仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第76話 俺達は誰もがその黒を抱えている

 

 

「ん?」

 

 

榊原はデッキが発光したのを感じた。

異変を感じて中を見てみると、そこには二枚のカードが追加されている。

アドベント、絵柄にはゲルトルートとクリフォニアの文字が。

 

 

「何だこれは?」

 

 

すると目の前にキュゥべえが現れた。

まだゲームは始まっていない。なので、最低限の情報は教えてくれる様だ。

キュゥべえははじめ、あくまでも魔法少女のサポーターだった。

裏がありすぎたせいで、今までが今までだった為につい忘れがちになってしまう。

 

 

『魔女のカードが追加されたね。それは、技のデッキの特徴だよ』

 

「そう言えばそんな効果があったな」

 

 

全13の(今は15だが)デッキの中で特殊な物は二つ。

その一つが技のデッキ。純粋にスペックが高い『(オーディン)』とは違い、特殊能力に秀でた物だ。その一つが前回のゲームでも猛威を振るった魔女の使役である。

 

 

『今回は魔女のコア、ダークオーブから魔女が解放された時、そのデッキに魔女が追加されると言うわけさ』

 

 

カードにある魔女は契約モンスターと同じ扱いとなる。

つまり騎士本体さえ死ななければ破壊されても時間が経てば蘇生されると言う訳だ。

フムフムと唸る榊原と、遠くの方で耳を澄ませているユウリ。

魔女を自由に使える。これは戦いにおいてかなりのアドバンテージになるだろう。

 

 

(つまりなんだ、ダークオーブが解放されればそれが誰が解放したかに関係なく、アタシの力になるわけか)

 

 

ユウリは爪を噛む。

少し動き方を考えなければならないのかもしれない。

 

 

「ところでキュゥべえ、ゲームはいつ始まるんだ?」

 

『まだだよ。今、最後の一人を決めかねていてね』

 

「?」

 

 

どうせゲームが始まれば分かる事。

キュゥべえは特に隠す事もなく榊原に情報を与える。

騎士の数は15人、しかし魔法少女は14人、コレではゲームが始められない。

なのでキュゥべえは新たに一人の魔法少女を用意しなければならない。

それが出来た時こそがゲームの開始だ。

 

 

「キュゥべえ、新たに一人の少女と契約する気か?」

 

 

目を細める榊原。

何も知らない少女を罠にはめる様な契約の仕方は、榊原にとっては不快な物だった。

できるならば止めたいと言うのが本音だ。

しかれどもそれが無理だと分かっているのも辛い所である。

 

 

『その点については深く言えないけれど、既に候補は固まっているよ。そう遠くない内に顔見せができるだろうね』

 

 

もちろん、『うまく行けば』の話だが。

キュゥべえは最後にそう付け加えた。

意味深な言葉に聞こえるが、果たして――?

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

まどか達はマミに誘われ、マミの自宅でお茶会を開くことに。

普段はパトロールの後にお茶会を開く事が多いが、今日は違う。

というのも、『顔合わせ』をするためだ。

 

 

「真司さんに手塚さんね」

 

「ああ、よろしくマミちゃん」

 

 

まどかとほむらは、自分たちのパートナーが見つかった事をマミたちに報告する。

まどかが真司をベタ褒めするものだから、マミ達は特に警戒する事はない。

幸い、真司と学校関係者の美穂が知り合いだというもの助かった。

手塚については、マミ達もやはり女の子なのか。占いが得意と聞くと、すぐに手塚の周りに群がり始める。

 

 

『巴マミ。お前は自分が信じたものを信じろ。それが正しければ、必ず幸福は訪れる』

 

『美樹さやか。お前の恋は簡単だが難しいな。タイミングを間違えなければ失敗しないだろう』

 

『浅海サキ。寛大になる事がお前の課題になりそうだ。カルシウムは取った方が良い』

 

 

それらしい事を言うと、それぞれは笑顔で盛り上がっていた。

が、しかし、曖昧な笑顔を浮かべている者が確かにいる。

例えば当の真司や手塚であったり。その理由は簡単、現在彼らの視線の先には、マミ達を見て微笑んでいる『男』がいた。

 

 

「凄いですね手塚くんは。若いのに将来の夢をはっきりと決めてて」

 

「いえ、まだ趣味のレベルですよ」

 

 

須藤雅史。

一見すれば優しそうな好青年ではあるが、真司も手塚も警戒しているのは『記憶』があるからに他ならない。

ループ下における善悪の比率はもちろん人によって異なる話だが、須藤は黒寄りであると記憶している。

 

前回のゲームおいて須藤は歪んだ正義感に狂わされて暴走を起した。

では果たして今回はどうなのか――?

今現在では判断がつかない。まあ流石にすぐに攻撃を仕掛けてくると言うのはありえないとは思うが、いずれにせよ手放しにはできない存在でもあるのだから。

 

 

「と、とにかく! これからは一緒に戦う仲間として、よろしくお願いします!」

 

「ええ、共に魔女を倒しましょう」

 

 

真司が差し出した手を、須藤は笑顔で取るが、果たしてこの関係がいつまで続くのやら。

さて、いつまでも楽しいお話とはいかない。マミたちの使命は魔女を倒す事。パトロールを欠かしてはならない・

 

 

「それにしてもマジカルガールズに暁美さんが来てくれて本当に嬉しいわ。丁度ブラック担当の人がほしいと思ってたの」

 

(そう言えばあったな、そんなの……)

 

 

はしゃぐマミだが、真司たちとしては緊張の時間である。

おそらく、バッドエンドギアの一員は既に見滝原に降り立っている。

外に出ればエンカウントの確率も当然上がるわけだ。

 

 

「人数も多いし、分かれましょうか」

 

 

マミはまだ真司と手塚がルーキーだと思っているため、話し合いの結果、龍騎ペアとマミ。

須藤とライアペア。さやかとサキの三手に分かれる事になった。

空を見上げれば夕焼けと夜の境界線が見える。真司とまどかはアイコンタクトを取ると、小さく頷きあった。

 

 

「よ、ようし、真司さん。マミさんはわたし達が守ろうね」

 

「お、おっけ。俺に任せろ!」

 

 

真司とまどかは、カサカサとマミの周りを忙しなく動き回る。

本人達は気づいていないだろうが、流石におかしい動きに、マミは思わず笑みを零した。

 

 

「ウフフ、どうしたの二人とも、落ち着きがないわよ」

 

「き、決めたんです。わたし達、マミさんを守り隊を結成しようって」

 

「えぇ? 私を? いきなりどうしたの?」

 

「え、えぇっと……」

 

 

曖昧に笑う。

そこまでは言葉を用意していなかったのだろう。

しかし、すぐに新しい言葉は浮かんできた。

 

 

「そのままの、意味ですよ」

 

「え?」

 

「マミさんを、守りたいから……」

 

「まあ!」

 

 

真剣に見つめてくるまどかの視線に、思わずマミは赤面してしまう。

はじめは冗談かと思ったら、まどかからは本気さが伝わってくるじゃないか。

そう、本心なのだ。本心。その想いを汲み取ったのか、真司は笑みを浮べてマミとまどかの肩に軽く手を置いた。

 

 

「まどかちゃんは、マミちゃんを心配してるんだよ」

 

「そ、そうなの? 鹿目さん」

 

「はい。マミさん、とっても――、その、頑張ってるから!」

 

 

マミがおかしくなるのは、いつも背負い過ぎてしまうからではないか。まどかは今、そう思った。

ほむらが言った事は、まどかにも理解できる話だ。マミは強いが弱い。

それはあまりにも一人で背負うものが大きいからだ。

だから、どこか、疲れてしまう。

 

 

「あの――ッ、わたし、うまく言えないけど!」

 

 

まどかはマミの夢を見た。

ワルプルギスと戦う前に見た夢。そこで心に響く言葉をマミから貰った。

深層心理なのか、それとももっと大きな奇跡だったのか。

それは分からないが、その時の人間がマミだったのは、きっと意味のある事なんだと思いたい。

 

 

「マミさんは、わたしの憧れだから」

 

「!」

 

「だから、その、もっと頼ってくださいね」

 

 

それを聞くとマミは嬉しそうに笑い、まどかを抱きしめる。

いきなりの行動に今度はまどかが赤面する番だ。

対照的に、マミは落ち着いた笑みを浮かべていた。

 

 

「ありがとう鹿目さん。とっても嬉しいわ。でも不思議、なんだか急に成長したみたい」

 

「え、えへへ」

 

「じゃあ、ちょっと甘えようかしら」

 

「う、うん! 任せてください! 行こう真司さん!」

 

「よっしゃ! 任せてよまどかちゃん、マミちゃん! どんなヤツが来ても俺がバシィイっとやっつけてやるからさ!」

 

 

等と、意気揚々と歩き出したはいいものの。

二分後、そこには青ざめて震えている真司たちの姿があった。

 

 

「こ、こっちくんな!」

 

「ワンワン!」

 

「ひぃい、どうしよう真司さん! こっちに来るよぉお」

 

「やれやれ……」

 

 

真司もまさか『The・ANSWER』の初敗北が『野良犬』とは思っていなかっただろう。

仕方ない。苦手なものは苦手なのだ。まさかリードに繋がれていないだけでココまでの威圧感が放たれるとは!

