仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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言い忘れてましたが、The・ANSWER編からは

・全てのマギカシリーズ

・龍騎以外の仮面ライダー


この二つもチラホラと入ってきます。
まだ見てない人は、よければ各シリーズを覗いてみてね。

とくにかずみマギカは、マギカシリーズに大きな広がりを持たせた作品だと思うのでおすすめですぞ(´・ω・)b




第75話 人を傷つける才能

 

 

「うーん」

 

 

真司は手に持ったトランプを睨みながら唸っていた。

少し時間を戻そう。それはつい先ほどの事だった。

 

 

「ほ、本当に!?」

 

『はい! 私もまどかさんと同じですわ!』

 

 

テレビ電話。

ニコの携帯の画面いっぱいに広がっていたのは、仁美の眩しい笑顔である。

自らもキュゥべえと契約して魔法少女になった事、中沢がアビスになった事、香川と共に魔獣を倒した事。要するに一連の流れをまどか達に伝える。

 

これからの事を考えると少し複雑な話ではあったが、仲間が増えたと言う事、何よりそれが仁美だと言う事に、まどかは笑みを浮かべずにはいられなかった。

不謹慎――、とは少し違うかもしれないが、抱える運命は置いておいて、仲間が親友である事は嬉しいに決まっている。

 

それに魔獣を倒したと言うのは一番大きな情報だ。

コチラの力が十分通用する事を証明してくれた。

なんとも希望のある話ではないか。

 

 

『紹介しますわ、コチラが香川先生ですの』

 

 

カメラから引く仁美。

するとそこには椅子に座っている香川が見えた。

さらに香川を中心に、中沢と下宮の姿も研究室に来ていた様だ。

 

 

『どうも。はじめまして――。に、なりますかね』

 

「あ! ど、どもぉ! はじめまして城戸真司です!」

 

「……成る程」

 

「え? なにが?」

 

 

やや含みのある挨拶であった香川。

真司は何の違和感もなく頭を大きく下げていたが、手塚は言葉の裏に隠れた意味を理解したようだ。

香川もまた『世界』と『記憶』で考えれば騎士側の人間。

おそらく以前の時間軸、もしくは世界軸(リュウキのセカイ)で真司と会っているのだろう。

猛烈なデジャブが真司と香川の脳を駆け巡っているに違いない。

 

尤も、今の自分達にとっては関係ない話といえばそうなのだが。

大切なのは今この瞬間、この時、この時間軸だ。

久遠の時の中、全ての決着をつけるのは『今』なのだ。

過去は過去でしかない。手塚は、真司は、それを理解しているからこそココにいる。

 

 

「は、はじめまして! きゃなめまどかです!」

 

「……暁美ほむら」

 

「手塚海之だ」

 

「神那ニコ、よろしくだぞー」

 

 

とりあえずと、まずはお互い挨拶を交わす事に。

緊張しているのか。まどかが噛んだ気がするが、今は気にしないでおこう。

横目に見てみれば、まどかは顔を真っ赤にして俯いている。触れるのも気の毒だ。

 

まあ色々と話したい事はあるとは思うが、まず前に出たのは仁美だ。

彼女が手をかざすと、そこに美しい緑色のソウルジェムが出現。

一瞬にして仁美の姿が魔法少女のソレへと変わった。

 

 

「ッ! わぁ! 綺麗だね仁美ちゃん」

 

『そ、そうですか? 嬉しいですわ。照れてしまいます!』

 

 

仁美は笑みを浮かべつつも、赤面してもじもじと、はにかんでいた。

 

 

「おお、なかなかエロいな」

 

「「………」」

 

「ごめんなさい。どうぞ続けて、ほら、はよ」

 

 

手塚とほむらから『黙ってろ』と言わんばかりの視線が放たれる。

挟まれたニコは一歩後ろに下がると、指でバッテンを作って、それを口に当てていた。

『話を続けてください』、そんなジェスチャーに、一同は脱線しかかった本題に戻る事へ。

 

 

『コネクト!』

 

 

仁美は自己紹介代わりに自らの魔法を披露する。

バトン型の武器、クラリスを出現させ、仁美はそれをフルートモードとして使用する。

美しい音が聞こえたかと思うと、仁美の前方に魔法陣が二つ出現。

接続魔法コネクト。ミスパイダー戦同じく、そこから二人の少女が姿を見せる。

 

 

『お? どう言う状況だコレ』

 

『お久しぶり。と言っても、ほんの少しぶりだけれど』

 

 

御崎海香、牧カオル。

コネクトには呼び出した者には、現在がどういう状況であるのかを簡易的に伝える機能はあるが、追加で魔力を消費する為、今は口頭で事情を伝える。

コネクトで繋がったのは未来の時間だ。そして海香達がやって来た。

 

まずはその事について少し話をする事に。

しばらく海香達の話が続き、さらに真司たちの知っている情報を組み合わせると、大まかな流れが見えてきた。

と言う訳で、今一度おさらいをしてみよう。

 

 

『えー、おほん。では私が軽く説明してあげましてよ』

 

 

現在の海香は、魔法の影響もあって全てを理解しているらしい。

咳払いをし、一同に説明を始めた。

 

 

『まず、一番初めの魔獣襲撃の際、魔獣は円環の理を完全に支配していたと考えていたのだれど、実際は神である鹿目まどかの欠片と、もう一人『タルト』と言う魔法少女を逃がしていたの』

 

 

まどかとタルトは、イツトリ達に対抗する為に一計を案じる。

それは、まどかが小規模の円環の理を作り、脱落した参加者の魂をサルベージさせる事だった。

一方でタルトは活路を見出す為に、自らの存在と引き換えに一つの概念を作り上げた。

その概念が魔獣に伝わり、魔獣達は一つの『興味』と言う可能性を生み出す。

 

 

『それはループしつづける箱庭を広げてみようと言う事よ』

 

 

本来、イツトリや魔獣によって作られた見滝原(セカイ)は、ゲームが終わればどの様な結末であったとしても再び時間が巻き戻されるように設定されていた。

しかしタルトが作った概念、『興味』に支配された魔獣は、一度だけ箱庭の時間を延長させる事を決めたのだ。

 

 

『つまり違うメンバー、違う趣向をもったゲームを楽しもうと。繰り返されるループを中止し、未来を作り上げた』

 

 

その未来に繋がった際のゲーム、勝者は秋山蓮。

彼は恵里との間にかずみを設けた。かずみは元々円環の理に存在していた魔法少女だ。

魔獣は未来に生きる人たちの配役を適当に行い、その後、魔法少女になった者からゲーム参加者として選出するつもりだった。

 

言うなれば、舞台の配役はランダムだった訳だ。

かずみの魂がたまたま恵里に宿り、二人の子として生を受けたわけである。

 

そしてその後、未来においても例外なくゲームが行われた。

未来の魔法少女と、未来の騎士で殺し合うゲームが。

その中でキュゥべえ達は、その時点で一般人だったかずみに目を付けた。

かずみの中にあるエネルギーは凄まじいもの。キュゥべえに鹿目まどかの再来と言わしめたほどである。

 

キュゥべえらの最有力事項は宇宙延命。

かずみの絶大な素質に惹かれ、自分達の都合でかずみに契約を持ちかけた。

その結果、かずみは未来で起こった戦いを否定したいと願いを示す。

 

そしてかずみは過去に送り込まれ、魔獣に目をつけられてからは、13人目の参加者として以後のループに加わった。

だが、かずみが存在する事で未来があると言う『事実』が残り続け、再び『現代のみ』のループになったとしても、未来と言う『存在』は確立されたのだ。

 

つまりスタートがAで、ゴールがB。それをループするのが過去のフールズゲーム。

しかし、かずみがいる事でゴールはBの先のCになる。

フールズゲームの形態は、ゴール前のBまでをループするようになった。

いずれにせよCと言う未来がある事は確定されている。

 

もちろんCと言うのは来ない筈の未来であるが故、海香たちの存在はかぎりないゼロであった。

しかしその存在を確立させたのが、仁美のコネクトだ。

未来に接続する事で、海香たちの存在が確固たるモノに昇華された。

 

 

『コネクトのゲートが私達の前に現れたとき、私達もまた全ての情報と記憶が蘇ったわ』

 

 

そして従うかどうかを選択された。仁美の力の一端になるかどうかを。

海香もカオルも理解した。コレがかずみを助ける方法なのだと。

未来を救う、今を変える為の方法だからと。

だからこそ二人は協力を惜しまなかったわけだ。

 

 

『アタシらはプレイアデス星団って言ってさ――』

 

 

過去のゲームの情報はそれとなくではあるが知っていた彼女達は、何とかゲームに対抗しようとチームを組んでいた。

まあ結局何もできずに負けてしまったわけだが、今がまさにリベンジの時だと。

 

 

「今、未来はどうなっている?」

 

 

手塚は腕を組んで目を閉じる。

海香やカオルが"魔法少女として存在する"と言う事は、現在海香達の世界が何も変わっていないと言う事では?

