仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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三話分まとめて更新でございます。
前も書いたんですが、これは純粋に前サイトに掲載していたものを上げなおしているだけなので、ストックが切れたら僕はウラタロスになります。

そしてだんだんとストック切れが近づいてきました。
つまりメチャクチャ更新が遅くなります。
その点だけはどうか、どうか分かってくだせぇ……(´・ω・)b


第77話 状況と環境

 

 

「ね、お昼ごはん一緒に食べよーよ」

 

「今日はテラス席があいてるよ」

 

「あら。行方さん、長月さんも」

 

 

美国織莉子は、話しかけてきたクラスメイトに柔らかい笑みを返した。

行方(なめかた)(あきら)は髪を二つに結んだ少女。

長月(ながつき)美幸(みゆき)はヘアバンドにメガネをかけた少女だった。

学校を休みがちな織莉子であるが、この二人だけは頻繁に話しかけてくれる。

しかし織莉子としては複雑な話でもあった。

 

 

「いいの? 私とで」

 

「良いに決まってるじゃーん。ね? 美幸」

 

「うん。私達は美国さんと食べたいの」

 

 

この会話も、もう何度目になるか分からない。

織莉子が何度断っても、何度拒む空気を出しても、二人は話しかけてくれる。

ありがたい話だ、織莉子達はテラス席に向かう。

長月の言うとおり、テラス席は空いていた。いや、正確に"空いた"。

まわりの生徒達は織莉子を奇異の眼で見つめ、ヒソヒソと声を小さくしていた。

そんな周りを無視して、三人は弁当を広げる。

 

 

「ごめんなさい、気分が悪いでしょ」

 

「あんまり気にしない方がいいよ。美国さん」

 

「そーそ、それにあたし等も慣れっこだからさ」

 

 

織莉子の学校ではカースト制度があり、『良家』と『成金』に分かれている。

長月と晶は後者のほうであり、成金組みは色々と馬鹿にされがちなのだ。

 

 

「だから気にしな――」

 

 

ふと、長月が視線を移動させた、まさにその時だった。

 

 

「ヒッ!」

 

 

長月は恐れに声をあげ、手に持っていたサンドイッチを落とした。

なんだ? 晶と織莉子が視線を追うと、そこには何も無い。

 

 

「美幸?」

 

「長月さん、何か見えたんですか?」

 

「今――ッ、誰かがそこに!」

 

「「え?」」

 

 

織莉子は一瞬魔女かと、ソウルジェムをポケットの中に構えた。

だが『誰か』がと言う長月の言葉が意味するとおり、それは人のシルエットをしていたようだ。

黒い喪服のような格好の少女が、コチラを見ていたと言うが――。

 

 

「髪は? 長かった? 短かった?」

 

「長かったと――、思うけど」

 

 

織莉子は唸る。キリカでは無いようだ。

 

 

「なに、お化け?」

 

「ちょ、ちょっと止めてよ晶ちゃん!」

 

「変質者の可能性もあるし、一度先生に言いましょうか」

 

「う、うーん。でもいないし――」

 

 

気のせいだったのだろうか? 首をかしげる長月。

確かにこのテラス席は所謂『中庭』のため、校舎からでないと入る事はできない。

変質者であれば確実にその前に騒ぎになっている筈だ。

それは逃げる時も同じで、出て行くには生徒が沢山歩いている構内を抜けなければならない。

しかし今現在、特に誰かの悲鳴は聞こえないので、やはり気のせいだったのかもしれないと。

 

 

「………」

 

 

織莉子は目を細める。魔女の気配は無い。

他の魔法少女の可能性もあるが、それにしても気配は無い。

気のせいか、もしくは逃げたのか。ひそかに構えていたソウルジェムから手を離すと、長月を落ち着けるために笑顔で話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方清明院。

コチラもお昼時であり、仲村が運んで来た食事に一同は手をつけている所だった。

 

 

「おいしいかい?」

 

「うん、おいしいよ」

 

 

香川裕太はハンバーガーをほお張りながら下宮に笑みを返す。

見た目は完全に小学生の男の子だが、その中にはサイコローグへの変形機能があり、実際に彼はミラーモンスターなのだ。

サイコローグが既に使い物にならない事を知っていた香川は、病気で死ぬはずだった裕太と融合させるという狂行とも言える手に出た。

しかし結果としては実験は成功し、裕太は現在人間とそう変わりない感覚を持っている。

 

やはり香川も親として裕太を失いたくは無かったのだろうか。

死の運命を否定した事に下宮は深い物を感じる。

やはり、人は、生きたい筈だ。生きていてほしい筈だ。

下宮は自分も手に持っていたハンバーガーを齧る。

魔獣ではなくミラーモンスターになった事で味覚も戻って来た。

とはいえ、その『味』はより下宮の心に複雑な物を落とす。

一方で少し離れた所では中沢達がなにやら話し合っていた。

 

 

「一つ、危惧している事があります」

 

「え?」

 

 

いざカレーを口の中に入れようとした所で香川が口を開くものだから、中沢はどうしていいか分からずに停止する。

それを察してくれたのか、サンドイッチを持っていた仁美が代わりを務めてくれることに。

 

 

「と言うのは?」

 

「ルールと言うものは、絶対なのでしょうか?」

 

 

今日の午前中、中沢はアビスに変身し、下宮(アビソドン)で海を経由しながら二つ先の県まで移動した。

結果、特に変わった点は見られない。そもそネットやSNSが機能しているのを見ると、やはり世界は全て構築されているようだ。

つまり、『地球』と言う舞台がまるまま存在している事になる。

あくまでも舞台が見滝原と言うだけで、ループの度に星が巡っているとも言える。

 

 

「そこまでの世界形態を確立してきた魔獣が、ルールに縛られ続けるとは思えません」

 

「つまり、インキュベーターの作り上げたルールは檻として機能するかは微妙。そういう事ですわね?」

 

「ま、まじっすか? で、でも今のところ大丈夫なんだから大丈夫なんじゃ……」

 

「確かに中沢くんの言うことは尤もです。しかし、インキュベーターも神ではない」

 

 

すると声が。

一同が視線を移すと、そこにはキュゥべえの姿があった。

 

 

『実はボクもその点は少し引っかかっている』

 

 

現在、魔獣側の切り札であるイツトリが機能を停止している状況ではあるが、時間が経てば当然それだけイツトリの力が上がる事にもなる。

さらにシュピンネ達バッドエンドギアが死んだ際に発生したエネルギーを、もしもギアが吸収していれば、当然それだけ力が上がっていくことになる。

 

 

「おいおい、運営側はせめてちゃんとしてくれよ!」

 

『もちろんボクらもその点に関しては全力で魔獣側を抑えるつもりさ』

 

 

しかし気になる点はもう一つ。

それは龍騎たちの存在である。

 

 

『香川、キミの言う通り、ボク達は全能の神ではない』

 

 

異なる宇宙の技術を使用している龍騎たち側は、インキュベーターにとってもイレギュラーに他ならない。度重なるループの中でほとんどは理解したつもりだが、魔獣側が隠している技術が無いとも限らないのだ。

 

 

『まあその点はキミ達で頑張ってよ』

 

「な、なんて無責任な奴らなんだ……」

 

「仕方ありませんわ。香川先生、何か活路はあるのでしょうか?」

 

「ええ、バグを何とか理解できれば活路があるとは思うのですが……」

 

 

優衣が残したものを理解したいのだが、なかなかコレが言葉で言うよりは難しい。

パソコンで言うならデータを見れば分かるのだろうが、当然そのデータを見る術がないのだ。

せめて何か……、少し詳しい者がいればいいのだが、あいにくと香川ですらその領域にはまだ至れていない。

 

 

『ボクは理解しているよ。だからもし、まどか達がうまくやれば、最後の参加者である魔法少女はキミの望む存在であるだろうね』

 

「………」

 

 

いずれにせよ、全員生存だのと言う前に魔獣を倒さなければ世界は終わりだ。

そしてインキュベーター側としても魔獣は邪魔でしかない。

 

 

『ぜひ、世界のために頑張ってくれ』

 

 

キュゥべえはそれを言い残し、中沢達の前から姿を消した。

どうやら今はまどか達に頑張ってもらうしかないのだろう。

仁美は手を組み、言葉にならない祈りをささげた。

 

すると同じくして仁美と中沢の表情が変わる。

ピィン、ピィンと、何かのコール音が聞こえてきたのだ。

電話の着信? いや、こんな音にした覚えは無い。ウロウロと辺りを見回すが、そこで一つ気づく。

どうやらこの音、中沢と仁美以外には聞こえていないらしい。

 

 

「ペアだけが聞こえる音となると――」

 

 

そして音が仁美から発生している事で、察する二人。

急いで取り出したのはソウルジェムだ。すると鈍く光が点滅しているではないか。

仁美はソウルジェムを持って電話を取る様に念じる。

するとソウルジェムから海香の声が聞こえて来た。

 

 

『ごきげんよう。今よろしくて?』

 

 

どうやら一度コネクトで呼んだ魔法少女は、自分の方から仁美にコンタクトを取る事もできるらしい。海香の話を聞くと、なにやら仁美に会いたい魔法少女がいるらしい。

断る理由は無い。一応人に見られるかもしれないと言う理由で、中沢はアビスに変身。

仁美と共にミラーワールドに入る。

 

そして仁美は変身するとコネクトを発動し、接続ゲートを開いた。

すると魔法陣の中から出てきたのは海香やカオルではなく、赤いドレスに身を包んだ魔法少女だった。

真紅の瞳に、金色の髪を一つ結びにした少女は、辺りを見回すとフンと鼻を鳴らす。

そして笑み。

 

 

「にょわほほほほほ! ココがゲームの舞台ですのね!」

 

「わ、わ、なんだ?」

 

「まあ」

 

 

驚くアビス、目を細める仁美。

どうやら、なんとなくを察したようだ。

一方で高笑いを止めた少女は、斧と銃剣を組み合わせた武器を取り出し、クルンと一回転。

 

 

「わたくしは神聖ローマ皇帝ジギスムントの偉大なる妃、バルバラ・ツェリスカが娘、エリザ・ツェリスカですわーッ!!」

 

「は、はぁ」

 

「現在は女神(デエス)の使いとして、プレイアデス星団の指導係になっていますの!」

 

「デエス……?」

 

「そう、女神。鹿目まどかの」

 

 

エリザは未来の魔法少女ではなく、『円環の理』組み、つまり『過去』の魔法少女だ。

現在、円環の理は魔獣に破壊されてしまい、存在しない。

選出された未来の魔法少女以外は、魔獣の手によって再び魔女にされ、ダークオーブに封印されている。

 

だが中にはその封印を免れた者がいた。

まどかと共に逃れたタルトと言う魔法少女がサルベージしていた魂。

その一人がこのエリザだ。

 

 

「イツトリの力でわたくし達は残念ながら、しばらくの間は実体化できませんでしたわ」

 

 

しかし円環(おちゃかい)まどかと、参加者(ゲーム)まどかが一つとなり、完全体になったおかげでタルトが復活した。

まだ本調子ではないが、その影響でエリザたちも実体化できたと。

そして現在は未来にその拠点を置いている。そういう話だった。

 

