仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第6話 正義 義正 話6第

 

 

ゆまがマミと暮らすようになって五日ほど経ったある日の事、真司はBOKUジャーナルの帰り道にまどかを見つける。

いつも友達と帰っているのに、今日は珍しく一人だ。どこかその背中は寂しげだ。

 

気になった真司は、まどかの方へとスクーターを走らせ、一緒に歩いて帰る事にした。

しばらくは他愛も無い会話を繰り返すが、やはりまどかの元気は無い。

 

 

「わたし、パパとかママって、みんなが同じように子供の事を愛してるんだって思ってました」

 

 

だけど、それは違っていた。ゆまを見て、自分がいかに馬鹿だったのかを思い知った。

それはやはり、ショックだ。例えばまどかが母親と朝の支度を一緒にしている頃、ゆまは母親に殴られていたかもしれない。

まどかが父親の作ったココアを飲んでいる頃、ゆまは父親から殴られていたかもしれない。

 

ゆまに残った虐待の傷跡は、消える事はない。

未来永劫、その体に火傷の跡や、最愛の親から受けた暴力の印が残るのだ。

それは当然、心の面にしてもそうだ。声をかけてあげたいが、どんな声をかければいいか分からない。何を言っても薄っぺらい気がして、まどかはよく分からなかった。

 

 

「確かに難しい問題だよ。だけど、まどかちゃんが苦しむ必要はないって。その分、いっぱいゆまちゃんと遊んであげればいいんだよ」

 

「真司さん……。うん、そうだね、ありがとう」

 

 

まどかは迷いを振り払うように首を振ると、笑顔を見せた。

そうだ。ウジウジ悩むよりは、少しでもゆまが楽しくなるようにしてあげればいい。

 

 

「あ、パパどうしたの?」

 

「あぁ、お帰りまどか!」

 

 

まどか達が自宅前やって来ると、玄関先で父の姿を見つける。心なしか焦っているようだ。

 

 

「あ、もしかして城戸真司さんですか? まどかの父の知久です。いつも娘がお世話になってます」

 

「あ、いえ! こ、こちらこそ!」

 

 

真司と知久は互いに挨拶を交わす。

だが、すぐにハッとする知久。こんな事をしている場合ではないのだ。

 

「どうしたのパパ? 何かあったの?」

 

「実は、ママが会社で使う大切な書類を忘れちゃってね。早く届けなきゃいけないんだけど……」

 

 

今からバスで行っても確実に間に合わない。

タクシーを呼んだのだが、なかなか来ないのだと言う。

 

 

「あ! ちょっと待ってください! そういう事だったら俺が行きますよ!」

 

「え?」

 

 

真司は知久から書類を受け取ると、スクーターをカッ飛ばして会社を目指す。

すると会社に続く道路が酷く渋滞しているのに気づく。どうやら事故があったらしく、タクシーがそのせいで遅れているのだろう。

このままスクーターで向かってもいいが、真司はふと気づく。

 

 

「………」

 

 

十五分も経たぬ内、真司は書類を詢子に渡していた。

 

「サンキューッ! これだこれ! 悪いね届けてもらっちゃって!」

 

「いやいや、全然オッケーですよ!」

 

「予想以上に速くて助かったよ。」

 

 

そりゃあ、ドラゴンに乗ってきましたからとは言えず。真司は曖昧に笑うしか無かった。

それにしてもと真司は詢子を見る。なるほど、さやかやサキがカッコいい女性と言っていたのも分かる。

 

 

(令子さんに雰囲気が似てるな)

 

「届けてもらって悪いんだけど、今から会議だから。もう行くわ」

 

「あぁ、はい、頑張ってください」

 

詢子はもう一度お礼を言って走り出した。

しかし急ブレーキをかけると、振り返ってみせる。

 

 

「ねえ、まどかはさ、いろいろ鈍い所もあるけど本当にいい娘だから、これからも仲良くしてやってよ」

 

「は、はいもちろん!」

 

 

その言葉を聞き、詢子はもう一度笑顔でお礼を言う。そしてそのまま二人は別れた。

帰り道、真司は考える。まどか達には携帯で、書類を届けた事を知らせたので、後は帰るだけだ。

だが、この辺りの地域はあまり来た事がない。仕事のときもこの一帯は玲子が取材をしている為、結構新鮮なものである。

 

あわよくば、何かスクープになるものが見つかれば儲け物だ。

真司は期待に胸を膨らませてスクーターから降りる。

 

 

「お……?」

 

 

しばらく街を歩いていると、ある親子が目に付いた。

交番から出てきた女の子が、母親に飛びついている。どうやら迷子になっていたようだ。母親は今まで娘の相手をしてくれていた警官に、お礼を言っている。

 

 

「………」

 

 

真司はその様子を見て、二つの事を思い浮かべた。

一つはゆまの事だ、母親に飛びついて手を握り締めている女の子。それはあるべき親子の姿なんだろうが、ゆまの様な家庭がまだまだ多い事も事実だ。

今はまだ、そういう事件を扱ってはいないが、いずれは児童虐待のニュースをBOKUジャーナルが扱うかもしれない。

ゆまはマミがいてくれたが、他の子供達はどうなのか?

そういう『希望』が必要なんだ。きっと、世界は。

 

そして、もう一つは須藤の事だ。

最近雑誌やテレビで、警察のモラルを非難する話題が多いが、あの親子が警官に感謝しているのを見て、ある種の安心感を抱く。

女の子に手を振って別れを告げる警官。彼はとても誠実に見える。

 

一部の人間のせいでイメージが悪くなっているだけで、あの人の様な警官や須藤の様な警察関係者は――

 

 

「ん?」

 

 

って、ちょっと待て、あの警官。

 

 

「い゛ッ!!?? 須藤さん!?」

 

「!!」

 

 

真司の声が聞こえたのか、須藤も真司を見た。そうだ、須藤なのだ。

 

 

「え? 須藤さん! どうしてここに!?」

 

「……ハァ」

 

須藤はため息をついて、疲れたような顔を見せた。

なんとも言えない表情だった。真司は、その時の須藤の顔を忘れる事はないだろう。

おそらく、ずっと。

 

 

「えッ!? 交番勤務に移された!?」

 

「はい、ハッキリ言ってしまえば……、左遷ですかね」

 

 

須藤は美佐子と話していたあの日、上層部からお呼びがかかったらしい。

何事かと向かえば、交番勤務に移されると言う報告だった。

 

 

「そんな事ってあるんですか? こ、心当たりは?」

 

「実は、ある事件を私たちは調べていたのですが……」

 

「ある事件?」

 

 

須藤は頷くと、辺りを見回して誰もいない事を確認する。

その様子を見るに、あまり人前でしてはいけない話題なのだろうか?

真司はゴクリと喉をならして須藤の話を待った。

 

 

「城戸くん。今から聞かせる話は、君を信用しての事です」

 

 

騎士として、仲間として、何より一人の人間として。

それを忘れないでほしいと須藤は言う。頷く真司。緊張してきた、それほど大きい話なのだろうか?

 

 

「城戸くんは『美国(みくに)久臣(ひさおみ)』と言う議員を知っていますか?」

 

「美国……ッ、あ! 知ってます、令子さんが記事にしてました!」

 

 

美国久臣。彼は見滝原の一国会議員だった。

政治腐敗に一石を投じると言う意思の下に活動を続け、誠実で真面目な態度と、確かな実力から市民の評価はかなり高いものであった。

当選は確実とまで言われ、彼の人柄から政治に新しい風を巻き込むと、誰からも期待されていたが……。

 

 

「そんな彼に、経費の改ざんによる不正疑惑が浮上したのは記憶に新しいかと思います」

 

「あぁ、そうっすね、一時期はかなりニュースになってたし」

 

 

"期待の議員は、汚職に手を染めていた"そう言ったニュースが連日報道されたのは真司も覚えている。

以前からたびたびあったその疑惑のせいで、国民から期待は一気に落ちてしまい、そこから久臣の評判は最悪と言ってもいい状態になった。

 

汚職に始まり、雑誌には女性スキャンダルと、真偽は別にさまざまなマイナスイメージが掲載されていく。

こうなってしまえばもう議員としての生命は絶たれたようなものだ。

そして、そんなある日の事だった。

 

 

「美国議員が、自宅で首を吊っているのが見つかりました」

 

「自殺ですか」

 

「遺書もありましたからね、警察は自殺で処理を行いました。ただ、当時の警察は美国議員に違法な取調べを行ったとして、問題になっていました。人権を無視したそのやり方は、彼を自殺と言う最悪の結末に向かわせてしまったのです」

 

 

事件はそのまま終わりを迎えたが、久臣は追及から逃れる為に自殺をしたと、世間は美国議員を完全に汚職議員として認める事になった。

とは言え、それなりに昔の事件だ。それが何の関係があるのだろう?

