仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
口笛を鳴らすジュゥべえ。
清明院の屋上で下宮がキュゥべえ達に持ちかけたのは、仁美と中沢を魔法少女と騎士に。
つまり参加者にするべき提案だった。14人目の枠を作ると言う事。
インキュベーターとしてもゲームをかき乱す因子はほしかった。
そしてなによりも仁美と契約すれば宇宙延命のエネルギーも得られる。
魔法少女の存在を良しとしないイツトリがいた状況下では、契約は難しかったかもしれないが、未来の騎士が都合よく機能を停止させてくれたおかげで、可能になった
故に、キュゥべえらはそのお願いを呑んだのだ。
下宮は自分を契約モンスターとする事で、旧デッキに命を吹き込んだ。
その際にジュゥべえは干渉し、この世界のデッキの仕様に変えたのだ。
つまりこの瞬間、下宮鮫一と言う男は魔獣と人間のハーフではなく、完全なミラーモンスターと変わった訳だ。
ルールの下に再構成が行われたのである。
『いやしかし、レアな騎士が生まれたな』
データ検索。
下宮は『アビスラッシャー』と、『アビスハンマー』と言うモンスターのデーターを取り込んでいた。
そうなってくると――?
『聞こえるか中沢ぁ。テメェは今日から、騎士・アビスだ』
深淵を意味する騎士、アビス。
彼は自分の新しい姿を確かめる様に掌を見つめる。
左手にはガントレット状のバイザー、『アビスバイザー』が存在していた。
コバンザメを意識した、小型のサメその物と言ってもいい形状。
顎の部分が可動し、ある程度の物なら持つこともできる。
さらに意思一つで出現、解除ができると来た。
『中沢君! 聞こえるか?』
「ッ、下宮!」
バイザーの目が光ると、下宮の声が聞こえてきた。
どうやらジュゥべえが会話機能を与えてくれたようだ。
テレパシー。二人は素早く状況の確認を。
『今、ミスパイダーは相当怯んでいる筈だ』
アビスの存在を理解できずに焦っている。
その隙をつければ、拘束されている仁美を助ける事ができるかもしれない。
『大丈夫かい? 騎士の力があったとしても、まだ互角……、いやヤツの方が強いよ』
「平気だよ。それでも勝つさ。ここまで来たんだ、じゃないとダサすぎる!」
その言葉に下宮は小さく笑う。
だとすればアドベントを引けと中沢に告げた。
騎士のデッキは望むカードを思い浮かべながら引けば、それが手元に来る。
中沢は言われた通りデッキに手を掛け、指定されたカードを抜き取った。
「グッ!!」
ミスパイダーは焦ったように傘をアビスに向けて、引き金を引いた。
一方反射的にバイザーを前にかざすアビス。
すると弾丸はバイザーに命中して弾かれ無効化。
続いて放たれた二発目は地面を転がる事で回避に成功した。
『おお、やるじゃないか』
「へへ、結構いろんな映画とか漫画とか見てるんだぜ? 俺」
アクション映画の真似事かもしれないが、騎士のスペックがあればフィクションを現実にする事ができる。事実、重々しい装甲を身に纏っていても、体は変身前よりも軽く感じるではないか。
いけるかもしれない。その余裕が、アビスの恐怖心を少し和らげ、冷静さを取り戻す。
「これを……、こうすればいいんだな!」
アビスバイザーの口にカードをセット。握りつぶすように口を閉じる。
すると鏡が砕ける様な音と共に、カードがバラバラに噛み砕かれる。
しかしそれが発動の合図。アドベントの音声と共に、破片が収束して巨大なシルエットを作り出した。
そう、それこそが下宮鮫一にも与えられた新たな姿である。
「な、なんですの!?」
大きく怯むミスパイダー。
何故ならばそこにいたのは、彼女が知っている下宮の姿ではないからだ。
それはアビスラッシャーでもなく、アビスハンマーでもない、第三の姿。
『アビソドン、アイツが本来魔獣になった時に与えられる姿だった訳だ』
つまり人としての存在を捨てた時に昇華するべき存在だった。
それをジュゥべえはミラーモンスターとしての姿として認証し、登録した。
その結果、ミラーモンスターの中でも上位の存在に変わり、それだけアビスのスペックも高い物になった訳だ。
アビソドンは、まさに巨大なサメと言う風貌。
その迫力に思わずミスパイダーは言葉を失う。
(こんなのは予定になかった、データにだって!!)
それが、優衣が混入させたデータなのである。
「よし! アイツは任せろ! キミは志筑さんを!」
「ああ! 頼む!」
アビソドンは空中を泳ぐように飛翔。一直線にミスパイダーに向かっていく。
アビソドンのスピードはそれなりに速く、ミスパイダーが反応した時にはすでにその巨体に弾き飛ばされている所だった。
「ぐあぁあッ! お、おのれ下宮ぁあッ!!」
「どうした! さっきまでの笑みが消えているぞ!!」
空中を旋回したアビソドン。
彼の一番の特徴はやはりフォームチェンジである。
ハンマーチェンジ、スラッシュチェンジ、メガロチェンジの三つを、自身の意思で発動できる。
基本形態は、メガロチェンジによって成る『ホオジロモード』。
スピード、攻撃力が共に優秀で、口からは水流を発射する事も可能である。
そして今、アビソドンはハンマーチェンジを使用、ホオジロモードから変形を行う。
「!」
アビソドンの両目がそれぞれ横に大きく展開し、その姿がシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)のソレに変わる。
その名の通り『シュモクモード』、この形態の特徴は遠距離特化だ。
突進や牙の攻撃力が失われる代わりに、目が砲台に変わっており、そこからガトリングの様にエネルギー弾を連射していく。
さらに口からは水流や、圧縮した水球を放つこともでき、アビソドンはミスパイダーを蜂の巣に変えるつもりで攻撃を仕掛けた。
「チィイイッ!」
ミスパイダーは傘を開く事でそれを盾にして、何とか攻撃を防ぐ。
しかしその弾幕に、完全に動きが止まった。
その隙にアビスが仁美の下へと走る。デッキからソードベントを抜き取ると、バイザー入れて噛み砕いた。
「志筑さん!」『ソードベント』
アビスの手には下宮が使っていたサメの歯を模したノコギリ状の剣、アビスセイバーが。
両手にそれを構えて、アビスは一気に跳躍。
仁美を縛る糸を出していたビットに向かって刃を振るう。
「中沢くん!」
「だ、大丈夫ッ? 志筑さん!」
ビットはバラバラになって地に落ち消滅した。
拘束力が緩み、仁美は手で絡み付いていた糸を千切り取ると、大きな安堵の息を漏らす。
「ありがとうございます……、中沢くん」
仁美の声のトーンは様々な意味を含んでいる様にも思えた。
たとえばその表情も、中沢が騎士になった事に対しての喜びはもちろんあるが、ある種の罪悪感が見え。なんとも切なげな物に思える。
そして彼女に話しかけたアビスもまた同じだ。仁美が魔法少女になったと言うことは、やがては魔女に至る道へ足を踏み入れた事になる。
そして騎士だって同じだ。少なくとも輝かしい未来とはいえない。
「志筑さん。俺……、正直まだよく分からない部分も多いんだ」
ただそれでもと、言葉を続けた。
「俺も、志筑さんみたいに、自分が好きだと思える様になりたかった」
「……!」
「だからココに戻ってきたんだ」
変わりたいと思って、そして変わるチャンスがそこにはあった。
恵まれていると思う。確かに色々と怖くて、ショックな事も多かったけど、根本に抱える思いは仁美と同じの筈だ。
置いていかれたくは無いんだ、友達に。そして自分の思い描く自分自身に。
「きっと、なれますわ」
仁美は穏やかな表情に変わると優しい微笑を彼に向ける。
「中沢くんなら……、いいえ。私達なら」
「うん。ありがとう」
一方でミスパイダーと対峙していたアビソドン。
ココが大きなチャンスと見ていた。ミスパイダーは今、イレギュラーの事態に大きく混乱している。この隙を突かない手は無い!
