仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第78話 どうして信じてくれないの?

 

 

 

火花が散る。

メタルホーンと蜘蛛の脚は互いに相殺し、弾き合う。

地面を擦るガイとディスパイダー。後者は手を伸ばし、声を張り上げた。

 

 

「待て、お前と戦う気は無い! 攻撃を止めろ」

 

「え? なに? そうなの?」

 

 

動きを止めるガイ。

面倒なのは嫌いだ。ディスパイダーとしては本当にガイと戦う理由はなかった。

 

 

「それで良い。アタシの狙いは巴マ――」

 

 

ガイの横を通り抜けようとした時だった。ガイは腕を伸ばし、ディスパイダーの足を掴んだ。

大きな脚だ。大きな体だ。けれどもディスパイダーの体が浮き上がり、宙を舞った。

投げ飛ばされたのだ。街灯を壊して壁に当たった、痛かった、殺意が湧いた。

殺すぞクソガキ、そんな目でガイを見る。ガイはケラケラ笑っていた。

そんな流れ。

 

 

「おれはさ、お前嫌いだから、戦う理由あるんだよね」

 

「………」

 

「芝浦天秤で計ると、どうにも巴達よりお前の方が嫌いだから、ブッ飛ばそうかなって」

 

「………」

 

 

殺すぞ、クソガキ。

そこまで出た言葉を、ディスパイダーは飲み込んだ。

ディスパイダーは冷静だった。いや、だからと言って穏やかな状況では無い。

 

意味が分からないのは確かだ。

目の前にはメタルホーンを振るうガイが見える。脚と角がぶつかり合い、衝撃と火花が散っていく。

そもそも何故ガイがマミ達を助けるような事をしたのか?

ディスパイダーには理解不能な話である。

 

 

(いや――)

 

 

違う。そう、違っていた。

間違っていたのはコチラだ。ディスパイダーは脳内の情報を整理、更新していく。

そもそも参戦派であるニコがまどか達の味方をしている状況を考えるべきだった。

ずっと考えていたのは参戦派が参加者と接触すれば戦いになると言う固定概念。

 

まだゲームは始まっていないのだ。その点を甘く見ていた。

記憶が継承されていないガイ達が、正体不明の敵を前にして、マミ達と敵対するメリットは限りなく薄い。

 

そう。知識あるゆえの失敗とでも言えばいいのか。

そもそも浅倉達ならばまだしも、ゲームの中で芝浦は結果的にほむらを助けた例もあったような。

環境が違う。状況を違う。人を作るのは歴史であり、生まれた時は皆、誰もが知識の無い赤ん坊なのだ。

 

 

(どう育っていくか――、か)

 

 

だとすれば、思い出してもらうのも良いのかもしれない。

少し面倒なやり方だが、魔獣とは絶望を振りまく存在、悪くないプランが浮かんできた。

撤退してもいいが――、そこでディスパイダーは鼻を鳴らす。

 

 

(だがその前に……)

 

 

まずは、なにより。

 

 

「お前を前にして撤退する事が気に入らないッ!」

 

 

ディスパイダーの記憶の奥底にガイを見下す心があった。

おそらく『ディスパイダー』と言う概念に埋め込まれたものだろうが。

なるほど、そういう事か。ループすればそれだけ記憶も積み重なる。

いや、むしろコレは本能。餌に背を向ける事ほど不愉快なものはなかった。

 

優先するのはプランよりも殺意だ。

長い脚を存分に振るい、ガイのメタルホーンを弾き返す。

がら空きになった胴体。ディスパイダーは胸部から無数の針を発射し、ガイを蜂の巣にしようと試みる。

 

 

「あででででッ!」

 

 

ガイの厚い装甲を以ってすれば針を弾いていく事は可能だが、痛みと衝撃は確かに伝わっているようだ。

衝撃に後退していく中で、ガイはカードを引き抜き、メタルバイザーへセットする。

 

 

『ガードベント』

 

 

メタルボディ。

ガイの体が鋼の様に硬質化し、速度が低下するかわりに防御力が跳ね上がる。

迫りくる針を次々に撃ちはじきながら口笛を吹かすガイ。相手を完全に煽ってるバトルスタイルは相変わらずか。

 

 

「よわッ、ぜんっぜん痛くねーし」

 

「クソうぜぇ! だったら――!」

 

 

ディスパイダーの脚には小さな穴が開いており、そこから強靭な糸が発射される仕組みになっている。硬質化させる事も可能だが、粘着性を高める事も可能で、ディスパイダーは後者を選択しガイへ糸を伸ばす。

 

 

「う――ッ!」

 

 

なんだこれは。ガイは思わず息が詰まるのを感じた。

これは――、焦り? だろうか。なにかとても言いようの無い、嫌な予感がしてきたような。

蜘蛛、蜘蛛……、糸。ああ、まずいぞコレは。なんだか本当に気持ちが悪くなってきた。

糸が体中に絡みつく中、蘇るデジャブの様な感覚。

 

しかしその時だった。

風が吹いたかと思うと、無数の氷柱が飛来。

ガイを縛る糸に命中すると次々に切断していく。

 

 

「なにッ!」

 

「我が主の笑顔を奪う。コレほど腹の立つ事はない!」

 

 

一瞬で凍りつくディスパイダーの巨体。

ガイの前に着地し、右手を前に突き出しているのは双樹ルカだ。

掌からは吹雪が発生しており、雪や霜がディスパイダーの体を覆っていく。

 

しかし怒号。

ディスパイダーはナメるなと言わんばかりにいとも簡単に氷を破壊すると、右手を握り締めて前に突き出す。

ガントレットに覆われている拳は、これまたあまりにも簡単にルカの腹部を貫き、貫通してみせる。

 

しかし、違和感。

普通に腹を貫かれたなら臓物の一つや二つぶちまける物では無いだろうか。血を撒き散らすものではないのだろうか?

だが今のルカにはそれが無い。

いや、それは無くて当然か、なぜならばディスパイダーが貫いたルカは――。

 

 

「それはフェイクだ」

 

 

砕け散るルカの体。

これは本物ではない、氷でできた偽者じゃないか。

 

 

「なッ!」

 

「どこを見ている! アルマ・ファンタズマ!」

 

 

気づけばルカは、鞘から氷のサーベル、アルマスを抜き取っており、今の一瞬でソレを振るっていた。

ディスパイダーの体を切り抜けると、青い一閃が残像として空間に浮かび上がる。瞬間、ディスパイダーの体が巨大な氷に覆われた。

 

 

「が――ッ!」

 

「フッ! どうやら今日は。氷の女神の機嫌が悪い」

 

 

剣をまわし、刃を鞘に収める。

カチリと音がすると衝撃と冷気が爆発。

氷が砕け散り、ダメージがディスパイダーに叩き込まれる。

 

 

「グガ――ッ!!」

 

「クハハ! 氷夢に抱かれて死ね!」

 

「ぁあああぁッ! うぜぇなッ!!」

 

「ほう……!」

 

 

仮にも魔女ならば倒せるだけの技をルカは撃ったつもりだ。

しかし僅かに怯むだけでディスパイダーはまだまだ、と言った印象だった。

そしてダメージを受けた事で上がっていく怒りのボルテージ、遠くを見ればまたニコがこの隙にマミを連れて逃げようとしている。

 

 

「させるかよッ!!」

 

 

ディスパイダーが叫ぶと、再び周囲に糸が拡散。

さらに闇に溶け込んでいたズライカとオクビョウが移動。

その糸を手繰り寄せて張り巡らせる事で一瞬でサイレントリッパーが完成する。

 

 

「ヒヒヒヒ!」

 

「テメェ……!」

 

 

ニコたちの前で笑うオクビョウ。

ニコがバールを振るうと、バックステップで回避してみせる。

その名の通り回避能力は高いらしい。一瞬、追撃を考えたニコだが、踏みとどまりゴーグルをつける。

このゴーグルもまた魔法が宿っており、いわばセンサーやサーチ能力を発揮する事ができるのだ。

 

すると思ったとおり、ニコの全貌にしっかりと網目状の糸が張られていたではないか。

なんてスピードだ。踏み込んでいたらニコの体はサイコロになっていただろう。

しかしその糸が、一瞬――、まさに一瞬でニコの眼前から消失した。

 

 

「んお?」

 

 

なんじゃらほい。

ニコが首を傾げると、直後音声。

 

 

『コンファインベント』

 

 

鏡が砕け散る音が聞こえると、張り巡らされた糸が消滅した。

技の無効化。ガイの笑い声が聞こえ、ディスパイダーは表情を顰めた。

そう言えばそんな面倒な技があったか。騎士の力は魔獣にもしっかりと適応されているようだ。

 

そしてガイとは対照的に目を見開くルカ。

顔の横、耳の辺りを抑えて美しい顔を歪めている。

どうやらあの僅かな時間の中で、体を動かしてしまったらしい。

指の隙間からボタボタと血が零れ落ち、手には切り取られた『体のパーツ』の感触があった。

 

 

「――す」

 

「あ?」

 

「殺す!!」

 

 

正直ルカにとって肉体が傷つく事などどうでもいいが、彼女の中の『あやせ』が殺意を放っている。

大切な体を、可愛い体を、ああ、憎い。そしてあやせを悲しませる事は、ルカにとって最高に腹の立つ事だ。

 

 

「覚悟しろ、蜘蛛女。お前の終わりが来るぞ!」

 

 

持っていた『耳』を落とすと、ルカは赤いドレスを翻す。

その両手にはソウルジェム。それをクロスさせると、激しい熱波と冷気が発生し、ルカの姿が変化した。

 

赤いドレスに白が混じ、右しか露出していなかった肩が、左も露出する事に。

髪型もポニーテールからツインテールへ変わり、右だけではなく左の手にも炎のサーベル、フランベルジェが握られる。

 

 

「本気モードだ! 地獄で後悔するが良いッ!」

 

 

赤と白のエネルギーが周囲を駆け、切り取られた耳も再生する。

あやせとルカのパワーを合わせた、通称『アルカ』形態だ。

面倒な。ディスパイダーは糸を発射し、それらをアルカに向かわせる。

が、しかし、蒸発。アルカの体には炎のベールが存在しており、体に巻きつこうとした糸を全て燃やし、消滅させていく。

 

 

「どこ見てんだよッ、雑魚!!」

 

 

そして気づけば前にガイ。

右手にはメタルホーン。左手にはソードベントで呼び出した大剣、メタルセイバーがあった。

重々しい剣を軽々と振るい、まずは脚を弾き飛ばす。そして一気に踏み込むと、メタルホーンを突き出して、角をディスパイダーの身に突き当てた。

 

 

「チィイイ!!」

 

 

後退していくディスパイダー。一方でガイの隣にやって来るメタルゲラス。

ガイは腰を落とし、構えを取ると、直後思い切りメタルホーンを前に突き出した。

すると対応するようにメタルゲラスが角を前に突き出す。その角には熱エネルギーが集中しており、巨大な炎がドリルの様に放たれていった。

 

スパイラルフレア。

螺旋の炎は一瞬でディスパイダーの前に迫るが、向こうも魔獣、支配者の名は譲る気はない。

しっかりと手を前に出し、蜘蛛の巣状のシールドを形成。スパイラルフレアはしっかりと防がれ、弾かれてしまった。

 

 

「あっ、なんだよぉ! 今当たってただろ絶対!」

 

 

だがまだ終わっていない。

ガイの背後から踏み出したのはアルカだ。剣を交差させ、直後振り払う。

 

