仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第49話 杏里の呪い い呪の里杏 話94第

 

 

 

 

【三日目】

 

 

清清しい朝と言うのは、誰しもに与えられる訳ではない。

たとえばココ、高見沢邸の厨房では、朝の食事を用意するために多くのシェフやメイドが慌しく動き回っていた。

シェフ達は高見沢の食事を用意する。メイド達は自分達の朝食を別に作っている。

そんな中、ニコは厨房にひょっこり顔を見せた。

 

 

「おはおは」

 

「あっ! おはようございますニコ様!」

 

 

使用人たちは一勢に作業を中止して、ニコに頭を下げた。

 

 

「止めてくれ。ただ顔を見せただけで作業を止められたら、私が高見沢に怒られそうだ」

 

 

しかし一応ニコは親戚と言うことになっている。

失礼なことはできないのだろう。

 

 

「アイツこえーもんな、皆お疲れちゃん」

 

 

ニコの服装は外出時のもの。どうやら早朝から出かける様だ。

 

 

「手早く朝食を済ませに来た」

 

 

ニコは近くの皿に盛り付けてあった卵焼きを見て目を光らせる。

器の形から見て、コレはメイドが作った使用人の食事だろう。

まだカットもしてないし、少しスプーンで削ったような跡はあるが。

 

これなら食べても問題ない――、と言う訳でもないだろうが。

ニコは行儀悪く卵焼きを、むんずっと手で掴みとる。

 

 

「わりわり、急いでるから。コレだけで良いからニコちゃんが食べちゃうぞ。ほしまーく!」

 

「え? って、あ! ニコ様それは――!」

 

 

メイドがぎょっとした表情でニコを止めようとする。

しかしニコはもう卵焼きをヒョイヒョイと連続で口の中に入れていく所だった。

アワアワと焦りに目を見開くメイド達。中には、やってしまったと青ざめている者も。

しかし当の本人は何のその。無表情ながらに口をモゴモゴと動かして、ゴクンと一気に飲み込んだ。

 

 

「うん、うまいうまい。ごちそうさん」

 

「えっ!?」

 

「おじゃましたね、んではでは」

 

「……っ?」

 

 

ニコは手を振って去っていく。メイド達は顔を見合わせてザワザワと。

やっぱりだとか、以前もこういった事がだとか、いろいろ話し合っている。

 

 

「い、一度報告してみます」

 

「ああ、頼む」

 

 

不安げにニコの背中を見つめるメイド達。

ニコはまだ、気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の町は、いよいよを以ってオカルトタウンと認識される様になっていた。

学校の復旧に当たっていた者達も気づけばキャリアの浅い、つまりは下っ端だけとなり、上層部は逃げ出すと言う異常事態に陥っていた。

 

リーベエリスメンバーの集団失踪事件や、日に日に更新される死者数に警察の信頼も、まして国家の信頼も薄れていく始末。

各学校は無期限の休校状態にあり、見滝原の市長が隣接する街への避難を促すと言う前代未聞の状況となっている。

そこには、相変わらず杏子と王蛇が連日的に殺人を繰り返している言う面もあるのだろう。

あの二人にとって殺人とは非常に強力なドラッグなのだから。

被害者の中には外からやってきた動画配信者も存在し、ますますSNSで拡散されていく。

 

しかし皮肉なのは朝は等しくやってきて、清清しい小鳥達の声が耳に入ってくる事だ。

死の街に飛び交う小鳥達は、何の恐怖も抱いておらず。

いつもと変わらぬ見滝原に存在しているのだと思っているのだろうか。

 

そんな見滝原の中にある美佐子の家。

朝早くから魔法少女と騎士たちは顔を合わせて険しい表情を浮べていた。

サキは、汗を浮べて唇を震わせている。その表情は驚きで染まっていた。

 

 

「い、今なんて――ッ!?」

 

 

視線の先にいる鹿目まどかは、しっかりと頷いた。

 

 

「わたしも戦う。安心して、絶望はしないから」

 

 

鹿目まどかは自身が絶望の魔女である事を聞かされたと打ち明ける。

けれどそれは決して絶望を刻まれたのではない。自分の意思を固める鍵になった。

そして何よりも自分の強い願いを確認する経験になった。

 

 

「わたしのワガママを聞いてほしいの」

 

 

どう考えても死んだほうがいい。死んだほうが世界のためになる。

だから織莉子たちは自分を狙う。もう何度も繰り返した問題と答えだ。

でも、それでも生きたいと思う心がある。

家族と一緒にいたい、友達と一緒にいたい。

 

 

「それに、わたしを守るために死んだ仁美ちゃんのためにも、わたしは生きなきゃダメだと思う」

 

 

命は自分だけの物じゃない。それを母に教えられた。

自分は生きててもいいのだと、それをパートナーに教えられた。

今まで自分の事を顧みなかった少女にはじめて生まれた明確な欲望。願い。エゴ。

 

 

「ごめんサキおねえちゃん、美穂先生。わたし死にたくない」

 

 

それは【生きたい】と言うごく当たり前の事だったのだ。

 

 

「わたしは、死ねない。生き抜いてみせる」

 

「まどか――ッ」

 

「まどかちゃん」

 

 

サキに比べて落ち着いた表情の美穂。

真司が決意を固めた時点で、こうなる事は予想していた。

そしてサキも、最初こそは驚いたが、すぐに優しい笑みを向けた。

 

 

「ああ、そうだな。キミは生きるべきだ」

 

 

そしてまどかにはもう一つ思う事がある。

それは自分が生きていてはいけない存在だと言う事の『重さ』だ。

生を望み、抗う事が多くの人を焦らせ、絶望に至る毒を生み出してしまう。

現にまどかは、自分を殺しにくる織莉子達が間違っているとは思えない。

 

確かに織莉子はマミを死に追いやった。

お茶を濁していたが、さやかやゆまも殺してる様なものだ。

その点にだけ注目するのなら、まどかは織莉子たちを許せない。

 

しかし残酷な言い方になるが、結果論となった今の状況では、織莉子達も必死なのだと理解できる。

自分が少数派の立場にあると言う事も、鹿目まどかはしっかりと理解していた。

 

だから戦わなければならない。

巻き込む仲間達には申し訳ないとは思うが、逃げるのではなく、戦いの場に赴かなければならないと言う一種の使命感があった。

やはり自分が通さなければならない『筋』がある様な気がしてならなかったのだ。

 

織莉子は生きたい。自分も生きたい。世界を生かす為に自分が邪魔。

逃れなれない宿命の上に立った自分達にできることは、やはり武器を握る事だけなんだろうと思う。

それは悲しいことだ。話し合いで解決するなら是非と思う。

しかしどうあっても避けられない衝突があるのだと、まどかはおろか、真司も理解する様になった。

でも諦めはしない。戦いに呑み込まれたりはしない。

戦いを終わらせる為に、世界に希望を齎す為に、戦いたい。

 

 

「だから、わたしも戦う」

 

 

もう逃げられない。もう逃げてはいけない。十分、今の今までは逃げてきた。

いや、だからこそ、死と言う、最も大きな逃げ道を作りたくない。

そのエゴを突き通すワガママのけじめというべきか。

絶望の魔女であるまどかが、生きる為に選ぶべき責任(せんたく)は、やはり織莉子達と真正面から向き合う事しかないと思ったのだ。

 

 

「よし、じゃあ一緒に戦いますか」

 

「美穂先生!」

 

「ああん、美穂リンって呼んでよ」

 

「無茶言うなよ……」

 

 

真司の言葉に舌を出す美穂。

まどかは少し頬を染めて嬉しそうに美穂さんと。

 

 

「死んだら死んだよ。気楽に行きましょう」

 

 

美穂はサムズアップを行う。

 

 

「死んだらって……。縁起でもない事を言うなよ」

 

「だって、あの金ピカ野郎、滅茶苦茶強かったし」

 

「それが問題だな。あとは――」

 

 

何と言っても、ほむらが納得するかどうか。

まどかが家に来た時には、ほむらは既に家を出ていた。

何やらやりたい事があると言っていたが、何をするかは教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がー! ぐごー!」

 

「………」

 

 

都市部から、少し離れた所にある廃墟と化した教会。そこに二つの寝息が。

布団を用意するわけでもなく、地面に大の字となって眠っているのは浅倉だ。

そして彼の腹を枕にしているのは杏子。浅倉はその重さからか、眠っているのにイライラしている様な表情を浮べて歯軋りを行っていた。

 

対して気持ちよさそうに眠っている杏子。

この光景だけ見れば、微笑ましいのが皮肉なものだ。

二人の周りには綺麗に食べ終えた弁当の空き箱が無数に積まれている。

好きなだけ殺し、好きなだけ食べる。箍が外れた獣、まさに彼等は理性を失った人間が行き着く最終地点と言ってもいい。

 

 

「んごっ!?」

 

 

その時、杏子の眉間に何かが当たった。彼女はその衝撃でハッと目を覚ます。

しばらくは混乱しているのか、呆けているが、その内頭をかいて首をキョロキョロと。

すると見つけた。紙飛行機が落ちているじゃないか。

 

 

「なんだよ、せっかく気持ちよく寝てたのに」

 

 

紙飛行機を拾い上げる。

 

 

「どこぞのガキが投げたのか?」

 

 

教会の天井は既に崩れ落ちている為、ありえない話ではなかった。

杏子は紙飛行機を手にしたまま、一度外に出て辺りを確認してみる。

しかし誰もいない。子供なら拾いに来そうな物だか?

 

 

(生意気な奴なら細切れにしてやる……!)

 

 

そんな事を思いつつ、しばし停止。しかし誰も来ない。

どうやら風に乗ってきただけか。杏子はため息をついて紙飛行機を捨てようと――

 

 

「ん?」

 

 

ちょっと待て、紙飛行機には『佐倉杏子へ』と言う文字があるじゃないか。

 

 

(参加者? よくココが分かったな)

 

 

だったら何故寝込みを襲わなかった?