 

「コネクトで消費した魔力は、召喚した魔法少女も背負う事ができます。だから気にせずじゃんじゃん呼び出してもいいんですのよ! にょわほほほほ!!」

 

「ど、どうもですわ……」

 

 

しかし、気づいている。分かっている。

エリザと仁美は同時に目を光らせた。

 

 

「さて、海香から事情は聞きましたわ。そして今、貴女と会って確信しまわしたわ。志筑仁美」

 

「ええ、私も貴女が言わんとしている事は理解できますわ」

 

 

ならば話は早いとエリザは仁美を強く指差す。

 

 

「貴女! わたくしとキャラがモロ被りですわーッ!」

 

「へ?」

 

 

アビスとしてはいきなり現れてなんのこっちゃであるが、仁美はゴクリと喉を鳴らしてエリザを睨む。

 

 

「いいですこと? わたくしが活躍した時代は、この現代よりも遥か過去。つまりわたくしの方が先輩! と言うわけで今すぐその口調をお止めなさい志筑仁美!」

 

「お断りですわ。私はキャラとか関係なく、ずっとこの口調ですもの。身についた『私』と言う喋り方を今更やめる気はありませんの!」

 

「まあ生意気! このままじゃキャラが被り被って双方が対消滅してしまいますわ! ここは一つ、先輩の威厳を教えてあげるしかなさそうですわね!!」

 

 

地面を蹴り、エリザは銃剣を構えて走り出した。

 

 

「構えなさい志筑仁美! ぶちのめしてやります事よ!」

 

「仕方ありませんわね、受けて立ちますわ!」

 

「ちょ、ちょっとちょっと!!」

 

 

クラリスを振り回し、エリザと真正面からぶつかり合う仁美。

なんなんだコレ。アビスはどうしていいか分からずウロウロと。

すると銃声が聞こえ、アビスの全身に銃弾が撃ち込まれた。

 

 

「いッッてぇええ!!」

 

「そこの貴方、ボケっとしない!!」

 

 

もちろん、今までの言葉は冗談である。

要するに、まさか本当にキャラが被っているから後輩を叩きのめしに来たわけではない。

まあ多少はそういう意味もあるにはある(と言うかエリザは本気である)。

しかしあくまでも、エリザがココにきた本当の目的は今の通り、仁美達と戦うことだ。

 

 

「良いですこと!? このままでは貴女達は完全に足手まといですのよ!」

 

「!」

 

 

それは仁美とアビスにも理解できる話だった。どうにも耳が痛い。

ループしている記憶を取り戻せば、他の参加者はそれだけ戦いの記憶を引き継ぐことになる。

テレビゲームでもよくあるように、経験値はそれだけアドバンテージとなり力に直結していく。

しかし仁美達は戦いの経験がほとんどない。つまりそれだけ周囲との差がついてしまう事だ。

 

シュピンネに勝ったのは少なくとも、ビギナーズラックもあっただろう。

なにより香川や海香達がいたのも大きい。もちろん味方と連携し、協力する事は大切だ。

しかしもしも戦いが続けば、敵の方が多いと言うシチュエーションも出てくるかもしれない。

その時に弱さが出れば、待っているのは『死』だ。

 

 

「と言うわけで、わたくし達がコレからビシッバシと鍛えてあげます事よ! にょわほほほ!!」

 

「ま、マジですか」

 

 

すると銃声、アビスの足元に火花が散り、情け無い声をあげて尻餅をついた。

 

 

「大マジですわよ中沢昴! 少なくともゲーム開始時には中堅レベルに食い込める様にはして差し上げますわ!」

 

「きゃ!!」

 

 

エリザが銃剣を降りまわすと、背後にいた仁美が弾かれて転がっていく。

 

 

「甘いですわ仁美。さて、もう一度コネクトを使用しなさい!」

 

 

少し不満げではあったが、言われたとおりコネクトを使用する仁美。

クラリスの音が響き、魔法陣が出現する。するとそこから新たな魔法少女が姿を見せた。

ピンクと赤を貴重としたドレスに、桃色の髪をツーサイドアップにまとめている。少女は辺りを見回すと、状況を理解したのか、嬉しそうに笑ってウインクを一つ。

 

 

「どもー、未来の魔法少女、成見(なるみ)亜里紗(ありさ)ただ今参上ってね!」

 

「うわッ、また女の子だ!」

 

『当たり前だろ、魔法少女なんだから』

 

 

亜里紗は大きな鎌を持っており、どうやら既に戦闘態勢のようだ。

ピアスになっている鈴型のソウルジェムを鳴らしながら、彼女は大きく鎌を振るう。

その前にいたのはアビス。間抜けな声を上げると、なんとか姿勢を低くして鎌を回避する。

 

 

「紹介しますわ。そちらのゴリラもまた未来の魔法少女、プレイアデス星団が一人!」

 

「誰かがゴリラだ!! いくら師匠でもブッ飛ばすわよ!」

 

「あーもー、うるさーい。そういうところですわよ! まあとにかく――ッ! 中沢、貴方はまず亜里紗を倒す事からはじめなさい」

 

 

あくまでもコネクトがメインとなる仁美とは違い、アビスはあくまでも接近戦を主とする騎士だ。まずはその点を鍛えたいと言う。

 

 

「で、でも女の子を相手にするってのは――ッ」

 

「ちょっとちょっと、女だからってナメてると痛い目みるわよ!!」

 

 

その言葉通り、再びアビスに迫る鎌。

今度は回避が遅れ、アビスの装甲がガリガリと削られ、火花が散る。

 

 

「いででででで!!」

 

「中沢。気持ちは分かりますが、それでは戦いには勝てませんわ。そうですわよね? 下宮」

 

『たしかに。魔獣の中には女性型も多い。ましてや参加者ともなれば……』

 

 

シュピンネは基本的にミスパイダー姿だったし、人間体も異形感が強かった。

しかしもし完全な人間体を持っている敵と戦い、肝心なところで敵が人間体に戻られては困る場合が出てくる。

 

 

「魔獣の本質は負の集合体。見た目に惑わされる様では命を落としますわよ」

 

「ぐッ、それは――ッ!」

 

「ですので、わたくしは亜里紗を選出しましたの。彼女は脳筋ゴリラ。女の見た目をしているだけで実際はゴリラ、ゴリサです「だからゴリラじゃないっての!! ぶん殴るよ!」まあ怖い、やはりエレガントなわたくしとは違い、未来の魔法少女は教養がなってないですわね」

 

 

アビスと仁美そっちのけでワーワー言い合うエリザと亜里紗。

しかしそれはアビスにとっては心を落ち着かせてくれる時間となった。

 

 

『やろう、中沢くん』

 

 

下宮が説く。

ゲームが始まれば当然魔獣以外と戦うケースも出てくるかもしれない。

そうした場合、相手が女の子だからと言う理由で動けなくなっては守れる物も守れない。

 

 

『戦う覚悟を持つ事はそれだけで意味がある。守るにせよ傷つけるにせよ、剣は持たなきゃ意味がない』

 

「ッ、そうか、そうだよな。仁美さんを守れるレベルにはならないと。騎士になった意味もねぇ!」

 

 

なるほど、なるほど、確かにそうだ。

アビスも拳を握り締めると、雄たけびをあげてエリザと亜里紗の方に向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、昨日でだいたい作戦は決まった」

 

 

アルケニーの作戦は非常に簡単かつ、単純なものだった。

まずはじめにテストを行った。それは龍騎達が優先する物である。

『軽い』多数か、『重い』少数か。そして『思惑』に気づいているかどうかである。

 

アルケニーは初めから分かっていた。

他の魔獣には自分の考えを告げてはなかったが、真司達はマミを守ってくるのではないかと。

それはそうだ。ループする舞台の中で一番初めの変化を望むならば、それはマミと須藤の守護にポイントがあると考えるのは当然だ。

 

鹿目まどかが神になった概念変化の時間軸。

魔獣達は『運命の日』と呼んでいるが、その件に関しても初めに死んだのはマミだ。

つまりそれだけの因果が巴マミにはある。そして須藤も同様の事が言える。

 

 

「因果は絶対の要素じゃあ無いが、重要なファクターである事には変わり無い」

 

 

潰れた名も無い店の中で、アルケニーはタバコを吹かしながら口にした。

窓の外は既に薄暗くなっており、人がココに来ることは無いだろう。

 

 

「けれども、マミが先に死んだ事でまどかが女神になったとも言えるよなァ?」

 

 

アルケニーはそれを重要視していた。

何を崩すのか、どこを崩すのか。崩すべき価値、やはり最初の狙いは決まっていた。

 

 

「アイツ等はお行儀が良い。教科書どおりに動いてくれた」

 

 

真司たちもそれを理解しているのか、マミを監視していた様だが、結果的には使い魔や色付きを追いかけるためにマミから離れた。

 

 

「当然だ、アイツ等を放置すれば一般人が死ぬかもしれないんだから」

 

 

ダークオーブで呼び出した魔女は範囲内であれば自由に命令ができる。

そして色付きは言わずもがなアルケニーの配下。思い通りに動いてくれる。

 

 

「なにより、マミ本人がそういう思考であるから、次も同じやり方で良いだろう」

 

 

アルケニーが吐き出したタバコの煙がドクロに変わる。

 

 

「それに鹿目まどか。アイツの力は強大だ。だが……、だからこそ落とし穴にもなる」

 

 

記憶を保持している。

つまり全てが一本道になっている。

当然それだけ魔法少女としてのレベルも上がっている事になっている。

他のメンバーもそうだが、気づくか気づかないかの違いはあまりにも大きい。

まどかは現在、参加者の中で間違いなく最強だ。

しかしだからこそ、その魔力を感じることのできる魔法少女も増えてくる。

 

 

「興味を示すならユウリか、ガイペアか、王蛇ペア辺りか」

 

 

ユウリは榊原がいる以上、現状は使い物にならないため、期待はできないが。

とは言え、いずれにせよパフォーマンスはできた筈だ。

あとはアドリブと言う事になる。

 

 

「だからさぁ、頼むよー? 小巻ちゃん」

 

「――ッ」

 

 

アルケニーはニヤリと笑い、立っていた小巻の肩を叩く。

小巻はビクっと肩を震わせて、複雑そうに頷く。

見ればその顔は青ざめており、恐怖に染まっている事が分かった。

 

 

「そんなビビンな。アタシは他のヤツと違って優しいからな」

 

 

アルケニーがそっと触れたところは、小巻の右目だ。

そこは大きく晴れ上がっており、青アザになっている。少女としては辛いところだろう。

そう、小巻の顔には殴られた痕が痛々しく残っていた。

誰に殴られたのかは言うまでも無く分かる。他の魔獣たちだ。

 

 

「下宮のヤローが裏切るからこんな事になった。お前もさっさと魔獣になればいいのに」

 

「そ、それは――。ですがッ」

 

「ハッ、まあいいや。お前も裏切りたかったら裏切ればいい。アタシは許してやるよ」

 

「い、いえ、そんな、まさか……」

 

