仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
前サイト様でやらしてもらってた時には、ここら辺で長めの番外編と、The・ANSWERバージョンのキャラ紹介を更新してたんですが、それらはもう少し後にします(´・ω・)
翌日。マミは自分の部屋に戻り、眠った。
まどか達はいない。まどか、ほむら、真司の三交代でマミのマンションの屋上に待機し、休憩する者はほむらの家に寄らせてもらった。
そうしてやってきた朝。まどかとほむらはカバンがマミの家にあるため、いずれにせよ顔を出さなければならなかった。
「おはようございます、マミさん」
「おはようございます」
「……おはよう」
ほむらとマミは目を合わせない。
マミは二人のカバンを持ってくると、外で待っててもらうように言う。
そして自分は家に入ると、出発の準備を整えようと。
「………」
こんなのじゃダメだ。
マミは歯を食いしばり、首を振る。
そうだ、真司の言うとおりだ。こんな、馬鹿な事を――
「っ」
一瞬だった。
気配を感じたマミは魔法少女になり、リボンを伸ばす。
「………」
「マミさん!?」
まどかは叫び、マミの家に入った。
明らかに遅い。いつまでもマミが出てこない事を疑問に思っての行動だった。
二人は家の中を探すが、そこで見つける。見つけてしまった。
ビンの中に入れられ、申し訳なさそうにうな垂れているレハーヤーの姿を。
「あっ!」
ファーターレハーヤーの欠点は、レハーヤーの位置しか分からないと言う事だ。
レハーヤーは非常に脆いため、何か一撃でも攻撃を受ければ消滅してしまう。
そうすれば術者であるまどかには当然その情報が伝わり、何かあったのだろうと察する事ができる。
だからこそレハーヤーに気づいたマミは、ビンの中に入れてそこに放置しておいた。
レハーヤーには攻撃をする手段もなく、ビンを破ることはできなかったようだ。
窓が開いている。どうやらマミは、窓の外からまどか達を『撒いた』様だった。
「ど、どうしよう! わたしのせいで!」
「落ち着いてまどか」
監視されていた事がマミの心に黒を落としてしまったのか。
いや、いずれにせよ見つけなければ危険だ。一日が経ったことで魔獣は再びこの見滝原に降り立つ事が許されている。
アルケニーはほぼ間違いなくマミを狙ってくるだろう。なんとかして見つけなければ。
「神那ニコに力を借りましょう」
「そっか! レジーナアイがあれば!」
それからは電話の応酬だった。
鳴り響くニコの携帯。最近やっと少しは眠れる様になってきたのに。
舌打ち交じりにニコは通話ボタンをタップする。
「もしもし? 母さん? 俺だよ、おれおれ」
『ふざけてないで良く聞いて』
「なんだよう。あのさ、だいたいさ、ニコちゃんはニートだからな? 朝7時代とか私にとっては夜も同じだからな」
とは言いつつ、ほむらから事情を聞くニコ。
「……なるほど、鹿目の力に気づくまでにはレベルが上がってるわけか」
それがまたマミの厄介な所だとニコは思う。
純粋にマミは強いのだ。天使はもちろん気配を消していたが、それに気づくとはさすがはベテランなだけある。
しかしソウルジェムが存在する以上、魔力を探知するニコからは逃げられない。
ニコは唸りながらベッドから体を起こすと、頭をかきながらレジーナアイを起動。
マミの魔力を探してスワイプ動作を繰り返す。
「ん?」
発見。
しかしこの場所は――?
「今から、まどかとほむらの携帯に地図を転送する」
『助かるわ』
「ただ急いだ方がよろしいなコレ」
『え?』
「結構、面倒な場所にいるぞ」
また、電話。
「学校を休む? え? 大丈夫!?」
『うんっ、ごめんね! もし楽になったら後から行くから!』
顔を見合わせるサキとさやか。
なんだか最近まどか達の様子がおかしいような。
「ま、まさか! あの転校生と●●で●●な関係に!?」
「な、なんだとぉおッ!」
ギャーギャーと騒ぎあう二人。
違和感はあれど、まだそこまで深くは考えていない様だった。
そしてまた電話。
「………」
「真司くん、なにそれ、コスプレ?」
カタカタとキーボードを叩きながら、島田はジットリとした目で真司を見る。
OREジャーナルのデスクは三つあり、入り口から見て中央が島田、右が真司、左が令子のものになっている。
呆れた様に汗を浮かべながら目の前を見る令子。
そこにはサルのタイツを身に纏った真司が真面目な表情でキーボードを叩いている。
その背中には『反省』の張り紙が。そして真司を睨みながらバナナを食べている編集長。カオスである。
「城戸君、かわいそうに。編集長、これパワハラですよ」
「いやっ、いいんすよ令子さん。コレは俺が背負わなければならない十字架なんで」
まあ自分の仕事を上司に押し付ける部下など前代未聞だろう。
令子もうなずいて自分の席に戻った。
「そもそも、よくそんなタイツありましたね」
「去年忘年会で編集長が着てたヤツでしょ?」
「真司ー、昨日の件はそれでチャラにしてやるから、ビシビシ働けよ!」
「了解です編集長! 俺、もう今日は仕事に生きたいって気分で!」
「いいねぇ、いいぞ真司! ソレでこそジャーナリストだ!」
「っしゃ! ははははは!」
着信音。
「あ。もしもし? うん。うん。え!? 分かった! すぐ行く!」
「………」
「編集長! 俺ちょっと出て来るんで、後コレ、お願いします!!」
勢い良く扉を開けて出て行く真司。
島田と令子はポカンとした表情でそれを見ている。そしてプルプルと震えているのは――。
「真ッ司ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
編集長の怒号を背に、真司はロッカーへダッシュ。
サルのタイツを適当に脱ぎ捨てて、編集長のロッカーに放り込むと、そのまま下へと降りていく。
走った。
そう、真司は走った。一方でマミも同じく走っていた。
少し前に時間は巻き戻るが、マミはボロボロと涙を零しながら走っていた。
「もう――ッ、嫌! もうたくさん!」
きっとまどかは自分を心配して天使をつけてくれたんだ。
そうに違いない、そうに違いなかったが、マミはそれを信じる事ができなかった。
いや、できる。受け入れる事はできるが、恐怖を覚えてしまうのも事実だった。今のマミには分からない。
真実とは何か?
そして仲間とは、正義とは、魔法少女とはなんなのか。
そんな燻っている自分が嫌いで、まどか達の前に現れることができないでいた。
憧れの先輩の位置にある事を誇りに思い、喜びも感じていた。
しかし今、もうマミは昔の様にキラキラした目でまどか達の前には立てない。
それが辛くて、なによりも疑ってしまう自分が嫌いで、まどか達から逃げたのだ。
まどかは悪くない。ほむらだって、仕方なかったのかと思える。
思えるのに――、いざ二人を前にしてみればマミの心には黒いものが湧き上がる。
分かる。理解している。葛藤しているのだ。参戦派に回った時と、協力派に回った時の自分がせめぎ合っているのだ。
そして良心。
疑心暗鬼になりながらも、まどか達を傷つけたくないと言う想いでマミはココに、須藤の家にやって来た。
「いますか! 須藤さん! 開けてください!」
「ど、どうしましたか、巴さん」
既にメールで緊急事態である事を伺っていた須藤は、マミをマンションの部屋に招き入れる。
インテリアや雑貨が置かれたオシャレな部屋で、コルクボードには長くコンビを組んでいる女性刑事、石島美佐子との写真もあった。
「どうしたんですか? 何か飲みます? コーヒーくらいしかありませんが……」
「いいんですッ! それより、相談があって」
マミが壊れぬ為に行うべき行動はただ一つ。
それは、味方を作ることだ。
「記憶を、戻して!」
「え?」
確かに前回のゲームでは結果的に須藤はマミを裏切ってしまった。
しかしそうじゃない記憶もあると思っているし、前回のゲームではあくまでも須藤は正義の下に狂ったはずだ。
なによりゲームの中にある一つのルール。
パートナーはパートナーを殺害する事はできない。
あくまでも傷つける事は可能であり、たとえば睡眠薬か何かで眠らせた後、タクシーに乗せて見滝原の外に出せばルールによって死ぬため、絶対のルールでは無い。
しかし少なくとも他の参加者よりは信頼できるはずだ。
しっかりと話し合えば須藤だって分かってくれるはずだ。
マミは混乱の中、全てを須藤に打ち明けた。フールズゲーム、魔獣、前回のゲーム、そして今の状況。
「お願いします! 助けてください須藤さん!」
「巴さん……」
記憶を思い出せばメモリーベントの使い方は頭に入ってくる。
条件は了承と言う点、須藤はそこに戸惑いを見せてはいけない。
だが、須藤は即答だった。
「いいですよ。私自身、ずっと確かめたかった」
その言葉の意味をマミは考えなかった。とにかく、味方が欲しかった。
もちろん前回の件も分かっている。だから説得するつもりだった。説得できると思っていた。
いや、違う、信じたかったのだ。マミ自身が須藤を説得できれば、きっと自分もまたまどかとほむらの前に笑顔で向かえる筈。
マミ自身葛藤している。このままではいけない事は分かっているのだから。
だから、使う。
『ユニオン』『メモリーベント』
もう一度まどかとほむらの先輩になる為。一緒に戦えるようにだ。
マミは発光する手を須藤へかざした。目を閉じる須藤。
受け入れよう。その了承を心に浮かべる。
「―――」
なんて浅はか、な。
「グッ! ガァァァアアッッ!!」
頭が割れそうになり、須藤は思わず両手で頭部を覆い、床に膝をついた。
土石流の様に情報が流れていく。次々にフラッシュバックしていく光景。
自分が今、どこにいるのか、一瞬分からなくなる。
目の前にある世界が真実なのか、自分が今立っている世界は偽りなのか。
それすらも分からなくなるほどの重層世界。
人間が触れていい範囲の知識を超えている。須藤は僅かの間、人を超越した『何か』になっていただろう。
そして次第に思考が加速し、理解が追いついていく。
一秒にも満たない時間で次々と処理される情報連鎖。
分かる、理解できる、なるほど、そういう事か。
過ぎ去っていく景色を理解しながら、須藤は世界の中心に立っていた。
間違った事、正しい事、全てが記憶だ。そこにあるのは須藤と言う人間が歩んだ全て。
なるほど、なるほど、そういう事か。知識に溺れていく中でつくづく思う。
正しい事とは何だ。正義とは何だ。今とは何だ、世界とは何だ?
