仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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登場人物紹介、ちょっと追加しておきました


第54話 甘い人 人い甘 話45第

 

 

一方、ナイト達。

王蛇達が場を乱してくれているおかげで、キリカの魔法に一方的にやられると言う事は無くなった。

しかし杏子や王蛇は、当然ほむらやファムも狙ってくる。

それに合わせる様にしてキリカ達の攻撃が飛んで来るので、状況は必ずしもプラスになっている訳ではない。

そして、さらにその状況は大きく乱される。

それは途中からやってきた参加者、リュウガが齎した異変。

 

 

「お前、城戸……?」

 

 

ナイトは警戒しつつ距離を一定に保つ。

前からゆっくりと参加者の方へ向かってくるリュウガは、見た目だけならば龍騎と瓜二つだ。

紋章と複眼の形以外は、まさに龍騎を黒くしただけだ。

 

騎士のデザインはミラーモンスターをモチーフとしている。

しかしその素体は個々によってあらかじめ決められているもの。

ナイトやファムなど、似ている種類はあるが、それは結局似ているだけにしかすぎない

 

しかしリュウガと龍騎に関しては似ていると言うレベルではない。

ただの偶然なのか、別に似ている理由など無いのかは分からない。

けれども龍騎を知っている物からしてみれば彼から発せられる殺気には強烈な違和感を覚えてしまうものだ。

 

 

「アァァ、ムカつく顔だ。殺したくなる」

 

「………」

 

 

龍騎に一度してやられた王蛇としては、姿自体がイライラする。

それにリュウガとは前回の戦いでは、いい所で逃げられた。今度こそ殺すいい機会ではないか。

ましてや大聖堂で戦ったときには明らかに手を抜いていた。と言うよりも、『命令どおり』に動いていた気がしてどうにもつまらない。

 

ナメられた物だ。

王蛇は首をゆっくりと回しながらリュウガに近づいていく。

思わずタイガやキリカ、ほむらでさえ動きを止めて、その様子を確認していた。

 

 

「浅倉威。お前では俺には勝てない」

 

「アァ!?」

 

「因果がある」

 

 

殴りかかる王蛇の拳を、リュウガは片手で止めた。

その声を聞いて、ファムはゴクリと喉を鳴らす。心なしか声まで真司に似ている様な気が……。

けれども真司よりはずっと低く、冷たい。とてもじゃないがリュウガが真司とはファムもナイトも、サキやほむらも、言ってしまえばキリカ達ですら思わなかっただろう。

そして今の行動にも目を見張るものがある。王蛇の拳を片手で受け止めるとは。

 

 

「俺は最強の騎士だ」

 

「ハッ、口だけは立派だな」

 

「確かめてみるか?」

 

「アァア……、面白い――!」

 

 

蛇の様な笑みを浅倉は仮面の奥で浮かべた。

そして行動はすぐ。王蛇は掴まれた拳を一気に振りほどくと、その勢いを利用して回し蹴りに移行する。

しかしそれはリュウガも同じだった。

振りほどかれた勢いを利用して、王蛇とは逆回転に回し蹴りを行った。

ぶつかり合い弾きあう両者の足。

地面を擦り、後退する両者はまたもシンクロする様に動いていた。

双方自分のデッキに手を掛け、カードを一枚引き抜いたのだ。

 

 

『ソードベント』『ソードベント』

 

 

ベノサーベルと、ブラックドラグセイバーを構える両者。

ジッと構えるリュウガと、咆哮を上げて激しく切りかかっていく王蛇。

剣と剣がぶつかり合う音と飛び散る火花。それが一同の意識を鮮明にさせる。

 

 

「………」

 

 

先に動いたのはタイガだった。

デストクローを装備し、後ろを向いているナイトの方へと足音を消して忍び寄る。

向こうはまだ王蛇の戦いを見ている最中だ。

今なら無防備な背中に思い切り爪を刺し入れれば――!

 

 

(殺せる!)

 

 

話に聞けば、ナイトは参戦派に回ったとか。

最低だ。参戦派に回るヤツなんてクズばかり。夢を否定したあの北岡と同じだ。

故に生きている価値なんて無い。英雄になれる自分が殺してあげた方が幸せだろう。

タイガに迷いはなかった。むしろ英雄に近づけると言う喜びが彼の身体を支配している。

 

目の前にいるのは絶大なる悪、その悪を倒すのは相対的に正義しかありえない。

ナイトは悪、だったらそれを殺せば自分は正義と言う事になる。

英雄とは正義、だったら僕は英雄に――!

 

 

『ガードベント』

 

「え!?」

 

 

タイガがナイトの背に爪を突き立て様とした瞬間、ナイトの背にマントが出現する。

なんだこれ? 一瞬と惑うタイガだが、もう突き出した手だ。

彼はそのまま勢いに任せて爪をマントへと沈める。

 

だがマントはナイトの盾であり、同時に身を隠す物でもある。

タイガは自分の攻撃が空を切るのを感じた。

マントごしにでもナイトの身体を捉えた感触がない。文字通り黒い布をただ手で押している様な感触しか伝わってこなかった。

つまりナイトはマントの向こう側にはいないのだ。

 

 

「フッ!」

 

「うあ゛ッ!!」

 

 

ナイトはマントで自分の姿を消し、その瞬間上に跳んでいた。

そしてタイガの攻撃をかわしつつ、自分はダークバイザーをタイガの肩に振るう。

剣はタイガに問題なく命中し、衝撃に声をあげて大きく仰け反っていた。

その間にナイトはカードを発動しつつ着地。ウイングランサーを装備すると、タイガの背後を取る。

 

まずは蹴りだ。

蹴りでタイガを海老反りにさせると、右手に持っていたダークバイザーで背中を横に切る。

ダメージを受けて、声を上げつつもタイガは回転。次に来る攻撃を防ごうと、デストクローのガントレット部分を押し出す。

 

 

「甘いな」

 

「え? あっ!」

 

 

しかしナイトが取った行動は、左手に持っていたウイングランサーでタイガの脚を払う事だった。

デストクローのガントレットは大きく、二つを重ねれば上半身に来る攻撃は高確率で対処が出来る。

しかし下半身となると話は別だ。防御時にもっと姿勢を落とせばよかったものの、そこはセンスが関係してくるのか。

 

タイガはナイトの足払いを防ぐ事ができずに倒れる事になる。

それは絶好の追撃ポイントだ。ナイトは二つの武器でタイガを連続して突いていく。

必死に地面を転がるタイガだが、ナイトは起こすまいと彼を攻撃し続けた。

 

 

「あぐぁ! ひぃ!」

 

「――っ」

 

 

悲鳴が聞こえ、若干――、手の力が抜けそうになる。

罪悪感? 下らない、今さらもう遅すぎる事だろう?

ナイトは緩んだ力を押し戻す様に強く二つの武器を握り締めた。

しかしコレは個人戦ではない、すぐにナイトを妨害しようと彼に飛び掛る影が。

 

それはオーディンの使役モンスターであるガルドミラージュ。

彼はタイガを助けるためにチャクラムを投擲し、ナイトの身体に二つとも命中させる。

動が鈍るナイト。そのままガルドミラージュは空中で一回転。勢いを乗せて飛び蹴りを放つ。

 

 

「ハァッ!!」

 

「!」

 

 

しかしそこでサイドからの邪魔が入る。

ナイトへ飛び蹴りを仕掛けたガルドミラージュ、その横からファムが膝蹴りで割り入ってきた。

ミラージュは予想以上に素早いファムの攻撃に対応できず、ナイトへ届く前に弾き飛ばされた。

 

 

「蓮、お礼は?」

 

 

ファムは『ドヤ』と、ジェスチャーを行うが――

 

 

「フン」

 

「あぁぁ、はいはい……!」

 

 

ナイトは一瞥してすぐにタイガへ攻撃を仕掛けていく。

ファムは頭を押さえてヤレヤレと。さて、ここからどうした物か。タイガはそれなりのダメージを受けており、このままだと本当に危険かもしれない。

かと言ってタイガは仁美を殺した、明らかにおかしい男だ。

 

 

「………」

 

 

とは言え、仕方ない。

ファムはデッキからカードを抜き取ると、バイザーへと装填して効果を発動させた。

選んだカードはパートナースキルであるスイングベント、サキの武器である鞭のカードだった。

ブランバイザーの先端から光の鞭が伸び、ファムはそれを一度地面に叩きつけたあと標的に狙いを定める。

ではその標的とは誰なのか? ファムに迷いは無かった。

 

 

「ほっ!」

 

「!!」

 

 

ファムはナイトの腕に鞭を絡ませると、それを引いてナイトをタイガから引き剥がす。

 

 

「何をする!」

 

 

ナイトがファムを睨む。

しかしファムは無言で首を振るだけだった。

 

 

「邪魔をするな霧島ッ!」

 

「止めときなさい。それ以上はソイツ、マジで死んじゃうわよ」

 

「当たり前だ、殺すつもりなんだからな!」『トリックベント』

 

「!」

 

 

ナイトがカードをバイザーへセットしたかと思うと、身体が鏡が割れる様に消滅した。

かと思うとファムの背後から一閃。ファムは苦痛の声をあげて背後を確認する。

するとそこには剣を振り下ろしているナイトが立っていた。

 

分身のカードだ。

周りを見てもナイトは一人。では上は?

すると予想通り、空中に四人のナイトが翼を広げて待機している。

どれが本物なのやら。ファムは鼻を鳴らして剣を構えた。

 

 

「俺はあの時とは違うぞッ、霧島!」

 

「分からずや! 相変わらずの頑固ものね!」

 

 

ダークバイザーの一撃をブランバイザーが受け止める。

白と黒の斬撃はしばらく続くが、体力や力はやはりナイトの方が上と言った所だろう。

 

 

「ずいぶん目障りな女になったな霧島! 惚れた男に感化されたか?」

 

「うるせー! あんな馬鹿に誰が惚れるか!!」

 

「誰も城戸とは言ってない!」

 

「――、アンタのそういう所が嫌いなの!!」

 

『アドベント』

 

「ってッ、うわっ!!」「チッ!!」

 

 

そうしていると二人の間に飛び込んでくるデストワイルダー。

咆哮をあげてナイトとファムを引き裂こうとその爪を振るった。

幸い二人とも素早さには自信がある。地面を転がりその攻撃を回避してみせるが、そんな話ではない。ファムはイライラしたように地面を踏みつける。

 

 

「ちょっとアンタ! 助けてあげたでしょ! 攻撃やめなさいよ!」

 

「殺す、殺すッ! そうだよ、英雄になる邪魔をするやつは皆殺す!!」

 

「うわーお……!」

 

 

タイガはファムの声など聞いていないと言う様子だ。

確かにファムはタイガを助けた事にはなるが、タイガ視点でファムはナイトと友人だ。

クズの友人は皆例外なくクズ。その方程式に辿り付いたタイガにとって、ファムは既に揺ぎ無い敵なのである。

 

 

「戦うなって! 戦っても何にもならないじゃないの!」

 

「ダメダメ……、クズの言う事なんて聞く価値ないよ」

 

 

タイガはデストワイルダーをナイトへ向かわせ、自身はデストバイザーを構えてファムへ向かう。

 

 

(そりゃ、ま、ココまで来て戦うなってのが無理な話か)

 

 

ファムはため息をついた。

つくづく真司のやっていた事が無謀な事だと思い知らされる。

ファムは仕方なくウイングスラッシャーを構えてタイガを迎え撃つ事に。

 

 

「ちょっと君。最初に言っておくけどね、英雄ってのは女の子には優しくする物なのよ」

 

「――ッ!」

 

 

ピタリと動きが止まるタイガ。

女の子には優しく? だったらファムには攻撃できな――

 

 

「騙されるな! ソイツの言う事はデタラメだ!!」

 

「ッ!」

 

 

背後から声。

見れば黒い爪がファムに向かって飛んできている。

ファムは舌打ちをしつつ素早く身体を反らして爪を回避。地面を転がりつつ状況を整理する。

やってきたのはキリカだ。彼女は素早い身のこなしでタイガの隣に距離を詰めていた。

 

 

「相棒、言葉に惑わされちゃダメダメだ!」

 

「え?」

 

「私の――、君自身(わたし)の言う事だけに耳を傾ければいい!」

 

 

アレは敵なんだ、キリカはそう言ってタイガの目を見る。

 

 

「……そうか、そうだ、僕を惑わそうとする悪党の言葉に耳を傾けてはいけない」

 

 

タイガは頷くと、再びファムへと向かっていく。

 

 

(くあぁぁあッ、いい手だと思ったのにッ。なによ!)

 

 

そこでファムは気づいた。真下に広がる減速魔法陣。どうりでタイガがあんなに早く――!

 

 

「ハァアアッ!!」

 

「うぐっ! ッッ!」

 

 

ファムは何とかタイガの攻撃を回避しようと試みるが、既に攻撃のスピードについていけてない。

すぐにファムの身体から火花が散った。なにより、ファムは真司に感化されている。他者を傷つける事が正しいのかと、攻撃をする事に躊躇してしまうのだ。

 

 

『ナスティベント』

 

「!」

 

 

空中から飛来してくるダークウイング。

そして同じく空中から飛来してくる三体のナイト。どうやら其方が動いたらしい。

まずは巨大なコウモリから超音波が放たれた。

 

 

「うあぁあああああああ!!」

 

「……ッ」

 

 

音波攻撃ソニックブレイカーは、ファムやキリカ達に等しく降りかかる。

ナイトには一つの考えが合った。確かにキリカの魔法は非常に強力で厄介だ。

しかし弱点が一つあるのではないかと言う事。

それは全体攻撃においての対策である。減速すると言う事は、逆に言えばそれだけ攻撃時間が長くなると言う事でもある。

つまり脳を破壊されそうな音波攻撃が、キリカにはずっと遅いかかるのではないかと言うこと。

 

キリカは減速魔法を発動していながらも、普通に会話ができていた。

それは『音』に関する事は、普通に伝わる様に設定されているのではないだろうか?

さらに言えばいくら防御が硬くても、音に対する対策はできぬ筈。

つまり頭を破壊しようとする不快な超音波は普通に伝わるが、その継続時間は減速魔法によって延長されていると。

 

 

「うがぁっ!」

 

「フッ!」

 

 

やはり――、ナイトの狙い通りだった。

耐えられなくなったキリカは減速魔法を解除する。

彼女にとっては攻撃を受ける時間が長引くだけなのだから。

 

攻撃を耐えつつ、上空にいるダークウイングを狙うという手もあったのだろうが、激しく脳を揺すられる中では、そこまで考えが回らなかったようだ。

これは助かった。ナイトは分身たちと共に走り、キリカとタイガを追い詰める。

 

 

「「「ハァ!!」」」

 

「うわわわ!!」

 

 

ナイト達の剣がキリカとタイガを切り裂く。

超音波はナイトには効果がない。ナイトは的確な剣捌きでキリカの爪を弾き、タイガを蹴り飛ばす。

それを見て首を振るファム。駄目だ、駄目駄目、こんなのを通していい筈が無い。

しかしファムも頭を抱えて呻いているところ。脳がグチャグチャになる。

 

 

「ああもう! 本当に性格悪い攻撃するわね!」

 

 

しかしそこで音波攻撃が中断される。

ファムが辺りを確認すると、チャクラムがダークウイングを妨害していた。

その発射主が、ファムのほうへ駆け寄ってくる。

 

 

「うわわッ!」

 

 

飛び掛る様に蹴りを繰り出してきたのはガルドミラージュだ。

ファムを敵と認識しているミラーモンスターを説得するのは流石に不可能か。

できれば戦いを止めたいと言う真司の意思を汲みたかったが――!

 

 

(やっぱそう簡単にはいかないわよね!)

 

 

ファムはマントを翻してガルドミラージュの目を眩ませる。

その隙を狙い、渾身の突きをガルドミラージュへと打ち込んだ。

しかし攻撃は命中した筈なのに手ごたえが全く無い。

それもその筈、ガルドミラージュの能力は幻影だ。

突きを受けたのはフェイク。ゆらめくように消えていく。本体は少し離れた所で孔雀のような羽を広げていた。

 

 

「うっ! くっ!!」

 

 

広げた羽から無数のチャクラムが飛来してファムの装甲を削っていく。

さらに動きを止めているところへ飛び蹴りが直撃した。攻撃を受けて地面を転がるファム。地面に倒れた彼女は、力なく大の字に寝転んで耳を澄ませる。

 

武器と武器がぶつかり合う音。

攻撃を受けた物が苦痛に呻く声。

そこには純粋なる戦いの音が響き渡っていた。

 

 

(コレ――ッ、こんなの止められるの……?)

 

 

無理だろ、とは思いたくない。

だけど途方も無い事にしか感じられなかった。

やはり真司は凄い。良い意味でも悪い意味でもだ。

 

 

「悪いけどココは、私のやり方を通させてもらうか」

 

 

ファムはそう決めるとカードを引き抜きつつ立ち上がる。

 

 

「とりあえずアンタは消えて……!」『ガードベント』

 

 

ファムはブランウイングの翼を模した盾、ウイングシールドを構えてマントを広げた。

自分の元に向かってくるガルドミラージュ。その行く手を阻むようにしてシールドから大量の羽が噴出される。

ファムはマントを翼の様に自在に動かす事で風を発生、大量の白き羽を拡散させて相手の視界を封じる手に出た。

 

 

「……!」

 

 

しかしガルドミラージュも対処の手は打ってくる。

翼を広げ、大量の粒子を風に乗せて発射する。

光の粒はファムの羽に触れると小さな爆発を起こし、次々に羽根を散らしていく。

あっと言う間に鮮明になる視界、ファムは戸惑いを隠せず、再び羽を出現させていく。

 

しかし既にその姿は捉えていた。

今更目くらましなど意味の無い物だと言わんばかりに、ガルドミラージュはチャクラムを投擲する。

だがファムも盾を前に突き出している状態だ。普通ならばチャクラムは盾にぶつかって終わりだ。しかしココでガルドミラージュは両手を左右に広げるアクションを取った。

するとチャクラムが腕の動きに連動しているかの様に、起動を左右に反らしてファムの両隣を通り抜けて飛んでいった。

 

 

(外した?)

