仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第60話 死に至る答え え答る至に死 話06第

 

 

 

時間は遡り、とある喫茶店。

そこに座っていたのは美国織莉子。少し緊張した面持ちで紅茶に口をつけている。

周りにはそこそこ客もおり、一人で座っている織莉子の事なんて誰も気には留めてない。

すると、カランカランと喫茶店の扉が開いた音がして、織莉子の心臓がドクンと大きな音を立てる。

 

周りの人間は、新たなに喫茶店に入って来た少女なんてどうでもいいだろう。

それぞれはそれぞれの話に華を咲かせている。

しかし一人だけ、織莉子だけは違った。喫茶店に入って来た人間全てを確認しては汗を浮かべていた。そして今、確信を持つ。

今、自分に近づいてくる少女こそが――

 

 

「や、待たせてすまんの」

 

「いえ」

 

「これ、証拠。私のソウルジェム」

 

「ッ、確かに」

 

 

少女は魂を素早くしまうと、織莉子の向かいに座ってウインクを行う。

 

 

「ばちこん☆ 私が魔法少女集会の7番、神那ニコだぞ」

 

 

織莉子はニコを見て、息を呑んだ。

明るい調子で話しかけてきたのにも関わらず、ニコの目は死んだ様に濁っていて、しかも全く笑っていない。

そんな不気味さに違和感を覚えつつも、織莉子は軽く自己紹介を行う。

 

 

「約束通り、一人で来てくれた?」

 

「ええ。それは貴女が一番分かっている事では?」

 

 

ニコは鼻を鳴らして携帯を――、レジーナアイを見る。

確かにこの喫茶店周りには参加者はおらず、ミラーモンスター等も待機させてはいない様だ。なんだか最近は使い魔の数がやたら多いような気もするが、気にする必要はないだろう。

 

 

「ま、でもアンタのパートナーはワープできるでしょ? 油断はできないよね」

 

「………」

 

 

そんな事まで知っているのか。織莉子は冷静にニコの様子を伺う。

しかし無表情と言うか、感情が無いような。

ニコは読みにくい。

 

それはさておき、何故彼女たちがここにいるのか?

それは今朝、織莉子の携帯に一通のメールが入った事が始まりだった。

知らないアドレスからのメール。しかし内容を見た織莉子は、それが迷惑メールなどでは無い事を理解する。

内容は、7番からのお誘い。二人きりで話がしたいと言う。

 

7番。神那ニコ。

織莉子も未だに姿を捉えられなかった参加者だ。

敵か味方かも分からぬ彼女からのお誘い。少し悩んだが、今こうしてニコと会っているのが結果である。

 

未来はまだ大きなブレが生じており、加えてキリカを失ったが故に精神が不安定になっている。こんな状態で未来予知を行えば、魔力があっと言う間に消費されて即魔女になってしまうだろう。

ましてや未来そのものもよく見えない。ノイズが走り、謎の笑い声が木霊するだけだ。

そんな状態で敵かもしれないニコの誘いに乗るのは気が引けたが、サキ達にも言った様に半ばどうでもいいと思う感情があった為、それが織莉子の決断を後押しする形になった。

 

要するに今の織莉子には罠にかかって死んでもいいと言う思いが心のどこかにあったのだ。

危険な道かもしれないと知りつつ、織莉子はニコと会う事を決めたのだ。

メールにはニコの力が端的に書かれており、仲間が近くにいる場合は分かると。

 

だから織莉子はオーディンに行き先だけを告げて、彼には待機してもらっていた。

ニコが言うとおり、何かあったらすぐにワープで助けてくれるように。

織莉子は携帯の連絡先を上条に合わせておき、いつでもコールできる準備を整えて今に至る。

 

まあマイナスの事ばかり頭にはよぎるが、もしかしたら協力関係に持ち込めるかもしれないメリットもあった。

それに7番がどう言う人間なのかを知るのも興味深い話ではあったから。

いくら精神状態が不安定とは言え、オラクルは自由に動かせる。織莉子も腕には多少自信があり、それも会う事を了解した理由の一つだろう。

 

 

「本題に入る前にさ、何か聞きたいことある? ちょっとくらいなら答えるぜよ」

 

 

ニコは注文を取って、運ばれてきた水を飲む。

雰囲気は少し異質だが、こう言った所を見ると普通の女の子だ。

織莉子は少しだけ警戒を解いて、三つほど質問を。

 

 

「……何故今まで、ステルスを?」

 

「そりゃ私、弱いから。戦いとか面倒だし、魔法も逃げに特化してるしね」

 

 

って言うのは嘘。

ニコちゃんばりばりゲームに乗ってまーす。などと心の中で舌を出していた。

織莉子としてもこれ以上深くは聞けないし、聞く必要も無いと思ったか次の質問へ。

 

 

「貴女は……、参戦派でしょうか?」

 

「ああ、はいはい、成る程ね。まあやっぱ気になりますわなそこ等辺は」

 

 

ニコは織莉子から放たれる殺気を感じてフムと頷く。

キリカを殺したのが自分だと知れば、恐らく織莉子はニコの言葉を待たずしてオラクルを振るってくるだろう。

ここは慎重にいかなければ。ボロが出た時点で死ぬ。

ニコもまた余裕と言う訳にはいかない。自分が弱いと言うのは、あながち間違いではないのだから。

純粋なぶつかり合いでは、恐らくすべての魔法少女に負けてしまう。

 

 

「まあ、正直言えばどっちでもないかな?」

 

「白でもなく黒でもなく、グレーだと?」

 

「そうだね、適材適所? ああいや違うか、臨機応変? まあ柔軟にっていう感じだわな」

 

 

戦いを止めたいだとか。全部ぶっ殺したいだとかではなく。

生き残れればそれでいいとニコは織莉子に告げた。

このままワルプルギスの夜を誰かが退けてくれればそれでいいし、無理だと思えば殺し合いもやむなし。

 

 

「襲ってくる奴が本気なら、コッチもマジでソイツを殺すつもりで行くって感じ」

 

「なるほど。つまり現状、貴女から勝利を目指す事は無いと考えていいのかしら?」

 

「ま、そだね。あくまでも『今』はだけど。申し訳ないけど、ワルプルギスの夜討伐には手を貸さないよ。こえーし、まあその代わり邪魔もしないから」

 

 

基本的にノータッチだと。

 

 

「許せよ。死にたくないからステルス続けてきたんだ、ワルプルギスが来ても考え変えるつもりは無いぞ」

 

「そうですか。まあそう言う参加者が居てもおかしくないですね」

 

「そうそう。コッチは無理矢理巻き込まれてるんだからさ」(ま、嘘だけど)

 

 

息織莉子は紅茶を口に含むと、小さくため息をつく。

 

 

「じゃあ最後の質問です。何故今まで沈黙を保ってきた貴女が、私に接触を?」

 

「………」

 

 

ニコ形だけの笑みを浮かべたまま、しばらく沈黙する。

ウエイトレスがコーヒーを運んできた所で、ゆっくりと理由を説明し始めた。

 

 

「まず、コレはちょっとした相談と言うか、私の意見を他の魔法少女に聞いて貰いたかった」

 

 

その相手をいざ選ぶと言う時、最も適任だったのが織莉子だったと言う話だ。

ニコは長い間、他の参加者を調べてきた。

 

 

「最後に残った候補が浅海サキか美国織莉子」

 

「そして私を選んだと。理由を聞いても?」

 

「サキさん、意外とおっちょこちょいだから」

 

 

ウソである。

本当の事を言えば、死ぬ可能性を孕んでいるからと言えばいいか。

これを話した場合、もしかしたらではあるが、相談相手がなんらかの形で死ぬ可能性があるのではないかと、ニコは思った。

 

そうした場合、サキが死ぬか織莉子が死ぬか。

どちらがニコにとって利益になるのかと考えれば――、間違いなく美国織莉子である。

もちろんそんな事を本人に言う訳は無いが。

 

 

「私はある仮説を。まあ言うなれば、一つの可能性を思いついた」

 

「可能性、ですか」

 

 

それを誰かに話したくて話したくて仕方ない。

だから今日ここに来て、織莉子にそれを打ち明けようと思ったのだ。

一方で織莉子としては、そんな事を言われてもだ。

 

 

「仮説や可能性を話したいからわざわざ今まで保ってきたステルスを放棄したと?」

 

「……この予想は、もしかしたらキュゥべえ達の逆鱗に触れるのかもしれん」

 

「え?」

 

「もち、コレは『かもしれない話』って事。でもだからこそ、最初に聞いておきたい」

 

 

逃げるなら、今だと。

 

 

「………」

 

 

そんなに大層な物なのか?