 

 

「もし、美国議員が自殺じゃないとしたら?」

 

「えッ!?」

 

「いや、もしくは、自殺は自殺でも。仕組まれたものだとしたら?」

 

 

須藤と美佐子は、美国議員の死がどうしても納得いかなかったのだ。

調べれば調べるほど、違和感が湧き出てくる。

 

「ある事?」

 

「美国議員には、娘さんがいました。一人娘です。彼女が幼い頃に母親が他界してからというもの、議員はしきりに娘さんの事を気にかけていたそうです」

 

 

久臣は何よりも娘の事を大切にしていた。

なのに、遺書には一言も娘に関する事が書かれていなかったのだ。そして自殺した日はこともあろうに、その一人娘の誕生日ときた。

 

 

「それが、私たちが美国議員が自殺じゃないと決めた理由です」

 

 

もちろん、だからと言って自殺じゃないと言う確実な理由にはならない。

それでも美佐子と須藤はその事実を否定する為に動いた。そして、調べていく内にいろいろな事が分かったのだ。

 

 

「遺書はパソコンで作成されていました。よくある手口です。本人の筆跡かどうか分からない」

 

 

そして、自宅近くのケーキ屋に、当日バースデーケーキの予約が入っていたと言う事。

 

 

「その予約が入った日と、自殺の日が重なっていました」

 

 

何かがおかしい。

須藤と美佐子が至った結論、美国議員はただの自殺ではない。

娘の為にケーキを予約したのに、取りに行かず自殺などありえない話だ。もちろん突発的に死を選んだ可能性はある。

 

 

「ですが、そこからです……」

 

 

二人が本格的に美国議員の死を調べようとした時、警察上部から連絡があった。

内容は簡単、過去の事件を掘り起こすな。それだけだ。

その言葉に須藤と美佐子は逆らった。人が殺されているかもしれないのに、事件を流すわけには行かない。

最近は見滝原近くで猟奇殺人が発生するようになったので、なかなか活動もできなかったが、それでも少しずつは捜査をしようとしていた。

それがどうやらアウトだったらしい。

 

 

「政治絡みの事件がデリケートなのは分かってました。しかしついには捜査をストップする様に直接言われました。馬鹿な話だ! 何かあると言っている様なものじゃありませんか!」

 

 

須藤は表情に怒りを乗せて、舌打ちを零した。

今にして思えば、美佐子は政治界からの圧力を十分に注意していた。

しかし須藤は甘かったのかもしれない。結局呼び出された先に待っていたのは、捜査ができなくなる交番勤務への移動だったのだ。

 

 

「ふざけているッ! 本当に、ふざけてる……ッ!」

 

 

須藤は怒りの形相を浮かべて机を叩いた。思わず真司の表情もこわばる。

それに気がついたのか、須藤はバツが悪そうにうな垂れた。

 

 

「すみません。つい、熱く……」

 

「い、いやッ、全然いいですけど」

 

「城戸くん。もしも、このまま美国議員の事件が闇に葬られるのなら、その前に記事にして世間に公表してくれませんか? 私の名前を出してくれて構いません。何としてもッ、このまま悪が放置される事だけは許せないッ!」

 

「い、いんですか!? そんな事したら須藤さんは――」

 

「私は構いませんッ! この世界には……! ゆるぎない正義が必要なんですッ!」

 

 

今の世にはそれが無いのか?

須藤は悔しさでおかしくなりそうな自分を、なんとか抑えていた。

 

 

「犯罪者を罰する。それがなぜできない!」

 

「須藤さん……」

 

「――失礼。あと、この事は、皆さんには黙っていてほしい。特に巴さんには、こんな姿を見せてはいけない。彼女は警察に……、正義に絶対の信頼を置いています。少しでもこう言う話題は、彼女の耳に入れたくはない」

 

「わ、わかりました。今日の事は誰にも言いません」

 

「ありがとうございます」

 

 

あまり話していては仕事の邪魔になるかもしれない。真司は須藤に別れを告げて、帰る事にした。

 

 

「すみません、お茶くらいしか出せなくて」

 

「いや、ごちそうさまでした。じゃあまた!」

 

 

そう言って真司はスクーターに乗り込み、交番を後にする。

残された須藤、真司がいなくなると笑みを消して、壁を殴りつける。

 

 

「くそッ!!」

 

 

悔しそうに、歯を食いしばってうつむいた。

信じた正義が、正義じゃない。何故警察は正義を貫かない!? 何故悪に屈するんだ。

やりきれない想いばかりが胸を突く。心が張り裂けそうだ、悔しさと悲しみが須藤を包む。

同時に、心に刻み付ける証明。

 

 

(私は――ッ、絶対に正義を貫いてみせるッ!

 

 

翌日、公園に魔法少女と騎士の姿があった。

もちろん遊んでいるわけじゃない。どうやら暗闇の『使い魔たち』は、公園を中心に活動している様だ。

 

 

「●●●!」

 

「えいっ!」

 

 

ゆまの武器は、猫の体を模したハンマーだった。

威力はそれなりに高いようだが、なにぶん隙があり、素早いゴフェルには当たらない。

使い魔、ゴフェルの反撃はすぐに飛んでくる。ローブの中から闇を放出して、ゆまを喰おうと試みた。

 

 

「とうッ!!」

 

 

だが、そう簡単に喰われてなるものか。

さやかが、素早くゆまを抱きかかえて闇を振り切る。

さらに手に持ったサーベルをゴフェルに向かって投げつけた。

 

飛来する刃は一瞬でゴフェルに到達すると、その身を貫いてみせる。

しかしゴフェルには斬撃に対する特殊耐性が存在する。剣が突き刺さっても、ゴフェルは霧状に変わり、攻撃を無効化してみせる。

さらに、さやか達を逃がさまいと追跡を開始した。

 

 

「ああもうッ! しつこい男はもてないぞ!」

 

 

さやかは逃げ、ゴフェルはそれを追いかける。

鬼ごっこの終わりは白い雷だった。浅海サキは、跳躍で参入してくると、さやかとゆまを抱きかかえてみせる。

 

 

「ひゅー! サキお姉さまってばナイスタイミングぅ!」

 

「ないすたいみんぐぅ!」

 

「フッ、しっかり掴まってろ!」

 

 

サキの武器は伸縮自在の短鞭だ。

サキは鞭を伸ばすと、遠くにある街灯を掴んだ。そして鞭を引き戻し、一気にその街灯まで飛んでいく。

それだけじゃない、サキの本質はその判断力と作戦の指揮にあるのだ。

 

 

「さやか、キミは高速移動で使い魔たちを一点に集中させてくれ! まどかとマミは溢れた使い魔を飛び道具で収束させる! ゆまと私は使い魔の足止め、止めはかずみ! 真司さん達はサポートを頼むぞ!」

 

 

サキの声に反応して、みんなは強く頷く。

さやかは散り散りになっていたゴフェルとウラに剣や蹴りを叩き込み、一箇所へ集めるように立ち回る。もちろん逃げようとする使い魔たちだが、マミとまどかの射撃が飛んできて、うまくはいかない。

 

『アドベント』

 

『シュートベント』

 

「えーいっ!!」

 

現れるドラグレッダー。ゆまもハンマーで思い切り地面を叩く。

龍の咆哮と、ハンマーが繰り出す衝撃で、使い魔たちの動きが止まった。

かろうじて逃げ出した使い魔も、シザースが銃を使って綺麗に固めていく。

 

 

「止めよかずみちゃん! 須藤さん! お願いッ!」

 

「了解しました」『アドベント』

 

「うんッ! リーミティ・エステールニ!!」

 

 

ボルキャンサーのトスで上空へ跳ね上がるかずみ。

そのまま十字架を構え、真下に集まっている使い魔に高エネルギーのレーザーを叩き込んだ。

光の奔流は使い魔の群れを一瞬で蒸発させ、跡形も無く消し去ってみせる。

 

 

「やったね! 勝ったよぉ!!」

 

「えへへ ゆまも役にたったでしょ?」

 

「うん! 皆のおかげだよ!」

 

 

かずみ、ゆま、まどかの三人は手を取り合って勝利を喜び合っている。

さやか達もその輪に加わろうと歩き出した。

 

 

「あ゛ッ!」

 

「美樹さん? どうし――」

 

 

マミも気づいたのか、青ざめた顔でマスケット銃を落とす。

深刻そうな表情だ、まどかは不安げになり、眉が八の字になる。

 

「ど、どうしたんですかマミさん。まさかまだ魔女が――」

 

「決め台詞ッ、言うの忘れてた……!」

 

「………」

 

 

あ、そう……。

まどかはどうしていいか分からずに、ただマミを見つめるしかなかった。

 

 

「千歳ゆま……」

 

 

暁美ほむらと、パートナーである手塚(てづか)海之(みゆき)は、まどか達が公園から離れてくのを、影で観察していた。

千歳ゆま。その記憶はあった。ただし、それがいい方向へと繋がるとは限らないが。

 

