仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第57話 現実の弓 弓の実現 話75第

 

 

「無駄なんだよ今更ッ、何をしようが!」

 

 

杏子の紅が、槍全体を包み込む。

空気が震動し、燃えるようにエネルギーが揺らめいていた。

 

 

「無駄? それは違うな」

 

 

サキ達は皆、その思いを抱いている。

まどかが前に出る。サキはまどかの左に移動すると、右手をまどかの肩に置く。

さらに右に並んださやかは、左手をまどかの肩に置いて魔法陣を展開する。

三人の魔力を合わせて一つの魔法を創り上げるのだ。

まどかは牡牛座を早口で詠唱。サキとさやかも、ありったけの魔力をまどかへつぎ込んだ。

 

 

「――ッ」

 

 

杏子はあえて待つ。

それを破壊したいと言う欲求に従うためだ。

 

 

「壊せ――ッ! 牡牛!!」

 

 

まどかが思い切り弓を引き絞ると、弓の前には牡牛座を司るアスモデルが現われる。

しかし以前とは姿が少し違っている様に感じた。

さやかの魔力が適応したのか、背中には紅いマントが追加されており、角の部分が刃物になっていた。これもさやかだ。

そして全身にはサキの力である、白い電撃が纏わりついている。

装飾品も普段よりも派手になっており、より一層壮大さが増しているようだ。

 

アスモデルは地面を蹴り擦る様な仕草を取って、突進の準備を始めた。

目の前にある絶望を何が何でも砕くと言う、まどか達の意思に呼応しているかの様だ。

そうしている内に、双方のチャージが完了する。

 

 

「イライラするんだよお前らは! だから死ねよォオッッ!!」

 

「スターライトアロー!!」

 

 

弓を放つまどか。

サキとさやかも、まどかの肩に触れていない方の手を前に突き出して魔法名を叫ぶ。

重なる三人の声。それと共に発射されたアスモデルは、風を切り裂き、咆哮をあげながら巨大なロンギヌスへ命中した。

競り合いを始める両者。しかしすぐにアスモデルが押され始める。

 

 

「クハハ! 壊せ壊せ壊せェエエエエエ!!」

 

 

杏子の苛立ちが力となり、さらに信念が力となり、槍を凶暴なモンスターへ変える。

だが杏子を真っ直ぐに見るまどかの目は死んでいない。ましてや一欠けらの恐怖すら覚えていない。

だから叫ぶ。杏子の狂った笑いをかき消すように。

 

 

「壊れないよッ!」

 

「ハァ?」

 

「絶対に、壊れない!」

 

 

その言葉に反応して、アスモデルの目が光った。

すると前に進む勢いが増したではないか。まどかの声に応える様にして、牛の天使は進撃を開始する。

その時、バキンと落とした。

ロンギヌスにヒビが入る音だ。瞬間、杏子の表情が鬼気迫る物に変わる。

 

 

「ハァアア!? ウゼェな、ウゼェわ、糞ウザいんだよォオオオ!!

 

 

杏子も吼える事で魔力が爆発。

亀裂が徐々にも元通りになっていく。

 

 

「何調子に乗ってんのさッ! お前らマジで勝てるとでも思ってんのかよ!!」

 

「当たり前だよ、コレはわたしだけの力じゃないから」

 

「アァァアア!?」

 

 

絆の力だとでも?

ゴミみたいな絆が生んだちっぽけな力でアタシに勝つ!?

絶対的な力とは一人で得るものだ。それが理解できていないまどか達に、勝てる道理などある物か。

 

 

「違うよ杏子ちゃん」

 

「何が違うんだよ!」

 

「一人で得られる絶対の強さなんて無い」

 

 

だってそうでしょ?

 

 

「人は――、一人じゃ生きられない!」

 

「――ッ」

 

 

なに分かったような口きいてんだよ。

何にも理解していないクセに偉そうなんだよ。

杏子は歯を食いしばって槍の勢いを上げる。

 

 

「死んでも殺す!」

 

 

あの糞ガキの臓物全部引きずり出してぶっ殺してやる!

膨れ上がる杏子の憎悪。だがまどかは恐怖を浮かべる様子は無い。

悲しげな目で杏子を見るだけだ。

 

 

「確かにわたしも偉そうな事を言える立場じゃないし、分かってないのかもしれない」

 

 

でも、もしも本当の強さが他者を犠牲にする上で成り立つ物なら。

全ての愛を捨てなければ得られない物ならば――

 

 

「わたしは、本当の強さなんていらない!」

 

「何だとォ……ッ!」

 

「偽りの強さで、貴女を倒す!!」

 

 

ニヤリと笑うさやか。

 

 

「言う様になったじゃん」

 

 

ソレはサキも同じだ。

しかしすぐに真顔に戻ると、同じく哀れみを持った目で口を開く。

杏子も多くの絶望を知ってココにいるのだろう。

だからこそ彼女は間違っていない筈だ。そうだ、サキは杏子が正しいと思っている。

しかし、だからと言って自分達が間違っているとも思わない。

 

 

「佐倉杏子、コレが私達が示す本当の強さだ」

 

「ハッ! じゃあその強さで何かが守れたか?」

 

「……!」

 

 

耳の痛い話だ。しかし、サキは怯まない。

 

 

「確かに私達は、多くのかけがえの無い物を失ってきた」

 

 

友を、家族を。

しかしだからこそ、二度と失わない為に戦う。

守れないから放棄するのでは一生弱いままだ。

確かに守るものがあれば、人は弱くなってしまう部分もある。

だが、その守る物を失いたくないと思う心が、いずれは強さに変わる。

そう信じたかった。だからこそ言える。

 

 

「守る者がなければ、私達は強くなれない!」

 

「アタシは違う! 一人で全てをねじ伏せる力がある!」

 

 

お前らとは根本的に違うんだよ!

杏子はありったけの想いを乗せて吼えた。

 

 

「守る者が無ければ強くなれない? 上等だ、だったら守るべき物ごと吹き飛ばしてやる!」

 

「!」

 

「絶対的な力こそが真実! 真理なのさ!」

 

 

より膨れ上がる杏子の魔力。

 

 

「お前らのお花畑な精神論なんて貫いてやるよ!」

 

 

その時、まどかは表情を大きく変えた。

サキやさやかは、まどかから一歩引いた位置にいる為、それを理解できたのは杏子のみ。

まどかの浮かべた表情は、何とも悲しい物だった。

 

 

「だったら、杏子ちゃんはわたしには勝てないね」

 

「――ッ!」

 

 

バキバキと音を立てて砕け始めるロンギヌス。

 

 

「何ッ、そんなッ!」

 

 

杏子は汗を浮かべて、思わず一歩後ろに下がってしまう。

どうしていきなりこんな――ッ!? それにこの勢い、嘘だろ? 

杏子はゾッとしてまどかを見る。

 

 

「なんでッ! お前らみたいな奴に――ッ! お前らみたいな奴にィィイイイイ!!」

 

「だって……」

 

 

まどかが何故、悲しい表情を浮かべたのか。

それは杏子が正しいと言ったサキ、そしてその後の杏子の言葉だ。

確かに、杏子の言っている事は全てとは言わないが正しいのだろう。

 

杏子は言った。

精神論だと、力が真実だと。

だが、それを『真実』として見るのなら。まどかが杏子に負ける理由は、何一つとして存在しないのだ。

 

 

「な、なんで!? 何でこんな! アタシが負ける!?」

 

 

嘘だ! 嘘だ! 杏子は力を込めるが、まどかのアスモデルはバキバキと尚も槍を突き破って進んでいく。急激に力を強めたアスモデル、それはまどかが杏子の強さを理解したからだ。

杏子は純粋な力を、純粋な強さを、揺ぎ無い真実とした。

だったら、杏子は一つだけ分かっていない事がある。

 

 

「杏子ちゃん」

 

「ッ!」

 

 

まどかは自分の胸に手を当てて、杏子を見る。

 

 

「わたしと貴女じゃ――」

 

「―――」

 

 

その瞬間、杏子の全身に寒気が走った。

どれくらいぶりだろう、恐怖を覚えたのは。

本物の化け物は、どっちだ?