知識に溺れていく中、須藤は手を伸ばした。
「須藤さん!」
声が聞こえた。
セーラー服の少女が立っていた。
名前は――、覚えているが、思い出さなくていい。思い出す必要は無い。コレは数ある中の一つでしかないからだ。
尊敬する上司の娘だった。
彼女は自分を慕ってくれた。いつもニコニコしている彼女は、将来の夢を幼稚園の先生だと言っていたのを覚えている。
しかし、誰にでも優しいと言うのは長所であり弱点にもなる。
SNSを経由しておかしな男性に付きまとわれていると相談された時、理由を調べたが、彼女の断れない性格が理由だとすぐに理解できた。
須藤は努力した。しかし警察と言うのは万能ではない。注意や個人的な警告を行ったが、結局、それだけだった。
「………」
目の前にいるのは泣き崩れていた上司。
喪服姿の須藤の前には棺おけがあり、その中にはいつも笑顔だった少女が入っていた。
母親とのショッピング帰りに襲われ、母親共々全身を滅多刺しにされて死んだらしい。
彼女は『良い子』であった。教科書に書いたような良い子であった。ボランティア活動に励み、将来の夢に向かって努力していた。何も悪い事はしない、真面目な子だった。
しかしその最期はストーカーに刺されて死ぬ。そんな一文で終わるようなものだった。
これがいつの記憶だったのかは分からない。
だが、いつだって良い。それが真実である事にはかわりない。
そして妻と娘を失った上司は堕落していき、酒とギャンブルに溺れる日々を歩み始め、最終的には暴力団がらみの闇金に手を染め始めた。
孤独と憎悪を紛らわせるために金を使い、求め、そして堕ちていく。
上司は警官の立場を利用し、資産家にコンタクトを取ると、殺害。
その死体を風呂場でバラバラにしている所を須藤に見つかった。
「見逃してくれ、須藤!」
そこにいたのは最早、人間ではなかった。
だがそれは――、須藤にとって何かとても大きな物を教えてくれた様な気がして。
須藤は上司を見逃した。
結局、この世に正義など存在していなかった。
警察は罪人を捕まえると言う一つのシステムだ。それ以上でもそれ以下でもない。
警官が犯罪を犯さない道理はないし、そうなれば他の刑事に捕まる。
それが一つのサイクルでしかない。
司法も絶対ではない。
あの少女を殺した犯人は精神に異常アリと診断され、通常ではありえない減刑を受けた。
同時期に小学生の子供を誘拐し、暴行を働いた後、生きたまま地面の中に埋めたヤツがいた。
しかしその犯人は無罪となった。なにやらスーパー弁護士とやらのおかげらしいが、何、不思議なことではない。
それもまたそういうルールの下にあるからだ。
いつの記憶だったか――? 定かではない。
しかし何重もの記憶がある。努力はした。努力はしていた。
真面目に、全うに生きる事をだ。誰も傷つけず、誰も悲しませない。
そんな生き方を目指し、刑事になった。
しかしそんな自分を無視する様に『犯人』と言う概念が生まれていく。
「見れば、見ればさ、見ちゃいなよ須藤ォウ!」
腕を組んだユウリが箱の魔女、エリーを蹴る。
すると映し出されていく罪の数々。嫉妬、憎悪、劣等感、快楽。殺害の連鎖、犯罪の共鳴。
家族を殺されて家を燃やされた被害者を自分は知ってる。
結婚を決めた人を殺された被害者を知っている。
子供を誘拐されて殺された親を自分は知っている。
いや、教えられたのか。だがそれでもいい。
結局人間は人間だ。誰もが黒になる。
それだけの事だ。自分は少々、人を神格化していたのかもしれない。
人生を神格化していたのかもしれない。
正義を、信じすぎていたのかもしれない。
記憶が交じり合う。
犯人がいた。何をしたのかは覚えていないが、許せない筈の犯人だった。
しかしその犯人は楽しそうに笑っていた。
「刑事さん、ナイフでね人を刺すとね、柔らかいんだよ? それで、赤い血が綺麗でさぁ」
犯人を殴ったのは目障りであり、声が耳障りであり、そして何よりも、羨ましかった。
好きに生きて、モラルに縛られず、自由を愛している。
自分はどうだ?
令状や苦情、様々な物に縛られ、努力しても守れない、努力しても周りが堕ちていく。
馬鹿な、こんな――ッ! イカレた。ちくしょうが。
記憶が濁る。
これはいつ? どこ? 分からない。似たような事が繰り返される。
たとえそれが――、仕組まれたものであったとしてもだ。
最初は努力したが、上手くいかない。
それに刑事のなかにも屑や、それこそいじめだってある。
こんなものだったのか。
それを思ったとき、刑事と言う立場を利用する事を決めた。
馬鹿を仲間にして荒稼ぎ。しかし取り分でもめたら、アイツは私を脅迫し――。
壁のなかに、埋めてやった――。
「あ?」
誰だ? 私は誰だ?
私の正体はなんだ? 夢が無い、背負う物が無い。何かになれるのか。
分からない。しかし取り巻く喜びが理解できる。
以前、万引きにハマってしまったと言うクラス委員長を補導した事がある。
彼女は抑制されていた環境から解き放たれる喜びを知ってしまった。
自分はまさにそれ、悪に染まる喜びを――。
ああ、分かっている。それはいけない事だ。しかしスリルが取り巻く。それを否定したいと思う自分もいる。信じていたんだ、最初は、本当に、正義を。
今は、なんだ。分かる。間を取ればいい。スリル、正義、両立できる手段がある。
「思い出してくれた? 須藤さん!」
「ええ。全て、思い出しました」
「だったら――ッ!」
「やはり、間違って等いなかったと、私は思う」
「え? なにを……」
それはつまり、全てだ。
丁度その時、部屋の扉が開かれる。
ニコからの情報を受け取ったまどか達が、須藤の家に到着したらしい。
少々強引かとも思うが、ほむらは銃で鍵を破壊すると、強引に中へ入っていく。
銃声でだいたいの流れを理解したのか、須藤は呆れたような笑みを、まず二人に見せた。
「やれやれ、暁美さんは少々強引過ぎます」
「須藤……、雅史」
「コーヒーでも飲みますか?」
須藤は笑みを浮かべていた。
浮かべていたが、つい先程までの柔らかいものではない。
明らかな含みのある黒い笑みであった。
「皆さんは、きっと根本を理解している筈です」
フールズゲームや魔女、インキュベーター、宇宙の意思、様々な意思がある。
しかしその中でも、異質であり、悪意の集合体がある。
「人ですよ。人間ほどタチの悪い生き物は無い」
あればいい、システム。新たな裁きを構築すればいい。
「悪を殺す。私の正義はそれで完成する」
「ッ! 須藤さん、貴方は……!」
丁度その時、遅れてやって来た真司が姿を見せる。
扉が破壊されているものだから何事かと慌てているようだ。
それを見て、須藤はまた呆れた様に笑った。
「おや、これは城戸さん」
「須藤さん――ッ!」
須藤が懐から見せたのはデッキ。
事態を理解したか、真司も急いで龍騎のデッキを取り出した。
「いえ、戦うつもりはありません。今は」
「何を……」
「見て分かる通り、戦いとは非常に都合の良い証明と解決です」
システムの簡略化にしか過ぎない。
悪を犯した人間が反抗すれば、警官が多数により制圧する。
「あなた達も知っているとは思いますが、犯人によっては、射殺やむなしとなる場合もあります」
それは刑事VS犯人の構図の果て。戦い、決着をつけると言うシステムの一つだ。
それは言い換える事も可能であり、フールズゲーム、そして騎士の力、それらに挿げ替えられる。
諭す、無理なら殺す。それはフールズゲームと同じだ。
「ゲームなら頂点を目指したいと思う。それは男としては思うものでしょう?」
「須藤さん、アンタもしかして、戦う気なのかよ!」
「同じなのでしょう? 今回も、参加者同士で殺しあう」
「ちょっと待ってくれよ!」
状況を説明する真司。フールズゲームを仕組んでいる魔獣がいる。
それらを放置はできない。ましてやワルプルギスの夜が関われば、世界が危ない事は分かりきっているのに。
「しかし願いの力を使えば問題は無い。魔獣もワルプルギスも排除できる」
「ぐッ!」
真司としては魔獣の話を持ち出せば、きっと皆協力してくれるとばかり思っていたのだが、どうやらそういう訳でもないらしい。
「どうぞ、コーヒーです」
テーブルに並べられる湯気立つコーヒー。
とはいえ誰も飲む気にはならない。須藤はその中で、椅子に座り、淡々と口にする。
前にあったのは姿見だ。鏡に映る自分を見て、須藤は自嘲気味に笑った。
「シザースの力も、正しく使おうと思っていました」
しかし正しいとは何か、もう須藤には分からない。
「私には今、正義と悪の心が確かにある。せめぎ合っているのも感じます」
しかしこの身にあるのは本当に正義なのだろうか? 本当に悪なのだろうか?