「お前はココで終わりだ! シュピンネッッ!!」
スラッシュチェンジを行い、姿を変えるアビソドン。
開いた目が元に戻り、代わりにアーミーナイフの様に体が展開し、巨大なノコギリが前方に伸びる。
ノコギリモード。文字通り、ノコギリザメの様な姿になり、一気に空を突き進む。
この形態の特徴は近距離特化だ。遠距離の攻撃は一切持たないが、強力なノコギリで相手を打ちのめす訳だ。
そしてミスパイダーは今、傘で自分を覆い隠している状態。アビソドンの姿は見えていない。
「ッ!?」
突然攻撃止まった事に違和感を覚えたミスパイダー。
傘をどかすと、そこには既に眼前に迫る巨大な刃が見えた。
悲鳴。直後、ミスパイダーの体にノコギリがめり込んだ。
しかし寸での所でガントレットを盾にしたからなのか、それとも元々のスペックが故なのか、切断するつもりだったアビソドンの予想は大きく裏切られる。。
とはいえ、大きくノコギリを横に振り払った事で、ミスパイダーは手足をバタつかせながら吹き飛んで行く事に。
そしてそれはただ吹き飛ばした訳ではない。下宮は清明院の建物にある『一つの部分』に向けて、ミスパイダーを飛ばした。
それは窓ガラスだ。今日はよく景色を反射している。
まさに、鏡のように。
「これは――ッ!」
ミスパイダーは窓ガラスに激突するのではなく、その中に吸い込まれる様にして消えていった。もうアビソドンはミラーモンスターであり、騎士の分身として認識される。
それは『参加者』と言う意味であり、その意思でミラーワールドへ引きずり込む事ができる。
それを確認するとアビソドンは人間体に戻った。つまり下宮鮫一の体にだ。
「戻れるのか! 下宮!」
「ああ、ジュゥべえがサービスしてくれたみたいだね」
すぐに集まる三人。
参加者が魔獣をミラーワールドに引きずり込んだ場合、引きずり込んだ参加者本人か、そのペアメンバーがミラーワールドに行かなければ魔獣は約30秒でミラーワールドから解放される。
ココは分岐点だ。このまま逃げるか、それとも――?
まあ、答えはもう決まっているようだが。
「奴を倒そう。ココで終わらせる」
向こうがパニックになっている今ならば可能かもしれない。
それに何より、ミスパイダーを放置する事は危険だ。
少しでも魔獣の数は減らした方がいい。
返り討ちの可能性もあるが、それを恐れている様じゃ、コレからの戦いを生き残れる訳が無い。
頷き合う三人。すると仁美が手を差し出した。
「気合いでも、いれませんか?」
「?」
時間はあまりない。だから簡潔に、簡単に。
アビスは少し戸惑った素振りを見せたが、肩の力を抜いた様に笑うと、仁美の手に、自分の手を重ねた。
要は円陣でも組まないかと言う訳だ。
「「!!」」
するとその時だった。
仁美の手の甲が光ったかと思うと、手袋の上にアビスの紋章が追加された。
驚く二人。つまりパートナーであると言うことだ。
「さあ、勝つよ!」
アビスの手に置かれる下宮の手。
三人は笑みを浮かべ、強く頷いた。
「ああ!」「はい!」
三人は手を上げると地面を蹴って跳躍。
ガラスへダイブし、向こうの世界へ移動する事に。
景色が一瞬ブラックアウト。そしてすぐに元いた場所に着地する。
だがよく周りを見てみると、文字やらなにやらが逆になっている。
そうか、これがミラーワールドなのかとアビス達は理解した。
そしてその中で、呻き声をあげながらヨロヨロと立ち上がるミスパイダーが見えた。
「クッ! まさか……ココまでとはッ!」
頭を抑え首を振るミスパイダー。
イレギュラーだ、異常事態だ、彼女は混乱に再び身を震わせる。
まさか果てしなく続く輪廻の中で、見たことの無い騎士に出会うとは予想もしていなかった。
負の感情から生まれた魔獣だからこそ分かる。
人は、全く理解できない物に出会った時に恐怖を覚える。
まさかそれと同じだとでも言うのか?
まさか自分は今、たかが人間に恐怖しているとでも言うのか?
「そんな馬鹿な事はありえませんワッ! ワタクシは魔獣、選ばれし存在なのです!」
人間程度に恐怖を覚えるなど、絶対にありえない!
