仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第83話 胡蝶の夢

 

「あぁ、ひでぇなコラ」

 

「……ッ」

 

 

事件が起こった。その知らせを受けて須藤達は現場に向かう。

先に到着していたベテラン刑事、河野(かわの)から須藤は事情を聞くことに。

 

 

「殺されたのは見滝原第二幼稚園の子供達と職員が一人、運転手が一人だ。おそらくな」

 

「おそらく?」

 

「死体の損傷が激しいんだ。全く、奇妙な事件だよ」

 

 

遺体を確認する須藤。

死体の山はまるで河原に捨てるように放置されていた。

一部の死体はバラバラに、一部の死体は鋭利な刃物で抉られたように。

 

 

「先生なんてな、心臓を貫かれてるんだ。文字通り胸に穴が開いてんだよ」

 

「これは――!」

 

「可哀想になぁ、まだ若いってのに」

 

 

かとも思えば中には子供白骨死体まで転がっている始末。

 

 

「意味がわからんよ、俺にはサッパリだ」

 

「………」

 

 

魔女?

いや、魔女が人に齎す死の多くのは口付けによる自殺。

そうでなければ捕食、遺体は残らない筈だ。だとすれば一番可能性として考えられるのは。

 

 

(魔獣か……)

 

 

拳を握り締める須藤。

こんな幼い子たちまでも奴らは――。

 

 

「いやぁ、俺も刑事長い事やってるけど、こんなの初めてだ」

 

「そ、そうですね……」

 

「でも実は前々からちょっとした変な事件はあったんだよ」

 

「変な事件ですか?」

 

「ああ。白くてでっかい人を見たとか。モザイク塗れの変なヤツを見たとか。いやぁ、なんの事やら俺はさっぱりだけど、今回の件含めて流石におかしいってんで、上の方が専用の捜査係りを作るみたいだぜ?」

 

「ッ、それは誰が所属するんですか?」

 

「や。まだ決まってないみたいだが、話しによると申請すれば移動できるみたいだぞ。全く、前代未聞だよこんな事ぁ」

 

「河野さんはどうするんですか?」

 

「それがな、実を言うと俺がそこの責任者を任されちまって。どうだ、お前と美佐子もくるか? まあ給料は落ちるし、普段は雑用だし、ロクなもんじゃないけども」

 

「……いえ、考えておきます」

 

「本当か? あ、いや、そうか、そうだよな。あそこに入ればお前らが前々から追ってた事件も自由に操作しやすくなるしな」

 

「美国久臣の事件ですか……」

 

「ああ。まあアレは今回の件とは関係ないだろうけど」

 

「それは……、ええ」

 

「そういえば、作られる捜査チームには風見野の刑事も参加するらしい。署をまたいでの合同捜査チームになるなんて、なかなか凄い事だぞ? もしかしたら色々な情報が分かるかもしれんな」

 

 

頷く須藤。

どうやら彼はそこに移動する事を決めたようだ。

そしてふと、ブルーシートで覆われた死体を見る。

なんだか少し、皮肉と言うか、悲しいと言うか、怖いと言うか。

 

 

「罪のない子供達をあんな風に殺すなんて、化け物の仕業としか思えない」

 

「まあな」

 

「でも、人間の仕業なのかもと思ってしまう」

 

「……まあな!」

 

 

河野は須藤の肩を強く叩いた。

 

 

「あんまり気負うな。そう言うヤツらを捕まえるのが俺達の仕事だ。理解できんモンは理解できないままで良い。俺達は常識を持っていればいいんだよ」

 

「そう、ですね。はい」

 

 

須藤は頷くと、河野の背を追って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校。

今は授業中だ。早乙女先生が棒でボードを指しながら、自作のポエムを交えて熱く生徒に意見を述べている。

 

さて、ココで注目して欲しいのは生徒達の様子――、授業風景だ。

見滝原中学校は教育の最先端をいっている。生徒一人一人はノートパソコンないしは、タブレット端末を利用して授業を受けている。

その中、生徒の姿は無いが、タブレットのモニタが光っている部分があった。

 

そう、仁美と中沢と下宮だ。

中学生である三人が清明院にずっと滞在できるのは、中継を利用したネット授業があるからである。

特定の事情がある場合、こういった形で出席扱いになるのは、近未来都市、見滝原ならではだろう。

 

 

『なかざわー! なにしてるですー?』

 

『ブッ!』

 

 

中沢の画面からフェードインしてきたのは百江なぎさ。『チーズポテト』と書かれたスナック菓子を片手に、バリバリと音を立てながら手元を覗き込む。

 

 

『な、なぎさちゃん! ダメだよ部屋に入ってきちゃ!』

 

『んん、仁美と下宮にも同じ事を言われたのです。もうなぎさの相手をしてくれるのは中沢しかいないのですよ!』

 

『いや俺もだから! 香川先生の所に行っててよ!』

 

『香川さんと裕くんは調整がどうとかピコピコしてて相手にしてくれないのです。なぎさは寂しいんですぅ、なかざわぁー!』

 

『汚い汚い! 食いながら喋らないでよ! ポテトのカスが机に落ちてるから!!』

 

「中沢くん!!」

 

『あぁ! ごめんなさい先生! ほら、なぎさちゃん、俺もう怒られ――』

 

「いますね! スナックの食べかすがカーペットに落ちたくらいで烈火のように怒る男! あなたはそのタイプですね!」

 

『そっち!? ッて言うか先生また昔の男の人の話ですか!』

 

「がっでーむ!! アイツの話はもうするなーッ!」

 

『先生が振ってきたんでしょ! って言うかなぎさちゃん膝に乗るの止めて!!』

 

『おぉ、画面の向こうに人が見えるのです! ピース!』

 

「なにしてんの、アレ……」

 

 

さやかは汗を浮かべながら、ポツリと呟いた。

戸惑いの視線の中で、早乙女先生は涙を浮かべて叫んでいた。

 

 

「潔癖な男はみんな止めにしましょうね! 愛する人の穢れを受け入れてこその男ですよ!」

 

 

授業が終わり、時間は昼食になる。

屋上のテラスでお弁当を広げる一同。その中で、さやかの絶叫が響く。

 

 

「でえええええええええ! 仁美と中沢って――ッ! まじぃ!?」

 

 

まだ二人が魔法少女と騎士だと言う事を知らなかったさやか。

文字通り目が飛び出しそうになるほど大きく見開いている。

とは言え、仁美が戦いの運命に巻き込まれる事はさやかとしては複雑だ。まあだが、やはり同じ仲間が増えた事は嬉しいものがあるようで。

 

 

「それにしても中沢とパートナーか。いいなぁ、あたしも恭介が――」

 

「え? 上条くんがどうしたの?」

 

「あ、いや――ッ!」

 

 

顔を赤くして頭をかくさやか。

しかし画面の向こうでは引きつった表情で中沢が視線を逸らす。首を振る下宮。

こんな所で実は上条がオーディンなんです、なんて言える訳がない。もちろんそれはまどか達にとってもだ。

 

全てを思い出したまどかや真司も唯一オーディンの変身者に対する情報だけはブロッキングされている。つまり今この場で上条がオーディンであることを知っているのは中沢と下宮の二人だけなのだ。

 

まだだ、まだ言えない。

そうしていると、さやかが恥ずかしさから話題を変えた。

 

 

「ねえ、仁美、どうなの? 中沢は」

 

『ええ、中沢さんはとっても良い人ですわ』

 

『!!』

 

 

とろけた様にニンマリと笑う中沢。

 

 

『ニヤニヤしてるのです。どうしたんですか? 中沢』

 

『え? いや、ねえ? ハハハ、なぎさちゃん、からあげ食べる?』

 

『いいのですか!? もらうですよ。んん、うまうまですぅ!』

 

 

なごやかに過ぎていく昼食の時間。

しかしその中でたった一人、真顔になったものがいた。

暁美ほむらだ。ふと立ち上がると、平坦な声で呟く。

 

 

「気分が悪い。早退するわ」

 

「え? ほむらちゃん?」

 

「んお、大丈夫? 保健室送ろうか?」

 

「いえ、大丈夫よ、心配しないで」

 

「あ……!」

 

 

そそくさと帰っていくほむら。

その様子を電子パッドで確認していた下宮は首をかしげた。

ほむらは下宮が見ている限り、魔法少女の体に適応しているようだった。

 

つまり体の不調をソウルジェムの操作によって解決すると。

そんなほむらが体調が悪いから早退? 良く分からない。考え方を人間寄りに戻したのか?

