあげる! 英雄なんだよ!」

 

 

デストワイルダー。その性質は英雄。

完璧だった。パーフェクト! 自分の心が具現した事に興奮しないと言うほうが無理だ。

 

 

「気づく事はいいことでしょ? もしかしたら僕はもう英雄なのかも! どうなのかな? フフフ!」

 

絶句する一同、その中で織莉子は場を制す様に手を上げた。

全身からビリビリと嫌な雰囲気が漂っている。

これは、そう、緊張感だ。

 

 

「皆さん。各々、思う所や言いたい事はあるかもしれません」

 

 

ですが、ここは一度心を落ち着けて沈黙してほしいと頼んだ。

自分が言える立場ではないかもしれないが、ココは一つの時間を与えるべきだ。

誰にも邪魔できない神聖な時間を。

 

 

「それは、親友と別れなければならない彼女の為に」

 

 

そう言って織莉子はまどかを見た。

睨み返すほむらやかずみを無視して、織莉子はハッキリとその事実を突きつける。

 

 

「志筑仁美は、もう助かりません」

 

「――ッ!!」

 

「鹿目まどかとの別れの時を、与えてあげましょう」

 

 

まどか達はフルパワーで回復魔法を行使しているが、仁美の身体からは今も血が流れていく。

仁美は人間だ。既にまどかも気づいていた。脆い彼女に回復魔法をかけても死へ至る時間が長引くだけ。苦痛が増すだけ。

 

 

「いい加減に認めた方がいいわ。別れの言葉をかけてあげた方が賢い選択であると言うことを」

 

「嫌だよ! そんなのやだよぉ!!」

 

 

まどかはボロボロと涙を零しながら仁美の死を否定しようとする。

しかし対照的に仁美の肌はもう驚くくらいに青白く変わっていた。

感じる体温も冷たく、呼吸も弱弱しく微弱なものへ。

 

 

「嫌だよッ! 嫌だよぉ! せっかく守れたのに!!」

 

 

まどかは仁美を強く抱きしめる事しかできない。

すでに回復はフルパワーで掛けている。もちろんかずみもほむらもだ。

しかし織莉子が言ったとおりそれは何とも弱い延命でしかない。

 

 

「まど……か…さん」

 

「!」

 

 

だが回復のおかげで喋られる様にはなった。

仁美は弱弱しい笑みを浮かべると手についた血を服で拭い、その手でまどかの涙を拭いた。

そのまま震える手でまどかの頬に触れる。

 

 

「ありが……と――…う……。でも――、もう……ぃいん…です――……の」

 

「良くないよ! なんでそんな事言うの!?」

 

「だって……、もう」

 

「嫌ァ! そ、そうだ! 言ったよね? 言ったよね! 一緒にケーキ食べようって!! 約束だよ? 約束なんだよッ!?」

 

 

約束を破るなんて駄目! だから死なないで!

まどかはそう言って仁美を何とか繋ぎ止め様としていた。

しかし仁美は儚い笑みを浮かべたまま首を振る。

なら謝らないといけない、約束は守れそうに無い。掠れる声が言葉を紡ぐ。

 

 

「やめてよっ! やだよ! やだよ仁美ちゃん!!」

 

 

まどかだって分かってる。

だけどそれを認めては終わりだ。泣き叫ぶ様にして仁美を抱きしめる力を強めた。

回復の天使ローシェルはその光景を悲しげに見つめる事しかできない。

既にフルパワーであると言うだけに、もう打つ手は存在しなかった。

いや、もしかたら何かがあったのかもしれない。

何かがあったのかもしれないが、それを見つける事はできなかった。

 

 

「ゲホッ! かはっ!」

 

 

弱弱しくせきこむ仁美。

血が詰まっていたのか、咳をするたびに吐血を繰り返していた。

ソレを見てパニックになるまどか。仁美が死ぬ、それだけは嫌だった。

 

 

「お願い……! お願い死なないで仁美ちゃんッ! 仁美ちゃんがいなくなったらッ、わたし――ッ!」

 

 

いつも三人一緒だったじゃないか。いつだって三人で笑ってたじゃないか。

一緒に映画を見たり、一緒に遊園地にだって行った。

楽しかった、さやかがいて、仁美がいて。

 

 

「わたしっ! わたし一人になっちゃうよぉ!!」

 

「――ッ」

 

 

まどかは懇願するように、縋りつく様に泣いた。

その言葉を聞いて表情を歪めるほむら。

関わりは薄い。分かっていた事だ。

そう割り切っていたつもりだが、今の一言はほむらの心に大きく響いた。

まどかにとって、友人と呼べる者はさやかと仁美だけだったのだろうか?