織莉子はどんな顔をしていいか分からず、言葉も出なかった。

話を聞いただけで命が危なくなる? そんな馬鹿な。

いくらなんでもゲームと言う名の下にいる自分達を、運営側であるキュゥべえ達が勝手に殺すとは思えなかった。

 

 

「どう言った内容なんですか?」

 

「ゲームの事、世界の事」

 

「………」

 

 

織莉子は考えるまでも無かった。

コレが罠なら、それはそれで構わない。本当の事なら世界を守る事に繋がる。

もしもそれがキュゥべえの怒りに触れたとしても構わない。

死ぬ事になったとしても、それはキリカの所へ行けると割りきれた。

 

 

「構いませんよ。教えてください、貴女の仮説」

 

「………」

 

 

ニコは少しだけ唇を吊り上げるとコーヒーをすする。

少し、少しだけだけど苦いような気がして、ニコは唇を吊り上げた。

もちろん、あくまでも気がするだけかもしれないが。

 

 

「おかしいと思った」

 

「?」

 

 

ニコが初めて心に引っかかりを覚えたのは、そもそもで一番初めの事だ。

 

 

「巴マミと須藤雅史が死んだ事をきっかけにして、キュゥべえはこのFOOLS,GAMEの始まりを告げた」

 

 

騎士には理解できないかもしれないが、ニコ達魔法少女ならいかにキュゥべえがドライな性格かをある程度分かっている筈だ。

 

 

「だって彼には心が無いんだもの」

 

 

魔法少女がいずれ魔女になると知っておきながら、熱心に契約契約、やれ契約と持ちかけてきたのは罪悪感など欠片とて持ち合わせていない種族だったから。

利用すると言う概念すらないのだろう。宇宙の寿命を延ばす為、当たり前の様に行動する。それがインキュベーター。キュゥべえと言う生き物の性分だ。

 

 

「でも考えて見れば、タイトルが洒落てると思わない?」

 

「?」

 

「ゲームだってさ、ゲーム。フールズはまあ置いておいて、ゲームだって」

 

 

もちろんキュゥべえが普通に何の考えも無しに付けた可能性はある。

と言うよりインキュベーターには擬似的な感情を持ったジュゥべえまでいるのだから、彼ガつけたと考えても不思議じゃない。

 

 

「でもさ、何かこう……、釈然としない」

 

「と、言うと?」

 

「ゲームってさ、どうなんだろう。まして愚か者だなんて、失礼しちゃよな」

 

 

ニコはこの点が引っかかった。

 

 

「ゲームとは、それはつまり、多少なりとも娯楽を意味する単語ではないだろうか?」

 

 

まして『愚か者』や、『馬鹿』を意味するフールの文字。

確かにインキュベーターは人間を見下している面はヒシヒシと感じられるが、長い時を経てインキュベーターは人間に進化を齎して来た。

それを愚かだと、馬鹿にする様な言い回しを前面に出して、かつ殺し合いを行わせて、それをゲームの一言で括る。

なんだかニコには釈然としない思いが宿った。

テレビゲームを楽しめない彼女だからこそ感じる物と言えばいいか。

 

 

「ゲームは本来、楽しいものの筈だろ? 楽しいかな、コレ?」

 

 

絶望を助長させる儀式で、ゲームの名を使う事にニコは違和感を覚えた。

 

 

「儀式なら――、例えばリチュアルなんかでもいいよな?」

 

 

いやいや、杏子達参戦サイドからしてみれば楽しいのかもしれない。

ジュゥべえも絶望に呑まれて変わっていく人間関係を見るのは面白のかも。

ああいや、でもやっぱりおかしい。

 

 

「あいつも感情があるように見えて結局はからっぽ、私と同じだ。だったらアイツも本当に楽しいとは思っていない筈」

 

 

楽しそうに見えても、それはやっぱり楽しそうなだけで、本物じゃない。

 

 

「なんかさ、その時からやけに引っかかる様になって」

 

「っ」

 

「いや、あくまでも私の個人的な膨大妄想かもだけどね」

 

 

確かに織莉子からしてみれば、そんな事で思う。

しかしニコは違った。一度引っかかりを覚えれば、以後のすべての要素に同じ様な物を覚えてしまうもの。

たとえばそれは行動を制限するべくして決められたルールだったり、戦いが長引く様な復活システムだったり、参加者以外の魔法少女を一気に絶望させる裏側での出来事だったり。

 

 

「人間を煽る様なシステムだったりさ」

 

「煽る、ですか」

 

「そう。結構希望あるんだよな、このシステムって」

 

 

疑心暗鬼を促す物だったり、逆にやり方次第では全員が生き残れる道もあったり。

何も感情が無いキュゥべえ達が作ったシステムにしては、絶妙に中途半端な部分を付いてくる。

つまり人の感情を理解したような作りとなっている。

もちろんキュゥべえ達は長い歴史を生きているのだから、その間に感情と言う物を理解したと言えば納得はできるかも。

現にそうやってインキュベーターはジュゥべえを作ったんだから。

 

 

「アイツの煽りや言葉は限りなく人間に近い。けれど、ルールと言う点で見ればやはり首を傾げてしまう」

 

「………」

 

「あれだけ宇宙の寿命がどうのこうのと、利益を優先させる奴等が参加者全員生存と言う希望を持ったルールを作るかなぁ?」

 

 

サバイバルゲームと言うジャンルはゲームや映画ではもはや一つのカテゴリーとしておなじみだ。しかしニコが見てきた多くは、生き残れるのが一組だけと言うのが一般的だ。

いやいや、そうでもない作品もあるため、なんとも言えないのだが。

 

 

「もちろん、みんなで生き残れるかもしれないと言う希望をチラつかせ、そして無理と分かった時には一層大きな絶望となってエネルギーは手に入るだろう」

 

 

でもやっぱり全員生存の道もある訳で。

そうなってはエネルギーも満足に集められない。

そのリスクをインキュベーターが知らない筈はない。

 

 

「そもそも、さ。このゲームって何が目的なんだろう?」

 

「なかなか絶望しない私たちに痺れを切らしたインキュベーター達が、よりよいエネルギーサイクルを作るためだと認識しているわ」

 

「そうだね、でも私にとってはそれも何か引っかかる」

 

 

まずフィールドを整えるため、参加者以外の魔法少女を絶望させた点。

キュゥべえ達が自発的に魔法少女を絶望させられるのなら、何故今までそれをしなかったのだろうと言う疑問が浮かぶ。

今までは人間に好意的だったからこそ、あえて見逃していただけで、もしかしたら本気を出せば人類をすぐにでも滅ぼせたとでも言うのか。

 

 

「わざわざ今の今まで、人間と共に歴史歩んできたのに?」

 

「それは、確かに」

 

「人間や魔法少女を屈服させられる力があるなら、もっと簡単にエネルギー回収なんてできるっしょ」

 

 

たとえば生まれたばかりの赤ちゃんを母親の前でバラバラにしてみたり。

たとえば結婚式に乱入して花嫁を花婿の目の前で殺してみたり。

たとえば初めてのおつかい中、子供誘拐して毎週体のパーツを一つずつお祖父ちゃん達の所へ郵送してみたり。

 

ああ、確か中学生くらいの女の子が一番いいんだっけ?

だったら片思い中の男の子の目の前で陵辱してみたりさ。

もしくは顔に自信のありそうな奴には、虫かなんかと体を融合させてみたり。

もっと簡単に言えば大好きなパパやママを目の前で凄惨なやり方で殺すだけでいいのかもしれない。そうそう、可愛がっているペットにガソリン掛けて火をつけ――

 

 

「………」

 

「ああいや、ちょっと脱線脱線。そんな目で見るなって。ほら、私アメリカ住みだろ? B級スプラッターとか多いのよアッチは」

 

 

ニコは織莉子のドン引きと言う表情を見て、すぐに手を振った。

まあとにかく、酷い事をすれば、すぐに希望からの絶望エネルギーを回収できる筈だ。

でもキュゥべえはそれをしなかった。

魔法少女を全員強制的に絶望させられるのならば、それくらいできそうな物なのに。

 

それはきっと彼らは人間に呆れつつも、または形だけかもしれないが、二つの種族が友好な関係の上に成り立つ物として認識している筈だからでは?

或いは、何か余計な手を出してしまうと良質なエネルギーが回収できなかったかのどちらかだ。

 

 

「でも今回、現に私達以外の魔法少女はゲームを進めるために邪魔って理由だけで排除された」

 

「たとえば風見野に魔法少女がいると、助けに来る可能性があるからでは?」

 

「だったらソイツも見滝原に引きずり込めばよかった。わざわざ13と言う数字に拘る必要はない筈だ」

 

 

要するにニコは、この一連の出来事。

F・Gに関する事全てが。インキュベーターらしく無いと説く。

もちろん彼女だってキュゥべえ達の事なんて、ほとんど何も知らないと言っても良い。

けれども話くらいは少し聞いた事がある。

 

魔法少女の歴史は古く、キュゥべえと人間達の関わりは、良くも悪くも深く繋がっている。

卑弥呼やジャンヌダルクまで魔法少女だったと聞かされた時には、深くそう思ったものだ。そしてインキュベーターは皮肉にも文明発展に非常に貢献してくれた。

 

 

「長い歴史の中で人間が勝手に崩壊していくパターンはあれど、直接インキュベーターが手を下した事なぞ、ほとんど無かったのでは?」

 

 

それが今になって突然F・Gなんざを持ち出してきた。

 

 

「いやぁ、それってどうなの? ちょっとゴリ押しが過ぎない?」

 

 

では、何故なのか?

