仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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※注意

66話、67話、68話は続き物ではありません。
それぞれ前回(65話)の終わりからの分岐ルートになっているので、目次から自分の選択した話へお進みください。




第67話 B『戦いを続ける』

 

 

 

 

『戦いを続ける』

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは、戦いを続ける」

 

 

それが、鹿目まどかの答えだった。

 

 

「まどか! お願いだから私を殺してくれ! 戦いを終わらせるんだ!!」

 

 

まどかは強い。しかし限界と言う物も同じくして存在している。

サキはその限界をココに見ていた。ワルプルギスの夜は想像を超えた化け物だった。

そもそも今、サキ達はワルプルギスと戦ったと言えるのだろうか?

ただ魔女の玩具になったと言う印象しか受けない。全てワルプルギスが描いたシナリオ通り。

唯一、抗うとすれば、それはゲームを強制的に終わらせる事だ。

つまりサキを殺して、まどかが――。

 

しかし、それでもまどかが首を縦に振ることは無かった。

サキを殺す事は、まどかにはできない。それがどんなに非効率だと思われても、絶対に殺せないんだ。もう遅いか? いや、だからこそ。

 

 

「わたし、夢でマミさん達に会ったんだ」

 

「夢?」

 

「うん。そこでね、希望の話をしたんだよ」

 

 

皆で幸せになれる道を探したいと願った。

だからサキを殺す選択肢をまどかは選ぶ事はできない。

どんなに可能性が低くても、少しでも生きると言う希望がある選択を取りたいから。

大きな迷惑をサキには掛ける、だがこれだけは折れない。

 

 

「それに、わたし……、サキお姉ちゃんが大好きだから」

 

「まどか……!!」

 

「いっぱい思い出があるの。サキお姉ちゃんと過ごした時の楽しかった記憶が」

 

 

まどかはそこでサキに自分の弱さを吐露していく。

サキも含めて、皆はまどかの事を強い強いと言ってくれる。

それは嬉しいけれど、まどか自身は自分が強いなんて欠片とて思っていなかった。

今だって気を抜けば泣きそうだ、現に声は震え、体も震えている。

 

 

「怖いよ、辛いよ、苦しいよ!」

 

 

でも泣き言を言っても何も変わらないって分かってる。

皆は帰ってこないし、ワルプルギスも消えない。

だから平然を装ってる。装っているだけなんだ。

 

 

「だったら私を殺せば良い! 殺せばいいんだ! そうすればもう苦しまなくて済む!!」

 

「言ったでしょ、わたしはサキお姉ちゃんを殺したくない」

 

 

もしもサキを殺すくらいなら、このまま恐怖に包まれたままで良いとまどかは言った。

まどかは笑みを浮かべているが、顔が見えないサキには、酷く怯えている様に思える。

強がっているのだろう。怖いに決まっている。

ワルプルギスとの力の差が分かってしまえば無理も無い。

 

だがそれでも、それでも――、まどかはサキを殺さないと言う。

まどかは一度決めたことをそう簡単には曲げない。

ソレを知っているからこそ、サキは気がつけば涙を流しながら叫んでいた。

 

 

「分かった! もう分かった! 私がキミを殺す! だから頼むから戦いを終わらせてくれ!!」

 

「………」

 

 

サキはまどかにソウルジェムをコチラに渡すように促した。

サキがまどかを殺し、勝利者となってまどかを蘇生させると。

沈黙するまどか。しかし彼女は答えではなく、思い出話を始めた。

 

 

「さっきの続き。わたしね――、強くなんて無い。強く振舞っていただけ」

 

 

昔だってそうだ。

タツヤが産まれてからは、お姉ちゃんなんだからと言う理由で色々と制限されてきたのを覚えている。

親に甘える事も、わがままを言う事も、何かをねだる事もできない。

それをしてしまえば、決まって飛んでくるのは『もうお姉ちゃんなんだから』と言う言葉。

 

となれば子供心にこう思うのは当然だ。お姉ちゃんになんかなりたくなかったと。

強くなんてなりたくない、弱いままで良かったと。

でもだからと言って、それでタツヤがいなくなる訳が無いし。タツヤの事だって嫌いじゃなかったからより一層複雑だった。

 

 

「そんなとき、サキお姉ちゃんに出会った」

 

「まどか……! キミは――ッ」

 

「お姉ちゃんは、あの時の事覚えてる?」

 

「あ、ああ……、私はキミに励まされたんだな」

 

「ふふ。でもその後、わたし転んじゃって」

 

 

そしたらサキが逆に心配してくれた。

 

 

「一緒にいたいのいたいのとんでけーってしたよね」

 

「……ああ。覚えてる。今でも、鮮明に」

 

「じゃあコレも覚えてるよね? サキお姉ちゃんが言ってくれた――」

 

『じゃあ、わたしがキミのお姉さんになってあげるよ!!』

 

 

サキが思っている以上にまどかは嬉しかった。

姉か兄が欲しくて欲しくて堪らなかったが、コレばかりはどうにもならないと両親に言われて、夜にはひっそりと枕を濡らした事もある。

それにまどかだって無理なのは分かっていた。

どうしようも無いと思っていたのに、サキがまどかの願いを叶えてくれたのだ。

 

サキは優しかった。

本当の姉の様に接してくれたし。

まどかが夢見ていた事を全て叶えてくれた。

わがままを聞いてくれる事。落ち込んでいたら励ましてくれた事。

もちろんそれはさやかも同じ事をしてくれたが、彼女との間にあるのは友情であり、サキとは姉妹愛だとハッキリ区別できた。

それはきっとサキが大人びていたし、事実まどかよりも年上だったからだろう。

 

 

「サキお姉ちゃんは、本当に優しくて、わたしをいつだって受け入れてくれた」

 

 

両親に怒られたときもサキは味方をしてくれた。

例え、まどかが悪いと思う時だって、サキはいつだって肩を持ってくれた。

だからまどかはサキに甘えられたんだ。弱さを見せる事ができたんだ。

 

 

「まだ……、サキお姉ちゃんはわたしの事を妹だと思ってくれる?」

 

「まどか……!」

 

「わたしの、わたしだけの味方をしてくれる?」

 

 

まどかの声が一層震えているのが分かった。

サキは拳を握り締める。こんな形で、まどかの味方をしたくは無かった。

もっと姉らしく、憧れの対象として助けてあげたかった。

サキも、まどかも、気がつけばボロボロと涙を零している。

そしてサキは、何度も頷いた。

 

 

「ああ……、ああ! 私の気持ちは何も変わっていないよ」

 

「じゃあ、わたしのワガママもいっぱい聞いてくれる?」

 

「ああ、ああ! 何でも言えばいい! 何だって聞いてあげるさ!」

 

「じゃあ……! 甘えてもいい?」

 

「当たり前だろ? だって私はキミの――」

 

 

お姉ちゃんなんだから。サキは涙を流しながら微笑んだ。

きっとまどかにも届いているはずだ。この気持ちが、この想いが。

同時にサキは、まどかが何を言いたいのかを悟った。

 

 

「嬉しいなぁ……!」

 

『ヒッ! ヒ………ヒヒッ!!』

 

 

ワルプルギスが、かすかだが再び笑い始める。どうやら麻痺が解除されてきたらしい。

もう時間は残っていないようだ。ワルプルギスが活動を再開すればもう逃げられないかもしれない。

けれど、それでも、まどかはどちらかが死んで終わる結末を望みたくは無かった。

だからワガママをサキに言う。

 

 

「一つ目のワガママはね――」

 

 

わたしはやっぱりサキお姉ちゃんを殺したく無い。

大好きなおねえちゃんを殺したいと思える筈が無い。

だからサキお姉ちゃんが殺して欲しいってワガママを言っても、わたしは聞かない。

逆にわたしのワガママをサキお姉ちゃんが聞いて欲しい。

 

 

「いいよね?」

 

「……もし、嫌だと言ったら君はどうする?」

 

「サキお姉ちゃんと縁を切ります」

 

「あはは。勝てないな……。キミには」

 

 

まどかは二つ目のワガママを口にする。

戦いを終わらせる最も良い方法を否定しておいて、何を馬鹿な事をと言われるかもしれないが、それでもそれがまどかのエゴなのだから仕方ない。

 

 

「わたしね、死にたくない」

 

「ッ!」

 

「今もね、脚が震えてるの……。ガクガクって」

 

 