それとも――。

 

 

『鹿目さん、ちょっと気をつけたほうがいいかもしれない』

 

「うん、うん……」

 

 

もちろんそれは、まどか自身分かっていた。

と言う事で、まどかは早速携帯電話を取り出し、頼れる仲間に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

早退届を出し、玄関を出たほむら。

誰もいない校門前に、パートナーの姿を見る。

 

 

「なに?」

 

「神那から連絡を貰ってな」

 

 

まどかは基本的に自由な立場にあるニコに連絡を入れた。

しかしニコはただいま読書(マンガ)中である。

よってニコは手塚の携帯に連絡を入れたのだ。

 

 

『オマエノ、アイボウ、ピンチ、バショ、オクルネ』

 

 

謎の片言を受けて手塚は、ほむら同じく学校を早退してココにやってきたわけだ。

 

 

「私の事は気にしないでいいわ。早く学校に戻って」

 

「別にいいさ。どうせ午後はどうでもいい授業ばかりだからな。それに――」

 

「?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 

"授業を受ける必要"はあるのか。

そう思ってしまったが、それは間違いだろう。

手塚は自嘲の笑みを浮かべ、ほむらと肩を並べる。

 

 

「気分が悪いと聞いたが……」

 

「いえ、別にたいした事は無いわ。少し家で休めば大丈夫」

 

「じゃあ送るよ」

 

 

手塚は少し離れたところにあるカーブミラーを指差した。

丸い鏡の中にはエビルダイバーが見える。

手塚が高校から一瞬で見滝原中学校にこれたのはエビルダイバーのおかげだろう。

ほむらは目を閉じて少し沈黙。その後、ゆっくりと頷いた。

 

その後はまさに一瞬とも言える出来事だった。

ミラーワールドではエビルダイバーは回りに気を遣わず飛び回る事ができる。

そうしてすぐにほむらの家にやって来た二人は、ミラーワールドを脱して、部屋の中に入る。

 

 

「ハァ、ハァ!」

 

「おい、大丈夫か? 辛そうだが」

 

「ええ、大丈夫。少し胸が苦しいだけ」

 

 

ほむらはフラつく脚でベッドに向かい、そのまま倒れ込む。

 

 

「ごめんなさい、水を……、もらえる?」

 

「あ、ああ。待ってろ」

 

 

キッチンへ向かう手塚。

そのままグラスに水を入れて戻ってくる。

水をほむらに手渡すと、ほむらはゆっくりと水を口に含み、なんとか気分を落ち着けているようだ。

 

 

「大丈夫か? なんだったら、ソウルジェムを操作すれば――」

 

「なるべく使いたくないの。たとえそれが苦痛を与えるとしても、なるべく……、なるべくね」

 

「……そうか。それにしても、風邪や熱じゃなさそうだが」

 

「ええ、これは、きっと――」

 

 

ほむらは口を閉じた。

喋る事が疲れるのだろう。手塚もそれを察し、詳細を問うことは無かった。

しばらくして、ほむらは水を置いて仰向けに倒れる。

呼吸を整え、壁にもたれかかっていた手塚に声をかける。

 

 

「ごめんなさい。ありがとう」

 

「いや、いいんだ」

 

「ねえ、一つ聞いても良い?」

 

「?」

 

 

天井を見つめながら、ポツリとほむらは呟く。

 

 

「あなたは、友人が欲しいと思った事はある?」

 

「………」

 

 

腕を組み、手塚はしばらく沈黙を貫いた。

だが、少し笑みを浮かべると、ふっきれたように言葉を紡いでいく。

あのほむらがこんな事を聞いてくるんだ。今更取り繕ったり、変に嘘を言っても仕方ないだろうと。

 

 

「欲しいと思った事は、ないな」

 

「……そう。理由を聞いても良い?」

 

「怖いからさ」

 

 

それだけじゃない、辛いから、苦しいから、不安だから。

そんな事ばっかりだ。もちろんそんな事を考えていれば良い事はない。だから手塚は友達が欲しいとは思わなかった。

なにより、一つ。

 

 

「もう、あんな想いは沢山だ」

 

「………」

 

 

その時、ほむらは少しだけ唇を吊り上げた。

 

 

「やっぱり、貴方は私と似ているわ」

 

「だからパートナーになった」

 

「そう、そうね。ねえ、手塚、私ね――」

 

 

ほむらは冷蔵庫の中を見るようにお願いを。

言われた通り冷蔵庫を開けると、まず大量のキャロリーメートが目についた。

 

 

「前に買っていたのは知ってるが……、まさかここまでストックしてあるとは」

 

 

だが違う。大切なのはそこじゃない。

手塚が視線を下に向けると、そこには小さな鍋があった。

 

 

「カレーが入ってる。昨日、巴さんが来てくれて……」

 

「巴マミが?」

 

「そう、神那ニコも来てくれて」

 

 

来て『くれて』。その部分にほむらの想いが宿っている気がした。

 

 

「手塚、笑わないで聞いてくれる?」

 

「ああ、笑わないさ」

 

「私ね、巴さんが好き」

 

 

今まではまどかばかりに気を向けていたが、それを止めたら気づいた事も多かったと。

特に一番はマミだ。彼女は記憶を取り戻している。その上で今までどおりに接してくれているのだ。

それが、ほむらにとってどれだけありがたい事なのか。

殺そうとして、傷つけあって、でも昨日なんてわざわざ心配して来てくれた。

 

 

「とっても、嬉しかった」

 

 

枕を抱えて、頬を赤くするほむら。

あんなに嬉しそうな表情を見るのは初めてかもしれない。

手塚は思わず目を見開いた。

 

 

「私ね、もっと、巴さんと仲良くなりたい」

 

「じゃあ、そう本人に言ってみるのはどうだ? きっと巴は喜ぶぞ」

 

「いやよ、恥ずかしいもの」

 

「ゲームをくり返した俺達になら、その恥ずかしさは必要かもしれないぞ」

 

「?」

 

「仲間を裏切ったり、他者を傷つけるよりは、よほど恥ずかしくない」

 

「……そうね。神那ニコだって――」

 

 

その時だった。

不快な耳鳴りが頭の中に響いたのは。

 

 

「最悪のタイミングだな。どうする? お前はココにいても――」

 

「いえ、行くわ」

 

 

ベッドから体を起こし、立ち上がったほむら。

 

 

「戦わなければ生き残れない。そうでしょ?」

 

 

無理やりソウルジェムで苦痛を封じる。

そして、ほむらは髪をかき上げ、鏡の中をにらみつけた。

 

そのまま走る。走る。エビルダイバーは空を切裂き、進み続けた。

そしてミラーワールドを飛び出すと、目的地に到達する。エビルダイバーの背を蹴り、地面を転がるライアとほむら。

二人が見たのは、電柱の上に立つクララドールズ・ワルクチの姿であった。

 

 

「魔獣の気配を強く感知できるのハ、記憶を取り戻したモノ……」

 

「ッ、アイツ、言葉を!」

 

 

ワルクチは流し目で二人を確認する。

その表情には言いようの無い憂いが見えた。儚く、切ないものを見る目だ。

ワルクチはその手にダークオーブを持ち、電柱に押し当てるように設置する。すると瘴気が溢れ、一瞬で魔女結界を構築する。

塔のように変わる電柱、そこへワルクチは沈んでいった。

ご丁寧に入り口と思わしき亀裂もライア達の前に発生していく。

 

 

「行くわよ」

 

「待て、念のために神那に連絡しておく」

 

 

携帯を出現させると素早く内容をメールで打ち込んでおく。

そのまま携帯をしまうと、二人は一歩足を前に出した。

 

 

「気をつけろ、あのクララドールズ、言葉を話せる」

 

 

それだけ瘴気や負を取り込み、成長していると言うことだ。

ライア達は頷き合うと、亀裂に向かって飛び込んだ。

一瞬目の前が真っ暗になり、すぐに光が視界を覆う。鮮明になっていく景色はサイケデリックなものへ。

 

塔の中は巨大な螺旋階段。そして壁には無数の扉が貼り付けてある。

そしてその頂上にはペンギンのような魔女ペギーと、ワルクチの姿が見えた。

 

