仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
※注意
お手数ですが前話の三つのエンディングを全て読んだ後にエピローグをご覧ください。
※C『戦いを止める』の続きとなっています。
思えば、彼女が全ての始まりだったのかもしれない。
見滝原の小学校に通う6年生。
12歳の彼女は、幼い頃に親が離婚してしまい、それからは母子家庭で育つ事になる。
苦しいながらも、日々の生活を母と共に乗り越えて来た少女は、常に小さな希望を胸に抱えていたことだろう。
母親も言っていたんだ。
今、辛い思いをすれば、大人になった時に待っているのは幸運な事ばかりだと。
だが世界は彼女に優しく無かった。過労が祟り、彼女の母親は急死してしまう。
その後は母方の親戚に引き取られる事になったが、引き取り先からは邪魔者としか見られておらず、想像を絶する惨い虐待を受ける日々を過ごす事になった。
肉体的にも精神的にもボロボロになった彼女ではあったが、まだ彼女の心の中にある小さな希望は消えていなかった。
やがて心身共に傷ついたあすみは、その最後の希望である実の父親に助けを求めて、彼の元へ赴く。
だが既に実父は新たな家庭を築き上げ、幸せな生活を送っていた。
ガラス越しに見る笑っている父の姿。どこの誰とも知らぬ女。そして二人の子供である兄妹の馬鹿みたいな笑い声。
そんな姿を見たあすみは、自身との落差に絶望してしまった。
自分が殴られている間、自分が人間としての尊厳を踏みにじられている間、あいつ等は幸せに笑っていたのだろうと。
そして深い絶望と悲しみの向こうにあるのは、凄まじい程の怒りだった。
自身の苦しみも理解できず、幸福な日々を悠々と過ごしている父や周囲の人間達。
ましてやこうしている間にも色々な人間が幸福を覚えている。
かつて無い憎悪が彼女を包み、そしてそこへ――、キュゥべえがやってくる。
『キミの願いを言ってごらん』
だから彼女はこう願う。
「私が知ってる人間と、その周囲の奴らを不幸にしてッッ!!」
自分の知る周囲の人間の不幸。それがあすみが祈った希望であった。
そして彼女は魔法少女として誕生し、武器のモーニングスターと固有魔法の『精神汚染』を駆使して、魔女と気に入らない者を潰していった。
あすみはその標的に暁美ほむらを選び、彼女を否定する役割を与えられ、戦いを挑む事になる。
『暁美ほむらを追い詰めたあすみだけど、彼女には無いものをほむらは持っていた』
それこそが仲間と言うものだ。
鹿目まどかを初めとした魔法少女達は、ほむらを助け、あすみを倒す。
最後まで自らに無いものを突きつけられたあすみは絶望。花嫁の魔女、エントベーァリヒェ・ブラウトとして覚醒を果たした。
不要な花嫁と言う意味の名前だ。その性質は鬱屈。こうして彼女の存在は死を迎え、魔女の命もまた、ほむら達に倒される事で消え失せる筈であった。
『通常なら、の、話だけどね』
その時、奇跡が起こった。
天文学的な確立ではあったが、魔女に成る前にあすみの前に灰色のオーロラが現れたのだ。
そしてあすみは、あすみと言う存在は、真実を示す世界へと導かれる事になった。
そして彼女は文字通り、『真実』を知る事になった。
自分の存在が、何者だったのかを。
『世界は一つではなく、無数の平行世界と言うものが存在しあっている』
パラレルワールドと言う言葉を聞いた事は無いだろうか。
多くの人間はその存在を信じないだろうが、それは確かに存在している物であると言うのを、この場において約束しよう。
あすみはその世界と世界の壁を超え、自分が観測されている世界へとたどり着き、己の存在の本当の意味を知る事になった。
『彼女は、フェイクによって塗り固められた虚構の存在だ』
存在に真実など欠片とて存在しない、ただの創作物。
今まで説明した事も全てはただの嘘なんだ。名も知らぬ誰かを騙すために作られた冗談だったのさ。
要するに神名あすみとは、嘘の為に生まれた偽りのキャラクター。
彼女の本当の役割は、他者を騙すための道具だったと言うわけだ。
もちろんあすみの経歴や、願い、暁美ほむらと出会ったと言うのもただの嘘。
誰かが誰かを騙すために生まれた『設定』の一つでしかない。
ただ唯一、彼女自身にとっては本当だったのだけど。
『自らが偽りの存在であると知った彼女は、絶望を超える絶望を覚えた』
自らが感じた苦しみ、悲しみ、喜び、苦痛、殺意、全てが偽りだった。
嘘の為に生まれ、嘘が終われば存在価値の無くなる儚い使い捨て。
あすみは深く悲しみ、傷つき、そして絶望を超える負の感情を覚えた。
どうせそれも嘘?
いや、彼女にとっては真実さ。
そしてあすみは文字通り全てを知った上で、今度こそ嘘ではない、この鹿目まどか達がちゃんと存在している世界に降り立った。
尤も、既にあすみは魔女を超える存在になっていたのだけれどね。
『それは概念。彼女は自らに絶望して魔女になったけれど、それは普通の魔女じゃない』
あすみが魔女になると、花嫁の魔女になると設定されていた、そう言う"嘘"になっていた。
しかし彼女は、その魔女が嘘だと知っている。偽りだと知っていた。
全てを知っているあすみは、その凄まじい絶望の力と共鳴し合い、文字通り『神』の力を手に入れることになる。
『こうして生まれたのが、この世界のあり方すら変えてしまう事ができる史上最強にして最大の魔女だった』
忘却の魔女『
その性質は復讐。元は銀河の先よりやって来た魔法少女だったと言われる魔女。
この宇宙から全ての魔法少女たちを忘れ去るために今、姿を現す。
それが彼女が背負った力であり、新たに覚醒したあすみだけの姿だった。
全てを知ったが故、モチーフとする姿は『脳』だ。透明な膜に包まれた髪飾りをつけた脳みそ、そしてそこから複数の触手が生えている姿こそが、あすみの全て。
『自らが嘘で作られた存在と知った彼女は、忘却の力を手に入れ、その概念を振るう』
それは文字通り忘却。
全てを『忘れる』事ができ、同じくしてそのルールを世界に適応させる事を許された。
要するに、イツトリは世界のルールを決める事が許される、神その物へと昇華した訳だ。
『そしてまずはその一環として使い魔であるワルプルギスを生み出した』
ワルプルギスの夜。
その正体はイツトリの使い魔である。
『凄いの一言だね。まさか魔女を使い魔として存在させるなんて』
イツトリは魔法少女を忘れるため、全ての魔法少女を魔女として認識する為のルールを作った。
魔法少女が死ねば、その力はワルプルギスの夜に吸収される。
魔女の集合体として認識されるワルプルギス。つまり魔法少女が死ねば、魔女の一部として永遠に残り続ける。
魔法少女と言う存在での終わりは無い。
死ねば全て
それこそがワルプルギスの夜の役目。
ワルプルギスは生まれた時は、巨大な歯車でしかなかった。
ソレが多くの魔法少女を吸収し、あの魔女としての姿を手に入れた。
いわば女の部分はハリボテのようなものであり、本体は下半身にある歯車と言うこと。
『尤も、それでイツトリが魔法少女を忘れる事ができたのかと言われれば、微妙だけれど』
そしてイツトリもまた、自らの力を操りきれていなかったんだろうね。
彼女は自らの存在さえも忘れてしまい、巨大な魔女結界の中に閉じこもったまま、思考が止まってしまい、活動を停止した。
こうしてイツトリが自分を忘れ、ワルプルギスと言うルールを生み出したまま、世界では多くの時間が流れた。
そしてその中で魔法少女の歴史も進み、一人の魔法少女が生まれた。
『それが、暁美ほむらだ』
彼女は何度となく時間を繰り返し、鹿目まどかを救う為にその身を犠牲にしてきた。
そしてその果てに、鹿目まどかは暁美ほむらの苦しみを知り、一つの願いをボクに申し出た。
「全ての魔女を生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を……この手で」
あれにはボクも怯んだよ。
なにせその願いは、因果律その物に対する反逆だ。
彼女もまた、文字通り神になろうと言うのだから。
「神様でも何でもいい!」
尤も、多くの因果を束ねた鹿目まどからしいと言えばそうだけどね。
「今日まで魔女と戦ってきた皆を、希望を信じた魔法少女を、わたしは泣かせたくない!」
ゲーム内でも多くの魔法少女が鹿目まどかを『強い』と称したけれど、ボクも彼女は見た目や印象より、内に秘めている想いは大きかったと思うね。
それを強さと呼ぶのも、納得のいく話なのかもしれない。
「最後まで笑顔でいてほしい」
自己犠牲を恐れぬ心は、無知とは違う。
「それを邪魔するルールなんて壊してみせる、変えてみせる!」
確固たる覚悟が、彼女にはあった。
「これがわたしの祈り、わたしの願い!」
だからボクもまた、その想いに呼応したのかもしれない。
「さあ! 叶えてよ。インキュベーター!!」
『こうして、ボクは鹿目まどかを神へと変えた訳さ』
まどかが齎した新しい法則に基づいて、宇宙は再編される。
その代償に、鹿目まどかの人生は、存在は始まりも終わりも無くなった。
世界には生きた証も、その記憶も、もう何処にも残されはしない。
鹿目まどかという存在は一つ上の領域にシフトし、『概念』に成り果てる。
誰もまどかを認識できないし、まどかもまた、誰にも干渉できはしない。
鹿目まどかはその瞬間、宇宙の一員ではなくなったのさ。
『その場にいた暁美ほむらを除いてね』
まあ、ほむらも時空に関する力を手に入れていたし。まどかと深く関わった因果がある。
それもあっての事だろうね。いやしかし、ボクでさえ鹿目まどかの存在は頭から抜け落ちていたよ。
それだけ彼女の概念が強力だったと言う事かな。
『まあ後は、彼女との関わりが深かった者達の記憶には微妙に残り続けていたのかな』
例えば彼女の弟である鹿目タツヤが書いた絵は、まどかの姿そのものだったよ。
母親である鹿目詢子もリボンと言うアイテムにまどかを重ねていた部分もあった。
それもあってだろうね。気づけば魔法少女達の間では『
魔法少女が魔女になる前に救済されるシステム。鹿目まどかが作り上げた希望に満ちたルールさ。
『こんな言い伝えが、新たなる世界では語られていた』
昔々、未来の向こう。
女の子達は、星から来た動物と取引しました。
何でも一つだけ願い事を叶えてもらう代わりに、魔法の力を与えられ、恐ろしい怪物達と戦うのです。
あらゆる世界の女の子が願い事を叶えてもらい、数え切れない女の子が怪物達と戦い、やがて誰もが力尽きていきました。
魔法を持った女の子達には、秘密の噂話が流れております。
この世から消えてしまうその時には、魔法の神様がお越しになられて、全ての魔法の女の子達が素敵なお国へ導かれるのです。
悲しむ事も、憎しむ事も無い、素敵なお国へ導かれるのです。
『――と、ね』
そして暁美ほむらもこんな事を語っていた。
希望を願い、呪いを受け止め、戦い続ける者達がいる。
それが魔法少女。奇跡を掴んだ代償として戦いの運命を課せられた魂。
その末路は消滅による救済。この世界から消え去ることで、絶望の因果から解脱する。
いつか訪れる終末の日。円環の理の導きを待ちながら私たちは戦い続ける。
悲しみと憎しみばかりを繰り返すこの救いようのない世界で、あの懐かしい笑顔と再び巡り会うときを夢見て。
『まあ、彼女の願いは歪な形で叶えられたのだけど、そこは今は置いておこうか』
君も気づいただろう?
そうさ、彼女達は戦いの運命からまだ抜け出せてなかったんだ。
鹿目まどかは、おそらく魔女を否定すると共に、戦いの輪廻も消滅する事を望んだ筈だ。
だがその願いは叶わなかった。
『気の毒だと思うよ。本当に』
魔女が生まれなくなった世界でも、人の世の呪いが消え失せる事は無かった。
世界の歪みは形を変えて。それが例え新たなる世界であったとしても、闇の底から人々を狙っていたのさ。
『それが
鹿目まどかも、流石にそこまでは予想していなかっただろうね。
皆を救済するために選んだ選択が、新たなる化け物を生み出す事になったなんてさ。
魔獣は人間の負の感情から生まれ、彼ら曰く、世界のバランスを戻すためグリーフシードを集めているらしい。
"マホウ"の元となる感情を吸い上げ、体内でグリーフシード化させる。
吸われた人間は廃人になるとか何とか。いずれにせよろくな事にならないようだ。
『では何故、魔獣が生まれたのか、君には分かるかい?』
鹿目まどかの概念は確かに強力な物だった。
全ての魔女を消し去る力を。願いを行使した彼女は凄まじいよ。
でもね、一体だけ。消せなかった魔女がいたんだ。
『なにせ、彼女は自分が魔女であった事を忘れていたんだからね』
そうだよ、分かっただろう?
『忘却の魔女イツトリ。鹿目まどかと同じ概念さ』
イツトリはまどかの力に共鳴して目を覚ました。
思い出したんだよ、忘れていた自身の目的をね。
世界に二つ概念は存在できない。世界のルールはただ一つさ。
だからイツトリはまどかが作ったルールを矯正しなければならない。
バランスを保つ魔獣とは、イツトリによって生み出された使者なのさ。
『本来、魔女に殺される筈だった人を狙う殺人機構』
そしてそれに対抗するべく、ボクは新世界で魔法少女を生み出した。
『結局、似たような状態になってしまった訳さ』
そして戦いが続く中で、魔獣はより強力に進化していった。
まあそれだけ人が放つ負のエネルギーが強かったんだろうね。
人間は感情を持つが故に、毎日誰かが誰かを恨む不のサイクルが生まれてしまう。
君たちだって誰かを恨んだ事くらいあるだろう? それだけじゃない、嫉妬や劣等感、傲慢なども魔獣にはいいエネルギーになるからね。
『そして魔獣はついに、人間と同じく"知恵"を手に入れた』
知識の獲得。
言葉を持ち、知恵を持った彼らは、人間と同じく上下関係を決めて、より大きな力を付けていく。
そしてその中で、丁度また重なってしまったのさ。
『神名あすみは灰色のオーロラによって世界を越えたと説明しただろう?』
じゃあその灰色のオーロラとは一体なんなのか? 答えがココに繋がる訳だよ。
『ディケイド』
世界の破壊者と呼ばれるその存在は、同じ属性を持った世界を引き寄せて破壊していった。
そしてその過程の中で、一つの世界が例外なく破壊される。
『それが、城戸真司達がいた世界なんだよ』
龍騎の世界。とでも言えばいいか。
もちろんこれはあくまでも彼を例に出したからであって、ナイトの世界でも良いし、シザースの世界と呼んでもいい。
あくまでも例として認識してくれ。
分かりやすく言えば、騎士の世界だ。
とにかく――。
ディケイドと呼ばれる存在が世界を破壊していく中で、世界の破片が飛び散り、それがオーロラとなって各世界にランダムで発生した。
それは世界を繋ぐワープトンネルとなり、神名あすみの前に現れた訳さ。
『こう言う例は稀だけど、前例が無い訳じゃない』
バミューダトライアングルに消えた船や、飛行機の噂を聞いた事は無いかな?
それらをはじめとして、各世界で確認される行方不明事件の中には、ほんの一握りではあるけど無意識に他世界を移動したと言うのが真相のケースもあるんだ。
世界の間では流れる時間はそれぞれ大きく異なっていると言うのも、今回の事態を引き起こした原因の一つなのかもしれないね。
『こうして粉々になった龍騎の世界だけど、面白い事が起こった』
人間は怪我をした時、軽い物なら自分で治す機能があるよね?
血小板で止血をしたり、体内に入ったウイルスを殺す免疫機能があったり。
粉々になった龍騎の世界も、自らの意思で自己修復を始めた。
世界の意思。でもそれは、決して賢いものとは言えなかったんだ。
『龍騎の世界が赤色としようか』
もしくは水だ。
ぶちまけられたそれは修復の際、似た物に触れてしまった。
油に触れればそれは起きなかったかもしれない。黒色に当たれば――、違うと分かったのかも。
でもね、似たような液体。そして似たような色。
オレンジかな? ピンクかな? 朱色かな? まあとにかく――
『龍騎の世界は修復する際に、近くにあったボク達の世界に触れて、融合したんだよ』
二つの世界には似ている点があった。メタ的な話をしようか?
魔法少女と言うのは一般的に言えば幼い少女が憧れる対象さ。
しかしその現実は非情に厳しい物であると言うギャップ。
まあボクが言うのもなんだけどね。
そして龍騎もまた同じだ。
彼らが変身する騎士は、男の子の憧れであったらしい。
でもね、彼らもまた現実は非情に厳しい物だったんだよ。
落差が生み出すエネルギーは同質の物だった。故に、二つの世界は拒絶が少なく、交じり合った。
『そう。騎士とは、本来ボク達も全く把握していなかった究極のイレギュラーだったのさ』
ミラーワールドと言う空間にて、13のデッキを持った騎士を殺し合わせて、そして最後の勝者を決めるバトルロワイアルを開催した男だ。
彼は真っ先に世界の異変に気づいた。自らの世界に異物が混入している事にね。
正確には彼らがボクらの世界に混じったから、向こうが異物だったんだけど。
同じくして魔獣のリーダーもまた、彼らの存在に気づいた。
『"ギア"。それが今現在、魔獣の頂点に立つ者の名前さ』
ちなみに、ボクらインキュベーターも神崎の存在には気づいたからね。
その結果、ボク達は会合を果たす事になった。
神崎、ギア、ボク。話し合いは順調に行われたよ。
互いの情報交換にて、神崎が他世界の人間である事も分かった。
そして同時に、龍騎の世界がまもなくボクらの世界と分離しようとしている事も。
拒絶反応が世界間で起きたんだろうね。あくまでも似ていると言うだけで別々の世界、一つにはなれない。
そしてそれを聞いたギアが、こんな事を言い出したんだ。
『取引をしないか、とね』
それはボクと神崎。二つの存在に向けられた言葉だった。
『神崎の目的は妹を救うことだ』
詳しい説明は省略させてもらうけど、彼は妹である
勝ち残った者にはどんな願いをも叶えると言う嘘を振りまき、ミラーモンスターを使って命を一つに纏めようとする。
そして最後にオーディンと言う、神崎が用意した桁外れのスペックを持った騎士をぶつけ、オーディンが最後の一人を殺す事で、その集めた命を奪って優衣に与えようとしていた。
つまり初めから決まっていたこと。君たちがよく使う言葉でいうなら『やらせ』や『出来レース』だね。
だが中々それはうまく事が運ばず、彼はほむらと同じく、何度も時間を巻き戻すことで野望を達成しようとしていた。
ギアはまず、その点に目をつけたんだ。
『ギアは神崎の妹を救う事を条件に、龍騎の世界に存在している力を自分達に渡す様に言った』
魔獣が目をつけたのは騎士の力の源であるミラーモンスターだ。
あの力があれば、もはや自分達に怖いものは無くなると考えたんだろうね。
でもその時点では魔獣は優衣を救う手段を持ち合わせていなかった。
だからボク達にも取引を持ちかけたんだ。
『宇宙延命に必要なエネルギーを効率よく、しかも良質な物を定期的に提供すると』
そしてボク達は一つの結論を見出した。
『ギアの話に乗ってみようとね』
彼の行おうとしているプランを聞いて少し興味が湧いたし、優衣に命を与える事はボクらには容易にできる事だったからね。
まあ対価なしに願いを叶えるのはタブーなんだけど、神崎はボクらの世界の存在ではないし、彼の強い想いを寄り代にすれば簡単だったよ。
もともと魔法少女の中にも、誰々を生き返らせて欲しいとか、消して欲しいとかの願いは多かったからね。
『そんな訳で、神崎優衣に命を与えると言う目的は達成された訳さ』
神崎もまもなく離れる世界なんてどうなっても良かったんだろうね。
ギアを疑う事なく、望む力を惜しげもなく与えていったよ。
それに騎士が自分に歯向かう存在だという事も理解していたんだろうね。
神崎は邪魔者を消す意味でも、了解する価値は大いにあったと判断したんだろう。
『こうしてミラーモンスターのデータ。およびデッキ所持者と、その関係者をまるままコッチの世界へ移したんだ』
カット&ペーストと言えば分かりやすいかな? パソコンの作業と一緒さ。
フォルダの中のデータを、別のフォルダに移す。
そしてギアは神崎から授かったミラーモンスターの力を、他の幹部に分け与え、魔獣の力を拡大させた。
そして別れる世界。
龍騎の世界と分離されたボク達の世界。
こうなればギアに恐れるものは無い。彼はその後、幹部たちと共に、イツトリの力を携えて本格的に活動を開始した。
『概念は一つでいいと、ね』
魔獣は鹿目まどかの排除を決行した。
そもそもイツトリとまどかでは、最初からまどかの方が劣勢だった。
同じ
先程の通り、それはつまりイツトリの概念を消滅させる事ができなかったと言う訳さ。
『イツトリは、円環の理と言う壁がある事を忘れた』
忘れた物は、無いのと同じさ。
こうして魔獣達は円環の理に簡単に侵入して、まどかと、彼女によって導かれた魔法少女との戦いを開始した。
『まどかの概念下であれば、対魔女において魔法少女達は負ける事はなかったろう』
しかし魔獣は、当然魔女ではない。
イツトリもまた自身が魔女である事を忘れ、『神』として自身を認識している。
一方でイツトリの概念はまどかとは対になる。つまり魔法少女キラーと言ってもいい。
その恩恵を受けた魔獣たちも、当然それだけ力が上がる。
『そしてもう一つ、決定的な要因がある』
先程も言ったとおり、魔獣はミラーモンスターの力を手に入れていた。
それが彼らが元々持っていたエネルギーと交じり合い、スペックを何倍にも跳ね上げた。
なおかつ未知数の力でまどか達を翻弄していく。
もしもミラーモンスターの力が無ければ、まどか達にも希望はあったのだろうけど……。
いや、やはり無理か。イツトリが魔法少女の力を忘れてしまうからね。
どうにも相性が悪い。
『こうして鹿目まどかは敗北し。円環の理や、彼女が作り上げた概念その物も、粉々に破壊された訳さ』
そしてそもそも、こうなってしまったのには別の理由がある。
『暁美ほむら』
彼女がマズかった。
何故なら円環の理は、そもそも魔獣が攻め込む前に崩壊していたのだから。
『悪魔に魂を売り渡していた彼女は、事前に鹿目まどかの力を分断させていた』
愛がどうのこうのと。
ボクには理解できない話だったけど。ほむらは強い想いを経て、悪魔と言う存在へ進化を遂げた。
どんな想いがあったのかは知らないけれど。力の半分を失った概念が、イツトリを封じれると思うかい?
