仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第56話 青の疾走 走疾の青 話65第

 

 

 

「美樹ッ、さやか――ッ! なんでッ、何故貴女が!?」

 

「うむ。誰かは知らないけど、さやかちゃん復活を祝ってちょうだいよ!」

 

 

地面を蹴るさやか。

持ち前のスピードは磨きがかかり、一瞬で織莉子の目の前に移動してみせる。

 

 

(うッ、速――ッ!)

 

 

織莉子は反射的にオラクルを振るって攻撃するが、虚しく空を切るソレ。

さやかの姿を捉えたと思ったのに、一陣の風が織莉子の前髪を揺らすだけだった。

 

 

「残像だ! なんてね!!」

 

「クッ!」

 

 

さやかは既に織莉子の後ろ。

剣を強化する魔法技、スパークエッジを使用して織莉子を切り裂く。

十字の斬撃を受けてよろける織莉子。しかしすぐに事態を飲み込みさやかを睨んだ。

 

 

「貴女はッ、自分が何をしているのか分かっているの!?」

 

 

何も考えず、何も理解せず。ただ一時の感情に身を任せて破滅の道を歩む。

ああ愚か、なんて愚かなの! 織莉子は怒りの形相でさやかにオラクルを向けた。

しかし、さやかは持っていたサーベルを投擲。刃はオラクルを撃ち落し、さやかはそれを決意の眼差しで確認していた。

 

 

「そりゃ分かんないって! あたし今起きたばっかりだもん!」

 

 

でも、それでも、何も分からない訳じゃない。

目覚める前、ある程度の情報はキュゥべえが教えてくれたし、今この目の前にある光景がリアルだろう。

親友が殺されそうになっている。親友が困っている。

 

 

「それだけで動く理由としては十分でしょ!!」

 

「鹿目まどかは絶望の魔女なんですよ! 放置すれば世界が死ぬ!」

 

「それがどうした!」

 

「なっ!?」

 

 

一蹴し、文字通り織莉子も一蹴する。

織莉子は、さやかが状況をいま一つ理解しきれていないんじゃないかと思ってしまう。

だからもっと詳しく説明を行う。魔法少女が魔女になり、そしてその魔女に問題があるのだとしっかり、はっきり。

だが返ってくる答えは全く同じだった。

さやかは言葉の意味が分かっていない訳ではない。分かった上で、それがどうしたと叫んだのだ。

 

 

「まどかが死なないと救われない世界ならッ、そんなのいらない!」

 

「馬鹿な! 言っている意味が分かってるの!?」

 

「当然でしょ。身勝手だってのは分かってる。でも、それだけが道じゃないでしょ!」

 

 

だから、まどかは戦ってるんでしょ?

さやかはそう言って、マントに包まれたまどかを見る。

 

 

「まどかはね、あたしが出会ってきた人間のなかで一番優しくて、でも弱っちい所もあって、それでもあたしよりもずっと強い娘なの」

 

 

そんな彼女が戦っているんだ。

特別な理由があるに決まってる。

だからさやかは味方をするのだ。

 

 

「それに、あたしは、道がそれしか無くともまどかを守る!」

 

「ふざけないで! 薄っぺらい友情一つで世界中の人間を犠牲にする気なのッ!?」

 

「……そうだね。あたし酷い事言ったし。それは認める」

 

 

でも、だからこそ突き通したい想いがある。

どんなに溝ができたって、親友だった事は紛れも無い真実だ。

そしてさやかは、コレからもまどかと親友でありたいと切に願っている。

 

 

「死んでみて、ちょっと冷静になれた」

 

 

自虐的な笑みを浮かべたさやか。

世界を滅ぼすかもしれない鹿目まどかを守るなら、それは紛れも無い悪なのだろう。

だがさやかはそれでいいと言う。もちろん世界を壊したいと思っている訳じゃない。

それは、まどかだってそうだろう? だから彼女は戦っているんだろう?

 

 

「さやかちゃんの意思は単純明快、愉快痛快ってね!」

 

 

胸を叩くさやか。

心臓を示して、自らの意思が『命』と重なっている事を示す。

一方で真面目な表情に変わると、少し声のトーンを落とした。

その表情には織莉子やまどか、かずみと同じ覚悟の量が窺い知れる。

 

 

「世界がまどかの死を望むなら、あたしは世界を犠牲にする」

 

 

つまり。

 

 

「世界を敵に回しても、あたしはまどかの味方をするって事!」

 

 

さやかが指を鳴らすと、巨大な太刀がまどかの周りに突き刺さって行く。

攻撃じゃない、剣で壁をつくり、まどかを守っているのだ。

さらにサーベルを二刀流にして、織莉子に向ける。

 

 

「まどかを殺したいのなら、まずはあたしを殺してみせろ!」

 

「!」

 

「もちろん、死ぬ気も無いけどね!」

 

「おのれ――ッ! 愚かな! なんて馬鹿な人なの!!」

 

 

オラクルを展開する織莉子。何故だ? 何故こんな事になっている!?

未来は自分に味方していた筈なのに、どうしてライアペアなんかが未来をそう簡単に変えられるんだ!

 

織莉子の心は苛立ちと焦りでおかしくなりそうだった。

とにかく何としてもココでまどかは殺さなければならない。

美樹さやかの登場で焦ったが、冷静に対処すれば美樹さやか程度は敵では無い。

 

 

【東條悟】

 

 

「――っ? ッッッ!!」

 

「?」

 

 

だが直後、織莉子の表情が一変し、まるで時間が止まったかの様にオラクルの動きが停止する。織莉子は真っ青になり、汗も浮かべている。唇はわなわなと震えてり、その表情からは僅かな絶望が感じられた。

 

 

(ッ、なんだろう?)

 

 

さやかはサーベルを構えて、いつでも対処できる様に気をつける。

そうしていると頭にその情報が飛び込んできた。

それが、状況を大きく動かす事になる。

 

 

【呉キリカ】

 

 

(あ、これって――ッッ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タイガチーム・両名死亡】

 

【これにより、両者復活の可能性は無し。よって、タイガチーム完全敗退】

 

【残り15人・9組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? は?」

 

 

織莉子の頭は真っ白になっており、思考は停止していた。

思わず乾いた笑みが漏れる程に、意味が分からない。

そしてそれを合図にして、織莉子の周りを浮遊していたオラクルが全て地に落ちていった。

キリカが死んだ。その事が織莉子とって、何よりも受け入れがたい物だったのだ。

 

 

「う、嘘。嘘よ……!」

 

「ッ」

 

「嘘、あはは……、嘘。嘘なんだから。嘘に決まって――……、う、うそ」

 

 

膝をつく織莉子。決着はなんとも呆気ない物だった。

戦意が消えていくのが分かる。さやかは悲しげな表情でソレを見ているしかできない。

織莉子にも譲れない想いがある事は分かっている。

きっと今死んだ魔法少女は、織莉子にとって大切な人だったんだろうと察するのは簡単だった。

 

 

「うそよぉ……!」

 

 

織莉子は震える声で弱弱しく呟き、地面に手をついて蹲った。

もう戦うだけの気力は無い。分かっていたつもりだった。

場合によってはキリカを利用してまで、達成しなければいけない使命があると。

だが、揺ぎ無い勝利のビジョンを描いていた織莉子にとって、これはあまりにも辛すぎる未来だったのだ。

 

目の前には親友の為に世界中の人間を危険に晒す(さやか)

そして織莉子は使命の為に友人を犠牲にしてまで世界を救う正義。

なのに本心を言えば、まどかが羨ましくて堪らない。

そんな感情もまた、戦意を削ぐ要因になってしまのだろう。

 

 

「!」

 

 

だがその時、さやかの目に見知った姿が。

かずみだ。十字架をさやか達に向けて、先端に光を集中させている。

眠らされていたかずみは、タイガペア死亡のアナウンスで目を覚ましたのだ。

だいぶ回復もしており、暴走状態も解除され、今が好機と判断したのだろう。

何故さやかがいるのかは知らないが、どうせ全員殺す道だ。

誰が生き返ろうが同じなのだから、撃てばいいだけ。

 

 

「やば!」

 

 

さやかは指を鳴らすと、まどかを包んでいたマントを引き寄せて装着。

一瞬悩んだが、仕方ないと叫んで織莉子ごと守るようにマントを巨大化させて壁に変えた。

そこへ直撃するリーミティエステールニ。

 

 

「ギリギリ! めちゃ焦った!!」

 

 

だが、かずみの攻撃は終わらない。

レーザーを撃ちつつ前進。ダッシュで距離を詰めると、地面を蹴って思い切り空へ舞い上がる。

 

 

「こんの――ッ!」

 

「うえっ! まじ!?」

 

 

さやかマントは、まどかの結界と違って半透明ではない。マントの向こう側がどうなっているのかまでは確認できないのだ。

かずみはそれを利用して距離を詰めると、マントを飛び越える様にして姿を晒した。

十字架は大剣モードに変えており、コレを振り下ろせば織莉子くらいは殺せると踏んだのだろう。

 

 

「うあ゛ァッッ!!」

 

「な、なに!?」

 

 

焦るさやかだが、かずみが大剣を振り下ろそうとした瞬間、その胴体へ桃色の光が命中して吹き飛ばしていった。

反射的に視線を送ると、光の翼を広げて弓を構えているまどかが見える。

 

 

「ナイスまどか!」

 

「えへへ! さやかちゃんが回復魔法をかけてくれたおかげだよ!」

 

 

サムズアップを送るさやかと、ピースで返すまどか。

だが、まどかはすぐに険しい表情に変わると、一気に空を駆けてマントの向こう側へ。

そのまま飛行し、頭を押えてフラフラと立ち上がるかずみの前に着地した

 

 

「お願い、もう止めてかずみちゃん」

 

「無理だよ……っ! そんなの無理だよ!!」

 

 

かずみは唇を噛み、膝をつく。

どうやら暴走状態のツケが回ってきたらしい。

このままでは意識を失い、戦闘を続ける事ができなくなる。

かずみは撤退の意思を固める。黒いマントを翻して目を眩ませる。

まどかは手を伸ばすが、何も言えなかった。

そしてかずみも既に消えていたところ。残った黒いマントは地面に落ちると、何のことは無く消えてしまった。

 

 

「………」

 

 

まどかは空中に浮遊したまま、悔しげな表情を浮かべて、かずみが消えた場所を見ていた。

しかし彼女もまだ疲労とダメージが残っていたか、翼が消えてしまい地に落ちる事に。

 

