仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第85話 積み上げてきた事を誇りに思え

 

 

「おはようさやか」

 

「あれ? サキさん、みんなは」

 

「あ、ああ、それぞれちょっとした用事があるらしくてな。今日は私とキミだけだ」

 

 

サキの役目はさやかの足止めである。

いや、足止めとは聞こえが悪いか。要は保護である。

特に今回の場合ゼノバイターの強さは想像を絶していた。

記憶が無いさやかでは、戦いに巻き込まれれば危険だ。

ましてや悔しいが、守れる保障も無い。故にサキがさやかの傍にいる事になったのだが――。

 

 

「でさぁ、あそこのリアクション芸が――」

 

 

楽しそうに笑うさやかを、サキはジッと見ていた。

確かに、さやかを戻す事を想像すると頭が痛くなる。

因果、言い方を変えれば宿命とでも言おうか。

サキの記憶であってもさやかが魔女になった回数は多い。

 

いや多すぎる。

何が因果律を左右するのかは分からないが、それだけの絶望を思い出すのはさやかにとってかなり負担になる事だろう。

 

 

(なにか――、大きな希望でもあればいいのだが)

 

 

そして一つ、サキには引っかかるものがあった。

 

 

「………」

 

 

オーディンの変身者に対する記憶がまるごと頭から抜け落ちている。

だが、それは記憶を取り戻した際にキュゥべえからのメッセージとして脳内に叩き込まれた。

だからこそ疑問は無い。何かしらの理由があっての事だろう。

 

しかし『それと同じケース』が一つあった。

一つの記憶が限りなく薄い。わかっているのはただ一つ、その時のパートナーが美穂であると言うことだ。

あの時、一体どんなゲームがあったのか。これは自分だけなのだろうか?

気になる点は多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、大変な事になっちゃったわね」

 

 

参加者に囲まれているテラバイターは呆れた様に首を振る。

余裕があるのか、まどかの弓を持つ手にも力が入る。

正直な話、アライブの力があれば何とかなるだろうと思っていたのも事実だ。

しかし先のゼノバイター戦ではっきりと分かった。

 

 

『油断すれば死ぬ』

 

 

すると遂にテラバイターが動く。

と――、言っても攻撃ではない。テラバイターは人さし指で天を示したのだ。

上になにかあるのか? 参加者達はテラバイターに注意しつつ、一瞬だけ上を見る。

するとそこには浮遊するテレビ。ではなく、箱の魔女エリーの姿があった。

精神攻撃を特意とするエリー。すぐに目を逸らさなければならないのだが、問題はエリーの画面にゼノバイターが映っていたという事だ。

 

 

『よぅ! 参加者共ォ!』

 

 

ヘラヘラと笑いながら手を振るゼノバイター。

前日に戦ったと言うこともあり、まどかと龍騎に大きな緊張感が走る。

すると気づく。ゼノバイターの体が僅かに震動しているのだ。

これは一体? 疑問に思ったとき、すぐに答えが示される。

カメラが引き、ゼノバイターの全体が映し出される。彼は寝転んでいたのだ。どこに? 決まっている、それは電車の上にだ。

 

 

「まさかアイツ!」

 

 

そう、見滝原鉄道。

文字通り見滝原の中を走る私鉄、その一つにゼノバイターはいるのだ。

なぜか? 決まっている。彼らの作戦は初めから二重に行われていたのだ。

 

ゼノバイターとテラバイターの両者がポイントにつき、順番に殺人を行っていく。

そしてどちからが成功すれば、もう一方は参加者へのアプローチに作戦を転じるということだった。

 

 

『見えるか? おぉ、コレが俺様の餌場だよ!』

 

 

戦慄が走る。この状況、テラバイターは殺害を妨害された。

つまり殺害を行う者が変更され、ゼノバイターになったと言うことだ。

二重の殺戮構造。幼稚園バスとは違い、狙われたのは電車である。

今の時間は通学や通勤にしようしている人が多い。

三両編成の電車の中はまさに餌場と言うにふさわしい、逃げ場の無い空間でゼノバイターが暴れればどうなるのか、それはあまりにも簡単な答えであった。

 

 

『今からたっぷり死ぬぜぇ! ハハハ!』

 

「くッ!」

 

 

マミはホムラに視線を送る。

時間停止ができれば或いはと思ったが、ホムラは涙目で首を振っていた。

無理だ。もう砂が無い。わずかに止められても数秒が限界。とてもじゃないがゼノバイターがいる場所に向かう事はできなかった。

 

 

「分かっているのかしら。こんな事になったのは――」

 

 

そして、テラバイターは一人の少女を指差して笑った。

 

 

「あなたのせいなのよ? フフフ!」

 

 

赤い指が指し示したのは、怯え、震えるホムラであった。

 

 

「え……?」

 

「分かっているのでしょう、ねえ? "お母様"」

 

 

お母様、その言葉に一同が固まる。

 

 

「なんだと?」

 

「なぁに? おかしい事じゃないでしょう? ねえゼノ」

 

『ああ、その通りだぜ。暁美ホムラは俺様たちのママだからな! ギャハハハ!』

 

 

その時、ホムラの中に電流が走った。

目のハイライトが消え、虚ろな表情で崩れ落ちる。

一同がほむらに視線を移す中、テラバイターは言葉を続けた。

 

 

「死を認められないなんて人として尤もたるエゴじゃなぁい?」

 

 

知れ、巴マミは死んだのだ。

 

知れ、鹿目まどかは死んだのだ。

 

知れ、それを受け入れる事が正解だった。

 

なのにお前は愚か者。時間を繰り返し、死を無かった事にしようとした。

一度ならず二度までも。いいえ、何度くり返したのだろうか。

その果てに救いはあったか? その果てに希望はあったか?

否、くり返されたのは絶望だけだ。

 

まどかを救えたか?

いや、それだけじゃない。誰か一人でも救えたのか?

マミ、さやか、杏子。犠牲にするのも仕方ない? いや違う。お前は結局助ける事も利用する事もできなかった。

 

ただ呆然と死を見ているだけしかできなかった。

世界の歯車を止める事はできない、『運命』を変える事はできない。

観測者などと言う恵まれた立場ではない。ただ死の輪廻に飲み込まれた愚かなピエロだ。

 

言葉が交じり合う。

感情が交じり合う。ああ、これは一体誰の言葉なのだろうか。

ホムラの思考はグルグルぐるぐる、ぐるぐるグルグル。

 

 

「お前さえいなければ、鹿目まどかに因果が収束する事はなかった」

 

 

酷い。それはホムラにとって何よりもの『ワルクチ』だ。

 

 

「お前のわがままが鹿目まどかに罪を背負わせた。見よ、概念が変えた世界が齎した結果を!」

 

 

両手を広げ、自らの存在を指し示すテラバイター。

そこへゼノバイターの笑い声が重なる。魔獣、究極の絶望を具現したのは何よりも暁美ほむらの行動ではないか。

まどかを失いたくないという願いを諦めていれば、まどかがキュゥべえと契約して馬鹿な願いを叶える事もなかった。

魔獣は魔女の代わりだ。世界を殺すシステム。そして今はもう魔女をはるかに超越した危機なのだ。

 

 

「暁美ほむらのせいだ」『暁美ほむらのせいだよなぁ!』【暁美ほむらのせいですわ】

 

 

テラバイター、ゼノバイター、ワルクチの声が重なる。

いや、そもそもこれは彼らが口にした言葉なのだろうか。

コレを聞いているのはホムラだが、彼女は本当にその言葉を聞いたのだろうか。

分からない。分かれない。全ては脳内に広がっていく戯曲の舞台。

 

 

「お前は罪人だ、暁美ほむら」

 

 

最後に、ホムラの声が聞こえた。

 

 

「私は……、私は――ッ」

 

 

その時、ホムラの動きが止まった。まるで機械のように。

 

 

「違う!」

 

 

そして勢い良く立ち上がった、ほむら。

そう、『ホムラ』ではなく『ほむら』がそこにいた。

三つ編みはストレートになり、赤いメガネはいつのまにか消えている。

 

 

「ねえ、ここはどこなの!?」

 

 

ホムラはイチリンソウの中で泣いていた。

 

 

「ここから出して! 助けてまどか! 巴さん!!」

 

 

ワルクチは笑い転げている。

 

 

「出して! 助けて! お父さん! お母さん! 怖いよ! 怖いよぉ!」

 

 

イチリンソウの花束の中に浮かぶモニタ。そこから声が聞こえる。

 

 

「暁美さん!?」「ほむらちゃん!」

 

 

いったい何がどうなっているんだ。

まどか達が駆け寄って行く中、ニコはただ呆然とほむらを見ているだけだ。

ほむらがホムラになったと思えば、今、ホムラはほむらになったではないか。戻った――、のか? いや、それにしては何か違和感がある。

 

 

「大丈夫よ、落ち着いて暁美さん! あんなの下らない精神攻撃だわ!」

 

「そうだよ、ほむらちゃんが悪い訳じゃないから!」

 

 

その時、ほむらの体から紫色の光が漏れる。

気づけば、ほむらはホムラに変わっていた。

 

 

「そうかなぁ? そうなのかなぁ? 私、悪くなぃ……?」

 

「!?」

 

 

これは一体――?

