仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第87話 恋愛だぁ

 

 

 

「俺はやがて、全ての世界を破壊する!!」『ファイナルアタックライド』

 

「!」

 

「破壊者である俺が、こんなところで負けるか!!」『カカカカブト!!』

 

 

巨大なエネルギーの本流がターゲットに直撃する。

悲鳴を上げながら宇宙を吹き飛んでいく中、空間が弾け、銀河の海が広がった。

しかし『敵』にも意地がある。全エネルギーを放出し、巨大なオーロラを出現させた。

 

 

「逃がすか!!」『デンオウ!』『カメンライド』『ライナー』

 

 

ディケイドは剣を構え、幻影と共に突進していく。

だが、しかし、そこで感じる凄まじい抵抗感。コールタールの海にでも飛び込んだかのような不快感があった。

 

 

(なんだ――? これは)

 

 

そこで気づく。この世界の色。そして領域。

 

 

「ッ、ここまでゲームの領域が広がっているのか!!」

 

 

銀河の中に見えたF・Gの色。

一方で敵はその領域を超えて深く深く沈んでいく。

 

 

「野郎――ッッ!!」

 

 

目を細めるディケイド。

一方で同じく、ジュゥべえも目を細めていた。

 

 

『ッたく。チョロチョロチョロチョロ目障りな野郎だぜ。ディケイド……! なあ先輩?』

 

 

不快感を露にするジュゥべえとは違い、キュゥべえは無言で目を光らせていた。

眼下に広がる夜景を見ているワケではない。赤くて丸い瞳では宇宙の果てを観測している。

 

 

『仕方ないさ。破壊者のテリトリーに入ったのはボクたちだ』

 

 

とは言え、向こうは手出しはできない。

あくまでも主導権はインキュベーター側が握っているのだから。ゲームマスターは絶対ではないが、簡単に座を譲るものでもない。

 

 

『だが今回は――……、なるほど』

 

『?』

 

『異物が迫っているね。対処しないと、ちょっと面倒かな』

 

『どうする先輩。キトリーでなんとかできるか?』

 

『いや、無理だろう。まあ少し様子を見ようか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今でも、誰かを殺す夢は見る。

飛び散った脳や臓器、砕けた骨の欠片は死の証拠。言い訳のように目を逸らしたところで、そこらじゅうにあるのだから始末が悪い。

ふと前を見ると、不運にも自分の顔を映すものがある。何か反射するもの、水でもガラスでも車でもミラーでも何でもいい。そんなものばかり目についてしまう。

 

赤黒い血で顔が覆われている。

髪も血とか、飛び散ったゼリー状の何かでベトベトだ。それは体も同じ。血にまみれ、その中で肩を大きく上下させて息をしている。

血走った目だけが、かろうじて赤色の中で見つけられた。

もはやそれは化け物。そしてこれは決して夢の話じゃない。

 

 

「………」

 

 

暁美ほむらは、ゆっくりと目を開ける。

朝は苦手だ。と言うよりも自分の意思で眠るのは大嫌いだった。

イヤな夢ばかり見るからソウルジェムを使って、気絶するように眠る、そして目覚める。それだけだ。

しかし最近は自分の意思で眠るようになった。もちろん悪夢は見るけれど。

それに朝だって普段ならば低血圧からか中々ベッドから出られなかった。

だから魔力を使っていたが、今は違う。軽く寝返りをうって、大きく息を吸い込む。枕とかシーツから放たれる『匂い』をかぐと、とても落ち着く。

優しく包み込まれるような温かい香り。

 

布団を抱きしめる。より匂いに包まれて、ほむらはゆっくりと息を吐いた。

悪夢が強引に叩いた心臓も、今は一定のリズムに戻っている。

とは言え、静かな場所で一人でいるのはいろいろ考えてしまって気持ちが悪い。ほむらはさっさとベッドから出ると、姿見で軽く身なりを整える。

ベッドから早く出られたのも、寝癖がないかを確認したのも、今までの自分では考えられなかったことだ。

その奥にある感情は、焦り。

 

尤もそれはマイナスなものではない。むしろプラスだ。

ベッドから出なければではなく、早くベッドから出たい。

そしてリビングに行きたい。その無意識がほむらの体を突き動かす。

 

 

「……ッ」

 

 

わざとらしく扉を開けて、音をたててみる。

すると、何かを焼く音が聞こえた。匂いでハムだと分かった。

いつもはしっかり結んでいる髪も、今は当然下ろしている。

フライパンを持った少女はドアを開いた音に気がついたのか。振り返ると、太陽のような笑顔を浮かべた。

 

 

「おはよう。暁美さん」

 

「お、おはよう……、巴さん」

 

 

 

 

 

 

8時間あまり経った後、ほむらは手塚のアパートにいた。

パートナーと過ごす時間が長ければカードが生み出されるかもしれないし、少しずつ魔力も成長していく。

それに報告は必要だ。手塚は『いつもどおり』で済ませたが、ほむらは先ほどから口数も多く、日々の暮らしぶりを手塚に逐一報告していく。

 

 

「だいぶ二人暮らしも慣れたみたいだな」

 

「え、ええ。はじめはどうなる事かと思ったけれど」

 

 

ほむらは差し出されたインスタントコーヒーに口をつける。

一方で手塚は、テーブルの上にカードを広げて、それを睨みつけていた。

占いの勉強をしているようだ。ほむらには一目もくれず、ギラリとカードの裏を見ている。

 

 

「まあ、相手が巴と言うのがポイントだったな。これが神那や城戸だったらお前、今頃魔女になってたぞ」

 

「……否定できないから、しないわ」

 

 

ほむらは少し複雑そうに目線を落として、ミルクに手を伸ばしていた。

 

 

「やっぱり巴さんは訓練時代に過ごした時間も長いし、どこか似通ってる部分もあるから。過ごしやすいのかも」

 

 

変な話、まどかだと『格好つけすぎてしまいそうになる』ところはあった。

それに何かうっすらと記憶がある。ほとんど覚えていないが、どこか既視感と言えばいいのか。

もしかしたら前にも一緒に暮らしていたのかもしれない。

 

 

「なるほどな」

 

「でもね、そこはやっぱり先輩だから包容力があるの。一緒に住んでみてそれを感じる……。私のことをよく気遣ってくれるって分かるし。ああ……! けれどそれは嫌なことではなくて、ギリギリのラインを踏み込まない優しさを感じるって言えばいいのかしら?」

 

 

最近のほむらは口数が多い。

いつもは疲れたように言葉を切るが、今日はそんな事はなかった。手塚は頷くとカードを捲りながら喋る。

 

 

「巴は魔法少女歴が長いんだろ。全ての知識を手に入れた以上、心の触れ合い方には気をつけているんだろう」

 

「でも――、フフ。巴さんは意外と頑固だから、テレビのチャンネルとかなかなか譲らなくて」

 

「魔法少女って、どんな番組を見てるんだ?」

 

「普通よ? バラエティとか、ドラマとか。あ、最近ね。コーヒーの本を買ったの。朝は紅茶が多いけれど私の影響で巴さんもたまにコーヒーを飲むの。淹れるのは私の担当。フフフ」

 

「………」

 

「この前も、笑ってくれた。美味しいって」

 

「お前――」

 

 

驚いたような手塚の顔。

しかしほむらは気づいていないのか、コーヒーをジッと見ていた。

 

 

「もっと巴さんに美味しいって言ってもらいたい。巴さんに笑って欲し――……」

 

 

そこでほむらもハッとしたように顔を上げる。

自分の発言をそこで客観視したらしい。目の前には眉をひそめている手塚も見えるではないか。

だからこそほむらはバツが悪そうにうな垂れ、顔を赤くする。

額に汗を浮かべ、居心地が悪そうだった。

 

 

「いけない……!」

 

 

ジットリと虚空を睨む。

なにか嫌な記憶を必死に思い出しているようだ。

マミに殺される場面とか。マミを殺す場面とか。マミを裏切る場面とか。裏切られる場面とか……。

 

 

「なにをしてる」

 

「だってッ、私はまどかの為に――」

 

「そう言う所だ。お前の悪い部分は」

 

「え?」

 

「俺が驚いていたのはプラスの意味でだぞ」

 

「それは、どういう――」

 

「優劣を作るな。散々と鹿目が言っていた事だろ」

 

 

ふと、さやかの顔を思い出す。

彼女もそんな事を言っていた。それはマミも。

 

 

「今は巴と一緒にいる時間が長いからそう思っているだけで、お前の中で鹿目の印象が下がるわけじゃないだろ」

 

「そ、それは……、そうかもしれないけれど」

 

「まだ怖がってる。前回もそうだ。世界がお前を不幸にしてるんじゃない。お前が自分から不幸になってるんだ」

 

「……っっ」

 

 

後ろに小さく仰け反るほむらと、カードを弾く手塚。

反転し、ハリセンボンの絵柄がテーブルにスライドしていく。

 

 

「なに、これ」

 

「お魚占いと言うのを始めようと思って――」

 

「やめておいたほうがいいと思うわ」

 

「………」

 

 

手塚は無言でカードを回収すると、自分用に入れておいたコーヒーに手をつける。

 

 

「とにかく、ハリセンボンになるな。トゲが見えたら、お前には深く近づけない」

 

 

いつかの双樹あやせを思い出し、ほむらは肩を竦める。

過去があるから仕方ないとは思うが、まどかに近づくあやせに、思い切り敵意をむき出しで近づいてしまった。

その結果、良くない雰囲気になるのは当然か。

 

 

「お前はずっと鹿目のために戦ってきた。それがお前の望みである以上、仕方ない事とは言え――、それでもやはり俺の想像を絶する恐怖と苦痛と戦ってきたんだろう。それは誇っていい」

 

「そ、それは、どうも……」

 

「だがもう止めろ。鹿目はお前と対等の存在になった。もうお前の保護は不要なんだ。だからお前はもっと別のために戦え」

 

「別のため?」

 

「ああ。鹿目のためじゃない、お前自身のためだ」

 

 

それは願いの否定ではない。まどかの前を行くのではなく、隣に並んで戦う。

或いは、背中を合わせて戦う。それが大切だと手塚は説いた。

ほむらはハッとしたように沈黙する。前回のテラバイター戦では多くの仲間に助けられた。それは恥ずかしいことだと思っていたが、実際はそうじゃない。

仲間とはそもそも、そういうものだ。もちろんほむらが他者を助けた事も忘れてはいけない。

そういう対等なフィールドでこれからは他者に、自分に目を向けるべきではないのか。そういう話である。

 

 

「お前を除いて14人。これがなんの数字か分かるか?」

 

「ッ? ゲームに参加している魔法少女かしら?」

 

「そうだ。だが少し違う」

 

「???」

 

「ゲームが終わるまでに作るべき、お前の友人の数だ」

 

「………」

 

 

真っ白になり、固まるほむら。

 

 

「は?」

 

「いや。コイツ大丈夫か? みたいな目は止めろ。お前の視線はお前が思っている以上にソリッドなんだ」

 

 

手塚は、眉間にシワを寄せて首を傾げたパートナーを見て汗を浮かべる。

 

 

「お前は気づいてないかもしれないが、巴のことを話してる時、かなり楽しそうだった。とてもリラックスしているように見えたが?」

 

「ッ、それは……!」

 

「俺は本当のお前を欠片も知らない」

 

 

手塚が出会ったほむらは、魔法少女としての、つまり命を懸けて殺しあう戦士である。

本当の中学生としての姿は、あの笑顔を浮かべていたものだと信じたいものだ。

 

 

「鹿目への依存は脱するべきだ」

 

「……神那ニコにも同じことを言われたわ」

 

「別に鹿目と距離をおけと言ってるワケじゃない。ただ、もっと視野を広げるのもいいかもしれない。ただそれだけさ」

 

 

ほむらは困ったようにコーヒーを見つめている。

マミの事で笑顔を浮かべている自分を自覚した時、マミに裏切られた事や、マミを憎悪した事を必死に思い出した。

そうする事で心にブレーキをかける。それに自己嫌悪。

そして思い出すのは、不幸に向かって進む自分だ。

 

