仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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何度も言ってますが、明日水曜更新予定の二話でストック切れます。
そこからはもう今までのが嘘のように亀更新です。
メチャクチャ遅いです。ウラタロスがゆっくり迫ってくる感じになります。本当に申し訳在りませんが、一ヶ月に二話とかになります。

あと、まことに申しわけねぇ、あれだけ時間があったのにストックの方もあんま進んでません。
しかし皆さん、どうか言い訳をさせてください。

僕は今、お仕事で偉くなる可能性が出てきて、その点についていろいろ勉強とか何とかやってます。
うまくいくと、どうなるか。これ、もらえるお金が増えます。
そうすると、僕はとっても嬉しい(`・ω・´)




第86話 手始めに見せてやる。変わる運命をな

 

 

夢を見た。マミと肩を並べて紅茶を飲んでいた。

なにか、相談したい事があるとマミに話したかった。

優しくて、どんな事も笑顔で聞いてくれるから。

まるで、お姉ちゃんみたいな。

 

夢を見た。杏子が肩を組んできて、お菓子を差し出してきた。

うんまい棒はそれほど好きでもなかったけど、彼女がくれるお菓子はなんでも好きだった。

杏子は少し乱暴なところもあるけど、友達想いで実は優しいって、知っているから。

 

夢を見た。さやかが親しげに話しかけてきた。

距離感が近い彼女には最初は戸惑ったけど、まるで殻に篭っている自分に外の景色を見せてくれるようで。

希望、だったのかもしれない。

 

そう、そうだ、あったんだ。

殻から外に出られる機会なんてたくさん。いつでも。

でも目を逸らした。逸らし続けた。

それは、いけない事なの?

 

 

「!」

 

 

意識が戻り、ほむらは素早く周囲を見回す。

イチリンソウの花畑の中にほむらは一人座っていた。そして気づく。体が椅子に縛り付けられていた。

バラがあしらわれた茨の蔓。体に食い込む棘が痛みを放ち、ほむらは顔をしかめた。下手に動こうものならより一層棘が食い込むのだろう。

 

 

「幸せって何なのかしらね」

 

 

ドサッと何かが落ちる音。

ほむらの正面に落ちてきたのはテラバイターだった。

イチリンソウを散らしながら、テラバイターはゆっくりとほむらに近づいてくる。

いけない、戦わないと。そう思っていると右横から声が聞こえて来た。

 

 

「それは5月の麗らかな日差し」

 

 

ワルクチは目を赤く光らせてほむらに近づいてくる。

そうしていると左横から声が。

 

 

「温かな家族!」

 

 

鞭を束ねて迫ってくる、色つき・女帝。

 

 

「それは、朝ごはんの目玉焼きかぁ? ハハハ!」

 

 

ゾンビのような動きでフラフラと背後から迫るのはゼノバイター。

どうやらミラーワールドを脱した後はテラバイターに合流したらしい。

 

 

「けれど、そのどれもが天国にはない!」

 

 

囲まれたほむらは、目を細め、額に汗を浮かべる。

 

 

「ねえ暁美ほむら。幸せって、何かしら?」

 

「そんなの……、知らないわ!」

 

「嘘よ。貴方は幸せになるために戦っていたんだから。そうでしょう?」

 

 

鹿目まどかを助けて一緒に暮らせればほむらは幸せだった。

そのはずだった。

 

 

「どれだけの死を踏み越えるの? どれだけの罪を背負えば気が済むの?」

 

「ッ」

 

「誰かに名前を呼ばれること」

 

「なんですって……?」

 

「誰かの名前を呼ぶこと。誰かが自分を想ってくれるこ。それはなに一つとて神様にはないものだったわね」

 

「何を言って……!」

 

「ねえ、どうして? どうして鹿目まどかじゃないといけなかったの?」

 

 

決まっているわ。テラバイターは楽しそうにクルリと回った。

 

 

「愛よ、愛。ラぁブ!」

 

 

暁美ほむらはまどかを愛していた。

しかれども、その愛したまどかはもう死んでいる。

あとは愛の幻影を追いかけ続ける自己完結と自己満足の無限回廊。

本当はあった筈なのに。もっと他の愛を芽生えさせる方法が。

 

 

「結局貴女はいつも自分の事しか考えていなかったのよ。まどかを救うことさえ、まどかの為ではなく貴女の自己満足だわ。気持ちよかった? まどかの為に戦い続けるヒロインになるのは」

 

 

指を鳴らすテラバイター。

するとイチリンソウの花畑の中に巨大な天秤が出現する。

片方にはまどかが、もう片方にはマミ、さやか、杏子が座っている。

 

 

「ループを否定しようとしたお前が、ループを望んでいたとは滑稽だ!」

 

「違う!」

 

「なにが! 違わないでしょう?」

 

 

再び指を鳴らすテラバイター。するとマミ達三人の頭が破裂し、消し飛んだ。

血が飛び散り、イチリンソウの花を赤く染めていく。その時、ほむらは目を見開き、体を大きく動かした。

立ち上がろうとしたのだろう、尤も縛られているためにそれは叶わなかったが。

 

 

「クハハハ! 痛そうね、そう、心が痛いのよ」

 

「ッッ!!」

 

 

ほむらの目から、涙が零れてきた。

 

 

「結局お前はまどかだけを選ぶ事ができなかった。『多』を犠牲にして『個』を得ることができなかったのよ!」

 

 

呆然とマミ達の死体を見つめるほむら。

しかしおかしな話ではない。彼女はそれを望んでいたのだから。

そう、テラバイターは笑う。

 

 

「あなたは究極の愚か者よ。データアーカイブで少し貴女の立ち回りを見させてもらったけど、愚者の一言に尽きるわ」

 

 

わざわざ高圧的な態度で対立を煽り、ミステリアスな態度で不信を煽る。

あの時点でのワルプルギスの撃退には周囲の協力が絶対必要だったと言うのに。

 

 

「やる気あるの貴女? マジで馬鹿なんじゃない?」

 

「ッッ!!」

 

「わかってる。だって悔しいものね、他者がまどかと仲良くするのは!」

 

「違う!」

 

「何が違うの? まどかに愛されなければ消えてしまいそうになる貴女の我が、醜い嫉妬をかき立てたのでしょう?」

 

「違う違う違うッ! 適当な事を言わないでッッ!!」

 

「違わないわよッッ!! 貴女は結局、嫉妬や自己満足に支配された醜いモンスター!」

 

 

救う救うと口にして、やる事なす事、状況を悪化させる事ばかり。

本当は本人だって分かってたんだ。だけど止められないのは醜いエゴと、自己満足に塗れた世界。

 

 

「世界も命も愛も全て、あなたにとっては自己満足だったんでしょ?」

 

「ちッ、違います!!」

 

 

『ホムラ』は懇願する。

もう止めてくれ。もう酷い事は言わないでくれと。

しかしテラバイターは首を振る。

 

 

「箱庭に居座り続けたいんでしょうクズ!」

 

 

ホムラは最低のクズだと言葉を放ち続ける。

 

 

「世界が変わるのは怖いわよねぇ。だって貴女が作る理想は全てマイナスから成るものじゃない」

 

 

運動ができる事は呪うはずのキュゥべえから与えられた魔法の力。

勉強だってできるわけじゃない、どんな問題が出るのか『記憶できるまで』くり返したからだ。

失敗がプラスに変わっていく。当然それはほむらの心にも。

 

 

「まどかに尊敬してもらえるような自分に酔っていたんでしょ?」

 

「止めて……!」

 

「だってくり返せば無限だもの!」

 

「もう止めてッッ」

 

「そのくせにマミが、さやかが、杏子が死ねば苦しいのよね」

 

「言わないで!」

 

「でもでもでも救う気なんてないのよね。まどかを独占したいもの!」

 

「言わないでってぇッッ!!」

 

「一か所に留まって前に進めない貴女は、もはや罪人よ。時間を玩具にしてお人形遊び。本当は分かっているんでしょ? 本気になれない理由も全部」

 

 

だって本当に好きなのは最初のまどかだけだもの。

それ以外のまどかはニセモノだと心の隅でわかってた。

だから本気になれない。まどかの影と永遠にお人形ごっこ。

 

 

「お前は結局まどかもマミ達も愛せてなかったんだよ。魔法少女になった時点で、アンタは既に壊れた人形」

 

「イヤァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ほむらの中の良い思い出が黒に塗りつぶされていく。

そうか、そうだな、結局それは自己満足の幻影だったんだ。

 

 

「ククッ! クヒハハハ! フフフヒハハハ!!」

 

 

イチリンソウの花畑の外の世界では、異常な光景が広がっていた。

バスの中、椅子に縛られたほむらの頭にテラバイターが触角を突き刺していた。

 

 

「出来損ないが! 終わりに沈むが良いッ!」

 

 

もちろん本当に頭蓋骨を突き破って脳を弄っているわけではない。

とは言え、エネルギー化した触手が頭部をすり抜けて脳を弄っているのだから、それほど違いはないとも言える。

ほむらは虚ろな表情で涙を流しながら、脳を犯されていく。

 

 

「まどかはお前の事なんて愛してなかったよ。当然でしょう? 貴女と過ごした時間なんて幼馴染の美樹さやかと比べればちっぽけなものなのだから」

 

 

触手脳をグチャグチャにしていく。

それだけほむらの記憶が侵食されていき、負や絶望が引きずり出されていく。

そして、幸福の否定。

 

 

「あったぁ! ンフフッ! なにこれ凄く光ってる……!」

 

 

恍惚な表情を浮かべてテラバイターは触手を操作した。

ほむらの脳に飛び切り光る思い出がある。きっと素敵な思い出なんだろう。

ほむらにとっては宝物なんだろう。

それをグチャグチャにする事こそ、テラバイターにとっては極上のエクスタシー。

イチリンソウの中にその時の光景が広がっていく。夜の空が銀河に変わり、世界は全く別の姿に変貌していった。

光瞬く空間に、まずはキュゥべえの声が響いた。

 

 

『まどか――、これでキミの人生は始まりも、終わりも無くなった』

 

 

この世界に生きた証も、その記憶も、もうどこにも残されていない。

キミという存在は、一つ上の領域にシフトして、ただの概念になり果ててしまった。

もう誰もキミを認識できないし、キミもまた誰にも干渉できない。

 

 

「なによそれ! これが――ッ、まどかの望んだ結末だっていうの!?」

 

 

銀河の中、一人の少女が泣いていた。

暁美ほむらは、銀河の中で泣いていたのだ。

 

 

「これじゃ、死ぬよりも――、もっと酷い……!」

 

 

すると銀河の中に、もう一人の少女が現われた。

 

 

「ううん、違うよ。ほむらちゃん」

 

 

まどかはほむらを抱きしめて優しく微笑んだ。

過去、未来、全てを観測したまどかはほむらの歴史をも理解したようだ。

 

 

「ずっと――、気付けなくて、ごめん。ごめんね」

 

 

その時、ほむらの体に電流が走った。

 

 

「ほむらちゃん。ありがとう」

 

 

そう、その瞬間。

 

 

「貴女はわたしの、最高の友達だったんだね」

 

 

ほむらの中に想像を絶する高揚感が駆けた。

無理もない。その瞬間、ほむらの全てが報われた気がしたからだ。

ゆるぎないアイデンティティ、そして自己の確立。世界中でただ一人、ほむらのみが得られる快楽。

生きていた資格、証が手に入った気がした。とは言え幸福は刹那に消える。

このままではまどかとの別れが訪れると知っているからだ。

故にほむらは口を開いた。まどかを想う為にだ。

 

 

「はぁい、そこまでぇ」

 

 

しかしそこで第三の声が割り入る。

まどかとほむらの髪を掴み、引き剥がしたのはテラバイターだ。

 

 

「まどか!」

 

「ほむらちゃ――ゴビュッ!!」

 

 

一瞬だった。テラバイターの拳がまどかの顔面にめり込むと、はるか後方に吹き飛んでいった。

顔面に巨大なクレーターを作り、まどかは痙攣を起こしながら飛んでいく。

それを追いかけるのは赤いブーメラン。

それはまどかの体を切り刻むと、ただの肉の塊に変えた。

 

 

「まどかァッ!!」

 

 

目を見開き、青ざめるほむら。

もちろんこれは幻でしかない。テラバイターがほむらの思い出に進入し、思い出のまどかを殺したのだ。

しかしその映像を見せられたほむらは、リアルかと間違えるほどの恐怖を心に宿す。

 

 

「なに気持ちよくなってるのよ、あなた」

 

「ッ!」

 

 

そしてこれは、はじまりなのだ。

テラバイターは下卑た笑みを浮かべ、死体となったまどかを指差す。

 

 

「死ぬよりももっと酷い? ううん、まどかを『ああした』のはお前でしょう?」

 

「それは――ッ!」

 

「それに、フフ、あんな言葉で喜んじゃって」

 

 

テラバイターは手を伸ばし、ほむらの頭部を強く締め上げる。

 

 

「勘違いしてんじゃないわよクズ。あれがオンリーワンだとでも思ってるの?」

 

 

輝く思い出を、瘴気で塗りつぶそうではないか。

 

 

「最高の友達? 勘違いしてんじゃないよクソガキが。それはお前だけに言った言葉じゃないんだよ。美樹さやか、佐倉杏子、巴マミにも言ってるんだよ。そしてお前はその中で一番下ァ!」

 

「!」

 

「考えてみろ、考えてみろォ、考えてみろぉッッ!」

 

 

テラバイターは口調を荒げてほむらに詰め寄る。

 

 

「同情だよ哀れみだよアンタが可哀想だからまどかが声を掛けてくれたんだよ!」

 

「違う、ちがぃます!」

 

 

気づけばホムラが前にいた。殻がはがれていく。

 

 

「わかってるんだろう? 幼い時から一緒にいたさやかや仁美、憧れの先輩であるマミ! そしてお前に面倒なやり方じゃなくて真っ直ぐに助けてくれる杏子!」

 

 

姿は見えないがワルクチの能力は以前発動中である。

今のホムラにとってテラバイターの言葉はなによりも心を傷つける刃だ。

ましてや今現在テラバイターはホムラの脳を弄っている途中、心を傷つける術は分かりきっているのだ。

 

 

「最下層なんだよお前は。お前は最高の友達、ほかの皆は最高の親友!!」

 

「うるさいッ! 殺すわよ――ッ、酷いじゃないですかぁ、やめてくださぃ、お願いだから……ぁ!」

 

 

ほむらとホムラがグチャグチャに交じり合う。

 

 

「ヒハハハハ!! クハハハハ!!」

 

 

現実世界のテラバイターは高笑いを浮かべ、ほむらの脳を存分にいじる。そしてほむらの精神世界のテラバイターは追撃にと言葉を続けた。

 

 

「最高の友達だった、お友達(笑)の勘違いほむらちゃんは、いつまでもこの言葉を大切に思ってきたのね。滑稽だわ!」

 

「違う……! あぁぁあ! 止めろォオ!」

 

「あの言葉はお前の証明じゃない! むしろお前を蔑むものだ!」

 

「やめ――ッ! やめでぇえぇえええ!!」

 

「ハハハハハハ! まどかの寄生虫が! お前は誰からも愛されないんだよォオ!!」

 

 

最大級の痛みがほむらに走り、最大級の快楽がテラバイターに走る。

心が壊れる、確信するほむらと、心を壊すと踏み込むテラバイター。

触角の動きが速くなり、グチャグチャクチョクチョ脳を弄る音がバスに響き渡った。

 

もちろん本当に脳が損壊されいるわけじゃない。心に直接届いているわけだが、それで十分だろう。

ほむらの精神が侵食されていく。脳を支配されていく。ほむらの思考とは別に、ほむらの口からは言葉が出てきた。

 

 

「わだじ――は、まどかなんで、本当はどうでも――ッ、よかッ、よかったんです」

 

 

これはテラバイターが言わせているのだが、自分の言葉は一番心に響く。

 

 

「わたしは、生きていては――、いけない存在で――ッ、す」

 

 

壊れる、終わる、死ぬ、ほむらはボロボロと涙を流した。

来た、この瞬間を待っていた。確信する勝利。テラバイターは大声を出して笑う。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ! アーッハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「おい」

 

「は?」

 

 

一瞬の出来事だった。

テラバイターの顔面、正確にはその頬に拳が抉りこんだのは。

頬に沈んでいく鉄拳。テラバイターの顎がズレ、拳は尚も顔面の中に沈んでいく。

その時――、衝撃にテラバイターの体が浮き上がった。

 

 

「ンビュァァアアァアァア!!」

 

 

テラバイターは悲鳴を上げながらバスの通路を飛びぬけて、最終的に運転席に倒れた。

ハンドルに叩きつけられた衝撃でエアバッグが起動し、テラバイターの体が浮き上がると、そのまま運転席シートの上に倒れこんだ。

 

 

「汚い手で、俺のパートナーに触れるな」『トリックベント』

 

 

同じくバスの中にいたゼノバイター、女帝の視線が一勢に集中する。騎士(ライダー)、ライアへと。

 

 

「お前は、手塚海之ッ!」

 

「……!」

 

 

表情を歪ませる女帝と、無言でライアから距離を離すゼノバイター。

そう、トリックベント・チェンジザデスティニーはライアとほむらの位置を入れ替えるカード。それを使えばほむらを助ける事はあまりにも容易だった。

テラバイターはほむらを絶望させる事に集中して、その存在を完全に忘れていたようだ。

とは言え存在が頭になかったわけではない。

使われないだろうと言う思いがあったのは事実だ。だってそうだろう? この状況で入れ替わって何になる。

 

 

「や、やってくれたな手塚ァ! まずは貴様から八つ裂きにしてやるッ!!」

 

 

立ち上がったテラバイターは、声を上ずらせて走り出す。

ブーメランを構えると、直後その姿が消失――、したかの様に錯覚するスピードでライアの眼前に迫った。

赤い閃光が迸った。ライアが反応する前にその首がブーメランによって切断される。ボトリと地面に落ちる首。テラバイターは一瞬笑みを浮かべたが――。

 

 

『トリックベント』

 

 

だろうな。もう油断はしない。

もう一枚のトリックベント、スケイプジョーカーは例外なく発動される。

一度受けた攻撃を無効化できる力によって、ライアの姿が消滅し、代わりにトランプのカードが一枚残される。

さて、どこから来る? 神経を研ぎ澄ませると刹那、背後に気配。振り返ればそこにはライアの拳があった。

 

 

「おっと!」

 

 

それなりに勢いがあるパンチではあったが、テラバイターはそれを人さし指ひとつで受け止める。

ゼノバイターほどではないが、彼女もまた多くの負を取り込んでおり、それだけの力があるというわけだ。

まあ尤も、だからこそ油断と言う隙も多いわけだが。

 

 

「ギャアアア!!」

 

 

再び悲鳴。

ライアが姿勢を低くしたと同時にサイドからエビルダイバーが突っ込んできた。

バスの窓ガラスを破壊してテラバイターに直撃。ヒレの部分でラリアットのように押し出しながら飛行を続け、テラバイターをバスの外に持っていく。

 

 

「ゴハァ!」

 

 

ゴミ捨て場の地面に叩きつけられたテラバイターと、エビルダイバーの尾を持って一緒に外に出たライア。

ミラーモンスターを消滅させると同時に、地面に着地する。

聞こえてきたのは笑い声。ライアが視線を移すと、バスからゼノバイターと女帝が降りてくるのが見えた。

 

 

「あらあらテラ。油断してるとそうなるんだぜぇ?」

 

 

同じような手を食らったゼノバイターには思う所があるようだ。

とは言え、もちろん不意打ちにて与えたのはダメージのみ。死を齎す事はできなかったわけだ。それはライアとしては絶望なのではないだろうか。

考えてみて欲しい。トリックベントはもう使い果たした。再び使うまでにはカードを再生成する時間が必要だ。それまでに果たしてライアは生きていられるだろうか?