 

「わっ! きゃ!」

 

「おっと!」

 

 

しかし落ちた所には既にさやかが待ち構えていた。

まどかを抱き止めると、横抱きにして地面を蹴る。

ココにいる意味はもう無いと判断したらしい。勝負だって、勝ち負けは別として決着はついたろうから。

 

 

「織莉子さんが……」

 

「大丈夫だよ、まどか。あの人はもう……、戦えない」

 

 

戦えない。

その言葉が示すとおり、織莉子は崩れ落ちて動きを完全に停止させている。

さやかは一瞬だけ織莉子を見る。まどかも釣られて織莉子に視線を向けた。

精神が魔力に関わっている部分もある。だからだろうか、織莉子は変身が解除され、すすり泣く声しか聞こえなかった。

 

 

「行こう、まどか」

 

「織莉子さん……」

 

 

声を掛けたほうがいいのか。しかし今のまどかに何を話す資格があろうか。

まどかはまた、肝心な所で迷ってしまう。

だから何も言えずに、小さくなっていく彼女の姿を見詰めるだけだった。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

それを理解しているのか、この親友は。

まどかに微笑みかけて、舌を出す。

 

 

「あんまり考え込んじゃダメ。女の子でもハゲちゃうかもよ」

 

「は、は……!」

 

 

戸惑うまどか。

しかしすぐに、別の意味で戸惑いの表情を浮かべる。

 

 

「ホントにさやかちゃん――、なんだよね?」

 

 

移動中。

ギュッとしがみつく力が強くなる。

さやかはそれを感じて、少し嬉しげに頬を染めた。

 

 

「もちろん! 正真正銘純度100%のさやかちゃんですよ!」

 

 

ニッコリと微笑むさやかだが、またすぐに悲しげな笑みに変わる。

いろいろ、忘れたくても忘れられない。

魔女として覚醒し、意識を失った後は、ずっと黒一色の部屋にいた感覚だったと言う。

 

なにも感じない。

退屈も、疑問も、自分がどうなるのかと言う不安さえも。何もかもだ。

そうしていると一筋の光が部屋に差し込み、光が声を放ったと言う。

その声がキュゥべえの物であると言う事は、ぼんやりとした意識でも理解できた。

 

 

『蘇生の時だよ。美樹さやか』

 

 

蘇生?

さやかは真っ暗な部屋の中で、その単語の意味を思い出す。

つまり生き返ると? そもそも自分は死んでいたのか、などなど。

 

 

『少し特殊なシチュエーションが起こっているから、まずはそれを説明するよ』

 

 

まだパートナー契約を結んでいないさやかは、蘇生された時点で騎士側のパートナーが死んでいると言う具合になっている。

キュゥべえはまず、さやかのパートナーが北岡秀一だと言う事を打ち明けた。

 

 

「センセー……、が?」

 

 

まあ、デスクの引き出しの中にあるデッキを見かけた時から、何となくそうなんじゃないかとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは。

驚くのはまだだ。北岡が死んだという事も、それなりには衝撃だった。

契約は結んでいないが、さやかにはマグナギガを呼び出す権利が与えられる。

 

50人を殺し、その命を食わせればマグナギガをゾルダにできる。そして北岡の意識は戻ると。ただしあくまでも未契約のため、それ以外の力は発動できず、さらにマグナギガもサポートを行う事はできない。

 

できる事は本当に目の前にマグナギガを呼び寄せるだけ。

壁にはできるかもしれないが、攻撃をさせることも出来ず、ユニオンも使えないと言うことだ。

 

 

『少しだけ状況を教えてあげるよ。パートナーが死んだ以上、蘇生場所を選ぶ権利が君にはあるからね』

 

 

そう言ってキュゥべえは本当に端的だが、さやかに今の状況を告げる。

戦っている一同の情報。さやかはぼんやりとした頭で、たった一言。

 

 

「まどかの所に行かせて」

 

『わかったよ、じゃあ頑張ってね』

 

「まって……」

 

『?』

 

 

さやかの目に光が戻っていく。

その中で、一つだけ聞きたいことがあるとキュゥべえに質問を行った。

それは自分が蘇生されたのは、北岡がルールを使ったからではないかと。

死んでいく中で、ルールはある程度把握している。頭に叩き込まれたと言うべきか。

 

 

「センセーは、人を……、殺したんだよね?」

 

『そうだね、まああれは事故とも言えるだろうけど。結果は結果さ』

 

「そう……、ありがと」

 

 

何故、北岡が自分を蘇生させるのか、何となく分かった気がする。

約束を破った謝罪って事?

意外と律儀なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「――って、感じかな?」

 

 

こうして、さやかは先ほどの状況に至ったと言う事だった。

何故まどか達が戦っているのかは分からなかったが、まどかが傷ついていると言う点でもう十分だった。

 

 

「なんか、さ。死んでみて冷静になれたんだ」

 

 

色々酷い事を皆に言ってしまった。迷惑を掛けてしまった。

だからせめて、今度こそ意地でも誰かを守りたいと思う。

自分が憧れた魔法少女の姿はヒーローのソレだ。

今更遅い? いやそんな事は無い。

 

 

「もう後悔なんてしたくない。あたしは、友達を守りたい」

 

「さやかちゃん……!」

 

 

それを聞いて、まどかは涙をボロボロと零した。

さやかをより強く、ギュッと抱きしめる。

確かな体温を感じて、まだ涙が零れてきた。助けてくれた感謝もあるが、何よりも申し訳ないと言う意味がある。

まどかも、想いはさやかと同じだ。友達を守りたいと思っていた。

けれど何かも上手くいかない。自分の事だって。他人の事だって。

 

 

「ごめん……! 仁美ちゃんと学校の皆が! ゆまちゃんだって――ッッ!!」

 

「ッ! そっか……。辛かったね」

 

 

まどかは『死』と言う表現を避けたが、さやかはしっかりと理解してくれたようだ。

仁美も、ゆまも、ちゃんと話をしたかったのに。

それはもう叶わないのか。

 

 

「でも正直――、さ。最悪の結末ってのを考えちゃってた」

 

「……っ?」

 

「みんな死んじゃってて。あたし以外はヤバイ奴らばっかとか? だはは……!」

 

 

でもキュゥべえがまどかの所に蘇生させてくれると――。

つまり、まどかがまだ生きていると知る事ができた。

その時の安心感と、嬉しさといったら。計り知れない物があった。

 

 

「まだ生きててくれたって。本当に嬉しかった」

 

 

さやかは照れくさそうに目を逸らす。

そこでまどかはハッとして、先ほどの言葉を思い出した。

さやかは過去の事で、まどかが怒っているとか、軽蔑しているとか考えている様だ。

だから違うと言わなければ。

 

 

「わたしは、さやかちゃんの事! ずっと親友だって思ってる!」

 

「ほ、本当? サンキュー! 良かった。正直、ちょっと不安だったんだ」

 

「わたしが、さやかちゃんの事嫌いになる筈ないよぉ」

 

「え、えへへ」

 

 

さやかはまどかを見ると、ニッコリと笑う。

まどかとしても、同じくらい嬉しいのだが、不安もある訳で。

それは自らが絶望の魔女だと言うこと。それがどうしたと言ってくれたが――、やはり気になる所なのだ。

 

 

「分かってる? さやかちゃん。わたし魔女になったら世界を壊しちゃうんだよ」

 

「ちょいちょい。さっきも言ったでしょ? アンタが何者だって関係ない。あたしの親友である鹿目まどかには変わりないんだから」

 

 

もうこれ以上、失いたくない。

さやかの言葉に、まどかは申し訳なさを覚えつつも笑みを返した。

嬉しい。とっても嬉しい。とってもとっても嬉しかった。

さやかの言葉は、まどかにとって何よりも大きな希望だった

 

するとさやかの目に、爆発や飛び散る火花が見えてくる。

説明を行うまどか。あそこでは龍騎達が戦っている筈だと。

 

 

「どうしたい? まどか」

 

「決まってるよ。止めたい。わたしはその為に戦ってるんだもん」

 

「うむ。では行きますかッ!」

 

 

さやかはニヤリと笑い、そのスピードを速めた。

そして思い切り息を吸い込み、思わずまどかの目が点になるくらいの大声で、力強く叫んだ。

 

 

「ちょっと待ったァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮! 分かってるのかよお前は!」

 

「お前もしつこいな! 俺は戦う道を歩むと決めた!」

 

 

ナイトの剣が龍騎のドラグセイバーを弾き飛ばし、胴体に黒い一閃を刻む。

飛び散る火花を振り払う様に、龍騎は身を乗り出してナイトの剣を掴んだ。

オーディンが何故か消えて、リュウガや王蛇もいなくなったフィールドではあるが、戦いが終わる事はなかった。

 

ナイトは次の標的をいよいよと龍騎に変えて、剣を振るってきたのだ。

龍騎もナイトを止めようと必死で食い下がるが、そう簡単にはいかない。

 

そして問題はそれだけではない。

リュウガのカードによって、イルフラースを制御しきれなかったサキが、今度は杏子に狙われる。

 

ファムもなんとかしてサキを守ろうとは思うのだが、足を怪我しているし、ブランク状態と言うのが辛い所だ。サキの前に出ても、杏子が軽くいなしただけでファムは転んでしまう。そうしている間に杏子はサキに距離を詰めて刃を振るっていく。

 

 

「グアァアア!!」

 

 

地面を転がるサキ。

杏子は余裕の笑みを浮かべて槍を構え、ポッキーを齧っていた。

むしろ槍に手を掛けて気ダルそうにゆっくり回ったり、首だけ反ってサキを見たり、余裕のそれである。

 

 

「サッパリしただろ? まあまあ気分いいから、お代はタダでいいよ」

 

「グッ! ガハッ!」

 

 

伸びきっていた髪が、切られて辺りに散乱している。

サキの髪は現在、セミロングほどにはなっているだろう。

しかし同時に、身体にも多くの傷が見えた。

 

イルフラースを操りきれなかった代償は重い。

サキはもうまともに動くことができなかった。かろうじて立っているだけの彼女に攻撃や防御ができるものか。

一方的な暴力。刻まれていく杏子の刃。赤い服だからあまり目立たないが、サキの全身から血が滲んでいた。

 

 

「アンタとは本気で殺り合ってみたかったけどさ。意外と抵抗できない相手を刻むのも悪くないんだよね」

 

「グッ! くうっ!!」

 

 

多節棍を振り回してサキを連続で殴打していく杏子。

ケラケラと笑う声を聞いて、龍騎はすぐにサキを助けに向かおうとするのだが、そうするとナイトが剣が伸びて背中を切り裂いた。

 

 

「相変わらず甘いな、城戸!」

 

「甘い事の何が悪いんだよ! お前もッ、さっきの声は聞いただろ!!」

 

 

タイガペアの死。

まただ。また戦いを止めたいと願う中で、人が死んでいく。

 

なぜ人が死ぬ?