「フッ、ならいいけどさ」

 

 

アルケニーはポケットから乱雑に札束を取り出すと、それを小巻の前にばら撒く。

 

 

「これで薬でも買っておけ。人間の体は傷が残って面倒だな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「気にすんなよ。アタシは優しいからな? クハハハ!!」

 

 

踵を返すアルケニー。

小巻は地面に落ちた札束を拾い上げるために膝をついた。

そこで、ポタリと、雫が零れる。

 

 

「どうして、その優しさを人間に向けてあげられないんだろうね」

 

「!」

 

 

まるで心を読まれた様な感覚。小巻は涙を拭って前を見る。

すると同じく話を聞いていた少年、アシナガの姿があった。

今回見滝原に降り立って良い魔獣は二体。アルケニーはアシナガと小巻に協力を頼んでいたのだ。

アシナガは緑色の髪を弄りながら紅い目で震える小巻を見ていた。哀れみの表情で見つめていた。

 

 

「偽りの優しさだからね、アルケニーがキミに与えたものは」

 

「え……?」

 

「個性が欲しいんだろうね、彼女は。面白いな、実に興味をそそられる」

 

 

絶望の集合体である魔獣が自我を確立していった先がバッドエンドギアだ。

そんな彼らが新たに望んだ進化が個性であるとアシナガは説く。

 

 

「確固たるアンデンティティの確立にアルケニーは優しさを選んだようだが、それを人間に向ける事だけはプライドが許さなかったんだろう」

 

 

アシナガはヘラヘラと笑いながら窓の淵をなぞる。

 

 

「魔獣にとって人間はゴキブリやムカデの様なものだからね。優しさを向ける意味がない。とはいえ、仲間はいていない様なものだし、だったらランクの低い君くらいしか構うものがいない」

 

「い、言っている意味が……」

 

「アルケニーはキミの事を欠片とて心配していないと言う事さ。可哀想に、下宮についていけば良かったものを。偽りの籠は、偽りの愛しか生み出さない」

 

「それは――、でもッ!」

 

「だったら魔獣になりたまえ、上臈小巻。お前はもう浅古小巻ではないんだ」

 

 

小巻の表情が絶望に染まる。

それを見てアシナガは呆れた様に笑った。

 

 

「ごめん。ココまでショックを受けるとは思わなかったな。まだ蛹の殻が大切なのかキミは」

 

「なんで――ッ、アンタ達は……!」

 

「ボクはもう魔獣だ。元の名前は忘れたよ」

 

 

下宮、小巻、アシナガ、蝉堂、この四人は元を辿れば人間だ。

しかしアシナガと蝉堂は魔獣となり、下宮は離反。小巻は今も魔獣のアシスタントである。

小巻としては理解のできない話だった。誰しもの選択が狂っているとしか思えない。

 

 

「星の骸で蝉堂に腹を殴られていたね。可哀想だが、キミのその姿は当然だ。さっさと蝉堂の様に適応してしまえば良かったものを」

 

「ど、ど、どうして人間を捨てないといけないの? 私は――ッ、アタシはッッ!!」

 

「固いなぁ。君の考え方は何もかも古いんだ。変われば見えてくる景色もある。それともキミの目は、まだ濁っているのか?」

 

 

アシナガは既に人間を捨て完全な魔獣となった。

そうすれば見えてきた景色もあると言う。どれだけ人がちっぽけなのか、そして芽生えた欲求。

 

 

「小巻。ボクはね、人間は滅ぶべきだと思う。けれどそれは魔獣の勝利を心から望んでいる訳じゃない」

 

「え……?」

 

「負の集合体である魔獣は生命として欠落している。だから魔獣の勝利なんてどうでもいいのさ。しかしこの戦いには確かな意味があるとボクは確信している」

 

 

それは人の終わりだ。それはアシナガの望む未来。

 

 

「新時代が始まろうとしている。分かるんだ、創生の時は近い」

 

「い、意味が……」

 

「恐竜が死に滅び、氷河が世界を包む時、確かな新時代が始まりを告げた。これも同じだ。ボクは人の次が見たくて堪らない」

 

 

だから人を殺す。人を終わらせる。

そうすれば人の次に地球を支配する生命が姿を見せるはずだ。

それは魔獣を超えるのか。それとも魔獣に支配されるか弱き生命なのか。

 

 

「新しい時代の幕開けに立ち会える事を、ボクは心から望んでいる」

 

「どうして、そんな――」

 

「魔獣は利口だ。人が無価値と気づいている。君も燻ってないで、さっさと次のステージに上るべきだね。ボク等はその鍵を掴んでいる」

 

「……ッ」

 

「小巻。人と言うのは、そうまでしてしがみ付くものか?」

 

 

微笑み、アシナガは自分に与えられた役割を遂行するべく消えていく。

一人残された中で、小巻はグッと拳を握り締めた。

 

 

「私は――、生き残ってみせるッ!」

 

 

虚空を睨み、小巻も自分の目的のために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、その日のパトロールも昨日と同じメンバーであった。

そして異変が起きる。さやかとサキの前に現れたのは魔女、コールサイン『プロローグ』。

子供の泣き顔に手足のように四本の触手が生えた魔女である。

らくがきの様な容姿をしており、四本の触手で軽自動車に寄生して、さやか達の前を通り過ぎた。

 

 

「んなッ!」

 

「魔女だ! 追うぞ、さやか!」

 

 

プロローグは逃げる。

軽自動車のスピードを全開にしてサキ達から『逃げた』。

こうなるとサキ達はプロローグを追うしかない。魔女を放置する事は犠牲者を生んでしまうからだ。

そして手塚達の前にも異変が起こる。姿は見えないが、手塚とほむらの耳にキュゥべえの声が響いたのだ。

 

 

『キミ達二人だけに話がある』

 

『なに? 殺すわよ』

 

『おいおい……。しかしキュゥべえ、なぜ俺達だけなんだ?』

 

『仕様変更についてだからね』

 

 

つまり、『事情』を知っている手塚達に対しての情報と言う訳だ。

正確には『手塚達』のみへの話となる。

 

 

『ほむら、キミの魔法が少し変更された』

 

『なに? 殺すわよ』

 

『あ、暁美、気持ちは分かるが少し落ち着け。凄い顔だぞ』

 

 

本来ほむらが時間を停止できるのは、ワルプルギスの夜が来るまでの間の時間だ。

それが砂時計に入っており、それを消費する形で時間を停止していた。

そして砂を使い切るとループを開始する。そういう流れであった。

 

 

『しかし知っての通り、既にそれはイツトリによって書き換えられた。ほむら、キミは今回もまたキミの意志で時間を巻き戻すことはできない』

 

『ええ、分かってるわ。殺すわよ』

 

『イライラするのは良くないよ、ほむら。とにかくボクが言いたいのは、キミの時間停止に関する変更だ』

 

 

The・ANSWERにおける時間軸では、ほむらは一日の初めに砂を与えられ、それを24時間で使っていく事となる。

メリットとしては、前回ほむらはキリカの魔法トラップにかかって砂を大幅に消費してしまったが、今回はどれだけ砂を消費しても翌日には砂が全回復するため、必ず毎日時間を停止できる。

 

しかし当然デメリットも存在する。

それは一日単位で砂の処理が行われるため、そもそも砂時計に入る砂が減少しているのだ。

時間を停止する時間が長ければすぐに砂が切れ、一日終わりまで時間を止められない。

 

『余計な事をしないで。殺すわよ』

 

『やれやれ、ボクは嫌われてるなぁ』

 

『それは……、まあ、当然だろう。しかし確かに何故そんな事をする? 暁美が混乱するだけだ』

 

『ボクとしては優しさのつもりなんだけどね』

 

 

戦いが激しくなっていけばそれだけ砂を使う機会も増えてくるだろう。

しかしもしも有限であった場合、仮になんらかのケースで砂を使い切れば、ほむらはもう戦闘には付いていけない筈だ。

インキュベーターはあくまでも『ゲーム』の成立を目指している。

パワーバランスは等しくあった方がいい。

 

 

『あとはそうだな、何よりも暁美ほむら自身の影響があるんじゃないのかな』

 

『どういう事よ。分かりやすく言いなさい。殺すわよ』

 

『……そもそも、キミが使っていた時間停止は本来システムの上に成り立つものだった。しかしそのシステムがイツトリに破壊された時点で、願いは破綻し、力は使えなくなる筈だった』

 

 

言わばバグだ。

これと似た現象が織莉子にも起こっていたと言う。

織莉子の未来予知はゲーム内ではずいぶんと不安定なものだった。

それは織莉子自身の未熟さもあるにはあるが、なによりも『未来』と言う存在が足かせになっている。箱庭と言う閉鎖空間での未来予知、最も不具合が出たのがかずみだ。

 

 

『織莉子は予知時にかずみの姿を不完全でしか捉えることはできなかった。決まってるよね、かずみはもっと未来から来たんだから、本来織莉子が予知できる範囲内の未来にはいないんだよ』

 

 

しかし不完全であるが、ノイズ混じりでも確認はできていた。

それはあくまでも織莉子の魔法が魔法として機能するためにキュゥべえ達がチューニングしたからだ。

 

 

『ボクとしても結構苦労したんだよね』

 

 

ゲームで言うなればアップデートされたデータに魔法が適応できていなかった。

それをキュゥべえ達が修正した結果が今だ。さらに優衣が混入させたデータもあるため、より慎重な調整を要した。

それを踏まえ、キュゥべえはほむらの力を調整したのである。

 

 

『鹿目まどかは今でこそ天使を召喚してるよね。だけど、過去の鹿目まどかにはそんな力は無かった。それはキミも知っている筈だ、ほむら』

 

『それは……、たしかに。それにしても不愉快な見た目ね、殺すわよ』

 

『あの力は円環の理の中で得たものだ。しかしまどかは前回のゲームで、はじめからその力を使っていたのではなく、覚醒と言う形で手に入れた。まどかはループにおける願いが共通ではない、しかし覚醒すればいずれも天使の力が手に入る』

 

『なにがいいたいの、殺すわよ』

 

『やれやれ……。つまり、鹿目まどかの変化はしっかりと歪ながらも適応されていると言う事さ。ゲームの舞台が確立する前と、全く同じ魔法形態にするのは不具合が出て仕方ない。違う言い方をすれば、適応せざるをえない。キミ達は確かに変化していっているんだからね』

 

『……待て、お前、その言い方だと』

 

『いずれ分かるよ。とにかく今は、ほむら、君の魔法を少し弄らせてもらった』

 

 

はっきりといえば、適応させるために『近づけさせてもらった』。

時間を止められるが、総合的に見れば止められる時間が短くなる。これがほむらの変化だ。

尤も、それをキュゥべえが口にする事は無かったが。代わりに放つ言葉はヒントだ。

 

 

『暁美ほむら。キミは本当に時間を操る魔法少女なのかな?』

 

 

だから時間停止の仕様を変更させてもらったと。

 

 

『回りくどい言い方ね。殺すわよ』

 

『最早コントみたいになってるぞ。しかしそういう話なら、もっと落ち着いた時にしてほしいな、キュゥべえ』

 

