仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第51話 四日目 目日四 話15第

 

 

「保安官役は一人だけなんだ。何でだと思う?」

 

 

ニコはニヤリと笑って俯いた。

 

 

「保安官には拳銃が要る」

 

「はぁーん、なるほど」

 

「そう、私達は本物の拳銃を使って遊んでた」

 

 

バン☆

ニコは指で銃の形をつくると撃つジェスチャーを行った。

幼少時にはリスク管理なんて出来る訳ない。

テンションに任せたノリで馬鹿みたいに遊ぶのが子供だろう?

 

 

「自分からなのか。それとも何かの拍子に指が引っかかったのか、今となっちゃ何も分からない。覚えてない」

 

 

けど物凄い轟音が轟いたと思ったら、肩が抜けそうな痛みと衝撃を感じた。

そして前を見れば、私が放った銃弾がお友達の脳天をぶち抜いていたっけ。

意味が分からなかった、混乱した、パニックになった。

だからかな? 私はまた引き金を引いてしまった。

 

悪意があった訳じゃないんだ。ただ純粋に怯えからくる反射と言うか。

するとやっぱり実銃な訳だから、弾丸が放たれますわな。

そしたら目の前にいたお友達が大きく仰け反って地面に倒れたのさ。

 

みるみる広がる紅い絨毯。

私は意味も分からず泣きじゃくってるだけ。

そうしている内に音を聞きつけた大人たちが駆け寄ってきて、事態は収拾される訳だ。

 

 

「私はまだちっこいガキ、二人をぶっ殺しても罪には問われない」

 

 

わざとでも無かったしね。

けれどもやっぱ周りからとか、両親達が責められるのよ。

私のあだ名は『人殺し』になったし、両親も毎日被害者の家に謝りにいって、そのたびにマジギレされてたなぁ。

 

でもほら、パパンもママンも優しいから。

私には気にするなって笑顔を浮かべる訳よ。

コッチとしてはそれがまあキツくてね、だからか――

 

 

「その日から、マジで笑えなくなった」

 

「………」

 

 

面白いとかは分かる。笑みももちろん浮かべられる。

でも何かが違う。周りの人間が浮かべる笑顔とは、明らかに何かが不足している。

面白いと思う事も、まるで脳に言葉として伝わるだけで、そのまま脳みそが私の顔を笑顔にさせるって信号は出さなかった。

目も光が消えたみたいになってさ。心が足りないみたいって、よく言われたよ。

 

パパン達はそんな私に気を使ったのか、よく私の好物を作ってくれた。

ハンバーガーが大好きでね、毎日ハンバーガーが食卓にあった。

普段の私なら泣いて喜ぶ天国さ。一口食べればああハッピーってな。

 

 

「でも口に入れた瞬間、思ってしまった」

 

 

こんな美味しいものを食べる資格が自分にはあるのか?

人の一生を二つも奪ったお前が幸福を感じる事を許されるとでも?

一瞬だ、一瞬そう思っただけなのに――。

 

 

「その瞬間から、何食っても味がしなくなった」

 

 

漫画だってそうだ。

大好きなアメコミヒーロー物を見ていると、まるで自分が責められている妄想に駆られる。

彼等ヒーローはきっと私を悪人として扱うだろう。そんな悪が、彼等の様な眩しい『正義の味方』に憧れる資格は無い。興味を持つ資格は無い。

私は醜いヴィラン、人を殺した悪役だもの。

 

あとは、『続く』と言う事に強烈な気持ち悪さを感じてしまう。

友人等の物語はこれからも続く筈だった。しかし私がその未来を奪った。

私がぶち殺した二人も、漫画が、DVDが、ゲームがしたかったかもしれない。

ゲーム、ゲームと言えばセーブ。人間はセーブができない。

私がやった事は彼等の電源ボタンを叩いて壊して、強制的に切った事と――!!

 

 

「ってな事が、嵐の様に私の頭をかき乱す」

 

 

漫画も、テレビも、ゲームも、全部大好きだったのに、楽しむ資格があるのかと自問自答が始まって結局どれも見れなくなる。

漫画は二巻を買おうとすると吐き気がして、ゲームはセーブをすると頭がおかしくなりそうになる。

周りの人間にしてみれば意味の分からない事に思えるだろう。

でも私にとってはそれは紛れもない事実、真実、吐き気がする。

 

 

「両親の心配も、私には心を抉る行為でしかない」

 

 

けれども同情されないと、優しい言葉を掛けてくれないと、それはそれで壊れそうになる。

繊細だったよあの頃のニコさんは。だからこそなのか、極めつけと言うべき出来事が起こる。

 

 

「夢を、見るようになった」

 

「夢?」

 

「ああ、最高に素敵な夢だったよ」

 

 

箱があった。透明で大きな箱が。

私は箱の上に立っていて、箱の上部、つまり私が立っている所だな。

そこには小さな穴が数箇所、密集して開いてるだけだった。

 

そしてふと気づく。

はじめは箱の中には何も入っていなかった筈なのに、いつの間にかパパとママが箱の中に入ってたんだ。

 

二人は自分に気づくと手を振ってくれる。

しかし自分達が箱の中に閉じ込められている事を知ると、不思議そうに箱の中を探索し始めて出口を捜し始めるんだ。

 

私も箱の上から中を見て、出られる所が無いかを捜したんだけど、特にそう言うのは無かったし、箱はそれなりに大きくて梯子や階段も無かったから下には降りれなかった。

 

 

「そしたら、箱の中に突然水が入ってきた」

 

 

ビックリしたよアレは。

だってホースとか何にも無いように思えたし。それは箱の中にいる両親も同じだ。

どこからともなく箱の中には水が溢れていく。でもさ、意味分かるだろ? 箱って事は上も前も後ろも下も壁でできてんだ。

パパとママは叫びをあげて出口がどこかにないかを探し始める。

 

そして水が膝くらいにまで溜まったら、出口は諦めて箱を壊そうって考えに至った。

でも結構薄い壁に見えても、箱ってヤツは頑丈で、どれだけパパがタックルだとか蹴破ろうとしてもビクともしなかった。

体は浮き始め、二人は迫りくる上の壁を見て顔を青ざめていた。

私も私で、何とか二人を助けようとするけど……、まあお察しだよね。

幼女に出来る事なんて何も無いのさ。

 

 

「箱の上には穴があった。そこから息をしてくれって事なんだろうけど、穴はちっせぇし、あんなんで持つ訳が無い」

 

 

対してどんどんと迫る水。

両親はいよいよを以ってしてパニックになってた。

でも何もできない、何も変わらない。私は真下で恐怖に震える両親をただただ見ているだけしかできなかった。

 

そうしている内に水は鼻の高さまでやってくる。

パパもママも結構顔は整ってんだ、でもその顔は恐怖とパニックのせいで醜く変わってた。

何が何でも呼吸をしようとあさましく顔を上に向けて小さな穴へ口を持っていこうとする。

 

 

「私は真下で溺れそうになっている両親を見て、体の震えが止まらなかった」

 

 

両親も両親でコッチに助けを求めて来るんだよ。

あれは相当切羽詰ってたんだろうな。

 

 

『ガボッ! た、だずけてガンナぢゃん゛――ッ! ガボォツ!』

 

『ぐるしいッッ! だ、だずけ――ッ! ババッ! ガババ!』

 

『ま、ママ――っ! パパぁ!』

 

 

私は必死に箱を壊そうとするけど無駄無駄。

でもな。その時、手にある感触があったんだ。

それは絶対に初めからは無かったアイテム。両親が死に掛けの時に、神様が私に与えてくれたのだろうか。

 

 

「たかみぃよ、私の手には何が握られてたと思う?」

 

 

拳銃だよ、拳銃。

しかもそれは私が友達を殺した時に使ったブツと全く同じだった。

なんで銃がココにあるのかなんて分からない。

まあ夢なんてそんなモンでしょ?

 

だからかな。幼女の私でも、自分が何をするべきなのか理解する事ができた。

真下では自分に助けを求める溺れかけの両親。私はどうやっても二人を助けられない。

んー、本当か? 本当に助けられんのか?

 

 

『だずけ――ッッ、息ができな゛――ッッ!』

 

『――っ!!』

 

 

助けないと。

溺れる苦しさは私も知ってる。

息ができないんだ、そんな状態が続くなんて地獄だろう?