 

「あの魔女、見覚えがあるな」

 

 

扉の魔女ペギー、以前ケーキ作りの際に戦った魔女だ。

無数の扉をワープポイントとして瞬間移動をくり返しながら奇襲をしかける魔女。

現にペギーは自身の背後にある扉に入り、姿を消した。

 

 

「全ての扉を潰せば瞬間移動は封じられる」

 

 

ほむらが盾に手をかける。

その瞬間、ワルクチが口を開いた。

 

 

「デキソコナイ様ハ、大変な喜劇役者であらせられますワ」

 

「ッ?」

 

 

この人形どもは、絡まり極まる因果のママゴト。

ワルクチは唇を吊り上げ、ほむらを睨む。

 

 

「暁美ほむら様。ご自分が何者であるカ、考えた事はおアりかしラ」

 

「何を……」

 

「名前、存在、ああいやちがウ。人を作るのハ、確固たるアイデンティティと自尊心。そして何よりモ、積み上げてきた歴史と価値、環境」

 

「おい、あまり耳を傾けないほうがいい」

 

「ええ」

 

 

時間停止を発動すると、ほむらはクロックアップを。ライアはエビルダイバーに乗って無数の扉に爆弾を設置していく。

その中でほむらは一気に階段を駆け上がり、頂上にいるワルクチを目指した。

殺す。ほむらは盾からハンドガンを引き抜き、ワルクチの前に立つ。

そのまま敵の眉間に銃を向け、引き金を引こうと――。

 

 

「しかシ、人は自らが自らであると言う事ヲ、証明できませんワ」

 

「!?」

 

 

ニヤリと笑うワルクチ。

 

 

「まさか……!」

 

 

ほむらは目を見開き、銃を発砲すると同時に後ろに飛ぶ。

時間停止が効かない。何故だ? 考える。パッと浮かんでくるのはどこかを触られていたか、その辺りだろうが――?

 

 

「うグ!」

 

 

一方でほむらが放った銃弾はしっかりとワルクチに命中した。

眉間に抉り刺さる銃弾を受け、ワルクチは黒い涙を流す。

 

 

「私はカナシイ。ねエ? 主様」

 

 

ズレたメガネを整えながら、憂い、軽蔑、哀れみの目でほむらを見下す。

髪をなびかせ落下するほむらは、思わず喉を鳴らした。

しかしすぐに地面、ほむらは空中で一回転すると華麗に着地する。

 

 

「大丈夫か、暁美」

 

「ええ。それより魔女は――」

 

 

あたりを見回すライアたち。

おかしい、扉に入ったペギーが一向に姿を見せない。

 

 

「とりあえず爆発させるわ。あぶりだしてやる」

 

 

爆弾のスイッチを入れるほむら。

扉についた爆弾が一勢に爆発し――。

 

 

「な!」

 

 

しかし扉は無傷。

過去に戦ったときには破壊できたのに、今回は傷一つついていない。

ダークオーブ産の魔女であるが故なのだろうか? とにかくペギーを引きずり出す作戦は失敗に終わってしまった。

 

すると震える扉。

次の瞬間、壁に張り付いていた扉達がいっせいに分離し、まるで弾丸のようにライア達に向かって飛来する。

 

注目するべきは、扉は『開いている』と言うことだ。

扉の向こうには別空間が広がっているのが見える。その状態の扉が飛んでくるのだ、その目的は明らかである。

だがさせる訳にはいかない。ほむらは盾を構え、時間を停止しようと力を込める。

 

 

「……ッ?」

 

 

ガチリと、抵抗感。

 

 

「!?」

 

 

盾を見るほむら。

ガチッ、ガチッと盾のギミックが何かに拒まれており、砂時計を反転させる事ができない。

つまり、時間を止められない。

 

 

「暁美、どうした!」

 

「時間が止まらない!」

 

「何ッ?」

 

「どうして!!」

 

 

キュゥべえが魔法の仕様を変更したといっていたが、それは砂の消費に関するもの。

砂時計を確認すると砂はまだ残っている。つまり発動できない筈はないのだ。

なのにそもそもギミックすら動かない。

そうしていると飛来する扉。間に合わない。二人は地面を転がり、扉達を回避する。

 

武器で扉を弾こうとするほむら。盾に手を入れて銃を抜こうと試みる。

だがしかし気づいた。『盾に手を入れる事ができない』ことに。

 

 

「なッ、なぜ!」

 

「………」

 

 

それを見ていたワルクチはメガネを整え、レンズを輝かせた。

まるでそれが答えだと言わんばかりに。

 

 

「それはオマエの力では無いからダ」

 

「!?」

 

「まだ気づかないのカ? 出来損ないの主サマ」

 

「それはどういう!」

 

「決まっていますコトヨ」

 

 

ワルクチの口が三日月の様に裂けた。

何も知らないピエロほど滑稽なものはない。

 

 

「オマエは、暁美ほむらではなイ」

 

「――ッ!?」

 

 

意味が分からずにほむらは言葉を失う。

おかしな話だ。暁美ほむらを前にして、ワルクチはほむらをほむらではないと言う。

ああ、混乱してきた。何を言っているのか。

だからだろう。動きが鈍る。目の前には扉が見えた。

 

 

「しま――ッ!」

 

「暁美!」

 

 

扉がほむらを捉える。

ほむらは強制的に扉の向こうに送られ、そのまま扉は閉まり、鍵が掛かる。

それを合図にして他の扉達はいっせいに再び壁に張り付き、直後ライアの背後の扉からペギーが飛び出してきた。

 

 

「グッ!」

 

 

一瞬のことに反応が遅れ、ライアは背を切裂かれる。

火花を散らし地面に倒れるライア。ペギーは適当な扉に入ると、再び奇襲の準備を整える。

この一連の流れの目的が、ほむらを別空間に送るという事なのは想像に難しくはない。

ライアはすぐにトークベントを使用、ほむらの無事を確かめる。

 

 

『大丈夫か、何かあったら俺に代われ!』

 

「ええ、大丈夫……!」

 

 

体を起こすほむら。

周りを見ると、随分覚えのある光景が広がっていた。

椅子があり、受付機があり、ピアノまで置いてある。

 

そう、そうだ、ココは見滝原総合病院の受付広場に似ている。

もちろん魔女結界がそれを模していると言うわけで、本当に病院に送られたわけではないが。

そして吹き抜けになっている二階フロア、そこにワルクチの姿を見つける。

 

 

「私は憂いているのですワ、貴女が愚か過ぎる事ニ」

 

「クララドールズ……!」

 

 

眼光を光らせるほむらを見て、ワルクチは一筋の涙を流す。

ああ、ああ、やっぱり出来損ない。どれだけ馬鹿なの、どれだけ愚かなの。

もう可哀想なほどに屑。

 

 

「でも大丈夫。私は貴女を愛していますモノ」

 

「下らない。ごちゃごちゃ喋っていないで掛かってきなさい」

 

 

盾に手を入れるほむら。

しかし抵抗感を感じ、やはり武器が入っている部分にまでは手を伸ばせなかった。

きっとワルクチが何か妨害魔法の様なモノを使っているのだろう。

ほむらは舌打ちを行うと、地面を蹴って跳躍、唯一許される攻撃、『体術』を行使することに。

 

飛び蹴りがワルクチに迫る。

するとワルクチは地面を蹴ってほむらから距離をとる。

杖をシャンデリアに引っ掛けると、再び憂いの表情でほむらを見た。

 

 

「足掻けば足掻くほド、抗えば抗うほど滑稽さが増しますわヨ」

 

「クッ!」

 

「暁美ほむらごっこは楽しイ? お嬢ちゃン」

 

「チィイッ!」

 

 

怒りに拳を握り締めるほむら。

苛立ちが強くなる。なんだ、なんなんだ、先程からワルクチの言うことは意味不明で不快なだけだ。

 

 

「馬鹿な事を。私がほむらで無いと言うのなら、私はなんだと言うの?」

 

「決まっていますワ」

 

 

ワルクチの目が据わる。

 

 

「虚無。虚構。なにもない。何にもなれない。なんでもない無の塊」

 

 

つまり。

 

 

「お前ハ、からっポ」

 

「……!」

 

 

なんなんだ、ほむらは歯を食いしばる。

その時だった。

目の前が一瞬で別の景色になったのは。

 

