仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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※注意

66話、67話、68話は続き物ではありません。
それぞれ前回(65話)の終わりからの分岐ルートになっているので、目次から自分の選択した話へお進みください。



第66話 A『諦める』

 

 

 

『諦める』

 

 

 

 

 

 

「わたしは、選べないよ……!」

 

 

それが、鹿目まどかの答えだった。

 

 

「まどか! 選ぶのではなく、もう選択肢は決まっているんだ!!」

 

 

まどかは強い。しかし限界と言う物も同じくして存在している。

サキはその限界をココに見ていた。ワルプルギスの夜は想像を超えた化け物だった。

そもそも今、サキ達はワルプルギスと戦ったと言えるのだろうか?

ただ魔女の玩具になったと言う印象しか受けない。全てワルプルギスが描いたシナリオ通り。

唯一、抗うとすれば、それはゲームを強制的に終わらせる事だ。

つまりサキを殺して、まどかが――

 

 

「………」

 

 

いや。サキは口を閉じる。

考えてみれば。背負わせ過ぎたのかもしれない。

 

 

「どうして……、嫌なんだい?」

 

「そんなの……! そんなの決まっているでしょ?」

 

 

ずるいよ、酷いよ! まどかは子供の様に泣きじゃくり嗚咽を漏らす。

 

 

(そうか、そうだな……。彼女も私も。まだ子供じゃないか)

 

 

人を超えた力を持ち、この狂ったゲームの中で精神を保ち続ける。

なによりもその力に、自分達は精神的に頼りすぎていたのかもしれない。

 

 

「サキおねえちゃんを殺すなんて……、いやだよぉ!」

 

「まどか……」

 

 

何も難しい事は無く。それはごく簡単で、単純な理由だ。

好きな人を殺したくないと言う。たったそれだけの理由なんだ。

当然だ。当たり前だ。どうしてずっと一緒だった幼馴染をこの手で殺したいと思うだろうか?

 

時には喧嘩をした事もあったが、寂しい時にはずっと傍にいてくれた。

楽しい時間をたくさん共有してきたじゃないか。

感動を分かち合い、時に他者から守ってくれた。

一緒にお風呂も入ったし、一緒にごはんを食べて、一緒に色々な場所に行った。

なんて、思い出を語り出すまどか。

 

 

「一緒に寝た時、朝起きたらわたしがおねしょしちゃってて――」

 

「おいおい、もっとまともな思い出は無いのか……?」

 

「えへへ、だって覚えてるんだもん。そしたらそれを見つけたお姉ちゃんってば――」

 

「ああ、覚えてるよ。私もそこで……、その、なんだ。したんだったか」

 

 

とんでもないフォローの仕方だったと、サキは過去を思い出して思わずため息を。

恥ずかしくて仕方ない。けれども笑いあう二人。

瓦礫越しではあるが、思い出話に華が咲いていた。

 

 

「えへへ! そうそう! でも、嬉しかったよ……!」

 

「まどか、もっとこう……、なんだ。この場にあった話をだな」

 

「じゃあ、これは覚えてる?」

 

 

まどかの声のトーンが変わる。

それは小学校の図工の時間でつくった紙粘土のオブジェだ。

まどかはそこそこの自信作で、親に見せる前にサキにそれを見てもらった。

サキはと言うと、その頃は少し男勝りな面があったので、ついオブジェを持つ手に力が入ってしまい、至る部分が取れてボロボロにしてしまった。

 

 

「あの時は焦ったよ。世界が終わったと思った」

 

「てへへ……、ごめんなさい」

 

「いやぁいいんだ。悪いのは私だったからな」

 

 

サキが目を閉じると、そこには過去の景色が広がっていた。

まどかはお気に入りのオブジェを壊され、口では平気だの気にするなと言っていたが、目にはいっぱいの涙を溜めていた。

それに焦ったサキは、まどかに一つの提案をしたんだっけか。

 

 

「どんなお願いも聞いてやるから許してほしい」

 

「すぐに思いつかないのなら、保留にしてもいいって……」

 

 

サキは、理解する。

まどかが何を言いたいのかを。

 

 

「君は優しいからな。結局今も保留したままだ」

 

「うん。でね! サキお姉ちゃん」

 

「………」

 

「そのお願い、今使ってもいい?」

 

 

まどかの声は落ち着いていた。

サキもまた色々と思うところはある。

そうだ、サキはまどかの姉代わりだと自負し、そこに喜びと希望を感じていた。

ならば今、もう一度あの頃に戻ろうじゃないか。

 

 

「ああ、もちろんだ。何でも言ってみろ」

 

「じゃあ……、ね?」

 

 

まどかもまた、最期のワガママをサキに頼み込む。

もしかしたらそれは、相手がサキだったからこそ頼めるお願いだったのかもしれない。

まどかが弱さを見せる一番の相手は、やはり『家族』なのだから。

 

 

「わたしを、殺して」

 

「………」

 

 

まどかは自分のソウルジェムを持つと、それを瓦礫の中へと放り投げた。

そしてサキは手を伸ばし、そのソウルジェムを確かに掴み取った。

 

 

「掴んだよ。君の、魂」

 

「うん……」

 

 

僅かな沈黙が二人を包む。

まどかは、あくまでも笑みを浮かべていた。

儚げではあるが、確かに笑っていたのだ。

 

 

「さっきの話を忘れたわけじゃないだろう?」

 

「うん。それを知った上で頼んでる。酷いね、わたし……」

 

「いや――」

 

 

今のサキの状態ならば、まどかを殺した際のショックで確実に魔女化すると。

しかしそれでも、まどかはサキに殺してほしかった。サキに生きていてほしかったのだ。

たとえ魔女になる可能性を孕んでいたとしても、たとえ自分の命が消える事になったとしてもだ。

 

 

「わたしね、夢でマミさん達に会ったんだ」

 

「そうか……、どんな話をしたんだい?」

 

「希望の話」

 

 

皆で幸せになれる道を探したいと願った。

だから、まどかはサキを殺す選択肢を選ぶ事ができない。

どんなに可能性が低くても、少しでも『生きる』と言う希望がある方を選びたかった。

でも、それはワガママだ。だからこそどうせ同じエゴならば、可能性の高いほうへ賭ける。

まどかが死んでも、サキが生き残れる可能性を選んだのだ。

 

 

「お願い、サキさん」

 

「……もし、嫌だと言ったら?」

 

「あー、酷いよ。何でもって言ったのに!」

 

 

そしたらサキお姉ちゃんのこと、嫌いになっちゃうかも。

それを聴くと、サキも声を出して笑い始める。

それは嫌だ。それは避けなくてはいけないと笑っていた。

 

 

「だったら、分かったと言うしかないな」

 

「………」

 

 

いつの間にか、サキがまどかに頼っていたのかもしれない。

たまには、そう――、最期くらいはまた頼られる側になるのは悪くない話しだった。

どうやらまどかが大きくなって安心しきっていた様だ。

腑抜けていたとサキはつくづく思う。

 

 

『ヒッ! ヒ………ヒヒッ!!』

 

「「!」」

 

 

ワルプルギスがかすかだが再び笑い始める。

どうやらもう迷っている時間は無いらしい。

まどかは覚悟を固め、そしてサキ自身も覚悟を固めた。

 

今なら分かる。耐えられる筈だ。

でなければ、まどかに合わせる顔が無い。

最期くらいはカッコよく決めさせてくれ。

 

 

「まどか……」

 

「?」

 

「もし、もしも――」

 

 

覚悟を固めれば、同時に躊躇も生まれる。つくづく人間とは困った生き物だ。

サキは声を震わせながら、まどかのソウルジェムを強く握り締めた。

僅かに魔力を消費し、帯電し始めるサキの拳。

 

 

「もしも生まれ変わる事があるのなら……、その時は、また一緒に色々な事をしよう」

 

「うん……! 絶対、約束だよ。お姉ちゃん」

 

「ああ、約束だ」

 

 

サキは、涙を流す。

そして思い切りまどかのソウルジェムを握り潰した。

瓦礫に包まれているのは幸いだった。もしもまどかの顔を見てしまえば、きっと耐えられなかっただろう。

 

 

「グッ! があぁぁッッ!!」

 

 

サキは襲い掛かる悲しみを必死に抑えた。

ソウルジェムは既に黒一色に染まっているが、ここで折れる訳にはいかない。

 

 

(頼む、まどかがやっと私を頼ってくれたんだ――ッ!)

 

 

弱さをさらけ出してくれたんだ。

終わるわけには、いかないんだよ――ッ!

 

 

(絶望する訳には――ッ! 絶対にいかないッッ!!)

 

 

心を必死に落ち着ける。

そんなサキの脳に、終わりのアナウンスが流れた。

 

 

【鹿目まどか・死亡】

 

 

これを耐え切る事ができれば、願いを叶えられる。

希望を、紡ぐ事が出来るんだッ!

 

 

【これにより両者復活の可能性は無し。よって、龍騎チーム完全敗退】

 

 

いける。いや、絶対に耐えなければならない。

サキは迫る二つタイムリミットを感じながら必死に耐え、呼吸を荒げる。

まどか、もうすぐ終わるんだ。全部、全部終わるんだよ。

 

 

【残り2人・2組】

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

今、なんと?

 

 

「ど――ッ、言う……ことッ、だ!?」

 

 

二人? 二組!?

何故だ、何故まだ参加者がいる事になっている!?

 

 

(どうしてゲームが終わらないッ!!)

 

 

これはまずい状況だった。

サキの心は確実に絶望へ近づいている。この状態を保ち続ければ確実に魔女になる。

そんな中でゲームがまだ続いていると言うアナウンス。

 

 

(何故だ、誰も生き残ってはいない筈なのに!)

 

 

いや、待て。

淀む意識の中で、サキは冷静に今までの事を振り返る。その中で一つの違和感を見つけた。

そう言えば今のアナウンスがいつものアナウンスだ。あの時は余裕が無くて、その事実だけを受け入れたが、一つおかしな物があった。

 

そう、そうだ。

あれはホムリリーが死んだ時の事だ。

当然その時も例外なくアナウンスは流れたが――

 

 

「!!」

 

 

サキは気づく。

ホムリリーが死んだ時、ほむらの死亡がアナウンスされて脳裏に伝わったが、今の様な確定死亡アナウンスではなかった。

暁美ほむらが死んだと言う情報だけが伝わってきただけだ。

確定アナウンスは流れなかった。

 

 

『ヒハハハハハ……ッ! ギヒヒヒヒヒヒ!!』

 

「!!」

 

 

ワルプルギスが動き出す。

サキは瓦礫を掻き分けて、片腕の力だけでなんとか上半身だけの体を外にまで持って行く。

そこで息を呑んだ。ワルプルギスの前に、もう一体の魔女が浮遊していたのだ。

 

かつて数多くの種を砕いたその勇姿も壊れてしまっては仕様がない。

他に価値など持たないこの魔女が最後に望むは自身の処刑。

だが、首をはねる程度で魔女の罪は消えない。

この愚かな魔女は、永遠にこの此岸で処刑までの葬列を繰り返す。

 

 

「あれは――ッ!」

 

 

髪型は三つ編みのおさげ。

魔女らしい黒く大きな帽子はレコードとレコードプレイヤーで作られている。

それを被っているのは此岸(しがん)の魔女Homulilly(ホムリリィ)

そう、先ほどほむらが魔女化して誕生したホムリリーの失われた頭である。

 

魔女は魔法少女時の想いを強く受け継いでいる物だ。

故にホムリリーには最大の特殊能力が一つ備わっていた。

 

それは、ホムリリー死亡後、一定時間内に『鹿目まどか』が死ぬと、時空を超えてホムリリィが出現すると言う物だった。

此岸の魔女はただひたすらに愛する者を助けようとさ迷うが、その愛する者は既に彼岸へ渡ってしまった。

 

これがこの魔女の哀れな所である。

彼岸とはあの世。そして此岸とはこの世。

つまり魔女は永遠に愛する者と再会する事はできない。

 

 

『アアアアアアアアアアア!!』

 

 

ホムリリィから放たれる悲痛な叫び。

聞いている方が悲しくなってくる叫び声だった。

ホムリリィは黒い翼を広げて空高く舞い上がっていく。

彼女はただ、愛する者との再会を願うだけ。

 

それは普通ならば無理かもしれないが、今ならばできるとホムリリィは信じていた。

ホムリリィはまだ動けないワルプルギスを尻目に、先ほどワルプルギスがやったパフォーマンスと同じく、黒いエネルギー波を街の至る所に振りまいた。

 

 

「何を!?」

 

 

サキは思わず叫んでしまう。

次々と破壊されて爆発する見滝原の街、工場、ビル、そして避難所の一つ。

それを確認したサキは、ホムリリィに攻撃を止める様に叫ぶ。

しかしホムリリィにはサキの言葉など聞こえていない。

全てはまどかの為だけ動くのだから。

 

 

「うぐッ!!」

 

 

それにサキも他人のことを気にしている場合ではなかった。

既に彼女のソウルジェムは限界を迎えていた。それなのにココにきて、まだ参加者がこんな形で残っていたとは。

 

それだけじゃない。

ホムリリィがもしもワルプルギスに殺されれば、サキの勝利条件は変更され、ワルプルギスを倒さなければならなくなる。

そうなれば何の為にまどかは死んだんだ!? 駄目だ、絶対にまどかの死を無駄にしてはならない。

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

「う……ッッ!!」

 

 

最悪だった。

サキの前で、ワルプルギスが再び笑い出して活動を開始する。

当然目の前にいるホムリリィに気づく訳で、ホムリリィもまたワルプルギスに敵意を向けていた。

 

 

「やめろほむら! 君じゃ勝てないッッ!!」

 

 

そんな事を叫んでもどうにもならないのに。

 

 

「まどかの死を無駄にしては駄目なんだ!!」

 

 

サキの言葉は、ホムリリィには届かない。

まどかの単語を持ち出せば話を聞いてくれると期待したが、どうやら無駄の様だった。

魔法少女とは彼岸と此岸の間にいるような物だ。

ホムリリィは魔法少女を自らとは関係の無い存在として認識しており、興味も持たない。

 

それはワルプルギスにも言える事だが、ワルプルギスはまどかを傷つけた。それを許す訳にはいかないのだ。だからホムリリィは翼を広げて、ワルプルギスへ突進を仕掛けていく。

 

 

「やめてくれ! ほむらぁアッ!!」

 

 

サキの中の絶望が激しく蠢いている。

全身が冷めていく感覚。やはり気合で魔女化を防ぐなんてありえない話なのだ。

それにこの状況を打破できる手が全く思い浮かばない。

 

 

(終わり? そんな、そんな!)!

