仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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次回は21予定。


第7話 七人目 目人七 話7第

 

 

 

「病院が変わる?」

 

「ああ。少し遠いが、そっちの方が良いらしくてな。入院費が安いわりに、良質な治療を受けられるそうだ」

 

 

真司が仕事終わりにアトリへ寄ると、蓮からそんな話を聞かされる。

恵里の病院が移るらしい。見滝原から少し離れた病院へ移されるらしいのだ。

今までのように毎日は会いに行けなくなってしまうが、治療の面で考えるなら悪くない話だった。

どんな小さな望みであっても、今の蓮にはそれにすがるしかない。

 

 

「そっか。あ、騎士の話も一応考えておいてくれよ」

 

「気が向いたらな」

 

 

蓮はデッキを取り出してそれをぼんやりと見つめる。

アトリを出て行く真司に軽い別れを告げると、デッキを再びポケットへと戻した。

蓮と美穂が、変身しない理由は多々ある。中でも一番の理由は――

 

 

「変身!」

 

「「「………」」」

 

「へ、へんしん!!」

 

「「「………」」」

 

「へんしん! へんしん! へんしん! へんちん! あああああくそッ! 噛んじまった恥ずかしい!」

 

 

何も起きない。

美穂は恥ずかしそうにデッキを放り投げた。デッキは真司の顔面に直撃し、二人はギャーギャー言い合いを始める。

 

変身しないんじゃない。できないのだ。

真司や須藤と同じデッキなら、変身のやり方も同じのはずだ。

しかしデッキを持って手を突き出してみてもVバックルは現れない。美穂は相当イライラしているのか、マミの紅茶をごくごくと飲み干している。

 

 

「もっと綺麗に飲めよ! きったねぇな!」

 

「うるさい! なんで真司にできて私にできないんだよ!!」

 

「それは、俺も須藤さんもヤバかった状況だったからな」

 

 

死に物ぐるいの状況じゃないと変身できないのだろうか?

ふとテレビを見れば、また殺人のニュースがしきりに報道されている。

はやく殺人を止めなければ、一同もそれは強く思う。

 

 

「何か、見滝原に入ってから殺人の頻度が上がってない?」

 

 

ほぼ毎日誰かが殺される。しかも残酷な方法でだ。

平和な街で起こった連続猟奇殺人事件は、今も未解決のままである。

 

 

「殺された人に共通点があれば、少しはヒントがありそうなものなんだけど……」

 

 

ヒント。

真司は考える、確か令子がこの事件の事を調べているはずだ。

何か聞ければいいのだが。

 

 

「うー……! マミお姉ちゃん――ッ!」

 

「うふふ、よしよし。大丈夫よゆまちゃん。どんな事があっても私たちなら大丈夫!」

 

 

マミが笑顔で話しかければ、どんなに泣き顔でもすぐに笑顔になった。

すっかり姉妹の様になった二人。初めはどうなる事かと思ったが、生活は安定しているようだ。

 

 

「ゆまね! マミお姉ちゃん大好き!」

 

「うん、私もよ。今日も一緒にお風呂に入りましょうね」

 

 

ゆまも今の生活が気に入っている様だ。

須藤の方も児童施設を探してくれているが、できればずっとこのままがいいと思っていた。そうしていると、ゆまが真司の所までやってくる。

 

 

「ねぇねぇ真司お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「マミお姉ちゃんね、おっぱいすごく大きいんだよ!」

 

「………」

 

時間が、止まった。

真司はゆっくりとマミの胸部に視線を移す。

そして、そのまま次は美穂の方へ。

 

 

「あー、はいはい。これはお前の負けだな、美――」

 

「だまれぇええええええええええええッ!」

 

「いてッ! いでででで!! 馬鹿ッ! 冗談だって! おっ、おぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

美穂の関節技で昇天した真司。

一体何が冗談だったのか、もう今は知る由も無い。

 

 

 

 

 

「犯人が違うかもしれない……!」

 

「ええ。これは私の個人的な考えだけどね」

 

 

翌日、BOKUジャーナルで真司は令子に話を聞いていた。

ニュースでも触れられていたが、令子は見滝原の外で起こっていた殺人と、今見滝原で起きている殺人は、犯人が違う、模倣犯説を推していた。

 

 

「これ見て、真司くん。殺害方法なんだけど……」

 

 

令子のメモには関係者から集めた情報が羅列されている。

前にも触れられていたが、『食べ残し』と称された今までの事件と、ただ『バラバラ』にしただけの見滝原の事件。

そして、被害者が発見される場所にも令子は違和感を感じていた。

 

 

「見滝原に入っての事件はね、被害者が目立つ場所で発見されているの。まるで……、そう、見せ付けるかの様に」

 

「でも、どうしてそんな事……」

 

「きっと快楽殺人か、あるいは意外と怨恨だったり。いずれにせよ常軌を逸しているのは変わりないわ。一般人じゃ理解できない動機かもね」

 

 

真司の心に怒りの感情が膨れ上がる。

 

 

(魔女か人間かは分からないが、なんて残酷な事必ず見つけ出して退治してやる!)

 

 

一発気合でも入れるか。握りこぶしを作って、吼える。

 

 

「っしゃあ!」

 

「うるさいんだよお前は! さっさと自分の仕事を片付けろ!」

 

 

編集長に怒られた、酷い。

 

 

 

一方、見滝原中学校。ただいまお昼休みである。

まどかは教室で、さやかと仁美、かずみと談笑を楽しんでいた。

各々がそれぞれの休み時間を楽しむ中、やはり一人だけ異質な雰囲気を放っている。

 

暁美ほむら、今日はいつにもまして暗い。

暗いと言うよりは、何かとても近寄りがたいオーラを放っていた。

そして、まどかが感じる視線。先ほどからほむらに睨まれてる?

