仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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あとがきにビルドの次のライダーの事をちょろっと書いてます。
まだ知らない人は飛ばしてね(´・ω・)


第47話 決別 別決 話74第

 

 

 

「………」

 

 

ほむらは現在、美佐子のマンションで生活している。

現在サキと美佐子は買い物に出かけている為、家にはほむらだけだった。

彼女は電気もつけずに、壁にもたれ掛かって沈黙している。

明かりと言えば窓から差し込む夕日だけだ。その炎の様な光だけを感じて、思考を鈍らせる。

 

放心した様に、ほむらは一点を見つめていた。

もう『時間停止』と言う切り札は使えない。奥の手も――、おそらく期待しないほうがいいだろう。

いずれにせよ、限りなく弱体化した状況でまどかを守らなければならないのだ。

不安は多いが、それでもほむらを突き動かす記憶と言う物がある。

 

たとえどれだけ傷つこうが、たとえどれだけ心を抉られ様が、たとえどれだけ絶望がこの身を汚そうとしようとも繋ぎ止めたい想いがある。

目を閉じれば、今も鮮明にあの時の事が思い出せる。

 

まどかは希望を与えてくれた。

まどかはほむらとってのヒロインだった。

まどかはいつも明るく、笑顔で、なによりも優しかった。

 

 

「――まどか」

 

 

彼女を名を口にするだけで優しくなれる。

だから、まどかが死ぬ運命をどうしても変えたかった。

ほむらは、まどかの為に魔法少女になった。その事は欠片も後悔していないが、だからこそ彼女を救えない苦痛があった。

 

 

「それでも私は必ず貴女を助ける。必ず貴女を守る」

 

 

まどかを守る為に、永遠の時間を繰り返す事を決意した。

あの日、あの時、その時間軸。皆が恐怖に飲まれていた。

さやかは杏子と対立を起こし、それが原因で魔女になる。

それが魔法少女が魔女となる運命を知らなかったマミの恐怖を加速させ、彼女を暴走させた。

 

マミはまず、ほむらを縛り、そして杏子のソウルジェムを撃ち抜いた。

あの時の恐怖に満ちたマミの表情は、ほむらとしても複雑な想いが残る。

 

 

『ソウルジェムが魔女を産むなら! 皆死ぬしかないじゃないッ!!』

 

 

マミは恐怖に身を任せて、やがて魔女になる魔法少女達を皆殺しにしようとした。

そんなマミを止めたのはまどかだ。まどかはほむらを狙うマミのソウルジェムを、光の矢で貫いた。

ほむらを救うにはそうするしかなかった。尊敬する先輩を殺してしまい、辛い現実を突きつけられたまどかは、涙を流して崩れ落ちる。

救うために殺す。そんな意味不明な矛盾に心を抉られていたのだろう。

 

 

『嫌だ……っ! もう嫌だよこんなのぉ……!』

 

 

何故まどかが絶望しなければならないのか。

ほむらは慰めようと、必死に笑いかけた。

もしかしたらこの時の自分達は、他人の目から見れば酷く滑稽に映ったかもしれない。

 

 

『大丈夫だよ、二人で頑張ろう? 一緒に……、一緒にワルプルギスの夜を倒そう?』

 

 

でも、ほむらはどこかで諦めていたのかもしれない。

まどかも涙をこらえて頷いてくれたが、きっと彼女だって心のどこかで諦めがあった筈だ。

 

無限に続くループ。

ほむらも幾度と無く続いていく絶望の連鎖に、心が折れそうになっていた。

まどかを救いたかった、まどかを守りたかった。まどかと共に笑い会える未来を歩みたかった。

なのに何度と無くインキュベーターが、魔女が、そして何よりもワルプルギスの夜がそれを砕く。

わずかに灯った希望を、ズタズタに引き裂こうとするのだ。

 

 

『ヒャハハハ! アハッ! アハハハ! ヒーッヒヒヒヒヒ! イヒッ!』

 

 

今回もまた、ヤツは狂ったように笑いながら現れた。

ほむらもまどかも手を抜いたつもりは無い。全力でワルプルギスを倒そうとした。見滝原を守ろうと奮闘した。

 

しかし。

 

なのに。

 

でも。

 

結局、無駄だった。

 

ありとあらゆる手で攻撃したが、向こうのサイコキネシスや使い魔たちの援護攻撃はまどか達の攻撃を封殺して、的確な反撃を行っていく。

最強の魔女。その名にふさわしい圧倒的な敗北だった。

二人のソウルジェムは濁りきっており、空には何の事も無く笑い続けるワルプルギスが浮遊している。勝てない、ヤツには何をしても。どんな手を使っても勝てない――ッ!

 

 

それが、暁美ほむらが得た結論。

 

 

『わたしたち、もうおしまいだね』

 

 

隣に寝ていたまどかが呟く。

彼女のソウルジェムもまた限界を迎えていた。

 

 

『グリーフ……、シードは?』

 

『ううん、全部、使っちゃった』

 

 

そう、ほむらは終わりを確信した。

 

 

『ねえ、私たちこのまま二人で魔女になって、こんな世界滅茶苦茶にしちゃおっか?』

 

『え?』

 

 

ほむらは涙を浮かべ――、けれども笑顔で提案する。

辛い事も、嫌な事も、悲しい事も。全部無かった事にしてしまえる程に壊して、壊して、壊しまくって。

 

 

『それはそれで、良いと思わない?』

 

 

いい子であるのも疲れたろう。

もう自由にしてくれ。ほむらは己の身を絶望にゆだね様としていた。

すると、ほむらのソウルジェムが急激に光りだす。

 

 

『え?』

 

 

見れば、まどかが笑みを浮かべながらグリーフシードでほむらのソウルジェムを浄化しているではないか。

 

 

『なっ! 鹿目さん!?』

 

『てへへ、さっきのは嘘……。一個だけ取っておいたんだ』

 

『そんな――ッ!? でも、どうして私にッ』

 

 

対照的にまどかのソウルジェムは真っ黒に淀み、ヒビが入り始めた。

絶望が身を切り裂こうとする中で、まどかはほむらに笑みを向けたのだ。

いつも様に。普段どおりに。

 

 

『わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできる事を……、お願いしたいから』

 

『え?』

 

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?』

 

『――ッ!!』

 

 

ほむらの体に電流が走った、

確かに以前、そう言った話をそれとなくは。

結局誰にも信じてもらえなかったとばかり……。

 

 

『こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって言ってたよね?』

 

『うん……』

 

 

そのつもりだった。

しかし実際は何も変えられず、こうして救いたかったまどかを絶望に沈めようとしているんだ。

まどかの笑顔が眩しくて、心に突き刺さった。目を背けたかった。

 

 

『キュゥべえに騙される前の馬鹿なわたしを、助けてあげてくれないかな?』

 

『!!』

 

 

まどかは、笑いながら涙を流していた。

その時ほむらは、まどかの心の中にある、ありったけの苦痛を感じ取った。

未練。辛いのに笑うのは苦しすぎるから。これを夢だと信じたいからだ。

 

 

『ほむらちゃん……、わたし、こんな終わり――、やだよ』

 

『鹿目さん……!』

 

 

マミやさやか、杏子と普通に笑いあいたかっただけなのに。だけなのに――ッッ!