 

『ヒュアハハハハハ! ヒィィイイハハハハハッ!!』

 

「!」

 

 

何かがぶつかる大きな音がサキの耳に響く。

見れば、ホムリリィがワルプルギスにぶつかっているではないか。

いや違う! ホムリリィとワルプルギスの間には虹色の壁が存在していた。

そうだ、これこそまどかの守護魔法。それをワルプルギスは使っているのだ。

 

強力な結界はホムリリィの突進を簡単に受け止めると、逆に弾き飛ばして見せる。

ホムリリィは民家の上に倒れ、転がりながら周囲の建物も破壊していく。

そんな彼女へ、あまりにも非道な仕打ちが待っていた。

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 

ワルプルギスの夜が召喚したのは一人の影魔法少女。サキはそのシルエットを見て言葉を失う。

もう泣きそうだった。あれは紛れも無くまどかの姿ではないか。

サキの中に込みあがる怒り。皮肉にもそれがソウルジェムの穢れを少しだけ抑える事になった。

 

 

(おのれワルプルギス! 死者を弄ぶ様な真似を――ッ!!)

 

 

そしてサキの予想通り、まどかの影は何の躊躇いも無く、倒れているホムリリィへ弓矢を当てていった。

どれだけの地獄を見てもまどかを助けたいと願ったほむらが、今まどかに攻撃されている。

そしてどんなに絶望的な状況であっても、友達を守る事を選んだまどかが、楽しそうにほむらを攻撃している。

双方の気持ちを踏みにじるやり方に、サキはどうしようもない怒りを感じていた。

 

ああ、そうしている間にまた一発の弓矢がホムリリィを貫く。

悲痛な叫びは、まどかに止めてくれと訴えている様だ。

抵抗は出来ない。たとえ複製品であろうが、ホムリリィにとってはアレはまどかなんだ。

 

 

『ヒヒヒハハハハハ! クヒャハハハハハハハハ!!』

 

 

そして笑い声。

それに反応して影まどかは弓にありったけの影を集めて発射する。

スターライトアロー。射手座のソレは、ホムリリィを貫くと何の事は無く爆散させた。

結局、どんな特殊能力を備えていようが魔女は魔女。

最強の私には勝てないと、ワルプルギスは声高々に狂笑をあげていた。

 

 

「――――」

 

 

サキの目の前が真っ白になる。

終わった、何もかも。まもなく魔女になる自分もワルプルギスに何の事は無く殺されて終わりだ。

そしてゲームは終了。この長きにわたる苦しみの結果は、こんな結末で終わるのか。

サキのソウルジェムはそのままゆっくりと濁りを受け入れようとしている。

 

 

【暁美ほむら・死亡】【残り2人】

 

「……ッ!!」

 

 

待て! まだ? まだなのか? まだ希望は潰えていないのか!

サキは閉じていた目をカッと見開いて思考を加速させる。

そうだ。まだなのだ。現時点で生き残っているのは二人なのだ。

サキはその可能性に自力でたどり着いた。

 

と言うのも、気になるのはホムリリィが最初に行った行動だ。

目の前に動けないワルプルギスがいるのにも関わらず、攻撃を行わなかった。

そして何故か見滝原の街を攻撃したのだ。

 

ワルプルギスが動いていたのなら、また何か洗脳でも行ったのではないかと思うのだが、少なくともあの時点では完全に痺れこけていた筈。

と言う事は、少なくともあの攻撃には何か意味があったのではないかと考える。

 

 

「あぐァァアッッ!!」

 

 

ソウルジェムに亀裂が走った。

どうやら一度覚えてしまった絶望がタイムリミットを早めてしまったのか。

身を包む不快感。しかしサキは必死に心を落ち着けて考察を続ける。

もしも【ホムリリィ】が『ホムリリー』と記憶を共有しているのなら、先ほどの自らの末路を知って、何かしらの学習はしたのではないか?

 

だからまず、あの攻撃を一番最初に行った。

それは魔女の生存本能。何がなんでも生きて、まどかと再会する為に自らの生存率を上げる行動。

そう、そうだ、そうに間違いない! でなければ目の前に敵がいるのに、スルーして街を攻撃する意味が無いはずだ。

サキは確信する。今この見滝原に存在する参加者は自分を含めて二人なのだと!!

 

 

「ッッ!!」

 

 

ビシッと音がして、自らのソウルジェムに無数の亀裂が走るのを確認した。

終わり? だがそこでサキの目に、妹が残したスズランのブレスレットが目に映る。

いや、まだだ、まだ終わりじゃない。終わらせてたまるか。

ほむらが残してくれた歪で、傲慢で、罪に塗れているが、今となっては確かな希望がそこには存在している筈だから!

 

 

「イルッッ! フラァアアアアァアアァアアスッッ!!」

 

 

どうせ終わる命だ。

サキはココで最期にして最大のイルフラースを発動させる。

極限成長魔法。それは後退もまた操れる。

サキはまず自分に流れる時間を退化させ、魔女になる時間を延長させた。

次に強化するのは声量だ。そこに希望を乗せて、サキはありったけに"彼"の名を呼んだ。

 

 

「今生き残っているのは私とキミの二人だけだ!!」

 

 

頼む! 届いてくれ!

サキは瓦礫を掻き分けながら叫び続ける。

 

 

「私はもう駄目だ。これより魔女になる!」

 

 

激しい雷光がサキを包む。自分はもう終わりだ。

だが希望は終わりではない。

そうだ、終わるのはお前だワルプルギス!!

 

 

「だから、私を殺してゲームを終わらせてくれ!!」

 

 

自分がワルプルギスに殺されればアウト。

だからその前に何が何でも殺してくれとサキは叫ぶ。

それが、それこそが――

 

 

「頼むッ! 最後の希望なんだぁああッッ!!」

 

 

瓦礫の中から飛び出るサキ。

これが最期の勝負ッ! サキはありったけの雷をワルプルギスに浴びせる。

ワルプルギスはさも当然のようにバリアを張って身を守るが、サキの雷は対象に纏わりつきしばらくは帯電状態にさせる。

シールドを解除した時点でワルプルギスには電撃が届くはず。

ましてや激しいスパークでワルプルギスの視界を真っ白に染め上げた。

 

そして、そこで時間がやってくる。

粉々に砕けるソウルジェムと姿を見せるグリーフシード。

それはサキが魔女へと変わった事を意味していた。

 

姉妹愛の性質を持つスズランの魔女『Asunaro(アスナロ)』。

スズランの模様が描かれた白い球体に、鋭利な牙がある口がついているだけのシンプルな魔女だった。

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 

希望なんて馬鹿馬鹿しいと笑うワルプルギス。

その瞬間、世界が静止した。ほむらの魔法だ。

時間を止めたワルプルギスは高速回転で纏わり付いていた電撃を何の事は無く振り払うと、もう一度大きな声で笑い続けた。

そして口から生やす砲台。これで終わり、あれが最後。ワルプルギスはティロフィナーレを放とうと魔力をチャージする。

 

しかしなんだ。

先ほどはいい所で邪魔が入ったものだ。

ワルプルギスは念の為に未来予知を発動した。

とは言え、いかなる未来が視えようとも時間停止の前には無力――

 

 

『ヒヒヒィイイ!? イヒヒヒヒヒヒヒヒ!!』

 

 

だが、ワルプルギスが視た未来は、あまりにも彼予想とかけ離れている物だった。

すぐに視線を動かすワルプルギス、この静止した時間の中で、行動できるのは自分のみの筈。

なのに、それなのに――

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハ!!』

 

 

何故、あのエイは動いているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浅海ッ! お前の希望、絶対に無駄にはしないッッ!!」

 

 

エビルダイバー。

いや、騎士ライアは水流と電流を纏って猛スピードで止まった時間の中を駆け抜ける、

そう、残っていたのはサキとライアの二人だったのだ。

ホムリリィが何故ワルプルギスの夜ではなく、街を破壊したのか。

それは50人殺しを達成させる為だ。

 

ワルプルギスの洗脳には逆らえない事を知ったホムリリィは、パートナーを蘇生させ、生存率を上げる方法を選んだ。

罪に塗れた選択だ。多くの人が集まっていた避難所を破壊する事で目的を達成したホムリリィは、本能でライアを蘇生させる。

 

まさか再びゲーム盤に戻ってくるとは思っていなかったライア。

何故自分がココにいるのかをいまひとつ理解していない彼は、混乱状態に陥った。

その中で破壊されるホムリリィ。ますます戸惑う彼の耳に、サキの言葉が入ってきたのはその時だった。

 

ライアはサキの悲痛な叫びと、その内容を聞き終えると、全てを理解する。

何故自分がココにいるのか、そして自分は何をすればいいのか。何を望まれているのか。

ライアは、ほむらが時間を止めている間も動く事ができるタイムベントのカードを所持している。

それはワルプルギスの夜の時間停止にも例外なく発動し、ワルプルギス以外に唯一この空間を動く事を許されたのだ。

そしてライアはファイナルベントを発動。今、サキの最期の願いを叶えようと空を翔けている。

 

 

『ヒャハハハハ! イヒャハハハハハ! クヒィィイイヒヒヒ!!』

 

 

ワルプルギスはライアを止めようとするが、もう遅い!

今のライアはアクセルベントも発動しており、トップスピードを超える速さを生み出していた。

文字通り光となった彼は、そのままアスナロに突撃する。

 

 

『ピギィイイイイイイイイイイ!!』

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

エビルダイバーが触れた事で、アスナロの時間も動き出す。

刹那、その肉体を貫く閃光。電撃と水流がアスナロを包み込み、魔女は断末魔と共に爆散した。

その残骸の中に、輝きを放つ物を見つけて、エビルダイバーは変形を解除してライアに戻る。

彼はそれを掴み取ると、地面をスライドしながら着地した。

 

 

「浅海サキ……、お前は――!」

 

 

ライアの手にあったのは、彼女が生み出したグリーフシードだった。

そこにはまるでグリーフシードを抱きしめるかの様に、ほどけたスズランのブレスレットが付いている。

ライアは過去にサキを占っている。

その結果は、彼女は運命を大きく左右する重大な位置に立つだろうと言う物だった。

 

 

(そうか、それがお前の意思なんだな)

 

 

ライアはサキの残したグリーフシードを、確かに握り締めていた。

 

 

【浅海サキ・死亡】

 

【これにより両者復活の可能性は無し。よって、ファムチーム完全敗退】

 

【残り1人・1組】

 

 

そして、その音声が流れる。

 

 

【ゲーム終了】

 

【勝者・ライアペア】【生存者2名・手塚海之、神那ニコ】

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハ!!』

 

「………」

 

 

納得がいかないとワルプルギスのオーラが物語っていた。

すぐに多くの影魔法少女を召喚し、自らも炎を纏いながらライアへと突撃を仕掛けている所だ。

しかし首を振るライア。お前のくだらない遊びに付き合うのはココまでだと!