それはつまり魔獣には勝てないと言う事を証明するものなのではないだろうか?

そんな不安がある。

 

 

『普通よ。至って普通。私達が魔法少女だと言う事以外』

 

 

元々未来のゲームが始まるよりも前だと言うから、海香自身どうなっているのかは分からない。

 

 

『心配はいらないでしょう。海香さんたちの世界は一種のパラレルワールドとみて間違いありません』

 

 

香川は海香達がいる未来はある意味パラレルワールドのようなものだと言う。

真司が生きている現在と直接繋がるかどうかは分からない。

つまり海香達が魔法少女になっている=真司達が魔獣に勝てないと言う方程式は成り立たないと。

 

 

『未来は些細な事で変わる可能性がありますからね』

 

 

だから真司達が自分たちの時間軸で魔獣を全滅させれば、未来にいる海香たちも自動的に魔法少女の運命から解放される場合がある。

 

 

『っていうかさ、難しい事は考えなくていいよ』

 

 

カオルは語る。

つまりのところ、プレイアデス星団はまどか達の味方だと言う事だ。

魔獣を倒した事で彼女達が生きる未来が変わり、より良いものになればそれでいい。

たとえ今築いている関係や記憶が壊れてしまうとしても。

 

 

『それにさ――』

 

 

カオルはやや挑発的な笑みを浮かべた。

 

 

『もしも仮に未来が魔獣の勝利を示してるとしても、アンタらは諦めるの?』

 

 

そりゃ負けるに決まってるんだから諦めるだろ。

ニコはそれを言おうと口を開こうとした。

しかし一瞬だ、カオルの問いかけに間髪いれず、真司が口を挟む。

 

 

「諦めるわけないだろ! 魔獣の奴等は絶対倒すから、安心しててよ!」

 

『お! 良い返事だね真司さん!』

 

(まじか)

 

 

味方が増えた事で心強くなったのか。真司は身を乗り出して胸を叩く。

ニコは少し不服そうだったが、カオルもそれでいいと笑っていた。

 

 

『アタシらは呼んでくれればいつでもいけるからさ』

 

 

コネクトで呼ばれた海香達は仁美の『使い魔』と言う事になり、安全装置が付与される。

それは致死量のダメージを受ければ消滅するだけで死にはしないと言うもの。つまり魔力で肉体が構成される人形のようなものなのだ。本体は未来にあるため、現代で殺されても死にはしない。

つまり遠慮する事無く、どんどん呼べばいいと。

 

 

『ただ、まあ、まだかずみには黙っていてよ』

 

「え? でも――」

 

『あの子、混乱するわ』

 

 

色々と複雑な面がある。

まだその時では無いだろうと海香は念を押した。

海香達がそうしてくれと言った以上、余計な事はできない。真司たちは了解する事に。

 

さて、ココからは少し話が変わる。

未来の事情は分かった。仁美の願いが未来とのトンネルを繋ぎ、新世代の魔法少女達と繋がった。

 

では海香達のためにも、なおさら真司たちは勝たなければならない。

これからの一番の課題はどう動くか。まずは"何をすればいいのか"だ。

その問題に意見したのは香川だった。

 

 

『分岐点を守護するのはどうでしょうか?』

 

「分岐点、ですか」

 

『ええ。前回のゲームの事は下宮くんからだいたい聞きました』

 

 

ルールがルール故な所もあるが、真司達協力派は、常に劣勢を強いられてきた。

常に後手後手となり、結果的に多くの犠牲者を出してしまったのは言うまでもない。

 

 

『今回が前回の時間軸をベースにしているならば、下手をすれば同じ流れになってしまう可能性が高い』

 

「でも、じゃあ、どうすれば!」

 

『だからこそ、まずは根本を変えなければならないでしょうね』

 

「根本、ですか?」

 

 

思い出して欲しい、ゲームの始まりを。

ゲームは一体何がどうなって始まってしまったのか。

そして何が足りなかったのかを。

 

 

『巴マミを守る事を、私はお勧めします』

 

 

マミは前回のゲームにおいて一番最初の犠牲者だ。

彼女と須藤が死んだ事でゲームが始まってしまった。

ならばマミをゲーム開始まで生存させれば、大きな分岐点になってくれるのではないだろうか。

 

少なくとも大きな変化は与えられる筈だ。これには下宮も賛成だった。

彼も改変前の世界を全て知っている訳ではないが、巴マミが一番参加者と接点があると言うのをどこかで聞いた記憶がある。

であるならば、やはりマミの生存は他の参加者にも何らかの影響を与えるくれるだろうと。

 

 

『一応、参考にしてみてください』

 

「はい! 参考にします!」

 

 

とりあえず香川達は。ゲームが始まるまでは見滝原外で色々と調査を進めると言う。

 

 

『閉鎖空間となった見滝原以外にどれだけ世界は構築されているのかが気になります』

 

 

既に香川たちも変身――、つまり参加者となった以上、一度でも見滝原に入ってしまえばルールが発動して、外に出られなくなってしまう。

 

 

「分かりました。こっちは俺達に任せておいてくださいッッ!」

 

『ええ、お願いします』

 

 

そこで前に出るのは仁美だ。

まだ照れを見せながらも、まどかに向ってもう一度微笑みかけた。

 

 

『まどかさん、一緒に、戦いを終わらせましょうね』

 

「うん、一緒に! 絶対に一緒に終わらせようね!」

 

 

一緒に。

その言葉を聞いて仁美はとても嬉しそうだった。

こうして話をつけた一同。香川達はとりあえず色々と情報が無いかを調べてくれるらしい。

特にワルプルギスは色々と文献も多いと聞く。

この作られた箱庭の世界にどれだけヒントが残っているのか。

 

一方で真司達もここは一つ、今後についてもう一度考えてみる事に。

ただ、いざ話そうとした時だった。

ニコがもぞもぞと服を漁ったかと思えば――

 

 

「トランプでもしながらにしねぇ?」

 

 

特に深い意味は無かった。

ほむらの部屋、何も無いし、そのまま話し合いだけなんてつまらんし。

最近は少し『楽しみ』と言うものが分かってきたニコ、そんな考えで出したトランプ。

当然ライアペアからは『何言ってんだコイツ』的な視線が送られるが――

 

 

「わぁ、トランプか! 久しぶりにするなぁ」

 

「いいね、やろうやろう!」

 

「そうね、私も気分転換は必要だと思っていたわ」

 

((コイツ……))

 

 

真司とまどかが賛成すると、ほむらは驚くべき速さで手のひらを返した。

手塚とニコは汗を浮かべながら、涼しげに髪をかき上げているほむらを見ている。

まあだが別に悪い事ではないか。ココで変に空気を悪くする意味はない。

一同はババ抜きをしながら話し合いを始め、今に至る訳である。

 

 

「それで? やっぱりマミってのを守るって事でいいんだな?」

 

 

ニコは片目を閉じながらほむらの手札から一枚カードを抜き取る。

 

 

「………」

 

 

見えたのは、死神(ジョーカー)のカード。

 

 

「ん? どうしたニコちゃん」

 

「……ファ●ク」

 

「え?」

 

「いや、別に」

 

 

光るソウルジェム。

ニコは魔法少女に変身して、手札を真司の方へ向ける。

 

 

「まずはその方向でいいだろうな。まあ尤も、巴マミと須藤が必ずしもゲームに良い流れを齎してくれるとは限らないが」

 

 

手塚の記憶にあるシザースペアは、時に仲間であったが、時には敵対関係にあった。

しかしいずれにせよ前回のゲームの件を考えると、そもそもコチラが有利とは思えない。

であるならば賭けも必要だろう。

 

それに改変の世界。

つまりまどかが神になった時間軸においても、マミは一番初めに脱落している。

因果には流れと言う物もあり、マミに結びついたのは『初めに舞台から消え去る』と言う物だとすれば、今回の時間軸も或いは、か。

 

 