 

 

「無理だな! お前一人なんざ俺様たちは一分もいらねぇぞ!」

 

「だろうな。俺も今日の占いで自分が殺される未来を視た」

 

「分かってんじゃねぇか。暁美の奴がこの場所を教えるまでの時間、お前は稼げるのか?」

 

「無理だろうな」

 

「ギャハハ。そうだよなぁ? あ、そうだろうな。じゃあさっさと――」

 

「だが、運命は絶対じゃない」

 

「あ?」

 

「一人じゃ無理だが……」

 

 

ライアはハッキリと言う。

 

 

「俺は、一人じゃない」

 

 

その時、気配。

あまりにも大きすぎる気配。

 

 

「輝け、天上の星々ズリエル! 煌け、判決のリブラ!」

 

「なにっ! テメェは!!」

 

 

ゼノバイターが目にしたのは、飛行し、空中に光の翼を広げたまどかであった。

 

 

「執行せし双天の楔、汝の罪と罰、清算の時は来た。万物を導く矢となり我を照らしたまえ!」

 

 

弓を引き絞ると花のギミックが展開し、桃色の光が爆発する。

まどかは曇りのない瞳でゼノバイターを睨みつけ、弦を離した。

 

 

「スターライトアロー!!」

 

 

放たれた光がまどかの背後に収束。すると巨大で荘厳なる『天秤』が出現する。

天使ズリエル。右の皿に光が集まり、それがモニタのようにある景色を映す。

 

それはゼノバイターがまどかに行った攻撃の数々、プラス口にした暴言の数々だ。

まどかが受けたダメージ、ストレス、つまりは苦痛が右の皿に収束していく。

それは重量となり、右の皿が大きく下に沈んだ。すると当然、対になる左の皿は上に上がる事となる。

 

だが天秤は均衡を示すもの。

左の皿に桃色の光が収束していき、ゼノバイターの罪と同じ重さとなる。

釣り合った天秤。すると直後、天秤そのものが消滅して、その光がまどかに吸収されていく。

再び弓を引き絞るまどか。すると光の線路が出現し、ゼノバイターとまどかを繋ぐ。

 

 

「おい、マジかよ」

 

 

ゼノバイターは見た。目の前から迫る、銀河鉄道を。

そう。天秤座の効果は、標的がまどかに与えた苦痛が大きければ大きいほど威力が上がると言うもの。

まどかが弦を話すと、巨大なSL機関車が発射され、汽笛と共に星屑を撒き散らしながら光の線路を疾走する。

もはやそれは反射。ゼノバイターが腕をクロスさせると、そこに光の機関車が衝突する。

 

 

「グォォオォオォォォォ!!」

 

 

機関車に押し出され地面を滑る。

そしてゴミの山に直撃すると爆発。ゼノバイターはゴミに揉まれて地面に倒れた。体の至る所から瘴気が吹き出し、足を広げたまま停止する。

 

 

「なんじゃぁ、これぁあ……ッ!」

 

 

まあ、逆を言えばあれだけの攻撃を受けて『ダメージを受けた』だけに留まるゼノバイターのスペックはさすがと言うべきなのか。

もちろんすぐに跳ね起きると、首をカクカクと動かしながらまどかを睨む。

 

 

「クソガキが……!」

 

 

しかしココで異変が起きる。ゼノバイターの体が粒子化していく。

どうやら殺意を伴う戦闘を開始してから、ココでタイムアップが訪れたようだ。

星の骸に強制送還されるわけだが、ゼノバイターはニヤリと笑う。

一つ、補足しよう。ゼノバイターはライアのトリックベント、チェンジザデスティニーの存在をしっかりと把握していた。『常』に。

 

 

(……ぁ、コッチのルートも、まあ有りだわな)

 

 

ゼノバイターは触角を伸ばし、テラバイターの背に触れた。

先程と同じく触角の先端がエネルギーとなりテラバイターの体内に侵入。彼女の体内から紫色に光る球体を抜き取り、それを引き寄せる。

 

 

「テラ、もらってくぜぇー」

 

「それはまだ不完全よ! 一番いいところで邪魔が入った!」

 

「ねぇーよりマシだろうが。じゃあなぁ!」(できれば死んでくれー!)

 

「ちッ!」

 

 

ヒラヒラと手を振りながらゼノバイターは後ろに下がっていく。

そして手に持っていた光を体内に埋め込むようにしていた。

何をしているのだろうか? まどか達は気になったが、既にゼノバイターの体は消滅間近であった。

ゼノバイターは鼻を鳴らすと、ギーゼラを召喚。魔女モードになったギーゼラはバスを抱えると、体内に融合させる。

巨大なバスとなったギーゼラはそのまま消滅。

 

 

「じゃあな参加者共ぉ、また会おうぜぇ? 生・き・て・た・ら・なーッ!」

 

 

そしてゼノバイター同じくして消滅した。

だが、それでも状況的にはどうだろうか? 並び立つ女帝とテラバイター。一方ライアとまどかも並び立つ。

 

 

「それにしても、どうしてこの場所が分かったのかしら?」

 

 

答えは簡単だ。

テラバイターがアジトとして使っているのは関係者を殺し、奪った幼稚園バスであった。

いくら目立たないところに停めようとも、それが見滝原のものである事にはかわりない。

 

 

「警察の皆さんは優秀なの」

 

 

銃声。テラバイターの足元に砂煙が散る。見ればゴミの山の上にマミが立っていた。

そう、バスがゴミ捨て場にあると結論付けたのは警察であった。正確には近いうちに作られると言う見滝原と風見野の合同捜査班のメンバーによるものだった。

現在、須藤はその青年の車に乗っている。

 

 

「さすがですね、風見野のエリートと言われているだけはある」

 

「やめてください。あんなの、ただの噂ですよ」

 

 

謙遜はしているものの、独自の捜査で行方不明になったバスをこんなにも早く見つけたのだから、有能であるといわざるを得ない。

もちろん掴んだのはまだ情報だけだ。とは言え情報は情報、須藤はそれを真司たちに教えたという訳だった。

 

だが困る事もある。

もしも本当にバスがゴミ捨て場に駐車していたなら、そこには魔獣がいる事になる。

そうなると現在変身できない須藤としては非常に困るのだ。ましてや刑事とは言えど一般人を連れて行く事にもなるし。

そうしていると、テレパシーが入った。内容は『ビンゴ』であるというもの。先行していたまどか達が魔獣と接触したようだ。

 

 

『我々がそちらに着く前に魔獣をミラーワールドにお願いします』

 

『はい! 任せてくださいっ!』

 

 

なんとかなると良いのだが。須藤は心の中で祈りを。

すると、須藤は風見野のエリート刑事に話しかけられる。

 

 

「そういえばお互い自己紹介がまだでしたね」

 

「あ――、そうでしたね。私は須藤雅史と言います。よろしくお願いします」

 

「これはご丁寧にどうも。僕は――」

 

「サヌキだよな」

 

 

後部座席には須藤の同僚である美佐子と、先輩の河野が座っている。

その中で河野が青年の名をサヌキ刑事だと教えてくれた。

 

 

「よろしくお願いしますサヌキさん」

 

「え、ええまあ。これはあだ名なんですけどね」

 

「いいじゃないの。あだ名で呼び合うのがデカのお約束だよな」

 

 

結局と須藤と美佐子も共同捜査班に入る事となった。

その班の責任者は河野だ。彼があだ名で呼び合おうと言うのだから、部下としてはそうせざるをえない――、のか?

 

 

「須藤はそうだなぁ、かにみそってのはどうだ?」

 

「なッ、なんでそうなるんですか」

 

「いやぁ、なんとなくビビッと来たんだよ。刑事の勘って奴だ」

 

「どんな勘ですか……。ねえ須藤さん?」

 

「え、ええ」(意外と鋭い)

 

「美佐子はそうだなぁ、ボンバーってのはどうだ?」

 

「やですよそんな爆弾魔みたいな名前」

 

「そうか? ビビッときたんだけどなぁ」

 

 

そう言いながらも車は確実にゴミ捨て場に向かっていく。

 

 

(無事でいてください、鹿目さん……!)

 

 

一方、そのゴミ捨て場では事態が動いていた。

地面を蹴ったまどか、さらにリボンを伸ばしたマミが勢いを付けて敵との距離を詰める。

 

 

「八つ裂きにしてやる! 鹿目まどか!!」

 

 

走り出した女帝と、テラバイター。

一方でライアはマミのアイコンタクトを受けた。

 

 

『お話してあげて』

 

 

プラス、テレパシー。

ライアはつい先程までマミ達と一緒にいた。と言うことはだ。

振り返ると、そこにはゴミの影に隠れているホムラが見えた。

背後で戦闘が開始されているのを理解しつつ、ライアは逆走する形でホムラに近づいていく。

 

 

「悪かったな」

 

「……え?」

 

「本当はもっと速く、トリックベントを使えたはずなんだ」

 

 

しかし放置とも言える行動を取った。

パートナーとしてはいけない選択だろう。しかしそれでも、手塚は深淵を覗いて欲しかったのかもしれない。

 

 

「闇を見なければ、光の価値は分からない」

 

 

分からないことなんて沢山ある。世界の事、みんなの事、ましてや自分の事。

占いだってそうだ。皆未来が分からないから、『自分の事』が分からないから占い師に自分を視てもらう。

だがそれらは全て、答えを、アンサーを求めるための行動だ。人によっては求める答えの果てが無限かもしれない。

 

だが人によっては、答えを知る事ができる。もしくは、出す事ができる。

そして占い師とは時に、そのために人を傷つけるような事を言う。

運勢が悪い、相性が悪い、手塚はいわばソレをホムラに行ったと。

 

 

「たとえばそうだな、魔法少女になった事で知った筈だ。普通の人間がどれだけ幸せなのかを」

 

「………」

 

 

コクリと頷くホムラ。

魔法少女は関係ないともいえるが、両親がいる事、頼れる人がいる事、友達がいる事、遊べる事、魔女なんて気にせずに生きられる事。

こんなゲームに巻き込まれない事。

 

 

「こんな世界に巻き込まれたことで、俺達は見たくもない物を見せられてきた。お前だってそうだろう?」

 

 

ホムラは再び頷いた。

ズレたメガネを整えながら、ホムラは弱弱しく口にする。

 

 

「本当、でした」

 

 

全てが、とは言わないが、真実があった事は事実だ。

 

 

「嫌われなきゃといけないって、思って」

 

 

敵対しないと焦りが生まれる。

幸せが近づくほど壊れたときの事を考えて突き放すようになる。

無限を、受け入れようとしていたのかもしれない。

 

 

「だがそれはいけない事じゃない」

 

「え?」

 

「罪悪感を感じる事、責任を感じる事は大切だ」

 

 

しかし人間は、世界は、コインと同じだ。

表があれば裏がある。闇があれば光がある。決して極端なものじゃない。

 

 

「お前はまだ焦っている。裁きをすぐに求めようとするな」

 

「それは、どういう……」

 

「見ろ」

 

 

ライアは変身を解除し、指をさす。

そこにいたのはまどかとマミの姿であった。

 

 

「はァアア!」

 

「シィィイイィッッ!!」

 

 

弓を連射しながら走るまどか。

それを弾きながら距離を詰める女帝。

振るわれた鞭をまどかは地面を転がる事で回避し、転がり様に光の矢を放つ。

しかし旋回しつつ鞭を振るい、それをかき消す女帝。光の飛沫を周囲に残しながら二人は同時に地面を蹴った。

 

女帝は鞭を束ねて短鞭に変え、まどかはマジカルスタッフを杖モードに変えて攻撃力を上げる。

上昇しつつ二人は互いの近距離武器を激しく打ち付けあう。桃色の残光と、瘴気の濁り光る残像がぶつかり合い、跳躍の最終到達地点で渾身の一振りを行う。

 

 

「ムガァ!」

 

「ディフェンデレハホヤー!」

 

 

弾かれ墜落する女帝と、光の翼を広げて空中に留まるまどか。

地面に膝をついた女帝に矢が直撃する。

 

 

「グッ! ガァ!」

 

 

肩を二発射抜かれ大きく仰け反る女帝。三発目は立ち上がり様の回し蹴りでかき消した。

一方空中を飛行しながら再び弦を引くまどか。だがそこで女帝が指を鳴らす。

すると空中からエリーがツインテールの翼を広げて飛来。

まどかを追従し、画面を視界にチラつかせる。

だからだろう、まどかは意図せずともエリーを直視してしまう。すると広がる光景、家族が、友人が死んでいく光景が脳に広がった。

 

 

「くっ! きゃあ!!」

 

 

精神攻撃に怯んでいる間に生まれた隙。

女帝は鞭を伸ばして空中にいるまどかをキャッチすると、そのまま真下に叩きつける。

ゴミの破片を撒き散らしながら、まどかは強く背を打ち、苦痛に声を漏らす。

 

するとその周辺に次々と美しいバラが咲いていく。

ゴミとバラの対なるコントラスト、しかれどもこれは女帝の力、バラの花は次々と点滅を開始し――。直後、次々に爆発を起こす。

女帝はニヤリと口を吊り上げたが、瞬間、爆炎が桃色の光によって吹き飛ばされる。

 

 

【アライブ】

 

「ッ、なに……!」

 

 

アライブ体になったまどかは淡々と女帝に向かって歩いていく。

女帝はすぐに鞭をメチャクチャに叩きつけるが、まどかは構わず足を進めた。

それはそうだ、振るわれた鞭はまどかの周囲に張られた結界によって全て防がれていく。

 

 

「お、おのれッ!!」

 

 

無数のバラがまどかに向かって発射される。

しかしこれも無視。まどかはノーモーションで足を進める。

現にまどかに向かって飛来するバラの弾丸は全て結界にせき止められ、ガキンガキンと音を鳴らして虚しく地面に落ちていくだけ。

 

 

「来て、マヌエル」

 

 

一方のまどかは右腕を天に掲げた。すると頭上に出現するカニの形をした天使マヌエル。

マヌエルが発光し消滅すると、その光がまどかに手に宿り、ハサミを出現させた。

美しい装飾品が見え、刃は金色だが、形状自体はコンビニでも売っているような一般的なハサミと同じだ。

まどかはそれを分離させると、両手に構え、二刀流の剣と変える。

 

 

「ヌァアア! ナメるなよッッ!」

 

 

女帝はバラの装飾がついたレイピアを構えて走り出す。

そして姿勢を低くし、一気に加速。一瞬でまどかの眼前に踏み込むと、レイピアを突き出しまどかの喉を狙った。

 

 

「もら――ッ」

 

 

バキンッ!

 

 

「は!?」

 

 

レイピアはまどかの喉に届くと、直後大きな音を立ててへし折れた。

そして斬撃。まどかが振るった刃が、光の軌跡を残しながら女帝に刻み込まれる。

血のように瘴気を吹き出し、後退していく女帝。さらにまどかは踏み込み、刃を上に振り上げた。

 

 

「チィイ! んがぁあ!!」

 

 

上から振り下ろされた刃を防ぐため、女帝は鞭を横に伸ばして盾とする。

しかしまどかの刃は鞭を両断すると、そのまま女帝の体に一閃を刻み込んだ。

 

 

「ぐっぅううっ!」

 

「ハアア!!」

 

「がぁああ!!」

 

 

そしてもう一方の刃で突き。

女帝の体は大きく後方へ吹き飛んでいく。

 

 

「アドナキエル!」

 

 

ハサミが消滅すると、入れ替わりで巨大な弓がまどかの手に。

まどかはそれを振り絞ると、光を集中させていく。金色の目が女帝を捉えた。

そして弦を離す。放たれる閃光。女帝の顔が死の恐怖で引きつった。

だがその時だ、赤い糸が見えたのは。

 

 

「!!」

 

 

光が炸裂する。

矢を受けたのは女帝ではない、薄ら笑いを浮かべたアシナガであった。

 

 

「ッ、アシナガ様……!」

 

「キミでは女神には勝てない。ココは引け」

 

「で、ですが!!」

 

「………」

 

 

アシナガの手にはダークオーブ。

それは女帝の傷から漏れ出る瘴気を吸収しているように見えた。

アシナガはしばらくの間、無言であったが、その内に大きなため息を漏らす。

 

 

「聞こえなかったかい?」

 

 

アシナガが指を鳴らすと魔法陣が出現する。

どうやら星の骸と繋がっているようだ。

 

 

「ッッ、も、申し訳ありません」

 

 

女帝は深く頭を下げると魔法陣の中に消えていった。

そして入れ替わったアシナガは目を細め、まどかを睨む。

 

 

「キミには感謝しなければならない」

 

「ッ?」

 

「感情がうずくのが分かる。魔獣の不完全な感情がボクを獣に変えるのさ」

 

「なにを言って……」

 

「理解不能と言う感情がボクを取り巻くのが分かる。それはまるで人の身を流るる血流のように」

 

 

心臓がある部分を押さえるアシナガ。

 

 

「虚無なる鼓動は――、怒りか? そう、僕は怒っているのかもしれない」

 

 

ソロスパイダーに変身。凄まじい瘴気が溢れた。

まどかはすぐに矢を発射。しかしソロスパイダーは回避も何もしない。

当然だ、する必要がない。加護があるからだ。ソロスパイダーを守護する願いの力、それを受けてソロスパイダーは構わずまどかに攻撃を仕掛ける。

 

 

「フッ!」

 

 

結界で攻撃を受け止めるまどか。

だが力が弱まるのを感じる。直後、アライブ体が解除されて、まどかは通常体に。

 

 

「くっ!!」

 

 

仕方ないか。前日に変身し、学校でも既に変身している。

連続使用はそれだけ当然力も使うわけで。つまり、ガス欠になってしまった。

すると見えたのは脚。まどかは結界を張り続けるが――。

 

 

「ッッ!!」

 

 

ソロスパイダーの足が結界を打ち破りまどかの頭部を捉える。脳が揺れ、よろけたところに赤い斬撃が直撃する。

 

 

崩落する赤い屋根(トワイライト・ファング)

 

 

爪を振るうと、赤い斬撃がジグザクの軌道で発射される。

地面を抉り削りながら、エネルギー波まどかに直撃、むき出しになった腕や脚の皮膚からは鮮血が散った。

 

目を見開くホムラ。

またまどかが傷ついている。それだけじゃない、丁度今、マミが地面を転がっていた。

マミもまた多くの傷が見える。そして前には笑い声をあげて走ってくるテラバイターが。

 

 

「巴マミ! 実力だけなら魔法少女の中でもトップクラス!」

 

 

銃声が鳴り響く。フラッシュが瞬く中でテラバイターはそのスピードを緩めない。

刃を食いしばるマミ、手、肘、足、膝、至る所からマスケット銃が飛び出し、マミは引き金を引いていく。

しかしテラバイターのスピードが緩まる事は、やはりなし。

 

 

「負けた事が少ないんでしょうね。でもね、私は貴女の100倍は強いわよ」

 

 

左手を翻す。指の間にはマスケット銃の弾丸が煙を上げていた。

撃った弾丸を指で挟み、地面に落とす。こうする事でテラバイターはマミの眼前にやってきた。

マミは距離をとるため、後ろにリボンを伸ばす。しかし赤色の閃光がそれを両断。

ブーメランだ。マミは歯を食いしばり肉弾戦へシフトする。

まずはと得意の蹴りを仕掛けるが、テラバイターはそれを簡単に弾くと、マミの腹部へ渾身のボディーブローを叩き込む。

 

 

「ガハッッ!!」

 

「雑魚雑魚雑魚ォ! 弱すぎて笑っちゃうわ!」

 

 

顎を蹴り上げるとマミは吐血しながら首を上げることに。視界に空が広がる。

そしてその間に背中に激痛が走った。マミは確認できないだろうが、ブーメランが背に突き刺さったのだ。

一方でテラバイターは新たなブーメランを出現させると、マミの胴体をV字に切裂く。

 

軽い悲鳴、白い服に赤が滲んでいく。

しかしそこでマミの喉から小さな銃が生えて発砲。カウンターを狙ったのだろう。

尤もテラバイターは顔を軽く逸らしてそれを回避すると、拳を握り締めてマミの顔面を殴りつけた。

 

 

「がっ! ぐッッ!!」

 

 