 

 

「一つ目の願いを宣言する!」

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

「消えろ! ワルプルギスッッ!!」

 

『ヒィイイイイイアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

ライアを前にして、影魔法少女達と共にワルプルギスの夜が文字通り消し飛んだ。

あれだけの猛威を振るっていた最強の魔女も、一瞬で影も形も無く消え去った。

うるさい程に響いていた笑い声も今は聞こえず、辺りは静寂に包まれている。

風も止み、曇天の空からは次々と光の線が漏れていた。

 

 

『お前の口から出た言葉と、脳に浮かんだ言葉から、一つ目の願いはワルプルギスの永久消滅として処理させてもらったぜ』

 

「ああ、それでいい……」

 

 

ライアの前に現れるのは騎士担当妖精であるジュゥべえだ。

ゲームが終わった今もジュゥべえの調子は変わらない。

久しぶりだなと軽い調子で語りかけ、なんの緊張感も持っていないようだった。

 

 

『気分はどうだ? 今テメェは多くの文明を終わらせてきた魔女をブッ殺したんだ。英雄だ、表彰モンだぜこりゃ?』

 

「亡霊はあるべき場所へ還った。それだけだ」

 

『ふぅん、そんなもんかね。まあいいや』

 

 

とにかくまずは優勝おめでとうと、ジュゥべえは耳をたたき合わせて拍手を送る。

これは歴史的な快挙だと語り、咳払いを一つ。

 

 

『えー、ライアくん。君は多くの試練と苦しみを乗り越え……』

 

「………」

 

『ああもう! めんどくせぇ! すっ飛ばすかココ』

 

 

ジュゥべえはてっとり早く要点だけをまとめた。

とにかく多くの犠牲を出したゲームはコレで終わり、勝者はライアペアとなった。

勝ち残った騎士は二つ願いを叶える事ができ、魔法少女は一つの願いを叶える事ができる。

現在ほむらは死亡している為、彼女の願いを叶える権利はライアが手にする事となった。

つまりライアは、あと二つの願いを叶える事ができると言う訳だ。

 

 

『どうする? 一日くらいなら考える時間やるけど?』

 

「いや……、いい」

 

 

ライアはスズランが付いたグリーフシードを見つめている。

考えれば考えるほど、きっと自分は迷うと知っていた。今のライアは望まれもせず、ただ魔女の生存本能によって蘇った存在。

生きた亡霊とでも言えばいいのか。

 

 

「ジュゥべえ、二つ目の願いを言う」

 

『おお、何だ?』

 

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

 

ゆっくりと目を開けた少女は、差し込んでくる光が目に突き刺さり、表情を曇らせた。

光。太陽の強い光が肌を照らす。徐々に思考が回復していく。

 

 

「……ここは?」

 

 

ごつごつとした地面の上に寝転んでいたようだ。

体が痛い。一体なぜ?

 

 

「!!」

 

 

全てを思い出した少女は、跳ね上がる様に上半身を起こして周囲を確認する。

壊れたビル。崩壊している多くの建物。夕日になろうとしている太陽が昇る空には、同じくして多くの黒煙が上がっている。

耳を澄ませば、色々な所で多様なサイレンが鳴っており、それはまさに不協和音だ。

整備されている筈の地面はいろいろな所が壊れ、コンクリートの破片が散乱していた。

至る所にクレーターの様な物が見え、周りは荒野のようになっている。

少女はそんな中で、自分がどうなったのかを振り返る。

 

 

「ヒッ!」

 

 

瞬間、一気に濁っていくソウルジェム。

それだけの絶望と苦痛が少女の中にはあった。

美しい光はもう黒く淀んでおり、再び魔女へと変わ――

 

 

「落ち着け。もう終わったんだ、なにもかも」

 

「!」

 

 

暁美ほむらのソウルジェムに、ライアはグリーフシードを押し当てる。

アスナロが落としたソレ。サキの命が無ければ、ほむらは再び魔女へと変わっていた事だろう。

もしかしたらサキはそれを予見していたのかもしれない。

だからこそ、意地でもグリーフシードを残そうとしていたのか。

もちろんそれは都合のいい妄想にしか過ぎないが、せめてそれくらいの奇跡くらいは夢を見たい。

 

 

「どうして貴方がココに!?」

 

「………」

 

 

答えぬライア。

ほむらはしばらく怯んでいたが、ライアがココにいる可能性を考えて答えに至ったようだ。

空が曇天ではないのはワルプルギスがいないから。何故いなくなった? 逃げたわけじゃあるまい。

そして全てが終わったと言う言葉が意味するもの。

放心状態にあるほむらでさえ、嫌でも答えが分かってしまう。

 

 

「私が……、蘇らせたのね」

 

「俺が浅海にトドメを刺してゲームは終わった」

 

「まどか……! 彼女は!?」

 

「俺が気づいた時にはもういなかった。その時点で、残っていたのは俺と浅海の二人だけだ」

 

「そう……、そう、なの」

 

 

ほむらは体育座りで俯き、顔を隠す。

何があったのかは知らないが、何となくその景色が見えた気がした。

結局、まどかは最後まで戦ったに違いない。ゲームに最後まで抗ったに違いない。

 

 

「気をしっかり持て。グリーフシードはこれが最後だ」

 

「……ッ」

 

 

不安定な精神では、蘇ったところですぐに魔女になる。

ほむらも、流石にこれ以上、愚かな行動は取れないと思っていた。

だから平常心を保とうとする。その中で浮かんでくる事実と過去、彼女はゆっくりと顔をあげてライアを見る。

ライアは終わったグリーフシードを、ジュゥべえに食べさせている所だった。

 

 

「ごめんなさい……、手塚」

 

「?」

 

「蘇らせないでと、言われたのに」

 

「いいさ。あの状況では仕方ない」

 

 

複雑な思いはあれど、結果的にそれがゲームを終わらせる要因になったのだから。

それに、まだやるべき事はあるとライアは言った。

 

 

「お前は願いを一つ叶える事ができる」

 

「!」

 

『ライアは既に二つの願いを叶えたぜ』

 

 

ピョコンとジュゥべえが顔を見せる。

ワルプルギスの消滅、そして暁美ほむらの蘇生。

ライアの役目は終わり、あとはほむらが願いを叶えれば本当の終わりがやってくる。

多くの命が消え、多くの血が流れたこのゲーム。その終わりが欲望を叶えるエゴにて決着が付くとは。

 

 

「………」

 

 

ほむらの表情は暗い。

理由は簡単だ。願いを叶えられるのは何よりも嬉しい事ではあるが、その数は一つだけ。

 

 

『鹿目まどかを蘇らせても、魔法少女の宿命がある限り、自分達は幸せにはなれない』

 

「!!」

 

 

心を読まれたかと思うほど、ジュゥべえの言葉は的確にほむらの心を突く。

その通りだ。ほむらはジュゥべえの赤い瞳に映った自分の姿を見ていた。

魔法少女の衣装に身を包む姿。まどかを蘇らせても、人間として蘇らせるのではなく、魔法少女として蘇らせる事になるのだろう。

だとすればゲームを乗り越えられたとしても、魔法少女の宿命はずっと続いていく。

ましてや、まどかは最悪の魔女。覚醒すれば世界は終わるのだぞ。

 

 

『まあだが、今はそこは置いておけ』

 

「えっ?」

 

 

太陽の光がオレンジ色に変わっていく。

夕日をバックに佇むジュゥべえの瞳が、何よりも赤く感じた。

 

 

『ずっと言いたかった事がある』

 

 

それはライアペアにだ。

ほむらがずっと気絶していた為、やっと今、そのルールを教えることが出来る。

 

 

「ルールだと?」

 

『ああ。あるんだよ、一つ。すげー特殊なヤツがな』

 

 

参加者殺しの方にてゲームが終了した場合に、適応されると言う。

願いを叶える際、勝利ペアが二人とも生存している場合に、ある『特殊な行動』を取るかどうかの選択を問う物だった。

 

 

『願いの数。増やしたくねぇか?』

 

「「!!」」

 

 

ジュゥべえの赤い瞳が二人を捉える。

夕日よりも赤い目。なんの感情も無いジュゥべえの象徴とも言える様な気がした。

だからだろう、そんな事を言えるのは。

 

 

【ゲーム終了時、ペア両方が生き残っている場合、特殊ルールを発動できる】

 

【双方が殺し合い、パートナーを殺せば、叶えられる願いを一つ増やす事ができる】

 

『――ってな』

 

「なっ!!」

 

 

ドクンと、ほむらの心臓が強い音を立てる。

一方で無言のライア。つまりほむらはライアを、ライアはほむらを殺せば、願いのチャンスを増やせるのだ。

今現在、叶えられる願いはほむらが持っている一つのみ。

あと一つ増やせる。パートナーを殺せば。

 

 

「どこまで……! どこまでふざけてるの貴方達はッッ!!」

 

 

ほむらは思わずジュゥべえの耳を掴み、怒り顔を近づけた。

しかしジュゥべえは貼り付けたような笑みを作ってほむらの瞳を睨んだ。

何かおかしい事でも言ったのか? 何の疑問も持たぬそんな表情だった。

 

 

『なんだよ。できないってか?』

 

「あたりまえでしょ!」

 

『嘘だな、暁美ほむら』

 

「!」

 

『おいおい……、おいおいおいおいおいおいぃいッッ!!』

 

 

ジュゥべえはニタリと口を歪ませ、ほむらの手から滑り落ちるように地面へ。

先ほどまでは無表情だったジュゥべえは、今は感情をたっぷりと含んだような声色と表情でほむらを睨んでいた。

 

 

『なあおい! 暁美ほむらぁ!? 何今更いい子ぶってんだ? あぁ!?』

 

「なッ!」

 

『もう忘れたのかよッ! テメェは鹿目まどかとの未来を得る為に仲間裏切って腹にミサイルぶち込んだんだろうが!』

 

 

そして魔女になっていたとは言え、ライアを蘇生させる為に避難所を破壊して50人以上の人を殺した。それを今更パートナーひとり殺したくないと言う理由で躊躇する理由がどこにあるのか。

 

 

『ライアを殺せば、叶えられる願いは二つになる! 一つ目で鹿目まどかを蘇生し、二つ目で魔法少女の呪いを壊せば! お前が望む未来が築けるんじゃねぇのかよ! アァン!?』

 

「ぐッ」

 

『そもそもテメェはそれを成しえる為に今まで何度時間の中を彷徨ったよ? 思ってた筈だ、何を犠牲にしてもまどかを助けると!』

 

 

ほむらは息を詰まらせ、地面を睨む。

反論はできない。

 

 

『だったらパートナーをブチ殺すくらい、何て事ねぇよなぁ?』

 

 

それに、ジュゥべえはしっかりと感じていた。

そのルールを伝えた瞬間、ほむらの心音が変わったのを。

そこに込められた想いもジュゥべえは既に見出している。

 

 

『期待したんだろ? 暁美ほむら。お前はこのチャンスを聞いて希望があると思ったはずだ!』

 

「そ、それは――」

 

『もういいじゃねぇか、ここまで来たんだ、自分の心に素直になれよ!』

 

 

それにと、視線を移動させるジュゥべえ。

何も今の話は、ほむらだけに言える事ではない。ジュゥべえはライアを見てそう言った。

 

 

「………」

 

 

無言のライア。

ジュゥべえの言いたい事を理解したようだ。

成る程、ココに来て面白いルールを仕掛けてくる。

本当にどうしようもないゲームだと、呆れる様に首を振った。

 

 

『殺し合いはペアのどちらかが了解した時点で始まる。途中で止めます、なんてのはできねぇぞ』

 

 

決着がつくまで残りの願いは叶えられず、そのまま24時間が経過すると、ルールの下に二人には死が与えられる。

これが最後のゲームだとジュゥべえは説いた。

 

 

『さあ、どうるよ? お二人さん』

 

「コイツ……!!」

 

『おー! こわ! でもほむらさんよ、ライアを殺せば大好きなまどかちゃんとずっと一緒にいられるぜ?』

 

 

人間の身でな。

ジュゥべえの言葉にほむらは言葉を詰まらせる。まさか最後の希望がこんな形で齎されるとは。

しかし、だからと言って……、と言う想いもある。

何を今更と思うかもしれないが、ほむらはその選択を取って魔女になり、惨めに死んだ。

結果的に今はココにいるが、それはサキやライアに助けられたからであり――

 

 

「受ける」

 

「……え?」

 

 

ほむらは呆気に取られた表情で、声がした方向を振り向いた。

ほむらは本気で思った、聞き間違いか、幻聴だと。

しかしライアは――、手塚海之はもう一度ほむらの前でハッキリと言ってみせる。

その表情は、仮面に隠れて見えないが。

 

 

「その殺し合い、受けようじゃないか」

 

「手塚――ッ!!」

 

『オーケーオーケー、流石は手塚だ』

 

 

ほむらはライアに詰め寄ると、正気なのかを問う。

こんな事、ジュゥべえ達の思う壺だと叫びもした。

しかしライアはもう一度『殺し合い』を受ける事を告げる。

それにジュゥべえは言ったじゃないか。双方のどちらかが了承すれば、ゲームは続行されると。だから、ほむらの意思は関係ない。

ライアが殺し合いを受けた時点で、殺し合いは始まるのだ。

 

