仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
いろんな意味で、今回が最終回みたいなもんです。
もちろんまだ続きますけどね。
『戦う
再び怒りの咆哮をあげるヒュアデス。
メリュジーヌが消滅したとしても、その行動は何も変わらない。
全ての参加者抹殺のため、新たな獲物を求めて移動を開始した。
「だいぶ、風が強くなってきたな」
「ええ、奴が近づいてきた証拠よ」
「――ッ」
サキとほむらはバルコニーで街の様子を確認していた。
ビリビリと気持ち悪い魔力をどこからともなく感じる様な気がする。
思わず喉を鳴らすサキ、冷静さを保っている様にも見えるだろうが、やはり心の中では不安と恐怖がチラついている。
そんな時だった。彼女達の脳に、王蛇ペアの死亡確定アナウンスが流れたのは。
「………」
複雑に表情を歪める二人。
それはやはり、心の中に浮かんでしまった安心感が原因なのだろう。
戦いを止めたかった。けれど、二人が死んだ事に安堵を覚えている自分がいる複雑さ。
「佐倉杏子とは……、違う時間軸の中で共に戦った事もあったわ」
「そうか」
「何が、彼女をあそこまで――ッ」
「キミなら知っているんじゃないか?」
人は複雑な生き物だ。些細な要素が、人のあり方を簡単に変えてしまう。
他人によってはくだらないと思う事が、その人には重要だったりする。
絶望に至る因子もまた同じだ。杏子には杏子にしか理解できない闇がある。
「人は、分かり合える筈なんだ……!」
必ず。
けれど、自分達はそれができなかった。
チャンスはあった筈なのに。だからせめて残った思いだけは優先させたい。
守りたい物があるんだ、自分のエゴを突き通したとしても。
「……浅海サキ。先ほど話した事なのだけれど」
「ああ、分かっているさ」
サキは頷くと、踵を返して『彼女』の名を呼んだ。
「まどか、少し来てくれないか?」
「どうしたの? お姉ちゃん」
まどかもまた、杏子達に対する複雑な想いがあるのだろう。表情は暗い。
その肩に、サキは優しく触れる。励ましの言葉でも掛けるのかと思えば、サキの口から出たのは少し意外なワードだった。
「すまない」
「え?」
許してくれ、サキは謝罪をまどかに行う。
「これは、私たちのエゴなんだ」
「ど、どういう意――?」
まどかは身体に衝撃が走るのを感じた。
揺れる視界、見えたのは魔法少女の衣装に変身したサキの姿だった。
なんで? まどかは声出そうとしたが、うまく喋れない。
そうしていると、優しい音色が聞こえてきた。
「――――」
音は、まどかの真っ白な頭によく響く。
すると意識が薄くなり、一瞬で気を失った。
倒れるまどか。その背中には音符を模した魔法陣が付与されていた。
これは『ローレライの旋律』と言う強力な催眠魔法だ。それを発動したのは、まどかの背後に立っていた美樹さやかである。
「ごめん、まどか……」
やっぱり、一緒には戦えない。それが三人の総意だった。
まどかが嫌いな訳ではない、信頼していない訳ではない。
だがこれは彼女を守る為なのだ。まどかが好きだから。
「彼女は自分を犠牲にしてもワルプルギスを倒す気だわ」
「確かに。まどかは……、優しいからな」
ほむらは前もって、まどか以外にはしっかりと告げていた。
ワルプルギス戦では必ず誰かが犠牲になるだろうと言う事を。
まどかは強いが、やはり優しさと言う弱さを抱えた少女だ。自分の目の前で誰かが死ねば、それだけ、その悲しみは絶望となって心を蝕む。
「綺麗な死とも限らない」
まどかに背負わせるわけにはいかない。
それに、やはり、ほむらはループの中にワルプルギスに負けるところを何度も見ている。それを今回も払拭しきれずにいたのだ。
「ごめんね、ほむら」
「………」
ほむらは首を振る。同じ考えを持っていたからだ。
けれども、さやかが一番はじめに提案しなければ、きっとサキやほむらは、まどかと共に戦っていただろう。
でなければワルプルギスの夜に勝てる可能性が限りなく低くなる。
織莉子もいなくなった今、もう自分たちの戦力を削るわけにはいかない。
まどかを守る事は一番大事だが、大前提としてワルプルギスに勝たなければならない。
だがそれでも、ほむらはさやかの提案を受けた。
どう考えてもワルプルギスの夜と戦うためにはまどかの力は必須だと知りながらも、だ。
何を考えているのか自分でも分からない。けれども、それが人の心と言うものだ
バカな話しだと思うだろう。間抜けだと、愚かだと思われても仕方ない。
それでも、この愚かさだけは通したかった。たとえ己を、見滝原を犠牲にするかもしれないと思えど。たとえそれがわずかな延命になるかもしれないと思えど。
それを一番はじめに言葉にしたのは、さやかだった。
まどかを巻き込みたくなかった。どんな事をしても。
あと一つ理由を付け加えるのであれば、サキとほむらには危惧する所がった。
それは、もしかしたらまどかはワルプルギスとの戦いで自らを死を望んでいるのではないかと言う事だ。
まどかは自分がとんでもない爆弾だという事を理解している。
だから彼女は心のどこかで、自己犠牲の念を、『ワルプルギスを刺し違えてでも倒す』と言う意思にシフトしている様にも思えてしまうのだ。
別に確証は無いし、まどかは本気で生き残り、生き続ける気なのかも。
けれどもやはり不安や心配があった。
まどかは優しい。
だからこそ、その本心を胸にしまい込む。
サキ達を心配させてはいけないと抱え込む。
本音で話せればよかったのだが、それができない。弱いからか? 本音でぶつかる事が怖いからか?
これはある種の逃げ。でもきっとお互いに逃げてしまうから、仕方ない。
とにかく、たとえ全滅の可能性があるとは言え、ほむらは、サキは、さやかは、まどかを巻き込みたくなかったんだ。
それが絶望へと、最悪の結末を孕んだ可能性だったとしても。
故に、これはエゴ。我侭なんだと。
「許してくれるかな? まどか」
さやかの仕掛けたローレライの旋律は、相手を眠らせる魔法。
さらに自分のマントで、まどかを包むと、簡単な防御結界を施した。
同じく結界を施すサキとほむら。これでもしも自分達がいない間にまどかが狙われても、時間は稼げるし、防御力だって相当な物だ。
その間に衝撃でまどかが目覚めて、何とかしてくれるだろう。
強力なマントをワルプルギス戦で使えないと言うデメリットもあるのだが、やはりこれも突き通したい意地の一つだった。
なんと言うか、キュゥべえやジュゥべえが見たら、サキ達の事を最高の馬鹿と称するに違いない。
最後の希望を捨ててまで尊重する事なのかと。しかしそれでも突き通したい想いと言う物が、人間にはある。
「許してくれるさ」
サキはさやかに頼んでマントの一部を解いてもらう。出てきたのはまどかの頭だ。
眠っている彼女の頬に優しく触れると、サキは少しだけ動きを止めた。
「………」
そういえばと、ほむらは思う。
今まで辿ってきた時間軸にサキはいなかった。けれども今、サキはまどかの幼馴染なんだ。
多くの時間を共に過ごしてきたのだろう。文字通り姉代わりとして。
「まどかは、優しいからな」
その言葉には、重みが感じられた。
「そうね……」
「うん」
二人も頷く。まどかがいたからこそ、自分達は希望を失わずに済んだ。
たとえその先に大きな絶望が待っていたとしても、守りたいものを守りたい。
それがワガママだったとしても、どうかきっと。
「先に避難してって言われても……」
「うん、わたし達も後で行くから」
ゴウゴウと風が轟く音が窓の外からは聞こえてくる。
過去に例を見ない暴風雨。スーパーセル発生と言う事で、見滝原では今もしつこいくらい避難を促すアナウンスが流れている。
それはココ喫茶店アトリでも同じだ。近所の人が一緒に避難しようと集まり、立花もそれに応じた。
そんな中でかずみが立花に持ちかけた提案、先に避難所へ行っていてくれと言う事だったが、はいそうですかとは言えない。
「そうは言ってもな。こんな状況で何かやる事なんてあるのか?」
「え、えーっとそれは……」
かずみは困ったように頭をかく。立花は、呆れ顔を浮かべていた。
熱はもう下がったが、病み上がりなのは変わりない。そんな状況で蓮とかずみを置いて自分だけ避難するなんて言うのは、保護者失格だ。
「別にさ、何をするんでも止める気はないけど」
「立花さん――ッ、ありがとう!」
「ソレは今、絶対にしないといけない事なの?」
「ぅうぅ」
かずみは言葉を詰まらせる。
とは言え、すぐに立花の目を見てしっかりと頷いた。
同時にいつでも変身できるように構える。本当は話し合いで何とかしたかったが、場合によっては洗脳魔法を立花にかけて、強引に別れてもらうしかない。
しかし、上手い言い訳が思いつかない。
確かにこの状況で、避難より優先させるべき事があるのかどうかと言う話だ。
しかし、なんとしても通さなければならない想いがある。
「……いいよ」
「へ?」
しかし、目を閉じた立花が放った言葉は意外なものだった。
「行って来な」
「え? あ……、えっと――っ!」
立花は納得したようだが、逆にそれはそれで困惑してしまうと言う物だ。
いいよと言うのだから助かったのだが、なんともまあ複雑な物である。
「どうしていいの?」
「どうしてって、逆転の発想」
「え?」
「こんな状況でも、やらなきゃいけない事って言うのは、相当大事な事だろう?」
「そ、それはまあ」
「じゃあやって来な。納得するまで、自分がこれでいいと思うまでな」
立花はそう言って自分の荷物を整理し始める。
避難所に何日篭るか分からない、何か缶詰でも持っていこうかなと。
「かずみ、よく食べるしね」
「え? あ、あはは!」
立花は落ち着いていた。
別にかずみ達の正体に気づいた訳でもなく、蓮の事情に気づいた訳でもない。
なんとなく察していたと言えばそうなのだが。
あの気難しい蓮が、かずみと共に行動する時間が多い事。
最近蓮も真司も、鬼気迫る表情を浮かべているという事。
けれどもそれを詮索する事は無く、ましてや知りたいとも思わなかった。
「俺は喫茶店のマスター。それ以外の何者でもないしね」
知ってどうにかできる訳でもない。
蓮達だって話したくも無いだろうし、助けが欲しければその時に話す筈だ。
とりあえず今は、彼らの好きにさせておけばいい。
「けれど、自己責任だから。それはしっかり覚えておけよ」
「う、うん……」
「ならいいけど。ああ、でも一つだけ覚えておいてくれ」
そう言って、立花はかずみの頭をポンポンと叩いた。
「どんな事をしても、どんな場所に行っても、俺の店に来れば何でも出してやる」
「――ッ!」
かずみがどんな人かは知らない。
結局そこそこの時間を共に過ごしたが、結局何者なのか語ってくれなかったし。
だがそれでも共に過ごした時間は時間だ。
それがある限り、もう自分達は他人じゃない。
「いつでも帰っておいで。かずみも、蓮も」
「立花さん……」
思わず涙ぐむかずみ。
この温かな場所にずっといられたら、どれだけ良かったか。
けれどもう、その時間は残されていなかった。
いや、事実忘れかけていた。自分がココにいる理由を。
脱線してはいけない、何のための魔法なんだと。
「………」
しかし心に暖かなものが宿れば、蘇る思い出がある。
『かずみちゃんもね、わたしと戦う事になったとしても……、友達でいてほしい』
まどかの笑顔がかずみの脳を過ぎる。辛い時ほど、誰かの笑顔が欲しくなる。
あの、まどかの笑顔は、全てを赦して包み込んでくれる様だった。
だからその表情が浮かぶのは、かずみが弱いからなのか。
かずみは今、まどかを殺そうとしている。それがかずみの願い。かずみの望み。
(わたしの――)
いや、蓮の望みだから。
正しいとか悪いとかじゃない、もっと大切な問題があった。
「何をしてもいいんじゃない?」
「え?」
「いや、あんまりこういうの。大人が言う事じゃないのかもしれないけど」
悪い事でも、他人に迷惑がかかる事でも、自分が本当にしたい事ならすればいいと立花は言った。
「ど、どうしてそんな事……」
「なんかそんな顔してたから」
やりたい事が、しなければならない事があるには辛そうだったと。
もしもそれをしたくないのなら――
「やめてもいいんじゃない?」
「………ッ」
なかなかそうはいかないだろうけど。
同時に、それがもしも本当にやりたい事ならば、どんな事をしてでもやってみればいいと。
後悔しても、いつかは受け入れることが出来る。
ダメでもまあ、前には進めるだろう。
「でも、もしも他人に迷惑掛けるなら、相応の償いは後でしないと駄目だけど」
謝らなければならないのなら一緒に謝るし、いつでも帰る場所を用意して待っていると。
それが立花にできる事、してやれる事だ。
だからこそ、自分はこう言う。
「自分の、したい様にすると良い」
「立花さん……ッ!」
たとえそれが多くの人に非難される事でも。罪を背負う事になったとしてもだ。
本当に自分がしたいこと、自分が成し遂げたいと心から願う事ならば、誰に何を言われようとも形にするべきだ。
「フッ、やっぱり保護者の言う事じゃないか。これ」
「そんな事ない……! わたし、楽になったよ?」
「そう、ならいいんだけど。じゃあついでに話しておこうかな」
「?」
「まだ時間はあるんだろう?」
かずみはコクコクと頷いた。
じゃあと立花は一つの昔話を行う事に。
かずみにバター入りのコーヒーを差し出して、過去を思い返すような表情を浮かべていた。
「昔、人を殺そうと思った事があってね」
「えぇっ!?」
涼しい顔でとんでもない事を言ってのける。
かずみは思わずのけぞって声を上げてしまった。
なんでも、とある経営者に騙されて、夢の結晶だった一番初めの店と土地を奪われたのだとか。
その怨みからその経営者を――、と言う所だ。
「包丁もってさ、目の前まで行ったっけな」
「そ、それで――? それでどうしたの!? 殺しちゃったの? ムショがえりなの!?」
立花はぐいぐいと乗り出してくるかずみを見て、フッと微笑んだ。
「止めたよ。直前で何かめんどくさくなって」
「あ、ああ……、良かった」
「あはは。殺してたらまだ檻の中だったかもね」
本当に殺すつもりだった。
「殺す事に対して何の抵抗も無かったし、恨んでいる奴が死ねば、俺の心は報われるって思ってたし」
「………」
「でもさ、その時たぶん、俺は腹が減ってたんだろうね」
「え?」
「包丁を持った時さ。これで人を刺すより、何か美味いもの作った方が、俺のためになるのかもなんて思ったり」
まあ結局その程度の想いだったんだろう。後から考えてみれば。
立花がしたかったのは経営者に対する復讐だ。
それを思ったとき、別の考えが浮かんで来たと。
「どうせ復讐するならさ。殺すより、経営で勝ったほうが気持ちいいかもってね」
俺を利用した事を後悔するほど、成功すれば良いと思った。
なんだかそっちの方が簡単で、より復讐らしいと、包丁を持ってそう思った。
あとは、これを使って人を刺し殺すより、美味い料理を作る方が向いていると思ったから。
「で。今は乗っ取られた店は潰れて、喫茶店アトリはそこそこ売り上げ上々」
最初の話と矛盾するみたいで悪いけどと――、立花は前置きを。
「なんだろうな。結果に至る道は、いろいろ選べるんじゃないかな」
「!」
「今、かずみが何しようとしているか分かんないけど」
おそらくは過程で悩んでいるんだろうと思ってみる。
それでもし今自分がしようとしている事に迷いがあるなら、やり方を変えてみるのもありかもしれないと。
「俺はそうやって復讐が成功したから言えるのかもしれないけど」
「そ、それは……」
「でも、今はそれが良かったと思えてる」
ブタ箱に入ってるよりかは、遥かに有意義な時間だと。
アトリをちゃんと機能させるまでにはそれなりに時間はかかったし、いろいろ大変だった。
でもそれだけの見返りが今、自分には返ってきた。
「悪い悪い。困るかな、こんな話しても」
「ううん、そんな事ないよ……!」
そんな事――。
かずみは口を閉じて唇をかむ。
もしもその過程が他に無かったら、どうすればいいんだろう?
それとも自分が見つけられてないだけなんだろうか。
「……考えてみれば、この店があるから立花さんとも出会えたんだね」
「ん、確かに」
いろいろな事があったよ、この店では。
立花は懐かしむ様に笑う。
「蓮が恵里にプロポーズみたいな事もしてたっけな」
「え! 本当!?」
「そうそう、結構ココに連れて来てたから」
この店にはいろいろな思い出が詰まっている物だと。
目を閉じれば真司と美穂が馬鹿騒ぎしているのが見え、それを止める恵里の姿、呆れる様に笑っている蓮の姿が見える。
「そうなんだ……!」
かずみの表情に、本当の笑顔が宿るのを立花はしっかりと見ていた。
「まあ、あんまり表に出さないけど、やっぱり蓮にとっても大切な時間だったんだろうな」
「へぇ!」
「俺も将来は、恵里にここで働いて欲しかったよ」
でも、あんな事になってしまった。立花は表情を暗くしてうつむく。
そこで立花の店に、近所の人たちが迎えにやって来た。
「どうやらそろそろ時間の様だ」
立花はかずみに別れを告げると、蓮にもよろしく言っておいてくれと。
「そうだ、店が再開したら一番初めに好きなもの作ってやる」
「本当? じゃあビーフストロガノフ食べたい」
「分かった。じゃあ、また後でな」
「うん……、また、後で」
かずみは寂しげに手を振ると、二階にいる蓮の方へと向かう。
「蓮さん、立花さん行ったよ。蓮さんによろしくだって」
「ああ、悪かったな」
「蓮さんは話さなくて良かったの? 立花さんと」
「そうだな。俺もあの人には頭が上がらない」
全てを見透かされてる気がする。だから今のままでは立花には会えない。
どこかでまだ、心に纏わりつく気持ちの悪い未練と迷い。
どれだけ割りきろうとしたのか、どれだけ覚悟を固めたのか。
しかし何度迷っても、何度覚悟を決めても、まだ――。
(俺の属性は決意。なのに、何故――ッ!)