 

今は須藤もいるのだ。

手塚は適当な世間話を振っているため、いまひとつ話しに集中できない。

 

 

『申し訳ない。でも急いだ方がいいと思ってね』

 

『ッ、それはどういう――?』

 

『ほら、来るよ』

 

「手塚海之、暁美ほむら、須藤雅史」

 

「!」

 

 

目の前から歩いてきた少女は、心臓を掴む様なアクションを取る。

すると闇が迸り、黒い稲妻が視界を駆ける。

すると黒の中から姿を現したのはヨーロッパの騎士を思わせる格好をした少女だった。

盾がついた柄の長い斧を引きずっているのは上臈小巻。彼女は濁った目で手塚達を睨みつける。

そこで気づく。キュゥべえの姿が消えていた。

 

 

『やれやれ。魔獣か?』

 

『だけど、それにしては――』

 

 

しかし迷っている暇は無い。

既に眼前からは歩いてくる小巻が見えるからだ。

 

 

「お前達を止める」

 

 

そして敵対の意。

 

 

「手塚くん、彼女は――ッ?」

 

「魔女ではないが、俺達の敵であるには変わりないようだ」

 

 

確かに斧を引きずって歩いてくる者が正常な訳は無いか。

須藤も頷くと、手塚と並び立ってデッキを構えた。そして同時に構えを取り、変身。

ほむらもまた魔法少女になると、小巻をジッと見つめる。

 

 

「……?」

 

 

記憶に靄が掛かっているような。

既視感。小巻の事を知っているような、知らないような。

なんだか気持ちが悪い。だがいずれにせよ戦わなければ。

ほむらは盾を構え、いつでも時間を止められる準備を整えた。

 

 

「暁美ほむら、お前さえいなければ――ッ!」

 

「ッ?」

 

 

小巻の柄を握り締める力が強くなった。

まずいか? ほむらは時間を停止し、静寂の世界に足を踏み入れる。

タイムベントのカードを持っているため、ライアも行動が許される。

 

 

「コイツ、魔獣にしては少し変だな」

 

「だけど敵である事には変わりないわ。始末するわよ」

 

 

ほむらは盾から爆弾を引き抜き、小巻の足元に設置しようと歩き出す。

一方、ライアは腕を組んで考え込む。

すると一つの情報が脳にフラッシュバックしてきた。

 

 

「待て、少しソイツと話をさせてほしい」

 

「ッ、どうして?」

 

「おそらくソイツは魔獣じゃない」

 

「え?」

 

 

少し迷ったが、このまま燻っていても砂を無駄に消費するだけだ。

それにほむら自身も小巻からは魔獣以外の何かを感じる。

だから盾を構えたままで時間停止を解除した。

すると小巻の斧についていた盾が消えたかと思うと、手塚達を中心にドーム状の結界が展開された。

 

 

「ッ、これは!」

 

「シールドね」

 

 

しかしドーム状のそれはライア達を囲んでいる。

まどかも使っていたが、どうやら攻撃を防ぐものではなく、ライア達を閉じ込めるためのものだろう。

しかし今、それはどうでもいい。ライアは小巻の名を呼んだ。

そう、名を呼んだのだ。

 

 

「アンタ、上臈小巻だろう!」

 

「!!」

 

 

小巻の表情が変わったのは一目瞭然だった。

 

 

「知り合いですか、手塚くん」

 

「知り合いの知り合いです。小巻、聞こえるか! 下宮が心配していたぞ!」

 

 

以前、下宮から話を聞いたが、そこで小巻の名前が挙がった。

魔獣側にいながらも唯一下宮と同じハーフの状態を保っていた少女がいたと。

下宮はまだ彼女には人間の心が残っていると説いた。

であるならば、話し合いで解決するのではないかと期待してしまう。

しかしライアの予想とは裏腹に、下宮の名前が出た途端、小巻の表情はさらに鬼気迫るものへ変化した。

 

 

「黙れェエエエ!!」

 

「!」

 

 

小巻が斧をその場で振るうと、ライアたちの視界がブラックアウトする。

一瞬ヒヤリとしたものだが、どうやらほむらが時間を止めたらしい。

そこで冷静になると、なんとなくだが状況がつかめた。

 

どうやら半透明のシールドが壁のように変化したようだ。

いわば巨大な岩で囲まれているようなもの。ほむらは時間を元に戻すと、盾の中からランタンを引っ張り出して明かりを灯す。

 

 

「便利だな」

 

「いろいろ入ってるわ。何かに使えるかと思って」

 

 

シザースもまた、自分がシールドの中に閉じ込められたと察したのだろう。

軽く手でシールドを触り、その触感や感覚を確かめてみる。

 

 

「彼女は怒っていましたね。しかし、何者ですか」

 

「俺にもまだハッキリとは。しかし味方と言う訳ではなさそうだ」

 

 

さて、困ったのはココからどうやって出ればいいかだ。

一番簡単なのはやはりこのシールドと言う檻を打ち破る事だろう。

ほむらは盾からハンドガンを取り出し、ためしにシールドを撃ってみる。

すると銃弾は強固なシールドに弾かれ、跳弾。ガンガンガンと円形のドームを弾きまわり、最終的にシザースの後頭部に直撃した。

 

 

「………」「………」「………」

 

 

え?

 

 

「い――ッ、つぅ!」

 

「あの、本当、あの、とにかく、あの、ごめんなさい」

 

「あ、いえ、はは、大丈夫大丈夫。ははは……!」

 

 

煙をあげている頭をさするシザースと、ペコペコと頭を下げるほむら。

自分に当たらなくて良かったと思いつつ、ライアはシールドの触感を確かめていた。

あの反射の仕方を見るに、どうやらそもそもリフレクト機能が存在しているような気がする。

すると銃声。ガンガンガンと音が響くと、今度はライアの後頭部に弾丸が直撃する。

 

 

「う゛ッ!」

 

「「あ」」

 

「………」「………」「………」

 

 

え?

 

 

「なんで撃った? 須藤の経験を踏まえた上で何故撃った? なんでさっき謝罪しておきながらまた撃ったんだ!!」

 

「いえ、あの、本当にごめんなさい。同じ場所に撃てば壊れるかと思って……」

 

 

肩を掴んで大きく揺らしてくるライアを見て、流石に自分に非があると思ったのか。ほむらは目を逸らしながら謝罪を行う。

しかし確かに言われてみれば――、である。

ほむらは強化した弾丸を二発同じ場所に撃ち込んだ。しかしその部分には銃弾が打ち込まれたと思われる痕すら残っていない。どうやらそれだけの強度があると言う事だ。

ライアもまたエビルバイザーで軽くシールドを殴ってみるが、傷一つつく様子はない。

 

 

「まいったな、問題は小巻がシールドの向こうで何をしてるか……?」

 

「なにか力でも溜められていては困りますね。それにこの空間、いずれ酸素もなくなるのでは?」

 

 

確かに密閉された空間だ。

ココに水でも流し込まれればそれだけで終わりの様な気もする。

 

 

「一応酸素ボンベもあるけれど……」

 

「そんな物まで入れてるのか……」

 

 

そこでハッとするシザース。

どうやら彼もまた騎士の『新仕様』は知っているらしい。

 

 

「暁美さん、その盾の中に鏡はありますか?」

 

「え? ええ、一応あるけれど」

 

 

盾をゴソゴソと漁るほむら。

どこにしまってあるのか分からないのか、お菓子やコロコロローラー、CDや枕などがこぼれていく。

 

 

「ドラえもんかお前は」

 

「王ドラ派よ私は。はい鏡」

 

 

手鏡をシザースに手を渡すほむら。そこで二人も意味を察したようだ。

 

 

「なるほどな」

 

「考えたわね、須藤」

 

「ええ、では、行きましょうか」

 

 

小巻の背中にシザースの蹴りが入ったのはそのすぐ後の事だった。

よろけ、振り返るとシザース達がいたものだから、小巻は驚きに染まった表情を浮かべていた。

 

 

「なッ! どうやって!」

 

 

正解は鏡である。

シールドの中で三人はミラーワールドに入ったのだ。

現実とミラーワールドはリンクするため、当然ミラーワールドでもはじめは小巻のシールドに閉じ込められている状態だった。

しかし現実と違ってそこに小巻はいない。

つまり魔力を供給するコアがいない状態なので、シールドは容易に破壊する事ができた。

 

設置タイプの場合だと危険だったが、どうやら小巻がシールドの強弱を設定できるらしい。

おそらく小巻の戦闘スタイルはシールドで相手を拘束した後、あの大きな斧でシールドごと相手を切り裂くものなのだろうと睨んだわけだ。

さて、そうやって脱出した後は適当な鏡を見つけて現実世界に戻ればいい。

そして小巻に不意打ちを仕掛けたわけである。

 

 

「小巻、お前も本当はコチラがいいんじゃないのか?」

 

 

気づけば、小巻の周りにライア達が控えている。

だが非常に厄介なシチュエーションではあった。

ライアとしては小巻は助けたいところだが、どうにも小巻側にその意思が感じられない。

 

囲まれている事で焦りを感じているのか、汗を浮べながらジットリと周りを睨んでいる。

そこからは警戒心と敵意がヒシヒシと感じられてきた。

とは言えほむらもシザースも、攻撃をしかける訳にはいかない。

すると再び斧を振るう小巻。自身の周りにシールドが発生し、さらにライアたちの背後地面から巨大な長方形の盾が伸びてくる。

 

 

「グッ! 小巻!」

 

「黙りなさい! 私は、私は――ッ!!」

 

 

再び息を呑む三人。

ココまで分かりやすいものか。ほむらは強烈な既視感を覚える。

ああ、何度も見てきた表情だ。苦しみ、悲しみ、それらを押し殺している表情がそこにはあった。

 

 

「私は生き残る!」

 

 

さらに光が迸ると、盾と盾の間に強力なエネルギーが発生。

青白い電流のようなそれは触れただけでダメージが入ると理解できる。

構成されたのはエネルギーに囲まれたプロレスのリング。

小巻はその中で、ただひたすらにほむら達を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、真司。

 

 

「お前は……」

 

 

少し焦ったような表情をまどかと真司は浮べていた。

そしてその背後にはマミ。それを見て、三人の前方にいるアシナガはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「はじめまして。ボクはアシナガ」

 

 

ポケットに手を突っ込み、アシナガは笑みを保ったままで真司達を見ている。

一見すれば普通の少年に見えるが、すぐにその考えは捨てられる。

 

 

「二人に話があるんだ。城戸真司、鹿目まどか」

 

 

指を鳴らすアシナガ。

するとマミの後方に従者が二体出現する。

すぐに反応するマミ、そちらの方に銃を向けてすかさず発砲。

しかしいざ弾丸が着弾すると言う所で、従者の前に赤い蜘蛛の巣が広がった。

 

 

「え!?」

 

 

正確には蜘蛛の巣型のシールド。

アシナガはマミの弾丸を弾くと、薄ら笑いを浮べたまま真司を指差す。

 

 

「どうする? 巴マミを巻き込んでもいいけれど」

 