『無理だよね、普通に考えて』
まあ、ほむらもまさか魔獣がそんな力を付けているとは知らなかったから。
仕方ないと言えばそうなんだけど。ギア達だって自分達の存在を魔法少女の前には見せなかったし、確実にまどかを殺すまでは力を蓄え続けていたからね。
『そして鹿目まどかを倒した彼らは、暁美ほむらをも屈服させた』
彼女はまどかよりも意外と食い下がったけど。
日々増えていく人間が放つ負の感情と絶望が、魔獣をより強力にさせていく。
ましてや戦力の数も大きく違っていたからね。
結局、彼女を中心にするように、この世界に存在する魔法少女達は例外なく魔獣に敗北したよ。
こうして鹿目まどかと、暁美ほむらが作り出した概念は消え去った。
だったら残るのはイツトリの概念のみ。
ただイツトリは肝心な所で忘却の力が働き、自らも全てを忘れてしまう。
でもその問題は、使徒である魔獣たちがカバーしたのさ。
彼らはイツトリに『あるべき』世界を教えてあげた。
そしてギアを中心とした魔獣達は、神崎から与えられた『材料』と、自身たちが手に入れた材料を使って一つの世界を構築する。
『それこそが、フールズゲームと言う訳なんだよ』
そう、このゲームの真の黒幕にして主催者は、魔獣ギアを中心とした進化を遂げた魔獣達なんだ。
その集団。名はバッドエンドギア。彼らはボク達に約束したエネルギー収集機構と、自分達の娯楽を混ぜ合わせた概念形態。FOOLS,GAMEを完成させたのさ。
『イツトリの力は凄まじかったよ。ボクらの予想を遥かに超えていた』
あれはまさに神と呼ぶに相応しいね。
魔法少女さえ絡んでいれば、どんな事だってできるんだから。
それに『忘却』と言う力も面白い、忘れるためには知らなければならないと、イツトリは全ての魔法少女のデータを収集しはじめたんだ。
それを解析し、魔獣達はまどかを中心として12人の魔法少女をランダムに選んだ。
そしてそこへ騎士を放り込んで、魔法少女達を中心とした世界を構築しなおした。
文字通り、一からね。
『凄いと言わざるを得ないよ。魔獣達は世界を自分達のゲーム盤にしたんだから』
そして見滝原と言う箱庭を作り、そこでFOOLS,GAMEと言う遊びを開始したのさ。
神崎が行ったサバイバルゲームを参考にし、参加者同士で殺し合いをさせる。
ボクもそれは盲点だったよ。彼女達は友人同士で殺しあう事に深い絶望を示し、参戦派達も大きな闇を抱える事でより良質な絶望を生み出す。
ギアが示してくれた通り。ゲームの中では大量のエネルギーが次々に生まれていった。
ワルプルギスを使う事で、必ず一定期間にゲームは終わるしね。
『そしてゲームが終わればイツトリの力で結果を、参加者の死を忘れるんだ』
それはリセット。
神崎のやり方と、暁美ほむらの行動を参考にしたものだ。
駒を並べなおして再びゲームを開始する。
こうする事で、まどか達で無限に遊ぶことができるのだと。
『そうさ、参加者達は何度と無くゲームを繰り返してきた』
暁美ほむらがやってきた事と同じなんだよ、何もかも。
ゲームがどんな終わり方をしても、イツトリの力で箱庭の中はまっさらな状態になる。
そしてまた、殺し合いのゲームを行うわけだ。
尤も、それを参加者が自覚する事は無いだろうけどね。
『何度繰り返したんだろうね? もう数えるのは止めたから、ボクらも把握できていないよ』
何千? 何億? いやもしかしたら、何百もいっていないのかも。50回くらいかもしれないね。
だがとにかく、ゲームは何度と無く繰り返されてきた。
今回もまた、それは例外では無いだろう。
絶望の魔女なんて関係ない。どうせまた戻し、繰り返される運命さ。
『でも時間は繰り返されるけど、箱庭の外にいるボク達は忘れてはいないからね』
エネルギーも当然それだけ蓄積、回収されるし。ボク達にとってはありがたいシステムだよ。
そして魔獣も面白いね。彼らは人間でいう三大欲求の作りがまるで違っている。
人は食欲、性欲、睡眠欲が主とされているけど、魔獣はそうじゃない。
彼らにとって快楽や娯楽は全て人の負を感じる事であり、FOOLS,GAMEはまさに持って来いの遊びなんだよ。
彼らはこのゲームに飽きる気配をまるで見せない。
まあ当然かな。人間で言うなら性行為で得られる快楽の100倍を想像してもらうと分かりやすいかもしれない。
多少語弊はあるし、性行為の快楽と同質にはできないかもしれないけど、近いものはある筈だ。
とにかく魔獣にとっても、このゲームシステムは非常に理に叶っている訳で。
それだけの中毒性もあるんだろう。
魔獣達は毎回毎回誰が優勝するのかをベットしたり。集めた負のエネルギーを餌に賭け事を行っているくらいだからね。
『もはや彼らはイツトリの命令を無視して、毎回毎回殺し合いのゲームに夢中さ』
ああそうだ。
面白いといえば、繰り返されるゲームの中で途中参戦した『かずみ』だろうね。
彼女は元々ミチルと言う――、まあとにかく、秋山蓮とは何の関係も無い少女だった。
けれどイツトリの再構成によって、まさか娘になっていたとは驚きだよ。
元は神那ニコや浅海サキ達と同じ時間を生きていた筈なのに。
まさか未来を生きる存在になってしまうとは。そして魔獣が趣向を変えて参加者を変更したというルートの未来からタイムスリップしてここまでやって来たんだから。
分かりやすく言えば、本来かずみは存在を許されない状態にあった。
だってゲームが終われば、何らかの形であれ、絶対に時間が巻き戻されてしまうのだから。
でもその中で、一つの可能性があった。
それは魔獣達が真司たちが死んだ後の世界を観察し、そして未来において、新たにゲームを行うというものだ。
そしてそれは『一度』だけ行われる事になり、その可能性から、かずみは来た。
『プレイアデス聖団と言う、ゲームに対抗するチームまで作ってね』
そして送り込まれたかずみと、聖団のリーダーである『鈴音』と言う魔法少女。
でも結局、イツトリの存在に気づいていない時点で終わりだよね。
抵抗むなしく、イツトリの概念の前に敗れ去ったよ。
でも面白がった魔獣は、蓮の娘であるかずみを新たにゲーム盤に加えて、リュウガのデッキを追加する事で、13の騎士と13の魔法少女と言う形態を完成させたんだ。
『かずみも忘却の魔法で、鈴音と来た事は忘れたしね』
それに加え、箱庭の中の未来を続けるという試みは結局一度しか行われなかった。
鈴音達も結局は『訪れない未来』と言う箱庭の中に放り込まれた哀れな存在さ。
でも思えば、感情の無いボクですら哀れみを抱くというのは本当に興味深い話だ。
それに再構成があったからこそ――
『ジュゥべえにも再び会えたしね』
『オイラも先輩にお会いできて本当に光栄だぜぇ』
まあ初代のオイラとはシステムそのものが違うがな。
オイラは本来、ニコと海香っつうヤツに生み出された、先輩を否定する装置だったからな。
とは言え、今はその奇異性が認められて擬似的感情を持ったインキュベーターとして生まれ変わった訳よ。
『オイラもさぁ、参加者の奴らは本当に可哀想とは思ってる訳よ』
何度も何度も殺し合い殺し合い。
永遠の拷問を繰り返すのは辛いよな?
でもほら、やっぱインキュベーターとしてエネルギー収集は大事だろう?
だから心を鬼にして運営のサポートしてるって訳よ。
『あと、なんつーかアイツ等……、なぁ?』
『………』
『お、噂をすればお呼び出しだ』
丁度いい。
視聴覚を共有させてやるよ。
これでお前にも、オイラ達と同じ景色が見えて、同じ音が聞こえるからな。
「ご苦労だったね。キュゥべえ、ジュゥべえ」
『………』
『おう』
鈍い光が照らす大ホールに姿を見せる、キュゥべえとジュゥべえ。
そこには幾重にも重なり合う拍手が鳴り響いていた。
キュゥべえ達は、壁側の地味な位置に、いかにも適当に置いてある二つの台座の上に降り立つ。
その隣では、壁にもたれかかっている少年少女が一人ずつ。
紫髪の少年は気ダルそうにメガネを整えながら二匹に労いの言葉を掛ける。
一方隣の藍色の髪の少女は、俯いて目を閉じている為、全くの無反応だった。
『おい、鹿目の家族殺したのって――』
「別に、今更どうでもいい事だろう。そんなの」
『………』
そう静かに呟くのは
中沢と共に、上条の友人であった下宮は、芝浦が仕掛けた学校侵食の際に死亡したと思われていた。
しかし彼はあくまでも行方不明。オーディンによって直接殺された中沢はともかく、下宮が死ぬ瞬間を見たものは誰もいない。
気がつけばいなくなっていたと言うだけの話だ。
そして彼は一つ、重大なミスを事前に犯していた。それは魔女空間となった学校で放った第一声。
『くッ! 寄るな魔女め!!』
迫る魔女や使い魔を威嚇する言葉ではあるが、それはおかしい。
言葉自体は何も間違っていないが、あの時点では芝浦は魔女の事を化け物としか言っていないし、魔女達も『女』と分かるフォルムをしている物はいなかった。
ならば何故、下宮は迫る化け物を魔女と発言したのだろう? その答えがコレである。
下宮は、魔女と言う存在を既に認識していたのだ。
それはつまり、彼が魔獣の一員だからだ。
隣にいる
『しかしまあ――』
ジュゥべえは辺りを見回してつくづく思う。
ホールは大きな段差がいくつかあり、それぞれ階層の位置で魔獣の位を示している。
ホールの前方には、いくつもの巨大なモニターが存在しており、それぞれ見滝原の街を映すゲームの中継カメラとなっていた。
最下層でその殺し合いを見て楽しんでいたのは、見るからに化け物と言う容姿の魔獣達だ。
白いマネキンの様な人型の者達で、一見すれば神聖さが感じられるものの、その正体は知恵を身につけ殺人ゲームに快楽を見出す魔獣達そのものである。
ゲームにて発生した負のエネルギーを賭け事のコインとして使い、誰が勝ち残るのかを選んで遊んでいるのだ。
煌びやかなドレスに身を包み、瘴気のワインを片手にワイワイ盛り上がっていた。
そして中層。
見るからに豪華な椅子に座っているのは、下宮達同じく、一見すれば人間に見える容姿の連中だった。
中にはどちらかと言うと化け物寄りの姿を持った物もいるが、下層の連中よりは人に近い姿を保っている。
彼らこそ、ゲーム運営に深く関わっている魔獣幹部・バッドエンドギアの一員である。
まどか達を倒し、時にゲームの運行をスムーズに行う為、箱庭に赴く事もある。
彼らの中にも上下関係はある程度存在しているらしく、最も下の位置にいる下宮と小巻はこうして座る事も許されずに、壁際に立たされている訳だ。
そして最上層。
モニターを見下さんとばかりに、椅子にどっかりと座っている者こそ、魔獣の頂点に立つギアである。
文字通り歯車をイメージした装飾が体に施されており、頭にも巨大な歯車の王冠が見えた。
少なくとも中層の幹部の様な人間寄りの体ではなく、完全に機械の様にも思える。
黒いマントで体を覆い、手すりに肘を置いて手の甲に頬を置いている辺り、圧倒的な余裕が伺えた。
『なんとも趣味の悪い連中だぜ』
それがジュゥべえの率直な感想。
自分達は安全な場所で殺し合いを堪能した後、集まった負のエネルギーを分かち合い、快楽に身を震わせる。
そして再び殺し合いを観戦する。
そのループに退屈を感じず、一繋ぎにしてみれば、一体どれだけの時間を費やしたのか。
尤も、その輪廻はこれからも続いていくのだろう。
そしてモニターには、今回のゲーム結果が画面いっぱいに表示される。
そう、脱落者達の名が。
【リザルト・脱落者】
【秋山かずみ・死亡】
【秋山蓮・死亡】
【暁美ほむら・死亡】
【浅倉威・死亡】
【浅海サキ・死亡】
【鹿目まどか・リタイア(魔女)】
【上条恭介・死亡】
【神那ニコ・リタイア(ルール)】
【北岡秀一・死亡】
【城戸真司・死亡】
【霧島美穂・死亡】
【呉キリカ・死亡】
【佐倉杏子・死亡】
【佐野満・死亡】
【芝浦淳・死亡】
【須藤雅史・死亡】
【双樹あやせ(ルカ)・死亡】
【高見沢逸郎・死亡】
【千歳ゆま・死亡】
【手塚海之・死亡】
【東條悟・死亡】
【巴マミ・死亡】
【美樹さやか・死亡】
【美国織莉子・死亡】
【ユウリ・死亡】
「以上が、今回のゲームの結末でございます!!」
騎士は13人全員死亡。そして魔法少女は2名を残し、あとは死亡。
その2名もまた、リタイアと言う形に終わった。
これより世界は滅びの道を迎える事となるのが、箱庭のストーリー。
「ああ……、なんとも悲劇的な結末ではありませんか!」
人の愚かさ故の結末。人の弱さ故の結末。
誰もが争いあう事を止めぬ。誰もが傷つけ合う事を正当化してしまう。
人間がつくづく御しがたい生き物であると言う事を知らされる一幕ではありませんか。
「惨めで醜い人の結末を具現しているようです!」
ウェーブが掛かった金髪と、桃髪が交じり合ったツーサイドアップの少女が、マイクを持ってモニターの前に立ってゲームの終了を宣言する。
巻き起こる拍手。そして嘲笑。結果に応じて、ベットした負のエネルギーを処理していく。
誰が生き残るのか、それとも全滅か。
様々な予想が交差し、今回の結果に、それぞれはそれぞれの表情を浮かべていた。
予想が当たり、大笑いする者。生き残ると賭けていた参加者が死んで罵倒を浴びせる者。
勝ち得たエネルギーを吸収して恍惚の表情を浮かべる者。
賭け事が生み出したそれぞれの感情は、参加者の死と苦しみの上に成り立っているのだ。
そこに魔獣は喜びと快楽を見出す。そう、人間の犠牲の上に、魔獣の娯楽は成り立つのである。
「では皆様、ココでゲームの進行をスムーズにする為に活躍して頂いた名優と、監視者達に拍手をお願いします」
司会の少女、"バズビー"の指示により、魔獣達の視線が中層に集まる。
鳴り響く拍手の中で立ちあがった一人の女性。白い髪を揺らしながら手を上げるのは、気品に満ち溢れた一人の淑女、『シルヴィス・ジェリー』その人である。
目に映る物だけが真実ではない。たとえ刺し貫く感触があったとしても、たとえその目で死の瞬間を確認したとしても、意外と真実は別の所にあったりするものである。
そして答えや、人が取る行動とは、案外誰かに見えない所で操作されている物だ。
何故人は傷つける道を選ぶのか。それは『そうなってしまった』からでは? その道に行かざるを得なかったからだ。
しかして、もしも、その道を決める事を誰かに操作されているのならば……。
たとえば、佐倉杏子とは乱暴な性格ではあるが、その本質は善に溢れた少女であった。
しかしゲーム運行において、やはり必要となってくるのは好戦的な
杏子は浅倉との相性が非常に良い。ならば杏子も同じ性質に堕としてしまった方が盛り上がるのではないかとシルヴィスは考えた。
だから、そうなるように、導いたまで。
「………」「………」
同じく拍手を送られる下宮と小巻だが、二人は目を閉じて無言である。
そんな二人の耳に、大きなため息が聞えてきた。
「やれやれ、ファンサービスが悪い奴らだ」
椅子にふんぞり返り、髪をかき上げて笑っていたのは、
彼もまたココにいると言う事は、そう言う事だ。蝉堂は常に人を見下した様に笑っているが、文字通り下宮達を見下しているのだから仕方ない。
「そんな事だから、いつまで経っても人の器に縛られているんだよお前らは」
「アンタには……、関係ないでしょ……っ!」
「僕はこう言う雰囲気が苦手なんだ。放っておいてくれ」
小巻と下宮は言葉を返すが、すぐに嘲笑が飛んでくる。
「フン、君達も格下を卒業したいなら、もっと利口になりたまえ」
それとも、魔獣の体は不満かな?
蝉堂は口元を押さえながら三日月の様な笑みを浮かべている。
しかしそれを無視する下宮と小巻。蝉堂は面白くないと、すぐに表情を歪めて舌打ち交じりに顔を背ける。
「つまらんヤツらだ……!」
「「………」」
『あらあら』
ギスってるねぇ。ジュゥべえはやれやれと首を振る。
魔獣同士と言えど、仲良しグループと言う訳ではないのが何ともまあ。
彼らも負のエネルギーから生まれたとは言え、感情を持っている。
そして魔獣とはどいつもこいつもプライドが高いときた。
常に自分以外の連中を下に見ている点はあるのだろう。などと思っている内に、バズビーが再び口を開いた。
「今回のゲームはこれにて終わりを迎えましたが、愚かな輪廻がコレで終わる事はありません。今回予想を外してしまった方も、予想が見事に的中した方も、まだまだチャンスはいくらでもあります」
そう、チャンスはまだまだ存在している。
何故か、それはこのゲームには終わりなど存在しないからだ。
再び繰り返される殺し合い。哀れな参加者たちが紡ぐ絶望への戯曲。
次は誰が参戦派になる? 次は誰が生き残る?
そしてそれが終わればまた時を忘れ、全てはゼロへと回帰する。
「魔法少女には絶望がよく似合う」
故に。
「永遠に繰り返される戦い。無限に紡がれる絶望」
それこそが――
「FOOLS,GAMEの理念なのです!!」
終わりはしない。終わらせなどしない。人が永遠に愚かであり続ける限り。
バズビーの言葉に、今までで最大の拍手と歓声が巻き起こる。
中層の幹部たちも拍手を行い、自慢げな笑みを浮かべていた。
そして上層にいるギアもまた、椅子に深く座りなおして身に染みる絶望のエネルギーを堪能していた。
素晴らしい。
鹿目まどかの溢れんばかりの希望が絶望に変わる瞬間。
発生する負のエネルギーは筆舌に尽くし難い。
理解しろ鹿目まどか。
お前の判断は間違っていたのだ。
皆が幸せになれる世界など下らない。人は人であるからこそ、裏切りや傷つけあう事を止めないのだから。
お前の愛した人間は、そんな綺麗なものじゃない。
人を傷つける事で快楽を覚える低俗な生き物だ。
そんな者を愛するから、お前も絶望へと堕ちていく。
当然の事だ。人間な愚かな生き物だと、もっと早くに理解していれば……、違った世界もあったろうに。
だからこそ我々は屑か弱者しかいない人間を、有効に活用してやっているのだ。
「皆様、ではこれにて一旦! ゲームを終了とさせていただきます!」
再び始まるその時まで、しばしの休憩を。
「そして一つだけ、私の感想を述べさせていただきます」
人は愚かです。
しかしだからこそ、その些細な人生に喜びや悲しみを抱くことができる。
希望を覚え、ソレを絶望に変えるのだと。
もしも人間がもっと利口に生きられたのなら、他者を尊重しあえたのなら。
鹿目まどかの希望を叶ったかもしれませんね。
「それでは皆様、お疲れ様でした」
次回のゲームにご期待ください。
バズビーの深いお辞儀と共に、再び巻き起こる拍手。
そしてたっぷりと絶望を楽しんだ魔獣達は、徐々に椅子から立ち上がりホールを退出していく。
中層にいる幹部たちも余韻を楽しむ者や、退出する者に別れていく。
「では次も、雑用を頑張りたまえ」
「………」
「ッ」
退出際、蝉堂の言葉に表情を歪ませる小巻。
下宮も薄目を開けて蝉堂を睨む。
「下宮くん、小巻さん」
シルヴィスも、二人に下卑た笑みを向けて話しかける。
「監視者は舞台に駒として上がるが、勘違いをしないように」
釘を刺す。
人の生活で、人と錯覚しては意味の無い話だ。
「アレらは餌であり、駒。愚かな奴らに情を移さぬように」
「………」
そう言い残して退出していくシルヴィス。
下宮は呆れた様に首を振りながらホールを後にしていく。
同じく彼を追いかける小巻。ジュゥべえとキュゥべえも顔を見合わせて頷くと、姿を消した。
『見ただろう? あれが真実さ』
『これは新たなる概念。世界の理だ』
円環の理に代わるのは、バッドエンドギア。
永遠に廻り続ける愚かな歯車さ。でもね、勘違いをしてはいけない。
こうなってしまった根本は全て、人の感情が巻き起こした事だ。
願い、欲望、そして魔獣が生まれた要因は人の負の心じゃないか。
『これは、あくまでも人の業が生み出した罪の具現だ』
負のサイクルが実体化した状態が今なんだよ。
人が争い続け、憎みあう事を止めずに生きてきた結果だ。
思い合う心を持った者達をも巻き込み、絶望のサイクルを生み出している。
善よりも悪が勝ってしまったから、こうなった。
『そしてこれは、"キミの世界"にも起こりうる事だ』
人の負は、日々形を変えて世に散布している。
憎しみが憎しみを生み出し、戦いが戦いを生み出す。
高見沢は人間は皆、騎士と本質が変わらないのだと言ったけれど、まさにその通りだと思うよ。
人が発生させる負は、いつか必ず具現してその世界に降りかかる。
『キミは彼女たちの末路を見て、現状を見て何を思うんだい?』
かわいそう? 助けてあげたい? 酷すぎる?