「いや! そもそもさ、俺達が目指すのは全員生存じゃないか。ぜってー誰も死なせないからな!」

 

 

真司は意気込みながらニコの手札から一枚カードを掴んだ。

それはジョーカーの隣にあったスペードの3。

目を光らせるニコ。すると再生成の魔法が発動。

トランプの絵柄を作り変えて、スペードの3がジョーカーに、ジョーカーがスペードの3に。

結果、当然ながら真司の手にジョーカーが。

理不尽である。

 

 

「ん゛ぉッッ!?」

 

「ど、どうしたの真司さん。凄い声出して」

 

「いやッ! ななななんでも無いよ」

 

 

口笛を吹きながら真司は手塚にカードを差し出す。

目を細める手塚、真司は汗だくだ、目が泳いでる。

引いたな、コレは。いやそれよりも――

 

 

「神那、一つ聞いて良いか?」

 

「ん?」

 

「何故変身した」

 

「……まあ、ほら、私この姿好きだし。パイロットみたいでカッコいいじゃん?」

 

「「………」」

 

 

目を合わせる手塚とほむら。瞬間、トークベントで意見を交差させることに。

 

 

『(魔法)使ったな、コイツ』

 

『(魔法)使ったわね。まったく、大切な魔力をこんな下らない事に使うなんて愚かもいいところだわ』

 

『お前も使っただろ』

 

『……は?』

 

『デッキのカードは前回の物から引継ぎになっている』

 

 

手塚の持っているタイムベントは、トークベントと同じく持っているだけで効果を発揮する物である。

そしてタイムベントの効果は、ほむらが時間を止めた場合でもカードの保持者は自由に動く事が許されると言うもの。

 

手塚は基本クールで無口だ。動きも少ない。

だからほむらは気づいていなかったのだろうが、ニコがほむらのカードに手を掛けた時点で、ほむらは変身。

ほぼ同時に時間を止めて、掴んだカードとジョーカーのカードをすり替えた。

そして変身を解除することで時間停止は解除。ニコはすりかえられたジョーカーを引いたと言う訳である。

 

 

『………』

 

 

ほむら、沈黙。

 

 

『お前、大切な魔力をこんな下らない事に――』

 

『次は貴方の番よ、手塚。さっさと引きなさい。皆待っているわ』

 

(嘘だろ、コイツ……)

 

 

とんでもないヤツだ。

手塚はパートナーに一抹の恐ろしさを感じる。

だがまあ確かにいつまでも止まっている訳にもいくまい。

試しに五枚あるカードの中で一番右のをつかんで見る。

 

 

「ッッッ」

 

 

真司、苦悶の表情。手塚は次のカードに指をかける。

 

 

「!」

 

 

真司、にんまりと笑顔。手塚は次のカードに指をかける。

 

 

「ッッッ」

 

 

真司、苦悶の表情。以後はずっとその表情が続いた。

分かった事は右から二番目のカードに触れると真司が必ず笑顔に変わる事だ。

手塚はとりあえずその二番目のカードをつまんで少し上に引っ張ってみる。

 

 

「――んふふ」

 

「………」

 

 

笑った、ニッコリである。

手塚はそのカードをから指を離すと、一番左のカードを付かんで引いた。

見えたのはクローバーの7、手塚は揃ったカードを捨て場へと。

 

 

「あッ!!」

 

「ッ、どうしたの真司さん?」

 

「い、いや! なんでもないよまどかちゃん。ハハハ……!」

 

 

そう言いながらも頭を抑え、この世の終わりでも迎えた様な表情でため息をつく。

やりにくいわ! 流石の手塚も叫びそうになる。

こんなにもババ抜きが向いていない人間がいただろうか?

逆にコチラが気を使うという物ではないか。とにかく空気を(真司一人の)変える為に、手塚は会話を振ることに。

 

 

「それで、どうなんだ? 現状、俺は巴マミの事をあまり知らないんだが」

 

 

全ての記憶を継承しているとは言え、容量や密度の問題はある。

現状、メインで覚えているのは前回のゲームのみ。手塚はほとんどマミの事を知らぬままになってしまった。

他の記憶でもチラホラとは断片的に覚えてはいるが、銃を使う拘束魔法の使い手としか認識はできていない。

後は先ほどの通り、敵にもなるし味方にもなると言った所か。

 

 

「マミさんはとっても強い人なんですよ。ね? ほむらちゃん」

 

「ええ。彼女は魔法少女の中でもベテラン、それ故に実力はトップクラスと言って良いわ」

 

 

銃による遠距離はもちろん、近距離には体術とリボンで応戦。

さらに相手の動きを制限する魔法に加え、本人が織り成す魔法のアレンジも多彩だ。

 

 

「隙が無いとはこの事よ。彼女が味方になってくれれば、戦いは遥かに有利に進んでくれるでしょうね」

 

 

それは、普通に考えればの話だが。

ほむらはもう一度、巴マミは強いと語る。

 

 

「でもね、彼女は弱くもある」

 

「?」

 

「繊細よ。彼女は、とても」

 

 

そう口にしたほむらの表情は、何ともいえない程に切なげだった。

様々な感情がそこには見て取れる。悲しみ、苦しみ、自責、そして懐かしむ様な笑み。

ほむらはきっと、ほむらだけが知っている巴マミを知っているのだろう。

 

どんな事があったのか、それは時に希望を、時に絶望を齎したことだろう。

ほむらはマミの事を『貝』の様な人だと語る。

硬い殻で覆われている様に見えても、意外と脆く、敗れれば弱い中身が現れる。

そして気の毒な事に、貝と言うのは多くの魚に食われるものだ。

 

 

「豆腐メンタルって事か?」

 

「豆腐? どういう意味?」

 

「精神面が豆腐みたいに脆いって事な」

 

「まあ……、そう言う事かしらね」

 

 

マミはベテランではあったが、色々と知識不足な面もあった。

 

 

「それに巴マミは魔法少女と言う存在に、いろいろ依存がある」

 

 

だから魔法少女が正義と希望の結晶ではなく、死と絶望の集合体だと分かった時には、落差に絶望する事が多かったと。

 

 

「ガラス細工の様な人。美しいけれど、脆い。だから注意しないと」

 

 

メモリーベントで記憶を戻すのは最後の最後がいいとほむらは語る。

もしもマミが中途半端なタイミングで記憶を取り戻せば――

 

 

「必ず、私達の敵になるでしょうね」

 

「……そうなのかな?」

 

「え?」

 

 

その時、ふと真司が呟いた。

まるでほむらの言葉を否定するように。

 

 

「ほむらちゃんは時間を繰り返してきたんだろ?」

 

 

そこ等辺の事情は改めて全て話してある。

まどかを守る為にループを繰り返してきた、と。

だからこそ、ほむらは多くの人間と触れあい、性格や行動を知っている筈だ。

それは真司にも分かる。だが同じくして、真司は思うのだ。人間には可能性と言うものがあると。

 

 

「だから、ほむらちゃんの知らないマミちゃんもいるんじゃないの?」

 

「それは――」

 

 

言葉を止めるほむら、まどかはニコリと微笑んで手塚の手札からカードを引く。

 

 

「そうだね、そうだよほむらちゃん」

 

 

今まではそうだったかもしれない。けれど、今は皆がいる。

一人じゃ解決できなかった問題も皆で挑めばきっと活路を見出せる筈だ。

真司はそう説いたし、まどかも真司に賛同を示した。

何の為に全員生存を目指すのか、それを大切にしたい。

 

 

「……ええ、そうね。そうかもしれないわ」

 

 

ほむらもまた小さくではあったが、笑みを浮かべてまどかのカードを引いた。

確証は無いができる気がする。事情を知っている者がいてくれる。

仲間がいてくれると言う事実がほむらにとっては何よりもありがたかった。

そしてババ抜きは続いていき――

 

 

(クソ! 何でこうなった……ッ!)

