仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第80話 いつまでも、謎の騎士ではいられない

 

 

「ォオオオオオ!!」

 

「ハァアアアア!!」

 

 

ドラグブレードとシザースピンチがぶつかり合い、競り合いを始める。

睨み合う龍騎とシザース。息を呑んだのは後者だ。龍騎の瞳の奥に、激しく燃える炎を見た。

見つめれば焼き殺される。そんな妄想が脳を駆けた。それは覇気、龍騎が放つエネルギーは熱波となりてシザースの心を焦がす。

 

そして現実も、また同じくしてだ。

ハサミでブレードを捕らえたが、龍騎が力を込めるとシザースピンチが強引にこじ開けられ、刃の隙間からドラグブレードがすり抜けて、そのままシザースの胴体を切り裂く。

 

 

「グゥウッ!」

 

 

火花を散らしながら後退していくシザース。

 

 

「お願いだ須藤さん! 俺にッ、力を貸してくれ!」

 

「黙りなさい! 鬱陶しい!」『フリーズベント』

 

「なんでだよ! とことん分からず屋だな!」【シュートベント】

 

 

シザースの前に現れたボルキャンサーと、龍騎の頭上から飛来してくるドラグランザー。

まず放たれたのは動きを封じるためのバブル。だがここで予想外の事が起こった。

空間が震えた。吼えたのだ、ドラグランザーが。

まるでそれは龍騎の中にある燻る心を表すように、強く、強く吼え叫んだ。

するとその龍の咆哮は、文字通り全てを振り切るように、全ての迷いをかき消すように、眼前にあったバブルをかき消した。

 

 

「そ、そんな馬鹿な!!」

 

 

仮にもシザースの技が、たった一つの咆哮にかき消された。

信じられないと立ち尽くすシザースの耳を貫くのは、エコー掛かった電子音。

前を見ると、ドラグバイザーを構えた龍騎が立っていた。

銃口に集中していく光、大技が来る。シザースが腕をクロスさせて身を丸めると、直後発射音が聞こえた。

 

 

「ハァアア!!」

 

 

ツバイから放たれたのは青白いレーザー。それがシザースの腕に当たると防御を崩す。

そして同時にドラグランザーが炎を発射しており、がら空きとなったシザースの体に直撃した。

炎を纏い吹き飛ぶシザース。ツバイから発射されるレーザーが相手の防御を崩し、そこへドラグランザーの炎が追撃を与える。

これが龍騎の新たなる力が一つ、シュートベント・『メテオバレット』だ。

 

 

「こッ、こんな馬鹿な! こんな力! 私は知らない!」

 

「手に入れたんだよ、俺は。もう迷わない。これは俺の、俺だけの力だ!!」

 

 

まどかの苦悩を知り、魔法少女の痛みを知り、ついに真司は至ったのだ。

城戸真司のあるべき姿。自分自身の正体を理解し、まどかに触れて変わった男の力であると。

 

 

「俺は――ッ、知ってる!」

 

 

ジュゥべえは城戸真司に教えてあげた。

それが城戸真司に与えられた恩恵だ。

前回のゲーム、皆がどんな最期を迎えたのか。その詳細だ。

 

 

「正しい訳が無い。納得できる訳が無い!」

 

 

ツバイを腰にセットし、龍騎は走り出す。

一方立ち上がったシザースも拳を構えて殴りかかった。

同時に胴体へ打ち込まれる拳。しかし龍騎の拳は炎を纏っており、着弾時に小規模の爆発が起こって、シザースはより後退していく。

龍騎は炎の中で、吼えた。

 

 

「マミちゃんは願いを失って悲しみの中で死んでいった!」

 

 

佐野は迷いと孤独の中で食い殺され、ゆまもまた迷いの中、光の炎に包まれて灰になった。

分かるか? 理解できるか? まだ小さい、人生の楽しさを知る前にゆまは死んだんだ。

それだけじゃない、それだけじゃないぞ。芝浦は大切な人を守るために命を落とし、あやせは泣きながら魔女になって闇に引きずり込まれた。

 

東條は英雄への答えを理解できずにルールに殺され。

手塚はほむらを守るためにルールに殺された。

守るために命を落とす、守るために他者を犠牲にする。

 

正しいのか? 馬鹿な、そんな訳は無い!

キリカは命を守ったのに疑問の中で死んだ。

北岡は病への恐怖や苦痛の中、自らの手で命を落とし。高見沢は欲望の為に死んだ。

 

なんだよ、なんなんだよ欲望の為に死ぬって。

おかしいだろ、ありえちゃいけないだろそんなの。

浅倉と杏子は本当に理解できない理由で死んだ。何故戦いの為に戦い、死ねるんだ?

もっとある筈だろ、生きる理由とか、生きたい理由とか。

そりゃ辛い事も多いけど、楽しい事だってあるのがこの世界なのに。

 

 

「俺は、俺は今ッ!」

 

「!」

 

「本当に怒ってるんだァアッッ!!」

 

「グアァアア!!」

 

 

龍騎の拳がシザースの脳を揺らす。

一瞬意識が飛んだ。だがその中で、確かに掠れる龍騎の声だけは聞こえて来た。

 

 

「俺のせいで、リュウガが生まれ、そして死んだ。ユウリちゃんだって死んだ! 美穂は! 美穂はッッ!!」

 

 

蓮も、かずみも、もっとあった筈なんだ。

こんな再会じゃない方法、そうしたらもっと単純な方法で笑いあえたはずなのに。

そして織莉子は魔獣に殺された。織莉子は世界を救う気だった。だったのに、それを魔獣はきっと馬鹿にしていたに違いない。

そしてサキ、ほむら、オーディン、さやか、そしてまどか!

ワルプルギス。何が最強の魔女だ。何が、何が――ッッ。

 

 

「分かるだろ、須藤さん! アンタも、結局何もできずに死んだじゃないか!」

 

「黙れッ! だからこそ、今回、私は私の道を歩んでみせる!」

 

「アレが!? あんなのが本当に正しいと思ってるのかよ! みんな悲しみながら死んでいった。満たされず死んでいった。それが正しい訳がないだろッ!」

 

「ッ!」

 

「言えるのかよ須藤さん! アンタはみんなの死が、みんなの人生が、本当に正しいものだって言えるのかよォオッ!」

 

「くッ! グゥウッ!」

 

「俺は絶対にそんな事は無いって言える! だからこそ、このサバイブを手に入れた。これは俺の最後の希望だ。腐ったループを革命()えるの力なんだ!」

 

 

その思いに偽りは欠片も無い。だからこそ至り、手に入れた。

自分でも自分の事が分からないのが人間の困った所だ。真司はそれを知っている。

 

 

「俺、考えてたんだ。須藤さん。ボルキャンサーが動かなかった理由を」

 

「何を……ッ! 言って」

 

 

前回のゲーム、須藤はさやかを殺す為にボルキャンサーに命令を行った。

しかしボルキャンサーは動きを停止し、それを遂行する事はなかった。主人である須藤に危険が迫っているにも関わらずだ。

 

なぜ? 須藤は理解できずに死んでいった。

そして真司もその理由が長く分からなかった。

ボルキャンサーに魔法が掛けられていたと言うことはなかった。

ダメージが蓄積されて動けない様にも見えなかった。

では何故? 今のシザースは分かっているのだろうか?

 

 

「それは――ッ!」

 

「俺には分かるよ、須藤さん」

 

「なにッ?」

 

「ミラーモンスターは、俺達の心の分身だ。性質を与えられ、存在する」

 

 

ミラーモンスターはその性質に従うかどうかで『なつき度』が上下する。

つまり自分に正直であればあるほど、アドベントを使わずとも助けに来てくれたり、スペックが上昇するわけだ。

サバイブの効果といえばそれまでだが、ドラグレッダーがドラグランザーに進化できたのは、きっと龍騎が魔獣に、フールズゲームに立ち向かう勇気を持てたからだ。

龍騎はそう、信じてる。

 

 

「ボルキャンサーの性質は、正義だろ!」

 

「!!」

 

「そうだよ須藤さん。ボルキャンサーは知ってたんだ! アンタは知ってたんだよ、自分のやってる事が正義とは違うって!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「そうだろ! だからボルキャンサーは動かなかった。何が正義だよ、マミちゃんを悲しませて、皆を苦しめて、そんなのが正義な訳ないだろ!!」

 

 

そうだ、須藤はまだ良心があった。

心の奥で自分の言う『正義』が理想とする『正義』ではない事を。

須藤が目指したのはもっと青く、馬鹿で、甘い。映画やドラマに出てくる様な、そういう正義だ。

 

 

「お願いだよ須藤さん、アンタ刑事だろ!!」

 

 

声が震える。感情が燃え上がる。

仮面の奥で真司は泣きそうになりながら訴えた。

 

 

「なんの為に刑事になったんだよ! 警察がそういうの捨てたら、終わりじゃないのかよ!!」

 

 

警察とは正義の象徴。皆が憧れるものだ。

それくらい馬鹿でも知ってる。

 

 

「マミちゃんを、皆を、自分を裏切るなよッ!!」

 

「――れ」

 

「本当は分かってるんだろ! いい加減に大人になれよ! 須藤ッッ!!」

 

「黙れェエエエエエッッ!!」『ファイナルベント』

 

 

ボルキャンサーの体が割れ、直後シザースの背後に現れる。

地面を蹴って飛び上がるシザース。そのままボルキャンサーがトスを行う。

 

 

「偉そうに! キミに何が分かるんです!!」

 

「分からないから言うんだろ! 偉そうな事でも言わないと、アンタ達は話を聞いてくれないじゃないか!!」【ガードベント】

 

 

シザースアタック。

体を丸めて高速回転で飛んでくるが、一方の龍騎の前にはドラグランザー。

全身から炎を吹き出しながら咆哮。その長い体を思い切り振るい、長い尻尾でシザースを弾き飛ばす。

 

 

「なにっ!」

 

 

ガードベント・『ファイヤーウォール』。

炎のカーテンを張る技だが、メインはドラグランザーの尾で攻撃を弾き飛ばす事だ。

シザースアタックは横からの攻撃に弱いと言う弱点がある。

それもあってか、攻撃が中断されたシザースは何度目か分からぬダウンを。

すぐに立ち上がろうと手に力を込めるが、その時、龍騎の言葉が頭に響く。

性質、正義、それは自分自身が――。

 

 

「……ッ!」

 

 

拳が震える。

一体、どこへ、流されるの?

 

 

「須藤さん! お願いだ! 俺に力を、貴方の力を貸してくれ!!」

 

「黙れ、黙れ黙れ黙れェエエッッ!!」

 

 

頭を下げる龍騎に、シザースは容赦なく殴りかかった。

だが異変。今はお願いの時間だ。龍騎は抵抗しない。だからこそ殴られ、蹴られ、地面に膝をつかされる。

それでも龍騎は頼んだ。なぜ? 決まっている。

須藤は、求めているはずだろう。

 

 

「須藤さんッ!」

 

「!」

 

 

一瞬、シザースの拳が止まった。

龍騎の眼前にて停止する殺意。龍騎は答えを出している。しかし自分は――。

交じり合う感情。羨ましいのか、眩しすぎるのか、分からない、理解できない。

だが龍騎は目障りだ。シザースは吼え、龍騎を殴り飛ばす。

 

 

「何が正しいのか、何が間違っているのか! それは、私が決める!」

 

「だったら分かれよ! こんな簡単な事も、分からないのかよッ!」

 

「うるさいッ! 黙れ!!」

 

 

蹴り飛ばす。龍騎は倒れ、苦しげに唸った。

 

 

「抵抗しないのか、馬鹿なヤツだ!」

 

「お願いに、攻撃はいらない――ッ!」

 

「死ぬぞ!」

 

 

シザースバイザーで龍騎の首を挟む。そのまま力を込め続けた。

切断する気だった。そうでなくとも、絞め殺すつもりだった。

が、しかし、力が入らないのも事実だった。そして龍騎はシザースの腕を掴む。

 

 

「死なない!」

 

「なに……ッ!」

 

「俺はもう、絶対に死なない! それに、絶対に殺さない!!」

 

 

龍騎は思い切り身を乗り出し、頭突きをシザースに打ち込んだ。

よろけ、後ろに下がるシザース。

龍騎を見ると、頭を抑えて呻いている。

 

 

「戦いは終わらない! 苦痛がある。苦しいだろ、痛いだろ!」

 

「きっと、まどかちゃん達の方が、痛かった!」

 

「!!」

 

魔法少女(まどか)ちゃん達の方が、辛かった筈だ!!」

 

 

マミの涙が見えた。まどかの涙が見えた。

その向こうに、自分がいた。哀れんでいる。悲しんでいる。

やめろ、そんな目で俺を見るな。私を見ないでくれ。

シザースは気づけば、龍騎からバイザーを離し、フラフラと後退していた。

咳き込みながら立ち上がる龍騎。まだだ、まだ気づいている。

 

 

「須藤さんも人間だ。家族がいるんでしょ?」

 

「!」

 

 

人間なんだ。生きてるんだ。子供の時があった。

母親にしかられたり、カレーライスが楽しみだった日もある筈だ。

父親と虫取りに行った日があるかもしれない、映画に行った事だって、きっと、ある。

友達がいたはずだ。好きな人もいたかもしれない。

生きてる、生きているんだ、当たり前だ。

だったら、夢もあった筈だ。

 

 

「須藤さん。アンタ――、昔の自分に胸ッ、張れるんですか?」

 

「―――」

 

「あぁいや、俺は別に正義とか、そういうのは良く分からないけど――ッ! 少なくともちょっとはマシに生きてるつもりだよ」

 

 

格好悪い姿を晒すのは辛いから、嫌だから、だからココにいる。

 

 

「どうなのさ、須藤さん。貴方は」

 

「………」

 

 

シザースは動きを止めた。そして自分の掌を見つめた。

 

 

「戻れない。もう、血に染まってる」

 

「勘違いだよ、ソレ」

 

「え?」

 

「コレは、最後のチャンスなんだよ。命は、たった一度きりなんだよ!」

 

 

まだ須藤は誰も殺してない。

たった一度、命はチャンスだから、だからどうする?