 

「ピッチ・ジェネラーティ!!」

 

 

らせん状に交差する氷のエネルギーと炎のエネルギー。

それはガイを通り抜けると、蜘蛛の巣のシールドに直撃。

競り合いが始まると、直後シールドを破壊してディスパイダーの体に直撃する。

 

 

「ガハァアッ!!」

 

 

やられた。

苛立ちに全身を掻き毟る妄想をしながら、ディスパイダーは後退していく。

さすがは二つのソウルジェムを合わせただけはある。

女神補正さえなければ、まどかを抜いて頂点に立つだけの力がアルカにはあるだろう。

 

 

『スタンベント』

 

 

激しく足踏みを行うメタルゲラス。

その衝撃が地震を発生させ、ディスパイダーの動きを封じる。

この地震、もちろん騎士の力で発生させたもののため、ガイとアルカには効果が無い。

同時に地面を蹴ったガイとアルカ。それを見てディスパイダーは本気の舌打ちを行った。

 

 

「チッ、仕方ねぇ」

 

 

少し、本気でいくか。

そう思った時、凄まじい瘴気がディスパイダーから溢れてきた。

なんだ? 本能的に危険を察知するガイ達。だがしかし既に攻撃の範囲内には捉えている。

なにかされる前にコチラからと判断したのだろう。ガイはメタルホーンを、アルカは二つのサーベルを突き出した。

 

衝撃。角が、剣が、ディスパイダーの胴体を捉えた。

炎の剣、フランベルジェの効果でディスパイダーの体が燃え上がる。

もらった、二人はニヤリと笑みを浮かべるが――。

 

 

「んなッ!」

 

「なにッ!」

 

 

同時にあげる驚愕の声。

無理もない。炎に包まれたディスパイダーの体から飛び出すようにして、『ディスパイダー』が姿を見せたからだ。

 

 

「さっきの言葉をそのまま返してやるよ!」

 

 

炎に包まれたディスパイダーが崩れ落ちる。

残るのは八本の、長く太い鋭利な脚の先端部。

空中にいたディスパイダーは両手から糸を出すと、地に落ちた二本のソレを引き寄せ、そして思い切り投擲する。

まさにそれは、蜘蛛の脚のバリスタ弾。

 

 

「アレはフェイクだよッ!!」

 

「うわぁッ!」

 

「きゃぁあああ!!」

 

 

衝撃にあげる声。ガイとアルカの足元に投擲されたディスパイダーの脚。

アルカの炎のベールでも熱し滅する事はできなかったか、地形を粉々に破壊しながら地面に突き刺さる脚。

その際の衝撃で地面に倒れたガイとアルカ。

二人の間に、二本足の形態に戻ったディスパイダーが着地する。

 

 

「人を殺す感情を知ってるか!」

 

 

ディスパイダーはガイとアルカの首を掴むと、軽々と持ち上げる。

その背中にはお菓子の魔女、シャルロッテが糸で結ばれていた。

ピンクの小さな体、それは今、オクビョウの力で強化され、ディスパイダーに与えられている。

 

油断させ、奇襲を行うシャルロッテのスタイルを継承したのだ。

ディスパイダーはガイとアルカ同時をぶつけ、怯ませる。

さらに炎のベールによってアルカを掴んでいる右腕が燃え始めたので、ディスパイダーはそのままアルカを投げ飛ばした。

 

 

「それは恐怖、そして絶望だ! 人間共!」

 

「グッ!」

 

 

ガイを降ろし、怯んでいる所を殴りつけていく。

一発、二発、フックでさらによろけた所をアッパーで吹き飛ばす。

ガイが地面を転がっている間に、ディスパイダーはダークオーブを取り出した。

するとズライカが闇のトンネルを形成させ、コールサインプロローグを呼び出す。

 

 

「ピギャアアアアアアア!!」

 

 

プロローグは泣き声をあげながらも触手を振るう。

すると悲鳴、逃げようとしていたマミとニコが打たれ、地面に倒れていた。

ニコはすぐにバールを取り出すが、プロローグはすぐに触手をニコとマミの脚に伸ばして縛り上げた後、猛スピードでディスパイダーの下へ向かう。

プロローグの顔の上にはオクビョウが座っており、ケラケラと笑ってニコ達を見ていた。

 

 

「トモエ、マミ、シヌ、シヌ。ヒハハッ!」

 

 

それを確認するディスパイダー。

 

 

「そう、だからさっさと死ねよ、巴マミィイ!」

 

 

糸を伸ばす。

地面に転がっていた脚のパーツに糸をつけると、それをそのまま振るってマミの方へ落とそうと試みた。

まさにそれは槍だ。鋭利な足先が、マミを貫こうと襲い掛かる。

 

 

「ひぃ!」

 

 

マミは引きつった表情で涙を浮かべる。どうやら完全に心が折れているらしい。

両腕は相変わらず熱と痛みを放っている。心が恐怖に侵食されている。

そう、それこそがディスパイダーのプラン。

マミはもう戦えない。終わりだ。いらない。終了。

脚はまさにギロチン。そのままマミの頭部を押しつぶしてソウルジェムごと――。

 

 

「無視すんなよ、イラつくなぁ」『コンファインベント』

 

 

粉々に砕け散る脚。直後、沈黙。

 

 

「カードは二枚あるんだよね」

 

「芝浦ァア!!」

 

「うはっ、ちょーキレてんじゃん。ウケる!」

 

「何故アイツ等を助ける!」

 

 

ディスパイダーは怒りを拳に乗せてガイを殴りつける。

ガイも応戦するが、ループの数が違う。ガイはすぐに防御を崩され、体の至る所に拳や蹴りを打ち込まれた。しかし笑み、ガイは確かに呻いていたが、笑ってもいた。

 

 

「アイツを助けたんじゃ無くて、お前の邪魔し・た・の」

 

「だから何でだよクソ!」

 

「嫌いだからだよクソ」

 

 

ガイは反抗的だ。地面に倒れながらも、メタルホーンを地面に突き刺す。

するとディスパイダーの真下、角型のエネルギーが地面を突き破り伸びてきた。

しかしディスパイダーはしっかりとそれを見ており、当たり前の様に回避。

角を裏拳で吹き飛ばすと、倒れているガイを掴んで再び殴りつける。

 

 

「ああ、そう! やっぱりウザイなお前はッ!!」

 

「うがッ!」

 

「止めだ、殺してやる! 芝浦淳ッ!!」

 

 

ガイは再び地面に倒れる。

追撃にとディスパイダーは走り出すが――。その時、光が迸った。

 

 

「もぎゃがぎゃがぁぁ!!」

 

 

悲鳴。プロローグが吹き飛んだ。

ディスパイダーが視線を移すと、空から天使が舞い降りてきた。

いや、舞い降りたとは語弊がある。それは飛翔だ。飛来とも言える。

白き羽を舞い散らし、その少女は地面に足をつけた。

 

 

「ッ、アレは!」

 

 

立ち上がったアルカ、そしてガイ。

プロローグの攻撃を受けていたマミとニコも確認する。

その魔法少女、鹿目まどかの姿を。

 

 

「鹿目、まどかッ!」

 

「………」

 

 

判断は一瞬だった。まどかは思い切り息を吸い込む。

すると、なんとまどかの魔法少女の衣装、その胸部がボンッ! と音を立てて一気に巨大化した。

まるで風船に一気に空気を送り込んだように膨らむ衣装。

そのあまりに衝撃的な姿に、誰もが目を丸くして動きを止める。

 

 

「パニエロケットッ!!」

 

「ゴッガ――ァァアッッ!!」

 

 

まどかが地面を蹴った瞬間、空気が爆発。

ブロロロロロとけたたましい音を立てて、まどかは一気に加速。

その頭部を先頭にディスパイダーへ突っ込んだ。

 

服の中に空気をためて魔法の力で爆発させて加速。

硬い結界でコーティングした頭部で相手を打ち抜くロケット頭突き。

さらに光の翼でも加速しており、二重の加速はそれだけ威力と衝撃をあげる。

魔法技、『パニエロケット』は、ディスパイダーの腹部にめり込むと、衝撃とともに遥か後方へぶっ飛ばした。

 

 

「ガガグゥゥァッ!!」

 

 

地面を転がるディスパイダーと、着地して頭を抑えたまどか。すぐに弓を構え、走り出す。

一方でディスパイダーは地面を殴りつけながら立ち上がった。眼前に迫っていた矢を、わざと地面に倒れる事で回避すると、その腕から糸を発射して、まどかの腕に絡みつかせる。

 

 

「魔獣!」

 

「あぁッ、クソ! やっぱお前が一番ムカつくよなァ!」

 

 

糸を引き寄せるディスパイダー。

まどかの軽い体は簡単に浮き上がり、強制的にディスパイダーの眼前に迫る。

次いで、ガキンッ、と、音が響き渡る。

まどかの顔面、僅か手前で結界にせき止められたディスパイダーの拳。

 

舌打ちを漏らしたかと思えば、次は悲鳴だった。

ディスパイダーの拳を防いだまどかは、翼を思い切り広げ、その場で高速回転。

光の翼は飛行の為だけではなく、物理的な武器としても機能する。

桃色の残像を残しながら高速で迫る翼は鈍器だ。連続でヒットしていく翼に、ディスパイダーは強制的に回転しながら、苦痛の声を漏らす。

 

そしてまどかは回転しながら少しずつ後方へ移動。

そして急ブレーキ。弓はしっかりと振り絞り、構えていた。

 

 

「トゥインクルアロー!」

 

「ぐあぁあぁあ!!」

 

 

ディスパイダーが怯んだ所に。強化されたまどかの矢が命中する。

煙を上げながら地面を転がるディスパイダー。踏み留まるまどか。

 

 

「ぐッ!」

 

 

ディスパイダーはすぐに立ち上がり、まどかと睨み合う。

 

 

「……ッ」「――ッ!」

 

 

まどかは黙ったまま、ジッとディスパイダーを睨みつける。

そこで聞こえる呻き声。まどかが振り返ると、震えているマミの姿があった。

 

 

「か、鹿目さん! 来てくれたのね……!」

 

「マミさん」

 

 

そして一瞬、間。そして理解。

マミの両腕が無い。直後、まどかはディスパイダーの方を見る。

その瞳、その視線、感じる感情はただ一つ。

 

 

「許さない」【アライブ】

 

 

それは、激しい怒りだ。

 

 

「!!」

 

 

光が迸り、思わずディスパイダーは目を覆う。

するとまどかの姿が変化。服は白のドレスになり、髪が伸び、ツインテールからツーサイドアップへ。そして目の色が金色に染まった。

 

 

「なんだッ、アレ……!」

 

「嘘でしょ、この魔力――ッ」

 

 

ガイとアルカが目を見開く中、アライブ体となったまどかがディスパイダーの前に立つ。

 

 

(アルティメットまどか……! サバイブと対になる魔法少女の強化形態か)

 

 

さて、どうするか。ディスパイダーは冷静だった。

本気でいっても良いが、逆を言えば本気を見せるのはまだ早いのではないだろうか。

そもそも本気でいけば勝てるものだろうか?

