仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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※注意


下に今回から始まるThe・ANSWER偏のあらすじを書いていますが、70話までの完全なネタバレを含んでいるので注意してください。
それに加え、『Tea Party』の『EPISODE・FINAL』はストーリーの本筋に関係していますので、まだ見ていない人は其方を先にどうぞ。




第70話 絶対に生き残る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME The・ANSWER

 

 

 

 

 

『VS,運営――ッ!』

 

 

13人の騎士と13人の魔法少女は己の望む答えを見出せないまま命を散らした。

世界は絶望に染まり、愚かなゲームに選ばれた参加者達は舞台を盛り上げる為に永遠の地獄と絶望を繰り返す。

しかし、その愚かな輪廻に待ったを掛けた男が一人。

 

その名は城戸真司。

 

彼は13人の魔法少女と13人の騎士全員の生存を賭けて運営、魔獣に戦いを挑む。

世界を絶望に染め上げ、世界支配を画策する魔獣を絶対に許してはいけない。

再び命を与えられた参加者は協力してエンディングを迎える事はできるのだろうか?

それとも再び殺し合いの絶望に身を沈めるのか?

 

勇気、無限、真実、力、絆、運命、欲望、均衡、英雄、決意、慈愛、正義、そして希望。

 

なにより世界の、そして大切な者の命運を賭けて希望VS絶望の最後の戦いが始まる。

答えを彼らは見出せるのか、そして手と手を取り合う事は可能なのか?

ただ一つ、分かる事があるのならコレが最後のゲームだと言う事。

 

そして、戦わなければ生き残れない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある所に、一人の女の子がいました。

彼女は悲しい運命の連鎖を終わらせる為に、自分の存在を犠牲にして全ての魔女を消し去る選択を取りました。

女の子は神様になり、魔法少女が絶望して魔女になるルールを壊しました。

 

でもそのルールにもう一人の神様は賛成しませんでした。

それどころか酷く怒り、新しく生まれた神様を消し去ろうと手下達を生み出しました。

最初は言う事を聞いていた手下たちは、徐々に賢くなっていき、主人の命令を無視して自分達が得をする様に動く事にしました。

 

そうして新しい神様を捕らえた手下たちは、神様の友達や救われた女の子を引きずり出して、狭い箱の中に閉じ込めました。

箱の中は真っ暗です。

みんな外に出たくて、でもその方法が分からなくて、箱の中で暴れまわります。

そして手下たちはその様子を見て笑っていました。いつまでも、いつまでも……。

 

 

でも。

 

 

「――お前らを絶対に倒してゲームを終わらせる!」

 

「おのれおのれおのれぇえええッ! 城戸ッ真司イィィィイイッッ!!」

 

 

箱を開けた一人の騎士がいました。

彼は箱を壊して、今まで皆をいじめていた手下達に戦いを挑みました。

女の子が応援してくれたから、騎士は怯える事なく強大な悪意に立ち向かいました。

 

 

「勝つのは私達魔獣なんだよ! お前ら人間に希望はないッ!!」

 

「勝つのは俺たち人間だ! 心の中にある光が、必ずお前らの絶望を砕く!!」

 

 

彼は手下達をやっつけて、世界を平和にできるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅゅ?」

 

 

ムクリとベッドから起き上がる桃色の髪の少女。

ぼやけた思考と、ぼやけた景色。しばらく無言で近くにあった大きなぬいぐるみを抱きしめ続けた。

はて、あの景色は一体……?

 

 

「また夢オチぃ?」

 

 

眠い。

彼女はぬいぐるみと共に再びベッドの中へともぐり込んで――

 

 

「じゃない!!」

 

 

バチィィイイっと目を開けるのは、鹿目まどか。

そう、そうだ、夢オチなんかじゃない! ベッドから跳ね起きると、まず鏡の前に移動して自分の姿を穴が開くのではないかと思うほど睨みつける。

ムムムと表情を歪めるまどか。しかし直後――

 

 

「うぇひー!」

 

 

にんまりと笑みを浮かべると、スキップ交じりに自室を出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふーん♪ ふふふーふふー♪」

 

「どうしたぁ、ご機嫌じゃん」

 

「うん! ご機嫌だよ、ふふふ!」

 

 

まどかは洗面所で母と並んで外出の支度をする。

表情は綻び、思わず体を動かして鼻歌を歌うほどに気分は良いらしい。

鏡の前でクルッと回ったり、まるで一人でミュージカルでもやっているかの様だった。

 

 

「なんか良い事でもあった? 彼氏でもできたか?」

 

「ううん、そうじゃな・く・て!」

 

 

普段はちょっとからかうと耳まで赤くして慌てていたが、今日のまどかは怯む事なく笑みを浮かべていた。

 

 

「ママとまたこうやって一緒に支度できる事がうれしいの!」

 

「お、おお」

 

 

10分後。

 

 

「フフフフーフフー♪ フンフー♪」

 

「……まろかぁ?」

 

「だ、駄目だよ食事中に鼻歌は」

 

「てへへ、ごめんなさーい♪」

 

 

とは言いつつも満面の笑みはまだ消えない。

まどかはニコニコしながら次々に食材を口の中へ運んでいく。

 

 

「トマトっておいしいねパパ! あぁ、目玉焼きも本当に最高だよぉ!」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

「おいしいおいしい! おいしいよぉ! てぃひひ!」

 

「「………」」

 

 

今日は土曜。

最初は休日だからかと思っていたが、どうにもおかしい。

怯む知久、詢子は汗を浮かべながら耳打ちを。

 

「ありゃ何か変な物でも拾い食いしたんじゃないだろうか?」

 

「そんなまさか……」

 

「ほら、食べたら笑いが止まらなくなるキノコとか」

 

「い、いくらなんでも……。そう言えば最近友達が増えたみたいなんだ。今日もその人たちと遊びに行くってさ」

 

「ああ、昨日男二人は挨拶しにきたね」

 

 

城戸真司、暁美ほむら、手塚海之。

ほむらは兎も角として、男の友達ができるとは意外だった。しかも年上の。

一瞬変な連中に絡まれているんじゃないかと思ったが、少し話をして大丈夫かと判断したのだ。

と言うのも、まどかのなつき方が尋常ではなかったし。少し話して特にヤバそうな連中ではないと詢子の勘が告げたのだ。

 

 

「城戸って子は馬鹿そうだったしね」

 

「し、失礼だよ」

 

「ははは、褒め言葉褒め言葉」

 

 

ここでインターホン。

まどかは待ってましたと言わんばかりに立ち上がると、ウキウキとした表情で家族に行ってきますと告げる。

妙に力が入っているその言葉。詢子も知久も怯んだように挨拶を返すしか無かった

 

 

「「い、行ってらっしゃい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっむらちゃーん!!」

 

「おはよう、まどか」

 

 

家を出たまどかを待っていたのは、暁美ほむらだ。

ほむらは長い髪をかき上げ、クールに振舞ってはいるが、その表情はまどかと近い物があった。

無理もない。二人はコレが『初対面』と言う事になるのだから。

いや、昨日も電話で散々話はしたのだが。

 

 

「がばー!」

 

「わわっ!」

 

 

まどかは勢い良くほむらに抱きつく。

その表情は何とも言えず嬉しそうで、同時に目にうっすらと涙を浮かべていた。

今日はこれから、ほむらの家で今後についての作戦会議をしようと言う事だった。

もちろん話自体は真面目な物であり、そう言った意味ではまどかのテンションや雰囲気はおかしいのかもしれない。

 

いやいや、しかしだ。

なんと言っても今の世界でこうしてほむらと肩を並べて歩ける事がどれだけ素晴らしい事なのか。

それを想像してしまえばニヤけるなと言う方が無理だろう。

本当ならばこの光景はありえなかった筈だ。二人は絶望に呑み込まれたまま、永遠の別れを果たす事となる筈だった。

 

 

「でも本当にごめんね。あの時の事……」

 

「ふふっ、その言葉は今のでもう15回目よ」

 

「か、数えてたの!?」

 

 

昨日電話で話をした二人。

まどかはホムリリーを実質的に殺してしまった事をしきりに謝罪してくるが、ほむらからしてみれば責める気など全く無い。

あれは仕方ない事だった。むしろ謝るのは勝手なことをした自分(ほむら)の方であり、それは終わりのない会話へとループしていく。

 

ただ少し身勝手な話かもしれないが、こうして互いに謝る事さえも楽しいと思えてしまう。

自分たちは今、生きている。生きて呼吸をして、生きて足を進めて、生きて目の前にいる親友と会話をする。

それがどれほど幸福なのか。時間が経てば経つ程、実感が湧いてくると言う物だ。

 

二人はついつい頬をほころばせ、笑みを漏らす。

大地を踏みしめる感覚。髪を揺らす風。体感する全ての物が、自分達が生きているのだと教えてくれるようだ。

 

 

「でもちょっと涼しいね」

 

「ええ。手塚の話では――」

 

 

実は前回のゲームと全く同じ時間軸かと思ったが、確かに変わっていた部分もあった。

それは真司も始めは気づかなかったことだが、日付で"月"の部分が少し進んだ状態だった。

これは手塚が事前にインキュベーターを探して確かめたらしいが、何でも纏わりついた因果律を均衡に戻すための目的があるらしく――……。

 

とは言え、さほど直接的な意味があるかと聞かれれば、あまり関係は無い。

月が微妙に違うだけで後は全く同じだ。人間関係も、周りの事も、大幅な事件や事実も。

二人はそんな話をしながら黄色に染まっていく木々の下を歩いていく。

 

 

「ニヤけてるわ、まどか」

 

「ほむらちゃんだって」

 

 

ほむらもまどか程では無いが、先ほどからずっと唇は吊り上げている。

まどかと共にこうして話ができるだけでも嬉しくて堪らない。

もちろんこれから始まる戦いを思えば心は重くなるが、今はこの瞬間を噛み締めようではないか。

 

 

「仕方ないよね。わたしすっごく嬉しいんだもん、またほむらちゃんとお話できるって事が」

 

「ええ。私もよ」

 

 

彼女だけじゃない。

他の人達とだって再会を果たせた。

まどかは昨日の事を思い出して、ついつい涙ぐんでしまう。

 

 

「あはは、もう本当に大変だったよぉ」

 

 

まどかはその時の事を思い出して少し気恥ずかしそうに頬をかく。

他の参加者と再会した時はもう涙が止まらなかったと。

マミやサキには心配され、さやかには笑われてしまった。

 

 

「あとは、仁美ちゃん……!」

 

 