 

 

「わたしと貴女じゃ、飼ってる絶望が違う」

 

「!」

 

 

だから、純粋な力が全てだと言うのなら。

 

 

「貴女はわたしには勝てないよ」

 

「――ッ」

 

 

所詮は一端の魔女になるだけの杏子と、世界を終わらせる絶望の魔女に変わるまどか。

比べるまでも無く、理解できる力の差。それを知るがいい。

アスモデルは杏子のロンギヌスを粉々に砕くと、杏子をその刃《つの》で貫いた。

ソウルジェムは破壊していないが、杏子の腹部には大きな風穴が。

 

 

「カハ――ッ! ハッ! ガッ」

 

 

地面に落ちた杏子は大きく息と血を吐いていく。

文字通り彼女の腹部には穴が開いている。臓器ごと粉砕されたのだろう。骨もごっそり持っていかれた。

さらに角が刃でできている事もあり、周囲の部分もズタズタに引き裂かれて、さらにサキの雷が身体を迸っていく。

 

 

「やったな」

 

「う、うん……」

 

「………」

 

 

目を閉じて静かに呟くサキ。

複雑そうに頷くさやか。無言のまどか。

元の姿を考えないのであれば、魔女を倒したならば爆発して消え去るという少しばかりの達成感や、終わったと言う合図もあったろうに。

 

しかし今、まどか達の前にいるのは血を流して苦しんでいる同じ魔法少女だ。

やはり三人を包むのは圧倒的な虚しさだった。

けれども自分達は勝った。それもまた真実なのである。

 

 

 

 

 

 

 

「ウラァアッ!!」

 

「うおっ!」

 

 

そして一方の龍騎達も、王蛇と戦いに苦戦している所だった。

元々強力だった王蛇が、今は暴走状態とも言える程に暴れまわっている。

疲労していた龍騎とファムは何とか攻撃を回避しようとするも、王蛇の攻撃は常に二段構えだ。結果龍騎とファムは次々に火花を散らして地面に倒れていく。

 

 

「ウォオオオオオオオ!!」

 

 

二人を蹴散らしながら王蛇は狂ったようにナイトの方向へと走っていく。

マントを翻し剣を構えるナイト。荒れ狂う蛇の一撃を、彼は冷静に受け止め弾いていく。

しかし強引に押し割ろうとする王蛇のパワーにナイトも苦戦するしかない。

強引に打ちのめし、叩き壊す、それが性質(パワー)なのだから。

 

 

「ヤァア!!」

 

「グッ!」

 

 

だが立ち上がった龍騎が走り、ドロップキックを王蛇に浴びせた。

衝撃でよろける王蛇。そこへナイトは全力を込めた突きを行う。

さらに横に剣を振るい、王蛇を弾いて地面にダウンさせた。

 

 

『スイングベント』

 

「ウッ!」

 

 

王蛇は倒れながらもエビルウィップを召喚。

ナイトの足に巻きつけると、引き倒しつつ自らは立ち上がる。

さらにメタルホーンを召喚して、文字通りサイの様に突進していく王蛇。

龍騎はドラグシールドを構えてナイトの前に立つが、王蛇はストライクベントの他にもう一枚カードをバイザーへセットしていたのだ。

 

 

『スチールベント』

 

「なっ!」

 

 

龍騎の手から盾が消えて、王蛇の前に現われる。

王蛇はそれをすぐに蹴り飛ばすと、無防備となった龍騎へと突撃していった。

 

 

「させるか!」

 

 

ファムはシュートベントを発動してボウガンを王蛇に向ける。

 

 

「げ」

 

 

しかしファムの放った弓は、王蛇の鎧に当たると粉々に砕けるだけ。

当然だ。彼女は現在ブランク状態。せいぜい戦えるとしても使い魔や一部の魔女くらい。

そうしている間に龍騎にメタルホーンが命中してしまう。

龍騎は凄まじい衝撃を感じて、後ろへ弾き飛ばされた。ファムはすぐに龍騎に駆け寄って意識があるかを確かめる。

 

 

「お、おーい! 真司ッ、大丈夫!?」

 

「あ……、ああ」

 

 

ファムとしても加勢したいところだが。ミラーモンスターを失った彼女では分が悪い。

前を見ればナイトが王蛇と競り合っているが、ナイトでさえ王蛇の威圧感に飲み込まれているようだ。どうにも防御の回数が多くなっている。

だがそうしていると空に影が。続けて王蛇の身体に無数の火花が散っていく。

 

 

「ッ!」

 

「ぐっ!」

 

 

後退していく王蛇。

なんだ? ナイト達が上を見上げると、そこにはマシンガンを持った暁美ほむらがエビルダイバーに乗ってコチラに飛んでくる所だった。

 

彼女はさらに盾からスナイパーライフルを取り出すと、王蛇の眉間に銃弾を直撃させて見せる。地面に倒れて転がる王蛇。騎士の仮面がなければ頭が吹っ飛んでいた事だろう。

そうしている間にほむらはエビルダイバーから飛び降りて龍騎達の所へと着地する。

 

 

「ほむらちゃん! ああ、良かった……!」

 

 

タイガペアが死んだと言う事から、ほむらの無事は何となく予想ができた。

だったらタイガペアを殺したのは――、と言う予想も。

しかしその予想は大きく外れる事になるのだが。

 

 

「城戸真司」

 

「――っ?」

 

 

ナイトと王蛇が剣をぶつけ合う中、ほむらは龍騎にその真実を告げる。

 

 

「手塚が死んだわ」

 

「!!」

 

「……!」

 

 

衝撃に打ちのめされる龍騎とファム。

ほむらは彼らから少し目を逸らして、事情を説明した。

ほむら遠くに見えるまどかを確認して、安心したように息を吐いた。

キリカが言っていた『死ぬ運命』。にも関わらず、ほむらとまどかが生きている事から、一つの説が生まれた。

 

 

「きっと彼は、運命を変えたのよ。自らの手で」

 

 

そして、自分の死でさらに舞台をかき乱した。

望んでいたのか。望まぬ結果だったのかは分からない。

けれども手塚と言うトリックスターがいたおかげで、ほむらは死なずに済んだ。

延命程度かもしれない。けれども、手塚は確かに運命を変えたのだとほむらは説明を行う。

 

 

「手塚……!」

 

 

ギリギリと拳を握り締める龍騎。納得はできなかった。

本当に、それで良かったのか?

命を賭ける事で運命を変える。それが手塚海之の答えだと?

 

 

「俺は、俺は――ッ!」

 

 

龍騎の視界が濁る。

手塚は運命にリベンジを果たせたのか?

それが彼の望むべき答えだったのか。

 

 

「トークベントの最中、一つだけ彼の心が聞こえてきた」

 

 

手塚が、ほむらの放った無意識なる心の叫びを聞いた様に、ほむらもまた死に向かう手塚の心の声を拾う事ができた。

それは城戸真司に向けたメッセージだ。

 

 

「貴方にブレるなと。自分の言葉を忘れないで欲しいと言っていたわ」

 

「……ブレるな、か」

 

 

フラッシュバックしていく手塚の言葉。

 

 

『アンタの、信じる道を行くべきだ』

 

 

思えば、手塚の言葉はそのほとんどが龍騎の背中を押してくれる物だった。

多くの衝突を繰り返しながらも、手塚は龍騎の進むべき道を確固たる物に変えてくれたのかもしれない。

 

抗う事の辛さ。足掻く事の苦しみ。

世界を変える事の難しさを知りつつも、手塚は応援してくれた。

その中で彼は一つの答えを出し、運命を変えたのだ。

どこまでも手塚は先を行くものだと、龍騎は拳を握り締めながら思う。

 

 

「ほむらちゃん、手塚は……、後悔してたのかな?」

 

 

何に対してだとかは言わないし、実際どう思っていたのかも分からない。

けれどもほむらは自分なりの解釈と、手塚の最期を思い出して、首を横に振った。

 

 

「彼はきっと……、後悔はしていなかった筈よ」

 

 

出した答えが最初から望む物だったのか――、だとか。

出した答えが正しいのか――? なんてのは分からない。

だが少なくとも、手塚はこの土壇場で出した自分の意思を、真実と理解していたし。

ましてや後悔や未練は感じられなかった。

 

もちろん手塚だって自分が死ぬ事や、タイガ達を巻き込んで自爆する事が、よりよい選択肢だとは思わなかったろう。

だがそれでも答えを出し、運命を変えた。

その点に関しては、絶対に後悔はしていなかった筈。

 

手塚は運命に勝ちたかった。だからこそ劣等感や苦痛に苛まれ色々と迷った。

だが彼は最期の最後で、運命に勝ったのだ。

それだけは真実だと思いたかった。

 

 

「でも俺は……、やっぱりそれが正しいとは思えないんだ!」

 

「そうね」

 

 

言い方を返れば、手塚は死ぬしかなかった。

死ななければ、ほむらは救えなかったろう。その点に関しては何も言えない。

けれど死ぬ事でしか得られぬ答えなんて、龍騎は認めたくなかった。

 

死ななければならなかった事実を、容認したくは無いのだ。

手塚だって、運命がどうとかは一旦置いておいて、ただ一人の人間としては死にたくなかった筈だと思いたい。

 

 

「けれど、手塚は死んだ。私は彼を蘇生させる気はないわ」

 

 

龍騎はそれを聞いて頷いた。

そして、拳をギリギリと尚も強く握り締める。

そう、そうか。どんな事を考えても今は今だ。

 

 

(手塚が答えを出したなら――、俺が取るべき行動は一つだよな。手塚!)