理想の自分を勝ち得るのか? それとも、憎しみを生み出す妥協案を作り出すのか。

 

 

「辛いけど、難しいけど、それが戦うって事なんじゃないの?」

 

「………」

 

「俺は、そう思ってるんだ」

 

 

もう一度、龍騎は頭を下げた。

 

 

「お願いだ須藤さん。殺すなんてダメだ、傷つけちゃいけなんだよ、俺達は!」

 

「……何が分かる。貴方に私の、何が分かるんですか」

 

「須藤さんが刑事だって事かな」

 

「!」

 

「馬鹿な俺でも分かるよ。警察は、正義の味方だろ?」

 

「―――」

 

「それに騎士って事。騎士はさ、魔法少女を守るんだよ」

 

 

シザースはフラフラと龍騎の前にやってくると、拳を握り締め、振り上げた。

肩を殴るのか。龍騎はそう思ったが、意外にも、拳はゆっくりと下ろされ、シザースは龍騎の肩を掴む形に。

 

 

「一つ、聞いても?」

 

「な、なんすか?」

 

「貴方の願いは、なんなんですか?」

 

「そりゃもう一つですよ。騎士と魔法少女、全員の生存! ハハハ!」

 

「フッ、貴方らしい。無理な話だ」

 

「いやッ! ちょ! だから!!」

 

「だが、なるほど、確かに、その方がいい」

 

「へ?」

 

 

シザースは崩れ落ちる様にへたり込む。

そして変身が解除された。

 

 

「分かっていました。半端にしかなれないことが」

 

 

浅倉の様にもなれず、真司の様にもなれない。

かと言って蓮や北岡の様に、絶対に叶えたい願いも無い。

 

 

「いややッ、浅倉みたいになっちゃダメだって! 須藤さん警察でしょ?」

 

「そう、そうです……。私は浅倉を捕まえるために変身した事もあるのに」

 

「その気持ちがあれば、大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

 

龍騎は手を伸ばした。

 

 

「まだ俺達はなれますよ、何かに」

 

「何か?」

 

「そう、魔法少女を守る騎士とかね」

 

 

それと、あと一つ。

 

 

「魔獣をブッ飛ばす、ヒーローとか」

 

「ハハ、ハハハ……」

 

 

須藤は呆れた様に笑った。

しかし確かに、その手を取った。

 

 

「そう言うのも、悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

少し、時間は巻き戻る。

病院前。

 

 

「ッ、キミが神那ニコか」

 

 

ニコは既にさやかには自己紹介を済ませていた様だ。

鹿目まどかの仲間、それを今は信じてもらうしかない。

ニコはサキにも同様の自己紹介を。

 

 

「魔獣絡みで仲間になった。ま、よろしくな」

 

「ああ。浅海サキだ。よろしく」

 

 

時間を停止して移動してきた為、既にほむらは病院の前に立っていた。

さやか、ニコ、サキ、ほむらは病院の真裏に回る。

すると駐輪場の端の端、そこに確かに魔法陣が見えた。

 

同じだ。

シャルロッテの力を媒介に病院に形成された結界。ほむらとしてはあまり良い思い出の無いものだ。

前回のゲームではこの中でマミが死に、さらに他の時間軸でもマミはよくシャルロッテに敗北していたのを覚えている。

 

 

「それにしてもどうする? まだマミさん来てないよね」

 

「一応こう言うの作ったんだけど」

 

 

指を鳴らすニコ。

すると空間が歪み、彼女の隣にバイオグリーザが。

 

 

「うわッ、びっくりした!」

 

「バイグリちゃんだ。長いか? グリちゃん。私の騎士の。はい、はいはい、はいどーも、ありがとね」

 

 

バイオグリーザは何かを持っていた様で、ニコは唸りながらそれを受け取る。

そしてバイオグリーザの頭を撫でると、再び透明化させて近くに待機させた。

 

 

「そういえばキミの騎士は?」

 

「アイツは性格悪いから来ないよ。それより、これ」

 

 

ニコが持っていたのは再生成で作ったマミの衣装だった。

魔法少女時の物をほぼ完璧にコピーしており、帽子と、マミの特徴的な髪型を再現したウィッグ。さらにはソウルジェムを模した飾りまで。

 

 

「これを着れば貴女もすぐにベテラン魔法少女。名づけて、即席マミさん・なりきりセットだ!」

 

「す、凄いな」

 

「あ! でもこれならッ、あの化け物を騙せるんじゃ……!」

 

「そう。これを、ほむらに着てもらう」

 

「私? なぜ?」

 

「決まってるだろ、お前の魔法だよ」

 

 

時間停止は人質救出のための切り札だ。

その為には何としてもマミが結界の中に進入しなければならない。

なによりもトリックベント、スケイプジョーカーがあれば致命傷を受けても回避できるし。云々。

 

 

「……仕方ないわね」

 

 

時間停止。着替えは一瞬だった。

一同の前には顔以外が完全にマミになったほむらが。

 

 

「おおー」「凄いな」「ほう」

 

 

よく見なければ、マミにしか見えない。

ましてや魔獣にとってはあくまでも他種族のため、本気でバレないのではないか?

もちろん声までは変えられない為、黙っていなければならないが、それ以外はどう見ても――。

 

 

「あっ」

 

「?」

 

 

ニコは声を上げる。

ふと、さやかとサキも意味を理解した。

 

 

「察し……、ちゃ――ッ、た……! たぶんッ私……」

 

「?」

 

 

ニコはジッとほむらの『ある部分』、その一点をジッと見つめている。

疑問に思って視線を追うと、ほむらは自分の胸を見つめる事に。

意味を理解したのか、さやかとサキも複雑そうな目でほむらを見ている。

ある意味、可哀想な物を見る目に思えて仕方ない。

 

 

「………」

 

「………」

 

「この作戦は失敗だな」

 

 

乾いた音が響く。

ほむらは盾の中から取り出したハリセンを握り締めて立ち尽くしていた。

地面にはニコが倒れ、沈黙している。一方で腕を掴んでいるサキ。気持ちは分かる。気持ちは分かるが、今はふざけている状況ではない。

汗を浮かべつつ、ほむらをなだめる事に。

 

 

「落ち着けほむら。こ、個人差、こういうのは個人差だからな」

 

「………」

 

「転校生、あたしコンビニで買って来たメロンパン二つあるんだけど、詰める?」

 

「………」

 

「待てほむら! 顔が凄いぞ! さやかもッ、ふざけてる場合じゃ――」

 

 

その時、倒れていたニコが寝返りをうって空を見上げる。

魔法少女に変身しており、頭にあったゴーグルをかけた。

 

 

「もう一つ、無理な理由はある」

 

「?」

 

「キミ達には見えないだろうけど、かなり細い糸が結界の入り口に張り巡らされてる。強度は弱いから触れたら体が切れるってほどじゃない」

 

 

ニコのゴーグルはセンサーになっているため、理解できる。

 

 

「え? どういう意味?」

 

 

さやかとサキは、ほむらの固有魔法が『時間』に関わるものだと言う事は知っている。

しかしその細部はまだ知らない。ニコはほむらを見る。

珍しくアイコンタクトが成立、ほむらは頷くと、自分で話し始めた。

 

 

「私の魔法、時間停止は、私が触れている物は動けるの」

 

「……つまり?」

 

「なるほど、まさかこの糸は」

 

「そう。暁美ほむらの魔法を攻略するためのものだろう」

 

 

マミのやり方と同じだ。

結界の入り口に糸を張り巡らせる事で、糸をどうあっても『ほむらの体』に付着させる。

その糸をアルケニーは自分の体にも付着させておく、こうする事でほむらが時間を止めてもアルケニーは動けると言うわけだ。

糸が触れていれば、それを介して触れた物も動く事ができるから。

 

 

「姑息なマネを……」

 

「そうしなければ、コチラが殺られる」

 

「!」

 

 

盲点。

魔女結界の中にいるのは魔女であって、必ず魔獣がいなければならない道理はない。

病院の屋上から先程からずっとニコ達を見ていたアシナガは、糸を垂らして地面に降り立つ。

立ち構えるほむらとニコ。さやかとサキも深刻な表情に変わり、魔法少女へ変身する。

 

 

「おかしな事は考えない方が良いな。コチラには人質がいる」

 

「お前ッ、卑怯だぞ!」

 

 

アシナガはさやかの怒号を鼻で笑う。

さらにその視線の先にはマミの格好をしているほむら。

嘲笑を感じたか、ほむらは時間を停止して先程の衣装を盾の中に詰め込んだ。

代わりにハンドガンでも抜こうかと思ったが、人質がいる以上うかつなマネはできない。

一方で辺りを確認するアシナガ。マミの姿が無い。

 

 

「フッ、所詮恐怖には勝てなかったか。巴マミ」

 

「ッ」

 

「可哀想な女だ。所詮はピエロ。あれだけ偉そうにしていた割には、道化師の役割一つ果たせない」

 

「な、なんだと!」

 

 

拳を握り締めるさやか。

しかしそれよりも早く、ほむらが口を開く。

 

 

「貴女に巴マミの何が分かるの?」

 

「……ククッ! キミには分かるのかな? 共鳴できない魂ほど無価値なものはないのに」

 

「意味分からない。それにね、簡単な話なの」

 

「?」

 

「確かに、分からない事も多いわ。でもね――」

 

 

ほむらは髪をかきあげる。

 

 

「すくなくとも貴方よりは、巴さんの事、分かってるわ」

 

「……道化には道化か。愚か者らしい答えだ」

 

 

薄ら笑いを消すアシナガ。

そして、光が迸る。

 

 

「ごめんなさい、身だしなみを整えるのに少し時間が掛かっちゃった」

 

「!」

 

「マミッ!」

 

「マミさん!」

 

 

アシナガの前に魔法少女姿のまどかとマミが姿を見せる。

途中まで走ってきたのだろう、マミは余裕を言葉で表しながらも、呼吸は荒い。

嬉しそうに声をあげるさやかとサキに、マミは微笑を返し。さらにチラリとほむらとニコを見た。

 

 

「よく来た。巴マミ」

 

「巴さん……」

 

「待たせたわね、二人とも」

 

 

一方でアシナガは鼻を鳴らす。

面白く無い展開だが、これはこれで良い。

 

 

「さあ、どうぞ。中に入りたまえ巴マミ。アルケニーが待ってる」

 

「ッ」

 

 

そしてアシナガはニコを指差す。

 

 

 

「神那ニコ、美樹さやか、浅海サキ。キミ達はボクがお相手しよう」

 

 

 

そして糸。

ほむらの腕に細い、細い、銀色に光る糸が付着する。

その方向を見ると、物陰から小巻が姿を見せた。

 

 

「暁美ほむら。お前は私が潰す」

 

「………」

 

 

そして鹿目まどか。彼女だけはマミとの同行を許された。

何故か? 決まっている。アシナガは嬉しそうに語り始めた。

 

 

「大好きな先輩がアルケニーに殺される瞬間を是非、目に焼き付けて欲しいね」

 

 

そうすればまどかは絶望し、魔女に変わってくれるだろう。ならば世界は終わり、人は滅びる。

しかしそれこそがアシナガの目指す理想郷。

人は人の器を捨てて、ネクストステージへの開花を始めるはずだ。

生命の輪廻は終る事なく、新たな進化体を星の元に生み出すだろう。

 

 

「残念だけど、そうはならないわ」

 

「なに?」

 

「私、負けないもの。ね? 鹿目さん」

 

「はい!」

 

 

アシナガは舌打ちを零すと結界の中に入っていく。

小巻も糸を引いてほむらを促した。

 

 

「おかしなマネをすれば、分かっているわね」

 

「……ええ」

 

 

そしてふと、一同が結界の中に入っていく前にまどかはニコを呼び止める。

 

 

「ねえ、ニコちゃん」

 

「ん?」

 

「少し、お願いがあるんだけど」

 

「よしきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界の中は、覚えている者にとっては懐かしいものだった。

お菓子と病院が入り混じった世界。今回はその中に無数の落書きが見える。

どうやら二体の魔女が同時に結界を展開しているらしい。

それだけ広大な面積を魔女のテリトリーにする事ができる。

 

まどか達が先に進むと、道が三つに分かれていた。

その向こうに扉。ニコ達は右へ、ほむらは左へ、マミ達は中央に分かれていく。

右の扉の向こうは手術室。台の上にはお菓子が乗っており、周りには玩具が散乱している異常な空間で、アシナガは近くにあったマカロン型の椅子に座り込む。

 

 

「さあ、殺し合いを始めようか」

 

「随分余裕だな」

 

 

ニコはバールを構えて鼻を鳴らす。

しかしアシナガはまだ人間態のままで薄ら笑いを浮かべていた。

怪人態になるまでも無いと言うことなのか。だとすれば後悔させてやった方がいいだろう。少し力を込め、ニコは容赦なく必殺技を放った。

 

 

「レンデレ・オ・ロンペルロ!」

 

 