でも、やっぱりサキお姉ちゃんは殺したくないし、わたしも死にたくない。

それがわたしの希望なんだから仕方ないよね。

殺すとか傷つけるとか、もう嫌。うんざりなんだよぅ。

 

 

「だから、わたし……、サキお姉ちゃんには殺されたくない」

 

「ああ、そうだね」

 

『ヒヒッ! ヒヒヒハハハ! クヒヒハハッ!』

 

 

ビクンと肩が震える。

ワルプルギスの動きが戻ってきた。

だがまどかは怯まない、飲み込まれない。希望はまだ死んでいないから。

沈黙するまどか。多くの想いが複雑に絡み合っているのだろう。

サキもそれを察して何も言わなかった。しかしその中でその情報が頭に流れていく。

 

 

【これにより両者復活の可能性は無し。よって、ライアチーム完全敗退】

 

【残り2人・2組】

 

 

だいぶ遅れて二人の脳内に入ってくる、ほむら達の死亡通告。

だがそれがまどかの背中を後押しする形になった。

ほむらを殺したのは、まどかだ。その上で鹿目まどかは殺めぬ道を歩きたいと言う。

だからこそ、これはワガママなんだ。

サキにだけ打ち明ける、自分の思いを優先させたエゴ。

 

 

「お姉ちゃん。わたし、もう殺したくないし殺されたくも無い」

 

 

それを可能にするには、もう一つしか道は無い。

 

 

「三つ目のワガママ。わたし、ワルプルギスと戦うね」

 

「……ッッ!!」

 

 

拳を握り締め、歯を食いしばるサキ。

止めてくれと言いたかった。まどかに勝ち目は無い、それは彼女だって分かるだろう。

このワガママを受け入れる事は、まどかを見殺しにする事と同じである。

そんなの、認めたくは無かった。

 

無かったが――、約束したじゃないか。

姉がどうのこうのと言う話をしていたが、本心はもっと別のところにある。

姉だけならば、妹を心配すると言うていで話を進めれば無理も通せる。

しかし、まどかが今本当に求めているのは、弱さを受け入れてくれる人ではないか。

 

彼女は常に『強い』と錯覚されてきた。

他者を思いやる心。時に自己犠牲となっても誰かを守ろうとする精神。

常に受身のまどかが弱さをぶちまけられる相手。それはもしも真司が生きていれば、彼になっていたのかもしれない。

 

だがもう真司はいない。死んだのだ。

だからこそ、誰かがまどかの弱さを分かってあげなければならないんじゃないか?

今まで沢山まどかに守られて来たからこそ、どうしても通したいワガママくらい、聞いてあげなければならないんじゃないか……?

 

 

「ごめんね、お姉ちゃん。でもわたしどうしてもこの想いだけは通したいの」

 

「珍しいな、キミがそこまで意地を張るなんて……」

 

「幻滅した?」

 

「馬鹿を言うな。何をしようとも、まどかはまどかだ。私の大切な人だよ」

 

 

珍しいということは、逆を言えばそこまで譲れない想いを抱いたと言う事だろう。

だからサキは、決意する。

 

 

「好きにすればいいさ」

 

「お姉ちゃ――」

 

「ただし! 一つだけ条件がある」

 

「え?」

 

 

その時だった。

耳をつんざく様な笑い声が響き渡ったのは。

見ればワルプルギスが再び活動を再開した様だ。

 

痺れていた事に苛立っているらしい。

魔女の周りには、まどかとサキを除く魔法少女の影が武器を持ってヘラヘラと笑い声をあげている。

いやそれだけじゃなく、参加者以外の影達も背後には無数に控えていた。

そして浮かび上がるビル群、多少本気を出してくるらしい。

 

まどかは思わず汗を浮かべて一歩後ろへ下がる。

時間停止を持っているのに加え、あの使い魔の量。そして巨大なビル。

無数の殺意につい、怯んでしまう。

 

 

「!」

 

 

コンコンと音がして、何かが転がてきた。

まどかが視線を移すと、それはサキのソウルジェムだった。

瓦礫の隙間から投げたのだろう。ポカンとするまどかに、サキはそれがワガママを許す条件だと。

 

 

「私も一緒に行く。連れて行ってくれ」

 

「!!」

 

「嫌とは言わせない。もしも断られたら私はキミを殺すぞ」

 

「……嘘ばっかり」

 

 

しかし、そう言われては仕方ない。

まどかは小さな笑みを浮かべて、サキのソウルジェムを服の中にしまう。

そして彼女の周りを旋回するドラグレッダー。そう、そうだ、彼もいるんだ。

それを思えば、不思議とまどかの心から恐怖が消えていく。

むしろ溢れんばかりの希望が湧いてきた。

 

 

「一人じゃない! わたしの周りにはドラグレッダーが、お姉ちゃんがいてくれる!」

 

 

だから、まどかは人の為に戦える!

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ずっと一緒だ。まどか!」

 

「うん!!」

 

 

まどかは笑顔を浮かべてドラグレッダーに飛び乗った。

弓を構えて光の翼を広げる。その姿はまさに女神とも言える物だ。

多くの絶望が向こうにある。多くの苦しみが向こうにはある。

しかし、まどかはもう怯えたりはしない。だってその向こうには、きっと何よりも大きな希望があると信じているから!

 

 

「ハァアアアアア!!」

 

 

まどかの声と共に飛び立つドラグレッダー。

襲い掛かってくる使い魔に次々と光の矢を命中させていき、追撃にドラグレッダーが炎を発射してトドメをさしていく。

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 

ワルプルギスの笑い声と共に、次々と影魔法少女達がまどかへ突撃していく。

それはまるで黒い雲のようだ。しかしまどかが放つ桃色の光は、どんなに黒に囲まれようがその輝きを減らす事は無かった。

ワルプルギスの笑い声と、使い魔の笑い声が不協和音を奏でるが、その中でもまどかの声はよく響く。

 

 

「スターライトアロー!!」

 

 

また一筋の光が見えた。

ほら、そうしているとまた光が灯る。次々と輝く桃色の星。

だが一方で、四方八方から黒が集うのも事実であった。

重なる笑い声と飛来してくる影魔法少女達。

使い魔は眩し過ぎるまどかの光に吸い寄せられ、それを消そうと必死だった。

 

迫る恐怖、覆いかぶさる絶望。

しかしどれだけの大群が押し寄せようとも、まどかは怯まない。

彼女の中にある信念は折れてはいない。まどかは勝つ気なんだ、ワルプルギスの夜に!

 

 

『キャハハハッ! イヒャハハハハハハハ』

 

「―――」

 

 

その時、まどかの前に先ほどの倍はあろうかと言う影魔法少女とビルが見えた。

いや、ビルではなくそれは学校。避難所として使われていた物だった。

どういう事を意味しているのか。分からないわけじゃない。

 

 

「――ッ!!」

 

 

だが、まどかは諦めない。

必ず勝つんだ。勝つと誓ったんだ。

多くの命を弄ぶこんなゲームを絶対に許さないし、認めはしない。

その時、まどかがついに黒に覆い尽くされる。だが彼女の心は死なない。

絶対にワルプルギスを倒すと心が言っているから!

だから、必ず――ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【浅海サキ・死亡】

 

【これにより両者復活の可能性は無し。よって、ファムチーム完全敗退】

 

【最終二組の内、一組がワルプルギスの攻撃により脱落したため、勝利条件はワルプルギスの討伐のみとする】

 

【残り1人・1組】

 

 

必ず――ッッ!!

 

 

「う……っ! ひぐっ! うあぁ……ッッ!」

 

 

涙を流そうとも、まどかは折れなかった。

いや、折れそうになる心を叱咤して弦を引き絞り続ける。

約束したんだ、必ず勝つと。自分自身に!