 

 

『こんなの……、やだよぉ』

 

 

ほむらは、まどかを抱きしめたかった。

でもそんな時間が無いことも分かる。だから無我夢中で訴えた。

まどかの想いを死なせない為、その手を握る。

 

 

『約束するわ! 絶対に貴女を救ってみせる。何度繰り返す事になっても!』

 

 

ほむらも、まどかも、涙でお互いの顔がうまく見えない。

 

 

『必ず、必ず貴女を守ってみせる――ッッ!!』

 

『……よかった』

 

 

永遠の戦いになったとしても、この誓いだけは忘れない。

必ず鹿目まどかを守るのだと。絶望したまま終わらせるなんて絶対に許さない――ッ!!

 

 

『うあぁぁッッ!!』

 

『か、鹿目さん!?』

 

 

まどかは苦痛に身を捩じらせて叫び声をあげた。

絶望がまどかを侵食して、飲み込もうとしているのだろう。

弓なりに体をしならせ。身体と魂に走る激痛に恐怖する。

 

 

『も、もう一つだけ――ッ! お願い……しても、いい……かな?』

 

 

苦しそうに表情を歪ませながらも、まどかは心配を掛けさせないためか、笑みを浮べていた。

 

 

『なに? 私貴女の為ならなんでもする――!』

 

 

それを聞くと、まどかは少し寂しげな表情を浮かべる。

 

 

『わたし、魔女になりたくない』

 

『!』

 

『嫌な事も……、悲しい事もあったけど、守りたいものだって――』

 

『うん、うん……!』

 

『守りたいものだって、たくさん……ッ、この世界にはあったから』

 

『まどか――ッ』

 

 

まどかは儚げな笑みを浮かべたまま、ほむらの頬に手を添える。

 

 

『ほむらちゃん……。やっと、名前で呼んでくれたね』

 

 

うれしいな。

そう言ったまどかの目から光が消えた。

ほむらは泣き叫びながら盾から銃を取り出して、それをまどかに向けた。

泣いた、叫んだ、美しい声が、醜く掠れようとも構わずに。

 

だってそうだろう?

欲しい物を買ってもらえずに泣き喚くのとは訳が違う。

死なないでと。壊れないでと願っているのに、その手に持っているのは彼女を殺す道具だ。

命をつなぎとめる行為が、彼女を壊す、その矛盾。

 

 

『はっうッッ! ぐぁッ! うぅぅうう!!』

 

 

別に特別な事は望んでいなかった。

ただ、まどかと一緒に笑いあいたかっただけだ。

一緒の時を過ごせればそれでよかった。まどかの友人として、当たり前の幸福を築きたかった。

お茶をして、買い物をして、それからそれから――……。

 

 

『ううぅう゛う゛う゛ぅう゛ウゥウヴ゛ッッ!!』

 

 

銃声が聞こえた。

ほむらは引き金を引いて、まどかに終わりを与えた。

そして魔法が発動される。ほむらが砂時計を戻せば時間は遡り、また始まりだ。

砂はワルプルギスの夜との戦闘にて必ず切れるルールがある。

砂が織り成すループ。無幻と無限。

 

 

 

誰も未来を信じない、誰も、未来を受け止められない。

 

 

「――まどか」

 

 

ほむらはゆっくりと目を開ける。

そうだ。どれだけの絶望が襲い掛かってこようが、まどかと再び笑い会える世界にたどり着くまでは諦めない。

しかし今回は騎士と言うイレギュラーが訪れた訳だが、その謎はほむらにも全く分からぬ事。

なぜ時間を戻しただけのループなのに、騎士などと言うイレギュラーが押し入ってくるのか。

それにいなかった筈のジュゥべえだって……、彼が言った言葉だって。

 

 

『暁美』

 

『!』

 

『窓の下だ』

 

 

その時。頭の中に手塚の声が響いた。トークベントだ、ほむらは我に返って窓の外を見る。

影の黒と、夕焼けのオレンジしかない世界で、手塚はほむらを睨む様にして立っていた。

手塚の目に夕日が映っているような気がする。

 

ほむらは手塚の表情に少し気圧されてしまう。

尤も、手塚とはもうそれなりに長くいるが、いつも無表情に近い。

だから言ってしまえば、いつもと変わらないとも言える。

しかし長くいたからこそ、ほむらには彼の『異変』が分かってしまった。

 

 

『何……?』

 

『大切な話がある』

 

『………』

 

 

丁度良い。ほむらとしても手塚とは話したかった。

ほむらはすぐに彼を美佐子の部屋に招き入れる。

他人の家だ、お茶を出すわけでもなく、二人は向かい合って座る事に。

 

おかしな感覚だ。

少し離れただけなのに懐かしさがある。

昔を思い出していたからだろうか? ほむらはほんの少しの安心感を覚えていた。

ずっと繰り返してきた時間の中で、仲間になってくれる魔法少女は多くいた。

しかし時間軸が変われば、時として対立して、命の奪い合いも行ったものだ。

その点、手塚はまだ純粋な味方と言えるかもしれない。

 

 

「今日は、すまなかったな」

 

「いいのよ。別にたいした話はしなかったわ」

 

 

仲間で話し合った。手塚は用事があるらしく来れなかったが。

 

 

「いずれにせよ、まどかを守るだけよ」

 

 

問題はオーディン達をどうするのか?

結局その答えも出ぬままに話し合いは終わってしまったが、とにかく鹿目まどかを守ると言う点が大切なのだ。

 

 

「その事で一つ聞きたい事がある」

 

「何?」

 

 

一瞬だけ、間が空いた。

手塚の声のトーンは変わらないが、少し引っかかる。

 

 

「鹿目まどかは、本当に絶望の魔女なのか?」

 

「………」

 

 

手塚としてはそれが唯一気になっていた事だ。

あの情報は織莉子達が自分達を混乱させる為に告げたものなのか?