 

 

龍騎は頷くと、一歩前に出た。

 

 

「そうだ、俺は俺の道を行く!」

 

 

俺が信じる道を行く。

龍騎を聞いて、ほむらはほんの少しだけ唇を吊り上げた。

その目には、寂しさもあったのだが。

 

 

「まどかは良いパートナーを持ったわね」

 

「え?」

 

 

そして龍騎もきっと、まどかから影響を受けている。

ほむらは、それがパートナーシステムのあるべき形なのだろうとつくづく思った。

自分達は、少し――、遅すぎたのかもしれない。

 

一緒にいる時間は長かったが、自分達の間には最後まで見えない壁があったのかもしれない。それは遠慮だったり、或いは理解だったり。

たとえば、そう、もしも手塚ともう少しだけ、あとほんの少しだけ腹を割って話す事ができていたのなら。心を許し合えていたのなら。結末は違う物になっていたのかもしれない。

 

けれどもそれは全て過ぎ去った話でしかない。

手塚は死に、ほむらが生き残った。その事実と、示された運命から目を逸らしてはいけない。

 

 

「彼は言ったわ。生きろと」『ユニオン』『コピーベント』

 

 

手塚の命を引き換えに生き延びたんだ。無駄死にはできない。

そしてただ何の考えも無く生きる事もできない。

生き残った者として果すべき目的が、責任がある。

龍騎はほむらの意思を感じると、強く握った拳を払ってカードを引き抜いた。

 

 

「手塚――ッ! 俺も、戦う!」

 

 

お前が運命に勝てたなら、俺だってフールズゲームに勝てる筈だから。

今ただ切に、それを信じたい。

 

 

「ウラァアアアアア!!」

 

「グッ!」

 

 

怒り、怒り、怒り、憎しみ、憎しみ、果て無き憎悪が王蛇を包んでいる。

その全てを力に変えて、対象を壊そうとする。

この世界にはイライラさせる物が多すぎる。だったら全部壊してしまえば良い。

しかし全部が無くなれば、壊すものが無くなってまたイライラする。

そして壊す時は面白い。だからこそ無限に戦いが続いてもらわないと困るのだ。

 

 

「「ハァアッ!!」」

 

「!」

 

 

ナイトを飛び越える様にして、龍騎とほむらが飛び出した。

エビルダイバーの背から勢いをつけて跳んだ二人の手には、それぞれ右と左にドラグクローが装備されていた。

 

ほむらの左手にあるのはコピーベントによって複製された物だ。

龍騎とライアの戦いでも、ライアが使用していた。

そのまま二人は、ありったけの力を込めてストレートパンチを王蛇の胴体に叩き込む。

さらに同時にドラグクローから炎を発射、王蛇は二つの炎弾に押されて吹き飛んでいった。

 

 

「ハァァアアア……ッッ!」

 

 

攻撃は終わらない、龍騎はドラグクローを構えて腰を落とす。

ほむらも龍騎と鏡合わせの様に、向きだけが反対であるが、同じポーズをとる。

龍騎とほむらの周りを激しく旋回するドラグレッダー。そして同じく旋回していくエビルダイバー。

 

 

「ほむらちゃん!」

 

「ええ!」

 

 

頷きあう二人、同時にドラグクローを突き出した。

すると放たれる巨大な炎。龍騎とほむら、そしてドラグレッダーの炎を一つに纏めた巨大な炎弾が、王蛇に向かって飛んでいく。

さらにそこへエビルダイバーの紫電の光が纏わりついた。。

多くの意思が詰め込まれた炎塊が、王蛇を撃つ。

 

 

「アァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

立ち上がった王蛇に命中する巨大な炎弾。

しかし王蛇はなんと、武器も使わずに素手でその炎を手で受け止めた。

両手を広げて炎をガッチリと受け止め、ありったけに叫ぶ。

憎悪もまた力なのだ。王蛇は全てのイライラを炎弾にぶつける様に、力を解放した。

その結果、自分の体よりも大きな炎を押し潰すようにかき消してみせる。

 

 

「ッ! なんて奴なの……!」

 

「でもダメージは受けた筈だ!」『ソードベント』

 

 

ドラグセイバーを構えて走り出す龍騎。

ナイトの横を通り過ぎて、真っ直ぐに王蛇へと向かう。

それを見詰めるナイト。彼もまた、ため息をついて飛び上がった。

 

 

「う゛ッ!」

 

 

ナイトは走ると、龍騎の肩を蹴ってさらにジャンプを行う。

その高さから動きを止めている王蛇へ、ダークバイザーを振り下ろした。

 

 

「おい蓮! 勝手に人の肩蹴るなよ!」

 

「フン!」

 

 

そうは言いつつ、二人は絶妙のタイミングで剣を交互に王蛇へ当てていく。

王蛇も抵抗しようとはするのだが、エビルダイバーの雷撃が麻痺効果を生み出しているのか思うように動く事ができない。

 

 

「イラつくぜェえエ!!」

 

 

振り下ろす拳。

しかし龍騎とナイトの出した剣が、クロスしてその拳を受け止めた。

そしてその時、二人の背後からほむらの声が聞こえる。

見れば、バズーカーを持って構えている所だ。

と言う事は――

 

 

「避けて!」

 

「「!」」

 

 

右に跳ぶ龍騎、左に跳ぶナイト。

それを見たファムは過去の事を思い出した。

コンビニで強盗に出会ったとき、右から真司が突進して、左から蓮が突進していたか。

なつかしいデジャブだ。しかし今回はお互いの距離が離れると言うのが少し切なげに見えてしまう。

 

すると爆発音が聞こえる。

左右にとんだ二人の間からバズーカーの弾丸が飛んできて、王蛇に直撃したのだ。

凄まじい衝撃と熱に感じて、王蛇はたまらず地面を転がっていく。

しばらくして動きが止まったが、同時に遠くで爆発が見えた。

 

崩壊していく槍が見える。

どうやら杏子が負けたらしい。それが王蛇のイライラを少しだけ抑えた。

冷静になる。杏子が負けたと言う事は、もう彼女に気を遣う必要はなくなったわけだ。

つまり、融合していたミラーモンスターを戻すことができる。

王蛇はデッキからカードを抜き取ると、バイザーへと装填した。

 

 

『アドベント』

 

「「「!」」」

 

 

立ち上がる王蛇の背後に現われるジェノサイダー。

その口から、火炎放射の様に勢いよく溶解液を吹き出していった。

なんとか後ろに跳ぶ事で回避を行うナイトと龍騎、だが王蛇は素早くもう一枚のカードを。

 

 

『ファイナルベント』

 

「しま――ッ!」

 

 

王蛇の背後にいたジェノサイダーが消し飛んだかと思うと、一瞬で龍騎の背後に移動する。

ヤバイ! と肝を冷やすが、その『一瞬』に対抗できる者が同じくして存在していた。

エビルダイバーだ。しかし龍騎を助けにはいかない。ジェノサイダーから少し離れた横に位置を取る。

 

 

「グジャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「うッ! うおぉおぉおおぉおお!!」

 

 

ジェノサイダーが巻き起こすブラックホール。

なんとかして吸い込まれまいと走る龍騎だが、凄まじい引力が紫の闇へと引き寄せていく。

 

 

「これはヤバイ! やばいやばいやばいッッッ!!」

 

 

焦る龍騎だが、その時ほむらが魔法を発動した。

 

 

『ユニオン』『トリックベント』

 

 

チェンジ・ザ・デスティニー。

エビルダイバーとほむらの位置が変わる。

 

 

(自分が救われた技で、誰かを救えたのなら、きっと貴方も――)

 

 

ほむらは既に両手にミサイルランチャーを構えており、それをすぐに発射させた。

魔法で重量と反動を抑えたそれらだが、威力はむしろ上がっている。

凄まじいスピードで二つのミサイルがジェノサイダーの側面に命中していった。

 

 

「グガガガガァアア!!」

 

「チッ!」

 

 

ブラックホールが消え、横に倒れるジェノサイダー。

中断されるドゥームズデイ。龍騎は助かったとほむらに大声でお礼を。

同時に走り出すナイト、ココがチャンスだと叫ぶ。

王蛇もソレを理解したのか、ジェノサイダーの融合を解除するとベノスネーカーのみ消滅させてナイトとぶつかり合った。

 

 

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

残ったベノゲラスとベノダイバー。

前者は龍騎に突進していき、後者はファムを狙う。

 

 

「よぅし、こうなったら――ッ!」『ガードベント』

 

 

 

龍騎はドラグケープを出現させると、闘牛の様にベノゲラスの突進を受け流した。

多くの人を食らったベノゲラス。アレは絶望、王蛇の抱える狂気でもある。

 

 

「来いッ!」『アドベント』

 

 

攻撃をかわすと同時に、発動するカード。

すると空を切り裂きドラグレッダーが現れた。

龍は炎弾を発射し、ベノゲラスの背後に直撃させる。

爆発がおき、ベノゲラスは大きくバランスを崩して倒れた。

その隙に、龍騎は自身の紋章が刻まれているカードを抜きとる。

 

 

「コレは人に使うものじゃない、絶望を砕く為のカードなんだ!」『ファイナルベント』

 

 

ドラグバイザーの目の部分が光る。

 

 

「フッ! ハァアアアアアア……ッッ!!」

 

 

両手を前に突き出し、踊るように手を旋回させる龍騎。

それに合わせる様にドラグレッダーも彼の周りを飛び回る。

そして地面を蹴って、龍騎達は空中に舞い上がった。

 

 

「グ――ッ! ゴオオオオオオオオオ!!」

 

 

ベノゲラスは立ち上がると、空中に舞い上がる龍騎を確認。

大技が来るとは理解できた。しかしだから何だと言うのだ。ベノゲラスは足を地面に擦ると、再び龍騎に向かって突進を行う。

多くの人を食い、命を取り込んだため、スペックはドラグレッダーをも、優に上回っている。

あんなちっぽけな炎など、自らの突進で逆に粉砕してやるとの勢いだった。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「グギアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

だが、しかし――!