野良犬が一歩前にでると真司も一歩後ろに下がり、道端に落ちていたバナナの皮で足を滑らせ転倒。

しばらくうめき声をあげながら地面を転がっていたが、その内に真司は動かなくなった。

 

 

「ごめん……、まどかちゃん。俺もうダメ」

 

「真司さぁああああん!!」

 

 

まどかは涙目で真司の肩を残像が出るほどの高速で揺すっている。

その動きに興味を持ったのか、野良犬が真司に近寄って頬をペロペロと舐めていた。

なんだこのカオス絵図。マミは頭を抑えて、大きくため息を。

どうやら二人に守られるのは、まだまだ先の事になりそうだ。

 

 

 

 

 

一方コチラは手塚達。

人通りのない場所を優先的に歩き、魔女がいないかを確認している。

とはいえ早々エンカウントするものでもなく、半ば散歩と言う状況になっている次第だ。

手塚を中心に、左にはほむら、右には須藤が。

 

 

「須藤さんはなぜ刑事に?」

 

「恥ずかしい話ですが、子供の頃に刑事もののヒーローに憧れて、他に特に夢もなかったので、そのまま――」

 

「凄いじゃないですか。滅多になれない職業だ」

 

『よく言うわ。ゲームの引き金になるくせに』

 

「………」

 

 

チラリと隣を見る手塚。

ほむらは先ほどから押し黙っている様に思うが、実際はトークベントで手塚のみと会話をしている。

ほむらとしても少なからず前回のゲームで思う所があるのか、須藤には警戒を抱いているようだ。

 

 

『まあ落ち着け。まだ須藤は善良な人間だ。俺には分かる』

 

『なに、お得意の占い? 私もラッキーアイテムくらい教えてほしいわ』

 

『そうだ。って、ちょっと待て。お前ちょっと小馬鹿にしてないか』

 

『ジョークよ、ジョーク』

 

『………』

 

『ごめんなさい。考えてもみれば私だって前回のゲームで浅海サキを裏切ったものね。そういう意味では須藤と何も変わらな――』

 

『いちいち重いなお前は! 別に気にするな。今は今だ、それを考えろ』

 

 

変わろうとしているのは分かるが、なんだかやりにくい話である。

まあ無理もないか。人間そう簡単には割り切ったり変われない生き物だ。

それを手塚も理解している。もちろんそれは須藤にも言えることだ。

 

 

「占い師も素敵だと思いますよ。なぜ目指しているんですか?」

 

「ああ、えっと、俺は――、そう。運命を視たかった」

 

 

親友である斉藤雄一の事を端的にではあるが、須藤に話した。

この世界でも雄一を守る事はできなかった。

しかし、逆を言えばだからこそ手塚の手にはライアのデッキがある。

その運命を、手塚はなによりも大切にしたい。

 

 

「俺達人間は神にはなれない。未来が見える訳ではないし、世界を望む物には変えられない。けれどせめて、何か一つ、縋る物があってもいいと思って」

 

「そうですか。それは――、なんと言っていいか……」

 

「いや、いいんだ。俺もまだ『答え』は分からない」

 

 

しかし事実は事実だ。

手にした力と、今自分がココに来るまでに体験した感情。

 

 

「だが俺みたいな人間は珍しくないはずだ」

 

 

誰もが鍵を握り締め、今日もどこかで扉を探している。

そんな人間にせめて光を見せてやりたい。それは手塚の本心だ。

 

 

「俺は運命に縛られていた。だがそれは間違いではないと思いたい」

 

 

それを理解して、尚、運命の傍にいる。それこそが手塚の目指す未来だ。

 

 

「私も運命に振り回される人間はよく見てきた。なるほど、確かに縋る物が必要なのかもしれない」

 

「人間、皆なにかしらは背負ってるものさ」

 

「………」

 

 

手塚の言葉に、ほむらは少し眉毛を動かした。

するとココで須藤の携帯に着信が入る。同僚の刑事かららしい。

 

 

「すいません。少し外します」

 

 

須藤は携帯を持って手塚達から離れていくと、曲がり角の向こうにあったコンビニの傍で話し始めた。一方で近くにあった建物の壁にもたれかかった手塚達。魔女の気配はない、今日は何事もなく終わってくれるだろう。

 

 

「須藤はまだ狂ってはないようね」

 

「だが監視は続けた方がいい。なるべくなら、誰も犠牲にはしたくない」

 

「………」

 

 

首を振るほむら。

 

 

「それは無理よ」

 

「だろうな。だが、せめて参加者だけは闇に落ちないでほしい。榊原もその意味を理解して、王蛇ペアにセーフティをかけているんだ」

 

「でも――。いえ、そうね、あなたの言うとおりだわ」

 

 

ほむらも変わりたがっている。

だから考え方を変えようとしているのだろう。

 

 

「それにしても、鹿目と一緒が良かったんじゃないか?」

 

「なに、突然」

 

「想い人と少し離れる相が出てた」

 

「……便利な占いね」

 

 

まあ、だが本心である。

ほむらとしては常にまどかと一緒にいたいといっても過言ではない。

 

 

「次からは城戸と交代してもらえるように、俺が言っておくよ」

 

「いえ、別にいいわ」

 

「だが――」

 

「苦手なの」

 

「え?」

 

 

 

無表情ではあったが、どこか複雑そうな空気が漂っていた。

それはあくまでも、パートナーである手塚にのみ分かりそうな変化ではあるが。

 

 

「私、巴マミが苦手なの」

 

「……なるほど」

 

「だからコッチでいいわ」

 

 

沈黙。

手塚は小さくため息をつくと、ポケットからマッチを取り出して火をつける。

そしてその火をふと、ほむらにかざした。

 

 

「なに、突然。また占い」

 

「まあな。割と自信がある」

 

 

そして手塚はニヤリと笑う。

 

 

「お前のラッキーアイテムは蜂蜜だ」

 

「は?」

 

「教えて欲しいって言っただろ? 俺の占いは当たる」

 

「……下らない」

 

 

そこで電話を終えて、歩いてくる須藤が見えた。

手塚はニヤリと笑ってそちらへ歩いていく。

ほむらは呆れた様にため息をつくと、手塚の背中を追いかけた。

しかし須藤と合流すると、ほむらは二人をスルーして歩いていく。

 

 

「ごめんなさい。個人的な買い物があるから、少しそこのコンビニに寄るわ」

 

「え? ああ、じゃあ前で待ってるよ」

 

 

コンビニ入っていくほむら。

今度は手塚と須藤が残されることに。

 

 

「たしか電話は、同僚の刑事の方でしたか?」

 

「ええ。知ってますか? 今日、駅で起きた事件」

 

 

事件の内容は、タバコを吸っていた女を注意した男性が暴行されたと言うもの。

しかしその犯人の女が全く見つからないのだと言う。

防犯カメラにも映っておらず、病院に運ばれた男性は危険な状況なのだとか。

 

 

「明らかにおかしい。殴られた男性の傷から察するに、人間が――、しかも女性が素手でできる傷ではないと」

 

「……いいんですか? 俺にそこまで話しても」

 

「ええ。手塚君は騎士ですからね」

 

「成程、つまり魔女の仕業だと」

 

 

手塚は知っている。

それは"魔女の仕業ではない"と言う事を。

 

 

『ほむら、魔獣の情報が入った』

 

『場所は?』

 

『駅だ。ここからは――、そう遠くないな』

 

『おそらくテストでしょうね。見滝原でどれだけ動けるかの。もしくはただ単に人を襲った馬鹿か』

 

 

 

ココでコンビニから出てくるほむら。

須藤と合流し、三人は再びパトロールを続けることに。

 

 

「それにしても大荷物だな」

 

「何を買ったんですか、暁美さん」

 

 

袋の中には大量の箱が見えた。

 