 

「手塚。少し質問してもいいかしら?」

 

「なんだ?」

 

 

正確にはまどか達を観察しているのは、ほむらだけ。

手塚は先ほどから地面にカードを並べていた。現在勉強しているタロットだろうか? 何にせよ、ほむらにとって心底どうでもいい。気にすることなく、質問をぶつけていく。

 

 

「ここ最近、見滝原周辺で殺人事件が起きているのは?」

 

「ああ、雑誌で見た。何かに喰い散らかされたみたいにバラバラらしい。人間の犯行とも思えないし、かと言って野生動物の仕業とも考えにくい。警察も苦労しているみたいだ」

 

 

なるほど。ほむらは目を閉じてしばらく沈黙する。何かを思い出しているようだ。

そして、呟くように言った。

 

 

「喰い散らかす? 切り刻まれたじゃなくて?」

 

「どうだろうな、そこまでは書いてない。ただ人間の仕業とは思えないなら、よほど酷い損壊状態なんだろう」

 

「そう、ありがとう。被害者に男性はいるかしら?」

 

「ああ、むしろ男の方が多い。尤も死体が見つかるのはだいたい『一部』だからな、警察も身元判明にはずいぶんと時間を費やしているみたいだ」

 

 

ほむらは考える。

ゆまが魔法少女になっているなら『あの二人』も魔法少女になっている可能性が高い。

しかし、発見された死体の状況を見るに微妙なラインだ。『白と黒』は今回の事件には関わっていない?

 

 

「もう少し、様子を見る必要がありそうね――」

 

「またか……」

 

「え?」

 

 

手塚の手には一枚のカードがあった。

占いだ、ココ最近ずっと同じカードが示されるらしい。

 

 

「気をつけろ。もうすぐこの街によくない出来事が起きそうだ。それも、特大のな」

 

「そう……」

 

 

ほむらは唇を噛む。最初は手塚の占いなど全く信じていなかったが、日を重ねていく毎に、なかなか的確な物だという事が分かった。

所詮は占いだが、注意しなければならない。

ほむらは、まどか達がいなくなるのを確認すると、踵を返してその場から消えるのだった。

 

 

「くぅ、不覚だわ……! せっかく新たに誕生したマジカルガールズ6の名乗りだったのにッ! もっと使い魔が現れないかしらッ」

 

「物騒な事を言うな、冗談キツイぞ」

 

 

サキに睨まれ、マミは肩を竦めた

戦いが終わってから、一同はそのままマミ家に集まった。

今はゆまの必殺技の名前を考え様と盛り上がっていた所だ。

 

かっこいい名前にしようか?

かわいい名前にしようか?

個性的な名前にしようか? いろいろ悩むところである。

 

 

「うーん、何にしよっか? まどか、何か思いつく?」

 

「ぽんぽこハンマー、とか?」

 

「ブッ! ブぁハハハハハハハハ! な、なにそれまどかぁ! くひゃひゃひゃ! ぽ、ぽんッて! ブハハハハハ!!」

 

「さ、さやかちゃん! は、はぅ」

 

 

さやかは腹をかかえて笑い転げており、マミやサキも肩が震えている。

言わなきゃ良かった。まどかは真っ赤になって俯いた。

 

 

「ま、まあそうだな。ハンマーブレイクなんてどうだ?」

 

 

可哀想になったのか、サキが話題を変える。

その優しさが痛いワケだが、まあ気にしないでおこう。

 

 

「うーん、ちょっと地味だわ。せっかくなんだからもっと派手なのにしましょうよ。ねえ? ゆまちゃん」

 

「うん! マミお姉ちゃんが考えてーっ!」

 

「任せて! 昨日52個ほど候補を考えてきたの!」

 

「多いな!」

 

必殺技名を考えるマミは、饒舌でとても輝いて見えた。

その様子を少し離れた所で真司と須藤は観察している。

 

 

「ほんと、楽しそうだなマミちゃん」

 

「そうですね。本当によかった」

 

 

須藤は何かを決めたように頷くと、紅茶のカップを皿の上に置いた。

そして、マミ達に聞こえないように小さな声で話し始める。

 

 

「城戸くんにも、話しても大丈夫でしょう。彼女の願いを」

 

 

それは、つまりマミが魔法少女になった理由だろう。

マミは他言しないでほしいとは言っていないし、まどか達も全員知っている。

だからと言って軽く話せる内容でもなかった。だから今までは黙っていたが、須藤としては真司に知っておいてほしかった。

だから、話すのだ。巴マミの願い。魔法少女になった理由。

 

 

「彼女は、半ば強制的にキュゥべぇ君と契約したんです」

 

「強制的?」

 

「ええ。そうしなければ――」

 

 

マミは今、一人で暮らしている。

その理由はあまりにも簡単、両親がいないからだ。

 

マミは今でもあの時の夢をよく見る。

気がつけば、全身の感覚が鈍くなっていた。耳鳴りが酷い、寒い、眠たい。でも眠ってしまったら駄目だと言うことは、なんとなく理解できた。

 

正面衝突、横転した車。

交通事故なんてニュースでしか見たことなかったのに、まさか自分が経験するなんて。

衝撃と共に視界がグチャグチャになった。自分が今どこにいるのかも分からぬうち、気づけば空が見えた。

 

マミは、家族の名前を呼ぶ。

しかし答える者はいなかった、もしかしたら声が出てなかったのかもしれない。

尤も、どうせマミ以外死んでいたのだから無駄な話だったのだ。少し前までは優しく笑っていた両親も、今は衝撃で見るに耐えない姿になっていたと聞く。

 

マミは空に手を伸ばす。ただなんとなく、助けを求めるために。

そこで自らの腕が、おかしな方向に曲がっているのに気づいた。脚の感覚もない。そもそも下半身の感覚がまるごとなかった。

幸い傷みもなかったので、パニックになることは無かった。

 

マミはジッと空を見ていた。

このまま時間が経てばあの向こうにいける気がして、なぜか嬉しくなった。

マミは微笑んだ。天使様が見えた。白くて、ウサギみたいな、可愛らしい天使さま。

 

 

『ボクはキュゥべえ。キミは、生きたいかい? 巴マミ』

 

 

生きたい? 死にたくない? どっちだろう?

 

 

『もしもキミが、生への望みを託すなら、それは力となって君を救うだろう』

 

「私は助かるの――……?」

 

『もちろん。さあ巴マミ、ボクと契約して魔法少女になってよ!』

 

「私は――……」

 

 

そう、巴マミは契約しなければ死んでいたのだ。

マミは願いを決める事はできなかった。生きる代償として、魔女と戦う使命を課せられたのだ。

だが、命を取り留めてからの生活は、想像している以上に辛く厳しいものだった。

 

たった一人で魔女と戦わなければならないと言う恐怖。

いつ襲われるかという焦り、友達と遊ぶ時間はない。危険な時もあった。それこそ死を覚悟した時もある。

それは、今まで普通に暮らしてきた中学生の女の子が背負うにはあまりにも大きすぎる物。

眠れない日も続いた。恐怖で物を食べられなくなった時もあった。

 

すぐに壊れかけた心。

だが、そんな時、たまたまテレビで『それ』を見かけた。

何のことはない、普通のアニメだ。自分も小さいときに似たような物を見ていた。

小学生くらいの女の子が魔法の力で変身して、正義の為に戦うアニメ。

 

マミにはそれが、とてもまぶしく見えた。

正義の為に戦う姿、その魔法少女(ヒロイン)に憧れる子供達。

そこで思い出す。マミだって幼い時は魔法を使う女の子に憧れた。

その夢が叶っているじゃないか

 

それだけ。でもそれだけで、マミは戦えたのだ。

正義の為に戦う魔法少女。自分の為じゃない、正義の為にだ。

あの憧れたヒロインの様に。平和を守るのだ。

 

だがそれはあくまでも考え方だ。

マミの孤独が消えた訳じゃない。戦う事に希望は持てても、マミはいつも一人だった。

 

家に帰っても誰もいない。

友達だって、魔女退治があるから遊びに付き合えず、。そんな毎日を生きてきた。

全てはマミ自身の為に、魔女から人を救う為に、正義の為にだ。

 

テレビの中にいた魔法少女も、いつからか仲間ができてカラフルになっていた。

赤、青、ピンクに緑。でもマミはまだ独り。

 

 

「ですが、今は一人じゃない。鹿目さんと美樹さんが仲間になって、私がパートナーになって、浅海さんが仲間になって――」

 

 

そして、真司やかずみ、ゆまが加わった。

いつも静かだった部屋に、たくさんの笑い声が聞こえる様になったのだ。

今のマミは戦いを強いられた孤独な戦士ではなく、正義に燃える魔法少女達の一員なのだ。

 

 

「巴さんにとって正義のヒーローとは……、魔法少女である自分を保持する為の希望でもあります。ある種、すがる物といえばいいでしょうか」

 