一直線に放たれたエネルギー。アシナガは避ける事無くそれを身に受けた。

が、しかし、閃光。エネルギーはアシナガに命中した筈なのだが、光が迸るとエネルギーは消滅していった。

当然、アシナガは無傷のまま椅子に座っている。

 

 

「マジか……、傷つくわぁ」

 

 

やはり戦闘力は皆無の様だ。

後は任せたと言わんばかりに、ニコはサキとさやかの後ろに隠れる。

こうなると当然次はサキが電撃を、さやかが剣を投擲してアシナガを狙うのだが――。

 

 

「なにッ!?」

 

 

二つの攻撃はアシナガに触れれど、すぐに光の粒子となって消滅する。

防いだ? いや、違う。まるで攻撃が自分から消えたように見えた。

ニコはゴーグルをかけ、すぐに解析を始める。同じくして立ち上がったアシナガ、薄ら笑いはそのままに、人間の姿を捨ててソロスパイダーへと変身する。

 

 

「二人とも、少し時間を稼いでちょうだい」

 

「分かった。行くぞさやか!」

 

「おっけー!」

 

 

持ち前のスピードを活かして一気にソロスパイダーの左右に回り込む二人。

サキは電撃を纏わせた拳を、さやかは一気に踏み込んでサーベルをそれぞれ突き出した。

しかし――、違和感。そして止まる二人の攻撃。

 

 

「なにっ!?」

 

「グッ! マジ!?」

 

 

思わず立ち上がるニコ。

サキの拳は、さやかの剣は、確かにソロスパイダーの肉体を捉えた。

しかしまるで何もなかったかの様にソロスパイダーは立ち尽くし、現にダメージは一切入っていないようだ。

拳の雷撃は一瞬で消滅し、サーベルはまるで押し当てた様にしかならない。

 

一方で笑うソロスパイダー。

長い爪を振るいサキとさやかを切りつける。

魔法少女達には当然ダメージが入り、二人は呻き声を上げてソロスパイダーから引き剥がされる。

 

分析中のニコは息を呑む。

見ての通り、ソロスパイダーには一切のダメージが入らなかった。

わずかに仰け反っていたので、拳や剣は触れているようだが、痛み等は一切感じていないようだ。

つまり攻撃が攻撃としての意味を成さなかった。

 

 

「無駄だ! キミ達ではボクには勝てない!」

 

 

爪や赤い糸を使い、ソロスパイダーはサキやさやかを追い詰める。

さやかの足を糸で縛ると、そのまま投げ飛ばしてサキに命中させる。

動きが止まった所で再び糸を発射、二人の腰と腰を合わせて縛り上げる。

 

 

「わわわ!」

 

「クッ! 身動きが!」

 

 

お腹同士をくっつけて縛られるサキ達。

サキの方が身長が高いため、アンバランスな体勢となって立ち上がるのも難しい。

そこへソロスパイダーは爪をクロスさせてエネルギーを集中。そのまま振り払う様に爪を振るうと、X状の斬撃が発射されてサキ達に命中した。

 

 

「ぐあぁあ!」

 

「うがッ!」

 

 

糸は切れたものの再び地面を転がるサキとさやか。

反撃にと、それぞれ雷撃やサーベルを発射するが、ソロスパイダーはその全てを身で受け止めていた。

やはり、ダメージを受けている様には見えない。

 

 

「フフフ、申し訳ない。今回は少し強めに『設定』していてね」

 

「アイツ……」

 

 

解析中のニコ。

ソロスパイダーの周りに薄い光のベールの様なものが見える。

おそらくアレがサキ達の攻撃を防いでいるのだろうが、問題はその正体だ。

サキ達が戦っている間に解析を進めるニコ。レジーナアイに情報を送ると、分析を開始。

その結果、一つ該当するデータがあった。

 

 

「!?」

 

 

問題はそれが魔法でもなければ魔獣の力でも無いと言う事だ。

魔力を含まず、瘴気を含まない力、それはキュゥべえ側の力であった。

 

 

(あいつ等が魔獣に肩入れを――!?)

 

 

一瞬そう思ったが、あくまでもゲーム管理者であるインキュベーターが特定の魔獣に力を与えるものだろうか?

いや、違う。ニコはスワイプ動作で素早く情報を処理していく。

あった、一つだけ。該当する。バッチリと当てはまる力が。

照合中、照合中……、照合完了。結果――。

 

 

「お前ッ、願いを――ッ!」

 

「ククッ! そう、その通りだ神那ニコ!」

 

 

爪がさやかの肩を切り裂く。動きが止まった所に蹴り。

一方、振り返り様に爪を振るうと、サキを捉えた感触。

その中でソロスパイダーは笑い声を上げていた。

 

ニコの考えは間違ってはいない。

長いループがあれば、それだけの『状況』が存在すると言う事だ。

なにもおかしな話ではない。さやかと同じだ。

美樹さやかは、願いの力で『上条恭介の腕を治した』。願いが奇跡を生み出し、対象の病を治す事が可能ならば、加護の力に不可能は無い。

 

 

「ボクには願いの加護がある。キミ達魔法少女がくれた加護がね!!」

 

「グッ! 嘘だろ!」

 

 

するとニコの前にさやかとサキが転がってくる。

 

 

「いっつぅ……! ちょっとニコってば、どういう事? さやかちゃんにも分かるように説明してくれない?」

 

「つまり、だから――」

 

 

簡単な話である。

さやかが上条の怪我を治した様に、どこぞの誰かが願いで『アシナガの守護を祈った』。そういう話なのだ。

 

 

「な、なんだとッ!」

 

「じゃあ! アイツってば無敵って訳っ!?」

 

「普通に考えれば」

 

 

ありえない。

ニコは珍しく額に汗を浮かべて歯を食いしばった。

魔法少女の願いは純粋なものでなければならない筈だ。

でなければ大きなリスクがあると言うことくらいキュゥべえ達は分かっている筈じゃないのか?

 

つまり、魔法少女のシステムとはそもそもインキュベーターを介するわけで、だからこそある程度の均衡があるとニコは考えていた。

でなければ、どこぞの魔法少女がそこら辺にいる少女を拉致して脅迫すれば、どんな願いでも叶えられる事になってしまう。

あくまでもその辺りの良識、常識を、インキュベーターは持っていると思っていたのに。

 

 

(いや――、違う?)

 

 

魔獣に力を与えたのではなく、加護の力を与えられた者が魔獣になった。

下宮は自分の事を人間だと説明し、他にもそういう人間がいると言っていた。

その一人がアシナガ。つまりアシナガは人間の時に加護の力を受け、それを魔獣になった後も引き継いでいると言うことか。

ニコの頭で組み立てられていくパズル。なるほど、それならば納得できる話である。

しかしだからと言って、最悪の状況では無いか。

 

 

「やばい。マジでヤバイぞコレ!」

 

 

とんでもない事をしてくれる。

そんな願いをしたやつをニコは殴ってやりたかった。

とは思えど、考えてもみればニコとて他者を助ける願いではないか。

魔法少女にとって他者を助ける願いをする者は、決して珍しく無い。

それをアシナガは今、鎧に変えて武器としているのだ。

 

 

「フフフ! そうだ、ボクを殺せるのは、このボクのみ!!」

 

 

寿命、もしくは自殺でなければアシナガは死なない。それが願いだからだ。

 

 

(まてよ? だったら再生成でDNAをアシナガと一致させれば――)

 

 

訂正、無理。

アシナガを今レントゲンで撮影すれば、真っ黒の瘴気の塊である事が分かるだろう。

人間の細胞ならば時間が掛かれど、何とかなりそうだが、流石に未知の物質となるとどうしようもないし、体を瘴気にすればニコとしても耐えられないだろう。

 

 

(おいおい、詰んでないかコレ……)

 

 

対して、当然アシナガはニコ達を殺す事ができる。

まあなんとも理不尽なものだ。ニコは舌打ちを零し、頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理不尽なものだとは思わない? 暁美ほむら」

 

「?」

 

 

待合室の様な広い空間で、小巻は人の姿を捨てた。

ほむらの前に現れたレスパイダーからは、言い様のない憎悪を感じる。

 

 

「死で良かった。なのにお前と鹿目まどかがいたせいで!!」

 

「!」

 

 

レスパイダーは爪を構えて走り出す。

ほむらは複雑な表情でマシンガンを取り出した。

仮にも魔獣の鎧がある以上、黙ってやられる訳にはいかない。

時間を停止して、銃を乱射しながら辺りを駆ける。

 

 

「どうして下宮と同じ選択を取れないの!」

 

「恐怖がある! なにより――ッ!」

 

 

時間停止を解除するほむら。

周囲にあった弾丸が一勢にレスパイダーに向かって発射される。

逃げられないか。レスパイダーが光に包まれると、姿が小巻に戻る。

もちろん普通の衣装ではない。騎士をイメージしたソレは紛れも無い、魔法少女のものだった。

 

 

「分かる? お前たちの罪! 私は怒ってるのよ!!」

 

 

アックスについている盾が消滅すると、小巻の周りに円形のシールドが発生。

ほむらが放つ銃弾を全てせき止めて弾き返す。これは紛れも無く魔法の力だ。が、しかし、魔法ではない。なぜならば今の小巻に魔法の力はない。

あるのはただ穢れ。濁った瘴気の力。

 

 

「お前達が、私から全てを奪ったのよ!!」

 

「ッ!」

 

 

小巻がアックスを振るうと、今度は円形状のシールドがほむらを閉じ込める。

逃げ場を封じる結界。ほむらはただジッと、小巻を見ているだけ。

一方で小巻は鼻を鳴らし、アックスを持つ手に力を込めた。

 

 

「打ち砕く!」

 

 

小巻はアックスの先を地面につけ、引きずりながらほむらを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

「よォ、巴マミ、鹿目まどか」

 

 

長髪をなびかせ、アルケニーは立ち上がる。

 

 

「この場所、覚えてるよな? お前が頭食われた所だよ」

 

 

対シャルロッテ戦でマミは油断し、頭部にあるソウルジェムを魔女に噛み砕かれた。

お菓子の甘い匂いが鼻をくすぐるが、楽しい気持ちなど欠片も無い。

マミは額に汗を浮かべ、壊れそうになる心を抑えて何とか笑みを浮かべてみせる。

 

 

「人質はどこ?」

 

「あー、ほれ」

 

 

アルケニーが指を鳴らすとブロロロロとうるさい程のプロペラの音。

落書きで書いた様な飛行機が姿を見せる。そこに乗っているのは落書きの魔女、アルベルティーネ。

二つに結んだ爆発した様な髪が特徴的な魔女だった。

さらにその周りには彼女の使い魔アーニャが追従している。

 

 

『ブゥゥゥンッ! キャハハハ!!』

 

 

飛び回るアーニャたち。

さらにアルベルティーネの飛行機は二人乗り、後ろの席では同じくオクビョウが笑い声を上げている。

その目が光ると、魔女結界の壁にモニタが出現。

そこにはシャルロッテの使い魔、『ポリーナ』に囲まれた人質の子供が吊るされていた。

 

どうやら気絶しているようで、見たところ外傷は無い。

しかし看護婦の様な格好したポリーナの手には鉈が握られており、まどか達が少しでもおかしな行動を取れば、どうなるのかは容易に想像ついた。

 

 

「正義や理想なんてヤツぁ、クソ脆い幻想だ」

 

 

アルケニーの体が光ると、ディスパイダーが姿を現す。

 

 

「幻に酔って死ぬ。笑えるねぇ」

 

 

手を前に出すと地面からシャルロッテの使い魔、ピョートルも無数に姿を現した。

長い耳と尻尾を持つ使い魔は一勢に突進をマミにしかける。

それだけではなくアーニャー達も玩具の飛行機に乗って、一勢に特攻を仕掛けていった。

 

 

「あら、一対一って聞いたけど」

 

「クハハハ! んなモン知るか! 元々コレはお前を殺すためのパーティだ! なんでもアリなんだよッ!!」

 

「いじわるな人!」

 

「人じゃないんだよな!」

 

 

マミは冷静だった。

もちろんその貼り付けた笑顔(かめん)の裏では大きな焦りと恐怖はあった。

しかしそれでも、強く頷くまどかが見えたから、マミは冷静だった。

スカートを持ち上げると、隙間から大量のマスケット銃が出現。

地面に突き刺さった六つの銃。さらにマミは自分の胸に手を当てる。すると体から魔法で構成されたマスケット銃が引き抜かれた。

 

 

「ダンザデルマジックバレット!」

 

 

魔弾の舞踏。

マミはまず手に持っていたマスケット銃で眼前に迫っていたピョートルを射撃。

使い魔の肉体を崩壊させると、その反動で回転した銃、その銃身を掴んだ。

そして持ち手の先、銃床で背後から迫っていたアーニャを殴り飛ばす。

 

マスケット銃と共に悲鳴をあげて吹き飛ぶアーニャ。

同じく向かってきていた他のアーニャを巻き込みながらマミから離れていく。

さらにマミは同時に回し蹴りを行っており、前に刺さっていた2丁の銃を地面から引きはがし、両手に収める。

 

長いマスケット銃は近接武器としても機能を発揮する。

マミは二つの銃を持って回転。銃身や銃床で使い魔達を弾き返しながら、怯んだ所に発砲。

右手に持つ銃は前、左手に持つ銃は後ろに弾丸を発射し、撃ち終わった銃はそのまま投擲して武器に変える。

さらに再び回し蹴り。回転しながら銃を二つ掴むと、歪む視界の中でハッキリと照準を合わせて発砲。

アーニャとピョートルの顔面が吹き飛び、マミは残りの銃も同じように回転しながら射撃していった。

 

 

「ティロ・リチェールカーレ!!」

 

 

残る使い魔は周囲に大砲を張って一層。

爆炎がフィールドを包み、その中でディスパイダーの笑い声が響いた。

 

 

「孤独と恐怖に包まれて死ね! 巴マミッ!」

 

 

爆煙を切り裂いて、ディスパイダーはマミの元に走る。

近づけさせてはいけない。マミはマスケット銃の銃口を円形に並ぶように設置。

まるでガトリングガンの様に回転させながら一勢に銃弾を前方へ放っていく。

 

 

「ティロボレー!」

 

「きかねぇよ雑魚!!」

 

 

回避拒否。

ディスパイダーは全く気にする事なく足を前に踏み出していく。

全身に弾丸が撃ち込まれる事になるが構わない。

なぜならばディスパイダーの背にはシャルロッテが結ばれている。

オクビョウの力で魔女の力がディスパイダーに与えられ、シャルロッテの力でディスパイダーは擬態の鎧を脱ぎ捨てた。

 

 

「!」

 

「死の恐怖に溺れろ!」

 

 

絶望こそが魔獣の目指す理想。

ディスパイダーは糸を伸ばし、勢いをつけると怯んでいるマミに飛び蹴りをしかけた。

素早く腕を交差させ、そこにリボンを巻きつける事で防御を行うが、それでも衝撃を殺す事はできない。マミの体は浮きあがり、後方へと吹き飛んだ。

マミは抵抗にスカートからマスケット銃を二つ伸ばして発砲。

しかしディスパイダーは体を僅かに逸らす事で簡単に回避して見せる。

 

 

「どこ狙ってんだよ、バァアアカッ!」

 

 

ニヤリと笑うディスパイダー。

先程の使い魔の突進。あれはフェイクだ。

ディスパイダーとて馬鹿ではない。記憶を取り戻したマミを。使い魔程度で何とかできるとは欠片も思ってはいないのだ。

 

では使い魔を向かわせた理由は何か?

