仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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あとがきで、ちょろっとジオウの事かいてます。
まだPV見てない人は気をつけてね

プラス、ちょろっとマイティノベルにも触れてます。
ネタバレってほどではないんですが、まあ一応ね。



第53話 友情の定義 義定の情友 話35第

 

 

雄一は手塚の事を親友と言ってくれた、けれども次の瞬間。

 

 

「でもお前は何もしてくれなかった――ッッ!」

 

「雄一……」

 

 

当たりだ。何もしなかった。

両親や医者は、雄一の望む事はしてあげられなかったが、力になろうと言う気持ちは本物だったろう。たとえそれが雄一にとって迷惑で押し付けがましく、彼の視点では何もしてくれなかったと思う物だったとしても。

 

 

「待ってくれ雄一。俺に何ができた? 犯人を見つけ出して殺す事か? お前の腕を医者でもない俺が治す事か?」

 

「………」

 

「頼む。落ち着いてくれ……!」

 

 

しかし、手塚に関しては違う。

手塚は雄一の異変にしっかりと気づいておきながらも、何一つアクションを起こさなかった。

だから手塚は雄一を説得すれど、目を見て話す事はしない。できない。

 

 

「お前は気づいていたんだろう? 俺の気持ちに――ッ!」

 

「!」

 

 

そして雄一は、しっかりと手塚を見ていた。

 

 

「お前の俺を見る目が、途中から哀れみになってるのを気づかないとでも思ったのか!?」

 

「ち、違う! 何を言ってるんだ!」

 

「俺の中にある憎悪が膨れている間、お前は黙って見てるだけだったろ!?」

 

「……ッ」

 

 

全て雄一の言うとおりだ。

手塚は雄一の想いを理解していた。しかし何もしなかった。

それが運命だと割り切り、雄一の道には何を置いたとしても、『その道』を進んでしまうのだからと決め付けた。

 

 

「俺は終わりだ……! もう何も考えられない! 憎悪しか、憎しみしか湧いてこない!!」

 

「落ち着け雄一!」

 

「落ちつけば落ち着くほど……! 壊れそうになるッ!!」

 

 

手塚はきっと自分でも分かぬ内に、『ある想い』を抱く様になっていたのかもしれない。

だから何もしなかった。ある意味それが、手塚が辿った運命だったのか。

 

 

「城戸、お前は運命を信じるか?」

 

「……ッ」

 

 

立ち上がるライア。過去と、今が、入り混じる。

ライアは今、燃え尽きた炎の様に冷静さを取り戻していた。

そしてデッキに手をかけ、自分の紋章が刻まれた金色のカードを抜き取る。

ライアはその絵柄を龍騎に見せ付け、自分の意思を示した。

ファイナルベント、決着を望んでいると言う事だ。

その先にあるのは、答えなのか? それとも死か――。

 

 

 

「人には生まれた瞬間から辿るべき道が決められてる。それが運命だ」

 

「………」

 

「今になってつくづく実感する。俺は絶対的に妄信していた」

 

 

雄一は自らの夢と人生を簡単に壊されたと絶望した。

しかし本当に一番絶望していたのは、手塚の方だったのかもしれない。

 

手塚は雄一に、憧れや尊敬の念を抱いていた。

才能に恵まれ、良識もある。幸せになるべき人間、皆に憧れるべき存在。

なのに雄一が積み上げてきた功績は、名前も分からぬ者たちによって一日で崩された。

 

そんな馬鹿な事があっていいのか?

雄一はこれからだった。これからより良い環境で高みを目指すのだと、雄一以上に手塚は信じていた。もちろん、雄一だってそのために努力した筈だ。

なのに崩れるのは一瞬なんだと突きつけられた。

夢を追う資格が無いのだと言われた気がする。

 

雄一の成功を確信していた手塚にとって、それは認めたくない悪夢だったろう。

自分よりも優れていると思っていた雄一が簡単に壊れた。

他人には分からない事かもしれないが、手塚はまるで自分が壊された様な気がしたのだ。

 

いや自分が壊されるよりも辛い。

だから手塚は、何が何でも理由(いいわけ)を見つけなければならなかった。

 

 

自分よりも優れていた雄一が、何故、人生を狂わされたのか?

 

 

雄一が暴行されている動画が手塚の脳裏にしつこくリピートされていく。

あの動画に満ち溢れていた殴る音や、犯人達の笑い声。

その方程式を解き明かさなければならなかったのだ。

 

手塚は必死に考えた、何故雄一がこんな事になったのかを。

彼が誰かを傷つけたのか? 神に裁かれる様な事をしていたのか?

分からない、分からない、分からない――……。

そんな時、ふと頭に浮かぶ漢字があったのだ。

 

それこそが『運命』

 

雄一はそう言う運命だったと言えば、全ての説明がつく。

それが答えか? いや、手塚にとってはそれを答えにしなければならなかった。

でなければ自分も壊れてしまうから。

 

 

「俺は雄一の為に、俺の為に運命を信じた。運命と言う物が人には備えられていると妄信した」

 

 

だから変えようと足掻いて、けれども変えられないと諦めていて。

 

 

「俺の為にも、雄一の為にもッ、運命を信じなければならなかったんだ……!」

 

 

だから今回も、運命の名の下に、鹿目まどかは死ぬ。

 

 

「それが……ッ、それを、鹿目まどかの運命にする!」

 

「俺は、馬鹿だからよく分からない」

 

 

龍騎は戸惑いながら言葉を紡いでいく。

信じていない訳じゃない、運命はあるのかもしれないし、無いのかもしれない。

だけど、ただ一つだけハッキリと分かって、ハッキリと言える事がある。

 

 

「まどかちゃんを死なせない為に、戦いを止める為に戦い続ける。それが俺の運命だ」

 

「……!」

 

「もしもそれができない運命なら、俺はいらない。何が何でも壊してやる!」

 

「ハッ!」

 

 

確かに頭のいい答えでは無いかもしれないが――、良い答えだ。

ライアはカードを抜き取る龍騎を見てそう思った。そして異なる点もある。

二人はカードを構えているが、龍騎が引き抜いたのはファイナルベントではなくガードベントだ。

当然だ、傷つけるファイナルベントよりも守るガードベントを優先させるのは当然の事。

 

 

「運命が、いらない――、か」

 

 

それが龍騎の答えなんだろう。

雄一は――、違ったが。

 

 

「運命? は、はは! 運命かコレが!!」

 

 

言わなければ良かったのか? けれども手塚は言ってしまった。

龍騎にした質問と同じ物を。雄一はしばらく壊れたように笑い続け、直後声を荒げて暴れだす。

 

 

「納得できる訳ないだろ!!」

 

「………」

 

 

しばらく地団太を踏んだ後に雄一はピタリと動きを止めて、暗闇の空を見上げる。

運命、運命、運命か、何度も同じ事を呟いてポケットからソレを取り出した。

いつの日か、お守りだと言って見せてくれたカードデッキだ。

しかし気になるのは、見せてもらった時とは違って何か『紋章』の様な物が確認できた。

蝶? アレは一体なんなのか?

 

 

「じゃあ、俺がアイツ等を殺すのも運命なんだな……!」

 

「っ?」

 

「そう、そうだ。どうせもう俺は終わりだ。だったら、この"パピヨン"のデッキで全部壊してやる」

 

 

俺を狂わせた犯人、何もしてくれなかった無能な連中。

 

 

「俺の気持ちを理解しない家族だって……ッ! もう、要らない!」

 

「雄一、何を言ってるんだ! 落ち着け、お前らしくないぞ!!」

 

「俺らしいって何なんだよ! ヘラヘラヘラ周りの人間に気を使うのが俺なのか!?」

 

 

"ケルベロス"は言っていた。

まもなく騎士や魔法少女を巻き込んだ戦いが始まるのかもしれないと。

だったらなんだよ。まだ俺は運命ってヤツに人生を滅茶苦茶にされないといけないのか?

可能性があるとだけ。でももしも本当になれば俺は殺し合いだ。

その前に力を使って全部滅茶苦茶にしても、別にいいじゃないか――……!

 

 

「パピヨン? ケルベロス? それに殺し合いって……」

 

 

手塚には雄一が何を言っているのか全く理解できなかった。

しかし明らかに普通じゃない。今の彼を放置しておくのは危険だ。

もしかして精神に異常を――?

 

 

「雄一! 人生はピアノだけじゃないだろ? 他のことで――」

 

「俺はピアノが好きだった……」

 

「ッ、ならリハビリを続けていけばいい!」

 

「俺の身体は戻らない……! 分かるんだ」

 

 

心だってそう。人を感動を与えたくてピアノをやっている部分があった。

でもその人を嫌いなってしまったんだ。

たとえ指が元に戻っても、以前の様な音色が出せるわけが無い。

家族への愛も、こんなに簡単に崩れてしまうなんて思っていなかった。

 

 

「正直に言うよ……! 何もしてくれない父さんを殺したい!」

 

「!」

 

「トロフィーを飾り、戻らない栄光を見せ付けようとする母を殺したかった!」

 

 

何故、気持ちが分からないのか。

自分の前で学校であった楽しい事を話してくる妹を殺したかった!

自分の目の前で指を使う弟を殺したかった。

嫉妬が爆破的にわきあがる。俺じゃなくてお前が壊れれば良かったんだと。

 

クラスメイトの寄せ書きだってそうだ。

あいつらには何の才能も無いんだろ? だったら何で俺の代わりにならないんだよ!

寄せ書きの言葉だって、軽くて軽くて全員殺したくなるんだ。

 

 

「俺は力を、パピヨンを手に入れた。俺が殺したいと思えば、全員殺せる!」

 

 

そして何よりも――!

