仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
前サイトでやってたところまで、もうすぐなんで。
なるべく早く更新してしまいます。
一応今回から始まる『ほむら編』が終わったらストックが切れます。
めちゃくちゃ更新が遅くなります。
ゆるしてね(´・ω・)
勉学の魔女バロリア。
見た目は巨大なフクロウではあるが、その体は大学帽子を被った女性が逆立ちをしており。
つまりは女性の下半身がフクロウになっていると言うなんとも奇抜な魔女であった。
女性の手を足として、カサカサと動かし、気味の悪いモーションで近づいてくる魔女。
しかし立ち向かう魔法少女達は怯まない。先陣を切ったのは青い魔法少女である。
「ハハハハ! 覚悟しろ悪しき魔女め! このさやか様が駆けつけたからには――」
バロリアが巨大な翼を羽ばたかせると、突風が発生。
さやかはそのまま遥か後方へと流れ星のように飛んでいく。
「たすけてぇええええええええええええ!!」
「さ、さやかちゃあああああん!!」
涙を流しながら手足をバタつかせるさやか。
その勢いは凄まじく、一瞬の間に体は猛スピードで飛んでいく。
「サキ!」
しかし呆気に取られる一同の中、真っ先に口を開いたのは巴マミ。彼女に名を呼ばれ、サキの目にも光が灯る。
「任せろ!
サキの固有魔法は成長、その応用たる本質は『強化』にある。
特訓によりサキは体の一部分だけに電撃を送り、急成長させる事ができる。
陸上選手達が早く走るため、足を成長させるトレーニングを行う。それをサキは一瞬で行えるわけだ。
さらに魔法によりその効果は何倍にも膨れ上がる。
サキは地面を蹴ると凄まじいスピードで加速。飛んでいったさやかを追いかける。
「暁美さん!」
一方でさらにマミはほむらの名を呼ぶ。
呼ぶ。そう、あくまでも名前を口にしただけだ。
しかしほむらはそれを合図にすると時間停止を発動。
すると気配。背後を振り返ると、ほむらは思わず目を見開く。
と言うのもそこには今にもくちばしを突き出そうとしているバロリアがいたからだ。
「気をつけて、なかなか素早いわ!」
「ッ、ええ!」
ほむらの手首に黄色い糸が巻きついている。それはマミの手首にも。
つまりマミは時間停止を行うだろうとの『読み』で、自分とほむらを繋げておいたのだ。
マミは跳躍でバロリアの背後に回りつつ、その周囲に大量のマスケット銃を展開、発砲させる。
一方でほむらも距離をとりつつ盾から手榴弾を取り出し、口で栓を抜くと、思い切り力を込めて放り投げた。
手榴弾はある程度進んだところで停止。同時にほむらは盾に手をかけ、時間停止を解除する。
「リリース!」
カチリとスイッチが入り、歯車が動いて砂時計が反転する。
直後爆発音が響き、バロリアの体が爆炎に包まれた。だがすぐに爆炎が、爆煙が吹き飛ぶ。
中に見えたのは六角形の結界に包まれている無傷のバロリアだった。
「シールドを張れるの!?」
「気をつけて巴マミ! 来るわ!」
バロリアは一瞬で上空へ移動。翼を振るうと、そこから無数の羽が発射される。
当然これは一つ一つが鋭利な刃となっており、風を味方につけて大量の弾丸は一瞬でマミとほむらに降り注いでいく。
――が、それ等は全てマミ達に掠る事すらない。なぜならばマミとほむらを守るのは桃色の結界。
「二人とも大丈夫!?」
「ええ、抜群のアシストよ鹿目さん!」
「助かるわ、まどか」
「うん。でもまだ終わらないから!」
まどかはリバースレイエルを発動。
目を閉じた天使がまどかの頭上に現われたかと思うと、天使はすぐに開眼。すると受け止めた羽が一勢に反射され、バロリアの方に向かっていく。
だが敵も反応。
バロリアは再び翼を振るうと、向かってきた羽を吹き飛ばす事で反射。
再びマミ達に向かって羽は降り注ぐ事に。
次々に結界に突き刺さっていく羽。二回目と言うこともあって、結界には亀裂が走り、まどかは表情を曇らせた。
「うぐ……ッ!」
「なかなか手ごわいわね。気をつけて!」
マミは回し蹴りで結界を蹴破ると地面を転がりつつマスケット銃を両手に構える。
すぐに放たれる二発の弾丸、しかしそれはバロリアの周囲に張ってある結界に阻まれ、体に届く事は無かった。
ほむらもまた銃のグリップで結界を叩き壊すと時間を停止させ、地面を蹴って跳躍する。
さらにチェーンを取り出し、空中にいるバロリアを引きずり落とそうと試みた。
「くっ!」
しかし断念。ほむらは時間を戻しつつ、着地した。
「ダメ。アイツ、常に結界を張っているわ!」
「だったら破壊しましょう!」
「まって! もう一回来ます!」
まどかの言葉どおり、バロリアは再び無数の羽を飛ばしてくる。
しかしココでニヤリと笑って腕を前に出すマミ。すると周囲から無数の糸が出現、次々に迫る羽を全て巻き取ってみせる。
「レガーレ・ヴァスタアリア!」
細長い糸は縦横無尽に駆け抜けるクモの糸。対象を絡めとり、掴んで離さない。
「すごい! マミさん!」
「……見事ね」
笑顔を浮かべるまどかと、思わず口にするほむら。
確かにあの高速で飛んでくる無数の羽を全て糸で絡め取るとはベテラン魔法少女の名は捨てたものではないか。
一方で攻撃を防がれた事に怒ったバロリアは、翼を広げ一直線にマミへ向かった。鋭利なクチバシで貫くつもりなのだろう。
しかしマミはそれをチャンスと捉えた。
レガーレヴァスタアリアは継続中、細長い糸は網目状にマミの前に広がっていく。
「私の糸で受け止めるわ!」
マミは目を細めた。しかし――!
「あッ!」
バロリアの翼はそれ自体が巨大な刃。
さらにバロリアは自身が高速回転する事により、自らをドリルに変えた。
そのスピードもまた威力を上げる事につながり、バロリアはマミの糸を次々に切裂きながら飛行していく。
マズイ! マミは腕をクロスさせて防御を行おうと――。
「ほむらちゃん!」
「ええ!」
時間停止。ほむらがまどかの手を握れば、まどかは動く事を許される。
ここで一つ豆知識。いくら華奢で可愛らしいまどかとは言え、魔法少女のスペックは人間のレベルを遥かに超越している。
つまり、まどかはそこらへんの大人よりも怪力と言うことだ。
まどかはほむらの体を軽々と抱えると、横抱きにして光の翼を広げる。
そのままほむらをお姫様だっこしながらまどかはマミの前に移動。そこでほむらは時間停止を解除した。
「アイギスアカヤー!」
マミの前に立つまどかの前に、巨大な盾を持った天使が召喚される。
当然バロリアは顔面から盾に直撃する。マミの糸は貫けたが、まどかの盾はそうはいかない。
そればかりかバロリアを囲んでいた結界も衝撃で砕かれ、バロリアは大きなカウンターダメージを受けた。
「ホロロロロロロロロロロロロロロ!!」
危険を感じたのか、バロリアは痛みを堪えて一気に飛翔、まどか達から距離をとる。
しかしそれが、まどか達に作戦を考える時間を与えるのだ。
バロリアは結界を身に纏って高速移動できるのが特徴だ。
中途半端な攻撃では結界を囮に逃げられ、かと言って高威力の攻撃は僅かな隙を突かれ逃げられる可能性もあった。
と言うことは一番確実に倒せる方法は、動きを封じつつ高威力の技をぶつければいい。
「鹿目さん! アレで行きましょう!」
少し嬉しそうにウキウキとした様子で目を光らせるマミ。
まどかもうずくように肩を震わせ、手をブンブンと上下に動かす。
「練習したアレですね! 了解ですマミさん!」
アレ? 練習? ほむらには分からぬ話だが、とりあえず時間を稼いでくれとの事。
ほむらは言われた通り時間を止めた。一方でマミはほむらとまどかに糸をつけているため、静止空間の中でも動く事ができる。
「いくわよ鹿目さん! パッションよパッション!」
「了解ですマミさん! ばっちり合わせますから!」
笑顔で腕を組み合う二人。
するとはじまったのは所謂、『社交ダンス』である。まどかが回り、マミがまどかを抱きかかえ。
何をしているんだ? ほむらは目を丸くしてポカンと二人のダンスを見つめていた。
しかし気づく。なにも本当にただダンスをしているわけじゃない。
マミのリボンをまどかが掴み、まどかが回ればリボンがまどかに纏わりつくよう回っていく。
つまりこのダンスは、二人の魔力を一つに合わせているのだ。
「合体魔法! エピソーディオ・インクローチョ!」
そしてフィニッシュ。
まどかとマミは、指を絡ませて手を繋ぎ、そのまま手を前に出す。
「「ティロ・デュエット!!」」
一本の矢が放たれた。
その矢はすぐに破裂し、無数の小さな矢となった。
そして無数に分かれた矢、その全て、一本一本にマミのリボンがくっついている。
そのリボンは通常よりもかなり太いもの。
頑丈で、相手を拘束する力にも長けているが、唯一の弱点は張り巡らせるのに時間が掛かる事だ。
それをカバーするのがまどかの光の矢である。矢はまどかの意思に反応して空中を自由自在に高速で飛び回る。そしてマミのリボンを運ぶのだ。
つまり矢は攻撃のためではなく、通常なら移動に時間がかかる太いリボンを高速で張り巡らせる『運搬役』を担っているのだ。
「ギュオオオオオオオオオオ!!」
その成果はすぐにでる。巨大なリボンはバロリアをガッチリと捉えた。
「今よ二人とも!」「はい!」「ええ!」
空中で縛られたバロリア。
詠唱を開始するまどか、巨大な大砲を構えるマミ、ロケットランチャーを取り出すほむら。
「撃ち抜け、射手よ! スターライトアロー!」
「ティロ・フィーナレ!」
ティロフィナーレがバリアに直撃すると粉々に破壊してみせる。
そこへ飛来する光の矢、バロリアの肉体を貫くと、大きな風穴を開ける。
そして最後はロケットランチャーの弾丸がバロリアに命中し、直後大爆発を起こす。肉体は粉々になり、魔女と魔女結界は吹き飛ばされていった。
落ちてきたグリーフシードは『コア』。まどかはそれをキャッチすると笑顔をで振り返る。
「やりましたよマミさん! コアグリーフシードです!」
「やったぁ! ナイスコンビネーションね!」
「わわっ! てぃひひ! そうですね!」
まどかに飛びついて強く抱きしめるマミ。
はじめは驚いていたまどかだが、すぐにトロンとした表情でマミにしがみつく。
「暁美さんも!」
笑顔で手を広げるマミ。
しかしほむらは少しためらうようにしたものの、やや引きつった表情で後ろに下がった。
「い、いえ、私は……」
「もぅ! スキンシップは大事なのに! 喜びを分かち合うのはチームとしては大事な事なのよ!」
とは言えやはりハグには抵抗が。
ほむらは焦ったように話題を変えることに。
「合体魔法、練習していたのね」
「ええ、鹿目さんにお願いして」
「ずっと前からしたいって言ってましたもんね、マミさん」
「憧れですもの、合体必殺技って。私前回すぐ死んじゃったし……」
涙目で自虐を織り交ぜてくるマミ、まどかも優しく背中をさすっている。
それを少し唇を吊り上げてみていたほむらだが、ふと真顔に戻った。
「?」
あれ?