ミスパイダーは体を大きく震わせ、そして走り出す。
糸を出す訳でもなく、新たに武器を出す訳でもなく、ただその腕で対象を引き裂こうという直接的な手段に出た。
しかしこれこそミスパイダーが焦っている証拠ではないか。
だからこそ示す必要があると、アビスと仁美はアイコンタクトを。
「だったら食らえよ! 人間の力を!!」『ファイナルベント』
「私達は、"程度"と言う言葉でくくられる程ッ、弱くはありませんわ!!」『ユニオン』『ファイナルベント』
下宮の体が弾けてアビソドンへと変わる。
さらにその大きな体が液状化、水の固まりとなり地面に着地して弾ける。
辺りに広がる大量の水。そして仁美がクラリスに息を吹きかけて、軽く埃を払った。
彼女の武器であるクラリスは、ただのバトンではない。もう一つの形態があるのだ。
「―――♪」
それはフルート。
仁美はクラリスを横に構えると息を吹き込み、美しい音色を奏でる。
すると四散していた水が意思を持った様に空に昇っていき、巨大な水球を構成していく。
「フッ!」
その中で地面を蹴って飛び上がるアビス。
右足が青白く発光しており、そのまま空中に留まっている水球の後ろに位置を合わせた。
仁美によって精錬された水は、驚くべき程にクリアで、アビスは水越しにミスパイダーを睨む。
コレが、仁美と下宮。そして自分を傷つけた――
「お返しだぁアアアアアアッッ!!」
「!!」
アビスは輝く右足で、思い切り水球を蹴り飛ばす。
すると水球は真っ青な光弾となり、向かってきたミスパイダーに飛来して行く。
「こ、こんな馬鹿な! こんな事が!?」
ミスパイダーは驚愕に叫びながら青の光の中へ消えて行く。
アビソドンが大量の水を用意し、それを仁美が球体へと形を整える。
そしてアビスが己の力を球体に与えて、蹴り飛ばす。
これがアビスペアの複合ファイナルベント、ディープブルー。
「あぁあああぁあああッッ!!」
光が弾け、そこからミスパイダーが転がり吹き飛んで行く。
着地しながら構えるアビスと仁美。カードに戻った下宮も、アビスバイザーを通して状況を確認していた。
事前のダメージ量が足りなかったからか。複合ファイナルベントを直撃させてもミスパイダーを倒し切る事はできなかった。
「グッ! くぅうッ!!」
「あ! ま、待て!!」
コレは何かの間違いだ。
ミスパイダーはそう連呼し、肩を抑えながらアビス達に背を向けて走り出した。
逃げるつもりらしい。一度体勢を整える事で、混乱を解こうと言うのか。
コレはアビス達からすると、良い展開とは言えない。
ミラーワールドでの活動限界時間を越えられると仕切りなおしだ。
敵が弱っている今、コチラに流れが来ている今、逃がしたくは無かった。
アビスと仁美は頷き合い、ミスパイダーをを追いかけようと走り出す。
「「!」」
だが二人は急ブレーキ。
一瞬、見間違いかと思う光景がそこにあったからだ。
ミスパイダーの向こう側。コチラに向かって歩いてくる一人の男性の姿があった。
「どきなさいぃイッッ!!」
走るミスパイダー。
進行方向に立っている人間をどかすために、口から糸を発射する。
しかし焦っているからか気づいていない様だ。ココはミラーワールド、普通の人間はココに訪れることはできない事を。
「!?」
ミスパイダーが発射した糸の塊が、次々に弾ける様にして消滅していく。
それだけではなく、それを放ったミスパイダーの体中から火花が散った。
苦痛の声をあげて膝をつく。どうやら放った糸を貫いた、別の弾丸が存在していたようだ。
アビスと仁美は、その弾丸が飛んできた方向を見る。
それは建物の屋上。そこに立っているのは――
「あれは……!」
その弾丸を放った者は、屋上から飛び降りると何のことは無く地面に着地する。
サイコロの様な顔面、そしてそこから体へと伸びる数々のパイプ。
二本足で歩く大きな人型のサイボーグの様なモンスター。
歩くたびにガシャガシャと言う音は、その存在を大きく知らしめている様だ。
先ほどの弾丸は、どうやらその顔から放たれた物らしい。
「ウォオオ!!」
ミスパイダーは怒りに吼えながら、その『モンスター』に手を振り下ろす。
しかしモンスターもまたしっかりと反応し、その姿からは想像もできないスピードで腕を盾にしてミスパイダーの攻撃を受け止めた。
手を振り払うと、もう一方の手で、思い切りミスパイダーの腹部に掌底を打ち込んだ。
「うぅずァアア!!」
ミスパイダーは叫び声を上げながら後ろへ滑る。
勢い余って仰向けに倒れたミスパイダーを、掌底を打ち込んだモンスター、『サイコローグ』がジッと見ていた。
そして、その隣にやってくる白衣の男。
「調子はどうですか?」
『うん。大丈夫だよ、父さん。しっかり動く』
エコーの聞いた音声がサイコローグから放たれる。
「分かりました」
その男、香川英行は隣にいる息子――。
正確に言えば、裕太の脳を移植したミラーモンスター、サイコローグと共にココにやってきた。
それが意味する物。長い時間をかけたが、下宮の提供された血液が起動の鍵として機能してくれた様だ。
だとすれば、そもそも香川はサイコローグを何の為に起動させたのか?
なんの為にデッキを研究してきたのか――?
答えは、彼が白衣のポケットから取り出した四角い箱が物語っている。
「ムンッ!」
香川はその箱を、紋章が刻まれているソレを、思い切り真上に放り投げる。
そして一歩前に出ると、立ち上がろうとするミスパイダーを睨みつけた。
一方で空に放り投げられた箱は、回転しながらも重力に逆らうことは無く。最高点に達するとそのまま真下へ落ちて行く。
香川はソレを簡単にキャッチしてみせると、既に装備している『Vバックル』へと装填した。
自らの紋章が刻まれたカードデッキをだ。
「変身」
騎士の数は14人では無かったとしたら?
新たなる世界にて、新たに誕生した騎士はアビスだけでは無かったとしたら?
香川がイレギュラーだと言う理由が、ココにあるとしたら?
「……どうやら、実験は成功の様ですね」
その全ての答えは、今ココに立っている人工騎士、『オルナティブ・ゼロ』が証明しているだろう。
紺のスーツの上にメタリックブラックの装甲。
体には幾つも金色のラインが刻まれており、メカニカルな印象を強く受ける。
とはいえ頭部にある触覚やクラッシャーは、モチーフであるコオロギ。つまり生き物を強く象徴している様にも思える。
騎士のデッキを研究し、擬似的な騎士を生み出す。
これこそが香川英行の真なる目的だった。
これはある意味で必然だったのかもしれない。
オルタナティブはデッキからカードを引き抜くと、それを右腕に装備されているスラッシュバイザーへと持っていく。
注目する点は、他の騎士達はカードをセットするタイプがメインであるが、彼はカードをスラッシュする事により発動させた。
そしてカード名を伝える電子音も、他の騎士とは違い女性をベースにした声であった。
『ソードベント』
オルタナティブの手にはサイコローグの手を模した両手剣、『スラッシュダガー』が装備される。剣の横に棘が生えており、ムカデの体の様にも見えるソレ。
オルタナティブは大剣を片手で持ち上げると、もう一方の手でミスパイダーを示す。
言葉にすることは無いが、ジェスチャーが語る。
どこからでも来いと。
「ホ……ホホッ! オホホホッ! こコマでコケにさレたノは初メてデスわッ!」
怒りからか、言葉の抑揚や呂律が歪になるミスパイダー。
すぐに口から糸を伸ばし、それを引きちぎると、地面を思い切り蹴って走り出した。
この屈辱を払拭するには、目の前にいる男を何がなんでも――
「コろスッッ!!」
「………」
糸の鞭を激しく振るうミスパイダー。
オルタナティブは剣を盾にして回避と防御にしばらく徹した。
助けた方がいいのでは? アビスと仁美は動こうとするが、それを下宮が静止する。
助けてほしいのなら声をかけるだろう。
ソレに何よりも、先ほどは香川を守ったサイコローグが棒立ちと言うのがその証拠では?
「でも避けてばかりじゃマズいよ!」
アビスが半ば無意識に叫ぶ。
すると――
「確かに、その通りですね」
「「え?」」
「反撃を開始します」
アビスとミスパイダーの声が重なる。
次に聞こえた苦痛の声は、紛れもない、ミスパイダーのみが放つ音だった。
ずっと攻撃を避けるか、防いでいたオルタナティブの動きが、急に変わったのだ。
鞭を手で簡単に掴むと、手繰り寄せて剣の柄でミスパイダーを殴りつける。
とは言え、すぐに体勢を整えて再び鞭を振るうミスパイダー。
しかしまるで未来を読んでいるかの様に、オルタナティブは回避を行い、的確に隙を突いていく。
「馬鹿な……! 何故ッ!」
攻撃が全く当たらなくなった?