単にキュゥべえ達がやり方を変えたと言うのならそれまでだが、どうにもニコはそう思えない。それがよりハッキリ固まったのは、いつだったか、絶望させる過程を見せてもらった時だ。

 

 

「参加者以外にどれだけ魔法少女がいたのかは知らないけどさ、いちいち直接的な方法で絶望させるってさ――」

 

 

いくらなんでも、おかし過ぎやしないだろうか? ニコは強調する様に言った。

 

 

「私が見たのは直接痛みを与えて絶望させると言うシンプルな方法だ」

 

「それが全てではないのでは? 貴女が見たのがたまたまと言う可能性も」

 

「もちろん。だから今はとりあえず私が見た事を、他の例でも適応したという仮説で話してる」

 

 

そうなるとまず、やはり、面倒すぎる。

世界中にいる魔法少女を一人一人訪ねてボコボコにってのは、非常に時間が掛かって仕方ない。

そして先ほどの通り、もしもそれが許されるのなら、キュゥべえ達はその一連の流れを繰り返すだけでも良いエネルギーを得られる筈では?

 

 

「ゲームが始まれば元が取れると思ったのでは無いでしょうか」

 

「まあ、そこ、そこだな」

 

 

とにかくニコはこう考えた。

わざわざゲームを行わなければならない理由があるのでは、と。

そして魔法少女を絶望させるには、それだけの労力や純粋な力がいる。

戦闘能力が無いだろうキュゥべえ達に力があるとすれば、それは従者のキトリーだけだ。

針の魔女、そういってみればただの魔女。多くの魔法少女がキトリー一体を倒せないなんておかしい話。

 

 

「キトリーに特別な力がある可能性はあります」

 

「確かに。キュゥべえが用心棒としておいているんだ、納得できるね」

 

 

しかし、それでも全ての魔法少女がやられるのは腑に落ちない。

 

 

「だいたい用心棒の魔女なんざアイツ等にはいらない筈だ。死んでも代わりがいるんだろう?」

 

「それは、確かに」

 

「そしてなにより、根本的な話が一つ」

 

 

ニコは絶望させるシーンで、しっかりと誰かの笑い声を聞いている。

魔女はよく笑い声をあげるが、少なくともニコが聞いたソレは――。

 

 

「あれは、キトリーの声じゃなかった」

 

「……ッ」

 

 

つまりこの事から分かる事、それはキトリーは少女を絶望させてはいないと言う事だ。

いや、キトリーが複数の固体を持っているとすれば? 確かにそれならば固体別に笑い声が違う可能性はあった。

だが、どうにも笑い声が魔女のソレとは少し違うような気もしたのだ。

独特のエコーが無いというか、もちろんあくまでもニコ個人の思いではあるが。

 

そしてキトリー以外にもキュゥべえに協力する魔女がいて、そいつが強力な奴なのではないかと言う可能性も考えた。

だが、先ほどから言っている通り、キュゥべえらしくない事の連続に、やけにゲーム性を求めた作り。

それが方程式の様に組み立ってニコの脳裏に一つの答えを焼き付けた。

それこそがニコの言う不安要素、そして織莉子に相談を持ちかけた理由だ。

 

 

「この一連の疑問の答えだと?」

 

「ああ、もちろん初めに言ったけど、コレはあくまでも私の個人的な考えにしか過ぎない」

 

 

100%正しいとは限らない。当たり前の話だ。

 

 

「むしろ可能性としては低いかもしれない」

 

 

だってこれは凄く被害妄想じみた考え。

何の事も無いかもしれない事実を、勝手に掘り下げて掘り下げて掘り下げて……。

自己解釈を加えて湾曲させているのだから。

 

やり方変えましょうか? はいそうですね、そうしましょう。

等とインキュベーターが簡単に決めた事を、ニコは裏があるのではないか? 別の何かが絡んでいるのではないかと、勝手に妄想しているだけなのかもしれない。

 

 

「でも私は思うのさ」

 

 

ゲームってのは何が必要か?

たとえばそれは舞台だったり、駒だったり、プレイヤーだったり色々ある。

だけど根本的な事を考えて、何故人はゲームをするんだろうか?

それは結局の所、『楽しいから』ではないのだろうか?

 

ニコだって楽しさを求めてゲームに手を伸ばした。

まあ結局それは呪いを思い出すだけになってしまったわけだが。

でも本来ゲームと言うのは娯楽の物であり、爽快感や中毒性を覚える物の筈だ。

 

 

「だからさ、ゲームってのは楽しむ者が絶対的に必要なのよ」

 

 

それは王蛇ペアの様な者? いや、それは違う。何故なら彼らは駒だからだ。

あくまでも登場人物、キャラクター、それがフールだと言うのであればゲーム盤の上で踊る滑稽なピエロ。

つまりあくまでも誰かを楽しませる為の、玩具。

 

 

「美国織莉子」

 

「……っ」

 

 

ニコは、虚空を睨んでいた。

 

 

「14人目――、その可能性を私は提示したい」

 

「ッ!!」

 

 

魔法少女痛めつけている時の笑い声は、確かな感情があった様に思えて仕方ない。

痛めつける事に対し快楽を覚える声。絶望させる事で達成感を覚える笑い。

それは紛れも無く、感情が作り出した下卑た笑みである。

 

 

「な、な……ッ!」

 

「それなら、なんとなく納得できるんだよ」

 

 

急にインキュベーターがこんな洒落た事を始めた理由だとか。

急にここに来て魔法少女の他に騎士って存在が現われた理由だとか。

ましてやこのゲームと言う物を客観的に見てみれば、それは現れてくる。

 

 

「ゲームを裏で操っている、別の存在」

 

「別の、存在ッ!?」

 

「そう。私が考えるに例えば異常進化したインキュベーター。或いは、完全なるステルス状態にある魔法少女」

 

 

たとえば参加者以外の魔法少女が、願いの力でこの一連の出来事を作り出したと考えればどうだろうか?

インキュベーターに、『サバイバルゲームを始めてほしい』とお願いして魔法少女になれば、こんなおかしな催しが開かれた事を全て説明できる。

 

 

「そこに関しての仮説は正直、いくらでも浮かんでくる」

 

 

しかしニコに共通している想いとは、インキュベーターに協力する形でゲームを作り上げた何者かがいると言う事だ。

黒幕と言えば聞こえはいいか? このFOOLS,GAMEを楽しんで下さっているお客様。

 

 

「そ、そんな馬鹿な……!」

 

「まあ私も自分でも思うよ、馬鹿な話だって事は」

 

 

要するにニコが言いたいのは『見えない敵』がいるのではないかと言う事だ。

それはインキュベーターではなく、魔女か? 魔法少女か? それとも全く違う何かなのか。

 

 

「いくらなんでも、キュゥべえがストップをかける筈です」

 

「確かに。アイツらもそこまでバカじゃない。ただメリットがないワケじゃない」

 

 

たとえば、暁美ほむらの抹殺。

時間を戻してしまう彼女は、インキュベーターにとっては何よりも邪魔な存在だったろう。ほむらを殺せるだけの舞台を整えられるとあれば、長い目で見てゲームを行うことが正しいと判断してもおかしくはない。

 

 

「あともう一つ。参加者が見滝原の外に出れば死ぬだろ?」

 

 

驚く織莉子の前で、ニコは余裕の表情でコーヒーを啜った。

 

 

「範囲外から出れば脱落ってのは、サバイバルゲームではありがちだ」

 

 

たいていそう言うのは、参加者の首に爆弾があったり、何かしら前もって要した仕掛けが作動して遂行されるもの。

しかし騎士や、既に契約していた魔法少女にその仕掛けを施せる物なのだろうか?

ゲームを見通して作られた騎士はともかく、魔法少女には厳しい筈だ。

 

 

「そんな時、私はルールで死ぬ奴等を見た」

 

「そ、それは――」

 

「手塚、東條、呉って奴ら」

 

「!」

 

 

織莉子の表情が鬼気迫る物に変わる。

ニコは心の中で薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

(悪いな、キリカを殺したのは自分だが、ここはあのイケメンくんに罪を被ってもらおう)

 

 

ニコは説明を開始する。

 

 

「私はあの日、見滝原の外がどうなってんのかを調べるため、境目付近に来てたんだよ」

 

 

そしたらエビルダイバーが来て、そのままニコが見ている中で見滝原の外に飛び出て行ったと。

もちろんそれは嘘だが、キリカで実験はしたではないか。

おそらく手塚達も同じように死んだはずだ。

 

 

「外に出た奴等が死ぬのは、やや時間差があった」

 

「出たら即死と言う事では無いと?」

 

「そう、若干のタイムラグがあった。それで、どうなると思う?」

 

「わ、分かりません――……」

 

 

そりゃそうか。

ニコはもったいぶるのを止めて、見た景色をそのまま織莉子へ告げる事に。

 

 

「矢だ」

 

「え?」

 

「矢がどこからともなく飛んで来て、アイツ等を串刺しにして殺した」

 

「矢……!?」

 

「そう。弓矢だよ、アロー」

 

 

流石のニコもあれには驚いた。

キリカのソウルジェムを投げた後、少しだけ時間が経ってどこからともなく風を切り裂く弓矢が飛来。

それはキリカのソウルジェムを貫通して地面に突き刺さると、しばらくしてその姿を消失させたのだ。

 

 

「自動的に矢が放たれた? うーん、だったらなんで弓矢なんだろう」

 

「ッ」

 

「原始的だよな、矢ってのは。まあ鹿目まどかの武器でもあるけど」

 