ああ、もう、面倒だ。試してみようではないか。

 

 

「鹿目まどか。久しぶり――って言っても、覚えてないよな?」

 

 

ディスパイダーの記憶にはある。

円環の理に攻め入った時の事は今もはっきりと覚えている。

 

 

「面白かったよ。逃げ惑う魔法少女を殺して回るのはッ!」

 

 

糸を伸ばすディスパイダー。

地面にあった脚を全て掴むと、一気にまどかに向けて投げつける。

風を切り裂き一瞬で到達する脚は巨大な槍だ。が、しかし、それらはまどかに直撃する前に、全てまどかの眼前で停止する。

 

 

「なにっ!」

 

 

アライブ時のまどかは常に自身の周りに結界を張っている状態となっている。

それが脚を塞き止め、競り合いの後に全て破壊して見せた。

弾け飛ぶ脚の欠片を見ながら、絶句するディスパイダー。

 

 

(馬鹿な、まさかこんな――ッ!)

 

「ローシェルヒール!」

 

 

まどかが呟くと、マミとニコの頭上に天使が出現。

ゆっくりと翼を広げると光が散布、それに触れたニコとマミの傷が瞬く間に治っていく。

それだけではない、天使ローシェルはマミのソウルジェムに指令を出し、腕を再生させていった。

 

 

「え? え?」

 

 

戸惑うマミ。そこへさらに別の天使が。

ベルスーズシェーヤー、シャボン玉にマミを入れると、マミはすぐに目を閉じて眠り始めた。

 

 

「成程ッ、眠らせる事でソウルジェムの穢れを防ぐのか……」

 

「ごめんね、ニコちゃん。芝浦くんたちもありがとう、マミさんを助けてくれて」

 

「は? いや、おれ達は……」

 

 

言葉を詰まらせるガイとアルカ。

まどかは何故自分たちの事を知っているのか。そもそもディスパイダーも知っていたような。

いや、それよりも今のまどかの姿はなんなのか。色々と疑問が多すぎて混乱が言葉を止めていた。

 

一方で、まだ睨み合うまどかとディスパイダー。

先に動いたのは後者だった。ズライカの名を叫ぶと、魔女は一気に闇の力を放出。『ブラックアウト』、まどか達の視界が一瞬で黒に染まる。

しかし焦りはない。アルカ達は混乱にまた声をあげたが、まどかは腕を天に掲げ、強く言葉を放つ。

 

 

「輝け! 天上の星々!」

 

 

一瞬だった。

一瞬で暗闇の中にまどかの姿が浮かび上がると、彼女を中心にして暗闇が消し飛ばされる。

まどかの背後に浮かび上がった『セフィロトの樹』を思わせる魔法陣が。ズライカの闇を消し飛ばしたのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

しかしそこにディスパイダーとオクビョウの姿はない。どうやら逃げた様だ。

ズライカとコールサインプロローグは叫び声をあげて時間稼ぎの意味を込めてまどかに向かっていく。

 

 

「だからおれを無視すんなよ。ああもう、いらつくなぁ!」

 

 

しかし裏拳。

ガイを通り過ぎようとした事が相当頭に来たらしい。

ガイはプロローグを弾き飛ばすと、顎でアルカに合図を送る。

 

 

「アイツぶっ殺すぞ」『ファイナルベント』

 

「うん、了解です。淳くん」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

アルカは剣を交差させた後、思い切り上から下に振り下ろす。

すると斬撃が地面を伝い一気にプロローグの左右を通り抜ける。

斬撃は軌跡を残しながら前に突き進む、まさにそれは壁だ。

 

 

「お? ぷぁ!?」

 

 

右を見れば炎の壁。左を見れば氷の壁。

左右から感じる熱と冷気は触れればただでは済まないと言う証明だろう。プロローグは当然躊躇し、どちらにも進む事ができない。

であれば逃げ道は前か、後ろなのだが、当然前にはガイが立っているわけで。

 

 

「砕け散れよッ!」

 

 

メタルゲラスの肩に足の裏を置き、地面と平行になる様にして腕を突き出したガイ。

さらにメタルゲラスの肩にはアルカが乗っており、サーベルの刃先を突き出されたメタルホーンの角先に合わせた。

 

 

「わ、わ、わ!」

 

 

目が飛び出し、直後プロローグはファンシーな音を立てながら後ろへ後退していく。

しかし炎の力を与えられたメタルゲラスはスラスターの勢いで加速、プロローグとの距離が徐々に近づいていき――

 

 

「「トリプル・ビークス!!」」

 

「もぎゃああああああああああああああああ!!」

 

 

炎と氷のエネルギーを受けたメタルホーンがプロローグの頭部を刺し貫き、直後爆散させる。

一方で射手座の弓を構えたまどか、弦を思い切り振り絞り、狙いを定める。

 

 

「煌け! 極光の円環!!」

 

 

ズライカが殺意の雄たけびを上げて飛び上がった。

まどかを闇に引きずり込もうと言うのだろうが、辺りは既にまどかが放つ光に照らされている。暗闇の魔女にココまで酷な状況があろうか。

だが光があれば闇もある。ズライカは諦めず、まどかへ向かう。

 

 

「我が示すのは理! 絶望を砕き、悪を滅する光とならん!!」

 

 

翼を広げ浮かび上がるまどか。

その背後、出現していく牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、山羊、水瓶、魚。

11体の天使達はまどかを中心として円形に広がり、尚輝きを放っていく。

 

 

「祈りを絶望で終わらせはしない! この一撃で貫いて!」

 

 

ズライカの目に、星が見えた。

 

 

「シューティングスターッッ!!」

 

 

射手座から放たれた矢を先頭に、他の天使達が一勢にズライカに飛んでいく。

 

 

『ギッ! ガァ! ギョ! ゲッ! ゴッ! ビッ! ヴェ! ビャ! グゲ! オビャ! ビビッ! アギァアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

12体の天使が通り過ぎたとき、そこにはもはや何もなかった。

闇は消え去り、元々そこにあったのかすら分からない。

弓を放り、消滅させるまどか。一方で彼女から離れたところにあるマンションの屋上から身を潜めながら、アルケニーとオクビョウは今の様子を確認していた。

 

 

「チッ! 化け物め!」

 

「バ、バ、バ、バケモノ……!」

 

 

やはり概念と女神の名を関しているだけはあるか。

アライブの存在は魔獣側にとっても規格外。油断すれば確実に殺られるだろう。

 

 

(アライブを発動されれば……、本気で対抗しなければ死ぬ)

 

 

とは言え、今はその時ではない。

アルケニーはオクビョウを見る。するとオクビョウは察したように笑みを浮かべた。

その手には待ち針状の黒い杖があった。しかし今、その先端には『黒い球体』が消えている。

もちろんそれは偶然ではなく、落とした等と言う訳ではない。オクビョウが振るう杖、それは『吹き矢』の役割も果たせるのだ。

 

 

「さて、プランBといくか」

 

 

スピード勝負といきたかったが、まあアルケニーとしてもそう簡単に終わるとは思っていない。

今日の一件で、アルケニー側がマミを狙っている事はまどか達にも伝わった。

つまり今後、不意打ちは限りなく難しくなる訳だ。

尤も、ならば今度は須藤を狙ってもいいが、レジーナアイがある以上、なかなか難しいだろう。

なら、どうせ変更するなら作戦そのものを変えたほうがいい。

 

 

「何が何でもお前を絶望させてやる。覚悟しとけよ、巴マミ」

 

 

アルケニーとオクビョウは身を翻し、そのまま夜の闇に溶けていった。

 

 

「あなた、鹿目まどか……、なの?」

 

 

一方あやせは、訝しげな目でまどかを見ている。

双樹姉妹は既に芝浦が通っている見滝原中学校に魔法少女がいる事は知っていた。

巴マミを中心としたグループが放課後パトロールを行っていると言う話はある意味、魔法少女達にとっては有名な話だ。

なにせ、マミ、まどか、さやか、サキと魔法少女達が集まればそれだけ魔力や魔女の気配も多くなる。

 

しかし少なくとも、『このまどか』はあやせが知っているまどかではない。

内蔵する魔力が大きすぎるため、体は発光し、金色の瞳は全てを見透かされそうな気がした。

 

 

「そうだよ。わたし、鹿目まどか。よろしくね」

 

「よ、よろしくって……」

 

「ニコちゃん。遅くなってごめんね」

 

「ああいや。コッチこそ助かったでんがな」

 

 

みんなを呼ばなければ。まどかは携帯を取り出す。

 

 

「あ、うさぎいも」

 

「え?」

 

 

ふと、まどかは携帯を見る。

待ち受け画面は、まどかが好きな女の子に人気のキャラクター。

 

 

「あやせ以外にもいたのか、あんなキモイの好きなヤツ……」

 

「き、気持ち悪くないよ! 淳くん、あれはとっても――」

 

「可愛いですよね、わたし好きなんです。双樹さんも好きなんですか?」

 

「え? あ……、うん」

 

「えへへ、良かった」

 

 

あやせは少し複雑そうな表情で肩を竦める。

 

 

「まどか、場所を移そうか」

 

「うん。そうだね」

 

 

まどかは魔法、ニターヤーボックスを発動。

アライブ体になる事で今までの魔法もパワーアップしているのか、通常時では一つしか出せなかった結界の箱が、今は二つ出せる様になっている。

一つにニコを、一つにマミを入れると、まどかは箱とともに上空へ移動。

ポカンとしているガイ達を置いて、まどか達は暗闇の空に飛び去っていった。

 

 

「すっげぇ、なんだよあれ」

 

「淳くん、あの子、なんか変」

 

「ああ、あのキモいキャラクターが好きとか言ってたもんな。頭おかしいんだろ。女ってなんでもかんでも可愛い可愛いってアホみたいに――」

 

「ちっがうよぅ! そうじゃなくて!」

 

「分かってるって。あの天使みたいなヤツだろ」

 

 

他の魔法少女とは次元を超える力と、なにより、あのディスパイダー。

 

 

「ふぅん、おもしろそうじゃん」

 

 

とはいえ、芝浦の額には汗。

 

 

「あついの? 淳くん。ルカ呼ぼうか?」

 

「……いや、べつにいいよ」

 

「それとも、むぷぷ、ちょっと怖い? 淳くん蜘蛛苦手だもんね」

 

「はぁ? ちげーし!」

 

「うふ♪ 怯える淳くんもかわいー☆」

 

「うるっさいな、早く帰るぞ。あーあ、なんか萎えちゃったな」

 

 

とはいえ、やはり今回の件は無視できない。

何かが起ころうとしている。いや、もしくはもう始まっているのか。

少しモヤモヤを感じながら芝浦は気だるそうに帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いったい何があったんだ?」

 

「それは――」

 

 

マミの家。

家主は今、自分のベッドで落ち着いたように寝息を立てていた。

サキとさやかとしては、追っていたプロローグが突然姿を消したかと思えば、マミが倒れたなどと、なんのこっちゃである。

 

一方シザースも小巻の存在に首を傾げていた。

結局アルケニーが撤退したことを知ったのか、小巻もまた盾を出現させて撤退していった。

追う事も考えたが、マミに危険があったと言うことなので、手塚達も含めて一同は撤退したのだ。

 

今、ニコはいない。

まどか、真司、ほむら、手塚、さやか、サキ、須藤はベッドで眠っているマミを見ている。

今は安らかな寝顔ではあるが、先ほどまでその表情は恐怖と絶望に染まっていたのだ。

 

 

「すいません、私は少し――」

 

「あ、はい、行ってください」

 

 

須藤は警察からのお呼びが掛かったのか、部屋を出て行く事に。

 

 

「すいません、私は一応パートナーなのに」

 

「いや、無理もないですよ。あたしもまさかマミさんが負けるなんて――」

 