 

「確かに、嫌なものね。他者を嫌悪するのも、自分に嫌気がさすのも」

 

「ああ。当たり前の話だが鹿目とお前は恋人じゃない」

 

「……!」

 

 

少し照れたように目を逸らすほむら。

なんだそのリアクションは。手塚は汗を浮かべて目を細める。

まあ、要するに、単純な話である。

 

 

「恋人は一人じゃないといけないが、友達はたくさんいていい」

 

「ちょっと海之、やめてほしいわね。私はそんな気持ちじゃないわ」

 

「そうだろうな。だが感情は不思議なものだ」

 

 

あまりに一方に固執しすぎると、擬似的な恋愛感情を誘発する。

そもそも『愛』と言うのは不確かなものである。『恋』だけが前につく言葉じゃない。

友愛だとかをはじめ、愛の矛先はありとあらゆるものに向けられるものなのだ。男女の間にしか愛は生まれないわけじゃない。

それこそ友人、家族、大切にしている道具などなど……。

 

 

「そういう感情が混ざって、あまりにも大きすぎる愛が鹿目に生まれてしまった。それはお前の力にもなったことは確かだが、破滅を生み出すことも確かだ」

 

「ええ……、それはまあ、えぇっと、でも」

 

「――ちょっと目を閉じろ」

 

「え?」

 

「いいから」

 

 

言われたとおりに目を閉じるほむら。

流石に信頼感はある。これがさやかやニコだったら絶対に閉じない(失礼)が、手塚ならばおかしな事はしないだろうと分かっているのだ。

とは言え、その時、鼻に違和感。何かが当たったような。

ほむらが目を開けると、視界の端に赤いフレームがチラリと見えた。

 

 

「ウルズコロナリア。お前の魔法だが、パートナーシステムだろうな、俺も使えるんだ」

 

「え……、ちょ――」

 

 

その時、紫色の光が迸った。

気づけば、手塚の前には三つ編みのホムラが。

 

 

「ふぇぇ」

 

「悪いな。本音を話せるのは、そっちの方が楽だろ」

 

「も、もぅ、びっくりしたじゃないですかぁ」

 

「メガネなしのお前じゃ、つけろって言ってもつけてくれないだろ」

 

「そうですか。ごめんない『ほむら』の方の私はツンツンで絡みづらくて……」

 

「いや、まあ、警戒心が強いのは戦闘じゃ役に立つ」

 

「ほ、本当ですか。ありがとうございます……!」

 

 

パッと明るくなるホムラだが、まさに一瞬。ほんの一瞬でトーンダウン。

 

 

「いけない……、また手塚さんに気を遣わせるなんて私は本当にダメダメで――」

 

「出てる出てる! そのネガティブをしまえ!」

 

 

ホムラはメガネを整えると、ミルクと砂糖を割りと多めにコーヒーへぶち込んでいく。

 

 

「確認だが、本当に二重人格じゃないんだよな」

 

「はい。私は私ですよ。メガネも一応、自由に外せますし。ほら」

 

 

そう言ってホムラはメガネを外す。

すると一瞬で結ばれていた髪が解け、ストレートのほむらに。

ジットリした視線が手塚に向けられる。

 

 

『なに勝手にメガネかけさせてくれてんだ? お?』

 

 

そんな無言の圧力を感じる。

 

 

「わ、悪かったよ」

 

「まあ、別にいいけど」

 

 

別にいいけど感は欠片も感じないが、まあ本人がそう言っているので良しとしよう。

ウルズコロナリアはまさしく小型のタイムマシンとでも言えばいいか。

考え方がまるで違った過去の自分を前面に出すのだから、そりゃあ別人に見間違えもするだろうて。

 

尤も、ホムラはほむらの記憶も有しているので、純粋な時間の問題ではない。

過去の自分の考え方を尊重したゆえに生まれた魔法なので、文字通り性格を変える魔法とでもいえばいいか。

 

 

「まだ……、心をさらけ出すことを恐れている私には、いい魔法かもね」

 

 

そう言い、ほむらは自分からメガネを身に着けた。

ホムラはほっと一息、コーヒーをすする。

 

 

「甘いの美味しいですぅ」

 

 

とは言え、そこで不安げに髪を弄る。

 

 

「手塚さんの言う事はもちろんだと思います。実際、今、とっても楽しいし……、幸せ」

 

 

ある日、朝起きたら味噌汁の匂いがして。

ある日、朝起きたらパンの焼けるいい香り。

ある日、帰ってきたら明かりがついていて、おかえりって言ってもらえる。

 

 

「巴さんは優しいし、ずっとあそこにいたい」

 

「そうか」

 

「とても、心が満たされる気がしてます……」

 

「ならそれを、もっと味わえ」

 

 

怖がってる。裏切られることが。

だから初めから印象を落としているだけだ。そんなのバカらしいじゃないか。

 

 

「暁美ほむら。お前は、幸せになるべきだ」

 

「で、でも――」

 

「いい。不安は無視しろ。これは城戸が与えてくれたチャンスだ。記憶を共有しているとは言え、ここはもう別時間の、別の世界だ」

 

 

罪の意識があるのなら、二度と同じ過ちを犯さないようにすればいいだけのこと。

 

 

「幸せになれ。友人は、多いほうがいいよな?」

 

「……はい! いっぱい、ほしいです!」

 

 

笑顔で、ホムラは頷いた。

つまり、友達を作りたい。まどか以外にも、それこそまどかと同じだけの愛情を注げる相手を作りたい。

それを胸に、ホムラはゲームの攻略を誓った。

 

 

「でもですねぇ。手塚さん。あ、あ、あ……」

 

「どうした? まだ何か不安があるのか?」

 

「あの――。本当に仲良くできるんでしょうか?」

 

「それは……」

 

 

フラッシュバック。

たとえば、あやせ。

 

 

『えー? 友達ぃ? いらなーい。うざーい、しんでー♪』

 

 

ルカ。

 

 

『消え失せろ暁美ほむら。八つ裂きにするぞ』

 

 

杏子。

 

 

『あぁあ? 友達? うぜーんだよ! 今のアタシにはさぁ! 戦いだけがあればいいんだよォオオ!』

 

 

ユウリ。

 

 

『ユウリ様と友達になりたいご様子で? ノンノンンン! 無理だよクソ女ァ! 殺しちゃおっかなぁーッ!!』

 

 

発砲音の幻聴が聴こえた。

いかんいかん。手塚は眉根を揉んで俯く。

やっぱ無理かもとは――、いまさら言えない。

 

 

「ま、まあ、なんだ。俺も手伝ってやるから」

 

「本当ですか! あ、ありがとうございます!!」

 

 

ホムラはニコニコとコーヒーをすする。

 

 

「……あ、あの」

 

「ん?」

 

「手塚さんはっ、お友達っ、何人くらいいるんですか……?」

 

「………」

 

 

あれ?

果てしない沈黙が続いた。

ホムラはカップに口をつけたままビッシリと汗を浮かべている。

 

 

「あのっ、ごめんなさい……」

 

「おかわりは?」

 

「い、頂きますぅ」

 

 

エビルダイバーは友達に入りますか?

手塚はひたすら目でそれをパートナーに訴え続けていた。

 

 

「まあ、騎士は年齢がバラバラだ。だが今ゲーム参加してる魔法少女は中学生か小学生だけだろ。分かり合えるさ」

 

 

それを言うと、ホムラは微笑み、頷いていた。

 

 

 

 

一方でそのバラバラの騎士。

高見沢が電話の向こうで怒号をあげる。

 

 

『ふざけんなクソガキ! お前はなんでもかんでもすぐにポチりやがって!』

 

「金あんだからいいだろよー」

 

『化石発見器なんて何に使うんだよ!!』

 

「ロマンだよロマン! いやだね、少年の心が枯渇したジジイは」

 

『じゃあマヨネーズ製造機は!』

 

「素材から拘るのが"通"だろよー。やだね、本物を知らないジジイは」

 

『馬糞は何に使うんだ! 答えられるなら答えてみやがれ!!』

 

「嫌いなやつに投げるんだよぉ」

 

『さすがに鳥居はいらねーだろ! だいたいなんでネットで鳥居なんて売ってんだ!』

 

「信仰をなくしたジジイに安定はないぞ!」

 

『つうかせめて屋敷のほうに送れよカス! なんで会社の方に代引きなんだよ! テメェいい加減にしねぇとマジで殺――』

 

 

切った。

ニコは携帯電話をベッドの上に投げると、リクライニングチェアに深く座って天井を見つめる。

 

 

「はー、うるせぇジジイだよ本当」

 

 

ニコは読んでいた漫画をベッドに投げ。テーブルの上を雑に整理する。

睨み付けるのはノートパソコン。そこには複雑なプログラムが羅列されており、魔女の文字も見える。

どうやら『新魔法』を開発しているようだが、なかなか上手くいかないらしい。

 

 

「やっぱ私ひとりじゃ無理か……」

 

 

ため息を一つ。そしてお菓子をほおばる。

 

 

「んッ!? お、おいジュゥべえ大変だ! いるか! 今すぐ来てくれ!!」

 

 

唐突に叫ぶ。すると壁をすり抜け、黒い影が姿を見せる。

 

 

『あん? なんだよ、オイラは騎士担当だぞ。なにか用があるなら先輩に頼めよ』

 

「や、そうもいかんのよ。ほら、お前じゃないとダメなんさ」

 

『???』

 

 

手招きを行うニコ。仕方なくジュゥべえも傍に寄る。

 

 

『なんだよ、なにがあるんだよ』

 

「いや、ほら、これ」

 

 

手を見せるニコ。

 

 

『あ? 手がなんだよ』

 

「だからほれ、ポテチ食って手がベトベト。拭かせろ」

 

『……ぇ?』

 

 

グニュッ、グニュッ、ニコはうつぶせにさせたジュゥべえの背中で手をふき取る。

 

 

「キタネ――ッ。あ、もう消えていいよ」

 

『………』ビキッ

 

 

三分後。

 

 

「キュゥべえ! ゲームの事でちょっと聞きたいことがある!!」

 

『なにかな神那ニコ』

 

「あ、やっぱいいわ。自己解決! まあでもせっかく来たんだ。ジュース零したし、モップになってよ」

 

『………』

 

 

ゴシゴシゴシゴシ。

棒にくくり付けられたキュゥべえがひたすら床にこすり付けられている。

三分後。

 

 

「ジュゥべえ、魔獣の事でちょっと聞きたいことがある」

 

『……なんだよ』

 

「悪い、喋る内容忘れたぞ。まあでもせっかく来たんだしな。今ちょっと鼻かみたくてさ。ティッシュ切らしてるのよ。だから、かませろよ」

 

『うん、おォ……、びっくりだな。ビックリだなおい。オーケーすると思ってるならビックリだなオイ。オイ、オイマジで止めろ。無理やり掴むな。おいッ、なんだこれオイ! マジデッ、だか――ッ、ふざけんなよお前離せよ! 離せって! おいッ、ちょ! マジ――ッッ!!』

 

 

ズビビビビビビビビィィイ!!

 

 

「あ゛ー、すっきり! はい、もう消えていいよ」

 

『………』ビキキッッ!!!

 

 

三分後。

 

 

「キュゥべえ、よく来てくれた。そこの消しゴムとって」

 

 

三分後。

 

 

「よ、ジュゥべえ。あ、ごめん。やっぱなんでもないわ」

 

 

三分後。

 

 

「キュゥべえ、300メートル先に何かある。異物かもしれない」

 

 

三分後。

 

 

「ジュゥべえ、さっきキュゥべえに言ったの気のせいだったわ。伝えてきてくれ」

 

 

三分後。

 

 

「キュゥべえ、ジュゥべえ、おはようございます。いや、ちょっと挨拶したくなって。他に用はないからさ。へへへ、じゃあね」

 

 

ビキビキビキビキッッッッ!!!

