仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
どや? 無限に気持ち悪いやろ?(´・ω・)
時間は再び遡り、場面は龍騎に移動する。
ライアとの戦いに勝利した龍騎は、ナイト達の元へ移動しようとするが、なにしろ先ほどの戦いで全てを出し尽くしてしまったのかもしれない。
まともに歩く事ができない。しかし行かなければならないんだ。
ヨロヨロと力なく戦いの場を目指していた。
「おいおい、俺よりもフラフラじゃないか」
「手塚……」
見かねたのか、手塚が龍騎を支える様に手を貸した。
もちろん手塚とて満身創痍だ。龍騎を支えている拳は砕け、痛々しいほどに変形している。
全てを賭けて負けた。だから龍騎に対する闘争心は消えてしまっている。
加えて言えば、手塚は全てに負けを認めてしまったから、どこかに諦めを持ってしまった。
だから戦意は無い。
「お前は俺に勝った。だから、何が何でも鹿目を守れ」
そして。
「アンタの、信じる道を行くべきだ」
「手塚――」
手塚は少しだけ言葉を詰まらせたが、それでも龍騎には笑みを向ける。
いつからか、雄一との約束に縛られ。それを言い訳にして自分自身から逃げていたのかもしれない。
何のために戦うのか。誰の為に戦うのか。何故生きるのか。その理由を、手塚は見つける事ができなかったのだ。
だから雄一に縋った。彼との約束を糧に、手塚は生きる道を見つけた。
それは歪んだ決意だったと今になって思う。
だから本来、希望となる筈の約束が呪いに変わり、運命を狂わせた。
手塚は本当に雄一の為に戦っていたのだろうか?
いや、きっと彼を盾にして都合のいい様に生きてきただけだ。
本当の自分を見つけることも出来ずに消えた。
手塚は自分の運命がよく視えない理由がなんとなく分かった。
だって自分として生きてはいなかった。そんな屍の様な男に、定めなどあろうモノか。
そして途中、城戸真司は自分とは対になる存在なのではないかと確信を持った。
真司は何度も何度も心折れそうになり、道を外しそうになった。
けれども他者や己自身に影響を受けて、必ず外した軌道を元に戻して、先にあるゴールを目指している。
それに、手塚が最も評価している部分は、真司が拳を振るう時だ。龍騎は己以外の為に拳を振るう。
背負った宿命が消えぬと知っていても。抗えぬ歯車の上に立っていると思っても。
真司は自分以外の為に戦っている。それは簡単にできる事じゃない。
手塚だってそうだと思っていた。雄一や、雄一の家族の為に戦っていると思っていた。
しかし今回真司と戦ってみて、やはりそれが幻想であると知った時、戦いを止めたいと言う目的の下で真司に勝てる理由など、どこにも無かったのだ。
「俺は別に、手塚に勝ったとは思ってないよ……」
「?」
結果的な勝ち負けを決めるとしたら、どちらかと言えば龍騎の勝利なのかもしれない。
しかしあの時に感じた虚無感で龍騎は察する。やはりこのゲームは、ゲームと名のつくだけの殺し合いだ。
勝っただとか、負けただとかではなく、生き残る事ができた。ただそれだけ。
しいて勝ち負けがあるとすれば、それはやはり参加者同士の話ではなく、F・Gに向けての話になる。そう考えれば、やはり龍騎は勝ちを狙いたかった。
「俺の相手はF・Gだからさ。手塚には……、勝ってない」
「………」
現に、まともに歩けない程フラフラになってる。
手塚は心が折れただけで、まだ変身はできるし、歩ける。
だから真司は手塚に勝って等いないと。
「成る程。そう言われると、矛盾してるな」
負けた筈の手塚が龍騎を支えている今の状況に。
「だがアンタは守る為の戦いを重視した筈だ」
最後の競り合いだってそう。
ライアはファイナルベントを使い、龍騎はガードベントだった。
もしあそこで龍騎がファイナルベントを使っていたら、競り負けたライアはただでは済まなかったろう。
それだけの違いだ。
龍騎は人に向かってファイナルベントを使った事がない。
そこもまた、想いの差なのかもしれないと手塚は苦笑しながら言う。
「分からないだけだよ。俺は……」
矛盾してる。矛盾ばっかりだ。戦いを止めるために戦うんだから。
手塚は龍騎の事を凄いと言ってくれるが、龍騎自身はそう思っていない。
今だって手塚はガードベントを使った事をピックアップしてくれるが、その前には本気で殴り合ってきたんだ。
完全に相手を傷つけないという意思は持っていない。
「中途半端に傷つけて、俺は……」
「だがアンタは最後までファイナルベントを使わなかった。それは事実であり、真実だ」
それを誇りに思ってもいい。手塚はそう龍騎に告げた。
頭を押える龍騎。結局まだ迷っている途中なのかもしれない。
けれども答えらしい物は見つかった訳で。それは手塚が言った様に、他者の影響はある。
「俺は馬鹿だから答えなんて分からない。矛盾してる事を解決できないまま、新しい矛盾に当たってる感じって言うか……」
でも、一つだけ答えらしい物が見つかったかもしんないと、龍騎は強く言った。
「俺は、信じた道を曲げてまで器用になんて生きられないんだ」
マミたち魔法少女が、須藤たち騎士が、理不尽に死ぬ事がどうにも納得できなかった。
「そりゃあ浅倉だの、杏子ちゃんだの、芝浦だのは酷いヤツだってのは感じるし、好きにはなれないかもしれない……」
けど、それでも、彼等だってこんなゲームに飲み込まれて歯車が狂うのは、どこかおかしいとは思う。人が人を傷つけてはいけない、殺してはいけない。
そんな当たり前の事が非常識として認識されるなんて、おかしいだろ。
それにまどかの様な良い子が絶望に沈む世界なんて許していい訳が無い。
その想いが何度も浮かんできて、龍騎を突き動かす。
「アンタの自分の為は、やはり人のためだな」
「え?」
「いや、やっぱりこの戦いはアンタの勝ちだ。そう思っていてくれ。俺は負けるべくして負けた、それだけなんだから」
手塚は悲しげな表情で笑みを浮かべている。
「そう、俺はお前に……、運命に負けた」
「――っ」
しかし龍騎はその言葉に少し反応を示す。
「さっきも言ったけどさ。手塚が教えてくれたんだろ?」
「俺が……?」
「ああ。抗い続けろって」
たとえ悲しみの炎に身を焼かれようが、たとえ絶望の剣に心を刺し貫かれても、変えたい世界があるのならば命の炎を燃やし続けろと。
龍騎はその言葉を信じて、抗い続ける覚悟を決めた。足掻き続ける決意を固めた。
そうすれば運命を――、世界を変える事ができると言ってくれたからだ。
「でも変えたい世界が……、運命があるのは俺だけじゃない」
「!」
「手塚だって、そうなんじゃないの?」
「………」
呆気に取られる手塚。
なんだか当たり前の事で、まったく今まで気づいていなかった事なのかもしれない。
「運命は変えられるんだろ?」
「それは、まあそうか。意外と痛い所をついてくるな」
手塚は困ったように頭をかく。
「だが俺は敗北を納得してしまっている。抗う事も、足掻く事も諦めた俺に、今更何をする資格があるのか」
「俺はそうは思わないけどな……」
「?」
手塚は目を丸くする。
自分が負けを認めた理由を、こんなにアッサリ否定されるとは思わなかったのだろう。
手塚はまだ自分は負けたままだと思っている。だからこそ運命には勝てないし、変えられない。
そう言う理由はなんとなくだが龍騎にも分かる。だが手塚はそこで全てを止めている。
「リベンジすればいいじゃんか、運命に」
「り、リベンジ?」
「ああ、そうだよ。負けたまま終わるのって悔しいだろ?」
手塚は一度の負けに拘っている様に思える。
でも龍騎からしてみれば、負けは確かに負けかもしれないが、それで終わりとは思わなかった。
負ければ、次は負けない様に力を付ければいい。そして自分を負かした相手を負かしてやるんだ。
「手塚、お前は悔しくないのかよ」
「悔しい?」
「ああ、よく分かんない運命なんかに負けてさ」
友達との約束のために戦うのは立派だ。
「でも手塚が作りたい世界も、あるんじゃないの?」
「……!」
「そうだよ、手塚がやりたい事がきっとある筈だよ。だって俺たちは人間じゃんか」
龍騎は確かにそう言った。
「手塚もまだ、きっと運命に勝てるよ」
「城戸……」
「終わってないんだ、俺たちはまだ」
まだ。終わってない。手塚にはその言葉が胸に突き刺さる。
「……そうか、そうだな。ずっともう終わっていた物だと思っていた」
自分は屍だと、自分は骸だと、人形だと思っていた。
だが生きてるんだな。当たり前だ、当たり前の事だった。
手塚は俯いて、その事実をかみ締める。
「……俺は、何故今までそんな当たり前の事に気づけなかったんだろうか」
「迷っていただけさ。誰でも、分かんなくなる時がある」
そこで龍騎はピクリと顔を動かした。
どうやら何か閃いたようだ。そうだったと言いながらデッキからアドベントのカードを抜き取る。
別に歩いていかなくてもドラグレッダーに乗っていけばいいじゃないか。
「くそ! どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだ!」
何故気づけない?
