仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第59話 告白 白告 話95第

 

 

【六日目】

 

 

「………」

 

 

真司は先ほどからソワソワと時計をしきりに確認していた。

まだ前に確認してから一分しか経っていないと言うのに。

現在、真司がいるのは見滝原の中にある遊園地だ。範囲内ギリギリにあると言うことで、エリアを示すベールがよく見える。

この遊園地は他の町から客が来る程の物ではないかもしれないが、ここら辺ではそこそこ立派な物だった。

どうして真司がココに来ているのかは、昨日の出来事を思い出して欲しいところだ。

 

 

「まったく、なに考えてんだよ……」

 

 

真司はもう一度時計を確認して呟く。

このまま順調に行けば、明日にはワルプルギスの夜がやってくる筈だ。

空は快晴だが、明日にはきっと嵐になるとほむらから告げられた。

 

考えるだけで緊張してくる。

明日には、このゲームが終わっているかもしれないのだ。

果たしてどうなるのか、それは真司にも分からない事。

 

 

「……蓮」

 

 

現在、蓮は普通にアトリで働いているらしい。

しかし真司は会いに行けない。行ってしまっては戦闘になるからだ。

説得をしようにも、真司自身、蓮の性格はよく知っている為に無駄だと言う事が分かる。

 

だがもしも蓮を本当に説得させたいのなら、やはりこの拳を振るわなければならないのかもしれない。

戦って、ぶつかって、そして分かってもらう以外には無いと。

だからこそ真司は心の中で一つの答えを出していた。

 

 

(会いに行くべきかな……)

 

 

例え、拳を振るう事になったとしても。

 

 

「よ!」

 

「!」

 

 

考えごとをしていたからか、真司は美穂の声に驚きビクリと肩を揺らす。

今日ココに来ている理由は、美穂に誘われたからである。

デート、とは言っていたが果たしてどんな意思があっての事なのか?

真司は携帯をしまうと振り返り、美穂へと視線を移した。

 

 

「――ッ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「え? ああ、いやッ!」

 

「ははーん」

 

 

普段の美穂はジャケットだのジーンズだの、どちらかと言えば男まさりなテイストだが、今日は白のワンピースにカーディガンと控えめな服装である。

 

 

「なんだよ真司、私の美しさに見惚れたか?」

 

「ば、馬鹿言うなよ」

 

「嘘おっしゃい。やっぱ男はギャップに弱いわね。ほら、今のうちに生足を堪能しておきなさい」

 

「下品だぞお前!」

 

「無駄だ城戸真司。あんたのタイプがザ・お嬢様だと言う事は調べがついている」

 

「ぐぅううう……!!」

 

 

スカートを掴んでヒラヒラと足を強調する美穂。

ケラケラと笑う姿を見て、やはり中身は普段ままだとつくづく実感する。

一瞬だけ少しときめいてしまった自分が情けない! 真司は首を振ると、一端心を落ち着けることに。

 

 

「寒くないのかよ」

 

 

真司はセーターだから大丈夫だが、今日は少し風が冷たい。

これから何かに乗るのなら風も強くなるだろうに。

 

 

「大丈夫だよ。寒くなったら真司に暖めてもらうから!」

 

「馬鹿言えよ! ま、まあ寒くなったら言えよ?」

 

 

とにかく入り口でウダウダやってても仕方ない。

今日と言う時間もまた有限だ。二人は取り合えず中に入る事に。

ゲームの事だの、脱落者達の事だの、色々と思う所はあるが、今日くらいは全てを忘れて楽しむのもアリかもしれない。

美穂だってきっとそう言った意味を込めて誘ってくれたのではないかと、真司にしては珍しく思考を働かせてみる。

 

 

「ん、じゃあ行こ!」

 

「お、おい! 何やってんだよ!」

 

 

美穂は真司の腕に自分の腕を絡ませる。

慌てて振りほどこうとすると、美穂は不満げに頬を膨らませた。

無言の圧力に汗を浮かべる真司。何故自分が責められた様になっているのか。

 

 

「な、なんだよ」

 

「不満なの?」

 

「いや、そうじゃないけどさ。ホラ、こういうのは恋人同士がする物だろ?」

 

「かたッ、こういうのは雰囲気なのよ」

 

「???」

 

「どうせアンタは馬鹿だから恋人なんてできないわよ。だから美穂さんがその雰囲気を味合わせてあげるってのに」

 

「余計なお世話だ! 早く入るぞ!」

 

 

真司は呆れたように、美穂から離れてチケットを買いに走る。

一方で腰に手を当てて美穂はため息をついた。少し残念そうに笑みを浮かべており、そして――

 

 

「クッ! 今のは減点だぞ城戸真司ッ。あそこは腕を組んだまま進んだ方が良かったのに!」

 

「ねぇねぇー! あたしにも見せてよサキさん!」

 

「………」

 

「あ、あはは」

 

 

少し離れた所の物陰。

そこには、何用に使うのかも分からないほど巨大な双眼鏡を構えて縮こまっているサキがいた。

隣ではサキの服を引っ張っているさやかと、二人を無表情でジットリ見ているほむら。あとは苦笑気味のまどかが立っていた。

つまりの所、彼女達は真司たちを尾行()けているのである。

 

事の始まりは午前中の事だ。

打倒ワルプルギスに向けて、激しい特訓を行っていた四人。

まどかは魔力コントロールと天使召喚の把握。

サキはイルフラースの制御。さやかは戦闘の中で冷静さを保つ事などのメンタルトレーニング。ほむらは今ある力でどう戦うかの計算などなど。各々で出来る事をやっていたのだが、流石に魔法を連続使用するのは体力や精神力をガリガリと削られていくと言うものだ。

 

サキは皆の様子を見て休憩を提案。

疲れていた一同は、彼女の提案をなんなく受ける事に。

流石はサキ。彼女のリーダーシップは頼りになると、ほむらは心の中で思ったのだが――

 

 

「………」

 

 

ほむらは相変わらずジットリとした視線でサキを見ている。

休憩とは、てっきり美佐子の家でお茶でもするのだとばかり思っていたが、結果は今に至る訳である。

美佐子が張り込みを始めて行う際、形から入るために買った尾行道具セット(双眼鏡やサングラス、付け髭まで)を借りて、一同を半ば強引に遊園地へ引っ張っていった。

 

 

『正直――ッ、気になってしかたなかったんだッッ!!』

 

 

サキは真面目な表情と、真面目なトーンで、ふざけた叫びをあげる。

ココ最近は暗く重い出来事が続いていた為に忘れていたが、本来浅海サキは他人の色恋には目が無いのだ。

 

 

『このまま胸にしこりを残したままワルプルギスとなんか戦えるか! 真司さんと美穂がどうなるのかを考えただけで――ッッ! あぁぁぁ! 死んでも死に切れん!!』

 

 

ってな物である。

さやかもさやかでノリノリの為、結局サキの暴走に拍車をかけてしまう事に。

 

 

「でも、やっぱりいいのかなぁ?」

 

「いい趣味とは言えないわね」

 

「耳が痛いな……。それは確かに」

 

 

サキは一瞬だけ申し訳無さそうに俯く。

だが一瞬、そう一瞬。サキが顔をあげると、メガネの奥の目が光を放つ。

 

 

「でも、気になるだろ」

 

「「………」」

 

 

正直、ちょっと気になる。

だからまどかも何だかんだと付いてきた訳で。

いやいや確かに悪い事とは分かっちゃいるが、やっぱりパートナーの恋愛事情は気になる訳で。

 

真司と美穂はまどかの目から見て、とてもお似合いだった。

それにこんな状況だからこそ、うまく行ってほしいと思う気持ちもある。

 

 

「そう、これは応援なのだ」

 

 

サキはそこに付け込む――、ではなく割り入る。

 

 

「ただしいいか? 皆。絶対に邪魔しちゃいけないぞ」

 