 

 

お互い無表情ながらもにらみ合うニコとほむら。

終盤の終盤までジョーカーは真司の手札にあったのだが、ジョーカーが残るたびに真司が小声で

 

 

「もうお終いだ……!」

 

 

だとか

 

 

「助けて……!」

 

 

だのと聞こえてくるので、流石に不憫に思ったか、手塚はあえて真司からジョーカーを受け取った訳だ。

そこからまどかが手塚のジョーカーを引いてしまい、表情を変えた所を悟られたか、ほむらが時間を止めてまどかの手札を確認。

そしてその後は、ほむらがまどかのジョーカーを受け取り、今に至る訳である。

 

凄い事だ。

運が絡むゲームなのに『やらせ』しか蔓延っていないとは。

ほむらの手札は2枚。ニコは1枚。つまりこのターンで決着は付くはず。

 

 

「やったね真司さん!」

 

「ああ、俺達ババ抜きの才能あるのかもな!」

 

「………」

 

 

何も知らない二人は楽しそうに喜び合っているが、手塚としては何とも複雑な話である。

 

 

「さて、決着をつけてもいいのだけれど」

 

「なに? もったいぶって。はよ、はよ」

 

「変身を解除しなさい神那ニコ」

 

「ぐっ! な、なんでさよ」

 

「どう考えても怪しいわ。貴女の魔法があればイカサマもできるだろうし」

 

「イカサマ? おいおい、出た出た。あーあ、ヤダね、ヤダね」

 

「は?」

 

「仲間は信頼し合うべきじゃん? そんな事しませんがな」

 

「じゃあ仲間として変身を解除してもらう事をお願いするわ。イカサマなんて、小さい人間のする事だから」

 

「………」

 

 

変身を解除するニコ。

完全に計算が狂った。魔法まで使ったのに負けるなんて、真司みたいなヤツに負けるなんて(失礼)、ニコのプライドが許さない。

だがこうなっては仕方ない、確かに変身したままなんてのは明らかに怪しい。

ニコは覚悟を決めてカードを引こうと。

 

 

「まて、一応お前の体に触れさせろ」

 

「やめてよ気持ち悪い。まどかだけよ、私に触っていいのは」

 

「その発言の方が気持ち悪いよ。あのさ、時間を止められちゃあ負けちゃうからね」

 

「……そんな事するわけないでしょ。貴女じゃないんだから」

 

「一応だよ一応。断るなら怪しくなるだけだぞい」

 

「――、分かったわよ」

 

 

計算が狂った。ほむらは心の中で舌打ちを。

流石に向こうもそれくらいは警戒してくるか。

正直時間を止めて勝つつもりだったほむらにとって、これは痛い提案だった。

しかし断るのは不自然。仕方なくほむらはポーカーフェイスだけを武器に、ニコと対峙する事に。

 

 

「それにしてもアレだな。一番の問題もあるから、なッ!」

 

「!」

 

 

そう言いながらもほむらの手札を抜き取るニコ。

直感勝負と悟ったのだろう。ほむらとしてもノーモーションの動きで一瞬焦ったものだが、結局ニコが引いたのは死神の絵柄が書かれたソレだった。

 

 

「ぐッ! チィ、私か……!」

 

 

二枚のカードをシャッフルするニコ。そしてほむらの方へと向ける。

 

 

「………」

 

 

ジットリとした目でほむらはニコを見る。

 

 

「なんだよ視線で刺し殺す気か」

 

「そんな、まさか」

 

 

ほむらは視線を移動させ、ニコの背後で水を飲んでいる手塚を見つめる。

トークベントは無くならない。

ほむらは、そのトークベントを使用して、手塚へコンタクトをとる。

 

 

『手塚。ババの位置を教えて頂戴』

 

『……お前、マジか』

 

 

汗を浮かべる手塚。

イカサマをするのは何とやら、先ほどの発言が思い切りブーメランになっているのが何とも言えぬ話。

そもそも一番初めに魔法を使ったのはほむらな訳であって、何のこっちゃである。

 

 

『マジよ。私はどんな手を使っても勝ちたいの。あなたの位置ならニコの手札が見えるでしょ』

 

『ま、まあ見えるが、たかがババ抜きくらいで――』

 

『されどよ、されど』

 

『……お前から見て右がジョーカーだ』

 

 

一瞬だった。

スパーンと音がする程のスピードで、ほむらはニコのカードを引き抜く。

当然それはほむらが『あがる』為のカード。

ほむら涼しげな表情で髪をかき上げながら、二枚のカードを捨て場へ投げた。

 

 

「ぐへぇぇえ! 負けたぁ!」

 

「すまん、神那」

 

「ッ? どうして手塚さんが謝るの?」

 

 

言うて手塚もパートナーに甘いのか、ほむらの肩を持つ事に。

当人としてはまどかに勝たせてやりたかっただけなんだろうが、本人としても負けたくないと言う思いが湧いたのは事実だ。

手塚としてはその変化を喜ぶべきなのだろう。結局ニコを犠牲にする事に。

 

 

「あぁあぁぁ」

 

 

ぐったりと倒れるニコ。

だがニコもニコで、勝利への執着を多少身につけたいと思っていたのだろう。

 

 

「それで、話の続きだけど一番の問題って?」

 

「いや、決まってるだろ」

 

 

ぐったりとした様子で、ニコは体を起こした。

 

 

「一つしか無いだろ、王蛇ペアだよ」

 

「………」

 

 

あぁ――、と言った様子で視線を下に落とす一同。

皆が皆、あのコンビには苦い思い出があると言うものだ。

特に改変前の杏子を知っているまどかとほむらからしてみれば、より一層その存在は重く、大きく感じる。

 

 

「私のペアのおっさんを殺したのはあいつ等だからな。全く、化けモンだよ本当」

 

 

腕を組むニコ。

あそこまでの戦闘マシーンが協力をすると思うのか?

答えはノーだ。絶対に戦いになるに決まっているじゃないか。

 

 

「杏子ちゃん、本当にどうして……」

 

「あの佐倉杏子は異常よ。彼女の変化は他の参加者とは次元が違う」

 

 

ほむらは、かずみ、サキ、ユウリ、あやせ、ニコの事は長いループの中でも顔を合わせた事はほぼ無かった。

あったとしても記憶に残っていない程、かかわりは薄い。

だから彼女達がどういう性格なのかは分からない。

 

しかし他の魔法少女は知っている。

その中でも、佐倉杏子だけが全くイメージと変わっていた。

確かに長いループの中で多くの魔法少女と対立した事はある。それこそ、戦ったことの無い魔法少女はいないと言っても良い。

 

しかしいずれも対立理由やその時の感情の変化は、ほむらにとって想像の範囲内に収まる事は多かった。だが今回の佐倉杏子は全くの別物、まさに別人と言うのが相応しい。

人を殺す事に喜びを覚え、戦う事だけに執着を見せている。

何故あそこまで変化してしまったのか、それはほむらには分からないが、大方想像はつく。

 

 

「魔獣か」

 

「ええ。それしかありえないでしょうね」

 

「だとしたら、許せない……!」

 

 

まどかは珍しく拳を握り締め、表情にありったけの怒りを見せた。

まどかは杏子が優しい性格の魔法少女だと言う事を知っている。

現に何度も助けてくれた記憶もあった。

そんな杏子が魔獣によって『ああなって』しまったのならば、それは絶対に許せない。

 

 

「だが一概には言えない。環境が変われば、人の考え方もまた変化する」

 

「パートナーの影響も少なからずあるのかもなー。浅倉はやべぇぞ、ありゃ人間じゃねぇわ」

 

 

人は死に対して、もしくは痛みに対して恐怖するプログラムがインプットされている。

何故か? それが人としての防御行動だからだ。痛いから止める、痛みを恐怖する心がセーフティ機能となる。

 

ニコ視点、浅倉にはそれが無い。

すぐにそこに死が控えていようが、大きな痛みがあろうとも、浅倉にとって『楽しさ』を感じる事があれば、容赦なく足を突っ込んでいく。

そんな浅倉の影響なのか、杏子にもその気は見られた。

 

 

「いずれにせよ、この戦いで勝利するには王蛇ペアが一番の障害になるってわけか」

 

「本能で動くヤツらに話し合いなんて無理だろ。どうするか、問題だな」

 

「今は確か――、セフティベントで制限されているんだっけ!?」

 

 

安全性を意味するセーフティを由来にしているリュウガのカード。

ギルティセーブ、この力で参加者以外を殺害する事は禁じられている。

しかし逆を言えば参加者は殺せる。いずれにせよ、何とかしなければならない話だ。

 

 

 

 

 

 

 

「オラァアッ!!」

 

「ゴフッ!」

 

 

その杏子は、丁度今、右ストレートで名前も知らない男の鼻を砕いた所だった。

大きく肩を揺らして歩いていたら、当然人とぶつかる事はある訳で、その中で生意気な事を言って来た人間を適当に殴り散らしている訳である。

 

隣にはそれを、唇を釣り上げながら見ている浅倉が。

どうやら今の浅倉はイライラしている訳ではなく、別の事を考えている様だった。

 