ドラゴンライダーキックは、ベノゲラスの血に塗れた角を叩き折り、粉砕し、破壊すると、突進してきたベノゲラスを何の事なく吹き飛ばして爆散させた。

一方で叫びながら逃げるファム。彼女の追いかけるベノダイバーだが、その時無数の火花が散った。

 

 

「うお! マジで助かった! ありがとーッ!」

 

「下がってて!」

 

 

エビルダイバーに乗ったほむらが、ファムの前に出た。

再び突進してくるベノダイバーを紙一重で避けと、エビルダイバーに指示を出して後を追わせる。

ベノダイバーも多くの人や魔女の命を捕食している為、スペックはオリジナルのエビルダイバーよりも何倍も上だ。

 

しかしほむら自身がエビルダイバーを操作している為、回避がギリギリで可能だった。

さらにそれだけではなく、避ける際にチェーンソーでベノダイバーの尻尾を切断する事にも成功していた。

 

それに激高したか。

ベノダイバーは真正面からの突進を仕掛けてきた。

小細工はいらない、真正面からエビルダイバーを殺そうと言うのだ。

騎士が死んでいる以上、エビルダイバーが死ねばその時点で手塚の命は完全に費える。

しかしあえて、ほむらはエビルダイバーを引っ込めない。

そもそも偽者が目の前にいると言うのに、引くのは屈辱的だ。

 

 

「そうでしょ?」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

エビルダイバーを優しく撫でるほむら。

それと同時に、彼に激流と紫電が纏わり付く。

さらにほむらはガトリングガンを取り出して、勢い良く弾丸の嵐をベノダイバーにぶち込んでいった。

 

回転しながら激しく銃弾を放つガトリングガン。

その勢いと威力に、ベノダイバーもやや減速していく。

そこへハイドベノンが叩き込まれた。競り合いを始めるベノダイバーとエビルダイバー、しかしエビルダイバーに乗っているほむらはフリーな訳で。

 

 

「ハァア!!」

 

 

彼女は日本刀を引き抜くと、魔力を多めに供給した刃をベノダイバーの背中に突き入れる。

一点集中のピンポイント攻撃、しかし日本刀は簡単にバキンと割れて終わった。

自分だけの力じゃ無理か。少し悔しげにしながらも、ほむらはソレを魔法を発動する。

 

 

『ユニオン』『トリックベント』

 

 

発動するのはスケイプジョーカー。

ほむらとエビルダイバーの身体が消し飛び、ベノダイバーの突進をジョーカーのカードが代わりに受ける。

対してほむら達は、ベノダイバーの真上に現われた。

ハイドベノンは継続中であり、一瞬で最高速に達した二人は、ベノダイバーの身体にファイナルベントを直撃させた。

地面に叩きつけられたベノダイバー。さらにそこへロケット弾が直撃して爆発。

粉々に消し飛ぶ敵を見て、ほむらは安心したようにエビルダイバーを優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

「ぐあァッ!」

 

 

ナイトの突き出した剣が、王蛇の胸を捉える。

地面に倒れる王蛇と、剣を構えなおすナイト。

 

 

「お前の攻撃は見切った」

 

「イラつくぜェ、ああ最高になァ!!」

 

 

立ち上がる王蛇は、力任せにナイトを殺そうと暴れまわる。

しかし先ほどや普段の王蛇ならば少し気のきいたフェイントだの、二段構えの攻撃だのを行っていたが、イライラが募ってきたせいか、今はただ相手を一撃一撃で殺す事しか考えていない。

確かに力では勝てないが、ナイトは冷静に王蛇の攻撃をかわしていくと、カウンターの一閃を打ち込んでいく。

 

 

「消えうせろォオオオ!!」『ファイナルベント』

 

 

王蛇の背後に現われるベノスネーカー。

そして飛び上がる王蛇。ナイトもまた、ファイナルベントを発動して空に舞い上がる。

その途中で彼らは、ベノダイバーを倒すほむらを。ベノゲラスを倒す龍騎を見た。

 

彼等には彼等の意思がある。

戦いに必要なのは、スペック、そして心だ。

対人戦では力を発揮できない龍騎も、ベノゲラス相手には己の全てを出し切ることができる。だからああして、勝利を収めたのだ。

城戸真司と言う男を、ナイトはよく知っている。

アレは当然の勝利だ、だからこそ自分も迷ってはいけない。

 

 

「ダークウイング! 力を貸せ!!」

 

 

ナイトが司るのは決意だ。

ならば自分も、その揺ぎ無い決意にて力を示すしかない。

 

 

「ハァアアアアアアアアッッ!!」

 

「ァア゛アアアアアアアッッ!!」

 

 

飛翔斬と、ベノクラッシュがぶつかり合う。

ドリルのように突き進むマントへ連続蹴りが叩き込まれ、衝撃が内部に伝わってくる。

まず一度目。揺れる脳が視界を真っ白に変えた。

しかしそこに浮かび上がるのは、恵里の姿だ。

 

二度目の衝撃がナイトを包む。

浮かび上がる疑問。なんの為にデッキを覚醒させたのか。

なんの為に武器を取ったのか。なんの為にココに立っているのか。

 

三度目の衝撃で、ナイトはハッキリと意識を取り戻す。

そうだ、全ては恵里の為。彼女を愛した時から、世界の全てが敵になってもナイトには彼女の守る義務ができた。彼女の味方であり続ける義務が生まれた。

永遠に恵里を守ると誓った決意がある。

 

 

(恵里――ッ!)

 

 

彼女を、愛しているんだ。

たとえ全てを犠牲にしても、彼女だけは守りたい。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ッ!」

 

 

だから、消えろ。

ナイトの飛翔斬が回転速度を増して、王蛇の蹴りを弾いて進む。

吼える王蛇。何としても殺すと、蹴りのスピードを上げるが、ナイトの飛翔斬の勢いがソレを許さない。

 

秋山蓮の胸にあるネックレス。

恵里と買ったおそろいの指輪だ。本物じゃないが、ソレは本物になるつもりだった。

誓いが、約束があったんだ。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ウッ! ガァアアアアアアアア!!」

 

 

だから俺は決意したんだろう。

恵里を助けると。何を犠牲にしても彼女を守る。

だから、だからこそ俺は――ッ!

 

 

「俺は、決意した!」

 

「グッ!」

 

 

衝撃と共に弾かれる王蛇の足。

無防備になった王蛇だが、ナイトの勢いは全く死んでいない。

改めて決意を固めたことで、彼の力が跳ね上がる。

揺ぎ無い絶対の意思、FOOLS,GAMEに勝ち残り、願いを叶える。

 

 

「それが俺の、揺ぎ無い決意だ!」

 

「ォオオ……!」

 

「消えろ!」

 

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ナイトの一撃が王蛇を捉た、場所は――、デッキ。

粉々に落ちる破片、王蛇の鎧が消し飛び、浅倉は怒りの表情を浮かべたまま地に落ちる。

対して着地を決めるナイト。彼は剣を構えたまま、浅倉の元へと歩き出す。

 

 

「終わりだ……!」

 

「ッ! やめろ、蓮!!」

 

 

龍騎はその意味を理解して走り出した。

ファムの言ったとおり、ココからが問題なのだ。ファムもまた地面を蹴る。

蓮は――、ナイトは、浅倉を殺す気なのだ。

 

 

「黙れ! 俺はもう迷わない!」『シュートベント』

 

 

ダークバイザーに纏わり付く風。

ウインドカッターでナイトは迫る龍騎とファムに風の斬撃を当てていく。

地面に倒れる二人。だがナイトが再び浅倉を睨むと、そこには光の翼を広げて浅倉を守る鹿目まどかが見えた。

 

 

「チッ、どけ!」

 

「どかない! どきません!」

 

「アァアアアアアアア!!」

 

「「!」」

 

 

その時、浅倉が立ち上がる。

イライラは治まらない。だから、まどかに手を伸ばし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ディメンションベント』『ユニオン』『ディメンションベント』

 

「!」

 

 

消える浅倉。

そしてヨロヨロと立ち上がった杏子もまた同じくして消え去った。

呆気に取られる一同の前に、入れ替わる様にして黄金と白が現れる。

 

 

「秋山蓮」

 

「……!」

 

「コレを見ろ」

 

 

言葉を失う一同。

彼等の前に現われたのは織莉子とオーディンだった。

織莉子は万が一の事態に備えて、既に50人の命をゴルトフェニックスに捕食させていた。

その為、復活はすぐに行う事ができたのだ。

 

50人殺しは、死んでからカウントが始まる訳ではないとルールで定められている。

そうやってオーディンを蘇生させた織莉子は、ディメンションベントで王蛇ペアを飛ばしたと言う訳だ。

 