誰もが戸惑う中、一人だけ、ライアだけはリアクションが違った。

 

 

「やはり、そういう事か」

 

 

そう、理解した。

ライアは全てを察したのだ。

思えば前回のゲームからその兆候は少しだけ見られていた。

あれはそう、タイガとキリカの攻撃を受けていた時、ほむらは無意識に心の声をライアに流し込んでいた。

 

時折、彼女はとても臆病になる。

いや、死が近づいているのだから臆病になるのは当たり前だろう。

しかしそれでも、まるで人が変わったように自分が崩れていく。

 

ライアはふと、分からなくなってしまう。

暁美ほむらとは一体どういう人間なのだろうかと。

もちろんこの世界にいる人間全てが真司やまどかのように真っ直ぐで分かり易いわけじゃない。

むしろ真司やまどかも仮面の裏には何かしらの闇を秘めているものである。もちろんそれは手塚や、他の参加者も同じだ。

 

けれどもほむらは事情が違う。

彼女は他の人間よりもはるかに闇を背負ってきた。

ではもしも闇が仮面にて隠しきれなくなった時、人はどうなるのだろうか。

そう、それこそがこの問題の全てではないのか。

 

つまり、ほむらはとっくの昔に壊れていたのだ。

 

 

『くるみ』

 

 

ほむらは随分とクールな印象を受けた。

硬い殻で自分を覆い、近づくものを一定の距離に入れない。しかしその中身は周りと変わらない。むしろ脆いくらいなのだ。

そうだ、彼女は弱い人間だったのだ。勉強もできない。運動も出来ない。惨めな自分を嫌悪し、心の中では変わりたいと思っていた。

そんなとき、ほむらは――、いや違う。『ホムラ』はまどか達と出会い、魔法少女になったのだ。

 

そして彼女は、『ほむら』になる。

弱い自分を封じ込め、全ての甘さと弱さを捨てるアバターを作った。

ほむらと言う殻でホムラを隠したのだ。

 

くるみと、胡桃。

 

 

『此岸』

 

 

――が、しかし、ほむらはまどかを救えなかった。

何度も何度もくり返したが、運命は強く、ほむらは抗い続ける。何度と無くくり返すループ。

時間が流れる、そしてほむらが味わう体験はよくも悪くも頭に残るものだ。命の危機、仲間への罪悪感、それを封じ込める使命感。

まして、まどかへの愛情。

 

するとどうだ?

くり返すうちにほむらの『我』がホムラを超えようとしていた。

殻であった筈のほむらが、仮面であった筈のほむらが、ホムラを超越しようとしていた。

 

なに、それは別におかしい話ではない。

人はなかなか変わることができないが、変わる事もできるのだ。ほむらはホムラであり、それで終わりのはずだった。

 

しかし鋼鉄の少女は、所詮夢見た希望でしかなかった。

つまりまだホムラは生きていたのだ。それは存在ではなく、あえて現すなら優しさを交えた弱さであろうか。

 

まどかの為、まどかだけ。

そうはいかない。マミへの罪悪感、さやかへの罪悪感、杏子への罪悪感。

三人に対する、確かな友情。ほむらは心の中で思った。

 

 

それを、捨てたくないと。

 

 

いや、違う、それは違う。訂正しよう。訂正しなければならない。

暁美ほむらに友人など、一人とていなかった。

あったのはただ友情への憧れだ。

 

 

『歯はこぼれ』

 

 

向こうが友情を抱いてくれたとしても、ほむらは時間をくり返す。

そしてその果てにある新たな世界にいた少女達は同一人物とは言いがたい。

たとえ声は同じでも、同じ言葉を放とうとも、時間軸が変わればハイ別人。

ほむらはそれを自覚していた。尤も、それは無意識かもしれないが。

 

 

『頭蓋はとろけ』

 

 

だがあったのだ。

考える事を止めても、止めたつもりであっても、ほむらは憧れていた。

手を伸ばしていたのだ。妥協点ではない、唯一無二の幸福だ。

 

マミがいて、さやかがいて、杏子がいて、そしてまどかがいる。

そこにキュゥべえはいない。ジュゥべえなどいるはずも無い。

魔女はいない。すべては現実の中で収まる。限られた円が奏でる美しい友情(レコード)の音。

それが暁美ほむらの幸せだった。

 

 

『目玉も落ちた』

 

 

しかし、現実はそう甘くは無かった。

ほむらが求めた幸福はいつになっても叶う事はなかった。

マミとは対立し、さやかには疑われ嫌悪される。情を見せてくれた杏子はいつも自分を置いて勝手にいなくなる。

そして――。

 

 

「ごめんね、ほむらちゃん……」

 

 

まどかは――、自分の苦しみを理解してくれない。自分の愛を理解してくれない。

友情も、愛情も、共に矢印を向ける事で真に成立するものだ。

そうでなければどちらも淡い片思いでしかない。

 

そして何より、ほむら自身がその目を逸らしている。

ならばどちらも成立するわけが無いだろう。

ほむらはわかっていた。故に、目玉を――、『視る』ものを落とした。直視を放棄したのだ。

 

 

『もう種を砕けない』

 

 

ほむらは胡桃を割りたかった。

けれども胡桃を割れないくるみ割り人形に価値はあるのだろうか。

観賞用として『存在することなら許されるが』、すくなくとも『目的を果たすための道具としては欠落している』。

ほむらはそれを他の誰よりも自覚していた。目を逸らしているつもりでもその思いは確実に彼女の中に『負』となって積み上げられていく。

 

足掻けど、約束だけが惨めにほむらを取り巻いている。

いつしかその責任、負をほむらは『ほむら』の責任として割り切った。

そう、ホムラではなく、ほむらにだ。

 

 

『自己完結』

 

 

そして今回、全ての事件の答えが収束していく。

ほむらはいつしか、自己完結の道を歩んでいた。

 

 

救えない。

 

 

悔しい。

 

 

でも壊れてはいけない。

 

 

だから立ち上がる。

 

 

そして次のループへ。

 

 

それをくり返すうちに彼女の中に出来上がった防御機構。

それは心折れぬために、くじけない為に作り上げた唯一無二のスケープゴート。

ホムラはほむらを犠牲にし、心の傷を抑える屈強な自分を作り上げた。

何度倒れても立ち上がり、大切な人を救うために戦い続ける魔法少女(スーパーヒロイン)を。

 

単刀直入に言おう。

ほむらはそのアイデンティティ、自己の確立、自我を――。

 

 

『ループをくり返す自分』

 

 

と、してしまった。

つまり暁美ほむらは慣れてしまったのだ。適応してしまったのだ。

もっと言えば、受け入れようとしてしまったのだ。

鹿目まどかを救えず、無限の時間をくり返す自分を。

 

 

 

ループ世界は常に不幸や悲しみがあったわけじゃない。

ほむらでもまた楽しいと思える時間があった。ずっとココにいたいと思わせられる時間軸まで存在していた。

そこに生きるなかで、彼女は少しでも自分が傷つかない様に心の中に『ほむら』を作っていく。

 

だがもちろん焦る時もある。

だからこそ余計に傷つき、傷つけ、そのサイクルもまた一つの負としてほむらが吸収していく。

だがほむらはそれでも変化を恐れるようになってしまった。完全に彼女は回り続けるループの住人になってしまっただ。

 

まどかを救いたい。

 

だが、ずっとこのままが良い。

 

矛盾せし相反する二つの意思。

それはきっとほむらの中に確かに存在している記憶が原因だろう。

一番初めに出会った、救いたかったまどかはもう死んでいる。そしてなによりも――。

 

 

『わたし、魔女になりたくない』

 

 

呪縛。ほむらの中にある、まどかを殺してしまった記憶が鎖となって彼女を縛っている。

ループを終わらせると言うことはそれを確かな真実にしてしまう事だ。

ほむらは、それが一番怖かった。だからループを続ける事に安心を抱いてしまった。

 

戦い続ければ、『まどか殺し』を本当にしてしまうからだ。

そして、その中で始まったF・G。ゲームの中でほむらはより一層の変化を受け、時に過去の弱い『ホムラ』のように慌て、怯えた。

 

そして今、さきほどの『終わり』の危機が訪れようとしていた。

マミに優しくされる。まどかと共に戦える。そしてこれから沢山の仲間ができるかもしれない。

それはほむらにとっても本当に嬉しいことだ。だが一人じゃないという事は、自己完結で終わらせることができないと言うこと。

優しさ、好意、そして希望はある意味、ほむらにとっては何よりもの恐怖だった。

 

できそこないの自分を鏡で見ているようだった。

怖い、嫌だ、そしてその嫌悪感がついに負を一切排除した自分の姿を作り出した。

それこそが過去の愚かで、間抜けで、しかし『白』だったホムラである。

 

みんなは優しいから、怖いほむらよりも間抜けなホムラを受け入れてくれる。

そして罪を抱えながらみんなと笑い合うことは苦しいから、責任をほむらに押し付ければそれでいい。

その逃避の心が彼女の中にほむらとホムラを作ることになった。

 

 

つまり彼女は意図的に二重人格になろうとしているのだ。

それはなによりもほむら自信が強く願っている事だ。

 

いくら強い疑問や文句を言ったところで、まどか達のとなりに並ぶべき『ほむら』が一体どういう姿なのかを、ほむらは、ホムラは分かっている。

ほむらを望んだのはホムラだが、ほむらを拒むのもまたホムラなのだ。

いや、ホムラはまだほむらであり、ホムラは確かにほむらである。

 

 

分かりにくいだろうか? では簡単に言おう。

 

今はまだ、ほむらは二重人格ではない。ほむらとホムラは確かに同一人物なのだ。

そしてワルクチの件も同じだ。確かにワルクチは死をトリガーにしてほむらに寄生した。

しかしワルクチ本人が言っているが、ワルクチはほむらの一部になっただけである。

その役割は心を刺した事をほんのちょっと強調するだけ。ただそれだけなのだ。

 

ワルクチ自身がほむらを追い詰めるなど一度もしていない。

そう見えている様に思えてもそんな事は無いのだ。

苦しみ、苦痛、疑問、恐怖。それらは全てほむら自身が生み出したことなのだ。

 

 

(ほむら)が苦しんでいるのは過去(ホムラ)の意思。罪を無くそうと回帰しようとする自我。

ホムラはほむらを殺す。同じような言葉がある。

トラウマの払拭。ああいや、もっと適切な言葉がある。

 

 

「トカゲの尻尾きり……、か」

 

 

ライアがポツリと呟いた。

はじめから一つだった。ワルクチが耳元で囁く。

 

 

「ほむら、お前はまどかを本気で救いたいとは思っていなかった。救う気なんて無かったんですわ」

 

 

折れる。

 

 

「生まれてきて……、ごめんなさい」

 

 

へたり込んだホムラが涙を流す。

 

 

「そんな事ないよほむらちゃん!」

 

「そうよ暁美さん! あなたは――」

 

 

そう、本気じゃあない。死を口にすれば楽になる。

そして慰めてもらえる。全ては一つ。傷つきつづければほむらが出現し、優しくされればホムラが出てくる。

全ては一つ、自己を守ろうとする事。

 

心を守ろうとすることだ。

 

でなければ無限をくり返した心はとっくの昔に壊れていただろう。

そういえばまどかがパニエロケットから戻れなくなった事、あれと限りなく近いことがほむらにも起こっていたのだろうて。

 

 

「さあ見るがいい、暁美ほむら」

 

 