 

 

いや違う。

ガルドミラージュは左右に広げた手を前に突き出し、そのまま両手を真ん中で合わせると手前に引く動作を取る。

すると二つのチャクラムが中央へ収束して、引き戻されるように軌道を変えた。

チャクラムは風を切り裂き、白い羽を散らしながら猛スピードでファムの背中を狙う。

 

 

「ハズレ」

 

「!?」

 

 

だがファムにチャクラムが命中したと同時に、彼女の姿が白い羽となって消える。

そう、ウイングシールドには盾や目くらましの他に、自分の分身を生み出す効果もある。

ライアのトリックベントの様な効果でもあると言えばいいか。

舞い散る羽が収束していき、ガルドミラージュの背後で実体化する。

手にはウイングスラッシャー、彼女はそれを思い切り振り下ろした。

 

 

「くらえ!」

 

「………」

 

「!?」

 

 

金色の刃がガルドミラージュを縦に引き裂いた。

いや、違う。手ごたえが無い。つまりコレは――!?

 

 

「……!」

 

「んなッ!」

 

 

そう、ガルドミラージュの能力は幻影。これも偽者だ。

分身は霧の様に消え、ファムの背後にガルドミラージュが出現する。

逆に背後を取られた、ファムはすぐに身体を反らすがもう遅い。ガルドミラージュはチャクラムを巨大化させて、『圏』に変えてファムを切り裂く。

 

 

「それもハズレ!」

 

「!」

 

 

だがファムは再び消える。

まだガードベントは継続中である。白い羽の幻影効果は消えていない。

 

 

「できる女は芝居が上手いの。覚えておきなさい!」

 

「!!」

 

 

ファムが横に振るったウイングスラッシャーは確かな手ごたえを感じていた。

切り裂く音と共にガルドミラージュから舞い散る火花。このリアクション、間違いなく本物と言う事。ファムは走り、怯んでいるガルドミラージュへ追撃のブランバイザーを何度も突き入れる。

コレは危険と悟ったか、ガルドミラージュは羽を広げてファムを牽制。

 

 

「!」

 

 

しかし体勢を整えたか、ガルドミラージュは回し蹴りでブランバイザーを弾くと、一旦大きく後ろへ飛んだ。ファムのフィールドを作らせてはいけない。ガルドミラージュは羽ばたきで粒子を拡散、白い羽を全て散らしていく。

ファムもガードベントの効果が時間性で切れたのか。

分身を作れる状況は完全に無くなってしまう。

 

 

「――ッ!」

 

 

対してガルドミラージュは拡散させた粒子で分身を作り出し。

あっと言う間にファムの前には何十体ものガルドミラージュが出現していった。

この中に本物は一体だけ。ガルドミラージュの分身は実体を持たないため、攻撃を行うことはできないが、それでも相手を混乱させるには十分だった。

 

だがファムに焦りはない。

彼女はデッキからパートナーとの絆で生まれたカード、スキルベントを抜き取る。

魔法少女の固有魔法を使えるこのカード。成長とはすなわち強化としても捉える事ができる。

ファムが使用したのはスキルベント、『ライトニングセンス』。自身の感覚を超感覚へと昇華させる事ができる物。

ファムはその状態で視力や聴力を研ぎ澄ませ、ガルドミラージュを素早く観察する。

 

すると分身の中にハッキリと一体だけ、他と動きが違う物が見えたのだ。

それはダメージからくる怯み、フラつき。早く決着を付けたいと言う焦り。

自我を持つミラーモンスターだからこそ生まれる異変。それにそのガルドミラージュ以外は、目を凝らすと周囲の景色が少し揺らめいている。

 

 

「お前だ!」『シュートベント』

 

 

白いボウガン、ウイングシュートを呼び出して、ファムはその違和感を放つ一体に向けて矢を発射する。ガルドミラージュはまさか自分の事をファムが見破るとは思っていなかったのだろう。

早く体力を回復させようと思う心が、ファムが放つ矢を回避すると言う選択肢を潰してしまった。

 

結果、矢はガルドミラージュの胸に突き刺さり。衝撃とダメージで回転しながら倒れる。

そして本体が攻撃を受けた事で分身たちは消失。ファムはウイングスラッシャーを構えて、全速力で走りぬけた。

すぐにガルドミラージュは矢を引き抜きつつ立ち上がっていたが、もうファムは目の前に。

 

 

「フッ!」

 

 

ファムは通り抜け際に一閃、さらに動きを止めたガルドミラージュの背後に上から下へ武器を振り下ろした。

血のように飛び散る火花、さらにファムは回し蹴りでガルドミラージュを回転させ、自分の方へ向けさせる。その胴体へ思い切り突き出すブランバイザー。よろけながら後退していくガルドミラージュへ、トドメの一発としてファムは飛び回し蹴りを打ち込んだ。

 

 

「!!」

 

 

手をバタつかせて後方へ下がっていくガルドミラージュ。

しかし彼もまだ反撃を諦めていない。しっかりと羽を広げて粒子をファムにむけて発射した。

だがファムはそれをしっかりと確認、マントを翻して粒子を防いでみせる。

さらにマントを振るうことで風が発生する。飛んできた粒子が反射されてガルドミラージュへ命中していき、爆発を巻き起こしていった。

 

 

「ナメんなよ!」『ファイナルベント』

 

 

爆発に揉まれ地面に倒れたガルドミラージュ。

その真下から飛び出すのはブランウイングだ。ガルドミラージュを空に打ち上げ、そのまま羽ばたきで強風を巻き起こしファムの方へと強制的に移動させる。

凄まじい風はガルドミラージュの平衡感覚を失わせ、抵抗させる力さえも強引に奪ってしまう。

対してウイングスラッシャーを頭上で激しく回転させ、ファムは気合を入れつつ狙いを定める。

 

 

「消えなさい……ッ!」

 

 

ガルドミラージュ。ガルドサンダー。ガルドストーム。

彼等もまた気の毒な存在なのかもしれないとファムは思う。

戦うために生み出され、心や意思はあれど結局望まれるのは絆ではなく利益だ。

 

それは他のミラーモンスターにも言える事。

戦いを否定することは、ある種彼等の存在を否定する事にもなる。

だが戦いを望んだとしても彼等は本当に救われるのか? ああ、なんて愚かな存在か。

 

 

「ハァアアアッッ!!」

 

「―――――」

 

 

ファムが巻き起こした黄金の一閃が、ガルドミラージュを一刀両断にする。

上半身と下半身。二つになったガルドミラージュはファムの背後で爆発し、消え去った。

ファムは大きな息を吐いて勝利を実感する。なるほど、確かに虚しい勝利だ。

ミラーモンスターの欠片でこれなのだ、他の参加者を殺しても爽快感など覚える訳が無い。

 

 

(くそっ! やっぱ止めるしかないのね……!)

 

 

そんな意思を固めるファム。

その少し離れたところでは杏子とほむら、サキが戦っていた。

ほむらは杏子の周りを走り回り、ハンドガンの銃で威嚇していく。

そちらの方に注意を向けさせつつ、サキが攻撃を繰り出すと言った流れのようだ。

 

 

「フッ!」

 

「おいおい! こんな糞パンチでアタシを止められるとでも思ってんのかよ!!」

 

「ぐッ!」

 

 

なのだが、どうにも硬い。

文字通り分厚いゴムを殴っている様だ。サキは表情を歪めてバク転を。

そこに襲い掛かる槍。斬り払いの為、後ろへ回避した事で掠る事もしなかったが、どうにも硬直状態が続いている。

だが全くダメージが通らない訳ではない。動き回るほむらの銃弾には、流石に痛みを覚える様だ。

 

 

「さっきからチョロチョロうぜぇんだよ!!」

 

「!」

 

 

多節棍モードに切り替えた杏子は、思い切り槍を振るう事でほむらを狙う。

しかし反応を示すサキ。鞭を伸ばして、多節棍を絡めとり、そのまま自分の元へと引き寄せる。

 

 

「あ?」

 

「動くなお前は!」

 

 

サキはそのまま鞭と多節棍を杏子の身体に絡ませ、さらに自身も杏子を羽交い絞めにして強引に動きを封じた。

 

 

「離せよ!」

 

 

杏子が舌打ち混じりに吼える。

もちろん離す訳が無い。サキはほむらに今がチャンスだと告げる。

 

 

「私に構わず撃て!」

 

「――ッ!」

 

 

頷くほむら。

盾からバズーカーを引き抜くと、少しだけ躊躇う表情を浮かべたが、すぐに狙いを定めて引き金を引く。

 

 

「ガッ!」

 

 

それとほぼ同時に杏子は異端審問を発動。

サキの真下から槍を出現させて身を削っていった。

痛みに声を漏らすサキ。力が弱まってしまい、鞭の力が弱まってしまう。

杏子はニヤリと笑いつつ、腕を広げて鞭や鎖を引きちぎる。

それだけではない。サキの首を掴むと、自分の前に持っていく。

そこへ飛来するバズーカーの弾丸。当然それは、サキの背中に着弾してしまう。

 

 

「ガァァアアアア!!」

 

「ッ!」

 

「アハハハ! バーカ!!」

 

 

焼け爛れ、背中の一部が吹き飛んだサキ。

素早く魔力を背中に集中したおかげで意識を失う事は無かったが、それでも凄まじい衝撃だ。

杏子は立ちすくむサキの腹部へ蹴りを入れ、弾き飛ばす。

転がるサキ、ほむらはすぐに駆け寄り、サキを飛び越える。

 

 

「ごめんなさい! 少し休んでいて」

 

「あ、ああ。気をつけろ!」

 

 

サキはすぐに成長魔法で自身の傷を修復しようと試みる。

対してハンドガンを二丁構えて走り出すほむら。

正直接近戦で勝てるとは思わないが、ココで意地でも杏子は殺しておきたい。

それにもう一つ理由があると言えばそうだ。

 

 

「――ッ!」

 

 

ほむらは二丁拳銃を乱射しながら杏子に向かっていく。

杏子も槍で銃弾を弾きつつ地面を転がり異端審問や槍の投擲を組み合わせて確実に距離を詰めていく。すぐに眼前に迫る相手。杏子は確かにスペックも高く、接近戦や遠距離どちらでも対抗できる術を持っている。

しかし、その性格。猪突猛進とも言えるそのスタイルだけは変わっていない筈だ。

 

 

(くらいなさい!)

 

「うおぉ!?」

 

 

ほむらはハンドガンを投げて杏子にぶつけようと試みる。

何だ? 杏子は不思議に思いつつも、何の事なく首を反らして飛んできたハンドガンを交わした。

そこへ突き出す盾。そこから催涙ガスが勢いよく噴射される。

 

 

「そんな事もできるのかよ!」

 

 

杏子はすぐにソウルジェムで感覚を遮断するが遅かった。

いくら化け物になったと思っていても、所詮人間のカテゴリを出ていない。

ガスを思い切り吸い込んでしまい、よろけてしまう。

 

ソウルジェムを操作して、肉体を人形と認識する前にケリをつけたい。

ほむらは歯を食いしばり、ありったけの力を込めて杏子の手を蹴る。

杏子は舌打ちを一つ。衝撃で武器を落としてしまった。

さらにほむらは盾から日本刀を引き抜くと――

 

 

「ハァアアアアアアアアア!!」

 

 

似つかわしくない咆哮と共に、ほむらは刀を振り下ろした。

脳天から叩き割るつもりだった。

ほむらが何故、杏子を殺したいと思うのか?

それは――、過去だ。

 

 

「へぇ、やるじゃん」

 

 

杏子は体を横へずらしてみせる。

しかし逃げ遅れたか、切り落とされた右腕が地面に落ちる。

 

 

「強化した身体を切断するなんて」

 

 

そう、それだけ。

杏子は腕が切り落とされたのに、それだけの反応しか示さない。

何故ならばソウルジェムを壊されない限り、腕はまた生えてくる。

 

それにどちらかと言えば腕を切り落とせるだけの実力があるのだと、喜んでいた。

腕を切り落とされて笑える。そんな佐倉杏子を、ほむらは見ていられなかったのかもしれない。

これ以上、彼女が人としての大切な物を失っていく前に、せめて自分の手でと。

もちろんほむらも、佐倉杏子の全てを知っている訳ではない。巡ってきた時間軸の中にはひたすら暴力的な性格で終わった時もあった。

しかしそうであっても、今の杏子は見るに耐えないのだ。

 

 

「でもなァ」『ユニオン』

 

「!」

 

「腕くらいで調子に乗んなよ!」『ユナイトベント』

 

「そんな!」

 

 

杏子は融合のカードを使って槍を自分に融合させ、腕に変えた。

多節棍状態の槍が腕につき、どうやら自在に動かす事ができるらしい。

先端が刃になっている為、当然物を持つことはできないが、自在に操れる多節棍は武器としては優秀だ。

杏子はそのまま多節棍を操りほむらの脚を絡め取る。

 

 

「うグッ!」

 

 

地面に倒れるほむら、すぐに盾からチェンソーを取り出すと多節棍に向けて思い切り振るう。

おかげで多節棍を切断する事はできたが、まさかあんな事までできるなんて。

 

 

「面白い盾だね。何でも入ってんのか? お菓子とか無い? 小腹空いててさ」

 

「ハァ! ハァ!」

 

 

疲労と緊張感が酷い。

杏子に勝てるのか? 試しに思い切り後ろへ跳んで、バズーカーを発射してみる。

すると杏子は異端審問を発動し、槍を重ねて壁を作る。

 

そこに着弾する弾丸。

ほむらはさらに手榴弾を投げ、壁の向こうを狙う。

しかし杏子は何の事なく、その手榴弾を打ち返してきた。

でたらめだ。ほむらは盾で防御を行い、なんとか爆発を防ぐ。

 

次は魔法で反動を殺したマシンガンを両手に二丁構えて発射する。

箱のようなソレは、パラララと音を立てて銃弾を無数に杏子の方へと向かわせる。

 

しかし杏子は多節棍を自分の周りに二重程度に巻きつけて、そのまま前進してきた。

鎖のベールに銃弾は弾かれていき、何の効果も成さないまま終わる。

一応銃弾の威力は魔法で上げてある筈なのに。

 

 

「勘弁してもらいたいな!」

 

「浅海サキ……!」

 

 

その時ほむらの方へ転がってくるサキ。

どうやら回復は終った様だ、魔法少女の衣装も破れたところが修復されている。

さて向こうから迫る化け物をどうするか。二人が汗を浮かべた時だった。

 

 

それが、飛んできたのは。

 

 

「グゥウウウウウウゥウウ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

黒い炎の塊。それがほむらが瞬間的に思い浮かべた感想である。

文字通り轟々と燃える黒が、自分達の眼前を通り抜けて行ったのだ。

炎が取った場所には陽炎が揺らめき、遅れて感じる熱が自分達の意識を鮮明にさせる。

 

 

「な、なんだ?」

 

 

杏子も攻撃を止めて、その炎が通り抜けた方向を見る。

それもその筈、炎の中から聞こえた悲鳴は紛れもなくパートナーの物なのだから。

そうしている内に炎は近くの地面に着弾。黒い爆発を巻き起こし、一同の意識を集中させる。

爆発の中からはしっかりと人影が確認できる。それは黒い炎の中から姿を見せる紫。

 

 

「アァァア! イラつかせるヤツだァ……!!」

 

 

まだ鎧の部分部分が燃えているが、王蛇は炎の中からユラリと姿を見せた。

仮面の奥の表情は確認できないが、その震える声からは、怒りと殺意、そして苦痛が感じられる。

それもそうだ。王蛇にとって戦いとは何よりの娯楽であるが、人間なのだからダメージは受ける。無敵ではないのだ。攻撃を受ければ、それだけ傷も負う。

 

そんな王蛇へ近づいていくのは、複眼を光らせているリュウガだった。

手にドラグクローを装備しているところを見ると、その炎で王蛇を押し出したと言う事だろう。

杏子は鼻を鳴らす。どうにもリュウガは気持ちが悪い。殺意は感じられるが、どうにも掴みどころの無い闇を見ているようだ。

虚無を感じる。仮面の奥には顔が無いんじゃないかと思うほどに、『無機質』を感じさせた。

もちろん喋っている以上、意思や感情はあるのだろうが、何か人間とは違う違和感を感じさせる。

 

 

「ウォオオオオオオ!!」

 

 

王蛇は炎を振り払い、ベノサーベルを召喚して走り出す。

リュウガはドラグバイザーを消して、自身も同じくドラグセイバーを召喚。

王蛇は力任せにサーベルを振るう。

 

それを簡単に回避してみせるリュウガ。

だが王蛇もこう見えて、無計画には殴らないタイプだ、避けた際に生まれた隙を突く用意はしていた。剣を振るいつつ、蹴りを繰り出していたのだ。

しかしリュウガは蹴りをしっかりと回避すると、黒く燃えるドラグセイバーを振り下ろす。

 

 

「ぐゥウ!!」

 

「無駄だ! お前では俺には勝てない!」

 

 

なぜならば俺は最強の騎士となるべき存在なのだから。

リュウガはそう言いながら王蛇に次々と斬撃を刻み付けていった。

王蛇の実力は騎士の中でもトップクラスだ。そんな彼を圧倒しているリュウガに杏子は思わず目を疑ってしまったのだろう。

それはファムやサキ達も同じだ。リュウガから感じる違和感が、何故か無性に心に引っかかる。

 

 

「アァァ! イラつくぜェ、お前ェェエ!」

 

「そろそろ終わりだ、浅倉威」

 

 

リュウガはドラグバイザーを展開させ、そこに一枚のカードを入れる。しかしバイザーは閉じない。

そのまま自分に殴りかかってくる王蛇の拳を再び受け流すと、空いた胴体に渾身のストレートを打ち込んだ。

そしてその衝撃でバイザーが閉まり、カードが発動するのだ。

 

 

「グゥ!!」

 

「消えろ」『アドベント』

 

 

一瞬だった。

王蛇の真下。その地面が黒く光ったかと思うと、鏡が割れる音と共にドラグブラッカーが大口を開けて飛び出してくる。

龍は王蛇に噛み付くと、そのまま空に舞い上がり急降下、王蛇を地面に激突させる。

いきなり空に打ち上げられたかと思えば、すぐに全身に衝撃と痛みが走った。

再び空に舞い上がるドラグブラッカー。王蛇を口に咥えたまま黒い炎を口の中に光らせた。

 

 

「ぐ――っ! オォォオ!!」

 

 

ドラグブラッカーは王蛇を咥えたままその炎を発射する。

先ほどとは比べ物にならない勢いで、王蛇は炎に飲まれて吹き飛んでいく。

そのまま彼は一同から大きく離れ、見えない所にまで飛んで行ってしまった。

少し時間が経った後に爆発音が聞こえて来たため、おそらく離れた場所に着弾したのだろうが……。

 

 

「因果には逆らえない」

 

 

リュウガはふと、呟く。

 

 

「アイツ……、浅倉に勝った」

 

 

杏子は驚愕の表情を浮かべていたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべて身体を震わせる。

 

 

「くく、くはは! あははは!!」

 

 

まだまだ面白いヤツがいた物じゃないか。

最近はどいつもこいつも腑抜けた連中ばかりかと危惧していただけに、コレは嬉しいニュースだった。頭の中にパートナーの死亡が通知されていない為、王蛇は死んではないのだろうが、それでも大きなダメージは負ったはずだ。

さぞ悔しかろうて。浅倉の表情を想像すると、杏子は思わず笑ってしまう。

 

 

「アイツ……!」

 

 

その様子を見ていたファム。

リュウガの声が引っかかる。

 

 

「ッ!?」

 

 

さらにその時だ。

ファムは最も見たくなかった物を視界に入れてしまう。

それは空にヒラヒラと舞い落ちる黄金の羽。

 

 

「やっぱ来るのね。あいつ――ッ!」

 

「君は不満かな?」

 

「ッ!?」

 

 

後ろを振り向くファム。

そこには自分に向けて手を突き出しているオーディンが。

 

 

「マジ!?」

 

 

ファムは咄嗟に腕を交差して防御の構えを取るが、既に黄金の羽は発射されていた。

無数の爆発がファムを待っている。全身が震え、骨が軋む。すぐにファムは火花を散らしながら転がっていった。

対して、オーディンは腕を組んで辺りを見回す。

 

 

「成る程。他の参加者を巻き込んで、状況をかく乱させるのがキミ達の作戦だった訳か」

 

 

オーディンの目に杏子の姿が映る。

さやかを傷つけた彼女を見れば、驚くくらいの殺意が湧いてくる。

だがオーディンはグっと堪える。怒り、過度な殺意は、冷静さを削いで不利な状況を作り上げるものだ。

ココはまずナイトの隣にワープを行った。

 

 

「なっ! お前は!」

 

「君には大人しくしてもらいたい物だね!」『ソードベント』

 

 

オーディンは二刀流に構えたゴルトセイバーを振るって、ナイトとその分身に奇襲を行う。

ワープの頻度を上げ、次々とナイト達に黄金の一閃を刻み付けていった。

流石にコレにはナイトも怯み、後退していく。

さらにオーディンは黄金の羽を発射して、さらにナイトをキリカとタイガから引き剥がす。

 

 

「大丈夫かい、キリカさん、東條さん」

 

「あ、ああ! 助かったよ……!」

 

「あ――ッ! うぐっ!」

 

 

オーディンが差し出した手を取る二人。

この場にいる誰もがオーディンの存在を確認し、さらにリュウガの存在もあってか、動きを完全に止めた。

 

それはオーディンとリュウガも同じだ。

どう動く、誰を狙う? そして目指す勝利に一番近い道は何か?