「心の支えみたいなヤツですか」

 

 

真司は思う。そう言えばマミは命がけの戦いの中にも、遊び心を忘れなかった。

チームを結成して二つ名や、名乗りを作ったり。皆に必殺技の名前を叫ぶ様に言ったのもマミだと言う。(尤も、皆はそれほど乗り気じゃないが)

 

 

「それらの理由も、戦いの恐怖心を薄れさせるのがあります。巴さんにとって、アニメの中にいた魔法少女は希望なのですよ」

 

 

そんな理由があったのか。真司は改めてマミを見てみる。

楽しそうに笑っていた。だが、きっと多くの涙を流した事だろう。

 

 

「だから、真司くんも彼女のやり方をどうか認めてあげてください。人によっては戦闘中にふざけていると思うかもしれない。だけど、あれが巴さんのやり方なんです」

 

「それはッ、もちろん。俺は全然大丈夫ですから……」

 

 

真司はむしろマミの事は尊敬していた。

正義のために、希望の為に、明るい未来を守るため戦う魔法少女。そんな彼女達を守りたいと龍騎になったのだから。

 

 

「それならいいのですが……」

 

 

そこで、まどかが話しかけてくる。

 

「須藤さん、最近お仕事はどうなんですか?」

 

「え……?」

 

 

何気ない質問だが、須藤は沈黙してしまう。

交番勤務に移された事を言うべきか迷っているのだろう。

 

 

「こらこら、駄目よ皆。須藤さんを困らせては。捜査情報は外部に流せないものね?」

 

「え、ええ……」

 

 

マミの須藤を見る目は、尊敬に満ちていた。

しかし須藤の表情は複雑だった。とても複雑だったのだ。

 

 

その夜。

 

『続いてのニュースです。先日自殺した少年はいじめが原因で――』

 

『暴走族の騒音が原因で自殺した老夫婦、この事件は――』

 

『誤認逮捕の件について警察は責任を――』

 

『えー、通り魔の少年なんですがね。これ、精神障害が原因で実質無罪っちゅうのは――』

 

『最近警察のモラルが原因で――』

 

 

(なんで……ッッ!! どうしてこの世界は――ッッッ!!)

 

 

 

 

 

 

三日後の事だった。

見滝原の外で起こっていた猟奇殺人。それが、ついに見滝原で発生した。

 

被害者は見滝原高校に通う男子学生。

今までの事件と同様に、何かに『喰い散らかされた』ように、遺体の状態は凄惨な物だったと言う。

 

しかし今までと違う点もあった。

これまでの被害者は『喰い散らかされた』とあるように、文字通り臓器や肉、骨の一部が消えていた。遺体と呼べるのは『食べ残し』と称された程なのだ。

 

だが今回の遺体は、バラバラに切断しただけと言う印象を受ける。

損壊部分も切断の痕があり、模倣犯の筋もあると警察は見ていた。

 

 

「本当に怖いよね……」

 

「ええ。犯人の事については何も分かっていないみたいですし……」

 

「大丈夫、まどかと仁美に何かあったらあたしが守ってあげるからさぁ!」

 

 

学校の帰り道。まどか、さやか、仁美の三人は急ぎ足で帰路につく。

猟奇殺人が起こったと言う事で下校の時間がいつもより早く、寄り道はせずにまっすぐ帰ろうと言う事になる。

 

自分達の街に凶悪な事件が舞い込んできた。

怖がるなと言う方が無理だろう。仁美を見送って、まどか達も小走りになる。

だがそこで、キュゥべぇが現れた。なんでもマミが呼んでいるらしい。

まどか達が急いで部屋に駆けつけると、既にサキやかずみ、ゆまの姿があった。

 

 

「皆に集まってもらったのは他でもないわ、あの事件が見滝原でも起こったの」

 

「しかし、マミ、忘れたわけじゃないだろう?」

 

 

マミとサキは以前、その犯人であるだろう魔女を探して隣町まで出向いた事がある。

しかし、結果は虚しいものだった。魔女も、手がかりも、なにひとつ見つからずに終わったのだ。

結局、もう二、三回調査を行ったが、全て空振り。代わりに殺人は増えていく一方である。

 

 

「確かにそうよ。でもこのまま殺人を見逃すなんてできないわ」

 

「そりゃ同感ですッ! でもさ、マミさん。どうやって見つけるの?」

 

「被害者が多くなっていくと言うことは、それだけ魔女が力をつけていると言う事よ。以前は感じられなかった魔力も、拾う事ができるかもしれない。ううん、もしくはソウルジェムで感知できない魔女と言う可能性も十分考えられるわ。だからやっぱり自分達の足で探すしかないと思うの」

 

「ははあ、なるほど……」

 

「大丈夫。私たちと、須藤達にも協力してもらえば、必ず魔女を見つけられるわ。とにかく、これ以上の犯行は許さないわよ!」

 

 

マミは声を張り上げて手を上げる。

 

 

「必ず殺人を止めて見せるわ! マジカルガールズ6出動よ!!」

 

「「「おーっ!!」」」

 

 

さやか、かずみ、ゆまの三人は、マミに合わせて気合を入れる。

 

「お、おぉぅ……!」

 

 

まどかも少し恥ずかしそうにしながら手を挙げる、サキは何も表情を変えずに紅茶を口にした。

 

 

「?」

 

 

これで今日はお開きとなった。

一人で帰るのは危ないので、マミがさやかとかずみを、サキがまどかを送り届けると言う事に。

 

 

「あのね、お姉ちゃん」

 

「うん? どうしたんだい?」

 

 

まどかは少し戸惑いがちに、先ほど感じた違和感を述べる。

 

 

「サキお姉ちゃん、なんだかさっき暗い顔してたよ? なにかあったの? もしよかったら、相談して欲しいなぁ、なんて」

 

「ああ。いや、気にしないで。何でもないんだ。ただちょっとマミの事で」

 

「マミさんがどうかしたの?」

 

「最近、学校でも明るいんだ……」

 

 

サキはまだ魔法少女ではない頃からマミとよく話していた。

あの時は友達と言うほどの物ではなかったかもしれないが、その頃の記憶にあるマミより今のマミはずっと明るい。

理由は分かる。今まで一人で命がけの戦いに身を投じてきたからだろう。

 

 

「昔、一度だけチームを組んでいたらしいが……」

 

「そうなの? 知らなかった!」

 

「その時の事はあまり話してくれないから、あまり良い思い出じゃないんだろう」

 

「もうパートナーの人はいないもんね……」

 

「ああ。いずれにせよ、マミにとっては今はとても良い状態なんだろう。仲間がいて、パートナーがいて」

 

 

「えへへ、もしかしてやきもち?」

 

「そんなんじゃないさ。ただ……、いい意味でも、悪い意味でも、マミは明るい」

 

「え? 明るい事が駄目なの?」

 

「……マミはまだ、現実を直視していないのかもしれない」

 

「???」

 

 

よく分からない。まどかは首を傾げる。

そうしていると、家についてしまった。

 

 

「さあ着いたよまどか。まだ明るいけど、もう外には出ない方がいい」

 

「うん、ありがとうお姉ちゃん。えへへ」

 

「ん? 何がおかしいのかな?」

 

「昔もよく、こうして送ってもらったね」

 

「フフ、なつかしい。家に入るまでジッと見ていたっけ?」

 

「じゃあ早くお家に入らないと、お姉ちゃんが帰れないね」

 

 

まどかは笑って、早足で玄関の扉を開けた。

二人は挨拶を済ませて別れる。扉が閉まり、まどかの姿が見えなくなった時、サキはため息をついた。

 

 

「難しいな。いろいろと……」

 

 

本当に難しい。人の心も、現実も。

ましてや、自分の心が。

 

 

 

翌日、また見滝原で殺人が起こった。

しかも今度の犠牲者は一人じゃない。深夜に公園で騒いでいた若者の集団が、遺体で発見されたのだ。

 

騒音や器物破損などでいろいろと問題になっていた集団だったが、まさかこんな事になるとは誰も予想していなかった。

早速、魔法少女達と騎士は魔女を見つける為に、調査を開始する。

 

 

「今日は初めに亡くなった少年のお葬式があるそうです。私たちもそこに向かいましょう」

 

 

須藤が掴んだ情報。

もし魔女が犯人ならば、負のオーラが集まっている葬儀場や火葬場は餌場になる可能性が高い。

それは阻止せねば、一同に緊張が走る。

 

 

「ねえゆまちゃん。もし魔女との戦闘になったら、考えた必殺技を叫びましょうね」

 

「うん! わかったよマミお姉ちゃん!」

 

 

マミとゆまは手を繋いで楽しそうに話していた。

これが昨日なら、さほど気に留めなかったかもしれない。しかし今日は今日だ。サキは足を止めて立ち止まる。

 

 

「あら、どうしたのサキ?」

 

「――ろ」

 

「え?」

 