『でもね、それはこの世界に人の負が溢れたからだ』
『テメェはそれを安全な場所で見ている』
もしもお前が鹿目達の今に同情するなら、せめてこれからの人生、全うに生きる事だな。
あいつ等が直接救われる事は無いかもしれないけど、少なくともお前の世界を延命させる事はできるだろう。
それが結果として、鹿目が願った世界を作る事になる。
『それができるのは、残された者だけだ』
そこでふと、ジュゥべえの動きが止まる。
『何? ハッピーエンド?』
過去に、ジュゥべえは言ったはずだ。
お前がもし、この物語のハッピーエンドを望むなら戦い続けろと。
バッドエンドを、もしくはハッピーエンドを望む気持ちを貫けば、答えはきっとソレを示してくれるだろうよ、と。
『そうだな。お前はハッピーエンドが良かったのか?』
でも、結果はコレだ。
お前はどう映る? この終わりを、お前はバッドエンドと取るか?
だったら、それが答えじゃねーのか?
『それだけ人の負の感情が、強いって事だよ』
今現在、地球に存在する人間の数は72億人前後。
その中の何人が今、誰かを恨んでいる? 誰かを傷つけている? 心に闇を抱えてるんだ?
人は長い時間を経て大きな進化を遂げてきた。
その探究心、その信念、立派な物だよ。でもその中で人はまだ当たり前の事ができていない。
膨大な時間を掛け、当然の様に身に着けるべき道徳がなっちゃいねぇ。
殺人、いじめ、虐待、その他の犯罪。何度それをしてはいけないと人間は人間に言ってきたよ。
そして今現在、それは無くなったか? お前なら分かるだろう?
正直に生きろだのと垂れ流すのに、どうして『正直者は馬鹿を見る』なんて言葉が生まれたんだ?
争いの歴史を否定しておいて、何をさも当然の様に争っているんだよお前らは。
『言ってる事と現実が全く違うじゃねーか』
理解しろよ。人間はまだ猿のままなんだよ。
進化したつもりでも、それは猿が便利な道具を使っているだけにしか過ぎない。
猿が服を着て、人と言う架空の生き物を演じているだけだ。
人と言う尊厳に満ち溢れた高貴なる存在へシフトしたいなら、己が負の感情を、自らの手で抑えてみせろ。
それができぬのならば、このゲームに負の感情をありったけに注ぎ込め。
そして鹿目と言う希望を殺してみろ。
あいつは、それを背負う事も受け入れて見せるだろう。
『オイラはよく分からないが、アイツこそが人間の求める姿じゃないのか?』
城戸真司もまた同じだ。
争いを否定する心を持った奴らこそ、負の感情を殺す切り札となりえたんだろう。
アイツ等はもう色々と手遅れだった。だがお前らはまだ……、間に合うかもしれない。
このままお前らが負の感情を育て続ければ、そっちの世界にもいずれ魔獣が生まれる。
そしてやがては、FOOLS,GAMEと同じ物が行われるんだ。
いや、もしかしたらもう?
『とにかく、それを防げるかどうかは、お前の心に掛かってる』
そうだろ?
そう言ってジュゥべえは『あなた』を見た。
『神崎優衣』
「……ッッ」
ジュゥべえの赤い目に映ったの優衣は複雑に表情を歪ませ、目を逸らす。
そう、この『インキュベーターの間』にて、ゲームを確認していたのは神崎士郎の妹である神崎優衣だった。
彼女は自らのせいでこの世界に真司たちが送られ、さらに殺人ゲームが開催される事に気づいたのである。
そしてせめてもの抵抗にと、データに細工を施したが、それは結局反映される事は無かったのか。F・Gの輪廻が終わる事は無かった。
優衣は自らにも非があると、真司たちと共にキュゥべえ達の世界に留まっていた。
そして彼女に気づいたキュゥべえ達が、ゲストとして魔獣には内緒で自分達の部屋に優衣を留めておいたのである。
しかし文字通り留めておいただけだ。
彼女がゲームに干渉する事はできなかったし、真司達を助ける事もできなかった。
「私は……、どうすればよかったの?」
戦いを見守ってきた彼女だが、今まさに折れてしまう。
自分のせいでと言う罪悪感。それを見て、ジュゥべえは鼻を鳴らして笑いはじめた。
そうだ、そういう心を忘れなければ良いだけの話。
『テメェの兄貴は、テメェを救うためならどんな事をしてもいいと思っていた』
その心こそが負の感情を肥大化させていく。
だからこそ、優衣はそれを否定し続けなければならない。その役割が彼女にはまだ残っている。
もう終わった事は仕方ない。命を与えられた事を軽視してはいけないと。
『元の世界へ還れ。そして参加者共に貰った命で、負の感情を減らせ』
それが彼女の役割だろう。
この悲劇を見て、何を感じたのか。それが一番大切な事ではないか。
永遠に起こり続ける悲劇を、自分の世界に起こしてはいけない。
そして、真司達参加者と言う存在を忘れてはいけない。
『それくらいだろ』
「私は……、生きる事を素晴らしいと思いたかった」
でも参加者は……、彼らは一体何の為に。
優衣の体が薄くなっていく。元いた世界へと帰されるのだ。
『………』
無言のキュゥべえ。
『思えるさ。お前だけじゃない、全ての人間が』
あいつらを見ればきっと分かる。その犠牲は無駄なんかじゃないだと。
故に、忘れていけない。
『じゃあな。チャオ』
「――ッ」
消える優衣。
ジュゥべえはやれやれとため息を一つ。
またゲームが始まれば、自分達も再び参加者と顔を合わせる事になるだろう。
『今度は誰が死ぬ? 今度は誰が絶望していくんだろうな』
永遠に続く愚かな輪廻。
彼らは愚かだ、最後まで争い会う事を止めれない。止められない。
魔獣がソレを拒むからな。
愚かだよ、本当に。
『………』
ジュゥべえは最後に、ニコがBOKUジャーナルに作らせた情報誌を思い出す。
途中から手書きで殴るように書いてあった文。そこにはニコが知る限りの参加者の情報が記載されていた。
もちろんFOOLS,GAMEの事もだ。
滅びいく世界の中で、何人の人間がそれを信じるだろう?
そしてこれより忘れ去られる世界で、知る事に意味などあるのだろうか?
ただそれでも、彼らが生きた証は本物だった。
この物語もまもなく終わりを迎える。
最後に、BOKUジャーナル編集長である大久保大介の言葉と、真実を織り交ぜて参加者を振り返るとしよう。
ではまず、彼の言葉を聞いて欲しい。
●
我々BOKUジャーナルの記者一同が、今回この様な内容の記事を発行した事について、多くの批判が起こるかもしれない。
真実を伝える位置に立つ者の言葉としては、あまりにも具体性が無く。
事実コチラとしても、裏づけは取れていない状況である。
何より見ていただければ分かるとは思うが、内容は突飛なもので、ファンタジーと思われるかもしれない。
しかし今、空には得体の知れない化け物が見えている。
あれはきっと現実の筈だと、私達は信じたい。
だとすれば我々がこの言葉を文とし、記事として無料でバラ撒いている理由が、少しは分かってもらえるのかと思う。
あの化け物は何なのか、その正体を知る少女が、我々の会社に足を運んでくれたのだ。
私は、彼女の言葉を信じた。
中学生である彼女の言葉を、何の疑いも無く信じたのは、化け物と言う存在。
そして何よりも私自身が、彼女の言葉を真実としたかったのかもしれない。
だから今から記載している言葉は真実なのだ。どうか、それを信じて頂きたい。
●
そこには、この世界にすら存在しない人間達の事が書かれていた。
ニコもリュウガ等の全貌を知る事は無かったので、ココは真実を織り交ぜつつ言葉を脚色したい。
●
巴マミ。
早々に魔法少女になった為か、彼女は多くの魔法少女に尊敬され、彼女も尊敬される自分でありたいと願った。
だがその強さの裏には、誰よりも脆い心があったのではないかと思う。
寂しさも、弱さも、魔法少女であれば抱いてはいけない物と抱えすぎてしまっていたのかもしれない。
だが彼女が最後に抱いた想いは、紛れも無い強さだったのではないかと思う。
須藤雅史。
彼は正義を信じていた。しかし世界は彼が思っているよりも悪意に満ちていた。
そしてその悪意が正義だと思っていたものを深く侵食した時、彼は壊れてしまったのだろう。
正義とは人によって形の違うものではあるだろうが、見るからに歪なソレを歪と認識できていたのなら、彼にはまた違った結末が待っていたのかもしれない。
歪んでしまったとは言え、正義を求める心は曲がってなどいないのだから。
美樹さやか。
自身が信じる物こそが絶対的な正しさを持っていると言う自信。
それは柔軟性を奪い、時にその人の身を滅ぼす。
彼女はその落とし穴に嵌ってしまった尤もな例であった。自身の信じていた物が否定され粉々にされたとき、彼女は大きな悲しみに包まれただろう。
だが彼女はその落とし穴から這い上がる事ができた、少し遅かったのかもしれないが。そして彼女は自らの命を使って落とし穴に蓋をした。自分と同じ思いを他人がしないように。
ただ、その落とし穴は一つではなく、無数に存在していた。その中の一つを塞いだだけ。
それでも彼女の行動には確かに意味があったと信じたい。
北岡秀一。
人は皆等しく死が与えられる物であり、だからこそ人はそのゴールに向かうまでを人生と称し幸福を求める。
だが、ある意味では彼には人生が存在していなかった。ならば何の為に彼は生きれば良かったのか。
その答えは、彼自身が見つけなければならなかった。
限りある時間。逆を言えば、それが分かっているのだからこそ、見える景色もあったろうに。
それに気づくことが、彼の最大の試練だったのかもしれない。
暁美ほむら。
時間を繰り返し続けた彼女が望んだのは、友達を救いたいと言う純粋な願いだった。
しかしその願いが取り返しのつかない悲劇と連鎖を生み出したのだ。
それは罪なのか、それとも彼女もまた巻き込まれた被害者なのか。
ただ一つだけ、分かる事があるのなら――
どれだけの時間を巻き戻そうと、その中で起こった事は全て真実だった。
苦しみも悲しみも絶望も、そして喜びも希望もだ。
時間を巻き戻して無かった事になったとしても、それは確かに形を持ったものなのだ。
手塚海之。
運命を変えたいと願った男は、誰よりも運命に縛られていた。
一人一人に定められた道、それを変えたいと願う事は彼にだけ与えられた物では無い。
人は皆、運命を変えられる権利を持っている。
それがあると、それが可能なのだと彼は証明してくれた。
どんな運命だって、変えたいと願うのなら、否定したいと決意したならば変えられるんだ。
それは今からでも遅くは無いと信じたい。
佐倉杏子。
どんな悪人も、生まれた時から悪に染まっている訳ではない。何故か? 決まっている。
人は生きていく中で知識を得る。自我を確立する。その中で彼女は大きな悪意に触れる事になった。故に狂い、故に染まる。
些細な事だったのかもしれない。彼女の傍に希望を示せる者がいれば、彼女は再び優しくなれたのかもしれない。
ただ唯一の救いは、彼女の隣には、より強い殺意を持った男がいたから、彼女は崩壊には至らなかった。代わりに良心を失う事になったのだが。
浅倉威。
彼は獣だった。己の本能に従い、力のみを正義として気に入らない物を排除する。
だがそれだけ獣であろうと、正真正銘の獣になろうとも基盤は人間の器と心だ。
最終的に彼は獣としても、人としても満足に生きる事はできなかった。
尤も、はじめから彼に終わりなど無かった。
報われる事の無い生を受けた彼は、最も愚かで哀れな存在だったのかもしれない。
しかし彼は唯一、佐倉杏子の希望となった男だ。
それは歪な物だったかもしれないが、好きに生きているだけで、彼女を助けられたとは。
それもまた面白い話ではないか。
マイナスとマイナスはプラスに変わる事ができる。
とは言え、より大きなマイナスにもなるのだが。
千歳ゆま。
子供を愛していない親などいない。そう声を大にして言える時代は終わりを告げた。
いや、初めからそうではなかった。血を分けたものであろうとも憎悪の対象になる事は珍しい話ではないのだ。
両親に愛されたいと言う当たり前の思いは踏みにじられ、彼女は成す術も無く魔法少女になった。
そしてその後、殺し合いに巻き込まれ命を落とした。何の為に彼女は生まれたのか。
こうなるのなら、彼女に突きつけられた選択肢は虐待の向こうにある死か、ゲームの先にある死でしかなかったのか。
だとすれば、悲しすぎる。
佐野満。
人間ならば誰もが幸せになりたいと思うはずだ。愛する人と家庭を持って幸せに暮らす。
お手本の様な幸福ではあるが、彼は焦りすぎてしまったのかもしれない。
この世の辛い所は、何かを掴み取るためならば相応の働きはしないといけない。
手にした力は諸刃の剣。うまい話には落とし穴がつきものだ。
社会ではよくある話、そしてそのリターンが命をかけたものなら、落とし穴もまた命を賭けた物。
彼はある意味普通すぎる人間だったのかもしれない。普通すぎたから、異常な空間には適応できなかった。良心があり悪意がある。
彼もまた蝙蝠、鳥にもなれず動物にもなれず、壁に挟まれて潰されてしまった。
呉キリカ。
変わりたいと願う気持ちは誰もが持っており、彼女は文字通り全く違う自分になった。
しかし彼女は変わることで、変わる前の自分にあった長所を捨ててしまった。
かなり屈折してはいたが、他人が何を考えているのかを考える事ができた。
だが変化を遂げた彼女は織莉子と自分だけの世界のみで構わないと割り切った考えを持つようになる。
そんな彼女に突然現れたパートナーに、彼女が掲げていたアンデンティティが崩壊し、無意識の混乱が訪れる。結果、彼女は自分が思う以上にパートナーのことを気にかけ、パートナーが掲げていた目標に飲み込まれた。
東條悟。
他人に評価されたいと言う思いは、誰しもが持っている筈だ。
評価されると言う事は、愛されると言う事。愛される者は友人も多い。
彼の中ではスムーズにその方程式が成り立っていった。友人とは色々な想いを共有する存在だ、共通の趣味や、抱えたストレスを話すことで発散したりと。
彼は人間の友人が一人もいなかった。親とも会話をしない彼は、抱える思いを全て一人で背負い込むことになる。
パンクしそうになった彼の前に現れた英雄と言う単語。彼はその言葉に希望を見出して夢を見た。
英雄になりたかったのは友人が、理解者が欲しかったからだ。
英雄になれた所で、理解者が増えなければ意味の無い物だった事に彼は気づけなかった。
ただ英雄と言う言葉に救いを乗せ、狂ったように結果だけを求める。
過程が最も大切だったのに。
浅海サキ。
迷い続けた人生だった。愛する妹の死、彼女を蘇らせるかどうか。
妹の死に関係している巴マミに復讐するのかどうか。そしてゲームを受け入れるのかどうか。
だがいつだって彼女は理性を留め、自身にとって最良の選択を取り続けてきた。
そしてそれに後悔はしていなかった。
そしてその選択を取れたのは彼女一人の意思ではない。
自分の良心を思い出させてくれるもう一人の妹、そして仲間がいたからだ。
彼女一人を見れば弱い人間だったのかもしれない。しかし他者が関わる事で、彼女は強くなれた。
霧島美穂。
叶えたい願いが無い人間はいない。しかし己の願いが他者を殺してまで叶える願いなのかと言われれば混乱してしまうだろう。
極限状態の中で彼女は悩み、混乱した。
けれどもあと一歩と言う所で理性を保てたのは、パートナー同じく他者との関わりだった。
彼女もサキも良心の欠片を共に、仲間に振りまいていたのかもしれない。
悲しいのは、その希望がこのゲームでは弱さになってしまった事だろうか。
人を疑い続けた彼女は、理性を取り戻すことで人を妄信的に信じるようになった。
それを突かれ、彼女は死んだ。けれども彼女は後悔はしていなかっただろう。
人を信じて死ねるのなら、それはそれで構わないと。
双樹あやせ。
悲しい話だが、人は皆が優しく、強くはいれない。彼女は純粋無垢な優しい少女だった。
だが負の感情は、彼女を容赦なく包み込み、彼女の純白な心をドロドロに濁していく。
そしてそんな彼女の前に転がっていたのは強すぎる凶器、力であった。
正当防衛も、向けられた力が大きければそれだけ抵抗も膨れ上がる。
目には目を~と言う言葉も同じだ。向けられた力が大きければ、それよりも大きな力をぶつけて身を守る。
簡単に言えば、銃を持った自分の前に猛獣が襲い掛かってきたらどうする?
を守るために銃を発射し、動きが止まるまで撃ち続けるはずだ。
彼女は銃を撃ち続けた。全ては自分を守るために。
そして銃の力に心酔し、彼女はいつしか獣を撃ち殺す快楽に魅了され堕ちていった。
芝浦淳。
多感な時期になれば背伸びしがちな言動や、自己愛に満ちた妄想や空想を覚えるときは来るだろう。
多くの者はやがてそれが若さゆえの物と理解し、笑い話や恥ずかしい話として思い出に変える事ができる。
ただ彼の場合は別だ、なぜならば彼には本当に現実を超えた力があるのだから。
自分以外の者は馬鹿だと見下し、世界はゲームと同じだと考える。彼を止められるものは何も無い。
社会と言うルールですら自分を縛る事はできない、彼自身がルールなのだから。
しかし同じ力を持つ者の中には、彼の想像を超える者が存在していた。
彼はそれに気づくのが遅すぎた。
神那ニコ。
罪を犯してしまった少女は、その罪悪感に取り付かれてしまった。
仮にも無意識の行動だからこそ、責められたくは無い。
自分は悪くないと言う逃げの心はあった。けれども忘れなさいと言われれば言われたで、自分の行った事の重さを感じ、罪の意識に苛まれる。
ジレンマは彼女の心を壊し、からっぽの人形に変えてしまった。
そんな彼女が再び抱いた想いがあったからこそ、ココにこうして他の参加者の名を羅列させている。
人間には綺麗な面も汚い面もある。どうかそれを、全ての人に知ってもらいたい。
今更、かもしれないが。
高見沢逸郎。
人は欲望と言う物を誰もが持っているが、彼は特別それに拘った。
そして何よりも彼は欲深い生き物であった。
それは無欲だからこそ愚かな末路を辿った者たちを見てきたからかもしれない。そしてその中で現れた無欲な少女。
彼にはどうしても我慢できなかったのだろう。最も気に入らない存在とペアを組まされることが。だからこそ彼は何が何でも少女に心を授ける必要がった。
結果として人助けになろうが、それで命を失おうが彼は構わなかった。
全ては自身が抱いた欲だ。生きる意味だったのだから。
ユウリ
期待が多きければ、裏切られた時のショックも大きくなる。
不幸続きだった少女は、いつか報われると信じてギリギリのラインを保つ事ができた。
そしてそんな彼女の前に、全ての不幸を忘れる事が出来るのではないかと思わせる程の、希望が訪れる。
その希望に彼女は夢を見て、可能性を見出し、幸福になれると半ば確信していた面もあったのだろう。
だがその希望は全くのまやかしで、しかも新たなる絶望への序章だと気づいたとき、流石に彼女は耐える事ができなかった。
そしてその絶望は激しい憎悪へと変わる。
この戦いに巻き込まれなければ、魔法少女と魔女を知らなければ、それだけの落差を生み出す希望と絶望を覚える事はなかったのに。
リュウガ
鏡合わせの存在として、誰かの影として生まれた彼はどんな思いを抱いていたのだろうか?
いや、彼自身分からなかったのかもしれない。だからまずは何が何でも本物にならなければならなかった。
彼が抱く希望は主の絶望、彼が抱く絶望は主の希望。何もしなければ誰かの鏡像で終わる一生、それを否定するために彼は自分自身を屈服させなければならない。
人では無かった、彼はただのシステムだったのだ。リュウガは、城戸真司本人だったのだから。
美国織莉子
正義と言う名の仮面で隠した本心に、彼女は自分自身でも気づく事はできなかった。
だが逆に言えばどちらも叶えたい想いであったのだ。
世界を守り、そして友人と共に平和な世界で過ごしたいと願う想い。少女が抱く当たり前の願いではないだろうか?