彼女の最期は本当に悲しい物だった。

だからまた会えた時は、堪えようと思っても涙が溢れていった。

 

 

「ど、どうしたんですのまどかさん!?」

 

 

思わずしがみ付いて大泣きしてしまったと、恥ずかしそうに語る。

ほむらも、その場面を想像してしまい再び唇を吊り上げる。

 

 

「仕方ないとは言え、さぞ変に思われてしまったでしょうね」

 

 

しかし、やがてその時が来たなら、彼女達にも思い出して欲しい。

ほむらは口にする事は無かったが、心の中でその言葉を強く思う。

もちろん記憶とは、全てが素晴らしい思い出に満ちている訳ではない。

それはほむらが一番良く分かっている。

 

もちろんそれはまどかも口にしないだけで、心のどこかには同じ思いを抱えている筈だ。

けれど、それでも、思い出して欲しい。自分をありのまま受け止め、そして自分自身をもっと深く知る事ができたなら、きっと何かが変わる筈だ。

 

 

『暁美ほむらの世界には――』

 

 

さやかに言われた言葉を思い出す。

そう、そうなんだ。もっと己の事を自分自身が受け入れ、変えられたなら、きっと新しい世界がそこには待っている。

ほむらは少しだけ寂しげな表情をして空を見上げる。期待しているんだろう自分は。

 

 

「でもね、みんな酷いんだよ!」

 

「え?」

 

 

そこでほむらハッとして、まどかの方を向く。

そこには先ほどの笑みとは違い、プリプリと頬を膨らませて怒っているまどかが見えた。

本人は真面目な物だろうが、その姿は何とも可愛らしい物である。

ほむらは再び笑みを浮かべる。どうやらまどかは、学校で皆に魔獣の話を聞かせたらしい。

しかし返って来る反応と言えば――

 

 

「ぶはははは! そりゃ傑作だわ! 映画化決定間違いなしだ!」

 

 

と、さやか。

 

 

「はぁ、またマミの奴の長話に付き合ったのか。嫌なら嫌と言ってもいいんだぞ?」

 

 

と、サキ。

 

 

「いいわね! 実は私も魔女とは別にショッカーって言う知性を持った敵がいると日頃睨んでいたのよ!!」

 

 

と、マミ。

 

 

「もう! 真面目に話してたのに!!」

 

「し、仕方ないわ」(相変わらずね巴マミは……)

 

 

つまり、まどかの話を皆これっぽっちも信じてはくれなかった訳だ。

頭を抑えるほむら。まあ彼女も手塚と会った時は疑いの気持ちが強かった訳だし。

そもそも何も知らない立場でいきなり魔獣だのなんだのと言われても困るだけである。

まどかもまどかでアライブ体を見せて強引に話を信じさせようとはしたが、そこでふと思い浮かぶ今日の話し合い。

自分の判断で勝手に事を進めていいのかと思い、結局曖昧な笑みを浮かべてごまかすしかなかった。

 

 

「賢い判断だと思うわ。下手に情報を与えても混乱するだけだし」

 

「そうだよね? ああ良かった」

 

「………」

 

 

アライブ体。

お茶会の時の記憶は残っていないが、キュゥべえ達のアシストなのか、アライブに関しての情報は残っていた。あれはまさしく女神、円環の理に至った際の姿ではないか。

あの姿、色々と思い出す事もある。良い意味でも悪い意味でも。

 

いずれにせよ、あまり思い出したくはない事でもあった。

ほむらは表情を複雑に歪める。まどかも、そんな様子に気づいたのか。

ゆっくりと優しい口調で言葉を放った。

 

 

「今日まで……、本当にいろいろな事があったよね」

 

「それは……、ええ、そうね」

 

 

ごめんなさい。

ほむらはその言葉を放とうとして、止めた。

 

 

「でもね。わたしは今、とっても嬉しいよ」

 

「え?」

 

「皆がいて。真司さん達と出会えて。そしてまた皆で生きていけるかもしれない」

 

 

皆で友達になれれば、それは何て素晴らしい事なんだろうか。

だからまどかは感謝したいと言う。今まで戦ってくれたほむらに、そしてこの舞台を用意してくれた真司に。

何よりも今日まで自分を支えてくれた仲間達に。

 

 

「だから、ごめんなさいより、ありがとうをいっぱい言いたいよね」

 

「ッ! まどか……!」

 

「だから、ね? ほむらちゃんも気にしないで」

 

 

そして何よりも。

まどかはほむらに手を差し出して笑顔を浮かべた。

それは何とも強いエネルギーを持った笑顔だった。

だから、ほむらも釣られて笑みを浮かべる。

 

 

「絶対、絶対絶対! 勝とうね!」

 

「……うん!」

 

 

手を取るほむら。

二人は手を繋いだまま笑みを浮かべて道を歩く。

その内まどかが手をブンブンと振って歩くスピードを速めていった。

引っ張られる感覚に、ほむらは目を丸くするが、すぐに笑顔へ表情が変わった。

 

 

「ようし! じゃあほむらちゃんのお家まで一気に行っちゃおう!」

 

「ええ、そうね!」

 

 

走り出したまどかとほむら。

太陽が二人を照らし、輝く空はなんとも言えない程に美しかった。

まるで二人の出発を祝ってくれている様だ。

いや、待っていてくれていたかの様にとでも言えばいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

一方、見滝原にあるファミレス。

ここら辺ではポピュラーなチェーン店であり、同じ名前の物が他にもいくつかある。

そんな中、二人の男女が向かい合って座っていた。

 

朝もそれなりと言う事で客はそれなりにいる。

周りを見ればモーニングコーヒーを啜る老夫婦であったり、これからどこかに遊びいくんだろうと思われる家族連れが多い。

その中で、中学生と思われる二人はやや浮いているだろうか?

だからと言って、誰も二人の事なんて気にしちゃいないが。

 

 

「……足りるのかい? そんな量で」

 

 

少年は、目の前でシーザーサラダをやる気なさそうにフォークで突いている少女を見て、笑う。

しばらく無言だったのに、後の第一声がそれか。

少女は少しイラついた様子でオクラを強く刺した。

 

 

「喧嘩、売ってる?」

 

 

ギロリと一睨み。

 

 

「まさか。こう言う会話がしたいんだ」

 

 

下宮鮫一と上臈小巻は、お互いアンニュイな雰囲気を出しながら向かい合っていた。

小巻はオクラを口に含みながら下宮が注文したメニューを見る。

ポテトだけだ。しかも彼は全く手を付けていない。

 

 

「中途半端な優しさが一番ムカつく」

 

「……それは、申し訳ない」

 

 

下宮はポテトを一つ摘んで口の中に入れる。

無表情で租借する彼を見て、小巻はますます表情を歪ませた。

今度はミニトマトをドスッと音がする程の勢いで突き刺していた。

 

 

「もっと美味しそうにしなさいよ」

 

「おいおい。君が言うなよ」

 

「仕方ないでしょ」

 

 

小巻はトマトを口に含むと苦い顔を一つ。

 

 

「何食べても一緒なんだから」

 

「………」

 

 

メガネを触る下宮。

もうポテトがどんな味をしていたのかすら思い出せない。

それは目の前にいる小巻も同じだろう。だが割り切ってしまえば、ラインを踏み越えてしまう。

それだけは嫌だった。下宮も小巻もだ。

 

だから彼らは毎日、こうして少しでもいいから三食しっかりと口にする。

もう味覚を無くしてからどれだけの無駄な食事を重ねただろうか?

そう、二人は魔獣だ。しかし普通の魔獣とは決定的に違う点が一つだけあった。

それが二人を繋ぎとめる何よりも脆く儚い絆であり、下宮が凶行に及んだ理由でもあった。

 

 

「それにしても、どういうつもりなの……?」

 

「何が」

 

「決まってるでしょ」

 

 

円環の理に来る筈のない真司がやって来たのは、下宮の仕業であった。

再構築の為に舞台へ向う真司をサルベージし、円環の理に送り込んだ事で結果的に今が構築されたといっても良い。

それだけじゃない、真司はギアを殴り、そのせいでバッドエンドギアは相当ご立腹だ。

全ての元を辿れば、その原因の一部に下宮いるのだから、バレればタダでは済まない。

まあ幸い、向こうはインキュベーターが真司を呼んだと思っている為、今のところ問題は無いと思うのだが。それでも完全にバレない保証など無い。

 

 

「壊れたのかと思った」

 

「おいおい、酷いな」

 

 

再び流れる沈黙。

どれだけ経ったろう? 下宮は時計を確認すると口を開く。

 

 

「小巻」

 

「やめて」

 

「え?」

 

 

冷たい視線が下宮を捉えた。

気が付けば彼女の皿には一つの食材も残っていなかった。

対して下宮の更にはまだ何も減っていないポテトが残っている。

小巻は下宮が何を言いたいのか、理解している。

理解した上で、その話を聞く必要はないと判断したのだ。

 

 

「小巻……!」

 

「私は、貴方みたいに諦めていないの」

 

「僕だって諦めてなんか無いさ! だから城戸に賭けたんだ!」

 

「城戸が私達を受け入れてくれるとは限らないじゃない……ッ」

 

「なら魔獣は僕達を受け入れているとでも思っているのか? それこそ無理やり割り切っているだけにしか思えない!」

 

「うるさい……! アンタに何が分かるのよ」

 

「なぜだ!」

 

「諦めてるクセに」

 

 

小巻の言葉に、下宮は言葉を詰まらせる。

 

 

「知っているのよ」

 

 

小巻は下宮の皿を指差して言葉を続ける。

小巻は毎日三食欠かさず食事を取っていた、取り続けた。

それなのに下宮はそれをサボる日がある。一日だけじゃない、何日も続けて。

 

 

「諦めてる。受け入れてる。だからあんな事ができた」

 

「それは――」

 

「口では私よりも人間に戻りたいって言うくせに。行動は全然――ッッ!」

 

「違う。適応すれば楽な部分もあっただけだ」

 

 

下宮は首を振って彼女の手を取った。

 

 

「小巻! 城戸に付こう! でなければ僕たちは永遠に抜け出せないぞ!」

 

「私は……ッ、勝てないと分かっている賭けはしないッ!」

 

 

小巻は金をテーブルに叩きつけると、立ち上がった。

どうやら店を出て行く様だ。小巻にしてみれば、下宮は自殺志願者でしかない。

 

 

「じゃあね。もう二度と話す事も無いと思うけど」

 

「………」

 

 

小巻はそこで立ち止まり、小さな声で呟た。

もちろん下宮の誘いに乗りたいと思う気持ちは、少しはある。

下宮はきっと小巻の事を馬鹿だと思っている筈だ。

でも、それはあくまでも、それは小巻も同じなのだ。

 

 

「私はね……、生きたいの。どんな屈辱的な事をしてでも」

 

「何の為に生きる? チャンスを待つ為じゃないのか?」

 

「そう。でも私は……、コレはただ刹那的な希望にしか見えない」

 

 

どうせすぐに消えるだけの淡い炎。例えるならば線香花火だ。

綺麗な時を楽しめるのは少しだけ。すぐに光は地に落ちて消え失せる。

同じなんだよ、今の状況は。だから小巻の心は動かない。

 

 

「アンタは諦めているからこそ投げやりになれる。どうせ終わっても良いって言う破滅的な思考の上で城戸真司の肩を持ったんでしょ。違う?」

 

「違うさ! 僕は――ッ!」

 

「嫌なのよ! 変に期待して裏切られるのは!」

 

「今を逃がしたらもう二度とチャンスは無いぞ……!」

 

「これはチャンスじゃない。彼らは確かに抗った。でも攻略法は見つけてない」

 

 

イツトリの壁。

魔獣だってまだ隠しているカードはある筈だ。

それこそ下宮が知らない力だって……。

 

 

「心配しなくても、魔獣達には黙っててあげるわ」

 

「小巻――ッ!」

 

 

下宮は彼女の名を呼ぶが、小巻が振り返る事は無かった。

一瞬追いかけようとはしたが、すぐに頭を抑えて首を振る。

そんな事をしている時間は無い。

 

 

(小巻、どうして君は……! いやッ、諦めているのは僕の方なのか?)