戸惑うミスパイダーを前にして、オルタナティブは自らの脳を指で示す。
「私は一度見ると全て覚えてしまうんですよ」
瞬間記憶能力。
それは戦闘においても効果を発揮する物だった。
「攻撃パターンもね」
「ッッ!」
ありえないとミスパイダーは攻撃をしかけるが、オルタナティブにとってはそれは一度見たパターンでしかない。
感情がある者には、何に関しても癖ができてしまう物だ。
そして癖と言うからには、自分では無意識。分かっていない物が多い。
それを記憶したオルタナティブ。ミスパイダーの動きは簡単に読めてしまうのだ。
そもそも、ミスパイダーは自分の力に大きな自信を持っていた。
それが故に、攻撃自体は力任せな単調な物。パターンを読めば脅威とはならない。
対抗する力を手に入れたのならば、優位に立てるのだ。
「そんな! ワタクシが! 魔獣であるこのワタクシがぁああ!!」
「それが原因ですよ」
オルタナティブは殴りかかってきたミスパイダーを逆に裏拳で怯ませると、スラッシュダガーを持つ手にグッと力を込める。
連動する様にして大剣に灯る青と黒の炎。そのまま大きく剣を振り上げた。
「ズッッあぁあああ!!」
「いつの時代も、先に滅んだのは奢り高ぶる存在です」『ホイールベント』
渾身の切り上げを受けたミスパイダーは、炎を身に纏いながら放物線を描き、吹き飛んで行く。
その距離はすさまじく、前にいたアビス達の頭上を通り抜けて、さらに距離を離した。
「わわ!」「きゃ!」
思わず左右に捌けるアビスと仁美。
その間をサイコローグが両手を広げながら前傾姿勢で走り抜ける。
「「!」」
目を見開くアビス達。思わずその光景に息を呑んでいた。
と言うのも、サイコローグが走って行く最中に、ガシャガシャと変形を始めたのだ。
まさにロボット、サイボーグたる行動と言えばいいのか。
最後にはホイールが二つ出現して、サイコローグはあっと言う間に『サイコローダー』と言うバイクに変形を完了させた。
「フッ!」
オルタナティブは跳躍。
一回転した後にサイコローダーのシートへ着地する。
アクセルグリップを思い切り捻ると、爆音を上げながら世界は加速する。
ファンタジーを象徴する魔法少女がいる前で、エンジン音が轟き、サイコローダーは倒れていたミスパイダーを容赦なく轢き抜いた。
「ゴォォオ!!」
濁った悲鳴が聞こえた気がしたが、それはエンジン音にかき消されて行く。
そのままオルタナティブは止まらずに直進。
一方でヨロヨロと立ち上がるミスパイダー。その胴には鈍く発光するタイアの痕が。
「ガァアァ……!」
さらにそこから濁った闇が漏れているのが分かった。
素早く説明を行う下宮。アレは瘴気、魔獣の
それが漏れていると言う事は――、だ。
「殺ス……! 人間風情がワタクシを――ッ! こんな馬鹿なァア!」
こうなったらと、ミスパイダーは一つの決意を固めた。
一方、オルタナティブはドリフトで急旋回を行う。そして決着をつける為に、一枚のカードをスラッシュする。
『ファイナルベント』
オルタナティブは足に地面につけると、車体を思いきり回転させる。
まるで
それは黒いエネルギーを纏い、小規模の竜巻となる。
竜巻はそのまま直進。腹部を押さえているミスパイダーへと突き進んだ。
「―――」
黒い竜巻はミスパイダーに直撃すると、その肉体を爆発させて粉々に粉砕する。
バイクを高速回転させて相手に直撃させるデッドエンドが炸裂。
やったと声を上げるアビス達。ついに魔獣を倒し――
●――――【【【絶 望 連 鎖】】】――――●
「「「「!?」」」」
その時だった。
何か頭の中にイメージが入ってきたような。
絶望連鎖? だが確かにその文字が虚空に見えた気がした。
するとガラスが割れる音と共に、ミラーワールドへ入ってくる物が。
アッと声を上げる仁美。あれは確か――
『ダークオーブ!』
下宮が答えを叫んだ。
ミスパイダーが持っていた魔女のコアと呼ばれていたアイテム。
ゲルトルートとクリフォニアの二つ。それが輝きを放ちながら一同の前に現れたのだ。
それを合図にして、爆発して散っていたミスパイダーの瘴気が凄まじい勢いで収束していき、二つのダークオーブを包み込むようにして圧縮していく。
●●●●●【【【狂・気・融・合】】】●●●●●
言葉が一同の脳に刻まれた。そして、あの笑い声が。
「ホホホホホホ!!」
「な、なんだとッ!!」
瘴気が爆発して景色を鮮明に変える。そこにあったのは六つの球体ビット。
そこから伸びるのは、所々にバラが咲いた茨の蔓。それらは点と点を結ぶ様に連結すると六角形の形を構成する。
さらに張り巡らされて行く蔓、それはまさに蜘蛛の巣の形ではないか。
そして最終的にはその六角形の中央に巨大なバラが咲き、さらにその中央には先ほど死んだ筈のミスパイダーの上半身があった。
「ワタクシにこの姿を、リボーンを使わせるなんて、本当に屈辱ですわ……ッッ!!」
「下宮! あれは一体何なんだよ!?」
『……ッ』
バイザーを通して確認したが、アレは下宮にも予想外な状態であった。
しかし思い出してみると、このThe・ANSWERが始まる前に星の骸で魔獣たちがあの宝石を持って何か行っていた様な……?