ナメているのか? 苛立ちを覚えながらも紙飛行機を開く。

予想通り、そこには杏子と浅倉に宛てられたメッセージが。

はじめは気だるげに読んでいたが、徐々に唇が吊りあがっていく。

 

 

「はーん、成る程成る程」

 

 

お誘いと言う訳か。

若干誘導されている気もしなくは無いが、まあ丁度退屈していた所である。

暇つぶしには持って来いのイベントではないか。杏子紙を指に挟んで浅倉の所へ戻っていった。

 

 

「………」

 

 

そしてそれを木の上で見ていたのは暁美ほむらだった。

彼女は過去のループの中で、佐倉杏子と仲間になった事がある。

その時に案内されたのがこの廃墟だ。今回もココをアジトにしていたのだろう。

読みが当たってくれて何よりだ、おかげで話がスムーズに進んでくれる。

 

 

「……杏子」

 

 

名前を呟いてみる。随分変わったものだ。

マミやさやかはまだ面影を多く残していたが、杏子に関しては以前の面影がまるで無い。

皮肉にも、杏子とは一番共闘の回数が多かった気がする。

当然、それだけ信頼していた回数だって――……。

 

 

(いえ、過ぎたことね)

 

 

ほむらは空中に舞い上がり教会を離れた。

これで『種』は撒いた、凄まじいギャンブルである事には変わりない。

しかし可能性と言う意味では、やはりココに賭けるしかない。

 

本音を言えばユウリにもコンタクトを取りたかったが、どこにいるのか見当もつかないし、あの魔女を操る力を考えるに近づくのは非常に危険だ。

結果、ほむらは全ての希望を杏子に託す。

凄まじい絶望を齎す役割を、王蛇ペアに賭ける。

 

ああ何とも愚かな選択だろうか。

だが構わない、まどかを守れるのなら――。

ほむらは唇を噛んで風を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ほむらが接触を諦めたユウリは、現在工場地の一角に身を潜めていた。

元々人があまり来ぬ地だ。そして魔女結界を展開する事で身を隠す。

ユウリはその中で目を閉じて魔女を生み出し、そして共食いを行わせていた。

それは蠱毒。それはグリーフシードの生成。それはストックの確保。

ユウリはワルプルギスの夜襲来に向けて、着実に準備を進めていく。

 

それに今、目指すのは7番の死だ。

北岡はリュウガに探させたが、どうやらもう既に姿を消していた後だったらしい。

自分で危険を察したか。それとも他の要因が原因して姿を消したのか。

死亡アナウンスが流れていないと言う事は、まだ生きてはいる様だが。

 

まあいい。

とにかくユウリにとって目障りな7番を見つける為に、今はとにかく使い魔を増やし、それを維持するためのグリーフシードを用意しておかなければ。

幸い織莉子がまどかを狙うと言うのは絶好のタイミングであった。

向こうが殺しあってくれる間に、ユウリは準備を整えられる。

 

もちろん、ユウリは織莉子達だって絶対に殺すつもりだ。

未来が見える? それがどうしたと言うのか。

深き絶望は、ユウリの視界を真っ黒に染める。

 

 

(このまま全部塗りつぶしてやる)

 

 

真っ黒に染めてやる。

壊して、殺して、恨んで、憎んで、全てを絶望に包み込む。

それで終わる。それでやっと――……。

 

 

「………」

 

 

歪な景色が広がる魔女空間。

そこにずっといたからだろうか? ユウリの心には冷静な落ち着きと共に、乱れ暴れ回る狂気が渦巻いていた。

 

不思議なものだ。

魔女空間はノスタルジックな気分になる。

現実と逸脱した景色が、自己を幻想の中に引きずり込む。

思い出したくない過去も。大切だと胸にしまっている過去も。それら全てが集って、己と言う物を構築している。

 

ただし、一部の魔法少女はそうとも言えない。

今ココにたっている己が、果たして本当に自分なのかと言われれば首を傾げる者もいるだろう。

ユウリもまた、そんな一人だった。ユウリは目を閉じて沈黙していた。

暇だ。こう何か暇を持て余すと、嫌でも浮かんでくる景色がある。

 

 

 

それはやはり過去なのだが――、それは誰の過去?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえば、『杏里あいり』と言う少女がいた話をしようか。

それはユウリではなく『杏里あいり』の過去になるわけだが、まあ時間も余っている。

ココは一つ暇つぶしに彼女の話をしよう。

 

しかし、特にコレと言ってエピソードがあるのかと言われれば微妙だ。

別に勉強ができた訳ではない、運動ができた訳でもない。

特技はコレと言って見つからず。趣味はお菓子を作ることくらい。

家族の職業もコレと言って特別な物ではなかった。

 

まあ、しかし、何も無い訳ではないか。

簡単に言えば、あいりは少し運が悪かったのかもしれない。

 

それは彼女が小学校に上がった時の事だ。

父と母と一緒にランドセルを買いに行ったあいりは、新しく始まる新生活に胸を躍らせていた。

期待と希望に満ちていた彼女の笑顔は、それはそれは素晴らしい物だった。

 

素敵な買い物をした後は、素敵な夕食だ。

久しぶりのレストラン、両親は何でも好きな物を食べていいと言ってくれた。

何を食べよう? あいりはウキウキとはしゃぎ、両親と手をつないでスキップを。

 

 

それにもうすぐ誕生日だ。

そうだ、遊園地に行こうか? 父親の提案に、あいりは飛び上がる程喜んだ。

だがココで彼女の運の悪さが現れてしまう。

 

 

「んぶぅッ! んあぁあ゛! 落ちないぃぃ! おぢな゛いぃい゛!」

 

 

ドシュ、ドチュ、ザクッ、そんな音を聞きながら。

 

 

「血ィ! 血がおちだい! 取れない血! ぢ! 血血血! なんでごぼれ続けるんの゛のォぉ゛オ゛!?」

 

 

ガシュ、ザクッ。

そんな音が、しつこいくらい彼女の耳にはベッタリと張り付いていた。

目の前には知らない男の人がいて、何度も何度も叫ぶ様に言葉を並べているが、幼いあいりにとっては何を言っているのか全く分からなかった。

 

と言うよりも、どんな人間であっても、彼の言葉を理解する事はできなかったと思う。

言葉としては意味を成さない。それはもう動物の鳴き声と同じだった。

 

あと覚えているのは、男性は泣いていた。涎を流していた。目の焦点もあっていなかったかな?

なんともまあ突然の出来事である。幸せそうな杏里家の前から男が歩いて来たと思ったら、突然サバイバルナイフを手に襲い掛かってきた。

 

意味が分からない。

現にあいりは、その時の事を端的にしか覚えていない。

最初に聞こえてきたのは男の意味不明な奇声だ。血が落ちないだの、血が止まらないだの。

そして彼の持っていたナイフが、父の首に抉りこんだのは覚えている。

 

 

悲鳴が起こる。誰の? 母のだ。

ああそうだ、まだ覚えている。母は叫びつつも本能的な行動だったのか、あいりを庇う様にしながら逃げ出そうと必死だった。

けれども男は叫びをあげながら二人を追いかける。

 

恐怖で足がすくみ。

それに子供を守りながらだったからか、あいりの母は何度も背中を刺された。

そして13回ほど刺したくらいの後、男はナイフを大きく振って、母の脳天に大きな刃を突き立てた。

 

 

「ンフッ」

 

 

それが母の最期の言葉だった。

鼻から血が吹き出て、地面に倒れると、頭蓋の隙間から血とベージュのドロドロした液体が零れてきた。

 

崩れ落ちるあいり。

しかし、まだかろうじて父の意識があったのか。

血まみれになりながらも娘を助けにきてくれた。

 

親が子を守ると言う本能なのか。

父はあいりを守ろうと、必死に男に立ち向かう。

しかし悲しいかな。現実の悪役は、ヒーローに必ず華を持たせてあげる訳ではない。

あいりは崩れ落ちる様にへたり込み、その光景をずっと目にしていた。

 

 

「ンぶぅ! アァァあ゛! 血が落ちないんですゥゥうう゛!!」

 

 

男はあいりの父に馬乗りになって、何度も何度も鋭いナイフで滅多刺しにしていく。

地面を耕すように何度も抉り、貫き。その度に地面には赤い絨毯が広がっていく。

大好きだった父の顔がもう思い出せなくなるくらい、原型は無くなっていく。

あいりからは見えなかったが、父は既に穴だらけだった。

 

 

「掃除が好きなのに゛ぃぃ! ンアァァア゛!!」

 

 

次は母だ。

既に事切れていると言うのに、男は死体に跨ると何度もナイフを突き立てる。

あいりはその光景を何もできずに見るしかできない。

赤、赤、赤、ふと気づけば血はサイレンに変わる。

父と母からは、赤黒い液体がこれでもかと流れ出ていた。

 

 

「あり゛がどォオォございまじだァァアアア゛あ゛あ゛!!」

 

 

男はお礼を言いながら警官に取り押さえられ、連行されていく。

父と母は、肉の細切れになってしまったが、二人が時間を稼いでくれたおかげで警察が駆けつけてくれた。

 

後に分かったが、あいりの両親を襲ったのは麻薬中毒の暴力団員だったらしい。

呂律が回っていない事や、目の焦点があっていない事からそれが分かる。

そんな輩に出会うとは、何と運の無い事だろうか、この少女は。

 

 

 

さて、それからどんな経緯があったのかは知らないが。

あいりは親戚の家に引き取られる形にて、何とか落ち着きを取り戻した。

警察は彼女が事件の間、気を失っていると最終報告を行ったが、事実は違う。

あいりは両親の最期をしっかりと目に焼き付けており、それが原因なのかは知らないが、その頃から頻繁に体調を崩す様になった。

 