 

 

目の前にある冷え切ったポテトを見ながら自問する。

小巻はまだ『人間』に縋る貪欲さがあった。だからこそ意味の無い食事も続けられる。

だが下宮は、いつからかもう食事をしなくて良い体に適応してしまった。

それは魔獣としての自分を受け入れていると? それは小巻が言う通り諦めなのか?

 

いや、違う。

確かに諦めかけてはいた。しかしまだ完全に諦めきってはいなかったんだ。

自分はまだ間違っていない筈だ。下宮はそう信じたかったからこそ、真司に可能性を見出した。

たとえ小巻よりは諦めていたとて。自分はまだ彼女側のラインに立っている筈なのだ。

間違っては、いない筈なんだ――!

 

 

「お、おい下宮!」

 

「!」

 

 

そこで名前を呼ぶ声が。

下宮はハッと表情を変えて『彼』の方を振り向く。

するとそこにはいつも一緒に行動していた友人の一人、中沢昴が立っていた。

彼は慌てた様に下宮の向かい、先ほどまで小巻が座っていた場所に座る。

 

 

「……中沢くん」

 

「い、いいのか? 追わなくて」

 

「ああ、うん……」

 

「そ、そっか。まあ一旦間を置くのも大切かもな。俺そう言うのに疎いからさ」

 

「どうしてココに?」

 

「ああ、えっと、うん。いやぁそれにしても驚いたよ」

 

 

コンビニの帰り、中沢はたまたま店の前を通りかかった。

そしたら下宮が知らない女子と向かい合っているんだもの。

下宮達が座っていたのは道ぞいの席だった為に、通行人からはよく見えるのだ。

特に向こうから横断歩道で歩いて来た者の目には、嫌でもチラついてしまう程。

だからこの席はあまり落ち着けないと人気が無いのだが、今回はそこに下宮と小巻が座っていたと。

 

 

「悪いと思ったけどちょっと気になってさ。えへへ」

 

「全く、仕方ないなぁ中沢くんは」

 

「そう言うなって、友達に彼女がいたとあれば気になるのは当然だろ?」

 

 

いやしかし意外だったと中沢。

 

 

「まさか真面目な下宮が……、意外とちゃっかりしてるんだな」

 

 

あとはそう。

意外とキツメな性格に見えたとか何とか。

下宮の真面目なイメージとは少し釣り合わない印象は受けた。

 

 

「あ! いやッ! ご、ごめん。別に悪口言ってる訳じゃないんだ! 綺麗な人だったし!」

 

 

中沢の必死なフォローがツボに入ったのか。

そこで下宮は声を上げて笑い始めた。

 

 

「分かってるよ。あと勘違いしているよ中沢くん。彼女はそんなんじゃないさ」

 

「え? そうなのか?」

 

 

もしかして今の一連の流れで彼女じゃなくなったとか?

中沢はムムムと腕を組んで考察を。なにやら小巻は怒っている様だったし、やっぱり追いかけた方がいいのでは?

 

とは言えど、下宮は首を横に振るしかなかった。

何故か? 決まっている。何の為にこの席に座ったと思っているのか。

下宮は全てを計算してきた。暁美ほむらと同じく、彼もまた記憶を継続して繰り返す者だ。

今回は前回のゲームを基盤にしていると見て間違いない。

"そのパターン"が一番多かったからとも言えるが――

 

 

と、なれば。

 

 

「コレ食べて良いよ」

 

「え? いいのか?」

 

「ああ。もうおなか減ってないんだ」

 

「え? まだ全然減ってな……」

 

 

ま、まさか! 中沢は言葉を止めてポテトを受け取ると笑顔でお礼を告げる。

そうだ、中沢は心の中で答えにたどり着く。下宮はきっとフラれて食欲が湧かないんだ。

 

 

(そうだよなぁ、そんな気分でおいしくなんていただけないよなぁ)

 

 

中沢は冷え切ったポテトを口に入れると美味しいと微笑んだ。

 

 

「お、俺にできる事があるなら言えよ! なんでも協力するからな!」

 

「……どうして?」

 

「え!? いや、だってそれは――」

 

 

目がマジだ。

中沢は少し下宮の迫力に怯みながら笑みを浮かべる。

これは相当重症に違いない。いつもは淡々としている下宮がココまで雰囲気を変えてくるんだもの。これが失恋の重みと言うヤツなのか。中沢はそう思いながら口を開いた。

 

 

「友達じゃないか、俺達」

 

「………」

 

 

友達。

互いに心を許し合い、対等に接してくれる人。

一緒に遊び、日頃の事を喋り、多くの時間を共有する親しい人物。

それが友達。ともだち、トモダチ。友人と言う物なのだ。

 

 

「………」

 

 

いつからだろうか?

それが、ああなったのは。もうそれすらも思い出せない。

鈍っていく感覚は、自分が何者なのかすら忘れさせてしまう。

自分は下宮鮫一と言う人間のはずだ。だがそれは結局の所、与えられた配役でしか無いのか?

それすらも分からなくなっていく。

 

 

(小巻、君はどうだった……?)

 

 

こんな事なら、もっと彼女と話しておくべきだった。

今になってつくづくそう思うのは人間らしい感情だろうか?

 

 

「中沢くん。僕達って結構一緒に行動しているよね?」

 

「え? ああ、上条と三人って事?」

 

「うん。いつからだったっけ?」

 

「うーん、ハッキリとココからってのは覚えてないけど……、小学校からじゃない?」

 

 

一緒に遠足、宿泊学習、修学旅行だって回ったじゃないか。

中沢は過去を懐かしむ様な表情を浮かべて上を見る。

釣られて視線を移す下宮。中沢にはそこに過去の記憶が見せる映像がしっかりと存在しているのだろう。

 

 

(僕は――、どうだ?)

 

 

沈黙。

 

 

「………」

 

 

首を振る下宮。

彼はメガネを整えると水を一気に飲み干す。

そうか、そうだよな、友達なんだよな僕たちは。

 

 

「中沢くん。相変わらず志筑さんには手紙を書いてるのかな?」

 

「えっ! あ、ああ、まあ……! あはは」

 

 

中沢は顔を赤くして頭をかく。

ただ一度も返事をもらった事は無いし、向こうも向こうで普通に接してくるものだから、手紙の事は一度も聞けないと来た。

 

 

「やっぱ無かったことにされてるのかなぁ? あと手紙ってのがマズかったか」

 

 

やっぱこう言うのは直接なのか?

いやいや、だが自分で言うのは何だが度胸が無いと言うか優柔不断と言うか。

迷いに迷って行き着いた先がラブレターと言う古風な物なのだから、中沢も変わり者なのかもしれない。

 

 

「まあメールよりはマシだと思うよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「あと名前はちゃんと書いてるの?」

 

「へ?」

 

 

固まる中沢。

そう言えば書いていなかった様な――

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッッ!! しまったぁぁああ!」

 

 

中沢は頭を抱えて悶え始める。

 

 

「いくらなんでも馬鹿過ぎるだろ、ラブレターに名前書いてなかったんて! そりゃ返事もこない筈だわ!」

 

 

中沢は頭を抑えて若干涙目になっていた。

 

 

「内容書くので精一杯だったんだよぉ」

 

「まあ、緊張する事だろうしねぇ」

 

 

下宮は空になったグラスを回して中に入っている氷をぶつけ合っている。

冷めた様子の彼とは違って、中沢はアワアワとパニックになっていた。

さて、こうなってしまった以上、これからどうした物か。

今までの名無しは僕だったんだよ! なんて言っても最早今更だ。

かと言って知らんぷりで直接告白と言うのも、中沢にはハードルが高すぎる。

 

 

「別に今更じゃない? もうラブレターは出しているんだし」

 

 

その勇気があれば直接告白する事だってそう変わらないと思うが?

下宮の言葉に喉を詰まらせる中沢。確かにそう言われれば、そうなのかもしれないが……。

 

 

「もしかしたら、どっかでもう諦めてるのかも」

 

「?」

 

「いや、さ。なんて言うか……、手紙には一応そっちも手紙で返事くださいって書いたんだ」

 

「ああ、そういうこと」

 

 

つまり中沢は、もう初めから自分が断られる事が分かっていると。

その返事を直接言われるのと、手紙を通して伝えられるのではダメージの量も違うだろう。

情けない話かもしれない。女々しいのかもしれない。けれどそう言った感情が中沢には取り巻いている。傷つきたくは無いんだ、それは誰だって同じだろう?