そもそも、そんな『物』などはじめからあったのだろうか。
もしかして世界は『空』で、そんな事を考えるだけ無駄だったのかもしれない。
現実は夢見たものよりも余程リアルなものだ。イヤにリアルなのだ。
初めから正義や悪の概念に縛られている事こそ馬鹿なものだったのかもしれない。
「落ち着いてください須藤さんッ!!」
テーブルを叩くマミ。
唇を噛み、眉をひそめ、肩を震わせている。
顔は青ざめており、震える声から出る言葉に重みは無い。
「私は落ち着いていますよ。自分でも驚くほど冷静だ」
再び自嘲の笑み。
須藤は理解している。
「私には背負う物がなかった」
「え?」
「はじめは本当に刑事として、刑事の道を目指していました。しかしいつからか、スリルに酔い、もしくは現実に打ちのめされて道を失う」
自分自身の正体が分からない。自分が今誰かなんて、記憶の中に消えていく。
道が途絶えてからは犯罪に手を染めた、人を殺した事だって何度もある。
きっかけは――、目を覆いたくなる犯罪であったり、ユウリに仕組まれたり、いや別にそれはどうでもいいんだ。
しかし今は不思議だ。
まだ糸は切れていないが、割り切ろうとしている自分もいる。
ラインが見える。踏み越えるか、留まるか、まだ分からない。だがきっと。
「きっと、こう考える事も無意味なのです」
「なにが――ッ!」
「巴さんは何を怯えているんですか?」
「ッ!」
「分かりますよ。私と同じだ。あなたも結局は魔法少女である事を失えば、自分を見失う」
マミは死んだ。そして正義の魔法少女として蘇った。
それはある意味ナルシズム。正義のヒロインである事がマミをつなぐ最後の砦、希望だったのだ。
しかし思い出してしまった記憶。
正義のヒロインが自分の為に人を殺す。それを受け入れれば、巴マミは壊れる。
だから踏みとどまろうと必死になっている。それが須藤には滑稽に思えて仕方がない。
「城戸くん。巴さん、暁美さん、鹿目さん。私は人を殺しますよ」
「なッッ!」
「ループをしてみて分かった事があります。結果は結果です。やはり屑共は処理しなければならない。コレは私の本心でもあります」
虚無と思う物もあれば、本当の怒りを抱いたのも本当なのだ。
上司の娘一人救えない刑事である自分。その惨めさに拳を握り締めたのも事実だ。
背負う物がないのなら、それは好都合でしかない。
「お願いだから止めてください! ねえ、なんで!? 私が記憶を戻したのは――」
なんでなんだろう? マミは言葉を止めた。
ただ、理解者がほしく、ただ説得できると思いたく。
「巴さん。ロクな物じゃないですよ、協力なんてしたって、無理だったでしょう?」
だからループが続いて今ココにいるんだ。
今回もまた、記憶の残骸が齎す一つでしかない。終わればそれまで、それで良い、それでおしまいだ。
ふと、須藤は携帯を見る。
「おや、石島さんから連絡だ。では私はコレで」
須藤は呆然とする一同を通り抜けて玄関へ向かおうとする。
しかしハッと表情を変えた真司が壁に手を伸ばし、須藤の前に立ちはだかる。
「いかせる訳にはいかない!」
「安心してください。城戸くん。まだ殺しませんよ」
「ッ」
「まだ、ね」
須藤自身まだラインの手前にいる事を自覚しているし、無理やりにでも踏み越えようとする気は無い。しかしやがては確実にラインの向こう側に足を踏み入れるだろう。
それは前回のゲームでもそうだったからだ。
須藤はそれを後悔していないし、そもそも後悔するほどの物を背負ってもいない。
すべては流れだ。
「ゲーム開始がスイッチです。前回の様には行きませんよ」
「須藤さん! どうして分からないんだよアンタ!!」
「分かった上でですよ。邪魔をするなら、今ココで戦いますか?」
「――くッ!」
拳を握り締めたまま停止する真司。
須藤はニヤリと笑ってそのまま家を出て行った。
しかしやはり見逃す訳にはいかない。真司は地面を蹴ると、急いで須藤の後を――。
「俺に任せろ」
「あッ、手塚!」
玄関を出ると、そこの壁に手塚がもたれかかっていた。
どうやら彼も到着していたらしい。
須藤の監視は手塚が請け負う、そういう事であった。
「あ、でも」
「本音を言えば、俺も須藤が言わんとしている事は分かる」
しかし、やはり真司は違うと言う。
ならば今はそれを、他の場所に向けるべきだ。
「人間は個人の考え方をもっている。お前には、お前だけができる戦いがきっとあるんだろう。それを今は、やった方がいい」
真司はふと背後を見る。すすり泣く声が聞こえて来た。
「じゃあ、俺は行く」
ふと、足を止める手塚。
『暁美』
『ッ、なに?』
『自分の欲望を思い出せ。それは罪じゃない、悪い事じゃないんだ』
『………』
「後は任せたぞ、城戸」
「ああ、任せてよ」
真司は頷くと、手塚に背を向けて部屋の中に入っていった。
そこにはやはり、涙を流すマミが。
「須藤さんを、狂わせてしまった……」
「マミさんのせいじゃ――」
「私のせいなのよ……。だって、分かってたんですもの」
自分のやる事が裏目に出る事にマミは心が折れたようだ。
須藤を説得できると思っていたが、いざ彼を前にすれば何も言えなかった。
誰かが助けてくれるとも思っていなかったが、だからと言ってあまりにも……。
「役割を与えられる事が、生きる意味にはならないって、分かってたのに……」
もう頼りになる先輩では無い。マミにはそれが心苦しい。
だからせめて須藤を説得する事ができれば、意味があったと、自分で分かれるのに。
それができなければ、もう終わりだった。
「マミさん。大丈夫、大丈夫です」
まどかはへたり込むマミを優しく抱きしめる。
マミはうな垂れ、消え入りそうな声で呟いていた。
「もう、戦えない……」
なにと? だれと?
「はい、いいんですよ。戦わなくても」
マミは自分の胸を、心臓を強く掴んで掠れた声を漏らす。
「こんなに苦しいなら、私はいっそ、死んだ方が――」
「待って、マミちゃん」
肩に手を置く真司。
自分にしかできない戦いか。
真司は何回か頷くと、時間を確認、そしてマミの目を真っ直ぐに見て言った。
「ちょっと、来て欲しいところがあるんだ」
「え……?」
真司は強く頷く。
マミも釣られて、静かに頷いた。
「城戸くん、遅い」
「あ、すいません。ちょっと喪服どこにしまったか忘れてて!」
「あら? その子は?」
「あ、中学生って制服が喪服なんですよね?」
「え? ああ……、見滝原中学校は少し制服の色が明るいけれど、大丈夫よ」
今日はアルケニーに襲われた男性、その葬儀が行われる日だった。
あまり良い仕事ではないが、OREジャーナルとして、取材はしなければならない。
女性に男性が殴り殺された。その奇異性は他の新聞社や雑誌社も注目しているらしい。
しかし場所や、状況が状況だ。カメラを持った報道陣は規制され、活字のみでと言う条件で、OREジャーナルは取材を許可された。
令子と真司、そしてその隣にいるマミ。
「この子は?」
「ちょっとした知り合いで、亡くなった人とも少しだけ」
「と、巴マミです」
頭を下げるマミ。
「え? 城戸くん、被害者の方と知り合いだったの!?」
「いやッ、知り合って程じゃ。マミちゃんもほんの少しだけ関わりがあるくらいで」
もちろん知り合いではない。
しかし分かるはずだ。『関わりは確かにある』と言う事が。
「………」
葬儀が行われる会場の屋上ではニコが寝転んで携帯を弄っていた。
暇だから真司の後をつけてきたが、まさかこんな場所にやってくるとは。
とは言えなんとなく、聴覚を強化して真司達の声は拾っておく。
「そうね、じゃあ取材は私がやっておくわ」
「いいんですか?」
「取材の時間は短いし、時期が時期でしょ? あまりデリケートな事も聞けなくて。それに編集長が新しいICレコーダーくれたしね」
真司達は純粋に死者を弔ってくると良いと。
「ありがとうございます令子さん」
真司はマミを連れて会場の中へ入った。
そこには当然、喪服に身を包んだ人間達が目立つ。
親戚、会社の同僚、友人、関係者、いろいろいるが、なにより――。
「!」
マミは見つける。
亡くなった男性の写真の前で、一人の女の子が泣いていた。
まだ小さな、女の子だった。声をあげ、泣きじゃくっている。
「あの子、どうしてあんなに……」
真司は近くの老夫婦を呼び止め、その理由を聞いた。
すると簡単な理由が帰ってきた。どうやら亡くなった男性の娘らしい。
「まだ小さいのにねぇ。ついこの間、奥さんが病気で亡くなったばかりで」
これから二人で生きていこうと言っていた時に、男性はアルケニーに殺されたのだ。
兄弟はおらず、親戚もいるにはいるが疎遠だったため、今更である。
「じゃあ、あの子は……、一人ぼっち」
周りを見る。
その少女があまりにも気の毒で、他の人たちも泣いていた。
どうやら職場でも慕われる人だったのか、部下と思わしき人も涙ぐんでいる。
正義感が強い男性は、正しい事をしてアルケニーに殺された。
しかしそれは気の毒だが仕方ない事でもある。
いくら正しい事をしようが、ソレで報われるわけじゃない。
百人殺した殺人鬼と、一度も犯罪を犯さなかった人間、前者の方が幸せな一生を送る事はある。後者が理不尽に死ぬ事だってある。
これが世界だ。これが現実だ。でも、それでも、それが黒に染まっていい理由にはならない。
「マミちゃん、俺もほら、良く分からないけど……、分からないけどさ」
真司は周りを見る。
もう一度、マミも周りを見た。
「人が死ぬって、こういう事なんじゃないかな」
会場には多くの人間がいる。
喪服を用意して、遺族は葬儀の準備だったり、そういう事に日程を費やす。
人が一人死ねば、それだけの時間、お金、場所、そしてこれだけの人が喪にふす。
「マミちゃん、あの子を見て、どう思う?」
真司は拳を握り締めた。
「こんな事、言っちゃいけないのかもしれないし、もしかしたら偉そうとか、勘違い野郎とか言われるのかもしれないけど……」
それでも、思う。
「俺はあの子が、可哀想で仕方ない……!」
親とは喧嘩をするものだ。
もしかしたら本当に嫌いになって、中には殺してしまうヤツがいる。
しかしそれでも、その時になるまでは、好きだったはずだ。
そんな事ももう、あの子は。
「男の人だって、おかしいだろ……! あんな、なんで、こんな――ッ!」
確かに、生きている意味は分からない。生きている価値が自分にあるのか聞かれれば首をかしげる。
だがそれでも、死ねと言われれば『イヤだ』と声を張り上げるくらいには世界に生きているつもりだ。
生きていても良い筈だ。その権利くらいは持っている筈だ。
誰もがみんな、そうであると。
「なのに、あいつ等は……」
周りに迷惑が掛からない様に小声ながらも、真司はしっかりと
魔女もそうだ。魔獣もそうだ。人もそうだろう。しかしそれでも、歪な死だけは否定したい。
「アイツ等に対抗できるのは、俺達だけだ」
