仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
今回は後半がおまけみたいなもんです
夕日が照らす並木道をさやかと上条は並んで歩いていた。
二人の間に会話は少ない。いつもなら騒がしいほどのさやかも、うつむいてしまっているではないか。
それにしても夕日が赤い世界を作ってくれて助かった。さやかは真っ赤になっている顔を悟られずに済む。
しかし対照的に上条の表情は暗く、青白い。
「どうしたの恭介。なんか悩み事?」
「え? どうして」
「うぅん、なんかちょっと辛そうだよ?」
「ごめんね、心配かけて。別にたいした事じゃないんだ」
「ヴァイオリンの事?」
「――も、あるけど、少し違うんだ」
「?」
「ねえ、さやか、少し変な事聞いて良いかな?」
「いいよ、どしたの?」
「あの、さ。普通の人間じゃないって、やっぱり気持ち悪い――、よね?」
「えッ?」
ドキリと心臓が跳ね上がる。
なにを隠そう、普通の人間じゃない代表がさやかなのだから。
「ど、どしたのさ急に」
「うん、ごめん、やっぱり変な事だね。気にしないで」
「う、うん」
結局そのまま分かれ道まで二人は特に会話らしい会話をする事はなかった。
一人になったさやかはトボトボと肩を落としながら歩き、先程の言葉の意味を考える。
どういう事なのだろう? いや、いずれにせよ――。
『気持ち悪いよね』
「あはは、ささっちゃうなぁ……」
自虐的な笑みを浮かべてさやかは歩いていく。
だがもちろん上条はさやかの事を言ったわけではない。むしろ、自分の事を指していたのだ。
一人になった上条はふと背後に気配を感じ、視線を移した。するとそこにはどう見ても異形の存在が跪いているではないか。
「ッッ」
ガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストーム。
そして上条は聞いた。ゴルトフェニックスの鳴き声を。
(ぼ、僕はおかしくなってしまったのか……)
大きく首を振ると化け物達は存在していなかった。
ふと、上条は制服の内側にあるポケットからデッキを取り出す。
どう考えても幻視と関係があると思われるソレ。しかし捨てても捨てても戻ってくるし、かと言ってこんな不気味なものをどこに相談すればいいのか。
無いとは思うが、もしも本当に頭がおかしいと判断されれば強制入院だろう。
そうなれば両親にも迷惑が掛かるし、中沢たちになんと思われるか。ましてやバイオリンが弾けなくなったら退院した意味もない。
唯一頼れるのはさやかと一瞬思ったが、さやかに話したところで解決するわけがない。
それにこんな事に彼女を巻き込むのも気が引ける。
「はぁ、困ったな……」
かわいそうに。上条の苦悩は続く。
「む、これは一体どういう状況だ?」
浅海サキは困惑していた。
マミの家にやって来たは良いが、そこにいたのはなんだか良く分からない少女。
ほむらに似ているが、どう見てもほむらには見えない。
「妹さんか?」
「いえ、その、説明が少し難しくて……」
マミは手塚をはじめとしたメンバーにアイコンタクト。
そしてペギーのコアグリーフシードを取り出した。
「サキ、とっても大切な話があるのだけれど……」
「?」
「ちょっと全部、思い出してみない?」
悩んだものの、マミはココでサキに全てを思い出す事を提案した。
サキはいつも随分と微妙なラインに立っていた。基本的には戦いを止める側にはいるものの、参戦派になる時は容赦なく殺意を振り切っている。
しかしマミ達はサキに全てを話す。言い方は悪いが信じるしかない。
F・G、魔獣、今の状況、かいつまんで話すと、サキは大きく頷いた。
「頼む。私の中にある燻りに、ココで決着をつけたい」
それがサキの答えである。
結果、マミはサキの記憶を戻す事に決めた。
「ちなみに手塚さん、占いは?」
「悪くない」
「ではゴー!」『ユニオン』『メモリーベント』
サキが記憶を戻すメモリーベントを『受け入れる』事で、魔法は発動される。
どんなものかと身構えたのは束の間、サキは頭を抑えて叫んでいた。
記憶のフラッシュバックが劇的なスピードで巻き起こり、サキは情報の海に無理やりに沈められる。
呼吸の一つさえ、過去と交じり合い、苦痛や悲しみ、喜びを思い出すツールになっていく。
見える。視える。そこは宇宙だった。
煌く星達の中に妹の死が、マミへの憎悪、友情、ゲームへの怒りが重なっていく。
サキはふと腹部に激しい熱を感じた。
自分の腹を押さえると、気づく、お腹に穴があいていた。
そこからデロデロと生暖かい内臓が零れていく。
これは記憶だ。前回のゲームでほむらに腹部を撃たれた時の記憶が景色を作っている。
もちろん思い出しているだけなのだが、追体験の果てにそれは限りないリアルへ近づいていく。
「鹿目さん!」
「はい!!」
サキは思い出した。
自分が魔女になる時、瞬間の記憶をも。
それはそれだけの絶望の情報を追体験させていく。一瞬で穢れ濁るサキのソウルジェム。まどかはコアグリーフシードを押し当て、すぐさま浄化を開始した。
「黙れ!!」
「!」
サキが叫んだ。
「
サキの頭部に激しいスパークが巻き起こる。
思わず目を細めるまどか、一方でサキは大きく目を見開き、もう一度強く叫んだ。
「私にはもう、お前は要らないッッ!!」
するとその時だった。穢れが止まった。
グリーフシードによる浄化のみが行われ、サキのソウルジェムはあっと言う間にピカピカになる。
「ッ、まさかサキの奴、無理やりに押し込んだのか!」
レジーナアイを通してニコはサキが魔法を使った事を知る。
成長魔法、サキはそれを自分の脳にぶち込んだ。
精神を成長させ、サキはなんと穢れのスピードを弱めたのだ。
その間に全ての情報を処理していく。
「私は――ッ、そこにいたんだ」
前回のゲーム。
サキはそこで多くの死を踏み越え、ボーダーラインに立った。覚えている。記憶がある。
三度と同じ事を繰り返した。考えてみれば随分間抜けじゃないか。
同じミスを三回犯すまで何も成長しないなど、成長魔法を使うサキにとっては何よりの皮肉だ。
「私はもう――ッ、愚かな過ちはくり返さない!!」
ソウルジェムが光る。
どうやら記憶継承は無事に終わったらしい。
サキは汗が浮かぶ額を拭うと、直後猛スピードでまどかに突っ込んだ。
まるでラグビー、まるでレスリング。まどかは思わず呻き声をあげて倒れたが、ギュッと強く抱きしめてくるサキを見れば、目には涙が浮かんでくる。
「あぁ、まどか。まどか! 無事だったんだね。本当に良かった……!」
サキはボロボロと泣いていた。
しかしそれでも、まどかを抱きしめる力は緩めない。
「私とキミは、本当なら出会う事はなかったね」
「……うん、そうだね」
「でも出会ったんだ……!」
サキは本当なら見滝原に住んではいなかった。
しかしゲームが始まった事で歴史や関係が歪み、結果としてまどかの幼馴染になった。
歪んだ絆だ。しかしそれでも、幼馴染だったんだ。昔から知っていて、よく遊んで。そして一緒に戦った。
「あぁ、まどか、愛しているよ」
「うん、わたしもだよ、お姉ちゃん」
まどかは優しい笑みを浮かべてサキの頭を撫でた。
サキが落ち着いたのは五分後。しかしそうするとマミとホムラの表情が曇る。
バツが悪いと言うか、無理もない、それだけの記憶がある。マミは妹の事故の件、ホムラは前回のゲームにおける最後の裏切り。
やはり強く覚えているだけに、なかなか目もあわせ辛い。
しかしサキはその視線に気づいたのか、自分からその話を振っていく。
「昔の事なら気にしなくていいさ。私だって二人に酷い事をした。こちらこそ許してもらえないだろうか」
「い、いえ! そんな事ッ、もちろんよ、ねえ暁美さん!」
「は、はい! 本当にご、ご、ごめんなさいでしたぁ!!」
微笑むサキ。
「随分大人だな、浅海のサキさんは」
「それが私たちに一番必要なものだろ。ニコ」
「……昔の事、覚えてる?」
「ああ。うっすらとだがな。お前には随分苦労させられた」
「フッ、怖いのが魅力のサキさんでんがな」
さて、とりあえずコレでサキについては何とかなかった。
「ところで、さやかは知ってるのか?」
「いや、まだ、アイツはもっとコアグリーフシードがないと」
サキは複雑な表情で頷いた。
確かにさやかは色々と複雑だ。もっと慎重に記憶を戻した方がいいだろう。
さて、使い終わったコアグリーフシードは僅かに残量がある程度。
それは以前、女帝と戦ったまどかが使用してキュゥべえに処理してもらった。
「待て! キュゥべえ、まだ帰るな!」
『?』
役目を終えたキュゥべえをサキが呼び止める。
事情はだいたい分かった。ほむらが過去の状態に戻ってしまったと。
しかしそれには必ず理由が存在しているはず、サキはそれをキュゥべえに教えてもらおうというのだ。
「なるほど」
納得するニコ。
もしもキュゥべえが答えられるのならば、それはほむら個人の問題である事だし、解決策もすぐに分かるだろう。
しかしもしも答えられないのならそれはゲームに関係する事、魔獣が絡んでいるとヒントがもらえる。
『どちらでもない』
「なに?」
それがキュゥべえの答えだった。
『キミ達の言葉で言うなら、ほむらがホムラになった理由は、当然ホムラ自身にある。それには多少魔獣も絡んでいるとは言え、一番の要素はホムラだ』
つまり魔獣がちょっかいをかけた事でホムラ化が進んだわけで、魔獣が何もせずとも遅かれ早かれホムラにはなっていたと。
「ホムラになった事で何か悪い事はあるのか?」
『悪い事とは?』
「たとえば、魔女化が早まったり、魔獣が有利になったり」
『キミ達が思っているような直接的影響は無いよ。ただし当然ほむらとホムラを比べれば分かるとは思うけれど――』
要するにホムラはほむらよりもより繊細で臆病な性格だ。
故にソウルジェムが穢れやすくなるのは仕方の無いことだ。
しかしだからと言って魔獣が何かを操作して直接魔女化させたりするという事はない。
「なるほどな。それで肝心の原因はなんだ?」
『それはキミ達が考えた方がいい。ボクはそれが重要なポイントだと思っているからね』
キュゥべえはそれを言うと一同の前から姿を消した。
「あんにゃろう、適当言いやがって」
「でも仕方ないわ。今日はもうお開きにしましょうか。鹿目さんは悪いけど、暁美さんを送って行ってくれる?」
「分かりましたマミさん!。いこ、ほむらちゃん!」
「う、うん!」
手を取り立ち上がるまどかとほむら。
二人は何も気づいていない。それは好都合だった。
マミの部屋を出て行く二人、残されたメンバーは一勢にニコを見る。
「それで、どういう事なのかしら神那さん」
「む、ニコは何か知っているのか」
「うん、まあ『おそらく』の域は出ないんだけども」
ホワイトボードになにやら数値を殴り書きしていくニコ。
上下に別れた数字はよく似ているが、一部の数字が違う。
「上がほむらの魔力、下がホムラの魔力を数値化したものだ。まあこの数字自体に意味は無いから似ていると言う点だけ覚えていてほしい」
さらにニコはホムラの数字の下にもう一つ数字を書いていく。
「これが今のホムラの数字だ」
「ッ、変わってるわね」
ほむらとホムラの数字が違っている。
それは普通ならばありえない話だとニコは言う。
「こんな短時間で魔力の質が変わるのはありえない」
「それが暁美さんが危険になる事とどういう関係があるの?」
「近い例が一つある。双樹だ。奴らの魔力は同一人物でありながら見事に正反対を言っている」
「……つまり、暁美さんが二重人格になろうとしていると?」
「イエス。そういう事になるな」
指を鳴らすニコ。