「いい加減にしろ」

 

 

勘違いをしてはいけない。楽しい放課後ではないのだ。

それを前々から言えれば良かったのかもしれない。だが、変に気を遣ってしまったから、ずっと溜め込んでしまった。

それが今、緊張感の無いマミを見て爆発してしまったのだ。

 

 

「いい加減にしろマミッ! 遊びじゃないんだぞッッ!!」

 

「!」

 

 

サキの言葉に一同はビクッと肩を震わせる。

 

 

「人が死んでるんだ! 別に明るい雰囲気で戦うなとは言わない……! だが、もう少し事態と真剣に向き合わないと――ッ」

 

 

そこで、サキは言葉を止めた。

まどか達は不安そうに表情を歪めており、ゆまに至っては泣きそうになっている。

 

 

「ご、ごめんなさいサキ。そうね、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたい……」

 

「い、いや。コッチもいきなり――、その、すまなかった」

 

 

二人は謝りあい、事なきを得た。須藤も真司もホッと胸をなでおろす。

そこから、しばらく一同は無言で葬式が行われている会場を目指した。

 

 

(確かに。少しはしゃぎ過ぎていたかもしれないわね……)

 

 

昔はそんな事なかったのに。

マミは複雑な表情で歩いていく。どうしても仲間や、憧れてくれている人がいるのは嬉しくなってしまい、気分が高まってしまった。

気を引き締めないと。マミは頷き決意を決める。

 

 

「――ッ」

 

 

とは言え会場に着いた時、マミは自分の発言や行動を後悔した。

泣き崩れる少女が見える。聞けば、被害者の彼女だそうだ。

部活動を行っていたのだろう、後輩やチームメイトも声を出して泣いていた。

 

それだけじゃない。当然、クラスメイトを始めとして、いろいろな人がそこにいた。

みんな、被害者の少年と関わりがあったのだろう。

昨日まで元気に学校へ来ていたクラスメイトが、翌日見るも無残な姿で見つかった時、人は何を思うのだろうか?

 

 

「……ッ」

 

 

須藤はその中を掻き分けて会場内へと足を進める。

そこには、家族が待っていた。

 

 

「すみません。警察です。少しお話、よろしいでしょうか?」

 

「え? ぁ、警察の方ですか……」

 

 

被害者の母親はうつろな瞳で椅子に座っている。

本当にショックなのだろう、涙すら出ない様だった。

マミはその時、被害者の祖父や父親が声を押し殺して泣いているのを見つけてしまった。犯人に対する怒りや、助けられなかった後悔に苛まれているのだろう。

 

そうだ。人の命は自分だけの物ではない。

家族や友人、関わった人達の分価値が増えていくのだ。

そして、それを奪われたとき、それはもはや個の問題ではなくなる。

 

 

「すぐに済みます。被害者のことでいくつか――」

 

「待って……! 須藤さん――ッ!」

 

「え?」

 

 

他ならぬマミが須藤を止める。

 

 

「どうしました? 巴さん」

 

「ご、ごめんなさい……。ここまで、来て……、なんだけど。今日は帰らない?」

 

「ですが――」

 

 

その時、マミの足元にポタリと雫が垂れた。

重ねてしまったのだろう。事故で両親を亡くした自分に。

 

 

「……わかりました。皆さん、今日は帰りましょうか」

 

 

須藤の言葉に一同は頷く。

ごめんなさいと、マミは皆に向かって呟いた。

 

歩いてきた道を、再び戻る。

行きの時に楽しそうにはしゃいでいたのに、今は肩を落としてトボトボと歩いている。

誰もかける言葉が見つからず、しばらく無言で過ごした。

そんな中、マミが口を開く。

 

 

「サキの、言う通りだった」

 

 

また、足元に小さな点ができる。

肩と声が震えていた。マミは顔を上げると、頬を伝う雫を拭う。

 

 

「全てサキが正しかったのよ。本当にごめんなさい」

 

 

マミはもう一度皆に謝り、頭を下げる。

浮かれていた。はしゃいでいた。仲間ができた事で、大切な事を忘れてしまっていた。

 

 

「私ッ! 人があんな残酷に殺されてるのに、全然それを理解してなかった――!」

 

 

心のどこかで、この活動を楽しんでいたかもしれない。

仲間と一緒に悪い魔女を倒す。そんなヒロイックな状況に甘えて、『現実』を直視していなかった。

 

マミの声がますます震えていく。

もう完全に泣きじゃくっており、自分の行動を思い出していたのか、しきりに胸を強く押さえつけていた。

 

 

「私……! 言っちゃった! もっと使い魔が現れたらいいのにって!」

 

 

「そ、それは……」

 

 

さやかはフォローの言葉を探すが。いい言葉が見つからない。

マミは一歩、まどか達から離れる様に後ろへ下がった。

 

マミは、自分の行動が最低だと理解する。

だから自分が許せなかった。あれだけ正義に燃えていたマミだからこそ、今の自分が嫌いになってしまった。

 

 

「私ッ、ごめんなさいっ! もう皆と一緒にいる資格なんて無い……!」

 

「えッ!?」

 

「私はもう、正義なんかじゃない! ごめん、ごめんなさいッ!!」

 

「ま、マミさん!」

 

 

マミは皆の声を振り切って、走り去ってしまった。

すぐに追いかけ様とするまどか達だったが、キィィインと耳鳴りが。

強烈な音だ。真司、須藤、まどかは足を止める。だがその一方でサキ、さやかはポカンとしていた。

 

そうだ、サキたちは何も感じていないのだ。

この不思議な感覚。須藤が言うには、これもまたパートナーシステムの恩恵だと言う。

耳鳴りは魔女か、使い魔の気配があると言う意味だった。

 

 

「くそッ! こんな時に!」

 

 

魔女となると、一連の事件の犯人かもしれない。

ならばこのまま逃す事だけは避けなければ。とは言え、このままマミを放っておく事もできないし。放っておく事はしたくなかった。

真司は顎を触りながら考える。何か、いい手はないものか。

 

 

「!」

 

 

あった! これしかない! 真司は早速、須藤達にその事を告げる。

簡単な話だ。マミを探しにいく人と、魔女と戦う人を分ければいい。

もう時間がない、了解する一同。なら問題は誰がマミのところに行くかだが……。

 

 

「須藤さんが行ってください!」

 

「え? わ、私ですか?」

 

 

誰も異論は無かった。

パートナーとして、相棒として、マミを連れ戻してきてほしい。

しかし須藤は戸惑ってしまう。

 

 

「確かに私は巴さんのパートナーとして選ばれましたが……、親しさで言うのなら私より鹿目さんたちの誰かが行った方がいいのでは」

 

 

まどか達はそれでも須藤にその役をお願いした

親しさよりも、マミの事を思うと、今は須藤(パートナー)が大切な気がしたからだ。

 

 

「魔女は俺たちで倒します。だから、須藤さんはマミちゃんを頼みます!」

 

 

真司はそう言うと、須藤の返答を待たずに走り出してしまった。

まどか達もついていくものだから、あっと言う間に須藤は一人になってしまった。

 

 

「――ッ、まいりましたね」

 

 

須藤は困ったように天を仰ぐ。

だが、任された以上、このままジッとしている訳にもいくまい。須藤は覚悟を決めると、マミの後を追いかけた。

 

 

「変身!」「へんしん!」

 

「いくぞ皆ッ! 気をつけろ、今回は使い魔じゃない! 魔女だッ!!」

 

 

死の匂いに引き寄せられたか。

禍々しい魔女結界の中、暗闇の魔女『SULEIKA(ズライカ)』が待ち構えていた。

ゲルトルート同様、その形状はとてもじゃないが女性とは、ましてや人とも言いがたい。

 

ズライカは金平糖のような弾けた体に、足の様な『線』がついている。

あまり強そうには見えないが、そういう相手に限って強力な力を隠し持っていたりするものだ。サキはまどか達に注意を促し、走り出す。

 

 

『■■■』

 

 

よく分からないズライカの声と共に、使い魔達が現れた。

ゴフェルとウラの群れは、まどか達に向かって次々に突進してくる。

もちろん抵抗はさせてもらう。まどかは前に出ると、腕を前に出して結界を展開。ピンク色のバリアは、迫り来る敵を塞き止め、弾いていった。

 

体勢を崩した使い魔たちは、その動きを鈍らせる。

チャンスだ、かずみは全速力で走りぬけ、使い魔たちを潜り抜けると、ズライカの前に出る。

 

 

「一気に終わらせるよ!」

 

 

かずみは必殺技を発動しようと魔力を十字架の先端に収束させる。

 

 

「リーミティ――ッッ!」

 

『■■■!!』

 

「え!?」

 

 

その時、ズライカは能力を発動させた。

ズライカ自身は、戦闘能力に関しては、かなり低い魔女といってもいい。

だが、ズライカには『暗闇』がある。体から一瞬で闇が溢れ、あっという間にフィールドが『黒』く染まった。

かずみの視界も一瞬でブラックアウト。杖の先にともった魔力の光だけはかろうじて確認できるが、ズライカの姿は全く見えない。

 