 

 

「そんな事を考えてしまう自分が一番許せない、殺したくなる――ッ!」

 

 

こんな事、思いたくないに決まってる。なのに湧きあがってしまうんだ。

憎しみが、憎悪が、自分を苦しめる負の感情から開放されるために家族や周りの人の死を願ってしまう。

自分はこんなに醜かったのか? こんな事を思ってしまう人間だったのか?

雄一は頭を抱えてうめき声をあげていた。

 

 

「雄一……!」

 

「俺は屑じゃない! 屑じゃないのに……!」

 

 

気づけば雄一はボロボロと泣きながら力なく俯いていた。

パピヨンと言う単語は分からないが、それまでの言葉は理解できる。

しかし、だからと言って手塚が何を言えば良いのか。分からないから沈黙するだけ。

 

何を言っても雄一を傷つけてしまうのではないか。

そう思ってしまえば動けなかった。屋上には雄一がすすり泣く声だけが響く。

 

 

「俺が俺でなくなる。俺の中の絶望に喰われてしまう」

 

 

そうなればいいと思ってしまう自分がいる。

もう耐えられない、彼は弱さを吐露していった。

そして声を震わせて手塚に一つの疑問をぶつける。

 

 

「手塚……、俺は――!」

 

 

俺は――、俺は。

 

 

「俺は、生きるべきなのか?」

 

「――ッ」

 

「生き残るべきなのか……?」

 

 

すぐに首を振ればよかった。すぐに、「ああ」と言ってやれば良かった。

なのにココでまた手塚の頭に一つの言葉が割り入る。

運命、それが定められた道であると、宿命付けられた物であると。

ココで何を言おうが、雄一の答えは変わらない。

 

そうなんだろう?

そうだと手塚は決め付けてしまった。もうその二文字の漢字に手塚は執着していたんだろう。

雄一もそれを分かっていた筈だ。彼は手塚の戸惑いに満ちた表情を見ると、フッと笑って目に光を灯す。

 

 

「手塚、見てくれ」

 

「雄一!?」

 

 

雄一はどこか安心したような、ホッとした表情で笑っていた。

手塚は尚も動けない。これが雄一の答えなのだろうと知りつつも。

 

 

「これが俺の――」

 

「!」

 

「運命だ」

 

 

そう言って、雄一は後ろへ大きく足を踏み出して屋上から姿を消した。

息を呑む手塚。雄一が飛び降りた事に最初はゾッとした。

しかし彼が立っていた後ろに、いつの前にか巨大な『蝶』の化け物がいた事に心を奪われる。

 

あれは、なんだ?

手塚がそれを思った瞬間に、蝶は消えた。

そしてすぐに理解する現実。手塚は雄一の名前を叫びながら彼がどうなったのかを確認する。

するとそこには蝶の鱗粉がキラキラと舞い落ちる幻想的な景色が。その先には、地面に倒れる親友の姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「運命が狂ったから絶望したのか、初めから絶望に至る運命だったのか」『ファイナルベント』

 

「ッ?」『ガードベント』

 

 

カードを発動する両者。

ライアの言葉は龍騎には意味の分からない物だろう。

けれども手塚にとって大事な言葉だと言う事は分かった。

ライアの真上に現われるエビルダイバー。龍騎はドラグシールドを両手に構え、ドラグレッダーを召喚する。

 

ライアは思う。

ココで龍騎が負けて死ぬ事は、既に決まっている運命なのだろうか?

それともライアが打ち破られ、そして……、どうなる?

もうそれも決まっている運命なのか。

 

 

「長引かせるつもりはない。全てを終らせよう」

 

「……ああ」

 

 

ライアが地面を蹴りエビルダイバーの背に乗った。

迸る紫電。背後にはライアのエネルギーで構成された津波が流れてくる。

その波に乗るライア、猛スピードで激流と電撃を纏いながら龍騎を目指す。

 

 

「何度でも言う。俺は鹿目まどかを殺す!」

 

「俺も何度でも言うさ! まどかちゃんは守るしッ、戦いを止めてやる!」

 

 

ドラグレッダーが龍騎の周りを激しく旋回し続け、炎の竜巻を作り出した!

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

ハイドベノンと、竜巻防御がぶつかり合い、辺りには激しいエネルギーが溢れる。

ライアも龍騎も己の意思を解き放ち、ただひたすらに叫び、ぶつかり合う!

二人の攻撃は交じり合うかの様に重なり、紅と紫の光を一つにしていく。

同じ意思を持っていた二人――、似ていると?

 

いや、けれども龍騎の炎はライアの水を蒸発させていく。

同じ意思だが、細部は全く違っていた。分かり合えないのか。

二人はそんなジレンマを振り払う様にただ我武者羅に叫び、目の前にある攻撃を、防御を、破壊しようとだけ考えるのだ。

 

この勝負の結末は、もう決まっているのだろうか?

自分たちの運命はもう決まっているのだろうか?

だったら、身を任せるだけ――?

 

 

「雄一!!」

 

 

手塚はそこで初めて自らの愚かさを実感していた。彼は階段を転げ落ちる様に降りていく。

いや事実、転げ落ちていた、けれども手塚はすぐに立ち上がり、狂ったように走る。

どこへ? 決まっている、雄一が落ちた場所にだ。

 

何故、何もしなかったんだろう?

どうして死ぬなと言ってあげなかったんだろう?

答えが分からぬままに、手塚は目に涙を溜めながら走る。走る。走る。

 

肺が破れそうだった。けれども先に心が破れていたのかもしれない。

手塚は今更な後悔を抱えながら外に出て、雄一が倒れている場所にやってくる。

薄目を開けて弱弱しく呼吸を行っている雄一を見つけた。

どうやら頭を打ってはいないのか? 奇跡的にまだ息はあった。

手塚はすぐに携帯電話で助けを呼んだ。しかしその最中、耳には雄一の声が聞こえてきた。

 

 

「止めてくれ、俺はもうココで死にたい」

 

「――ッ」

 

「俺を……、助けてくれ」

 

 

助けてくれ? 助けてくれとは……、何なんだ?

手塚は連絡を終えると、携帯を投げ捨てて、とにかく雄一に声をかける。

とにかく励ましの言葉で、雄一の魂が向こうに行くのを防ごうとした。

 

 

「待ってろ! もう少しで助けが来る!」

 

「違う……も……う、いい――…んだ」

 

 

表情は虚ろで、目からは光が消えていった。

 

 

「本当に、すまなかった手塚……」

 

「おい雄一ッ! やめろ! 喋るな!!」

 

 

涙を流して、雄一は今までの暴言や、それを吐いた相手に謝罪を行っていた。

皆は、心配してよくやってくれた。けれどもその期待に応えられないかもしれないと卑屈になって、行き場の無い怒りを、善意に付け込み発散させようとした。

だけどそれが自分自身を嫌いにしていく。結局他者を苦しめ、自分を苦しめ、それだけだ。

 

 

「このまま生きても、俺はまたすぐ絶望に呑まれる……!」

 

 

そうすれば、本当に家族を、愛する人を殺してしまうかもしれない。

そうなってしまうのを想像するだけで耐えられなかった。

家族は何よりもの宝だ、それは夢よりも上の存在。

 

 

「なのに……、傷つけようとしてしまうッッ」

 

 

掠れ、震える声が、悲しみを証明していた。

雄一は搾り出すように吐露する。自分が不幸になったから、周りの不幸を望んでしまう。

 

 

「そんなの……、もう嫌なんだ――ッッ」

 

 

あんな言葉を言いたかった訳じゃない。もっと美しいメロディを世界に響かせたかった。

呪詛の言葉で塗りつぶしたい訳じゃないんだ。

なのに駄目なんだ、もう自分の音は呪われている。

 

 

「耐えられない……、俺には、もう」

 

「止めろ雄一……! 雄一ッッ!!」

 

「それにもう、疲れた――」

 

 

頼む、眠らせてくれ。

雄一は手塚の手を弱弱しく触り、呟いた。

 

 

「分かっていたんだろう? お前だってこうなる事が」

 

 

俺が心のどこかでこの状況に至る事を望んでいた事が。

いろいろ過程があったがその願いが現実になっただけ。

何を悲しむ必要がある? 何を止める必要がある?

 

 

「そんな悲しい事がお前の願いだったのか!? 違うだろ!!」

 

「死は……、怖くない。それにもう俺は助からない」

 

 

だが――、と、雄一は涙を流す。

自分の事はもういいが、心残りが全く無いと言えば別になる。

今更こんな事を言えた義理ではないのかもしれないが、どうか頼みを聞いて欲しいと雄一は手塚に懇願した。

 

 

「頼む手塚……ッ、俺の――、家族を…守って――……く、れ』

 

 

目が見なくなってきた。雄一はそう言いながら会話を続ける。

家族が死んで欲しいと本気で願った。けれども今はやはり違うと声を大きくして言える。

一番大切だと思うのは家族だ。でも自分にはもう守る事も、まして守る資格も無い。

 

 

「でも、家族と……残った親友だけが俺の希望だ――」

 

「雄一――ッ!」

 

「きっともうすぐ戦いが――……る」

 

「ッ?」

 

「お前は……戦うな――! 呑まれるな、絶望に。止めてくれ……戦い…を――……!」

 

 

雄一は言葉を詰まらせながらも、必死に手塚に訴えた。

お前には辛い事を頼む事になる。最低だと俺を呪ってくれてもいい、恨んでくれてもいい。

でも頼めるのはお前だけなんだ。

 

頼む手塚、俺を赦してくれ。

そしてもしも、お前がまだ俺の事を親友だと思ってくれるのなら、どうか俺の家族を守ってくれ。

 

 

「この……デッキを――」

 

「デッキ?」

 

 

許してくれ手塚、俺はお前をも呪った事がある。

俺は愚かだ、俺は弱い、絶望に喰われて何も見えなくなった。

だけどお前なら――、お前ならきっと変えられる。俺にできなかった事をお前なら可能にしてくれる。

だから頼む、お願いだ手塚、どうか俺の家族を、愛する人たちを守ってくれ。

愛する家族が生きるこの世界を、守ってくれ。

 

 

「それ……、俺――、最期の…ねが――だ」

 

 

それが、俺の最期の願いだ。

 

 

「―――」

 

 

喉が潰れる程に、手塚は雄一の名を叫んだ。

すると直後、手塚の連絡を聞いたナースやら医者やらが駆け寄ってくる。

すぐに雄一は担架に乗せられて運ばれていった。残された手塚は呆然と立ちすくみ、魂が抜けたように動きも思考も停止していた。

 

しかしふと、視界に入った物。それは雄一が言ったデッキだ。

手塚は理由が分からぬまま、とり憑かれたようににソレを拾うと、雄一が運ばれた手術室を目指す。

 

 

「………」

 

 

強い風が、手塚の髪を揺らした。

全身に嫌な汗を浮かんでいる、身体が冷えて、それが冷静さを与えてくれる。

そう、そうか――、そうだな。手塚は全てを悟り、その答えを導き出す。

喰われたのは雄一だけじゃない、自分も同じだ。

 

決まっている運命?