そしてダークオーブにはミスパイダーの紋章があった。
加えて先ほどの光景、あれを見るに考えられる可能性は限られてくる。
『バックアップか……!?』
「バックアップ?」
つまりそれは保険。魔獣が自分の死をごまかす手段なのではないか。
特定のダークオーブに自分のエネルギーである瘴気を充満させ、万が一の時は自分の体内にある瘴気と共鳴させて再び一固体を作り上げる。
まさに再生や復活を意味するリボーン。しかし当然それにはデメリットもある様で。
「拒絶反応が起きていますね」
オルタナティブはサイコローグを消滅させると、アビス達に合流する。
彼の言う通り、ミスパイダーの体中から瘴気が漏れ出ていた。
どうやら相反する魔女の力を無理やり取り込んだことによる代償と言う訳か。
おそらくの話ではあるが、あの状態を解除すれば相当のエネルギーを消費する筈だ。
とはいえ今、アビス達を倒す分には構わないと言う訳か。
感じられる瘴気の量を見る分に元の彼女よりパワーアップしている筈だ。
まさに暴走形態。『ミスパイダー・リボーン』、は、呪詛の咆哮を上げながらアビス達を睨む。
「死になさい! 絶望に苛まれながら!!」
ミスパイダーが手をかざすと、そこからバラの花びらが弾丸の様に射出されていく。
オルタナティブは剣を盾にし、アビスはバイザーを盾にして仁美の前に立つ。
たかが花びらと思っていたが、それは対象に触れると爆発する爆弾だった。
まるでオーディンの黄金の羽だ。すぐに一同は、火花の中に消えて行く。
『アクセルベント』
シャドウモーメント。
残像のエフェクトをしっかりと残しながらスピードを上げるオルタナティブのカードだ。
彼は爆炎の中から一気にミスパイダーの眼前まで移動。その体へスラッシュダガーを振り下ろす。
しかしガキンッと言う音と共にソレはガントレットに阻まれる事に。
そしてカウンターの爪が振るわれた。
「あら?」
しかしミスパイダーが捉えたのは残像だ。
オルタナティブは既に移動を開始し、蜘蛛の巣になっているバラの蔓を切り裂こうと試みる。
だが再び硬い音が響いた。
ただの植物の蔓かと思っていたソレだが、なんと振り下ろされたスラッシュダガーをしっかりと受け止めているではないか。
これには流石のオルタナティブも驚いているようだ。下宮の言うとおり、向こうのスペックが上がっている証拠だろう。
「ホホホ! お得意の記憶能力で対処してみますか?」
「くッ!」
棘がたっぷりと付いた蔓が、縦横無尽に暴れまわり、オルタナティブへと襲い掛かった。
激しい乱舞。アビスもなんとかしなければとソードベントを発動して加勢に走る。
「下宮! 何かいい手はないか!?」
『蔓を放っている点を壊せばあるいは――ッ!』
「蔓だな! 了解だ!!」
アビスは両手に持った刃物を振り回しながらミスパイダーへと距離を詰める。
先ほどは仁美を拘束していた同タイプのビットを切り裂いて破壊できた。
だからと深く考えていなかったのだが――
「何ッ!!」
『馬鹿な!』
球体ビットに剣を振るったアビスだが、先ほどとは違い、一振りではビットを破壊する事ができなかった。
それだけじゃない、僅かな傷しか付かない程度。
まさかと、もう一振り刃を振るうが結果は同じ。
そして敵もそんな抵抗を許してくれるわけも無く。
「ゴミが! ワタクシに触れるな!!」
「グァァアッッ!!」
花びらがアビスの体を捉えた。そのまま墜落して、爆発に揉まれながら地面を転がっていく。仁美は慌てた様にアビスに駆け寄り、肩を抱いた。
「大丈夫ですか! 中沢くん!?」
「あぁ、うん! 大丈夫……ッ!!」
「――ッ」
仁美は歯を食いしばり、ミスパイダーを見る。
今はオルタナティブが食い下がっているが、攻めの活路が見出せない以上、コチラが不利と言う点は変わらない。
それにまもなくミラーワールドの活動限界がやってくるのかもしれないと言う、下宮の見立てもあった。
ここまで来ればミスパイダーを取り逃がす事は仁美達にとっても悪くは無い話なのかもしれない。拒絶反応が起きている以上、逃げに徹すれば自滅を誘えるかもしれない。
しかし仁美達には人の心がある、その意地が告げるのだ。
目の前で勝ちを確信して笑っているアイツに! 絶望に勝ちたいと!!
「――!!」
だからか、その想いが
『どうやら、インストールが完了した様だね』
『繋がった訳だな? 先輩』
『そうだね。本当の意味で彼女はたった今、魔法少女になったと言う訳さ』
ミラーワールドにもインキュベーターは入れるらしい。
清明院の屋上で戦いを観察していた二匹は、仁美がクラリスを真横に構えたのを確認した。
つまりフルートとしてソレを使用する訳だ。
まさかここで一曲演奏しようと言う訳でもあるまい。ならば彼女には明確な意思があってフルートモードを使用すると言う訳だ。
キュゥべえは知っている。
クラリスのフルートモードは、戦闘中において『固有魔法』を発動する際に用いる事を。
つまり、仁美の脳内に固有魔法の情報が与えられたと言う訳だ。
『さあ発動するよ』
これはキュゥべえ達にとっても非常に興味深い魔法であった。
なんの素質も無い仁美が、FOOLS,GAMEにって素晴らしい因果を溜め込んで、さらに願いの力も加わり、良質な魔法少女へと昇華した。
そして、そんな彼女が遂に手に入れた固有魔法形態は――
『接続魔法、"コネクト"がね』
クラリスが美しい音を奏でる。
溢れる光。コネクトとは、文字通り『接続』や『連結』を意味する言葉。
仁美が繋ぐのは『今』と、失われた筈の『未来』。
それを証明する様に、仁美の隣には二つの魔法陣が出現する。
トンネルだ。魔法陣を潜り抜けて姿を見せたのは、二人の少女だった。
「また随分ととんでもない時に繋がったものね」
「面倒ってか?」
「あら、そこまで薄情じゃ無くってよ」
「だったらいいじゃん? あたしは逆に燃えてくるけどな」
「「???」」
アビスはもちろん。
少女達をココに呼び出した筈の仁美まで目を丸くして、ポカンとしている。
誰? 正直それがアビス達の素直な感想だった。
とは言え、仁美の脳には、コネクトの齎す効果の情報がしっかり与えられている。
だからこそ理解する事ができた。魔法陣から現れた二人が何者なのかを。
コネクトの効果は、今と未来を連結させ、向こうにいる者をコチラに招く事ができる力だ。
魔法陣から出た少女の一人は、濃い青の髪を持った少女。そしてもう一人はオレンジ色の髪を持った少女。
二人には一つの共通点があった。それは耳にある鈴型のピアスである。
『新型か……!』
「え? し、新型? 何が? どれが?」
そう、仁美が繋いだのはただの未来ではない。
違う時間軸の未来だ。それは魔獣が違ったアクセントを一度だけ求めた時の未来。
仁美は、そこにいる魔法少女達へ助けを求めたのだ。
「一応はじめまして、なのかな? マスターって呼んだ方がいい?」
「話はだいたいキュゥべえから聞いているわ。もちろん、未来のね」
二人の少女。
正確には二人の魔法少女の体が光に包まれる。
そして光が晴れた時、彼女達の衣装は全く違う物へと変化していた。
青い髪の少女は、シスターの様な風貌になりメガネが追加され。
オレンジ髪の少女は、体にフィットした服にスパイクシューズが目立っている。
「私は
「あたしは
カオルはニヤリと笑って、サムズアップを仁美とアビスに。
「未来の魔法少女、助っ人に参上ってね!」
「!!」
