仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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登場人物のネタバレ版を更新しました。
それだけじゃアレなので、予定を変更して、もう一話だけ本編も更新しておきます。



第89話 私の世界には要らないわ

 

 

「クハハハ! いいぞ! 久しぶりだこの感覚は!!」

 

 

一番初めに群れを脱したのはコルボーだった。

走る。そして速い。翔ける中で地面を蹴って跳躍。

飛び回し蹴りで近くにいたアビスの背中を打つと、勢い止まらぬままに足を振るい上げて、盾を構えていたライアを弾き飛ばす。

 

ほむらも止めようと走るが、すぐに急ブレーキ。どうやら一瞬で力の差を感じ取ったらしい。

だがもう遅い、首を刈り取るような回し蹴りが飛んで来たかと思うと、足元に衝撃を感じて地面に倒れていた。

どうやら回し蹴りを途中でキャンセルして足払いに切り替えたらしい。

 

追撃はなかった。コルボーはほむらを通り過ぎて、さらに加速。

カラスを模した姿に相応しく、マントが翼になり空へ舞い上がる。

既に黒い羽が舞い散っているなかで、その中には風を切り裂く『弾丸』が混じっていた。

羽根型の『刃』は雨のように降り注いで標的を狙う。

 

しかし地面を走る桃色のシルエット。靴裏が地面をこすり、摩擦で煙を上げる。

まどかだ。羽を生やす魔法、ディフェンデレハホヤーには、仲間を守るときにスピードが上がる効果がある。加速する中、肩を思い切り振るうと、背にあった翼が巨大化して広がって壁になる。

大きな結界の翼は、次々に黒い羽を受け止めて無効化していった。

もちろん、それだけでは終わらない。

 

 

「リバースレイエル!!」

 

 

まどかを後ろから抱きしめるのは、目を閉じた天使・レイエル。

レイエルはすぐに開眼。すると結界で受け止めた刃がコルボーに向けて反射される。

 

 

「ムッ!!」

 

 

いきなりの反射に怯んだか、コルポーのスピードが緩んだ。

その戦闘の中、まどかはテレパシーでキュゥべえと会話を行っていた。

どうすればコルボーたちを助けられるのかだ。

 

 

『彼女達は現在、仁美のコネクトで呼び出される魔法少女たちと限りなく近い位置にいる』

 

 

ゲームの参加者ではなく、あくまでも召喚されたもの。

 

 

『ソウルジェムももちろん存在しているし、それが砕かれれば死ぬ。ただしそれは殺害と言うよりは破壊と捉えていい。死の苦痛は伴うだろうが、そうする事でデータがフールから分離し、本来の持ち主であるキミへ戻るだろう』

 

 

つまり助けたければコルボー達そのものを倒すことだ。

だからこそ、まどかも心を鬼にしてコルボーへ攻撃を仕掛ける。

 

 

「!?」

 

 

だがそこで気づいた。まどかが反射した羽は、コルポーには届いていない。

羽を受け止めていたのは大きな『盾』を持った天使だ。いや、堕天使か。

 

 

「アイギスアカヤー」

 

「!」

 

「ヒヒヒ」

 

 

まさか――、と、まどかはフールを見る。

下卑た笑みが返ってきた。目を閉じた堕天使がフールの傍にいた。

 

 

「リバースレイエル」

 

 

同じ魔法。

弾丸は再反射されて、呆気に取られたまどかへ降り注ぐ。

 

 

「ぐっ!」

 

 

なんとかバリアを張って防ぐことはできたが、ショックは大きい。

だがおかしな話ではない。流れる力が同じなのだから、同じ魔法を再現することは難しくない。

 

 

「塗り絵はね、自分が好きな色を塗るから楽しいんでしょ?」

 

 

フールは弓を構え、まどかの前に立つ。

 

 

「あなたの色は気に入らない。わたしが――、私がもっと汚い色で染めてあげる!」

 

「させない……! 魔法少女の苦しみは、わたしが解放する!」

 

「それがさ――」

 

 

二人は同時に地面を蹴った。

 

 

「ウザイって言ってんの!!」

 

「!」

 

 

フールが腕を突き出すと、細長い棒状の結界が地面を突き破って伸びていく。

それらはまさに槍だ。杏子の異端審問同じく地中から飛び出る凶器である。

しかしまどかはステップでそれを回避しながら前に出る。時に光の翼で槍を破壊し、時に空中を舞い、攻撃を無効化していく。

 

それだけじゃない。

まどかも円形のバリアを作ると、それを薄くして投げた。

飛来するのは巨大なフリスビーだ。フールがそれを射撃で破壊すると、バラバラになった結界の破片がさらに降り注いでいく。

 

 

「ウザ……」

 

 

フールは翼で風を起こして破片を吹き飛ばす。

エンジンが掛かった。双方は弓を連射しながら、盾で攻撃を無効化しながら、確実に距離をつめていく。

気づけば互いが眼前に迫っていた。フールはロッドに変えた弓を横に振るい、まどかは杖を下から上へすくい上げた。

 

同時に打ち付けあう弓。

力はまどかの方が上なのか、フールは衝撃で空中に打ち上げられる。

だが問題はない。フールはそのまま翼を広げてバク宙。空に舞い上がりながら弓矢を連射して、黒い雨をまどかへ向かわせる。

 

 

「アイギスアカヤー!!」

 

 

天使アカヤーが大きな盾を持ってまどかを守る。

降り注ぐ黒い弓矢は、次々に盾に受け止められるが、既に双方はその『次』を睨んでいた。

お互いは早口で魔法詠唱を行っている。

 

 