なんだ?
「……ッ」
急に、なにか、ザワザワとした感情が胸を駆ける。
そして僅かに脳に走る光景。ティロデュエット、確か、あれはどこかで――?
「しかし強敵だったな。私がいなければどうなっていた事やら」
ポン、と、ほむらの肩に置かれる手。
「………」「………」「………」
は?
「いや、え? あれ、マジでなにこれ」
「それはコッチの台詞よ神那ニコ」
リボンでグルグル巻きにされて『みのむし』の様に公園の木に吊るされているニコ。
何をお前は、今まで一緒に戦っていたみたいな口ぶりをしているのか。
しかもどうやらニコはバロリアのコアグリーフシードが欲しいらしい。
「せめて何か手伝いなさい」
「まあ待てよ。ほむら。私も頑張ってるんだって」
リボンから解放されたニコは自分のソウルジェムを見せる。
するとそれは限界とは言わないものの、多くの穢れを纏っているように見えた。
「ッ! どうしたの神那さん! それ!」
「大丈夫ニコちゃん!」
「んあ。ちょいとレジーナアイをアップデートしてたら予想以上に魔力使ってしもうて」
「まったく、仕方ないわね、神那ニ―――」
ノイズ。
「ヒャハハハハハハハハハハハハ!!」
喉が渇く。
「ヒハッ! ンマッ! ンマンマッッ!」
耳鳴りが酷い。
頭を抑え、落ちてきた何かを確認する。
それは真っ赤に染まっているドロドロとした何かの塊だった。
なんだろう? 分かっているくせに手を伸ばす。
それは誰かの顔だった。もう目を背ける気力も無い。ただ事実だけを呆然と確認し、彼女は――、暁美ほむらは立ち尽くしていた。
「逃げてぇええッッ!!」
声が聞こえる。
ほむらが顔を上げると、そこには大好きな貴女がいた。
けれども見たかった顔じゃない。笑顔じゃなくて、引きつった、焦りと恐怖。
「ほむらちゃん、もうアイツには――ッ!」
まどかは手を伸ばそうとした。
でもできなかった。なぜならまどかの両腕が無いから。
大切な人の手を握る腕は、少し前に消し飛んだ。
それでもまだ、まどかは誰かを守ろうと手を伸ばしている。
「ごふっ!」
そんなまどかの思いをあざ笑うかのように、まどかの肉体を剣が貫いた。
場所はみぞおち。鎖骨と鎖骨の間、まどかのソウルジェムがある場所だった。
『まどか――』
声を出そうとしたができなかった。
喉が潰れている。『アイツ』のサイコキネシスのせいだ。
「ギエェエエェエエエエ!!」
絶命の断末魔が聞こえた。
輪切りになったドラグレッダーが周囲に降ってくる中で、まどかの目のハイライトが消えていく。
魂を砕かれた人形は糸が切れたように地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
ほむらは呆然としていた。
涙は出ない。それはきっと、こうなる事が分かっていたからだ。
だから悔しくも悲しくもない。『そうでしょうね』、そんな感情だけ。
「悪く思わないでね。もう分かったの、あいつには勝てないって!」
あやせはサーベルを引き抜くと、手に炎を宿してほむらを睨む。
「ゲームの勝利条件はまだ生きてる! 今から全員を殺す方向にシフトすれば――」
一瞬だった。轟音が響く。
まるでそれはあやせの言葉を止めるように彼女の頭上からビルが落ちてきた。
一つ、二つ、三つ。下敷きになったあやせがどうなったのか、それを知る術はない。
「………」
ほむらは倒れた。
気づけば足が無くなっていた。影魔法少女達がコチラを見てケラケラ笑っている。
死ね、そう言われているようだ。マミの影が大きな大砲をほむらに向ける。
そこで暁美ほむらの意識はブラックアウトした。
「!!」
ほむらは跳ね起きると口を押さえた。
吐き気が酷い。呻き声を上げながら、ほむらは足を引きずって洗面所を目指す。
鏡を見ると酷い顔だ。汗で前髪が額に張り付いているし、眠っていたはずなのに随分と疲れた顔をしている。あんなに酷い夢を見たからだろうか――?
「……ッ?」
いや、眠っていた――? 夢?
