仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第81話 魔法少女と騎士の物語

 

 

人に怒られた時、誰かに辛い事をされた時、思わずその可能性を考えた。

弱い人間は、少し締められただけで死ぬ。銃弾は魔法だから、警察には理解できない。

でも考えるだけで行動には移さなかった。それが人間という物だ。

そう思えるだけの常識がマミにはあった。

 

ただ思っていたよりも世界はリアルで厳しくて、魔法少女になっても他の魔法少女との確執や衝突は珍しいものではなかった。

しかし銃で人を撃てば死ぬ。当たり前だ。だから、マミは拒んだ。

戦う事はあっても、踏み越える事はできなかった。

弱いから? 臆病だから?

いや――。

 

 

「正しいからだと、私は信じてる!!」

 

 

リボンに掴まり、空中を動き回るマミ。

その軌跡を辿る様に無数のマスケット銃が並び、直後一勢に銃口から火を吐いた。

激しい着弾音と共にディスパイダーの体が火花で覆われる。

しかし表面にコーティングされているクリームだのチョコレートが剥がれていくが、本体にダメージは届いていないのか、僅かに怯むだけ。

だが、まだだ。まどか達も周囲を動き回り、持てる限りの弾丸をディスパイダーに撃っていく。

 

 

「無駄だね! 魔女が溜め込んだ絶望と我が体内に内蔵されている瘴気が、お前らの希望を塗りつぶすぞ!!」

 

 

ディスパイダーの丸みを帯びた尾の部分には、円錐のチョコレートが並んでいるが、それが分離してミサイルのように龍騎たちに向かって飛来していく。

もちろんただのチョコじゃない。当たれば爆発し、装甲を吹き飛ばす威力がある代物だ。

 

 

「クッ!」【ガードベント】

 

 

シザースの前方にボルランページが出現。

ボンボンボンと小気味の良い音と共に、ボルランページが分身して発射されていく。

注目するべきは足が無い点だ。下半身には穴が開いており、高速脱皮で鎧を量産していたのだ。

さらにボルランページは右手にあるハサミを抜け殻に向ける。

巨大なハサミにはランチャー砲がついており、銃口からエネルギーが発射。それは攻撃ではなく空中に浮遊している鎧を、守るべき対象者達に運んでいく。

 

自らを高速で脱皮させ、その殻を仲間に被せる。

ガードベント・『シェルアーマー』。ボルランページの殻はあっという間にまどか達に被さると、襲い掛かるチョコの弾丸を防いで見せた。

 

 

「甘いんだよッッ!!」

 

 

脚の関節から粘着性の糸が発射され、猛スピードでシザース、龍騎、そして動き回っていた筈のマミを捕える。

唯一、真正面から盾で防いだまどかだけは無事だったが、この糸が少し特殊である。。

龍騎達はすぐに引き剥がそうとするが、粘着性のソレは水飴。かなりの抵抗感を持っているだけでなく、徐々に固まっていき、強度を上げていく。

 

 

「いくら防御力があっても、それを砕くパワーがなければ意味がないよなぁ?」

 

「クッ!」

 

 

マミは大量のマスケット銃を展開するが、ディスパイダーはさらに水飴を体から噴出、自身を大量の液体でコーティングした。

弾丸は次々に水飴の中に入っていくが、その高い粘度を前に、ディスパイダーの肉体に届く前にせき止められていく。

 

呼吸を荒げるマミとシザース。

既に大技を使用している事に加え、ディスパイダーの膨れ上がる瘴気を前に魔力や精神力が削られていく。

 

笑い声を轟かせるディスパイダー。

跳躍すると、足を揃えて回転しながらまどかの盾に直撃する。

鋭利な足を揃えガリガリと盾を削るディスパイダーはまさにドリル。

盾の破片が散っていき、まどかは抵抗感に歯を食いしばった。

 

 

「無駄無駄ァ! ブッ壊してやるよお前の盾ェ!」

 

「くッ! うぅぅッ!!」

 

「まどかちゃん!!」

 

 

吼える龍騎。

焦りがまどかの心を支配する。

すると、落ち着いた声が耳に届いた。

 

 

「大丈夫、落ち着いて鹿目さん」

 

「え?」

 

 

そうそう、こんな声が聞きたかったんだ。

 

 

「あぁ!?」

 

 

ディスパイダーが視線を移す。

すると水飴の糸に縛られているマミが微笑んでいた。

そんな格好でよくこんな言葉が言えたものだ。一瞬、そう思ったのだが――。

 

 

「私の大切な後輩を、いじめないでくれるかしら?」

 

 

刹那、マミの体が光ると、その形状が一瞬にして変化する。

赤い名札に変身したように見えるが、マミはそのまま空中を飛翔。

なんとまどかの首に紐を通して、名札を首から下げる形になった。

 

言い換えればそれは、まどかがマミを身に着けたとでも言えばいいか。

すると再び発光、なんとまどかの格好が変化したのだ。

いつもの衣装ではなく、それはアライブ時の衣装でもない。まったく新しい姿だ。

ウエイトレス風のメイド服、スカートには矢印状のアップリケが。

 

 

『聞こえる? 鹿目さん』

 

「ま、マミさん! はい! でもっ、あの、これは?」

 

『新しい力みたい。頭に入ってきたの』

 

 

サバイブ同じく、アライブに変身すれば新たな力を獲得する事ができる。

これがその一つなのだ。キャンデロロは『おめかしの魔女』、それを象徴する様な魔法だった。

プリンピング。他の魔法少女に自身の力を与える魔法だ。

しかしココでちょっとした疑問、この合体状態を何と呼べばいいのだろうか?

アライブ体とは違うし――。

 

 

『決めた! "ももいろさん"にしましょう!』

 

「えっ? ま、マミさんにしては――」

 

『……しては、なに?』

 

「い、いえ。えへへ」

 

『もうっ! 私だってたまにはシンプルな名前にします! そっちの方があえて目立って覚えやすいでしょう!』

 

 

それに今は時間も無い。現に目の前にある盾は崩壊寸前だ。

しかしまどかにあせりは無い。だって大好きな先輩の声がこんなに近いのだから。マミの力が胸の中に溢れているのだから。

 

 

『いくわよ鹿目さん! 私の力を!』

 

「はい! 使わせてもらいます!」

 

 

弓を取り出し、引き絞るまどか。

すると龍騎とシザースから声が上がる。

と言うのも、まどかの弓の形状が変化しているのだ。

矢が放たれる部分が大砲になっている。重厚な弓はまさしく、まどかとマミの力が融合している証拠だった。

 

 

「チッ!!」

 

 

ディスパイダーは体から再び大量の水あめを。

しかしまどかは構わず、弦を離した。

 

 

「『ティロ・フィレッツィア!!」』

 

 

光を放つ巨大な矢が爆発音と共に砲口から放たれる。

矢は凄まじい勢いとスピードを見せると、水あめの中を抵抗物ともせず突き進んでいく。

そしてディスパイダー直撃すると、爆発を起こす。

 

 

「ガァアアッ!!」

 

 

吹き飛んでいくディスパイダーを見て、まどか達は融合を解除する。

まどかの服装が元のドレスに戻り、マミも名札から人型に戻る。

まどかはすぐに詠唱を開始し、スターライトアローを発動。

選択するのは乙女座。『呪い』を解除する力を持った美しい乙女が、龍騎とシザースを通過する。

すると二人を固めていた水あめが消滅。どうやら拘束も呪いと判断されるらしい。

 

 

「クソ! どこまでも邪魔な奴らだ! 苦痛が待っている道を正しいと言うのか! 自分の感情を押し殺しても、痛みを背負ってもッ、儚い常識と良心を優先させるのか!!」

 

 

ディスパイダーは八本の足を広げ、高速回転を行う。

すると体が浮き上がり、さらに足の先から筆が出現。

インクが円をなぞり、カラフルなフリスビーの如くディスパイダーは空中を疾走する。

 

インクは瘴気のエネルギー。触れたものにダメージを与える武器なのだ。

今のディスパイダーはまさに空中を移動するインクのノコギリ。

まどか達は高速で飛来するディスパイダーを回避するため、地面を転がり、空中を舞う。

 

 

「きゃあああッ!!」

 

「うぐッ!」

 

 

しかしディスパイダーの動きは素早い。風圧で吹き飛ばされるまどか達。

その中で踏みとどまるマミとシザース。そこでディスパイダーは吼えた。

本当にマミ達の行動は理解できない。全てを知っておきながらまだ不確定な『正義』を貫こうなどと、馬鹿にしか思えなかった。

 

ムカツク奴は殺せばいい。

疑うべきは罰せよ。不快な想いをさせる奴は消してしまえば良い。

そうして願いを掴み取る。それが競争社会に生まれた人間のとるべき選択だろう。

何を迷っている? 何を躊躇っている? 罪がない。力がある。だったら其方に適応すればいいのだ。

 

 

「結局お前らは弱いから言い訳をしているだけにしか過ぎない! 人を殺す事に恐怖しているチキン共が! 正義を盾に逃げてるだけだッッ!!」

 

 

ムカツク。

そんな連中にココまで圧されている事がディスパイダーとしては耐えられなかった。

何を妥協している、何を言い訳をしているんだ、なのにサバイブだと? アライブだと?