それとも本当にまどかは危険な存在なのか? ココがネックだった。

 

 

「繰り返してきたお前なら、知ってるんだろう?」

 

 

ほむらは考える。

あまり言いたくはない話ではあるが、事態が事態であり、パートナーの手塚にも知ってもらう必要があるのかもしれないと思ったからだ。

ましてや余計な考えを働かせて集中力を切らしてもらっては困る。

少し迷ったものの、ほむらは苦い顔をしながら頷く。

 

 

「ええ、そうよ」

 

 

駄目だ。

この話をする度に、まどかが絶望に嘆く光景が眼に浮かんでくる。

それはほむらにとって、決意を固めた理由であると同時に、何よりも心に突き刺さるトラウマであった。

 

 

「そうか――……」

 

 

手塚は複雑な表情で頷いた。

しばらく沈黙する。ほむらも何を言っていいのか分からずに沈黙しえいた。

手塚は何かを考える時の顔を浮かべていた。苦悶の表情をそこに混ぜた様な。目を閉じて耐える様に言葉を詰まらせていた。

 

 

「理由は分かるのか?」

 

「え?」

 

「鹿目はただの人間だろ。なぜそんな彼女が世界を終わらせるほどの存在になる?」

 

 

手塚は、ほむらを睨んだ。

いや、本当は普通に彼女を見ているだけなのかもしれない。

だがほむらには少なくともそう感じた。それは話の内容が、ほむらを追い詰めるものだったからなのかもしれない。

 

 

「もしも間違っているのならすまない。これはあくまでも俺が考える仮説の一つとして聞いてくれ」

 

「何を……?」

 

「お前が原因の一つじゃないのか?」

 

 

間違いなく、手塚はほむらを睨んでいた。

別に傷ついた訳ではなく、別にそれが不満だった訳でもない。

だが今までは無駄に肯定してくれただけに、手塚から責任を求める様な言葉が出てきて、ほむらは少しだけ怯んでしまった。

 

そしてその時。ほむらは、いつの間にか手塚に甘えていたのではないかとも思ってしまう。

なんだかんだと言ってパートナーなんだからと言う、割り切った甘え。

心のどこかで手塚は自分を傷つけない存在なのだと、都合よく考えていたのではないかと。

 

しかしそんな一瞬の考えを、深く掘り下げる暇はない。

ほむらは意を決して、何度か頷いた。それはイエスの意だ。

そう、ほむらはその責任から目を背けたいが、逃げる事は許されない。

だから頷く。イエス。手塚の言うとおり、まどかが絶望の魔女に至った原因の一つは確実に暁美ほむらにあるのだと。

 

 

「そうね、その通りよ」

 

 

ほむらはキュゥべえから教えられた事を、そのまま手塚に告げていく。

魔法少女の潜在力は、自身が持つ『元々の才能』と他に背負い込んだ『因果の量』で左右される。

 

 

「因果?」

 

「キュゥべえは不思議がっていたわ」

 

 

一国の女王や救世主ならばともかく。

ごく平凡といえる人生を与えられた鹿目まどかに、どうしてそれだけの力が眠っていたのか。

それはもはや才能として割り切るには在り得ない程の力だった。

であるならば、背負い込んだ因果の量が凄まじいと考えるのが普通だ。

では、平凡なまどかが背負い込む因果とは何か?

 

 

「キュゥべえは一つの答えにたどり着いた」

 

「それが、お前だったと言う事か」

 

「ええ、おそらく貴方が考えている通りよ」

 

 

キュゥべえは言った。原因は、暁美ほむらの魔法にあると。

その副作用にこそ、鹿目まどかの因果を膨張させるに至ったエネルギーがあるのだと。

相反する二つの絶大なエネルギー。それは希望と絶望、無限に続く生と死。

 

 

「私はただ時間を戻したとばかり思っていたわ。いえ、事実ソレは変わらない」

 

 

だが時間を戻し、ほむらが未来を変える事で、事実はそれに合わせた変動を遂げていく。

もっと簡単に言えば、ほむらは時間を戻す度に、何かしらの過去を変えて未来の形を変形させてきた。

 

するとどうだ?

元々あった、『なりうる筈』の未来はどこにいく?

事実として一度は存在した世界はどこにいく?

 

 

「それは、平行世界としてカウントされていった」

 

「……ッ、パラレルワールドか」

 

「ええ。私は物語の主人公でもなんでもないわ」

 

 

ほむらが時間を戻したとして、ほむら以外の人間がそこにいる事は変わりない。

だが未来は、ほむら視点では確実に変動を遂げていく。

だったら彼女が時間を遡った後の他の人間はどうなるのか。

その疑問はパラレルワールドへと収束する。

 

 

「私は、鹿目まどかの安否を原因に、時間を戻し続けた」

 

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。

同じ目的、同じ理由、全ては鹿目まどかの為に。

そうしている内に、ほむらは数多の世界を『まどかを中心にして』束ねてしまった。

 

 

「その結果として、決して絡まる筈のない平行世界の因果が、全て鹿目まどかに上乗せされる様に連結してしまったと言う事か」

 

「ええ、そうよ」

 

 

ほむらは冷たい目で手塚を見る。

きっとそれは手塚の後ろにいる過去を視ていたのだろう。

キュゥべえは言った。わざわざ、ご丁寧に言ってくれた。

 

 

「私が、まどかを最強で最悪の魔女に育ててくれたんだと」

 

「………」

 

 

頭が痛くなる。

手塚は苦悶の表情で首を振った。

まさかそんな事が在り得るとは。いや、それほどまでに暁美ほむらが、鹿目まどかを想う力が強いとも言える。

しかしその想いが、今この状況を創り上げたのだろう。

 

死ぬはずだった鹿目まどかを助けるために、何度と無く時間を巻き戻して死と再生・絶望と希望のループを繰り返す。

歪な言い方をすれば、それは純粋なる愛が創り上げた異形の奇跡だ。

積み上げた想いは、それだけ因果を膨れ上がらせる。

 

 

「因果、平行世界――ッ」

 

 

騎士はほむらが全く知らなかった存在だ。

時間を戻した時、いきなり現れた。

それはまさか――ッ?