「―――」
眠っていたのか、自分は。分からない。
それにあれは夢だったのか。いや、きっと違う。あれは、過去だ。
ダメだ、混乱している。どこまでが夢で、どこまでが現実だったんだろうか。
吐き気もひいた。ほむらは冷静に事態を振り返ってみる。
今日は、魔女と戦って、マミとまどかの合体魔法……。
ニコがコアグリーフシードを貰って、それで――。
そう、それで、サキがさやかを連れて来て終わりだ。
それで皆、別れて終わり。そうだ、大丈夫だ、なにも問題はない。
「ハァ、最悪……」
ほむらは小声で呟くと、その場にへたり込んで大きなため息をついた。
放課後。
「あれ?」
「あ」
西日に照らされた校門前。
まどかは見慣れない制服を見つけて、ふと視線を移した。
柱に持たれかかっていたのは双樹あやせ。彼女もまどかを発見すると、少し怯んだ表情になる。
「こんにちは、双樹さん」
まどかはあやせの方に足を運ぶと、笑顔で話しかけた。
「あ、うん」
「どうしてココに?」
「淳くん……、待ってる」
「あ、そうか。芝浦くんって一年生でしたね」
一瞬間が空く。
会話のキャッチボールを行うなら、話し終わったまどかの次は普通あやせが口を開く番だ。
しかしあやせは沈黙している。それを察して、まどかが続けて口を開いた。
「一緒に帰るんですか?」
「う、うん。まどかちゃんは?」
「わたしも今帰る所です。双樹さ――」
「あやせ」
「え?」
「わたしは、あやせ。双樹だとルカもいるから……」
「そうですね。わかりました、あやせさん」
少しだけ、あやせの頬が桜色に染まる。
「もしよかったら、今度一緒に帰りませんか」
「え!?」
「ほら、芝浦くんって学校来ないことも多いし」
「それは――、うん。淳くんって不真面目だから」
「そう言うときに、わたしが迎えに行きますから」
「でも――、なんで?」
「ぬいぐるみっていっぱい新作が出てるんですけど、やっぱりちょっと一人で行くのは恥ずかしくて」
さやか達は興味がなさそうだし、誘ってもいいのだが、せっかくなら一緒の趣味がある人の方がいいと。
「ダメですか?」
「あ、別にダメじゃ――」
「まどか」
声が聞こえる。
振り向くと、そこにはカバンを持ったほむらが立っていた。
「待たせてごめんなさい」
「あ、ううん、全然待ってない……よ」
ほむらは、そのまま移動して、まどかの前に立つ。
そしてジロリとあやせを睨みつけた。
「まどかに何か用?」
「あなた……」
あやせもまた同じような目つきに変わる。
問題はほむらが敵意をむき出しにしていると言うことだ。
「その目、好きくない」
「ごめんなさい、元々こういう顔なの」
「ほ、ほむらちゃん! 大丈夫、わたしはただあやせさんと話してただけだから!」
「そう。ならもう私達は帰るから。さようなら、双樹さん」
「……フン」
ほむらはまどかの手を引いて半ば強引に校門から離れていく。
最後に、ふと、背後からあやせの声が聞こえて来た。
「まどかちゃん、友達は選んだほうが良いよ♪」
「チッ!」
舌打ち混じりにほむらは早足でその場を去る。
困ったように汗を浮かべているまどか。ほむらの様子が少しおかしいのは明らかだった。
「ど、どうしたのほむらちゃん? ダメだよ、あんなのって」
「それは――、ごめんなさい」
まあ、まどかとて、分からない話ではない。
あやせは前回のゲーム――、と言うよりもほぼ毎回のループにおいて参戦派であった。
ほむらが警戒するのは無理もないのだ。ましてやあの状況では誤解されてしまうのも当然か。
しかしあくまでも、まどかはあやせに好意で話しかけた。
まどかが目指すのは全員生存であり、他の魔法少女と友達になる事だ。
敵意をむき出しにすれば、心を開いてくれるわけも無い。ほむらも頭の中ではちゃんと分かっているのか、歩行スピードが遅くなり、眉毛を八の字に変える。
「心配してくれたんだよね、ありがとうほむらちゃん。でもわたしは大丈夫だから」
「それは……、そうね。だって――」
「?」
「だって、まどかはもう、わたしより強いから……」
「そんな事は――」
一瞬だった。
ほむらは魔法少女に変身すると、盾からハンドガンを引き抜いて後ろに突きつける。
「う、嘘だろ! 待て待て待て待て! 私だぞ私ッ! プリティニコちゃんだって!!」
両手を広げたニコ。鼻に銃口が引っ付いている。
ニコはすぐに後ろに下がると、ほむらを落ち着けるように声を出す。
「どうどうどう」
「それ止めて。じゃないと本気で撃つわよ」
どうやらニコは透明化してまどか達の後をつけていたようだ。
もちろん尾行ではなく、肩を叩いて驚かせるつもりだったと。
しかしいざ実体化したところで気配を出してしまったのか、ほむらが反応したわけだ。
「驚かせるつもりがコッチが心臓止まりそうになったわ。まあもう止まってるけどね。あ、これ魔法少女ジョークね。どう? ほむら、面白いか?」
「撃つわよ」
「おいなんでだよ酷すぎだろ。なんで今の問いかけから殺意が返って来るんだよ。まあいいや、まどかはどうだった?」
「あ、ごめん、聞いてなかった」
「お前もたまに黒くなるな。なぜだ、結構な音量で喋ってただろ私」
「ご、ごめんね。ちょっと考え事してて」
「あぁ、まあ、なら仕方ないか。もうそろそろ魔獣の奴らも来そうだもんのぅ」
「ううん違うの。ほら、月曜日って黄色のイメージでしょ? 火曜日は赤色、水曜日は青、木曜日は緑、土曜日は茶色で日曜日はオレンジなんだけど、じゃあ金曜って何色なんだろうって!」
「……え? ごめん、それ今考える話?」
特に中身があるわけでもない話をしつつ、一同は帰路につく。
「こないださぁ、たかみぃに怒られちった」
「あ。あの車の?」
「そう。まあでも弁償に同じ車種のミニカーあげたから」
「そっか、再生成の魔法で作れるもんね。高見沢さん許してくれた?」
「まさか。アイツ超性格悪いから」
「じゃあ本物の車を作ればいいじゃない。貴女ならできるでしょう? 神那ニコ」
「疲れるからヤダよ。まあ車壊したの私だけど」
「そもそもどうしてニコちゃんは高見沢さんの車を壊しちゃったんだっけ?」
「合体変形ロボにした」
「全く意味が分からないわ。何がどうなってそうなるの?」
「いろいろあるのよ私。でもたかみぃのヤツ、私のミニカー作る技術に目つけやがって。ミニカー事業に手を出しやがった。節操ねぇだろ?」
これが売れる売れる。
まあ当然か、魔法で作ったミニカーなのだから低コストで、そこらへんの物よりも余程緻密に作れる。
「それでニコちゃん許してもらちった。まあおかげでミニカー作ってるほかの中小企業いくつかぶっ潰しそうだけど。高見沢って本当屑だろ?」
ふと前を見れば分かれ道。
結局そのままニコとほむら、まどかの二組に別れる事に。
「じゃあまた後でね、ほむらちゃん」
「ええ」
パタパタと嬉しそうに帰って行くまどかを見て、ニコはため息をつく。
「なんだよ毎日律儀にパトロールかい? ご苦労な事だ。そんな面倒な事をしなくとも私ならば魔女をレジーナアイですぐに見つけられるのに」
「……なら、あなたも少しは協力しなさい」
「ヤダよ。お前らに協力してたら、いつテレビゲームするんだよ」
「ハァ」
「そんな顔すんな。レジーナアイは魔女が覚醒してからじゃないと見つからない。口付け食らった人間とか、覚醒間近の結界は見つけられないんだよん。そういう意味じゃお前らの行動は無駄じゃないぞな」
「………」
「しかしあれだな」
「?」
「殺すのは簡単でも、救うのは面倒だな」
「……ええ」
声のトーンを落とすニコ。
無表情でほむらを見る。
「気持ちは分かるが、あんま他の参加者ピリつかせんな」
「見てたの? とことん悪趣味ね」
「馬鹿おっしゃい。あやせが動いたらまどかを助ける準備はしてたから」
まどかはあやせとお友達になりたいらしいが、ニコとしては首をかしげる話だ。
もちろん警戒はしている。しかしだからと言って警戒していますなんて空気をあやせにぶつければ、上手くいく物も上手くはいかないに決まっている。
「お前、そこまで馬鹿じゃないだろ。さやかかよ」
「……本人が聞いたら怒るわ」
「『何も知らない』アイツならな。丁度一番さやかってる時期だからね」
「………」(さやかってる?)
「まさか――、嫉妬かい?」
「!」
つまりなんだ。
まどかが、あやせと仲良くなるのが、ほむらは面白くないと。
「……そんな馬鹿なこと」
「言っただろ、まどか離れはしろって」
立ち止まるほむら。その目は確かに、ニコを睨んでいた。
「違うわ。絶対に」
「なら、いいけど」
「帰るわ。貴女の家はコッチじゃないでしょう」
歩いていくほむら。
背中を見つめながら、ニコはため息をついて頭をかいた。
「やれやれ」
一方、ほむら達と別れたまどか。
住宅街の中に入っていくと、それだけ人の数も減っていく。
遠くでは子供達の声が聞こえているが、今はまどかの周りに人は無し。
カラスの声が聞こえた。まどかは気にせず足を進める。
「ッ?」
音が聞こえた。
耳鳴りの様に響く、キィイインと言う音。
そこに心臓の鼓動のような音が混じる。ドロドロとした不快感が耳に張り付く。
これは、まさか――。
「!」
ドゴォンと地面が割れる音が聞こえた。
