仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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次回の更新はグッと遅くなります。
なのでまずは先行最終回をあげると思います。
ただ明日か明後日あたり。速ければ今日の夜辺りにキャラ紹介を更新しておきます


第88話 この曲が好きなんだ

 

 

クラシックが流れている。

これは『エリーゼのために』だろうか? 愛する人に捧げた曲だと何かで聞いた事がある。

本当かどうかは知らないが。

 

なんだか薄暗い部屋だった。

しかし、中央にある祭壇はハッキリと視覚できる。

赤い布の上には黒い羽がクッションのように敷かれている。

それだけではなく、部屋の中にも雪のように羽が舞っていた。

 

その中で男は、祭壇の上にあるものを見た。

首だ。少女の首が置いてある。当然首だけなので死んでいるようだ。

肌は青白く、目の下には隈もある。

 

しかしどこか美しさや、神々しさを感じるのは気のせいだろうか?

すると、少女はゆっくりと目を開けた。

そして唇を吊り上げる。

 

 

「ねえ」

 

 

首だけの少女が語る。

嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「私は――」

 

 

そこで男は目を覚ました。

 

 

星の骸。

魔獣達の拠点であり、バッドエンドギアにはそれぞれ専用の部屋が用意されている。アシナガは椅子に深く座り、足を組みながらモニタを睨んでいた。

手には一つ、ダークオーブが握られている。

彼には漠然とした狙いがあるが、まだ形にする方法が分からない。だから何かヒントになればと、こうして過去のゲームや、ゲームが始まる前の世界を観察しているのだ。

 

 

「………」

 

 

眉が動く。目を細める。

 

 

「……キュゥべえ」

 

『どうしたんだい?』

 

 

部屋の隅にキュゥべえの姿が見える。一瞬で現れたようだ。

 

 

「一つ聞きたい事がある」

 

『ゲームの事かな?』

 

「いや――……」

 

 

アシナガが注目したのは、円環の理が生まれた時間軸。そして前ゲームであった。

いずれも見滝原にはワルプルギスが現れたが、そこで一つ気になる事があると。

 

 

「なぜ3が無い?」

 

『?』

 

「カウントダウンだ。ワルプルギスが現れる際、カウントが5から始まっているが……」

 

 

アシナガが指を鳴らすと、映像が巻き戻る。

ほむらの前からワルプルギスの使い魔たちが群れをなしてパレードを行っている。

そんな中、魔女の登場を知らせるカウントが5から始まった。

5は4へ。しかし次のカウントはなぜか『2』であった。

 

 

「これは前回のF・Gでも見られる」

 

『さあ。何故だろう』

 

 

目を細めるアシナガ。

ジュゥべえならばともかく、キュゥべえのこのリアクション。嘘をついているようには見えなかった。

 

 

『魔女もいろいろな種類がいるからね。中には理解しがたい行動を取る者もいる』

 

「だがカウントダウンは10か、5、3辺りから始めるのが普通だろう。特に3は重要にも思えるが……」

 

 

キュゥべえは改めて映像を見る。

 

 

『はて』

 

「?」

 

『この記録映像の故障じゃないのかい?』

 

「理由は?」

 

『ボクの記憶が正しければ、3はあったように思えるけど』

 

「なに……?」

 

 

キュゥべえは記録を呼び出しているのか、しばしフリーズ。

すると目が光り、そこから映像が投影される。空間に広がるモニタに映っているのはワルプルギスと対峙する暁美ほむらの映像だった。

そこで始まるカウントダウン。

そこには確かに、数字の『3』が存在していた。

 

 

「どういう事だ……?」

 

『考えすぎだよ。いずれにせよ、カウントダウンにそこまで深い意味があるとは思えないな』

 

「……この映像を貰っても?」

 

『別に構わないよ』

 

 

キュゥべえは映像データをアシナガの脳へ叩き込むと、そこで消えていった。

アシナガも椅子に座り込み、しきりに唇を触っている。

 

 

「………」

 

 

違和感。より深みへと進む疑問。

 

 

「やはりおかしい。何故、3がない……? そうだ、確かに3が無いんだ」

 

 

その答えは、まだ誰にも分からぬこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぎさちゃん。はい、あーん」

 

「あーん!」

 

 

朝食バイキングにラクレットチーズがあったのは幸いだった。

なぎさはチーズがたっぷりかかったソーセージをほお張ると、口から伸びたチーズをチュムチュムと吸い取っていく。

租借のたびに恍惚の表情を浮かべており、しまいには眉間を抑えて首を振っていた。

 

 

美味(びみ)すぎなのです……。まったく、ここはエデンですか? さささ、裕くんも食べるといいのです」

 

「う、うん」

 

「ほらほら、中沢も箸が止まってるのです。このチーズの美味さに気づかないなんて人生の半分、いや99.999%くらいの損をしているのです」

 

 

そこで気づく。なんだか中沢くんの元気がない。

いや、ま、別に中沢が落ち込むのは取り立てて珍しい事ではなかった。

今日は曇天だ、窓から見えるロケーションも優れない。そういう些細な事が原因なのかもしれないと、なぎさは気にする事はなかった。

 

 

「どうしたんですの? 中沢くん」

 

 

しかしパートナーとしては気になるのか、仁美が心配そうに尋ねる。

 

 

「え? ああ、いやッ、ちょっと変な夢見てさ」

 

 

よく分からない暗い場所で『何か』を見つけた夢。

それを説明すると、なぎさはブルブルと震え始めた。

 

 

「まあ、中沢くんも同じ夢を?」

 

「え? どういう事?」

 

 

実は仁美となぎさも同じ夢を見ていたらしい。

さらに中沢は、『何か』と言うように置いてあったものの正体を把握はできなかったが、仁美達は違う。

 

 

「首でした」

 

「首? 首って……、あの首?」

 

「はい。でも、誰の首なのかは覚えてませんの。ねえ?」

 

「ですですっ! なぎさは怖くてッ、もうすぐに跳ね起きちゃったのです」

 

 

あとは仁美のベッドにもぐりこんで、しがみついていたと言う。

一方、中沢は同じことを香川にも言ったが、香川は見ていないと言う。

さらに裕太や下宮はカードで待機していたし夢を見ることはなかったと。

要するに中沢、仁美、なぎさの三人が同じ夢を見ていたと言うワケだ。

少し気になるが、頼りになりそうな香川は現在、通路を挟んだ席で下宮と話しこんでいる。邪魔するのも悪い。

 

 

「ま、夢は夢だし、何にもないでしょ」

 

「その通りです! 嫌な夢を見たら美味しいものを食べて忘れちゃえばいいんです! ね? 仁美!」

 

「ふふっ、そうですわね。じゃあ中沢くんも、はい」

 

「!!!」

 

 

仁美は置いてあった中沢のフォークを手にすると、ソーセージを刺して、中沢に勧める。

 

 

(悪夢最高ッッッ!!!)

 

 

中沢が真っ赤になりながら口を開けようとすると、そこで携帯が震えた。

近くにいれば震動音が聞こえる。ブルブルブルブル、この長さはメールではない。

 

 

「中沢ぁ、携帯ブルブルですよ?」

 

「あ、どうぞ。出てくださいませ」

 

「………」

 

 

下 ら な い 用 件 だ っ た ら ブ ッ ● し て や る ! !

怒りの中沢。涙をかみ締めて席を立つと、携帯の画面を確認する。

しかしすぐに怒りは引っ込んだ。ディスプレイには『手塚』の名前が表示されているではないか。

先輩騎士からのコール、中沢は緊張から指を震わせて通話の部分に触れる。

 

 

「も、もしもし!」

 

『手塚だ。朝早く悪いんだが、少しいいか?』

 

「あっ、はい! 全然大丈夫――ッ、ですけど……」

 

『悪いな。実は――』

 

 

手塚はまず中沢たちがいる場所を聞いた。

素直に応えると、少し沈黙が訪れる。

 

 

「もしもし? 手塚さん?」

 

『――すまない。実は少し頼みたい事があるんだ』

 

「いいですよ、何でも言ってください! あ、でもッ、できれば俺にできそうなヤツだと嬉しいんですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後。

とある霊園に中沢たちはやって来ていた。

香川達は車で待っているとのこと。中沢、仁美、下宮は花を持って霊園を進んでいく。

そして一つの墓の前に立った。この中には『斉藤雄一』が眠っている。

 

 

「手塚さんの友達……、なんだよな?」

 

「ああ。彼もまた龍騎の世界に住む人間だった」

 

 

下宮はよく見ていたから、よく知っている。

雄一はOREジャーナルの面々と同様の存在だが、大きく違う点があるとすれば役割がブースターである事だろうか。

要するに手塚が騎士になった理由が『雄一の死』である以上、その因果は収束されていく。

 

 

「ゲームが繰り返される中で、同じような展開が続くことはあった」

 

 

一つ例を出せば、一番はじめに脱落するのは『シザースペア』が圧倒的に多かった。

ほむらが何度時間を繰り返そうともまどかを救えなかったように、決められた運命の修正はそう簡単にはいかないものなのだ。

 

 

「斉藤雄一も同じだった。どうやら世界が彼に与えた配役は、手塚海之を成長させるために死ぬことらしい」

 

「そんな……」

 

「もちろん例外もある。そういう時は、箱庭にいた魔獣が死ぬように仕向けたんだ」

 

 

前回のゲームがまさにそうである。

斉藤雄一は『夢』が原因で自殺した。その夢を奪ったのは、ノックアウトゲームが原因である。

 

 

「ノックアウトゲーム?」

 

「すごく簡単に言えば――、暴行の様子を撮影し、それをネットにあげる行為さ」

 

 

雄一は不運にも巻き込まれた?