だから私は二人を楽にしてあげないとと思った。私の手にはそれを可能にするアイテムがある。

 

 

「バン! 私は、二人を撃ち殺した」

 

「………」

 

 

穴を通り抜けた銃弾は二人の眉間を一発で捉えて絶命させた。

神エイムってヤツだ。プラチナトロフィーなら解除安定だな。

ただショックだったよ。たかみぃと違って私はパパとママが大好きだったからね。

そんでさ、両親の死体の向こうに――

 

 

「私が殺した二人が、血まみれで笑ってた」

 

 

そりゃあ恨むよな、私を。

そこでその日は目が覚めた。私は無言で両親にしがみついたよ。何となく嫌な予感がしたからね。

まあそう、そうそうコレはつまりフラグな。その嫌な予感ってのは見事に的中するのさ。

 

次の日の夜に、私は別の夢を見た。

今度は私が檻の中に入ってるんだ。そして外には十字架に磔になっているパパとママが。

十字架の下には無数の藁があってさ、私はその瞬間に未来が視えた気がした。

まあ想像に難しくは無いモンな、幼女の私でも分かった事だし。

もう分かると思うけど、ふとした瞬間に藁に火がついたんだ。

 

今度は目の前で愛する両親が火あぶりさ。

パパとママは私を心配させまいと強がりの言葉を口にしてたけど、火が腰までくると痛みと熱さ、恐怖で気が狂った様になってた。

 

 

『あづぃぃぃいいい!! だすけてくれぇええええ!!』

 

『パパぁ……! ママぁ!』

 

 

私は檻を破ろうとしたけど無駄だった。

私は祈るしかない。パパとママを助けてって。

その時は感触とか感覚がやけにリアルでさ、夢だって気づかないんだよ。

だから私は本当に両親が目の前で丸焼きになる光景を完全にリアルとして見ている。

そんで、二人が苦痛に絶叫するとさ――

 

 

「また私の手には拳銃があった」

 

 

迷いは無かったね。

愛する両親が苦痛を受けて死んでいく様など誰が見たい?

私は檻の隙間から銃弾を二発放って、それぞれ両親の眉間にぶち込んだ。

そこそこ距離はあったけど眉間のど真ん中、かなり素晴らしいスナイプ力だろ?

 

 

「悪夢にうなされるって……、病院にも行った」

 

 

けど、どれだけ薬を飲んでも。

どれだけ心を落ち着ける方法を試しても。

夢は、私の前に確固たるリアルとして現われた。

両親が死にそうになるんだ。しかも長引く、苦しい方法でさ。

 

それを助ける為には殺すしか無い。

凶器はいつも同じだよ、私が暴発させて友人を死なせたあの銃だ。

アレがいつも丁度いいタイミングで私の手の中に現われる。

そして私がパパとママを殺すと、私が死なせた二人がコチラを見て笑っているんだ。

 

睡眠薬を使っても無駄。昼寝ですらアウト。

睡眠と言う行為をとった時点で私は二人を殺さないといけない。

一度は放置するという考えもあった。だけど……、ホラ、さっきも言ったけどニコちゃんはパパママ想いのいい子だからさ。

 

耐えられないんだ。

両親が醜く虫けらみたいに殺されていくのが。

だから殺す、だから引き金を引く。指に残る感触が夢から覚めても覚えてる。

 

 

「一週間はうなされた。そして七日目の夢もキチってたよ」

 

 

私は椅子に縛られてる。目の前には同じく椅子に座っているパパとママ。

でもその椅子がヤベーんだよ、明らかに近未来の拷問器具だ。

四肢がガッチリと固定されてさ、手足の指もそれぞれリングみたいなモンで固定されてる。

パパもママもどうして自分達がこんな事になってるのかは分からない。

でも私はこれから何が始まるのかが分かっちゃう。だから叫ぶ、逃げろってさ。

 

ただまあ無理だよね。

その日も私の叫びは虚しくショータイムさ。

椅子が起動すると、肉を断つ音が聞こえて、二人の絶叫が耳を貫く。

私も詳しくは覚えてねーんだが、指を固定してたリングの中に刃物が入ってたらしく……。

まあ要するにパパとママの親指が分離したのな、本体から。

 

 

『ぎゃアアアアアアアアアアアアアアア』

 

『ひぃッ! ヒィィィイイィィィィ!!』

 

 

なあ、たかみぃよ。お前は両親にそれほど良い思い出がねぇんだろい?

んだけども、私は違う。私の……、ああ違うな、カンナちゃんのパパとママは最高に優しかったし、カンナちゃんはパパとママが大好きだった。

 

家には似顔絵もかざったりしてさ。

ベタベタだろ? でも二人も喜んでくれたし。

つまる所、カンナちゃんはテメェと違って両親様が大好きだったのさ。

 

 

「お前は親父がブランリチョしてる所を見たのかもしれない。だけどそれは死んでる所を一回見ただけだ」

 

「………」

 

「まだカンナちゃんは幼女だった。なのに目の前で破壊される両親をマジマジと見せ付けられたのよ」

 

 

私は声が潰れる程に叫んだよ。やめて、とめて、許して。

私はこの夢が自身の罪悪感から生まれる物だと確信してた。

でもだったら私を傷つければいいだけだ。

 

何故パパを傷つける?

何故ママを傷つける? なんつってな、健気だろ。

でも私がどれだけ叫んでも夢は覚めない、拷問は止まらない。

 

指切りリングは順調に作動して、パパとママの指を一本ずつ丁寧に切断していった。

こんな形で両親の泣き顔を見るなんて思って無かったよ、本当に困っちゃうね。

 

 

「手が終われば、次は足だ。パパとママは私と同じく、誰とも分からない仕掛け人に命乞いを始めたよ」

 

 

それを目の前で見せ付けられる気分がお前には分かるか? ま、分からんわな。

とにかく一つだけ言うなら、それはさぞ糞みたいな気分だよ。

本当に思い出しただけでも激おこだぞ。

 

 

「そんなわけで、カンナちゃまのパパンとママンは両手両足の指を全て切り取られた」

 

 

私は祈ったよ、早く拳銃が来てくれるように。

でも来ねーんだなコレが! そうしてると今度は椅子がけたたましい音を立て始めた。

まさかとは思ったけどコレがまたB級スプラッターみたいなんだよ。

 

 

「すげぇぜ、いきなりパピーとマミーの右腕が引きちぎれたんだ」

 

 

捻りを咥えてブッチンさ。

意味が分かんなかったねアレは、どうしてそうなる? まあ夢だから多少の強引展開は仕方ないのか。

 

いやいや、問題はそこじゃねぇ。

どうしてまだ二人を苦しめるのか。

安易でとびきりグロい方法で。まあアメリカンってそう言うの多いから。私も見たことはあったし。

 

 

「恐怖と直接伝わる光景に、私はたまらず胃の中をブチまけた。夢だけどリアルな感覚だったよ」

 

 

けれどもそれで機械は止まらない。

血塗れで発狂する両親を何もできずに見ている私。

はっきり言うけどアレは地獄だったよ。この世にはどこにも存在して無い、確固たる地獄だ。

 

 

「何度も言うけどコレ夢なんだぜ? とんだドリームジャンボだろ」

 

「おいおい、マジな話なんだろうな? 流石に創作くさいぜ」

 

「ガチンコに決まってるんだろうが。確かに最近病み病み女子も流行ってんだろうけど、私のは事実100パーセント生絞りだっての」

 

 

そんなこんなで次は左腕がブッチンさ。

パパとママはもう狂ってたけど、私も限界だった。

早く解放してくれ、早く二人を助けて、そして何よりも私を助けて。

赦してって。

 

 

「そしたらいつもの如く手には拳銃さ。縛られてた手も、気づけば開放されてる」

 

 

私はやっと来てくれたかと大歓喜。

でもな、たかみぃ。その日はいつもと違ってたんだ。

 

 

「カンナはパパとママを助けなかった」

 

「ほう」

 

「なんでだと思う?」

 

 

疲れたから?

いや違う。むしろ最後を見てみたくなった?

ノンノン。諦めた? 壊れた? いーや、いやいやソレも違う違う。

 

 

「カンナは握り締めた拳銃、その銃口を――」

 

 

自らの額に押し当てた。

 

 

「………」

 

「そして、バン」

 

 

銃弾が自分を貫く感覚は、まだ覚えている。

そうだ。いつもは二人を救うために打ち込んでいた銃弾を、ニコはついに自分へと向けたのだ。

もう赦してくれ、もう助けてくれ、それは幼い彼女が選んだ懺悔の自害。

自らを撃ち抜きブラックアウトする世界。

 

 

「目覚めたとき、アレが夢なのを安心したと同時に少し後悔した」

 

 

自分は生きている。

何も救えず、ただ苦しんだだけの世界だった。

 

 

「その日から、眠れなくなった」

 

 

寝ればもっと酷い方法で両親が苦しむ。

今度は救えないかもしれない、今度は何を見せられる?