 

 

「ウアァァァアアアアア!!」

 

 

その瞬間、激しい光が巻き起こり、黒の大群を飲み込んでいく。

怒りと悲しみが魔力を爆発させたのだろう。だが光が晴れた時、再びワルプルギスの笑い声が耳を貫く。

故にまた、まどかもありったけの声で叫ぶ。

その狂った笑い声を吹き飛ばすかの様に。

 

 

「ワルプルギスッッ!!」

 

『ウフフフ! ヒヒヒヒ! ヒヒハハハハハッッ!!』

 

 

無数の雑魚を蹴散らしたまどか。

暗黒の雲を抜けてワルプルギスと参加者の影魔法少女達の元へたどり着く。

しかしその姿は何とも痛々しい物だった。体の至るところに影魔法少女達の武器が突き刺さっており、そこからは大量の血が流れ出ている。

ピンクのかわいらしい服と比例して赤黒い染みが目立っており、凄惨さが引き立っている。

 

髪を結んでいたリボンも切り裂かれ、髪を下ろしたまどかは、頭から血を流しながらもワルプルギスの眼前へと迫る。

光の翼は折れ、弓はボロボロになり、それでも彼女が絶望に呑まれず勝利を目指すのは、ひたむきに目指したい世界があったからではないだろうか。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

残念だが、ドラグレッダーも限界を迎えていた。

体中に剣や槍が突き刺さっており、角は折れ、体の至るところからは血の代わりに火が吹き出ている。

片方の目は潰れており、牙も砕け、尾は切り落とされていた。

 

何よりも体は既に粒子化が始まっている。

今まさに死を迎えようと言う状態で突き進む事ができるとは、ドラグレッダーもまたその心に希望を宿しているからだ。

 

 

(真司さん、わたし……、これで良かったのかな?)

 

『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

まどかは両腕を前に突き出して思い切り叫ぶ。

涙を流しながら、傷だらけの体で、大きく両手を旋回させる。

それに合わせて彼女の周りを、ドラグレッダーが炎を撒き散らしながら移動する。

 

 

(ううん、良いよね)

 

 

貴方ならそう言ってくれる筈。

まどかは色々な思いを込めて飛び蹴りの姿勢を作る。

そこに合わせる炎。まどかの叫びと共に、紅蓮の弓矢が絶望に向けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!

 

 

「う……」

 

 

リリリリリリリリリリリリリリリリリリ!

 

 

「う……、むぅ」

 

 

パチン!

 

 

「はぅ」

 

 

ぬいぐるみに囲まれたベッドからムクリと起き上がる桃色の髪の少女。

彼女は時計を見つめてしばらく呆けていたが、ハッと体を揺らして我に返る。

随分とまた懐かしい夢を見ていた。

あの時の事を思い出して少し表情を強張らせるが、自分を呼ぶ母や父の声に気づいて、ニッコリと笑みを浮かべて部屋を出て行く。

 

 

「行ってきまーす!」

 

 

朝の支度を完了させ家から出発する少女。

彼女が向かうのは近くにある幼馴染の家だ。

するともう既に家の前では彼女が鞄を持って遠くの方を見つめていた。

鹿目まどかは、浅海サキに抱きつくようにして飛び掛る!

 

 

「うわぁ!」

 

「えへへ! おはよう、おねーちゃん!」

 

 

驚くサキと悪戯っぽく笑うまどか。

サキもすぐに声を出して笑い、二人は通学路へと足を進める。

その途中で、彼女たちの元へ駆け寄る少女達が見えた。

 

 

「おっはよー! サキさん、まどかぁ!」

 

「二人ともおはようございます」

 

「うん! おはようさやかちゃん仁美ちゃん!」

 

 

まどかの周りに集まるさやかと仁美。

じゃれあう三人を見ながらサキはちょっとだけ寂しげに、けれども優しい微笑をまどかに向ける。

そんなサキを呼ぶ声。振り向くとそこには制服姿で鞄を持ったマミとかずみがやってくる。

そしてマミの後ろでは、少しムスッとした表情の杏子が制服姿で鞄を担いでいた。

 

 

「おはようマミさん、かずみちゃん」

 

「おはよう鹿目さん。今日もいい朝ね」

 

「おはよー!」

 

 

まどかは視線を杏子に移して、ニッコリと笑う。

 

 

「おはよう、杏子ちゃん」

 

「あ……、ああ、おはよう」

 

 

頬をかいて目を逸らす杏子。

そんな様子を見て、さやかがブッと吹き出した。

 

 

「何? あんたもしかして照れてる?」

 

「う、うるせーな! んな訳無いだろ!」

 

「あら、みんなで一緒に登校できるのが嬉しいって朝言ってたじゃない」

 

「マ――ッ! ななな何言ってんだマミ!!」

 

「んー、素直じゃないな杏子ちゃまは」

 

「うるせぇな! ぶっとばす!」

 

「おーコワ! あははっ!」

 

 

走り出す杏子とさやか。

まどか達はその様子を見て皆で笑っていた。

そして、その光景を同じくキュゥべえとジュゥべえも確認していた。

 

 

『まさか、最強の魔女であるワルプルギスを、あの状態から倒すとは』

 

『規格外だぜ鹿目まどか!』

 

 

赤い瞳が、笑顔の鹿目まどかをしっかりと捉えていた。

まどかはワルプルギスに勝ったのだ。

あの圧倒的不利な状態から勝利を収める事になるとは、流石のインキュベーター達も予想外の結末だったと言えよう。

 

 

『旧最強は、新最強には勝てなかったか。世代交代ってヤツだな』

 

『それだけ彼女が背負った因果が膨大だったと言う事だろうね。魔力の質も量も次元が違っていたと言う事かな』

 

 

あるいはドラグレッダー。

城戸真司の残骸が予想以上に力を持っており、まどかに呼応する事で未知数の力を発揮したとすれば――?

とにかく、まどかは勝利した。それは事実だ。

なんにせよ普通に考えればあの状況から勝つと言うビジョンは想像できなかった。

それでも彼女が勝ったのは、チープではあるが、『人の心の力』とでも言えばいいのか。

 

 

「ほーむーらちゃん!」

 

 

インターホンの音がして、しばらく経った後にアパートからほむらが出てきた。

毎日毎日迎えにきてくれるまどか達に朝の挨拶をするが、少し表情は戸惑いがちである。

少し前まで友達が一人もいなかったと思っていたほむらにとって、ここまで大人数が迫るように家の前に来るのだから。

 

 

「行こう? ほむらちゃん」

 

「ええ」

 

 

それでもほむらは笑みを浮かべて。まどかと共に学校を目指す。

その途中、まどか達の方へと歩いてくる二人組みが。

まどかは彼女たちに気づくと、手を振って笑顔をまた一段と輝かせる。

 

 

「織莉子さん! キリカさん!」

 

「おはようございます、まどかさん。皆さんも」

 

「ああ、桃色ピンクに恩人達じゃないか」

 

 

皆とは制服が違う織莉子。どうやら反対側の駅を目指しているらしい。

それについて行くと笑うキリカ。マミとサキに遅刻すると伝えて欲しいと。

 

 

「週に一回は絶対に織莉子と一緒に登校しないと死んでしまうんだよ私は」

 

「もう、困った人ね。もうすぐテストなのに」

 

 

それを聞いた杏子は、フンと鼻を鳴らしてさやかの頭をムンズと掴む。

 

 

「おい聞いたか馬鹿、もうすぐテストだってさ。お前の悲惨な点数が今からでも目に浮かぶよ」

 

「はぁ? アンタ人の事言えんの? って言うか文字書けんの?」

 

「なんだとぉお……?」

 

「もう、駄目よ二人とも喧嘩しちゃ」

 

 

相変わらずだなと笑うサキ。

すると、集団で登校している小学生の姿が見えた。

まどかはその中に知り合いを見つけて手を振る。すると向こうも笑顔で手を振りかえしてくれた。

 

 

「今日学校終わったらアトリに行くの! ゆまちゃんも行く?」

 

「うん! いくいくー!」

 

 

千歳ゆまはランドセルを背負って元気に手を振っていた。

結局、ゆまはマミが預かる事になって、現在は杏子と共に三人で暮らしているとか。

そうしていると背後から声が。

 

 

「わたしも行きたいな、行っていい?」

 

「わわ!」

 

 

まどかに抱きついてきたのは双樹あやせ。

織莉子と同じ制服を着たあやせは、駅に来ない織莉子を不思議に思ってココまで迎えに来たらしい。

後ろには同じく違う制服姿のニコとユウリが。

 

 

「ああ、ごめんなさいあやせさん。キリカが中々分かってくれなくて」

 

「私は織莉子と一緒に登校したいんだーッ!」

 

「あはは、またなのぉ?」

 

 

面白がって笑っているあやせ。

まどかは彼女たちにも等しい笑みを向けて挨拶を行う。

 

 

「あやせさんも一緒に行きましょう! うん、皆で一緒に」

 

「本当! やったぁ☆ 二人も良いよね?」

 

「ああ、あそこのケーキうまいからな」

 

「んあ、プリンもマジうまいし」

 

 

携帯でネットサーフィン中のニコと、ストローを齧ってタンブラーをブラブラと弄っているユウリ。

そこでハッとユウリと杏子の視線がぶつかりあう。

バチバチと火花を散らす二人。

 