いや違う。意図的なものだ。いくら実際にある凶悪的な犯行とは言え、斉藤雄一をピンポイントに狙ったのは必然である。

 

 

「おそらくはシルヴィス辺りが、何かしらの力を使って差し向けたんだろう」

 

「!」

 

「斉藤雄一を死に追い込むことで、手塚を契約させる。全てはゲームを始めるための準備でしかない」

 

「クソッ! どこまでもふざけやがって……!!」

 

 

今ゲームは前回のゲームをベースにしていると言っていた。

故に、雄一は同じように巻き込まれ、飛び降り、命を絶ったのだろう。

手塚の『お願い』とは、雄一の墓参りである。

 

雄一は見滝原に住んでいたが、墓は父方の故郷にあった。

まだゲームは始まっていないが手塚たちは見滝原からは出られない。

故にこうやって外にいる中沢たちにお願いしたと言うことだ。

 

下宮は複雑そうに眉を顰める。

我が身可愛さに、死に続ける雄一へ何の手も差し伸べなかった。

見殺しにした上で手を合わせる資格はあるのかとも思ったが、それでもせめて今だけは喪に服したい。

 

もちろんそれは中沢たちも同じだ。

もはや今、この世界に起こりうる全ての事は無関係な事ではない。

中沢たちは持って来た花を供えると、一歩後ろに下がる。

 

 

「でも仁美さんがいてくれて助かったよ。俺たちだけじゃ、どんな花を選んでいいのか分からなかったから」

 

「誠心誠意選んだつもりですわ。少しでも、想いが届くように」

 

 

中沢と仁美は頷くと、持って来ていた数珠を取り出した。

するとそこで人の気配を感じる。他にも誰かが墓参りに来たのだろうか?

中沢たちが何気なく視線を移すと、そこには一人の青年の姿が見えた。

その時、下宮の表情が変わる。

 

 

「ば、馬鹿な――ッ!」

 

「え? どうした?」

 

 

その時、世界が歪んだ。

同じくして駐車場にいた、なぎさが目を見開く。

こう見ても、なぎさは円環の理で重要な役目を担っていた魔法少女だ。

さらには追加戦士と言うこともあり、スペックは高い。

 

 

「先生。大変なのです」

 

「!」

 

「魔獣です」

 

 

二人はすぐに変身し、中沢たちのもとへ。

そこでオルタナティブは見る。空間に出現した巨大な『闇』を。

一瞬危険かと思ったが、なぎさはその闇の向こうに中沢たちの気配を視た。

いや、いずれにせよ『どうするのか?』を考えるまでもなく、闇は一瞬で霊園を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、見滝原。

喫茶店でニコとサキが顔を合わせている。

 

 

「すまない、割としっかり思い出したつもりだが……」

 

「ああ、まあ、私も似たようなもんだし」

 

 

前に同じチームを組んでいたときの記憶を本格的に思い出してみたのだが、所々がどうしても思い出せない。何かゲームの役に立てる情報でもあればと思っていたが。

 

 

「思うに、インキュベーター側が何かしらのロックをかけてる可能性もある」

 

「そういえば、海香と何かを作っていたな」

 

「おそらくあれがジュゥべえ達にとって良くないものだったんだな。あいつら、せこい連中だよ本当に。この神那ニコ様の偉大なる発明を後世に――」

 

 

ブツブツ言いながらニコは砂糖の塊を齧る。

しかし表情は優れない、どうやら味覚の調子が今日はすこぶる悪いらしい。

 

 

「砂食ってるみたい。コーヒーも……、何か異常に酸っぱいような」

 

「大丈夫か?」

 

「バグってんのよ。もう慣れた」

 

 

サキと組んでいた次代はもう過去も過去、はるか彼方の記憶だ。

身に染み付いているのは、やはりFOOLS,GAMEの記憶である。

 

 

「私はもう、見滝原の魔法少女だよ」

 

「確かに。まどかの……、幼馴染だったか」

 

「ああ。本当の妹と変わりない」

 

「ま、そこいらの家族よりは一緒にいるわな。私達は」

 

 

自虐的な笑みを浮かべ、ニコは天井を見る。

 

 

「サキさんよ。テセウスの船って知ってるか?」

 

「いや、すまない……」

 

「英雄の船を補修していくうちに、気づけば全てのパーツが新しいものに換わってた。そりゃ果たして同じ船と言えますのんかいな? ってハ・ナ・シ」

 

 

家で例えてみようか?

住んでるところが古くなってきた。けれども思い出が詰まっている家なので、引っ越したくないし、壊すのもいやだ。

 

じゃあまずは増築しよう。

しばらく住んだ。けれどもとうとう壁が限界に近い。じゃあ全ての壁を取り替えよう。

しばらく住んだ。けれども屋根がもうダメだ。じゃあ屋根を取り替えよう。

しばらく住んだ。けれども床が、土が。交換交換。

しばらく住んだ。中身を替えたい。リフォームしよう。

 

 

「――そんな話」

 

「なるほどな。言いたい事は分かるよ」

 

 

サキはコーヒーカップを置くと窓の外を見る。

 

 

「だが――、私は私だ。もしも『家』ならば誰と住むかが問題だ。或いは、確かな家具(なかみ)があればいい」

 

「へぇ、言いおる」

 

「過去を否定するつもりはない。だが今を否定するつもりもない。私は私の意志でまどかを守り、ゲームを止める」

 

 

確かに環境は過去とは大きく違い、世界の設定すら変わっている。さらに言えば一度は円環の理に導かれた身だ。

けれども浅海サキが浅海サキである事は紛れもない真実だ。

そしてその浅海サキは確かにこの改変された箱庭の中にいる。

 

 

「数多くの魔法少女達がいるなかで、私が15人の1人に選ばれたことは、決して無意味ではないと思っているよ。まさに、運命と言えばいいのか」

 

 

ニコは特に言葉は返さなかったが、代わりに何度か頷いていた。

船と人の違いは心の有無だ。たとえ肉体やベースが過去の浅海サキとはまるで違っていても、中身こそが大切なのだと。

 

 

『なるほど。とても素晴らしい意見だと思うよ』

 

「「!」」

 

 

店の端においてある観葉植物の上に、キュゥべえの姿が見えた。

 

 

『死ね』

 

『おやおや、穏やかじゃないね神那ニコ』

 

『なんの用だキュゥべえ』

 

『キミたちに報告したい事があるんだ』

 

 

キュゥべえは淡々と、何の感情もないように内容を告げる。

 

 

『龍騎ペアをはじめとして、他何組かの参加者消失を確認したよ』

 

『……は?』

 

 

一瞬、ゾッと冷たいものがサキたちの背筋を通り抜ける。

 

 

『ま、まさかッ、死んだと?』

 

『いや、そうじゃない。引き寄せられたと言うべきかな』

 

 

ニコは急いでレジーナアイを起動する。すると確かにまどか達の居場所が見当たらない。

さらに詳細検索してもエラーと出てしまう。ましてやテレパシーも同じくして。

それはそうだ、キュゥべえが今説明したではないか。まどか達が消えたのだと。

問題はどこに行ったのか、送られたのかだが――、それは『見滝原』である。

 

 

『もうひとつの、見滝原(はこにわ)とでも言おうか』

 

『どういう事なんだ。分かるように言ってくれ!!』

 

『魔獣だよ。おそらく、ゼノバイターだろうね』

 

 

よからぬ事を企んでいるとは思っていたが、遂に行動に移したと言うワケだ。

 

 

『ふざけんなよ運営。ちゃんと対処はしてくれるんだろう?』

 

『その事なんだけど、まだゲームは始まっていないよね?』

 

『は?』

 

 

赤い目を光らせながらキュゥべえは言葉を並べていく。

 

 

『ボクらインキュベーターはゲームの運営ではあるけれど、まだゲームは始まってはいない。つまりこれはゲームの下ではないということだ。魔獣と言う侵略者が純粋に現れ、行動を起こしただけに過ぎない。ルールと言う平等が現れるのはまだ先であり――』

 

 

●してぇ。言葉なくともシンクロする想い。

だが分かっている。キュゥべえとはこういうヤツだ。ならば割り切るしかないだろう。

 

 

『せめて私たちをまどかの所に送ってくれ。こっちで何とかする』

 

『申し訳ない。インキュベーター間ならばともかく、キミたちを向こうに送るのは難しい』

 

『おいー、マジで何しに来たんだよ』

 

『言っただろ? これは報告だよ』

 

 

だがもちろんキュゥべえとしても魔獣側がフェアではない事をしているのは分かっている。

ただあくまでもゲームが始まる前に行動を取ってきた。この点は重要視しなければならない。

 

 

『ボクらは魔獣のやる事を止めるつもりはない。ただ、あくまでも向こう側がアンフェアを提示した事は認める。だからこそ、向こうに行ったまどか達には少しばかりのナビゲートを行うつもりだ』

 

 

そこで言葉を止めるキュゥべえ。おっと、どうやらもう一組。

その詳細を確かめるべく、時間を戻そう。場所は手塚のアパートに移る。

蝋燭に灯った炎をぼんやりと見つめていると、インターホンが鳴った。けれども手塚は動かない。そうしていると、扉が開く音が聞こえる。

 

 

「ちょっと、どうして出ないの?」

 

 

ほむらは靴を脱いで手塚の前に立った。

 

 

「ちょっと占いの事で集中していた。と言うより、むしろなぜお前はすんなり入って来れる」

 

「鍵が掛かってなかったわ。物騒だから、気をつけて……」

 

 

そう言ってほむらはそそくさと盾の中にピッキング道具を隠した。

手塚は小さくため息をつくと、蝋燭を消して電気をつける。

 

 

「何か飲むか?」

 

「いらないわ。それより電話もしたのに、どうして出ないの?」

 

 

それも一日中。ほむらは目を細めて手塚を睨みつける。

 

 

「悪かった。充電が切れてるみたいだ。今つける」

 

 

手塚はベッドの上にあった携帯に手を伸ばそうと試みる。

しかしそれよりも早く、ほむらが取り出したマジックハンドが携帯を掴んだ。

 

 

「なんて物を盾に入れてる」

 

「魔法で強化すればそこそこ便利なの」

 

 

携帯を奪い取ったほむらは画面を確認。

ディスプレイにはしっかりと電源が入っているじゃないか。

着信履歴だって沢山残っている。

 

 

「うそつきなのね」

 

 

そう言って、ほむらは携帯をベッドの上に投げた。

手塚は気だるげに俯くと、ため息を漏らす。

 

 

「なんなんだ」

 

「こちらの台詞よ。今日はどうしたの?」

 

「別に……。ただちょっと体調が良くないだけだ」

 

「………」

 

 

ほむらは腕を組んで壁にもたれかかると、手塚をチラリと見る。

 

 

「ずっと、何かが足りない気がしていたの」

 

「?」

 

「何かが抜け落ちたような。零れたような感覚」

 

 

ほむらは自分の胸を押さえ、心を確かめる。

大切な事をずっと忘れている。そんな感覚だった。

思い出そうとしても、思い出せない。ずっと引っかかっていたが、別にそれはおかしな話ではない。数多のループを生きれば記憶が消える時もある。

だが、今日……。

 