 

「おい! 持ってる金、全部置いてさっさと失せろ!」

 

「ひぃ、ひぃぃ!」

 

「さっさとしろよ、ぶち殺すぞクソがァア!!」

 

「は、はいぃい!」

 

 

男は血に濡れた手で金を地面へ放ると、悲鳴を上げながらフラフラと一心不乱に杏子達から逃げていく。

人のいない高架下、時間も夜と言う事で場は静寂が支配していた。

杏子は金を拾い上げると、一度自分の手を開いたり握り締めたりを繰り返す。

 

 

「ガァー! やっぱ駄目だ。顔面粉砕するつもりで殴ったのに力が出やしない」

 

 

今、杏子は変身していた。

試しに壁を殴ってみればコンクリートは簡単に粉砕できる。

しかしもっと強い力で殴った筈の男がアレだ。

鼻くらいは骨折しただろうが、命に別状は無いと言った所か。

 

 

「やっぱり、アイツ等のせいだろうな。結構時間経ってるのに、やっぱ永続的な力なのか」

 

「アァ、誰だか知らんが面倒な事をしてくれたな」

 

 

ギルティセーブ。

前に試しにとベノスネーカーに人を襲わせたが、結果は今の通り。

ベノスネーカーは人を喰わず、ましてや租借すらせずに吐き出した。

それもこれも全ては榊原達の仕業と言った所だろう。

 

 

『お前達に制約をかけた。俺たちを殺さない限り、お前は人を殺める事はできない』

 

 

舌打ちを放つ杏子。

 

 

「思い出しただけでもムカムカしてくる!」

 

 

誰だか知らないが、いきなりやってきて『邪魔』をしてくれて、そして制約である。

杏子としては榊原をまず初めに殺したいところだ。

フンと、鼻を鳴らす。今も気に入らない。と言うのも、自分だけがイライラしている様に感じたからだ。パートナー様は笑みをうかべているじゃないか。

 

 

「なんだよ浅倉、最近随分大人しいじゃんかさ」

 

「気になってる事がある」

 

「……シルヴィスのヤツか」

 

「そうだ。あのババアは必ず殺す。ただ、あの時――」

 

 

杏子と浅倉が始めて榊原と顔を合わせたのは、杏子がシルヴィスに利用されている事が分かったときだった。

両親を失い、行き場を失った杏子とモモが頼ったのは孤児施設『リーベ』、そこで杏子と浅倉は知り合い、そしてシルヴィスは杏子を利用していたのだ。

元々リーベの裏の顔であった人身売買を、杏子に手伝わせていた。

それを知った杏子は絶望。魔女になる一歩手前で王蛇に変身した浅倉に助けられたと言う訳だ。

そしてシルヴィスに復讐しようとしたとき、榊原が、リュウガが現れた。

 

榊原はシルヴィス達に危害を加えようとした杏子と王蛇を止め、セフティベントを使用、ギルティセーブの力で王蛇達に制限をかけた。

それは分かった、ムカツク話だが杏子も浅倉も十分理解している。

問題は、リュウガはシルヴィスをも攻撃したと言う事だ。

これはおかしい、リュウガの目的は王蛇達に人を殺させないようにする事だ。

しかしそのリュウガがあろう事か、一般人であったシルヴィスに炎を向けた。

 

そして浅倉と杏子は見た。黒き炎の中、確かに立っていたシルヴィスの姿を。

それだけではない、シルヴィスのシルエットが一瞬大きく揺らいだのだ。

人の形をしたものから、電球の様に丸みを帯びた物に。

 

 

「少なくとも、あれは人間の形ではなかった」

 

 

シルヴィスはその後、逃走。それから先は姿を見ていない。

ほとぼりが冷めた頃、一度リーベに戻ってみたが、そこには建物があるだけで残っていた孤児や、モモの姿も、ましてシルヴィスの姿もなかった。

 

それから今に至るまでシルヴィスと榊原を探す日が始まったが、一向に見つからない。

杏子はその事に対して苛立ちを募らせる様だが、浅倉は少し違う。

彼は理解している。リュウガの存在、シルヴィスが一瞬見せた異形の姿。

それは決して逃げられない道にあると言う事を。

 

それはお互いにとって――、と言う意味で。

つまりいずれまた必ず会い見える時がやって来る。

だから浅倉はそれを待つだけ。やがて祭りは必ず始まる。

だからこそ、その時まで力を温存させておくのだ。

 

 

「ふぅん、まあいいけど」

 

 

杏子としても色々と気になる事はある。

ここは浅倉の言う事を信じてみるかと。

 

 

「ところでさっきのヤツ、財布に三万も入ってたぜ。焼肉でも食いに行こーよ」

 

「……そうするか」

 

「食いまくろうよ、足りなかったら逃げればいいんだし」

 

 

ニヤリと笑い合う杏子と浅倉。

今回のゲームでも、お互いの危険な思想は変わってはいないが、やはり仲は良好らしい。

二人はネオンに彩られた夜の町に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

星の骸。

 

一日の終わり、そこに集まるのは絶望の結晶体。

魔獣らはミスシュピンネと言う一席を失ったにも関わらず、特に焦る事は無かった。

それもその筈だ。彼らに仲間意識という物は存在しない。

 

あるのは己の存在を示す大きなプライド。

故にむしろシュピンネの退場は魔獣達にとっては喜ばしいものでもあったのかもしれない。

もちろん魔獣が参加者に負けたと言う事実は何よりも腹立たしいものではあるが。

 

 

「ミス・シュピンネ。その名は、我らの同胞の中にはいなかった。それでいいな?」

 

 

ギアのその一言に皆は笑みを浮かべて頷く。

ただ一人、その異常性に小巻だけが息を呑んでいる。

先日まで丁重に接していた筈のバズビーでさえ、シュピンネの敗北を喜び、彼女を見下している様なのだから。

 

 

「シュピンネ様は魔獣の面汚しでございました。さあ、お次は誰が?」

 

 

すると椅子に座っている者達の中から伸びる手。

立ち上がったのはバンダナに黄色掛かったオレンジ色のロングヘア、パンクファッションに身を包んだ女性だった。

名は『アルケニー』、正真正銘の魔獣である。

初めは動くのは面倒だと思っていたアルケニーだが、シュピンネが死んだと聞いてやる気が上がったようだ。

アルケニーはタバコを咥えながらテーブルの上にあったダーツの矢を二本手に取る。

そしてそれを一気に壁に向って投げた。

 

 

「こういうのは形式が大事なんだよ」

 

 

壁には参加者の写真が貼ってあり、その中から二人の眉間にダーツが刺さる。

それは巴マミと須藤雅史。前回のゲームにおける一番初めの脱落者だ。

それにアルケニーは知っている。『お互い』の改変前の世界をだ。

その舞台においても、一番初めに消えたのは――?

 

 

「まずはこいつ等を潰す。インキュベーター、さっさと人数制限を教えな」

 

 

ギロリとアルケニーが睨んだ先には、目を光らせているキュゥべえが。

相変わらず負の正気や殺気には全く怯まず、キュゥべえは淡々と与えられたシステムの遂行を行う。

モニターに表示されるのは次の日に舞台、見滝原に降り立つ事ができる魔獣の数。

 

 

『まず、バッドエンドギアのメンバーは一人だ』

 

 

そして次にサブの人数を発表すると。

 

 

「サブ?」

 

『ああ。クララドールズや、色つきも指定させてもらうよ』

 

「成る程。で? 数は」

 

『コチラは2体までだね。今の参加者の状態なら楽勝だろう?』

 

「いいねぇ。上等だ」

 

 

ニヤリと、唇を釣り上げる。

アルケニーはタバコを手で握りつぶして火を消すと、獲物を狙う獣の目でマミ達の写真を睨んだ。

希望なんて存在しない、全ては儚い夢なのだ。

 

 

「所詮人間。進化した魔獣には勝てないって事を、このアタシが教えてやるよ」

 

 

星の骸に笑い声が木霊する。

小巻だけはバツが悪そうな表情で目を逸らしていたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

月曜日。学校が始まる日だ。

まどかは食事を終えると制服に着替え、カバンを持って家を出る事に。

その際に家族へ挨拶を行うわけだが、慣れたと思っていても泣きそうになってしまう。

ただ事情の知らない家族にとっては何のこっちゃであろう。

いちいち朝に泣いていたら本当に病院に連れて行かれる。

まどかもソレが分かっているのか、グッと涙を堪え、サキの家へ向かう事に。

 