しかし、あいりは心を強く持っていた。

感動的なエピソードだ。親戚が優しく支えてくれた。友達が励ましてくれた。

何よりも、自分が落ち込んでいては天国の両親が悲しむと思った。

ああ、なんと純粋な想いだろうか。杏里あいりは、大きな希望を背負った女の子だったのだ。

 

強い娘だ、優しい娘だ。

彼女は何とか学校にも行けるようになり、大切な友人達と親戚に囲まれて、再び笑顔を取り戻すまでに育っていった。

 

 

そして彼女が小学二年生になった中頃くらいだろうか、学校の遠足があった。

友達とどんなお菓子を持って行くかを悩み。

お弁当は期待しておいてと、叔母さんは笑った。

行き先は、両親と行けなかった遊園地。あいりは少し複雑な思いがあったのだが、何よりも友達と一緒に遊べると言う楽しみは、しっかりと心にあった。

 

あいりはココで、また運の悪さを露呈させてしまう。

 

 

と言うのも、遠足の日、彼女は高熱にうなされたのだ。

ああ可哀想に、おかげで楽しみにしていた遠足を休む事になってしまったじゃないか。

 

残念だな。

あいりはとても悲しんだし、何度も叔母達に行かせてくれとお願いもした。

だけど叔父も叔母もあいりが心配で、家で安静にと念を押した。

あいりは納得できなかったが、何よりも自分が一番に分かる体調の辛さと、叔母がプリンとアイスを買ってきてくれると言うので渋々納得した。

 

 

「……?」

 

 

朦朧とする意識の中で、テレビの音がBGMとなってあいりの耳に入ってくる。

大人しく眠っているのが一番なのだろうが、叔父も叔母も夕方までは仕事だ。

どうにも心細いと言うもの。物音しない部屋に一人と言うのが、恐怖を増加させる。

だからあいりは孤独を紛らわせる為にテレビをつけっ放しにしてボウっとしているだけ。

 

こう言う時、楽しいバラエティや、素敵なアニメでも放送されていたなら気も紛れるのだろうが、あいにく平日の午前中ではニュースばかり。

退屈だ。彼女はそう思いながらも、自身を蝕む高熱のせいで、うまく寝付けないでいる。

 

そんな時だった。

運が悪いなと思う事があれば、それに相反する出来事が起こったりする物だ。

いや、果たしてこれが運の良い事かは分からないが。

 

 

「――っ!?」

 

 

あいりは跳ねる様に体を起こした。

高熱で奪われた体力や気力など、一瞬で吹き飛ぶ程の衝撃があったからだ。

あいりは顔を真っ青にして、テレビを見ていた。

 

 

『番組の内容を変更してお伝えしております――!』

 

 

テレビの中では、アナウンサーが血相を変えていた。

時間なんて分からない、どこでなんて知らない。ただそこには唯一の情報がある。

 

 

『今日、●●小学校の遠足に向かうバス群が、土砂崩れに巻き込まれて――! あッ、ただ今入った情報によりますと! 2組のバスの中にいた生徒達は全員死亡と情報が――!!』

 

 

2組? 二組? ああ、にくみ。

それはあいりのクラスではないか。

全身に浮ぶ汗が、高熱のせいではないと理解していた。

 

 

クラスの皆が死んだ?

 

 

あいりは乾いた唇を震わせながら、ニュースが嘘っぱちだと何度も心の中で連呼する。

そう、これは夢だ。ひたすら心の中でリピートしてベッドにもぐりこんだ。

しかし唇を強くかんだ際に伝わってくる痛みが、現実なんだと教えてくれる。

 

 

「うそ……」

 

 

優しかった友達は沢山いた。あいりは皆に救われた。

両親の事を一緒に悲しんでくれて、可笑しい事があったら一緒に笑ってくれる。

 

ああ、もう面倒になってきた。

つまりだ、死んだのだ。皆。土砂崩れで。

彼女のクラスは全滅だった。他のクラスも、これまた面白い事に仲のいい子だけがピンポイントで死んだ。

 

 

「!?」

 

 

その時、窓に大きな影が横切った。

上から下へと消えた影。直後、何かが地面にぶつかる音がして、思わず「ヒッ!」と声を漏らす。

 

なんだ? 鳥? 動物?

あいりの部屋は二階にある。この家は二階建て。

つまり屋根から何かが落ちたのか。それとも空から何かが落ちたのか。

 

 

「……なんだろう?」

 

 

彼女は逃げ道を探していたのかもしれない。

仲の良い友達が死んだ。その事実を受け入れない為に、直視しない言い訳がほしかった。

だからあいりはテレビから目を離すと、フラフラと窓の方へと向かっていく。

下にあるものが自分の気を紛らわせてくれるとでも思ったのだろうか。

 

そろそろ分かってきたんじゃないか?

お察しの通り、彼女の運の悪さはココでも披露される事になる。

 

あいりが窓から顔を出して下を見ると、そこには蠢く物があった。

一瞬、巨大な虫が下にいるのかと息を呑んだ。

それは高熱が生み出した幻覚だったのか、長い手足をジタバタと振り回して、もがき苦しむ様はまさに昆虫のソレだ。

 

 

「う゛う゛う゛ぅう゛ぅ゛ぅ゛う゛ん」

 

 

心臓の鼓動が張り裂けそうな程、強くなっていく。

虫の鳴き声と思われるソレは、彼女の記憶にあった、あの異常者のうめき声に重なってしまう。

しかし意識を鮮明にさせたならば、それまでのまやかしは全て彼方に吹き飛んでいく。

 

クリアになる世界。

窓の下、赤い絨毯を広げて苦しんでいたのは、仕事に行った筈の大好きな叔母だった。

 

 

「あ――っ、あぁぁぁぁあぁ?」

 

 

あいりは頭を抑えて首を振る。

何故叔母がココに? 仕事に行っている筈だ。つまりあれは叔母ではない。

ああよかった! あいりは壊れそうな笑みを浮べて、もう一度下を見る。

するとそこにいたのは、やはりもがき苦しむ叔母の姿だった。

 

どうやら頭から飛び降りたらしく、首がおかしな方向に折れ曲がり、青黒く腫れ上がっていた。

おまけに石にぶつけたらしく、中途半端に砕けた頭からは脳みそを撒き散らして、鼻の穴や目からおびただしい量の血が垂れていた。

 

それは最早、人の声と言うにはあまりにも不気味で、気持ちの悪いものだったが、声は間違いなく叔母のものだった。

あいりは狂いそうな頭を必死に押さえつけて、己に言い聞かせる。

あれは叔母じゃない、あれは叔母さんじゃない。

だって叔母さんは仕事に行っていて、帰りにはプリンとアイスを買ってきてくれるんだから!

 

 

「んっ、ぎっ! うっふ――ッ!」

 

 

嗚咽を漏らしながら、あいりは必死に心を落ち着かせようと努力した。

だか彼女は、笑ってしまうくらい運が無かった。

もう一人、落下してきた。叔母が落ちた丁度隣に、叔父は激突した。

 

「んびぃぃ! んばぁぁ!! あぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

変なうめき声。

あいりは思わず笑ってしまいそうに鳴る。もちろんそれは壊れた笑みを。

叔父だ。叔父さんだ。彼は叔母とは違って、しっかり頭から落ちる事ができたようで、意味不明なうめき声をあげながらビクンビクンと動いたくらいで、すぐに動かなくなった。

 

そしてその後、すぐに叔母も動かなくなった。

それをジッと見ていたあいり。でも全然怖くない!

だって考えてみてほしい。叔父も叔母もいないんだよ。じゃあアレは偽者だよね!

 

幼い少女は結論を導き出して笑みを浮べた。

これは夢だ、いつの間にか寝てしまった自分が見ている夢なのだ。

熱の時は悪夢を見ると言う、それに痛みだって気のせいに違いない。

 

そうだ、安心だ、これは夢!

あいりはホッと胸をなでおろすと、ベットに向かっていく。

家の外で悲鳴が聞こえる気がするが、きっと気のせい。

気のせい、気のせいなんだから!

 

 

と、まあ。こんな所である。

 

 

あいりは必死に否定をしているが、庭に転がっている二つの死体は、紛れもない叔父と叔母である。

では何故二人は仕事に行かなかったのか。何故二人は自ら命を絶つ様な事をしたのだろうか?

答えは二人の首筋に刻まれた一つの紋章にあった。

 

『魔女の口付け』とされるソレは、付与された人間を、滅びへと導く紋章である。

たとえば自殺。叔父と叔母は、魔女の口付けを受けて自宅の屋根から飛び降りたのだ。

 

一度家を出た後に、口付けを受け、二人は宅に舞い戻ってきた。

あいりは熱にうなされていたせいで、二人が扉を開ける音や、バルコニーに出る際に発生した音に全く気づかなかった。

 

 

「な、なに?」

 

 

そしてグニャリと歪む景色。

周りがサーカスをイメージした不気味な空間へと変貌を遂げる。

二人を狙った魔女。それがあいりを狙わない理由などあるのだろうか?

夢の魔女『clowney(クラウニー)』は、ピエロをイメージした魔女である。

 

その性質は幻想。

何も考えず、何も信じず、ただ虚ろな世界で永遠になればいい。

魔女は不幸なあいりを救う為、姿を現したのかもしれない。

 

 

「なにっ? 何コレ!? 何なの――……?」

 

 

夢だ、夢に決まっている。こんな現実離れした世界がある訳が無い。

夢、悪夢、きっとうなされているだけ。

そう思いつつも、迫るクラウニーに明確な恐怖を感じた。

 

 

「大丈夫、コレは夢……!」

 

 

でも相手は夢の魔女。どうすれば――

 

 

「!?」

 

 

その時、クラウニーの体が光をあげて爆発する。

あいりが視線を移動させると、ソコには"黒いドレス"を身にまとい、巨大な(ハサミ)を持った女の子が。

 

あれも夢なの? 