 

余計な事をすれば、デートの邪魔をしてしまう事になる。

だが考えてもみてほしい。サキ達の存在が気づかれなければ、それは何の問題もない筈。

デートに支障は出ないし、当たり前だがサキ達は存在しない事になっているのだから付いて来ない時と同じ展開になる。

水を差す事なく、ただ遠巻きに観察するだけ。それだけだ。

 

 

「それに私達も、たまには遊園地で遊ぶのもいいじゃないか」

 

 

辛い事が続いた時こそ、息抜きだ。

そんな気分になれないかもしれないが、最後の最後まで巻き込まれる前の自分達でいようと一同は決めた。

 

その言葉を聞いて、渋々ほむらも納得する。

ほむらの場合は多少なりとも真司たちの事も気にはなるだろうが、何よりもまどかが行くと行ったから付いてきた訳だ。

それに集合している方が安全と言う事もあるしとの事。

 

 

「む! サキ隊長ターゲットが中に入って行きます!」

 

「なんだとッ!? いかん、出遅れるなよ諸君!」

 

「ラジャー!!」

 

 

サキとさやかは物陰に隠れながら、すり足で真司達を追いかける。

 

 

「逆に目立つでしょうに……」

 

 

ほむらはポツリと呟いたが、もう二人には届かない。

まあなんだ、本人達が楽しければそれでいいのかもしれない。

 

 

「わたし達もいこっか」

 

「ええ、そうね」

 

 

まどかの笑みに少しだけ表情を和らげる。

しかし気のせいだろうか? なんだが、この光景に既視感を覚えると言うか何と言うか。

気のせいか。ほむらは割り切ってサキ達を追うのだった。

 

 

一方遊園地内にやってきた真司と美穂。

せっかく来たんだ、何かに乗ろうと言う話になる。

遊園地などもう何年も行っていない。真司もテンション高く、辺りを見回していた。

けれどもすぐにクールダウン。やはり街の現状が現状なので、客が少ない。

普通に笑っている家族連れやカップルはいるのだが、何ともまあ複雑な物である。

 

 

「何乗るんだよ、コーヒーカップか? メリーゴーランドか?」

 

「くぁー、おいおいガキかアンタは!」

 

「うるさいな! 好きなんだからいいだろ!」

 

「まあそれもいいけど、最初はやっぱりさ」

 

「?」

 

 

そう言って美穂が指差したのは絶叫系のマシンが並ぶエリアである。

真司の表情が引きつる。対してニンマリと笑う美穂。

そう、これは確信犯も確信犯。悪意ある選択であった。

 

 

「覚えてるよ。高校時代の修学旅行。真司様はちっせぇジェットコースターでピーピー泣いてたわよねぇ」

 

「うるさい。あん時は俺も――! そう、俺も子供だったんだよ……!」

 

「ほうほう、じゃあ今は乗れると言うのかしら」

 

「あ、当ッたり前だろ! ふふん、じゃあ進化した俺を見せてやる!」

 

「んん、そうこなくっちゃ!」

 

 

相変わらずニマニマ笑う美穂を見て、真司は汗を浮かべながらも必死に言い聞かせる。そりゃあ絶叫マシンは、苦手か得意かと聞かれれば、答えは簡単。

苦手だ。

 

けれども、それはどちらかと言えばな話だけで、全く苦手とは言っていないじゃないか。

それに今まで色々な修羅場を潜り抜けてきたわけだし。ドラグレッダーにも何度と乗ったことがあるし。飛んだし。いけるし。

 

 

「ホラ、上がるよ真司」

 

「………」

 

 

はしゃぐ美穂に連れられて、真司は無言で後をついていく。

二人の行く先には、丸太を模したライドマシンが待ち構えていた。

水の坂を滑り落ちるタイプのアトラクションだ。季節が季節の為、人も全然並んでない。当然だ、このクソ寒い中で誰が並ぶというのか。馬鹿くらいである。男女二人なら馬鹿ップルである。

 

 

「落ちた時に写真撮ってくれるんだって」

 

 

美穂はレバーを降ろしたときに自らの愚かさに気づいたが、その時にはもうお姉さんが笑顔で手を振ってくれているところだった。

丸太は二人乗り。前にに美穂、後ろに真司だけを乗せた丸太が発進していく。

 

 

(我ながらチョイスがヤバイな……。並んですら座れんとは)

 

 

美穂がふと後ろを見ると、真司が真っ青になって震えていた。

 

 

「や、やっぱ降りようぜ美穂。ちょっと急用を思い出したんだ」

 

「もう頂上なのに何言ってんのよ。ホラ落ちるよ!」

 

「え!? ちょ、待――ッ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

真司の悲鳴と共に、坂を滑り落ちていくマシン。

美穂は楽しそうに笑っているが、真司はただただ情けない悲鳴をあげて落下していった。

後で写真を見てみたら、美穂はしっかりとピースなんかを決めているが、真司は白目を向いて放心していた。

 

 

「お写真、よければどうですか?」

 

 

スタッフのお姉さんはまぶしい笑顔で聞いてくるが、一体何の理由があってあんな情けない姿を晒した証拠を買い取らなければならないのか。

黒歴史だ。真司はやんわりと断ると、出口のゲートを目指す。

 

 

「あ、じゃあ一枚」

 

「お、おいおい!」

 

 

とは言え、ノリノリの美穂。

こうして『白目の真ちゃん』と言う不名誉なあだ名を付けられただけでなく、その証拠品まで手にされてしまった。

真司も真司で、流石にスタッフの前で「買うなよ」とは言い辛く、結局無言を貫く事に。

 

 

「さ、じゃあ次行こう!」

 

「え? あ、ちょ!」

 

 

美穂は真司の手を取ると、さっさと歩いていく。

なんだかごく普通の流れとは言え、手を握っている事に真司は焦りと恥ずかしさを覚えてしまう。

いや、考えすぎか? 意識し過ぎか? 最近の男女は簡単に手を繋いだり抱き合ったりするものだとネットニュースで見た気がする。

 

 

「あ、お客様! ソッチは上級者用で――」

 

「え? 嘘! あ、おい! ひっぱんなよ!!」

 

 

引きずられて行く真司を見て、汗を浮かべるスタッフ。

この乗り物で青ざめていては向こうは厳しそうだが。とは言え、真司はそんな事を知る由も無く連れ去られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるな美穂。あんなにスムーズに手を繋ぐとは――ッ!!」

 

「私達、何しに来てるのかしら……」

 

 

サキ達は時間差で同じアトラクションに乗っていた。

上がって行く丸太の上から、サキは双眼鏡で真司たちを観察している。

サキの後ろでは、ほむらが珍しく汗を浮かべて表情を歪めていた。

明日には最強の魔女との決戦だと言うのに……。なんだこの、この、不毛な、この……。

 

 

「え? ま、まだ上がるのさやかちゃん! ふ、ふぇぇえ!」

 

「あはは! まどかはまだまだ怖がりだねぇ! じゃああたしに掴まっておきなよ」

 

 

遥か後ろでは対照的にキャッキャキャッキャと楽しそうな声が聞こえて来る。

絶叫マシンが苦手なまどかは、前の席にいるさやかにガシっとしがみ付いて、下を見ない様にしていた。

 

それを見てほむらは一つ考えを改めることに

まあ確かに根気詰めていても仕方ないのか?

いやいや、だけどやはりワルプルギス対策をおろそかにすると言うのも――。

 

 

「まあ、そう苦い顔をするな」

 

「!」

 

 

双眼鏡を構えながら、サキはほむらに視線を移さずに言った。

一瞬、真司たちに向ける独り言なのかと思ったが、そんな事は無い。

サキはほむらが気づかぬ内に、表情を観察していたのだ。

 

 

「キミの気持ちは分かる。いや、キミからしてみれば――、軽い言葉に聞こえるのかもしれないが……」

 

 

サキはワルプルギスの恐ろしさを知らない。

身を以って体験したほむらからしてみれば、今の時間が無駄だと思うのも無理はない。

しかしだ。時間は有限だからこそ、やって起きたい事もあるじゃないか。

 

 

「嫌な言い方だが……、私達がこうして一緒に遊べるのも最後かもしれない」

 

「……!」

 

 

ほむらの言う事を信じるなら、ワルプルギスの夜を倒すためには命を賭けなければならない。全員が生存できる可能性はどれくらいだろうか?

