仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第61話 最終日 日終最 話16第

 

 

 

「蓮――ッ」

 

 

真司はスクーターを、喫茶店・アトリに駐車させると、神妙な面持ちでシートから降りた。

個と個の関係は時として人には理解されない時がある。真司が美穂の告白をはぐらかしてしまったのも、真司だけにしか理解できないモヤモヤがあったからだ。

彼等には、彼等だけが知っている思い出と記憶がある。

そしてそれが育んだ友情。確かな絆が存在しているのだ。

だから真司には、その問題に決着を付ける必要があった。

 

 

「……城戸」

 

 

蓮は駐車場の近くの木に持たれかかっていた。

事前にメールを送っていたため、外で待っていたのだろう。

メールの内容は簡単だ。『話がしたい』、その一言だけ。

 

しかしその一行には、二人だけにしか分からない重みがあった。

だからこそ蓮も真司の言葉に真面目に応えたと言う事なのだろう。

薄暗くなった世界で二人はまっすぐに睨み合う。

 

 

「俺は――、難しい事は分からない」

 

「バカだからな」

 

「なんだよ、ちくしょう美穂も、お前も」

 

 

真司は自虐的に微笑むと、ソレを手にする。

 

 

「だから、お前を止める為の方法は、これくらいしか思いつかなかった」

 

 

蓮の表情が変わった。

真司が取り出したのはデッキだ。

参加者を前にしてデッキを構える。

それが意味するものは――、蓮は当然理解していた。

 

 

「俺は、戦いを止めたい」

 

「甘いなお前は。本気でそう思ってるのか?」

 

 

 

頷く真司。

何度もコレでいいのかと迷ったものだ。

それは今も同じだ。戦いを止めたいと願うのに、結果と環境は常に真司の望まぬ方へと進んでいく。

織莉子だってそうだ。結局また、何も出来ずに死が訪れる。

 

 

「それでも……、やっと答えらしい物が見つかったかもしれない」

 

「ハッキリしないな」

 

「それは言うなよ。分かってるさ自分でも」

 

 

ただ改めて、真司は戦いを止めたいと思う。

それは美穂から受けた言葉だったり。それは手塚から受けた言葉だったり。

何よりも純粋に、まどかが死ぬべきではないと思っているからだ。

 

 

「それに、それはお前もだ、蓮」

 

「………」

 

「お前だけじゃない、かずみちゃんだって――ッ」

 

 

蓮の気持ちは分かる。

いや、分かった気がしているだけで、何も分からないのかもしれない。

けれどそれでも一人の友として、蓮を止めなければならないのではないか。

人間にはやはり、越えてはならない一線がある様な気がする。

 

蓮をそのラインの向こう側に行かせてはいけない。

それだけが真司の心の中に渦巻いていた。もちろんそれが簡単ではないと分かっている。それは蓮自身の問題であったり、真司自身の問題であったり。

 

 

「前にも言ったが、恵里はもう普通の方法じゃ助からない」

 

「……ッ」

 

 

だからこそ、戦いに勝ち残り、願いを叶える以外に彼女を助ける方法は無いのだ。

 

 

「今も恵里は、生と死の境を彷徨っている」

 

 

顔には出さない。出せない。

けれどきっと苦しい筈なんだ。

人として生きていくのなら、誰しもが笑い、泣き、怒り、喜ぶ事が許される。

しかし恵里にはそれができない、いつまでも病院のベッドで寝たきりのまま。

 

 

「城戸。お前は心のどこかで――、恵里に早く死んで欲しいと思っているんじゃないか?」

 

「そんなわけ無いだろ! 俺だって恵里の友達だ!!」

 

「本当にそうか? それは本心か――?」

 

「当たり前だろ! そんなの……!!」

 

 

確かに、恵里が死んだら蓮を縛るものは何もないか――?

 

 

「お前は……、死んだ恵里を蘇生させようとするだろ?」

 

「そうか。そうだな。悪い、変な事を聞いたな」

 

 

蓮はそれが嫌だった。

恵里の事で、真司や美穂が気を遣ってくるのが嫌だった。気を遣わせるのが嫌だった。

今のような質問をしてしまう事が嫌だった。それは友達として、恵里の彼氏として。

 

 

「もしもココで俺が諦めたら、アイツの人生はなんだったんだ?」

 

「ッッ」

 

「お前は恵里に死ねと言うのか?」

 

「それは――……」

 

 

言葉が出ない。

真司は、その点に関する答えを今も出せずにいた。

だが、それでも、グッと歯を食いしばる。チープな台詞に聞こえるだろうか?

映画やドラマで何度も聞いたことがある言葉だ。しかし真司は本気でそう思っていたから、ハッキリと口を開いた。

 

 

「恵里は、お前が人を殺して自分を蘇らせる事を望んじゃいない!」

 

 

その時、蓮の中に強烈な不快感がこみ上げてきた。

 

 

「お前に、何が分かる!」

 

 

そんな事、言われなくとも分かっていた。

恵里の性格を考えれば望む筈がない。だがしかし、それがどうしたと言うのか。望まないから死んでもいいのか。死なせてもいいのか?

もう何度この話をすればいいのか。蓮は苛立ちを込めて真司に強く言い放つ。

コレは恵里の為であり己のためだ。彼女との想いを、絆をココで終わらせたくない。

こんな理不尽のまま、終わらせたくないんだと。

 

 

「蓮!」

 

「蘇った恵里には何も知らせない!」

 

 

そして己の犯した罪もまた、忘れてしまえばいい。

願いの力を使えばそれは叶う筈だ。蓮だって真司の言う事くらいは理解できる。

もし恵里全てを知れば、蓮を責める事はないだろうが、己を責めてしまうかもしれない。

 

そして蓮もまた、真司や美穂を殺す事に罪の意識や、後悔を覚えない訳が無い。

だからこそ願いを使えばいい。恵里を呼び戻し、そして己を取り巻く罪を消せれば、それで全てがうまくいくのだと。

何よりも真司たちが死ねば、彼等の存在は消える。

 

 

「蓮、俺は――ッッ」

 

 

真司は、その考えは否定したかった。大嫌いだった。

たとえどんな人間だろうとも、このゲームに参加した者の事や、ゲームのせいで犠牲になった者を忘れたくは無かった。

参加者は人々の記憶から消える? だったら誰が彼等の死を悔やめばいい?

誰かが喪に服さなければ、いくらなんでも悲しすぎるだろう。

 

人の命は重いものだ。

平等――、とまでは声を大にして言えないが、それでも真司は命には皆等しい価値があるのだと信じたかった。

 

それに記憶を無くせば、今ココで苦しみに顔を歪めている蓮はどうなる?

それはある意味、彼もまた死を選ぶと言う事なのではないだろうか?

手塚は自分に言ってくれた。絶望を『受け入れ』、そして同時に『否定』しろと。

 

 

「俺は忘れるわけにはいかないんだ! 絶対に!」

 

「………」

 

 

明確な答えは出ない。

だけど止めなければならない。

そして真司が選んだのは、皮肉にも戦う事であった。

コレは戦いを止める為の戦いだ。矛盾が真司を突き刺すが、それでも真司は蓮を止めるにはコレしかないと思った。

 

 

「………」

 

 

同じくしてデッキを取り出す蓮。

 

 

「城戸、俺を殺すか?」

 

 

蓮のテンションは低い。達観している様な、迷っている様な。

 

 

「いや、お前を止める。ねじ伏せるんだ!」

 

 

真司はきっと、心の中で思っていただろう。

それを口にする事は、あまりにもお互いが辛くなるだけなので、止めたが。

そう、もしも蓮が他者を殺してまで恵里を救いたいと願うのならば――

恵理は、彼女はきっと……。

 

 

「蓮! 一つでも命を奪ったら、お前はもう後戻りできなくなる!」

 

 

少なくとも――、"蘇るべきではないのかもしれない"。

 

 

「俺は、それを望んでいる」

 

 

蓮は即答するが、表情は歪んでいた。

本当に? 本当にそれを望んでいるのか?

彼もまた、迷いに囚われた愚かな人間。

 

 

「………」

 

「ッ?」

 

 

蓮はデッキを握り締め、そして――

 

 

「城戸、俺は……、そう、迷っている」

 

「え?」

 

 

蓮はデッキを一度しまった。

何を? 真司は呆気に取られて言葉を失った。

蓮のリアクションは真司とっては意外な物だった。

膨らんだ風船が割れるのではなく、ただ純粋に空気が抜けていくような。

蓮は今、自らの弱さをハッキリと自覚しているのだ。

 

 

「城戸、少し聞いてくれ」

 

「――……」

 

「俺は、恵里を救うためならば、人を殺しても構わないと思っていた」

 

 

しかし剣を振るうたびに、隣にいる彼女は泣きそうになる。

 

 

「彼女……? かずみちゃんか?」

 

「………」

 

 

蓮は無言で頷いた。

記憶には無い親戚の女の子。

しかし何故か彼女に対する想いは日々大きくなっていく気がする。

蓮もそれは何故か分からない、もちろんそれは恵里に対する『恋慕』だの『愛』と同じものではない。

全く違うベクトルの――、大きな感情だ。

しかしはっきりと分かるのだ。蓮でさえその正体が分からない想いが、どんどん膨れ上がっていくのが。

 

 

「かずみは……、きっと殺す事を望んでない」

 

 

勝ち残る事など望んでいないのでは無いか? 蓮はつくづくそう思っていた。

先ほどの会話からヒシヒシと感じられる事だ。

両親の会話をしていると時のかずみは、本当に楽しそうだった。

キラキラとした希望を瞳に浮かべ、本当の笑顔で話しかけてくれた。

それはきっと、まどか達友人と話している時もそうだったのではないかと思う。

 

 

「アイツは無理をしている」

 

 

部屋を出て行くときに浮かべていた笑顔は、偽物以外の何物でも無かった。

皆を殺す。それを口にした時のかずみの笑顔は、随分と儚い物だったのだ。

蓮を心配させまいと浮かべる偽りの笑み。後悔、焦り、悲しみがその笑顔にはしっかりと視えた。

かずみは望んでいないのだ。殺し合い等、欠片とて。

 

 

「蓮……、お前」

 

「笑うなら笑え。俺は滑稽だ、愚かだ」

 

 

あれだけ恵里恵里恵里と、彼女の事を想い、そして希望を乗せて縋ってきた。

恵里を蘇らせるチャンスがあると分かったとき、蓮はどれほど歓喜しただろうか。

親友を殺す事になったとしても構わない。何を犠牲にする事になっても構わないと思っていたのに。

 

 

「ハッキリと分かる。俺は、かずみが大切だと」

 

 

誰にも理解できないかもしれない。

蓮本人でさえ、その気持ちの正体を理解していない。

何故、何の関わりも無かったかずみに、これほど情を移してるのか?