本音を言えば見滝原外にでも飛ばして即死させたかった所だが、あいにくとそれは強力すぎるのか、ワープの指定場所に見滝原の外を選ぶ事はできない。

結果、廃墟となっている教会に飛ばしておいたと織莉子は素早く説明する。

 

ちなみに王蛇ペアの拠点が丁度ソコなのだが、それは偶然だ。

それを知っているのはほむらも、特に説明する事はなかった。

 

 

「かずみ……!」

 

「オーディンが見つけてくれました。少し離れた所で倒れて気を失っていたと」

 

 

オーディンがナイトに見せ付ける様に掲げたのは、彼のパートナーであるかずみだ。

ワープして逃げた彼女だが、もう跳ぶ力も残っていなかったのだろう。

ゴルトフェニックスに変われる様になったオーディンが、空から発見したと言う。

 

そう。復活した騎士は、媒体がミラーモンスターの為、アドベントはミラーモンスターを呼び出すのではなく、自身をミラーモンスターの姿に変化させると言う効果に変わる。

早い話が、一心同体になったと言うべきか。

 

 

「貴方がこれ以上戦うと言うのなら、まずはパートナーである彼女を殺します」

 

「ハッ、そんな脅迫が俺に通用するとでも? パートナーくらい失っても、また蘇生させればいいだけだ」

 

 

ナイトは当たり前の様に言う。冷めた目の織莉子。

 

 

「だったら殺しますよ?」

 

 

かずみの前にオラクルを持ってくる。

 

 

「………」

 

 

少し、ナイトの様子が変わった。それを織莉子は見逃さない。

 

 

「もしも貴方が一端引くと言うのなら、彼女の無事は約束します」

 

「それにキミも理解したほうが良い」

 

 

オーディンは腕を組みながら言った。

この状況。もし戦いになれば、ナイトに勝ち目は無い。

考えてもみて欲しい、龍騎達は皆、協力派なのだ。

 

確かにまどか達はナイトを殺せないかもしれない。

けれどもナイトが勝つこともほぼ不可能と言って良い。

ここで戦うことは全くの無意味なのである。

 

 

「貴方が馬鹿でないのなら、ココで取るべき最良の行動がすぐに分かる筈ですが?」

 

「………」

 

 

唸るナイト。確かに織莉子の言う事は尤もである。

龍騎とファムに加え、まどか達や織莉子とオーディンまでいる状況。

対してナイトは疲労している状態であり、かずみも気絶中だ。

 

 

「かずみを先に返せ」

 

「………」

 

 

オーディンはかずみを掴んだまま歩き出し、言われた通りナイトの方へと差し出す。

ナイトはかずみを抱えると、龍騎を一瞥して、マントを羽に変えて飛び上がった。

どうやら織莉子の言う事に従うらしい。

それはナイトにとっては不本意な事だが、彼とて状況は理解している。

オーディンが本気を出せばタダでは済まないだろう。

 

そしてナイトはまだ50人殺しを達成していない。

この場でかずみを殺されて、自分も死ねば、その時点でアウトだ。

万が一があっては絶対にならない。何としても恵里を救うため、ナイトは撤退を選んだのだった。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

辺りを沈黙が包む。

サキ達にも既に到着した。こうなってくると、危険なのは間違いなくオーディンペアだ。

ほむらやサキ、さやかはまどかを守るように並び立つ。

 

目を細めるさやか。

気のせいだろうか? オーディンがコッチを見ている様な?

それも、少し悲しげに。まあ仮面をつけているから、あくまでも雰囲気の話しだが。

 

 

「鹿目まどか」

 

「!」

 

 

織莉子は変身を解除すると、少し不服げではあったが、深く頭を下げた。

 

 

「ッ?」

 

「私の負けです。どうか私と……、ワルプルギスの夜を倒してくれませんか?」

 

「!」

 

 

後ろへ下がるオーディン。

何もしないと言う意味なのか? そして織莉子もすぐに消えると言う。

一度は同じ様な手で不意打ちを仕掛けた身だ。まどかも当然それを警戒するだろうからと。

 

 

「とにかく私が言いたいのは、この戦いは我々の負けです。貴女の想いはよく分かりました。しかし見滝原にはまだ脅威が迫っています」

 

 

それがワルプルギスの夜だ。

織莉子も今の状況は理解している。ここでグダグダと責め合って、見滝原を危険に晒すのは不本意なのだ。

こうなったら割り切るしかない。ワルプルギスの夜を皆で倒す事が一番賢い選択なのだろうと。

 

 

「詳しい話があれば、他の人を介してお伝えします」

 

 

まどかも織莉子を信用できないだろうから、接触を断つとの事だ。

織莉子は言った。まどかの存在は放置できないものだが、自分の意思は負けた。

だからあくまでも、まどか意思や命を尊重しつつ、自身の目的であるワルプルギスの夜討伐を達成する。

 

 

「貴女がいれば、少しは楽に倒せるかもしれません。今となっては、其方の可能性に賭けるだけ」

 

「……信じていいのか?」

 

 

サキが言う。

織莉子は頷き、隣にいるオーディンもまた頷いた。

オーディンは腕を組んだまま補足を加える。気のせいだろうか? 声のエコーが強くなっており、ますます中身が誰か分からない。

さやかは少し眉を動かしたが、首を振ると話に耳を傾ける。

 

 

「僕も同じ意見だ。今となっては、僕も彼女に拘る必要は無い」

 

「どういう事だ?」

 

「僕は織莉子の意思を尊重しているからね。彼女が鹿目まどかと協力を結びたいと言うのなら従うだけさ」

 

 

少し嘘が入っているが、まあだいたいは本音である。

オーディンはずっと、さやかを見ているだけ。

だからもう今となっては別にまどかがどうなろうと、どうでも良かった。

 

 

「鹿目まどかは確かに危険な存在だ。しかし、魔法少女の中では凄まじい力を持っている」

 

 

当然それはワルプルギスを倒す大きな戦力になってくれる訳で、勝利の可能性が上がると言う事を意味する。絶望すれば終わりだが、注意を払えば勝利後の願いで、まどかを魔法少女の呪縛から解き放つ事ができるだろう。

 

 

「ゲームの終了後の願いは、全ての魔法少女を人間に戻すで文句は無いだろう?」

 

 

一同は何も言わない。それはイエスと言う意味だった。

もちろん、それが叶った上で、再びキュゥべえ達が資源の為にまどかに近づいてくるかもしれない。

その時は全力でまどかを守ると言うプランだった。

もうそれしか鹿目まどかを生き残らせつつ、世界を守る方法は無い。

そしてもしもそれが叶わなければ、改めてその時にまどかを殺すと。

 

 

「それが僕らの結論だ」

 

「とにかく、私はもう、失う訳には行かないのです」

 

 

織莉子は言う。

キリカは死んだ、キリカは親友だったと。

そんな彼女の死を、織莉子は絶対に無駄にはできない。

だからこそ、これ以上意地になっていてはいけないのだ。

織莉子は何としても世界を守らなければならない。そのために、今はまどかの力が必要だ。

 

 

「私は貴女を信じる。だから、絶対に絶望しないと約束してください」

 

「……うん、分かった」

 

 

まどかは強く頷く。

それを見て、少しだけ安心した様に織莉子は笑った。

 

 

「では七日目まで、私は貴女の前に顔を見せない事を誓います」

 

「織莉子さん、わたしは――」

 

「いいんです。失った信頼は大きい、いや大きすぎる」

 

 

それに何より、織莉子もまどかの顔を見れば怒りがこみ上げる。

その言葉に、まどかは唇を噛んだ。まどかとて、そんな事無いよとは本心で言えないからだ。

 

結果的に仁美を殺したのは織莉子だ。

マミやゆまだって。それは簡単に割り切れる物ではない。

まどかもまた、織莉子を見るといろいろ思い出してしまう。

それは精神にとって良くない事だ。

 

 

「何かあれば電話します。逆に何かあれば、電話してください」

 

 

まどかと織莉子は連絡先を交換して別れる事になった。

複雑そうな表情の両者。サキはため息をついて声を上げる。

 

 

「明日、キミの家に行っていいか?」

 

「え?」

 

「駄目なら喫茶店かどこかで話そう」

 

 

信頼関係とは、直接的な対話や関わりの中で育まれる物だ。

これより協力関係になるのなら、最低限の信頼は結んでおきたい。

はっきり言って、今の織莉子とまどかでは、まともな連携が取れるとは思わなかった。

それを聞くと織莉子もまた唇を噛む。いろいろ思う所があるのだろう。

 

 

「罠、と言う可能性を考えませんか?」

 

「罠?」

 

「ええ。貴女が私の家にくれば、私は貴女を攻撃するかも」

 

「ココまで来て疑うのは虚しい。それに、仮にそうだったとしたら私の命を犠牲にして君が危険人物だという事を仲間に証明する事ができる」

 

「ちょっとサキ」

 

 

ファムは肩を掴む。

今の言い方が、自分の命を軽視している様で気に入らなかったのだろう。

しかし織莉子としては、確かにと頷くしかできない。

 

 

「分かりました。住所を後でメールしておきます。いつでも来てください」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

織莉子はペコリと頭を下げると踵を返す。

無防備な背中を一同に見せるのは敵意が無いと言う表れだろうか?