 

「み、みえないよ!」「わぁ! まっくらぁ!」

 

 

混乱するかずみとゆま。

視界がゼロになった事で、不安と恐怖が明確な形となって押し寄せてくる。

ましてやブラックアウトした世界では、平衡感覚が狂う。ビームを撃ってもいいが、仲間に当たるかもしれないと、かずみは攻撃を止めた。

 

そして衝撃、まどか達の体に鈍い痛みが走った。

そう。暗闇こそがズライカ達のホームなのだ。ゴフェルもウラも動きは素早い、それと合わせて暗闇が彼らに味方をする。

 

 

「厄介だなッ!」『アドベント』

 

 

咆哮と共にドラグレッダーが現れた。

サキの雷と合わせ、火球で場を照らそうと考えたが――

 

 

「何ッ!?」「嘘だろッ!!」

 

 

まさに一瞬、それもほんの少しだけしか場は明るくならなかった。

凄まじい闇の濃度だ。光をすぐに塗りつぶす黒がこの場を包み込んでいた。

暗闇の中では敵がいるかどうかすら分からない。闇雲に攻撃しても仲間に攻撃が当たる可能性だってある。

 

結局そのまま訪れるタイムリミット。

ドラグレッダーは消滅し、使い魔達は再びまどか達に攻撃を仕掛けていった。

 

 

「くッ! もっと連続的に照らす物がないと無理だ!」

 

 

サキは考える。

落雷ではまだ足りない、もっと連射できる何がなければ。

たとえば、そう、砲台とか。

 

 

(こんな時に限ってか……ッ!)

 

 

自虐的な笑みを浮かべるサキ。

やはり、このチームには『彼女』が必要なのだと再確認する。

暗闇の中で龍騎達は防御に徹するしかない、ズライカの繰り出す闇の中では攻撃の殆どが見切られてしまうのだ。

さやかに至っては武器を満足に使うこともできず、動き回る立ち回りも無効化される。

 

相当危険な状況だ。

ゆまは昔を思い出しているのかブルブルと震えている。

かずみや、まどかも、パニックになっており、まともに戦えない。

 

 

「くそッ」『シュートベント』

 

 

ドラグアローを構える龍騎、前のようにズライカを狙い撃ちできればと考えるが。

 

 

『■■ッ!』

 

「ちっくッ、しょッ!」

 

 

やはり暗すぎる、ズライカはおろか使い魔の姿すら見えない。

このままじゃ負ける? 一同の心に、真っ黒な闇が吹き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

巴マミは泣いていた。

誰もいない公園で一人。いろいろな事を思っていた。

あれだけ正義を貫くと誓ったのに、いつの間にか命を軽視していた。

事の重大さを軽く見ていた。

 

それが、許せない。

悔しくて、悲しくて、もどかしくて。マミは涙を流す。

 

きっと皆、自分の事を嫌いになっただろう。

人が死んでいるのに、はしゃいでしまった自分を嫌いになる。

使い魔が現れればいいと言った自分を嫌いになる。

 

 

「……また一人ぼっちになっちゃう」

 

 

それは、寂しい事だけど仕方ない。

悪いのは自分だ。マミは溢れる涙を拭うと、下を向く。

 

 

「ここにいたんですか……。探しましたよ、巴さん」

 

「す、須藤さんッ!?」

 

 

反射的に顔を上げると、息を切らしている須藤の姿が見えた。

走って来たのだろう。須藤はフラフラとベンチに近づいて、マミから少し離れた隣に座る。

驚いてしまったが、マミはすぐに冷静になる。泣いているところは見られたくない、そっぽを向くようにして顔を反らした。

 

 

「な、何をしに……?」

 

「魔女です。今は真司君達が戦っていますが……」

 

「!」

 

 

マミの瞳が光る。だが、すぐにまた俯いてしまった。

 

 

「巴さん。行きましょう、加勢をお願いします」

 

「でも、私が戻っても皆の士気を下げてしまうんじゃ……」

 

「そんな事はありませんよ」

 

「でも! でもッ!!」

 

 

マミは力なく肩を落とす。

 

 

(困りましたね……)

 

 

須藤には女性を慰めた経験があまりない。あっても美佐子くらいだ。

気の利いた言葉をかけられる自信は無かった。

だから、須藤が出した答えは、マミの話を聞いてやる事くらいだ。

 

 

「何を溜め込んでいるんですか? 何か力になれるかもしれません、私たちはパートナーなんですから」

 

「………」

 

「そうですよね巴さん」

 

 

須藤はマミにハンカチを差し出した。

マミは戸惑ったが、小さく頭を下げるとハンカチを受け取った。

一見すれば何気ない様な行動だが、距離が少しだけ縮まった気がする。

それはパートナーとしてでもあり、なにより一人の人間としてだ。

 

 

「私、あの時の事故で――」

 

 

当時の事を思い出しているのか、マミは苦しそうに表情を歪ませる。

須藤は一瞬言葉を止めようとしたが、マミが前に進むために、あえて沈黙を貫いた。

 

 

「私は魔法少女になって生きる道を選んだ」

 

 

しかし、その後、独りで戦っている内に思う。

 

 

「どうしてあの時、契約なんてしたんだろう? いっそ両親と一緒に死んでいればずっと幸せだったのかなって」

 

 

一番辛いのは、魔女と戦う事ではない。

父も母もいないって事だったのかもしれない。

あの被害者の葬式で思い出してしまった。もう死んでいると分かっている筈なのに、いつか両親が何食わぬ顔で帰ってくるんじゃないかと思っていた時期もある。

 

でも、やはりそんな事はなくて。どれだけ待っても両親は帰って来ない。

そんな当たり前の事を再認識するのに、どれだけ悲しんで苦しんだのだろう?

 

でも、だからこそ戦いに絶望してはいけないと思った。

テレビの中で戦う魔法少女達のように、決して悲しみに屈してはいけない。そうすれば希望を振りまく事ができるのだから。

 

 

「だからどんなに辛くても、正義の為に戦うヒロインを思い出して、私はここまで戦えた」

 

 

街を、人を守る為に。

もう自分の様な子を出さない為に戦えるのは自分だけだ。

 

 

「でも、結局私はいつも、からまわりでッ」

 

 

今だって、昔だってそうだ。

正義の名を借りたワガママだったのかもしれない。

 

 

「そう言えば、巴さんは昔一度だけチームを組んでいた事があるんですよね?」

 

「ええ、短い間でしたけど……」

 

 

その時は、とても嬉しかった。

嬉しいと言う感情が正しいことなのか、間違っているのかは分からない。

だけど同じ様に正義に燃える娘がいた事は、何よりの希望だった。

 

やっぱり自分は間違っていなかったのだ!

魔法少女の中には、正義より見返りを求める者も多いと聞く。

だから少し不安だったが、自分は――、いや『正義』は間違っていなかったと安心できた。

 

 

「でも、間違っていたのは私だったのかもって……」

 

「何かあったんですね?」

 

「ええ、彼女はある日を境に、だんだんと変わっていったわ」

 

 

いや、もしかして変わったのではなく、『気づいた』だけだったのかもしれない。

正義に生きる事が間違っているとその魔法少女は示した。マミはそれでもチームメイトを引き止めたかったが、結局戦いとなり関係は壊れてしまった。

 

 

『次はリボンだけじゃすまないよ』

 

 

マミは唇を噛む。

止められなかったのは弱かったから? それとも、向こうが正しかったから?

 

 

「私は、どうすれば……」

 

 

頭を抱えたくなる。

正義に生きなければならなかったのに、弱さに惑うだけなんて。

良い事を、正しい事をしているなら、どうしてこんなに傷つかなければならない。

 

マミの背中に課せられるには大きすぎる物、それが正義だ。

もう、それが背負いきれなくなってきた。分からなくなってきたのだ。

 

 

「私はもう――、駄目かもしれません」

 

「……巴さんは、正義ですよ」

 

「え?」

 

 

不安と迷いに染まる心。

だが、そんな暗闇に強引に刺し入る光が見えた。

マミは暗闇の中でそれに縋ろうと手を伸ばす。何も信じられなくなったその(やみ)の中、その光は驚くほど眩しく見えたから。

 

 

「巴さんは正義を貫いているじゃありませんか」

 

「須藤さん……。でも、私はッ!」

 

 

マミは納得できなかった。

ずっとテレビの中にいた正義の味方を参考にして、その通りに生きてきたつもりだった。

だが現に今は他人を不快にして、命を軽視していたじゃないか。それが正義である訳がない、ならば自分は正義を語る資格など――!