夢や希望を持ちたい所ではあるが、きっと――……。

 

 

「安心して欲しい、私はワルプルギス討伐に全力を尽くす」

 

「それは……、そう、でもそれは私もよ」

 

「だったら、なおさらだ」

 

「え?」

 

 

マシンが、坂を滑り落ちた。

水しぶきが舞う。ほむらは一瞬、そこに血の飛沫を視てしまった。

 

 

「命を賭けると言う事、それは決して軽い言葉ではない……」

 

 

サキは、必ず誰かが死ぬと思っている。

それはマイナス思考なのかもしれないが、そんなに甘いゲームではなかった。

気づけば大切な人たちが死んでいき、いつ自分が終わるかも分からない。

 

 

「お、おちっ! 落ちちゃうよさやかちゃん! ふあぁ! おちっ! おちちゃうぅッ!」

 

「あはははは! あははははは!!」

 

 

楽しそうな声が後ろから聞こえてくる。

まどかとしても、いろいろ悲しい事があったが、さやかがいる喜びは確かな物だろう。

もちろんそれで仁美や他の仲間を失った悲しみが消える訳ではない。

しかし残された時間の中で、親友が戻ってきたと言う喜びは、考えただけでも確かな物だ。

 

 

「まどかが、さやかとの思い出を作る事も、必要だと私は思っている」

 

 

それだけじゃなく、生き残ってきた自分達との思い出もだ。

今までは悲しい思い出ばかりだった。それで終わると言うのは寂しい物があるじゃないか。

 

 

「例えば――、そう例えばだぞ? さやかや私がワルプルギスとの戦いで命を落とすとしよう」

 

 

北岡はもういないし、美穂にそういう役目は負わせたくない。

だとすると、もうサキ達が戻ってくる可能性はゼロなのだ。

それだけではなく、周りの人間からは美樹さやかや、浅海サキの存在と記憶が消える。

 

 

「しかし生き残った参加者は覚えている」

 

 

だからその時、思い出せる記憶に、何か一つでも楽しい思い出があると良い。

 

 

「そう。でなければ……、寂しすぎる。戦いの記憶だけではな」

 

 

だからこそ今日、遊園地に来たのは大いに意味があるとサキは思っている。

それは美穂達にとっても同じだろう。戦いで苦しむ記憶だけでなく、確かにこうして笑って楽しむ記憶があれば、それは大切な希望に。財産になってくれる。

 

そう、これからの戦いの中で、今日の記憶が希望になってくれれば良い。

そうすれば絶望する確立も少しは下がってくれるのではないかとサキは笑った。

 

 

「キミも後で、まどかと色々乗ると良い」

 

 

まどかを守る事も大切だが、まどかと良い思い出を作る事も必要だから。

サキはマシンから降りながらそんな事を言う。

先に下りたサキはほむらに向かって手を差し出した。

 

 

「足もとに気をつけて」

 

 

少しポカンとしながらも、ほむらその手を取った。

 

 

「少し――、意外だったわ。まさかそこまで考えていたなんて」

 

「もちろん純粋に趣味に没頭したいと言う思いもあるさ」

 

 

言うなれば趣味と実益を兼ねていると言えばいいか。

サキもサキで、残る時間を有意義に過ごしたいと思う心がある様だ。

それを聞くと、ほむらはサキと共に、近くの柵にもたれ掛かってまどか達の到着を待つ。

 

 

「私よりほんの少し早く生まれただけなのに、余程大人ね」

 

 

マミだって、未熟な所も見てきたけど、大人な部分もあった。

 

 

「ループの時間を含めれば、私の方が遥かに長生きなのに」

 

「……私は子供さ。所詮は大きく背伸びをしているだけだ」

 

 

死ぬのは怖いし。

ワルプルギスの事を考えるだけで心が押し潰されそうになる。

 

 

「今も、それらしい言葉を並べて……、要は現実から逃げたくて逃避しているだけなのかもな」

 

「でも結果的にはソレが良い方向に進んでる」

 

「それは、どうも」

 

 

笑顔で戻ってくるまどか達を見てそう思う。

 

 

「貴女のリーダーシップは中々だわ」

 

「はは、キミに褒められるのは新鮮だな」

 

 

けれどもそれもまた、背伸びの一つでしかない。

先輩として必死に振舞っているだけだ。

マミを意識して、なんとか壊れまいと踏ん張っている。

少し道が違えば、今頃ゲームに飲まれてほむら達の敵になっているのかもしれなかったし。

 

 

「脆いよ私は。そう、弱い生き物だ」

 

「でも貴女は今こうして、皆の事を考えているわ。貴女とはもっと早く出会いたかった。そうすれば……」

 

「買いかぶりすぎだよ。私は運が良かっただけさ。周りに助けられたから呑まれなかった」

 

 

冷静でいられたのは、仲間がそうさせてくれたからだ。。

余裕があったからこそ、周りを考える余裕を持てた。

 

 

「だからそれは私だけの力じゃない。少し道が違えば敵になっていたかもしれない。そういう脆い上に成り立つのが、人と言うものでは?」

 

「………」

 

「だから他の時間で出会っても、私はキミの助けにはなれなかったかもな」

 

「そんな事……」

 

 

サキはそんなつもりは無いのだろうが、ほむらとしては少し責められている気がして、胸がチクリと痛む。

 

 

「キミを見ていると、一度どこかで会った気もする」

 

「え? でも……」

 

「もしかしたらどこかの時間軸で、私はキミに瞬殺されたのかも。フフ」

 

「そんな、まさか……」

 

 

既視感。デジャブと言う言葉には、ほむらも引っかかる物がああった。

その引っ掛かりの正体は分からないが。

 

 

「とにかく人は些細な事で変わる物だ。それはキミも知っている筈だろう?」

 

「………」

 

 

確かに。

時間軸を行き来する中で、多くの人の変動を見てきた。

今回で言うならば、佐倉杏子の様に、同じ人間でも別人の様に変わる事だってある。

 

 

「だから不可能じゃないはずなんだけどね。協力と言うのも」

 

 

何か因子だの環境だのが整えば、きっと分かり合える筈なのだ。

 

 

「そうね、そんな時間軸も……、あったのかもしれないわ」

 

 

尤も、今となっては夢物語にしか過ぎないが。

そうしているとフラフラとまどかがやって来る。

そこでサキは表情を一変させる。

 

 

「さあ皆! ターゲットは既に他の乗り物へと移動中だぞ! 早く追わねば振り切られてしまう!」

 

「ラジャー!」

 

「ふぇぇ、また乗るのぉ?」

 

 

涙目のまどか。

それを見て、サキは小さくほむらの肩を叩いた。

 

 

「?」

 

 

ほむらが首を傾げると、サキはウインクを一つ。

そしてほむらだけに聞こえる声で呟いた。

 

 

「声を掛けてみたらどうだ?」

 

「あ……、え、ええ」

 

 

咳払いを一つ。

そしてほむらは、フラフラのまどかの前に立った。

少し緊張しているのか、同じ様な表情とはいえ。普段よりも少し硬い気がする。

そして少し声も震えているような――?