シャドウモーメントの時間が切れ、オルタナティブは茨の鞭を防御した影響で地面を擦りながら後ろへと下がる。
持ち前の記憶力でパターンを読んでいたからかダメージはそれほど受けていないが、逆を言えばオルタナティブもミスパイダーにそれほどダメージを与える事が出来なかった。
どうするべきか。そう思っていると、真横にオレンジが駆ける。
「お、お前達は! どうしてココに!? 死んだ筈では――ッッ!?」
「さあ、なんでだろうね!!」
カオルを確認したミスパイダーは、つい先ほど感じた焦りを再び覚える事に。
そもそもカオルと海香はココにいる筈の無い存在だ。
それが何故今と言う時間に存在しているのか。ミスパイダーには理解できない。
「カピターノポテンザ!」
カオルは持ち前の素早い動きで一気に距離を詰め、思い切り拳を握り締めて渾身のストレートをビット部分にに直撃させる。
さらに驚くべきは彼女の魔法だ。自らの肉体を『鋼』に変える事で、攻撃力を何倍にもアップさせている。
だがそれでもビットを破壊することはできなかった様だ。
カオルはすぐにバク転でミスパイダーから距離を取る。
「へぇ、硬いじゃん」
「クッ!」
何がどうなっているのかは分からないが、いずれにせよカオル達もまた自らの存在を脅かすイレギュラーである事は間違いない。
ミスパイダーはカオルを排除する為に花びらを撒き散らす。
しかしそれを待ってましたと飛び出てくるのは、海香だった。
持っていた本を盾にする様に前へとかざす。すると花びらが凄まじい勢いで文字通り本に吸い込まれていき、白紙だったページに文字をビッシリと刻ませる。
情報収集魔法イクスフィーレ、海香は素早くその文字列に目を通し、直後叫ぶ。
「奴の本体や蔓を狙ってもあまり効果は無いわ! 弱点は――」
海香は一つの場所を指し示し、叫ぶ。
「蔓の間に咲いているバラ!!」
「んなッッ!!」
その瞬間、確実にミスパイダーの様子が変わった。
上機嫌だった声のトーンではなく、真剣で焦りをたっぷりと含んだソレに。
そして直後、蜘蛛の巣状に張り巡らされた蔓に咲いているバラが、一つ消し飛んだ。
スラッシュダガーが飛んできて、見事に花に突き刺さったからだ。
「ぐがぁああぁアァッッ!!」
絶叫するミスパイダー。
花があった場所からは噴水の様にどす黒い瘴気のエネルギーが噴射し始めた。
大きく仰け反るミスパイダーを見て、成る程と頷くオルタナティブ。
彼はすぐにアビス達に視線を移した。
「見たとおりです。決着をつけましょう」
「ッ! はい!」
声を上げる一同。
まだよく分かっていないと言えばそうだが、とにかく海香とカオルは自分達の味方で、ミスパイダーを倒せるかもしれないチャンスを作ってくれた。
それを絶対に無駄にはできない。アビスはシュートベントを発動、アビスハンマーが使っていたキャノン砲を担いで狙いを定める。
「くッらえぇえ!!」
「ギガァアァアッッ!!」
アビスの放ったエネルギー弾が、再びバラを二輪三輪と散らして行く。
そして吹き出る瘴気。ミスパイダーは抵抗の為に茨の鞭や大量の花びらを使って攻撃を仕掛けるが――
『ガードベント』
オルタナティブが構えるのはサイコローグの顔面を模した盾、『サイコシールド』。
龍騎のドラグシールドが竜巻防御と言う技を繰り出せる様に、彼もまた特殊な技を繰り出す事ができる。
オルタナティブが盾を振るうと、その手から盾が消滅。
その代わりに、オルタナティブを中心として巨大な『黒い箱』がアビス達を含めて、覆い隠す。
「10秒です。思い切り暴れてください」
シュレディンガーの猫箱と呼ばれるこの技。
それを見たキュゥべえは、隣にいるジュゥべえをチラリと。
『キミ、香川に手を貸したね?』
『ん、ま、ちょこっとな』
当初オルタナティブのカードに個々の必殺技はついていなかった。
要するにスラッシュダガーは炎なんて出せないし、サイコシールドに必殺技と称する特殊能力はついていなかった。
しかしオルタナティブを見ていたジュゥべえが、サイコローグ起動と同時に接触して、手を加えたと言う訳だ。
『イレギュラーではあるが、奴は15人目。それを受け入れてやるべきだろうと思ってな』
ミラーワールドに入れる能力と、個々の必殺技。
さらにデッキをかざせばVバックルが現れる様にと、色々手を加えて、『ゼロ』の名を付け足した。
こうして香川が完成されたオルタナティブは、ジュゥべえの手を受けてオルタナティブ・ゼロに変わって、今に至っている。
『デザインもちょろっと変えたんだぜ? ゼロは額の所に銀色のVの文字があるんだ』
『やれやれ、まあいいけどね』
これもまた変化か。
キュゥべえは特に何も言う事は無く、彼らの様子を観察していた。
シュレディンガーの猫箱。なかなか面白い能力かもしれない。
黒い箱から解放されたアビス達は、一気に走り出してミスパイダーのバラを狙う。
当然彼女も抵抗しようと攻撃するのだが、ミスパイダー視点でアビス達はいまだに黒い箱に覆われたままである。
真っ黒い箱達が動き回り、自分に攻撃をしかけてくる。
抵抗するため箱に攻撃を当てても、ダメージは明らかに通っていない。
そう、これこそが能力。
シールドを失う代わりに、10秒間『無敵』に変わるのだ。
アビス達はその間に次々とミスパイダーのバラを破壊し、確実にダメージを与えていく。
「カオル!」
「了解ッ!」
海香はメガネを整えると、本から光の球体を出現させて空中へ放り投げる。
目が据わっている海香。どうやら彼女も魔獣には大きな恨みがあるらしい。
一方で地面を蹴って飛び上がるカオルも。また同じである。
「魔獣、お前の狂ったゲームはもう終わりだ!」
カオルはその足で思い切り光の球体を蹴り飛ばした。
「「パラ・ディ・キャノーネ!!」」
蹴り飛ばした光弾はその衝撃で分裂。ショットガンの様に広範囲に着弾していく。
次々と破壊されるバラと、絶叫を上げるミスパイダー。
オルタナティブは今が好機と視たか、二枚目のファイナルベントのカードを構える。
「トウッ!」『ファイナルベント』
地面を蹴って、オルタナティブが空高く舞い上がる。
同時に出現したサイコローグも、ジェット噴射で空に舞い上がった。
そしてココで機械音。見ればサイコローグがなんと分裂、バラバラになってオルタナティブの周りに。
一方でオルタナティブは空中でグルリと一回転を行い、右足を突き出してとび蹴りのポーズを行う。するとバラバラになっていたサイコローグのパーツがガシャンガシャンと音を立てて右足に装着されていくではないか。
そして巨大な足の形になると変形を完了させた。
「ハァァアア!!」
「ギガアアアアアアアアアアア!!」
変形したサイコローグを右足に装着して行う飛び蹴り、『デッドオアアライブ』がミスパイダーの上半身を完全に捉えた。
蜘蛛の巣やバラから引きが剥がされ、地面を転がるミスパイダー。
オルタナティブは着地すると、踵を返してアビスの肩に手を置いた。
「中沢くん。後はお願いします」
「は、はい! わかりました先生!」
前に出るアビス。
デッキからファイナルベントのカードを抜き取ると、一瞬だけ動きを止める。
「――下宮、行くぜ!」
『……ああ!』
バイザーに噛ませるファイナルベントのカード。
音声がその名を告げると同時に、アビスは気合の雄たけび上げながら全速力で走り出す。
一方でミスパイダーは体から瘴気を撒き散らしながら呻き声を上げる。
一度目の敗北だけでなく。今、死を前にしているだと!?