この時点ではほむらとホムラは記憶を共通している。
がしかし、問題は記憶の有無ではない。考え方、性格、人のあり方だ。
ほむらとホムラ、これが大きく違うと言うことは誰もが分かっている。そして今はホムラであり、ほむらはいない。
「簡単に言えば、ほむらが消えるぞ、このままじゃ」
「しかし分からないな。記憶があるならそれは別人格と言えるのか」
確かにホムラはほむらとは大きく違う。
しかし全ての記憶があるのだから、別人格と言うのはピンと来ないとサキが言う。
「考え方の違いがまるごと人格に反映されているのかもしれないな」
手塚が言うには、攻撃的な感情が全てほむらに向かい、防御的な感情が全てホムラに向かっていく。
それが二つに分かれ、一つが消えるなら極端な性格のホムラになるのも頷ける。
案外、兆候はずっと前から出ていたのかもしれない。
「だがそうなると戦力が減るな、おい」
「そういう話じゃないわ。もしもほむらさんの方が苦しんでいるなら、どうにかしないと」
「全てはアイツの問題だ。アイツ自身が決着をつけないと、どうしようもないだろ」
手塚はコインを弾く
。キャッチすると、それは裏を示した。
「どんな運勢よ」
「……最悪だ」
一方でそのホムラはまどかと楽しそうに喋っていた。
記憶は継続しているし共有もしているのだから、過去の話で盛り上がることはおかしい話ではないのだ。
「覚えてる? 鹿目さん! 巴さんと一緒にココを走ったよね」
「あはは、そうだね、あの時陸上がテレビでやってたもんね」
走れば強くなるんだと話し合い、意味も無く走ってみたりした。
もちろん本当に意味の無い行動だったけど、そういう事が楽しかったのだ。
「あの時みたいに……、戻りたいな」
「大丈夫だよホムラちゃん」
「え?」
「みんな一緒だよ」
「あ、そっか。そ、そうだよね……! みんな一緒だもんね!」
ほむらはメガネを整え、まどかを見る。
「あ、あ、あの、鹿目さん」
「ん? どうしたの?」
「本当にあ、あ、ありがとう! 貴女がいたから、わわわわ私ッ!」
「えへへ、なんだか分からないけどいいよお礼なんて。それにもしもお礼を言うとしたら、それはわたしの方だよ」
「え? え、え?」
「約束、ずっと覚えててくれたんでしょ?」
ホムラの脳裏にフラッシュバックする景色。
あまり思い出したくない光景だ。ほむらは顔を青くして俯いた。
『キュゥべえに騙される前の馬鹿なわたしを、助けてあげてくれないかな?』
「わたしはもう契約しちゃったけど、そのおかげでみんなを守れるんだからね、フフフ」
「まどか……」
「あ、名前で呼んでくれた!」
「え? あ! ご、ごごごごごめんなさい!!」
「えへへ、別に気にしなくて良いのに。わたし、ホムラちゃんに名前で呼んでもらうの好きだよ」
「あ、あぅあぅ、ででででも、なんだかこの状態だとお、おちっ、落ち着かなくて」
「そっかぁ、じゃあホムラちゃんの好きによんでね」
「う、うん。ありがとう鹿目さん……!」
二人は笑い合うと再び道を歩き出す。
「そうだ、まだ時間あるし一緒に真司さん迎えに行こっか!」
「うん! きっと城戸さんも喜ぶね!」
すると、まどかが足を止める。
「ん? どうしたの鹿目さん」
「バイクの音、聞こえるね」
そう言われてみれば遠くの方にエンジン音が聞こえる。
改造してあるのだろうか、かなり激しい音だ。
離れているのにそれなりの音量に思える。
「あ、ああいうの苦手。乗ってる人、こ、怖そうだし……」
「うん……、周りの人が怖がっちゃうね……」
「どうしたの? なにか気になる?」
「うん……、ちょっと」
不快なエンジン音、まどかには聞き覚えがあった。
ふと周りを見回してみる。すると上空に気配が。
まどかが視線を向けると、そこには箱の魔女の使い魔、ダニエルが浮遊していた。
「使い魔! ホムラちゃん、変身して!」
「え? え? え……!?」
すぐに反応ができず、ホムラはオロオロとまどかを見る事しかできない。
すると気づく。エンジン音がどんどん大きくなって――。
「ッ! ディフェンデレハホヤー!」
まどかはホムラを抱きしめると姿勢を低くする。
そこに円形の結界が張った直後、爆音を上げたバイクが姿を見せた。
「グッ!」「きゃあ!」
どす黒い煙を上げたバイクはまどかの結界に直撃する。
前輪がガリガリと結界を削り、火花がまどかの視界をジャックした。
しかしその先に見る。バイクに――、いや小型化した銀の魔女、ギーゼラに乗っている化け物の姿を。
「ひぃい!」
ホムラは訳がわからず、とりあえず反射的に変身してみたものの頭を抑えて震えている。
一方でまどかは結界に守られながらも弓を取り出し、思い切り振り絞った。
光が集中していき、まどかはギーゼラに向けて矢を放つ。
光の矢は前輪に命中するとその衝撃で車体を浮き上がらせる。
「ハハッ!」
笑い声が聞こえた。吹
き飛んだバイクはそのまま、まどか達から距離をあけたところに綺麗に着地する。
するとバイクに乗っていた男は前宙で降りると、姿勢を低くしてゾンビのようにフラフラと前にやって来る。
一方で変形を解除し、魔女形態になるギーゼラ。
魔力を解放し、魔女結界の中にまどか達を引きずりこむ。
「ホムラちゃんは隠れてて!」
「で、でも! あ、あわぅわぅわぅ!」
ダメだ、腰が抜けてしまった。
ホムラは目の前から迫る異形を見て完全に心が折れてしまっているようだ。
まどかはホムラの為にニターヤーボックスを発動。結界の箱の中にホムラを入れると、魔女結界の隅へと避難させる。
一方でまどかは改めて前から迫る異形を見た。まるでそれは青いカミキリ虫。
「会いたかったぜぃ、鹿目まどかさんよぉ!」
「魔獣……!」
「俺様の名前はゼノ・ボックケーファー。おめぇらをブッ殺しに来たん――、だよ」
ゼノバイターは人さし指で脳を指す。
「インキュベーターの野郎が俺様たちに制約をかけた」
「?」
「家がわかんねーんだよお前らの。インキュベーターの奴らそこらへんのブロックをかけてやがる」
だからこそ魔獣は自分の足でまどか達を探さなければならない。
まあ家が分かれば魔獣は真っ先にそこを狙いに行くため、当然の処置ともいえるが。
ゼノは町中に使い魔を放ち、それを監視カメラにする事でまどか達を発見したと。
「町の人間ぶち殺しまくって炙り出すのもいいんだけどよ。ほれ、俺達ァ無駄な殺しをするとすぐに星の骸に戻されちまうだろ?」
「そ、そんな酷い事、させない!」
「はは、ハハハ! させないか。そりゃ無理だぜまどかちゃんよ」
「ッ?」
「もう俺様の仲間がほれ、何人かぶっ殺したからなぁ」
「え……」
まどかの動きが停止した。目を見開き、唇を震わせる。
一方それを見てゼノバイターはニヤリと笑みを浮かべる。
「フフフッ! 明日くらいニュースになるんじゃねぇか。お子ちゃま達がバラバラにされたってよぉ?」
「子供を、殺したの……?」
「ああ。聞かせてやりたかったぜぇ、あいつらの悲鳴を」
ゼノバイターは随分と楽しそうに語る。
「助けてーパパーママー、痛いよー、怖いよー。クハハハ! 最後まで泣きながら叫――」
そこでゼノバイターの体が宙に浮いた。
激しい衝撃。見ればゼノバイターの腹部にまどかの頭部がめり込んでいた。
それはまさに一瞬の出来事。まどかが光の翼を広げたかと思えば、そのままゼノバイターに突っ込んだのだ。
「ホォッ! ホホッ! ハハハ!!」
ギーゼラの結界は街灯が並ぶ真っ直ぐな道路。
地面をバウンドしながらコンクリートの破片を撒き散らし、ゼノバイターは笑っていた。
ダメージを受けている様子はない。体の装甲が厚いのか、そのまま停止するまで転がったあと、ゼノバイターはなんの事無く跳ね起きた。
「なるほど頭を結界でコーティングする事で繰り出すロケット頭突きか。考えたなぁ」
「絶対に許さないッッ!!」
距離を取れれば、まどかが有利だ。思い切り弓を振り絞り、光の矢を連射していく。
「いいねぇ! 見せてくれよテメェの力を!!」
「えッ!」
予想外の出来事が起こる。なんとゼノバイターは両手を広げて前進してきたのだ。
当然光の矢はゼノバイターに命中していくわけだが、なんとゼノバイターは矢が命中しても構わず歩き続ける。
撃つ、進んでくる、撃つ、進む、撃つ、進む。以下ループ。
「ッ!」
まどかは回転しながらバックステップ。
その間に三発矢を放っていた。その矢は上中下に分かれており、一発目はゼノバイターの頭部に命中。
二発目は肩。三発目は右脚のスネ部分に直撃する。
が、しかし、ゼノバイターはそれでも動き一つ鈍らせない。
「ハハハハ、どうした? おいおい、まさかこの程度か?」
「降り注げ天上の矢! マジカルスコール!!」
ゼノバイターの頭上に広がる魔法陣。まどかがそこに矢を打ち込むと、直後光の雨がゼノバイターに降り注いでいく。
すぐに全身を包む光の雨、ゼノバイターの体が次々と爆発を起こした。
が、しかし、桃色の爆煙の中で笑い声が聞こえた。
「魔獣にとって絶望のエネルギー『瘴気』は、人間にとっての酒だ」
摂取すれば気持ち良くなるが消える。
しかし取り込み、貯蔵する事ができる。
そうなると魔獣にとっては力が上がり、パワーに変わる。
「シュピンネの野郎は獲得した瘴気をすぐに快楽変換して取り込みやがる。アルケニーの奴ぁ、そもそも獲得した瘴気が少ねぇ」
魔獣のランク、それを決めるのは瘴気をいかに取り込むか、そしてもう一つ。
どれだけF・Gを支配できるかだ。魔獣にとってF・Gはギャンブル、勝てばそれだけ正気を増やす事ができる嗜好の遊戯。
「分かるか、理解できるか参加者! 大勝ちした時の快感が!」
多くの瘴気を駆けて挑んだ大博打。
それに勝利した事でゼノバイターは多くの瘴気を獲得し、ソレを力に変えた。
「分かるか? なぁ」
「ッ! トゥインクルアロー!」
一瞬で到達する光の矢。
それを、ゼノバイターは虫を払いのけるように手の甲でかき消した。
「そんな!」
「取り込んだ負の量が違うんだよ」
ゼノバイターは無傷だった。
まどかの背筋に冷たいものが駆ける。
間違いなく、ゼノバイターは今まで戦った魔獣の中で最強であると理解できる。
だがその時、叫び声。
「か、かかかかか鹿目さん! 私が動きを止めるね!!」
モタモタと盾に手をかけるホムラ。
すると銃声が聞こえた。
「……へ?」
箱に穴が開いていた。
そしてガチャッ、ガチャッと音が。
ホムラが盾を見ると、時間を停止させるためのギミックに銃弾が詰まっていた。
それが邪魔をして砂時計を作動させる事ができない。
「あれっ! ど、どうして、なななな、なんでッって、あれ? えッ!?」
パニックになるホムラと冷静に情報を整理するまどか。
もちろんまどかも冷静ではいられないのが本音である。ニターヤーボックスに簡単に穴が空けられた。
穴を開けたのは当然ゼノバイター。いつの間にか左手には武器が握られていた。
トンファーだろうか。持ち手の下に湾曲した刃が備わっている。
さらに持ち手にはトリガーがあり、そこを引く事でトンファーから銃弾が発射されるようだ。
ゼノバイターはその銃弾でホムラの盾にあるギミックを正確に撃ち、弾丸をストッパーの役割としたのだ。
「お前だよ。クハハハ! そう、お前だよ暁美ほむらァ」
「ッ?」
怯えるホムラの表情を見て、ゼノバイターは再び恍惚の表情を浮かべた。
「俺様が大勝ちしたのはお前のおかげだって言ってんだよ」
ゼノバイターがゲームで賭けたのはライアペアの生存。
その中でも細かく賭けの設定はできる。
「俺様は、暁美ほむらが鹿目まどかを殺す事に賭けた」
「ッ!」
「分かるよなぁ、それが上手くいった時の俺様の体から湧き上がる快楽が! 喜びがよ!」