既に確定しているのだから何をしても無駄?

だから自分は何もせず、何も出来ぬと割り切り、沈黙を徹した。

ああ違う。なにもかも違う。

 

 

(俺は運命に負けたんだ)

 

 

雄一がこうなると分かっておきながら、運命を変える事ができなかった。

この場面を想像する恐怖から逃げるために、言い訳を無数に用意して、最期には後悔に身を包む事さえも正当化しようとしている。

違う、違うんだ、何も守れなかった。俺は雄一を守れなかった。

 

 

「許してくれ雄一、謝るのは俺の方だ――!」

 

 

俺は逃げていた、お前から、運命から。

お前の異変に気づいていながら、お前の苦しみを理解しておきながら逃げていた!

俺が戦っていれば悲しみを生み出さずに済んだのかもしれないのに。

 

手塚は手術室の前で泣きじゃくる雄一の家族を見て、必死に心の中で謝罪を行う。

この涙の原因の一つは自分なんだ、自分が弱かったから――!

 

 

「俺は守る! 誓いを、アイツの想いをッ!」

 

「!」

 

「消えろ! 龍騎ィイイイイイイイイイ!!」

 

 

ハイドベノンの勢いが爆発的に上がっていく。

歯を食いしばり必死に耐える龍騎だが、凄まじい力に圧倒されていく。

ライアには背負う命がある。背負う誓いがある。

今、雄一の家族は見滝原から離れた所にいる為、ゲームに巻き込まれる心配はしていない。

 

だが、もしも鹿目まどかが絶望の魔女に覚醒すれば、世界は終末の未来を向かえる。

つまり雄一の家族も例外なく絶望へと沈められるのだ。

それだけは認めるわけにはいかなかった。

一度諦めたからこそ、二度と諦める訳にはいかないのだ。

 

雄一の大切な物を守る。

その誓いは曲げない。曲げたくない。

男のプライドと意地が――、そこにあった。

 

 

「俺だって――ッ! 譲れないんだァアアアアア!!」

 

 

龍騎も叫んだ。誰もが生きたいと願う、誰もが幸せになりたいと願う。

それを決めるのは他者じゃない、自分だ。絶望していい人間なんていない。絶望させていい人間なんていない。

それを信じたい、それを証明したい。

だから負ける訳にはいかないんだ。龍騎もまた火力を最大にしてハイドベノンを受け止める。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

(雄一、俺は……ッ、俺は――ッ!!)

 

 

雄一が手術室に運ばれてからどれだけ時間が経っただろうか?

医者が出てきた時、一つの運命の果てを見た。

雄一は死んだのだ。泣き崩れる家族達から少し離れた所で、手塚は静かにその事実を受け止める。

後悔などしていない、雄一は死を望んでいたのだから。

これが雄一にとって幸福な終わりであったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて――、思うわけが無いだろう。

 

 

雄一は自らその命を終らせた。

しかしそれは彼が望んで招いた結果な筈が無い! 死にたくなかった筈だ、生きたかった筈だ。

だけど希望を失い、夢を壊され、心を先に死なせてしまった。

雄一は、『やっと終わる』と笑みを浮かべた。

しかしその笑みは、もっと別の事で浮かべる筈だったんだ。

 

雄一は、それを受け入れ、否定する為に死んだ。

手塚はこみ上げる悲しみを必死に抑えながら心の中で連呼する。

誰か、誰でもいい、教えてくれ! 雄一は何故死ななければならなかった!?

何故、環境に苦しまなければならなかった? 何故、憎悪しなければならなかった?

何故、何故、何故――ッッ!

 

それが彼の運命だったからとでも言うのか?

ふざけるな、ふざけるなよ! そんな事が許されてたまるか。

雄一はこんな苦しみに満ちた人生を決定付けられていたのか!?

そんな不公平な事があってたまる物か! 手塚は拾い預かったデッキを、壊さんとばかりに握り締めて虚空を睨む。

 

 

(雄一を死なせたのは俺だ!)

 

 

変えられた筈なんだ、きっと。

なのに自分は何もしなかった。運命は変えられない? 誰が決めたのかそんな事を。

だが手塚は『そう言う物』だと言い訳をして、問題を放置してきた。

その結果がコレだ、最悪の結末にはならないと言い聞かせた結果が今だ!

雄一は死んだ。雄一は殺された。

 

 

「運命にッ、それを放置した俺にッッ!」

 

 

手塚は踵を返すと、誰もいない場所へ向かい、思い切り壁を叩く。

変えられた筈だった。救えた筈だった。だけど俺は――ッ!

雄一は死ぬ運命だった? 雄一はこうなる運命だった?

だから仕方ない? 運命は絶対? 運命、運命、運命運命運命運命――!

 

 

「もううんざりだ! 下らない運命なんて全部ブッ壊してやる!!」

 

 

友を守れなかったと言う焦燥の思いに、手塚は身を震わせる。

その時だった。手塚の握っていたデッキが一瞬だけ光ったのは。

デッキに目を移すと蝶の紋章が消えており、代わりに新たな紋章が浮かび上がっていた。

 

 

『それはエイだぜ、手塚海之ぃ』

 

「!」

 

 

脳に直接響く声。

手塚の前に、赤い眼を光らせる小さな動物が。

 

 

『オイラは、ジュゥべえ』

 

 

ジュゥべえは手塚が選ばれた者だと称した。

 

 

『占いっつうのは、ウソを教える奴もいるんだろ?』

 

「何を……」

 

『今日貴方の運勢は最高ですって言えば、気分をよくさせられるしな』

 

 

嘘つきって言うのはライアーって言うんだっけか?

あとラテン語か何かでエイってのはライアって言うらしいぜ?

 

 

『決めた! 手塚海之、お前はライアだ』

 

「ライア? それにお前は一体?」

 

『ケルベロスのヤツが魔女にブッ殺されたと思ったら、今度はパピヨンの野郎が自殺かよ。おいおい、まだ始まっても無いのに勘弁してほしいね全く』

 

 

ジュゥべえはニヤニヤと笑いながらそう言った。

 

 

『それでお前が選ばれたか。やっぱもう、運命ってヤツでルートは決まってんのかもな』

 

「なんだと……!?」

 

 

一瞬強い怒りを覚える手塚、しかしすぐに怒りを静めて詳細を問うた。

パピヨンと言う単語を使うあたり、ジュゥべえは雄一と何らかの接点があるのでは? と。

 

 

『まあいいや、よく聞けよ手塚海之。お前は――』

 

 

そこで手塚は騎士の事を聞かされる。

雄一はデッキを手にして覚醒を果たしていた。

力を得た彼が真っ先に考えたのは復讐だ、己の夢を奪った連中を見つけ出して殺す。

けれども雄一は力を手にした瞬間、周りの人間も排除対象としてカウントしてしまいそうになる。

 

 

『たまにいるんだよな――』

 

 

人間を超越した力を脇に抱えれば、自分を不快にする人間をいつでも殺せると思ってしまう。

彼もまたそうした力に飲み込まれそうになった者のひとりだ。

だからこそ雄一は怯え、恐怖し、解放されたいと願った。

 

表情を歪ませる手塚。

だったら雄一が死んだのは、少なかれジュゥべえが原因でもある。

彼がデッキを雄一に渡さなかったら、力に飲まれ、怯え、殺意に恐怖して自ら死を選ぶ事も無かったのではないかと。

 

 

『おいおい勘違いしてもらっちゃ困る。力は使い方によっては希望にもなり得た筈だ』

 

 

斉藤雄一は己の中にある恨みを、力を使えば全て発散できるのではと考えた。

しかし次第に己を取り巻く善意を悪意と認識し、愛する家族さえも殺してしまおうと思ってしまう。

自分の中に取り巻く良心と殺意、ヤツは力に飲み込まれる事を恐れ自ら死を選んだ。

 

 

『全てアイツが決めた事だ。それが運命ってヤツだろ?』

 

「貴様――ッ!!」

 

『気に入らないかよ? だったらお前は運命を変えられるのか? ああ?』

 

 

お前がこのデッキを手にした事は、オイラは必然だと思っている。

エビルダイバーの性質は『運命』だ、お前はこれからその力をどう使う?

斉藤雄一を死に追いやった要素全てに復讐するか?

それともアイツの守れなかった物を守るのか?

もしくは――

 

 

『運命と戦うのか?』

 

「………」

 

『いっそライアの力を捨てるのもアリかもな』

 

 

ジュゥべえは赤い眼の中に、手塚を捉えて笑っている。

手塚を言葉を借りれば全て運命が決める事だろう?