 

 

「つ、次は私と……、乗りましょう?」

 

「うん、絶対離さないでねぇ!?」

 

 

まどかは泣きそうになりながらも、笑みを浮かべてほむらにしがみ付く。

さやかはケラケラと笑って、サキはニッコリとその様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ギエエエエエエエエエエエエエエ!!」」

 

 

流石はパートナーなのか。

次のジェットコースターに乗った龍騎ペアの悲鳴は同じような物だった。

最前列には真司と美穂が、そして最後尾にはまどかとほむらが乗っている。

ほむらとしては同じ車両に乗るのは流石にバレるのではないかと思ったが、どうやら真司にそんな余裕は無く、美穂もいちいち周りの人間は気にしていない様だった。

 

 

「ムっ、見てみろさやか! あの二人今も手を繋いでるぞ」

 

「うほーッッ! ときめきますなぁ! うひひひ!!」

 

 

ほむらの前にいるサキ達がはしゃいでいる。

しかしその位置なら双眼鏡使う必要は無いのでは――?

ほむらは言葉を飲み込んだ。

 

 

「………」

 

 

ほむらは隣で震えているまどかを見る。

彼女もまた、ほむらの手をしっかり握っているが、それは振り落とされない為であって、きっと真司も同じ感覚で美穂の手を繋いでいるのではないだろうか。

とは、思ったが。こんな所で言う訳にもいかず、ほむらは複雑な表情を浮かべながらまどかを励ましていた。

 

 

「あははは! 大丈夫? 真司。楽しかったね」

 

「う、ぅぅ……! どこが」

 

 

コレもまた真っ青になった白目を剥いている写真だった。新たなる黒歴史である。

悔しそうに唸る真司だが、そこで気づく。ずっと手を繋いだままだ。

真司は少し複雑な想いで美穂を見た。どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、たまに分からなくなる時がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 

真司はその語もしばらく付き合わされて何個かマシンに乗ったが、流石に身が持たないと判断して休憩を提案する。

美穂としても疲れた所だった。二人は室内にあるフードコートで、ソフトクリームを注文する事に。

 

 

「ハァ、やっと解放された」

 

 

真司はバニラソフトを二つ手に持って、一つを美穂に差し出した。

 

 

「バニラでいいよな」

 

「うん、いいよ」

 

 

美穂はニコニコと笑ってアイスを受け取ると真司の隣に腰掛ける。

 

 

「な、なんで隣なんだよ」

 

「デートだから」

 

「答えになってないだろ!」

 

「嫌なの? 嫌なら止める! 嫌か良いかで答えて!」

 

「え? あ、いや別に嫌って言うか……、まあ嫌じゃないけど」

 

「じゃあ、このままで良いよね?」

 

 

ギョッとする真司。

正直言えば、嫌かどうかで言われれば、全然嫌じゃない。

情けない話(?)だが、ハッキリ言って美穂が隣に来たときに少しドキリとしてしまった。

 

アイスの匂いに混じった、優しい匂いに、思わずドキドキしてしまった。

どうにも美穂といると調子が崩されてしまう。

とは言えど、周りの目が気になったりして恥ずかしいから、いつも何とも言えない態度になってしまうのが問題だが。

 

 

「まあ、別に……、いいけど」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「あ、ああ」

 

 

真司はどうしていいか分からず、逃げる様にアイスに口をつけた。

一方で、美穂は何かに気づいたようだ。、アッと声をあげて、下を指差す。

 

 

「真司。靴紐ほどけてるじゃん」

 

「え? ああ。言われてみれば」

 

 

落ち着きが無い。

編集長や令子にもよく言われる。

だからなのかは、知らないが、こうしてよく解けているのだ。

 

 

「仕方ないなぁ」

 

 

美穂は自分のアイスを真司に預けると、しゃがみ込んで靴紐を手早く結びなおしてあげた。

 

 

「ガキ」

 

「う゛ッ!」

 

「……はい! 靴紐くらいちゃんと結んどきなよ」

 

「あ、ああ。サンキュ」

 

 

位置的な問題だからか。

上を向いてニッコリと笑う美穂が普段とは違う表情に見えて、またドキリとしてしまう。

要するに上目遣いと言う奴だろう。しかも胸も強調されているポージングになっており、真司は思わず頬を赤く染めて視線を逸らした。

 

 

「なあ真司――」

 

「?」

 

「私、意外と胸あるだろ」

 

「ブほッ!!」

 

 

やっぱわざとだったらしい。

真司はやられたと言う表情で、涼しげにアイスを食べている美穂を睨む。

 

 

「「………」」

 

 

ふと、沈黙が二人を包む。

無言でアイスを舐めている二人。少し気まずさを覚えてしまうものだ。

とは言え原因は色々ある為になかなか複雑な物、だからこそ沈黙してしまう訳で。

 

 

「そ、その……、さ」

 

 

しばらくして美穂が口を開いた。

先ほどの彼女からは想像もつかない程、歯切れの悪い喋り方だった。

それが何を意味するのか? 少し離れた所で観葉植物の陰に隠れていたサキは目を光らせる

 

 

「美穂の普段からは想像できない、しおらしい態度……ッ、まさかッ!」

 

「え? 何、何!? ちょっと見せてサキさん!」

 

「ま、間違いない! あれは美穂が動くのか!?」

 

 

サキの言葉に反応する一同。

確かに美穂の様子が変わったのは、一目瞭然だった。

と言う事は――、そういう事なのか?

そしてやや間が空いた後、美穂がついに動く。

 

 

「ごめん」

 

「え?」

 

 

目を丸くする真司。

 

 

「なんだよ、いきなり、ああいやッ、謝られる心当たりは山ほどあるけど……」

 

「いや、あのね。なんていうか、こんな時に誘ったりして」

 

「……ああ、成る程」

 

「私だって空気読めてないなって思ったのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしよう、真面目な話だった……)

 

 

サキとさやかは汗を浮かべて、奪い合っていた双眼鏡から視線を外す。

後ろでは、ほむらがやはりジットリとサキ達を見詰めながらチョコソフトを食べている。

隣ではまどかがバニラソフトを夢中で食べていた。

バニラを選んだ理由は、人が食べている物はおいしそうに見えるよね、との事らしい。

 

 

「………」

 

 

ふと、ほむらは自分の舐めていたソフトクリームを見る。

なんだろう? 何か――、既視感のようなものを感じる。

前にもこの遊園地でソフトクリームを食べたようなデジャブ。

けれども、何かが違う。何かが抜け落ちているような感覚だった。

既視感の『ようなもの』とは、それである。

空白があった。頭の中に。

 

 

「………」

 

 

隣にいるまどかに自然と視線が移る。

なんだか、そう――……、あの時も隣で誰かがバニラを食べていたような。

しかしあの時とはいつ? 誰かとは誰? ほむらはそれが全く思い出せずに表情を歪めた。

 

 

「あ、ほむらちゃんも食べる?」

 

「え?」

 

「わたし口つけちゃったから、それでもいいならだけど」

 

「ああ、えっと――」

 

 

まどかはほむらが自分のバニラを食べてみたいと勘違いしたのだろう。

ほむらもほむらで呆気に取られていた為、どうしていいか分からず――

 

 

「い、いただく……、わ」

 

 

と、つい返事を。

 

 

「よかったら、こっちもどう?」

 

「え? いいの!? 実はチョコも食べたかったんだぁ」

 

 

笑顔のまどかを見て、ほむらも釣られる様に唇を吊り上げる。

しかしココでまた小さな既視感。前もそう、誰かと交換を――?