 

別にレーザーだとかでいい。

何度も言うが、これ等はあくまでニコの個人的な考えにしか過ぎない。

しかし場外に出たら死ぬ方法が、矢で射抜かれて死ぬと言う異質な物に違和感を覚えない方がどうかしていると。

 

 

「私は矢に関する情報を片っ端から調べあげた。ありとあらゆる情報を閲覧し、魔法で警察の情報も盗み見た」

 

 

すると数件、『矢』に関する事件が検索にヒットした。

 

 

「北岡秀一の秘書ってのは、矢で射抜かれて死んでたらしい」

 

「……ッ!」

 

「そして北岡先生は騎士になられた。勝ち残れば、願いの力で自分の病気と秘書を蘇生できるかもしれない」

 

「まさか」

 

「あ、でもそうなると願いは二つ叶えなきゃいけないなぁ。秘書が矢で死んだばっかりに、願いを一つ余計に叶えなくちゃいけなくなったんだものね」

 

 

ニコは濁った瞳で織莉子を睨むように見つめ、口では貼り付けただけの様な笑みを浮かべている。

 

 

「ではつまり、矢を放った何者かこそが――、インキュベーターに協力する者……?」

 

 

汗を浮かべて言葉を詰まらせる織莉子。

今、このタイミングでそんな事を言われても困ってしまう。

いや、ニコの話は織莉子にとってあり得ないと切り捨てる事ができない物だった。

つまり織莉子もニコの話を聞いて、成る程と思ってしまったからだ。

 

 

「もしも貴女の言う事が本当だとて、それは一体――?」

 

「分からん。ただ、放っておくのはどうなんだろうな」

 

 

ニコは魔法少女説を最も推している。

だとすればその存在は、ゲームを素直に終らせてくれるのだろうか?

ニコにはそうは思えなかった。こんな大舞台を整えてまで――、簡単に引き下がるものだろうか?

 

 

「あるいは……、そう。もしかしたら26人の中に全てを知っている裏切り者がいるか」

 

「!」

 

「この前、ジュゥべえにそれとなく聞いたんだがよ、アイツはぐらかしやがった」

 

「ジュゥべえが?」

 

「ああ。まあ私も深く聞けばマズイかなと思って、そん時は切り上げたけどさ」

 

 

とにかくと、ニコが織莉子にコレを持ち出したのは。もう一つ明確な理由があっての事だ。

それは未来。織莉子の魔法である。

 

 

「お前さんの魔法は未来予知って調べはついてるぜよ」

 

「それは……、そうですが――ッ」

 

「未来が視えるんだろ? どうなってんの?」

 

 

ニコは織莉子の答えあわせをしてほしかった。

果たして危険視しているソイツは現われるのか、現われないのか。

ニコの言葉に表情を歪める織莉子。少し躊躇した様に動き、そして頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい」

 

「?」

 

 

ニコは知らない。

織莉子は現在キリカを失ったショックで、魔法をうまく発動できないのだ。。

手塚が変えた未来のその先を、彼女は知る事ができなくなってしまったのだ。

 

 

「佐倉杏子と同じです」

 

「確か――、願いを否定した時、魔法少女は固有魔法が使えなくなるんだっけ?」

 

「私の願いは生きる意味が知りたい、ですがキリカがいなくなってしまった今、私はもう生に執着が在りません。今日ココに来たのも、死んでしまっても構わないと思っているから。そんな私にどうして輝く未来を見ようと言う意思があるでしょう?」

 

 

もう自分はポンコツ、ガラクタだ。織莉子はそれをニコに謝罪する。

 

 

「だから、ごめんなさい」

 

「ふぅん……」(マジかよ、使えねぇな織莉子たん)

 

 

正直、織莉子の力さえあれば杞憂かどうか分かると思っていただけにニコとしても意外な展開であった。下手に無理強いさせて魔女化されても困るし、だったらオーディンに――、そこでニコは考えをすぐに改める。

 

 

(いや、あの子はちょいとヤバいか)

 

 

頼るのは、少し危険だ。

あくまでもニコは勝利を目指す立場。無闇にコンタクトを図るのは早計かもしれない。

こうなっては仕方ない。とにかく織莉子にその考えを持っていて欲しいと忠告を行う。

 

 

「場合によっちゃ、ワルプルギスどころじゃなくなるかも」

 

「そう、ですね。覚えておきましょう」

 

 

ニコはそこで立ち上がる。

どうやら話し合いは終わりのようだ。

織莉子ならば未来が見えるから何か分かると思ったが、それが無理ならば織莉子である必要も無い。

 

 

(浅海サキにも一回会っておくか……?)

 

 

ニコはもう織莉子を気にする事なく、背中を向ける。

 

 

「まあそれだけ。じゃ」

 

「………」

 

 

織莉子としても、コレ以上仮説の話し合いを掘り下げる事はできない。

だが植え付けられた情報は確かな物だ。織莉子は震える手で紅茶のカップを持って思考を巡らせた。

 

ゲームを管理する存在である運営。

言ってしまえばゲームマスターとなる訳だが、確かにそれがキュゥべえ達のみと考えるのはおかしかったかもしれない。

騎士と言う存在が新たに追加されたのだから、新しい要素が他にも存在していたとすれば 

それは魔法少女? 魔女? 騎士? それとも他の存在?

織莉子はニコの仮説が正しいのではないかと思い始めてきた。

 

 

(でも、だとしても、どうすれば……)

 

 

仮説を検証するのも大事だが、今やるべき事はワルプルギスの夜をなんとかする事ではないだろうか? しかしニコの言う事が本当ならば、ワルプルギスの夜を倒した後が問題となってくる。

 

 

「………」

 

 

ニコの考え過ぎであればいいが、織莉子もまた引っ掛かりを感じてしまうと言う物。

なるほど。確かに何故今までその可能性を考えなかったのか。

キュゥべえ達がいきなりゲームとやらを持ち出してきたのも、魔法少女の願いだとすれば説明がつく。

 

 

「一体、どうすれば……」

 

 

織莉子は苦悩しながら屋敷に戻った。

 

 

 

「やあ、織莉子」

 

「……!」

 

 

屋敷に戻ってきた織莉子を迎えたのはオーディンだった。

玄関の扉の前に立って、腕を組んでいる。

空には夕日が、オレンジ色の光が黄金を照らして、美しさを引き立たせていた。

普段オーディンはさやかの周りに待機しており、何かあれば戻ってくるとの事だってので、織莉子は首を傾げる。

 

 

「どうしました?」

 

「ああ」

 

 

一瞬ニコからの話を言おうかどうか迷ったが、悪戯に混乱はさせてくない。

そうしていると、オーディンが腕を前にかざす。

すると、そこにゴルトバイザーが現われた。

 

 

「がっかりだよ、キミにはね」

 

「え?」

 

 

ゾクリと、冷たい物が織莉子の全身を巡る。

なんだ? 織莉子は猛烈に嫌な予感を覚えて、後ろへ下がっていく。

対してゴルトバイザーを展開させるオーディン。その声は驚くべきほどに冷たく、表情は仮面に隠れて見えない。

オーディンが織莉子に継げた言葉とは軽蔑の一言。

これは一体――?

 

 

「な、何の話ですか?」

 

「さやかから聞いたよ。キミが彼女を絶望に至らしめたのだとね」

 

「!」

 

 

一応は口止めをしておいた筈。

しかしオーディンはさやかから事情を聞いたと言う。

つまり、さやかが約束を破ったのだ。

 

 

「――ッ」

 

 

織莉子はオーディンが抱く感情を容易に想像できた。

だから焦る。何か弁解を行わなければと。

冷静になれば問題はない筈だ。もともとバレたとしても、言い訳をちゃんと用意すれば回避できると未来を視ていた。

 

 

「そ、それは本当にごめんなさい。でも仕方ないんです。これにはちゃんと訳が――」

 

「何も聞きたくないよ。まさか、キミが彼女を苦しめていたなんて」

 

「確かに美樹さやかを魔女に変えてしまった理由には私達の意思があります。ですが、それがユウリの罠だとは――」

 

「さやかは他にも、キミの事をいろいろ教えてくれたよ。とても酷い人だと言っていた」

 

「ッ!?」

 

「さやかはキミと一緒にいるのが怖いらしい。ワルプルギスを倒した後に、自分達を殺す気かもしれないと震えていた」

 

「え? そんな!? ち、違います! 誤解だわ! 私は――」

 

「黙れ」

 

「!!」

 

 

察する。

そうか、違う。違っていた。違う違う違う! 何も変わっていない。

オーディンはまだ尚、狂ったままなのだ。

さやかに対する強烈な依存心。今の彼には、さやかを傷つけるいかなる可能性も敵になる。

だから、それを全て排除する事でしか安心する事はできない!

つまり、つまりつまりつまり――ッッ!!