「真司さん……」
「覚えてるんだ。他にも、俺は」
「え?」
一つだけ、まだ、真司にだけ与えられた記憶がある。
ジュゥべえのサービスなのだろうが、その記憶は真司の心をより激しく燃え上がらせた。
「俺は、
正義とかそういう立派な理由じゃあない。
「悔しくないのかよマミちゃんは、あいつ等は、俺らの命でゲームをしてたんだぞ」
「それは――、でも」
「何がフールズゲームだよ、ふざけんなって話だよ。俺は魔獣が嫌いで嫌いで仕方ないんだ」
だから戦う。
「魔獣を倒すためなら、俺は、永遠に戦ってやる」
「……!」
「今の俺は、それが理由で戦ってるよ」
今のマミにとっては酷な話だが、人が魔獣に、魔女に殺されると言う事は、こういう事なんだと。
もしもこのまま魔獣を放置すれば、もっと犠牲者は増える。
きっとこの先だって、守れない命はあるかもしれない。
だがそれでも諦めてしまえば、もっと犠牲者は増える。増え続ける。
そして魔獣は最後に世界を支配する。
「耐えられないね、俺はそんなの」
そんな中で戦い合うなんて。
「それこそ、本当の愚か者じゃないか」
真司達は途中で会場を抜けだし、OREジャーナルに戻った。
途中マミは少しだけ令子と話せた。
「なんだかね、残念だけど、人の死って言うのに慣れはじめてきて」
報道関係の仕事をしているとほぼ毎日殺人事件の話題を取り上げる事になる。
その内に感覚が麻痺してきて、おかしくなる。しかし今回の件をみると、人の命は尊い物だとつくづく思う。
「だから、こう言う事を、いろんな人に知ってもらわないと」
言葉はデジタルデータだ。言葉は社会に溢れ、簡単に人を傷つける。
それは重い。言葉で人は死ぬ。ならば言葉で人は希望を抱く事ができる筈だ。
「そして真実を暴く。それで人は、納得できるし、生きられるのよ」
「………」
マミは立ち止まる。
「あっ、ごめんマミちゃん。俺今日は会社に戻らないと。流石にサボリすぎて編集長にマジで怒られちゃう」
「あ、はい。私の事は、お気にせ――」
「私に任せろ」
マミが驚いた様に振り返ると、そこにはウインクを決めるニコが。
「神那――、さん?」
「そう。神那ニコだぞ。ばちこん☆ 少し話そうか、巴マミ」
一方見滝原中学校。
コチラでも話し合いは行われていた。
少し時間を戻そう。
「何か悩みでもあるのか? まどか」
「お姉ちゃん……」
お昼も終わり、サキは中庭のテラスでまどかを見かけた。
いつもならばそのまま通り過ぎている所だが、なんだか見えた表情が寂しげだったので、声をかけてみた。人の少ない所を選び、二人は会話をする事に。
「さやかは?」
「うん、図書室でお昼寝してる」
「まったく、アイツは……。まあいい、話を戻そう」
何かあったのかと言う事だ。
今日のまどかは遅刻している。彼女はでは考えられ無い事だ。
「魔女がらみならば相談に乗るが?」
「あのね、実は――」
記憶を戻す事も考えたが、自分ひとりでは何かあってはマズイ。
ほむらは今現在、念のためにさやかに付いている。
いや、いや、まどかは今のサキの意見が聞きたかった。
「マミさんとお姉ちゃんの事、知っちゃって」
「え?」
「美幸ちゃんの事……」
サキの表情が変わる。両親の離婚が原因で、大好きな妹と離れ離れになってしまった。
そしてやっと再会できると言うときに、マミが乗っていた車と事故に合い、美幸はそのまま亡くなってしまった。
マミは自分の生存を願い魔法少女へ。
サキは妹が残したスズランの花の永遠を願い、魔法少女になった訳だ。
「お姉ちゃんは、マミさんのこと、どう思ってるの?」
「どうしてそんな事を?」
「うん、ちょっと……」
サキは少しため息をついてまどかに微笑みかけた。
「まあ、恨んでいないと言えば嘘だった。私がマミに近づいたのは、最初は復讐だったからね」
「今は?」
「今は――」
まどかは首を振る。
そうじゃない、そんな事じゃない。
「マミさんは死なないといけない人なの?」
「………」
サキは、笑った。
「そんな事は無いさ」
「うん。あたりまえだよね」
「ああ、ああ。死んで良い人間など……、いて良いものか」
まどかは虚空を睨んでいた。強い目で遠くの方を見ていた。
「ありがとう、まどか」
「え?」
「なんだか今の一言で吹っ切れたよ」
「でも、わたしは何も――」
「いや、いや。私はきっと背中を押して欲しかったんだ」
それは人間でも良い。環境でも良い。
心の中、僅かに残っている迷いを誰かに取り払って欲しかった。
「だがいけないな、こう言うのは自分で決めないといけない事なのに」
「お姉ちゃん。わたしずっと考えてたんだ。生きる事とか、死ぬ事とか、どこに、どんな意味があるんだろうって」
マミはその目的を見失い、苦悩していた。
しかし突き詰めてみると、そもそも考える事に意味はあるんだろうか?
悩む先に答えはあるのだろうか?
「よし。よし、よし!」
そうか、いや、ちがう? いやいや、やっぱりそうだ。まどかの中で巻き起こる苦悩と葛藤。
しかし忘れたわけではない、前回のゲーム、まどかが抱いた確かな欲望。須藤も色々あるだろう。
マミとて色々あるだろう。当然だ、人間だ、当たり前なのだ。しかし、ならば受け入れよう。
受け入れた上で自分の欲望を優先させよう。もう良い子でいるのは止めよう。
「サキさん。絶対にマミさんを嫌いにならないでね」
「ああ、ならないさ。どうしたんだい? 今日はいろいろ様子が変だよ」
「迷ってたの。でもね、ううん、もう大丈夫」
「本当?」
「うん。だってね、わたし、やっぱり一つだから」
「え? 一つ?」
「うん。夢とか希望とか、そういうの」
まどかは笑顔でサキを見た。
「みんなとお友達になるの。みんなが仲良くしてくれれば、わたしは本当に幸せ」
「そうか、そうだな、皆が友達の方が良いに決まってる」
まどかは頷くと、サキと別れた。
そして学校が終わり、一度家に戻るまどか。
マミの所に行こうか、須藤を止めようかを考えていると、予期せぬ客人と出会う。
「え?」
部屋の扉を開くと、そこにはポニーテールの少女が棚にあったぬいぐるみを興味深そうに観察していた。
少女はまどかに気づくと、ニコリと笑みを浮かべる。
「はじめまして、だよね? フフッ♪」
「そ、双樹さん!?」
「あっれぇ? 前も気になってたけど、どうしてわたしの名前知ってるの?」
双樹あやせはピョコンと小さくジャンプを行い、クッションの上に座り込んだ。
「ど、どうしてわたしの家が?」
「さっきまでね、わたし、後ろにいたんだよ☆」
「えっ!?」
正確にはルカがまどかを追跡し、家の中に入ったのを確認して二階から進入したと。
「鍵はかけておいた方がいいよ♪ 泥棒さんが入っちゃうから☆」
「は、はぁ。なにか飲みますか?」
「え? いいの? じゃあ甘いのがいいな♪」
と言うわけで二人の前にはリンゴジュースが。
ストローを軽く噛みながら、あやせは冷たいジュースを口に含む。
「んー、おいしい☆ あ、そうだ、ちょっとソウルジェム見せてくれない?」
「え? でも……」
「ちょっとだけで良いから。ね?」
まどかは頷くと変身。
魔法少女状態でソウルジェムを取り出し、あやせの前にかかげる。
「へぇー、綺麗だね♪ ピンク色してる」
「なんで気になるんですか?」
「だって綺麗だもん。わたしね、いつかソウルジェムをコレクションしたくって☆」
「でもこれは――」
「分かってるよ。命の宝石でしょ? でも、だからこそ綺麗。美しいんだよぅ」
「ダメです」
「え?」
「そんな事しちゃ、ダメなんです」
「………」
あやせはジットリとまどかを睨んだ。
「生意気。わたしの勝手だもん」
「でもダメです。命を奪う事になる」
「他の人たちがどうなったって知らないもん。わたしが幸せならそれで良い、そうでしょう?」
「わたしはそうは思いません。絶対にダメです。もしも双樹さんがそんな事をしようとしたら、わたしは絶対に止めます」
「はぁ? そういう意見、すきくない!」
あやせはテーブルを蹴ろうとしたが、その前にまどかは言葉を挟んだ。
「わたし、双樹さんと、お友達になりたいから」
「――ッ?」
足を止めるあやせ。まどかは立ち上がり、棚を漁る。
すると一つの人形を取り出した。うさぎいものキーホルダーだった。
「これ、好きなんですよね? わたしも好きなんです。かわいいですよね、うさぎいも」
「う、うん。好きだけど……」
「じゃあコレ知ってますか? ほら、地方限定なんですけど」
まどかは自分の手にあるうさぎいもを見せる。
「え!? し、知らない。こんなのあるんだ……!」
「そうなんです。ご当地限定で、ふふふ。ママが買ってきてくれて」
「へぇ! え? もしかしてその棚に」
「はい。ママの友達とか、パパの知り合いとか、わたしがコレが好きだって言ったらよくお土産で買ってきてくれて」
「へぇへぇ! いいなぁ!」
先程まで険しかったあやせの表情も、すぐに笑顔に変わった。
「もし良かったら、コレ、あげます」
「え? い、いいの?」
「はい、お友達のしるしに」
「え?」
「わたし、ぬいぐるみ大好きなんですけど、話せる人いなくって」
「う、うん。わたしも」
「えへへ、わたし達、良いお友達になれると思うんですけど。あ、これ知ってますか? ポマイヌくんって言って」
「知ってる! あ、凄い、大きいね! でもわたしのお家にあるやつはもっと大きいんだよ!」
「へぇ、本当ですか? 見てみたいなぁ」
しばらくぬいぐるみ談義で盛り上がる二人。
あやせはドールも収集しているらしく、まどかにとっても興味深い話であった。
そして、ふと、まどかが呟く。
「マミさんを助けてくれて、ありがとうございます」
「え? いや、わたしは……」
「ぬいぐるみが好きな人に、悪い人はいない。えへへ、わたしの自論なんですけど」
「………」
少し複雑そうに笑みを浮かべるあやせ。
「じゃ、じゃあ、まどかちゃんのソウルジェムは、まだ取らないであげる」
「えへへ、ありがとうございます」
なんだか不思議な気分だった。
ゲームが始まれば参戦派に変わるあやせも、こうして話してみれば笑い合えるのだから。
しかし表情を変えるあやせ。雰囲気が一変した、ギラリと鋭い瞳でまどかを睨む。
「まったく、あやせに任せると話が進まないのが困り物ですね」
まどかは理解する人格交代。目の前にいるのは――。
「はじめまして、私の名は双樹ルカ」
「……鹿目まどかです」
「見ての通り、我々は二重人格であり、それぞれがソウルジェムを所持しています」
ループの中、まどかの知っている情報が羅列されていく。
「何故、我々が情報を開示するのか、理解できますか?」
「え?」
「二重人格のそれぞれがソウルジェムを持つ事はキュゥべえいわく異例らしく。わたし達はそれぞれのジェムが破壊されない限り死ぬ事はありません」
ここまでの情報をまどかに教える理由は何か?