人間を狩りに来た自分が狩られて死ぬ。なんの冗談なのか? そんな事があって良い筈がない。
「ガガガガガガガ!!」
停止する思考。
何故ならばアビスの背後に現れたアビソドンが、エネルギー弾を連射してミスパイダーの体に命中させたからだ。
ファイナルベント時のみ、アビソドンは全てのモードの能力を同時に使用できる。
ホオジロモードの鋭い歯、シュモクモードの砲台の目、そしてノコギリモードの鋭利な刃。
全てを兼ね揃えたアビソドンを前にして、アビスはひたすらに走る。
「ウオオオオオオオオオオオ!!」
「ク――ッ! うぁァ……ッッ!!」
アビスはミスパイダーの前で飛び上がる。
青く発光している右足を振るい、思い切り飛び回し蹴りを行った。
すると青いエネルギーが足の通った軌跡をなぞり、リーチと威力を爆発的に増加させる。
さらにエネルギーの軌跡は空間に固定され、ミスパイダーを拘束する。
「がかぁあぁあぅ……ッッ!!」
「下宮ッ!!」
吼えるアビス。
すると彼の背後頭上にいたアビソドンが、キックの動きにシンクロする様にして、青い軌跡通りに刃を振るった。
アビソドンが動きを止め、アビスが必殺のキックを決めた後、アビソドンが追撃の一撃を加える。それがアビスのファイナルベント、『アビスダイブ』だ。
「ウゲェエアアァッッ!!」
一方で切断とはいかなかったが、ミスパイダーは断末魔を上げて傷から瘴気を噴射しながら吹き飛んで行く。
アビスは地面に着地すると、ゆっくりと倒れた敵を見た。
「ほ……ほほホ――ッ! ホホ!」
限界が来たのか。
強制的に姿が変わるシュピンネ。弱い人間体へと戻る。
あれだけ美しかったドレスも今はもうボロボロとなり、体からは瘴気を噴出してフラついていた。
「分かるかな? シュピンネ」
アビスの頭上にいたアビソドンが、彼女に告げる。
「これが、お前達が与え続けた死と言う物さ」
「ホ……ホホッ! み、ミトめ……ませンわ! ホホッ! ほッ!」
シュピンネは傷口を押さえ、首をいろいろな方向にカクカクと曲げながら呻き声を漏らしていた。体からは次々と瘴気が漏れ出し、彼女はその度に狂った様に笑っていく。
魔獣である自分に死が訪れる訳が無い。これは何かの間違い。死を与えられるのは人間だけに決まっているんだ……!
「だったら、そう思いながら消えていけよ!」
アビスの言葉に、一瞬ピタリと動きが止まるシュピンネ。
そして次の瞬間、その表情が鬼のような物へと歪んでいく。
「おのれェエェエェエエ……ッッ!!」
あり得ない、あり得ない! 狂った様に連呼する魔獣。
「アァァアァアァァァァ!!」
それは怒りと悔しさをありったけに含んだ上ずった声であった。
そしてシュピンネはその全ての感情を含め、狂った様に最期の笑いながら、ゆっくりと背後へと倒れていった。
「こんな……! こんなの――ッ! ホホッ! ホ、ホホホァハァハハハッ! アァグアアァッ!!」
そして。
「ウゥゥアァァァアッァアアァアアァァァアアアァアッッッ!!!」
絶叫を上げながら大爆発。
今度こそ与えられる完全な死。
上級魔獣、バッドエンドギアが一席であるミス・シュピンネが敗北した決定的瞬間であった。
「終わった――ッ!」
「良かったですわ……! 私達、勝てたんですのよね!?」
「うん! そうだよ、俺達が倒したんだ!」
大きく安堵の息を漏らし、見つめあって笑い合う仁美とアビス。
同時にして彼らの体が粒子化を始める。どうやら制限時間がやってきたらしい。
ココで仁美は後ろに立っていた海香達を見る。
「ありがとうございました! なんとお礼を言って良いか……!」
「ま、気にしない気にしない。ぶっちゃけ、あたしはあんま役に立ってなかったし」
「どうやら私達はココまでみたいね」
光に包まれるカオルと海香。しかし彼女達は一体――?
「詳しい事はまた話しましょう」
「え?」
「コネクト使ってくれればいつでも飛んで行くからさ」
これからは未来と過去。
手を取り合っていくべきだろうと、カオルはニンマリと笑った。
「じゃあな、チャオ!」
そう言って消え去る二人。
呆気に取られていた仁美達ではあったが、そうしていると制限時間も訪れ、景色が粉々に割れるのが見えた。
そして気づいたときには現実世界だ。
アビス達はすぐに変身を解除して辺りを見回す。
すると彼のバイザーが分離して下宮の姿に変わった。
「警備員の人、大丈夫かな?」
「魔獣も参加者、死ねば存在その物が消えて無かった事になる」
きっと何か別の記憶に摩り替わっている事だろう。
とはいえ怪我が無くなった訳ではないのが辛い所だが。
まあそれでも死ぬよりはマシだ。ネガティブには考えないでおこうと。
「どうやら、成功の様ですね」
「ええ。ジュゥべえくんにも手を貸してもらいましたからね」
香川も変身を解除して、デッキを見つめる。
オルタナティブゼロ。擬似的な存在と言えばそうだが、騎士の一人として覚醒を果たした。
そして香川の隣にはサイコローグが。ココに居ては誰かに見られてしまう可能性がある。
するとその体が再びけたたましい音を上げて変形していく。
収束する様に小型化していき、そして肌色の人工皮膚を出現させ、服を纏う。
思わず声を上げる中沢達。あっという間にサイコローグが人間の男の子に擬態したではないか。
「どうですか? 気分は」
「うん、大丈夫だよ。お父さん」
「マジ……!?」
サイコローグ。
彼もまた下宮と同じく、カードに戻る必要は無かった。
何故ならば脳の持ち主である香川裕太の姿を模した人間状態への変身が可能だからだ。
中沢は自分よりも背が低い裕太を見て絶句する。
どこからどう見ても人間、けれど彼の中身は先ほどのミラーモンスターなのだ。
「皆さん、ぼくもこれから一緒に戦います」
「え!? あ、ああ! うん、よろしく」
「よろしくお願いします」
経緯が経緯だからか、随分と大人びて見える物だ。
香川は一旦研究室に戻り、
「君達も疲れたでしょう、今日はゆっくり休んでください」
「そうだね、今日は色々な事があったから」
下宮も大きなため息をついて、先ほど噛み千切られた肩を抑える。
ミラーモンスターに覚醒した際に戻ってくれたが、中沢たちの体には色々と抱えている疲労があるだろう。
「僕も一旦カードに戻るよ」
その前にと、下宮は先ほどゲルトルートとクリフォニアから出たグリーフシードを仁美へと投げる。何でも今回の舞台、魔法少女のシステムにもキュゥべえ達は細工を行ったらしい。
今までは魔法少女は魔力が0になると魔女になっていたが、今回それは無い。その状態で絶望すればアウトなのだ。
とはいえソウルジェムが汚れる程にネガティブな考えへシフトする様になるから、結局は同じようなものかもしれないが。
「しっかり休める時には休んでおかないとね」
「でも後でもう一度コネクトを使いたいですわ」
海香とカオルに話は聞きたい。自分の魔法にも慣れておかないとと。
「でしたら、今日の夜に私の研究室に来てください」
「分かりましたわ」
そこで海香達を呼び出し、詳しい話を聞いて今後の方針を決めようと言う事なのだろう。
それまでは自由時間だ。香川と裕太は一同に別れを告げると、研究室の方へと戻っていく。
三人に流れる一瞬の沈黙。それはつい先程の景色を思い出している物だった。
「本当に……、勝ったんだよな? 俺達?」
「ああ。キミは騎士になり、志筑さんは魔法少女になった」
そのまま、一同は木の上でコチラを見ているキュゥべえ達に視線を移す。
ジュゥべえはニヤリと大きく口を吊り上げ笑う。
中沢と仁美はパートナー契約を結んでアビスペアとなった。
その意味、分からない訳は無いだろう?