 

「いや、違うな。暁美は暁美だ」『トリックベント』

 

 

どうやら独断でライアがチェンジザデスティニーを発動したようだ。

ほむらとライアの位置が入れ替わり、ワルクチの前にライアが現れる。

 

 

『くだらない精神の攻撃の一種だろう。耳を傾けるな、暁美』

 

『そうね、ごめんなさい。少し怯んでしまったわ』

 

『クララドールズは俺がやる。お前は魔女を頼む』

 

『ええ、任せて』

 

 

しかしココでライアは見る。

ワルクチが不適な笑みを浮かべたのを。

 

 

「お姫様を守る騎士の到着ですカ? 感動的」

 

「随分おしゃべりだなお前は」

 

「あらごめんあそばセ。でもね手塚。これは精神攻撃でもないシ、耳を傾けてはいけないお話じゃないノ」

 

「!」

 

 

足を止めるライア。

今のは、まるでトークベントの会話を聞いていたような口ぶりじゃないか。

ありえない、トークベントはライアペアのみが聞き取れる思念で会話を行う力だ。

なのになぜワルクチは――。

 

 

「だから貴方が出る幕ではないのですわヨ」『ユニオン』『トリックベント』

 

「は?」

 

 

思わず声が出た。

ライアの目の前に広がるのは扉。

焼けるような痛みが走ったかと思えば、足をペギーに切られていた。

火花が散り、ライアは膝をつく、扉に消えていくペギー。

いや、待て、何故ココにいる?

 

 

「馬鹿な!」

 

 

同じく、ほむらも声を上げた。

ほむらは今、魔法を使っていない。ユニオンなど使っていないのだ。

なのにチェンジザデスティニーが発動された。ほむらとライアが入れ替わり、再び元の状態に戻る。

 

 

『どうした、暁美!』

 

『違う、私じゃない!』

 

 

だとすれば、やはり――。

 

 

「フフフ」

 

 

ワルクチはメガネを整え、ほむらを睨む。

 

 

『間違いない、ユニオンを発動し、俺のカードを使ったのはクララドールズだ』

 

『……でも、魔獣であるワルクチにそんな事ができるの?』

 

 

あれ? ほむらの思考が停止する。

ワルクチ? なんで名前を知って――。

 

 

「まだ思い出さないのですカ? お前ハ」

 

「!」

 

「貴女は誰、お前は誰? キミは誰、私は、誰?」

 

 

地面に降り立ち、両手を広げるワルクチ。

 

 

「暁美ほむらは、だぁレ!?」『本当は知ってるくせに』

 

「!!」

 

 

言葉と言葉が重なり合う。

一つは耳に、一つは脳に。

 

 

「私の名はワルクチ」『貴女は知っている。自分が本当は――』

 

 

脳に響くのは、間違いなく、トークベントの力。

 

 

「『暁美ほむらではない事に』」

 

 

重なり合う声。ほむらは呆然と立ち尽くす。

一方で舌打ちを零すライア。まずい、おそらくは精神攻撃の一種。

ほむらは最近おかしな様子が続いていた。その状態で精神を揺さぶられるのは危険だ。

故に、最速の決着を狙う。

 

 

「………」

 

 

立ち止まるライア。

何もしない、何も警戒しない。全身の力を抜いて大きな隙を作る。

当然そこを狙ってくるペギー。勢いよく扉から飛び出してくると、爪のように剣を並べてライアの首を狙う。

無抵抗のライア、故にペギーの刃は簡単にライアに届き、ライアの首が勢いよく飛んだ。

 

 

『トリックベント』

 

『ピギッ!?』

 

 

トリックベント、スケイプジョーカー。

首が跳んだライアの死体が弾け、トランプのジョーカーが姿を見せる。

戸惑うペギー。するとその体に衝撃が。直後全身に電流が流れ、ペギーは叫びながら地面に倒れる。

 

 

「悪いな、これがお前の運命だ」

 

 

ライアが発動したカードは二枚。相手が素早く逃げ回るのなら、相手から来てもらえば良い。

まずは隙を作り、ペギーの攻撃をスケイプジョーカーで無効化する。

そこで隙が生まれたペギーにシュートベント、エビルガンの弾丸を撃ち込む。

 

弾丸は威力こそ低いが、強力なスタンガン。

激しい電流が敵を怯ませ、行動を制限する。

ライアは動かなくなったペギーを掴むと、思い切り真上に放り投げる。

 

 

『アドベント』

 

 

猛スピードで飛翔するエビルダイバーは、そのヒレで空中にいたペギーを一刀両断にする。

上下に別れたペギーはすぐに爆散。魔女が死んだ事で魔女結界が吹き飛び、ライアとほむらは電柱の外に放り出される。

同じく、ワルクチも。

 

 

「大丈夫か、暁美」

 

「ええ。大丈夫」

 

 

ライアが差し出した手を取り、ほむらはしっかりと立ち上がる。

ワルクチの言葉は確かにほむらに気持ちの悪い引っ掛かりを生んだが、ほむらとしてはやはりまだフワフワとした話しなのだ。

自分が暁美ほむらではないと言われても、そんな馬鹿なと否定せざるをえない。

一方で決着をつけるためにカードを抜いたライア。

 

 

「終わらせる」『ファイナルベント』

 

 

バック宙で飛ぶと、着地地点にエビルダイバーが割り入る。

一秒で最高速に到達するスピード。さらに水流と電流が生まれ、ライアはサーフィンの様にエビルダイバーを操り、ワルクチを狙う。

 

 

「………」

 

 

ワルクチは瘴気を杖に宿して走り出す。

ライアは知らない、ほむらは知らない。

クララドールズの力は多種多様。中には、死んで発動するものもあると言う事を。

 

 

「ギャアアアアアアア!!」

 

 

ハイドベノンが直撃し、ワルクチは断末魔を上げて爆散する。

しかしそれが、引き金になる事を誰が想像できようか。

 

 

「暁美、盾は戻ったか?」

 

 

ほむらは盾に手を入れる。

すると先程まで感じていた抵抗感が無くなり、ストックしていた武器に手が届いた。

 

 

「?」

 

 

いや、待て、なんだこれは?

おかしな感触を感じ、ほむらは『ソレ』を引き抜いた。

すると次の瞬間、フィルタが掛かったように視界がぼやける。

 

 

「あ、ぅ!」

 

 

視界が歪み、平衡感覚が狂う。

ほむらは尻餅をつき、口をパクパクとさせる。

戸惑い、それはまるで陸に打ち上げられた魚のように。

魚は呼吸をするために水に戻る。生きるために自分のテリトリーに戻る。

 

人間だってそうだ。水に落ちれば呼吸をするために酸素を求める。

それと同じく、暁美ほむらは視界を確保するため、持っていたものに手を伸ばした。

 

それは反射。

少し話は変わるが、一度自転車に乗れたものはずっと自転車に乗っていなくても、再び乗る時は容易だろう。

体に染み付いているからだ。ほむらもまた、心のどここかにあった習慣を発生させてしまう。

 

いや、いや、違うのか。

もしかしたらそれは彼女にとって当たり前の事だったのかもしれない。

面倒な事など一切ない。ただ純粋に、ただあたり前の様におこなう行動に理由など求めるわけもない。

視界が悪いのは当たり前だから、だから自分の『ソレ』を使う。

いつもどおり、それはまるで1+1のように当たり前で簡単な事。

 

 

「どうした、大丈夫か?」

 

 

変身を解除した手塚は、へたり込んでいるほむらの肩に触れた。

 

 

「きゃあ!」

 

 

ビクンと肩を震わせ、ほむらは反射的に肩を竦める。

 

 

「あ、ああ、悪い」

 

 

手を離す手塚。

それにしても、随分と可愛らしい悲鳴ではないか。

ほむらのイメージとは違う声に、手塚は思わず怯んでしまう。

 

 

「―――」

 

 

待て。

手塚は動きを止めた。

 

 

「お前――ッ」

 

「え?」

 

「誰だ?」

 

 

いつの間にか、ほむらの特徴である長い髪は三つ編みになっていた。

そしていつもキリっと睨むような目つきはそこに無く、何かに怯えたような目をしていた。そしてその目は、赤いフレームのメガネの向こうに。

 

 

「あ、あ、あ、あのッ、私、暁美――、ほむらです。ご、ごめんなさい」

 