 

「ッッ! なんで……?」

 

「暁美。ジュゥべえの言う通りだ。良い子になるのはもう止めよう。今更何を迷う必要があるのか」

 

 

他の参加者は死んだ。もう残っているのは二人だけだ。

今さら一つの命が失われた所で世界には何の影響も与えない。齎さない。

 

 

「俺たちは常に葛藤してきた」

 

 

戦いに迷い、傷つける事に躊躇してきた。

それは何故か? 理由は確かな絆があったからじゃないのか。

踏み越えてはいけないラインを自覚していたのは、そのラインの中に一緒にいたいと思う人がいたからではないのか。

 

それがいない杏子や浅倉。

他の参戦者たちは迷わずに武器を振るう事ができた。

そして今、それは自分達にも言える事だ。

 

 

「暁美、俺とお前は同じ場所には立てない」

 

「!」

 

 

ジュゥべえは自分達の『質』が似ているからと、ペアを組ませた。

それはライアもほむらも色々と思うところがあるだろう。

友の為に運命を否定しようとした二人。似ていると言われればそうだ。

だが、所詮それは似ているだけ。

 

 

「俺もお前も、確かな目的があったからこそ力を持った」

 

「……ッ」

 

「どんなに正当化した所で、喉から手が出るほど叶えたい願いはあった筈だ」

 

 

もう、戻れない位置にやってきた。

少なくとも50人の命を奪い願いの成就に近づいた。

いや、それよりも何度と無いループを乗り越えてきた。

 

 

「それなのにココで終わるなんてあまりにもつまらないとは思わないか?」

 

「それは――、でも……!」

 

『さって! じゃあお二人さん、そろそろ始めるか』

 

 

これ以上の話し合いはジュゥべえにとっては無駄なものだ。

理由がなんであれ、ライアは殺し合いを受けた。それが全てだ。

特殊ルールの発動。まずは【パートナー同士は傷つけあえない】が無効化される。

それが開戦の合図だ。24時間以内にどちらかが自殺以外の方法で死ねば、ゲームは終了する。

 

 

『自殺した場合は流れとさせてもらうぜ。今更そんなつまんねぇ事すんなよ』

 

「ああ、分かっている」

 

「手塚! 本気なの……!?」

 

「当然だ。暁美、超えてみろ」

 

 

俺の(ライン)。ライアは構えを取って戦闘態勢に入る。

言葉を詰まらせるほむら。いざ他者に殺意を促されると、良心が刺激されてしまうのは都合の良いな話なのだろうか。

しかし思い返すと、確かに自分はもう戻れない位置に立ってしまっている。

だとすれば――ッ!

 

 

『ゲームスタートだ、殺しあえライアペア!!』

 

「ッ!」

 

 

ほむらの耳にその言葉が聞こえたかと思うと、目の前には既にライアが拳を構えて跳躍している所だった。

容赦なく繰り出されるストレート、ほむらは反射的に盾を前に突き出してソレを防いだ。

感じる衝撃は確かな物で、ほむらは声を漏らして後ろへとよろける。

 

 

「ハァア!!」

 

「うぐっ!!」

 

 

盾を弾いたライアは回し蹴りを行い、ほむらの腰に蹴りをめり込ませる。

肺から息がどっと放出されて、ほむらは地面を転がっていった。

ゴツゴツの地面だ。転がるだけで体には痛みと衝撃が走る。

本気なのか。痛みがほむらの思考を冷静にさせる。

だとすれば、何もしなければ殺されるとでも……?

 

 

「立て、暁美。俺は本気だぞ」

 

「……ッ」

 

 

立ち上がるほむら。

同じくしてライアも走り出す。

 

 

「戦わなければ生き残れない。それがこのゲームの本質だったろう?」

 

「クッ!」

 

 

迫る拳。

盾で防ぐが、すぐに別の場所から攻撃が飛んでくる。

肩に襲い掛かる衝撃。ほむらがよろけると、ライアは彼女の脚を払って地面に倒す。

さらにライアは追撃に、ほむらの胴体を思い切り蹴り飛ばす。

ほむらは地面を勢いよく転がり、苦痛の声が漏れていった。

 

 

「浅海を撃ったと聞いたが、そんな物だったのか。お前の覚悟は」

 

「……ッッ!」

 

「下らないな。鹿目まどかの想いも潰え、お前の人生はとんだ茶番で終わる」

 

「!!」

 

 

拳を握り締めるほむら。

違う! 私のまどかに対する思いは下らなくなんか無い! ほむらの中に灯る殺意の炎。

そう、そうだ、自分はサキを撃ったんだ。あの時の想いを、再び宿せばいいだけの話。

 

たとえ何を犠牲にしてもまどかとの未来を生きる。

そうだ、躊躇する必要は無い、自分はその為に戦ってきたんだぞ!!

ほむらの心に火がついた。

 

 

「終わりだ、鹿目まどかの所へ今送ってやる!」『ストライクベント』

 

 

帯電し発光するエビルバイザー。

 

 

「首を跳ね飛ばしてやる!」

 

 

ライアは宣言して。走りだす。

呼吸を荒げながらも、ほむらはしっかりと立ち上がった。

そうだ、このまま黙って殺されては蘇った意味が無い!

何のためにチャンスを再び手にしたのか。きっかけは何だってよかったんだ。

またその思いが成就される可能性があるのなら、喜んで手を伸ばそう。

 

 

「手塚――ッ!!」

 

 

ロケットランチャーを取り出すほむら。

目を細め、狙いを定める。間に合わないか? いや、ギリギリほむらの方が早い。

 

 

(殺す――ッ!)

 

 

蘇る殺意。

ほむらの脳裏に、過去の決別が思い出される。

 

 

「――……!」

 

 

過去の、あれは、リーベエリス跡地。

ライアと別れた、あの地にて抱いた思い。

 

 

「死ねッ! 暁美ッ!!」

 

「!」

 

 

ほむらは引き金に指をかける。

強化されたエビルバイザーがほむらの首へと迫る。

だが間に合う、ほむらは確信した。ライアの刃が届くよりも先にロケットランチャーの弾丸が彼に届く事を。

そして――

 

 

『………』

 

 

ジュゥべえはその様子をジッと見つめていた。

ライアの殺意とほむらの殺意。凌駕していたのはどちらの方なのか。

そしてその結果がこれだと言うのなら――

 

 

『アホくせぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」「………」

 

 

ライアは立っていた、その場に。

そしてそれは、ほむらも同じだった。

 

 

「「………」」

 

 

無言の二人。ほむらの首には刃が届いていた。

そう、届いてた筈なのに、紙一重で止まっている。

相手に触れる事の無い刃に意味はあるのか? 傷つけぬ武器に価値はあろうか?

そしてそれはほむらにも言える事だ。

引き金を引けた筈なのに、引かず。武器をその場に下ろす。

 

 

「……どう言うつもりだ」

 

「―――で」

 

「?」

 

「ふざけないでッッ!!」

 

 

ほむらは武器を投げ捨てると、変身を解除してライアの胸を軽く小突く。

その表情は何とも言えぬ程に複雑な感情が絡まりあっている。

悲しさ、苦しさ、怒り、罪悪感。そして悔しさの中にある期待。

 

今は殺し合いの最中だ。そこで変身を解除する事がmどんなに愚かな行為なのか知らない筈は無い。しかし、ほむらは確かに変身を解除した。躊躇う事も無かった。

当然だ、ほむらは察してしまったのだから。ライアに殺意など始めから無かった、ほむらを殺す気などさらさら無かったのだ。

 

 

「なんなのよ……! 前だって、今も! 貴方はどうして生きる事を選ばないのッッ!?」

 

「………」

 

 

ライアはほむらの殺意を刺激し、そして殺されるつもりだった。

自分が殺す気だと知れば、彼女もまた正当防衛で武器を構えるはず。

そして殺意の量に応じて、向こうの殺意も膨れ上がると。

だからこそ、ほむらはライアを殺すだけの武器を構えた。

ライアとしては、あとは刃をほむらの前で止めればオーケーだった。

なのに、ほむらは撃たなかった。

 

 

「何故、気づいた?」

 

「別に……。ただ、ふと思い出しただけよ」

 

 

お前を生かす事だ。生きてくれ、ほむら。

ライアの最後の願いは、ほむらを生かす事と見出した。

あの言葉は嘘じゃないと信じている。だから、そう簡単に変えて欲しくは無かった。それだけだったのかもしれない。

 

 

「だから、甘えたのよ。貴方の言葉に」

 

「………」

 

「もしも気が変わって本気で殺す気だったのなら、トリックベントを使って一度だけならば攻撃を無かった事にもできるし」

 

「ああ。そう言えばそうだな。お前も俺のカードを使えるんだった。不思議な物だ、こんな簡単な事を忘れるなんて」

 

 

死んでから蘇ると言う感覚は、絶対に味合えない物だと思っていたし。

死ぬ事もどこかで軽視していたのかもしれない。

だから全てが夢だったのでは無いかと錯覚してしまった。

 

 

「ねえ、教えて……! どうして貴方は私を生かそうとするの?」

 

 

自分の命を犠牲にしてまで。願いを叶えられるチャンスを棒に振ってまで。

ほむらはそれがどうしても納得できず、だからこそ疑問と怒りがこみ上げてくる。

結局のところ、ライアが殺し合いを受けたのも自分のためなのだろう。

ジュゥべえの言う通り、願いの数が増えれば、ほむらとまどかは、再び人間としての人生を共に歩む事が出来る。

ライアはその未来を望み、世界に自分がいる事を拒んだのだ。

 

 

「………」

 

 

ライアはため息をつく。

 

 

「俺は、亡霊だったのかもしれない」

 

「………」

 

「ワルプルギスと同じだ。後悔と未練、負の想いの集合体」

 

 

まだ縛られている。

雄一を救う事ができなかった事の苦しみ、悲しみ。

だが当時は本当に雄一が死ぬべきだったと思っていたのだから、何とも滑稽な物ではないか。

 

 

「そうだ。俺はあの時、雄一と共に死んだんだよ」

 

 

贖罪の意思を運命を変える事と見出し、そしてライアはほむらの死と言う定められた物を破壊した。

その時点で、ライアは二度目の死を迎えた。

 

 

「俺はもう……、きっと満足してしまったのだろう」

 

 

勝手な話だが、これこそライアのエゴ。

今、ライアの中に生きたいと思う未練は欠片とて残っていない。

雄一を蘇生させたいとは思わなかった。当然だ、その資格が無い。

 

 

「お前は、鹿目が死なないでほしいと願った。しかし俺は雄一に死んでほしいと願っていた」

 

 

そんなライアが友を蘇生させる資格を持つ事ができるのだろうか?

いや、あるわけが無いんだ。あってはいけないんだ。

 

 

「だから私に重ねたの?」

 

 

そうだ。

まどかをひたむきに救いたいと戦っているほむらを見て、ライアは本心から応援したいと思った。

自分にはできなかったことだ。そしてそれは、きっとライアがしたかった事だ。

したかったが――、できなかった。

 

色々な意味で諦めてしまったんだ。

だから、ほむらには諦めないでほしかった。自分の様にならないでほしかった。

見たかったんだろう。できると知りたかった。運命に殺された友は救えるのだと。

それをほむらに託したのだ。ライアはほむらに希望を抱いた。

 

 

「お前は俺より長い時を戦い、長い時間を苦しみ続けた」

 

 

何もかもライアよりも勝った存在だ。

 

 

「貴方は……、自分が嫌いなのね」

 

 

友を救う事を諦めた自分の前に、同じ様な存在が現れた。

そんな暁美ほむらは今も尚、必死に諦めずに戦っている。

それを見れば、劣等感や、より深い後悔が浮き出てくるのは当然か。

ライアはきっと――

 

 

「赦してほしいのね。彼に、そして自分自身に」

 

「………」

 

 

きっとライアはそう思っている。

ほむらがまどかを助けると言う目的を達成する事で、それに協力した自分を赦せると思っているんだ。結果的にほむら助けとなるだけで、ライアはまだ自分自身の為に行動している。

 

 

「貴方は、死を選ぶ事に贖罪を見出している」

 

「否定は……、しない」

 

「生きたいとは思わないの?」

 

「言っただろう。俺は、お前を生かす事に意味を見出している」

 

 

この状況でほむらを生かす事ができるとすれば、それはライアが死ぬ事だ。

だから死を選ぶ。それだけなんだと達観したように言った。

ほむらは俯く。違う、違う違う違う。そんなのは嘘だ。塗り固められた偽りなんだ。

だから腹が立つ!