だが強いて言うなれば、彼女は血に塗れすぎた。世界を救う方法に現実性を求めすぎた。何かを犠牲にしなければ相応の物は与えられない、その考えに固執しすぎたのかもしれない。
何も犠牲にせず、世界を救ってみせる。そんな綺麗事を抱けていれば、まだ未来はもう少し違ったものになったのかもしれない。
しかし彼女には失敗できない理由があった。それだけの想いがあった。
そして彼女は自分が歩いてきた道は崩壊しており、後ろには戻れないと分かっていたのに、後ろへ戻りたいと思ってしまった。
結果、彼女は深い闇の中へと落ちていったのかもしれない。
上条恭介。
自分の想いに気づいた時、彼は最も愛する人を失っていた時だった。
今まで意識はできなかったが、一度愛を覚えてしまえば彼は深みへと落ちていく。
気づくのが少し遅すぎた。それが彼の最大の失敗である。
愛は人に希望を与え、成長を促し、大きな希望へと変わってくれる。
しかし同時に、愛は憎悪に変わり、愛は人を歪ませ、愛は凄まじい絶望にも変わる。これは何も彼だけに言える事ではない。
参加者の多くが愛のために戦い、そして愛のために歪んでいった。彼もまたそんな中の一人なのだ。
そして二人は両思いだった筈なのに、その想いが交わる事は無かった。
それが愛を依存に変え、永久の物に変えてしまったのだ。
命と共に。
秋山かずみ。
それがたとえ仕組まれた物だったとしても、元々はそうならなかった運命にあったとしても、今ココにある物が真実ではないのだろうか。
彼女は確かに秋山蓮の娘へと再構築されたのだ。そしてその記憶もまぎれも無い真実だった。
彼女は父を、母を助ける為に、多くの物を犠牲にしてきた。
だがその結末は彼女が望む物にはならなかった。何が足りなかったのか。それとも理由はどうであれ、人の命を奪ってしまった彼女に対する罰だったのか。
全てを知っている者から見れば、彼女たちの親子関係は酷く滑稽な物かもしれない。
しかし彼女にとっても蓮にとっても、二人は確かに血が繋がった家族なんだ。
秋山蓮。
彼の心には常に大きな無力感が取り巻いていた事だろう。
愛する者を守れず、そして日々過ぎていく時間の中で解決策すら浮かばない。
そして可能性を前にしても、彼は天秤にかけた物の重さが故、決意が鈍ってしまう。
恵里を愛していた気持ちは本物だった。しかし友に対する想いもまた本当だったのだ。
その中で現れた娘、自覚は中々浮かばない。
しかし分かる事があるのなら、自分は実の娘に殺し合いを望ませなければならなかったと言う事だ。愛する者一人すら守れないと思っていた彼に、さらなる追い討ちが掛けられた。
守りたかったんだ、愛したかったんだ、だから彼はたとえそれが死に繋がるとしても、その気持ちを証明するために彼女を強く抱きしめた。
後悔はしていなかっただろう。馬鹿で愚かな行動だと人は一蹴するかもしれないが、彼女の父としてどうしても愛を示さなければならなかったんだ。
そう、父親である為に。
●
ここからは全て、大久保大介の言葉で締めくくらせていただこう。
これが彼の残した最期の想い。最期のメッセージなのだから。
●
城戸真司と言う男がゲームに参加していたのだと、私は
私が、彼女の話をまぎれも無い真実だと信じたのは、その男の話を聞いた時だ。
もちろん明確な確証や理由は無く。本来はジャーナリストにあるまじき事ではあるが、どうかここまで読んでいただいた読者の方々には。目を瞑っていただきたい。
と言うのも、私は自分でも信じられなかったが、城戸真司と言う男に懐かしさを感じていた。
心の隅に、彼を知っているのではないかと言う想いがあったのだ。
そして彼はなんとこのBOKUジャーナルのジャーナリストだったと言う。
それが神那氏が情報提供の場に、大手新聞社や雑誌社ではなく、ココを選んでくれた理由だと言う。
もちろん我々の記憶に城戸真司と言う男の記憶はまるでなく、彼のデスクも存在はしない。
けれども胸にかすかに残るノスタルジーな想いは、その名を聞くたびに揺れ動いているのが分かった。
参加者は死ねば存在が消えるとは前述した通りだ。
故に私は彼女の話を信じて、城戸真司と言う男の話を聞いた。
彼は神那氏曰く、相当の馬鹿だったらしい。
それは学力や知能と言う話ではなく(多少はそういう意味もあるのかもしれないが)、彼とそのパートナーは、この殺し合いの中でずっと協力を説き続けたのだとか。
そして人を殺す事を良しとせず、戦いを止めるために戦っていたと言う。
これだけ聞けば、中には当たり前だと思う者はいるかもしれないが、いざ法もルールも関係ないところに放り出されれば、私達は己の身を守るために武器を取るだろうと思う。
つまり何が言いたいのかと言うと、彼の掲げた目標は並大抵の事ではない難しさがあったのだろうと言うことだ。
私達はこの時代に生まれ、法と言う秩序に守れた社会で生活をしている。
だが彼は言うなれば戦国時代の戦が真っ只中にタイムリップして刀を持っていたような物だ。
そして彼が行ったのは、その戦っている双方の大将に、武器を捨てて和解しようと言っている様な物である。
人を殺す事が当然であり、罪にも問われないその場で、その言葉を口にする事が、どれだけ勇気のある事か。和解させて手を取り合わさせるのがどれだけ難しい事なのか。
いくら馬鹿と言われた彼でも、分からない訳がないだろう。
想像してみてほしい。
目の前に知り合いを殺した者が悪びれる事なくふんぞりかえっている。
そして自分の手には銃が握られてる。
その状況ならば、きっと私達は目の前にいる者を殺してやりたいと思うかもしれない。
しかし彼は。彼のパートナーの少女は、それを絶対に認めようとはしなかったと言う。
参加者の多くは、彼らの行動を馬鹿にした。
甘い、偽善者、弱いからそう言うだけだと。
現に彼らにも迷うときはあった、自分達の想いは間違っているのか? 馬鹿で愚かな選択なんだろうかと。
しかし彼らは何度壁にぶつかろうとも、答えが出せずとも、戦いを否定する道に踏みとどまったのだ。殺し合いを否定し、手を取り合えると傷だらけで言い続けたらしい。
しかし理由は不明だが、彼は命を落とした。
願いを叶える事はできなかったのだ。私はその言葉を聞いた時、言いようもない寂しさを覚えた。
しかし同時に確信もした。
きっと彼は命を落とす最期の瞬間まで、自分の選択を曲げなかっただろうと。
そして彼のパートナーである『鹿目まどか』と言う少女こそ。
今、私達の目に映る巨大な化け物の正体だと言う。
彼女は魔女になってしまえば世界を滅ぼす素質を持っていたらしく、その事に悩んでいたようだ。
しかし彼女もまた、戦いを止める事を諦めず。同時に生きる事を諦めなかった。
彼女は自己犠牲の精神をもった優しい娘だったと、神那氏は言う。
ならば思っただろう、いっそ自分が死ねば世界が脅威に晒される事はないのだろうと。
しかし彼女は生きる事を諦めなかった。それは簡単な話だ、彼女はこの世界でまだ生きていたかったんだ。
この話は真実である。
故にこの事実を知れば、多くの人間が彼女を非難するだろう。
何故死ななかったのか、何故肝心な時に世界の為に犠牲にならなかったのかと。
それは尤もな意見であり、私も否定する事はできない。
事実、言ってしまえば今の現状。私の中にも多少なりとも鹿目まどかに対する憎悪の念はあるのかもしれない。
しかし、私は今、ココに自分の意見を書いておく。
私は、彼女を責めるつもりはないと言う事をだ。
中学生の少女が背負うにはあまりにも大きな悲しみだ。
望んで背負った訳じゃない。悪いのは、全てこうなるに至る絶望を作ったシステムだ。
だから彼女に全ての責任はないと声を大にして言いたい。
生きる事は罪ではない、希望を抱く事は罪ではない。それをどうか、皆さんの心に抱いてもらいたい。
私は神那氏の話を聞いて強くそう思った。
以上が、この見滝原で起こった数々の事件の真相である。
そしてそのFOOLS,GAMEに参加した者達の詳細を、ココに私的な想いを込めて記載した。
まもなく滅びいく世界で、こんな事を記事にしても仕方ないのかもしれない。
多くの人間がこの記事を迷信だと鼻で笑うのかもしれない。
事実、世界が滅びずに済めば、我々は皆様に合わせる顔がない。
しかし、それでも我々はこの話を真実と受け止めた。
そしてこの愚かなゲームに巻き込まれた者達の事を、少しでも知ってほしかった。
どんな感情を抱いてもいい。
怒りでも、同情でも、なんだって良い。
ただどうか、彼らがいたと言う事を忘れないでほしい。
この戦いに正義はない。
そこにあるのは、純粋な願いだけである。
その是非を問える者は……。
仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME
END
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『いやー! 終わったな先輩!!』
『……? 何がだい?』
『ゲームだよゲーム! いやもうそれにしても長かったぜー! オイラもっと早く終わると思ってたし』
『確かに、予想以上に長い時間を要したね』
『見てたヤツも中々進まなくてイライラしてたんじゃねーかな? まあでもこうして終わったんだから目を瞑って欲しいところだな』
『………』
『まあそれにしてもだ先輩。やっぱこのゲームで重要なポイントに焦点を当てるとすれば、パートナーシステムになるよな?』
『まあ、そうだね』
『オイラ思ったんだけどよ、色々繰り返してきた中で適正を持ったパートナーが今回の組み合わせになったんだよな』
『そうだね、初期の頃は色々な組み合わせを試していたけど、何時からか今回のパートナーが定着して言った様に感じるよ』
『なんでそうなったんだろうな? ちょっと考察してみないか?』
『別に構わないよ』
『おっけ! じゃあこっからはおまけだ! ゲームに参加したペアが何でその組み合わせになったのかを説明していくぜ!!』
『誰に話しかけてるんだい?』
『ノリだよノリ! 常に誰かに見られていると思った方が美意識が上がるんだぜ?』
『美意識……? まあいいや。じゃあまずはシザースペアから考えていこうか』
『共通点とすれば――、やっぱ最初に退場したって事か』
『そう言う事だろうね。騎士達は融合時の世界で考え、魔法少女は円環の理が発生したルートで考えるけど、その二つのルートにおいて二人は重要な役割を持ったからね』
『まどかと龍騎には強いエネルギーがあるからな、そんな二人に、それぞれ魔法少女と騎士の裏側を見せた事になる』
『そう。己の力がヒーローやヒロインのソレではなく、命を掛けた戦いに使う武器だと気づかせた』
『須藤は面白いな。時間軸によって性格が大きく変わってやがる』
『そうだね、死体を隠蔽する様な事もすれば、正義感の為にデッキに手を出した時もある。いずれにせよ、最後は力に飲まれて崩壊していったけどね』
『巴マミも時間軸によっては魔女になる恐怖で錯乱して仲間を殺してるな。まあ魔女になる前に仲間を救うと言う解釈もできるが、いずれにせよ褒められた事じゃねぇや』
『力を手にした事で何かがおかしくなる。その概念を具現した様な存在だね。同じ役割を持つ二人、だからこそこのゲームでもパートナーになったのかも』
『色も何となく似てるしな』
『まあそれは関係な――』
『さ、じゃあ次いこうぜ次』
『………』
『美樹さやかと北岡秀一のゾルダペアだ。こいつら似てねーと思うんだけどな』
『そうだね、似た物同士がペアになると言う訳ではない例だよね彼らは。簡単に言えば大きな影響を与え合うと言ったところかな』
『影響ねぇ』
『美樹さやかはゲームによって大きく精神を揺さ振られるからね。時間軸によって参戦派にも協力派にもなる尤もな例なんだ』
『円環ルートでも男女のアレで魔女になったしな』
『うん、そしてその中に北岡が入る。彼もまたルートによって大きく行動のソレが変わるからね』
『面白いよな、アイツいいヤツでも悪いヤツでもない中間の位置にいやがる』
『そう、本人は参戦思考だけど、周りによって影響される場合が多いよね。けど彼の考え方を変えるにはそれだけの時間が必要だ。事実、城戸真司が北岡に影響を与えたのは、約一年の時間を要したからね』
『なるほど、まあある意味プラス思考時のさやかは真司に似てるわな』
『うん、しかも性別が女である事。そして子供である事が彼に短時間にて大きな影響を与えるに至ったと言う事さ』
『今回のゲームの様なトリッキーな動きが見られるって事か』
『そういう事だね。あるゲームでは普通に参戦派として殺し合いに乗り気だった場合もあったし』
『そういう意味では王蛇ペアは分かりやすかったな』
『まあシルヴィスが介入すると杏子は完全な殺し役、マーダーになるよね』
『介入しなかった場合も場合で、馬が合うのは面白いぜ』
『彼らこそ似た物同士だからね。ただシルヴィスが介入しないと杏子は非情になりきれない。そう言った意味でも、彼女の本質が善人であると言う証拠だろう』
『円環ルートでもさやかを赦し、共に散ったからな』
『浅倉タイプである事は間違いないのだけど、理性と優しさを持っているのが杏子だと言う事かな』
『浅倉と佐倉か。クラクラコンビだな!』
『………』
『次は手塚と暁美か。まあこいつらは色々あるからな、特に暁美の方が』
『それでもやはりこの二人も本質は同じだよね。友人の為に運命と戦う事さ』
『大きな違いと言えば、手塚のほうは既に友人が死んでるって事か』
『そうだね。ただボクは、彼もループの記憶が強く残っていたんじゃないかと思うよ』
『?』
『彼の占いが龍騎の世界においてほぼ未来予知と同じ役割を持っていたのは、無意識のうちに占いと言う儀式下において前時間軸に起きた事を思い出していたからじゃないんだろうか?』
『なるほど、確かに真司のヤツもタイムベントで戻された時、記憶はしばらく残ってたからな』
『まああくまでも推測だけどね。共に時間を何度も繰り返し友人の死を経験した手塚とほむら、これが二人を強く結びつけたのかもしれない』
『武器も同じ盾だしな』
『面白いところだよね』
『んで、肝心の鹿目まどかと城戸真司か』
『戦いの輪廻を否定したいと言う典型的な"良い人"だよね。まあただ、それを貫けるのがあの二人のただならぬ所だけど』
『綺麗事だの甘い妄言だのとは言われるが、事実それが一番難しい道だからな』
『そうだね、人間にはどうしても叶えたい願いや、叶えなければならない願いがあるからね』
『事実ソレは、明確な結果には繋がらなかったわけだしな』
『そうだね。ただ、その想いを示し続ける役割もまた、戦いの輪廻の中では必要なのかもしれない』
『今回のゲームはよく生き残ったほうだよな。他ではだいたいソッコーで殺されるのに』
『鹿目まどかは覚醒も果たしたしね。ナイトのサバイブといい、今回のゲームは特別異質だよ』
『天使召喚も本人が女神なんだからあり得るわな』
『人によっては彼らを弱いと言い、人によっては彼らを誰よりも強いと言う』
『弱いが強い、強いが弱い。成る程、確かにコイツは特別だぜ』
『あと一歩なんだろうけどね、いつも』
『そう言えば色も似てるしな』
『好きだねそれ。でもそれなら龍騎と佐倉杏子の方が近いと思うけど』
『まあまあいいじゃねぇか先輩。次は織莉子か?』
『織莉子と上条だね。あの二人は――』
『色が似てるな』
『………』
『ああ、つうかよ先輩』
『なんだい?』
『なんかさ、ちょいちょい気になってたんだけどよ』
『うん』
『うるさくねぇか?』
『何がだい?』
『外』
『確かに、少し騒がしいね』
『ドタドタとなんだってんだ……?』
『気づいたんだろうね』
『ッ? 何に?』
『ああ。キミも気づいてなかったんだね。通りでおかしいと思ったよ』
『???』
『だってキミ、ゲームが終わったって言うんだもの。いつもの様な冗談かと思って聞き流したけど』
『え? な、なんて?』
『だからさ、キミは勘違いしてるよ』
ゲ ー ム は ま だ 終 わ っ て い な い の に
『……なん、だって?』
『行こうか。ボクはホールへ、キミは舞台へ』
『……へ?』
『だって――』
キュゥべえは口を開けているジュゥべえに、その表情をピクリとも変えず、さも当然の様に言い放つ。
『騎士担当は、キミだろ?』
「なにがどうなっているッッ!?」
強い音と共に、ホールの扉が打ち破られんばかりに開かれる。
姿を見せたのはゲームの司会者であり、進行を任されていたバズビー。
彼女の後ろからは、同じく退出していたシルヴィスをはじめとした魔獣が、続々と息を切らせホールに入ってくる。
彼等は皆、ジュゥべえ同じく唯一無二の真実を伝えられた。
そう、ゲームは終わっていないのだと。
『気づかなかったのかい君たち。既にリザルトからその兆候は見えていたのに』
ホールに入ってきた者達の前には、見滝原の様子を映したモニターが広がる訳だが、そこには先ほど表示されていたリザルトがあった。
これを作ったのはキュゥべえだ。彼がカウントした脱落者を記載し、全員死亡をゲスト達に知らしめた。
だが、よく見ると……。
【秋山かずみ・死亡】
【秋山蓮・死亡】
【暁美ほむら・死亡】
【浅倉威・死亡】
【浅海サキ・死亡】
【鹿目まどか・リタイア(魔女)】
【上条恭介・死亡】
【神那ニコ・リタイア(ルール)】
【北岡秀一・死亡】
【城戸真司・死亡】
【霧島美穂・死亡】
【呉キリカ・死亡】
【佐倉杏子・死亡】
【佐野満・死亡】
【芝浦淳・死亡】
【須藤雅史・死亡】
【双樹あやせ(ルカ)・死亡】
【高見沢逸郎・死亡】
【千歳ゆま・死亡】
【手塚海之・死亡】
【東條悟・死亡】
【巴マミ・死亡】
【美樹さやか・死亡】
【美国織莉子・死亡】
【ユウリ・死亡】
「……ッ!!」
同じく部屋にやって来た下宮と小巻。
彼らは目に映るリザルトを見て、一つの違和感に気づく。
そう。そしてそれこそが――、真実なのだと。
「数が合わない……!」
「何ッ!?」
画面に表示されている名前は25人だ。
参加者は騎士13人と、魔法少女13人。ならば、合計すれば26人が道理。
にも関わらずこの画面には、全ての参加者が記載されている筈の画面には、25の名前しかない。
一人、足りない!
「馬鹿なッ! あり得ない! 参加者は全員死んだ筈だ!!」
もしくはリタイア!
それなのに何故、参加者の名前が全員記載されていないのか?
バズビーは運営のリーダーとして大きな焦りを感じた。
そして目で追う名前。だがキュゥべえは首を振る。
もったいぶる気は無い。答えを見てもらった方が早いだろう。
と言うわけで、彼はリザルト画面を消す。するとそこには――
「何故だ……?」
「「「ッッ!?」」」
大きくザワつくホール。
当然だ。そこに映っていたものは、通常では考えられないものだったのだから。
だからバズビーは訳が分からず、つい口をついて言葉が出ていた。
「何故貴様が生きているッッ!?」
声を震わせ、彼女は画面の向こうにいる人間を睨んだ――!
「城戸真司ッッ!!」
「――ッ、シャア!!」
頭に纏わりつく重い物を振り払うように気合を入れた男。
気のせいだろうか? ジュゥべえの目には、龍の影を纏う男の姿が映っていた。
『Here we goーッ!』
ジュゥべえが煽る
前にいる『彼』も感じている筈だ。その身体を焦がし、熱く燃え滾る紅い血が。
『驚いたぜぇ……! まさかテメェがまだ食い下がってくるとはなぁ!』
ジュゥべえは展望台にあったオブジェの上に立ち、汗を浮かべながら目の前に立つ男を見下げる。
『なあそうだろォ! 城戸真司ぃッッ!!』
「――ッ! ジュゥべえ……!」
そこに立っていたのは紛れもない。城戸真司の姿であった。
だがおかしい、彼は先程リザルトに名前が記載されていた筈では!?
そう。事実ジュゥべえや魔獣達もそれを見て、違和感を覚えることは無かった。
しかしそこがそもそもの落とし穴。このゲーム、真司は『二人』いるのだ。
そう、あのリザルトに載っていたのはリュウガなのである。
『リュウガには鏡像とつけるべきだったね。ボクのミスだ、すまない』
「ぐぐッ!!」
モニター越しに真司を見ていたバズビー。
だが待て、だとしても一体いつ彼は蘇生されたのか。
鹿目まどかは家族の死体を見て絶望した。絶望させた。
その時に願いを口にはしていない。
だとすれば、何故――!?
『お前、何で戻ってきた?』
ジュゥべえも同じ事が気になったらしい。
真司が放つ言いようの無い雰囲気を感じながら、その問いかけを放つ。
すると拳を握り締める真司。ギュッと目を瞑って下を向く。
「声の無い叫びが、聞えたんだ……ッ!」
『!』
そして真司は目をカッと開いて、ジュゥべえを睨みつける。
「それが、俺の
幾千の祈りがこの
その瞳の奥に炎が、龍騎の紋章が見えた気がして、ジュゥべえは思わずゾッとして体を後ろに下げる。
この覇気、間違いない。真司は今かつてないほど、大きな感情を抱いているのか。
そしてジュゥべえは言葉の意味を同時に理解する。
そうか、声にならぬ叫びか。
『本来、魔法少女とボクらは口で会話するのではなく、テレパシーで会話をしていたからね』
このゲームが始まってそれがルールの下に封じられたけど、ゲームが終われば再びボク達はテレパシーで会話できるんだよ。
鹿目まどかは強く願っていたよ?