ほむらは下を向いた。

 

尤も、まどかはそう言う意味で言ったつもりじゃないが、言葉のあやと言うものだろう。

仁美もそれを分かった上で、笑みを浮かべた。今にも崩れてしまいそうな儚い笑みだ。

消えてしまいそうなロウソクみたいに命の火を燃やしながら笑った。

 

 

「そんな事……。まどかさんにはお友達が……いっぱい…いるじゃない……ですの」

 

 

血を吐いて呼吸が楽になったか、仁美は少し声量を上げて口した。

しかし目がどんどん虚ろになっていく。世界が暗くなっていく。

怖かった。辛かった。嘘だと言ってほしかった。夢であってほしかった。

パパとママに会いたくなった。でももう、それを叫ぶ元気も無い。

 

そんな中で仁美が笑みを浮かべる事ができたのは、そこに親友がいて、彼女が泣いているからだ。

少しでも心配をかけたくないと、少しでも冗談めいた終わりにしようと考えているのだろうか?

 

 

「わた……――…し、なんか……よ――……もっ…素敵なお友達が――ッ」

 

「やめて! 聞きたくない!!」

 

 

まどかもそう言って仁美の頬に触れる。

ダメだ。仁美の冷たさがより伝わってしまった。

しかし仁美にとっては、まどか体温を感じられることが嬉しかった。

死にたくないと泣いたら、彼女が困ってしまう。だから絶対に言わない。

 

 

「次、そんな事言ったら……怒るよ! 本当に怒るからね!!」

 

「………」

 

「仁美ちゃんだってわたしが似たような事を言ったら叩いたくせに!」

 

 

仁美はそうだったと謝罪を行う。

 

 

「仁美ちゃんの代わりなんていない! いないんだよぅッ!!」

 

 

だってそうじゃないか。

 

 

「仁美ちゃんは、わたしのかけがえの無い親友なんだもん!!」

 

「まどか……、さん――。 本当ですか――?」

 

「あたりまえだよぉ! だから、待ってて! 絶対助けるからぁッ!!」

 

 

まどかの守りたいと思う心に呼応して、ローシェルの放つ光が強くなっていく。

 

 

(愚かな)

 

 

織莉子はつくづくそう思う。

あれは希望の光ではない、志筑仁美の苦痛を長くするだけの物だ。

が、しかし――。仁美は嬉しそうに笑った。長引く苦痛のはずなのに、偽りの無い笑顔を浮かべていた。

 

織莉子に湧き上がる言いようの無い敗北感。

気に入らなかった。分かりやすく言えばムカついて仕方なかった。

親友(キリカ)を利用した自分と、親友(ひとみ)を最期の最後まで死なせまいとするまどか。

仕方ないと割り切っていても嫉妬や劣等感に近い物が生まれた事は確かだ。

 

それにまどかの潜在能力は魔法少女の中でもトップクラスだ。

このままだと本当に仁美を助ける可能性も出てきた。

奇跡を起こされては困る。織莉子はローシェルを破壊しようとオラクルを構えた。

しかし仁美が次に口にした言葉を聞いて、織莉子はオラクルを下ろすことに。

 

 

「うれしい……! うれしいですわ――ッ、まどかさん……!」

 

「………」

 

 

耐えようと思っていたが、ついに仁美も堰を切ったように涙を流し始めた。

痛みや恐怖も理由の一つではあるが、なによりもまどかの言葉が嬉しかった。

どんな言葉を貰っても、どんな態度を貰っても、心にはいつも張り付くような不安があった。

仁美は端的にまどかへ自分の想いを吐露していく。

 

自分の家柄が凄いことは知っていた。

つまりお嬢様。習い事は別に良かった。嫉妬されても良かった。耐えられた。

でもそんな環境には――、不満はあった。

 

異性だって、中学生と言う年齢ながらもよくラブレターを貰ったり、告白されたこともある。

しかし話を聞けば聞くほど、向こうは自分ではなく、自分と言うブランドと付き合いたいのだと言う事を突きつけられる。

自分はおまけだ。相手がほしいのは志筑仁美と付き合っているというステータスだけ。

 