アスファルトを突き破って一瞬でまどかの前に伸びたのは蔓。
棘があるそれは薔薇の茨だ。それが意味するとおり、真っ赤な薔薇が一瞬で咲きほこる。
そしてその花から飛び出してきたのは、色とりどりの薔薇が刺繍されたドレスに身を包んだ女性だった。
「なッ! きゃあ!」
薔薇から飛び出した女性は空中を一回転し、まどかに向かって飛びかかる。
反射的に後ろに跳んだまどか。するとつい先程まで立っていた場所、正確にはその地面に、ハイヒールが突き刺さっていた。
見ればそのハイヒール。
ヒールの部分が鋭く尖っており、靴先は全て刃物になっている。
蹴られても踏まれても普通の人間では致命傷だろう。
「シィィィイイィイ!!」
女性は青色に染まった唇から歯をむき出しにして走り出した。
その手には鞭。ドレスと同じく薔薇の装飾品が施されており、それを象徴するように鞭の部分には棘が無数に張り付き、茨を模している。
しかし女性はその鞭を気にする事なく束ね持ち、小さな『わっか』を作って走り出す。
こうする事で長い鞭を短鞭として使用するのだ。
当然、輪には無数の棘がついており、それを振るう事で刃として使用する。
「ッ!」
まどかは、さらに後ろに下がっていく。
鼻先を掠める棘、女性は鞭を振り下ろし、まどかはそれを回避してさらに移動。
おっと、鞭が飛び出し注意のボウヤ人形を真っ二つに引き裂いた。
そこでまどかは改めて襲いかかってきた女性を見る。
女性――、と言ってもシルエットがそうであるだけで、その見た目は人間とは言い難い。
肌は文字通り青白く、太ももには刺青のように瘴気が広がっている。
そして頭部には仮面舞踏会でつけるような派手なマスクがあり、むき出しになった歯は紫色だった。
そして全身にかかるモザイク状のエネルギー。
間違いない、まどかは右手にソウルジェムを構えて、左手を斜め前に突き出した。
「へんしん!」
一瞬で変身を完了させたまどか。
そこへ伸びる棘付きの鞭。しかし広がった光の翼がそれを弾き、まどかは大きく後ろに飛ぶ。
「魔獣!」
「シャア!」
色付き、『女帝』はまどかに向かって薔薇を三つ投げる。
ただの薔薇ではない。茎の先が尖っており、立派な武器になっている。
まどかはすぐにビンタをするように左手を右に送る。するとカーテンが張る様にして結界が発生、飛んできた薔薇達は光のカーテンに突き刺さり、動きを止めた。
しかし直後女帝が指を鳴らす。すると薔薇の花部分が点滅を開始した。
(まさか――)
そう思ったときには既に薔薇の花びらが爆発しているところだった。
三つの衝撃は結界を吹き飛ばし、まどかは結界の残骸と共に地面を転がる。
「ククク! ハハハハハ!」
女帝は鞭を束ね持ち、地面を蹴ってまどかの下へ走る。
いけない。まどかは寝転びながらも弓を振り絞り、光の矢を連射していく。
しかし一発目は上から下に振り下ろされた鞭が消し飛ばし。
二発目は真横に振るわれた鞭に消し飛ばされ。
三発目は回し蹴りによって振るわれたハイヒールの刃がかき消した。
そうしている内に女帝はまどかの目の前。
まどかがまだ膝をついているのに、女帝は天高く鞭を振り上げている。
「グッ!!」
まどかはマジカルスタッフを杖モードにし、真横に構えて盾にする。
そこへ振り下ろされる鞭。女帝はすぐに杖を掴み、顔をグッとまどかに向けて近づけた。
青い唇が三日月のように裂ける。まどかと女帝の視線がぶつかり合った。
「ウフフフッ、会いたかったわ、鹿目まどか……!」
「ッ! 言葉を!!」
「そう。魔獣の全は負の瘴気。お前達人間が出す絶望のエネルギーが私達に力を与え――」
女帝は一歩後ろに下がると、その場でバク転。
ドレスからは想像できないアクロバティックな動きに怯んだまどかは、その振り上げられた脚に対応できなかった。弾かれ、真上に放り出される弓。
「そして進化を促した!」
一方で体勢を整えた女帝は前に足を出し、踏みつけるような蹴りを繰り出す。
ヤクザキックとも呼ばれるソレ。足の裏――、正確には鋭利なヒールがまどかの顔面を狙う。
「させない!」
結界を張り、ヒールを受け止めるまどか。
しかしその貫通力は中々のもので、僅かにヒールの先が結界を貫いた。
これだけならばと思ったのは束の間、なんとそのヒールの先から真っ赤な薔薇が咲く。
直後、その薔薇から赤い花粉が吹き出した。
「ッ! げほっ! がはっ!!」
不快感が肺を満たす。
まどかは大きく咳き込み、うずくまる。
それが結界の強度を下げ、女帝はバリバリと結界を打ち破りながらまどかの髪を掴んだ。
ツインテールの一方を掴み、女帝はまどかの体を軽々と投げ飛ばす。
「うッ! ッぁ!!」
まどかは地面に叩きつけられ、そのまま道を転がっていく。
浮かぶ苦痛の表情、それを見て恍惚の笑みを女帝は浮かべる。
「良いぞ! フフフ、それこそが私が求めた表情だ、鹿目まどか!」
「くッ!」
「貴様らには懸賞が掛かっているのだ。参加者を倒せばそれだけ多くの負を頂くことができる」
そうすれば魔獣にとって更なる進化が訪れる。
そう、そしてその一番の首はまどかと龍騎。二人を倒せば女帝は一気に力をつける事ができるのだ。
それこそ、バッドエンドギアの抜けた穴に入る事ができるくらいには。
「ククク! 我が進化の礎となれ!」
指を鳴らす女帝。するとその周囲に無数の薔薇が出現する。
女帝も当然FOOLS,GAMEを観戦し、楽しんでいた身である。
その中でしっかりと見てきた。まどかの性質と言うものをだ。
「ッ、まさか!」
「そう! これがお前の弱さだ!!」
女帝は薔薇を一勢に周囲に向けて発射。
狙いなどつけてはいない。なぜならば薔薇がどこに刺さろうとも構わないからだ。
家であろうが屋根であろうが、刺されば爆発させるまでの事。そうするとまどかの住む街が壊されていく。
死人が出るかもしれない、けが人が出るかもしれない。まどかはそう思えば薔薇を防ぐために結界を張るしかなくなる。
「フハハハハ! なんと愚かな生き物か!」
「ゥウウッ!!」
結界に刺さる薔薇は次々に爆発を起こしていく。
当然まどかは爆風を抑えるためにさらに結界を展開していく。
両手を広げる事で結界の範囲は広がる。だが逆を言えば両手を介して魔力を結界へ供給しなければならないため、弓を構える事ができない。
そうしている間にも次々に発射されていく薔薇達。まどかは力を込め、少しでも街が傷つかない様に魔力を研ぎ澄ませる。
「ぐッ! っぁぁ!」
結界が壊れそうになると魔力を込めて結界を補修。
その反動でまどかの両腕からは血が吹き出てきた。だが魔力を弱める事はできない。そうすれば薔薇が町を破壊してしまうからだ。
だがいつまでもこのままではいられない、時間をかければ誰かにこの場を見られる可能性が高まってくる。
そうなればもっと面倒な状況になる。しかしどうすれば――。
「馬鹿な人間を守るために攻撃を捨てるぅ! だからお前は何もできずに毎回毎回毎回馬鹿みたいに負けるの!!」
そしてなにより、今のまどかは周囲を守る為に自分には結界を張っていない。
その状態で敵の前で膝をつくとは何と愚かな行為であろうか。
「殺してあげる、鹿目まどか! 憎き魔獣によって息絶える事に絶望するといいッ!」
鞭を構え、一歩足を踏み出した女帝。
すると女帝の背後にある曲がり角から、一瞬で一台の車が姿を見せた。
タイヤが地面を擦る音が響く。ドリフトだ、狭い曲がり角をドリフトで車が駆け抜けたのだ。
キュルキュルとタイヤが地面を擦り、煙が上がる。
そのまま車は一気に加速。
「は?」
音がする。
女帝が背後を振り返ると、そこにボンネットがあった。
「ゴバァアア!!」
一瞬で現われた車に反応できる訳がない。
女帝はパンパーに直撃するときりもみ状に吹き飛び、放物線を描いて飛んでいく。
その勢いは凄まじく、まどかの頭上を超えて地面に叩きつけられた。
「え? え? え?」
まどかは混乱する。
ふむ、では一旦状況を整理しよう。
つまりなんだ。簡単な話で、車が曲がって来ました。そして女帝を轢きました。それだけなのだ。
そしてまどかの前で停車する車。ドアが開き、運転手の男が地面に足をつけた。
絶望を謳うのが魔獣ならば、その男は果て無き希望を謳おうではないか。
「良かった。間に合ったようですね」
「須藤さん!」
須藤雅史はまどか同様、耳鳴りを感知してココにやって来た。
そしてコートからデッキを取り出すと、それを前に突き出し、Vバックルを装備する。
前に出した右腕を振るい戻し、直後もう一度前に突き出す。親指と人さし指は伸ばし、そのままデッキをバックルに装填する。
「変身!」
鏡像が重なり合う。
シザースは変身と同時にカードを抜いて装填。
『アドベント』
「なにっ! コイツは!!」
フラフラと立ち上がった女帝の背後からボルキャンサーが出現する。
すぐに肉弾戦を始める両者。一方でシザースはへたり込むまどかに駆け寄り、無事を確かめる。
「何があったんですか?」
「えへへ、ちょっと張り切っちゃって」
シザースも車内で僅かに確認した。
壊そうとする者と守ろうとする者。それが全てなのだろうとシザースは察する。
そしてしょんぼりとしたまどかの表情。どうやら少し、女帝の言葉が胸に刺さっているようだ。