なぜ誰も戦いを止めない?

分かっている。お前らがその気なら、意地でもコッチが止めなければならないのだ。

 

 

「サキが危ない!」

 

 

ファムが叫んだ。

すると、返事が聞こえた。

大きな声だ。誰の耳にも嫌でも入ってくるくらいの、自己主張が感じられる。

 

 

「ちょっと待ったァアアアアアアアアアアア!!」

 

「「「「「!」」」」」

 

 

なんだ?

一同がその方向を見ると、そこには凛とした表情の美樹さやかが見えた。

さやかはまどかを横抱きにしたまま、呆気に取られる一同の中心地点に降り立つ。

 

 

「ほい、まどか。気をつけて」

 

「うん。ありがとう!」

 

 

まどかを地面に立たせてると、さやかは目を光らせて辺りを見回す。

 

 

「なるほど、なるほど! はいはい、そういう事ね!」

 

 

さやかは腕を組んで大きく頷くと、そのままゆっくりと頭を斜めに向けた。

 

 

「ど、どう言う状況?」

 

 

タハハと笑う。

格好つけて乱入したはいいが、どういう状況なのかが全く分からない。

とりあえず移動中にまどかが説明してくれたが、知らない騎士がチラホラと。

 

 

「さ、さやかちゃん!?」

 

「生き返ったのッ!?」

 

「お、城戸の兄貴! それにその声は霧島の姐さんじゃないですかぁ!」

 

 

フムフム、そうかそうかと、さやかは軽い調子で頷く。

だいたい分かった。となれば今、やるべき事は――!

 

 

「そこのアンタ、サキさんから離れろ」

 

「……!」

 

 

ドスッと音を立てて地面に突き刺さるサーベル。

それはサキと杏子を隔てる一閃だった。ニヤリと笑い、首を回す杏子。

 

 

「随分懐かしい奴がまた現われたモンだね」

 

 

しかし杏子は全く怯んでいなかった。

まあ当然か。前回の結果が物語っている。

 

 

「足りないんだよなァ、アンタじゃ、何もかも」

 

「なら、試してみる?」

 

 

睨みあう二人。

その間にまどかは走り、サキとファムを連れて杏子から離れていった。

足に傷を負っているファム。全身に傷を負っているサキの手を引いて、安全な場所まで移動させると、まどかはローシェルヒールを発動した。

回復の天使がファムペアを包み込むように温かな光を放つ。

さらにまどかはニターヤーボックスを発動。箱で自分達を囲み、完全な防衛を整え治療を続ける。

 

 

「さやかちゃ――」

 

 

しかし同じくして、またも叫び声。

龍騎とナイトが其方をみると、ベノダイバーに乗ってコチラに向かってくる王蛇が見えた。

 

 

「マジか……!」

 

 

うんざりした様子の龍騎。

一方で王蛇は龍騎達を見つけると、ベノダイバーから飛び降りて有無を言わさずベノサーベルを振り回してきた。

 

 

「誰でもいいッ! 俺と戦えェエエエエエエエエッッ!!」

 

 

王蛇は北岡の件が相当頭にキテいる様だ。

そう言った意味では北岡の作戦は成功なのだろうが、それが原因で王蛇の力は極限にまで高まっている状態。残されたものはたまったものじゃない。

 

王蛇はまず近くにいたナイトをターゲットに決めた。

盾がわりにしたダークバイザーを叩き割る様にしてサーベルを振るう。

なんて力だ。ナイトは痺れる手を感じつつも、王蛇に対抗しようと試みた。

 

 

「!」

 

 

が、しかし王蛇は冷静な部分も持ち合わせている。

カウンターを狙ったナイトの回し蹴りを、しっかりとバックステップで回避したと思えば、一気に踏み込んでドロップキックを繰り出してみせる。

後ろに引いたと思ったら前に飛んできた。対処できずに吹き飛んでいくナイト。

龍騎は蓮の名を呼びつつも、向かってくる王蛇を倒すべく拳を握る。

 

 

「………」「ハハハッ!!」

 

 

一方睨みあう杏子とさやか。

しかし王蛇の咆哮を合図にして、杏子が動き出す。

 

 

「なに? 勝てるとでも思ってんの、アンタ?」

 

「………」

 

「正直、弱すぎて記憶に残ってないんだよね」

 

 

杏子は槍を構えて、ゆっくりとさやかへ近づいていく。

対してさやかもサーベルを構えて、二刀流のまま杏子へと近づいていく。

さやかが思い出すのは苦い敗北の味だ。しかし今の自分は違う。そう思いたかった。

だから無理やりにでも自信を笑みを浮かべて足を進めていった。

 

 

「勝つよ、今回は。だって――!」

 

 

一瞬だけ、さやかは後ろを見た。

まどかとサキ、ファムが遠くに見える。

気づけば自然と笑みが零れた。風になびく白いマントが、魔法少女の衣装によく似合っている。どちらかと言えば、騎士に近いデザインではないか。

 

 

「あたしの後ろには、絶対に守らないといけない人がいるから!」

 

「くはッ! クセェなお前!」

 

 

杏子の目にギラリと濁った殺意が宿る。

 

 

「面白いッ! だったらその後ろの奴を目の前で殺してやるよ!!」

 

 

ダンッと足踏みを行うと、まどかのいる場所に異端審問が発動される。

幸いニターヤーボックスによって全面防御を行っているため、槍は結界に塞き止められるが、振動は感じる。

これが連続で来れば、まどかの結界とて破られてしまうだろう。

さやかは大きく息を吸うと、歯を食いしばって地面を蹴った。

 

 

「ハァアア!!」

 

 

まずは手に持ったサーベルを投擲する。

二つの剣は風を切り裂きターゲットに向かうが、杏子はなんの事なく身体を捻って、槍の柄で剣を弾き落とした。

ならばと、さらに追加で剣を投擲する。

しかし杏子は身体を回転させ、槍の柄や刃で向かってくる剣を弾き飛ばす。

 

 

「よゆー」

 

 

いや、確かにサーベルは弾かれたが、距離は十分詰める事ができた。

さやかはスパークエッジで剣を強化すると、それを杏子に振り下ろす。

流石にコレは真っ向から防ぐしかないと踏んだか。杏子は槍を盾にして、さやかの剣をしっかりと防御する。

 

 

「甘い!」

 

 

だがさやかが振り降ろしたのは左手に持ったサーベル。

つまりまだ、右手に持っているサーベルがある。

それを上から下ではなく、右から左へ振るって杏子の胴体を狙った。

確かに一見すれば隙だらけの胴体に見えただろう。

さやかの狙いは悪くは無い。だが杏子はニヤリと笑ってみせる。

 

 

「そっちがな!」

 

「!」

 

 

杏子は槍を『折る』と、左手にある柄の部分で剣を受け止めた。

彼女の槍は多節棍。こういう芸当も可能なのだ。

呆気に取られるさやかと、後ろに引きつつ身体を回して多節棍を振り回す杏子。

するとその勢いでさやかの身体に多節棍が巻かれていく。

 

 

「うあッ!」

 

「おいおい! 前回から何にも成長してねぇな!」

 

 

遊ぶ価値も無い。

杏子は冷めた笑みを浮かべると、多節棍を強く縛り上げてさやかの体をがんじがらめにする。前回と全く同じだ。後は適当に振り回して、地面に打ち付ければ終わり。

しかしたった一つ、前回と変わっているところがあった。

それはただ一つ。さやかの表情が絶望には染まっていないと言う点だ。

 

 

「悪いけど、そうはいかない!」

 

 

しっかりと笑みを浮かべる。

心を落ち着けろ。F・Gに、恐怖に呑まれなければ活路は開かれる。

さやかの脳裏に焼け付くマミの姿。

 

 

(そうだ、あたしはマミさんの一番弟子ッ! 今まで何を教わってたの!)

 

 

その想いがソウルジェムに呼応し、美しい青の光を放つ。

 

 

「シューティングスティンガー!」

 

「何ッ!?」

 

 

さやかが叫ぶと、何も無い空間から剣が三本出現。

まるで意思を持ったように、ひとりでに風を切って移動する。

剣は飛び、さやかを縛り上げていた鎖を切断すると、次は剣先を杏子に向けて移動を開始した。

 

 

「チッ!」

 

 

杏子は回し蹴りで一本目を吹き飛ばし、素早く新たな槍を召喚して掴み取る。

迫る剣を一度地面を転がって回避し、立ち上がると槍を振り回して追尾する剣を叩き壊した。

 

一方でその隙に、さやかはマントに魔力に送って刃に変えると、残りの多節棍を全て振りほどく。

さらにマントを切り離すと、ブーメランの形に変えて、思い切り杏子へと投げ飛ばした。

くの字に変わったマントは、風を切り裂きながら杏子のもとへ飛んでいく。

 

 

「おウッりゃぁああああああああああ!!」

 

 

先ほどのシューティングスティンガーは遠隔操作した剣を操る魔法である。

さやかがマミから学んでいたのは、武器を遠隔操作する方法である。

前回の戦いではパニックや恐怖に心が押し潰され、実力の半分も出せなかった。

いやあれが実力だったのか。しかし今は違う。

変な話ではあるが、死んでみて分かる境地があった。一度死んださやかはどこか冷静だ、心を落ち着けて、自らの魔力を高めていく。

 

 

「ウゼェな! こんな物すぐに切り裂いて――!」

 

 

杏子が迫るブーメランを槍で切り裂こうとした瞬間、さやかはマントの硬化を解除して布に戻した。しかし言うてコレは魔法の布だ。槍の刃でも切り裂く事はできず、さらに布を巨大化させて杏子を包み込んだ。

 

 

「なっ!」

 

「お返しってね!!」

 

 

真っ白に染まる杏子の視界。

すぐに覆いかぶさったマントを引き剥がそうとするが、中々うまく行かない。

それもその筈。マントは杏子を包み込もうと抵抗している。

拘束魔法を司るマミに教えてもらった技だ。そう簡単に引き剥がされてたまるかと。さやかは鼻を鳴らす。

 

だが考えてみれば皮肉な物だ。マミの弟子と弟子が殺しあう事になるとは。

そして杏子もイライラが力に変わるタイプである。

強引な力技でマントを引き千切ってみせた。

だが、解放される杏子が見たのは、言葉を失う光景であった。

自分の周りを三百六十度、どこを見てもサーベルだらけではないか。

無数の剣が、文字通り空中に浮遊して杏子を狙っている。

 

 

(そうか、動きを止めたのはこの準備をする為ってかッ?)