 

須藤は頭を下げて部屋を出て行った。

ふと、まどかはゴクリと喉を鳴らす。

須藤がいなくなった今、もしかするととてもチャンスなのではないだろうか。

 

 

『ね、ねえみんな』

 

 

まどかはテレパシーでサキとさやかを除くメンバーに声をかける。

内容は簡単、サキとさやかの記憶を、メモリーベントで呼び戻さないか――、と言う提案だった。

まどかは正直、魔獣陣営を甘く見すぎていたのかもと、今回の件で思った。

 

仁美達の話によれば魔獣は真正面から、魔女を伴えど、基本は一体で来る物だと錯覚していた。

しかし今回、アルケニーはアシナガと小巻を使いマミを孤立させ、攻めて来た。

 

魔獣にも性格があり、攻めの形は異なる。

マミを守るには、少しでもさやか達に協力してもらった方がいいのではないか。

 

 

『そうだよな、まどかちゃん。さやかちゃんも、サキちゃんも前のゲームじゃ――』

 

『ちょっと待って』

 

 

しかしそれに待ったをかけたのは、ほむらだ。

確かに、まどかの言う事は分かる。魔獣に対抗するためには少なくともループを含めた戦闘経験が必要になるのかもしれない。

が、しかし、やはり避けて通れないのは記憶の復元に伴う絶望のループだ。

確かに前回のゲームで言えばサキとさやかは協力派。

つまり『白』だ。しかし、数あるループの中で、ほむらは確かに『黒』の二人も見ている。

 

サキはマミに対する憎悪がある。

マミが魔法少女になるきっかけとなった交通事故。

あの相手がサキの大切な妹が乗っていた車だったから。

 

それにさやかも疑心暗鬼から敵対する事は多く、なによりも注目するべきは魔女(オクタヴィア)になった回数である。

この二つがほむらの心に引っかかる不安要素であると。

 

 

『一応グリーフシードはあるけど……』

 

 

実は死神を倒した時にその残骸からグリーフシードが三つも出てきた。

真司はそれをしっかりと回収しており、手塚達も予備のストックはある。

さらにまどかが持っているのはズライカのコアグリーフシード。ダークオーブ産の魔女を倒した事で手に入るそれは、通常のものよりも穢れを吸収できる。

さらにココで、キュゥべえの声が。

 

 

『ボク達は今回のゲームで、その点については理解を示したつもりだ』

 

『わ! びっくりした!』

 

『すまない。少し会話を聞いてしまってね』

 

 

キュゥべえは今回、グリーフシードをよりよく摂取できる環境を作ったつもりだ。

色つきを倒せば手に入り、従者を倒す事でも汚れは回復し、さらに言えば魔法を使い続けてもソウルジェムは濁りはするものの、それをトリガーに魔女化する事は無い。

 

 

【魔女化の条件はただ一つ、確固たる絶望を覚えたときである】

 

【記憶を取り戻したものは、継承者同じくメモリーベントを使用できる】

 

【メモリーベントを使用する際は、記憶をよみがえらせる事を対象側が了承しなければならない】

 

【記憶は圧縮されるものの、あくまでも人間の脳のキャパシティーを考えなければならない。つまり全ての記憶を取り戻したとしても、細部を思い出そうとすれば時間がかかり、それは個人差である】

 

【ただし、全ての参加者は前回のゲームは全て記憶している】

 

【城戸真司、手塚海之、鹿目まどか、神那ニコ、榊原耕一以外は、死ぬまでの記憶しか持てない。上記五人に関しては真司が魔獣に宣戦布告した際の記憶がある】

 

【記憶を継承しても、オーディンの変身者に対する情報はブロックされる】

 

『今はこのルールを覚えておいてくれ』

 

『………』

 

 

一見、大丈夫なようにも思えるが、それが一番の問題だ。

 

 

『記憶を取り戻す事は、絶望の瞬間をも思い出すことになるわ』

 

 

さやかは何度も魔女になった。

ほむらが覚えている範囲なので、数あるループではもっと魔女化しているだろう。

もしもそれを、さやかが思い出してしまえば、今あるグリーフシードで足りるのだろうか?

 

ほむらも同じ経験をしたが、数あるループの経験は『慣れている』面もあった。

だから幸い途中で精神を安定させる事ができたが、それをさやかとサキが行えるとは思えない。

 

 

『それに、黒と白……』

 

 

本当にサキは味方になってくれるのであろうか?

本当にさやかは味方になってくれるのだろうか。ほむらには分からない。

確かに前回のゲームでは二人は白だ。しかしもしも10回ループがあったとして、7回が黒に染まっていたとしたら、果たして記憶を取り戻した彼女はどちらに染まるのか。

きっとそれは黒なのではないだろうか。

 

人を変えるのは環境と状況。そして積み重ねではないのか?

ループを繋ぐ事は、全ての記憶を踏まえ、一人の人間になると言う事だ。

悪意を、殺意を、善意を、人生を束ねた結果、生まれるのは――。

 

 

『だが、いずれにせよ、やがては全ての参加者の記憶は戻したい。そうだろ?』

 

 

手塚の言葉に頷く真司とまどか。

今回の重要なテーマは信じることだ。

もちろん何の考えも無しにとは言わないが、それでもまどか達はサキ達を信頼できる要素があると。

 

 

『だから、話そうと思うの』

 

『それは――』

 

 

ほむらは何も言わない。

それを了解と取ったのか、まどかは口を開いた。

さやかとサキに事情を説明するためだ。

 

 

「待って!!」

 

「!」

 

 

だが、その時だった。

ほむらが焦ったように表情を歪め、声を荒げた。ほむらにしては珍しい。

なによりもテレパシーではなく本当に声に出してしまったため、さやかとサキも目を丸くしてほむらを見ている。

 

 

「わ、びっくりしたなぁ。どうしたのさ転校生」

 

「あ、いや、それは――ッ」

 

 

すると、ほむらの叫びに反応したのか。

マミがピクリと眉を動かし、直後ゆっくりと目を開けた。

 

 

「―――」

 

 

マミは目を覚ますと、直後すぐに汗を浮かべて跳ね起きた。

呼吸を荒げて確認するのは自分の腕だ。右腕、左腕、しっかりとある。

指も動く。マミは安堵の表情を浮かべ、ため息を漏らした。

が、しかし、すぐに引き戻される現実。少なくともアレが夢で無いことくらい、マミにも分かる。

 

 

「ね、ねえ鹿目さん! アレは一体なんなの!? 魔獣って――ッ」

 

「お、落ちついてくださいマミさん!」

 

 

まどかにしがみ付くマミ。無理もない、それだけの恐怖を体験したのだ。

気づけばソウルジェムに淀みが発生している。なんとか落ち着けようと、まどかはマミをなだめるものの、やはりアルケニーの言葉が耳に張り付いている。

 

 

『だからよォオ! お前ら魔法少女が魔女になるって話だよ! 知らないの? 知らないよねぇ! ギャハハ!』

 

 

なにより、神那ニコ。マミは知らない。

なにより、鹿目まどか。マミは知らない。

 

 

「ねえ、鹿目さんッ!」

 

「……ッ」

 

 

瞬間、マミの肩を、ほむらが叩いた。

 

 

「ごめんなさい。私達は何も知らないの」

 

「でもッ!」

 

「信じて」

 

 

やや機械的に放たれた言葉。

しかしそう言われてはマミとしては追求できない。

いや、食い下がっても良かったが、ほむらから話す意思が無いことはヒシヒシと伝わってきた。

もちろんそんな事を考えたくは無い。今のマミは不安定だ。何を信じて良いのか今はまったく分からない。

そしてまどか達も、まさかほむらがそこまで拒絶を示すとは思わなかった。

 

 

『うん。わかったよ。ごめんね、ほむらちゃん。今は話すの、止めておこうね』

 

『まどか……。ご、ごめんなさい』

 

『ううん。ほむらちゃんの言うとおり、ミスはできないもんね』

 

 

真司と手塚は沈黙である。

真司は何を言っていいのか迷っているようで、手塚は複雑そうに表情を顰めている。

手塚としてはまどかに賛成だったが、ほむらの言わんとしている事も分からないではない。

確かにさやかにはオクタヴィアの記憶が張り付いている――、と言うのは分かる。

 

ほむらは仮にもループ経験者であるため、『慣れ』があったが、他のメンバーはそうとも言えない。

いや、いや、違うのか。それらは結局全て憶測でしかない。

ほむらはきっと……。

 

 

(難しい年頃だな)

 

 

結局、手塚と真司は今日のところはほむらに従う事にした。

さやかサキにも納得してもらい、今日は帰ってもらう事に。

しかし油断はできないため、ドラグレッダーとエビルダイバーをそれぞれにつけておいた。

 

 

『魔獣の気配があるけど無い』

 

 

警戒を解けないのは、ニコがそんな事をメールで告げてきたからだ。

魔法アプリ、レジーナアイをアップデートさせたニコ。それは、今現在見滝原に魔獣が降り立っているかどうかを判断できるものだ。

それによると、アルケニーがいた頃よりも微弱であるが、確かに現在も魔獣がいると、アプリは答えを示している。

 

ニコ側のミスの可能性? それは、ある。

ニコは神ではない、アプリの構築時にミスがあれば当然できあがる物にもミスが出てくるのは当然の事だ。

しかし逆を言えば、正しいと言う考え方も当然できる。魔獣がいるが、魔獣がいない。

 

どういう事なのか?

従者達がまだ潜んでいるのか?

それともまだ何か、向こう側に隠し玉のような力があるのか。

いずれにせよ、警戒はしておかなければならない。

しかし、そうであったとしても全てを守る事は厳しい。それを痛感させられた。

 

 

「クソッ!」

 

 

思わず真司は苛立ちから自分の掌を殴る。

アルケニーによって罪も無い人が殺された。ああ、なんて――。

そんな風に思っていると、奇しくも真司のその件で連絡が入った。

 

 

『おい真司、今からちょっと会社来い。あの被害者の男性が亡くなったらしい。朝一で情報出すぞ』

 

「あ……、えっと」

 

 

まどか達を見る真司。

一応今日はもう大丈夫だと思うからと、まどかは真司に行くように促した。

 

 

「ごめん皆。ちょっと行ってくる!」

 

「うん。お仕事頑張ってね真司さん!」

 

 

真司はもう一度頭を下げるとOREジャーナルの方へ向かっていった。

 

 

「手塚、あなたも帰って良いわよ。ここからは少し距離があるでしょう」

 

「それは、まあ。だが――」

 

「ここは大丈夫」

 

 

マミは少し不安そうな目でまどか達を見る。

 

 

「あ、マミさん。今日は泊まっていって良いですか?」

 

「そ、そうしてくれるの!」

 

「はい。わたしとほむらちゃんで、マミさんはしっかり守りますから!」

 

「あ、ありがとう!」

 

 

ほむらは手塚を見る。

なるほど。確かに女子同士のお泊り会に男が混じる事ほど気まずいものは無い。

結局、手塚も今日のところは帰る事に。

 

残されたマミ。

やはりまだディスパイダーの恐怖が脳に張り付いているのか。

笑みを浮かべる元気も無いようで、ずっとベッドで俯いている。

このままではいけないと思ったのか、まどかは笑顔でマミに話しかけた。

 

 

「ごはんにしましょうか、マミさん」

 

「え、ええ」

 

 

もちろん作る気力などなく。

ほむらが近くのコンビニに買いに走ったお弁当を三つ、テーブルの上に並べる。

 