いや、もしかしたら忘れているだけで、ループの中でそう言った事もあったのかもしれない。ほむらはそんな答えを出して、割り切る事に。

一方の真司と美穂。突然謝った美穂に、真司は気にするなと言う。

 

 

「まあ、コレがお前のやりたい事なら、いいんじゃない?」

 

「じゃあ真司はさ。今、楽しい?」

 

「それは……、た、楽しいさ」

 

「なら、良かったけど」

 

 

真司はコーンを一かじり。

 

 

「楽しいけど……」

 

 

北岡や手塚の死は。今でもどこか嘘なんじゃないかと思ってしまう。

憎まれ口を叩き、捻くれた北岡は、真司の知らないところでアッサリと死に。

色々な事を教えてくれた手塚もまた、答えを出すと言う形で死を選んだ。

そして過程や想いの差はあれど、結果的には二人は自分のパートナーを生かす形となった点も、真司にとっては考えさせられる事である。

 

 

「喪失、感? ずっと胸に穴が開いた様なところはある」

 

 

特に手塚とはよく行動を共にしていたと言う点もあり、ショックも大きい。

しかし手塚が言ってくれた占いの忠告と、手塚が運命を変えられたのでは? と言う点はずっと胸に残っている。

それは悲しみではなく、ある意味で達成感や尊敬とでも言えばいいのか?

手塚は答えを出せたのだろうきっと、その点は悲しむよりも賞賛をしたい。

 

 

「まあ俺もちょっと気分は変えたかったし。嫌ならオーケーしないって」

 

「そう? 誘い方もホラ、強引だったし」

 

「本当だよ。もうすんなよ」

 

 

二人はほぼ同時にコーンの先端を口の中に放り投げる。

それを飲み込むまで、再び沈黙だ。

 

 

「でも、またなんで遊園地なんだよ」

 

「そりゃ、来たかったからよ」

 

「………」

 

 

そうですか、としか言いようが無い。

真司が間抜けな顔を浮かべていると、美穂が少し顔を赤らめた。

なんだか迷っているような、そんな表情だった。

これまたおかしな話だ。何でもかんでもスパスパと言ってくるくせに、何を今更戸惑うことがあるのだろうか。

 

 

「なんだよさっきから、そのモジモジ感は」

 

「いや、ほら……、私はあんたの事、本当に凄いと思ってるんだよ」

 

「お、おお」

 

 

いきなりの褒め。

喜んでいいのか裏があるのか、複雑な表情を浮かべる。

美穂は真司の方を向かずに、床を見ながらその後も褒めていった。

以前BOKUジャーナル内で言っていた事と、だいたいは同じ内容だが。

 

 

「まあ馬鹿だなって思うときもあるけどさ、逆にそれは普通の奴じゃできない事をやってのけるって事でもあるじゃんか」

 

 

リーベエリス跡地でも、美穂は戦いを止めると言う事を軽く諦めてしまった。

直感的に無理だと思ってしまう。先の事を考えれば考えるほどウンザリしてしまう。

真司だってそれは分かっている筈。けれども今も尚、口を開けば言う事は同じだ。

あの手塚でさえ結果的にはほむらは助けれど、東條達を殺すという事になったのだから、真司と同じとは言えないだろう。

 

 

「別に……、俺だって自信はねぇよ」

 

 

ふとした瞬間に考え方が変わってしまうかもしれない。

でも少なくとも、今は戦いを止めたいといい続けたいと、まだ思える。

 

 

「答えらしい物が見つかったかもしれない……。まあ、まだ"らしい"だけど」

 

 

それは手塚の言葉が導いたものだ。

手塚は占いで真司の運命を視て、その上であの言葉をかけてくれた。

だったら真司としては手塚を――、何よりもそれを信じた自分自身を信じたいと思う。

 

 

「ん、でもやっぱ私は凄いと思う。凄い、凄いね……」

 

「よせよ。褒めても携帯代は払わないぞ。牛丼くらいなら」

 

「バカ。そういうんじゃないから」

 

 

怒られた。真司は肩をすくめる。

 

 

「だから――」

 

 

美穂は頬をかく。

首を傾げる真司。だから?

 

 

「だから、そう! 尊敬する真司に、たまにはいい思いをさせてやろうってさ!」

 

「はぁ? いい思い?」

 

「そそそ、こんな美人な美穂様とデートができるのよ? 嬉しいでしょ? ふふん」

 

「ハッ、金払ってもゴメンだね」

 

「クッ! え、偉そうに! どうせ今までデートらしいデートした事無いんだろ!」

 

「グッ!!」

 

 

痛いところを突かれた。

確かに高校時代は友達と馬鹿やっているだけでデートなんざした事は無かった。

誰かが流したのかは知らないが、当時は美穂と付き合っているなんて噂さえ流れてしまったから、寄ってくる娘もいなかったのだろうと真司は本気で思っている。

ちなみにその噂を流したのは蓮なのだが、それは真司と美穂の知る所ではない。

 

 

「だいたいッ、そういうお前だってあるのかよ!」

 

「ケッ! 私はモテモテだったぞ、忘れたのかーッ?」

 

 

しまった! そこで真司は気づいてしまう。

確かに美穂はそこそこ人気があった様な(主に中身を知らない人間から)。

いやだが待て! 複雑ながらも、ほぼ全ての高校時代を美穂と共に過ごしてきたではないか。その中で浮ついた話は聞いたことが無かったような。

頷く真司、ココは強気に攻め立てることに。

 

 

「じゃあ、あるのかよ」

 

「………」

 

「へへーん、無いんだな!」

 

「そ、そりゃ無いわよ! 誘いは全部断ったんだから」

 

「本当かなぁ?」

 

「失礼ね。本当だよ、好きな人がいるからって」

 

 

ギョッと表情を変える真司。それは初耳だ。

 

 

「え!? お前好きな人がいたのか?」

 

「嘘だよ。そう言っとけばしつこく誘わないでしょ?」

 

「そ、そっか……、まあそうだよな」

 

 

そうかそうか、真司は乗り出した身体を戻して、椅子の背もたれに深く背中を預ける。

美穂はしばらく黙っていたが、やがて首をブンブンと大きく振った。

 

 

「い、いや嘘!」

 

「え?」

 

「そう嘘、嘘なんだよ……ッ!」

 

「何が?」

 

「何がって、それは……、好きな人がいなかったって話だよ!」

 

 

そうなんですか。真司が間抜けな相槌を返すと、美穂はイライラした様に畳み掛けていった。

 

 

「ああもう! だから好きな人がいたからずっと断ってきたのよ!!」

 

「いや分かるよ、それくらい。俺をナメるな。仮にもジャーナリストだぞ」

 

「うるさい! 何にも分かってないじゃない!」

 

「???」

 

「――ぇだよ!」

 

「は? なんて?」

 

「だぁかぁらぁ!! お前なのッ!」

 

「……へ?」

 

 

美穂は頭をかいて下を向く。

 

 

「プランが台無しだ。本当は悩殺して、自分から言わせるつもりだったのに……」

 

「――ぅ?」

 

 

真司は言葉の意味を考える。

つまりなんだ。美穂が他の男達の言葉をスルーしてきたのは、真司がいたから……?

 

 

「えっ!? あ、え!? ッ? どッ、どう言う事だッ??」

 

「ハァー……!」

 

 

ため息をついて頭をかきむしる美穂。

もう一度真司の事を馬鹿と言う。

 

 

「女が男を二人きりで誘うのは、だいたいがそう言う事だろうが」

 

 

それにアプローチだって何度もしてきたと言うのに。

 

 

「いいか! よく聞けよ城戸真司!」

 

「え? あ――ッ、はい!」

 

「わ、私は、お前が好きなんだよ……!」

 

 

美穂はハッキリと、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

それはサキ達もしっかりと伝わっていた。

真面目な話だから距離が接近する事はないだろうと思っていたが、まさかこんな爆弾が飛んでくるとは。身構えておらず、一同は目が飛び出さんとばかりの勢いで身を乗り出した。

さやかに至ってはがっつり焼きそばを食べている途中だった為、麺が鼻から飛び出しているらしく、鼻を押さえて咳き込んでいた。

 

 

「い、いきなりすぎるぞ美穂!」

 

「い、いやでも真司さんには直球勝負で言ったほうがいいんじゃない? ゴホッ! ゲホッ!!」

 

 

さやかの言うとおりだ。

真司には小細工なしで素直に伝えたほうが分かってくれると言う物だ。現に真司は真っ赤になって言葉を詰まらせる様に口をパクパクとしている。

 

 

「な、何言ってんだよお前ッ、からかうなよ!」

 

「からかってない! 高校の時から……、ずっと!」

 

 

美穂はぐいっと身体を乗り出して真司の方へと密着する。

心臓の鼓動が伝わってくるようだ。けれども真司も真司で心臓が爆発しそうになっている。

今、要するに、つまり、告白をされたと言うことなのだから。

 

 

「ずっと……、好きだった――!」

 

 

まどかにさえ、少し嫉妬してしまうほど。

このゲームが始まって、ずっと戦いを止めたいと言う意思を持つ真司を尊敬すると同時に、その尊敬がより一層恋慕に拍車をかけていく。

美穂はそれを包み隠さず、素直にペラペラと打ち明ける。

流石の真司も、美穂の必死な様子に、コレが冗談ではないと理解してくれるだろうか?