 

「キャロリーメート。好きなの」

 

 

栄養食だ。

だがココで焦ったような声が。

 

 

「お客様! ちょっとお待ちください!」

 

「え?」

 

 

ほむらが振り返ると、コンビニの店員が慌てた様に駆け寄ってくる。

どうやらバイトらしく、一つ大きなミスを犯してしまったらしい。

 

 

「別にしてた袋を渡すのを忘れてしまって、コレ!」

 

 

話を聞くに、バイトの店員さんが、ほむらが買った商品を一つレジに置き忘れてしまったらしい。

人間誰にでもミスはある。

特に何も思わなかったのだが……。

 

 

「すいません。これ、ハチミツです!」

 

「あ……」

 

 

ほむらは額に汗を浮かべ、頬を赤くしながらハチミツを受け取っていた。

それは、手塚が初めて見る表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行け」

 

 

ああ、なんと言うのか……。

平和には終わってくれないのが世界の意地悪な所であろうか。

それは突然だった。マミの視界から飛び出してきたのは、『暗闇の魔女』の使い魔達であった。

ローブに身を包んだゴフェルと、線画で猫をかいたようなウラ。

その群れがマミ達の前に現れ、直後斜め上に飛んでいく。

 

 

「なにアレ!」

 

「使い魔!」

 

 

いつもの使い魔としては少しおかしな点がある。

まずは集団である事。そしてもう一つはすぐ近くにいるマミ達には全く関心がない事だ。

一体どうなっているのか。混乱する三人の前に、さらなる混乱が現れる。

 

 

「ッ、アイツは!!」

 

 

真司がマミとまどかを庇うように立つ。

見上げる先、マンションの屋上にいたのは、黒いローブをなびかせている『死神』の姿であった。

そしてその左右には従者型の魔獣が控えている。既にモザイクを光らせており、中央の死神もまた同時にモザイクからレーザーを発射した。

 

 

「変身!」

 

 

だがそのレーザーは通用しない。真司を中心にして広がる龍騎の紋章。

スキルベント・ドラゴンハートが例外なく発動され、真司はその中で腕を斜めに突き上げる。

すると体が赤く発光。龍騎の紋章が砕け散っていく中で、変身は完了される。

 

 

「カカカカ……!」

 

「アイツ!」

 

 

死神は笑みを浮かべると、踵を返して跳躍。マンションの向こう側に消えていった。

一方で右の方へ浮遊していく従者たち。さらにズライカの使い魔達は、左の方へと飛翔している所だ。

 

 

「分かれましょう!」

 

「ッ、でも!」

 

 

マミは変身し、リボンを伸ばして従者を拘束。

 

 

「鹿目さん。城戸さん。逃げた方をお願いできるかしら!」

 

「え? あ……ッ」

 

 

焦ったように顔を見合わせる龍騎とまどか。マミからは離れたくない。

しかし確かにこの状況。三方向に分かれなければ、敵が一般人を襲う可能性もあった。

幸いにマミが相手にするのは量産型。マミ一人でも十分相手にできるレベルだ。

 

 

「危なくなったらキュゥべえのテレパシーで呼ぶから! ね?」

 

「そうか、テレパシー、まだ使えるのか……!」

 

 

だとすれば龍騎達は行動に出ざるを得ない。

彼らにとってマミは大切だが、一般人も同じくして大切なのだ。

いや、むしろ。

 

 

「鹿目さん。私達が魔法少女になった理由、思い出して」

 

「は、はい!」

 

 

そう、すべては正義の為に。人を守るためにだ。

まどかは魔法少女に変身すると、光の翼を広げて地面を蹴った。

 

 

「え! 鹿目さん、いつの間にそんな技を!?」

 

「あ、えっと、覚えましたぁ! えへへ」

 

 

そんな会話も混ぜつつ、まどかはゴフェル達使い魔を追いかける。

 

 

「本当に危なくなったらすぐ呼んでくれよ!」

 

 

龍騎も少し迷ったようだったが、死神を追いかけるために走り出した。

騎士のスペックならば普通に走ってもそれなりの速度は出せるが、マンションを挟んでいるため、油断はできない。

そもそも向こうも異形の者だ。このまま走っても追いつくかどうかは微妙ではないか。

さらにいくら人気がない時間と言っても、騎士のままで、それも死神もいるこの状況は現実世界にとってはあまり好ましくない。

 

 

「ッ、そうだ!」

 

 

手を叩く龍騎。何かを閃いたようだ。

すると彼はそのまま一気にスピードを上げ、マンションの入り口のガラスに思い切り突っ込む。

当然ガラスは粉砕される筈なのだが、龍騎に備わった能力が発揮される。

 

体がガラスの中に沈んでいく感触。

水の中に入ったような抵抗感を感じると、龍騎は別世界への侵入を果たす。

そう、ガラスは龍騎の姿を反射していた。つまり鏡なのだ。

ミラーワールドに入った龍騎、これならばいくら全力で走っても人には見られまい。

 

さらにココで思わぬ事態が起こる。

と言うのも、キィインと言うやや高いエンジン音が聞こえたかと思うと、見知らぬマシンが高速で登場、龍騎の真横に停止した。

 

 

「わ、わ、わ! なんだコレ!」

 

 

驚き仰け反る龍騎。

一見すると屋根がついているバイクの様だが?

するとスチームと共に屋根が展開。シートにはジュゥべえの姿があった。

 

 

『チャオ』

 

「じゅ、ジュゥべえ! お前が運転してきたのか!」

 

『んな訳ねーだろ。オイラのプリチーなお手手じゃハンドルに届かねぇから。自動操縦だよ、まあ今回だけだが』

 

「どういう事だよ。だいだい、なんなんだよコレ」

 

 

今の真司には記憶がないため、ジュゥべえは説明しなかったが、神崎優衣がバグらせたデータの中に入っていたものを運営が『新要素』として登場させた物だ。

それがこのマシン、『ライドシューター』である。

ジュゥべえは一枚のカードをどこからともなく取り出すと、それを龍騎に投げ渡した。

 

 

『騎士全員に与えられる新カード。アドベントサイクルだ。それがあればミラーワールドにてライドシューターをいつでも呼び出せる』

 

「じゃあコレ、使っていいのか!」

 

『もちろん。運転方法は頭の中にぶち込んでおいたから、どんなとんま野郎でもコイツだけはスーパーなドライビングテクが披露できるぜ』

 

「よし! じゃあ! あ、ちょっと失礼」

 

 

龍騎はジュゥべえの体を両手で掴むと、シートから退けて地面に立たせる。

そして入れ替わりでライドシューターに乗り込むと一気にアクセルを吹かした。

 

 

「おわああああああああああ!!」

 

 

ギュン! と、風を切る音。

一瞬で線へ変わる景色。龍騎が想像していたよりも遥かな超スピードで、ライドシューターは発進する。

前にあったフェンスやコンクリートをぶち抜きながら、龍騎はそのままジュゥべえから離れていくのだった。

 

 

『あらあら派手に壊しちゃって……。ま、いいか。どうせミラーワールドで何しようが現実世界には影響ねーんだし』

 

 

ジュゥべえは特に興味もなく、そのままトコトコと帰っていく。

一方、龍騎が追っている死神もまたそれなりのスピードで移動しているところだった。

建物と建物を跳躍で移っていき、龍騎から離れていく。

 

そしてふと目にするのは、小学校の前を通ろうとしていた女性だった。

携帯電話で話し込んでおり、上空から飛来してくる死神には気づいていない。

雑魚タイプの従者は人には見えにくく、それを活かしてストーカーの様に張り付き、瘴気を撒き散らして人間の感情を食す。

 

しかし上級魔獣『色付き』は、その一歩上を行くのだ。

人の魂を、刈り取る。

 

 

「カカカカカカカ!!」

 

 

死神は笑い、思い切り鎌を振り上げた。

が、しかし。その体が一瞬でフェードアウトする。

 

 

「?」

 

 

風を感じ、電話中の女性は頭上に視線を移す。

しかし何もない。だから女性は気にせず、談笑しながらそのまま道を歩いていった。

 

 

「ガハァ!!」

 

 

痛みと衝撃に声を漏らす死神。

一回、二回、三回バウンドした後に、学校玄関横にあった校長の銅像にぶつかり、破片と共に地面に落ちた。

一方、正面玄関前に停車したライドシューター。そこから龍騎が飛び降り、握りこぶしを構えた。

ライドシューターで移動した龍騎は、女性を襲おうとした死神を見つけミラーワールドから飛び出ると突進。

そのまま前方にあったカーブミラーを介して、ミラーワールドに再び侵入したというわけだ。

 

 

「ホロロロロロロ!!」

 

 

怒っているのか、死神は全身を震わせながら立ち上がる。

どうやら声は出せるが、まだ言葉は理解していないらしい。

しかし唯一、殺意だけは人間を遥かに超越している。死神は巨大な鎌を持ち上げると、奇声をあげながら龍騎のもとへ走りだした!