指を鳴らすテラバイター。

するとテラバイターの体が光となり、エリーの中に吸い込まれた。

 

 

「逃がすか! プロルン・ガーレ!!」

 

 

ニコは指をミサイルに変えて発射。

しかしそれらミサイル群はエリーに直撃する前に次々と爆発を起こして無効化された。

 

 

(……キレそう)

 

 

ついに魔女にすら通用しなくなったとかと思えば、まどかはマミの弾丸もエリーには届かない。

そこで一同は気づく。少し分かりにくいが、エリーの周りに円形状の結界が張られていた。

あれは確か。ニコはゴーグルをかけて周囲を見回す。

すると少し離れたマンションの屋上に上臈小巻の姿を確認する。

 

 

「アイツか……!」

 

 

一方エリーの画面ではゼノバイターが映し出される。

ゲラゲラと笑い、彼は立ち上がった。突風に触角が揺れる。

 

 

『よく見とけよほむらぁ、んで他の参加者共』

 

「!」

 

『全員殺す。子供はそうだなぁ、電車から地面に顔面でも押し付けてやろうかね!』

 

 

画面がグチャグチャになると楽しそうにゼノバイターは笑っていた。

 

 

「待て!」

 

『んぁ?』

 

 

その時、龍騎が声を上げる。

 

 

「無関係な人は巻き込むなよ! 俺がムカツクんなら、直接俺の所に来ればいいじゃないか!」

 

『……ぁ』

 

「お前、卑怯だぞ!!」

 

 

静寂があたりを包む。

画面の中でも、電車が動く音しか聞こえなかった。

 

 

「………」

 

 

ガタンゴトン。

 

 

『………』

 

 

ガタンゴトン。

 

 

『おぉ、おぉ! そうかぁ、いやッそりゃそうだなぁ!』

 

 

ゼノバイターは手で、頭を軽く叩いた。

 

 

『おめぇの言うとおりだわ龍騎ィ、そうそう、そうにちがいねぇ。俺様は卑怯者だ。屑野郎だ! ああ、恥ずかしいなコンチキショウ!』

 

「ッ」

 

『いやこれ――ッ、申し訳ねぇなぁ。しかしあれだな、俺だけに恥をかかせるのはちと止めて欲しいぜ。だから、よ』

 

 

ゼノバイターは、ニヤリと笑う。

 

 

『ここはほれ、男と男の約束でもしようや』

 

「約束ッ?」

 

『ああ。頭でも下げてくれれば、電車のなかにいる奴を殺すのは止めておいてやるよ』

 

「………」

 

 

龍騎は、すぐに動いた。

 

 

「本当に俺が頭を下げれば、関係ない人を巻き込むのは止めてくれるんだな!」

 

「おい!」

 

 

龍騎の背を叩くニコ。

一同は一勢に龍騎を見る。『そんなわけ無いだろ』と言った視線。

まどかやホムラでさえ同じような表情だった。

 

 

『約束してやるよ。男と男のなあ?』

 

 

だが龍騎は一同を落ち着かせ、直後、文字通り頭を下げた。

 

 

「頼む、関係ない人を巻き込むのは止めてくれ!」

 

『……ちと足りねぇな。跪いて両手を地面につけてくれれば誓うよ俺様は』

 

「……分かった」

 

「城戸、そんな事をしても」

 

 

ライアは龍騎を静止させようとするが、龍騎自身がその手を止めた。

 

 

「いいんだ手塚。向こうもそれで止めてくれるって言ってるんだ」

 

「しかしだな!」

 

 

ニコも割って入る。

 

 

「おいマジでアホかよ! そんな事をしてもあいつらは絶対――ッ!」

 

「いいんだ、俺は信じる戦いを選んだから、魔獣を信じたい」

 

『ほ――、ホホッ! あ、いや、なんでもねぇ! そうだ、そうだな、立派だぜ龍騎!』

 

 

やっべぇええええええ!

コイツマジでやべぇわ! ギャハハハハハ! なに? マジで言ってんのかこのバカは!

ヒィィッハハハ! やっべ、マジで笑いが零れる! やべ、やべー、まだ笑うな、まだ笑うんじゃねぇぞ俺様!

ちゅーか、テラのやつぁもうエリーん中で大爆笑じゃねぇか。あああああ羨ましいぜオイ!

 

守るわけねーだろうがそんなクソみたいな約束。

何が魔獣を信じたいだよ。勝手に信じてろよカースッッ!

 

ぶっ殺すからな。

俺様マジでぶっ殺しまくるからな。決めた! 一人ずつ丁寧にカメラの前でぶち殺してやろうっと!

そうすりゃあのバカもっと絶望するぜ! 一人一人電車から引きずりまわしてミンチにしてそれでハンバーグ作ってあのバカにお届けしてやるぜ!

 

 

――等と、ゼノバイターが考えていると、龍騎が動いた。

しかしそれは土下座をするためではない。軽く下げていた頭を上げて、普通に立つ。

 

 

「そうだな手塚、ニコちゃん。俺、やっぱ止めるわ」

 

『は?』

 

「時間は十分稼いだし」

 

 

世界を反射するビルから、赤い龍が飛び出したのはその時だった。

ドラグレッダー。彼は咆哮と共に真っ直ぐにゼノバイターに向かう。

そしてそのまま呆気に取られていたゼノバイターに突進を仕掛けると、電車の上から突き落とした。

 

 

「んがぁあ!!」

 

 

線路の上に倒れるゼノバイター。

そこへ追撃の火球が着弾する。小規模の爆発が起き、ゼノバイターの悲鳴が聞こえる。

 

 

『なんだ!』

 

 

エリーの中に入っていたテラバイターが叫んだ。

そしてすぐに思い出す龍騎の言葉。時間は十分稼いだ――。

つまりなんだ、はじめから龍騎はゼノバイターが約束を守る気がないと知っていた?

 

 

「ひゅーっ! やったな真司。ニコちゃんなんちゃら賞もらってもいいんじゃねぇ?」

 

「ああ、ありがとうニコちゃん。手塚も助かったよ」

 

「ああ。占いは相手の様子を伺うことが大事だからな」

 

 

え? え? え?

まどか、マミ、ホムラはまだ分かっていないようだ。

正解は単純。まだゲームは始まっていない、つまりそれはキュゥべえ達が与えたテレパシーが使えるという事だ。

 

簡単に言えば手塚とほむらだけが使えるトークベントを、現在は事情を知っている魔法少女と騎士全員が使える事となる。

龍騎とライアとニコは素早く作戦を伝え合った。

とにかくゼノバイターの動きを止めて、ドラグレッダーが駆けつける時間を稼ぐ。

つまり、それすなわち。

 

 

「全部演技だよ。クズ」

 

 

ニコは、ゼノバイターを見て笑った。

 

 

「酷い! 私達にも教えてくれればよかったのに!」

 

「敵を欺くにはまず味方からだろ。キミらは騙されたほうが輝くから」

 

「ああそうですか!」

 

 

ぷんぷんと頬を膨らませるマミ。

一方でゼノバイターは怒りに吼える。

 

 

『龍騎テメェ! 約束を破るのかよ!!』

 

「知るかよ! ッて言うか、お前が言うな!!」

 

 

そもそも何故謝らなければならないのか、と言う話である。

 

 

「そ、そうですよ、頭も下げなきゃ良かったのに……!」

 

「いや、まあそりゃあ良いんだよホムラちゃん。じゃないと時間稼げそうに無かったし」

 

 

確かに魔獣に頭を下げるのは屈辱だが――

 

 

「魔獣から人を守れるなら、俺のプライドくらいどうって事ないよ」

 

「……!」

 

 

その時、僅かにホムラの目に光が宿った。

一方でさらにゼノバイターは激高する。

 

 

『ゆるさねぇぞ! 嘘をつきやがって、このクソ野郎!』

 

「クソはお前の方だろ! だいたい俺は嘘なんてついてない!」

 

 

龍騎の――、真司の『本当』はただ一つ。

 

 

「お前ら魔獣を全員ぶっ倒してやる! それだけだ!」

 

『テンメェエエエエエエエ!!』

 

 

その時、二発目の火炎が上空から飛来した。

だがドアをノックするように手を振り、ゼノバイターはその火球を消し飛ばす。

 

 

「ミラーモンスターごときがッ!」

 

 

ブーメランを取り出すゼノバイター。

龍騎の狙いは分かる。ドラグレッダーがゼノバイターをミラーワールドに送り込めばそれでいいのだろう。

だがしかし、逆を言えば今はミラーモンスターだけ。

 

 

「負けるわけねーだろうが俺様がァア!!」

 

 

踏み込み、ブーメランを投げる。

青い旋風は猛スピードでドラグレッダーに向かい、直後尾の刃とぶつかり合った。

 

 

「死ね」

 

 

手を前に出すゼノバイター。

瘴気のエネルギーがブーメランに送られ、禍々しく、巨大になっていく。

 

 

「グォオオォォォォ!」

 

 

見よ、強化されたブーメランがドラグレッダーの尾を砕き、そのまま体を一刀両断にした。

ドラグレッダーは咆哮を上げながら爆発。粉々になり直後、消滅する。

 

 

「ッ、ドラグレッダー!」(ごめん――ッ!)