 

 

(いや、過ぎた運命か)

 

 

今更なんだ。

考察も、後悔も、疑問も全て。

 

 

「今回も、戻すのか?」

 

「………」

 

 

ほむらは少しばつが悪そうな表情を浮かべ、首を振った。

『今回』は何故かジュゥべえと言うイレギュラーが、初めからほむらの能力を知っていた。

 

 

「アイツは私の魔法と、今までのやってきた事を見透かした様な発言をしていたわ」

 

 

そしてもう二度とチャンスは無いという事。

今回で決めろと言う警告じみたものだった。

それが意味するものはただ一つ。

 

 

「おそらく私は、何らかの制約で時間を戻せないのではないかと思うの」

 

「まあ、運営が許すわけも無いか」

 

 

ほむらの話では、今回のジュゥべえとキュゥべえの介入率は他の時間軸の比ではない。

参加者を隔離し、かつキトリーと言う従者まで獲得し。

何よりもゲームに不必要な魔法少女を何らかの手を使って、強制的に絶望させた。

 

そんな彼らが、ほむらにわざわざアプローチを仕掛けておいて、魔法を把握していないとはあり得ないだろう。もちろんハッタリの可能性も捨てきれないが、今回のイレギュラーに次ぐイレギュラーを考えれば、時間逆行は不可能と見て間違いない。

 

 

「だから私は、何があっても、どうなっても彼女を守りたいの」

 

「………」

 

 

手塚はその言葉には反応を示さず、代わりに自分の心に取り巻く純粋なる疑問をぶつけた。

 

 

「もし、今回も戻せるとしたら、お前はどうする?」

 

「ッ、もしもの話をするつもりは無いわ」

 

「可能性はゼロじゃない。いつまたお前の魔法が戻るかなんて分からないだろ」

 

「………」

 

「魔法少女は奇跡を起こしてきた。なら、第二の奇跡を起こせるかもしれない」

 

 

言葉を詰まらせるほむら。

ほむらの意思によって手塚の運命は左右される。

そんな彼を目の前にして言うべき台詞なのかは迷ったが、元々答えは一つしかない。

そう決まっている。答えは一つだ。純粋な想いはまだ死んでいない。

 

 

「私は、まどかを守る為にココにいる」

 

「……そうか」

 

「その目的が達成されるまで私は抗い続ける。たとえ今ココにいる貴方を犠牲にしても」

 

「ああ、それでいいさ」

 

 

今回は平行世界の時間軸が乱れ、騎士と言う全く違う存在を生み出したのかもしれない。

もしも時間を巻き戻せば、もう二度と手塚は騎士になれないかもしれないし。

もしかしたら騎士と言う存在その物も消え去るかもしれない。

つまり手塚と言う人間など、初めからいなかったことになるのかもしれない。

 

だがそれでも、それでも……、成し遂げたい目的がある。

ほむらの中に後悔は微塵も無かった。手塚と過ごした時間は嫌なものではないが、揺ぎ無いまどかへの想いがそれを塗りつぶす。

 

 

「恨むなら、私を恨んで……」

 

 

自分でもわがままとは思うが、貫かなければならない意志がある。

手塚はそこで始めて笑みを浮かべて首を振った。

尤も、その笑みとは唇を少し吊り上げただけ。目は全く笑っていなかったが。

 

 

「暁美、俺は別にお前を責めるつもりはないさ」

 

 

人は誰もが譲れない『何か』を持っている筈だ。

ほむらの様に、己の身を犠牲にしても叶えたい願いがある。

全ては人間の願い、欲望、純粋なる心の力が生み出した、求める物がある。

 

 

「………」

 

 

そして、それはもちろん手塚海之にも同じくして存在しているのだ。

手塚は歯を食いしばると、拳を握り締める。

 

 

「手塚、それより明日の作戦を――」

 

「暁美。俺は、戦いを止めたい」

 

「えっ?」

 

 

ほむらの言葉に被せる言葉。それは手塚にとっての純粋なる願いだ。

暁美ほむらの想いと肩を並べるに相応しい確固たる信念である。

 

 

「どうしたの? 知っているわ」

 

 

何度も聞かされた言葉だ。今更である。

 

 

「だがそれは、その先にある確かな物を守る為にだ」

 

 

ほむらの苦悩は分かっている。

しかし手塚とて抱えている信念があった。

ほむらよりも勝っているとは思わないが、劣っているとも絶対に思わない。

 

 

「何を言ってるの――?」

 

「俺は確かめたかったんだ。鹿目まどかが本当に世界を終わらせる魔女なのかを」

 

 

しかし疑問は今をもって、確信へと変わった。

なぜ手塚が話し合いに参加しなかったのか。それは、ある人物に会いに行っていたからだ。

 

 

「俺が戦いを止めたかったのは、俺には守りたい物があったからだ。この星にな」

 

 

言ってしまえば、真司の様に輝いた愚直な願いではない。

漠然としたものを守りたいのではなく、明確な存在を守りたいのだ。

それが、約束だったから。

 

 

「お前の話を聞いて分かった。やはりインキュベーターは是が非でも鹿目まどかのエネルギーを回収しにくるだろう」

 

 

インキュベーターは力を与えてくれた存在でもあるが、言い方を変えれば侵略者とも言える。

鹿目まどかを願いによって救ったとして、奴らは必ず次の手でまどかを狙いにくる筈だ。

そして最終的には地球を終わらせる一手がやってくる。

たとえまどかを魔女の運命から遠ざけようとも、おそらくは魔女に代わるシステムを用意してくる筈だ。

どんなルートを辿ろうが、鹿目まどかに蓄積された因果の力が減る事は無い。

 

 

「恨むなら、俺を恨め」

 

「え……?」

 

 

先ほどほむらが言った言葉と同じ事を手塚が口にする。

 

 

「時間を戻せない今回が狙い目だな」

 

 

何だろうこの嫌な予感は。

ほむらは汗が滲む感覚を覚える。

否定して欲しい、はやく否定して、いつもの様に淡々とした雰囲気に戻ってほしかった。

こんな憎悪をチラつかせないでほしかった。

 

 

「俺は、お前を利用した」

 

「な、何を――?」

 

 

手塚は立ち上がると、窓の外を見た。

夕焼けが照らす見滝原。この街には――、この世界には多くの人間がいる。

他人を傷つけるヤツ。人を平気で殺せるヤツ。そんな人間がゲームでは目立ってきた。

しかし同じくして、他者を思いやる心を持った者たちが多くいる事を知っている。

 

 

「そして、その中で死ななければならなかった者がいる」

 

 

命の重さは人によって変わる物なのかもしれない。

だが決して誰もが軽いわけではないのだ。

 

 

「決めたんだ、暁美」

 

「……ッ」

 

 

聞きたくない。

それがほむらの純粋なる想いだった。

しかし手塚はそんな彼女の気持ちを知る由も無く。

いや分かっていながらかもしれないが、とにかくほむらを睨んでいた。

 

 

「俺は――」

 

 

ほむらは目を逸らした。しかし耳は塞げない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、織莉子に付く」

 

 

ほむらは目を見開いて手塚を見つめる。

彼が何を言ったのか、理解できない様だった。

 

 

「鹿目まどかは無視できない存在だ。だから――!」

 

 

手塚は、ほむらを睨み貫く様な眼光だった。

 

 

「彼女には、消えてもらう」

 

「な、何を――……」

 

 

その時、手塚の目にあった覚悟が、殺意だと言う事にほむらは気づいた。

戦いを止めたいと思った手塚を利用させてもらうつもりでいた時もあった。

しかしいざとなったら、手塚のほうが牙を剥いてくると?