 

 

「来い! 魔獣!!」

 

 

上級魔獣とは言うが、龍騎は怯まない。それだけの自信と実力があったからだ。

だてに前回までの記憶を覚えているだけはある。数々の戦いの記憶を持った今の龍騎の実力は、今までとは比べ物にならない。

 

見よ。

上から下に大きく振るわれた鎌は、体を反らしなんなく回避。

今度は真横に振るわれた鎌だが、龍騎は姿勢を低く、地面を転がることで回避して見せた。

 

位置が入れ替わる。

しかし死神も龍騎の動きを視線で捉えており、振り向き様に再び鎌を振るっていた。

龍騎は立ち上がりながら、それをしっかりとキャッチ。

それぞれは切断する側と、受け止める側に力を込めあい、競り合いを始める。

 

 

「クカカカカ!」

 

「うるさいな! ちょっと黙ってろよ!」

 

 

弾きあう両者。

距離を詰められると、リーチの長い鎌は逆に不利となる。

死神は刃ではなく柄頭、つまり何もない方の先端部分で龍騎を突こうと試みる。

しかしそれを"読んでいた"。龍騎は攻撃を払うように受け流すと、ラリアットで逆に死神の首を刈り取る様に地面へ倒していく。

 

 

「ギャギッ!!」

 

「オッラァ!」

 

 

さらに龍騎はそのまま肘で打つように地面へ倒れる。

完全にプロレス技だが威力は抜群だ。死神は苦痛の声を上げ、ダメージを受けているのがリアクションで理解できる。

 

が、しかし仮にも死神は上級魔獣だ。このまま終わるわけもない。

黒いエネルギーが見えたかと思うと、死神を中心に爆発。

龍騎はその衝撃で体が大きく吹き飛んでいく。

 

 

「うわぁああ!」

 

 

地面に叩きつけられる龍騎と、立ち上がる死神。

先に動いたのは死神の方だった。手に巻きついているチェーンを投げ伸ばすと、今まさに立ち上がったばかりの龍騎の首へ巻きつける。

 

 

「グッ! く、首がしま――ッ!」

 

「カカカカカカ! キガカカカカ!!」

 

 

力を込めるが巻きついた鎖が外れる気配はない。

そのまま死神がチェーンを持って振るうと、龍騎は操り人形のように辺りを移動する。

さらにその間は隙だらけだ。死神の顔からレーザーを発射されて、命中。

龍騎の体から大きな火花が散り、苦痛の声が漏れた。

 

 

「イェァアア!!」

 

「う、うわぁあああ!!」

 

 

死神が思い切りチェーンを振るうと、龍騎の体が簡単に投げ飛ばされる。

空中を二回ほど回転しながら、龍騎は校舎の壁に叩きつけられた。

死神は地に刺さっていた鎌を引き抜くと、瘴気を纏わせて思い切り振るう。すると三日月状のエネルギーが発射され、壁に張付けられていた龍騎に直撃した。

また苦痛の声。瓦礫と共に地面に落下した龍騎は、玄関前の階段上に落下し、そのまま地面に滑り落ちた。

 

 

「カッ! カッ! カッ!」

 

 

無様な姿だと死神は笑いながら、龍騎にトドメを刺すべく走り出す。

龍騎はまだ衝撃が体に残っているのか、呻き声を上げながら気だるそうに座り込んでいた。

このままだと確実に鎌の一撃を受けることになるが、ふと、龍騎は左腕を前に出した。

 

すると炎が迸り、ドラグバイザーが変形。

その時に発生された熱波が死神を怯ませ、後退させていく。

立ち上がった龍騎。その手には『ドラグバイザーツバイ』が握られていた。

そしてその手がデッキに伸びる。

 

 

「……ッ」

 

 

一瞬、沈黙。

 

 

「いや、いや! 決めた!」

 

 

龍騎は首を振ると、直後デッキから手を離し、地面を蹴った。

ドラグバイザーツバイを解除し、ドライバイザーに戻すと、その際に迸った炎を拳に纏わせ――

 

 

「ォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

咆哮を上げ、怯んでいる死神の顔面に全力のストレートを叩き込む!

 

 

「ゴ――ッ! ギャアアアアアアアア!!」

 

 

頬にめり込んだ拳。

死神は叫び声をあげてきりもみ状に回転し、後方へ吹き飛んでいった。

 

 

「ッシャア!!」

 

 

龍騎は大地を踏みしめ、気合を入れる。

そしてそのまま、地面を転がっている死神を強く指差した。

 

 

「やっぱりお前らは、一発殴らないと気が済まない!!」

 

「グッ! ガァア!」

 

 

果てなき希望を背に、走り出した龍騎。

対して死神は怒りに地面を殴りつけながら立ち上がった。

再びジャラジャラとチェーンを鳴らし、それを投擲する。

 

龍騎は今度は当然よけてやろうと意気込むが、どうやらチェーンには魔力が宿っているらしく、死神の思ったとおりに動いていく。

不規則な動きに気をとられていると、死神が放ったレーザーに気づかずに直撃を許してしまった。

龍騎はダメージに動きを止め、その隙に再び首にチェーンが巻きついていく。

 

 

「ンぐグッ! んのヤロ――ッ!」

 

 

しかし龍騎は冷静だった。

呼吸ができず耳鳴りが酷い。意識も朦朧とするが、その前にデッキかカードを抜き取ると、それを素早くバイザーの中にセットする。

 

 

『ソードベント』

 

 

鏡の破片が収束し、一瞬で龍騎の右手にドラグセイバーが握られる。

それを思い切り振るい、左手で掴んでいたチェーンを叩き切る。

切断されるチェーン。龍騎は思い切り息を吸い込んで肺に空気を充満させた。

 

 

「オロロ!」

 

 

バランスを崩してヨロける死神。

使い物にならなくなったチェーンを投げ捨てると、再び怒りに体を震わせ、鎌を持って走り出した。

龍騎もドラグセイバーを構えたままダッシュ。死神を眼前にすると飛び切りで、鎌の刃を受け流しつつ再び後方に回り込む。

 

そして乱舞。

死神も龍騎も互いの刃を弾きあい、少しでも隙を見つけようと武器を振り回す。

激しい火花が散っていき、斬撃音が辺りを包む。

均衡――、だがチャンスが生まれたのは一瞬だった。そのチャンスがどちらの物なのか。

それは言うまでもないだろう。

 

死神には理解できるだろうか。

龍騎の心に溢れ生まれる激しい怒りの炎が。

多くを救えず、命を取りこぼしてきた。なのにまた魔獣は奪おうとするのか。

そんな事を許すわけにはいかない。武器を撃ちつける度に上がっていく怒りと力。

自分たちに殺し合いをさせた者達が目の前にいる。

 

龍騎が負ける理由など、どこにもなかった。

 

 

「おッりャァア!」

 

「ガガガガガァアッ!?」

 

 

ドラグセイバーに炎が宿る。

同時だった。死神の鎌に大きな亀裂が走ったかと思うと、直後粉々に砕け散ったのは。

破片の中で、死神は信じられないと言った表情を浮かべる。

尤も、その表情は龍騎の拳が塗りつぶす。

 

龍騎のフックが再び死神の顔面に抉りこむ。

さらにもう一発。さらにドラグセイバーを振り回し、次々に斬撃を死神の胴体に刻み付けていった。

 

 

「ゴロロロロロ!!」

 

 

死神が怯む中で龍騎はデッキに手を伸ばし、一枚のカードを引き抜いた。

そしてドラグバイザーにセット。丁度、回復したのか、死神が吼えながら拳を伸ばした。

自らも龍騎を殴りつけようと思ったのだろうが――、甘い。

 

 

「ドラグレッダー!」『ファイナルベント』

 

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ゴギャァアア!!」

 

 

空中から飛来してきたドラグレッダーが龍騎の周りを回転。

尾で走ってきた死神を弾くと、大きく吹き飛ばしていく。

それを見て龍騎は腕を旋回させ、構えを取る。

ゆっくりと息を吐き、直後、思い切り地面を蹴った。

 

 