やだ、いやだ、苦しい、辛い、怖い、眠たくない。寝たくは無い。そんな意思に共鳴するかの様にカンナちゃんの中から睡眠欲が無くなったんだ。

 

寝れば地獄が待ってる。

それを思うだけで全く眠れない。

ただ両親想いのカンナちゃんは眠れないとは言えなかったのさ。

夜はひたすらベッドの中で耐えるしかない。

睡魔が無くなったとは言え、睡眠をとらないと人の体は異常をきたす。

だから無理矢理にでも体が睡眠をとろうとするかもしれない。それを防ぐために、私は必死に耐えてたよ。

 

 

「でもやっぱりそれも限界はある。いくら味覚が、睡眠欲が無くなったとは言え、それは所詮麻痺でしかない」

 

 

睡眠をとらなかった私の体はボロボロだ。

美少女であるカンナたんの目の下には真っ黒なクマたんが出てきてさ。

自分でも本格的にヤバイと感じてた。歩けばフラフラ、幻覚は見えてくる始末。

でも何かもうどうでも良くなってきた、このまま死ねればそれはそれでいい。

 

 

「もう何が何だが分からない。この世は地獄、死ねば終る」

 

 

でも死にたくない。

それが自分の中にハッキリとあった。

そりゃそうだろ、死ねば楽にはなれるけど、じゃあどうやって死ねばいいんだよ。

何をしてもあの夢がチラついて無理だった。死は苦痛を伴う物と激しく心に刻まれた私には、無理無理。

 

ただ生きてても眠れねーし。

ご飯は美味しくねーし。

生きてても楽しくねぇって言うか何て言うか?

 

 

「そんな時だよ、私の前にキュゥべえ様が現われたのは」

 

 

もう何日も眠れなかった私は肉体的にも精神的にも限界だった。

幻覚は私が殺した二人がどこにでもいる様な景色さ。左を見ても、右を見ても、上、下、斜め、三百六十度どこを見ても、どっかに私が殺した奴がコッチを見てる。

狂いそうだった、いやもう狂ってたのか? そんな私を、ヤツは救いに来たのか。

 

 

『やあ聖カンナ。初めに言っておくけどボクは幻覚じゃないからね』

 

 

君は随分と苦労しているみたいだけど、解放される方法があるんだ。

よかったら話を聞いてはもらえないだろうか。

とかなんとか言って、敏腕営業マンのインキュベーター君は私に魔法少女の魅力を十二分に伝えてくれた。

 

 

『悪夢と言うのは人間が作った夢占いにて、それほど悪いものじゃないんだ。殺される夢、殺す夢と言うのは現状を変えたいという現われだ。また、世界が変わろうとしている合図でもあるらしい』

 

 

解放されたかったカンナちゃんは、何かに縋りたかったカンナたんは、すぐに食いついたさ。

 

 

『聖カンナ、ボクと契約して魔法少女になってよ!』

 

 

なる! なりたい! させてください。

私は懇願した、これで救われるって本当に信じていた。

半ば壊れかけてた私にとってキュゥべえの言葉を疑う事は無い。

たとえコレが幻聴でも構わないと思ってたし。

 

 

「さあ、そんなこんなとスムーズに魔法少女になったカンナちゃん。しかしココでも問題が一つ」

 

 

私は願いと言われれば一つしか無いと思っていた。

それは私が暴発事件で殺した二人の友達を蘇らせてくれって話。

二人が蘇れば私の味覚は戻る。もう夢にうなされなくてもいい。

そう信じてたし、実際そう願おうと私は口を開いたんだ。

 

 

「でも、でも」

 

 

言葉を言おうとしたのに出来なかった。

何で? 決まっている。それは瞬間的に考える未来の予想図さ。

私が彼等を蘇らせたとして私は赦されるのか?

 

二人にどんな顔をして会えばいい? どう接すればいい?

それにたとえ記憶を消したとて、本当に世界は都合よく変わってくれるのか?

確証は無い。願いを叶えられるのは一度のみ。そして私はそこから命を賭けて戦い続ける毎日が待っている。

 

ではいっそ、死んだ二人は放置して幸せにして欲しいと願うのはどうか?

いや――、それはできない。それは駄目だ。私が二人を殺した。

その責任を放棄しては、きっと手に入れた幸せは脆く崩れる。

では一生幸せにしてというのはどうか?

 

 

「私はキュゥべえに一生幸せにしてくれと願った」

 

「そんな抽象的なモンでもいいのか?」

 

「いや……、アイツはすぐにこう言った」

 

『幸せ? 君にとっての幸せとはどんな物だい?』

 

 

具体的に教えてくれれば叶えてあげるよって。

私はすぐに考えた。今、私が望む世界って何だ? 楽しい事、幸福な事って何だ?

まあ、分かる訳無かったんだよ。壊れかけてた私には。

ネガティブが幸福の想像を塗りつぶしていた私には答えられなかったんだよ。

 

でも私はそんな中でも必死に考え、必死に思い出した。

幸せってなんだってさ。それはやっぱり皆が楽しく笑って過ごす事だろ?

 

 

「私が殺した二人が生き返って――」

 

 

両親達は何の苦痛も無いままに、一生を幸せに暮らしていく。

私が殺した二人も死んだ事が嘘みたいに、元気に過ごして、元気に笑って……。

嫌だと思う事は無くていい、辛いと思う事は体験しなくて良い。

そして――……

 

 

「その景色の中に、私がいない事」

 

「………」

 

「私の望んだ世界に、私はいなかった」

 

 

いやちょっと違うのかもしれない。

 

 

「私は要らない」

 

 

私の眼は、虚空しか映っていなかったのかもしれない。

いつしか私は、全ての苦痛の原因が私自身に収束しているのかもしれないと思うようになっていた。私がいる限り、そこに幸せは無い。

私は理想とする幸福を私視点で見ていた。つまり、私はいないんだよ。

 

 

「だから私は祈った。私が殺した者たちの蘇生、そして私がいない世界の再構築を!」

 

 

キュゥべえはすぐに私の望む結果を叶えてくれたよ。

私が眉間をぶち抜いて殺した二人は、何の事も無く簡単に蘇った。

死に関する記録や事実は全て粒子化し、一度無になった後、都合のいい物へと再構築を行う。

カリフォルニアで起こった痛ましい事件の記憶は、世界中の人間の脳みそからデリートされて、実銃暴発の『事実』そのものが消えうせる。

 

 

「同時にまた、世界中から聖カンナが消え失せた瞬間でもあった」

 

「そう言えば、お前の事を調べた事がある」

 

 

どこに住んでるのか、家族は何人なのか、何も言わないから少しだけ気になった事が。

だから高見沢は彼女が何者なのかを少し調べてみる事に。

しかしまるで何も分からない。彼自身もそこまで興味が無い物だった為、すぐに打ち切ったのだが。

 

 

「それはそうだ。この世に聖カンナを知っている人間はいやしない」

 

 

キュゥべえにそう頼んだのだから。

ニコはそう言って過去を懐かしむ様な表情を浮かべた。

高見沢が見る、初めてニコの心が入った表情だったかもしれない。

 

 

「とにかくだ」

 

 

ニコは言う。カンナは聖カンナと言う存在を消滅させたのだ。

両親は初めから子供がいなかったと言う結果になり、ようやっと子作りに励もうかと話しているのをカンナは遠くに聞いた。

殺した二人もすっかり元通り、元気に学校へ行って遊んでいた。

 

 

「完璧だったよ。そこには何の苦痛も無い、何の苦しみも悲しみも無い」

 

 

完全な幸福に包まれた世界だった。

 

 

「だがそこにお前はいない。お前は満足だったのか?」

 

「ああ、おそらくだが、もう聖カンナは死んでたんだよ」

 

 

あの引き金を誤って引いてしまった瞬間から。

 

 

「だがお前は今ココにいる」

 

「フッ、聖カンナはいないよ」

 

 

いるのは、『神那ニコ』だ。

ニコはまた、心の無い笑みを向ける。

聖カンナは幸福な世界に自分がいることを異物とし、だからこそ取り払った。

 

しかしだからと言って死にたかった訳じゃない。

死ぬのは怖かった、だから彼女は孤独でも生きる事を望んだのだ。

それに望みもあったのかもしれない。いつか自分を取り巻く罪の楔が消えるのを。

要するに、私は赦してほしかったんだ。

 