「輝け天上の星々アドナキエル! 煌け、瞬光のサジタリウス!!」

 

「穢せ墜落の星々グラシャラボラス! 濁せ、瞬光のサジタリウス!!」

 

「聖澄なる軌跡を与えられし徒となる光よ!」

 

「呪いの疾走! 殺意の軌跡! 憎速に乗せられし漆黒!」

 

「「万物を貫く矢と変わり、我を照らしたまえ!!」」

 

 

盾が消え、まどかとフールの視線が再びぶつかり合う。

まどかの手には神々しい弓型の天使・アドナキエルが。

フールの手には禍々しい弓型の悪魔・グラシャラボラスが宿る。

弦を振り絞る程に、空気が震えるのを感じた。力が、魔力が、弓矢に収束していくなかで、両者の視線がまたもぶつかり合う。

 

 

「「撃ちぬけ、射手よ!」」

 

 

シンクロする言葉。

同じくして弦を放す動作もまた同じタイミングで。

 

 

「スターライトアロー!!」

 

「スター! ライトアローッ!!」

 

 

まどかから光の矢が。

フールから闇の矢が発射され、それぞれはすぐに風を切り裂いて衝突する。

激しい光が巻き起こり、両者は目を細めた。

しかしそれは一瞬だ。爆発が巻き起こる中、まどかは光の翼を広げて空を疾走する。

 

 

「ハアアアアアアアアア!!」

 

 

光の奔流。相殺しあう光と闇の間を翔け抜け、まどかは一気にフールへ距離をつめる。

そして互いに天使を召喚。呼び出すのは上級天使のラファエルだ。

まどかの頭上に、フールの頭上に、上半身だけの巨大な天使が姿を見せた。

ラファエルの能力は相手の攻撃を自動的に盾で受け止め、反撃の剣を振ってくれる。

 

 

「パニエッ!」

 

 

まどかが息を吸い込むと服がボンッ! と一気に膨れ上がる。

 

 

「ロケット!!」

 

 

空気が一気に抜けて、文字通り一瞬で加速するまどか。

脳天を中心に結界を張っており、頭突きはまさにミサイルそのものだ。

しかしその一撃をフールのラファエルが盾で受け止める。となればすぐに黒い剣がまどかを叩き終ろうと振るわれるのだが、それはまどかのラファエルが受け止める。

すぐに光の剣がフールの胴体を切断しようと迫る。しかしそれを闇の盾が受け止めた。

 

その応酬が続いていく。

まどかは体を捻って地面を蹴ると、側宙で飛び上がった。

広げるのは光の翼。フールも闇の翼を広げて飛び上がる。

撃ち合う光の弓矢と、交差する闇の弓矢。次々と攻撃が交差する中で二人は上昇し、お互いの天使も白と黒の斬撃を乱舞させる。

 

刃を打ち付けあう音に混じって炸裂音が響き渡った。

強化した攻撃、トゥインクルアローがぶつかり合ったのだ。

速度のある矢は天使が盾を構えるよりも速く飛来し、ぶつかり合う。

 

光と闇の破片が飛び散る中で、お互いはお互いを真っ直ぐに視界へ捉えた。

いける。まどかには余裕があった。

初めはフールの姿や勢いに怯んだが同じ力であるだけあって攻撃の詳細が分かっているのは大きなアドバンテージだった。

 

 

「………」

 

「!」

 

 

しかしその時、フールの口元が緩む。

まどかの心に宿る不安。あれは決して意味のない笑みではない。

そう感じた時にはもう遅かった。

 

 

「余裕だな女神」

 

「ァ」

 

「余所見はいけない」

 

 

気配を感じて斜め下を見る。するとそこにコルボーの姿があった。

伸びた拳。それは盾が受け止めるが、なにぶん今まで多くの攻撃を受けてきた盾だ。

既にボロボロになっており、コルボーにとっては随分と薄い壁だった。

 

 

「周りはよく見ないと」

 

 

フールが歪んだ唇を人差し指でなぞる。

コルボーはまどかの盾を粉砕して距離を詰めると、ツインテールの一方を掴み、そのまま真下へ投げつける。

とは言え地面まではまだ距離がある。

まどかは光の翼を広げてバランスを取ろうとするが、伸ばした翼へ命中する闇の弓矢。

 

 

「うあぁッ!」

 

 

翼を破壊されたまどかは何も出来ずに地面へ激突する。

一度バウンドした後、すぐに翼を再生成して体勢を整えようとするが、そこには既にコルボーが迫っていた。

 

 

「もらったぞ女神ッ!」

 

「!!」

 

 

拳が伸びる。まどかは結界を張ろうとするが、既に拳は目の前だ。

バリアを張るには遅すぎる。まどかは思わず目を閉じ、痛みを耐えようとする。

しかしコルボーの表情が先に歪む。突如地面から赤い槍が伸びてきたかと思うと、刃が手首にヒットしてパンチの勢いが死んだ。

 

 

「させるかよッッ!!」

 

「ムッ!」

 

 

全速力で走ってきたのはもちろん佐倉杏子だ。

タックルでコルボーを吹き飛ばし、槍を高速で振り回して威嚇を行う。

 

 

「大丈夫かまどか!」

 

「うんっ! ありがとう杏子ちゃん!」

 

「あのカラス女はアタシに任せろ! お前は、ニセモノに集中しな!!」

 

 

そう言って杏子は走っていった。

まどかは強く頷くと、再びフールを睨みつける。しかし向こうからの視線は随分と冷めたもの。

 

 

「大丈夫ゥ?」

 

「えッ?」

 

「あの子、行かせちゃマズイと思うけど」

 