 

「ごめんなさい、二人とも、私が作れればいいんだけど」

 

「そんなッ、あんな事があったんですから、今日は休んでください」

 

「う、うん。そうね。そうよね。久しぶりだわ、コンビニのお弁当」

 

「最近のは美味しいわよ」

 

「暁美さんは自炊しないの?」

 

「ええ。どうやらその才能は無かったみたい」

 

「ダメよ、たまにはいいけど毎日じゃ健康に悪いわ」

 

 

言葉だけ聞けば和気藹々とした雰囲気に見えるが、実際は重い空気が張り付いていた。

無理もない。流石のマミだって、ほむら達の様子がおかしい事には気づいていた。

なにより少し見えたまどかの姿、そしてその力、明らかに普通ではない。

あとは自分がボロボロにされたディスパイダーを、まどかが撃退したと言う事実。

 

マミには一応プライドと言うものがあった。

ベテラン魔法少女として、最強であると言う自信があった。

なのに、後輩である筈のまどかに実質負ける。それは少なからずマミとしては心に来る想いがあった筈だ。先輩としての価値はあるのだろうか? なんて、思ってしまう。

そしてそのタイミングで、まどかが地雷を踏んでしまう事に。

 

 

「でもなつかしいですよね。昔はよく三人で一緒にご飯食べたじゃないで――、す、か……」

 

 

汗を浮かべるまどか。マミは目を丸くしている。

 

 

「え?」

 

「あ、いやっ、あの、えっと」

 

「鹿目さん、何のお話なの? だって暁美さんはまだ知り合ったばかり――」

 

「あ、いやっ、あの、えと――」

 

 

咄嗟に嘘をつければ良かったのだが、鹿目まどかと言う少女は嘘が大の苦手である。

どうしても苦しげな表情になってしまい、ほむらとしてもフォローを行う前に、マミに感づかれてしまった。

 

 

「ね、ねえ。教えてくれない? 二人は何を知ってるの!?」

 

「そ、それは――」

 

「魔獣」

 

「えっ?」

 

「魔獣。魔女とは異なる敵が近頃姿を見せているの」

 

 

しかしとにかく情報が少ないため、迂闊には言えなかったと説明しておく。

 

 

「魔法少女が魔女になると言う情報を言いふらしているのもアイツ等よ。全く、どうとでも言えるわね」

 

「………」

 

 

まどかは複雑そうな表情で喉を鳴らした。

息をする様に嘘をつくほむらは、尊敬できる様で尊敬できない。

しかし良くない事とは思いつつ、マミは納得しているようだ。

 

ほむらと共に早速魔獣の対策案を二、三と口にしている。

が、しかし、これらは結局のところただの先延ばしでしかない。

それはこの部屋にいる三人、誰もが心の隅に思っていることだった。

 

 

「……?」

 

 

ふと、ほむらはマミの首筋に小さなほくろを見つける。

 

 

「………」

 

 

少し、何かが引っかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、なんかおかしかったね」

 

 

ギャーギャーと子供が騒ぐ音が聞こえる。

芝浦は後ろの方を確認すると、真横に流れていた『ご注文品』からマグロの寿司を奪い取ると、持っていたわさびを大量にネタとシャリの間に投入。

素早くそのマグロをご注文品台に戻すと、ニヤニヤとしながら茶碗蒸しを食べていた。

 

 

「いらね」

 

 

銀杏がスプーンの上に鎮座なさっている。

不快な表情を浮かべると、目の前にいたあやせの皿の上に放り投げた。

チョコケーキの隣に転がる銀杏を見て、あやせは呆れたような表情を浮かべる。

 

 

「んもう。淳くんってば、好き嫌いしたらダメなんだよう?」

 

「うるっさいな、そんなショボイ物、おれには似合わないんだよ」

 

「で、でもコレって、か、か、間接き、キキキス?」

 

「はぁ?」

 

 

あやせは顔を赤く染めて、素早く銀杏を口の中に入れた。

丁度後ろから悲鳴。すぐに店員が飛び出してきて事情を聞いている。

わさび入れすぎ、ふざけんな、キレる客と謝る店員。

それをあやせは携帯で撮影していた。

 

 

「理不尽な理由で客がキレてるってSNSにあげとけ」

 

 

ステ垢で言われた通りにするあやせ。

彼女もニヤニヤと笑いながら、わざと大きな声を出して店内に聞こえる様に声を張り上げた。

 

 

「あーあ、店員さん可哀想。このお店、お寿司にわさび入ってないのに♪」

 

 

店の中が静かになった。

これで話に集中できる。芝浦はあやせに、ルカを呼ぶように命令を。

 

 

「えー、もう、まだケーキ食べてるのに」

 

「味覚は共有できるじゃん」

 

「リアルと感覚は違うんだけどな。ま、いっか☆」

 

 

目を閉じるあやせ。

すると次に目を開けた時、その雰囲気がガラリと変わっていた。

 

 

「お前はどう思う」

 

「あの鹿目まどかの力、やはり、異常かと」

 

 

通常時ならばまだしも、アライブ体と呼ばれる状態は明らかに魔力の数値が爆発的に跳ね上がっていた。

アルカに匹敵する、いや、超える程の力ではないか。

気になるのは電子音が流れたと言う事だ。アライブ、であるとそれは少なからず騎士の力が関係しているのではないだろうか。

 

 

「ちょっと探りを入れましょうか」

 

「そうだな。おれ抜きで話が進むのってイヤなんだよね」

 

 

芝浦はニヤリと笑って、流れてくる適当な皿を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女は絶望に染まると、ソウルジェムが穢れ、そしてグリーフシードが生まれ、魔女になる」

 

「え?」

 

 

マミが振り返ると、そこには魔法少女になったまどかが立っていた。

薄ら笑いを浮かべ、まどかはジットリとマミを見つめる。

 

 

「常識ですよ、マミさん」

 

「で、でもそれは魔獣の嘘だって――」

 

「嘘じゃない。知らないのはお前だけだ」

 

 

一瞬だった。

まどかが弓を構えたと思えば、光の矢がマミの左目を捉える。

 

 

「――ァ」

 

 

声にならない叫び。

痛み、熱、マミは左目を抑えて地面に膝をついた。

一方、まどかの笑い声が響く。

 

 

「なにを……!」

 

「決まってるじゃないですか。やがて始まるフールズゲームのために、参加者を減らしておくんですよ」

 

「ふ、フールズゲーム?」

 

「騎士と魔法少女が手を組み、最後の一組になるまで殺しあう」

 

 

ほむらがいた。

ほむらは銃を引き抜くと、マミの膝を打つ。

膝蓋骨が砕ける音がして、マミは恐怖と痛みに叫びを上げた。

 

 

「な、何を言って――ッッ!!」

 

「何も知らないのね。やっぱり貴女は」

 

「仕方ないさ、ほむら」

 

 

背後から声が聞こえる。

マミが振り返ると、そこには槍を構えた佐倉杏子が立っていた。

 

 

「さ、佐倉さん!!」

 

 

手を伸ばしたが、杏子はその手を取るのではなく、槍の先にあった刃で切断して見せた。

再び地面に落ちる腕が、マミの脳裏にディスパイダーとの戦いを蘇らせる。

 

 

「お前は前回のゲームじゃ、最初に死んだからなぁ? おい!」

 

 

瞬間、杏子の姿が音を立てて変化していく。

そこに立っていたのは、ディスパイダーであった。

 

 

「ヒッ!」

 

 

マミの表情が恐怖で歪む。

 

 

「皮肉だな巴マミ。まどかが形成した小規模の円環の理、お茶会の舞台はお前の家だったのに! そのお前が、何も知らないか!」

 

 

ディスパイダーはマミの首を掴みあげると、そのまま強く締め上げながら口を耳に近づけた。

 

 

「お前は何も分かってない。何も理解していないし、理解すらさせてくれない」

 

「が――ッ」

 

「鹿目まどかも、暁美ほむらも、佐倉杏子だって知る。なのにお前は一人ぼっち、誰も、何も、お前を理解しようとしない、できない」

 

 

マミの視界がぼやけていく。

向こうに龍騎、ライア、シザースが立っていたが、誰も動かなかった。誰も助けてくれない。

 

 

「壁がある。お前は向こう側にはいけない!」

 

 

皆がお前を避ける。皆がお前を遠ざける。

なぜか? 決まっている。無知だから、狂うから、滑稽だからだ。

何も知らないで踊るピエロ。全てを知っている者からすれば、巴マミと言う人間は滑稽の極みなのだ。

 

 

「サキもそうだ。お前は知らない。浅海サキはお前を恨んでいる!」

 

「ガハッ!」

 

 

地面に叩き落されたマミ。それを見下すディスパイダーの目が怖かった。

 

 

「お前は、また、何もできずに終わる。恐怖しろ、巴マミ」

 

 

ディスパイダーは笑った。声を出して、ただひたすらに笑った。

その声がマミの耳を貫き、脳を恐怖で染めてくれるように、声を荒げ、笑った。

 

 

「ギャハハハ! お前は所詮! 誰とも分かり合えず、死んでいくんだよォオオ!!」

 

 

腕を伸ばすディスパイダー。

マミはマスケット銃を出現させようとするが、出ない、出せない。

だから、恐怖に叫んだ。

 

 

 

 

 

「――ッ!?」

 

 

夜。深夜。誰もが寝静まる。それはマミ達も例外ではない。

今日は疲れたと言う事もあり、マミはマミのベッド、ほむらはソファの上、まどかはマミ両親の部屋にあるベッドの上でそれぞれ寝息を立てていた。

 

ああ、いや、ほむらだけは薄目を開けて、ジッと天井を見ている。

なんだかどうにも居心地が悪い。胸の辺りがザワザワする。

まさにその時だった。マミの悲鳴が聞こえたのは。

ほむらは跳ね起きると、すぐに様子を確認しに走った。

 

するとベッドの上で苦しそうに呻き声をあげているマミをすぐ見つけた。

声をかけてみるが起きる気配は無い。しかし本当に辛そうだ。

顔は青ざめ、額には大量の汗が滲んでいた。

 

 

「巴さん! どうしたの巴さん!」

 

 

体を揺するが、マミは悲鳴に近い声を上げるだけで反応は無い。

すると状況を察知したのか、まどかが小走りでマミのベッドにやって来た。

 

 

「マミさん! 聞こえますかマミさん!」

 

「呼んでも反応が無いの!」

 

「なんで――って、あ!」

 

 

まどかがマミの様子を伺うと、首筋にうっすらと発光する黒い点があった。

 

 

「輝け天上の星々ハマリエル! 煌け、純白のヴァルゴ!」

 

 

魔法少女に変身したまどかは翼を広げて眠っているマミの上に位置を取る。

 

 

「呪いを砕く穢れ祓いし慈愛の光よ。万物を癒す救済の矢と変わり、我を照らしたまえ!」

 

 

そして弓を振り絞り、光を集中させた。

灯りをつけていないのにハッキリとマミの部屋が確認できる。

その中、まどかは振り絞った弦を離した。

 

 

「救え、乙女! スターライトアロー!」

 

 

弓から乙女の天使が発射され、マミを包み込むように抱きしめる。

するとマミの首にあった『ほくろ』が分離、エネルギーをバチバチともらしながら、その内、天使の加護により粉々に破壊された。

 

 

「ギャハハハ、オマエは、ショセン、ダレともワカリあえず、シンデいくんだよ!」

 