 

 

ミラーモンスターは騎士と一心同体であり、魂をエネルギーとしている。

だからたとえ死んだように見えても24時間で再生されるのがルール。

しかし騎士のエネルギー源はミラーモンスターである。それを失えばどうなるのか、それは赤い色が消えていく龍騎を見れば明らかだろう。

 

 

「ッ!」

 

 

龍騎は力を失い、ブランク体へ。

 

 

「さて、邪魔者も消えたし、今度こそぶっ殺してやろうかねーッ!」

 

 

呼び出したギーゼラに跨り、ゼノバイターはアクセルを煽る。

そして加速。魔女のスピードは高く、みるみる電車に追いついていく。

飛び道具で直接粉砕しても良かったが、それじゃあゼノバイターの気がすまない。乗客一人一人を切り刻み、それを龍騎に見せない限り――。

そして電車が間近に迫ったとき、一つの変化が起きた。

 

少し考えてみて欲しい。

いくら龍騎といえど、サバイブと互角であったゼノバイターをドラグレッダー一体でどうにかできるとは思っていない。

 

ではなぜ、わざわざブランク体になる危険性をはらんでまでドラグレッダーを向かわせたのか。

それはあと一歩の時間稼ぎである。テレパシーで作戦を伝えたのは四人だ。

真司、ニコ、手塚。そして――。

 

 

「なにッ!?」

 

 

ゼノバイターは電車のガラスに自らの姿を見た。

するとその時、ガラスからハサミが伸びる。

 

 

「うごッ!」

 

 

ハサミはゼノバイターの顔を挟むと、そのまま電車の中に引きずりこむ。

 

 

「うォオっと!」

 

 

転がる。ゼノバイターはすぐに立ち上がり状況を確認。

 

 

「やられた! ちくしょう!!」

 

 

車内は空。当然だ、ココはミラーワールド。

運転手のいない電車が走り続けているだけの空間。

 

 

「城戸くんは私に大切な事を教えてくれた人です」

 

「!」

 

 

そしてゼノバイターの前には。

 

 

「そんな彼のプライドを傷つけたバツは、私が与えてあげましょう」

 

「須藤!!」

 

 

そう、須藤もまた警察署から現場に駆けつけていた。

そして全て聞いている。

 

 

「さっさと消えろよカスがァア!」

 

 

ゼノバイターはブーメランを弓に変えて瘴気の(レーザー)を発射した。

直線のそれは一瞬でシザースの前に到達し、着弾するはずだった。

 

しかし、シザースの体が発光するとレーザーが斬撃音と共にバラバラになっていく。

そう、シャキンシャキンシャキンと小気味の良いリズムで発生した音だ。

同時にシザースバイザーが消え、シザースの前に大きなハサミが現れる。

刃を繋ぐ部分にはカードを入れるところがあり、シザースはそこへ一枚のカードを装填する。

 

 

【サバイブ】

 

 

強化される装甲。シザースは、シザースバイザーツバイを手に取ると、分離させて二刀流モードへ。

そして走り出し刃を振るう。火花が散った先、そこには同じく二対の刃を手にするゼノバイターが見えた。

言葉も無くお互いは次の刃を相手に刻みつけようと存分に振るう。

しばしの間、乱舞。無人の電車のなかで斬撃音だけが響き渡った。

 

 

(あら? 意外と強いなコイツ……!)

 

 

ゼノバイターは呆気に取られていた。

因果律と言うやつなのか。須藤とマミは多くの時間軸で序盤、言うても中盤には退場するケースが多かった。

けれども今、刃を交えて思うのは、なかなかどうして須藤――、つまりはシザースの実力だ。

 

刃を向ければ必ずそれこに合わせて刃が飛んでくる。

しかし考えてみれば須藤は刑事。騎士の中では変身前がトップクラスの実力を持つものではないか。

なるほど。であればこの力は納得がいく。

 

 

「おろッ!?」

 

 

胸に激しい痛み。

おお見よ、シザースバイザーツバイの一刀がゼノバイターの胸を切裂いたのだ。

入った。まともに受けたダメージ。瘴気が火花の様に散る。

 

 

「あらあらあら」

 

 

まいったね、こりゃ。

――であれば。

 

 

「ちょいとギア上げていくぜぇ!!」

 

 

所詮、参加者。ゼノバイターの体から瘴気が溢れる。

持っていた刃が強化され、ゼノバイターはそれをブーメランモードに変形させる。

そしてつり革を掴むと、ターザンの様に勢いをつけてシザースに蹴りを打ち込んだ。

 

 

「うッ!!」

 

 

衝撃と車内ゆえの足場の悪さ。シザースは大きくよろけて後退していく。

一方で右シートの上に飛び乗り走るゼノバイター。シートの上に――、それは一見すると意味のない行動に思えるが、要するに端に寄るという事だ。

 

 

「!?」

 

 

シザースの視線が左(ゼノバイターから見て)に向けられる。

と言うのも、右シートに乗ったゼノバイターが触角を伸ばして左の窓を割ったのだ。

何も知らないシザースはゼノバイターのいる位置と反対の場所に物音がして、援軍がきたのかと予想する。

しかしその真意はシザースの注意を反対に向けさせる事。その際に生まれた僅かな隙を、ゼノバイターは突こうというのだ。

 

 

「人間なんざ俺様の相手じゃねぇんだよ!!」

 

「グッ!!」

 

 

シートを蹴って前宙。網棚に飛び乗ると高速の匍匐前進で一気にシザースの背後に回る。

一方でシザースはゼノバイターを攻撃しようと剣を振り上げた。しかしそこで気づく、激しい抵抗感。

 

と言うのも、シザースバイザーツバイの刀身の長さが、天上を捉えてしまったのだ。

振り上げた刃はゼノバイターに届く前に、つり革を垂らす鉄棒に届き、さらにそのまま天上に届いて刃を車体に食い込ませる。

 

 

「しまった!!」

 

 

シザースバイザーツバイをまだ扱いなれていないシザースだからこそ起きたミス。

狭い車内での戦闘、武器のリーチからくる距離感を把握しきれていなかった。

大きく鈍るシザースの動き、一方でゼノバイターは網棚から転げ落ちるようにして落下。その着地地点はなんとシザースの肩。

 

 

「グッ!」

 

「いくら強化されてもカスはカス!」

 

 

肩を踏みつけ、シザースを強制的に膝をつかせた。

そして今度こそ完全に着地したゼノバイターはブーメランを構えたまま前宙。

自らが回転ノコギリとなってシザースを狙った。正確には狙ったのはシザースの右側。

シザースは防御しようにも、右手に持っていた剣は現在、電車の天上に食い込ませてしまっている。

 

そして肩を踏まれた際、柄から手を離していた。

つまり現在、シザースは右手に何も持ってはいないのだ。

 

 

「ぐああああああああああああ!!」

 

『須藤さんッッ!!』

 

 

マミの悲痛な叫びが聞こえた。

声が上ずり、掠れるのも無理はない。なぜならばブーメランの一撃を受けたシザースの右腕が切断されたのだ。

地面に落ちるシザースの右腕。なんと言うことだ、シザースは防御力が高いのが特徴なのに。

 

 

「やっぱ俺様の敵じゃあねぇよなァアア!!」

 

「ぐっ! うぅぅあぁ!」

 

 

ああ、なんてことだ。大変な事になってしまった。一同の背にゾッとする冷たいものが駆けた。

魔法少女ならば肉体が損壊してもソウルジェムの力で時間とともに再生されるが、騎士はそうもいかない。

もともとの防御力は魔法少女よりもはるかに高いが、一度体を失えば修復はほぼ不可能である。

 

絶望と激痛に呑まれたのか、シザースは両膝を床につけて停止した。

左手に持っていたシザースバイザーツバイも床に落とし、左手で右の腕があった場所を抑えている。

 

 

「ハハハハハハハ! 馬鹿な奴だぜ須藤! 格好つけて出てきた割りにはそれかよ!!」

 

 

既に戦意が喪失している。後は殺すだけだ。ゼノバイターはブーメランを構えた。

すると腹部に衝撃が走る。見れば、シザースが動いていた。

まさに一瞬の出来事だった。シザースは『右手』の拳をゼノバイターの腹部に打ち込んでいたのだ。

 

 

「な、なんだとッッ!! なぜだこりゃぁ――」

 

「食らいなさい、魔獣ッ!!」

 

 

その時、シザースの右腕が体から分離された。

そして右腕は断面図から火を噴かせ、そのままゼノバイターに拳を抉り込んだまま飛んでいく。

 

 

「お、おぉぉぉ!?」

 

 

ガラスを、車体を突き破り、ゼノバイターは外に放り出された。

腹部には相変わらずシザースの右腕があり、ロケットの様に火を灯して飛んでいる。

 

 

「な、なにがどうなってやがるッッ! グッ! アァァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

叫びながらどんどんとゼノバイターは空中を飛んでいく。

そして近くにあったビルのガラスを突き破り、ビルの中に入っていった。それを見ながらシザースはなんなく立ち上がり、電車を飛び出して線路の上に転がった。

右手と左手、今のシザースにはその両方が存在していた。

 

 

自切(じせつ)という言葉があります」

 

 

カニは敵に襲われた時、自らのハサミや足を切り離して囮にする事ができる。

そして脱皮をする事で、失った脚やハサミを再生させる事ができるのだ。シザースにはその能力が存在していた。

そしてサバイブの場合、それを攻撃に使用する事ができる。カードを使わずとも元々備わっている機能、簡単に言えばロケットパンチである。

 

ロボットアニメの様に切り離した部分を飛ばして攻撃する事ができる。

シザースは関節的につながっている部分ならば全て意図的に切断でき、一瞬で再生させる事ができるのだ。

 

 

【ブラストベント】

 

 

シザースバイザーツバイは中央にカードを読み込む部分がある。

そして分離させた時は、左右どちらかの柄の上部にあるカード読みこみ部分に『スラッシュ』させる事でアドベントカードを発動させる。

現在使用したのはブラストベント。シザースの隣にボルランページが出現し、右手のランチャー砲からオレンジ掛かった黄色、白、茶色のエネルギー弾を無数に発射。

光球は不規則な動きをしながら高速でゼノバイターが進入したビルへ飛来し、そのまま次々に着弾していった。

その威力は高く、ビルの窓ガラスが次々と割れ、煙を上げながら崩落していく。

 

 

「ヌァアア! ッざけんじャねェエエエ!!」

 

「!!」

 

 

崩落の瞬間、シザースはゼノバイターの姿を捉えた。

ギラリと、文字通り目が光る。すると刹那、青黒いレーザービームが目の部分から発射された。

所謂『ふいうち』の隠し武器と言ったところか。たっぷりと瘴気を纏い、濃密な殺意を宿した光線はシザースの腹部、デッキを的確に撃ちぬくと、爆発を起こす。

 

 

「な――ッ! ぐッッ!!」

 

 

確実に数百メートルは離れているのにゼノバイターは的確にレーザーでシザースのデッキを撃ったのだ。

煙を上げてひび割れるデッキ。シザースは驚愕の声を漏らす。サバイブになればデッキの強度も跳ね上がる。

しかしそれでもシザースのデッキには亀裂が入り、欠片が地面に落ちた。

 

 

「まずいか……!」

 

 

線路を飛び降りると高架下にあるカーブミラーに飛び込むシザース。

現実世界に戻ると、まもなくしてデッキが粉々に砕け、変身が解除された。

 

 

「なんて奴だ……!」

 

 