 

まどかが横を見ると、丁度コルボーが杏子のポニーテールを掴んで地面へ叩きつけているのが見えた。

 

 

「杏子ちゃん!」

 

 

すぐに助けに走ろうとしたまどかだが、そこで衝撃。

背中を撃たれた。痛みに表情を歪ませて振り返ると、クスクス笑っているフールが見える。

 

 

「あははっ、バーカ!」

 

「ッッ」

 

 

唸り声をあげて立ち上がる杏子。

心配ないとすぐに叫ぶが、鼻を中心にして血の痕が広がっている。

どうやらストレートを顔面に頂いたらしい。

 

とは言え魔法少女ならなんのその。

すぐに自己修復機能を働かせて、槍を片手に突っ込んでいった。

しかし杏子が与えられた攻撃は先ほどのタックルが最後であった。

どれだけ槍を突き出そうが、コルボーはそれをヒラリとかわしてみせる。

そればかりか槍の柄を掴むと、引き寄せて杏子が前のめりになった所で背中を裏拳で打ち、地面に叩きつけた。

 

 

「うぶっ!」

 

 

さらに倒れた杏子を蹴り飛ばし、追撃を与える。

転がっていく杏子は、すぐに立ち上がるが、結果は同じだった。

数秒後には再び地面を擦っている。

 

 

「つ、つぇえ!」

 

 

杏子のために言っておくが、これは彼女が弱いわけではない。コルボーが強すぎるのだ。

杏子はむしろ魔法少女でも場数を踏んだ分、強い方だが、コルボーはそれを全て上回っていく。

 

 

「当然だ」

 

 

コルボーは自慢げに笑っている。

 

 

「戦う為に生まれた我らと、温い世界で生きてきた貴様ら」

 

「ッ」

 

「時代が違う」

 

 

まどかは唇を噛み、すぐに杖を振るった。

蕾のギミックが展開し、大量の花びらが舞い散る。

攻撃かと目を細めたフールだが、それはただの目くらまし。

まどかは早口で詠唱を済ませると、弦を引き絞る。

 

 

「スターライトアローッ!!」

 

 

山羊がフールに向かって飛んでいく。

もちろんフールがそれを許すはずも無い。掌を前にかざして結界を構築する事で簡単に山羊を消し飛ばす。

 

 

「あ」

 

 

そこで気づいた。

 

 

「そっか、これって――」

 

 

そこでフールの体が浮き上がった。

山羊の角がガッチリとフールを捉え、空を疾走していた。

山羊座は一度撃った弓矢を幻に変えることができる。正面からの攻撃はフェイク。本命は背後から飛び出した方だ。

山羊はフールをコルボーのもとへ運んだところで消滅。さらにそこで、杏子を覆う結界の箱(ニターヤーボックス)が現れる。

 

 

「あら」

 

 

フールが真上を見ると、天空へ広がる魔法陣。

 

 

「これはいけないよね」

 

 

光の雨は浴びたくない。

フールはバリアを張って自身とコルボーを守るが、そこで地面から大量の槍が突き出て結界をブチ破る。

 

 

「お返しだよ、クソ女」

 

 

箱の中にいる杏子がニヤリと笑った。

フールとコルボー、二人の舌打ちが重なったところで、まどかのマジカルスコールが二人を包み込む。フールは素早く結界を再構築して自身を守ったが、コルボーは違う。

次々と光の矢が肉体へ直撃していき、凄まじい雨量に思わず膝をつく。

 

 

「さすがは女神ッ、悪くない……!」

 

 

が、しかし。コルボーは笑っていた。

 

 

「温いな。甘えか?」

 

「!」

 

 

雨が止んだ瞬間、コルボーの傷が癒えていった。

凄まじい回復速度だ。それだけ魔力を注いでいるのだろうが、不思議なことにコルボーの胸元に見えるソウルジェムはキラキラと輝いたまま。

一方でなぜか結界に守られているはずの杏子が苦しみ出した。

まどかはすぐにニターヤーに箱を運ばせて杏子の傍に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ッ、杏子ちゃん」

 

「ああ。なんか急にッ」

 

 

気づく。杏子のソウルジェムが先ほどよりは濁っている。

そこで聞こえる笑い声。コルボーは一つお辞儀をすると、自らの固有魔法である『強要』の説明を始めた。

 

 

「我が魔法、回復、攻撃、なんでもいい。それに使用する魔力は全て貴様らが消費してくれる」

 

 

魔法を使用するのに魔力を消費する。それは絶対のルールだ。

しかし、そのルールをコルボーは歪めることが出来る。

キリカ同じく見えない魔法陣を広げる事ができて、そこの入ったものの魔力を消費してコルボーが魔法を使う。

つまりどれだけ魔法を使用しても、コルボーのソウルジェムは全く濁らないのだ。

 

 

「もぉぉ……、なんでバラしちゃうかなぁ。黙ってれば良かったのに」

 

 

呆れたようにうな垂れるフール。しかしコルボーは相変わらず笑っていた。

どうやら戦闘に楽しみを見出すタイプのようだ。

一方で離れたところでも戦いは始まっている。拳を握り締めて前に出るアビス。しかし不幸にも、前にいるのはミヌゥただ一人。

 

 

「うッ!」

 

「ふふ、さあどうぞ?」

 

 

両手を広げるミヌゥだが、問題はそこではない。

アビスはまだ『少女』を殴るという課題をクリアできていなかった。

だが分かる。ちゃんとしないとヤバいのは分かってる。だから仕方なく拳を突き出してはみる。

 

 

「のわわわわっっ!!」

 