 

 

「変えればいい、生きる意味を! 希望を!」

 

「……ッ」

 

「貴方は結局逃げているだけだわ! 自分の罪から、そして自分の欲望からも!」

 

 

ほむらはもう気づいていた。ライアは逃げている、目を背けている。それも、ほむらを盾にして。

あるんだ。きっとある筈なんだ。彼だって人だ。だからこそ自分の心の奥底に眠る希望と言う名の願いがある。

 

 

「貴方にもあるのよ? 雄一と言う人を、貴方の友達を蘇らせるチャンスが!」

 

 

資格が無い? なんなんだ資格って。

そんな物を誰が決めるというのか、誰に決められると言うのか。

それは自分を含めてだ。宗教観? 自意識? それらはもちろん大切かもしれないし、それによっと塞き止められているのならば、それは自分の意思とも言えるだろう。

だが人間ならば。『友』を持った価値観があるのなら。きっとある筈なんだ、心の奥底にほむらと同じ願いがきっと……。

 

 

「また友達と一緒に笑うの! 生きて、この世でっ!」

 

「………」

 

「貴方は怯えているだけよ! 貴方の友達を蘇らせた後の世界で、自分が他者にっ、なにより斉藤雄一に赦されるのか? それを怖がっているだけなのよ!」

 

「!!」

 

 

ライアの心が初めて大きく揺れ動いた。

ほむらの今の言葉が、なによりも心に響く。

 

 

「……そう、そうか、そうだな、俺は怯えているんだ」

 

 

間違いは無かったと思う。

 

 

「現に貴方は斉藤雄一の最期に立ち会った時に思ったんでしょう? 彼が死ぬべきだったと思っていた自分の心が間違っていたのだと!」

 

 

だったら今だって思っている筈。でなくても、思える筈なんだ。

雄一が死ぬ事自体が間違っていたと。ライアが雄一と過去に笑いあえていたのなら、その時に戻りたいと絶対に思える筈なんだ。

 

そうだ、そうに決まっている。

手塚海之は、雄一への想いを胸に、デッキを取った。だとすれば心にはきっと宿っている。

それは自分でも気づかない程に弱いものかもしれないが、心の隅に必ず持っている。

 

 

「斉藤雄一を蘇らせたいと言う想いが!」

 

「――ッッ!!」

 

 

ライアは自分とほむらが似ている様で似ていないと言う。

諦めた自分と、諦めなかったほむら。そこを違いとしていた。

だが彼は間違っている。同じなんだよ、自分達は。根本的なところでまだ繋がっている。

 

 

「そう、同じなのよ私達は!」

 

「同じ?」

 

「ええ。友人の為に運命と戦う」

 

 

それは今も同じだ。

諦めたという言葉は、終わりでは無いのだから。

 

 

「再び戦える。そう思えるだけの存在がッ、そこにはある!!」

 

 

ほむらが指し示すのはジュゥべえ。不可能を可能にする『奇跡』を手に入れる事ができる。

ほむらが望む奇跡は鹿目まどかとの幸福。一つめの願いでまどかを蘇らせ、二つ目の願いで魔法少女の呪縛から解放される。

それと同じようにライアにだって再び雄一と未来を生きる可能性がある。

一つ目の願いで蘇生させて、二つ目で手塚海之の肉体を取り戻す。

 

 

「ほら、私でも簡単に思いつくわ。それを貴方が思いつかない訳が無い!」

 

「それは――、だが」

 

「もう逃げるのは止めて! いい加減他人の運命じゃなく、自分の運命と戦いなさい!!」

 

「!!」

 

「男でしょ? だったら運命の一つや二つ、捻じ曲げて自分の都合のいい様にして見せてッ!」

 

 

ほむらはライアの胸を叩いて突き飛ばす。

よろけながら後退していくライア。その中で過去の映像がフラッシュバックした。

 

 

「ハハ……」

 

「っ?」

 

「ハハハハハハ! アハハハハハ!!」

 

 

するとどうだ、ライアにしては珍しく声を出して笑っていた。

 

 

「そうだな。お前の言う通りだよ、全て……」

 

 

あるに決まっている。友人を蘇生させたいと言う想い。

でもその想いから目を逸らし続けてきたのは怖かったからだ。

自分の選択が本当に正しいのか、今もまだ分からずにいる。

 

 

「教えてくれ暁美。もしも鹿目を蘇生させて、拒絶されたらどうする?」

 

 

その行動を、他ならぬ鹿目まどかに否定されたらどうする?

蘇生させる事で、より一層彼女を苦しめる結果になってしまうとすればどうする!?

ライアはそれが分からずに苦しんだ。そしてその想いに押しつぶされそうになり、可能性を自らの手で捨てたんだ。

 

 

「悲しいに決まっているわ。後悔しない……、とは言い切れない」

 

 

けれど、ここまで自分が生きてきたのは、全てその想いがあったからだ。

 

 

「まどかの死を、否定したいと言う想いがあったからよ」

 

 

だから後悔するかもしれない。悲しみが襲うかもしれない。それでもその想いを抱くのは、まどかを蘇らせてからでいいと。

 

 

「それが私の意志よ」

 

「そうか……」

 

「貴方も同じ想いを抱いている筈なのよ。絶対に」

 

「そうだな、俺も思っているよ。アイツの死を否定したいと」

 

「だったら否定すれば良い」

 

「間に合うか? まだ」

 

「当たり前よ。貴方が望めば」

 

 

ほむらはライアにそう言う途中で、自らを振り返り、決意を新たにしていた。

そして固め直す。より強固な想いへと昇華させる為に。

まどかと共に歩みたい。だからその為には『どんな事をしても』生き残り、彼女を蘇生させる。

 

 

「手塚、お願い。私と戦って」

 

「………」

 

 

ほむらの髪が風に靡く。

真剣な眼差しがライアを貫いた。

だから彼もまた、同じ眼差しをほむらに送った。

仮面越しではあるが、きっと分かってくれた筈だ。手に取る様に互いの気持ちが伝わってくる。

 

 

「私は貴方を本気で殺す……!」

 

 

だから――

 

 

「貴方は私を、本気で殺して」

 

 

そうすれば全てを振り切れる筈なんだ。

多くの苦しみ、多くの絶望、それらを振り切って。

 

 

「その先に、私の望む世界があるッ!」

 

「……!!」

 

 

ライアは拳を強く、それは強く握り締める。

 

 

「暁美、感謝する。俺もやっと俺の運命と向き合える時間が来た」

 

「!」

 

「本気で……、今度こそ本気で行くぞ」

 

 

ライアの言葉に、ほむらは汗を浮かべる。しかしその表情は確かに笑みを浮かべていた。

そう、そうだ、それでいい。ライアもまた、ほむらの死の先に望む世界を見出した。

感じる。見える。ほむらはライアの仮面の奥に何があるのかが分かった気がした。

手塚の表情。彼もまた確かに笑っていると。

 

 

「そろそろ始めるか」

 

「ええ」

 

 

また風がほむらの髪を、ライアの弁髪を揺らした。強いオレンジの光が二人を照らす。

初めて決別した時も、同じような光に照らされていたか。

しかしこれから始まるのはパートナーだった者同士で殺しあうと言う凄惨な物なのに、二人の間には、何故かより深い絆が生まれていた。

 

本気だからこそ分かり合える想いがあると!

死を分かち合う事でしか理解し合えぬ心があると!

そして、同じ想いによって抱いた希望があるのだと!!

 

 

「「ハァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

 

普段の二人からは、らしくない程の叫び声が上がり、重なった。

気合を入れているのだろう。二人は同時に地面を蹴って走り出す。

真横に走り、並行を保つ両者。だが同じタイミングで一気に回り込んで距離を詰める!

ほむらは移動しながら変身。盾から日本刀を引き抜き、ライアはバイザーを前に突き出して突撃しあう。

 

 

「ッッ!」「!!」

 

 

刀とバイザーがぶつかり合い、激しい火花を一瞬だけ散らせた。

しかし、そうする事でより縮まるほむらの顔とライアの顔。

そこでは何よりも激しい火花が散っているではないか。ぶつかり合い、競り合う二人の視線と言う火花。強固な想いがぶつかり合う事で発生する激しいエネルギー。

互いの想いはただ一つ、勝つのは自分だという事。だから目の前にいるコイツを――!

 

 

((殺す――ッッ!!))

 

 

ほむらは激しく刀を振り回し、ライアの盾をすり抜けて攻撃を仕掛けようと。

一方のライアもカウンターの隙を見つけるため、ただひたすらに刀を打ち防いだ。

激しく舞い散る火花の中で、二人は確かな殺意を相手に向けて攻撃を続けた。

 

 

「フッ!」

 

「!」

 

 

ほむらは姿勢を低くしたかと思うと、その場で回し蹴りを繰り出す。

弾かれるライアの手、そのまま起き上がりざまに刀を振り上げる。

ガリガリと装甲を削りながら刀がライアを傷つける。

しかしライアもまた、刀の動きをしっかりと見ていた。

振り上げは受けてしまったが、その次の振り下ろしの際に、盾でしっかりと刃を受け止めて、ほむらの腕を絡め取る。

 

 

「ハァア!!」

 

 

腕を掴んだままライアは回転する。騎士の力によってほむらは強制的に振り回され、大きくよろけた。ライアはその勢いのまま腕を離し、ほむらを投げ飛ばす。

凹凸のある地面を転がっていくほむらを見詰めながら、ライアはデッキからカードを抜き取った。

瞬時、それをバイザーへ入れて走り出すライア。

もう今の彼に、手加減と言う思いは無い……。

 

 

「変身!」『アドベント』

 

「ッ! あぐぁあッッ!!」

 

 

変形。ライアの体がエビルダイバーに変わる。

そのまま立ち上がり様のほむらに突進を命中させた。

超加速から繰り出される一撃に、全身が振動して、ほむらの呼吸が止まる。

足が浮いた。エビルダイバーはほむらを磔にしたまま空を飛び、さやかを押しつぶしたビルの方へと向かう。

二つのビルが重なっている異常なタワーだった。

そこへエビルダイバーとほむらは突っ込んで行く。

 

 

「「ッ!!」」

 

 

窓や周囲の壁を粉砕しながら、二人はビル内部へと侵入していく。

そこでわずかに減速したのか。ほむらは解放され、オフィスのデスクやコピー機を巻き込みながら転がっていく。

 

一方でエビルダイバーは吹雪の様に舞い散るコピー用紙を突き抜け、反対の窓を突き破って外へ出た。そのままほむらがいるフロアより、一階高い場所に、壁を突き破って侵入。

そして、ほむらが倒れている場所を予測して地面を突き破る。

 

 

「!」

 

 

瓦礫と共に振ってくるエビルダイバー。

しかしほむらは確かにそこにいたのだが、重厚なガトリングを構えていると言う誤算があった。

魔法で反動を消し、威力を跳ね上げた銃弾の雨がエビルダイバーに直撃していき、勢いと威力を殺す。その隙にほむらは横に転がり、攻撃から退避する。

 

それだけではなく、動きを止めているエビルダイバーに向けて手榴弾を放り投げた。

周囲を吹き飛ばす爆発に揉まれ、変形が解除されるライア。観葉植物や椅子を吹き飛ばしながら床に倒れた。

 

 

「やるな……!」

 

「ええッ、貴方も!」

 

 

会話の途中で、ほむらは既にマシンガンを構えていた。

ライアも体を起こして並んでいるデスクの中へ飛び込む。

弾丸の雨がライアの元へと届き、パソコンや書類等の小物を粉砕していく。

ライアは身をかがめて必死にパソコンの下を走り抜けていく。

 

 

「……!」

 

 

ふと、誰かの家族写真が吹き飛んだ。ほむらはそれを確認して唇を噛む。

ほむらの隣には、転がっている『誰か』がいた。

避難指示が出ていても、あくまで世界は、社会は回っていた。

どうしても終わらせたい仕事があったのだろうか。或いはビルの中ならば大丈夫だと思ったのだろうか?

 

 

「………」

 

 

銃弾の雨を、デスクの中を通り抜けることで回避していくライアもまた、それは見ていた。

頭から血を流し、転がっている人達。

彼らはきっと自分が何故死んだのか、意味の分からぬまま人生を終えたのだろう。

理不尽な死。それはきっと誰しもに与えられる可能性がある物なのだと、つくづく思う。

だが、だからこそやはり、否定したいと思う様になる!

 

 

『スイングベント』

 

「!」

 

 

薄暗いオフィスだ。

だからほむらは、迫る鞭に気づくのが遅れた。

すぐに姿勢を低くするが、既にマシンガンは鞭によって切断されて使い物にならなくなっていた。

ほむらは舌打ちを漏らし銃を放棄すると、バックステップ。

そのまま後ろの壁を蹴って三角飛びでデスクの上に乗る。さらに両手には二丁拳銃を構えている。

 

その向こうで、同じくライアデスクの上に飛び乗った。

並んでいるデスクと通路を二つばかり挟み、二人は睨み合い、少しだけ停止する。

 

 

「「………」」

 

 

わずかな沈黙。

そして動き出す二人。

平行に並んでいるデスクの上を走りながら、ほむらは銃弾を発射し、ライアはエビルウィップを振るう。

 

銃弾はライアをすり抜けるか、盾によって防がれ。

しなる鞭は、ほむらの軽快なステップを捉える事ができない。

デスクの上にある障害物を蹴飛ばしながら移動する二人。その下には多くの死体が転がっていた。

それは目に見えると言うだけで、今までだって自分達は多くの死の上に生かされてきた。

何のために? そうだ、今この瞬間の為に!