デッキの破壊によりシザースはこれより24時間の間、変身ができなくなる。

問題はゼノバイターを倒せていないという事だ。瓦礫の下に埋もれているだろうが、生きている事にはかわりない。

しかもミラーワールドは一定の時間が経てば解放される仕組みになっている。

その前に星の骸への帰還時間を迎えなければ、現代の世界に魔獣が解き放たれることになる。

 

 

「サバイブに甘えてはいけない、そういう事ですか」

 

 

踵を返す須藤。

するとその時、コートの中にいれていた携帯が震える。

 

 

「ッ、はい。もしもし」

 

 

向こうの声を聞いて、須藤は目を細めた。

 

 

「わかりました。ありがとうございます……!」

 

 

 

 

 

 

 

一方でテラはエリーの中から状況を確認する。

ゼノバイターの撃退に成功したのを映し出してしまい、大きな舌打ちを零していた。

 

 

「流石は須藤さん!」

 

「チッ、あの役立たず……!」

 

 

マミ達の笑顔が癪に障るところだ。

 

 

「さあ、これで人質はいないな。さっさと殺してやるから降りてこい」

 

 

手招きをするニコ。

ミラーモンスターを失い龍騎はほぼ戦闘不能となったが、それでも人数有利である事にはかわりない。

だが画面に映ったテラバイターは笑っていた。

 

 

「やめておくわ」

 

「!」

 

 

矛盾。やめておくと言った瞬間、エリーは黒い翼を広げてまどか達に突進していった。

速い。だが直線。狙われたまどかはアイギスアカヤーを発動。

盾を持った天使が前方に出現し、真正面からエリーを受け止めた。

巨大な盾にぶつかったエリーは悲鳴をあげながら吹き飛んでいく。

するとエリーの周囲に無数の魔法陣が出現し、そこから黄色いリボンが伸びていく。マミの拘束魔法によって雁字搦めに縛られたエリー。

 

 

「ハァア!」

 

 

マミはそのままエリーを地面に叩き付けた。

その時、ハッと周囲を見回す龍騎。ライアはへたり込むホムラの傍にいる。

ニコは戦闘は得意ではない。と言うことは、この状況で止めを刺すべきなのは――ッ!

 

 

「よ、ようし! 俺に任せろ!!」『ソードベント』

 

 

空中から旋回し、龍騎の前に突き刺さったのは随分とシンプルな剣、ライドセイバー。

龍騎はそれを引き抜くと、雄たけびを上げて走りだす。そして思い切りライドセイバーを振り下ろし――

 

 

バキンッ!

 

 

「やっぱりなーッ!」

 

 

エリーを攻撃した刃はいとも簡単に折れて宙を舞う。

なんとなく分かっていた。龍騎はアワアワと後退していくのみ。だがしかしそこで肩に衝撃が走る。

ニコだ、彼女が龍騎の肩を蹴って飛び上がったのだ。ニコの眼前にあるのは叩き折れられ、宙を舞うライドセイバーの刃。

 

 

「―――ッ」

 

 

ニコは刃を思いきり蹴り飛ばす。

さらにキックの瞬間、ニコは再生成の魔法を使用。

折れた刃を槍に変えると、そのままエリーの方へシュートする。空中を切裂いた鋼の槍はそのままエリーに突き刺さると、そのままその肉体を貫いた。

 

 

「おぉ! ニコちゃんナイス!」

 

「……や。おかしいな」

 

「え?」

 

 

意味を察したのか、マミ達も地面を蹴ってニコの方へ駆け寄る。

違和感。あまりにもエリーが弱すぎる。仮にもコアグリーフシード産の魔女のはず。

すると気づいた、ニコの前に転がっていたのは魔女ではない、ただの古い『テレビ』だった。

 

 

「やられた」

 

 

ニコは地面に転がっていた石を蹴り飛ばし、苛立ちを露にした。

 

 

「………」

 

 

その中でライアは淡々としている。

なにか炎が燃えていない。そんな様子である。

考えてみれば本気でテラバイターを追い詰めようと言う気がなかったようにも思える。

が、もちろんそれは客観的な感想でしかない。

本当の気持ちはライアにしか――、いやライアにも分からないものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン、困ったものね」

 

 

箱の魔女、エリーについては色々と訂正しておかなければならない。

まず一つ、エリーは翼など生えていない。確かに翼として使用しているものの、黒い翼に見えるのはツインテール――、つまり髪の毛だ。

 

その本体は人形のような体。

そして顔を覆い隠すほどの黒髪をツインテールにし、赤いリボンが特徴的な魔女だった。

とは言え、エリーは本体のまま外に出る事を極端に嫌う。故に今までは画面と言う寄生先と共に倒されてきた。

しかし現在、エリーの主導権はテラバイターが握っている。

 

テラバイターはエリーの力を使い、電脳世界を介して逃走したのだ。

エリーはまるでコンピューターウイルスのようにネットの世界を伝って移動する事ができる。

対象とする『画面』を持つものにネットがつながっていなくとも、見滝原にあふれる無線やwifiに寄生し、テラバイター達はアジトに戻った。

 

アジト――、とは、先日襲った幼稚園バスである。

今は見滝原の端にあるゴミ捨て場に停めてある。不法投棄も多いのか、緑のフェンスに囲まれたゴミの山には誰もやってこない。身を隠すには丁度良かった。

 

 

「さてと」

 

 

適当なシートの上に座り、足を組むテラバイター。

一方でエリーは体を隠しながら恥ずかしそうにしている。

バスの中にはテレビやパソコンのゴミが散乱しており、エリーは適当に一つを取ってそこに寄生。

すると画面からツインテールの翼が生え、エリーは再び箱の魔女として覚醒するのだ。

 

 

一方で倒壊したビルの下敷きになっているゼノバイター。

いくら強い力があろうとも、重さには勝てないのか、うつ伏せのまま沈黙している。

すると脳内に響くテラバイターの声。

 

 

『ゼノ。随分と惨めな姿ね』

 

『うるせぇ、すぐにリベンジかましてやるよ』

 

『いいえ。いずれにせよそこから戻れたなら一旦引きなさい』

 

『はぁ!? おい何でだよ! 俺にも殺させろよ!』

 

『馬鹿ね。我らの狙いは参加者の殺害ではない。"アレ"の回収よ』

 

『……!』

 

『万が一と言う事は十分考えられるわ。現に油断が原因でシュピンネもアルケニーも死んだの。ギャンブルにおいてもっとも愚かな事は――』

 

『わーってる! 目先の欲に負け、痛い目を見る事だろ』

 

『そう。引き際を弁えた者こそが勝利を手にするのよ』

 

『チッ! まあいいだろう。確かにあれが完成すりゃあ、俺様たちはより上を目指せる』

 

『そう、あれを利用しない手は無いわ。だから――』

 

『分かったよ。クソ、覚えてやがれよあいつ等!』

 

 

そこで会話は途切れた。

テラバイターは唸り声を上げると、シートからゆっくりと立ち上がる。

 

 

「そろそろ決めるわ。死の運命に食われろ、暁美ほむら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのホムラは流れる川をボウっと見ていた。

ずいぶんと寂しげな背中である。まどかが声をかけようとすると、マミとニコに肩をつかまれた。

 

 

「今は一人にしてあげましょう」

 

「でもッ」

 

「マミの言うとおり。もしもあのレベルの言葉で折れるようじゃ、この先の戦いには絶対についていけないだろう。いらないよ、そんな奴」

 

「酷いよニコちゃん。声をかけるくらい――、してもいいでしょ?」

 

 

まどかはホムラに駆け寄ると、背中をさすって微笑みかける。

 

 

「大丈夫、ホムラちゃん」

 

「あ、うん。ありがとう鹿目さん」

 

「魔獣の言うことなんて気にしなくていいんだよ?」

 

「でも――」

 

「え?」

 

「ううん、なんでもない。ありがとう鹿目さん」

 

「……う、うん」

 

 

曖昧な笑みが飛び交う。

ホムラはふと、まどか達に相談をした。

 

 

「気分が悪いから、ちょっと遅れて学校に行くね」

 

「………」

 

 

そう言われては、まどかは戸惑うばかりである。

結局まどか達はホムラを手塚に任せて学校へ向かう事に。

真司もOREジャーナルに遅れそうだと、慌ててスクーターを走らせていった。

 

 

 

 

 

その中、校門前でまどかが呟く。

 

 

「どうしたらいいのかな、マミさん」

 

「え? なんの事」

 

「うん。わたしはホムラちゃんの力になりたいんだけど……」

 

 

まどかがホムラに笑いかけたとき、ホムラは確かに苦しそうな表情を浮かべた。

関われば関わるほど、ホムラにとっては負を刺激する事になるのだろうか。まどかはそれが少しショックである、と。

 

 

「私も同じよ。鹿目さん」

 

「え? マミさんもですか?」

 

「そう。暁美さんを気にかけようとしていても、たぶん、恐れているのかもしれないわね」

 

 

どう接してあげればいいのか、何をしてあげればいいのか、それがまるで分からない。

今のホムラは繊細だ。それはきっと傷つけようと向けられた言葉(やいば)の中に真実が混じっているからだろう。

ホムラはきっと罪悪感や自己嫌悪を抱いている。そんな状態の彼女に、『あなたは悪くない』なんて、まるで傷口に塩を塗りこむようなものではないのだろうか、と。

 

 

「あーあ、せっかく生き残ったのに、まるで役に立ってないわね私。駄目な先輩だわ」

 

「そんな事ないですよマミさん! もう、二度とそんな事言わないでくださいね!」

 

「……ふふっ、そうね、ごめんなさい鹿目さん」

 

 

そして。

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

自虐とは自分を落として上げる面倒な方法なのだ。

だが人は時に自分を傷つける事で自己を保持する。面倒な生き物である。

そのホムラは今、二つの缶ジュースを持って歩いていた。川沿いに並べられたベンチの一つに手塚が座っており、ホムラは隣に腰掛ける。

 

 

「これ、あの、えと、その、な、な、なんていうか、あの」

 

「………」

 

「――、ご、ごめんなさい」

 

「な、なんでそうなる。どうしてジュースを二つ買ってきたんだ?」

 

「あ、あ、あ、あの、これ、前のアイスのお、お礼です」

 

「くれるのか? ありがとう、頂くよ」

 

「は、はい……!」

 

 

ホムラは少し嬉しそうに微笑むと、ジュースの蓋を開け――

 