 

 

全ての剣先が杏子を狙っている。

さらに杏子は見る。少し離れた所に、剣が何本も重なっている。

柄頭の部分に刃を置いて、それが重なって剣のタワーになっていた。

細い刃なのにも関わらず、剣同士はピッタリと重なっており、その頂点の柄頭にはさやかが立っていた。

マントは既に再生しており、剣を重ねただけの不安定なタワーはグラつく事も無く。

さやかは、しっかりと杏子を見下していた。

 

 

「なるほどねェ。確かに前回とは違うな――ッ!」

 

 

杏子は笑みを浮かべているが、額には確かに汗が滲んでいた。。

剣は――、100? いや200以上はあるだろうか?

それら全てが、さやかの合図を今か今かと待っている様だ。

ならばと、さやかは指揮棒の様に持っていた剣を振るい、杏子へ自らの力を証明する。

 

 

「あたしの剣はどこにでも届く!」

 

 

剣を振り下ろすさやか。

すると連動する様にして、全ての剣が一勢に標的目掛けて動き出した。

 

 

「スプラッシュスティンガー!!」

 

「ウォオオオオオオオ!!」

 

 

杏子は地面を叩いて、自らの周りを囲む様にして巨大な槍を何本も出現させる。

槍はまるで壁の様に杏子を守り、そこへ否応にも無く突き刺さっていく無数のサーベル。

厚い槍の柄は、まさに鉄壁だ。その防御層を破る事はできず、剣は突き刺さるだけで貫通とまではいかない。

 

一部の剣は、槍の上から杏子の脳天を狙おうと試みるが、槍達は刃をくっ付けて天井の役割を果たしている為、上から降ってくる剣も弾かれていく。

しばらく時間が経った後、全ての剣が大型の槍に突き刺さる形で終わりを迎えた。

 

 

「耐え切ったか。案外余裕だったな」

 

 

杏子と笑みを一つ。だがここで微かに感じる震え。

 

 

「なんだ――?」

 

 

未だ槍の内側にいるため、確認が後れた。

槍に突き刺さっている剣達が、一勢に淡い光を浮かべ始めたのだ。

マミはリボンを媒体に銃を作った。そしてソレはさやかも同じだ。

 

 

「風よ爆ぜろッ! 嵐を起これ!!」

 

「はッ!?」

 

「グランディオーソッッ!!」

 

 

突き刺さった剣は『風』を媒体に形成されたもの。

その剣達が一勢に『元の姿』に還る。

凄まじい風のエネルギーはまさに嵐その物だ。

その力は杏子の槍を破壊するに至るほどだった。

 

 

「そんな馬鹿な!」

 

 

なんて破壊力だ!

杏子は思わず声をあげて否定を行う。

しかしコレは現実。そして砕けた槍の破片を身に受けながらも、さやかは杏子の目の前まで移動を行っていた。

早い。風を纏っているからか、スピードが以前とはまるで違っている。

刹那、さやかは思い切り剣を杏子の胴体に叩き込んだ。

 

 

「ウオォオッ!!」

 

「ぎッ!」

 

 

胴薙ぎの要領で剣を押し込むさやか。

スパークエッジの力で、剣が美しい青光の軌跡を描いた。

さやかはそのままスピードと風に乗り、一気に杏子の身体を切り抜く!

 

 

「ぐあぁああああ!!」

 

 

地面に倒れる杏子と、走りぬけるさやか。

踵を返して剣を構えなおすと、青の残像が美しい光を残す。

嫌な流れを感じて、杏子ギリギリと拳を握り締めて思い切り地面を叩く。

 

まさか、あんな雑魚に傷を負わせられるなんて。

屈辱以外の何物でもない。杏子は唸り声を上げて立ち上がると、槍を両手に構えて走り出した。

一方でマントを翻すさやか。サーベルを二刀流に構えると、杏子をまっすぐに睨んで走り出す。

 

 

「ウラァアアッッ!!」

 

「フッ! ハァア!!」

 

 

赤い閃光と、青い閃光がぶつかり合う。

次々と縦横無尽に繰り出されていく杏子の攻撃。

槍での斬撃、打撃、そして多節棍モードでの攻撃は、自在に曲がる蛇の様に。

 

しかし、さやかもまた持ち前のスピードでしっかりと対処していく。

思い出すのはマミとの特訓だ。相手の攻撃を見極める事が大切なんだと教えられた。

だからこそ目を凝らし、迫る槍を剣で打ち弾いていく。

 

 

「あァァッ! イラつくな雑魚のクセに! アタシの攻撃についてきやがって!」

 

 

その時、さやかは急に一回転。

するとマントが刃となって杏子の槍を弾き飛ばした。

それなりの威力だったのか、槍は大きくさやかから反れ、隙が生まれる事に。

 

 

(まずいッ!)

 

 

杏子はすぐに蹴りで対応しようと試みるが、さやかのスピードがそれを許さない。

 

 

「それはコッチの台詞! あたしの剣に、ついてこられるッ!?」

 

 

大地を踏みしめ、ありったけの叫び声と共に無茶苦茶に剣を突き出していく。

残像が見えるほどの連続突き。杏子も対応しようとするが、さやかのゴリ押しが勝ったのか、遂に真正面からの直撃を許してしまった。

 

 

「ガガガアァ!!」

 

 

飛び散る鮮血。

最後にさやかは剣を重ねて横に思い切り振るう。

青の巨大な一撃が、赤をかき消して吹き飛ばしていった。

地面を転がり苦痛の声を漏らす杏子。格下と見下していた相手に攻撃を受け、地面に倒された?

 

 

「なんだと……! このアタシが、あんな雑魚に――ッ!?」

 

 

自分の攻撃でビクビク震えていたアイツに押し負けた?

杏子は腸が煮え繰り返る思いで再び走り出す。

だがもう今は完全にさやかのペースだ。マントで杏子を翻弄しつつ、迫る槍を的確に剣で弾き返し、僅かな隙もそのスピードで突いていく。

 

 

「ぐあぁ! ――ッ! ウラアァアァア!!」

 

 

しかしただではやられないのが佐倉杏子である。

剣を受けながらも異端審問を発動して、さやかの足元に槍を生やしていく。

しかしさやかはバックステップで槍を全て回避し、剣をレイピアタイプに変えて投げた。

細い刃は、並んでいる槍の僅かな隙間を通りぬけ、杏子の肩に突き刺さった。

 

 

「うぐッ! ガァッ!」

 

 

杏子は衝撃から、血を撒き散らして回転する。

その時間をさやかは見逃さなかった。

ダッシュで距離を詰めると、十字状に剣を振るって杏子へクロスの傷を作る。

 

 

「ガハッ!」

 

 

さらに斬り際、杏子の周りに五本程度の剣を浮遊させておいた。

それらの剣がトドメにと、一気に杏子の体へ突き刺さっていく。

防御力を強化しているため、剣はすぐに杏子の身体から弾かれるが、ダメージは確かに与えた。杏子の身体から滴り落ちている血がその証拠だ。

 

 

「クッッソが――ッ!!」

 

 

そして杏子の目の前に、気づけばさやかが拳を構えて腰を落としていた。

 

 

「は!?」

 

「今までよくもやってくれたな!」

 

「ぐッ!」

 

「お返しだァアアア!!」

 

 

杏子の頬を抉るさやかの拳。

杏子はきりもみ状に吹き飛び地面を擦る。

少しスッキリした表情のさやかと、ポカンとしながら空を見上げる杏子。

 

 

「……は」

 

「?」

 

「ははっ! ハハハハハハ!!」

 

 

なぜ殴られて笑う? さやかは苦い顔を浮かべて固まった

杏子は自分から流れ出る血液と、頬の痛み。そして自分に刻まれた十字状の傷を見て笑みを浮かべていたのだ。

虫けら以下と思っていた美樹さやかにやられるのは屈辱的ではあったが、これだけ傷を作られればそれはもう偶然ではなく必然。

つまり美樹さやかの実力だ。

 

 

「やるじゃん。ちょっと見直したよアンタ」『ユニオン――』

 

「!」

 

 

立ち上がる杏子の周りに現われる三体のミラーモンスター。

ベノダイバー、ベノスネーカー、ベノゲラス。

彼等は杏子に吸い寄せられる様に消えて、ユニオンの言葉で一つになる。

ユナイトベント。杏子はジェノサイダーと合体すると、神殺しの槍、ロンギヌスを構えて歩き出した。

 

 

(ッ、明らかに雰囲気が変わった……)

 

 

さやかは本能的な恐怖を感じて、喉を鳴らして後退してしまう。

だが攻撃しなければ。さやかは再び走り出して、まずは剣を投擲した。

すると杏子は簡単に弾いて前進してくる。ならば直接と剣を突き出すが――

 

 

「アァァァ」

 

「!?」

 

 

杏子は片腕でさやかの剣を掴むと、直後力を込めて粉々に砕く。

 

 

「んなッ! そんなのってアリ!?」

 

 

仮にも魔法で作った剣なのに素手で砕かれるなんて。

 

 

「どうした? 来ないのかよ?」

 

「うっ!」

 

 

動く杏子。

さやかの本能が回避を選択、思い切り後ろへ跳んで逃げて行く。

杏子は呆れたように笑みを浮かべると、手を前に突き出した。

するとそこへ発生する小さなブラックホール。

何が来る? さやかはマントを広げて防御の準備を行う。

すると後ろの方で、まどかの叫び声が聞こえた。

 

 

「後ろだよ! 逃げてさやかちゃん!!」

 

「!」

 

 

声を受けて、さやかは反射的に身体を反らす。

すると肩に激痛が走った。飛び散る血液、杏子のロンギヌスが確かに肩に突き刺さっているではないか。

 

貫通している槍。

どうして? さやかが杏子を見ると、そこにはブラックホールの中に槍を突き入れている彼女の姿があった。

そして後ろを見ると、小さなブラックホールと同型のホワイトホールが存在しており、そこから槍が伸びていたのだ。

 

つまり空間を跳躍して攻撃を仕掛けてきたと言う事。

なんて厄介な! しかも防御力のあるマントを貫通しているじゃないか!