龍騎は意識していなかったが、それはつい先ほど手塚が言った言葉と同じ意味。
だがそこで気づいた、ふとした瞬間に思いついたり、誰かに教えてもらったり。
とにかくそうした影響下の中で答えらしい物が浮かぶ。
どうしてこんな事に気づかなかったんだろう。こういうのはきっと、まだまだ沢山ある。
「………」
「俺はゲームに勝ちたいんだ。手塚に勝ちたいわけじゃない。手塚だってそうだろ?」
龍騎の言葉に手塚はグッと心を掴まれた様だった。
当たっている。手塚は途中から龍騎に自分を重ねて戦っていた。
それはつまり龍騎に対する劣等感であり、今の自分自身に対する疑問であったり。
龍騎に勝ちたいと思う事は、その奥にある自分自身に勝ちたいと言う意味を含んだ物だったからだ。手塚はその事を龍騎に告げた、すると彼は「ほら」と笑う。
「手塚は自分に勝ちたかったんだろ? なんで勝ちたかったのさ」
まだ、勝ちたいと思う事ができる筈だ。
それにいくら縛られていたとは言え、雄一との約束を守りたいという想いは手塚自身の意思であり、真実だ。
言い訳だったとしても、偽りなんかじゃない筈だ。
「手塚もさ、自分の想いを貫くために、これからも戦えばいいんじゃないの?」
もちろんそれが龍騎と相反する想いなら。また戦わなくちゃいけない。
「それは悲しい事だけど、手塚が抗うって言うんなら、俺はいつでも受けて立つさ」
それが騎士の宿命。
デッキを手にした人間の『定め』なのかもしれないから。
「まあ俺も偉そうな事は言えないけどね」
「城戸……」
「そんな訳だからさ、俺は行くよ」
「……いや、待て」
「え?」
「コレを使え」
手塚が指を鳴らすと真司の前にエビルダイバーが現われる。
一瞬攻撃されるかと思い身構える龍騎、しかし手塚は安心しろと念を押す。
どうやらドラグレッダーに乗るよりコッチに乗れとの事だった。
「エビルダイバーの方が早い」
「え? ああ……! で、でも――」
いいの?
龍騎としては言いにくい言葉である。
鹿目まどかを守りに向かうのは、手塚の約束を遠ざける事でもある。
しかし手塚は目を閉じて首を振った、その表情に笑みを浮かべて。
「簡単な話さ」
「……?」
確かにココで龍騎に手を貸すのは、鹿目まどかの生存率を上げる事なのかもしれない。
ああ、いや、まどかは今、織莉子達との戦いに挑んでいるのだから、龍騎が行っても何にもならないのかもしれないが、それでも何とかしたいと思っている。
そんな龍騎の、城戸真司の姿を見て、手塚には思う所があったのだろう。
「俺は、お前を信じたい。アンタに託したいのさ」
雄一の約束を――、と言う面に関しては、鹿目まどかは最大の障害でしかない。
「だが、戦いを止めたいと言う面ではアンタの考え方が一番だ」
「あ、ありがとう……」
「それが一番難しい。だから俺は諦めた」
けれど今、もう一度希望を見たいと言う思いがあったのかもしれない。
だから真司にその希望を託すのだ。手塚ができなかった事を、不可能だと思った事を、龍騎なら成しえるかもしれない。
ダメだったとしても、龍騎を信じた事は間違いではないと思うから。
「俺のためさ。だから乗ってくれ。後は……、そう、アンタ次第だ」
戦いの場についた瞬間殺されたとしても、それはそれで。
龍騎は手塚の言葉を途中から無言で聞き、全てが終わった後、しっかりと頷いた。
そして気合を入れる様に叫ぶとエビルダイバーに飛び乗る。
「サンキュー手塚」
「……ハハ」
馬鹿だな、コレが罠だとは思わないのだろうか?
もしも手塚がエビルダイバーに命じて、皆とは反対側に走らせれば――、だとか。
そう言う警戒を持たないのは龍騎が手塚を信じてくれたからか。
いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐだ。それがゲームをかき乱すジョーカーになれるのかもしれないとつくづく思う。
手塚はちゃんとエビルダイバーに皆のところへ向かう様に命令して走らせた。
今更小細工で勝とうとも思っていないし、無意味な事だ。
一秒程度で最高速度に達するエビルダイバーは、龍騎を乗せてすぐに手塚の前から消えていく。
「………」
疲れた。
手塚は膝をついてもう一度空を見上げる。
(あんな生き方を、してみたかったのかもしれないな)
すまない雄一。
俺は俺の運命にもう一度刃を突き立てたくなった。
約束を忘れた訳じゃない、だけどより良い道を目指したいと思うのはきっと罪じゃない筈だ。
すまない、お前には色々迷惑を掛けっぱなしだな。
俺がお前と同じ所に行けたなら、その時は何度でも、何時間でも謝るよ。
「無理な話か……。雄一、許してくれ」
勝ちたい。そうだ、悔しいんだ。過酷な運命に負けたままなのは。
だからもう一度、もう少しだけ足掻かせてくれ。
手塚は空の向こうにいる友人に心の中で何度も謝罪し、大きく息をはいた。
しかし手塚も慢心相違。拳は相変わらずズキズキと鈍い痛みを放っている。
それに足掻こうと思っても、すぐに結果が出せる訳じゃない。
手塚は一度心を落ち着ける為にポケットからコインを取り出す事。
まともに持てないが、それでもなんとかコインを目の前まで運んだ。
占いに使うためのコインだ。表か裏、どちらを運命は示すのか。
「………」
手塚はフッと笑うとコインを表にして地面に置いた。
自らの手で運命を左右させる。その事をもっと早くにしたかったものだ。
そうすれば雄一を助けられたのだろうか?
だが言い方を変えれば助けたところで、雄一がゲームに巻き込まれていただけ。
そうしたら彼はどうしたのだろう?
(お前も、一緒だよな)
そう信じてる。
手塚は痛々しく変形した指で挟むようにしてデッキを持つと、表情を歪ませながらも強くそれを突き出した。
俺は――、変われたか?
「変身!」
ライアには新しいカードが生まれていた。
ビジョンベント、エビルダイバーが視ている景色を自分も覗けると言う物だ。
そして彼が見たのはガードベントでファムとサキを守る龍騎の姿だ。どうやらエビルダイバーは間に合ってくれたらしい。
後は龍騎の腕次第と言った所か、運命は彼に微笑んでくれるのかどうか。
「ああいや、違うな」
また運命に囚われていた。
龍騎が運命を引き寄せるのか。それが戦うと言う事だ。
具体的にどうすればいいかとかではなく、心持ちと言うか何と言うか。
ある意味根性論と言うべきなのか、しかしどうする? オーディンは強いぞ、彼等で勝てる物なのか?
「………」
どちらに付くか。ライアは最後の決断だと胸に誓った。
織莉子達か。それともまどか達か。確かに龍騎の考えは立派だ。手塚海之としては、龍騎を応援したい。
しかし雄一の思いを最後まで通したいと思う気持ちも嘘はない。
織莉子と同じだ、安定を取るのが一番だと思う自分も確かにいる。
さあ、自分にできる事はこのどちらか、または第三の答えを出すしかないと言う訳だ。
(ん?)
おかしな事が起こる。
ヴィジョンベント発動中は、どれだけ離れていようともエビルダイバーに命令ができる。
ライアはもっと状況を確認してほしいと言ったのだが、エビルダイバーは命令を無視して猛スピードで移動し始めたのだ。
『どうしたエビルダイバー? なぜ俺の言う事を聞かない?』
エビルダイバーが止まる様子は無い。
景色は線になっていき、高速移動を継続していた。
なんだ? 彼は何をしようとしているのか。
「!」
すると停止するエビルダイバー。
ライアはそこに広がっていた景色を見て、思わず身を乗り出しそうになる。
そこにいたのは戦っている最中であろうパートナーの姿があったからだ。
暁美ほむらはタイガペアと殺し合いを行っていた。
(暁美……)
心がグッと鷲掴みにされる。
理由は分かっている。目を閉じれば、決別の時に見た、ほむらの表情が今でもハッキリと思い出せる。夕焼けに照らされた悲しげな面持ちは、あの時の――、雄一のソレと同じだった。
(エビルダイバー……、お前は)
そう言えばエビルダイバーは、ほむらにケーキを貰ったり、撫でられたりしていたような。
もしかしたら自分の知らない所でも交流があったのかもしれない。
早い話が、なついていたと言うべきか。ミラーモンスターにも心があるし、人間並みの知能だって持ち合わせている。
(お前、暁美を助けたいのか?)
しかし無言。
いや、エビルダイバーは喋れないのだから無言は当たり前なのだが、なんのアクションも起こさない所を見ると、少し気になってしまう。
それに助けたいとは言っても、自分で動く事もしない。その理由は?
「………」
まさか。
(お前、中々いい性格してるな)
いつだったか爆弾食べさせた事まだ根に持ってるのか? アレは謝ったじゃないか、許してくれよ。
とにかく、エビルダイバーはライアにその映像を見せるだけだった。
それが運命を背負ったモンスターの役割だと、自負しているのだろうか?
要するに、自分で決めろと言う事なのだろう。
ミラーモンスターは自分の分身なのだから、考えている事はなんとなく分かるし、エビルダイバーがほむらを死なせたくないと思うと言う事は……。
「そうだな、俺も思う所はある」
見えない枷がある様な気がして、自己の思いに縛られる。
ほむらは、いろいろと雄一に重なってしまう。あの時の感情や後悔を思い出させてくれる。
なによりも自分に重なってしまうだ。必死に友人を助けようとする姿は――、どうにも眩しい。
(お前はまだ、鹿目を諦めていないんだな)
そうだ、似ているが、一緒にしてはいけない。
手塚とは違うのは諦めなかった点だ。今も彼女は運命に抗おうと戦っている。
茨の道と知りつつも、何度地獄を見ようとも構わないと決めて。
「俺はそれができなかった」
手塚は、ほむらの影だ。
だから味方でありたいと思ったのかもしれない。
変えられなかった手塚と、変えられるかもしれない暁美ほむら。
「俺はお前にも負けたくなかったのかもな……」
そして何よりも苦しんでいる筈だ。雄一と同じ目をしている彼女ならきっと。
それはそうだろう、守れない苦しみ。手塚が味わったあの苦痛を、彼女は何度となく体験している。狂わない方がおかしい。苦しまない方がどうかしている。
(それでもお前は戦い続ける事を止めない、俺はそれが眩しく苦しかった)
苦しむ者を前にして何も出来ない。
それはまさに、あの時とまるで同じじゃないか。
ほむらに重なるのは手塚であり、雄一であり、まるで変えられない運命の具現化の様に思えた。
(それでもやっぱりお前はお前自身、暁美ほむらなんだ)
それを行動を共にする内に分かってくる。
そのジレンマや劣等感に耐えられず、手塚はほむらを拒絶した。
(お前も俺も、運命ってヤツにはつくづく縁がある)
終わるのか? この戦いは。
いつ終わる? いつまで俺たちは戦い続ければいい?