 

 

『どうするのかは、お前が決めろ』

 

「……ッ」

 

『パートナーと会って決めても良い。お前のはとびきりブッ飛んでるヤツだからな』

 

「パートナー……?」

 

『ああそうだ、オイラが選んでおいた。お前とよく似てる。今のお前なら会えば一目で分かるだろうよ』

 

 

ま、期待してるぜ。その言葉と共にジュゥべえは消えた。

そして手塚はライアになった。自分が何ができる? 自分がこのデッキを受け取った意味は?

答えが出せない手塚。だが、からっぽ彼にも唯一縋れる物があった。

それが最期の約束だ。雄一は言った、家族を守ってくれと。

家族が生きるこの世界を、どうか守って欲しいと。

 

 

「俺は一度、負けた!!」

 

 

運命に、変えられぬ『死』にだ。

だからこそ今度は負けたくない、約束を殺したくは無い。

だから今、叫びをあげて龍騎を打ち破ろうと全てを込める。

雄一との約束を果たす事が、ライアに残された生きる意味であり、縋る物であり、何よりもライアになった理由だ。

 

雄一が死ぬのではないかと思いつつ、何もしなかった自分。それはもう骸だ。

そんな自分に、生きる意味を与えてくれたのが最期の誓いであった。

それに雄一は言ったではないか。戦いを止めてくれと。

彼はおそらく、F・Gの事を知っていたのかもしれない。

だから、言った。止めてくれと。

 

 

「だから俺はここまで来れたんだ!」

 

「――ッッ!」

 

 

守り抜かなければならない、それが戦う理由だったからだ。

 

 

「俺は、俺はッ、絶対に雄一との約束を守る!!」

 

 

むしろそれだけがライアの生きる理由だったのかもしれない。

自分よりも優れた雄一が死ななければならない理由が、ライアには分からなかった。

だから理由を作らなければならない。それが一度決めた目的を最後まで貫く事だったのだろう。

目的、信念、それを糧に生きていく。そこにブレが生じたとき、それはライアの魂が崩壊していく事を意味していた。

だけど、なのに――

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!」

 

 

その時だ、ドラグレッダーの瞳が光ったかと思うと咆哮を上げて旋回スピードを上げる。

それだけでなく龍騎の周りに上がる炎もその勢いを増していった。ドラグレッダーが龍騎の想いに呼応しているのだろう。

まどかを守る為にどんな攻撃にも立ち向かう勇気、それが性質と同調している訳だ。

 

 

「手塚! 俺は運命がどうとかは分からないッ!」

 

 

だけど――!

 

 

「俺は、俺の中にある確かな意思を信じる!」

 

 

美穂が教えてくれた事だ。

考えても答えは出ない――。いや少し違うな、答えに気づけない。

だったらありのままの自分を信じるだけ、自分の本能に身を任せる。

まどかを助ける事は世界にとって有害な事。他者の目で見ればそれは悪として認識される事なのかもしれない。

 

ただ、まどかを死なせる事を思えば、心がズタズタに切り裂かれる様に痛い。

だったら龍騎はたとえ世界を危険に晒そうとも、周りから馬鹿と非難されようとも、まどかを助けるだけ。

 

それは戦いに関しても同じだ。

何もせずに殺されれば、人は龍騎を愚かと笑うだろう。

けれども誰かを殺して生き残るよりはずっといい。ずっと自分の心は穏やかに済む。

だからと言ってむざむざ殺されるつもりもないが。

自分の為に、仲間の為に、必ず戦いを終らせて鹿目まどかを殺させない。

 

 

「それが俺の意思なんだッッ!!」

 

「ッ!」

 

 

押され始めるライア。仮面の下で悔しげに歯を食いしばる。

紛れも無い意思か、龍騎はそれを胸を張って言えるのだろう。

しかしライアはどうだ? 数々の思いを脳裏にフラッシュバックさせたところで、龍騎と同じ様な事が言えるのか?

 

そうだ。

何故今まで雄一の事を思いながら、そして龍騎に自分を重ねていたのか。

その理由はライアが一番分かっているんじゃ無いか?

何故今、圧され始めているのかの理由をだ。

 

 

(そうだ! 俺は、俺は確かな迷いを抱いてしまった――ッ!!)

 

 

絶対の目標がブレはじめる。

だからライアは何が何でもこの戦いに勝ち、鹿目まどかを殺さなければならない。

でなければ自分の生きる意味がなくなってしまうから、友との誓いを裏切ってしまうからだ。

そう、そうだ、思えば『彼女』が現われた瞬間から、少しずつライアの歯車は狂っていたのかもしれない。

 

 

(暁美……ッ!)

 

 

たまに自分の信念を思い返すために、雄一の病室に行く事がある。

人が入っていれば部屋の前までだが、その時は誰も入院していなかった。

部屋に無断で入る事は申し訳ないとは思うが、しばらくそこで何をするわけでもなく瞑想する。

 

その日も、そうやって自分の想いを固め、そして帰ろうとしたところで彼女に出会った。

はじめは目つきが悪い女としか思わなかったが、すぐにデジャブの様な物を感じた。

彼女がパートナーだと見えない何かが告げた気がする。

 

それから一緒に過ごすうちに、何故ジュゥべえがほむらを選んだのかを理解した。

まさに似たもの同士ではないか。親友である鹿目まどかの『死』、その運命を変えるために戦うほむらは、まさに鏡合わせのような存在だ。

 

けれど時間が経てば経つほどに、手塚は思った。

ほむらは自分とは違う。似ているなどと言えば、一緒にするなと睨まれるだろう。

自分は雄一の死と言う運命を変える事はしなかった。変えられなかった、変えようともしなかった。

 

だが、ほむらは違う。

まどかを何が何でも助けようとしている。その為なら、どんな地獄を見ても構わないと言う。

それは意思の違いなのか? だからこそ手塚は引けない、ここで龍騎を倒さなければならない。

 

そうだ。

まどかを殺す事は雄一との約束を守るだけではなく、暁美ほむらや城戸真司を超える事にもなる。

ライアは、手塚はそれを望んでいる。二人には申し訳ないが、世界を守るという大義名分の下に二人を超えたいと思うライアもいるのだ。

 

さらに言えば、その想いはもっと複雑であろう。

ライアは何もほむらや真司を苦しめたい訳では無い。

けれど、いるんだよ。二人の後ろに何もできなかった自分が。

 

ライアには、手塚海之にはどうしても殺したい人間がいる。

それは自分自身。何も出来ずに運命に負けた愚かな男だ。

けれど自ら死を選ぶことは、約束の放棄に繋がる。

 

だからこそ似通っている部分を持つ真司達を超えたかった。

彼等を超えることで、手塚はきっと過去の己を殺す事ができる。

まどかを殺す事で、今も尚これでいいのかと湧き上がっている迷いを殺す事ができる。

 

知っているよ。

知っているんだよ自分のやろうとしている事が、自分にとって愚かで間違っている事くらい。

本音を言えば手塚だって誰も犠牲にしたくは無い。

 

しかしそれは手塚海之個人の意見だ。

自分の背中には、己を押し込めてでも守らなければならない命が――、世界がある。

それに本当に雄一の家族を守りたいという思いは本物なんだ。

だからその部分を他人のせいにするが如く、責任を擦り付ける場所にしてもいけない。

 

自分の意思で鹿目まどかを殺す事を正当化するために、まずは意地でも龍騎を超えなければならない。ああ、何度こういった事を思えばいい。あと何回こんな理由をつくればいい。

そうやって生まれていく迷いを全てねじ伏せるために、何度でも叫ばなければならない。

 

 

(そうすればきっと……、俺は迷いをッ、そしてお前の向こうにいる俺自身を殺す事ができる!)

 

 

そうだ。

お願いだ龍騎、俺を――

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を、殺してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運命なんて、うんざりなんだよ……ッ!」

 

 

でも誰しもが持っている物。逃げられない宿命がある。

抗う者、足掻く者、認め受け入れる者、否定する者、喰われる者、信じぬ者。

そして――

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

再び二人は吼え叫び、余っている力を全て解放する。

そして――、疑問を持つ者。これが自分なのだとライアは冷静に分析していた。

激しい炎と水流がぶつかり合い、蒸気の代わりに光を漏らす。

その光に包まれて、ライアは鈍い思考の中に龍騎を見る。

 

 

彼は、きっと、変えられる者。

 

 

(そして――……)

 

 

鹿目まどか、終らせる者。

最後に、まどかの涙が浮かぶ。

自分よりも幼く、昔は弱かった筈の彼女が、今は誰よりも強く運命と戦っている。

そうだ、鹿目まどかは戦い続ける者。運命に疑問を抱き敗北した手塚海之と、何度運命に地獄を見せられても必ず立ち上がってきた鹿目まどか。

 

 

「―――!」

 

 

その時、ライアは龍騎の鉄仮面に覆われた奥にある複眼。

さらにその奥に燃える、彼の瞳を確認した。

激しい炎だ。命の炎なのか、その光を目に宿し、真司はライアを見ている。

揺ぎ無い意思の、焔。

 

 

(そう、そうだな)

 

 

ライアは、悟る。

 

 

「俺は、俺はァアァアアアアアアア!!」

 

「……ッッ」

 

 

思えば、雄一の事を思いながら戦った時点で決まっていたのかもしれない。

彼の為に、彼との誓いの為にと言う思いは、言い訳でしかなかったか。

本当にその覚悟があったのなら龍騎達の背後に自分自身は視ない。

 

 

「………」

 

 

その時、エビルダイバーの勢いが弱まる。

押され始めるライア、それは攻撃の意思を弱めたからではない。

エビルダイバー自身が動きを鈍らせたからだ。

 