 

「ぴ、ぴゃう!!」

 

「!?」

 

 

ホムラが買ってきたのは炭酸ジュースであるが、それが噴水のようにホムラの顔に直撃する。

ベタベタになったホムラはメガネを光らせたまま停止。手塚も口を開けたまま停止する。

 

 

「ど、どうして……」

 

「自動販売機からココまで二回くらい転んじゃって……」

 

 

つまりそこでシェイクされてしまったのだろう。

 

 

「大丈夫か? 結構濡れているが……」

 

「あ、あ、あ、盾の中に予備の制服がいっぱいあって……」

 

「じゃあ大丈夫だな」

 

「は、はぃはぃ」

 

 

そこでまた、ホムラは表情を曇らせる。

 

 

「ハァ、本当に私って、何をやってもダメですね」

 

「………」

 

「こんな間抜けな事、中学生にもなっても、本当バカで、屑で」

 

 

その時だった。何かが弾ける音。驚いた表情を浮かべ、ホムラが隣を見ると、そこにはベタベタになっている手塚がいた。

 

 

「あ! あ、あ!」

 

「……素で間違えた。そうか、そうだな、そりゃあお前が運んできたんだから俺の分もこうなるよな」

 

「ご、ごごごごごごごめんなさい! わ、わ、私のせいで!」

 

「そんな訳ないだろ。お前の失敗を見ておいて学習しない俺のせいだ」

 

 

ホムラは猫がかかれたハンカチを手塚に差し出した。それで顔を拭きながら、手塚は淡々と口にする。

 

 

「自分を下げる事は簡単で、それは時に自分を楽にしてくれる。まあ遠慮は大事だな。偉そうにする奴は不快だ」

 

「え? あ、その、それは」

 

「だが言っただろ。下げすぎるのはよくない。自分にとっても、相手にとっても苦しくなるだけだ」

 

「……ッッ」

 

「お前は自分をバカだの屑だのと言うが、じゃあお前と一緒のミスをした俺もバカで屑か。いや、もっと言えばお前のミスを見ておいて学習しなかったんだから大馬鹿か」

 

「そ、そそそそんな! もとはと言えば私が転んだからいけないんです!」

 

「だれにだってミスはある。俺だって転びそうになったことくらいあるさ」

 

「で、でもっ、だけど……!」

 

「じゃあ聞くか? 俺が何も躓くものがないフラットな駅のホームで転びそうになったが、なんとか堪えて余裕である事をアピールするため口笛を吹いていたら女子高生が笑っているからなんだと下を向いたらチャックが開いていてパンツが丸見えだった話を……!」

 

「そッ、そんな過去が――ッッ!!」

 

「黒歴史だ。頼むから誰にも言うなよ。俺の長年掛けて積み上げてきたイメージが崩れるからな」

 

 

早口で消し去りたい過去を口にしていく手塚。

人間いろいろあるものだ。語らないだけで、前に出さないだけで、恥の過去くらい腐るほどある。

 

 

「別に、いいんじゃないか」

 

「え?」

 

「ほむらでも、ホムラでも、お前はお前だろ」

 

「………」

 

 

良いところ悪いところ全部含めて一人の人間だ。

だからもう、いいじゃないか。お前が少しでもそっちの方がいいと思う自分でいればいい」

ホムラでもほむらでも、ほむらでもホムラでも。

 

 

「自分に嘘をつく必要はない。お前がホムラのままでいたいなら、それでいいだろ」

 

「手塚さん……」

 

 

その瞬間、イチリンソウの花畑では大きな笑い声が響く。

 

 

「聞いたか! お前は最早パートナーにさえ拒まれたのだ!!」

 

「ッッ!!」

 

 

ワルクチを激しく睨み返すほむらだが、その実、内心にはチクリと胸を刺すものがある。

確かに――、手塚ならばとどこかで期待していたのか。それとも、それは図星を突かれたからなのか。

そうしている内に、画面の向こうの手塚が言葉をつむぐ。

 

 

「自分の全てを愛そうなんて別に思う必要はない。嫌いな部分は嫌いでもいい」

 

「……そう、ですか」

 

「だが、自分で自分を殺そうとする事だけは止めておけ」

 

「え?」

 

 

自傷行為もまた、自虐の一つか。

しかしそれが行き過ぎれば待っているのは死、自殺だ。そうだろう?

それは最も愚かな事だと手塚は説いた。そのとき一瞬だけ、脳裏に自分で命を断った親友が映った。

 

 

「お前には、一番の味方が誰か分かるか?」

 

「味方、ですか?」

 

「そうだ。親じゃない、ましてや親友でもない、それは自分自身だ」

 

「私、自身……?」

 

「自制は、努力は、自分を苛める事じゃない。自分をより良いものにするための過程だ。俺達は面倒な生き物で、自分でも自分の事が分からなくなる」

 

 

だが少なくとも、他人よりははるかに理解しているはずだろう。

 

 

「そんな他人の俺が見ても、お前は自分で自分を意味無く追い詰めているように見えるぞ」

 

「それは、でも、わ、わ、私は、えと」

 

「もっと楽に生きればいい。幸いな事に周りはそれを許してくれる奴らばかりだ。それを利用しない手はないだろう」

 

「で、ででででも、でもっ」

 

「反論できるならお前はその思いを形にするか、意識すれば良い。そこに自己を否定する言葉は欠片もいらないと思うぞ。俺は」

 

「………」

 

「ホムラには欠点もあるが、ほむらよりも勝る部分はある。逆も同じだ。それじゃダメか?」

 

「ダメ――? わ、分からないんです」

 

「なら今はそれでもいいじゃないか。生き急ぐ必要はない。保留することもまた、一つの答えだろ」

 

「で、で、でも、それは、苦しいです」

 

「?」

 

「ほ、本当は分かってて。いるんです、今、私の中に、それは少し曖昧だけど、それでも、ううん、私にはハッキリ分かるんです」

 

「どういう事だ?」

 

「ほむらが――、いるんです。心の中、かな? ううん、えぇと、とにかく胸の奥に」

 

 

そこにはもう一人、クララドールズみたいな自分がいて、今の自分を見て笑ったり、起こったり、馬鹿にしたり。

そんな説明。つまりホムラはほむら達の会話を全て知っていた。

当たり前だ。それは自分自身の事なのだから。

そう、もう一度言うが、ワルクチは欠片とて嘘をついていない。

 

クララドールズワルクチの能力を簡単に言うのであれば、死亡した際に相手にとりつき、『ワルクチに敏感』にさせるのだ。

つまり自虐的な人間ほど勝手に自滅していくという訳だ。

 

 

「苦しむな。自分は自分の最大の味方でいてやれ。嫌なら目を逸らせばいい、逃げても良い」

 

「は、はい……。で、でも、どどどどうすればいいんでしょう」

 

 

劣等感に潰れそうで、罪悪感に壊れそうで。

 

 

「そうだな、なら向き合えば良い」

 

「え?」

 

「魔獣が生まれたのはお前のせいだ」

 

「ッ」

 

「だが、だからどうした?」

 

「え?」

 

「自分の責任にしたから何かが変わるのか? 死んで詫びるか? それこそ死は最大の逃げでしかないだろう。お前が今やるべき事は、魔獣を潰す事だ」

 

「ッ」

 

「まどかになろうとするな」

 

「!!」

 

「過去を後悔するより、積み上げてきた事を誇りに思え」

 

 

 

悲しみだけじゃなかった。無意味さだけが残るわけじゃない。

 

 

「とりあえず今は、新しい目標を見つけたらどうだ?」

 

「?」

 

「お前は鹿目を守るために戦ってきた。逆を言えば、鹿目を守ると言う事を盾にしてきた」

 

 

今、ほむらが苦しんでいるのはその盾がなくなってしまったからだろう。

なぜならばほむらが戦ってきたのはまどかを守るため、しかし以前にも言われた通りまどかはもう守られるほど弱くは無い。

 

そもそもほむらは契約を止めるために戦っていたが、なにをどうやってもまどかは契約済みであり、概念として存在していた故のスペックがある。

つまり、ほむらの願いは消え去ったのだ。

 

 

「願いは欲望だ。生にしがみ付く強い想いがそこにはある」

 

「じゃあ、私はもう、ただの人形ですね」

 

 

まどかに必要とされなければ、ほむらである意味もない。

 

 

「違う。それをお前は思ってきたんだろう?」

 

「……ッ、それは」

 

「新しい願いをもう一度、頭の中に思い浮かべるといい」

 

「……!」

 

「なにより、お前が守ろうとした人は。お前に力を貸してくれた人は、格好悪いお前の姿を見て軽蔑するような奴なのか?」

 

 

ホムラは納得したように頷くと、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「こ、こ、怖いけど」

 

「!」

 

「ま、まだッ、いろいろ分からないけど――ッ!」

 

「ああ」

 

「とりあえず――ッ、がッ、学校に行ってきます!」

 

「それがいい」

 

 

ホムラはペコリと頭を下げると、見滝原中学校を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれま転校生、今日は随分と印象が違うじゃん」

 

「は、は、はい!」

 

 

ホムラが学校についたのは一限目が終わったところだった。

髪型は雰囲気がまるまま変わっていたので、周りはザワザワとホムラを見ている。

その中でばつが悪そうにホムラは引きつった笑みを浮かべていた。

とは言え、思い出すのは手塚の言葉。まどかになろうとするな、そして新しい願いの事。

だからホムラはぎこちないながらも、引きつりながらも、しっかりと笑みをさやかに向けた。

 

 

「お、おはようございます。変、ですか?」

 

「あ、いやッ、ごめんごめん。変じゃないよ。そういうのも可愛くてありかもね!」

 

 

言葉を返せば言葉が返ってくる、それはあたりまえだが、なかなか難しいものなのだ。

そうしているとチャイムがなる。席につき、ノートパソコンを広げていく生徒達。

まどかも、ホムラも、さやかも、そして清明院からはネットを中継して仁美や中沢達も授業を受ける。

 

一方で時計を確認する者が。

テラだ。殺した職員から奪い取った腕時計を見つめ、唇をニヤリと吊り上げる。

 

 

「この時間、見滝原中学校は授業中でしゅ……!」

 

 