(たすけて――……真司…さん――ッ!)
『――とね』
「まさかお前!」
『ああ。ボクはそれを"願い"と解釈した。城戸真司に助けて欲しいと。でも彼は死んでいる。だからボクは城戸真司の蘇生と言う解釈を行った』
故に、城戸真司はあそこに立っている!
「余計な事をッ!」
『余計な事? 願いを叶えるチャンスは終わっていなかった』
おかしな事を言わないでくれ。
キュゥべえは涼しげな声でバズビーに言葉を向ける。
赤い目には、汗を浮かべて歯を食いしばっている彼女の顔が映っていた。
『キミが早くゲームを終わらせる為にまどかの家族を殺し、それを見せる事で半ば強制的に絶望させたんだろう?』
「どうせ願いを叶え様がッ! イツトリによって無に還る。あの流れは無駄だろう!」
『そうかな? ボクは少しくらい彼女たちに付き合っても良かったと思うけどね。いやだからこそ、願いを聞き入れた』
「グッ!」
その会話をジュゥべえが拾う。
『なるほどォ。まあいいや、とにかくゲームはテメェらの勝利だ。龍騎ペア』
鹿目まどかはワルプルギスの消滅を願い、そして城戸真司の蘇生を願った。
叶えた願いは二つ。あと一つだけ真司は願いを叶える事ができる。
だとすれば、彼は何を叶えようと言うのか。ジュゥべえは城戸真司に問いかけた。
「俺の願いは、俺の答えは――!」
心臓を握り締める様に力を込める真司。
ずっと考えていた。だが何度も迷い、悩み、分からなくなった。
でも、思ったんだ。
「やっぱり、こんなゲームを否定して、戦いを止めたいって」
『………』
「きっとすげぇ辛い思いして、させたりもすると思うけど――!」
真司の目にまどかの姿が浮かぶ。
彼女は、泣いていた。
そうだ、涙を流して泣いていたんだ!
「それでも、止めたい!」
『お前……』
「それが正しいかどうかじゃなくて。俺の……、ゲームに参加した騎士の一人として、叶えたい願いがそれなんだ」
首を振るジュゥべえ。
ココに来てもそれか。その考え方は立派だが、少し遅すぎた。
『今更すぎるぜ』
「かもしれない。だから、だからこそ――!」
真司は後ろに何がいるのか、分かっている。
守ると約束した、一緒に戦おうと約束した、生きていいんだと言った。
その大切なパートナーが今、後ろで巨大な絶望として成り立っている。
「俺がッ!」
他の誰でもない、鹿目まどかのパートナーに選ばれた
「――
『!』
ジュゥべえの瞳を真っ直ぐに捕らえる城戸真司の目には、一点の迷いも存在していなかった。
長い時を要したものだ。自分自身そう思っている事だろう。
しかし彼は今、本当の答えを、唯一の想いを見出した。
蓮に伝えたかった『自分だけの答え』を。
『ならどうする? 鹿目を元に戻すか?』
「違う」
『あ?』
思わずジュゥべえは間抜けな声をあげて固まってしまった。
てっきりそれが願いだと。と言うより今の状況を考えて、それしか無いと思っていたのだが。
いやいや、と言うより、もうそれしかないのだ。
『世界を滅ぼす魔女を放置してまで叶える願いがあるってか?』
「……ああ!」
『ッ! まさかアイツを殺すのか?』
「違う」
『だったら……! そうか、わかったぞ! 霧島の蘇生だな!』
「違う!」
『ッッ??? あ、秋山の蘇生か!?』
「違うッ!!」
吼える真司。
その気迫に押し出される様な覇気を感じたジュゥべえ。
馬鹿な! 感情の無いインキュベーターがたった一人の男に気圧されている!?
『お、面白れぇ! だったらなんだってんだ!!』
「俺の答えはただ一つ!!」
真司は手を思い切り振り上げ、そして人差し指でジュゥべえを強く指し示す!!
「13人の騎士と13人の魔法少女ッ! 26人全員の生存だ!!」
『!?』
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
ジュゥべえだけでなく、ホールにいる全員が脳をハンマーで思い切り殴られた様な衝撃を覚えた。
13人の騎士と13人の魔法少女全員の生存? この殺し合いに参加した参加者全員が生き残る道こそが、城戸真司の願いだと!?
「――……くはっ!」
衝撃の後には嘲笑。
ホールには城戸真司の願いを馬鹿だと、愚かだと、あざ笑う声が響いていた。
集まった魔獣のほぼ全員が声を出して笑い、上層の椅子に座っていたギアでさえ真司の本物の馬鹿だと認識して笑みを浮かべていた。
そしてそれはジュゥべえもまた同じ。
『ハハハハハ! 気でも狂ったかよ真司! それともテメェ、ルールってヤツをまだ把握できてねぇなこりゃ』
どうすればそんな事が叶うと言うのか。
一つの願いにつき蘇生させる事のできる人間はただ一人だ。
ましてや蘇生させた所で、鹿目まどかの問題はどうすると言うのか。
そうだ。どちらにせよ真司は、出した答えを叶える事はできな――
『――………』
ちょっと待て。ジュゥべえは笑い声を急に止めた。
(とんでもねぇ馬鹿な願い事だと一瞬思ったが……)
よく考えてみれば、それは言い方の問題なのでは無いだろうか。
要するにそれを叶える事ができるかもしれないチャンスならば作れるのだと真司は知っている?
と言うより、既にそれを叶えた事があるじゃないか。
(ッざけんな! コイツもかよ……ッッ!)
チラつく暁美ほむらと神那ニコの姿。同じか、あいつ等と!
「やり直す。全て!」
『や、やっぱりか! お前、繰り返す気かよ!』
全ての駒を並べなおして、もう一度――ッ!
「ああ! だけど駒じゃない! 命だ! ゲームをもう一度同じ参加者で繰り返す!!」
同じ参加者でゲームを繰り返す。
それが願いだと? そしてその中で誰一人として犠牲を出す事無くゲームを終わらせるとでも言うのか!?
馬鹿な、できる訳が無い。どう考えてもできる訳が無いだろ!
『テメェ理解してんのか? それがどれだけ馬鹿で、愚かで、無謀な願いだって事を!』
次にまた戦えば、同じシチュエーションになれるとは限らない。
だとすれば、ココでまどかを元に戻すか殺したほうが妥協はできるだろう。
もしも次、再び同じ状況になれば世界は終わる。
『だいたい分かるだろうが! 見てきただろうお前も!』
参加者同士の殺し合いを、そして何よりも参戦派達の行動を。
何度戦いを止めろと真司やまどかは言ったんだ? そして何度馬鹿にされた? 何度貶された?
『そして守れたか? 戦いを止められるとこの結末を見て欠片でも思えたのか!?』
「ッ」
『くッだらねぇ! できる訳ねぇんだよそんな事!』
「できる!」
『な……ッ! で、できてねぇからこうなってんだろうが!!』
「だからもう一度チャンスを作るんだ!!」
『うグッ!』
全く怯まない真司。当然だ、彼にもう迷いはないのだから。
ムカツク、ムカツクぜぇ! ジュゥべえの心に募る苛立ち。
なぜだ? 擬似的な感情だから理解できないとでも言うのか!?
いや、間違ってない筈だ。何故無駄だと分かる道を歩む? 何故できない事にチャンスを見出す?
今までそうしてきた奴らだってそうだ。何故、何故ッ、何故ッッ、繰り返す事を恐れない?
『お前がココに至るまでに味わった苦しみと痛みを、もう一度繰り返すかもしれねぇんだぞ! 何故それでも戦いを選ぶ?』
愛する者を守れず、目の前で失うその瞬間をもう一度味わうかもしれないのに。
体を抉る刃や拳の感触を、もう一度覚えなければならないのに。
それでも尚、戦いを目指す意味が全く分からない!
「俺は、この戦いを恐れない!!」
『ッ!』
「終わりが見えなくても、終わりが無かったとしても! 俺は諦めないッ!」
必ずどこまでも食いついて食いついて! 絶対に喰らいついて離しはしない。
何度倒されても、何度傷つけられても、何度絶望を見せられても――!
「俺は必ず立ち上がる!」
たとえ悲しみの炎に身を焼かれようが!
「
たとえ絶望の剣に心を刺し貫かれても!
「何度だって!!」
変えたい世界があるのならば、命の炎を燃やし続けろと!
そうだろ? 手塚。真司の目に宿る炎。そして何よりも鹿目まどか。彼女を守れなかった悲しみが炎を激しく燃え上がらせる。
皮肉な話ではあるが、それが起爆剤となったのだ。
パートナーとして守ると約束した少女一人守れないんじゃ、美穂の所には行けない。
蓮に顔向けができない!
そしてまどかと共に視た世界が、未来がある。
それが真司の心に、揺るぎの無い気高さを。つまりプライドを生み出した。
彼も男だ。約束一つ守れないんじゃ、死んでも死に切れない。
そしてそのプライドを、気高さを心に抱く限りは――
「俺の
『!!』
ジュゥべえは言葉を失い、打ちのめされた表情で真司と視線を交差させる。
そしてそんなジュゥべえに、更なる追い討ちがかけられる事になった。
真司は何も、ただ普通にゲームを繰り返そうと言う訳ではない。
「見てるんだろ! 今も、ずっと!!」
『何……?』
「ジュゥべえ! 俺の願いはルールを変更した上でゲームを繰り返す事だ!」
『ルールを、だと!?』
「ああ、そうだ!」
真司は手を振り払い、辺りを睨みつける。
「次のゲームに――」
そして、再びジュゥべえを睨んだ。
「黒幕をッ、ゲームを運営してる奴を引きずり出す!!」
『!』
「ば、馬鹿なッッ!!」
その時ホールに木霊していた笑い声がピタリと止み、焦りを含んだザワつきに変わる。
幹部達の表情が一気に変わる。運営者を引きずり出す? つまりなにか? 自分達をゲームの舞台に上がらせると!?
その言葉に、思わずギアもピタリと動きを止めた。
相変わらず頬に手をついているし、顔は人間のソレではなく、モンスターのそれなので表情を読み取る事はできない。
しかしそれでも彼の中に、初めて人間に対して抱く『何か』を感じた事だろう。
そして同時に疑問。真司はどこで魔獣の事を――?
「!」
そしてその時だ。真司の隣に人影が現れたのは。
思えば、まどかがソレを願った時から今に至るまで、若干のタイムラグがあった様に感じる。
現にジュゥべえやキュゥべえも一度部屋に戻る時間はあった。
しかし実際は、その時点で、真司はもう蘇っていた。
彼が死んだのは展望台だ。そこには誰がいた? それこそが、答えである。
『神那ニコ……!』
「私が城戸に教えた。黒幕がいるって事を」
城戸真司の隣には神那ニコ。
彼女がココに来たのはたまたまだが、それが結果として今に繋がっている。
ニコ自身、その事に運命的なものを感じ、その結果――
「なんかさ、諦めるの止めよかなって」
『はぁ!?』
「いるんだろ? 黒幕」
ニコが抱いた想い。
インキュベーター以外の第三者がゲームに深く関わっていると言う可能性。
それを織莉子に話したニコは、一旦織莉子と別れた後に、実はまだ織莉子に興味を失っていなかったのだ。
それを知った織莉子がもしかしたら第三者に殺されるかもしれない。
あるいははニコに第三者が接触してくるかもしれない。
その可能性を抱いた。そして偶然とは言え、織莉子は見滝原外へ一気に飛ばされた。
ニコはそれをしっかりと確認していた。それがオーディンにやられた物とは知らず。
だがいずれにせよ、結果としてニコは織莉子がいる場所に一番近い境界線へ向かうことが出来た。
足をジェットに再生成して、力の限り全速力を出した。
その結果――
「受け取った、アイツの残した最期の一撃」
『それは……!』
フラッシュバックする記憶。
そうだ、織莉子はオラクルに自分の言葉を記憶させて、オーディンに向けて放った。
つまり、裏切ったオーディンに縋ってでも伝えたかった言葉があると言う訳だ。
そしてそれはオーディンではなく、オラクルを感知したニコがキャッチしていたのだ。
そこに記録されていた言葉は、織莉子が見た『ありのまま』の景色だった。
「化け物が自分に矢を向けていた。ソイツの周りには同じく人の姿をした化け物が並んでたってな!!」
『ッ!』
「しかもソイツは織莉子が死んだと思って化け物の姿から人間の姿になった!」
ニコは先ほどの真司と同じく、辺りを激しく睨みつける。
カメラの様な物は見えないが、どうせ辺りには何かがあるんだろう。
ゲーム。自分達は駒。だったらその駒が散る所を確認する高性能のカメラがあるんだろうから。
「お前だよ! 桃毛交じりの金髪女!!」
「!!」
バズビーから笑顔が完全に消え、引きつった表情に変わる。
それは紛れも無く彼女の事だ。当然だ、ルール違反をした織莉子は、バズビーがご自慢の矢で射抜いて殺したのだから。
だがまさか、あの状態でオラクルを飛ばせていたとは気づかなかった。
絶対に隠さなければならない自分達の存在を参加者に知られる。
果てしなく続く戦いの中でも始めての事。
そしてそれだけ、大きすぎるミス。
「ク……ッ!」
バズビーは一同の視線が自分に集中しているのに気づいた。
この司会を任される程の地位に立つ自分がミスを犯した? 下等な人間程度に隙を見せた!?
彼女は大きく歯軋りを行い、直後踵を返して怒声を上げる。
「監視役ゥウッッ!!」
「なっ!」
「………」
バズビーは鬼の様な形相で下宮と小巻の前に立つと、二人の襟を掴み、睨みつける。
至った結論は、コレは自分のミスではなく、下宮達のミスだと言うものだった。
監視役は文字通りゲームの運営を妨げる物が無いかを監視する雑用係。
当然オラクルを発射したのを気づけなかったのは、下宮達のミスではないかと。
「役立たず共が! 全て貴様らの責任だぞ!!」
「も、申し訳ありません!」
「申し訳ありません。しかし――」
言葉を続ける下宮。
「バズビー様ならば、抵抗させることなく終わらせるかと思っていたので」
「グッ! だ、黙れ!!」
バズビーの裏拳が下宮の頬を打つ。
彼は冷めた表情でズレたメガネを整えた。
「これだから人間あがりは使えないッ!!」
ヒステリーを起こすバズビーだが、そうしている間にも、モニターの向こうの『箱庭』では会話が行われている訳で。
とにかくだ、つまりはこう言う事である。
真司はゲームをやり直そうとしている。ココにいる、魔獣を巻き込んで。
いや、それだけじゃない――!
「皆が希望を失わないように、俺がルールを変える」
『はぁ!?』
「ジュゥべえ、俺にルールを決めさせろ!」
『馬鹿か!? そんなモンできる訳ねぇだろ!!』
「―――ッ」
見えた
だが立ち止まれば、それは彼方に消えてしまうだろう。
消させはしない。絶対に。
「なんでも願いを叶えてくれるんじゃないのかよ!!」
『グッ! げ、限度がある! お前のやろうとしている事は、ゲームを直接否定するのと同じだ』
叶えられる願いはあ、くまでも箱庭である見滝原のみに干渉できる事。
つまりゲーム盤の外にまで干渉を及ぼす願いは叶えられない。
それを端的に教えると、真司は口を閉じる。
だが、すぐにまたその口を開いた。
「だったらせめて、俺が望む世界を作れるようなルールにお前らが変えてくれよ!」
『ッ?』
コチラの勝手でルールを変える事はできないと、真司は最初から分かっていた。
彼が思い出したのは、昔取材した詐欺に関わる事件で、編集長達に教えられた小さな知識だ。
まず明らかに無理な要求を出し、その後に狙いを要求を出す。
つまりこれが真司の本当の狙い!
(コイツ……! 馬鹿のくせに――ッッ!!)
ジュゥべえはすぐにその狙いに気づいた。
しかしどうだこれは、ジュゥべえは今、確かに真司の気迫に圧されている。
こんな事を思いつける程の余裕があると言うのか。
叶えられると信じている。成功を疑っていない。
何て傲慢な奴。どんな事をしても、この願いだけは叶えてやると言う、絶対の意地!
「殺し合いを望むこのルールの概念! 絶望と全滅を望む意思ッ! 俺がブッ壊してやる!!」
『つまりゲームの概念を変えろと――?』
「ああ、俺の
どうせ殺し合うだろう。どうせ皆死ぬんだろう。どうせ絶望が勝つんだろう。
そんな馬鹿げた概念を間逆に変える。それが城戸真司の望む世界への提示。
彼の絶対なる答えだった。
『その一つが、黒幕の登場って訳か……』
沈黙するジュゥべえ。
そのまま少し固まり、その後、再び口開く。
『黒幕ねぇ? 仮にいたとしてよ、引きずり出してどうするんだよ』
「決まってるだろ」
真司は拳を握り締め、それをジュゥべえに向ける。
「絶対にぶっとばすッ!!」
『………』
そして。
『………』
ジュゥべえは。
『……成る程』
確かに口を吊り上げ、ニヤリと笑った。
『面白れぇ! やっぱ馬鹿はコッチの予想外を突いてくるから面白れぇ!』
ジュゥべえ声を出して笑い出す。
これが城戸真司の示す答えか。ならばコチラも『答え』で返すのが礼儀と言う物だろう。
ジュゥべえは赤い瞳に城戸真司を映した。それはまるで炎の中に立っているようにも見える。
『いいぜぇ! やってみろよ!』
「!」
驚く真司。
『おいおいお前が言い出したんだろ?』
ジュゥべえは相変わらずニヤリと口を歪めたまま耳で拍手を行った。
それはニコに向けたもの。
『ご明察! このゲームの運営してるのはインキュベーターじゃねぇ。魔獣様さ!』
「魔獣ッ! それが黒幕なんだな!」
『まあな。お前らに殺し合いをさせてる団体様よ!』
頷くジュゥべえ。しきりに面白いと連呼し、真司を見ていた。
数えるのを止めるくらいの輪廻の中。まさか魔獣に喧嘩を売る馬鹿が現れるとは思っていなかった。
そこにジュゥべえは興味を抱き、結果、真司の希望に乗ったのだ。
『魔獣をぶっ倒し、かつ参加者が全員生き残れるルールをオイラと先輩が作ってやるよ!』
「……!!」
『だが勘違いするなよ人間が。テメェ等は今回のルールでも十分手を取り合えた筈だ』
だができなかった。
何故か? 愚かだからだろうと。
『その本質は変えねぇぞ。あくまでも基本的なルールは一緒だ』
殺し合うか、助け合うか。基本ルールは全く同じ。
最後に勝ち残った者が多くの願いを叶えられ、ワルプルギスを倒した場合は、一つの願いしか叶えられない。
だがそこに至る理不尽な点は少し減らしてやると言う。
希望は見させてやると。だが、その中には魔獣を入れる。
参加者全員が生き残れる確立は、むしろ低くなるかもしれない。
『それでも、やるのか? あぁん?』
「ああ! 俺の概念の下、俺は絶対に諦めない!」
『ならオイラ達を信用できるか? ゲームを考えたのも、運営してきたのも全ては魔獣だが、オイラ達インキュベーターも関わっていた事は事実だぜ?』
アシスタントと、ゲームが始まる元々の原因を作っている。
そのインキュベーターにゲームを任せると言う事。
「お前がもし俺達の生存を望んでいないのなら、この場で殺せばいい!」
『!』
「それをしないなら、俺はお前を信じる」
そして、全てが終わり、その時にまた人間に牙を剥くのなら――
「俺は、お前達を倒す!」
『くはははは! なるほど、ソイツは怖ぇな!』
成る程。これが城戸真司か。
ジュゥべえの中で、人間に対するイメージが変わっていく。
魔獣に食われるだけの家畜かと思っていたが、とんでもない牙を隠し持っていたじゃないか。
『乗ったよ城戸真司。テメェの作る未来、見せてみろ!』
「俺の、未来――ッ!」
必ずまどかが描いた未来を作ってみせる。
必ず参加者が全員揃って終わる結末に至ってみせる。
そして何よりも――
「
『面白い! 絶望の連鎖、断ち切る可能性をくれてやるぜ!!』
「馬鹿なッ!! 何をやっているキュゥべえ! 今すぐジュゥべえをココに戻せ!」
ホール内ではザワつく声が大きくなっていく。
誰もが皆混乱し、床にはチップ状に変えていた負のエネルギーが無数に散らばっていた。
その中でバズビーはキュゥべえに詰め寄り、怒鳴り声を上げる。
何を考えているのか。今すぐに城戸真司の願いを放棄させろと、そんな願いは叶えられないと告げろと吼える。
だが、キュゥべえは冷静だった。
『何故、断る必要があるんだい?』
確かに城戸真司はインキュベーターを敵に回す発言を行った。それはキュゥべえにとってよろしくない事ではある。
だがだ、彼が牙を向ける条件は、魔獣がいなくなった後に妖精がFOOLS,GAMEを続ける事だ。
もう既にエネルギーは十分集まった。故にキュゥべえは別にF・Gを継続させる気は無い。
そもそもインキュベーター達は直接人間に手を下すやり方はしない主義だ。
その考え方は変えるつもりはないし。
集まったエネルギーの量から、自分達は一旦地球を離れる事も視野に入れている。
つまり、少なくとも真司達が生きている間は、真司の言う『ちょっかい』をかけるつもりは無い。
『つまりインキュベーター側には何も問題無いと言う訳さ』
「はぁああッ!? 何を馬鹿なことを言っている!!」
このまま真司の願いを許せば、魔獣である自分達がゲームに巻き込まれる。
「それのどこが問題ないと言うのか。気でも狂ったか!?」
バズビーは顔を歪ませ、キュゥべえを睨みつけた。
だが凄まじい殺気の中でも、キュゥべえの表情が変わる事は無い。
『ボクは正常さ。訳がわからないよ』
その態度が頭にきたのか。バズビーはキュゥべえを掴みあげる。
同じくして背後にいたシルヴィスが声をあげる。
彼女もまた、その表情からは余裕が消えていた。
「私達を裏切るのですか……?」
『裏切る? 何を言っているんだい、キミ達は』
さも当然の様にキュゥべえはそう言った。
そう、おかしいのは魔獣の方だ。彼等は大きな勘違いを一つしていると。キュゥべえは言った。
裏切ると言うのは、そもそも一般的に味方に叛いて敵側につく事や、人の信頼に背く行為をする事であるが――
『ボク達は初めから利害関係が一致したからこそ行動を共にしていただけで、仲間ではないよね?』
「なっ!」
『ボク達を信頼してくれていたと言うのなら申し訳ないけど、そもそもボク達はキミ達を信頼してはいなかったし、気持ちを押し付けられても困るよ』
そして今、インキュベーターの目的は何も変わっていない。
その過程の中で、魔獣がゲームに巻き込まれるというだけ。
インキュベーターには何の関係も無い話ではないか。
人間がどうなろうと、魔獣がどうなろうと、キュゥべえ達の目的はエネルギーの収集だ。
『気になっていたんだよね』
「なに――ッ?」
『ボク達とは違い、キミ達魔獣には、人間と同じ感情がある』
考え方は大きく違うけれど、歪ながらも心はある。と言う事はだ。
『キミたちが絶望したとき、どんな質のエネルギーが得られるんだろうってね』
「き、貴様ぁあアアアアアアッッ!!」
バズビーはキュゥべえの首を絞め、ねじ切った。
地面に落ちるキュゥべえの死体。
「魔獣に逆らうとは、宇宙の意思も随分と愚かな物ですね」
首を振るシルヴィス。
しかし――
『君達は少し、調子に乗っていないかい?』
「!!」
バズビー達の背後に光る目が。
そこにいたのはキュゥべえだ。更新されたキュゥべえは、自分の死体を踏み越えて台座の上に戻る。
魔獣は最近、どうにもインキュベーターを私物化している様にしか思えない。
『勘違いも甚だしいね』
そして同時にジュゥべえの顔がモニターに映る。
彼は笑みを浮かべて魔獣のほうに視線を移していた。
『先輩の言う通りだ。インキュベーターをナメるなよ』
「ぐッ!」
『今からこのゲームの運営は、オイラ達インキュベーターのみで行う』
お前らは少し黙ってろ。
その言葉を捨て台詞として、再びジュゥべえは真司の方に視線を合わせた。
とにかくジュゥべえは真司の言い分を理解し、それを叶えても良いと示す。
しかしだ。だからと言って、疑問が消えた訳じゃない。
真司の示す道に興味が湧いたからこそ、ジュゥべえは歪な笑みを向ける。
『いいか? 魔獣の奴らは口はでかいが、相応の実力を持ってる』
それに打ち勝ち、かつ全滅状態となったこの今と、間逆の結果を目指さなければならない。
跳ね上がる難易度。そしてもしも敗北する様な事があれば、魔獣によってより深い絶望が与えられた後、永遠なる死に至るのだろう。
いや、もしかしたら死よりも深い絶望を味わう事になるのかもしれない。
要するにチャンスは今回限りだと言う事だ。
「ああ、分かってる」
『策はあるのか?』
「………」
手を見つめる真司。
まどかに、美穂に、蓮に、仲間、友に触れた時に感じたぬくもりを思い出す。
そしてそれを心に刻む様に、拳を強く握りしめて再びジュゥべえを見た。
簡単な事なんだ。難しい事なんかじゃない。
「俺達は信じあえる……! その気持ちさえ、あればいいんだ……」
『それが無いからこうなった』
「なら思い出させるさ、絶対に」
頷くニコ。
魔獣の力の片鱗を感じて心折られた彼女だが、真司を見ていれば可能なのではないかと思えた。
迷い無き絶対の意思。そして何よりも強大な絶望を前に立ち向かう勇気。
そうだ、それが彼の性質だったじゃないか!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
空間が割れ、そこからドラグレッダーが咆哮を上げて出現する。
激しく真司の周りを旋回する赤い龍。
そうだ、彼の勇気が悪夢を壊すのだ!