 

「おはよう、お姉ちゃん」

 

「あ、ああ。おはよう」

 

 

玄関の前に立っていたサキは、読んでいた本をカバンにしまうと、まどかと共に歩き出した。

サキは少し頬を赤く染めてメガネを整えている。

 

 

「どうしたの? お姉ちゃん」

 

「あ、いや。お、お姉ちゃんと呼ばれるのは嬉しいやら気恥ずかしいやら」

 

「あはは、ごめんね。でも呼びたくて」

 

 

まどかは、サキの事をずっと『姉』として呼びたいとお願いをしていた。

今もサキと過ごした最期の時が目に焼きついている。

サキは姉だった、それはまどかにとって紛れも無い事実なのである。

サキとしても恥ずかしさはあったが、姉と呼ばれる事には嬉しさがある。

だから特に止める事は無かったようだ。

 

 

「ところで、まどか。最近何か良い事でもあったのか?」

 

「え? どうして」

 

「なんだか、とても良い表情をしている。うまくは言えないが、大きくなった様な――」

 

「え!? そ、そうかな? パパのご飯が美味しいから……!」

 

「いやいや! 大きくなったって言うのは体型の話じゃなくて。うーん、何と言えば良いかな?」

 

 

人間的に成長しているような。

とても良い表情をしているとサキは笑う。

 

 

「最近友人が何人か出来たと聞くが、彼らが影響しているのかな?

 

「うん。とっても良い人達だよ。今度おねえちゃんにも紹介するね」

 

「そうか、なら楽しみにしておくよ」

 

 

何気ない会話を続けながら歩く二人。

すると遅れて、さやかが眠たそうな目を擦りながら合流する。

その隣には、そう、マミだ。まどかは思わず身構えてしまう。

魔獣はまずマミを狙ってくるかもしれない、その言葉が引っかかっているのだ。

 

 

「ふぁー、おはよサキさん、まどか」

 

「おはよう二人とも、いい朝ね」

 

「ああ、おはよう」

 

「お、おはようございます」

 

 

サキはふと、周りを確認する。

 

 

「今日は仁美の姿が無い様だが……?」

 

「ええ、志筑さん少し学校を休むんですって」

 

「なんか大学でお偉い先生と一緒に研究するんだって。すっごいよね」

 

「本当か!? さ、流石だな」

 

 

仁美の両親や学校に説明するのは骨が折れたが、この世界で香川がそれなりに名の知れた教授である事が幸いした。

さらに少し魔法の力も借りて、なんとか中沢と仁美を見滝原外に留める事はできたのだ。

 

 

「あーあ、仁美ってばその先生と協力して、勉強しなくても頭がよくなる薬とか開発してくれないかなー!」

 

「み、美樹さん。ちゃんとお勉強はしないと駄目よ?」

 

「頭が良くなったら勉強するのになぁ、くぁー!」

 

「……最大の矛盾にも聞こえるな」

 

 

忘れていた日常と言う物がまどかの心を温かくしていく。

まどかは皆と笑い合いながら学校への道を目指した。

とは言え、抱えている不安が消えたわけじゃない。

いつどこで魔獣が自分達を襲ってくるか分からないのだ。

向こうにも色々と制約があるらしいが、果たしてそれがどういう物なのかはいまひとつ分からないものである。

ついついキョロキョロと周囲を確認する。だからだろうか、足が進むにつれてサキが声を掛ける。

 

 

「どうした、まどか。何か気になる事があるのか?」

 

「え? う、ううん。なんでもないよ。えへへ」

 

「んー、あやしいなぁ、確かに今日のまどかはキョロキョロしてる」

 

 

さやかは顎に手を当てて目を細める。

いつものまどかを知っている者達からしてみれば、今日の様子は明らかにおかしい。

とは言え、単に視線をいつもより多くの場所に移しているだけ。

具合が悪そうと言う訳でもない為、そこまで心配される事でもなかった。

 

 

「ははーん、さては気になる男でもできたのかなぁ?」

 

「そ、そんなんじゃないよ、さやかちゃん!」

 

 

真っ赤になってアタフタとするまどかを見てケラケラ笑うさやか。

マミも微笑ましくその様子を見守っているが、一人だけは鬼気迫る表情を浮かべてまどかを抱き寄せた。

 

 

「当然だ、まどかを狙う男がいれば、まず私を倒してからにしてもらわなければ」

 

 

サキは今にも変身しそうな殺気を浮かべて口にしている。

 

 

(あ、この人マジだ)

 

 

さやかとマミは汗を浮かべて乾いた笑みを浮かべる事に。

そもそも『倒して』とはどういう意味なのか。

これは当分まどかに彼氏ができる事はないだろう。

 

 

「お!」

 

 

ココでさやかの目の色が変わる。

発言がブーメランする時がやって来た様だ。

学校が近くなるにつれて同じ道を目指す同じ制服も増えてくる。

その中で見知った背中を見たのか、さやかはピョンと飛び跳ねる勢いで地面を蹴った。

 

 

「おっす恭介! なによ、ぼっち登校ぉ?」

 

「ウッ! さ、さやか?」

 

 

猫背気味に歩いていた上条恭介にさやかは跳びかかると、ニヤニヤと笑って上条の顔を覗きこんだ。

仁美のアシスタントとして中沢と下宮が選ばれたとは聞いている。

つまり、いつも一緒に行動していた二人がいないため、上条は一人で登校している訳である。

 

 

「背中が寂しいねぇ恭介。フフフ」

 

「ああ、本当だよ! どうして僕だけ声を掛けられなかったのか……!」

 

「さやかちゃんに言ってくれれば一緒に登校してあげるのにぃ」

 

 

ピョンと上条の背中に飛び乗るさやか。

上条も反射的にさやかが落ちないように後ろへ手を回して足を支える事に。

しばらく二人はおんぶの形で進んでいく。

 

 

「やれやれ、大勢の前で何をやってるんださやかは。上条も恥ずかしがっているじゃないか」

 

「フフフ、分かってないわねサキ。恋する乙女は行動力に溢れているのよ」

 

「な、なるほど。大胆なボディタッチからの好感度アップを狙っていると言う訳か! め、メモメモだ!」

 

 

サキは鼻息を荒くして、おそらく全く使う事のない情報をメモ帳に記載していく。

その様子を見てハッとするまどか。この時間軸でもさやかは上条に想いを寄せている様だが、記憶を辿ってみれば悲しいかな、さやかの想いが報われた時はあまりにも少ない。

 

 

(よ、ようし!)

 

 

そうだ、全てを救うんだ。

まどかはグッと拳を握り締めて一つの決意を固める。

自分の力は天使を模した物。なれば文字通りさやかの上条のキューピッドになるのも悪くはない。

 

 

「………」

 

 

とは思ってみたものの、恋なんてした事の無いまどかはすぐに黙り込んだ。

まあ、そんな意思表明はほどほどに。

その後は特に何かが起こる訳でもなく、一同は無事学校につく事ができた。

玄関でマミとサキ、まどかとさやかに別れて、それぞれは自分達の教室に向う。

 

そんな中、上条は廊下の隅でハァとため息をつく。

先ほど背中を丸めて歩いていたのは、何も友人二人が大学にて教授の研究の手伝いをしている、その事だけで落ち込んでいたわけではないのだ。

本題は、上条の胸ポケットに入っていた『箱』である。

 

 

「これ、本当に何なんだろ……?」

 

 

捨てても自分の手元にいつの間にか戻ってくる。

完全にホラーではあるが、物自体は玩具の様だ。

そんな風に見るのは当然オーディンのデッキである。

ジュゥべえは既に全てのデッキを覚醒させてある。

後は簡単な話で、変身できる事に気づくかどうかだ。

 

何も知らない人間からしてみれば何のこっちゃと言う話。

上条とて誰かに相談する事も抵抗があるので、自分自身の問題としている次第であった。

オーディンの記憶についてはジュゥべえが意図的にジャミングをかけてある。

故に、記憶を継承しているまどか達ですらその正体にはまだ気づけていない。

果たしてコレがどう転んでいくのかは、まだ誰にも分からない話なのだ。

 

さて、視点をまどか達に戻そう。

ザワザワと騒がしいクラスも、教師が入れば静まりかえるのはどこの学校も同じものである。

とは言え、今日は少し様子が違っていた。

担任である早乙女が入ってきたのに、クラスの喧騒が止む事は無かった。

 

 