 

 

「理解できるかよクソゴミ共が!」

 

「それがあなた達の限界なのよ!」

 

「あぁ!?」

 

「分かりませんか! それが強さなのだと言う事を!」【シュートベント】

 

 

シザースはツバイを連結させてハサミモードに変える。

そして刃を閉じて、刃先をディスパイダーに向けた。すると刃を取り巻く水流。

同時にボルランページが隣に出現、右手のランチャーから巨大なシャボン玉を一つ発射する。

 

 

「!!」

 

 

シャボン玉はすぐに爆発。するとまるで風船が割れたように轟音と衝撃波が発生した。

ビリビリと体を包む衝撃に思わず動きが鈍るディスパイダー。

そこにめがけ、シザースはチャージしていた水流を解き放つ。

 

まるでそれは渦巻く水のレーザー。

ボルランページが相手を怯ませ、シザースが水流波で相手を攻撃する、アクアストリーム。

勢い強い水流は回転するディスパイダーに直撃すると、勢いを止めてみせた。

競り合う中で、マミとシザースは正義を瞳に映した。

 

 

「―――」

 

 

シザースの記憶がフラッシュバックする。

いつの時間軸か? いや、それはどうでも良い。

何故ならばそれは『いかなる』時間軸であろうとも関係の無いものだからだ。

合わせ鏡が無限の世界を形作るように、現実における運命もひとつではない。その中で変わらないものがある。欲望、心だ。

そして、言葉。

 

 

『雅史』

 

 

忘れていた。

自分もまた一人の人間であると言うことを。

生まれ、愛され、生き、望まれた命だったと言う事を。

 

霞掛かった女性の姿が見える。

本物なのか、ニセモノなのか、偽りなのか。

そんな事はどうでもいい。しかし須藤は確かに、その女性を『母』と視ていたのだ。

 

 

『あなたは良い子だから、清く、正しく、生きなさい』

 

 

気づけば、シザースは叫んでいた。

分からない。何故か分からないが涙が出てきた。

それは――、別に母を思い出したからとか、過去を思い出したからではない。

確固たる『人生』と言う物が見えてしまったからだ。

 

自分が確かに『生』きている事を知ってしまったからだ。

何回だ? 何度繰り返した? 思い出そうとすればする程、記憶が、苦痛が、闇が見える。

 

いや、それはなにもシザースだけじゃない。

誰もみんな心に計れない、闇がある。しかし生きている。

人は闇だけじゃない、黒だけじゃない、光と白が、今、胸に突き刺さる。

叫びたい。

 

 

「教えてくれ。俺は誰だ!」

 

 

そんな言葉を叫びたかった。

複数の自分、迷走する世界。ダメだ、こんな事じゃ、何の為に生きているかも分からない。

だから、貫く。貫かなければならない。今度こそ、生きるため、生き残るために。

須藤を確立するのだ。だから貫く、唯一共通する、『刑事』の役割を果たせ。

 

 

「教えてやるアルケニー。人の世では、人を傷つける事は許されない!!」

 

「そうよ! だから私達は、人の定めた良心を信じるの! 貫くの!!」

 

「黙れェエッ! 力を持っているくせに、馬鹿な事をォオ!」

 

「そんな馬鹿を、皆は――ッッ!!」

 

 

マミがリボンを伸ばす。すると背後から、『鞭』が伸びてきた。

 

 

「なにっ!」

 

「そんな馬鹿を、皆は凄いって言ってくれる! 慕ってくれるの!!」

 

 

青と黄色のリボンがディスパイダーを縛り上げる。

さらに伸びた鞭が加わる。それはホールに足を踏み入れたサキの武器だった。

 

 

「マミ! 状況が分からないが、コレでいいんだろう!?」

 

「ええ! 最高よサキ!!」

 

 

すると白。

巨大なマントがディスパイダーの顔を覆い、拘束を加える。

 

 

「マミさん! イメチェン? 可愛いですよ!」

 

「ありがとう美樹さん。ちょっと、おめかししてみたの!」

 

 

サキとさやかだけではない。

ほむらは時間を停止し、ディスパイダーの体にチェーンを巻きつける。

ライアはスイングベントを使用し、エビルウィップを伸張させ、ディスパイダーの体を縛る。

そして入り口の方では人質の子供を横抱きにしたニコと、興味深そうにディスパイダーを見るガイとあやせが立っていた。

 

 

「ねえ、って言うかさ、何このノリ。アイツ縛ってどうすんの?」

 

「私も分からん。新手のプレイでは?」

 

「そういう話、すきくなーい」

 

 

ニコは仕方なくバールを媒介に再生成。

今も聞こえるディスパイダーの唸り声に勝てる様に、メガホンを作り出すと、マミに向かって叫ぶ。

 

 

「あー、テステス。マイクテス。この後どうすんのー?」

 

「私に考えがあるわ! お願いだから協力して!!」

 

「えー? うぜーなー」

 

「報酬」

 

「あ?」

 

「ゲームでよくあるだろ。レイドボスを倒すには、他プレイヤーと組まなきゃならない」

 

「あー、はいはい。でもおれ、あんま好きじゃないんだよねー。弱いヤツと組むのってマジだるいし」

 

「でもそうじゃないと手に入らないアイテムがあるだろ」

 

 

ガイには心当りがあった。

と言うのも以前、コールサインプロローグを倒した時、その時のコアグリーフシードを貰っていたのだ。

 

あやせとルカは当然浄化に使うグリーフシードも他の魔法少女より多い。

故に、頻繁な確保は必要になってくる。しかしコアグリーフシードは穢れを吸収できる量が遥かに多い。ガイとしては手に入れておきたい所なのだ。

 

 

「一個やるよ」

 

「なるほどねぇ。ま、じゃあ協力してあげようかな」

 

 

再びメガホンのスイッチを入れるニコ。

何をすればいいのか。マミの返答は簡単だった。

大技を放ちたい。だからディスパイダーを――。

 

 

「了解」

 

「ズァアア!!」

 

 

衝撃、痛み、解放。

ディスパイダーが全ての拘束を振り払ったのは、地面に叩きつけられた時だった。

まるで『流れ』が目に見えるようだ。ディスパイダーは明確な危機感を覚えた。

 

しかしもう遅いのか。

一本の脚に衝撃。視線を移すと、そこに角が突き刺さっていた。

ファイナルベント、ヘビープレッシャーが脚を貫いたのだ。

ガイはヒットを確認するとメタルゲラスから降り、そのまま貫いた手に力を込める。

 

 

「テンンメェエ!!」

 

 

とことん邪魔をしてくれる。しかしこうなっては仕方ない。

だがディスパイダーは奥の手があった。それは情報だ。

今ココでガイペアにフールズゲームの事を教えるのだ。

 

 

「おい、いいか! よく聞けよ芝――」

 

 

そうすればこんな下らない協力など止めるだろうと思った。

しかし言葉が途切れる。口の中に違和感。

これは、きっと、時間停止。

 

 

「ごがはァアッ!!」

 

 

爆発。

ほむらはディスパイダーの口の中に爆弾を放り込んで黙らせる。

さらに時間停止。盾から『ある物』を取り出して直後、リリース音。

すると悲鳴が聞こえた。ディスパイダーが衝撃に叫んだのだ。

 

天から降ってきたのは巨大な槍――、とも見間違える『鉄柱』だった。

ほむらの盾から出てきた鉄の棒。魔法で強化したそれは、ディスパイダーの細い足を貫くと地面に突き刺さり、磔にする。これで二本目の脚が封じられた。

 

 

『コピーベント』

 

「グガァア!!」

 

 

再び衝撃。

ライアはほむらの鉄柱をコピーすると、違う脚に向かって投擲した。

もちろん強化もコピーしており、鉄骨は三本目の脚を貫く事に。

やばいか? ディスパイダーは水飴を放とうとするが――

 

 

「零になれ、蜘蛛よ」

 

 

体を覆う絶氷。

双樹アルカはサーベルを四本目の脚に突き刺し、体内に冷気を流し込むと、ディスパイダーの体を氷で覆う。

水飴の発射口が氷で覆われてしまい、放出ができなくなる。

 

 

「く、クソッ!!」

 

 

ありえない。

最初の目的ではもっと早くに決着がつく筈だった。

なのにこんなに苦戦しているのは何故?