 

「海之。貴方なら知っているんじゃないかと思って」

 

「?」

 

「夢を見たの」

 

 

少し唐突な切り出しだったが、手塚の雰囲気が変わる。

どうやら何か心当たりがあるようだ。二人は夢の内容を羅列していく。

するとやはり二人は同じ夢を見ていた事が分かった。暗い部屋、祭壇、黒い羽、そして女の頭部。吊り上げる唇。伝えようとした言葉。

 

 

「あの首は――」

 

 

ほむらは、自分の首を指でなぞる。

 

 

「あれは、私のよ」

 

「………」

 

 

そうだ。祭壇の上にあった頭部は間違いなく暁美ほむらの物だった。

それを手塚とほむらは覚えている。

そしてそれは手塚の脳内でバラバラになっていたパズルのピースを組み立てるのに十分な衝撃だった。

 

 

「そうか、そういう事か」

 

「心当たりが?」

 

「ああ。なんとなくだが」

 

 

手塚はトランプを手にすると、二枚のカードを弾いてテーブルの上に乗せる。

一枚は『A』。一枚は裏側。

 

 

「テラバイター戦で、俺はずっとお前が『二人』になったと思っていた」

 

 

手塚はまずエースのカードを指す。

 

 

(ほむら)と」

 

 

次に裏側のカードを。

 

 

(ホムラ)

 

 

だがそれは違った。

一つ、勘違いをしていたと手塚は言う。

 

 

「正しくは、『三人』だ」

 

「……? 精神世界にいた方を含めてって事」

 

「いや、違う。そうじゃない。あれを含めてもホムラとほむらだろ。それは二人だ」

 

 

手塚はもう一枚、ジョーカーのカードを弾き、エースと裏側の間に乗せる。

はじき出されたトランプのカードはエース、裏側のもの、そしてジョーカー。『三枚』ある。

するとその時、手塚の背後に闇の球体が現れた。

なんだこれは? ほむらそう思ったとき、球体は一瞬で拡大し、次の瞬間、手塚の部屋からライアペアの姿が完全に消失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この曲が好きなんだ」

 

 

手塚と雄一は放課後の音楽室にいた。

ピアノの音がエリーゼのためにを奏でる。

 

 

「よく、ホラーとかで使われるだろ? でも俺はそう思わない」

 

 

雄一は音楽の事となるとそれは楽しそうに話すのだ。

本当かどうかは知らないが、エリーゼのためには、ベートーヴェンが愛していた女性に贈る曲だったとか何とか。

 

 

「そういうの好きなんだよ、俺、ロマンチストだからさ」

 

「……はは、そうか。そうだな」

 

「笑うなよ。でも本気でそう思ってる。やっぱり、愛は凄いよ」

 

 

どの時代であっても、どんな場所であっても、それは世界を豊かにも破滅にも導く唯一無二の元素だ。

人はそこに無限のエネルギーを見出し、感じ、受け取り、注ぎ込む。

そうやって生まれた作品にはかつてないほどのパワーが宿っているではないか。

 

 

「手塚。お前、恋人とかいないのか?」

 

「ああ、まだ興味なくて。お前こそどうなんだ」

 

「俺はピアノが恋人さ。実際、練習で精一杯だから他人に構ってる余裕なんてないよ。あ、でも興味がないワケじゃないぞ。そりゃ、俺も男だし」

 

 

確かに。手塚は笑った。

雄一も笑っていた。やっぱりこういう時間は楽しかった。

特に何かが生まれるワケじゃないけれど、悪くない時間だったのだ。

こういう時間はもっとあったような気がする。

それで満足していた手塚と、少しくすぶっていた雄一。

 

 

「でも、ほら、俺は思うんだよ」

 

「ッ?」

 

「愛って言うのはやっぱり芸術とか、アーティストからは切っても切り離せないものだろ」

 

 

数多くの詩人が愛を説いた。多くの作曲家が愛を表した。

それは日本も同じだ。愛を語る書物、愛を表現する美術など腐るほど出てくる。

けれどもこの現代まで語り継がれている筈の愛を、未だかつて誰も証明したことはない。

 

全て曖昧で。煙に巻いて。

誰もが『信じる』なんて都合のいい言葉を口にしている。

雄一はまだその完成系を見たことがない。

 

 

「俺だってそうだ。今も言ったけど、ピアノで忙しいから愛は知らない。まだ掴めない。だからピアノの腕も飛躍しなかったし、馬鹿らしい連中に巻き込まれる」

 

「雄一?」

 

 

なにやら齟齬をきたす内容。

はて? こんな記憶はあっただろうか? 正しかったのだろうか?

手塚が頭を押さえて沈黙する一方で、雄一は頭を掻き毟る。

 

果てしない苛立ちがこみ上げてきた。

なんだ、そうだ、分かりやすい愛の形、『恋人』など歪なシステムにしか過ぎない。

他者との関わりの中でしか愛を見出せないならば、それは人が欠落している証ではないか。

他者に依存する事を、美しい言葉のオブラートで包んでいるだけだ。

 

 

「愛に頼るのは……、ナンセンスだ。なあ手塚」

 

「どうしたんだ? 何かちょっと様子がおかしいぞ」

 

「やッ、別に普通さ。ただ俺は気づいただけなんだ」

 

 

愛なんてのは、そこまで特別じゃないし、神聖ではない。

むしろ考えれば考えるほど欠落したものだという事が分かってきた。

 

 

「欠落したものに縋り、インスピレーションを受けても、出来上がるのはやはり不完全な代物だ」

 

 

歪な芸術は『逃げ』でしかない。

 

「俺が欲しいのは、本物なんだ……!」

 

 

愛なんていつ裏切られるかも分からないものに魂を注ぐのは間違っている。

裏切りのない、確かな想いを胸に抱えることが正義。

確かなアーティストの証。

 

 

「それは殺意だ。手塚」

 

「……ッ!?」

 

「俺はやっと気づいたんだ。気に食わないものを排除したいと言う気持ちは、常に本当だ」

 

 

雄一は何を言っているのか。

手塚が戸惑っていると、幻聴が聴こえてきた。

 

 

『――ィ』

 

「………」

 

『――き!』

 

「………」

 

『海之!!』

 

 

脳内に響く声、それが手塚の目を覚ました。刹那、記憶が、真理が、答えが脳を駆ける。

そうか、そうだな、忘れていた。手塚は当たり前で、最も大切な事を忘れていた。

こんな思い出はない。斉藤雄一は――、既に死んでいる。

だから目を見開き、ただただ拳を握り締めていた。

一方で雄一は笑顔を浮かべて両手を広げていた。

 

 

「俺の人生を台無しにしたのは世界だ。世界に生きる人間を殺して殺して殺しつくす。そうすれば俺の奏でる音は完成するんだ」

 

 

手塚は無言で雄一からゆっくりと離れていく。

ふと、雄一は残念そうに首を振った。きっと理解してくれると。

しかし手塚はそうじゃないらしい。雄一はそれが悲しく、腹立たしい。

 

 

「手塚。テセウスの船って知ってるか?」

 

「英雄テセウスか」

 

「ああ。そうだ。彼の船は多くの補修か改修を受けて生まれ変わった。人はそれを同じ船とも言うし、違う船とも言う」

 

 

手塚はふと、懐からカードデッキを取り出す。

 

 

「手塚。お前が記憶を取り戻したのは既にデッキを手にした後だ。The・ANSWERは確かに前回のゲームをベースにしているが……、同じじゃない」

 

 

手塚の腰にはVバックルがあった。

分かっているのか、いないのか、雄一はまだ熱弁を続ける。

 

 

「たとえ灰になったとしても! 偉大なる技術力は俺の体を復元することができた! そして俺はギア様の偉大なる理想に感銘を受けたんだ!!」

 

「………」

 

「手塚! 理解してくれ! 俺は本当の斉藤雄一だ。たとえ多くの改修を受けても、俺は俺だ」

 

 

たとえ、脳を弄られたとしても。

体の構造データを丸ごと作り変えられたとしても。

考え方が変わったとしても。

 

 

「俺は気づいたんだ。世界の支配者に相応しいのは――」

 

「……変身」

 

 

手塚は静かにデッキをバックルへセットした。

同時に、斉藤雄一の体にモザイク型のエネルギーが迸る。

 

 

「手塚! 世界の支配者は魔獣なんだ!!」

 

 

斉藤雄一。

今の名前は色つき、『運命』。

その背中に現れたのは巨大な『輪』だ。

チャクラムや圏をイメージさせるもので、ピアノの鍵盤がついているのが特徴的な武器だった。

 

 

「………」

 

 

ライアは一度俯く。思い出そうとしなくても、雄一との思い出はたくさんあった。

下らない事で笑ったことや、どうしてもいい会話。

本気の悩み。苦悩。

そして、尊敬。

 

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

かつてない怒りが爆発した。

ライアは天井に向かって叫び、そのまま思い切り地面を蹴って走り出す。

すぐに伸びる拳。しかし雄一はそれを的確に弾き、小さな笑みを浮かべていた。

 

 

「手塚。お前は俺のために戦ってくれたみたいだが、それはもういい」

 

 

雄一は一旦バックステップ。

そして背丈ほどある輪を片手で掴むと、思い切り投げる。

風を切り裂く輪。速いが直線だ。ライアは床を転がると、それを回避してみせた。

 

 

「俺は蘇り、こうして目的を持っている!」

 

 

だが雄一が指を鳴らすと、輪が分裂。

小型のチャクラムが自在に空中を飛びまわり、ライアに纏わりつく。

追尾する刃はライアを逃がさない。すぐに火花に包まれ、地面に倒れた。

 

 

「グゥウウ!!」

 

 

さらに無数のチャクラムが集合すると、再び大きな輪に変わり、そのままライアの首に落ちる。

本来ならば首を切り落とす筈だったが、なぜか首だけではなくライアそのものが砕け散る。

輪が捉えていたのはジョーカーのカード。

トリックベント・スケイプジョーカー。

 

 

「違う! 俺に為に、お前を消す!!」

 

 

ライアは拳を握り締め、それを前へ伸ばす。

 

 

「やめてくれ手塚。俺は俺だぞ? 魔獣になったら。少し考え方が変わったら、気に入らないから殺すのか」

 

 

が、しかし雄一はその拳をしっかりと受け止めた。

 

 

「手塚。俺は少し誤解していただけなんだ」

 