怯んだマミの顔面に拳がめり込む。

衝撃が凄まじい、マミの体はそのまま回転しながら後方へ吹き飛んでいった。

まだだ、テラバイターは右掌を前に突き出す。すると無数のエネルギー弾が発射され、マミの体に着弾していった。

次々に爆発が起こり、マミは血を撒き散らしながら地面を滑っていった。

 

 

「ククク! アハハハハ! 敗北は久しぶりかしら? 屈辱は極上の瘴気を出すわ」

 

「――ッ」

 

 

ヨロヨロと立ち上がるマミ。

その姿を見てテラバイターはさらに笑う。

 

 

「あぁら酷い顔」

 

 

指を鳴らすとテラバイターの頭上にエリーが出現、モニタにマミの顔が映る。

ああ、確かになんと酷いものであろうか。右目の部分は青アザになっており大きく晴れ上がっている。

唇や頬は切れ、鮮血が滴り、さらに髪も汚れ、全身血まみれだった。

 

そしてそれはマミだけではない。

まどかも同じである。ツインテールの一つは解け、至る所から血が流れている。

手塚とホムラはそれを見ているだけだった。だが意味は大きく違う。

一人は見ているだけ。一人は見ているだけしかできない。

 

 

「鹿目さんッ、巴さん――ッッ!」

 

 

ギュッと目を瞑り、ホムラはボロボロと涙を流す。

魔獣を生み出した原因が自分にあると分かっている手前、凄まじい罪悪感がホムラに圧し掛かる。

しかし不幸になっていく自分に安心感を抱いてしまっている事を自覚して自己嫌悪。

するとその時、手塚が声を出す。

 

 

「言っただろ。黒も白もあるのが人間だ」

 

「ッ?」

 

「お前は入れ替わったとき、何を言われた?」

 

「……!」

 

 

チェンジザデスティニーで入れ替わったとき、ホムラはまどかとマミに囲まれていた。

すぐに衝撃、ホムラは怯んだまま、まどかに抱きしめられた。

そしてたった一言。

 

 

『大丈夫だからね』

 

 

そう、言われた。

何が? それを聞く前にまどか達は戦いの場に向かってしまったため、その本意を聞きだすことはできなかった。

 

 

「ガハッ!」

 

 

マミが血を吐く。

ボロボロになった彼女をテラバイターはニヤつきながら見ている。

どうやらコレがチャンスだと思ったようだ。

 

 

「災難ね貴女も。暁美ほむらなんかがいたおかげでこんな目に合うんだもの」

 

「!」

 

 

嫌だ、聞きたくない。ホムラは耳を塞ごうとした。

だがその時、手塚が軽く背中を叩く。

 

 

「まあ待て」

 

「!?」

 

「拒むのは、直視してからでも遅くは無いだろ?」

 

 

すると、同じくしてマミがニヤリと笑った。その表情もしっかりとエリーは撮影している。

その光景に思わずテラバイターはもちろん、ホムラやソロスパイダーも動きを止める。

笑み――? 少なくとも笑っていられる余裕など欠片も無いはずだ。しかし確かにマミは笑みを浮かべている。

 

 

「勘違いしてもらっちゃ困るわ。ココに来たのは正真正銘、私の意志よ」

 

「はぁ?」

 

 

呼吸を荒げながらも、汗を浮かべながらも、血を流しながらも、それでマミは構わない。

痛みはある。苦痛はある。しかしそれでいい、それを受け入れる覚悟をしているからこそココにいるのだから。

 

 

「助けて――」

 

「?」

 

 

マミはボロボロだ。

それでも、確かに立っている。テラバイターを見ている。戦う意識があるのだ。

 

 

「彼女はそう言ったわ。理由はそれで十分よ」

 

 

彼女――、とは最早誰か言わなくとも分かるだろう。

ホムラは呆気に取られた表情でマミを見つめる。

 

 

「えッ、巴さん……?」

 

 

つまり? それは? どういう事?

あれ? 白? 黒? はっきりしたのは、まどかでした。

 

 

「友達を助けるのに、理由とか資格とか関係ない!」

 

 

ゴチャゴチャ言って何になる。

ベラベラ理由並べて何になるんだ。

 

 

「わたしの心だけが、あればいいッ!」

 

「!!」

 

 

打ちのめされた様にホムラはその場に立ち尽くした。

しかしそれは悲しみではないはずだ。その目には紛れもない光が宿っている。

尤も涙ならば一粒、たったいま流したところだが。

要するにだ。結論はこうだ。マミは、まどかは――

 

 

暁美ほむらを友人と言ったのだ。

 

 

だから、助けると。

 

 

「アハハハハハハ!!」

 

 

とは言えど聞こえてくるのは下卑た笑い声。

テラバイターは大きく肩を揺らしながら嘲笑をマミ達に授ける。

 

 

「あははぁ! おっかしい! 馬鹿じゃないのアンタたち!」

 

 

テラバイターには理解できない話だった。

暁美ほむらとの関係を客観的に見れば、どう考えてもほむらに加担するのはおかしい。

マミは怒り狂いほむらを撃ち殺すのなら分かるが、友達? 助ける? 自分がされた事も覚えていないのか。滑稽の極みであるとしか思えなかった。

 

 

「同感だね。そもそも友情なんて下らない。この世はエゴで回っている。人は自分の事で動いている生き物だ」

 

 

呆れた様にソロスパイダーは肩を上げた。

 

 

「他者のためだなんて反吐がでる」

 

「確かに、ほむらちゃんのした事は全てが正しいわけじゃないよ」

 

 

しかし。

 

 

「全てが間違ってるわけじゃ、絶対に無い!」

 

「………」

 

「ええ、それにコレは確かに私達のエゴでもあるのよ」

 

 

つまり、マミもまどかもホムラの為だなんて思ってはいない。

全部自分の為にホムラを助けるのだ。なぜ? 決まっている。ホムラに泣いていてほしくないから。ホムラに笑っていて欲しいからだ。

 

 

「辛い事もあったけど、楽しい事だって沢山あった。それはどれだけ時間をくり返しても、無かった事にはならないわ」

 

「ッ!」

 

「そして今、わたし達には記憶がある!」

 

「はぁ、類はなんとやら。愚か者の友人は愚か者と言うことかしら」

 

 

呆れた様にため息を漏らすテラバイター。

呆れ、呆れ、通り越し、実に腹立たしい。

 

 

「クズ同士ッ、さっさと消え去れェエエエ!!」

 

 

ブーメランを構え、一気に走り出すテラバイター。

狙うのはマミの首のみ。しかし同じくしてマミもその目をギラリと光らせた。

そして文字通り、ソウルジェムを光らせる。

 

 

「人の繋がりこそが希望よ! あなた達には分からないでしょうね!!」【アライブ】

 

「ッ! グッ! アァァアァァア!!」

 

 

アライブ体に変身したマミは一瞬で自らの周囲に数え切れぬ程のマスケット銃を召喚する。

それらが一勢に火を噴き、次々に銃弾をテラバイターの全身に浴びせていく。

強化された弾丸の雨はテラバイターの防御力を超えたのか、全身から火花を散らして何度も仰け反りながらテラバイターは後退していく。

プライドが高く相手を見下すクセがある魔獣は、止めを直接刺してくると睨んだマミ。故にひきつけにひきつけ、そこでカウンターのアライブを決めたのだ。

 

 

「グゥウ! ヌアアアァアァ!」

 

 

地面を転がる間も次々にマスケット銃が出現していき、弾丸の雨が追撃をしかけていく。

しかしテラバイターもただやられてばかりではない、全身から火花散る中、ブーメランをマミに向かって投げつける。

マミは指を鳴らし、黄色と水色のリボンを次々に出現させて壁とした。

それらはテラバイターのブーメランをしっかりと受けとめたように見えたが――

 

 

「負よ高まれェエ!」

 

 

テラバイターは瘴気をブーメランに集中させる。

するとブーメランが真紅のエネルギーを纏い、直後リボンを次々に切裂いてマミに近づいていく。

まずいか。マミは両足を揃えて跳躍。ブーメランを飛び越えて前方に着地する。

 

 

「もらった!!」

 

「えッ!」

 

 

指を鳴らすテラバイター。

するとブーメランが破裂。無数のナイフと変わり、それらは全てマミの背中に突き刺さった。

 

 

「ぐ――ッッ! がはっ!!」

 

 

油断していた、プラス、純粋なるパワー。

ナイフはアライブの力を貫き、マミの背に深く突き刺さる。

衝撃に呼吸を止め、直後大量の血を吐き出すマミ。

ホムラは青ざめ、口を押さえた。一方で笑うテラバイター。

 

 

「アハハハハ! どうかしら! 痛いでしょう!」

 

「あ――ッ、あ、あ……!」

 

 

よろけ、前のめりになるマミ。

倒れぬようにフラつきながらも前に出る。

 

 

「あ、あ、あ」

 

 

前進、前進、前進、まだ倒れない。

 

 

「あぁぁぁぁ」

 

「?」

 

 

前進、前進、前進。

直後、加速。

 

 

「ハアアアアアアアアアアア!」

 

 

マミは背中に大量のナイフを受け、血を吐き出しながらも全速力で走った。

アライブの衣装に似合わない疾走。何よりその鬼気迫る表情は常に怯えていた印象のマミとは全く違うものだった。

故に、テラバイターは固まってしまう。彼女はすぐにその愚考を後悔する事になるだろう。

おお見よ、マミの拳にリボンが纏わりつき、そのままマミはテラバイターの顔面を思い切り存分に殴り飛ばした。

 

 

「ブェエエエエエエエエエエ!!」

 

 

醜い叫び声を上げてきりもみ状に飛んでいくテラバイター。

マミは拳の先に銃を生やし、パンチと同時に銃弾を発射したのだろう。

凄まじいスピードでテラバイターは吹き飛び、ゴミの山に突っ込んでいく。

 

 

「どうかしら? やってやったわ!」

 

「!」

 

 

マミはホムラの方を見てサムズアップを一つ。

ホムラは戸惑いがちに頷いた。

 

 

「暁美さん。魔法少女はね、余裕の無い時ほど笑うものよ」

 

 

ホムラはその時、心に小さな炎が宿るのを感じた。

するとゴミ山を掻き分けながらテラバイターが立ち上がった。

表情を曇らせるマミ、あわよくば今の一撃でと思ったが、さほどダメージは受けていないようだ。

 

 

「調子に乗らないでもらえるかしらァア……? アルケニーみたいなカスと私はレベルが違うわよ――ッッ!」

 

「そう、残念だわ」

 

 

相変わらずマミの背中にはナイフが突き刺さったまま。

痛みが精神を削り、疲労を蓄積させていく。

 

 

「………」

 

 

ふと、一連の流れを見ていたソロスパイダーが動きを止め、沈黙する。

 

 

「萎えたな」

 

「ッ?」

 

「あとは頑張ってくれ、テラ」

 

 

魔法陣を出現させ、ソロスパイダーは何のことはなく消えていった。

これでフィールドに残る上級魔獣はテラバイターのみとなる。

 

 

「チッ! まあいい。あなた達ごとき、私一人で十分だわ」

 

 

そうだろうか?

刹那、稲妻が迸る。轟音と共にゴミ捨て場に着地したのは浅海サキだった。

 

 

「ッ! お前は!」

 

「ォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

サキのが叫ぶと、その体が文字通り消える。

姿が見えなくなると錯覚するほどの加速。テラバイターがサキを目視できたのは、自らの腹部に肘うちを打ち込まれた時であった。

 

 

「ぐぉおッ……!」

 

 

既にイルフラースを発動していたようだ。

電撃を纏った肘うちでテラバイターの動きが停止、そこへ渾身の蹴りを打ち込んだ。

帯電しながら飛んでいくテラバイター。しかしその腰にはサキの鞭が巻きついていた。

サキは鞭を引き戻すと、再びテラバイターを眼前に捉え、電撃を纏うラリアットをお見舞いする。

 

 

「イェゼレルミラー!」

 

 

テラバイターが吹き飛んだ所を予測して天使イェゼレルが鏡を持って先回りする。

当然そこへ吹き飛んできたテラバイターは鏡に吸い込まれてミラーワールドに。

まどか、マミ、サキはアイコンタクトを行い頷きあう。

 

 

「大丈夫ですかマミさん。今治療します!」

 

「ありがとう鹿目さん。サキも、助かったわ」

 

「ああ、キミ達のテレパシーのおかげだ。魔獣がコチラにいる事が分かったからな」

 

 

つまり魔獣が一箇所に集中している事が分かったので、真司たちもマミ達に合流しようと言う事だった。

イルフラースを使用したサキが真っ先に到着したわけだ。

尤もまだサキはパートナーである美穂と契約していない。ミラーワールドに入れる参加者は契約済みの者だけだ。

故にココからはマミとまどかだけとなる。

 

 

「マミ、勝率は?」

 

「微妙ね。鹿目さんはもうアライブを使えないし、結構疲れてるでしょ?」

 

「はい。はっきり言っちゃえば。でも行きます。行かせてくださいマミさん」

 

 

頷くマミ。イェゼレルが向ける鏡の前にマミとまどかは並び立つ。

そしてまどかは後ろを振り返り、ホムラに笑みを向けた。

 

 

「じゃ、いってくるね」

 

「!」

 

 

それが過去と重なり、ホムラは思わず前に出る。

 

 

「あの――ッ、でも、鹿目さんアライブもう使っちゃっ……た……」

 

「だからだよ。悔しいけどアライブが無いとあの魔獣は倒せないと思うから、マミさんをサポートしないと」

 

「ええ。もう少し待っててね暁美さん。これが終わったらみんなでケーキでも食べましょう」

 

 

まどかもマミも笑っていた。

 

 

「――ッッ」

 

 

だから、純粋な疑問がそこにあった。

 

 

「怖く……、ないの?」

 

「怖いよ。それでもわたしは魔法少女だから。皆のこと、守らなきゃいけないから」

 

 

そもそもそれが『願い』だから。まどかは微笑んだ。

ましてや真司や須藤も頑張ってくれたのだ。自分も何かしなければ示しがつかない。

 

 

「………」

 

 

うつむき、表情を歪ませるホムラ。

恐怖、疑問、葛藤、かつて無いほどの感情が心の中でミキサーされる。

するとまどかは、ポツリと呟いた。

 

 

「世界をくり返す中で、いろんな嘘があったよね」

 

 

悲しい嘘。優しい嘘。偽りはたくさんあった。ある意味で、今もまた偽りなのかもしれない。

 

 

「でもね、本当に――、これだけは本当だから」

 

 

まどかも思い出したのだろう。

懐かしい、こんな事もあったな。

 

 

「ホムラちゃん。あなたと友達になれて嬉しかった。あなたが魔女に襲われた時に、間に合って。今でもそれが自慢なの」

 

 

同じ台詞だった。

だが意味は、もう大きく違っているか。

それでもまどかは『同じ台詞』を口にしたのだ。

ホムラはどこか助けを求めるような視線でマミを見る。

すると返ってきたのはやはり笑顔だった。ホムラが一番欲しくて、一番いらない。全てを包み込むような慈悲がそこにはあった。

 

 

「あなたには感謝しないとね」

 

 

心に剣が刺さる。

 

 

「本当なら私、あそこで死んでたんだものね」

 

 

あそこ、とはホムラが魔法少女になった時間軸であろう。

 

 

「ありがとう暁美さん」

 

「!!」

 

「あんな所で死ぬなんてごめんだわ。あなたのおかげね」

 

 

それは痛みだった。

しかし矛盾する事に、ホムラは確かな喜びを感じていた。

最後に、もう一度まどかが声を投げた。

 

 

「ホムラちゃん、お願いがあるの」

 

「え?」

 

「思い出にわたしを視ないで。わたしは、ココにいるよ」

 

「!」

 

「行きましょう、マミさん」

 

「ええ、待たせちゃ悪いものね!」

 

 

こうしてマミ達はミラーワールドに入る。

鏡の向こうでは銃弾と矢が飛び交う光景がすぐに繰り広げられる。

ホムラは崩れ落ち、へたり込む。

 

 

 

「どうして二人とも――……」

 

 

なぜ今更優しくしてくれるのか。ホムラはそれが気になった。

それを望んでいるはずなのに、優しさは苦痛に変わる。裁きを望んでいたのか、それとも……。

 

 

「答えを出したからだ。強くあれるのも、優しくあれるのも、あの二人がそれを望んだからだ」

 

「!」

 

 

ホムラの横に手塚は立った。

 

 

「答えは唯一無二じゃない。数学のように決められたものがあるわけじゃないんだ」

 

 

それは占いのように様々な形に分岐する。

まどかは、マミは、少なくとも見つけたんだろう。自分のだけの答えを。

それはなにも二人だけに言えた話じゃない。真司も、須藤も。だから得たんだ。

 

パートナーとの絆。そして自らの性質に答えを見出す事。

その答えは時として大きく揺らぐのかもしれない。もしかしたら消え去るのかもしれない。

しかし答えを出したことは偽りの無い真実だ。それは永遠に消えない答えになる。

 

 

「答え……」

 

「ああ、だが気負う必要は無い」

 

「?」

 

「答え通りに生きなくてもいい。答えを叶えられなくてもいい。なぜなら答えは、ただの希望でしかないからだ」

 

 

だが、それを出さないのと出すのとでは意味は大きく変わってくる。

ホムラはそれを聞くと、腕を組んで立っているサキを見上げた。

 

 

「浅海さんも、あるんですか?」

 

「ああ。もちろん。私の答えはただ一つ」

 

 

サキの目には、一点の曇りも無かった。

 

 

「ゲームを潰す。私達は生き残るんだ」

 

「……!」

 

 

ホムラは問うた。苦しくないのか。重くは――、ないのかと。

 

 

「確かに、背中に張り付く黒もある」

 

 

その目は、光り続けている。

 

 

「だが私は過去に縛られるよりは今を生きる。悩んでいる間に、私は前に進むぞ、ホムラ」

 

「………」

 

 

沈黙するホムラ。すると手塚は鼻を鳴らして軽く笑う。

まどかはもちろん、マミも、サキも随分と立派になったものだ。

だが忘れはいけない。彼女達もまた苦しんで苦しみぬいた果ての今だ。

ホムラはそれを勘違いしているのかもしれない。

なにもすぐに今になれたわけじゃない。仮面の裏では醜く泣いた日もあろうて。

だがその結果、あれほど胸を張れるのだ。図々しく、己のエゴを張れる。

 

 

「人のために言う事で自分にも言える。人間は他人になら偉そうに言えるものさ。平気で自分を棚に上げられる」

 

 

手塚は軽くホムラの頭を撫でた。

 

 

「いいじゃないか、逃げても」

 

「え?」

 

「苦しいなら、逃げてもいいんだ」

 

「手塚――、さん……」

 

「目を逸らしてもいい。だが生きろ。生きていれば、やがて答えも出るはずだ」

 

 

無理にホムラになろうとしなくていい、無理にほむらであろうとしなくていい。

全てに蓋をしたとしても、生きていればいい。答えを見つけようとすればいい。

そうすればいつか、必ず、終わりは来る。

終わりがこなくても、納得できるかもしれない。

 

 

「答えを出さないのも、一つの答えだと俺は思うが」

 

 

誰も、何も、優等生のヒーローになろうと言っているわけじゃない。それを目指したい奴は目指そうとする『エゴ』だ。

そう言うものだろう。ライダーも、魔法少女も。

 

 

「生きてみればいいじゃないか。希望だけを考えて、絶望なんて無視すればいい」

 

 

忘れるな、先程のマミとまどかの言葉を。

そうだ、確かに彼女達はホムラを助けたのだ。

 

 

「言ったぞ、あの二人はお前の事を友だと」

 

「!!」

 

 

ホムラは衝撃を感じ、けれども背を引かれる感覚を覚える。

やはりできない、やはりなれない、自分には。

 

 

「そんな器用な生き方――」

 

「できる筈だ。そもそも俺の知ってるお前はもっと性格が悪かった」

 

「えっ!」

 

「自分のエゴをさらけ出せるくらいにはな」

 

 

思わず手塚を見上げるホムラと、もう一度優しく肩を叩く手塚。

 

 