首を人形のようにカクカクと動かしながら、ゼノバイターは腹を抱えて笑う。
「あん時ァたんまり貰ったね、瘴気のコイン。あぁっと、理由はなんだっけ? ハハハ、大丈夫だぁ、覚えてるぜぇ! 俺・様・は」
ホムラの顔が青ざめる。
記憶は確かにあった。ゲームと言う状況下が作り出した、最悪の記憶が。
「お前はまどかを助ける事を使命だとか偉そうに言ってた割にゃあ、殺す時は簡単だったぜぇ?」
ふざけたようにケラケラと笑いながらゼノバイターは銃口をこめかみに突きつける。
「あーん、こんなの私が知ってるまどかじゃぁないってなあァッ!」
「―――」
何度となく、くり返されてきた歴史。それだけの負もあろうて。
そしてそれがこのThe・ANSWERの中では希望ともなり、絶望にも変わる。
愛も、友情も、絆も、全ては本物であり、偽りにも変わるのだから。
「ねえ」
「あん?」
「もう、喋らないで」【アライブ】
明確に、はっきりと、まどかは怒りと不快感を瞳に乗せてゼノバイターを睨みつけた。
ここまで怒りをむき出しにするのは珍しい。
しかしそれもまたゼノバイターにとっては笑いにしかならなかった。
「勘違いするなよ、俺様が大勝したのは一度だけじゃねぇ。テメェもだよ」
まどかは射手座を構え、弦を強く引き絞る。
「お優しい鹿目ちゃんも、時間が狂えば脳みそがイカレる」
「ハァアア!!」
スターライトアローが放たれる。
巨大な矢は空を切裂き、一直線にゼノバイターに向かっていった。
「理由はなんだったか? ああ、そうだ、みんなが苦しむ前に殺してあげましょうか!!」
ゼノバイターはなんと回避を選択しなかった。
迫る力に真正面から向かっていく。右手を突き出し、その掌に矢を受ける。
「結局、何も変わらなかったけどな。誰も救えない、何も守れない!」
「!」
「時間と絶望だけが垂れ流されていく!」
まどかの矢はゼノバイターの腕を貫通しようと突き進む。
が、しかし、矢は『動いてはいなかった』。
「あまりにも無力! あまりにも無意味!」
矢が、止まった。
ゼノバイターはアライブの矢を、右手一つで受け止めたのだ。
「絶望こそが唯一の正義。俺様はお前らを塗りつぶすぞ!」
「そ、そんなッ!!」
ゼノバイターは勢いが死んだ矢を掴むと、適当な場所に投げ捨てる。
そして右手にもブレードトンファーを出現させ、直後、地面を蹴って走り出す。
「どうした! アライブってのはその程度か!!」
「うッ! くぅッ!!」
もう一発、まどかは矢を発射した。
強化された矢はそれ一発が魔女を殺すだけの力を持つはず。
なのに見よ、ゼノバイターは迫った矢をブレードで真っ二つに切裂いた。
そしてもう一発、迫る矢をトンファーで叩き落した。
「無限に続く絶望! それがフールズゲームの目指す理念だ!」
「トゥインクルアローッ!」
強化の果てに強化された矢が放たれる。
それは矢と言うよりは光のレーザービーム。
しかしその時、ゼノバイターも二対のトンファーを連結させた。
変形する武器、それはまさに『弓』と呼ぶに相応しい。
「無限を超えられるか? 無理だなァ。お前達の希望は浅すぎるッちゅう話ッ!」
ゼノバイターは弓を引き絞り、放つ。
するとまさに闇のレーザーが放たれたではないか。
それはまどかの光とぶつかり合い、競り合いを始める。
「ギーゼラァア!」
上空からバイクモードになったギーゼラが降ってくる。着地するのはなんと闇のレーザーの上。
ゼノバイターはバイクに乗ると、そのままアクセルグリップを捻って爆発的な加速でレーザーの上を走っていく。
(だめッ!)
ギーゼラは猛スピードでレーザーの上を走り、まどかとの距離を詰める。
既にギーゼラは光のレーザー、つまりまどかの領域に入っている。
このままじゃもうすぐに距離が詰められる。
一方でゼノバイターは弓を持つ。いや、それは弓ではなく、ブーメラン。
「歴史に溺れろ。鹿目まどか!」
ゼノバイターは瘴気を爆発させ、ブーメランに注入させていく。
するとブーメランは巨大に、より禍々しいデザインに変化し、モザイク状のエネルギーが纏わりつく。
「積み上げた絶望こそが、絶対の力だ!!」
渾身の力で、ゼノバイターはブーメランを投げた。
「アイギスアカヤー!」
まどかの前に巨大な盾が出現し、ブーメランを受け止めた。
ガリガリと盾を抉り削ろうと回転を続けるブーメラン。まどかは気づいていない。
それはあくまでも『囮』だと言うことを。ゼノバイターは既に距離を詰めていた。盾越しにはまどかはその姿を確認できない。
そしてゼノバイターは手にありったけの瘴気を宿し、そのまま盾を思い切り殴りつけた。
「きゃあああああああああああ!!」
轟音が響く。
なんと、アライブ体であるまどかの最強の盾、それをゼノバイターは砕いたのだ。
まどかのみぞおちに青い拳が入る。まどかの体は面白いように後方へ吹き飛んでいった。
地面を削り滑り、まどかはそのまま後退。ハイウェイの曲がり角を曲がれず、壁を突き破って結界の下層へ落ちていく。
「足りねぇなぁ、オイ! それがお前の力かよ! んなもんで魔獣を倒すなんざよく言えたもんだよな、こりゃあ」
腰を曲げ、フラフラと前にでるゼノバイター。
まどかに追撃を加えようと歩き出したがふと停止。
そのまま首をカクンと折り曲げ、体をホムラの方へ向ける。
「ひぃい!」
「あぁー、テメェから殺しとくか」
ホムラは何も出来ずただ怯え、震えるだけ。
そしてその様子を、全てほむらは確認している。
「何をしてるのアイツは!!」
椅子の手すりを思い切り殴りつける。
まどかを守れないだけではなく、時間停止が封じられた途端なにもできないなんて。
武器を出せば戦えるのに。
そして今、敵を前にして震えるだけ。このままじゃ確実に死ぬ!
「この役立たず……ッ!」
「フフフ、役立たずですか。随分ですわね」
隣にいるワルクチは髪を弄りながらモニタの向こうにいるホムラを見ていた。
確かに敵を前にして震える事は愚行であろう。しかしある意味、それが普通の人間である事の証明なのに。
「殺する為の衝動や力を望む事は、本当に正しいのでしょうか?」
「……でなければ、守れるものも守れない」
「まあ、そうかもしれませんわね」
ワルクチはニヤリと、含みある笑みを浮かべた。
さて、ピンチの二人ではあるが、ここは一旦落ち着いて、少し時間を巻き戻してみよう。
まどか達がマミの家に行っている間、真司はスクーターを飛ばしていた。目的地は警察署の隣にある喫茶店だ。
しきりがしっかりしているため、隣接する席との区別がはっきりとついており、半個室のような席が多い。
その一つで、真司はテーブルを殴りつけた。その衝撃でカップがゆれ、なみなみと注がれたコーヒーがテーブルの上に零れた。
「す、すいません――ッ」
「いえ。城戸くんの気持ちは分かります」
須藤は真司に今朝の事件を報告する。
もちろん警察が一般人、よりにもよって記者に捜査内容を言うのはアウトだろうが、そこは真司を信頼して、だ。
もちろん真司もその情報をすぐに記事にはしない。これはあくまでも『城戸真司』への情報なのだ。
「クソッ、魔獣の奴ら……! 何にも関係ない子たちまで襲うのかよ!」
「奴らを放置すると、もっと犠牲者が出ます。一刻も早く奴らを止めなければ」
こうしている間にも魔獣はきっとどこかで虎視眈々とチャンスを伺っているに違いない。
「とにかく、情報が入り次第、お知らせます」
「あ、じゃあ俺もなんか分かったら須藤さんに連絡します!」
「助かります」
真司は須藤と別れると、スクーターを押しながら道を歩く。
携帯を確認するとまどかからの連絡があった。なにやらほむらがホムラでなんとやら。
「???」
今日はもう仕事もないし、とりあえずマミの家に向かうのもありか?
真司は頷くと携帯をしまって再びスクーターを押し始める。
だがすぐに立ち止まった。頭によぎるのは、先程須藤が言っていたことだ。
『子供達が殺された』
「……あ」
ポツリと、手の甲に雫が落ちた。
情けない、悔しくて泣くなんてまるで子供じゃないか。
真司がグシグシと乱暴に目を擦り、首を振る。
もちろん真司だって全ての人間を救えるとは思ってない。
彼の願いはあくまでも参加者全員の生存だから。
しかしそれでも無関係の人間が巻き込まれる事には胸が締めつけられる思いである。それも子供達がなんて――。
全てを救えるヒーローとはおこがましいが、できればそうありたいと思う中で、この状況は心がズタズタにされる思いだ。
「よ!」
「おわ!」
背中に衝撃を感じて真司は前のめりに。
振り返ると、ニヤニヤしている美穂が立っていた。
「こんなとこで会うなんて奇遇じゃん」
「あ、ああ」
「運命かもなー。どうする? 結婚するか?」
「す、するわけ――、な、ないだろ!」
「切れ悪いわね、どうした?」
目を逸らす真司。
『好きだ! 俺はお前が、ずっと前から――ッ!!』
どうにも記憶がある分、美穂とは顔を合わせづらい。
かと言って肝心の美穂は覚えていないんだから、どうにも調子が狂う。
「それより、どうしたんだよお前」
「DVD返しに行ってたんだよ、もうちょっとで延滞料取られるところだよ、あはは」
「がさつだもんなぁ、お前」
「キスは繊細だけどね。してみる?」
「ブッ!! な、何言ってんだよお前!」
「あれ? ちょっと待って、アンタ泣いてない?」
「えっ! あ、いやっ、泣いてないよ!」
「嘘! 絶対泣いてるって! うわー、男が泣くとか……。あちゃちゃちゃちゃ……」
「うるさいなお前は! 男女差別だぞ!」
「はいはい分かってるわよ。どうせあれでしょ? フランダースの犬とか見て泣いてたんだろ?」
「お前は俺の涙を何だと思ってるんだ!」
「高校ん時、ガチ泣きしてたじゃん!」
「それは仕方ない! フランダースの犬読んで泣かない奴とかいないだろ!」
「山ほどいるわ!」
結局と真司は美穂と一緒にアトリに行くことに。
テラス席につくと蓮がメニューを持ってやって来る。
美穂はコーヒー、真司は紅茶を頼むと、蓮はオーダーを届けてそのまま自分も席につく。
「仕事しろよ」
「休憩だ」
「んな事より聞いてよ蓮、さっき真司泣いてたんだよ」
「なッ! 言うなよお前!」
「フランダースの犬か」
「だからお前らにとって俺の涙って何なんだよ!」
「いいじゃん別に。感動物で泣くって普通だもんね。流石にAV見て泣いてたら美穂ちゃんドン引きだけどさ」
「え゛ッ! って、お、お前なぁ!」
「相変わらず下品だな霧島。女として終わってる」
「いいもーん。真司が貰ってくれるもんねぇ?」
「あ、あうあぅ」
「照れるな
「わ、分かってるよそんな事!」
「で、ほら、いい加減何で泣いてたのか教えてよ」
「ちょっと……、あれだよ、目にゴミが入ったんだよ」
「ハァ」
「おい蓮、なんでため息つくんだよ!」
「お手本みたいな言い訳だからでしょ。そんなもんね、あれよ、陸上で良いタイムが出ないから『あー、おれ今日足痛いからなぁー』って言ってるのと同じよ」
「たとえが分かりにくいんだよ!」
「お前は別に仕事で悩んでないだろ。実家の事でもないだろうし……、とするとアレか」
「なんだよ蓮」
「恋か」
「はぁ!?」
「あちゃー! スマン真司! 泣かせるつもりは無かったんだけど! これもアタシが可愛いから……!」
「だからお前じゃありませんよ美穂さんッ!」
「ハァ」「はぁ」
「なんだよ二人とも!」
「蓮、これは苦しいよなぁ?」
「そうだな。城戸が霧島に惚れてるのは周知の事実だからな」
「な、なんだよぅ!!」
「覚えてる? ニャーゴの部屋」
「フッ! あったな、そんな事も」
思わず蓮も吹き出す『ニャーゴの部屋』とは一体なんだろうか?