 

「おい佐倉杏子ォ、今度のテストが終わったら何があるか分かってるよなぁ?」

 

「見滝原主催の合同体育祭だろ? 逃げんなよユウリ」

 

「は? おいおいおい、前回負けたヤツが何言ってんだ?」

 

「グッ! あれは総合での話だろ? 個人競技では全てアタシが勝ったのを忘れたのかよ」

 

「ッ、まあ確かにパン食い競争じゃアンタには勝てなかったが……、ほら、アタシってば別に食い意地とか張ってないからさ、さもしい杏子ちゃんには勝てないっていうのか?」

 

「んだよ負け惜しみかユウリさん。情けないねぇ」

 

 

ビキビキと青筋を立てて睨み合う二人に、サキは大きなため息を。

こんな事では学校に遅刻してしまう。

しかしまどかの楽しそうな表情を見てしまえば、それもいいかなと思ってしまうのだから、困った物だ。

 

 

「ほら、皆そろそろ行きましょう」

 

「うん、そうだね!」

 

 

織莉子たちと別れて再び学校を目指す。

学校が終わったらアトリに皆で行こうと約束を交わして。

再びはしゃぎながら学校を目指すまどか達。

キュゥべえとジュゥべえは相変わらず、まどかをジッと見ていた。

 

 

『みんなで喫茶店か。ゲーム中は考えられない事だったね』

 

『まあ、それがアイツの希望だったからな。叶って良かったんじゃねーの?』

 

『そうか希望か。それが彼女の魔力に直結したとも考えられる』

 

『この景色を作る為にヤツは限界を超えた。成る程、希望ってヤツは燃料みたいなモンだな』

 

 

どうしても叶えたい願いがあったから、まどかは勝った。

無欲そうに見える彼女が、初めて喉から手が出る程に追い求めたものが『他者との幸福』とは、まどからしいじゃないかとジュゥべえは笑う。

いずれにせよ、それが結果としても今のまどかの笑顔に繋がったのならば、それもアリなのかもしれない。

 

時に自分を犠牲にしても他者を尊重するまどかの生き方には、つくづく疑問を感じていたジュゥべえではあったが、今見える笑顔はまぎれも無い本物の笑顔だ。

作り笑いではなく、たくさん傷つけられた杏子やユウリにも等しく笑みを向けている。

話を聞くに、学校が終わればアトリに皆で向かうとか何とか。

きっとそこには真司や手塚、蓮たち騎士の姿もある事だろう。

 

 

『彼女にとって、これ程に素晴らしい世界は無いだろうね』

 

『まさに思い描いた希望の具現だ。勝者に与えられるには相応しい世界って所か』

 

 

鹿目まどかはこれからも友人たちに囲まれて幸せに暮らす。

何とも素晴らしいハッピーエンドではないか。

この凄惨なゲームが招いた結末とは、とてもじゃないが思えない。

 

 

『なあ、お前もそう思うだろ?』

 

 

ジュゥべえは、口が裂ける程の笑みを浮かべて『彼女』を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

 

ジュゥべえの予想とは違い、『彼女』が最初に浮かべた表情は、ジュゥべえと同じく笑みだった。

もちろんそれは、この幸せな景色が面白いから浮かんだ物ではないとすぐに分かったのだが。

 

 

「これがハッピーエンドなら、このゲーム――」

 

 

携帯の画面を見ながら、体を震わせて笑う。

貼り付けたような笑みだ。笑わなければやっていられない。

全く面白くないのに笑っていた。

 

 

「とんだクソゲームだぜ……! 茶番も茶番だ!」

 

 

神那ニコは携帯から視線を外すと空を見上げる。

ワルプルギスが降らせた雨で生まれた水溜りや、川の水を空に引き寄せ。

その水の粒が集まり作り上がる(もや)

それはモニターとなり、ニコの携帯にあった映像と全く同じ物を映し出す。

そう、鹿目まどかが友達と楽しく笑っている、希望に満ちた映像が。

 

 

「全部……ッ! 全部幻想じゃねーか!!」

 

 

その映像を映し出しているのは、他ならぬ鹿目まどかであった。

尤も、その姿は既に『鹿目まどか』と言う小さすぎる器からは、はみ出していたが。

 

 

『まあ、当然だよな』

 

 

ジュゥべえは何の疑問も持たずにそう呟く。

現在ラジオやテレビ、携帯など、映像や音声を放つ物は、全てニコ達が見ている『幸せな映像』になっている事だろう。

ジュゥべえが見上げるのは、黒い山――、に見間違えるほどの魔女であった。

 

無数の黒い繊維が交わる事で生まれるその頂上部分は、天を仰ぐ人型のシルエットが辛うじて確認できると言った所だろうか。

彼女は世界の絶望を取り払うために祈りを掲げている筈だ。

幾千の祈り、幾億の願い、それは全て彼女が希望へと人を導くためのマホウ。

 

 

『ついに生まれたね。究極の魔女が』

 

『鹿目のヤツも、意外と黒い部分があるんだな』

 

 

それは意図してやった事ではないが、結果としては十分酷い話だと、ジュゥべえはケラケラ笑っていた。だってそうだろう? 鹿目まどかは希望を示す為にワルプルギスと戦い、その勝利を諦める事は無かった。

そしてまどかは見事ワルプルギスに勝利するのだが――

その代償に世界の全てを、希望と言う名の絶望に沈める事となるのだから。

 

 

「あれが……、鹿目まどか!?」

 

 

ニコも知っていたとは言え、腰を抜かして魔女を見上げている。

離れた場所にいるとは言え、巨大なその体の全てを視界に捉える事ができない。

そして感じるプレッシャーもまた、ワルプルギスの比では無かった。

 

 

『クリームヒルト・グレートヒェン。キミ達人間にとってはゲームオーバーと言った所かな』

 

 

キュゥべえの言葉に、ニコはゴクリと喉を鳴らして青ざめる。

一応笑みは浮かべているものの、内心では今すぐにでも狂ってしまいそうな程に恐怖を感じていた。

鹿目まどかは諦めなかった。極限状態になるまで、限界がその身に迫っても、希望を諦めなかった。

 

それが魔力を増幅させ、一撃の威力を規格外まで跳ね上げたのはプラスであったろう。

しかし魔力を増幅させたと言うのは、同時に消費される魔力もそれだけ多くなったと言う事だ。

まどかはそれに気づかず、己の持てる力全てをワルプルギスにぶつけた。

そしてその結果、まどかの魔力は底をつき、絶望の扉が開かれたのだ。

 

 

『ワルプルギスと相打ちになっただけでも奇跡みたいなモンだがな』

 

『キミ達には起こらない方が良かった奇跡だろうけどね』

 

「……ッッ」

 

 

鹿目まどかはワルプルギスを倒したが、同時に魔女になった。

と言うよりも魔女になったから倒せたと言えばいいのか。

それが疑う余地の無いただ一つの真実である。

 

ワルプルギスと言う、多くの文明を破壊した人類の脅威は消え去ったが、今ココに新たなる脅威が誕生した。

いや、それは脅威とは少し違う。

今これより齎されるのは究極なる救済。紛れも無い救いの儀式。

 

 

『ワルプルギスは多くの文明を終わらせた』

 

『そして今、鹿目まどかは、世界その物を終わらせるだろう』

 

「アイツが、世界を……! 地球を終わらせる――!?」

 

 

内心、そんなまさかと言う想いがあったのは事実だ。

いくらまどかが強いとは言え、所詮は『強い』と言うカテゴリからは出ない。

杏子達に圧される事はあったし、無敵ではなかったはずだ。

しかし今ならばハッキリと分かる。間違いない、ヤツは、鹿目まどかは、クリームヒルト・グレートヒェンは――ッッ!!

 

 

「世界を、殺す――ッ!!」

 

『殺すとは違う。救済だよ、彼女にとってはあくまでもね』

 

 

見えるだろう?