「ハァアアアアア――ッ!」

 

 

そして空中で回転。

死神はなんとか立ち上がるが、その目に飛び込んできたのは、今まさに右足を突き出す龍騎の姿であった。

 

 

「ゴゴゴゴゴォオ!!」

 

 

色つきにも大きなプライドがあるらしい。

人間に負ける。それが何よりも屈辱的なのか、両腕に激しい闇のエネルギーを纏わせて走り出した。

どうやら全てを注ぎ込んだ最大攻撃で迎え撃つらしい。

一方で龍騎の背後に移動したドラグレッダーが火炎を発射。

その爆発力で龍騎はロケットの様に加速していく。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ゼリャ――ッ、ゴ!? ゴガァアアアアアアアアッッ!」

 

 

一瞬だった。

死神は巨大なドクロ型のエネルギーを発射したが、放たれたドラゴンライダーキックは何もなかったかのようにそのエネルギーを破壊して貫くと、そのまま後ろにいた死神に直撃する。

炎に塗れながら後方に吹き飛んだ死神は、地面に付く事なく全身がバラバラに砕け散り、直後そのまま爆散した。

 

 

「俺は、お前らには絶対に負けないッ!」

 

 

龍騎は炎の中で拳を握り締めると、マミの元へ戻るべく再びライドシューターに搭乗した。

 

 

一方で使い魔達を追っていたまどかも決着を迎えようとしていた。

群れを視界に捉えたまどかは、使い魔達の前方に結界を発生させる。

すると次々に結界に激突していく使い魔達。そこへまどかは光の翼を広げて一気に突進を仕掛けた。

自ら結界を破壊し、使い魔達は翼でラリアットを受けることになる。

次々に地面へ墜落する使い魔達と、高度を上げるまどか。

弓を構え、魔力を集中させていく。

 

 

「輝け、天上の星々ベルキエル! 煌け、気高きレオ!」

 

 

眼下に使い魔を置き、まどかは光を爆発させる。

 

 

「その瞳に映せしは破壊、我が誇りが選ぶのは勝利! 万物を滅する力の矢となり我を照らしたまえ!」

 

 

まどかは思い切り弓を振り絞り、手を離す。

 

 

「吼えろ、獅子! スターライトアロー!!」

 

 

弓から放たれた光は地面にて、その形を巨大な獅子(ライオン)に変化させる。

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

獅子は咆哮を放つ。

するとその音が衝撃波になり、周囲にいた使い魔達を一瞬で粉々に粉砕してみせた。

 

 

「ありがとう、ベルキエル」

 

 

まどかがお礼を言うと獅子は軽く唸って消滅。まどかも踵を返し、マミの所へと戻る。

そのマミもまた、決着をつけている所だった。従者の攻撃であるレーザーを華麗に回避すると、リボンを収束させ二体の従者をがんじがらめに縛り上げる。

直後、巨大な大砲を出現させると、ニコリと笑って魔力を込めた。

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 

巨大な弾丸が魔獣を貫き爆散させる。

従者レベルであれば現在のマミでも十分通用するらしい。

マミは爆風の中でスカートを押さえ、魔法で紅茶を出現させると口をつける。

そして片方の手にはおぼんの上に乗った二つのティーカップ。

マミはそれを、丁度戻って来た龍騎とまどかに差し出した。

 

 

「ありがとう、マミちゃん」

 

「わぁ、頂きます!」

 

 

変身を解除した三人は即席のティーパーティを。

すると既にまどかがテレパシーで連絡を取っていたのか、さやか達が合流してくる。

 

 

「大丈夫、マミさん! 敵が出たって話だけど!」

 

「ええ、もう片付けたわ」

 

「ひゅう! 流石だねぇ!」

 

 

だが合流してきた者の中で、当然手塚とほむらだけは表情が違う。

 

 

「城戸。敵って言うのは――」

 

「ああ、魔獣だった」

 

 

小声で語り合う二人。

その視線は周囲を見回すが、特に怪しい点はない。

 

 

「今は怪しい点はないな」

 

「やっぱり向こうも警戒してるの……、かも」

 

「だろうな。ただでさえ変身したての中沢達に負けたんだ。向こうも警戒はしてるはずだ」

 

「なんとかその間にコッチから攻められればいいんだけど――ッ」

 

 

そんな二人を、アルケニーは確かに見ていた。

 

 

「クククク! なるほどな。随分お行儀が良い戦い方じゃないか」

 

 

そして唇を吊り上げ、夜の闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。それは、まどか達が昼食を終えた後の事だった。

まどかはマミに呼び出された。他の生徒も昼食を食べるためによく使う庭園のテラス。

そこでマミは、まどかに缶の紅茶を差し出す。

 

 

「ありがとうございます。それで、お話って言うのは?」

 

「うん。あのね、鹿目さん。魔獣って、知ってる?」

 

「え゛ッ?」

 

 

嘘が下手なまどか事だ。

明らかに知っていますと言うリアクションを晒してしまった。

 

 

「知ってるのね!」

 

「いやッ、あの、マミさんこそどうしてそれを……」

 

「え? あ、いや」

 

 

マミは焦ったように目を反らして頬をかく。

あまり褒められた話ではないが、真司と手塚が小声で話しているのを見て、ついつい魔法を使ってしまった。

マミの固有魔法は『拘束』だが、身体強化に魔力を振ることもできる。

聴覚を強化させたマミは、そこで魔獣と言う単語を盗み聞きしてしまったわけだ。

 

 

「思い返してみれば、たしかに昨日の敵って魔女とは少し違った様な――」

 

「あ、あ、そ、そうなんです!」

 

「え?」

 

「真司さんと手塚さん、女性っぽくない敵のことを魔獣って言うようにしてて」

 

「うーん、たしかに魔『女』って言うには女性要素がゼロだったものね」

 

「はい! そ、そうなんです!」

 

「そう、そうね、うん。ありがとう」

 

 

まどかはお辞儀をするとマミから離れていく。

マミは頬に手をつき、虚空を見つめる。確かに言う事は納得できる。

しかし気になるのはやはりまどかの様子だ。

マミは次にほむらを呼び出し、今までの事を端的に告げる。

 

 

「なにか手塚さんから聞いていない?」

 

「いえ、特には」

 

「そう……」

 

「あまり気にするものではないわ。巴マミ」

 

 

ほむらはマミから受け取った缶コーヒーに口をつけると、淡々と言葉を返していく。

 

 

「単に呼び方が違うだけ。敵は魔女である事に変わりない」

 

「それは、そうよね」

 

「ええ、だから私達は協力して戦えばいいだけなのよ」

 

 

言い訳は完璧だった。

魔獣の事を知らないマミ達にはコレ以上疑いようのない言葉だ。

裏切る様な行為はしていないし、マミもそれで納得するだろうと。

 

 

「本当……?」

 

「え?」

 

「暁美さん、嘘、ついてない?」

 

 

だが、ほんの少しだけ予想とは違う事態が起こった。

マミは完全にはその言葉を信じなかったのだ。ほむらもある意味、信じられなかった。なぜ疑う余地があるのか?

ゲームが開始してるならまだしも、少なくとも今は完全に味方のはずなのに。

 

 

「……どうして、そう思うの?」

 

「だって――」

 

 

マミは少し申し訳なさそうな表情でほむらを見る。

 

 

「暁美さん、私と一度も目を合わせてくれないから」

 

「!!」

 

 

盲点だった。まさか、そんな理由で……。

いやそれよりも、無意識だった。言われてみて初めて分かる事。

なるほど確かに一度も目を合わせていない。

 

 

「あ――、ごめんなさい。気を悪くしてしまったなら謝るわ。でも私のクセなの。人付き合いが苦手で……」

 

「そ、そうなの。ごめんなさい私も変な事を言って」

 

「いえッ、貴女の事は信頼してるわ。紅茶も美味しいし」

 

「そ、そう! だったら嬉しいわ。ごめんね本当」

 

「いえ、いえ。分かってくれたならそれで良いわ」

 

 

マミは安心したように笑うと、話を終わりにして帰っていく。

その時に手を振られたので、少し困惑しながらも、ほむらも同じように手を振った。

 

 

「………」

 

 

マミが席を立った後もほむらは動かない。もうすぐ授業が始まる。

周りには誰もいなかった。その中で考える、目を逸らしていた事を。

すると前方の景色が歪んだ。一瞬めまいかと思ったが、本当に景色が歪んでいた。

 

すると一瞬で目の前に現れたのは神那ニコ。

再生成の魔法で見滝原中学校の制服を作っており、潜入してもバレにくくしてあるようだ。

そして先ほどまでは透明化しており、ずっとマミの傍にいたらしい。

 