誰も自分を見てくれない。誰も本当の自分を理解してくれない。

そんな不満を抱きながら彼女は毎日を送ってきた。

だけど、そんな中で出会った二人。まどかとさやかだけは本当の自分を見てくれる。自分を理解してくれる。

 

何よりも、二人の前ならば本当の自分でいられる。

何事もそつなくこなしてきた仁美に、初めて嫌われたくない人ができた。

そしてもっと知りたい相手が出来たのだ。

 

 

「嬉しかった、です……、けれ……、ど」

 

 

不安もあった。

習い事の為に誘いを何度も断り、テレビの話題にもたまについていけない。

まどか達がそんな事を口にしたことはないが、もしかしたらノリが悪いだとか話していてもつまらないんじゃないかと不安になっていた。

でも聞けない、聞いて関係が悪くなるのが怖かった。

 

我ながら醜いと思う。

けれど、ほむらやかずみが転校してきた時も実は不安だった。

仁美、まどか、さやかの並びが崩れてしまうのではないか。隣にいるのが、いつの間にかほむらに代わっているのではないか、なんて。

 

 

「酷いでしょう……?」

 

「そんな事ないよッ! どんな事があってもッ、仁美ちゃんはわたしの親友だよ! 嫌いになんてならないよッッ!!」

 

 

ほら、また親友と言ってくれた。

こんなに嬉しい事があるか。こんなに幸福な事があるか。

仁美の心は幸せと希望に満ち溢れていた。

だから涙を流してる。嬉しさと、まどかを悲しませてしまう事。

なによりも、もう会えなくなる寂しさや。

 

 

「………」

 

 

織莉子はオラクルを完全に消滅させた。

もうローシェルを壊す必要は無い。だって、もう仁美は……。

 

 

「ごめんね……まどか――……さん」

 

「――っっ!」

 

「もう、貴女の姿が……見えませんの」

 

 

最初は目を閉じているのかと思っていたが、視力を失っていた事に仁美は気づいた。

耳にも異変が起きる。音が遠くなって、意識もぼんやりとしてきた。

嫌だった。死にたくなんて――、無い。

それでもまどかが抱きしめてくれるから、怖くは無かった。

仁美は最後の力を振り絞って笑みを浮かべた。

 

 

「ねえ……まどか――……さ――」

 

「仁美ちゃん? ねえ、どうしたの仁美ちゃん!!」

 

「私……貴女の事が――……」

 

 

これだけは言わなくちゃいけない。

仁美は最後の希望を燃やす。

 

 

「大…好き……――――」

 

「――ッ」

 

 

ダランと、仁美の身体から力が抜けた。

目にはなんの光も灯しておらず、まどかが何度名前を呼ぼうが反応する事は無かった。

 

 

「……寝ているだけ、そうだよ! 眠ってるだけだよ!」

 

 

まどかボロボロと涙を零しながら笑った。

 

 

「仁美ちゃんが起きたときにはもう元通りにしないと! だから早く助けないと! お、お、お願いローシェル、仁美ちゃんを助けてあげて……!」

 

 

しかしローシェルは悲しげな表情で首を振って消滅していく。

もう回復魔法をかける意味が無い。かずみとほむらも理解して魔法を中断した。

 

 

「うそ……、だよ――ッッ!」

 

 

まどかは打ちひしがれた様に仁美を抱きしめていた。

チラと見る。鎖骨が無かった。斧で切断されたのだ。

引き裂かれた肉が見えた。まどかは目を逸らした。そのまま見ていくと、心臓に刃が達している。

それは見えてはいけなかった。まどかは首を振る。でも仁美は動かない。

 

 

「もう分かっているはず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁美が死んだ事を。

 

 

「せっかく……、せっかく守れたのに――!」

 

 

見滝原から避難してくれるって約束したのに――ッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シ ン ジ ャ ッ タ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッツウ!!??」

 

 

目が金色になっていた織莉子は、その瞬間、頭を抑えて声にならない悲鳴をあげる。

そして痙攣したように身体を震わせると、思わず口を押さえて俯いた。

酷い汗だ。仁美と同じほど青ざめて震えている。

 

耐え切れず、吐きだしてしまう。

しかし何も胃には入っていないのか、ただ胃液だけが体内で暴れる。

 

 

「オエ――……ッッ!」

 

 

何が起こったのか?