 

 

「分かってるよ、俺……、自分でも中途半端だってさ」

 

「別にそれは人それぞれさ」

 

「いいよフォローなんて。ああ、"中"沢って苗字だからなのかな?」

 

 

昔からどうにも優柔不断だと言うかなんと言うか。

物事はすぐに決められないし、女々しいと言うかなんと言うか。

そもそも昴って名前もどっちでもアリな奴じゃないかと。

 

 

「名前のせいにするのは良くないよ」

 

「う゛ッ! わ、分かってるよ」

 

 

そこでふと思いつく中沢。名前の話をしていたからだろう。

人は苗字はともかく、名前と言う物は両親が決めて付けられる物である。

言うなれば父親と母親から一番最初に与えられる物と言うべきなのか。

それは愛情であり、期待であり、希望だ。

 

 

「お前はなんで鮫一って名前なんだ? 同じ読みにしてもさ、漢字が少し特殊じゃんか」

 

「さぁ」

 

「え? 両親に聞いてないの?」

 

「コレ本当の名前じゃないし」

 

「???」

 

 

目を丸くする中沢に、下宮は笑みを向ける。

 

 

「冗談だよ。そんな事より一つ聞いても良い?」

 

「うん?」

 

「話は戻るけど、君は志筑さんが好きなんだよね?」

 

「う、うん。まあ……」

 

 

赤くなる中沢とは対照的に、そこで下宮の目の色が変わった。

そこにある感情は複雑な物だ。だから表情を歪める。

 

 

「だったら、君は志筑さんの為に死ねる?」

 

「え?」

 

「彼女が崖から落ちそうになっていたら、自分の身を挺してでも助けるか?」

 

 

目の前に腹を空かせた熊がいて、ソイツに仁美が襲われそうになっていたら?

この身を真っ先に差し出す事で熊の胃袋を満たし、そして彼女を救おうと思うのだろうか?

 

 

「む、難しい質問だなぁ」

 

「暇つぶしだ。教えてくれよ」

 

「うーん……」

 

 

こめかみを押さえる中沢。

しばらく考えた後、おずおずと口を開いた。

どうやら自分の答えに煮え切らない思いを抱いている様だ。

とは言え、とりあえず出た答えはと言うと。

 

 

「助けたいよ。それはもちろん好きになった人だから」

 

「……たい?」

 

「うん、でも俺ってヘタレじゃん」

 

 

絶対志筑さんに言わないでくれよ。そんな前置き一つ、そしてその後に言葉を続けた。

もちろん言葉では簡単に助けたいと、助けるとはいえる。

けどそんなシチュエーションになった事なんて無いし、所謂『なってみなければ分からない』話である。

そしていざそう言う時になった場合、自分自身を分析するとどうにも確実に守れるとは言い切れないのであると。

 

 

「俺、結構ビビりだからさ」

 

「……駄目だよ、そこは嘘でも守るって言わないと」

 

「もちろん志筑さんがいればそう言うさ」

 

 

でも、だからこそ。

 

 

「そんな風に死ねたらカッコいいかもな」

 

「カッコいい?」

 

「うん。好きな子を守って死ねるんだ。カッコいいじゃないか」

 

 

できれば腕の中がいいよな。

彼女は自分を守ってくれた俺に好意を抱いちゃったりなんかして。

 

 

「そして俺は壮大に散るのさ」

 

 

その言葉を聞いて、下宮は一瞬視線を落とす。

しかしすぐに中沢の口からでた言葉が、脳を揺らした。

 

 

「もちろん、生きれればより一層いいけどね」

 

「………」

 

「つり橋効果って知ってる? あれで志筑さんは俺にメロメロさ」

 

「あれは後が大変らしいよ」

 

「あ、あくまでもだよ。例えばの話だって」

 

 

好きな人をカッコよく守れる自分でありたい。

それって誰しもの憧れじゃないか? 中沢はそう言った。

 

 

「ヒーローと言う言葉があるのは、この世にいる大多数の人間がヒーローチックに生きてみたいからさ。ヒロイックライフって言うの? 知らないけど」

 

 

ダークヒーローだのヒロインだの、言い方を変えればもっともっと種類はあるけれど。

やっぱり一番の憧れってヤツは分かりやすく、そしてカッコよく生きることだ。

要するに今の話で言うのなら、崖から落ちそうになる仁美を抱きかかえてパッと救い、熊に襲われそうになっているなら熊を倒して彼女を守る。

それが一番だと中沢は確かに言った。

 

 

「……中沢」

 

「ん?」

 

 

だから、下宮は顔を上げて真っ直ぐに中沢を見る。

珍しく『くん付け』ではなかった事に、中沢自身も違和感を覚えた。

 

 

「もうすぐ向こうの横断歩道から志筑さんがやってくる」

 

「え?」

 

「昨日のピアノ教室で忘れた携帯を取り行った帰り、彼女はココを通るんだ」

 

「な、何言って……?」

 

「僕は知っているから」

 

 

だからこそ、この席を選んだ。

仁美は下宮達を見つけて会釈で挨拶を交わすんだろう。

下宮は早口にまくし立てる様に言葉を羅列する。中沢は完全に怯んで口を開けているだけだった。

何かの冗談だろうか? そう思うが、ふと横を見れば横断歩道の向こうで信号待ちをしている緑色の髪の少女が見えた。

 

 

「え……? マジ!?」

 

「中沢くん」

 

 

下宮はドンと音がする勢いで、テーブルに腕を乗せた。

そのまま身を乗り出すと、中沢の目をしっかりと見つめる。

そこにある、かつて無いほどの強い光と意思。中沢は思わず喉を鳴らして後ろへ下がった。

目の前にいる下宮がいつもの彼ではないような気がして怖くなってしまう。

 

 

「な、なんだよ……?」

 

「少し、話がある」

 

「え?」

 

「大切な――」

 

 

そう、大切な話が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁーかぁーら! 頼むよ手塚ぁあ!」

 

「む、無茶を言うな。占いは超能力者じゃない」

 

 

ほむらの家には、既に真司と手塚の姿があった。

ほむらがまどかを迎えに行っている間、二人は軽い追いかけっこを続けている。

 

 

「手塚の占いで金色のザリガニの居場所をパパッと見つけてくれよ!」

 

「だから俺じゃそんな事はできない!」

 

「またまたぁ、本当はできるんでしょ? 占いに探し人とかあるじゃんか! だったら探しザリガニもできるでしょ!」

 

 

真司は取材の途中でココにやって来ていた。

学生のまどか達とは違って真司は土曜も仕事だ。

今の彼は目撃情報が増えてきた金色のザリガニの取材に追われている。

とは言え探せども探せどもソレは見つからず、結局真司は手塚に頼ることに。

 

 

「頼むよ手塚ぁぁ」

 

「……仕方ないな。南だ、南の方角にソレはいる」

 

「南! 本当に!?」

 

「ああ、だがザリガニもまた自らの手で運命を変える事ができるもんさ」

 

「は?」

 

 

だからザリガニ君が運命を変えていれば、東の方角にいるかもしれない。

そして東に進む運命を変えたいと願ったならば北の方へと――。

 

 

「あれ? 俺今すっげぇ言いくるめられてる気がする」

 

「気のせいだ」

 

 

それよりと手塚。

先ほどから気になっていたんだが真司の両頬が赤い気がする。

心なしか腫れているような気も。

 

 

「風邪か?」

 

「……いや、良くぞ聞いてくれました」

 

 

ザリガニの事はスッ飛んだみたいだ。

身を乗り出す真司、思い出すだけで恥ずかしくなると。

 

 

「実は昨日、美穂と蓮に会ったんだ」

 

 

かなりの頻度でアトリに集まっていた三人。

だからと真司は昨日も店に行ったら、案の定そこには蓮と美穂がいた。

真司の脳に浮かぶ二人の最期、それを思い出せば泣くなと言う方が無理だろう。

真司は顔を涙でグシャグシャにして二人に飛びついたのだが――

 

 

『なんだ鬱陶しい! 離れろ、馬鹿が移る!』

 

 

これが蓮。

 

 

『ば、馬鹿ッ! どこ触ってんだ! どすけべ!!』

 

 

これが美穂。

 

 

「ひッどいよな! アイツ等!!」

 

「ま、まあ……、辛いなソレは」

 

 

結果、美穂は反射からか真司の頬に平手打ちである。

しかも一発じゃなく往復だ。それが原因で真司の頬には赤い痕が。

よく見れば確かに手形が頬に見える。

手塚はそれを聞いて同情と呆れが混じった表情で真司を見た。

 

 

「仕方ない。向こうからしてみれば俺達が記憶を継続している事は分からない訳だ」

 

「そ、それはそうだけど」

 

「そんな状態でお前が鼻水と涙を垂らしながら迫ってこよう物なら、正当防衛を働かざるを得ない」

 

 

そんな状態で魔獣だの何だのと言っても頭がおかしい奴と思われるのは当然だろう。

かと言ってメモリーベントを考え無しに使うのも危険だ。

美穂はともかく、蓮がゲームを思い出せばその場で戦いと言う事にもなりかねない。

継承者を増やす事はプラスにも、ある意味でマイナスにもなるのだから。

 

 

「デッキはどうだった?」

 

「ああ、蓮も美穂も覚醒済みのヤツを持ってた」

 

 

なるほどと手塚は唸る。

どうやら今回は全ての騎士が既に覚醒した状態になっているらしい。

とは言え変身するためにはデッキを持ってVバックルを装着するイメージを頭の中で描かなければならない。

その事を知らなければ騎士にはなれないだろう。

だが逆を言えば、変身方法さえ分かればいつでも戦いとなる訳だから、その点は頭が痛い部分でもある。

と、ここでインターホン。どうやらまどか達が到着した様だ。

 

 

「丁度良い、とにかくまずは一度いろいろ話し合いたい」

 

「確かに、これからどうするかとかね!」

 

「ああ、それ以外にも色々伝えたい事もある」

 

「?」

 

 

首を傾げる真司。

何でも真司がまだ記憶を取り戻す前から、手塚は継承者として記憶を取り戻していた。

故に色々と立ち回れた部分もあるらしい。それを踏まえた上で皆で話し合いたい。

手塚はそう言い残して玄関のほうへと向って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ始めよっか!」

 

「はい!」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 

集まった四人は、ほむら家の近未来なリビングで早速作戦会議をする事に。

掲げる思いは何よりも犠牲者を出さない事。参加者全員が生き残り、ワルプルギスの夜を倒してゲームを終わらせる事だ。

その途中で魔獣は全滅させておきたい。でなければゲームが終わったとしても何の意味も無いからだ。この悪夢を仕組んだ元凶を倒し、戦いに本当の終わりを齎すんだ。

 

 

「もう絶対に負けない、死なせない!」

 

 

頷き合う四人。

取り合えず彼らは昨日あった事をそれぞれ報告する事に。

そこで一番気になたのはやはりまどかや真司が受けたとされる『扱い』と言う物だ。

そうなると自ずと今後の課題も見えてくるもの。

 

 

「とにかく、まずは継承者を増やす方針で行こう」

 

 