駄目だ、揺らいでは。
蓮は拳を握り締めて、窓の外一点を見つめる。
殺さなければならないんだ。それ以外に恵里を救う方法は無い。
(なのになんなんだ。この俺をせき止める迷いは……)
蓮は自分の心の中に宿る迷いを、未だ払拭できない。
真司には既にメールは打っておいた。やはり"アイツ"なのか? アイツが俺の心に取り巻いているのか? 蓮は深く息を吐く。
真司との決着もつけなければとは思っているんだが――
(恵里……、俺は)
その時だった。
かずみのアホ毛がピンと反応を示す。
と言う事は、近くに魔女や使い魔が存在しているという事。
走る緊張感、かずみはハッと表情を変えて、窓を開けて空を睨む。
「どうした?」
「魔女――? う、ううん。でもこれって」
サキからコピーした成長魔法を使って、視力と聴力を強化するかずみ。
睨む先には、狂気の怒り声と暴風に身を包んでコチラに近づく巨大な影が見えた。
「ワルプルギスの夜!?」
「なにッ? もう来たのか?」
かずみは歯切れの悪い答えを返した。
ワルプルギスを見た事は無いが、情報は仕入れておいたつもりだ。
その中で、ワルプルギスの位置についての情報がある。
タロットカードをイメージすれば分かりやすいか。
カードを逆さまに置いた『逆位置』と言う物があるが、ワルプルギスもそうだと聞いている。
要するに人間で言うなれば、頭が下を向いているのだ。
しかし今見える巨大なシルエットは、頭が上を向いている。
それに帽子の形状や、服装がやや違っている様な気もする。ワルプルギスをイメージしたイラストには共通して歯車のモニュメントがあったが、それがない。
「―――!」
そこでフラッシュバックする光景。
と言ってもコレは、過去の記憶ではなく、これから起こりうる事実である。
織莉子の魔法をコピーしたかずみは、15秒先の未来が視えるが、それとは別に、これから起こる未来の映像を無意識に、端的に見られる魔法を手に入れた。
それで視えた。
アトリが魔女の通り道となり、通り抜けた際の衝撃波で崩壊すると言う光景。
さらに奴は立花たちが乗っている車全体を襲い、避難所へと向かおうとしていた人々を全員捕食するつもりであると。
「ッ」
頭を抑えるかずみ。
映像はそこで終了した。これが今から起こる未来、と言う訳である。
つまりこのままあの魔女を放置すれば、立花の店も、立花自身も死ぬと言う訳だ。
かずみはすぐにそれを蓮に報告する。彼もまた、驚いた表情で曇天の空に視線を移す。
「クッ、厄介な奴だ――ッ!」
ワルプルギスなのかどうかは知らないが、この店と立花が死ぬと言われては蓮も動揺する。
これから参加者を皆殺しに――、と言う意思を掲げなければならないのだが、立花と言う人間には大変な恩がある。
そしてこの店には恵里との思い出だって。
「助けようよ蓮さん!」
「!」
かずみも立花が死ぬのは『嫌』だと。
変な話かもしれない、これから多くの死体を作ろうと言うのに、人を助けるなど矛盾した行動か。
しかし参加者の死と立花の死は、今のかずみにとっては重さが大きく違った。
自分たちの居場所であると言ってくれた立花。
それは今のかずみにとっては、何よりも大きな希望に聞こえたんだ。
その希望を捨てられない。かずみは寂しさには耐えられない。
これから友達を、他の参加者を殺すなら、せめて立花だけは――、"家族"だけは助けたかった。
「………」
蓮も、その矛盾した想いを感じ取っているのだろう。
拳を強く握り締めて目を閉じた。躊躇と迷い。身に宿る情けなさをかみ締める。
自分は何がしたいんだ? 恵里を助けるためには、今すぐにでも参加者を殺しにいかなければならない。
今もこうしている間に、着実と優勝に駒を進めている者はいる筈だ。
もしもあれがワルプルギスならば、あれを倒してしまうのは自分の望む所ではない。
だったらココは立花を見捨てでも他の参加者を殺しに行った方が賢い。
賢いのだが――
「チッ!!」
蓮はテーブルに放っていたデッキを掴むと、掛けてあったコートを手に取る。
これは恵里がプレゼントしてくれたものだ。今はワルプルギスが近づいているという事もあってか気温が低い。蓮はそれを羽織ると、もう一度大きく舌打ちをする。
激しいジレンマ。
自分の行動に、大きなブレが何度も何度も発生している事への怒り。
そして恵里への罪悪感。蓮はその複雑に絡み合う人間らしい思考に、大きな苛立ちを感じていた。
いっその事、ロボットであったら楽だったのか。
「用意しろ! 奴の気を引いて、すぐに離れるぞ!」
「……! うんわかった!」
すまない恵里。立花には何度も世話になったんだ。
蓮は心の中で恵里に謝り続け、立花を救う道を選んだ。
そうする事でまた、蓮の決意が大きく揺らぐ。だが、そんな自分とは対照的に、安堵の笑みを浮かべていたかずみを見て、蓮はさらに心に重いものを感じるのだった。
『………』
『どうした先輩、浮かない顔だな』
『ボクはずっと同じ顔だよジュゥべえ』
『やだな。冗談だよ冗談』
キュゥべえの顔を模した――、と言うか同じであるキトリーの被り物。
その両耳の上にキュゥべえとジュゥべえはそれぞれ乗っていた。
キトリーはヒュアデスの後を追っており、キュゥべえは先ほどからずっと赤い目の中に魔女を映して沈黙していた。
『分析していただけだよ。あの例は珍しいからね』
『ま、確かにな。本物が現われる前に人工の偽者の登場ってモンだからさぁ』
それに加え、そろそろワルプルギスの到着時間となってきた。
『ヒュアデスがワルプルギスに喧嘩でもふっかければ面白そうなんだけどな』
『確かに、なかなか興味深い画が見れそうだね』
だけどと、キュゥべえは言葉を続ける。
『もしかすると、それは叶わないかもしれないけれど』
『?』
それはどういう――、ジュゥべえが問おうとすると、ヒュアデスの身体が次々と爆炎をあげていくではないか。
『なんだ?』
ジュゥべえが辺りを確認すると、遠くに煙を上げている砲台が見えた。
ティロフィナーレ。十字架型のバズーカ砲は、横並びに五個程度ならんでおり、それが一勢に放火したと言う事なのだろう。
「ジュゥべえ! キュゥべえ!」
『あら、見つかっちまったか』
マントを広げてコチラに飛んできたのはナイトペアだった。
結界を構築していない今では、キトリーは少し目立ってしまったか。
ジュゥべえもキュゥべえもヒュアデスに興味が向いてしまい、姿を隠すと言う事を忘れてしまっていた様だ。
同時にヒュアデスもまた、攻撃を受けたと言う事でコチラを見る。
どうやらナイトたちを敵と認識したらしい。その身体の向きを変えて、移動をすぐに開始する。
「ちょっと付き合え!」
『ああ、そうだったな』
飛び立つナイトとかずみ。コレで少しは未来を変えられたと言う訳だ。
狙いを立花たちからナイト達に移し、ヒュアデスを避難所のルートから外す。
そしてキュゥべえ達は情報を伝えるヒント係。それはまだルール的には死んでおらず、ナイト達が二匹を見つけたとしっかりカウントされた。
だからキュゥべえ達もナイトに付き合うしかない。
キトリーに指示を出して、一同は移動しながら会話を行う事に。
「あれはなんなんだ? ワルプルギスの夜か!?」
『いや違う。アレはユウリ、参加者の一人だ』
「ユウリ……?」
振りかえるかずみ。
コチラを追いかけてくるヒュアデスを見て、思わず恐怖とプレッシャーに喉を鳴らす。
あれほどの魔女が、ユウリ一人から生まれたとは思えなかった。
姿だって他の魔女と比べれば明らかに大きいし、それに魔女結界を構築していない時点で、他の物とは異質である。
結界を張る必要が無い程に強いのだ。
『そうだな、正解だ。ありゃユウリであってユウリじゃねぇ』
「もったいぶるな、さっさと教えろ!」
『くはは! 悪い悪い、つまり――』
ヒュアデスの暁。
ユウリが魔女化し、さらに他の魔女との融合を果した形態であると伝える。
『ワルプルギスの夜の偽者だ。何、少し異質だがアレも要は参加者の一人って訳だ』
ヒュアデスの暁が参加者を皆殺しにすれば、ユウリの勝ちとしてカウントされると。
『秋山蓮、君は参戦派なんだろう? でも正直お勧めはできないな』
珍しくキュゥべえからの助言が一つ。
いくら偽者とは言え、ヒュアデスの暁は他の魔女とは比べ物にならないくらい強力だ。
たった二人で戦う相手にしては力の差がありすぎる。
『お前も王蛇ペア脱落のアナウンスは聞いただろう?』
『それは流石に喋りすぎだよジュゥべえ』
『やべっ! そっか、じゃ今のナシな。聞かなかった事にしろよ』
「――ッ、あの王蛇ペアがアレに負けたと言う事か」
キュゥべえはジュゥべえを無言で見る。
ジュゥべえは汗まみれで沈黙していた。
それが答えのようなものだ。ナイトとかずみは息を呑んでヒュアデスを見る。
だが願いを叶える為には、アレを倒さなければならない。
「俺たちが逃げたら、アイツはどうなる?」
『おそらく進路を戻すだろう。言うて魔女、多くの人が集まる場所に向かう筈だ』
「それって――」
『ま、この場合は避難所だろうな』
「そ、そんな!」
ナイトを見るかずみ。
そしてかずみを見るナイト。武器を握る拳に一層の力が入る。
『でもお前ら、一つ勘違いをしているぜ』
「ッ?」
『逃げられるとでも思ってんのか?』
「「!!」」
ヒュアデスから大量の使い魔が放たれて、猛スピードで向かってくる。
それはヒュアデスに取り込まれた魔女達の元々の姿のシルエット。
要するに魔法少女の影たちが、武器を持ってナイト達を引き裂こうと襲い掛かってきたのだ。
速い。確かにあの影たちに執拗に追いかけられれば、戦わざるをえないか。
「どうすればアイツを倒せる!?」
『他の魔女と変わりは無いよ。ただ――』
しいて言うなら、キュゥべえはある一点に注目を。
それはヒュアデスのコアだ。要するにユウリがいる場所。心臓部分である。
あそこは既に王蛇ペアの攻撃を受けて装甲が脆くなっている。メリュジーヌの一撃は、ユウリに届く事は無かったが、それでも相当のダメージを与えた筈だ。
現に今もまだヒュアデスの胸の中央辺りは、ボロボロ。修復は済んでいない。
『あそこを突ければ、と言う所だね』
『王蛇ペアに感謝するんだな。こんな形で共闘とはよ……』
さあ、もういいだろう。
ジュゥべえとキュゥべえの情報提供は終わりだ。あとはナイト達が決める事だ。
逃げるも良し、戦うも良し、ただ前者もあまりおススメできない。
使い魔のスピードと数が明らかにナイト達の上をいっている。
その状態に逃げながら戦っても消耗されるばかりで、執拗な攻撃を解除する事はできない筈だ。
ヒュアデスもユウリの思考を色濃く受け継いでいるため、参加者に対しては相当の執着心を持っている。視界に入るうちは、追いかけてくるだろう。
だったら真正面からぶつかって倒した方が楽と言えば楽。
それに他の参加者を減らすと言う事は、一人勝ちを狙うナイトの思いにもリンクする事だし。
『ま、オイラからあと一つ。アイツの触手には気をつけろよ』
『ジュゥべえ』
『す、すまねぇ先輩! これくらいいいじゃねぇの!』
「どういう事だ!」
『あの針がよぉ……、なあオイ』
まあとにかく、くらっちまえば一発ゲームオーバー。
そこまで口にする事は無かった。流石にユウリ側にも希望を持たせてあげなければ。
まあゲームと言うのは、実力が近い方が面白いと言う物だ。
『せいぜい頑張れよ。死なないようにな』
ジュゥべえは小馬鹿にした様に笑うとキトリーに合図を出す。
『『チャオ』』
そう言ってワープで消えるキュゥべえ達。
彼らは離れた場所にて、戦いを観戦するつもりの様だ。
ナイトは考える。逃げれば、立花達が狙われる事は変わりない。
だとすれば――
「戦おう蓮さん!」
「……ああ!」
武器を構える二人。
向かってくる使い魔達へ、逆に自分たちから突っ込んでいく。
「ウオオオオオオオオオ!!」
悲しみの声を上げながら武器を振るってくる使い魔。
しかしそんな事はおかまいなしに、ナイトとかずみはそれぞれ剣と十字架を振るって、使い魔を切り裂いていった。
加速をつけた二人は、そのまま地面を蹴って空へと舞い上がる。
ナイトはシュートベントであるウインドカッターを発動して、後ろから追いかけてくる使い魔達に斬撃を命中させる。
かずみは無限の魔弾を発動して前方――、つまり浮遊するヒュアデスの体中に爆発の華を咲かせた。
『オオオオオオオオオオオ!!』
怒りの声を上げて後退していくヒュアデス。
しかし攻撃を受けながらも、自身も光弾を発射してかずみ達を狙う。
光弾はスピードはそれなりだが、ナイト達もスピードには自信がある。
それぞれ空中を旋回して、器用に攻撃をかわしてみせた。
それだけではなく、かずみは情報収集魔法であるイクスフィーレの本を取り出し、光弾をキャッチする。本に攻撃が当たると、情報がページに刻まれ、かずみはそこに目を通してヒュアデスの攻撃パターンを分析する。
「ッ! 蓮さん、あの触手は本当にやばいかも!」
「どういう事だ?」
早口で説明を行うかずみ。
触手の攻撃は鞭のように叩きつけて、直接的なダメージを与える事もできるが、なによも相手に触れた際に針を体内へ侵入させることにある。
小さくて細い針でああるが、時間経過と共に巨大化、最終的には皮膚を貫き対象を串刺しにする。
厄介なのはヒュアデス自身が強力であるため、騎士の鎧を纏っていても針は打ち込まれると言う事だ。
「針を取り除く方法――、今のわたし達にはないかも」
運が悪ければ伸びた位置や、針の向きが関係して、脳をやられる可能性もある。
要するにほぼ即死攻撃と言っても差し支えない。
触手の一撃を受けた時点で死が確定するのだ。
「なんだと――ッ!」
向こうは一撃を与えるだけで勝利し、ナイト達は心臓を貫けば一撃で勝てるかもしれないと言う事なのだ。
しかしそれはあまりにもデメリットが目立ってしまう物。
どう考えても不利すぎる。ナイトはすぐに一つの決断を行う事に。
「逃げるぞ、かずみ!」
「え!?」
もしもここで二人が針を受けてしまう事があれば、自分達は終わりだ。
そんなリスキーな真似はできない。しかしかずみは首を横に振った。
「逃げたら胸の傷が塞がっちゃう。そしたらもう、わたし達だけじゃ勝てないよ!」
「クッ!!」
だからと言って、このまま二人が死ぬ可能性に足を踏み入れる事もできない。
それに運よく逃げても立花が……。
「……かずみ、お前だけ逃げろ」
「な、何言ってるの!?」
「俺が奴を倒す!」
一人がこの場から離れれば、もう一人が死んでも復活チャンスを使う事ができる。
「じゃあわたしが残るよ! だって蓮さんが死んじゃったらもう人間に戻れないんだよ!?」
こんな事は言いたくないが、騎士と魔法少女では初めから命の重さが違っている様に作られているのがF・Gだ。
「わたしが残るよ!」
「ッ」
そうだ、その方が圧倒的にいい。
しかしナイトの心に纏わりつく気持ちの悪さ。
(……何故だ、かずみが残ると言うのならそうすればいい)
魔法少女は針を受けても、ソウルジェムさえ砕かれなければまだ生き続けられる。
騎士よりも、よほどこの場に残る役割に向いている。
(なのに何故俺はッ、かずみを残したく無いと考えているんだ……!)
ナイトの心がぐちゃぐちゃになる。
「だ、駄目だ――ッ!」
「どうして!?」
「……奴の心臓を貫くには俺の飛翔斬しか方法は無い!」
「そんな事ないよ! わたしだって貫通力のある技あるもん!」
そうだ、そんなものは急に拵えた言い訳でしかない。
はっきり言ってしまえば、ナイトはかずみを戦いに巻き込みたくないと思っている。
彼女がこれ以上、苦しむのを見たくは無いと思っている。
しかしナイトはそれを受け入れる事ができない。
それはそうだ。どれだけ恵里を想い続けたと思っているんだ。
それがただ少しの間、共に過ごした少女への想いと並ぼうとしているのを、絶対に認める訳にはいかなかった。
恵里の為に、自分の為に。
ただそれに反発するようにして今も膨れ上がっていく、かずみへの想い。
なんだ、なんなんだコレは。ナイトはもう自分で自分が分からなかった。
何故、かずみが悲しそうな表情をするだけで心が抉られる様に痛いのか。
何故、かずみが武器を振るう度に心が引き裂かれそうになるのか。
かずみへ抱く想いは恋慕では無い。しかしそれでも、下手をすれば恵里へ抱く『想い』に匹敵する大きさであった。とは言え、真司や美穂に抱いていた友愛の感情。
この胸にある正体不明の痛みは何なのか。ナイトは苦しみに呻くだけ。
『………』
キュゥべえとジュゥべえは、近くにあった建物の屋上からナイト達をしっかり観察していた。迷うナイトだが、既に妖精達は至っている。
『やっぱ理解できないねぇな、人間って奴は』
『ああ、そうだね。かずみに死を背負わせたくないと言う割には、50人殺しをさせる立ち位置に誘っているじゃないか』
『なんだよ、秋山も相当な馬鹿だな。ククク……!』
『でもだからこそ、彼らは有用な資源として存在を許されたんだろう』
『ふぅん、そんなもんかね』
ジュゥべえはそう言いながら、視線をナイト達からヒュアデスへと移す。
身体が大きい分、無限の魔弾をほぼ全弾受けたようだ。
当然それだけ衝撃が加わり、怯んでいたが、再び動き出してナイト達を狙い始めた。
召喚するのは無数の使い魔だ。
下僕に足止めを行わせ、自身が威力のある光弾か、触手で攻撃を行うスタイルなのだろう。
ナイト達も再び動き出したヒュアデスを確認していた。
もう迷ってはいられない、すぐに使い魔達は目の前までやって来たからだ。
「俺の言う事を聞けかずみ!」
「嫌だよ! どうして分かってくれないの!?」
「それは――ッ!!」
言えなかった。いろいろな意味で。「お前が大切だから」だと。
自分でもおかしいとは分かっている。何故かずみが大切なのか、理由が分からないのに言える訳が無い。
だから、ナイトは何も言えなかった。
「きゃあ!」
「!」
銃撃音と共に大きく仰け反るかずみ。
見れば使い魔の一体がスナイパーライフルを構えている所だった。
十人十色と言う言葉があり、魔法少女の力が一人一人違っている様に、武器もまたしかりだ。
動きがとまったかずみへ猛スピードで別の使い魔が襲い掛かる。
大きなハンマーを持っており、かずみはその重々しいフルスイングを正面から受けてしまった。
「カハ――……ッ!」
「かずみ!!」
空気が肺から一気に放出される。
かずみは、きりもみ状に吹き飛びと、何度も回転しながら地面を転がる。
近くの木に叩きつけられるまで、彼女は自分の意思で止まる事ができなかった。
しかも気絶してしまったせいもあるのか、変身が解除されてしまった。
走るナイト。ウイングランサーを召喚して、ハンマーを持った使い魔へと向かう。
「退けッ!」
ハンマー持ちはナイトに気づいたか、踵を返してそのままの勢いで武器を振るった。
しかしハンマーが捉えたのはマントだけ。本体は既に跳んでおり、そのまま武器を使い魔の胸に突き入れた。
『ウアアアアアアア!』
泣き声を無視しながら、ナイトは蹴りでハンマー持ちを怯ませる。
さらに急旋回、ウイングランサーを盾の様にして飛んできた銃弾を弾いた。
ナイトはしっかりとスナイパー持ちの動きにも注目していた。
スナイパーは一発撃つとリロードをしなければならない事も見ていた。
だからナイトはリロード中の使い魔めがけ、思い切り槍を投げる。
距離があったために油断していたのか。使い魔は跳んでくる槍に反応できず、頭を貫かれて死んだ。
そしてナイトは振り返りながら剣に手をかけ、思い切りそれを横へと振るう。
肉が引き裂かれ、ハンマー持ちが苦痛に叫んだ。
流石に、使い魔に持ち合わせる甘さは無かった。
ナイトはそのまま彼女の首を跳ね飛ばすと絶命させる。
「大丈夫かかずみ!」
「う、うん……、平気」
再び変身して武器を構えるかずみ。しかしそこで、彼女の表情が鬼気迫る物へと変わった。
ナイトが視線を追うと、前に教えてもらったお守りの袋が地面に落ちている。
かずみは両親から貰ったといっていたが、変身解除時に服から落ちてしまったようだ。
大切なものだ。
かずみはすぐにお守りが入っている袋へと手を伸ばす。
まだ体が痛むのか。バランスを崩して膝をつきながらも、四足歩行の様にしてお守りを目指す。
大きな焦りと必死さが、嫌でも伝わってきた。
「そこで待ってろ!」
「ダメッッ!!」
「!?」
ナイトが取りにいこうとすると、かずみの上ずった悲鳴が聞こえてきた。
怯んだように固まるが、そんな事をしている余裕はそもそも無かった。
『アアアアアアアアアアア!!』
「ッ! アイツ!」
ヒュアデスは咆哮と共にエネルギー弾を発射。ナイトはかずみを抱えて地面を蹴る。
おかげで直撃は避けられたが、禍々しく光るエネルギーが、先ほどまで二人がいた場所に直撃し大爆発を起こした。
爆風が襲い掛かり、ナイト達の視界が反転する。
「ぅぁ! あぁあぁああああぁ!」
「ぐああアアアアァッッ!!」
地面を転がる両者。
爆風はお守りの袋も飛ばしており、衝撃で封が外れてしまう。
その瞬間、かずみは目を見開き、今まで見せたことの無いような表情を浮かべた。
思わずナイトは息を呑んで、その視線を追ってしまった。
そう、追ってしまったんだ。
「は?」
ナイトは思わずそう呟いた。
袋から何かが飛び出したかと思えば、それは地面に落ちて鈍い光を放っている。
少し離れているし、何よりも小さいから初めは見間違いだと思った。
しかし鬼気迫る表情で走るかずみ。なんどか倒れながらも、強引にそれを掴み取る。
だがそこで使い魔たちに襲われてしまった。ナイトがすぐに助けに入るが、攻撃をされた際にかずみが持っていたものがナイトの近くに落ちた。
「な、なんだ――ッ?」
かずみは、やってしまったと言う表情を浮かべて、汗を浮かべていた。
まるで世界の終わりを目にしたような表情だ。それはヒュアデスに対する恐怖心だとか、そう言う事では無く、『お守り』をナイトに見られたと言う激しい後悔から。
「なんだ……?」
ナイトは同じ言葉を口から漏らす。
これは無意識に放たれた物だろう。
今の彼に、まともに何かを考える等と言う事はできなかった
ただ真っ白な心で剣を振るい、使い魔を少しでも遠ざけようとする。
心ココにあらず。ではどこに? それはやはり、地面に落ちている『指輪』しかあるまい。
「なんでッ、お前がそれを持っている……!?」
「ぅッ」
勘違い、気のせい、見間違い、ただの偶然。
ナイトの心に湧き上がる無数の言い訳。だから彼は確かめたかった。
襲い掛かる使い魔を切り伏せながら、その指輪を拾い上げて、リングの裏側を見る。
「やめて! 蓮さん!!」
かずみの声が聞こえた。だがそれはナイトの脳には届かなかった。
紛れも無く、指輪の裏側には蓮と恵里の名前が刻まれていたからだ。
「なッ、何故だ! なんでお前がコレを持っている――!?」
袋から落ちた指輪は"二つ"だった。つまりかずみのお守り袋には、指輪が二つ入っていた。
これがもし一つだけならば、ナイトはありとあらゆる可能性を用意できただろう。
たとえば、かずみが何らかの形で恵里に接触して、指輪を盗んだだとか……。
だが入っていた指輪は二つなのだ。名前付きでつくったペアリングは二つだけしかない。
意味が分かるだろうか?
蓮は指輪を手放してはいない。
と言う事は、世界に二つしかない指輪が、今ココに三つ存在している事になっている。
もしかしたら世界には今、四つあるかもしれない。
蓮が持っている指輪。恵里が持っている筈の指輪。
そしてかずみが持っている二つの指輪。
「何故、お前は一体……!?」
かずみは一体、何者なんだ?
しかしかずみは何も答えず、目を見開いたまま真っ青になって固まっていた。
そんな二人の複雑な思いとは裏腹に、離れた所ではヒュアデスの暁が再び使い魔を射出しはじめていた。
同時に、その光景を見ていたジュゥべえの口が三日月のように歪む。
「れ――」
かずみがやっと口を開く。
尤も、それはナイトの望んでいる答えでは無かったが。
「蓮さんは、早く逃げて!」
「おい! 待て!!」
かずみは地面を蹴ると、一直線にヒュアデス目掛けて飛んでいく。
襲い掛かってくる使い魔を大剣でなぎ払いながら、ティロフィナーレを連発させてヒュアデスを攻撃。さらにシビュラを撒き散らし、使い魔や魔女の注意を分散させて、自身はクロックアップでスピードを上げた。
「ッ!」
だがティロフィナーレで起こった爆発の中から、無傷ヒュアデスが姿を見せる。
結界を構築させ、それで弾丸を防いだようだ。
さらに腕から巨大なマシンガンが生えてくると、向かってくるかずみを蜂の巣にしようと。
「くッ!」
かずみは未来予知でルートを確認すると、銃弾を回避していく。
しかし先ほどの王蛇ペア戦の時よりは、随分とヒュアデスの攻撃頻度が低い様にも思える。
そう、分かりにくいが、ヒュアデスは『分析魔法』を発動していたのである。
ユウリが生み出した魔女の集合体。
その中にはエリーもいるわけで、箱の魔女の力を最大限に引き出して、ヒュアデスはかずみを分析していた。
何故かずみを分析する必要があったのか?
それは再三言われている様に、かずみが他の魔法少女とは違った存在であると、ヒュアデスも分かったからだ。
ソウルジェムが二つに別れ、他の魔法少女とは違う異質な魔力。
しかしもう既にヒュアデスは理解していた。分析を終えたのだ。
だから、かずみが何者なのか? そして彼女を『殺す』にはどうすればいいのかも知っている。
『オオオオオオオオオ!』
「ッ!!」
だから、ヒュアデスは『ソレ』をかずみへ突きつけた。
ヒュアデスは、ユウリ。
「……はぁ」
ナイト達がヒュアデスと戦うほんの少し前。
真司は携帯の画面を見つめながら大きなため息をついていた。
けれどもそれは、マイナス的なイメージではなく、緊張と期待が混じった物と言えば良いだろうか。
こんな時にとは思うのだが、それでも真司にとっては大きな分岐点と言う所か。
「蓮――……」
一つは親友の事。
メールには答えを知らせて欲しいとの文字があった。
正午に、一番初めに蓮と戦った見滝原の展望台に来て欲しいとある。
そこで蓮は答えを示し、真司も同じく、答えを示して欲しいと。
蓮は言っていた。
もしも戦いに乗るのなら、一番初めに真司を殺すと。
だからと言ってさせはしない。死ぬ気もないし。蓮を止めてみせると意気込んでいる。
「美穂……」
あと一つは――……。
ああ、いや、あと一つも親友の事か。目を閉じれば鮮明に昨日の美浦が過ぎってくる。
正直、好意を向けられると言う経験が無かった為、どういう反応をしていいか分からなかったが、今になって嬉しさが込み上げてくると言うのは勝手な話なんだろうか。
思えば真司も無意識に彼女を常に意識していたのかもと思う。
高校時代の美穂の姿はいくらでも思い出せる。それは学校を卒業してからもそうだ。
笑った顔、怒った顔、涙ぐんだ顔、。どれも目に焼きついているのは、それだけ見ていたからか。
今までは自分だけ意識しているのが恥ずかしかったから目を背けていたが、なんともまあ不器用な物だったと思う。
「俺は――」
でも、だからこそ思う所がある。
この想いと同じ物を、蓮は恵里に抱いていた。
今なら蓮の苦しみが、本当の意味で理解できるかもしれない。
しかしそれでも自分は――。
「手塚……」
分かってる。俺は、きっと。
でもその前にm一つだけ決着をつけなければならない問題がある。
「っしゃあ! 待ってろよ美穂!」
真司は気合を入れると、彼女との待ち合わせの場所へと急ぐのだった。
「はぁー!」
一方で美穂は建築中のビルを見上げながら大きなため息を漏らした。
これはマイナス的なイメージな物ではなく、緊張と少しの期待が混じった物と言えば良いだろうか。
こんな時にとは思うのだが、それでも美穂にとっては運命の大きな分岐点と言う所。
「ワルプルギスか……」
風が強い。
いよいよと言う所なのだろうか。
終わりが近いと言う事が、ヒシヒシと伝わってくる。同時に、それだけの緊張感も。
「真司……」
好意を向けると言う経験が無かった為、どういう素振りをしていいか分からなかったが、今になって嬉しさが込み上げてくると言うのは勝手な話なんだろうか。
思えば何であんな、おバカに惚れたのかは分からない。
分からないが、この胸の高鳴りを考えるに、美穂は想像以上に真司が好きだったんだろう。
高校時代の真司の姿を思い出せば、それは数えきれないくらい思い出せると言う物だ。
それは学校を卒業してからも同じである。笑った顔、怒った顔、涙ぐんだ顔、
どれも目に焼きついているのは、それだけ見ていたからか。
今までは自分だけ意識しているのが恥ずかしかったから目を背けていたが、なんともまあ不器用な物だったと今にして思う。
ああ、なんて事だ。同じような想いがシンクロしている。
当人達は知らぬだろうが。
「………」
美穂は珍しくアンニュイな表情を浮かべて、体育すわりをしていた。
断られたらどうしようなどと、柄にも無い事を思ってしまう。
流石にあの状況でフラれるのは考えにくいが、答えを聞くまでは絶対ではない。
それになんだ、無いとは思うが、いや絶対に無いとは思うが。
(一応シャワーは浴びてきたし……)
くんかくんかと自分の匂いを確認してみる。
そこで自分の姿を客観的に視てしまい、ちょっと死にたくなった。
だが備えあれば憂いなし。もしも万が一そう言う『流れ』にならんとも限らない。
(い、いや。でもやっぱそうなったら一応断っとくか)
初めては大変とか何とか――
(って何考えてんだ私は!!)