それはディスパイダーの得意技であるサイレントリッパーを発動する事だ。

あまりに細い為に目には見えにくいが、使い魔達の体にはディスパイダーの糸が巻かれており、使い魔達が消滅するまでに各ポイントに付着し、張り巡らされていく。

マミが使い魔を吹き飛ばせばそれだけ糸がフィールドに張られていき、ディスパイダーが魔力を込めると張り巡らされた糸は刃に変わる。

そして、マミが吹き飛んだ先。そこにも無数に張られた糸が待っていた。

 

 

(さあ! 細切れになれ巴マミ!)

 

 

勝った。

ディスパイダーはマミを見る。

するとマミは、ニヤリと笑った。

 

 

「お見通し!」

 

「は?」

 

 

マミが撃った銃弾、そこに、マミが極限にまで細めたリボンが巻かれていた。

それはリボンと言うよりも糸。黄色い糸達は銃弾に乗ってフィールドに張り巡らされ、ディスパイダーの糸に触れた瞬間、さらにその糸に巻きついていく。

つまりマミはディスパイダーがやる事を『読んで』いた。

 

そして攻撃の為に使われた糸、その全てを自分の糸でコーティングし、自分の(いと)に変えたのだ。

マミの背に当たる糸。しかし切れない。それはマミの糸だからだ。

マミは糸を操作し、魔力を込める事でパチンコの様に自分を跳ね返す。

 

 

「なッ!」

 

 

吹き飛んだはずのマミが、軌道を変えて戻ってくる。

それに怯んでいると、マミはそのまま右足を突き出し、気づいた時には足裏が目の前にあった。

 

 

「グゥウッ!」

 

 

ディスパイダーは腕を盾に足裏を受け止めたが、そこでマミは魔力を解放。

靴の裏から銃口を生やしてみせた。ハイヒールの様になった靴、もちろんヒールの部分は銃のため、発砲ができると言う事だ。

ゼロ距離射撃、ディスパイダーの防御が崩れる。

 

 

「フッ!」

 

「ぐがっ!」

 

 

左足も同じようにしてディスパイダーの胸に叩き込み、射撃を開始。

同時にリボンでディスパイダーを巻きつける事で、シャルロッテによる『脱皮』を封殺した。

 

 

「ウゼェ!」

 

 

ディスパイダーは痛みを無視。

マミの脚を掴むと後方へ投げ飛ばした。

だがマミはその中で巨大な大砲を出現させる。ココで決める。目の奥がギラリと光った。

 

 

「ティロ――」

 

「アルベルティーネ!」

 

『ムォオオオオオオオ!!』

 

 

魔女は怒りの声を上げながら飛行機を飛ばす。

飛行機についている機関銃が火を噴き、無数の銃弾がマミの体に降り注いだ。

 

 

「きゃああああ!!」

 

「マミさん!」

 

「ヒハハハ! マミはシヌ! アキラメロ、鹿目マドカ!! ギャハハハ!!」

 

 

杖をかざすオクビョウ。

するとディスパイダーの背にいたシャルロッテの口から、黒く長い体を持った魔女が飛び出す。

シャルロッテの本体だ。弱弱しく可愛らしい姿で油断させ、この本体で相手を食らう。それがシャルロッテのスタイル。

鋭利な刃をむき出しにし、シャルロッテはマミを食い殺そうとスピードを上げる。

 

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!!」

 

 

全ての糸を自分の下へ移動させ、マミは網目状の結界を張った。

そこへ命中するシャルロッテ、糸とは言えど魔力で強化してあるため、シールドとして機能している。

シャルロッテは顔をぶつけた事で目を回しており、マミはその隙にシャルロッテを拘束しようと試みる。

 

だが笑い声。

飛行機に乗ったアルベルティーネが、ミサイルと銃弾を乱射してマミの結界に命中させていく。

振動と爆炎がマミにビリビリと伝わっていく。シャルロッテもすぐに我に返り、下卑た笑みを浮かべながら再びマミを食い殺そうと結界を齧り始めた。

 

 

「グッ!」

 

 

シャルロッテの笑い顔。

アルベルティーネの笑い顔。オクビョウの笑い顔。

皆、その目が、顔が語っている。マミを殺す。

ああ、これだけの殺意、久しぶりだ。怖い、脚が震える。

 

見えるのは変化を始めたディスパイダー。

下半身を巨大な蜘蛛に変え、胸の穴から無数の針を乱射していきた。

その全てがマミを殺すために飛んでいく。

 

 

「マミさん!」

 

「手を出すなよ鹿目まどか! 手を出した瞬間、あのガキは死ぬぞ! クハハハ!!」

 

 

飛び上がるディスパイダー。

巨大な蜘蛛の脚を一本分離させて糸で縛ると、チェーンアレイの如く武器として発揮させる。

脚が、マミの眼前に迫った。

 

 

「死ね」

 

 

悲鳴。衝撃。結界が破壊され、マミに大量の攻撃が降り注ぐ。

しかしマミは再びリボンで自分の体を縛り、簡易的な防御を行ってみせる。

もちろんそれは悪あがきでしかない。煙が晴れた時、地面に膝をついていたマミは、大量の血を流していた。

 

 

「マミさん――ッ!」

 

 

まどかは歯を食いしばり、涙を浮かべる。

肩や胸からはシャルロッテが噛んだと思われる傷が見え、至るところにディスパイダーが放った針が突き刺さっていた。

 

しかし息を呑むディスパイダー。

それはまどかも同じだ。異質な光景、思わず魔女達も表情を変えて動きを止めた。

なぜならば、マミは笑っていたからだ。

 

 

「コレで……、いいのよね、鹿目さん」

 

「え?」

 

「結局ね、これが一番気持ちいい」

 

「気持ちいい? おいおい巴ちゃんは頭がおかしくなったのか? ハハハ!」

 

 

ディスパイダーが笑うと、魔女達やオクビョウも笑い声を上げる。

しかし、まどかだけは真剣な表情で頷いた。

 

 

「そうですよね、マミさん」

 

 

つまり、あれだ。確かに怖くて怖くて堪らないが、やはりこの感覚は『たまらない』。

なんとも言えない充実感があった。怖いが、苦しいが、欠片も悲しくは無い。

たとえ醜く負けようとも、今のマミはきっとまどかに感動を与えられている筈だ。

 

なぜならばコレこそが、目指した魔法少女の姿。

選ばれたものにしかできない唯一無二の行動だからだ。

人を守るために戦う、人を守るために傷つく。それはマミにとって、人を傷つけるために戦う時よりも遥かなる快楽を与えた。

 

ほむらが好きと言ってくれた。

サキが、ニコが凄いといってくれた姿こそ、今の自分なんだ。

ああ、そういう事だ。マミは至った。理解した。

それは彼女の中にあるナルシズムを十分に満たしてくれる。

 

 

(体が軽い――ッ)

 

 

痛みは感じない。

それはソウルジェムを操作しているから?

それともそういう物質が出ているから?

それとももう麻痺しているから?

マミ自身、混乱している。

 

だが、それでも心地よかった。

全てを知った今、また『こういう物』の為に戦っている自分に酔っている。

褒めてあげたい。凄いね、凄いな、私。

 

 

(こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて)

 

 

マミはチラリと、まどか見る。

なにやら耳を押さえていた。何かを決意したような表情だった。

チラリとディスパイダーを見る。胸に瘴気が集中している。大技を放つつもりだ。

きっと、もうすぐ、死ぬ。死ぬけど、それでもいい。

 

まどかはきっと自分の事を軽蔑したりはしないはずだ。

死んでも、きっと悲しんでくれるだろうから。

だからマミはそれで良かった。

 

 

(もう何も、恐く――)

 

 

目の前、瘴気に包まれた針が見えた。

さよなら、鹿目さん。さようなら皆。マミは目を閉じる。

すると、ガキンッと、何か硬い音が聞こえた。

 

 

「え?」「は?」

 

 

目を開けたマミと、ディスパイダーの間抜けな声が重なる。

マミの前にある巨大な盾が、針をしっかりと受け止めていた。

 

 

【アライブ】

 

 

まどかは、手を前に出す。

 

 

「リバース・レイエル」

 

 

天使が出現。

閉じていた目を開くと、盾が止めていた針が反射。

一勢にディスパイダーの下へ飛来していく。

 

 

「グッッ!!」

 

 

蜘蛛の巣状の結界を出現させて攻撃を防ぐディスパイダー。

嫌な沈黙が流れた。その意味――、分からぬ訳は無いだろうて。

 

 

「鹿目さん!? ど、どうして!!」

 

「おいおいおいッ! やっちまったな鹿目まどか!」

 

 

再びディスパイダーたちの笑い声。

オクビョウは目を光らせ、モニタを出現させる。

映し出される人質の子供。青ざめるマミ。虚空を睨むまどか。笑うディスパイダーたち。

 

 

「殺せ! ポリーナ!」

 

 

鉈を振り上げる使い魔。

 

 

「ダメッ! やめて!」

 

 

マミは思わず手を伸ばす。

人質を守れなければ何の為にココまで傷ついて――ッ。

 

 

「もう遅い! クククッ! 可哀想になぁ! クハハハハ!」

 

 

ポリーナは躊躇しない。

その鉈を容赦なく振り下ろし、人質を叩き割ろうと――。

 

 

『コンファインベント』

 

 

鏡が割れる音。

ポリーナの持っていた鉈は魔力で構成されているため、武器ではなく魔法として扱われる。

だから、無かった事にされた。強化も、攻撃も、殺意も全て。

 

 

「………」

 

 

誰が?

 

 

「またかよ」

 

 

ディスパイダーの呆れた声と同時に、モニタの向こうではポリーナが『角』に串刺にされて絶命した。

慌てふためく残りの一体も、すぐに角に貫かれて部屋の端に投げ飛ばされる。衝撃ですぐに体が弾け、絶命した。

 

 

『はい。ちょー、ヨユー』

 

 

メタルホーンをブラブラと弄びながら、ガイは穏やかな気持ちでモニタの前に腰掛けた。

後ろではルカが人質の子供を解放し、横抱きにしているのが見える。

どうやら向こうからもマミ達がいる場所が見えるらしい。

拳を震わせているディスパイダーが目に入ったのか、ガイはしばらく上機嫌に笑い続けていた。

 

 

「芝浦ァア! あンのヤロォオオ!!」

 

 

しかし分からない。何故ガイはあの場所が分かったのか?