さやかは走り出して強引に槍を引き抜くと、杏子の方へと足を進める。

近づかなければマズイ、そう判断したのだろうが、異端審問がその道を防ぐようにして発動された。

 

強化体での異端審問は、発動後地面から離れて上空に発射される。

発射された槍は、先ほどのさやかの剣と同じく、ひとりでに動いてさやかを刺し貫こうと追尾を開始した。

走るさやか。しかしそこに気を取られていると、ホワイトホールに気づけない訳で。

 

 

「うあ゛ッッ!!」

 

 

足を槍に貫かれて、さやかは地面に倒れる。

回復魔法がある為、どれだけ傷を受けてもすぐに完治できるが、槍が足に突き刺さったままではいくら回復させてもすぐに傷を負ってしまう。

武器を抜かなければ。そうしていると、さやかの周りに続々と槍が集ってくる。

杏子はそこであえて槍を停止させた。死刑宣告を行うためだ。

 

 

「お返しだ。さやか」

 

「……杏子。名前を覚えててくれたんだね。感激」

 

「ああ、じゃあな」

 

 

指を鳴らす杏子。

それを合図にして槍はさやかに降り注ぐ。

 

 

(うわ~! あたしせっかく蘇ったのにもう退場!? ごめんセンセーッ!)

 

 

間抜けな最期。

まあ、らしいちゃらしいか。

さやかはギュッと目を閉じて、くるべき苦痛を覚悟する。

ソウルジェムを操作すれば痛みは感じないが、なんとなくそれは気が引けたから止めておく。

痛みは一瞬、一瞬だから――ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッッ!!

 

 

「!」

 

「……ッ?」

 

 

ガガガガガと何かが何かにぶつかる音がする。

何だ? 音が気になり、さやかは薄目を開けた。

すると自分を囲む様にして、ドーム状の結界が張られているのが見えた。

降り注ぐロンギヌス達はその結界を貫く事ができずに弾かれ、次々に消滅していく。

ポカンとするさやか。結界の色は桃色。と言う事は?

 

 

「チッ!」

 

 

舌打ちを放つ杏子。

すると直後、天を切り裂き降り注ぐ白き雷。

杏子も反応はするが、避ける事ができずに直撃を貰ってしまう。

 

 

「ぐゥう!」

 

 

迸る電撃を振り払いながら杏子は目を細めた。

前を見れば、さやかに駆け寄る目障りな連中が二人。

浅海サキは鞭をコチラに向けていい殺気を放っている。

もう一人。鹿目まどかは、さやかの足を貫いている槍に手をかけている所だった。

 

 

「ちょっと痛いよ、我慢してね!」

 

「え? あ、ちょ!」

 

「えいっ!」

 

「おう゛ッ! くぅ~! まどかって結構エスッ気あるよね」

 

「え? あ、ごめん……!」

 

 

杏子が走り出そうとすると、サキがまどか達を庇う様に立った。

どうやらまどかの回復が間に合ったらしい。

さやかもまた自己回復で傷を一瞬にして治療すると、剣を構えて横に並び立つ。

正面左から、さやか、サキ、まどかの順に並び立つ。

 

 

「奴は危険だ。三人で止めるぞ!」

 

「おっけーサキさん。まどかは後ろでサポートお願い!」

 

「うん、皆はわたしが守るからね!」

 

 

武器を構える三人を見て、杏子は両手を広げ上機嫌に笑う。

いいタイミングだ。やはり戦いは死ぬ可能性を孕んでなければスリルが足りない。

それに杏子としては、まどか、サキ、さやかの三人特に殺したい所だ。

先ほどの戦いで、さやかも弱い訳ではないと言う事が分かった。

コレは十分楽しみたい所である。

 

 

「来い。お前らのちっぽけな友情ごと、ズタズタに引き裂いてやる」

 

 

まどかは後ろに跳びながら弓を引き絞り、さやか達は武器を構えたまま地面を蹴った。

そしてサキが回復したと言う事は、だ。

離れた所もまた、同じ様な状況が。

 

 

「いい? よく聞きなさいよ蓮!」

 

 

王蛇と揉め合いつつも、ナイトは龍騎を攻撃しようと試みる。

しかしそこへドロップキックで跳んできたのはファムだ。

龍騎とナイトを同時に跳ね飛ばすと、アドベントを発動して王蛇をブランウイングの羽ばたきで吹き飛ばす。

ただしこんな物は気休めでしかない。

ファムはその僅かな時間でナイトを説得しようと言うのだ。

 

 

王蛇(アイツ)はヤバイ! それはアンタだって分かるでしょ!?」

 

 

だったら取るべき道は一つだ。

 

 

「まずは私達が協力して、アイツを何とかするしかないの」

 

「俺に馴れ合いと言うのか!」

 

「いや今だけでいいから! それに馴れ合えって言ってる訳じゃない!」

 

 

王蛇はナイトにとっても邪魔な存在だろう。

そしてファム達にとっても王蛇は邪魔、だったら利害は一致してる。

王蛇を戦闘不能にした後、煮るなり焼くなり好きにすればいいだけ。

デメリットなんて無い。王蛇を弱らせる為に一時的な共闘を結ぶだけ。

その後で殺したいのなら殺せばいい。

 

 

「お、おい! 俺は認めないからな! 殺すなんて絶対に――」

 

「アンタは少し黙ってろ!」

 

「あごっ!」

 

 

ファムは頭突きで龍騎をダウンさせる。何でだよ! 叫ぶ龍騎の声はまるごと無視した。

龍騎もライアとの戦いで体力を消耗しているし、ファムだって歩けるようにはなったが、絶好調とはいえない。

ましてや龍騎は甘い、甘さは弱さ。たとえそれが王蛇であっても発揮されてしまうものだ。

向こうはそんなに甘くない。だからこそファムは力強く叫んだ。

 

 

「今ッ、私達に拘る意味なんて無いだろ! 特にコイツなんかいつでも殺せる、コイツなんか」

 

「……え?」

 

 

足でツンツンと龍騎を指し示すファム。

ナイトは少し苛立つ様にしながらも、ファムの言いたい事は理解する。

確かにこの状況で一番目障りなのは王蛇である事は変わりない。

 

 

「恵里の為にも、頭を使いなさいよ!」

 

「ッ! 勝手にしろ!」

 

 

それがスイッチだった。

ナイトは渋々納得したのか。ファム達と手を組んで王蛇を狙う事を了解したようだ。

しかし馴れ合いの意思は無いと、勝手に走り出す。

ファムはヤレヤレと首を振った後に龍騎に手を差し伸べた。

 

 

「なんだよ! お前酷いぞ!」

 

「仕方ないじゃん、半分本当の事なんだから」

 

 

まあしかし、やはりナイトにとって恵里の存在は大きすぎる様だ。

言い包めるのも簡単だが、逆にこれからの事を思うと頭が痛くなる。

おそらくもうファムでは無理な段階に達している気がした。

本当の意味で根本から蓮を変えられる人物がいるとすれば――

 

 

「アンタだよねぇ、多分」

 

「何の話だよ?」

 

「いやいや。さあ、私達も王蛇を倒すよ」

 

 

ナイトが王蛇を殺そうとしたその時にでも止めればいい。

正直ファムとしては王蛇を生かすのは反対だが、そう言っても仕方ない。

戦いを止めると決めた以上、どんな奴だろうとも命を失ってはいけないのだ。

龍騎とファムは頷きあうと、自分達も王蛇を倒すべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

「………」

 

 

さやかとサキは杏子を挟む様にして位置を取った。

右にさやか、左にサキ。杏子は素早く状況を整理する。

美樹さやか。典型的なスピードタイプだが、遠隔操作の剣といい、テクニカルな部分も持ち合わせている。

 

浅海サキは素早い上に、電撃にはスタン効果があり、一度受けると動きが鈍ってしまう。

体術もそれなりにこなし、何と言ってもイルフラースを使われれば杏子でも対処ができるかどうか。

 

しかし、サキはもう既にイルフラースを制御できずに失敗している。

おそらく連発使用はできないと見ていい。

となれば――

 

 

(やっぱ先に狙うのは鹿目まどか!)

 

 

遠くの方で弓を向けているまどかへ、異端審問を発動する。

もちろんまどかとて注意を払っているのだから避ける準備はしているだろう。

だが驚くべきはその範囲だ。まどかが立っている所だけではなく、その周辺に大規模な光が展開していく。

 

まずい!

まどかは一度ジャンプを行った後、下方向に盾を出現させて発射されていく槍を受け止める。ガガガとうるさい音を立てながら、盾にぶつかっていく槍。

ロンギヌスはそれなりに威力があり、まどかも対抗するには当然それだけの魔力を盾に供給しなければならない。

 

まどか達が持っていたグリーフシードは全部で三つ。

それぞれ魔法少女が一つずつ持つ事になっていた。

しかし数はそれだけだ。つまり今回全部使ってしまうと、ワルプルギスの夜に使う分や、他の日に使う分がなくなってしまう。

 

とは言え、目の前にいる杏子は決して油断できない相手。

ましてや、まどかは絶望してしまえば色々な意味で終わる。

 

 

「サキお姉ちゃん! グリーフシード使うね!」

 

「ああ! 仕方ない!」

 

 

グリーフシードが浄化できるのは一個で二回程度。

まどかの持っている物は一度浄化済みである為、使用した瞬間に粒子化する。

コレはキュゥべえの元に送られるのだ。

一方で動くサキとさやか、まどかが狙われるのは何としても避けたい。

 

 

「ハァ!」

 

「フン!」

 

 

雷を纏ったサキの右手を、杏子は左手で難なく受け止めた。

そして後ろから斬りかかってくるさやかの剣を、残った右手で掴み取る。

サキは目を細め、残っている左手で杏子の腕を掴むと、飛び上がる。

 

 

「!」

 

 

腕ひしぎの様に、サキは足で杏子の腕を絡め取る。

さやかもピンときたのか、サキのマネをして思い切り身体を反らせた。

さらにサキは鞭を使って拘束を助長。杏子は両手を広げて、胸を反らせる姿勢になる。

もちろん抵抗しようとする杏子だが、サキがありったけの電流を放って彼女を妨害していく。腕を取り、胴を晒す。それは大きな隙になるのだ。

 

 

「グゥウッ!」

 

「さやか! 少し我慢しろ!!」

 

「お、おっけー! さやかちゃんは頑丈だけが取り柄ですから……ッ!」

 

 

回復魔法を発動して電流のダメージを消していくさやか。

 

 

「今だ! まどか!!」

 

「……へぇ!」

 

 

杏子の前には、地面を転がりつつ弓を向けているまどかが。

トゥインクルアロー。魔法で強化した弓矢を発射、がら空きの胴体を狙う。

なるほど狙いは悪くない。だがしかし杏子は冷静だった。

彼女の前に現われるのは小さなブラックホール。

 

 

(ノーモーションで出せるのか!)