ただパートナーと言うだけで、何故これほどまでにかずみの事を想うのか?

 

恵里と関わってきた時間は。恵里と共に育んできた絆は。かずみのソレを遥かに凌駕している。

なのに何故、ここで燻っている?

心のどこかで、かずみが悲しむくらいなら、戦いを止めても良いのではないかとすら思う自分がいるのだ。

蓮はそれが許せず、同時に答えが知りたかった。

 

 

「……!」

 

 

確かに真司としても、その答えは意外な物だった。

かずみも良い子だとは思うが、蓮の強固な想いを溶かす程かと言われれば、首を傾げてしまう。

 

いや、だが真司だってまどかが大切だ。

この殺伐とした戦いの中で助け合える関係であるパートナーシステムが、絆をより強い物としているならば、不思議な話ではないのかもしれない。

蓮は今、孤独感を背負っている筈だ。それをかずみが癒してくれていたなら、或いは……。

 

 

「だが恵里への想いが薄れた訳じゃない、これは確かな事だ」

 

 

むしろ日々強くなっている。

だから蓮も、何がなんでも答えを出さなければならない。

結局のところ真司と同じだったのだ。何度も迷い、そして答えを出したと思っても、また迷いが身体を駆け巡ってくる

 

 

「城戸、お前の中にある答えらしいものは、一片の揺ぎも無いのか?」

 

「……それは」

 

 

手塚は道を示してくれた。

しかしそれは手塚に甘えただけ? ここにきて真司の中に、より一層新たな迷いが強くなっている。

 

そうだ。

手塚は道を示してくれたが、答えを示してくれた訳じゃない。

どんなに苦しくても諦めるなと言ってくれた。

しかし何を諦めないかは、真司が決める事。

 

戦いを止める事?

真司は本当に戦いが止まると思っている?

要は自分の大切な人たちを守る事に必死で、きっと死人は出ると思っているんじゃないか。

それは真司が掲げた。『戦いを止める事』に本当の意味で近づくのか?

 

 

「城戸。お前は、俺を戦ってでも止めると言った」

 

「あ、ああ」

 

「だが、俺は止まらない。それこそ死ぬまでな」

 

 

デッキを壊しても、ナイフを持って真司に襲い掛かるだろう。

腕をちぎられようが、足を奪われようが、命があれば必ず勝利を目指してみせる。

ただ今の蓮はそれを高らかに宣言する事はできなかった。かずみを想って迷い、そして結果的に恵里を救うチャンスを逃す。そんな気がしてならないのだ。

 

蓮は拳を強く握り締めて、歯を食いしばる。

自らの中にある迷い。それをしっかりと自覚している。

だからこそ、分かるのだろう。城戸真司も同じように迷っている事が。

 

 

「今のお前と戦っても、何になる訳でもない」

 

「え?」

 

「俺も、お前もな」

 

 

今のままでは、ナイトは龍騎を殺せない。

龍騎もまた、ナイトのデッキを破壊したとすれば機能こそ停止できるかもしれないが、かずみがいる以上、蓮は優勝を目指せる。

そして今のままでは、いかなる言葉を用いても説得は不可能であると思っている。

 

 

「もしもお前が今、最小の犠牲で俺達を止めたいのなら――」

 

 

ナイトのデッキを破壊し、そしてかずみを殺すかだ。

 

 

「!」

 

「でなければ、俺は止められない」

 

「……なんでだよ!」

 

 

真司は蓮に掴みかかると、強く睨みつけた。

しかし、何かを言おうとしても、言葉が出なかった。

 

 

「………」「………」

 

 

殺す事に迷う蓮。

止める事に迷う真司。

二人はしばらく無言でその場に立ち続け、そして――

 

 

「城戸。俺は明日、必ず答えを出す」

 

「!」

 

 

先に口を開いたのは、決意を司る男。秋山蓮だった。

 

 

「だから、もしも俺が戦い続ける選択を取った時は――」

 

 

大切な存在へと変わりつつある、かずみの事を押し込め、自分の願いを優先させたその時は。

 

 

「お前を、最初に殺す」

 

「!」

 

「そして、俺の決意を示させてくれ」

 

「………」

 

 

何を馬鹿なと思う者がほとんどであろうが。

今の二人の間にあった物は、確かに『友情』だった。

それは他者には理解できない物かもしれない。しかし蓮は今、真司を頼っている。そして真司もまた、同じく。

 

 

「ああ、その時は、俺が絶対に……」

 

 

そこにあったのは、友情だ。

真司もまた、明日には本当の意味で答えを出さなければならないと思う。

燻る事の無い、揺ぎ無い一つの意思を示すのだと。

 

 

「お前を絶対に、止めてみせる!」

 

「……ああ、頼む」

 

 

二人は背を向け合った。

蓮は後ろから刺せばいいだけの話。

真司は後ろから羽交い絞めにしてデッキを壊せばいいだけの話。

しかし二人はそれをしない。今の二人には、全てが無駄な行動だと分かっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

美穂は無言で星空を見上げていた。

もう後悔は無い。自分がやれる事はやってきた筈だ。

いや、一つだけ残していた物があるか。美穂はそれを思いつつ苦笑する。

 

 

「そろそろ、死ぬか?」

 

 

いや、生き残る。

当たり前の生活に戻るだけだ。

 

 

「美幸……」

 

 

サキは自分の手首にある、スズランのブレスレットを見る。

色々な後悔はあった。だからこそ最後の最期だけは、後悔したくない。

弱い自分でも、きっと何かが守れる筈だ。

 

 

(ワルプルギス……!)

 

 

ほむらは記憶に残っている光景を何度となくリピートさせて、何か活路は無いかと必死だった。焦り、恐怖、彼女の中で膨れ上がる絶望。

喰われまいと、飲み込まれまいとしているが、果たして?

 

 

「恭介、今どうしてるかな……」

 

 

さやかはソウルジェムをコロコロ転がしながら寂しげな表情を浮かべている。

美穂を見れば、自分も上条と話したいと思うのが当然だろう。

しかし自分は死んだ身。電話をかける訳にもいかず、想いを馳せるだけで終わり。

もしも全てが終わった後でも、彼に会えないのだろうか?

そう思えば、チクリと胸を刺す物があった。

 

 

(さやか……)

 

 

そしてその上条。

彼はオーディンとなった体をまじまじと見つめる。

もはや人としての人生は終わった。今自分がここにいるのは、全てにおいて美樹さやかを守るためだ。

どちらにせよ一方通行だった愛が、報われる日は来るのか?

 

 

「アァァァアアアアアアアッッ!!」

 

 

浅倉は教会の柱に、頭を何度も打ち付けていた

今も尚、北岡を目の前で死なせた悔しさが取り巻いている。

激しい苛立ち、終わる事の無い怒り、浅倉は呪われている。

彼は、愚かだ。

 

 

「………」

 

 

杏子は、教会に残されていたステンドグラスに映る神様を見て、ニヤリと笑う。

所詮は醜き輪廻。それを終わらせるのは自分だ。

頂点に立ち、全ての苦痛と屈辱を終わらせる。

手に持っていた石を投げて、ステンドグラスを粉々にすれば、少しは苛立ちも治まった。

 

 

「ああ、そうだな。よろしく頼む」

 

 

仕事の電話を切って、高見沢は鼻を鳴らした。

食事の席にはニコはいない。やれやれと首を振って、窓の外を見る。

優れた力を持っておきながら公園で野宿だのと。

馬鹿なヤツだ、彼はつくづくそう思っていた。

 

 

「………」

 

 

織莉子と接触を図った故に、孤立を選んだニコ。

彼女は公園のベンチで野宿を行っていた。

と言っても寝る事はなく。夜空に光る月を見て、何かをずっと考えている様だった。

織莉子は死んだ。その意味は、ニコにとってどう映るのか。

 

 

「ユウリ……、明日、全てが終わるよ」

 

 

高層ビルの屋上に立ち、ユウリは見滝原を見下していた。

終わる、終わらせる。これで己の復讐が完成する。

全ての魔法少女を殺し、全ての騎士を殺し、そして願いでインキュベーターを消し去る。

そしてその後、己を殺せばユウリの復讐は達成されるのだ。

夢なんて、希望があるから見てしまうんだから。

 

 

「………」

 

 

無言のリュウガ。

終わりはしない、何もかも。

 

 

「お父さん……、お母さん」

 

 

お守りをギュッと握り締めるかずみ。

後悔も、苦痛も、ありったけに受けた筈だ。

だからせめてと神に祈る。失った物があれば、得る物も必ずあると信じて。

 

 

「………」

 

 

無言で空を見上げるまどか、明日には、全てが……。

 

 

「「―――」」

 

 

それぞれ別の場所を向いて進む真司と蓮。

その道の先には何があるのか。それは彼等が見つけなければならない事。

答えか? それとも壁か、はたまた道が無いのか。

己の心が全てを決める。

 