 

 

「どうした、まどか?」

 

「う、ううん、なんでもないよ……」

 

 

そうは言えど、やはり気になる。なんだったら先ほどからチラチラ視線がぶつかっている。

そうしていると、ほむらが立ち上がった。そのまま歩き、まどかの前にやってくる

 

 

「え? え? え?」

 

「鹿目さん。ごめんなさい、少し気分が悪くなったから保健室に連れて行ってほしいの」

 

「え? あッ、うん! 大丈夫?」

 

 

とは言え、その表情は全然辛そうに見えない。

むしろ鬼気迫る物があって、さやか達は思わず沈黙してしまう。

 

 

「辛いの!? 大変! わたしもついてくね!」

 

「!?」

 

 

しかし、かずみは全然気づいていないのか。

すぐに自分のおでこと、ほむらのおでこをくっつけてみる。

 

 

「大丈夫! 熱く無いよ!!」

 

 

笑顔のかずみ。すると、その時だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

まどか達は、かずみとほむらを交互に見て、信じられないと言う表情を浮かべている。

なぜか? ほむらには理解できない。しかし焦りは感じている。驚いているのは仁美以外。つまり、魔法少女だけ。

 

 

「魔法少女――」

 

「え?」

 

 

ふと、かずみの『アホ毛』が反応しているのに気づいた。

ほむらは知らなかった。かずみには特殊能力がある。アホ毛センサーによって魔法少女と魔女を探知できるのだ。

つまり、それが意味するものはたった一つ。

 

 

「ほむらちゃんも、なのッ?」

 

「!?」

 

 

仁美以外、場に戦慄が走る。

なんて事だ、かずみの能力を把握しきれていなかった。

言い訳は無駄と思ったのか、ほむらはゆっくりと頷いたのだった。

 

 

「暁美さん、あなたも魔法少女だったのね」

 

「………」

 

 

放課後の屋上。

そこには、ゆま以外の魔法少女と、ほむらの姿があった。

連続して現れる魔法少女にマミはすっかり慣れてしまったようだ。

 

 

「もしかしたら私のクラスにもいるかもしれないわね」

 

 

冗談交じりに笑ってみせる。ほむらは、どんな顔をしていいか分からずに、目を逸らすだけだった。

 

 

「あ、もしかして。今まで、あまり話さなかったのって――」

 

「?」

 

さやかは申し訳なさそうに俯いた。

しかし、お茶を濁すような言い方に、ほむらはますますどうしていいか分からなくなる。

今まで関わらなかったのは、干渉を少なくする事で、より多くの情報を得ようとしたからなのだが……。

 

 

『―――』

 

「!」

 

 

その時、頭に響く声。

ほむらは少し迷った様に俯くが、ゆっくりと言葉を並べる。

 

 

「そ、そうね。私と関わったら……、魔女に狙われるかもしれないから」

 

 

目を反らすほむら。嘘をつくのは少し気が引けるが、まあ仕方ない。

ほむらは尚、『頭に響く声』にそのまま従う事にする。

 

 

「今まで誘ってくれたのに、付き合えずにごめんなさい。ずっと一人で戦っていたから、人との接し方が分からなくて。だから、その……、本当にごめんなさい」

 

 

大嘘である。だが、まあ、仕方ないのだ。

ほむらは適当に頭を下げてみた。すると全身に走る衝撃。

 

 

「うッ」

 

 

思わず声が出てしまった。

気がつけば、さやかとまどかの腕の中じゃないか。

なぜ抱きしめられているのか。ほむらは、ワケが分からず棒立ちである。

 

とはいえ、ぬくもりが伝わってきて思わず赤面してしまう。

恥ずかしい。なんなんだこれは。

 

「ごめんッ! あたし今まで転校生の事……ッ、誤解してたッ!!」

 

「は?」

 

「ほむらちゃんッ! これからは一緒に戦おうね! もう、ほむらちゃんを一人になんかさせないから!!」

 

「えっと……、え?」

 

 

さやかとまどかは涙目になりながら、ほむらの手をとる。

 

 

「こら、二人とも。ほむらが困ってるじゃないか」

 

 

サキは前に出ると、まどかとさやかを下がらせる。

 

 

(浅海サキ……)

 

 

初めてまともに顔を合わせるが、成る程、凛とした雰囲気の少女だ。

まどかの幼馴染と言うのは驚いた。そんな『情報』は知らなかった。

 

 

「ほむら、キミも一緒に私たちと戦わないか?」

 

「………」

 

 

ほむらは、一瞬だけ『彼女』を瞳に移す。

 

 

『―――』

 

 

同時に、また声が頭に響く。

一緒にいたい。それはそう、ずっとその為に生きて来たんだから。

 

 

「わ、私で……、よければッ」

 

 

もう一度、ほむらはまどか達に抱きしめられる事に。

ずっと一人で戦ってきたと言う事で、マミもほむらを快く歓迎した。

 

ほむらとしては、嘘をついたと言う後ろめたい気持ちもあったが、『彼女』の笑顔を見ていると、この選択も間違いじゃない気がしてきた。

 

ジュゥべえの言った事が何より気になるが、今はもう少しこのままでも良いかもしれない。そんな事を考えながら、ぎこちない微笑み返す。

 

 

「凄いわ! 本当に魔法少女7になっちゃった!」

 

 

大丈夫。きっと今回はうまくいく。そんな気がしてならなかった。

 

 

「フッ」

 

 

トークベント。

文字通り、指定した相手と思念で会話できるカードだ。

その特徴としては、変身していなくてもカードを持っているだけで発動できると言う点だろう。

 

手塚はビルの屋上から、見滝原中学校の様子を確認していた。

トークベントを解除すると、小さく笑みを零す。

ほむらから通信が入ったときは驚いたものだ。しかも内容が――

 

 

『困った事になったの。魔法少女と言う事がバレたわ。これから巴マミ達の所にいかなくちゃいけない。場所は屋上よ、会話をオープンにしてそちらに送るから、助言をお願いできるかしら?』

 

 

ほむらの口調も少し早くなっていて、焦っているのが分かった。

トークベントはパートナー間だけではなく、双方が聞いた言葉も拾うことができる。

イレギュラー続きで怯んでいるほむらに、手塚は嘘を薦めたワケだ。

まあ、いずれにせよ丸く収まったようだ。あれだけ接触を渋っていたほむらだが、なんなく、まどか達のグループに入れたじゃないか。

 

 

(これで、少しは早く眠れるみたいだな……)

 

 

手塚は呆れたような笑みを浮かべて、帰っていった。

 

 

「助かったわ。美樹さやかの言葉の意味が、私には分からなかったから」

 

 

その日の夜。手塚はほむらに呼ばれ、家にやってきていた。

相変わらずいろいろな資料が壁には貼り付けられており、異次元的な部屋はとてもじゃないが女子中学生のものとは思えない。

なんともまあ、不気味な空間である。

 

 

「………」

 

 

しかしテーブルには紅茶が置かれており、その事に手塚は目を丸くしていた。

この家には何度かお邪魔した事があるが、お茶など出された事などない。

それが何故、今になって……。

 