魔獣の存在を把握し、かつ辿ってきた色々な思いを受け継ぐ。

真司は今回の戦いで全ての参加者に記憶を取り戻して欲しかった。

辛い想いも、思い出したくない物も山ほどあるだろう。だがその全ては自分達にとっては本当の時間だったんだ。無限とも言える間続けられてきた戦い、そこで抱いた希望を決してなかった事にしてはいけない。

 

たとえ脳に入ってすぐに出て行ってしまうとしても。今までの輪廻をなかった事にはしたくなかった。そしてまだ脳裏に強く残っている前回のゲーム。

あそこで抱いた思いを無駄にせず、魔獣を倒す。

 

 

「俺達は主に前回の戦いの記憶を主としてる。だが、中にはそれ以外の記憶もあるだろう?」

 

 

どうやら思い出すと言っても個人個人で記憶に些細な違いがある様だ。

故に継承者がそれぞれ情報交換できる意味を考えても。増やすという行為は無駄にはならない。

 

 

「記憶の中に魔獣を倒すヒントがあるかもしれないからな」

 

「そうだね、うん……!」

 

 

そこでハッとするまどか。

ついついこのメンバーで顔を合わせていたから勘違いしていたが、純粋な継承者の中にほむらは入っていない。彼女は手塚のメモリーベントで思い出した立場なのだから。

純粋なる継承者は五人と言う情報は頭の中に入っていた。と言う事は――、だ。

 

 

「あと二人の継承者って誰なのかな?」

 

 

まどかが記憶を取り戻したのは、真司とほぼ同時であった。

思えばジュゥべえは初めの継承者については、あまり期待するなと言っていた。

その尤もたる例がまどかなのであろう。正直パートナーの両方が継承者、プラス目覚めるタイミングが同時と言うのは全く意味のない事だ。

ジュゥべえがサービスで、『感動の再会』を演出する為にまどかも継承者にしたと言う事なのだろう。

 

 

「手塚は知らないの?」

 

 

ほむらが問うと、手塚は頷く。

彼は早速ほむらの記憶を蘇らせて継承者に昇華させた訳だが、その前にも既にアクションは取っていた。

 

 

「一人は知らないが、一人には会えた」

 

「え!? 本当か!」

 

「ああ、リュウガだ」

 

「「「!!」」」

 

 

リュウガ。

その言葉を聞いて真司の目の色が変わった。

そうだ、そんな事をジュゥべえは言っていた気がする。

己のミラーモンスターとして用意された鏡像。手塚達も詳細は分からない、なのでまずはその話をする事に。

 

 

「リュウガは……、俺の影だった」

 

 

説明を行う真司。

技のデッキの恩恵。対象者の鏡像にして、前回のゲームで真司が死ぬ原因を作った者である。

反転の存在。だからこそリュウガは美穂を殺して真司にも致命傷を与えた。

言わばルールに縛られた存在であり、真司を殺すことで完全体への昇華を狙う。

 

しかし最終的には反転の存在と言う事が敗因となり、ファイナルベントの打ち合いで負けて真司の中に戻る形で死亡した。

 

 

「だからこそ今回のゲームでは、リュウガのデッキは新しい参加者の物になったみたいだ。ジュゥべえが選んだ別の参加者がこの見滝原にいる」

 

「成程。通りで随分イメージが違った訳だ」

 

 

手塚はリュウガの変身者と出会った時の事を一同に話す。

そもそも手塚が目覚めて少しした後に、リュウガ側から接触してきたようだ。

彼は手塚からゲームの話を聞くと、すんなりと協力の意を示してきた。

 

 

「協力?」

 

「ああ。ユウリはかなり反発していたが……」

 

 

しきりに殺すだの、ブチのめすだの吼えていたが、それはパートナーであるリュウガに止められる形になっていた。

それはプラスの印象ではあるが、手塚も継承者だと言う事だけでは手放しに信用はできない。

取り合えず連絡先を交換するだけでその日は別れた。

と言う訳だった。

 

 

「それから連絡は?」

 

「二回ほど。彼は他の参加者に注意を促しているらしい」

 

 

手塚も色々調べていたが、確かにリュウガは他の参加者に接触して色々と動いてくれているらしい。

もちろん、それは真司の都合の良いように。

その尤もたる効果がセフティベントだ。

 

 

「セフティベント?」

 

「ああ、俺はこれがあるからこそ、リュウガを信用していいと思った」

 

 

その効果は真司にとってはまさに希望と言える効果である。

リュウガに追加された新カード、セフティベント・ギルティセーブ。

それは参加者以外の人物を殺害する事を抑制する物である。

 

 

「ッ! じゃあ!」

 

「ああ。彼はソレを浅倉と杏子にかけた」

 

 

それだけじゃなく、次は芝浦達の方へ向うと言っていた為、ソレも期待できる。

与えられた情報でしかない為に、確実に信用はでき無いが、現に今日この日に至るまで見滝原での前回の様な猟奇的な殺人事件は報告されていない。

ミラーモンスターに人を食わせても強化できないルールも関係しているのかもしれないが、不可解な殺人事件が起きていないのはリュウガの力もあったからではないのだろうか?

もちろん殺せないだけであって、暴行は可能であるため複雑な部分ではあるが。

だがとにかく、リュウガのおかげで何の罪も無い人間が死ぬのは大きく防げた筈だ。

 

 

「それに、なんとなくだが、アンタに似ている気がした」

 

「俺に?」

 

 

真司と似ている人物。

いや、だからこそ『龍』の姿をイメージできたのだろう。

リュウガは誰でも良いというわけではない。ドラグブラッカーをイメージできる人間で無ければならないのだ。

ミラーモンスターの姿はその人物の心に強く印象づいている動物が元になる。

そう言う意味でも真司は彼と似ているのかもしれないと。

 

 

「名前は!?」

 

「榊原耕一と言っていた」

 

「―――」

 

 

固まる真司。

なんだろうか。真司の様子がおかしい。

その名前を聞いたとき、心が大きく揺れ動いたと。

 

 

「知っているのか?」

 

 

手塚がそんな事を思うと、続いてまどかの声が。

 

 

「年齢はどれくらいですか?」

 

「え? ああ、たぶん30代後半くらいだろう」

 

「なるほど。参戦派じゃないだけマシね」

 

「まだ演技をしている可能性もあるがな。なにせ長いループの中でも初登場の参加者だからな」

 

 

そうだったと手塚。

榊原から真司に伝言を預かっていると言う。

 

 

「で、伝言……?」

 

「ああ」

 

 

共に魔獣を倒し、このふざけた戦いを終わらせよう。

 

 

「俺は君の味方だ。そう言伝を預かった」

 

「……ッ」

 

「どうした? 震えてるぞ?」

 

 

文字通り見ただけで分かる変化。

プルプルと真司は震えて、拳を握り締めていた。

どうしたのだろう? 三人の視線が一勢に真司に集中する。

気のせいか? 頬を高潮させてニヤニヤしている様に見えるのは。

 

 

「……っしゃぁ」

 

「「「?」」」

 

「シャアアアアアアアアアアア!!」

 

「わわわ!」

 

 

真司は両手を広げて、思い切り伸びを行いながら吼えた。

驚いて椅子から転げ落ちるまどかと、眼を見開いて背筋を伸ばすほむら。

手塚もいきなりの咆哮にビクっと肩を震わせて目を丸くさせた。

 

 

「ど、どうしたの真司さん!?」

 

「ごっ! ごめんまどかちゃん!!」

 

 

倒れたまどかを引き起こす真司。

しかし彼はニマニマと笑みを浮かべて目を輝かせていた。

そして瞬時手塚に詰め寄り、携帯のネットを起動させて画面を彼に見せる。

 

 

「さ、榊原耕一さんってこの人だよな!?」

 

「え? あ、ああ」

 

 

そこに映っていたのは確かに手塚が出会ったとされる榊原耕一、本人であった。

しかし若干複雑そうな手塚。と言うのも、真司が見せた写真に写っていた榊原は非常に若い。

ちょっと待て、若い?

 

 

「知り合いだったんですか! 真司さん?」

 

「知り合いって言うかさ! 知り合いじゃないんだけど俺は知ってるって言うか!」

 

「す、すごい上がりようね」

 

 

思わずほむらの方まで熱が伝わってきそうだ。

基本的に明るい真司ではあるが、今の彼はいつにも増してテンションが高い様な気がする。

ウズウズと体を動かして興奮する心を落ち着けている様だ。

 

ココで画面を凝視してみる手塚。

よく見るとそれは真司が撮影した物ではなく、ネットにアップされている写真のようだった。

何故、榊原の写真がネットに? それは何とも簡単な理由である。

 

 

「榊原耕一……、へぇ、元俳優か」

 

「そそそ! しっかも見てよ手塚! ほら! ほらッ!!」

 

「近い近い! ちょっと待て! 何々……?」

 

 

手塚は今一度よく画面を確認してみる。

榊原耕一、現在は引退している様だが、幼い頃から芸能界に足を置いていたとか。

さらに他の子役と違っていたのはアクションができると言う事だ。

主に中国武術やジークンドーをメインとし、彼は動ける俳優と言うのが売り文句だった。

それが注目されたのか、彼は19歳の時に特撮ドラマの主役に抜擢された。

 

 

「それが俺の大好きだった気力戦隊ドラゴンレンジャーなんだよ!!」

 

「そ、そうなのか」

 

「まさか知らないとか言わないよな、ドラゴンレンジャー!」

 

「い、いや……、俺の世代じゃないから」

 

「あぁー駄目だなぁ手塚は! まどかちゃんは知ってるよな!」

 

「うん、名前だけだけど」

 

 

嘘だろ!? 手塚もほむらもギョッとまどかを見る。

しかしパートナーを気遣っての嘘ではなかったらしい。

何でも彼女の弟、つまりタツヤがそう言うのに少し興味が出てきた頃らしく、本を買っている内に多少なりともまどかも詳しくなったとか。

歴代の戦隊の中にドラゴンレンジャーがいた事はそれとなく覚えている。

 

 

「まあでもタツヤはまだ三歳だからそんなに詳しくは無いけど」

 

「いやいや十分だよ、流石はまどかちゃん!」

 

「えへへ!」

 

「ほむらちゃ――」

 

「興味ないわ」

 

(早い……)

 

 

若干ショボンと真司。

とは言え、またすぐに思い出したのかウオォオオと叫んで燃え上がる。

ドラゴンレンジャーとは城戸真司を作り上げたと言っても過言では無いヒーローだとか何とか。

特にそのリーダーであるドラゴンレッドには、とてつもない憧れを抱いていたのは今でもしっかりと覚えている。

 