 

 

『あの女ァ……! ゲームが始まるまではサポーターなのをいいことにィイ!!』

 

『だけど、まだゲームが始まっていない今はサポーターとしての役割がある。予想外だったよ神那ニコ。まさかインキュベーターをストレス発散の道具に使うとは……』

 

 

ジュゥべえ! ジュゥべえ!! 大変だ! 来てくれ!!

 

 

『呼んでるよジュゥべえ』

 

『あぁ!? いやッ、もう流石に行かなくていいだろ先輩! ぜってーロクな用件じゃねぇって!!』

 

 

ジュゥべえ! どうした! まだゲームは始まってないぞ! お前サポーターだろ! 用事があるんだぞ! 用件があるんだぞ!! ニコたんが呼んでるぞ!!

 

 

『いやほら聞いただろ先輩! アイツ絶対確信犯だから! つうか自分のことを『たん』付けで呼ぶ女にまともなヤツがいるわけ――』

 

 

ジュゥべえ! ジュゥべえ! ジュゥべえべえ! ジュゥべえええええええええええええええ!!

 

 

『うるせぇええな! テレパシーを使うな!!』

 

 

ベジュベジュベジュベジュベジュベジュベ――

 

 

『あああああああああああ! 分かった! 行くよ! 行けばいいだろ! ちくしょうがい!!』

 

 

ジュゥべえ、入室。

 

 

『どうした神那ニコ!』

 

「よく来てくれたジュゥべえ!」

 

 

ニコの手招きでジュゥべえは傍に。

ベチャァ――……。

 

 

『………』

 

 

「ガム。捨てる紙が無かったから。な?」

 

『―――』

 

 

10分後、見滝原神社。

そこにジュゥべえがやって来ていた。

自販機の下で拾った5円を賽銭箱にいれると、小さな手を叩き合わせ、眼を閉じる。

 

 

(神様、お願いですから神那(クソカス)が一番初めに死にますように……!)

 

 

一方のニコ。ジュースを飲みながらパソコンを睨んでいる。

 

 

「ケッ、クソ運営共。魔法少女の痛みを食らえ」

 

 

とまあ、呟いてはみるが――。

実際と、ニコの狙いは別のところにあった。

インキュベーターたちをコキ使うのは確かに日ごろの『恨み』からはある。

ある、が。本命はその存在である。

ひそかに、肉体のデータを採取しておいた。呼び出し、どうでもいい会話を行っている裏でレジーナアイをフル稼働。

 

 

「なんとかデータを取れればいいけど」

 

 

パソコンには新魔法の名前(仮ではあるが)が記載されている。

その名も、『MAGIA・RECORD』と。

どうやら良いも悪いも、様々な思惑が蠢いているらしい。

 

さて、ここで城戸真司を見てみよう。

OREジャーナルで記事を作っている真司。とは言え、心は別の方向を向いているらしい。

なんとかホムラとほむらの件は解決した。とは言え、まだスタートラインにも立っていない状況だ。

ましてやほむらの一件でつくづく長い戦いが生み出した苦悩を知った。

 

 

「うーん」

 

 

今後も様々な壁に直面するだろう。

記憶を取り戻しているとは言え、この世界で始めてぶつかる壁もあるはずだ。

 

 

「うーんッ!」

 

 

頭をかく。

魔獣を倒す以外にも、やはり魔法少女や騎士での協力関係をどうすれば――。

 

 

「うぅぅううん!!」

 

 

やはり一番は魔法少女達が仲良く。悲しむことなく。

魔法少女。魔法少女――ッ! うぐぅぅうおぉぉっ。

 

 

「どうしたの城戸くん? 様子が変よ」

 

 

先ほどから頻繁に頭を抱える真司が気になったのか、令子が声をかけてきた。

F・Gの事で悩んでます! などとは言えず、とりあえずオブラートに包むことに。

要するにいろいろな主張がある事件で、どれを尊重するべきか。どんな思いを通せばいいのか分からない。そういう具合に纏めておく。

 

 

「結局、どうすればみんな仲良くなれるのか。納得できるのか分かんなくて」

 

 

すると令子は何度か頷き、アドバイスを返してくれた。

 

 

「やっぱり人間いろいろあるものね。分かるわ、私もそういう時あったし」

 

「令子さんでも?」

 

「もちろんよ。だからね、悩んだときは相手の立場になってみるって結構大事」

 

「相手の、立場」

 

「そうよ。自分が違うかもなって思った意見でも、相手の目線になってみると結構変わってくるものなの」

 

「へえ。そういうもん……、ですか」

 

「ええ。だから城戸くんも何か迷っているなら、少し視点を変えてみるのもいいかもね。相手の立場になれば、相手が何を考えているのか、少しは近づけるかも」

 

 

そうすれば皆が一つになれるかもしれない、と。

 

 

「おお! ありがとうございます! 俺ッ、がんばります!」

 

「ええ、その意気よ。がんばってね。じゃあ私取材に行って来るから」

 

 

OREジャーナルを出て行く令子。

相手の立場。相手の立場。真司が連呼していると、入れ替わりで編集長が戻ってくる。

 

 

「ういーっす」

 

「あ、お帰りなさい編集長!」

 

「おお。あれ? 令子は」

 

「取材です」

 

「お、そうか。えーっと、島田はどうした?」

 

「トイレです」

 

「おお、了解」

 

「あッ、そうだ編集長」

 

「ん? どうした? いや、待てッ。ははあ分かったぞ。今日お前なんかブツブツ悩んでたもんな。だが今はこう――、スッキリしてる。答えが出たな真司!」

 

「分かりますか!!」

 

「ったりめーだバカ。で? どんな答えが出たんだ?」

 

「聞いてくださいよ編集長!」

 

「おお!」

 

「やっぱりみんな色々あるんです!」

 

「おおッ!」

 

「自分だけの意見じゃダメなんです」

 

「おおッッ!!」

 

「だから俺ッ、女子中学生になろうと思います!!」

 

「お――」

 

 

お?

 

 

「編集長! 今日から俺のことは女子中学生だと思ってくださいッ! シャア!!」

 

「―――」

 

 

その夜。

モダンなバーのカウンターで、編集長は氷の入ったグラスを回していた。

 

 

「なにか……、あったんですか?」

 

 

マスター・義彦がグラスを拭きながら、静かに尋ねる。

ジャズの音と、編集長のため息が重なった。

 

 

「ストレス……、かねぇ? パワハラとか無意識にやっちまってんのかも、俺」

 

「まさか。大久保さんに限って」

 

「そう信じたかった。けれども前に取材で女装や幼児化を取り上げたことがあって、どっちもストレスが原因の人がいたんだ……」

 

「そういう世界にいる人達が、全てそうとは限りませんよ。純粋な興味で門をたたく人もいます」

 

「ああ、かもな」

 

 

タバコの火をつけ、編集長は天井を見つめる。

 

 

「休ませてやろうかな……」

 

 

翌日から真司の休暇が増えたのは言うまでもない。

どうやら少し――、いやかなり大きな誤解が生まれたようだが、まあ仕方ない。一種のホウレンソウだ。

やはり上司と部下であってもしっかり話し合うことは大切なのだ。

だからまあ、今回は仕方ないのだ。

 

様々な意見が交差する。意思が交差する。

それは、こんな所にも。

 

 

『言い訳とかさせちゃダメっしょ。稼いできた分は全額きっちり貢がせないと。女って馬鹿だからさ。ちょっと金持たせとくとすぐ、くっだらねぇことに使っちまうからねぇ』

 

『いやー! ほんと女は人間扱いしちゃダメッスねぇ。犬かなんかだと思って躾けないとね。アイツもそれで喜んでる訳だし、顔殴るぞって言えば、まず大抵は黙りますもんね』

 

『けっ、ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言いだすからさぁ。甘やかすの禁物よ。ったくテメーみてーなキャバ嬢が10年後も同じ額稼げるかってーの。身の程わきまえろってーんだ。なぁ?』

 

『捨てる時もさぁホントウザいっすよね。その辺ショウさん巧いから羨ましいっすよ。俺も見習わないと……』

 

 

イケメンホスト、ショウさんはゆっくりと目を覚ました。

夢を見た。電車で後輩の『イチ』と話している夢だ。随分とリアルな夢だった。

まるでいつかの未来を見ているようだ。

 

まあとは言え、あまりいい夢ではない。

なんとなく本能がそれを感じた。斜め向かいに座っていた青い髪の少女の目が尋常じゃないほど淀んでいたような……。

顔を洗うために鏡の前に立つ。ふむ、心なしか脳がクリアだ。

考える。考える。考える。

 

ためしに顔を洗ってみる。

なんだか、顔つきが違うような気がする。

 

 

「……ホストやめよ」

 

 

店とは少し揉めたが、他にやりたい事ができたと熱弁すると、その情熱を理解してくれた。

ましてや後輩のイチは、その情熱に感化されたのか――

 

 

「俺、ショウさんにどこまでもついて行きます。マジリスペクト!」

 

「よし! 一緒に行くか! イチ!」

 

「はい! ショウさん! 俺、たぶん止まらないです!」

 

「よし! 止まらないかイチ!」

 

「っしゃおらーぃ!」

 

 

頭の悪い会話だったが、そこからはなかなかどうして順調だった。

ショウさんは人が変わったように真面目なプランを立てた。料理が得意だったので、ホスト時代で稼いだ金を使い、店を開いた。

イチは料理の腕はてんでダメだったが、皿を洗うスピードだけは速かったので助かった。

さらにスタッフを募集したところ、料理の腕は確かだったが、今までは愛想が悪いということで不採用になってきた『カナさん』を雇う。

他にも何人かバイトを雇い、準備が整ったショウさんは、すぐにタイ料理屋をオープンさせたのだ。

これが瞬く間に繁盛。リピーターもついて、ショウさんもニッコリである。

 

 

「お、霧島さん。いらっしゃい」

 

「ういー、ショウさんー! 今日も毛先遊ばせてるねぇ!」

 

 

今日も常連の美穂がやって来た。とは言え、美穂が笑顔を浮かべたのはそこまでだった。

深刻な表情で座っている美穂。向かいにいた蓮はボケーっと窓の外を見ている。

 

 

「相談ってなんだ? 時間の無駄だろうから、さっさと済ませろ」

 

「真司の――、事なんだ」

 

「ああ」

 

「アイツ最近、取材とか何とか行って見滝原中学校に行ってるよな」

 

「らしいな」

 

 

美穂はそこで保険の先生の研修中なので見かけるのだろう。

 

 

「そこまではいいんだよ。そこまでは」

 

「おお」

 

「アイツどうもそこで中学生と仲良くなってるらしいんだよ!」

 

「同じレベルだからな」

 

 

失礼。

 

 

「それは同意なんだけど――」

 

 

失礼。

 

 

「どうにも特定の女の子と特別仲良くなってるっぽいんだよな!!」

 

「そうかもしれないな」

 

 

適当。

 

 

「おかしいと思ってたのよ」

 

「そうだろうな」

 

 

適当。

 

 

「この私の魅力に堕ちないのは、アイツがバカだからだと思ってたわ」

 

「これ美味いな」

 

 

適当。もはや聞いてない。

 

 

「でも違ったんだ……! アイツ、ロリコ――」

 

 

口を押さえる美穂。ダメだ、とてもじゃないが口にはできない。

 

 

「ロコモコはハワイだろ」

 

 

適当。蓮は全く聞いてない。

そしてそれは美穂も同じである。蓮の返しなど欠片も聞いてない。

 

 

「まあ、アイツのことだ。そういう時もあるだろ」

 

 

適当である。

蓮は飯だけさっさと平らげると、手を振って出て行った。

もちろん伝票は残したまま。予断だが、この男なかなか金の面でみると『せこい』ところがある。

 

 

「………」

 

 

そこで美穂ははじめて気づいた。

 

 

(相談する相手を間違えた。飯だけ食って帰りやがった……!)