アホか!
自分で自分を注意して美穂は大きく息を吐く。
「おーい美穂!」
「うぉ゛ッ!」
美穂は思わず身体をビクンと跳ね上がらせる。
顔を上げれば、そこには当然と言えばそうなのだが、真司の姿が見えた。
美穂はすばやく前髪を整えると、ややぎこちない笑みを浮かべて挨拶を。
「よ、よお」
「あ、ああッ。遅くなってごめん」
若干の気まずさが漂う。
それはそうだ、今から行うのは告白と言うものなのだから。
まったく。まるで自分が中学生にでもなったかの様に錯覚してしまう。
ろくな青春時代を過ごしていなかったと言えばそうなんだが、意中の相手に告白されるとなると緊張するなと言う方が無理だ。
「………」
少し頬を染める美穂。
蓮がいたならば、何をやっているんだと絶対にからかわれる。
「美穂。あのな……」
「あ! ちょっと待って!」
「?」
「ユウリってのは他の人に変身できるらしいからな! お前本当に真司か!? なんかちょっといつもより馬鹿っぽくないぞ!」
「し、失礼だなお前は!」
照れ隠しにそんな事を言ってみる。
けれど確かに考えてみればその可能性も無きにしも非ずか。
と言う事で、お互いは、お互いにしか知りえない情報を開示する事に。
ユウリはトラウマから過去の記憶も探れるらしいので、そこは注意してだ。
「高校の時、お前の着替え見ちまって半殺しにされた」
「ぶッ!!」
ずっこける美穂。
まあ確かにそんな思い出もあるっちゃあるんだが、何故今その記憶をチョイスするのか。
「そういうお前はどうなんだよ」
「んー、そうだなぁ」
そこで美穂は、ポンと手を叩く。
「そういえば昔さ、真司にお弁当を作って来てあげるって言ったことあるよね」
は? 別に嬉しくねーし。
なんて口では言っていたが、やけにソワソワし始めたのを見てゲラゲラ笑った記憶がある。
「……ああ、思い出した。あれは最低だったよ」
「くははは! 悪かったって、私も尖ってたんだよ」
期待に期待を重ねて、腹をペコペコにして登校してきた真司を待っていたのは、ご飯と梅干の位置が入れ替わった『逆日の丸弁当』だった。
塩分しかねぇ。真司は涙目になりながら、梅干を二個食べた所で箸を置いていたのを覚えている。
「昔はよくからかわれてたなぁ」
「昔はよくからかってました」
にっこりと笑う美穂を見て、真司は苦笑する。
そして急に真面目な表情に戻ると、咳払いを一つ。
「返事、してもいいか?」
「う、うん……!」
ドキリとして、美穂は思わず背筋を伸ばしてしまう。
下を向いて目をギュッと瞑る美穂、どうかどうか――ッ!
「よく考えたんだ」
「う、うん」
「それで、やっぱり分かるんだよ。考えれば考えるほど"城戸真司"にとって。霧島美穂がいかに大切な存在かがさ」
「……!」
辛い時も、折れそうな時も、苦しい時も、悲しい時も。美穂は何かしらの形で支えてくれた。
だからそれが恋慕の情になっていくのは、ある意味当然の事だったのかもしれない。
それに気づくのが少し遅すぎただけで、好意自体はもっと前から抱いていたのだろうと。
「じゃ、じゃあ」
パッと表情が明るくなる美穂。
先ほどまであった不安は消し飛び、喜びに満ちた表情がそこにはあった。
「み、美穂!?」
「え?」
その時、背後から真司の声がした。
だから美穂は反射的に真司に背を向けて、『真司』の声がする方を見る。
そこに立っていたのは、汗を浮かべて戸惑いの表情を浮かべている"城戸真司"だった。
「美穂? お前誰と喋って――」
「え?」
ドスッと、音がした。
「美穂?」
「―――」
焼けるような痛みと衝撃。美穂は腹部を見る。
すると、そこには己の腹を突き破って伸びていた刃が見えた。
「嘘……」
無意識につぶやいた言葉。世界が静寂に包まれる。
しかし、その声は彼女の耳にしっかり届いた。
「だから、俺はお前を殺す事にした」
城戸真司とって、一番大事な物になろうとしている『愛』。
「そんなの、俺にはいらないんだよ」
そう言って、美穂の背後にいる真司は、刃を捻る。
あまりの激痛で、美穂は声がでなかった。
「死ね。霧島美穂」
「美穂ッッ!!」
叫ぶ真司。そして笑う真司。
今この場には、二人の『城戸真司』が存在していた。
美穂を刺していた真司は剣を引き抜くと、何のためらいも無く美穂の背中を蹴り飛ばす。
階段を転がって地面へと倒れる美穂。
咳き込むと大量の血が口から出てくる。転がった後を見れば、そこには目を覆いたくなる程の血の跡があった。
「――ァッ、ぅぁッツ」
無駄かと思いながらも、苦し紛れに手で腹部を押さえる。
すこしでも止血になればと思うが、確実に剣は背中から腹部を貫通していた。
いくら騎士補正で身体能力が多少は高くなっているとは言え、変身していなければ少し丈夫な人間と言うだけだ。
魔法少女と違って傷の治りは遅いし、致命傷は致命傷でしかない。
「美穂ッ! 美穂ッッ!! 大丈夫かッ!!」
「かハッ! し、真司ぃ……!」
倒れた美穂を抱きかかえる真司。
なんで、なぜ、真司が二人? 美穂は自分を抱えてくれているのが本物だと確信を持つ。
つまりまんまと騙された訳だ。だがユウリにしてはおかしい。どうしてあんなピンポイントな思い出まで知っているんだ。
「お前ェエエエッッ!!」
激高する真司。
当然だ。今、目の前で愛した人が刺されたのだから。
「ハハッ! ハハハハハハ!!」
対照的に不気味な笑みを浮かべる偽者。
「いい顔をするじゃないか」
美穂を刺しておきながら、いけしゃあしゃあと口にする。
「今まで間抜けな顔ばかりの男が放つ殺気としては、上々だ」
ニセモノの真司は、美穂を刺した剣を顔の近くに持っていく。
目を見開く本物。美穂の血が滴っているその剣は、紛れも無くドラグセイバーだった。
いや――、黒いドラグセイバー。
「お前ッ! リュウガか!?」
ユウリのパートナーだと記憶している。
以前、少しだけ戦った事があるが、なぜ自分と同じ姿なのかは最後まで分からなかった。
たまたまだと割り切っていたが、今ココにいるのは、紛れも無く城戸真司。
中身まで同じなのだ。
「驚いたか? 城戸真司」
「お前は一体……!」
「俺は――」
ニヤリと、その口がつり上がる。
美穂もまたそれを見ており、思わず痛みを忘れるほどの寒気を覚えてしまう。
目の前にいるのは今までに見た事も無い表情をしている真司だった。
それは殺意、それは憎悪。それは絶望の力を存分に引き出した男の姿だった。
「俺は、お前だよ」
「ッ、馬鹿言うなよ! 俺がお前な訳ないだろ!!」
「あるんだよ、そんな事が」
「ッ?」
「ミラーモンスターってのは何なんだ?」
偽者の真司は冷たい目で、冷たい口調でそう呟いた。
騎士が誰しも持っているソレは、主人の分身であり、心の中にある性質を色濃く受け継いだ存在だ。
ジュゥべえは、鏡に映るもう一人の自分とも言える存在だと言っていたか。
「俺は技のデッキにより生まれた。お前のミラーモンスターだ」
「なっ!?」
「それが技のデッキに与えれた特権」
技のデッキで変身する者を決めるのはジュゥべえではない。
そのデッキを手にした魔法少女なのだ。つまりユウリは、まどか達を尾行するなかで城戸真司に目をつけた。
そして変身者を決定。技のデッキにより変身する騎士を、リュウガに決定したのである。
「俺はゲームによって生み出されたお前の分身であり、幻だ」
「それで龍騎の姿と……!」
「そうだ。ユウリがもしもファムを選んでいれば、俺は霧島と同じ姿になっていただろう」
特別ルール。
そして、リュウガにのみに与えられたルールが、もう一つ存在している。
それは簡単もので。最終日に彼が、分身元を消せば――!
「まあいい。とにかく追って来い、城戸真司」
「!!」
鏡像の真司が立っていた場所から、ドラグブラッカーが出現。
そのの背中に乗ると、空に舞い上がっていく。
よく見えないが、一枚のカードをチラつかせて再び笑みを浮かべた。
「回復のカードだ。これを使えば霧島美穂は助かるだろう」
「ッ!」
「だが、使わなければどうなるか。流石にお前でも分かるだろう?」
「ぐッッ!!」
真司は美穂の顔をのぞき見る。
苦しそうに呼吸を荒げ、その身体からは今も血が流れ続けている。
当たり前だ。装甲を纏っていない身体で剣を受けてしまえば普通の人間ならもう死んでいる。
「ソイツを助けたければ俺を倒すんだな。俺はお前だ。俺のカードは、お前が使う事も許される」
「ま、待て!!」
上昇を始めるドラグブラッカー。
「そうだった。変身すれば少しは止血効果が望める。死への時間を遅らせたければ。ファムに変身する事だな」
それだけを言って、もう見えなくなってしまった。
どうする? 決まっている! 真司は思い切り歯を食いしばると、美穂の身体をゆっくりと地面に寝かせた。
「待ってろ! 今、助けてやるからな!」
「真――ッ、司……」
美穂は何故だか、こんな状況だと言うのに、笑みを浮かべていた。
それは単に真司を心配させたくないと言う精一杯の強がりなのだろう。
本当は痛くて、苦しくて仕方ない筈なのに。
「待って…る……」
「喋るな! 変身できるか!?」
「できる――……けど」
「けど? けど、なんだよ!?」
掠れた声で小さく呟く美穂。
よく聞こえない。真司は耳を口元へと持っていく。
すると掠れた声が聞こえてきた。
「返事……」
「えっ?」
「告白の――、聞かせて……っ?」
「美穂――ッ!」
美穂の儚げな笑みを見て、真司は思わず涙が込み上げてくる。
そんなの、そんなの決まっているじゃないか。
答えは、初めから一つだったんだ。
「好きだ! 俺はお前が、ずっと前から――ッ!!」
「………」
「だから死ぬな! 死んだら駄目だ!!」
「……ぷ」
「………」
ぷ?
「ぷひゃははははははははは!!」
「―――」
え?
涙を浮かべ、ケラケラ笑っている美穂を見て目を丸くする。
なんだ? なんだか随分と余裕があるように見えるのだが。
その後も美穂は少しだけ笑みを引きずっていた。
「あー、お腹痛い! 二つの意味で」
「お、おいお前ッ、大丈夫なのか?」
「あったりまえでーす!」
「えぇ!?」
「よく考えてみなさいよ。サキの固有魔法はなに?」
成長だ。
美穂もスキルベントで同じ魔法を使えるのである。
つまり傷の治りと血の作る量を早めて、自動回復を強化させたと。
「私のスキルベントは騎士になってなくても使えるし。だから私は大丈夫って訳」
「ほ、本当か!? 一応救急車とか――」
「いらない。だいたい呼んだら絶対アイツは救急車を破壊する」
いらぬ犠牲者を出すだけだと美穂は言った。
それは美穂も望む所ではない。アイツ等は簡単に人を殺す。
でもそれはいけない事なんだ。当たり前の事だけど、反対にアイツ等は当たり前のように人を殺せるだけの力がある。
ならば最良の方法は、戦いに巻き込まぬ事ではないか。
「ってか、それよりさ――」
美穂は嬉しそうに表情を綻ばせて真司を見つめる。
「両想いだな、私たち」
「あ……、ああ」
はにかむ美穂、真司も気恥ずかしそうに少しだけ笑みを。
「こんなにすんなり行くなら、もっと早く言えよバカ真司」
美穂は軽く真司の鼻を指ではじく。
「痛い!」
「今まで私を待たせた罰だ。ありがたく食らえ」
美穂は、笑う。
「これからは、もっと色んな所に行こうね」
「……ああ」
「いろんな事をして……、ううん。何もしなくても良い」
ただ一緒にいられれば、きっと世界は輝く筈だから。
「あー、でもちょっとこのままはキツイから……」
美穂は真司の頬に優しく触れ、そしていつもと変わらない笑みを向けた。
それにどれだけ救われてきた事か。
昔も、今も、これからも。
「あんな偽者、さっさとブッ飛ばしてきな」
「ああ、待ってろ美穂」
「うん。待ってる。真司ならできるよ」
真司は強く頷くと、デッキを構え、そして強く吼える様に「変身」の文字を呼称する。
鏡像が現われ、真司は龍騎へと変わった。すぐにデッキからカードを引き抜くと、それをバイザーへ装填する。
『アドベント』
飛来してくるドラグレッダー。
龍騎はそれに飛び乗るとビルの上へと舞い上がって行った。
それを無言で見つめている美穂。汗が酷い、そしてまた呼吸も荒くなっていく。
「………」
デッキを構える彼女。中身が――、重くなっていくような。
「キスくらい、してけよ……、馬鹿」
デッキを持つ手が震える。
まさか、あんな簡単に隙を作るとは。
そしてその隙を突かれるなんて。
「くそったれ……」
本当に、フラグってあるんだな。
美穂は呆れつつもファムへと変身するのだった。
「リュウガぁあッ!!」
「来たか、龍騎!」
既に変身を済ませていたリュウガ。
建築中ともあってか、壁が無かったり、鉄骨がむき出しになっているビルの屋上で二人は対峙する。赤い複眼が互いに光を放ち、ほぼ同じ姿の二人の背後には、使役するミラーモンスターが並び立つ。
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「グガアアアアアアアアアアアア!」
まずは挨拶代わりに、双方のドラゴンが咆哮を上げて火炎弾を発射する。
赤と黒の炎が、龍騎とリュウガの目線の上でぶつかり合い、爆発する。
炎が放つ光が二人の仮面を照らし、それぞれの意思をより強固な物へと変えていく。
龍騎は拳をギリギリと音が出るほど握り締め、怒りの炎を心の中で爆発させた。
「なんで美穂を狙ったんだ! 俺が狙いなんだろう!?」
「………」
先ほどリュウガは彼のみに与えられたルールがあると言った。
コピー元を倒せば。そこで言葉を切ったが、要するにそういう類の物なのだろう。
リュウガが龍騎を狙うのはルール、だとしたら美穂を狙う理由はない筈だと。
「俺はお前の鏡像だ。文字通り、鏡合わせの存在」
それは見た目だけの話ではない。
考え方や性格、全てが反転しているのだとリュウガは言った。
それは当然、対人関係にも言える話である。
「お前は霧島美穂の事をどうしようもなく愛した」
故に――
「俺は、霧島美穂がどうしようもなく憎くて仕方ないんだよ」
「ッ!」
美穂だけじゃない。
真司が好意を抱いている人間全ては、リュウガにとって嫌悪する対象でしかない。
蓮も、BOKUジャーナルの人間も、仲間も全員。
その好意が深ければ深いほどリュウガには憎しみに変わる。
だから彼は美穂を殺す。世界で最も憎い異性を。
「そして、鹿目まどかもな」
「お前ッ!」
「そう、お前が協力派であれば、俺は必然的に参戦派となる」
ならば殺すのは当たり前だろう? 何も不思議がる事じゃない。
「俺は鏡。お前の反対を生きる者なのだから」
だからユウリも自身のパートナーに相応しいと判断したのだろう。
「だが、それは些細な問題でしかない。参戦派や協力派などと言うのは、ゲームの上で定められた閉鎖的な思考が導く問題だ」
「ッ!?」
「俺の目指す所は別にある。龍騎――、俺は所詮お前の影でしかない」
唐突に変身を解除するリュウガ。
さらけ出される自分の顔。今から戦うと思っていただけに、龍騎も戸惑ってしまう。
そんな龍騎には構わず、会話を続ける『真司』。
「影は光がなければ存在できない」
所詮、影は影。鏡に映った幻想は幻想の域を出ない。
鏡の中からは出られない。どれだけ足掻こうとも、どれだけ抗おうとも本物にはなれないのだ。
光が消えれば影は消え。鏡が壊れれば、おのずと鏡像は消え失せる。
「知ってるか? 俺はお前を殺せなかったんだ」
「なんだと?」
「ユウリは知らなかっただろうがな」
リュウガのみに教えられたルール。
鏡像である彼は、鏡像元であるオリジナルを傷つける事はできても、殺す事はできない。
それがルールだったからだ。随分とまあ面倒な物だが。
「実体化できる制限時間や、力がセーブされて本気を出せない」
だがそれは今、終わりを迎えようとしている。
【真司】は、技のデッキを取り出して、ゆっくりと前方にかざした。
黒いデッキに禍々しい龍の紋章。その目に、明確な殺意が宿る。
本気を出せないルール、それは『最終日』に解き放たれる。
つまり今はもう、真司を殺せるのだ。
偽者がオリジナルを。鏡に映った鏡像が、鏡の前に立った本人を殺せるのだ。
そして、もしも鏡像が本人を殺したらどうなるのか。
「俺は、城戸真司本人になる」
「!」
肉体が与えられ、本物になれるのだ。
それこそが幻想として、鏡像として生まれたリュウガの唯一の願い。
「そうなれば俺はもはやッ、鏡の中の幻では無い……!」
圧倒的な威圧感と殺気が放たれ、龍騎は思わず後ろへ下がりそうになってしまう。
だが忘れてはいけない、アレは自分、彼は俺。
なのに感じる恐怖は確かなものだった。城戸真司は今、自分に気圧されている。
「最強の騎士として存在を許される」
「ッ!」
「変身」
デッキをセットすると、黒い鏡像が収束してリュウガの鎧を与えた。
他の騎士とは少し違う変身エフェクトが、より一層不気味さを強調している様だ。
何よりも自分が自分を殺そうとしている。その極めて異質な状況が、ココに存在しているのだから。
「消えろ。永遠にな」
「ッ!」
複眼が光り、リュウガはゆっくりと龍騎に向かって足を進める。
対して拳を構えて走り出す龍騎。早くしなければ美穂が危ない。なんとしてもリュウガが持つ回復のカードを手に入れなければ。
龍騎は初めて話し合いを切り捨て、力で相手を打ち負かす方法を選んだ。
自分相手には、自分の信念を曲げる。なんとも皮肉な話ではないか。
「俺を消して、俺になって、みんなを殺して! それで何が残るんだ!!」
そんな状態で本物に。
龍騎は握り締めた拳を力任せに振るう。
しかしそれを真正面から、さも当然の様に受け止めて、打ち流すリュウガ。
よろけた龍騎の胸に、まずは一発黒い拳を打ち込んで見せる。
「ぐはっ!」
「価値観を押し付けるな。俺にとってはソレが全てだ」
リュウガの拳が龍騎の顔を、肩を、胴を打つ。
そしてリュウガの蹴りが、わき腹を、腹部を、脚を打つ。
龍騎は必死に抵抗を示すが、それらは全てリュウガに弾かれ、かわされ、カウンターを決められた。
「ッ! ぁあッ!」
「だが、確かに言われてみれば不毛な話にも聞こえる」
うめき声を上げる龍騎と、何食わぬ様子のリュウガ。
腹の立つ話ではあるが、リュウガの望む結果が、人間にしてみれば魅力の無いものだと言うのは分かっていた。
「しかしそれは俺にも言える事だ」
「う……ッ!」
龍騎の首を掴んで強制的に立ち上がらせる。
鉄仮面の奥でギラリと光るつり上がった目が、龍騎の心まで吸い寄せてしまうかの様な錯覚があった。
「お前は、お前達は、何も分かっていない」
「ガァア!!」
裏拳が龍騎の頬を打つ。
回転しバランスが崩れて倒れそうになる龍騎。
リュウガはその肩を掴んで、再び強制的に引き寄せる。
さらにそのままの勢いで頭突きを一つ。揺れる脳、龍騎の意識がほんの一瞬だけだがロストした。
「ユウリが
たしかに真司の性格は、反転すれば戦いには向いている。
そう言った意味では、ユウリの選択は妥当とも言える。
しかしリュウガは、それだけが理由ではない事を知っている。
ユウリ本人がそれを理解していなくとも。
「因果があるんだよ。この世界にはな」
「因果――ッ!?」
「偶然であり、必然だ」
暁美ほむらが、鹿目まどかを助ける為に何度となくループを行ったのにも関わらず、逆にそれだけの数まどかを死なせてしまった。もしくは、魔法少女にしてしまった。
そういう話と近い部分にある。
因果律はそこにある。
「まどかが一位とすれば、ユウリは二位と言ったところだろう」
「な、何がだ?」
「そう、お前は理解していない。いや人間には決して理解できない境地だ」
蹴りが龍騎を打つ。
「そう、理解できない」
拳が龍騎の顎を叩く。
「永遠に知る事は無い」
フックが脳を揺らした。
「だから"愚か"なんだよ」
その愚かさが故に、リュウガが生まれたとは皮肉な話だ。
因果の意味を知る事のできない龍騎達に、リュウガの哀れみが理解など出来る筈も無い。
しかしそれでも世界は、歯車は回り続ける。そしてそれは決まった周期を、結果を刻む物にはあらず。
「俺は文字通り、初めは存在していなかった」
「ッ?」
「だが俺は今ココにいる。そして本物になる」
分かる事は無い。知る事は無い。誰も何も理解できない。
だったら何も考えるな。ただ起こる事だけに目を向ければいい。
故に、今が全てだとリュウガは答えを出す。
「俺を受け入れろ龍騎」
「……嫌だね!」
龍騎はリュウガが伸ばした腕を手で弾くと、そのまま回し蹴りを繰り出す。
だが、リュウガはその蹴りを片手で止めると、もう一方の手を振り下ろして脚を叩き割る様に拳を打ちつける。
「ぐあぁあ!!」
「お前は人を殴るのに向いていない」
理性がそれを止める。恐怖がそれを止める。
龍騎の中にある確立した常識が、拳の威力とスピードを鈍らせるのだ。
そして何よりも胸にある良心が作用してしまう。
「と言うことは、俺は向いている」
「ぐっ!」
「お前も感じるだろう? 俺の、人を傷つける才能と言う物を」
確かに、拳は的確に飛んでくる。避けても蹴りが胴を打つ。
龍騎は痛みと衝撃に耐えられず、大きく仰け反って膝をついた。
呼吸が止まる。臓器が破裂しそうになる。それとももう?