決まっている。情報交換である。なにもぬいぐるみの話をしに来たわけじゃない。
あのアライブ体、そしてディスパイダーとはなんなのか。
「ココまで情報を出したのです。其方も情報を我々に与えてください」
でなければ、この場で戦う事もやむなし。
ルカはソウルジェムを構え、半ば脅しとも取れる提案をまどかに投げかける。
「一つだけ約束してくれたら良いですよ」
「ッ?」
「無闇に人を傷つけるのだけは、止めてください」
「……それは我々が決める事だ。お前に指図される覚えは無い」
「それでも、お願いします」
「――フン。まあいいでしょう」
まどかは端的にではあるが、魔獣とアライブの力を説明した。
前者は、魔女以外の勢力が存在していると言う点をかいつまんで説明し、後者に関してはまどか自身もまだよく分からないと。
「わたしは魔獣を許せなかった。その想いが、きっと私のソウルジェムと呼応してくれたんだと思う」
「それだけであんな力を?」
「うん。あとは、なによりも騎士の人との絆が大事だって言ってた」
理解する事、理解しあう事。それは簡単にできる事ではない。
「アライブとやらを見せてもらう事は?」
「ごめんね、あの力は、わたしにとっても大切な力だから、簡単には――」
そこで鳴り響く携帯。
「どうぞ」
「あ、うん」
まどかがディスプレイを除くと、そこにはニコの名前が。
つまり何かあったと言う事だ。慌てて通話ボタンを押すと、すぐにニコの声が聞こえてくる。
冷静なトーンだが、その内容はあまりに穏やかではない。
『やばいぞ、魔獣が動き出した』
三日月の様に釣りあがる笑みが、そこにはあった。
空がオレンジ色に変わろうと言う時、三人の男女が並んで道を歩く。
「気張れよ、アシナガ、小巻」
アルケニーは気だるそうに首を回しながら左右を見た。
ポケットに手を突っ込み同じくアンニュイな表情のアシナガ。
戸惑いがちながらも前を見ている小巻は、それぞれしっかりと頷いた。
「今日で決着をつけるぞ。巴と須藤だけじゃねぇ、城戸の奴らも全員殺す」
体が発光すると、人の肉体が崩壊し、ディスパイダーが姿を現す。
さらに両隣も発光。アシナガはソロスパイダーへ。
さらに小巻もまた自らの肉体に埋め込まれた魔獣の力を解放。ジョロウグモ型のモンスター、『レスパイダー』へ変身を完了させた。
三体の蜘蛛は同時に糸を発射、それは前方を歩いていた親子連れ、その母親の背中に命中させる。
「フンッ!」
「きゃあ!」
突如背中に違和感を感じたと思えば、女性の体に走る衝撃。
レスパイダーは糸を操り、女性を近くにあった家の塀に押し当てると、さらに糸を発射。
手足や体に糸を付着させ、完全に動きを封じる。
そしてソロスパイダーも糸を発射。
赤い蜘蛛の糸は倒れた子供の口を塞ぎ、さらに壁に張り付いていた母親の口も拘束する。
「小巻、呼吸は?」
「してます」
「ならいい。鼻でも詰まってたら大変だからなぁ? ハハハ!」
泣き叫んでいるのだろうが、なにせ口が塞がっているのだからたいした音はでない。
ソロスパイダーは長い爪を触りながら母親と子供を交互に見る。
「まだ殺すなよアシナガ。殺せばカウントダウンが始まるからな」
「……分かっているよ。大丈夫」
ディスパイダーは母親の手から腕時計を奪い取ると、時間を確認する。
「10、9、8……」
謎のカウントダウン。
そして。
「ゼロ」
沈黙。
「誤差はおそらく20秒前後」
再びカウントダウン。
「18、17、16」
その時だった。声。
「ちょっと待てッッ!! 何やってんだアンタ等!!」
「はい、到着ー」
三体の蜘蛛が振り返ると、そこには魔法少女の姿のさやかが。
ディスパイダー達がアクションを起こしたのは、さやかの帰路。
つまりはじめからこの行動は、『さやかに見つかるため』に行ったのだ。
有無を言わさず投擲する剣。
しかし前に出たソロスパイダーが爪で剣を弾き飛ばすと、糸を発射。
それに合わせて残りの蜘蛛も糸を発射した。
糸はまるで意思を持ったように移動すると、さやかの足を縛り上げ、動きを鈍らせる。
「うッ! 何コレ! 動けな――ッ、きゃああ!」
通り抜ける様にソロスパイダーは爪でさやかを攻撃、怯んだ背中に蹴りが入り、さやかは地面に倒れる。ソロスパイダーは長い爪でさやかの足を縛っている糸を切り裂いたが、代わりに、背中を踏みつけて動きを停止させる。
「よく聞け美樹さやか」
「ッ! どうしてあたしの名前を――ッ!」
腕を組むディスパイダー。
隣にいるレスパイダーは縛り上げた子供を抱えていた。
「お前が知る必要は無い。大切なのは巴マミに伝える事だ」
「えッ?」
「今から、見滝原病院に形成されている魔女結界の中に来い。そこでアタシと戦え、一人でな」
「なんでマミさんが!」
「でなければこのガキを殺す。じゃあな、ハハハ!」
手をヒラヒラと振ると、あっと言う間にディスパイダーは糸を伸ばして跳躍。さやかの視界から消える。
ソロスパイダーもさやかを蹴り飛ばすと、鼻を鳴らしてディスパイダーの後を追った。
そしてレスパイダーも淡々と背を向け、糸を上空に伸ばすと、さやかの前から姿を消した。
「大丈夫、美樹さやか」
「あ、転校生!」
さやかを追尾していたエビルダイバーが危険を察知。
トークベントを介してほむらに危険シグナルを送る。
こうして駆けつけたほむらは、さやかの体を起こすと、怪我が無いかを確かめた。
「大丈夫そうね」
「うん、ありがとうね」
「いえ。それより――」
何があったのかを聞くと、さやかは壁に磔にされている女性を指差した。
既に意識を失っているのだろう。気絶し、力なく腕を下げている。
ほむらはナイフを取り出すと糸を切断、女性を地面に寝かせて、ため息を一つ。
「まいったわね……」
「まいったよな、魔法少女になるのは」
河原、そこにあるベンチにニコとマミは腰掛けていた。
キラキラと光る水面を見つめながら、ニコは手に持っていた石を投げた。
放物線を描いたそれは、ボチャンと音を立てて水面を揺らす。
マミはただジッとしていた。
記憶のなかにあるニコは、ほとんどが参戦派だが、別にそれでも良い。
つまりココでニコに裏切られても仕方ない、それでいい。そんな思いすらマミには宿り始めていた。
「魔女とかはまあ良いけど、問題は力があるって事だね」
銃と同じだ。
いつも懐に忍ばせている銃。しかもそれで人を撃っても良いのだ。
警察は魔法を理解できないし、ましてや仮に追われても人間程度ならば皆殺しにできる。
魔法少女の力とは、そう言うものだ。
「全うに生きようとした事があるんだ」
ニコは今、存在しない人間である。身分証明書等は全て魔法で偽造している。
だがそれを利用してニコは一時期バイト生活に勤しんだ事もあると。生きていく為にはどうにもお金がいる。
それまでは偽札を生成していたが、やはりそれではダメだと言う良心があったからだ。履歴書は魔法で作り、なんとか働ける所まではこぎ付けたのだが。
「まずは何か変な工場だったんだけど、ニコちゃん二時間で止めちゃった」
「えぇ?」
「だってなんか面倒なんだもんな。教えるヤツなんかちょっとウザかったし」
魔法少女の悪い所だ。ニコは適当に見つけた木の棒をマミに見せる。
そしてその棒先を、適当な場所に向けた。
「レンデレ・オ・ロンペルロ。ちょっと魔力を込めりゃ、コレで相手はお陀仏よ」
いくら攻撃力の低いニコだとしても生身の人間くらいは簡単に殺せる。
「ムカつく奴全員にぶち込んでやったぜ。ハハハ――、ハ。や、すまん、笑い事じゃないわな。悪い悪い。でも殺して無いから、半殺し程度だから」
「程度って……」
「いや、流石に反省したね、あの後は。だから次は絶対やめんぞな、って」
ニコ、渾身のバイト第二段はおすし屋さん。
厳しいながらも愛のある大将のもとで、ニコちゃんは頑張ります。
「二日で辞めたね。厳しいながらも愛があるとか周りはとんちんかんな事言うけど、いや、厳しいのがウザイんですけど」
「な、なんて言ったらいいのか――」
「だって、ムカつく奴すぐ殺せるんだぜ? もう少しで大将を三枚おろしにしてたよ私は」
次、本屋さん。静かなところでニコちゃんは働きます。
「先輩がウザすぎて三日で辞めたね。なんか気持ち悪い奴でよ。はは、言ってる事他とちげーし、ニコちゃん怒られたし、アイツ嫌いや」
焼肉屋、スーパー、服屋、お惣菜屋、結婚式場、最大でも一ヶ月未満でニコは辞めている。
「もちろんどの職場もムカつく奴には魔法の一撃をお見舞いしてやったぜ。嫌な奴だとケツにロケットぶち込んでやったし。フッ、アイツもうウンコできねーぜ?」
ドン引きのマミを見てニコは頭をかく。
「ありゃ? 失言だったかね」
「ダメよ、神那さん、そんな事……」
「だって言っただろ。魔法が使えるんだ、それくらいはするさ。あ、でも勘違いするなよ、今はしてないから」
とは言え、するにはしていた。
それは事実だ。ループの中、一度や二度じゃない。
嫌いな人間がいれば殺しまではしないが傷つける。力を持つ者の特権だ。
「でも、キミはそれをしなかった」
「え……?」
「参戦派に回った事はあるけど、それはゲームが始まってからだ。それ以前には、私の記憶にある限りでは、巴マミはかなり良い子だったぞ?」
人を守るために魔女を倒す。魔法で人は傷つけない。
「それは、何も知らなかっただけ」
「私だって何も知らなかった。でも傷つけてた。それで気分が晴れてたから」
「私は魔法少女は、正義のヒロインだと思ってたから。でも全てを知った今では、それは酷く滑稽だったわ」
「何を言ってんのさ」
「?」
ニコは木の棒をへし折ると、適当な場所に投げ捨てる。
「全てを知った今、私はキミのあの行動が正しいと思ってるけどね」
「どうして? 裏切られるのに、苦しむのに」
「殺人鬼よりは、ヒロインの方が余程良い」
「それは――」
「だいたい、ダラダラ生きててたって、しょうがないだろ。生きている間に何を成すかが大切だ」
「仕方ないと割り切れれば、いいけれど……。私は怖かった。死ぬのが」
「じゃあ殺人鬼になるのは怖くないのか?」
「!」
「私は友人二人を撃ち殺して魔法少女になった。おかげで食い物の味はしなくなるし、夜は寝れねーわで。あとはそう、本のページをめくるとか、ゲームを進める事すらできなくなった」
未来が怖い。娯楽が怖い。散々だったと。
「それを忘れる為に戦ったけど、まあやっぱりアレだな、鹿目や城戸の姿を見て、あっちの方が良いって思ったよ」
たとえ裏切られて死んだとしても、そっちの方が良いのかもしれないと思った。
「生きる事が正義だと思ってたが、まあどうにも……、そう言う事でも無いらしい」
何の為に生きて、なにをするのか、それだけだ。
「誇れる事だと思うけどね、私は、キミの行動」
「………」
その時、ニコの携帯が震えた。
「はい、もしもし。うん、おん、ほん。にょーん。へぇ、はあ、なるほど、おけ、わかった」