 

「まさかお前、仲間ができたから、用済みの俺を毒殺するつもりか」

 

「真面目な顔で何を言っているの? 下らない冗談は好きではないわ、巴マミから頂いたのよ」

 

 

ほむらは表情を変えず、手塚の向かい側に腰掛けた。

 

 

「頂いたと言うことは、巴の家に行ったのか」

 

「ええ。誘われて。断るのは彼女達の士気を下げるだけじゃなく、私への不信感も募らせる事になるから。だから一応行っておいたわ」

 

「………」

 

 

本当はずっとあの輪に入りたかったクセに。

手塚はその言葉を喉元で引っ込めた。そんな事を言ったら、睨まれる。

 

無意味な衝突は疲れるだけだ。

手塚は小さく首を振ると、出された紅茶に口をつける。。

 

 

「成る程。久しぶりに飲んでみたが、案外紅茶も悪くないな」

 

「………」

 

ほむらは複雑な表情で自分の紅茶を見ていた。

複雑と言ってもそれは悪い意味ではなく、どう喜んで良いのか分からないと言う不器用なものに見える。

 

 

「美味いな」

 

「ええ」

 

 

手塚は気づく。

ほむらは、表情こそ変わらないが、声のトーンが明らかに変わっていた。

穏やかだ。言い方を変えれば『嬉しそう』と感じた。

 

ほむらは自身の事を全く話さないため、手塚としても関わりようがない。

それは手塚だけではなく、他の人間だってそうだろう。

現に手塚はパートナーと言うことで、しばらくほむらと一緒にいるが、その間にほむら以外の人物と会話をした試しがない。

つまり、ほむらは孤独なのだ。

 

それが今、まどか達とチームを組むことになった。

ほむらも友達ができて嬉しいのだろう。ずっと関わらず、監視していた意味はよく分からないが、今後はまどか達の輪に馴染んでいける筈だ。

 

 

「ケーキのお土産は無いのか?」

 

 

手塚は冗談混じりに聞いてみた。

するとほむらは相変わらず無表情でハッキリと言い放つ。

 

 

「あるわよ。でも美味しかったから、貴方の分も食べてしまったわ。ごめんなさい」

 

(……以外に図太いなコイツ)

 

 

とはいえ、手塚はそんなほむらを見て安心する。

正直、今までのほむらは、とてもじゃないが中学生とは思えない程だったものだ。

どこか闇を抱え、まるで人間では無いんじゃないかとすら思わされる程だ。

 

だが今、少しは年相応の姿を見た気がする。

それ程までに――、『まどか』と言う少女は、ほむらに影響を与えたのだろうか?

 

 

「……まあいい。それで何の用だ? ただ普通に礼を言う為に呼んだ訳じゃないんだろう?」

 

「………」

 

 

ほむらは少し表情を曇らせる。何か言いにくい事なのだろう。

 

 

「珍しいな。どうした? いつもなら何でも遠慮せずにズカズカ言うだろ?」

 

「そんな事は……」

 

「下手に気を遣われるのも面倒なだけだ。さっさと話してくれ」

 

 

ならばと、ほむらは頷いた。

 

 

「お願いがあるの」

 

「なんだ?」

 

 

空気が変わる。

 

 

「あなたに叶えたい願いはある?」

 

「なんだ突然。願い?」

 

 

そこで手塚は思い出した。

デッキを持った騎士は、全ての戦いが終われば一つ願いを叶えられるらしい。

この状況で願い事の有無を確認するとすれば、それは一つの意味をおいて他にはないだろう。

 

 

「成る程な。そう言う事か」

 

「話が早くて助かるわ。手塚、貴方の『願い』を私にくれない?」

 

 

無理な話とは分かっているが、ほむらは気づいた。

ほむらが、まどか達の仲間になった時点で魔法少女は七人。

 

ほむらはあと一人、仲間になってくれるかもしれない『魔法少女』を知っている。

つまり、八人の魔法少女のチームを作れるかもしれない。

まして今は騎士もいる。真司、須藤、手塚。知っているだけでも三人。

 

いける。

間違いなく『アイツ』を倒せる!

そして、その後に与えられる願い事で、自分達を『戦いの運命』から開放すれば――。

 

 

「嫌に決まってるだろ。俺はお前のパートナーとしては選ばれたが、そこまでしてやる義理はない」

 

「………」

 

 

まあ、それはそうだ。

ほむらも了解してもらえるとは思っていなかった。

 

 

「なんてな、冗談だよ」

 

「え?」

 

 

手塚がその言葉を口にして、ほむらは固まってしまう。

お願いしたくせに、ほむらは理解できないと固まってしまった。

 

 

「え? 今なんて――?」

 

「分かった。俺の分でよかったらくれてやる」

 

 

目を丸くして口をあけるほむら。

その表情がツボに入ったのか、手塚は初めて声を出して笑った。

しかし、そんな中でも手塚は冷めているように見えてしまう。

それがほむらを冷静にさせる。何か言いようのない不安、『裏』を感じた。

 

 

「本当にいいの? 普通なら、考えられない答えだわ」

 

「俺には必要ないからな。それに願いを叶える資格もない」

 

「ッ?」

 

「とにかく、お前の願いを叶えてやる。尤も世界を滅ぼしてくれなんてのは無理だが」

 

「ええ、それは……、もちろん」

 

「ならいい」

 

 

ほむらは少し半信半疑だったが、手塚の願いを得ると言う目的は達成させた。

それはかなり大きな事だ。なにやら手塚には事情があるようだが、本人が話さない以上、聞く必要もない。

 

 

「ありがとう。願いを叶えたら、何かお礼をするわ」

 

「お礼ならさっきのマヌケな表情が見れただけで十分だよ」

 

「!!」

 

 

ほむらはその言葉に反応して、思わず顔を反らす。

これも冗談なのか? まさか、からかわれた?