頭を抱えるあいりに、彼女はウインクを決めた。

 

 

「大丈夫、何にも怖くないからね」

 

「……っ」

 

 

綺麗な人だった。

タンっと地面を蹴ると、鋏を構えて一直線にクラウニーの所まで向かっていく。

鋏の軌跡が美しい閃光となって魔女の体を刻んでいく。なびく長髪は美しく、ニヤリと笑う彼女は妖艶で、言葉に出来ないほど魅力的に見えた。

 

 

「これで――」

 

「ぎぎぎぎいぃぃぃッ!!」

 

「おしまい」

 

 

少女が鋏を閉じると、魔女の首が宙に舞い上がる。

崩壊していく魔女結界、あいりは目を丸くしたまま自室へと帰還を果たした。

未だにコレが夢だと思っているのだろうか? しかし全身で感じる感覚はリアルなもの。

そして黒ドレスの少女に触れる感触もまた。

 

 

「大丈夫だった?」

 

「……うん」

 

 

黒ドレスの少女はしゃがみ込んで、あいりと目線を合わせる。

 

 

「コレは夢?」

 

 

問いかけると、返ってきたのは複雑そうな笑みだった。

幼いあいりにも何となく想像がついた。だから少し意地悪な質問をぶつけてみる。

 

 

「叔父さんと叔母さんは、帰ってくるよね?」

 

 

ドレスの少女は窓の外を確認する。

すると下にあったではないか、真っ赤に染まっている二つの死体が。

 

 

「ごめん、お姉ちゃん……。助けられなかった」

 

「え? え?」

 

「これからきっと、キミは、今とは違う環境になるかも」

 

 

でも諦めないで、でも絶望しないで。

今はどれだけ悲しくとも、生きていればきっと幸せなエンディングになれるから。

コレは夢なんかじゃない。少女はそう言って、あいりを抱きしめた。

 

 

「え?」

 

 

夢じゃない?

それがあいりの全身を冷やしていく。

襲い掛かるのは凄まじい絶望。だけれどもパンドラの箱のお話が教えてくれた。

どんな絶望の後だって、僅かながらに希望と言う物が存在しているのだと。

それが目の前にいる黒いドレスの彼女ではないのか?

 

 

「これ、あげる」

 

「え?」

 

「無責任かもしれない。でもお姉ちゃんにはコレくらいしかできないから」

 

 

そう言って彼女は、あいりに小さなぬいぐるみを渡した。

何かのキャラクターと言う訳ではなく、どうやら手作りのようだ。

だがそれはドレスの少女が作ったのではない。

 

 

「私もね、助けられたんだ」

 

「え?」

 

「同じだったの、私もあなたと」

 

 

その時に助けてくれた人がくれたのだと言う。

だから諦めずにココまで来れた。だから貴女を助けたのだと。

 

 

「それが魔法少女の使命なのよね」

 

「魔法……、少女?」

 

「ごめん、もう行かなきゃ」

 

 

皆には、秘密にしておいてね。

彼女はそう言ってドレスを翻し、あいりの前から姿を消した。

 

あれはなんだったのか。

あいりには魔法少女と言う単語しか残っていなかった。夢なのか、それとも現実なのか?

とにかく時間は進む。叔父と叔母の飛び降りる所を誰かが見ていたらしく、警察が家にやってきた。

 

握り締めるストラップ。

魔法少女のことは秘密にしてと言われたから、秘密にしておいた。

 

友人も失い。

親戚と言う親戚もおらず。

あいりは遠く離れた施設に預けられる事になった。

両親を目の前で殺され、叔父と叔母は自殺。そして友人を事故で失った。

誰もがあいりを不幸と言うが、あいりはまだ絶望していなかった。

 

確かに不幸も多かったが、何よりも自分を助けてくれた魔法少女が希望を齎していた。

あれは夢? いや違う、あいりの手には貰ったストラップある。

それをギュッと握り締めれば、辛い日々を耐えられた。

 

しかし、あいりは子供だった。

魔法少女に興奮したが故、その存在をやや妄信的に信じてしまうのも仕方ない事だ。

我慢できなくなって、ストラップの事を施設の皆に話してしまった。

 

魔法少女からもらった。魔法を見た。化け物がいた。

それが不味かったか、すぐに周りの子供達はあいりを、からかい始めた。

魔法少女なんている訳無いだろ。そんな事を言われたら、あいりは本気で怒った。

ケンカも沢山した。強情な彼女はどんどん敵が増えていく。

 

だがココでもあいりは希望に会えた。

それは同じ施設に入っていた、『ある少女』と出会えたからだ。

彼女は正義感が強い人だった。だからだろう、あいりが苛められていたら必ず助けに来てくれた。

 

 

「あいりちゃんを苛めるのは、私がゆるさない」

 

 

それが益々向こうの苛立ちを増加させるとしてもだ。

時には殴られ、時には同じくして苛められた事もあった。

しかしどんな事があっても、彼女はあいりが困っていたら助けに来てくれた。

 

 

「友達でしょ? 私たち」

 

 

どうして自分を助けてくれるのかを聞いた事がある。

すると彼女はニッコリと笑ってそう言ってくれた。

 

多くの物を失った。

家族、友人、家。しかしそれにも勝る出会いを神様は与えてくれたのだろうと思った。

それは何よりもカッコいい、あの名前も知らない魔法少女であり。

それは目の前で笑っている彼女――、"飛鳥ユウリ"だったり。

 

美しい金色の髪に、長めのツインテール。

そしていつもニコニコと笑っている少女こそがユウリである。

あいりと同じ年齢ではあるが、あいりよりもずっとしっかりしていた。

 

料理の手伝いはもちろん。掃除や選択、怪我をした子の手当ても器用にこなしている。

自分だけでなく誰かが苛められていても必ず助けていたし、皆ユウリは認めているようだった。

あいりは彼女に憧れていた。ユウリとしても懐いてくれるあいりには心を許したのか、二人はすぐに親友になった。

 

いろいろな話をしたし、いろいろな場所で遊んだ。

一緒にお風呂だって入ったし、一緒に眠ったりもした。

それに二人には共通して『料理』と言う趣味があった為、いつか一緒に喫茶店を開こうと話していたものだ。

 

ユウリも周りには、しっかりした自分を見せなければならないと気を張っていたのだろう。

次第にあいりの前では、素の姿を見せる様になっていく。

 

 

「あついね~、あいり」

 

「ユウリったら、駄目じゃんか! 寝転んでアイスなんて食べたら!」

 

「えへへ、たまにはいいの!」

 

「もう!」

 

 

あいりにとって、ユウリは希望であり。

ユウリにとって、あいりは希望だったのかもしれない。

ユウリも色々辛いことがあってココにいる。そう言った中で世界を恨む事もあっただろう。

 

しかしこの世には絶望を振りまく魔女がいて、それを倒す魔法少女(きぼう)と言う存在がいる。

多くの人間は、そんなあいりの話を信じなかったが、ユウリは信じた。魔法少女がいるのだと気持ちを共有してくれた。

 

だから二人は親友になれたのかもしれない。

希望を信じる者と、希望を信じた者。

絆を繋ぎ止める二人の希望は。眩しく輝いていた。

 

しかし不幸は常に後ろに張り付いているものだ。

体調を崩すことが多かったあいりだが、心臓の病気を患ってしまう。

今までの高熱等は前兆だったのか? あいりは命の危険性を孕んだ心臓病に苦しめられる事になる。

 

もう無理だった。世界を呪うしかない。

自分が一体何をしたと言うのか。家族を殺され、友人を失い、最後は自分の命か。

それほどの事をしたのか? いや、そんなはずは無い。

 

きっと神さまは自分の事が嫌いなんだ。

どうして、なんで? 何も悪い事していないのにどうして自分ばかり!!

 

 

「でも、きっとコレも全部魔女がいるからなんだよね」

 

「あいり……」

 

 

病院のベッドに横たわりながら、あいりはユウリに微笑みかけた。

まだ壊れていないのは、あの時の記憶があったからだ。

全部魔女が悪い、全部魔女のせい。この世に存在する悲しみは、全て魔女が生み出しているに違いない。

 

だからきっと今もどこかで、魔法少女は戦っているのだろう。

自分の為、自分の人生の為にも、どうか勝ってください。

きっと魔女の大ボスが死ねば病気も消え去る。あいりはそんな自己設定を真実としていた。

 

 

「そうだね、きっと――……」

 

 

ユウリはあいりの妄信的な魔法少女への愛に、若干の違和感を覚えたが、否定はしなかった。

おそらく、ユウリはこの時から分かっていたのかもしれない。

魔法少女が仮に魔女の大ボスを殺したとして、あいりの病気は治らない。

 

 

しかし、人間の医学は進歩している。

あいりも心臓病に苦しんではいるが、何とか持ちこたえて、気がつけば小学校を卒業して中学校に入学する事はできた。

だが同時に病気は確実に進行し、あいりは日々苦痛に表情を歪ませる。

 

 

「ケーキつくったんだ、今度に一緒に食べようね」

 

「うん……」

 

 

ユウリは毎日あいりの病室を訪れ、あいりを励まし続けた。

しかし、あいりの苛立ちは日々募り、大きくなっていた。

いつになったら治るのか、いつになったら幸せになれるのか。

いつまでもゴールが見えない日々に、うんざりしていたのだろう。

 

 

「ユウリ……。やっぱり、魔法少女なんていないのかも」

 

「え?」

 

 

あいりは寝返りをうって、ユウリに背中を見せる。

その声はいつのも様にハキハキしている物ではなく、自信無さげにトーンを落としていた。

 