「思い出せホムラ。あの時の事を――」

 

 

あの時、ホムラにはそれがどの時間軸なのか、すぐに理解できた。

間違いない、あれは、そう、ゲームの終わりに殺しあったときの事だろう。

思い出してみれば、後にも先にもあれだけ手塚と分かり合えた時はないような気がする。

 

尤も、それは歪な形での話しだが。

戦いが終わった後、パートナー同士での殺し合いが許可された。

そして手塚とホムラ――、いや、ほむらは殺しあったのだ。

 

 

「暁美、俺はお前に言われた」

 

 

目を閉じれば、いや目を閉じずとも容易に思い出せる。

 

 

『貴方は……自分が嫌いなのね』

 

「そうだ、俺は自分が嫌いだった。何にもなれない。かと言って消える事の意味すら見出せない」

 

 

しかしほむらは言ってくれた。

 

 

『変えればいい、生きる意味を! 希望を!』

 

『貴方は結局逃げているだけだわ! 自分の罪から、そして自分の欲望からも!』

 

『後悔するかもしれない、悲しみが襲うかもしれない、それでもその想いを抱くのはまどかを蘇らせてからでいい』

 

「俺はあの時、向き合えたぞ、自分自身に」

 

「……ごめんなさい。偉そうですね、私」

 

「言っただろ、そういうものさ。結局俺達はあれだけ他者の心に踏み込んでおきながら、まだ本心を仮面で隠していたんだからな」

 

 

おかしいと思うかもしれない。

何を馬鹿なと思われるかもしれない。

頭がおかしいのだと思われても仕方ない。だが少なくとも手塚はあの時、ほむらと殺しあう中で確かな喜びを感じていた。

 

なぜか? 決まっている。終わりを見たからだ。

無限に続く終わりなきマラソンのゴールが見えたからだ。

 

 

「俺はあの時、喜んだぞ。幸せだった。なぜなら死ねるんだからな」

 

「はい、私も――、同じです」

 

 

偉そうな事を言って、友を想って死んでいく。これほどカッコいい終わりはない。これほど楽に終わる自己完結もない。

死を望んでいたんだ。終わりを信じてた。そこの互いのパートナーを言い訳にするなんて愚かな事だ。

だが手塚は死んだものの、その裏にあった想いはただの自殺願望じゃない。手塚は確かに、ほむらを生かす道を選んだのだ。

 

 

「俺は、お前に確かな友情を抱いていた。だから生きて欲しいと思った」

 

「だから自分を殺してまで私を? 酷いです……、あんなの」

 

「悪いな。俺も性格は曲がってるんだ。俺はあの時、最期の願いを思いついた」

 

 

それこそがほむらに生きて欲しいと言う願いだ。

もちろんそこには手塚のエゴもある。

 

 

「お前と銃を突きつけあった時、俺はすでに答えを出していた。運命は、必ず変える事ができるのだと」

 

 

それは願望や期待じゃない。確かな確信だ。

人は運命を変えられる。抗い続ければ、答えを出せば必ずだ。

 

 

「変わりたいと思うのは、自分が今のままじゃダメと分かっているからだ」

 

「ッ!」

 

「どうする? このまま終わるか? お前」

 

「それは――」

 

「俺はゴメンだぞ。俺はもう答えを出したんだ。お前はどうだ? 自虐に塗れて消えていくなんて馬鹿らしいと思わないのか?」

 

「………」

 

「生きろ。そうすれば、きっと誰かがお前の良い所を見つけてくれる。悪い所も含めて愛してくれる筈だ」

 

「……っ!」

 

「それまで逃げ続けるのも悪くないんじゃないか?」

 

 

すると、ポツリと、ホムラの手の甲に雫が落ちる。

メガネのレンズを光らせながら、ホムラは弱弱しい声で呟いた。

 

 

「みんなと、一緒にいたぃ……、です」

 

「そうか」

 

「みんなと、お友達になりたぃ……!」

 

 

ボロボロと涙を流しながらホムラは懇願する。

 

 

「大丈夫だ。罪を無くすことはできないが、罪を超える事はできる」

 

 

ホムラの背中を軽く叩きながら手塚は言った。

 

 

「お前の力は、必ず戦いを終わらせることの役に立つぞ」

 

「……!!」

 

 

一方でイチリンソウの花畑では、縛られたほむらが虚ろな表情でそれを見ていた。

隣にいたワルクチは下卑た笑い声を上げ、モニタの向こうに見えた手塚にザクロを投げつける。

 

 

「馬鹿な男ですわ。弱い主様は永遠に自らの殻に引き篭りたいのに。ねえ? 主様?」

 

 

しかしほむらは何も言わない。何も語らない。

 

 

「あれ? 主様?」

 

 

まるで人形のようにうつむいている。

 

 

「コワレチャッタ……?」

 

 

目を赤くし、ニヤリと笑ってほむらの頬をつつくワルクチ。

すると、イチリンソウの花畑に銃声が響く。

 

 

「ハ?」

 

 

ワルクチは自分の肩を見る。

そこにはポッカリと穴が開いており、瘴気が漏れ出ていた。

 

 

「―――」

 

 

歪む表情。つまり、今、ワルクチは撃たれたのだ。

誰に? そんな者は一人しかいない。ワルクチが周囲を確認すると、ほら見えた。

銃を構えて歩いてくる暁美ほむらの姿が。

 

 

「な、何故だ!!」

 

 

信じられないと表情に浮かべ、ワルクチは肩を押さえながら一歩後ろに下がる。

一方でほむらは、いつもの様に髪をかき上げて鼻を鳴らした。

 

 

「よくもやってくれたわね。でももういいわ。ありがとう、さようなら」

 

「ど、どういう事ですの!!」

 

「もういらないの。マイナスイメージは。もう十分……。そう、もう十分なのよ」

 

「ッ!!」

 

 

杖を出現させるワルクチ。

ほむらを睨みつけ、鋭利な歯をむき出しにして怒りを露にする。

 

 

「お前は震えていれば良い! 中途半端に強がるな!」

 

「ええ。だからもう、終わらせるわ」

 

「うるさい! うるさいうるさい! 弱いくせにィイイッ!」

 

 

花を散らしながらワルクチはほむらに飛び掛る。

一方でほむらは盾に手をいれ、日本刀を引き抜いた。

刹那、銀の閃光が迸る。ほむらを通り抜けるワルクチ、その首筋に銀の線が見えた。

 

 

「ァ」

 

 

ポロッと、首が落ちる。

花畑のクッションに落ちた首は、そのままポカンとほむらを見ている。

一方で頭を失った体はそのままフラフラと前に進み、うつ伏せに倒れていた。

 

 

「な、なんでッ!!」

 

「黒を見なければ白は分からない。そうよ、手塚の言うとおり」

 

「ッ!?!??」

 

「そのために『弱さ』を知る必要があった。でももう大丈夫」

 

「………」

 

 

口を閉じるワルクチ。

 

 

「余計な心配をさせたわね。ありがとう、さようなら」

 

 

ほむらはワルクチの眉間に銃弾を打ち込んだ。

ワルクチは意味を理解したようだ。そしてその上で断末魔の悲鳴ではなく、下卑た笑いを浮かべた。

 

 

「目を瞑った所で何になります? この先にあるのは地獄ですわよ」

 

 

ほむらは無表情でワルクチの頭部を見下す。

そして淡々と鼻を鳴らした。

 

 

「退屈しないですむわ」

 

「――ッ!」

 

 

返って来たリアクションが望んでいたものと違いすぎてワルクチの表情が完全に歪んだ。

悔しげに叫び、そのまま霧の様にワルクチは消滅した。

 

ほむらは銃をしまうと、入れ替わりでナイフを取り出し、茨のロープを切裂いて『ほむら』を解放する。

そう、椅子に縛られていたのはメガネのホムラではなく、ほむらであった筈。

 

にも関わらず花畑に現われたのも『ほむら』、これは一体どういう事なのだろう。

すると椅子に座り、俯いていたほむらが小さく呟く。

 

 

「ほむらは弱い自分を守る殻――、そんな風に思ってたけど……」

 

「ええ、違うわ」

 

 

本当は、逆だった。

 

 

「あなたが、殻なのよ」

 

「………」

 

 

顔を上げたのは『ホムラ』だった。赤いフレームのメガネをかけ、三つ編みの黒髪。

そう、そうだ、初めから何度も何度も言っていた。ホムラはほむら、ほむらはホムラ。

 

とは言え話はややこしい。

 

イチリンソウで縛られていたのは――、つまり先程テラバイターに脳を弄られていたのはホムラであった。

そしてモニタの向こう、現実世界にいるのもホムラ。これは一体何がどうなっているのだろうか。

そう、結論を言えば初めから外の世界も、内の世界も、いたのは『ホムラ』だった。

明確に切り替わったのは悪夢に苦しめられ、洗面所に向かったときだ。

 

 

『あれ?』

 

 

ほむらは引きつった表情で鏡を見る。

 

 

『誰――? これ』

 

 

ほむらはそこで意識を失った。その時、鏡の中にいたのがホムラであった。

その時点でホムラが前に出たのだ。そしてほむらはホムラの中、深層に引っ込んだ。

ニコはまだほむらとホムラは同一人格だと分析した。

それは間違ってない、しかしもう既に擬似的な二重人格にはなっていたのだ。

 

よく人間が葛藤する際、善の自分と悪の自分を自演するときがあるが、要はアレと同じだ。

メガネをかけたホムラと、ほむらと同じ姿をしたホムラが生まれ、それがお互いを傷つける事となった。

 

つまり、ほむらは二つではなく三つの存在に分かれたのだ。

今まで戦ってきた"クールなほむら"、『メガネを掛けて気が弱いホムラ』、そして【イチリンソウの花畑に送られたほむらの姿をしたホムラ】。

 

 

「分かったいたの、いずれこうなる事が」

 

 

ほむらは言う。

自身の存在が複雑な感情によって大きく揺らめいている事が。

だから『ほむら』は従った。下手に抗わなかった。ただ手塚には事前に伝えておいたが。

 

 

「え? 手塚さんに」

 

「ええ」

 

 

そう、手塚は本当は知っていたのだ。

トークベントを介し、ホムラの中にいるほむらがホムラであると言うことに。

そう、もう一度言おう。イチリンソウの花畑でワルクチと会っていたのは『ほむら』の形をしたホムラだ。気が弱いホムラが生み出した強い自分の姿。

とは言え、手塚も詳しくを知っていたわけではない。突然の頭の中にほむらの声が入ってきたかと思うと、こうだ。

 

 

『手塚、もうすぐ私におかしな事が起きると思う』

 

『いきなり何だ。説明してくれ』

 

『私にも――。いえ、分かっているけど、話すのが難しいし、怖い』

 

『ッ? 分からない』

 

『それでいいわ。できれば、見守っててほしいの』

 

『大丈夫なのか?』

 

『大丈夫じゃないかもしれないけど、たぶん、それは、私にとって大切な痛みだと思うから』

 

 

しかし、もしも本当に苦しい時は――。

 

 

『助けて』

 

 

手塚は了承した。

ホムラが苦しんでいる事を理解しつつも放置ぎみに接するのは心苦しかったが、途中で手塚は理解した。

ほむらが、ホムラと向き合おうとしている事に。

 

劣等感、罪悪感、恐怖、複雑な感情こそがホムラの正体であり、齎そうとしているのは思考の変化と人格の解離。

このままでいいのか、こうあるべきじゃないのか、そんなアイデンティティや自我、言わば己が有り方を決めようとする思考に負が乱入する。

 

もっと簡単に言おうか。

これら一連の流れは全て、ほむらがマイナス思考にとらわれないために頑張っていた。

それだけの話である。

 

ついさきほど、ホムラは自分の事を『殻』と称した。

本来はホムラが弱い自分を拒絶するために作り上げた理想の姿がほむら――、つまり殻はほむらの筈なのに。

そうだ、間違いじゃない。確かにほむらは殻だった。

しかしそれはある時期を境に逆転する事になる。

 

それはほむらがメモリーベントにより記憶を取り戻したときだ。

もっと言えば『手塚とゲーム終了後に殺しあった記憶』を思い出してからだ。

あの時、ほむらは確かに『己』を手に入れた。

 

 

『私はこの終わりに、満足していないもの』

 

『ゲームをやり直す。そして、この腐った運命を変える』

 

『運命を、必ず変えてやる……ッ!』

 

「私は既に答えを出したわ」

 

 

ほむらは髪をかき上げた。

けれども同時に分かっていた。一つだけ無視できない存在がある。

それこそがホムラ、つまりは過去の自分、そしてなによりも目を逸らした弱さと言うものだ。

いずれ解離症状が起こる事を予見したほむらは、過去の自分が前に出る事を容認し、心の奥でずっと様子を伺っていた。

 

あとはご存知の通りだ。

優しくされれば崩壊が怖くなり、苦しくなれば安心してしまうと言う矛盾。

ループに縛られた自分は、確かに愚か者なのかもしれない。

ほむらは自らが観測者になる事で自分の存在を確立した。一切の感情を封印する形で自分を客観的に見つめる。

そうする事で意図的にホムラとの分離を果たしたのだ。

弱さを、醜さを視る。受け入れるだとか否定するのではなく、まずは視る。

そして知る事をほむらは選んだ。

 

そして遂にほむらは動いたのだ。

深層から這い上がり、まずは弱さの具現であるワルクチを排除し、己の心の本質と向き合っている。

 

 

「だからもう、終わらせないといけないの」

 

 

自己観察の終了。凝った自演の終幕。

我の本質――、ホムラは両手を広げて笑った。

 

 

「そう、ですよね。あははは……」

 

 

ホムラもまた理解する。なぜならば完全な二重人格ではない。

そうだ、ホムラとほむらは同一。

 

 

「私を殺してください」

 

 

弱い自分を殺してください。そう、ホムラは頼んだ。

 

 

「殻を破り、前に進んでください」

 

 

永遠に引きこもろうとするその意思こそがホムラの心臓であり脳だ。

 

 

「別れた私達が、同じになるんです」

 

 

それを破壊すれば、きっとほむらは自分を受け入れる事ができるだろう。

まどか達と笑い合えるときが来るのだろう。

 

 

「私はもう、要らない。そうでしょ?」

 

「………」

 

 

ホムラの言葉にほむらは頷いた。

もう時間を掛けてはいられない。今すぐにまどか達のところへ行かなければならないのだ。

だから、終わらせる。

 

 

「え?」

 

 

銃が落ちる音が聞こえた。

ほむらは、ホムラを抱きしめていた。

 

 

「なん……で?」

 

「――殻は、言い方を変えれば盾とも言う」

 

「っ?」

 

「マンガやアニメじゃ、亀は危なくなると手足を引っ込めて相手の攻撃を受け止める。現実世界だと、ヤドカリは身を守る殻を背負って生きていく」

 

「なにを言って――」

 

「弱い自分を殺せば、私は強くあれるのかもしれない。過去を否定すれば割り切れるのかもしれない」

 

 

けれど、強く有り続ける自信はなかった。

 

 

「自己分析してみて分かった。私は、自分が思ってるより脆いのよ」

 

 

ほむらはギュッと、ホムラを抱きしめる力を強めた。

 

 

「それに、何より」

 

「何より……?」

 

「私は、貴女(かこ)(ひてい)したくない」

 

「!!」

 

「辛い事があった、悲しい事ばかりだった、今だってそれが原因でこんなに苦しんでいる。でもそれでも、全ての苦痛を貴女のせいにはしたくない」

 

 

全て弱い自分が齎した結果だと憎悪したくないんだ。

手塚も言ってくれた。どんな人間も、せめて全うに生きれば、誰か一人は愛してくれるはずだ。その一番最初の人間に、自分がなれなくてどうする。

もちろんそれは簡単じゃない。少なくとも過去を嫌悪した事実は本当だから。しかしそれでも、それでも……。

 

 

「暁美ホムラ」

 

 

積み上げた時間が、今と言う希望になりえたのなら。

 

 

「……ッ」

 

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 

「――ッッ」

 

 

ボロボロとホムラの目から涙が溢れてきた。

自分のすすり泣く声を聞きながら、ほむらはホムラの背中を優しく撫でる。

 

 

「答えを出しましょう。今はまだ答えにたどり着けなくても、今はそれが答えになるわ」

 

 

いつか自分を赦せるかもしれない。いつか自分を愛せるかもしれない。

暁美ほむらと言う人間がどういった姿で終わりに向かって歩くのかを、見つけられるかもしれない。

愛す、受け入れる、否定する、分からない。だが、生きていればきっと。

 

 

「さあ、答えを出して、ホムラ」

 

 

ほむらは、ホムラに向かって手を差し出した。

刹那、フラッシュバックする笑顔。

 

 

『えぇ? そんなことないよ。なんかさ、燃え上がれーッて感じでカッコいいと思うなぁ』

 

「アイツも、お前もまた、心に大きな炎を宿している」

 

「!」

 

「過去に縛られるな。未来は、そこにある」

 

 

手塚の声が聞こえる。外の世界では、手塚がへたり込むホムラに手を伸ばした。

 

 

「手塚さん……!」

 

「怖いなら、俺が――、俺達が連れて行ってやる」

 

 

イチリンソウの花畑の中で、ほむらも頷いた。

 

 

「手を取れ。一緒に行こう」

 

「………」

 

 

ホムラの目つきが変わる。ズレたメガネを整えると、両手で挟み込むように手塚の手を取った。

そしてイチリンソウの花畑にいるホムラも、同じようにしてほむらの手を取った。

 

 

「か、かかか、かっこよくなりたい! 胸を張れる自分になりたぃ!」

 

 

涙を零しながらも、ホムラは叫ぶ。

 

 

「だっ、だから! 手伝ってくださぃ! わ、私! それに、手塚さん!」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 

ホムラは立ち上がる。

そしてまばゆい光が世界を包み込んだ。

 

 

「………」

 

 

風が吹いた。美しい黒色の髪がなびく。

暁美ほむらは、小さく息を吐き、いつものように髪をかき上げる。

 

 

「ッ、ほむら……」

 

 

立ち上がったほむらは、サキに向けて頭を下げた。

 

 

「?」

 

「ごめんなさい。浅海サキ。ワルプルギス戦で裏切った事、本当に……」

 

「――いや、気にするな。私はその事を責めるつもりはないよ」

 

「フッ、本当にありがとう。それにしても恵まれているわね、私は」

 

 

ほむらは小さく笑って、手塚を見た。

 

 

「ねえ?」

 

「ああ、そうだな。いい友人を持ってるよ、お前は」

 

「貴方も――」

 

「?」

 

「貴方もその一人よ。"海之"」

 

 

ポカンと目を丸める手塚。

しかしすぐに呆れた様に。嬉しそうに笑った。

 

 

「光栄だな」

 

「適当な返事」

 

「いいじゃないか。さあ、行こうか、"ほむら"」

 

「ええ」

 

 

二人は捨ててあった姿見の前に並んで立つと、同時にアクションを起こした。

手塚が突き出したのはデッキ。Vバックルが装備される。

一方でほむらが突き出したのはソウルジェム。そして二人は同時にポーズを取った。

 

手塚は右手の親指、人差し指、中指を立てて右腕を正面に突き出した。

ほむらも左手で遂に成るポーズを取って前に突き出す。

 

 

「変身ッ!」

 

「変身!」

 

 

デッキをセットすると騎士ライアが、魔法少女ほむらが姿を見せる。

ほむらは髪をかき上げた後、右手を前に出し、掌を上にした。するとそこへ光が集中していく。これは、新たなる魔法。

 

 

「ウルズコロナリア」

 

 

ほむらは自分自身を見つめなおした。

多くの人間を巻き込み、自分さえも傷つけても、得る物があったと確信している。

過去の価値、過去の意味、歩んできた道は決して無駄なものではない。筈。

どうする? 過去よ。

答えはある。ほむらが選んだのは否定でもなく、容認でもなく――。

 

 

ゆるぎない共存。

 

 

「頑張って、私」

 

 

新魔法ウルズコロナリアによってほむらの手に赤いフレームのメガネが出現する。

ほむらはそのメガネを掛けた。すると紫色の光が迸り、ほむらの髪が三つ編みに。まさに一瞬だった、ライアの隣にいたのはホムラであった。

 

 

「が、がががんばります! あ、手塚さん、危なかったら守ってくれると嬉しいです!」

 

「任せろ。行くぞ、暁美!」

 

「はい!」

 

 

そう、ほむらはホムラを消さなかった。

そしてホムラもほむらを否定も容認もしなかった。あるのはただ理解すると言うこと。

こうしてほむら達は完全に一つになった。多くの自分を内包しながらもそれら全てを理解すると言うこと。

思考の変化させる魔法、過去を認めた故の産物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁああああああ!!」

 

「「!?」」

 

 

悲鳴が聞こえた。突如テラバイターの体が爆発を起こし、爆煙の中を転がっていく。

なんだ? 目を見張るまどかとマミ。すると再び爆音。テラバイターは空中を回転しながら墜落する。

 

 

「ッぅぁぁ! なにィッ!?」

 

 

立ち上がろうとして気づいた。赤いライト。そしてピーッと言う起動音。

テラバイターは気づいた。自分の周りに無数の爆弾が設置されている事に。尤も、それに気づいた時には爆炎に揉まれて空中に放り出されたところだが。

そこへまどかの弓が、マミの銃弾が飛んでくる。テラバイターは苦痛の声を上げながら地面に落ちる。

 

 

「グゥウウッ!!」

 

 

地面を殴りつけ、テラバイターは前方を睨む。

あの爆弾を使う魔法少女はただ一人。まどかとマミもニヤリと笑って彼らを見た。

そう、歩いてくるホムラとライアを。

 

 

「――ッ」

 

 

ホムラは少し怯えた表情をしながらも真っ直ぐにテラバイターを睨み、盾を見せ付ける。

起動するギミック。砂時計が反転し、直後何かをドリルで削る音。

テラバイターがゆっくりと下を見ると、フェイスガードを構えながらホムラが必死にテラバイターのヘソの部分をドリルで削っているのが見えた。

 

 

「おい」

 

 

チュィイイイイイイイイイン。

 

 

「ちょっと!」

 

 

ヂュィイイイイイイイイイイン!