ほむらは少し訝しげな表情で手塚を睨む。

 

 

「おいおい、睨むな。冗談だ」

 

 

ほむらは眉をひそめた。

どうにも手塚の考えている事は分からない。掴みどころが無いと言うよりは、隠している様だ。

 

 

「用件はそれだけだな。俺はもう変える」

 

「ええ。さようなら」

 

 

手塚はふと、玄関で立ち止まる。

 

 

「迷うなよ」

 

「ッ」

 

「そう視えた。俺の占いは当たる」

 

 

そう言って手塚は出て行く。

ほむらは、マミからもらった紅茶に口をつけた。

『懐かしい』味だ。落ち着く。だがどこか釈然としない気分であるのも事実だった。

 

手塚は全てを見透かした様に言ってきた。それが少し悔しかったのかもしれない。

迷うな? 分かっている、それくらい。

だけど、分かっているから迷う事もある。違うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ほむらちゃん!!」

 

「……おはょぅ」

 

 

朝。今日からは、ほむらも一緒に登校しようと言う事になった。

既に全員が揃っている状況である為、玄関を出たほむらは、その迫力に怯んでしまう。

ここにいるのは仁美以外全員が魔法少女なのだから。

 

 

「おはよ転校生! じゃなくて、ほーむら!」

 

「え、ええ。おはよう。美樹さん」

 

「ノンノン! さやかって呼んでよ! なんなら、さやか様とかでもよいのだぞぉ!」

 

 

さやかは笑うと、ほむらに肩を組んでくる。

ほむらもぎこちない笑みを返して一同は歩き出した。主にまどかが話しかけ、ほむらはそこに相槌を打っていく。

 

 

「そう言えば、仁美はまたラブレターをもらったらしいな」

 

「えぇ! マジで!!」

 

 

ある程度歩いた所で、サキがそんな事を言ってみせる。

仁美はお嬢様と言うだけでなく、容姿も良い。男子から人気があるのは当然だった。

毎月一通は必ずもらっているらしい。

 

 

「毎月くれる人がいるだけですわ」

 

 

仁美は特に気にすることなく歩いていく。

 

 

「ああ、確かに綺麗だわ」

 

 

そんな事を言って、さやかは手でカメラを模したジェスチャーを取ってみせる。

しかし、そうなると気になるのは返事であろう。

もはや我慢できないと言わんばかりに、サキは仁美に結果を聞いてみる。

 

 

「それが、肝心の名前が書いてありませんの」

 

「かぁー! 手紙を出すことに満足して忘れるパターンだわそりゃ!」

 

 

かわいそうに。

これじゃあ仁美も動けない筈だ。尤も、動けたとしていい結果になる気もしないが。

一同は、尚も返事を待ち続けているだろう差出人に同情するのだった。

 

 

「へっくしょんッッ!!」

 

「風邪かい中沢?」

 

 

さやかの幼馴染である上条恭介は、友人の中沢(なかざわ)(すばる)下宮(しもみや)鮫一(こういち)と共に登校していた。

 

大分、体も元の調子を取り戻している。

この調子ならまた思う存分ヴァイオリンに触れられそうだ。

上条は笑みを零しながら、くしゃみをした友人に声をかけた。

 

 

「あ! いやッ、大丈夫大丈夫! それより、志筑さん今回こそ読んでくれるかなぁ!?」

 

「さあね、期待して待つしかないんじゃないかな」

 

 

どうやら、名前無しのラブレターを出していたのは中沢くんの様だ。

ああ、かわいそうに。君の思いは虚空へと消えていくだけ……。

 

 

「おや? 上条くん。あれは美樹さんじゃないか?」

 

 

下宮メガネを整え、少しわざとらしく告げる。

目で追う上条達。確かに登校途中のまどか達が見えた。

瞬間、固まる中沢。仁美がいるじゃないか。中沢は緊張でロボットのようなぎこちない歩き方になる。

 

 

「む、無理だ。無理だよ。ムリムリ。少し離れて行こうよ」

 

「あ、でも、さやかに借りてたCDを返さなきゃ」

 

「お、おい! ちょッ! 上条!」

 

 

上条はズカズカとあの集団に向かって歩いていく。

なんて頼もしさだ。中沢は前のめりになって拳を握り締める。

 

 

「さ、さすが天才的とまで言われたヴァイオリニストだ。プレッシャーやメンタルが強いんだ!」

 

「うーん……」

 

 

首を傾げる下宮。

とにかく上条はそのまま、さやかの方向へ足を進めた。

そうすると、向こうも向こうで気づく。さやか達が気がつかない訳もない。早速サキや、かずみが、さやかを上条のほうに追いやっていく。

 

 

『ちょ、ちょっとサキさん! かずみも!!』

 

『いいか、さやか。今度ヴァイオリニストを題材にしたコメディ映画が上映されるらしい』

 

『……だから?』

 

 

小声でサキ達はやりとりを繰り返す。

 

 

『一緒に見に行ってって言えばいいんじゃないかな!』

 

『え! えええええええええ!?』

 

 

真っ赤になるさやか。

それはつまり、上条をデートに誘えと言うことじゃないか。

 

 

『どッ、どうしてそんな事!?』

 

『いいか! 人間いつどんな事が起きるかわからない! それこそ明日、上条が他の女と付き合う可能性だってある!』

 

『そ、そんな事ないって。アイツ、そういうのに疎いから』

 

『黙って聞け! どうやら向こうは、キミの事をただの幼馴染としか思っていない様だ』

 

 

残念だが、このまま時が過ぎても、何の進展もないまま終わるだろう。

 

 

『だとすれば、コチラからアタックを仕掛けるしかない!』

 

『え、えぇ』

 

『キミの魅力で上条を骨抜きにしてやれ! ほら、ゴーッ!!』

 

 

サキはそう言って、さやかを上条のところへと突き飛ばした。

 

 

「ちょ! うぉっとと!」

 

「やあ、さやか。おはよう」

 

「え!? あ!! う、うん!! お、おはよーぅ!!」

 

 

さやかはパニックになりながらも上条に挨拶を交わす。

デートか。誘えたらいいけどそんな事できない。

 

もし断られたらどうしよう?

もしそれで嫌われちゃったらどうしよう?

もしこの関係すらも終わってしまったらどうしよう。

 

普段のさやかからは、想像できない程ネガティブな思考が湧き出てくる。

とり合えず、適当な話をしながら上条と歩く。

やはりその姿にいつもの元気さは感じられない。どうしてもいろいろと考えてしまう。

 

 

(何でこんなにドキドキしてんのよッ、あたしぃ……)

 

 

顔が赤いのがバレてないだろうか?

心臓の音が聞こえてないだろうか?