 

決まっている。ワラワラとマミの仲間が湧いてきたからだ。

そうしていると五本目の脚に違和感。見ればサキが鞭を脚に巻きつけている所だった。

それだけではない、魔法の引継ぎは継承者以外にも適応されているようで、サキは既にイルフラースを物にしているようだ。

 

全身が発光し、雷の翼が生えている。

さらに覚醒の影響で髪が伸び始め、サキはその中でさらに力を増幅させていく。

 

 

「最大電力だッ!! お前は離さないッッ!!」

 

「クソがぁあ――ッッ」

 

 

引き剥がそうとするが、イルフラースはサキの最大の切り札。

記憶を取り戻していないとは言え、短時間の間ならばサキは無敵ともいえる身体能力を発揮する。

それはディスパイダーの力を超え、拘束時間を与えてみせる。

さらに六本目の脚に違和感。さやかが脚に無数の剣を突き刺し、マントを使って縛り上げていた。

 

 

「ナメんなよクソ雑魚がァアア!!」

 

「おわわわわッッ!!」

 

 

流石に新人のさやかでは厳しかったか、足を振るうと剣が抜け、マントが振り払われた。

足の先を硬質化すると、しりもちをついているさやかを貫こうと殺意を込める。

 

 

「やッば!」

 

 

さやかちゃんピーッンチ!

ごめん皆、この流れであたしだけ役に立てなくて!

そんな事を思いつつ。さやかは涙目になりながら頭を抑えた。

しかし脚を振り上げた事は多くの目に留まることになる。

その中、シザースが真っ先に動いたのだ。

 

 

「ボルランページ!」

 

 

ピクリと、契約モンスターの肩が動く。

 

 

「美樹さやかを守れ!」

 

 

頷く様に動いたボルランページ。今度は、動いた。

地面を蹴り、蟹ではあるが二本の足で全力疾走。

スライディングでさやかの前に割り入ると、襲い掛かる脚を巨大なハサミでガッチリと受け止めた。

 

 

「美樹さん、今です!」

 

「う、うん! 須藤さんマジでありがとう!!」

 

 

さやかは再び無数の剣で脚を串刺しに。

そしてボルランページと共に再びマントで脚を縛り上げた。

 

 

「動いたでしょ、須藤さん」『アドベント』

 

「ええ。ですね」

 

 

龍騎はシザースの肩を叩いてサムズアップ。

なるほど、たしかにそうか、シザースも苦笑して頷いた。

一方、咆哮を上げて七本目の足に巻きつくドラグレッダー。

ディスパイダーが抵抗を試みようとするが、火球を発射して怯ませる。

 

 

「エンブレス・ヴェヴリヤー!」

 

 

巨大な天使が八本目の脚を抱きしめた。

まどかが動きを止めている間、対象の動きを封じる魔法だ。

既に七本を拘束されており、ダメージも蓄積されているため、ディスパイダーはその魔法を通してしまう。

 

 

「ギッ! ガァッ!」

 

 

抵抗するが、体が全く動かない。

八本、全ての脚が拘束され、ディスパイダーは完全に動きを封じられた。

 

 

「がんばえー」

 

 

人質を庇いながら、ニコは気の抜けた応援を。

 

 

「みんなありがとう! 最高のアシストよ!」

 

 

マミはシザースとアイコンタクトを行う。二人はまだ一発だけ大技を使う事ができた。

ボンバルダメントに全てを込め、シザースはファイナルベントを二回も使用した。

しかしそれは『単体』。つまり一人ならの話。

パートナーシステム。それはお互いを助けるための物なのだ。

 

 

【ユニオン】【ファイナルベント】【ファイナルベント】

 

 

ファイナルベントにユニオンを使えば、三枚目のファイナルベントが具現する。

そして、発動されるのは合体技、複合ファイナルベント。

これもまたサバイブとアライブならば力が増幅するのだ。

 

 

「ハァアアアア!!」

 

 

マミが地面に手を付くと、青と黄のリボンがディスパイダーの周囲を取り囲む。

帯の様に太いリボンはさらに幅を広げ、そしてその上に次々と砲台を展開させていく。

そしてシザースの背後に回るボルランページ。飛び上がったシザースはトスで打ち上げると、体を丸めて高速回転。そのまま近くにあった砲口の中へ入っていく。

 

 

「みんなッ! 離れて!!」

 

 

マミの言葉を合図に脚から離れる龍騎たち。

 

 

「ウッ!」

 

 

ディスパイダーが我に返ると同時だった。砲口が火を噴き、爆発と共にシザースを撃ち出す。

高速回転しながら猛スピードでシザースはディスパイダーに命中、肉体をそぎ落とす様に崩壊させながら飛んでいく。

 

 

「グァアアッ!」

 

 

マミが巨大な大砲を出現させシザースが砲口の中に入る。

そのままマミが大砲を発射、高速回転するシザースが発射される。

さて、ここまでは通常時の複合ファイナルベント。アルティマシュートと同じだ。

 

もちろんこれで終わる筈が無い。

マミはそのまま叫びと共に、手に持っていたリボンを思い切り引っ張った。

するとまるで独楽の様に円形状に並んだ大砲が回転。さて、大砲はディスパイダーを囲むように円形に並んでいる。つまり、通り抜けたシザースはどこに行くのか?

 

 

「ハァア!」

 

「グァアアア!!」

 

 

シザースが行き着く先は、別の大砲の砲口だった。

すると中に入った瞬間、射撃。シザースは再び中央にいたディスパイダーに命中し、装甲を吹き飛ばして飛んでいく。

するとまたも別の砲口へ進入。瞬間発射され、またディスパイダーを撃ち抜いて別の砲口へ。

それを高速で次々と行っていく。

 

 

「フッ! ハッ! セイッ! ヤッ! ハァッ! ハッ! タァッ!!」

 

 

三百六十度、次々に襲い掛かるシザースと言う弾丸。

中央にいたディスパイダーは次々に弾丸を受け、肉体が吹き飛ばされ、悲鳴が響く。

 

 

「ありえんッ! こんな馬鹿な! チクショウッ! なんなんだよコレはァアア!!」

 

 

理解できぬのも無理はない。

エゴ、信念、心が生み出した答え。それを力にしているのだから。

また間違える時はあるのかもしれない。また疑う事はあるのかもしれない。

しかしそれでも、こうでありたいと思う姿は、今ココにある。それを信じる事こそが正義であると。

だから勝つのだ。絶望に足止めされる事ほど無駄な時間はない。

それにもう絶望は感じ飽きた。いつまでも闇の中ではいられない。

 

 

「もう絶望(あなた)は、必要ない」

 

 

疑心暗鬼に怯える自分は醜くて仕方ない。恐怖に歪む顔は、それはもう醜い筈だ。

 

 

「どうせなら女の子は『真』に『美』しくあれってね」

 

「そうです。飽き飽きなんですよ」

 

 

だから――、消えて!