 

 

サキが焦りを感じた時には、既にまどかの放った矢がホワイトホールを経由してサキの背中に命中している所だった。

 

 

「うッッ!!」

 

「サキさん! ぐがっ!」

 

 

こんな時に剣を召喚してサポートでもできればいいのだが、さやかはまだまだ未熟な魔法少女。そこに気が回らず、ただサキの名前を呼ぶだけしかできなかった。

そうしていると杏子は両手を叩き合わせる様にしてサキとさやかをぶつけて怯ませた。

その後、地面に叩きつけて拘束を引き剥がす。

 

気になるのは杏子を縛っていたサキの鞭。

それはなんと、杏子のポニーテールが刃となって切り裂いたのだ。

 

杏子は現在、ジェノサイダーの頭部を模した帽子を被っている。

赤く長いポニーテールは、ベノダイバーの尻尾で縛られて細くなっているが、それを鋭利な刃物として使用できるのだ。

髪の毛が刃に変わるなど予想できるはずも無い。

結果、サキとさやかは地面に引き倒されて大きな隙を晒す事に。

 

 

「死ね!」

 

 

杏子は楽しそうに笑いながら両手に持った槍で二人を突き殺そうとする。

しかしそこで倒れた二人を守るようにに桃色の結界が。

ガキンと大きな音がして、砕けるロンギヌスの刃。サキとさやかは、「しめた」と目を光らせて地面を転がり、杏子から距離を取っていく。

 

 

「チィイ! 鹿目ェ!」

 

「ハァッ!」

 

 

まどかは再び遠距離からの射撃を。

だが当然杏子も反応しており、自分の所へ来る光の矢をブラックホールで吸い込んだ。

このブラックホールは王蛇のファイナルベントであるドゥームズデイの時の物とは違って小規模場もので、人を吸い込んで直接殺すと言う事はできない。

しかし迫る攻撃に対してはほぼ無敵の効力を発揮する。いかなる攻撃も吸い込んで、ホワイトホールから排出すればカウンターにもなるのだ。

 

さらにブラックホール出現は杏子の意思一つで出せる。

時間としてもほぼ一瞬で出現させる事ができるので、手足を拘束されていても問題ないし、攻撃を見てから吸い込むことは簡単だ。

今も、まどか矢は何の事なく紫の闇の中に消えていき、まどかの背後に出現する。

自分の魔法で自分は傷つけないようにしている魔法少女は多いが、ホワイトホールを経由した光の矢には杏子の魔力が纏わり付いている。

つまりこれは杏子の攻撃として判断されるため、龍騎などにもダメージを与えることができるのだ。

 

 

「………」

 

 

しかし、背後に出現した矢が、まどかに触れる前に消滅していく。

同じくノーモーションで背後に結界を張っていたからだ。

 

 

「ハッ、生意気な!」

 

 

杏子がそう思った時、肩に傷みが走る。

 

 

「?」

 

 

見れば、肩にドラグレッダーを模した矢が浅く刺さっているじゃないか。

杏子は、まどか、サキ、さやかの動きを確認していたが、それではダメなのだ。

例えば上空に浮遊している翼の生えた天使様にも注意を払わねば。。

 

 

「誰だ? また天使かよ」

 

 

杏子はドラグアローの矢を引き抜くと、何の疑問も持たずに投げ捨てた。

何にせよ目障りだ。杏子は槍を出現させると、早速天使へ向かって投げつける。

しかしその天使、アナウエルは龍騎ペアの装備を自由に使うことができる。

まどかが指示を送ると、ユニオンでガードベントを発動。

ドラグシールドを両手に持って、ロンギヌスを受け止めた。

 

アナウエルはまだやってもらう事がある。

まどかはサキとアイコンタクトを取り、作戦を大まかに伝えることに。

まず睨んだのは地面に落ちたドラグアローだ。あの効果はサキも知っている。

なんとなく、まどかが何を狙っているのかは分かった。

早速隣にいたさやかを引き寄せると、簡単な耳打ちを行う。

 

 

「杏子の意識を集中させてくれ」

 

 

見たところ、ブラックホールは一つしか出せない様だ。

そして杏子は矢の効果に気づいていない。

ははあと唸るさやか。彼女も矢の効果は知っている。

 

 

「おっけ、任せてよサキさん。ばっちし名誉汚名しちゃいますから」

 

「……変わった間違い方をするんだね」

 

 

まあいい、サキは微笑むと、さやかの背中を軽く叩く。

 

 

「期待してるぞ! さやか!」

 

「了解ッ!」

 

 

右に跳ぶサキ、左に跳ぶさやか。

杏子は一度ため息をついて槍を両手に構えた。

 

 

「グダグダしてんのは嫌いでね。そろそろ上げていくか」

 

 

そう言って一気に魔力を解放する。

なんて覇気と殺気だ。さやかは恐怖に呑まれそうになってしまうが、震える足を叱咤するとサーベルにマントを巻きつけて簡易的な『大剣』を練成させた。

マントは捨てる事になるが、その分足りない攻撃力やリーチは補う事ができる。

見た目ほど重くも無いので、スピードだって死なない。

 

 

「うオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

恐怖を振り払う様に叫びながら、杏子へと突っ込んでいく。

以前と違い、さやか恐怖に喰われなかったのは、彼女を突き動かす明確な意思があるからだ。

 

たとえばそれは他人の事。

仁美やゆまが死んだと言われても、正直心のどこかでそんな事は無いんじゃないだろうかと思っている。

ただそれはきっと真実。憎悪や恐怖に飲み込まれた時は、いっそ死んでくれと思ってしまった程ではあったが、いざ死を突きつけられると泣きそうになる。

 

そして今ココにいる自分。

仁美達が死んで、さやかが生きている理由とは何か?

なぜ仁美達は死ななければならなかったのか。

なんだか難しくてよく分からない。正直北岡が蘇らせてくれたと言うのも、実感の湧かない話である。

 

要するに今の美樹さやかもまた、他の参加者と同じだ。

多くの疑問が自身を取り巻き、何も答えが出せない状況にあった。

でも分かりたい事もある。

 

死んでみてそれがハッキリと分かった。

それは、あの時の自分には戻りたくないと言う事。

嫉妬や恐怖、それが己を醜く変えてしまう。それが本当の自分じゃないのかと言われれば耳は痛いが、少なくとも今までは違ったはずだ。

 

だったら、その今までの自分でありたい。

友を恨み、傷つけ、そして自分を否定する姿には戻りたくない。

さやかが自分の事を好きだった時間は、マミ達と平和の為に戦っていたあの時だ。

 

今になっては、あの時の自分は何も知らない馬鹿なのかもしれないが、だったらどうしたと言うのか。

馬鹿で結構! おバカ上等! だからさやかは飲まれない。

あの頃の自分であり続けるため。

そして何度も言っている。親友をもう、失いたくないから。

 

 

「でりゃあああああああ!!」

 

「ハッ! 叫べばいいってもんじゃないんだよ!」

 

 

さやかは太刀を縦に振り下ろした。杏子は槍をクロスさせて剣を受け止めると腕を振るって剣を跳ね上げた。さやかは振り上げる時の姿勢に逆戻り、そうなると胴体ががら空きだ。その時、杏子はさやかのソウルジェムを位置を確認する。なんとも狙いやすい腹部のど真ん中、つまり『へそ』の辺りだ。

 

さやかの固有魔法は回復。それも自己回復だ。

どんな傷でも短時間で癒すのは、凄まじい機動力と粘りを見せるだろう。

しかし弱点として即死させられる部分が狙いやすい位置にあると言うことか。

 

 

「だったら丁度いい、今ココで貫いて終わりにしてやるよ!!」

 

 

杏子は右手に持った槍を突き出そうとするが、さやかの目は死んでない。

 

 

「シューティングスティンガー!」

 

 

三つの剣がさやかの腹部前方から出現し、さらにもう三つの剣が上空に現れる。さらに自動で刃を振り下ろし、杏子の槍を弾こうと試みる。

前方から来る剣は強引に破壊できたが、振り下ろされる剣は流石に厳しい。

杏子は槍の軌道をズラされ、さやかではなく地面を突き刺す事に。

 

 

「クソうぜェ!!」

 

 

だったらと、杏子はもう一方の手に持っていた槍を投げた。

しかしそれを阻む桃色の結界。杏子のイライラがどんどん溜まっていく。

それだけじゃない。結界が無かったとしても、サキの鞭が杏子の槍を弾いていた。

 

 

「安心しろさやか! キミは一人じゃない!」

 

「うん! 絶対に守るから、安心して戦って!」

 

 

その言葉を聞いて、さやかは驚くようにポカンと固まった。

しかしすぐにニカッと笑うと、再び杏子に向かって走り出した。

そこに恐怖は無い。だって今の通りだ、危険になれば守ってくれる人がいるから。

さやかの表情にあったのは希望。漲る自信がある。

 

 

「ありがとうサキさん! まどか!」

 

 

でも守れられてばかりじゃないって所も見せないと。

さやかは再び太刀を構えて杏子へリベンジを仕掛ける。

スパークエッジでさらに剣を強化。これならばロンギヌスにも負けないはずだ。

そしてサキもまどかも、移動を行いながら電撃や光の矢で杏子を妨害しようと狙っていく。

しかし杏子のポニーテールが光の矢を切り裂き、上に突き出した槍が雷をかき消す。

 

 

「下らない連中だな!!」

 

 

つくづく思う。

所詮馴れ合いが生んだ力なんてこの程度。

まどかには色々驚かされたが、限界が見えてきた。

どうにも杏子はイラつくのだ。まどか達は夢や希望があると信じて戦っているお子様だ。真理を知って食物連鎖の頂点として自覚している杏子には程遠い。

 

 

「おりゃぁああああああ!!」

 

 

さやかが突っ込んで来て、飛び上がる。

なんと先ほどと全く同じモーションで切りかかってきた。

 

 

(コイツ、馬鹿か?)