さやかはチラチラ上条の顔色を伺いながら道を歩いていく。

 

 

「さやか、今度映画でも見に行かないかい?」

 

「えッ!!??」

 

思いがけない不意打ちだった。だから、つい大音量で叫んでしまう。

 

「あはは。嫌だったかな。ごめん、やっぱりもう幼馴染って歳でも――」

 

「う、ううん!!」

 

 

さやかは大声で上条の言葉を遮る。

目を丸くする上条、さやかは慌てて言葉を探す。

 

 

「い、いきなりで驚いたから!」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

「行くよ! 行く行く! 絶対に行く! うん! 行く!」

 

「良かった。ほら、今テレビで頻繁に予告やってるでしょ。ヴァイオリンのヤツ」

 

「あッ! うん! 知ってる知ってる。先輩も言ってた!」

 

「なんかやっぱり興味あってさ。中沢たちでもいいんだけど、興味なさそうなんだよね」

 

「………」

 

「ん? どうしたの、さやか」

 

「ほぇ?」

 

 

気づけば、さやかは顔を蒸気させて立ち尽くしていた。

まさかデートに誘うつもりが誘われる事になるとは。

もうそれだけで十分すぎる程幸せだった。

 

 

「詳しい日時はまた今度連絡するよ」

 

「う、うん。待ってるね」

 

 

そう言って二人は別れる。

さやかはスキップでまどか達の所へ駆け寄るのだった。

 

 

 

「おっしゃああああ!!」

 

「てへへ、よかったねさやかちゃん」

 

 

放課後、一緒に帰るまどか達。

今日のさやかは一日中ハイテンションだった。

それはそうだろう、想い人に誘われたんだ。今から楽しみで仕方ない。

まどかもまるで自分の事の様に嬉しそうにしていた。

 

 

「しかし、デートに誘われたからと言って関係が大きく変わるとは限らない。あまり期待しない程度にせねば……!」

 

 

さやかは自分にそう言い聞かせた。

そんな中、一人深刻な表情を浮かべた仁美が口を開く。

 

 

「さやかさん、退院のお祝いにプレゼントを持っていくのはどうでしょう? きっと喜びますわ」

 

「え? プレゼント?」

 

 

そう、ここで一気に距離を縮める為にプレゼントを用意すると言うのだ。

 

 

「なるほど! でも、恭介のほしい物ってなんだろ?」

 

「聞いてみれば? 後ろに上条くんいるよ」

 

「へ?」

 

 

後ろを振り向くさやか、するとそこには上条の姿が見えるじゃないか!

しかもご丁寧に一人と来た、このチャンスを逃してはいけない。

まどかと仁美はさやかを押して、上条のところへ追いやったのだった。

 

 

「え? 今、一番欲しいもの?」

 

「う、うん。何かあるのかなーってさ」

 

「そうだね……」

 

 

しばらく考えていたが、ふと思いつく。

 

 

「あ、そうだ。どんなものでもいいんだよね?」

 

「うんうん! 何が欲しいのかなぁ~? へへへ!」

 

「ある人のCDなんだけどさ」

 

 

さやかは心の中でガッツポーズを決める。これなら割と簡単に手に入りそうだ。

今のネット社会、簡単に注文してすぐ手に入る。しかし、そんな考えは甘いという事を知らされる。

 

 

「うん、凄く珍しいマイナーなCDなんだ。ネットで探したり、中古ショップを巡ったりもしたんだけど、全然で」

 

(げッ!)

 

要するにプレミア物と言うわけだ。

 

「ピアニストでね、斉藤(さいとう)雄一(ゆういち)って人のCDなんだ」

 

「へー、そんなにすごいのその人ってば?」

 

 

「もちろんCDを出した時は、中学生だったんだよ。しかも二年」

 

「へえ、凄いじゃん! あたし達と一緒だ」

 

「でもCDは一種類しかないから。数もそんなに無いみたいで……」

 

 

天才とまで言われていた雄一。だがもちろんそれは努力が生んだ結果だ。

上条も、音楽の道を目指す者として、その演奏を聴いてみたかったのだ。

 

 

「あれ? でも、どうして天才なのにもうCDを出してないの?」

 

 

それに、どうしてあまり聞いた事がないんだろう?

上条もそんなさやかの表情を察知したのか、少し悲しげな表情で補足を加えた。

 

 

「実は、もう亡くなったんだ。斉藤さんは」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

ある時、事故に合ってしまい、命とも言える『手』が使えなくなった。

さやかはその言葉を聞いて目の色を変える。そう、上条と同じなのだ。

ただ一つ違うとすれば、上条は手がまた使える様になり、斉藤はそうじゃなかったと言う事だ。

 

 

「分かるんだ。ほら、僕も同じだからさ。悔しさとか悲しさとか。だからより一層感情移入をしちゃうって言うか……」

 

 

どうしても、その演奏が聴いてみたくなった。

 

 

「ねえ。その人ってもしかして――」

 

 

さやかが何を言いたいのか上条は理解する。

 

 

「うん、斉藤さんは自殺したんだ」

 

「……ッ!」

 

 

さやかは唇をかむ。

雄一はきっと『奇跡』を願っただろう、しかし神がソレを雄一に与える事はなかった。

 

絶望し、どん底に落ちた時、辿る運命は一つ。

自らの手で人生に終止符を打つ事だったのだ。

 

 

「あはは、ごめん。少し暗い話になっちゃったね」

 

「う、ううん」

 

 

そのまま少し話をして二人は別れた。

さやかの胸の鼓動は、恋慕から全く違う何かに変わっている。

それが何なのか、いまいち分からない事に悔しさを覚えて、ため息をついた。

 

 

翌日、さやかは早速そのCDを求めて歩き出す。

お稽古ある仁美、アトリの手伝いがあるかずみ。

それぞれ都合があるので、まどか、ほむら、ゆまの三人に付き合ってもらう事にした。

 

 

「ってな訳で! 幻のCDを求めてゴー!!」

 

「「ゴー!」」

 

 

手を挙げるまどかとゆま。

ほむらは直立だが、頷いてさやかの後を追った。

 

新品が存在しない以上、中古ショップを巡るしかない。

ネットを見ても、マイナーすぎるCDの為やはり存在していなかった。

一同はまず最初の中古ショップに立ち寄る。それぞれは散り散りになって、斉藤のCDを探した。

 

 

「………」

 

 

無い。

ほむらは目で列を順に追っていくが、斉藤の名前は存在していなかった。

念の為もう一度探すが見つからない。最近CDから離れていく人も多いと言う、それは同時に売る人も多くなると言う事で。

 

 

(相当な量ね……)

 

 

ほむらはその後も一通りを見回し、無いことを確かめる。

やはりそう簡単に見つかる物ではないか。ほむらは無かったことを報告する為、さやかを探す。

 