ミラーモンスターは意思を持つと同時に、主人である騎士の鏡像でもある。

ならば動きを弱める理由、ライアに分からない筈が無い。

けれどもライアはそれを否定したくて、喉が潰れるほどの叫びを上げる。

 

だが一度理解してしまったら後は、一気に理解が進むだけ。

エビルダイバーはみるみる勢いを弱めてしまう。

 

 

(……すまない、エビルダイバー)

 

 

決着がついてしまったんだ。

それは龍騎とのではない、自分自身との戦いの話だ。

雄一の為に鹿目まどかを絶対に殺さなければならないと思っていた。

しかし戦う中で雄一や真司、まどかやほむらの事を思い出す。

その中でライアは改めて一つの真実に至った。答え? いや、真実だ。

 

 

(結局、俺は――)

 

 

まだ、運命の鎖に囚われていたのだと。

あの日から何も変わっちゃいない。友との誓いを自分の生きる意味として都合よく利用していただけ。虚構な骸だった、要はつまり――

 

 

「俺は、運命に負けたままだったんだな……ッ」

 

 

あの日、雄一を死なせたときと何も変わっていなかった。

変わっていたつもりでも、呪いの様に雄一との思い出がつきまとっていた。

それを振り切れず、縋り、結果その思い出の中に取り残される。

 

鹿目まどか、暁美ほむら、城戸真司は、自分と同じ様に思えても、前に進もうとする意思があった。

しかしライアは前に進んだつもりでも、また後戻りをしていただけだ。

そしてそれを永遠に繰り返す。

 

前に進もうとする彼等と、過去に縋る自分。

やはり思えば思うほどに決着は最初からついていたのかもしれない。

ライアはつくづく、そう思った。

 

 

(すまない、雄一……)

 

 

お前が託してくれた想いを、俺は歪んだ物として受け止めてしまった。

だから――

 

 

「城戸、聞かせてくれ」

 

「!」

 

「運命がお前の敵だとすれば、お前はどうする?」

 

「……ッ」

 

 

龍騎は迷わずに答えた。

 

 

「運命を、ぶん殴るさ!!」

 

「……フッ」

 

 

やはり、はじめから決まっていたんだな。

そう言う運命だといえばいいのか。

 

 

「すまない雄一、エビルダイバー」

 

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、負けだ」

 

 

運命に負けたままのライアと、運命を変えようと抗う龍騎。

勝てる理由など、どこにも無かった。エビルダイバーはライアの意思を理解し、動きを止める。

ライア自身が、エビルダイバーを止めてしまったのだ。

 

ハイドベノンは中断され、一気に龍騎の竜巻防御が水流を打ち破った。

爆風にもまれ、ライアは仰向けに倒れる。

空が見えた。相変わらず空は、変わらぬ青いままだ。

悔しさも、虚しさも、全て空に吸い込まれていく気がして、ライアは何も話す事ができなかった。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

ライアを打ち破ったはいいが、力を使いすぎたようだ。龍騎は膝をついて息を荒げている。

勝った筈なのに、何故か凄まじい虚しさが龍騎を包んでいた。

手塚にも譲れぬ想いがあったろう。それを超える事は、彼の想いを否定する事と同じだから。

 

もちろん否定しなければ、まどかは守れない。

だから後悔は無いが、達成感などの感情は湧き上がってこなかった。

ライアの思いを踏みにじり、自分の思いを通す重さと責任。

その重圧が龍騎に圧し掛かる。

 

 

「行かないと……! 皆のところに――ッ!」

 

 

龍騎はふらつく身体を叱咤して立ち上がった。

しかし二歩ほど進んだ所で、また崩れ落ちてしまった。

一方で倒れたまま動かぬライア。決着はあっさりと着き、それについて語る事もしない。

 

ライアは心の中で考えていた。

生きる意味を賭けて戦ったつもりだった。

しかし自分には何も無かったのかもしれない。

 

だったらこれから何をすればいい? どう生きていけばいい?

ライアはそれを無意識に口に出していた。

すると龍騎が、振り返る事なく口にする。

 

 

「占いとかっ! 過去とか……ッ! そう言うの全部取り払って、手塚の歩きたい道を歩けばいいだろ!」

 

 

何度も膝を突きながらも歩く龍騎。

 

 

「もう、手塚の運命の道は終わったんだ……!」

 

「……!」

 

 

それだけを言って、龍騎は離れていくのだった。

残されたライアは無言で空を見ていた。

 

 

「俺の、やりたい事か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激闘を繰り広げているリーベエリス跡地。

しかし織莉子邸でも別の戦いが繰り広げられていた。

いや尤もそれは戦いと言うにはあまりにも一方的なものなのだが。

今も薄暗い倉庫の中では二人の男が対話を行っている。

 

一人は椅子に縛られ、疲労しきった様子で苦笑いを浮かべていた。

両手の爪は全て剥がされてしまい、それは両足も同じだった。

乱雑に巻かれた包帯に赤い血がにじみ出ているのが何とも痛々しい物である。

そしてその男の前には、黄金の鎧を身に纏った騎士が腕を組んで立っていた。

 

 

「いい加減、諦めたらどうだい?」

 

 

オーディンは呆れた様に北岡へ言った。何故、彼はここまで蘇生を拒むのだろうか?

オーディンが嫌いだから? いやいや、ココまで来ると何か別の理由があるのではないかと思うのが当然だろう。

北岡は利口な性格の筈。いくら何でもココは強情を張るべき場面では無い。

 

 

「嫌だねぇ。蘇生させた瞬間、殺されちゃうんでしょ? 俺」

 

「そんな事はしないと何度も言っているじゃないか。むしろ僕は貴方を彼女のパートナーとして最高のもてなしたい。こんな事をさせないでほしい、どうか考え直してください」

 

 

気持ちは分かる。

この状況、北岡が警戒心を抱くのは当然の事だろう。

 

 

「だがそもそも、こうなったのは、貴方がいつまで経ってもさやかを蘇生させないからだ。僕は悪くない」

 

 

オーディンは胸を張ってそう言った。

それが北岡を余計にイラつかせるのだが、今はそれどころではない。

頭の中にはうじゃうじゃと蟲が這う感覚がしているのだ。

今すぐに自分の頭蓋骨に穴をあければ、きっと大量の蟲が湧き出てくる筈だろう。

病の進行具合に思わず笑ってしまいそうになる。脱出のチャンスを伺う前に、壊れてしまいゲームオーバーとなるか?

 

正直、もう何故こんなに意地を張っているのかも分からなくなってきた。

さっさと美樹さやかを蘇生させれば済む話では? 本当の事を言えば何度もその考えを持った。別に50人くらい殺してもいいのでは?

北岡はデッキに選ばれた。そうでない奴らを殺しても、それは食物連鎖を一つとして処理されてもいい事なのではないだろうかと。

 

しかしその考えに身を沈めようとすると、必ず二人の人間が目の前に現われてしまうのだ。

一人は唯一の親友、人のままで居てくれと言われた。

そしてもう一人は泣いているパートナー。

アイツはどうでもいいと思う。そもそも何でお前のせいで俺が振り回されないと駄目なんだ。

お前がどうでもいい理由で絶望なんかして、脱落しなければこんな目に合う事だって無かったのに。

なのに、なのに、何でお前の言葉で、俺の心が決断を鈍らせる?

北岡は、分からなかった。

 

 

「お前、50人殺すのに、何とも思わなかったのか」

 

「ああ。なぜならこの世には、必要な犠牲と言うものがあるからね」

 

 

何も皆殺しを企んでいる訳じゃない。世界の終焉を望んでいる訳でも無い。

ただ環境が整い、人が資源になるルールがそこにあっただけ。

 

 

「だから僕はその資源を有効に活用しただけさ、僕達はデッキと言う力に選ばれた。言わば人を超越した存在にある。人間であり、人間ではない、故に周りの人間を犠牲にする事は、僕達のみに許された行為なんだ」

 

 

その地位に立てた事を受け入れ、そしてルールに従っているまで。

 

 

「あっそ……」

 

 

それだよ、北岡はどうにも気持ちが悪い。

環境が変われば堕ちても良いのか? ああいや堕ちている感覚すらないのか。

人であり人ではない? いやいや、気づいて無いなら教えてやるよ。

多分――

 

 

「お前は、初めに資源として人を殺した瞬間から、人間じゃなくなった」

 

「っ?」

 

「それは駄目だ。俺は人のままがいい。この完璧なスーパー弁護士のままでいたい。12人くらいなら殺しても良かったが……、流石に50はダメだ」

 

「何を言っているんだい? それより、いい加減決めていただきたい」

 

 

オーディンは苛立っていた。もう、すぐそこまで来ているのに。どうしてこんな足踏みをしなければならないのか。

北岡ははぐらかしてばかりだ。

 

 

「………」

 

 

オーディンは首を振ると、しばらく沈黙を続ける。

諦めた訳ではないが、何を言っても無駄だと分かったのだろうか?

激高しないだけマシか、北岡はうな垂れて、直後少し離れた所に無造作に置かれている自分のデッキを見る。

 

中途半端に離されているおかげで手元に呼ぶ事もできない。

なんとかデッキさえ取れればとは思うのだが……。

 

 

「………」

 

 

オーディンは必死に考えていた。

今でも目を閉じれば、さやかの笑顔が思い浮かぶ。

早く彼女に会いたい、ただそれだけの純粋な想いなのに、何故うまくいかないんだ。

苛立つ心を必死に抑えながら思考をめぐらせる。何か手は無いか? 何か……。

力押しだけじゃない何かもっと良い手は。

 

 

「……!」

 

 

その時だ、オーディンの記憶に思い浮かぶ、ある会話。

あれは東條が北岡の所にやって来た時の会話だった。

 

 

(これだ……!)