 

 

「私は本当にお前が凄いと思ってる。心から!」

 

 

直訳すると、F・Gを通してより深く好きになって行ったと言う事だろう。

高校生の時に抱いていた恋は、今明確な物となって美穂の心に宿ったのだ。

 

 

「高校生の時は――、関係がこじれるかもとか思って何も言わなかったけど……」

 

 

よくある、『このままの関係』でいられなくなるかもしれない、と言うヤツだろう。

美穂も肝心なところで奥手になる部分がある。

だが今になってはそうも言っていられない。F・Gと言う環境では、自分だって明日死ぬかもしれない。

そう思えば思う程、美穂の心の中では恋慕が膨れ上がる。

 

 

「も、もう抑えられないんだよ! 好きって気持ちが!」

 

「は、恥ずかしい事言うなよ!」

 

「うるさいな! 仕方ないだろ、好きなんだから!!」

 

「――ッッ」

 

 

真っ赤になる二人。

それを見てサキは涎をジュルリと。

一方隣のさやかは手帳を取り出してメモを行っていた。

 

 

「うぉおぉ、盛り上がってきたなァ! 真司さんはどう返す!? ほらッ、ホラ早く見せてみろ!!」

 

「やっばい、好きが抑えられないか。コレ使えるな。今度使お」

 

「………」

 

 

仕方ない人たちだ。ほむらはそう思いながらコーンを口に含んでいた。

隣では、まどかが赤くなりながらも興味ありげに真司たちを見る。

悪趣味とは思えど、気になる心が勝ってしまうと言うもの。

ほむら以外の三人は頬をほんのりと桜色に染めつつ、真司達の様子を伺う。

 

 

「美穂は言ったぞ! 流石に真司さんにも伝わっただろうッ!」

 

「でもちょっと言い方悪かったよね」

 

 

美穂は好きと言い切って終わりだ。

付き合ってくださいの一言でも付け足せば、真司としても返しやすかっただろうに。

コレは返答に困る言い方である。現に真司もあたふたとして、何を言って良いか迷っている様子だった。

要するに詰めが甘いと言えばいいか。

 

 

(たたみ掛けろ美穂ォォ!)

 

 

念じるサキ。

パートナーだからなのか、偶然なのか、その祈り(?)は美穂に伝わったらしい。

美穂は少し自信なさげに、真司の顔色を伺うようにして言葉を続けた。

 

 

「真司はやっぱ私の事――ッ、女として見れない?」

 

「え? そ、そんな事は無いけど」

 

「じゃあ好き?」

 

「!!」

 

 

友達の好き。要するにライクではなく。

恋だとか愛だとかの意味での好き。つまりラブかどうか。

たじろぐ真司。どうしていいか分からない。

その中で美穂は更に想いをぶつけていく。美穂だって告白なんてコレが初めてだ。慣れない事に調子が崩れ、箍が外れているのだろう。

 

 

「私は本気だよ? 真司の事、友達だとかじゃなくて、一人の男の人として好きだよ?」

 

「美穂……」

 

「このまま友達で終わっても良かったんだけどさ。やっぱ死ぬかもしれないって思ったらさ」

 

 

死ねば終わりって言う、悲観的じみた割り切り方はしたくない。

だが死ねば終わり、死ねば記憶から消える。でもだからこそ残しておきたい物がある。

後悔はしたくない、どうせ死ぬにしても、その瞬間の心持ちはきっと変わっている筈だ。

だから美穂はずっと燻っていた引っかかりに答えを出したいのだ。

 

 

「も、もう一回言うぞ!」

 

「え? あ……!」

 

「私はアンタが好き。だから真司の気持ち、教えてほしい」

 

「ッッ」

 

 

本気だ。真司も彼女の目を見ればそれは分かった。

いつも、からかわれているだけで、そんな風に思っていてくれたなんて全然分からなかった。いや、美穂としても有耶無耶にして隠していたのだから、ソレは仕方ない事なのだろうが。

 

真司はゴクリと喉を鳴らすと、記憶の糸を辿る。

そう言われれば、何時だって辛い時や迷った時、苦しんだ時には美穂の姿があったか。

はじめて蓮と対峙した時の事だって。

美穂が協力してくれると言ってくれた時、どれだけ心強かったか。

どれだけ嬉しかったか。

 

 

「………」

 

 

それに、美穂のふとした仕草に心臓の鼓動が早くなる時だってあった。

今だって、そうだ。

 

 

「美穂……」

 

「………」

 

 

普段はヘラヘラと笑いながら、からかってくるのに。

今はギュッと目を閉じて赤くなって俯いている。

真司はと言えば、そんな美穂を見て、確かな想いを胸に抱いていた。

美穂の声が、美穂の思いが、美穂の全てが真司にとっては大切に感じられた。

それはつまり、答えなのではないだろうか。

 

 

「――俺は」

 

「………」

 

「ッ」

 

 

真司はギュッと拳を握ったかと思うと、今度は両手を開いて、自分の頬を軽く打った。

覚悟を決めた様に見える。ゴクリと喉を鳴らすサキ達。

雰囲気を察するにこれから返事をするのだろうが――?

 

 

(ど、どうなるッ?)

 

(あぁ、あたしまで緊張してきたー!)

 

(がんばれ、真司さん美穂さん――ッッ!)

 

 

ほむらが携帯を弄っているなか、まどか達は息を呑んで(りき)んでいる。

美穂と真司の緊張が伝わったのだろうか、当人達より緊張している様な。していない様な。

すると遂にその時がやって来た。真司は美穂の両肩に両手を置いたのだ。

美穂はビクリとして、引きつった様な笑みを浮かべた。

真司も一瞬、怯んだように目を逸らす。肩に置いた手が震えているのが、美穂からすればよく分かった。

 

 

「み、美穂……!」

 

「おう」

 

「俺は、お、俺は――ッ!」

 

 

真司は下を向いて深呼吸を行う。

そして意を決したように顔を上げると、美穂の目をジッと見つめた。

 

 

「俺は、お前が大切なんだ!」

 

「……!」

 

「だ、だから! 一日ッ!」

 

「へ?」

 

「一日! あと一日だけ待ってくれ!」

 

「「「!」」」

 

 

ポカンとする美穂に向かって、真司は自分の考えを告げる。

美穂の事は大切だ。今ヒシヒシと過去を振り返ってみて、良く分かった。

だけど、いやだからこそ、ちゃんと返事がしたい。

軽い気持ち――、と言う訳ではないかもしれないが、雰囲気に呑まれたり流されたりしている今ではなく。

 

 

「こんな状況だし、明日はワルプルギスが来るってのは分かってる!」

 

 

ワガママになるが、そこは男として通しておきたいプライドみたいな物があると。

ここで返事をしないのは逃げの様に感じられてしまうかもしれないが、答えはしっかりともう出ていると真司は言う。

 

 

「明日、俺から、俺の気持ちを言わせてくれ!」

 

「真司……」

 