 

「はい霧島さん。これサービス」

 

 

入れ替わりでショウさんがホットコーヒーを持ってくる。

 

 

「お、ショウさーん。ありがとー!」

 

「どうしたの? 落ち込んでるみたいですけど?」

 

「それが聞いてよー」

 

 

蓮とは違い真剣に話を聞いてくれるショウさん。流石は元ホストと言うところだろうか。

話を聞き終えたショウさんは、美穂に一つのアドバイスを。

 

 

「相手に気持ちになって考えてみるのも、ありかもしれませんよ」

 

「ホスト時代の経験ー?」

 

「まさか。人としてですよ」

 

「………」

 

 

ショウさんが厨房に戻ったのを確認すると、美穂は携帯を取り出す。

 

 

「………」

 

 

フリマアプリを開き熟考。そして美穂の指が見滝原中学校の制服に伸びるまでに時間はそう掛からなかった。

 

 

(何やってんだ私は……)

 

 

既にポチった後だったが、途中で気づいた分、向こうよりは『マシ』かもしれない。

 

 

「お! 売れてるがな! よっし小遣いゲット!」

 

 

一方でニコは通知に胸を躍らせる。出品していた制服がご購入である。

 

 

「悪いな変態紳士ども、その制服は私の魔法で作ったフェイクだよ」

 

 

意外と世界は狭いものである。

 

 

 

 

 

 

そんななか、休日がやって来た。

 

 

「zzzzzz」

 

 

ベッドにめり込んでいるほむら。

ああ、なんと言うことだ。休日の寝坊がこれほど有意義で心地いいものだったとは。

今まではソウルジェムを操作して起きていたから忘れていた。

そう、忘れていたのだ! もったいない。もうなんだったら、永遠に眠っていたいくらいである。

 

 

「暁美さん、まだ寝てるの!」

 

 

ノック、気だるい返事を返すとマミが入ってくる。

 

 

「起きて暁美さん。今日はみんなでお出かけするんでしょ?」

 

「うぅぅ」

 

「パン焼いてあげるから」

 

「うぅぅ」

 

「美味しい紅茶もあるわよ」

 

 

 

ほむらの肩を揺するマミ。

ともあれ、ご飯よりも大事なものがある。

 

 

「お願い巴さん。もうちょっとだけ眠らせて……!」

 

「!!」

 

 

マミは衝撃に口をあけ、思わず額に汗を浮かべた。

まさか、あの、ほむらからお願いをされるとは。頼りにされるとは!

今までの記憶からは想像もつかないことだ。マミは嬉しそうに頬を蒸気させ、ほむらの体に布団をかぶせた。

 

 

「し、仕方ないのね暁美さん! も、も、もうちょっとだけなんだからッッ!!」

 

 

マミもお願いされる事が嬉しくて許してしまう。

これが三回続いたとき、マミは汗を浮かべて扉を蹴り破るように開いた。

 

 

「あ、暁美さん! 流石にマズイわ! あと五分で待ち合わせの時間が来ちゃう!!」

 

「……ぅ」

 

 

そこでようやくと、ほむらが体を起こした。

目をこすり、あくびをしながら伸びを行う。

そして、変身。

 

 

「え?」

 

 

一瞬だった。一瞬でほむらは着替え終わり、キリっとした目つきでマミの前に立つ。

 

 

「おはよう、巴さん」

 

「は、はやッ!!」

 

 

そこでマミは全てを察する。ほむらは魔法を使って全ての身支度を整えたのだ。

 

 

「むぅ」

 

「?」

 

 

ほむらは首を傾げる。

用意ができたのだから、てっきり笑顔が返ってくるかと思ったら、マミが浮かべたのは不満が見えるふくれっ面。

 

 

「いけないわ暁美さん。横着よ」

 

「え?」

 

「私も髪のセットとかに魔法使っちゃうけど……、な、なるべくは使わないようにしてる」

 

「……?」

 

「あの、だからね、やっぱりこの力は便利だけど、なるべく使わない方がいいと思うの」

 

 

まだグリーフシードの予備はあるものの、なるべく温存はしておきたいし。

ほむらの場合は砂も使う。もしもの時に時間停止が使えないとなると、危ないではないか。

まだゲームは始まっていないから、殺しに掛かる参加者はいないかもしれないが、魔獣の存在もある。

 

 

「それは……、まあ」

 

「ね! じゃあこうしましょう! 普段はなるべく魔法禁止!」

 

「でも――」

 

「私たちはチームなんだから、なるべく助け合いましょうよ」

 

 

助け合い。素晴らしい響きだ。

ほむらは思わず頷いてしまった。

 

 

「って、あ」

 

 

その瞬間、ほむらの服のボタンが床に落ちた。

 

 

「取れた」

 

「やだ、糸が切れちゃったのね」

 

「平気よ。こんなの魔法で……」

 

 

そこでマミのジットリとした視線を感じる。

誓いを立ててから破るまで三分も経っていないと言うのは笑えない話だ。

 

 

「はい、これ」

 

 

そう言ってマミは裁縫セットを持ってくる。

ほむらは渋々そこから針と糸を取り出した。家庭科の授業も周回している。こんなもの魔法がなくとも――

 

 

「………」

 

 

なくとも――

 

 

「……!」

 

 

なくとも――!

 

 

「……!!」

 

 

通らない!

針に糸を通そうとするがなかなかうまくいかない。

イライラする。今すぐドリルでこの針の穴を拡張してやりたい。なんなら針も糸も全て爆弾でブッ飛ばしたい。

いや、いかんいかん。何を考えているんだ。こんな凶悪な思考が魔獣に良いようにされていた原因ではないか。

ほむらは、一度深呼吸し、目を細める。

 

 

「あ、糸をちょっと舐めると通りやすいわよ」

 

 

そう言ってマミはお手本を見せることに。

糸を舐めて少し濡らせば、すんなり糸は針へ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

マミは針から糸を抜いて、ほむらに手渡す。

 

 

「………」

 

 

だが、入らない。

眉間にしわを寄せて目を細めるほむら。

入らない。入らない。イライラしてきた。

乾いたのか? ほむらの糸を先を咥え、その後チャレンジして――。

 

 

「あ」

 

「ん? どうしたの暁美さん」

 

「あの、ごめんなさい。私も同じところ……、舐めちゃった」

 

「え? ああ! あはは! だ、大丈夫大丈夫。私べつにそういうの気にしないから」

 

 

少し照れくさそうに笑うマミ。

ほむらも少し赤くなって頷く。

 

 

「キマシタワーッッ!!」

 

「………」

 

 

空間が歪み、ニコが二人の間に座っていた。

この子、『暁美さん、まだ寝てるの!』の辺りからずっと見ておりました。

 

 

「あぁ、これきましたわってヤツな。うーん、これキマシタワぁ、んッ、これどうしようか、これキマシ――」

 

 

数分後、鎖でグルグル巻きにされているニコがリビングの隅っこに転がっていた。

白目をむいており、すぐ傍ではほむらが肩で呼吸をしている。

 

 

「お、おちついて暁美さん。相当怖い顔よ」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと興奮して」

 

 

いけない、冷静さ、落ち着く心だ。

そういう時は、やはりこれか。ほむらはウルズコロナリアを使用。メガネをかけて、ホムラに変わる。

 

 

「巴さん! 私っ、がんばります!」

 

「はい! がんばりましょうね!」(まあかわいい!)

 

 

お菓子をあげたくなる。

ともあれ、見守るマミ。しかし忘れてはいないだろうか。ホムラはほむらよりずっと不器用である。

待てども待てども、アドバイスすれどアドバイスすれど、糸はグニグニグニグニ。一向に針に通る気がしない。

 

 

「こ、こうなったら!!」

 

「ど、どうするの暁美さん」

 

 

ホムラは携帯を取り出し、タップを行う。

 

 

「助っ人を呼びます! 私は一人じゃありません!!」

 

 

数分後、手塚入室。

 

 

「………」「………」「………」

 

 

テーブルの上に向かい合って座るライアペア。そしてそれを見守るマミ。

手塚はしばらく目を瞑っていたが、カッと勢いよく見開くと、コインを投げる。

 

 

「!」

 

 

落ちたコインはしばらく回転し、表を示した。

 

 

「視えた! 通る! 針に糸が通る未来が見えるぞ!」

 

「本当ですか! やったぁ!」

 

「ああ、俺の占いは当たる。じゃあな」

 

 

手塚、帰宅。

 

 

「何をしに来たの!!」

 

 

マミの叫びは虚空に吸い込まれていく。

一方でお墨付きをもらったホムラは嬉々として針に向き合う。

だが一分後、涙目になったホムラがいた。占いでは通ると出たが、なかなか上手くいかない。

するとホムラは再び携帯に手を伸ばした。

 

 

「どうするの暁美さん! また手塚さん!?」

 

「いえっ! 別の助っ人を呼びます! 私は一人じゃありませんっ!!」

 

 

数分後、真司入室。

 

 

「どうした! ホムラちゃん!?」

 

「城戸さん! お仕事は大丈夫なんですか!?」

 

「ああッ大丈夫大丈夫! なんか編集長が捨てられた子犬を見つめる目で有給くれるって言うから!」

 

 

つまりオフ。

ホムラは真司に事の顛末をすばやく説明する。

針に、糸が、通らない。以上。

 

 

「なんだそんな事か! うっし! 俺に任せろホムラちゃん!!」

 

 

それが最後の言葉だった。

数分後、敗北者が帰ったあとには、何も変わっていない状況が広がっていた。

完全に無駄な時間である。涙目のホムラと、汗を浮かべているマミ。

 

 

「ま、まあ今日は私がやるわ。貸して暁美さん」

 

「ご、ごべんなざい……!」

 

「ううん、気にしないで、ほら、助け合いでしょ私たち」

 

 

そう言ってマミは簡単に針に糸を通す。

感心するホムラ。メガネを外し、ほむらになる。

 

 

「上手いものね」

 

「別に、普通よ。暁美さんもちょっとコツを掴んだらすぐに上手くなるわ」

 

 

あっと言う間に外れたボタンは元通り。

 

 

「はいどうぞ」

 

「ええ。どうも」

 

 

一瞬、沈黙。

 

 

「あ、あの、あの、巴さん」

 

「ん?」

 

「あ、あの、えっと、だから――」

 

「???」

 

「あ、ありがとう」

 

「ふふっ! はい! どういたしまして!!」

 

 

そこでハッとする二人。

おかしい、時計は既に待ち合わせの時間をとうに過ぎている。にも関わらずまだ誰も着ていない。

そのときだ。インターホンの連打が。

ピンポンピンポンピンポン! ピポポポポポポポポポ!!