 

「私は聖カンナを捨てた。死を使わずに殺したんだ」

 

 

そして違う人間として生きる事を決意した。

カンナを苗字にし、名前は『二個』目の人生と言う事で、ニコにした。

手にした魔法は再生成。そこにある物を、別の物に作り変える力。

理を覆し、自らの望む物を創り上げる力。

 

 

「けれども心ってのは複雑なモンだ」

 

 

割り切ったつもりでも、結局自分は引きずっていたのかもしれない。

呪いを背負ったままだったのかもしれない。

味覚は感じるはずなんだ、だけど無意識にソウルジェムを操作して味覚を遮断している。

ゲームをセーブしようとすると、DVDの続きを見ようとすると、漫画のページを一枚めくろうとすると、無意識にソウルジェムが脳を操作して気分を悪くする。

 

そして夢は見なくなった。コレは確定している。

けれど寝てしまえば、いつまたあの苦痛に満ちた夢を見るかもしれない。

そう思うと反射の様にソウルジェムへ寝むらせるなと命令が走る。

 

その後でソウルジェムを操作して強制的に寝オチさせてもいいのだが、それもまた抵抗のある事だ。

まあ幸いなのは魔法少女の体は、いくら眠らずとも問題ない体だと言うところか。

 

 

「結局……、何も変わって無かった」

 

 

しいて言うなら、色々な演技がうまくなったくらいか。

 

 

特に寝たフリは結構自身あるんですのよ。おほほのほ」

 

 

味覚だってたまには戻る。

良くなっては来ている、来ている筈なんだが――。

 

 

「まあ、後は一歩引いた所から物事を見てる感じか」

 

 

レジーナアイや、『願い』その物の事から、まるで世界と言う舞台を観客席から見ている様な感覚だ。

だから、なんだか全ての事がパッとしないといえばそう。

参戦派になるかどうかの話も、そう言った要因が絡んで、パートナー任せになったのかもとは思う。

 

 

「これで終わりだよ、私の話はな」

 

 

ニコは時計を見る。

 

 

「随分つまらない話を長々としてしまった。詰んでいるゲームがいっぱいあるのに。そろそろ眠らなくては」

 

 

ニコはニヤリと笑って自室に戻ろうと。

 

 

「おい」

 

「んあ?」

 

 

高見沢はニコの方を向くことはない。

だが一言、彼女に質問を。

 

 

「お前に欲望はあるのか?」

 

「……忘れた」

 

 

彼女はそう言って部屋を出て行った。

ため息をつく高見沢。まあ随分と可愛くないガキだ。つくづくそう思う。

子供は子供らしいのが一番だ。と言うより何の役にも立たないチビが持っている唯一の取り得を奴は失っている。

 

しかも人間にとって一番大事な物も欠落していると来た。

あれじゃあまさに――

 

 

「ガラクタだな……」

 

 

高見沢は首を振って窓の外を見る。

真っ黒な闇は、ニコの目の奥にある物と同じだった。

恐らくは今日も、ニコの長くて短い夜が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【四日目】

 

 

 

正直に言うわ。私は最初、貴方を利用しようとした。

正体の分からないイレギュラーだった貴方を全く信用していなかったし。

情も湧かない今ならば、使い捨てには最適だと思ってた。

 

でも、貴方はいつでも私の味方になってくれたわね。

少し衝突もあったけれど、いつからか私は貴方を信用するに値する存在だと認識していた。

だけどそれは妄信的で、願望と幻想が混じったものだったのかもしれない。

今はそう思うわ。

 

味方とは自分に利益を齎し、自分にとって都合の良いように動いてくれる物と、長い間独りで戦っていると錯覚してしまう。

貴方も例外じゃない。私にとって都合のいい人形だと、いつから勘違いしてしまったのかもしれない。

 

だから、別にもう……、恨んでいないわ。

確かにあの時は憎悪の炎が生まれたけれど――、それは私の勘違いが生んだ感情だったのよ。

私は貴方に期待ではなく都合を押し付けてきた。でも気づいたのよ、貴方にも当然心がある。

貴方にももちろん目的がある。

 

本当は初めから気づいていなければならない事だったのかもしれない。

知っていて当然だった事でしょうね。

だけど私は繰り返すうちに、大切な物が麻痺していたのかもしれない。

それを教えてくれただけでも、十分すぎる見返りを受けたわ。

 

だから貴方が貴方の意思で。目的で。彼女に銃を向けるのなら、もう私は貴方を恨まない。

 

私達は同じ目的のレールの上を歩いていた。

でもずっとはありえない、だから分岐したレールは、交じり合う事の無い場所へと向かってしまったんだもの。

 

 

『――でも、私にも私の願いがある』

 

 

だから。

 

 

『彼女を傷つける者なら、貴方を殺す』

 

 

その日は、少し強めの風が吹いていた。

それが暁美ほむらの美しい髪を靡かせる。返事は無い、だけどほむらは続けていた。

ユニオン、トークベントによって、彼女は先ほどからパートナーへと声をかける。

聞こえていない筈が無いが、手塚も亀裂を理解しているのか、コンタクトは取らなかった。

 

ほむらの隣にはサキ、美穂、真司が。

三人とも覚悟を固めた表情でしっかりと立っていた。

場所はリーベエリス跡地。崩壊した聖域が、愚かさを強調しているようだ。

 

多くの人間が勝手な都合で死んだ。

それでもまだ愚かなシナリオを紡ごうと言うのだ。

それは罪だ。この場所は罪の具現した場所にも感じる。

 

 

「………」

 

 

血痕がついたステンドグラスの残骸が遠くに見える。

ココを捜査していた警察や他の者たちは、全て魔法で眠らせて安全な場所においてきた。

それほど長くは続かない戦いだろう。だがいずれにせよ、決着は今日一日でつく。

 

 

「………」

 

 

龍騎はあの子供達を思い出す。彼等はきっと……。

思わず拳を握る力も強くなると言うものだ。十分に助けられた筈だった。筈だったのに。

 

 

『俺も、俺の願いがある。だから殺さなければならないんだ』

 

『……!』

 

 

声が聞こえた。

ほむらはゆっくりと口を開いた。

 

 

「来るわ」

 

 

その言葉を合図に、真司と美穂はデッキを突き出す。

Vバックルが腰に装備され、二人はそれぞれの構えを取って、デッキをセットする。

そして同じくソウルジェムを構えるサキとほむら。パートナーの構えと反転した動きで、衣服が魔法少女のソレへと変わっていった。

 

 

「っ、手塚……!」

 

 

龍騎の複眼がその姿を捉える。

自分達と同じく、並んでコチラにやってくるのはライア、ガルドミラージュ、タイガ、そして変身済みのキリカの四人だ。

表情が分かるのはキリカのみだが、彼女もまた相当の殺気を出して龍騎達を睨んでいる。

 

 

「来てあげたよ。織莉子も約束は守ってやるって。律儀だろ? 彼女は優しいんだから」

 

 

キリカはゆっくりと手をあげ、そして一気に振り下ろす。

すると裾から黒い爪が伸び、キリカは両手に出現したソレを擦り合わせた。

ギギギと爪同士が擦れ、火花が散る。

キリカはそのままジットリとした目で龍騎たちを視界の中へ捉えていった。

 

 

「ドラゴンくんに、白鳥さん、暁美ぼむらに、ビリビリ。桃色ピンクがいないね?」

 

 

キリカはニヤリと笑いつつも、目で不信感を訴えていた。

正直言ってしまえば龍騎達はどうでもいい。

鹿目まどか以外を殺しても意味が無いと言えばそう。

龍騎を今ココで皆殺しにしようが、鹿目まどかが生き延びては全く意味が無い。

 

 

「全ては手紙書いた通りだ。まどかも覚悟を決めた、今更逃げも隠れもしない」

 

 

サキの言葉に鼻を鳴らすキリカ。

 

 

「本当かなぁ?」

 

「信じたから、織莉子はココにいない。そうだろ?」

 

「まあね。織莉子は強いから、絶望なんかに負けはしない」

 

 

織莉子は本当に素敵な人だ。

見滝原の事だけじゃなくて、世界の事まで自分の事の様に考えている。

犠牲を出すのは彼女も本意じゃない。だけどそれを迷えない程、絶望がすぐ近くにあるんだから仕方ない。

 

 

「織莉子は世界を救うよ。鹿目まどかを殺してね」

 

「まどかは死なない。世界も滅びない」

 

 

睨み合うキリカとサキ。

双方がココに立っているのは、信じる者が、愛する者がいるからだ。

片方は希望を背負い、片方は絶望を背負っていると言う、大きすぎる違いはあるが。

それでも二人にとって、大切な人であると言う共通点がある。

そうしていると、次はライアが口を開いた。

 

 

「多くの人間が死んだ。多すぎる被害が、何の罪も無い人間が死んでいった」

 

 

次は誰が死ぬ? 次は何人犠牲になる?