変身アイテムや人形、果てはパジャマまで買ってもらったとか。

つまりドラゴンレンジャーのリーダー、ドラゴンレッドこそが榊原耕一だったと言う訳だ。

彼が真司に与えた影響は凄まじく、何故龍騎が赤色なのか、何故龍のミラーモンスターが生まれたのかの答えがそこへ集まっていく。

 

 

「ドラゴンレンジャーの相棒の龍星神ってのが本当にカッコよくてさ!」

 

 

画像を見せる真司。

ドラゴンレッドの専用メカなのだろうが、なるほど確かにドラグレッダーに似ているのなんの。

だからこそ真司の脳には強く龍のイメージが植えつけられ、鏡像となるミラーモンスターがそのイメージを組み取ったのだろう。

 

 

「へぇ! そうだったんだぁ!」

 

「ああ、しっかもさぁ! 俺、一回だけ榊原さんに昔会った事があるんだ」

 

 

まあ向こうはもう覚えていないだろうが。

何でも真司が当時住んでいた街の近くでドラゴンレンジャーのイベントが開催され、そこに一日だけ榊原がやって来ると言う物だった。

真司は両親に無理を言って連れて行ってもらい、そこで握手をしてもらったとか。

 

まあ何人も自分の様な子供はいたし。

榊原も同じイベントを各地で行っていただろうから真司の事なんて覚えていないだろうが。

しかし真司は今もその時の事を覚えている。憧れのヒーローだった人とこれから戦える。

彼が自分を応援してくれている。

 

 

「思い出すよ……」

 

 

幼い真司が榊原と握手をした時、一つの質問を投げかけた。

どうすればそんなに強くなれるのかと言う物だ。

もちろんその時の真司は榊原の事を完全にドラゴンレッドだと思っていたのだが。

とは言え実際榊原本人も強かった事だろう。それを知ってか知らずか、彼はこう答えた。

 

 

『誰かを守る為に戦っているからさ』

 

 

だから君も、強くなりたいと願うのならば守れる人間であれと。

誰かを傷つける為に拳を振るうのではなく、守り抜くために戦うのだ。

それが己の強さとなる。傷つける人間にはなるな、守れる人間になれ。

 

 

「だから、榊原さんが騎士ってスゲェ嬉しいよ! あ、喜んじゃ駄目だった! 俺のせいで榊原さんが巻き込まれたんだ……」

 

 

真司は頭をかいて申し訳なさそうに眉を下げる。

とは言え、今の話を聞いたなら、榊原が信用できる人物であると言う想いが増すと言う物だ。

 

 

「俺が餃子勉強したのも榊原さんの影響なんだぜ!」

 

 

榊原は現在芸能界を引退して、病に倒れた父に代わって実家の中華料理屋を継いだのだとか。

父親は復帰したが、それで榊原が芸能界に戻ってくる事は無かった。

それでだ。榊原の得意料理が餃子だったのである。

だから真司も憧れからか餃子の研究を重ねて自己流の物を生み出したと。

 

 

「そうなんだ! 真司さんの餃子おいしいもんねぇ!」

 

「す、凄まじい探究心ね」

 

「それだけ榊原さんの影響が俺にあったって事だな!」

 

 

成長してから分かる事もある。

真司は俳優としてもファンであった。

彼の仕事に対する真摯な態度は、見習わなければならないと思っている。

 

 

「へぇ! わたしも早く会いたいなぁ!」

 

「今は他の参加者に警告を促している筈。近いうちに会えるさ」

 

 

成程と手塚は思う。

真司にとってはコレ以上ない参加者だったと言う訳か。

それに彼の経験からもリュウガを受け継ぐには最適だ。

あの力を受け取るには龍のモンスターを生み出せるイメージを持った人物でなければならない。

ドラゴンレンジャーと、ドラグレッダーの元になる龍星神が深く関わっているのならば納得だった。

 

 

「ゲームが開始されれば是非連携を取っていきたい所だな」

 

「そっか、まだゲームは開始されてないんですよね!」

 

 

まどかの言葉に頷く手塚。

自分達は継承者として存在するが故に、麻痺している部分もある。

ゲームが行われる事は確定事項ではあるが、それはあくまでも後々の出来事であって、今は何も行われていない状態だ。

 

 

「前回はシザースペアの退場時にゲームのアナウンスが流れた」

 

「ええ、参加者の死がトリガーになっていたみたいね」

 

 

今回、そのトリガーは絶対に引かせない。

では、一体どのタイミングでゲームのアナウンスが流れるのか?

殺し合いのデスゲームが行われると言う事で、アナウンス直後には大きな混乱と恐怖が参加者を取り巻く。

そこから巻き起こされる不和や仲間割れに注意したい所である。

事実前回のゲームでもそれを利用されて、さやかが魔女になった。

おそらく今回もそれを狙う参加者が出てくる筈だから。

 

 

「ゲーム開始前に立ち回れる所は立ち回っておきたいわね」

 

「ッて言うと……、やっぱあと一人の継承者を見つける事とか!」

 

「見滝原の外に何か無いかを見つけるとかも!」

 

「いやッ、実はその事なんだが――」

 

 

複雑な表情を浮かべる手塚。

何かマズイ事でもあるのだろうか? 真司が口を開こうとした――

まさに、その時だった。

 

 

「その点については私から説明するぞい」

 

「「「「―――」」」」

 

 

は?

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

バッと飛び上がる四人。

ほむらに至っては変身までして盾に手をかけている。

と言うのも今聞こえた声は、ココにいる四人の声では無かったからだ。

誰だ!? 息を呑む四人の耳に、再び棒読みに近い笑い声が聞こえてきた。

 

 

「悪い悪い、ちょっとしたサプライズだって」

 

 

誰も座っていなかったソファの上が、ぐにゃりと歪む。

そこから姿を見せたのは、手を頭について横向きに寝転んでいた神那ニコであった。

魔法少女の衣装にはベルデの紋章が。どうやら既に契約を結んでクリアーベントでココに忍び込んだらしい。

うおぉと、思わずソファから転げ落ちるまどかと真司。一瞬思考が停止するライアペア。

 

ほむらの記憶がフラッシュバックする。

ニコとは確か一度だけ会った事があったか、まどかと一緒に話をしていたのを覚えている。

そして手塚、彼女の記憶は無い。無いはずだが、あるとも言える。

あれは円環の――

 

 

「に、ニコちゃん? どどどどうしてココに?」

 

 

って、あれ?

首を傾げる真司。ニコは指を鳴らして正解と。

 

 

「私が五人目の継承者だぞ、ばっちこん☆」

 

「ッ! そ、そうだったのか!」

 

 

ニコは立ち上がってウインク。そのままペコリとお辞儀を行った。

ここでほむら達のために自己紹介を一つ。

 

 

「前回の魔法少女集会では7番。そしてゲームには積極的に関わらないステルスプレイを貫いておりました!」

 

 

しかし一度まどかとは話をしたいと思い接触した。

その時にほむらとも出会い、少しだけ言葉を交わしたと。

 

 

「覚えているわ。あなた、私と似ているって」

 

「んあ。あの時はなんとなくそう思ったけど、今ならその理由が分かるよ」

 

 

共に多くの時間軸で最後まで生き残り、時には繰り返す選択を取った者同士だから。

尤もそんな事をしなくてもイツトリは繰り返すつもりであったと言えばそうなのだが。

 

 

「俺も……、どこかで出会ったか?」

 

「そう、その点に関しても記憶が曖昧になってる」

 

 

円環の理。

その文字と、そこで何があったのかは大まかにしか覚えてない。

誰がいたのか、それが今一つ思い出せないのはおそらくインキュベーターの仕業だろうと。

 

 

「そもそも、継承者だって、現在所持している記憶に些細な差がある」

 

「それは俺も思っていた。だからこそ継承者とは一度話し合い、情報の交換、共有がしたかった」

 

 

だが――。手塚とほむらは相変わらずニコを睨んでいる。

ニコが最後の継承者である事は分かった。しかしそれにしても前回のゲームでの情報が少なすぎる以上、手放しにに信用はできない。

ただでさえ他の時間軸でも彼女が敵であったケースは多いと記憶している。

それを言うと、ニコは少し困ったようにしながらも唇は吊り上げていた。

 

 

「まあそうなるわな」

 

 

それに正直、ニコとしても未だ心の中には冷めた部分もある事は自覚していた。

真司に託したのはニコだ。けれども今こうして冷静になると、やはり真司が目指す勝利は不可能なのではないかと思うようになってくる。

そもそもニコ自身、多くの時間軸で参戦派であった。

それが今になって協力などと。

 

 

「いや、信じよう!」

 

「!」

 

 

真司は立ち上がり、拳をグッと握り締めて即答していた。

ニコは魔獣の存在を教えてくれた。彼女がいたからこそ真司はこのチャンスを作り出す事ができたんだ。

言わばニコは恩人。そして自分に言ってくれたじゃないか、参戦派だったら説得してくれと。

 

 

「俺はその言葉を信じたい」

 

「城戸……」

 

「これは、そういう戦いだからさ」

 

「………」

 

 

ほむらは変身を解除して再び席につく。

手塚も警戒を解いたのか、雰囲気が少し柔らかなものに。

ニコも意味が分かったのか、変身を解除してソファに座りなおした。

 

 

「悪いな……。城戸」

 

「いいんだ。ニコちゃんと一緒に戦えて嬉しいよ」

 

「フッ、あんまり信じすぎるのも毒だぞい」

 

 

でもありがとう。ニコは真司に向かって頭を下げた。

取り合えず高見沢(パートナー)の事もある為、ガッツリとはいかないが、ニコも協力してくれると言う。

ニコとしては高見沢を説得したいところではあるのだが、なにぶん想像するだけで頭が痛くなる話だ。とにかくココはまず一度継承者同士で情報を交換しておくのが先か。

五人は早速、覚えている情報を詳しく説明しあう事に。

 

 

「でもその前になぁ、客に茶くらい出してくれよホムホムぅ」

 

「………」

 

 

イラッとした表情に変わるほむら。

お前さっきまで隠れてたんだろうがと。あとホムホム言うな。そんな目でニコを睨みつつ、一理あるかもしれないとも思う。

と言うのもほむらは皆には口にしていないが、自分だけの心に抱えるちょっとした想いがあった。

それは変わりたいと思う心、思いやりを持ち、まどかの様な人間になりたいと。

 

 

「ジュースあるんだけど、まどかはそれでいい?」

 

「あ、うん。なんでも良いよ」

 

「私もなんでもいいぞ~」

 

 

一分後。

皆の前にはドリンクが。

まどかはお礼を言って早速ジュースに口を付けるのだが――

 