その隣にはエリー。

テラはダークオーブを構え、エリーの力を最大限に解放する。

エリーは電脳世界を解して『画面』の中を移動する事ができる。

さらにインターネットに通じていれば各パソコンやテレビにハッキングする事も可能である。

現在見滝原中学校では仁美と中沢のためにインターネット授業を行使しており、エリーが忍び込むのはあまりにも簡単だった。

 

エリーの画面が光り、そこに映し出されたのは分割された画面。

見滝原中学校の生徒達が使うパソコンが魔女の力にてジャックされる。

ノートパソコンには多くの場合、内臓カメラが存在しており、エリーのモニタには授業を受けている生徒達の顔が一勢に表示された。

 

間抜けな表情で聞いている者。

真剣な表情で聞いている者、居眠りをしている者。

多くの生徒達がいるなかで標的を見つけていく。

 

 

「ククク! 大変でしゅね、学生は律儀に学校にいかなきゃいけないなんて!」

 

 

決着をつけようではないか。

テラは下卑た笑みを浮かべながら指を鳴らした。

すると刹那、まどか達のクラスに異変が起こる。エリーの力で生徒達のパソコンに一勢にエリーの紋章が浮かび上がった。

 

 

「―――」

 

 

瞬間、生徒達の意識は一瞬でブラックアウトした。

それは画面も同じで、ネットを中継して授業を受けていた仁美達はポカンと呆気に取られた。

 

 

「あれ? 画面が真っ暗になった」

 

 

今日は同じ部屋で下宮も授業を受けていたが、彼の画面も真っ暗に。

 

 

「どっちかのネットが切れたのかな」

 

「コッチ……、じゃ、ないっぽいな」

 

 

すると部屋がノックされる。

返事をすると仁美が入ってきた。

どうやら彼女も同じような状況になっているらしい。

 

 

「良かった、故障じゃありませんのね」

 

 

結局三人は特に疑問には思わず、元に戻るのを待つことに。

一方まどか達は大変な事態に陥っていた。

エリーの力によって一勢にハッキングされた画面、浮かび上がった紋章を見ると魔女の力で意識が深層に引かれていく。

 

それは精神攻撃、生徒達の目の前の景色が一瞬で変わった。

見せられるのは所謂トラウマである。その『痛み』や、『重さ』はおいておいても、人はみな誰しもに思い出したくない過去がある。

傷つけた事、傷つけられた事、恥をかいたことや劣等感を覚えた事。中学生と言う繊細な時期であればより多くの『傷』が存在しているものだ。

 

それは白昼の明晰夢。生徒達はその記憶をリアルに追体験していく。

そしてまどかも同じくしてだ。記憶が闇をそれだけ巨大にしていく。

 

浮かび上がる楽園の記憶、円環の理の中でまどかは自分の姿を視る。

翼は折れ、血は流れ、白い羽が虚しく宙を舞っている。

どこを見ても血があった、死があった。救いを求めた少女達が再び絶望に落とされていく様を、見ているだけしか出来ない。

聞こえるのは耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴。そして前方に死の軍団が見えた。下卑た笑い声を浮かべて軍勢は破壊をくり返す。

そして巨大な歯車の冠を被った男がまどかを指差す。

 

 

『感謝するぞ。鹿目まどか』

 

 

崩れ落ちる黄金。

崩落する楽園。

救いが、消える。それは闇ではない――、大いなる負。

究極の、瘴気。

 

 

『魔獣は、絶望は絶対だ』

 

 

その時、まどかの意識がホワイトアウトする。

頭が揺れる感覚と共にまどかは今自分が教室にいるのだと理解する。

少し呆気に取られていると、隣に気配。視線を移せば戸惑ったような表情を浮かべたさやかが見えた。

 

 

「ま、まどか! 分かる!?」

 

「さやかちゃん……!」

 

「ちょ、どうしたのこの状況! わけ分かんないんですけどッ!」

 

 

さやかは周りを指し示す。

誰もかれも、教師である早乙女でさえハイライトの無い目で虚ろな表情をしている。

まどかもしばらくは意味が分からず、そのまま固まっているだけだった。

けれどもさやかから事情を聞いて、全てを理解する。

さやかは、そう、『眠っていた』のだ。つまり画面を見ていなかった。

 

理由? 前日、マンガ、ドラマ、楽しい、夜更かし。

以上、それだけ。それだけではあるが、それが救世主の理由になると誰が予想していただろうか。

エリーの精神攻撃が始まる条件は画面に映った魔女の口づけを見る事だ。

それをしなかったさやかは、起きると同時に違和感を察知。まどかに声を掛けたという事だ。

 

 

「さやかちゃん、ありがとう! さすがだよ!」

 

「な、なんか良く分からないけど、流石あたしって感じ?」

 

「うん! でも授業中に居眠りしちゃだめなんだよ!!」

 

 

立ち上がり周囲を確認するまどか。

すると一つ、大きな異変を察知する。それはホムラの席だ。

そこには、誰も座っていなかった。

 

 

「ッ、ホムラちゃん!?」

 

 

嫌な予感がする。まどかは席を離れると一気にホムラの席へ。

すると目を見開き、声を上げる。ホムラはいた、なんとパソコンの画面の中に。

 

 

『鹿目さんッッ! 助けてぇえ!』

 

 

恐怖で歪んだ顔、ホムラと目が合ったまどかは反射的に手を伸ばした。

しかし感じるのは掌が画面に遮られる感触だけだ。平面の画面には体温一つ感じない。

 

 

「な、なにこれ! 転校生がパソコンの中に!」

 

 

さやかもまどかの後ろから状況を確認する。

同じように手を伸ばしてみるものの、やはり画面を超える事はできない。

一瞬映像か何かかと想ったが、それにしては嫌な生々しさを感じた。

間違いない、ホムラは確かに画面の中に引きずり込まれたのだ。

ホラー映画の一幕のようだが、まどか達にはそれをなしえる存在に心当たりがあるというもの。

 

 

「魔女!?」

 

「たぶん。少し離れててさやかちゃん!」

 

 

クラスメイト全員が精神世界に引きずり込まれているのは幸いだった。

 

 

「輝け天上の星々ハマリエル。煌け、純白のヴァルゴ!」

 

 

まどかは変身すると詠唱を開始。早口に天使を呼び出す呪文を唱えていく。

 

 

「呪いを砕く穢れ祓いし慈愛の光よ。万物を癒す救済の矢と変わり、我を照らしたまえ! 救え乙女、スターライトアロー!」

 

 

美しい女性型の天使、ハマリエルは翼を広げ、そのままモニタの中に吸い込まれていく。

魔女の力に塗れた電脳世界を突き進み、乙女はほむらの両手を掴んだ。

 

 

『違う!』

 

「え?」

 

 

しかし、その手を払ったのは紛れもない、ホムラ自身であった。

違う、ちがう、チガウ。何を? 何が? 誰が? なんで。どうして。なぜ。誰を。私は。私が。

私に。違う。それは。きっと。違う。でも。だけど。なぜ。なんで。違う。

何が。何を。何に。何で……。

 

 

『違うッ! 違うの!!』

 

 

恐怖。救いを誰よりも求めていたのに。救われたくないの。わがままか。

これは現実なのか。これは夢なのか。わかってくるくせに。わかれないのは。なんで。なぜ。どうして。

 

相反する想いが衝突する。

激しいエネルギーは身を引き裂こうと牙を剥く。

時間が怖い。時間がそうする。私はヒガン、シガン、どちらに立っているの?

いえ、違う。どちらに立ちたいの?

 

 

『たすけてぇえッ!』

 

 

心が壊れそうになるの。寂しいから、悲しいから。

喜びはいつか苦痛に変わる。ならいっそ、ずっと苦しいままでいればいい。

そんな、うそ、悲しすぎるから、助けて。

 

今のホムラはホムラでなければほむらでもない。二つの感情が交じり合う。

ストレートの黒髪に赤いメガネ。言うなれば『ほムら』とでも言えばいいのか。

彼女はまどかに手を伸ばし、助けを求めた。

 

 

「待ってて!!」

 

 

まどかは乙女に魔力を送り、再びほムらのサルベージを試みる。

同じくしてマミとサキが教室に飛び込んできた。

虚ろな目をしている生徒達を焦るように見つめながら、パソコンのモニタを見る。

そこには乙女が――。切り刻まれる映像があった。

 

 

「!」

 

『クフフフフッ!!』

 

 

笑い声が。

そしてほムらの髪を掴んだのはテラバイター。

 

 

「魔獣!!」

 

『ダメじゃない。望みは叶えてあげないと!!』

 

 

ほムらをより深層に引きずり込みながらテラバイターは前に出る。

 

 

『救われないのがこの子の魅力でしょ。そしてそれが刻み付けられた因果!』

 

「そんな事ない!」

 

『あるのよ! 暁美ほむらは永遠に幸せにはなれない!』

 

 

ましてや。

 

 

『私が幸せにはさせない! この子に与えるべきアクセサリーは、究極の絶望よ』

 

「違うって、言ってるでしょ!!」【アライブ】

 

 

怒号を上げてまどかは変身、アライブとなり乙女をもう一度発射する。

強化された乙女はほムらを救おうと高速で飛んでいくが――

 

 

『無駄なのよバァーカ!!』

 

 

瘴気をブーメランに宿し、テラバイターは獲物を振るった。

放たれたブーメランは分裂。何十もの刃が風を切裂き、乙女の身に抉りこんでいく。

 

 

「負けないッッ!!」

 

 

しかしまどかもまた親友を助けるためならば。

魔力を込め、乙女はブーメランに切裂かれながらも確実に前に進んでいく。

だがその時だった。電脳世界に赤い蜘蛛の巣が張り巡らされた。

そして影、緑色のシルエットはテラバイターの前に割り入る。

 

 

虚構の英雄(スレイヴ・クラウン)

 

 

猛獣が引っかいたように、赤い残痕が三つ、乙女の身に刻まれる。

すると乙女は悲鳴をあげて爆散。光の破片を撒き散らしながら消滅していく。

 

 

「!」

 

 

天使の羽が散っていく中に、まどかはソロスパイダーの姿を見る。

 

 

「アイツ、アシナガ……ッ!」

 

『暁美ほむらは良い絶望を放つ。ボクらの邪魔はしないでくれ』

 

 

人間体に戻ったアシナガは赤い目でまどか達を見た。

その手にはなにやらダークオーブと思わしきものが見えるが、何を狙っているのやら。

だが分かった事は一つ。まどかはほムらを救うことに失敗したと言うことだ。

 