電話を切ると、ため息一つ。
「魔獣の奴がアンタを呼んでるね」
「え!?」
「あの蜘蛛女だ。なんか、チビガキを人質取ったみたい」
「大丈夫なの!?」
「さあ? アンタが来れば返してくれるらしい。まあ嘘だろうけど」
ニコは大きく伸びを行って立ち上がる。
「魔獣はキミと一対一をご所望らしい。どうするの?」
「どうすればいいの……?」
「自分で決めた方がいい。人に決められちゃ、それだけで逃げ道になる。だから私は自分で選んだよ」
ニコは自分を模した小さなぬいぐるみを地面に置く。
魔法で作った偵察人形だ。これでマミに何かあってもすぐに分かる。
ユニオン、クリアーベント。ニコは透明化すると、病院にある魔女結界を目指すと言う。
最後に、一つだけマミにアドバイス。
「知らないことは罪か? 口に出してみろよ」
正義の魔法少女、巴マミちゃん。
全てを知って割り切った殺人鬼クソ女、巴マミちゃん。
「く、クソ女って……!」
「今なら私は言えるけどね。参戦派はクソだって」
クソのまま生きるなら、いっそ死んだ方が良い。
「それに、さやかやサキが待っているのは、前者の方だろ」
「………」
「チャオ」
ニコは河原を歩いていく。無表情だが、内心は決意に満ちていた。
マミに偉そうな事を言ったんだ。少しは自分も力を見せなければ示しがつかない。
やはり気になったのは力の差だ。ムカつく話だが、魔獣と自分では実力に大きな違いがあるらしい。いくらサポート型と言っても、それは言い訳でしかない。
だからこそニコは考えていた。所謂、新たなパワーアップが必要なのではないかと。
「べぇやん、いるか?」
『いるぜー、なんか大変な事になってるっぽいな』
「あー、その事じゃないんだわ」
『?』
「ちょっと聞きたいんだけど、お前キュゥべえどう思う?」
『そりゃあ先輩ってばマジリスペクトだよな。あの契約の腕前と良い、オイラなんかじゃとても追いつけねーよ』
「んー、やっぱそうかー。いや実はな、私も最近べぇちゃんってスゲーなーオイって思いはじめてきてさ」
『おーおー! そりゃ当然だぜ!』
「もはや、べぇ様って感じ? あの殺しても殺してもゴキブ――、まるで宇宙に光る星の様に新たなキュゥべえが生まれる様とかマジかっけぇって言うか」
『分かってんじゃねーか神那ニコ』
「それでさ、ちょいとこさお願いがあるんだけども」
『?』
「いやーね? ぜひもっとキュゥべえ様のことが知りたくてさぁ」
貼り付けた様な笑顔も、ジュゥべえにとっては本当の笑顔に見えるのだろう。
すまんの。ニコは心でそう謝りながら、病院を目指す。
その途中、まどかに連絡を入れたという訳だ。
まどかはサキや真司にも事情を説明、アルケニーへの警告を告げる。
そして、真司との会話中、まどかは口にした。
「お願いがあるの。真司さん」
『ああ。分かってるよ、まどかちゃん』
これはただの戦いではない。
しかしそのためには別行動をしなければならない。
真司としてはそれが少し引っかかる話であった。
前回のゲームで真司はまどかから離れ、結果的にお互いの命を散らす事になった。
もちろんそれが原因ではないとは言え、真司としても思う所がある。
もちろんそれはまどかも同じだ。だが、それでも、今は……。
「これは、わたしの始まりだから」
『――ッ』
記憶にはある。元々は、別の世界。
「真司さん、わたしを信じて」
『ああ、俺も、絶対に連れて行くよ』
二人は電話切って立ち上がる。
それぞれ、やらなければならない事をするためにだ。
そして奇しくも、病院に行くためにはニコ達が座っているベンチ。それがある道を通るのが一番速かった。だから結果として、まずはサキがマミを見つける。
「やあ、マミ」
「サキ……」
「色々聞いたよ。尤も、きっとキミ達はもっと知っているんだろうけどね」
まどかはサキにもう告げていた。
魔獣の存在、そしてもっと大きな情報がある。
それらはいずれ、必ず話すから――、ただそれだけだった。
「それだけ? それだけで信じたの?」
「ああ、それだけで十分だろう」
サキはマミの隣に腰掛ける。
「行くのか?」
「迷ってるって言ったら、私は酷い人かしら」
「いや、無理もない。まさか魔獣なんて物が……」
サキはマミの表情を見る。
不安げにうつむくマミの表情は、サキも察する事ができる。
「なるほど。キミはもう深い所まで知っていると言うことなのかな」
「サキ……」
「まどかから聞いたよ。私の事を、知っているんじゃないか?」
「あの、なんて言ったら良いのか……」
マミの記憶には確かにあった。
サキが妹の件で、マミに復讐する記憶がだ。
しかしその記憶とは裏腹に、サキが浮かべていた表情はなんとも穏やかな物だった。
「なんて言えばいいのか、考えを言葉にするのは難しい」
「え?」
「マミ、私はキミの事を大切な友人だと思っている。それは本当だよ」
「……そ」
「?」
「嘘よ!!」
「!」
つい大声を出してしまった。
何も知らないからサキはそう言えるのだ。
きっとサキが記憶を取り戻せば今の発言は無かった事になるだろう。
それがイヤなんだ、たまらなく嫌なんだ。
するとサキはもう一度微笑んだ。
「確かに世界が違えば……、ほんの少し歯車が狂えば、私はキミの事を恨んでいたかもしれない」
「じゃあ――」
「でも、まどかがいる。キミと深く関わっている。だから私はキミを恨まないよ」
「……ッ」
サキは言う。人は、一人では生きられない。
一人では怒りを内包する事でパンクしてしまう。
きっとそれがマミを恨む理由に変わるのだ。
「でも、私はキミと知り合い、時間を共にしてきた」
「……ッ」
確かにそう言われると、記憶にあった『敵』のサキは初めから敵だった。もしくは関係が薄かった。
しかし今、つまり前回のゲームをベースにした今は、サキと深く関わり、ほぼ毎日共通の時間を過ごしている。
休日には一緒にケーキを食べに行った事も、映画を見た事もある。
もちろん、魔女と戦った事も。
「キミの努力を、私は一番近くで見てきた自信があるのだけどね」
「それは――ッ」
「キミは本当に凄い魔法少女だよ」
マミは言葉を失った。
何を言っていいのか、何も分からずサキを見る。
向けられている眼差しは間違いなく尊敬のソレであった。
サキも言わんとしている事は先程のニコと同じだ。
マミの行動を馬鹿だと笑う人間は多いだろう。現にマミ自身がそう思っているから。
しかし逆に、その行動が凄いと言う者もいるのだ。ニコや、サキの様に。
マイナスが目に入っている。ほむらの言葉がマミの脳裏を過ぎった。
「じゃあ私は行くよ。こんな私にも、何かはできるだろうからな」
ソウルジェムを構えるサキ。
雷光が迸り、サキは地面を蹴って走り出した。
脚力を強化しているのだろう。サキは僅かに電流を残しながら消えていく。
呆気に取られているマミ。すると先程までサキが座っていた場所に人の気配を感じた。
「え? きゃ!」
「ごめんなさい、驚かせたわね」
暁美ほむらは、わざわざ時間を停止してまでマミの隣にやってきた。
少し、ばつが悪そうな表情を浮かべ、躊躇う様に言葉を並べていく。
マミの方は見ず、ずっと水面を見つめながら。
「夕日を見ると、いろいろ思い出すわ」
「暁美さん? ど、どういう事?」
「つまり、えぇっと」
咳払い。
「貴女に色々言われて、心に刺さった」
「……事実でしょう?」
「ええ、ええ。紛れもなく。私は貴女を裏切り、時には背後から撃ち殺した事もあったわ」
「そんな貴女が、どうして私の前に?」
自分でも嫌になるが、嫌味を交えなければならなかった。
マミなりの優しさと拒絶だ。触れ合えばそれだけ傷も深くなる。だから言葉で遠ざける。
――なんて、考え、ほむらには分かってしまう。
理由? 単純だとも。同じ事を考えていたからだ。
「まどかは私を救ってくれた。孤独だった私に優しくしてくれて、今まで友達なんていなかった私と、友達になってくれた」
たくさんの希望をくれたから、絶対にまどかを死なせたくなかった。
「まどかは楽しい事だけをくれる。嬉しい事だけをくれる、最高の友達だったから」
ずっと病室にいたほむらは鳥篭の中の鳥だ。
漫画、アニメ、ドラマ、小説、テレビ、娯楽の中で笑うキャラクターと同じ事をしたいと何度願っても、それは叶わない。
勉強もスポーツも苦手な自分は誰も友達になってくれない。そう思っていたのに、まどかは違った。さやかや仁美は少し怖かったけど、まどかは優しくて、好きになった。
「映画、ケーキ、楽しい思い出は……、いつも彼女がいて」
頬をかく。ほむら
「なんて言うのか、勘違いもしてしまったかも」
「まさか、初恋とか?」
「ええ、ええ、今は違うわよ? でもやっぱり昔はまどかの事が好きすぎて、少し変な気を持ってしまった事もあったでしょうね」
「気にする事無いわよ、鹿目さんも、美樹さんが初恋の人だって言ってたし」
「そう、まあいいわ」
「ちょっと不機嫌になってる?」
「いいから、続き」
だから戦った。
まどかがいてくれれば、その想いで戦い続けた。
世界を敵に回しても、まどか以外を何人殺そうともだ。
「でも、今になって思うわ。私は本当に愚かだったと」
依存であったのかもしれない。と、思う。
前回のゲームでさやかに言われた事が、今、一番心にある。
ビルに押しつぶされそうになったときに助けてくれたさやかが言った言葉だ。
『ねえ、教えてよ。暁美ほむらの世界にはアンタとまどかしかいないの?』
「まどかは私を傷つけない。そんな存在じゃないのに……」
『戦い続けろ。自分が本当に望む世界を手に入れるまで』
手塚に言われた。
結局、自分自身でも分からない事を二人は簡単に見抜いていたのだ。
「私は馬鹿よ。馬鹿でのろま、人の気持ちを考えられない」
だから考えた。ずっと考えてみた。分かってる。分かってるんだ、もう。
ほむらは大きく息を吸う。そしてゆっくりと吐き出す。
全く、人を殺すときよりも緊張するなんて……、どういう事なんだコレは。
「巴マミ」
「な、なに?」
「………」
沈黙。肩を竦めるマミ。
ほむらはずっと前の方を見て固まっている。
「巴さん」
「は、はい」
言い直し。
「………」
沈黙。それは躊躇。
ほむらはもう一度深呼吸をして、マミを見た。
「マミさん」
「え?」
「あなたが好き」
沈黙。沈黙。沈黙。
「え……? はい?」
目を丸くするマミと、そんなマミからゆっくりと視線を外しながら水面を見つめるほむら。
顔がほのかに赤いのは、夕日のせいだけではない筈だ。
一方でマミは言葉の意味を理解したのか、アワアワと忙しなくほむらを見る。
「あ、いえ、そう言う意味ではなくて……。えぇっと、なんて言ったらいいのか」
「ご、ごめんなさい。急な話でビックリしたから……」
しかし割り入る黒。
それはマミとほむら、お互いに思い浮かべる言葉だ。
嘘なのではないか。なぜならば、好きな人間を殺すなどと、そんな馬鹿な事が?