 

腕を組み合い、両者は音楽室を駆ける。

 

 

「家族や友人なんて俺を縛るものでしか無かった」

 

 

魔獣の力を得た雄一は、人間態でありながらもライアと互角のスペックを見せていた。

輪を振るい、エビルバイザーを弾くと、がら空きになった胴体へ足裏を叩き込む。

吹き飛び、壁を粉砕するライア。どうやら言葉ではどうとでも言えるかもしれないが、本心はやはり戸惑っているらしい。

 

つまり魔獣は、手塚が記憶を取り戻すまえに雄一の死体を回収し、魔獣として改造したのだ。

全てはかつての友人と殺しあうシチュエーションを完成させるため。

斉藤雄一を殺人マシーンへと変えるために。

 

 

「フッ!」

 

 

雄一が輪をなぞると、鍵盤が独りでに動き、『エリーゼのために』を演奏しはじめる。

もちろんただの音楽ではない。魔獣の負、瘴気が込められており、それは脳を揺らす怪音波だ。

 

 

「クッ! グゥウウァ! ッ、ヅ!!」

 

 

ライアは頭を押さえてうめき声をあげる。

その間に雄一は両腕を回して円をつくり、その残像をチャクラムに変える。

すかさずそれを投擲。ライアは一発目の回避に成功するが、二発目は直撃してしまう。

火花を散らして後退していく中、ふと気づく。周りの景色が変わっていた。

学校から、薄暗い室内へ。

 

 

「ッ!」「……?」

 

 

怯んだのは雄一も同じだった。どうやらこの変化は意図していないものらしい。

そこでライアは理解する。これはあの夢で見た場所。

振り返ればそこには祭壇があり、そこには女の――、暁美ほむらの頭部が存在していた。

 

 

「!」

 

 

目が、合う。

彼女は何だか嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「手塚」

 

 

声色が弾んでいる。時間が止まったようだ。

 

 

「やはり――、お前なのか……!」

 

 

(ほむら)

そこでライアの姿が消え去った。気づけば祭壇もなくなっている。

雄一は星が見える平原に立ち、周囲を確認。

手塚の気配は完全にロストしているではないか。

 

 

「何が起こっている……!」

 

 

するとそれに答える声が。

上から降ってきたのは、ゼノバイターだ。

 

 

「気にする事ァねぇよ! ハハハ、力が上がってきた証拠だろう」

 

「ゼノバイター様」

 

「ファーストパンチとしちゃ上出来だぜィ。ま、こっからだな」

 

「この世界は一体?」

 

虚心星原(きょしんせいげん)。世界から隔離された宝箱よ。カカカカ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「虚心星原?」

 

『って、魔獣の連中は名づけたみたいだけどな』

 

 

目覚めた中沢たちは一箇所に集まっていた。

とは言え、霊園ではなく立っていたのはどこぞの裏路地。

幸いだったのはすぐにジュゥべえがコンタクトを取ってきたことだ。

丁度近くにカラオケがあったので、一同はそこでジュゥべえから情報をもらうことに。

なぎさがタッチパネルのリモコンを睨んでいるなか、香川がジュゥべえに問いかける。

 

 

「何がどうなっているんですか?」

 

『あぁ、まあ魔獣がちょっとな』

 

「ここは?」

 

『見滝原だ。つっても、The・ANSWERの箱庭じゃない。別のゲーム盤だ』

 

 

ループされていく中、その一つの見滝原を抜き取ったとでも言えばいいか。

いわばセーブデーターを一つ抜き取り、再現したと。

 

 

『本来ならばこれはあり得ないんだが……、あんちきしょう共が裏でコソコソやってたらしくてな』

 

 

特別支給としてこの虚心星原に訪れた参加者にはグリーフシードを一つずつプレゼントした。

 

 

「詫び石みたいなもんか……」

 

 

中沢はソーシャルゲームに例えてみる。ジュゥべえもそれくらいは知っているし、否定はしなかった。つまり運営側としても『ミス』と言う自覚があるらしい。

 

 

『あとはまあ、お前らには関係ねーけど、サバイブとアライブの再変身時間の短縮も追加してやったぜ』

 

 

とにかく、今回はイレギュラーだ。

魔獣が良くない事を考えているのは事実だった。

 

 

「しかし、なぜ斉藤雄一が生きている」

 

 

ここで下宮が割り入る。

霊園で彼らが見たのは、斉藤雄一の姿だった。

中沢たちは知らないが、下宮はよく知っている。

 

 

「彼が生きてるのはありえない」

 

『死体……、つうか灰を回収して魔獣にしたんだよ。ありゃ色つきだ』

 

「ば、馬鹿な……! なんて事を――ッッ!!」

 

 

中沢たちも事情を察する。

つまり魔獣は。手塚の親友を魔獣に改造したのだ。

火葬された際の灰や骨の欠片を使ったのだろう。地球でもクローン技術と言うものがあるが、あれに近いものがある。DNAから情報を採取し、再現して見せたといえばいいか。

 

 

「酷い……、そんな事を」

 

 

仁美たちが俯く中、ジュゥべえはどうでもいいと言った様子で笑ってた。

 

 

『ま、そんだけライアペアを牽制しておきたいんだろうな』

 

「……? つまり手塚くんと暁美さんは、虚心星原において重要な役割を渡すということですか」

 

『流石は先生。話が早い』

 

 

ただ正直、ジュゥべえとしてもまだ分かっていない事は多い。

その答えを導くために、まずは中沢たちにコンタクトを取ったのだ。

 

 

『志筑仁美、コネクトを使え。今から言う魔法少女を呼び出すんだ』

 

 

断る理由はなかった。それは、未来(むこう)も同じ。

仁美は変身してコネクトを発動。魔法陣が現れると、そこから灰色かかった銀髪の少女が姿を見せる。

セーラー服を模したコートを着ており、少女はキュゥべえを睨む。

 

 

『久しッぶりだなァ? ええ、おい』

 

「………」

 

『いや、つうかアレか。まだ会ってねぇのか正確には。ハハッ!』

 

 

天乃(あまの)鈴音(すずね)は、腕を組み、不服そうに壁にもたれかかった。

 

 

「言ったでしょ、人間をナメないほうがいいって」

 

『まあ確かに。こんな状況になるとはオイラも考えてなかった』

 

 

だが、鈴音の意地がこの状況を生み出してしまったとも言える。

説明を始めるジュゥべえ。そもそも何故、鈴音なのか。

それはこの虚心星原の元になったゲームが関係している。

 

インキュベーターは何度も繰り返されるゲームの一つ一つをしっかりと記録し、管理していた。

その中でもいくつかは、大きな『変化』があったものとして記録されている。

今、中沢達がいる場所もそういう中の一つであると。

 

 

「ここはLIAR・HEARTSと呼ばれたゲームの中だ。かずみが箱庭に囚われて一番最初のゲームだったからな。よく覚えてる」

 

 

F・Gはもともと12人で行われていたゲームだ。

しかし一度魔獣の中でメンバーを変えてやってみようと言う意見が出て、ゲームのその後の世界が創られた。これが現在、海香や鈴音がいる未来である。

 

未来のフールズゲーム、その名も『Troia trial』が行われたゲーム盤は、いろいろな事があったため、『Perfect Dark』と言う名前で記録されていた。

そこで鈴音とかずみは戦いを止めるべく、過去に飛んだのだ。

 

 

『だがお前らはイツトリに気づかなかった。調子に乗った鈴音ちゃんと、かずみちゃまはソッコーで敗北。お前は何とか逃げ出したが、かずみはそのままゲームの駒にされた』

 

 

鈴音は不快感を露にしながらも否定は行わなかった。

 

 

『そもそもテメェらは魔獣の存在にも気づかなかった。加えて、あの時のフールズゲームはルールが少し違う』

 

 

暁美ほむらが死ぬか、死なないか。

鈴音をそれを勘違いしてしまった。ほむらが死なない事(ほむらの勝利)が、自分たちの未来に繋がると考え、暁美ほむらを殺した。

 

 

『だが無理なんだよ。魔獣やイツトリをなんとかしねぇとな』

 

 

結局、鈴音たちの行動は『かずみ』をゲームに埋め込む言うだけに終わった。

まあそれが今に繋がるのだから、決して無駄ではなかったが。

 

 

『あと、お前は一つ勘違いをしてた』

 

「ッ?」

 

『今と未来じゃ、ソウルジェムの構造が違う』

 

 

確かに、かずみや鈴音たちには特徴がある。

それが鈴型のソウルジェムだ。ピアスのように両耳についているそれは、新型である証。

両方、もしくは一つをダミーとする事で破壊の可能性を低くし、さらにその状態で心臓、もしくは脳を破壊されなければ死なない。

 

 

『鈴音、お前は暁美ほむらの首を取ったが、肝心のソウルジェムを壊してなかった』

 

「!」

 

『お前、暁美の両耳にピアスが無かったから勘違いしてたな。だからテメェは暁美の力を……、ってまあこれはいいか』

 

 

尤も、あの状態のほむらに生き残る気があったのかは定かではない。

とは言え、あの一撃がスイッチになったのではないかとジュゥべえたちは見ていた。

 

 

「だ、だからその……、つまりどういう事なんだよ」

 

 

ジュゥべえは鼻を鳴らして中沢を見る。

 

 

『なんつうかなァ』

 

 

いろいろ説明が面倒だ。

とはいえ、まずは例の一つに『まどか』を挙げる。

かつて円環の理になった女神は、ほむらによって分断されてしまい、結果的にそれが弱体化となってイツトリや魔獣に敗北した。

 

まあその後、同じように分かれた『お茶会まどか』がタルトを連れて逃げたからこそ、何とかなったわけだが。

つまりThe・ANSWER以前のゲームではまどかは『二人』いた事になる。

 

同じような事が、ほむらにも起こったのは記憶に新しい。

テラバイターの暗躍によって生まれたのは、おなじみのメガネ少女・ホムラである。

ほむらとホムラ。それは『二人』とも言える。

 

 

『だが違う。ほむらは3だ。あと一人いる』

 

「は?」

 

 

ほむら、ホムラ、そして『焔』。

 

 

『その第三の暁美ほむらこそが、この世界を生み出し、かつ存在させている(コア)だ』

 

 