だが、動かねば進まない。真っ先に動いたのは杏子だった。

 

 

「フフフ! ハハハハッッ!!」

 

 

浅倉がやられた事でテンションが上がっているらしい。

ポッキーを取り出して咥えたかと思うと、槍を二つ構えてサキ達の方へと走り出す。

一方で沈黙のオーディンとリュウガ。それぞれ技と力のデッキの所持者であると察したらしい。

そしてリュウガはユウリのパートナー、つまり参戦派であると言う事だ。

できれば双方潰しておきたい関係ではある。

 

だがオーディンはフムと、冷静に考えてみる。

以前から織莉子と話していた事だが、未来を視る上でイレギュラーな存在が現れる。

例えばかずみ。未来を視ようとすると、彼女の姿がふいに消える事がある。テレビで言うなら砂嵐のような、ノイズ交じりの映像になってしまうのだ。

 

そして、それは稀に暁美ほむらにも見られた現象である。

織莉子がまどかを殺すイメージで、未来を視ると、ノイズと共にほむらが現れて織莉子は死んでしまう。

 

織莉子はこの戦いの前に、答えを見出した。

それは暁美ほむらと、立花かずみが、『時間』に関係する魔法を使用した。

もしくは使用しているからだとオーディンに説明していた。

 

未来を視ると言う事は、当たり前の事ではあるが、自分達がいる『今』よりも、先の時間を見る事になる。かずみは不明だが、ほむらの場合、時間を繰り返している事が時間軸を戻した今も作用していると言う事なのだ。

つまり一応ほむらは、未来の時間にも存在していた事になっている。

 

彼女は同じ時間を繰り返してきた。

ワルプルギスの夜の出現時期が今までと違い、今まで戻してきた時期を越えていたとしても。

時間を何度も跳躍したと言う揺ぎ無い事実が、ほむらの存在をあやふやな物にしている。

 

とまあ色々ややこしい話に聞こえるかもしれないが、要するにほむらは時間に干渉できる力を持っていると言う事だ。織莉子はどこまで言っても、暁美ほむらの魔法が『時間を止める事』だと思っていたが、もしかするととんでもない力を秘めているのかもしれないと危惧していた。

そう、たとえば、時間を巻き戻すとか。

故に、織莉子はオーディンに事前にこう告げていた。

 

 

『暁美ほむらだけは殺しておきたい』

 

 

できればワルプルギスの夜を一緒に倒す仲間として迎え入れたかった。

しかし少し視ただけで何となく伝わる、鹿目まどかに対する執着ともいえる愛。

そして時間干渉を許される魔法。

ほむらを放置するのは聊か――、いやかなり危険なのではと二人は結論付ける。

 

疑わしくは罰せよ。

ほむらを放置するのは危険に思えてならない。

織莉子が目指さなければならないのは真の安定と平和である。

ほむらはスペックだけを見れば魔法少女の中で最弱クラスだが、魔法の力は最強クラス。

まどかの死で覚醒でもされれば非常に厄介な事になりかねない。

やはりそれを考えると、暁美ほむらは邪魔でしかない。

 

 

「………」

 

 

オーディンは考える。

織莉子が視た未来予知が正しいなら、現在まどかとかずみと戦っている筈だ。

かずみは織莉子がなんとかするだろう。

 

 

「と言う訳で」

 

「!」

 

 

ほむらは背後でオーディンの声を感じ、ゾッとする。

瞬間移動。分かっていても対処が難しい。回し蹴りをしかけてみせるが、片手で止められた。

サキもすぐにほむらを助けるためにオーディンに攻撃を仕掛けようとするが、それを阻むようにしてオーディンの周りになにやら金色の模様が浮かび上がっていく。

梵字を模したそれらは、オーディンを囲むようにして幾つも出現し、攻撃を行おうとしたサキに触れると爆発して彼女を吹き飛ばす。

 

 

「サ――」

 

 

サキの名前を呼ぼうとした所で、ほむらは既にオーディンが羽を発射しているのを確認する。

すぐに盾を構えて身体を丸めるが、襲い掛かる衝撃はなかなかの物だった。

さらに先ほどのファム同じく、金色の羽は攻撃だけではなく視界を奪う役割をも果たす。

視界が金色に染まり、動けない。そこでオーディンは仲間にジェスチャーを送る。

 

 

「彼女を確実に殺してくれ」

 

「了解したよ。行こう相棒」

 

「うん、コレが英雄になる為だからね」

 

 

そう言ってオーディンはアドベントを発動。出現場所の指定、ほむらの背後だ。

ほむらは金色の羽に気をとられているため、ゴルトフェニックスの突進に気づく事ができなかった。背中に嘴が刺さり、苦痛に表情を歪める。

 

そしてそれは純粋な攻撃ではない。

ほむらを隔離する為の攻撃だ。ゴルトフェニックスはほむらを押したままキリカ達の方へと向かう。

それはどう言う意味か? 簡単な話だ、ライアが龍騎にやった事と同じ事。

 

キリカとタイガは飛び上がると、ゴルトフェニックスの背中に飛び乗った。

さらにキリカは嘴で押されているほむらの首を掴むと、引き上げ、ゴルトフェニックスの背中に叩きつける。

 

ほむらは理解する。

このまま自分を隔離し、タイガペアとの2対1の状況を作るつもりなんだろう。

 

 

「行こうか暁美ぼむらァ! 君はもうおしまいッ!」

 

「クッ!」

 

 

それはマズイ。

ただでさえ時間停止が封じられているのに、タイガペアを二人相手にしなければならないのは圧倒的に不利だ。

何とかして脱出しなければ。ほむらは苦痛に顔を歪めながらも、盾から武器を引き抜こうと腕を伸ばした。

 

 

「ッ! あぁ!」

 

 

しかしタイガがほむらの腕を踏みつける。

 

 

「抵抗したら……、駄目じゃないかな?」

 

「うくッ!」

 

 

人事の様に言ってみせる。

しかしタイガの足は、しっかりとほむらの腕を踏みつけて盾から武器を引き抜くのを防いでいた。

別に手を入れなくとも出せる武器はある事にはあるが、催涙ガスが精一杯だ。

今猛スピードで動いているゴルトフェニックスの上で使ったとしても、すぐに振り切られる。

他には閃光弾もあるが、背中に落としてから爆発までの間に振り落とされて終わりだ。

まずい、対処の仕様が無い――!

 

 

「待っててよほむらちゃん。今助けるから!」『アドベント』

 

 

ファムは倒れながらもカードを発動。

ゴルトフェニックスの遥か前方にブランウイングが出現し、突進を仕掛けようと翼を広げるが――!

 

 

『フリーズベント』

 

「んなっ!」

 

 

タイガが発動したカードによってブランウイングの動きが完全に停止する。

しかも停止中はアドベントを解除する事もできない。

そうしているとキリカがニヤリと笑って前方に手をかざした。すると減速魔法陣が出現、キリカはその魔法陣の中に自身の爪を次々に発射していく。

放たれた爪は魔法陣を通過すると、減速の恩恵を受けて低速に変わる。

 

その間も次々に魔法陣を通過していく黒い爪。

ある程度爪が魔法陣を通った後、キリカはパチンと指を鳴らした。

すると魔法陣が消滅。減速魔法の効果が切れて、爪が飛んでいくスピードが元の速度に変わる。

そう、大量にストックされていた爪たちが一勢にブランウイングに向かって飛んでいくのだ。

ファムはもちろんソレを確認できているのだが、何をしてもブランウイングは動かない。

そうしている間に無数の黒い爪が次々にブランウイングの白く美しい体に突き刺さっていった。

カーネイジファング。ブランウイングは黒い爪によって串刺しになる。

 

 

「いいアシストだ。助かったよ相棒」

 

「当然だよ、僕は――、英雄になるんだから」

 

 

同じ様な応酬、しかし確かな変化。

フリーズベントの効果が切れたのだろう。ブランウイングの時間が動き出したのはいいが、受けたダメージは無視できない。

結果、ブランウイングは爆散する事に。

 

 

「――ッ!!」

 

 

自分の分身であり、ミラーモンスターとして愛着があったブランウイングが死ぬ事はショックな事だ。まあ言ってしまえば24時間でブランウイングは再び再生するから割り切れると言えばそうなのだが、問題はそこではない。

ミラーモンスターが死んだ事で、ファムの力消滅していく。

 

 

「やばいッ!」

 

 

純白のカラーリングが変化していき、黒と灰色の淡白なものに。

白鳥を模した装飾品も次々に消えていき、デザイン面もシンプルなものになってしまった。

ブランク状態。この状況でパワーダウンは、洒落にならない。

オーディンはナイトと戦っており、リュウガはオーディンを見ているからまだしも、狙われればいつでも危険な状態だ。

何よりも、こうしている間にほむらが離れていく。

 

 

「さ、サキ!」

 

「ああ! 分かってる!」

 

 

成長魔法で脚を強化するサキ。

すぐにほむらを助けようと地面を踏みしめるが、そこで赤が飛び込んでくる。

 

 

「おおっと! お前はアタシと遊ぼうぜぇ!」

 

「クッ! 邪魔だ!!」

 

「つれないねェ、そんなこと言うなよ」

 

 

サキの前に飛び掛る杏子。

サキは避けようとするものの、しつこく杏子が前に出る。

そうしている内に、ゴルトフェニックスはみるみる離れていく。

戦慄。ファムはブランク状態、加勢に向かった所でタイガやキリカに勝てる可能性は低い。

そしてサキは杏子に足止めを受けている状態。このまま強引にサキがほむらの所に向かったとして杏子がそこに付いて来るのは明白だ。

ファムが杏子を受け持ったとして、彼女は騎士を攻撃できない点からサキを追おうとするだろう。

そしてナイトはオーディンと戦い、そしてそれを見ているリュウガ。

龍騎はまだ戻ってこない――。

ほむらとしても、逃げられるは逃げられるが、どの道そうなるとオーディンに睨まれる。

しかもそうなるとキリカとタイガも戻ってくるので、対処のプランが浮かんでこなかった。

 

 

(とにかく行かないとほむらちゃんがヤバイ!)

 

 

走り出すファム。

自分が行っても足手まといかもしれないが、とにかくこのままではマズイ。

灰色の身体で地面を蹴って走り出す。しかしそれがリュウガの注意を引く事になってしまった。

 

 

「愚かな姿だな霧島美穂」

 

 

リュウガはため息をつくとカードを抜き取って、ドラグクローを装備する。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「フン!」

 

 

構えを取るリュウガと、その周りを旋回するドラグブラッカー。

ファムはその咆哮で、自分が狙われているのだと理解する

 

 

「やっぱそうなるのね……!」

 

 

ファムは仮面の奥で歯を食いしばって足を速めた。

とにかくだ、放たれるのは昇竜突破。だが龍騎のを見るに、スピードは速いが直線の単発攻撃。

発射された瞬間に思い切り横に飛べばまだチャンスはある。

 

 

「ハァアアアアアアアアアア!!」

 

「……え?」

 

 

放たれた炎を確認せずに横に跳んだファム。

地面を転がりながら確認したのは、五個の炎が横一列になって向かってくる所だった。

 

 

「うそ」

 

 

巨大な黒い炎の塊。いや、黒い炎の壁だ。

一発だと思っていたのに、五発同時。しかも横に並んでいる。

無理、無理、避けられない、無理、無理。

 

 

(いや――ッ!)

 

「ほう」

 

 

感心の声をあげるリュウガ。

ファムはとっさの判断で立ち上がり、思い切り地面を蹴って飛び上がったのだ。

左右と背後への回避は不可能。であるならば残された道は『上』のみと。

 

それが功を奏したか、ファムは見事にジャンプで炎を回避する事ができた。

しかしなにぶん、時間が足りなかったのだろう。

炎がファムの右脚に命中した。

 

 

「ウアァッ! う――ッ! ぐぅう!!」

 

 

炎はしっかりと彼女の右脚を焼いており、地面に落下したファムは脚に燃える黒炎を振り払う様に地面を転がった。

ただでさえブランク状態で防御力が低下していると言うのに、リュウガの攻撃力の高さもあってそれなりのダメージを脚に受けてしまったようだ。

おまけに足を怪我したのはこれからの行動に大きな支障をきたす。

 

騎士は魔法少女よりも遥かに防御力は高いが、傷の回復までには魔法少女の倍程度には時間が掛かる。避けられはしたが、これからの攻撃を考えると全く油断はできない状況であった。

 

 

「は!?」

 

 

おいおいおい、ファムは再び呆気に取られた声をあげる。

だってそうだろう? 彼女の目にしているのは、先ほどと全く同じ構えを取っているリュウガなのだから。

 

 

「冗談でしょ……!」

 

 

つまり、二発目のチャージに入っていたと言う事。

簡単に言えば先ほどの攻撃がもう一度飛んでくると言う訳だ。

嘘だ。ファムは何度もそれを叫びながら立ち上がろうと力を込める。

だが足の痛みが原因で、立ち上がった所で同じ高さジャンプできるかと言われれば――、だ。

マントがあれば飛行ができるのだが、ブランウイングの力は失われている。

 

 

「クッ! 頼むわよ!」『ガードベント』

 

 

よく分からない盾を出現させて構えるファム。防げる気がしないが、無いよりはマシだろう。

足が駄目になった以上、跳ぶのも走るのも無理。だったら真正面から受け止める以外には選択肢が無かった。

 

 

「ッ! 美穂!!」

 

 

もちろん周りもその状況を確認している。

サキは何がなんでも彼女を助けるために杏子を蹴り飛ばし、走り出すが――

 

 

「ッッ!!」

 

「おいおい、盛り下がることはすんなよ!」

 

 

足に巻きつく鎖。

やはり他人を気にしながら戦える相手ではない。

サキは表情を歪ませて抵抗を図る。だが当然向こうもそれを阻止してくるわけで。

 

 

「別にパートナーなんてほっとけばいいじゃんか。死んだら蘇らせればいいんだし」

 

「騎士の死は私達の死よりも重い! それに50人殺しのルールの意味を分かってるのか!」

 

「意味が分かってねーのはソッチだろ? 人間は資源、人間は道具だ!」

 

 

それを教え込まれた。身を以って知った。

杏子は少し怒りの感情を言葉に込めながら吼える。

 

 

「人を超えた魔法少女になったのに、どうしてまだ人を思いやる必要がある!? 理解できないねアタシには!」

 

「私達は力を持った所でッ、所詮人間だ! 何故それを認めない! 何故分からない?」

 

「うぜェな! アタシ等は魔法少女! 人の上に立つ存在なんだよ!!」

 

 

人間に希望なんて持つな!

人間は醜い、汚い、どうしようもない。そんな屑を自分達は資源として使用できる。

それの何が悪い、それのどこに疑問を持つ必要がある?