 

「美樹さ――」

 

「ぶわはははは! この漫画面白……い」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

「すいませんでした!!」

 

 

腕を組み『イライラしています』と言ったほむらに向かって、さやかは深く頭を下げていた。

CDを探すつもりが、つい漫画の方に手が伸びてしまった。

さやかは深く、深く、それは深く頭を下げる。

 

 

「次は本当に探すから許して、ほむら!!」

 

「ッ!?」

 

 

硬直するほむら。

それに気づいたのか、さやかは不思議そうに首をかしげる。

 

「なに?」

 

「名前で呼ばれるの。あまり慣れてなくて」

 

「へ?」

 

「ほむらって」

 

 

意味を理解するさやか、恥ずかしそうに頭をかいた。

 

 

「いきなりすぎた? いつまでも転校生ってのはアレかなぁって。ごめん、嫌だったかな。あはは」

 

「い、いえ。嫌と言う訳では……、ないわ」

 

「じゃ、いいんだ?」

 

 

そう言ってさやかは笑う。

ほむらとしても特に断る理由も無い、だから容認したのだが――

 

 

「じゃあ、ほむらも」

 

「え?」

 

「ほむらもさ。あたしの事、名前で呼んでよ」

 

 

固まるほむら。別に断る理由は無いが。

 

 

「わ、わかったわ。さ……、や、か」

 

「おう、よろしい!」

 

 

そう言ってさやかはニッコリと笑った。

 

 

「さ、次の店に行こう」

 

 

了解するまどか達と、苦笑するほむら。

 

 

(本当に、調子が狂うわ)

 

 

でも、悪くはない。四人はそうして次の店に向かうのだった。

 

 

しかし、さすがは幻のCDと言ったところだろう。

探せども探せども見つかる事は無く、だんだん外も暗くなっていく。

さすがにこの短時間&見滝原だけでは無理か。ゆまはすっかり疲れきっている様だ。

 

 

「うー……、まだゆまは探せるよぉ!」

 

「あはは、サンキュー。でも、もう今日は終わりにしよっか」

 

 

さやかは微笑みながらゆまの頭を撫でる。

もうすぐマミが迎えに来てくれるらしいので、一同は近くの公園で休む事にした。

 

 

「ごめんね、皆。せっかく付き合ってもらったのにさ。今度ジュースでも奢るから、勘弁ね!」

 

「いいよ、大丈夫だよさやかちゃん。また次も誘ってね?」

 

「ええ、言ってくれれば付き合うわ」

 

「ッッ! 心の友よ!!」

 

まどか達の言葉にさやかは感動したのか、両手を広げて二人に飛び掛った。

だが、ほむらはまどかを抱き寄せて華麗にスルーである。

 

 

「あらー」

 

 

空を切るさやか。

そうこうしている内に、マミがやってきて一同は解散する事になったのだった。

 

 

 

 

「はぁ。やっぱりないか」

 

 

帰り道。さやかは一人で店を回っていた。

諦め切れておらず。とは言え、やはりもうどこにもなく。

半ば諦めかけていた頃――

 

 

「ここで最後にしよっかな」

 

 

『中古CDあります。掘り出し物見つかるかも』なんて書いてある店に入っていく。

個人営業丸出しの店だが、案外こう言う場所にあるかもしれない。

さやかは大量のCDを前に斉藤雄一の文字を探していく。

 

無い、無い、無い。ああ、やっぱりこの店も……

 

 

「ん? んんんん!?」

 

 

ふと、一枚のCDが目に止まる。

 

 

「ああああああああああああ!!!」

 

 

店内に誰もいなかったから良かったものを、さやかの叫びが店中を木霊した。

思わずさやかに近寄る店主のおばさん。

 

 

「どうしたの!?」

 

「あ、あのッ! あのあの!」

 

さやかはパニックになりながら一枚のCDを指差した。

 

 

「あ、あれッッ!! 売ってください!!」

 

 

指差した先、そこには確かに斉藤雄一のCDがあった。

奇跡だ。そう思う。しかし神はまだまだ試練を与えてくるようで。

 

 

「げっ!! こんなにッッ!?」

 

「ごめんね。このCDは数が少なくてプレミアになってるんだ。しかも、マニアの間じゃ名の知れた代物でさ」

 

 

CD一枚だ。CD一枚なのに、その金額はとてもじゃないが、中学生に出せるものではなかった。

そんなに凄い人だったのか。さやかは認識の甘さを悔やみながら歯を食いしばる。

悔しい。せっかく見つかったのに。

 

 

「ねえ、おばさん。このCD取っておいてもらう事ってできる?」

 

「え?」

 

「必ずお金払うからさ、だからお願い!!」

 

 

そう言ってさやかは頭を下げる。

用意できるアテがあるのならと店主は言った。

 

 

「あるある! だからお願い!!」

 

「まあ、仕方ないね……」

 

 

そんな訳で、さやかがお金を持ってきてくれるまでCDは店側が保管してくれる事となった。

これで、誰かに買われる事はなくなった訳だ。

 

しかし正直なところアテなどある訳も無く。

中学生のさやかにはバイトをして稼ぐという事もできない。

親に借りる事もできそうにないし、他人から借りるのは気が引ける。

 

迷うさやか。

普段何気なく使っている金も、稼ぐとなると簡単じゃない事を痛感させられてしまう。

どうにか、ならない物か。

 

そんな訳で、翌日さやかは大人組みに聞いてみる事にした。

まず一番最初に向かったのはかずみの所だ。

 

 

「秋山さん! お願いッ! あたしも働かせてくれないかな!」

 

「悪いが、もう人は足りている。コッチも何人も雇える余裕はないんでな。諦めろ」

 

 

ってなもんである。

仕方ない。さやかは次に須藤に相談してみる事にする。

 

 

「だ、大丈夫ですか? 何か、すっごく疲れてそうだけど……?」

 

「ええ、最近あまり眠れて無くて。でも、大丈夫……、です。正義を貫く為なので」

 

 

須藤はフラフラになりながら、話を聞いてくれた。

相当疲れているようだ、テレビからは殺人の事についてしきりに情報が更新されていっている。

 

なんでも、最近見滝原の近くにある刑務所で例の殺人事件が起こったという。

朝、見回りにきた看守が発見したそうなのだが、受刑者が大量に殺害されていたのだ。

あまりの現場に、警察は殺人鬼がチームを作っているのではと考えているらしい。

 