その中で頷き合うオーディンとタイガ。

どうやら二人は事前にこうなる事を聞かされていたのだろうか?

 

 

「織莉子!」

 

 

オーディンが名前を呼ぶと、織莉子が反応を示す。

ただあまりの衝撃で言葉が出ないのか、何度も頷くだけだった。

しかし察するには十分だ。オーディンはワープを行うと呆然座っているまどかの前にやって来る。

 

 

「ッッ!!」

 

 

ほむらは銃を構えてオーディンからまどかを守ろうと試みた。

しかし意外にもオーディンはグリーフシードを手にしており、妨害しようとするほむらへ手をかざす。

 

 

「邪魔をするな。世界が終わるぞ」

 

「……ッ?」

 

 

怯むほむら。

そうしているとオーディンはまどかのソウルジェムにグリーフシードをかざした。

見ればまどかのソウルジェムが真っ黒になっている。

 

 

「!」

 

 

穢れが晴れたように見えたソウルジェム。

しかしそれは瞬く間に淀み、再び黒に染まろうとしていた。

 

 

「厄介な……!」

 

 

オーディンは予備のグリーフシードを使って、再びまどかの魂を浄化させる。

そして穢れが晴れたと同時に首を打ち、気絶させた。

痛覚遮断や衝撃緩和をソウルジェムに命令していない事が幸いだった。

まどかが気を失った事で思考は停止し、ソウルジェムが急激に穢れる事はなくなる。

 

 

「………」

 

 

相変わらず、誰もが言葉を失っていた。

真司は倒れている仁美を呆然と見ているだけしかできなかった。

実感が湧かない。本当に彼女は死んでいるのか? そんな現実逃避を心が無意識に行っている。

だがその中で織莉子達はしっかりと未来を視ていた。もちろん全ては計画通りである。

そして今、望む答えが手に入ったのだ。

 

 

「視えました……ッッ!」

 

 

志筑仁美と言うゲームにおいてのキーキャラクターが死んだ事で、未来が変化する。

彼女が死んだ事で悲しむ人物がいる。親友を失った事で絶望する者がいる。

そしてその絶望にて生まれた魔女は、全ての生命を無に返す。

 

 

「やはり……やはり貴女だったのね――ッ!」

 

 

狙い通り、織莉子は『彼女』を指差す。

未来にノイズが走るかずみはイレギュラーではあるが――、あれだけの天使を生み出せる人物の方とて異常ではないか。

 

 

「鹿目まどか――!」

 

 

織莉子が見る未来は、地球が滅びる光景。だ

その原因を作り出したのが、そこにいる鹿目まどかなのである。

 

 

「貴女が絶望の魔女です……ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先輩、気づいたな』

 

『ああ、そうだね』

 

 

時は来た。

キュゥべえは丸い目で全てを視ていた。

二匹の妖精の片方はニヤリと笑い、片方は無表情で地面を蹴った。

 

 

「鹿目まどかが魔女になれば、世界は終わる!」

 

 

織莉子が指差したのは間違いなく気絶しているまどかだった。

 

 

「な、何故だ……ッッ!」

 

 

地面に倒れたままのサキが叫んだ。

立ち上がる力も無いのだろう。今にも気を失いそうなほどに目も虚ろになっている。

しかし今の言葉は聞き逃せなかったのだろう。

 

 

「何故まどかがそんな存在になる! 彼女は普通の魔法少女の筈だ!」

 

「そうだよ! デタラメ言って、まどかを殺そうっての!?」

 

 

十字架を構えるかずみ。

しかし織莉子の様子が明らかに違う。あれは演技でできるものなのか? そんな引っ掛かるものもあった。

その織莉子は震える声で一同に謝罪を行う。仁美を殺した事は本当に申し訳ないと。

 

 

「しかし全ては見滝原を。いえッ、世界を守る為の犠牲! 鹿目まどかを見つけるための礎なのです!」

 

 

普通の魔法少女? いや違う。

あの魔力の質と量。そして天使召喚と言うイレギュラーたる力。

どこも普通じゃない。

 

 

「貴女達は何の犠牲も無しに世界が救われると! 守れると思っているのですか?」

 