 

 

「うるさい……!」

 

 

こんな押し方をするのはさやかくらいだろうが、モニタを見て驚くふたり。

そこに映っていたのは涙目のまどかだった。

 

 

「鹿目さん! どうしたの!?」

 

「だずげでぐだざいマミしゃあああああああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「サキ!」

 

 

鹿目家の前ではサキが様子を伺っていた。

そこへ合流するマミたち。

 

 

「マミ、ほむら、来てくれたか」

 

「どうしたのサキ? 何か大変みたいだけど」

 

 

隣にいるまどかは涙目でまともに話ができない状況のようだ。

さらに同じく話を聞きつけたのか、スクーターをすっ飛ばして真司が姿を見せる。

 

 

「うわッ、どうしたのまどかちゃん! 大丈夫!?」

 

「うぅうぅう、じんじざぁああん!!」

 

 

マミにしがみつき、涙を流すまどか。

やはり話はできない状況のようだ。すると、事情を把握していたサキが口を開く。

 

 

「じ、実は――」

 

 

単刀直入に言うと夫婦の危機である。

はじまりは金曜日の夜だった。ご飯の時間になっても、まどかの母親、鹿目詢子が帰ってこなかったのだ。

携帯に連絡しても繋がらない。

そうしていると、詢子がベロベロに酔っ払って帰ってきた。

 

 

「ははあ、なるほど、良くあるタイプのヤツね」

 

「そういう事だな」

 

 

どういうこと? ほむらは肩を竦める。

どうやら、『あるある』らしい。ご飯がいらないなら先に連絡してほしい、そういうタイプの話だった。

それは鹿目家とて例外ではなく。

 

 

『もう、困るよ。ご飯いらないならいらないって連絡してくれればいいのに』

 

『携帯の充電切れてたんだって!』

 

『でもまどか達も心配するし、せめて誰かに電話を借りて連絡くらい』

 

『気にしすぎなんだよ!』

 

 

それが長引いて、最終的に――

 

 

『離婚だ離婚ンンンン!!』

 

 

そして、今日に至ると。

 

 

「パパとママりごんぢじゃうのぉおぉおおお!?!?!?」

 

「お、おちついて鹿目さん。大丈夫よ!」

 

 

とは言ったものの、である。

はて、いくらなんでも一つの家庭の問題に首を突っ込んでいいものなのか。

 

 

「うーん……!」

 

 

腕を組んで考えるマミ。ほむらもどうしていいか全く分からなかった。

ふと、泣いているまどかが見える。なんだかとてつもない虚無感に襲われた。

魔法があっても、この問題にはなんの干渉もできない。

 

 

「!」

 

 

するとまどかを抱きしめているマミが、ウインクを行う。

 

 

「……ッ」

 

 

頷くほむら。

歩き、まどかの肩に触れる。

 

 

「大丈夫よ、まどか」

 

「ふぇ!?」

 

「みんながついているもの。絶対大丈夫」

 

「ほ、ほむらぢゃああああああああ!!」

 

 

まどかはほむらにしがみ付き唸っている。

その頭を撫でるほむら。マミもそれでいいとウインクを返した。

 

 

「しかし本当にどうしたものか」

 

「あッ、そう言えば――!」

 

 

真司は以前、編集長から『夫婦仲を改善する特殊な職業を取材した』とかなんとか。とにかくそう言う話を聞いていた気がする。

 

 

「ちょっと電話で聞いてみるよ」

 

「お願いします」

 

 

そこで気づくサキ。

 

 

「さやかは? アイツも待ち合わせしていただろう?」

 

「連絡がないわね。暁美さん、何か知らない?」

 

「いえ……、なにも」

 

「仕方ないわね。私が見に行ってくるわ。後はお願いね、サキ」

 

「ああ。気をつけてな」

 

 

まどか一家の件はとりあえず真司待ちだ。

マミはそれを信じて、さやかの家に向かった。

一方で電話をかける真司。

 

 

「あ、もしもし編集長? お疲れ様です」

 

『お、おう。ど、どうした真司……、ちゃん』

 

「前に編集長が取材したって言ってた――」(ちゃん?)

 

 

事情を説明する真司。知り合いの夫婦仲が悪いので、なんとか修復の手伝いがしたいと。

 

 

『ああ、それか。えーっと、URL送るから確認しろ』

 

 

電話が切れ、代わりに『とあるサイト』のURLが送られてくる。

真司がそこにアクセスすると、『主婦の遊び場』と言うサイトが表示される。

 

 

(だ、大丈夫なサイトなのかな……)

 

 

そうは思えど、隅々まで見てみると、なるほどと思う。

編集長も『腕は信用できる』と補足説明があった。

真司は編集長を信頼し、記載されている電話番号に連絡してみる。

 

 

『もしもし』

 

 

渋い声が聞こえてきた。

 

 

「あ、もしもしッ、あのOREジャーナルの城戸真司です」

 

『ああ、大久保のところの。で? どうした?』

 

「ああ、実は――」

 

 

事情を説明する真司。

知人の家庭環境があまりよろしくなくなったと。

 

 

『なるほど、分かった。20分だ』

 

「え?」

 

『今から20分で向かう』

 

 

そこで電話が切れた。

 

 

「あッ、ちょっと!!」

 

 

大丈夫なのだろうか?

真司は訝しげな表情で携帯を見つめている。

 

 

「今日、まどかちゃんのお母さんは?」

 

「お休みなの。でも朝がらパパと一言も会話じでなぐでぇええ!!」

 

「お、落ち着けまどか」

 

 

サキが必死に背中や頭をさすっているが、どうやら無駄のようだ。

するとそこでニコの声が頭の中に響く。ゲーム開始前であるため、テレパシーが使えるのだ。

 

 

『こちら神那ニコ』

 

「浅海サキだ。どうした?」

 

『良いニュースと悪いニュースがある』

 

「良いニュースは?」

 

『今日の占い、ニコちゃんが一位だった』

 

「……悪いニュースは」

 

「レジーナアイが異物を捉えた。魔獣だ」

 

「……落差、凄くないか?」

 

『細かい事は気にしなさんな。で? どうする?』

 

 

グッと、拳を握り締める男が一人。

 

 

「魔獣……ッ!」

 

 

真司は辺りを確認する。

まどかは――、とてもじゃないが戦える状況ではない。

すると真っ先に手をあげた者がいた。ほむらだ。呆気に取られているサキや真司を通り抜け、彼女は足を進める。

 

 

「私が行くわ」

 

「いいのか?」

 

「何が?」

 

「いや、だから――」

 

 

サキは言葉はなくとも、まどかをジッと見つめる。

まどかが弱っている時は離れたくない筈だ。それが今までのほむらである。

そして本人もそれを自覚しているのか、少しわざとらしく、大きく首を横に振った。

 

 

「まどかは任せるわ」

 

「だが――」

 

「信頼、しています」

 

「!」

 

 

ほむらは少しばつが悪そうに表情を歪めながらも、ちゃんと想いを口にした。

それを聞いて、サキも真司も頷く。

 

 

「分かった。まどかは任せろ」

 

「ほむらちゃん、魔獣を頼むよ」

 

「任せて。すぐに始末するわ」

 

 

今度は強く、しっかりと首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、これからどこいこっか?」

 

「んー、そうだなぁ」

 

 

公園の並木道を歩く男女。

カップルのようで、デートの行く先について話し合っている。

二人は手を繋いでおり、微笑みあっていた。

 

その背後に現れる異形。

二人組みで、一体は短い髪、一体は長い髪。そして頭部の形が『♂』と『♀』な事から、『男女』をイメージしている化け物であった。

さらに背中には片翼があり、二体が身を寄せ合う事で、ハートマークの形になるようだ。

雄型の魔獣と、雌型の魔獣は、前を歩くカップルを見つめており、自分達もまた真似をするように手を繋ぎ合わせる。

 

そして、そのまま繋ぎ合わせた手を前へ伸ばした。

絡ませた指を解き、僅かに隙間を作る。そこに生まれる光の球体。

魔獣は、それを――、発射する。光弾は一直線に飛んでいき、前を歩くカップルの手に命中すると一瞬で吹き飛ばしてみせた。

 

 

「ァアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴が聞こえる。

少年と少女の腕が吹き飛び、血が飛び散った。

何が起こったかも分からず、少年少女は地面に膝をついて肉の断面図を睨みつけている。

顔が青ざめ、涙が溢れ、むき出しになった肉と骨、涙が、恐怖が、絶叫が。

 

 

「「クフフフフッホハハハハハハ!」」

 

 

魔獣達はそれを見て、楽しそうに笑っている。

 

 

「なるほど」

 

「!」「!」

 

「そんな未来は――、いらないな」

 

 

これは、未来の光景。

だから、男は、矢を放つ。

 

 

【フォーチュンベント】

 

 

一瞬だった。景色が巻き戻る。

いや、それは違う。視ていたのは未来だ。だからこそライアは矢を放ち、カップルに命中するはずの光弾を貫いた。

 

 

「色つきだ」

 

「青色と赤色、男の人と女の人……、恋人(ラバーズ)ですね!」

 

 

ライアサバイブと、ホムラアライブは並び歩き、敵に近づいていく。

今まさに後ろで戦闘が行われようなどカップルが想像できるものか。楽しい未来だけを信じて少年少女は消えていく。

それでいい。ライア達はスピードを速め、魔獣に足を進めていく。

 

言葉は要らなかった。『雄』と『雌』は翼を発光させ、身を寄せ合う。

重なる手を前に出せば、そこからハートマークのエネルギーが発射される。

驚異的たるはそのスピードだ。一瞬で届くエネルギー。カードや魔法を使う暇はない。

ライアたちはかろうじて武器を盾にするが、凄まじい衝撃が走る。

 

 

「ぐッ!」

 

 

ライアは立ち止まり、踏ん張る。

 

 

「きゃああ!!」

 

 

一方で吹き飛び、地面を転がるホムラ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい! 平気です!」

 

 

ホムラは立ち上がると、敵を真っ直ぐに睨む。

雄と雌はもう一度先ほどの攻撃を放つようだ。

 

 

「さ、させません!」

 

 

ホムラは叫び、杖を振るった。

 

 

「スロー!」

 

 

放たれた衝撃波は先ほどよりも遅く、ライアとホムラは後ろへ下がり、反撃に転じる。

 

 

【ガードベント】

 

 

エクソダイバーが出現し、ライアたちの前に身を広げる。

大きな体からは更にエネルギーバリアが発生し、エクソダイバー自身がバリアに変わった。

そこでホムラはスローを解除する。魔獣の攻撃はエクソダイバーがしっかりと受け止めて、ライアたちには衝撃一つ伝わってこない。

 

 

「ハアアアアア!!」

 

 

一方でホムラはエクソダイバーの前に出ると、杖を振るった。

先端には盾がついているため、そこからは異次元空間に保管しておいたミサイルが発射される。

しかし再び身を寄せ合う雄と雌。するとハート型のバリアが発生し、ミサイルを受け止めて無効化する。

 

 

「なるほど、お互いの力を高め合っているのか」

 

 

なら引き剥がす。

ライアがそう言うと、ホムラも頷いた。

 

 

「いけるか? 一人で」

 

 

ホムラは一瞬不安げな表情を浮かべたが、首をブンブン振って、迷いを振り払った。

そして覚悟を決めた表情で、一度メガネを整える。

 

 

「だ、だだだ大丈夫です! むしろッ! てッ、手塚さんが危なくなったら、助けに行きますぅ!」

 

「なるほど。心強いな」

 

 

そこで動くのはエクソダイバー。

一瞬でラバーズに直撃すると、雄だけを捉えて、引き剥がしていく。

 

 

「神那、ここから一番近い鏡はどこだ?」

 

『そのまま真っ直ぐ、300メートル先に停車中の車があるから。そのミラー使え』

 

「了解」

 

 

テレパシーでニコから情報を受け取ると、指示通り歩いていくライア。

当然それを妨害しようと走り出した雌だが、高速移動してきたホムラの杖がライアを守った。

 

 

「あなたの相手はッ、わ、私ですっ!!」

 

「オォォ……!」

 

 

ライアは、杖と腕がぶつかり合う中を通り抜けて早足で歩いていく。

すると戻ってくるエクソダイバー。ライアはすぐにその背中に飛び乗ると、車のミラーへ飛び込んでいった。

世界が移り変わる。ミラーワールドに降り立つライア。

すぐに駐車場にて転がっている雄を発見した。

 

 

「ムッ! ムゥウン!!」

 

 

立ち上がった雄は、青色の光弾を手から発射していく。

それは棒立ちのライアに直撃すると、すぐに爆散させた。

だが粉々になったライアは何かおかしい。肉体の破片は全てトランプやタロットカードではないか。

それらはまるで意思を持ったように空中を疾走し、次々に雄に命中していく。

 

まるで手裏剣だ。

火花を散らして倒れる雄と、いつの間にか背後に出現するライア。どうやら固有能力らしい。

デッキからカードを引き抜き、エビルバイザーツバイに装填する。

 

 

【シュートベント】

 

 

弓の中央に電撃が集中していく。

ライアは弦を振り絞る動作を行い、手を離して力を解き放つ。

シュートベント『ボルテッカー』、電撃が縦横無尽に拡散し、不規則な軌道でオスに命中していく。

 

 

「ヌゥウウウ!!」

 

 

怒りに震える魔獣。

雄は両手に青い光を宿し、ライアを殴り殺そうと走りだした。

だが一発目のフックはバックステップでかわされ、二発目の拳は弓の端で弾かれる。

 

 

「フッ!」

 

「ウォウッ!」

 

 