 

 

「織莉子、キミには色々な感謝している」

 

「待って、話を聞いてッ!!」

 

「だが、僕はね、さやかを傷つける因子は全て排除しておきたいんだ」

 

「だから――!」

 

「ごめんよ。キミの言葉は、もう僕には届かない」

 

「!」

 

「だってそうだろ? さやかが僕の前で、直接キミに対する恐怖心と怒りを打ち明けてくれたんだ。彼女の感情は、僕の感情でもある。さやかが僕を全て受け入れてくれた様に、僕も彼女の全てを受け入れて助けなければならない」

 

「――ッッ!!」

 

「さやかはね、僕にお願いをしたんだ」

 

「お、お願い……?」

 

 

織莉子は喉を鳴らして一歩、また一歩とオーディンから離れて行く。

 

 

「そう、お願いだ」

 

 

あの日、サキとさやかが来た日。

さやかは自分を上条だと見抜いてくれた。

 

 

「流石はさやかだよ。僕の事ならなんだって分かってくれる。なんだって理解してくれる」

 

 

そして、さやかはオーディンに言ったのだ。

織莉子の悪事と、織莉子に対する恐怖や怒りを。

だから最後に、さやかは一つのお願いをした。してくれた。

それは簡単な事だ。織莉子が怖いから――

 

 

『殺して、くれないかな?』

 

 

やられた!

美樹さやかがそんな事を言うなんて予想外だった。

織莉子は素早く変身を行うと、オラクルを自分の周りに待機させる。

オーディンはさやかのお願いならば何が何でも聞くだろう。

それは愛? いや、依存心からだ。

 

 

「ごめんね、織莉子」

 

「冗談だと……! 言ってくれませんか?」

 

「いや、それは無理だよ」

 

 

オーディンはデッキに手を掛けて一枚のカードを抜き取る。

全ての事において、優先するべきは美樹さやかだ。

そのさやかが織莉子を怖いというのなら、織莉子を殺してくれと言うのなら、オーディンはその願いを聞き入れるだけだと。

 

 

「くッ! 私は確かに彼女を利用し、絶望させた。でも全ては世界を絶望から守るためなんです! 貴方ならきっと理解してくれるッ!!」

 

「駄目だよ、僕はもう決めたんだ」

 

「――ッ」

 

 

やはり壊れた人間は壊れたままか。

織莉子は踵を返して、逃げる様に走りだす。

幸いパートナー同士では傷つけられないと言うルールは機能してくれる筈だ。

今は逃げ、何とかしてサキ達に、オーディンとさやかを説得してくれる様に言わなければもう道は残っていな――

 

 

「織莉子。僕はルールを壊すことができる」

 

「ッ!?」

 

「便利なカードだよね、コレ」

 

 

オーディンがバイザーにセットするのは、ワープの力を対象者に与えられるディメンションベントだ。

そしてこのカードにはパートナーに向けて発動すると、効果が少し変わるのが特徴だと言う事を覚えているだろうか?

その効果とは、パートナーとゴルトフェニックスの位置を入れ替えると言う物だ。

 

 

「僕は一度死んだから、ゴルトフェニックスの身体を媒介に存在している」

 

 

だとすればオーディンと織莉子の位置が入れ替わるのか?

いや違う。この場合は、『ゴルトバイザー』と織莉子の位置が入れ替わるのだ。

ゴルトバイザーもまた、オーディンの一部と見なされるのだから。

 

 

「それを確かめる為に、必死になってジュゥべえかキュゥべえを探したよ」

 

 

だからこそ、すぐにとはいかず、ココまで時間が掛かったのだが。

でもちゃんとオーディンはジュゥべえを見つけて情報を聞けた。確信を持てたのだ。

バイザーと織莉子を入れ替える力がディメンションベントにはあると。

 

 

「知ってるかい? ゴルトバイザーはね、遠隔操作でもカードが発動できるんだ」『ディメンションベント』

 

 

オーディンの手から消えるバイザー。

ディメンションベントを使って、『ある場所』へゴルトバイザーのみを瞬間移動させる。

そしてそこから遠隔操作でさらにカードを発動していった。まず一枚目はリターンベント、使い終わったカードを再び具現させる物。

そうする事で再びディメンションベントを作り上げる。

 

 

「ま、まさか――ッッ」

 

 

オーディンは仮面の下でハッキリと笑みを浮かべていた。

騎士の一部とされるミラーモンスターは、見滝原の外に出ても死ぬことは無い。

つまりバイザーも同じで、見滝原の外に行っても破壊される事はない。

織莉子はオーディンの狙いを理解した。オーディンもまた、織莉子が察した事に気づく。

 

 

「僕はね、許されているんだよ。キミを殺す事が」

 

 

キュゥべえ達の粋な計らいとでも言えばいいか。

力のデッキを手にした織莉子へ対するデメリット。

それはパートナーに、飼い犬に手を噛まれる可能性があると言う事だ。

 

 

「そ、そんな……!」

 

「じゃあね、美国織莉子」

 

「ま――ッッ!!」

 

 

消える織莉子。

そう。オーディンはディメンションベントを発動して、織莉子とゴルトバイザーの位置を入れ替えた。

最初にオーディンがゴルトバイザーを置いた場所とはそれ即ち――

 

 

「!!」

 

 

織莉子は変わった光景を見て察する。

そう、オーディンはバイザーを見滝原の外にワープさせたのだ。

通常、ディメンションベントで他の参加者は見滝原の外には出せないと言うルールがある。

しかしもう一つの効果は違う。ゴルトバイザーに関してはエリア外にも置く事ができる。

オーディンのワープは一度足を運んだ場所にも飛ぶことができる。

つまり、風見野にゴルトバイザーを置くことが可能なのだ。

それはある種の裏技とでも言えばいいか。

こうして位置が入れ替わったことにより、織莉子はエリア外に放り出された。

 

 

「ッッ!!」

 

 

察する最期。

愚かな話をしよう。織莉子はココに来て死ぬのが怖くなった。

キリカがいないのなら、いつ死んでも構わないと思っていたのに、いざその時が来るのかと思うと全身に恐怖が巡っていく。

いや、嫌だ。死ぬのは――、嫌?

 

 

「あ……」

 

 

そして、織莉子は見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

何、コレ。

 

 

「――!」

 

 

織莉子は、察する。

そして降り注ぐ、無数の光。

それはまどかが放つ綺麗な物ではなく、随分と薄汚れた光だった。

その雨は織莉子の肉体を焦がし、言わば不意打ちと言う形で激しい痛みと苦痛を与えていく。

 

 

(コレは……、コレが、彼女の言っていた事なの?)

 

 

そして報いか。

人を操り、人を傷つけ、世界を守ろうという傲慢さに、神が怒ったのかもしれない。

だからこそ最期は自分が壊した上条に壊される。

なんとまあ皮肉なものか、愚かな自分にはピッタリな終わりと言えよう。

 

織莉子は激しい痛みの中で、自虐的な笑みを浮かべていた。

そして光が終わると、ドス! と言う音と共に、胸に激しい熱が走る。

 

 

「……ァ」

 

 

自分の胸を見る織莉子。

そこには、心臓を射抜く一本の矢が。

 

 

(これ――!)

 

 

そしてまた音。

気づけば織莉子の体中に矢が生えていた。

連射を受けたのか、織莉子は血の塊を吐き出して地に伏せる。

そこへ再び降り注ぐ濁った光の雨。それが終われば、再び矢が連射されて彼女の身体に突き刺さっていく。

 

それだけではなく、途中から電流も混じった。

バチバチと言う激しい音と共に、激痛が体を走る。

これもまた、サキの放つ美しい電流ではなく、濁った光を纏うものだ。

 

 

(雷、矢……)

 

 

織莉子は、最期の力を振り絞り、目を見開いた。

光の中に広がるのは、ニコが言っていた『可能性』に対する答えだったのかもしれない。

けれども織莉子にはその正体が何なのか、全く理解できないでいた。

 

なんだ、なんなんだコレは?

 

織莉子の意識は既に死に向かっているため、まともな思考ではない。

それもあってか、見える景色を一つも把握できないでいた。

だが織莉子は倒れない。それはこの極限状態にて、彼女が覚醒を果したと言えば正しいだろうか?

 

織莉子は既に二回死んでいる。

つまりもうココで倒れれば次は無いのだ。

それが織莉子に覚悟と冷静さを繋ぎとめる事となってくれた。

死ねば終わる、だからこそ残さなければならない物があるのだと。

全ては――、この世界を守る為に。

 

 

"生きる意味が、知りたい"

 

 

最悪だな。こんな時に限って頭が回る様になってきた。

おそらくオーディンは直前に"アイツ"に利用されたのだろう。

しかしもう場所を知っている者は、オーディンくらい。

まどか達が拠点にしている場所は聞かなかったし、一番連絡を取りたいニコも、どこにいるのかは知らない。

 

だから織莉子は屋敷にいるだろうオーディンに最期のメッセージを残す事に。

彼もきっと、この話を聞けば何かを感じてくれる筈だから。

 

 

(お願い、届いて――ッ)

 

 

オラクルとはそれ即ち『神託』の意味。

織莉子は一つのオラクルに、自分のメッセージを念じて閉じ込める。

オラクルは織莉子の言葉を届けるテレパシーの役割も果たしてくれる。

この言葉を込めたオラクルを、死ぬ前にオーディンか、誰かが拾ってくれれば。

あるいは……。

 

 

(私の、最期の一撃――ッ!)

 

 

織莉子は自分の頭を矢が貫いていく感覚を覚えながらも、一つのオラクルに持てる全ての力を込めて発射した。

これが誰かに、誰かに届けば――ッ!