 

 

「何でッ、どうしてッ!」

 

「俺には、守りたい物がある。それだけだ」

 

「戦いを止めたいんじゃないの!?」

 

「戦いを止める為に殺すんだ」

 

「ッッ!!」

 

 

手塚とてそれは本心ではないと言えばそうだ。

彼も鹿目まどかは死ぬべきではないと思う。

しかし、それとは別の想いもある。何があっても守らなければならない物がある。

それを天秤にかければ、自分も手を汚す必要があるのかもしれないと決断を行ったのだ。

 

 

「どう考えても鹿目まどかの存在は危険だ。そもそも、お前は何度時間を繰り返した?」

 

 

それはつまり、それだけの回数、ほむらがまどかを救えなかったと言うことではないのか。

もう時間は戻せない。失敗したじゃ済まされないのだ。

 

 

「お前を鹿目を守り続けると言う気持ちで戦うのは自由だ。しかしそれは爆弾を抱えながら生きていくと言う事だ」

 

 

暁美ほむら一人の問題ならまだしも、多くの人間を天秤にかけてまで行う行動なのか?

 

 

「お前の時間旅行はココで終わりだ」

 

「!」

 

「死を以ってして、鹿目まどかの呪われた運命を終わらせる――ッ!」

 

「ッぅ――!」

 

「俺は世界を取るぞ。暁美!」

 

 

ほむらは反射的に変身すると銃を構えて、手塚に突きつけた。

しかし手塚は全く怯まない。むしろ呆れたような視線を向ける。

 

 

「無駄だ、"パートナー同士は傷つけあえない"!」

 

「うるさいっ! うるさいのよ!! 今すぐ冗談だと言って――ッ」

 

「………」

 

「言いなさい! 手塚ァアッ!」

 

 

冗談でこんな事は言わない、手塚は本気だった。

戦いを止めたいと一心に願っている。だが同時に、その難しさも理解している。

綺麗事は大事だとは思うが、それを語っている内にどれだけの命が犠牲になった?

 

もう時間は無い、迷っている時間も。

だから手塚は決断を行った。彼を突き動かすのはただ一つ、暁美ほむらと同じく純粋な願いである。

 

 

「猶予は無い。俺は鹿目まどかを切り捨てる」

 

「うるさい――ッ! 黙れ!!」

 

 

発砲音。

ほむらが構えたハンドガンが、音を立てて弾丸を発射する。

手塚の肩を捉えたが、【パートナー同士は傷つけあう事ができない】。

弾丸は手塚に命中したものの、ダメージを与える事はなく、虚しく地面に落ちた。

 

 

「スタンガンも効かない。(ネット)を使っても、そこに殺意があれば簡単に引きちぎれる」

 

「ッッ!」

 

「今のお前に感情をコントロールできる余裕があるか? 無理だな。お前に俺は止められない」

 

「うるさい――っ! うるさい、うるさい!!」

 

 

二度、三度と引き金を引く。

ほむらの声が悲痛に震えていた。

そこに綺麗事は無い、手塚は自分を裏切った。手塚はまどかを裏切った。

何よりも大切なまどかを殺そうとする。そうだ、"手塚海之は敵になった"のだ。

ほむらが発射した殺意の結晶は手塚を傷つけようとするが、それ等は全て虚しく弾かれるだけ。

 

 

「なんだ!? ほむら、どうし――」

 

 

帰ってきていたのか。美佐子とサキが銃声を聞いて飛び込んでくる。

するとそこには銃を構えているほむらと、無表情で座っている手塚がいるわけで。

ほむらの表情は鬼気迫るもの。とても冗談や、実験をしている雰囲気ではない。

 

 

「ちょ、ちょっと、どういう事なの?」

 

 

美佐子は特に混乱していた。

普通ならば刑事として止めるべきなのだろうが、参加者独特の空気を感じてしまい、困ってしまう。

 

 

「浅海サキ! 今すぐコイツを拘束して!」

 

「て、手塚をか?」

 

「そうよ! 暴れる様なら殺しても構わないわッ!!」

 

 

そんな事、急に言われてもである。

そんなサキを不憫に思ったか、手塚は立ち上がる。

 

 

「丁度いい。浅海、俺は今日織莉子の所へ行ってきた」

 

「ッ?」

 

「リーベエリスの本部で連絡先を貰ったんだ」

 

 

女性が男性に携帯番号を教える場合、色恋沙汰と相場は決まっているが、もちろんこの狂ったゲームの中では違う意味になる。

仁美の事があるため、もちろん手塚としても織莉子は警戒していたし、怒りもあった。

だがもっと気になる事があったまで。それは罠の可能性を考慮してもだ。

 

それが、絶望の魔女である鹿目まどかの事である。

手塚も人間だ。志筑仁美の死は大きなショックではあったが、手塚の大切な物が危ない状況ならば割り切る事もできた。

 

 

「俺は織莉子に誘われたんだ」

 

「な、何をだ――?」

 

 

手塚は窓にもたれ掛かり、サキを冷たい目で見つめる。

当然だ、今日のこの瞬間から、目の前にいるのは敵なのだから。

サキも、ほむらも、そして真司達も。

 

 

「鹿目まどかを殺す事をだ」

 

「なっ!」

 

「俺はそれに乗った」

 

 

その瞬間、サキも何故ほむらが銃を構えていたのかを理解する。

手塚が裏切った。いや――、裏切ったと言う言い方はおかしいのか。

答えを、見つけたのだ。

 

 

「待てッ! いくらなんでも織莉子が怪しいとは思わないのか!?」

 

「分かってるさ」

 

「なにッ!」

 

「だが、たとえ利用されても、鹿目だけは消さなければならない」

 

「馬鹿な! 利用される事が分かっている上で、織莉子についたと言うのか!?」

 

 

そこまでして、手塚はまどかを――。

サキはそれが堪らなく寂しかった。冷静だった手塚がまどかを殺す判断した事で、彼女が世界にとって害悪なんだと言う事を叩きつけられている様だ。

 

 

「お得意の占いで、まどかを殺した方がいいって出たのかしら」

 

 

ほむらは嫌味たらしく言い放ち、盾から新たに取り出した銃で手塚を狙う。

無駄では? パートナー関係がある以上、ほむらはどうあっても手塚にダメージを与える事はできないのだから。

 

 

「占いか。そうだな、織莉子につく方が賢いと出たよ」

 

「――ッ」

 

 

ほむらは悔しそうに表情をゆがめて引き金を引く。

その時、誰も理由が分からぬ事だが、ほむらの目から一筋だけ涙が零れた。

手塚はそれを見ても、目を逸らさない。ただ飛んで来る弾丸を無言で受け止めただけだ。

当然それはルールによって意味のない物に――

 

 