それを知ってか知らずか、シザースは言葉をまどかに投げた。
「立派ですね、鹿目さんは。私ならできなかった」
「え?」
「自己を犠牲にして他者を守る。それが貴女の強さだと、今なら少し分かる気がします」
シザースは手を伸ばした。
「たとえ
「!」
「だから、貴女はそのままでいてください」
「……はい!」
まどかは、にんまりと笑顔を浮かべてシザースの手を取り、立ち上がる。
そこで悲鳴。ボルキャンサーが両手のハサミでガッチリと女帝の腕を挟み、泡を連射して攻撃を仕掛けていた。
無数のバブルははじけると衝撃を発生させる弾丸。それを受けて女帝は大きくよろけ、後退。
となると、当然シザース達には近づいていくという事になるわけだ。
「お前はァ、須藤雅史……ィッ!」
「色つき、ココはお前の世界ではない。私が地獄に送り返してあげましょう」
ストライクベント、シザースピンチがしっかりと女帝の腰を捕らえた。
シザースはそのまま腕を振るい、思い切り女帝を投げ飛ばす。
一方で魔法を発動していたまどか。
「ニターヤーボックス!」
結界の箱が囲ったのは須藤の車だ。
ニターヤーが顔を真っ赤にして箱を持ち上げると、そのままグルリと半回転。前を向いていた車を後ろ向きにして消える。
すると吹き飛んできた女帝がサイドミラーの付近に倒れた。
するとそのままサイドミラーに吸い込まれるように消えていく。
どうやらミラーワールドの範囲として認識されたようだ。
シザースとまどかは頷きあい、自分達もサイドミラーに飛び込んだ。
「ぐあぁッ! あぁあぁ!!」
ミラーワールドの地面を転がり、女帝はすぐに立ち上がる。
「シィィイ!」
威嚇に吼え、女帝は鞭を伸ばす。
そしてミラーワールドにやって来たまどか達に向けて激しい乱舞を行う。
だがミラーワールドでは周囲を守る心配はない。まどかは自らとシザースを守るために結界を形成、鞭を防ぎながら前進していく。
「須藤さん! 左に行きます!」
「了解です!」
まどかは左に、シザースは右に地面を転がり、移動。
女帝は素早く左右を確認し、まずはまどかの方に手をかざす。
すると薔薇型のシールドが形成され、まどかが転がりざまに放った矢を無効化した。
さらに右へ脚を伸ばしシザースをけん制。
ヒールがシザースピンチにぶつかった瞬間、火花が散ってシザースの動きが鈍る。
その隙に女帝は前方へ転がる事で挟み撃ちの範囲から逃げ出した。
「えいッ!」
逃がすまいと、まどかは矢を連射。
しかし女帝は鞭でそれらをかき消しながらバックステップでさらに距離をとる。
ならばと弓を振り絞るまどか。光の矢に大量の魔力が収束していき、その輝きが増していく。
「トゥインクルアロー!」
強化された矢が空中を切裂き飛来する。
しかし一方で着地した女帝は、鞭を思い切り地面に向けて叩きつける。
するとそれを合図に、大量の薔薇が地面を突き破って女帝の前方に出現していく。
茨が長く直線になっており、薔薇の花畑はシールドとなってトゥインクルアローと衝突。相殺しあう結果となった。
無数の薔薇の花びらが散るなかで、女帝は無数の薔薇の弾丸を自身の周りに出現させ、一気にそれを飛ばしていく。
しかしココで動いたのはシザースだ。発動していたのはシュートベント。
カニの装飾品が施されたマスケット銃を無数に出現させると、マミの『無限の魔弾』のように水流弾を連射させ、飛来する薔薇を撃ち落としていく。
「ハァアアア!」
それだけじゃない。
薔薇と水流弾がぶつかり合う中でシザースはダッシュ。女帝との距離を詰めていく。
一方で女帝も怯む事なく、シザースへ向けて足を進める。
まずは女帝の蹴りが飛んできた。
シザースはそれをシザースピンチで防ぐと、そのままピンチをふるってカウンターを仕掛ける。
しかし女帝はそれをバック宙で回避。一定の距離をとると鞭を伸ばしてシザースピンチに絡みつかせる。
「シィイイイッッ!!」
「くッ! ぐぅうッ!」
力比べだ。
いくら女性型とは言え、女性ではないので女帝のパワーはそれなりである。
しかしココで冷静になるシザース。彼はもう一方の手にあったシザースバイザーのハサミで鞭をはさむと、そのまま力を込めて切断する。
「ムッ! チィッ!」
短くなった鞭を見て女帝は肩を震わせる。
そのまま鞭を投げ捨てると、両手に薔薇型のポンポンを装備して走り出した。
ポンポンとはチアリーディングに使う道具だが、女帝のソレは凶器である。
花びらは一つ一つが刃になっており、さらに腕力が上がる効果を持っている。
その状態で女帝はシザースに殴りかかった。
しかしシザースは首を僅かに横へ逸らす事で攻撃を回避。
回転しながら後ろに下がり、中腰になってシザースピンチを振るう。
狙うは女帝の腰、しかし女帝はもう一方の手にあるポンポンでそれを受け止めると、すぐさまアッパーでピンチをかち上げる。
そして回し蹴り。
シザースの胸部装甲から火花が散り、よろけて後ろに下がった。
女帝は追撃を繰り出そうと一歩前に。しかしシザースも反応はしている。シザースピンチを解除するとカードベントを発動。
シェルディフェンスで追撃の蹴りを受け止め弾くと、そのまま女帝に渾身の肘打ちを叩き込む。
「ぐごぉ!」
そして怯んだ所にダメ押しの蹴り。
女帝は大きく後ろに滑り、距離を離した。
一方でまどかは先程から詠唱を行っていた。
シザースが時間を稼いだ事で、まどかは落ち着いて魔力を練る事ができる。
「創生せよ粛清の翼、解放の翼! 万物を捉える双翼の矢となり我を照らしたまえ!!」
弓を引き絞る。
するとまどかの左右に現われる片翼の天使達。
「貫け、双子!」
双子の天使アムビエルは、翼を広げて飛行。
女帝を取り囲むように位置を取り、弓を構える。
まずは妹の方がが矢を発射。胴色に輝く矢を、女帝は薔薇型のシールドで受け止める。
衝撃が走る。シールドは粉々に破壊され、威力は大幅に弱まったものの矢は女帝に命中した。
続いて姉が矢を発射。
銀色の矢を察知して、女帝は地面から大量の薔薇を咲かせた。
しかしそれもまた破壊していき、矢が女帝に命中する。
「ヌッ! うぅぅ!」
フラつき、動きが止まる女帝。
ふと、目の前にまどかが見えた。
「スターライトアロー!!」
「グォオオオオオオオオ!!」
今度はゼロ距離にて直撃。
仰向けに倒れた女帝はそのまま地面を滑り、後方へ吹き飛んでいく。
近くにあった家を突き破り、その衝撃で家が崩壊していく。だがミラーワールドであるため問題はない。
「やりましたね、鹿目さん」
「はい! ありがとうございます須藤さん」
しかしそこで物音。
二人が視線を移すと、瓦礫の中から立ち上がる女帝が見えた。
「ククク……! やはり一筋縄ではいかぬか」
「!」
三つの矢はフルパワーでないとは言え、一応は直撃している。
にも関わらず女帝は立ち上がった。やはり取り込んだ瘴気の数がそれだけ多いのだろう。
女帝は地面を蹴るとまどか達から大きく距離をとる。このまま逃げる気なのだろう。
魔獣は自分からミラーワールドを出る事はできないが、そもそもミラーワールドには活動限界時間が設定されており、それを超えれば誰でも外に出る事ができるのだから。
「逃がさない!」
まどかは大きく息を吸い込むと、逃げていく女帝の背中を睨んだ。
「ッ? ッッ!」
しかしそこで違和感。
先程の薔薇の花粉がまだ鼻の近くに残っていたのだろうか。
「ふ、ふぁ、ふぁ!」
あ。
「へぷちゅ!」
可愛らしいくしゃみだが、それがとんでもない事の引き金になるとは誰も思っていなかっただろう。
「は?」
シザースは意味が分からず、その場に立ち尽くすしかできなかった。
「真司さん!」
「あぁ、さやかちゃん!」
マミのマンションの駐輪所でスクーターを停めた真司は、入り口でさやかと合流を果たす。
まどかに緊急事態が起こったとメールで知らされた二人は、すぐに駆けつけた次第である。
二人とも顔を青ざめさせてソワソワと忙しない。エレベーターを待つ間も惜しいのか、階段を駆け上がりマミの部屋を目指す。
「くっそー! やっぱりまどかちゃんの傍にいるべきだった! 仕事なんてしてる場合じゃなかったんだ! 編集長に全部押し付ければ良かったんだよ!」※ダメです
「あたしもまどかに付いてやるべきだった。宿題なんて放置しておくべきだったんだ!」※いけません
二人はそのままマミの部屋にたどり着くとインターホンを連打する。
ものの数秒でマミが扉を開いた。その表情はやはり険しい。
二人はすぐに部屋に入ると、まどかがいると言うリビングに飛び込んだ。
「まどか!」「まどかちゃん!」
「あ、二人とも。えへへ、どうしたの? そんなに慌てて」
はて? まどかはそこにいるじゃないか。
まどかだけではなく、サキやニコ、手塚達も集まり紅茶とクッキーを囲んでいる。
なんだなんだ? さやかと真司は目を丸くして、マミに促されるままクッションに座る。
「なーんだ、まどか大丈夫そうじゃん。焦って損したー!」
「えへへ、さやかちゃんってば慌てんぼさんなんだからー」
「いやぁ、安心したらお腹へっちった。真司さん食べよ食べよ」
「おお! じゃあ頂きます!」
「いやー、今日もクッキーがうまい!」
ちゃんちゃん!