それは高校のとき、美穂が学校に内緒で始めたバイトだった。ネコ耳つけて耳掃除をするだけで月収16万はいくとされたソレ。
しかし男に付きまとわれるなどと言う噂もあり、なによりも、いかがわしい事は無しとは言え店の雰囲気が雰囲気であった。
すると真司は美穂を心配して、一週間の間ずっと美穂を指名して貸切状態にしたのだ。
「あれは傑作だったな。まさかストーカー第一号がコイツになるとは」
「変な言い方すんなよな蓮! いやっ、あれは美穂を心配してだな!」
「おかげで一週間で辞めたよ。まあでもその後あそこ潰れたから結果的に良かったのかな」
すると携帯が振動する。真司が目を移すと、その表情が一瞬で変わった。
「ちょっと悪い! 俺もう行かないと!」
「マジ? まあいいや、あんたの分も飲んどいてやるから」
「悪いな、美穂! じゃあな蓮!」
荷物を纏めて走り出す真司。
すると後ろから声が聞こえてきた。
「悩むなよー! あんたのガラじゃないぞー! もしも悲しかったら美穂さんがナデナデしてやるからなー!」
気の抜けた声ではあったが、真司は両頬をバシっと叩いて加速する。
そうだ、そうだな、悲しむだけじゃ誰も救えないんだ。
真司はデッキを取り出すと、スクーターのサイドミラーに飛び込んでいった。
ライドシューターが鏡の世界を高速でかける。
邪魔な障害物は破壊しながら加速するタイヤ。真司に届いたメールの差出人はホムラであった。
結界の箱の中、ホムラは震える手で真司に助けを求めていたのだ。
『てすけて』
誤字であり、場所さえ書いてないメールだが、真司には問題ない。
コールベント・エンゼルオーダー。まどかの天使召喚を真司も使えるようになるカードだが、それでファーターレハーヤーを発動する。
忠誠の天使レハーヤーはまどかの放つ魔力を察知して真司に『まどかが今どこにいるか』を知らせることができる。
アクセルグリップを限界まで回し、龍騎は終点を複眼に映した。
「ゴォオオ!?」
ホムラを八つ裂きにしようと思ったとき、ゼノバイターの体は宙に浮いていた。
手足をバタつかせながら真横に吹き飛び、近くにあった街灯を粉砕しながら地面に倒れる。
当然、ゼノバイターを弾き飛ばしたのはライドシューター。地面を擦りながらブレーキ、車体を横にして急停止すると屋根が展開、龍騎はシートの上で状況を確かめる。
「ホムラちゃん、とりあえずアイツぶっ飛ばしたけど、敵で良いんだよね?」
「は、は、はい! き、ききききき城戸さん! きっ、て、くれたんですね!!」
「?」
ホムラの様子がおかしい事に気づく。
しかし龍騎はすぐに、跳ね起きるゼノバイターへ視線を移した。
「来たな! 龍騎ぃ!」
「魔獣! まどかちゃんはどこだ!」
「さっきブッ飛ばしたぜぇ! 面白いくらいに飛んで行った!」
ゼノバイターは嬉々とした様子で弓を構える。
禍々しい黒が収束していき、瘴気のエネルギーが溢れていく。
「テメェもすぐに消し飛びなぁッ!!」
弦を引くと瘴気の矢が発射される。
猛スピードで飛来したそれは龍騎が反応する前に直撃したように見えた。
ライドシューターが爆発し、爆炎のなかに龍騎は消える。
「おいおいどうした? まさか一発でグロッキーかぁ?」
首をカクカクと動かしながらゼノバイターはケタケタと笑う。
その笑い声のなか、炎が消し飛んだ。四散する火の粉の中で、龍騎は腰を落とし、ドラグクローを構えている。その周囲を旋回するドラグレッダー。
「ハァアアアアアアアアアア!!」
昇竜突破。
ドラグクローを突き出すと巨大な炎弾が放たれてゼノバイターに向かっていく。
「おーおー、流石にこれくらいじゃなんともねーか」
まるで向かってきたボールを弾くように、あっさりとゼノバイターは火球を掌で叩き落した。
着弾すれば爆発。しかし青黒い旋風が巻き起こる。炎をかき消したのはゼノバイターだ。
ブーメランを分離させ、トンファーに変えるとそれをふるって風を起こしたのだ。
「行くぜ城戸真司ィ。テメェらをぶち殺せば、俺様はまた『大勝ち』だからよォオ!」
地面を蹴って走りだすゼノバイター。
「ッ、シャア!」
龍騎も気合を入れると、構えを取って地面を蹴った。
「ゲームスタートだ! 気張れよ真司ィ!」
触覚をなびかせてゼノバイターは笑う。
「うるさい! お前らのゲームなんて俺がブッ壊してやる!」
距離を詰めあう赤と青。同時に地面を蹴ると、まずは飛び蹴りが交差した。
踵が掠り、二人は同時に地面に着地した。背中合わせの状況、ゼノバイターは振り返りながらトンファーについた刃を振るう。
「ホッ! ホハァ!」
龍騎は体を一歩後ろ逸らして刃を回避する。
しかしゼノバイターはその勢いのまま地面を蹴ると体を捻らせて脚を振るってきた。
エクストリームマーシャルアーツ、ダンスの様な動きではあるが、その飛び蹴りはそれなりの威力を持ったもの。
「グッ!」
踵落しが龍騎の肩を打つ。
怯んだ龍騎と、そのまま姿勢を低くして回転するゼノバイター。
コマの様に激しく旋回しながら武器を振るい、刃が龍騎の装甲を削っていく。
さらに距離が開こうという所で気づく。龍騎の両手首にゼノバイターの触覚が巻きついていた。
「ウゥラァアアアィ!」
「グアアアァアッ!!」
瘴気のエネルギーが電流の様に龍騎に流れ込んでいく。
そして触覚を操り、引き寄せるようにゼノバイターはそのままドロップキックを龍騎の胸部に叩き込んだ。
「グッ! ごフッ!」
呼吸が止まる。
地面を滑り、火花を散らしながら龍騎は吹き飛んでいく。
だが龍騎はその中でデッキに手をかけていた。カードを引き抜くと、丁度動きが停止。素早くバイザーの中にカードを入れる。
「ホッ! ホホホ! ホララララ!!」
ホップ、ステップ、ジャンプ。ゼノバイターは飛び上がり、空中を回転しながら高度を上げる。そのまま足を突き出し、龍騎を踏み潰そうと殺意を解放する。
『ソードベント』
空中を旋回しながら龍騎の手に落ちるドラグセイバー。
剣を横に構え、刃を突き出して盾とする事で、龍騎はゼノバイターの足裏を受け止める。
「フハハ!」
「!」
一瞬だ。ゼノバイターはその場で前宙を行うと、足裏を上に、右掌を下にする。
つまり手でドラグセイバーを掴んだのだ。そして左手に持っていたトンファーの引き金を引き、真下にいる龍騎にたっぷりと銃弾を浴びせていく。
「グゥウッッ!!」
龍騎の力が緩んだ。
ゼノバイターはドラグブレードを奪い取ると、触覚を伸ばして近くの街灯に結びつけ、そのまま龍騎から離れていく。
地面に着地すると、ゼノバイターは笑いながら力を込めた。
もう気づいていると思うが、先程からゼノバイターは思い切り刃の部分に手が触れている。
しかし痛がる様子は全く無かった。と言うことは、だ。
「こんな玩具で俺様をどうにかしようなんざぁ、ナメられた話だよなぁ?」
ゼノバイターは刃を握りつぶし、破片を地面に落とす。
使い物にならなくなったドラグセイバーは、適当な所へ投げ捨てる。
「!」
すると業炎が巻きあがった。火柱があがり、陽炎に揺らめく魔女結界。
ゼノバイターは炎の中で立ち上がる龍騎を確認する。複眼が赤く光り、直後、エコーがかかった電子音が。
【サバイブ】
炎が弾け、龍騎はドラグバイザーツバイを突きつける。
引き金を引くと、銃口から炎弾が連射された。一方でゼノバイターもトリガーを引いて光弾を連射させる。
激しくぶつかり合う赤と青の弾丸、そのなかで龍騎とゼノバイターは再び走り、距離を詰めた。
「くッ!」
「ハハハ!」
流れ弾が龍騎の肩を抉る。
一方で炎弾もまたゼノバイターに命中するが、零れるのは苦痛の声ではなく笑い声だった。
【ソードベント】
ブーメランとドラグブレードがぶつかり合う。
そのまま赤の斬撃と青の斬撃が激しい乱舞を行う。
流石に強化されているだけはある、サバイブの剣は的確にテラバイターを狙い、笑みを消すほどの威力を見せた。
だがあくまでも状況は均衡を保っている。火花が散り、武器と武器がぶつかり合う音がしばらく続いた。
だが、終わりは唐突にやって来る。
「お!」
龍騎が払い上げたブレードがゼノバイターの武器を一つ弾き飛ばした。
上空に打ち上げられるトンファー。そして大きく怯むゼノバイター。
ココが好機だ、龍騎は渾身の力を込めてドラグブレードを突き出す。
「終わりが来たのは俺様が隙を作ったからじゃあねぇんだわ」
「!」
ゼノバイターは、確かにドラグブレードを手で掴んでいた。
流石に切れ味が増しているだけはある。掌から血のように瘴気が垂れていた。
しかし逆を言えば、それだけだった。ゼノバイターは語る。
隙が生まれたのはスタミナが切れたからではない。武器を弾かれたからではない。
すべて、『わざと』だ。
「見切ったぜ、龍騎」
「なん――ッ!」
「魔獣は、絶対だ!」
バキンッ! と、音がした。
ゼノバイターは、ドラグブレードをへし折ったのだ。
「テメェも所詮はこの程度かよ!」
「グハッ!!」
回し蹴りが龍騎の頭部を揺らす。動きが怯んだ所で、ゼノバイターは大技を決める。
腕をクロスさせると光が集中し、直後、エックス状のレーザーが腕から発射される。
「
「ウァアアアアアアアアアア!!」
青い閃光に飲み込まれ、龍騎はそのまま後方に吹き飛び、爆発の中に消えていく。
ホムラがただ目を開いて震える中で、龍騎は崩れ落ちるように地面へ倒れた。
「グッ! ッ、ァ!!」
立ち上がろうと力を込める龍騎だが、その腕から力が抜け、再び地面に伏せる。
一方で声を出して笑うゼノバイター。
「余裕過ぎるぜ。どうした? おい、このレベルじゃあ魔獣には勝てねーよなぁ!?」
止めを刺そうと歩き出したゼノバイター。
しかし光を感じた。隣を見ると、暗い魔女結界を照らす光が巻きあがる。
光の発生源はまどかだ。光の翼を広げ、まどかは再び舞い戻ってきた。
「まだ終わりじゃない」
「クハハハ! 流石に死なねぇわな」
まどかは傷や汚れは目立つが、まだその金色の目は死んでいない。再び弓を構え、光の矢を解き放つ。
「無駄だってつってんだろう――」
矢を左手で受け止めるゼノバイター。
矢が消え、直後、左腕が爆発を起こす。
火花が散り、腕からは血のように瘴気が吹き出した。
「が」
左手を見るゼノバイター。
煙を上げ、瘴気が漏れている。
「おん? んだぁこりゃ?」
ゼノバイターはポカンと、していた。
まどかを見ると、激しく睨まれる。
「痛いじゃないの」
「ごめんね。もっと痛いよ」
まどかの背後に魔法陣が出現する。
「惑え、山羊よ! スターライトアロー!!」
アライブ体では各天使も強化される。
放たれた山羊型の天使ハナエルもまたアライブの力でパワーアップを果たしていた。