『ゲームの開始を、楽しみに待ってな』
そう言って二匹は完全に一同の前から姿を消した。
複雑な表情を浮かべる下宮。二人は力を手に入れたが、同時に殺し合いのゲームに巻き込まれる事になった。
そうしたのは自分だ。二人には申し訳ないと言う気持ちが浮かぶ。
けれど後悔もしていない、それが必要だと思ったから。
「気にするなよ、下宮」
「え?」
ドンと背中を戦く中沢。
仁美も笑みを浮かべてコクリと頷いた。
「友達だろ? 俺達」
「……はは、調子がいいね」
「悪かったな。いろいろ」
「いや、僕の方こそ」
じゃあもう引っ張るのは無しだ。
そりゃあ少しは怖いが、やはり本当の意味で変わるには、この力は必要だった。
「だから、下宮には感謝しているよ」
「ええ、私もですわ」
それを聞くと、下宮はもう一度謝罪とお礼を口にした。
「必ず魔獣を倒して、世界を希望に染めよう」
「ああ」
「はい!」
そう言うと、下宮は粒子化してアビスのデッキに消えていく。
残された二人はまだ余韻が続いているのか、見詰め合って笑みを浮かべた。
(って、今ッ、見詰め合っている!?)
中沢はその意味を理解して、すぐに赤面しながら顔をそらした。
「あぁ、えと! も、戻ろっか志筑さん……!!」
「あ、はい!」
早歩きになる中沢の肩に並ぶ様に、仁美が付いてくる。
「中沢くん。これからは仁美って呼んでください」
「―――」
は? 目を丸くする中沢。
デッキの中にいた下宮も聞こえていたのか、同じく目を丸くしていた。
対してニコニコとお構い無しの仁美。
「だって私達パートナーですのよね? だったら、他人行儀は嫌ですわ」
「え? ええ? えええ!?」
「私も、昴くんって呼んだ方がよろしいですか?」
「ええええええッッ!?」
中沢は真っ赤になって大きく首を振る。
だめだ。そんな事になったら色々と耐えられないかもしれない。
いやうれしいけど、嬉しいけども!!
「な、中沢で大丈夫だよ! その方がな、慣れてるし!!」
「そうですか……。あ、でも私は仁美って呼んでくださいね?」
「ウッ!」
一瞬の停止、そして彼は意を決して――
「わ、わかった……よ! 仁美――ッしゃん」
噛んだ。
デッキから下宮の大爆笑が聞こえてきたので、思わず中沢は思い切りソレを地面に叩き付けそうになったが、恥ずかしさが勝ってどうにもならなかった。
「ひ、仁美さん! お昼とかどうしよっか!?」
先ほどの事を無かった事にした中沢。
とは言え、昼までは、それなりに時間があるのに昼食の話など馬鹿丸出しである。
それに気づいた中沢は再び頭を抱えるが、仁美は真面目に考えてくれているのか、顎に手を当ててフムと唸る。
「中沢君はコンビニのお弁当って食べた事ありますか?」
「え? もちろんあるけど……?」
「実は私、まだ無いんですの」
「うぇ! 本当に!?」
流石はお嬢様と言った所か。
とはいえ、仁美はずっと前から興味はあった様だ。
とは言え、なかなかそんな機会も無く。ずっと気になりっぱさしで過ごして来たと。
「じゃあお昼はコンビニにしようか。最近のは美味しいんだよ」
「本当ですか!? 初体験です、楽しみですわ!」
「あはは、まあ所詮はコンビニだからあんまり期待しない方がいいと思うけどね」
笑いながら清明院を離れる二人を、屋上からジュゥべえは確認していた。
一同の前からは消えたが、清明院から離れたと言う訳では無かった様だ。
『オイラってば何て良い奴、まさにキューピッド』
ジュゥべえは、やれやれと首を振っていた。
『でもよ先輩、そうなるとアイツが可哀想だよなぁ?』
騎士ってのは、魔法少女ってのは、それぞれペアのパートナーがいるってのがこのゲームの掟ではないか。
しかし現状はどうだ? 騎士が15人、魔法少女が14人と、なんとも中途半端な物ではないか。
『まさかアイツ、擬似的な物だからって逃れられるとでも思ってんのかね?』
『いずれにせよデッキにキミの手が掛けられた以上、彼はもう参加者だ』
『確かに』
『キミもそれを狙っての事だろう?』
『……確かに!』
『だからこそ、近いうちに用意はするべきだとボクも思うよ』
15人目の魔法少女をね。
キュゥべえは屋上から街を見据える。
遠くに見える見滝原、はてさて適任は誰がいいのか?
『ボクは"彼女"が良いと思うんだけど』
キュゥべえがデータをジュゥべえの頭の中に送信する
『あー、はいはい、コイツね。まあいいんじゃねぇの。でもどうするんだ先輩? アイツは今……』
『うん、だから流れによるけどね』
ゲームがその答えを出してくれるだろう。
中沢と香川、仁美が覚醒した今、ゲームは開始前にして前回のソレとは大きく形態を変えている。
その先に待つものは、インキュベーターも分かりかねる領域だ。
しかしそれでも一つ分かる事があるのなら、バッドエンドギアの一人が死んだ。
コレは向こうとて無視できる内容ではない。しかし仮にも参加者である魔獣が死んだわけだが、ゲーム開始のアナウンスを入れるつもりはキュゥべえ達には"まだ"無かった。
『とはいえ、カウントダウンは始まったけど』
鎌田すまん( ^ω^ )