「……!?」

 

 

おどおどとした表情のほむらが、そこにへたり込んでいた。

手塚とは、目を合わせない。

 

 

 

 

 

 

 

「これは……!」

 

「見えますカ?」

 

 

手塚『知っている方』のほむらは、夜の世界にいた。

星が光り、遠くの方ではビル――だろうか? 建造物が出す光がキラキラと輝いている。

足元を見れば青白い輝きを放つイチリンソウが遠くの方まで広がっているのが分かった。

花畑の中には二つ、椅子がある。ほむらはそこに座っていたのだ。

 

そしてもう一方の椅子に座り、イチリンソウの花びらを足で散らしているのは先程死んだ筈のワルクチであった。ちなみにメガネはかけていない。

 

見えますか? その言葉でほむらは前を見る。

イチリンソウの光が四角いモニタを作りだし、そこに映っていたのはへたり込む『自分』と、戸惑う手塚の姿であった。

 

 

「ココは貴女の心の中ですワ」

 

「心の、中?」

 

「そう。私は死ニ、怨念となって貴方の心にいル」

 

「ッ!」

 

「でも怖がらないデ、貴女を呪い殺そうなんて思っていませんワ。私はたダ、貴女に気づいて欲しいだケ。いるべき場所、存在するべき場所、なすべき事ヲ」

 

「何が言いたいの!」

 

 

ほむらは立ち上がり変身しようと力を込める。

しかしできなかった。それはそうだ、ココはほむらの心の中。

言ってしまえばソウルジェムの中なのだから。

 

 

「苛立てば苦しむのは貴女ですわヨ?」

 

「ッ」

 

「言いましたわよネ? 貴女は本当は気づいているのではないかト」

 

 

ワルクチはモニタを指す。

そこにいたのは、紛れもない、過去の弱いほむらだった。

いや、違う。

 

 

「あれガ、彼女こそガ、本当の暁美ほむらなんですノ」

 

「!!」

 

「貴女はただのニセモノ。心、感情と言うデータのバグですワ」

 

 

ほむらは打ちのめされたように椅子に崩れ落ちた。

その頬を、ワルクチは優しく撫でる。

 

 

「共に消えましょウ。異物ハ、存在するべきではありませんものネ」

 

 

慈しみの笑顔を浮かべ、ワルクチはほむらを抱きしめた。

ほむらは抵抗をしなかかった。彼女の中にある疑問のピースが音を立てて繋がっていくのが分かった。

あの違和感、あの嫌悪感、それらは全て――。

 

 

「貴女は存在してはいけなイ。罪人なのですかラ」

 

 

ほむらとワルクチの顔が並ぶ。ほむらからはワルクチの表情は確認できない。

慈しみの笑顔は消え、今は下卑た笑みを浮かべているのに気づくわけはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」「………」「………」

 

「………」「………」「………」

 

「………」

 

「……ァ」

 

「!」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「耐えられるかァ! なんか喋ろォ!!」

 

「ひぃっ! ご、ご、ごめんなさいぃ!」

 

 

平日の喫茶店、テラス席でニコが叫んだ。

そうすると大きく肩を震わせてほむらが肩を竦める。

クララドールズと魔女は倒せたものの、ほむらの様子がおかしくなった。

容姿はもちろんの事、性格がまるで変わっている。オロオロ、キョロキョロ何かに怯えているようだ。

 

その調査を手塚はニコに依頼したのだった。

とはいえ検索結果を待っている間、誰も何も喋らない。

それに耐え切れずニコは叫んだということだった。

 

 

「だいたいなに? いきなりメガネっ子かよ、浅はかなキャラ付けの典型例だよ、ほむらさんな」

 

「ご、ごめんなさい。でも私、本当に目が悪くて。今までは魔力で視力を回復させていたんですけど……」

 

「けど?」

 

「うまくいかなくなって……」

 

「な、なんじゃいなそら」

 

 

その時、鑑定が終わる。

ニコは携帯を覗き込み、結果を確認した。

 

 

「おぉ? おーん……」

 

「どうした?」

 

「まず、結論から言えばこのお嬢ちゃんは暁美ほむらで間違いない」

 

 

指紋と声紋が一致している。さらに言えばDNAも同じ。

人間の世の中ではDNA鑑定は科学捜査の切り札となっている。

それが一致しているのだから、ほむらはほむらである、と。

 

 

「魔力の波長もほぼ一致してる」

 

「ほぼ?」

 

「そうなんだよなぁ。それが少し引っかかるというか」

 

 

ニコはレジーナアイにてまず魔法少女の魔力を登録する。

魔力は指紋と考えればいい。それは個を証明するなによりの存在である。

しかし現在のほむらは、以前ニコが登録したデータとは少し異なると言う。

 

 

「魔力の質が似てるけど違ってる。赤紫と赤は似てるが違うっしょ?」

 

「なるほど。以前キュゥべえは魔力を木材と例えた。目的により多種多様な物へ作り変えられると」

 

「うん。まあつまりそうなると――」

 

 

ほむらが視力を魔力で補えなくなったのは魔力の質の変化や、性格の変化が関係していると言う。

前のほむらは視力強化を容易に行えていたが、今のほむらはそれが不得意であると。

 

 

「似てるタイプに双樹姉妹がいるけど、アイツ等ほど違うわけじゃないんだよな」

 

「しかし分からない。それにしたって変わり過ぎだ」

 

「あ、うぁ……」

 

「なんだ? どうした、暁美」

 

「い、い、いえ」

 

 

手塚が気になるのはやはりワルクチの存在だ。

 

 

「魔獣の中でもクララドールズは少々厄介な能力を持っていると聞く」

 

「んー、でも特にほむらの中に魔獣の気配があるとは思えないんだけどね。一応レジーナアイをアップデートして、魔獣探知能力は上げたつもりなんだけど……」

 

 

惜しいのだ、正確には現在、ほむらの中にはワルクチが巣食っている。

しかし今の彼女は怨念体。もっと言えばほむらの精神の一旦でしかない。あくまでも心の一部なのだ。

そう、逆を言えばそれだけとも言える。なんの影響もないとも言えるのだ。

 

 

「しかしココ最近のアイツの様子がおかしかった事は無関係じゃない筈だ。少し様子を見た方が良いかもしれない」

 

「イエス。ま、後でもう少し詳しく調べてみるよ」

 

 

ニコはアイスコーヒーをジュコーッと音を立てて啜っている。

そして目の前にあったケーキをヒョイヒョイと口に入れていく。

 

 

「あー、ダメだ、今日調子悪い。全然味しないわ」

 

「神那は確か……」

 

「ああ、友達ブッ殺してから感覚がイカれた。でもまあ、精神病だよ、本質は」

 

 

最近は治り始めてきた。

難しいが、要は考え方だとニコは言う。

 

 

「ソウルジェムの操作で治せないのか?」

 

「ノン。一応治せるけど私イカレてるから脳みそが自動的に感覚を封じるように命令しちゃうのさ。お前もだいたい知ってるだろ?」

 

 

鬱とは心の病気にされがちだが、実際は脳の病気である様に、頭じゃ分かっているつもりでも実際には脳みそが違う信号を送ってしまうのだという。

 

 

「似たような例に、痛覚を遮断しても魔法少女が『あれ? これ痛いんじゃね?』って思ったら、無意識に痛覚を戻しちまうケースがある」

 

 

実際にソウルジェムの仕組みを知らない魔法少女は心臓でも貫かれようものなら、実際に死んでしまう。

それは脳がソウルジェムに『死ね』と無意識に命令しているからに他ならない。

 

 

「意外と不便なんだな」

 

「ゾンビ生活も楽じゃないのよ」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

 

そこで、ほむらの声が割り入る。

ニコと手塚が目を向けると、二人は同時にギョッとした表情に変わる。

無理もない。ほむらは肩を震わせ、瞳に大粒の涙をためていたのだ。

 

 

「お、お、お二人は、私が変わってしまった事が、そんなに気になるんですか?」

 

「え? え? なんの話?」

 

「やっぱり、前の私の方が、ずっと良いですもんね。割り切れるし、強しだろうし、それにくらべて私なんて、ダメダメで」

 

「あ、あのちょっと! ほむほむさん?」

 

「生きてて、ごめんなさい……!」

 

「「―――」」

 

 

 