こうして、それぞれの想いを乗せて時間が経過する。

多くの悲劇と多くの犠牲を乗せて回る歯車は、愚かな輪廻を作り出し、ひとつの終着点へと道を示す。

同じく、愚かな役者を乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【七日目】

 

 

 

「ねえ、ほむら」

 

「……?」

 

 

朝。さやかはほむらを呼び出した。

ある事を話すと、ほむらは首を縦に振る。

実はと言うと、ほむらもさやかに同じ事を言おうとしていた。

それを聞くと、さやかは少し悲しげに微笑む。

 

 

「変な所で気が合うね、あたしらってさ」

 

「ええ……、そうね」

 

 

もっと違う所で、違う環境で、今の様に意思疎通が出来ていれば、まともな人生もあったろうに。さやかはそんな事を思いながら、視線を窓の外の曇天へと移した。

 

 

『本日午前6時、突発的異常気象に伴い、避難指示が発令されました』

 

「………」

 

 

サキはバルコニーで、広報車が放つ音声を聞きいていた。

腕を組んで空を睨む。濁った灰色の雲はどこまでも続いており、髪を揺らす風は非常に強い。轟々と音を立てる風の中で、サキは歯を食いしばる。

その表情には少し焦りと不安が見て取れた。

 

 

『付近にお住いの皆さんは、速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いします。こちらは見滝原市役所広報車――』

 

「いきなりだな……」

 

 

ほむらに話は聞いていたが、いざ目にすると怯んでしまうと言う物だ。

突然の事だった。雷雲がとんでもない勢いで分裂と回転を起こし、スーパーセルの前兆を作り出したのは。

 

激しい豪雨や落雷。

果ては洪水や竜巻さえも生み出してしまう気象現象だ。

ほむらの話に寄れば、ハリケーンや地震、落雷による事故のいくつかはワルプルギスの仕業だと言う。

 

今回生み出された災害が、たまたまスーパーセルだったと言う話なのだろう。

つまり、それだけ近くに『ヤツ』が来ていると言う事だ。

まだ地震じゃないだけマシだったと喜ぶべきなのだろうか?

既に多くの人は避難を開始しており、中学校が一つ無くなった事で、避難所にはより多くの人が集ると事態になっているとか何とか。

 

 

「美佐子さんは先に避難しておいてね」

 

「ええ……、ごめんなさいね、最後まで何もできなくて」

 

「うんにゃ、泊めてくれただけでも大感謝ですよ」

 

 

さやかの言葉に、美佐子は申し訳なさそうに笑った。

つくづく彼女たちを見ていると、自分は滑稽だったと思えてくる。

刑事として世の中を良くしようとしてきたつもりだが、レベルが違ったと。

それに自分より幼いまどか達を残すと言うのも、胸が締め付けられる。

 

 

「いいからいいから、ほらほら」

 

「……ッ、ごめんなさい」

 

 

けれども美佐子は所詮ただの人間だ。諦めたように家を出て行くのだった。

対して集る魔法少女達。美穂は真司との約束がある為、先に家を出て行った。

ここにいるのは魔法少女達のみである。

 

 

「いよいよだね」

 

 

ソファから立ち上がってまどかが言う。

流石に緊張しているのか、表情が硬い。最強の魔女であるワルプルギスが控えている事に加え、他の参戦派と一勢に戦う可能性が高いのだ。

さらに言ってしまえば自分が絶望すれば世界が終わる。それだけは避けなければならない。

もちろんそれは最悪の場合、自分で死を選ぶ可能性も考慮しなければならない。

そんな時に笑えと言う方が無理と言うものであろう。

 

一同はとりあえず美佐子の家でワルプルギスが来るまで待機と言う事になった。

美穂は真司と待ち合わせをしたらしく、そこで答えを聞くと言う段取りらしい。

一人にするのは少し心配だが、美穂のほうから一人にしてほしいと言ってきた。

複雑な想いがある。それを無視はできない。

 

しかしワルプルギスが出現する時間は、ほむらにも分からない。

とりあえず気配が大きくなってきたらオーディンと合流し迎え撃つと言う作戦ではあるが、やはり緊張と不安は大きい。

 

 

「大丈夫大丈夫、皆いるし絶対負けないって!」

 

 

さやかが皆を元気付ける為に笑う。

 

 

「だと、いいが……」

 

「あはは……」

 

 

かつて無い緊張感だった。

誰しもが皆、不安を胸に抱く。

こんな時に快晴だったらば、まだ心も晴れただろうが。

空は薄暗く。聞こえる音と言えば、小鳥の鳴き声ではなく、雷鳴と窓を叩く風の音。

そして避難を促す声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

公園。

見滝原は例外なくスーパーセルの影響下にある為、ココにも強風が吹き荒れていた。

みんな避難しているのだろう。公園にいるのは神那ニコただ一人のみである。

激しい風の中でもマイペース。

ジャングルジムの頂点に寝転んで、携帯の画面を見ている。

どうやらネットをしている様だ。余裕の表れか、それとも興味や恐怖が無いのか。

レジーナアイがあればこんな暴風の中でもネットは快適に繋がってくれる。

 

 

『悲報・見滝原消滅確定』

 

『見滝原でスーパーセルww』

 

『見滝原オワタ』

 

『速報。魔境見滝原、ついに歴史的災害が襲来』

 

 

SNSや掲示板では、早速今回の件で爆発的な盛り上がりを見せている。

自分とは関係ない位置にいる人間は、絶望と呼ばれたゲームを非常に楽しんでくれている様だ。

昔から他人の不幸は蜜の味とも言う

 

 

「………」

 

 

ニコは嘲笑を浮かべ、それらを見ていく。

いや、なかなかセンスのあるスレタイや、わざわざ死亡者数を記録している者がいたりと熱心な事だ。

巻き込まれている立場のニコだが、こう言ったギャラリーの反応は意外と面白い。

不謹慎なことほど、背徳的な面白さがあったりするものだ。

 

 

「ギャラリーねぇ」

 

 

連中にとって今の状況はサーカスと同じ。

安全な客席に座って、舞台に上がっている役者のショーを楽しむ。

綱渡りや火の輪くぐりなど、もしかしたら失敗を望んでいる部分も心のどこかにあるのかもしれない。

 

そう言えば、過去には闘技場で人間と猛獣を戦わせる娯楽があったそうな。

感覚としてはアレが近いのだろう。今も彼等はスーパーセルによって起こる被害がどんなものになるのか? 知りたくてウズウズしている筈だ。

 

 

「……イラつくね」

 

 

誰に対して?

 

 

「奇遇だな、アタシもイライラしてんだ」

 

「!」

 

 

は?

ニコは心臓が止まりそうになるのを感じる。

その声には聞き覚えがあった。跳ね上がる様に身体を起こすと、ジャングルジムの下にいる少女を確認する。

 

 

「よ、7番」

 

「……ッ」

 

 

水色のパーカー、風に揺れる赤いポニーテール。

 

 

(佐倉、杏子――ッ)

 

 

何故? 何故自分の場所がバレた!?

ちゃんと街中を歩く時は透明になっていたし。第一、なぜ自分が7番だと知っている?

 

 

(織莉子が教えたのか? いや、織莉子とアイツが話し合いの場を設ける筈が無い。それに織莉子はもう死んでるぞ!?)

 

 

そもそもニコにはレジーナアイがある。

確認は怠っていない。ついさっきも画面を見たが、近くに参加者はいなかった。

だったら何で杏子はココに――!?

 

 

(そうか! ジェノサイダーか!)

 

 

ブラックホールを通って、ホワイトホールをニコの傍に生み出せば一瞬でワープができる。以前も同じやり方で杏子は浅倉を呼んでいたじゃないか。

 

 

(だが待て、じゃあ何でコイツは私の居場所が分かったんだ!?)

 

 

すると笑い声が聞こえる。

ニコが持っていた携帯電話から。

 

 

『じゃじゃじゃじゃーん! ユウリ様でーす!!』

 

「……!」

 

 

あの糞女!

画面の中では、してやったりと言う笑みを浮かべたユウリが映っていた。

 

 

『初めましてかな、盗撮女ァ』

 

「……アンタとは趣味が合うと思ってたけどね」

 

 

ニコの頭にパッと浮かぶのは、箱の魔女であるエリーだ。

するとユウリは聞いてもいないのにハッキングの仕組みを教えてくれた。

ニコの予想通り、使ったのは箱の魔女ハンドルネーム、エリーキルステン。

イーブルナッツで強化されたエリーは、画面と言う画面を支配する事ができる様になった。

ニコの携帯をハッキングして画面をジャックする。

 

そればかりかレジーナアイそのものを狂わせ、一部の使い魔の姿をマップから隠して追跡を気づかれないようにもしていたのだ。

ニコとしても流石にそこまでは気が回らなかったか、一瞬でステルスが崩されてしまった。

 

 

『警戒心薄いんじゃないの? 駄目よ、油断しちゃ』

 

「チッ! こんな事ならウイルス魔女対策もしとくんだった」

 

 

ニコは携帯を投げ捨てると、気だるそうに立ち上がり杏子を見る。

ユウリが杏子にニコの場所を教えたのだろう。

 

 

(単純な女だ、そしてそれに乗ったコイツも単細胞)

 

 

ニコは笑みを一つ、杏子に向けてみる。

 

 

「お前さん。あんな露出狂の馬鹿女に利用されて悔しくないのかよ」

 

「………」

 

「天下の杏子様があんなヤツの言いなりになっている事がビックリだ」

 

 

その言葉を聞くと、杏子は声を出して笑った。

確かにそれは随分とムカツク話ではある。

自分としてもユウリの言いなりはかなり癪だったと、そして何か裏があるのは百も承知だ。

 

 

「でも考えてみたらさ、ずっと逃げられるのも、それはそれでウザイんだよね」

 

「………」

 

 

まあ、そうなるか。

ニコは透明化させて追従させておいたバイオグリーザを高見沢の元へと向かわせる。

おそらくもう自分は――

 

 

「心配しなくても、アンタを殺した後にユウリを殺しに行くからさ」

 

 

指を鳴らす杏子。

すると案の定と言うべきなのか、魔法結界が辺りに張り巡らされて逃げ道が封鎖される。

 

 

「そりゃ……、安心だわな」

 

 

ニコは変身を行うと杏子を睨んだ。

同じく変身を行う杏子。ニヤリと笑っているが、それはいつもの余裕や狩りを楽しむ姿ではなく、圧倒的な怒りや苛立ちだった。

 

ニコを見ているようで、見ちゃいない。

今も頭には鹿目まどかから投げられた言葉がずっとループしている。

力は一人じゃ限界があるだの、スペックその物が違うだの。

随分と下に見られた発言に、杏子の怒りは爆発しそうだった。

とにかく、こうなれば鹿目まどかに示すしかないだろう。

 

佐倉杏子の言葉(ちから)こそが――、正しいと言う事を。

それを証明するてっとり早い方法は何か?