 

直後。

 

 

「ギャビィィイ!!」

 

 

呪いが破壊された。星の骸にいたオクビョウは悲鳴をあげて後ろに倒れた。

杖の先についている黒い球体をマミにつけておいたが、あれを破壊されると全ての呪いは遮断される

 

星の骸。

アルケニーに与えられた部屋では、オクビョウの声が先程から木霊していた。

そう、マミが見ていた光景は夢、悪夢だ。

 

しかしてそれは偶然の産物ではない。

この魔獣、このクララドールズが仕組んだ事なのだ。

オクビョウの能力、それは夢の干渉。対象にマーカーを打ち込むことで、夢に進入し、悪夢を見せることができる。悪夢はアルケニーが台本を用意しており、その通りにオクビョウが再現していく。

見滝原に降り立っていなくても干渉できる悪意、それは大きなアドバンテージだった。

アルケニーは椅子にどっかりと座り込み、先程から笑い声を上げている。

 

 

「状況と環境が人間を変化させる。だったよなぁ?」

 

「ああ、城戸真司はそう言っていたね」

 

 

部屋の中には四人。

マミに精神攻撃を仕掛けていたオクビョウ、椅子に座っているアルケニー。

そして部屋の隅で壁にもたれかかっている小巻と、シャンデリアから垂れる蜘蛛の巣を触っているアシナガだった。

 

 

「なるほど、確かに間違ってはないねぇ」

 

 

その点に関してはアルケニーのミスであると、自分でも理解できる。

現に芝浦は結果的にまどかの味方をする形になった。あの状況では戦う理由が薄いからだ。

ゲーム中ならばまだしも――。それは芝浦だけにいえた話ではない。

ずっと目を逸らしている小巻もまた、最初の頃とは大きく性格が違っている。

 

 

「小巻。いい加減、人間に希望を持つのは止めた方がいいと思うけどね、ボクは」

 

「ッ」

 

「アシナガの言うとおりだ。あんなクソみたいな害獣がうろついていると思うだけで吐き気がする!」

 

「けど、呪いが見つかるのが意外と速かったね」

 

「問題ない。オクビョウは恐怖心を媒介に夢に干渉できる。つまり――、どういう事か分かるか? 小巻ちゃん」

 

「……巴マミは怯えている」

 

「その通りだ。クハハハ!」

 

 

アルケニーは夢を通してマミを狙うと恐怖心を煽った。そう、元々あった恐怖心を増幅させたのだ。目的は達成されたと言っても良い。

ココからは勝手に自滅してくれるだろう。それがプランB。もちろんそれだけで終わるとも思っていない。そうすれば最終的にプランCに移行する。

 

 

「アタシは慎重なんだ。お前らにも協力してもらうぞ」

 

「ボクは別に構わないよ」

 

「………」

 

 

静かに頷く小巻。それしか選択肢が無いとはいえ。

ソレをジッと見ているアシナガ。嘲笑を浮かべ、呆れた様に首を振る。

 

 

「理解が加速していない」

 

「え?」

 

「魂が震えていないなぁ」

 

 

面倒な言い回しを好むアシナガ。

小巻としては何がなにやらである。

 

 

「優しく生きていて、正しく生きていて、何か良い事があったかい?」

 

「ッ」

 

「愛は手に入ったかな」

 

 

淀んだ赤い目で、アシナガはジットリと小巻を睨む。

 

 

「ボクは人間を学んだ。それで理解したよ」

 

 

優しくても、正しくても、それは世界では何の役にも立たない。

人を傷つける事こそが高みを目指す世界。そんな世界形態を確立させたのが人間であると。

小巻は怯えている。震えている。躊躇している。人の鎧を捨て、人を殺す事に。

しかし何を躊躇う必要がある。

 

 

「奴ら欠落品を排除する事こそが、なによりも人の為になるのに」

 

 

なにより――。

アシナガは壁に貼ってあった参加者の写真を殴る。

 

 

「キミにも憎悪があるだろう?」

 

 

小巻はふと、まどかとほむらの写真を見る。

 

 

「クッ!」

 

 

そして歯を食いしばり、確かに憎悪の表情を浮かべた。

 

 

「人は人を美化しすぎている。巴も、須藤も、すぐに狂うよ」

 

 

環境、状況、変えてもらおうじゃないか。巴マミを。須藤雅史を。

 

 

 

 

 

 

 

 

マミの家。

 

 

「それで――、何かを、魔獣に、埋め込まれて……」

 

 

嘘では無いが、嘘だった。

呪いを破壊された後、マミは疲労しきったように目を覚ます。

そこでまどか達は今のが夢であると告げたのだが、それでマミが納得するわけが無い。

あの痛みと恐怖はあまりにもリアルだった。故に、まどか達は教えるしかなかった。

アレは魔獣の仕業で、もうその呪いを解除したから大丈夫だと。

 

 

「ねえ、私はそんなに信用できないの?」

 

「えっ?」

 

「私には、何も教えてくれないのね……」

 

 

心に刺さった。

マミは悲しげに二人を見る。そして直後、縋るようにまどかの肩を掴んだ。

 

 

「私達、お友達――っ、よね?」

 

「……ッ」

 

「もう耐えられないの。お願い、知ってること全部話して!」

 

 

目を逸らすほむら。まどかは、少し戸惑っていた様だが、やがて意を決した様に頷いた。

酷な話だったのだ。ゲームで言うならば始めたばかりのマミが後半のボスであるディスパイダーに狙われる。それは怖くもあるだろう。

大丈夫。大丈夫の筈だ。それにもう、マミが悲しんでいる所を、怖がっている所を見たくはない。

 

 

「ほむらちゃん、いいよね?」

 

「……ええ」

 

 

だから二人は、グリーフシードを用意して、それをマミに使った。

 

 

『ユニオン』『メモリーベント』

 

 

友達、仲間、正義、魔法少女。マミの中に詰まっている希望。

愚者を呼ぶ声。はじまるフールズゲーム。さよなら、円環の理。

思い出しますか? はい。ではどうぞ。

 

 

「あ」

 

 

反転。

 

 

『友達? 馬鹿かお前は!』

 

 

殴られた。杏子。あなた、大切な。

 

 

『仲間なんて誰も助けてくれないの』

 

 

ほむら、そこに、いる。銃が頭を、貫いて。さようなら。

 

 

『だから、私は自分自身の正義を貫く事を決めたんです!』

 

 

嘘、そんなの嘘。人は人なのに。殺した、殺すって?

嘘なのに、嘘じゃないの? それは、きっと正義じゃないわ。

わかって? どうして? 殺すノ?

ひドイ、知ッテタクセニ

ゼンブ、ワカッテタ、アナタハ、正義。正ギ、セイギ……ウソ

チガウ。ソウジャナイ、アナタハチガウ。アナタ……ウソ

ウソ ゼンブ スベテ―――……

 

 

『みんな死ぬしかないじゃない!』

 

 

自分で言った言葉だろう。

分かっている。分かっているよ。

あの後は、誰に殺されたの? 誰を殺したの?

 

 

『ンンンンンンンッッッマッッ!!』

 

 

生き残って、そして、アイツに。

ワルプルギスに、食べられました。

ティロフィナーレは。

 

 

『フヒュ!』

 

 

一息で、吹き飛ばされた。

 

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

頭を押さえ、絶叫するマミ。

ソウルジェムが一瞬で濁り、まどかはグリーフシードを押さえつける事で浄化を開始する。

しかし一つを使い切った所で、穢れは尚加速していく。

二つ目のグリーフシードはコアグリーフシード。ダークオーブ産の魔女が生み出したそれは、通常のものよりも穢れをはらう力が強い。

しかしマミにはそれを丸まま一個消費せざるをえなかった。

既に使い終わったグリーフシードを回収するために、姿を現すキュゥべえ。

 

 

『マミは不思議な娘なんだ』

 

 

グリーフシードを食べながらキュゥべえは淡々と口にする。

 

 

『ループを通してみて、一貫性が無い。きゅっぷい』

 

 

ある時は正義の味方を自称するが、ある時はゲームに乗って参加者を殺して回る。

しかし、さやかの様に半端ではなく、杏子の様に割り切る事もできない。

それに杏子やさやかもそれはある意味一貫性のあるスタイルだ。

 

杏子はシルヴィスによって狂わされるかどうかで、ほぼ毎回行動方針が三パターン程に分けられていた。しかしマミは読めない。参加者の中で一番些細なことで傷つき、些細な事で行動を変える。

 

 

『弱いのか――、と言われれば、ボクは首を傾げる。彼女はゲームによっては相当強い精神力を見せていた。しかしゲームによってはまさにガラスの様に繊細で、すぐに壊れちゃった』

 

 

分からないよね、不思議だね。キュゥべえは地面に転がっていたコアグリーフシードを食す。

 

 

『しかし考え見ると、一つの答えが出たんだ』

 

 

キュゥべえは今この言葉を、まどかとほむらにしか聞かせていない。

マミは、ジッとしていた。ソウルジェムを操作し、思考を鈍らせた。

考える事が危険だと理解したからだ。

 

そう、マミは考えるのを止めた。

しかし、瞬間、理解はしていた。

それを今、ゆっくりと噛み砕いている。

 

 

『彼女の心理には、いつも恐怖と孤独が取り巻いていた』

 

 

面白い感情だ。人を歪に弱くさせる。人を歪に強くさせる。

怖い、恐ろしい、だから消す、だから縋る。

ルーレットだ。赤に入るか、黒へ入るか、同じゲームでも分からない。

ゲーム? そう、乱数と言う言葉がある。それと似ている。

結局、その時、その瞬間にならなければ、マミの心の行く先は分からない。

 

 

『恐怖を振り払えたら、いいよね』

 

 

マミは思考を戻した。

もう狂わない。理解が終わった。それだけの思考と、強さがマミにはあるからだ。

マミは絶望し魔女になった事もある。その経験、その記憶をも今は振り払った。振り払えた。

しかし、だからと言って、冷静なのかと言われれば――。

 

 

「アアアアアアアアアア!!」

 

 

再び叫び、マミは銃を引き抜く。

刹那、変身。まどかとほむらが左右に飛ぶと、つい先程まで二人が居たところには銃弾が通過していた。

 

 

「レガーレ!!」

 

 

ほむらが時間を停止しようとした瞬間、足にマミのリボンが巻きついた。

 

 

「――ッ!」

 

 

強い既視感。これは、確か――?

 

 

「あ」

 

 

気づけば、前に膝。

反射的に盾を顔の前に持っていく。

すると衝撃、マミの膝が盾に直撃し、衝撃がビリビリと腕に伝わってきた。

 

さらに衝撃。回し蹴りだ。

さらに『蹴り上げる』アクションだった為、ほむらの盾が打ち上げられる事に。

がら空き、ふと見えたのは銃口。

 

ダメだ、殺られる。

ほむらは反射的に回し蹴りを行った。

すると感触、マミの腕に当たった。

そしてそのままの勢いで盾に手を入れ、ハンドガンを引き抜いた。

交差する腕、銃口越しの瞳、そこへ二人は宿命を見た。

 

 

「落ち着いて、巴さん!!」

 

 

戸惑い。

 

 

「そう言って、また殺すのよね!!」

 

 

狂気。

 

 

「ちが――ッ!!」

 

 

矛盾。

詰まる。『ちがう』。あと少しだった。

あと少しでその言葉がハッキリと言えたのに、ほむらは言葉を切った。

 

何が違う?