『了解したぜ城戸真司。お前の願い、確かに聞き入れた』
ゲームを同じ参加者で再び行う。
そして、真司の意思を元に、ルールの再構成を行う。
『問題は?』
「無い!」
『ならいい!』
その情熱で守れるなら、守って見せろと。
ジュゥべえは真司の中に強い生命エネルギーを感じる。
何が何でも生き抜いて見せると言う、貪欲なる覚悟。
引き裂かれる程の悲しみがあったからこそ、生まれる息吹きと言うのもあるのか……。
「見てるか、魔獣!」
「!!」
そして真司は先程ジュゥべえが魔獣に話しかけた時に見ていた方向を睨みつけた。
モニター越しにぶつかり合う視線。魔獣達は真司の目の奥にに宿る炎を視て、思わず声を失い、立ち尽くす。
「俺はお前らを絶対に許さない!」
「ッ!」
「皆ッ、どんな奴だって命があったんだぞ!!」
叶えたい願いがあった筈だ。どうしても成し遂げたい想いがあった筈なんだ。
「それをお前らが踏みにじり、笑いものにした!」
真司は腰を落として拳を構える。
ふざけるなよ、俺達の命は玩具なんかじゃないんだ!!
同時に周りを激しく旋回するドラグレッダー。口の中を光らせて炎を溢れさせる!
「誰一人死なせない! 必ずお前らを倒して、ゲームを終わりにしてやる!」
再び仲間たちと寄り添って歩くため、真司は思い切り虚空を殴りつけた。
その拳に、果てなき希望を乗せて。
「ダアアアアアアアアアアアアアア!!」
その意思に反応して、ドラグレッダーが巨大な炎弾を発射する。
生身で放つ昇竜突破。モニター一面に赤い炎が広がり、真司達の姿を完全に被い隠した。
それはまさに恐怖を吹き飛ばす烈火。魔獣達にまでその熱と衝撃が伝わってくる勢いであった。
悲鳴が聞こえる。炎に埋め尽くされた画面に怯んで下層にいた魔獣たちが仰け反り、次々に地面に倒れたり、しりもちをついていく。
「おのれ……ッ! 人間風情がぁぁあッ!」
バズビーはかつて無い程の怒りの形相を浮かべ、ホールを飛び出していく。
他の魔獣達も、今までに感じた事の無い怒りと屈辱に、そして覚えてしまった確かな『焦り』に表情を歪ませていた。
ゴミ同質と考えていた究極の弱者が、自分達を倒そうと言うのだから。
しかしその中で、唯一全く違う表情を浮かべていた者が一人。
それに気づいたのか、彼を肘で小突く少女が。
『あ、あなた……! 馬鹿、今どんな表情してるか分かってるの!?』
小声で語りかける少女に反応した少年。
しかしこみ上げる想いが原因で、表情は中々戻せない。
『困ったな……!』
『……ッ』
下宮鮫一は、まるでずっと欲しかった玩具を買ってもらった子供の様な、純粋で希望に満ちた笑みを浮かべていた。小巻はそれを見て複雑に表情を歪ませる。
そして上層では、炎に包まれた画面を見ていたギアが。
相変わらず頬に手の甲を当てて首を傾げる様に画面を見ていた。
その姿勢は変わっていないが、彼もまたその心の中には、かつて無い屈辱と怒りが燃え上がる。
その証拠にもう一方の手をギリギリと強く握り締めているではないか。
城戸真司。炎越しに視線がぶつかり合う。
彼の思い通りには事は進めない。魔獣に逆らった罪、その命と希望を以ってして償ってもらう。
ギアは無言で、不動で、確かな憎悪を瞳に映して、炎を見つめ続けた。
「体が……、消えてく」
展望台。そこには確かな異変が訪れていた。
ニコの体が粒子化し始めたのだ。一瞬死んでしまったのかと焦ったが、周りを見れば見滝原の町もまた粒子化を始めている。
これはジュゥべえ達が行った舞台の再構成だ。
箱庭であるこの舞台が、イツトリの概念ではなく、城戸真司の概念によって新たなる幕開けを待つ。
「どうして俺の体は消えないんだ?」
『お前は概念のコア。消えるのは一番最後だ』
「そんなもんか……」
真司は展望台の手すりに持たれて街を見下ろす。
そして聳え立つ救済の魔女を悲しい目で見つめていた。
そんな真司に、ニコが声をかける。
「城戸真司。私の話を信じてくれてありがとう」
「ああいや、いいんだよ」
こっちがお礼を言わないといけないと、真司は笑う。
ニコのおかげで状況を把握できたし、魔獣がいる事も分かった。
それを聞くとニコは少し複雑に表情を歪める。
「私はそれを知っておきながら……、諦めようとしていた」
魔獣の組織力や実力に勝てないと決め付け、自分で考えるのを放棄していた。
しかし真司は確かな反逆を魔獣達に見せた。
「私にはできなかった事だ。それになによりも――」
少し言い辛い。ニコは言葉を詰まらせるが、やがて決意したように話す。
「すまん、私は参戦派だ。次のゲームでもそうなると思う」
「ニコちゃん……」
「だから頼む、私をどうか説得してくれ!」
「………」
少し泣きそうになっているニコの顔を見て、真司は強く頷いた。
どんな相手でも必ず分かり合える筈だ。彼はもうそれを諦めない。
だって自分達はどんな力を手に入れたところで――
「同じ人間だから」
「ああ……!」
だがその時だった。
割り入る様にしてジュゥべえの声が聞こえたのは。
『もしかしたら、その必要は無いかもしれないぜ』
「え?」
振り返る真司。
するとそこには、耳を伸張させて笑みを浮かべているジュゥべえの姿があった。
彼は耳で真司の頭を押さえると、その瞳を赤く光らせる。
ニヤリと。口をより吊り上げた。
「―――」
耳鳴りが真司の脳に響く。
そして――
「うぁぁああぁああぁあああああッッ!!」
「!?」
『ヘヘヘ!』
真司は頭を押さえて発狂したように叫ぶ。地面に崩れ落ち、体を丸めて防御体勢を取っていた。
苦しげに呼吸を荒げ、その後もしばらく叫び続ける真司。
ニコはゾッとしてジュゥべえの詳細を問うた。
「おまっ! 城戸に何をした!?」
『分かってた筈だろうが、コレってヌルゲーじゃねぇんだよ』
望む物がでかければ、ソレ相応の苦痛は伴う。それが今まさにコレと言う事だ。
何をしたのか? それは簡単な話だ、真司は次のゲームで完全なる勝利を望んでいる。
だとすれば、今まで負け続けた点を考慮しなければならない。
『次のゲームで、仮にも魔獣に勝利宣言を行った本人が、その事を覚えていないんじゃ話しにならないだろう?』
「まさかッ!」
『ああそうさ。今オイラは、コイツに輪廻の記憶を叩きつけた』
文字通り、城戸真司が歩んだ全ての時間を思い出させてやった訳さ。
ジュゥべえは自慢げにそう言って笑った。龍騎の世界の記憶、そしてこのFOOLS,GAMEに飲み込まれた後の記憶。
全てが真司の脳を駆け巡っている事だろう。
もちろん余計な情報を覚えられても困るし、何より人間の脳みそに入る情報量は遥かに超越している。
すぐに忘れる情報もあるだろう。ましてや、龍騎の世界で記憶したことはほぼ忘れてもらう。
『だが、今のコイツには、全て必要な事だ。必要な苦痛だ』
少年漫画みたいなノリを押し付けられても困る。
相応の苦痛を乗り越えてからこそ、その言葉には重みが伴うはずだ。
『さあ最初の戦いだぜ城戸真司。テメェは自分の記憶に押し潰されずに自我を保てるのかなぁ?』
「アァアァアァアアアアアアッッ!!」
「くっ! 人間に耐えられる訳ないだろ!!」
ニコは真司を助けようとするが、既に足が消滅していた。
そしてそのまま体は粒子となって――
『じゃあな神那ニコ。次のゲームがあるんなら、また会おうぜ』
「チッ!」
『チャオ』
消滅するニコ。
ジュゥべえは地面を転がって頭を強く抑える真司を見て、相変わらずニヤリと笑っていた。
これくらいで脱落する様ならば所詮はその程度。口だけのどこにでもいる様な人間って訳だ。
魔獣に勝つには、ソレ相応の『心』を持っていないといけない。
『うーん……』
苦しむ真司を見ながら思い出す。
そう言えば真司は以前にも発狂して廃人になったルートがあったか。
あれはたしか……、そう、世界の心臓を破壊し、戦いを終わらせたつもりになった時だ。
結局戦いは繰り返され、真司はその事に耐えられずに狂ってしまった。
当然記憶されるかどうかはともかく、フラッシュバックするのだから――
『あ、無理かコレ』
さらにその時だ。
なんと救済の魔女の体が光り、真司の体も同じ光を放ち始めた。
流石はパートナーと言うことなのか、救済の魔女は10日を待たずして真司に狙いを定めたのだ。
弱っている真司の心を感じたのだろう。
そこに割り入る事で、一気に生命のエネルギーを吸い取ろうと。
この錯乱状態に救済の魔女の悪意。
コイツはマジで終わったか?
ジュゥべえはやれやれと首を振って、期待ハズレだと真司を一瞥した。
「―――」
そして真司の脳内。
様々な景色がフラッシュバックする中で、多くの苦痛と絶望が心を蝕んでいく。
守れない弱さを思う存分に教えられ、失う恐怖と味わった苦痛をこれでもかと容赦なく突きつけられる。
心と体が引き裂かれそうになる空間の中で、脳にまどかの声が聞こえてきた。
救済の魔女の言葉が鳴り響いたのだ。
『もう諦めようよ真司さん』
「まどか……ちゃん――ッ!!」
空に手を伸ばす真司。虚ろな彼の瞳には、何も映らない。
『頑張ったって何にもならなかったじゃない! 誰も守れなかったじゃない!』
「う……アァッ!」
そうか、そうなんだよな。
『誰もわたし達の話を聞いてくれない。誰もその道を理解してくれない』
「ぐっ! ぐぐぅうッ!」
そうだよな。皆、戦ってばっかりだった。
『もう止めよう? 無駄だったんだよわたしの頑張りは、努力は』
繰り返しても苦しいだけだ。
きっと結果は伴わない。また新しい苦痛が増えるだけ。
『そんなの意味無いよ!』
まどかの影が、真司を優しく抱きしめる。
『わたしの世界に行こうよ真司さん。そこなら、いつまでも皆優しくしてくれる』
皆笑って、楽しい世界が待ってる。美穂さんもいるよ? まどかは微笑んだ。
『もう頑張らなくてもいいんだよ? 行こうよ、真司さん!』
「――――」
『みんなが待ってるよ、真司さん!』
「……そう、そうだ、皆が待っているんだな」
真司は笑みを浮かべた。
(堕ちたな)
ジュゥべえは確信する。
真司は天に向けて伸ばしていた手をダランと地面に落とすと、動きを停止した。
終わったか。ジュゥべえは真司が狂い、壊れたのを確認した。
まあ無理もないと言えばそうだが――
『残念だぜ、城戸真司。所詮人間が語る妄想を超える事はできなかったか』
ジュゥべえは踵を返す。
とんだ期待ハズレの人間だ――
「どこに……! 行くんだよ……ジュゥべえ――ッ!」
『な、何ッ!?』
振り返るジュゥべえ。そこにいたのは這い蹲りながらも、確かに立ち上がろうとしている城戸真司の姿であった。
『なんだと!? お、お前ッ! どうして――!』
「みんな、待ってるんだよな……、まどかちゃん――ッ!」
そうやってヨロヨロと真司は立ち上がる。
『馬鹿な!』
ジュゥべえは再び間抜けな声を上げて腰を抜かした。
『何故あの状態で狂わない、何故あそこから踏みとどまれた! 絶望を眼前にまで控えて、巻き戻したというのか!』
あり得ない!
ジュゥべえは汗を浮かべ、かつてない焦りを感じていた。
仮もただの人間である城戸真司が、あの絶望を抑え込んだとでも言うのか。
『どうして? どうして立ち上がるの真司さん!』
そしてそれは救済の魔女も同じだった。ジュゥべえにも彼女の声が聞こえている。
どうしてまだ立ち上がるのか。どうして安息の世界が待っているのにそれを拒むというのか。
全く理解できない話であった。
『どうして? ねえどうして!?』
「……まどかちゃん、君を見てて思った」
ボロボロになってまで戦いを止めようとする事が、どれだけ厳しい事なのか。難しい事なのか。
それを理解できず、それを甘く見ていたから、過去の自分は狂ってしまった。
「俺は馬鹿だから、自分じゃ一生気づけなかったよ……!」
でも、まどかがいた。
自分と鏡合わせの様なほど、同じ考え方の少女がいた。
いやもっと立派だったかもしれない。その身に大きな絶望を抱えながらも、他者との争いを否定する事がどれだけ辛い事だったのか。
生きる道を選ぶことがどれだけ厳しい物だったのか。
それでもまどかはそうしたいと願い、戦った。
そんな彼女が絶望に呑まれる。それが、どれだけ理不尽だと思ったか。
俺は信じてたんだよ、君の夢が、何よりも熱い未来に変わるって事を。
「さっきも言ったよな……、ジュゥべえ!」
『!』
「こんな俺にも……ッ! プライドがあるんだよ!!」
自分よりも小さな女の子が苦しんで苦しんで苦しみぬいて死ぬ世界なんて、絶対に認められるかよ! おかしいだろ普通に考えて! 彼女たちも、俺たちも普通に生きて幸せになる権利って奴がある筈だ!
なのに魔獣なんて訳の分からない存在に玩具として扱われる世界を認められるかよ!
それに俺にだって願いがある。ずっと叶えられずに終わってきたけど、確かに抱いた願いがあるんだ。
「それを叶えられずに終わるなんて……、できるかよ!!」
『お前……ッ!』
「狂ってる場合じゃないんだ、俺は! 絶対にッッ!!」
ジュゥべえは分析を開始する。
鹿目まどかの存在がココまで彼を律したとでも言うのか?
たった一人の人間が、幾千の絶望をかき消したとでも言うのか?
待てよ……、龍騎の世界における強いエネルギーを放つ時間軸において、真司は命を落とした。
そして理由は確か、女の子をモンスターから守る為に。
『ッ! そういう事かよ……!』
城戸真司の起爆剤は、どこまで行っても、どんな時間軸においても、他者を守ろうとする事か!
ましてや救済の魔女の声が真司にその意欲を駆り立たせたとしたら?
まどかをこのまま絶望の魔女にしたくはない、その想いを新たにチラつかせる事で、真司は文字通り何度だって立ち上がってくると言うのか。
普通ならば絶望に向かう事を助長する言葉が、真司には反旗の意を刺激させたと言うのか!
「そう、そうだ、皆がいる!」
真司は呼吸を荒げながらも、確かにその二本の足で地面を踏みしめ立っていた。
みんなが。13人の騎士と13人の魔法少女。そしてその関係者が、確かにこの世界には存在しているんだ。
どんな人間であれ、どんな想いを抱えていたとて、彼等は確かな願いを抱えて生きていた。
幾千のゲームが行われてきた。
そしてそれが次に始まるゲームの為に真っ白にされる。
駄目だ。駄目なんだ。それを無かった事にしてはいけない。無かった事にはできない。
無限ともいえる程に繰り返されてきた戦いの中に抱いた悲しみを、喜びを、絶望と希望を、作り話には変えられない。変えさせはしない。
彼らが生きた証を無くしては駄目なんだ。
今までは何だったんだと思わせてはいけないんだ。
「俺達は皆ッ、命を持つ人間だ!」
その事実を否定させはしない。
人の命を玩具にするゲームを許しておく訳にはいかない。
そして自分達は自分達の命を。たった一つの人生を、自分で決められる様にしなければならない。
「だからごめんっ、まどかちゃん。まだ俺は折れる訳にはいかないんだ!」
君が笑って友達と暮らせる明日を探さなければならない。
俺には今、燃やし続けなければならない
この胸には、戦うための愛があるんだ。絶望の中でも信じていたい人がいるんだ。
だからこの命の、この希望の炎はまだ消せない。
果てしない炎の中で燃やし続けるんだ――!
命の、ままにッッ!!
『………』
真司に張り付いていたまどかの影が動きを止め、言葉を止める。
たった今、城戸真司は救済の魔女が齎す救いを拒んだのだ。
そしてそれを、魔女自身が受け入れる。
ジュゥべえはその異質ともいえる状況に思わず言葉を失う。
『馬鹿な……! 救済の魔女の救済を、ただの人間が跳ね除けるのか!!』
「だからまずは何としても――!」
真司は再び目に強い光を宿して叫んだ。
「俺は、FOOLS,GAMEを否定するッッ!!」
『……ッ!』
これが人間か。これが城戸真司か! これが絶望に牙を剥く戦士の姿なのか!!