 

 

北岡は頭の良い男だ。しかし彼は今、相当疲労しているに違いない。

食事は水だけ。出血からくる気ダルさ、ろくに眠っていないため鈍る判断力。

そして、彼を蝕む病。

 

オーディンも北岡が咳き込んだときに吐血を行ったところ見て、彼の体に巨大な爆弾がある事を理解していた。これらの要因は、冷静な判断を鈍らせ、北岡の思考を単純な物にしていく。

 

 

「北岡さん、そんなに僕の事が信用できないのかな?」

 

「まあね」

 

 

オーディンはその時、北岡の目にしっかりとした殺意を視る。

北岡はどうやら人を殺したくないとウジウジしている訳では無いようだ。

 

 

「………」

 

 

そうか、そうだな。東條の言うとおりだ。オーディンは心の中で礼を言っただろう。

少し、焦りすぎていた様だ、こんな事では北岡が心を開いてくれないのも当然であろう。

織莉子達の事もある。そろそろ、この戦いに決着を付けて皆のところに向かわねば。

 

 

「分かったよ。北岡さん、信頼は大事だからね」

 

「?」

 

「今までの無礼を許して欲しい」

 

 

オーディンはそう言うと、北岡を縛っていたロープとワイヤーを引きちぎる。

北岡は無言で拘束の痕をなぞった。向こうは何が何でもさやかを助けたいと言う事なのだろうか?

もしくはあえて拘束を解いたのか、だ。

 

 

「北岡さん、ただし一つだけ忘れないでほしい。貴方の命など、いつでも消せると言う事を」『スキルベント』『スキルベント』

 

 

オーディンはふと、二枚のカードを発動してしてみせた。

 

 

(なんだ? スキルベント……? たしかパートナーの魔法が関係した効果だったか?)

 

 

とすれば、思いつくのは未来を視たと言う事か。

しかし発動したのは二枚だ。なんだ? 何をする? 北岡の表情に気づいたのか、オーディンは心配しないでほしいと念を押した。

 

 

「今のは僕の未来と、織莉子の未来を視ただけさ」

 

「………」

 

「僕らには時間が無い。そうでしょう?」

 

 

確かにそうだ。まどかの事もあるし、病の事もある。

安定を取るなら、まだオーディンに合わせていた方が賢い手段と言えるだろう。

 

 

(そもそもヤツには未来が見えている筈。それを踏まえた上で慌てる様子が無いと言う事は、俺がさやかを蘇生させる未来を見ている――?)

 

 

それとも見えていないから手段に困っているのか?

 

 

(駄目だ、どうとでも考えられる。ヤツにはまだ時間がある)

 

 

織莉子には余裕があった。いくら未来が変わるリスクがあったとしても、おそらくこのままならば鹿目まどかは今日で死ぬのだろう。

仮にまどかが勝つ、もしくは絶望の魔女にでも覚醒しようものなら、オーディンだって戦場に行っている筈だ。

 

 

「………」

 

 

鹿目まどかが、死ぬ。

まあ、あの性格だったから当然だろう。

それに絶望の魔女である彼女には死んでもらったほうが北岡としても助かる。

 

助かる。

そう、大いに助かる。

 

 

「………」

 

 

助かるが――!

 

 

『先生は、最後まで人でいてください』

 

『センセーは……、誰も殺さないでね――』

 

 

ああ、もうまたか。

しつこいなゴロちゃんもお前も。勘弁してよ。

まあでも、仕方ないか。

 

 

「――ッ」

 

 

少し気に入らないもんな。

この流れは。

 

 

「変身を解除しろ糞ガキ」

 

「!」

 

「変な動きをしたら、俺は絶対にさやかを蘇らせない」

 

「何を――?」

 

 

北岡はため息一つ。

そのあと、飛び出す様に椅子から立ち上がると、無造作に置かれていた自分のデッキを掴んだ。

 

 

「オーディンの力を過信しすぎてデッキに注意を払うのを忘れたか?」

 

 

北岡は笑うと、すぐにゾルダへと変身を行う。

マグナバイザーをオーディンへ突きつけて、自分に従う様に告げた。

 

 

「いいか、少しでもおかしな動きをすれば、俺はさやかを蘇生させないぞ」

 

 

脅迫の文句としては間抜けな――、と言うか効果があるのかゾルダでも分からなかったが、とにかくオーディンがさやかに執着している事は間違いの無い事だ。

それを盾にすれば自分を守れるのではないかと。

 

 

「どういうつもりだい北岡さん……! 僕は貴方を信用して拘束を解いたんだよ」

 

 

流石にコレは予想外だったか?

未来を変えた、とまではいかないかもしれないが、過程を滅茶苦茶にする事はできる筈だ。

それに参加者の死が未来を変える重要なファクターである事は知っている。

脱落確定アナウンスは流れていないものの、誰かが既に命を落としている可能性は高い。

だからこそオーディンは先ほど未来を確認したのではないだろうか。

 

とにかく、ゾルダには時間が無い。

ワルプルギスの夜までは持つだろうが、それは薬を飲めばと言う事。

手塚が持ってきた分じゃ足りないのだ。かと言って手塚の言うとおり今日一日ご機嫌を取ると言うのも北岡には受け入れがたい。

 

理由としては簡単。

ごく単純に、目の前にいるガキが気にいらない。

イライラする。今のままでは確実に最終日前に色々な意味でぶっ壊れてしまう。

だからとにかく、ゾルダは急がなければならなかった。尤も、彼自身何を急げばいいのかさえも分からないが。

それだけ頭の蟲が北岡の脳を齧っているのだ。

 

 

「いいからさっさと変身を解除しろ。コレも信頼だ」

 

「いい加減にしてもらえないだろうか。僕が本気を出したら、君を殺すなんて簡単なんだよ」

 

「そしたらお前の大事なさやかは蘇らない」

 

「ハッ、それも勘違いだ」

 

「なに?」

「別にキミに執着せずとも、ゲーム終了後の願いを使えば彼女は蘇生される」

 

「……お前にはその未来が視えているのか?」

 

「ッ?」

 

「織莉子がそれを許すか? そして参加者の中には隠れている奴もいる」

 

「……ッッ」

 

「魔法少女のシステムがある以上、さやかを蘇生させるには一人勝ちしかあり得ない。今はステルスを貫いてる参加者もいるみたいだからな。はたして上手くいくかどうか?」

 

 

隠れている参加者を炙り出すのなら、見滝原中にいる人間を殺せばいい。

しかし織莉子はそれを許すか? そんな無茶がまかり通る未来が視えているのだろうか?

 

 

「無いな。無い、今の未来はそれを示して無い」

 

「………」

 

「さあ、早く変身を解除しろ!」

 

 

尤も、変身を解除すればお前は終わりだがな。

ゾルダは仮面の奥で、決意と殺意をギラつかせていた。

確かに人を殺す事は獣になる可能性を秘めた危険行為である。

しかしこの世には消しておかなければならない人物もまた存在しているのだ。

何のために死刑がある? それは人で無くなった物を裁くための最終手段であろうが。

 

 

(北岡裁判でお前は死刑だよ、オーディン)

 

 

コイツだけじゃない。

東條や杏子、ユウリ、要するに浅倉と同じ様なヤツは殺さなければならない。

 

 

(何故? 決まってるさ、俺が弁護士だからだよ)

 

 

こいつらは完全に黒、黒も黒で真っ黒だ。

手塚に言った通り、人を殺したが故に自分が獣になる恐怖が北岡にはあった。

今の北岡は、自分でもハッキリと分かる様に不安定だ。

 

死への恐怖。

病に選ばれた理不尽さの怒り。他の参加者に対する嫉妬。

見下す心、憎しみ。その中で自分を象徴する均衡が暴れだす。

 

 

「どうした? お前が変身を解除すれば、さやかを助けてやらなくも無い」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ」

 

「では――」

 

オーディンは変身を解除すると上条の姿に戻る。

さらにゾルダはデッキをこちらに渡す様に指示。さやかを盾にして上条へ屈服を迫る。

 

 

「さやかが大切なら言う通りにするんだな。お前の愛が試される」

 

「僕の愛は本物だ。見くびってもらっては困る」

 

 

上条は少し不満げにしながらも、ゾルダの指示通りデッキを滑らせて彼の方へと送る。

ゾルダは送られたデッキを踏んでみせた。この距離ならばデッキを手元へ戻す事も不可能だ。

自分がそうだった様に。

 

 

(くそっ!)

 

 

変身しても剥がされた爪が痛む。

本当は今このチャンスを使って彼に復讐をしたかったが、長引かせる意味が無い。

ああ、また蟲が動く。自分が何をしているのすら混乱で分からなくなる。

しかしハッキリと分かる事もある。目の前にいる上条は100人殺しを達成した。

そしてその意味。彼はもう人間ではない。獣と子供、嫌いな物に、嫌いな物が重なっている。

ああもういい、純粋に言えば良いだけの話だった。

 

 

(俺はコイツが気に入らない)

 

 

蟲が動く。

純粋なる殺意。

浅倉や杏子、ユウリ、みんな殺したい。

蟲が動く。今、引き金に手をかけてバイザーから銃弾を放つとしよう。それを上条の眉間に当てればどうなる?