ボロボロと涙を零し始めるほむらと、白目をむいて固まる手塚とニコ。

トーンは違えどほむらの声で、表情は違えどほむらの顔でボロボロ泣かれると凄まじいギャップ、違和感が。

ましてやしゃくりあげて泣き始めるほむら、ニコが動いたのは同時だった。

 

 

「なむさん」『ユニオン』『クリアーベント』

 

「おい神那! お前逃げッッ!!」

 

 

椅子から転げ落ちたニコはそのまま一瞬で透明化して気配を消す。

取り残された手塚は一瞬腰を椅子から浮かしたが、向かいに座っているほむらを放置するわけにもいくまい。

 

 

「ひっく、ぐすっ!」

 

「お、おい、どうした暁美!」

 

「ごめんなさい。私って、本当にみなさんに望まれてないんだなって……!」

 

「ちょ、いや! ちょっと待――ッ!」

 

 

周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。

 

 

『あれ、なに? 修羅場?』

 

『うわー、彼女号泣じゃん。彼氏最低だね』

 

『ああ、恋愛マスターの私なら分かるわ。あれ浮気だわ』

 

 

待て待て待て待て待て! 流石に手塚と言えど焦りが心を支配する。

誤解しかないわけだが、確かに誤解されるのも無理ない状況だ。

とりあえずほむらを落ち着けない事にはどうにもいくまい。

 

 

「お、落ち着け暁美。そうだ、プリンがあったな! よし食べよう! 甘くて美味しいプリンを食べればきっと気分も落ち着くはずだ!」

 

 

手を上げる手塚。

するとウエイトレスが訝しげな表情で歩いてくる。

 

 

「はい、ご注文ですか?」

 

「あ、と、とりあえずプリンを二つ」

 

「ぐすっ! ひっく!」

 

「あの彼氏さん」

 

「はい?」

 

「まさかとは思いますけど、プリンでご機嫌取ろうと思ってませんか?」

 

「えッ、あ、いや、俺は彼氏じゃ――」

 

「そのパターン!? 彼女は彼氏だと思ったけど貴方は遊びだったパターンですか!」

 

「違う違う違う! 俺はその、彼女のパートナーみたいなもので」

 

「パートナー! まさか結婚詐欺!!」

 

「いやッ! 悪い、すまん! 俺の言い方が悪かった!」

 

「生きててごめんなさいぃぃ!!」

 

「暁美ーッ! 頼むからややこしい言い方は止めてくれ!」

 

「だいだいですね! 誤解だとしても男の人だったら少しは笑顔で慰めてあげるのが普通なんじゃないですか!!」

 

「それは、まあ……。し、しかし待ってくれ、そもそもキミは誰なんだ!」

 

「私ですか? 私はバイトリーダーです! みんなからはマナティー先輩って呼ばれてます。よろしくおねがいします! それで話の続きですけど――」

 

 

バイトリーダー・"マナティー先輩"のお説教は手塚にとっては果てしない時間のようだった。

結局ほむらが泣き止んで誤解は解けたが、10歳は老けた気がする。

 

二人はバスに乗り、特に何を話すわけでもなく窓の外を見つめている。

しかし手塚は気づいた、なんだかとてもほむらがソワソワしている。

 

 

「どうした?」

 

「あッ、あの!」

 

 

どうやらほむらはバスに乗ったときから手塚に話しかけようとしていたようだ。

しかし今のほむらは――、まあ元々高いわけではなかったが、特別にコミュニケーション能力が欠落しているらしい。

手塚から目を逸らしつつも、ほむらは先程の件を謝罪した。

 

 

「本当にごめんなさい。私、いつもドジばっかりで」

 

「いやぁ、いいんだ。俺もマナティー先輩にいろいろ言われて思う所があった。お互い様だ、気にしなくていいよ」

 

「す、すいません……! あの、手塚さん、本当にすいません」

 

「いやぁ、だから」

 

「違うんです……!」

 

「え?」

 

 

ほむらは手塚の服の裾をつまんでいた。

その表情は、真っ青である。

 

 

「気持ち悪い……です」

 

「―――」

 

 

手塚は凄まじいスピードで停車ボタンを叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほほほほ本ッ当にごめんなさい!」

 

「気にするな、正直俺も酔いそうだったから逆に助かった」

 

「あ、あぅあぅ」

 

「それより平気か?」

 

「は、はい。おかッげ、さまで……」

 

 

バスにのって五分足らずで車酔いを発症したほむら。

手塚達は結局と近くのショッピングセンターで休憩することに。

椅子に座りしばらくしたらほむらも調子が良くなったようだ。

手塚はそこでマナティー先輩の言葉を思い出す。気遣い、気遣い、女性はお姫様のように扱いなさい云々。

半ば反射的に視線を移動させ、手塚は立ち上がる。

 

 

「ちょっと待ってろ」

 

「?」

 

 

手塚は席を外すと、ソフトクリームを持って戻ってくる。

 

 

「どうだ? 冷たいものでも食べれば楽になるだろ」

 

「え、でもお金……」

 

 

戸惑いがちにソフトクリームを受け取るほむら。

 

 

「いい、おごりだ。気にせず食べるといいよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

パッと、笑顔を浮かべ、ほむらは頭を下げた。

だからだろう。持っていたソフトクリームのアイス部分がズリ落ち、床に落ちたのは。

 

 

「………」

 

 

真っ青になって震えるほむら、目の端には涙が見える。

 

 

「おぉぉっと、これはあれだな、固定が甘かったな。ああいや、店員のせいにしているわけじゃなく、運が悪かったんだ。ほら、俺はまだ口をつけてないから、コッチを食べると良い!」

 

「ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

「気にするな気にするな! まあ、あれだ。あのー……、うん、あれだ!」

 

 

とりあえず適当に言いくるめて手塚はほむらにソフトクリームを渡す。

床を掃除してしばらく、手塚は何をするでもなくボウっと斜め上を見つめていたが、ふと前に視線を移す。

するとそこには満面の笑みでソフトクリームを一生懸命舐めているほむらが。

いや、まさかこんな簡単にほむらの無邪気な笑顔を見ることになろうとは。

 

 

「あ、あの……、どうしましたか?」

 

「え? あ、いや、悪い」

 

 

見られている事に気づいたのか、ほむらは頬を赤く染めて恥ずかしげにソフトクリームから口を離す。

 

 

「やっぱり、違和感、ありますよね……?」

 

「それなんだが、お前は別人格じゃないんだよな?」

 

「はい。正真正銘暁美ほむらですよ? 全部覚えてますし……」

 

 

ほむらはその言葉どおり、今までの戦いの歴史を振り返る。

なるほど、それは確かに手塚と戦ってきたほむらの記憶に間違いはなかった。

 

 

「手塚さんが美国さんの仲間になった時、とっても悲しかったです」

 

「それは……、そうだな。悪かった。鹿目にも謝らなければと思っているんだが……」

 

「いえッ、でも、わ、わ、私も人の事は言えません――ッ」

 

 

サキを裏切り、ましてや過去には多くの人を裏切った。

そんな自分を想像するだけでほむらは震えてしまうと言う。

 

 

「しかし、そうなるとお前も今の状況の異質さは分かるだろ?」

 

「は、は、はい。もちろんです!」

 

 

ほむらは、ほむら。

自分があの状態から今の状態になってしまった事の異質さは分かっているつもりだ。

とは言え、その理由は本人ですら分からぬこと。

 

 

「あの、えと、この姿と性格は私の過去の姿なんですぅ」

 

「そんな話を聞いたな」

 

「は、はい。それで、あの、なんていうか……、ぁぅ、見ての通り、私ってドジで、何にも出来なくて、ひ、ひ、人と話すのも苦手で……! ほ、他の人と比べれば本当に良いところがなくてどうしようもなくて」

 

「過ぎた謙遜や自虐は良くない。余計に自分の質を落とすぞ」

 

「ご、ご、ごごごめんなさい! すいません!」

 

「わ、悪い。気にしないでくれ」

 

「は、はい。ぅ、それで、そういう自分からループを経て手塚さんも良く知ってる私に変わった筈なんですけど、今はご覧の通り、昔の私と同じになってしまって、あの、その」

 

 

その時、ソフトクリームが溶けて液体が指を伝う。

ほむらは慌てて残りのソフトクリームを口にするが、コーンを慌てて噛んだ為にコーン部分に入っていたクリームが弾け、ほむらの手はベタベタに。

 