確かに覚えている。マミを油断させて、撃ち殺した事がある。

まどかを守るために? ゲームに勝つために?

分からない。あの時の私は、一体何を思って……。

 

 

『落ち着いて巴さん!』

 

『暁美さん、来てくれたのね』

 

『ええ』

 

 

銃声。倒れるマミ。

吐き気がほむらを襲う。思わず口を押さえた。

殺す、殺される、ブッ殺してやる。妄想? 幻想? 分からない。

マミの泣き顔、怒りの顔、重なる。重なりすぎて、目眩がする。

 

 

「違う!!」

 

 

それを否定するために、ほむらは大声を上げていた。

しかしその声がマミを怯えさえ、反射的に引き金を引いてしまった。

だが今は時間停止中、放たれた銃弾は僅かに進むが、ほむらの眼前にて停止する。

 

 

「巴さん、私は――、確かに貴女を裏切った事がある! でもお願い! 今は信じて! もう私は絶対にあなたを裏切らない――ッ!」

 

「信じられると思う!? あなたは覚えてないでしょうけど、その言葉も聞いた覚えがあるわ!!」

 

「ッ!!」

 

「暁美さん、貴女って、本当に意地悪なのね!!」

 

 

銃身がほむらの頬を掠めた。

マミのマスケット銃は基本的に一発しか銃弾を放つ事はできないが、次々に現れる銃は種類も豊富なものに設定でき、かつ、それぞれが鈍器として機能する。

 

いくらマミが少女だからと言って、上につくのは魔法少女。

素手でコンクリートとくらいならば簡単に破壊できる。

その力から振られる銃は鈍器として十分すぎる威力を持っているのだ。

ほむらのスペックは低い、打たれればダメージで怯み、連続で攻撃を受ける危険性がある。

 

 

「くッ!」

 

 

身を低くし、わずかな望みを賭けて足に巻きついているリボンを撃った。

しかし、リボンは銃弾が当たる前に消滅。そして再び出現する。

だろうな、分かっていた、ほむらには記憶がある。

霞掛かっている、が。

 

 

「私は貴女の事を、信じていたのに!!」

 

「ッ!」

 

 

マミから目を逸らした。

しかし今は戦闘中だ。ほむらの足に衝撃が走る。

マミの足払いが入り、ほむらは仰向けに倒れてしまった。

部屋の明かりが後光となり、ほむらを見下すマミを照らした。

 

 

「もう、今更、信じられる訳ないじゃない!」

 

 

マミは歯を食いしばる。

ほむらの心に剣が刺さった。呼吸が止まった。血が流れた。

また、この顔、またあの顔、また、その顔をするのね。

 

 

「……私の負けね」

 

 

賭け。ほむらは持っていたハンドガンを自分のこめかみに押し当てた。

賭け、お願い引っかかって。ほむらは引き金に指をかける。

しかし、ほむらが見たのは、呆れた様に目が据わっているマミだった。

 

 

「またその手なの?」

 

「え?」

 

 

思い出せない。

 

 

「私が油断すると思った?」

 

「――ッ」

 

「もう私。何も知らないピエロじゃないのよ」

 

 

マミは自分の指でソウルジェムをなぞる。

 

 

「コレが破壊されなきゃ、私達は不死身でしょ?」

 

「ッッ!」

 

「いつも一人ぼっちだった! 皆に取り残されて! 私だけ教えられない! 教えられても最後はいつも一人!!」

 

 

鹿目さんは貴女と仲良くなっちゃうし!

佐倉さんは美樹さんと親しくなる!

世界が変わっても、みんな、それぞれ新しい友達ができる。

 

 

「サキだって……! サキだって!!」

 

 

浅海サキを親友と信じて疑わなかった。

しかし二つに一つ。ゲームが始まれば妹の件で狂うか、それともサキは面影を求めてまどかに走るか。

 

 

「頑張って、頑張って頑張って頑張ってもッ! ワルプルギスには簡単に負けて、殺される! 私の惨めさが分かるのッ!」

 

 

マミの指が震えている。

そして、引き金に掛かった。

 

 

「ウアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

そして咆哮。

ほむらは地面を転がりあがり、窓を突き破って外に出た。

マミは反射的にほむらを追いかけて外に出る。

 

 

「!」

 

 

マミの体に迫る鎖。

見ればほむらの盾からチェーンが飛び出し、マミの腕に絡みついた。

 

 

「騎士と契約している魔法少女なら――ッ!」『ユニオン』『アドベント』

 

 

ほむらの真下に現れたエビルダイバー。そこへ着地すると既に最高スピードに到達。

マミを縛り上げたまま、ほむらは近くのビルへ一直線。

そのビルの一階はマジックミラーになっており、ほむらはそれを経由してミラーワールドに入った。

騎士と契約済みの魔法少女も、同じように入ることができる。

マミもそれは受け入れたようだ。しかしいつまでも縛られているのは納得しないらしい。

 

 

「私と戦うつもりなの?」『ユニオン』『ストライクベント』

 

 

マミの右腕にシザースピンチが装備される。

巨大な鋏はチェーンを簡単に切断すると、マミは地面を転がり、体勢を整えた。

一方でエビルダイバーは旋回し、停止、マミとほむらの視線がぶつかり合う。

 

 

「戦いたい訳がない! 巴さん、お願いだから落ち着いて!」

 

「落ち着いて? 馬鹿ね、落ち着けるわけないじゃない!!」

 

「魔獣! ゲームを運営している魔獣がこの今、ゲームに参加してるの! そいつらを倒さなきゃ――ッ!」

 

「あの蜘蛛でしょ? 分かるわ、分かってるわ。もちろんアイツらは倒すわよ。でもそれはイコールで、貴女を信頼できる理由にはならない!!」

 

 

マミは飛んだ。

迷う、考える。止まっている? マミを信じる? ダメだ、目が本気だ。

抵抗しなければ、本気で殺される。

だから、ほむらも跳んだ。

 

 

「ねえ暁美さん! 魔獣を倒したらどうするの? それはゲームの勝利条件なの!?」

 

「それは――ッ!」

 

「この世界は楽しい絵本の世界じゃないの。悪を倒してハイお終いにはならない。ハッピーエンドにはならないの、無限に続くの!!」

 

「ッ」

 

 

時間を元に戻す。

ほむらはマシンガンを両手に。

マミは両手を叩き、周囲に無数のマスケット銃が出現させて飛来する。

互いの銃弾はなんとお互いにぴったりと重なる様に着弾していき、次々に相殺し合っていく。

 

 

「同じ条件で私に勝てる?」

 

「根競べなら負けないわ」

 

 

デジャブ。よく思い出せない。

それに。

 

 

「同じ条件では無いものね!」『フリーズベント』

 

 

マミの背後上空に出現するボルキャンサー。その口から巨大なバブルが発射された。

同時にエビルダイバーの背を蹴るほむら。バブルの中にはエビルダイバーが入り、フリーとなったほむらは、盾からチェーンソーを取り出してエンジンを入れた。

ドゥルルルルと轟音が響く中、回転する刃とハサミがぶつかり合う。

激しい火花が散っていく中で、二人は尚、睨み合う。

 

 

「あなたは鹿目さんを守るためにッ、また私を裏切るんでしょう!」

 

「もう、私は――ッ!」

 

「無理よ! 過去が、ループが否定しちゃうもの!」

 

「それでも私は信じてる!!」

 

「私の事は!? 私だって裏切る可能性があるのよ!!」

 

「あなたはどうして――ッ、嫌な記憶だけを振りかざすの!」

 

「人間はね、傷ついた事ほど覚えているものなの!」

 

 

弾かれあう武器と武器。

マミはリボンを伸ばして近くのビルの屋上の手すりに絡ませる。

そして一気に手繰り寄せる形で移動していく。ターザンの様に糸を利用して空を移動するマミ。

一方でほむらは手榴弾を強化させると、蹴りでバブルへ着弾させて破壊。

エビルダイバーを救出すると再び背に乗り、マシンガンを乱射する。

 

軌跡が交差していく。

マミの銃弾に危険を感じれば時間を止めて対応。

それを繰り返していくが、そこでほむらの額に汗が浮かぶ。

 

 

(砂がもう――ッ)

 

 

そういえば仕様が変更されたのだ。

さらにどうやら、止めている時間が長ければ長いほど落ちていく砂のスピードが増えていくようだ。さらにほむらは小巻戦でそれなりに時間を止めていた。

故に、終わる。

 

 

「クロックアップ!」

 

 

ほむらは残る砂を全て使い、自身のスピードを上げる。

エビルダイバーから飛び降り、高速で地面を駆けるが――

 

 

「ティロ!」

 

 

マミが構えると、その周囲三百六十度に巨大な大砲が次々と出現していく。

大砲の形はバラバラで、威力には多少強弱があるように思えるが、マミの周囲を完全にカバーしている。

 

 

「リチェル――」

 

 

ダメだ。ほむらは盾を構える。

エビルダイバーもほむらの前に移動すると、体を広げて盾となった。

 

 

「カーレ!」

 

 

踏み込むほむら。

しかしその予想とは裏腹に、放たれたのは銃弾ではなく花火だった。

 

 

「え?」

 

 

攻撃じゃない?

ほむらが砲台の中央に目を移すと、そこにはカラフルな光が照らすマミが。

彼女は小型の銃を出現させると、自分のソウルジェムに銃口を向ける。

 

 

「ダメッ!!」『ユニオン』『アクセルベント』

 

 

クロックアップとアクセルベントの重ね技。

ほむらは一瞬でマミの前に立つと、銃を奪おうと手を伸ばす。

すると、その瞬間だった。マミは銃口をほむらに向ける。

 

 

「え?」

 

「人を裏切るのって」

 

 

再び足払い。

デジャブか。同じようにほむらは倒れる。

 

 

「人を騙すのって、簡単なのね」

 

「……ッ」

 

 

ほむらは眉を顰め、直後、その拳で強く地面を殴った。

 

 

「どうして? どうしてなの巴マミ」

 

「え?」

 

「どうして信じてくれないの? どうして、どうしてどうして! どうしてッッ!」

 

「――ッ」

 

 

泣きそうな程引きつったほむらの表情を見て、マミは目を逸らした。

そしてバックステップ。ほむらから距離を空けると、直後怒りの形相を浮かべてティロフィナーレに使うための巨大な砲台を出現させる。

 

 

「信じたかった! 私は貴女達を信じたかったのよ!!」

 

「だったら信じれば良いじゃないか!!」

 

「「!」」

 

 

第三の声。

特徴的なエンジン音が聞こえ、マミとほむらの間にライドシューターが割り入った。

そこから飛び出してきたのは龍騎だ。

手塚からタイムベントが発動された事を知らされた真司は、何かあったのだと察知。マミの家に向かっている途中で二人を見つけた。

 

 

「でも、仕事に行ったんじゃ……」

 

「ああ、編集長に全部押し付けてきた!」

 

 

今頃OREジャーナルでは編集長が叫びながら怒りのタイピングである。

 

 

『真司ィィ! あの野郎覚えとけよーッ! クビだクビィイイ!!』

 

 

まあそんな事は今はどうでもいい。

とにかく移動する中で声が聞こえたからつい反論してみたが、まあ当然龍騎が流れを知っている訳はなく、半ば強引に割り入ってしまった。

しかし分かってる事もある。それは確かに今、二人が戦っていたと言うことだ。

 

 

「どうしたんだよ二人とも! 二人が戦う理由なんてないだろ!」

 