ジュゥべえは、かつてない程の輝きを放つ真司のデッキを見て、言葉を失った。
爆発する様に光を放つ龍騎の紋章。彼は全ての真実を知り、唯一無二の到達点へ足を踏み入れた。
揺ぎ無い力。揺ぎ無い絶対の意思に至ったのだ。
これはまさしく、答えにたどり着いた者が放つ光。
『!!』
「ッ!?」
そしてそれは一瞬だった。
次々に展望台の周りに、人の形をした化け物が出現していったのは。
巨大な男のシルエットで、色は白、髪は無い。服には長い布を纏い、顔には四角い板の様な物がモザイクの様にかけられている。
「ジュゥべえ、なんだよコイツら!?」
『やべぇ! 魔獣だ!』
「ッ! これが――!」
『ああ、人の負の感情から生まれたモンスター! マイナスエネルギーの塊だ』
ざっと見ても三十体はいるだろうか。
そして前方からは明らかに雰囲気の違う者が歩いてきた。
人間の姿をしているが、真司はそれがレベルの高い魔獣であると見抜くことができた。
その理由は、ニコが言った特徴と一致したからだ。桃色の髪が混じった金髪の少女。
「よくも……! よくもやってくれたなァ! 人間の分際でぇえッ!」
「ッ! お前が魔獣!?」
『――ッ! 幹部だ、人間の姿を模した言葉を放つ上級の魔獣』
バズビーに睨まれたジュゥべえ。これは少し予想外だった。
一応簡単なプロテクトは施してあったが、それを破って見滝原に侵食してくるとは。
向こうは確実に真司を殺す気だろう。ココで彼が死ねば、ゲームの基盤となる概念が消滅したことになり、ゲームが再構成されなくなる。
だがこの三百六十度、雑魚とは言え魔獣に囲まれた状況。
逃げる事もかなわないか。とは言え今の真司で勝てるか? ココは多少無茶をする事になるが、肩入れを――
『ギャン!』
「ッ! ジュゥべえ!!」
「目障りな奴らだ、つくづくな!」
バズビーは弓矢を出現させ、ジュゥべえの眉間を素早く射抜く。
矢にはエネルギーが纏わり付いており、刺さった部分を中心にジュゥべえの体が粉々に消し飛んだ。
死ねば新しい体がやってくる更新型のキュゥべえとは違い、ジュゥべえは体が再生する形式のシステムとなる。
当然受けた傷が。つまり損傷した部分が大きければ大きいほど、再起動にも時間が掛かる。
余計な事をされても困る。バズビーはそれを理解した上で、まずはジュゥべえの機能を封じた。
そして再構成の時間までに真司は死ぬ。それだけだ。
「分かるか、ゴミが……!」
「ッ!」
「醜い猿に見下された事で芽生えた殺意が、苛立ちが!」
バズビーの目がドロドロとした殺意の光を見せる。
「魔獣の玩具として存在を許されている人間の分際で、まさか主人に歯向かおう等と考えるとは愚かしい」
「なんだとッ」
「ソレばかりではなく、事もあろうに全員の生存だと? 幼児でも無理だと分かるだろう夢物語に付き合わされる事になるとは……!」
「夢なんかじゃない、俺は叶えてみせる!」
そして今の言葉を聞いて、改めて思った。
「俺はお前らを、絶対に許さない!」
「許さない? 調子に乗るなよ下等種族が……! お前はな、今ココで死ぬんだよ!!」
バズビーが手を上げると、魔獣達のモザイクが光り始める。
力のチャージ。殺意の光が全て真司に向けられた。
全ては彼を殺すため、彼の命を消し去るために。
「焼き尽くしてやる。下らない願いと共に!」
「下らないだと? 下らないだとッ!?」
「ああそうだ。皆で生き残るゥ? ハッ! 馬鹿共にできる訳無いだろ!」
睨み合う二人。
ああ気に入らないとバズビー。
なぜ睨み返す程の気力があるのか。
「恐怖しろ! お前は何も成し遂げられずにココで死ぬ!」
全員で生き残る? フールズゲームを否定する? 命を持つ人間? 下らない、ああ下らない!
お前らは道具なんだよ。私達を楽しませる為だけに存在する玩具。それが何を語るというのか。
偉そうに人権を主張する愚かな行為! 非常に腹が立つとバズビーは早口に吼える。
「お前らは永遠に絶望し続ける。それが覆る事は無い!」
「!」
「そして私達を楽しませるために死んでいくのだ!」
弦を振り絞り、狙いを定めるバズビー。
彼女の目が、真司の心臓に照準を合わせた。
己が分際を弁えない玩具に、存在する価値など微塵も無い。代わりはいくらでもいるのだから。
もはや目に映すのも腹立たしい。
「理想と共に、絶望へ消えろ――ッ!」
そして、手を離す。そして魔獣達も一勢にレーザーを放った!
「死ね! 人間がぁアアッッ!!」
放たれる矢。
そして光の奔流は真司をあっと言う間に飲み込んだ。
人が耐えられる攻撃ではない。城戸真司に防げる攻撃ではない。
終わり、彼は死ぬ。
まどかが、いなければ!
「俺は死なない!!」
「なッ!! 馬鹿なッ!?」
激しい衝撃が巻き起こり、真司を貫くはずの矢が、レーザーが塞き止められる。
いやそれだけじゃない! 防がれた攻撃達は、真司を守るその光によって弾かれて消滅した。
目を見開くバズビー。そこにあったのは龍騎の紋章であった。
バズビーは忘れている。彼には、パートナーがいたからこそ生まれたカードがある事を。
「絶対に生き残る!」『スキルベント』
リュウガ戦同じく、真司を守ったのは鹿目まどかとパートナーになったからこそ生まれたカードの力であった。
ドラゴンハート、結界の中で尚もバズビーを睨む真司。このカードは鹿目まどかがいなければ生まれなかった力だ。
だからこそ、彼女には返さなければならない恩がある。
対してバズビーは大きな歯軋りを行っていた。
「コケにしやがって! 黙って殺されればいい物を……ッ!」
粉々に割れ、弾ける結界。
そこから現れたのは真司ではなく、既に変身を完了していた龍騎であった。
だがバズビーには何の焦りも無い。むしろ呆れと怒りが膨れ上がっただけだ。
スキルベントは一度だけ。だが魔獣側は、もう一度同じ攻撃を放つ事ができる。
いや、むしろ威力を上げる事だってできるのだ。囲まれている状況では、ドラグシールドでは防ぎきれない。
龍騎がやった事と言えば、死の時間を少しだけ遅らせただけの愚かしい行為でしかないのだ。
「さっさと絶望して死ねよ――ッ!」
再び弓を振り絞るバズビーと、モザイクを光らせる魔獣たち。
だが龍騎もまた、デッキに手をかけている所だった。
それを笑うバズビー。今更何をした所で無駄なんだと。
「足掻くな! 吼えるな! いきがるな!」
お前みたいな奴が一番ムカツクんだ。簡単に分かる事も分からない。
「脳に刻め! お前らの絶望は、死は覆らない!」
その言葉を聞いて、龍騎の脳には真実の記憶がフラッシュバックしていく。
そうだ、参加者の死と言う絶望が。
誰しもが、何かを想っていた。誰もがどんな鎧を纏おうと、どんな魔法を覚えようが人間だった。浅倉や杏子だって、獣になる理由があったからこそ、ああなった。
参戦派も協力派も、どんな願いであれ、ちゃんと心があったんだ。
その心を、このゲームが踏みにじった!
「いや――ッ!」
「あン?」
「違う! お前らが絶対の死を提示しても、俺はそれには従わない!」
龍騎は一枚のカードを引き抜き、それを翻して絵柄を見せる。
描かれていたのは龍騎の紋章が半分描かれ、そこから金色の翼が生えているもの。
そして背景は赤く燃え滾る様な炎が。
これが、絶対の絶望に刃を突き立てる反逆の一枚。
城戸真司が生み出す、『
「ッッ!!」
カードの中にある炎が文字通り激しく動きめき、燃え上がる。
すると龍騎の周りに炎が発生し、回りにいた魔獣に燃え移っていった。
悲鳴を上げながら後退していく魔獣たち、当然攻撃のチャージは中断される。
そして炎はバズビーにも届いていた。激しい熱を感じて、同じく後退していく。
見開いた目の先には、陽炎の中に佇む龍騎が。
そして龍騎の背後にいたまどかの影は、その陽炎の中でゆっくりと消えていった。
「………」「………」
無言で睨み合う両者。
だがバズビーの心には確かな焦りと戸惑いが存在していた。
(馬鹿な、あり得ない! なんだ、なんなんだこの力は!!)
瞳が震える。汗が頬を伝う。
陽炎の中から確かに感じる、このエネルギーは一体なんだ!?
「!」
龍騎は左手を前に突き出した。
すると、ドラグバイザーが炎に包まれて消滅する。
とも思えば、今の龍騎には握られている『銃』が。
「俺の答えは、俺の希望は! お前らには消させない!」
「グッ!」
龍騎はドラゴンの顔を模したその銃。『ドラグバイザーツバイ』の口を開き、その中へ手にしたカードを装填する。
そして口を閉じる事で、そのカードが発動された。
「俺が皆をッ、救ってみせる!!」【サバイブ】
「!!」
守る事と共に、救う事。それを真司は答えと見出した。
激しい炎が龍騎を包み。直後、鏡が割れる音と共に炎が割れる。
そこから姿を現したのは、強化形態・龍騎サバイブ!
城戸真司の生きる力。生き残る力である。
「お、おのれ……ッッ!!」
「この命はまどかちゃんがくれた、たった一度のチャンスなんだ。無駄にはできない……ッ!」
再び動き出そうとする魔獣を怯ませる程の咆哮が聞えた。
上空から飛来してきたのは炎に包まれているドラグレッダー。
そして彼の炎が、新たなる進化を促した。
金と赤の鎧が装着され、より壮大な姿になったのは"烈火龍ドラグランザー"。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
龍が、吼えた。
するとどうだ。空間が震えるではないか。
その咆哮が周囲の炎を拡散させ、魔獣達は炎に包まれて叫びを上げはじめた。
「ぐあぁあ……ッ!」
同じく爆風に呑まれ、吹き飛ぶバズビー。
龍騎はそこで少しだけ顔を動かして、後ろにいるだろう救済の魔女を確認する。
「………」
たった一人守れないで――ッ! 何が騎士だ!!
「見ていてくれ、まどかちゃん」
今、変えて見せるから。
変えられるんだと証明して見せるから。
龍騎はデッキからカードを抜き取ると、ツバイに装填する。
【シュートベント】
銃を構える。
周りで、もがき苦しむ魔獣の一体に光線を命中させた。
すると龍騎の背後に構えたドラグランザーが口から巨大な火炎弾を発射。
光線が当たった部分に、間を入れず命中させて追撃を行う。
メテオバレット。
断末魔を上げる暇も無く爆散する魔獣。
さらに龍騎は光線を連射、周りにいる魔獣めがけて光のレーザーを撃ちまくる!
そしてそれに合わせて同じくドラグランザーは火炎弾を連射していった。
わずか10秒も無い内に、龍騎を焼き尽くそうとしていた魔獣が、全て逆に焼き尽くされる。
「あ、ありえない! ありえないぃいッ!!」
立ち上がり、驚愕の表情を浮かべるバズビー。
(聞いていないぞ、ここまでの力を奴が持っているなんて!)
バズビーが驚くのも無理はない。
サバイブとは未知数の力。今までのゲームでも、登場したことは一度あったか無いか。
なによりも魔法少女の力ではなく、これは騎士の力だ。魔獣達とて全てを把握している訳ではない。
そんな物を使ってゲームをしていた彼女たちのミスだろう。
自分達に絶対被害はこないと言う慢心があったのか。
「………」
龍騎は胸に手を当てる。
今まさに芽生え、蘇る力。サバイブとは生き残るという意味だ。
生きるための力、生きる事を望む力。何よりも誰かの為にと言う、『愛の力』が、龍騎を極限にまで強くする。
そうだ。龍騎は救済の魔女を背負いながら、ツバイの銃口をバズビーに向けた。
この胸に生まれついた生きる威力を武器にして。
まどかの前で、ありのまま、何度だって! 熱く、強くなって見せようじゃないか!
「ハァアアアッッ!!」
「う、うあぁあああああッッ!!」
ツバイから先ほどとは比べ物にならない大きさのレーザーが放たれる。
ドラグランザーはそこに炎を発射して、レーザーを真っ赤に染め上げる。
シュートベントでの必殺技。『ストリームボルケーノ』がバズビーを狙う。
素早くシールドを張ってみせるが、炎の奔流はバズビーを容赦なく巻き込み、近くの木々にぶつけていった。
「ウガァアアアアアアアアア!!」
プライドの高い魔獣が受けた屈辱、それは計り知れぬ物だろう。
木々を吹き飛ばして立ち上がるバズビーの表情は醜く歪んでいた。
構える龍騎。アレを受けてもまだ立っていられるとは。
ジュゥべえの言ったとおり、魔獣の力がそれだけ高いという事だ。
「殺す殺す殺す殺すゥウウウウッッ!!」
「!」
どうやら相当キテいる様だ。
「絶対に殺す! 確実に殺す! 死んでも殺すッッ!!」
そこで粒子化し始める龍騎の体。どうやら時間は間に合ったようだ。
それをバズビーも理解している。あんな下等な生き物にしてやれた。
「よく聞けよクソ人間ンンッッ!!」
その憎悪が今、バズビーの中では爆発して、より歪になっていく。
「お前らにはほんの一欠けらの希望も無い事を教えてやる! 分からせてやるッ!」
そして後悔させてやる!
生まれてきた事を泣いて後悔し、魔獣に逆らった事を涙と鼻水で顔をグシャグシャにし理解する。
そしてその先に待つ究極の絶望に落とし、二度と這い上がれない様にして殺す!
「言いたい事はそれだけかよ!」
「はぁあああッ!?」
「勝つのは俺達だ! お前らを絶対に倒してッ、ゲームを終わらせる!」
「おのれおのれおのれぇえええッ! 城戸ッ真司イィィィイイッッ!!」
再びぶつかり合う互いの視線。
バズビーの目の中にある絶望と、龍騎の瞳の奥で輝く希望が、激しく競り合った。
「勝つのは私たち魔獣なんだよ! お前ら人間に希望はないッ!!」
「勝つのは俺たち人間だ! 心の中にある光が、必ずお前らの絶望を砕くッ!!」
ドラグバイザーツバイを向ける龍騎と、弓を向けるバズビー。
双方、強く叫ぶ。雄たけびを上げる。
希望と絶望の意思がぶつかり合い、そこで二人の体は完全に箱庭から消え去った。
新たなる概念が生まれ、箱庭もまた光に包まれ、砕け散った。
この戦いに正義はない。
そこにあるのは、純粋な願いだけである。
その是非を問える者は……。
だが、それでも私は、この凄惨なる戦いにおいて綺麗事を通そうとした城戸真司と鹿目まどかこそが、一番の正義なのだと信じたい。
そしてその城戸真司が、このBOKUジャーナルの一員であった事を誇りに思う。
著・大久保大介
『いやいや、お前もやるねぇ。向こうさん超怒ってたぜ』
そう言いながら笑みを浮かべるのは、ジュゥべえだ。
「まあ、ちょっとやりすぎた……、かな?」
頭をかく真司。
彼等は再構成される世界の途中にて、会話を行っている。
まもなく新たなるゲームが行われる訳だが、その中でいくつか知ってもらいたい情報があるからとジュゥべえは真司を具現させた。
『いいか、もうお前らはイツトリの概念下から外れた』
イツトリが作り出した絶望の輪廻は、良くも悪くも参加者のリサイクルを可能にする機構を生み出していた。
しかしもうそれは無い、真司の人間の生命を尊重する部分を読み解き、インキュベーター達はそれに準ずるルールを作った。
『良く聞けよ、新ルールだ』
真司に与えられたボーナスは、ゲーム開始時に今までの知識がある事に加えて、『これ』だ。
ルールを少し知らせてくれるというもの。
これが真司の望む世界の創造を、少しは助けてくれるだろう。
『復活ルールの廃止だ』
「……!」
『死んだら何をしてもゲーム中は蘇らねぇぞ』
50人を殺せばいいと言う判断の下での立ち回り方があっただろう。
だが次のゲーム、ソレはない。死んだら殺して復活すればいいと言う甘えを排除する。
『あとはミラーモンスターに人を食わせれば強化されるルールを無くした』
「分かった。これで関係ない人が巻き込まれるのは防げるな」
『確実とは言えねぇがな』
それに騎士の実力が上がらないと言う事は、対魔獣におけるデメリットとなる。
「それでいいさ。人を殺して強くなるなんて間違ってるからな」
『まあ、ならいいがよ』
魔獣もゲームのルールの下に置かれる。
それ故、激しく攻めてくると言う事は無いだろうが、それでも魔獣の力は凄まじい。
その点を忘れるなとジュゥべえは説いた。
『お前も見たとおりだが、魔獣は人の姿をしている奴らも多い。だがその中身は負のエネルギーの集合体だ』
感情や心があるにはあるが、その全ては人間と根本からして違う。完全なるモンスターだと。
『だから見た目に怯む事なく、思い切り倒せ』
ジュゥべえの言葉に少し沈黙したが、真司はしっかりと頷いた。
『もう分かってるとは思うが、泣いても笑っても、これがお前らにとって最後のゲームになる』
「ああ、分かってる」
『せいぜい気をつけろよ』
次に『継承者』の説明を行うと。
「継承者?」
『まあ簡単に言うと、お前と同じ立場にある奴らだよ』
ゲーム開始時に全ての記憶を引き継いでいる者の事を言う。
さらに引き継ぎだけではなく、真司が魔獣に喧嘩を売ったあの一連の流れの記憶もぶち込んでおいたと。
『お前を含めて継承者は五人だ。正直あんま期待すんな』
そう言うメンバーを選んでおいたからと。
だがココからがネックになるとジュゥべえは言う。
継承者は、そうでない者の記憶を呼び覚ます事ができると。
『デッキの中にメモリーベントと言うカードがある』
それを騎士に読み込ませるか、魔法として相手にかける事で、記憶を呼び覚ます事ができる。
『お前にしたヤツよりはマイルドな苦痛ではあるが、使い方によっちゃあ錯乱を引き起こしてマイナスになるぞ』
「わ、わかった」
『まあ使わなくてもいいっちゃいいが、お前の望む勝利には必要だろ』
ただ生き残ればいいだけじゃない。
何を思い、生き残るのか。それが大切なのだから。
そしてもう一つ重要な事を教えておくと。
『お前13人の騎士と13人の魔法少女が~って言ってたけどよ』
ちょっと待ってくれとジュゥべえ。
あの時はノリと気迫に負けていたが、よく考えてみればおかしくないかと。
『騎士の中にお前は二人いたんだぞ』
「あ……」
『くあーっ! やっぱ馬鹿かよ真司ちゃん!』
「う、うるさいな! 俺も必死だったんだよ!!」
そう、リュウガは特殊な存在だ。彼は真司に倒され、真司の中に戻った。
ステータスを引き継いでゲームに戻るため、同じメンバーで開催すると言うのは難しい。
『そこでオイラは、新たな参加者をぶち込んだ』
「ッ!」
『理解しろよ城戸真司。お前のせいで一人が巻き込まれた』
「そ、そんな……!」
だが同時に、その男が希望になるかもしれないと。
ジュゥべえは語る事は無いが、その男は優衣がデーターをバグらせたがゆえに追加された男だ。
魔獣はそれに気づいていない。
『そいつも継承者だ。それに加え、お前らよりも記憶を取り戻した時期が早い』
真司の記憶は、彼がデッキを手に入れた時から再会される。
それよりもはるか前に早く動けるその参加者が、どう立ち回ってくれるかが重要になるかもしれない。ジュゥべえも鬼ではない。真司の努力を考慮し、新たなる参加者は『真司に近い性格』の者を用意したと。
つまり協力派よりの思考と言うわけだ。
『ソイツが新しいリュウガだ。多少なりとも、ユウリに良い影響を与えてくれる様、祈るんだな』
「名前は?」
『言えねぇ。ゲームで確かめろ』
そして心の中で言葉を続けるジュゥべえ。
(ま、増えるのは騎士一人とは限らねぇがな……)
それは真司自身が確かめる事だ。ジュゥべえが言う事じゃない。
ある意味mそれに気づくかどうかでゲームの進め方は変わってくるだろうし。
『さて、そろそろ時間だ』
「………!」
粒子化する体。真司も意味を理解して頷く。
不安が全く無いわけじゃない。しかし魔獣に語った想いは本物だ。
これからも、もしかしたら迷う時は来るのかもしれない。
だが必ず、希望の炎は消させない!
『チャオ、城戸真司』
「―――」
そこで真司の意識がブラックアウトする。
だが、すぐに彼は目を覚ました。
「――……」
目を開けると、すぐにベッドから飛び起き、辺りを確認する。
それは間違いなく、失った筈の自室であった。
アパートは存在し、真司は近く似合ったカレンダーを見る。
間違いない、デッキを拾った少し前の日付であった。
だが一つ違う点があるとすれば――
「!」
既にテーブルの上には龍騎の紋章が刻まれたデッキが置いてあったと言う事だ。
その瞬間に真司は理解した。今ココに新たなる舞台が設定されたのだと。
そしてこれが最後のゲーム。
と言う事は――ッ!