 

「………」

 

「………」

 

「ご、ごめんなさぃ……!」

 

 

か細い声で謝罪が飛んでくる。

 

 

「き、気にしないでくれ。手を洗ってくるといい」

 

 

なるほど、確かに以前のほむらならば考えられないミスをしているものだ。

戻って来たほむらと、手塚はまたその話を続ける。

 

 

「と、とにかく考え方とか――ッ、今まで見たいに出来なくてッ、む、むむむ昔の私に戻ったみたいで――ッ」

 

「きっかけはやはりクララドールズの影響だろうか?」

 

「そうかもしれません。あ、あのクララドールズ、私のメガネを持ってましたから」

 

 

過去の自分との決別のためにメガネはしまっておく、もしくは捨てるのだが、そういえばゲーム内ではいつの間にか無くなっていたと。

赤いフレームのメガネ、それが『このほむら』になった原因かもしれない。

魔獣を倒した事で盾のなかにメガネが戻っていた。

それは間違いなく、いつもほむらが使っていたメガネなのだ。

 

 

「クララドールズがユニオンの魔法を使えたのも、時間停止の中で動けたのも、きっと、たぶんですけど、このメガネが関係あるのかなって……」

 

「なるほどな。だが大丈夫なのか? 魔獣がつけていたメガネをつけてて」

 

「あ、そ、そうですね……」

 

「まあ、メガネに魔獣の気配があれば神那が気づいているだろうからな。とは言え念のために後でもう一度調べてもらおう」

 

「はい……! あ!」

 

「?」

 

「で、でも魔獣、クララドールズと戦う前から兆候はあったんです」

 

 

気分が悪くて手塚に送ってもらったとき、ほむらは胸が苦しかったという。

 

 

「私、心臓が弱くて……。魔法で補っていたんですけど」

 

「今は大丈夫なのか?」

 

「はい。視力はダメですけど、心臓は。とととと言っても体力は低いままですけど」

 

「そう――、か。いずれにせよいきなり過去の自分に戻るなんて事があるんだろうか? 何か裏があるとしか思えないな」

 

 

その時、ほむらは眉毛を八の字にして肩を竦めた。

やはりその表情は泣きそうになっており、手塚もまた身構える。

 

 

「ど、どうした?」

 

「解決……、した方がいいんですよね」

 

「え?」

 

「手塚さん達はやっぱり、『あの』私がいいんですよね?」

 

 

ほむらは、複雑だった。

 

 

「確かに、あの私を望んだのは他でもない、私です」

 

 

強くありたいと。まどかを守れるような自分でありたいと。

 

 

「だけど現実は上手くいかなくて。わ、わ、わ、私はやっぱり弱いまま……」

 

 

結果、いろんな人を裏切って。いろんな人を傷つけて。

望んだのはテレビで見ていたカッコいい魔法少女。

なれただろうか? ううん、決まっている。分かっている。

 

 

「私は――、この自分が好きじゃありません……! む、むしろっ、ききき、嫌いです!」

 

 

弱いから、醜いから、情けないから。

 

 

「で、で、でででもッ」

 

「!」

 

「あの私も――、好きじゃない!」

 

 

ほむらは、また涙をためて口にした。

 

 

「……まあ、いろいろあるだろうな、人間は」

 

 

手塚としてそれは良く分かる。

人間が全員、自分の事が好きなわけじゃない。

 

 

「だがお前がどんな人間であろうとも、俺がお前のパートナーである事にはかわりない」

 

「え?」

 

「俺はもう、お前だけは裏切りたくないんだ。だから困った事があったら何でも言ってくれ」

 

「は、はい……!」

 

 

恥ずかしくなったのか、ほむらはモジモジと困ったように視線を泳がせる。

逃げ道に選んだのはトイレだ。もう一度手を洗ってくると走り出した。

途中で躓いて転んでいたが、まあ見なかったことにしよう。

 

 

「………」

 

 

手塚はコインを取り出す。

もう、裏切らないか。それはきっとほむらが想像しているカッコ良い言葉ではない。

まだ手塚はエゴを引きずっている。それを自覚していた。

 

 

「悪いな暁美。俺はまだ、運命に引きずられているようだ」

 

 

コインを弾く手塚。

裏が出る。手塚は舌打ち交じりにほむらの帰りを待った。

一方で、イチリンソウの花畑には笑い声が。

 

 

「手塚! 気づいて! ソイツは私じゃない!!」

 

 

椅子に座りながらもほむらは叫ぶ。

しかしダメだ、声は届かない。それにトークベントも何度発動しようとしても無駄だった。

その様子をワルクチは笑っているのだ。

 

 

「無駄だと言っているじゃありませんカ。やはり出来損ないの頭はパーですカ」

 

「うるさい! 黙りなさい」

 

 

ほむらは拳を振るい、ワルクチの頭を殴りつける。

しかし虚しく空を切る拳。まるで幽霊のように拳はスルリとワルクチの頭部を通過する。

ああ、いや、今のワルクチは怨念体。そもそもココは精神世界、であるならばほむらもまた同じなのだ。

 

 

「ココでは誰も傷つけられなイ。どうぞ学習ヲ」

 

「くッ!」

 

「それにもう一つ学びなさイ。あそこにいる暁美ほむらを貴女はニセモノと言うけれド」

 

 

ニヤリと、ワルクチは口が裂けたように笑う。

 

 

「あれが本物だト、何度言えば分かりますノ?」

 

「そんな事!」

 

「ないと言えまス? いいエ、チガウチガウ。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。クールな性格。そんな物は全てまやかしでしかなイ」

 

「なんですって……!」

 

「地味で愚鈍、運動オンチで挙動不審のコミュ障女、それが貴女の正体ですわよ暁美ほむらさン。お忘れですカ?」

 

「――ッ」

 

「貴女は今までフィルターをかけていただけにしか過ぎなイ。魔法の恩恵と言うフィルター。まさに仮面をネ」

 

 

ほむらは何も言えなかった。

ただ悔しげにワルクチを睨みつけるしかできない。

 

 

「鹿目さんとの出会いをやり直したイ。彼女に守られる私じゃなくテ、彼女を守るワタシになりたイ。まあなんてご立派なお願いなんでしょうカ」

 

 

しかし現実を御覧なさい。ワルクチは笑う。

 

 

「アンタが言ったんだゼ? 今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないこト。さもなければ、全てを失うことになるってサァ」

 

 

考えて御覧なさい。直視して御覧なさい。

まどかを守る? 今の今まで守れてなかったじゃないか。

むしろ多くの人を巻き込んだ。そしてなにより、今のまどかはもうほむらの手を借りずとも強くなっている。

それは他でもない、ほむらが言った事じゃないか。

 

 

「佐倉杏子は自らの魔法を否定した結果、使えなくなりましたワ。ねエ、それって人事なのかしラ? 主サマ」

 

「……ッッ」

 

 

椅子に座り込むほむら。

ソレを見て、ワルクチは笑う。

 

 

「仮面を外す時が来たんですのヨ。そしてその仮面とハ……、もう言わなくても分かりますわよネ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、マミの家に一同は集まる。

とは言っても以前よりは人数が少ない。

 

 

「美樹は?」

 

「さやかちゃんは最近上条君と帰ってるんです。ほら、今は下宮くんも中沢くんもいないから、チャンスだって」

 

「そうか。城戸は?」

 

「真司さんはお仕事みたいです。須藤さんと会うみたい」

 

「須藤は? 警察か」

 

「はい。なんだか最近忙しいみたい」

 

「……浅海は?」

 

「委員会の仕事があって、後で来ます」

 

「まあ、それは好都合かもね」

 

 

部屋にいたマミ、ニコ、まどか、手塚の視線が集中する。

 

 

「あっ、あぅあぅあぅ!」

 

 

見られている事に全身が熱くなる。ほむらはアワアワとしながら縮こまった。

するとニコが咳払いをして立ち上がる。マミの部屋にあったコピー用紙を適当に何枚か掴むと、それを再生成でホワイトボードに変える。

そしてサラサラと情報を書き出していった。

 

 

「えー、まずこのメガネほむら、略してメガほむですが、ホムラとしましょう」

 

 