唸るジュゥべえ。

そうなると、なんとなく敵の目的が見えてきた。

ずっと疑問だったのだ。と言うのも、テラバイターとゼノバイターはほむらを殺すことよりも、ほむらから何かを抜き取るような立ち回りを見せていた。

事実、テラバイターは敗北する直前、確かにほむらから紫色の光を抜き取っている。

あれは一体なんだったのか、考えていたが、なるほどなるほど。

 

 

『この世界の鍵、パスみたいなもんだな』

 

 

ジュゥべえは何度か頷いている。なにか納得したようだった。

 

 

『とにかく、今はゲームのリプレイ中だ』

 

「リプレイ……?」

 

『まあ簡単に言えばLIAR・HEARTSの時間が戻った。暁美を殺すか殺さないかの最中ってワケさ』

 

「どうすれば元の世界に帰れる?」

 

『そりゃお前……、コアを何とかして、魔獣を倒せば確実だろうよ』

 

 

ジュゥべえは一瞬で下宮の頭の上に立つ。

 

 

『今はお前が頼りだぜ。裏切り者くん! なはは!』

 

「ッ!」

 

 

そこでジュゥべえは消え去った。

すぐに下宮は顎を押さえて考える。LIAR・HEARTSの記憶が蘇る。

すぐに時間と日付を確認し、青ざめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

ライアは我に返る。

また変わっている景色。祭壇は消えており、ライアは屋外に立っていた。

混乱の中、先ほどの笑顔だけが脳に張り付いている。

 

 

(焔……)

 

 

そこで、ライアもまた理解した。

これはゲームのリプレイ。繰り返されるF・G。

LIAR・HEARTSの時間。その記憶がフラッシュバックしていく。

 

強い既視感がライアを包む。

気づく。ライアはいつの間にか変身が解除されていた。

そして目の前に倒れている杏子を見つける。片腕は無く、片目は潰れ、そして全身からは一人の人間が流すには多すぎる血が見えた。

 

そうか、そうだ。手塚は思い出す。

ゲームの終盤、蓮とかずみを倒した後の景色だ。

このまま放っておけば杏子が死ぬ。

それが分かっていながら放置はできなかった。手塚はすぐに走り出し、杏子の傍に来る。

 

 

「あんま触るな……。血で…、汚れちまう……!」

 

 

同じ台詞だ。気づけば手塚も同じ台詞が出ていた。

 

 

「おい、どうすればいい! 魔法で回復は――」

 

「無理……、だよ」

 

 

そうだ。そうだった。手塚は完全に思い出した。

魔法少女はソウルジェムさえ無事なら、どんなに酷い傷を負っても問題はない。

しかしそのソウルジェムがダメなのだ。杏子はスペアを持っていない。

 

一瞬考える。どういうカラクリなのか。

たとえば純粋にLIAR・HEARTSを繰り返し、この状況でメモリーベントを使ったように記憶を共有したのか。もしくはLIAR・HEARTSが繰り返される中で、The・ANSWERの時間軸から来た自分が融合したのか。

 

だがそれは今考えるべき事じゃない。

手塚もまたジュゥべえからある程度のアナウンスは受けていた。

魔獣の仕掛けたこのトリッキーな状況、言わばゲームの不具合に対する侘びの品。その一つがグリーフシードだ。

手塚はポケットからそれを取り出すと、杏子のソウルジェムへかざす。

 

 

「なんだよ……、持ってたのかよ…、さっさと、出せ――、よな」

 

「すまない! だがこれでいいだろ。大人しくしてろ」

 

「良いって」

 

 

杏子はそう言って手塚の手を遮る。

 

 

「何をする!」

 

「それ、アイツの為に使えよ……」

 

 

アイツとはほむらだろう。

全てが同じなら、ほむらは現在、手塚アパートで気絶しているはずだ。

LIAR・HEARTSは殺し合いではなく、暁美ほむら一人が死ねば終わりである。

だからこそ杏子はココで自分が助かることを望んではいない。

ましてや、杏子には一つの思いがあった。

 

 

「もう、いいんだ。アタシはもう――、いい」

 

 

つまり、死にたいと言う意味だった。

 

 

「アタシ、本当は……、もっと、この世界で生きたかった」

 

 

覚えている。この弱さの吐露も。

 

 

「本当はマミ達とまた仲良くなって、そこにはきっとゆま達もいて……」

 

 

少しだけ浄化したソウルジェムが、また濁っていく。

 

 

「さやかと……、馬鹿やって………、ゆま…、と――」

 

「おい!」

 

「いいんだって……! だって、アイツらは、もう」

 

 

杏子は目を閉じる。

 

 

「死なせてくれ。手塚……」

 

 

一瞬、ソウルジェムが光る。

すると咳き込む杏子、大量の血が口から溢れた。

どうやら魔法少女である事を捨てるらしい。と言うのも、杏子とてソウルジェムの仕組みはよく理解している。痛覚の遮断や、魔法による肉体回復、そう言った超能力を全て解除したのだ。

 

人として、罪を、痛みを背負う。

ソウルジェムの仕組みを知らない魔法少女は致命傷を受けた時に、自分が死んだと決め付け、そしてソウルジェムがそれを了承して本当に死に至る。

 

杏子も同じだ。大量出血に寄る死を受け入れようとしている。

手塚は――、止められない。そもそも止める資格があるのか?

この世界の仕組みを解き明かせば、この世界は終わる。そうすればココに生きる杏子はいずれにせよ……。

ならばこのまま本人の望む通りにしてあげるのは、きっと間違いじゃない。

手塚の動きが止まった。はっきり言って、どうしていいか分からなかった。

 

 

「ダメだよ! 杏子ちゃん!!」

 

 

しかしその時、声が聞こえた。

手塚が振り返ると、光の翼を広げたまどかが見えた。

既にアライブ状態であり、ニターヤーボックス(箱型の結界)にマミを入れてやって来た。

 

 

「ローシェルヒール!!」

 

 

アライブの力によって強化された天使が、癒しの光を杏子へむける。

ただ強化された治癒魔法で傷は治っても、やはりそこは専門ではない魔法だ。

欠損した肉体や完全に破壊された目は戻らず、さらに今の問題は『肉体の傷』ではない。

 

 

「佐倉さん!!」

 

 

箱が開き、マミが杏子の傍にすべり寄る。

手にあったグリーフシードをソウルジェムへ押し当てると、浄化を開始した。

 

 

「鹿目ッ、巴……!」

 

「手塚さんもこの世界に!?」

 

「あ、ああ」

 

「とにかくっ、今は! 杏子ちゃんを――ッ!!」

 

 

しかし様子がおかしい。傷は治った。

ソウルジェムも浄化しきったように見えるが、杏子は目を覚まさない。

今も傷を負った状態と同じように細い呼吸で、目は虚ろだった。

 

 

「ど、どうして!」

 

「死を受け入れてるから、ソウルジェムが佐倉さんを死に近づけてるのね……!」

 

 

マミはすぐにアライブを発動。

魔法の紅茶を生み出し、カップを杏子の口へ近づける。

紅茶には体力を回復させるだけでなく、精神を安定させる効果もある。

自傷に寄りすぎている杏子に、少しでも生きる希望を与えられたらと思うが――

 

 

「ゲホッ! ガハッッ!!」

 

 

杏子はすぐに口に入った紅茶を吐き出してしまう。

どうやら肉体的な機能も失われているらしい。嚥下がうまくいかないようだ。

 

 

「ど、どうしようマミさん」

 

 

こうなったら口移しで。

まどかはマミの紅茶を口に含もうと考えたが、そこでマミが唇を杏子の耳へ近づける。

 

 

「佐倉さん。とーっても美味しい紅茶よ……!」

 

「……ッ」

 

 

再び紅茶を杏子の口へ近づける。

すると先ほどは吐き出していたのに、今はしっかりと飲んでいるじゃないか。

 

 

「――ゥ、かはッ」

 

 

ゆっくりと目を開く杏子。

信じられないと言った様子で顔を歪める。

 

 

「マミ――? ウソだろ、なんで……」

 

「起きて佐倉さん。お願い!」

 

「――ッ、ハハ、幻覚か? それともココはあの世か?」

 

 

そこで、ふと杏子は頬が濡れた感覚を覚える。

目を凝らすと、まどかがボロボロ泣いているのが見えるじゃないか。

 

 

「か、鹿目――?」

 

「死なないで杏子ちゃん……!」

 

 

本来。この世界のまどかは魔法少女ではない。

と言うのも、ずっとゲームを12組で行っていたため、かずみを含めて13組にするのか魔獣が試行錯誤していた時のものだからだ。

 

どうやらLIAR・HEARTSの杏子はまどかの事を知っているらしい。

どの程度の仲だったかは分からないが、少なくとも険悪な雰囲気ではない。

まどかの表情を見て、怯む。するとまたマミの声が。

 

 

「いいの佐倉さん? あなたのケーキ、美樹さんが全部食べようとしてるわよ」

 

「なん――、だと?」

 

 

ケーキ。

甘くて美味しいケーキ……、じゅるり。

 

 

「――ろ」

 

「え?」

 

「やめろッ! さやかァアア!!」

 

 

血相を変えて跳ね起きた杏子。

周りには呆気に取られている手塚やまどかが見える。

 

 

「……あ」

 

 

してやられた。

杏子は真っ赤になって、しばらく何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

目を閉じて思い出す。

四肢を使っていた時の記憶、両方の目で景色を見ていた時の記憶。

それをもっとより深く、より強く。

集中。集中。集中……。

 

 

「しかしまさか、死にたいと言う欲望よりも食欲が勝るとはね」

 

「う、うっさいな!!」

 

 

つい目を開けてしまう。

とはいえ、まどかやマミの治癒もあってか、両目の視力は完全に回復していた。

腕も切断されたものが地面にあったので断面同士をくっつけてソウルジェムによる肉体回復を行えば、とりあえず結合だけはできた。

 

まだ感覚は戻っていないが、この調子ならばすぐだろう。

特に杏子は固有魔法が使えない代わりに、全ての魔力を肉体強化や治癒に注ぎ込むことができる。

杏子はマミを睨みながら、ふと周りを見てみる。

 

ここは手塚のアパートだ。

下宮の指示によりアビスペアはすぐに手塚のアパートに向かい、気絶しているほむらを助けに来た。

一方でテレパシーで事情を把握したマミとまどかは杏子のほうに向かったわけだ。

 

 

「まどかさん! やっと会えましたわ!!」

 

「仁美ちゃん! 大丈夫だった!? 怪我とかない?」

 