 

 

「誰もがアタシ達を利用しようとする! そんな連中を逆に利用してやるんだ、逆に使ってやるんだよ! そう、アタシ達にはその資格があるッッ!!」

 

「ふざけるな! お前は逃げているだけだ! 何があったのかは知らないが、いい加減に現実を見ろ!!」

 

「黙れ! お前が人間だって言うなら。食物連鎖のピラミッドに準えてアタシが殺してやるよ!」

 

「――ッ!」

 

「人の上に立つのが魔法少女だッッ!」

 

 

杏子は多節棍を振り回して鎖をサキの身体に巻きつける。

動きを封じるつもりなのだろう、サキは唇を噛むと、切り札を使用する事を決意する。

魔力を集中させるサキ。すると空気が振動して晴天の空に雷鳴が響き渡る。

 

 

「イル・フラース!」

 

「ッ!」

 

 

空から巨大な雷がサキに降り注ぎ、直撃する。

爆発する様に迸る雷は、一瞬辺りに拡散するようにバチバチと音を立てて暴れまわるが、すぐに翼の形に変わると、サキの全てのステータスを爆発的に上げていく。

 

力の制御に関してはサキも裏で特訓を重ねた。

今はかなり安定した形に持っていくことができる。

とは言え、成長を『強化』として成立させるには、色々な場所に制御や抑制を施さなければならない。でなければすぐに肉体が耐え切れず崩壊してしまうからだ。

 

その抑制分の魔力も消費し続けるのだから、イルフラースは短時間の使用に留めなければ、あっと言う間にソウルジェムが濁って魔女になってしまう。

一刻も早くケリをつけなければならない。サキはまず自分を縛る鎖を簡単に引きちぎると、文字通り、消えたかと思うほどのスピードで移動を開始した。

 

ちなみにサキは『髪』の成長に関しては抑える事をしていない。

コレは少しでも抑制分の魔力を抑えるためであり。また、髪の長さでイルフラースの時間を計る為でもある。

 

今は精神的に余裕が無い。

だからショートだったサキの白く美しい髪が、既にセミロングまで伸びている。

その事を考えても、今回は余計に魔力を喰っている様だ。

 

 

「うッ! オァァアアァア!?」

 

 

サキは一瞬で杏子の目の前に移動すると、一発ストレートを彼女に打ち込んだ。

と――、言うのが杏子視点。そう、杏子視点ではサキがいきなり自分の目の前にやってきて、一発殴ったように見えただろう。

しかし体中に衝撃が走る。それも一回じゃない、何度もだ。

 

つまり、サキは一瞬で何十発も拳を打ち込んでいたのだ。

杏子がソレに気づいた時には、既にきりもみ状に吹き飛び、景色がグチャグチャになっていた。

 

 

(美穂! ほむら――ッ!)

 

 

杏子を殴り飛ばしたサキは踵を返して地面を蹴る。

まず目指すのはファムのもと。オーディンはサキの動きを未来予知で確認するが、未来が視えても妨害できない程のスピードだった。

サキはファムの元へ駆け寄ると、彼女を抱きかかえて雷の翼を広げて空に舞いあがる。

電撃は残像となり、光の軌跡が美しく輝く。

リュウガは腕を止めた。炎を発射したところで、あのスピードには追いつけない。

 

 

「サンキュー……! やっぱ持つべきものはパートナーね」

 

「ヒヤヒヤしたよ。だが安心は出来ないぞ美穂」

 

 

周りには敵だらけ。

それにイルフラースが解除されればサキは反動により必然的に弱体化してしまう。

その状況で狙われれば結局は同じ話だ。

であるならば。サキはファムをリュウガから離れた場所に着地させると、自身は再び羽を広げてリュウガの元へ翔ける。

 

 

(ヤツが何者なのかは知らないが、危険である事には変わりない。機能を停止させる!!)

 

 

欲を言えばリュウガを倒した後でオーディンにもダメージを与えておきたいが、ほむらの事を考えるとそんな暇は無い。

サキは冷静に優先順位を考える。ほむらは確実に狙っているようだが、ワルプルギスの事を考えると、オーディンは美穂を標的には入いれていない筈。

 

 

(とにかくまずはお前だ!)

 

 

サキは一瞬でリュウガの背後へ移動すると、雷を纏った掌底を繰り出す。

だが、なんとリュウガはそれに反応してみせた。身体を反らし、手を伸ばしてきたのだ。

だがサキは無理に腕を伸ばした。早さには自信がある。

事実、リュウガよりもはやくサキは胴体を捉えた。

掌底を受けたリュウガは、地面を擦りながら後ろへ移動していく。

ここは逃がしたくない。サキは瞬間移動とも言えるスピードでリュウガの背後に回った。

 

 

「フンッ!!」

 

 

だがリュウガもそれは読んでいたのか。

回し蹴りを合わせてくる。狙い通り、足はサキに命中する。

 

 

「ッ!」

 

 

いや、それは残像だった。

サキの行動は確かに読まれ、リュウガの蹴りは的確な位置に放たれていた。

だがサキはその蹴りを確認した後で、ルートを変更。翼を広げて空へ急上昇すると、隙だらけのリュウガへ落雷を命中させる。

 

 

「成る程――ッ、中々やるじゃないか」

 

 

リュウガは少し声を震わせて笑う。

まだ余裕を感じると言えばそうだが、雷が命中した事で僅かながらに動きが鈍っている。

当然、そこを狙う事に。サキは雷の力を手に両手に集中させ、掌を合わせて突き出した。

 

 

「終わりだァア!」

 

 

発射される電磁砲。

巨大な雷光のレーザーは、リュウガの黒を白で塗り潰さんとばかりに直撃する。

なるほど、リュウガは光の中で理解する。電磁砲は規格外の威力だった。このまま受け続ければ負けもありえるか。

 

 

「………」

 

 

だがリュウガも既にアクションは起こしていた。

と言うのも、先ほど背後に蹴りを打ち込んだと同時に彼はデッキからカードを抜いて、バイザーへセットしていたのだ。

そして今の状況を見て、リュウガはバイザーを閉じた。

 

 

『スキルベント』

 

「ッ!」

 

 

濁った電子音がサキの強化された聴覚によく響く。

そして、『彼女』の声も。

 

 

「サキちゃん!」

 

「……っ」

 

 

サキは全身がゾクッと震えるのを感じた。

聞き間違いか? いや、聞き間違える訳がない。

そうだろ? そうだ、サキが一番分かっている。

だってその声が聞けるのを、自分はどれだけ願ったのか。どれだけ神に懇願したのか。

 

 

「嘘だ」

 

 

全身の感覚が無くなる。心臓の鼓動がおかしな程に素早いリズムを奏でる。

サキの髪がみるみる長くなっていった。しかしそれを気にする余裕を持てない、イルフラース制御の為に精神もそこそこ鍛えてきたつもりではあった。だがそんな彼女の心を簡単に揺さぶる声が聞こえたのだから仕方ない。

 

 

「み、美幸……ッ!?」

 

「そうだよサキちゃん! わたしはここにいる!」

 

 

サキの瞳の中に映ったのは最愛の妹だった。

しかも記憶に鮮明に残っている幼少時の美幸だ。

誰よりも愛していた。誰よりも想っていた。ずっと一緒にいられるとばかり思っていたのに、ある日突然この世を去った妹がそこに立っていたのだ。

 

 

「サキちゃん、会いたかった!」

 

「美幸なのか――!?」

 

 

美幸は目に涙をためてサキの名前を呼ぶ。

しかし躊躇するサキ。美幸は死んだじゃないか、スズランの花を残して。

 

 

「!」

 

 

そう、死んだ。死んだんだ――!

 

 

「グアァァアア!!」

 

 

違う。アレは美幸じゃない。

サキがそう思った瞬間、目の前が黒に染まった。

全身に感じる熱、サキはそこで自分がリュウガに攻撃を受けたのだと理解した。

 

いや、しかしそれは当然の事だろう。

美幸を見かけた事で、サキは驚きのあまり攻撃の手を止めてしまった。

それだけじゃなくリュウガから視線を反らし、美幸の方を見ていたのだから。

 

リュウガはその間にドラグクローでサキへ昇竜突破を打ち込んだと言う事なのだろう。

防御も何もない、近距離でのクリーンヒット。ダメージは当然それだけ跳ね上がる。

しかもサキの心はかなり不安定だ。イルフラースは非常に集中力が大切な魔法。

だからだろうか、魔法は解除されてしまい、サキはフラフラと地面に倒れる。

 

 

「ガッ! あ――……、ぐぅうァッッ!」

 

 

地面に落ちたサキ。

イルフラース状態は常に雷の結界が張られているため、ダメージはある程度軽減できたようだ。

だが今はそれよりも、とにかく心がザワザワと引き裂かれそうになる。

立ち上がったサキは既に髪の毛が地面まで達しており、前髪も顔を覆わんとばかりまで伸び生やしていた。

 

 

「お、お前は……ッ、誰だ?」

 

 

髪を掻き分けてサキは妹を見る。

そこにいるのは紛れもなく愛する妹、しかし彼女は既に死んでいる。

だったらお前は誰なんだと。

 

 

「幻だよ、ただの」

 

「!」

 

 

美幸はニヤリと笑うと粉々に砕けて姿を消した。

それはある意味で死。妹が死ぬ様をサキは再び目にする事になったのだ。

キラキラと光を反射する鏡の破片は、美幸の欠片。

 

 

「甘いな、お前も」

 

「ッッ」

 

 

リュウガが効果を説明する事はなかったが、スキルベントとはユウリの変身魔法をモチーフにしたものである。効果は簡単、リュウガが一度見た事のある人間の鏡像(ニセモノ)を作り出せるのだ。

ユウリは箱の魔女であるエリーの力で、ほぼ全ての参加者の過去を見ている。

その中で誰を生み出せばより効率的に心を揺さぶれるのかも理解していた。

そしてその結果がコレだ、サキは予想通り、妹が死んでいると理解しているにも関わらず動きを止め、リュウガの攻撃を受けた。

 

 

「悲しい生き物だ。あまりにも愚かだな」

 

 

リュウガはサキの首を掴んで強制的に立ち上がらせると、彼女の腹部にドラグクローを打ち込む。

吹き飛ぶサキ、さらにリュウガはアドベントを発動。リュウガの遥か前方に現われたドラグブラッカーは飛んできたサキを尾で打ち返し、ファムの方へ吹き飛ばしていく。

 

 

「ハァァアアアアアアッ!!」

 

 

そしてリュウガは昇竜突破を発動。

再びファムとサキ、二人のもとへ巨大な黒の炎が襲い掛かった。

リュウガが放つ炎、少し離れた所でドラグブラッカーが放つ炎。

二つの黒はファム達を挟み込むようにして襲来していき――

 

 

「終わりだ」

 

 

ファム達を巻き込み大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

それを確認するナイト。

割り切ったつもりであっても、いざその瞬間が来るとなると身構えてしまう物だ。

対して一度ワープでナイトと距離を離すオーディン。腕を組んで沈黙する。

 

 

(死んだか……?)

 

 

ブランク状態のファムと、イルフラース解除後で弱体化しているサキが耐えられる攻撃なのだろうか? あいにく爆発から巻き起こる激しい炎のせいで、二人の姿を確認する事が出来ない。

ただ少なくとも避けた形跡はない、だったらやはり二人はあの炎の中にいると言うのが普通か。

 

 

(……死亡アナウンスは流れていない)

 

 

まだ死んでないのか。それともまだ流れていないだけなのか?

あのアナウンスが流れるタイミングはまちまちだ。

それに片方のどちらかが死に、もう一人が生きている可能性もある。

 

 

「………」

 

 

いずれにせよオーディンとしてはサキ達を失うのはプラスでは無い。

 

 

(助けておくか……)

 

 

オーディンは頷くと、ワープを行いナイトの背後に出現した。

さらに出現と同時に十字に剣を振るっていたため、ナイトも対応ができず背中から火花を散らす事になる。

 

 

「グッ!」

 

「失礼、しばらく大人しくしててもらおうか」

 

 

激しい斬撃をナイトに刻み込んでいくオーディン。

ナイトも的確に対抗できていると言えばそうなのだが、悲しいかな、やはりスペックの差が出てくると言う物だ。

 

それにオーディン。

つまり上条とて、力のデッキに甘えている訳ではない。

誰も見ていない所で意外と特訓は積んでいる。

故にナイトの攻撃を的確にワープで回避し、黄金の羽や梵字の紋章と言ったオーディンその物に備わっている能力でナイトを圧倒していく。

 

 

「クッ! 俺は――ッ!」

 

 

ナイトは圧されながらも、その眼前に恵里を見る。ナイトが諦めれば彼女は死ぬのだろう。

それはナイトにとって全てを失うと言う事と同じだ。自分の死を意味すると言ってもいい。

だから何としても勝たなければならない。彼女の為に、自分のために。

 

 

「俺は負ける訳にはいかない!」

 

「それは、僕も同じだよ」

 

 

オーディンは再びワープ。ナイトは素早く背後に剣を突くが、それはハズレだ。

オーディンはナイトから離れた所に出現するとバイザーにカードを装填させる。

彼が使用したのはブラストベント。ナイトのナスティベント同じく、ミラーモンスターに攻撃をさせる技だった。

ナイトの背後に出現したゴルトフェニックスは巨大で美しい翼を広げ、思い切り羽ばたいた。

するとオーディンが発射するのとは比べ物にならない量の羽が発射される。

 

 

「!」

 

 

羽は小型の爆弾も同じ。

ナイトはすぐにマントを構えて防御の姿勢をとるが、凄まじい爆発と衝撃がすぐに彼を包み込む。

そしてこの攻撃はゴルトフェニックスが行っている物だ。オーディンは自由に動けるわけであって、彼はすぐに別のカードを使用する事に。

 

 

『シュートベント』

 

 

ナイトはその音声を聞いて舌打ちをもらす。

オーディンのシュートベントであるソーラーレイ。

相手の頭上から光のレーザーを放つ技だと言う事は覚えていた。

 

仕方ない。ナイトはマントで身をできるだけ隠しつつ前進していく。

舞い落ちる羽達の爆発を多少耐え抜き、ソーラーレイからの回避を試みる。

すると背後で衝撃、何とか一発は回避できた様だ。だがナイトは知らない、ソーラーレイが単発ではないと言う事を。

 

 

「ぐあぁぁアアアア!!」

 

 

二発目を撃てたのだ。

それに気づかないナイトは光のレーザーを脳天から受けて大きく怯んでしまう。

オーディンは動きを止めたナイトへ向けてゴルトバイザーを投擲。

ナイトはすぐにマントを盾にするが、ゴルトバイザーはマントを貫くと、胸に命中する。

装甲までは貫通しなかったが、呼吸が止まり、ナイトは膝から崩れ落ちた。

 

 

「ハァ!!」

 

「ぐあぁ!!」

 

 

そしてすぐにワープで現れたオーディンのゴルトセイバーが刻み付けられる。

黄金の羽はオーディンに触れても爆発しない。これほど動きやすいフィールドはないのだ。

動きを止めたナイトへ、オーディンは渾身の十字切りを繰り出した。

 

ナイトは大きく仰け反り、オーディンはさらに瞬間移動でナイトの前方に回ると、バイザーを天に掲げる。シュートベントはまだ継続中である。つまり三発目のソーラーレイが発動されたのだ。

ナイトの頭上から降り注ぐ光。それは彼のマントを焼き尽くして、羽を防ぐ手段を断たせる。

 

当然防御の術が無くなったナイトに襲い掛かるのは爆発の雨だ。

オーディンはそれを確認すると、再びワープを使用、

けれどもそれはナイトを攻撃するものではない。

 

彼が出現したのはリュウガの前だった。

ナイト達の方へとゆっくり歩いていたリュウガ。

オーディンを発見すると、赤い複眼がよりギラギラした光を放つ。

 

 

「『力』……オーディンか」

 

「君は『技』のだろう? ああ邪魔だな、ハッキリ言ってね」

 

 

剣を構え、梵字型の紋章を自分の周りに展開させるオーディン。

一方でリュウガは、仮面の奥で確かに笑みを浮かべている。

 

 

「目障りな――!」

 

 

オーディンは紋章を発射すると、同時にワープでリュウガの背後に出現する。

挟み撃ちと言う事なのだろう。だがリュウガは確実にオーディンの瞬間移動に反応しており、オーディンが攻撃をしかけた時には、既に横に飛んで攻撃をかわしていた。

 

 

「甘いな」

 

「………」

 

 

梵字型の紋章は軌道を変えてリュウガのもとへと向かう。

追尾機能があるらしい。リュウガは一度地面を転がると、立ち上がり様にデッキからカードを抜いて発動させた。

ブラックドラグシールド。黒い盾を両手に構えて、リュウガは真正面から突進を仕掛ける。

それは梵字を強引に破壊していくと、真っ直ぐにオーディンの方へと。

 

 

「やれやれ、そんな単調な突進が当たるわけがないだろう?」

 

 

オーディンはすぐにワープでリュウガの後ろへ移動する。

 

 

「ハッ!」

 

「!」

 

 

しかしリュウガはそこで右手で持っていたシールドの一つを投擲。

それは激しく回転し、炎を纏う事で黒炎のブーメランが如くオーディンに襲い掛かる。

さらに自動で追尾してくる梵字は蹴りで真っ向から潰して見せた。

 

 

「なるほど、反応速度は十分か」

 

 

オーディンは再度ワープを行い盾を回避する。さてココで読み合いが発生する訳だ。

オーディンは一体どこに現われるのかである。

瞬間移動には体力や精神力を消耗する為に、長時間に渡って連続使用はできない。

しかし向こうは特別厄介な障害だ。多少の無理は通してでも潰しておきたい。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

オーディンはリュウガから離れた所に出現。

もう一度梵字を自分の周りに展開させて、剣を両手に構える。

そういえばと、オーディンは先ほどのリュウガの発言を思い出す。

 

 

「キミは先ほど自分が最強の騎士だと言っていたね」

 

「間違いではない。俺は因果を超越している」

 

「勘違いをしてもらっては困る。頂点に立つのはただ一人!」

 

「!」

 

「本気で行くぞ」

 

 

コレがオーディンの力だと言う事を徹底的に教えてあげなければならない。

上条は仮面の奥でニヤリと笑うと、再び瞬間移動を開始してリュウガの背後に現われる。

もちろん反応するリュウガ。裏拳で背後を叩くが――

 

 

「どこを狙っているんだい?」

 

「!」

 

 

既にそこにはオーディンはいなかった。

消えて即攻撃ではなく、一度フェイントを入れてきた。

それだけでなく、出現と同時に剣を振るって、その後、すぐに瞬間移動へ繋げる。

消えては現れ、消えては現れ、斬りつけて消え、羽を出して消え。

 

目障りなヤツだ。リュウガはそうは思えど、オーディンがまともに具現している時間は一秒あるか無いか。その間に梵字も飛んでくるのだから、反撃ができない。

次々に襲い掛かる攻撃頻度。スペックが成せる攻撃力。上に放てば、ヒラヒラと落ちて、遅れて攻撃ができる設置型の羽。攻撃にも防御にも使える梵字型の紋章。

辺りにはオーディンの剣を振るう音と瞬間移動を行う音が連続して聞こえている。

的確に反撃していたリュウガも、ついに黄金の羽を受け、隙が生まれ、そこに連続して剣を叩き込まれる事に。

 

 

「………」

 

 

しかしリュウガは苦痛の声はあげない。まるで効いていないかのように。

ここがリュウガに感じる違和感だった。いかなる状態でも何も変化が起きない。

まさに機械のようだ。とは言え、既にリュウガは一方的にやられている状態。このまま攻め続ければ間違いなくオーディンの勝ちである。

 

 

(仕方ない。引くか)

 

 

だがオーディンは冷静だ。

リュウガ相手にもまだ優位に立てることが分かっただけで十分である。

今は美穂とサキの救出である。これだけの時間が経っても確定死亡アナウンスが流れないことを考えると、確実に息はある。

オーディンはリュウガから離れ、未だに燃えている黒い炎を目指そうと――、して、動きを止めた。

 

それはリュウガも同じである。

立ち止まり、ジッと黒い炎を睨みつける。

その時、複眼が赤く光った。

 

 

「………」

 

 

つくづく愚かだな、歯車は歪に回り続ける。

 

 

(お前は、何も出来ない)

 

「!」

 

 

リュウガが突如、鏡の様に砕けたかと思うと、気配が文字通り消滅した。

 

 

(逃げたのか……? まあユウリがいない事を考えると、向こうも様子見程度にやってきたと言う事か)

 

 

それともユウリがどこかにいるのか?