そんな怯えや恐怖に満ちた考えを、一体あとどれだけ抱えなければならない。

そんなイカれたゲームの先には何が待っているのか。

 

 

「滅びだ。全ての運命がゼロに還る」

 

 

何も守れず、何も変えられず。そして最後には自らも滅びる。

その可能性はこれから常に待ち構える物だ。

そしてその始まりが鹿目まどかと言う存在。絶望の魔女になる彼女。

 

 

「世界は綺麗な部分だけじゃない」

 

 

汚れは自らが背負うとライアは言う。

皆が幸せに暮らせる運命などありはしない。だからこそ、今この状況ができあがっている。

コレは独りよがりの行動なのかもしれない。しかしライアには掲げた約束があるのだ。

世界を滅ぼす爆弾を前にして落ち着いていられる程、大人ではいられない。

 

 

「それでも、綺麗な世界を目指したいんだ……!」

 

 

龍騎は拳を握り締める。

どうしようもなく無責任で、甘えた綺麗事とも言われるだろう。

しかし彼もまた、まどかが死ぬのを黙って見ていられる程大人にはなれない。

だからこそ今、自分達はココにいる。

話合いはもう不可能だ。彼等は変身してココに立っている。

 

 

「手塚。俺はちゃんと覚えてるよ」

 

 

たとえ悲しみの炎に身を焼かれようが、たとえ絶望の剣に心を刺し貫かれても、変えたい世界があるのならば命の炎を燃やし続けろ、と。

諦めるな。変えたい運命が、世界があるのならば抗う為に、その龍の牙を突き立て食い下がるのだ。

 

それをライアに教えてもらった。

いつも言っていたじゃないか。俺の占いは当たると。

だったら与えられたメッセージを信じるのも当然だ。

なによりもそれはパートナーのまどかの為にも。

 

 

「………」「………」

 

 

双方、言葉は少なくとも理解をしているのだろう。

龍騎とライアは無言で睨み合い、互いの意思が譲れぬ物だと言う事を再確認する。

そしてタイガの一言が、張り詰めた空気を変える。

 

 

「はじめようよ。僕は君達を倒して英雄になるんだ」

 

「そうね、さっさと終らせましょうか」

 

 

構える一同。

その中でほむらは、ゆっくりと時間を数えていた。

この戦い、パッと見れば4対4と言う均衡な並びに見えるが、現実はそういう訳でもない。

 

それはやはり呉キリカの存在だった。

彼女は再び命を捨てる気でいる。キリカの魔法はほむらと同じく、トップクラスに強力な時間操作。

消費される魔力が高いため、ゲームが始まらなければ特別強力と言う訳ではなかったが、今となっては話は大きく違ってくる。

 

ほむらとキリカ。

お互い、覚悟は本物だが、復活ルールに対する代償の差が出てくる。

 

キリカの死亡回数はまだ一回。東條の性格を考えても、100人殺し踏み切るはずだ。

それをキリカも分かっている。だから文字通り、死ぬ気で魔力を注いでくる。

魂の大半を注いで構成される魔法陣は、範囲も減速速度も通常のソレとは比べ物にもならない筈。

一方で犠牲者を出さないというスタンスの龍騎達には圧倒的に不利な状況である。

ほむらが死んでも、手塚は蘇生させることはないだろうし。

 

 

「って言う訳で、今日は遊ばず殺しちゃうよ!」

 

「………」

 

 

予想通り、キリカは大幅に魔力をつぎ込んで減速魔法陣を広げていく。

時間の経過ごとに龍騎達の動きは遅くなっていき、対してキリカが指定したライア達は元のスピードを保つ事ができる。

龍騎達に勝機などない、どんな強い攻撃も、遅かったら当たらないのだ。

 

しかし、その中でほむらは冷静だった。

いや冷静とは少し違うが、この光景は初めから予想できていた。

とはいえ明確な対処方法は無い。ほむらはもう、時間を止められないのだから。

 

だからこそ仕掛けた博打があるのだ。

おそらく転がりようによっては、むしろ最悪の結末を生む諸刃の剣ではある。

しかし虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う言葉がある様に、何もしなければ敗北は決まっているのだから、ソレを変えるには危険を冒さなければ。

 

 

「――っ」

 

 

織莉子は真面目な部分がある。

おそらくそれが彼女の本質なのだろう。

殺し合いと言う中でも、情けや慈悲の心を晒す部分がある。

だからこそ仁美を殺せど、まどかに時間をあげたのだし。

だからこそ、この誘いにも乗ってきた。

 

だからこうして、渡した手紙に記された場所と時間を守り、律儀にやって来たわけだ。

だが残念。申し訳ないが――、ほむら達はそこまで律儀でもなければ、真面目でもない。

 

 

「楽しそうな事やってんじゃん」

 

「「「!!」」」

 

 

だから同じ内容の手紙を、『彼女達』にも送っていた。

 

 

「アタシらも混ぜてよ」

 

「ウラァアアアアアアアア!!」

 

 

獣の様な咆哮と共に飛来してくるのはベノバイザー。

それは地面に突き刺さると、大きな衝撃を巻き起こしてキリカの魔法陣をかき消した。

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

思わず叫ぶキリカ。

魔力を大幅に使った魔法陣が消された?

地面に攻撃をすれば消えると言う物でもないのに何故!?

 

いや、それがベノバイザーの力といえるだろう。

使用者のスタイルからはかけ離れているが、一応ベノバイザーは杖であり、魔力を伴った物なのだから。その一撃によってつけられた地面の傷は、魔法陣の構成を破壊し、無効化する。

要するに、王蛇とは、騎士と魔法少女を両方相手にするべくして生まれたモンスターであると言う事だ。

 

 

「アァァァァ、しばらく遊んでなかったんだ。俺も混ぜてくれよッ!」

 

「ッ、なんでお前がぁぁ!」

 

 

表情を歪めるキリカと、無言のライア。

 

 

(なるほど。なかなか危険な橋を渡る)

 

 

いや、もしかしたらソレは遠回りな自己犠牲なのかもしれない。

自分達の命を大きく危険に晒しても、まどかの敵を減らそうというのか。

ライアは迫る王蛇ペアを見て小さくため息をついた。

そして、参加者は彼らだけには納まらない。

 

 

「ッ!」

 

 

足音。

龍騎が其方の方を向くと、ソコには黒が。

 

 

「チッ」

 

「……ッッ」

 

 

ファムは舌打ちを一つ。

対して龍騎は無言ながらに拳を握り締めていた。ギリギリと音が立つほどに強く握り締める拳。

温厚な真司からは想像もつかない程の覇気が滲み出てくるようだ。

そのあまりの力の感覚に、キリカ達は思わず言葉を失う。

 

 

「蓮……ッ!」

 

 

そう、ココに乱入してきたのは王蛇と杏子だけではない。

騎士・ナイト。秋山蓮の姿がそこにはあった。

だがその登場を龍騎もファムも喜びはしない。現われた友との再会、これより始まるのは、ただの殺し合いである。

 

 

「………」

 

 

ライアはゆっくりと近づいてくるナイトを見ていた。

秋山蓮、可哀相な男だ。失う事に恐怖を覚え。しかしその想いとは裏腹に、失いたくない物が増えていく。

ナイトはきっと運命に大きく踊らされる。

しかし彼はその中で確実に、誰よりも強くなっていく。

 

果たして今、ナイトが辿り付いた強さこそが終着点なのだろうか?