 

「趣味はストーカー?」

 

「アホぅ。護衛と趣味だ」

 

 

ニコはアンニュイな表情でため息をつく。

頬に手をあて、肘をついて気だるそうにため息を。

 

 

「何やってんだよホムホム」

 

「ッ、何がよ。あと、その名で呼ばないで」

 

「何がって……、巴マミは豆腐メンタルだから怪しまれないようにしましょうって話だったろ? ソッコーで怪しまれてどうするのんよ」

 

「怪しまれたって……」

 

「少なくとも嘘をついている事はバレてた。お優しい鹿目さまは仕方ないとして、お前はもっとしっかりやれよ」

 

 

些細な不信感が大きな悲劇に繋がる事は、ニコもほむらも良く理解している事だ。

もちろん分かっていた。分かっていたが、目を合わせる事ができなかった。

 

 

「その、苦手なのよ。私、あの人が」

 

「マジ? 意外だな、巴マミが嫌いなのか」

 

「嫌いじゃない。苦手なの」

 

「ッ? 違いが良く分からん」

 

 

だが何かを閃いた様にニコは指を鳴らす。

 

 

「ははーん、分かったぞう? 名探偵ニコちゃんがズバリ当ててやろうぞい」

 

「ッ、なによ」

 

「お前、嫉妬してるな、巴マミに」

 

「は?」

 

「いやだってさ、前も見たけど、マミさんマミさんって、まどかは目をキラキラさせてるじゃないの」

 

 

憧れの先輩しか目に入らない少女。

でも貴女のことをクラスメイトの少女が見てるのに。

 

 

「くぁー、萌えますな。でもそりゃ嫉妬もするか、お前サイコレズだもんな」

 

「殺すわよ、神那ニコ」

 

「やめろ、お前が言うと冗談に聞こえん」

 

「……だいたい、そんなのじゃないわ」

 

「なにが、どれがよ?」

 

「全部よ全部。まどかは大切な親友。それに巴マミに嫉妬もしていない」

 

「だったら、なんで、そんなにぎこちない」

 

「それは――」

 

 

ほむらもまた気だるそうに前髪をいじる。

複雑なんだ。いろいろと。

 

 

「分からないのかもしれない」

 

「?」

 

「私は今まで、巴マミの事を沢山傷つけた」

 

「え? なに、重い話なの?」

 

「茶化すなら話さない」

 

「わ、悪かったよ。はよ、続きはよ。ニコちゃんに続きを頂戴」

 

「……だから、散々利用してきて、今更助けるなんて、都合が良すぎるんじゃないかって」

 

 

つまり罪悪感だ。

ループの中でマミを裏切った事は数知れず。

マミの気持ちを利用した事はあるし、なんだったらマミを殺した事もある。

今まで散々都合の良いようにしてきて、いざ守りますなんて、ほむらとしては胸が抉れる想いなのだ。

 

 

「私にとって、巴マミの顔は泣いてるか怒っているか、そのどちらかなの」

 

「ほーん」

 

「興味が無いなら話さない」

 

「ごめんて!」(コイツ結構めんどくさいな!)

 

 

とにかく、マミとの衝突の記憶が今も頭に張り付いている。

戦いか拒絶、拒まれるのは割り切っていても気分のいいものじゃない。

だからこそ、ほむらはマミが苦手だった。

どうせ最後は傷つけてしまう。そんな想いがどうもチラついてしまう。

 

 

「今更だろ。私ら、今まで何人ぶっ殺してきたと思ってるんだよ」

 

「それは、でも――」

 

「だからこそ今じゃないのか。それに、なんだ、嫌な事ほど良く覚えてる」

 

「?」

 

「人間そういうモンだろ。やな記憶ほど頭に残る。巴マミと決裂した記憶が強く残ってるなら、それはつまりお前がそれだけ傷ついたって事じゃないのか。ココロにキタって事だろ? なあ」

 

「……分からないわ」

 

「なんだよ。まあいいや、なんか飽きちゃったな。私、帰るわ」

 

 

ニコは大きく伸びを行うと手を振ってほむらの前から消えた。

ほむらも額を押さえ、天を仰ぐ。そしてゆっくりとため息をついた。

 

 

「私も、帰ろう」

 

 

気分が悪い。

ほむらは再びため息をつくと、早退の手続きを取りに歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんな手塚! 編集長が金色のザリガニ探して来いってうるさくて!』

 

『アホ真司! お前そういう電話は俺がいない時にするのが普通だろうが! 本人の目の前で文句を言うなッ!』

 

『あっ、すいません編集長! と、とにかく手塚、そっちは任せたぞ!』

 

「あ、ああ。今日は西南に運勢が向いている。もし良かったらそっちを探すと良いだろう」

 

『おっけ! サンキュー手塚。っしゃ、ココでザリガニばっちし見つけて、編集長をギャフンと言わせてやるぜー! なんだったら俺が編集長になってやるからな!』

 

『いやッ、だから俺ココにいるから! お前もしかして俺見えてないの!? 俺ゴーストなの!?』

 

『あーい! ばっちりみなーってか! はははは!』

 

『おいみんな! 真司が壊れたぞ!!』

 

 

そこで電話は切れた。

手塚は呆れた様に汗を浮かべると、直後、背後に気配を感じて振り返る。

するとそこにはコンビニの袋を持っていた、ほむらが。

 

 

「どうした、学校はいいのか」

 

「ええ、早退したの。差し入れを持ってきたわ」

 

 

現在、手塚もまた学校を休んで行動に出ている。

それは須藤の監視だ。手塚の視線の先には、先ほどまで捜査中の須藤がいた。

正確には須藤とその相棒である石島美佐子。二人は駅で起きた事件を追っているのか、目撃者に情報を聞いて回っているようだ。

今は雑貨屋の店員に話を聞いているようで、手塚はその外で監視を行っているわけだ。

 

 

「やはりまだ須藤に異変は起きていないようだな」

 

「なにか、きっかけがあっての事なのかしら」

 

「おそらくはそうだろう。差し入れはありがく受けと――」

 

 

停止する手塚。

受け取った袋を覗き込むと、大量のキャロリーメートが見えた。

 

 

「あ……、うん」

 

「なに、その嫌そうな顔」

 

「いや、ほら、嬉しいんだが、もう少しなんていうか、張り込み向けなヤツが、ほら」

 

「どういう意味」

 

「キャロリーメートって口の水分が奪われるやつだろ。モタモタのパサパサになるヤツだろ」

 

 

袋の中に水は入っていない。

ベタではあるがあんぱんにだって牛乳がついてくる。

おにぎりとかお茶とか、そういうのが差し入れであると。

それを聞くとほむらは少し不機嫌そうに手塚から袋を奪い取る。

 

 

「ジュースくらい自分で買って」

 

「そ、そうだな。だが今はちょっと財布を家に忘れてて」

 

「は? チッ!」

 

(露骨に不機嫌だな……)

 

 

ほむらは舌打ちを行いつつ服のポケットに手を伸ばす。

ジュースくらいおごってやろうと思っていたのだろうが、ココでハッと表情を変える。

どうやらほむらも家に財布を忘れてきてしまったらしい。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

二分後。

 

 

「「………」」

 

 

そこには口の中にキャロリーメイトを詰め込んでいる二人が須藤を観察していた。

手塚も持ってきてくれたと言う好意を無視はできなかったか。

それにほむらも後には引けず、二人はひたすらモグモグと口を動かしながら雑貨屋を睨んでいる。

水分が無いためいつまでも口の中から消えない。

傍から見れば男女が物陰に隠れてひたすらモグモグしている光景。まあホラーである。

 

 

『手塚、コレいつ飲み込めばいいのよ。喉に張り付きそうなんだけど』

 

『口の中に入れすぎなんだ。落ち着いて食べればよかったのに』

 

『貴方だって』

 

『……ムキになりすぎたな、俺達は』

 

 

トークベントで会話するしかない。

それにしても、いつまで経っても須藤が店から出てこないじゃないか。

このままじゃ口の中が砂漠で終わりだ。すると声が。

 

 

「どうですか」

 

「?」

 

 

振り返ると、今二人が一番欲しかったジュースが二つ。

それを持っていたのは紛れもない、須藤雅史だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏口があったなんてな。本職にはかなわない」

 

「フフ、ありがとうございます」

 

 

どうやら尾行は既にバレていたようだ。

須藤に見つかった手塚とほむらは、近くの喫茶店で話をすることに。

美佐子は既に本部に戻っており、喫茶店には三人だけだ。

 