口にはしない。ディスパイダーは分からない。しかし単純な話である。

まどかだ。まどかはあやせと共にいた。だからあやせもまどかについて来た。それだけだった。

 

からくりはこうだ。まどかは結界に入る前、ニコに一つのお願いを行う。

それはレジーナアイの力で魔女結界の見取り図を作って欲しいと言うものだ。

魔法で構成されたものならばニコとしては余裕な話だった。

見事にニコは解析を完了させ、お菓子の魔女結界の全貌を明らかにした。

 

すると見つける。人間の気配。

魔法少女と騎士のデータは全て入っているため、そうなると自ずと答えは『捕えられた人質』と言うことになる。

 

あとはその図と情報をあやせに送信した。

それを元にあやせは芝浦を呼び、魔女結界に足を踏み入れたのだ。

 

そして情報どおりに移動し、部屋の前につくと、まどかにテレパシーを送った。

そう、まだゲームは始まっていない。

魔法少女間におけるテレパシーの伝達は許されている。

 

 

「グゥウウ!!」

 

 

拳を振るわせるディスパイダー。信じられなかった。

だいたいは察したものの、一番の問題は『あやせがまどかを助ける様な事をするのか?』そういう話である。

 

もちろんそれは、まどかとしても考えるべき点であった。

ガイ達はあくまでも参戦派、まだゲームが始まっていないとは言え、油断はできない。

 

しかしまどかには信じられる要素があった。

あやせとの会話で、彼女とも分かり合えるのだと思ったし、芝浦やルカとしても魔獣やアライブ体を見るための交換条件として考えてもらうつもりだった。

それに最悪、芝浦達が拒んでも賭けはできる。

 

魔獣は絶望を欲したがる。

だから人質を殺す際は必ずその瞬間を自分達に見せる筈だった。

まどかは目視できる場所になら結界を張れる。つまり姿さえ見えれば、人質の子供を結界で守る事ができるのだ。

 

結界はまどか自身の魔力で構成されているため、どこにあるのかを把握できる。

つまり結界を『マーカー』にでき、まどかはその場所に向かう事ができるのだ。

だが、あくまでもこれは賭け。あまり取りたくは無い選択だったが――、今はこうなっている。

 

 

「ありがとう芝浦くん、ルカさん」

 

『……アライブの力や魔獣とやらを見せていただく礼ですよ』

 

『そうそう。人質とか正直どーっでもいいけどさ』

 

 

ガイはディスパイダーを指差し、笑った。

 

 

『アイツが悔しがる顔を見たかったんだよねー、おれ』

 

「ガァアア! クソがァアッ!!」

 

 

思い切り地面を殴りつけるディスパイダー。

何が何でも殺す。その意思を固めた時だった。

バイクのエンジン音が、耳に入る。

 

 

「ッ? なんだ?」

 

 

徐々に大きくなる音。

そしてエンジン音に混じり、龍の咆哮が聞こえたのはまもなくだった。

 

 

「まさか――ッ!」

 

 

轟音が響いた。

壁が吹き飛び、炎と共にドラグランザーに乗った龍騎とシザースが姿を見せたのだ。

バイクモードのため、着地の際にタイヤが地面を擦り、火花が散った。

そのまま車体を横にしてドリフト交じりにブレーキをかける。

 

 

「す、須藤さん!?」

 

「遅くなりました。巴さん」

 

「そんな、まさか――ッ」

 

 

シザースはドラグランザーから降りると、へたり込むマミの前に。

一方で同じくドラグランザーから降りた龍騎は、まどかとアイコンタクト。

そして頷き合うと、同時に地面を蹴った。

 

轟音と振動は他の区間にも伝わる。

龍の咆哮が聞こえ、ソロスパイダーは動きを止めた。

一方で、ニヤリと笑うニコ。

 

 

「まさか……」

 

「城戸達が来たんだろ。形勢逆転だな」

 

「馬鹿か? ボクらには人質がいる。彼らが来たところで――」

 

 

いや、違うのか。

ニコの笑顔が全てを物語っている。

それもそうか、思えば何も対処せずに来るという事ほど愚かな事はない。

ニコの力があれば攻略も可能なのか――?

 

 

「ああ……、こんな事なら、はじめから殺しておくべきだったね。世界の終末も、はじめのきっかけは週末の些細なミスからかもしれない」

 

 

しかしそうすればカウントダウンが始まるため、うかつな事はできなかった。

だが考えてもみればコレは何もマイナスな話ではない。

真司達がディスパイダーの所へやって来た。

だからどうした? 今この場では関係ない話だ。

 

 

「いずれにせよ、キミらを殺せばお釣りが来る」

 

 

現に今、さやかとサキは呼吸を荒げ、血を流している。

当然だ。どれだけ攻撃をしてもソロスパイダーを殺す事はできない。

加護の力は絶対だ。慈愛の光がソロスパイダーを守る最強の鎧になっているのだから。

 

 

「希望は絶望にも変わる! ボクこそがその体現者!」

 

 

超えられるわけが無い。ソロスパイダーには自信があった。

爪を噛むニコ。確かにソロスパイダーは反則級の化け物だ。

しかし知っているのだろうか? ソロスパイダーは。

愛とか、希望とか絶望とか、そういう感情を遥かに超越するものがあるのだけれど……。

 

 

(それは欲望だよ、ボウヤ)

 

 

仕方ない、まさかこんな早く使う事になるとは。

ニコは自嘲気味な笑みを浮かべ、さやかとサキの前に出た。

 

 

「奥の手、いくか」

 

「え?」

 

「何か考えがあるのか、ニコ」

 

「ああ。準備は整ったしな」

 

「無駄だ! ボクの鎧は絶対。戦闘能力の無いお前に何ができる!」

 

「たとえば、そう、こう言うのかな」

 

 

ポチっとな。ニコは携帯にあるボタンをタップする。

同じくして鳴り響く電話。会社にいた高見沢はパソコンから目を離すと、一度咳払いをして電話を取る。

 

 

「もしもし? ああ、繋いでください」

 

 

電話の相手は屋敷の執事だった。古株で、仕事もできる。もちろん高見沢の性格も知っている。

仕事中はなるべく電話を控えるように言ってあるのだが――?

 

 

『大変です! 旦那様のコレクションがッ、ひ、ひ、独りでに!』

 

「は?」

 

『車庫にありましたクラシックカーが一勢に発進して! お、おぉぉお!』

 

「………」

 

 

電話を切る高見沢。こめかみをおさえ、直後、咆哮。

 

 

「ニコォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

「吼えろ! 機皇帝!! アルファロメオ! キュゥウビィィイ! ワンンンッ!!」

 

「!」

 

 

ニコの背後の壁が粉砕され、姿を見せたのは白と赤を貴重とした車だった。

クラシックカーなのだろう。ライトを灯し、ニコの前に着地する。運転席に飛び乗るニコ。

なんだ? さやかとサキはもちろん、ソロスパイダーも動きを止めて呆気にとられる。

 

 

「機龍よ吼えろ! スクーデリアフェラァァアッリ! キュービィーッ、ツーッ!!」

 

「なにっ! うわッ!」

 

 

アシナガの真横、その壁が崩壊し、エンジン音と共に新たなるクラシックカーが姿を見せる。

コチラも白と赤を貴重にしたカラーリング。

 

 

「機霧を切り裂け、ヴィラ・デステーッ! キュゥウウビィイイ! スリィイイ!」

 

 

ソロスパイダーの真後ろから、同じく赤と白のクラシックカーが。

はじめからスピード全開、ソロスパイダーを轢き弾くとニコの下へ一直線である。

うめき声をあげて地面に倒れたソロスパイダー。ダメージは無いが衝撃は感じているようだ。

 

 

「煌け、欲望の連鎖! 機帝の下にひれ伏すが良い!!」

 

 

三台の車はそれぞれ正面衝突。

 

 

「魔聖合体!!」

 

 

しかしこの時変化が起こった。

それぞれの車が変形し、時に分離、時に連結。次々にガチャガチャと音を立てて変形していく。

そしてフラッシュ。最後の変形が終ると、巨大なキュゥべえの頭部がそこにはいた。

 

 

「完成! キュゥべえエエエッ、ロボォオオオ!!」

 

「………」

 

 

何がどうなってそうなった!?

目を丸くするサキとさやか。なら仕方あるまい。説明しよう!

キュゥべえロボとは神那ニコが自らの力を上げるために生み出した超戦士である。

『元』高見沢のコレクション、キュービーワン、キュービーツー、キュービースリーが奇跡の力で合体して生まれたのだ。

 

デザインはキュゥべえの頭部そのままである。そこにロボットの腕と脚をつけたものだ。

あの三台をどう組み合わせても不可能なシルエットと形状だが、魔法だから問題はないのだ。

体積も増えているような気がするが、魔法だから問題は無い。

これこそがニコの切り札。新たなる再生成の可能性。

 

 

「ぶち殺す」

 

 

赤いボタンを押すニコ。

説明しよう。このボタン、スカーレットアイと言うのだが、これを押す事でエネルギー炉にいる『エネルギー源』が活性化される。

そのエネルギー源とは『キュゥべえ』である。

そう、今、キュゥべえロボの中には大量のキュゥべえが詰め込められている。

 

ニコがジュゥべえに言いより、コンタクトを取らせてもらったのだ。

キュゥべえを褒めちぎったあと、スペアを見せて欲しいと言ったらジュゥべえは簡単にスペアに会わせてくれた。

ニコはそれらを捕獲、エネルギー炉の中にぶち込んだのだ。

 

 

「炉は魔法の壷。再生成の力により、大量のキュゥべえはエネルギーへ変換される!」

 

「なんだと!?」

 

 

耳を澄ませば確かにきゅっぷいきゅっぷい聞こえる様な。

まあだが、そんな事はどうでもいい。あっと言う間にエネルギーマックス。

ニコは狭いコックピットの中で構えを取る。とにかくカッコいいポーズだが、特に意味は無い。

 

 

「悪よ、銀河の塵に還れ!」

 

 

適当に見つけたレバーを引く。

 

 

「キュゥウウベェエエッッッンッビィイイイイイイイイムゥウウウウ!!」

 

 

赤色の光線が発射され、光の奔流はソロスパイダーの身を一瞬で包み込んだ。

 

 

「ありがとう! スーパーロボット大戦!!」

 

『わけが分からないよ』

 

『あんの馬鹿。先輩の貴重なスペアをなんつー事に……!』

 

 

様子を見ていたキュゥべえと、まんまとハメられたジュゥべえは複雑な表情でニコの作ったロボットを見ていた。

 

 

『代わりはいくらでもいるけど、あんまり無駄遣いされるのは、ね』

 

『しかし先輩を武器にするとは、なんつーヤツだ……ッ』

 

 

しかしノリは良いが、肝心なのは現状だ。

 

 

「やったか!?」

 

 

コックピットで吼えるニコ。

しかし知っての通りソロスパイダーには加護がある。

それは自らの力で操作できるほどになっているのか、彼は加護の力を最大にまで上げ、放たれたレーザー砲を全て無効化してみせる。

赤い奔流を切り裂き、ソロスパイダーは余裕と言ったリアクションをニコに見せた。

 

 

「下らないな、神那ニコ。ナメてるのか?」

 

「やってねぇ! ガッデム! ファック!!」

 

「茶番だ。意味が無いんだよ、君の行動には」

 

「……そう思う?」

 

「何?」

 

 

ニコは見ていた。

加護の力は凄まじいが、一応攻撃が当たるには当たっている。ダメージが無いと言うだけ。

 

 

「それ攻撃じゃないよ」

 

「え?」

 

 

その時だった。

一歩踏み出した筈の足が動かない事にソロスパイダーが気づいたのは。

下を見ると、自らの脚が石化している所だった。

 

 

「正解はカチコチ石化ビーム」

 

「なにっ!?」

 

「人体に安全な石化だ。私がそう設定した」

 

「まさか――ッ! ボクの加護が!?」

 

「傷つける攻撃じゃないからな。石化はある意味、自分の防御力を上げるとも取れる」

 

 

既に腰まで石化していたソロスパイダー。

唸り、なんとか動こうとするがうまくいかない。

 

 

「こ、こんな事が!」

 

 

抵抗に糸を吐いてみるものの、キュゥべえロボはステータスを防御力に極限にまで振っている。

糸を弾き、ニコはそのまま豪腕でソロスパイダーを包み込む様に抱きしめた。

石化した所で攻撃が通らないのならば意味はない。

 

 

「ならば、やむをえん。自爆しかあるまい」

 

「な、に――ッ!」

 

 

脳天にあるハッチから飛び出したニコ。

そのまま携帯にあるデンジャーボタンをタップした。

すると警報が鳴り響き、キュゥべえロボはお尻の部分からジェット噴射で上昇、そのまま天井を突き破って上昇していく。

 

 

「ぐっ、は、離せ!!」

 

「ありがとう高見沢のコレクション。キミ達の犠牲は忘れない」

 

 

ソロスパイダーを掴んだまま、あっと言う間に見えなくなったロボ。

一応、勝利と言うことなのだろうか? サキとさやかは複雑な表情でニコに詰め寄る。

 

 

「アレ、どこまで行ったの?」

 

「設定どおりなら魔女結界突き破って宇宙まで行く。そこで爆発」

 

「す、凄いな……」

 

「でも、それでもアイツは倒せないだろね。爆発はマジで殺すつもりの威力だけど、加護があるし」

 

 

頭の痛くなる話だ。まさか魔法少女の願いを鎧に変えた敵が出てくるとは。

ニコはジットリとした目で、近くで様子を見ていたキュゥべえ達を睨む。

 

 

『なんだよアレ、あんなのズルだろう?』

 

 

テレパシーを使用するニコ。

まだこの会話をサキ達に聞かれるのはマズイと判断した為だ。

 

 

『特例さ。安心していいよ、あの加護を持っているのはアシナガだけだから』

 

 

魔法少女を騙し、自身を強化するように願わせる。

他の魔獣にも、そんな手段をとろうとした者がいるが、キュゥべえ達はそういう願いは叶えなかった。

 

 

『むしろじゃあ、なんでアシナガだけなんだよ』

 

『ボク達も、まさかこうなるとは思っていなかったのさ』

 

 

尤も、それを上回る興味があったからに他ならないが。

 

 

『実験の意味も込めてね。データ収集はインキュベーターにとって大切な行動さ』

 

『面倒な事してくれちゃって……』

 

 

厄介だ。

現状、今のように『なんとかできる』方法は二、三、と浮かんでも、倒す方法は全く思いつかない。

だがいずれ戦いを進めればアシナガと真正面からぶつかる事もある筈。

果たしてどうすればいいのら。

 

 

「まあいいか、とにかく、マミの所にいこう」

 

 

頷くサキとさやか。

一方、龍の咆哮はほむら達の耳にも入っていた。しかし小巻は動かない。

先程からシールドに閉じ込めたほむらをにらみつけたまま、躊躇するようにして動かない。

どれだけ時間が立ったろうか、優勢である筈の小巻の額には大粒の汗が見える。

 

 

「分かってるんでしょ?」

 

「!」

 

「どうしてそこまで分かっていて、まだそっちにいるの?」

 

 

ほむらは遂に口を開く。

小巻の躊躇は誰が見ても明らかだろう。

殺す事に迷っている。魔獣でいる事に迷っているのだろう。

 

そこまで怯えて、そこまで躊躇って、なのに何故、まだ魔獣サイドにいるのか?