ライアはキリカ達と血まみれになって戦うほむらを見て、言い様のない切なさを覚えた。
手にするのはトークベントだ。自動で発動できるソレを、ライアは半ば無意識に発動していた。
『………』
しかしいざ声を掛けようと言う所で、戸惑ってしまう。
何を言う資格があるのか? このタイミングで言って何になる?
悪戯にほむらを混乱させて隙を生ませるだけだ。
ライアは言葉を飲み込んだ。
生きたいか?
その言葉を。
知りたかった。ほむらは自分の生をどう考えているのか。
しかし聞けない。無言のライア。通信を解除しようとした時――
『――嫌だ!』
『!!』
ほむらの声が大音量で頭に響く。
ライアは一瞬怯んでしまうが、すぐにそれがほむらの声で、ほむらの言葉なのだと理解した。
見れば彼女はいつの間にか危険な状況になっている。
そこでハッとするライア。また――、見ている様で目を背けていたのかと。
苦しみ、傷ついているのが分かっているのに、動かなかったのか。
ほむらの言葉はライアに向けられたのではない。
行き場の無い怒りや苦しみを無意識に叫んでいるのだろう。
"考える"や、"思う"では反応しないトークベントが反応していると言うことは、ほむらは文字通り脳内でその苦しみを声にしている。
つまりこれは心の叫び、揺ぎ無い本心なのか。
(暁美――ッ!)
ほむらの腹部にデストワイルダーの爪が刺さりこんだのを見て、ライアは思わず一歩前に踏み出す。
思わず、ライアから乾いた笑みを漏れた。
ライアの願いは運命に勝つ事だ、そして運命を司るのはエビルダイバー。
「そうかお前は、こんなにも早く俺の願いを叶えてくれると言う事か」
皮肉なものだ。
運命を変えたいと願いつつも、直面すればやはり迷いが湧き出てくると言う物。
それにどうすればいいのか、それすらも分からなくなる。
運命を変えるとは、どうすればいいのか? それが分かれば誰もが苦労しないで済む。
『たとえ悲しみの炎に身を焼かれようが、たとえ絶望の剣に心を刺し貫かれても、変えたい世界があるのならば命の炎を燃やし続けろ』
「……!」
ココでその言葉を思い出すのか。
一瞬、雄一と龍騎の姿が浮かぶ。
友を救えなかった後悔。何も変えられなかった自分への絶望。ライアは確かな未練を残している。
あの時からライアの手には見えない手錠がある。それを外す鍵を何時までも探していた。
(暁美、お前は――!)
独りよがりな話だ。
だがライアはほむらを見た時、今度こそ誰かを救えるのかもしれないと期待を持った。
ほむらの話を聞いたとき、何かを変えられるのではないかと希望を抱いた。
しかしそれが何か――、あと一歩分からずに、時間は来てしまう。
「運命に負けた俺と、運命と戦い続けるお前……、生き残るのはどちらだ?」
迷いの鎖がライアをより強く縛ろうとする。
だがその時だった、また、ほむらの声が聞こえた。
『助けて……』
「!!」
と、同時に龍騎の声がフラッシュバックする。
『リベンジすればいいじゃんか、運命に』
(雄一、暁美――ッッ!!)
助けてくれ。
親友の死に際に言われたあの一言だ。
それは生を望む言葉ではなく、苦しみから解放されたい言葉。
なれば、今のほむらもそうなのだろうか?
(いや――ッ、違う。雄一だって生きたかった筈だ!)
よく分からないふざけた運命に狂わされただけ。
そして今、ほむらが同じ様な状況に陥っている。
ライアは、歪な指がさらに歪になるのを構わず、拳を握り締めた。
痛みが後悔を思い出させてくれる。
何かを変えれた筈だ、そうすれば悲しみに沈む事もなかった。
『たすけて、まどか……ぁ』
ほむらは親友に助けてくれと願った。
雄一だって同じだった筈だと信じたい。
鹿目まどかも運命を変えるために戦っている。
(変えたい――ッ!)
切にライアはそれを思った。
今更何をしたところで雄一は帰ってこないが、それでもこのまま世界が進むのは気に入らなかった。
ライアは今、ほむらに全てを重ねた。変えられなかった自分と、救えなかった親友、そして変えたい運命を。
なによりも――
なによりもッッ!!
「俺は――ッ!」
その時だった。彼女の悲痛な声が脳に叩き込まれる。
『死にたくない――ッ』
死にたくないか、そうだよな、死にたくないよな。
誰もが同じだ。手塚はほむらの弱さを全て知る事になる。
彼女はただ普通でありたかっただけだ、特別は望んでいない。
誰もが送る日常を望んだだけ。その時、エビルダイバーがキリカの言った言葉を拾う。
『残念だったね! キミはこうなる"運命"だったのさ!』
動けないほむら。攻撃を無効化するトリックベントは既に使っていたのか発動は出来ない様だ。
つまり、ほむらにタイガたちのファイナルベントを防ぐ手立ては無い。
本当に?
運命――、その言葉を聞いた時、ライアのデッキが激しい光を放つ。
カードが追加されたと言う合図だった。
(負けた事が納得いかない。だったらそうだな、お前の言うとおりだよ城戸――!)
ライアはそのカードを引き抜くと、迷わず発動する。効果は不思議と頭の中に入ってきた。
(勝手な話だ)
しかし、ライアが――、手塚海之が暁美ほむらに抱いた感情は確かなもの。
苦しむ彼女を、自分が救えるかもしれないと。それこそが、自らが知らず知らずの内に見出していた運命へのリベンジだったのではないだろうか?
何も変えられなかった男が、今度こそ開けたい運命を見出した。
そうだ。雄一を助ける事ができなかった手塚が、彼女を救えたのなら、それはきっと――!
何が運命だ、何が決められていた道だ!
ふざけるなよ! 俺は、俺たちは滑稽に踊って消えるピエロなんかじゃない!
誰もが希望を信じて生きている。そんな人の道は、自分で決めるんだ!
そう、そうだ、そうなんだ!
人の道を決めるのは、自分が望む道を決めるのは他人でもなければ運命なんて物でもない。
自分自身なんだと!
だったら分かるだろ!
俺は何がしたいんだ!? 雄一を死なせたからこそ守りたいんだろ!
今度こそ、守れる人を捜したかったんだろ!?
だったら何が何でも、どんな手を使っても彼女を守るんだ。
「見ていろ! FOOLS,GAMEッッ!」
すまない雄一!
どこまでも愚かで滑稽な俺を許してくれ!
そして許してくれ城戸、どちらに付く事もなく迷いのまま消えていく俺を――ッッ!!
だがこれだけは言える。言ってみせる!
「アイツが死ぬ事が運命なら、このふざけた運命、俺が変えるッ!!」『トリックベント』
二枚目のトリックベント、『チェンジザデスティニー』。
それを発動した瞬間ライアの姿が消える。
そして――
「!!」
ほむらは自分の状況が理解できずに、辺りを何度も確認していた。
だがすぐにデストワイルダーに刺された痕や、引きずられた痛みが残っている為、膝をついて小さなうめき声をあげる。
死んだのか? 自分は。
ほむらがそう思ってしまうのも無理はない。
あの状況で攻撃を避けるのは不可能だった。周りには助けてくれる者もいない。
しかし、どうした事だ? ほむらは確かに呼吸をして地面にへたり込んでいる。
傷はあるが、爪で貫かれてはいない。
「ッ!? ッッ???」
それにキリカやタイガはどこに行った?
景色が一瞬だけブラックアウトしたかと思えば、二人が消えている事に気づく。
トドメを刺せた筈だ。なのにいなくなったなんて、おかしな話だ。
「!」
そう言えば似たような原地だろうとも、遠くに見えるビル等の配置がおかしい様な?
「何が、起こって……」
助かったのか?