 

 

流石の杏子も呆れ果ててしまう。

まさか通用しなかった手をもう一度使ってくるとは、ナメられたものだ。

確かに先程とは違い、スパークエッジで剣を強化してあるが、だったら杏子も槍を強化すればいいだけの話だ。

 

杏子は魔力を注ぎ込み、紅いオーラを槍に纏わせる。

防御も全く同じだ。槍をクロスして剣を真っ向から受け止める。

強化されている槍なのだから、当然さやかが勝てるわけが無い。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「なっ! 何だコレ!?」

 

 

思わず、膝をつく杏子。

振り下ろされた剣の重さが、先程とはまるで違っていた。

何故だ? 杏子は混乱しながら腰を落とす。確かに向こうは剣を強化しているが、それは杏子だって同じのはず。要するにスペック自体は先ほどと何も変わらないのに、どうして負けているのか――?

 

 

「えいッ!」

 

「うぐッ!」

 

 

さやかは剣を持ち上げ、膝をついている杏子へ渾身の蹴りを打ち当てた。

場所は丁度クロスに構えている槍のど真ん中。蹴りの衝撃で防御が崩れ、さやかは思い切り剣を振るい上げて杏子の上半身に青い斬撃を刻み込む。

 

 

「ちっく――ッ! ああああ! クソがッ!」

 

 

杏子は大きく身を乗り出して、一度後ろへ転がっていく。

しばらく高速で地面の上をロールして、さやかから離れていく。

とは言え、立ち上がり様にはしっかりと槍を投擲。ロンギヌスは風を切り裂いて、さやかのソウルジェムをピッタリと狙っていく。

 

 

「どうりゃああ!!」

 

 

しかしさやかは走りながら剣を左に振るってロンギヌスを撃ち落す。

だが槍はもう一本あった。だったらと、さやかは剣を右に振って槍を弾き飛ばす。

まさか、弾かれるとは。杏子が歯を食いしばった時には、さやかはもう目の前。

 

 

「ォオオオオ!!」

 

「チィイ!!」

 

 

青い一閃が杏子に走る。

胴体が切り裂かれた。杏子は地面を転がりながら体勢を整える。

 

 

(そうか、そういう事か! コイツも馬鹿って事か!)

 

 

さやかは単純なのだ。

ネガティブな考えに包まれればそれだけ精神が歪んでしまい、ソウルジェムも淀んで本調子を出せなくなる。

しかし一度自信がつけば、ソウルジェムの輝きは極端に強くなり、それだけスペックを跳ね上げていく。

 

つまり美樹さやかは、調子が悪いときは極端に弱くなり、調子が良い時は極端に強くなる魔法少女なのだ。

 

 

「だったらまたブッ壊してやるよ、お前のそのちっぽけな希望を!」

 

「あたしは負けない! 皆がいるから!」

 

 

槍を突き出す杏子だが、さやかはそれを剣で弾くと、すぐさまカウンターを狙う。

しかしその槍はフェイクだ。槍に注意を引きつけて、地面を気に取られないようにさせるための囮。

つまり異端審問を悟られない為の行動である。

 

 

「あッッ!」

 

 

地面から槍が飛び出していき、さやかの身体を削っていく。

だからこそ剣の軌道がぶれてしまった。杏子はすぐに、その力の無い刃を槍で弾き飛ばすと、右の拳を握り締めてソレをさやかの顔面へと打ち込んだ。

 

顔が抉れる様な痛みと衝撃に、さやかの目の前が真っ暗になる。

杏子としても顔面を砕く勢いで拳を打った。むしろ形を保っているのが意外なくらいだ。だが少なくとも、さやかはグロッキーだ。その間にソウルジェムを貫こうと試みる。

 

 

「――ぉ」

 

「!」

 

「ォォォォォォオオオオオオッッ!!」

 

「なんだと!?」

 

 

さやかは気合で意識を覚醒させると、杏子の右腕を掴んだ。

そして大剣のマントを切り離すと、自分の手と杏子の右腕が離れないように結び、固定する。

 

そして思い切り身体を旋回させて位置を変えた。

つまり杏子がさやかの位置にまわり、さやかが杏子が立っていた場所へ移動したのだ。

なんの意味が? 杏子がそれを思った時、背中に走る絶大な衝撃。

 

まどかはさやかが時間を稼いでいる間にスターライトアローの詠唱を開始していた。

おかげで異端審問からは守れなかったが、今この時に詠唱は完了したのだ。

さやかはソレをしっかりと確認しており、杏子の背中をまどかに向けさせる為にアクションを起こした。

 

杏子も杏子でパワーファイターだ。

周りを確認するよりは、一刻も早く目の前にいる敵を殺してと言う考えが優先されたのだろう。

 

だから肝心な時に確認を怠ってしまった。

背中に射手座の矢を受けてしまい、大きく仰け反っていく。

貫通はしなかったが直撃を貰ったため、ダメージは大きい。

煙が上がる背中。そして気づけばさやかがマントを戻していた。

 

 

「乙女の顔に――ッ!」

 

「ガハッ!」

 

 

踏み込み、そして渾身の力で切り上げる。

剣から風が巻き起こり、杏子の体が宙に舞い上がった。

さやかもまた飛び上がり、杏子を切り刻みながら空に舞い上がっていった。

抵抗さえも許さないスピードだ。風が、嵐が、青い閃光が杏子を切り刻む。

 

 

「何してくれてんのよぉオッ!」

 

「グッ! オォォォオ!!」

 

 

体に入る刃の感触。

杏子は思わず目を見開いた。はて、こんなに地面は遠かったか。

気づけば杏子は地面から大きく巻き上げられた。

そして、さやかは杏子よりも遥か上に。そして剣を構え突っ込んで来る所だった。

 

 

(馬鹿が――!!)

 

 

杏子にはブラックホールがある。

剣を突き出された瞬間、ブラックホールで武器を吸い込み、ホワイトホールをさやかの背中に配置する。

こうすると事で、さやかは突き出された刃を自分で受けることになるのだ。

 

 

(いや――ッ!)

 

 

ブラックホールが――!

 

 

(間に合わない!?)

 

 

さやかは青い風を纏い、さらに加速する。

 

 

(速すぎる!一瞬を越えるだと!?)

 

 

既にそう思ったときには、剣が目の前に。

 

 

「スクワルタトーレ!!」

 

「グアアアアアアアアアアア!!」

 

 

フィニッシュの一撃で杏子は思い切り地面に叩きつけられる。

さらに倒れた杏子へ降り注ぐサーベルの雨。

さやかは着地と同時にマントを翻し、腫れた頬を撫でていた。

すると回復魔法が発動して彼女の顔は元通りに。やはりさやかを殺すにはソウルジェムを狙ったほうが効果的らしい。

いや、それよりも――

 

 

「やっぱお前からだよなァアア!!」

 

「!」

 

 

杏子は立ち上がると、踵を返して一直線にまどかに向けて走りだす。

仮にも必殺技を受けたのに、何の事無く立ち上がる杏子を見て、さやかはゾッとした事だろう。ましてや体にはまだサーベルが突き刺さっているのにおかまいなしだ。

だがさやかはすぐに走り出した。まどかを守るのが己の役目だと理解している。

さやかはすぐに杏子の前に回りこむと、再び剣を向けた。

 

 

「アァ、やっぱウゼェなお前! 何もかも!」

 

「………」

 

 

サキがそこで動いた。

現在、杏子の優先順位はまどか、そして目の前にいるさやかだ。

サキの事はまるで気にしていないし、空に浮遊している『アナウエル』にも気を取られていない。

 

サキは鞭を伸ばして地面に落ちていたドラグアローの矢を絡め取ると、まどかとアイコンタクトを行う。

いける。二人はそう判断するが、杏子もすんなりとはいかない相手だ。

その証拠にと、さやかを蹴り飛ばすると地面を思い切り踏むように蹴った。

すると一面に広がっていく赤の点々。

 

ゾッとして息を呑むまどか達。

杏子の異端審問の範囲が一気に広がっていく。

全てを埋め尽くす赤。どこに逃げても赤が地面にある。

 

 

(こんな広範囲を埋め尽くす事ができるのか!)

 

 

そもそも隙間が見当たらない。

まどかは地面全体に結界を張ろうと――

 

 

「はぁあああああああああ!!」

 

 

さやかは叫びながらマントを地面に叩きつけて広げる。

地面を覆うように白の布が広がっていき、まどか達の所まで来ると、彼女達は素早く察してマントの上に飛び乗った。

つまりさやかは、異端審問が飛び出してくるだろう地面全てを覆うようにしてマントを広げたのだ。杏子が立っている部分を器用に避けて、マントはさらに広がっていく。

 

 

「ハッ! お前には防げない!」

 

「やってみなくちゃ、分からないでしょ!」

 

 

発射される異端審問。

確かにマントの防御力はそれなりだろうが、流石に防げないだろうと杏子は思っていた。

しかしいざ異端審問が放たれると、マントはそれらを押さえ込み、槍が地上に突き出られないほどの勢いで押さえ込む。

 

 

「なっ! コイツどこまで――ッ!」

 

「ふぎぎぎぎぎッッ!」

 

 

踏ん張るさやか。

しかし悔しい話だが、少しだけ防げただけでもう限界のようだった。

だが、まどかはマントに飛び乗った時から詠唱を開始していた。

 

 

「輝けッ、天上の星々マルキダエル!」

 

「ッ!」

 

「煌け、守護せしアリエス!」

 

 

杏子はまどかを止めようと力を強めるがマントは意外としぶとく槍を押さえつけてくる。

 

 

(コレが友を想うが故の力だと? 下らない、クセェ! 殺したくなる!!)

 

 

膨れ上がる杏子の苛立ち。

こうなったら意地でもさやかの顔を涙でグチャグチャにしてから殺したいと思うようになった。そうでもしないと、即死させたところでイライラが収まる気がしない。

 

 

「ウラァア!!」

 

「ウあッ!」

 

 

マントで押さえつける。

だったらマントの上に乗ればいい。杏子は走り、さやかのわき腹を殴りつける。

怯んだところで肘で頬を抉った。魔力をマントに集中させているため、極端に動きが鈍くなっている。

まだ、サキは動かない。ましてやさやかも回復魔法ですぐに元通りだ。

 

 

「――ッ!」

 

 

杏子は再びさやかを殴ろうとするが、その目が死んでいない点に少し動きを止めた。

 

 

「集え光よ! 形成せし結界、愛よ希望よ我が勇気! 万物を守護する矢となり我を照らしたまえ!」

 

 

早口で詠唱を済ませるまどか。

もうマントは限界を迎えようとしている。その前に――ッ!