ライアは踏み込み、さらに弓の端をオスの肉体へ撃ち当てていく。

怯んだところを光の矢で追撃。オスは地面を転がり、うめき声を上げていた。

一方でデッキに手を伸ばすライア。抜いたカードは、黄金の紋章を刻んでいる。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

エコー掛かった音声が告げるのは必殺技。

ライアが弓を構えると、前方にエクソダイバーが飛来する。

弓の弦を振り絞る動作に比例して、エクソダイバーに電撃の力が蓄積されていく。そして最大限に振り絞ったところで、手を離した。

するとスパークするエクソダイバーが高速回転を行いながら飛んでいく。

 

 

「アッ!」

 

 

危険を察したのか、雄は地面を蹴り、凄まじいスピードで空中へ逃げていく。

だがそれを上回るスピードでエクソダイバーが雄に到達し、その身を貫いてみせた。

 

 

「ア゛アアアアアアアアアア!!」

 

 

オスは爆発を起こし、炎の中に消えていった。

一方でホムラ。メスが放つ手刀を、姿勢を低くして回避。さらに杖の先端にある盾でメスの背を打つ。

 

 

「シュウウウアアア!!」

 

 

飛び上がったメスは翼から無数の光弾を発射。

 

 

「ひぃぃぃいいい!!」

 

 

ホムラは甲高い悲鳴をあげながら涙目になって後退していく。

しかし蹲りながらも杖を掲げ、しっかりと魔法を発動していく。

 

 

「た、助けてくださぃ! フォムホームホムフォーム!!」

 

 

魔法陣が出現、そこから姿を見せたのは剣豪ほむら。

凄まじいスピードの居合い斬りを連打し、迫る光弾をバッタバッタと切り裂いていく。

 

 

「遅すぎる!」

 

 

さらに最後のフィニッシュに、刀からの斬撃を発射。それは雌に命中するとダメージで墜落させる。

さらに魔法陣がいくつも出現し、何人ものほむらが飛び出していく。ハンドガンやマシンガンを連射しながら敵を囲んでいく。

 

 

「うっしゃあ! いくッスよーッッ!!」

 

 

剛拳ほむらが踏み込み、拳を思い切りすくい上げる。

アッパーカット。それは雌を空に打ち上げる一手だ。

 

 

「時間を停止します!」

 

 

杖を振るうと、全ての『時』が静止する。

しかしホムラ達12人は動ける。それがルール。

剛拳ほむらは大きく息を吸い込み、渾身のストレートをメスの腹部に叩き込んだ。

 

 

「ここッス!」

 

 

了解――! その声がシンクロした。

 

 

「えい!」

 

 

ホムラが。

 

 

「フッ!」

 

 

ほむらが。

 

 

「やっつけるのー!」

 

 

博士が。

 

 

「暴発しないようにね!」

 

 

ほむ姉が。

 

 

「視えた!」

 

 

剣豪ほむらが。

 

 

「クワクワ!」

 

 

クワガタほむらが。

 

 

「ごっつぁんです!!」

 

 

ドスコイほむらが。

 

 

「っしゃら! いくぜオラーッ!!」

 

 

やさぐれほむらが。

 

 

「………」

 

 

ぽむらが。

 

 

「よーし! お姉さん頑張るぞー!」

 

 

むら姉さんが。

 

 

「きゃは★」

 

 

アイドルほむらが。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

そして改めて剛拳ほむらが全力で繰り出すストレートパンチ。

拳が雌に叩き込まれたとき、同じくして時間停止が解除された。

 

 

「フワァアアアア!!」

 

 

メスは手足をばたつかせ、吹き飛んでいく。

地面に叩きつけられたところで魔獣も気づいただろう。全身に貼り付けられた爆弾の数々を。

 

 

「アッ」

 

「起爆します!」

 

「グギャアアアアアアアア!!」

 

 

超爆発。

雌型もまた粉々になり、爆炎が全てを包み込んだ。

 

 

「やったぁ! ありがとうございます私ぃ!」

 

 

自分と抱き合ったり、ハイタッチを交わしたり。

そんな事をしていると、激しい光を感じた。思わず腕で目を覆うホムラ。

なんとか目を細めて状況を確認すると、光の中から雌型の魔獣が再び現れるのが見えた。

 

 

「え!?」

 

 

そしてそれはライアも同じだった。

復活した雄型の魔獣は翼を広げると、空高く飛行していく。

 

 

「ッ!」

 

 

速い。

さらに呆気にとられていた事もあって、完全にターゲットを見失ってしまった。

ホムラも同じである。魔獣は空に飛び去り、撤退していった。

 

 

「こちら手塚。すまない、魔獣を逃がした」

 

『こ、こちらホムラ! ごめんなさい、私もです!』

 

「一度は倒したと思ったが、復活した」

 

 

テレパシーにより状況を把握する一同。

その中でニコがテレパシーに割り入る。バイオグリーザを向かわせており、その最中でホムラの戦闘を確認した。

当然、雌型魔獣の復活もバイオグリーザの眼を通して確認している。

 

 

「一回は木っ端微塵に爆散してたからな。回復能力じゃないと思われ。考えられるのは、まあおそらく……」

 

 

色つきはタロットカードのアルカナを模している。

そして今回は『恋人』。それらの要素から考えられるに――

 

 

「おそらくあいつ等は、二体同時に、つまり同じタイミングで倒さないと復活していくとか何かそんなんでしょ。よくあるヤツよ、最近は」

 

『引き剥がしたのがマズかったか。すまない、俺のミスだ』

 

『いえいえ! そんなのッ、いきなり分かるワケないですよ。手塚さんのせいじゃありません』

 

 

まあ逃がしてしまったのは逃がしてしまったものだ。

ニコもレジーナアイを確認してみるが、気配はない。どうやら相当遠くへ逃げたらしい。

 

 

「ところで、鹿目の方はどうなったんだよ?」

 

『こちら浅海サキ。まどかは気絶した』

 

「……は?」

 

 

実は先ほど、まどかパパが家を出て行ったらしい。

あ、いや、いつもタツヤをつれて買出しに行く時間なので、別になんの事はない筈だ。

しかし今は状況が状況。まどかは勘違いして、文字通り家出をしたと思ったらしい。

 

一方、そんなこともあってか心配になった真司。

彼は現在、先ほど電話したトラブルを解決してくれるという団体のもとに向かっていた。

スクーターを走らせること約15分ほどで目的地につく。

 

 

「こんなとこ……、あったかなぁ」

 

 

トラブルを解決する以外に、喫茶店もやっているらしい。

しかし前回までのゲームでこんな場所があった記憶はない。それなりに見滝原は知り尽くしているつもりだが――。

まあいい、真司は訝しげな表情で、喫茶店『かめん』のドアを開ける。

 

 

「すいませーん」

 

「いらっしゃい」

 

 

渋めのマスター、『谷口』が真司をチラリと見る。

 

 

「今から向かわせようと思ってたんだが……、急用か?」

 

「え?」

 

 

どうやら今の挨拶の声だけで、谷口は真司が依頼人だと見抜いたらしい。

 

 

「あ、いやッ、ちょっとどういう風に解決するのかなって……、心配になったっていうか」

 

「フッ、ナメられたもんだな、俺たちも」

 

「!」

 

 

カウンターの向こうでタバコを咥えていた男が立ち上がる。

赤いレザーパンツに、黒いジャケットは胸元がかなり開いている。

さらに奥の方にも、別の男がコーヒーを飲んでいた。髪をアッシュゴールドに染めたクールな青年だ。

 

 

沢井(さわい)北村(きたむら)だ。うちのスタッフさ」

 

 

マスターの谷口が補足する。

さらに時計を見ると、もう時間らしい。

谷口は覗いていたノートパソコンを閉じると、沢井たちを睨む。

 

 

「沢井、北村、出動だ!」

 

 

二人は頷くと、それぞれ行動を開始する。

北村はコーヒーを置くと、立ち上がり、移動。

沢井は真司の肩を叩くと、踵を返した。そのまま二人は店の奥にある大きな姿見へ移動する。

 

そこで真司は脳をハンマーで殴られたようなショックを覚える。

無理もない。沢井と北村が取り出したのは、どこからどう見ても騎士のデッキではないか。

事実、沢井たちはデッキを突き出し、腰にベルトを装着させる。

 

 

「ちょッ! は!? えッッ!!」

 

 

驚き、うろたえている真司をよそに、沢井達はそれぞれ構えを取る。

奇しくも沢井は真司、北村は蓮と同じポーズをとってデッキをVバックルへ装填する。

 

 

「変身ッ!」「変身!」

 

 

デッキをセットすると鏡像が現れ、重なる。それもまた同じだった。

こうして沢井と北村は騎士に――

 

 

「って、顔出てる!?」

 

 

いや、ちょっと待って!

仮面がない! 隠れてない!

沢井と北村は確かに『変身』した。沢井の体は赤い鎧に包まれ、北村の体は青い鎧に包まれ、その風貌は龍騎たちとなんら変わりはない。

 

しかし肝心の頭部が思い切りオープンである。

素顔を思い切り晒しているではないか。確かに顔周りは装甲で覆われているが、仮面と言うよりは兜である。

 

 

「な、何がどうなって……、あなた達は一体――ッ!」

 

「レンアイダー」

 

「へ?」

 

「俺はレンアイダー恋騎」

 

「オレは、レンアイダー愛斗」

 

「れ、恋愛だぁ……?」

 

 

呆けている真司を通り抜けて、沢井が変身したレンアイダー・恋騎(れんき)。そして北村が変身したレンアイダー・愛斗(あいと)は谷口の前にやってくる。

すると谷口が銀色のケースからカードを取り出す。それは間違いなく騎士が使用する『アドベントカード』ではないか。

恋騎は一枚、それを抜き取り中身を確認。

 

 

「……理解ある後輩」

 

「え? な、なんだよソレ!」

 

 

さらに愛斗もカードを確認。

 

 

「理解なき夫――ッ!」

 

「だからなんだよソレ!!」

 

 

通常アドベントカードは発動される効果の内容を端的に表したものが多い。

ソードベントだとか、ストライクベントだとか。しかし谷口が持ってきたカードは完全に単語である。

普通に考えれば『理解ある後輩ベント』、もはや意味が分からない。

 

しかし真司の叫びなど恋騎たちには届いていない。

二人はさっそく受け取ったカードを左腕にある『ラブバイザー』に装填した。

同時に真司は驚愕の表情を浮かべる。恋騎のバイザーは剣ではあるものの、シルエットはドラグバイザーそっくりではないか。

 

 

『『ファーストオプション!』』

 

 

電子音が発生する。

同じくして景色が一変した。喫茶店ではなく、美しい満月が光り輝く海辺の丘。

さらに恋騎の周りに巨大なコウモリ型のモンスターが出現する。

 

 

「おわわわッッ!!」

 

 

コウモリが羽ばたいた際に発生する風圧で、真司はしりもちをついた。

そんな中でコウモリは光り輝き、一着のスーツに変わる。

 

 

「!?」

 

 

驚くのはまだ早い。さらに変わる景色。

愛斗の周りを駆ける黒い(ひょう)、加速していく中、豹は光りに包まれて小型化。

そのまま愛斗の鼻の下に装備(?)される。

 

 

「ちょ、ちょび髭になった……!」

 

 

真司の声を合図に、景色は元の喫茶店に戻る。

恋騎と愛斗は一瞬、目を合わせると、小さく頷きあう。

 

 

「レンアイダー!」

 

「出動!!」

 

 

へたり込む真司をよそに、二人のレンアイダーは喫茶店の入り口に走る。

 

 

「恋騎!」

 

 

そこで谷口が恋騎を呼び止めた。

一枚のカードをテーブルの上に滑らせ、恋騎のもとへ送る。

 

 

「もっていけ!」

 

 

恋騎はそれを受け取ると、ウインクを一つ。そして店を出て行った。

 

 

「……グッドラック」

 

 

ニヒルに決める谷口。真面目にやってるのか、ふざけているのかサッパリである。

 

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

とにかくこうしてはいられない。真司は慌てて立ち上がると、店を飛び出していく。

すると二人の騎士――、いやレンアイダーは既にタクシーに乗り込み、まどかの家を目指していた。

 

 

「タクシー!? ライドシューターじゃなくてタクシーッ!?」

 

 

ますますワケが分からない。

真司はすぐにスクーターに飛び乗ると、すぐに後を追いかける。

 

 

「ワケ分かんねぇ! ジュゥべえ!!」

 

 

真司はすぐにテレパシーでジュゥべえにコンタクトを取った。

リアガラスには赤と青の頭部が見える。なぜ普通にタクシーに馴染んでるんだ。

運転手は何とも思わないのか。突然赤と青の変なヤツらが入ってきてもいいのか!?