 

 

「「ミーティアーフィナーレッ!!」」

 

「グアアアアアアアアアアア!!」

 

 

マミが大砲で相手を囲み、次々にシザースが大砲を移りながら攻撃を仕掛けていく。

複合ファイナルベント。『ミーティアーフィナーレ』。最後の一撃がディスパイダーの鎧を粉々に打ち砕き、お菓子と落書きの鎧はバラバラに四散する。

 

 

「ズァッ! ぐあぁああぁああッッ!」

 

 

崩落の時。瘴気が一気に流れ出ていく。

破片に揉まれながら地面を凄まじい勢いで転がっていくのは、アルケニー。

既に怪人態を構成するエネルギーも瘴気も残っていない。

 

 

「ウッ!」「ぐっ!」

 

 

だが一方でコチラも呻き声が漏れる。

流石に慣れない間に力を使いすぎた。マミとシザースは通常形態に戻り、膝をつく。

ダメだ、まだ決着はついていない。

だからマミは叫んだ。大丈夫。自分達はもう終わりだが、心配する必要は無い。

戦えなくなっても問題は無いのだ。

そうだろ? だって……。

 

 

仲間がいるのだから。

 

 

『ユニオン』『『ファイナルベント』』

 

 

判断は一瞬だった。

 

 

「ウゥゥウァ? ッッ!!??」

 

 

濁る視界の中、アルケニーは立ち上がる。

見えたのは翼を広げて浮かび上がるまどかと、彼女の周りを飛び回るドラグレッダー。

そして同じく地面を蹴って飛び上がっている龍騎だった。

龍騎は空中を一回転し、足を突き出す。そこでアルケニーの記憶が、本能がシグナルを放つ。

 

 

「ハハッ! ハハハッ! ハーッハハハハハハハハハハハッッッ!!」

 

 

気づけばアルケニーはフラフラと助走。

そして両手を広げ、一気に加速していた。

一方で弦を限界まで振り絞るまどか。それに合わせる様にドラグレッダーの口の中から光と熱が漏れる。

一瞬、まどかの脳裏に浮かび上がる死のイメージ。目の前に広がる絶望の光景。

マミの死が見える。涙が見える。

 

 

『イヤァアァアアァァァアアアァアッッ!!』

 

 

頭を抑えて、叫んだ事がある。

浮かぶワルプルギス。地面に四散する友達の体。

繰り返すのか――。いや、違う。

終わらせるんだ。

 

 

「もう、いらない」

 

 

消えろ。まどかは弦を離した。

炎の矢が、ドラグレッダーから発射される。

そして矢は、龍騎と交わり、飛んでいく。

 

龍騎は目の前に視た。

終わらない戦い、町の中で頭を抱え叫んだ過去がある。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

崩壊していく精神。壊れる心。ダメだ、違う、いらない。

あるのはただ、願いを叶えたいと求める心。

そう、もう負けるわけにはいかないんだ。

 

 

「消えろ、魔獣ッッ!!」

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

マギアドラグーン。

炎の矢となった龍騎の蹴りを、アルケニーは両腕をクロスさせて受け止めた。

 

 

「ヒハハハハァッ! やはり――ッ、アタシを殺すのはお前か! 城戸真司ッッ!!」

 

 

瘴気が吹き出していたのだが、それが今、炎に変わっている。

体にも徐々にヒビが入り、そこから次々に炎が噴出していく。

龍騎の足を受け止めている部分は赤く発光しており、アルケニーはその中でしっかりと笑みを浮かべた。

 

 

「魔獣が! 究極の絶望が死ぬ! ありえねぇ! ありえないがッ、ヒハハハハァア!」

 

「俺達は、必ず生き残るッッ!!」

 

「アァァッ、とことんムカツク連中だ! 意味が――ッ! 分からない!!」

 

 

しかしコレが現実。

人質と言う奥の手まで使って負けたのならば仕方ない。

腹が立つ話だが、認めるしかないだろう。

 

 

「ご褒美をやるよ城戸真司ッ!」

 

「ッ!?」

 

「サバイブ! アライブッ! この力――ッ、魔獣にとっても未知数だねぇ! ひゃははははは! 危険だ、魔獣を殺す因子だよコリャァア」

 

 

大きく開けた口から炎が漏れた。徐々に体が赤く、オレンジに染まっていく。

サバイブ、性質の力、まさかこれほどとは。

 

 

「だが認めねぇ! アタシは執念深いんだ! だから必ず蘇る! いいか? 必ずだ! ハハハハハ!!」

 

 

そして次こそは、必ず。

 

 

「何度蘇っても、俺が、俺達が――ッ、お前らを絶対にぶっ飛ばしてやる!」

 

「ムカツク! ムカツクぜぇ! 城戸真司ィイ! 人間ンンンンッッ!!」

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ヒハッ! ヒハハハッ! ヒァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

熱が体を駆け巡る。

アルケニーの体が真紅に染まり、炎が溢れると、龍騎の足が肉体を貫いた。

そして爆発。アルケニーの体が炎によって消滅する。

弾ける瘴気。そして同時に、魔女結界が音を立てて崩れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。芝浦くん、双樹さん」

 

「ま、退屈しのぎにはなったかな」

 

 

アルベルティーネのコアグリーフシードを手に、芝浦はさっさとまどか達に背を向けて歩き去った。

あやせはチラチラとまどかを見ながらも、同じく、そそくさと芝浦の後を追っていく。

 

 

「小巻は?」

 

「探してみたけどいなかったわ」

 

「まあ、いつまでも残ってるわけないか……」

 

 

ニコは子供を抱えている。どうやら送って行ってくれるようだ。

ディスパイダーが死んだ事で、別の記憶が刷り込まれているのだろう。

恐怖が残る事はないと思うが、とは言え早く母親のところに戻った方がいい。

 

 

「まあでも、とりあえずは何とかなったんじゃないか?」

 

「そうね。良かったわ」

 

 

ニコリと微笑むほむら。

それを見てニコは何度か頷いてみせる。

 

 

「キミも良い感じだ」

 

「え?」

 

「そろそろ、まどか離れもしていかないとな」

 

「どういう意味かしら」

 

「まんまだよ。分かるだろ?」

 

「……ええ」

 

 

髪をかき上げるほむら。

人は、孤独じゃ生きられない。世界はきっと自分が思っている以上に孤独じゃないと信じたい。

 

 

「優しくて、かっこよくて、大好きな先輩がいるもんな」

 

「………」

 

 

ジャラリと音。

 

 

「およ?」

 

 

ニコは額に汗を浮かべてほむらを見る。

気づけば体に鎖が巻きついておるがな。

ほむらさんが超怖い顔でコッチを見ておりますがな。

 

 

「どこで聞いたの?」

 

「……や、ほら、私の偵察機をマミにつけておいたし」

 

 

病院に行く前、流石にマミを一人で残すのはマズイと判断したニコは小型偵察機『ニコちゃん人形』を忍ばせておいた。

そうしたらもうサキだのほむらだのが来てペラペラと励ましのお言葉を投げかけるではないか。ニコちゃん人形には録音機能もあり――。

 

 

「かわいいな、ほむらちゃんも」

 

 

一瞬だった。

ハリセンを取り出したほむらと、再生成で鎖を折り紙に変えたニコ。

勝者は後者。ニコは透明になるとほむら達の前から姿を消す。

 

ほむらは肩を震わせ、ハリセンを盾の中にしまった。

こうなっては仕方ない、今日のところは許してやろうではないか。

そんな事を考えていると声が聞こえてくる。

 

 

「サキさーん。ちかれたよぅ、おんぶしてー」

 

「あ、こらッ、さやか!」

 

 

さやかはサキの背中に抱きつくと、それぞれ変身を解除。

 

 

「やれやれ……、だが確かに疲れたな。私達は帰るよ、マミ」

 

「え? あ……」

 

「いつか、私達にも教えてくれよ」

 

 

どうやら意味を理解してるらしい。

サキとさやかは、それぞれ含みのある笑みを浮かべている。

マミ達もまた、強く頷いた。

 

 

「グリーフシードがもう少し集まれば、必ず真実を教えるわ」

 

「了解ですマミさん。それまで、さやかちゃんも待ってますからね」

 

「だが、何かあればいつでも言ってくれ。必ず協力しよう」

 

「そうそう都合の良い女だもんね、あたし達」

 

「言い方が悪いぞさやか。さあ、帰ろう」

 