まあいずれにせよリュウガペアは邪魔だ、消す以外の選択肢は無い。

しかし今は――、オーディンは炎に視線を戻す。

黒い炎の中に、赤が見えた。

 

 

「なるほど」

 

 

徐々に黒が、赤にかき消されていく。

直後、赤は黒を飲み込み、完全に己の色だけの竜巻を巻き起こしていた。

その竜巻の中には無傷のファムとサキがへたり込んでいる。

その前には竜巻を起こしている張本人が立っていた。

 

 

「ぐ――ッ!」

 

 

その男、龍騎は両手に構えたドラグシールドを落として膝をついた。

龍騎が直前でファム達の前に立ち、防御を行っていたのだ。

その理由は、龍騎の頭上で浮遊しているエビルダイバーが証明していた。

彼が龍騎を猛スピードで運び、空から落としたのだ。

 

 

(手塚さん。決着は貴方の負けと言う事かな……?)『スキルベント』

 

 

一度状況を整理するために未来を覗くオーディン。

しかしココでおかしな事が起こる。

 

 

「ッ? ――……!?」

 

 

未来にかなり激しいノイズが掛かり始めた。こんな感覚は初めてだ。

参加者が死んだ時に掛かるノイズに似ている。つまり誰かが死んだ? だがそれにしてはまだノイズが薄い。確実に未来が変わったのではなく、まもなく変わろうとしている?

とにかく何かがおかしい。

 

 

(何が起こっている――ッ? 面倒な事がおきなければいいが)

 

 

嫌な予感がする。

オーディンは仮面の奥で表情を歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(面倒な事が起きなければいいのですが――)

 

 

その異変は織莉子も同じくして観測していた。

未来が大きな乱れを起こそうとしているのか?

何にせよ、未来予知を手にしてから初めて感じる違和感に、織莉子も一抹の不安を覚える。

 

しかし何が、誰が、どこが原因なのかが分からない。

何も出来ないのは癪に障る所だが、予想は立てられると言うものだ。

おそらく、ノイズを常に放っていた者が死ぬからではないだろうか?

 

織莉子は未来を視てココにやってきた。

何度も出ていたように、織莉子にとってプラスな結果で終わるからである。

織莉子もまだ力を完全には使いこなせないが、端的なぶつ切りの未来であっても都合のいい結末が視えた。

簡単に言えば、織莉子は既に二人を死を見ている。

誰と誰? それは――

 

 

「おっと」

 

 

首を少し、横に反らす。

すると紙一重のところを桃色の矢が通り抜けた。

矢を連射しながら近づいてくるまどかが見える。

オラクルを結界や地面を転がって器用に交わしながら、確実に距離を詰めてきた。

しかし潰れた右目はまだ回復しきっておらず、右からの攻撃には弱いようだ。

織莉子はそこを重点的に狙おうとしたが、そこで後ろから地面を蹴る音が聞こえる。

 

 

「ハァア!!」

 

「クッ!」

 

 

後ろで大剣を振り上げていたのはかずみ。

織莉子もかずみの動きはよく分からない、未来を視ても彼女には靄が掛かっていてうまく把握できないからだ。

目障りな。織莉子はすぐにオラクルを無数に固めて大剣を受け止める。

しかし大剣と言うのだから威力はそれなりだ。ギリギリと競り合いが始まり、さらにかずみはシビュラを展開。織莉子のオラクルを制圧しつつ、少し離れた所では十字砲が二対出現する。

 

 

「潰す!」

 

「――ッ」

 

 

織莉子は、オラクルの強度を上げる『スチールウェヌス』を発動。

スピードは下がるが、一つ一つの強度が跳ね上がり、当然防御力も上がる。

だが――!

 

 

「し、しま――ッ!」

 

 

かずみは異端審問を発動した。

織莉子の真下から一本、十字架が突き出てくる。

何とか一歩後ろへ引くことで、織莉子は回避に成功するが、十字架が多節棍となり織莉子の体を縛り付けた。

そしてかずみは十字砲を操作。オラクルの壁が薄い位置に持っていき――

 

 

「ティロフィナーレ!」

 

「――ガっ!」

 

 

二対の砲台から放たれる弾丸が織莉子の身体を焦がし、激しい衝撃を巻き起こす。

オラクルで防御しても爆風が凄まじい。かずみもそれだけ魔力を込めて威力を上げたと言うことだろう。骨が折れる音が嫌でも耳に聞こえてくるが、織莉子はそれでも真っ直ぐにかずみを睨む。

 

 

「ハァアアアアアアアアア!!」

 

 

かずみは空にいた。大剣で織莉子を一刀両断にしようと飛び上がっている所だ。

さらに自分の行動を妨害されないように、織莉子の周りに無数のマスケット銃を並べてある。

だが織莉子も意地だ。オラクルを全てのマスケット銃の銃口に重ねる様に配備させると、かずみの目を狙ってオラクルを発射する。

 

しかし、かずみは既に自分の肉体を鋼鉄に変えていた。

当然、オラクルはかずみの眼球に当たれどダメージは与えらず、怯ませる事もできない。

 

 

「チッ! 厄介な……!」

 

 

ギリギリの判断。

織莉子はオラクルの威力と強度は下がるが、速度を上げる『ネプトゥヌス・タービュランス』を発動。海の色に染まったオラクルを身体に付着させて、一気に自分を押し出した。

これで何とかあの大剣の一撃から回避できればと思ったのだろう。

 

 

 

 

 

ガン!

 

 

「!」

 

 

織莉子は背中に壁を感じる。

またか――、と思う心と、同時に吹き出る汗。背後を見れば黒い壁があった。

そうか、これはかずみの結界か。まどかの戦い方までコピーしているのか。

等と思っている間に、かずみの大剣がもうすぐそこに迫っていた。

織莉子は歯を食いしばり、土壇場でオラクルを飛ばした。せめてもの防御にと思ったのだろう。

 

 

「ウラァァア!!」

 

「うがぁアッ!!」

 

 

織莉子は思い切り地面を蹴って身体を反らす。

しかしそこへ降り注ぐ黒の一閃。それは織莉子のオラクルごと織莉子の身体を引き裂いた。

意識は――? ある。織莉子は自分の右腕が跳ね飛ばされた事を確認しつつも、これで済んだ事に安堵した。

白い魔法少女の衣装が赤く染まるも、織莉子は冷静に自分の『今』を分析する。

 

織莉子は冷静だった。

剣が自分に触れる瞬間にオラクルで剣を横から思い切り叩く。

コレで多少なりとも軌道をそらせる事ができたようだ。

体もズラしたし、結果は右腕だけを失う程度に済んだ。すぐにソウルジェムで肉体を操作して止血を行う。

所詮、肉体など入れ物。

腕も時間が経てば新しい物が生えてくるし、痛覚を抑えているため恐怖も少ない。

 

 

「ハァアアアアアアア!」

 

「……ッ!」

 

 

分かっている。

まだ終わりではない。かずみは振り下ろした剣を今度は横に振るう気だ。

織莉子は靴の裏にオラクルを仕込んでジャンプの準備をする。

これで飛べば、横に振るわれる一閃は確実に回避できる。

 

だがもし、かずみがフェイントか、あるいは斜めに剣を振るえば話は変わってくると言う物。

未来を確認したい所ではあるが、何故か未来全体に靄がかかっている様な感覚があって上手くいかない。

ましてや相手はかずみ。普段からノイズまみれの彼女では未来予知が不確かだ。

 

 

(それにしても何故未来がこんな不安定な形を――ッ!?)

 

 

まさかココに来て妖精達が織莉子の力に制約をかけた?

それともまだかずみの洗脳魔法や、蠍の毒が継続しているのだろうか?

織莉子は焦りを覚えつつ――

 

 

「「!」」

 

 

しかし勝負の時は訪れなかった。

横に剣を振るおうとしたかずみだが、そこで二人を隔てる様に桃色の半透明の壁ができあがったからだ。

後ろを振り向く織莉子と、織莉子の奥にいる人物を睨むかずみ。

そうコレは鹿目まどかの結界である。

 

 

「――万物を捉える双翼の矢となり我を照らしたまえ!!」

 

 

既に詠唱は後半に差し掛かっている所だった。

まどかの右には、右だけ翼が生えている天使が弓を構えている。

そして左には、左だけ翼が生えている天使が弓を構えている。

片翼の天使達は『双子座』を示し、インスピレーションを司る"アムビエル"。

 

 

「貫け双子!」

 

 

双子の天使と、まどかは、一勢に弓を振り絞り狙いを定める。

何となくどんな攻撃が来るのかは分かる。かずみは舌打ちをして織莉子を諦め、後ろへ跳んだ。

そしてマントで自分をくるみ、前方には盾を出現させる。

織莉子も失った腕部分を押えながらオラクルを集めて防御魔法を行使する。

 

 

「スターライトアローッッ!!」

 

 

まどかの両隣にいた天使が弓矢を同時に放った。

桃色に輝く二本の光の矢。一本は織莉子へ。一本はかずみへ飛んでいく事に。

 

それぞれは防御魔法を発動している為に、何とかその一撃は防ぐ事ができた。

元々威力もそこまで高くないのか。しかしそれでも双方の防御を崩す程度には威力を見せ付ける。

さて問題はココからだ。片翼の天使たちが放った矢のほかにあと一つ、まどかが放つ矢がある。

おそらく天使の矢で防御を崩してから自身の矢で相手を貫くのが彼女の狙い。

 

ではどっちに来る?

織莉子はゴルトシールドを既に構えており、かずみも次の結界をいつでも発動できる様にしていた。

すると、まどかは唐突に矢を上に向けてみせる。

 

 

「ッ?」

 

「……!」

 

 

まどかは矢を放った。

だが違和感。まどかは最後の矢を天空に向けて撃った。

つまり意図的に外したと言う事だ。てっきり自分に来るものだと思っていた両者は、両者とも怯んでしまう。

 

拍子抜けと言った方がいいのか。

いや、もちろんその方が助かるのだが。

同時に気になるのは、何故まどかが矢を外したのかと言う事だ。

どちらかに当てていれば確実にダメージは入ったはずなのに。

少し後退しながらまどかの表情を伺う織莉子とかずみ。すると、まどかは少し俯き加減に口を開く。

 

 

「"さいご"に、もう一度だけ聞いていい?」

 

 

さいご。それは『最後』か『最期』なのか。

そして、まどかが攻撃のチャンスを捨ててまで聞きたい事とは?

 

 

「……わたしと一緒に、ワルプルギスの夜を倒してくれないかな?」

 

 

少しだけ、沈黙が辺りを包む。

しかし一番最初に聞こえたのは了解の言葉ではなく、和解の言葉でもなく、ただのため息だった。

幻滅、とでも言えばいいのか。織莉子もかずみも、冷たい目でまどかを見る。

正確に言えばかずみは少し戸惑いはあった。しかしそれを押さえ込むように表情を曇らせる。

 

 

「いい加減にしましょう。貴女も、理解している筈です」

 

「………」

 

「話し合いで解決するなら、私達が分かり合える道にいるのなら、今ココに私達はこうして集ってはいないと」

 

「それは、そう……! でも、だからって諦めたら何にもならないよ!」

 

「かもしれません。けれど、それは貴女が言える言葉ではない」

 

 

分かり合えるとすれば、かずみとだけ。

織莉子はそう言うと、少しだけかずみに視線を送る。

すると、かずみは鼻を鳴らして十字架に交互に向ける。

 

 

「遅いよ、もう何もかも」

 

 

分かり合えたのなら、とっくに肩を並べて笑いあっている。

その覚悟が自分達には無かったんじゃないかと、今になってつくづく思うようになる。

まどかや龍騎の考え方は立派だ。だが立派になるまでに、時間が掛かりすぎた。

もっと人の心に土足で踏み込む事を、早くからやっていれば良かったんだ。

尤も、それで今の運命が変わったのかは知らないが。

 

 

「鹿目まどかさん。この世には、絶対に決められた道があります。運命といえば良いでしょうか」

 

 

ここで戦うことは決められた道なのだ。

今更引き返せないのは分かっているだろうに。

無駄な会話を重ねても意味はない。織莉子は鹿目まどかを殺す。これ以外の道はないのだ。

 

 

「まどかは、ずるいよ」

 

 

かずみは、ポツリと呟く。

いつもは可哀相な程、弱いのに。いきなり強くなって分かり合おうだなんて。

もっと早く強引に言ってよ。もっと早く全てをさらけ出してよ。

弱さも強さも、悲しみも。友達なんでしょ?

何もかも、躊躇して、結局後戻りできない位置になって話し合うなんて。

 

 

「無理だよ、まどか。コレが私の答えだもん」

 

 

かずみは十字架をまどかに向けて止める。

織莉子も頷くと、オラクルを自分の周りに待機させて両者を睨む。

 

 

「分かり合い、そして戦いを終らせようとする貴女の意思は悪い物ではないでしょう。きっと」

 

 

しかし遅い、もう何もかもが遅すぎる。

 

 

「貴女だって心のどこかで理解していたはずです。このゲームは協力よりも裏切りの方が多発する環境の下に成り立っていると」

 

 

そんな中で協力を唱える事がどれだけ難しいことか。

そして何よりも全ての絶望が自分自身に収束している自覚が足りない。

この戦いは何よりもまず、鹿目まどかを殺す事が大切なのだと言う理解が足りない。

 

 

「貴方は結局、まだ心のどこかで話し合いで済むと思っている。違いますか!?」

 

「それは……」

 

「無理なんですよ。特に貴女と言う悪の言葉では」

 

「――っ」

 

「もちろん、貴女が死ねば全てがうまく行く訳ではない」

 

 

けれども、死ななければ全てがうまく行かない可能性が高くなる。

この世界に絶対、つまり100%は無いのかも。

けれども高い確率と言う概念や意識は、絶対に存在する。

鹿目まどかが生きていれば、世界が終わる確立が上がる。

その情報は真実、事実である。だから排除しなければならない。

それを悪と言う事も許して欲しい。だって世界を滅ぼす絶望魔女になるかもしれない女なのだから。

 

 

「ごめん、まどか」

 

 

かずみの十字架の先端に光が収束していく。

それは決別の合図。分かり合えない意思の表れであった。

織莉子もそれは理解している。だから特に何をするでもなく、まどかを見た。

彼女は悲しげだった。しかし同時に、絶望もしていなさそうで。

 

 

「わたしは、そうは思えない」

 

 

いや違う。思いたくないのか。

だが無情にも、かずみはリーミティエステールニを放ち、まどかは悲しげな表情で盾を出現させる。

天使が構える盾は、しっかりとかずみの必殺技を遮断した。

 

苦悶の表情を浮かべ力を込めるかずみ。

しかしまどかは涼しげな表情で盾を継続し続ける。

感じる力の差。このまま長期戦を続ければ、魔力の差でまどかが優勢になるのは明らかだ。

それを織莉子も感じつつ、けれども動くに動けない状況ではあった。

 

 

「死んでよ! 死んでよッ! まどかァアッッ!!」

 

「――ッ、かずみちゃん……!」

 

 

自分の必殺技を物ともせず防いでいる事実が認められない、認めたくないのか。

かずみは涙を浮かべて叫びをあげる。対して目を細めるまどか、傷つけたくないからと守護魔法を選んだのに結局は――、か。

 

 

「わたしの事、友達だって言ってくれたよね! だったら友達の為に死んでよ! 消えてぇぇッッ!!」

 

 

かずみの放つ光がより強くなる。

駄々をこねる様に叫び続けるかずみ。まどかは悲しげな瞳で、かずみを見る事しかできない。

きっと自分が知らないだけで、とても大きな悲しみと願いを背負っているんだろう。

その障害が自分達なのだろう。まどかは、とても苦しい。

 

 

「ごめん、かずみちゃん。友達だから……、わたしは死ねない」

 

 

それに貴女も死なせなくない。

綺麗事と何度言われようとも、コレがわたしの思いだから。

だけど、ううん、ごめん。矛盾してる。だってわたしも戦うって決めた。

死にたくないから抗うって決めた。

綺麗事と言うオブラートでどれだけ隠しても、わたしの本心はきっと誰よりも生を望んでいる。

 

だから、つまり、わたしは人の屍の上に成り立つ生でもいいのかなって思ってる。

わがままだよね、最低だよね、でもゴメン、わたしはまだパパとママとタツヤと一緒に生きたい。

それに天国、ううん地獄かな? そこに行ったって仁美ちゃんに知らせたくない。

彼女はわたしを守って死んだの、だからわたしは生きなきゃいけない。

仁美ちゃんはわたしの親友だから、大切な大切な友達だから。

軽く聞こえるかもしれないけど、わたしにはこう言うしかないんだ。

 

 

「ごめん、わたしは死ねない!」

 

 

だから、かずみちゃんが私をどうしても殺したいのなら――

 

 

「抗うよ」

 

「ッッ!!」

 

「貴女が分かってくれるまで。たとえ貴女を傷つける様な事になったとしても」

 

 

まどかは盾の向こうで手を上げる。

気づく織莉子と、気づかぬかずみ。

織莉子は未来を視て、まどかが何をしようとしているのかを先に知る事になる。

 

なるほど。

やはり鹿目まどかは羊の皮を被った狼だ。

あの時、双子座。真上に向けて矢を放ったのは、攻撃の意思が無いと言う主張ではない。

油断を誘うためだ。

 

つまりまどかは、"上に向けて放った矢を、しっかりと織莉子達の見えない所で受け止めていた"。

空に壁を張って、矢を受け止めたのだ。そして発動する天使はレイエル。天使は矢を反射させ、さらに真下に壁を作り、また反射させる。

そうやって矢は何度も上の結界と下の結界の間を反射する事になる。

 

例えるなら天上がそれほど高くない室内で思い切りスーパーボールを床に叩き付けたと言えばいいか。ボールは勢いが失われるまで天上と床をバウンドする筈だ。

その勢いが死なないバージョンがまどかの矢なのである。

 