 

一応は力を込めた。

しかしミヌゥが体を反らした事で、拳の届く先が『胸』になる。

わき腹だとか、肩だったらまだ何とかなったかもしれないが、アビスは全力で拳を止めると、後ろに下がっていく。

 

 

「あっぶない……! セーフ!」

 

 

いや、アウトである。

 

 

「あら、お優しいのですね」

 

 

とは言いつつも、ミヌゥは隙だらけのアビスへ鞭を叩き込んでいった。

風を切る音が聞こえたかと思うと凄まじい衝撃が鎧を超えて伝わってくる。

 

 

「がはっ!」

 

 

さらに脚を捉えられ、地面に倒された。

ともあれ、そこで銃声。弾丸がミヌゥの腕に直撃し、後退させていく。

ミヌゥが舌打ち交じりに鞭を振るい、次々と弾丸を叩き弾いていく中で、赤いマントを翻して走る少女が見えた。

 

 

「中沢ァアア!!」

 

「イデデデデデ!!」

 

 

なぜか助けた筈のアビスにまで命中する弾。

走ってくるのはアビスペアに戦闘のイロハを教えているエリザである。

銃を乱射しながら疾走。そのまま倒れているアビスを思い切り踏んづけて前に出ていった。

 

 

「乳くらいで怯むとは何事ですのッッ!!」

 

「ち、乳って……!!」

 

「とにかく! 胸でも何でもッ!」

 

 

エリザはミヌゥの眼前に迫ると飛び上がる。

もちろんただのジャンプではない。爪先に魔力を込めた蹴り上げだ。

 

 

「ビシバシ叩いてダメージを与える!」

 

 

しかし言葉通りにはいかず。

ミヌゥは掌で爪先を受け止めると、そのままエリザの足首を掴んでを投げ飛ばす。

華奢な腕から見せる豪快な投げ。これが魔法少女の戦いと言うものだ。

エリザが地面に倒れたところを、ミヌゥは鞭でビシバシと殴った。

だがエリザはたったの数発受けただけで、鞭の不規則な軌道を見切ったようだ。

今度はエリザが片手で鞭を掴み、絡み取っていく。

 

 

「そしてッ、ぶちのめす! 戦いの鉄則と教えたでしょう!!」

 

 

突き出した銃剣。撃てばいいのかもしれないが、エリザはなぜか停止する。

一方でミヌゥも逃げる気配はない。両者、睨み合ったまま固まっていた。

 

 

「まさか、また、現世でお会いするとは」

 

「……こちらの台詞ですわ。もう、わたくし達の戦いは終わったと言うのに。まだ繰り返すつもりですの?」

 

 

ミヌゥとエリザはちょっとした知り合いらしい。

これでも、円環の理では、それなりに上手くやれていた筈だ。

もちろん友人とまではいかなかったが、女神(まどか)のおかげで険悪とまでもいかなかった。

 

なのに。またこれだ。

悪いのは魔獣の力で殺意を活性化させたフールとも言える。

しかしまだミヌゥ達に戦う意思があった事は紛れもない事実。

それだけミヌゥ達の憎悪は深く、それだけ願いや意思は強い。

 

 

「女神にも勝る愛が、我々にはあるだけの事」

 

「ならばまた送り返してあげますわ」

 

 

そこでエリザの銃が進化する。より巨大に、より荘厳に。

 

 

「そうすれば、せめてまた、美味しい紅茶を交わせるくらいには……」

 

 

エリザは引き金に指を――

 

 

「!」

 

 

銃を撃ったつもりだった。しかしそれは無理だ。

なぜならば、エリザの指が消えていたからだ。

 

 

「!?」

 

 

体が消え、魂が未来へ移動する。

しかし何故? エリザはまだ戦えるのに。しかしそうすると考えられる理由は一つだ。仁美の魔法が切れたのである。

 

 

「あ、あれ!? ど、どうして!」

 

 

困惑している仁美。頬を触り、体を確かめている。

間違いない、人間としての志筑仁美がそこにいた。つまり変身が解除されたのだ。

これでは魔法は使えないし、継続もできない。

 

しかしこの戦いの場で何故そんな危険なマネを?

そうだ、もちろん仁美は変身を解除する気などなかった。

これは魔法なのである。

 

 

「んふふ、気をつけないと――」

 

 

ウサギの仮面を被ったラピヌが、ウサギ型のビッドを浮遊させている。

ビットは『目』となり、視界に捉えた魔法少女や騎士の変身を解除させる。

これがラピヌの固有魔法。『魔眼』である。

 

 

「死んじゃうよ?」

 

「!!」

 

 

ビットからレーザーが次々と発射され、生身の仁美へ向かう。

ソウルジェムを操作すれば防御力は左右可能だが、やはりそれは魔法少女時よりも遥かに劣っている。仁美はどうする事もできず、腕をクロスさせて盾代わりにするしかなかった。

 

 

「仁美さんッッ!!」

 

 

グッと引き寄せられる感覚。

アビスが仁美の肩を掴むと、後ろへ回して、レーザーを背中で受け止めていく。

 

 

「ぐがッ!」

 

「中沢くん!!」

 

 

衝撃。そして光が迸り、仁美の前に中沢が現れる。

 

 

「えッ、あ! ごめん!!」

 

 

中沢はすぐ目の前に仁美の顔があったため、怯んで肩から手を離した。

仁美も目を見開き、険しい表情に変わる。

中沢は一瞬肩を掴んで引き寄せてしまった事に対しての不快感ではないかと思ったが、それは違う。

問題は中沢がそこにいる事だ。つまり彼も魔眼の力を受けたのである。

中沢は気づいていない。まだレーザーは飛んできている。

あれを受ければ生身の中沢では致命傷になる。

 