ほむらには理解できない話だった。

しかしそれがスイッチになったのか、小巻の表情が変わった。

鬼気迫る表情は紛れも無い、憎悪が齎すもの。

 

 

「――よ」

 

「ッ?」

 

「私はアンタが、アンタ等が大嫌いなのよッッ!!」

 

 

勢いだった。小巻は感情に任せてアックスを振るう。

しかし寸でで躊躇。だがもう遅い。

アックスはシールドを破壊し、ほむらのわき腹に刃をめり込ませた。

 

 

「あっ」

 

 

怯えた表情になり、青ざめる小巻。

しかし――

 

 

『ユニオン』『トリックベント』

 

 

砕け散るほむらの体。斧の刃が捕えたのはジョーカーのカードだった。

 

 

『ユニオン』『シュートベント』

 

「がッ!」

 

 

首、うなじの部分に衝撃が走る。

小巻が振り返ると、エビルガンを構えたほむらが立っていた。

齎すのはスタン効果。激しい痺れが全身を包み、小巻は不快感を表情にのせてほむらを睨む。

さらにほむらはユニオンを発動。選択するのはトリックベント、チェンジザデスティニー。ほむらの体が発光すると、一瞬でそこにライアが出現する。

 

 

「んなッ!!」

 

 

忘れていた。小巻はすぐにその『危険性』を理解する。

と言うのも、ほむらがライアになった。つまり糸で繋いでいた相手がライアに代わったのだ。

要するに、もう、ほむらと小巻を繋ぐものがない。

 

 

「がはッ!!」

 

 

一瞬で衝撃。

時間を停止して一気に舞い戻ったほむらは、盾から抜いた棒状のスタンガンを小巻の背中に突き入れた。

そして最大電力。魔法で強化したスタンガンは凄まじい衝撃を与える。

 

 

「グッ! がッ!!」

 

 

地面に倒れる小巻。

ほむらは膝をつき、複雑な表情で口を開く。

 

 

「それでも、どうかお願い。協力して。でなければ取り返しのつかない事になるわ」

 

「ッ!!」

 

「あなたが一番、分かっているでしょう?」

 

 

小巻は答えなかった。

ただ悔しげに俯き。動きを止めた。

 

 

「行きましょう、手塚」

 

「ああ」

 

 

強制はしない。

何故ならばそれは絶対に自分で見つけなければならない答えと知っているからだ。

それまでに死ねば、それまでの意思だったと言うことだ。

 

分かっている筈なのに。踏み切れない。

ほむらは分かっている。しかしいつか、足を前に出せた時、小巻はきっと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、メインホール。

 

 

「ォオオオオオオオオ!!」

 

 

計画をメチャクチャにされた怒りは凄まじい。

ディスパイダーは全身から瘴気を吹き出して走り出す。一方で同時に向かっていく龍騎とまどか。

距離を詰めながら放つ矢は、蜘蛛の脚を交差させて受け止める。

僅かまで迫る距離、先に拳を突き出したのはディスパイダーだった。

 

 

「魔獣が齎す絶望を、お前らごときが拒むなんて許されねぇッ!!」

 

 

しかし拳は龍騎に届く事は無い。

まどかが張った結界がそれを弾き、怯んだ所にツバイの刃が伸びる。

 

 

「なら俺達は、その絶対を超えてやる!」

 

「吼えるねぇ! 弱いくせにご立派な!!」

 

 

ドラグブレードに炎が宿る。

そのまま龍騎は目の前でXを描くようにブレードを振るう。

すると炎の軌跡がその場に残り、もう一度龍騎がブレードを振るうとXの形をした炎の斬撃が発射された。

 

バーニングセイバー。

ソードベントによる必殺技であり、その威力はディスパイダーの巨体を押し出すほどであった。

斬撃に押され後退していき、直後爆発、ダメージで苦痛の声が漏れる。

 

そしてまだ終らない。

まどかが手を斜め上に伸ばすと、ディスパイダーの頭上に魔法陣が出現。

そして弓を引き絞ると、直後それをその魔法陣に向けて放った。

すると魔法陣から大量の矢が雨のように降り注いでいく。

 

 

「マジカルスコール!」

 

「グゥウウウッ!!」

 

 

蜘蛛の巣状の結界を張り、それを防いだディスパイダー。

怒号を上げ、魔女を呼び出す。

 

 

「アルベルティーネ! シャルロッテェエッッ!!」

 

 

飛行機のエンジン音をかき鳴らしながらアルベルティーネは機関銃を乱射していく。

地面を転がる龍騎。同じくしてバイクモードで待機していたドラグランザーが変形、モンスター状態に戻ると、空中を疾走して無数の炎弾を放っていく。

 

しかしアルベルティーネもオクビョウに強化されている手前、そう簡単には炎弾には当たらない。だがそれで良かった。これは龍騎の作戦だ。炎弾がある以上、アルベルティーネはそれを避けるように飛行しなければならない。つまりルートがある程度予測できるのだ。

 

 

「そこだ!!」

 

 

ツバイから炎弾が放たれ、そこへアルベルティーネが自分から当たりに行く形で命中する。

炎を纏いながら後ろに下がっていく魔女と、必殺のカードを抜き取った龍騎。

再び絶望から解放するため、今は耐えてもらおう。

光を見せるのだ。

 

 

「フッ! ハァァアアア!!」【ファイナルベント】

 

 

サバイブのファイナルベントは二種類に分けられる。

モンスター状態で放つ物と、バイクモードで放つ物。今は前者だ。

龍騎が両腕を前に突き出し、大きく旋回させる。それに合わせる様にドラグランザーが咆哮を上げながら龍騎の周りを回転していく。

左手は前に、右手は上に。

ドラゴンライダーキックの構えと同様の物をサバイブ体で行っていく。

 

そして跳躍。

空中を回転する龍騎と、それに合わせて上昇するドラグランザー。

一方でアルベルティーネは拳を震わせてエンジンを最大にまで吹かした。

 

 

『ムキィイイイイイイ!!』

 

 

怒りの表情と共にスピードを上げ、さらにミサイルや銃弾など、あるだけの武器を乱射して龍騎へ突進していく。

そして両足を突き出した龍騎。そこへドラグランザーが放つ炎が加わる。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『ウ!? アッッ!! グアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

炎を纏った両足蹴りは、銃弾やミサイルを物ともせず突き進むと、そのままアルベルティーネを飛行機ごと貫き、大爆発を巻き起こす。

サバイブライダーキック。着地した龍騎は炎越しにディスパイダーを睨みつけた。

 

一方、シャルロッテの牙を器用に回避してみせるまどか。

空中を飛び回り、シャルロッテを翻弄する。そして一直線に飛行、釣られて一直線にまどかを追うシャルロッテ。そこでまどかは急旋回。シャルロッテに向き合う形となる。

 

 

「煌け! 極光の円環! 我が示すのは理。絶望を砕き、悪を滅する光とならん!!」

 

 

まどかが掌を天にかざすと、斜め後ろに一列に並ぶ11体の天使達。

そして手にした天秤座を振り絞ると、まどかは狙いを定めた。

 

 

「祈りを絶望で終わらせはしない! この一撃で貫いて!」

 

 

構わずまどかを食い殺そうとするシャルロッテ。しかし――

 

 

「シューティングスターッ!!」

 

 

直撃、脱皮、直撃、脱皮、直撃、脱皮、直撃、脱皮、直撃、脱皮。

 

 

『ギッ! ガガッ!』

 

 

直撃、直撃、直撃、直撃、直撃、直撃。

 

 

『ギャアアアアアアア!!』

 

 

直撃、爆散。

シャルロッテの再生回数を上回る数で直撃していく天使達。

遂にはシャルロッテの再生回数を追い越し、最後の射手座の矢にてシャルロッテは粉々に砕け散った。

しかし異変、龍騎とまどかの体が震えると、二人はサバイブとアライブから元の姿に戻ってしまう。

 

 

「あれッ!?」

 

「なんで――ッ」

 

『瘴気だよ』

 

「「!」」

 

 

キュゥべえはココで新たなる要素の説明を。

サバイブとアライブには希望の力、魔法を消費する。

 

 

『それぞれの変身には個別の魔力を消費する』

 

 

つまり普通に技を出す際に使う魔力とは個別のポイントを消費する事になる。

要するにサバイブやアライブは常になれる訳ではないのだ。

サバイブは専用の力、アライブは専用の魔力がなければ変身できない。

 

 

『さらに――』

 

 

一方で魔獣の力の源は絶望の瘴気。

二つの力はぶつかり合えば当然よりその消費量を上げていく。

その状態でカードの力や、変身を継続させ続ければ、サバイブ・アライブ解除までの時間は早まる。

加えて、まだ慣れていない状態だ。

まどかは前日にアライブを発動しており、それだけ体内にある魔力を消費していた。

 

 

『変身可能状態かどうかはサバイブの場合カードを見ればいい』

 

 

カードの中にある翼が発光していれば良い。

ソウルジェムの場合はアライブ体になりたいと思えば発光するため、それを合図にすればいい。

 

 

『強大な力のため、当然制限はつけさせてもらったよ』

 

「キュゥべえ! お前なぁッ、そういう事はもっと速く――ッ!」

 

 

瞬間、龍騎の脚に蜘蛛の糸が巻きついた。

かとも思えば浮遊感。足裏が地面から離れたかと思えば、次の瞬間、龍騎の体はまどかの体にぶつかっていた。

 

 

「ぐあ!」

 

「きゃああ」

 

「クハハハ! 良い事聞いたなオイッ!」

 

 

ディスパイダーは糸を振るい、二人を壁に叩き付けた。

それでも糸は離れない。ディスパイダーは再び糸を振るい、龍騎とまどかを地面に叩き付ける。

さらに跳躍。龍騎は危険を感じてまどかに覆いかぶさる様に姿勢を丸めた。

すると案の定、ディスパイダーは蜘蛛の巣を龍騎達にはりつけて拘束すると、針を発射して龍騎の背を撃っていく。

 

 

「ぐあぁあ!」

 

 

衝撃に呻く龍騎。

一方でディスパイダーとオクビョウの笑い声が響いた。響いていた。

それを聞きながら、シザースはマミに手を伸ばす。

 

少し時間を巻き戻そう。

龍騎達が魔女と戦っている間に、二人は会話をしていた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、でもちょっと、ね」

 

 

針を引き抜き、マミは青ざめた顔で作り笑いを浮かべる。

やはり痛みは――、慣れない。容赦なく心をへし折ろうとする。

それでも、それでもだ、ココにいる事を誇りたい。マミも、須藤も。

 

 

「そうでしょう?」

 

「ええ、そうかもしれません」

 

 

マミはフラフラと立ち上がろうと、しかしバランスを崩して再びへたり込んだ。

情け無い姿だ。しかし、まあ、これで良い。どうせ晒すなら『こう言う姿』でいいんだ。

そうだ。考えてみれば仲間に銃を向けている姿よりは余程良い。

滑稽であったとしても、愚かだったとしても……。

 

 

「鹿目さんや、暁美さんに言われて、気づいたんです。やっぱり私は何も知らないままでも良いって」

 

 

いや、もう知ってしまったからおかしな話か?

そういう事ではない。つまり、何も知らなかった時にやっていた行動こそが、今の自分に必要なものだと気づいたのだ。

 

 

「でもね、心持ちは違うんですよ」

 

 

今は全てを知っている。

全てを知った上で同じ行動をしている。

それはもしかしたら、とっても凄い事なのではないだろうか。

 

 

「力があってもね、怒られるんです。力があっても理不尽な事に耐えて、力があっても他の人に劣って、イヤミとか言われて、最悪いじめられるかも」

 

 

それでも耐えて、耐え忍ぶ。

そういうのって凄くないか? マミは思わず吹き出した。

 

 

「考えてみれば本当に意味が分からない。私、よく耐えてたなって……」

 

「聞かせてもらっても?」

 

「ええ。本当、最悪。ケガもするし、恋したり遊んだりする暇もなくなっちゃうし」

 

 

無理して格好つけちゃうし。

怖くても辛くても、誰にも相談できないし。

ひとりぼっちで泣いてばかりだったし。

 

 

「最悪。良いものじゃないですよ? 魔法少女なんて」

 

 

それでも選んでしまった。魔法少女になってしまった。

じゃあどうするの? 私。どうやって生きていくの? 辛いなら死ぬの?