「お姉さまぁ、お腹すいたー、なんか奢ってぇ」

 

「キミはよく食べるからな。お断りだ」

 

「鬼ぃ、さやかちゃんのお腹と背中がくっついても知らないぞう!」

 

 

等と言い合いながらサキ達は笑いながら帰路につく。

 

 

「随分、アッサリだったわね」

 

「それだけ信頼されてるって事だよ。ね? マミさん!」

 

「ええ、そうね。ありがたいわ、本当」

 

 

ニコリと、マミは笑顔をまどか達に向ける。

いつも見ていた。いつも通りのマミの笑顔だった。

さて、これからどうしようか? 皆がそう思い始めたとき、クルルルルルルと何かの音が。

 

 

「?」

 

 

一同が視線を集中させるのは、お腹を押さえて真っ赤になっているまどかだった。

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 

時間も時間だ。

頑張ればお腹もすくだろう。

まあ恥ずかしいだろうが仕方ない。恥じなくても良い、それは生きている証なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、俺ね、信じてたんすよ。騎士の中にもきっと話し合えば分かってくれる、まともな人がいるって』

 

『とにかくですね――、あぁ、今日はコレッ、全部俺が奢りますんで。みんなも食べたいものあったら何でも言ってね!』

 

『おすすめ? オススメはうーん、ネギダクとかいいかも!』

 

『紅しょうが? あぁ、もうそれは好みで入れちゃって。俺もね、最初は嫌いだったんだけど、大人になったのかな? あ、これはそういう食べ物なんだって思ったら美味しく感じてきてさ!』

 

『なんて言うのかな? そう! からあげにレモンみたいな? 俺さ、あれも最初は苦手だったんだけど、からあげじゃなくて、からあげレモンソースって言う別の食べ物と思ったら割り切れるようになってさ』

 

『あ! そうそう、ココね、アイスあるんだよアイス。まどかちゃん食べる? 甘いよ、冷たいよ。食べよう、よっしゃ食べよう! すいません、アイス――、えーっと取り合えず三つ!』

 

 

真司のマシンガントークを聞いていたら、あっと言う間に二つのテーブルの上には注文した牛丼だのサラダだのアイスだのが並べられていく。

お腹がすいたまどかの為、真司は残っているメンバーを誘って行きつけの牛丼屋にやって来ていた。

常連で他の客を連れてきてくれる真司に、店長の『ムロちゃん』もニッコリである。

味噌汁を全員におまけしてくれた。

 

 

「すいません、わざわざ」

 

「いいんですよ。真司さんにいつも来てもらってますから」

 

「どうもっす!」

 

 

そう言いながら早速モリモリ真司は牛丼を口の中へスロットインである。

ははあ、と、須藤は思う。

 

 

「こういう所も城戸くんの人間性を現しているんですかね」

 

「?」

 

 

まあ真司と言う男は特別『良い人間』と言うわけでもない。

サボる時はサボったり、ちょっとした事でカッとなったり、お馬鹿だったりと、聖人君子の超人と言うわけではないのだ。

 

しかし少なくとも人並みの良心はある。

それだけでココまでの信頼を勝ち得るとは、それは真司の才能なのかもしれない。

 

たとえばそう、最近は炎上と言う単語があるが、それを例に出せば分かり易いのかもしれない。

たとえば人種差別だとか、嫌な話だが『○○は死ねばいい』そんな事を載せる人間は共感を得られるかもしれないが、批難する人間も多く、きっと炎上してしまうだろう。

 

いわばそれが参戦派とでも言えばいいのか。

真司はそう言った発信をせず、むしろ『そんな事を言っちゃいけない』と書き込む人間だろうか。

偽善者だのと書き込む人間はいるだろうが、身近に接してみるならどちらがいいのかは明白だ。

 

この世界に完全に優しい人間などいない。

まどかも真司だって誰かがムカツクだとか、嫌いだとか、もしかしたら死んでしまえば良いと思う時があるのかもしれない。訪れるのかもしれない。

 

しかし、それを口にはしないだろうとも思う。

なぜならば二人にはそう言った強さがあるからだ。

軽い気持ちで書き込んでしまう者とは違う。確固たる強さがあるのだ。

口にするか、しないか。行動に移すか、移さないか。近いようで大きな壁がそこにはある。

 

 

「――なんて、思ったり」

 

 

須藤も牛丼をほお張り始める。

真司は照れくさそうにしているが、手塚はフッと、小声で笑う。

 

 

「そこまで考えていれば、いいんだけどな」

 

「馬鹿にするなよ手塚。俺はもう全部バッチリだからな!」

 

 

そう言ってカチャカチャ丼を鳴らしている真司。

一方で隣のテーブルではマミが牛丼を興味深そうに見つめている。

隣では無言でパクパク飯を口に運んでいるほむら。

 

 

「鹿目さんと、暁美さんは食べた事あるの?」

 

「ありますよ」

 

 

まどかは何度か母親に連れてきてもらった事があるため、大量の紅しょうがを乗せて牛丼を食べ始めた。

 

 

「ええ。巴さんは無いのね」

 

 

ほむらは適当に一味をかけて。

 

 

「こういう店は男の人が入るってイメージだったから」

 

「そうね。間違ってはいないわ。巴さんは少し入りづらいかも」

 

 

正直ほむらも最初はそうだったが、慣れれば普通に入れるようになってしまった。

ああいや、途中から食事は簡単に済ませる様になったため、今は確かに久しぶりだが。

マミは恐る恐る牛丼を口にする。するとキラリと目を輝かせた。

 

 

「うん、おいしい!」

 

 

思わず笑みがこぼれる。

自然に口角が上がり、マミはニヤニヤと嬉しそうに牛丼を食べていた。

なにもそれは滅多に食べない味を前にしたからではない。

隣のテーブルでは真司達がなにやら食事の会話で盛り上がっている。

 

 

「いやッ、確かにチーズトッピングは美味しいですけど毎回は飽きますって!」

 

「そんな事ないですよ! 三種のチーズが丁度いい感じに溶けるのが美味しいんですよ!」

 

「ネギが一番安定してると俺は思うんだが……」

 

「それもいいけど、やっぱ一番はノーマルだって! あ、卵はあってもいいけど」

 

 

そして目の前では無言でパクつくほむら。

美味しそうに味噌汁を飲んでいるまどかが見える。

 

 

「ふふっ!」

 

「っ? どうしたんですかマミさん」

 

「あのね、楽しくて。みんなとご飯食べるの」

 

 

久しぶりだ、こんな人数でご飯を食べるのは。

それがなんだか無性に楽しくて、マミは笑みを零す。

 

 

「これからはずっとですよ、マミさん」

 

「え?」

 

 

まどかはニコリと微笑み、ほむらも唇を吊り上げた。

そう。そうだな。マミも満面の笑みを浮かべると、静かに頷いた。

 

 

「ココだけじゃなくて、もっといろんな場所に行きましょうね、みんなで」

 

「そうね、だって、私達、仲間だものね」

 

「そうです。あとは――」

 

 

まどかも満面の笑みをマミに向けた。

それが唯一無二の証明だ。嫌いな相手に笑顔など見せない。

敵にこんな無邪気な顔は見せないだろう?

 

 

「友達、ですからね!」

 

 

笑みを浮かべるマミとほむら。

向こうのテーブルにも聞こえていたのか、手塚と須藤も笑みを浮かべた。

しかし唯一、真司だけは青ざめ、白目をむいている。

 

 

「真司さん?」

 

「……財布、忘れた」

 

 

え?

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「私が払いますよ」

 

 

苦笑交じりの須藤に、真司は心の中で土下座を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の骸。

 

 

「今回は油断したと言う事だね。一本取られたよ」

 

 

宇宙空間での爆発は中々スリリングなものだった。

アシナガは自室の椅子に座り込み、眉を顰める。

しかし唇は吊り上げており、目の前にいる小巻を睨みつけた。

小巻は額に汗を浮かべつつ、鼻を鳴らして持っていたダークオーブを投げた。

 

 

「これだけしか回収できなかった」

 

 

ダークオーブの器。

そこに入れられたのは『アルケニー』が爆散した際に発生した瘴気だった。

要するにアルケニーを構成していた物質とでも言えばいいか。

それを回収したと言うことは……、どういう事なのか?