そんな事を思っていると、ジュゥべえの声が聴こえてきた。

 

 

『ンだよ城戸真司』

 

(聞きたいのはこっちだよ! どうなってんだよコレ!)

 

『オイラが聞きてーよ。ったく……!』

 

 

ユイデータなのか、どこぞの通りすがりが連れてきたのか、それは知らないがイレギュラーの極である。

ともあれ、既にインキュベーターは調査を完了させていたらしい。

 

まず結論から言うとレンアイダーは騎士には変わりない。

もちろんゲームの参加者ではないし、戦闘能力があるかどうかは微妙なラインだが、それでもやっぱり騎士には変わりないのだ。

しかれどもレンアイダーはその不思議な力をもっぱら今のように『トラブル解決』に使用している。まさに今、まどかの家に向かうように。

 

 

『とにかくアイツらはゲームに無関係な騎士だ』

 

(だッ、大丈夫なのかよ)

 

『知るか。最悪、お前も変身して何とかしろよ』

 

「お、おい!」

 

『じゃーな! チャオ!』

 

 

そこでテレパシーが切れた。無責任なヤツである。

ふと前を見ると、タクシーがスピードを上げているのが分かった。

車体がみるみる小さくなっていく。おまけに信号で完全に分断されてしまったではないか。

 

 

「……ッ」

 

 

何がなにやらだが、まどかの為だ。

真司は一旦スクーターを近くのホームセンターに走らせると、駐輪所に停車させる。

周りに誰もいないことを確認すると、真司はデッキを前に突き出し、Vバックルを装備する。

 

 

「変身ッ!」

 

 

龍騎はスクーターにある鏡からミラーワールドに入ると、すぐにライドシューターに飛び乗り、まどかの家を目指した。

ちなみに、さやかの家に向かったマミ。

 

 

「………」

 

 

汗を浮かべるマミ。

その前ではさやかがお腹を出しながら大いびきをかいている。

 

 

「zzzzzzzzzzzzz」

 

「………」

 

 

やはり杞憂だったようだ。

マミは大きく肩を落としながらため息をついた。

 

 

 

 

 

 

………。

 

鹿目詢子はリビングの扉を開く。

スーツを着た彼女は、ソファに座っている愛斗と目を合わせない。

 

 

「遅かったな」

 

「……ええ、ごめんなさい」

 

 

愛斗はテレビに目を向けたまま、スコッチのグラスを回している。

せめてお帰りの一言でもあれば、詢子は笑顔になったかもしれないのに……。

 

 

「仕事で遅くなりました」

 

 

事務的な言い方が、この夫婦の関係を表しているようだった。

心なしか、部屋も薄暗く感じる。

 

 

「またか。お前の要領が悪いからじゃないのか」

 

「仕事量が多いだけよ。今日は後輩くんも呼んでるから」

 

「お、おじゃまします」

 

 

ドアの奥から、おずおずと恋騎が姿を見せた。

一瞬だけ、恋騎と愛斗の目が合う。それが最初で最後だった。

愛斗はわざとらしく鼻を鳴らし、スコッチのグラスを叩きつけるようにテーブルに置いた。

 

 

「先に部屋に行ってて。何か飲み物でも持っていくわ」

 

「は、はい」

 

 

ばつが悪そうに恋騎は廊下を歩き、詢子の部屋に向かう。

 

 

「じゃあ、打ち合わせするから」

 

「……待て、お前」

 

 

名前を忘れたのではないかと思うくらいの態度だ。

 

 

「お前、妻としての役割は――、いやそもそも女としての役割はなんだと思う?」

 

「っ?」

 

「それはな、有能な男に嫁ぎ、夫を支えることだ」

 

「………」

 

 

威圧の意をこめて、愛斗は立ち上がる。

 

 

「家の事をやるからと言うから仕事をすることを許したんだ。しかしなんだこのザマは」

 

 

もはや嫌味などと言うレベルではない。

ふと、棚の上にあるフォトフレームに目がいく。光が反射してよく見えない。

あそこにはたしか新婚の写真があったはずだ。楽しそうに笑う詢子と愛斗が写っている――、そのはず。

はず……、自信はない。

 

 

「女のくせに気取りやがって。だいたいお前は――」

 

「もういい? 人を待たせてるから」

 

 

さっさと話を切り上げ、詢子は部屋を出て行く。

愛斗は唇を噛み、苛立ちからか壁を軽く殴った。

 

 

「おまたせ。ごめんね、変なとこ見せちゃって」

 

「いえっ、僕は全然大丈夫です……!」

 

 

詢子は恋騎に紅茶を出しだし、早速仕事の打ち合わせを開始する。

そのまま15分くらい経ったろうか。ふと、恋騎はおどおどと口を開く。

何か質問だろうか? その程度に考えていたのだが――

 

 

「あのッ、僕……、知ってますから」

 

「え?」

 

「鹿目先輩がとても凄い人だってこと。知ってますから……」

 

 

ぽかんとした詢子を尻目に、恋騎はポツリポツリと語り始める。

 

 

「先輩がみんなの事を見てくれる事とか、先輩の気遣いとか、先輩が凄いって事は、全部分かってますから……」

 

「後輩くん……」

 

「先輩が取ってきた大手の契約とか、僕取れる気がしないですもん。先輩は凄いです。と言うよりも社内の誰よりも、仕事ができる人だと思います」

 

「はは、生意気言っちゃって――」

 

 

柔らかい笑みがこぼれる。

それが高ぶりのスイッチになってしまった事を、彼女は知らない。

 

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「僕じゃ――、ダメですか?」

 

「え?」

 

 

後輩の言葉に、頬が桜色に染まる。

しかし答えよりも速く、理解よりも速く、部屋の扉が開いた。

そこにいたのは紛れもなく、愛斗の姿である。

 

 

「あなたっ!」

 

「そうかそうか、そういうことか……! ニャアニャアにゃあにゃあ煩いと思っていたんだ。ウチでは猫を飼ってないのに、これはどういうことか……。そうかそうか、子猫が一匹迷い込んでいたのか。薄汚い泥棒猫が――ッ!」

 

 

張り詰めた空気が場を支配する。

しかし怯える詢子を見て、恋騎の炎も燃え上がってしまった。

 

 

「あなたがいるから、先輩は笑顔になれない!」

 

「なんだと……ッ!」

 

「どうして旦那さんなのに、奥さんの事を分かってあげられないんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそもお前は旦那さんじゃないだろッッッッ!!!!」

 

「!」「!」「!」

 

 

怒号が割り入り、現れたのは龍騎――……、え? 龍騎?

 

 

「サキちゃん! なに解説してるんだよ!」

 

 

あ、すまない。つい……。

――なんて事をサキは言ってみる。

いかんいかん、ついつい良いところだったから集中して見てしまった。

 

サキは現在気絶しているまどかをおんぶしており、家の中にも思い切り入っている。

状況を整理しよう。まどか家に飛び込んできたのは龍騎だ。部屋にある鏡から飛び出してきたようだ。

 

 

「何やってんだよ! ってかこれなんだよ!!」

 

 

龍騎は吼える。なにか始まっていたが、何が始まっているのか欠片も理解できない。

なぜか装甲の上からスーツを着ている恋騎や、ちゃっかり旦那さんになっている愛斗。

何かドラマのような展開が始まっているし、もう何がやにやら。

 

 

「出たなストーカー!!」

 

「は!?」

 

 

恋騎はとっさに詢子を庇うように立つと、龍騎と睨みあう。

 

 

「お前かッ、最近先輩に付きまとっているヤツは!」

 

「そんなワケないだろ! むしろお前だろ! その人から離れろ!!」

 

 

同じくして、ちょび髭をつけた愛斗も拳を振るわせる。

 

 

「今日は野良猫がよく迷いこむ日だ。他人の家に入ってはいけないと教える、おしおきが必要だな」

 

「なに言ってんだよアンタ!!」

 

 

だが張り詰めた空気が意味するところは一つだった。

そうだ、忘れていた、レンアイダーもまた騎士である事には変わりない。騎士のルールはとても簡単だ。

そう、戦わなければ、生き残れない!

 

 

「デェイヤ!!」

 

 

恋騎は大きく声をあげると、ラブバイザー切りかかってくる。

 

 

「うぉ! あっぶね!」

 

 

龍騎はその攻撃を手で弾く。

それが合図だった。愛斗もまた『爪』のようなラブバイザーを振るって龍騎と恋騎を狙う。

 

 

「クソ! やっぱりこうなるのかよ!!」

 

 

とにかくまどかの家では暴れられない。

龍騎はとりあえずまどかママの部屋を出ることに。

 

 

「待て先輩は僕が守る!」

 

「逃がすか! 妻にちょっかいをかける泥棒猫どもめ!!」

 

 

恋騎と愛斗も後を追いかけていく。

 

 

「待って! 私のために争わないでッッ!!」

 

 

叫ぶ詢子!

一瞬、笑ったような。

 

 

(お、おお! 一度は言いたい台詞だ!!)

 

 

そして、なぜか興奮しているサキ。状況は混乱を極めていた。

そんな中でリビングに到着した龍騎たち。迫る拳を受け流し、振るわれた脚を回避し、ソファを飛び越え、椅子を盾にして切りあい、殴りあう。

ともあれ、どこか物を破壊しないように気を遣っているような動きに見えるのは気のせいだろうか?

そうしていると、デッキに手をかけるレンアイダーたち。カードを引き抜くと、そのままバイザーに装填する。

 

 

『『セカンドオプション』』

 

 

愛斗の手に宿る指輪。高そうな宝石がギラリと光る。

 

 

「女なんてな、こういう高そうなものを与えておけばいいんだ!」

 

 

一方で恋騎は手作りのネックレスを出現させる。

 

 

「大切な想いを込めたプレゼントが、先輩を笑顔にするんだ!!」

 

「え? プレゼント? ッ、えーっと……!」

 

 

一方で体をあさる龍騎。すると鎧の隙間に紙が挟まっているのが見えた。

取り出してみたらば、『牛丼100円引き!』と書いてある。

 

 

「おォ……、まあ、これでいいか」

 

 

サキのドロップキックが飛んできたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「良いわけないだろォオ! なぜいけると思った! なぜそれを女性に贈ろうと思える! 答えてくださいィイイイイイ!!」

 

「お、おちついてサキちゃん! 顔ッ、顔! めちゃくちゃ怖いよ!!」

 

 

そんな事をしている間にレンアイダー達は再び贈り物をするべく、詢子のもとへ走る。

 

 

「これやっぱダメかな!? 美穂にあげた時は喜んでたんだけど……!」

 

「それは彼女だけですッッ!!」

 

「いやッ、ってかそれよりアイツ等なんなんだよ!」

 

 

そこでハッとするサキ。

どうやら彼女も分かっていなかったようだ。

 

 

「絶対ヤバイ奴らに決まってるって。くっそォ、こうなったら」

 

 

龍騎は立ち上がると自らのデッキに手を伸ばす。

 

 

「こらしめてやる!」『ソードベント』

 

 

廊下を走ると、早速詢子にプレゼントを渡そうとするレンアイダーたちが見えた。

 

 

「おい待て! いい加減にしろよお前ら!!」

 

「ッッ! 凶器! あのストーカーついにナイフを!!」

 

「へ!? あッ、いやこれは違――ッ!」

 

「逃げてください先輩!!」

 

 

詢子を庇うように立つ恋騎。

しかし、そのときだった。それよりも早く愛斗が詢子を守るように立つ。

 