 

 

「フッ!」

 

「ハァ!」

 

 

空中で回転するほむら、そんな彼女の頬に鞭がかする。

痺れと痛み、傷からは血が流れる。一方でライアの体を捉える銃弾、確かな痛みと衝撃が彼の心を刺激する。

 

望む世界の為。

死の上に新たな死を作ろうとする自分達。ああ、なんと愚かな事か。

この戦いに正義など無い。あるのは純粋な――

 

 

「……ッ!」

 

「!」

 

 

カチカチッ! と音がして、ほむらは引き金を連続して引いていた。

弾切れ。反動は殺せても弾の制約はある。

チャンスか。そもそももう並んでいるデスクの先が無い。

ライアは地面を蹴ってほむらの方へ飛び掛った。次の武器を出すまでタイムラグがある筈、そこを突ければ。

 

 

「甘いわ」

 

「!」

 

 

だがほむらは服をはためかせ、何かを地面に落とした。

閃光弾だ。隠し持っていたか! ライアは目を覆うがもう遅い。光が巻き起こり、視界がゼロになる。

それはほむらにとって、十分すぎる隙となった。

 

 

「ぐあぁああッ!!」

 

 

次に景色が鮮明になった時、ほむらの姿は前に無く。代わりに真横に感じる絶大な衝撃。

視線を移せば、ほむらが思い切り地面を踏み込み、斧をライアの体にブチ込んでいる所だった。

凄まじい衝撃と痛み。ライアの鎧が粉砕され吹き出す血。

そしてその衝撃で吹き飛び、ライアは窓を破って空中に放り出される。

同じくほむらは窓の外から飛び出した。ショットガンを引き抜くと、ライアの胴体に銃口を突き付け、ゼロ距離で発射しながら地面に落下する。

 

 

「ぐぅウウウッッ!!」

 

「あっ! ズッッ! かはぁっ!」

 

 

しかしライアもその中でエビルウィップをほむらの体に巻きつけて、最大出力の電撃を浴びせた。

だがほむらは怯まず引き金を引き続け、ライアもまた電力を弱める事は無かった。

そのままライアを下にして地面へ直撃する二人。

 

ほむらは全て銃弾を撃ち終えていた。

着地の衝撃で鞭が緩まるのを感じ、ほむらはライアの頭に掌底を繰り出す。そして胴を蹴ってライアから離れていった。

打ち込んだ掌底はただの掌底ではない、ある物を押し付ける役割。

それが起動音を鳴らし――

 

 

「………」

 

 

爆音がしてほむらは後ろを確認する。

掌底でライアの頭に爆弾を取り付けたのだ。

これで終わる――?

 

 

「!」

 

 

爆発の中から飛び出してきたのはエビルダイバー。

どうやらアドベントを一度発動すると、一定時間変形を繰り返せる様だ。

ほむらがエビルダイバーを確認したときにはもう突進を受けている所だった。

舞い散る血。それは両者が流したものだ。

 

 

「……ぐッ、きゃあ!」

 

 

立ち上がるほむらへ、再び直撃するエビルダイバー。

血を流しながらぶつかるエビルダイバーと、血を流しながら倒れるほむら。

傷を負いながらパートナーを殺す事だけを考える二人だが、何故だろう? 心には少し、心地よさがあったのは。

 

 

「ハァアアアアア!!」

 

「ぐぅううううう!!」

 

 

エビルダイバーは尻尾でほむらを縛るとそのまま猛スピードで空を駆ける。

地面に転がったままのほむらは、当然引きずられる事となり、背中には摩擦から生じる痛みと熱が。

思い出す。ライアに助けてもらったときも同じだったか。

ほむらは苦痛に声を漏らしながらも、心にある炎はむしろ激しく燃え上がっていく。

拘束されてはいるが腕は自由だ。盾に手を突っ込み、すぐに武器を抜き取った。

それはダガーナイフ。魔力で刃を強化すると、エビルダイバーの尻尾を切り裂いて拘束から抜け出す。

 

変形を解除し地面へ着地するライア。

尾を切られたからか、鎧の隙間から血が流れ出ている。

そしてそれはほむらも同じだった。出血量は少ないようにも見えるが、エビルダイバーはほむらを引きずっている時にも電撃を浴びせており、気を抜けば意識を失ってしまいそうになる。

しかし死ぬ訳にはいかない。未来の――、望んだ世界の為に!

 

 

「アアァアアッ!!」『ユニオン』『アクセルベント』

 

「……!」『アクセルベント』

 

 

加速し、武器を打ち付けあう二人。

両手に構えたダガーナイフとエビルバイザーの刃が交差する。

紫の閃光と、赤紫の閃光がオレンジの光の中で何度も交わり、辺りを駆け巡る。

 

 

「アッ!」

 

 

均衡を保っていたかに見えた接近戦だが、やがてナイフが弾かれ、ほむらが地面を転がっていく。

やはり近距離ではパワーの強い騎士に分があったか。

そうしていると迫る腕。ライアはほむらを突き倒し、武器を振り上げる。

 

 

「……ッ」

 

 

ほんの一瞬だけ停止するライアだが、そのまま何も言わずにバイザーを振り下ろした。

首を捉える刃。ほむらの頭が体から分離する。

しかし――!

 

 

『ユニオン』『トリックベント』

 

「!?」

 

 

砕けるほむらの体と、残された一枚のジョーカー。

呆気に取られるライアの背後にほむらが出現し、二本のダガーを叫び声と共に振り下ろし、思い切りライアの鎧、肩に突き立てる。

 

 

「グッ!!」

 

 

ライアの体に食い込むダガー。

ほむらは武器から手を離すと盾に手を入れ、新たな武器を――

 

 

『トリックベント』

 

「!」

 

 

そうか、そうだな、そうなるか。

ほむらのダガーが、ジョーカーのカードと共に地面に落ちる。

ほむらの背後に現れるライア、バイザーをそのまま彼女の体へと。

 

 

『ユニオン』『トリックベント』

 

「しまった!」

 

 

ほむらはもう一つのトリックベントの効果を使用する。

チェンジザデスティニー。ほむらとライアの位置が入れ替わり、ほむらは武器を引き抜く時間を得たのに加え、背後を取る。

 

 

「便利なカードね」

 

「使い方は、それだけじゃないぞ」

 

「そう、知りたかったわ」

 

 

ほむら爆弾をライアの背中に押し当て設置。

そして両足でそれを蹴る事で起動させ、蹴りの反動でライアから飛んでいく。

一方で爆発。ほむらは着地しながら空に上がる爆炎を見詰めていた。

 

 

「――ッ」

 

 

ほむらの膝が折れ、呼吸を荒げる。

積み重なった苦痛が意識を奪おうとするが、まだだ、まだ終わっていない。

そうでしょう? 手塚。ほむらが見詰める先に、炎の中から歩いてくるライアが見えた。

既に装甲はボロボロになっており、至るところに亀裂が見える。

向こうも、コチラも、もう長くは持たないか。

 

 

「………」

 

 

ほむらは盾から一つの銃を抜き取る。

デザートイーグル。これはほむらにとって思い出深い武器であった。

永遠に戦い続けると誓ったあの日、まどかを殺した銃だ。

 

弾はまどかに使った一発が抜かれている為、あと六発。

ほむらはそこに大量の魔力注いでいく。決着をつける気だった。そしてライアもまたデッキからカードを抜き取り発動させていた。その立ち振る舞いには覚悟が見える。

ライアもまた、そろそろ決着の時が来ていると理解しているのだろう。

一枚? 二枚? 音声も何もかも、爆炎が揺らめかせてうまく見えない。

 

 

「「………」」

 

 

ライアはコピーベントでデザートイーグルを複製する。

魔力で強化した状態をコピーした為、威力は全く同じだ。

ライアは弾数を確認して一歩、また一歩とほむらに近づいていく。

 

 

「ッッ!」

 

「――ッ」

 

 

誰が合図をした訳でもない。

しかし二人は同時に走り出し、全ての殺意を解き放つ。

終わりへと続く階段を駆け上がる様に、終焉のカウントダウンを刻むのだ。

銃声。一発目が同時に放たれ、小さな弾丸同士がぶつかり合い、光を放つ。

 

 

(まどか……!)

 

(雄一ッ!)

 

 

心に映る友の顔。それは死に顔、終わりの時。

誰もが死を迎える。しかし、それが間違っている死ならば否定はできる筈だ。

声を大にしてそれは違うと言える筈だ。彼も、彼女も。

 

ほむらが放つ二発目と三発目。

運命を撃ち抜きたいと願い、放たれた最初の銃弾はライアの盾に命中した。

度重なる攻撃が蓄積し亀裂が刻まれていたバイザーは粉々に砕け、次の銃弾はライアの体にしっかりと命中する。

 

 

「グッッ!!」

 

 

苦痛が全身を襲う。

痛みは、心の中、その奥にも刻まれていた。

どこに行けば良かったのか。どこに還ればいいのか。

自分達が行き着く道の先には、何が待っているのか?

分からない。分からないからこそ、知りたかった。

 

 

「ッッ!」

 

 

倒れるわけにはいかなかった。

だからライアは撃ったのだ。二発目がほむらの右肩に直撃する。

ほむらは歯を食いしばりながらも前に進み、ライアと組み合った。

振りあう銃。グリップ部分がぶつかり合い、衝撃が双方の手にビリビリと響いていく。

 

そして銃声。

ライアの三発目がほむらの盾に当たり、粉々に砕いてみせる。

二人の盾の破片が地面に落ちる中、同時に放たれた互いの銃弾が、それぞれの脚をかする。

 

 

「ハァアアアア!!」

 

 

二発の銃声が聞こえた。

ほむらがライアの仮面に撃ち込んだ弾丸。

一発目はライアが頭を捻ったから空を切り、遅れて放つ二発目がライアの仮面に命中する。

だが流石は騎士か。弾は確かに仮面に当たったが、大きな亀裂を入れるだけに留まった。

 

 

「ぐっ!」

 

 

ライアはグリップでほむらの頬を打つ。

揺れる視界。ふらつくほむらの胴体に、銃弾が撃ち込まれる。

愛する人も守れずに、生きる意味はあるのか? 何のために願った力だ。夢を見る為に祈ったわけじゃない。

確かな現実を望んだから自分は今――ッ!

 

 

「「!」」

 

 

ほむらの腕と、ライアの腕が交差する。互いの眉間にゼロ距離で突きつけ合う銃口。

ほむらは殴るように押し当てたからか、銃身がライアの仮面にめり込んでいる。

これで撃てば、いくら防御力のある騎士でも鎧の内部に弾丸を通せる。

つまり、確実に殺せると言う事だ。

 

一方のライアも、いくら本体がソウルジェムだとは言え、ほむらの脳を破壊すれば動きは一定時間止まるだろう。

その隙にソウルジェムを砕く事はできる筈だ。

いや、むしろ、ほむらはもうそれで『負ける』のだ。

 

 

「「………」」

 

 

撃てば終わる。その状態の中で二人は動きを止めた。

名残惜しさを感じているのか。夕日が照らす二人は、黒の影となり一つに交わっていた。

形を崩さぬクロス。彼らは銃を突きつけあった状態で、互いの姿をもう一度目に焼き付ける。

二人の心の奥には、まどかの死と、雄一の死が映り込んでいた。

 

 

「最期だな」

 

「ええ」

 

 

ほむらは目を閉じる。

 

 

「引き金は……、必ず引いて」

 

「お前もだ、絶対に逃げるなよ」

 

「もちろん。貴方こそ」

 

 

分かっているさ。

ライアもほむらも分かっているんだ。

 

 

(まどか……)

 

 

ほむらは心の中で、彼女の名を呼んだ。

そして目を開ける。

二人は同時に引き金を壊れるくらい強く引いた。

 

 

(ごめんなさい)

 

 

鳴り響く銃声。決着がついた瞬間だった。

クロスの影は分離し、二人の体は確かに離れていった。

そして一つの影が、地面へと伏せていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば。

決着は既に銃を交差させる前についていた。

ほむらが放った銃弾は六発だ。つまりもう交差させた時点で弾は無かった。

そしてライアが放った弾は五発。

 

そう、どちらが勝ったのかは言うまでも無い。

しかし、ほむらは負ける気など無かった。

敗北が確定した状態でも、弾丸が出ることの無い銃であったとしても、引き金を強く引いた。

最後の瞬間まで、ほむらはまどかの為に戦う事を諦めはしなかったのだ。

 