 

「おい酷すぎだろ、何で私だけ水道水なんだよ」

 

「なんでもいいって……」

 

(この女、根に持つタイプだな――)

 

 

ニコは目の前にある水を見て汗を浮かべる。

結局その後まどかの口利きもあってかニコにもジュースが出される訳だが。

そんなこんなで話し合いが本格的に行われる事に。

取り合えずまずは覚えている記憶の共有だ。その結果、分かる事もいろいろと多かった。

 

 

「記憶、環境共に前回のゲームが元になってるな」

 

「ああ。と言うかココ最近は割と同じ流れが続いている」

 

「つまり大まかな流れは前回のゲームと変わってはいないと」

 

 

何もせず放置していたのなら、同じような流れになるだろう。

前回参戦派だった者は例外なく参戦派となり、説得すると言う手を取るしかない。

だが榊原の様な明確なイレギュラーもいる訳で、そこに期待したいところではある。

 

 

「ニコちゃんは榊原さんとは会ったの?」

 

「ああ。ユウリのヤツは相変わらずだったけどね」

 

 

レジーナアイにも登録はしたし、近くに来れば分かるだろう。

とは言え、榊原はともかくユウリはまだ信用できない。

あれは地味に気をつけた方がいいとニコは警告を。

 

 

「アイツの固有魔法は変身だ。気をつけろよ。親しい者に化けて近づいてくる」

 

「ええ、分かったわ」

 

 

それにと、ニコは表情を重くして最大の警告を。

今回真司が目指す勝利は参加者全員の生存。

それをニコは否定する気は無い。しかしだ、それを目指すと言う事がどう言う事なのか。

その問題から目を逸らす事はできない。

 

 

「ワルプルギスの夜」

 

 

その名を聞いて、まどかとほむらゾッとして表情を青ざめた。

忘れた訳では無い、忘れる訳が無い。この身に刻まれた圧倒的な恐怖が今にもこみ上げてくる。

今でも耳に張り付いているアイツの笑い声。

 

おそらくとニコ。

全ての魔法少女が長き輪廻の中で一度くらいは殺された事があるのではないか。

もちろんそれは騎士にも言えた事だ。前回のゲームでは真司は挑むことはなかったが、どこぞのゲーム盤では真正面から挑み、そしてボロ雑巾のようにされて死亡している。

 

 

「ヤツに戦いを挑んだ者は、例外なく遊びに遊ばれた挙句殺される」

 

 

死んだ参加者の魔法をメインとして立ち振る舞い、おまけに常に『逆位置』で本気ではないと来た。

 

 

「私の記憶の中、一回だけヤツが正位置を示した時がある」

 

 

気が遠くなるほどの長い輪廻、一度くらいはと言う事なのだろう。

 

 

「あ……、たぶん、わたしもいたと思う」

 

 

手を上げるまどか、しかしその表情はやはり険しいものだった。

と言うのもその時の記憶が正しければ、まどかとの戦いでワルプルギスは正位置を見せた筈だ。

その結果、忘れた訳が無い。

 

 

「覚えてないよな、まどか」

 

「うん……」

 

「なんでか分かるか?」

 

「………」

 

 

ま、言えんわな。

ニコはそう思えど彼女の代わりに皆に真実を告げる。

まどかがワルプルギスの本気を覚えていないのは当然だ。

なぜならば――

 

 

「ワルプルギスが本気になった一瞬、それでまどかは殺された」

 

「!」

 

 

ほぼ即死だった事だろう。

そしてそれを少し離れた所で見ていたニコもまもなくと殺された。

ワルプルギスの本気の姿をろくに確認することも無くだ。

それが本気、そして本気を出す前であっても自分達は勝てない。

 

 

「まどかが勝てたのは、魔女の力があってこそだ」

 

 

しかもあの時は不意打ちに近い即死だった。

あの時と同じ様にできる確立は非常に限りなく少ない筈。

まどかが極限状態にあり、かつワルプルギスが油断している限定的なシチュエーションなどと。

 

 

「さらに言えば隠しルール、ワルプルギスの強化について」

 

「……!」

 

 

ニコは前回インキュベーターからかなり重要なルールを聞いている。

向こうもまさか記憶を継続するとは思っていなかったからか、ゲームでは伏せられるべき情報を事前に入手する事ができたと。

それはワルプルギスの夜とは死んだ参加者の力を使うこと。

 

 

「そしてヤツは全ての参加者が生き残っている場合、全魔法少女の力を使う事ができる」

 

「なっ! 全員!?」

 

「そう。全員と言うのは、多分私達"参加者"って事だろうな」

 

 

ワルプルギスは死んだ魔法少女の集合体。

それならば現在死んでいないニコ達は大丈夫と思われるだろうが、ワルプルギスはイツトリ同様見滝原の外、ゲーム外からの装置だ。

全ての時間軸においてワルプルギスは一直線に時が進んでいる。

ニコ達の死はしっかりと記憶している訳だ。だからこそ彼女はほむらが知っているよりも何倍も強かった。

そして今回、順調に行けばヤツはフルパワーで自分達を殺しに来る。

そしてその時に本気を出されたら――

 

 

「プラス、あと二つ」

 

 

ワルプルギスは言ってしまえば、あくまでもゲームのラストボス。

それに加えて今回越えなければならない壁が二つ増えた。

一つはイツトリ、ワルプルギスをも越える神クラスの彼女にどう対抗するべきか。

そして何よりも魔獣、ギアはおそらくワルプルギスに匹敵する力を持っている筈だ。

 

 

「かなりギリギリの戦いになる」

 

「だろうな」

 

 

沈黙するまどかとほむら。

言葉にすればする程、勝率が低い気がしてくる。

そもそもまどかは神の位置にいたにも関わらずイツトリに負けた。

加えて、あの圧倒的な力を持ったワルプルギスが完全体となって自分達に向かってくる。

さらにそこに魔獣の頂点であるギアもまたやってくるのだ。

街にも被害は出したくない。そもそもそれまでに全員が揃っていなければならない。

なんて、なんて――……。

 

 

「だが勝つ――ッ!」

 

「!」

 

 

まどかの思いをねじ伏せる様にして、ニコは虚空を激しく睨みつけた。

直後、力を抜く様にニヤリと笑って見せる。

 

 

「魔獣のクソ野郎共にな」

 

「ああ。ふざけた運命は確実に変える!」

 

 

手塚もまた頷いた。

さらにニコと手塚は、「そうだろ?」と声を揃えて、一人の男を見た。

 

 

「ああ、俺達は皆で勝つんだ!」

 

 

城戸真司と言う男を。

 

 

「絶対に生き残る!」

 

「……!!」

 

 

まどかとほむらは顔を見合わせ。複雑な、けれども安堵と希望を混ぜた表情を浮かべる。

ネガティブな想いを抱いたまどか達。だが真司、手塚、ニコの三人は、もうその向こう側に世界を見ているようだ。

 

 

「確かに言葉にしてみれば圧倒的不利な状況ではあるが、希望はある」

 

 

手塚は言う。

榊原、継承者、優衣が齎した物をはじめとした圧倒的なイレギュラー。

 

 

「面白いよ、心がザワザワしてくる。ゾクゾクするぞ~」

 

 

ニコは言う。

無くした『人らしさ』が、時間と共に戻ってくるのを感じるんだと。

ルールの変更により、自分達に有利な風が吹いている筈だ。

確かに今言った通り不利な面は大きく、多いかもしれない。

しかし同じくして自分達に対する希望もまた失われた訳ではない。

それに加え、なんと言ってもだ。三人は視線を交差させる。

 

 

「「「サバイブ」」」

 

 

言葉が重なった。

純粋な継承者には真司が魔獣に喧嘩を売ったあのシーンの光景が埋め込まれている。

それを見るに、サバイブ覚醒の時のリアクション、そして対峙した際のシーンを見ると一つの答えが浮かぶ。

 

 

「奴らにとっても、サバイブは未知数の力の様だな」

 

「ああ。焦り具合がハンパじゃなかった」

 

「凄いんだぜあれ、力が溢れてきたんだ」

 

 

そしてサバイブと同質の力を持つアライブ。

それが魔獣を倒す、ワルプルギスを倒す力になるかもしれない。

加えてもう一つ気になる事があるとニコは告げた。

魔獣にとって最も脅威となるイレギュラーの一つがサバイブだった事は間違いない。

では何故サバイブを削除しなかったのか? それは彼らがサバイブシステムを面白がっていた事もあるが、何よりも削除できなかったと考えればどうか?

 

 

「ま、あくまでも私の予想だけどもさ」

 

「いや、一理ある。俺も同じ予想をしていた」

 

 

ある程度ルールまわりはインキュベーターが管理していた様だし。

頷くニコ、その点を踏まえ――

 

 

「奴らは自分達に都合の悪い物を自覚していた筈だ」

 

 

故に。

 

 

「プラス、奴らはゲームを速やかに運行するべく暗躍してきた」

 

 

その痕跡が確かに残っていたのだとニコは説いた。

 

 

「痕跡?」

 

 

首を傾げる真司とまどか。

既に他のメンバーはその痕跡に気づいていたらしく、真司たちが目覚める前に行動を開始していた。

 

 

「矢だ」

 

「矢?」

 

「ああ、バズビーとか言うヤツが使用していた武器さ」

 

 

つまりそれは魔獣の残した痕跡だ。おそらくは自分の力に心酔していたのだろう。

ヤツは人間の姿を得て舞台に溶け込む姿勢とは逆に、その殺害方法に関しては現代とはかけ離れた原始的な武器を使っていた。

それ故にゲームに介入してきた際の痕跡は、強く残るものである。

 

 

「頭の中に残ってた」

 

 

ネットやテレビでふと目にしたニュースが一つ。

しかし内容が内容だった為に、思い出せたのだと手塚達は言う。

このゲーム内においてイレギュラーだった出来事が確かに存在していた。

そこにニコや手塚達は目をつけたのだ。

 

 

「このゲーム盤で、弓矢で殺されたヤツがチラホラいたんだよ」

 

「……あッ! そう言えば!!」

 

 

真司も情報に深く関わる仕事をしていた身。そう言えばそんなニュースがあったようなと。

そこでアっと声を上げるまどか、弓矢と言う異質な武器は魔獣のソレである。

それは紛れも無く、魔獣がこの世界に干渉を示した何よりの証拠ではないか。

 

では何故その人を殺す必要があったのか?