 

 

「ァアァアァアァアアッッ!!」

 

 

絶叫。

織莉子の『急所』と呼ばれる場所に矢が刺さり、身体を貫通した。

喉のど真ん中を貫かれ。呼吸ができない、声は潰れる。

だがそれでも織莉子は倒れなかった。

 

膝を突き、ぎりぎりの意識でオラクルを飛ばす事だけを考える。

幸いソウルジェムはまだ砕かれていない。織莉子は体外へソレを排出すると、周りをオラクルで囲み、さらに手で握り締めて身体を丸めるようにしてしゃがみ込んだ。

そうする事で少しは時間が保てるはず。そうしていると再び光の嵐が織莉子を包み、その身体を焼きつくさんとダメージを与えていく。

 

身体には何本も矢が刺さっており、既に全身は焼け焦げだった。

きっともう人間の姿とは思えない醜い物に変わっていた事だろう。

頭蓋骨も矢で射抜かれていたか、脳が流れていき、思考が鈍くなっていく。

 

しかし織莉子は諦めなかった。

ソウルジェムを破壊されまいと、ボロボロの肉体で抵抗を続ける。

どれだけ肉体が崩壊しようとも、ソウルジェムがあれば思考を保つ事が許されるのだから。

頼む。全てを失っても、最後に残った微かな物だけは――!

 

 

「―――」

 

 

だが、限界はやってきた。

黄色い光に包まれた矢を背中に受けたかと思うと、矢を中心にして織莉子の身体が吹き飛ぶ。

ソウルジェムを守っていた腕もまた吹き飛び、織莉子の前でオラクルに包まれたソウルジェムが地面を転がった。

そこでもう一発光の矢が飛来する。

それはオラクルに包まれていたソウルジェムを何の障害も無しに貫くと、破壊してみせた。

 

織莉子はもう目も焼け焦げていた為、その瞬間を見る事は無かった。

耳も矢で射抜かれて機能を失っている。だから彼女は自分の命が破壊された事を知らない。

ただ一心に、ただひたすらに、自分が見たその光景を誰かに伝えるために必死だっただけだ。

 

それが世界を少しでも良くすると信じて。

それが父の為に、そしてキリカの為だと気づいたから。

世界を救うため、織莉子はオラクルを今も飛ばし続けているのだろう。

 

美しい容姿だった彼女はもういない。

そこにいたのはもう人の形すらしていない炭と化している肉塊である。

その炭は身体を吹き飛ばされても尚祈り続ける。

誰かが、きっと誰かがあのメッセージを込めたオラクルを拾ってくれる事を。

 

 

「醜い」

 

 

織莉子は祈り続けた。

この身がどうなろうとも構わない。

全ては、この世界を守る為に。

 

 

(お……父様、キリカ――)

 

 

私は、正しかったのでしょうか?

それとも、踊らされていた愚かなピエロ?

 

 

(私は……、私の生まれ来た意味は――)

 

 

そこで、織莉子は粒子化して消え去った。

世界を守る為に戦った彼女は、その疑問に答えを出すこと無く、消滅していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美国織莉子・死亡(確定)】【残り15人・9組】

 

 

 

 

 

 

 

 

織莉子が消えた事を"弓矢を構えていた影"は確認すると、その口を三日月の様に吊り上げて消滅した。

それは『彼』も――、いや彼等も同じ。

 

 

『おい、どうするんだよ。美国のオラクルを追わなくていいのか』

 

「……ああ」

 

『神那ニコも危険だね。彼女は、気づいているよ』

 

「そうだな」

 

『くぁー、リアクション薄いねお前』

 

 

ジュゥべえは呆れた表情で『彼』を見る。

レンズが光る。織莉子がオラクルを投げてから五分程度は経ったか?

そうすると誰かに届いている可能性もある。

だが彼は追わなくて良いとキッパリ言い切った。

 

 

『いいのかい? 被害を被るのはキミの方だろ?』

 

『お前、やっぱ――』

 

 

意味深に声のトーンを変えてみせるジュゥべえ。

話しかけられた方は呆れ気味に首を振る。

 

 

「いや、放っておいても問題は無いと言う意味さ」

 

 

彼は織莉子がいた場所を見て、ため息を漏らす。

最期の悪あがきと言う所か。綺麗に散る道もあったろうに。

そこまでして世界を守ろうとする織莉子の意思は本物だったのか?

それとも彼女にはもう、それしか道が無かったのか。

 

 

「利口に生きれば、楽だったのに」

 

 

彼女も、"自身"も。

 

 

『さて、生き残っているのは――』

 

 

城戸真司、鹿目まどか、秋山蓮、かずみ、霧島美穂、浅海サキ。

美樹さやか、暁美ほむら、オーディン。浅倉威、佐倉杏子、高見沢逸郎、神那ニコ、リュウガ、ユウリ。

 

 

『この15人だね』

 

 

ホログラム、キュゥべえの前に現われる15人の顔写真。

そこには脱落者の写真もあり、彼等は色が失われ赤いバツマークが刻まれている。

そして不思議なのは、参加者の顔写真の下に何か"数字"の様な物がある事だ。

パーセンテージだろうか? それとも……。

 

 

『まあまあいるな。全員でワルプルギスに挑めばそこそこ良い所いくんじゃねぇの?』

 

 

ま、無理だろうけど。

ジュゥべえはニヤリと笑い、キュゥべえもまた頷いてみせる。

 

 

『ココまでの動きを見るに、この15人が協力してワルプルギスの夜討伐に向かうとは思えない』

 

 

人間は愚かだ。

助けあえれば良いのに、そうはいかない。

みんな自分の欲望に忠実で、それを捻じ曲げて他者には合わせられない。

 

 

『最終日にどれだけ動くかだね』

 

『最悪、仕方なくワルプルギスを倒すって感じになって、ゲーム終了後に乱闘とかあるかもな』

 

「……いずれにせよ、全ての道は一つだ」

 

 

もうここにいる意味も無い、そう言った意味では『自分』もまた愚かなピエロなのだから。

 

 

『なあおい、一つ聞いていいか?』

 

「?」

 

 

ジュゥべえは笑みを浮かべて問う。

織莉子が死んだのは、もちろん明確な理由があっての事だ。

言わばゲームの中で起こった正当なイベントが引き起こした死。

当然の死だ。けれども――

 

 

『もし、今日、今ここで織莉子が死ななきゃアイツはどうなってたんだろうなぁ?』

 

「………」

 

 

またレンズが光る。

 

 

「全ては決まっている。それが揺らぐことは無い」

 

『本当にそう思ってんのかぁ?』

 

「……ジュゥべえ、キュゥべえ、引き続き頼むぞ」

 

『チッ! 仕方ねーな』

 

『分かったよ。全ては宇宙を延命させる為にね』

 

 

消えるジュゥべえとキュゥべえ。

彼はそれを見て、もう一度メガネを整える。

 

 

「………」

 

 

誰かが誰かを否定しなければ、世界は回らない。

 

 

「愚かな」

 

 

それは誰に言った言葉なのか。

影は複雑な表情で踵を返すと、そのまま沈み行く夕日の中に消えていく様、歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ココで少し舞台の裏側を見てみよう。

織莉子はオーディンに殺される形になった訳だが、その理由は美樹さやかがオーディンに織莉子の殺害を依頼したからである。

しかし考えてもみてほしい。さやかは織莉子に怒りこそすれど、殺意を抱かぬ様に協力すると言ったはずだ。

そうなると、さやかの行動は少し矛盾しているのではないだろうか?

さやかが嘘をついたとすれば説明がつく話だが――

 

 

「アッハ! アハハハハハハハハハ!!」

 

 

"彼女"は、織莉子がオーディンによって強制ワープさせられる光景をしっかり見ていた。

何を通して? それは織莉子の家に忍ばせた使い魔を通してだ。

オーディンが生きているためアナウンスは流れていないが、おそらく織莉子は死んだとみて間違いない。

 

彼女は上機嫌に笑いながら椅子から立ち上がる。

あれからアジトを移動して、今はマンションの空室を勝手に使っている。

彼女は窓の外から沈み行く夕日を見て、一度クールダウン。

 

 

「やっぱ男ってのはちょろいモンだなァ、ねぇ?」

 

 

ユウリは、窓に映った自分の姿を見てつくづく滑稽だと笑う。

固有魔法である変身を行う。光がユウリを包み、ガラスに映っていたのは美樹さやかの姿だった。

 

 

「こんな事なら、まどかも殺しておいてって言っとけば良かった」

 

 

まあ、流石に望みすぎか。

変身を解除して、さやかの姿からユウリの姿にに戻る。

そう、織莉子は最期の最後に気づいたが、オーディンはユウリに利用されていた訳だ。

 

ユウリはリーベエリス跡地でまどか達が戦っている間、使い魔を量産して見滝原中に拡散させていた。

使い魔が見た映像は、全てエリーのテレビに映る様に設定を行った。

つまり一体一体が監視カメラのようなものなのだ。

拡散させた使い魔は、織莉子の屋敷にも忍び込んでおり、さやか達と話す織莉子の姿をしっかりと捉えていたのだ。

 

そこでピンと来たユウリ。

さやかの姿を借りれば、オーディンを騙せるのではないかと思いついた。

オーディンは随分さやかに執着しており、それは妄信と言ってもいいくらいだ。

さやかが言う事は絶対に信じる筈。ああ、なんて健気で純粋で――

 