「み、皆さん。世界はメシアの登場を待ち望んでいるのです。か、かつてアダムとイヴが知恵の実を齧った事で創生の――!!」

 

 

どうやら早乙女は相当独身をこじらせているらしい。

ついこの間も彼氏の浮気が発覚してからと言うもの、彼女は創生だの混沌だの悠久だのと悟りの境地に達している様に思える。

 

ああ可哀想に。

クラスの誰もが早乙女を路傍にて震えている子犬を見るような目で見る様になっていた。

いや、そんな事はどうでもいい。ザワつきが止まらないのはきっと早乙女の後ろにいる黒髪美少女が原因だろう。

 

 

「め、めっちゃ綺麗やがな……!」

 

 

さやかも喋り方がついおかしくなる程だった。

白い肌に憂いを持った儚げな表情を浮かべた少女。

早乙女の紹介と同時に、彼女は自分の名前を黒板へと書いていった。

 

 

「暁美ほむらです。よろしく」

 

 

ニコリと、少し不器用ながらも、ほむらは笑みを浮かべて見せた。

ほむらの視線はまどかへ。そのまどかはニッコリと満面の笑みを浮かべて、小さく手を振っていた。

こうして何度と無く行われてきた会合は、今再び新たなる形で行われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

さて、まどか達が学校に行っている時間、真司は喫茶店アトリに足を運んでいた。

今日は休みの蓮と、同じく学校を休んだ美穂と共に、真司はテラス席に腰掛けている。

一応真司は自由取材の時間なのだが、ココに来たのは何より、美穂に呼び出されたからである。

 

 

「で、話って何だよ」

 

「どうせ下らない話だろ。さっさとしろ、時間が無駄だ」

 

「――ッ」

 

 

美穂は腕を組んでギュッと目を閉じている。なにやら穏やかな表情ではない。

一方でコーヒーを啜っている蓮、全く興味がなさそうと言った素振りである。

対して真司は少し身を乗り出して美穂をジッと見ていた。

なんだろうか? もう一度真司が話を振ると、美穂は何度か頷いた後に、ゆっくりと目を開いた。

 

 

「真司の赤ちゃん、できちゃった」

 

「ブゥゥゥウ!!」

 

「あぢぢぢぢぢぢ!」

 

 

蓮の口から黒い霧が噴射されて真司の顔に降りかかっていく。

おいしいコーヒーが何の為に毒霧にならなければならないのか。

てんやわんやになる場だが、美穂は何度か頷くと、再び小さく呟く。

 

 

「――と、言うのは嘘」

 

「お前ッ、ふざけんな! あぁ、びっくりした!」

 

「グッ、霧島、さっさと話せ。ふざけてるなら俺は戻るぞ」

 

 

おしぼりで顔を拭いている真司と、イライラしてますと表情に乗せている蓮。

美穂は適当に謝罪すると、職場を休んでまで二人を呼んだ理由を話す事に。

表情は相変わらず深刻な物で、どうやら完全なおふざけでは無いようだ。

 

 

「実は、私、頭がおかしくなっちゃったかも」

 

「なんだそんな事か。知ってたぞ」

 

「おい蓮! いくら本当の事だからって言って良い事と悪い事が――」

 

 

美穂は笑顔でテーブルを叩く。

押し黙る真司と蓮。美穂から目を逸らして、何も言う事は無かった。

そのまま少し話を聞いてみれば、美穂は本気で自分の頭がおかしくなってしまったと思っている様で、これから精神病を受診しにいくとか何とか。

 

 

「病院って……。どうしたんだよ、一体」

 

「コレ、コレなんだよぅ」

 

 

美穂は涙目になりながら懐から『ある物』を取り出すとテーブルの上においた。

はて? 一体なんだコレは。真司と蓮が視線をそれに向けると、思わずアッと声が出る。

 

 

「これ……!」

 

「知ってるの!?」

 

 

そりゃそうだ、何故ならば美穂が置いたのはファムのデッキなのだから。

 

 

「はじめは玩具かと思ってたんだけど、これ捨てられないんだよ!」

 

「ああ、俺も持ってる」

 

「ま、マジ!?」

 

「確かに捨てられないな」

 

 

そう言うと蓮はナイトのデッキを取り出してヒラヒラと振って見せた。

蓮も捨てられないデッキに一時は怯えたものだが、だからと言って騒いだ所で捨てられないのだから仕方ない。

警察に話そうにも面倒事になるといけないので、蓮はもう割り切ったとか。

 

 

「アンタおかしいんじゃないの? どう考えても異常でしょコレ!」

 

「だからってどうなる? 現状何も害が無いんだ。放っておけばなんとかなるだろ」

 

「無い無い無い無い。楽観的すぎだろ! 真司はどう思う? かわいい美穂ちゃんが困ってるんだよ? 助けてよ!」

 

「いや、って言うか、俺も持ってるから」

 

「マジかよ!」「なんだと!?」

 

 

 

散らかるなぁ。

わいのわいのと言い合う三人。だが取り合えず真司は一言。

 

 

「持ってた方がいいと思う。このデッキは」

 

「デッキ? 何で名前知ってるんだよ」

 

「あ。いや……」

 

 

困った。まさか殺し合いの道具になるとは言えない。

かと言って騎士の事を今言えばパニックになる可能性がある。

仮に緊急事態が起きればミラーモンスターが自動で助けに来てくれそうなものだから、事情を話す時はその時で良いのかもしれない。

 

真司は此処はあえて説明しない方針を選んだ。

とは言え嘘が下手な真司だ。蓮は腕を組んでジットリと真司を睨む。

 

 

「確かにおかしいな。普段のコイツなら、この状況にパニックになってもおかしくないのに」

 

「そうそう、きっと怖くて漏らしまくるに決まってんだよ」

 

「お前ら俺を何だと思ってるんだ! 俺だってジャーナリストの端くれなんだから、こういう状況には……そう! 慣れてるんだよ」

 

「ほうほう」

 

「とにかく! こう言う未知の事態に陥ったときは冷静に、それがジャーナリストとして心得なんだよ」

 

 

真司は適当な理由を並べてごまかす事に。

蓮は達観しているし、美穂も美穂でこんな前例の無い出来事、病院に行ったとしてどうにかなる訳でもない事が分かっているのか、取り合えずは納得したようだ。

 

意外と適当なのがこの三人である。

何とかなるだろ、そんな思いで今日まで生きてきたのだから。

 

 

「とは言え、なーんか怪しいのよねぇ。本当に何も知らないのかよ真司」

 

「し、知らないよ」

 

「嘘! 教えてくれないなら別れるぞ!」

 

「付き合ってないだろ俺達!」

 

「……フン」

 

 

蓮も美穂も、訝しげな視線で真司を見ている。

 

 

(ま、まいった。こいつ等、変に鋭いんだもんな)

 

 

真司は汗を浮かべて頭をかく。

これは居心地が悪い。そう思ったとき、突如視界から黄緑色の影がフェードイン。

 

 

「や」

 

「あ、ニコちゃん」

 

「ん?」

 

 

神那ニコが手を上げて真司の前にやって来た。

 

 

「誰だ?」

 

「真司の知り合い?」

 

 

蓮と美穂は目を丸くしてニコを見る。

するとニコは無表情で真司の肩を持って、蓮達に頭を下げた。

 

 

「どうも、パパがお世話になっています」

 

「「は?」」

 

「城戸ニコです。パパの隠し子です」

 

「―――」

 

 

空気が凍った。

刹那、美穂は白目を剥いて泡を吹いて倒れた。

 

 

「美穂? 美穂ッ? み、美穂ぉおおおおおおおおお!!」

 

「真司! お前ッ! 何時の間に!」

 

「違うから! ニコちゃん! 誤解を呼ぶ様な事は止めてくれよ!」

 

「すまんす」

 

 

ワーワーと再び散らかるテラス。

真司は大きなため息をついてうな垂れるのだった。

 

結局誤解を解くのに一時間以上は掛かっただろうか?