簡単だ、全て殺せば良い。

 

 

「お前をさっさと殺して、次はユウリだ」

 

 

杏子の目が据わっている。

そこには一欠けらの良心も希望も無い。

 

 

「おいおい、ナメられたモンだ」

 

 

プロルン・ガーレ。

ニコは自分の指をミサイルへ再生成すると、それを一勢に発射する。

とは言え杏子は特に避ける素振りも、防御する素振りも見せない。

そうしているとミサイルは次々と命中していき、杏子を爆発の海に引きずり込んでいく。

 

 

「………」

 

 

やったか?

ニコはゴクリと喉を鳴らし、そしてハッと表情を変えた。

 

 

(やべ、フラグ立てちまった。"やったか?"は禁句――)

 

 

ドス、と音が。

 

 

「――ヵ!」

 

 

ニコは自分の胸を見る。

爆炎から何かが飛び出してきたと思えば、胸に感じる衝撃。

ニコは赤い槍が自分の腹を貫いているのを確認した。

 

そして晴れる爆煙。

そこには、ほぼ無傷の杏子が立っていた。

少し肌や服が黒くなっているだけで、何の事はなさそうだ。

ニコが理解する、スペックの差。確かにニコは戦闘向きではないし、魔法技の威力も控えめではある。

だからと言ってあんな何もダメージを与えられないなんて。

 

 

「弱いね。アンタ」

 

「うグッ! がぁッ!!」

 

 

次々とニコの身体に突き刺さり、貫通していく槍たち。

吐血してうずくまるニコを、杏子は本当につまらなさそうに見ていた。

だが、笑っているのはニコも同じだ。

 

 

(面白いじゃないか。本当に人を殺す事に対して欠片の抵抗も無い)

 

 

まさにゲームが望む最高のモンスター。

とんでもねぇ奴を見つけて来たものだ。

だがニコとて承知の事。対策を取らない訳がない。

 

 

(悪いな佐倉杏子!)

 

 

コレは、この傷ついた肉体はフェイク!

 

 

(本物は――ッ!!)

 

 

ニコは、杏子との会話中に下準備を行っていたのだ。

と言うのも、まず会話の間に魔法を発動させて自分の分身を作り出す。

後はミサイル着弾時に入れ替わればいいだけだ。爆発音でユニオンの電子音を隠し、クリアーベントで透明化すると、本体のニコは杏子の背後にまわっていた。

後は即死魔法のトッコデルマーレを打ち込めば終わりである。

 

 

「おっと」

 

(は!?)

 

 

しかしニコの手が触れるその瞬間、杏子は身体を反らして掌底を回避してみせる。

それだけではなく。透明になっているニコの腕を掴むと、そのまま背負い投げで地面に叩きつけた。

 

 

「うぐっ!」

 

「へぇ、なるほどね」

 

 

衝撃で透明化が解除されてしまった。

 

 

「そんな――ッ! なんで、透明だったのに!!」

 

「んー、まあ何となく気配と足音したし。一番は勘だけど」

 

「勘だぁ……!?」

 

 

気配を消す事と、足音を消す事は真っ先に習得したのに。

ニコは舌打ちをして抵抗する力を弱めた。

 

 

「無理、勝てんわ。降参ざんす」

 

「は?」

 

 

はっきり言って事実だ。

短い時間ではあったが、今の攻防でニコは圧倒的な実力の差を悟る。

いや、もしかしたら何とかできたかもしれないが、今のニコにはそこまで頑張れる気力は無かった。

ましてや理由も無し。

 

 

「ちなみにコレ、命乞いとかしたら助けてもらえる?」

 

「んなワケ無いじゃん、どうあっても殺すって」

 

「あっそ、じゃあ殺せや」

 

 

拘る意味は無い。

既にバイオグリーザは高見沢の所へ向かわせてあった。

いずれにせよニコが死んだら高見沢へアナウンスは流れる。

あとは彼が50人殺してニコを蘇らせれば良い。

 

ユウリもレジーナアイをハッキングしたとは言うが、そこに高見沢に関するデーターは入ってないのだから、割り出す事は不可能だろう。

トラウマを覗けるエリーも、高見沢の姿までは捉えられない筈。

ましてや杏子達にもそれは言える事だ。ココでニコが死ねば、粒子化して一切の情報は消え失せる。

 

誰も高見沢を知る者はいないし。

まだ朝なのだから、ワルプルギスの夜が来るまで多少なりとも時間はあるだろう。

そんな事を考えていると、杏子の声が耳を貫く。

 

 

「殺す前にさ、お願いがあるんだけど」

 

「は?」

 

 

杏子はニコを逃がさないために張っていた魔法結界を解除する。

 

 

「パートナー呼べよ」

 

「……ッ」

 

「いるんだろ? ソイツも一緒に殺してやるよ。コッチも浅倉が近くにいるんだ」

 

 

杏子は考える。

さっさとニコを殺してもいいのだが、復活ルールを使われるのは面倒でいけない。

ブラックホールのからくりもバレてしまったし、ユウリの協力も二回目があるとは限らない。

 

つまりココでニコを殺してしまうのは、杏子にとってはあまり良い選択とはいえなかった。

よってニコにパートナーを呼んでもらい、パートナーと一緒に殺す事で死亡を確定させようと言う。

 

 

「いや、実はもうおらんのだわ」

 

「嘘付け。死亡アナウンスとの数が合わない」

 

「いや、リーベエリス跡地でアンタらが戦い終わった後だから。タイガペアが死んだ後だ」

 

「……ステルス貫いてたヤツが死ぬか?」

 

「マジマジ。魔女に殺されたんだよ。ミラーモンスターもその時に殺された」

 

 

杏子は複雑に表情を浮かべてニコから目を逸らす。

そして、ため息を一つ。すると再びニコを睨みつける。

 

 

「嘘だね。それも」

 

「いや、本当――ッ!」

 

「今、見滝原にいる魔女と使い魔は、全てユウリの管理下にある」

 

「何ッ!?」

 

 

そのタイミングはリーベエリス跡地での戦いの最中。

つまりニコのパートナーを魔女が殺したのなら、それは当然ユウリが命令を下してと言う形になる。

しかしユウリはニコのパートナーは知らないと言っていた。

 

 

「アイツの情報に助けられるとはな」

 

 

それが先ほどの微妙な表情の正体と言う所か。

心の中でニコは舌打ちを一つ、まさかユウリがそこまで本気を出していたとは。

流石に予想外だった。レジーナアイがハッキングされていなくとも、魔女がユウリの管理下にあるとは分からなかった

だが、まだニコは焦らない。

 

 

「ユウリは嘘をついてる。私のパートナーは本当にユウリの魔女に殺されたんだ」

 

「まあソレはね。でも、そんな嘘をつく必要がどこにあるんだよ」

 

「……ッ」

 

「パートナーを殺したけど、殺してないって嘘をつく必要性はなんだ?」

 

「利用されてる。あんな胡散臭いユウリを信じるのか?」

 

「アンタも十分、胡散クセェよ」

 

(……くそ! こんな事なら自殺にしておくんだった)

 

 

ニコは無言で笑みを浮かべるだけ。

杏子にはそれが答えと映ったのだろう。

ニコパートナーは死んでいないと言う確信。となれば、ココは何としてもパートナーを呼び出したいところだ。

 

 

「まあてっとり早く――」

 

 

杏子はニコを持ち上げると、ニコが投げ捨てた携帯の所まで運んでいく。

そして携帯を拾い上げると、壊れていないかを確認。

ちゃんと機能している事を把握すると、ニコへとそれを突きつける。

 

 

「電話しろよ、パートナーに」

 

「いや、本当に死んだんだよな。私には説明できないけど」

 

「あそう」

 

 

杏子は興味なさげに呟くと、ニコを掴んでいた手を離す。

そして何の躊躇いもなく、槍の刃でニコを切りつけた。

 

 

「――ッ」

 

 

飛び散るニコの血を見て、杏子はニヤリと唇を吊り上げる。

 

 

「呼ぶ気が無いのなら、呼びたくさせるだけだよな」

 

 

ニコは乾いた笑みを浮かべる。

やはり脳筋、考える事も単純で話が早い。

しかしこれからの事を想像して文字通り、死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな、これだけやられても、ソウルジェムの輝きは燻らない」

 

「………」

 

 

そりゃどうも。

ニコは声を出そうとしたが、ダルかったので止めておいた。

あれから五分。恐怖も痛みも無い。あるのはただ鈍った感覚だけ。

ニコは霞んだ目を擦って、笑っている杏子を見上げた。

 

槍を構えてヘラヘラ笑っている杏子の手にはニコのソウルジェムがある。

倒れているニコの姿は、まあ随分と酷いものだった。

 

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

 

ニコが咳き込むと、空気と一緒に血も吐き出された。

既に倒れている周りには血液のカーペットが広がっている。

手や足の指の何本かは切断されて地面に転がっていた。

 

右脚は槍で切り刻まれ、ズタズタになっており立ち上がる事も難しい。

それらの傷は全てニコがパートナーを呼ぶのを拒んだからだ。

何とかして抵抗しようと試みたが、一番最初に足をやられてしまった為、後は一方的にやられるだけになってしまった。

 

ソウルジェムを取られてしまったのも屈辱だ。

杏子はニコをいつでも殺せる状態にあり、完全な詰み状態である。

ああ、なんと情けない姿か。こんな事ならやはり織莉子に接触するのは避けておいた方が良かったかもしれない。

とは言え彼女も今はあの世。それは『あの話』をしたからなのか、それともただの偶然だったのか?