 

「アホだよねぇ! クヒヒヒ!!」

 

 

簡単な話だった。

さやかが帰った後に、ユウリはさやかに化けてオーディンに接触を図る。

あとは適当に言い包めてハイおしまい。

 

 

『もしも織莉子さんを殺してもあたしやまどか達には報告しないで。お願い、あたしもう全部忘れたいの。悲しいけど、貴方とも関わりたくない。傷つくのが怖いから』

 

 

なんて適当な保険も、あのオーディンは律儀に受け止めるのだろう。

オーディンもさやかとの関わりは避けると言っていたし、現状は完璧だ。

まあバレたらバレたで、織莉子はもういないんだから、ユウリとしてはOKである。

 

 

「あたしだってそう。貴方とこれ以上絆を深めるのは辛くなるだけ!!」

 

 

再びさやかに変身して、オーディンに接触した際に放った言葉を口にする。

なんとも馬鹿にした様な抑揚の付け方で、ふざけたイントネーションだった。

 

 

「だめだよ恭介ぇ! この間抜けが気づくわけ無いじゃないー!」

 

 

ユウリに戻り、さやかに変身し、またユウリに戻る。

完全に遊んでいる。オーディンはさやかと意思疎通ができたと喜んでいる様だが、さやか本人は今もオーディンが上条だとは夢にも思っていないだろう。

 

 

「とにかくコレで目障りだった織莉子は死んだ!」

 

 

それは大きな大きな収穫だ。

オーディンは手紙でその事をサキ達に告げたが、もちろん自分が殺ったとは書かず、織莉子は勝手に外に出て行き、死亡通告が頭の中に流れたとだけ報告した。

 

サキ達もオーディンが織莉子のパートナーである以上、彼を疑う事は無い。

だってパートナー同士は傷つけ会えないと言うルールを妄信しているからだ。

たとえば水の底にワープさせても、そこに殺意がある以上、織莉子は助かる。急激に浮き上がるとか、呼吸ができるとか。

しかしエリア外は別だ。何よりもまずルールが適応され、ペナルティによる死が優先される。

 

 

「オーディンはうまく裏をついたな」

 

 

こんなやり方、まどか達は一生気づく事は無いだろう。

 

 

「それに――」

 

 

なんと言っても収穫はそれだけじゃない。

見滝原中に使い魔を設置してあるのだから、当然その光景はしっかりと見ていた。

 

 

「詰めが甘いんだよなぁ」

 

 

まさか向こうも使い魔が見た景色を共有できるとは考えてなかったんだろう。

それに使い魔は意外と目がいい。離れたところから織莉子を監視していたら。思わぬ奴が姿を見せた。

 

 

「神那ニコォォ……!」

 

 

使い魔だから油断していたようだ。

使い魔は耳もいいヤツがいる。それを通して会話も聞いていた。

キュゥべえの協力者なんて、ユウリにはどうでもいい話だった。

ユウリの目的は全ての参加者の死だ。魔法少女は特に、ついでに騎士も。

それを成しえる事ができるのならば、それからの事がどうなろうが知った事じゃない。

 

 

「でもまあ、馬鹿じゃないか」

 

 

ニコにも使い魔をつけておいたが、彼女は透明になって使い魔を振り切っていた。

つけられている事がバレたのではなく、おそらくニコの癖なのだろう。

だが甘い。ユウリの使い魔は文字通り見滝原中をカバーしている。

よってすぐに別の使い魔が、再び姿を現したニコを補足する。

ニコはパートナーの所には戻らず、少し大きめな公園を拠点としていた様だ。

 

 

(パートナーの場所を知られない為か。なるほど、中々考えているじゃない。コース料理はお任せできそう)

 

 

ユウリは鼻を鳴らす。

だがまあ、使い魔を増やしたのはニコを見つけるためと言っても過言ではない。

その目的が達成されたのだから良しとしようじゃないか。

ユウリは同じく大量生産していたイーブルナッツを大量に構える。

人間を魔女に変えるだけでなく、魔女にとってはおいしいご馳走だ。

 

 

「さあ喰えエリー! お前の力を強化してあげる!」

 

 

そして。

 

 

「後はアイツを始末するだけだけど――……」

 

 

思い出すだけでイライラする顔がある。

だが今回は使ってやるか。ユウリはエリーのチャンネルを変えて彼女を――、王蛇ペアをテレビの中に映し出した。

 

 

「おい佐倉杏子」

 

『!』

 

 

廃墟となった教会で、杏子はイライラした様な表情を浮かべていた。

相当まどか達に負けたのが悔しいのだろう。力が全てだと言えば、それは違うと言われた。大切ななのは人との関わり。それを杏子が否定すれば、まどか達はその意思を真っ向から潰してくる。

 

そんな中で突如、エリーの使い魔であるダニエルとジェニファーが飛んで来た。

スピーカーとして使えるのだ。ユウリの声が、ダニエル達から聞こえる。

だから、杏子はますますイライラしたような表情で使い魔たちを睨む。

 

 

「消えろ」

 

 

有無を言わさず使い魔を消し飛ばす杏子。

頭をかきむしるユウリ。まあそうなるかとは思っていたが、ムカツク話だ。

ユウリは大きく舌打ちをすると、他の使い魔を向かわせて再び話を振る事に。

まあ会話は不可能と知っていたので、ユウリは一方的に話を言い放つ。

 

 

『ステルス貫いてた7番を見つけた。明日の朝、使い魔を通して場所を教えてやるから殺すなら殺せ』

 

 

殺さないのならば私が殺す。

 

 

『アタシの目的は、参加者全員の死なんだから! あはは!』

 

 

それだけを言ってユウリは使い魔を消滅させた。

神那ニコは邪魔な存在ではあるが、逆を言えばそれだけ未知数の相手だと言う事も分かる。

とは言え一度確認したのだから、エリーでニコの過去、トラウマ部分を覗き見てみる。

 

 

「……ふぅん」

 

 

ユウリは唸る。

参戦派はどこかネジがぶっ飛んでいるケースが多い。

ニコ場合もそうだ。困ったら銃で撃ち殺した二人に変身すれば動きを乱してくれるだろう。

 

 

 

「にしても、あと一日ってね」

 

 

本当はもっと時間を掛けてゆっくり殺して回りたかったが、そうもいかない。

意外とカツカツでスケジュールが足りなかった。まあ最終日に温存しておくのは大いに有りっちゃ有り。

 

なぜならば他の日に殺しても復活チャンスを使われる場合がある。

もちろんそれは最終日にも言える事ではあるが、前日に殺してしまえば50人殺しを達成させられる可能性がある。

 

余裕を無くせ。

考える時間を減らせ。

そして何よりも協力派のアホ共がワルプルギスの夜を倒す時に邪魔をして殺せると言う利点もあった。

 

 

(その為にも、ワルプルギスの夜までは身を隠したい)

 

 

ムカツク話ではあるが、鹿目まどかの力は確かな物だ。

多くの魔女を引き連れても、意味不明な天使を出されて負ける可能性もある。

おまけに向こうには多くの仲間がいると来た。

だからこそワルプルギスで細々やっている所を叩く!

 

 

(でもまずはやっぱりアイツを――。ああぁぁ、迷っちゃう。まるでビッフェに来た時みたい……!)

 

 

ユウリは歪んだ表情で笑みを浮かべると、空の向こうを睨んだ。

 

 

(ブチ殺してやる! 全員、一人残らず――ッ!)

 

 

ユウリも『次』は無い。既に二回死んでいるため、次に死ねば終わりだ。

沈み行く夕日を見ながらユウリは殺意を目に宿した。

明日はいよいよ最終日。全てが終わるのか、それとも――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

沈み行く夕日を見ていたのは彼もまた同じだった。

城戸真司。織莉子と言う仲間が死んだ事はショックだったし、焦りもあった。

織莉子がいなくなった事に対する想いは皆いろいろあったが、それを言葉にする事は無く特訓を開始する。

 

魔法少女は魔力を高め、安定させる最終調整を。

美穂はサキやほむらと相談して当日の動きや作戦の調整を。

その中で真司は一旦抜け出し、ある場所を目指していた。

夕日をバックにして、スクーターを一心不乱に走らせる。

 

沈み行く夕日が作り出す見滝原の町は幻想的な物に見えた。

だからだろうか、ノスタルジーな想いが真司の胸に溢れていく。

ネットでは連日見滝原を封鎖しろだの、見滝原を更地にしろだのと過剰とも言える書き込みが増えてきた。

 

しかし今、町には当たり前の様に車が走っていて、歩道には当たり前の様に親子が手を繋いで帰路についている。

当たり前の光景、ずっと自分が見てきた光景だ。

だからだろうか、真司は一瞬今までの出来事が全て夢なのではないかと思ってしまう。

 

もちろんそれは一瞬、信号で止まった真司は、横を見る。

少し遠くに崩壊したショッピングモールが見えた。

政府はアレをテロの被害が一つと発表したが、もちろん真司は真相を知っている。

おそらく、いや確実にアレは参加者が行った物なのだろうと。

 

そして親子の後ろには数名の警官がパトロールを行っており、空には軍やマスコミのヘリコプターも見えた。夜にはネット配信を行う生放送主も多くやって来る筈だ。

なにせ生配信中の光景にマグナギガとゴルトフェニックスが映ってしまったのだから。

 

その件についてネットは爆発的な勢いを見せている。

未確認生物だの悪魔だの幻獣だのが現われたと、連日ニュースになっており、一部の人間にとっては見滝原は良い観光スポットとなっている。

 

滅茶苦茶になる町。

真司としては明日なにが起こるのかを知っている為、複雑な気分である。

本当ならば今すぐに全員に逃げろと叫びたかった。

明日には最強の魔女が来るから巻き込まれるかもしれないと。

 

しかしそんな言葉を信じる者がいるのだろうか?