「お前ッ!」

 

「ボクとしては無駄な犠牲は出したくない。幻想の命とて、重さを決めるのは天上の神々だ」

 

 

それは二つの意味を持つ言葉だった。真司に対して、そしてマミに対して。

アシナガが再び指を鳴らすと、シールドの向こうにいた従者達が背を向けて移動を開始する。

マズイ。あのままだと一般人の方へ向かう可能性がある。

それを察したマミは地面を蹴って従者達を追いかけた。

 

 

「良く分からないけど、コッチは任せて!」

 

「マミさん! でも――ッ!」

 

「私は大丈夫! 前にあのタイプには勝ったから!」

 

 

確かにその通りだ。そして何よりも目の前に魔獣がいる。

それが真司とまどかに焦りを齎した。結果、既に真司達の目にはアシナガしか映っていなかった。

なによりシュピンネの例がある。魔獣は一体ずつ正面から攻めてくると言う先入観。

 

 

「フッ、場所を移そうか」

 

 

だから、真司達はアシナガに誘導されてしまう。

そしてタイムラグもあった。マミが従者を倒す間までは何も無かったからだ。

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 

巨大な弾丸は、従者が放つレーザーをかき消しながら着弾し、爆散させる。

そこまでは昨日と同じだった。しかし今回はそれだけでは終わらない。

そういう物だ。そう仕組んだのだから。

 

 

「よぉ、はじめまして巴マミ」

 

「え?」

 

 

振り返ったマミの前には、タバコを吹かしている女性が立っていた。

その足元には暗闇の魔女ズライカが。

どうやら暗闇の力は気配を消す事にも使えるらしい。

 

 

「アタシはアルケニー。ヨロシク」

 

 

アルケニーはニヤリと笑ってタバコを地面へ投げ捨てた。

 

 

「お前を殺しに来た」

 

「え? え……?」

 

「間抜けだよなぁ、クハハ! アイツ等こんなんで大丈夫かよ? ええオイ? 簡単すぎる」

 

「あ、あなた何を言って――。魔法少女なの?」

 

「おいおい、お前らみたいな屑と一緒とするなよ」

 

「!?」

 

 

アルケニーの体が光ったかと思うと、その姿が『ディスパイダー』へと変身する。

二本の足でマミの方を目指すディスパイダー。マミは喉を鳴らして、後ろへ後退していく。

言葉を話す魔女は珍しいものではないが、ココまでハッキリと自己主張をするタイプは珍しい。

そう、まさに魔法少女と何も変わらないじゃないか。

 

とは言え、ディスパイダーは分かりやすく殺意を持って近づいてきている。

マミとしても抵抗しないわけにはいかない。『脅し』の意味を含めて、銃口をディスパイダーへ向ける。

 

 

「止まりなさい!」

 

「来いよ、アタシを殺して見せろ、巴マミ」

 

「う、撃つわよ!」

 

「どうぞ、ご自由に。アタシもアンタを殺しに来たんだ。抵抗の一つでも無いとツマラネェ」

 

 

焦りと不安がマミの心に宿る。明らかに出会った事の無い敵だ。

しかし向こうは『殺る気』、マミは仕方なく、まずは威嚇射撃にと足に向かって一発銃弾を放った。

しかし残像。それはあまりにも一瞬の出来事だった。マミが撃った弾丸が文字通り『消えた』のだ。

消失の理由が分からず、汗を浮べながら後退していくマミ。

一方でディスパイダーの笑い声が辺りには響く。

 

注目してほしいのはその手だ。

ガントレットの下に人間と同じ五本の指があるが、指に摘んでいたのは先ほどマミが撃った弾丸であった。

ディスパイダーはそれをマミに見せ付けると、気だるそうに首を回しながら、その弾丸を投げ捨てる。

つまりなんだ、ディスパイダーは飛んできた弾丸を掴み取ったという事だ。

 

 

「流石は女神の元師匠なだけはあるが――、アタシには通用しない!」

 

「な、何を言って――」

 

「コッチの話だ。どうせ死ぬお前には関係ない話さ!」

 

 

ディスパイダーは地面を蹴り、移動方法を歩きから走りに切り替えた。

威圧感。殺気。恐怖。いずれもマミの背中に張り付く負の感情だ。

それを振り払う様にマミは大量のマスケット銃を召喚すると、地面に刺した順から発砲していく。

今度は無数の弾丸。ディスパイダーは手を前に突き出すと、蜘蛛の巣のシールドを展開、それらは銃弾を止め、無効化していく。

 

 

「あなたは何者なの!? どうしてこんな事ッ、どうして私を狙って――!」

 

「決まってんだろぉ?」

 

 

気づけばディスパイダーはマミの眼前に迫っていた。

反射的に蹴りを繰り出す事で抵抗を示すマミ。咄嗟の事とは言え、リボンを足に巻きつかせて蹴りの力を上げる魔法、『オーロ・カルチョ』を発動していた辺りは、流石ベテラン魔法少女というべきだろうか。

だがその黄金の美脚はディスパイダーの左手によって掴まれていた。

先程の銃撃同様、ディスパイダーはしっかりと反応していたのだ。

 

そして右手がマミの首に伸びる。

気づけば背後には既に建物の壁があった。

どうやらそれだけマミが後退していたようだ。

首を掴まれ、マミは壁に強く押し付けられる。

 

 

「か――ッ」

 

 

首が絞まる。

通常の人間ならばとっくに喉を潰され、首の骨を折られている力である。

 

 

「お前らが気に入らないんだよ。下等なサルが、支配者気取りか? 反吐が出る!」

 

 

ディスパイダーは顎を開き、牙を光らせる。

魔獣にも性格があるわけだが、ディスパイダーはシュピンネの様に対象をなぶり殺しにする気は無い。

攻めるときは慎重だが、対象はさっさと殺した方が良いと思っている。

現に無駄に時間をかけたせいでシュピンネはチャンスを逃したとも思っていた。

 

 

「死ね、巴マミ」

 

 

まだソウルジェムの仕組みを知らないマミならば、喉元を食い破ればおそらく死んだと錯覚するだろう。

そうすれば実際に死んでいるとソウルジェムが認識し、体の機能も停止する。

後はソウルジェムを砕けば終わりだ。

 

しかしココで銃声。

腹部に激しい衝撃を感じて、ディスパイダーは強制的に後退していく。

見えたのは煙を上げる腹部と、小型の銃を構えているマミだった。

 

 

「なるほど、そう言えば銃の大きさは自由に変えられたな」

 

「フフッ、油断――ッ、したわね。げほっ! かはっ!」

 

 

かろうじてマミは笑みを浮かべる事ができた。

なぜディスパイダーが自分たちの事を知っているのかが分からない恐怖。

それを振り払うにはとにかく勝つしかない。マミは地面に手を押し当て、ソウルジェムを光らせた。

 

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

 

 

地面を突き破ってディスパイダーの周囲に無数の黄色いリボンが出現していく。

一つ一つがマミの意思に反応し、まるで龍の様に動きをしならせて次々にディスパイダーの体に巻きついていく。

抵抗を試みるが、マミは素早く銃を発砲してディスパイダーを怯ませると、一瞬の内にがんじがらめにしてみせた。

そして最後にとびきり太いリボンがディスパイダーの腰に絡みつき、中心に鍵を生成する。

いつだったか、暁美ほむらを拘束した魔法であった。

 

 

「チッ! 動けネェ!!」

 

 

抵抗は試みるが、マミの拘束魔法は本物だ。

ディスパイダーの力をもってしても簡単には抜け出せない。

 

 

「終わりね……!」

 

 

銃口をはさんで眼光がぶつかり合う。

正体不明の敵を前にするのはマミとしても気分が悪いものだった。

一刻も早く決着をつけたいが、その前に色々とやる事がある。

 

まず一つ目は仲間を呼ぶことだ。

マミの本能がディスパイダーの危険性を知らせている。

今は一人でなんとかなっているが、油断はできない。

だからテレパシーを使い、まどか達に危険を知らせようとするが――

 

 

『■■■■■■』

 

 

一瞬、間。

 

 

「!?」

 

 

マミの表情がまた余裕の無いものへと変わった。

喉を押さえてパクパクと口を開く。声は出る。

が、しかし、なんとテレパシーが使えなくなっていた。

そんな馬鹿な、マミは再びまどか達へ声をかける。

 

 

『■■■■■』

 

 

しかしダメだ。

まるで言葉が闇に染まったように、黒に塗りつぶされてしまう。

 

 

「クハハハ! ズライカ、お前の力は便利だなぁ」

 

「え? まさか――ッ」

 

 

ディスパイダーの隣にある闇の塊。

暗闇の魔女ズライカの力が発揮されていると言う事なのだろう。

闇の力は言葉を塗りつぶし、情報の伝達を拒んでみせる。

ましてや、仮に助けを呼んだところで誰もこない。ディスパイダーはそのためにアシナガと小巻を使ったのだから。

 

 

「貴女、魔女を使役できるの!?」

 

 

それにしたとて、おかしな点が多い。

ズライカの力は本来魔法少女の仕様にまで組みこんでくる妨害機構。

確かに暗闇の魔女と言う称号ならば、文字を塗りつぶす事はおかしくないとも言えるが、それにしたってこんな魔法少女をピンポイントで狙うような力があるものなのだろうか。

 

 

「ッ!?」

 

 

するとマミは見た。

ズライカが立っている部分が黒く淀んでおり、その中から青白い顔の子供がチラリと姿を見せた。

 

 

「ヒッ!」

 

 

思わず声が出る。

人間の容姿をしているが、やはりその姿は人間ではない程に不気味であった。

赤い目はギョロリとマミを睨んでおり、むき出した歯は鋭利に尖っている。

 

クララドールズ、『オクビョウ』。

黒のブレザーにネクタイ、スカート、そして鳥の巣の様なフンワリとウェーブ掛かった髪が特徴的だった。

 

かつては一人の魔女の使い魔だったが、その負が魔獣と共鳴し、現在はギアの忠実なる(しもべ)である。

それだけではなく魔獣の力も与えられ、一体一体が『色つき』を上回る力を秘めているのだ。

つまり魔獣の仲間。魔法少女達の敵である。

 

 

「ギハハハハッ! ハハッハ!!」

 

 

ケタケタと笑い声を上げるオクビョウ。どうやらマミの怯えた顔がツボに入ったらしい。

 

 

「と、トモエマミ! トモエマミ! モウスグ、シヌ! し、シヌ!」

 

「な、なんなのよ!」

 

 

銃を握る力を強めるマミ。

一方で縛られ、不利になっている筈のディスパイダーもまたケタケタと笑っていた。

 

 

「おソラへツれてイかれては、う、う、ウ、ウサギのクビもハねられない!」

 

 

この人形どもは、魔法という力で完全な回帰を実現する。

オクビョウの力は魔女の強化である。ズライカがテレパシーの妨害と言う能力を発揮できたのも、オクビョウが寄生と言う形で力を与えているからだ。

 

 

「魔女つっても、流石は元魔法少女なだけはある。力さえ与えれば、参加者並の活躍はしてくれるってね。まあ現に、ユウリのヤツもシズルを強化して杏子のやつをブッ殺してたしな」

 

 

そこで、空気が凍った。

マミは動きを止め、目を見開く。

 

 

「え?」

 

「あ?」

 

「今、なんて――」

 

「………」

 

 

瞬間、ディスパイダーは全てを察した。

笑う。笑う。声を上げて大笑い。その楽しそうな様子にオクビョウも釣られて声をあげ、ズライカも楽しそうに笑った。

濁り濁った狂笑のハーモニー。その中でただ一人、マミだけが引きつった表情で青ざめていた。

 

 

「ギャハハ! 知らないか巴マミぃ! まあそうか、そりゃそうだよな!」

 

「な、何を言ってッ! それにさっきのは何!?」

 

「そりゃそうだ、そりゃそうだ。クソメンタルの巴ちゃんには耐えられないよな! 現にお前が狂った時には魔女化の話が多く絡んでたもんな! ギャハハ!」

 

 

覚えている。ディスパイダーは覚えてる。

あれだけ慕っていた杏子を殺し、発狂したあげくに優しいまどかちゃまにスナイパー。

それだけじゃない、ループの中じゃ決戦前に自分のジェムを砕いた事もあったっけ?