 

 

「なるほど、少量だ。だが時間をかければなんとか――、か」

 

 

アシナガが一体を何をしようとしているのか。それは小巻にもなんとなく理解できた事だ。

しかし可能なのか? それは分からない。そもそも一体何故そこまでするのか。

魔獣には仲間意識がない筈だ。

 

 

「なのに何故――?」

 

「恩義、かもしれないね」

 

「え?」

 

「ボクも元は人間だった。知ってるかい? アルケニーはね、バッドエンドギアの中では悲しいほどに弱い」

 

 

大きな口を叩いていたが、その実、協力者や魔女、人質を使わなければ参加者には勝てない事を自覚していた。

 

 

「どうしてか分かるかい?」

 

「いえ……」

 

「魔獣は通常、瘴気を力の源としている。そして瘴気は絶望から供給されるエネルギーであると」

 

 

だからこそゲームは魔獣にとって最高のシステムだった。

瘴気は体内に取り込む事で力に変える事ができる他、消費する事になるが、ある種のドラッグのように快楽を得る物質としても作用していた。

 

 

「しかしアルケニーはある時期、ほぼ全くと言っていいほど瘴気を吸収できなかった」

 

「………」

 

「だいたい16年ほどね」

 

 

そればかりか、アルケニーは自分の瘴気を分け与える行動を取っていたと説明を。

 

 

「関係があるの?」

 

「まあね。とにかく過去の良心をまだ、ボクは覚えているよ」

 

「………」

 

 

小巻は複雑な表情でアシナガの部屋を出た。

何故、そんな感情を思い出せるのに、彼は魔獣になったのだろう。それが不思議で仕方ない。

小巻はアシナガの事をよく知らない、何か過去が関係しているのだろうか?

 

いや、いずれにせよもうアシナガは魔獣になった。人間ではないのだ。

どれだけ過去の記憶があろうとも、人だったアシナガは完全に死んだ。

小巻は騒がしいホールの様子が気になり、様子を見てみる。

すると他のバッドエンドギアはアルケニーが死んだ事など最早誰も話題にしていない。

今はモニターにシザースサバイブが映し出されていた。

 

 

「性質におけるサバイブの生成。これは想定外のデータです」

 

 

バズビーはこれを危機と判断したようだ。

蓄積した瘴気を打ち消す事ができる『希望』が、サバイブには存在している。

今回、シザースの件で一つわかった事があるが、それは条件さえ満たせば全ての騎士にサバイブが、全ての魔法少女にアライブが与えられると言う事である。

 

 

「このサバイブ――」

 

 

バグ、これをキュゥべえ達は『ユイデータ』と呼称する事とした。

魔獣や騎士にもこの名称は伝わっている。

 

 

「ユイデータは危険です。皆様、くれぐれもお気をつけて」

 

「大丈夫でしゅ」

 

 

椅子から小さな女の子が姿を見せた。

ゴスロリファッションで、小学生――、いやもっと小さな女の子だ。

メガネをかけた少女。赤紫色のツインテール。そして長い触角を持った青い虫のぬいぐるみを抱きしめている。

彼女の名前は『テラ・ロングホーン』。

抱きしめているぬいぐるみの名前は『ゼノ・ボックケーファー』。

 

 

「あたちは、負けましぇん」

 

 

舌足らずな少女は可愛らしさも持っているが、当然それはフェイク。

テラもまた、上級魔獣、バッドエンドギアが一人なのである。

 

 

「かくじつに、殺せましゅ!」

 

 

そして震えるぬいぐるみ、ゼノ。

 

 

「そうだぜぇ、何をビビってんだッちゅー、ハ・ナ・シぃ!」

 

 

ファンシーな姿のぬいぐるみがメキメキと音を立てて変形していく。

そしてあっという間に、禍々しい化け物に変身を完了させた。

カミキリムシ型のミラーモンスターの力を取り込んだのだ。『ゼノバイター』は、首をカクカクと不気味に動かしながらモニタを睨む。

 

 

「確実に殺せる所からブッ殺していけばいいんだよぉ? なぁ?」

 

「もちろんでしゅ」

 

 

人間に負けたと言うのは軽蔑以外のなにものでも無いが、一つ、テラはアルケニーの作戦を評価していた。

それは個人を狙う事だ。正確には、一つのペアを狙う事で亀裂を生み出すのは、成る程と言ったところか。

とは言え、固執しすぎたせいで失敗しては意味はないが。

 

 

「殺るなら、確実に。でしょう?」

 

 

モニタに映し出されるのは。

 

 

「そう。プププ。穴は、確実にね」

 

「クククッ! 見てな、俺達がマジもんの絶望ってヤツを教えてや・る・か・ら・なぁ!」

 

 

暁美ほむら、手塚海之。

二人を見て、テラはもう一度メガネを整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ソウルジェム、思ったよりも全然濁ってないのね」

 

 

会計が終わり、店の外に出た一同。

そこでマミはふと呟く。ちなみに後ろでは真司が土下座せんとの勢いで須藤に頭を下げている。

すると、どこからともなくキュゥべえが出現。

 

 

『魔獣を倒せば、それだけでキミ達のソウルジェムは穢れから回復する』

 

 

正直、キュゥべえは興奮していた。

いや、語弊がある。インキュベーターに感情は無い。

しかし確実にキュゥべえとしては『おいしい』流れであったのだ。

 

予想外であった。

まさかココまで魔獣が死亡した際に発生するエネルギーが、宇宙延命のエネルギーになり得るとは。

それは膨大だ、これはどちらに転んでも――。

 

いや、むしろ魔獣を殺してくれた方がありがたい。

まあとは言えあくまでもゲーム。

キュゥべえはあくまでもフェアを意識はしているが。

 

 

『そうであったとしても、今回は少し話が違う』

 

「え?」

 

『ソウルジェムの穢れが回復する流れは今の通りだけど、知っての通り、今は暁美ほむらのジェムも回復している』

 

 

正確には、さやかとサキも回復しておいた。

それは今回に限り、明確なキュゥべえ達のミスがあったからだ。

いや、ミスと言うよりは、仕様とでも言えばいいか。

とにかくその影響の埋め合わせをするサービスとでも思ってもらえればとの事だった。

 

 

「どういう事?」

 

『ソウルジェムの穢れを回復するためには、グリーフシードを使うのが決まりになっている』

 

 

それは魔法少女の中では常識の話だ。

しかし今回、そのグリーフシードが問題となる。

 

 

「今回手に入れたコアグリーフシードの一つを、無効化させてもらった。だからこそ本来そのグリーフシードで行うべき浄化と言う作業を、全員に対して行ったわけさ」

 

 

マミはその言葉を聞いて、手にれいたコアグリーフシードを取り出した。

するとキュゥべえの言葉どおり、手に入れたソレが粒子化し、消え去った。

どういう事なんだ? まどかとほむらも気づき、首を傾げる。

その答えは、キュゥべえが答える事に。

 

 

『つまり、その魔女は存在しなかった。そういう事だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

清明院大学の横にある宿泊施設、そのロビーで中沢と仁美は同時に声を上げた。

異変を感じて実体化した下宮も目を丸くしていた。

それだけ珍しい事態が起こったのだ。

 

 

「ど、どちらさま?」

 

 

光が迸ったかと思うと、中沢の隣に女の子が文字通り『出現』したのだ。

女の子は目を閉じ、ぐったりとしている。

眠っているわけではない? 中沢は訳も分からぬまま、女の子の肩を揺すった。

 

 

「ねえ、大丈夫? しっかりして!」

 

「――ぅ」

 

「どこか痛い? 喋れる? 救急車呼ぼうか?」

 

「ズ」

 

「えっ? ず?」

 

 

ず、って、なんだ?