 

「魔法少女、あれから一人も見てないし。病気もぜんぜん良くならないし。ストラップだって本当は道で拾った物を魔法少女から貰ったんだって、錯覚して……」

 

「あいり……」

 

「でも、もういいもん」

 

「え?」

 

「どうせ、私そろそろ死ぬし」

 

 

やっと終わるんだ、こんな下らない人生。

思えばあの時、麻薬中毒者に一緒に殺されておけばよかったんだ。

そうじゃなかったら、友達と一緒にバスに乗って死んでおけばよかった。

生き永らえる理由なんて一つも無かった。魔女に殺されておけばよかった。

でなければこんな惨めな終わりを迎える事も無かったのに。

 

 

「……ごめん、変な事言って」

 

「う、ううん」

 

「生きてたから、ユウリとも知り合えたんだもんね」

 

 

ユウリはあいまいな笑みを浮べる。

あいりの希望が、絶望に飲み込まれようとしているのだ。

そして同時に彼女の命の炎も燃え尽きる。

生きている意味も無い。これからの希望も無い。夢も、愛も、全て絶望に呑み込まれる。

何故神は、あいりをココまで生かしたのか。それも分からずに人生を終えるのだ。

本当に何故? あの時に殺しておいてくれればこんな虚しさも覚えずにすんだのに。

 

 

「――ッ、大丈夫だよ!」

 

「え?」

 

 

しかしその時、ユウリが胸をバンと叩いた。

 

 

「この世には、魔法少女はいる! 素敵な魔法はあるんだよ!!」

 

「ッ? ユウリ?」

 

「そして、ありったけの希望だってある!」

 

「……でも、私は」

 

大丈夫。ユウリはそう言って笑った。

病室に飾ってあったストラップを優しく撫でて、もう一度あいりに微笑みかける。

何故だろうか。あいりには、ユウリの笑顔がとても眩しく見えた。

それはそう、あの時と同じ。魔法少女を見た時に感じた『光』があった。

 

 

「それって……」

 

「あ、ごめんあいり! 私もう行かなきゃ!」

 

「えっ!? ちょ、ちょっとユウリ!」

 

「今日は用事があるの。じゃ、また明日ね!」

 

 

そう言って足早に病室を出て行くユウリ。

なんなんだ? あいりは目を丸くして彼女を見送るしかできなかった。

魔法はある。魔法少女はいる。ユウリが言った言葉を、あいりは頭の中でリピートさせる。

飾ってあるストラップを、彼女も優しく撫でてみた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「本当だったんだ! 本当に奇跡はあったんだ!!」

 

 

ベッドの上ではしゃぎ回るあいり。

何と今日の検査で、彼女の蝕んでいた病気が嘘の様に消えたのだ。

つまり、もう健康その物。誰もがそんな馬鹿なと声を揃えて言っていた。

だってありえない話なのだ。心臓病はパッと治る程、軽くは無い。

 

しかし現にあいりの体は健康そのものであり、心臓だって何の問題なく動いている。

何度調べても数値は正常だった。医者達も、しきりに信じられないと呟いていた。

だが何度信じられぬと喚こうが、現実に彼女は健康なのだから、これ以上病院にいる必要が無い。

その日にあいりは退院できた。

 

 

「本当に良かったね、あいり」

 

「うん! 私生きてて良かったよユウリ!」

 

 

荷物を整理するのを手伝いに来てくれたユウリ。

あいりはニコニコしながら喜びをの感情をマシンガンの如くぶつけていく。

それをユウリは笑って聴いていた。

 

 

「本当に良かったね」

 

「………」

 

 

ふと、あいりは我に返る。

 

 

「ね、ねえコレって……。魔法、なのかな?」

 

「え?」

 

「ユウリは何か知ってるんでしょ? 私の病気が治った理由――ッ」

 

 

ユウリは、あいりがずっと大切にしていたストラップを指差した。

 

 

「お願いしたの」

 

「お願い?」

 

「うん。空にお願いしたんだ、あいりを絶対助けてって! 私は何でもしますからって!」

 

 

あいりが過去に助けてもらった魔法少女にお願いをしたのだとユウリは説明した。

 

 

「空に向かって思い切り叫んだの。周りからはさぞ痛い子だと思われちゃったかもね!」

 

「ユウリ――……!」

 

「きっと、届いたんだ。その声が」

 

 

自分の為にそこまで!

あいりは目に涙をいっぱい溜めて、ユウリへジリジリと詰め寄っていく。

 

 

「ほらほら、泣かない泣かない」

 

 

あいりは今まで少し運が悪かっただけ。

これからはありったけの希望に満ち溢れた人生が待っているよ。

それでいい、それがいいでしょ。だからもう涙を流す必要なんてない。

 

 

「さ、病院出たら取り合えずバケツプリン食べにいこ!」

 

「うん……! うん! 行く行く!!」

 

 

魔法はある。

希望は確かに存在している。

あいりはソレを信じ、親友と手を繋いで未来へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「ね、取材のお礼でお金もらっちゃった! 今度ケーキ食べに行こう!」

 

「あはは、またー? 太っちゃうぞ!」

 

「いいのー! ブックブクになってもケーキはやめられないんだもん!」

 

 

あいりはユウリの言った通り、本当に幸せな日々を過ごす事ができた。

新聞社には奇跡の少女と小さい特集を組まれ。それも原因していたのか、施設でのいじめはパッタリと無くなった。

そして毎日ユウリと一緒に喫茶店でケーキを食べたり、映画を見たり。

 

 

「ねえユウリ! 私本当に幸せ!!」

 

「私も! あははは!!」

 

 

親友の証にと二人で買った、おそろいのスプーンのアクセサリを首からぶら下げて、色々な場所に行った。

どこへ行くにも、どんな時でも、ユウリの美しい金色の髪。あいりの銀色の髪が並んでいた。

幸せだった、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

あいりには、の話だが。

 

 

おかしいなと思ったのは、いつからだろう?

何となくユウリの顔に、常に疲労が浮かぶ様になった。

初めはただの夜更かしかとも思ったが、なんだかそう言う訳では無さそうなのだ。

 

ユウリに聞いても、心配ない。何でもないとばっかり。

たしかに周りの人間には気づかない程、微妙な変化だったろう。

しかし親友のあいりには、ユウリの微妙な変化は大きな変化だった。

 

 

「本当に大丈夫?」

 

「う、うん。本当に大丈夫。ちょっと疲れているだけだから」

 

 

彼女は何度もそう言って誤魔化していた。

そう言えば頻繁に出かけるようになった。

後をつけた事もあるが、必ず最後までは確認できず、どこかで撒かれてしまう。

 

そんな生活がどれほど続いただろうか?

ユウリから笑顔が消えた。本当に疲れているようで、いつも何かを睨むようにしていた。

異変はそれだけでない。たまにおかしな事を言う様になった。

 

 

「ねえあいり、人ってどうしてワガママなんだろうね……」

 

「え?」

 

「縄張りとか、利益にならないから見捨てるとか……。本当にどうかしてる。それに守られる側だって品の無い――」

 

「な、なんの話なの?」

 

「え? あ……! あはは。ゲームの話」

 

 

明らかに様子がおかしい。

でも何も答えてくれなかった。なんでもない、心配ない、大丈夫だから。何百回も聞いた。

 

そしてある日、ついにユウリが帰ってこない日がやってきた。

施設では稀に家出を行う者もいるため、一日だけ様子を見ようと言う結論に至ったが、真面目なユウリが姿を消すのは明らかにおかしい。

 

あいりはすぐに施設を飛び出して彼女を探しに向かった。

やはり近頃の異変が関係していたのか? こんな事なら何が何でも、たとえ嫌われたとしても詳細を聞き出すべきだった。

とにかく彼女を見つけ、何があったのかを聞かねば。あいりはただその一心でユウリを捜す。

 

 

 

 

 

 

 

忘れていたのか?

ならば思い出させてあげようじゃないか。

 

 

『プスプスプス』

 

「!?」

 

 

お前は、『杏里あいり』は、運が悪い少女であると言う事を。

 

 

「きゃぁあああぁぁああぁああ!!」

 

 

親友を見つけたい。

ただその気持ちを掲げて走っていた彼女の前に現れたのは、注射器の姿をした魔女だった。

医療の魔女『ArztKochen(アルツトコッヒェン)』、その性質は献身、必要とされない事を何よりも嫌うのだ。

 

魔女が再び目の前に。

ある意味で感動さえ覚えたが、それらは全て恐怖に上書きされる。

どうやら魔女結界に紛れ込んでしまったらしい、魔女は現在食事中の様だ。

 

 

「た、助けてくれぇええッ!!」

 

「!」

 

 

手術台の上に、見知らぬ男性が大の字で寝転んでいる。

縛り付けられてはいないが、どうやら針で刺されたのか、全身に麻酔が効いて動けない様だ。

どうやら彼が魔女のターゲットに選ばれたらしい。口づけではなく、直接結界の中に引きずり込まれるとは幸か不幸か。

そうしている内に魔女は次の行為に。

 

 

「な、なんだ!? なんだコレ!!」

 

 

魔女は中華包丁や刺身包丁。お玉や、泡だて器などの調理用具を大量に召喚する。

ココから始まるのは救済であり、調理であり、献身である。

男は恐怖でひたすらに叫びをあげていた。

震えて腰を抜かすあいり。男の絶望と、あいりの恐怖が、魔女には何よりも素晴らしいエネルギーとなる。

 

 

「っ!」

 

 

男の足に巨大な木の棒が振り下ろされた。

バンッと大きな音と共に足の骨が砕かれる。

食材を柔らかくするのは、まず叩いて伸ばすのが重要らしい。

魔女は巨大な木の棒で男の体を一通り無茶苦茶に叩き伸ばす。

 