ほむらは気休め程度の回復魔法を自分にかけつつ、辺りをフラフラと移動する。
すると何か光る物が目に留まり、地面に落ちているソレを彼女は確認する。
「これって……」
それはコイン。
と言ってもただの通貨じゃない。
外国のもので、ほむらには見覚えがあった。
「まさか――!」
「な、なんで……?」
「え?」
一方のキリカとタイガ。
二人は動きを停止して、目の前に現われた男を見ていた。
「なんでなんでなんでぇええええええええええッッ!?」
「て、手塚くん……!?」
「悪いな……! 二人とも」
トリックベント・チェンジザデスティニーの効果、それはパートナーと自分の位置を入れ替えると言う物だ。
簡単な話、ライアの立っていた場所にほむらが立ち、ほむらが立っていた場所にライアが立つだけ。
ライアの胴を、タイガの爪が貫いている。
血を吐きながらも、既にバイザーへ装填していたカードを発動させる。
『アドベント』
「ギャヒィィイイ!!」
まるでそれはヒラメの様にエビルダイバーはライア達が立っていた地面から現れた。
背中に三人を乗せつつ、一気に放電を開始した。
悲鳴が聞こえる。エビルダイバーの電撃はライアには効果がないのか、ひたすらにタイガを掴んでいた。
さらにエビルダイバーは長い尾でキリカの足を縛っている。
こうなると溜まったものではない。減速魔法のおかげで、電撃が当たりに留まる時間が増え、放電時間が延びることになる。
「あびゃびゃびゃびゃ!! か、解除!!」
減速魔法を解除するキリカ。
この時を待っていた。エビルダイバーは尾にある針でキリカを突き刺す。
相手を痺れさせる毒針だ。と、言っても魔法少女ならばすぐに回復するだろうが、その前にケリをつければいいだけ。
『スイングベント』
エビルウィップで自分を含めて三人を思い切り縛り上げる。
前にタイガ、やや後ろにキリカ、中心にライアの並びとなり、エビルダイバーは三人を乗せたまま放電を続けつつ一気に空に舞い上がる。
「皮肉な物だ――!。運命がどうのこうと言っていた俺が、一番運命に振り回されていたなんてなッ! ガハッッ!!」
血が喉に絡む。咳き込むライア。口や胴体からはおびただしい量の血が流れていく。
タイガもすぐに爪を引き抜こうとするが、ライアはタイガの腕を強く掴んで、それを許さない。
それにしても、ああ、ああ。二転三転と意見を変え、迷い、ブレ続けた男の何と滑稽なことか。なんと愚かな事か。
笑え、笑ってくれ、愚かだと、哀れだと。
だがそれでもやっと自分が出せる答えらしい物が見つかったんだ。
(すまない雄一、お前との約束を破りたい訳じゃない)
すまない城戸、お前と一緒に戦いを止めたいと言う思いも本物だった。
でも、それよりも俺はまず――
「許せ東條、呉ッ、俺は暁美ほむらを死なせたく無い」
「ッ! う、うらっ! 裏切るのかぁぁ!」
「ああ。アイツが死ぬ運命を、俺は変える!」
血を吐き出しながらライアは二人を縛る力を強める。
タイガは爪を抜くのを止め、むしろ冷気を放出した。ライアの体を内側から破壊していくようだ。
しかしそれでもライアは怯まない、止まらない。
運命に囚われていた彼女を守るために。
『手塚! どういうつもりなの!?』
『暁美……』
ほむらもその事に気づいたのか、トークベントを通して手塚にコンタクトを取る。
しかし何を話していいのか分からずに、言葉を詰まらせるしか無かった。
助けてくれた事は何となく分かるが、何故今更このタイミングなのか。一度は溝の出来た関係なのに。
ライアは一体何がしたいのか、それが分からずにほむらは戸惑うばかり。
『なんで、今更……』
『それは――、俺がお前に生きていて欲しかったからだろう』
『え?』
『本当に今更だが、少し話を聞いてくれ』
時間は無い。色々な意味で。
爪から放たれる冷気はライアの臓器を破壊し、血を凍らせ、かつてない苦痛を与えていく。
もう喋れない。だがトークベントは頭で言葉を発すればいい。だから丁度良かった。
ライアはまず、端的に自らの過去をほむらへ打ち明けた。
すぐに終わる話だ。友を救えなかった男の話である。
だが暁美ほむらは救えるかもしれない女。だから、希望を託したいと彼は言った。
『お前は運命を変えろ。死の連鎖を断ち切るんだ』
勝手な事ばかり言って申し訳ないとは思うが、それが自らの願いであるとライアは告げた。
『その資格がお前にはあると気づいた。だから――』
『なんなのよ……! だったら、最初から味方でいてくれればよかった!!』
ほむらの声が少しだけ震えている。
それは怒りか、それとも彼女がライアの運命を察したからなのか。
『すまない、俺にも通したい意地があった』
そしてその結果この答えに辿り付いた。
ほむらを生かす事、それが自らの役割だと見出して。
『罪滅ぼしのつもりなの? 私が喜ぶとでも思っているの?』
『……悪いな、だから、押し付ける形になる』
勝手に裏切り勝手に助けて。もう訳が分からないとほむらは叫ぶ。
『なんなのよ……! 何がしたいのよ……ッ!』
『………』
分からない。けれど、ライアも答えらしい物が見つかったんだろう。
戦いを止めたいと言うのは雄一の願い。まどかを殺したいと言うのは雄一を盾にしたライアの願い。
そして今、手塚海之が出した自分だけの答えがコレだ。
「離せよ! なんだよ! こんなの聞いてないぞ!!」
「ぼ、僕は英雄になる! こんな所で死ねないんだ!」
「いや、付き合ってもらう――ッ!」
ライアの身体は既に氷に変わっていたのかもしれない。
しかしそれでも彼を突き動かすのは命の炎が燃えていたからだ。
何を目指し、誰のために、何をなし得たかったのか。
今となっては様々な思いが走馬灯の様に駆け巡る。
ただし、これだけは声を大にして言える。自らが最後に出した答えは――
『お前を、生かす事だ』
『……ッ』
『生きたいんだろう? 死にたくないんだろう』
だったら、生きろ。
『いや違うな。生きてくれ、ほむら』
『手塚……!』
ほむらが生き延びるべきだと思う。揺ぎ無い理由がある。
ライアは自らの心にずっと引っかかっている思いを彼女へ打ち明けた。
何故、あの時、ライアは雄一を見ていて、何も行動を起こさなかったのか?
その理由は長い間分からなかったが、今は違う。目を逸らさず向き合った時、やはり答えは一つだった。
『俺は……、雄一が、友が死ぬべきだと思った』
『!』
夢を失い、希望を失った雄一は生きる屍の様だった。
だったら、もういっそ、これ以上苦しまない様に、死を選ぶ事が最良の選択なのではないかと思ってしまっていたのだろう。その結果、雄一は本当に死を選んだ。
あの時、雄一が屋上に上がっているのを見た時、ライアの中には、確かな安心感があったのだと。
『俺は、アイツが死ぬ事が正しいと思っていたんだ』
やっと救われる。やっと解放される。彼は、助かるのだと。
しかしそんな事は無かった。雄一は余計に苦しみ、傷つき、望まぬ死を選ばなければならなかった。
それをあの時、雄一が口にした「助けてくれ」という言葉の裏に感じてしまう。
多くの未練があったろう。死を選べばいいとばかり思っていたが、それが間違っていたと今になって本当に思う。
『だがお前は違う』
たとえループ周期の中でまどかを殺す事があったとしても、それは全て彼女を救うためにだ。
ほむらはどんな時もまどかの幸せを願い、そして止めるべく戦ってきた。
諦め、友の死を願ったライアとは違う。
『だからお前は生きろ。生きて、鹿目まどかを救え』
俺にしてやれる事は何も無い。
せめて、お前の敵を少しだけ減らすくらいか。
そう、俺はどんな手を使ってもお前を助けると決めた。
たとえ何を犠牲にしようともだ。城戸、俺はどうやらお前の様に強くはなれないらしい。
『暁美、お前の望む世界を、どうか……』
『貴方は……! 貴方は本当にそれでいいの!?』
『ああ、俺の占いが……、やっと外れる』
暁美ほむらが死ぬ未来は崩す。
占いは縋る物だ、それはもう要らない。そうだろ?
(城戸……)
お前は最後までブレるなよ。俺の言葉を、どうか覚えておいてくれ。
ライアの目にゴールが見えてくる。エビルダイバーは彼の意思に従いトップスピードを超える速度を見せた。
だからか、そのラインがまもなくやってくるのだ。
タイガは後ろを向いている為、分からないが、キリカはそれをしっかりと理解できた。
しかし振りほどこうにもライアが施した拘束は強く、この速さではまともに動く事もできない。
(なんで!? 織莉子の言ってた未来と違う!!)
じゃあ何か、まさかコイツは。
(死を使わずに運命を変えたとでも!?)
馬鹿な! ありえない、認めない認めるかよそんなものッッ!!
キリカは渾身の力を込めて抵抗を示す。彼女もまた譲れない意思がある。
それが呼応したのか、バキンと何かが割れる音が。
「や、やった!!」
タイガの放つ冷気は既にライアの体中をめぐっている。
だからか、キリカがもがく事でライアの左腕付近が割れて砕ける事に。
既に血さえ凍りついているライア。腕が肉体から分離したことで、鞭に緩みができた。
キリカはすぐに拘束を抜け出し、何とかエビルダイバーの上から飛び降りる事ができた。
しかし――
「ぬ、抜けない! ぅぁぁぁうッッ!!」
「……悪いな東條。俺のワガママに付き合ってくれ」
戦いを止める。
その思いは叶える事はできなかったが、せめてパートナーを助ける為なら。
ライアは残った右腕でタイガをしっかりと固定する。
タイガもライアを貫いている爪がなかなか抜けない。ならばと大量の冷気を噴射して、ライアを粉々にしようと試みる。
しかし既にエビルダイバーはそのラインに迫っていた。
「相棒ォオオオオ!!」
手を伸ばすキリカ。
「もう遅い――ッッ!」
ライアはタイガを連れたままエビルダイバーを加速させる。
そのスピードだからこそたどり着く事ができた。
ボーダーライン、見滝原とその外の境目へ。
『頼む。暁美、俺を蘇らせるな』
『手塚!!』
『そして生きろ、それが俺の最後の願いだ』
それだけを言い残し――?