あの笑顔に満ちた世界が。キュゥべえはニコの携帯を示して言った。

全ての映像は魔女が見せる希望である。

今現在まどかは友達に囲まれて学校を目指しているところだ。

その中には『ニコ』もいると言うのが何よりも違和感を覚える。

だから分かってしまうのだ、あの映像がニセモノであると言う事が。

 

 

「私は今ココにいる!」

 

 

だからあの映像に映っているニコが、皆が、偽りだと理解してしまう。

 

 

『本物さ、彼女にとってはね』

 

『アイツの中には、あの姿が具現してるんだよ』

 

 

今は幻かもしれないが、まもなくそれは現実となる。

この下らない絶望に満ちた世界を、まどかは見限り、優しさと希望で包まれた一切の苦痛が無い世界を自らの手で連想する。

それがリアルかファンタジーかは関係ない。

まどかにとって、希望がある方こそが真実なのだから。

 

 

『まあ、ざっと十日と言った所かな』

 

「な、なにが……?」

 

『お前らの世界。この地球に存在する全ての生きとし生ける生命が滅びるまでの時間だよ』

 

「ッ!」

 

 

徐々に弱り、10の日を数えた時には全ての生命がまどかの中に導かれるだろう。

そして彼女が構成する究極の安らぎの中にて、新たなる役割を与えられるんだ。

もちろんそこには自我は無い。そして命が消えた世界に未来も無い。

だが人にとって世界とは、救済の魔女が生み出した物のみと変わる。

まどかはそこでいつまでも、いつまででも、安らぎに満ちた時を過ごすのだろう。

 

 

『君達の生命エネルギーを依り代としてね』

 

「……は、はは! 難しい言葉を使ってはぐらかすなよ」

 

 

ニコはそう言ってヨロヨロと立ち上がる。

何が救済だ、何が安らぎだ、何が希望だよ。

自我を失えばその後にどんな物が待ち受けていたって関係あるもんか。

だってもうそれは死と同じなのだから。

 

 

「つまりこう言う事だろう?」

 

 

世界中の命はお菓子や紅茶。

救済の魔女はそれを片手に、優しい優しい世界を思い浮かべて妄想に浸り続ける。

 

 

「クソみたいなただの一人遊びだ!」

 

『ははは! 成る程、言いえて妙だな』

 

 

まあだが一つ訂正するとすれば、救済の魔女はそれを意図してはいない。

魔女が見る景色は、彼女自身どう言う物なのかは知らぬ物。

しかし一つだけ分かるとすれば、それは悲しい物語などではなく、喜びと希望に満ち溢れた世界だ。

 

 

『お前だって見れば分かるだろ? アレだけ争っていた参加者共が今じゃ皆で笑い合っている』

 

『キミ達の価値観の一つでは、死が全てのしがらみを解放してくれると信じる所もあるんだろう?』

 

 

自殺をする人がいい例だ。

彼らは己を殺す事で、世の中に数多存在する辛い事から撤退できると考えている。

では何故その思考にたどり着くのか。それは死ねば一切の苦痛を覚えなくて済むと言う想いがあるからに違いない。

 

 

『だとすれば、今からこの世界に齎される死は、決して忌むべき物では無いと思うのだけれど』

 

「……!」

 

 

その言葉が。

キュゥべえが何気なく言った言葉が、ニコの心を大きく抉る。

 

 

『救済の魔女が齎す死に痛みは伴わないよ。尤も、自分がこれから死に向かうだろうと言う恐怖は抱くかもしれないけど』

 

『救済の魔女の死は誰しもに等しく与えられる。生まれたばかりの赤ん坊も、死に掛けのジジイなんかも同じ時間にて弱り、死に至る』

 

 

とは言え、恐らくはそう綺麗には済まないだろうが。

 

 

『あれだけの大きさだ。ましてや魔女結界を必要としない救済の魔女は、多くの人間に確認されていくだろうね』

 

『もうテレビも携帯も使えねぇし、流石に事の異常さはどんな馬鹿にだって分かる筈だ』

 

 

そして半分の五日目ともなれば、体の異変は確実に現れるだろうから、誰しもが死へのカウントダウンが刻まれているのだと把握する。

動物たちはそれを何の事は無く受け入れるだろうが、知恵を持った人間ともなれば話は変わってくるだろう。

 

 

『これはあくまでもボクの予想だけど、きっとパニックが起こる』

 

 

皆がそうとは言わないが、一部の人間の心の中には、きっとこんな事を思い浮かべる者がいる筈だ。

どうせもうすぐ死ぬのだから、何をしても構わないと。

 

 

『人は社会と言う囲いの中に住んでいるからこそ、ルールを守る』

 

『その囲いも、ましてや理性もぶっ壊れたら、浅倉みてぇになるだけだわな』

 

『それは五日目を待たずして、かもね』

 

 

人間の常識で考えれば、あんな魔女を見れば世界の終わりを信じざるを得ないんじゃないかな。

ううん、でもきっと抵抗はするだろう。キミたちはそう言って進化を遂げてきた生き物だからね。

 

 

『もしかしたら核を使うかも』

 

『オイラの見立てじゃ100発くらいぶち込めば意外と死ぬんじゃねーかとは思うぜ』

 

「そんな事をしたら、魔女を倒してもその後の問題が多すぎる」

 

『そう言うことだね。まあそもそもの話、人間ではあの魔女に勝つ事は不可能だろうけど』

 

 

とにかく残り10日は、人類にとって歴史的な毎日になる事だろう。

多くの罪が生まれ、もしかしたら多くの名言や名シーンが生まれるかもしれない。

とは言え、それを後世に語り継ぐ物がいないのは残念だが。

 

 

『でも、手紙なら残せるかも』

 

「そんな事して……、いまさら何になる」

 

『お前らはしぶてー生き物だ、きっと一度や二度滅びようが、また長い時を掛けて生命は誕生するよ。たぶんだけど』

 

 

ジュゥべえは無責任に、投げやりに言葉を放っていた。

なんだかニコに対する態度が冷めて来た様な?

ああ、きっと彼はこう思っているに違いない。

どうせ十日後に死ぬ奴に何を話しているんだろうかと。

 

 

「………」

 

 

ニコは歯軋りを行い、救済の魔女を見上げる。

鹿目まどか、彼女と話した時の記憶が蘇る。

何故ニコが彼女とコンタクトを取ったのか。

それはまどかのひたむきに希望を求める心が、眩しかったからではないのか。

それが目障りであり、同時に羨ましかったんじゃないのか?

 

 

『わたし……、自分に自身がなくて、でもある時に変われた気がしたの』

 

『自分に自身が持てた、自分を好きになれた』

 

 

人を守る為に戦う魔法少女。

誰かを助けたい、それが願いだと言っていたか。

 

 

『わたしは、そんなわたしであり続けたいから』

 

 

守ると決めた皆の為に。そう笑顔を向けていた。

 

 

『そして自分のために』

 

「……その結果が、それを願って戦ってきた結末がコレかよ。笑っちまうね、いやいやマジで笑えるわ」

 

 

ニコはギリギリと拳を握り締め、血が出る程に唇を強く噛んで救済の魔女を睨んでいた。

 

 

「馬鹿野郎……!」

 

 

ニコは手すりを殴りつける。

ソレは誰に向けた怒りなのか、ニコ自身も分からなくなっていた。

色々な感情が交じり合って、おかしくなりそうだ。

下手に知りすぎたからこうなってしまったのか。

 

 

『珍しい反応だね、神那ニコ』

 

『ハッ! でもそもそも考えてみれば、鹿目ちゃんがああなったのはテメェら参戦派のせいでもあるんだからな?』

 

「……ッ」

 

『お前らがもっと鹿目の言う事に耳を貸して、ちゃんと手を取り合っていればこんな事にはならなかったかもしれない! そうだとも、はじめから全員でワルプルギスを倒していれば!』

 

「うるさいヤツ……」

 

『ヒヒヒ、正論だろうがよ!』

 

『まあでも、このゲームを進める中で、キミの中に大きな心の変動が何度か見られたよ』

 

 

その中には鹿目まどかが与えた影響もあったとキュゥべえは言う。

 

 

『だから神那ニコ、キミはあそこに向かったんだろう?』

 

「ッ!」

 

『ん? あそこ?』

 

『ああ、杏子やユウリから逃げたキミは――』

 

「………」

 

 

何が何でもと、逃げ延びたニコが向かったのは、とある場所。

そこは鹿目まどか――、と言うよりは城戸真司に大きく関係する場所であった。

その名もBOKUジャーナル。真司の働いている会社だ。

そこでニコは『ある事』をして、その後に展望台に向かったのである。

 

 

『まさかテメェ! 全部ゲロったのか!』

 

『不可解な行動だったね。あんな事をして何になるって言うんだ』

 

「別に……。ただ、なんとなくさ」

 

 

もともと信じてくれるとも思ってなかったし。ただなんとなく、気まぐれだった。

ニコはそう言いながらクールダウンを行っていた。

手に持った携帯には、皆で仲良く授業を受けているまどかの姿がある。

 