「ってなるかぁああああああああああいッッ!!」
クッキーの破片を撒き散らしつつさやかが叫んだ。
なにやってんだコイツは、手塚やニコの視線は無視無視。
だってもっと注目するべき点があるからだ。と言うわけでさやかは早速その問題児を指差す。
「ん何がどうなったらこうなる訳!?」
マミの部屋にいたのは、マミ、ほむら、手塚、ニコ、サキ、さやか、真司――、そしてパンパンに膨らんだまどかであった。
そう、それはもうパンパンに。
「パニエロケットが元に戻らないぃ?」
「お、おはずかしながら……」
部屋の床に転がっているまどか。
一度バランスを崩すともう自分では立ち上がれない。
要するにまどかに起こった異常事態とは、パニエロケット発動直前のパニエに空気を入れた状態から元に戻らないことだ。
風船のように膨らんだまどか、なんだか体積そのものが増えているような……。
「それくらい流石にあたしでも分かるっての。ねえ真司さん?」
「え゛ッ! そっ、そうだよ! 俺だってそんくらい分かるっての!」(イメチェンかと思った……)
そこで疑問。
変身を解除するとどうなるかだが――。
「あ、戻った」
元のスリムなまどかが光臨。
「うん、でもね、もう一回変身すると――」
ポン☆とファンシーな音と共に変身を行うまどか。
すると現われたのはパンパンに膨らんだ魔法少女姿のまどかだった。
まるでバランスボール、気球……。
「困ったわね、このままゆるキャラみたいな体型じゃ戦いにも影響が出るし……」
「だが可愛いじゃないか。丸いフォルムが愛らしい」
サキは少し頬を染めてまどかの頭を撫でる。
それに頷くさやか。
「おーおー、まどかや、困ったらさやかちゃんが拾ってあげちゃうからね!」
そしてニコ。
「フッ、そんなパンパンになりおってからに。まるでマミみた
一分後、紅茶を囲むメンバーの中にニコはいなかった。
代わりに地面に転がっているのはニコ型の人形。本人の行方を知る者は一人もいない。
輪の中心ではマミが無言で虚空を見つめている。誰もが汗を浮かべている中、手塚が居心地悪そうに口を開いた。
「と、とにかくッ、鹿目が魔獣に襲われた事と、そのパニエロケットとやらが戻らない事は関係があるのか?」
「それは――」
その時、壁の中からスルリと白い影。
『やあ、お困りかい?』
「消えろ」
『ほむら……、君ってヤツは』
「あらキュゥべえ、さようなら」
『嫌だなマミ、ボクは今来たばかりだよ』
「ごめなさいね、このお茶会は7人用なの。私にサキに美樹さん、鹿目さんに城戸さん。暁美さんに手塚さん。ほらね?」
『カップが余ってるよ』
「まあ本当。それじゃあさようならキュゥべえ」
「ああ、あと一つ言い忘れていたわ。くたばりなさい」
「ちょ、ちょいとちょいと! マミさんも転校生もキュゥべえに対して酷すぎじゃない?」
手招きをするさやか、キュゥべえはさやかの下へ駆け寄ると、膝に座った。
気持ちは分かる、気持ちは分かるが、手塚としても情報は欲しいところ。
そうしていると、真司が話を切りだした。
「何か知ってるのかよ、キュゥべえ」
『もちろん、まどかが元に戻らないのは、純粋に魔法の設定ミスさ』
「設定ミス?」
『そう。魔法技について説明したほうが良いかもしれないね』
パニエロケットは魔法技。
魔法技とは魔法をアレンジし。
魔法とは魔力を練成する事で発動される。
『騎士はカードが追加される事で技が増える。つまり与えられる側だ』
しかし魔法少女は自分で魔法技を作っていく、追加する側なのだ。
『魔力とは木材をイメージしてもらった方がいいかもしれない』
あくまでもそれはまどかが、と言う事。
マミは金属、さやかはプラスチック、ほむらは炎と、人によって素材は異なる。
今回は、まどかの魔力が木材として考える。
「魔法技を形にしたいとき、魔法少女はその素材を目的に近いものへ作り変える」
たとえば相手を攻撃したいという魔法技を習得したいなら、木材を尖った槍に作り変えればいい。
それだけではなく、剣にしたり、棍棒にしたり、もしかしたら弓を作れるかもしれない。
これでバリエーションの違う魔法技が生まれる。
『攻撃技と言ってもトゥインクルアローやマジカルスコールと言った種類があるようにね』
さらに速く走りたいなら木でタイヤを作り、スケートボードだのを作ればいい。
ご飯を食べたいなら、木でボウルを作ったり箸を作ればいい。
木材と一口に言っても何をするかでその形は多種多様な物に変わってくる。それが魔法技なのだ。
『さらにその才能により、できる事は大きく変わってくる』
たとえば木材で家を壊せというのは中々厳しいかもしれないが、大量、もしくは巨大な木材があれば大きなハンマーを作ればいい。
材料が多ければ、巨大ならば、作れる物のバリエーションも広がる。
『もちろん魔法少女にはひとりひとり個性がある。木材で水を凍らせる事は難しいよね。ある程度の応用や変化は望めるが、たとえば守護の固有魔法を材料とするまどかが、相手を呪い殺す魔法を作り出すのは難しいだろう』
今回の例で説明するなら、パニエロケットとは彫刻だと考えてほしい。
まどかは木材を削って
しかし数あるループのなかならばまだしも、前回のゲームでまどかはパニエロケットを覚えていなかった。
『キミ達ははじめて作った彫刻と同じものをすぐに作れるかい?』
それは難しいはずだ。
なにごとも経験であるため、練習を重ねて彫刻の精度を高めていくのが普通である。
バスケットだって何度も何度もゴールにボールを入れられる訳じゃない。練習を重ねる事が大事なのだ。
『今回、まどかは外的な要因によって彫刻の邪魔をされたと考えてほしい』
たとえばパニエロケットがキリンの彫刻だったとしたら、一生懸命削っている間に後ろから驚かされて、その衝撃で首を折ってしまったと。
キリンは長い首が特徴的な生き物だ、それをバッキリ折られちゃ、キリンの彫刻としては意味を成さなくなる。
『心当たりはあるかい? まどか』
「そういえば魔獣に薔薇の花粉みたいな攻撃を受けたんだけど、アレで頭が真っ白になっちゃって。その後のくしゃみで」
『じゃあそこでパニエロケットを構築する魔法の方程式が狂ったんだろう。木材で箸を作ろうと思っていたら、いつのまにか先端を削り始めて二本の釘を作っていた様にね』
「なるほどな、話が見えてきた」
手塚は理解したようだ。
まどかが元に戻るには、一度パニエロケットを構築する魔法を全部バラした方がいい。
言わば一度ただの木材に戻すのだ。パニエロケットを忘れた上で、また新しく設定しなおせば何とかなるだろう。
「キュゥべえ、魔法を忘れるにはどうすればいいんだよ」
『ソウルジェムで設定すればいい。ただ色々思考が混じると時間が掛かるから、頭を真っ白――、つまり他の要因に注意を向けさせれば簡単だよ』
そこでピンと来たのか、マミは何かをほむらに耳打ちしていた。
「?」
マミとほむらがキッチンに消えて数分後、ボールの様に部屋を転がっているまどかの下へクッキーが運ばれてきた。
「特製クッキーお待たせ! 鹿目さん、これを食べればきっと大丈夫よ!」
「本当ですか? ありがとうございます!」
目の前に出されたクッキーをまどかは吸い込むように口にする。
まるでアザラシか何かのようだ。ためらう事無くモグモグと租借するまどかだが、ふと、顔が真っ赤に染まる。
「ひやあああああああああああああああ!!」
「!?」
まさに火を吹かんとの勢いで転げまわるまどか。
明らかに普通じゃない。真司やサキは慌ててまどかに駆け寄り、手塚はマミの肩を掴んだ。
「お、おい、なんだあれは!」
「クッキーよ。ブートジョロキアを混ぜてみました」
「ぶ、ブート……って確か」
「ハバネロの二倍は辛いって言われてる唐辛子よ。暁美さんに出してもらったの」
「………」(なんでそんなモン持ってるんだ)
その時だった。
手塚の疑問に合わせる様にして、まどかの体が元に戻ったのは。
「いやぁ、おかしい。途中から記憶が全くない」
「………」
マミの家からの帰り道。
ほむら、手塚、ニコの三人は道を並んで歩いていた。