「何――ッ!?」

 

「そんな甘い世界じゃないことくらいもう知ってるでしょう! この問題は早急に、かつ必ず解決しなければならない事です!」

 

 

でなければ世界が終わる。

もはやフールズゲームなんてどうだっていい。

織莉子はただ単に、鹿目まどかを殺す事が大事だと言った。

 

 

「確かに犠牲なき終わりがあるのならばそれは素晴らしい事であり、我々が目指すべき結末でもあるでしょう! しかしそれは時間と余裕ッ、なによりも希望があればの話!」

 

 

あったか? そんなものが今までに。

無理だ。魔法少女システムは否定できない。少なくともルールの檻に囲まれている以上は絶対に無理だ。

 

 

「彼女は生きていてはいけない存在なのです。そう、存在自体が罪ッ!」

 

 

可哀相だとは思う。気の毒だとは思う。

だが現にそうなってしまった以上は仕方ないだろう。

織莉子は荒げ、おもむろに手を上げた。どうやら織莉子なりに焦っているらしい。

 

 

「なにをっ?」

 

「贖罪の一つです。こんな事で皆さんの気が晴れる訳は無いと思いますが――」『ファイナルベント』

 

 

ファイナルベントの音声は聞こえたが、それは織莉子が行ったものではなく、ましてやオーディンでもない。

では誰が? 一同が疑問に思ったとき、またも信じられない光景が飛び込んでくる。

 

 

「グ――……ッ!」

 

「!?」

 

 

織莉子の前方に現れたのはタイガのミラーモンスターであるデストワイルダーだった。

白虎はその爪を躊躇無く織莉子の腹部に突き入れる。みるみる赤く染まっていく織莉子の服、それは紛れも無く攻撃されたと言う証。

またもタイガは裏切りを? だがオーディンは腕を組んだままの無言。

どうやらこれは最初から計画された行動であるようだ。

 

 

「ごめんね、織莉子さん」

 

「いいんです……! この痛みッ、なによりも鹿目まどかの為に背負いましょう!!」

 

 

タイガが合図を出すと、デストワイルダーが織莉子を仰向けに叩きつけて引きずり回した。

摩擦で肉が剥がれているのか。織莉子は苦痛に顔を歪めながら、血の絨毯を作っていく。

デストワイルダーが織莉子をつれて向かうのはタイガの元だ。

彼はデストクローを装備して腰を落としている。

 

 

「ハァァァ……!!」

 

「!」

 

 

そうか、そういう事か。手塚は織莉子の狙いを把握した。

織莉子は自分の死で未来を再び変えるつもりなのだろう。

 

 

「鹿目まどかが目覚めたなら、この瞬間、この光景をちゃんと伝えてくれ」

 

 

オーディンは持っているグリーフシードを全てまどかに向かって投げていく。

起きた瞬間グリーフシードが穢れる可能性が高い。

それを浄化しつつ。織莉子が苦しんで死んだ事を伝えてほしいと。

 

どんな人間だろうとも、人間である以上は複雑なものを抱えている。

まどかだってそうだ。仁美を殺されたとあらば、当然その犯人や首謀者に黒い感情を抱くのは無理もない。

だが、まどかは愚かなほどに優しい。湧き上がった感情は永遠ではなく、すぐに白が塗りつぶしてくれる。だから織莉子の体に爪が入ったと聞いたとき、まどかは一瞬だけ無意識ながらに『ざまあみろ』なんて思ったのかもしれない。だがまどかはそう言った感情を嫌う。そう思ってしまったのならば自分を嫌悪する。

 

いや、違う。

すぐにもっと大きな感情が湧いてくる。

それは織莉子への同情だ。つまり心配してくるのだ。

助けてあげられないかな? わたしに出来る事はないかな――、なんて。

 

 

「ハアアアアア!!」

 

 

デストワイルダーは織莉子を掬い上げる。

そこへ爪を突き出すタイガ。デストクローは深々と織莉子の背中に刺さりこみ貫通。つめ先が腹部から顔を見せる。

臓器が破壊され、織莉子は大量の血を吐き出した。

 

 

「皆さん……ッッ」

 

 

織莉子は血走った目で参加者を睨みつける。

そしてまた吐血。しかれども目を見開いて最期の言葉を放った。

 

 

「またッ、私は戻ってきます……!」

 

 