それともまだ迷いの中にいるのだろうか? ライアは少しだけその事が気になってしまう。

ナイトが司る性質は決意。間違った決意もまた、存在する筈なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

そしてリーベエリス跡地から少し離れた平地。そこを美国織莉子は歩いていた。

ココはいずれリーベエリスの別館が建つ予定地だったとかなんとか。

今はもう見渡す限りの平地で。人の気配はもちろん無い。

そもそもリーベエリス自体が街からは少し離れているので、無関係な人を巻き込む心配も無いだろう。

 

織莉子は一歩一歩、大地を踏みしめる様にしっかりと歩いていた。

そして足を前に出す毎に、彼女の服が一部分ずつ魔法少女の物へと変わっていく。

多くの人間を犠牲にした。多くの人間を絶望へと追いやった。

全ては世界のためとは言えど、責任や罪悪感を感じないわけが無い。

 

本当はもっと良い方法があったのではないかと、何度も思ったが、それを形にするにも考えるにも時間は無かった。だからこそ心を黒に染めてまでココまでやってきた。

 

もう彼女は決めている。

後悔はしない、すれば全てが無駄になる。

自分が殺した名も知らぬ人たち、自分が絶望させた魔法少女達。

ああ、私は何と愚かな罪人か。罪に塗れたこの体。

ならば最後の罪を以ってして、終らせようじゃないか。

 

 

「貴女を殺す事が、私の最後の罪になる事を祈るばかりです」

 

「………」

 

 

変身を完了させた織莉子の前には、先ほどから立ってコチラを見ている鹿目まどかが。

既に変身を完了させており、覚悟を決めた表情をしている。

一定の距離を取って停止する織莉子。二人の間にできた距離と隙間は、相容れない物を感じる。

これは見えない壁か。この隙間は埋まる事は無いのか。

まどかの切なげな表情が、それを物語る。

 

きっと仲良くなれた筈。

サキ、そしてマミが生きていれば、同じ学年と言う事できっと友達同士になれた筈なのだ。

だけどそれはもう叶わぬ事。

 

織莉子もまた無表情ではなかった。

まどかを前にして、色々と込み上げる物のあるのだろう。表情を見れば分かる。

まどかは終らせる気だ。全てを。だからこそ今日で織莉子が行ってきた罪は報われる?

それとも罪と共に、永遠に闇の中に沈むのか。

 

 

「来てくれたんですね、一人で」

 

「ええ、貴女には本当に申し訳ないと思っているから」

 

 

多くの友人を、愛する人を失わせた。

そして今、最も大切な物である『命』を奪おうと言うのだ。

そのせめてもの償いだと織莉子は言った。

 

 

「殺す」

 

 

殺意を全開にして、まどかを睨んだ。

 

 

「死して解放されなさい、絶望の魔女! 鹿目まどかッッ!!」

 

 

織莉子の周りに、球体状の宝石であるオラクルが無数に出現していく。

あれが自らを撃ち貫き殺す凶器。まどかはそれを確認しつつも、怯える素振りは見せない。

なぜならば、まどかの心に死への恐怖などは無い。

ココでは死なないと決めているからだ。

 

 

「ごめん。わたしは死ねない……!」

 

 

両親の為に、友の為に。

そして守ると言ってくれたパートナーの為にも。

目を細める織莉子、風が二人の髪を静かに揺らしている。

 

世界は一応、平穏だ。

その中で、これより世界の命運を決める殺し合いを行うなど、見滝原に住む人々は欠片とて考えていないのだろう。

 

いや、それでいい。織莉子はつくづくそう思う。

子供達は学校に行き、大人達は仕事をして各々変わらぬ日々を過ごせばいい。

魔女も、魔法少女も、F・Gも、何も知らない人たちにとっては悪い夢でしかない。

夢は永遠には続かない。いつかは覚める、覚めなければならない。

 

 

「もう目覚める時間なんですよ。私達は」

 

 

全てひと時の夢だった。

自分達は少しだけインキュベーターに惑わされただけだ。

人を超えた力を手にし、何かを変えられると思い。いきがり、そして何かを失った。

それは全て勘違い、もう十分だろう? もう満足だろう?

幼い頃に憧れた、魔法の世界の夢は。

 

 

「全てを終わりにしましょう!」

 

「ううん、終らないよ。ワルプルギスを倒すその時まで」

 

 

弓を構えるまどか。

しかしその時だ、強い風が吹いて、二人の髪を大きく揺らした。

空から舞い降りたのは黒い魔法少女だった。三角形の様に並び立つ桃、白、黒。

 

 

「貴女は……」

 

「貴女の言う通り。終わりだよ、全部」

 

「……っ!」

 

 

かずみは、マントを翻して姿を晒す。

織莉子は冷たい表情でかずみを睨む。視えた未来はノイズが酷かった。だからこそ逆に、かずみが来ることを予想していた。

そして。それをあえて止めなかった。かずみもまた、大きな覚悟を背負ってココに来た筈だ。

 

 

「全てが消えれば、全ては無になる」

 

 

かずみは十字架を構える。

参加者は誰の記憶にも残らない。死ねば、そこで全てが終わる。

 

 

「だから、わたしは貴女を無に返す事にしたの」

 

「………」

 

 

十字架を向けた先には織莉子。

しかし、かずみは、そのまま十字架を分離させて剣にすると、もう一つの剣先をまどかの方へと向けた。

 

 

「言ったよね。次に会ったら殺すって」

 

「………」

 

 

まどかもまた、分かっていた為に表情は変えなかった。

次にあったらかずみとは殺しあう運命になる。そして今、こうして二人は会っているじゃないか。

だから受け入れる。誰もが半端な覚悟ではココに来ていない。

 

 

「わたしが目指すのは独り勝ちなの。だから貴女達には消えてもらうよ」

 

 

かずみは二刀の剣を一つに戻すと、再びそれを振るってまどか達を威嚇する。

 

 

「そういう事ですか。なら丁度いい」

 

 

降りかかる火の粉は払うまで。

皆殺しになんてさせてたまるか。織莉子はオラクルを一度回転させて威嚇を行う。

かずみの様なプレイヤーは放置はできない。ならば今ココで一緒に排除するのが最良の方法ではないか。

 

 

「わたしはかずみちゃんにも、織莉子さんにも負けない。そして誰も死なせない!」

 

 

まどかは光の翼を一瞬だけ広げて威嚇を行う。

三人は三人の意思を掲げて、互いに睨みあった。

それぞれ意味の全く違う覇気をぶつけ合い、圧倒的な力の本流を生み出した。

白と、黒と、桃色の光が、自らの意思を貫こうと激しく迸る。

 

 

「わたしは絶対にもう引けないの! ごめんね、まどかっ! 織莉子!」

 

 

風が、かずみをのマントを揺らす。

全てを殺し、血に塗れた希望と知りながらも、望んだ世界を掴み取る為に。

 

 

「謝る必要はありません。私も負けられない、貴女達を殺して世界を守る」

 

 

風が織莉子の髪を揺らす。

守るために殺し、救うために殺し続けた。

目指した平和の為に、その果てにある物を完遂させなければ全ての死が無駄になる。

何よりも父が愛した世界の為に。

 

 

「悪いけど、わたしは死なない。みんなもっ! 守ってみせるから!」

 

 

風がまどかのツインテールを揺らす。

死を、殺人を、ゲームを受け入れてはいけない。何よりも絶望に食われてはいけない。

両親が、友人が自分を今日まで守ってくれた。

 

絶望した友人がいる。

何のために死ななければならなかった、何の為に絶望しなければ、涙を流さなければならなかったのか。

認めない、認めてはいけない。二人がゲームに呑まれる前に止めなければならないんだ。

何よりも自らが希望を失わない為に、フールズゲームを否定する。

 

そして、その時。

風がピタリと止んだ。

 

 

「「「ハァアアアアアアアアアアアアアア!!」」」

 

 

声が重なった。

三角形に並んでいた三人は、一勢に地面を蹴った。

かずみ、おりこ、まどか。三人の魔法少女は信念をぶつけ合う為に、武器を振るうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロフィナーレ!!」

 

 

一番初めに動いたのは、かずみ。

十字架を模した巨大なバズーカを出現させると、まどかの方へ向かってそれを発射する。

炎と轟音をあげて放たれる巨大な弾丸、しかしまどかは怯まない。片手を横に振るうと、桃色の結界がオーロラのように広がり、銃弾をしっかりと受け止めた。

 

 

「リバース――ッ!」

 

 

光と共に、まどかの頭上に目を閉じた天使が現れる。

何度見ても、あの神々しい天使と言う存在を独立した生命として魔法で生成するとは。

化け物だ。織莉子もかずみも、まどかの底知れぬ魔力に寒気を感じた。

 

しかし、今となっては納得のいく話ではないか。

絶望の魔女を内に秘めている、まどかだからこそ、無尽蔵な魔力が常識をさらに破壊していく。

 

 

「レイエル!!」

 

 