サキもマミも最近はいろいろな場所を駆け回って魔女を探している。

そんな時に、デートの事を考える自分はそれでいいのかと思ってしまうが――。

 

 

『美樹さん、貴女はデートの事だけを考えるように!』

 

『魔女の方は私たちで何とかする。君は今の事だけを考えろ! いいな!』

 

 

そんな事を言われてしまった以上、下手に協力もし辛い。

だが、これ以上須藤に話しを聞くのは悪い思い、さやかは次に美穂の所に行ってみた。

 

 

「うーん、中学生でできるバイトかぁ」

 

「やっぱり、ないのかな」

 

 

美穂は腕を組んで考える。

一瞬にして、いくつも最低な事が頭を過ぎった。

美穂は残像が残るほど高速で頭を振り回し、邪念を全てかき消していく。

 

 

(汚れちまったな。私も……)

 

 

罪滅ぼしのために、脳が擦り切れるほど考える。

すると思い出した。そう言えば真司が、取材中におかしな広告を見つけたとか何とか。

 

 

「そこに年齢を問わず募集しているバイトがあったらしいよ。もちろん法律の関係もあるからヤバい場所かもしれないけど、真司と一緒に行ってみたら? 危なくなっても大丈夫なんじゃない?」

 

「たしかに。何かされたら魔法でギタギタにするよ」

 

 

と言う事で、さやかは真司に連絡をとって、一度その場所に言ってみる事にした。

さやかとしては、とにもかくにも早くあのCDを手に入れたい一心だった。

 

 

「ここか……」

 

 

さやかは真司と合流し、その建物を訪れていた。

それほど大きくないビルにある一つのオフィス。

入り口にはこっそりと張り紙があった。

 

 

『年齢問わず、ボディガード、食事の用意、軽いデスクワーク、接客――』

 

 

いろいろ書いてあったが、雑用係として働いて欲しいとの事だ。

年齢は問わないと言う辺りが謎で仕方ないが、身の回りの世話ができればいいらしい。

 

 

「どう? いけそう?」

 

「おっけー、こう見えてもさやかちゃんってばお料理が得意ですのよ!」

 

 

そこで気づく。そもそもココが何のオフィスか見てなかった。

真司は改めて、自分達がいる所が『どういう所』なのか確認する。

 

 

「おぉ!?」

 

 

そこには、この求人の仕方とは結びつかない文字があった。

 

 

 

 

 

 

 

「美樹さやかです! 中学二年生ですけど、書いてある条件は全てクリアできる気がしてます! うす!」

 

「ふぅん、まあいいや。そこらへんに腰掛けてよ」

 

 

さやかの前に男が座る。さやかもソレを確認すると、ドカッと座った。

焦る真司、そんな態度で大丈夫なのか? とも思ったが、どうやら男はその程度の事は全く気にしないらしい。

さやかをマジマジと見て、何か判定している様だった。

 

 

「あぁ、自己紹介がまだだったね。弁護士の北岡(きたおか)秀一(しゅういち)。どうぞよろしく」

 

 

そう言って北岡は笑った。ここは法律事務所だったのだ。

そんな仕事に関わる者がいきなり法律を無視した求人をしてもいいのだろうか?

疑問は残るが、とにかくもうココしかない。さやかも採用されたくて必死の様だった。

 

 

「俺としては書いてある事ができればそれでいいんだけどね。年齢は関係ない。前のヤツなんて本当に……」

 

 

北岡は何かを思い出したのか、真っ青になっていた。

問題なのは年齢ではない。しきりに呟いている。

 

 

「後はまあ、ほら、ソッチのアホ面より女の子の方がいいってのもあるけど」

 

「あ、あほ面ぁ!? あ、あんた失礼だなぁ!」

 

 

ニヤリと笑う北岡を見て、真司は思う。

なるほど、なんでこの事務所に他の人員がいないのか理解できた。

この北岡と言う男、絶対に陰湿だ間違いない! 年齢を問わないのも、そこまで人がこないからに決まってる。

真司はさやかを見た。こんな男の元で働かせて大丈夫なのだろうか?

 

 

「お願いします! しばらく働かせてください!!」

 

「……ッ」

 

 

さやかは本気の様だ。北岡も笑みを浮かべたまま頷いている。

ハッキリ言って誰でも良かった。とにかく一刻も早く雑用を行ってくれる召使がほしかった。

北岡と言う男はプライドが高い。惨めに洗濯や掃除を行うのはゴメンだった。

とは言え、専門の業者に頼み続けるのも非効率だ。

 

だから低賃金でコキ使える奴隷みたいな存在がほしかった。

そうなってくると、中学生と言うのは悪くない。

馬鹿で扱いやすいし、能力がある者は、それなりに仕事もできる。

 

 

「たださ、張り紙見た?」

 

「え?」

 

「ほら、こう言う仕事って他人から恨み買ったりもすんのよね。だからさいざと言う時にボディーガードとしても役割を果たしてくれると嬉しいわけなのよ」

 

 

確かに、それは尤もと言えるだろう。

他人から見ればさやかなど非力な女子中学生でしかない。

いざ何かあれば、逆に足手まといになる可能性が高いのだ。

 

 

「じゃあ真司さん! やっちゃって!」

 

「おお! 任せとけ!」

 

「?」

 

 

ふんぞり返って座る北岡の前に、石でできたブロックが置かれる。

一つじゃない。真司はブロックを五個積み重ねて見せた。

前に出るさやか。その詰まれたブロックの上に手を置いて、息を吸う。

 

 

「おりゃあああああッッ!!」

 

「!!」

 

 

そして、さやかは手を振り上げてブロックを叩いた。

五つのブロックは粉々に砕け散り、さやかはニヤリと笑う。

魔法少女状態でないとは言え、これくらいの身体強化なら変身せずとも発動できる。

 

 

「いかがでしょう、センセ?」

 

 

北岡は引きつった笑みを浮かべており、ソファからずり落ちそうになっている。

 

 

「は、はは……。ま、まあいいんじゃない?」

 

「じゃあ!」

 

「学校が終わったらすぐに来る様に。明日から来れるか?」

 

「もッちろん!! さやかちゃん張り切っちゃうぞぉおお!!」

 

 

こうして、『北岡法律事務所』に美樹さやか、採用である。

 

 

「で、でも本当に大丈夫なんですか? さやかちゃん、まだ中学生なのに」

 