 

 

「守れ、牡羊! スターライトアロー!」

 

 

まどかの弓から勢い良く飛び出したのは復活の天使である"マルキダエル"であった。

羊の形をした天使は、空に舞い上がると身体を震わせて『綿』を三つ発射する。

桃色の光を纏う綿は、さやか、サキ、まどかの身体に付着して終わった。

 

 

「ふざけんな、こんなクソみたいな綿でアタシの槍が防げるかよッッ!!」

 

 

杏子の怒りは力となり、ついにさやかのマントを突き破って槍たちが一勢に飛び出していった。さらに杏子は目の前で怯むさやかの腹部に、思い切り槍を突き入れる。

 

 

「死ね!」

 

 

殺意とともに放たれた一撃だが、文字通り、柔らかい物に当たる感触しかしない。

 

 

「ッ!?」

 

「あ、あれ? 痛くない」

 

 

さやか自身も不思議だったのだろう。痛みを全く感じない。

あれだけの威力を持つロンギヌスが、綿の鎧を少し散らしただけに終わったのだ。

それはその筈。まどかが発射したのは攻撃ではなく、守護に特化した補助技だったのだから。

 

マルキダエルは綿状の結界を味方に纏わせる事ができ、その防御力は通常の結界よりも上である。さらに、まどかは上空から振ってくるロンギヌスを破壊するため、矢の雨を降らせるマジカルスコールを発動して槍を次々に破壊していった。

 

神殺しの矢が、天使を使役する者に破壊されるとは。

サキは皮肉めいた状況に苦笑しながら走り出す。

チャンスはまさに今。杏子は怒りで周りが見えていない。

 

未だ上空に待機しているアナウエルへ支持を出し、追従させる。

そのままサキは杏子の背後に回ると、一気にスピードを上げる。

 

 

「………」

 

 

途中、考える。

先程は、まどかの結界によって助けられた。

彼女の固有魔法が『守護』なのだからある種当然と言えばそうなのだろうが、それが何よりも皮肉な話だ。

守りに特化した彼女が絶望したその瞬間に全てを壊す存在になるのだから。

 

 

(絶対にさせるかそんな事!)

 

 

サキは杏子を飛び越える様にジャンプを行うと、鞭を移動させ、杏子の体を縛り付ける。

鞭の先にはドラグアローの矢がまだ巻きついており、杏子の体に密着させる。

ポニーテールで切り裂かれる事を危惧して、鞭にありったけの魔力を注いで意地でも切られないようにしている。

これもまたサキの意地だ。ソウルジェムから大量の意思(まりょく)が鞭に供給され、切られるまでの時間を遅らせる。

 

尤も、それなりに時間が稼げれば十分だ。

サキは杏子の前に着地し、それに気づいた杏子はサキの背後に蹴りを入れようと足を出す。

しかしサキと杏子の間にできる結界。

 

 

「またか!」

 

 

杏子が大きな舌打ちを行うと、振り向いたサキは無言でそれを告げる。

 

 

「終わりだ!」

 

「アァ?」

 

 

そこで気づいたのは、杏子の左右後ろにも桃色の結界が張られていた事。

いや下にもか。と言う事はコレは全面結界。

 

 

「箱――?」

 

「ニターヤーボックス!」

 

 

前後左右、そして下にバリアが張られている。

唯一開放されているのは上だ。その向こう、上空にはアナウエルがドラグクローを装備してチャージを行っていた。既に周りにはドラグレッダーも旋回しており、すぐに昇竜突破により巨大な炎が発射される。

 

脱出しなければ。杏子が動こうとすると、激しい電撃がその体を包み込む。

サキが結界に手を当て、中に電流を発生させたのだ。

そうしていると、炎が箱に入った。

同時にニターヤーが箱の蓋を閉める。サキは地面を蹴って後ろに跳び、一方で炎は杏子の身体にまきついている燃料(アロー)に触れて――

 

 

「―――」

 

 

大爆発。

 

 

「――ッ!!」

 

 

凄まじい爆風も、まどかがボックスの防御力を上げている為、何とか封じ込める事ができた様だ。

一箇所に固まる三人。たまらずグリーフシードで魔力を回復したが、そこそこ短時間で多くの魔法を使用したせいか、纏わり付くような疲労感が消えない。

 

 

「大丈夫か、まどか」

 

「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」

 

「やったかな?」

 

 

箱の中は未だに炎で覆われているため、杏子がどうなったのかは確認できない。

そこで首を振るまどか。絶対に死んではいないと二人に告げる。

まどかは、先ほどの羊の綿を杏子のソウルジェムにも小さくではあるが、つけておいた。

 

 

「まどか、アンタって子は……」

 

「彼女は倒しておいたほうが楽だと思うが」

 

さやかとサキの呆れるような声色は分かっている。

しかしまどかは首を振った。

 

 

「死んで良い命なんて無いよ、絶対」

 

 

ただ爆発の威力は本物だ。

おそらくもう戦える状態ではないと思うのだが――?

 

 

「「「!?」」」

 

 

その時、轟音と共にはじけ飛ぶニターヤーボックス。

一同が見上げる先には杏子が立っていた。一瞬、龍に見間違えるほど大きな槍に乗った杏子がだ。

 

その槍、『浄罪の大炎』。血の様な赤いオーラが、炎の様にロンギヌスに灯っている。

三人を見下す杏子。服は所々焼けて無くなり、肌には大きな火傷が見える。

しかしジェノサイダーの力を得ている彼女には、思った以上にダメージを与えられなかったらしい。杏子は怒りに歪んだ表情で、凄まじい殺意を隠す事なく放っている。

 

 

「ヌルいんだよテメェら……! 最高に腹が立つ……ッ!!」

 

「っ!」

 

 

多節棍となっている槍はまさに龍。いや彼女からして蛇か。

杏子としてはヌルい戦い方の連中に押されていると言うのが、何よりも腹の立つ事だった。

馴れ合いの絆を断ち切って強くなってきた。

友を、妹を、良心を捨ててまで目指すべき強さがあったからだ。

 

もう自分は何者にも利用されない、何者にも屈しない。

食物連鎖の頂点に立つ魔法少女としての自覚。そして強者に許された力を振るってきた。

なのに何故、まだ甘い甘い世界に、ぬるま湯に浸かっている連中にコケにされなければならないのか。

 

許せない、杏子が抱く過去最高の苛立ち。

ああ。イライラしすぎて、頭がおかしくなりそうだ。

 

 

「殺す。絶対に、何がなんでもブッ殺す!」

 

 

今から撃つのは、ありったけの殺意が生み出した、全ての罪を力でねじ伏せる一撃だ。

協力だのと言っている連中には、絶対に打ち破れない攻撃であると杏子は説いた。

 

 

「この世界は力が全てだ。そしてそれは、馴れ合いの場では絶対に生まれない物なんだよ」

 

 

杏子はそう、確信している。

甘さを捨て、弱さを捨ててこそ頂点に君臨する力を得る事ができる。

 

 

「お前ら餌がッ、アタシに歯向かうこと自体が許せない!」

 

 

それは過去に、杏子が餌として扱われていたからだろう。

今でも、シルヴィスが自分を見る時の目を思い出せば、殺意が湧いてくる。

もうあの時の弱さは無い。自分は誰にも負けない、全てに勝つ。

 

 

「………」

 

 

サキはふと、妹の残したスズランのブレスレットを撫でる。

 

 

「……妹を殺して手に入れた強さが本物だと?」

 

 

サキは怒りではなく、哀れみの表情で杏子を見た。

杏子も過去は、自分達と同じ様な道にいた筈なのに。

いつからか、道は違えたか。

 

 

「まどか、さやか。アレは壊すぞ」

 

「うん……!」

 

「おっけ、了解」

 

 

まどかも弟がいるから分かる。

家族を殺してまで手に入れた強さ。それは、絶対に否定しなければならない。

前にそびえ立つ槍は確かに強力だ。だがしかし、あの力にはもう一つ大きな影がある事に杏子は気づいているのだろうか?

そう、絶望と言う要因に。

 

 

「力の差を感じながら死ね――ッ!」

 

「受けて立つ! さあ、まどかに力を!」

 

 

杏子がチャージを開始するのを見て、サキは合図を出す。

頷くまどかと、さやか。三人ともそれなりに戦ってきたが故に分かる力の差。

確かに杏子のあの攻撃は、個人では誰も適わないだろう。

それは杏子が言うとおり、全てを捨てたから手に入った力なのだから仕方ない。

 

が、しかし、勝算はある。

向こうが純粋な『力』をぶつけて来るなら、まどか達は手を取り合う力を見せようじゃないか。

 

 

「大丈夫か? 最後にやったのは、だいぶ昔だったからな」

 

「わたしは覚えてるよ」

 

「ま、まあ大丈夫大丈夫」

 

 

三人はソウルジェムを合わせ魔力を解放する。

桃色の光が、水色色の光が、白の光が一つに交わった。

つまり同調。三人はソウルジェムを戻すと魔力を一気に解放する。

 

まだマミが生きていた頃。

ずっと昔に思えるが、何度か試した事がある。

なかなか使う機会も無かったが、ついにその時が来たと言う事なのだろう。

つくづく魔法の使い方を教えてくれたマミには感謝しなければならない。

 

 

「「「合体魔法! エピソーディオ・インクローチョ!!」」」

 

「!」

 

 

三人のソウルジェムが凄まじい光を放つ。

 

 

「目障りなッッ!!」

 

 

杏子は大きな舌打ちを行い、自らも血の様に赤い光を爆発させた。

 

 

 

 

 

 







ビルドの映画見てきました。

ルパパトはガンアクションがものすごい気合入ってて、最後とかもうガンダムよ。
ビルドはヒゲポテトがキレキレやでぇ。あと敵のゲスト三人が凄い気合入ってて、今回そっちがかなり印象に残りましたね。
どうやったら、上に座ってもらえますか?(ブラックホールに吸われる音)

九州ロケやったみたいなんで、戦う場所も普段とは違うところで面白かったですね。


ただ一個だけ気になったのが、隆は万丈がたおせぇ!!(ノブ)

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