「待ってて……、く、くれるか?」

 

 

それはある種、答えの様な物ではないか。

美穂は思わずブフッと吹き出して笑った。

目を丸くする真司。対して美穂はケラケラと、いつもみたいに笑い出す。

 

 

「プククク! アンタ本当に純情でウブなんだよなぁ!」

 

「なっ!」

 

「真面目か!」

 

「お、お前なぁ! 俺は真剣にだな!」

 

 

真司が照れたように頭をかいていると、美穂が肩に頭を乗せてきた。

寄り添う二人。真司が真っ赤になって高まっていると、美穂は微笑んだ。

 

 

「仕方ないな、待っててやるよ」

 

「……あ、ああ」

 

「美穂さんをフッたら後悔するからな」

 

「わ、分かってるよ。俺は……、後悔したくないからな!」

 

「うん」

 

 

二人はそれから明日の事を軽く決めてこの話題を終了させる事に。

それを遠めに見ていたサキ達も、緊張から解放されたように息をはいた。

 

 

「ふー! 緊張したぁ」

 

「成る程なぁ、少し惜しい気もするが、やはりこう言うのは男からなのか……」

 

 

サキとしてはココでバッチリうまくいって、ブチューっと一つや二つやってくれれば満足だったのだが、まあ仕方ないだろう。

明日が来ないかもしれないゲームではあるが、だからこそ『想い』を大切にしたいという気持ちは分かる。

 

 

(流石に明日は二人きりにさせてやるか……)

 

 

サキは笑みを浮かべて二人から視線を外した。

途中、隣にいたさやかを見る事になるのだが――

 

 

「ふがっ! ふががっ!」

 

「………」

 

 

さやかさんは、先ほど驚いた時に、やきそばが変な所にお向かいになられたのか。

ここにきてなんだが鼻がムズムズしてきなすった。

瞬間察するサキ、おい、まさか――ッ!

 

 

「ぶぁっくッしょんぅッッ!」

 

「「!」」

 

 

サキがさやかの口を塞ぐ前に、さやかは大きなくしゃみを一発。

さやかは手で口を覆ってはいたが、それでもそこそこ大きな音量が。

対して、さやかの声を知っている二人がすぐそこにいるのだから……。

 

 

「いやー、ごめん。ちょっと鼻がムズって来ちゃ――」

 

 

さやか、沈黙。

 

 

「「「………」」」

 

 

さやかは美穂と真司と目があったのを確認して白目になる。

 

 

(あれ? まさかあたしって相当ポンコツな事した?)

 

 

隣を見れば、サキが頭を抑えて俯いている。

背後には真っ白になって固まっているまどか。

そして自分をジットリとした目で見詰めているほむらが見えた。

 

 

「………」

 

 

さやかは自分の犯した過ちを察すると、目を閉じてゆっくりと頷く。

そして目を開けると、コチラを見ている真司と美穂に微笑を返す。

 

 

「いやぁ、こんな所で会うなんて奇遇ですねぇ! お二人とも」

 

「………」

 

 

いや、無理があるだろ。

奇しくも、さやかを含めてココにいる参加者全員の心が一つになった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、もっと回すぞぉ!」

 

「わー! あははは!」

 

 

結局あれから皆で遊ぶという事になってしまった。

コーヒーカップを回しながら楽しそうに笑う真司とまどか。

それとは別のコーヒーカップにサキと美穂が乗っており、サキはしきりに美穂に謝罪を。

 

 

「す、すまない。本当に出来心だったんだ」

 

「ほうほう」

 

 

デートを尾行してきたことを謝罪するサキを、美穂は訝しげな目で見ている

結局、美穂がサキ達のチケット代まで出してくれた。

 

 

「尾行を言い出したのは私で、他の皆は悪くないんだ。全ての責任は私にある」

 

 

そこでムスっとした表情は、笑顔に変わる。

 

 

「大丈夫大丈夫、怒ってないから」

 

「い、いやしかし――!」

 

「サキが後ろにいる事、知ってたしさ」

 

「え!?」

 

 

美穂はカバンの中を指差す。

そこに入っているのは先ほど買ったジェットコースターでの写真だ。

落ちる瞬間を撮影したソレ。最後尾の方にはバッチリまどか達が写っていた。

 

 

「……そうだったのか」

 

 

サキが脱力していると、美穂がサキに肩に腕を回して笑った。

 

 

「普段はクールなアンタがペコペコ焦って謝る光景は、なかなか面白い物だったわよ」

 

「うッ」

 

「でも面白かっただろ、告白シーンは」

 

「そ、それはまあ」

 

 

美穂とてサキの好みは把握している。

つまり美穂はわざとサキに自分の告白シーンを見せてやったと言うのだ。

ばつが悪そうに笑みを浮かべるサキ。確かに面白かったと言うか、興奮したと言うか。

 

 

「気にしないでよ。コレもパートナーとしてのサービスサービス」

 

 

思えば美穂とサキがペアを組んだのは戦いの中。

危険を乗り越える中、それなりに絆は深まったと思うが、日常生活ではあまり何もしてやれなかった。

それはお互いに言える事であるが。

 

 

「本当はもっと色々な話をしたいんだけど……、まあ時間がね」

 

 

だからせめて今日くらいは、お姉さんとして色々とサキにしてやりたかったとか。

もちろん見られていると言うのは少し抵抗があったが、それもまた良い思い出だろうと美穂は笑う。

 

 

「美穂……」

 

「ま、サキがデートする時がくれば、今度は私が後ろにいると思ってほしいけど」

 

「アハハ、そうだな、そうなれたらバッチリ見せてやるさ」

 

 

戦いが終わったその日がくれば、今度はもっと絆を深めよう。

二人はそう言って笑っていた。

 

 

「………」

 

 

それを別のコーヒーカップで見ていたほむら。

視線を少し移動させれば、楽しそうに笑いあう真司とまどかが。

ほむらはその様子を少し寂しげに見ている。それに気づいたか、一緒に乗っていたさやかが肩に手をおいた。

 

 

「いいよね、パートナーと仲がいいのってさ」

 

「!」

 

 

まあパートナーと言うのは、元々何か通ずる物があったり。共通点だの、影響を与えるかどうかで、ジュゥべえが決めたらしいが。

 

 

「しっかし、あたしとセンセーはどこも似てないと思うけど」

 

 

プライドが高く。ちょっとしたことですぐ怒るんだもの。

さやかは北岡はボロクソ……、とまではいかないが、酷評して笑う。

 

 

「まあイケメンと美女って共通点だけは認めてあげるけどさ」

 

「………」

 

「ちょ、ちょっとゴミを見る目で見るのはやめてよ……!」

 

 

冗談冗談、さやかは汗を浮かべてほむらに弁解を。

しかして彼女はそこで先ほどのほむら同じく寂しげな表情を浮かべる。

 

 

「でも、なんだかんだで、結局最後はあたしを助けてくれたんだよね」

 

「………」

 

 

北岡がどんな思いを持ってさやかを蘇生させたのかは分からない。

死人に口無しだ。気まぐれだったのかもしれない、なんとなくだったのかもしれない。

 

 

「まあ、蘇生だの延命だのが助けたって事なのかは置いておいてさ」

 

 

といかく、さやかは北岡に感謝していると言う。

50人の命を犠牲にして存在していると思えば、胸が痛くなるが、純粋な想いとしてまどか達にまた会えて、落ち着きを取り戻せたのは希望だった。

最期が魔女になって終わりなんて、悲しいから。

 

 

「まあ今に考えてみれば、やっぱセンセーはどこかちょっと優しい所もあったとは思うから、やっぱ助けてくれたのかなーって思ったり」

 

 

美化しすぎかな?

さやかはモヤモヤを吹き飛ばす様にカップを回してみる。

 

 

「……そうね、私も助けられたわ」

 

 

手塚はほむらを助ける事で救われたのだろうか?