 

 

「クソガキィイ!」

 

「ひぃい!」

 

 

拳を振り上げるテラバイター。ホムラはビックリしたのか、肩を大きく震わせて頭を覆った。

そのまま砕いてやる――、その勢いで拳を振り下ろすテラバイター。しかしホムラの姿が消失し、変わりに地雷が一つ。

 

 

「あ」

 

 

拳が地雷を叩いた瞬間、再びテラバイターは爆発に揉まれ地面を転がる事に。

爆煙の中でテラバイターは確かな屈辱を覚える。同時に違和感。

おかしい、ホムラが時間を停止できるとは思えない。既に朝の時点で砂が無かったはずだ。

いや、待て。そうか。あった。一つだけ。例外。ナイトもそうだった。ミラーモンスターが死んだとしても蘇る。

そう、覚醒の瞬間。

 

 

(目覚めたかァア……!)

 

 

そのホムラはマミとまどかに駆け寄っている。

既に相当の激闘があったのか、まどか達の傷はより酷くなっており、呼吸は荒く、汗も酷い。

かなり疲労しているのがすぐに分かった。それでもまどか達はホムラが来るととても嬉しそうに笑う。

それが何よりの希望であった。

 

 

「ごめんなさい二人とも。でもっ、もう私は大丈夫だから!」

 

「ふふっ! 良かったねホムラちゃん!」

 

「うんっ! ありがとう鹿目さん!」

 

 

手を繋いで笑う二人。

マミとライアも軽く状況を説明しあい頷きあう。

 

 

「さぁて暁美さん。悪いけどさっそく働いてもらうわよ!」

 

「は、はい! 任せてください巴さん! 私っ、頑張ります!」

 

「ふふっ、久しぶりね。この感覚」

 

 

マミを中心として右にまどか、左にホムラ、背後にライアが立つ。

一方でたっぷりの瘴気を纏わせながらテラバイターは立ち上がった。

どうやら相当頭にはキテいるようだ。

 

 

「参加者達よ! ゲームにおいて絶対に必要なものが何か分かるかしら!」

 

 

ブーメランを構えて走り出すテラバイター。

時間を停止して距離を詰めたのか。目の前に一瞬でホムラが出現する。

手には魔力で強化したゴルフクラブが。二人はすぐに武器を打ち付けあうが、そもそもホムラはほむらより圧倒的に気が弱い。

イコールで戦闘には――、ましてや接近戦には不利も不利。すぐにホムラは武器を弾き飛ばされ、胴体を切裂かれた。

 

 

「うあ゛ッ!」

 

「それはただ一つ!」

 

 

そのまま前に走るテラバイター。

向かってきたまどかの杖をブーメランで弾くと肩を切裂き、裏拳で地面へ倒す。

 

 

「そう、勝者と敗者よ!」

 

 

そのまま旋回しつつブーメランを振るい、向かってきたマミと対峙した。

 

 

「我々は常に勝者だった。そしてお前達は絶対なる敗者!」

 

 

マスケット銃とブーメランがしばらくぶつかり合うが、一瞬の隙をついてテラバイターがマミの肩を蹴って跳躍、前宙しながら背中を切裂いて前に走る。

 

 

「何があったのかは知らないが、自己満足な割り切りを見せたところで私には勝てないわ!」

 

 

最後はライアだ。

エビルウィップを束ねて短鞭にするとバイザーと合わせて戦闘を行う。

 

 

「なぜなら私こそが勝者だから! その積み上げられてた因果はゆるぎはしないの!」

 

 

ココでテラバイターの触角が自在に動き、ライアの首を締め付けた。

その力は凄まじく、テラバイターが首を振るうと、そのままライアは投げ飛ばされる。

 

 

「一朝一夕。たかが一回の時間軸で手に入れた力なんて私には通用しない!」

 

 

ブーメランを投げるテラバイター。

旋回し空中を疾走する刃は立ち上がったライア、マミ、まどか、ホムラの体を切裂き、再び地面へ倒す。

 

 

「死になさい! 死と恐怖こそが一なる真実。あなた達がたどり着く最終なる答えェエ!」

 

 

ブーメランは投げれば戻ってくる。一同を切裂いた刃は、再び空を旋回しながら戻ってくる。

だがここでホムラが手を伸ばし、盾に手を掛けた。

 

 

「クロックダウン!!」

 

「ッ、なに!」

 

 

時計の魔法陣がブーメランに張り付いたかと思うと、その動きがスローとなる。

 

 

「これはッ、時間操作! ココまで精度を上げていたか!」

 

「ま、魔獣ッ!!」

 

「あぁ?」

 

「ひっ! ご、ごめんな――……ンンッ!!」

 

 

大きく咳払い。ホムラは怯えながらも、テラバイターを確かに睨みつけていた。

 

 

「あなたは、ひ、ひ、一つ間違ってる!」

 

「何が! この私に間違いなどないッ!」

 

 

テラバイターはブーメランを諦め、自らの瘴気で巨大なブーメランを作り出した。

禍々しい赤の光を纏ったソレを、思い切り投げつける。

 

 

「クライシス・ルーッジュ!」

 

 

地面を抉りながら突っ込んでくる三日月。しかしホムラは怯まない。

汗を浮かべつつも、目だけは逸らさない。

 

 

「貴女は確かに勝ってきた。でも、次は私達が勝つ!」

 

「何をォ!」

 

「積み上げてきた絶望が何ですか!? 私達だって記憶がある! 輪廻がある!」

 

「そう! あるわね! 騙しあい、殺しあってきたクソみたいな記憶が!」

 

「違う! コインです!」

 

「はぁあ?」

 

「絶望だけじゃなかった!!」

 

 

時間を停止するホムラ。

次の瞬間時間が戻り、ホムラの前にマミが立っていた。

 

 

「アイギスの鏡!」

 

 

リボンが円の形を作ったかと思うと、それが美しい装飾を持った鏡に変わる。

そこに瘴気のブーメランが命中すると、直後なんの事はなく反射され、テラバイターの下に飛来していく。

 

アイギスの鏡。

マミのアライブ時の防御魔法である。相手の飛び道具に対して防御力が上がり、防御に成功すると任意で攻撃を反射できるのだ。

これには驚くテラバイター。しかし驚いている暇は無い。そうだろ? 時間停止によって動いていたのはマミだけではない。ライアもほら、テラバイターの背後に。

 

 

「借りるぞ。お前の絶望」『コピーベント』

 

「んなッ!」

 

「俺の活路にしてやる」

 

 

ライアの手に宿るのは巨大なブーメラン、クライシスルージュ。それを投げると、ブーメランはテラバイターの体を捕らえて飛んでいく。

 

 

「ぐ、ぐあぁあああ!!」

 

 

そして前方からは反射されたブーメランが。

二つは重なり合い、テラバイターを中央とし、激しい爆発を巻き起こした。

 

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 

テラバイターはミスを犯した。

参加者を本気で殺す技は、逆に利用されれば自らを脅威に落とす技になるのに。

こうして自分の技で悲鳴を上げていると、ホムラは解を口にした。

 

 

「恐怖を振り払う勇気――ッ。誰かを信じる友情! そして絶望に負けない希望! それも確かにループで手に入れたものなんです!」

 

 

覚えているぞ。

これだけのゲームをくり返したのは、くり返せる理由があったからだ。

叶えたい願い。手に入れたい願い。成し遂げたい願い。それらは絶望で構成されているわけが無い。

そうだ、欲望があったから戦えたんだ。戦うために必要なのは正義でも悪でもない。願い。そしてそれを叶えるのは――。

 

 

「希望! 繰り返しで積み上げてきたものです!!」

 

 

ホムラは盾に手を掛ける。

 

 

「私の希望は、絶望を超えましたよ!!」

 

 

願い、叶えてよ。

 

 

「みんなに平穏を。明るい未来を!!」

 

 

時間停止。

そしてココがホムラの真価であった。ホムラは確かに戦闘には向いていない。

しかし先程の対象物のスピードを下げるクロックダウンと言い、魔法の力はほむらを凌駕している。

時間を止めたホムラはマミの肩を叩いた。するとマミに時間が流れ、動く事が許される。

 

そう、ほむらが時間を止めた場合、味方はほむらに常に触れていないと動く事ができなかった。

しかしホムラの場合、ホムラが一度触れ、動く事を許可すれば触れていなくとも動けるようになるのだ。

 

さらに『動く』ことに対しても詳細に設定を行う事ができる。

テラバイターの周りを飛び回りながら銃弾を撃ちまくるマミ。

銃弾は見る見る天に昇っていき、止まる様子を見せない。

そう、今現在ホムラはマミの全ての時間を元に戻している。つまり力である銃弾もその恩恵を受け、弾丸が途中で止まることは無い。

 

そしてある程度銃弾が空に飛んでいくと、ホムラは弾丸の時間を完全停止。

するとほむらはテラバイターの周囲に留まる弾丸を乗り移りながらどんどん天へ昇っていく。

 

そしてテラバイターのはるか頭上まで弾丸を階段にして登ると、ホムラは『ある物』を盾から射出する。

後は地面に戻ればいいのだが、ふと真下を見てしまう。

地面が遠い。目がくらむ様な感覚。ましてや今足場に使っているのはマミの弾丸、とても小さな小さな足場。

 

 

「うわぁん! こわいよぉ!」

 

 

思わずへたり込んで泣いてしまう。

だがすぐに水色と黄色のリボンが伸びてきて、ホムラをキャッチ。シュルシュルと地面に引き寄せる。

 

 

「よっと」

 

 

マミはホムラを横抱きにしてキャッチ。

 

 

「わぁ! ありがとうございます巴さんっ!」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

頬を桜色に染めて笑うホムラ。

マミも笑顔でホムラの頭を撫でた。

 

 

「ようし、見せてあげましょう。暁美さんの力を」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 

そのためにもうワンアクセントを加え、時間を元に戻した。

 

 

「うっぁ?」

 

 

テラバイターは気づく。体がリボンでグルグル巻きにされているのを。

 

 

(巴マミの拘束魔法か――ッ!)

 

 

だが見えない。そう、見えないのだ。

 

 

「あ?」

 

 

気づく。体が浮いている。

 

 

「あぁあ!?」

 

 

どんどん地面が離れていく感覚。そして凄まじい熱。

なんだ? まるで炎の中に放り込まれたような。だが確認できない。

視界が悪い。何がどうなっている。テラバイターは身を焼く炎の中で目に瘴気を宿す。

そして視た、その姿。

 

 

「ほへ?」

 

 

間抜けな声が出た。

無理もない。上にあったもの、つまりテラバイターをぶら下げていた物はスペースシャトルだったのだから。

上昇、上昇、上昇。テラバイターをぶら下げて、スペースシャトルは飛んでいく。

 

 

「お前、なんであんな物持ってたんだ?」

 

「お、乙女の秘密ですっ! えへへぇ」

 

 

人さし指で唇を押さえ、はにかむホムラ。

女性は秘密が多くて困る。ライアはやれやれと首を振って上昇するシャトルを見上げていた。

対してテラバイター。どうやらこの行為が完全に怒りを爆発させたようだ。

瘴気を惜しげもなく解放し、怒りに叫びながら抵抗の一手を繰り出した。

現在、テラバイターはリボンにより体を縛られているが、動ける部分がある。そう、首から上だ。

 

 

「ナメるなァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

口を開けると巨大な光球を連射。弾丸は次々にシャトルへ命中し、次々に破壊していく。

だがテラバイターは知らなかった。ホムラがスペースシャトルの中にたんまりと爆弾を詰め込んでいたのを。

起動、発火、衝撃、引火、各燃料。それすなわち――。

 

 

「ギェャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

大爆発。空が光に包まれる。

爆風が周囲を消し飛ばし、ホムラ達も、まどかが張った結界の中にいたとしても強く爆風を感じるほどだった。

 

空が爆煙に覆われる。

それを突き破り、紅蓮に燃える塊が一つ落ちてきた。

墜落地点はホムラ達の前。炎の中から聞こえるのは苦痛に呻く声と――、相手を殺してやるという確かな殺意の咆哮。

 

 

「やってくれたわねぇええ……ッ!!」

 

 

爆炎が瘴気に塗りつぶされる。

テラバイターは確かに立っていた。

が、しかし、体を見れば所々が焼け爛れ、そこからは大量の瘴気が漏れ出ているように見える。

どうやらかなりダメージを負ったらしい。当然それだけの怒りが宿るわけだが。

 

 

「ガタガタ震えてれば良かった物を――ッ! もう許してあぁぁげぇなぁい」

 

 

ホムラは青ざめ、ライアの背後に隠れた。

 

 

「そうね――、フフ、まずは全身の皮を剥いで」

 

 

一歩、一歩、確かにテラバイターは近づいてくる。

 

 

「爪と歯を一つ一つはがして、眼球に詰めてやろうかしら……!」

 

 

煙と瘴気を上げて、テラバイターは歩く。

 

 

「腹を割いて腸を出して、それを喉の奥に入れて」

 

 

チュィイイイイイイイイイイイイイイイイン。

 

 

「それから脳をグチャチャにして――」

 

 

ヂュィイイイイイイイイイイイイイイイイン。

 

 

「クソがァアアアアアアアアアアア!!」

 

「ひぃい!」

 

 

いつの間にか時間を停止して、ホムラはまたドリルでテラバイターの腹部を削る。

さらに今度はマミも髪をドリルにして同じ部分を削っていた。

テラバイターは完全にキレた。ホムラの首を掴むと、眼前に引き寄せる。

 

 

「お前はァ、苦痛の中でしか輝けない! 永遠こそがお前のアクセサリーだろうがぁ!」

 

「違うッ!」

 

 

ホムラはメガネを外す。すると髪がストレートになり、ほむらがそこにいた。

 

 

「苦痛を超えることこそが私の希望(カギ)!」

 

「あぁあ!?」

 

「戦いを終わらせ、お前達を倒す! それが私の答えになる!」

 

「できるわけないッッ! 弱さに縛られたお前は、永遠に闇の中だ!」

 

「できるわ! 私は弱い自分を連れていく!」『ユニオン』『トリックベント』

 

 

ほむらの体が消える。そしてテラバイターの前に現れたのはライア。

――と、その拳。

 

 

「あべぇべべべぁあぁあ!!」

 

 

テラバイターの顔面にめり込む拳。再びライアのストレートが魔獣を捉えた。

テラバイターは手足をバタつかせながら後ろへ吹き飛んでいく。

その中でライアは虚空を見つめ、鼻を鳴らす。

それは自虐的な意味を含んだもの。ホムラは随分と成長したが、ライアはどうやら過去と同じ思いを引きずっていた。

 

結局のところ、誰かを守ることで過去の罪を清算しようとする。

しかしそれでも、自分の力が誰かの役に立つのなら――、今は間違っていないと思いたい。

それに、抱える思いは偽りではないから。

 

 

「俺は中途半端な男だ。なかなか割り切れない。そういう意味じゃ、似たような事を考えていても城戸はずっと凄いな」

 

 

やはり、なんだ、『答え』を手にしても、改めて思う。

 

 

「俺はたぶん、城戸の劣化だ」

 

 

だが――、と、ライアは否定の言葉を続ける。

 

 

「そんな俺でも、城戸に絶対に負けない物が一つあると自負している。お前に分かるか?」

 

「知るかァアアアアアアアア!!」

 

 

テラバイターは立ち上がるとブーメランを構えてライアに突進していく。

 

 

「どうでもいいんだよッ! お前達の未来、宿命、運命、全ては絶望と死だ! それが揺らぐ事は無い! お前らは過去と共に消えろォオ!!」

 

 

ライアは小さくため息を漏らすと、デッキに手を掛けた。

 

 

「教えてやるよ、絶望」

 

「!!」

 

 

ライアが一枚のカードを抜いた瞬間、大量のタロットカード。トランプ。コインが出現した。

その衝撃に怯み、動きを止めるテラバイター。そしてライアは、カードとコインの中、持っていたカードを翻した。

するとエビルバイザーが弾け飛び、マンタを模した洋弓に変わる。

 

ライアはカードをそこへ装填しながら答えを告げる。

手塚にはこれだけは誰にも負けないと自負するものがあった。

それは――

 

 

魔獣(おまえ)らに対する、怒りだ!」

 

「!」

 

 

死や不幸を否定するつもりはない。

悲しいが世界を構成するシステムの一つだ。抗う事はあれど、否定するつもりはなかった。

だがそれを快楽の為に与える連中がいる。神様気分で支配者気取り、それで人間を使ってゲームをしましょうなんて――。

 

 

ふざけるな。

 

 

「お前らの齎す死、絶望、全て否定してやる!」

 

 

ライアの体が光り輝く。

 

 

「それが運命だと言うなら、宿命だと言うなら、俺が潰す!」

 

 

そしてライアの姿が弾け飛び、新たなライアが姿を見せる。

 

 

「手始めに見せてやる。変わる運命をな」【サバイブ】

 

 

仮面や弁髪は金色に染まり、頭部にはマンタの口ヒレ(頭鰭)を模した銀色の角が二対見える。

さらに腕や膝には金色のエイの装飾品が見え、装甲にも金のラインが目立つ。

ライア・サバイブ。運命のサバイブで変身した強化形態であった。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

計画どおりに進まぬ苛立ちにテラバイターは叫ぶ。

そしてブーメランを思い切り振るってきた。しかしライアも弓でブーメランを受け止めると、反っている部分でテラバイターを殴打していく。

弦のついていないエビルバイザーツバイは近接武器としてもロッドとして役に立つ。見よ、弓体がテラバイターの腰を打ち、敵は地面に倒れた。

その隙にライアはカードを引き抜くとバイザーにセットする。

 

 

【フォーチュンベント】

 

 

ライアの見る世界が変貌する。

セピア色の世界で、テラバイターは立ち上がると予期せぬアクションを起こした。

どうやら隠し武器を持っていたらしい。手の甲からブレードが伸びると、瞬く間にライアの喉を貫いた。

その光景を、他でもない、ライアが確認していた。

そう、ココに『ライアが二人居る』。

 

 

「成る程。そんな未来は要らないな」

 

 

弓を構え弦を引くアクションを取る。すると光が集中し、手を離すと光の矢が発射された。

矢は猛スピードで風を切裂き、テラバイターのブレードに命中して破壊に成功する。

そこでライアは弓を回して指を鳴らした。セピア色の世界が消え、世界の色素は元に戻る。

 

そのなかで立ち上がるテラバイター。

どうやら隠し武器を持っていたらしい、手の甲からブレードを伸ばすと――。

直後、そのブレードがライアの喉の前で独りでに破壊された。

 

 

「な、何故だ!!」

 

「視た。そして変えた。それだけさ」

 

 

フォーチュンベント、"デスティニーブレイク"はライアが未来を知るカード。

そして未来に干渉ができるカードだった。気に入らない未来は自分の手で変えるのが手っ取り早い。

まあもちろん、変えられるレベルの未来に限るが。

 

 

「行動は運命を決める重要なるファクターだ」

 

 

訳も分からず怯んでいるテラバイターに、ライアは弓矢を発射した。

矢は一直線にテラバイターの腹部に届き、光を炸裂させる。

 

 

「ぐあぁあ!」

 

 

衝撃から地面に倒れたテラバイター。そこでライアは新しいカードを装填する。

 

 

【タロンベント】

 

 

また世界が変わる。そこにはホムラがドリルでテラバイターの腹部を削っている過去が映し出された。

そう、ライアが矢を打ち込んだ場所は、そのドリルで削っていた場所である。

タロンベント、"エックスプレリュード"は攻撃を打ち込んだ場所に他の誰かが攻撃を行っていた場合、攻撃の威力が上がるというものだ。

ホムラが熱心にドリルを突き入れていた分、先程の矢の攻撃力が増幅する。

 

 

「ガアアアアアアア!」

 

 

時間が巻き戻り、矢が打ち込まれたシーンに巻き戻る。

矢はテラバイターの腹部装甲を破壊すると、大量の瘴気を撒き散らせた。

 

 

「こ、この様な事が……!」

 

 

おびただしく流れ出る瘴気を見て、テラバイターは焦りに震えた。

負けがある。敗北が視える。流れがライア達に来ている。このままでは絶対が揺らぐ。

 

 

(ここで死ぬのはマズイわ……ッ! まだアレを完全に回収できてない!)