「ぐっ!!」
デッキを掴んで家を飛び出した。目に光を宿し、少し焦りながらスクーターに飛び乗る。
目指す場所はただひとつ、風を切り裂いて道を突き進んでいくと、住宅街に到着した。
近くにあった公園横にスクーターを止め、そこからは走ってその場所を目指すつもりだった。
息が苦しい。
故に心臓の鼓動が強くなる。だがそれが、生きていると言う事を実感させてくれた。
そしてどれだけ走っただろうか、その声が真司の耳に届いたのは。
「ッ!」
辺りを確認する真司。しかしその姿は見えない。
幻聴か? いやそんな筈は無い。最後に上を見上げた、すると――
「真司さん!!」
そこには光の翼を広げてコチラに向かってくる鹿目まどかの姿が見えた。
どうやら彼女も真司のアパートを目指していたらしい。
丁度その途中で、真司を見つけたと。
「まどかちゃん……!!」
「真司さん!!」
間違いない、まどかの声だ。まどかの姿だ。
真司は思わず涙を目に浮かべて両手を広げた。
そこに飛び込んでくるまどか。二人は抱きしめあうと、ピョンピョンと地面を跳ねて回転する。
「本当に……! 本当のホントに真司さんなんだね! 嬉しいなぁ!」
まどかはボロボロ涙を零しながら微笑んだ。
「わたし、もう駄目だって思って――!」
「ああ! ごめんまどかちゃん……! 俺――ッ!」
真司は勝手に死んでしまった事を謝罪する。
リュウガとの戦いが終わり、真司は自分の死を理解した。
しかしそれでも彼は蓮に会わなければならなかったんだ。
だから結果的に、まどかの助けになってあげられなかった。
「ううん! わたしこそ、本当にごめんなさい……!」
どうやらまどかが継承者の一人だったらしい。
まどかは全てを理解した。自分が絶望の魔女になった事も、それを真司が否定してくれた事も、全てを知っている。
再会を喜び合う二人はm涙を流しながらも笑顔を浮かべ、向き合った。
「絶対に勝とうぜ! 必ず皆ッ生きて、このゲームを終わらせるんだ!」
「うん……! 約束!」
まどかの服に龍騎の紋章が刻まれる。どうやら触れるだけで良くなったらしい。
二人は小指を絡ませ、約束の誓いを立てる。
皆で生き残り、そしてワルプルギスの夜と魔獣達を倒してゲームを終わらせる。
だがそれはもちろん簡単な事じゃない。
それは前の結果で明らかになっている事だろう。
多くの試練が待っている筈だ、かつて無い程の苦痛がそこにはあるかもしれない。
だがそれでも、自分達は必ず勝てるんだ。そう誓い合い、二人は笑みを浮かべた。
「………」
ふと真司。
まどかは魔法少女の衣装であるが、自分をよく見てみると――
「あの……、まどかちゃん」
「?」
「着替えに帰っても……、いいかな?」
全身パジャマの真司は、白目で空を見上げる。
(俺って馬鹿なんだな……)
彼は一番自覚したくない事を自覚してしまい、早々の絶望を覚えるのだった。
一方。
真司が目覚める少し前に、彼女もまた目を開けた。病院の天上、頭痛を覚えて、苦痛に呻く。
狂ったような笑い声がまだ耳に付きまとっている様だ。
不快感に顔を歪ませて目をギュッと瞑る。
「また……駄目だったッッ!!」
目を覚ませば、病院の天井。
何度この景色をみたのだろう。もう何回繰り返したのだろう?
悔しさ、苛立ち、悲しみ。多くの感情に心が押しつぶされ、爆発しそうになる。
ベッドに拳を叩きつけるが、それでも心の燻りは消えない、
何をしても怒りと虚しさは膨れ上がるばかり。本当に駄目なの? 絶対に無理なの? また心に亀裂が走る。くじけそうになってしまう。
(いやッ)
駄目なら、何度でもやり直せばいい。自分にはその力があるんだから。
何度だって。何回だって繰り返せばいい。唇を強く噛んで、強引に納得してみせる。
(絶対……、絶対に助けてあげるからね)
親友の姿を強く想う。
何回やっても駄目ならやり方を変えればいい。ど
れだけの犠牲を払おうが必ず、必ず彼女だけはッッ!!
暁美ほむらは目を開けると、体を起こし――
「え?」
「起きたか」
呆気に取られる。
そこには、さも当然の様に椅子に座っている赤紫のジャケットを着た少年が一人。
彼はほむらが起きた為、視線を彼女に移したが、またすぐに持っていた占いの雑誌に目を通していた。
「りんごを買ってきたんだが、食べるか?」
「……誰?」
メガネを取り、ほむらは少年を激しく睨む。
何度と無く繰り返してきたがこんなパターンは初めてだった。
しかも始めて見る顔だ、一体どう言うことなのか。混乱するほむらと、大きくため息をつく少年。
「やはりそう都合よくはいかないか」
「っ?」
少年は雑誌を閉じると立ち上がる。
「久しぶりだな暁美。俺は手塚海之だ」
「どうして私の名を――」
デッキを構える手塚。
数秒後、そこにはライアが立っていた。
「な……!」
絶句するほむら。
ライアは何故自分がココにいるのか。それを端的に話はじめた。
そして数分後、ほむらは顎を押さえて俯いていた。
ライアの言う話は納得できると言えばそうだが――
「メモリーベントを使えばお前は記憶を取り戻す」
「それを信用しろと?」
そのメモリーベントで見せられる景色は偽りの物で、ライアはほむらを洗脳する為にココに来たのかもしれない。
確かにライアは、ほむらの事を知っていた、
しかしだからと言ってイコール味方とは限らないじゃないか。
「まあ、そうなるよな……」
ライアは継承者として選ばれたから、スムーズに事を理解する事ができた。
だが、ほむらからしてみれば得体の知れない男がいきなり思い出せなんて詰め寄って来たのだから、警戒するのが当然であろう。
とは言え、魔獣が目覚めていないほむらを狙ってくる可能性もあった。
だからココに来ない訳にもいかなかったのだ。
それになによりも、城戸真司の想いを無駄にするわけにはいかない。
彼は確かに運命を変えた筈だ。その奇跡を突き通すためにライアはココに来ている。
「暁美、俺とお前には一つ大きな共通点がある」
「っ?」
それは双方、友人の為に運命と戦っていると言う事だ。
「お前は何度も時間を繰り返し、俺もまたゲームの輪廻に巻き込まれて時間を何度と無く繰り返した」
「ッ! その事も知ってるの?」
「お前から聞いたんだ」
「!」
言葉を続ける手塚。そして今、最後のチャンスが訪れた。
ここでもしも自分達が殺し合えば、確実に魔獣に数で負けてしまう。
もちろん最後の一人になって願いの力で魔獣を消せるかもしれないが、向こうも全力でそれを阻止してくる筈だ。
いずれにせよ次のチャンスは無い。次の輪廻は無いんだ。
「お前はまだ、鹿目を守る事ができる」
拳を握り締めるライア。
「だが俺が自我を取り戻した時、雄一はもう死んだ後だった」
「!」
「頼む暁美。俺を信じてくれ……!」
「……ッ」
「思い出すんだ。全てを!」
ほむらは、ライアの言葉に怯んでしまう。唇を噛んでしばらくの間、沈黙していた。
しばらくそのまま押し黙っていたが、徐々に表情を変えていく。
そして――
「わかった……、わ」
「本当か!?」
「ええ。全て貴方の言う通りだったし――」
ライアはループの事を知っていた。
いどこかの時間軸で話したとしても今は巻き戻した後なのだ。
それなのにライアが知っていると言う事は、本当に全ての記憶を持っているからではないのか。
何よりも、もし彼に敵意があったなら、寝ている間に攻撃すれば良かっただけだ。
「いえ、違うわね」
「……?」
それは全部、一理あると言うだけの話。
例えばあえて攻撃しない事で信頼させようとしているだとか、いろいろ考えれば考えるほど、疑心は浮かび上がるだろう。
それでも尚、ライアを信じた理由があるとすれば――
「貴方を見た時、誰だか分からずに焦りを心に覚えた」
胸を押さえるほむら。焦り、不安、警戒心。
しかし、確かにあったんだ。
「安心感が」
「………」
「私は自分だけを信頼している。私がそう感じたのだから……、仕方ないわね」
輪廻を中に、僅かに残っていた物か。
ライアは礼を言ってカードをほむらに見せる。
いずれにせよ、ほむらとしてはライアの言う事が本当ならば、何が何でも魔獣を倒さなければならないのだから。
「記憶に呑まれるなよ」
「……ッ」
カードをセットするライア。
そして、ほむらの脳に手をかざした。
『メモリーベント』
「―――」
ほむらの脳内を真実が駆け巡る。
抜け落ちていた記憶が痛みとなって、彼女の心と体を蝕んでいった。
自らの選択が何を招いたのか? そして魔獣によってほむらが戦ってきたと思っていたループの倍を超える時間、殺し合いをさせられていたと言う事実。
杏子の槍が体を貫く瞬間。
かつては仲間だと思っていたマミを撃ち殺す瞬間。
そればかりか、まどかを殺すビジョンまで思い浮かぶ。
脳が引き裂かれそうになる。ほむらは叫びをあげて両手で頭を押さえた。
こみ上げる吐き気。さやかが自分をかばってビルに潰される光景が視える。
そして自らが魔女になるその光景。交差させ、眉間に突きつけあう銃。
ああ、なんと深き――、絶望か。
「ぐッッ! ぅううぅぅぁ! あぁあああ――ッッ!!」
ほむらのソウルジェムが一気に真っ黒に濁っていく。
するとライアは変身を解除し、手塚はほむらへ駆け寄った。
「おい! 俺を見ろ!!」
「ッッッ」
手塚はグリーフシードをほむらのソウルジェムに押し当てると、肩を持って瞳を見る。
淀んでいた瞳も、グリーフシードの浄化効果で落ち着きを取り戻したのか。次第に光が宿っていった。
ほむらは汗を浮かべながら呼吸を荒げ――
「俺が分かるか?」
「……ッ!」
直後、気を失った。
「記憶を取り戻せば、当然思い出したくも無い物を思い出す」
「だから、グリーフシードを?」
「ああ。どうやら魔女も普通に存在しているみたいだ。キュゥべえが配置したのか、それとも……」
「……そう」
カラスの鳴き声が聞える。
時間は掛かったが、ほむらは何とか意識を取り戻して落ち着く事ができた。
手塚が事前にグリーフシードをいくつかストックしておいたのが功を奏したのだろう。
しかし買ってきてもらった暖かい紅茶も、二口ほど飲んだ所で、もう今は冷め切っている。
ほむらは病院のベッドの上で体育すわりをしており、深く俯いて顔を隠していた。
「できる訳……、無い」
「っ?」
夕日は強く輝き、白い病室は燃える様なオレンジに染まっている。
その中でほむらは小さな声で弱音を吐いた。
全てを思い出したのだが、故に分かってしまうと言うものだ。
駆け抜けていった記憶の中で、自分達は何度殺しあったのか。
そして数え切れない程の輪廻の中で、ワルプルギスを26人で挑めた例が無い。
真司の考えは立派だが、結局今回も同じだ。前例の無い事が、この輪廻の中で都合よく起こる訳は無いんだと。
「都合よく、か」
「無理なのよ。そんなの今さら……」
手塚は弄っていたコインを弾くと、キャッチせずに見送った。
当然それは床に落ち、表の面を向ける。
確かにほむらの言う事は尤もだ。手塚だって目覚めたばかりの時はそう思ってた。
なにせ手塚自身、東條を殺して退場したのだから。
「だが、俺はそう思わない」
「え?」
ほむらは顔を上げる。
手塚はベッドに腰掛けると、ほむらにコインを見せた。
「と言うよりも、そう思わなければならないんだろう」
コイン占いは最近注目しているものだ。
まあそれは置いておいて、重要なのはこの形だ。
薄いコイン。何かを決めるときにコイントスを行う場合、結果は表か裏かで考えられる。
「どうして側面が無いか考えたことはあるか?」
どうして表と裏なんだ? 『面』か『側面』でもいいじゃないか。
表と裏が一つの選択肢で、もう一つの選択を側面にしてもいいじゃないかと。
だがほぼすべての人間は、そんな事を考えはしないだろう。
「だって、横なんて確立が低すぎるわ」
「そうだな、コインの形からして分かる」
コインを投げて最終的に床に立った状態になる確率は、面がでる確立よりもずっと低い。
しかしだ。手塚はコインを手で持ったまま立ててみせる。
「こうすればコインは簡単に立つ」
手塚が手で持っているのだから当たり前だが、確かに今、コインは表と裏の面が地面についていない状態になっている。
それは何故か? 当たり前だが、それを自分たちが忘れていたんじゃないかと。
「コインを立てようと思い、手で持つ事」
「ッ」
「持たなければコインは立たない。コインに任せているだけじゃ、駄目なんだよ」
「……!」
遠まわしな言い方だが、ごく簡単な事である。
「俺達が諦めたら、それは絶対に叶わないぞ」
望む結果は、自分達の手で作らなければならない。自分達の手で保持しなければならない。
「運命は、自分達の手で掴み取らなければならないんだ」
「……!」
「覚えてるか? いつだったか、願いを増やすために戦った時の事を」
その時の事も、手塚は全てを知った。
消え去った後の事もだ。どうやらジュゥべえがサービスしてくれたらしい。
「お前は自分の意思でゲームを巻き戻した。その時、お前は確かに終わる世界の運命を変えたんだ」
「でも――」
「お前は言っただろ。あれは望む世界じゃないと」
「ッッ!」
それに、純粋に思わないかと、手塚は言った。
「俺は魔獣に、かつて無い怒りを覚えている」
「!」
「人の命を弄び、こんな下らないゲームを興じる奴らを、俺は許せない」
城戸と同じなんだよ。
その上で参加者が団結できたなら、これほど素晴らしい未来は無い。
それを掴むために、自分たちは諦めてはいけないんだ。
真司の炎が手塚にも燃え移ったと、手塚自身それを感じていた。
「それは、そう……、だけど」
「無理だと思うか? できないと思うか?」
運命はもう決まっている。
自分たちは結局魔獣に負けるか、もしくは参加者同士で潰しあって惨めな終わりを迎える。
それが運命だと言うのなら――
「面白いじゃないか」
「え?」
「燃えてきた……!」
手塚はコインを強く握り、その目に大きな光を宿す。
「決まっている運命ほど変えたくなる――ッ!」
「!!」
ほむらの心に大きな光が灯ったのはその時だった。
そう、そうだ、そんなふざけた運命なんて変えてやる!
まだ自分にはチャンスがあるんだ。今度こそまどかを救い出してみせる!
真司だって、それができるようにルールを変えてくれたじゃないか。
不可能ではない。前回よりも可能性はある!
「手塚……」
「?」
ほむらは変身して、手を差し出す。
随分と長い時間が掛かってしまった。今ようやく、答えが見つかった気がする。
幾度と無く繰り返した時間の中で、最後の生きる時間軸をココだと、暁美ほむらは見出した。
「共に変えましょう、ふざけた運命を」
「ああ……!」
その手を握り締める手塚。
ほむらの魔法少女の衣装に、ライアの紋章が光り輝いた。
赤い夕日に照らされた二人は影となり、手と手を通して一つになっていた。
銃を突きつけあったクロスじゃない。一本の線で繋がっている。
それは絆が作り出した形だと、今なら分かる。
そして、そんな二人を見つめる目が。
『やっとクソ長い戦いを終わらせられるんだよな先輩ぃ? オイラわくわくするぜぇ!』
ッて言うかコレ言うの何回目だよ! ジュゥべえは呆れた様に顔を歪めた。
毎回毎回終わると思っても、誰かしらが食い下がってきたし、魔獣の奴らも飽きずに何度も何度も繰り返して、どっちにしてもだ。
『そうだね。でも今回はお互い決着をつける気だ』
愚かな歯車が紡ぐ戯曲は、終わりを迎えようとしている。
忘却、そして絶望、そこに人間は剣を突き立てる事ができるのかな?
『特に、そう。城戸真司』
『ゲームそのものに喧嘩をふっかけるとは、やっぱ馬鹿はやる事がラインを超えてやがる』
しかし結果として、それが世界さえも巻き込んだ戦いとなった。
イツトリを封じ込められたのは、元は異物であった『騎士』が故の功績と言った所か。
そして同時に真司が絶望に染まりきらなかったのも、鹿目まどか達『魔法少女』と言う存在があってこそだろう。
自分よりも幼い少女達が絶望によって苦しめられる。
それを可哀想だと思う、当たり前の感想が、真司をここまで強くするとは。
いやそれだけじゃない。秋山蓮や手塚海之とした友人に対する想い。霧島美穂に対する男女のソレ。
そして鹿目まどかに対するパートナーとしての絆。
その根本を辿れば、やはり行き着くのはあの感情なのか。
『また愛か。つくづく人間とは不思議な生き物だ』
友愛、恋愛、家族愛。一口に愛と言っても様々だ。
そして時としてそれは、人を狂わせる毒にもなるが、今は確実に城戸真司を強くする希望となっていた。
そう希望。問題はそれが、イツトリの望む絶望を破壊できるのかだ。
『まさに希望VS絶望と言った所だね。彼の様子はどうだい?』
『問題はねぇよ。リュウガを早々に使いこなしてやがる』
彼とは?
それは鏡像の城戸真司がいなくなった事で、リュウガは新たなる参加者の手に渡った。
その男、そしてその名は――
「いってぇええ!!」
ゴチンとユウリの頭に、その男の拳が。
思わず涙目になるユウリ。虐待で訴えてやるとかどうとか、彼女は手足をバタつかせながら吼えていた。
「そんなに強くはしてないだろう。大げさだなユウリは」
やれやれと男はため息を一つ。
「それより何だ、さっきの態度は、相手を説得するのに煽ってどうする」
「うるさいうるさい! アタシは魔法少女も騎士も全員ぶっ殺すんだ!」
「それじゃあ魔獣の思う壺だ」
「そんなのいる訳ないだろ! いい歳して妄想か? いけないハーブティーでも飲んだのか、おっさん!!」
「いいや、いる! メモリーのカードを使えば分かる」
「絶対アタシは使わんぞ! 洗脳する気だろアタシ様を!」
男はため息をついて首を振る。
メモリーベントは、対象が記憶復元を受け入れなければ効果が発動されないと来た。
だが男の脳には、確実に叩き込まれた情報が、記憶が、真実が存在している。
城戸真司。まだ若いのに大した物だと思う。
彼のためにも、何よりも巻き込まれた子供たちの為にも、絶対に参加者同士の戦いを止めなければ。
「クソッ! ふざけるな! アタシはアタシの勝手にする!!」
ユウリはそう言って変身し、地面を蹴って空に舞い上がった。
なんだってあんな奴がパートナーなんだ。ブツブツと愚痴を漏らしながら、少しでも彼から離れようと必死だった。
尤も、数十秒後にはドラグブラッカーに咥えられて男のもとに連れ戻されるのだが。
「俺達はパートナーだ。一緒に行動するぞ」
「………」
ユウリはムスッとした表情で男を睨む。対して男は、涼しげな顔でユウリを諭す。
「いつ魔獣や魔女に狙われるとも限らないからな。子供を一人にさせておくことは出来ない」
「子供扱いするな! アタシはお前よりも強いぞ!」
「分かった分かった。じゃあ行くぞ。お利口にしてたら後で飴ちゃんを買ってやるからな」
「ギギギギぐぁあぁ!!」
ムカツクぅぅう!!
ユウリはそう叫びながら、ドラグブラッカーに咥えられたまま運ばれていく。
二人が気づく事ではないが、今のドラグブラッカーは前回と大きく違う点が一つあった。
それはその瞳の色が、赤色から黄色に変わっていた事だ。
それは性質の変化。前回のドラグブラッカーは『絶望』を司る存在であったが、今の性質は『希望』である。
そしてその性質を生み出した男の名は――
『
『彼は元々、神崎優衣が齎したイレギュラーだったからね。今回の活躍に期待したいよ』
さあ、はじめようか。
ジュゥべえは沈みいく夕日を見ながら言い放つ。
新たなる参加者を加え、13人の騎士と13人の魔法少女。
全26人の生存を望んだ男が作り出した、最後のゲームを。
そこにあるのはかつて無い絶望と、かつてない希望。
そして彼等は答えを見つける事ができるのか?
城戸真司の様に。
『うん、タイトルは彼の意を汲んで"答え"と名づけようか』
ジュゥべえはニヤリと笑い頷いた。人間が勝つか、それとも魔獣が勝つのか。
『FOOLS,GAME The・ANSWERを以って、この戦いに終わりを告げよう』
ジ・アンサー。
その名を冠する通り、答えを求める戦いが今、始まりを告げようとしていた。
勝つのは希望か絶望か? ただ一つ分かる事があるのならば――
戦わなければ、生き残れない
終わる雰囲気出しておいて全然終わりません。
と言うかこんだけダラダラやってて、まだ半分くらいしか終わってません。
このエピローグでやっと半分、前半の第一部が終わりです。
次から普通に第二部って事で70話が始まります。
ワイこういうの擦っていくのが好きやねん(´・ω・)
ちなみに前回の三つのルートですが、普通にABCと言う時系列で繋がってます。
78話まではCのルートでしたが、AとBも何らかのシチュエーションでああなったと思ってください。
次から新章The・ANSWER編のスタートです。
そろそろストックがなくなってきたので、更新もノロノロになるかもしれません。
そこはどうかご了承くださいませ……!
また長々とダラダラやっていく事にはなりますが、暇つぶしのお供にでもしていただければ幸いです。
これからもよろしくお願いします(´・ω・)b