金色の角はより巨大に、壮大になっており、大きく円を描くように湾曲している。
色とりどりの宝石も角に埋め込まれており、それが威圧感を上げる。
「消えろォ!」
引き金を引いて銃弾を打ち出すゼノバイター。しかし
「あん? って、うぉ!?」
気配。背後を振り返るとそこには山羊が。
一度だけ攻撃を幻影に変える事ができる。それが山羊座の力だ。
しかし反応していたゼノバイターは武器を振るい、その刃で山羊を一刀両断にする。
「!」
しかし、捉えたのは『空』。
すると、背に衝撃が。
「んがッ! なんだよコイツはぁ!」
そう進化。アライブ時はもう一度だけ山羊を幻影に変える事ができる。
最後の一発、つまり本物はゼノバイターの背後から出現。一気に加速すると、その巨大な角を振るい、ゼノバイターを担ぎ上げる。
そしてそのままゼノバイターを運びながら山羊は走る。だが、言ってしまえば『運ぶ』だけ。直撃したがダメージは限りなく少ない。
「おーおー、どこに連れてってくれるんだよまどかちゃんは」
ゼノバイターも煽りに入る。角の上で脚を組むと、口笛を吹き始める。
だが気づく。その先、立ち上がっていた龍騎の姿を。
「ハァァァァァァア――ッッ!」
龍騎の手にはストライクベント、ランザークロウが装備されていた。
一方その上空に現われるドラグランザー。迫ってくるゼノバイターを睨みつけると、激しい咆哮をぶつける。
「お、お、お!」
激しい振動がビリビリとゼノバイターの全身を包む。
一方でドラグランザーはなんと巨大な火球を一発、真下にいる龍騎に向かって発射した。
円形状の爆発が龍騎を包むが、すぐに炎はランザークロウに吸収されていく。どうやら攻撃ではなく力を与えたようだ。
ランザークロウの口内からオレンジ色の光が溢れ、龍騎は眼前に迫ったゼノバイターに渾身のストレートを打ち込む。
「おっと、残念だな。セーフだ」
消滅する山羊。
山羊がゼノバイターを龍騎の下へ運び、龍騎が一撃を打ち込む。
作戦は良かったが、その一撃が届いていない。ゼノバイターは片手でランザークロウを受け止めると、ニヤリと笑ってみせる。
「いや、アウトだ!」
「あん?」
ランザークロウの口からテニスボール程の火球が発射される。
それはゼノバイターの胴体に着弾する。
「お」
ゼノバイターの体が後退する。
「お?」
火球がバスケットボールほどの大きさに変わった。
ゼノバイターの体が凄まじく後退していく。
「おッ?」
火球がバランスボールほどの大きさに変わる。
ゼノバイターの体は吹き飛んでいく。まどかを追い抜き、地面を滑っていく。
「おぉッ!?」
火球が大玉ころがしに使うボールの大きさに変わる。
「ま、待て! 待て待て待て待て!!」
火球がアドバルーンほどの大きさに変わる。
抱えるようにしていたゼノバイターも声を上げる。直後、火球が大爆発を起こした。
圧縮した炎を巨大化させ爆発させるスカーレットノヴァ。
だが、その凄まじい爆炎の中、確かにゼノバイターは立っていた。
「ハハハハ! いいねぇ! ちったぁ楽しませてくれるじゃねぇかよ!」
炎がチラチラと体に燃え移っている。
それを払い消しながら、ゼノバイターは体から漏れる瘴気を確認している。
冷静に分析。違いはまどかの時から見られていた。
余裕で止められた筈の矢が、次の時にはダメージを負うくらいに進化していた。
それだけでなく、このスカーレットノヴァも確かなダメージを確認している。
今までは手加減? いや、違う。もっと根本的なところが変わっている。
(なるほどなぁ……! パートナーシステムか)
まどかの中にある『魔力』と、真司の中にある『
これは恐らくまどか達だけにいえた話ではないだろう。パートナー同士が一緒に戦う事でわずかながらもスペックが上がるのだ。
「………」
ゼノバイターの前には並び立つ龍騎とまどか。
サバイブとアライブの光を見て、ゼノバイターは鼻を鳴らす。
(あー、『アレ』と距離があるな……)
戦う事だけが目的ではない。
大切なのは、『彼女』に戦いを見せること。
「ま、今日はこれくらいにしておくか」
「!」
「あばよ参加者共! 次はグチャグチャにして腸で縄跳びしてやるからよ! ハハハ!」
バク宙でハイウェイの下に飛び降りるゼノバイター。
龍騎達はすぐに走って下を確認するが、そこにゼノバイターの姿は無い。
するとしばらくして魔女結界が消え去った。どうやら敵は完全に逃走したようだ。
「強かったね、真司さん」
「うん、注意しないとな……!」
変身を解除する龍騎。そこへ慌てたようにホムラが駆け寄ってくる。
「あ、あのッ! 私、本当ッ、ご、ご、ごめんなさい!」
「あはっ、良いんだよホムラちゃん気にしないで。それより怖かったね!」
「で、でも二人とも怪我を!」
まどかは至る所に擦り傷が見られ、中には相当深く抉れているものもあり、おでこからも血が流れているのが見える。
それは真司も同じで、彼の場合は火傷の痕も見えた。
「大丈夫大丈夫、こんなのすぐに治るよ」
ローシェルヒールを発動するまどか。
天使が光を放つと、真司達の傷がすぐに治っていく。
とは言えだ。ホムラは複雑な表情を浮かべていた。
怪我が治った事はなによりだが、怪我をしたという事実がそれで消えたわけじゃない。
動揺の理由は簡単だ。助けられた筈なのに――、体が動かなかった。
なぜか、決まっている。怖いから、苦しいから、戦う事は辛いから。
でも動けなかったせいで大切なまどか達が怪我をした。
「全部、私のせいだ!!」
それを口にしたのはワルクチだった。
椅子の上に立ち上がり、ケタケタと笑う。
ほむらは隣の椅子の上で、ひたすらにワルクチを睨みつけていた。
「そう、私のせいなの主サマ!!」
モニタを指し示すワルクチ。
時間が進む。一度マミの家に戻った一同が見たのは、テレビのニュースである。
そこには須藤が真司に教えたとおり、今朝の凄惨な事件が大々的に報道されていた。
カメラが映し出したのは小さな棺おけが並んでいるショッキングな映像だ。両親がすがり付いて泣いているのが見える。
「外道――ッ!」
マミは魔獣の行動をそう証した。
なんの罪も無い人間を襲うと言う点では魔女と共通するものがある。
しかし魔女は既に理性を失い、ある種殺人マシーンと化しているのに対して、魔獣は自らの意思で殺人を行い、しかもそれを娯楽と証している。
事実、現在同じニュースをエリーの力で確認していたゼノバイターは腹を押さえてゲラゲラと笑っていた。それは『女帝』も同じだ。絶望のエネルギーは彼らにとって極上のエネルギー。それを摂取するために彼らは殺戮や暴力を犯すことを欠片とて悪いと思っていない。
人間に対する情など欠片も存在しないのだ。
「………」
真司はニュースを見つめ、無言で拳を握り締める。
一方でホムラはと言うと、相変わらず忙しくなく視線を動かしながら、とにかく何かに怯えているようだった。
だからだろうか? 帰り道、まどかがこう言ったのは。
「なにか悩み事があったら何でも相談してね」
ホムラは戸惑いがちにまどかを見る。
まどかがそれに気づいて笑みを浮かべると、ホムラはバツが悪そうに顔を歪ませ、目を逸らした。
「あ、あ、あ、あの」
「え?」
「わ、私、わかっ、分からなくて」
「なにが?」
「どうして、いいのか……」
まどかは少し腕を組んで考えてみる。
「うーん、難しいよね。わたしも分からないよ」
「う、嘘。鹿目さんは凄いもん」
「ぜんぜん凄くないよ。わたしなんてまだまだだし」
「そんな事ないッ、まどかは凄いよ!」
「あはは、これ無限に続くパターンの奴だね」
「あ……、うん」
ホムラは三つ編みにしたお下げを引き寄せて顔を隠す。
無意識の自衛と言ったところか。常に何かに怯え、何かから防御体勢を取っているように思える。
「戦わなきゃいけないって思ってるんだけど……」
ホムラの声はか細かった。
「私は、戦う自分に誇りが持てない……」
胸を張ることができない。ホムラはそう口にする。
「でもホムラちゃんはたくさんわたしを守ってくれたよね?」
「でもその何倍も他人を傷つけた……」
「………」
まどかは立ち止まると、俯くホムラの肩を抑えた。
「ホムラちゃんがそれを悪いと思っているなら、いいんじゃないかな」
「え?」
「あんまり考えすぎるのは良くないよ。まあ、わたしもそう言うタイプだから偉そうには言えないんだけどね。てぃひひ……!」
「そ、そ、それは、でもッ」
「でもさ、それって考えてみればなりたくない自分だとかはイメージできるって事だよね。じゃあこれからは、そうならないように気をつければいいんじゃないかな!」
何をして良いのかなんて、なかなか分かる事じゃない。
だがどうしたくないのかは――、簡単に浮かんでくるものだ。
それは自分に自信がなければ無いほどに。
まあもちろんそんなにポンとすぐに変われる訳ではないし、結果はなかなかついてこないかもしれない。
それでも、意識しないとするのでは、未来は明らかな分岐を見せるだろうと。
「何でも相談してね、ホムラちゃん」
「う、うん……」
「話しづらいならわたしじゃなくてもいい。マミさんでも、真司さんでも、手塚さんでも、お姉ちゃんでも!」
まどかは穏やかな笑顔でホムラを見る。
「みんながついてるからね」
「………」
『みんながついてるからね』
「とても良い、お言葉ですわ。ねえ主様」
「――ッッ」
イチリンソウの花畑の中でほむらは呼吸を荒げていた。
頭を抑え、額には汗が滲んでいる。
と言うのも、つい先程激しい頭痛が起こったところだ。頭が割れるように痛む、ほむらは唇を噛み、苦痛のうめき声を漏らす。
「おや主様、とっても苦しそうですけれど……?」
「黙りなさい……ッ、だいたい、主様って何よ」
「知っているくせに、いじらしい」
ワルクチは椅子の上で足を組み、モニタを見る。
そこには嬉しそうに微笑むホムラが見えた。
「まあ可愛い。嬉しそうに笑っていますのね」
「ぐッ!」
またズキリと痛みが走る。
その一瞬、ほむらは頭に触れている手の感覚が消失したことに気づく。
「!?」
触覚の消失。しかしそれは一瞬のもの。
ほむらはすぐに自分の手が、手である感覚を確かめる。
「どうしました?」
「……なんでも無いわ」
「痛みは、脳からでしょうか」
「消えて」
「……また明日、お会いしましょう」
そう言うと一瞬でワルクチは消え去った。
青白く光るイチリンソウの花畑には、ほむらだけが取り残される。
頭の痛みは徐々に引いてきたが、未だに気分は優れない。そして心のザワつきは増す一方だ。自分への怒り――、なんだろうか?