己の信念は曲げたくなかった。

だが、ライアと武器を交わす度、オフィスで死体を見る度、自分のした事の罪が重く圧し掛かっていった。

大好きなまどかの前には、彼女に似合う『なるべく綺麗な自分』で立ちたかった。

でもそれは叶わない。まどかは罪に穢れたほむらを、きっと受け入れてくれるだろう。

だがそれを、ほむら自身が納得できたかと言われれば――、だ。

 

でも、まどかを救いたかったと言う想いに嘘はないし、その想いを否定したくも無い。

だからほむらは戦い、戦い抜いた先にしっかりと笑っている未来も視ていた。

ただ、銃弾を全て撃ち終わった時、つまり暁美ほむらの敗北が確定した時、安堵の表情を浮かべてしまった事も事実だろう。

 

複雑な感情だった。

手塚にはああ言ったが、ほむらもまたライアを盾にしてしまった。

まどかとの未来を諦めたくは無い、しかし多くの罪を抱えたまま、まどかと幸せになれるとは思っていなかった。

 

だから自分は死んでもいいと、心の中にその想いがあったんだ。

そしてあの世で、全てが解き放たれた世界で、再びまどかと巡り合える事を祈った。

此岸の地ではなく、彼岸の地で彼女と共に世界を築けると。

 

諦めない心の中にあった妥協。それがほむらの中にあった。

ただ表向きは、心の外では、最後までまどかの為に戦う自分でありたかったから銃を突きつけた。

でも、やっと、解放される。

 

 

(ごめんね。まどか……)

 

 

私のワガママに最後まで振り回して。貴女との約束を守れないで。

その想いがあったからこそ、ほむらはまどかに謝罪を行ったのだ。

そして死が、自らの罪を解き放つと信じて。

 

 

「―――」

 

 

しかし。

 

 

「――え?」

 

 

それなのに。

 

 

「なんで……」

 

 

立っていたのは、暁美ほむらだった。

 

 

『面白いカードだよな。トリックベント、チェンジザデスティニー』

 

「!!」

 

 

ずっと二人を見ていたジュゥべえがほむらの背後に現れ、答えを教えてくれた。

 

 

『あのカードってお前らの位置を入れ替えるだけだと思ってたけど……』

 

「……ッッ」

 

『持ち物だけ、入れ替える事もできるんだな』

 

「!!」

 

 

ほむらは銃口から煙を上げている自分の銃を地面へ落とす。

そして目の前で眉間に穴を開けて倒れているライアへ、言葉にならない叫びを上げて詰め寄った。

ライアが爆炎の中から現れた時、発動したカードは二枚だ。

相手の武器を複製するコピーベントと、ほむらと"入れ替える"効果を持つトリックベント。

後者をいつでも発動できる様にしておいたライアは、事前に弾数を確認し、ほむらが六発撃ち終わった事も理解していた。

 

そしてグリップで殴りつけた時、ほむらの視線が銃から外れた際に、自分の銃と彼女の銃を入れ替えた。その後二人は眉間に銃を突きつけ合い、ほむらは弾切れだと思っていた『ライアの銃』の引き金を引いて、ライアが残していた一発分でトドメを刺したと言うことだ。

 

 

「どうしてッ!? どうしてまた貴方は私を助けるのッッ!?」

 

 

涙を流し、ほむらはライアを揺する。

その涙は感動だとか、そういう類のものじゃない。もっと複雑な感情が混ざっていた。

ライアの体からは粒子が放たれている。それは手塚海之の命が失われる事を意味していた。

ほむらの、そして何よりもライアの銃弾が、ライア自身を殺すに至ったのだ。

 

 

「死なせてよ。終わりにさせてよぉオッ!!」

 

『……ククク、クハハハハ!!』

 

 

ジュゥべえは笑みを浮かべながら手塚にコンタクトを取る。

面白い物を見せてもらった。そのお礼にライアの意識を現世にしばらく留めると言う。

つまりニコと高見沢の最期と同じだ。ライアもそれを受け入れ、トークベントでほむらに語りかける。

 

 

『俺は、お前に負けた。ただそれだけだ』

 

『そう仕向けたのは貴方じゃない!! どうして? どうして自分の勝利を選ばないの? ねえどうしてッ!?』

 

『………』

 

 

しばし沈黙するライア。

しかしそうしている間にも粒子化は進んでいく。

時間はそれほど残されていない。ライア心の中で頷くと。答えを一言。

 

 

『なんでだろうな?』

 

『何よ……! 何なのよッッ!!』

 

 

ほむらはライアの鎧を叩いた。

だがこれが真実だ。ライア自身、どうして最後の最後でほむらを助ける思考に至ったのか、いま一つ理由が掴めない。

ただぼんやりと分かる事もある訳で。

 

 

『最初は本気だった。嘘は無い、本気でお前を殺すつもりだった』

 

『だったら――!』

 

『だが、戦う中で分かったんだよ』

 

『っ? 何が!?』

 

『簡単だよ』

 

 

そう答えるライアの声は優しい。

 

 

『俺が雄一に友情の念を抱いたのと同じだ』

 

『え……?』

 

『俺は、お前の事を友人だと思っていたのさ』

 

『ッッ!!』

 

『錯覚か? まあ、相互で抱かなければ意味の無い物だろうからな、友情ってヤツは』

 

 

ただそれでも、ほむらと過ごす内に、ほむらの想いを知る内に、ジュゥべえが仕掛けた通り同調の念を抱いた。

類は友を呼ぶと言う。共感や同情、そして尊敬。

ほむらの方が優れていると理解したら、憧れが浮かぶ。

自分にはできなかった事をやろうとしているほむらを、心から応援したかった。

 

だからライアはあの時、ほむらの身代わりとなって死んだのだ。

もしもほむらがまどかを助ける事を成功させたなら、手塚も雄一に許してもらえる気がした。

そして今、ほむらに教えられた。自分にもまだチャンスはあるのだと。

 

しかしその中で、もう一つの思いに気づいた。

まどかとサキも同じような事を言っていたじゃないか。

要するに手塚は雄一を助ける為とは言え、ほむらを殺したく無かったんだ。

簡単で単純な話なんだ。友達を殺したく無い。

 

尤もほむらはライアに友情など、欠片とて抱いていなかったろうが。

それを想像すれば思わず笑みが漏れてしまうと言う物だ。

だからこそ、もう一度言える。

 

 

『俺とお前は似ているが、やはり違うよ。全然違うのさ』

 

『手塚……!!』

 

 

ほむらはまどかを見続けて戦ってきた。

だが手塚は色々な物を見てきた。真司や、もちろんまどかだって。

そして当然ほむらもだ。たとえ一方通行な想いであったとしても、彼女に友情を抱いたのだから仕方ない。

 

 

『それでも、それでも私と斉藤雄一なら、優先するべき物くらい分かるでしょう!?』

 

『同じだよ、友人は友人だ。程度はあるが、順位は無い』

 

『!!』

 

 

それは、さやかに言われた事と同じだった。

ほむらは打ちのめされた気がして言葉を失う。

 

 

『もっと時間があれば、俺でも……、お前や東條、城戸と友人になれたのかもしれない』

 

 

そうすれば雄一には悪いが、自分の世界はそれで完成する。

彼を蘇らせたいと思う想いは死んではいないが、その為に他の友人を殺すなんておかしな話だ。

だから手塚は、ほむらを殺せない。となればもう答えは一つだったろう?

 

 

『だが俺は、別に雄一への思いが薄まった訳じゃない。お前だってそれは分かってくれる筈だ』

 

 

別の大きい想いを優先させただけだと。

それを言い終われば、いよいよライアの体が透けてくる。

もう時間は本当に残されていないようだ。

 

 

『暁美、世界に絶望するな』

 

『!』

 

『お前は俺に勝った。ゲームに生き残った。それを、誇りに思ってほしい』

 

 

多くの命を奪った事を美談にしてはいけないが、それでもココまで戦ってきた自分に絶望してはいけない。残された世界に、諦めを持っては欲しくない。

苦しいだろう、辛いだろう、しかしココまで戦ってきたのは事実なんだ。

ココまで来たんだ。だったら後は戦い続けて欲しい。

 

 

『俺にはできなかった事だが、お前なら出来る』

 

『手塚……ッ! 手塚!』

 

『占わなくても分かるよ、それくらい』

 

 

変えるんだ、最後まで下らない運命を。

 

 

『変えられるんだ、お前なら』

 

 

いや、変えてくれ……、か。

ライアは心の中でそう思う。

 

 

『戦い続けろ。自分が本当に望む世界を手に入れるまで』

 

『私の……、望む、世界?』

 

『ああ。あるだろ? あるからこそココまで戦ってきた』

 

 

ほむらは頷く。

頭を動かしたからか、涙が一粒ライアの仮面に落ちた。

どうして自分が泣いているのか、ほむらさえ理由は分からない。

ただそれでも目には涙が確かに溜まっていた。

 

 

『できると思う? 私に』

 

『ああ、約束するよ』

 

『何を根拠に?』

 

『俺の勘だ』

 

『何よ……それ』

 

 

ライアの下半身はもう完全に消滅している。

それを察し、最期の言葉を彼女に投げかける。

 

 

『ほむら、生きろ』

 

『!』

 

『お前も見ただろう? 運命は変えられる。変えられるんだ……!』

 

『ええ、そうね……!』

 

『変えたいと望めば、それを諦めなければ……、きっと――』

 

『!!』

 

 

ガクンっとほむらの腕が地面に落ちた。それを支えていた物が消えたからだ。

待って! 思わずそう叫ぶ。しかし返事は無い。空には無数の光の粒子が昇っている所だった。

ほむらはそれを見て、涙を強くぬぐう。

あの時と同じだ、彼はまた――

 

 

『見事だよ、暁美ほむら』

 

『ああ、手塚の死亡を確認したぜ』

 

 

背後に現れるキュゥべえとジュゥべえ。

今この瞬間、ゲームは完全に終了した。

そして願いを叶えるチャンスが一つ増え、長い戦いの終止符が打たれる。

 

 

『さあ、言ってごらん暁美ほむら。キミは二つのチャンスで何を叶えるんだい?』

 

「そんなの、決まっているわ……」

 

 

俯いたまま、静かに呟く。全てはこの時の為に。

 

 

「まどかを……、蘇らせて」

 

『鹿目まどかの蘇生だね。了解したよ』

 

 

一瞬だった。

光が放たれたかと思うと、一瞬でまどかがほむらの前に現れる。

先程までライアが倒れていた場所に、まどかは仰向けで眠っていた。

魔法少女の衣装を身に纏っており、規則正しい呼吸で落ち着いている。

体のどこにも傷は無く、その表情は何も知らぬ無垢な物だった。

 

 

「まどか……!!」

 

 

その時のほむらの表情は、文字では言い表せぬ物だったろう。

気が遠くなる程の時間があった、多くの苦しみと悲しみ、苦痛があった。

でも、確かな希望もあったんだ。

 

ほむらはまどかを優しく抱きしめると、しばらくの間、体を小刻みに震わせて色々な想いを振り返る。漏らすのは嗚咽だけ。ジュゥべえも流石に空気を読んだか、キュゥべえと共にほむらが次の言葉を放つのを、いつまでも黙って待っていた。

 

気がつけば空は暗く、星が輝いている。

その中でほむらは顔を上げて言葉を放つ。視線はまどかのほうを向いたままだ。

キュゥべえいわく、呼び掛ければ目を覚ますらしいが、ほむらはまだ彼女には声を掛けない。

 

 

「私達を、人間に戻して」

 

『ああ、分かったよ』

 

 

光が二人を包み、衣装が弾けて変身前の服装に戻る。

ソウルジェムを試しに具現しようと試みるが、それはできない。

当然だ、二人は人間なのだから。

これで、これでやっと自分達は人として生きられる。何よりも望んでいた事が形になったんだ。

 

 

『何か質問はあるかい? 無いのなら、ボク達は消えるよ』

 

「………」

 

 

ほむらは大きく息を吐く。

様々な感情がそこには込められていた。

 

 

「貴方達はこれからどうするの?」

 

『そうだなぁ、予定では一度地球を離れようと思うけど』

 

『十分エネルギーも集まったしな、テメェ等のおかげで』

 

「そう……。じゃあその代わりと言ってはなんだけど、一つお願いを聞いてくれないかしら?」

 

『お願い?』

 

『ほーん、珍しいな。まあ言ってみろよ』

 

 

ほむらはまどかの頬に優しく触れ、心の中で名前を呼ぶ。

 

 

(まどか……)

 

 

そして――

 

 

(ごめんね)

 

 

奇しくも、それは諦めたときと同じであった。

ほむらは立ち上がるとキュゥべえ達を真っ直ぐに見つめる。

そして『お願い』を強く、それは強く叫ぶように言い放つ。

 

 

「私を、魔法少女にして!」

 

『『!!』』

 

 

感情の無い二匹でさえ、想像を絶する程の衝撃が走ったとの自覚があった。

言葉を続けるほむら、それはつまりそう言う事である。

 

 

「私の願いを叶えて! インキュベーター!!」

 

『何を……、馬鹿な』

 

『はぁあああああああ!?』

 

 

無表情のキュゥべえ。

一方でジュゥべえは汗を浮かべながら慌てている。

そして拳を握り締めてどっしりと構えているほむら。

 

考えたんだ。

考えて考えて、それでも考え抜いた。

多くの事を振り返り、そしてほむらはその結末に至る。

 

 

『どッ! っておまっ! え!? な、何考えてんだテメェは!』

 

 

気でも狂ったのか?