そしてオーディンはアドベントでゴルトフェニックスに変わると、織莉子を乗せて飛び立っていった。

 

 

「……終わったの?」

 

 

さやかが心配そうに呟く。

ほむらも、ようやくそこでさやかに気づいた様だ。少し驚いたように表情を変えた。

サキはもう一度ため息をつく。

 

 

「ああ。とりあえず今は、終わりだ」

 

 

サキは一同を見まわし、もう一度弱弱しく呟く。

 

 

「私達の勝ちだ」

 

 

気が付けば空は赤く染まっており、夕日が参加者達を赤く染めていく。

一同はしばらく無言でその場に立ち尽くしていた。

勝利の喜びと言うよりは、ずっと己を縛っていた長い緊張から解き放たれた安堵に身を任せていたのだろう。

しかし龍騎やほむらは、確かにそこに立っているまどかを見て、たしかな希望を感じていた。

 

 

「帰ろう」

 

 

サキの言葉で止まっていた時間が動き出す。

こうして多くの命が失われ、復活し、交差する戦いが。

一つの運命が変わった戦いが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し、時間を巻き戻そう。

ライアはキリカとタイガを縛り、見滝原外に出る事によってルールによる死を狙った。

しかし土壇場でキリカが脱出。地に落ちたキリカは、すぐに空を見上げる。

 

 

「相棒ぉおおおお!!」

 

 

手を伸ばすキリカ。

しかしもう遅かった。ライア達は一瞬で遠くに、つまり見滝原の外に出て行く。

汗を浮かべて立ち尽くしていると、頭にキュゥべえの声が聞こえてくる。

 

 

『やあ、呉キリカ。たった今パートナーの死亡を確認したよ』

 

「ッ!」

 

 

キリカはフラフラとへたり込んで、空の向こうを見る。

ルールとして定められていたんだ。見滝原の外に出れば死ぬと。

そしてライア達はエリア外に出た。だったら死ぬのは当然、何もおかしな事は無い。

 

 

「――ぅ」

 

 

キリカはグシグシと服で目を擦る。

 

 

「すまない相棒、私の涙は織莉子だけの物なんだ。だからキミの死で泣く訳にはいかない」

 

 

彼女はキュゥべえから告げられるパートナー蘇生のシステムを聞き入れた。

50の命をデストワイルダーに捧げる事で、ミラーモンスターを騎士へと昇華させると。

 

 

「殺せばいいの? 食わせたほうがいいの?」

 

『一応殺すことでもカウントされるけど、食べさせた方が強化できるからオススメだよ』

 

 

しかしココで問題が一つ。タイガが殺した分はカウントされないと言う。

キリカはまだ50人も殺してはない。

フムと唸るキリカ。織莉子には怒られるかもしれないが、タイガは大切な相棒だ。蘇生させてあげたいと思う。

 

 

「よし、食わせにいくか」

 

 

待ってろよ相棒、すぐに復活させてやるぜ。

キリカはそう笑うとデストワイルダーを撫でて生贄を捜しに出発する。

確かに運命が変わったのは驚いたが、だからと言って織莉子とオーディンが負ける訳が無い。まどかもほむらも死んで皆ハッピーだ。

 

 

「ん?」

 

 

変身を解除して道を歩いていくキリカ。

まだ痺れが少し残っている様な気がする。

そんな時、道の端に一匹の猫が寝ている事に気が付いた。

黒猫だ。キリカはホウと唸ってそちらへ近づいていく。

 

 

「猫ちゃんミャーミャーどうしたのさ?」

 

 

別に猫が好きで仕方ないと言う訳ではないが、東條からダニーの話を聞いていたため、何故か不思議とその黒猫が気になってしまった。

常に織莉子の事を気にかけるキリカが、初めて織莉子を置いて優先させた事なのかもしれない。もちろん織莉子への想いが薄れたと言う訳ではないが、やけに黒猫が気になってしまったのだ。

 

 

「………」

 

 

キリカは黒猫を撫でながら、白猫――、ではなく、デストワイルダーを見る。

その性質は英雄らしいが、東條は一体どんな英雄像を目指していたのだろうか?

たとえばキリカが考える英雄とは、織莉子を守れる存在だ。

でもきっと東條の中にいた英雄は違う。

 

 

(そうだろ? 相棒)

 

 

キミは一体どんな英雄になりたかったのか……。

 

 

「あ」

 

 

少し乱暴に撫ですぎたか、猫はキリカの指を噛むと逃げる様に走り出した。

ゴメンゴメンと頭をかくキリカ。しかしその時に聞こえるクラクション。

まさか――、思わず変身して飛び出す。するとやはり、急に猫が道路に飛び出した物だからトラックが急ブレーキを踏んでいるじゃないか。

 

このままだと猫にぶつかってしまう。

普段のキリカならば助けなかったかもしれないが、今は違った。

減速魔法をかけつつ、自らは全速力で飛び出した。

 

 

「――ッ」

 

 

ドンと大きな音がして、視界がグルグルと反転して、滅茶苦茶になって。

そして、そして、そして――……。

キリカは倒れた。

 

 

「………」

 

 

悲鳴が聞こえる。

地面に伏せたキリカは、無言で状況を整理していた。

全身が痺れる様な感覚だ。ライアのエビルダイバーの電撃が原因だろう。

それが残っている状態で無理に身体を動かしたものだから、余計に痺れている感じがする。

そうしていると、キリカの周りに人が集ってきた。

キリカはそれを確認しつつも、無言で首だけを動かして辺りを見る。

 

 

「大丈夫ですか!」

 

「誰か救急車ッ! 早く!!」

 

「意識あるかッ? 安全なところに移動させろ!」

 

 

大人たちが集ってキリカを安全なところへ運ぶ。

それをボケーっと感じるだけだった。

トラックに轢かれたキリカは確かにダメージと衝撃は受けた。

しかし魔法少女に変身しているため、なんの事は無い。麻痺が残っているため、動かないだけで命に別状は無いし、立ち上がる事も出来る。

 

 

(あ……)

 

 

キリカは猫が無事なのを確認する。

猫はキリカを少しだけ見つめていたが、すぐにまた人の気配を感じて走り去ってしまった。

 

 

(……気まぐれな奴だな)

 

 

キリカはそう思いながら自分の回復に専念する。

10秒もあれば元通りだ。大人達は今も大げさに叫んでいる。

まあ普通、人間はトラックに轢かれれば死ぬんだから当たり前だろうが。

 

 

(そういえば相棒の話じゃ、車に轢かれそうになった親子を助けた人が英雄とか言われていたんだっけ)

 

 

だったらは私も英雄になれたって事でいいのかな?

なんだよ、簡単になれるじゃないか。キミも死ななくても良かったのに。

だってもう英雄なんだよ。キミより先になれたんだ。それを知ったら君は怒るかな?

ううん、きっと祝福してくれる筈だ。だって私はキミなんだから。

そうでしょ? 相棒――……。

 

キリカは立ち上がろうとするが、自分を囲んでいる多くの人にうんざりしていた。

しかし丁度良いと思う。こいつ等を食べさせて相棒を復活させようか。

キリカはそう思いつつ、もう一つだけ考える。

 

今、こうしてキリカは英雄になった訳だが、なんだか実感が湧かないと言うか、何かが変わった気もしない。

東條は一体、英雄になって何をしたかったんだろう。

 

 

「トッコ」

 

 

その時、キリカは肩を触られる感触を覚えた。

そして人々のザワザワとする声の中に混じって――

 

 

「デル」

 

 

低い、少女の声が。

 

 

「マーレ」

 

 

ポンと音がして、キリカは自分のソウルジェムがコロコロと地面に転がるのを確認した。

え? なんで? あれは駄目だよ、アレが無いと私は。

キリカはすぐに手を伸ばそうとするが、手が動かない。足が動かない。

見れば地面のアスファルトが変形していて、コの字の留め金みたいになっている。

それが手をガッチリとホールドし、キリカは立ち上がれなかった。

そうしている間にコロコロコロコロとソウルジェムが離れて行って、そして浮き上がる。

 

 

(何、コレ)

 

 

キリカが遠のく意識でそれを見ているだけしかできなかった。

駄目、そんなに離しちゃ駄目。なんでソウルジェムが飛ぶの? なんでソウルジェムが私から離れていくの。

誰もいないのにひとりでに宙に浮いて、訳がわからないよ織莉子。

 

ねえ、まだ私の知らない事がいっぱいあるんだね。

後で織莉子に教えてもらわないと。

あれ? 音が遠くなっていく。織莉子、私はもしかして――

 

ああ、ごめんよ織莉子。

やっぱりキミを優先させておくんだった。

寄り道なんてしないで、まっすぐにキミの元へ行っていれば。

愛してるよ織莉子、だからこんな役立たずの屑を許し――……。

 

 

「気をつけよう」

 

 

しばらくして、宙に浮かぶキリカのソウルジェムが言葉を放つ。

いや、違う。これはソウルジェムの言葉ではなく。

 