 

 

(後者だとしたら、今の状況も合わせて、なんとも運が悪いじゃないか、ええ?)

 

 

思えば"一番最初"もそうだ。

間違って引き金を引いたのもあるが、安全装置がないトカレフだったも、全て不幸として割り切る事ができる。

 

 

「なあおい、アタシもさぁ、アンタの為を思って言うんだよ?」

 

 

さっさとパートナーに連絡すれば楽になるのに。

杏子は少しうんざりした様にニコへ話しかけた。

けれども何度言われようが、ニコの答えは同じだった。パートナーは死んだから連絡ができない。

杏子はその言葉を聞くと、やれやれと首を振る。

携帯にはロックがかかっており、電話帳を見て相手を特定すると言う事もできない。

人間を越えた力を持つ杏子がただの電子ロック相手に悩まされるとは。なんだか情けない話ではないか。

 

 

「じゃあ、やっぱり、痛い目を見てもらうしかないよなァ?」

 

「―――」

 

 

絶句するニコ。

左腕に衝撃を感じたと思えば、手が身体から離れていく。

左腕を切り落とされたが、ニコは少し驚いた表情を浮かべただけで、最終的には笑みに変わる。

既に痛覚操作で痛みを感じない体になっている。

つまりどれだけ拷問じみた事をされようが、ニコには全く関係のない事なのだ。

 

 

「クソッ、面倒なヤツだな!」

 

 

杏子もそれが分かっているのだろう。

次第にイライラした表情を浮かべる様になってきた。

ニコの頭部を踏みにじり、暴言を浴びせるが、それも何の意味もない。

どうせ死んでもすぐに蘇るだろうから、死への恐怖や未練も無い。

 

 

「………」

 

 

その中でふとニコは考える。

はて、高見沢は本当に蘇らせるのだろうか?

今更50人殺しなんて躊躇う男ではないだろうが、何故だかニコはそう思ってしまった。

 

それはきっと、公園の草むらで自分を見ている二人の子供が目についたからだろう。

その二人の子供は、眉間に赤い穴をあけており、そこから血が流れ出ている。

ああそうか。まだあの幻影に囚われていたのかと、ニコはぼんやりと思っていた。

 

今もこうして蘇生させられるかどうかを考えているのは、つまる所、心のどこかで死を望んでいたからでは?

高見沢はニコの事を死人と呼んでいたが、それに不快感を覚えたのは、彼の言うとおりだと思ってしまったからだろう。

 

ニコが参戦派に移るか、協力派に移るかを高見沢の考えに任せたのは、心の底からどうでもいいと思っていたからに違いない。

そして同時に、自分で決める事もできなかった。

決める事すらできなかったのだろう。

 

何故って、それは高見沢の言う通りニコはもう死んでいたからだ。

人としての感覚を。人としての感情。それら失ったニコは、人らしく振舞っていただけで何も感じちゃいなかった。

夢も、目標も、生きがいも。ましてや希望も無かった毎日。

己と言う存在を否定したあの日から、本当に自分は『無』だったのだろう。

つくづくそう思う。

 

そう言った意味では、今回のパートナーシステムのおかげで、久しぶりに人と関わる事になった。それは自分の生きる意味を、誰かに決めてもらう『楽』を覚える事だった。

でも今になったつくづく思う、やはり自分はからっぽだ。

 

達観しすぎていると言えば良いか。

今こうして殺されそうになっているのに、全く怖くないし、全く何も感じない。

どうせ復活できる。そうでなかったら本当の意味で死人に戻るだけだ。

まあ、それはそれでいい。ニコは濁った目で、自分の切り離された腕を見ているだけ。

 

 

「おい、最後の質問だ」

 

「………」

 

 

杏子も杏子でそろそろ限界だった。

イライラを溜めては精神に悪い。だから槍をニコの首に近づける。

次は無い。首を跳ね飛ばすと言う事なのだろう。

 

 

「お前のパートナーを呼べ」

 

「………」

 

 

ニコは笑みを浮かべるままだった。

殺されるのは、元に戻るだけ。

人生とは何か? 空気だったニコが、他者に影響を与えるのはそれだけで価値があると言うものだ。

 

佐倉杏子を僅かに苛立たせた事が、ニコにとっては何よりもの抵抗だったのかもしれない。

一瞬だけ高見沢とゲームをした時の記憶が蘇る。

お前は、きっと下らないと笑うだろうな。

 

 

「死んだよ、私のパートナーはな」

 

「いい根性してるな、お前」

 

 

もういいや。

杏子はこれ以上の苛立ちに耐え切れなかったのだろう。

ニコのソウルジェムを投げ捨てると、槍を振り回してニコを睨んだ。

 

 

「ぶっ殺す」

 

 

全てが面倒になったので、ニコを殺すことにした。

だがニコとしては其方の方が都合がいい。目を閉じて、来るべき死を待った。

まずは一回か。ニコはぼんやりと考える。

 

 

「死んでねぇよバカ野郎」

 

「………」

 

 

え?

ニコと杏子は同時にその『声』を聞いた。

すると杏子の襟首が引っ張られる様に上につり上がり。

かと思えば刹那、杏子は一人でに後方へ吹き飛んでいった。

 

 

「うゴッ!」

 

 

杏子は木に叩き付けられ、うめき声を漏らした。

 

 

「アァ、クソ! なんだよ!」

 

 

すぐに槍を構えて戦闘態勢に入る。

 

 

「な、なんで……」

 

 

一方、ニコの表情が激しく変わる。

唇を震わせ、目を見開き、ありえないと口にしていた。

いや事実、どう考えてもありえない事だった。その理由が無いのだから。

しかしどうだ、この今は。

 

 

「なんで来たんだ……! 馬鹿かお前は!!」

 

 

声を荒げるニコ。

しかしすぐに咳き込んで血を地面にぶちまけた。

その姿を見て、何も無い空間から笑い声が聞こえる。

ゲラゲラと笑う『無』は、ニコを滑稽だと、無様だと罵った。

 

 

「情けねぇ姿だよオイ」

 

 

その声と共に、ニコの前の景色が歪み始める。

 

 

「お前もそう思わないか? ええ、神那ニコさんよぉ」

 

 

そして騎士、ベルデが姿を現した。

 

 

「――!」

 

 

いち早く反応を示したのは杏子だ。

見た事の無い騎士。そして会話から察することはできた。

今、目の前にいる騎士こそ、神那ニコのパートナーではないかと!

 

 

「ハハハハ! こりゃいいや、探す手間が省けた!」

 

「高見沢――ッ! 何で来てんだ! 本当に糞馬鹿だなお前はッッ!」

 

 

何考えてんだ?

どういう思考回路してんだよお前。これがどう言う意味かお前分かってるのか?

どうするんだ? 何考えてるんだよ、全部台無しじゃないか。そう、全部、全部だよ!

意味不明なんだよお前、今回はお前が全部悪いぞ。

っていうか、あぁクソ! マジで頭おかしいんじゃねぇか!?

 

などなど。

今までのニコからは、考えられないほど饒舌に罵倒の言葉が出てきた。

ニコ自身、あまりにも意味が分からなくて混乱しているのだろう。

同じ事を繰り返したり、支離滅裂な言葉を並べていく。

 

 

「オイオイ冷たいなお前。せっかく俺様が助けに来てやったのに」

 

「ハァ!?」

 

 

ニコが逃がしたバイオグリーザは、問題なく高見沢の元へたどり着いた。

それが緊急事態だと言う事を察知した高見沢は、ビジョンベントを発動させて何があったのかを把握する。

ライアのビジョンベントと違う点は、バイオグリーザが見てきた景色を確認できると言うものだ。要するに履歴を調べられる。

 

それでベルデはニコが杏子に見つかった事を知った。

こうなっては仕方ないと、初めはニコを諦めるつもりだったが、そこでふと気になる事ができてしまった。それを確かめたく、ベルデは再びバイオグリーザを透明化させてニコの所へ向かわせた。

そしてニコが杏子に一方的にやられる所を観察し、そして最終的にベルデが下した決断はニコの所へ自分が向かうと言うものだった。

 

 

「なんでだッ! なんでそんな無意味な事をッッ!!」

 

 

ニコとしては全ての計画が台無しにされた様な感覚だった。

それにベルデが来たと言う事は――

 

 

「よぉ、お前の獲物だぜ浅倉」

 

「アァァ、もう誰でもいい、早くぶっ殺させろ」

 

「――ッ」

 

 

やはり、杏子の背後から来るのは浅倉だった。

向こうは向こうで北岡の件があって相当イライラが募っている筈。

当然それだけ全力で殺しに来ると言う訳で。

 

 

「変身!」

 

 

すぐに王蛇へと変わり、首を回しながらデッキに手を掛ける。

抜き取るのはデュエルベントだ。これにより王蛇はバトルフィールドを形成してベルデ達の退路を断つ。

 

息を呑むニコ。

コレはいよいよとマズイ事になってきた。

実力で勝てない相手と、逃げる事のできないフィールド。

脳裏に浮かぶ脱落の二文字。

 

 

「たかみぃ、お前……ッ、本当になんで来たんだよ!」

 

 

ニコは本当に意味が分からなかった。

高見沢の行動は軽率以外の何物でもなく、同じくして彼らしくない愚行も愚行ではないか。

まどかや織莉子と接触する事をあれだけ渋っていた高見沢が、まさか自分から参加者の前に姿を晒すなんて予想できる筈も無い。

ましてやこれだけのリスクを背負うなんてありえない話だった。

 

 

「本当に……、なにがなんだか」

 

 

ニコは軽蔑混じりにベルデを睨んだ。

そのベルデは、手を上げてやれやれと呆れたようなジェスチャーを取った。

 

 

「前に言った事を覚えてるか?」

 

「ッ?」

 

 

どうしても気になること。

 

 

「お前が貪欲なら、俺はここに来なかったろう」

 

「ッ?」

 

「言っただろうが。俺が一番嫌いなのは『欲』を捨てたヤツだってな」

 

「どういう意味だ?」

 

 

ニコは彼に問うが、ベルデは何も答えない。

無欲? 確かにそんな事を言っていたのは記憶にあるが、だからと言ってベルデにとってはそれが勝ちを捨ててまで拘る事なのか?