「はい! もちろんですわ! まどかさんの方こそ大丈夫でしたか?」

 

「うんっ! わたしね、これでも結構強いんだよ! 仁美ちゃんが危なかったらすぐにバリアで守ってあげるからね!!」

 

 

久しぶりの再会だ。

まどかと仁美は手を繋ぎ合って笑っている。

その光景を、ほむらは少し寂しげに見ていたが、手塚に肩を叩かれると、納得したように頷いていた。そして杏子が全く知らない中沢や下宮も、コーヒーを飲んでいるじゃないか。

 

 

「そろそろ教えてくれよマミ。どうしてアンタが生きてるのかをさ……」

 

 

LIAR・HEARTSにおいてマミを殺したのは杏子だ。

今もまだソウルジェムを砕く時の光景は鮮明に思い出せる。

そうだ、マミは確かに死んだ。けれどもThe・ANSWERからのマミが訪れたことで矛盾が生じ、結果的に手塚のような『リンク』は行われず、The・ANSWERのマミがそのものとして世界に召喚されたのだ。

意識だけこの世界に来るか。それとも肉体ごと来るか。

 

 

「そうね。そうよね。内緒になんてできないものね」

 

 

どのような結果になるのかは分からなかったが、マミは全てを打ち明けることにした。

もちろんそれはまどか達の意思でもある。ゲームを仕組んでいた魔獣の存在や、マミたちは未来から来たという事。それを説明すると、杏子は驚いたような表情をしていたが、やがて何度も頷いていく。

 

 

「そうか、そうかよ。なるほどな」

 

「信じてくれる?」

 

「信じるよ。ッて言うか、信じさせてくれ。じゃないとアタシはもう――、何もない」

 

 

少し重たげな空気が場を包んだ。

困っているようなまどかやほむらを見て、手塚が口を開く。

尤もそれは助け舟などではなく、もっと場を混乱させるような内容だったが。

 

 

「佐倉、その事で一つ、お前に伝えておかないといけない事がある」

 

「なにさ。もう何が来ても驚かないよ。実は宇宙人ってか?」

 

「いや。この世界においてお前の仲間。つまり千歳ゆま達を殺したのは、ほむらだ」

 

「――は?」

 

 

冷たい沈黙が続く。

一方でほむらは汗を浮かべて肩を竦めていた。

うっすらと、うっすらとだけそんな気はしていたが、記憶はない。

だから杏子が立ち上がり、胸倉を掴んでも、どうしていいか分からなかった。

 

 

「佐倉さん!」

 

「うるせぇ!!」

 

 

止めようとしたマミの腕を振り払い、杏子は拳を握り締める。

 

 

「なんで……ッ、なんで!!」

 

 

鬼気迫る杏子の表情も、想いも、ほむらには届かない。

いや、何となくは張り付くように覚えているが、それでもその詳細は霞かかって分からない。

 

 

「暁美にはその記憶がない。俺やお前が守ってきた暁美ほむらこそが、この世界のコアである――、暁美『焔』だ」

 

「ッッ!!」

 

 

黙っている事もできたが、このまま杏子と行動するのはフェアじゃないと思った。

ほむらは参加者を殺した。なぜ? 決まっている。ゲームに勝つためだ。

それは分かる。それは分かっている。むしろそうなるように協力していた。

しかし、杏子はそう簡単には割り切れない。すると、ほむらが立ち上がった。

 

 

「……ごめんなさいッ」

 

「!」

 

 

深く、深く頭を下げる。

 

 

「謝って、許されるとは思っていないけれど……、でもッ」

 

 

杏子はふと、拳を下ろした。

震える声は本当だと思った。もちろん演技の可能性もあるのだろうが、それでも杏子には本当に見えた。

 

ふと、ボロボロと泣いていたまどかがフラッシュバックする。

死なないでと泣いた。泣いてくれた。マミだって、助けてくれた。

未来の彼女達がその行動を取ったのだ。別に過去の杏子を助ける意味はないはずなのに。

それは杏子自身が分かっている。

 

 

「あぁ……、ダメだなこう言うの」

 

「え?」

 

「悪い。分かってるんだ。アンタとしては勝ちいくのは普通だもんな」

 

「けれどッ」

 

「ああ、分かってる。悪いと思ってんだろ? だったら、もういいよ」

 

 

これでほむらが何も知らないように振舞ったり、そういう態度を見せれば杏子は拳を突き出していたかもしれない。けれども、ほむらの泣きそうな顔を見ていれば、その行動を取ったことを後悔しているのは分かった。

 

 

「悪いのは――、魔獣ってヤツなんだろ」

 

 

普通、死んだ人間は戻ってこない。

まあマミは現在、こうしてココにいるが、それは奇跡なんだろう。

魔法少女ならば馴染みあるものだ。とはいえ、やはり奇跡は奇跡だ。簡単に起こるものじゃない。

ゆま達は戻らないのだろうし、未来で生きているのならばそれでいい。

過去でウジウジするのは杏子としてもゴメンだった。

 

 

「はい、もう終わり終わり! で? アタシはこっから何をすればいいんだ?」

 

「ッ、協力してくれるの……?」

 

 

申し訳なさそうに顔を上げるほむら。

きっと未来でいろいろ苦労したんだろう。杏子だっていろいろ褒められない行動はしている。

お互い様といえばお互い様だった。

何より――

 

 

「当たり前だろ。今、アタシの目的はアンタを守ることなんだ。それは変わっちゃいないって」

 

 

杏子はそう言って、ふところからポッキーの箱を取り出した。

 

 

「くうかい?」

 

「……え、ええ!」

 

 

ほむらは笑みを浮かべてそれを受け取る。

 

 

「どうせ一度は死んだ身さ。それに――」

 

 

手塚に言った事はウソじゃない。マミたちと本当は和解したかった。

視線に気づいたのか、マミは微笑み、杏子に手を出す。

彼女もLIAR・HEARTSの記憶が戻ったようだ。

 

 

「仲直り、してくれる?」

 

 

マミもまた泣きそうな顔で言ってくる。

こういうのは苦手だ。杏子は目をそらし、苦笑する。

 

 

「へッ、いいのかい? また裏切るかもしれないよ?」

 

「そしたらお仕置きね」

 

 

今度は素直に笑う杏子。

なんだかんだとマミとまた戦えることは嬉しいようだ。

確かにゆま達が既に犠牲になったことは悲しいが、未来を良くする為に戦うことは、結果的にゆまを救う事にもなる。

 

さて、これで杏子と協力関係を結べた。

ではここからどうするかだ。ライアペアと下宮は情報を共有。これから起こるだろう展開を話し合い、記憶が正しいかを確認している。ま

だメモリーベントを使っていない中沢と仁美も、手塚たちの話を真剣に聞いていた。

ましてや退場したマミも同じく。

 

難しい話は嫌いだ。

杏子は部屋の隅に座ると、ぼんやりと天井を見つめながらポッキーを齧り、プラプラと口で弄んでいる。

すると気配を感じた。隣を見ると、まどかがちょこんと座っている。

 

 

「えへへ。杏子ちゃん!」

 

「な、なんだよ」

 

「ううん、呼んでみただけ!」

 

「なんだそりゃ」

 

「ごめんね。でも杏子ちゃんとお喋りできるの、とっても嬉しくて」

 

 

LIAR・HEARTSのまどかは、ちょっとした病気で入院しており、実質ゲームから除外状態であった。とはいえ杏子とは知り合いである。ピリピリしていたマミチームと、杏子チームを繋ぐ架け橋であり、杏子とも何度となく会話していた。

だから杏子としてはイマイチまどかの言う事が理解できない。

 

 

「おいちょっと待て。もしかして未来のアタシってもう死んでるとかじゃねーよな……?」

 

「ううんッ、そうじゃないんだけど……」

 

 

まどかは声のトーンを落とす。

何もおかしな事じゃない。杏子が見滝原にやってきて、それで知り合って、たくさん喋って、そういう記憶はある。

 

けれどもラインを一つ隔てた後は、ずっと対立関係だった。

前回のゲームが一番記憶にある以上、正直こうして目の前にしてみれば警戒や緊張の方が強くなってしまう。

 

 

「わたし、未来の杏子ちゃんに嫌われてて」

 

「はァ?」

 

 

悲しげにするまどかを見て、杏子は気まずそうに視線を泳がせる。

 

 

「ま、まあアンタは普段は気が弱かったり、優しすぎるところがあるからね。アタシとはあんまり合わないのかも」

 

「そうなのかな。ごめんね……」

 

「い、いやッ、謝らなくても……」

 

 

まどかは、しょんぼりと眉を八の字にしており、杏子としてはどうにも居心地が悪い。

全身がなんだかむず痒くなってきた。頭をかきむしると、ポッキーを一本差し出してみる。

 

 

「くうかい?」

 

「え?」

 

「ってか、食え食え!」

 

 

杏子はポッキーを無理やりにまどかの口へねじ込むと、背中を軽く叩く。

 

 

「未来のアタシが何考えてるかは知らないけどさ。別に今のアタシは、アンタのこと、嫌いじゃないよ」

 

「う、うん。ありがとう……!」

 

「むしろ、さっきとか……、助けてくれて感謝してる」

 

 

自分の為に泣いてくれる人がいたというのは、杏子にとって、とても嬉しいことだった。

ましてやもしも未来で酷い事をしている上でなら、より感じるものは大きい。

杏子だって、まどかと深くは関わっちゃいないが、それでもまどかが優しい少女だというのは理解している。

 

 

「ったく、調子狂うぜ……」

 

 

自業自得な杏子(じぶん)が苦しむならばまだしも、こういう純粋なまどかが苦しむのは見ていて気持ちのいいものではなかった。

 

 

「うし! 決めた!」

 

「え?」

 

 

杏子は強く頷くと、まどかと肩を組む形に。

 

 

「戦いが終わったらラーメン食いにいこうぜ。おススメの店があるんだ」

 

「い、いいの?」

 

「良いに決まってんだろ。それとも何だよ? アンタ、アタシとラーメン食いに行くのが嫌なのかい?」

 

「そ、そんなことないよ! むしろッ、とっても嬉しい!」

 

「んじゃ決まりだ決まり!」

 

 

杏子は体を揺らして、まどかと一緒にブラブラと。

その少し間抜けな姿に、まどかも自然と笑みが零れてくる。

 

 

「なあ、まどか」

 

「え?」

 

「正直、今のアタシだってさ、アンタと合わないと思ってたよ」

 