そして今行ったかずみとの会話をスイッチにして、まどかは反射の角度を変えつつ、矢をかずみの真上にまで誘導して見せた。

 

 

(何と言う精度と魔力……! そして本人の集中力ッ)

 

 

そして矢は、真下に軌道を合わせて飛んでいく。

上空高くで行われている調整のため、ほとんどの人間はそれに気づかない。

織莉子が気づいたのも、ある意味たまたまだろう。

そして当然気づいていないかずみに待っている結果はただ一つ。

 

 

「―――アァアアアァア!!」

 

 

半ばムキになり、怒りと悔しさ、焦りによって冷静さを欠いたかずみに、上から降ってくる光に気づける訳がなかった。光の矢――、と言うよりレーザーはかずみに降り注ぎ、彼女の動きを停止させる。冷静にまどかを見ていれば、彼女のアクションに気づけた筈なのに。

かずみの位置からでは厳しかったのか? いや、手を上げたアクションは気づけた筈だ。

それだけかずみも切羽詰っていると言う事か。

 

しかしココで動きを止めることが何を意味するのか。

かずみは参戦派、つまり織莉子にとっても邪魔なのだ。

 

 

「あ――ッ! ああぁぁ!!」

 

 

織莉子のアクションは早かった。

オラクルを移動させて、かずみの各関節部分に猛スピードで打ち込んでいった。

しかもオラクルを燃やす攻撃魔法、ブレイジングマルスを発動しながら。

 

 

「―――」

 

 

ゴキッと嫌な音がしてかずみは地面に倒れる。

痛みが自分の愚行を気づかせてくれた様だ。

かずみはハッとした様な顔を苦痛の中に混ぜていた。

しかしもう遅い、倒れた彼女に次々と降りかかるオラクル。

 

それだけじゃない。

織莉子はオラクルに光の剣を生やす『オラクルレイ』を、オラクルを叩き付けた瞬間に使っていた。

するとどうなるか。簡単だ、光の剣はかずみの肉体を貫いて、地面に突き刺さる。

 

 

「――ッ!」

 

 

まるで昆虫の標本のようだ。

だが、そこで動くのがまどか。走りながら織莉子に次々と矢を連射していく。

しかし、かずみはともかく、まどかの動きは未来予知で把握できる。

織莉子は最小限の動きで矢を交わし、逆にかずみを攻撃しつつオラクルをまどかに向かわせる。

片腕は無いが、オラクルは織莉子の意思一つで自在に動く。特に問題は無い様だ。

そしてまどかの回避ルートに置く様にして攻撃すれば――

 

 

「うッ!」

 

 

いくらまどかが守護魔法に特化していようとも、次々と周りを飛び回るオラクルを全て回避できるとは限らない。それに撃ち落そうとすれば、織莉子はすかさずオラクルを移動させて攻撃を回避させる。

 

織莉子は能力、魔力、武器ともに強力だが、他二人はさらに強力だと言わざるを得ない。

ならば少しでも自分のペースに引き込み、アドバンテージを取る。

それ以外に勝つ方法は無い。ココがチャンス、一気に決める為に、織莉子は意識と魔力を集中させる。

 

特に今は、まどかも疲労気味の為にタイミングは完璧だった。

いくら絶大な魔力を持っていたとしても、流石に大技を連発させすぎている。

織莉子は基本的にはまどかに意識を向けつつ、今現在負傷しているかずみには追撃を。

突き立てたオラクル達の中で、それぞれ四肢に刺さっているオラクルに魔力を集中させる。

 

さらにその四つを回転。

コレがどういう事態になるのか? 簡単だ。先ほどの織莉子と同じく、かずみの腕が切断される。

いやそれだけでなく両腕と両脚が無くなる事に。

防御力を上げていたようだが、コチラも決着を付けるつもりで魔力を注いでいる。

先ほどのお返しも込めて、織莉子は勝負をしかけた。

 

 

「アァアァアアアァアアアアア!!」

 

 

悲鳴を上げるかずみ。

彼女の四肢からはおびただしい量の出血が確認できた。

どうやら痛みとパニックで止血できる思考が無いのか?

だが結局、回復に魔力を割けば物の10分もあれば全に手足は再生するだろう。

だから早く決着を付けなければならない。織莉子はまどかに視線を合わせつつ、再びオラクルをかずみへ当てようと試みた。

 

だが考えてみれば、つくづく自分達の命や存在は軽いものだ。

騎士よりも防御力が低く、騎士よりも蘇生が楽に、しかも複数チャンスを与えられているからだろうか?

 

元々魂がソウルジェムに~などと言う背景もあってか、手が無くなったときもどうせまた生えてくるからとしか思わない。

人間としてあるべき物が欠落している様だ。

 

 

(いや、今はそんな事を考えている場合じゃないわ)

 

 

とにかくかずみを殺す。

一方でかずみの名前を叫ぶまどか。光の翼を広げて、強引にオラクルを蹴散らしながら織莉子の元へ飛んできた。

オラクル達が身体や顔に当たろうとも気にしない、強引なパワープレイと言うべき動きで近づくいていく。

 

そこで織莉子は悟る。

やはりまどかは、死人が出ない様に立ち回っている。

織莉子とかずみが均一なダメージ量になる様に心掛けている様だ。

だが愚かな、その判断が織莉子を戦いやすくしてくれる。

 

 

「フッ! ハァァ!!」

 

 

オラクルの数を増やし、それをまどかに一勢に向かわせる織莉子。

一瞬かずみも確認しておく。

 

 

「っ?」

 

 

え?

 

 

「ッッ!?」

 

 

なんだ?

なにがどうなっている!? 織莉子は一瞬、自分の目を疑ったものだ。

なぜならば、倒れていたはずのかずみがいつの間にかいなくなっているから。

手足が無くなったと言うのに、かずみが忽然と姿を消していたのだ。

 

 

(カードを使った? それにしては音はしなかったし、マントで飛んだ……?)

 

 

 

等と考えている織莉子の耳に、チリンと澄んだ鈴の音が聞こえた。

 

 

「え?」

 

「っ! お、織莉子さん!?」

 

 

思わずまどかは、織莉子の名を叫んでしまう。

両者の思考の中に割り入ってくるのは、澄んだ鈴の音と、獣の様な叫び声だった。

 

 

「ウガァアァアアアアァアァアッッ!」

 

 

織莉子は殴られた。

誰に? それは四肢がしっかりと生えた、かずみにだ。

かずみの拳は織莉子の頬を抉っており。彼女はそのままきりもみ状に吹き飛びながら、ボロ雑巾がごとくグシャグシャに身体を曲げつつ地面を擦って、転がって、叩きつけられていく。

 

 

(ば、馬鹿な……!?)

 

 

何故かずみが動ける? まさかもう再生したとでも言うのか?

様々な考察を張り巡らせる織莉子だが、彼女は血を撒き散らしながら空を見る事に。

痛みと衝撃がまだ身体に残っている様だ。織莉子は立ち上がる事もできず、ただ今起こった出来事の答えを探すだけ。

 

 

「―――」

 

 

遠くの方で、かずみの叫び声が聞こえる。

その声はもう、彼女の澄み渡った声ではなく、濁りきった獣のソレ。

声と言うよりは鳴き声だ。理性の欠片もない様に感じる。

 

 

「かずみちゃん……!」

 

 

一方でまどかも、かずみの姿をしっかりと確認していた。一部始終も見ている。

倒れたかずみのピアス。つまり二つのソウルジェムが音を立てたかと思えば、彼女の手足が急に生えてきた。

 

と言っても、その手足は人間の物とは違う。

黒く、爪も鋭利で、形もおかしい。人間ではない手足、だとすればそれは何なのか?

何度も言う様に、この世には人間以外の生物は限られてくる。

使い魔、ミラーモンスター、そして――

 

 

「ゴガァアアァァアアァアァァアアア!!」

 

 

魔女化魔法・マレフィカファルス。

自身の中に眠る魔女の力を、極限まで前面に押し出す技である。

 

暴走状態。

かずみはそれを使用したという事なのだ。

目にはヒビの様な線が入り、獣の唸り声を漏らす口の中には、鋭利に尖った牙が見える。

ダメージが多かった為なのか、それとも以前に使ったからなのかは知らないが、既に理性は失われており、言い方を変えればただの魔女になっている。

 

あのまま使用を続ければ、魔女に食われるのだろうか?

まどかは胸にズキリとした痛みを覚えるが、あの魔法を使用させたのは自分だと言う事実をしっかりと胸に刻んで弓を構える。

 

そして一方の織莉子。

彼女は驚きとは少し違う表情を浮かべて、かずみを見ていた。

それはまるでずっと疑問だった謎が解かれたような、そんな爽快感と、そして謎を解いてしまったが故の戸惑い。

 

 

(……まさか)

 

 

織莉子は、かずみの耳にあるピアスを見る。

あれが彼女のソウルジェムである事は、放出される魔力を感知するに間違いない事だ。

しかも今のかずみは、暴走状態が故なのか、両耳のピアスからしっかりと目で確認できる程の魔力を放出している。

どす黒いオーラのソレ。とにかく、かずみのソウルジェムが二つのピアスだと言う事を証明していた。

 

今、考える事ではないのかもしれない。しかし一度思えば考察は加速する物だ。

杏子も疑問視していた事だが、気になるのは何故かずみだけ織莉子達とソウルジェムの構造が違うのか。

確かにソウルジェムは衣装に組み込まれるとそれぞれ別の形になるものだ。

しかし二つに分かれるのは聞いたことがない。まして鈴型になって宝石部分を隠すなども。

 

たまたまだと言えばそうかもしれないが、織莉子が見て来た魔法少女の中にそんな者はいなかった。

片方を壊せばどうなるのか? 試してみてもいいが、それよりも先に考えてみた。

たまたまと言う要素を排除すれば、導き出される答えはつまるところ、かずみは"特別"なのではないかと言う事だ。

 

それは今、かずみが発動している魔法を見ても分かる事だ。

魔女の力を魔法少女のままに扱えるなど、規格外の力ではないのか?

 

いや、彼女の魔法形態がコピーならば、他人から写した魔法とも言える。

しかしキュゥべえが言っていた様に、ゲームが行われると決まった際、妖精は参加者以外の魔法少女を全て絶望させた。

ならば誰から盗むというのか。もしかしたらキュゥべえが魔法少女を絶望させる前に盗んだとも考えられる為、どうとでも考えられるが。

 

とにかく、今はかずみが特別だと言う点を重要視して話を進めたい。

これは全て織莉子の考察にしか過ぎないが、かずみのソウルジェム、未来を視る時にかずみに靄が掛かる事。

それらを考えた結果、導き出される答えは絞られる。

 

 

(まさか彼女は――ッ!)

 

 

別にこの答えを導いた所で、戦闘に関係ある訳ではない。

しかし、それでも一つの答えが織莉子の脳に浮かんでしまったのだから、仕方ないだろう。

魔女になる魔法と言う、天使を呼ぶくらいに特殊なソレ。

まどかは絶望の魔女だから特異性に説明がつくものの、かずみはどうだろう?

 

少なくとも"今までの魔法少女"とは違う力に感じられる。

二つに分かれた他とは違うソウルジェムの形。

未来を視ても彼女の姿がぼやけて確認できない事がある事実。

 

 

「………」

 

 

もしかすると彼女は――、ある意味で全ての元凶なのか?

文字通りではなく、かずみの存在が歯車をまた大きく狂わせたのではないだろうか?

いやそれとも彼女は――、途中から?

いや、それでは話が……。

 

 

(F・Gの参加者は、12組だったとすれば? いや、となると妖精達はいつ彼女に接触を……!?)

 

 

そこで我に返る織莉子。

いや、こんな事を考えてどうにかなる訳ではない。

かずみが"たとえそうだったとして"、何になると言うのか。

かずみは今ココで死ぬ、それだけだ。

 

今はとにかく勝利を目指すしかない。

幸いかずみは、今ターゲットをまどかに変えて攻撃を行っている所だ。

織莉子も魔力の底が見えてきた。これでも一度グリーフシードを使って回復したのだが――

 

それに、いつまでも均衡は保てない。

たとえどれだけ魔力を回復しようにも、長期戦になればやはり優勢になるのはまどかだろう。

彼女もきっとグリーフシードの予備くらいはサキ辺りに持たされている筈だ。

それに長引かせると言う事は、まどかを魔女にするリスクが高くなる。

やはりもうそろそろ、終わらせなければならない。

 

 

「集え、星よ――!」

 

 

織莉子は一本だけの手を天に掲げる。

ソコへ収束していく全てのオラクル。

さらに織莉子はオラクルを追加させ、それも上へと収束させていく。

そして決着の為の魔法を発動させる。するとオラクルが光に変わり、隣接している光を取り込み始めた。

つまり一つになっていくと言う事、そうしていると全てのオラクルが一つになり――

 

 

「もう、終わりにしましょう……ッ!」

 

「!」

 

 

悪戯に長引かせる必要もない。

コレをきっかけに、全てを終わらせると織莉子は宣言した。

彼女が掲げる手の上では、巨大な一つの宝石が眩い輝きを放っている。

それは一つの星の様だ。織莉子はソレを見せ付けるようにして輝きを強めた。

なんて大きな宝石なんだろうか、どんな物でも押し潰してしまいそうな。

 

 

「ガァアアアアアアアアアアア!!」

 

「キャァアア!!」

 

 

かずみはアクロバティックな動きでまどかの背中を蹴ると、同時に両手の爪でまどかの背中を引き裂く。動きを止めるまどかと、彼女から距離を取るかずみ。

まどかの可愛らしい魔法少女の衣装が切り裂かれ、肌からは血が流れていると言うミスマッチな光景が異常を演出する。

 

かずみは吼えながら四足歩行で移動し、最初の立ち位置。

三角形になる様な位置で止まった。

織莉子、まどか、かずみの三つ巴の並び。

 

するとかずみの周りにティロフィナーレを放つ際に使用される十字砲が無数に出現していく。

なんて数だ。織莉子とまどかは思わず喉を鳴らしてそれを見る。

無限の魔弾を使用する際のマスケット銃とまるで同じではないか。

 

さらに十字砲の砲口に集中していく光。

なるほどと、まどか達はかずみが何を使用するのかを理解した。

かずみもまた、織莉子の大技に感化されて最大攻撃ともいえるアクションを取ったのだろう。

 

決着を付ける気だ。

まどかもそれを理解すると、牡牛を呼ぶための詠唱を始める。

 

 

(勝てるの……? あれほどのエネルギーを持った二人に――!)

 

 

 

織莉子は思わず汗を浮かべる。

だが未来は常に自分の手にある。

どれだけ足掻こうが、もがこうが、抗おうが意味の無い事を教えてあげねば。

 

 

「ごめん。もう一度……、ううん何度でも聞くけどッ、戦いを止めませんか!」

 

「フッ、貴女はどれだけ愚かなのかしら。もう全て無駄、遅いんですよ!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

一人に至っては話すら聞いてないし。

織莉子の言葉に、まどかは苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「私は世界を救う。絶望なんかに負けない!!」

 

 

だから死んでください!

織莉子はそう叫ぶと、巨大なオラクルが回転を始める。

三人の意思は、言い方を変えれば凄く近い物であり、同時に全く別の道を行く物でもある。

 

決して交わる事のない平行線。

織莉子はもう疲れた。このまままどかの優しさに触れても、このままかずみの悲しみに触れても、何も変わりはしないのだから。

 

もしかしたら、三人は三人とも、それをよく理解しているのかもしれない。

けれども何度となく、同じ事を言うしかない。

それが自分達に与えられた役割と知っているから。

 

 

「――ッ!」「!」「ッッッ!!」

 

 

誰が合図をした訳ではないが、三人が動いたのは同時だった。

織莉子だけではないかもしれない、分かりやすく力を解放して、見せ付けたのは。

もしかしたら自分の意思が一番強いのだと、力を以って証明したかったのか。

難しい年頃の少女が選ばれた理由が、こう言う場面で出てしまう。

尤も、それを三人が自覚する事は無いのだろうけど。

 

 

「……!」

 

 

織莉子は二人を睨む。

救済に拘った彼女は、いつしか多くの命を犠牲にしてしまった。

それが正しい事とは思えず苦悩した日もある。

しかし奪った命は確かなもの。そこから目を背ける事はできない。

 

ならば織莉子にできる事は、その奪った命よりも多くの命を救うことだ。

そして父の目指した道。世界救済を成し遂げるために、彼女はココに立っている。

 

 

「ァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

かずみは二人を睨む。

大切な者は山ほどあった。たくさんの思い出が詰まった町。たくさん笑いあった仲間、友達。

そして何よりも大切な――……。

 

それが全て壊れた時、彼女はその定めを受け入れる事ができなかった。

だから藁をも掴む思いで手に入れたチャンスに縋った。

そのチャンスを掴むためには、多くの犠牲が生まれた。

かずみはそれを望んでいなかったのに。大切な友達も、大好きな町も全てが壊れる。

だから彼女は、最後に残った希望に生きる意味を見出した。だからココに立っている。

 

 

「壊せ牡牛!」

 

 

まどかは二人を睨む。

迷い、戸惑い、悲しみ、そして何が救えた? 何も救えず自分は泣いていただけだ。

変わりたいと願ったあの日から。まどかは、まどかが望む世界を作れたのだろうか?

憧れた魔法少女になれたのだろうか?

 

答えは出ない、永遠に?

いや、でも自分は見つけたい。このままじゃ終われないんだ。

友の為に、家族の為に、世界の為に、そして自分のために。

 

今度こそ鹿目まどかは声を大にして言いたい。

全てを守ると。全ての絶望を跳ね除け、絶対の希望を示すと。

だから今、ココに立っている。

 

 

「「「―――」」」

 

 

三人が動いたのは同時だった。

織莉子は巨大な宝石を放ち、かずみは無数の十字架型砲台から光を放ち、まどかは弓から牛型の天使を放つ。

三つの意思を具現した力は、中央でぶつかり合う事に。

 

 

「ケイオスプルート!!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「スターライトアロー!」

 

 

ぶつかり合い、激しい光を巻き起こす三人の攻撃!