 

『イヤァアァアアァアァアァ!! 助けてェエェェエェッッ!』

 

 

赤い蜘蛛の巣の向こう側で、悲鳴が聞こえた。

身を、心が引き裂かれるような気分だった。

いや、文字通りか。なぜならばそれを合図にして頭の中に流れ込んできたのだ。

ホムラ、ほムら、ほむらの思念。ほむらの恐怖や苦痛がエリーの力に共鳴し、ほむらの想いがそのまま拡散してまどか達の脳に流れ込んだ。

 

 

『え? あなたも魔法少女なの!?』

 

 

嬉しそうなマミが目の前にいた。

 

 

『そうなの。お友達と会う時間もなくて。結局、一人ぼっちになっちゃう』

 

『え? お友達になってくれるの?』

 

『嬉しい。ありがとう!』

 

 

ひまわりのような笑顔だった。

 

 

『これね、ケーキ、作ったの。食べてみて!』

 

『映画? 本当に? 嬉しい! 行くわ! 絶対に行く!』

 

『相談? でも私なんか――』

 

『え? 私に相談したい? 本当?』

 

 

次の瞬間、マミは泣いていた。

 

 

『どうして最近私を避けるの? 何か悪い事した?』

 

『お願い、治すから。お願いだから一人にしないで』

 

『なんで? どうして? あなただって泣いて――』

 

 

景色が変わる。手が見えた。『私』はマミの首を絞めていた。

 

 

『どう、して――ッ』

 

 

マミの目からとめどなく溢れていく涙。

激痛が走った。どこに? 胸に。『私』は目を逸らす。

 

 

『信じて――……たッ、のに』

 

 

暗闇しか見えなかった。

光が見えたとき、そこには佐倉杏子がいた。

 

 

『なんだよ、しけた面してんなアンタ。よっしゃ、ラーメンでも食いに行こうか』

 

『魔女に負けたくらいでクヨクヨすんなよ。ほら、食うかい?』

 

『ウジウジすんなよ。それだけできれば上出来さ。無理に張り切ろうとすんなよ』

 

 

杏子は笑顔で肩を組んでくる。

戸惑いながらも『私』は笑顔を浮かべた。

しかし一瞬で景色が変わる。目の前にいる杏子の目に宿っていたのは紛れもない殺意だった。『私』の肩に槍が刺さる。倒れる『私』に、杏子は馬乗りになった。

 

 

『アンタだけはッ、アンタだけは許せないッ!』

 

 

一度は握り締めた手が武器に変わる瞬間を私は見た。

頬に抉りこむ拳は痛みを齎してくれる。けれど不思議なのは痛みは頬ではない。顔にはない。あるのは――、胸の奥に。

けれど『私』は抵抗しなければならない。終わりはココではないと知っているからだ。

 

だから『私』は待った。だって、彼女は優しかったから。

彼女の手が止まる。戸惑い、躊躇、言葉は絶対じゃない。『私』視界は濁りきっているけど、それでも銃を引き抜けば、後は引き金をひくだけで良かった。

銃声が聞こえたところで、世界は姿を変えた。

 

 

『大丈夫? 辛いならあたしが保健室につれてってあげる』

 

 

笑顔。

 

 

『ねえ、一緒に食べる人いないならあたしと食べない?』

 

 

笑顔。

 

 

『へへ、あたしも勉強苦手なんだよね。一緒だね』

 

 

笑顔。

 

 

『疲れてない? 辛いならいつでも言いなよ?』

 

 

希望。

 

 

『無理、しなくてもいいからね』

 

 

絶望。

 

 

『ずっと嘘ついてたのかよ!!』

 

 

涙。

 

 

『アンタだけは、絶対に許さない!!』

 

 

無。

 

 

『必ず殺してやる。生まれ変わっても、何度だって殺してやるから』

 

 

………。

 

 

『ねえ』

 

 

景色が変わった。

一瞬だけ、桃色の髪が見えた。

 

 

『頑張って』

 

 

そこで全ては途切れた。気づいた。

違うことに。『私』は私じゃない。暁美ほむらは、私じゃない。

だって、目の前に泣いているホムラがいたから。

 

 

『本当はみんなと一緒にいたかった』

 

 

頭の中に弱さが流れ込んでくる。

それは願い。生きるための目標、目的。

いや、最終到達地点とでも言えばいいのか。

 

 

『みんなと友達になりたかった――ッ』

 

 

違う。違うな。いや、本当だ。みんなと一緒にいろんなところに行きたかった。

でも結局それはある種の言い訳でしかない。いろいろな言葉で取り繕って何になる。前回のゲームでだって沢山思ったじゃないか。

結局、幸せになりたかったんだ。美味しい物を美味しいと言って笑い、見たい映画があれば友達を誘っていく。

そういう当たり前を望んでいた。なのに随分遠回りをしてしまった。

 

 

『こんなつもりじゃなかった。こんな事になるなんて……』

 

 

だがもう何もかも遅すぎる。

歩んできた道は決して消えない。心を刺し続ける刃となるぞ。

怖い、辛い、悲しい。もう分からない。

 

 

『もう、生きているのが辛い』

 

 

だから。

 

 

『死んでしまいたい……』

 

 

涙が見えた。

黒い涙だった。

 

 

『たすけてぇ、まどかぁ、マミさぁん……ッッ!!』

 

 

懇願の表情が見えた。救いを求める涙があった。

だがそこでホムラは破裂して消え去った。

まるでそれは自らの黒が膨張して破裂したような光景だった。

 

 

「……本当に、何で生き残ったのか」

 

 

静寂の中で、一番最初に口を開いたのはマミだった。

ボロボロと涙を零しながら、虚空を見つめている。

 

 

「私も、間違ってた」

 

 

もっと、怖がらず、心をさらけ出すべきだった。

結局怖かったのは同じだ。傷つかないために、少しでも距離を離しておく。

けれどそうしている内に距離はむしろ離れて、結局分かり合えない。

 

すべき事はただ一つ。強引にでも踏み込むべきだった。

ボーダーラインなんて、踏み越えるべきだったんだ。もちろん今になってそんな事を後悔してもどうしようもない。

どれだけ後悔を口にしても、ああするべきだったと叫んでもそんな物に意味なんてないのだ。

 

ではどうすればいいのか。

答えは、一つ。今も魔獣の笑い声が耳に張り付いているから。

 

 

「はじめてよ、ココまで頭にきたのは」

 

「ッ、マミ……!」

 

「ど、どゆこと? あの景色は――? マミさんなんか知ってるんですか?」

 

 

慌てるさやか。マミはさやかを真っ直ぐに見つめる。

 

 

「ごめんね美樹さん。必ず話すから、今は何も言わず私に協力してくれる?」

 

「……ッ」

 

 

一瞬、迷ったように息を呑むが、さやかはすぐに真っ直ぐにマミを見つめて強く頷いた。

 

 

「はい。あたし、マミさんの弟子ですから。信じてますよ、師匠!」

 

「ふふっ、ありがとう。いい弟子を持ったわね。それで、サキにもお願いがあるの」

 

 

サキもまた腕を組んで頷く。

 

 

「ああ。分かってるよ」

 

「助かるわ。鹿目さん」

 

「はい。アクターメバーエル!!」

 

 

新技、『アクターメバーエル』。

自由の天使メバーエル『達』が召喚される。そう、メバーエルは沢山の姉妹であった。

彼女達はまどかのアイコンタクトを受けると、頷き、巨大なカバンからカツラを取り出す。それはまどかやマミの髪型を模したもの。

 

アクターメバーエルの効果は、周囲の人間にメバーエルを『まどか』として認識させるものだ。

もちろんそれは、まどかだけじゃない。マミのカツラを被ったメバーエルはマミとして周囲に認識される。

 

まどかは再び乙女座を発射。

乙女は光の粒子を振りまき、それらはエリーの力に引きずり込まれていたクラスメイト達をサルベージしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

早乙女先生が気がついたとき、生徒達はぽかんとしてた。

 

 

「ど、どうしちゃったのかしら、ちょっとボーっとしてて……」

 

 

あたりを見回す早乙女や生徒達。

その中でまどか、さやか、ホムラのカツラを被ったメバーエル達が肩を竦めていた。

本人達もお粗末な変装であると自覚しているのか、額に汗を浮かべているが、魔力を伴った変装に気づく者はいない。

 

それはマミのクラスでも同じで、マミとサキのカツラを被ったメバーエルは何食わぬ顔でパソコンを見つめている。

三頭身でドラム缶のような体系のメバーエル達は、もはや誰がどう見てもおかしいと気づくはずだが、魔法のおかげで誰がどう見てもまどかにしか見えない状況なのだ。

 

 

「ま、いっか。授業を再開しましょう!」

 

 

と言う事で、早乙女も何事もなく授業を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、まどか達は見滝原の町を疾走していた。

しかし問題はホムラがどこに連れて行かれたかが分からない点にある。

1秒を争う状況でこれは致命的だった。もちろん、それは止まる理由にはならない。そしてテレパシーで告げる。

 

 

『まどかちゃん! 俺も一緒に……!!』

 

『ありがとう真司さん。でも――』

 

 

真司は現在ドラグレッダーを失っている。

サバイブさえも互角に食い下がる相手を、ブランク体で相手にするのはほぼ不可能だろう。

とは言え、何も出来ない事が一番悔しいのはまどかが一番分かっている。故に真司に頼んだのはサキ達のサポートだ。

 

現在まどか達は二手に別れている。

一組はホムラの救出。もう一組は自由になっているだろうゼノバイターの捜索だ。

一度戦闘を行っているため、星の骸に回帰するのはまもなくだろうが、油断は出来ない。当然かなり重要な任務だ。

 

 

『分かった! まかせといてよ!!』

 

 

その時だった。真司の携帯が震えたのは。

 

 

 

 

一方で、川沿いのベンチに座っていた手塚はゆっくりとため息を漏らす。

また、ホムラは無意識にトークベントを使っていたのだ。彼女の弱さや痛みが、手塚には鮮明に伝わってくる。

 

 

「………」

 

 

手塚はコインを投げ捨てると、気だるそうに立ち上がった。

 

 

 

 






まどかのアライブはアルティメットまどかなんですが、なんでもあれって髪の毛の端っこが絶対に画面外へ隠れるようにしてるらしいですぜ。
こだわりが違うね(´・ω・)
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