天使の目が見開かれる、それは反射可能と言う合図だ。

まどかは弾丸を、発射してきたかずみではなく、織莉子に向けて反射した。

と言うのも、既に織莉子も無数のオラクルをまどかに向けて発射済みであり、それを散らす為にまどかはティロフィナーレを利用したわけだ。

事実弾丸は、まどかを襲おうとしたオラクルを弾き飛ばすと織莉子に向かって飛んでいく。

 

 

「………」

 

 

織莉子はノーモーション。そのまま弾丸は彼女に着弾して爆発を巻き起こす。

しかし、まどか達は分かっている。織莉子が動かなかったのは、動く必要が無かったからだ。

織莉子の前にはオラクルが多数連結してできあがった壁がしっかりと存在しており、それが盾になって織莉子を守っている。

 

だがそこに便乗したのはかずみ。

先ほど、織莉子ティロフィナーレと同時にオラクルをまどかに向かわせたように、まどかが織莉子に仕掛けた時点で、かずみも織莉子にターゲットにしていた。

 

オラクルで作った壁は、さぞ防御力が高いのだろうが、それは所詮前方に盾が一枚置かれただけ。かずみが発動したのは杏子の異端審問だ。地面から無数の十字架を生やす魔法で、織莉子を串刺しにしようと試みる。

 

 

「ッ!」

 

 

地面が転々と黒く光る。

すると同時に、織莉子は涼しい顔で足を後ろに引いて、体を反らした。

胸を張るような姿勢。中学生にしては不釣合いなほど豊満なバストが強調される様だ。

立ち姿としては少し不自然な物に感じる。その時、地面から次々と十字架が伸びて、織莉子を貫かんと襲い掛かった。

 

息を呑むかずみ。

何故、織莉子があんな姿勢をとったのかすぐに理解できた。

未来予知で、どこに十字架が生えるのかを視ていたらしい。

少し間抜けな格好になっても、ノーダメージに終わるルートに姿勢を合わせただけ。

 

現に織莉子は無数の十字架に囲まれているが、ダメージは一切受けていない。

むしろ攻撃時に発生した風が、彼女の髪をふわりと持ち上げて美しさを演出させただけだった。

織莉子は十字架の中で妖艶な、そして黒い笑みをかずみに向けている。

 

 

「!」

 

 

織莉子は、十字架の隙間からオラクルを飛ばして二人に向けていた。

さらに自分の周りにもオラクルを展開させ、そのまま自身の周りを回転させる。

オラクルは聳え立つ十字架群を破壊し、さらにまどかとかずみを、金色の瞳で見つめた。

 

 

「フッ! くッ!!」

 

「ハァッ! えいっ!!」

 

 

オラクルはそこそこ素早い上に、不規則な動きをしている。

まどか達は、すぐにオラクルを撃ち落とす為に武器と魔法を振るった。

 

かずみは自分を中心にして、無数のマスケット銃と十字架型の剣を設置する。

これはマミとさやかのスタイルだ。一方でまどかは、自分を中心に円形状のバリアで張ってしっかりとオラクル達をガードしていく。

さらに、隣で動きを止めているかずみを睨んだ。

 

 

「ニターヤー・ボックス!」

 

「!?」

 

 

かずみの周りを取り囲む桃色の線。

それは互いを連結し合い、四角形を作り上げた。

さらに瞬時に『面』を張る事で、かずみを大きな箱の中に閉じ込める。

まどかの新しい結界の形。かずみは桃色の四角に守られる事になるが、同時に箱の中に閉じ込められた。

 

 

「なっ!」

 

「キシシシシ!」

 

 

箱の上に乗る少し小さな天使。

彼女は箱の上で脚を組むと、中にいるかずみを挑発する様に悪戯な笑みを浮かべた。

"鎮静の天使ニターヤー"、かずみはムッとした表情で箱を壊そうとするが、守護魔法をメインとするまどかが構築した結界だ。一見脆そうに見せても、箱はなかなか壊れない。

 

そうしている間に、まどかは地面を蹴って織莉子の方へと走り出す。

オラクルは近距離、中距離、遠距離。全て対応でき優れた性能を持っている。

だが、それでも得意な距離はあるはずだ。おそらく穴は『近距離』にあると踏んで。織莉子へ距離を詰めていく。

 

もちろん織莉子も黙っている訳が無い。

すぐにオラクルを展開してまどかに発射すると、後ろへ下がっていく。

 

 

「!」

 

 

しかし、すぐに抵抗感。

織莉子の背後には壁があった。

 

 

「成る程……!」

 

 

表情を歪ませる。背後に広がる壁。

まどかが張った結界だ。これを壊そうとすれば、その隙にまどかに距離を詰められる。

かと言って上を見上げれば、ご丁寧に天井代わりの結界も用意されていた。

つまり逃げるルートは左右か、前か。

 

織莉子が選んだのは――、前だった。

ならば真正面から潰すしかない。織莉子はまどかへ向かわせるオラクルの量を増やした。

今は結界を張りながら近づいてくるが、無数に迫る弾丸を全て受けきるのは不可能だと睨む。

 

目を細めるまどか。

同じ判断をしたのだろう。ならば話は変わってくる。

最低限のオラクルを結界で流しつつ、それでも向かってくるのは真っ向から潰すしかない。

 

 

「輝け天上の星々、マヌエル!」

 

(――ッ、あれは!)

 

「煌け! 高輝なるキャンサー!」

 

 

表情を変える織莉子。

とびきり強い魔力の波長を感じた。あれだけの技をもう撃つ気か?

いや違う。一見すれば強い魔力だが、それはイコールしてまどかの魔力を大幅に削ぎ落とす訳では無い。

 

 

(流石は絶望の魔女を内包しているだけはあるのね!)

 

 

絶望と希望は表裏一体と言うべきなのか。

 

 

「黄金に煌け輝甲(きこう)の鎧よ! 万物を切り裂く鋼の矢となり我を照らしたまえ!」

 

 

素早く詠唱を済ませるまどか。

彼女の背後に光の点と点が線で繋がれ、一つの『星座』を作り出す。

弓を振り絞ると、光がさらに強くなっていき、蕾のギミックが展開して一輪の花を咲かせた。

 

 

「断ち切れ蟹よ! スターライトアロー!」

 

 

弦から手を離したが、矢は放たれない。

その代わりに蟹の形をした天使、『マヌエル』が出現してまどかの弓に吸収されていく。

すると弓の周りに、巨大な鋏の形をした金色のエネルギーオーラが纏わりついた。

 

弓を近距離特化の武器に変える。それが蟹座の力である。

ハサミの種類はいろいろと選べるが、今回まどかがチョイスしたのは本物の蟹のハサミに近いものだった。長い甲殻の脚があって、その先にぷっくりと膨れた楕円、そこにハサミがついている。

どちらかと言うとハサミと言うよりは槍に近い。

 

まどかは早速弓を――、蟹の足を振るってオラクルを弾き飛ばしていく。

さらに先端にある鋏はまどかの意思で閉まるらしく、時にはオラクルを真っ二つにして機能を失わせていくのだ。

 

 

(なんて力なの!? つくづく敵である事が悔やまれる!)

 

 

目を見開く織莉子。

やはり彼女は化け物だ。魔法の質が一段階上に感じる。

絶望の魔女だからか、それとも元々あった才能だったのかは知らないが。

 

さてどうするか? 織莉子は考える。

まどかは優しい性格だ、それは逆を言えば弱い性格にもなる。ウィークポイント。

ここでノーモーションを貫けば、まどかはどんな行動を取る?

織莉子は未来予知を発動して数十秒後の未来を読んだ。

かずみの様に箱に閉じ込めるだけでは『ぬるい』としか言い様が無い。

 

すると視えたのは、鋏を自分に向かって投げているまどかの姿だった。

成る程、やはり意思は本物だったか。多少なりとも相手を傷つけると言う覚悟はしてきたようだ。

その時だった。周りのオラクルをなぎ払う様にまどかが一回転を行うと、そのまま彼女は両手を上げて魔力を解放する。

 

 

(なにッ?)