 

 

「救えなかった子供に縛られて魔女化した事もあったっけ? クカカカカ!!」

 

「だからッ! なんの話をしてるのよ!!」

 

 

怒号が上がる。マミの表情からは完全に余裕が消えていた。

食い入るような視線を感じ、より一層ディスパイダーは笑みを深くする。

付け入る隙が分かりやすい。マミは確かに強い、メンタルだって一見すれば強い。

しかしあくまでも強がっているだけにしか過ぎない。硬い殻さえ一度破れれば、崩壊の時はすぐそこだ。

 

 

「だからよォオ! お前ら魔法少女が魔女になるって話だよ! 知らないの? 知らないよねぇ! ギャハハ!」

 

「う、嘘――ッ! 嘘よ!!」

 

「さあ? どうだか!」

 

 

混乱するマミ。

やはりディスパイダーは異常だ。

魔女らしくない事に加え、魔女を支配下に置いている。

こんな馬鹿なことはありえない、マミの表情がどんどんと険しくなる。

そしてオクビョウと言う謎の存在、それに聞かされた歪な情報。

ああ、気持ちが悪い。

 

 

「どうした? 笑みが消えてるよ、巴マミッ!」

 

 

そして、ディスパイダーはアクションを起こす。

口を開いたかと思うと、そこから強靭な糸を発射する。

らせん状に絡ませた糸はまさにロープ。鞭の様なそれに、マミは反射的に回避を選択する。

 

マミの反射神経、そしてスピードは迫る糸を簡単に回避してみせた。

しかし今の精神状態。マミの心臓は爆発しそうに音を立てていた。

何よりも不安。一刻も早く決着をつけなければならないと言う強迫観念。

気づけば、マミは巨大な大砲を出現させていた。

 

 

「ティロ――」

 

 

そこで、気づく。

 

 

「え?」

 

 

違和感。抵抗感。熱、熱、熱。

大きな音がした。ティロフィナーレに使うための大砲が地面に落ちたのだ。

なぜ? 決まっている。それを支える物が消えたからだ。

 

 

「え?」

 

 

再び放つ疑問の声。

それは先ほどとは違い、震え、焦り、そしてその表情はより青ざめている。

 

 

「―――」

 

 

歪む、歪む、マミの美しい顔が恐怖で醜く歪んでいく。

見開いた目からは涙がこぼれた。歯がカチカチと音を立てる。

マミの視線の先、そこには切断されたマミの右腕が転がっていた。

 

 

「な、なん――」

 

 

フラフラと後ろに下がるマミ。すると眩しい太ももから血が吹き出した。

胴体から血が滲み出る。そして激しい熱。思わず笑い声が出た。

それだけ意味が分からなかったからだ。なぜならば次は左腕が切断され、地面に落ちたから。

 

その時、自分(マミ)ですら聞いた事の無い絶叫が口から放たれた。

掠れ、濁った叫びは恐怖から搾り出されたものに間違いない。

マミは自分の両腕が簡単に無くなった事の恐怖と、断面から流れ出る血、そして痛みに心がズタズタにされていく感覚を覚えた。

 

 

「ハハハハ! 痛みは分かりやすい。さあ恐怖しろ、絶望に沈めッ、巴マミ!!」

 

 

ディスパイダーが力を込めるとリボンの拘束は簡単に引きちぎられる。

それだけじゃない、メキメキと音を立てて変質していくディスパイダーの鎧。

ガントレットがクロウに変質し、下半身が人の形を失っていく。

上半身は相変わらず人型ではあるが、下半身は八本の足が並ぶ巨大な蜘蛛の物になっていた。

 

 

沈黙の切り裂き魔(サイレント・リッパー)。どうだい、気に入ってもらえたか?」

 

 

ディスパイダーは既にフィールドへ自身の糸を張り巡らせていたのだ。

細い糸は周囲に同化し、マミの目には映らなかった。

張り巡らされていた糸は強靭なワイヤーと何も代わり無い。

いや、むしろ一本一本が鋭利な刃として機能するに十分だった。そしてマミは自ら移動する事でそのカッターに触れてしまったのだ。

 

魔法少女は騎士よりも脆い。結果として、マミの全身からは出血が。そして両腕は地面に落ちる。

へたり込むマミ。涙と鼻水でグシャグシャになった顔で見上げたのは、巨大なシルエットとなったディスパイダーであった。

 

 

「可哀想だなぁ、巴マミ。腕がなければ大好きなケーキも紅茶も食べられない。戦士としても欠落しちまったな。クハハハ!!」

 

「ァ! うァ! ひっく――ッッ! 手が、私の腕がッ、無くなっちゃ――ッ!」

 

 

濁る、歪む、マミのソウルジェムが汚く淀んでいくのが分かった。

マミはまだソウルジェムの仕組みが分からない。

切断された腕はもう戻らないと理解してしまう。それが混乱、恐怖、悲しみを増大させていくのだ。

 

 

「フフフ! 安心しろよ。言っただろ? アタシはスマートなんだ」

 

 

他の魔獣ならばもっとマミを痛めつけるだろう。

もしくは魔女にする為により絶望を高めようとする筈だ。

 

だがディスパイダーは慎重だった。

シュピンネの敗北は決して奇跡の産物ではないと思っているからだ。

ディスパイダーもまた騎士や魔法少女を見下しているものの、その実力が全く通用しない物とも思ってはいない。

 

油断すれば、それだけチャンスを向こうに与えることとなる。

今はただ、分岐点の破壊を重視するべきだ。

マミさえ崩れれば後は一気に崩壊が進む。

 

 

「死の向こう側で絶望し、闇へ消えれば、お前の価値は証明される」

 

「あ――」

 

「もう決めてあるんだ。この脚でお前の頭を潰し、そしてソウルジェムを破壊する!」

 

 

マミはガタガタと震えながら、なんとかして『生きる』ため、悪あがきを行う。

空中にマスケット銃を留まらせ発砲。リボンを脳波で操作し攻撃を仕掛ける。

しかしその二つはいずれもディスパイダーが振るった腕に弾かれ、簡単に無効化された。

仕方ない。その攻撃には欠片とて魔力が篭っていなかったからだ。

ソウルジェムから供給される心のエネルギーは感情や意思に左右されるもの。

今の不安定さでは、結局なんの意味もなさない。

 

 

「お前はいつもそうだ。震え、怯え、オクビョウなままで死んでいく!」

 

「だ、誰か――ッ、助け――!」

 

「無駄だ、誰も来ない。そうしてある」

 

 

今頃まどか達はディスパイダーの仲間たちに足止めされているのだから。

 

 

「人間は常に一人!」

 

 

これこそがあるべき姿だとディスパイダーは説いた。

どれだけ群れようとも孤独のままに死んでいく。哀れな生き物だ。

ディスパイダーはマミの眼前に立つと、鋭利な脚を振り上げて断末魔を上げるマミの頭を踏み潰した。

 

一瞬だった。

脚を引き抜くディスパイダー。

いつもは可愛らしい笑みを浮かべていたマミの顔は、今はザクロの様にはじけている。

 

 

「フッ、余裕だったな」

 

 

だが、刹那、マミの体がファンシーな音をあげて弾ける。

 

 

「ッ!?」

 

 

ポン☆ と言う音がもたらしたのは変化だった。

先ほどまでマミがへたり込んでいた場所にあったのは、マミの形をした『ぬいぐるみ』だった。

そのぬいぐるみも頭が潰れており、逆に言えば、まるで先ほど頭を潰されたマミがぬいぐるみだったとも言える光景だった。

 

 

「なん――ッ!?」

 

 

理解、判断。一瞬だった。

ディスパイダーは体から大量の糸を発射。周囲三百六十度に拡散させる。すると手ごたえ、捕らえたのは『虚空』だった。

 

 

「そういう事かよ、神那ニコ!!」

 

「グッ!!」

 

 

ディスパイダーが糸を引くと、簡単にニコの体は宙に浮き上がり、そのままディスパイダーの頭上を超えて転がっていく。

地面に叩きつけられた際の衝撃とダメージで虚空が歪み、ニコのシルエットを形成していく。

 

 

「いッてぇ……」

 

「やられたよ、まさかアンタが隠れてたとはな。とんだストーカー女だ」

 

「あぁあぁ、趣味と監視ぃい……!」

 

 

背中を押さえて咳き込むニコ。

レジーナアイでマミが一人になった事を確認したニコは嫌な予感を感じてココまで来た。

そうしたらばコレだ。ニコはベルデの力で透明化し、さらにマミを引き寄せて透明化させた後、ぬいぐるみをマミに再構成させて摩り替えた。

一瞬でそこまでを行ったはいいが、一番大事な『逃げる』前にディスパイダーに見つかってしまったのだから厄介この上ない。

 

引き剥がされた向こうでは、相変わらず腕を失ったマミが恐怖に震えている。

どうやら腕を切られる前には助けにいけなかったようだ。

いや、正確にはニコはその前にはたどり着いていたのだが、助けるタイミングが無かった。正直、今もそれは思っている。

 

 

(やッべえ、逃げてー……!)

 

 

一つ、大きな問題がある。

それは何より、ニコが助けに行ったところで何ができるのか、だ。

自分でも理解できるほど、ニコは弱い。対魔法少女ならばソウルジェムを一撃で抜き取るトッコデルマーレがあるものの、対魔獣においてはもちろん何の意味もなさない。

 

 

「レンデレ・オ・ロンペルロ!」

 

 

バール型のステッキから発射されるのは、魔力を再生成して攻撃エネルギーに変えるニコの最強魔法。

しかしディスパイダーは脚を振るうだけでかき消した。

 

 

「……マジかよ」

 

「引っ込んでろ! お前も後で八つ裂きにしてやる!」

 

 

そして衝撃、ディスパイダーの胸部から無数の針が発射され、ニコの全身に突き刺さっていく。

 

 

「んが――ッ!」

 

 

血が吹き出る。

脚や肩に刺さった針はニコの体を貫通しており、その衝撃で地面に倒れた。

一方悲鳴を上げるマミ、そこへディスパイダーが近づいていく。

 

あ、終わった。

ニコは思う。そもそもこのままであればマミが死んだ後に、自分も死ぬはず。

どうする? どうすればいい? バイオグリーザを呼ぶ? いや、呼んだ所でどうする?