 

「危ないですわっ!」

 

「うわわッ!」

 

 

仁美は中沢の背中に手を回すと、そのまま引き倒すように地面へ伏せた。

中沢としては嬉しいやら悲しいやら。とは言え、地面に倒れた二人のすぐ上をレーザーが通過していく。

危ないところだった。仁美はホッと胸を撫で下ろすが、そこでまた青ざめた。

空、真上、そこにラピヌのビットが浮遊しているではないか。

その『目』は、まっすぐに中沢達を見つめている。

 

 

「!!」

 

 

避けきれない。そう思った時だった。

レーザーが放たれるよりも速くエビルダイバーがビットに直撃して攻撃を中断させる。

 

 

「あれ!? ちょっともうッ! なんなのよ!!」

 

 

ラピヌが頬を膨らませていると、ライアが距離を詰めてきた。

手にはエビルウィップがあり、それを伸ばすことでラピヌの腕を絡め取る。

そのまま腕を引いてラピヌを引き寄せる。

 

宙に浮き上がるラピヌの体。

ライアは足を振るい上げ、上段蹴りで飛んできたラピヌを狙う。

しかしラピヌも肘を振るい、ライアの足裏にぶつけていった。

 

 

「ちょっと! しっかり見ててよ! 私邪魔されるの嫌いなんだからぁ!!」

 

「わりぃ! 雑魚ってのは動きだけは素早くて――、よ!」

 

 

ライアペアと交戦していたのはゼノバイターだった。

ライアを逃がしてしまったのは、目の前にいるほむらのせいだ。

魔力で強化した警棒を振り回してゼノバイターを妨害してくる。

 

 

「あぁクソ! メンドくせぇな!」

 

 

ゼノバイターは回し蹴りを繰り出すが、ほむらは身を屈めて足の下を通り抜ける。

ならばと振るったのはゼノバイターが使っているソードトンファー。

カッターによる斬撃だけではなく、持ち手についている引き金を引くことで光弾を発射する中距離タイプの武器である。

 

裏拳を振るうようにトンファーがほむらの顔面を狙う。

しかし捉えたのは髪だけだった。美しい黒髪がハラハラと宙を舞うなか、ほむらの視界に光り輝く銃口が見える。

 

 

「じゃーな」

 

 

ゼノバイターの狙いは適格だった。

ほむらの回避ルートに合わせて放たれる光弾。しかしその時、ほむらの体が一瞬で消滅する。

空を通り抜ける弾丸。ゼノバイターが間抜けな声をあげると、思い切り頭部に衝撃が走った。

首が折れ曲がり、ゼノバイターは空を見上げる形になる。

 

 

「アァ、クソ! 時間停止かよ!」

 

 

ほむらは再びゼノバイターの前に移動すると、思い切り掌底を叩き込んだ。

もちろんただの打撃じゃない。爆弾を押し付けたのだ。

 

 

「消し飛べ」

 

 

ほむらの目が据わっている。

起爆スイッチを押す指に欠片の躊躇も無かった。

ゼノバイターの腹部ど真ん中に爆発の華が咲き、ゼノバイターは体をくの字に曲げながら後ろへ下がっていく。

 

 

「ッ」

 

 

とは言え、ほむらは眉を顰めた。

やはり硬い。装甲からは爆煙こそあがってはいるが、傷が付いている様子ではない。

ならばとナイフを両手に構えて走り出すが、そこでゼノバイターの触覚が伸びて鞭のように激しく乱舞する。

 

風を切る音、地面を叩く音、そしてほむらの体に衝撃が走る。

腕を盾にしたはいいが、骨までビリビリと響く衝撃だ。

持っていたナイフはあっという間に手から離れてしまい、気づけば足首に触角が巻きついていた。

下手に動かれる前に、もっとダメージを与えておきたい。

ほむらはトリックベントを使用、チェンジザデスティニーでライアと位置を入れ替える。

 

 

「え!?」

 

 

いきなりほむらが現れ、驚いているラピヌに食らわせたのは熱々のパイである。

バラエティーでよく見る光景だ。しかしほむらは真面目である。

熱したパイのクリームにはカイエンペッパーの粉末や、ブートジョロキアの粉末が大量に混ぜ込んである。古典的な方法ではあるが、意外と効くものである。

すぐに目を押さえて悲鳴をあげるラピヌ。ほむらは踵を返しながら時間を停止。

盾からロケットランチャーを取り出すと、ゼノバイターに向けて発射した。

 

仮にライアが引き寄せられたとしても、パートナー同士は傷つけあえないルールが働き、ロケットランチャーのダメージは限りなくゼロになる。

時間停止解除。弾丸が発射される音、着弾する音。

そして聞こえてくるアビスの悲鳴。

 

 

「は!?」

 

 

ほむらは思わず目を見開き、大きな声をあげる。

と言うのも、ほむらが銃口を向けていたのはゼノバイターではなく、丁度変身し直したアビスだったからだ。凄まじい威力で装甲が砕け、アビスは再び中沢へ変わり、地面に倒れていた。

 

 

「なんで!」

 

 

そこで触覚に引き寄せられたライアが殴り飛ばされ、ほむらの傍へ転がってきた。

 

 

「ぐぁッ! お、おい暁美! なんで時間を止めなかったんだ……!」

 

「何を言ってるの、私は確かに……!」

 

 

辺りを見回す。するとラピヌが顔に付いたクリームを全てふき取ってきた。

いや、違うのか。ほむらは理解する。時間を止めたつもりが止めていなかった。

ゼノバイターを撃ったつもりがアビスを撃っていた。

 