取り合えずはニコは大久保編集長の知り合いと言う事にしておいて。真司はニコを連れてアトリを出る事に。

 

平日の昼間過ぎだ。

人の少ない並木道を、真司は息を切らして歩く。

その隣には今日も今日とてアンニュイな表情のニコさんが。

 

 

「中々エキサイティングだったな。城戸くん」

 

「勘弁してくれよニコちゃん、冗談が過ぎるって」

 

「ニコさんは助けてやったんだぞ。困ってそうだったから」

 

 

ニコは学校に行っていない為に自由人だ。

今日は適当に散歩していたらば、他の参加者が何をしているのか気になってレジーナアイで真司をサーチして様子を見に来たと。

 

そしたら彼が蓮と美穂に怪しげな視線を送られているではないか。

状況は知らないが、取り合えず乱入して場を混乱させた。

結局とそのおかげで真司は二人の質問攻めから逃げられたわけだから、むしろ感謝してもらいたい物だと。

 

 

「はぁ、そういう物かな」

 

「そういうモンでしょ」

 

 

さて、ではココからどうするかだ。

真司は一応取材中と言う事になっている。

ならばそれを利用しようじゃないかと考えていた。

 

と言うのも少し様子を見ておきたい場所があるからだ。

それを聞くと、ニコも暇つぶしについて行くと申し出た。

まあ断る理由はないか。真司はニコを連れて、早速その場所に向った。

 

バスに乗って数分、真司達の前には随分と洒落たオフィスが。

レンガ造りをイメージした入り口には『北岡法律事務所』の文字が書かれている。

 

 

「はぁ、随分と立派になってんなぁ」

 

「ココ、アレか、北岡秀一の住処か」

 

 

以前、つまり前回のゲームではビルが一角の小さなオフィスだったが、今は建物一つがまるまま北岡の事務所になっている。

なんでもココにも大きな変化が生まれたとか何とか。真司は一度咳払いをするとドアをノックしてみる。

するとものの数秒で、ガチャリと音がして大柄の男がヌッと姿を見せた。

 

 

「はい?」

 

 

前回のゲームでは一度も顔を見ていない男。

ああ、なるほど、彼が由良(ゆら)吾郎(ごろう)なのか。

真司の心の奥にはどこか懐かしい感覚もある。

おそらくはもっと過去に深く関わっていたのだろうか。

 

 

「あ、どうも。OREジャーナルの見習い記者、城戸真司です」

 

「助手のニコちゃんです」

 

「はぁ。秘書の由良っす。今日の用件は?」

 

「えーっと――」

 

 

真司は既に言葉を用意はしてあった。

OREジャーナルで今度北岡の特集を組みたいと説明し、インタビューの約束を取り付け様と言うのだ。

 

 

「ちょっと――、待っててください」

 

 

吾郎は事務所の中へ。

するとものの数分で北岡がスーツを整えながら顔を見せた。

 

 

「これはどうも、スーパー弁護士の北岡です」

 

「あ、ど、どうも。城戸真司です」

 

「いやはや、俺に目をつけるとは、OREジャーナルもセンスがいい」

 

「はぁ。ど、どうも」

 

 

相変わらず自信満々と言った様子の北岡。

しかし辺りを見回すと、訝しげな視線を真司に送る。

 

 

「ところで、女性はどこに?」

 

「え? 女性?」

 

 

ココにいる女性はニコだけだ。

それを知ると、北岡は苦虫を噛み潰したような表情で吾郎を呼ぶ。

 

 

「ちょっと吾郎ちゃん。確かに俺は女性がいるなら応じるって言ったけど、これは女じゃないよ」

 

「は?」

 

「まだガキじゃない。俺が子供嫌いなの知ってるでしょ? ないない、ありえないって」

 

 

北岡はニコの頭をポンポンと叩きながら熱弁を。

 

 

「今度来る時は美人の記者さん連れてきてよ。じゃ、また」

 

 

ガチャン。北岡はさっさと扉を閉めて事務所の奥へと消えていく。

 

 

「………」「………」

 

 

取り残された真司たちの背中は寂しげである。

 

 

「北岡――、アイツ、相変わらず嫌なヤツだったな」

 

「ぶっ殺してぇ……!」

 

 

真司はニコをなだめつつ帰ることに。

まあ、見た限り顔色も良さそうだったし、現状はなんとも無いようだ。

だがループの中で北岡の病は絶対だ。それはもちろん今回も例外ではない。他の参加者とは違い、北岡には勝たなければ自らの命がなくなると言う『爆弾』がある。

それを踏まえ、北岡を仲間にする方法は、今の真司とニコには分からない。

 

 

 

 

 

 

電車。

 

多くの人間が利用する交通機関であり、平日の昼間であったとしても車内には多くの人間が座っている。

まもなく駅だ。降りようとする人間は皆準備を整える。

その中でアルケニーはタバコに火をつけ、吸い込んだ煙を吐き出す。

煙はすぐに狭い車内に充満し、多くの人が顔を顰めた。

 

アルケニーはその中でニヤリと笑う。

タバコは良い。趣向品であるソレその物には全く興味が無いが、タバコの煙を人間は嫌う。

その際に発生する負が魔獣にとっては良い快楽を与えてくれる。

 

 

「人が持つ才能はバラバラだ。だが、なんの才能も持たない人間なんていない。誰もが一つだけ共通して持っている才能がある。なにか分かるか?」

 

 

つり革の上に座っていたキュゥべえは首をかしげた。

アルケニーはキュゥべえが見えるが、周りの人間はそうじゃない。

突然電車の中でタバコを吸いはじめ、独り言を言う女に誰もが恐怖を示す。

 

 

『さあ?』

 

 

その恐怖のエネルギーもアルケニーにとっては趣向品なのだ。

そしてキュゥべえには答えを告げる。

 

 

「人を傷つける才能だよ」

 

 

すると同時に、電車に乗っていた男性の一人がアルケニーの肩を叩く。

 

 

「ちょっと貴女、ココは禁煙ですよ! みんなの迷惑になるから、火を消しなさい」

 

 

アルケニーは、ニヤリと笑った。

 

 

電車が駅について、扉が開く。

するとまずは悲鳴が聞こえた。そしてザワつく声。

 

 

『何をしているんだい?』

 

 

一番初めに電車を降りたのはアルケニーだった。そしてより大きなザワめきが起こる。

なぜならアルケニーは先ほど注意を行った男性の髪を掴んで引きずっており、鼻を鳴らすと駅のホームにその男性を放り投げた。

悲鳴が聞こえる。男性は既に顔が変形するほど殴られており、呼吸も弱弱しかった。

 

 

「キュゥべえ、コイツはどうなる」

 

『うーん、応急処置の次第で生死が分かれるといった所だろうね』

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

 

アルケニーは血のついた拳を開いたり握り締めたり。

これはテストだ。魔獣はこの箱庭、見滝原において大量殺人や過剰な殺意を抱くと、活動制限が設けられる。その具合を知りたかったという事なのだろう。

 

 

「コレはどうだ。アタシは星の骸に戻されるのか?」

 

『この程度では大丈夫だよ。まあでも、一人が死んだ時点でカウントダウンが始まる。そしてもう一人ずつ殺すたびに制限時間は短くなる』

 

 

魔獣が箱庭で大暴れされればゲームどころではなくなる。それを危惧しての事だった。

 

 

『いずれにせよ、キミ達の目的は参加者の排除だろう? ボクとしてもゲームにおける存在価値のない連中に構われても困る』

 

「確かに。オーケー、だいたい分かった」

 

『動くのかい?』

 

「いや、アタシはシュピンネとは違って慎重なんでな。少しテストさせてもらう」

 

 

アルケニーはニヤリと笑って歩き出した。

駅のホームにはすぐに警備員が駆けつけるが、その時には既にアルケニーの姿はなかった。

その後も警察が加わり捜索が続いたが、アルケニーが見つかることはなかった。

 

当たり前か。

人間を超越した彼女が人間に捕まるなど、おかしな話だ。

既に駅の隣にあったビルの屋上にてアルケニーは外界を見下ろしている。

 

 

「来い、色つき」

 

 

アルケニーが指を鳴らすと、上空から『黒』が降ってくる。

頭部の形状は量産型の魔獣と変わりないが、服装は黒いローブであり、細い腕と足にはチェーンが巻きついている。

 

顔に張り付いているモザイク状のエネルギーも黒色であり、なによりその手には他の魔獣とは違う巨大な鎌が。

色つき魔獣。『死神』は、アルケニーの前に跪くと、指示を待つ。

さらにアルケニーの手にはダークオーブが握られている。

魔女の口付けの紋章は暗闇の魔女ズライカであった。

 

 

「さあ、はじめるか」

 

 

メキメキと音を立てて変身していくアルケニー。

オレンジ色を貴重としたメタリックなボディ。そしてモチーフは蜘蛛。

アルケニーはその正体、『ディスパイダー』となり、再び眼下に広がる世界を見るのだった。

 

 

 

 

 

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