寝ている杏子。

外を見ているさやか。

まじめに授業を受けているかずみやまどか、ほむら。

当たり前の日常があり、それがまどかが望んだ希望なんだと。

 

 

「本当、いい子ちゃんだねコイツは」

 

 

ニコは携帯を額に当てて目を閉じる。

まどかが望む幸せな世界の音を、脳に直接刻み込むかのように。

そしてニコは大きく息を吐き、直後吹き出す様に笑った。

ココロの変化、確かにまどかの影響はあったか。

 

 

「知ってるかインキュベーター共」

 

『『?』』

 

「人間にはどうしようも無い屑がいる」

 

 

例えば子供の時に拳銃で友達殺して、その罪から逃れたくて、でも目を背ければ辛くなるから生き方を他人まかせにして。

そして他者を傷つけても、ソイツが私に頼んだからと割り切ることで罪の意識を殺す。

そして二転三転する意見の中で、まだ自分の答えを出せず。

常に言い訳を用意して誰かのせいにする準備をしているヤツとか――。

 

 

「あとはまあ、普通に屑ってる奴らとか」

 

『だいぶ省略したな、おい……』

 

「そこらへんは流石に分かるだろ?」

 

『確かに、同じ人間にも酷く低俗な者を時折見かけるね』

 

「そうそう。でもな――」

 

 

屑がいれば、それはもう、むせ返る程の聖人も必ずどこかにはいらっしゃる。

その数は屑と比例はしていないかもしれない。

100人の屑が生まれても、1人くらいしか聖人は生まれないのかもしれない。

でも、確かに存在しているんだ。ニコは参加者を観察するうちに、それを見つけた。

 

 

「鹿目まどかは聖人だよ。本当の本当」

 

 

人は良い面も悪い面も必ず持ち合わせている。

それはまどかも例外では無いかもしれない。

しかし少なくとも、その『悪い面』で誰かを傷つける事は無いのかもしれない。

 

そう思えるだけの姿がまどかにはあった。

それに城戸真司、彼はまどかほど自己犠牲の念も抱えていないし、完全なる聖人と言うにはやや抜けすぎている。

しかし彼もまた、このゲーム下において傷つけぬ選択を選び続けた男だ。

その選択は素晴らしい物ではないか? ニコは今更そう思うのだ。

 

 

『何が、言いたいんだい?』

 

「いや別に。本当気にすんな」

 

 

ただなんとなく。

その点を踏まえて、ワルプルギスと戦うまどかを見ていたらば思ってしまったのだ。

 

 

「かわいそう、だなって」

 

『ハハハ、同情かよ。何を今更!』

 

「今更さ。でも覚えてしまったのは仕方ないだろ」

 

 

なんかこう思うのさ。

ニコは頭をかいて気だるそうに口を開いた。

なんだかいつもの調子が戻ってきたような気がする。

 

 

『思う? 何を』

 

「なんだかさ、鹿目の描く世界も悪くないのかもって」

 

 

最初は気持ち悪いとかしか思っていなかったけど、まどかの描く夢の中にいた自分(ニコ)は楽しそうに笑っていた

満面の笑みを浮かべていたじゃないか。

 

 

「鹿目まどかは本気であの世界を描いていたんだな」

 

『誰もが幸せになる。とんだ夢物語だ』

 

「ああ。でもそれが一番良い」

 

 

ニコは携帯の画面を食い入る様に――、悔いるように見つめる。

お昼ごはんをみんなと一緒に食べているまどか。

楽しそうだ、幸せそうだ。あの杏子ともじゃれ合い、笑みを浮かべている。

嬉しいんだろう。彼女と分かり合えたことが。

それは幻なのだが、まどかは本気で希望の世界を成しえたと思っている。

それを見ていたら、何とも気の毒だと思った。

 

 

「正直、ちっと前までなら、こんな世界滅んでもいいかもって、思ったかもな」

 

 

けれどなんだか引っかかってしまう。

屑な自分はともかく、まどかは滅びるべき存在なのだろうか?

鹿目まどかは、絶望の魔女として認識されるべき事をしたのだろうか?

ああいや、これからするんだろうが、なんだかソレが引っかかってしまう。

 

 

「安直か? 安っぽいか? いくらなんでもいきなり過ぎるか?」

 

 

いやいや、でもこの想いを抱いたのは嘘じゃない。

鹿目まどかがこのまま終わるなんて、いくらなんでも可哀想すぎやしないだろうかと。

 

 

「最初は思ったよ。何をアホな事をぬかしとるんだこのイカれピンクはと」

 

 

協力だのなんだのと、甘っちょろい考えを掲げるのは戦うのが怖いからだろう。

勝つ自信がないからだろう。願いを複数叶えられる権利を捨てなきゃいけない意味も分からんし、本気でムカついていたと。

 

 

「でも、でもな? 今考えるともしかしたらちょろっと嫉妬もあったのかもしれない」

 

『?』

 

「私はきっと、このゲームで裁かれる事をどこかで望んでいた」

 

 

本当はこのゲームで死ぬ事を望んでいたのかもしれない。

もちろんそれは心のどこかで、と言う話ではあるが……。

 

 

「誰かに裁いてもらえる事を望んだ。穢れをもった私は聖人になりきる事はできない。だから最初は少しほっとしたんだ」

 

 

ゲームに対応できる生き方ができると。

でも同時にガッカリもした。それはきっと自分もどこかで聖人になれたらと言う想いがあったからこそではないだろうか。

 

 

「誰だってヒロイックに生きたいよ。だから私も保安官ごっこしてた訳だし」

 

 

ヒーローに憧れていたから、ヒーローごっこで遊んでいたんだ。

敵側が良いなら、初めから悪役に回っているさ。

そしてこのゲームの中で教えられた言葉。関わってきた者たち。

 

 

『生きろ』

 

「………」

 

『私の――』

 

「そう、そうなんだよ」

 

 

新しい欲望が今、神那ニコ様の中で目覚めつつあるんだと、アンニュイな笑みを浮かべた。

それは紛れも無い。ニコらしさを持った物。

 

 

「そうだ、私は神那ニコ」

 

 

願いの存在で生まれた私なんだよ。

聖カンナに戻ったつもりは無い。

 

 

『新しい欲望ねぇ。これから滅びいく世界で何ができるってんだよ』

 

「それは、まあな。べえやん達はコレからどうすんのよ?」

 

『オイラ達はとりあえずこの星を離れるぜ』

 

『後はキミ達人類の問題だ。ボクらのエネルギー回収ノルマは、おおむね達成できたしね』

 

 

ふーんと鼻を鳴らすニコ。

どうやらインキュベーター達にとっては人類滅亡も他人事の域を出ないらしい。

あくまでも人と共に歩いてきたと言うだけで、彼らにとっては最も優先させるべきものはエネルギーの収集。

 

 

『宇宙は広い。きっとボクらも把握していない所に新たなるエネルギー源がある筈だ』

 

「じゃあ、お別れだな」

 

『そうだな。まあ達者で暮らせよ』

 

「………」

 

 

その時だった。

ニコがその手で、ジュゥべえを頭をムンズと掴んだのは。

 

 

『………』

 

「まあ待てや」

 

 

これまでインキュベーターと人間はよろしくやってきたんだ。

滅びますね。じゃあさようならと言うのは少し寂し過ぎはしないだろうか?

なんだ、大人の社会ではこう言う時。礼儀が云々と面倒な流れを汲まなければならない。

ニコ自身それくらいの知恵はある。

 

 

『つまり、どう言う事だよ』

 

「今までインキュベーターさん達にはお世話になったんだ。土産の一つくらいこさえてやんないと」

 

『は? 土産? お前がオイラ達に何かくれるのか?』

 

「ああ。餞別があるんだ。つまらない物だけど、どうか受け取って欲しい」

 

 

ニヤリと笑うジュゥべえ。

面白いじゃないかと。

 

 

『いいぜ、受け取ってやるよ』

 

「言ったな?」

 

『まあ、な。お菓子か何かか?』

 

「んな大層な物じゃないさ――」

 

 

ニコの目に、ようやく光が走る。

その目は以前の彼女の物ではない。それはジュゥべえやキュゥべえにさえ分かる物だった。

ギラついた目だ、何かを狙っている。求めている。

それは、確固たる欲望を乗せた瞳。

 

 

「エネルギーだよ」

 

『……は?』

 

『なるほどね』

 

 

間抜けな声をあげるジュゥべえと、意味を理解したキュゥべえ。

全く、かずみと蓮の件と良い、背負う因果とはつくづく面白い物だ。

あっちが諦めればコチラに火がつくと言う事か。

 

 

「宇宙存続の為のエネルギー。くれてやるよ」

 

『それはありがてぇ話だが、そりゃどういう意味……』

 

 

ハッとするジュゥべえ。

ようやっと意味が分かったようだ。

汗を浮かべ、唖然とした表情でニコを見る。

 

 

『まさかテメェ……』

 

「ああ、今の私は人間だ――!」

 

 

だからこそ、この言葉が言える。

 

 

「キュゥべえ、ジュゥべえ。私を魔法少女にしてくれ」

 

『『!』』

 

 

やはりか!