 

「気を悪くしたならすまない。アンタをつけていたのは、俺の個人的な理由さ」

 

「もしよろしければ教えてもらっても?」

 

「ああ。まあ、占いだよ」

 

「?」

 

「アンタ、最近疲れてないか?」

 

 

違うな。手塚は須藤をまっすぐに見て言った。

 

 

「人を殺したいと思った事はないか」

 

「!」

 

 

随分と攻める。

ほむらは目を細めて須藤のリアクションを待った。

手塚は占いと言う口実で須藤の心の闇に迫る。

 

 

「人は価値のある存在だと思うか、須藤さん」

 

「驚いた、最近の占いはココまで切り込むものなんですね」

 

 

しかしそのリアクションは関心を示すものであった。

どうやら今の須藤には心当たりがあるらしい。手塚の言葉を完全にノーとは否定できなかった。

つまり既に、『黒』の種は持っていると言う事だ。

 

 

「職業がら、なかなか人の汚い所は見ます」

 

 

聞けば、中には出所後に刑事に復讐しようと考えている者もいるのだとか。

須藤の先輩が以前狙われたとか言う話を端的に聞いた。

もちろんそれだけじゃない。同じ人間とは思えない人間をたくさん見てきた。

心ない人間を見ているうちに、そう言った者に対する過剰な怒りを覚えた時はもちろんあると。

 

 

「手塚くんは人を傷つけたことはありますか」

 

「……もちろん」

 

「でしょうね。ない人間などいない筈です。私だってあります」

 

 

だが傷つけない方が良いという事はわかる筈だ。

なのに平気で人を傷つける者達が増えてきた。そんな気がしてならないと須藤は語る。

 

 

「人を傷つける事は楽だからな」

 

「ええ、これが人間の難しいところです。喜ばせるよりも余程簡単にできてしまう」

 

 

しかも皮肉な事に笑いの中には、人を傷つける事で他者を喜ばせる物もある。

結局のところ、人間は個の確立や自己満足のために人を傷つける生き物だ。

しかしだからと言ってあまりにも――、そんな人間が目につくと。

 

 

「ですが貴方は刑事だ」

 

「ええ、もちろん。分かっていますよ」

 

「なら、いいが……」

 

「失礼。もう行かないと」

 

「こちらこそすみません。下らない事で呼び止めてしまった」

 

「いえ、占い――、忠告は受け取っておきます」

 

 

店を出て行く須藤。

それを目で追う手塚とほむら。

 

 

「危険ね」

 

「さあ、どうだろうな」

 

「っ? でも」

 

「殺意や負を抱かない人間なんていない」

 

「それは――、そうね」

 

 

誰かを殺したい、誰かを傷つけたい。

残念だが人間の社会では『当たり前』になってしまった。

SNSの発達で、それはさらに浮き彫りになっているだろう。人は誰かに勝ちたい、その欲求を叶えられない人間は言葉の刃を振るうしかなくなる。

それができなければ、本当の暴力に頼るしかなくなる。

 

 

「俺達は誰もがその黒を抱えている」

 

「間違いではないわ」

 

「だが、行動に移すかどうか、それが人間としての資格だろう」

 

 

立ち上がる手塚。ほむらも後を追う様に立ち上がった。

 

 

「私はもう、黒を具現化しないわ」

 

「ああ、俺が止めてやる。だから俺が黒に染まりそうになったら――」

 

「殺してでも止めるから」

 

「………」

 

 

殴ってでも止めてやる。で、良かったんじゃないだろうか。

手塚は汗を流しながら、取りえず頷いておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高見沢邸。

 

外が暗くなってきた頃、家に戻っていた高見沢はひたすらパソコンの前で作業をしていた。

ふと前を見ると、そこにはソファに寝転びアイスクリームを食べながら携帯を弄っているニコが見える。

 

 

「おい、邪魔だっつてんだろ、部屋に戻れ」

 

「動くのダルい。ダルダルダルビッシュ」

 

 

既にパートナー云々の話は済ませてあるニコ。

高見沢はニコに自分の会社を大きくする協力と引き換えに住まいを提供している。

ニコの携帯はハッキング機能もあり、それを高見沢はライバル会社の状況を確認するのに使用しているわけだ。

 

 

「意味が分からん。さっさと消えろ」

 

「かてーこと言うなよジジイ。ニコちゃん静かにしてるだろ」

 

「チッ!」

 

 

ふと押し黙る高見沢。キーボードから手を離し、ため息をつく。

 

 

「最近どうにも、おかしい」

 

「歳だからだろ、ジジイだもんな」

 

「そうじゃねぇよ。なんかこう、アレだ。記憶に靄が掛かってる様な」

 

「痴呆か。ジジイだもんな」

 

「ニコ、俺とお前ってこの前はじめて会ったんだよな。なんかよ、どうにも俺はお前を知ってる気がするんだよな」

 

「やめとけって、昔のナンパかよ。あ、でもまあお前ジジイだもんな」

 

「こう言う感じの会話もなんつーか、記憶にあると言うか。おーん……」

 

「幻想とかやべーな、ジジイだからかな?」

 

「魔法もあるしよぉ、気のせいなのか……」

 

「魔法とかジジイの口から出す単語じゃないって。メルヘンジジイとか救えねーな。ファイナルファンタジーかよ」

 

「いい加減にしろよお前ッ、ブッ殺すぞ!!」

 

 

テーブルを蹴りながら怒号を上げる高見沢。

近くにあったペンを、ニコの傍にある花瓶に向かって投げつける。

 

 

「キレんなよ! 更年期か! ジジイだな!」

 

「さっさと消えろ! あんまり調子乗ってると追い出すぞクソガキが!」

 

「それは困るので、ニコちゃんは退出します。お仕事頑張ってね」

 

「死ね! 俺はまだ38だからな! 聞いてんのか! おい!!」

 

 

高見沢の怒号を背にしながら舌を出したニコは、そそくさと自室に戻っていく。

しかしその途中、ためしにキュゥべえを呼んでみる。

すると流石は魔法少女担当なのか、一瞬でニコの前にあった窓の外に姿を現した。

 

 

「ま、入れよ」

 

『何か用かい? 神那ニコ』

 

「おん。あのさ、たかみーのヤツなんかちょっと覚えてるっぽいんだけど」

 

『中にはそういう参加者もいるだろうね。ボクらもそのあたりは厳しく制限する事はなかったから』

 

「???」

 

『以前――、と言うのは改変時なんだけどね、鹿目まどかが概念になった後も、彼の弟であるタツヤはまどかの姿を記憶していた』

 

「概念つうと、なんだっけ? えーっと、女神みたいな感じのヤツか」

 

『そうだね。まどかの存在は一度は消えたんだけど、なぜか弟は覚えていた』

 

「なんで?」

 

『ボクにも分からない。人の可能性か、もしくは鹿目タツヤに才能があったのか。とにかく人間の可能性と言うのはあなどれなくてね』

 

 

タツヤはまどかの姿を知らないのにまどかの絵を描いていた。

なにもそれはタツヤや高見沢だけではないだろう。

ループと言う概念を超越し、僅かではあるが記憶を保持しているものは珍しくない。

 

 

『特にキミ達の場合はループの数が多いからね。それだけ因果も積み重なっている。ゲームによってはペアが変わることはあったけど、だいたいは前回、つまり今回と同じペアになる確率が高いんだ』

 

「なんだよ、もっと若いヤツと組ませてくれよ」

 

『キミは浅倉と組んだ事もあったね』

 

「いやー、高見沢は本当に良いパートナーだわ。これ以上ない!」

 

『酷いや、浅倉が可哀想だよ』

 

「アイツだけは無理。佐倉杏子は尊敬するぜ」

 

 

あまり覚えていないが、考えただけでもゾッとする。

思ってみれば高見沢と組むのは悪くない。有能であればそれ相応の待遇を受けるのだから。

 

 

『それだけ共鳴するモノがあるんだろうね。キミ達もそうだ。無欲なキミと強欲な高見沢、だからこそペアになった』

 

「複雑だねぇ」

 

『ボクもだよ。つくづく人間とは理解しがたい生き物だ。組む人間で大きく性格が変わるんだから』

 

 

そういう点で、キュゥべえは一つ疑問があると言う。

 

 

『今頃まどか達はパトロール中だろうね。キミは行かないのかい?』

 

「ニコちゃん、面倒、きらい」

 