色々考えてしまう所はある。

 

 

「蘇生させる気ある?」

 

 

今現在マグナギガとエビルダイバーはまどかの家の庭に待機させてもらっている。

騎士が死んだ場合ミラーモンスターは常に召喚状態にあるからだ。

 

 

「あたし、偉そうにセンセーに言っちゃったからねー」

 

 

誰も殺さないでくれと。

ただちょっと引っかかるところもある。

北岡はもしかして脱落したくないから、さやかを蘇生させたのではないかと。

要するに北岡は何か危険な状況になって、仕方なくさやかを蘇生させて、そして50人殺しを達成させるのを期待しているのではないかと言うこと。

 

 

「センセーは事故で人を殺しちゃったらしいけどさ……」

 

 

事故だと言うのなら、北岡は本当は殺したくなかったのではないか。

そんな考えをさやかは考えている

 

 

「でもやっぱさ、殺しちゃ駄目だよね。当たり前の話だけど」

 

 

だから北岡には悪いが、どうあっても蘇生はさせない。

好きにしろと言ってくれた気がするし、好きにさせてもらう。

 

 

「私も手塚を蘇らせるつもりはない。彼自身がそうしてくれと言ったもの」

 

「じゃさ」

 

「?」

 

「もし、蘇らせてくれって言われてたら、アンタはどうしてた?」

 

「………」

 

 

ほむらは少し考える様に沈黙した。

そうしているとアトラクションの終了時間がやってきて機械が止まる。

次々と降りていく客たち、それに反応して立ち上がるさやか、するとそこで答えが出たのかほむらが口を開いた。

 

 

「彼は、そんな事を言う性格ではないわ」

 

「あはは、何だかんだでほむら達も仲良かったんだね」

 

「?」

 

「それだけ分かってあげてるんだもん」

 

「違うわ。私は彼の事を何も知らない。だからこうなった」

 

 

そう、本当に何も知らなかった。

だからこういうだろうではなく、こう言って欲しいのか。

それに最後の最期で、少しくらいは理解して上げられたはずだ。

 

 

「……ま、パートナーがいない物同士仲良くしましょうや」

 

「ええ。そうね」

 

 

さやかはほむらに手を差し出す。

ほむらは少しだけ唇をつりあえて、その手を取って立ち上がった。

そこでまた既視感。ほむらは少し頭を抑えて視線を逸らす。

 

 

「ん? どうした? 頭痛い?」

 

「いえ、そうじゃないけど……」

 

 

コーヒーカップ?

その後もほむらは既視感を何度も覚える事になった。

お化け屋敷だとか、ゴーカートだとかメリーゴーランドだとか。

前にも誰かと、どこかで乗ったことがある様な?

いや、それは子供の時だとかではなく、最近の事で――?

しかしその後も、空白のような記憶が続く。

だがまったく思い出せない。結局ほむらはそのデジャヴの正体を知る事できず、諦めたと言えばいいか。

 

 

「あー、楽しかった!」

 

 

さやかは大きく伸びを行って笑った。

だいたいのアトラクションにも乗ったし、空は夕日が赤く燃えている。

 

 

「今日はこれで終わりにしよっか」

 

 

美穂の意見に、一同も反対する事は無かった。遊園地を出ようと言う事に。

 

 

「まって」

 

「!」

 

 

そこでほむらが声をあげる。

なんだろう? 一同の視線がほむらに集中した。

するとほむらは、少し複雑な表情を浮かべて、ある場所を指差した。

大きな観覧車だ。ほむらは何故今からがこんな事を言うのか? 自分でも分かっていない様な様子で呟く。

 

 

「最後に、あれに乗らない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし珍しいな、キミからこんな提案があるなんて」

 

「うんうん、あたしちょっとビックリしちゃった」

 

「酷いよ二人ともぉ、ほむらちゃんだって乗りたい物くらいあるよね?」

 

「え、ええ」

 

 

観覧車のゴンドラ内で、さやか達はそんな話題で盛り上がっていた。

まどかがフォローしたとは言え、サキの言うとおり、確かにほむらが自分からコレに乗りたい! と言う提案は珍しい物だ。

 

勝手なイメージの押し付けになるかもしれないが、クールなほむらのキャラじゃないというか。まして今まで乗ってきたアトラクションや、ましてお化け屋敷でも無表情だったほむらが、人によっては一番退屈と言う観覧車を選ぶとは。

言ってしまえば、今も楽しそうには見えないし。

 

 

「見て見て、真司さん達も楽しそうだよ」

 

「あ、あはは」

 

 

上にいる真司と美穂。

個室でいい感じにでもなってるかと思いきや、美穂が身体を揺らしてゴンドラを揺らすものだから真司は必死にしがみついて青ざめていた。

ゲラゲラと笑う美穂の声が聞こえてきそうだ。二人の楽しみ方は中学生のソレである。

 

 

「でも、ほむらちゃん観覧車が好きなんだね。わたしも怖くないから好きなんだぁ」

 

「そうね……」

 

 

まどかの笑みに、ほむらは笑みを返す。

しかし先程も思ったことだが、ほむら自身、何故観覧車に乗りたかったのかが分からない。

強いて言うのならばコレもまた既視感、デジャヴだ。

観覧車を見るととても切ない気分になった。

 

その切なさの理由が、もしかしたら乗れば分かるのではと思ったからかもしれないと思ったのだ。とは言え乗ってみたものの、特に何も感じない。

まどかが喜んでくれただけでも良しとしようではないか。ほむらは割り切って、窓の外の景色を見た。見滝原の町は夕焼けに照らされ、とても綺麗で切なかった。

 

 

「美しい町だ――」

 

 

サキはその景色を見て覚悟を固める。

美しい見滝原、それを絶望に沈めさせてはいけない。

悲しみの町として認識されてはいけない。

 

 

「なんとしてもゲームを止め、ワルプルギスの夜を倒さなければ」

 

 

この時もまた、四人の心は一つだった事だろう。

 

 

「どうする? 夜も何か食べていく?」

 

「………」

 

 

こうして遊園地を出た一同。

美穂の言葉に頷くまどか達だったが、真司だけは表情が曇っていた。

何か、別の事を考えているような。心ここに在らずと言えばいいか。

 

 

「どうしたの? 真司さ――」

 

 

それに気づいてまどかが声を掛けようとしたとき、金色の羽が見えた。

 

 

「緊急の要件が」

 

「「「「!」」」」

 

 

一同の前に、オーディンがワープで現われる。

そしてまたワープで一同の前から姿を消した。

それはあまりにも突然で、一瞬の出来事だった。さやかや真司は、オーディンが来た事にすら気づかなかっただろう。

彼はなにやら封筒を落として消えたのだ。

 

 

「緊急……?」

 

 

サキはそれを拾うと、封を切る。

中には、用件が書いてある手紙があった。

 

 

「……ッ」

 

 

手紙を読むサキ。

はじめには、オーディンが自分の容姿の都合上、一同の前に立って説明できない事を謝罪する文があった。

 

確かに変身を解除できない身では、遊園地の周辺にいては目立つだけだ。

だからこそオーディンは内容をパソコンで打ち込んで、ソレを手紙と言う形で一同の前に示したと。

 

 

「―――」

 

 

手紙を読み進めていたサキの表情が、ある言葉を目にして一変する。

驚愕、焦り、そして恐怖があった。

まどか達も、ただ事ではないと察して、すぐに詳細を問うた。

 

 

「ど、どうしたのサキさん……?」

 

 

聞くのが怖い。

さやかは歯切れ悪くして、言葉を投げる。

 

すると、サキはゆっくりと手紙から視線を外して一同を見る。

つい先ほどまでは、普通の中学生の女の子としての笑みを浮かべていたのに、今は紛れもなく、『参加者』としての顔になっていた。

サキは声を震わせ。汗を浮かべ。唯一の真実を告げる。

 

 

「織莉子が、死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

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