答えはノーだ。自分が何を言おうが、怖いもの見たさが勝って絶対に全員が逃げる事はありえない。ましてや今は快晴なのだし、気狂いと指を指されて終わりだ。

警察でも呼ばれちゃ、いろいろな人に迷惑がかかるし、拘束されるのは真司としてもゴメンだった。

 

だから真司としては明日、誰も被害を出す事なく、ワルプルギスを倒さなければ。

できるのか? 真司には自信がなかった。しかしその時に思い出すのは、決まって手塚の言葉だ。

 

過酷な運命に抗い続けろ。食い下がれ。抵抗を示し続けろ。

凄く簡単に言えば、最後まで諦めなければ希望が湧き上がるかもしれないとの意味だ。

手塚は、美穂は、自分を凄いと言ってくれた。

それは嬉しい話だが、真司としてはそんなに立派な物じゃないとつくづく思う。

今も諦めそうになる、これからの事を考えても。

自分を繋ぎとめているのは何か、それもまだ真司には分からない。

 

 

「………」

 

 

真司は心の中で美穂やまどかに謝罪を。

と言うのも、なんだったら今から命を落とすかもしれないからだ。

美穂への想いは――、既に答えを出している。

だが美穂への想いと同じくらい大切な物が真司の心の中にはあった。

 

たとえ美穂に気持ちを伝えられなくなっても、どうしてもやらなければならない事がある。

だから真司は、ココにやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋をノックする音が聞こえ、かずみは頭を抑えながら身体をゆっくりと起こす。

返事をすると、蓮がムスっとした表情で中に入って来た。

 

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ちょっとまだフラフラするけど……、平気だよ」

 

 

蓮はそうかと一言だけ言うと、部屋にあった椅子に座る。

かずみはマレフィカファルスの後遺症か。アトリに戻ってきた日から高熱にうなされる様になっていた。

魔女の力を極限まで引き出す禁忌技なのだから、その反動と言う事なのだろうか?

かずみは魔法少女だ。熱が出ても病院に連れてはいけない。

かずみは寝ていれば治ると笑っていたが、その時の表情が疲労に満ちていたのを覚えている。

今は言葉通り、だいぶよくなっており、明日には完全に治るとかずみは言っていた。

 

 

「コレ、店から貰ってきた。良かったら食え」

 

「わお! 本当、やったぁ!」

 

 

蓮はアイスクリームをかずみに手渡すとため息を一つ。

今は明るく振舞っているが、リーベエリス跡地から帰ってきた後のかずみは本当に酷かったものだ。

 

酷くうなされ、立花が病院に連れて行った後に彼女は意識を取り戻した。

かずみは自分で理解していた。自らを苛む高熱が、通常の人間が熱を出すプロセスで生み出された物ではない事を。

 

だから必死に耐えるしかない。

ソウルジェムを操作して、何とか少しでも熱を下げられないかと試みたものだ。

検査入院だのとでも言われたら困る。だからかずみは必死だった。

そして何とか家に戻ってきた所で限界が来たか、かずみは再び意識を失いうなされていた。

 

 

「優しいね蓮さん! おかわりちょうだい!」

 

「調子に乗るな」

 

 

目を輝かせながらパクパクとアイスを口に運んでいくかずみを見て、蓮は苦笑する。

そういえばと蓮はかずみに一つ質問を。

と言うのもうなされている間、かずみは何かを必死に握り締めていた様な。

 

 

「あれは何だ?」

 

「あ、ああええっと。お守りだよ、お守り」

 

 

かずみが見せたのは、文字通り小さい布でできた袋だった。

中には彼女の両親が持たせてくれた大切な物が入っているらしい。

かずみはその事を話す時、何とも言えない表情を見せていた。

喜びと悲しみが混じりあった様な、人生の酸いも甘いも経験してきたような大人びた物だった。

 

 

「どうしても辛い時、このお守りに祈るんだ……」

 

「そうか……」

 

 

辛い時か。

蓮はそのお守りを初めて見たが、もしかしたらかずみは自分の知らない所で何度となくそのお守りを握り締めてきたのかもしれない。

蓮は少し胸にズキリとした痛みを覚えた。

今もそうだ、かずみは熱の辛さからお守りを取り出したのだろうか?

 

 

「親は……、優しかったか?」

 

 

自分でもビックリする様な質問だが、蓮はその言葉をしっかりと口にしていた。

蓮は両親に対して良い思いを持っていない。

しかし子供にお守りを持たせてあげる事を考えると、かずみの両親はキチンと親としての役割を果たしているのだろう。

以前、かずみは両親の事については微妙な反応を示していたが、お守りをちゃんと持っている事を考えると、険悪な仲では無い様に思えた。

 

 

「うん! すっごく」

 

 

蓮の予想通り、かずみは笑顔を浮かべて嬉しそうに両親の話を始めた。

以前の歯切れの悪かった様子とは違い、自分の事を自慢するように、両親の事を話していく。

 

 

「お母さんは優しくて、お料理とかすっごく上手なんだよ!」

 

「そうか」

 

 

そういえば以前、かずみの作った料理を少しだけ食べた事があったが、あの時は立花と共に驚いたものだ。

イチゴリゾットと言ったか。特殊な料理だが、中学生にしては良く出来ていると思ったものだ。あれはきっと母親から教えてもらったんだろう。

もしくはいつも料理を手伝っていたとかだろうか?

どちらにせよ微笑ましい母と娘の光景が、蓮の脳裏には思い浮かんだ。

 

 

「あとね、だしまき卵も得意なんだよ!」

 

「そうか。恵里も、よく作ってくれた」

 

「絶対蓮さんも気に入るよ! わたしのだし巻き卵!」

 

 

蓮は曖昧に笑う。

 

 

「お父さんはね――……」

 

「?」

 

「とっても、とってもね――」

 

 

かずみの声が震えているのが嫌でも分かった。

堪えているが、きっと笑顔の裏には複雑な想いがあるのだろう。

 

 

「とっても、カッコいいよ」

 

「そうか」

 

「色々……、教えてくれたし。いっぱい感謝してる」

 

 

何か複雑な事情があるのだろう。

以前両親が亡くなったのではないかと聞いた時、『一応いる』と答えた。

おそらく離婚でもして、離れ離れになってしまったのではないかと、勝手に考えてみる。

まあ多感な年頃にそう言った経験をすればショックか。

蓮は少し申し訳なさを覚えてしまった。

 

 

「お父さんもお母さんも……、大好きだよ」

 

「ああ」

 

 

蓮はうつむくかずみを見て、話題を変える事にした。

 

 

「そういえばお前、俺の遠い親戚なんだろ?」

 

「え!? あ、あはは!」

 

「?」

 

 

かずみは顔をあげて苦笑いを。

立花には結構前にバレたが、彼女は蓮の親戚でもなんでもない。

この話題を掘り下げられては、ボロが出てしまうと言うもの。

かずみは適当にお茶を濁すと、すぐに話題を変えていく。

 

 

「れ、蓮さんのネックレス、それ――」

 

 

そこでアッと口を閉じるかずみ、

蓮が首からかけているネックレス、それは触れてはいけない気がした。

 

 

「良い。気を遣うな。これは恵里の為に買ったんだ」

 

 

ネックレスの先には指輪があった。

安物だが、二人にとっては本物だった。

指輪の裏には二人のイニシャルが刻まれており、恵里も同じ物を持っている。

 

 

「似合わないだろ? 恵里も安物でがっかりしたと思う」

 

「そんな事無いよ! 恵里さんはすっごく喜んでるよ!」

 

「……フッ」

 

「嘘だと思ってるでしょー! 分かるんだからね! わたしには!」

 

 

そこで蓮の携帯が震えた。

マナーモードだったため、かずみには聞こえず、蓮は振動でそれを察する。

蓮は立ち上がると、かずみに背を向けて部屋を出て行く事に。

 

 

「ゆっくり休め」

 

「うん、任せて。明日には絶対絶対回復して、みんな殺すから!」

 

「………」

 

 

振り返る蓮、そこには笑顔のかずみが。

蓮はそれを見て、無言で彼女の部屋を出て行った。

 

 

 

 

 






なんかもうすぐマギレコで動きがあるみたいですね。
でもなんかあんまカウントダウンみたいなヤツってしないほうが良いと思うんですけどね。

最近どこの企業もチラホラやってますけど、変にハードル上げていくと皆期待しちゃうからね。


でもまあせっかくだから僕も予想しておきますね。
ついにニチ●イあたりで鶴乃ちゃんのチャーハン冷凍食品化決定か……(適当)
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