 

 

「「「オォオオオオオオオオオオオオ!!」」」

 

 

見事に声が重なった。

最大攻撃で望む、勝敗のボーダーライン。

しばらくは激しく競り合う三者の攻撃だが、決着は割と早い段階で訪れた。

 

 

「――ッ!」

 

 

織莉子のオラクルにヒビが入る。

それはそうだろう。彼女の攻撃がいくら強くとも、まどかのスターライトアローは相手の攻撃を打ち破る事に特化した牡牛座。

そしてかずみは、無数の砲台からリーミティエステールニと、双樹姉妹のピッチジェネラーティを合成させたものを発射している。

その攻撃は、織莉子の最強魔法を簡単に破壊していく。

 

 

「………」

 

 

分かっていた。

この特別な存在達の中で、織莉子の実力が頭一つ下にあるのは。

絶望の魔女の魔力を持ったまどかの牡牛は、その角で宝石や光線に怯まずに突き進む。

片や、エネルギーの塊に、エネルギーを上乗せした光の弾丸は、宝石や牡牛を焼き尽くそうと進んでいく。

 

織莉子がどれだけ抵抗した所で、まどか達のスペックや、純粋な魔力の差に勝てぬ事くらい、分かっていた。

オラクルのヒビはどんどん大きくなっていき、バキンと言う音と共に、欠片が飛び散るまでに。

分かっていた、分かってはいたが――

 

 

(腹が立つ――ッ!)

 

 

まるで自分の意思が圧し負けた様な感覚だった。

織莉子は歯を食いしばって、自分の心に宿る感情を偽らずに受け入れる。

苛立つ、ムカつく、気に入らない! どうして世界をこんなにも愛する自分が、こんな連中に圧し負ける!?

 

 

(お父様の考えに離れた思想を持つ彼女達に、何故私が――!!)

 

 

劣等感と言えばいいか?

織莉子は自分の想いが他の二人よりも勝っていると自負していた。

なのに真正面から撃ち負けるなんて。もしかしたら自分の思いはその程度なのかと錯覚してしまうじゃないか。

 

 

(そんな事は無い――ッ!)

 

 

これは全て分かっていた事だろう?

織莉子は自分で自分を落ち着けると、冷静に状況を確認する。

意地比べまがいな勝負を持ちかけたのは本当だ。しかし何も、本当に純粋な力と力のぶつかり合いを望んだ訳ではない。

 

織莉子にはもう一つの狙いがあった。

かずみが暴走状態となり、冷静さを欠いている今が何よりのチャンスだと思ったからだ。

彼女はそのタイミングを狙っている、虎視眈々と。

 

 

「「「ハァアアアアアアアアアアアアア!!」」」

 

 

けれどもこの純粋なぶつかり合いでも勝ちたい。それが織莉子の本心ではあった。

奇跡を願って自分達はこの力を手に入れた。

その思いの強さが、試されている様な気がしたから。

 

 

「………」

 

 

けれども――

 

 

(ごめんなさい、お父様)

 

 

その瞬間。

そう、まどかとかずみの魔法技によって自分のオラクルが砕かれた時、織莉子は一筋の涙を流す。

砕かれたのだ。オラクル同士を合体させるケイオスプルートによって最大の力を放った。

だがそれは二人には通用しなかった。かずみの光がオラクルを砕き、まどかの牡牛がオラクルを粉々に粉砕する。

最大攻撃魔法は完全に撃ち負けた。織莉子はその事実が何よりも悔しくて涙を流す。

それは魔法少女だとか言う事を一切除いて、中学生の女の子が流す涙だった。

 

 

(でも、勝つ! 絶対にココで決めるッッ!)

 

 

織莉子は自分に向かってくる光の中でしっかりとターゲットを睨む。

実力は知っている、だから織莉子はあえて負けると知りつつ、攻撃を放った。

そして今、まどか達は織莉子の攻撃に勝った事で多少なりとも油断している筈。

人間は勝ちを確信した時に、最大の油断が生じる物。そこを叩く!

 

 

(見なさい! コレが力のデッキが生み出した最強のカード!)

 

 

織莉子はユニオンを発動。

オーディンのデッキから一枚のカードを使用する事に。

 

 

(私は、絶対に世界を救ってみせる!!)

 

 

それは――

 

 

『タイムベント』

 

「「!」」

 

 

時間を操作する力。

織莉子を中心としてオーディンの紋章が広がり、あっと言う間にまどかとかずみも紋章の中に入る。

まどかとかずみ、二人の視界はホワイトアウトし、耳は時計の針が動く音だけが聞こえる。

タイムベントは一部の時間を操作することができるカードだ。

織莉子は、この場面の時間を戻したのだ。

 

 

「!?」

 

 

まどかとかずみからしてみれば、自分の技が一瞬で消えた様に思えるだろう。

とは言え、それはあくまで紋章の中の時間が戻っただけ。つまり攻撃を放つために消費した魔力も元に戻っているのだ。

だからつまり、同じ事をやればいいだけ。尤も、まどか達は仕組みに気づいていないのか攻撃を消されたと思っているようだが。

 

一方で、織莉子は違う。全てを理解している。

では彼女は、何故この一連の流れを行ったのか?

攻撃を無効にするが、魔力が戻るためまた同じ威力の攻撃を放つことができる。

一見すれば無意味な行動に思われるかもしれないが、しっかりと進んでいる時間もある。

それは、カードの再構築時間である。織莉子の狙いは全てココにあった。

つまり攻撃準備から競り合い、オラクル破壊に至るまでに消費した時間が、それだけカードの力を取り戻す時間になってくれる。

 

 

『ユニオン』『ディメンションベント』

 

 

だからもう一度使えるようになる。

消える織莉子、出現位置はただ一つ。

それはかずみの背後だ。いくら暴走状態とは言えど、自分の攻撃が消えた事に驚くはず。

そんな中で背後に現われた織莉子に対処できる訳が無い。

織莉子は発動していた二枚目、ソードベントを思い切り振るう事に。

ありったけの殺意を込めた斬撃はかずみを大きく怯ませ、さらに渾身の力を込めてゴルトセイバーで突きを繰り出す。

 

片腕に加えて、非力な織莉子ではあるが、ソウルジェムを使って腕力を強化した事と、元々のゴルトセイバーの威力もあってか、かずみの胴を貫通させる事ができた。

血を吐き出すかずみ。織莉子はまだ力を弱めない、かずみが事態を把握する前に殺すつもりだった。

 

織莉子はゴルトセイバーをより深く、かずみの体へ沈めていく。

すると胴を貫通した剣は地面に突き刺さり、かずみの動きを拘束させる楔に変わる。

だがまだ安心はできない、異端審問やシビュラ等、かずみは動けずとも攻撃ができる手段が豊富だ。

だからその前にソウルジェムを片方だけでも――

 

 

(いける!)

 

 

かずみの未来は確認できないところにまで靄が掛かってきた。

しかしこのスピードなら――

 

 

「ぁッ!?」

 

 

背中に衝撃、動きを止める織莉子。

何だ? 分かっている。お前だろう鹿目まどか!

 

 

「死なせないよ、誰も!」

 

「愚かな!!」

 

 

光の矢を受けた織莉子。

その一瞬の時間稼ぎで、かずみは状況を理解した様だ。

手がまるで鞭の様に伸びると、織莉子に掌底を打ち込む。

 

さらにそこで、かずみは双樹姉妹の姉であるあやせの火炎魔法を使用。

紅蓮の炎が織莉子の腹部を押しながら、かずみとの距離を空ける事に。

 

 

(まだだ――ッ!!)『ユニオン』『シュートベント』

 

 

吹き飛ばされる織莉子ではあるが、それが逆に使えなかった技を使えるチャンスを作る事に。

かずみは地面に突き刺さっている剣が抜けないために動く事ができない、そこに降り注ぐ光の雨。

流石にダメージが大きすぎたか、かずみは唸り声をあげつつも、力なく停止する。

だが織莉子も炎を胴に受けて吹き飛んでいるところ。地面に叩きつけられ転がっていく。

そして倒れた先で織莉子が見たのは――

 

 

「――……ッ」

 

 

倒れた自分を見下ろす、まどかだった。

光の加減が原因なのか、それとも本当にそうだったのかは知らないが、まどかの織莉子を見る目が――、まるで、ゴミを見る様な目に見えた。

 

 

「織莉子さん……、もう止めて」

 

「………」

 

 

まどかも理解している。守るだけじゃ戦いは終らない事を。

だから弓を振り絞り、桃色の光を集中させている訳だ。

もう止めて。その続きをまどかは言わないが、表情が語っている。

 

全ての言葉を並べるとしたら『織莉子さん、もう止めて。これ以上続けるなら撃つよ』だろう。

城戸真司とは違い、彼女は良心をソウルジェムでセーブできる。

最悪の場合、まどかは本当に織莉子を殺すのか。

 

 

「ここでわたしが撃てば……」

 

 

まどかはまたも、その先を言う事は無かった。

しかしそれくらい織莉子にも分かる事だ。

ここで撃てば、まどかは勝つことができる。

 

 

「もう動かないで。動いたら撃ちます……!」

 

「………」

 

 

だろうな。織莉子は無言でまどかを見る。

対して辛そうに表情を歪めつつも、説得を続けるまどか。

もう勝負は決したろう? これ以上続ければ本当に誰かが死ぬ。

その前に戦いを終らせる必要がまどかにはあった。

 

 

「かずみさんもいる中で、戦いを止めろと言うのかしら……?」

 

「………」

 

 

まどかは織莉子から一瞬視線を外して魔法を発動する。

ベルスーズシェーヤー。桃色のシャボン玉の中にかずみを閉じ込めて、安楽の睡眠を誘わせる。

普段ならば跳ね除けてしまうのだろうが、蓄積されたダメージと擦り減った精神力。

何よりも動けない状況が功を奏したか、かずみは気を失っていく。

 

 

「所詮は気休めです。時間が経ち、かずみさんが回復すればアレは割れる」

 

「だったら、二人で止めようよ!」

 

「………」

 

 

今の戦いを通して、自分の実力は分かってもらえたとまどかは思っている。

決して足手まといにはならない筈だ。それはワルプルギスの夜との戦いでも言える事。

確かに絶望すればと言うリスクはあるが、絶望する気はないし、守護の魔法で皆をサポートして見せると。

 

 

「お願いします織莉子さん……、もう戦いたくないよぉ」

 

 

弱弱しい本音。まどかの目から涙が零れていく。

あくまでも『守護』を貫くならば、この戦いは終わらない。

どれだけ抵抗の為に相手を傷つけようが、誰も殺せないし、戦いを終らせるには殺意を削ぐしかないのだから。

 

織莉子はまどかの目に見える涙を見て口を閉じる。

織莉子も複雑な表情だった。多少なりともまどかの言葉には心を動かされているようだ。

 

 

そして。

 

 

「……分かりました」

 

「え?」

 

 

織莉子は目を閉じて大きく息を吐く。

 

 

「今の言葉に嘘はありませんね?」

 

「それは――」

 

「貴女が本当に戦いを止めたいのなら、私は今ココで戦いを止めて、貴女と協力の意思を示しましょう」

 

 

負けました。織莉子は少し複雑そうに表情を歪めて言った。

対してパッと明るくなるまどかの表情、そこには希望が視えた。

 

 

「本当!? 織莉子さん!」

 

 

涙を零しながら笑みを浮かべるまどか。

彼女は攻撃を中断して織莉子に手を貸そうとする。

対して目を開ける織莉子、彼女もまた表情を変えてまどかに一言だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘に決まっているわ」

 

「え?」

 

 

その時だった。

まどかの全身にオラクルが打ち込まれ、骨が砕ける音が響いたのは。

先ほどのかずみ同じく、関節部分にそれぞれしっかりとオラクルはめり込んでおり、まどかの『立つ』と言う機能を破壊していく。

 

 

「え?」

 

 

まどかは倒れながら、鈍る思考を必死に回復させる。

嘘? 嘘って、どういう――?

いや、違う。本当は『嘘』と言う言葉が出た瞬間に、理解はできた。

思考が止まったのは、認めたくないと、拒絶したからだろう。

要するに織莉子は、まどか油断させるために嘘をついた。

まどかは、まんまと織莉子の罠にはまってしまったのだ。

 

 

「甘いんですよ、貴女は」

 

 

織莉子は立ち上がり、服についた汚れを払っていく。

浮かべる表情は、相手を罠にかけてやったと言う笑みではなく、哀れみに満ちた表情だった。

まどかのどうしようもない愚かさと優しさ、悲しい素直さに対する表情だったのだ。

 

 

「どれだけ愚かなのかしら、貴女は!」

 

 

どうして疑わない? どうして躊躇する?

どうしてそこまで協力の意思を通せる? どうしてそこまで――!

 

 

「はじめに言ったはずよ。あれは最終警告、私達の道が交わる事は無いと!」

 

 

それなのにまどかは、そんな不可能な事を可能だと信じて、偽りの希望を作り出して縋る。

分かり合えるのなら、もうとっくに分かり合っている。

目指す道が同じなら、とっくに手を取り合っている。

 

 

「何故今、私達は戦っているの? それは力で相手の意思をねじ伏せる為でしょう?」

 

 

そんな中で、今更話し合いでの解決なんて望むなよ。うんざりだった。

 

 

「鹿目さん、私も貴女と同じ様な意思を持ちたかった」

 

 

皆が協力する道があるのなら、それが一番だから。

 

 

「でも無理だった! 分かるでしょう!? 傷つけない戦いに、終わりは無いの!」

 

 

コレは喧嘩じゃなく殺し合いだ。

つまりどちらかの命が費えるまで攻撃は終らない。

掲げた意思(さつい)は、そんな簡単な言葉で終わるほど軽い物ではないんだ。

 

 

「貴女の存在を、私は認める事ができないッ」

 

「あっ! あぁぁ!!」

 

 

織莉子は倒れるまどかに何度となくオラクルを当てていく。

防御魔法を発動するまどかだが、その前にオラクルが体内に侵入して回転しているのか、傷を抉られる痛みで魔法が安定しなかった。

 

さらに言ってしまえば、まどかは心に大きなダメージを負ってしまっている。

それもあって織莉子は張られる結界をバリンバリンと割る事が可能になる。

それが最大のチャンスだと、彼女は容赦なくまどかを打ちのめす。

 

 

「貴女の思いは立派だわ。けれど、貴女を信用するにはまだまだなの!」

 

 

絶望しない絶対の保証が無い。

ましてやワルプルギス戦で魔力が無くなる、または何らかの要因が関係して絶望する可能性は高い。

確かに最強の魔女といわれるワルプルギス戦にまどかがいれば心強い事はそう。

しかし同時に大きすぎるリスクがある。

 

 

「私は安定を目指したい。それに比べて貴女の掲げた思想は叶える事が何よりも難しい!!」

 

 

参加者同士が手を取り合う景色など、夢物語にしか過ぎない。

まどかの希望に満ちた御伽噺を聞かされるのはもうウンザリなんだ。

織莉子はその思いをオラクルに乗せて、まどかを攻撃する。

 

 

「それに忘れた訳ではないでしょう? 私は貴女の親友を殺したッ!」

 

 

実行はしていないとは言え、殺したも同然だ。

そんな相手と協力? そんな相手を許す? 馬鹿な、できる訳が無い。

 

 

「織莉子さんを殺しても――……! みんなは、もどって…こない――ッッ」

 

 

仁美ちゃんは、絶対に喜ばない。まどかは信じていた。

確かに怒りが全く無いわけではないが、恨みを通すよりも、希望を見出したいとまどかは思う。

悪いのはF・Gだ。環境が人を狂わせる。

 

 

「立派な答えね! ですが、貴女こそがその環境の一部――ッ!」

 

 

織莉子はもう一度、まどかの身体にオラクルを叩き込む。

まどかは言葉にならない悲鳴をあげて動きを止めた。

 

 

「……ッ! 終わり、ですね」

 

「あ――ッ! はっ! カハ……ッ!」

 

 

意外とアッサリと決着は訪れる物だ。

織莉子は血塗れのまどかからソウルジェムを毟り取ると、一度まじまじと見詰める。

もうまどかに抵抗する様子は無い。諦めたのだろうか? 涙を流しながら血を吐いていた。

 

 

「結局、貴女は誰も傷つけられない。傷つくだけ」

 

 

かずみを先に狙ったのも、織莉子は一つの確信を持っていたからだ。

それはまどかはどれだけ相手を攻撃できたとしても、最後の一線は越えられない。

生きる覚悟を固めた時点で、誰も殺せない。

それは立派な事だが、同時に大きな弱さに繋がってしまうのに。

 

 

「己の優しさを、そして弱さを恨みながら死になさい」

 

 

まどかのソウルジェムはまだ輝きを保っていた。

美しい桃色の宝石。それは希望の光?