 

「う゛ッッ!!」

 

 

誰もが――、言葉を失った。

驚愕の表情を浮かべる詢子の前で、一瞬、ほんの一瞬だけ愛斗は笑みを浮かべた。

そして震える手で、背中を押さえる。

 

 

「なんでだよ! なんで刺されたみたいなリアクションしてるんだよ! 俺まだ何もしてないだろ! まだ距離かなりあるだろッッ!!」

 

 

叫ぶ龍騎だが、当然のようにスルーされる。

 

 

「ど、どうして!」

 

 

詢子は愛斗の肩を掴んで叫んでいる。

 

 

「大変だッ、止血しないと!」

 

「血ッ、出てないけどね!!」

 

 

恋騎と龍騎も叫ぶ。

そんな中、恋騎はまた一枚のカードを抜き取り、バイザーへ装填した。

それは喫茶店を出る際にマスター谷口が渡したカードだった。

 

 

『ファイナルオプション!』

 

 

虹色の光が迸ると、それが愛斗の手に収束していく。

そうやって出現したのは、かわいらしい柄のハンカチだった。

 

 

「!」

 

 

それを見て、一瞬、ほんの一瞬詢子の表情が変わった。

 

 

「大丈夫だ、ハンカチを持ってる……」

 

 

そう言って愛斗はハンカチを背中に押し当てる。

 

 

『そこで詢子の表情が変わった。なぜならば愛斗が取り出したのは、まだ二人が仲良く付き合っていた頃に、詢子が一番初めにプレゼントしたものだったからだ』

 

「なんだよこのナレーションは!!」

 

 

龍騎の叫びは総スルーである。

一方で詢子は震える手で、愛斗の肩をさすった。

 

 

「ど、どうしてそれを……」

 

「決まっているだろ……、キミが、くれたからだよ」

 

 

ポツリポツリと、愛斗は自らの弱さを吐露していく。

 

 

「俺が、悪かったんだ……。キャリアウーマンとして成功していくキミの姿に、どこか嫉妬してしまった」

 

「――ッ」

 

「俺の手を離れていくキミへの寂しさと――、そんな自分に嫌気が差して、結局キミに当たってしまった……!」

 

「うぅうぅ゛、そうだったのか、なんていじらしい……!!」

 

「サキちゃん!?」

 

 

サキさんガン泣き中である。

結局のところ、離れていく愛する人を信じることができなかったのだ。

知らないところで充実感を感じ、知らないところで、知らない人と笑いあう。苦楽を共にする。

そんな姿を見ているうちに、孤独を覚えてしまった。

愛している人が離れていく感覚。これほど辛い事はない。

 

 

「また――、戻れるだろうか……、キミと純粋に笑い合えていた――、あの日のように」

 

「ええ、ええ……、必ず――ッ!!」

 

 

寄り添う愛斗たちの姿を見て、敗北を確信したように恋騎は頷い――

 

 

「ん!」

 

 

そこで携帯のコール音が響く。

ふと気づいた。恋騎の腕にホルダーがあり、そこへ携帯が収納されている。

恋騎はすぐに携帯を取り出すと、通話を開始した。

 

 

「はい! あッ、はい! 今終わりました」

 

「!?」

 

「ええ、はい、あの――……、はい、タクシーで帰りまぁーす」

 

 

なにやら異常に腰が低くなった恋騎。

電話を切った瞬間、愛斗も勢いよく立ち上がったではないか。

やはり――、と言うか分かりきっていた事だが刺されてなどいないのである。

一方で他ならぬ詢子も笑っているではないか。

 

 

「いやー、悪くなかったよ。若い子にチヤホヤされるのはお世辞でも嬉しいね」

 

「いやいやお世辞だなんて。でも鹿目さんもノリノリで助かりました」

 

「あははッ、だってこんな機会なかなか無いだろうしね。あ、はい、これチップ」

 

「ありがとうございまぁす!」「すいませんわざわざ!」

 

「いいのいいの。それに、大事な事も思い出させてくれたしね」

 

「それはなによりです。あ、じゃあ僕らはこれで」

 

「おお、気をつけて帰れよー!」

 

 

恋騎と愛斗は並び立ち、深く頭を下げる。

 

 

「「失礼しまーす」」

 

 

こうしてなんの事はなく、家を出て行くレンアイダーたち。

龍騎も急いで後を追いかけ、タクシーに滑り込む。

 

 

「ちょ、ちょっと! なんなんだよアンタ等!!」

 

 

同じくサキは詢子に同じような事を聞いていた。

一体レンアイダーとは何者なのか? なぜあんな茶番のような事をしていたのか。それは結局、一言に尽きる。

 

 

「ご、ごっこ遊びですか……!」

 

「そうみたい。なんかさっき携帯に連絡来てさ」

 

 

マスターの谷口は事前に詢子に連絡を行っていたのだ。

レンアイダーはその名の通り、少し違ったシチュエーションの恋愛模様をお届けする劇団みたいなものである。

彼氏がいない人や、旦那をそういう目で見れなくなったマダムたちがよく利用するらしい。

 

 

「キミの乱入もよかったよ。緊張感が追加されたし」

 

 

タクシー内で恋騎は、何のことはなくそう言ってみせた。

龍騎は複雑そうに目線を右往左往である。

どうやらまんまとアクセントの一つにされたようだ。まあ、適応する詢子も詢子だが……。

 

 

「でも、恋愛ごっこがどうして家庭改善につながるんだよ」

 

「俺達は事前に相手のことはくまなく調べるんだ」

 

 

相手の好みのシチュエーションを再現するために、くまなく調査を行う。

そしてそれは何も性癖だので終わる話ではない。調べるということは当然配偶者のことも調査する。

旦那とどこで知り合ったのか、なぜ結婚に至ったのか。

 

 

「あのハンカチ、覚えてるか?」

 

「え? ああ、最後に使ってた」

 

「あれは旦那さんが――、あえっと本物のね。とにかく知久さんが昔使ってたヤツなんだ。もちろん本物じゃなくて同じものを買っただけなんだけど」

 

 

どうやらあのハンカチが鹿目夫婦にとって思い出のある品らしい。

 

 

「へぇ、どんな?」

 

「それは知らない。知らなくていい情報だ」

 

 

恋騎の言葉に愛斗も頷いている。

レンアイダーは事前の調査で知っているが、それを龍騎には教えられない。

個人情報は保護するものである。

 

とにかく、ああいう芝居の中で、夫婦の仲にある『本当』を思い出させる。引き出していく。

そうすることで、昔の気持ちを思い出してもらおうというのだ。

 

 

「この世の夫婦はな、だいたいが好き同士で結婚するんだ。その後で嫌いになったり、他に好きな人ができてしまうけど、それでも一回は幸せにしたいって思った人と結婚するんだ」

 

 

一度生まれた愛は簡単に消えない。

限りなくゼロになってしまう事はあるかもしれないが、それでもよほどの裏切りがないと情は残っている。

 

 

「何かに恋するなんて誰でもできる。でも結婚はそうじゃない。何万といる人間の中で一人と一人が出会って、永遠を誓う。それはとても特別なことだ」

 

「それは、まあ」

 

「そういうモンだと、俺たちは信じたいけどね」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

詢子はジッと恋騎が生み出したハンカチを見つめていた。

フラッシュバックする景色。疲労しきったようにへたり込んでいる詢子がそこにはいた。制服を着ており、いろいろな『傷』があった。

頬を流れる血に気づいた。しかし、同じくして前に立つ少年にも気がついた。

知久だ。彼があのハンカチを差し出している。

 

 

「フッ!」

 

 

笑う。

丁度そこで知久とタツヤが帰ってきた。

 

 

「ただいま」

 

 

知久が察したように笑う。

すると同じように詢子も笑った。

 

 

「おかえり」

 

「?????」

 

 

汗を浮かべて首をかしげるサキ。なんだか雰囲気は穏やかなようだが?

すると目覚めるまどか。ハッとして両親を見る。

 

 

「ま、まだ喧嘩してるの?」

 

「喧嘩? なんの事だい?」

 

「え? え!? えッ?」

 

 

うろたえるまどかを見て、詢子は声を出して笑っていた。

 

 

「なんだよまどか、悪い夢でも視てたのかぁ? あ、サキちゃん。もしよかったら今日、夜、ごはん一緒にどう?」

 

「え? あ! い、いいんですか? では是非っ!」

 

 

なんだかよく分からないが、元の鞘に収まってくれたようだ。

一方で龍騎もタクシーを降りた。騎士の姿のままと言うのはかなりヤバいので、速めに撤退したいところではあるが――。

 

 

「アンタとはまた会えそうな気がする」

 

 

そう言って恋騎はウインクを一つ。

 

 

「いや、俺はもう……、できれば会いたくないけど……」

 

 

去り際に差し出された紙。

 

 

「なにこれ」

 

「請求書だ。今回は時間が短かったので、二名出動で、3万円丁度です」

 

「―――」

 

 

静寂。

 

 

「後でいいですか?」

 

「じゃあ、後で喫茶店に来てもらえれば」

 

 

走り去るタクシー。

龍騎は物陰に隠れると変身を解除。財布を確認すると、現在の所持金は1500円ちょっと。

 

 

「………」

 

 

真司はそのまま携帯を手に取った。

 

 

「あ、もしもし蓮――? 金、貸してくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

食事を終えたマミとほむらは紅茶を飲みながらテレビを見ていた。

 

 

「今日は大変だったわね」

 

「本当ね。予定していた事とは大違いな日だったわ」

 

「でも鹿目さんのご両親。何事もなくて良かった良かった!」

 

 

嬉しそうなマミの姿を見て、ほむらも小さく笑う。

 

 

「でも、話を聞く限り、相当なイレギュラーだったみたいね」

 

「そうね。ゲームの参加者じゃないらしいけれど……」

 

 

不思議な力を戦いではなく、もっと別のことに使っている。

 

 

「でも、そういう事って、別に能力とか魔法とかがなくても、できるものでしょう……?」

 

 

ほむらは小さく呟いた。

 

 

「え?」

 

「魔法があってもできない事はあるし、逆に魔法が無くても、他人を助ける事はできる」

 

「フフ! そうね、そういう人ってとっても素敵!」

 

 

マミはそこで、ほむらのカップが空になっていたのを見つける。

 

 

「暁美さん。おかわりは?」

 

「あ、いただきます」

 

「うん。ちょっと待っててね」

 

 

ティーポットの中も空だ。

マミは立ち上がり、電動ポットがある所まで移動する。

そして、おかわりを持って来てくれたのだが――

 

 

「あッ」

 

 

どこかに引っ掛けたのだろうか。マミのパジャマのボタンがひとつ取れてしまった。

いけない。後で付け直さないと。そう思ったとき、ほむらの声が聞こえてきた。

 

 

「巴さん。私にやらせてくれるかしら」

 

 

もちろん魔法もなし。インチキもなし。正真正銘、人間・暁美ほむらのお裁縫で。

 

 

「え? でも――」

 

「大丈夫。ちゃんとできるわ。だって――」

 

 

ほむらは唇を吊り上げ、ウインクを一つ。

 

 

「うちのパートナーの占いは当たるの」

 

「……うん! じゃあ暁美さんにお願いしよっかな!」

 

 

マミは嬉しそうに微笑んだ。

こうして夜は過ぎていくのだった。

 

 

 

 





レンアイダーは某バラエティのワンコーナーで生まれたものです。
誰もが知ってるあの人たちが、龍騎のパロディをしてました(´・ω・)b

あと今後、若干マミほむ成分が高くなっていくかもしれやせんが、苦手な人がいたらごめんやで。
ワイは公式スピンオフでアンチマテリアルズが一番好きやったんや。
とても素晴らしい作品だから皆も買ってくりゃあな。

しかしあれやな。
ワイはきららマギカを購入しておったんじゃが、アンチマテリアルズは途中から休載が続いてしまい、結局きららマギカが終わるその時まで再開する事はなかったんや。
かなしいもんやで(´;ω;`)
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