 

バイオグリーザも力に特化したミラーモンスターではない。

ディスパイダーから正面に挑んで勝てるわけが無い。

マミだけを連れて逃げるならまだしも。

じゃあニコ自身はどうすればいいのか、である。

 

 

(ああもう、マジかよ。つうか、アレだろ、自分一番だろ。だったらもうマミとかどうでもよくね?)

 

 

考えても見ればマミを助ける義理も無い。

そりゃ全員生存が一番だが、最優先するべきは自分の命だ。

まどかや真司やならばともかく、ニコはまだそこまで馬鹿にはなれない。

 

 

(そう、そう。考えてもみれば前回のゲームじゃ一番最初に死んだヤツだろ。ぶっちゃけいてもいなくても変わらんだろ!)

 

 

だいたいなんだって人のために頑張らないといけないんだ。

そもそもマミの怯え方を見るにソウルジェムが相当濁っていると見て間違いない。

あいにく持ち合わせのグリーフシードは無い。つまり仮にディスパイダーをなんとかしても、マミはいずれにせよ終わりと言う訳だ。

 

 

(やっぱり参戦派の方が楽なんじゃねーの? ああ、もう、やっぱここはマミを見捨てるのが一番だわ。決めた、ニコちゃんは逃げよう)

 

 

ディスパイダーは今、マミに集中している。今透明化して逃げれば確実にイケる。

決めた、そうしよう。マミを見捨てよう。ニコは立ち上がり、ディパイダーから距離をとろうと試みる。

 

 

「……いやッ」

 

 

しかし、足を止めた。

 

 

「や、いや、や、やややや」

 

 

ダメだ。ニコは切に思う。

 

 

「ダメだ、ダメだろそりゃ、普通。駄目に決まってる。なにやってんだ私は」

 

 

そんなの『前』と何も変わらないじゃないか。

何のために時間を巻き戻した、何のためにまどかの味方になるといった。

 

 

「なんのために――、生きてる。生きようとしてる? なあ、そうだろ、私」

 

 

肩に突き刺さった針を抜き取るニコ。

 

 

「ナメてんじゃねぇ、クソが」

 

 

再生成。

針を閃光弾に変えたニコは思い切りそれを上空へシュート。

弾けて光が溢れると、ディスパイダーの動きが鈍った。

 

 

「Bダッシュ!!」

 

 

その隙に走るニコ。

ゴーグルをかければ光の中でもクリアな視界で移動できる。

そして光が晴れると、ディスパイダーの前にはマミを庇うニコが映った。

 

 

「おい、落ち着け巴マミ、怯えてても何にもならんだろ」

 

「あ、あ――ッ」

 

 

そうは言うが、パニック状態になっているマミはただ呻き声をあげ、涙を流して震えるしかできない。

笑い声が聞こえる。ディスパイダーはニコもよく見ていた。

だから知っている。庇う事の意味の無さを。

 

 

「ナメるんじゃない。クソガキが」

 

「発言ブーメランいただきました。困るね、コリャ」

 

「理解できないな。お前が来た所で何にもできないだろうに」

 

「試してみるか? ニコちゃんの切り札、食らいたいなら食らわせてやるよ」

 

「クハハハ! やってみろよ、前回までのゲームでお前の手の内は大体分かってる」

 

 

再生成は巨大なものになればそれだけ時間も掛かる。そして周りには今、何も無い。

 

 

「それは――、まいったね」

 

「馬鹿なヤツだ。今は逃げれば良かったものを」

 

「確かにそうだが……、それじゃあ私のココロが納得できない」

 

「理解できないねぇ。まあいい、どうせお前らを全員殺す事がアタシらの狙いんだからさァア!!」

 

 

脚を振り上げたディスパイダー。

流石にヤバイ。ニコはあえて笑みを浮かべ、マミに覆いかぶさる様にして目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「――ッ?」

 

 

まどかが異変に気づいたのはすぐだった。

アシナガに誘導される中、まどかは始めアシナガだけに集中していた。

しかしこのシチュエーションには覚えがあった。デジャブ、ではなく、実際に同じような事が先日もあったからだ。

 

マミだけが一人になる。

偶然か? いや、何か違和感がある。

しかしアシナガも魔獣と分かっている以上、無視はできない。

だからまどかは他の仲間に助けを求めるべく、テレパシーを使用する。

が、しかし――

 

 

『ごめん、まどか! ちょっとコッチ、都合悪くてさ!』

 

 

さやか達は魔女と交戦中。

 

 

『上臈小巻がいたわ。手塚が仲間にしようと頑張ってるけれど、おそらく無理ね』

 

 

ほむら達も魔獣一派と交戦中であると。

仕方ない、マミに無事を確かめようとした時だ。

 

 

『マミさん、大丈夫ですか――?』

 

 

しかし、反応が無い。

瞬間、まどかの表情が変わった。

 

 

「し、真司さん――ッ! これっ、たぶん罠かも!」

 

「え?」

 

「………」

 

 

アシナガの笑みが崩れることは無い。

まどかは不安げに表情を歪めると、アシナガを睨んだ。

すると腕時計を確認するアシナガ。

 

 

「アルケニーの力なら、今から向かっても間に合わないだろうね」

 

「ッッ!!」

 

 

まどかは光の翼を広げると目を見開き、飛翔する。

 

 

「真司さん!」

 

「ああ! 行ってくれ! まどかちゃん!!」

 

「うんッ、ごめん!!」

 

 

まどかは猛スピードでマミの下へ飛んでいく。

一方で拳を握り締めアシナガを睨みつける真司。

 

 

「お前ッ、騙したのか!!」

 

「ハハッ! まあでも、ボクを放置はできないよね。それを利用させてもらっただけにしか過ぎない。騙したといえばそうだけど、いつも真実は雲の中さ」

 

 

アシナガは嘘を言った覚えは無い。

無駄な犠牲は出したくないと言うのは本心だ。

悪戯に他人の命を奪うつもりはなかった。

 

 

「巴マミの命さえ頂ければ、ボクらはそれでいいんだよ。創生は欠片の命を贄として新たなる息吹を齎す」

 

「お前――ッ!」

 

「馬鹿だなキミは。でも信じるとはそう言う事だ」

 

 

アシナガの体が赤く発光すると、溶ける様に人間の姿が崩壊していき、中からその正体、『ソロスパイダー』が姿を現す。

ディスパイダーとほぼ同じ姿だが、腕の爪は長く、体は緑色である。

 

 

「その気持ちは簡単に裏切られ、利用される。人の価値は人自身が黒く塗りつぶす」

 

 

ソロスパイダーはどこからとも無く携帯電話を取り出す。

アシナガ時に使っているものだろう。右腕が怪人体から人間体に戻ると、器用にスワイプ動作を行い、一つのページを表示させた。

 

 

「残念なお知らせだよ、龍騎」

 

「ッ!」

 

「アルケニーが傷つけた男性が、先ほど病院で亡くなったらしい」

 

「なッ!」

 

 

顔面の骨が粉々になっていただけではなく、部分部分も開放骨折しており、臓器を傷つけていたようだ。手術むなしく、男性は先ほど亡くなったとネットニュースで報道されている。

 

 

「悪魔のルーレットに選ばれてしまった様だ、気の毒にね」

 

「――ッ、ふざけんなよッ!! 何がルーレットだ、お前らがやったんだろ!」

 

「おやおや。怖い怖い。それにしても、フフ、人とは簡単に死ぬね。モブキャラなんだから仕方ないのかな。フフフ」

 

「お前ッ! 変身!!」

 

 

真司は龍騎に変身すると有無を言わさずソロスパイダーへ殴りかかる。

しかし敵は器用に体を反らして龍騎の拳を回避すると、そのクローを振るい、龍騎の胴に斬撃を刻みつけた。

 

 

「グッ!」

 

「ボクはキミと戦うつもりはない。ただ対話がしたいのさ」

 

 

人の世には罪が溢れている。

 

 

「窃盗や放火、強盗や不倫、略奪や暴行、そして殺人!」

 

「ぐッ! がッ! ずぁあ!」

 

 

罪が一つ口にされるたび、ソロスパイダーのクローが龍騎に刻まれていった。

 

 

「まだあるね、誘拐、詐欺、強姦、恐喝、飲酒運転や横領、まだある。まだまだあるだろう?」

 

「ぐぅううッ!」

 

「人は罪を抱けば裁きが待っている。人間が定めた法の果て、死刑があるように、相応の罪には相応の罰が待っている」

 

 

罪を生むのは人だ。

ならば『人』としてみれば、人間はあまりにも多くの罪を抱きすぎた。

であれば、人は皆、裁かれる資格を持っている。なおかつ、その罪の大きさは『死』で裁かれるだけの存在であると。

 

 

「人は皆、死刑になるべき資格を持っている。アルケニーによって殺された男も、きっと誰かを傷つけ、世界を黒に染めていく要因の一つだ。彼だけじゃない、寿命、病、事故、災害、故意、いずれにせよ死んだ人間は、神に裁かれたのだとボクは考えている」

 

 

つまりソロスパイダーの言い分はこうだ。

いついかなる場合であったとしても、死んだ人間は罪を犯したから神に裁かれたと。

 

 

「何言ってんだよッ! 殺す理由を正当化する気かよ!!」

 

「正当化ではなく、正当なのさ。ボクはキミとは違い、人を個ではなく種として、一つの存在と見ている」

 

 

だからこそ個を尊重しようとしている真司が理解できない。

 

 

「キミは人を殺したアルケニーに怒りを覚えた。しかし、コレを見てほしい」

 

 

デッキからカードを抜き取ろうとした龍騎へ、ソロスパイダーは赤い蜘蛛の巣を発射した。

粘着性のある糸に龍騎の手が拘束され、デッキに張り付けられる。

一方で目を光らせたソロスパイダー。プロジェクターの様に空へ映像が映しだされる。

そのメインはマミと須藤だった。映像の内容は簡単に言えば、二人が他者を傷つけようとしているものだ。

その中には龍騎の記憶に無いものもあった。シザースに攻撃されている光景だ。

 

 

「彼らもまた、度重なる時間軸の中で人の命を奪った。アルケニーと何が違う?」

 

「ッ、それは――」

 

「裁かれる意味のある存在なんだ。奴らも罪人、そんな存在をキミは助けると言うのか、世界に残すと言うのか。ボクには理解ができない」

 

 

さらに映像が切り替わる。

須藤のものだ。思わずソロスパイダーは笑みを零す。

あまりにもその内容は滑稽で、愚かに思えたからだ。

 

 

「見ろ、須藤は死体を壁の中に隠そうとしている。ははは、死体隠蔽。なんてヤツだ」

 

「………」

 