 

 

織莉子は数秒後の未来は読んでいない。

それにあの魔力。まどかは他の魔法少女とは持っている魔力の量が違うのだ。

だからこそ発動できる技がある。

 

 

「ゼロ・ラジエル!!」

 

「!?」

 

 

両手を天に掲げるまどか、その手の上に現われたのは予想通り天使。

しかしその輝きの壮大さは、織莉子とかずみの想像をはるかに超えていた。

大学帽を被ったメガネの女性。本を持っている姿は、知的なイメージが印象に強い。

 

大きさは他の天使と変わらぬが、その輝きは他の天使よりも言葉に表せぬ程に美しい。

それもその筈だ。まどかが今回召喚したのは今までの天使とはレベルが一つ上の『大天使』と呼ばれる物。

"知恵の大天使ラジエル"は、メガネの奥の瞳で織莉子を睨む。

 

全身が凍りつくような寒気を感じた。アレは間違いなく生きている。

言葉を放つ事はないかもしれないが、ヤツは――、ラジエルは確かに生きてまどかの味方をしている。

 

それはまどかが呼び出したからなのか?

それともラジエルはラジエルの意思で、まどかに協力をしているのか。

織莉子はつくづくそれを天使達に聞きたい所である。

お前らを呼んだのは巨大な絶望なんだぞ。アレは天使ではなく堕天使なのだろうか。

 

 

「ハァアッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

そこで先ほどの未来通り。

まどかは弓を、ハサミを投げた。

回転しながら飛来してくる武器。しかし周りにはまどかの張った結界は無い。

織莉子はサイドに跳んで逃げようと地面を蹴った。

 

 

「!」

 

 

しかしその時おかしな事が起きる。

周りには何も無い。なのに織莉子は動けなかった。

横に移動して逃げようと思ったが、横に移動できなかった。

 

織莉子は僅か二秒ほどの時間で全てを理解した。

鹿目まどかは結界を織莉子の周りに張っているのだ。

なのに結界が、見えない。

 

 

「クッ!」

 

「ごめん織莉子ちゃん。ちょっと……、ううんッ、結構痛いよ!」

 

 

知恵の大天使のラジエルの力とは、出現している間、"まどかが張った全て結界を相手の視界から消す"と言う物だった。

言わば、まどか以外には透明の壁が出てくるようなものである。

そして鋏が織莉子に当たると言う所で、壁を消せば完璧だ。

まどかは織莉子を傷つける意思を、初めて明確に持っていた。

しかしそれは殺しあう意思ではなく、戦いを終らせる為に。

 

 

「フフ」『ユニオン』

 

「!」

 

 

そしてもちろん、織莉子もそう簡単にはやられない。

 

 

「よくできた戦術でしたよ。まどかさん」『ディメンションベント』

 

「!」

 

 

背後に現われる織莉子。そうか、彼女にはワープがあったのか。

まどかがそう思った時には、織莉子に服をつかまれ投げ飛ばされていた。

地面に叩きつけられるまどか。織莉子はそこへ無数のオラクルを容赦なく叩き込んでいく。

 

硬い球体が大きな衝撃となって、全身に打ち込まれていく。

まどかは苦痛の声をあげ、さらに織莉子は背後にいたラジエルを、オラクルに剣を生やす魔法、オラクルレイを使って串刺しにする。

 

 

「消えなさい。虚像の天使よ」

 

『………』

 

 

少し悔しげな表情を浮かべて消滅するラジエル。

そしてその時、織莉子とまどかがいた場所が黒く濁る。

織莉子はそれを確認するとまどかを蹴る様にして後ろへ跳んだ。

同時に黒い部分から突き出てくる十字架。

織莉子が首を横に向けると、そこにはボックスを破壊して外に出ていたかずみが見えた。

 

異端審問で自分達を狙ったのだろう。

しかし結果的に受けたのはまどかだけ。

彼女は黒い十字架に打ち上げられ空中に放り出されていた。

 

かずみは異端審問を再び発動。

織莉子を狙うが、未来予知を持っている織莉子にとってはルート予測ができる分避けやすいもの。

今もスカートの裾を掴んで、タタタタタと後ろ向きに走って十字架の追跡を回避しているじゃないか。

 

 

「――ッ!」

 

 

しかし余裕だった織莉子の表情が一気に歪む。どうやら良くない未来を視たらしい。

彼女は汗を一筋浮かべると回りを確認する、どうやら未来が見えても対処が難しい事の様だ。

それを証明するように、織莉子の周りに桃色の壁がいくつも出現していく。

 

もちろんそれを発動したのは空中に放り出されているまどかだ。

ダメージを受けて吹き飛びながらも、しっかりと状況を確認していたようだ。

唇を噛む織莉子。そんな彼女が立っている地面が黒く染まった。

 

かずみは地面を二回叩き。

一つの十字架を織莉子の真下から。一つの十字架をまどかが着地するだろう場所に出現させる。

無理だ。避けられない。防御を行えど、ダメージを受けて空中に放り出される織莉子。

そしてまどかは意識をハッキリと取り戻し、光の翼を広げて十字架を回避する。

 

 

「!」「!」

 

 

そこでまどかと織莉子は、かずみに起きた異変を確認する。

文字通り、かずみが4人に増えているのだ。ナイトのトリックベントを使用したのだろう。

二人の分身は、十字架をそれぞれ織莉子とまどかに向けて、先端に光を集めていく。

 

 

「クッ!」

 

「ッ!!」

 

 

織莉子とまどかは、すぐにオラクルと光の矢を放ってかずみを狙う。

しかしそれらは命中すれど、かずみ達は全く怯まずにチャージを行っている。

体を鋼鉄に変える魔法、カピターノ・ポテンザが発動されていたのだ。

 

 

「「リーミティエステールニ!!」」

 

 

かずみの十字架から巨大なレーザーが二本発射される。

まどかはすぐに強力な盾を出現させそれを受け止め、織莉子もオラクルを自分の周りに集めてシールドを展開する。

オラクルを円形にして自分の周りにいくつも重ねて高速回転させる魔法技、"イージスユピテル"。

緑色に光ったオラクルガ、なんとか光のレーザーを防いでいる。

 

一方まどかは流石と言うべきか。

巨大な盾であるアイギスアカヤーは、完全にレーザーを封殺していた。

その表情からは、むしろ余裕が見られた。まどかはすぐにレーザーを反射しようと狙いを定める。

だが忘れてはいけない、かずみは四人に分身したのだと言う事を。

 

 

「え?」

 

 

まどかは右から光を感じてそちらを振り向いた。

そこには十字架を模した砲台が空中に浮いており、自分に砲口を向けている。

そう、そうだ。リーミティエステールニを発射したかずみとは別のかずみが、魔法を発動していたと言う事だ。

 

アイギスアカヤーはまどかの盾の中でも最強の防御力を持っているが、弱点として前方しか防御できない。その穴、つまり横からの攻撃には無力。

 

 

「ティロフィナーレ!」

 

「きゃああああああああああ!!」

 

 

十字架から放たれた弾丸は、まどかに直撃。

凄まじい衝撃と爆炎を引き連れて右方向に吹き飛んでいく。

そして右にはレーザーを防御中の織莉子が、彼女はまどかに気がつけど、動くに動けない状態。

下手にまどかを止めようと思えばレーザーに喰われる。

 

 

「くっ! ああっっ!」

 

 

吹き飛んだまどかはそのまま織莉子に直撃。

その衝撃で織莉子のシールドが破壊されて、二人はもつれあったまま地面に落下する。

そこがチャンス、四人のかずみはイルフラースを発動して思い切り地面を蹴った!

 

 

「!」

 

 

一瞬で距離を詰めたかずみ達。

倒れたまどかと織莉子を掴み上げると、それぞれ反対方向に向けて投げる。

そして瞬間自らも跳躍。十字架を双剣モードに変えると、高速で彼女達を刻んでいった。

 

 

「あっ! ぐっ!!」

 

「うあぁッ!」

 

 

飛び散る鮮血。

かずみは高速のフォーメーションで二人にダメージを与えていく。

抵抗しようと試みるまどかと織莉子ではあるが、次々と襲い掛かる痛みが原因でうまく集中できない。

 

織莉子の場合は自分を自動的に守ってくれるオラクルがあるため、まだ攻撃の手も少なくなるが、それでもかずみの圧倒的なスピードとパワーが二人の身体に無数の線を刻んでいった。

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。悲しみ苦しみも全て勝利の雄たけび変えなければならない。

 

 

「――ッ!」

 

 

弓を振り絞るまどか。

蕾のギミックに光が集中していき、彼女の表情を照らし出す。

そこにはいつも優しくニコニコと微笑んでいた鹿目まどかはいない。

確かな決意が――

 

そう、決意(さつい)があった。

 

 

 

 

 







ヘルシェイクを生み出した伝説のクソアニメ(直球)
ポプテポピック、そのOPの『POP TEAM EPIC』って滅茶苦茶『龍騎・まどか』っぽいから、良かったら聞いてみておくれやす(´・ω・)b
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