「私は馬鹿だったから、愚かだったから、気づかなかった」
分かっている。大丈夫、ほむらは盾に手を伸ばした。
「今更こんな事って思うでしょうけど、それでも聞いて欲しい」
マミを撃ち殺した時のことを考えると、心が張り裂けそうだった。
なに、それはマミだけではない。さやかだって、杏子だって、今まで知り合ってきた者達も、今となってはそれだけの記憶があるから。
ほむらにとって、自分以外の12人は、もう、それだけ大きな価値のある存在だと気づいた。
特に、まどか、杏子、さやか――。
「そして、なにより、あなた」
ほむらが取り出したのはメイン武器であるハンドガンだった。
一瞬身構えてしまうマミだが、ほむらは気にせず、適当に地面に転がっていた石を掴むと、それを放り投げる。
そして射撃。小気味の良いリズムで放たれた弾丸は、見事に宙を舞っていた石を撃ち砕いていく。
「良い命中率でしょ?」
「ええ、凄い精度ね。私よりも、凄いかもしれない」
ますます自信がなくなり、うな垂れるマミ。しかしほむらは確かに首を振った。
「違う」
「え?」
「忘れたの? 巴さん」
ほむらは、珍しく、ニコリと笑みをマミに向けた。
「貴女が、教えてくれたのよ?」
「え……?」
瞬間、フラッシュバック。
今日みたいに夕暮れの河原、人の居ない場所まで移動して、ドラム缶を撃つ練習。
『普通の銃は反動があるから、魔法でなんとかできない?』
『あ、はい、やってみます!』
マミはほむらの後ろに立ち、手を添えて銃を一緒に持つ。
そして銃口を移動させ、照準を合わせる練習を一緒に行った。
『大丈夫、焦らなくて良いのよ? 暁美さんはセンスがあるから、きっとすぐに上達するわ』
『頑張れー、ほむらちゃん!』
『は、はい! 頑張ります!!』
その後は一緒にケーキを食べたり――。
「変な言い方だけど、楽しかったし、嬉しかった」
だってそうだろ?
弱い自分が強くなっていく実感があった。
それに、なによりも、教えてくれる人がいたんだ。
「巴さん。私にとって初めての友人がまどかなら、はじめての先輩は貴女なの」
「暁美さん――ッ」
「一度しか言わないわ」
ほむらは立ち上がると盾に手をかける。
「優しくて、かっこよくて、大好きな先輩」
クロックアップの発動。あまり時間はかけていられない。
「だからお願い。どうか私を許してください」
「………」
「そして、もう一度、先輩に――、友達になってほしい」
こんな事を頼めた義理ではないが、それでもほむらは頭を下げた。
「返事は後で聞かせて欲しい。私は魔獣の所に行くから」
「待って、暁美さ――」
ほむらの姿が消えた。
それは暁美ほむらの中にも恥ずかしいと言う思いが確かにある事の証明であり、同時に怯える弱さがある証明でもあった。
この先に、もしもマミに拒絶されれば、ほむらはきっとより深い痛みを味わうと分かっているからだ。それに口にした言葉も嘘ではない。時間を止められる力は人質を助ける部分で役に立つかもしれない。
一方取り残されたマミは、どうしていいか分からずと言った表情で尚も水面を見ている。
そして、最後に、桃色の光。
「わたしの、わたし達の夢なんです」
「鹿目さん……」
まどかはニコリと優しく微笑んでマミを見つめた。
夢、それは13人の魔法少女、13人の騎士。ああいや、もはや今となっては15人の騎士と、いずれ現れるだろう一人をプラスした15人の魔法少女、みんなと友達になる事だ。
「旅行とか、できたら良いですよね? なんて、えへへ」
「無理よ……」
「わたしは諦めません。それに、わたしも同じなんです、ほむらちゃんと」
嫌な記憶はある。あるが――、同時に良い記憶だって確かにある。それを無視はしたくなかった。
確かに、自分達は不確かな存在だ。ループの前では全ての言葉は空となり、全ての行動は嘘になってしまうのかもしれない。
しかしだとすれば、自分達を証明する物はなんなのか。
今を構成するのは一体どういう物質なのか。まどかはずっとそれを考えた。
「やっぱり、願いなんじゃないかって」
「願い――、それが魔法少女だものね」
「はい。今のわたしは守護魔法。みんなを守りたい。そしてなにより、守った先にまだ願いがあるんです」
それが先程の皆と友達になる事だ。
願いはきっかけでしかない。今だ。今なんだ。
大切なのは全て今、自分が立っている今と言う時間。
「マミさんは、生きて、何がしたいですか?」
「それは――ッ」
傷つくけど、悲しいけど、既に痛みすら感じないほどの場所でマミは生に手を伸ばした。
何故か? 死が怖かったからだ。死にたくなかった。
何故か? 決まっている。幸せになりたかったからだ。
まだ死ねない、まだ死にたくない、だってまだ――。
幸せじゃない?
分からない。
大好きだった父と母を失ってまで生きる事が幸せなのだろうか?
分からない。生きて、生きて、生き抜いて、その先に何を見たんだろう?
「生きる意味が、分からない」
「ありますよ、マミさんが生きる意味」
「え?」
「少なくとも、わたしとほむらちゃんは救われました」
そも、概念になった世界軸で、まどかはマミに命を助けてもらった。
だから生きている。だからココにいる。
マミの力が、マミの存在が、まどかを存在させたのだ。
「ありがとうございました。マミさんがいてくれたから、わたし、ココにいるんです」
「!」
いてくれて、ありがとう。
それは存在への感謝。存在の証明。
自分と言うものを構成する確固たるアイデンティティの証明。
まどかは微笑み、感謝をマミに示した。
「分かります。不安とか、怒りとか、恐怖とか、わたしの中にもあるから」
しかしそれでも、本当に見たい景色がある。
だからあえて、あえてだが、まどかは言おうじゃないか。
少し照れくさいが、こんな事を自分が言うものではないのかもしれないが、それでも言おう。
軽く思われても、立場違いでも、伝えなければならないのだ。
「マミさん、生まれてきてくれてありがとうございます」
「!!」
「だから、生きてください。どうか生きて、どうか、また一緒に戦ってくれませんか?」
まどかは手を出した。
「わたし達には、マミさんが必要なんです」
「―――」
よく分からないが、涙が出た。
マミは呆然とまどかの手を見つめながら、ゆっくりと下を向く。
「でも、鹿目さんはもう私がいなくても……、大丈夫じゃない」
「なにが大丈夫なんですか?」
「え?」
「わたしは、マミさんがいないと寂しいです」
またマミの家で皆で集まりたい。
ただそれだけ、そんな簡単な理由だ。先輩とか魔法少女とかどうでも良い。
一人の友人として、マミと言う人間が必要なんだ。
「それにわたし、マミさんに憧れてるって事、変わってません」
「鹿目さん――ッ」
「マミさんはわたしの、ヒーロー……は違うのかな? ヒロインです。えへへ」
マミはうつむき、涙をボロボロと流し始めた。
「私もね、苦しかった。暁美さんの言うとおり」
殺す時、殺される時、胸が張り裂けそうだった。
ただ魔女に殺されるだけならば、あるのは純粋なる恐怖だけだろう。
しかし怒りや悔しさ、悲しみ、そんな感情がグチャグチャになるなんて、それは言い換えればそれだけの想いがあるからだろう。
そうか、そうだな、その通りだ。マミはグシグシと目を擦り、直後、まどかを見た。
「私でいいの? 鹿目さん!?」
「もちろんです」
「まだ恐怖は拭いきれない。まだ躊躇は消えないの!」
「……はい」
「疑心暗鬼が心を壊そうって闇を出してる!」
「それで良いんですか?」
「ッ!」
しかしそれでも、マミは思うのだ。
「嫌……! イヤッ! このままじゃ苦しい! 前に、進みたい――ッ!」
まどかは深く、強く、頷いた。
「マミさんじゃないとダメなんです」
まどかは一度、マミを抱きしめた。
柔らかい感触と優しい匂い、マミは思わずまどかの背に手を回す。
「でも本音を言えばちょっと安心したって言うか」
「え?」
「マミさんでも悩んだり苦しんだりするんだなって。えへへ、わたしだけじゃないんだって、自信つきます」
「も、もう!」
「だから、あはは、ごめんなさい。なんていうか、きっと、たぶん」
離れるまどか。
そしてもう一度、手を差し出した。
「マミさんは誰かを強くしてくれる。だから弱さも、強さなんですよ」
「……そこまで、言ってくれるのね」
「あたりまえです。わたし、マミさん大好きだもん」
まどかは満面の笑みをマミに向ける。
思わず、マミも唇を吊り上げた。
「もう一度、正義のヒロインになりましょう。一緒に!」
「まだ間に合うのかな? 私」
「絶対に間に合います。マミさんがそれを望むなら」
参戦派がいいのか、協力派がいいのか、現実とかもうどうでも良い。
自分がどうありたいのか、どんな道を歩みたいのか、それをまどかは知りたいと言う。
それが貴女の、本当の想いだから。
そしてもう一度、お願いだと、まどかは口調を強めた。
「一緒に、魔獣を倒しましょう!」
「………」
「こんなゲーム、早く終わらせて、みんなでまたご馳走とケーキを食べましょう!」
その言葉に、思わずマミは吹き出した。
いつだったか、まどかの願いがもう少しでご馳走とケーキになっていた事があったか。
そうか、そうだな、あの時は、楽しかった。
「ダメね、私、こんなんじゃ、また皆に笑われちゃう」
マミはいつもの様に、優しく微笑むと、ゆっくりと腕を上げる。
「わたしだってね、皆に言われて怒ってるのよ」
杏子やユウリの煽りが頭に浮かぶ。
「と、豆腐メンタルとか、で、でででデブさんとか!」
「ひ、酷いですね」
「本当よ! だから! だから――ッ!」
マミは笑った。
「もう、格好悪い姿は見せられないわ」
「!」
「取り戻さないと、カッコいい私を」
マミは、確かに、まどかの手を取った。
サキ、ほむら、まどか、そして真司に言われた言葉。
結局、どう生きるのか。マミは選ばなければならない。
一番怯えていた事を考える。それは傷つけあう事だ。
そうだ、マミは怖かったのだ。戦う事が。
それがもし、協力してくれると言う人が居るのなら、それはマミとしても喜ぶべきものではないか。