 

 

結果、逃避。

テラバイターは地面を蹴ってライアから距離をとる。

 

 

「いけない! 逃げる気だわ!」

 

 

マミ達も前に出る。しかしそれを落ち着けたのはライアだ。

 

 

「俺に任せろ」【ホイールベント】

 

 

空中から飛来するのはエビルダイバーの進化形体、『エクソダイバー』。

ライアの前に着地すると音を立てて変形。最後に腹の部分にあるタイヤが展開し、エクソダイバーはバイクモードに変わる。

生成されるファイナルベントのカード、ライアはそれを手に取ると、エクソダイバーにセット。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

エクソダイバー・バイクモードの特徴は何と言っても加速力にある。

一秒も掛からず最高速度に達するスペック。それを極限にまで強化するのがファイナルベントだ。ライアが体を屈めると紫電がバイクに纏わりつく。

次の瞬間。まさにそれはあまりにも一瞬。ライアがアクセルグリップを思い切り捻ると同時に、ライアはテラバイターの前にいた。

 

 

「――ぁ、カ!」

 

 

雷光エネルギーとなり相手を一瞬で貫く。

それがファイナルベント、『ボルテック・スティング』の力だった。

貫かれた腹部が紫色に発光している。

帯電し、動きを止めたテラバイター。そこへまどか達が追撃を仕掛けようと言うのはある意味当然の事だった。

 

まどか、マミ、ほむらはそれぞれ阿吽の呼吸で位置を取り、トライアングルの形を作る。

飛び上がり弓を振り絞るまどか。巨大な大砲を出現させるマミ。バズーカーを構えるほむら。

 

 

「ティロフィナーレ」「トゥインクルアロー!」「ハァアア!」

 

 

三つの弾丸は同時に着弾。

爆発が起こり、悲鳴が中から聞こえて来た。

 

 

「うガァあぁあぁぁあぁあぁぁぁぁあぁあ!!」

 

 

爆発が晴れると、そこには何も残ってはいなかった。

 

 

『ヒッ! ヒァッ!』

 

 

それを上空で確認していたエリーは勝てないと判断。

モニタを捨てて電脳世界に逃げる。しかしそこで反応したのはライア。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

構え、振り絞る弓。

同時にモンスター体に変形したエクソダイバーが弓の前方に位置を取り、帯電しながらジワリジワリと光を貯めていく。

そして弦を最大まで引くと、エクソダイバーからエネルギーが解放。

弦を離すと同時にエクソダイバーは一瞬で加速してモニターのなかに吸い込まれていった。

 

 

『エッ!?』

 

 

背後を振り返るエリー。

一瞬だった。エクソダイバーがエリーを貫いていたのは。

 

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 

電脳世界でエリーは爆発。

魔女の力が消え、エクソダイバーは放電と共にライアの隣に一瞬で姿を現す。

たとえ相手がどんな場所にいようとも、どこまでも追尾して『必ず命中』するエクソダイバーと言う矢。

それがサバイブのファイナルベント、『カイザーストリューム』であった。

 

 

「やったぁ!」

 

 

駆け寄り、一番最初に跳んだのはマミ。

まどかに抱きつくと、ピョンピョンと飛び跳ねる。

 

 

「暁美さんも!」

 

 

笑顔で手を広げるマミ。

しかしほむらは少しためらうようにしたものの、やや引きつった表情で後ろに下がった。

 

 

「い、いえ、私は……」

 

「もぅ! 前にも同じ事言った! スキンシップは大事なのに! 喜びを分かち合うのはチームとしては大事な事なのよ!」

 

「………」

 

 

ほむらはメガネを取り出し、かける。

するとダッシュ。ホムラは地面を蹴ると、マミとまどかに飛びついた。

 

 

「が、が、がんばりましたぁ!」

 

「うんうん! 偉かったわ暁美さん!」

 

「うん! 凄かったよホムラちゃん!」

 

 

なるほど、そういう使い方をするのか。ライアは頷きながら三人を見ていた。

するとホムラはチラリとライアを見つめ、手を広げた。

 

 

「手塚さんも、どう、ですか?」

 

「い、いや、俺は遠慮しておこう」

 

 

まさしく別人の様だが、考え方が変わっているだけでホムラはほむらだ。

面白い魔法を手に入れたものだと思う。

さて、喜び合うマミ達はミラーワールド。現実世界ではサキが手鏡を使ってミラーワールドの中を確認していた。

 

ゴミ捨て場では須藤達が到着しており、サキはそこから離れた所に立っている。

テラバイターが逃げ、それを追うためにライア達もゴミ捨て場から離れてくれたおかげで助かった。サキもまどか達の勝利をバッチリと確認する。

 

 

「ぁ待たせたなぁ!」

 

「!」

 

 

声が。サキが振り返ると、そこには三つの影が並んでいる。

 

「ひとーつ! 青い閃光、悪を切裂きー!」

 

「ふたぁつ! プリティニコちゃん大活躍!」

 

「みーっつ! えーっと、なんだっけな……」

 

「ちょ、ちょい真司さん! そこは――ってまあいいか! お待たせサキさん! 戦力外スリー到着!」

 

 

ここでさやか、ニコ、真司が合流。

自虐たっぷりの名前だが情熱は人一倍だ。マミ達をいますぐ助けようと身を乗り出している。

 

 

「任せてあたしがバッタバッタとぶった切ってやるから!」

 

「俺も俺も! ブランク体だって何かできる筈だろ!」

 

「いやっ、もう終わったぞ……」

 

「「どえええええええええええええええええ!?」」

 

 

鏡を覗き込む二人。確かにもう戦いは終わっていた。

 

 

「あッ、本当だ! え? てか鏡の中に入って――」

 

「あ、ああ、そこからか。それは――」

 

「ちょっと待て」

 

 

手を出すニコ。

なんだろうか、一同が視線を移すと、ニコは額に汗を浮かべている。

 

 

「まだ終わってない」

 

 

警告音を放つレジーナアイ。

異変が起こったのは、そう、先程テラバイターが爆散したところであった。

そこへエリーのダークオーブが吸い込まれていく。すると巻きあがる瘴気の奔流。

 

 

●――――【【【絶 望 連 鎖】】】――――●

 

 

「……なるほど。どうやら、これってお約束みたいね」

 

 

●●●●●【【【狂・気・融・合】】】●●●●●

 

 

瘴気が爆発すると、中からテラバイターリボーンが姿を現す。

フリルが沢山あしらわれたゴスロリの衣装を纏い、触角がツインテールのようになっている。

シルエットが人型のままで巨大化はしていないが、あふれ出る瘴気は相当なものだった。

 

それは当然か、リボーン体にもはや勝利は無い。

この姿は一時的なもの、たとえこのまま、まどか達を倒したとしても待っているのは従者型に戻るだけ。

 

故に、リボーンとは何がなんでも相手を殺すと言う殺意の象徴。

空中に浮き上がったテラバイターの周囲に出現する無数のブーメラン。

それらは独りでに発射され、まどか達に向かっていく。

 

 

「道連れだ! 参加者ァア!!」

 

「くっ! きゃあ!」

 

 

シールドを張るが無数の刃が次々にシールドに襲い掛かり、直後粉々に破壊する。

マミも銃やリボンで応戦していたが、どうやらココでタイムリミットが来たのか、アライブ体が解除されて通常体に戻る。

ライアは弓をふるって赤紫の旋風を発生させた。風がブーメランを吹き飛ばし、そこへ矢を放ち、破壊しようと。

しかしブーメランはテラバイターの意思一つで自由自在に動かせる。器用に矢を交わしながら移動する。

 

 

「チッ! 弓か――」

 

 

ツバイはバイザーとは大きく違う形態に変化する。

ガントレットが銃に、ハサミつきのガントレットが双剣に。そして盾が弓に。

サバイブ覚醒時に武器の使い方、カードの効果はある程度頭の中に入ってくるが、それでも今まで扱ったことのない武器にはなかなか慣れない。

 

 

「やはり、俺一人じゃまだ不完全だな。そう思うだろ、暁美」

 

「ひゃぁぁぁ! え? あ!」

 

 

そうか、止めればいいのか。

ホムラは時間停止を使用してとりあえずライアの動きを元に戻す。

 

 

「分かるだろ、暁美」

 

「は、はい」

 

「どっちで行く?」

 

「………」

 

 

メガネに手を掛けるホムラ

。一瞬、外そうとしたが、大きく首を振って手を離す。

選んだのは、メガネをつけた自分だ。

 

 

「コッチで、行きます!!」

 

「そうか、分かった」

 

 

時間を戻す。

聞こえてきたのはテラバイターの笑い声だった。

 

 

「クフフフ! フヒハハハハハハ!!」

 

「――ッ」

 

「お前らはココで終わりよ! 我が絶望が絶対であると言う事を、お前達の死で証明してやる!」

 

「ち、ちがッ、えと、違いますッッ!!」

 

 

前に出るホムラ。眉を八の字にしながらも、やはりテラバイターを真っ直ぐに睨みつける。

 

 

「黙れェエ! 抗い続け、何も成せなかったお前に、私が負ける筈が無い!!」

 

「だから――ッ、今、成して見せますッ!!」【アライブ】

 

 

レコードとレコードプレーヤーを模した大きな三角帽子が、ホムラに被せられる。

すると三つ編みが伸び、みぞおちの部分で交差して結ばれた。胸に赤いバッテンがついた漆黒のローブを纏い、変身は完了する。

三角帽子、黒のローブ。『The・魔女』と言う風貌こそがほむらの――。ああ、いや、『ホムラ』のアライブであった。

 

 

一時停止(ストップ)!」

 

 

ホムラの手にあったのは大きな杖である。

先端の部分にホムラが今まで使っていた盾が少し大きくなってくっついており、これまた魔女の武器らしい。

そしてホムラが杖をかざすと、向かってきた無数のブーメランが全て動きを停止した。空中に静止する無数の刃。ホムラはさらに杖を振るう。

 

 

巻き戻し(リバース)!」

 

 

するとブーメランが文字通り巻き戻っていく。

さらに巻き戻ったブーメラン全てのホムラの魔力が張り付いているため、テラバイターに戻ったブーメランはホムラの武器としてテラバイターを傷つけていく。

 

 

「ぐあぁあぁ!」

 

 

地面に墜落するテラバイター。

ホムラは意を決した様に頷くと、一歩前に出た。そしてマミを、まどかを見る。

 

 

「見守っててください! アイツは、私が倒すからっ!」

 

 

笑みを浮かべ、ハッキリと頷くまどかとマミ。

一方でホムラはライアの横に立つ。

 

 

「決めましょう、手塚さん!」

 

「ああ。まずは任せていいか」

 

「はい! いきますとっておき!」

 

 

一回転し、杖を地面に突き刺すホムラ。

盾が光り輝くと、ホムラの周囲に魔法陣が円形に並んでいく。

その数は11、それぞれの魔法陣にはローマ数字が『2』から刻まれていた。

そして中央に立つホムラの真下にも魔法陣が一つ。そこには『1』の数字が刻まれていた。

 

 

「ま、魔獣ッ! あッな、たが! 何度、時間(しょうり)をくり返してきたのかは知りません!」

 

「グッ!」

 

 

立ち上がるテラバイター。同時にホムラの魔法陣が激しく光を放つ。

 

 

「けれどッ、私だって! 貴方達が生まれる前から何度も繰り返し――て、きた!!」

 

 

なんの為に? 決まっている、守る為に。救うためにだ。

途中で多くの感情が交じり合った。しかしその目的だけは最後までゆるぎなかった。

もちろん、諦めそうになった事もある。諦めた自分も遠い時間のどこかにいる筈だ。

けれど今、その全てを認めよう。受け入れるのではない、否定するのではない、認めよう、理解しようじゃないか。そして共に行こう。

今、私は――、終わりを見ているから。

 

 

「私が救う! 私が終わらせる!!」

 

「うるせぇんだよお前ェエエエエエ!!」

 

 

 

ブーメランを両手に持って飛んでくるテラバイター。

一方で杖が最大級の光を放った。ホムラは杖を引き抜くと、天にかざして魔法を叫ぶ。

 

 

「フォムホームホムフォーム!!」

 

「な、なんて?」

 

 

戦いを見ていたニコが思わず口にする。ほ、ほむ、ふぉ、ほ……?

すると地面に張り付いていた魔法陣が真上に移動する。するとその魔法陣が通りぬけた部分から――

 

 

「ごぶぉぅあぁあうぁあ!!」

 

 

鉄拳がテラバイターの顔面を捉えた。

四度目だろうか。テラバイターは凄まじい勢いで後ろに吹き飛んでいく。

今回テラバイターを殴ったのは――、ほむらだ。

 

 

「な、なんじゃこりゃ!」

 

 

戦いを見ていたさやかが叫ぶ。

11個の魔法陣から姿を見せたのは、全てほむらだったのだ。

あっと言う間だった、ホムラの周囲に11人のほむらが並び立つ。

そう、このフィールドには12人のほむらがいるのだ。

異なる時間軸のデータを解析し、生み出した自らの分身。それを呼び出すのがフォムホームホムフォームであった。

 

 

「おいちょっと待って! 一人すっげーデブいるぞ! 何だアレ!!」

 

 

ニコさまのご指摘の通り、並び立つほむらの中に凄いデ――、とてもふくよかな方がいらっしゃる。

しかしこれもある意味は当然か、時間軸が違えばほむらの形も全く違ってくる。そういう物だろう? ほむらとホムラを知っている皆様ならご存知の筈だ。

同じほむらはいない。想いは同じでも、人を成すのは状況と環境だ。異なる時間軸で得られた物は皆多種多様なのである。

 

ソレは当然、容姿もまた。

仕方ない、ココは戦いの前に一つニコとさやかの言葉を交えながら解説といこう。

ニコ達はまず2番のほむらから眼をつける。

 

2番のほむらはストレートの髪をいつものようにかき上げていた。

 

 

『みんな、気をつけていくわよ!』

 

「あれは普通の転校生だよね?」

 

「ああ、見たところいつものほむらだ……」

 

 

そう、いつもの"ほむら"である。通称『ほむら』、ホムラの対である。

 

 

『わたしは後ろから頑張るの! みんなは前で戦ってほしいの!』

 

「おいなんだよJSいるぞ! 後でペロペロしとくか」

 

「は?」

 

 

3番のほむらは確かに小学生にしか見えなかった。白衣を着て、喋り方も少し独特である。

通称『博士』、魔女が怖くて一度も戦えなかったほむらの姿であった。

 

 

「ちょっと4番の転校生素敵なんだけど!」

 

『みんなぁ、怪我しないようにねぇ?』

 

「なんだよアイツ、成長してもマミ以下じゃね?」

 

 

4番のほむらは明らかに成人しているように見えた。メガネを掛けており、髪を結んでいる。

通称『ほむ姉』、まどかを救うことを諦めてしまったほむらであった。

 

 

『まあまあ気楽にやれば良いんじゃないッスか?』

 

「5番ずいぶんとフランクだね……!」

 

(絡みやすそう)

 

 

5番のほむらは、ウェーブ掛かった髪の毛先を結んでいた。

赤いグローブをつけており、先程テラバイターを殴り飛ばしたのは彼女だ。

通称『剛拳ほむら』。肉弾戦で魔女を倒す事を目指したほむらであった。

 

 

「隣の転校生もイケメンじゃね?」

 

『精神を集中させよ。敵の殺気もなかなかだ』

 

(絡みにくそう)

 

 

6番のほむらは長髪をポニーテールにし、長い刀を持っていた。

通称『剣豪ほむら』。魔法ではなく刀で魔女を倒す事を目指したほむらであった。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! 7番アイツ何吸ってんの!?」

 

『樹液うめー!』

 

「何があったんだよ7番目の時間軸で!」

 

 

7番のほむらはクワガタの被り物をしていた。

それだけじゃなく、背中にはクワガタの羽のギミックを背負っている。そして手には木を切ったブロックにストローを刺して吸っていた。

通称『クワガタほむら』。まどかを救うことを諦め、クワガタとして生きていく事を決めたほむらである。なんと言うか、世界は広いものだ。

 

 

「んで、だから8番のデブは誰なんだよ!!」

 

『ごっつぁんです!!』

 

「なにがどうなってああなるんだよ! どこを目指してんだよアイツぁ!」

 

 

8番は、まん丸のシルエットのほむら。

通称『ドスコイほむら』。ちゃんこが大好きな普通の女の子である。

 

 

『おーおー、さっさとあんな雑魚やっちまおうぜ!』

 

「9番やさぐれてんなぁ」

 

「映画だと最初に死にそうだね」

 

 

9番のほむらはオラオラな女の子。

通称『やさぐれほむら』。余談だが、一番弱い。

 

 

「おい見ろ! 一人なんかユルキャラみたいなのもいるぞ!」

 

「ちっちゃ! 三頭身しかないじゃん! 後半イロモノしかいない!」

 

『………』

 

 

10番のほむらは成る程確かに三頭身で他のほむらよりかなり小さい。

と言うか頭が大きくて体が小さい。明らかに人間のシルエットではないが、そこはそれ、ファンタジーである。

通称『ぽむら』。余談だが、彼女は喋らない。

 

 

『みんなー、コンビネーションでねー!』

 

「待てなんだよ! あっちのほむらは――ッ! マジか! くっそ、何がきっかけに――ッ! マミ並じゃねーか!」

 

「たしかに、デカい……」

 

 

ほむ姉同じく成人済みのほむらが見えた。

セミロングで、常に笑っているため、糸目になっている。

11番。通称『むら姉』。余談だが、デカい。

 

 

『みんなーッ! 頑張って魔獣をたおそーねー★』

 

「全然キャラ違うの一人いるね……」

 

「まともな奴の方がすくねーじゃねーか! どうなってんだ!」

 