「お前の信念は無駄なものだと知れ。そうだ、お前は何一つ変えられない……!」
このゲームの先に何が待っているのかを欠片とて理解していない。
ただ目先の物を守ればいいと思っている。あまりにも軽い拳だ。
「いや違うか、それすら決められていない」
「なんだと……!」
「人は愚かだな。自らの感情すら把握できないなんて」
リュウガは回し蹴りで龍騎を吹き飛ばすと、そのまま旋回時にデッキからカードを抜き取る。
地面を転がる龍騎と、カードをバイザーへとセットするリュウガ。
ちょうど龍騎が動きを止めた時、濁った音声が重なった。
『アドベント』
「――ッッ! うあぁアアアアアアアアアアッッ!!」
龍騎の真上に現われたドラグブラッカー。口から巨大な黒炎の塊を放ち、龍騎を押し潰す。
炎の衝撃はすさまじく、直撃を受けた龍騎は地面を壊して下の階層へと送られた。
そしてまだ衝撃は死んでおらず、しばらく床を破壊し続けた後、龍騎はやっと地面に叩きつけられる事に。
それを見て鼻を鳴らすリュウガ。
もう一枚カードを抜き取ると、地面を蹴って自らも穴の中へ落ちて行った。
「お前はまだ迷っている」『ソードベント』
着地と同時にブラックドラグセイバーが装備された。
前方には黒い火の粉を纏いながらも、同じくドラグセイバーを構えている龍騎が立っていた。
呼吸を荒げて走り出す龍騎。リュウガもその剣を真正面から受け止める。
「ッ!」「………」
ぶつかり合うドラグセイバーとドラグセイバー。
しかし感じる重みの差。龍騎は必死に食い下がろうと必死に剣を振るうが、リュウガはなんともまあ涼しげに剣を弾いていく。
そして心を取り巻く重々しい感情。龍騎の耳にはしっかりとリュウガが放った言葉が届いていた。
(俺はまだッ、迷っている……?)
それを理解しているのか、リュウガは軽く鼻を鳴らす。
「今日は最終日だ。ゲームはまもなく終わる」
長かっただろう?
多くの時間が経った。それだけ傷つき、傷つけた。
「そうだ。もう、最終日だ」
「……!」
「巴マミと須藤雅史が死んでから今日と言う日まで、迷う時間は十分だったろう?」
だが、どうだ? 今の龍騎はどうなんだ?
「これだけの時間を要し、お前はどんな答えを出した?」
「答え――」
「分かっている龍騎。俺はお前だからな」
出なかったんだろう?
あれだけ迷ったのに。あれだけ考えたのに。
多くの人間が助言をくれた。背中を押してくれた。
美穂や手塚の言葉は、今も龍騎の心を取り巻く大きな力となってくれている。
だが、それは龍騎自身が見つけた言葉ではない。他者に頼っているだけだ。
己がどうしたいのか。それを本当の意味で示す為には、真司の心と言葉が完璧に一致していなければならない。
「だがお前は、それを見つける事ができなかった」
戦いを止めると何度口にしただろうか。
しかしその止め方が分からず、心の中で躊躇が生まれる。
この言葉を自分が口にしていいのかと。
手塚の言葉は、美穂の言葉は救いとなった。
しかし同時に重くのしかかるプレッシャーになっているのも事実だろう。
彼らは龍騎に期待してくれたが、その期待に応えられる確かな自信が存在していない。
「俺は――ッ!」
龍騎はバックステップでリュウガから距離を取り、ドラグセイバーに炎を纏わせた。
そして大きく踏み込んで、何も無い空間にXの文字を刻む。
炎の斬撃は、その軌跡に炎を残したまま発射された。
「俺はぁああッッ!!」
龍舞斬。
届いてくれ! 龍騎は強くそう願った。
確かに自分はまだ本当の答えを見つけられてはいない。
しかし迷いながでも、成しえなければならない事があるのだ。
だが――ッッ!
「吼えるな。今の俺に迷いは無い、それが何よりの証拠だ」
「そ、そんな!」
リュウガも剣に炎を纏わせて横になぎ払う。
その一撃が龍騎の炎を消し飛ばし、赤を黒で上書きしていった。
「抗うな、全ては無駄な事だと理解しろ」
「ふざけるな! 俺はお前を許さないッ!」
「馬鹿な奴だ」
「ああそうだよ! 俺なら分かるだろ!!」
龍騎はリュウガの眼前へ迫り、剣を振り上げる。
力任せの一撃は当たれば相当の威力をもたらすだろう。
だがそれは所詮当たればの話だ。剣を振り上げた際に胴体に隙が生まれた。
そこへリュウガは素早く蹴りを打ち込み、龍騎の動きを停止させる。
「自分の迷いにすら答えを出せない奴が、フールズゲームを超えようなどと良く言えたな」
「く――ッ!」
反論が、できない……ッッ!
一瞬、龍騎は完全に動きを止めてしまった。
そして忘れてはいないだろうか? 龍騎がココにいるのは、何に攻撃されたからだ?
何が彼をココに運んだ?
「グガアアアアアアアアアアッッ!!」
背後から轟音。
龍騎が首を向けると、そこには壁を突き破って顔を出してくるドラグブラッカーが。
そうだ、まだアドベントは終わっていなかった。龍騎を噛み殺さんと牙を剥き、血の様に赤く濁った瞳で獲物を捉える。
「しまった!」
ゾッとする龍騎。
仮面の下で笑みを浮かべるリュウガ。
「安心しろ、俺に殺されればお前の死は死でなくなる」
城戸真司が消え去る事は無い。
「尤も、お前と言う人格は消え失せるが」
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
「ん? 何……ッ?」
今まさにドラグブラッカーが龍騎を噛み殺すと言う所だった。
サイドの壁が壊れて、ドラグレッダーが割り入って来たのだ。
赤龍はすぐに黒龍に噛み付くと、そのまま一気に反対側の壁を突き破って空の方へと運んでいく。
「ドレグレッダー……!」
「ほう。なかなか好かれているな」
ミラーモンスターが司る性質に素直な様だ。
ドラグレッダーの性質は勇気。成る程とリュウガは唸る。確かにこんなサバイバルゲームの状況下にいれば、生きる事そのものに勇気を必要とする筈だ。
それに加えて参加者に、魔女に、ゲームに立ち向かう勇気があるのだから、それだけモンスターの好感度も上がると言うものか。
だがそれは龍騎だけに言えた事ではない。
リュウガは上空で互いを激しく身体をぶつけ合っている二体の龍を見て、そう呟く。
「ドラグブラッカーの性質は絶望」
「!」
剣の打ち合いの末、龍騎の手からドラグセイバーが弾かれ、穴の開いた壁から空へと放り出された。
武器を失った龍騎。そんな彼の肩へ、黒い一閃が刻み込まれる。
苦痛の声が漏れた。アーマーがなんとか刃を抑えてくれたが、それよりもリュウガの言葉が心を揺さぶる。
その性質は絶望、それがリュウガの力となる。
そうだ、城戸真司の絶望が。
「今日に至るまで、どれだけの仲間が死んだ?」
「!!」
「どれだけの関係ない命が犠牲になった?」
どれだけ間近で見てきた事か。
手を伸ばせば届く位置に助けられる命があったかもしれない。
けれど現実は非情だ。守りたいと思えば思うほどに、その手から零れ落ちていく。
「何も守れなかった事に、お前は絶望している」
「そ、それはッ!」
「何も変えられない自分に、お前は絶望している」
剣を引き抜くリュウガ、火花が龍騎の肩から胸に掛けて飛び散る。
「答えを見つけられない間に、多くの命が消えていったな。そしてそれは、これからもだ」
このゲームは龍騎が考えているほど簡単じゃあない。
複雑に、そして歪に組み合わさった歯車のような物だと言う。
「お前は変えられないよ龍騎。お前には力と知恵が足りない」
「ふざけんなよッ! 俺は、抗い続けるって決めたんだ!」『ストライクベント』
龍騎は新たにドラグクローを装備して、リュウガの剣を何とか弾く事に成功した。
そしてありったけの思いを込めてリュウガの胴体にその拳を、ドラグクローをぶち込んでいく。
すさまじい衝撃が辺りに起こり、リュウガはそのまま地面を擦って後ろへと押し出される。
「言葉にするのは簡単な事だ。誰にだってできる」『ストライクベント』
ブラックドラグクローを装備するリュウガ。
彼は未だに龍騎が答えを出せず燻っている点が、足を大きく引っ張っていると説く。
迷いは手足に繋がる枷だ。まとわりついた鎖の先には、大きな重石がある。
罪悪感。自分への苛立ち。割り切れぬ男は、力も中途半端に終わるのだと。
「俺は、全てを知っている」
「ッ?」
そこで空中でぶつかり合っていたドラグブラッカーが砕け散ったかと思うと、一瞬でリュウガの背後に移動する。唸りを上げてリュウガの周りを旋回する黒龍。
口から漏れる黒い光を見て、龍騎もまたドラグレッダーを呼んだ。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!」
再びぶつかり合う黒龍と赤龍の咆哮。
リュウガは腰を落とし、龍騎もまた腰を落として構えを取った。
一旦言葉を切ったが、心の中で言葉を続ける。
(龍騎は何も知りはしない、迷い続けた結果が今に至る事を)
お前は知らないんだろう。心の奥底に眠っている記憶の本流。
知らない筈だ、魔女に囲まれて食われた痛みを。
迷いに迷った男は自己犠牲を選ぶ。だが世界は残酷だ、人一人の犠牲では覆せない程の絶望が存在しているのだから。
だから無駄に命が消えていく、そしてそれを知る由も無い。
「愚かだよ、お前は」
「――ッ!」
踏み込む両者。
そして二人はドラグクローを思い切り突き出して火炎を発射する。
そこへ上乗せするミラーモンスターの火球。二つは合わさって巨大な炎弾へと姿を変えた。
「そう、愚かだ」
「ッッ!!」
ぶつかり合った二つの火球。競り合いを始める訳だが――
「だからお前は俺には勝てない」
「そんな!!」
黒は赤を塗りつぶす。
当然の事だろう? 打ち消された龍騎の炎弾。
ドラグクローを盾にして襲い掛かる『黒』に抵抗を示すが――!
「ウアアァアァアァアァァァアアアアア!!」
爆発。ビルの上部片面が消し飛んで、龍騎は空中へ放り出される事に。
ドラグレッダーも反動で吹き飛ばされており、龍騎を助けに向かう事ができなかった。
結果龍騎は手足をバタつかせながら落下。硬い地面に叩きつけられる事に。
身体にはまだ黒い炎が纏わりついており、それは今も尚轟々と燃え続けている。
「うぐァッ! ァァァア!!」
騎士の鎧が衝撃と痛みを軽減してくれたが、それでもダメージはそれなりに入った。
さらに黒い炎がダメージを継続させる。龍騎は地面を転がる事で何とか炎をかき消したが、安心するのはまだ早かった。
何故ならば、二発目が上空から飛来してきたからだ。
「ッグアァアアアッッ!!」
纏り付く炎に怯んでいたか、龍騎は二発目の事を頭に入れる事ができずに直撃を許してしまう。
絶望の炎に焼かれて膝を突く龍騎。ダメージが高すぎて鎧が粉々となり、龍騎の変身が解除されてしまった。
「か――ッ!」
地面に落ちる龍騎のデッキ。幸い壊れてはいないようだ。
真司はすぐに手を伸ばそうとするが、黒い足が見えてデッキを蹴り飛ばしてしまった。
「!」
「弱いな、龍騎」
地面をスライドして真司から離れていく龍騎のデッキ。
上を見上げると、自分を見下しているリュウガの姿が見えた。
まずい。真司がそう思ったとて、生身の、ましてやダメージに怯んでいる身体では何もできない。
一方のリュウガは、真司の首を掴んで、再び強制的に立ち上がらせる。
「ぐぅぁぅウ……ッッ!」
「ッ? ああ、成る程な」
リュウガは何かを発見したらしく、納得したように頷いていた。
真司が絶望すればする程、それだけリュウガの力は上がっていく。
だからリュウガは真司の心にトドメを刺す事にした。
「フン!」
「ぐあぁアッ!」
リュウガは真司を突き飛ばして静かに笑う。
倒れた真司は、そこでやっと自分がいる場所に気づいた。
ココは先ほど美穂が刺されたところの近くではないか。階段の下には彼女がいる筈だ、真司はすぐに立ち上がると、足を引きずりながら一度美穂の方へ視線を移す。
「―――」
その時、リュウガは複眼を赤く光らせた。
(見ろ。城戸真司)
そして絶望するが良い。
お前の希望が、また一つ音を立てて崩れ落ちる様を。
「美穂ッッ!!」
城戸真司が見たのは、倒れているファムだった。
これだけならば先ほどと何も変わっていないのだが、真司の表情には紛れも無い絶望が見えた。
それはファムの身体から薄っすらと光の粒が見えたことだ。
粒子化。つまり彼女は――
霧島美穂は、まもなく死ぬ。
一方、場面はナイトペアに移る。
ヒュアデスの眼前に迫った、かずみ。十字架を大剣にして大きく振り上げる。
ナイトは――、唖然として立ち尽くすだけだ。戸惑いはまだ継続している。彼が手にしているのは愛する恵里にプレゼントした筈の指輪と、自分が持っている筈の対の指輪なのだ。
何故これがココにあるのか。何故かずみが持っていたのか。
ナイトはあまりの混乱で、戦いの中であると言うにも関わらず、変身を解除してしまった。
そしてすぐに自分のネックレスがあるのかを確認する。
「かずみ……、お前は――ッ」
蓮の首にはネックレスに繋がっている指輪が確かに存在していた。
これは一体どういう事なのか、まだ思考が停止している。
たとえば、かずみが同じものを作ったとか? 魔法とか、本当に宝石店で注文して。
しかし、そんな事をする意味が分からない。
「ウォオオオオオオオ!!」
かずみは、振り上げた剣を今まさに振り下ろさんとしている所だった。
しかし忘れてはいないだろうか。ヒュアデスの暁はユウリであると言う事を。
ましてやその身体の中にはエリーがいる。既にかずみは、分析されているのだと。
だからヒュアデスはソレを、彼女の前に置いた。
そう、それが全ての答えへと繋がる唯一の要素。
「攻撃をやめて! かずみ!!」
「―――ッッ!?」
言葉を失った。かずみも、蓮も。
人は目から伝わる情報を、まず第一に信頼すると言う物だ。
そして耳から入る情報。その二つを『クリア』している存在が目の前にあった。
ユウリは変身魔法を使う。
それを分かっていても、"それ"がいざ目の前に現われると、人はそう簡単に割り切れない。
「恵里――?」
「ッッ」
蓮もかずみも、目を見開いて汗を浮かべていた。
ヒュアデスの裾から姿を見せたのは、間違いなく蓮の恋人である小川恵里であった。
だがしかし蓮は我に返る。恵里は病院で入院しているじゃないか。こんな風に話す事はあり得ない。
もちろんそれは、かずみも分かっていた。
分かっていたのだが――……。
これが、人間の愚かさとでも言えばいいのか。
例えば――、そう。ユウリが使い魔を使って恵里を攫ったとすれば?
なんらかの魔法を使って意識を取り戻したとしたら?
ある筈だ。その可能性はきっとある。
ユウリがそうだった様に、魔法の力を見せられれば、『普通ならばあり得ない』事なんて無くなってしまう。常識が壊れてしまうのだ。
目の前に見える恵里は偽者に違いないと、ナイトもかずみも理解していた。
理解していた筈なのに、思ってしまうのだ。もしかしたら本当の恵里なのではないのかと。
「……ッ」
だからかずみは恵里を斬れなかった。だから蓮はかずみに斬れとは言えなかった。
あれはヒュアデスの罠だと知りつつ、確定しつつ、間違いないと分かりつつも。
1%にも満たない想いがその確定を封じ込めてしまう。
恵里かもしれない、恵里なのかもしれない。
そう思ってしまえば、かずみは絶対に剣を振るう事ができなかった。
そもそもの話、かずみは偽者と分かっていても恵里を斬る事はできなかったろう。
それが、かずみが今まで自己を犠牲にしつつも蓮に協力してきた理由なのだから。
そして恵里の言葉で、その真実が暴かれる事となる。
蓮は恵理を愛していた。だが、それはかずみも同じなんだ。
そうだ、そうなんだ。かずみもまた恵里を愛していた。
「かずみ! お願い! 攻撃をやめて!」
「!」
「お母さんの言う事を聞いて! かずみ!!」
は?
「かずみ――……?」
蓮の間抜けな声は、風の音にかき消されるが、恵里の声は離れた蓮にもしっかりと届いていた。
かずみは目を見開いたまま動きを停止する。殺さないと、倒さないといけないのに。剣を持つ手は大きく震え、涙がボロボロと零れていた。
「―――」
かずみは、偽者と分かりきっている、『母』を見ていたのだ。
「そう、やっぱり偉い娘ね、かずみは」
恵里は攻撃を止めたかずみを素直に評価し、優しく優しく抱きしめた。
かずみもまた、抱きしめられた事に抵抗を示さず、言ってしまえばその表情には穏やかさも見える。
偽者だと頭は理解しているのに、心が見せるのは嫌悪ではなく安心。
恵里はそのままかずみの両耳にある魂に優しく手を伸ばす。
「だから死ぬのよ、お前は」
そして恵里は素直に、かずみを馬鹿にした。
「!」
「かずみぃイイッッ!!」
恵里はかずみのソウルジェムを握りつぶし、そこで消え去った。
ただ消えたのではない、恵里がいた場所にあったのは無数の針が蠢く触手だった。
ヒュアデスは触手を束ねて恵里の姿に変えていたのだ。
魔女の魂であるソウルジェムが砕かれた。そして触手に『抱きしめられていた』と言う事は。
「うあッ! あぁぁあああああ!!」
絶叫するかずみ。
彼女は今、針の触手に全身を縛り上げられている。
次々と体内に侵入していく絶望の種。身体の中に無数の小さな針が進入していく苦痛と、気持ちの悪さに叫びをあげるのも無理はない。
そしてかずみを襲う苦痛はそれだけじゃない。
彼女は大粒の涙を叫びながら流していた。それは苦痛から来る物ではない、偽者と分かっていた恵里を切れなかった自分の甘さ、そして何よりも――
母の声が聞けた事。
「アアアアアアアアア!!」
同時に、かつてない程の怒りが爆発する。
恵里を騙ったヒュアデスを。母の姿を騙った魔女を。絶対に許す訳にはいかない。
たとえ、この命を燃やしたとしても。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
かずみの目に亀裂が走る。
次にあげた声は苦痛の絶叫ではなく、まさに咆哮であった。
歯は鋭利な牙へ、一瞬で変化を遂げる。手は黒く染まり、鋭い爪が確認できる。
マレフィカファルス。暴走状態となったかずみは、手を文字通り『伸ばし』て、鞭の様に変えると自分を縛っていた触手を引きちぎる。
そして瞬時、ヒュアデスに飛び掛っていく。
その爪で、その牙で、コピーした魔法で。
ヒュアデスを殺そうと一心に動いていく。
「かず……み」
蓮の脳にに襲いかかった衝撃は、とても言葉で表せるものじゃない。
だがすぐに全身がゾッと冷える。浮かべる汗、起きている事態が意味するものを理解している。
かずみを守れなかったと言う事だけじゃない、恵里が言った一言。
そして疑問がある。
かずみはソウルジェムを砕かれた。
なのに彼女はまだあんなに素早く動いているじゃないか。
どういう、事なんだ――?
『ハハハハハハハ!!』
「!」
『あ! や、やべぇ!!』
『……やれやれ』
蓮はその時、かすかだがジュゥべえの声を聞いた気がして、辺りを見回す。
するとやはりビルの上に小さい二つの影を見つけた。
もう何が何だか分からない状況ではあるが、蓮は死に物狂いで変身して彼らの元へと飛んでいく。
「ッ」
その途中でかずみを見るが、彼女の姿は痛々しく、それが彼女をみすみす『ああして』しまった自分への情けなさを強調している様だった。
「教えろジュゥべえぇエッッ!!」
『あぁ、やっぱ見つかっちまったか……』
まあ仕方ないと、ジュゥべえは何故か少し嬉しそうに言ってみせる。
どうやら連続で起こる衝撃に打ちのめされていた蓮を見ていたらしい。
『いつもクールに気取っていたお前が浮かべる間抜けな表情は、かなり面白かったぜ』
「黙れッッ!!」
『分かってる! 秋山蓮、お前が何を聞きたいのか。面白いものを見せてくれた礼だ。教えてやるよぉ』
いそもそもインキュベーター達も不思議ではあった。
何故ならば自分達はかずみと契約をした覚えが無かったからだ。
だがそれはあくまでもゲームが始まるまでは記憶をロックしていたから、と言うだけにしか過ぎない。
それに似たケースが一つある。暁美ほむらだ。
(まあでも、暁美ほむらより、異質だったがな)
かずみのソウルジェムは二つに分かれている鈴型のピアス。
今見ても分かるとおり、ソウルジェムを砕かれても死なないと言う特異性を持っている。
これは明らかに普通の魔法少女ではない。
ジュゥべえ達も理解した。
『それが進化なんだから、仕方ないわな』
時代が変われば、その変化に合わせて『物』も大きく形態を変えていく。
白黒だったテレビがカラーになった様に、その時代に合わせた姿となっていくのが道理である。
それは進化だ。次世代に適応するための変化なのである。
『新しい時代には、新しい時代に合わせた適応が生まれる』
『要するに、アイツがそうなんだよ』
かずみは次世代の魔法少女だと言う事だ。
そもそも、インキュベーター達は魔法少女が魔女になる際に発生するエネルギーが欲しい。
ならばソウルジェムを砕かれて死ぬと言うケースはなるべくならば避けたいところだった。
その『事故死』を防ぐのが、かずみに用いられた新世代の形態なのだ。
ソウルジェムを二つに分ける事で負担を減らし、さらに軽量化に成功。
砕かれるリスクを減らす。
それだけではない。
ソウルジェムを破壊されれば死ぬと言う事を回避するため、命のコアを心臓に設定した。
これによりソウルジェムを二つ破壊された状態で心臓を破壊されれば、そこで初めて死ぬと言う安全装置を施した。
この改変により、魔法少女はそのほとんどが事故死を避け、やがていたる魔女への道を歩む事になる。
『かずみが他の魔法少女と作りが違っているのは当然だ。アイツは"未来から来た"魔法少女なんだからな』
その間にインキュベーターは魔法少女のあり方を変えた。
それがかずみの異質さの正体である。織莉子が未来を視た時に、かずみの姿をうまく捉えられないと言うケースが多かった。
それはそうだ。織莉子が視ている未来。
本来かずみがいるべき場所は、そのさらに進んだ時間なのだから。
かずみは確かに『この時間軸』に存在しているが、本来彼女はこの時間や織莉子が視ている時間には存在していない。
それが矛盾を生み、ジャミングを発生させていた理由でもある。
「未来から……、だと?」
『そうとも。それがアイツの願いなんだ』
もう分かっているんだろ?