 

簡単だ。いくらオーディンが強いとは言え、それは変身後の姿ならでの事。

ただの人間の子供である彼は――、多少なりとも強化されているかもしれないが、言うて人間の枠は出ていない。

確実に死ぬ、確実に殺せる。

ああ、蟲が、蟲が……。

 

 

(ああ、武器を持つだけでコレか。俺も相当キテるな)

 

 

堕ちるのが怖いと手塚に言った割には、意外とアッサリ殺せる気がしてきた。

そうだ、そうだ、そうに違いない。上条恭介は危険な男だ。

殺しておかなければ俺の安定は訪れない。蟲がうざいな、クソ。

 

 

(そう、結局は生き残るために有害なヤツを殺す。綺麗事をいい、人がどうのこうのと喚いていたが結局何も変わらない)

 

 

だがそれでもいい、俺はコイツが、ゲームを盾に人を殺すヤツが気に入らない。

正義を語ろうって訳じゃない、ただこの獣が、幸せな夢を見るのが何よりも気に入らない。

何人殺そうが構わない、どんな犯罪を犯そうが構わない、それは俺が弁護士だったからだ。

 

 

(今の俺は、『人間』だ!)

 

 

殺す。気に入らない、殺す。俺は獣になんかに負けない。

あの日から、父が人間でなくなったあの日から、俺は『人』としてのプライドに誰よりも拘ってきた、誰よりも縋ってきた。

 

それが俺が俺である為の証明だったからだ。

そして俺は今、日々、時間が毎分毎秒経つごとに、人でなくなってきている。

認められるかそんな事! 俺は、俺は、俺は、俺はあんな品の無い姿は晒さない。

ああ、クソ、止めろ。蟲め、俺の脳を齧るな。俺の腹に卵を産み付けるな。

 

いいか、クソ。

俺はだれよりも人で、そしてその中でも頂点に立つ資格を持った男なんだ。

その俺が今こうして獣に堕ちた――、しかもガキに見下されていると言う事実がッ、何よりも気にいらない!

 

城戸真司や鹿目まどかの様な馬鹿は、確かに馬鹿ではあるが、どこか羨ましいと思える部分もあった。しかしコイツは違う、こいつ等はもはや害悪。

人の皮を被った野獣でしかない。

 

 

(殺す。死んでも殺す……ッ!)

 

 

人の世の均衡は、理性ある物だけが作り出せるものだ。

獣には不可能なんだよ、よってお前は死刑だ。

 

 

「以上」

 

「ッ?」

 

 

ゾルダは今ここで、上条に対する明確な殺意を固めた、固めてしまった。

人で無いのなら殺して構わない。その考え方は果たして人が選ぶものなのだろうか?

ゾルダはそれに気づいていない。彼の追い詰められた状況が、己を失いたく無いと言う気持ちに呼応して歪な覚醒を遂げた。

 

人のままでいたいと思うゾルダの意思が、人としてのプライドを失いたくないと思う気持ちが、そのまま殺意に変換されていく。

北岡は今、特殊な形でゲームに乗った。あれだけ躊躇していたというのに。

それは彼が明確な(ぶき)を手にしてしまったからだろう。

力はやはり人を狂わせる。そして愚かな道化へと変えてしまうものだ。

 

 

(殺す!)

 

 

ココで上条の眉間を撃ち抜くのは簡単だ。しかしまだ安心できないのが現状である。

なぜならばデッキがなくとも上条はゾルダの攻撃を防ぎ、反撃に出る事ができる。

それはミラーモンスターシステム。掲げている性質に合った行動すれば、好感度があがり、なつく。すると、アドベントを使わなくとも主人を助けにくるのだ。

上条もそれは分かっているに違いない。

だとすれば、隙を伺っている可能性は高いのだ。ただ普通の弾を撃つだけでは駄目だ、一撃で確実に殺す手段でなければならない。

 

 

「耳を塞いで目を閉じろ、そして跪け。そうすればお前を信頼に値すると認めるよ」

 

「……分かりました」

 

 

不満げながらも、さやかを盾にすれば上条は言う事を聞いた。

なるほど、確かに想いは本物なのかもしれない。

ただ残念だとゾルダは仮面の奥で歪な笑みを浮かべた。

 

さやかは誰よりも人らしかった。

汚い部分もあったろうが、それをひっくるめて人だったんだ。

だがお前はもう違う、人を道具として見た時点で終っていた。

 

 

『ファイナルベント』

 

 

耳を塞がせたのは電子音を悟られないためだ。

聞こえているだろうか? だが構わない。ゾルダの前には武器を展開させるマグナギガが。

そう、彼はこの場でエンドオブワールドを放とうと言うのだ。

こんな場所で広範囲を焼き尽くす攻撃を使えばどうなるのか、しかもココは地下なのに。

 

けれどもゾルダに焦りは無い。

爆風はマグナギガとゾルダの防御力があれば問題なく、崩れ落ちた瓦礫もマグナギガを盾にしていけばどうとでもなると確信している。

 

別にシュートベントで良かったのではないか?

しかしゾルダにとっては全てを消し飛ばすファイナルベントでなければ駄目だったのだろう。

獣を消し炭にする。跡形も無く、存在さえも残さずに消し飛ばすにはコレしかないと。

 

そう、そうだ。彼は、ゾルダは、北岡は既に狂っていたのかもしれない。

病を抑えつつも、蟲は頭を食いつぶしていく。

北岡はプライドに固執し、その間に受けた軽い拷問に屈辱を重ねている。

そうだ、なぜ人である自分が、獣の上条に爪を剥がされ、食事を与えられず、見下されたような扱いを受けなければならないのか。

 

それは耐えがたい屈辱。

その積み重なった怒りが殺意になり、拘束が解かれた今、爆発した。

冷静な判断はできなくなり、気に入らない獣を一刻も早く排除しようと脳が命令を出す。

 

皮肉なものだ。

今のゾルダは、檻が破壊され外に解き放たれた『獣』そのものに見える。

そしてオーディンを殺す理由も、気に入らないから殺すと言うまるで『子供』の様ではないか。

 

 

「………」

 

 

マグナギガの展開が終了する。

ゾルダは引き金を引く事に躊躇は無かった。

人を殺すのが怖い、しかし人で無い物を殺す事は怖くない。

 

 

(死ね! オーディン!!)

 

 

引き金に手を掛けるゾルダ。

目障りなんだよ、何もかも。

 

 

「北岡さん、先に謝らなければならない――」

 

「!」

 

 

その時、耳を塞いでいた手が下ろされる。

そして閉じていた目が開かれる。浮かべるのは――

 

 

「僕は嘘をついた」『ディメンションベント』

 

 

笑み。

 

 

「!?」

 

 

黄金の羽に包まれてゾルダと、連結していたマグナギガが倉庫から消える。

ディメンションベント。指定した相手をワープさせる事ができるそのカードにて、ゾルダはある場所に転送される事となる。

 

 

「………」

 

 

上条は黒い笑みを浮かべながら一人だけとなった空間を歩く。

片手に携帯、そして片手で落ちていた自分のデッキを拾うと、汚れを払っていた。

携帯の画面にはSNSが。そこには『先程も確認していた』情報が記載されていた。

 

 

「馬鹿共が」

 

 

面白がって首を突っ込むからこうなる。

情報に踊らされる馬鹿ばかりだ。まあそのおかげでコチラは助かったんだけど。

上条はオーディンに変身すると、ゾルダを転送させた場所に自らもワープで向かう。

オーディンがワープできる場所は、目に映ったところと、一度足を運んだ場所だ。

 

 

「ああ、何て強い効果なんだろうね、ディメンションベントは。流石は力のデッキと言った所だよ」

 

 

一瞬で変わる景色。

オーディンは喜びを隠し切れない様子で声を震わせていた。

彼はゾルダに嘘をついていた言った。どういう事なのか? オーディンは腕を組みながら説明する。

 

 

「僕が発動した二枚のカード」

 

 

どちらもスキルベントだった。

オーディンはそれが二枚とも未来予知だと言ったが、それは嘘である。

一枚目は本物の未来予知だが、二枚目は違う。その『派生』である。

それは未来予知に続いて発動するもの、効果は簡単。

 

 

「未来にカードを発動できる」

 

 

意味が分かるかい?

そう、未来の景色に、カードの力を一つ齎す事ができるんだ。

カードを発動したポイントに時間が重なるまで、自分は何一つカードを使えなくなると言う大きなデメリットもあるんだけどね。

 

でも今の状況はまさに絶好のタイミングだった。

まさか貴方が、あそこであんな攻撃をするって分かったんだもの。

そんなに僕を殺したかったのかい? いやいや、残念だよ北岡さん。

 

 

「でもそのおかげで、僕は彼女へ一歩近づく事ができた」

 

 

もう自分でも分かっているだろ?

僕が未来に発動したカードはディメンションベント。

対象をワープさせる事もできるカードなんだ。

最強だよコレは、だって、だって貴方なら理解できるだろう?