中沢は困ったように仁美と下宮を見る。

しかし二人とも首を振るだけで答えは返ってこない。

当たり前だ。意味不明である。するとギュルルルルルと音。

 

 

「んぉッ?」

 

「チーズ」

 

「へ?」

 

「チーズが、食べたいのですゥッ!」

 

 

女の子はカッと目を覚ました。

ほんのり紫色が入った白いウェーブの髪。

そしてこげ茶色の目に、オレンジと黄色のコントラストが特徴的な少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、中沢は涙目になりながら財布を覗き込んでいる。

 

 

「あぁ、最近のピザって結構高いんだなぁ」

 

 

とは言え、目の前で大きなピザをほお張っている女の子を見れば許せてしまう物。

女の子は満面の笑みで、中沢のお小遣いで召喚されたマルゲリータと、チーズデラックスを口に運んでいく。

 

 

「おいしい?」

 

「最高なのです! 中沢ありがとうなのです!!」

 

「はは、なら良かった。あはは……」

 

 

うな垂れる中沢。

しかし彼の心中を察したのか、仁美は中沢の肩を優しく叩くと、ニコリと微笑んだ。

本当は仁美が払うと言ったのだが、流石に中沢にも格好をつけたいと言う根性くらいは持ち合わせている。

 

好意を寄せている相手にお金を払わせるなどと言うことはできなかった。

それを仁美も少しは察してくれたのか、中沢を褒める様な眼差しを向ける。

 

 

(ひ、仁美さん!!)

 

 

もはやどうでもいい。

お小遣いが減ったとか、目の前にいる女の子が何者なのかとか最早どうでもよかった。

いや、本当はどうでも良くはないのだが、好きな女の子が肩に触れて微笑んでくれている。

 

中沢はホンワリとした表情となって溶けていく。

さあお食べ、どんどんピザをお食べ、女の子! ありがとう! キミが来てくれたおかげだ!

そんな感謝を行いながら、中沢は溢れる笑みを隠すため、顔を覆いかくす。

 

 

(ありがとう神様! 生きてて良かった!!)

 

(やれやれ、単純だなぁ)

 

 

そんな中沢を呆れ顔で見つめる下宮。

しかしすぐに真面目な表情に変わる。下宮の手にはソウルジェムがあったのだ。

もちろんそれは仁美のソウルジェムではない。目の前にいる少女のものだった。

これは本来、ありえない事である。

 

 

「キミは確か――」

 

「あっ! ごめんなさい! 説明を忘れてたのです」

 

 

すばやく口を拭くと、女の子はペコリと頭を下げた。

丁度その時だ。ロビーに香川が入ってくる。

 

 

「すいません、遅くなりました」

 

 

香川と少女の目が合う。

 

 

「おや、この子が……」

 

「香川先生ですね! 丁度いいのです。自己紹介、自己紹介!」

 

 

女の子はソファの上に立つと大きく振りかぶるようにお辞儀を行った。

そして勢い良く顔を上げ、ニコリと微笑む。

 

 

「はじめまして! わたし、百江(ももえ)なぎさと申します!」

 

「百江? なぎ――ッ?」

 

「なるほど。そういう事ですか」

 

 

存在しない筈の魔法少女がココにいる。

香川は意味を理解し、手を差し出した。

 

 

「よろしくお願いします。この戦いを、共に止めましょう」

 

「ですですっ! なぎさにお任せなのです!」

 

 

なぎさは両手で香川の手を取ると、ブンブンと勢い良く振り回している。

さらにテンションが上がったのか、そのまま仁美、中沢、下宮にも同じように激しい握手を。

 

 

「安心してください、足は引っ張らないのです! なぎさには特技があるのですよ!」

 

「特技?」

 

 

目を輝かせるなぎさ。

キュゥべえは既におおまかなデータは頭に送っているらしい。

それを踏まえ、なぎさは自分のアピールポイントを説明する事に。

 

 

「はい! ユイデータを見分けるのは自信があるのです!!」

 

「ほう。それは心強い」

 

 

なにやら盛り上がっている香川となぎさ。

しかし中沢には何がなにやらサッパリである。

仁美と顔を見合わせてみるが、彼女もいまひとつ理解していないのか首をかしげていた。

仕方ない。ゲームを何も知らない二人だ。一方で下宮は全てを理解したのか、二人に一番分かりやすい形でなぎさの『正体』を告げる事に。

 

 

「彼女は香川のパートナーだ」

 

「えッ! マジで!?」

 

「まあ! でしたら――ッ!」

 

 

そう。それは、つまり。

 

 

「15人目だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか不思議な気分」

 

「え?」

 

「あなたと一緒に、こうして帰るなんて」

 

 

もう魔獣はいない。

それぞれは、それぞれの帰路についた。

 

その途中、帰り道の都合でほむらとマミは肩を並べる事に。

あれだけの事があったと言うのに、夜道はびっくりするくらいに静かで、二人の関係も落ち着いている。

 

 

「暁美さん。ごめんね、いろいろ」

 

「無理もないわ。こんな状況じゃ、いろいろ、仕方ないもの」

 

「ふふっ。優しいのね」

 

「普通よ」

 

 

いくら魔獣がいなくなったとは言え、心配は心配なのか。

ほむらはマミの家の前まで付いていくことに。

そして星空の下、二人は別れる事になった。

 

 

「ありがとう、送ってもらって」

 

「ええ。それじゃあ」

 

「うん。また学校でね」

 

 

踵を返すマミ。

 

 

「待って」

 

「え?」

 

 

別れを切り出した筈のほむらが、マミを呼び止める。

ほむらは魔法少女に変身すると、盾の中から小さな小包を取り出した。

 

 

「あの……、これ」

 

「?」

 

「はちみつ」

 

「くれるの?」

 

「ええ。はちみつは、紅茶に入れると良いって、書いてあったから……」

 

「でも知ってる? 紅茶の成分が変わってしまうから、入れすぎはダメなのよ」

 

「えっ。それは、知らなかったわ」

 

 

しかしマミはほむらから小包を受け取った。

 

 

「ありがとう。嬉しい」

 

「……ならよかった」

 

「でも、どうしてプレゼントを? 今日は別に誕生日でもないし」

 

「え?」

 

 

それはそうか、ほむらは顎に手を置いて沈黙を。

なぜだろう? なぜだろうか。

はて、分からない。

 

 

「貴女が、無事だった、記念に――」

 

 

いや、おかしいか、言わなければ良かった。

そうは思えど、マミは達観したように笑うと、ほむらに手招きを。

 

 

「暁美さん。一人暮らしでしょう? 時間ある?」

 

「え、ええ。あるけれど」

 

「紅茶でも飲んでいかない?」

 

 

笑顔のマミ。

ほむらも、僅かながらではあるが笑みを浮かべた。

 

 

「頂くわ」

 

 

二人は笑みを浮かべたまま、マミの部屋に向かうのだった。

 

 

一方で真司もまた、まどかを送るために夜道を一緒に歩いていた。

近道に公園を抜けている間、真司はふと思い出す。

先程須藤と別れるとき、こんな事を言われた。

 

 

『私は完璧な人間ではありません。もしかしたらまた迷う時や狂う時が来るのかもしれない』

 

 

だからどうか、その時は。

 

 

『どうかまた、私を止めてくださいね』

 

 

真司はしっかりと頷いた。

それはなにも須藤だけじゃない。

これで終わりではないのだ。ココから始まったと言えばいいのか。

 

 

「でもマミさんと須藤さん。本当に無事で良かったね」

 

「そうそう。それに、ちゃんと分かってくれたし」

 

「うん。とっても嬉しい。でも流石だね真司さん。須藤さんをちゃんと説得してくれたなんて」

 

 

そこでふと、足を止める真司。

まどかも疑問に思い、足を止める。

二人は公園の広場で、向き合う形になった。そこで真司は少し悲しげに笑う。

 

 

「いやッ、俺はたいした事してないよ」

 

「え? でも――」

 

「思い出したんだ。一瞬だけど」

 

 

マギアドラグーンをアルケニーに当てる際、フラッシュバックした記憶にあった。

説得して、必死に戦いを止めようともがいて。でも、それでも何も変わらなかった。

全てを出し切ったつもりでも戦いは止まらない。たとえば須藤を説得できても。他の参加者は説得できずに死ぬ。

これは、そう、まどかと会う前の――、ずっと前の記憶だ。

世界は融合したらしい。であれば、これは、融合前の記憶だろうか。

 

 

「いやーッ、あれはキツかったね。流石に俺でももう無理だったよ」

 

 