ニコは首をかしげて記憶を辿るが、思い出さないほうが幸せと言うこともあるだろう。
「それにしてもまどかには可哀想な事をしたわ……」
「仕方ない。辛みが鹿目の頭をまっさらにし、結果的には元の姿に戻る事ができたわけだ。それにしても魔法は奥が深いな、俺には理解できん境地だ」
「まあ、魔法も心の力に依存するからな。私もレジーナアイの調整にはかなりの時間と魔力を使ったよ」
まあでも――、と、ニコは手塚を見る。
「私からしてみれば、そっちの力も興味深いけど。ライダーさん?」
「ライダー、か」
真司から話を聞いて、手塚の頭にフラッシュバックしていく光景。
それは過去であり、次元を隔てた記憶だ。
「神崎が仕組んだバトルシステムが俺達騎士の正体だ。ある意味、魔法とそうは変わらない」
「確かに、手塚や城戸の中に少しだけ魔力感じるんだ」
尤も、それはニコが知る魔力ではない。
何かもっと違う、炎のようなエネルギーだと。
「ロクなものじゃないさ。結果として俺達も何度もくり返す事になったからな」
できれば思い出したくはないが、手塚は記憶能力が高い。
それこそ、本人は未来を視る占いの才能があると思ってしまうほどには。
だが今はもう独自に占いの勉強を重ね、未来ではなく運命を見る能力を養えた。
「じゃ、ま、占ってくれよ」
「ああ、構わないが」
コインを取り出し弾く。
回転する金貨を器用にキャッチすると、それをしばらくくり返す。
「神那、もうすぐ会いたくなかった人に出会うかもしれない」
「なんだよコイン弾くだけかよ。適当言ってる?」
「フッ、信じるかはお前次第さ」
「んん、まあ、いいけど、それ当たってるかどうか分からないかも」
会いたくない人間なんて山ほどいるとニコは自虐的に笑った。
「だがどうやらその人間は、お前にとってマイナスだけを与える存在ではなさそうだ。毒にも薬にもなる、と言ったところだな」
「ふぅん、ま、覚えておくよ。ほむらもやってもらえば?」
「私はいいわ」
「なに? 変な結果が出るのが怖い?」
「そんな、まさか」
「フッ、脚が震えておる」
「そんな事――」
少しムッとした表情でニコを睨むほむら。
しかしまさに一瞬だった。
まるでスイッチが切れたようにほむらは無表情に変わる。
「?」
なんの感情もない。なんの生気もない。そんな様子だった。
「そんな事ないわ」
あまりにも淡々と口にした言葉だった。
そのままほむらは機械的な動きで前に進んでいく。
手塚もニコも足を止めたのに、ほむらは気にする事なく進んでいく。
"まるではじめから一人で帰っていたかのように"。
「手塚」
「なんだ?」
「アレ、やばいな」
「……ああ」
実は既に兆候は見られていた。
先程マミの家でまどかを直そうと悪戦苦闘している中で、さやかはゲラゲラと笑い、まどかは怒ったり辛い事に苦しんだりと様々な表情を見せていた。
その中でほむらはふと真顔になるのだ。
もともと表情が豊かだったわけじゃないが、時折本当に心をなくした様に沈黙する。
「ニコちゃん占い。アイツたぶん」
ニコはアンニュイな表情でほむらの背を見る。
「死ぬぞ」
「………」
手塚は目を閉じ、ため息を一つ。
「アンタもアイツ占ってみれば?」
「占ったところで、ロクな結果が出るとは思えないな。それに占いは予言でもなければ診察じゃない。あいつに何が起こっているかまでは分からない」
「ん」
「いずれせよ注意はしておくさ。一応、俺はアイツのパートナーだからな」
「大変だな。私ならストレスマッハで三日で胃が死ぬね」
「今はまだマシだ。昔は話しかけても七割は無視された。しばらく胃痛でおかゆしか食えなかった」
「地獄だな」
「………」
手塚もまた、自嘲気味に笑った。
「慣れたよ」
「………」
家に帰ったほむらは服を脱いで浴室に足を踏み入れた。
湯船にお湯を貯めながら、シャワーを頭から被る。
「………」
すぐに湯気が浴室を満たす。
ほむらはしばらくお湯を浴び続け、その場に立ち尽くす。
(おかしい)
最近、自分の様子がおかしい事をほむらは誰よりも理解していた。
しかし原因が全く分からない。そもそも自分に何が起こっているのかすら理解できない。
ただなんとなく言いようのない嫌悪感や倦怠感が襲い掛かかってくる。先程まで思っていた言葉が消え、やる気が一気になくなる。
今も少し吐き気がする。
ほむらはジットリとした目で前の壁を見つめていた。
分からない、分からないが、気持ちが悪い。
かつてないほど順調に行っている。
マミも須藤も死なずに済み、ディスパイダーも倒せた。なのになんで、こんな――。
いけない、考えれば考えるほど分からなくなってくる。
お風呂にでも入れば忘れられるだろう。ほむらは浴槽に顔を向けた。
「ん?」
目を擦るほむら。
おかしい、なんだ? お湯が凹んで――?
「いい湯だバババン」
「………」
一瞬だった。
一瞬でお湯の中にニコが現われた。
「殴るわよ」
「殴ってから言うなよ」
ほむらはハリセンをソファの隣に置くとため息を一つ。
結局お風呂から飛び出すように上がったほむら。
全裸のニコを引きずり、適当な服を着てソファに座り込む。
「その癖、本当に止めて」
「悪い悪い、当たり前になってしもうた」
タオルで体を拭いて服を着るニコ。
透明化して相手に近づくのは確かによろしくない事だ。
しかしそれでもニコはやめなかった。やめられなかった。
それは前回しみついた立ち回りであり、なによりも――。
「私も、生をどうでもいいと思う一方で、一抹の恐怖くらいは感じるさ」
保身。まだゲームは始まっていないとはいえ魔獣がいる。
いつどこで狙われているか、視られているか分からない状況で姿を晒すまどか達の方が凄いとニコは言う。
「当然、君も」
「……私は」
そこでインターホンが鳴る。
珍しい。誰だろうか? 二人は顔を見合わせて立ち上がった。
「こんばんは、暁美さん」
「巴さん……、どうしたの?」
現われたのは巴マミだった。
クッキーが入った小包を持っており、ほむらを見ると優しく微笑む。
「ごめんね、携帯に連絡したんだけれど……」
「あ、ごめんなさい。少しお風呂に入ってて。とにかく上がって。なにもないけれど」
「いいの? お邪魔します」
リビングに入るマミ。
そこにいたニコと挨拶を交わす。
「やあ、巴マミ」
「あら、神那さんも来てたの」
「まね」
「それで巴さん、用件は?」
「あ、うん。用って程の用じゃないんだけど」
まどかと少し相談していたと。
「相談?」
「ええ。最近暁美さんちょっと元気がないって言うか」
「!」
「だから少し気になってしまって。ごめんなさい、おせっかいだったかしら?」
「いえ……、心配させてしまったのね」
やはり、ほむらと少し関わりのあるものなら異変には気づいてしまうようだ。
逆を言えば、それだけほむらにはハッキリとした異変が起こっていると言うことだ。
尤も、分かるのはそこまで、だが。
さて、ニコだけならばさっさと叩き出していた所だが、わざわざ様子を見に来てくれたマミをすぐに追い返すわけにもいくまい。
とは言えマミ家のようにお茶を出せるわけもなく。
「まああれだな。時間も時間だし、何か食わせてちょうだい」
「なんで
冷蔵庫を開けるほむら。
これがいけないもので、他人の家の冷蔵庫はついつい気にしてしまうもの。
ニコとマミもひょいと、ほむらの隣で顔を覗かせる。
そこには、無数のキャロリーメートが。
「いや嘘だろ」
「あ、暁美さん、これしか入ってないの!?」
「ええ、楽だし、早く食べれるし」
「もっと食に興味持て! や、ま、私が言えた義理じゃねーけども!」
一度は味覚を失ったが、最近は徐々に感覚が戻って来た。
だからこそニコは『普通』が良かった。
それはマミも同じだろう。いくら極論食べなくてもいい体とは言え、それはそれ、これはこれだ。
「さ、流石になんかあんだろよ~」
「ちょっと!」
冷蔵庫を漁るニコ。
キャロリーメートの山を掻き分けると、奥の方に何か違う食材を見つけた。
「あるじゃんか! えーっと?」
賞味期限はまだ大丈夫。
そのパッケージは――
『こんにゃく』
「………」←ニコ
くっちゃ! くっちゃ! くっちゃ! くっちゃ!