『やれやれ、だから不思議なんだ。仮にも君は前回のゲームで参戦派だったし、キリカとか複数の参加者を殺したよね』

 

「そりゃ、殺れたからね、あん時は」

 

『そんなキミがすぐにまどかに付くとは、ボクとしては意外だよ』

 

「まあ、そりゃな」

 

『それとも、もしかして裏切る気なのかな』

 

「………」

 

 

ニコはニヤリと笑う。

 

 

「そりゃあな、当然っしょ」

 

『ほう』

 

「裏切るに決まってんだろ普通。まさかお前、本当に私があいつ等の仲間になったとでも思ってるのかもん?」

 

『メリットは薄いよね』

 

「薄いなんてもんじゃねーぞな。全員生存ルートなんて無理に決まってんだろ。マジで脳内にキノコでも生えてんじゃねーのアイツ等? お花畑すぎるって」

 

『可能性はあまりにも低いね』

 

「そう。なら普通にゲームに勝って、願いで魔獣どもを消した方がいいから」

 

『たしかに、前回までは不可能だったろうけど、ゲームマスターがインキュベーターに映った今なら可能だ』

 

 

しかし、ココでまたニコは笑う。

 

 

「なんつって。びっくりした? 嘘だよウソウソ」

 

『……キミの考えている事がよく分からないな』

 

「正直私もよく分からん」

 

 

確かに可能性は低い。

裏切った方が良い。

脳内メルヘン連中に付き合う意味もない。

 

 

「でも、なんか、そっちの方が私は好みだ」

 

『つまり?』

 

「私はまどかの味方だよ。あいつ等にとりあえずは協力してやるつもりさ」

 

『ふぅん、なるほどねぇ』

 

「まあでも、全部が冗談って訳でもない。場合によっちゃ私はまどかを切る」

 

『その場合と言うのは?』

 

「そりゃ一つだ」

 

 

相変わらずアンニュイな表情のニコ。感情がよく読めない。

 

 

「まどか達に味方する価値がないと分かったらだよ」

 

『価値?』

 

「アイツ等が全員生存を諦めれば、私はあいつらを殺す」

 

『それはないだろうね、城戸真司や鹿目まどかの理解しがたい行動や言動の元は、キミの言う"全員生存を目指す"ことだからね』

 

「なら大丈夫だ。少なくとも私はアイツ等の馬鹿に付き合って心中するつもりだよ」

 

『よく分からないなぁ、やはりココロと言うのは』

 

「私もさね。でもどうせ生きるなら、良いヤツになれた方がマシなのかもって、思っただけだよ」

 

 

ニコはひらひらと手を振って自室に戻っていった。

キュゥべえは相変わらず無表情でしばらくその場に佇んでいた。

ニコの変化が進化か退化なのか、それはキュゥべえには分からない。

それは結果が教えてくれるだろう。いずれにせよ、本人が満足しているならそれでいいものなのか。

 

 

『面白い生き物だね、人間は』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は変わるものだ。だが変わらない人間もいる。

良く言えばブレない芯のある人間なのだろうが、悪く言えばわがままというべきなのか。

さて、ここはとあるマンションが一室。そこに変わらない人間がいた。

 

リビングにてテレビを見ているのは芝浦淳。

番組はよくあるドキュメンタリーで、今日は大家族特集だった。

兄妹の絆や両親の苦労がコメディ仕立てで編集されている。

芝浦はあくびをしながらテレビを消すと、大きく伸びを行った。

 

 

「あーあ、全員事故で死なねーかなー」

 

 

人間として欠落している発言を一発。

そして目の前にあるパソコンを適当に触る。

芝浦さんの最近の趣味はネットサーフィンである。

とりあえず著名人のSNSを荒らし、適当に見つけた掲示板を荒らし、最後は個人のブログにやってきた。

 

 

「なになに? 最近辛くて死にたいです、誰か助けてくださいか。じゃあ『死ねクズ』っと……」

 

「淳くん性格わるーい☆」

 

 

キッチンでひき肉をこねているあやせが嬉しそうに言う。

 

 

「これくらいで死ぬ様なヤツなら死んだ方が幸せだって。だいたい言葉は1データでしかない。こんなもんまともに受けるやつなんていないっての」

 

 

もっと大きい干渉力が無いとつまらないと芝浦は唸った。

なんだか最近満たされない。なにをしてもつまらない事ばかりだ。

 

 

「あれはもうやめたの? ほら、なんだっけ? お蕎麦屋さんで、きつねそば頼んでおあげだけ残して帰る遊び」

 

「あー、あれなぁ。あれもう飽きたから……」

 

 

クソみたいな会話が聞こえてきたが、ここはスルーしよう。

 

 

「世界が滅ぶとか、学校に殺人鬼でも乱入してこないかなー」

 

「えー、怖いよそんなの。それに淳君を殺せる人なんていないじゃん♪」

 

「そうなんだよなー、俺強いからなー」

 

 

するとあやせは含みのある笑みを浮かべる。

 

 

「ねえ、少しおもしろいお話してあげよっか」

 

「なんだよ、つまらなかったらお仕置きだからな」

 

「たぶん淳君なら興味がわくと思うよ。でも――」

 

「でも?」

 

「好きって、言ってくれたら、教えてあげる……♪」

 

「………」(ウゼぇ)

 

 

無言で携帯ゲームを始める芝浦。

 

 

「淳くん? 淳君! ねえ無視しないでよ淳くんッッ!!」

 

「ルカ! おれは面倒なヤツが嫌いだ!!」

 

「はい、淳。私達が掴んだ情報とは、他の魔法少女達の事です」

 

『ちょっとルカーッ!!』

 

 

人格交代は自由にできる様に設定してある為、あやせの中にいたルカが出てきたようだ。

目つきが変わり、ハンバーグをフライパンに置くと、一旦手を洗って芝浦の前に跪く。

 

 

「淳と同じ騎士も増えてきたかと」

 

「ああ、それで?」

 

「一つ大きな魔力を感じました。今までとは明らかに違う魔力の質に、私も反応したわけです」

 

 

魔力に反応できる魔法少女も少なくは無い。

ルカもその一人である。僅かではあるが。

 

 

「大きな魔力ねぇ」

 

「昨日少し偵察に向かったのですが、その時にはもう姿は無く、光の魔力が残されてるだけでした」

 

「光属性の魔法少女か。そういえば、おれの学校にもいるんだったよな」

 

「巴マミの一派にいましたね。確か名は……、鹿目まどか」

 

「ソイツが力をつけたって事か」

 

「おそらく。しかし強くなったにしてはあまりにも急激な変化です」

 

「なるほど。そういえば魔獣がどうとか言ってたおっさんもいたし、何かが起ころうとしてるのかもね」

 

「いかがなさいますか、淳」

 

「ま、暇つぶしにはなるかな」

 

 

ゲームを置くと、芝浦はニヤリと笑う。

 

 

「ちょっと、ちょっかいでもかけてみるか」

 

 

そう、そうだ、芝浦は興味を持った。

なぜ? まどかが本気を出したからだ。

ループを経て強化されたまどかの魔力、それは確かに凄まじい。

 

――が、しかし、ここは閉鎖空間。

派手に暴れればルカのようなサーチ能力を持つ魔法少女が気づくのは当然の事だった。

 

なぜ、まどかは本気を出したのか。

それは焦りがあったからだ。使い魔を早く倒さないとマミが危ないと思ったから。

 

ではその使い魔を出したのは誰か。

油断、安心、死神を倒せたから真司達は自分の力が高いと油断している。

油断はそれだけ余裕を生み、当然、隙も生ませる。

 

なにより、そう。

真司達を縛るのは皮肉にも、確固たる正義感。

だからこそ、それを利用すれば簡単だった。

 

何が簡単なのか?

では、答えを先に見てみよう。

これは少し先の未来。

 

 

「よぉ、はじめまして巴マミ」

 

「え?」

 

 

振り返ったマミの前には、タバコを吹かしている女性が立っていた。

 

 

「アタシはアルケニー。ヨロシク」

 

 

アルケニーはニヤリと笑ってタバコを地面へ投げ捨てた。

 

 

「お前を殺しに来た」

 

 

 

 





CG技術の事は素人なので、全く詳しくはありませんが、ドラグレッダーの動きは10年以上前にしては凄く良いと思うんですよね。
特にファイナルベント前の旋回動作というのか、うねりというのか。

一番好きなのは、北岡のギャグ回で水辺で放ったキックなんですが。あのときのドラグレッダーが動いて、水がバシャバシャ鳴るのがお気に入りです(´・ω・)b
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