男は麻酔が効いている為に痛みは全く無い。

しかしこの麻酔、意識を失う事は無いため、男は自分の体が砕かれていく様を見届けなければならない。

 

それだけではない、次は捌く作業だ。

巨大な包丁をサイコキネシスで移動させ、魔女は命乞いを行う男へ刃を一気に振り下ろす。

 

 

「―――」

 

 

そこからの光景は思わず目を覆いたくなる物だった。

現にあいりは目を反らすが、肉を切る音、臓物を引きずりだす音。

それが嫌でも耳に入ってきて恐怖を増加させていく。

 

しかしコレは調理ではない。その根本にあるのは治療なのだ。

魔女は男の体をある程度捌いた後、『肺』を引きずり出した。

魔女はターゲットが最も悪くしている部分を取り出してあげる。

そしてそこに存在している『病』を消して、元に戻してあげるのだ。

 

骨を砕く行為も、恐怖で逃げ出さない様にする為で、決してターゲットを傷つけ様などとは思っていない。魔女はタバコで汚れた肺を綺麗にしてあげると、患者の胸へ臓器を返す。

しかし残念。肺は綺麗になったが、他がグチャグチャだ。

魔女は困ってしまった。男はもう死んでいた。

この魔女は誰も救えない、そう言う物なのだ。

 

魔女は泣きながら男の死体を口に入れて処理をする。

救えなかった、その絶望を魔女も色々な意味で『噛み締める』。

 

 

『プスプスプス』

 

「ヒッ!」

 

 

魔女はへたり込んでいるあいりを見た。

ああ、ココにも助けを求めている人がいる。

魔女はあいりを救わねばと言う使命感で体を動かしている。

 

救わねば、守らねば、癒さねば。希望を与えてあげねば。

そんな魔女の親切心は、やがて絶望へと収束していくのだから皮肉なものだ。

あいりは死を覚悟した。しかしそう思ったとき――

 

 

「そこまでだ! 悪しき魔女め!!」

 

 

奇跡は、再び彼女の前に具現する。

 

 

「!!」

 

 

強烈なデジャブ。

コレは間違いない。姿は違うが、あれはまさしく!!

 

 

「魔法少女――ッ!」

 

 

和をイメージさせる魔法少女だった。

巫女の装束と、現代の洋服を合わせてアレンジさせた物を身にまとい。

足には足袋の様な物もある。

 

そして頭には真っ赤な大きなリボンを付けて、そこからは鈴をぶら下げていた。

二つに枝分かれした短いポニーテール。彼女は右手に長刀、左手に小刀を構えて呼吸を整えた。

 

 

「時雨流――、奥義!」

 

『プスプスプスプス!!』

 

 

魔女は誰も救えない、それが魔女の呪い。

 

 

「愚かな娘よ、先に天へと還るがいい」

 

 

命絶つ事でしか救えぬ魂がある。

魔法少女は刀を交差させると、殺気に満ちた目で魔女を見た。

 

 

「呪いに縛られた愚かな娘」

 

 

呪い。その部分を強調させて魔女を哀れみの目で見ていた。

 

 

「私もいつかああなるのか――」

 

 

その言葉はあいりには聞こえない程の音量だった。

 

 

「華鳥風月」

 

「っ!」

 

 

魔法少女の動きが消えて魔女の背後に出現する。

するとどうだ、魔女を巨大な月型のエネルギーオーラに閉じ込めたではないか。

魔法少女は背後を確認する事なく、あいりの方へと足を進めていく。

 

 

「ま、魔女はどうなるの?」

 

 

あいりは息を呑む。

そして魔法少女は二つの刀を鞘へと納めた。

 

 

「死ぬ」

 

 

カチリと音がして、刀が鞘へ収まる。

それを合図として、月に何本も閃光(かまいたち)が走り、中にいた魔女を細切れにした。

魔女から散ったはおびただしい量の血液が、華のシルエットを形作る。

 

崩れ落ちる月とバラバラになる魔女の体。

あっけなく絶命した魔女と、一瞬だけソチラに顔を向ける魔法少女。

その表情は何とも複雑なものだった。

 

 

「娘、大丈夫か?」

 

「は……、はい。でも男の人が」

 

 

あいりが手術台を指差す。

そこには血痕だけが残されていた。

魔法少女は把握して、ゆっくりと目を閉じる。

 

 

「すまぬ。ソレはもう――……」

 

「……っ!」

 

「私の未熟さが故だ、しかしキミだけは守れて良かった」

 

 

魔法少女はあいりの肩に触れると、儚げに微笑む。

ああ、やっぱり何て綺麗なんだろう。魅了される。近づきたい。離したくない。

その――、希望。

 

 

「あのっ、私! 前も貴女のお仲間に助けてもらったんです!」

 

「仲間……? ああ、そう言う事か。それは奇遇だったな」

 

 

魔法少女は笑みを消す。

あいりが二回魔女に襲われたのは偶然か必然か。

 

 

「娘、もしもお前の前に、白い物の怪が現われたとしても、決してソヤツの言葉に耳を傾けてはいけない」

 

「え?」

 

「信じられぬかもしれないが、ソイツは人を破滅に導く妖だ」

 

 

どういう意味なのだろう?

それを聞こうとしたとき、黒い影が現われて落ちたグリーフシードを奪い取った。

 

 

「ッ! しまった!!」

 

 

あいりの前にいた魔法少女が焦りの声をあげる。

あいりには意味が分からなかったが、グリーフシードは魔法少女にとってとても大切なアイテムだ。中にはああ言う風に横取りを狙う者も少なくは無い。

 

 

「おのれっ! ドロップの瞬間を狙っていたか!」

 

「あ、あの……!」

 

「すまない娘、私はアレを取り返さなければ」

 

 

魔法少女は背を向ける。

そうだ。あいりは大声をあげて魔法少女を引き止めた。

 

 

「あのっ! 助けてくれて……! ありがとうございました!!」

 

「……ああ。その命、大切にな」

 

 

魔法少女は地面を蹴って、あいりの前から姿を消す。

あいりは感動していた。やっぱり魔女はいる。魔法少女は要るのだ。

早速この事をユウリに伝えてあげたい。そしたら彼女も元気を取り戻すはずだから。

 

 

「ッ?」

 

 

そこであいりは、魔女が爆発した所に何かが落ちているのに気づいた。

しかもそれは、なにやら見覚えのある物で。

 

 

「っ! な、なんで!?」

 

 

そこにあったのは金色のスプーンのアクセサリーだった。

これは間違いない、ユウリの物ではないか。

あいりは戸惑いながらも、自分の銀色のスプーンのアクセサリーをギュッと握り締めた。

 

 

「ど、どッ、どうしてコレがココに?」

 

 

スプーンには名前がローマ字で刻まれている。

見れば、確かにユウリの文字が刻まれているじゃないか。

 

もしかしたら初めからココにあったのか?

いやそんな記憶は無い。見落としていた? いや違う、コレは初めは無かったもの。

ではいつココに落ちた? いつユウリがココに立ち寄った?

どうして彼女に気づかなかった――?

 

 

「そっか! わかった! さっき魔法少女さんが追いかけたのが――」

 

『いや、それは違うよ杏里あいり』

 

「!!」

 

 

その時、頭の中に響き渡る声。

耳ではなく、脳が音を拾う感覚。

何? 誰? あいりがキョロキョロと周りを見ると、そこには白い影が。

 

 

『やあ、はじめまして』

 

「い、犬が喋った!?」

 

『犬じゃないよ。ボクはキュゥべえ、妖精さ』

 

 

ピョコンとファンシーな音を立ててあいりの前にやって来るキュゥべえ。

フラッシュバック。憧れの魔法少女様に言われた。白い物の怪の言葉には耳を貸すなと。

言われた通り、耳を塞いで逃げ出そうとするあいり。

しかしキュゥべえの言葉は脳に直接入ってくるため、耳を塞ごうが意味など無い。

 

 

『飛鳥ユウリの居場所を教えてあげようか』

 

「……ッッ!」

 

 

あいりは、ピタリと動きを止めた。

キュゥべえの真っ赤な目には、あいりの驚きに満ちた表情が映っていた。

そこには恐怖が混じっているが、同時に大きすぎる期待があった。

 

 

「知ってるの……?」

 

『ああ、知ってるよ』

 

 

そう、そうだ。

キュゥべえは物の怪なんて言い方に似合わない姿だ。

きっともっと恐ろしい外見の『白い奴』がいるんだ。

だから、いいんだ。

 

 

「何をすれば――、教えてくれるの?」

 

『落ち着いてほしい。別に見返りを求めてはいないよ。ボクは純粋に君の力になりたいだけさ』

 

 

キュゥべえはあいりの前に移動すると、しっぽを少し振るう。

そう、そうだ、見た目だって魔法少女の味方にいるマスコットみたいじゃないか。

信頼して、いいんだ。

 

 

『ユウリは、今死んだよ』

 

「………」

 

 

え?