「………」←マミ
モキュモキュモキュモキュモキュ。
「………」←ほむら
ぐもぐもぐもぐもぐも。
「「「………」」」
―――地獄。
「がぁあああ! くっそ! なんでこんにゃくしか入ってねーんだ!」
「むしろどうしてこんにゃくだけが……」
「……なぜかしら。とりあえずごめんなさい」
味のないこんにゃくほど噛んでいて味気ないものはない。
我慢できなくなったか、マミは近くのスーパーで食材を買ってくるという。
と言う事で家に残されたほむらとニコ。
「なあ、ゲームしようぜ」
「ないわよ」
「だから持ってきたんよ」
携帯ゲーム機を二つ取り出すニコ。
「たかみぃもメイド達も相手してくれなくて寂しかったんだ。付き合ってくんなまし」
「……弱いわよ、私」
「おう、別に良いって。サンドバッグ役、よろしく」
小さく息を吐いてゲームを受け取るほむら。
しかしココで意外な事が起こった。
マミが帰ってくるまでの間、対戦ゲームをはじめたわけだが、これがなかなか。
「……なんだよ、強いな」
「そう?」
「意外だ。ゲーマなのか? お前」
「いえ、基礎だけは知ってるから。だから後はだいたいどんなゲームでも同じよ」
「?」
「昔はよく、やってたから……」
「へぇ、ますます意外だな」
「ゲームは楽しい。辛い事も、孤独も、全部忘れさせてくれる」
「――ッ」
そこでインターホン、マミが帰ってきたのだ。
「カレーを作るわ!」
「おぉ! やったぜちきしょう!」
「……手伝うわ、巴さん」
そこからは三人で材料を切ったり煮込んだり。
「ねえ二人とも。私がいない間なにしてたの?」
「チュー」
「えぇええッッ!!」
「適当言わないで。ゲームよ」
「あぁ、びっくりした! って、暁美さんもするの!?」
「やっぱり意外、かしら?」
「そんな事ないけど……! いいなぁ、私もやりたい!」
「いいね、じゃあ揉ませてくれたらいいよ」
「黙りなさい神那ニコ。刻むわよ」
「洒落になれんがな、お前が言うと……」
「あ、神那さん。じゃがいも取ってくれる?」
ふと、ほむらが野菜を切る手を止めた。
「あれ? これ、前にもどこかで……」
「ッ? どうしたの暁美さん」
「いえっ、その、少し、既視感が」
「そりゃ腐るほどループしてんだからカレーくらい作った事あんだろ」
「そう、そうね……」
こうして、一時間後、マミ特製カレーが完成する。
ホカホカの湯気を立てるそれに、待ちきれんとニコはスプーンを伸ばす。
「うっめ、マジやべぇ、たぶん」
「なにその感想」
ほむらもまたカレーをすくう。そして、口に入れた。
「……!」
おいしい。
温かくて、良い匂いで、少し辛くて、でも食欲が湧いて。
それにみんなで作った、カレー。
ほむらは思わず唇を吊り上げ――。
「―――」
ガチャンと音がした。
ニコとマミが視線を移すと、ほむらがカレーを床に落としていた。
「気持ち悪い」
「あ、暁美さん……?」
「ごちそうさま。ごめんなさい、食欲がなくなった」
あまりにも早口だった。
何の感情もこもっていない平坦でロボットのような口調。
「ご、ごめんなさい。お口に合わなかった?」
「そんな事ないわ。ただ少し気分が悪くて。今日はもう帰って」
まるで台本があるかのような口ぶりだった。
まただ、ニコ達が感じた違和感、それが目の前にある。
「なあ、やっぱ最近おかしいぞお前」
「帰って」
「ほむら……!」
「帰って」
「お前だって分かってるんだろ?」
「帰ってッ!」
怒号をあげて、ほむらは鬼のような形相でニコを睨んだ。
しかしすぐに自分のしている事がどういう事なのかを理解したのか。
割れた風船のようにしぼんでいく。
「……ご、ごめんなさい。違う、違うの」
「ほむら、お前……」
「ただ、ちょっと本当に気分が悪くて」
「ほ、本当なの? 私にできる事があればなんでも言ってね、暁美さん」
「ごめんなさい。巴さん、せっかく作ってくれたのに、こんな――」
「……気にしないで、ゆっくり休んでね、暁美さん」
ほむらの家を出たニコとマミは複雑そうな表情で帰路につく。
「本当に体調が悪いだけなのかしら?」
「いやぁ……。違うっしょ。私ら一応、死体なわけで」
「そ、そっか。じゃあ風邪なんて引かないのね」
「一応、人間として振舞えば或いは。でもあんなクソみたいな冷蔵庫の中身だろ? 人として振舞っている感じじゃなかったよね」
「だったら残ってるのは――」
「まあ、こればっかりはどうにも。今は様子見が安定かと」
「………」
複雑そうな表情でマミは頷いた。
経験者は語る。――と言うことなのだろうか。
「………」
ほむらはポツンとリビングに立ち尽くしていた。
マミが片付けてくれたカレー。ニコが置いていったゲーム。
先程までは少し騒がしいくらいだったのに、今は無音である。
ほむらはその中で何をするわけでもなくジッと立ち尽くしている。
唯一起こしたアクションは座る事だけ。
そうしている内に夜が来た。ほむらは歯を磨いてベッドにもぐりこむ。
時計の針は22時を指していた。
「………」
眠れない。
寝返りをうってみる。
眠れなかった。
時間が過ぎた。
眠れなかった。
目を閉じた。
眠れなかった。
時計の針が4時を過ぎた所で、ほむらは諦めた。
ソウルジェムを操作し、意識を失わせるように眠った。
「暁美さん。おはよう」
「え? あ」
目を開けると朝だった。目の前にマミの笑顔が見える。
「巴さん、どうして……」
「私のカレー。捨てたのね」
「え……あ」
体を起こすほむら、ゴミ箱に鍋が突っ込んである。
マミは泣いていた。そして銃をほむらの眉間に突きつける。
「酷い。一生懸命作ったのに……!」
「違う、あれは――ッ!」
「死ね」
銃声が聞こえた。
ほむらの眉間に銃弾が抉り込み。
脳が破裂した。
「―――ッ!」
跳ね起きたほむらは、反射的に傍にあったゴミ箱に手を伸ばした。
そして胃の中にあったものを全てそこへ吐き出していく。
なんだ今のは。
ほむらは足を引きずり、洗面所へ向かう。
吐き気はおさまったが、背中をさすってくれる人はいなかった。
「あれ?」
ほむらは引きつった表情で鏡を見る。
「誰――? これ」
ほむらはそこで意識を失った。
「ママ! 行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい。今日はオムライスだからね!」
「うん! 楽しみ!」
「じゃあお願いします先生」
「はい、じゃあ行ってきます」
手を振って別れる親子。
もうすぐ遠足だ。その前にお遊戯会の練習もある。幼稚園に向かうバスは安全運転で今日も行く。
先程の女の子はいつもの席に座り、窓の外を見る。いつもと変わらない景色だった。だがふと、後ろから声が。
「すごいかわいいねぇ、そのお洋服!」
「でもみんなと違うよー?」
後ろを振り向くと、一番後ろの席に見慣れない女の子が座っていた。
濃いピンク色の髪に、フリルのついたお洋服。
ぬいぐるみを抱いた可憐な少女は幼稚園児に囲まれて人気者だ。
しかし、先生だけは違った。
「え? キミ、お名前は?」
困惑したように汗を浮かべる先生。
当然か、知らない園児が乗っていたのだから。
「わたちは、テラ」
「え? テラ? ど、どうやってバスに乗ったの?」
「うんとね、うんとね、それよりね!」
その時だった、テラの額から触手が伸び、先生の胸を貫いた。
「え……?」
血を吐き出し、先生は自分の胸を見る。
心臓を貫いた触手は、確かにテラから伸びていた。
「嘘……」
「嘘じゃありましぇん。ぜつぼうして死ね、クソ人間が」
「あ――」
ドサリと、先生は倒れた。
他の園児は訳が分からないと固まっている。
「クフフフ! フヒヒヒヒッ!」
瘴気が溢れる。それだけでテラの左右に座っていた園児は骨になった。
崩れ落ちる白骨死体と、立ち上がったのは魔獣・テラバイター。
「さあ、ボウヤ達、お嬢ちゃん達、お姉さんがたぁっぷり遊んであげるからね」
人間体とは口調が大きく変わっている。
テラバイターはそのまま前方にいた園児の喉を爪で貫くと、もう一度高笑いを浮かべた。
一分もあっただろうか?
バスの中は血で染まっていた。
そして最後の一人、女の子が宙に浮かんでいた。
「――ァ、カ……!」
女の子の小さな首にはテラバイターの触手が巻きついており、そのまま無慈悲にギリギリと強く、強く、締め付けていく。
どうして――? 女の子は薄れゆく意識の中で思った。今日もいつもと変わらない日の筈だった。
むしろ、晩御飯は大好きなオムライスだったのに。
「たすけ――ッ、おかぁ……さ――」
「クヒヒハハハハハ!! いいわねぇ、そのまま絶望して頂戴!」
ガクン、と、手が落ちた。
白目をむいた女の子はもう動く事はなかった。
テラバイターは女の子を解放すると、死体の背を踏みつけて前に出る。
「た、助けてくれぇええッッッッ!」
バスの運転手は脱兎のようにかけ、バスを飛び出した。
犬の様に地面に手をつき、情けなく叫び声をあげて生き残るために、あがいていく。
バスから降りたテラバイターはニヤリと笑みを浮かべ、瘴気を武器に具現する。
「バラバラになりなさい! ウフフ!」
テラバイターの手に現われたのは巨大なブーメラン。
一歩踏み込み、それを投げると、直後ブーメランは分身。
無数の回転する刃となりて運転手の男性を狙った。
「ヒッ! ヒアァァア!!」
一番初めに到達したブーメランが男性の腕を切断する。
激しい熱と痛みに絶叫が漏れたかと思えば、次は脚、胴体、首、手、指がバラバラに分離して男性は死亡した。
「ウフフフフ! やはり狩りは楽しいわ。ゲームの観戦もよかったけれど」
ブーメランをキャッチするテラバイター。
人の悲鳴と苦痛、そして死が実感させてくれる。
自らが狩る側である――、と。
「あら?」
凄まじい勢いで粒子化していく手、それはもちろん体も。
『無意味に殺しすぎだよ』
キュゥべえがバスの上からテラバイターを覗き込んでいた。
『言っただろ? 快楽目的の殺人は星の骸への帰還時間を早めると』
「ええ覚えているわ。だから、それが狙いなの」
『?』
その時、バスの入り口からゼノバイターが姿を見せる。
「おーおー、派手にやったなぁ、テラァ」
「後はヨロシクね、みんな」
指を鳴らすと、地面からバラが生え、そこから女帝が姿を見せる。
舌なめずりをすると、女帝は地面に落ちた男性の死体を食い始めた。
一方でテラの影からヌッと姿を見せたクララドールズ。
特徴は茶髪のボブカット、『ワルクチ』。ワルクチは以前テラがつけていたメガネをかけていた。
「おい、このバスもらっていこうぜぃ!」
「いいけれど、死体は捨てて置くように」
「わーってるって。クハハ、アイツらの悔しがる顔が目に浮かぶぜ」
死体の中で、魔獣達はケラケラと楽しげに笑っていた。
「そろそろ魔獣の恐ろしさってモンをアイツ等に教えてやらねぇとなぁ?」