 

「暗い夜道と魔女の罠ってね」

 

 

公園のベンチに姿を現したのは神那ニコ。

彼女はキリカのソウルジェムを掴んでココまでやってきたのだ。

ニコは、ソウルジェムを太陽にかざしながらニヤリと笑う。

 

 

織莉子(ママ)とはぐれちゃったのかな? お嬢ちゃん」

 

 

まあ、もう聞こえてないか。

既にキリカとの距離は200メートルは離れている。

ソウルジェムが肉体の操作権を失うのは100メートル前後離れている時だと聞いた。

念のためにもう100メートル離れたのだし、レジーナアイを確認する限りはキリカも元の位置から動いてはいなかった。

 

 

「それにしても思わぬ収穫だったな」

 

 

ニコは手でキリカのソウルジェムを弄りながら携帯を確認していた。

まさかコッチにライア達が飛んでくるとは思わなかった。彼ら等の戦いは、透明化させたバイオグリーザに確認させていたが、ライアがコチラに来たときは驚きが隠せなかった物だ。

 

さらにキリカが脱出したのも、ニコにとっては最高に良い状況であった。

姿を消してキリカの後をつけていたが、まさかあんな良いタイミングで動きを止めてくれるなんて。

 

 

「ニコちゃんの普段の行いがいいからだな、うん」

 

 

さて、茶番はいいから本題と行くか。

ニコは再び透明になると、手塚が越えて行ったボーダーラインを目指す事に。

適当な車を見つけて飛び乗ると、しばらくすれば見滝原とその外のラインにやってくる。

ライアの時も確かめたかったが、どうにも空にいるのに加えて、速すぎてよく分からなかった。

 

ニコは大きな疑問を持っていた。

たとえば見滝原の外に出られないのは、既に見滝原の外の世界が滅んでいるからなのではないだろうかと。

しかしその考察は外れる。ミラーモンスターは外に出ても問題ない訳で、ビジョンベントで『風見野』が普通に存在しているのを知った。

そもそもネットじゃ今も外の町の様子が確認できるし、テレビだって生放送のお昼番組が毎日放送されている。

 

となれば、次の疑問の答えを求めていきたい。

それはルール違反で死ぬと言う点だ。参加者はどうやって死ぬのかが気になっていた。

爆発? それとも一瞬で粒子化とか? その答えをニコはどうしても知りたかった。

自分で証明してもいい訳だが、それはちょっと『目立ち』すぎる。

 

 

「………」

 

 

ニコは自分の分身を作り上げると、キリカのソウルジェムを持たせる。

本体は透明になったまま、少し離れた位置にスタンバイしておく。

爆発でもされては、巻き込まれる可能性があるからだ。

 

気になるのは、ソウルジェムが外に出たらどうなるかだ。

騎士の分身であるミラーモンスターは許されたが、魔法少女の本体はどうなのだろう?

さすがに本体なのだから、許されない筈だ。

 

 

「さ。じゃ、ま、ニコ選手お願いしまーす」

 

「了解! ニコ選手、小さく振りかぶって――!」

 

 

などと、透明で一人芝居と言うのは悲しいものだが、ニコは分身と会話を行いながらキリカのソウルジェムを思い切り――!

とは行かず、そっと地面に落とす様に投げた。

 

 

 

「!」

 

 

すると、キリカのソウルジェムは当然ルールに従い砕ける事に。

しかしその方法は、ニコが予想していた物とは全く違う方法であった。

 

 

(おいおいおい、隠せよ少しは! コレってつまりそう言う事なんだろ?)

 

 

ニコは汗と笑みを浮かべて後退していく。

いやいや、コレもまだ確定ではないか……。

 

 

「チッ、仕方ない」

 

 

危ない橋、渡っちゃおうかな。

ニコは踵を返してレジーナアイの画面を見詰める。

その時、脳に伝わるタイガペア退場のアナウンス。

 

 

「申し訳ない事をしてしまったな」

 

 

棒読み。

ニコはアンニュイな笑みを浮かべたままだ。

 

 

「ま、コレそういうゲームだし。悪いな呉キリカ」

 

 

ニコはリアクション薄く、完全に気配を消失させた。

そして時間が経って、夜。ニコは再び街に姿を現した。

 

 

『もう……、お前の顔は見飽きたぜ』

 

「こんな美少女の顔を何度も拝めるんだ、最高に幸せだろ?」

 

 

公園。

ジャングルジムの上で寝ていたジュゥべえの横に、ニコは座った。

 

 

『なんだよ、なんだよ、なんなんだよ、次は何を聞くんだよ』

 

 

投げやりなジュゥべえ。

ニコがキュゥべえではなくジュゥべえに近づいたのは理由があっての事だ。

どちらかと言えばジュゥべえの方がまだ擬似的な感情がある分、話が引き出しやすいと踏んだのだ。

 

即、話を切り出すニコ。

ある情報を教えて欲しいとの事だった。

大事な情報だ。とても大切な情報だ。

その質問を聞いて、ジュゥべえは珍しく無言になって固まっていた。

そして大きなあくびを一回。

 

 

『オイラと先輩に決まってんだろうが。つかノーコメントだな、ソレはゲームに関係ない』

 

「いいじゃんか、ケチんぼ。お前と私の仲だろ?」

 

『しらねぇよ、とにかく余計な事を言うとオイラが先輩に怒られるんだ』

 

「つまり、余計な事なのか? どうでもいい事じゃなくて、余計な情報が――」

 

『かぁー! お前友達すくねェだろ。いいかよ神那ニコ。友情を長続きさせるには一定の距離を保つ事が大事だぜ?』

 

 

じゃあな。

早口に言ってジュゥべえはニコの前から姿を消す。

フムと頷くニコ、確かにそりゃ大事な事で。

しかし、結局まともな話が聞けなかった。

 

 

「酷い奴だよ」

 

 

ニコはうんざりだ。

けれども、より一層彼女の中にある不安に似た疑問は膨れ上がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おいおい。ありゃ気づいちまったんじゃねーか?』

 

「……だとしても、問題は無いだろう」

 

『まあ、それも演出の一環だわな』

 

 

メガネを整える。

夜は進む。時は、流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【五日目】

 

 

「そっか、皆……、本当に死んじゃったんだね」

 

「ああ」

 

 

昨日、それぞれ家に戻った一同は死んだように眠りに落ちた。

ソウルジェムを操作せずとも、疲労は凄まじく、美佐子は一瞬本当に死んでしまったのではないかと思った程だとか。

 

ちなみに、さやかも美佐子の家にお世話になっている。

さやかに関しては、パートナーシステムやルールの関係で死後、情報が消されなかった。

つまり世間の人間には、まだ美樹さやかを知っている者がいると言う訳だ。

もちろんそれは家族も。そんな状態で家に帰れる訳が無い。

 

 

「なるべく外出も控えるんだぞ」

 

「ぶー、ゾンビさやかちゃんって事ですか」

 

「とは言え、いつまでもこのままではな……。そこはいずれ考えよう」

 

 

一同はリビングで紅茶やコーヒーを飲んで落ち着いていた。

美佐子が色々と用意してくれていたのだ。彼女は今日も朝から警察署に向かった。

なんでも、まどか達が戦っている裏側でショッピングモールで爆破テロがあったらしく相当忙しい様だ。

犯人は参加者なのだろうが、だからと言って捜査しないわけにもいかない。

さらに言えば犯人はゾルダなのだが、一同がそれを知るよしもない。

 

 

「それで――」

 

 

現在、会話はさやかが退場している間に起こった事のおさらいだ。

芝浦が学校を魔女に侵食させ、多くのクラスメイトや仲間が死んだ。

さやかは複雑に表情を歪ませる。

 

 

「ゆま……、中沢達も……」

 

 

中沢昴、上条の友達と言う事で、さやかも何度となく話した事がある。

仁美への恋心がある事も、様子を見ていればすぐに分かった。

しかしその淡い恋心は叶う事無く消えていく。

 

下宮鮫一だってそうだ。

彼も上条の友人と言う事で、話す機会は他の男子よりも多かった。

中学生とは思えない落ち着きで、ある種ほむらに似ていた様な。

下宮は死体すら見つかっていない。そういう生徒は他にも沢山いる。

みんな使い魔か魔女に食われ、両親はいつまでも帰りを待っているのだろう。

ゆまも、いろいろ辛い思いをさせてしまった。謝りたかったのに。

 

 

「仁美も……」

 

 

リーベエリスでの出来事も説明しておいた。

あとは、そう。上条の事だ。ほとんどやり取りはしていなかったが、まどかの携帯アドレスを知っていたので、上条は一通のメールを送っておいた。

 

それは風見野に引越しを行うと言う内容。

まどか達はそれを信じて、まさか彼がオーディンとは思わずその情報を鵜呑みにしていた。

それはさやかも同じだ。風見野に行かれては、追う術も無くなる。

ましてや現在さやかはゾンビ状態。上条はゲームと無関係だと思っているため、連絡は取れない。

 