「……なるほど」

 

 

いつの時代も、決まりごとにやルールには何かしらの穴と言う物が存在しているものだ。

ほむらは確かに手塚を傷つけられない。

しかし弾はしっかりと命中している。

 

 

「麻酔銃か」

 

 

確かに、針は刺さっている。

普通なら手塚は眠ってしまうが、先程のとおりだ。

 

 

「落ち着け。殺意が隠しきれてない」

 

「――ッッ」

 

 

眠らせるならまだしも、眠らせて殺そうと思っているからルールが発動する。

手塚は全く眠くならない。ほむらは舌打ちをして銃を投げ捨てた。

針が刺さればあるいはと思ったがどうやら無駄の様らしい。

 

いや、狙いは良かった。

ルールはあれど、それはパートナー間での戦いを全て禁止する訳ではない。

抜け道は確かに存在はしている。しかし今回は抜けられなかったと言うだけであって。

 

 

「くッ!」

 

「!」

 

 

だがその時、サキが反射的に変身して鞭を伸ばした。

パートナーであるほむらの攻撃は通らないが、サキの攻撃は当然通る。

まどかの敵になると言っている以上、サキとしても無視はできない。鞭で手塚を縛りあげた。

 

 

「気絶させる。頭を冷やせ!」

 

「俺は冷静だ。自分でも引くくらいな」

 

 

人を殺す事を正当化しようとしている。

世界の為にと、大切な者の為にと。だがそうする事で思っていたよりも、まどかを殺す事を楽に決める事ができた。

 

 

「浅海、お前は運命を大きく左右する重大な位置に立つだろう」

 

「っ?」

 

「占いだ。お前は運命の分岐点を作る鍵になる」

 

 

その言葉と共に、動き出そうとする手塚。

何か来る? サキは反射的に電流を流して気絶させようと試みた。

 

 

「なっ!」

 

「クッ! やられた!」

 

 

電流が迸った瞬間、手塚の体が粉々に砕けて消滅する。

残ったのはジョーカーのカードだけ。トリックベント・スケイプジョーカーだ。

どうやら変身していなくとも使えるらしい。

随分と皮肉な物だ。ほむらとの時間が生んだカードが、ほむらとの決別に使われるとは。

 

 

『そう。それに暁美ほむら』

 

「――っ」

 

 

トークベントを介して、手塚の声が脳に響く。

まどかの敵となった以上、その声は嫌悪感しか感じない。

ほむらは舌打ちを行い窓を開ける。どこだ? 周りを見回したとき、彼はすぐ下の道に立っていた。

 

 

「手塚……」

 

 

どこかで、冗談だと言って欲しかったのかもしれない。

本音を言えばやはり信頼していた。ずっと一人で無限とも言える時間を巡ってきた中で、やっと疑いようの無い味方に出会えたと思ったのに。

信じてもいいと。頼っても良いと思い始めたのに。

 

 

「やっぱり、こうなるのね……」

 

 

ほむらは、変身していたライアを見る。

目が合っているのかも分からない。

ただ一つ分かる事があるのならば、やはり彼は敵になったのだと言う事だった。

両隣に目障りな影があった。

 

 

「んでんでんででー? どうだったのさ」

 

「ああ、やはり鹿目まどかが絶望の魔女で間違いは無い」

 

「良かった。じゃあ僕がやった事はやっぱり正しかったんだ」

 

 

ライアの右には、ジットリとほむらを睨む呉キリカが。

そしてライアの左には相変わらず濁った目をしている東條が立っていた。

ライアは、ほむらが信頼して伝えた情報を呆気なくキリカ達に告げると、トークベントでの会話を続行させた。

 

 

『お前、このままの道を行けば死ぬぞ』

 

『まどかを守る事が、私の全てよ。占いなんて下らない!』

 

『俺の占いは当たる。よく考えるんだな』

 

『今更敵の心配かしら。余裕ね、腹が立つわ』

 

 

フッと笑うライア。

これがパートナーとしての最後の会話だと彼は言った。

 

 

『そうだ、これが俺のパートナーとしての最後の行動だ』

 

『ッ?』

 

『もう一日、猶予を作ってやる』

 

 

手塚は織莉子の味方になる条件の一つに、明日――、つまり織莉子がまどかを殺す予定日を遅らせる事を申し出た。

それくらいじゃ未来は変わらないのか、織莉子は了承する。

つまり一日は遅らせるのだ。

 

 

『お前達はその間に作戦を立てろ』

 

 

戦いになれば織莉子達は力押しでやってくる筈。

オーディンのスペックの前では小細工は無駄?

いや、しかし向こうも人である以上、必ずミスや焦りと言うのは存在する筈だ。

 

 

『逃げればあるいは、か』

 

 

例えばワルプルギス到着まで、まどかを連れて逃げる。

そして耐え忍べば織莉子達は狙いをワルプルギスに変えるしかなくなるだろう。

 

しかしそれはあくまでも一時しのぎにしかならない。

織莉子はゲームが終わった後でもまどかを狙い続ける。

それは根本の解決にはならない、何としてもハッキリとした形で決着をつけるしかないのだ。

話し合い? いや、それは難しい話。結局の所正面からぶつかり合って織莉子を説得するか――

 

 

『殺すしかない』

 

『……どういうつもりなの?』

 

 

裏切ったと思えば心配など、そのブレブレな行動、ほむらにとっては不快感が増すだけだ。

 

 

『俺はあくまでも戦いを止める為に鹿目を殺す。下手な犠牲は出したくは無い』

 

 

それに先ほども言ったとおり、コレは最後のパートナーとしての言葉なのだと。

何度も言っている通り、今日を以ってして二人は敵となり、その間には明確な亀裂が走る。

 

 

『許さない……っ! 私は貴方を絶対に』

 

 

そんな事を言えた義理ではないかもしれない。

いつだって不利な立場にあったほむらに、味方し続ける保障なんてどこにもなかった筈だ。

そうだ。手塚にメリットは無かった。

まどかを守ると言う事は無理難題を押し付けていたのかも知れない。

 

しかし手塚ならば協力してくれると信じていたのだろう。

なのに彼はまどかを殺すと言う。そのショックが憎悪を倍増させたのだ。

ある種、ほむらが歪な信頼を抱えていただけ。

歪んでいるのだ、彼女は。

 

 

『その恨みを、力に変える事だな』

 

 

決別。絆の終わりがやって来た。

それをライアもほむらも理解する。所詮はゲームと言う砂の城の上に成り立つ関係だったのか。

どちらも己の道の為、双方が邪魔になった。

 

 

「さあ、戻るぞ」

 

「ぶー、今殺しちゃえばいいのに」

 

「そうだよ、英雄として彼らは――」

 

「それが契約だろう?」

 