 

12番、前髪を左分けにしているのは『アイドルほむら』。

まどかを救う中でアイドルになってしまったほむらだ。

意味不明かもしれないが、実際なってしまったのだから仕方ない。

 

尤も、彼女達は虚構でしかない。本当のほむらは一人だけなのだから。

彼女達はいわばイフの姿。まどかを諦め、戦いから目を逸らし続けたそれぞれの最終到達者の亡霊。

過去のほむらであれば、その全てに嫌悪していただろう。だが、今なら――。

 

共に、歩めると。

そして彼女達は負ではない。失敗があるからこそ学び、前に進める。

そうだ、彼女達もまた――、希望! 無限にくり返したほむらが持つ、確かな可能性なのだ。

 

 

「行きます! みなさん、構えてください!」

 

 

杖を振り回し、構えるホムラ。

そうすると前方でテラバイターが立ち上がった。

 

 

「ガアアアアアアアアアア!! ぶち殺すわ! 全員ひき肉になりなさいッ!」

 

 

無数のブーメランが再び発射される。

 

 

減速(スロー)!」

 

 

ホムラが杖を振るうとブーメランの動きが減速。

その間に11人のほむらは前に出て一斉にマシンガンを発射する。

無数の銃弾によって次々に破壊されていくブーメラン。その中で、ほむらと剣豪ほむらと剛拳ほむらの三人がマシンガンを落として地面を蹴った。

 

 

「補助します! 早送り(クイック)!」

 

 

紫色の光がほむら、剣豪、剛拳に纏わりつく。

瞬間、三人の動きが加速。それぞれブーメランを弾きながらテラバイターの眼前に迫った。

 

 

「数が増えたところで雑魚は雑魚! 私が負ける理由は無いィイ!!」

 

「まーだそんな事いってんスか!」

 

「笑止、自らの弱さを認めぬなど愚考の極みだ!」

 

 

乱舞。刹那、決着。剣豪ほむらの刀がブーメランを弾き、剛拳ほむらの拳がテラバイターの胴体を打つ。

動きが怯んだところで、ほむらが剣豪剛拳の肩を蹴って跳躍、二丁拳銃を乱射しながらテラバイターの背後に回る。

 

 

「過去の弱さが強さに変わる。貴女には永遠に理解できないでしょうね!」

 

「しなくてもいい! 私は最強なのよ!!」

 

 

テラバイターが旋回するとツインテールの触角が鞭となり三人を打つ。

地面に倒れたところで追撃を繰り出そうとしたが、テラバイターの視線が上空に向けられた。

そこには巨大なドローンの上に乗ったアイドルほむらがスポットライトを浴びていた。

 

 

「ま、そもそも可愛さじゃあたしの方が上かなぁー? あなたってラブリーポイント低い気がするのよねっ、虫だしっ!」

 

 

アイドルほむらはハンドガンを発砲。銃弾がテラバイターの怒りを刺激する。

 

 

「あぁ、ゴミが! 目ざわり極まりないわ! 叩き落してやる!」

 

 

ブーメランを構えるが、そこで声が聞こえた。

 

 

「余所見はいけないッスよー」

 

「ゴッ!! グバァアア!!」

 

 

剛拳のフック、ボディーブローがテラバイターに打ち込まれた。

後ろに下がっていくテラバイター。そこで衝撃、気づけば剣豪ほむらが背後にいた。つい先程まで前方にいた筈なのに。

 

 

「――斬ッ!!」

 

「グガガアガアガガガアァア!!」

 

 

刀を鞘に納め、カチリと音がした瞬間、激しい斬撃がテラバイターの体に刻まれる。

なんだこれは、思考が理解に追いつかない。その隙にほむらは時間を停止。

12人のほむらは全て同一の存在。故に誰が時間を止めても全員動く事ができる。

 

 

「貼ります!」「はい!」「えいっ!」「よいしょ!」「ッス!」「フン」

 

「くわくわ」「ごっつぁんです!」「おらよ!」「………」「そりゃぁ!」「これでよし★」

 

 

全員で何かをした後、それぞれはそれぞれの位置に。

 

 

「時間を戻します! ドスコイほむらさん、お願いします!」

 

 

ホムラが杖を振るうと時間停止が解除。

顔を上げるテラバイター。そこには巨体のほむらが。

 

 

「おぉおぉお!?」

 

「ドスコォオオオオイ!!」

 

「ぐあぁぁあああああ!!」

 

 

渾身のツッパリが炸裂し、テラバイターの体は面白いように飛んでいく。

そして地面に激突した時、テラバイターは気づいた。

自分の体に、12個の爆弾が張り付いている事に。

 

 

「ヒィアアアアアアアア!!」

 

 

爆発に揉まれて空に打ち上げられるテラバイター。あるのか、(それ)が!

絶対にありえないと思っていた負けがまた眼前に迫っているのか。ありえない、ありえてはいけない。魔獣のプライドが怒りと殺意を増幅させる。

 

 

「認めないわ! 魔獣は絶対! 神をも超える絶望は完全なのよ!!」

 

 

テラバイターは黒い翼を広げてほむら達から距離を離す。

同時に自身の周りに数えるのも面倒なほどのブーメランを出現させる。これは攻撃であり盾であろう。

三百六十度を囲むブーメラン、時間を止めてもあれを引き剥がさないとどうにもならない。

そしてテラバイターは撤退を選ぶのか? よもや外の人間を巻き込むつもりか。

いずれにせよ、向こうの手段は全て潰す。前に出たのはライアだった。

 

 

「俺も何かしないとな」【アドベント】

 

 

エクソダイバーが飛来。ライアとホムラは頷き合うと、エクソダイバーの背に飛び乗った。

さらにぽむらがライアの頭の上に飛び乗る。そのままエクソダイバーは飛翔、トップスピードでテラバイターを追いかけていった。

 

 

「クソォ!」

 

 

テラバイターは背後を確認し、ブーメランを向かわせる。

しかしエクソダイバーは不規則な軌道でそれらを次々に交わしていった。

一方でホムラはマシンガン、ぽむらは二丁拳銃、ライアは弓でそれぞれの弾丸を放ち、的確にブーメランを破壊していく。

 

そして後ろから音。見ればそれぞれのほむらもテラバイターを追って空を駆けていた。

ほむ姉が運転するヘリコプターにはクワガタほむらが。むら姉が運転するヘリコプターにははしごが掛かっており、そこに、ほむら、剛拳ほむらが。

巨大ドローンステージにはアイドルほむら。一方で軍から盗んだ戦闘機を運転していたのはやさぐれほむら。

 

 

「ヒャッハー! ぶっ殺してやるぜクソ魔獣!!」

 

 

ミサイルや銃弾で次々にブーメランを破壊していく。

だがそれでもまだブーメランは大量である。もちろんほむら達は誰一人不安な表情を浮かべていなかったが。

 

 

「そこだ!」

 

 

その中でライアが光の矢を撃った。同時にホムラが杖を振るう。

 

 

複製(ダビング)!」

 

 

ライアの矢が分裂し、ブーメランを次々に破壊していく。

 

 

「今です! やさぐれさん!」

 

「しゃオラァ! 任せとけバカヤロー!!」

 

 

ブーメランが破壊され、僅かにあいた隙間。

そこへ、やさぐれほむらは戦闘機で飛び込んでいく。

そしてこの戦闘機の上にいたのは剣豪ほむら。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

刀を振り回し迫るブーメランを切り弾き、そしてそのままテラバイターの翼を切りぬいた。

 

 

「ウェアアアアアアアアア!!」

 

 

翼を失い地面に墜落していくテラバイター。

墜落し、素早く立ち上がると既に周りにはほむらだらけ。

 

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

「ガガガガアガアガアガガガガガガ!!」

 

 

ホムラ、ほむら、剣豪、剛拳、ほむ姉、むら姉、やさぐれ、クワガタ、ぽむらがマシンガンを発射し銃弾の雨をテラバイターに浴びせる。

そしてフィニッシュはライアの矢。それを受けてテラバイターは全身から瘴気を撒き散らしながら吹き飛んだ。

だがまだ終わらない。ガチャガチャとけたたましい轟音。

なんだ? テラバイターが顔を上げると、巨大なロボットがそこにいた。

 

 

「はぁあ!?」

 

『対大型魔女用人型決戦兵器・アケミカイザー』

 

 

博士の声が聞こえた。どうやら中に乗っているようだ。

ビルくらいの大きさのスーパーロボット。以上、説明終わり。

 

 

『消し飛ぶのー!』

 

 

ガコンッと音がして直後、雨のようにミサイルがテラバイターに迫った。

 

 

「……マジ?」

 

 

ポツリとテラバイターが呟いた。

爆発が見えた。爆発が続いた。テラバイターの悲鳴が聞こえた。

 

 

『フィニッシュなのー!』

 

 

ボタンを押すほむら。

するとアケミカイザーの胸部分についていたバズーカ砲からドスコイほむらが発射され、高速回転しながらテラバイターに直撃された。

 

 

「どすこーい!!」

 

「ぐあぁぁあぁああぁぁ!!」

 

 

肉の塊に弾かれ地面を何度かバウンドしてテラバイターは地面に倒れた。

 

 

「何故だぁぁ! この私が、あんなに弱かったお前らにッ!」

 

 

立ち上がりフラフラと前に進むテラバイター。

一方でほむらは鼻を鳴らし、前に出る。

 

 

「理解したからよ。弱さは、強さに変わると!」

 

「黙りなさい! 自己満足の次はおままごと? 調子に乗るんじゃないわよッッ!!」

 

 

確かに、弱かったせいでたくさんのほむらが生まれた。

たくさんのほむらは諦めた結果や救えなかった結果の産物。つまり弱さの具現。

しかしそれでも、その想いを繋ぎとめることで力に変わる。たとえ失敗しても、たとえ間違えたとしても軌道は修正できるという確信。

たとえ諦めても前に進み続けた努力。信念。希望。

マイナスだけじゃない。マイナスだけじゃないんだ。ほむらはホムラの肩に手を置いた。

 

 

「私達は、間違っていたのかもしれない」

 

「………」

 

「けれど今は後悔して闇に篭るより、エゴを通して光に向かっていきたい」

 

「………」

 

「その欲望が力になる。希望になる」

 

「はい!」

 

 

ホムラは頷くと、ほむらの肩を優しく叩いた。

そしてライアと共に、ホムラが前に出る。

 

 

「一緒に終わらせましょう、手塚さん!」【ユニオン】【ファイナルベント】

 

「ああ、運命を変えてやる!」【ファイナルベント】

 

 

ホムラの左手に弓が出現し、右手で弦を引き始める。

しかしエネルギーが強く、抵抗力もあるのか、左手も右手も震え始めて狙いが定まらない。

すると重なる手。ライアはホムラの背後に回ると、左手をホムラの左手に重ね、補助を。

そして右手で弦を掴むと、思い切り引っ張る。

 

一方、弓の前に体を横にして構えるエクソダイバー。

ホムラ達が弦をひくのに比例してエクソダイバーの先端に赤紫の光が集中していく。

 

 

「「ハァアアアアアアアアアア!!」」

 

 

声を重ねて、二人は弦から手を離す。

するとエクソダイバーから赤紫色の大きな矢が発射された。

 

 

「ッ!! アァアアッ! クソッ!!」

 

 

だが流石は幹部クラスの魔獣。ダメージが溜まった体を叱咤させると真横に跳躍。

ライア達が放った矢は太く、速いが、なにせ一直線だ。追尾もしないし、引き寄せるわけでもない。回避は決して難しいものではなかった。

現にテラバイターは回避したのだから。

 

 

「ハハァ! どうかしら! あなたの必殺技なんて当たらないのよ!!」

 

「………」

 

「全てのファイナルベントを使ったわね! ここから形勢逆転よ!!」

 

「そうでしょうか!」

 

「えッ! なんですって!」

 

「今から判定に入ります!」

 

「何ッ!?」

 

 

ホムラはローブを翻しテラバイターに背を向けると、歩いていく。

ライアも同じように後ろに下がっていく。

敵に背を向けるなど馬鹿なのか。テラバイターはそう思うが、その時、テラバイターの周りに12個の魔法陣が出現した。

 

 

「これは!」

 

 

ローマ数字が書かれた魔法陣の中には、先程矢を放つライアとほむらが映っていた。

しかしそのほむらが、各魔法陣の中で違っている。

1番ならホムラ、2番ならほむら、3番なら博士と言う風にそれぞれ対応したほむらが矢を撃った事になっていた。

 

 

「審査です。12個の時間軸の中で貴女が矢を避けられた事が偶然なのか必然なのかを査察させていただきます」

 

「何を言って――!」

 

 

すると11番の魔法陣が光り輝いた。

 

 

「流石むら姉さん、流石私です」

 

 

どうやら11番の時間軸では矢が命中したと答えが出たらしい。

 

 

「それが現実になります」

 

「!!」

 

 

テラバイターは己の腹部を見る。

すると矢がしっかりと刺さっているではないか。腹部を貫き、背を破って矢が突き刺さっているではないか。

 

 

「な、ナッ、ナナナナナッッ!!」

 

「諦めろ。それがお前の運命だ」

 

 

ライアが淡々と呟く。

テラバイターは全身を掻き毟るようにしながら咆哮を上げる。

 

 

「あぁああぁあぁ! な、何故だぁあぁああぁ!!」

 

「12個の時間軸のうち、一つでも矢が貴女に当たる運命があれば、それが現実に反映される――」

 

「私がァァ! そんなぁッ、ありえないわッッ!!」

 

「それが私達の、ファイナルアンサーの効果です」

 

「あぁああぁッ! うぐアァァアア!! ウギュィぁああああ!!」

 

 

バチバチと過剰エネルギーが全身を駆け巡る。さらに全身から吹き出す瘴気。

テラバイターは仰向きに倒れると、そのまま大爆発を起こした。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ホムラとライアはそれを背にし、同時に各ほむら達は消滅していった。

ホムラはメガネを外し、変身を解除する。ライアも変身を解除すると手塚に戻った。

 

 

「ねえ海之」

 

「なんだ?」

 

「………」

 

「?」

 

「あの――」

 

「っ?」

 

「えっと……」

 

 

頭をかいてため息を漏らすほむら。

再びメガネを取り出すと、装着。

やはり、こちらの方が伝えやすい。

 

 

「あ、あのあのあのぉ!」

 

「あ、ああ」

 

「ありがとうございましたぁあ!!」

 

「……ああ!」

 

 

手塚は小さく笑うと、ホムラと軽いハイタッチを交わす。

その時だった。ホムラがつまずいて顔面から地面に直撃したのは。

 

 

「だ、大丈夫か!!」

 

「ふわぁぁん! 痛いですぅ!!」

 

 

便利なのか不便なのか。難しい魔法を手に入れたものである。

 

 

 

 

ホムラは立ち上がろうとして力をこめる。

そこで気づいた。足が無くなっていた事に。影魔法少女達がコチラを見てケラケラ笑っている。

死ね、そう言われているようだ。マミの影が大きな大砲をほむらに向ける。

 

そこで暁美ほむらの意識はブラックアウトした。

 

 

「!!」

 

 

ほむらは跳ね起きると口を押さえた。

吐き気が酷い。なんだ? 夢? そう、そうか、眠っていたのか。

 

 

「……ッ?」

 

 

いや、眠っていた――? 夢?

 

 

「―――」

 

 

眠っていたのか、自分は。分からない。

それにあれは夢だったのか。

 

ダメだ、混乱している。どこまでが夢で、どこまでが現実だったんだ?

吐き気もひいた。ほむらは冷静に考える。

そうだ、そうか、テラバイターを倒して皆で帰ったんだ。

それで、えっと、どこに帰ったんだっけ? そう、家じゃなくて。

 

暗い、静か、怖い――。

 

 

「大丈夫?」

 

「え?」

 

 

背中を摩ってくれる手があった。

ほむらが寝返りをうつと、そこにはマミの笑顔があった。

 

 

「と、巴さん」

 

「うなされてたけれど……」

 

「い、いえ。大丈夫。ありがとう、楽になったわ」

 

 

改めて状況整理。

テラバイターを倒した後、それぞれは別れた。サキはさやかと共に家に。

ニコは一人で帰宅。それから、龍騎ペアと、ライアペアと、シザースペアが合流してマミの家に寄ったのだ。

騎士達がこれからの事を軽く話し合っていると、疲れた出たのかまぶたが重くなって――。どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 

 

「………」

 

 

それにしても、やはりそう簡単には割り切れないか。

プラスに進めば心はマイナスを望む。けれど、それを振り切ってみせる。

なぜならばもう弱さを認めているからだ。

 

 

「ねえ暁美さん」

 

「?」

 

 

外はもう真っ暗のようで、部屋の中も暗かった。かろうじてマミの顔が見えるくらいか。

だからだろう、マミはベッドの前にあるスタンドライトのスイッチを入れた。

淡いオレンジ色の光が部屋を照らし、ほむらとマミはベッドに寝転びながら向き合う事に。

 

 

「少し、お話聞いてくれる?」

 

「え? ええ。私でよければ」

 

 

マミは己の中にあるモヤモヤを打ち明けていった。

ほむらが今回の件で苦しんでいるのは知っていたが、なかなか力になれなかった事にマミも思う所があったのだろう。

まどかに言った事とほぼ同じ内容をほむらにも打ち明けていく。

 

 

「暁美さんを気にかけようとしていても、うまくいかなくて。それってやっぱりまだ心のどこかで暁美さんに警戒してたのかな。ううん、怖かったのかなって」

 

 

どう接してあげればいいのか、何をしてあげればいいのか、それがまるで分からない。

傷つけてしまうかもしれない。傷つけられてしまうかもしれない。だから近づけない。

 

 

「ほら、私達って結構ぶつかりあったじゃない?」

 

「そ、それは――。ええ、ごめんなさい」

 

「ううん、暁美さんは謝らなくていいわ。私だって頭が固かったし。だから――」

 

「?」

 

「だから、もっと自分の考えている事とか口にした方がいいのかもって」

 

 

親しき仲にも礼儀ありとは良く言ったもので、本当にそうだとマミは思っていた。

けれども自分達は少し例外なのかもしれない。記憶を取り戻した以上、魔法少女同士、参加者同士と言うものはある意味家族よりも付き合いが長いのだから。

それに存在自体が常識から外れている。だからそういう人と人との間に本来強いられる常識の壁に縛られるのはナンセンスなのかもしれないと――、思った。

 

 

「だからその、なんていうのかな……。うーん」

 

「どうぞ。気にせず、ゆっくり考えて」

 

「うん――。ううん、本当は分かってるの。でもなんていうか、少し恥ずかしいというか抵抗があると言うか」

 

「?」

 

「ほら、なんていうのかな。須藤さんたち風に言うならね、やっぱりこういう状況。疲れるじゃない? 気を張るって言うのか。常に仮面を被って、鎧をつけて」

 

 

元々そうだったが、特にF・Gが始まってからはよりいっそう。

無理もない、F・Gとはデスゲーム。魔獣がいる今ならばより一層気を張っていないといけない。

でもそれじゃあ、疲れてしまう。

 

 

「それに不安だし。私豆腐メンタルとかいろんな人に言われてるのよ……。酷いと思わない? まあ、否定できないからアレなんだけど」

 

 

しょぼくれるマミを見て、思わずほむらは笑ってしまった。

少し言い方は悪いが、なんだかとても可哀想に見えて、ほむらはついマミの頭を優しく撫でる。

 

 

「巴さんはよくやっていると思うわ」

 

「え……?」

 

「あ」

 

 

なんて事をしているんだ。

半ば反射的に取った行動とはいえ、恥ずかしくなってほむらは固まってしまう。

一方でマミも頬を少し桜色に染めてほむらを見ていた。けれど直後、マミは笑みを浮かべてほむらを見つめる。

 

 

「ありがとう」

 

「……い、いえ」

 

「やっぱり、今、思ったわ」

 

「え?」

 

「仮面を、鎧を目の前で安心して外せる人がほしいと思わない?」

 

 

それは家族であったり。仲間であったり。パートナーであったり。

 

 