ジュゥべえは赤い目でナイトを見る。
そう、そうだ、ナイトは馬鹿じゃない。かずみを分析したヒュアデスが、なぜ小川恵里の分身を作り出したのか?
そして直後、口にした言葉の意味。
「ま、まさか――! かずみは……!?」
ナイトがずっと心に抱えていた、かずみへの特別な思いの正体。
面白いものだ。ジュゥべえはつくづく人間と言う生き物が不思議な面を持っていると言う。
秋山蓮と言う男が、簡単にかずみに情を持った理由には、やはり人間の構造が関わっているのかもしれない。
『血』とは、なかなか面白い物を見せてくれる。
『遺伝子レベルで刻まれた絆、お前も感じてんだろ?』
「やはり、かずみは俺の――っ!」
『そうだ。立花は嘘をついていた。分かっているんだろう? 秋山蓮』
赤い瞳は、確かにナイトを捉えている。
『アイツの本名は立花かずみではなく、秋山かずみだ』
つまり。
『お前と小川恵里の間に生まれた。正真正銘、本物の娘なんだよ』
「ッッ!!」
それはあまりにも唐突で、それはあまりにも夢物語で、それはあまりにも悲しい真実だった。
だが、そう言われればナイトは今までの出来事を納得せざるをえない。
かずみの雰囲気が恵里に似ていると感じたのも、それは当然の事だった。
ナイトがかずみを戦いに巻き込みたくないと切に願ったのも、真実を知った今ならば、見方も変わってくる。
だが、だからと言って、なんと口にしていいか分からなかった。
頭が真っ白になっていて、かずみが娘と言われても、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。
仕方のない話と言えばそうか。知らない女の子を指差され、あれが未来の娘なんだと言われても全ての人間が困ってしまうと言う物だ。
だが、それでも分かる事はある。
ナイトは狂いそうになりながも、キュゥべえに詰め寄り必死に叫んだ。
「アイツは針を打ち込まれた! 助ける方法を教えろ! 教えてくれッ!!」
『………』
キュゥべえは首を振る。
本来あの針は、ユウリが魔女になった時に与えられる武器だ。その状態ならば何とかなった。
しかし現在、多くの魔女の力を手に入れ、それだけ強化が成されている。
残念だが、ヒュアデスの暁となったユウリは他の参加者を圧倒している。ナイトとかずみがどうにかできるレベルではない。
『そもそもあれはもう、ユウリとしては形だけでしかカウントされていない』
完全に別の魔女だ。ユウリの力を媒介にした、ワルプルギスの劣化版。
参加者であり、参加者ではない。特殊な位置づけである。
魔女の力は、魔女が死ねば消える。しかしヒュアデスは一固体の魔女ではない。
たとえ
『打ち込まれた針を取り除くには、かずみ体の中にある針を直接取るしかない』
しかしそんな事ができると思うか?
針を取り出すために体中の肉を弄るなど、矛盾している様に感じないか?
ましてやヒュアデスは様々なサイズの針を用意している。肉眼でなんとか確認できる程の針を全て取り除けるとでも思っているのか?
『無理だよ、彼女はもうソウルジェムを破壊されているし、確実に助からない』
「!」
『それに、それは、かずみも分かっている事だと思うよ』
かずみはソウルジェムが破壊された今も尚、負担の大きいマレフィカファルスを発動してヒュアデスと戦っている。魔力の消費は倍となり、ソウルジェムがなくなった事で肉体はどんどんと本物の魔女に変わっているではないか。
『諦めた方が良い、でも彼女はまだ一度も死んでいないからね。復活チャンスは使えるよ』
淡々とそう言ってみせるキュゥべえに、ナイトはどこか理不尽な物を感じて拳を握り締めた。
娘。かずみが自分の子供。その情報が何度となくナイトの頭の中を巡っていく。
だったらどうして彼女は魔法少女に? それに確定しているのは、かずみが今、これから死ぬと言う事だ。
言い方を変えれば、自分の娘がこれから串刺しになって死ぬ。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「アアアアアアアアアア!!」
高速で回転するヒュアデス。
闇のエネルギーが肉体を包み、それに触れたかずみは目にも止まらぬスピードで吹き飛んでいった。
そのまま川に着水して、大きな水しぶきをあげる。
あれは自分の娘。
いや、そんなのは関係無い。
まずは何よりもパートナーとしてその光景が胸に突き刺さった。
怯んでいたナイト。その間もかずみは戦い続け、そして傷ついた。
「かずみ――ッ!!」
ナイトから聞いたことも無い様な悲痛な叫びがあがる。
彼はマントを翼に変えると、かずみが着水した方向へと一心不乱に飛び去っていく。
それを見て含み笑いを行うジュゥべえ。
そして対照的にやはり無表情のキュゥべえ。
『わざとかい?』
『え? 何がだ先輩?』
『笑い声をあげた事だよ』
『………』
かなわねぇな、先輩には。
ジュゥべえはそう言ってニヤリと。
『正直言っていいか?』
『うん、いいよ』
『半分マジ。半分わざとって所だな』
笑いが出たのは本当だが、確かに声の音量は盛ったかもしれないと。
そもそも本当に声を出さないのがインキュベーターなのに。
『あんまりボクらが積極的に肩入れするのは良くないんだろうけどね。まあいいや』
秋山蓮の様な者が取り乱すのは、相応のギャップが生まれる。
それを感情ある者は、珍しさから興味を持つものだろうとは理解できた。
だからジュゥべえもそうした。
『それに、ソッチの方が面白くねぇか』
演出の一環だとジュゥべえは言う。
さぞ驚いた事だろう。まさかパートナーに選ばれたのが、未来の自分の娘だなんて。
そして今、父と娘の会話が行われようとしている。加えて娘は死へのカウントダウンが始まっている。
さぞ本人にとっては感動的な話になるだろうて。
『薄っぺらい家族愛のな』
今知ったんだから、ジュゥべえは言う。
だが――
『その先にある物がオイラは見たいのかもな』
『その先に?』
『ああ、純粋な興味さ』
『ふぅん』
キュゥべえとジュゥべえは再びナイト達に視線を移す。
ナイトは無事にかずみを引き上げていた所だ。かずみは衝撃でマレフィカファレスが解除されており、ぐったりと目を閉じて呼吸を荒げていた。
魔女化した部分は戻っておらず、それがより一層痛々しさを物語っていた。
なによりも今、かずみの体の中では徐々に巨大化していく針がある。それに恐怖し、その激痛に表情を歪ませている。
「かずみ! 大丈夫か? かずみ!!」
必死に叫ぶナイト。
その声を聞いたか、ヒュアデスは再び二人を見つけると、使い魔達を発射する。
無数の魔法少女の影は、泣き叫びながらナイトたちを殺そうと飛んでいく。
それはまさに狂気そのもの。だが反対にナイトもまた、溢れる激情の思いに叫び声を上げた。
「ダークウイングッッ!!」
ナイトはそこにどんな想いを込めて叫んだのか。自分でも分からなかった。
かずみが娘と聞かされただけ、。がその真実をナイトは疑う事は無かったし、その真実が彼の心に何か大きな『火』の様な物を灯したとも理解している。
とにかく、かずみを助けたい。とにかくかずみの死を回避したい。
途方も無い思いかもしれないが、その心の叫びに反応したのだろう。ダークウイングはナイトの背中から離れると、猛スピードで使い魔達に突進していった。
「ギィイイイイイイイイイイイイ!!」
ソニックブレイカーが放たれ、迫る使い魔達を一撃で消滅させていく。
ナイトの強い想いに呼応している様だ。そのままダークウイングは叫び声をあげてヒュアデスに戦いを挑んだ。
それはナイトが命令したからか? とにかく、ダークウイングは自分よりも遥かに大きな魔女に怯む事なく、その牙を突き立てに向かっていった。
「かずみ! おい、かずみ!!」
「う……! あぁぁあ!!」
体内の針を感じているのだろう。かずみは絶叫と共に意識を取り戻した。
ナイトは川の近くにあった橋の下に彼女を運び、なんとかヒュアデスの視界から消えようとする。
情けない話だが、まだナイトはパニックから回復していないんだろう。
かずみを助けたいとは思えど、何も方法が浮かんでこなかった。
心臓の動悸は嫌なほど速くなり、いろいろな感情で押しつぶれそうだった。
「あ……、蓮さん」
「かずみ! 平気か?」
「どうして逃げなかったの――?」
「お前を置いて逃げられる訳ないだろ!!」
ナイトは上ずった声で叫ぶ。
それを聞くと、かずみはなんと笑顔を浮かべた。
それは儚く、淡く、今にも消えてしまいそうな表情で笑みを。
そして、目には少しだけ涙が浮かんでいる。
水に入ったために全身が濡れているが、それでも瞳には、たった今浮かんだ雫があった。
「意外だな。蓮さんがそんな事言ってくれるなんて……」
「――ッ」
そう、笑みだ。笑顔なんだ。怖いだろうに、痛いだろうに、辛いだろうに。
今も尚、きっと彼女の体の中では死へのカウントダウンが着実に進んでいる。
それを一番感じているのは、かずみ自身の筈。
それでも彼女は笑顔を浮かべていた。全てはナイトに心配をかけない為に。
「どうして……! どうしてだ!? どうして何も言わなかった!?」
「あ……やっぱり……バレちゃった?」
じゃあ、コレでやっと呼べるんだね。
かずみは笑みを浮かべていたが、それとは対照的に涙はどんどんと溢れていく。
声は震え、けれどそこにあったのは希望と嬉しさだった。
「お父……、さん」
「ッッ!!」
ボロボロと。堪え切れない涙が、かずみの瞳から溢れていく。
ナイトは心が押し潰されそうだった。ナイフで心臓をズタズタにされている様だった。
かずみの笑顔が、本当の笑顔ではないと分かってしまう。
いや、もちろん笑顔自体は本当に浮かべているのかもしれない。
だが、その他の負の要因が多すぎて、せっかくの笑顔がすぐに消えてしまう事が分かった。
「言っちゃ駄目だったんだよ、本当はね……」
「ッ」
「因果がどうのこうのとか、未来が大きく変わっちゃうかもって……」
ナイトは説明を求めた。何故かずみがココにいるかを。
本当ならば「喋るな」と言ってやるのが、優しさなのかもしれない。
喋れば体に力が入り、それが体内の針に連動してより傷みが強くなる筈だ。
しかしナイトはそれが分かっていながら説明を求めた。
そんな自分に反吐が出そうになりながらも、知りたかったのだ。
かずみもまた、今となってはそれを拒む事は無かった。
端的にではあったが、何故自分がここにいるのかを語りだす。
一応興味があったのか。ジュゥべえ達も耳を澄ませてかずみの声を拾う事に。
「蓮さんはね、勝てるんだよ……」
「っ?」
「優勝、するんだよ。このゲームで」
『?』
ジュゥべえは首をかしげる。
彼は知識が薄い。けれどもキュゥべえは彼女の言葉を理解したようだ。
インキュベーターは複数の固体を持てど、すべての記憶を共有する事ができる。
それは『未来』も例外ではない。インキュベーターもまた進歩していく物だ。
妖精はこの世界に、この時間軸に存在する、すべてのインキュベーターとの記憶を共有する技術を既に体に組み込んでいた。
つまり、キュゥべえは未来のキュゥべえとの記憶共有を行っていたのだと。
キュゥべえは、まだ意味が分かっていないジュゥべえに説明を行った。
つまりはこう言う事である。
『本来、フールズゲームの結末は秋山蓮の勝利で終わるはずだった』
『うお! マジでか!!』
『もちろん他の参加者を皆殺しにしてね。そして彼は願いの力を使い、小川恵里を蘇生させて、ゲームは終了した。他の願いはワルプルギスの消滅等で消費してしまった様だね』
結果として見れば、ナイトの願いは叶った訳だ。
それから蓮は罪悪感に駆られながらも、恵里との生活を手に入れる事ができた。
恵里は何も知らない、知る事も無い。もしかしたら教えたのかもしれないが、それはキュゥべえ達の興味外だったので、深くは追求しないでおこう。
ましてや恵里からしてみれば真司や美穂の記憶は無くなっているのだし。実感は湧かない筈だ。
『そして時間は流れ、小川恵里の――』
ああ、いや。
『秋山恵里の体に、かずみの命が宿った』
そしてかずみが生まれ。
彼女は両親の愛を受けて育っていった。
「わたしね……、お父さんとお母さんが本当に大好きだった」
真司達の贖罪のつもりだったのか。ましてや不幸の反動だったのか。
蓮も恵里も、本当にかずみを可愛がった。だからマザコンだのファザコンだのと言う気があったと言っても良かっただろう。
かずみは信じていた。これからも大好きな家族とずっと一緒にいられると。
「でもね……、でもね――!」
声が震えて、かずみの瞳からはどんどん涙が溢れていく。
その言葉を言いたくないのだろう。声は上ずり、嗚咽は酷くなっていく。
しかし父に真実を伝えたい。いや伝えてもいいのか?
かずみもこの僅かな時間の中で、葛藤していた。身を抉る針の傷みに耐えながら。
「でもね、お母さん……! 死んじゃうんだぁ……!」
「なっ!!」
酷いよね、酷いんだよ。かずみはここから先を言いたくはなかった。
父の為にも、自分のためにも。だが教えなければならないと言う想いも確かにあった。
それに、自分の苦しみを父にも分かって欲しいと言う、少女なりのワガママが勝ったとでも言えばいいか。
ずっと胸の内にしまっていた想いを、たまらず吐露していく。
「殺され……るの――ッ!」
「!?」
何度ショックを受ければいいのか。何度打ちのめされればいいのか。
ナイトは目の前が真っ暗になった。つまりはこう言う事だ。恵里を助けても、彼女は結局殺される?
なんなんだ。恵里が何をしたって言うんだ。どうして何の罪もない恵里が苦しまなければならない!
何故、どうして――ッッ!!
『ハハッ! つくづく人間って生き物の底が知れるな先輩』
『人間は食物連鎖以外の理由で同属を殺せる珍しい生き物だからね』
哀れな物だとインキュベーター達は言ってみせる。
一方で話を続けるかずみ。犯人は結局分からなかった。
恵里は首を強く締め付けられ、腹には鋭利な刃物で刺された傷があった。
手がかりといえばそれだけ。そして覚えていない。思い出したくない。
幼いかずみは、目の前で恵里が死ぬのを見ていた。
「うゥッ! うあぁ……!」
「―――」
絶句するナイトと、当時を思い出して声を漏らすかずみ。
一方でその情報を全く別の角度から理解する二匹が。
『『なるほど』』
キュゥべえとジュゥべえの声が重なり合う。
なるほど、そう言う事かと二人は完全に流れを理解する。
忘れていたんだ、今、"思い出した"。
「……か、かずみ」
冷静になったナイトに、一つの疑問が浮かんだ。
かずみはさぞ悲しんだ事だろう。大好きだった母を失い、さぞ泣きじゃくった事だろう。
そんな彼女を誰が支えてあげたんだ?
「俺は……、どうし――」
かずみの絶望に塗れた表情を見て、ナイトは理解する。悟ってしまう。
かずみは気を遣って、その事実を口にする事はなかった。
しかしナイトは理解する。死んだのが、恵里だけでは無いと言う事を。
「俺もッ、殺されたのか?」
「………」
次々と溢れていく涙を手でぬぐう事もできず、かずみは喉を詰まらせただ泣きじゃくる。
だがその中で、かずみはしっかりと首を縦に振った。
絶句するナイト。つまりかずみは両親を失ったのだ。
「それだけじゃないんだよ……!」
かずみは語る。
これはまだ始まりにしか過ぎなかった。
かずみには友人がおり、気を遣ってくれたのか、かずみが一人ぼっちにならないようにシェアハウスに誘ってくれた。
優しい友人に囲まれ、かずみは悲しみのどん底を見ても、絶望する事は無かった。
しかし世界は、その希望を完全に打ち砕く。
「フールズゲームは、終わってなんて無かった……ッッ!」
「!!」
かずみの友人は、みんな『魔法少女』だった。
運命だったのか。それとも仕組まれた物だったのか。
それは分からないが、かずみの前に新たなるフールズゲームが開催されたのだ。
次世代の魔法少女と、次世代の騎士が願いと言う餌に釣られて殺しあう。
友人は死んだ。
両親を失い、友を失い、だがそれでもかずみが壊れる事が無かったのは、一つの希望があったからだ。
『彼女はこうして魔法少女になった』
かずみは、父が何をしてきたのかを知る事になった。
ゲームは以前にも行われており、父が参加者を殺して勝利を掴み取ったのだと。
「キュゥべえが……、教えてくれた」
『お! 先輩やるねぇ』
『かずみの中に素質を見出してね』
言わば、かずみはゲームが生んだ子供でもある。
多くの命を犠牲にして生まれた少女は、それだけの因果を背負っていた。
つまり相応の才能が、力が、得られるエネルギーがあったのだと。
そんな魅力的な素材をインキュベーターが放っておく訳が無い。
キュゥべえはかずみに詰め寄り、契約を持ちかける。
両親が死ぬ運命を、友人が死ぬ運命を、一人ぼっちになる今を壊したくはないかと。
「だから――、わたし……、願ったの」
今を壊したい。
そして、かずみは力を手に入れた。
殺した魔法少女の力を手に入れる『破戒』の力を。
そうだ。
先ほど友人は死んだと説明したが、それは魔女の運命から逃れられなかった彼女達を。ゲームと言う運命に縛られた少女達を解き放つ意味で、刃を突きたてた。
いろいろな事情があった事だろう。ここに語られる事は無いかもしれないが、少なくともナイトはそう思う。
「紹介、したかったな……。海香とカオル……! 他のみんなも――」
何故か記憶が抜け落ちている部分があるのだが、それでもかずみの記憶には沢山の友人の記憶がある。中でも、シェアハウスをしていた海香とカオルと言う少女達とは特別仲がよかった。
だが皆、かずみに希望を託す意味で殺される事を望んだ。
今現在かずみが相手の魔法を見ただけでコピーできるのは、海香の魔法が原因だと言う。
「変えたかったの……」
運命を、今を、未来を。友人たちもそれを望んでいた。
こんなゲームを無くしてしまいたい。だから皆、かずみに運命を託したのだ。
かずみだって変えたかった。大好きな父と母が死ぬ未来。
だがかずみはそこで、キュゥべえから一つの注意を受ける。
蓮に自分が娘だと言えば、因果が絡まり、未来が大きく変わる可能性がある。
例えかずみがゲームの中に入ったとしても、何もしなければ蓮は勝てる。
だから、かずみはその手伝いをして、願いの力で自分たちの永遠の幸せを約束させればいい。
あとは、二度と魔法少女や騎士が生まれない世界を設定するのだと。
「でも……」
願いの力を使うつもりだった。
だがその中で、父と母に会えたかずみには、躊躇が生まれてしまう。
父親が、これから人を殺すのだ。そうしなければ母は助からないと分かっていても、やはりそう簡単には割り切れぬ話であった。
もう戻れないとは分かっている。
既にかずみも力を手に入れる為に友人を殺した。しかしだからこそ、友人を殺める痛みは分かってしまう。
真司と美穂と一緒にいる父《れん》は、本当に楽しそうだった。
見た事のない表情もあった。だからこそ分かる。ずっと父は苦しんでいたのだ。
父も、殺したくて殺した訳じゃない。
でも母を救うために仕方なく地獄の道を選んだのだ。
それを思ってしまえば、苦しんでいる父を見ていられなかった。
「かずみ……! お前は――ッッ!」
「えへへ、ごめん……ね」
『………』
かずみの話を聞いて、ジュゥべえは「ふーん」と唸っている。
その隣でキュゥべえは淡々と呟いた。
『そろそろだ』
「うあ゛ぁアア゛ッッ!!」
「ッ! かずみッッ!!」
かずみの肩の一部が盛り上がったかと思うと、そこから勢い良く針が飛び出して来た。
赤い血と肉が飛び散る。どうやら針は一定の大きさになった時に、急成長するらしい。
「かずみ! かずみッッ! ああ、俺は――ッ! 俺は!!」
ナイトは何もできない。何もしてやれない。
目の前にいるのは娘なんだ、自分の子供なんだ。
感覚は薄くても、かずみは確かに恵里と自分の愛の結晶なんだ。
それが目の前で壊れていくのに、ナイトは何もできない。何もしてやれなかったんだ。
「わ、わたし……ね、分からなく――ッ、なっちゃった…!」
何が正しかったのか。
自分がする事は正しいのだろうか?
はじめは父親の手伝いをすればいいとだけ思っていた。
まどかに近づいた時も、心の中では獲物としか認識していなかった。
でも、それでも、まどか達に友人を重ねてしまったのだろうか?
いや、それはきっとかずみの性格だ。『情』を抱いてしまった。
まどか達を傷つけたくない、友達だと思ってしまった。
そして父親が苦しむのは見たくない。でも母親は絶対に助けたい。
「どうすれば……ッ、良かったの…かな――?」
「かずみ……!」
「答えが、分からないんだ……よ」
迷えない立場にあるとは分かっていたのだが、それでも分からなくなってしまったんだ。
何かを掴み取る為には、相応の犠牲が必要だとは、もはや使い古された言葉であろう。
しかしそれでも、かずみは迷ってしまう。
失う物の大きさを知ってしまった。
犠牲にする物が大きすぎた。大きすぎてしまったんだ。
分からない。ああ、ああ、それは今も。何も見えない。
「うあぁぁああぁあ゛ッッ!!」
わき腹。脚。右腕から、次々と皮膚を突き破って飛び出してくる針。
かずみは涙を流しながら、襲い掛かる苦痛に歯を食いしばる。
ソウルジェムが無い今、痛覚操作がうまくできない。痛みは限りなくリアルに襲いかかってくる。
目の前に父がいる嬉しさから、気が狂う事は無かったが、自らの終わりは既に察している。
ソウルジェムが砕かれ、おそらく心臓周辺にも針は打ち込まれた。
「お父さん――!」
「!!」
だからこそ伝えたい思いがある。
何故、かずみがここまで涙を流しているのか。
この想いを託す事、託さなければならない事に、彼女は大きな悲しみを覚えている。
エゴと矛盾に塗れた、己の願いを。
「わたし……! お父さんに…人を殺して……欲しく、なかったの」
ズシャアッ! そんな音と共に、かずみの右目から針が生える。
目を覆いたくなる光景ではあったが。ナイトは、かずみから目を逸らす事は無かった。
そうだ、見ていてあげなければならない。男として、パートナーとして。
そして何よりも、かずみが愛してくれた父として。
「でも――ッ、でもね……! でもでもッ、ぐぁぁうッッ、で、でも」
"でも"を繰り返す。
つまり殺して欲しくはなかったが、その考えを否定したい。
「でも……ッッ、! わたしッ、お母さんとお父さんと……! また、一緒に暮らしたかったから」
かずみの最期の意地だった。
目が潰された激痛を、決意の心でねじ伏せる。
そうまでして、彼女は青いワガママを伝えたかった。
家族も友達も死ぬ世界なんて嫌だから。
「生きて……、その、願いを――ッ! 叶えたい……!」
死んだら終わりだから。それに、全てが無駄になってしまう。
自分でも勝手な話だとは思う。ここまで散々ナイトの足を引っ張る形になって、だがそれでもナイトには伝えたい言葉があった。
「お願いだから……、戦って――ッ!」
「!!」
「ごめんねッ、勝手なこと言って。でも、このままなんて嫌だよぉ……!!」
何も変えられず、ただ苦しんだだけだ。
かずみが選んだのは家族と。友人と共に歩む未来だ。
だから彼女はナイトに参加者を殺す道を辿ってくれと言う。
本当は嫌だった、父が茨の道を歩む事が。自らが他者を殺す事が耐えられなかった。
だがそうやって迷いに迷った先に何が待っている?