 

ライアの言葉に渋々頷くキリカと東條。

織莉子からライアの言う事は絶対に聞けと言われている。

今日はあくまでも手塚の付き添いに護衛として付かされただけだ。

東條もキリカも、織莉子の言葉となれば絶対となっている。

よってライアの言葉通り、特に何をするでもなく踵を返した。

 

 

「――ッ!!」

 

 

ふざけるな。

ほむらは盾からバズーカーを取り出すと、迷わず三人に向かって発射する。

 

 

「んなッ! 住宅街だぞ!?」

 

 

サキと美佐子はいきなりの彼女の行動に息を呑むが、その時スキルベントと言う音声が。

 

 

『フリーズベント』

 

「な……ッ!」

 

 

瞬時認識される別の音声。

見ればほむらが放った弾丸がピタリと止まっているじゃないか。

そして同時にバイザーを突き出しているのはタイガ。

どうやらキリカとの絆を認識した事で、カードが増えたと言う訳だ。

 

スキルベント、『インストール・トパーズ』。

それは龍騎の持っているスキルベントと非常に効果が似ている。

変身補助だ。東條の身に危険が迫ると減速魔法が発動して、しばらく周りの時間が極端に遅くなる。

 

その間にタイガへ変身、フリーズベントを発動する。

"フリーズ・アクアマリン"。人間以外の動きを止める効果を持つ。

その二枚を使って、ほむらが放った攻撃を回避したという事なのだろう。

 

 

「駄目だよぉ暁美ぼむらぁ、怒りっぽいのは」

 

「相変わらず腹の立つ魔法ね……!」

 

「酷いよ暁美さん。そんな言葉遣い、いけないんじゃないかな?」

 

「そうそう。周りの人の事は考えないと駄目だよ」

 

 

嫌味を含めたキリカの言葉。

さらに同時に変身して、黒い爪を一本、止まっている弾丸に向けて投げた。

爪は弾丸に刺さり爆発。サキが結界を張って周囲に被害が出ることを防いだが、爆風が晴れたときにはもうライア達の姿は無かった。

 

 

「………!」

 

 

ほむらは軽く壁を叩く。

 

 

「落ち着け」

 

 

サキはほむらの背中を軽く叩くと、咎めるように睨みつけた。

 

 

「先ほどの行動は、とてもじゃないが褒められた物ではないぞ」

 

 

世話になっている美佐子の家の周りで戦闘を。

おまけに複数に被害が出そうな武器をチョイスするなど。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「いえ――ッ、怪我が無くて良かったわ」

 

 

そうは言う美佐子ではあるが、やはり表情には戸惑いが見える。

何度見てもこの光景はなれない物だ。自分よりも遥かに小さい子供達が覚悟を決めて、命を奪うために不釣合いな力と武器を振るう。

 

中でも今の暁美ほむらは圧倒的だ。

魔法とは言えど、使うのは実際に存在する重火器。

ほむらは本気でライア殺すつもりだった。美佐子にはそう思えて仕方ない。

 

いや事実そうだったのだろう。

いくらパートナーといえど。いくら傷つけられないと分かっていれど。

いくら共に時間を過ごし助け合った仲だったとしても、確かな亀裂が走れば、それはすぐに殺し合いへと舞台を移す物なのか。

 

そう、そうだ。

命を賭けた殺し合いにて、道を違えればこうなる事は分かっていたのに。

それでもほむらは、心の中にある確かな苛立ちを隠しきれない。

 

それに焦りだってある。

ライアがいても勝てるかどうか分からない状況だったのに。

この状況で織莉子に仲間が増えるなんて。

しかし弱気になってはいけない。ほむらは彼らが立っていた場所を激しく睨むと、すぐに割り切る事にした。

 

 

「……浅海サキ」

 

「な、なんだ?」

 

「真正面からぶつかって、勝機はあると思う?」

 

「――っ、それでいいのか?」

 

 

サキとしても、手塚は自分を迷いから引き上げてくれた存在だ。

今の事態を受け入れる事に抵抗があった。

 

 

「分かっているでしょう? あなたも」

 

 

確かに。

手塚は戦いを止める為にココまできた。

それは止めたいと思える理由がこの世界にあったからだ。

まどかは今、世界を終わらせる力を持っている。

 

 

「……正直、厳しいだろうな。あの羽さえ無ければなんとかはなるかもしれないが」

 

 

情けない話だが、前回のオーディン戦は酷い物だった。

それは決して自分達が力を抜いていたわけではなく。

まさに圧倒的なオーディンの力に敗北したと言ってもいい。

あくまでも初めて戦ったという事で不利な面もあったが、果たして次があっても勝てるのかどうか。

 

 

「ワープは勘で対処するしかない。後は織莉子の武器か」

 

「呉キリカの時間操作が一番厄介よ。あれは最悪のコンビネーションになる」

 

 

唯一向こうに勝てる方法があるとすれば、戦力の分断以外にはありえない。

織莉子達は固まる事により力を増幅させる性能を多々有している。

たとえばそれはキリカの魔法であったり、織莉子の武器であったり、オーディンの立ち回りであったり、そしてタイガやライアのカード。

その全てがどちらかと言うとサポートの役割を持っている物が多いのだ。

 

 

「しかしワープを持っているオーディンを分断できるのかと言われれば……」

 

「ええ、そうね。でも確実にオーディン以外は分けておきたい」

 

 

特に呉キリカだけは。ほむらはそう言って近くの椅子に座り込んだ。

酷く疲れた様子だ。長く終わりの無い闇が、身と心を包んでいく。

それは巨大な重圧となり、一気に暁美ほむらの心を押し潰そうとする。

 

 

「……浅海サキ」

 

 

ほむらはか細い声でサキの名前を呼び、笑みを向ける。

その笑みには、自分自身と世界へのありったけの皮肉が感じられた。

あれが中学生の浮かべる表情なのか。

美佐子はつくづく魔法少女と騎士が背負っている重さを感じてしまう。

美佐子がほむらに何を言おうとも、ほむらにとっては薄っぺらい言葉にしか感じられないのだろうと。

 

 

「私は……、ただ、まどかを守りたいだけ」

 

「ほむら――ッ」

 

 

なのに、と、ほむらは目を細める。

 

 

「どうして、上手くいかないの?」

 

「………」

 

 

サキは自分の腕にあるスズランの花を見つめて、同じく目を細めた。

しかしほむらと違って、全く笑っていない。

 

 

「それが、魔法少女が背負う呪いと言うものだろう」

 

「呪い――……」

 

「ああ。叶えた物と同じくらいの物を――。いや、もっと多くの物を失う」

 

 

契約しなければ良かったと思うほど、最後には相応の滅びが待っている。

 

 