 

 

「皆と一緒にいられる理由なんて、ない」

 

「いえ、貴女は正義です。皆の希望なんだ」

 

 

須藤は断言する。マミの迷いもまた、正義への歩みなのだと説いた。

 

 

「巴さん。正義と言うのは本当に難しいと私も思っています」

 

 

そう言う須藤の表情には、何かとても重い物が見えた。

彼もまた何かを背負っている、そんな気がしてマミは頷く。

 

 

「巴さん、実は――」

 

「え?」

 

 

須藤はマミに自分の現状を打ち明ける。

正義と言うのは絶対の象徴であり、絶対の存在であると信じて疑わなかった。

テレビの中にいたヒーローに憧れ、この世における最も正義に近い存在になれたと思っていたが、現実はそう言う訳でもない。

 

もちろん警察が正義じゃないとは言わない。

むしろこの職業につけた事を須藤は誇りに思っている。

だが、いろいろと大きな壁があるのも事実だった。

 

須藤だって大人だ。現実がテレビと同じだとは思っていない。

しかし、それでもこの現状を変えなければならないとは、思う。

 

 

「私は、自分のした事が間違っているとは思いません。もちろん左遷の理由がそれだけとは限りませんが……、やはり、このまま事件を放置しておくなんて絶対に許されない事なんです」

 

 

須藤もまた、正義と言う物が分からなくなってきた。

何が正しいのか? 何をすればいいのか? どうすれば正義を貫く事が。犯罪を減らす事ができるのかを悩んでいたのだ。

 

だが何もできなかった。

騎士として魔女は倒せても、現実においては、事件一つ解決できない弱者なのだ。

この世界。現実はあまりにもリアルすぎる。グレー過ぎるのだ、黒でもない白でもない。完全なグレー。

 

 

「ですが、私は貴女を見て、正義のあり方を見つけたんです」

 

「わ、私をですか……?」

 

 

頷く。悩んでいた須藤の前には、常に明るく魔女と戦うマミの姿があった。

辛いだろうに。いくら仲間がいるとしても、命を賭けた戦いには変わりない。

 

そんな中で何故、こんなにもマミは強いのか?

それはマミは正義を信じている。希望を信じているからだ。

 

自分はどうだ? もちろん正義を信じていた。

だけど、ほんの少しの黒い面を見て『こんな物か』と卑下していたにしかすぎないのではないか?

 

 

「巴さんは私よりもずっと立派だ。人を守るために戦う事を誇りに思っている。そんな貴方を見て、私は正義のあり方を考えた」

 

「………」

 

「巴さんの生き方は、私にとってとても眩しかった」

 

「浮かれていただけだわ。そんなの正義なんかじゃない。自己中心のエゴです」

 

「なら、そのエゴをこれから正義に変えればいいじゃないですか」

 

「変えていく?」

 

「ええ。完璧な人間なんている訳がありません、どんな人間でもミスをして間違えます。巴さんだって今回の事を反省すれば誰もあなたを咎めませんよ」

 

 

マミは何も言わずに下を向く。

 

 

「少し硬く考えすぎでは?」

 

 

須藤は立ち上がるとマミの前までやってくる。

 

 

「私は、貴女を見て分かりました。正義とは――」

 

 

須藤は、その手をマミに差し出す。

 

 

「正義とは、貴女自身。自分自身なのだと」

 

「ッ」

 

 

どんな状況でも正義を貫こうとする。その姿勢こそが正しい姿だと須藤は言った。

マミの正義に対する気持ちを須藤は知っている。たとえそれが自分の思い描いていたものとは違ったとしても。

たとえ他者がマミの正義を偽善だと罵ろうとも。

 

この世界には、リアルを覆す魔法(せいぎ)が必要なんだ。

 

 

「巴さん、私は決めました。私は私の正義を貫く。だから貴方も自分の正義を貫いてください」

 

「わ、わたし……。私は――ッ!」

 

「行きましょう。皆が待っている」

 

「………」

 

 

マミは涙を拭いて立ち上がる。須藤が差し出した手を掴んで。

 

 

「やっぱり、頼りになるわ。パートナーさんは」

 

「フフッ、お役に立てて光栄ですね」

 

「ええ、そうね。もう迷わない、私は――ッ!」

 

 

正義の魔法少女なんだから!!

 

 

 

 

『■■■』

 

「おわぁアアアアアアッッ!!」

 

 

龍騎の手からドラグアローが弾かれ、龍騎自身も大きく吹き飛ばされてしまう。

まどかも、守る対象が闇で指定できずに、動けないでいた。

 

かろうじてゆまとかずみ近くには来れた。

もしここから離れれば二人が危ない。特にゆまの防御力では危険だ。

つまり、離れられないと言う事になる。

 

 

『●●●』『▲▲▲』『■■■』

 

 

ゴフェル、ウラ、ズライカの連携攻撃は、まどか達を確実に追いこんでいく。

暗闇に響く絶望の笑い声、どうやら魔女達は勝利を確信しているようだ。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

さやかは蹴りをむちゃくちゃに繰り出すが当たる訳もない。

カウンターの突進を受け、さやかはその場に倒れてしまう。

 

 

『■■■!!!』

 

 

ズライカ達は勝利を決めるため、一点に力を集中していく。

しかしそれすらもまどか達は分からない。きっとこのまま闇の一点集中が放たれれば、まどか達は無へと帰るだろう。

 

そして、それすらも闇が隠す。

死へのカウントダウンを感じられないまま、魔法少女達は、ゆっくりと絶望への階段を昇り始めた。

 

 

「みんなッ! ふせてッッ!!」

 

 

その時だ、その声が聞こえたのは。

暗闇の中で凛として光るのは、紛れも無い正義の光だった。

 

 

『■!?』

 

 

それは一瞬。暗闇が光によって塗り消される。その中で立っていたのは――、巴マミ!

 

 

「マミさん!!」

 

 

マミは大量の銃を時間差で発射して、光を交互に撃ち出していく。

闇が光を塗りつぶす前に、新たな光が発射される。そのループにズライカ達は強制的にフィールドへと引きずり出された。

 

 

「マミ……!」

 

「ごめんなさいサキ、皆。もう私は大丈夫」

 

 

だって、正義を知ったから。自分のあり方が分かったから。

 

 

「さあ、決めましょう!!」

 

「はいっ!」

 

 

マミは、まどか達のもとに駆け寄ると、回復魔法を発動させる。

まどかの傷が徐々に癒えていき、安堵の笑みを浮かべた。

 

だが、ズライカ達も黙ってはいられない。

暗闇を失ったからか、焦る様にまどか達めがけ突進をしかけた。

 

 

「うぉおおおおおおッッ!!」

 

 

そこで魔女達に炎弾が着弾する。

魔法少女を守るのは騎士。ストライクベントを発動させた龍騎だった。

ドラグクローによって動きが止まるズライカ達。そこへもう一人の騎士が現れる。

 

 

「お待たせしました!」

 

「須藤さん! 説得できたんですね!」

 

 

頷くシザース。そして一枚のカードを取り出した。

それは今まで見た事のない絵柄。なにやら先ほどデッキが光り輝いているのを発見したらしい。

そしてデッキを調べてみると、新たなカードが追加されていたと言うのだ。

 

 

「効果は分かりませんが、試してみるのも有りでしょう!」

 

 

シザースは、カードをバイザーにセットする。鳴り響くのは絆が生んだ新たな力だ。

 

 

『フリーズベント』

 

 

空間が割れ、ボルキャンサーがシザースの前に出現する。

そのままズライカに狙いを定めると、口から巨大な(バブル)を発射した。

 

 

『■!?』

 

 

ズライカは回避に動くが、その瞬間、サキの雷が着弾して動きが止まる。

もう逃げられない、バブルはそのままズライカに着弾した。

 

すると泡の中にズライカが閉じ込められる。

ズライカは暴れ、バブルを壊そうとするが、無駄だった。

どうやら見た目に反して、相当な強度の様だ。ゴフェル達も攻撃を仕掛けるがバブルは全く崩れない。

 

 

「なるほど。拘束の力ですか」

 

 

魔法少女の力は、『願い』に大きく反映される。

マミの願いは『生きる事』だ。だから命を繋ぎとめると言う事で、『拘束』が固有魔法となった。

 

今、発動させたフリーズベント。

泡の中に相手を閉じ込めると言う拘束技。どうやらマミの力が関係しているらしい。

 

 

「さあ! 決めましょうか皆!!」

 

 

マミの声に、皆は頷いた。

そんな中、サキがニヤリと笑ってマミの肩を叩く。

 

 

「マミ、『あれ』をやらないか?」

 

「え! でも――ッ」

 

「いいじゃないか。その方がキミらしい」

 

「酷い。人をなんだと思っているの?」

 

 

とは言え、マミもニヤリと笑ってみせる。

まどか達も意味が分かったらしい。今回ばかりはノリノリで集まっていく。

 

マミは諦めたように頷くと、その眼に大きな光を灯した。

そして、ビシッっとズライカ達を指差して声を張り上げる。

 

 

「あなたの悪事は私が潰す! 魔法少女マミ!」

 

 

その言葉に反応して、さやか達も名乗りを上げる!