『ああ、あと一つだけ』
少しだけ声が軽くなる。
『お前とパートナーになれて、なかなか面白かったよ』
そしてライアはタイガを連れて見滝原の外へと飛び出した。
それが何を意味するのか、知らない訳じゃない。
「運命は……変わ…る」
「そんな――ッ、僕は英雄に! 英雄になれ――」
運命を自らの手で変えた男は、さらなる一手を繰りだした。
「……!」
ほむらは放心しきった様子で膝をつく。
ライアの声だけが頭には響いていた。
生きろ、それだけが胸を取り巻いている。
「手塚……」
返事は無い。
「答えてッ! 答えてよ……!」
ほむらは両手を地面について蹲る。理不尽な怒りを感じた。
すると脳に声が響く。それは手塚のものではない。
当たり前だ、だって彼は今、エリアの外に飛び出した。
『やあ、暁美ほむら。たった今パートナーの死亡を確認したよ』
「………」
見滝原の外に出れば死ぬ。それがルールだ。
「そう、そうなのね」
一筋だけ、涙が零れた。ほんの少しの感謝と、後は哀れみの涙かもしれない。
キュゥべえはパートナーを蘇生させるための方法を伝えるが、ほむらにとっては意味の無い物だ。手塚は言った、蘇生させるなと。
「――ッ」
ほむらの目に光が灯る。
彼女の前にエビルダイバーが出現する。50人を殺せば、その命をエビルダイバーが食らい、ライアが戻ってくる。
でも、手塚はそれを望んでいない。
「……勝ったのね、貴方は運命に」
自分で出した答えだものね。
ほむらはエビルダイバーに小さな笑みを向けた。
「……安心して。生きるわ、私は」
ほむらは軽くエビルダイバーを撫でると、上空高くに待機させる。
そして踵を返し、髪をかきあげて歩き出した。
その目に、確固たる決意と信念を宿して。
【手塚海之・死亡】【東條悟・死亡】【残り17人・10組】
手塚海之は、最後の最期で暁美ほむらの死を防ぐ事に成功した。
つまりそれは、運命を変える事に成功したと言ってもいい。
きっかけは些細な事であったのかもしれないし、大きな決断だったのかもしれない。
運命を司る手塚が導いた答えは世界を少しだけ変える。
そしてそれが歪な歯車に、さらなる連鎖を巻き起こす事に。
たとえばそれは、ゾルダに影響を与えるとしたらどうだろう?
何も手塚が直接影響を与える訳ではないが、狂った歯車は歪に合致し、新たなシーンを作り出す。
ゾルダの脳内には、言いようの無い虚しさが渦巻いていた。
何のために生き、何をすれば終わるのか。そんな彼のもとへ、一つの答えが降ってきた。
「アアァァァ! イラつかせるヤツだ!」
「……浅倉?」
「アァ? お前――!」
リュウガによって吹き飛ばされた王蛇は、一同からそれなりに離れた所でやっと炎が散って解放された。凄まじいダメージを受けたと言えばそうなのだが、それは王蛇にとっては刺激的な興奮剤としかならない。
そんな中、たまたまなのか、運命なのか。
王蛇の墜落場所にはオーディンによって連れて来られたゾルダがへたり込んでいた。
「コレが運命ってヤツか? アァ、丁度いい。イライラしてるんだ。俺と戦え!!」
「………」
沈黙のゾルダ。しかしオーディンも万が一の事態は想定してある。
ゾルダの守護にはゴルトフェニックスを付かせてあるのだ。
上空にてゾルダを監視していたゴルトフェニックスは、当然王蛇を敵とみなして突進していく。
「なんだお前――?」
しかし、今の王蛇は相当キテいる様だ。
ゴルトフェニックスの一撃を地面を転がって回避すると、ベノサーベルを手にして、向かってくる不死鳥を打ち返そうとフルスイング。
しかし相手は最強のミラーモンスターだ。
オーディン同様にワープを行うと、王者の背後に姿を見せて突進を命中させた。
転がる王蛇。成る程と呟き、立ち上がりながら首を回している。
ゴルトフェニックスは最強のミラーモンスターかもしれないが、ミラーモンスターは人を食う事で強力になっていく。王蛇のモンスターは三体ともリーベエリスでたらふく人間を食らってきた。
そのスペック最早、どれもゴルトフェニックスに並ぶと言っても過言ではない。
その証拠に、再び突進してきたゴルトフェニックスを前にして王蛇は余裕の雰囲気でカードを二枚構える。
そして突進が当たる直前、そのカードをバイザーへと叩き込んだ。
『『アドベント』』
「ギギィイ!!」
王蛇の前に突如として現われたのはベノダイバー。
その広い身体を使って盾のように王蛇を守る。
驚くべきはその強度だ。ベノダイバーはゴルトフェニックスの突進を受けて、吹き飛んでいく。
しかし同時にゴルトフェニックスをしっかりと怯ませて吹き飛ばしていた。
そして不死鳥が地面に叩きつけられたとき、再び悲鳴が聞こえた。
「ハハハァ!」
笑う王蛇と舞い散る羽。
地面から突如角が生えて、倒れたゴルトフェニックスに突き刺さったのだ。
そこから飛び出すのはベノゲラス。舞い散る羽でダメージを受けながらも、怯む事なく突き刺したゴルトフェニックスを持ちあげてみせる。
王蛇は先ほどベノダイバーに弾かれて吹き飛んだゴルトフェニックスを記憶していた。
そこからベノゲラスによって投げ飛ばされれば、だいたいどの辺りに直撃するのかを割り出す。
王蛇はそこへ走った。同じくして王蛇の意思を汲んでベノゲラスはゴルトフェニックスを投げ飛ばす。
軌道は、読みどおり。
ゴルトフェニックスが体勢を整える前に、王蛇はサーベルを叩き込んだ。
「鳥が俺を見下すな」
王蛇は笑いながら金色を叩きのめしていく。
「ギィイイイ!」
ゴルトフェニックスは慎重だった。すぐに復活するとは言え、死ねばオーディンに力を供給できなくなる。故に、一端ゾルダを放置することにした様だ。ワープで消えると、そのまま主人の方へと向かう。
王蛇はしばらくゴルトフェニックスを探していたが、逃げたのを察すると全てのミラーモンスターを消滅させてゾルダを睨む。
「コレで終わりだ、北岡ァ」
「お前とは因縁があるのか無いのか、よく分からないよ」
ゆっくりと立ち上がるゾルダ。なんだか王蛇とは不思議な縁がある様な気がする。
ただ裁判に勝つために利用したとかじゃなく、もっと大きな因縁がある様な気がする。
おそらくそれは向こうも感じているのだろう。最初は犯人にされたからと言う理由だったかもしれないが、途中から何か不思議な縁を感じている筈だ。
「もしかしたら、ご先祖様同士も殺しあってたのかもな俺達」
「知るか。今お前を殺したい。それが俺の全てだ」
「まあどうでもいいや、もう疲れたんだコッチは。さっさと終わりにするか」
「いいぜェ? 喰ってやるよ、全部」
そうすればイライラが消えそうだ。
王蛇のその言葉に、ゾルダはピクリと反応を示した。
「イライラか。奇遇だな、俺も相当イライラしてるんだ。今回はマジで行くぞ」
「ほう!」
そうやって二人が足を進めた時、黄金の羽が割って入る。
光と共に腕を組んだオーディンが出現した。
腕を組んで降りてくる中、大きなため息をついてゾルダを見る。
「困るんだよ。危険な目に合ってもらうと」
「そりゃあどうも」
首を振るゾルダ。
やれやれとジェスチャーを行い、後ろへ下がっていった。
「大事なところだ。ガキは引っ込んでろ」
「そうはいかない、彼にはやってもらわないといけない事がある」
「俺には関係ないなァ?」
「……それに参戦派であるキミを消す事が、僕にとっては第一優先となる事」
オーディンはそう言ってゴルトセイバーを構えた。
どうやら王蛇を消す事にしたらしい。ゾルダとしてもそれは悪い話ではなかった。
確かにオーディンは気に入らないが、勝手に潰しあってくれるのならそれはそれでアリだ。
ゾルダはニヤリと笑って王蛇から距離を取っていく。
「まあいい、騎士は全て殺す。お前もその一人だ」
「何かを勘違いしている様だね。キミじゃ僕には勝てない」
絶対的な力の差を教えてあげるよ。
オーディンは笑みを浮かべ、二つの剣を擦って火花を散らす。
どれだけミラーモンスターを強化しようとも関係はない。
「頂点は常に一人。それが僕だ」
「御託はいい、さっさと来いッ!」
走り出す王蛇。オーディンは呆れたように鼻を鳴らすとワープを行う。
出現場所は背後だ。しかしそれはフェイク。王蛇も消えたのを確認して背後を蹴っていたが、既にオーディンの姿は無い。
出現場所は元の位置。つまり王蛇の前方だ。
「フッ!」
「ッ!」
オーディンは剣で王蛇の装甲を切り裂く。
王蛇は火花を散らせて仰け反ったが、オーディンはさらにワープで背後に回って連続で装甲を削っていく。
だが次第に王蛇の動きが軽くなっていく。
痛みは彼にとっては苦痛な物ではない。起爆剤なのだ。
「オラァァアア!!」
「何ッ!」
王蛇は次にオーディンが現われる位置を『勘』で予想するとそこに思い蹴りを打ち込む。
回し蹴りだった為に範囲は広い。ピンポイントではないが、範囲には入ってしまった。
オーディンも片腕でガードを行い、王蛇の蹴りを受け止める。
(なるほど威力はある……!)
流石に殺害を重ねて強化しているだけはあると言ったところか。
(しかし敵ではないな)
オーディンはワープを駆使してその後も次々に攻撃を王蛇へと仕掛けていった。
さらにオーディンには自動で相手を攻撃してくれる梵字の紋章まである始末。
これは流石に王蛇も終わりか? ゾルダは淡い期待を抱くのだが――
「アァァァ……」
倒れた王蛇は大の字になり唸り声を上げる。
どいつもコイツも逃げてばかり、最高にイライラさせてくれる。
その感情が王蛇の力となり、以前から募っていた苛立ちと言う油に火を。
「!」
オーディンは王蛇のデッキが光り輝いた事を確認し、後ろへワープを行う。
(なんだ? まさかこのタイミングでカードを生み出したのか? 厄介な……!)
しかし後に生まれたカードが必ずしも強力と言う訳ではない。
まだ臆するタイミングではないか。そう思った時だった、背中に衝撃が走ったのは。
(しまった!)