それだけじゃない。

上条の両親や、彼の家は暴力団によって壊されたが、最近の見滝原では連日死者の情報が更新されていく。

葬儀もまとめて行われると言う異例の事態になっているので、誰も気がつけなかったのだ。

 

 

「それで、さやか。北岡さんのことは……」

 

「うん。それはね――」

 

 

さやかは北岡を蘇生させる気は無かった。

気のせいかもしれないが、好きにしろと言ってくれた気がする。

それでも思う所は多い。さやかは目を閉じて一筋涙を流す。

しかしすぐに表情をキリッと変えると、頬を叩いて気合を入れた。

 

 

「悲しむのはあとあと!」

 

 

とにかく今はワルプルギスの夜を倒さなければ。

さやかの言葉に、皆は同意する。最強の魔女を倒さなければ、見滝原は壊滅的な被害を受けると言うのだから。

 

 

「でさ、そのボナプロガツの夜って強いの?」

 

「ひ、一文字しかあってないぞさやか。ワルプルギスだ。しかもどう考えてもソッチの方が言いにくいだろ!」

 

「あれ? まじ? あ、あはは! 恥ずかしっ!」

 

「ふふっ」

 

 

顔を真っ赤にして頭をかくさやかと、笑みを浮かべるまどか。

リビングにはまどか、サキ、美穂、さやか、ほむらの五人が座っていた。

まどかはもう家に帰れない。かずみは父親の知久にも洗脳魔法をかけていてくれたらしく、さらに回復魔法まで。

 

そのおかげもあってか、知久は病院を退院して、風見野のホテルに詢子たちと共に一週間の宿泊予定だ。

とにかくゲームを終らせればまた家族で暮らせるはず。

まどかはそう信じている。だからそれまでは、彼女も皆と一緒に暮らす事になった。

美佐子には本当に苦労をかけるが、気にしないでと笑ってくれた。今はそれに甘えるしかない。

 

 

「………」

 

 

笑うまどかと、照れるさやかを交互に見て、ほむらは少しだけ唇を吊り上げる。

危険視していた四日目を無事に越える事ができて心に余裕があるのだろう。

それに手塚の事もある。救われた命だ、無駄には出来ないと思う。

そんな中で、ほむらは思わず口にした。

 

 

「うらやましいわ」

 

「え?」

 

 

目を丸めるさやか。

 

 

「羨ましい? あたしが?」

 

「まどかには、貴女の様な友達が必要なんでしょうね」

 

「でへへ、ありがと」

 

 

でも、と、さやかはほむらにウインクを送る。

 

 

「あたしは落ち着いてて美人さんな、ほむらが羨ましいけどね」

 

 

まどかに必要なのはちゃんと見ていてくれる人だ。

 

 

「あたしはどちらかと言うと突っ走っちゃうタイプ、サキさんは逆に甘やかしすぎるタイプ。まどかを立てつつ、しっかり守ってくれるほむらが傍にいるのに適任だよね」

 

「そ、そう……? 礼を言うわ」

 

「うんうん、胸を張りたまえよ」

 

 

面と向かってさやかに褒められる事が慣れていないのか、ほむらはついつい怯んでしまう。

しかし悪い気はしなかった。さやかにお礼と、ぎこちない笑みを返す。

そしてまどかも笑みを浮かべていた。

 

 

「ほむらちゃんも、さやかちゃんも、大切な友達だよ。順番なんてない」

 

「お、うれしー事言ってくれますなまどかは!」

 

「フッ。まどかはモテモテだな」

 

「そ、そんな事はないよ。もう、お姉ちゃんってば。へんなこと言うのやめて」

 

 

つかの間の穏やかな雰囲気と会話に、美穂も安心した様な表情を浮かべていた。

まあ、これが本来の彼女達と言えばそうなんだが。

 

 

「いいね、青春って感じで。眩しく感じるわよ」

 

「そんな歳でもないだろうに……」

 

 

美穂の言葉にサキは一度咳払いを行った。

名残惜しいが本題に戻ろう。さやかの質問は、ワルプルギスの夜は強いのかと言う話だ。

それに答えるのはほむら。彼女は複雑そうに顔を歪めて説明を開始する。

 

 

「強いなんて物じゃないわ。少なくとも魔女と言うレベルじゃない、あれは災害よ」

 

 

貴女も何度となく殺された――、とは流石に言えないが。

 

 

「ほむらは見たことあんの?」

 

「……話に聞いただけ。とにかく戦う時は細心の注意を払って」

 

 

さやかでは、ダメージを与えるためには魔女に近づかなければならないだろう。

それはリスクを背負う物となる筈。ほむらも、ワルプルギスの攻撃パターンを全て知っている訳ではない。

なぜならその前に全滅するからだ。

 

 

「聞いた話では、サイコキネシス、火炎放射、使い魔での攻撃と、バリエーションに富んだ攻撃パターンがあるらしいわ」

 

「油断はできないと言う訳か」

 

「ええ、そうね」

 

 

このまま順調に行けば、ワルプルギスの夜で協力できるのは――

龍騎、まどか、ほむら、さやか、サキ、ファム、織莉子、オーディンの8人だ。

騎士の活躍はそれなりに期待できそうだが、それを込みにして考えても、五分五分がいい所だろう。

 

さらに問題はそこだけじゃない。

これは順調に行けばであって、参戦派の存在がココでチラついてくる。

ナイト、かずみ、杏子、王蛇、リュウガ、ユウリ。そして得体の知れない七番のペア。

半数の8人が、七日目までに何らかのアクションをとってくるのではないかと。

 

 

「最も危険なのが最終日だ」

 

「ええ、ワルプルギスを狙う時が一番無防備とも言えるわ」

 

 

そこを狙われるのはキツイ。

しかし残り二日。正確に言えば明日までに説得するのは不可能と言っても良い。

何とかして彼等を止めつつワルプルギスを倒す。

そして倒した後も――

 

 

「………」

 

 

サキは心の中で思う。

やはりどう考えても王蛇ペアだけは殺さなければならないのかもしれない。

まどかはそれを絶対に認めないだろうが、戦いが終わった後も奴らは必ず参加者を殺そうと襲ってくるはず。

なにより、運命と言う物が、戦いが終わるまでに王蛇ペアと自分達を生かしておくのか?

 

 

(考えていても仕方ないか)

 

 

時計を見るサキ。

そろそろかと、彼女は立ち上がる。

織莉子には事前にメールを送っておいた。それを見てさやかも同じくして立ち上がった。

どうやらサキについて行くらしい。帽子とマスクをつけて、準備は万端だ。

ほむらと美穂には、ココでまどかを守ってもらう。

これで何とかなるだろう。

 

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「ん、任せてサキさん。もしもアイツが暴れだしても、さやかちゃんは一回勝っちゃったりなんかしちゃったりしましたから」

 

「キミの悪い所は調子に乗りやすい所だな」

 

「やだな、それは長所だよ!」

 

 

わーわー言いながら家を出て行く二人。

ほむらは紅茶に口をつけると、まどかと美穂を見る。

織莉子の件がうまくいけば、何とかはなりそうだ。

問題は変更された未来が定まったとき、自分達に都合のいい結果を示すかどうか。

もしも未来がワルプルギスの夜の勝利を示すようならば――

 

 

(手塚、私も未来を変えられるかしら……)

 

 

ほむらは紅茶を置くと、美穂とまどかの名前を呼ぶ。

 

 

「二人とも。七日目までに、なるべく悔いを残さない様にしておいた方がいいわ」

 

「!」

 

「やりたい事とか……」

 

「そうね、悲しいけどその覚悟は持っておいた方がいいかもしれない」

 

 

ほむらの話を聞く限りではワルプルギスの夜は巨大かつ最強。

F・Gのラスボスなのだから、自分達もタダでは済まないはず。

命が助かれば良し、腕の一本や二本くらいは持っていかれるつもりで戦わないと。

 

 

「やりたい事か……」

 

 

美穂は考える。

そうだな、やりたい事くらいやって死なないとな。

ああいや、死ぬならの話だけれど。

 

 

「まあでも実際、ゲーム始まってから私は常にその考えでいるけどね。明日死ぬかもしれないんだから食べる物は我慢しないとか。いつも飲んでいるビール、ずっとプレミアムバージョンにしてたり。って、こんなこと中学生に言っても分からないか……」

 

「えーっと、じゃあわたしは……」

 

 

首を傾げるまどか。

いざ死ぬ前にやりたい事と言われても、そうポンとは思いつかない。

しかしやりたい事、と言うより失いたくない時間ならばポンと思いつく。

 

 

「じゃあ……! お話しようよ! いっぱい、いっぱい!」

 

「へぇ、じゃあ私が中学生の時の話でも聞く?」

 

「うん! 知りたいです!」

 

 

最後まで、魔法と希望を信じて輝いていたあの頃のままでいたい。

それを知ると、ほむらと美穂は笑みを作ってまどかのリクエストに応えていく。

その光景は彼女が望んだ物だ。マミ達が生きていた頃と同じ様な光景だった。

 

 

「………」

 

 

ほむらは美穂の話を聞きながら、少し複雑そうに表情を変える。

 

 

(これで、いいのよね? 手塚)

 

 

 

 

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