それは、絶望だけだ。
「参加者を殺せば……! 復活、できる…から」
50人殺し以外でも、参加者を殺せば復活チャンスは使える。
それを、かずみはナイトに持ちかける。辛いのは分かっている、苦しいのは分かっている。
だけど、かずみはこのままで終わるなんて嫌だったんだ。
まどかが自己犠牲を選ぶのならば、かずみは他者を犠牲にしても幸せになる道を選ぶ。
それが、追い詰められた少女の答えだった。
「間違ってる……ッ、かな? ううん、間違っているよね、わたしきっと」
でも、それでも……。
そうしている間にも、かずみの体からは次々と針が生えてくる。
ナイトは狂いそうだった。かずみは自分に人を殺してくれと頼んでいる。
それが彼女にとってどれだけ辛い物なのかは、今までのかずみを見ていれば嫌でも理解できた。
こんな事を口にしたい訳がない。
でももう、かずみだけの問題では無くなってしまった。
かずみは罪を背負ってでも、殺す道を選ばなければ無らなかったのか。
「ごめんねお父さん。本当にごめん……。わたし、ぜんぜん役立たずで――」
「もういい! もう、いいんだ。もう謝るな……!」
その時だ。大きな衝撃を感じて、地面が揺れる。
ナイト達が隠れている橋の下、そのすぐ近くの川原にダークウイングが叩き付けられたのだ。
注意を逸らすために奮闘したのだろうが、その体は既に針だらけと、痛々しい姿だった。
それでもまだ尚立ち上がろうとするダークウイング。
しかしそこへヒュアデスのエネルギー弾が飛来する。
「ギイイイイイイイイイイイイ!!」
爆発。
エネルギー弾を受けたダークウイングは断末魔と共に粉々に砕け散った。
そして連動するようにナイトの装飾が削れ、シンプルな姿へと変わってしまう。
ブランク体。
これから参加者を殺さなければならないナイトにとっては、絶望的な状況である。
しかしナイトもかずみも、その点に触れる事は無かった。
それは二人の間にある、複雑な想いが故だ。
むしろかずみは、ナイトが弱体化したのを見て、安堵とも言える表情を浮かべた。
かずみは今、ナイトに皆殺しを託した。しかしその言葉が100%本心ではないと言う事は、ナイトにも分かる事だった。
ナイトとしては、力がどうのこうのと言うよりは、目の前にいるかずみだけに想いを注ぎたかったのかもしれない。
「矛盾……、ばっかり。戦ってほしいのに。戦ってほしく……無い」
自分で自分の抱えている想いに押し潰されそうになる。
だから無責任かもしれないが、この想いを父親に託して解放されたかったのかもしれない。
だが自分が逃げる訳にはいかないと、そうも思っていた。
「うあ゛ッ! うぅうッ! あああああうッ!!」
心臓を押さえて苦悶の表情を浮かべるかずみ。どうやら、その時が来てしまった様だ。
ナイトは変身を解除して、"彼女の手を握りしめる"。
蓮に比べれば小さな手だ。この手で、かずみはずっと重い物を抱えてきたのだろう。
それも、たった一人でだ。
「教えてくれ、かずみ……!」
「なぁに……?」
「俺は、お前にとって……、良い父親だったのか?」
かずみは笑みを浮かべた。
この限界を迎える体で、しっかりと。
「うん、大好きな……、お父さんだったよ」
そしてそれは母親も同じだと。
だからこそ、かずみは笑顔を険しい表情に変えて、再び涙を流す。
口から出るのはまた、矛盾に塗れた言葉だった。
「だから、ここで終わりたくないよぉ」
「……!」
「安心して、復活したら……もう足、引っ張らない――ッ、か……、ら!」
今度こそ全ての参加者を殺してみせる。
そうすれば、今は悲しいかもしれないけど。未来は必ず明るくなると信じているから。
家族も、友達も、みんなを守れる筈だから。
「きっと、わたし……殺して――、みせ……る……から――ッ!」
そうしたら――。
「お父さん、わたしの事……褒めて……くれ――」
そこで、かずみの言葉は止まった。
心臓を貫いた鋭利な針を見ながら、蓮は目に涙を浮かべて拳を思い切り握り締める。歯を思い切り食いしばる。
なぜ、なぜッ、なぜッッ! 虚空を睨みつける。腕が震えた。
蓮は、粒子化していくかずみを横抱きにして、ゆっくりと立ち上がる。
実感はまだ、完全には湧いていない。いきなりかずみが娘だと言われても、蓮にとっては僅かな関わりを持っただけの少女だ。
だが、彼女は娘だった。かずみは自分の子供だった。
娘が親を目の前で殺され、友達を殺すことになった。
理不尽な運命に心を引き裂かれそうになった。
そんな事を――、納得できる訳が無いだろ!!
「かずみ……!!」
かずみは最期にこう言った。次は殺して見せると。
娘が己のせいで、他人に殺意を抱かなければならない。
娘が人を殺すと言っている姿を、喜ばしい物として認識しなければならないのか。
そんなものを望んで、この戦いに足を踏み入れたのか?
全ては恵里と、その未来に生きるかずみを幸せにする為だったんじゃないのか?
なのにかずみは武器を持った。持たせたと言っても良い。
それを友に向けて、振るわなければならない世界を――ッ! 誰がッ、こんな……!!
「―――ァァ」
こんな串刺しになって死ぬ人生を、俺は歩ませたのか――ッ!?
花や、人形を持って笑うのではなく、武器を持って泣きながら戦う事がかずみの運命だったのか?
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
蓮は、かずみの亡骸を抱えたまま、焦燥の想いで叫びを上げた。
未来に生きる子供には、罪を覚えないでほしかった。
何も背負わず、ただ笑顔だけを浮かべていてほしかった。
苦しむのは自分だけでいい、恵里と子供には、何の罪も無い筈だ。
なのに今、蓮は自分の子供が涙を流して死んでいく光景を見ているしかできなかった。
無力感。情けなさ。惨めさ。そして子供に、こんな人生を歩ませてしまった事。
かずみは、自分よりも遥かに苦しんだ筈だ。そして今、彼女は死んだんだぞ!!
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
喉が潰れる程に蓮は叫ぶ。
そして粒子化して消えていくかずみを、強く、強く、それは強く抱きしめた。
皮膚を突き破った針が体に食い込もうと関係ない。ただただ、かずみに申し訳が無かったのだ。
違う、違うんだ、許してくれ。
こんな道を歩ませたかった訳じゃない。お前には輝かしい未来を歩んで欲しかった。
誰かを殺して欲しいと、そんな想いなど、欠片とて抱いてなかった。
許してくれ、許してくれ、かずみ。お前の母を、お前の心を守れなかった俺をどうか――ッ!!
「かずみ……ッッ!!」
今も焼きついている。
笑顔で殺すと言っていた、かずみの姿を。さぞ辛かったろう、苦しかったろう。
こんな事を言いたくは無かった筈だ。だが言わなければならなかった。
(何故!? 決まっている、俺が愚かだったからだッ!!)
こんな腐ったゲームがあったからだ!
そうだ、俺が彼女にあの言葉を言わせたんだ!!
「―――」
蓮の手から、その感触が消える。
こぼれ落ちた粒子は天へと還り、完全に消滅した。
かずみ、お前は幸せだったか? ああいや、そんな訳がないな。
苦しんで、苦しんで、これでもかと苦しんだんだろう?
蓮はデッキを強く。血が出るほど強く握り締める。
そしてその時だった。蓮の脳に、ジュゥべえの声がしたのは。
『よぉ。もう分かってるとは思うけど、一応言っておくぜ』
そしてその言葉で――
『お前のパートナー。たった今、死んだぜ』
秋山蓮は、"決意"する。
『なに……?』
『ッッ!?』
キュゥべえとジュゥべえは、思わず身を乗り出してその光景を確認した。
橋の下から蓮が出てきたと思えば、彼の持っているデッキが凄まじい程の光を放ち始めたではないか。
これには珍しく、キュゥべえでさえ呆気に取られる程だった。
『あれは……、まさか』
その光は、カードが増えた時に放たれる光とは比べ物にもならない輝きだった。
青と黒が混じったようなソレは、すぐに天を突き破る程の『柱』となる。
そして蓮を中心に凄まじい風が巻き起こり、その咆哮が響き渡る。
「キィイイイイイイイイイ!!」
『んなッ! なんだと!?』
ジュゥべえの目が飛び出しそうになる。
蓮の背後に、彼のミラーモンスターであるダークウイングが現れて翼を広げたのだ。
だがちょっと待ってほしい。一度破壊されたミラーモンスターは24時間が経過しなければ復活しない。
それは最終日でも例外ではなかったのに何故?
いや、その理由をインキュベーター達は知っている!
『間違いねぇ! アレは……ッッ!!』
『ああ、どうやらその様だね』
『死に設定すぎて正直忘れてたぜぇ』
あの光の正体は、ルールの一つだ。
騎士と魔法少女の絆が一定を突破し、その心を理解しあえた時、一枚のカードが生み出される。
そしてミラーモンスターが死んでいれば蘇生されるのだ。
使い方は頭の中に入ってきた筈だ。
しかし非常に強力な効果ではあるが、なにぶん出会って間もない騎士と魔法少女の間にそこまで強固な絆が生まれるのは難しい。
だからキュゥべえ達は『死に設定』として認識していたのだが――!
『あの野郎、生み出しやがったか!』
『なるほど。つくづく"血"と言うのは面白いね』
二匹の視線の先。
秋山蓮は揺ぎ無い『決意』の光を目に宿して、デッキを前に突き出した。
現れるVバックル。肘を曲げて振るうと、コートが靡く。
蓮は全ての感情を込めて、その言葉を強く叫んだ。
「変身ッッ!!」
現れたのは、騎士・ナイト。
ヒュアデスもナイトを再認識した様だ。針の触手を広げ、襲い掛かろうと動き出す。
しかしナイトは怯まない。ダークバイザーを横に構え、そのカードをデッキから抜き取った。
「かずみ……!」
ナイトは『疾風』が渦巻くカードを構える。
カードの絵柄が光ったかと思えば、ダークバイザーが鏡が割れる様にして消し飛んだ。
消えたわけじゃない。それは――、強化だ。
ダークバイザーがあった左手には、新たなる武器が握られていた。
青と金の装飾が目立つ『盾』。その名は"ダークバイザーツバイ"。
『オオオオオオオオオオオオオ!!』
思わず、ヒュアデスは叫んだ。
ナイトから放たれる風の力が凄まじく、前に進む事ができない。
一方のナイトは、ゆっくりとそのカードをダークバイザーへと持っていき、カード装填口にセットする。
(かずみ、待っていろ)
その時、新しい風が生まれた。
「もうすぐ、全て終わらせる」【サバイブ】
風が、嵐が、ナイトに収束していく。
そしてナイトが鏡が割れる音と共に砕け散った。
破片は鏡だ。ナイトが立っていた場所には、強化されたナイトが立っていた。
メインカラーが黒から青と金に変わり、装飾も派手になっている。
二つに分かれたマントが風に靡き、彼は――
ナイトサバイブは、ゆっくりとヒュアデスに向けて足を進める。
『オオオオオオオオオオオオオオオ!!』
ヒュアデスは風の障壁に痺れを切らしたか、エネルギー弾と使い魔を無数に発射してナイトを遠距離から狙っていく。それを見てナイトは冷静な様子でデッキからカードを抜き取ると、素早くバイザーへ装填した。
【ソードベント】
通常のバイザー音声よりもエコーの掛かった物が響く。
ナイトはツバイ上部にある突起を掴み、それを引き抜いた。
現れる剣、どうやら盾に内臓されていたらしい。
剣にはソードベントの効果で風のエネルギーが纏わりついており、『ダークブレード』と呼ばれるソレを思い切り振るう。
すると凄まじい勢いで鎌鼬が発射。襲い掛かる使い魔を次々に切断して消滅させていった。
一太刀の威力が通常時とは比べ物にならない程上昇しているのが、一目で分かる瞬間だった。
『サバイブ、やはり規格外だね』
『ああ、なにせ全てのステータスが跳ね上がってるからな』
そして進化したのはナイトだけではない。
ナイトの背後にて翼を広げるミラーモンスターもまた、サバイブの力によって強化を施された。
主人と同じく青と金の鎧を持ち、両方の翼にはタイヤの様な物が埋め込まれていた。
闇の翼ダークウイングは、『疾風の翼・ダークレイダー』として覚醒を果たした。
【ブラストベント】
空に舞い上がるダークレイダー。
両翼にあるホイールが高速回転すると、そこから竜巻が発生してヒュアデスを取り囲んだ。
ダークトルネード。ヒュアデスは何とかして竜巻を弾き飛ばそうともがくが、逆に風の奔流に飲み込まれて平衡感覚をグチャグチャにされていく。
「終わりだ……!」【ホイールベント】
その音声がしたと思えば、なんとダークレイダーが変形を始める。
ホイール部分がむき出しになり、本物のタイヤに変わった。
さらに左右にあった翼が前後の位置に突き出される。それだけではなく、シートの追加、ハンドルの追加。それはまさに『バイク』と呼ぶのが相応しい形態変化だった。
ナイトは地面を蹴ってダークレイダーのシートに飛び乗ると、フラつくヒュアデスを睨みつけて最後のカードを発動させる。
【ファイナルベント】
ダークレイダーを発進させるナイト。
通常、バイクと言うのは陸上しか移動できない乗り物だ。
しかしダークレイダーは、まるで空に道があるかの様に浮き上がり、上空を駆けた。
さらに機体の先端から青と金のビームが発射され、ヒュアデスの体に命中する。
すると巨大なナイトの紋章が出現、ヒュアデスの体をその中に閉じ込めて動きを封じた。
それを確認するとマントを広げるナイト。伸張するそれは、ダークレイダーごと彼を包みこみ、巨大な『槍』の様な姿へと変わる。
「ハァアアアアアアッッ!!」
アクセルを全開にして、スピードを上げる。
一方のヒュアデスは体は動けないが、触手を全身に巻きつける事はできた様だ。
茨の要塞とでも言えばいいのか。しかしナイトはそれを見ても怯まずにスピードを上げ続けた。
(かずみ、俺は――ッ!!)
『ォオオオオオオオオオ!!』
マントを槍にして爆発的な加速で相手に突撃する。
いや、突き刺さる言う次元ではない。ナイトの一撃はヒュアデスの肉体を貫き、心臓であるニーブリューエンヘルツェンを捉えていた。
『ピギィイイイイイイイイイイイイ!!』
断末魔を上げて
赤い液体が空中に散布し、槍の先端にはユウリの姿をした人型の『何か』が存在していた。
それは既に息をしておらず、一瞬姿を見せただけで粒子化して消え去る。
おそらくはユウリが強くイメージした姿だからなのだろう。
あいりの心の中には、常にユウリが存在していたと言う事か……。
「………」
地面に着地したナイトは変身を解除して無言で立ち尽くす。
表情は険しい。心なしか汗も酷い様な気もする。
そんな蓮の前に現れるキュゥべえとジュゥべえ。
サバイブの概要を説明して、見事に覚醒を果たした蓮を褒め称える。
『やるじゃねぇか秋山蓮、面白い物を見せてもらったぜ』
『そうだね。ただ――』
そこでキュゥべえが放つ言葉は、少し意外な物だった。
『どうしてかずみを抱きしめたんだい?』
『?』
『それも、あんなに強く』
何を唐突に?
ジュゥべえは、キュゥべえらしからぬ問いかけに首をかしげた。
蓮はその言葉を聞いて、少しだけ眉を顰める。
そして胸を掴んで歯を食いしばった。
『その可能性に気づかなかったのかい?』
『先輩――?』
蓮は首を横に振る。
「気づかなかった。と言えば、嘘になる」
『だったらどうしてだい? はっきり言って、愚か以外の何物でもない選択だよ』
「かもしれないな。これじゃあ城戸の事を馬鹿とは言えなくなった」
『???』
「俺は大馬鹿だ、そう本物の馬鹿」
特に『結果』を重んじるとするインキュベーターから見れば愚か以外の何物でもないと言われるのは仕方ない事だ。
だがそれでも蓮は、自分の行った行動に悔いは無いとハッキリ言った。
『親子の情かい? その事実が発覚してまだ一時間も経っていないだろうに』
「そうだな。だがアイツは俺のことを、確かに父と呼んだ」
だったらどんなに関わった時間が短くとも。裏にどんな事情があろうとも。
「アイツが父だと言うのなら、俺は父親なんだ」
それに加えて、もう一つ大きな理由が蓮にはあった。
「俺が親に抱きしめて欲しかった時は、もう親の心は別の所にあった」
『同じ思いをさせたくはないと? そんなに抱擁と言うのは親子の間では大切なのかい?』
少し考えれば分かる筈だ。
あの時点で既にかずみの意識は無かった。
全くの無駄、その想いは彼女には届かない。
「たとえそうであったとしても、俺は抱きしめた」
それはただの抱擁ではないとも付け加える。
要するに『理解』だ。それはインキュベーターには永遠に理解できない事だろう。
蓮も己の行動の愚かさは分かっている。だがそれでも、かずみを抱きしめなければならなかったのだ。
「アイツを、理解するために」
『………』
それがサバイブを生み出した要因に繋がったとでも言うのか。
『なるほど、やはりヒトとは理解しがたい生き物だ』
『ちょ、ちょいちょい、さっきから何を言ってんだ? オイラにはサッパリだぜ』
そこで蓮は踵を返して歩き出す。
上に現れるダークウイング、約束の場所に行かなければならない。
真司と約束した、あの展望台に。
「悪いが急ぐ。俺にはもう、時間が無いからな」
『ああ。キミにとって、いい結末が迎えられるといいね』
飛び立つナイトを、キュゥべえは姿が見えなくなるまで見送っていた。
そうやってやっとジュゥべえは詳細を聞く事ができた。
いったい何故、かずみを抱きしめるなんてどうでも良い事を重要視していたのだろうか?
『彼は、生身の状態でかずみを抱きしめていた。それは強く彼女の体に自分の体を押し当てたと言う事だ』
『まあ、そうだな』
『そういう事だよ』
キュゥべえはそう言って、ナイトがいなくなった空を見つめていた。
【ユウリ・死亡】【秋山かずみ・死亡】【残り9人・7組】
少し時間は巻き戻り、龍騎とリュウガに場面は移る。
リュウガによって吹き飛ばされた真司は、戦いが始まる前の場所にいた。
振り返ると、そこにいたのは――
「美穂ッッ!!」
城戸真司が見たのは、傷を受けて倒れているファムだった。
彼女の身体から粒子が薄っすらとだが放たれている。
霧島美穂は、まもなく死ぬ。
「なんで! どうして!? お前――ッ!!」
「無駄だ。既に意識は無い、お前の声は届かない」
リュウガは真司の方へと足を進めていた。
当然だとリュウガは言う。生身の人間が受けて耐えられる攻撃ではなかった。
刃は身体を貫通し、おびただしい量の血が流れる。それは真司だって分かっていた事だろうに。
「なんで! なんでだよ! 大丈夫だって言っただろ!?」
ファムを抱きかかえて涙を目に浮かべる真司。
それをリュウガは愚かだと嘲笑してみせた。
リュウガも話は聞いていたらしい。ファムはスキルベントがあったから平気だと言っていた。
しかしあの一撃は完全な不意打ち。成長する部分を選択する強化技が、自動で発動されるとは考えにくい。
ましてやリュウガは刃に炎を纏わせていた。
それが臓器を石化させ、人間としての機能を奪っていく。
いくら成長が成功していたとは言え、臓器の石化までは止められなかっただろう。
人間の機能をつかさどる大切なパーツが石になって使い物にならなくなるのだから、死は必然の事だ。
「自分の馬鹿さ加減に呆れるよ。あれはお前を心配させない為の言葉だ」
「な……ッ!」
「人を疑う事を知らず、協力がどうのこうのと甘い理想を語る。お前は常に自分の都合の良いように物事を考える悪い癖があるな」
その結果が今だ。結局周りの人間は死んでいき、何も守れない。
それは鹿目まどかも同じ、理解し難いとリュウガは一蹴した。
「少しは疑う事を覚えろ、馬鹿が」
「!!」
リュウガは一枚のカードを龍騎に見せる。
それは先ほどリュウガが『回復のカード』だと言っていた物だ。
しかし近くで見れば、その文字はこう書かれていた。フリーズベントと。
それは対象を石化させる補助のカードだ、断じて回復の効果なのではない。
つまり、はじめからリュウガは真司にチャンスなど与えていなかったのだ。
「どの道、霧島美穂は死ぬ運命だった」
「騙したのか……ッ!!」
「言っただろう? 俺は霧島美穂が死ぬほど憎いとな。そして――」
赤い複眼が光った。
「この次は鹿目まどかを殺す」
その言葉を聞いて、真司は無言で拳を振るわせる。
その表情には、かつてない程の怒りが満ち満ちていた。
リュウガもそれを感じ、鼻を鳴らす。溢れる覇気は評価に値すると言うものだ。
「嫌か。なら俺を殺して止めてみろ」『フリーズベント』
濁った音声と、濁った咆哮。
リュウガの背後にドラグブラッカーが飛来して口の中を光らせる。
龍騎のデッキは真司から離れてリュウガの傍にあるため、真司は変身できない。
しかし真司は歯を食いしばって、そして両手を広げた。
後ろにいるファムを炎から守ろうというのだ。その光景にリュウガはついに声を出して笑いはじめた。
「どこまで愚かなんだ、お前は」
何故これから死ぬと言う女を守る?
ましてや生身のお前が耐えられるとでも思っているのか?
愚かな、なんて愚かなんだ。それを聞いても真司の目の光は途切れない。
しっかりとリュウガを睨んで体を動かさなかった。
だが零れる涙がある。真司は思う、また守れなかったのか。
(美穂――ッッ!!)
どうして、どうしてまた零れ落ちるんだ。どうしてまた死んでしまうんだ。
守りたかったのに、このゲームの運命を変えたかったのに、何故――……!
真司は今すぐ大声で叫んで暴れまわりたかった。ぶつけ様の無い怒りがある。
それだけじゃない。悲しみ、苦しみ。それが心の中で交じり合って狂いそうだった。
愛した女一人守れない。そして浮かび上がってしまう、まどかが殺されるビジョン。
守ると誓ったのに、結局このまま何もできずに死んでいくのか。
「美穂……!」
そうだ、俺は馬鹿だ。お前の想いに気づけなかった。
お前は苦しんでいたのに、俺はそれに気づけなかった。
もしかしたら助けられるのかもしれなかった。なのに俺は、俺は――ッ!!