正直、ほむらはホムラが嫌いだった。
「……?」
しかしなんだろうか、このイチリンソウの花畑、心のどこかに見覚えがある。
しかし見滝原にこんな場所があっただろうか? 記憶を辿ってみるが、前回のゲームではもちろん他の時間軸でも足を運んだ記憶が――。
「ッ」
一瞬何かが見えた。
それは――、『黒』。
「?」
しかしそれだけだった。
そして何か、文字通りポッカリと穴が開いた感覚。
なにかが、丸ごと心から抜け落ちて――。
「あ」
目が重くなる。
モニタの向こうではホムラがベッドに入っていた。そうか、もうそんなに時間が経っていたのか。
ホムラはすぐに眠れるのか、すやすやと寝息を立て始める。
同時にほむらの意識もブラックアウトした。
翌日。
テレビでは先日のバス事件が報道され、他の幼稚園に向かうバスも警備の為に職員の数を増やし、中に保護者が同乗するなどの処置が取られた。
「もちろん、そんなのあたちには関係ありましぇん!!」
テラは笑顔でマンションの屋上から飛び降りる。
真下にあったのは丁度その『他のバス』である。ドンッと天上から音がして、バスの中に戦慄が走る。
なんだろうか? ザワザワと幼児やその両親が騒ぎ始める。中には事件を思い出し、顔を引きつらせている者もいた。
「いっぱい、いーっぱい殺しまーしゅ!!」
瘴気が迸るとテラの体が変身、テラバイターはブーメランをバスの天上に叩きつける。
すると衝撃と音が。僅かに入った亀裂に手を伸ばし、そのままテラバイターはダンボールを破くようにバリバリとバスの天上を引き剥がしていく。
悲鳴が聞こえる。同時に急ブレーキ。テラバイターはその衝撃で前のめりに倒れ、フロントガラスの上部に顔を出す。
「はぁい、人間ちゃん」
「ひぃい!!」
「ちょっとお姉さんに殺されてみない?」
テラバイターの触角が意思を持ったように動き出しガラスを突き破ると、運転手の首に巻きつくとそのままギリギリと締め上げる。
「フフフ! 苦しんで死んでね!」
「あ――、カッッ」
青紫色に運転手の顔色が変化していく。
眼球が飛び出しそうになり、涙や涎がダラダラと零れ落ちる。
だが丁度その時だった。テラバイターの背中が『爆発』したのは。衝撃と熱、テラバイターは思わず触角の力を緩めてしまう。
同時にわき腹に衝撃が。また爆発だ。テラバイターの体が真横に吹き飛び、バスの下に落ちる。
「イェゼレルミラー!!」
結合の天使イェゼレル。
銀色の髪を持った可愛らしい天使は、その手に巨大な鏡を持っていた。
そしてそのまま鏡をスライドさせると、大きな鏡は地面を滑り、テラバイターの着地地点に位置を取る。
そう、それをゲートとしてテラバイターはミラーワールドに進入。空に放り出されると、反転する世界に墜落する。
まどかの新技。『イェゼレルミラー』は、ミラーワールドに侵入するための鏡を作り出す魔法であった。
弱点としては本物の鏡ではなく、あくまでも魔法による攻撃であると言うこと。
つまりイェゼレルが持つ鏡を『ミラーワールドに送りたい対象』に直接ぶつける必要があり、鏡を強く攻撃されると叩き割れ無効化される――、と言ったところだろう。
「いったぁい!」
気だるそうに立ち上がるテラバイター。一方で当然まどか達が前方に着地する。
前方にはまどか、龍騎、ホムラ。さらに後方にはライア、マミ、ニコが見えた。
ちなみにサキはさやかを抑えていてもらう役回りに回った。記憶を取り戻していないさやかでは魔獣戦では不利との判断だ。
一方で須藤も警察に篭っていたため、駆けつけることはできなかった。
テラバイターは参加者達を見ると、焦りではなく、嬉々とした笑顔を浮かべる。
「あらコレは参加者のみなさん、ごきげんよう。アタシはテラバイター」
ペコリとお辞儀を一つ。つい先程まで殺人を犯そうとしてた者の態度ではない。
まるで呼吸をする様に人を傷つける事が当たり前だと言わんばかりに。その異常さにマミやホムラは顔を引きつらせる。
「それにしてもどうしてこんなに早く駆けつけることができたのかしら? 不思議だわ」
「これから死ぬ奴が知る必要はないよ」
ニコの皮肉を受けてテラバイターはまた笑う。
ちなみに誰も説明する気がないようなので、説明しておこう。
作戦はこうだった。アルケニーのように電車の中で一人を殺したと言うのは、移動の際に何かトラブルになって~と言う事が想像できる。
一方で今回の事件は幼稚園に向かう送迎バスと言う限定的な場所で大量の殺人が行われている。
つまりアルケニーとは違い、意図的にバスを狙い、子供達を殺した事になる。
これは何かしらの狙いがあるのではないか、もしくは無かったとしても再び犯行が行われるのではないかと。
いずれにせよ魔獣は倒さなければならない。故に、コンビネーションで魔獣を補足する手段をとった。
それは半ば賭けであったが、まず注目したのは殺しの手段、内容だ。
子供を狙うという点は残虐性を感じさせるが、異質でもある。
つまりもう一度敵は同じ事をするのではないかと判断を行う。事件があった幼稚園はしばらく休みになるため、狙うのであれば他の保育施設だ。
その中でバスが走っているものをリストアップ。それぞれのバスにミラーモンスターを監視につけておいた。
そして丁度中央地点にニコが立ち、レジーナアイを起動させておく。
そしてテラバイターが出現と同時にレジーナアイとミラーモンスターが補足。
ニコがホムラに合図を送り、時間を停止させた上で一同を集めてテラバイターの所に来たというわけだ。
しかし当然そうなると、それだけの砂を使った事になる。
ホムラの新仕様により、既に盾の砂はもうほとんど残っていない状況になってしまった。
だが逆を言えばそのリスクを払ってテラバイターを囲む事ができた。
「棺おけにオネンネの時間だよ」
「あらあら、大変な状況になっちゃたわね」
腰に手を当てて首をかしげるテラバイター。
おかしい、明らかに余裕すぎる。何か秘策があるのか、それともまさかこの人数を相手にできる自信があるのか、いずれにせよ良い予感はしない。
ニコは小さく舌打ちを漏らしたのだった。
さて、大変な状況ではあるが、ここで一つ、昔話でも見てみよう。
もちろんそんなに昔の話ではない。まどか達が見滝原にいるころ、清明院組は日本を探索していた。その時のちょっとした話だ。
箱庭と証された見滝原の外がどこまで広がっているのか。
そもそも世界として成立しているのかを一旦調査したい。
あとは例えばワルプルギスの書物を調査したりと、まあ色々目的のため、香川達は各地を回っていた。
そんなある日、百江なぎさは椅子に座って空を見上げていた。
おっと、ただの椅子ではないのです。それはビーチチェア。
真っ青にそまった空に浮かぶ雲を見ながら、大きなサングラスをかけたなぎさは、これまた青いトロピカルジュースに口をつける。
チューっとジュースが啜られ、なぎさはニヤリと笑った。
着ている服は、フリルがついたワンピースの水着。そう、なぎさは今ビーチにいた。
「あむあむあむ」
テーブルにおいてあったチーズピザを頂き、トロピカルジュースで流し込む。
まさに至福の時間である。なぎさは大きく伸びを行い、もう一度テーブルに手を伸ばす。
「?」
しかし皿の上にあったピザはゼロ。
「なくなっちゃった……」
なぎさはピョコンとビーチチェアを降りると、すぐ近くにある海の家に入る。
眉毛を八の字にして進む事すぐ、椅子に座って本を読んでいる香川が見えた。
「先生ぃ、なくなっちゃったのです」
「では、新しいものを注文しましょうか」
「流石はパートナーさんです! 話が早くて助かります!」
ピザを注文する香川。
出来上がるまで、なぎさは香川の向かいに座る。
「おぉ、カキ氷ですか」
「ええ、やはりココは熱いですね」
現在、香川達がやって来たのは沖縄である。
見滝原中学校の制服は長袖だと言うのに、ビーチには海水浴に来ている客がチラホラと見える。
「少々熱すぎる気もします。ココもまた作られた世界と言うことでしょうか」
「かもしれないですね」
凝視。
「インキュベーターが現在のゲーム管理者ですので、生真面目に気温設定はしそうな気もするのですが」
凝視。
「それでもやはりココは箱庭の外。インキュベーターの興味も薄いのかもしれませんね」
なぎさ選手、香川英行のカキ氷を凝視。
「……百江さんも食べますか? いろんな味がありますよ」
「いいのですか! 流石は先生なのです!」
「ですが夕食はホテルのビュッフェがありますから、ここで食べ過ぎると夜が美味しく頂けないかもしれませんよ」
「む、むむ! 確かにそうですね! しかしこのままカキ氷を前に撤退するのも、なぎさのプライドが……!」
「では私のでよければ少し食べますか?」
「いいのですか! じゃあちょこっとだけ頂きます!!」
どこからともなくスプーンを取り出すとなぎさは香川のカキ氷を次々と口の中へ運んでいく。
そしてカキ氷を半分以上平らげると、香川へバック。
(ちょこ――ッ、と……?)