身を以って体感した貴方なら。

 

 

「流石に見滝原の外に運ぶことはできないけど、僕が足を運んだ場所ならどこでも貴方を飛ばすことができる

 

「………」

 

「たとえばさ。マグマだとか硫酸のプールの上にキミを転送させる事もできる。まあそんな場所はないけどね」

 

 

ゾルダは放心したように立ち尽くしていた。

転送時に引き金を引いていたのだろう、マグナギガからは既に大量の弾丸が放たれた後だった。

つまりエンドオブワールドは無事に発動されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送された後の場所で。

 

 

「50人殺し、達成おめでとう」

 

「ば、馬鹿な……ッ!」

 

「いや、もしかしたら100人はいったんじゃないかな」

 

 

目の前にあったのは爆発や銃弾によってボロボロになったショッピングモールの一角だった。

オーディンは既に北岡が自分を殺そうとする未来を見ていた。

だからこそ、それを利用したまでだ。

 

磨り減った精神では、まともな判断は出来ない。

オーディンを一刻も早く殺そうとする焦りが、引き金を早く引きたいと駆り立たせる。

その結果が、破滅に繋がっているとも知らず。

 

そう、つまりゾルダはエンドオブワールドを転送されたショッピングモール内で発動した。

いくら見滝原が危険とは言えど、それを信じていない人間達は沢山いて、買い物にも出かける訳で。

ショッピングモールとあらば、人が集らない訳がない。

 

テロ対策で店内には警官や警備員が多く集っており、むしろ言い方を変えれば、それだけ人が多くなっている訳である。

そんな中、上条はショッピングモール周辺にゴルトフェニックスを飛ばしていた。

今の見滝原は、町で起こっている異変を面白がる人間達も多くいる。

そんな連中が、金色に光る鳥を見たらどうする? それは決まっている、生配信だの、SNSを盛り上げるために追いかけるんだ。

そしてゴルトフェニックスはショッピングモールの中に入り、もっと多くの人間を集めた。

 

 

その結果――

 

 

「お、俺は……! 俺は――ッッ!!」

 

「申し訳ない。僕としてもコレは少し気分が悪い」

 

 

でも、さやかを蘇生させる為なんだ。

僕は世界を敵に回しても、彼女を助けると自分に誓った。

だから他の人たちには犠牲になってもらうしかないんだよ。

オーディンはそう言いながら目の前に広がる凄惨な状況にため息を漏らす。

 

人があつまるショッピングモールに突如降り注ぐミサイルや銃弾。

それらは、そこにいた人達、器物を次々に破壊し無に返していく。

次々に起こる爆発。ゾルダは何が起こっているか分からずに思考を停止させる。

いや、磨り減った精神では、引き金から指を離す事すらできなかったのだろう。

 

ゾルダはショッピングモールを破壊し、そこにいる人々を焼き尽くした。

多くの人が集るショッピングモールだ。爆風や崩れ落ちた瓦礫でもカウントは行われ、すぐにゾルダの脳内にはジュゥべえの声が。

 

 

『よおゾルダ。50人殺し達成だ。頭で念じるだけで、いつでも美樹さやかを蘇生できるぜ』

 

『お、俺は――、俺は殺したのか!?』

 

『あ? 当たり前だろうが。どういう状況だよ、自覚してないのか?』

 

 

だったら今すぐ脳に刻め。

ジュゥべえはテレパシーでゾルダに事実だけを、真実だけを教えていく。

ゾルダが意図してか意図しないでかは関係ない。そこにある真実のメーターは確かに殺人を記録し、その死者を刻み込む。

 

 

『北岡秀一。テメェは確かに今、50人以上をブチ殺した』

 

 

それが望んでか望んでいないかは関係ない。

もし自分の望まぬ結果として死者を出してしまったのなら――。

 

 

『その事実、有効に使う事だな。オイラは騎士のサポーター。応援してるぜぇ』

 

 

それだけ言ってジュゥべえは通信を切る。

脱力するゾルダ、あれだけ渋っていた50人殺しを利用されたとは言え、いとも簡単に達成してしまったのだ。

ゾルダの耳には崩れ落ちる瓦礫の音や、爆発に巻き込まれた人の悲鳴が次々に聞こえてくる。

生配信だのとSNS関連で盛り上がっていた連中も爆発に巻き込まれて死んだ。

それが配信されているのだと思うと恐ろしい物があるもの。

 

しかしオーディンには関係ない。

彼は燃えるショッピングモールを見ながら達成感をかみ締める。

隣ではマグナギガを消滅させ膝をつくゾルダ。脱力したように景色を確認していた。

 

 

「俺は……、俺が――ッ!」

 

「大丈夫だよ北岡さん。時間が経てば、自分のした事が正しかったのだと理解できる日が来るさ」

 

 

問題はある。

ゾルダは今こうして50人殺しを達成した訳だが、だからと言って美樹さやかがすぐに蘇ると言う訳ではない。

 

オーディンにはその未来はまだ見えていなかった。

だが条件を揃える事ができたのは大きい、何はともあれと言う事だろうか?

これで彼女が蘇る確立がグッと高くなった。後はゾルダが死なない様にしておけばいい。

今の精神状態ならば、すぐに折れるかもしれないのだから。

 

オーディンは使用したカードを復元するカードを持っている。

それを使用してディメンションベントをリロードすると、それを再び発動して、ゾルダと共に破壊されたショッピングモールを後にする。

 

自分達の姿を誰かが撮影していたとしても、素顔がバレていないのだから問題はない。

そしてココにいれば、ショッピングモール自体が崩壊して自分達にも危険が及ぶかもしれない。

まあテロが何だといわれている現状だ。きっと今回もまたテロの一つとして処理されるのだろう。

 

 

「さあついた。貴方はココにいてほしい」

 

「………」

 

 

オーディンは織莉子達が戦っているリーベエリス跡地近くにワープを行うと、膝を着いて放心しているゾルダを一瞥する。

本当はさやかを蘇生させるまでに強引に持って行きたかったが、ココからは織莉子にも手を貸してやらねばならない。

 

 

「未来予知どおりなら、織莉子は今頃、鹿目さん達と戦っている所」

 

 

オーディンの役割は他の者達を粛清する事だ。

キリカ達の味方になって、他の邪魔な奴らを処分すると言う事。

もちろんワルプルギス用に仲間をつくっておきたいと言う事もあったため、織莉子と事前に邪魔になる参加者を選出しておいた。

 

そう、彼が殺すのは――

 

 

(王蛇ペアに、秋山蓮、そして暁美ほむら)

 

 

一人勝ちを狙う参戦派はいらないと断言できる。

そしてまどかに固執している風に見えた暁美ほむらも、念のために消しておきたいと言うのが織莉子達の意見であった。

ほむらの雰囲気から察するに、まどかが死んだ後に味方になる可能性はゼロ。

仲間になったとしても、それは復讐の為であろうとの事。

そんな危険因子を放置しておく必要もない。

 

 

「ゴルトフェニックス、彼を頼むよ」

 

「―――」

 

 

空から飛来してくる光。不死鳥は崩れ落ちたゾルダの前に着地する。

 

 

「おかしな行動を取るようならば、止めてくれ」

 

 

命令を受け、不死鳥は頷くと羽を収めた。

 

 

「さて、大詰めといこうか」

 

 

腕を組んで余裕な素振りのオーディン。

彼はゾルダに目もくれず、再びワープを行い戦いの場へと移動する。

 

一方で崩れ落ちたまま俯くゾルダ。

一瞬だった。景色が変わったかと思えば人の中に転送され、そして自分は焦るままに引き金を引いてしまった。

その結果爆発が起こり、人を次々に巻き込んでいく。

一瞬で消し飛んでいく命。なのにその命を奪ったという感触が自分の中には存在していない。

死んでいく人間達は、まるで映画のひとコマみたいに思えてしまう。

 

 

「結局俺も――」

 

 

既に獣だったのか。

いや、それよりもあんなガキにしてやられたと言う事実。

 

 

「クソッ!!」

 

 

ゾルダはバイザーを放り投げると、両手で地面を思い切り殴りつける。

何故、ココまで醜態を晒さなければならない。

それは自分が獣だったからか? それは自分の中に巣食う蟲のせいなのか?

行き場の無い怒りをどこにぶつければいいのかすらも分からない。

一つだけハッキリと分かる事があるのなら、今もなお頭に蠢く蟲の感触だけ。

 

 

「ウオアァアアアアアアアアァァアアァ!!」

 

 

叫ぶ。叫んでみたのか。

しかし何も起こらない。むしろ頭の中の蟲だけが声に反応しているかの様だ。

分かる。分かってしまった。何故ゾルダが獣を嫌うのか。それにはもう一つの理由があった。

 

それは、獣達は良いか悪いかは別としても、本能に従って活き活きとしている。

ゾルダの様に、ただ死を待つだけの虚しい自分にとっては、この上なく目障りだったんだ。

いろいろ考えている内に、何も考えられなくなっていく。

なんて虚しい、なんて愚かな、俺の生きている意味って何なんだ?

 

死を前にしてゾルダはその答えを見出せず、狂ってしまったのかもしれない。

 

 

(俺の人生は――ッ! 俺の人生はッッ!!)

 

 

――何だったんだ。

 

 

「誰か教えてくれよぉォオッッ!!」

 

 

どれだけ叫ぼうとも答えは返ってこない。

の代わりなのか、ゾルダ大きく咳き込み、クラッシャーから血が吹き出た。

頭と腹部に蠢く蟲の感覚だけが、ゾルダのリアルだった。

一瞬だけ、真司の職場にいた令子の姿が浮かぶ。

 

しかしすぐに髪の毛を失い、チューブまみれになっている自分の姿が浮かんできた。

別に、思い通りに人生、事が運ぶなんて思ってない。

けれど、それにしたって酷すぎるだろ。ゾルダは蠢く蟲を抑えるため、頭を抱えてもがき苦しむ。

その姿はきっととても醜く、愚かなんだろう。まるで死に掛けの虫みたいに。

 

 

「ァァアアァァアアアアァァアァア!!」

 

 

そこにある感情はただ一つ。大きすぎる虚しさだけ。

 

 

 

 

 






ジオウ続々と新情報が発表されて盛り上がってますな。
かなり楽しみですぞ。
なんつったって、また動く飛彩先生が見られるってのはええこっちゃやで。
ブレイブ好きなんですよね。


あとエグゼイドの小説見てて思ったんですけど、なんかの間違いが起こって敏樹が永夢とポッピーで一本書いてくれねーかな(適当)

あのお互いがお互いを気にしてるんだけど、それがまだ恋慕かどうか自分でも分かって無くて、依存寄りで、さらに種族が違うと来てって、もうこれ敏樹やないの(暴論)

あの漫画版クウガで最悪のお好み焼きデートを描いた井上さんが他のキャラクターを弄るならどういう風になるのかは、いつも妄想してしまいますな(´・ω・)b

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