いや、だが、織莉子にはその奥に大きな絶望を見ている。

 

鹿目まどかは立派な少女だ。

不可能に近い道と知りながらも、皆が幸せになれる道をパートナーと共に目指す。

つくづく彼女達がこの戦いに巻き込まれた事が残念でならない。

しかし不可能な道は、文字通り不可能でしかない。

 

 

「さようなら、鹿目まどか」

 

 

あなたは立派。あなたは優しい。

あなたは――

 

 

「可哀相なほどに愚か」

 

 

織莉子はまどかのソウルジェムを地面に叩きつけ、オラクルを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻り、一同から離れた原地。

そこでほむら達が戦っていた。ほむらの足元には巨大な魔法陣、逃げようと思っても当然二人でそれを止めてくるので難しい話だ。

既にほむらの魔法少女の服には多くの裂け目が見え、そこから赤い線も覗いている。

だが彼女も必死に抵抗したのか、キリカ達とて無傷とは言えない物だった。

 

むしろキリカに関しては全身に傷が見え、血だらけと言ってもいい。

そう言った点では、むしろキリカの方がダメージは受けている様だった。

そうだ、ほむらがわざわざ運ばれた理由は2対1であっても勝てる自信があったからに他ならない。

 

 

「まさか盾から車が出てくるなんてね」

 

 

タンクローリーを出して轢かれた時は終わったと思ったよ。

キリカはケラケラ笑いながら回想に浸る。車に引きずられたのは痛すぎて笑ってしまう程だった。

ほむらとしては爆発もさせるつもりだったが、タイガがそこでフリーズベントを使用しタンクローリーの動きを止めたのがポイントだったか。

 

ほむら一人だけならキリカに勝っていただろうが、そこにパートナーシステムの恩恵が光る。

キリカが全身骨折で呻いていた際にはタイガがほむらの相手を務め、その間にキリカは回復に専念できたと。

 

そして今に至る訳だ、キリカの減速魔法もいい具合に成長を遂げた。

彼女は早速爪を飛ばすステッピングファングをほむらに発射。

ほむらは何とか回避しようとするが、減速中な訳で――

 

 

「ぐぅッ!」

 

 

肩に爪が刺さり、倒れてしまう。

キリカは流れる血を気にする事なくケラケラと笑っていた。

 

 

「あはは! 痛いかい? ゴメンゴメン!」

 

 

でも残念、運が無かったね。

だってキミは死なないといけない。

なんで? 何故? それは。

 

 

「キミが、彼女に固執してるからさぁ」

 

「……ッ」

 

 

キリカは自分の鼻先が、ほむらの鼻先に触れる程、近くに寄ってニヤリと笑う。

舌打ちを放つほむら。すぐに回し蹴りを繰り出すが、もちろんここでも減速魔法の恩恵が見える。

キリカはほむらの蹴りを確認した後で、後ろへ跳んで攻撃を回避した。

 

 

「うお! わわわ!」

 

 

しかしほむらも手にはマシンガン。

言うてまだそこまで減速している訳でもなく、弾丸のスピードはそこそこだ。

それが次々にキリカへ襲い掛かっていく。だが相手には先ほども言ったがパートナーがいる。

ほむらのサイドからは、高速で走るタイガが見えた。

 

 

「鹿目さんは絶望の魔女。そこに固執するキミも、絶望の化身だよ」

 

「……ッ」

 

 

斧を振り上げるタイガ。

しかし、ほむらも対策はしている。

既に辺りには――

 

 

「!」

 

 

爆発。

爆炎に塗れて吹き飛ぶタイガと、後ろへ跳びながら銃を乱射するほむら。

辺りには地雷を隠していた。幸い草木が生い茂っている場所の為、爆弾を隠すのにピッタリである。

キリカは吹き飛び、転がる相棒を見て、ムッとした表情をほむらに向けた。

 

 

「貴女も理解できるはずよ、呉キリカ」

 

「?」

 

「私はただ、まどかの為に戦うだけ」

 

 

爆発がほむらとキリカの間に壁を作る。

吹き飛ぶ草や土の向こう側で、キリカはニヤリと唇を吊り上げた。

ほむらは、まどかに。キリカは、織莉子に。それぞれ行き過ぎたとも言える友情を抱いている。

彼女達にとって、それぞれ絶大な希望となり得たから過去も、今も、そしてこれからも助けになろうとする。

 

 

「私達は希望を守る。希望が作りたい世界を、一緒に作るの」

 

「うふ、ウフフ! アハハ!! そうだね、そうだよ……」

 

 

キリカはほむらに笑いかける。

お互い、大切な人の為に戦うと言う単純明快な理由を背負っているんだ。

今更言葉なんて意味の無いものか。ただ純粋に織莉子の為に、ほむらを殺すという使命を全うすればいい。

 

 

「私は織莉子を愛してる」

 

「――ッ」

 

 

ほむらは盾から火炎放射器を取り出すと、辺りを火の海に変える。

減速魔法ならば炎はそれだけ相手に残り続けてくれると言う事になるからだ。

炎の壁の向こうでは相変わらず笑い声が。ほむらは不気味さを感じて盾を前に突き出す。

 

 

「でもね、愛は無限に有限さ」

 

「あぁ!!」

 

 

ほむらの狙いは悪くは無かった。

円形状に張った炎の結界は、キリカ達にとっては厄介な事この上ない。

しかし円形状と言う事は、『穴』は確かに存在している。

それは上だ。キリカはステッピングファングと。部分的減速魔法の合わせ技、カーネイジファングで『爪の雨』をほむらの上に降らせる。

黒い刃の雨は、ほむらを刻み、彼女の膝を地面につかせた。

 

 

「きっと今日もまた、どこかで始まる愛がある。どこかで終わる愛がある」

 

 

私の愛は終わらない、永遠に、いつまでも続いていく黄金のエルドラド。

でも君の愛は違う。だってそうでしょ? 鹿目まどかは今日で織莉子に殺される。

そしてキミは――

 

 

「私達に殺される」

 

「クッ!」

 

「素敵だと思わないかい? 私の愛する人が、キミの愛する人を殺し――」

 

 

ブラストベント。

その音と共に、上空から降ってくるデストワイルダー。

タイガとキリカの間に着地すると、チャージを開始する。

炎で確認できないほむら。しかし危険だという事は分かった。

だが減速魔法のせいで回避を取ろうとする前にチャージは完了してしまう訳で。

 

 

「そう、フフフ! キミは私達に殺される!」

 

「運命的だね、英雄の脈動を感じるよ」

 

「そうだとも相棒、これは必然なのさ。アハハ!」

 

 

息を呑むほむら。少し目線を上げればそれは確認できた。

デストワイルダーが両手を広げて上に掲げると、そこには巨大な水晶の様な物体が生まれる。

色の付いた氷だ。デストワイルダーが冷気を発生させて、何も無い場所に巨大な氷の塊を作り上げたのだ。

 

ブラストベント・クラッシュサファイア。

ほむらは次の行動を察し、思い切り高く跳んで炎の壁を飛び越えた。

その判断は正しい。何故なら彼女の予想通り、デストワイルダーはその巨大な氷の塊をほむらがいた所に投げたのだから。

 

氷の塊は炎の壁を強引にかき消しながら地面へ直撃する。

薄紫の氷は粉々に砕けて、美しい宝石の様にキラキラと破片を輝かせた。

一方で既にほむらは上だ。何とかその一撃は回避する事ができたのだが――

 

 

「あ――ッ! うぅぅうッ!!」

 

「駄目だよぼむらぁ、隙だらけだよ」

 

 

ほむらの全身に突き刺さる黒い爪。

キリカ視点ではほむらのジャンプはふんわりと風船の様だ。

その間に爪を連射すれば、どれかは彼女に刺さってくれる。

元々のスペックが低いほむら、魔法少女の衣装も爪を弾く事ができずに、浅くではあるが全ての爪が皮膚を貫く事に。

 

 

「………」

 

 

墜落する形で倒れたほむらは、すぐに立ち上がりバズーカーを構える。

そのヘラヘラした顔を吹き飛ばしてやる。苛立ちを隠す事なく、歯を食いしばって引き金に手を掛けた。

 

しかしそこで動くキリカ。

動くと言っても、爪を飛ばすだの、走り出して直接切りかかろう等と言う物ではない。

キリカは魔法少女時、右目が眼帯で隠れている。

彼女はニヤニヤと笑いながら、その眼帯を取り外したのだ。

なんだ? 思わず其方に目を向けてしまうほむら。それが間違いだった。

 

 

「何故、織莉子は桃色ピンクの誘いを乗ったと思う?」

 

 

なんでわざわざ律儀に時間を作り、ほむら達に時間を与えたと思う?

分かるよね、考えれば分かる事だ。そう言うキリカの右目を見たほむらはゾッと顔を青ざめた、自分の行動が間違いだった事に気づいたのだろう。

 

 

「いいの? キリカ。その事、言っても」

 

「構わないさ。せめてもの手向けだ」

 

 

それに、そんなの一つしかない。

 

 

「教えてあげるよ暁美ぼむら。織莉子はね、キミと桃色ピンクの死を視ていたんだ」

 

「――ッ!」

 

 

そこでほむらは、自分の体に起こる確かな異変に気づいた。

身体が動かないのだ。どれだけ力を込めても、どれだけ魔力を込めても、ピクリとも身体が動かなかった。

 

その原因はキリカの右目にある。

彼女の右目は普通の目ではない。黒目の部分には円形状にローマ数字が12個並んでおり、中心には黒い点、そしてそこから短い線と長い線が見える。

 

つまり彼女の右目の中は時計の様になっていると言う事。

"クロック・アイ"、その目を見たものは、12秒の間、時が止まる。

減速魔法が成せる究極の一手だった。

 

ただしこれを使用すれば、キリカも大幅に魔力を消費するし、直後の疲労感が尋常ではない。

故にこれは最後の切り札だ。彼女はそれを使うタイミングを今と見出した。

つまり、暁美ほむらを殺す事を、今と見たのだ。

 

 

「織莉子が視たのは、キミが先に死ぬ未来だ」

 

「……ッッ」

 

「喋れないだろ。でもすぐに終わるから安心しておくれよ」

 

 

キリカはクロックアイでほむらを捉えつつ、タイガの肩に優しく触れる。

そして放つのは、タイガにとって絶対の言葉。

 

 

「さあ、相棒。世界を乱す悪を倒して英雄になろう」

 

「うん、そうだね……!」

 

 

カードを抜き取る音がする。

絶望の言葉と共に絶望の音声が耳に入ってくる。

ほむらは怒りと焦り、悔しさでおかしくなりそうだった。

 

また、まただ。またうまくいかない。

どちらにせよまどかは死ぬ運命だった? そして自分も? ふざけるな、ふざけるなよ!

どうしてうまくいかない、どうしてキリカ達の方がうまく行く!?

 

 

(私の方が、私の方がッッ、アイツ等よりも何倍も努力して何倍も苦しんで、何倍もまどかを想っているのにどうして――ッ!!)

 

『ファイナルベント』『ユニオン』『ファイナルベント』

 

「……!」

 

「うふふ、あはは! さようなら」

 

 

嫌だ、嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!

ほむらはどうしようもない怒りに心が押しつぶされそうになる。

なんでこんな事になっているんだ、なんでこんな目に合わなければならない。

アイツに、ワルプルギスにやられるならまだしも、どうして同じ魔法少女に負けなければならない!

 

ほむらは半ばヤケになり、砂時計を操作しようと試みる。

しかし当然砂は無く、おまけに今は完全に動けないのだから仕方ない。

それにほむらは察しているが、キュゥべえたちは彼女のループをしっかりと止めている。

もしもココで彼女が砂時計を反転させようが、時間は戻らない。

 

 

「―――」

 

 

ほむらの周りを飛び回る白と黒。

デストワイルダーとキリカは、ファイナルベントによって強化された減速魔法の恩恵を受けて、ほむら視点高速で彼女の周りを駆ける。

そしてその爪で彼女の身体に大きな傷を刻み込んだ。

 

痛い、痛い痛い痛い――……!

ほむらは自身に刻まれる痛みから死を強く連想してしまう。

 

 

(死ぬ? 私が? 私が死ぬの!?)

 

 

嘘、嘘よ、そんなの嘘に決まってる。

ほむらは心の中で必死に叫んだ。

自分が死んだら誰が彼女を守る? 誰が彼女を――!?

 

 

「キミも、彼女も死ぬ」

 

「!」

 

 

キリカは分かったように言う。

 

 

「ハッピーエンドだ、あの世で愛し合えばいい!」

 

「――ッッ」

 

 

いや、いやッ、嫌だッ! 私は生きて彼女と共に人生を歩みたい。

ただそれだけ、特別な事は何もいらない。

ただ彼女と笑いあって過ごせればそれでいいのにどうしてうまくいかないの?

どうして皆邪魔をするの? ほむらは止まる時間の中で、耐えられずに涙を流す。

いや、もちろん鈍る時間の中では目から涙はこぼれないが。

 

ほむらは心で泣いていたのだ。

痛いから、苦しいから、悔しいから、怖いから。

全てはまどかのため、何もできない自分が憎くて。

 

 

(なんで、なんでよ!)

 

 

一緒に学校に行って、一緒にお昼を食べて、放課後には一緒に帰って。

それから、それから休日には一緒に遊んで。そんな事をしている人たちがこの世界にどれだけいると思ってるの?

 

その中の一組になりたいだけじゃない!

なのになんでうまくいかないの? なんでそれを許してくれないの!?

私が、彼女が何かした? 誰かを苦しめて、傷つけた?

嘘、嘘よ! 私達は何もしてない! 恨まれる様なことも、苦しまなければならない様な事も何もしていないのに。

 

 

『ほむらちゃん!』

 

 

白と黒がほむらを切り刻む中で、ほむらはまどかの笑顔を見た。

自分に自信が持てずに苦しんでいた時、助けてくれた優しいまどか。

みんなの幸せを願っていたまどか。いつも笑って優しかったまどかが、どうして絶望に沈まなければならない? どうして自分はその隣にいる事を許されない?

 

 

(どれだけ頑張ったと思ってるのよッッ!)

 

 

彼女を守るために、彼女を助けるためにいろんな事をした。

いっぱい苦しんだし、いっぱい恨まれたし、いっぱい泣いた。

でもそれは、まどかが助かるかもしれない希望だったから割り切れたし。ほむらはいつまでも頑張れたんだ。

 

なのに、また、いつも、今も、昔も全部駄目。

なんで、なんでよ! なんでなのよ! 私が悪いの?

なんでいつも失敗して苦しまなければならないの?

いつ終わるの? いつ私達は幸せになれるの? なんの為に私は彼女を――ッッ!

 

 

(何のために殺したのよ!!)

 

 

ほむらは心の中で泣き叫ぶ。

悟ったのだろう、自らの死を。

 

 

『ほむらちゃん……わたし、こんな終わり――、やだよ』

 

 

ただ約束を守りたかっただけ。ただ、まどかを助けたかっただけ。なのにいつも結果は最悪だ。

自分だって誰かを守れる。誰かを助けられるスーパーヒロインになりたかった。

なれると思っていた。なのに何も守れない、何も変えられない。

守りたかったまどかは死に、自分も死ぬ。

 

 

(そんなの、ただ長めに苦しんだだけじゃない!)

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ!

ほむらはデストワイルダーを目の前にして心が完全に凍りつく。折れる。壊れかける。

その時だった。デストワイルダーの咆哮と共に腹部に激痛が走った。

爪がほむらの腹部に突き刺さったのだ。

 

その鋭い爪は、華奢なほむらの身体を簡単に刺し貫いて見せる。

そこで12秒が過ぎて、彼女の時間が動き出す。

血を吹き出すほむら。ソウルジェムは左手の甲にあるため、直接的な死につながる一撃ではないものの、連想させるには十分すぎる一撃であった。

ほむらの心が崩れ始める。

 

 

(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だッ!!)

 

 

死ぬ、死ぬ、殺される。何も守れず死ぬ。まどかを助けられず、まどかも死んで終わる!

ほむらのソウルジェムは黒く染まっていくが、減速魔法の効果としてソウルジェムの濁りのスピードも遅くなると言う、デメリットなのかメリットなのか分からない機能もある。

 

その為、ほむらが魔女になる可能性はほぼゼロと言っても良かった。

だからこそキリカには余裕があったのかもしれない。

とは言え、遊ぶと何が起こるか分からないために決着を付ける気だが。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

デストワイルダーはそのままほむらを引き倒すと、自分を中心としてほむらを地面に押し付けたまま一回転。ほむらは背中に摩擦熱と痛みを感じる。何故か火花が散り、彼女は背をズタズタにされる痛みを覚える。

 

魔法少女の衣装が守ってくれたからいいものを。

もしも素肌を晒していたらと思うだけでゾッとするものだ。

しかし攻撃は終わらない。デストワイルダーはその勢いをつけ、今度はほむらを持ち上げたまま回転、そのまま思い切り放り投げる。

無茶苦茶に回転しながら吹き飛んでいくほむら。走馬灯の様に、まどかとの思い出が駆け巡った。

 

諦めなければ終わらない戦いだと思っていた。

まどかを救う時が終わりだと思っていた。なのに今、殺されかけている。

いや正確に言えば、コレから殺される。

 

手塚は自分を蘇らせる?

ううん、だって彼はもうパートナーじゃないんだから。

だったら自分はどうなるの? それに自分が奇跡的に蘇生された所で、まどかはどうなるの?

真司はあの性格だからまどかを蘇らせない。だったら――

 

 

 

 

 

 

 

もう、終わり……?

 

 

「―――ァ」

 

 

そう思うと口から血が吹き出てきた。

なんで? 何で血が? 痛い、痛い、苦しい。混乱するほむらの脳を強制的に叩き起こす者が。

それはデストワイルダーからのパスを受け取ったキリカだった。

 

キリカは今度は背中からほむらを突き刺す様に掴んで、再び地面に叩きつける。

貫通こそしていないが、五本に増やした黒い爪は、ほむらの肉に刺さり込み、ガッチリと固定している。

 

その少し離れたところでは、タイガが腰を落としてデストクローを構えていた。

力を集中させているのだろう。おびただしいほどの冷気が腕に集中していくのが分かる。

自分が何をされるのか、ほむらは驚くほどスムーズに理解できた。

 

 

(助けて……)

 

 

壊れかけたほむらが最後に縋るのは、やはり彼女の笑顔だった。

 

 

(たすけてまどかぁ……!)

 

 

そこにいるのは、長い時を経て鹿目まどかを守ろうとした暁美ほむらではなく、メガネをかけて三つ編みだった頃の弱い姿だった。

まどかは助けてくれる。まどかが助けてくれる。

そんな事を思いつつ、けれどそんな事はありえないとも悟ってしまう。

彼女はココにはいない、そしてもうすぐいなくなる?

 

 

(なんで、なんでぇえ……!)

 

 

誰か助けて、誰か私と彼女を助けて!

 

 

「終わりだッ! 暁美ほむらァアアアア!!」

 

 

キリカはほむらを地面に押し付けたまま全速力で走り出す。

地面を乱暴に引きずられて行くほむら、彼女の腹部に激痛が走る。

そしてそのゴールには爪を構えて待っているタイガが。

明確に近づく死に、ほむらはボロボロと涙を流していた。

中学二年生の女の子が、まさに今、死に直面している。

 

 

(死にたくない――ッ)

 

 

切に願う、その感情。

 

 

(死にたくないよぉ……ッ!!)

 

 

貴女もそうでしょう?

でも駄目なの? 私達は死ななければならないの?

 

 

「残念だったね! キミはこうなる運命だったのさ!」

 

 

運命って何よ……! 何なのよ!?

 

 

「私の愛がッ、キミの愛を塗り潰して勝利する!!」

 

 

もっとまどかと一緒にいたかったのに。

 

 

「織莉子の理想郷が、君達の屍の上に創られる!!」

 

 

もっと、まどかと生きたかったのに。

 

 

「相棒! 受け止めてくれよー!!」

 

「もちろんだよ。コレが、英雄の力だ」

 

 

減速魔法の中、デストワイルダーとキリカが相手を切り刻み、その後デストワイルダーが相手をキャッチしてダメージを与えた後に、キリカにパス。

その後キリカがは相手を地面に押し付けて引きずり、タイガのもとへ。

最後にタイガが爪で相手を貫いて結晶爆発でフィニッシュを行う。

 

これが、二人の複合ファイナルベントである"ライトニングチェック"。

その最後の一手が決められ様としているのだ。

 

 

(ああ……)

 

 

ほむらは悟る。

 

 

(ごめんね、まどか……)

 

 

終わりみたい。

 

 

「アディオス、暁美ほむら」

 

「さようなら。そしてありがとう、僕を英雄に近づけてくれて」

 

 

タイガが突き出す爪が見えた。

ほむらの意識は、そこでブラックアウトしたのだった。

 

 

 

 

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