 

「クスクスクス……!」

 

「!」

 

 

そこで笑い声。

ほむらが視線を移すと、街灯の上に座っていた華々莉と目が合う。

 

 

「いけないんだぁ、暁美ちゃんってば。大切なお友達を撃っちゃぁ」

 

 

華々莉が何かをしたらしい。

ほむらは首を振って意識を覚醒させると、後ろへ下がって再び盾を操作しようとした。

しかしガチッと音がする。見ればいつの間にか紺色の鎖が盾に絡みついているではないか。

 

 

「無駄だ暁美ほむら。お前がバカな事をしている間に私の毒を打ち込ませてもらったぞ」

 

「!」

 

 

黒髪、サイドテールの少女が歩いてくる。

微かに記憶がある。しかしイマイチ思い出せない。

ほむらは訝しげな表情を浮かべていると、少女がニヤリと笑った。

 

 

「あの時は円環の理だったからな。改めまして、私はハサビー。魔獣だ」

 

 

ほむらの表情が不快感で歪む。しかし一方でハサビーの笑みは深くなった。

 

 

「いい、いいぞ! その顔だ暁美ほむら! 私はお前を気に入っていてね。いつも大量のチップを賭けていたぞ!」

 

「そう。それはどうも。お礼に地獄へ送ってあげるわ」

 

「ハッ! できるかな? いつも滑稽に踊って、最後は無様に失敗するお前が。私に勝てると言うのかな?」

 

 

ハサビーの手首に鎖が巻き付いていた。

それは途中まで辿ると、透けて消えてしまっている。

一方でほむらの盾にはその鎖が。なるほど、空間を越えて繋がっているのか。

 

どうやらあれが特殊能力のようだ。

正体は『固有魔法の無効化』。ハサビーの針を打ち込まれた魔法少女は毒に侵されてしまい、個性を失ってしまう。

ほむらはもうただのスペックの低い魔法少女だ。一定時間が経過するか、範囲外へ逃げるのか。

もしくはハサビーを倒さなければ解除はされない。

 

 

「華々莉。もう一度幻影を見せろ。その間に私が始末する」

 

 

ハサビーの命令口調に華々莉はムッとしたような表情を浮かべる。

どうやら洗脳されているとは言え、魔獣への忠誠心は低めに設定してあるようだ。

あくまでも本人の思考を侵さず、しかし凶悪性は高めてあると。

一方で殺気を感じる事に長けている魔獣は、ニヤリと笑ってみせた。

 

 

「そう敵意をむき出しにするな。約束を忘れたか?」

 

「ッ」

 

「お前がしっかりと我々の勝利に貢献できれば、椿のデータはくれてやる」

 

 

ほむらにはよく分からない会話であったが、華々莉の表情が変わったのを見ると、相当重要な内容らしい。

無言ながらも、ほむらを睨みつけて、再び掌を発光させる。

幻術とやらが来るのか。それとももう掛かってしまっているのか。

ほむらは意識を集中させて抵抗を試みた。

 

 

「させないわ!」

 

 

とは言え、それよりも速く割り入ってくる者がいた。

マミだ。まるでターザンのようにリボンに掴まり、マスケット銃を乱射していく。

無機質な弾丸はすぐに華々莉へ振りそそいでいき、魔法を中断させる。

 

 

「ありがとう巴さん!」

 

「え、ええ……!」

 

 

ほむらからお礼を言われる事に慣れていないのか、マミは少し嬉しそうに頷いてみせる。

しかし一瞬だった。マミが掴まっていたリボンが千切れ、墜落する彼女の胴体に脚がめり込んだのは。

 

 

「カハッ!!」

 

「ヒョーッウ!」

 

 

青い脚。ゼノバイターはマミを蹴り飛ばすと、地面を滑る彼女へ弾丸のおまけを一発。

 

 

「戦闘中に余所見とは間抜けだな巴マミィ。ンな事だからテメェは真っ先にトチって死ぬんだよバーカッ! ハハハハハハ!!」

 

「ッッ!!」

 

 

マミはすぐに立ち上がると、前方にマスケット銃を円形に並べて同時に射撃するティロボレーを発動。しかしゼノバイターは何のことは無くそれらを装甲で受け止めると、スピードを緩めずに距離を詰めてきた。

 

ゼノバイターは飛び上がり、体を回転させながらソードトンファーを振るう。

しかしマミも姿勢を低くして後方へ移動。刃を回避すると、マスケット銃を回転させて銃身を掴むと、銃床で殴りかかった。

抵抗感。ゼノバイターは刃で銃床を受け止めると、武器ではなく目からレーザーを発射する。

武器に気を取られていたマミ、ましてやレーザーのスピードが速い。

結果として呆気にとられている間にみぞおちが爆発を起こす。

 

 

「あゥッ!」

 

 

さらに怯んだマミへ、ゼノバイターはソードトンファーから光弾を二発ほど発射。

それぞれマミの両足の膝蓋骨に直撃すると、動きを停止させる。

すぐに触覚が伸びた。マミの足首に絡みつくと、ゼノバイターは思い切り頭を振るってマミを投げ飛ばす。10秒も無い時間、マミは地面を転がりながらも歯を食いしばり、狙いを定める。

 

 

「ティロ!!」

 

 

掌を地面につけると、ゼノバイターの背後に大砲が出現する。

これもまた一瞬。ゼノバイターが顔を後ろに向けた時には、砲口から巨大な弾丸が発射されていた。

 

 

「フィナーレ!!」

 