「ハハハ! 良いぞ! お前の絶望が伝わってくる……!」
「ッ」
「愛する女を目の前で失い、そして今、お前は自らの命も失おうとしている!」
怖いだろう。その苦痛が、俺の力に変わるんだ。
リュウガの意思に反応して、ドラグブラッカーが口を大きく開く。
「貴様を石に変えた後は、俺自らの拳で打ち砕いてやろう」
「グゴオオオオオオオオオオオ!!」
「ッ!!」
ドラグブラッカーの口から絶望の炎が放たれる。
その恐怖、凄まじい物であったろうが、真司は一歩も引かなかった。
この炎から美穂を守る為にも彼は一歩も引けなかったのだ。
今更過ぎる、リュウガの言う通り、それは何の意味も無い愚かな行動だ。
しかし同時に思うところがあった。
真司は自分の行動が馬鹿なものだと分かっている。
分かっているが……、美穂はそんな自分を凄いといってくれたじゃないか。
「―――」
黒い炎に包まれる真司。足から徐々に石化が始まっていく。
その苦痛の中で、真司は走馬灯の様に今までの事を思い出していった。
俺は間違っていたのか。俺は正しかったのか。その答えを真司はずっと探していた。
しかしリュウガの言う通り、迷い続ける中で多くの人が死んでいった。
そして今、美穂が死ぬ。真司が死ぬ。
(なあ美穂、俺は間違っていたんだろうか?)
気のせいだろうか?
『アンタの強さは馬鹿だって事! それを誇りに思え、自信に変えろよ!』
彼女の声が聞こえてきた。
『……なあ真司、考えて答えなんて出た?』
ああ、そうだよな。
またガラにもなく考えてたよ。考えない事を考えてた。
でも違うよな。いくら考えないって言ったって、それは答えを出さない事じゃないもんな……。
『馬鹿は馬鹿のまま突っ走れ! アンタの本能は誰かをきっと救ってくれる』
その本能が分からなくなったんだ。
俺は人を守りたくて、戦いを止めたくて、まどかちゃんを守りたくて戦ってきた。
あの日、お前にそう言われて、俺はやっと答えらしい物が見つかったのかもって思った。
でもさ、同時に目を逸らしてたんだよ。失った物達からさ。
(ああ、そうか――)
今やっと、自分を取り巻いていた『気持ち悪さ』の正体が分かった。
美穂は自分の馬鹿っぷりを褒めてくれた。だから本能のまま考えずに突っ走れと。頭を真っ白にして、ひたむきに生きろと言ってくれた。
だが同時に――、手塚はこう言った。
『運命を変えたいのならば、抗い続けろ』
たとえ悲しみの炎に身を焼かれようが、たとえ絶望の剣に心を刺し貫かれても、変えたい世界があるのならば命の炎を燃やし続けろ。
きっと真司には多くの苦しみが待っている。巨大な絶望が待っている。
しかしそれを受け入れ、同時に否定する事ができれば、世界は真司にひれ伏すだろう。
だからこそ諦めてはいけない。
救えない苦しみ、守れない辛さ、変えられない現実に押し潰されても――。
どんなに苦痛を与えられても、『心』を生かす事。
それができるのならきっと……。
『いつだって……、運命に喰われるかどうかは自分次第なんだ』
そう、手塚には言っていた。
何度と無くリピートしてきた言葉だが、それはある意味、美穂の言葉と相反する物だ。
抗うと言う事は、考える事でもある。思考を停止してしまえば一気に流れに飲み込まれてしまうし、自分がどのレールの上に乗っているのかも分からなくなる。
そして何よりも、蓮の言葉がある。
(………)
それは今日受け取ったメールに書いてあった物だった。
答えを出し、それを伝え合うと二人は約束をした。
そして蓮のメールには、蓮の文字が、蓮の言葉がしっかりと書かれていた。
『城戸。明日展望台でお前の、お前だけの願いを教えてくれ』
俺だけの願い。
そしてスクロールをすると言葉には続きがあって。
『戦いを止める事とか言うなよ』
それじゃあいけないのかよ。真司はそう思ったが、今なら意味が分かる。
俺は持っていなかったんだ。自分自身の譲れない意思。己の為だけの欲望と言う物を。
このゲームを変えるには、止めるには、『ゲームに参加』していなければならない。
でも俺は参加すらしていなかったんじゃないだろうかと。
そうだ、形だけの参加者。そんなのはダメなんだ。
(俺の、俺だけの答え。俺が叶えたい、俺だけの願い――!)
真司は思う。
まどかは自分と同じような考えを持っていると思っていた。戦いを止めたいと言う意思を。
でも既に、まどかは自分だけの願いを一つ叶えていたじゃないか。
それは自分だけの欲望、自分だけの答えの筈だ。
変わりたい、『誰かを守れる様に強くなりたい』と言う確固たる想い。
そしてそれは、魔法少女全員に言える事だ。だから彼女達は魔法少女になったんだ。
真司はその内容を全てを知る事は無かった。
たがそれでも、魔法少女が一人一人、自分だけの願いを叶えたことは知っている。
誰かを守れる様、強くなりたい。
愛する人の手を治してほしい。
死にたくない。
妹の残したスズランを枯らせない
自分を助けてほしい。
親友との出会いをやり直し、守られる側ではなく、守る側になりたい。
自分の生きる意味を知りたい。
違う自分に変わりたい。
姉妹が欲しい
全てを無かった事にしたい。
父親の話を聞いて欲しい
ユウリになりたい。
そうだ。
13人は自らの想いを形に変えた。
そして自分だけの願いを抱えているのは、魔法少女だけではない。
騎士もまた同じではないか。彼らもまた、自分だけの願いを抱えて、この戦いを受け入れていく。
自らを苛む病を治す。
己の正義を貫く。
愛する人と幸せになりたい。
愛する人を助けたい。
親友との約束を守りたい。
自らの愛を成就させたい
英雄になりたい。
神になりたい。
欲望を叶えたい。
イライラを収める為に戦いを続けたい。
参加者全員、なんだかんだ言っても人間だ。
それだけの意思、それだけの想いが存在しているんだ。
俺はそれを忘れていたのかもしれない。真司は燃える黒の中で、それを思う。
(美穂、お前にもきっと願いがあったんだろ?)
それが何かは知らないが、きっと美穂だって自分だけの願いがあった筈なんだ。
(俺は――)
俺の願いは……、なんなんだろうか。
戦いとか止めたいとか、それはもちろん願いの一つだけど。それは戦いの中の方針でしかない。
現にそう言った意味では、まどかだけじゃ無く、サキやほむら、さやか達と同じ願いを抱えている事になるじゃないか。
そうか、そうだよな。だったら俺にもある筈なんだ。
俺だけの想い、俺だけの為の願いが。
「―――」
真司の中に、須藤の言葉が蘇った。
『騎士は、魔法少女を守る為に存在するのだと思います』
それが、自分の騎士のあり方を決めた。
美穂や手塚の言葉が、自分の道を定めていった。
しかしそろそろ、自分だけの想いと言う、揺ぎ無い意思を持たなければならないんだろう。
いや、遅すぎたくらいだ。
『わたし、生きたい。死にたくない』
まどかの顔が思い浮かぶ。
そうだ、俺は彼女のパートナーとして助け合う事を誓った。
だからこそ、俺は折れてはいけないんだ。
俺は必ず、答えを示さなければならない。
「―――ッッ」
今からでも、遅く無いよな? 美穂、手塚、蓮。
ああ、やっと分かったよ。真司は目を閉じて己の心の中にある炎の『正体』に気づく。
城戸真司は、その結論に――、至った。
そうだ、これは迷ったが故に抱いた想いである。
逆に迷わなければ見つけられなかった欲望だ。
このゲームに巻き込まれたが故に抱いた唯一の答えなのだ。
まどかちゃん。
やっと俺も、キミと同じ位置に立てるのかもしれない。
遅すぎたかもしれないけど、もう間に合わないのかもしれないけど……、それでも俺は答えを見つけられたんだ。
本当に馬鹿だよな。
でも、それでいいんだろ? 美穂。
真司は一瞬だけ振り返って、ファムを瞳に映す。
粒子化がどんどん進んでいく彼女を。
「……?」
リュウガはその違和感に気づく。明らかにおかしいと。
何故、闇の炎を受けているのに苦痛の叫びを上げない? 何故石化が進まない? そもそも何故まだ奴は生きているのか?
デッキは離れた所にある。変身できない男が何故ここまでしぶとく――!
「!」
その時だった。
リュウガは炎の中に、ドラゴンの紋章を視た。
「ッ、シャアアアアッッ!!」
「!!」
気合の声。
炎を消し飛ばしたのは、確かに龍騎の紋章だった。
それがはじけ跳ぶと、破片の向こうには騎士・龍騎が、確かに立っているではないか。
「リュウガ!
「!!」
スキルベント・ドラゴンハート。
生身の状態で危険が迫れば、攻撃を防いでくれるシールドが生まれ、さらにデッキが手元になくとも龍騎に変身できる。
こうして変身を完了させた騎士は、複眼を赤く光らせた。
「だったら、逆を言えばッ、お前にとっては俺が一番の障害になる筈なんだ!」
「何……ッ!?」
リュウガは真司を殺す事で完全体へと進化する事ができる。
逆を言えば、真司は最大の障害にもなると。
「俺はお前を――! いや、俺自身を超えるッ!!」
リュウガは自らの鏡合わせの存在として生まれた。
「俺は影を、弱さを、俺の絶望を倒してみせる!!」
(馬鹿な。奴の心から絶望が薄れていくだと……?)
何故だ。理解できない。何故まだ食い下がる希望が持てるのか。
リュウガもまた、拳をギリギリと握り締めて苛立ちを見せた。
とことん馬鹿な奴だ。どこまでも愚かな奴だ。まだこの期に及んで、どうにかなるとでも思っているのか。
「いい加減俺と一つになれ龍騎。そうすれば最強の騎士になれる!」
「そんな強さなんているか! 俺は俺だけの願いがッ、強さがあればいい!!」
「愚かな……」
走り出す両者。
龍騎の強く握り締めた拳と、リュウガの強く握りしめた拳が交差し、互いの仮面に直撃する。
凄まじい衝撃と痛みだった。しかし両者は怯まない。すぐに体勢を立て直して、次の一撃を繰り出していた。
「願い? 強さ? 馬鹿が、周りを見ろ! 愛する女を死なせ、守りたい者達を死なせ、その上でまだ願いがあるとでも言うのか!?」
「そうだ、俺は弱かった! どうしようもなく愚かだったんだ」
だからこそ叶えたい願いがある。
それが生まれたんだ! 龍騎は大地を踏みしめて、渾身のヘッドバットをリュウガに打ち込む。
脳が揺れる衝撃にはさすがのリュウガも怯んだか、
龍騎はがら空きになった胴体にストレートパンチを叩き込んだ。
「グッ! ォォオ!!」
倒れ、リュウガは地面を転がっていく。
願いだと? これだけの絶望に至る要素があるのに。それを振り切る想いが龍騎の中に宿ったとでも言うのか。
「教えろ! 何がお前をそこまで突き動かす!?」
「いや、駄目だ! コレは俺だけの想いなんだ!」
そして、もう一つ。
「初めにこの想いを伝えなきゃいけない奴がいる!」
ソイツが待っているんだ。
ソイツに教えなくちゃいけないんだ。だから俺はお前には負けられないんだよ。
死んでる暇なんてないんだよ。龍騎はそう言いながら、カードを数枚デッキから抜き取った。
ソードベント、ガードベント。シュートベント。ストライクベント。
それを一気に発動させ、龍騎はフル装備状態となって走り出した。
右手にはドラグセイバー。
そのドラグセイバーの持ち手に結び付けてあるドラグケープ。
左手にはドラグクロー。両肩にはドラグシールド。背中にはドラグアロー。
まどかと育んだ絆がカードを生み出した。それら全ての力を持って、自分の影を超えて見せる。
「ふざけるな……!」『ソードベント』『ストライクベント』『ガードベント』
リュウガは龍騎と同じカードを持っているが、パートナースキルで生まれたカードは複製出来ていない。とは言え、根本的な問題が一つ。それは基本スペックが龍騎よりもリュウガの方が上だと言う事だ。
「お前は俺には勝てない、永遠にな!」
「いや、勝って見せる! 俺の答えの為に!」
フル装備状態の龍騎とリュウガが再びぶつかり合う。
まずはドラグセイバー同士がぶつかり合い、激しい火花を散らした。
顔がぶつかり合う程に踏み込み、乗り出す両者。
リュウガは龍騎と対照的にアイテムを装備している。
まさに鏡合わせの存在である事を象徴している様だ。
そして覚える違和感、リュウガは剣のぶつかり合いの中で、何度と無く龍騎の隙を見つけた。
例えばそれは胴体、腹部、脚、肩など。
当然そこを突けばいい話なのだが、リュウガは剣の打ち付けあいを止めなかった。
いや、止められなかったと言えばいいか。
(あのマントか――!)
パートナースキルで生まれたドラグケープ。
赤いマントは攻撃を集中させる役割を持っており、彼はそれをドラグセイバーに巻き付けている為、リュウガの攻撃対象が龍騎ではなく、『ドラグセイバー』に設定されているのだ。
「無駄な事を」
リュウガに焦りは無い。
スペックの差を龍騎はまるで理解していない。
リュウガは龍騎の攻撃をいなしているし、そもそもドラグセイバーとブラックドラグセイバーでは――!
「力の差は歴然だ!!」
「グッ!」
リュウガの一振りを受け止めた龍騎だが、そこでドラグセイバーにヒビが入ってしまう。
「終わりだ」
リュウガはその言葉と共に再び剣を振り上げ――
「ハァアッ!」
「何ッ!」
そこで龍騎はドラグセイバーを真横に投げ飛ばした。
ドラグケープの攻撃誘導が働き、リュウガはドラグセイバーに向けて剣を振ってしまった。
盛大な空振り。一方で腕を振るい上げていた龍騎がそこに立っている。
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「グハァッ!!」
ドラグクローでのストレートがリュウガの胴体に叩き込まれた。
さらに命中と同時にドラグクローからは炎弾が放たれ、リュウガは二重の衝撃を受けて後ずさって行く。
体内に響き渡る絶大な衝撃。
これはいつだったかリュウガが龍騎にやってみせた攻撃だ。それをマネたと言うわけだ。
「なるほど、学習はしていると言う事か……!」
リュウガは何とか踏みとどまり、構えなおす。
一方で龍騎はダッシュで駆け抜け、地面に落ちたドラグセイバーを回収していた。
さらにドラグレッダーを呼んで腰を落とす。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
ドラグレッダーの咆哮と、発射された炎。
それを受けると、龍騎は爆発的なスピードを得て突撃していく。
ドラゴン爆炎突き。ファイナルベントの次に高威力の必殺技だ。リュウガはまだダメージが残っている為まともには動けない。
「チッ!」
試しにブラックドラグクローから黒炎を放つ。
しかしそれをかき消して向かって来る龍騎。
激しい炎に包まれて迫る刃。リュウガもあの技の威力が分かったのか、回避を諦めてブラックドラグシールドを両手で構える。
「ウォオオオオオオオオオオ!!」
「フンッ!!」
ブラックドラグシールドもまた、龍騎のソレとはスペックが違っている。
それが二重になっており、なおかつ龍騎のドラグセイバーにはヒビが入っているのだ。
その状態での競り合い、不利なのがどちらなのかは明らかな話だった。
しかし龍騎の心の炎は消えはしない。ココで諦めてしまえばすべてが終わるからだ。
「そうだッ。死んだら終わりなんだぞ!」
「………」
リュウガもココまで食い下がる龍騎に若干の焦りを覚える。
美穂を目の前で殺せば、絶望と共に死んでくれると思ったのだが、何か割り切りを覚えたらしい。しかしだ。何が龍騎をそこまでさせるのかは知らないが、根性論だけではどうにもならない物がある。
それを教えてあげなければ。
「ハァアアアアアアア!!」
「ウッ! ッッ!!」
龍騎の炎を押し返す、リュウガの黒。
ブラックドラグシールドにもヒビが入るが、まだ一枚目だ。もう一つ盾は残っているから問題はない。一方のドラグセイバー。徐々に亀裂が酷くなり、刃の破片が地面に落ちていく。
「クッ! ォォオオオッッ!!」
「押し切るつもりか。ハッ! やはり馬鹿の考えそうな事だな!!」
無駄なんだよ!
リュウガが吼えると、それを合図にしてドラグセイバーが砕ける音がした。
そう、必殺技のエネルギーが刃により大きな負担を与えてしまい、ドラグセイバーがエネルギーの量に耐えられなかったのだ。
「まだだァアア!!」
「ッ!」
まだ終わっていない!
龍騎はドラグセイバーを投げ捨てると、ドラグクローを思い切り盾にぶつける。
すると砕け散る一枚目のブラックドラグシールド。
しぶとい奴だ。リュウガは龍騎の行動に嘲笑を。
「どこまでも無駄な事をする!」
「うぉッ!」
残っていたもう一方シールドでドラグクローを弾く。
怯んだ龍騎をシールドで殴りつけていく。
フラつきながら後ろへ下がっていく龍騎。リュウガはその頭を掴むと、強く引き寄せる。さらに別の手にあったブラックドラグセイバーを思い切り腹部に突き立てた。
腹に当たる刃。龍騎のスーツが刃をせき止めるが、そこでドラグブラッカーの咆哮が聞こえる。
「グガオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ッッ!!」
リュウガは龍騎と同じ技を使える。
そう、だからこそ龍騎の『ドラゴン爆炎突き』を真似しようと言うのだ。
龍騎はドラグブラッカーの鳴き声を聞いて事態を察するが、もう全てが遅かった。
「死ね」
「グッッ! ウアアアアアアアアアアアアア!!」
龍騎を刺しながら、凄まじい勢いでビルに突っ込んでいく黒炎。
外装の壁を破壊する、中身をグチャグチャにしながら尚もビル内を移動する。
しばらく進んだ後、鉄骨にぶつかってようやく動きを止めた。
その光景は、想像を絶する物だった。
当然あれだけの勢いを見せたのだ。龍騎に襲いかかる衝撃とダメージは、先ほどまでの攻撃とは比べ物にならない。
「か――……ッ! ガハッ!!」
「しぶとい奴だ。まだ生きているのか」
鉄骨に突き刺さるブラックドラグセイバー。
そしてリュウガと鉄骨の間には、黒い炎をまとっている龍騎が。
そう。凄まじい勢いで放たれた突きが、龍騎の鎧を粉砕していたのだ。
つまり美穂同じく、その身をリュウガの剣に貫かれた。
「俺の勝ちだ、龍騎……!」
「ぐ……ッ! フッッ!」
仮面から血が噴射された。
腹部が焼ける様に熱く、身を取り巻く炎の熱が意識を奪っていく。
駄目なのか。やはり勝てないのか。龍騎はダランと手をぶら下げて、頭も下がっていった。
ごめん美穂、手塚、まどかちゃん。俺は――
「……なんて、諦めるのは」
「!」
「らしくないよな!!」
「馬鹿な!!」
龍騎は目を光らせ、その手で自らの腹部を貫く刃を強く握りしめる。
思わず声をあげて怯むリュウガ。何故まだ諦めない、何故まだ心の炎が消えない。
一連の戦いの流れ、龍騎は何も理解していないのか?
力の差、絶望の力、勝てる可能性の無い戦いへの恐怖!
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ッ!?」
現れるドラグレッダー。
龍騎はドラグクローを解除すると、その手でリュウガの肩をしっかりと掴んだ。
リュウガが逃げないように。
「なんだ? 何をする気だ!!」
「………」
龍騎は仮面の下でニヤリと笑う。
ドラグシールドの必殺技である竜巻防御とは、自らの周りに炎を纏ったドラグレッダーを旋回させる技である。
これがあれば、目の前にいるリュウガに確実にダメージを与えられるだろう。
だがそのダメージ量では今の自分と釣り合っていないのでは?
そうだよな、分かっているさ。奴は知らないんだ。
龍騎の背中にしっかりとドラグアローが装備されているのを。
そして当然そこには『矢』がある。
(こんな方法しか思いつかないなんて、やっぱ俺って……、馬鹿なのかな)
でも、馬鹿だから。
お前は俺に惚れてくれたのか――? 美穂。
(だったら、それでもいいのかもな)
「お前、まさか――!」
リュウガはそこで狙いを察する。
逃げようとするが、龍騎がしっかり掴んで離さない。
「俺がッ、俺自身の影が戦いを続けるというのなら! 皆を傷つけると言うなら! それを止めるのは自分自身、俺の役割だ!!」
「!」
「リュウガ! お前は絶対に、俺が倒す!!」
ドラグレッダーは炎を放つ。
そしてその火がドラグアローのエネルギー部分に触れた。
「グアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「―――ッッ!!」
轟音、大爆発が巻き起こった。
龍騎たちが立っていたフロアが消し飛び、周りをも崩壊させながら炎は散布していく。
衝撃で吹き飛ぶリュウガ、きりもみ状に回転しながらビルの真下へと墜落していった。
そして同じく、龍騎もまた炎に包まれて落下していく。
「ぐああッッ!!」
「グッッ!! ガハァッ!!」
共に落下して地面に叩きつけられる二人。
その衝撃も中々だが、なによりも先程の自爆のダメージが凄まじい。
「なんて奴だ……ッ、まさかこんな!!」
リュウガは立ち上がろうとするが、体がうまく動かない。
龍騎は背中のドラグアローに向けて火を着火させて、自身を中心に超爆発を起こした。
目の前で起こる衝撃の塊。流石のリュウガもかつて無い程のダメージを受けた様だ。
それはもちろん龍騎にもいえる事。むしろ爆発源が背中にあったので、それだけの痛みを背負うことになる。
だが、しかし――!
「な……!」
リュウガの前から、一つの影がゆっくりと歩いてくる。それは紛れも無く龍騎の姿であった。
装甲はボロボロになり、貫かれた腹部や、所々から血が滴って地面に赤い点を次々に作っていく。
だがそれでも、それでも龍騎は立っていた。それでも龍騎は歩いていた。
「………」
「龍騎……ッ!」
まだ立つのか。
多くの絶望を知っておきながら、数多の苦しみを知っておきながら。
絶大なる苦痛を知っておきながら、まだお前は俺の前に立つと言うのか。
愚かな歯車は回り続ける。その中でお前はまだ希望を諦めてはいないのか……!
リュウガは思い切り地面を叩きつけ、フラつく体を強引に引き起こすと、全ての武器を捨てて走り出した。
「龍騎ィイイイイイイイイ!!」
「リュウガァアアアアアア!!」
同じく、全ての武器を捨てて走りだす龍騎。
二人は本能のまま、溢れる敵意をむき出しにして、殴りあう選択を選んだ。
それは龍騎が抱く初めての感情かもしれない。
目の前にいる自分を――
「ウオオオオオオオオオオ!!」
「ハァアアアアアアアアア!!」
自分の闇を、殺す!
「ハァアア! ラァアア!」
「ゼアァッ! フンッッ!!」
殴る、殴る! 殴る!! 殴りつけるッ!!