ニコには全く理解できない。しかし時間は進む訳で、目の前には敵がいる。

 

 

「死んでも立て。お前がまともに機能しないと俺たちは死ぬぞ」

 

「――ッ!」

 

 

ベルデに煽られ、ニコは意識を集中させる。

前からは武器を構えて走ってくる王蛇と杏子。

ココで何とかして二人を退けなければ確定死亡だ。

となれば後には退けない、背水の陣。

 

 

「ニコ、生きたいなら戦え」

 

「なに……?」

 

「死にてぇなら、そこで無様に寝てるこったな」

 

「ッ、なんなんだよ」

 

 

ニコは顔についた血を拭いながら、何とか立ち上がろうと力を込めた。

足は使い物にならないのだから、再生成で義足に変える。

ベルデの横にフラフラと移動するニコ。ここに来て頭が狂ったか? 彼女は言いようの無いモヤモヤを抱えながら大きく肩を落とす。

 

なんだろうか。

先程まではココで脱落してもいいと思っていたが、今は意味不明な理由で振り回される怒りが優先して、そうは思えない。

 

 

「俺がココに来たのは、テメェに中身があるかを判断しにきたまでよ」

 

「?」

 

「ほら、来るぞ!」

 

 

ベルデは跳躍、

襲い掛かってきた王蛇へ拳を打ちつけ様と走り出した。

 

 

「なんなんだ、なんなんだよ本当に……!」

 

 

ニコはベルデが言った言葉を何度もリピートしていた。

ニコ貪欲ならばベルデはココに来なかった?

 

 

「欲無き者は、生きている価値は無い」

 

「矛盾してる――ッ!」

 

 

それとも?

 

 

「おい、テメェ――ッ!」

 

「アァ?」

 

 

ベルデの拳が王蛇の仮面を掠る。

けれども王蛇の蹴りは、確かにベルデを捉えていた。

ただの回し蹴り、ただの回し蹴りなのに、ベルデにとっては凄まじく重い衝撃に感じると言うものだ。

 

王蛇はリーベエリス跡地の戦いでデッキをナイトに破壊されている。

強化はそこでリセットされてしまった。しかしそれにしては、ベルデはもう圧され始めている。それだけ浅倉威そのものの戦闘能力が高いと言う事だ。

 

 

「テメェには欲望はあるか?」

 

「アァ? 何の話だ?」

 

「ゲームに勝ち残って叶えたい願いが! 欲があんのかって聞いてんだよ!」

 

 

再び繰り出されるベルデの拳。

しかし王蛇はそれをヒラリと回避すると、カウンターのアッパーをベルデの顎に命中させた。凄まじい衝撃がベルデの脳を揺らす。

 

だからだろうか。

ブレる視界に、過去の景色が映し出されたのは。

無欲だった為に地獄へと沈んだ父。己の欲望に忠実だったが、結局力が無い為に崩壊へと進んでいった母。

 

愚かな奴等だった。哀れな奴等だった。

ベルデは今頂点に立つ事で、二人を究極の馬鹿だと笑う事ができる。

全ては這い上がろうとする意思。力を得ようとする欲望があったからだ。

ベルデは、高見沢は――、欲望の力を信じていた。

 

 

「決まってるだろ。この戦いが終わらない様にするだけだ」

 

「ほう……!」

 

 

二人の蹴りが同時にそれぞれの腹部に炸裂し、一旦両者の距離が空いた。

呼吸を整えるベルデと、両手を上げて笑う王蛇。

 

 

「この世界にはつまらん物が多過ぎる。だが戦いは別だ」

 

 

戦いだけがかつて無い高揚感を与え、常に自身を取り巻くイライラを解消してくれる。

それは欲望などでは無く。ただ戦いを心から求める本能だと王蛇は説いた。

 

人には一人一人、生まれながらにして持つ、何かしらの才能がある。

それは些細な物から、天才と呼ばれるに至るものまで大小種類は様々だが、何かしらの物は必ず与えられると言ってもいいだろう。

神は、浅倉威に凄まじい破壊の才を与えたといっても過言ではない。

 

山ほどの人が面白いと言う漫画も、山ほどの人が泣いたと言うドラマも、浅倉にとっては心動かされる物とはならない。

性欲も無ければ、食欲も一般人のソレとはどこかズレている。

人として欠落している部分もあるが、戦いの時だけは別だ。そこには純粋なる娯楽を求める事ができる。

 

故に戦いが永遠に続けば、浅倉はそれで良かった。

けれども今、彼の中には戦いでは満たされぬ大きな殺意が渦巻いている。

北岡と言う執着していた獲物を逃がしてしまった事は、もはや何で満たされるとも知らぬ。

王蛇は怒りを拳に乗せてベルデを打ち砕こうと力を振るった。

 

 

「お前じゃァ、俺のイライラは消せない。さっさと消えろ」

 

「グッ!!」

 

 

気だるそうな王蛇の声。

拳をベルデが受け止めれば、狂ったような連続頭突きが襲い掛かる。

自らの頭部を武器として乱雑に扱う王蛇を見て、流石のベルデもうんざりしてきた。

 

 

「ナメやがって糞ガキが」

 

 

地面に倒れたベルデの中に沸き立つのは純粋なる怒り。

今まさにベルデは、己の中に『殺意の欲望』が芽生えるのをヒシヒシと感じていた。

追撃に放たれた王蛇の踵落としを、地面を転がって回避すると、デッキに手をかけてクリアーベントのカードを引き抜く。

立ち上がり様に消えるベルデ。王蛇は鼻を鳴らしてジェノサイダーを召喚する。

 

一方、それほど距離が離れていない所の杏子とニコ。

生きたいならば戦えと言われたが、本当にそうなのだから戦わない訳にはいくまい。

ココで高見沢が死んでニコも死ねば本当にアウトだ。

杏子は笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる。それを見て、ニコも釣られた様に笑った。

向こうは完全に勝った気でいる。だったらその鼻っ柱粉砕してやるのも悪くない。

 

 

「行けッ!」

 

「!」

 

 

ニコは足を引きずりながら後退。しかし同時に生み出すのは無数の分身。

それぞれの分身は実体を持っており、即死魔法とも言えるトッコデルマーレを発動していた。

大量の分身と、それぞれに一撃必殺の魔法を持たせたニコ。

当然それだけ魔力は消費される事になり、ソウルジェムにかかる負担も大きくなる。

だが攻めるには十分すぎる数だ。ざっと三十体は形成する事ができた。

 

本当はもっと作る事もできたが、残った魔力はトッコデルマーレの持続時間と、分身たちの強度を上げる為にほぼ全て使ってしまった。

あとはそれぞれに指ミサイル一発分と言ったところか。

トッコデルマーレが仮に決まったとして、排出されたソウルジェムを叩き壊さないといけないのだから。

 

 

「………」

 

 

対して、杏子は向かってくる無数のニコを見て呆れた表情を浮かべている。

質よりも量を取ったと言うべきか。だがもう見ただけで分かると言う話だ。

杏子は自分の前に無数の槍を召喚すると、それを蹴り飛ばす様な仕草でいっせいに発射する。

 

次々とニコの群れに向かっていく槍たち。

そのスピードは凄まじく、ニコ達は何とか回避を行おうと試みるが、数人は顔面や腹部を貫かれ動きを止める者も。

 

さらに杏子はニコ達の動きをしっかりと観察しており、回避先に異端審問を発動していた。

次々に串刺しとなっていくニコ達。まだ終わらない。杏子は自分が持っている槍に魔力を注ぎ、巨大化させて一気に振るう。

 

 

「オラァアアア!!」

 

 

杏子の雄たけびに呼応するかの如く、槍先に紅いエネルギーが灯った。

揺らめくそれは炎の様に拡散し、次々にニコの分身たちを蒸発させる様に消し飛ばしていく。

 

槍は一回転。

密かに忍ばせておいた、透明化させた分身も一緒に消滅し、ニコが作り上げた兵隊はあっと言う間にゼロとなる。

 

 

「ハッ! 質も量も伴ってないんだよ!」

 

「う、嘘だろ……ッ!」

 

 

ニコは引きつった表情で杏子を見ていた。

分身の耐久も上げておいたのに、もういなくなってしまうとは。

それだけニコの実力と、杏子の実力に大きな差があると言うのか。

確かにニコは真正面からの攻防にはめっぽう弱いと思っていたが、まさかこれほどとは。

 