せっかく生を望んだのに? でも生きていたって辛いゲームが待ってるし、最悪。

どうせ――、死ぬし。

 

 

「あぁ、もう、嫌になっちゃう」

 

「ですが貴女は、ココにいる」

 

「そういう自分に酔ってるだけです」

 

「いえ」

 

「え?」

 

「それが貴女の強さなんでしょう。私は、そう思います」

 

「……お上手ね、須藤さん」

 

 

首を振るシザース。

彼は、変身を解除した。

 

 

「コレは正義の代物なんかじゃない。ただの武器だ」

 

 

デッキを見せる須藤。それはマミとて同じだろう。

無秩序の世に解き放たれた自分達は皆それぞれの力を振るう。法は無い。罪は無い。

では何をしてもいいのか? それは獣と同じだ。人には理性が、常識が、良心がある。

だからこそ選ばなければならない。耐える事、忍ぶ事、抑える事を。

 

 

「私はそれができなかった。だが貴女は違う。あなたはまた、みんなの為に戦う道を選べた」

 

「……みんながいたからよ」

 

「では、その皆は、何故あなたに声をかけてくれたんですか?」

 

「え?」

 

「皆、貴女のことが好きだから。貴女を尊敬していたから励ましてくれたんでしょう?」

 

「あ……」

 

 

そうか、そうだな、マミは笑顔を浮かべ、変身を解除した。

弱い人間二人がそこにいた。

 

 

「須藤さんはどうしてココに?」

 

「正直、分かりません」

 

「え?」

 

「私は答えを出せなかった。今もどこかで迷ってる」

 

 

だが、それでも、あるのだ、心に一つ。

これは――、なんだろう? そう、そうだ、分かった、欲望だ。願いだ。

 

 

「答えは出ないが、探したい。今度こそ何かを背負いたいんです」

 

 

須藤はまどかを見る。

さやかを覚えている。サキを覚えている。ほむらを覚えている。

マミは一つ間違っていると、須藤は口にした。

 

 

「巴さん。貴女は一人ぼっちではない。分かるでしょう?」

 

「……そう、そうね。手を伸ばせば、すぐに触れられたのにね」

 

「だが怖かった」

 

「ええ、傷つくのは辛いから」

 

 

しかし――、マミは須藤を真っ直ぐに見つめる。

 

 

「信じたいって思えた。だから私はここに来たの」

 

「そうですか」

 

「きっと須藤さんも、信じれば皆に慕われるわ」

 

「だといいんですが」

 

「だからココに来てくれたんでしょう?」

 

「かもしれません。私はもう一度だけ、信じてみようと――。ああいえ、目指してみようと思ったんです。過去、抱いた、あの感情を」

 

 

龍騎とまどかの悲鳴が聞こえた。

須藤とマミは頷いた。

 

 

「それを信じれば、今度こそ、私は私の正体が分かるかもしれません」

 

 

だからまず、背負うものを見つけたい。

 

 

「巴さん。私は貴女を守る事を、まず背負いたい」

 

「え?」

 

「強くなるためには、誰でも倒します。そう思っていた時期があったのですが、結局それで得た強さは最後には否定されてしまった」

 

 

何の為に強くなるのか?

それを見出せなければ、どれだけ力をつけても空なる物にはかわりない。

芯がなければ、強くあり続ける事はできないからだ。

 

 

「いつまでも、謎の騎士ではいられない」

 

 

皆、何かの為に戦い、願いを叶えるために強くなる。

それが無い。それが分からない。

だが、しかし。

 

 

「騎士は、魔法少女を守る存在。昔の馬鹿な私はそう言っていたらしい」

 

「フフッ、今にして思えば変な話ね」

 

「ええ、ですが、そちらの方がよほど良い」

 

「そうね、そうだわ須藤さん」

 

 

思い出そう。胸にしよう。

大丈夫だ、一度は覚えた感情、一度は目指した物。そう簡単に消えるものではない。

二人は知っている。だから刑事を目指した。だから魔法少女でいられた。

 

 

「じゃあもう一度、一緒に信じてみましょうか。須藤さん」

 

「ええ。同じ筈ですからね。私の胸にある物と、貴女の胸にある物は」

 

 

頷きあう二人。

 

 

「戦いましょう」

 

「はい。戦いましょう」

 

 

マミは須藤の手を取った。

そして、立ち上がった。

声が、重なる。

 

 

「「正義のために」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

光を感じ、ディスパイダーは思わず其方を睨んだ。

するとそこには並び歩く二人の男女。

コートを翻しながら歩く須藤と、真っ直ぐにディスパイダーを睨んだマミだった。

 

 

「須藤さん――ッ!」「マミさん!」

 

 

鼻を鳴らすディスパイダー。

龍騎とまどかを蹴り飛ばすと、嘲笑をマミ達に向ける。

 

 

「お前らは震えてればいいんだよ、勝手に狂ってれば良いんだよ。今更カッコつけてんじゃねぇぞクソが!!」

 

「お断りするわ。それこそ、本当のピエロじゃない」

 

「それに、そう言うのはもう飽き飽きです」

 

「今更正義ゴッコかよ! 笑わせるぜ!!」

 

「ごっこじゃないわ」

 

「ッ、何――?」

 

 

多くの血に塗れても、まだ目指せる筈だ。

誰も傷つけない、誰も苦しめない。難しいが、目指す事はできる。

そして傷つけあうのではなく手を取り合う事を目指す事ができれば、それはきっと、光に変わる。希望へと変わるんだ。それを目指す事こそが――。

 

 

「理想。正しき姿であると」

 

「答えを出したんです。私達は、私達の正義を見つけた」

 

「ハハハハ! 笑わせるぜ雑魚共が! 何が正義だ!」

 

 

良い。それで良い。マミも須藤も分かっている。

そうやって笑われる正義こそ、目指した理想だ。

罪に塗れたのは過去だ。別の時間だ。今はまだ、目指せるチャンスがある。

それだけは捨てられない。今度こそ、なるんだ、正義の味方に。

 

 

「ありがとう鹿目さん」

 

「感謝します、城戸くん」

 

 

須藤は左手にデッキを持ち、前に突き出した。

マミは右手にソウルジェムを持ち、前に突き出した。

 

 

「警察は」「魔法少女は」「「正義の味方」」「ですからね」「ですものね」

 

 

交じり合う言葉のなかに、重なるワード。

須藤は左手を左腰の位置へ。そして右手を左胸の方に引き寄せる。

そして右腕を素早く前へ伸ばし、人さし指と親指を伸ばした。見ようによっては、カニの爪にも見えるか。

そしてマミも須藤と逆になる様にポーズを取り、二人は再び声を合わせた。

 

 

「変身!」「変身!」

 

 

デッキをセットする須藤。鏡像が重なり、騎士シザースが姿を見せる。

ソウルジェムが輝き、マミの体にリボンが巻きつくと、それが弾け、魔法少女の姿に変わった。

 

 

「人を苦しめ、人を傷つけ、人の命を踏みにじるゲームを行う」

 

 

シザースは強く、ディスパイダーを指差した。

 

 

「私の心が、お前を悪と決め付けた!」

 

「アァア! くッッだらネェエッ! ムカツクぜぇえ!」

 

 

地面を強く蹴るディスパイダー。

何が正義だ、何が悪だ。下らない。もういい、終わりにしよう。

こうなったら全てぶち壊すだけだ。

 

 

「善悪なんざ下らない! この世界は力だ! どれだけ吼えても、究極の絶望を前にお前達は無力なんだよ!!」

 

 

ディスパイダーの全身からドス黒い瘴気があふれ出す。

 

 

「いつも最初に死んでる様な雑魚共が! このアタシに勝てる訳がねェエんだよーッッ!」

 

 

ディスパイダーの体中から黒い糸が発射された。

絞め殺し、引きちぎる。大いなる殺意がシザース達に向けて放たれた。

しかし二人に焦りはない。恐怖はない。孤独はなかった。信じるべきものがある。

自分達が出した『答え』が、ココにあるからだ。

 

 

「言ってくれるわね、失礼しちゃうわ。ねえ? 須藤さん」

 

「なら見せればいい。私達の力をね」

 

 

デッキに手をかけるシザース。

一枚のカードを引き抜いた瞬間だった。シャキンッ! と、軽快な音が響く。それも連続で。

それはまるでハサミを勢いよく閉じた音。するとシザース達の前にあった黒い糸が、文字通りハサミで切られたようにバラバラになって地に落ちた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

ディスパイダーと、その肩に乗っているオクビョウは目を丸くし、息を呑んだ。

なんだ? 何が起こった? 混乱の中、シザースは持っていたカードの絵柄がディスパイダーに見える様に翻す。

すると時間が止まった――、気がした。

絵柄は、シザースの紋章。そして、金色の翼。

 

 

「ま、まさか……!」

 

 

シザースバイザーが砕け、シザースの手には双剣が出現する。

メタリックオレンジの剣を重ねると、それはまるで巨大なハサミのようだ。

シザースはその武器、『シザースバイザー・ツバイ』を地面に刺すと、その中央部ホルダーに、持っていたカードを装填した。

 

 

「見せましょう。これが私の、正義です」【サバイブ】

 

 

サバイブ・正義。

閃光が迸ると、鏡が割れるように空間が弾け、シザースの鎧が別の物へと変化する。

オレンジに金色の装飾が混じり、胸部アーマーはより強固に、重厚な蟹をイメージしたものへと変わる。

 

そして隣にいたマミも、また同じく。

ソウルジェムが激しく輝き、彼女は満面の笑みを浮かべた。

ああ、なんて心地良いのか。これが求めていた答えか。恐怖が消える、希望が溢れる。

 

 

「もう何も、怖くない!」【アライブ】

 

 

リボンがマミを包み、弾ける。

光を蓄え、閃光の中から姿を見せたのは新たなる衣装に身を包んだマミだった。

赤いポケットのある白と水色のワンピースに、フリルのついた黄色いケープ。

白いソックスには黄色い縞模様が見える。特徴的なドリルヘアも今は下ろしており、さらに一番の特徴といえばその頭部にある黄色い巨大なボンネット帽だった。

 

それは紛れもなく、巴マミが魔女になった際の姿、『キャンデロロ』を模している事が分かる。

絶望の姿を悪しき者とは捉えない。それもまた歩いてきた道だろう。

そしてそれを知っているからこそ理解できる。

今、この輝きを。

 

 

(馬鹿な! なんだあの姿は! あんな物はデータには無かったぞッ!!)

 

 

思わず一歩後ろに下がるディスパイダー。

正体不明のシザースとマミの強化形態。

だが思い当たる節はある。確かに聞こえたサバイブとアライブの音声。それは龍騎とまどかと同じ物に違いない。

 

 

(ッ、サバイブは魔法少女と騎士が理解を示した時、現れる……!)

 

 

条件は二つ。絆の値と、理解だ。

前者は記憶を継続する事により、それだけの時間があったとみなされクリアされるだろう。

そして後者は今、二人が口にした『正義』と言う文字が示しているだろう。

正義を求める心が、須藤とマミの間に絆を生み出し、理解を生み出した。

だからこそ、サバイブが生まれた。

 

 

(だがッ、そもそもサバイブって何なんだよッ!)

 

 

そんな物はデータに無かったはずだ。

いや分かる。そう、そうだ、そうだったな。

 

 

(やってくれたぜ、神崎優衣ィイ!)

 

 

優衣が真司達の為に生み出したバグ。それがサバイブだ。

龍騎とナイトだけだと思っていたら、どうやらちゃんとしっかり人数分用意されていたと言うわけか。

そしてそれが魔法少女にも影響を齎し、アライブ体を形成させた。

 

 

「あぁあッ、気にいらねぇ。マジで不愉快だわッ!」

 

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

溢れる殺意。放出される瘴気。

 

 

「ぶっ殺してやるよォオオオオ!!」

 

 

巨大な脚をガシガシと動かして一気に加速するディスパイダー。

一方でマミは自分の胸に手を当てて、ぺこりとお辞儀を一つ。

 

 

「須藤さん、ここは私が」

 

「ええ。リベンジは果たさなければ」

 

「そう、それが――」

 

 

スカートの両端をつまみ、僅かに上げるマミ。そして優雅にお辞儀を一つ。

するとその瞬間、マミの背後に無数のマスケット銃が出現した。一瞬、まさに一瞬だ。

水色、白、黄色のカラーリングに変わったマスケット銃達は、その銃口をいずれもディスパイダーに向けている。

 

 

「それが、魔法少女(ヒロイン)ですもの」

 

 

光が場を包んだ。

マスケット銃から一勢に弾丸が放たれ、走ってきたディスパイダーに容赦なく直撃していく。

特筆するべきはその威力だ。前回は防がれていた弾丸が、今は面白いようにディスパイダーの鎧を貫き、ダメージを与えていく。

 

 

「ギャアアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴と全身から火花を上げて後退していく。

クルリと回転するマミ、スカートをなびかせながら微笑んでみせる。

すると赤いポケットからティーセットと椅子、テーブルが出現。

マミは椅子に座ると、さっそく湯気を放つ紅茶に口をつける。

 

一方で再び悲鳴。

ディスパイダーの周りを囲むように大量のマスケット銃が次々に出現していき、あっという間に100程はあろうかと言う銃口が火を噴いた。

 

 

「グガァァアア!!」

 

 

爆炎を纏いながら地面を転がるディスパイダー。

あまりの威力に脚は粉砕され、二本足になったディスパイダーは何とか立ち上がったと言う所だ。

 

 

「ゲェエッ! クソッッ! こんな馬鹿な事が!!」

 

 

糸を伸ばし、鞭に変えるディスパイダー。しかしその時、マミの髪が伸びた。

毛先はリボンに変質し、マミは迫った糸を髪で次々に打ち払っていく。

 

 

「なにっ!? グアァア!」

 

 

糸を封殺するとそのまま伸びた髪は、通常時のマミと同じ、特徴的なドリルヘアを構成する。

しかしそれは文字通り髪のドリル。毛先がディスパイダーの胸を貫くと、そのままガリガリと削っていく。

 

 

「ゴォオオッッ!?」

 

 

ディスパイダーは血の様に吹き出す瘴気を手で抑えながら、さらに後退していく。

一方で髪の毛が元に戻ったマミは、ニコリと微笑み、余裕を見せ付けた。

 