「しかし私たちはこの力を求めた。その願いを叶えた。確かな魔法を手に入れた」

 

 

だから自分達は足掻き続けなければならない。

 

 

「呪いに。絶望に食われるな。それが私たちにできる最大にして唯一の抵抗ではないのか」

 

 

サキはそういって優しくスズランを撫でる。

 

 

「月並みな言葉かもしれないが、諦めてはいけない」

 

「諦めないわ……。私は、絶対に」

 

 

絶対など、存在しないものかもしれない。しかし言葉にしなければならなかった。

それはサキも同じだ。どれだけ自分達が不利な状況にあろうとも、諦めればそこで終わってしまう。

だから足掻く、だから抗う。

 

 

「その姿が醜くても――」

 

 

そうすれば。

 

 

「愚かでも――」

 

 

きっと。

 

 

「哀れでも」

 

 

希望の光は僅かながらに輝く筈だ。

 

 

「絶望に食われるな。希望があると信じるんだ」

 

 

まどかは守るし、誰も死なせてはいけない。サキはそう言って大きく息をはいた。

奇跡を願って得た力だ。ならばもう一度奇跡を起こす事だってできる筈。

希望の祈りで生まれた力を、絶望を回避する為に使おうではないか。

その為の希望は、まどか達が。妹が教えてくれた。

 

 

「いつか君は言ったな」

 

「?」

 

「何故私たちは今ココにいるのか」

 

 

何故魔法少女になったのか。決まっている、それは奇跡を願ったからだ。

その思いの強さをもう一度胸に刻もうではないか。

 

 

「たとえ心が折れそうになっても」

 

 

サキは少し自信なくもそう言った。

 

 

「そう……、そうね」

 

 

曲げられない願いがある。

手塚にもそれがあったのだろうか?

ほむらはそんな事を思いながら深いため息をついた。

 

とりあえずサキや美佐子と相談して、今起こったことを一同に告げる事に。

既に蓮達はゲームに乗ったとの情報は得ている。

こうなればまどかを守ってくれるのは真司、美穂、サキ、ほむらと言う事になるのか。

場合によっては危ない橋を渡る必要があるのかもしれない。

ほむらはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

「どうしたの? 真司さん」

 

「あ、いやっ! 何でもないよ! あはは」

 

 

北岡と別れた真司たち。

まどかを家まで送り届けたところで、真司の携帯にサキからメッセージが届いた。

それは手塚が織莉子に付いたと言う事。まどかには絶望の魔女の事もあるため、メールは送られなかったが。

 

 

(手塚――……ッ!)

 

 

失望は無い。幻滅と言う事も無い。衝撃だけがあった。

手塚は自分と同じ志を抱えていたと思っていたが、彼はまどかを殺すと言う。

いや、それは『戦いを止める』という言葉の裏に隠された、相反する意味。

 

真司は全ての人のために戦いを止めたかった。

しかし手塚は違う。明確な優劣をつけた上で、目的の為に協力派を選ぶことが正しい判断だと思っていたのだ。

それは割り切った上での話しなのかもしれない。

 

たとえばの話だが、強盗犯が銃を持って人質を取り、立てこもっているとしよう。

その事件をどう解決するのかが今回の話しに繋がってくる。

真司は話し合いで、犯人が自分から人質を解放して自首する事を促すタイプだ。

しかし手塚は強引に突入し、人質を守るためならば犯人を撃ち殺すタイプだった。

もちろん極端な言い方ではあるが。

 

要するに真司と手塚は『戦いを止める』と言う同じ目標を掲げていたのだが、過程や細かい話は随分と変わってくると言う訳だ。

真司にだってそれくらいは理解できた。と言うか、きっと分かっていた。

 

もちろん納得はできないし、手塚の行動を肯定する訳でもない。

そもそも疑問だった。その道を行く事が、手塚にとって本当に望む物なのだろうか?

真司としても濁った物が心の中に渦巻いている。

手塚がどこか蓮に重なった。

 

 

「あの、まどかちゃん……」

 

「ん?」

 

「――ッ」

 

 

頭をかく真司。

やはり、彼女には本当の事を言うべきなのだろうか?

しかし自分ひとりの判断で決めて良い物なのか?

結局、渦巻く迷いを振り切る事ができずに、曖昧な笑みで誤魔化すしかできなかった。

 

 

「あ、あはは。何でもないんだ」

 

「てへへ、変な真司さん」

 

 

じゃあ。

そう言って二人は躊躇う様に手を振って別れた。

 

 

「ッ、何でだよ……」

 

 

真司は帰り道。虚空に向かって苛立ちをぶつける。

蓮の答えも、手塚の答えも、真司は否定できなかった。

彼らには彼らの抱えている願いがある。その重さは、言葉では表せない物だと言うことも理解しているつもりだ。

 

蓮は恵里を何よりも大切に思ってたし。真司にとっても恵里は大事な親友だった。

だけど、だからと言って、まどかを殺そうなんて許せる筈がない。

パートナーとしてはもちろん。なによりも一人の人間として、あんな良い子が絶望の魔女だからと言う理由で死ななければならないなんておかしいだろ。

――などとは思うが。だからと言って、コレと言った対処方法も分からない。

 

ヒーローはおろか、何にもなれない。

まどかを救うことも。仲間を説得する事も。まして戦いを止める事もだ。

また何も見えなくなってしまう。

 

 

「ッッ!!」

 

 

そんな事を考えていたからか。

少し離れたところに立っている少年に気づくのが遅れてしまった。

思わず息が止まる。一瞬、幻覚なのではないかと思ってしまった程だ。

 

 

「鹿目まどかの家からお前の会社に行くのなら、この道を通ると思ったんだ」

 

 

真司が他の道を通って帰る可能性も十分にあった。

しかしそこはそれ、占いと言う便利な力がある。

よもやそれは予言の域にまで達しそうだ。将来はもう決まったも当然だろう。

 

 

「俺の占いは当たるからな」

 

「手塚……ッ」

 

 

真司は少し後ずさり、全身に迸る緊張感に息を呑んだ。

 

 

「城戸、少し話さないか?」

 

 

手塚はどこか、呆れたように笑っていた。

 

 

 

 

 

 














ジオウの公式画像でなぜか龍騎のベルトがディケイドライバーになってたのが話題になってましたね。

まさか何か伏線なのか?
皆が盛り上がってる中、神様の華麗な上スライドによってベルトが隠される修正。



そういうとこやぞ(´・ω・)


でもたのしみやのぉ。
このワクワク感はオールスターならではですな。

メインは田崎監督らしいですね。
どの程度監督の影響力があるのかは分かりませんが、田崎監督といえばやはりアギト、龍騎、ファイズの夏映画でしょうな。

あの画の強さは、今でも印象に残ってますね。
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