回避はしない、後退もしない。ただ相手を打ちのめす事だけを考え、ただ相手を倒す事だけを頭の中に入れる。
全ての力をそこに込め、龍騎は希望を、リュウガは絶望を拳に乗せて、相手を殴り殺そうとただひたすらに拳を打ち付ける。
視界が揺れ、脳が震える。
それでも怯まない、屈しない、臆する事は無い。
龍騎の瞳には勇気の炎が燃え滾り、リュウガの瞳には絶望の炎が燃え滾る。
殴り、殴られ、殴り返す。
装甲の至る所にヒビが入り、それでも怯む事なく、彼らは拳を振るい続けていった。
徐々に拳を打ちつけた所には血の手形が残り、二人が立っている地面には、赤い絨毯が広がっていく。だがそれがどうしたと言わんばかりに二人は殴りあった。
すると、どうだ、時間が経てば自ずと優劣は決まってくる。
そして――
「ゼアァアアアッッ!!」
「グッ! グアアアアアアアアッッ!!」
リュウガの一撃を受けて、龍騎は地面を転がっていった。
しばらくして止まったなら、呼吸を荒げて立ち上がろうと力を込める。
そして、ふと視界の隅に感じる光。龍騎はゆっくりとその方向に首を向ける。
「――――」
そこにいたのは、既に透明と言ってもいい程に粒子化していたファムだった。
龍騎は無言で、ゆっくりと、ゆっくりと彼女の頬に触れる。
するとファムの仮面が砕け、中からは濁った瞳の美穂が現れた。
「………」
フラッシュバックする光景。美穂の笑顔、声。
自分の事を好きだと言ってくれた彼女が今、ぐったりと目を開いたまま無表情で倒れている。
もう呼びかけても答えてくれないだろう。もうその笑顔を見せてくれる事はないのだろう。
「――――」
龍騎の呼吸が少し震える。高い声が漏れる。
それでも手を伸ばし、美穂の目を覆うと、瞼を閉じさせた。
そしてデッキに手をかけて、ゆっくりと振り返りながら立ち上がった。
引き抜くのは魂のカード。金色に光るそれを見て、リュウガもまたデッキから同じカードを引き抜く。
自身の紋章が描かれた金色のカードだ。二人はそれをバイザーにセットし、発動させる。
『『ファイナルベント』』
バイザーの目が光り、音声と共に上空から二匹の龍が飛来する。
互いにぶつかり合い火花を散らすドラグレッダーとドラグブラッカー。
二匹は途中で分かれると、それぞれの主人の所へたどり着く。
『真司!』
美穂の笑顔が浮かぶ。希望だった、それは間違いなく。
『真司さん!』
そしてまだ、自分には守らなければならない希望があるんだ!!
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
両手を前に突き出して、声が枯れる程、喉が潰れる程に、強く強く龍騎は叫ぶ。
今まさに消え去ろうとする美穂の前で、彼は全ての感情を込めた咆哮をあげたのだ。
その想いに呼応する様にして、自らも強く吼えるドラグレッダー。
龍騎は下を向いて、手を普段よりも激しく、強く、旋回させる。
「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
腰を落として、曲げた手を前に出し、もう一方の手は肩の上に持っていく。
ファイナルベントの待機ポーズは、普段よりも気迫の入りが全く違っている様だ。
当然かもしれない。龍騎は今、初めて参加者に向けて必殺技を放つのだから。
その相手が自分自身とは、なんとも皮肉な物である。
「フッ! ハァァァァァ……!!」
一方リュウガは、一度構えを取った後、両手をゆったりと広げて意識を集中させる。
すると彼の体がゆっくりと浮遊していき、その周りを激しくドラグブラッカーが旋回する。
ドラグブラッカーは赤い瞳を、ドラグレッダーは黄色い瞳を光らせて威嚇するように口を開く。
そしてその瞬間だった。龍騎の後ろにいた美穂が、完全に消え去ったのは。
「「―――」」
奇しくもそれが、合図となる。
「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
右足を前に突き出し、赤い爆炎を纏う龍騎。
左足を前に突き出し、黒い業火を纏うリュウガ。
二人のドラゴンライダーキックがぶつかり合い、激しい衝撃波と炎が周囲に拡散した。
競り合う赤と黒。実力は均衡? いや、違う!!
「ッッ」
龍騎の脚に亀裂が走り、黒い炎が漏れていく。侵食される赤。
当然だ、スペックが違う。リュウガは己の勝利を確信して炎の勢いを上げていく。
終わりだよ、お前はもう終わりなんだ。
それは当然。龍騎本人も分かっている事。
「――ァ」
だが――。
「――ァァア」
「!」
それでも。
龍騎の脳に編集長の言葉が浮かぶ。
自分の信じる物、そうだ、俺が信じている物の為に。
俺は、戦うんだ――ッ!!
「ッッ! ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「馬鹿な!!」
龍騎の勢いが、リュウガの勢いを殺しながら競り上がっていく。
何故、何故だ!? リュウガは信じられないと唸る。
しかしどれだけ力を込めようが、龍騎の炎が溢れ、徐々に自分の脚に伝わってくるではないか。
一体何がどうなっている!? 混乱するリュウガに、龍騎は掠れた声で叫びをあげた。
「お前は俺の鏡合わせの存在!」
だから美穂を愛していた真司とは違い、リュウガは彼女を憎んでいた。
それは他者に対する感情だけではなく、龍騎が絶望する事でもリュウガは強くなると言っていた。
そう、相反する二人。つまり龍騎がネガティブになれば、それだけリュウガが強くなっていく。
だったら、その逆も同じなのではないのか?
だからリュウガは絶望を刺激したのではないか?
「俺は、必ずお前に勝つんだ!!」
「――ッ!」
「そう、美穂にも約束したッッ!!」
必ず勝つと言う揺ぎ無い意思。絶対の希望がリュウガを弱体化させていく。
龍騎がプラスになればなるほど、反転しているリュウガはマイナスになっていくのだ。
だからこそリュウガは完全体になるしかなかったのだ。
自らの最大の弱点を消す為に!
「俺は、負けない!!」
「馬鹿な……!」
「絶対に、勝つッッ!!」
「馬鹿なァア!!」
リュウガの体が衝撃で震え出す。黒い炎の中に、どんどん赤が混じっていく。
「馬鹿な、馬鹿な! そんな馬鹿な!!」
リュウガは何度も否定の言葉を放つが、それは逆に龍騎にはプラスとして働く事になっていく。
そうだ、そうだよな。俺は迷ってなんかいられないんだ。迷っている姿なんてらしくないよな。
だから。そう、だから――ッ!!
「消えろ! 俺の……、迷いッ! そして弱さと共に!」
「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
大爆発が巻き起こる。
地面に着地するのはただ一人、城戸真司。
騎士・龍騎のみだった。
「美穂……! 勝った、勝ったぞ――、俺は!」
褒めてくれる人は、もういない。
称えて、笑みを向けてくれる彼女はもういないのだ。
「……ッッ」
変身を解除する真司。
その瞳から、静かに一筋の涙が零れた。
「……ドラグレッダー。連れて行って欲しい場所がある」
真司は震える声で言葉を放つ。
「絶対に守らなきゃいけない約束があるんだ」
その時、視界が揺れた。
思わず倒れそうになる。だが、真司は踏みとどまった。
その靴が見えたからだ。
(ここで倒れるのは、俺らしくないよな)
ちゃんと行くよ。俺は前に進むよ。
お前に紐を結んでもらった、この靴で。
【霧島美穂・死亡】【リュウガ・死亡】
【これにより両者復活の可能性は無し。よって、リュウガチーム完全敗退】
【残り7人・6組】
「遅いぞ」
「悪い悪い、ちょっと"道に迷ってて"さ」
見滝原の展望台。そこに二人の男の姿があった。
一人は黒いコートを風に靡かせ、一人はスカイブルーのダウンジャケットを着込んでいた。
軽い調子で会話を行うが、その表情はなんとも険しい物であった。
「見つけたのか? お前の道を」
「ああ。そう言うお前はどうなんだよ」
「見つけたさ、俺もな」
「そうか……」
真司と蓮は、一瞬だけ笑みを浮かべた。
「美穂が……、死んだよ」
「かずみが、死んだ」
慣れないものだ。
たくさんの人が死んだ。でも永遠に慣れる気はしない。
「今でも美穂がまだどこかで生きている気がするんだ。いつかまた、笑ってくれるって思っている。そんな事はありえないのにな。アイツを探しに行きたいと思っている自分がいるんだ」
「……そうか」
蓮は茶化さなかった。
「お前と恵里を見てたらさ、もっと恋愛って簡単な物だと思ってたよ」
「よく言う」
「ああ、そうだな。俺は駄目だったみたいだ。美穂を、これっぽっちも幸せにしてやれなかったよ」
真司はそう言って声のトーンを落とす。
そこで蓮は目を細めた。
「だが、終わりじゃない」
「………」
「そうだろ城戸。俺も、お前も」
「そうだな。願いの力があれば……」
風が二人の髪を揺らす。しばらくは無言だった。
だがお互いはしっかりと、お互いが何を言いたいのかを察している。
だから言葉はいらなかったんだ。
とは言えど、分かっているからこそ、ハッキリ言葉にしないといけない想いもあるようで。
「城戸、教えてくれ。お前の答えを」
蓮はデッキを取り出して、そう言った。
「あるんだろ? お前にも、お前の為の願いが」
「あるさ。でも、俺のは叶わなくていい。夢でいいんだ」
「本当にそう思っているのか?」
「………」
吹き出す真司。
「嘘かも。ああ、やっぱ嘘だ」
真司はデッキを取り出して、自分の紋章をジッと見つめてみる。
龍騎のエンブレム。それは龍が涙を流している様にも見えた。
悲しいよな。ああ、悲しいよ。
「蓮。俺……、決めたよ」
真司はデッキを持って歩き出す。
蓮もまた、真司の瞳を見ながら歩き出した。
「ああ。俺もだ、真司」
二人はそのまま歩いていき、一歩だけ通り過ぎた位置で立ち止まる。
背中合わせの二人。互いの中に、迷いなど欠片とて存在しなかった。
城戸真司は、秋山蓮は――、己の答えを導き出したのだ。
「蓮、俺は――」
「真司、俺は――」
二人は、同時に口を開いた。
「「フールズゲームを――」」
そして、一気に振り向いた。
「止めるんだッッ!!」「戦い抜くッッ!」
双方の突き伸ばしたデッキがぶつかり合い、激しい衝撃を生み出した。
後ろへ地面を擦って後退する真司と蓮。
二人は怯まない。すぐに互いの目を見て、激しい火花を散らす。
「真司、あくまでもそれがお前の答えなのか!」
戦いに勝てば美穂を蘇らせる事ができるのに!
まどかを魔女の呪いから解放させる事ができるかもしれないのに!
「蓮ッ、それがお前の答えなんだな!?」
恵里の為に。
そして真司は知らないが、かずみの為に多くの血を浴びると。
そしてその屍の上に立つ覚悟があるのかと。
「そうだ、これが俺の答えだ! 俺はもう迷わないッ! ゲームに勝ち残り、恵里を、かずみを助けるんだ!」
「俺も曲げる気は無い。俺はワルプルギスを倒してッ、魔法少女の皆を呪いから解放する!」
「霧島を諦めるのか!!」
「ああ! 美穂もッ、きっとそれを望んでる!!」
どうやら二人の道は、あくまでも違えている様だ。
そして真司も蓮も、今更相手を説得する気も無かった。
意見が違うなら、ぶつかり合うだけだ。それが二人の不器用な友情が生んだ答えの一つである。
「蓮、俺はお前を止める!!」
「真司、俺はお前を殺す!!」
それが、唯一の答え。
「―――」
だが、その時だった。
蓮の肩から針が飛び出してきたのは。
咳き込んだ真司の口から、大量の血液が噴射されたのは。
「ぐッ! どうやら、時間も無いらしい――ッ!」
「ああ……ッ! かもな!」
蓮はかずみを強く抱きしめた。
なんとその時、彼女の中にあるヒュアデスの針が浮き出てきて、蓮の方へと突き刺さったのだ。
針は簡単な自我を持っており、蓮の肉体に少しでも入れば、後は自分から体内へ深く侵入していく
それはユウリの攻撃とは認識されず、複数の魔女の集合として認識されているため、ユウリが死んだ今も蓮の体に残っていたのだ。
それを必死に抑えてきた蓮ではあるが、所詮は気合いでと言う話。
刺さってしまった物は、もうどうする事もできない。
そして真司。
彼はリュウガから度重なる攻撃を受け、かつその刃が腹部を貫通している。
加えてその状態で自爆を行い、ファイナルベントの競り合いを行った。
それがどういう事なのか、語るまでも無い話。
「真司……、お前と霧島は、俺にとって友と呼べる存在だった」
「珍しいな。お前が、そんな事……」
二人はもう一度。一瞬だけだが、笑みを浮かべた。
「だから、戦ってくれ」
「ああ、俺も……、もう、逃げない」
真司は手を斜めに突き上げ、蓮は肘を曲げた腕を前に突き出す。
二人はそれぞれの構えを取って、突き出したデッキをバックルにセットする。
「変身ッ!」「変身!!」
対峙する龍騎とナイト。
そして二人の背後に、ミラーモンスターが現れて威嚇を行った。
力の限り吼えるドラグレッダーとダークウイング。二人はそれを合図として走り出す。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ダークバイザーを振り下ろすナイト。
龍騎はドラグバイザーを盾にして、その一撃を防いでみせる。
「俺はッ、恵里を助ける!!」
「俺は――ッ! 俺の答えは!!」
そのままのポーズで競り合う二人。
「………ッ」「――!」
そして二人は――!
「「―――」」
そのまま、動きを、止めた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「キィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
その場から動かず。そして互いに攻撃をするでもなく。
ドラグレッダーとダークウイングは、ただひたすらに吼え続けていた。
二体のモンスターは分かっているのだろう。この戦いを邪魔してはいけない、水を差してはいけないと。
そして二体の視線の先には、それぞれの主人が見えている。
一人は剣を防ぎ、一人は剣を振るう。
それは二人の志をよく表している物だった。
守る者と戦う者。二人は自分の道にしっかりと立っている。そしてそのまま動きを止めていたんだ。
だからモンスターたちは威嚇を行うだけ。龍と蝙蝠はいつまでも、いつまででも吼え続けていた事だろう。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「キィイイイイイイイイイイイイイ!!」
そして――、そんな二体の体が粒子化を始めた。
そうだ、もう龍騎とナイトは事切れていたのだ。
立ったまま、お互いを見詰めたままで。
同じく粒子化が始まった二人。
ナイトの体からは次々と針が突き出てくる。
しかしそれでも彼らは体勢を崩すことは無く、立ったままで死んでいた。
限界だったのだ。
龍騎もナイトも、いつ事切れてもおかしくは無い状況だった。
しかしそれでも二人をココまで突き動かしたのは、ただそれだけの想いがあったからである。
戦いを止めたいと言う意思。戦い続けると言う意思。
二人はその向こうにある願いがあったから、立っていられた。
蓮は恵里を助けて、かずみが笑って暮らせる未来を作る事。
真司の願いはなんだったんだろう?
それは、彼だけが知っている事だ。
「「 」」
二人の騎士はいつまでもいつまでも、その姿のままで立っていた。
そして完全にその姿が消え去るまで、彼らの意思を具現したミラーモンスター達は威嚇を続ける。
その声は、なんとも悲しげに聞こえた。
【城戸真司・死亡】【秋山蓮・死亡】
【これにより両者復活の可能性は無し。よって、ナイトチーム完全敗退】
【残り5人・5組】
蓮は真司の向こうに未来を見ていた。
かずみを助け、優勝し、恵里を助けて、いつまでも家族が幸福である道を選ぶ。
真司と美穂は大切な友人だった。だがそれでも、それを投げうってでも、掴み取りたかった愛があったのだ。
そして真司もまた、蓮の向こうに未来を見ていた。誰もが皆、幸せに笑っていられる世界だ。
夢物語と人は言うだろう。偽善的だと人は笑うだろう。
だがそれだけ無理だと否定されても、どれだけ馬鹿だと後ろ指を差されても、叶えたい世界があったんだ。
だから二人は、絶対に倒れる訳にはいかなかったんだ。
今も尚、きっと二人はそれが叶うと信じているだろう。
「美穂……っ!」
サキは唇を震わせて涙を流していた。
キュゥべえから美穂の死亡が伝えられ、少しすれば携帯から真司やかずみのアドレスが消滅した。
そして流れるナイトペアを始めとした多くの確定脱落。
サキ達はそれを聞きながら、なんとも言えない感情を胸に覚えていた。
「残される側が……! こんなに辛いとは思っていなかった――ッ!!」
サキは涙をぬぐいながら口にする。
正直に言ってしまえば、名前も知らない奴らならば50人殺しても美穂を蘇生したくなる。
この広い世界、50人くらい死んだって構わない奴がいる筈だと思ってしまう。
だがもちろんそんな事はできない。それを美穂が望む訳がない。
サキは一同に美穂を蘇らせる気は無いとハッキリ宣言した。
「しかし、こうなると分からなくなってきたな……」
そう口にするのは、黄金の騎士オーディンであった。
ほむら達と合流して今、見滝原の街を歩いている。
オーディンに並ぶのは3人の魔法少女。サキ、ほむら、さやか。
まどかを合わせると5人、つまりアナウンス通りのメンバーとなるのだ。
参戦派の筆頭だった王蛇ペアやリュウガペアが死に、ステルスだったベルデペアも死んだ。
神那ニコは生きている様だが、リタイアのアナウンスがある以上、彼女にできる事はないだろう。
つまり生き残っている参加者はもう自分たちだけ。
邪魔をする者がいないと言うのは朗報かもしれないが、それにしても真司や美穂の事が引っかかる。
「真司さん……、死んじゃったんだね」
「おそらく、ナイトと相打ちになったんでしょうね」
ただならぬ関係だった。それを思えば納得のできる話である。
もちろんだからと言って、そう簡単に割り切れる物ではないが。
「ちくしょう! どうしたってこんな簡単に皆――ッ!」
「ああ。本当にどこまでもふざけたゲームだ……! 反吐が出る!!」
さやかとサキは本気で怒っていた。
だが、だからこそ残ったものだけは守らなければならない。
サキはスズランのブレスレットを見つめる。
そうだ、死ねないんだ。妹の為に、美穂のために、死んでいった仲間のために。
「まどかの、為にも」
「……うん」
「ええ」
頷くさやかとほむら。
そしてオーディンが一度立ち止まる。
「だいぶ、風が強くなってきた」
「ええ。そろそろね」
最強の魔女であるワルプルギスの夜。
謎のベールに包まれた存在を想像し、さやかは思わずゴクリと緊張で喉を鳴らした。
真司や美穂の死を悲しむに悲しめないのは、このワルプルギスに対する圧倒的なプレッシャーだった。緊張に強いと自負していたさやかでさえ、喉がカラカラに渇き、今にも吐きそうになる。
「落ち着けさやか。私たちは残された者として、絶対に勝たなければならないんだ」
「う、うん……!」
「一度、作戦をおさらいしましょう」
まず向こうが気づく前に、先制ダメージを与え、その後はオーディンとさやかが魔女を引き付けてほむらとサキが一気にダメージを与える。
作戦と言っても、もうこれくらいしか思いつかない。
小細工は奴には通用しないし、結局の所、純粋に力で勝つしか無いのだから。
「勝算はどれくらいだ?」
「半分以下である事は確実よ。でも、もうこれしかない……」
多くの参加者が死んだ。
そして今、自分たちがゲームの終わりに立っている。
その事に大きな威圧感を感じながらも、ほむら達は目指すべきゴールを見て前に進む。
もうすぐだ、もうすぐ終わる。
こんな事を言いたくはないが、杏子達がいないと言う安心感もある。
ワルプルギスを倒せば全てが終わるんだ。
「「「「!!」」」」
四人の前に、赤と黒のチェック模様のウサギが走ってきた。
ピョコピョコとファンシーな音を立てながら四人の前の通り過ぎていくウサギ。
いや、化け物。
「あれは――……」
「来るわ!」
目を細めるほむら。
他の三人は、前からやってくる物を見てギョッと息を呑む。
色とりどりの象が鳴き声を上げてコチラにやってきたのだ。
様々な紋章が描かれた旗を引っ張りながら、謎の人型を乗せながら行進していく象達。
それは異形のパレード。歪なるカーニバルの始まりだった。
中欧・北欧で4月の最後の日に行われる魔女達の祭典。
それこそが――
「ワルプルギスの夜――ッ!!」
その時、曇天の空が巨大な幕に覆われる。
同時に始まるカウントダウン。
『5』
「構えて!」
ほむらは盾から無数のバズーカ砲を出現させて地面に落とす。
最強の魔女が来る、辺りに走る絶大な緊張感。
『4』
全ての運命の不幸を無くそうとする、地上をマホウで埋め尽くし、全人類を戯曲の中へ取り込もうとする動く舞台装置。
『2』
この世の全てが戯曲ならば悲しい事など何もない。
悲劇ではあるかもしれないけれど、ただ、そおいう脚本を演じただけ。
ワルプルギスの夜で芝居は止まって、もう地球は一周だって回転しない。
物語は転換しない。
『1』
明日も明後日も、ワルプルギスの夜。
「「「「!!」」」」
幕が開いたかと思うと、巨大な虹色の魔法陣が空に浮かび上がった。
そして魔法陣に重なる様にして巨大な人型のシルエットが浮かび上がる。
曇天の空にはカラフルな炎が灯り、『彼女』の登場を盛り上げている様だった。
これぞまさに魔女と言った白と青のドレスに身を包み。
顔は、目や鼻が切り取られた様に白一色だった。口は裂けるほどの笑みを浮かべており、頭にはベールのついた二本角の様な大きな帽子を被っている。
スカートの中は歯車となっており、頭が地面の方を向いていると言う反転した状態であった。
「あ、あれが……! そうなの?」
「ああ。史上最強にして」
「……最悪の魔女」
「ワルプルギスの夜よ」
舞台装置の魔女にして、その性質は『無力』。
回り続ける愚者の象徴。歴史の中で語り継がれる謎の魔女。
この世の全てを戯曲へ変えてしまうまで無軌道に世界中を回り続ける。
それこそが――
「でかい……!」
「それに、なんて言うプレッシャーだ!」
目を見開いて驚愕の表情を浮かべるさやかとサキ。
一方無言ながらも、オーディンもまたワルプルギスの圧倒的なプレッシャーと狂気を感じている所だった。
壊れかけた彼でさえ、あくまでもただの人間だと言う事を教えられている様だ。
(怯えているのか……! この僕が)
そして、ほむらが口を開く。
「行くわよ。私たちの勝利を掴むために」
頷く一同。
まだ、皆の心には希望があった。
あれを倒せば全てが終わる。アイツに勝てば、この腐ったゲームが終わる。
そうすれば今までの苦痛も意味があったものとして受け入れる事ができる。
(待っていて、まどか)
彼女達はそれぞれの終わりを描いて、それぞれの想いを抱いて、最強の魔女に立ち向かうのだった。
疾風断の読み方はわざとです。
オリジナルなのはちょっとした理由があるんですけど、説明する程のものではないので、気にしないでください。
あとツイッターで見かけたんですけど。
エピソードファイナルで、龍騎がスペックが上のリュウガにファイナルベント対決で勝てたのは、『美穂が右足の靴紐を結んでくれたから』って言う意見を見て、マジでやられたと思いましたね。
そこまで意識してなかった。
いやスタッフがそこまで意識しているかどうかは知らないんですけど、敏樹ならそういうのやりそうだなって思わせるのが、面白いですね。
それは別に龍騎だけに言えた話しじゃなくて。
それこそマギカ系とか、最近で言うならばエグゼイドとか、まさにビルドもそうなんですけど、割と見る側に妄想させるというのか。
あえて説明しない自由さみたいなのを出してきた感はありますね。
今はSNS社会ですから、考察とか、解釈をライトに発表できるようになっているんで、エンターテイメントの形も少しずつ変わってきているのかもしれません。
内海のサイボーグは、人によっては「え……?」ってなるけど、人には「こういう理由があるに違いない」みたいな盛り上がりは、良い所も悪い所もあるんでしょうが、僕はそういう意見の交差は好きですよ。
マギカシリーズも、かなり考察だの自己解釈だの、言ってしまえば妄想ストーリーを垂れ流す人もいますけど、そういうのを見るのも面白いですね(´・ω・)b
ってか今まさに僕がやってますからね。
割とクライマックスも近いので、おみゃーら次回もよろしくな!