後ろにはベノダイバー。いつのまにかアドベントを発動していた様だ。
デッキから発する光に集中していたため、気づかなかった。
ダメージを受けた際には瞬間移動ができない。オーディンは一気に王蛇の元へと飛んでいく。
何がくる? 注意してみると、王蛇は新たしく手に入れたカードを早速使用していた。
『デュエルベント』
紫に光る円形状の光がベノバイザーを中心に広がっていく。
その光にオーディンは触れてしまった。そのまま光は広がり続け、少し離れたゾルダのところまで伸びていく。
「うお」
急いで離れるゾルダ。
すると光の侵食は止まり、円形状のまま留まる形に。
その中にいる王蛇とオーディン。デュエルベントの効果とはバトルフィールドを形成するシンプルな物だった。
魔法少女が張る結界と同じだ。だが当然その中にいるオーディンは、ワープで結界の外に出る事が許されない。
強力な攻撃で強引に割るか、王蛇の変身を解除させるかでしか出られないと言う訳だ。
「――そういう効果らしいぜ」
頭の中にジュゥべえが情報を入れてくれたのだろう。
王蛇は頭部を人差し指で叩きながら笑っていた。
「問題ないな。むしろキミ自身の首を絞める事になる」
「そうだといいがな」
指を鳴らす王蛇。
するとそれは一瞬だった。
「グッ!」
「ハハハハ!」
オーディンの全身を襲う衝撃。
円形のフィールドの中央上空に、ベノダイバーが浮遊しており、そこから電撃をフィールドに降らせている。どうやらミラーモンスターの攻撃は通すようだ。
電撃は器用に王蛇がいる部分だけは避け、他の一面に雷撃を落としている。
なるほど、これではどこにワープしても攻撃が当たるようになっている訳だ。
ならばと、オーディンはガードベントを発動。ゴルトシールドで雷撃を防ぎながら王蛇へと向かおうと試みる。
『ファイナルベント』
「!」
オーディンの背後からベノゲラスが出現して突進を仕掛けていく。
オーディンは舌打ちをしつつワープでベノゲラスを回避。
しかしそこでベノダイバーの突進を受けることに。
「ぐがッ!」
さらに上にはメタルホーンを装備した王蛇も乗っていたので、その追撃も受ける事になる。
鋼の角が金色の鎧に傷をつける。なんだ? オーディンは受身を取りつつも、全身に張り付く嫌な緊張感を覚えている。
(コレは一体なんなんだ?)
そうしていると着地を決める王蛇。
すぐにベノゲラスの肩に乗ってホーンを突き出した。
ヘビープレッシャーがオーディンに迫る。
「フン、こんな物――ッ!」
相変わらず執拗に迫る電撃を防ぎつつ、オーディンはワープでファイナルベントを回避してみせる。
しかし回避されたと見るや、王蛇はベノゲラスの肩を蹴って離脱。
そのままベノダイバーに飛び乗り、ファイナルベントを発動。
二段構えと言うことか。
さらにハイドベノンの効果によって王蛇の通った後には津波が生まれる。
王蛇が力を込めているのだろう。水の量が多い。これではどこに逃げても意味は無い。
オーディンは回避を諦め、ゴルトシールドでの防御を試みる。
この盾の防御力は絶大だ。たとえファイナルベントだろうが、防御してみせると。
『アドベント』
「!」
背後に出現するベノスネーカー。
蛇に睨まれ、オーディンはワープを行った。狙うはベノスネーカーの右。
が、しかし、オーディンが出現すると、ベノスネーカーは頭部をすぐに其方へ向ける。
そしてグッと頭部を振り上げた。溶解液が来る。オーディンはワープで左へ跳んだ。
「!」
ベノスネーカーは堪えた。堪えていたのだ。
そして左へオーディンが出現すると、そちらに溶解液を飛ばす。
なるほど、それなりに高い知能はあるようだ。フェイントを挟むあたりは流石といえよう。
王蛇も迫っている。ここは安定策として盾で溶解液を防いだほうがいい。オーディンはそう考え、盾を構えた。
「何ッ? 馬鹿な!?」
溶解液をシールドで受け止めたオーディン。
するとシールドがドロドロと勢い良く溶けていったではないか。
何故ミラーモンスターの攻撃程度で絶対防御のシールドが破られるのか。
オーディンは信じられず、思わず声をあげてしまった。
確かにオーディンが驚くのは尤もだ。
ゴルトシールドはファイナルベントの威力ですら耐えられる防御力を持つ盾なのだから。
それが溶けた、それには二つの理由がある。一つ目はベノスネーカーの溶解液はガードベントで生みだれた物を溶かしやすい性質にある事。
もう一つは今の王蛇の感情である。
普段から募っているイライラは、オーディンに勝負を邪魔された事で最高潮を遥かに超えているレベルまで高ぶっている。
そんな王蛇に呼応する様にしてミラーモンスター達も苛立っているのだ。
苛立ちでスペックが上がると言うよく分からない事になっているが、司る性質が『力』なのだから仕方ない。
「――ッ、そんな馬鹿な事が……!」
オーディンは戸惑いつつも回避のルートを探る。
前からはハイドベノンの王蛇。後ろにはベノスネーカー。右からはゆっくり歩いてくるベノゲラスが。いずれも突破はできると思っているが、また何かよからぬ特殊能力でも発動されては困る。
ここは常に安定を取っていくべきだ。ならば回避ルートは一つ。オーディンは左に向かってワープを行った。
しかしそれは罠である。
王蛇はオーディンが消える前に、既にベノダイバーの背から跳んでいた。
狙うは空いているスペースの『左』だ。瞬間移動は消えてから現れるまで約1秒前後、その僅かな時間は周りを確認できない。
王蛇はその1秒でオーディンが現われる左へ距離を詰めていたのだ。
そのスピードを可能にしたのは、ベノダイバーが王蛇を跳ね上げこと。
さらに苛立ちで王蛇のスペックまで上がっていること。
とにかくオーディンが左のスペースに出現した時には、既に王蛇は目の前だった。
王蛇はオーディンの首を掴みそのまま引き倒す。
少し前にリュウガを圧倒したオーディンとは思えない光景だ。
それは王蛇から感じるビリビリとした殺意が原因だったのかもしれない。
「ァアアアアアアアアアアアア!!」
王蛇のクラッシャーが開き獣の声が漏れる。
全身の血の気が引き動きが止まるオーディン。
(まさか、この僕が怯えていると言うのか!?)
その瞬間、肩に走る激痛。見れば王蛇がオーディンの肩に噛み付いていた。
噛み付きなど、野生の世界の攻撃。そんな獣じみた攻撃を人がやるのか。
そしてその威力。王蛇は黄金の鎧をガリガリと砕き、肩の一部を噛み千切ってみせる。
黄金の鎧にボタボタと垂れる血の痕が、オーディンの思考をより乱していく。
「おいおい、ついに文字通り人間卒業したのかアイツ?」
ゾルダもつくづく呆れ果てていた。
とは言え、獣になりきっている王蛇の方がまだマシかもしれないと思う。
自分はなんだ? 今どんな位置に立っている?
「―――」
その時だ、ゾルダの脳と腹部に激痛が走る。
まさに食い破られる感覚と言うのがふさわしいか。
立っている事ができず、膝をついて咳き込んだ。
苦しい。ゾルダは唸り声をあげて辺りを転がる。
そうか、もうそんな所まで俺を喰ったのか。
こみ上げる不快感は異常だ。ゾルダはたまらず変身を解除して胃の中にある物をぶちまけた。
「……!」
出てきたのは赤い嘔吐物。北岡はソレを見て自らの末路を察する。
たまらずもう一度吐く、出てきたのはやはり赤黒い物体だった。
まて、待ってくれ、俺は食事を取っていない。
出てくるのは血だ、あふれんばかりの血。
コレは嘔吐ではなく吐血、北岡は苦痛に呻き、腹部に走る激痛から逃れる為に辺りを転がる。
ダメだ、気持ちが悪い。また吐く。たくさんの血が出てきた。
なんて惨めな姿なんだ。
北岡は自分の姿をどこか冷静に客観視していた。
今の自分は何だ? 獣になりたくないとずっと思っていた。
なのに今の自分は獣ではなくとも、とても人とは言いがたい。
惨めに地面を転がり、無様に血や涎で顔を汚す。
(コレが俺が人を殺す事を躊躇ってまで、勝利を目指すのを戸惑ってまで――ッッ、目指した姿の行くつく先なのか!?)
それは耐え難い屈辱だった。
「俺は、俺は――ッ」
腹を食われ、脳を食われ。
まるで、まるで――
オーディンは震えを感じた。
蛇に睨まれた蛙と言う言葉があるが、まさに今の状況はソレと似ている。
たとえば狭い牢屋の中に、人とクマかライオン、あるいは凶暴なカバが放り込まれたらどうなる?
きっと人は恐怖で身体が竦み動けなくなるか、パニックになるかのどちらかだろう。
それは人がその獣に対抗できる術がないと知っているからだ。
殺されるビジョンが容易に想像できてしまうから怯えてしまう。
絶対に勝てない存在と言う物があると、本能がそれを理解する。
「ウラァアアアアッッ!!」
「ガッ! くっ! ぐぅっ!」
そして今、王蛇が馬乗りになってオーディンを殴りつけている光景がソレだった。
いや、否定。そんな訳が無いとオーディンは我に返る。自分は力のデッキに選ばれし物。
こんな訳の分からない屑とはレベルが――、存在の重さが違う。
オーディンは蹴り上げで王蛇を怯ませると、そのまま力押しで王蛇を跳ね除ける。
さらにワープで後ろへ移動して王蛇へ大量の羽を浴びせていった。
「アァアアアアアアアア!!」
しかし王蛇は両手を広げてその羽の中を、何のことは無く突っ切っていく。
「何故だ、なぜ怯まないッ!」
何故ダメージを受けた素振りを見せない!?