「ところで先生は何を読んでるんですか?」
「……ええ。古本屋に寄った時、思わぬ掘り出しものがありまして」
「どれどれ――って、おぉ、アメリカ語なのです……!」
「英語ですね。かなり古い本です」
「へえ。ボブがジェシーとHAHAHAな本ですか?」
「ワルプルギスと思わしき記述があるんです」
「なんか……、ほんとごめんなさい」
今のところ書いてあること自体はそれほど珍しいものでもない。
そこにはかつて栄えた文明を滅ぼした魔女がいるだとか、多くの怨念が集合しているだとか。
とは言え、相当昔の本に書いてあったのだから、それだけの歴史は存在している事になるのか。
「チーズピザのお客様ー」
「はいはいー!」
なぎさはピザを抱えると再びビーチチェアに戻る。
そして後ろをむいて鏡を取り出すと、『向こうの世界』を確認した。
「ォオオオオオオオオオオオオオ!!」
バウンド、バウンド、バウンド、そして多くの砂を巻き込みながらアビスは砂浜を転がっていく。
砂塗れで立ち上がると、煙上がる胸部を押さえながら再び走り出す。
アビスの前ではバトンを振り回している仁美が見えた。一方でそれを受け止めているのは仁美が召喚したエリザ。
今日も今日とて二人はミラーワールド内で特訓中である。
「あつ……」
砂浜の端の方ではビーチパラソルの下で仁美に召喚された海香がぐったりとしている。
魔法の本を広げており、そこには仁美と中沢の動きが、およびエリザが指摘するポイントが自動で記載されていく。
これを後で仁美たちの頭に直接送る事で短期間での進化を促すのだ。
「仁美! 反応は悪くはないですけれど!」
「うッ!」
エリザは銃剣を右に振るった。当然仁美は其方をガードしようとバトンを出すが――
「かはッ!」
衝撃、エリザの足裏が仁美の腹部にめり込む。
「仁美! ふいうち、フェイントに弱すぎますわ! 敵は皆が皆、ご丁寧に前から攻めては来ませんわよ」
よろけ、後退していく所にエリザは引き金を引く。
「あとは攻撃するとき左から攻めるクセがあります。もっと柔軟な攻めの手を繰り出す事が大切ですわ!」
エリザの銃はガトリングガンのように円形に銃口が並んでおり、無数の銃弾が同時に発射された。
「カラフル!」
仁美が叫ぶと、空からフワリと虹色の羽衣が出現し、装備される。
その羽衣を振り回して銃弾をかき消す仁美。舞うように羽衣を操る様は天女のようだ。
「………」(あぁ、仁美さんかわいいなぁ)
「中沢ァ! ぼけっとしない!」
「ゴハッ!!」
バキューンと大きな音がする。別の意味で胸を撃たれたアビスは再び砂の上に倒れた。
目の前には青空が。しかしまあアビスの心はかなり曇っている。と言うのもやはりモヤモヤが晴れないと言うかなんというか。
「こ、こんの!」
拳を握り締めて走り出したはいいが、アビスは先程から一撃もエリザにダメージを与えてはいなかった。
現在武器は使えない。体術こそが戦いの基本であるとエリザに教えられているからだ。
とは言ったものの、だ。
「はい、どうぞ!」
「うッ!」
両手を広げ大きな隙を作るエリザ。
しかしアビスはチャンスにも関わらず立ち止まり、突き出した拳を停止させてしまう。
「中沢! 言ったでしょう! 女を殴れるようになりなさいと!!」
「いでででででででッッ!!」
エリザは回し蹴りでアビスの首を捉えると、強制的に反転させて背中にたっぷりと銃弾を撃ちこんでいく。
確かに気持ちは分かる。しかし何度も言うように魔獣には女性型も多い。
魔獣は性別は無いとは言え、そもそも参加者は半数が女性だ。参戦派や、なにかのきっかけに衝突する事もあるかもしれない。そこで戦えなくなるのは非常に困る。
「あと上半身に力を入れすぎ! もっと腰を入れなさい!」
尻を蹴るとアビスは前のめりによろけて全身。
エリザも一歩踏み込んでから、姿勢をかがめての脚払いを行う。倒れるアビスの背を踏みつけ、エリザは大きく笑った。
「にょほほほほ! まだまだですわね中沢は!」
「うぐぐぐッ!」
ふと背後に気配。エリザはニヤリと笑い銃剣を向ける。
「バレバレですわよ仁美――」
そこにあったのは羽衣、カラフル。
そう、それだけ。羽衣だけが空中に浮遊していた。
「あ、あれ?」
するとエリザの頬に緑色に発光した拳がめり込む。
「ぎゃばああああああああああああ!!」
きりもみ状に吹き飛んでいくエリザと、立ち上がり背後を振り向くアビス。
するとそこには今まさに拳を振るったという姿勢の仁美が立っていた。
「ひ、仁美さん!」
「ふいうち――、してみまわしたわ」
大きな水しぶきが上がる。どうやらエリザが海に落ちたようだ。
ずぶ濡れになりながら顔を上げるエリザ。殴られた頬を押さえながらもニヤリと笑う。
「お嬢様育ちにしては良いパンチですわ……!」
「あら、ありがとうございます」
その後もエリザの特訓はしばらく続く。
しかしあくまでもエリザ達は仁美の魔法で召喚されているため、長時間の滞在にはそれだけ仁美に負担が掛かる。
と言うわけで、ほどほどにして特訓を切り上げる事に。
終わり際、エリザは中沢と仁美を並べ、手を前に出す。
「なかなか良いセンスがありますわ。この調子で特訓を続ければ確実に強くなりますわよ」
「あ、ありがとうございます――ってイデッッ!!」
「勉強になりまし――たぅ!」
衝撃、手を出そうとした仁美と中沢のおでこに走る衝撃。
握手ではなくデコピンを行ったエリザは、意地悪そうな笑みを浮かべて魔法陣の中に帰っていった。
「ニコニコしながら近づいてくる奴も、仮面の裏では何を考えているか分かりませんわ。せいぜいお気をつけて。にょほほほほ」
身にしみる言葉である。
裏切りなんてものはF・Gじゃなくても世の中には溢れているものだ。
ミラーワールドを出た二人は、なぎさの前に出現する。するとなぎさは嬉しそうに仁美に駆け寄った。
「仁美、おかえりなさいっ! これ、半分どうぞなのです!」
「まあ、ありがとうございます。いただきますね」
「中沢もどうぞどうぞなのです!」
「お、ありがとうね、なぎさちゃん」
ピザを受け取る二人と、仁美にしがみ付くなぎさ。
「仁美ぃ、一緒に遊んで欲しいのです」
「ええ、もちろん。約束ですものね」
特訓が終わったら一緒に遊ぶ約束をしていたようだ。
さらに丁度その時、下宮が海から顔を出す。
「ぷはっ!」
下宮は泳いで砂浜に戻ってくるが、なにも海水浴を楽しんでいたわけではない。
水面に顔を出す直前まで、下宮は『変身』していたのだから。
「中沢くん、志筑さん、お疲れ様。これお土産」
「うぉ! なんじゃこりゃ!」
「チョウチンアンコウ」
下宮はタオルとメガネを手にすると、軽く体をふいて海の家に。
「お疲れ様です下宮くん。どうでしたか」
「深海にもしっかり生物がいましたね。世界の完成度は完璧だと思います」
用意された世界は作られたものである筈なのにあまりにも精巧だ。
もしかすると作ったのは見滝原のみで、後は既存の世界をループの中に巻き込んだのか。
いずれにせよ簡単に世界をメチャクチャにできる向こうの力はもう少し調べる必要があるのかもしれない。
「これは私個人の意見ですが――」
メガネを整える香川。
「魔獣は確実に、インキュベーターの作るルールを破ってくると考えています」
「僕も同感です。尤も、それがいつになるか、どの程度になるかは見当も付きませんが」
「ええ。あとはもう一つ――」
「オーパーツですか」
「それも気になりますね」
おそらくユイデータが齎したであろう存在があった。
オーパーツとは、発見された場所や時代とはまったくそぐわない物である。その話をチラチラと香川は確認していた。
そして手にもしている。サイコローグに使った、『人間体に変形できる機能の設計図』だ。瞬間記憶能力を持っている香川はそれを記憶し、サイコローグに使った。
「それが乗っていたのは『グリモワール』と呼ばれる書物でした。西洋の書籍に機械の設計図が載っているなんて、違和感がありますね」
今はグリモワールは現在清明院で保管してあるが、グリモワール以外にもオーパーツと呼ばれるものは存在しているだろうとの見立てだった。
つまり世界には何か常識を超えるアイテムが散らばっている。これがゲームに直接関係あるのかは分からないが、いずれにせよただのアイテムで終わらないのは確実であろう。
「オーパーツがユイデータの影響で世界に現われたのかは分からない。けれどもいずれは戦いに絡んでくるというわけですか。ずいぶん面倒だ」
「そうならない様、祈っておきましょうか」
頷く下宮。
すると慌てたように中沢が海の家に飛び込んでくる。
「たっ、たたた大変だ!」
「ッ、どうした中沢くん」
「ひ、仁美さんがなぎさちゃんと遊ぶんだって!!」
「約束してたんだろう? キミも知ってたじゃないか」
「いやッ、そうじゃなくて!」
「?」
「一緒に泳ぐんだって!」
「そりゃ海だし」
「だからさぁ! つまりさぁ! っていう事はさぁ!」
「???」
話を聞いていたのか、本を閉じる香川。
メガネを光らせ、フムと唸る。
「思春期ですね、中沢くん」
「えッ! あ、いや、先生! 別にそういう意味じゃなくてですね!」
「ははぁ、なるほどね。つまりキミは志筑さんの水着姿が気になって仕方ないわけだ」
「ち、違うって! 俺は別にそういうやましい気持ちじゃなくてだね!」
「あはは、本当かい?」
「いや悪い嘘ついた! すっごい気になる! で、でもどうすればいい? やっぱり俺、気になってますオーラ出てる? 引かれるかな! いや引かれるとしたらだいたいどの程度で引かれるんだろう? って言うかどこ見たら良いんだ? 女性ってやっぱジロジロ見ると絶対引かれるよな! ただ全く見ないって言うのもそれはそれで失礼だってお昼の情報番組で――」
「お、落ち着いて落ち着いて! すっごく早口になってるよ!」
中沢は下宮の肩を揺すってブンブンと猛スピードで揺らしている。
思わず下宮の顔が残像になるくらいは。
「いいじゃないですか、異性に興味が出るというのは中学生としては当たり前の事です」
「い、いやでもですね先生」
そうしていると声が聞こえる。
どうやら仁美が着替えを終えて到着したようだ。半ば反射的に中沢と下宮は海の家から顔を出して仁美を確認する。
「一緒に泳ぐのです仁美!」
「ええ、あんまり深い所に言っちゃダメですわよ」
仁美はオレンジ色の水着を身につけており、頭には赤い花飾りが見える。
まあ一般的な水着と言ったところか。露出は低いわけではないが、過激と言うわけでもない。
「どうせならキミも一緒に泳いで――」
下宮が隣を見ると、中沢が鼻血を出しながら倒れていた。
「えぇええ!? だ、大丈夫か中沢くん! み、水着で鼻血ってそんなベタベタな……!」
「――と言うよりさっきのエリザさんとの戦いの傷が開いたんじゃないですか? 結構顔殴られてたみたいですし」
「でも気絶してますよ! あ、凄い心臓ドキドキしてる!」
「思春期ですからね」
「思春期すごいな!」
結局中沢は海の家の座敷のところへ運ばれる事となった。
「ハッ!」
中沢が目を覚ますと、空は赤く染まっていた。
体を起こすと、隣に仁美がいる事に気づく。
「もう大丈夫ですか?」
「え? あ、うん……! ありがとう」
仁美が差し出した水を受け取ると、中沢は曖昧に笑う。
「良かったですわ。倒れたって聞いて心配しました」
「あぁ、ご、ゴメンゴメン。ちょっと熱くて! あはは……」
興奮しすぎて太陽の熱にやられたなんて間抜けにも程がある。
絶対に悟られてはいけない、中沢は曖昧な笑顔を浮かべて、話題を変えることに。
「それよりさ、ごめん、俺特訓の時ほとんどやられっぱなしで……」
「いえ、お気になさらないで。あれは仕方ないですわ」
仁美は先程エリザを思い切り殴ったわけだが、やはりかなりの抵抗はあった。
普通の人間は誰かを殴ってはいけないと言われているからだ。
「だから、むしろ、その、ホッとしました」
「え?」
おかしな話かもしれないが、あそこで中沢がすぐに割り切ってエリザを殴りにいっていたらそれはそれで嫌だったと。
もちろん戦闘においては不利になるかもしれないが、パートナーとしてはそちらの方がずっと良い。
「優しいんですね、中沢くんは」
「!」
「素敵だと思いますわ。そういうところ」
「えッ! あ! そ、そうかな! あはは、いひひ、えへへ! べ、別に特に意識はしてないんだけれど!」