 

 

「蒼き閃光、無敵の剣! 魔法少女さやか!」

 

「正義の雷! 魔法少女サキ!」

 

「桃色ピンキー! 魔法少女まどか!」

 

「漆黒の十字架! 魔法少女かずみ!!」

 

 

そして――

 

 

「サポートお任せ! まほー少女ゆま!」

 

 

「「「「「「我ら! マジカルガールズ6!!」」」」」」ドカーン☆

 

 

カラフルな爆発と共に一同は構えた。

襲い掛かるウラたちを受け流し、まどかは龍騎(パートナー)の名前を叫んだ。

勝利を勝ち取る為に。

 

 

「真司さん!」

 

「っしゃあ! 決めてやる!!」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

龍騎の紋章がまどかを包んだ。

ゆっくりと意識を集中させるなかで、まどかの周りをドラグレッダーが激しく旋回していく。

 

桃色の光を放ちながら、上空へ浮遊していくまどか。

その前方では、龍騎が腕を旋回させている。ドラゴンライダーキックの構えだ。

 

 

「フッ! ハァァアアアアア――……ッッ!」

 

 

龍騎は腰を落として、狙いを定める。

使い魔達は龍騎を止めようと攻撃をしかけていくが、全てマミ達に妨害されて龍騎達には近づけない。

 

まどかの方を狙おうにも、ドラグレッダーが咆哮を上げながら周りを旋回しており、近づけない。

ズライカも拘束を解除できず、ただもがき続けるだけだった。

 

さあ、終わりの瞬間だ。

まどかとドラグレッダーがズライカに眼光を向ける。

そのまま、まどかは強く弓を振り絞った。しかし弓に矢は装填されて無い。

 

代わりに、それに呼応する様にしてドラグレッダーの口の中が赤く輝いていく。

まどか力いっぱい弦を引けば引くほど、ドラグレッダーのチャージも膨れ上がると言う訳だ。

 

 

「ハァア!」

 

 

龍騎は、飛び上がり、単体でズライカに飛び蹴り仕掛ける。

その背後には、まどかが弓を構えているじゃないか。

龍騎が蹴りを放つのを確認すると、まどかは弦から手を離した。

 

 

「たああああああああああああっっ!!」

「ダアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

まどかの持つ弓ではなく、傍にいたドラグレッダーの口から炎の矢が放たれる。

それは空間を切り裂きながら、一瞬で龍騎に重なると、龍騎を炎の矢に変えてみせた。

 

その名も『マギア・ドラグーン』。

ドラグレッダーがまどかの弓とリンクし、炎の矢を発射する。

この炎の矢は敵に当たればそのままダメージとなり、味方に当たれば威力と速度を与える魔法となる。

 

後者の効果を受けて、龍騎は速度と威力が増したキックを放つ。

これが二人のファイナルベントだ。

 

 

『■ッッ!!』

 

 

自らが矢となった龍騎は、そのままズライカをバブルごと貫いた。

 

 

「こっちも決めましょう! ティロ――ッ」

 

「うん! リーミティ――ッッ」

 

「フィナーレ!!」「エステールニ!!」

 

 

マミとかずみの必殺技で、使い魔達を一掃する。

爆散するズライカと粉々に破壊される魔女結界。

まどか達はすぐにマミへと飛びついていく。

 

 

「やったねマミさん!」「マミさんさいこー!」

 

 

勝利の喜びを分かち合うため、さやかの提案でマミを胴上げする一同。

 

 

「ちょ! やめ――っ! ふふふふっ!」

 

 

マミは恥ずかしそうにしながらも、確かな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「ねえ須藤さん」

 

「はい?」

 

 

魔女を倒し、皆を送った帰り道。

マミとゆま、須藤の三人は自分の帰路についていた。そこでマミは言う。

 

 

「私、これからも正義を貫くわ」

 

「ええ、そうですね。私も決めました。"自分の正義"を貫こうと」

 

 

マミは頷く、そしてもう一度お礼を言った。

もし須藤が迎えに来てくれなかったら、自分はあのまま悩み苦しんでいただろうから。

 

 

「これからもよろしくお願いします」

 

「ええ、こちらこそ」

 

 

共に正義を歩もう。

二人はそう決めると、小さく笑って歩き続けるのだった。

そう、自分の正義を、貫く。

 

自分の正義を。

 

 

 

「………」

 

暁美ほむらは自室で資料をジッと眺めていた。

今までの経験からデータを作成した訳だが、今回は役に立ちそうもない。

何が原因でこんな事になっているのやら、それが全く分からないでいた。

 

隣には、手相の本を読みふけっているパートナーの姿がある。

手塚はほむらからの視線に気がつくと、本から視線を外さずに口を開いた。

 

 

「それにしても、いいのか? 俺を家に上げると変な噂を流されるとか言ってなかったか?」

 

「もう遅いって事に気づいたの。それに、それは貴方もでしょう?」

 

 

手塚は本を閉じてほむらを見る。

アンニュイな様子で、特に表情を変える事もなく二人は淡々とつぶやいた。

 

 

「「言いたい奴には言わせておけば良い」」

 

 

見事に声が重なった。

そう言うところは流石パートナーと言うべきか、二人は全く気にする様子もない。

ほむらは手塚から預かったカードをデッキに戻して、投げ渡す。

 

 

「一応は調べてみたけれど、全く何も分からない」

 

 

カードとは魔法が生んだ産物なのだろうか?

ジュゥべえと言うのが、何者なのかは知らないが、騎士側のキュゥべぇと考えるに、やはり魔法関係で間違いないのか?

 

 

(なら、彼も……)

 

 

いや、決め付けるのは早いか。

ほむらは手塚にお礼を言って家に帰る様に言う。

 

 

「今日もずいぶん遅い時間までつき合わせてしまったわ。ごめんなさい」

 

「気にしてない。珍しいな、お前がまともに謝罪するなんて」

 

「心外ね、私にも良心ってものがあるの」

 

「ははっ、そうだな。悪かったよ」

 

 

手塚は小さく笑って、そのまま別れを告げる。

最初は鬱陶しいだけだと思っていたが、何も言わずに協力してくれるのは、ありがたい事だ。

 

 

(いずれ、彼にも……)

 

 

本当の事を言える日が、くるのだろうか?

ほむらは小さくため息を漏らす。

 

 

『よぉ、初めまして……、で、いいんだっけ? 暁美ほむら』

 

「!」

 

 

その時、背後から声が聞こえた。

ジュゥべえだった。彼もまた、ほむらのデータにはないイレギュラーだ。

何のことは無い普通の挨拶ではあるが、ほむらはそれが引っかかった。

 

「ジュゥべえ、だったかしら?」

 

『ああ、よろしくな』

 

「どうして私の名前を?」

 

 

おかしい。『今回』はまだキュゥべぇにも接触していない筈だ。

いや、ちょっと待て。そこでほむらの脳に電流が走る。

 

ニヤリと笑うジュゥべえ。

そうだ。何で今まで気づかなかったんだろう。

イレギュラーに翻弄されていたせいで、混乱していたが、考えてみれば何から何までおかしいのだ。

 

特に、パートナーシステム。

魔法少女と騎士がそれぞれ結ぶソレは、文字通り『魔法少女と騎士』がいてこそ成立するものだ。

 

そして、そのシステムはキュゥべぇ達が仕組んだ物と見てまず間違いない。

ならば、ほむらが『手塚』と言うパートナーを見つけた時点で。

契約が成立した時点で、キュゥべえたちは『ほむら』と言う存在を事前にしていった可能性がある。

 

 

『お前も魔法少女だったとはな。驚いたぜ。先輩は少なくとも、お前と契約した覚えは無いってよ!』

 

「………」

 

 

やはり、バレていたようだ。

しかし、何故今更コンタクトをとってきたのか。ほむらには分からない。

 

 

『なーんてな!』

 

「ッ!?」

 

『知ってたぜ、暁美ほむら。お前が魔法少女って事はよぉ?』

 

「何を言ってるの?」

 

『今日、オイラがお前の所に来たのは警告する為さ』

 

「一応聞いておくわ」

 

 

ポーカーフェイスのほむらだが、内心は焦りで満ちていた。

知っていた? どういう事だ? 今までもこんなに早く『気づいた』事はない。

そんな事を考えているうちに、ジュゥべえの声が聞こえてきた。

 

 

『"今回"は、慎重にやった方がいいぜぇ。"次"は、無いんだからよ』

 

「ッ!!」

 

 

ジュゥべえはそれだけ言って、ほむらの前から姿を消した。

ほむらはゆっくりとその場に座り込み、ふと鏡を見た。

自分はどんな表情をしているのだろう? ああ、なんて――

 

 

怖い顔。

 

 

 

 





次は20か、21予定
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