 

 

『さっきの注射器みたいな化け物。アレは魔女と言ってね。飛鳥ユウリの絶望した姿なんだ』

 

 

ユウリが、あの化け物。

ユウリが、死んだ。

ユウリが、ユウリが、ユウリが、ユウリがユウリがユウリがユウリがユウリが。

ユウリユウリユウリユウリユウリ……。

 

 

「うそ」

 

『本当だよ。ボクは嘘はつかないよ』

 

 

最初から説明する必要があるね。

キュゥべえはそう言って、魔法少女とは何かを説明していく。

希望より生み出され、願いを叶えた代償として、絶望の化身である魔女と永遠に戦い続ける存在。

 

 

『それが、キミを二度も助けた魔法少女さ』

 

「……!」

 

『キミの事を少し調べさせてもらったよ。杏里あいり』

 

 

あいりは後悔した。

やっぱり、コイツが、物の怪なんだ。破滅に導く化け物なんだ。

だがもう何もかも遅かった。

あいりとしては、ユウリのいない世界に未練は無かった。

 

 

『飛鳥ユウリも、魔法少女だった』

 

 

キュゥべえの言葉に、あいりは打ちのめされた様に崩れ落ちた。呼吸を荒げ、髪を掻き毟る。

飛鳥ユウリは魔法少女。それで今までの不可解な出来事に全て納得がいくと言う物。

施設を抜け出していたのは魔女を倒していたから。疲れていた表情を常に浮かべていたのは、魔女との戦いで疲労していたから。

 

 

「ユウリ……ぅッ!」

 

 

胸を強く掴むあいり、それは心臓を掴む様に。

願いを叶えられるとは、どんな奇跡も起こせると言う事ではないか。

その心当たりが、あいりにはあった。

 

 

『その通り。飛鳥ユウリは、キミの心臓を治した』

 

「――ッッ!!」

 

『それが、彼女の願いだったんだ』

 

 

俯いて口を覆うあいり、耐え様としてもボロボロと涙が溢れてくる。

彼女は自分の為にそこまでしてくれたのか? どうして自分の為にそこまで――ッ!?

 

 

『それは、キミが親友だったからだよ』

 

「!」

 

『彼女の願いを聞き入れたのはボクだからね。彼女は切にキミを救いたいと願っていた』

 

 

献身的な少女だ。

ある種それは究極の自己犠牲を孕んでいたのだけれど。

キュゥべえはそう言ってあいりの周りをピョコピョコと歩き回る。

 

 

『飛鳥ユウリは杏里あいりを救いたかった、友人として。つまりキミの為に魔女と戦う宿命を選んだ』

 

 

不思議だよ。

友人とは言え、結局はただの他人。自分の人生を捧げてまで救うべき存在なのかな?

でも彼女は救いたかったようだ。自分の人生を捧げてもキミを助けたいと願った。

だから魔法少女になれた。なった。そしてその力で他者を救ってきた。

 

 

『彼女の魔法は凄いものだよ。病気を治せるんだ』

 

 

戦闘じゃまるで役に立たないけど、ユウリは色々な病院を回って病に苦しむ人達を救ってきた。

食事や睡眠の時間を削ってまで、彼女は救済を献身的を行っていく。

それだけじゃない、世界を守るために彼女は魔女とも戦ってくれた。

素晴らしい自己犠牲。素晴らしい献身。彼女の魔法少女衣装はナースをモチーフにしたもの。

まさに救済の天使と呼ぶに相応しかったかもしれないね。

 

 

『エネルギー源であるグリーフシードも、彼女は他の魔法少女が困っていたら迷い無く譲っていたね』

 

「そ、それはどういう……」

 

『そう。だから彼女は壊れてしまった』

 

 

被せる無機質トーン。

 

 

『だから彼女は死んだんだよ』

 

「だ、だから! それってどういう事なの!?」

 

『優しさとは、愚かさに直結する物だとも、ボクは彼女から教えられたよ』

 

「いい加減な事を言わないで!」

 

 

あいりは苛立ちのままにキュゥべえを掴み挙げる。

しかし前にあるのは無表情。嘘じゃないよ、淡々と言い放つ。

 

 

『彼女は立派だ。でもこの世の中、頑張りが全て感謝されて報われるとは限らないだろ?』

 

 

彼女の善意を逆に利用して、道具として利用する者たちも多かった。

人間も魔法少女も中身が綺麗な者ばかりとは限らない。

ユウリを利用し、傷つけ、絶望に近づける後押しをした者達は多かったんだ。

 

ユウリはそれでもめげなかったけど、ある時は化け物と言われ。ある時は囮にされ。

ある時はグリーフシードを持ち逃げされたり。

中には人間にも利用されそうになったことがある。

 

多くの汚い部分をユウリは見て来た事だろう。

人間が綺麗な物と信じて疑わなかった彼女にとっては、それはさぞ辛い事だったんじゃないかな?

 

 

『そして逃げれない戦い。命を賭ける恐怖、ユウリの精神は次第に狂っていく』

 

 

それでもユウリは病に苦しむ子供達の治療を止めなかった。

グリーフシードもろくに確保していない彼女が、魔力を消費し続けたらどうなるか。

そして他者の悪意に貶められ、疲労していくユウリの精神が生み出す結果とは――?

 

 

『それら全てが、今に繋がった訳さ』

 

 

悲しみを無視して、悪意を否定して、その先には何があった?

過ぎた献身は、愚かな輪廻を作り出しただけだ。

救ったものは多かったかもしれないが――、彼女は代償に最も大事な物を失う事になる。

 

 

『いいかい? あいり。魔法少女が絶望に染まったらどうなるのか?』

 

 

それは魔女になる。

人間じゃなくなるんだ。

 

 

「………」

 

 

目を見開き、震えるあいりに告げられていく情報。

絶望を振りまく魔女とは、ソレすなわち、魔法少女の成れの果て。

希望に目を輝かせた彼女達が、絶望に食われた姿なり。

 

 

『ユウリは頑張ったよ。でも悪意に食われた、時間に食われた』

 

 

グリーフシードを確保していたら、まだ生きていたかもしれないのに。

 

 

「――そ」

 

『?』

 

「うそ」

 

『本当だよ。キミは目の前で見たろ? アレはユウリなんだ』

 

 

アレがユウリ?

男の人を解体して殺したあの悪魔が、ユウリ?

 

 

「うそよッ!!」

 

『スプーンのネックレスが物語ってるだろ? アレはユウリさ』

 

「……ッッ!!」

 

 

ボロボロと涙を零すあいり。

本当は心の中でキュゥべえの言葉を受け入れてしまっているのだろう。

しかし本当にそれを認めてしまえばユウリは死んでしまう。

彼女が――、親友が、また、いなくなってしまう。

 

 

『あいり、キミは運が悪いね』

 

「――ッッ! あ、アァァアアァアァァアア!!」

 

 

キュゥべえの言葉をスイッチに、あいりは叫ぶ様に涙を流してのた打ち回る。

じゃあ、じゃあ何か? それが本当ならば――!

 

 

「私ッ、ユウリを殺したヤツにお礼を言ったッッ!!」

 

『それは可哀想だね。ボクも同情するよ』

 

 

ユウリは優しい娘だった。

 

 

『献身的で、でもだからこそ利用に利用されて絶望してしまった』

 

 

裏切られた、利用された。他人に壊された!

 

 

『きっと奇跡が起きて、彼女がまたこの世に戻ってきたとしても、また壊れてしまうんじゃないかな?』

 

「そんなの……! そんなのって無い!!」

 

 

許さない。ユウリは誰よりも優しい娘だったのに!

あいりの心に凄まじい憎悪が宿った。

それは世界に対する圧倒的な憎しみだ。

 

考えてもみれば、何故自分がココまで奪われなければならない!

何故ユウリまでが死ななければならない! 全部クソッたれだ!

どいつもこいつも、この糞みたいなシナリオを考えた神もッ!

全部! 全てが許せない!!

 

 

「うがぁぁアァァアアアアッッ!!」

 

 

あいりは怒りに任せて地面を殴りつける。

そうだ。運が悪いの一言で済まされる『今まで』が、堪らなく憎い!

何故両親を奪われなければならない? 何故友人を奪われなければならない!?

何故愛した親友を奪われなければならないッッ!!

 

そして魔法少女だってそうだ。

どうして中途半端にしか助けない! どうしてユウリを助けない!

そればかりかキュゥべえの話では、ユウリを利用した魔法少女だっているじゃないか。

それにユウリを殺したヤツだってッッ!!

 

 

「憎い憎い憎い憎い憎いィィィイイイッッ!!」

 

『………』

 

「糞だ! 全部糞だ! 世の中全部クソばっかりだッッ!!」

 

 

頭を掻き毟って、掠れた声で叫ぶあいり。

そのタイミングでキュゥべえは――、動いた。

 

 

『でも、ある意味でキミは運が良い』

 

「ッ!?」

 

『キミは今まで多くの物を失った。だけど自らの命は奇跡的に守ってこれたじゃないか』

 

 

何度と無く死ぬタイミングはあった筈だ。

けれども、あいりはことごとくそれを回避してきた。

その死と生の狭間を繰り返した事で、あいりの因果が良質に膨れ上がっていく。

 

 

『キミはさぞ素晴らしい魔法少女になるだろうさ』

 

「魔法少女――っ」

 

『ああ。その力があれば、世界をキミの望む様にできる』

 

 

これからもユウリは殺され続ける。

キュゥべえはそう言った。確認したのだが、ユウリのグリーフシードを持って逃げた魔法少女は、ユウリを殺した魔法少女と戦闘を行った際に、グリーフシードをどこかに無くしてしまったらしい。

と言うことは、つまりあれが放置されれば(ユウリ)は再び生を受けて、この世に出現するのだ。そして多くの使い魔を世に放ち、それが成長すれば魔女もまた増え続ける。

 

 

『どれだけの魔法少女が、これからユウリを殺すんだろうね?』

 

「そんなの……、許せる訳ッない!」

 

『でもキミは人間だ。魔法少女は止められない』

 

「止める! 止める! 絶対止めるッ! ユウリを傷つけるヤツは皆アタシがブッ殺す!!」

 

『そうか、キミの熱い思いは伝わったよ』

 

 

キュゥべえは少し声のトーンをあげて、あいりの前に立ち止まった。

 

 

『杏里あいり、ボクと契約して魔法少女になってよ!』

 

「………」

 

 

キュゥべえはユウリの願いを叶えたと言った。

魔法少女は願いを叶えて力を得る。それが意味する所は、つまり魔法少女への覚醒にはキュゥべえが大きく関わっていると言う事だ。

 