 

「おいおいッ! なんだよコレ! 卑怯だぜ!?」

 

「人質を取った貴女にほど言われたくないものね」

 

「グッ!」

 

「そうですね、それに、これが卑怯ならばそれでもいいでしょう――」

 

 

これが自分達の正義の形だからだ。

それを否定される事は別に良い。胸を張れる事に変わりは無い。

だから、これが卑怯だと言うのならばそれでもいいだろう。シザースは呟いた。

 

 

「あえて言いましょう。卑怯もラッキョウも大好物だぜ!!」

 

「………」

 

「す、須藤さん、それはちょっと違うんじゃないかしら」

 

「え? そ、そうですか?」

 

「アァアァアァ! クッソウゼェエエ! アシナガ! 小巻!!」

 

 

しかし反応はなし。

 

 

「チッ! 使えねぇ! オクビョウ、少し手伝え!!」

 

 

しかしその名が示す通り、物陰に隠れていたオクビョウはギョッとした表情を浮かべると、ディスパイダーに背中を向けて一目散に逃げ出した。

どうやら『流れ』がどちらに来ているのかを、理解したようだ。

 

 

「お、おい! ふざけなんなよアイツッ!!」

 

「大丈夫ですよ」

 

「ッ!?」

 

「逃がしませんからね」【アドベント】

 

 

オクビョウの前に姿を見せたのはボルキャンサー。しかしその姿が光に包まれて変化する。

金色の装飾品が増え、より鎧は派手に変化。背中には翼のようにタイヤ状の装甲が付与されていた。

さらに一番の変化は右腕が巨大化し、ランチャー砲まで装備されるほどに。

まさにそれはシオマネキをイメージしており、新たなる名は、『ボルランページ』。

その巨大な右腕のハサミでオクビョウをがっちりと掴むと、地面を蹴ってシザースの下へ走った。

 

 

【ホイールベント】

 

 

ボルランページの体が割れる様に展開。

さらに背中にあったタイヤがむき出しになり、さらに変形。

両手のハサミも横に割れる様に展開し、あっと言う間にその姿がバイクモードに変わる。

 

特徴的なのはやはり車体前に存在する二つのハサミだろう。

変形前の巨大な右ハサミはそれぞれ左右、『上の刃』に。

通常サイズの左ハサミはそれぞれ左右、『下の刃』になっている。

変形前は左右非対称だったハサミが、現在はほぼ左右対称になっていた。

 

いや、ハサミと言うよりは『四本の角』と言った方がいいかもしれない。

クワガタの様に相手をホールドし、バイクで運ぶ事ができる様になるのだ。

現に今もハサミはエネルギーを纏い、オクビョウをガッチリと捕えて逃がさない。

 

 

「フッ!」

 

 

飛び上がるシザース。

ボルランページのシートの上に飛び乗ると、アクセルグリップを回転させて加速する。

ホイールベントには共通して効果が二つある。一つは契約モンスターをビークルマシンに変える事。

もう一つはファイナルベントのカードを『生成』する事だ。

作られたファイナルベントのカードを持つと、シザースはハンドル中央の挿入口にカードを装填する。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

四つの爪が光を放つ。

ホールドする力も上がり、何より挟み込む力がオクビョウの顔を醜く歪めた。

真っ赤な目でシザースを睨みつけるオクビョウ、刃をむき出しにし、殺意と敵意を爆発させる。

 

 

『な、ナゼだ! 巴マミはッ、し、シヌ筈だったのニッッ!!』

 

「させませんよ。私がいる限り」

 

 

そのまま猛スピードでボルランページは壁に衝突する。

車体の前に磔にされていたオクビョウの背に伝わる絶大な衝撃。

 

 

『ゴォオ!』

 

 

目が飛び出すほどにむき出される。

一方でアクセルグリップを限界までまわすシザース。するとスピードが上がるのではなく、ハサミの閉じる力が強まっていく。

そして、次の瞬間。刃が突き進む光景。

ハサミはガッチリと閉じると、X状にオクビョウを切断した。

 

 

『ギョエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!』

 

 

バラバラになったオクビョウは悲鳴をあげながら爆散。

ホールドした相手をハサミで切り裂く。これがバイクモードのファイナルベント、『インサイザーシザース』である。

シザースはそのままアクセルを吹かし、マミの隣にやって来る。

バイクから降りると、並び立ち。呆然と立ち尽くしているディスパイダーを睨んだ。

 

 

「ハハッ!」

 

「!」

 

「ハハハハハハ!」

 

 

上機嫌に笑ったかと思えば、ディスパイダーは怒りに吼える。

 

 

「とことんムカツクぜッ! あぁクソ! さっさと絶望すりゃあいいのに、それを力に変えるってか!? アァアアァア!!」

 

「世界は数学じゃないわ。真の答えなんて出ないのかもしれない。けれど、己の答えを出せるかで、人は大きく変わることができるわ」

 

「人は答えを探す生き物です。私達は、理想を、正義を答えに視た」

 

「黙れェエッ! 気に入らない! 気に入らねぇなぁ! ごちゃごちゃ言わず、さっさと死ねよォオオオ!!」

 

 

ディスパイダーは爪を叩き、走り出す。

しかしその前に黄色と水色のリボンが壁となった。

怯んだ所で、リボンは収束。手足を縛り、動きを拘束する。

さらにそこへ振るわれるシザースバイザーツバイ。

二つの双剣が乱舞し、ディスパイダーの体を切り抜け、背を突く。そこへ浴びせられる弾丸。

 

 

「ぐぉおおッッ!!」

 

 

地面を滑るディスパイダー。

マミはここを好機と見たのか、目を光らせて狙いを定めた。

 

 

「決めましょう、須藤さん!」

 

「ええ!」【ファイナルベント】

 

 

モンスター体に戻ったボルランページがシザースの背後につく。

飛び上がるシザース。するとボルランページが両手でシザースの足裏を押し上げ、トスを行った。

さらに上昇したシザースは体を丸め、そのまま高速回転しながらディスパイダーに向かう。

 

 

「クソガァア!!」

 

 

両腕をクロスさせてシザースを受け止めるディスパイダー。

瘴気を腕にまわし防御力を強化させたため、シザースの攻撃をなんとか弾く事ができたようだ。

衝撃から両手を広げた状態で後退していくディスパイダーと、同じく斜め後ろへ吹き飛ばされるシザース。

しかしココまでならば通常時のファイナルベント、シザースアタックと同じだ。

 

そう、まだシザースの攻撃は終っていない。

相変わらずボールの様に丸まり回転するシザース。

その背後に、高く飛び上がったボルランページが迫った。巨大な右腕が発光している。

 

 

「まさか! しま――ッ!!」

 

 

そう、ここからだ。ディスパイダーは気づいたようだがもう遅い。

回転を止め、右脚を突き出すシザース。ボルランページはエネルギーを纏う右手で、思い切りシザースの背を叩いた。

 

 

「正義よッ!」

 

 

ボルランページのエネルギーはシザースに伝わり、右脚がオレンジに発光する。

トスで上げたシザースが相手の防御を崩し、その後、跳ね返ったシザースをボルランページがアタックで再び敵の方へと向ける。

 

 

「ハアアアアアア!!」

 

「ゴガァアアアア!!」

 

 

猛スピードになったシザースの飛び蹴りがディスパイダーの腹部にめり込んだ。

これが、シザースサバイブのファイナルベント、『シザースキック』だ。

衝撃と威力は凄まじく、ディスパイダーの体は遥か後方にある壁まで移動し、直後壁にめり込む形で停止する。

 

 

「ば、馬鹿なッッ!! こんなッ! ガァアァア!!」

 

 

全身から瘴気が溢れていく。

終わりが、見えた。

 

 

「見せてあげるわ、アルケニー! ティロフィナーレを超える、私の最強魔法!!」

 

 

一方マミもまた魔力を解放する。

すると彼女の真下から地面を突き破り特大級の大砲が姿を見せる。

マミは砲身の先端で、片足を立てて彼方を眺める――、所謂『波止場のポーズ』を取り、砲口をディスパイダーにあわせる。

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

「ボンバルダメント!!」

 

 

一瞬だった。

もはや断末魔を上げる暇なく、ディスパイダーは塵になった。

巨大な砲弾はディスパイダーを包み込むと、周囲の地形を巻き込み爆発を起こす。

残ったのは爆煙と抉れた地面と、崩壊した壁だった。

 

 

「見つけましょう、須藤さん、本当の正義を」

 

 

地面に着地したマミは手をシザースへ向ける。

 

 

「ええ」

 

 

穏やかな声で、シザースはマミと軽くハイタッチを行う。

この世は、悪意に満ちている。だから、正義を。愚直な正義が必要なのかもしれない。二人は踵を返し、龍騎たちの方へ歩いていく。

 

 

「須藤さん!」

 

「マミさん!」

 

 

小走りに龍騎達はシザース達に駆け寄っていく。

しかしふと、マミは足を止める。そう言えば――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●――――【【【絶 望 連 鎖】】】――――●

 

 

 

「!」

 

 

 

●●●●●【【【狂・気・融・合】】】●●●●●

 

 

 

見落としていた物は、アルベルティーネとシャルロッテのダークオーブ。

二つの闇は弾けると、凄まじい量の瘴気を放出。

さらに僅かに残っていた爆煙が黒に染まり、瘴気と融合していく。

巨大な闇の塊が形成される。そして瘴気が爆発して、景色を鮮明に変えた。

 

そこにいたのは巨大な蜘蛛だった。

それもただの蜘蛛ではない。絵の具の様に毒々しいカラフルなクリームに包まれ、脚はポッキーでできており、八つの目はドーナッツになっている。

間接部はマカロンになっており、お菓子とインクでできたような蜘蛛だった。

しかし鋭利な爪や牙は変わらず、ディスパイダーリボーンは開幕、怒りの咆哮を上げた。

 

 

「奥の手を引き出されるとはなァアア!!」

 

 

リボーンはまさに奥の手。

ダークオーブによるバックアップは正規の物ではないため、拒絶反応・リジェクションが起きてしまう。

つまりこのリボーンを使う際には、魔獣は確実に対象を始末しなければならない。でなければ存在する瘴気が全て消え、従者型にまで戻ってしまうからだ。

 

 

「魔獣は絶対だ! 絶望を抱いて、今ココで死ねッッ!!」

 

「やれやれ、もう少し頑張らないといけないみたいね。みんな、協力お願いします」

 

「はい! マミさん!」

 

「おっけー! 任せてよマミちゃん!」

 

「ッ、来ます!!」

 

 

マミ達は並び立ち、迫る絶望の化身に対峙していくのだった。

 

 

 

 

 

 






龍騎のテレビスペシャルはやはり単体で見るとちょっと詰め込んだ感があったりもするんですが、ループの一つと考えるとお話が広がりますね。
手塚と蓮の関係だったり、浅倉や芝浦が高見沢に協力したり、北岡が敵のままだったり。
キャラクターの相関図も時間軸や状況と環境の違いで大きく変わることが分かります。

中でも須藤は、設定によると元々は浅倉を捕まえるためにシザースになったらしく、現に王蛇を倒しています。
カットされた様ですが、その後、蓮に自分の中で何かが変わって来ている事を説明している場面もあったとか。

これは須藤と言うキャラクターにかなり広がりを持たせた様に思えますね。
あとは真司との喫茶店のシーンを見るに、完全な悪人でもないのかなと。律儀に伝票取りに戻ってますしね(´・ω・)


で、今回オリジナルフォームや技が多くの出ました。
いずれキャラ紹介を別に作って細かく記載するつもりですが、とりあえず今回出た物を下にまとめてみました。
説明の為に他の作品のキャラクターを出したりしていますが、ご了承ください。



・シザース サバイブ

小説とは想像なので、見た目はある程度みなさんで各々の姿を想像してもらえればなと(言い訳)
ただ一通りサバイブ見てみると、まあだいたい頭部がやや派手になり、全体的に金色の装飾品が混じる。
加えて胸部アーマーは契約モンスターを模した物になる(主に顔をイメージ)と言う感じになるのかなと。

シザースの場合、防御力をあげる為に装甲が厚くなるイメージを一応は記載してます。
フィギュアオリジナルの装備でボルキャンサーのパーツを肩につけられたので、そういう感じのゴツさを想像してもらえればなと。

シザースバイザーツバイは双剣。
カブトのガタックカリバーの様に連結させる事で大鋏としても使用できます。

契約モンスターはシオマネキ型のボルランページ。右手のハサミが巨大化してます。
名前の元ネタはシザースサバイブのコラ画像に、ビーストウォーズのランページが使われていたので。
バイクモードのシルエットは、クウガのビートゴウラムの角が四本になった様な物を想像しています。

バイクモードの必殺技はハサミで捕えた相手を切り裂くインサイザーシザース。
モンスター状態での必殺技は、シザースアタックで相手の防御を崩した後、再び飛び蹴りを仕掛ける、シザースキック。

この作品では、ファイナルベントをミラーモンスターがバイクモードで使用する場合と、基本状態で使用する場合で技が変わってきます。



・マミ アライブ

キャンデロロをイメージした服装を身に纏ったマミさん。
二次創作のジャンルで、魔女擬神化や、『ロロマミ』さんって言うのがあるので、其方を見てもらえればイメージはしやすいかなと。
と言うよりも頭自体は、マギレコのドッペルとほぼ同じです。
一応あちらとは違って、髪はおろしている設定です。

マスケット銃の遠隔操作能力が上昇し、さらに各スペックも上昇。
必殺技は、巨大な大砲で相手を打ち抜くボンバルダメント。

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