「それにボルキャンサーに人を襲わせ、強化を施している。罪深いぞ、何人死んだ?」

 

 

つまり、マミも須藤も魔獣と同じ『黒』を心に抱えている事は変わりない。

そんな存在を世界に残せば、いずれ世界は黒に侵食されていく。

それは想像に難しくない話だった。

 

 

「お前もそう言った意味では同じだ。力があるからこそ、世界には争いが生まれる。お前は世界融合の前、確かに戦いを終わらせた。しかし今、お前達はココに立っている。結局世界は巡り、廻る。そして争いを生み出す」

 

 

ソロスパイダーは、世界のリセットボタンを押すべきだと強く説く。

全ての存在を無に還すには、魔獣のあり方は悪くない。少なくとも人間がこのまま世界を支配するよりは遥かに良いと。

 

 

「巴マミも須藤雅史も、助けた所で殺人者。助ける価値はない」

 

「まだこの世界じゃ二人は誰も殺してない! それに、お前らがそう仕向けたからだろ!」

 

「確かにキミの言う事は分かる。あの二人はまだこの時間軸では誰も殺して無いし、そもそも二人の殺意が解放されるのはボク等魔獣が演出したからでもある」

 

 

しかし殺した事は事実だ。

殺すまでに『人が変わる』事も事実だ。

なによりも中には、魔獣が関わらない殺意も存在している。

 

 

「なぜ法がある? 何故警察がある? 人は黒を抱く生き物であり、人を傷つける生き物だからだ」

 

 

そして力があるマミ達はそれだけ多くの命を奪える。

 

 

「魔獣を倒したいと言うだけならば理解できるが、参加者全員を生存させることは世界におけるリスクを作る事に他ならない。鹿目まどかの様な人間ならばまだしも、巴や須藤の様な性格変化リスクのある者を生き残らせるなど、ボクには馬鹿のやることにしか思えないんだよなぁ」

 

「――ぅ」

 

「正義の味方気取りは結構だが、世界のためにはならない」

 

「……いや、違う」

 

「え?」

 

「マミちゃんは優しい子だ。須藤さんだって、刑事として、ちゃんと世の中を良くしてくれてる」

 

「馬鹿な事を……。すぐに狂い、傷つけ合うのに!!」

 

 

ソロスパイダーは映像を切り、走り出す。

爪を構え、立ち上がろうとしている龍騎を狙った。

 

 

「黒を抱える人間がいるから、世界は腐敗していくんだ!」

 

「違うッ!!」

 

 

その時だった。

立ち上がった龍騎は蜘蛛の巣を引きちぎり、拳を構えると、向かってきたソロスパイダーの胴体に渾身のストレートを打ち込んでみせる。

うめき声を上げて後退していくソロスパイダー。腹部を押さえ、激しく咳き込んでいた。

 

 

「ば、馬鹿な! ボクの糸が!」

 

「今、改めて思った。俺達は必ず生き残る!」

 

「何……ッ!?」

 

「確かに、俺達は不完全だ」

 

 

 

真司だって些細な事で怒りを覚えるし、嫌いな人間だっている。

正直に言えば浅倉や芝浦は嫌いだ。だが、それでも、死んでも良いとは思っていない。

それに須藤の映像を見て思った。真司の知っている須藤の中には、優しい須藤もいたことを。

 

 

「ほむらちゃんだって、杏子ちゃんは優しかったって言ってた」

 

「ッ、何の話かな?」

 

「きっとある筈なんだ。みんなが友達――、とまではいかなくても、皆で助け合えたり、笑い合えたりする世界が!」

 

 

それが願いだ。正義とか悪とかじゃない、純粋な欲望。

確かに黒を背負う時はある。だがしかし、優しさだって抱く事ができるのが人間だ。

生きていれば闇に染まる時はあるだろう。それは仕方ない、自分達は弱い人間だ。

 

 

「でも、お前らはそれを肯定させようとする。だけど俺は、それを否定するために戦う!」

 

「ッ!」

 

「全てが黒な人間なんていない。欠片の優しさがあれば、人間は優しい人間にもなるはずだろ!!」

 

「ははッ、はははは! ループの数と死体の山が不可能を証明している! あいにくッ、人の心は白に染まるより、黒に染まる方が簡単なのさ!!」

 

「でも、可能性はゼロじゃない!」

 

「……!」

 

「ループしてみて分かった。アシナガ、人間を作るのは――」

 

 

龍騎の言葉に唸るソロスパイダー。

そういう意見もあるには、あるか。

 

 

「成る程。だがいずれにせよ、巴マミはもう死んでる」

 

「ッ!」

 

「それに死体はまだ増えるぞ。キミが思っているほど、世界や魔獣は甘くない」

 

 

しかし、たしかに、可能性が無いわけではないとも言う。

 

 

「今日のところはボクは消える。今度は、口だけじゃない事を祈っているさ」

 

 

目を光らせるソロスパイダー。

赤いフラッシュに龍騎は目を覆い、次に目を開いたときにはソロスパイダーの姿は無かった。

 

 

「ッ、マミちゃん、まどかちゃん!」

 

 

龍騎はすぐに地面を蹴って走り出した。

だが残念ながら、走ってももう遅いのだ。

アシナガの言うとおり、ディスパイダーはもうマミを殺せるに十分な時間を与えられていたからだ。

ニコが多少時間を稼いでくれたが、それでもディスパイダーはマミを殺せた。

そう、殺せたのだ。

 

 

「ッ?」

 

 

なのに、死んでいない。

マミとニコはまだ息をしていた。

 

 

「あ?」

 

 

飛んだ土片、感じる抵抗感。

コンクリートの破片がディスパイダーの額を打つ。

 

 

「おい、なんだよ、コイツ」

 

 

マミとニコの前にいたのは。

ディスパイダーの脚をその角で受け止めていたのは。

ミラーモンスター。突貫剣獣メタルゲラス。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「は? お? ん!?」

 

 

メタルゲラスは咆哮を上げながら角を大きく振るう。

弾かれる脚、よろけるディスパイダーにメタルゲラスは突進。直撃。

疑問の声がディスパイダーから上がる。

 

そして再び突進、直撃。

僅かに後ろに下がるディスパイダー。

三度突進、直撃。そのときの威力が高いから、ディスパイダーの体が宙に浮いて後ろに下がる。

 

 

「おぉお!?」

 

 

そして四度目の直撃。

メタルゲラスは咆哮をあげたまま、そのまま前進していく。

バランスを崩し後退していくディスパイダー。

マミ達から大きく離れた所で踏みとどまるが、刹那、青い光が迸る。

 

 

「!?」

 

 

一瞬だった。一瞬で冷気がディスパイダーを包み、巨大な体が凍結する。

氷の檻はディスパイダーの動きを拘束し、冷気によるダメージも追加する。

 

 

「ぐぅウウッッ、これは――ッ!」

 

 

気配を感じ、ディスパイダーが上を見上げると、マンションの屋上に少年が立っているのが見えた。

ポケットに手を突っ込んだ少年は、ニヤニヤと笑いながらそのまま屋上から落ちるように落下していく。

足を滑らせた――、訳ではなく、少年は落下中にデッキを構えると、既に装備されているVバックルへデッキを装填する。

 

 

「変身」

 

 

そして地面に激突。

コンクリートにヒビを入れたのは重厚な鎧に包まれた騎士だった。

寝転んだ状態で、その騎士は気だるそうに顔を上げて状況を改めて確認する。

 

 

「うわー、腕切られてんじゃん。グロ。ハハハ」

 

「お、お前は!」

 

 

降って来たのはガイ。芝浦淳だった。

同じく降って来たのは双樹ルカ。スカートを押さえ、赤いドレスをなびかせる。

ルカも同じく状況を確認すると、マミ達をゴミを見るような目で見た後に、哀れみの笑顔を浮かべた。

 

 

「無様な。まあいいでしょう、コレを使いなさい。巴マミ」

 

 

ルカが投げたのはグリーフシードだ。

ニコは反射的に地面に転がっているそれを掴むと、マミのソウルジェムへ押し当てる。

汚れが浄化されていき、なんとかゲームオーバーは回避したようだ。

 

 

「あっぶねー、もう少しでアウトだったわ……」

 

「ね、ねえ! 貴女誰? これは一体どうなってるの!?」

 

「え、えーっと。私は神那ニコなんだけど……」

 

 

一体どうなっているのかがニコにも分からない。

それはもちろんディスパイダーも同じだ。意味が分からない。

何故芝浦がマミ達を助けるようなマネをするのか。

 

ディスパイダーが芝浦達にまどかの存在をアピールしたのは、集まった芝浦たちにまどか達の妨害をしてもらう為だ。

参戦派が集まれば勝手に潰し合ってくれるだろうと思っていたのだが……。

 

 

(なんで助けるみたいになってんだよ!!)

 

 

全く意味が分からない。

なので、一番初めに口を開いたのはニコだった。

 

 

「た、助けてくれるのか? それにッ、グリーフシードまで」

 

「ええ。私の姉が最近ソウルジェムをコレクションしたいと言っていまして」

 

「へ?」

 

「穢れたジェムはいりません」

 

「いや、あの、アンタ、ソウルジェムの秘密知ってる?」

 

「ええ、知ってますよ。命の輝き、そそられますね。後で頂きます」

 

「……いや、駄目に決まってるだろ」(なんだよ、結局ヤバイ奴なのは一緒かよ!)

 

「まあ、いいでしょう」

 

 

しかし現在は、違う事に興味が湧いているらしい。

ガイは立ち上がると、ディスパイダーを観察していた。

 

 

「すっげー、あんなの初めて見る」

 

「人語を理解していますね。魔女とも違う。なるほど、面白い存在だ」

 

「まあ、なんでもいいや。とにかく殺っちまおうぜ。ルカ」

 

「ええ、淳が楽しめる相手だと良いのですが」

 

「チッ、おいおい……!」

 

 

完全に計算が狂った。

ディスパイダーは舌打ちを放ち、氷を破壊する。

そして目の前から歩いてくるガイとルカを見て、もう一度舌打ちを放つ。

 

 

「ウゼェぇえ……!」

 

「その言葉、まんま返すよ。なんかお前を見てると気分悪いんだよね。だからさぁ、さっさと死んでよ」

 

 

色々と理由はあるが、ガイが今ココに来た一番の理由を告げるなら、ディスパイダーと言う存在が『何か』気に入らないからだろう。

デザイン、声? 良く分からないが、気に入らないのだから仕方ない。

 

 

「………」

 

 

一方、違うビルの屋上から、アシナガはその様子を見ていた。

 

 

「ふぅん」

 

 

思い出すのは真司の言葉だ。

 

 

『ループしてみて分かった。アシナガ、人間を作るのは――』

 

「まあいいか。頑張ってくれ、アルケニー」

 

 

アシナガは踵を返すとその場から立ち去っていく。

あくまでも今回はサポート、自分の役目は終わったとの事なんだろう。

 

 

『アシナガ、人間を作るのは、状況と環境の筈なんだ!』

 

 

丁度その時、ガイのメタルホーンとディスパイダーの脚がぶつかり合った。

 

 

 

 

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