二匹は顔を見合わせて脳内コンタクトを行う。

確かにエネルギーが多いに越したことは無い。が、面倒な願い事をされるケースも想像できた。

まあ尤もこの状態で願うとすれば救済の魔女の消滅か? ならばまだ認めても構わないかと。

 

 

「おいおい、言ったよな貰ってくれるって」

 

『ハッ! テメェも良い根性してるぜ。願い事は何にするんだよ』

 

「決まってるだろ?」

 

 

ニコはジュゥべえを放り投げて両手を広げた。

ニコが望む答えはただ一つ、救済の魔女を見上げながら宣言する。

 

 

「ゲームをやり直す」

 

『……!』

 

 

そう来るか。そう来るんだな。

ジュゥべえとキュゥべえは再びコンタクトを行う。

この願いは色々と面倒だ。ジュゥべえはそう思っていたのだが、キュゥべえが下した答えは少し意外な物だった。

 

 

『いいよ。別に』

 

『マジでか先輩!?』

 

『うん、でもあくまでもゲームはゲームだ。キミの勝手はできないよ』

 

 

やり直すと言っても記憶の継続はできないし、結末だって今よりも酷い物になる可能性がある。

そもそもだ。次のゲームでニコが生き残れる可能性も100%ではない。

 

 

『記憶の消滅は死と同じだろう? それでもキミは過去に戻ると?』

 

「同じとは限らない。私がもっと賢く生きる可能性だってある。そうだろ?」

 

『そうだね。全く同じ行動を繰り返す訳ではない』

 

 

過去に戻るというのは少し語弊がある。

正しくは再構成だ。チェスで言うなれば勝敗のついたゲームのリプレイを見るのではなく、再び駒を並びなおしてゲームを始める仕切りなおしだ。

 

まあそれはいいとして、気になるのはニコがこの選択を取る理由だ。

確かに高見沢も魔法も失った今、この世界はニコにとって生き辛い物になるだろう。

とは言え、救済の魔女を消滅させれば、人として生きていく事はできる。

ゲームを仕切りなおすと言う事は、再び殺し合いの世界に足を踏み入れると言う事だ。

生に執着を持つ様になったニコならば、前者を選ぶものと思っていたのだが……。

 

 

『それを選ばなければならない理由でも、あるのかな?』

 

「………」

 

 

ニコは薄ら笑いでキュゥべえを見ている。

どうやら双方は双方の意思を理解している様だ。

とは言え、ニコがそれを口にする事は無い。彼女にはまだその『勇気』が無かったからだ。

 

それでも生きていれば、考えが変わる事はある。

それをニコはこの世界に教えてもらった。

だからこそ、諦める訳には行かないんだ。

 

 

『悪あがき、かな? そこまで足掻くなら剣を持てばいいのに』

 

「かもな。まあ正直、私もまだ実感はイマイチ湧いてない」

 

 

だからこその選択なのかもしれない。

ジュゥべえは首を傾げて唸っていた。

ニコとキュゥべえは何の話をしているのだろうか。いまひとつ分からなかった。

 

 

「でも、これだけは教えてくれよ」

 

 

ニコの体が光で包まれていく。

キュゥべえは願いを聞き入れた、そしてニコの想いはエントロピーを凌駕する。

長きに渡り行われてきた儀式だ。今も例外は無い。

ソウルジェムがニコの手に握られ、再び魔法少女の衣装に包まれる。

その中で、彼女は最後の質問を投げかけた。

 

 

「この会話、何回目だ?」

 

『……ああ、そう言う事か』

 

 

ジュゥべえも理解する。思い出した。

成る程、やはりニコは全てを知っていた様だ。

そしてその事実から戦う事を諦めた。けれど、生きる事は諦めない様だ。

どんな事をしてでも生き延びてやると言う意思。

もしかしたらその長い時の中で、何かが変わるかもしれない。

答えはでない。しかし考える時間ならば稼げると。

 

 

『想像に任せるよ』

 

「……フッ。ああそう」

 

 

うやむやに答えるキュゥべえと、呆れたように笑うニコ。

一方でジュゥべえはしきりに頷いていた。

ニコの魔法は再生成だ。願うのはゲームの再構築。これは決して偶然では無い筈だ。

やはり因果とは、つくづく興味深い結果を見せてくれる。

 

 

『神那ニコ。次のゲームで、キミの答えは出るのかな?』

 

「さあな。ゲームが始まる時、私はウジウジと悩んでる状態だろうから」

 

 

でも、答えがでなければ、また考える時間を作るだけ。

そう笑ってバールを振るう。砕けていく世界。

世界がニコによって、再び作りかえられる。

 

 

「ああ、やっぱあと一つだけ」

 

『?』

 

 

ニコの体が消えていく。

繰り返される輪廻。それは歯車の上に乗せられた愚かな役者達を再び戦いへと誘っていく。

その中で、ニコはこう思うのだ。

 

 

「全ては、決まっていた道だったのか?」

 

『………』

 

 

沈黙のキュゥべえ。

まあそうなるか。ニコは答えを期待していなかった為、食い下がるつもりもなかった。

キュゥべえが沈黙すると言う事もまた、答えの一つとして考えられるだろうから。

もうまもなく消滅が完了される。ニコは来るべき再生。

そして今の自分の『死』を、目を閉じて受け入れ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよ神那ニコ」

 

「!!」

 

『『!』』

 

 

その時だった、ニコの背後から声が聞こえたのは。

聞き覚えない声に反応して、ニコは汗を浮かべながら振り返る。

そしてそこに立っていた人物を見て、思考は一旦停止した。

 

 

「―――」

 

 

そこにあったのは、ある意味当たり前とも思える景色で、なんの疑いようも無く受け入れられる光景だった。だからこそ怯む、しかし考えれば考えるほどに浮かび上がる異質性。

なによりも『彼』はニコの問いかけに答えた。

それだけで十分だったではないか。

 

 

「ああ、そういう事か」

 

「………」

 

 

ニコの前には、二人の男女が立っていた。

同年代の人間がいる。当たり前の光景だ。しかしニコには異質と思える物だった。

救済の魔女が見える状況で、ここまで冷静さを保ち、あんな言葉を言える一般人がいてたまるか。

少女は少し怯んだようにニコから目を逸らし、対して少年は達観したような表情でメガネを整える。

ぶつかり合う少年とニコの視線。ああ、昔の自分となんとなく似ている目だぞアレは。

 

 

「だが勘違いをしてはいけない」

 

「……ッ」

 

「世界を変えられる権利なら、君たちはいつも持っている」

 

 

変えないのは、いつだって君たち自身の方だ。

ニコはそれを聞くと、しばらくは真顔だったが、消滅の直前に笑みを浮かべた。

 

 

「君の言葉もココロに来たよ」

 

「………」

 

「私は生きる。生き抜いてみせる」

 

「………」

 

「そうパートナーにも言われたからな」

 

 

それが最後の言葉となった。

消えていくニコ。まもなく世界の再構築が始まる。

ジュゥべえとキュゥべえは歩いてきた少年少女のもとへ駆け寄った。

 

 

『いいのかい? 鮫一、小巻(こまき)、あんなに大々的に姿を見せて』

 

『でしゃばるねぇお前ら。お仕置き受けちゃうぞぉ?』

 

「わ、私は止めたわよ! コイツが勝手に……ッ! 私は悪くないから!!」

 

「別に構わないさ。どうせ記憶は消える」

 

 

展望台の手すりに持たれかかった下宮鮫一は、消えいく世界を見つめてため息を漏らす。

 

 

「ルールの擬人化である我々が姿を見せるのも、一つの礼儀だと思ってね」

 

 

中沢と共に上条の友人であった下宮は、芝浦が仕掛けた学校侵食の際に死亡したと思われていた。

しかし彼はあくまでも行方不明。オーディンによって直接殺された中沢はともかく、下宮が死ぬ瞬間を見たものは誰もいない。

気がつけばいなくなっていたと言うだけの話。

そして彼は一つ、重大なミスを犯していた。それは魔女空間となった学校で放った第一声だ。

 

 

『くっ! 寄るな魔女め!!』

 

 

迫る魔女や使い魔を威嚇する言葉ではあるが、それはおかしい。

言葉自体は何も間違っていないが、あの時点では芝浦は魔女の事を『化け物』としか言っていないし、魔女も『女』と分かるフォルムをしている物はいなかった。

ならば何故、下宮は迫る化け物を『魔女』と発言したのだろう?