怖いが、怯えるが。それでも、まだ心にある理想を形にしたいと想う『青さ』くらいは持っている。
一度は憧れた道だ。一度は誇りに想った道だ。そう簡単に人間は変われないさ。
「どうか、裏切らないで」
「もちろんです」
「だったら、期待は裏切らないわ」
マミは儚げながらも、笑みを浮かべて前を見た。
正直、不安で仕方ない。吐き気もする。心臓が破れそうに苦しい。
この手を取ると言うことは、ディスパイダーに戦いを挑まなければならない事だ。
死ぬかもしれない。逃げたい。
だが、悲しくはなかった。期待の中で死ねるならば、それもまた一つの答えなのかもしれない。
マミは立ち上がり、まどかと共に夕焼けの道を走り出した。
「須藤」
「!」
捜査で訪れていた『見滝原郷土資料館』。
既に閉館時間になっているため、人の気配はほとんど無い。それが手塚には好都合だった。
いきなり現れた少年に、須藤の隣にいた美佐子は目を丸くする。
「誰? 知り合い?」
「ええ。少し。石島さんは先に戻っていてください」
「でも――」
ギョッとしたように美佐子は肩を竦める。
「凄い顔よ、須藤」
「……まさか。大丈夫ですから」
美佐子は少し訝しげな表情を浮かべていたが、須藤を信じて立ち去った。
信頼されているのは、それだけこの時間軸で須藤と言う人間が出来上がっているからだ。
信頼されるに値する人物であると言う事。それが少し皮肉な気がして、手塚は唇を吊り上げた。
「アンタ。今は、どんな気持ちなんだ」
「私でも分からない。ただ、体の中に大きな何かが蠢いているのが分かります」
万引きが中毒になる主婦を補導した事があるが、あの時は全く意味が分からなかった。
しかし今は違う。その気持ちがよく分かる。
スリルの果てに、ゴールを目指したくなる。
そして何よりも、人への怒り。
「騎士になってから、人との一線が引かれた」
「分かっているのか。超えてはならない線だぞ、それは」
「本当にそうでしょうか?」
携帯を取り出す須藤。
ニュースを見ればため息。今も人は人同士で争いあう。
誰かを殺したい、金のため、性のため、自分のため。下らないと嫌になる。
「この力があれば、世界を支配する事ができる。何が悪か、何が正義かを私が決める事ができる! 素晴らしいとは思いませんか」
「どうするつもりなんだ、お前は」
「ゲームに乗るのは悪くない、そういう話ですよ。願いを叶えることは魅力的だ」
「……巴マミ」
「?」
「ゲームを運営していた魔獣が、巴マミを狙っている」
既に情報を得ていた手塚。
アルケニーがマミを狙っている事を須藤に伝える。
すると若干の沈黙の果て、須藤は首を振る。
「私には関係ないことです」
「本当にそう思うのか?」
「あなたこそ。私達の絆など、まるで砂の城だ」
「………」
マミを助けに行くより、今も尚増え続けている屑を殺しに行った方が須藤としては有意義なのだ。
「私は世界を支配する。悪は根絶し、屑共は皆殺しにする。そして頂点を目指す、これが――」
耳鳴りが。
刹那、鏡から赤いシルエットが飛び出してきた。
そして鏡が割れる音。破片の様に砕け散った装甲の中から真司が姿を見せた。
「聞かせてもらったよ、須藤さん、アンタの話」
ライドシューターとは本当に便利な乗り物だ。
それなりの距離でもすぐに到着する事ができる。
真司は須藤を真っ直ぐに睨み、そして指を刺す。
「アンタ、間違ってるよ」
「はぁ?」
「ゲームに乗るとか、殺すとか、そういう事を俺達は絶対にしちゃいけないんだよ! どうして分からないんだ!」
「………」
「また繰り返すのかよ! まだ足りないのかよ! あんな馬鹿なゲームをまだ繰り返すっていうなら、アンタは相当の馬鹿だよ!!」
「――ッ」
いや、いや、違う、ダメだ。真司は首を振る。
こんな話をしに来たんじゃない。こんな話はきっと、騎士だけの話なんだ。
それを繰り返しに来たわけじゃない。だって今は――!
「ごめん須藤さん。でもお願いがあるんだ」
「お願い?」
「ああ、マミちゃんを一緒に助けに行こう! それで、こんな下らないゲームを一緒に終らせるんだ!」
「馬鹿な事を。終りませんよ。フールズゲームは人間が参加する以上ね」
「やってみなくちゃ分からないだろ! どうしてアンタ等は毎回おんなじ事を言って断るんだよ!」
「繰り返すからですよ。人は同じ事をね」
デッキを取り出す須藤。これ以上下らない話を続ける気は無い。
チャンスが生まれたなら、また繰り返すだけだ。
そして今度こそ理想を現実に変えてみせる。
「キミは戦えないでしょう? そういう男だ、よく覚えてる」
「……いや、俺は戦う」
「なに?」
「俺は約束したんだ。傷つけるかもしれない、傷つくかもしれない、でも絶対にゲームを止めてみせるって」
先にデッキを突き出したのは真司だった。
なんと珍しい。息を呑む手塚。一方で須藤も目の色を変えてデッキを前に突き出す。
同時に構える真司と須藤、そして二人は同時にデッキをVバックルへ装填した。
「変身ッ!」
「変身!」
走る龍騎とシザース。
そして二人は眼前にまで迫りあうと、それぞれ拳を構えた。
シザースの読みはただ一つ。本気で人を殴れない龍騎の力ならば、シザースの装甲の前では無力だろうと。
思って、いたのだが。
「ッ! 何!」
シザースが突き出した拳を、龍騎はしっかりと受け止めていた。
そして素早く腕を掴み、龍騎本人は拳が震えるほどに力を込めている。
「ンンンンンン!!」『ストライクベント』
「!」
龍騎は距離を詰める時点でカードをセットしていた。
つまり初めから戦うつもりだったのだ。だからこそシザースを見ながらカードを抜き取り、バイザーへ入れるまでの動きがスムーズに行えた。
「ま、待て――ッ!」
「こんのォオオオオオオオオ!!」
「グアアアアアア!!」
胴体、まさにシザースの装甲が一番厚いところに叩き込まれた龍騎の拳。
にも関わらずシザースの全身を包むほどの熱。激しく熱を伴いながら、さらにシザースの体が大きく浮き上がる。
宙を舞う感覚、空を下にしながらシザースは近くにあったモニュメントに直撃した。
すると体が沈む感覚、奇しくもそのモニュメント、表面が世界を『反射』していたのだ。
ミラーワールドに入ったシザースは地面に叩きつけられ、そのまま地面を転がっていく。
「ぐッ! こんな馬鹿な!」
肺から空気が溢れ咳き込むシザース。
いくらドラグクローを装備していたとは言え、この威力はおかしい。
すると龍の咆哮が聞こえる。見れば龍騎の周りを旋回するドラグレッダー、そして口の中が光るドラグクロー。
「クッ!」『ガードベント』
「ハァアアア!!」
シェルディフェンスを構えるシザース。そしてそこへ昇竜突破が放つ炎弾が迫る。
熱、光、シザースの盾に直撃した炎の塊。すると瞬間、激しい熱波が衝撃となり爆発した。
再び浮き上がるシザースの体。盾が吹き飛ばされ、そのまま空中をきりもみ状に回転し倒れる。
「なんだコレは!!」
ありえない。シザース一番の武器は防御力だ。
なのに今、龍騎の攻撃がことごとくその防御を貫いてきている。
何故? ありえない、シザースの記憶には龍騎の攻撃の数々を防いだ実績が――
「まさかッ!」
そう、そうか、そうなのか。
シザースの脳に浮かぶ唯一無二の答え。間違いない。
龍騎の力が上がっている。いや、そもそも、今までシザースは龍騎の本気を見た事が無い。
当たり前だ、龍騎が本気を出すのは魔女戦。それも事実を知らないときのみだ。
そして一つ、リュウガ戦。それ以外は真司は常に葛藤してきた。
だが今、龍騎は至ったのだ。自らが本当に導き出すべき答えに。
「もう俺達だけじゃない」
「!」
ドラグバイザーが消えていた。
そして龍騎の手には、ドラグバイザーツバイが握られていた。
刹那、巻きあがる炎。シザースの視界に広がる烈火。
「俺は馬鹿だけど、これ以上馬鹿な真似をし続けるわけにはいかないんだ!」
「……ッ!」
「須藤さん。アンタが言ったんじゃないか! 騎士は、魔法少女を守る存在なんだって!」【サバイブ】
須藤が拒むなら、意地でも思い出させてやる。
龍騎はその意思を勇気に変え、『サバイブ・勇気』を発動した。
激しい炎が龍騎の身を包み、直後鏡が砕け散るように炎が弾け、中から龍騎サバイブが姿を見せる。
「マミちゃんはアンタに憧れてたんだ! 思い出せよ! いつまでこんな馬鹿な事をやってるんだ俺達は!」
「クッ! なんだこの力は!!」
「命を無駄にするなよ! いつまでもダサい事してちゃ、まどかちゃん達に笑われる! 大人だろ、俺達はもう!!」
だが分かる。
須藤が間違っているとは口にできても、それが真実ではない。
なにも『正義=善』ではない。それは真司も分かっている事だ。
たった一度与えられた命はチャンスだ、だから須藤が生きたい様に生きるのは間違い――、ではないのかもしれない。
だが、思い出せ、この戦いに正義は無い。そこにあるのは純粋な願いのみ。
故に城戸真司はデッキを取ったのだ。ココに存在しているのだ。
「俺はもう迷わない。13人の騎士と13人の魔法少女――」
訂正。
「15人の騎士と15人の魔法少女、もう誰も死なせない。あんなクソみたいなゲーム、絶対に否定してやるんだって!」
大丈夫。できる筈だ。
須藤と言う人間が黒に染まったのは事実だが、白であった時も真司は知っている。
その可能性、諦められるものかよ。
「ウォオオオオオオオオオオオ!!」
龍騎が力を込めるとドラグバイザーが変形。
ソードベントは、ライアのトークベントのようにバイザーにセットせずとも発動が可能となる。
鋭利な刃、ドラグブレード出現する。
「おのれぇえッ!」
シザースもまた拳を握り締めて走り出した。
皮肉なものだ。また戦いか。しかし分かっている。これが真理なのだ。
上等だ、戦ってやる。憎しみを映し出す鏡を割る事もまた、拳を叩きつけなければならないのだから。
だから真司は、龍騎は迷わない。
「戦わなければ――、生き残れない!」
龍の咆哮が聞こえる中、刃がシザースの胸に届いた。
次回は月曜夜か、火曜辺りに二話分更新予定です。