顔を真っ赤にしながらも満面の笑みを浮かべる中沢。
それを少し離れたテーブル席で、下宮となぎさはジッと見ていた。
「おぉ、中沢、ニヤニヤのニヒニヒです!」
「あはは、少し気持ち悪いくらいだね」
「ふふ、分かりやすいですね」
しかしそれが恋の魔力とでも言えばいいのか。
ただでさえ褒められる事は嬉しいのに、それが好きな相手からだとすれば感じる喜びは倍以上だろう。
「下宮にはいないのですか?」
「ふふ、なぎさちゃんもそう言うのが気になるお年頃、か」
「な、なぎさも一応、女の子ですから」
「そうだねぇ、僕はまあ微妙なところだよ。ちょっと今複雑な身だからさ」
一応、『人間』。だが半分以上はサメのミラーモンスターな訳で。
「昨日ホテルで中沢くんとB級のサメ映画見たんだけど、そのサメにちょっとドキドキしちゃった」
「へ、変態さんですね下宮……」
「ご、誤解だよ誤解。まあそういう所もあるって事で」
とは言え、全く気にかけない相手が居ないわけではない。
「それは恋と言うか、宿題みたいなものかな」
下宮はグッと拳を握り締める。
「決着をつけないといけない女性問題があるんだけど。僕も意外と臆病でね」
「ヘタレはいけないのですよ?」
「そうだねぇ。でもこの問題は彼女自身が答えを見つけないとどうしようも無いと――。いや、それも言い訳なのかもな……」
「な、なんだかいろいろ複雑みたい……です。なぎさに出来ることがあればなんでも言ってください。お金意外は協力しますので」
「あはは、ありがとう。それよりなぎさちゃんはいるの? 好きな男の子」
「な、なぎさはまだ誰の物でもないのですよ!」
恥ずかしくなったのか、なぎさは席を立つと遊んでくると口にした。
「本当ですよ!」
「はいはい。あんまり遠くに行っちゃダメだからね」
「わかったのです!」
パタパタと走り出したなぎさ。オレンジ色の夕日が、海を赤く染め上げていた。
その中でなぎさは誰かを探しているのか、キョロキョロとしきりに辺りを見回している。そうしているとなぎさは大きな岩の向こうにやってきた。
狭い砂浜部分のほかには雑草が生えている場所しかなく、人の気配はない。
とは言え、その狭い砂浜にたった一人だけ少年が座っているのが見えた。
「裕くん!」
「あ、なぎさちゃん」
香川の息子である裕太は誰もいないところで砂山を作っていた。
なぎさは裕太の隣座ると、海を見る。
「さっきまでどこにいたんですか?」
「ホテルで本を読んでたんだ。今のぼくなら、難しい本も簡単に理解できるんだよ」
サイコローグになって脳のスペックが随分上がった気がする。
現に裕太が取り込んだ情報は中沢達とそう違いないレベルだった。
「へー、でもせっかく海に来たんですから、なぎさは泳ぐべきだと思います」
「そ、そうかな。でも錆びちゃうかも」
そういうと裕太は自分の右腕を見る。
力を込めると、けたたましい音を上げて右腕が変形、サイコローグのものへと変わる。
「あ、相変わらず凄いですね……」
なぎさも裕太の事情は知っている。
裕太は不完全なサイコローグを完成品にするための礎でしかなかった。
とは言え香川としては病気の裕太を死なせる事は心苦しく、ミラーモンスターにしても息子を死なせたくはなかった。
まあそれが結果としてサイコローグと裕太を両立させる事になったのではあるが。
「お父さんは防水機能は完璧だって言ってるけど、本当かどうかは分からないでしょ? 万が一ぼくが使い物にならなくなると、お父さんが困るし……」
「そういう言い方、なぎさは嫌いです」
「え?」
「使い物だなんて。裕くんは物じゃないですよ」
「そ、それは……」
「決めたのです!」
「な、なにを?」
「一緒に泳ぎに行きましょう!」
なぎさはフンと鼻を鳴らすと立ち上がり、裕太の手を取る。
「ちょ、ちょっとなぎさちゃん!?」
「んもう、せっかく海に来たんですよ? 砂のお山なんて公園でも作れるじゃないですか! だいたいお山作りなんてクソつまらないのです!!」
「く、くそ……」
「せめて一緒にお城を作りましょうよ! ううん、でもやっぱりまずは泳ぐのです!」
「で、でもぼく、錆び――」
「錆びません! 先生はとっても頭がいいですから、その先生が大丈夫って言うなら絶対大丈夫です」
ぐいぐい引っ張っていくなぎさに戸惑いつつも、裕太は特に抵抗らしい抵抗はしなかった。
「いいですか裕くん。海水なんかにビビッてちゃ魔獣を相手にはできないのです。だいたい、海水を使う魔獣が来たら同じことじゃないですか!」
「そ、それは、確かに……」
「ぶしゃーぶしゃー!」
なぎさは海水をかけるジェスチャーをしながら裕太の周りをグルグル回る。
「仮に錆びちゃったとしても……、まあ大丈夫です。なぎさが何とかするのです!」
「で、でも」
「大丈夫なのです! なぎさだって先生のパートナーなんですから!」
なぎさは裕太と手を繋いだまま、海の家に入る。
「下宮ー! 保護者をお願いしたいのです!」
「え? あ、うん。泳ぐの?」
「はい! 裕くん水着は?」
「一応着てるけど」
「オッケーです! バッチリです!」
なぎさは裕太の上着を無理やり剥がすと、また手を引っ張って走り出す。
「きゃあ、なにするの!」
「いこっ!」
海の家から飛び出すと、なぎさ達は一気に海の中へ入っていく。
「気持ちいです! ね? 裕くん!」
「う、うぅん……」
戸惑いがちに裕太は肩を水につけ、ジッと立ち止まる。
「んもぅ! おじいちゃんじゃないんですから! ココはお風呂じゃなくて海ですよ! 泳ぎましょう!!」
「わ、分かったよ……」
なすがままと言った所だろうか。
とりあえずバシャバシャと足を動かしてみるが、なぎさは相変わらずジットリと裕太を睨んでいる。
「だ、だめなの?」
「ダメって言うか……、なんだか裕くん全然楽しそうじゃないのですよ」
「それは、だって――」
いくらサイコローグになって力を手に入れたとは言え、ゲームの事を考えると不安になる。
こうしている間にも魔獣は力をつけているし、そもそもまどか達は舞台の上で戦っているわけだし、遊ぶのは申し訳ないと言うか。
「かたいです! さすが先生の息子さんです! 裕くん固すぎです!」
「えぇえ!?」
「みんながついてるから絶対大丈夫ですよ! それになぎさ達は救世主なんですから、もっと堂々と胸を張ればいいんです!」
ユイデータが齎したイレギュラーなのだ。
それだけ魔獣にとっての刃ともなろうて。
「なぎさ達はヒーローですよ! ヒーローはいつもニコニコじゃないとダメなのです!」
「そう、なのかな」
「もちろん! それに……」
なぎさは覚えている。死の記憶、絶望の記憶をだ。
彼女もまた魔女になったもの。この世界の黒は十分に分かっている。
「楽しい事は――、大切です」
そう語るなぎさの表情には色々な感情が見て取れた。
「生きているうちに、楽しい事をいっぱいした方が、いっぱい笑ったほうが一等賞なんです! だから、ほら、泳ぎましょう!」
「なぎさちゃん……」
「競争ですよ裕くん! 負けたらバツゲーム! 中沢のお顔に落書きです!」
(なぎさちゃんと裕太くんのバツゲームで中沢くんが被害にあうのか……)
とても不思議な方程式である。
下宮は汗を浮かべながらも、裕太の肩に手をおいた。
「なぎさちゃんの言うとおりだよ裕太くん」
「下宮さん……」
「楽しい事は――、希望は尊い。味わっておいて損はない。いやむしろ生きているからこそ得られるなによりの特権だ。放棄する意味なんてない」
俯く裕太。
「大丈夫だよ。なぎさちゃんの言うとおり皆がいるんだから。正義は必ず勝つ、そうだろ?」
「うん、うん……!」
「泳ぐのは嫌い? 思い切り泳ぐのは楽しいよ」
「うん!」
「じゃあ、ほら、早くしないとなぎさちゃんに負けちゃうよ。」
なぎさを見ると、結構ガチなクロールである。
「フフフ、見滝原のマーメイドと呼ばれたなぎさに追いつけますか裕くん!」
「ようし! 負けないよなぎさちゃん!」
ミラーモンスターであれ、多くの知識を取り込んだとは言え、裕太はまだ子供だ。
なぎさとは年齢が同じこともあって、二人はすぐに打ち解け、はしゃぎ合う。
ビーチには楽しそうな笑い声だけが聞こえてくる。
その内に店を出た香川たちも、そんな裕太たちを目に映す。
「ふふ、楽しそうですわね二人とも」
「ええ。百江さんがパートナーで助かりました」
「ようし! ねえ二人とも! 俺も混ぜてよ!」
砂浜を走る中沢。なぎさ達も笑顔で中沢のほうへ駆け寄る。
「いいですよ! ね! 裕くん!」
「うん! 一緒に中沢さんも一緒にあそぼ!」
「いいね! 何する! なんでもいいぜ俺は!」
「裕くん、なにかありますか?」
「ぼく、スイカ割りがしてみたい!」
「スイカ割り――、あぁ、でもスイカが無いなぁ」
「じゃあ中沢をスイカにすればいいのです!」
「うそだろ?」
「楽しかったな……」
海を見ながら、裕太はポツリと呟いた。
もうすぐ日が暮れる。一同はホテルに帰る事となった。
車の方をみると、中沢の巨大なたんこぶが引っかかって、なかなか車に入ることができないでいた。
裕太はばつが悪そうな表情ですぐに目を逸らす。
悪い事をした。アビスに変身した中沢を砂に埋めてスイカ代わりにするのは流石に酷い話ではないか。
父にも散々怒られたし。(まあ香川もやる前に怒れと言う話だが)。
とは言えアビスも本気で出ようと思えば砂からは簡単に出られたはずだし、それらは一重に裕太達を楽しませるための『優しさ』なのだろう。
「明日もずっと楽しいですよ」
「なぎさちゃん……!」
隣になぎさが立つ。
「楽しく生きようと思えば、毎日楽しいです」
「そうだね。うん、そうだよね」
「知ってますか? 次は北海道に行くらしいです! おいしいお魚ばっかりですよ!」
「うん! 楽しみだね! ソフトクリーム一緒に食べよ!」
「はい! 今からウキウキなのです!」
でも――、と、なぎさは言葉を止める。
「中沢はもっと楽しそうだったのです」
ニヤニヤ、ニヨニヨ、ヘラヘラ。
はじめは人間とはこんなお間抜けな顔ができるのかと思ったが、いやはや、結構な事ではないか。むしろとても楽しそうで羨ましい。
「それは中沢さんが――」
「ですよね。だからきっと、そうなるともっと楽しいんです」
なぎさは両手を後ろで組むと、体の正面を裕太の方に向ける。
風が吹き、なぎさの綺麗な白い髪をなびかせた。
「だからね、裕くん。なぎさの事、好きになってもいいですよ」
「―――」
「なーんて、冗談です。フフフー!」
丁度その時、中沢のたんこぶが縮み、車の中に入ることが出来た。
「なぎさちゃん、裕太くん、用意ができましたわ。さあ帰りましょう」
「了解なのです! 行こう、裕くん!」
なぎさは強引に裕太の手を取って走り出す。
裕太はジッと、なぎさを見ている事しかできなかった。裕太の脳は裕太のもの、つまり人間の証明だ。そのパーツが強い感情を発している。
裕太は今この瞬間、ミラーモンスターではなく、純粋な人間だった。
夜、ホテルのレストラン。
「おぉ! これ凄く美味しいです! 仁美も食べますか!」
「うふふ、じゃあお言葉に甘えようかしら」
「はいです! あーん!」
「あーん」
「美味しいですか?」
「はい、とっても美味しいですわ」
楽しそうにはしゃぐ二人を、向かいの席でボーっと中沢と裕太は見ていた。
「いいよね、雄太くん……」(物を食べてる仁美さんも素敵だ……)
「はい、すごく……」(なぎさちゃん……)
「………」
隣の二人用の席で向かい合っている香川と下宮は、メガネを光らせてその光景を観察していた。
「わ、患い人が二人に増えましたね……」
「いいんじゃないですか? 男は永遠の思春期ですから」
「と言うことは香川先生もですか?」
「ええ。もちろんです」
(絶対嘘だよ)
そもそも香川が妻と交際していただとか結婚生活だのがまるで想像できない。
だが目の前を見てみれば、香川のテーブルの周りにはシークワーサーゼリーのカップが山のように積まれている。
甘いものが好きなんだろうか。意外と子供っぽいところもあるのかもしれない。
いやはや。不思議な事は多いものだ。それが他人のことになるとなおさら。
下宮は引きつった笑みを浮かべながら、ゴーヤを口に運んでいくのだった。
個人的な解釈なんですが、ゆまちゃんが小学校低学年で、なぎさちゃんが高学年って感じで書いてます(`・ω・´)