ジュゥべえも所詮は理屈で語るタイプだ。

ほむらの言葉が、それこそ一ミリも理解できずに混乱している。

それはもちろんキュゥべえも同じだ。ほむらの選択は、それこそ愚か以外の何物でもないのだから。

 

 

『理解できないな。暁美ほむら』

 

「ええ。貴方たちには、一生理解できないでしょうね」

 

『だ、だったら教えろ! 何でテメェはそんな事を!』

 

 

鹿目まどかと共に、人間としてこれからの世界を共に歩む。

それがほむらの唯一の願いだった筈だ。それが叶うと言うのに、何を今さら他の願いを叶えようと言うのか?

 

 

「決まってるでしょ」

 

 

ほむらは長く美しい髪をかき上げ、当然の様に言い放つ。

 

 

「私はこの終わりに、満足していないもの」

 

『なんッ! だと……!?』

 

『分からないな。コレはキミが何度と無く時間を繰り返し、目指してきた物だろう?』

 

 

現に今だって、ほむらはそれを願ったじゃないか。

なのにまだ何かがあるのかと? すると頷くほむら。確かに自分は何を犠牲にしてもこの今にたどり着ければ良いと思っていた。

 

でも気づいた。手塚が戦いの中で己の心に気づいたように、ほむらも気づいたのだ。

 

 

「今が、私の望んだ世界では無い事を」

 

 

まどかの友人はそのほとんどが命を落とした。

そんな世界を、まどかが100%心から喜ぶだろうか? そう、喜ぶ筈が無い。

それにほむらだって、もしかしたらあったかもしれないんだ。

その可能性が。

 

 

「私にとって、友人はまどかだけだった」

 

 

でも築ける筈なんだ。

さやかが、ライアが可能性を見せてくれた。

まどかにとっても、ほむらにとっても。もっと明るい世界がある筈なんだ。

今よりももっと希望に満ち満ちた世界がある筈なんだと。

死と絶望に塗れた今ではなく、命と希望に満ち溢れた、光の未来がある筈なんだ。

 

 

「だから私には、それを叶えるための力がいるの」

 

 

ほむらが叶えたい願いは一つ。

 

 

「ゲームをやり直すわ。そして、この腐った運命を変える」

 

『馬鹿な! そんな馬鹿な!!』

 

 

考えろ、理解しろとジュゥべえは吼える。

ほむらは何か勘違いをしているのでは無いだろうか?

今の彼女は非常に運が良い。まどかと人間になれたと言う、当初の願いを叶えられたんだ。

だがもしもココで過去に戻ったとすれば、今よりももっと酷い未来にたどり着く可能性の方が何倍も高い。

まどかは死に、ほむらも死に、ましてや世界が滅びる可能性だってある。

 

 

『そしてあくまでもゲームはゲーム、ルールに縛られた状態になるんだぞ!』

 

 

時間を戻せるのは一度まで。ゲームバランスに介入する奇跡は起こせない。

そしてゲームの均衡を保つ為、ほむらの記憶は全て消える。

つまり何も知らない状態となるのだ、要するに記憶が消えると言う事は、ココに立っているほむらでは無くなる事。

 

 

『それは死と同じだぞ!』

 

『そう。せっかく手に入れた希望を、捨てるのかい?』

 

「捨てはしないわ。もっと大きな希望へたどり着くのよ」

 

 

ほむらが本当に望む世界へと。

 

 

『本物の馬鹿だなテメェは。出来るとでも思ってんのか? 実力過信してんじゃねーぞ!』

 

「できるわ。必ず」

 

『なんでそんな事が言える!?』

 

「決まっているでしょう?」

 

 

ほむらはそう言ってジュゥべえを睨む。

思わず後に下がるジュゥべえ。ほむらの目には一片の迷いも恐怖も無い。

本当にできると思っている目だ。ジュゥべえはゴクリと喉を鳴らした。

そして彼女は髪をかき上げ、理由を口にする。

 

 

「私のパートナーが。海之がそう言ってくれたからよ」

 

『んなっ!!』

 

『………』

 

 

自分の望む未来を得る為に戦い続けろと。

そしてそれをなし得るだけの力が自分にはある。

運命を変えられるんだと。

 

 

『馬鹿な……!!』

 

「ああ。あと一つあるとすれば――」

 

『な、なんだよ! なんなんだよ!』

 

「私の勘」

 

『ッッ!!??』

 

 

ジュゥべえは口を開けて唖然としていた。

しかしすぐにその口が三日月の様な形と変わる。

 

 

『――フハッ!』

 

「………」

 

『フハハハハハ! アハハハハハハハハハ!!』

 

 

本気だ、ジュゥべえは確信する。本気で言ってやがるのかこの女はと。

なんて馬鹿な奴だ、何てイカれた奴だ。とんでもねぇ愚かな奴が勝ち残った物だと唸り声を上げる。

だがこれが因果と考えれば――!

 

 

『おもしれぇ!』

 

「………」

 

『やっぱテメェが食い下がるか。暁美ほむら』

 

 

ジュゥべえのスイッチが切り替わる。

それは彼だけではない。隣にいたキュゥべえも長い沈黙から解放されたように声を放つ。

 

 

『いいよ。ボクは別に』

 

 

エネルギーをより収集できるチャンスだし。

キュゥべえはその言葉を胸にしまい込む。

 

 

『オイラもいいぜェ! 了解だぜ暁美ほむら』

 

 

二匹の赤い目がギョロリとほむらを捉える。

しかし彼女は怯まない、むしろ涼しげな表情で二匹を睨み返す。

 

 

『たが改めて、あくまでもゲームと言う世界の下にと言うことを忘れるな!』

 

「?」

 

『要するに、さっき言った様に願いの結果を都合の良い様にいじらせてもらうぜ』

 

 

ゲームをやり直すと言っても記憶を継承したままではなく、あくまでもリセットボタンを押す様に。

引き継げる物は無い、ほむらはゼロからのスタートを共用される。

記憶が無くなるという事は、今の暁美ほむらは実質死ぬと言う訳だ。

 

 

『ボクからももう一度確認するよ。それでもいいのかい? 暁美ほむら』

 

「ええ、構わないわ」

 

 

ほむらの心の中にある想いはただ一つ。

 

 

「運命を、必ず変えてやる……ッ!」

 

『了解したよ暁美ほむら』

 

 

ほむらの体が光で包まれる。

そして彼女の手には、ソウルジェムが確かに握られていた。

 

 

『キミの想いはエントロピーを凌駕する』

 

『変えれる物なら変えてみろ!』

 

 

世界が時計の音で包まれる。

 

 

『運命ってヤツをなぁアアアアア!!』

 

「………」

 

 

ジュゥべえの叫びと共に、はじけ飛ぶインキュベーター達。

同じくして世界が光に包まれていく。反対に大きくなっていく時計の音。

その中に雑音として歯車の音が混じっているのは気のせいだろうか?

 

いや、気にする事は無い。

これより新たなる戦いが待っているんだ。その覚悟を固めた方が余程いい。

ほむらはもう一度倒れているまどかに視線を移し、優しく微笑んだ。

 

 

「まどか……」

 

 

必ず変えて見せるから。

寂しい想いはさせたくないから。

 

 

「またね」

 

 

そこで時刻を知らせる鐘の音が響く。

ほむらは意識を失い、深い光の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また……駄目だったッッ!!」

 

 

目を覚ませば、病院の天井。

何度この景色をみたのだろう。もう何回繰り返したのだろう?

悔しさ、苛立ち、悲しみ。多くの感情に心が押しつぶされ、爆発しそうになる。

 

ベッドに拳を叩きつけるが、それでも心の燻りは消えない、

何をしても怒りと虚しさは膨れ上がるばかり。本当に駄目なの? 絶対に無理なの? また心に亀裂が走る。くじけそうになってしまう。

 

 

(いやッ)

 

 

駄目なら、何度でもやり直せばいい。自分にはその力があるんだから。

何度だって。何回だって繰り返せばいい。唇を強く噛んで、強引に納得してみせる。

 

 

(絶対……、絶対に助けてあげるからね)

 

 

親友の姿を強く想う。

失敗して駄目ならやり方を変えればいい。どれだけの犠牲を払おうが必ず、必ず『―――』だけは。

そんな決意を新たに、"少女"は病室を後にする。

 

 

「ッ!」

 

 

まずは何をしようか?

そんな事を考えていたからだろうか。誰かとぶつかってしまった。

年齢がやや上の男性。高校生くらいか? ともあれ、そんな事は少女にとってどうでもいい事だ。

軽く謝罪をして立ち上がると、そそくさと歩き出す。

 

 

「……ッ!?」

 

 

いや、ちょっと待て。

少女は立ち止まり、振り返った。

おかしい。こんな事は"初めて"だった。何回と繰り返した中で、こんな少年を見た事は無い。

それにどこか儚げな雰囲気に、強い既視感を覚えた。デジャブ、と言うヤツなのか?

なんだか初めて会った気がしない。もちろんそんな事を感じたのも初めての事だ。

 

 

「ちょっと、そこの貴方」

 

「?」

 

 

だから話しかける。

少年は振り返ると思わず息を呑んだ。目の前にはナイフの様な瞳で自分を睨みつけている少女がいるのだ。

その鬼気迫る表情は普通じゃない。どこか狂気すら感じられる。一目で分かる、この女は普通じゃないと。

そんな少女に声を掛けられる状況、何がどうなっているのやら。

 

 

「一応謝罪はしたが、聞こえなかったのなら謝る」

 

「そんな事はどうでもいいわ。それより、少し話を聞かせてくれないかしら?」

 

 

なんなんだこの女は――。少年は眉をひそめて後ずさる。

確実に初対面の相手。なのに、なんて大きな態度を取ってくるんだと。

関わってはいけない気がする。少年は適当に少女をあしらって逃げる事を決めた。

 

 

「悪いが」

 

 

だがそこで少年は言葉を止めた。

何か、この少女から感じるもの――。

そして、以前に告げられた『情報』が身体を駆け巡る。

 

 

「お前――ッ!」

 

 

そうか、そう言う事なんだな。

少年は静かに頷くと、目の前にいる少女へむかって手を差し出した。

尚も自分を睨みつけている少女へ、少年はたった一言投げかける。

 

 

「お前が俺の……、パートナーか」

 

「ッ?」

 

 

戸惑う少女。

そんな彼女を遠くから見つめる『目』が。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、こうなるんだよな結局は』

 

『ああ、再び歯車は回り始める。決まっていた事と言えばそうかもしれないね』

 

 

キュゥべえはほむらを見つめながら淡々と呟く。

彼女は運命を変えられるのかな? まあ無理だろうね、彼女はチャンスを棒に振った。

意味の分からない理由で。

 

 

『まあ無理なら終わる。それだけだぜ先輩』

 

『そうだね、その通りだ』

 

 

さて、そろそろ時間だ。

キュゥべえはそう言って見滝原を見回す。

 

 

『そろそろボク達の記憶にロックが掛かる』

 

 

広い様で狭い箱庭だ。

その言葉にジュゥべえはニヤリと笑う。

そして――

 

 

『やっとクソ長い戦いを終わらせられるんだよな先輩ぃ? オイラわくわくするぜぇ!』

 

『そうだね。彼女の力に制約がかかった。おそらくこれが彼女にとって、ボク達にとって最後の戦いになるだろう』

 

 

同時に、それは最初の戦いともなる。

全ては愚かな歯車が紡ぐ戯曲、忘却、そして絶望!

 

 

『さあ今度こそ全てを終わりにさせてもらうよ』

 

 

二つの影は何も表情を変える事なく、そのまま姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

【END】

 

【繰り返す運命】

 

 

 

 

この結末が悲劇なのか、それともこれで良かったのか……。

物語はまだ序章にすぎない。答えは、もうひとつの結末が教えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 







次回エピローグです。
三つのエンディングの内、一つがエピローグに繋がる物になっています。残りの二つはノーマルエンドです。
どれがその一つなのかは、次回明らかになります。

今回選ばなかった他の二つのエンディングは、エピローグ更新後に確認していただくのが一番かなと思ってます。
まあそれは、自由なんですけどね。


ちなみに最後の『この結末が悲劇なのか~』は龍騎原作の台詞なので、特に深い意味はありません(´・ω・)b


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