たとえばそう、戦いが終わったと思えば、鏡の中には騎士達が目を光らせている。

真司は頭を抱え、叫んだ。狂い、壊れたのだ。終わらない戦いからは逃げられない。

永遠の恐怖に心が折れたときもある。だからきっと分かっていた筈なんだ。

心の隅の隅で、戦いが終わらないことを。

 

 

「でも今は違う。俺は本当に戦いを止めるつもりだ」

 

 

それができると言う自信があるからだ。

それは、考えなくても分かる。

 

 

「まどかちゃん達がいてくれたからだよ」

 

「え? わたし達?」

 

「ああ。やっぱりさ、おかしいって思えるから」

 

 

魔法少女の運命はあまりにも酷だ。

言い方は悪いが、可哀想だとか、気の毒だとか。

そんなのおかしいだろと叫ぶだけの良心や常識が、まだきっと騎士の心にはある。

そう、須藤のように。

 

 

「マミちゃんが慕ってくれてる事を、須藤さんだって心のどこかで、なんかこう、よっしゃー、みたいに思ってたんだよ」

 

 

だからその期待を裏切らない為に須藤は正義の道を見出し、真司に協力してくれる事になった。

現に真司としても、説得の際、まどか達魔法少女を持ち出したじゃないか。

つまりそれは、魔法少女がいてくれたからこそできた説得なのだ。

龍騎の世界だけじゃ中々そうはいかない。

 

 

「だから、本当にありがとう、まどかちゃんッ。すっげー助かったよ」

 

 

騎士は魔法少女を守る存在。

それは心の交流により、騎士だけじゃ生まれなかった想いがあるからだろう。

友情だったり、愛情だったり、信頼だったり。

 

 

「えへへ、でもね真司さん。それはわたし達も同じだよ」

 

「え?」

 

 

いかなる理由があったとしても、ギアは誕生し、イツトリは存在した。

対魔法少女に特化したイツトリとギアの前ではまどか達は無力だった。

まどかも思い出せる、たとえばそれはワルプルギスの夜に敗北した記憶だとか、なにより円環の理を破壊されていく瞬間だったり、だとか。

 

 

「わたしが手を伸ばしても、みんなは全然守れなかった」

 

 

悔しげに拳を握り締めるまどか。

祈っても、頑張っても、努力しても、戦っても、血は流れ、命は潰える。

その中で魔獣達は笑い、ギアは希望を絶望で塗りつぶしていく。

 

 

『記憶しろ魔法少女共。お前達は永遠にこのギアには勝てない』

 

 

真実だった。

悔しいが魔法少女の力ではギアには勝てない。イツトリには勝てない。

永遠の絶望を味合わされ、無限の地獄を与えられる事になる。

 

 

「でも、真司さん達がいてくれた」

 

 

絶望を壊す因子、それは他世界の可能性。

まどかの世界を侵食する龍騎の世界。二つは交わり、新たな『答え』を導きだすだろう。

 

 

「でも今までは――」

 

「うん。だから、時間が掛かっちゃったね」

 

 

所詮は人間だ。

傷つくほど近づかないでいれば、結局お互いの世界は交じり合う事なく自己完結を向かえ、今までと同じ道を辿る。

しかしもっと踏み込めば、分かり合えば、答えが生まれる。

それがサバイブであり、アライブであり、このThe・ANSWERの時間軸ではないか。

 

 

「だから、騎士さんがいてくれて本当に良かったって思えるよ」

 

「そっか、そうか、うん。ありがとう!」

 

「うんうん! 特にね、ドラグランザーでブォー! って来るのは本当にカッコいいんだよ!」

 

「ああ、バイク形態のヤツね! 俺大型の免許持ってないけど、何かアレは乗り方わかるって言うか。ガチな『   』じゃないのにね」

 

 

衝撃が走った。

脳が焼けるほどの衝撃が。

 

 

「ッ!!」

 

 

単語が目に飛び込む。

脳が揺れ、先程の単語が真司を叱咤する。

 

 

「あッッ!!」

 

「どうしたの真司さん!」

 

「そっか。そっか! うんッ、そうだよ! 思い出した!!」

 

 

真司は笑顔になると、まどかに向かってダッシュ。

犬を撫でるようにワシャワシャとまどかの髪を撫でまくる。

 

 

「サンキューまどかちゃん! よしよしよし!!」

 

「てぃひひ! くすぐったいよ真司さん。何を思い出したの?」

 

「いやッ、なんか良い事なのか悪い事なのかは分かんないけど、とにかく大切な事!」

 

「えぇ? なぁにそれ」

 

「魔法の言葉さ。心が折れそうになっても、勇気が湧いてくる言葉だ」

 

 

自信を後押ししてくれる。

 

 

「そうだ、俺はそうだったから、きっと戦えたんだ」

 

 

何故だか分からないが、そう思えてくる言葉を思い出した。

だから戦う、だから戦える。まどかを守る事を信念にできる。

 

 

「っしゃ!! 燃えてきた! 行こうぜまどかちゃん!!」

 

「え? うひゃあ!」

 

 

真司はまどかの手を取って猛ダッシュ。

鏡に飛び込むと、瞬間、真司は龍騎サバイブへと変わった。

 

 

「えっ! 嘘!? なんで?」

 

「思い出したんだ。何か、とても、きっと大切な事を!」

 

 

ドラグランザーが飛来するとバイクモードに変形。

龍騎とまどかはそこに飛び乗ると、直後爆音を上げて走り出した。

まどかは龍騎にしがみ付き、閃光になる景色を見た。

 

陽炎を纏いながら走るドラグランザー。

そこで龍騎は、まどかに教える。まどかの家まではあっという間だ。

だから伝えたい思いは単刀直入に。

 

 

「俺達はさ、騎士じゃん!」

 

「うん! そうだね!」

 

「でもね、読み方間違ってた! 『きし』じゃないんだ!」

 

「え?」

 

「そりゃ負け続ける訳だよ! 自分の事、まだ分かって無いんだもんな! ハハハ!」

 

「どういう事? 真司さん!」

 

「騎士って書いてさ、俺達は――」

 

 

アクセルグリップを力いっぱい回す。

ドラグランザーが空に飛翔し、二人は空を駆けた。

エンジン音が響く中で、龍騎は振り向き、まどかを見る。

 

 

「俺達は、ライダーだ!」

 

「……え?」

 

「騎士は、ライダーって読むんだよ!」

 

 

だからどうしたと言われればそうなのだが、真司としてはそれが何よりも大切な気がした。

いつか抱いた自信とか、いつか抱いた気合とか、いつか抱いた希望とか、色々と忘れていた物が湧き上がってくるようだ。

 

 

「あっ、でもなんかライダーの前に単語がもう一個あった様な……」

 

 

それは分からない。思い出せない。

惜しい。それを思い出せれば本当にもっと燃え上がれる気がするのに。

まあその内思い出すだろ、龍騎は楽観的だ。

 

 

「……すごいなぁ」

 

 

本当にあっと言う間だった。

気づけばまどかは自分の家の前に立っていた。

真司は前に立ち、手を服で拭っている。

 

 

「っしゃ、まどかちゃん。これからもよろしくな!」

 

 

真司は笑みを浮かべると、手を差し出した。

考えてもみれば不思議な話だ。違う世界が交わり、こうなっている。

 

しかし真司は、騎士(ライダー)は魔法少女がいなければ戦いを止める事はできないと言い。

まどかは、魔法少女は騎士がいなければ永遠に絶望を味合わされていたと言う。

どうやら不思議な事に、お互いはお互いがいなければゲームオーバーだったらしい。

 

 

「リベンジかましてやろうぜ!」

 

「うん!」

 

 

これから始まるのは悲しみのゲームでも絶望のループでもない。

それを打ち砕く答え、希望のお話。

 

 

「魔法少女と騎士(ライダー)の物語!」

 

「そうッ、それ! 魔獣をぶっ飛ばして、戦いなんて終わらせよう!」

 

「うんっ! 約束!」

 

 

まどかと真司はガッチリと握手を交わすと、希望に満ちた眼差しで笑い合った。

 

 

 

 







ファイズのキック考えた人って天才ですよね(´・ω・)

次回はちょっと遅れるかも。
番外編とキャラ紹介The・ANSWER編更新予定です。

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