クールで強気のほむらと、メガネでオドオドのホムラ。

ほむらと、ホムラ。なんともまあややこしい話である。

 

 

「で、マミとまどかはホムラを知っていると」

 

「ええ。暁美さんの昔の姿よね」

 

「一緒に訓練したんだよ」

 

 

笑顔を浮かべ、手を振るまどか。

ほむらもニヤニヤとしながら手を振った。

 

 

「でも困ったね。本当にどうして……」

 

「神那、何か分かったか?」

 

「ノン。全く何も。知ってる情報は前に言ったとおり。魔獣の気配はなし、メガネにもね」

 

 

魔力の質は多少違えど、固有魔法が時間停止である事にはかわりない。

 

 

「あら、いいじゃない。私コッチの暁美さんも好きよ」

 

 

マミは意地悪な笑みを浮かべると、どぎまぎしているほむらをからかう意味で抱きしめる。

普段のほむらなら絶対にこんな事を許しはしないだろう。

ハグを求めても断られるし、ましてや無理やりしようとすれば時間を停止してまで逃げる始末だもの。

 

 

「と、とととと巴さん!?」

 

 

しかしホムラは違う。

困ったように方を強張らせていたが、これではいけないと思ったのか、逆にマミの背に手を回してギュッと抱き返す。

 

 

「まあ!」

 

 

思わず赤面してニヤけるマミ。

敵対する事が多かったほむらが抱きしめてくれるとは。

嬉しさと感動で感極まったのか、マミはホムラの頭を優しく撫でる。

 

 

「安心してね暁美さん。皆がいればどんな問題もバッチリ解決できちゃうんだから!」

 

「は、はい! 巴さん!」

 

 

笑うホムラ。

怒るほむら。

 

 

「違う! 巴さん! ソイツは私じゃない!!」

 

 

怒号が響く。煽り声もまた同じくして。

 

 

「あらあら、貴女よりも先にホムラが巴さんと仲良くなりそうですネ」

 

「ッ、お願いまどか、気づいて!!」

 

 

画面の向こうにいるまどかは、ホムラとマミの様子をみて微笑んでいる。

 

 

「手塚ッッ!!」

 

 

パートナーは無言。何も答えない。

 

 

「どうしてみんな気づいてくれないの!!」

 

 

ほむらは思わずモニタを殴りつけた。

しかしそれもまた虚しくすり抜けるだけ。

イチリンソウの花びらを散らしながら、ほむらは前のめりになって倒れる。

違う、ダメだ、あれは罠なんだ。だって本物の私はココに――ッ!

 

 

「ココはどこでス?」

 

「ココは――」

 

 

どこだろう?

言われた筈だ、ココは、暁美ほむらの心の中だと。

 

 

「貴女は自分が嫌いだっタ。だから変わろうと生き急グ。けれどそうやって手にした変化など結局は砂の城。脆く儚く崩れ去るのデス」

 

 

ワルクチは可哀想な物を見る目でほむらを見下している。

いや、文字通り、本当に可哀想だった。病弱で勉強も運動も出来ない自分など好きになれるわけないだろう。

けれど変わったところで、どれだけ強力な魔法を持っていても自分は自分。

ほむらだろうが、ホムラだろうが、『ほ』『む』『ら』である事にはかわりないのだ。

 

 

「貴女には常識があル。人並みの優しさがあル。いくら鹿目まどかのためと思ってモ、まどかの為と言ってモ、殺人や嘘が嫌なものだと思う脳みそがあるのですワ」

 

 

けれど重ねるしかなかった。

だからいつの間にか貴女は心にプロテクトをかけた。

仮面の自分を作りだし、そこへ全ての罪を収束させる。それは弱い心が産んだ防御機構。

でも、気づいた。もしかしたら今の『彼女』達ならどんな自分でも――。

ううん、本当の自分を愛してくれるのではないかと、本当の自分を認めてくれるのではないかと。

 

 

「ソレは貴女様ご自身が思った事でしょウ?」

 

「―――れ」

 

「そして恐れている! 弱い心だかラ。鬼の仮面を被り続ければ、誰もが泣いてしまウ。無垢な子供は手を差し伸べてくれない!」

 

「――まれ」

 

「仮面を脱がなくてハ、優しい笑顔も浮かべられない!!」

 

「だまれ!!」

 

「ホムラは知っている。いやお前も分かっている! 暁美ほむらはもういらない!!」

 

「黙れぇえッッ!!」

 

 

怒るほむらだが、怒るしか出来ない。

一方で饒舌になっていくワルクチ。

 

 

「冷静でクールな貴女が激情するのは珍しい。しかしそれが貴女と言う人間が冷静でクールではないと言う事の証明!」

 

 

ワルクチの目が赤く染まる。

 

 

「人は図星を突かれた時ほど怒るのですわ。そうでしょう? 頭の悪い人間が、頭の良い人間に馬鹿と言ったところで、頭の良い人間は怒らないものね」

 

「少し黙りなさい! うるさいのよ!」

 

「なら耳を塞げば良い! そうしないのは何故ですの? 決まっていますわ、あなた自身がこの声に耳を傾けたいと思っているからでしょうて!」

 

「違う……ッッ!」

 

「違いませんわ。ましてやココは心の中、あなた自身の意思が尊重されるべきなのに!」

 

「ッッ!!」

 

「分かっているんでしょう? ホムラはほむらを殺しますわよ! だって知っていますものね。出来損ないは、出来損ないを消すことでしか本物になれない!」

 

 

もう一度、いや何度でも言おう。

 

 

「ほむらとホムラは同じ人間なんですよ! そして貴女は確かにあそこにいる。そこに魔獣も魔法も関係ない。そして貴女はそれを全て知っている!!」

 

「………」

 

「私は確かに死をトリガーにしてあなたの心に入った。しかし今の私は貴女の心の一部。つまり、貴女が本当に望みさえすればいつでも消え去る弱き精神体。なのにあなたはそれをしない。何故! どうして!!」

 

「………」

 

「それはつまり貴女が――!」

 

 

ほむらは糸が切れたように椅子に戻り、座り込んだ。

ワルクチは大きく首を振ってため息を漏らす。

 

 

「落ち着いて。この場は無意味な口喧嘩をする場所ではないでしょう? ほら、御覧なさいまし」

 

 

モニタの向こうではホムラが楽しそうに紅茶を飲んでいる。

ふと、意識すればほむらの口の中に良い香りが広がってきた。

鼻を抜けるそれは、間違いなくマミの紅茶である。

 

 

「誰も気づきませんわ。誰も疑問に思いませんわ。だって貴女はみんなの傍にいるんですものね」

 

 

ワルクチはほむらを真っ直ぐに見つめた。

魂を吸い取られそうな瞳だった。

 

 

「胡蝶の夢」

 

「……ッ」

 

 

では一方、現実世界を見てみよう。

マミの、手塚の携帯が震えたのは丁度その時だった。

 

 

(サキかしら……?)

 

(誰だ?)

 

 

ふと視線を移動させる両者。

そこにあった名前は――。

 

 

『神那ニコ』

 

「?」「!」

 

 

届いたのはメール。

マミは訝しげな表情を浮かべ、手塚は無表情でメールを確認する。

その分は、とてもシンプルなものであった。

 

 

『多分ほむらヤバイわ。あ、ホムラじゃくてほむらの方がな』

 

「!」

 

「………」

 

 

マミは驚愕の表情を。ニコはあえての笑み。手塚は無表情のままホムラを見つめていた。

 

 

 

 

 

 






メガほむ、メガネかけてるほむらが『ホムラ』で表記していきます。
もしも混ざってたりしたら、ごめんやで(´・ω・)


まあここちょっと今後のテーマになってくるんですが

「俺、ほむら好きなんだよね」

って言ってる人がいたら、メガネなのか、クールの方なのかって結構もう全然意味変わってきますよね。
同じ暁美ほむらって事でふたつとも好きな人も多いでしょうが、中には『メガネだけ好き』だとか、『クールは好きだけど、メガネの方はあんまり好きじゃない』みたいな人もいると思うんですよ。

まあ事実、マギレコでもほむらはいるけど……、みたいな。


これって結構ライダー界隈にも言えるところがあって

「俺、デルタ好きなんだよね」

とか言われてもね(´・ω・)


ここら辺が面白いところかなって思いますけど。
まあその辺りに関しては、もっと後々、語っていきます。


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