「えぇ?」

 

 

まどかの眉毛が八の字になる。しかし杏子は強引にまどかの頭を撫でた。

 

 

「まあ聞けって。でもなんかさ、いろいろ会って話してる内に、印象変わったていうか、なんて言うか……」

 

 

杏子は少し恥ずかしげに頬をかく。

 

 

「だから、つまり」

 

「?」

 

「未来の、馬鹿なアタシは、まだアンタを誤解してるんだろ。だから今みたいにもっと話しちゃくれないか?」

 

「う、うん……!」

 

「そしたらきっと、アタシがよほどの大馬鹿じゃない限り、アンタの想いは受け止めるはずさ」

 

 

まどかは何度も何度も頷いた。

 

 

「頼んだよ。できればアタシの事は許してくれ。どうしようもないヤツなんだ」

 

「そんなことないよ! 絶対、絶対ッ、いっぱいお喋りするからね!!」

 

「ハハハ、変なヤツだなぁ」

 

 

笑いあう二人。

だがその時、ふと、耳鳴りが。

キィイン、キィイン、そこに混じる濁った心臓の鼓動。

波打つ闇の気配。脳に纏わりつく不快感。それは一瞬だった。

まどかは立ち上がると同時に、魔法少女に変身。

 

呼び出した天使はニターヤー。

まどかは結界の箱で手塚のアパートをまるごと包み込む。

直後、両手に伝わる衝撃。骨が軋み、まどかは不快感に表情を歪ませた。

 

 

「うぐッ!!」

 

「ど、どうしたんだよ、まどか!」

 

 

杏子だけが心配そうに駆け寄る。

一方で他のメンバーは全てアパートを飛び出し、外の様子を確認した。

そうしたら、ほら、やはりいるじゃないか。モザイク状のエネルギーを顔に纏わせた従者型の魔獣が並び立っているじゃないか。

そしてそれを引き連れているリーダー格もほら、ほら、ほら。

 

 

「ィよう。久しぶりだなァ、参加者ども。オメェらもココに来てるたァ、ちと予想外だったぜィ」

 

「ゼノバイター……!!」

 

 

マミはすぐに中沢と仁美を守るように立つ。

 

 

「気をつけて二人とも。アイツ、かなり強いわ」

 

「は、はい……!」

 

 

結界越しに睨み合う両者。

すぐにまどかと杏子も、ゼノバイターを確認する。

 

 

「あ、あれが魔獣ってヤツか……!」

 

「うん。ゲームを仕組んだ存在だよ」

 

 

明らかに魔女とは違う異質さ。

ましてや人間の言葉を流暢に話す異形は珍しい。

杏子は思わず二歩ほど後ろに下がった。かつてない緊張感が走る。

しかしその中でゼノバイターは笑っていた。

 

 

「まあいい。なにも今ココでおッ始めようってワケじゃねェんだ」

 

 

そう言ってゼノバイターは手塚の傍にいるほむらを指差す。

 

 

「暁美のほむらちゃんさえ渡してくれりゃア、後で、楽に殺してやるぜェ」

 

「従うと思うのか?」

 

「ハハハ、まあそうだろうな。わーってるよンな事」

 

 

腰を曲げ、触覚を揺らす。分かりやすい戦闘の準備。

 

 

「丁度いい。お前らに面白いモンを見せてやるよ」

 

「何……ッ?」

 

「そもそもオメェらもインキュベーターから聞いてんだろ。この虚心星原が生まれた理由や、その裏にあるものをな」

 

 

それは、『焔』。

 

 

「ずっと気になってた。ギアが円環の理に攻め入った時から、ずっとな」

 

「ッ?」

 

「円環のカスザコ共を殺すのは何の問題もなかった」

 

 

魔獣として進化し、さらにミラーモンスターの力を得たばかりではなく、魔法少女キラーであるイツトリもいたのだから全滅させるのは、あまりにも簡単だった。

もちろんリーダーであるまどかも、ギアには、なによりイツトリに勝てなかった。

 

だが、しかし――、逆にそれが気になった。

いくらなんでも弱すぎる。確かにイツトリは魔法少女キラーだ。

その力を全て忘れれば、魔法は魔法ではなくなる。

 

だがしかし、まどかだって魔女キラーとも言えるではないか。

いや、戦いはその上をいっている。イツトリは自分が魔女である事を忘れているし、そもそも『概念』であるが故に、神と言うのが正しい。

しかし、まどかとて神だ。概念と概念、五分五分のはずだが?

 

 

「ギアは知ってたんだ。暁美ほむら、テメェがまどかから円環の理の一部の奪っていた事に!」

 

「!」

 

「その後、テメェはワケの分からない『愛』とか言うクソみたいな理由でさらに進化を果たした。おぞましい悪魔の姿にな!」

 

 

弱体化したまどかは、ギアには勝てず。力を奪っただけのほむらもギアには勝てず。

とは言え、所詮はただの弱い人間だったほむらを、円環の理に匹敵するかもしれない悪魔へと昇華させたエネルギーは非常に興味深いものだった。

円環の一部、そして未曾有の感情である――……。

 

 

「俺様達はそれを解析し、独自に擬似的なものを作り上げた」

 

 

幸いにも、ほむらの力を端的に持つクララドールズが魔獣側についたことで、分析は楽にできた。

魔女のコアを封印するダークオーブなどを開発したのは、その恩恵のひとつだ。

だがその全てはいまだに解き明かされてはいない。ともあれ、今まで魔獣がそこまで全容に拘ることが無かったのは、『アレンジ』が既にオリジナルに匹敵していたからだ。

 

魔獣産のダークオーブや、クララドールズ達は、既に戦闘を行うアイテムとしては十分だったし、なによりも魔獣の役割は力の解析でもなければ、ゲームを荒らす事でもない。

ゲームを楽しむ事だ。

 

サバイバルゲームのサイクルは既に完成され、娯楽としては完璧だった。

無理に兵器を作る必要はないと考えていた魔獣は多かっただろう。時間を潰してしまえば、その分ゲームにも参加できないし、快楽を得ることが出来なくなる。

 

 

「だがクソッタレな城戸真司や鹿目まどかのおかげで、こうなッちまった。アァア、思い出してもムカつくぜェエ!」

 

 

石ころを思いきり蹴り飛ばす。

とにかく魔獣は戦わなければならなくなってしまった。

そこでゼノバイターは思いついたのだ。あの強大なエネルギーを使わない手はないと。

 

ゼノバイター達はすぐに暁美ほむらの中に眠っているはずのエネルギーを探した。

しかし――、見つからなかったのだ。

いや、確かに微弱なエネルギーあった。しかしその根本。最も力を放つべきエネルギーが存在していなかった。

 

 

「これは……、どういう事か?」

 

 

フールズゲームの檻から逃げられるワケがない。

と言うことはただ一つ、かつて鹿目まどかがタルトと共に逃げ出したように、力が分離したのだ。

意図的か無意識かはともかくとして。

 

いずれにせよ、お茶会の会場がバレた事でゼノバイターとテラバイターはそのシステムに、可能性に気づいた。

暁美ほむらも同じかもしれないと思った。力の一端が分離し、その一端の中に目的のエネルギーがあったのなら……!

 

 

「問題はそれがどこにあるかだ……」

 

 

一体どこに隠れているのか。お茶会世界のようならば、探すのは少々面倒だ。

そもそもどういう形で存在しているのかも分からない。

だからゼノバイター達は『共鳴』と言う手に出た。

 

 

「分離されたからと言って、それが暁美ほむらの一部である事にはかわりない」

 

 

だからこそテラバイターと共にほむらを襲った。

全ては力の集合体である『暁美焔』を探すために。

 

 

「これはテラのヤツがテメェから抜き取った魔力の欠片よ」

 

 

そう言ってゼノバイターは紫色に発光する光球を取り出す。

そう言えばテラバイターはほむらから何かを抜き取り――

 

 

『テラ、もらってくぜぇー」

 

『それはまだ不完全よ! 一番いいところで邪魔が入った!』

 

『ねぇーよりマシだろうが。じゃあなぁ!』

 

 

このようにゼノバイターはちゃんと回収していた。

この光球こそがほむらの魔力の欠片。

正確に言えば、かつて暁美ほむらがまどかから奪った円環の理の欠片である。

 

かつて神になったまどかが100だとしよう。

そこでほむらが力を奪い、ほむらは50の力を手に入れた。

そしてどこかでほむらはさらに力を分離させ、30をどこかに隠した。その30が欲しいのだ。

 

だからこそ、まずは20を奪おうとしたが、失敗。奪えたのは10ほどか。

その10こそが今ゼノバイターの手にあるものだ。

 

 

「暁美ほむらが手にいれた神の力全てを、俺様が手にする。そうすりゃあ、テメェらはすぐに終わりだ」

 

 

手に入れた力を解析する事で、このLIAR・HEARTSに残りの力。

つまり焔がいることが分かった。

 

 

「暁美焔を抹殺し、中にある力は手に入れる」

 

 

ましてや、一つ訂正を。

ゼノバイターの手にある円環の理の力は10ではない。

10だってものを精錬し、魔獣なりのアレンジを加えた。

たっぷりの絶望のエネルギーである瘴気を注ぎ込み、100にしてみせたのだ。

もはや独自性を突っ走った結果、より歪なエネルギーが出来上がってしまった。

 

 

「コイツを、こうするのさ!」

 

 

ゼノバイターが指を鳴らすと、クララドールズが一体、現れる。

 

 

「ッ、なんだアイツは……!」

 

 

前のめりになる下宮。

長い間、魔獣側にいた彼でさえ、見た事のないタイプだった。

 

 

「クララドールズは14体じゃないのか!!」

 

 

ゼノバイターは笑う。

 

 

「コイツはな、15体目よ」

 

 

15番目。最後に来るのが、アイ。

その悪魔をまだ誰も見ぬ。もう夜は終わらせない。

我等は泣き屋――、此岸の劇団。

 

 

『………』

 

 

不気味な姿は相変わらずだが、他のクララドールズと比べて一つだけ大きく違う点がある。

それは髪がないと言う点だ。つまりスキンヘッドである。

そして、ゼノバイターは思い切り光球を握りつぶした。

溢れる光の粒子。それはアイの頭上に収束すると、ウィッグ(カツラ)に変わる。

 

 

「一つだけ危惧するところがあった。いくら大量の瘴気でコーティングしたところで、円環の理の力を性質は希望だ。俺達魔獣には猛毒になる可能性がある」

 