今日のあいりは不思議と頭がよく回った。

恨み、憎悪、果てしない負の感情が、思考を冷静にさせているのだ。

 

 

「ねえキュゥべえ、願いって何でも叶えてくれるの?」

 

『ああ』

 

 

しかしやはり、あいりは冷静ではなかった。

普通じゃない。普通じゃないから、普通の願いは叶えない。

もしも施設を飛び出した時点でのあいりだったらば、こう願うはずだ。

 

 

ユウリを蘇生させて、と。

 

 

だが今の彼女は、心に果てない憎悪を抱えている。

ココでユウリを蘇生させても、彼女はきっとまた死んでしまう。

だって自分は神様に嫌われてる。運が悪いんだ。だから大切なユウリは、すぐに魔法少女や人間に汚されてしまう。

 

駄目だ、それじゃあ駄目。

それにあいりの心には、今日に至るまでの全ての不満が重なっている。

全てが許せない。世界も、魔女も、魔法少女も全部嫌いだ。

 

 

「キュゥべえ……。私、魔法少女になってもいいよ」

 

『じゃあキミは、どんな願いを叶えるんだい?』

 

 

このインキュベーターが叶えてあげるよ。赤い目が光る。

 

 

「………」

 

 

あいりの目が据わっている。

そこに希望の光は無い、あるのは圧倒的な絶望だけだ。

思えば糞みたいな人生だった。それを救ってくれたのがユウリなのに、世界はユウリも殺そうとするんだ。

 

じゃあ、いらねぇよそんなモン。

全部下らない。魔法少女、魔女、世界も全部全部下らないしムカつくしイライラしクソだしああああクソクソクソクソクソクソ……。

 

 

「ユウリにしてよ。あいりは、要らない」

 

 

だって、どうせ私、運が悪いんだもん。

このままなら何をしても駄目。それに比べてユウリは素晴らしいんだ。

可愛いし、綺麗だし、優しいし、私が死ねばよかった。

彼女が死ぬ理由なんてどこにも無い。

 

 

「アタシをユウリにしろ! インキュベェエエエタァァアアッッ!!」

 

『了解したよ杏里あいり。いや、杏里ユウリと呼ぶべきかな』

 

 

キミの願いは、エントロピーを凌駕する。

その言葉と共に、あいりの姿が光に包まれ、歪んでいく。

そして光が晴れた時、そこには杏里あいりなど存在していない。

金色の美しい髪、そして長いツインテール。

 

それはまさしく飛鳥ユウリの姿その物ではないか。

そう、彼女は願いの力で、自らの姿を『ユウリ』にしたのだ。

 

 

「ひ、ひひっ!」

 

『………』

 

「いひひひ! ヒヒヒヒ! ヒャハハハハハハハ!!」

 

『喜んで、もらえたかな?』

 

「人生糞だ……! 命なんて、皆どうせいずれは無くなる」

 

『?』

 

 

両親も、友達も、親友も、いずれは無くなる。

だったら――!

 

 

「アタシが、奪っても、別にいいよね」

 

『………』

 

 

キュゥべえは何も言わない。

そして代わりに『ユウリ』へ、箱の様な物を投げわたす。

 

 

「コレは?」

 

 

キュゥべえは可能性の塊だと言ってみせる。

 

 

『技のデッキ。やがてキミの力になってくれる』

 

「?」

 

『いずれ、13の魔法少女と、13の新たなる参加者を交えての戦いが始まる』

 

「なにそれ、どう言うことだ!」

 

『ゲームさ。その時キミがデッキをどう使うのかは勝手だ。力とは最も単純な武器ではないか、ソレを振るう使用者次第で、どうにでもなる』

 

 

訂正だ。力ではなく、技だったね。

全てを覆す技術がキミにはある。もちろん使い方を誤れば、半分の力も引き出せずに終わるだろうけど。

 

 

『期待しているよユウリ。キミの"技"を、是非ゲームで示してくれ』

 

 

それが、世界を変える事になるかもしれないからね。

キュゥべえはそう言いながら、ユウリの前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、あいりはユウリとなった。

 

 

(運の悪かった少女はもういない。ユウリは私と共に生き続ける)

 

 

ユウリの意思は死なない。

彼女の憎しみは全部、アタシが背負ってやる。

そして彼女が果たせなかった『復讐』も、しっかりとアタシが果たしてみせる。

 

 

「人間も魔法少女も下らない。全部ブチ殺してあげないと」

 

 

ユウリはずっと大切にしていたストラップ――、魔法少女から貰ったストラップを地面に放ると、思い切り踏みつけてグチャグチャにする。

ずっと憧れていた魔法少女に自分はなれた、だからもう要らない。

それに、いざなってみたら意外に下らないって事も分かったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロフィナーレ!」

 

「やったねマミさん!」

 

「流石はマミだな」

 

 

あれから多くの時間が経った。

キュゥべえの言った通り、アルツトコッヒェンのグリーフシードは誰にも回収される事なく孵化していたのか。その使い魔が成長した分を含めて、何度も目にする事になった。

 

しかしもうそれはオリジナルではない。

ユウリも少し冷めた目で観察を行う。今日もまた、一人の『(ユウリ)』が殺される。

 

 

「鹿目さんのサポートが良かったわ。ありがとう」

 

「てへへ、ありがとうマミさん」

 

「ぶーぶー! あたしはぁ!?」

 

 

群れる奴ら。

 

 

「織莉子の前に現われるなぁぁ!!」

 

「ふふ、あまり熱くなると汗で冷えちゃうわ」

 

 

刻まれる親友。

ああ、何も知らないで笑ってるヤツら。

 

 

「はい、終わり!」

 

 

無数の赤い槍が彼女を貫く。

 

 

「もう、目障りだな。消えちゃえ♪」

 

 

炎が彼女を焦がす。

孤独なヤツ。ユウリの痛みを知らずに、陥れたのもこう言う奴らなんだろう。

 

その他にも多くの魔法少女が彼女を殺すのを見た。

いや違う、殺されたのは自分自身だ。もう、あいりがどんな姿をしていたのかなんて思い出せない。

 

変身を繰り返し、けれどもユウリの姿を忘れなかったのは、強い恨みがあるからに違いない。

黒い水面に映った自分の顔は、やはり憎悪に満ち満ちている。

 

 

『キルルルルル……!』

 

 

そのとき、ユウリの背後に魔女が迫る。

裁縫の魔女『Ellenote(エルノート)』、"黒いドレス"を身に纏った上品な魔女だ。

体と目はボタンでできており、裁縫の魔女を強くイメージさせる。

彼女は武器である巨大な『鋏』で、ユウリを切断しようと歩み寄っていくが――

 

 

「面倒なんだよね、全部」

 

『!』

 

 

三角形の魔法陣が、エルノートを中心にして展開されていく。

歩き出すユウリ。さらにエルノートの前には無数の魔女が群がって行った。

 

 

「生きるも死ぬも、アタシが決める」

 

 

これは復讐だ。

邪魔する奴らは全て殺す。そう、全て。

 

 

「消えろ、イル・トリアンゴロ!」

 

 

ユウリが指を鳴らすと、エルノートを囲んでいた魔法陣が爆発を起こし、魔女を消し炭に変える。

どこかで見た事のある様な魔女だった。まあ、どこかなんて思い出す気にもなれないが。

どうせ過去(あいり)が見た景色だ。自分(ユウリ)には関係の無い事である。

 

魔女の返り血をたっぷりと浴びながら、ユウリは恍惚の表情を浮かべた。

これだ。これならば今までの糞みたいな人生と、それを生み出してきた要因に復讐ができる。

しかも、お誂え向きに、まもなく殺し合いが始まると言うじゃないか。

 

 

「ムカつくわ、全員ブチ殺ちゃうもんねぇ! くひゃははははぁ!!」

 

 

舌を出して下品にゲラゲラと笑う。

それが私の、いやアタシたちの復讐になる。

ユウリは高笑いを繰り返して闇に溶けていった。

 

 

 

 

「………」

 

 

そして記憶が今へと戻る。

目を開けるユウリ。ゲームの終わりはすぐそこまで来ている。

終わらせるのは自分だ。全てを殺し、そして自らはどうなる?

 

ああ、滅びが永遠を呼ぶ。

ユウリは自らの体を撫でて、"ユウリ"と言う存在を確かめる。

 

 

「もう少しだ」

 

 

ユウリは心の中で終わりを復唱する。

もうすぐ全てが終わる。いや違うか、もうすぐ全てを終わらせる。

 

うんざりなんだよ、この世は全部ゴミ。

だから全部を終わらせる。魔法少女を皆殺しにすれば、魔女も生まれない。

目に見える大きすぎる希望も絶望も、全部無くなる。

意味不明な夢に憧れ、うなされる事はもう無くなるんだ。

 

 

「………」

 

 

ユウリは無言で使い魔を増やし、グリーフシードを量産し続ける。

命を懸けて、復讐を成し遂げる。それがユウリの戦う理由なのだから。

 

尤も、それはユウリが望んだ事なのか?

そしてユウリとは誰なんだ? アタシは誰なの?

その答えを、ここにいるユウリは無視し続けるのだろうけど。

 

 

 

 

 

 







ごめんなさい。
これ前も書いてるかもしれないんですけど、ユウリ様の固有魔法は原作じゃ不明のままでしたが、この小説では『変身』です。

まあ願い的に変身に関係してるので。
あとは、一巻で里美を完コピしてるので、変身魔法にしました。

マギレコで変身魔法使う子出てきましたけど、まあ固有魔法が被るケースもあるとは思うので、そこはの(´・ω・)

ただ最近は、まどか関係に限ったことじゃないですけど、ツイッターとかで追加設定みたいなのがホイホイ出てくる時代なんで、どこかで説明されてたらすいません。
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