「ちょっとちょっと、俺を誰だと思ってんのよ? スーパー弁護士・北岡秀一様だぞ? どんな黒でも白にできるし、どんな白でも黒にできる」

 

「……いやッ、それはマズイでしょ!」

 

「大丈夫だって真司さん! さやかちゃんッ、今やる気に満ち溢れちゃってますから!!」

 

 

さやかとしても稼ぎたい所だ。真司を強引に言いくるめる。

 

 

「ッ、さやかちゃんに変な事したら俺が承知しないからな!」

 

「する訳ないじゃないの……。勘弁してよ」

 

 

こうして翌日から、さやかのバイト(?)が始まった。

 

同じくして上条から映画に行く日程が知らされた。

それは『一週間後』と言う短い時間だが、さやかはその中でCDを買えるだけの金額を手にしなければならない。

学校が終わってからそのまま法律事務所までダッシュし、夜遅くまで北岡の手伝いをする。

 

 

「どうぞ! さやかちゃん特性パスタです!」

 

「………」

 

「どうですセンセー!」

 

「うん、微妙」

 

 

ヒデー! そりゃ誰もいなくなるわ!

さやかは心の中で涙目になりながらも、必死に耐える事にした。

ただし、北岡いわく、前に働いていた女性が相当酷かったらしく、それに比べればさやかは遥かにマシとの事だった。

 

 

「パスタをこぼさなかっただけ、遥かに評価できる」

 

「?」

 

 

そう口にした北岡の目は哀愁に満ちていた。きっと、本当に酷い人だったのだろう。

その後も掃除やデスクの片付け等いろいろな手伝い、もとい雑用をこなしていく。

 

仕事の事については一切関わるなと言う約束を結んでいたので、あまり良く分からないが北岡は優秀な弁護士らしい。

毎日必ず何かしらの客は来たし、報酬を受け取っている所を見たときは、その金額の多さに思わず引いてしまった程だ。

 

 

(こんな小さなオフィスじゃなくて、もっと広い所にすればいいのに……)

 

 

 

 

 

「zzzz………」

 

「こら! 美樹さん、今は授業中ですよ!!」

 

 

学業との両立はできそうにもない。

 

 

 

 

 

 

『以前殺された少年は、学校でいじめを行っていたリーダー各らしく。まあ要は恨みを持った人間は山ほどいるらしいんですわ』

 

 

その次の日。さやかは例外なく法律事務所に足を運んでいた。

事務所にはテレビが常についており、今はニュースが放送されていた。

猟奇殺人事件は未だ何の伸展もない。警察には無能のレッテルが貼られ、市民は常に怯えている。

 

テレビでは以前葬式に足を運んだ少年が、実はいじめのリーダー各だったと報道されている。

 

 

(へえ。あんだけ人に慕われてたのに……。なんか意外)

 

 

芸能人がどうたらこうたら、事件についていろいろ話し合っている。

中には、少年のいじめが原因で、自殺未遂まで追い込まれた生徒がいるらしい。

 

 

「ねえセンセー」

 

「あん? 何よ」

 

 

一方の北岡はニュースには全く興味がないと言った様子で、新聞を眺めていた。

さやかは北岡に、この事件をどう見るか質問してみる。

 

 

「どうでもいいだろ、こんな事件。俺には関係ないし」

 

「どうでもって……! 見滝原で起こってるんですよ!」

 

「なら警察に任せておけばいい。俺は俺の仕事をやるだけだって」

 

「はぁ」

 

さやかは呆れたように肩を竦める。

どうやら北岡はまるでこの事件に関心が無いようだ。

 

 

(確かに関係ないっちゃそれまでだけど……)

 

 

雇ってくれた事は感謝できるが、人間としては関わりたくないタイプ。

さやかはそう割り切ると、再び自分の仕事に戻る。上条との約束まであと四日。間に合うだろうか?

 

次の日が終わり。またその次の日が終わり。

どんどんと時間が消費されていく。

そして、ついにそのままデートまで二日となった。

 

CDを買うなら今しかない。さやかは早速北岡に給料の催促を……

 

 

「払うわけないだろ。馬鹿じゃないの。まだ一週間も経ってないんだぞ」

 

「………」

 

 

北岡は一蹴である。

させるか。さやかはすばやく回り込んで土下座である。

 

 

「センセーの言う事は尤もでございます」

 

 

まだ一週間も働いてないのに、給料前借りとか冗談でも笑えないレベル。

だがしかし! ここで引き下がってはいけない! 負けるなさやか! 土下座でも無理ならしがみ付いてでも前借りを――ッッ!!

 

 

「ええい離せ! だいたい何がそんなに欲しいんだよ! 今度でいいだろうが!」

 

「お願いしますぅぅぅぅ! どうしても今じゃないと駄目なんだよぉぉ!!」

 

 

さやかは北岡の足にしがみ付いて離れない。

 

 

「ああもう! 本当に面倒くさいなお前!」

 

 

北岡はイライラしながらさやかを振り払おうとするが、どうにも力負けしてしまう。

当然だ。さやかは魔法を使ってスペックを上げてる。

そしてグダグダが続いていき――

 

 

「あああ! もう、分かった分かった! 本当に子供(ガキ)は嫌いだよ!」

 

「え! って事は!!!」

 

「一週間分くれてやるから! 何でも買ってくればいい」

 

「!!」

 

 

とびきりの笑顔を浮かべて、さやかは北岡に抱きつこうとする。

それを華麗にかわし、北岡はため息をついた。

 

 

(また変な女を雇ってしまった。でもコイツ結構雑用できるしな……、ちょっと多めに飴をくれてやるか)

 

 

北岡はデスクの引き出しにあった札束から適当に金を抜くと、それを雑に渡す。

さやかは子供の様にはしゃぎながら事務所を飛び出していった。

これで五日も陰湿な弁護士の世話をした甲斐があったと言うものだ。

 

 

 

 

 






中沢くんの下の名前はオリジナルです。昴(すばる)って読みます。

『中』って文字から、男でも女でも使える名前にしました。
理由はもう一つあるんですが、後々にでも。
この作品では仁美のファンと言う事になってます。


そして下宮鮫一。コイツは"ほぼ"オリジナルです。
『上』条。『中』沢。
あとは、分かるやろ?(適当)

オリキャラではありますが、キャラクターデザインは、上条が退院してきた時に中沢と一緒にいた紫髪のメガネのつもりなんで、一応アニメには出てます。
資料集や、まどマギオンラインでは、『クラスメイトI』となっていました。

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