 

直撃、爆発がゼノバイターを包み込むが――

 

 

「ハハハハハハハ!!」

 

「!」

 

「浅ェ、浅いな巴マミィ! なんだぁ、こりゃあ? 蚊くらいしか殺せねーぞこんなショボイ弾丸じゃあ!!」

 

 

直撃したと言うのに、ゼノバイターは何のことはなく笑っていた。

聞いていた通り強い。マミが悔しげに表情を歪めると、一方でゼノバイターは両腕を光らせる。

デカイのが来る。マミが銃を構えると、その異変に気づいたのか、ほむらも走り出した。

 

 

「行かせないってば!!」

 

 

華々莉が吼えると、視界がグニャリと歪む。するとほむらの視点からマミ達が消えた。

これが幻術、すぐに意識を集中させるが、その時にはもう遅い。

すぐに全身に衝撃が走り、ほむらは地面を転がった。

 

 

「つれないな。キミには私だけを見てほしいのに」

 

 

気づけばハサビーが前にいた。

ほむらの髪を乱暴に掴んで引き起こすと、そこでビキビキと音を立てて変身。

その真の姿、『バズスティンガー・ワスプ』へと変わると、回し蹴りをほむらの肩に撃ち当てた。

変身の恩恵か。ほむらの体は軽々と浮き上がり、そのままアビスたちを巻き込んで地面に倒れる。

 

 

「ま、またぁぁあゥっ!!」

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

 

そこでまた景色が歪む。

華々莉の魔法によって現実が虚構に包まれる。

が、しかし、ほむらはそこで盾に腕を突っ込んだ。あまり気は進まないが、気合でなんとかできる魔法でもない。なのでウルズコロナリアを使う。

 

そう、ほむらが取り出したのはメガネだ。

それを装着するとホムラに変わり、視界はクリアになる。

そうだ、これは魔法のメガネ。強度はもちろん、一枚のフィルターを通すことで幻影が消え去った。そういう効果もあるのだ。

ホムラが立ち上がり盾を構えると、そこへワスプのレイピアが直撃する。

 

 

「ほう! 成程!」

 

「もッ、もももも! もう幻は効きません!!」

 

 

とは言え、ワスプはチラリと、ほむらの足もとを見る。

するとどうだ、ガクガクと震えているじゃないか。

 

 

「その姿は好きじゃない。折り甲斐がないな」

 

「え、え……ッ!?」

 

 

ワスプが指を鳴らすと、黒い風が巻き起こった。

見ればワスプを小型にしたようなハチが大量に群れを形成して飛んでいるのだ。

ブブブブとうるさい羽音が、すぐにほむらを包み込む。

 

 

「ブラックウィドー」

 

「きゃああああ!!」

 

 

纏わり付いたハチは尾の針や、口を使ってホムラを傷つけようとしている。

必死に振り払っているようだが、そうしている間にワスプ本体は弓を出現させて、弦を引き絞っていた。すると収束していく瘴気のエネルギー。アビスと仁美はそれに気づいたが、ホムラに声をかけようにもハチの羽音がうるさすぎて声が届かない。

ましてや二人にもハチが纏わりついている始末だ。

 

 

「ブラスティック・ワスピード!!」

 

 

ワスプが弦を放すと、黒いエネルギー波が発射されてハチごとホムラたちを吹き飛ばす。

悲鳴が聞こえ、さらに悲鳴が重なる。丁度まどかと杏子がフールたちの爆撃を受けて同じく吹き飛んできた。

マミもまたゼノバイターの一撃を防御しきれなかったか。一度は地面を滑り、そして敵達は笑い声を重ねていく。

 

 

「おやおや、皆様。精が出ます事」

 

 

そう言って笑うミヌゥだが、体に傷がついている様子はない。

ミヌゥ、ラピヌ、コルボーの三姉妹は、まどか達が生きてきた時代よりも、もっと過去の魔法少女だ。

魔法が戦争の道具に使われていた時代。

だからなのだろう、戦闘センス、そして覚悟の量が違う。

そう言った要素が優劣をつけたのかもしれない。

 

とは言え、そんな事を言っている場合ではない。はっきり言ってかなりマズイ状態だった。

仕方ない。あまり手の内を見せるのは避けたいが、早々にアライブとサバイブを切るしかないようだ。マミとホムラはアイコンタクトを行い、変身を行おうとする。

 

だがその時だった。

ふと、ホムラの目にライアの姿が映った。

奇しくもその時、ラピヌの魔眼がライアを見つめる。

そうすると変身が解除されて、手塚の姿が晒された。

 

 

「あ」

 

 

誰が言ったのかは分からない。

けれどホムラは確かに聞いた。自分の声を。

 

 

「駄目」

 

「え?」

 

「彼は駄目」

 

「あン?」

 

 

ゼノバイターが間抜けな声をあげる。

一瞬だった。目の前からホムラ達が消えたのは。

 

 

「……ありゃ?」

 

 

辺りを見回してみるが、不思議な事に、まどか達だけ消えていた。

透明になったとかそういう話ではなく、本当に消えてしまったようだ。

気配は感じないし、試しにミヌゥが鞭を振るってみるが感触はない。

 

 

「どう言う事ー?」

 

 

気だるそうにフールがゼノバイターを睨みつける。

 

 

「どうって……」

 

 

しばし顎を押さえて唸る。

聞き間違いでなければ、確かにあの声は……。

 

 

「共鳴が起こったのかもな」

 

「え?」

 

「元は同じなんだ。無意識に、突発的に、一つになるのは不思議な話しじゃない」

 

「ほむらちゃんが何かしたって事?」

 

「ああ。まあ正確にはホムラじゃなくて、ほむらでもなくて……」

 

 

焔。

 

 

「え?」

 

 

焔。ほむら。

 

 

「なに……?」

 

 

暁美ほむらは光る花畑の中に立っていた。夜空には星が煌いている。

この場所には見覚えがある。イチリンソウの花畑。ワルクチと会話をしていた精神世界ではないか。

そこで気づく。目の前に自分が立っていた。

いや、違う。アレは自分じゃない。ほむらはすぐに気づいた。

見えたのはいつのまにか無くしていた赤いリボン。

 

 

まどかに貰った大切な赤いリボン。

 

 

それを身に着けた自分が立っていた。

少し隈がある。疲れているのだろうか?