理由は分からないにせよ、殺す必要があったから殺したのではないかと。

 

 

「魔獣にとって重要なファクターは、私達にとっても重要じゃないのか?」

 

 

それに加え、今回は奴らも好き勝手には動けない。

ニコとライアペアは。その被害者を調べてしばらく様子を見ていたらしい。

つまり確かに変わった部分がしっかりと存在していると言う事だ。

 

 

「私の調べと記憶が正しければ、弓矢で殺されたのは二人だ」

 

「ああ、俺達も最終的に二人に行き着いた」

 

 

頷き合う手塚、ニコ、ほむら。

まずは一人目。その名は――

 

 

由良(ゆら)吾郎(ごろう)。北岡秀一の元秘書だな」

 

「ッ! 北岡先生の!」

 

「おそらくはバズビーでしょうね。これで北岡秀一を参戦寄りにさせた」

 

 

北岡はただでさえ病と言う願いを叶えなければならない理由を一つ抱えている。

そこに親しかった吾郎の死を加えれば、意地でも参戦派に移るしかなくなるだろう。

 

 

「い、今は!?」

 

「ああ、どうやら一度魔獣は彼を狙った様だが、その前に俺が榊原に連絡して妨害してもらった」

 

 

向こうもインキュベーターがかけた枷があるらしく、一度狙った相手はもう狙えないのか。

それともプライドの問題なのか。とにかくと以後は吾郎が狙われた報告は無い。

とにかく由良吾郎は今現在生存中であり、それもあってか前回はビルのワンフロアでしかなかった北岡の事務所も、今は自宅を兼用した大きな物になっている。

 

 

「まあ……、だからと言って北岡の性格は変わっていないみたいだが」

 

「あぁ」

 

 

落胆の声を漏らす真司、まどかもまた汗を浮かべている。

なんとなく光景が容易に想像できると言うものだ。

 

 

「問題はあと一人」

 

「そう、私もそこがかなり重要な役割をしてくれるんじゃないかと睨んでる」

 

「あ……! 俺も記憶あるな! えーっと!」

 

 

確かどこかの大学の教授が殺されたとか何とか。ニコは指を鳴らして大きく頷く。

彼女が独自に調べた結果、その教授は魔女研究を行っていたとか。

まあ長い歴史がある以上、一般人が魔女の存在に気づく事は決して少ない物では無いのかも知れない。

 

しかしだからと言ってそれだけの理由で魔獣は彼を排除するのだろうか?

大学があるのは見滝原外、そこに出向いてまで一般人を殺す意味があったのでは無いだろうか?

つまり、それだけ彼が魔獣にとって都合の悪い、もしくは彼らが把握していなかったイレギュラーだったと言う事ではないのだろうか?

 

 

「その人の名前は――?」

 

「ああ」

 

 

清明院大学教授。

 

 

香川(かがわ)秀行(ひでゆき)

 

「!」

 

 

どことなく覚えがある様な――?

真司の心に淡い記憶が。とにかく、香川と言う人物が魔獣にとって何らかの脅威に、もしくはゲームに関係してくるからこそ殺された訳だ。

 

 

「継承者を増やす前にそこを抑えたいんだが……」

 

 

大きな問題が一つあると。

 

 

「問題?」

 

「ああ。清明院があるのは見滝原ではなく風見野なんだ」

 

 

つまり隣町。

それだけならば問題ないようにも思えてしまう。

ゲーム開始前には隣町に足を運ぶ事もできるのだ。しかし今回は少し違うらしい、インキュベーターがそれを知ってか知らずかルールを変更しているとか。

 

 

「どうやら一度見滝原に入ると、参加者は出れないらしい」

 

「えっ!?」

 

 

手塚とほむらはいち早くその事態に気づいた。

前回同じくエビルダイバー、つまりミラーモンスターならば制約無しに出られるのだが、自分達はそうもいかないと。

言うなれば見えない壁があるようで、そこを越えると逆方向に進む様に設定されている。

歩けばいつのまにか見滝原に戻っており、電車やタクシーなどはいつの間にか違う物に乗っている事になっていた。

 

前回はゲームが始まるまでは色々と自由度があったが、今回はそう言う訳ではない様だ。

その点に関してはニコも調査済みだった。

どうやら見滝原の周りに結界が張っているらしく、そこに触れると無意識に行き先を見滝原に戻されると言う事だった。

 

 

「継承者だけに与えられる制約かと思ったんだけども、そう言う訳では無いらしい」

 

 

ニコは高見沢にその事を伝え、彼にも見滝原の外に出てもらった。

しかし結果は同じ、彼もまた見滝原の外に出る事は許されなかったと。

つまりそれは継承者でなくとも、と言う事だ。

どの参加者も今現在見滝原にいる状態にあると。そして自分達は既に箱庭から出る事はできない。

 

 

「す、すごいなぁ」

 

「あ、ああ」

 

 

早く目覚めた手塚達はそれぞれ来るべきゲームに向けて色々と準備を整えてくれていたようだ。

それに比べて自分達はと言う想いがまどかと真司には浮かんでしまう。

一番無理なお願いを押し付ける形となった自分達が。今の今まで寝ていたと言う形になるのは……。

 

 

「何を言っているんだ、お前達がいなかったらこの"今"は無いんだぞ」

 

「そそそ、よくも考えてみなさいな」

 

 

ニコは語る。そもそもだ、まどかが勝ち残らなければ終わりだった。

真司を蘇生させてくれる様に思わなければ終わりだった。

そして真司もまたそう、彼が魔獣に勝負を持ちかけなければ終わりだった。

 

ニコもそうだ。

だが彼女だけでは魔獣に牙を向ける事はできなかった。

それは真司だったからこそできた事。そしてまどかとの絆で生まれたサバイブが無ければ終わりだったんだ。

今は、この現実は、この世界は真司とまどか。

龍騎ペアが中心となり他の参加者がいたからこそ生まれたんだ。

 

 

「だから、胸を張って。二人とも」

 

 

彼らがいなければこうはならなかった。

ほむらは珍しく、笑みとも言える表情を浮かべて髪をかき上げていた。

顔を見合わせる真司とまどか。そう言われてしまえば少し鼻は高い。

 

 

「う、うん!」

 

「ああ! ありがとうほむらちゃん!」

 

 

笑い合う二人。

賛同の声に自信も湧いてきたと言う事なのだろう。

だがその賛同の声の中。一つ異質な物が聞こえてきたとすれば――?

しかしそれもまた賛同の声であるには変わりないのだが。

 

 

「その通りだ。城戸真司」

 

「!!」

 

 

『彼』自身、その存在を表す為に過剰に足音を立てたのか。

すぐに四人の視線はその声の主へと収束していった。

目に付いたのは紫。そして光を反射するメガネのレンズだった。

 

 

「鍵は掛けた方がいい」

 

 

それが『彼』が新たなるゲーム盤にて参加者達に放つ第一声であった。

テンションが上がっていたのだろう、まどかは鍵をかけ忘れ。だから彼は簡単にほむらの家に入る事ができた。

とは言え、もしも鍵が掛かっていたのならば壊してでも入ったろうが。

 

 

「え? どうして下宮くんがココに――?」

 

「……ッ」

 

 

まどかがポカンとした顔で下宮鮫一の名を呼んだ。

ほむらにも見覚えがある。隣の席にいる中沢昴の友人、美樹さやかの想い人である上条恭介とも友人。前回の時間軸や、ココ最近でもいつも三人で行動していると記憶している。

待て、ちょっと待て。

そう言えばゲームが始まる前の時間軸では、彼はさほど上条や中沢とは――……。

 

 

「待て!」

 

 

下宮に駆け寄ろうとしたまどかの肩を、ニコは強く掴んだ。

思考が停止している中、一つの時間軸での出来事が強くフラッシュバックしていく。

あれは、そうだ、ゲームをはじめから行おうとした時――。アイツ、アイツが、下宮鮫一がッ!!

 

 

「離れろ! ソイツは魔獣だ!!」

 

「!?」

 

 

ニコの言葉に過剰反射したか、まどか達魔法少女は全員変身して武器を構える。

さらにデッキを手に持って構える真司と手塚。下宮が魔獣? 真司はフラッシュバックする記憶に頭を抑え、手塚は下宮を睨みつける。

もしもそれが本当ならば、下宮はずっと自分達の近くにいた事になる。

だとすればその意味は?

 

 

「待ってくれ」

 

 

手を上げる下宮。

彼は理解している。自分が異質な存在だと言う事を。

とは言え、それでもココにやって来たのは、そう言った事を全て理解した上でだ。

それが下宮の意思。それが下宮の目的なのだから。

 

 

「僕は……、そう。神那ニコの言う通り、確かに魔獣だ」

 

「し、下宮くん――ッ?」

 

「それは間違いない。魔獣サイドに今まで立っていた」

 

 

参加者を監視し、ゲームの進行に乱れが無いかをチェックする『監視者』として今の今までゲーム盤の上に紛れ込んでいたのだと早口に告げていく。

下宮の言葉を、目を見開いて聞いている参加者達。

今まさに目の前に、このゲームを仕組んだ敵が一人が存在してる。

 

 

「僕は魔獣だ」

 

「……ッ」

 

 

改めて告げる事実。

現状を下宮自身が強く肯定していく。

 

 

「魔獣とは、全てを支配する存在として成り立ち、魔法少女と騎士を永遠の拷問に掛けて楽しむ者」

 

 

最終的には、全ての世界を。

この地球を支配する存在となる事を目的としている。

 

 

「それを知ってもらった上で一つ、キミ達にどうしても頼みたい事がある」

 

 

下宮は唐突に膝を地面に付ける。

かとも思えば、両手を床に置いて頭を下げていた。

絶対的な悪だと認識していた魔獣が、今こうして頭を下げている。

その異様な光景に、誰もが息を呑むしかできなかった。

 

 

「お願いします。僕に、あなた達の目指す勝利の手助けをさせて欲しい」

 

「え……?」

 

 

つまりそれは、こう言う意味である。

 

 

「僕は魔獣ではなく、君達に協力したい」

 

 

 

 

 

 

 








下宮はオリジナルキャラクターですが、容姿は原作のモブキャラをイメージしてます。
『友達と話す中沢くん』で画像検索してもらえれば、たぶんまどマギオンラインのカードの画像が出てくると思うんですが、そこに中沢くんと写ってる男がそうです。


そしてまあ今回から新章でございます。
アニメとかならOP変わるタイミングですね。
何となくOPはドラゴンナイトの『DIVE INTO THE MIRROR』で、EDは未来日記の『Dead END』辺りをイメージしてます。
まあもちろん適当と言えばそれまでなんで、あんまり深くは考えないでくれよ!
よかったら聞いてみてくれよな!(´・ω・)b

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