織莉子はまだ一度しか死んでない。二度目の復活は許される。

そこでまた大量の血を吐く織莉子。この痛みは忘れない、そしてだからこそ同じような痛みを世界に背負わせてはならない。

絶望の魔女が覚醒すれば、多くの人間が死を迎える。

何度でも叫んでやろう。鹿目まどかは不要だ。必ず殺さなければならない。

 

 

「その時こそ……! 貴方達とは、友好な関係を築きたいものですね」

 

 

タイガはそこで冷機を噴射。

織莉子はみるみる凍りつき、爆発を起こした。

クリスタルブレイク。織莉子の残骸は一瞬で粒子化してその存在を消滅させる。

 

 

「………」『スキルベント』

 

 

織莉子が死んだと同時にスキルベントを発動するオーディン。

織莉子の魔法の力を使えると言うことで、早速未来が変わったのかを確認する。

しかし全貌を確認するには若干の時間が足りないようだ。

 

人の死が未来を変える。

それも参加者が死ねばよりいっそう未来は形を変えていく。

毎日どこかで人は死ぬものだ。それでいちいち未来が変わっていてはキリが無い。

死ぬことで未来に影響を与えうる重要なファクター、それが参加者達と、その周りにいる人々だ。

 

 

「志筑仁美の死は重要な物となり、そして鹿目まどかが絶望の魔女に至る光景を視る事ができた」

 

 

だがそれはこの場で鹿目まどかが絶望し、明日に変わることなく世界が滅びる光景。

鹿目まどかは気絶し、織莉子が罪を認めて死んだ。未来がどう変わったのかはまだ映像が飛び飛びでまともに確認できないが、少なくとも『明日』はある。『明後日』もあるようだ。

そして化け物が見える気配は無い。人は普通に生きている。

つまりそれはどんな姿であれ、ゲームオーバーは回避できたと言うことだ。

 

 

「目覚めた彼女には、くれぐれも注してくれ。なるべく優しい言葉をかけるように」

 

 

あとはサキたちの説得に期待しようではないか。

それが無理ならば、次の手を考えるだけだ。

もちろんここで気絶しているまどかを殺してもいいが――、まだ未来が視えていない以上、うかつな事はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、参加者の皆』

 

「「「!」」」

 

 

丁度時を同じくして参加者達の前に現れる二つの影が。

片方は白く、片方は黒く。ジュゥべえとキュゥべえは絶望の雰囲気漂う中でもいつもと変わらない様子だった。

 

彼らは重要な情報を与えるキーキャラクターだ。

普段は街に隠れて、ヒントを与える為のアシストとして機能する。

そんな彼らが自ら参加者にコンタクトを取る場合は決まって情報を与える時だ。

直接脳に必要な言葉を叩き込むだけでいいのに、今回はわざわざ姿を晒した二匹。

それだけ重要な情報なのだろうか?

 

尤も、今は誰も彼らの話をまともに聞ける心情ではない。

そしてそれを当然理解できないインキュベーター達。

彼らは淡々とした様子で自らのペースをつくりあげる。

 

 

『志筑仁美は死んでしまったようだね。ゲームに巻き込まれるとは、お気の毒だよ』

 

『鹿目まどかは気絶してんのか。じゃあ誰か後で伝えておいてくれよ』

 

 

キュゥべえが皆に重大なお知らせがあると告げた。

そのタイミングが今だった事はわざとではないが、狙わなかったと言えば嘘になる。

とにかく、今から話す内容は参加者にとって運命を左右する情報だ。

ちゃんとココにいない参加者にもテレパシーを通して伝えると補足が入った。

 

 

「前書きはいい。さっさと伝えてくれないか」

 

 

オーディンの言葉に申し訳ないとキュゥべえ言う。

そしてその無表情な顔を突き通したまま、一同の脳内に直接その真実をブチ込んだ。

 

 

『一週間』

 

「「「!」」」

 

『ワルプルギスの夜が、今日を含めてあと七日でやってくるよ』

 

 

最強の魔女、ワルプルギスの夜。

 

 

『さあ、ラストデイズだ。終焉の始まりと行こうぜ!』

 

 

感情はない筈なのに、やけにジュゥべえの声は嬉しそうに聞こえた。

 

 

 

【美国織莉子死亡】【残り16人・10組】

 

 

 

 

 

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