それに杏子は純粋な殺意を、胸に大きく蓄積させている事でより一層パワーアップしていると言ってもいい。それは歪んだ強化であるものの、鹿目まどかに言われた言葉を否定する為に膨れ上げた殺意は想いの力となっている。

言ってしまえば、殺意が希望となって力の源となる訳だ。

 

すべての事に興味を持てず、達観してるニコでは至れぬ境地であろう。

魔法少女になりたてのスペックならばニコもそこら辺にいる彼女達とそう変わらない。

しかし感情を持たぬと言ってもいいニコでは、そこから先の成長が見込めなかった。

 

 

「………」

 

 

その時、ニコは自らの心に明確な『悔しさ』が宿っている事に気づく。

どうでもいいと思っていた感情や心に、確かな想いが宿っている。

高見沢と行ったゲームは、やはり多少なりともニコに影響を与えたのか。

 

 

「ま、死に損ないにしちゃ……、うまくやった方だろ」

 

 

杏子も杏子でイライラが膨れ上がっている所だった。

どいつもこいつもが鹿目まどかに見えて仕方ない。

この苛立ちとモヤモヤは、まどかの顔面をグチャグチャにさせない限り収まらない筈。

だからもうニコなんて雑魚はどうでもいい。さっさと殺して終わりにしよう。

杏子はそんな事を考えで槍を握り締める。

 

ニコとしても、そういう考えが多少なりとも伝わってきたのか、余計に苛立ちが芽生えた。

しかし悔しい話だが、もう本当に打つ手が無い。

おこぼれの勝利を狙っていくスタイルでは、やはり杏子に勝つことなど不可能だったのか。

 

 

『ファイナルベント』

 

「は!?」

 

 

その時だ。

ニコに向かっていた杏子の体が、何かに引っ張られた様にして一気に地面から離れた。

一瞬で把握するニコと杏子。ニコはよく知っている技であるし、杏子としては直前の音声で理解した様だ。

そう、ファイナルベントとはベルデが放った音声。

それを証明する様に、ベルデは透明化を解除して姿を現してみせる。

 

 

「まずはテメェからだ!」

 

「チィイ! 浅倉ァア! なにやってんだよ!!」

 

 

ベルデは杏子を掴みながら回転。平衡感覚を狂わせる。

王蛇を奇襲するのではなく、杏子に狙いを変えていたのだ。

ファイナルベントでいっきに片付ける。杏子も危険だと判断したのか、表情を焦りに歪めた。力を込めてみるが、ベルデも全力だ。なかなか腕を振りほどけない。

さらにファイナルベント発動中は力が上がっているらしい。槍を当てるなり、いろいろ抜け出す方法は頭を過ぎるが、浅倉と交わしたルールは守りたい所だ。

だが迷っている間に確実に地面は近づいていく。

 

 

「死ねぇえ!!」

 

「くッ!!」

 

 

もらった!

ベルデはデスバニッシュを杏子に命中させ――

 

 

「「「!?」」」

 

 

杏子の脳天が地面に直撃しようかと言う、まさにその一瞬。

ある筈の地面が消え、そこには一面の黒が広がっている。

 

 

「なんだコレ!」

 

 

混乱するのはニコとベルデだけでなく、杏子もまた同じだった。

地面が黒に? いや、これは穴。

ブラックホールだ。

 

 

「―――」

 

 

杏子の頭は固い地面に激突するのではなく、奈落の闇の中へと消えていく。

そして王蛇の前方にホワイトホールが現れて、デスバニッシュ中の二人が横向きで排出された。

 

そう、横向き。

言ってしまえば寝転んだ状態だ。それもベルデを下にして。

そんな状態で威力など出る筈もなく。むしろベルデが先に倒れた事で、杏子のクッション代わりとなってしまった。

 

 

(俺のファイナルベントが! まさか、こんな……!)

 

 

ベルデの前には、首を回して小さく笑っている王蛇が立っていた。

その隣にいるのはジェノサイダー。地面にブラックホールを作ることで、落下してきたベルデ達を闇の中に吸い込んだのだ。後はホワイトホールで適当に排出すればいいだけ。

こうしてベルデのファイナルベントは不発に終わる。

ここでアドベントの時間が終了して砕けるジェノサイダー。

 

 

「サンキュー浅倉!」

 

「うグッ!!」

 

 

すぐに立ち上がって体勢を立て直す杏子。

王蛇はさらにベルデを思い切り蹴り飛ばして遠ざける。

 

 

「野郎――ッ!」

 

 

ベルデは立ち上がり様にカードを発動して、ヨーヨーを構えた。

一方で王蛇も両腕に武器を装備すると、真正面から突っ込んでくる。

メタルホーンとベノサーベルでのインファイト。ヨーヨーでは分が悪い。

ならばとベルデはコピーベントを取り出した。相手が武器を持った状態で使えば、その武器も複製して獲得できる。

が、しかし――

 

 

『ベノム』

 

「なっ!!」

 

 

カードをバイザーに入れた途端、王蛇の毒がベルデのバイザーを侵食していった。

カードの発動を封じるカードだ。これでお互いカードを使えない状況となったが、そうなると有利なのは当然王蛇だった。

 

ベルデが弱いわけではない。

むしろ高見沢は多少なりとも戦い方を学んだつもりだった。

しかしそれらを無視するように王蛇の純粋な力がベルデを圧していく。

ゴリ押しとでも言えばいいのか。ベルデはすぐに地面を転がり、呻き声をあげる事となった。

 

 

「クソがッ!!」

 

「アァァ、うるさい奴だァ。余計にイラつくぜぇエェ!」

 

 

イライラするんだよ、もう何もかも。

王蛇はクラッシャーを展開して呻き声をあげる。

おかしい、ベルデを攻撃してもイライラが収まらない。

いや少しは引くのだが、それを上回る勢いで苛立ちが上書きされていく。

 

チラつくのは北岡の最期ばかりだ。

最高に殺したい相手が目の前で死なれた。

しかもその時の奴の表情は完全に王蛇を見下し、勝ち誇ったようだった。

最高にして最大の勝ち逃げ、ああイライラがまた募る。

 

 

「……ッ!」

 

 

ニコは察する。

無理だ、絶対に無理。コチラに勝ち目は無い。

直感する死、そうなると必然的に膨れ上がるベルデへの怒り。

本当に何で彼はココに来たのか。ベルデさえこなければ死ぬ事はなかったのに!!

 

 

「……あ」

 

 

死にたくないと言う心は、欲望があったからこそ?

今、ニコは死にたくないと思っている。

 

 

(なんで? いやそりゃ簡単な話? いや、なんでだ?)

 

 

ニコは少し混乱してしまう。

生きていたって、楽しい事なんて一つも無いのに。

違う違う。それを克服する為に自分はあのゲームで幻想を殺したんじゃないのか?

 

 

(まさか、アイツ……)

 

 

いや、それにしたってこのままじゃ詰みだ。終わりだ。

この状況を打破できる事と言えば、ニコには一つしか思い浮かばなかった。

それにしたって状況がよくなるとは限らないが、少なくとも今はもうコレしか無い。

文字通り奥の手と言うヤツだ。

 

 

(頼むぞ私、才能あってくれよ――ッ!)

 

 

不幸自慢と言う訳ではないが、それなりに闇なら抱え込んでいる筈。

因果や、自身の闇が、それだけ力になるとか何とか聞いた事があるぞ。

そうだろ? だから――ッ!!

 

 

「ォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ソウルジェムを取り出しありったけの魔力をつぎ込むニコ。

彼女は再生成の魔法を使い、自身の腕をバズーカ砲に変えた。

そして瞬時、弾丸を発射。王蛇と杏子に向けて大きな弾丸を飛ばしていく。

 

 

「高見沢!」

 

「――ッ!」

 

 

ベルデは体を跳ね起こして思い切り跳躍、王蛇と杏子から距離を離す。

対して向かって来たバズーカーの弾に視線を移していた王蛇ペア。

ニコはそれを見て、回収しておいた携帯でレジーナアイを起動する。

 

このアプリは魔法で作られた物だ。

効果もニコが詳しく設定できる。

無駄かと思いつつも、ニコは最後の機能をレジーナアイに組み込もうと試みた。

 

 

「ハッ! こんな物」

 

 

一方、杏子は腕を伸ばした。

そこへ飛来する弾丸。避ける事も焦る事もなく、ただ単純に掌で弾丸を受け止めて見せた。

それを見ながらニコはレジーナアイに情報を打ち込んでいく。

アプリの機能は、その難易度に応じて消費される魔力が決定する。

今回追加する機能はそれなりに魔力を消費するもの。

もう既に僅かな魔力しか残っていないニコでは、追加できる訳も無い。

そう、『通常』なら。

 

 

「因果――ッ! 超えてみろ!!」

 

 

ソウルジェムの輝きが増し、同時に大きくヒビが入っていく。

ニコは魔力の限界を超え、自らの魂の全てをレジーナアイに注ぎ込む。

先ほどの光景、杏子が弾を回避せず受け止めるビジョンは読めていた。

なぜか? 簡単な話。杏子は単純だから。避けるのはムカつくんだろう、負けた気がして。だから受け止めてみせる。

 

 

(それもフェイクだよ脳筋!)