「城戸真司。ごめんなさい、巴マミの記憶を戻したわ」

 

「ッ、マミちゃん! だったら、なおさら戦う理由なんて無いじゃないか!」

 

「城戸さん……!」

 

「またあんな馬鹿な事を繰り返すのかよ! そんなの、やっぱ絶対おかしいって!」

 

 

マミは確かな戸惑いを見せた。

記憶の中で、真司が参戦派にまわった回数は限りなく少ない。

そういう記憶がまるで無い。所謂『事故』や、『間違った』事はあれど、最後には必ず共存を説いていた。

そんな龍騎――、真司に睨まれれば、自分がいかに曖昧な存在かが浮かび上がってくる。

気づけば、マミは大砲を落としていた。そして膝をついて、掌を地面につけて、崩れ落ちる。

 

 

「こんな事……、したいわけじゃないの」

 

「っ、マミちゃん……」

 

「でもしないと、怖いから――ッ!」

 

 

気づけば、ポタポタと雫が落ちていた。

 

 

「私は――、何の為に魔法少女になって――ッッ!」

 

 

ほぼ全てのループでマミは『生きる』ため、つまり仕方なく契約を結んだ。

そうしなければ死んでいたから、仕方なく。

なのにそれが理由で魔女と戦う運命を背負って、それだけじゃなくこんな馬鹿なゲームに。

 

 

「ごめんなさい、暁美さん。本当にごめんなさい」

 

「巴さん……!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……!」

 

 

どうしようもなく悲しくなった。

何の為に魔法少女でい続けるのか、もうマミには分からない。

強いところもあるが、マミは繊細だ。一度崩れてしまった関係を知っている。

 

ほむらに殺された、まどかにすら殺された。

サキに恨まれた、さやかに拒絶された。杏子との関係は壊れた。

ソレを知っているのに、また『皆の先輩』ではいられない。

魔法少女としてはもう、マミは死んでしまったのだ。

 

 

「私が信じてたものは、ぜんぶ虚構だったのね……」

 

「巴さん……」

 

 

ほむらはマミに触れようと手を伸ばすが――

 

 

「………」

 

 

腕を、止めた。

 

 

「お願いだから、一人にして」

 

「ダメだよマミちゃん! 危ないって!」

 

「お願いですから!!」

 

「!」

 

 

怯む龍騎。隣にいたほむらはグッと拳を握り締めた。なにも、言えない。

背中を向けて歩いていくマミ。龍騎はゆっくりとカードを抜き取ると、後ろに下がり、マミに聞こえなくなる程度に距離が開くと、バイザーに装填する。

 

 

『アドベント』

 

 

ドラグレッダーが上空に現れる。

自己主張の咆哮を上げようとするが、龍騎は必死に黙るようにジェスチャーを。

 

 

「シーッ! しぃい! 黙っててくれよ!」

 

「グルル……!」

 

「ちょっとマミちゃんを護衛しててくれ。なるべく見つからない様に」

 

「グガッ」

 

 

またかよ。

そんなリアクションを取りつつも、ドラグレッダーはしぶしぶマミの後ろを追跡していく。

龍騎は変身を解除すると、携帯を取り出す。ニコからの連絡で、魔獣の気配が完全に消えたらしい。ほむらに聞くと、ほくろを破壊したからだろうと。

 

そしてそこにまどかがやって来る。

まさかミラーワールドにいるとは思っていなかったのだろう。探すのに手間取ったと。

 

 

「マミさんは!?」

 

 

事情を説明すると、まどかは複雑そうに頷いた。

 

 

「仕方ないよね……」

 

 

まどかは構えを取ると、魔法陣を展開させる。

 

 

「ファーターレハーヤー!」

 

 

まどかもこの現状を見て少し前から特訓をしていたらしい。

新技、生まれるのは忠誠の天使、レハーヤー。

手に乗るほど小さな天使であるが、スピードは速く、さらにその能力は偵察である。

ドラグレッダーの気配を探れるらしく、至急レハーヤーもマミの後を追う。さらにこの天使は魔力で形成し、切り離しているため、まどかが変身を解除した後も存在し続ける。

 

 

「レハーヤーがどこにいるかは、わたしと真司さんが知りたいって思えば分かるから」

 

「あ、ほんとだ! 頭の中に地図が広がる! すごいなコレ!」

 

「わたしは一応マミさんを追うね。魔獣がいなくても魔女はいると思うから。真司さんはお仕事に戻って」

 

「え? あ、でも」

 

「わたしは大丈夫。それに、編集長さんに怒られちゃうよ」

 

「あぁ、まあ、確かに」

 

「ほむらちゃんはどうす――」

 

 

まどかが振り返ると、ほむらは深刻な表情を浮かべて立ちすくんでいた。

 

 

「ほむらちゃん? どうしたの? 大丈夫?」

 

「……に」

 

「え?」

 

「傷つけたく、なかったのに」

 

 

崩れ落ちた。ほむらは地面に膝をつき、へたり込む。

 

 

「守れると思ってた。もう傷つけないと思ってた」

 

「ほむらちゃん……」

 

「どうして……、私はどうして人の気持ちを考えられないんだろう」

 

 

銃を抜けばマミが警戒するに決まってる。

あそこはどうあっても無抵抗を貫くべきだった。

たとえマミが攻撃してきてもソウルジェムさえ無事なら大丈夫の筈じゃないか。

痛みなら耐える事に慣れてると――、思ってたのに。

 

 

「どうして私は、こんなに無力なんだろう……」

 

 

マミにつけられた、ほくろも気づける筈だった。

数多のループでマミの姿はよく見ていたはずなのに確信がもてなかった。

つまり、それだけ、マミを見てなかったのだ。

 

 

「そんな事ないよ、ほむらちゃんは頑張ってるよ!」

 

「そ、そうそう! マミちゃんも武器出してたし、そりゃ抵抗するのは……、まあ、仕方ないって言うか!」

 

「それだけじゃない、私はまだ――ッ!」

 

 

サキとさやかの記憶を戻すと言った時、ほむらはそれを拒んだ。

それらしい理由を並べたが、それらは結局言い訳でしかないと今、完全に理解した。

 

 

「怖かった、こうなるのが」

 

 

本音なのだろう。

あまりにも感情が高ぶりすぎて、ほむらの声が震える。

 

 

「浅海サキの記憶が戻ったら、美樹さやかの記憶が戻ったら、彼女達は私に武器を振るうんじゃないかって……」

 

 

特に前回の時間軸。ほむらはサキを撃った。不意打ちと言う形でだ。

それをサキが許してくれるのだろうか? そもそも、どんな顔をしてサキの前に立てばいいのか、それが理解できなかった。

マミの言うことはよく分かる。一度変わってしまった関係を無視する事はできない。

 

 

「……俺達はさ、騎士になる時、みんな変身って言うんだよ」

 

 

別に言わなくても良い。良いのだが――、なぜか口にしてしまう。

本能? デッキの持つ力? 分からないが、そうした方がキッチリと脳を割り切れる。

自分は今、真司ではなく龍騎なのだとスイッチを入れる事ができる。そんな音声認識。

 

 

「でも、まあ、俺、人間って良く分からないけど――」

 

 

馬鹿馬鹿言われ続けてご立腹。真司も勉強しました。考えてみました

数あるループ、言い続けた言葉は戦いを止めよう、鼻で笑われ、背中から襲われ、それでも真司は考えた。

 

 

「なんか、やっぱりさ、人間ってそんな簡単に変われないんだなって」

 

「………」

 

「でもさ、それって悪い意味でも、良い意味でもあるんじゃない?」

 

「え?」

 

「一回友達になれたらさ、なかなか、変わらないと思うけど」

 

「でも――ッ!」

 

「まあ、変わるだけの時間がある事は確かだけど、せめて信じようよ。ほむらちゃんが友達になったマミちゃんは、そんな簡単に変わっちまう奴だったのかな」

 

 

簡単に変われない、良い意味でも悪い意味でも。

ほむらはそれをかみ締め、複雑そうな表情ながらも頷いた。

すると手。目の前にまどかの手があった。

 

 

「大丈夫。ほむらちゃんは一人じゃないよ。一緒に、マミさんと仲良くなろう!」

 

「―――」

 

 

一人じゃない。

簡単な言葉だが、なぜか一筋、涙が目から零れた。

 

 

「ええ。信じたいわね」

 

 

まどかの手を取ってほむらは立ち上がる。

きっと何とかなる筈だ。そう信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

マミが住んでいるマンション。その屋上でニコは腕を組んで柵にもたれ掛かっていた。

 

 

「べぇやん、HSPって知っとる?」

 

『あ? なんだよ、ソレ』

 

「べえちゃんは?」

 

『感受性の高い人間。過敏な人間と、ボクは記憶してるよ』

 

「ま、だいたい五人に一人はいるって話だけど」

 

 

簡単に言えばシャイ。

 

 

「たとえば、うーん。衝撃とか音に弱い。扉を強く閉められただけでその人間が自分に敵意を持っているんじゃないかと疑ってしまう」

 

 

たとえば痛みに敏感だったり、多くの物を頼まれるのがイヤだったり、頭じゃ分かってるのに本番じゃ自分でも信じられないミスをしたり。

動揺する状況を避けることを常に意識していたり――。常に失敗のリスクを考えてしまったり。

 

 

「人の言葉で、簡単に傷ついたり」

 

『一つの精神病――、と言うべきなのか。もしくは人間のタイプだからね、なかなか他人には理解されないと聞くよ』

 

「辛い事があると、自分の空間に逃げたくなる。仕事が続かなかったり、引きこもりになる人間には多いって聞く」

 

『なんだよ、逃げてばっかしの甘えた屑野郎なんじゃねーか』

 

「クズはお前だよ屑。お前みたいなのがいるから世の中が良くならねーんだろうがい」

 

『人間は常にマジョリティを求めるからね。それに、理解されたとして必要されるかどうかは別だ。競争社会と言われる現代には、不釣合いな種だろう』

 

「あぁ、巴マミ。あれがそうだろ」

 

『妄想しやすい人間でもあるし、間違っては無いかもね』

 

「向いてねぇよ、アイツ魔法少女に。マミリンとか言うペンネームで漫画とか小説書いてた方が余程良い」

 

『HSPの人間は芸術性に富んでいると聞くからね』

 

「そう、長所もある」

 

『つまり何が言いてぇんだよお前』

 

「同属嫌悪は知ってるか?」

 

 

レジーナアイに表示されている点を叩くニコ。

 

 

「暁美ほむら、アイツもそうだろ、ぶっちゃけ」

 

『マミと衝突する事は必須であったと?』

 

「現にそうなってる」

 

『なるほど。磁石ならば分かりやすいか。同じ極ではくっ付かない』

 

「だけどマイナスとマイナスならプラスになる。水と油は交わらないが、水と水なら混じり合い、より大きくなる」

 

『つまり?』

 

「考え方次第。コインに裏と表がある様に、どんなヤツにも長所と短所ありってね」

 

 

傷つきやすいのは、逆にそれだけ人の気持ちを考えられると言う事でもある。

 

 

「間違えなきゃ、いける筈だ」

 

『間違えたら?』

 

「……まあ、そりゃあなあ」

 

『なんだよソレ。なんとでも言えるじゃねーか』

 

 

指を鳴らすニコ。

 

 

「なんとでもなるって事だよ。生きてればな」

 

 

 

 










マミほむはええもんやな(´・ω・)
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