その答えがコレである。下宮は、魔女と言う存在を既に認識していた。

 

 

「それに少し変化があった方が面白いだろ? これは概念でもあるが、ゲームでもある」

 

『ふーん。そう言うもんかねぇ?』

 

「………」

 

 

下宮は怯まず答えているが、小巻と言う少女は、下宮とジュゥべえを交互に見合わせて汗を浮かべ、複雑に表情を歪ませていた。

藍色の長い髪、つり上がった目が少しキツメの印象を与えるだろう。

上臈(じょうろう)小巻(こまき)、下宮と共に現れたわけだが、そもそも二人は何者なのだろうか?

 

それは、知る必要の無い情報である。

いや尤も答えなど特別な物ではないのだ。ゲームと言う『概念』が世界に生まれれば、同じくしてそれを取り締まる機構が自然にして生まれる。

 

ルールの擬人化。それが二人の正体と言っても良い。

この世界その物が生み出した人の形をしたルールの一つだ。それ以上でも以下でもない。

光があれば、同じくして闇が存在する様に、ゲームがあれば必然的に生まれる存在。

それは世界の意思、疑いようの無い真実なのである。

ある意味、神とでも言えばいいのか。

 

 

「廻るぞ、次の歯車が」

 

 

メガネを整える下宮。

彼の体もまた、同じくして消え始める。

そして小巻もジュゥべえもキュゥべえも同じだ。体が徐々に薄くなって消え去っていく。

 

 

『ったく、休む暇もありゃしねーな』

 

『仕方ないよ。ソレがボクらの役割さ』

 

 

舌打ちを放つジュゥべえ。

 

 

『全く、人間ってヤツはつくづく愚かだ。それに諦めってヤツがどうにも悪い』

 

 

暁美ほむら、そして神那ニコ。

何度歯車に食い下がるつもりなのか。

 

 

『……ハッ!』

 

 

ジュゥべえは尊敬と軽蔑を含めた『笑い』と言うヤツを浮かべてみた。

そして彼らの意識もまた、深い光の中へと誘われていく。

崩壊していく世界。靄でできたモニターの中では、今も変わらず鹿目まどか達が優しい世界で楽しそうに笑っていた。

それをニコは壊したのだ。全ては、生きて生きて生き抜く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また……駄目だったッッ!!」

 

 

目を覚ませば、病院の天井。

何度この景色をみたのだろう。もう何回繰り返したのだろう?

悔しさ、苛立ち、悲しみ。多くの感情に心が押しつぶされ、爆発しそうになる。

 

ベッドに拳を叩きつけるが、それでも心の燻りは消えない、

何をしても怒りと虚しさは膨れ上がるばかり。本当に駄目なの? 絶対に無理なの? また心に亀裂が走る。くじけそうになってしまう。

 

 

(いやッ)

 

 

駄目なら、何度でもやり直せばいい。自分にはその力があるんだから。

何度だって。何回だって繰り返せばいい。唇を強く噛んで、強引に納得してみせる。

 

 

(絶対……、絶対に助けてあげるからね)

 

 

親友の姿を強く想う。

失敗して駄目ならやり方を変えればいい。どれだけの犠牲を払おうが必ず、必ず『―――』だけは。

そんな決意を新たに、"少女"は病室を後にする。

 

 

「ッ!」

 

 

まずは何をしようか?

そんな事を考えていたからだろうか。誰かとぶつかってしまった。

年齢がやや上の男性。高校生くらいか? ともあれ、そんな事は少女にとってどうでもいい事だ。

軽く謝罪をして立ち上がると、そそくさと歩き出す。

 

 

「……ッ!?」

 

 

いや、ちょっと待て。

少女は立ち止まり、振り返った。

おかしい。こんな事は"初めて"だった。何回と繰り返した中で、こんな少年を見た事は無い。

それにどこか儚げな雰囲気に、強い既視感を覚えた。デジャブ、と言うヤツなのか?

なんだか初めて会った気がしない。もちろんそんな事を感じたのも初めての事だ。

 

 

「ちょっと、そこの貴方」

 

「?」

 

 

だから話しかける。

少年は振り返ると思わず息を呑んだ。目の前にはナイフの様な瞳で自分を睨みつけている少女がいるのだ。

その鬼気迫る表情は普通じゃない。どこか狂気すら感じられる。一目で分かる、この女は普通じゃないと。

そんな少女に声を掛けられる状況、何がどうなっているのやら。

 

 

「一応謝罪はしたが、聞こえなかったのなら謝る」

 

「そんな事はどうでもいいわ。それより、少し話を聞かせてくれないかしら?」

 

 

なんなんだこの女は――。少年は眉をひそめて後ずさる。

確実に初対面の相手。なのに、なんて大きな態度を取ってくるんだと。

関わってはいけない気がする。少年は適当に少女をあしらって逃げる事を決めた。

 

 

「悪いが」

 

 

だがそこで少年は言葉を止めた。

何か、この少女から感じるもの――。

そして、以前に告げられた『情報』が身体を駆け巡る。

 

 

「お前――ッ!」

 

 

そうか、そう言う事なんだな。

少年は静かに頷くと、目の前にいる少女へむかって手を差し出した。

尚も自分を睨みつけている少女へ、少年はたった一言投げかける。

 

 

「お前が俺の……、パートナーか」

 

「ッ?」

 

 

戸惑う少女。

そんな彼女を遠くから見つめる『目』が。

 

 

『ま、こうなるんだよな結局は』

 

『ああ、再び歯車は回り始める』

 

 

決まっていた事と言えばそうかもしれないね。キュゥべえはほむらを見つめながら淡々と呟く。

 

 

『神那ニコは運命を変えられるのかな? まあ無理だろうね、彼女はチャンスを棒に振った』

 

 

意味の分からない理由で?

ああいや、賭けたのか。僅かな可能性に。

答えが出なかったのだろう、ニコもそれは理解していた事だ。

だから彼女は過去へと逃げた。ゲームを再び行う事で、新たなる『答え』が生まれる可能性に希望を託した。

 

 

『まあ無理なら終わる。それだけだぜ先輩』

 

『そうだね、その通りだ』

 

 

さて、そろそろ時間だ。キュゥべえはそう言って見滝原を見回す。

 

 

『そろそろボク達の記憶にロックが掛かる』

 

 

広い様で狭い箱庭だ。

その言葉にジュゥべえはニヤリと笑う。

 

 

『やれやれ、なんなら賭けでもするか? 次はまた神那か、今度は暁美か。それともはたまた……』

 

『記憶にロックが掛かるんだから、今行う会話に意味は無くなるよ』

 

『ああそうか、そうだよな。チッ!』

 

 

そして――

 

 

『やっとクソ長い戦いを終わらせられるんだよな先輩ぃ? オイラわくわくするぜぇ!』

 

『そうだね。彼女の力に制約がかかった。おそらくこれが彼女にとって、ボク達にとって最後の戦いになるだろう』

 

 

同時に、それは最初の戦いともなる。

全ては愚かな歯車が紡ぐ戯曲、忘却、そして絶望!

 

 

『さあ今度こそ全てを終わりにさせてもらうよ』

 

 

二つの影は何も表情を変える事なく、そのまま姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【END】

 

【永遠の戦い】

 

 

 

 

この結末が悲劇なのか、それともこれで良かったのか……。

物語はまだ序章にすぎない。答えは、もうひとつの結末が教えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 







次回エピローグです。
三つのエンディングの内、一つがエピローグに繋がる物になっています。残りの二つはノーマルエンドです。
どれがその一つなのかは、次回明らかになります。

今回選ばなかった他の二つのエンディングは、エピローグ更新後に確認していただくのが一番かなと思ってます。
まあそれは、自由なんですけどね。


ちなみに最後の『この結末が悲劇なのか~』は龍騎原作の台詞なので、特に深い意味はありません(´・ω・)b

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