 

「!」

 

 

ニコが作った弾丸は普通のものではない。

バレーボール程の大きさを持ったそれは、杏子の手の中で爆発。

中から催涙ガスと、動きを封じるトリモチが発射された。

しかも麻痺を誘発させる為に、おびただしい電撃もおまけつきで。

 

 

「グッ! な――ッ!!」

 

 

目を閉じる杏子。どうやらガスを受けてしまったようだ。

さらにニコは魔法でガスに細工をしており、ソウルジェムによる感覚遮断を封じる信号を埋め込んだ。

つまり一種の洗脳効果があるのだ。杏子が必死に状態異常を治そうとするが、なかなかうまくいかないようだ。

 

騎士の仮面はガスマスクのような役割も持っており、王蛇は平気そうだったが、トリモチや電撃はしっかり受けてくれた。

このトリモチも、なかなか外れないように魔力は注いである。

と言ってもすぐに王蛇たちは動き出すだろうが……。

 

 

「よく避けたな高みぃ」

 

「お前の事だからな。何か仕込んであるだろうと思ったまでよ」

 

 

並び立つベルデとニコ。

ニコはソウルジェムを持ったまま立っており、青ざめて苦しそうに呼吸を荒げていた。

けれども浮かべるのはやはり笑み。自分でも、もう何を考えているのか分からなくなってきた。

もしかしたら今の内にトッコデルマーレを当てられるのでは?

いやいや、しかしニコはどうしても会話と言うものがしたかった。

 

 

「なあ高見沢さんよ。もしかしたらココにきたのも私の為なのか?」

 

「何?」

 

「自意識過剰? いやいや、だってお前さん……、この前だって何だかんだと優しくしてくれたじゃないか」

 

 

ニコはどうして鬼の高見沢さんが。自分以外の奴らなんて踏み台としか見ていない逸郎さんが。それはもう、とにかく酷い酷いベルデさんが自分を助けてくれたのか。

しきりに気にかけてくれるのかが分からない。

いや、ベルデは力を持った者なら評価するし、相応の扱いは約束するとは言った。

 

 

「でも自分の命を捨てるような事をしてまで……、私に価値があるとは思えないが」

 

 

ニコは笑いながら言う。

 

 

「確かに。俺も思った」

 

「は、はは……!」

 

 

とは言え、ベルデは杏子からニコを助けた。

いや、パートナーなんだから当たり前なのかもしれないが、確かに助けてくれたじゃないか。そしてニコの生命に対する『欲望』を刺激する。

狙ったものなのか。そうじゃないのかは知らないが、結果としてはニコは少しずつ『生』への執着を覚え、それを理解するに至った。

 

 

「死にたくない……。私は――、きっと死にたくないって思う」

 

「……そうか」

 

 

それはまあ考えてみればベルデの、高見沢のおかげとも言えるかもしれない。

死を近づけさせることで、生への未練を刺激する。

 

 

「まあ、逆にお前のせいで死にそうにもなってるんだけどな」

 

 

最悪の荒療治だ。ニコの呼吸が荒くなっていく。

ソウルジェムはどす黒く濁り、亀裂の数も増えていく。

力を使えば負担も増え、それが心をネガティブに変えていく。

ほら、少しでも気を抜けば死への恐怖で絶望しそうだ。だがまだ会話が終わっていない、それだけがニコを繋ぎ止める唯一の希望だった。

 

 

「ゲームしてた時、お前は私に言ったな」

 

 

恐怖が取り巻けば、俺が蹴散らしてやると。

 

 

「だから助けてくれたのか?」

 

「………」

 

 

ニコはからっぽだと自覚していた。

しかし今、少しずつ自分に『自分』が戻って来ている様な感覚を覚えている。

それは全て――、とは言わないが、少なくとも大きな影響を与えてくれたのが高見沢だとも理解している。

 

人からしてみれば何と些細な事だと思うかもしれない。

けれど神那ニコにとって、あの夜に二人でやったゲームが自分を変える要因となったのは事実なんだ。

 

苦しかった。自分が殺した相手を殺し直すのは。

キリカを殺した時や、他の参加者を傷つけたときには何も感じなかった。

けれど、あの時はとても苦しかったんだ。

でもなんだかんだ、それを乗り越え、そして次のステージへたどり着いた時――

 

 

「私は、楽しいと思えたよ……!」

 

「………」

 

 

ベルデは無言でニコの言葉を聴いていた。

この間に動きを鈍らせている王蛇ペアを攻撃すれば、どれだけ効率的だったか。

だが彼はそれをしなかった。持てる時間を、全てニコに費やす事を選んだのだ。

 

 

「傲慢で自分勝手な高見沢様が、ガラクタの私を気にかけてくれたのは、偶然だったのかな……?」

 

 

ニコは一筋だけ、たった一瞬だけだが涙を流す。笑みを浮かべたままで。

覚悟する死。けれどもニコは今、自分の中に人としての、人らしい感情が宿るのを自覚していた。

 

それは死への恐怖だったり。生への未練だったり。

これらは人に決めて貰った事ではなく、ニコ自身のしっかりとした意思だ。

死ぬ事もできず、かと言って生きているとも言えない無駄な時間を過ごしてきたニコは、死を前にしてやっと……。

 

 

「そうだな」

 

「!」

 

 

ベルデは深いため息をついて、肩の力を一度抜く。

彼がココに来たのは、確かに神那ニコの為だと。

本当は見捨てても良かった。50人殺すことは何とも思っていない。

 

ニコが考えていた通りだ。同じ考えだった。囮として使えばそれでよし。

だが、それはベルデが持った意思だけであれば良かった。

ニコ自身がそう考えるのは、どこか気に入らなかったと言う。

 

良く言えば、賢い判断だと言えよう。

しかニコの場合、悪く言えばまだ達観し過ぎている。

自分の命を勝利の為に使えるかどうかで判断する。死ぬ事を作戦の一つに入れる。

そういうのは、ルールを使ったうまい立ち回りだと思えればよかったが、ニコの事情を知っている高見沢としては、どこか気に入らない物があった。

 

どちらかと言えば、相手の靴を舐めてでも生き残りたいと思える人間の方が、高見沢は好きだった。

もちろんそれは情けない話しじゃない。ただ生きるのではなく、生き残った後に相手に必ず自分の靴を舐めさせてやると言う想いを持った上の話だ。

貪欲に生き、野望を抱える、底が見えない野心。ニコにはそれが足りていない。

 

 

「だから俺はココに来たのかもしれない。俺はお前を評価しているからな」

 

 

高見沢はニコの力を評価していると前も言ったが、他人をここまで評価するのは彼にとって珍しい事なのだ。少し言い方はおかしいが、気に入った道具とでも言えばいいか?

それを他人に汚されたり、馬鹿にされたりするのは不快だ。

ましてやそのコンディションを自分で悪くしていく様なんてのは、もう見ていられない。

 

 

「ハッ! ペット……扱い――、か…よ」

 

 

ニコの言葉が詰まっていく。

もう話す気力が無くなって来た様だ。

 

 

「ペットか、言い得て妙だな」

 

 

だが確かに、それに近いのかもしれないとベルデは笑った。

 

 

「俺も焼きが回ったか。柄に無く、情を移しちまったのかもな」

 

 

これも以前言った事だが、高見沢はニコが人との関わりが少なすぎると言った。

だがそれは自分もだったのかもと思う。いや、もちろん毎日会社の人間や、お手伝いの人間達とは会話をしたり、関わったりもしているだろう。

 

しかしニコの様に対等な立場で接してくる人間は久しぶりだ。

だからこそ、高見沢の良心とやらも刺激されたのかもとは思う。

二人がゲームに関わった時間は少ないが、それでも高見沢が食事を自宅で取る時はいつもニコと一緒だった。ニコと下らない話で盛り上がったのもまた、事実なのだ。

 

それに、ニコはただの人間ではない。

人を超越した力を持ったと言う共通点もまた、共感を刺激する要因になったのかもしれない。そして、最後に一つ。

 

 

「柄にもねぇ事を、考えちまったのかもしれねぇ」

 

「……?」

 

 

ベルデは懐からタバコを取り出す仕草をとる。

ただ自身が鎧に覆われている事に気づいて首を振った。

自分でも何故かは知らないが、前述した事から、高見沢も自身を振り返ったのだろう。

 

 

「お前に、俺を重ねたのかもな」

 

「は……?」

 

「勘違いすんなよクソガキ。容姿だのじゃねぇぞ」

 

 

もしも自分に上り詰める意思がなければ、どうなっていたのか。

それを高見沢はニコに重ねたのかもしれない。

ふと、ニコと関わる中でそんな事を思ってしまった。

父が死んだ事を納得できず、母に捨てられた事に絶望していれば。

きっと彼女のように生きる屍になっていたのかもしれない。ああ、考えただけでもおぞましくなる。不快で仕方ない。

生きる上で選択なんてものは、往々にしてあるものだ。だからこそAと言う道を選んだのならば、Bを選んでいた人生もある。

当たり前の話か……。

 

 

「だから、それもあるかもな」

 

 

故に、これは自分の為でもあると。

 

 

「それに、前に言った事を覚えてるだろ」

 

「……ああ」

 

 

ニコは小さな声で言葉を並べる。

どうやらもう限界が来たらしい。尤も、それがニコの狙いなのだが。

レジーナアイは上手くいったか? 何せ初めての事だったから、うまくプログラミングされていればいいのだが。

どのみちこれが、最後の賭け――!

 

 

「たかみぃ……」

 

「………」

 

 

ベルデは崩壊していくニコのソウルジェムを無言で見ていた。

ニコは、まだ自分の命を効率的がどうのこうのと、そう言うベクトルで『使う』つもりだ。

そう仕向けたのは自分であり、それが結果として勝利に繋がると言うのなれば何も言えない。

だが、やはり腑に落ちない物があった。

 

 

「私に――、絶対に命令はするな。それが活路だ」

 

「仕方ねぇな。分かったよ」

 

 

ソウルジェムを放り投げるニコ。

瞬時、彼女の魂は崩壊し、絶望の扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 






マギレコもうアルまど来るんですね(´・ω・)
まあそっちのほうがクーほむとか出しやすいのか。

ただもう、ノーマルまどかパーティに入れてるんですよね。
なんか愛着湧いちまって当たっても外せまへんでぇ……
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