火花が散っている時点で、効いていない訳は無い。
なのに王蛇は全く怯まず、全くその動きを止めず、オーディンの方へ走っていく。
「何故だ? 何故止まらないんだ!」
恐れる相手。
例えばそれは、必ず復讐されると分かっている相手。
オーディンは幸福な未来を望んでいる。なのにヤツはどこまでも執拗に追いかけ、自分や、その周りを暴力で沈めようとする。
もちろんココで殺せば問題は無い。しかし王蛇は――、浅倉と言う男は墓穴から這い出てくるのではないか。本気でそう思わせる希薄があった。
さやかが欲しい。しかしヤツは、どこまでも僕を追いかけて、きっとさやかも殺してしまう。
歯向かえば、ヤツは僕を狙う。そんな事をオーディンは無意識に考えていた。
(馬鹿げた妄想だ――ッッ!!)
オーディンはワープを行い、王蛇の前に現れると直接接近戦を持ちかける。
体術もそれなりに覚えはある。王蛇の攻撃を受け流して蹴りを叩き込むが――
「ハハハァッ! いいぞ、楽しませてくれる!」
何故蹴られているのに、そんなに楽しそうに笑うんだ。
何故ダメージを受けても恐怖しない、怯まない、恐れない?
むしろ王蛇から感じる殺意と覇気が上がっていく始末。
(なんだよコイツ――ッ! 気持ち悪いなッッ!!)
「どうしたァ? もっと俺を楽しませろッッ!!」
クラッシャーが避けた。
ニタリと、仮面の奥の浅倉が笑ったように見えた。
「――るな」
「アアアアアアアアアアアアアアア!!」
「来るな……!」
巨大な
「来るなァアアアアアアアア!!」
オーディンの心に明確な恐怖が生まれる。
どうして怯まない、どうして苦しまない? どうして殺し合いなのにこんなに楽しそうなんだ。
その異常性は今まで出会ってきた人間の中に該当する者が誰一人いない。
つまり、つまりだ、オーディンの中で下した判断。
王蛇は人間ではない。
オーディンは羽を倍増させて発射し、梵字の紋章も全て王蛇に向けて放つ。
しかし周りを飛び回るベノダイバーがそれを防ぎ、当たった所で王蛇は怯まずに笑い声を上げて向かってくる。もちろんダメージはちゃんと通っている。王蛇も苦しんでいるのだ。
だが後退していくオーディンが知ったことではない。しかしデュエルフィールドの壁が背当たってこれ以上後退ができない事を知ると、彼の焦りは最高潮に達した。
「来るなァアアアアアアアアアアアア!!」『ファイナルベント』
オーディンの真上に現われるゴルトフェニックス。
(そうだ、全て消してやる。そうすればヤツも無に還る――ッッ!)
僕が、頂点に立つべき僕が! 恐れる相手などこの世に存在してはならないんだ!
するとゴルトフェニックスに突進をしかけるベノダイバー。
無駄だ、不死鳥は強力な光を纏っており、先ほどとは違いベノダイバーのみを吹き飛ばす。
筈、だった。
『ユナイトベント』
オーディンの目の前でぶつかった二体のミラーモンスターが融合を始める。
確かにあの状態ではベノダイバーに勝ち目は無かった。
だからこそ王蛇は、ベノダイバーがゴルトフェニックスにぶつかった瞬間カードを発動したのだ。
ユナイトベントには強制力がある。つまり無理矢理不死鳥と自らのモンスターを融合したと言うわけだ。
もちろんミラーモンスターも抵抗するのだから、長時間は融合できない。
ましてゴルトフェニックスともあろうレベルなら尚更だ。
しかしゴルトフェニックスは王蛇に叩きのめされた事で弱っていると言う部分がある。
さらに王蛇はベノゲラス、ベノスネーカーを融合させる事で、三体でゴルトフェニックスを押さえ込む。
「お前を殺すだけの時間は持てるって事だ」
「な、なんなんだよソレはァアッッ!!」
王蛇の背後に現われるのは、金色の翼を持ち、装飾が金色になったジェノサイダー。
ゴルト・ジェノサイダーとでも言えばいいか。
王蛇は見せ付ける様にして、四つの紋章が刻まれたカードをチラつかせる。
「う――ッ! ウォオオオオオオオオオ!!」
オーディンは滅茶苦茶に叫びながら羽を発射して抵抗を試みるが、ゴルトジェノサイダーはその倍の羽を発射してオーディンの攻撃をかき消しながらダメージを与えていく。
最強の騎士オーディンを倒す方法は簡単だ。
オーディンの力を使えばいい。
「うぐっ! ぐがぁ!!」
身体がから無数に火花が散っていく。
自分が今まで他人へしてきた攻撃を、自らが受けるとは皮肉な物だ。
そして募る恐怖と焦り。ありえない、あり得て良い筈がない。
こんな敗北、こんな恐怖、こんな、こんな! こんなこんなこんなこんなこんな――ッッ!!
「そろそろ飽きた。消えろ」『ファイナルベント』
「う、うあぁあああああ!!」
オーディンは叫びながらワープを連続で行い、王蛇の狙いを外そうと試みる。
しかしそんな彼に襲い掛かるのはフィールド一杯に舞い散る羽。
まずゴルトジェノサイダーは羽ばたきで無数の羽をあたり一面へ散らしていった。
ゆっくりと舞い落ちる羽は、オーディンがどこへ回避しようとも触れるのだろう。
さらに驚くべきはココからだ。
ゴルトフェニックスを取り込んだ事による物なのか、王蛇もまた瞬間移動の力を手に入れた。
オーディンが出現する場所を追う様にして、次々と移動を繰り返す王蛇。
獲物を執拗に追う蛇の如く張り付いていく。
「来るな来るな来るなァアアアアアアア!!」
「ハハハハ! どうしたァ? そんな物かァアアアア!!」
瞬間移動の頻度を早めるオーディンだが、王蛇は確実に後をついてまわる。
そして金色の羽達は確かにオーディンにダメージを与えていき、ついにその動きが鈍った時だ。
王蛇がオーディンのの首を掴んだのは。
「ハハァ!」
「ぐあッ!!」
肘を打ち付けられ怯むオーディン。
後方へワープする王蛇。彼はそのまま両手を広げて走り出す。
フラつき、停止しているオーディンの背後にブラックホールが出現した。
吼えるゴルトジェノサイダー。黒の球体は、黄金の羽を全て吸い取りながら、空間を歪ませる。
「ウラァアアア!!」
「ガァァアア!!」
捻りを加えたドロップキックがオーディンに命中する。
きりもみ状に飛んでいく黄金騎士の背後には巨大な黒が。
嘘だ、ありえない、オーディンは何度もその言葉を連呼する。
頂点に立つ男の最期がコレなのか?
いや、違う。僕は人には勝てる!
しかし目の前にいるのは獣だ。人ではない。だから僕は負けたのか!?
オーディンは得体の知れない恐怖に屈服したと認めるしかなかった。
人は全く理解できない物に遭遇すると恐怖を覚える。
人が猛獣と出合った時に足が竦む様に、彼もまた――。
それに、何故? 何故未来を視たのに、こんな事になっているのか。
未来はオーディンの生存を示し続けていた筈なのに――ッッ!
「……!」
まさか、まさか未来が変わった? 運命が変わったとでも言うのか!?
一体、誰がそんな事を? スキルベントを発動しようとしたオーディン。
しかし、もうどこか上で、どこが下なのかも分からない。
そうすると景色が真っ黒に染まった。
(馬鹿な、僕が負ける? 僕が――!)
死ぬ?
「ウアァァアアァアアアァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
オーディンは手を伸ばした。
しかし彼の金色は。紫の闇に喰われていくだけ。
「ありえないッッ、この力のデッキを持つ
何故? 運命は自分の勝利を記録していたはずなのに。
未来が、運命が変わったなんて、認めな――……。
「ハハハハハハハハハハハ!!」
王蛇の笑い声と共に、オーディンは闇の球体の中へと消えていった。
ワープと、羽の妨害を加えたドゥームズデイが、オーディンの命を深い闇の中へと沈めていく。
ミラーモンスターの融合を解除する王蛇。
すると悲痛な叫びをあげてゴルトフェニックスが粒子化して消え去った。
当然だ、自らの主人が死んだのだから、分身であるミラーモンスターが生き残れる道理など無い。
「さあ――」
終了時間も来たのか。
ガラスの様に割れて飛び散るデュエルフィールド。
しかしまだ足りない、まだ物足りない、王蛇は次の獲物に視線を移す。
「次はお前だ。北岡ァ」
「………」
北岡は青ざめた様子で立ち上がる。そしてニヤリと笑った。
本人に青ざめた感覚は無いが、他人から見ればどう見ても顔色は最悪のソレだ。
そして北岡は今、前が良く見えていない。ぼやけた視界と狂う平衡感覚。
吐き気は継続しており、頭と腹は相変わらず食い破られる様な痛みと、蟲が這う感触で支配されている。
今すぐに腹と脳を引き裂いたら、黒い虫がウジャウジャとぶちまけられるのではないかと錯覚してしまう程に。
「ゴポォ!」
情けない音がして、口からは大量の血が漏れる。
ああ、なんて無様な姿か、北岡は人でありたかった。
なのに今、蟲に喰われるだけの存在。
そう言えば、どこぞの種類のハチに、芋虫の身体に卵を産み付ける物がいた。
蜂の幼虫達は芋虫の体内で孵り、内部を餌として食い散らかし、なんと脳を支配して芋虫を操る事ができると言う。
そして幼虫達が大きくなると、芋虫の身体を突き破って外に出て来るらしい。
じゃあ、つまり、なんだ。
北岡は必死に人であろうとしていた。
なのに今の状況が全てを証明しているじゃないか。
俺は、俺は――
「認めるか……!」
食われるために存在している食料、究極の弱者ではないか。
人ですら無く、獣にすら及ばぬ弱い存在。それが今の北岡。
そしてその証拠に今、自分は獣に食われようとしている。
既に蟲に喰い散らかされた後、まだヤツは俺を貪ろうと言うのか。
そしてそのまま惨めにその生涯を終えるのだろう。
北岡は自分の事を絶対的なエリートだと思っていた。自負していた。
父を見た時に感じた、あの気持ちを忘れず、ああはならないと誓った。
良い暮らしをして、良い女と結婚して、幸せに暮らす。それが絶対だと思っていた!