「もっとみんなと仲良くなりたいなぁって」

 

「ええ。私も、本当にそう思うわ」

 

「そう。そうなの……」

 

「?」

 

 

マミの様子が少しおかしかった。何かをためらっているような、そんな素振りだ。

だが意を決したのか、マミはまっすぐにほむらを見つめて言った。

 

 

「あの、ね、暁美さん。暁美さんは今一人暮らしなのよね?」

 

「ええ。そうだけど――」

 

「もし、ね、もし良かったら」

 

 

マミは恥ずかしそうに目をそらした。

 

 

「一緒に暮らさない?」

 

「……え?」

 

 

一瞬頭が真っ白になる。

なにを言われたのか理解するのにしばらく時間が掛かった。

 

 

「ご、ごめんなさい! やっぱり重い? 私そういう所があって――」

 

「い、いえッ! そうじゃなくて!」

 

「?」

 

「ど、どうして私なの?」

 

「暁美さんとはほら、いっぱい衝突もしたと思うけど、仲良くもなれると思うし。それに一人じゃやっぱり寂しいし……」

 

 

違う違う。面倒な言葉で取り繕うなら今までと一緒じゃないか。

マミはたった一言。ほむらと暮らしたいともう一度口にする。

 

 

「私じゃダメ? 一人が良い?」

 

「そんな事……! でも私なんか誘っても……」

 

「もうっ、何を言ってるの?」

 

「え?」

 

「暁美さんじゃないと、ダメなんだから!」

 

「―――」

 

 

その時、ほむらの体に稲妻が走った。

貴女じゃないとダメ。その肯定の言葉こそ、ほむらにとって必要だったものだ。

いや、人間にとって。そう、全てはこの言葉。

価値の、証明。

 

 

「……少し、マズイかもしれないわ」

 

「え?」

 

 

そこでマミは気づく。

ほむらの表情が歪み始めた。目を上に向けており、言葉が震え始める。

 

 

「なんで――? どうしてなの、巴さん」

 

「ん、何が?」

 

 

理解するマミ。声色は優しかった。

一方でほむらの目から涙がボロボロ零れてきた。ダメだ、堪え様とすればする程溢れてきてしまう。

ソウルジェムで止めようと思ったが、それよりも早く心が感情で溢れそうになってどうしようもない。

 

 

「わ、私――、いっぱいあなたに酷い事したのに……!」

 

 

忘れたわけじゃないだろう。

後ろから撃った事もあるし、何度も裏切ったし、殺意を持って殺し合った事だってある。

マミも何度も苦しんだはずだ、そしてその理由は全てじゃないとはいえ、多くにほむらが絡んでいる。

 

アルケニーに襲われたのだって、極論ほむらのせいなのに。

それなのにマミはほむらと一緒にいたいというのだ。ほむらじゃないとダメだと、ほむらを肯定したのだ。

ほむらを受け入れようというのだ。まどか意外の全てを拒絶しようとしていたほむらにとって、これほど心に来るものがあろうか。

するとマミはまた優しい笑顔を浮かべて、ほむらの頭を撫でた。

 

 

「お互い様よ。私だってもっと強ければ、貴女達を助けられたはずなのに。もっと早く戦いを終わらせる事だってできた筈なのに」

 

 

だからもう嫌なんだ。傷つけあうのは。手を取り、戦いを終わらせたい。

それがマミの本心だった。それに全てを知った今、ほむらを責めることなんてできるわけもない。

誰もみんな心に抱えているものがあった。正しいとか、悪いとかじゃなくて、それこそ理解を示したいから。

 

 

「なにより、ね、私――」

 

 

満面の笑みが、そこにあった。

 

 

「暁美さんの事、好きだもん」

 

「……!」

 

 

ほむらの視界が濁る。

言葉を出す事も難しい。難しいが、言わないといけない言葉があるから、ほむらは口を開いた。

 

 

「――も」

 

「え?」

 

「私も、寂しい、です。寂しかった」

 

 

でも背負わなければならないから。

でも甘えられないから。

でも戦わなければならないから蓋をした。それでも、今、つくづく思う。

 

 

「巴さんと一緒にいて、良いですか? 私が、私なんかが……」

 

 

あの日、運命の日、助けてくれたのはまどかだけじゃなかった。

確かにマミもいたのに。それでも自分は。なのにマミは赦してくれるのか。ああ、ああ。ほむらの中に感情が溢れていく。

気づけば、ボロボロと泣きながら、ほむらはマミにしがみ付いていた。

 

 

「言ったでしょ、暁美さんじゃないとダメだって」

 

「はい……! ありがとうございます――ッ、マミさん……!!」

 

「うふふっ、マミさんかぁ」

 

「うぅぅ、マミさぁん――!」

 

 

スイッチが入った――、正確には壁が壊れたのか、しがみついて泣きじゃくるほむら。

するとさすがに泣き声が聞こえたのか、まどかが様子を見にやって来た。

 

 

「マミさんほむらちゃん大丈夫ですか――? って、どッ、どういう状況ですか!?」

 

「暁美さん、緊張が解けたみたい。ようし、鹿目さんも一緒に暁美さんを安心させてあげましょう!」

 

「はいっ! なんだか分からないけど、了解しましたぁ!」

 

 

まどかはニンマリと笑ってほむらの隣に飛び込んだ。

右にマミ、左にまどかが位置取り、真ん中にいるほむらを抱きしめる。

ほむらは天上を向く形となり、左右それぞれで笑顔を浮かべている友人を見る。そしてまた泣いてしまう。

 

 

「あぁぅ、まどかぁ」

 

「あぁ、泣かないでほむらちゃん。どうしたの?」

 

 

この際だ、もうほむらは半ばやけくそで心の中にあるものを吐き出していく。

まずはマミと仲良くなれて嬉しい。そしてもう一つはやはり魔獣に言われた事が刺さっていた。

特に一番はテラバイターに脳を弄られたときだ。あの時ほむらは傍観者を決め込んでいたとは言え、やはり考えれば考えるほど傷つくというもの。

 

 

「んもう、魔獣のいう事なんて気にしちゃダメだよほむらちゃん!」

 

「でも、ええ、でも!」

 

「確かに、わたしにとって最高の友達はほむらちゃんもだけど、さやかちゃんも仁美達ちゃんもだよ」

 

「酷いわ鹿目さん! 私は!?」

 

「あはは、マミさんは最高の先輩ですよ!」

 

 

話を続けるまどか。

そういう意味ではほむらはナンバーワンではない。だがそういうものだろう。友人と言うのは。

もちろん『達』の中には杏子たちも含まれているのだ。

 

 

「まあ他の人は知らないけど、少なくともわたしはそう。友達に順位なんてないよ」

 

 

皆それぞれがオンリーワンの大切でかけがえの無い存在なのだ。

 

 

「ほむらちゃんも分かるよ。だからこそマミさんと仲良くなれて嬉しいんだもんね」

 

「うん、うん……!」

 

 

嬉しいし、怖かった、まどかと同等の存在が簡単に現われてしまうことが。

だがそれは、なんらおかしな話ではない。

確かに状況によっては優先順位と言うものはある。けれどやはり本質は皆が平等と言うのが友情だ。

 

 

「まどか、私ね――」

 

 

ほむらが新しく抱いた夢、目標。

まどかと同じ。戦いを終わらせて他の参加者と友達になる事だ。

それは魔法少女になる前に抱いた夢と同質のもの。みんなが居れば、きっと世界は楽しいから。幸せだから。

それが、希望。

 

 

「うん! 一緒にみんなと仲良くなろうね! ほむらちゃん!」

 

 

まどかはほむらの手を握る。それは常に夢見た光景。それが今ココにある。

そしてそれだけじゃない。もう一方の手をマミが握ってくれた。

これは、いけない。あれだけ涙を流したのにまだ堰を切ったように泣けてくる。まどかとマミに挟まれ、ボロボロと涙を流し続ける。

 

 

「わ、わ、わ、どうしたのほむらちゃん!」

 

「――て」

 

「え?」

 

「し、幸せで。幸せすぎて――、私は幸せになっちゃいけないのに……!」

 

 

その時、まどかとマミは即答であった。声が重なるほどに。

 

 

「幸せになって良いに決まってるよ!」

 

「幸せになって良いに決まってるわ!」

 

「ま、まどかぁ……! マミさぁん!」

 

 

もちろん罪はある。

それでも、全てをゼロにできるチャンスが今なんだ。

その可能性に縋ってもいいじゃないか。だからまどかとマミは強く、強く、本当に強く口にする。

 

 

「ほむらちゃんは幸せになっていいんだよ!」

 

「ええ。一緒に、なりましょう? それが人の特権だもの!」

 

「うぅうぅぅあぁあ!」

 

「マミさん! ほむらちゃんを安心させてあげましょう!」

 

「任せて! いくわよ鹿目さん。サンドイッチ作戦!」

 

 

まどかとマミは強く強く、けれども包み込むようにほむらを抱きしめる。

 

 

「ほむらちゃん、ギュー!」

 

「も、もうやめてぇ! まだないぢゃう……!」

 

 

幸福が溢れていく。ほむらはまどかとマミに挟まれながら尚、涙を流す。

幸せだ。ああ、こんな幸せがあったなんて。怖いけど、嬉しい。嬉しすぎる。

 

 

「いいのよ。大丈夫だからね暁美さん」

 

「うぁあああぁあぁああああッッ」

 

 

今日は、今日からは――、幸福が恐怖に勝るまで一緒だ。

マミとまどかは、ほむらが落ち着くまで、ただギュッと強く抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ時間が経ったろうか。

須藤が様子を見に来たとき、三人はしがみ付いたままで眠っていた。

 

 

「フッ」

 

 

思わず笑みを漏らす須藤。

まどかとマミは温かな笑みを浮かべ、中央にいたほむらは涙の痕さえあれど、本当に幸せそうに笑っていた。

にんまりとしている表情は、須藤が何度くり返したループの中でも見たことがなかった。

 

少し間抜けで、隙だらけにみえる。

逆を言えばやっとこんな表情を浮かべる日がやって来たと言うことなのか。

真司と手塚もそれを確認して、笑みを浮かべる。

まどかも家には連絡を入れているようで、今日はお泊り確定だろう。

真司達はリビングに戻ると、ソファに座る。

 

 

「いやぁ、良かったなほむらちゃん! 本当に嬉しそうだった!」

 

「ええ、あんな暁美さんは始めてです。ですが、あれが本来の彼女の表情なのかもしれませんね。F・Gや、魔法少女のシステムさえなければ」

 

「だが、ココに至ったのはある意味それらがあったからだ。運命って奴はそういう風に出来てる」

 

 

だからこそ勝てば良い。魔獣は自分達が勝利者だといったが――。

 

 

「だとすれば俺達は魔獣を勝利者の座から引きずりおろす」

 

「ええ、そして私達が勝利者になればいい」

 

「っしゃ、燃えてきた! どうする? 俺達もハグしとくか!?」

 

「遠慮しておく」「遠慮しておきます」

 

「な、なんだよ二人とも! ノリ悪いなぁ! 手塚も須藤さんも、スキンシップだよスキンシップ!」

 

「考えてもみろ。逆に俺達が抱きしめあってどうなる?」

 

「え? どうって……」

 

 

ちょいと真司は想像してみる。

自分と須藤が手塚をサンドイッチして抱きしめあっている光景を。

 

 

「おぇ……、気持ちわるっ」

 

「城戸さん……」

 

「や、なんて言うか、本当にごめんッ。俺が悪かったです……!」

 

 

手を合わせて適当に振る真司。魔法少女には魔法少女の、騎士には騎士の距離感と言うものがある。

それでいいじゃないか。うん。よし。真司は自己完結を行い、ソファに座りなおした。

 

 

「ですが一つ、気になる点がありますね」

 

「えッ? なんの事ですか須藤さん」

 

「ああ、俺も一つ」

 

「???」

 

 

真司は分かっていないが、手塚と須藤が危惧する事はただ一つ。

 

 

「青いほうを逃がした」

 

「ッ、アイツか……!」

 

「その中でも俺が気になる点が一つある」

 

 

テラバイターとゼノバイターの狙いがあくまでもほむらであった事は分かる。

しかしその割りには何度か殺せるタイミングを逃した気がする。少し言い方を変えれば、本気でほむらを殺しに来ていたのかは疑問があると。

 

 

「何か他の目的があった、そういう事でしょうか」

 

「かもしれないな。まあ、あくまでも俺の推測だが」

 

「でもさ、どっちしてもアイツが諦めてなかったらまた来るって事だろ」

 

 

シャドーボクシングを始める真司。

胸に宿る悔しさが炎となって心を焦がす。

サバイブ体ですら互角か、それ以下か。だがだからと言って負ける気なんて欠片もなかった。

 

 

「今回、俺なんにもできなかったからさ、次は任せておいてよ!」

 

「いえ、城戸さんは今回頑張ってくれたじゃないですか」

 

「ああ、お前がいなければ電車の中にいた人間は全員魔獣に殺されていた」

 

「え? そ、そうかな。はは、はは」

 

 

照れくさそうに頭をかく真司。単純だが分かりやすくて良い。

手塚は笑みを浮かべつつ、ふと窓の外を見た。

 

 

「………」

 

 

一つ、心には燻る炎があった。

 

 

(まさか――、いや……、そうなのか)

 

 

あくまでもそれは予想。

いや、自分自身、そして世界に対する占いか。

 

 

(どうやら決着をつける時が来たのか――)

 

 

焔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク……! クカカカカカカカカ!!」

 

 

星の骸、テラバイターは椅子に座り、脚を組んで笑っていた。

そこはイチリンソウの花畑。知るのは情報、テラバイターの死。

 

 

「来てる、来てるぜぇコリャァ!」

 

 

テラバイターが死んでくれたおかげで、勝利した時の報酬を全て自分の物にできる。

あふれ出る喜びを抑えきれず、ゼノバイターは高笑いを浮かべる。

 

 

「ツキが回ってきたなぁ、おい。それにおもしれーモンも手に入ったしよォ?」

 

 

チラリと『ソレ』を見るゼノバイター。

 

 

「フフハハハ! フハハハハハハハ!!」

 

 

黒い羽が舞い落ちる空間で、ゼノバイターは笑い続けた。

 

 

「来たか、俺様の時代ィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ァ」

 

 

携帯のアラーム音で目覚めたほむらは、一瞬ギョッとする。

見覚えのない天井。拉致でもされたかと思ったが、すぐに思考が加速する。

そうか、そうだ、そうだった。ほむらは少し居心地が悪そうにベッドを整えると、部屋を出て行った。

 

 

「あ」

 

 

良い匂いがする。パンが焼ける良い匂いが。

そうやって歩くと、ほむらはリビングにやってくる。

 

 

「ほっ!」

 

 

後姿が見えた。彼女は目玉焼きを作っていた。

 

 

「お、おはよう、ございます」

 

「あ、おはよう暁美さん」

 

 

ほむらはソファの端に座って固まった。

 

 

「まどかは……?」

 

「カバンとか取りにいかないとダメだからもう出て行っちゃった」

 

「そう――、ですか」

 

「ふふっ、別に敬語じゃなくていいのよ? よしっ、できた!」

 

「でも、なんだか申し訳なくて」

 

「前からそうだったじゃない」

 

 

マミは目玉焼きとハムを皿に移すと、ほむらの前に皿を置く。

 

 

「暁美さんが楽にしてくれないと、誘った意味がないじゃない」

 

「……!」

 

「ココをもう一つのお家にしてほしいんだから。ね?」

 

 

「……じゃあ、遠慮なく」

 

 

ほむらはマミに笑みを向けると、少し頬を染めて座りなおした。

楽な体勢で。楽な姿勢でだ。

 

 

「飲み物は任せて。紅茶が良い? コーヒー?」

 

「じゃあ紅茶でお願いしようかな」

 

「分かった。砂糖とミルクは?」

 

「うーんどうしようかなぁ?」

 

 

いつも静かだった朝に笑い声がする。

それはマミにとっても、ほむらにとっても新鮮なものだった。

 

 

「……おいしい」

 

「え? 別に普通じゃない? ただのスーパーで売ってるパンよ」

 

「久しぶりなの。いつも朝はろくに食べなかったから」

 

「あー、ダメよちゃんと栄養は取らないと。特に朝ごはんは一日のはじまりなんだから」

 

「ふふっ、そうね。これからは取る様にするわ」

 

「それがいいわ。フフフ!」

 

 

ほむらはコーヒーを一口飲む。

それは今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しかった。ただのインスタントなのに。

 

 

「そうだ、私もカバンを取ってこないと」

 

「それがさっきエビルダイバーが持って来てくれたわよ」

 

「え? 本当?」

 

「ええ。凄いのね暁美さんのところのミラーモンスター」

 

「そう言えば海之が言っていたわ」

 

 

ここで手塚海之さんの華麗なる同居生活を見てみよう。

ミラーモンスターは『なつき度』が高ければ高いほどいいと聞いた手塚。

しかしどうすればなついてくれるのか。考えた結果、とにかくなるべく一緒にいる事だった。

 

 

『エビルダイバー、ポテトとってくれ』

 

『エビルダイバー、遅刻しそうなんだ、学校に連れてってくれ』

 

『エビルダイバー、DVD返しておいてくれ』

 

『エビルダイバー、お腹すいた』

 

『エビルダイバー、背中かいてくれ』

 

『エビルダイバー、シャンプーとってくれ』

 

『エビルダイバー、神経衰弱でもするか』

 

『エビルダイバー、7時に起こしてくれ』

 

『エビルダイバー、エビルダイバー? エビルダイバー! あ、悪い、なんでもなかった。許してくれ。爪きりを取ってもらおうと思ったんだが、目の前にあった』

 

『エビルダイバー、いや、なんとなく呼んでみただけだ』

 

『母さ――……エビルダイバー、今のは、まあ、忘れてくれ』

 

 

それを聞くとマミはケラケラと笑っていた。

 

 

「凄いわね手塚さん。あんまり想像できないけど」

 

「エビルダイバーもよくキレないわね。でも助かったわ、今度お礼しないと」

 

「ミラーモンスターもご飯が食べれるんだっけ?」

 

「ええ。エビルダイバーは海老とか好きなのよ」

 

「へぇ! 面白い」

 

 

二人は食事を終えると身支度を整え、玄関に立つ。

 

 

「忘れ物はない?」

 

「ええ。巴さんは?」

 

「うん、大丈夫。じゃあマンションの下にいこっか」

 

 

皆が迎えに来てくれる。

二人はエレベーターに乗ると、一階のボタンを押した。

そしてマミはふと、無邪気な笑顔を浮かべる。

 

 

「そうだ、せっかくだからチーム名とかどう?」

 

「え?」

 

「同居人であれば戦闘においてもコンビネーションを磨くべきだと思うの」

 

「ふふっ、巴さんらしいわね」

 

「むぅ、馬鹿にしてなぁい?」

 

「いえいえ。それで、考えているものはあるの?」

 

「ええ。ちょっと思いついたのがあってね」

 

 

イタリア語が羅列しているものだろうか?

ほむらは候補を適当に考えて見る。その時、エレベーターが一階について扉が開いた。

二人は外に出て、まどか達が来るのを待つ。そこでマミは振り返りながら、満面の笑みで答えた。

 

 

「見滝原☆アンチマテリアルズって言うのはどう?」

 

「……悪くないわね」

 

「でしょ! じゃあ」

 

「でもチームは却下」

 

「あう! ど、どうして! お姉さんは諦めませんからね!!」

 

「ふふっ、それじゃあまあ、考えておくわ」

 

ほむらもまた、本当の笑顔を浮かべてマミを見たのだった。

 

 

 

 

 

 






ライアサバイブはオリジナルではなく、雑誌に載ってたヤツと同じです。
フィギュアもあるんで、興味がある人は調べておくれやし。

ホムラアライブは魔女っ娘です。
今だと丁度ほむらのドッペルが近い感じでございます。
魔法で出てくる分身達は公式スピンオフの『魔法少女ほむら★たむら』と、同じく公式スピンオフの『ぽむ☆マギ』から頂いてます。
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