 

拒絶反応(リジェクション)は避けたい。

ましてやゼノバイターはもう十分と強化されている。

下手なミスでせっかく取り込んだ力を失うのはゴメンだった。

だからこそ、それに耐えうる器を作った。それこそがクララドールズ・『アイ』。

 

 

「ククク! 生まれるぜェ? 究極の色つきだ!!」

 

 

桃色のツインテールのウイッグがアイに装着される。

すると凄まじい光が迸った。いや、光と言うよりは闇だ。黒く煌く、絶望の闇。

それはもはやクララドールズを超越するもの。欠番とされていた最後の『色つき』。

 

 

「まさか――ッ」

 

 

ほむらは目を疑う。

アイの肌の色が、青から『肌色』になった。

そして黒いドレス。真っ黒なドレス。しかしそれは見覚えがあるデザインだった。

 

それは愛。

それはアイ。

それは、I(アイ)

 

 

「……わたし?」

 

 

まどかが呟く。

ゼノバイターの隣に立っていたアイは、完全に変身を完了させた。

それは間違いなく、『鹿目まどか』の姿ではないか。

 

 

「気分はどうだァ? 色つき、愚者(フール)!!」

 

 

フールはゆっくりと目を開け、そして。

 

 

「――ヒヒ」

 

「!」

 

「ティヒヒッ! ウェヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 

 

見た目も、声も、完全にまどかと同じだった。

違いは真っ黒な魔法少女の服装だけ。

後は目つきか。ジットリとした、殺意に満ちた目つきだ。

穏やかなまどかの目つきとは違い、据わっている。

 

 

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

 

フールは存分に笑うと、ゆっくりと首を回す。

 

 

「あーッ、とってもいい気分……!」

 

「何が、どうなってッ」

 

 

驚いているほむらを、フールは呆れたように見ていた。

 

 

「何がって……、全部ほむらちゃんのせいでしょ?」

 

「ッ!」

 

「貴女が泥棒した(ワタシ)の力が、魔獣のエネルギーを受けて具現した。ただそれだけじゃない」

 

 

まどかの姿をしている理由は二つ。

ひとつは、円環の理の力が、元々まどかの物であったため。

もうひとつは、ほむらのまどかに対する想いが強すぎたため。

 

ほむらの中に精錬された力は、まさに『まどか』と『ほむら』の子供のようなものだ。

それがさらに魔獣のエネルギーを受けて完成された。

ベースになったクララドールズだって、元々はほむらのもの。

何から何まで『まどか』と『ほむら』。

 

 

「でも足りない。まだ足りない」

 

 

フールは目を細める。

 

 

「満たされないんだよねぇ。こんなクソみたいな希望の力なんて、反吐が出ちゃうよ」

 

 

まどかの声で放たれる汚い言葉に、誰もが怯む。

 

 

「わたしは完成したいの。全てを完成させた上で、円環の力を絶望で染めたい。だから焔ちゃんを殺すね。ほむらちゃんも殺すね。まどかも殺すね」

 

 

所詮、魔獣の(しもべ)と言うことなのか。

出来上がったのは円環の理の一部を持つ魔獣だ。

全ての力を集め、100になろうとする異形のモンスター。

まるでそれは龍騎とリュウガのように。光と影を連想させた。

 

 

「クカカカ! コイツはありとあらゆるブースターよ」

 

 

ゼノバイターは笑い、説く。

つまりフールは、まどかでもあり、ほむらでもある。

それゆえに――、指を鳴らす。

 

 

「ナーイトメアー……!」

 

 

フールから闇が溢れると、それが一つのシルエットを形付ける。

 

 

『ゲビビバババ!!!』

 

 

フェルトのぬいぐるみのようなモンスターが生み出された。

頭には大きな口のついた被り物をかぶっており、どうやら下にある顔ではなく、頭の口から声が出ているらしい。

 

 

『我が主であるフール! 何かご命令デ!?』

 

「うぅーん、アレどっちぃ?」

 

 

フールが指差したのは、ほむらだ。

ナイトメアは無駄に震え、奇声をあげる。

 

 

『クソカスほむらでございマス!! 焔はまだ、気配なきカナ!!』

 

「そっかぁ。じゃあ――」

 

 

フールは頬を押さえて下卑た笑みを浮かべる。そして地面を蹴り、黒い翼を広げた。

同じくしてフールの真下に五つの魔法陣が広がった。

そこから感じる魔力は間違いなく、魔法少女のものではないか。

 

そのまま魔法陣から頭が伸び、体が見え、足が出てきた。

こうしてフールの下には、あっと言う間に五人の魔法少女が召喚される。

 

 

「ニコちゃん!?」

 

 

まどか達は、すぐに声を荒げた。

と言うのもフールが召喚した魔法少女の中に、よく知る神那ニコの姿があったからだ。

彼女もこの世界に呼ばれたのだろうか?

 

 

「ニコ、か」

 

 

声は同じだった。

が、しかし、魔法少女時の服装が違う。

パイロットスーツのようなニコとは違い、ベレー帽に円形の装飾が目立つ黒い服。

 

 

「とんだフェイクの名前を出されたな」

 

「――?」

 

「ふふ、円環の理の記憶はまだ曖昧なんだね。ダメだよまどか、カンナちゃんを忘れるなんてかわいそう」

 

 

戸惑うまどか達。

ニコに似た魔法少女は『カンナ』と言うらしい。

他には、髪を蝶結びにして、同じく蝶を模した魔法少女服の、『日向(ひなた)華々莉(かがり)』。

 

さらにカラスの仮面を被った『コルボー』。

ウサギの仮面を被った『ラピヌ』。猫の仮面を被った『ミヌゥ』の三姉妹。

 

この突如現れた魔法少女達は何を意味しているのか。まどかはすぐに答えにたどり着く。

記憶に無いのは、文字通り、その部分を奪われたから。

 

 

「まさか……」

 

「そうだよ、ワタシは貴女の力、円環の理なんだから。ましてや魔法少女のデータは全て魔獣が管理してる。この二つがあれば簡単だったよ」

 

 

円環の理の主であるまどかは、まさに神。

たとえ埋め込まれた力が『破片』であったとしても、まどかと同じ力を持つフールが神なのは変わりない。

女神の権限。魔法少女達の花園にアクセスができるのだ。

 

 

「引き抜いたの……!?」

 

「そう。この子達は使えそうだったもんね」

 

 

簡単に言えば洗脳である。

円環の理に導かれた魔法少女を、下僕として使う。

 

 

「そんな……ッ、酷いこと!」

 

 

ただでさえゲームに巻き込まれただけでも酷いのに、魔獣側の兵士として扱うようなものだ。

魔法少女の救済を願ったまどかにとっては、心が締め付けられるほどの痛みが心に走る。

とは言え、肝心のフールに悪びれる様子はなかった。

人差し指を頬にあて、わざとらしく首を傾げて見せる。

 

 

「どうして貴女がこの子たちの幸せを決められるの?」

 

 

フールもバカじゃない。

洗脳は抵抗される可能性もある。その可能性も考慮し、魔法少女を選んだのだ。

 

 

「この子達って元々黒いものを抱えてたから、瘴気漬けにしてあげたらむしろ元気になったよ」

 

「そんなッ!」

 

「そもそもさぁ、酷いと思わない?」

 

 

フールは唇を触る。

そして同じ顔した。同じ声した鹿目まどかを見下したように笑ってみせる。

 

 

「勝手に救済って、寒いんだよ」

 

「!」

 

 

それを証明するようにコルボー達は動き出す。

 

 

「グダグダとどうでもいい。奴らを消せば我々の望みは叶うのだな?」

 

「もちろんだよ」

 

 

フールはコルボー、ラピヌ、ミヌゥを見る。

 

 

「魔獣の勝利に貢献できれば――」

 

 

そして華々莉を見る。

 

 

「大切な人に会わせてあげる」

 

 

そして最後にカンナを。

 

 

「本物にもなれるよ」

 

「………」

 

 

カンナは無言で薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

「じゃあ、みんな」

 

 

フールの一声で空気が変わった。

ナイトメアは慌ててフールの中に消えていく。

従者型の魔獣は一勢にモザイクを光らせ、ゼノバイターは笑いながらブレードのついたトンファーを構える。同じくして構える魔法少女たち。

それは、まどか達も同じだ。

 

 

「――殺しちゃえ」

 

 

フールが腕を前に出すのが合図だった。

従者型が一勢射撃。瘴気のレーザーは一勢にボックス状の結界に命中すると、蒸発するように消滅させる。

 

だが同じく変身して飛び出したまどか達。

光が飛び交う中、コルボー、ラピヌ、ミヌゥ、華々莉、カンナ、フール、ゼノバイター。

まどか、ほむら、ライア、仁美、アビス、マミ、杏子。

無数の戦士達が走り、武器が交差する。

 

 

 

 






LIAR HEARTS The・ANSWER編、開幕。

ライアーハーツを中心に進めていくんで、そちらの方を見ておいてもらえるとかなり分かりやすいと思います。
が、しかし、ライアーハーツ自体、手塚×ほむらを含んでいるので、カプ厨の方はごめんなさい(´・ω・)



あとヤク――、井上さんを学ぶ為に『海の底のピアノ』を買いました。
とても素晴らしい作品でした。



(´・ω・)………。











(´・ω・)(まぁたウンコとセックスばっかりだよ)


でも、今回のおしっこの使い方はマジで切なかったです。
少なくとも僕が読んだ本の中では一番切ないおしっこでした。
いや、マジで何言ってんのか分からないと思いますが、本当に美しい作品でした。

まあとにかく、食事、排泄、性行為。生きていく中での行動。人としての行為。
そういうものが、まともにできない人間は、人間なのか。
ヘンペルのカラスみたいなもんですか。カラスは黒い。だったら黒くないものはカラスじゃない。
人としての行為が満足に出来ないヤツは、人じゃない。
異形はどこに行けばいいのか。異形を誰が愛してくれるというのか。


的な、やつ……(適当)


僕はライダーオタクなので、読み終えた後に、作者紹介に龍騎やファイズが並んでいる事にある種の宿命を感じました。
ライダーは全く関係ない作品でしたが、どこか根っこに同じものが流れているのではないか。
そういう想いを駆り立てる宿命の一冊だったと思います。

次はちょっと語ろうシリーズにも手を出してみましょうかね。


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