しかしそれは幻想。
実際は獣に食われる為に生まれてきた食料。
餌としての人生を今まで送って来たのか?
(ふざけるなッ、俺は違う!)
俺は餌なんかじゃない!
そうだろ? 友達に言われたんだ、人で在り続けてくれと。
そうだ、俺は人だ、人間様だ! お前らとは、レベルがッ、品が違うんだよ!
「浅倉、悪いけどさ。俺の勝ちだよ……!」
「ハッ、冗談にしてはつまらんな」
「それが本当なのよね……」
北岡は笑いながらデッキを構える。
さっきからずっと考えていた。どうやったらこの状態で王蛇に勝てるのかを。
どうすれば王蛇との決着を付けられるのかと
するとやっぱり思い浮かぶのは、パートナーのあの言葉だった。
最後の最期まで役に立たないかと思ったら、意外といいインスピレーションを与えてくれたじゃないか。
何も、力でねじ伏せるだけが勝負じゃない。
そうだろ? 人は知恵を使う物だ、それが獣との圧倒的な差と言う物だ。
ゾルダに変身したら、すぐさま仮面を脱ぎ捨てる。
「ッ?」
「俺は、お前に勝つ方法を一つだけ見出した」
大変ありがたい事に、浅倉さんは俺を殺したくて殺したくて仕方ないらしい。
ただ俺はお前に負けるのはまっぴらゴメンだ。悔しいが今の俺が戦った所で結果は見えている。
でも、一つだけ、お前に最低な思いをさせる事ができる方法がある。
そう、俺はお前に勝てるんだよ。
「俺は人間だ、餌じゃない」
「ッ! 北岡ァアア!!」
王蛇は気づく、そして走る。
だがもう遅い! ゾルダは、北岡はニヤリと勝利の笑みを浮かべてマグナバイザーを自らのこめかみに押し当てた。
俺は、俺は――ッ!
「人で在り続ける!」
「クソォオオオオオオオオオ!!」
発砲音。
北岡は笑みを浮かべまま、自らの頭を弾丸が通り抜けるのを感じた。
穴ができて、蟲が逃げてけばいいと思った。
濁っていく視界は、より濁り、耳鳴りの中で意識もまた鈍くなっていく。
だが北岡の意識はまだ保たれていた。
世界がスローモーションになる中で、彼はまだ自我を保っていた。
騎士になったから強化されたのか、それともこういう物なのかは知らないが、最期にまたあの二人を思い出す。
『先生は、最後まで人でいてください』
ああ、やったよ吾郎ちゃん。俺は人であれた。そうだろ?
今、行くからさ、一緒に酒でも飲もうよ。
『センセーは……、誰も殺さないでね――』
ああ、うん。お前も最後には役に立ってくれたな。
何故か、お前の言葉でこの作戦が浮かんだんだ。誰も殺さずに自分を殺す。
見たか、王蛇の悔しそうな表情、仮面の裏の顔が容易に想像できるよ。
アイツは一番殺したかった男をさ、もう殺せないんだ。
目の前で死なれて、そうとう悔しいぜアレは。
あれ? でも違うか。俺、人、殺しちゃったんだっけ?
まあいいや、もうどうでもいいしさ。俺の勝ちで終わったんだから、いいでしょ別に。
だから、コレはせめてものお礼。俺は女には優しいんだ。
例えソレが、ガキであってもな。
「じゃ、ま……あと……は、好きに――しろ」
北岡はその言葉と共に地面に倒れる。
王蛇が駆け寄った時にはもう北岡の目には光はなく、糸の切れた人形の様に転がっているだけ。
拳を握り締める王蛇、何だそれは? 何なんだソレは!?
「ウアァアアッ! ァアァアアアアアッッ!!」
今までに感じたことの無いイライラが襲う。
王蛇はすぐに拳を握り締め、北岡の顔を殴り潰そうとするが、振り下ろした拳は地面を叩くだけだった。
なぜなら、もう北岡は粒子化して消え去ったからだ。
「アァアアアアアアアアアァァアアァアアアアアア!!!」
獲物を逃がした獣の咆哮が、やけに悲しげに聞こえたのは気のせいだろうか?
一番喰いたかった獲物を、王蛇は永遠に喰う事ができなくなったのだから。
【上条恭介・死亡】【北岡秀一・死亡】【残り15人・10組】
そして、最後の連鎖が巻き起こる。
北岡は一つのお土産を残していった。
それは――
「――は?」
織莉子は目を見開いて間抜けな声を上げる。
まどかのソウルジェムを砕く未来を、織莉子はしっかりと視ていた。
その間に死亡するのは暁美ほむらのみ。それ込みで、未来が確定していたのだから。
なのにソウルジェムを砕こうとオラクルを振り下ろしたら、そのオラクルがサーベルによって弾かれた。
なんだ? なんで?
未来は視えていたのに。どうしてこんなイレギュラーが――……。
完全に停止する織莉子の思考。ふと横を見ると、そこには『青』が。
「ガァァア!!」
そして痛み。
「あたしの親友に、何すんのよ」
「そ、そんな……! そんな馬鹿な――ッ!」
青い斬撃が織莉子の身体に刻まれる。
大きく息をはいて後退していく織莉子。
対して剣を振った『青』は、まどかのソウルジェムを握り締めると、同じく倒れているまどかを抱きしめて跳んだ。
「え?」
まどかも同様に声を上げる。
ブルーオーシャンのシャンプーの香りには覚えがあった。
最初は死が見せる幻覚だと思ってしまう程、それはあり得ない事だと思っていた。
しかし、今、こうして現実に『彼女』は立っている。
(何故ッ! 馬鹿な!? なんでッッ!?)
織莉子は訳が分からずに、ただフラフラと後退していくだけしかできない。
何故、予知した未来と今が違う? 未来予知が外れた? 運命が変わる因子は参加者の死だ。
しかし自分が見た未来は、ほむらが死んだのも込みにしての結果のはず。
それなのにどうして? どうしてッッ!?
「そんな……! そんな馬鹿な! 嘘、あり得ない――ッッ!!」
織莉子はすぐに魔法を発動して未来を確認する。
するとノイズ。テレビの砂嵐の様な物しか見えなかった。
コレは未来が変わり、世界が再構築される時に起こる物。
つまり簡単な話、未来が変わったと言う事なのだ。
(そんな、そんなッッ!?)
なんで? なんで! なんでッッ!?
彼女がそう思ってると、ノイズの中に一瞬だけライアの紋章が見えた。
(まさか、まさか――ッ! ライアペアか!?)
それしか思い当たる節が無い。
既にノイズが掛かっていたほむらと、運命を性質に持っていた手塚。
彼等が死を使わずして未来を変えたとでも言うのか?
つまり――ッ! 運命を、変えた!?
(どこまでも邪魔をォオオオッッ!!)
嘘だ! そんな事はありえないッ!
では、目の前にいる女を、何と説明すればいいのか。
彼女はまどかのソウルジェムを持ち主に渡すと、少し切なげに微笑んだ。
「がんばったね、まどか」
「――ッッ!!」
ゆっくりと、まどかを寝かせる。
織莉子は否定の感情を込めつつも、オラクルをまどか達へ向かわせた。
あり得ない、あれは幻想だ、偽りに決まっている!
未来は暁美ほむらと鹿目まどかの死によって紡がれると決定している。
「それ以外の道は無い!」
まどかを助けた少女は、織莉子に目を向けること無く、ましてまどかから視線を外す事なく、オラクルを防ぎきって見せた。
白いマントを拡大させて、自分とまどかを覆うようにしてオラクルを防御したのだ。
オラクルの激しい攻めに、マントもボロボロになるが、すぐに音符を模した魔法陣が広がり、マントが修復されていく。
だから織莉子がどれだけ攻撃してもマントは破られない。
「……なんていうか、今更過ぎるし、あたし色々最低な事も言ったよね」
「―――」
まどかは目に、いっぱい涙を溜めて首を横に振る。
「もう……、さ。アンタはあたしの事、友達と思ってくれないのかもしれない」
最期のシーンを思い出すに、嫌いになってるのかも。でも、それでも――!
「ごめん」
一言だけ謝罪。
直後、ニヤリと自信たっぷりの笑みを浮かべて、まどかの涙を指ですくう。
「今は親友だった頃の、あたしとして守らせてよ! まどか!」
「さやかちゃん……っっ!」
まどかはボロボロと涙を流し、声を震わせる。
一方で、そう。"美樹さやか"は微笑むと、マントから抜け出していった。
「頼むよ!」
マントと結界でまどかを完全にコーティング。
さやかの魔法形態は回復だ。特にそれは自己に対する物。
故にマントはさやか自身とみなされ、どれだけ攻撃されてもすぐに元通りになる事ができる。
そして今、彼女は友を守るためにサーベルを構えて織莉子を睨んだ。
「まどかを殺すってんなら、ソレはあたしが許さない!」
「クッ! なんで……ッッ! 何故あなたが――!!」
「あたしにも分からんッッ!」
そんな未来は視ていないのに!!
青い風が、さやかの髪を揺らしている。
凛としたその姿に、織莉子は思わず青ざめて息を呑んだ。