彼女は――、『暁美焔』は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここで映像は切れた。後の事は彼女にしか分からない』

 

「……ッッ」

 

 

神那ニコは、携帯の画面に映る自分の顔を見て真っ青になっていた。

 

 

『Do you understand? フフフ……!』

 

 

聖カンナは、今の映像を高所から記録していたようだ。

そしてその映像を、別世界にいるニコへ送信したのである。

ニコは始め、レジーナアイを通してメールが来るとは思っていなかった。

そして開いてみれば、そこにいたのは自分と同じ顔。

ニコはカンナの事を知っているが、知らない。それはカンナが一番分かっている。

 

 

「はじめまして? いや違う。きっとキミも理解してるはずだ。Counterpart」

 

 

聖カンナと言う概念を取り払わなければ答えは見えない。

しかしニコは継承者だ。遥か彼方、ゲームが開始される前、円環の理に導かれる以前の記憶も持っている。思い出そうとすれば必ず思い出す。

 

 

『忘れてほしくないね、私達のHope』

 

 

カンナはもっていた携帯を自分に向け、自撮りを行っている。

その映像がニコの携帯に送られている。

カンナはニコリと笑い、ピースサインを浮かべてみせた。

 

 

『また会える。必ず。そしてその時にお互いのANSWERをぶつけよう』

 

「……ッ」

 

『それでは、チャオ』

 

 

そこで映像が切れた。

ニコは崩れるように背にもたれかかると、真っ青になったまま天井を見つめていた。

サキが心配してくれて声をかけてくれたが、今のニコには返事をする余裕など無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこに行きましょう」

 

 

誘われて、言われるがままに足を進めた。

二人が入ったのは『酒処・あけみ屋』。イチリンソウの花畑の中、ひっそりと存在するレトロな居酒屋だ。ガラガラと引き戸を開けて、二人はカウンター席に並んで座る。

 

 

「ここ、なつかしいでしょう?」

 

「……ええ」

 

「ウーロン茶でいい? いつもそうだったから」

 

「ええ」

 

 

記憶を手繰り寄せて、ほむらは頷いた。

焔は慣れた手つきでグラスにお茶を注ぐと、それをほむらの前に置いて微笑む。

 

 

「このリボン。誰がくれたか覚えてる?」

 

「もちろんよ。忘れるわけが無い」

 

「嘘。忘れてた。イツトリの力で」

 

「……でも思い出してる」

 

「確かに。でもそれって何だかとっても卑怯だわ」

 

 

焔は自分にもウーロン茶を淹れると、グラスの中にあった氷を指で回し始めた。

 

 

「テセウスの船って知ってる?」

 

「……いえ」

 

「じゃあ教えてあげる」

 

 

焔はニコリと微笑む。

目つきが明らかにほむらとは違っていた。狂気的な、でもどこか妖艶さも感じさせる。

 

 

「我は一、我々にして、我らなり」

 

 

少女の表情じゃない。では何故、こんな顔ができるのか?

それはとても大きな感情が焔の中にあったからだ。

少女を女に変える、それは神をも狂わせる甘美な果実。

 

 

「このリボンはね、手塚に貰ったの」

 

「……は?」

 

「彼は、とても素敵だわ。クールで、でも熱い所もあって。それでいて……」

 

 

焔は右手で髪をかき上げて、左手で唇に触れる。

 

 

「私を肯定してくれた」

 

「………」

 

「貴女は手塚を愛してる」

 

「……いえ、残念だけど、そういう感情は無いわ。もちろん海之にはとても感謝しているけれど」

 

「駄目よ。違う。海之だなんて。下の名前で呼ばないで」

 

「え?」

 

「私もまだ呼んでないのに」

 

「………」

 

 

ほむらは無言で視線を外すと、一度ウーロン茶に口をつけた。

味がする。思い出しているのか。冷たさも。味も。感情をも。

 

 

「……違うわ」

 

「なにが?」

 

「そのリボンは手塚から貰ったものでは無いと言う事よ」

 

「そうよ、だって貴女は手塚を愛していない。それでいいのよ」

 

「ええ、そうね」

 

「ええ、そうよ。だって私が愛してる!」

 

 

ほむらが指を鳴らすと、二人の前にカレーが現れた。

 

 

「おなか空いてる? これね、私と彼で作ったカレーなの。かぼちゃが入ってるでしょ? とっても美味しいの」

 

「……そう」

 

 

ほむらがスプーンに手を伸ばそうとすると、焔の手が伸びてきた。

バチンと音がして、ほむらの手が弾かれる。

 

 

「ごめんなさい。やっぱり食べないで。これは私と彼だけが口にしていいものだから」

 

「なら、出さなければいいのに」

 

「本当ね。フフフ、ごめんなさい」

 

 

焔はカレーを消すと、そのままほむらの目を覗き込む。

 

 

「何故、巴マミを愛したの?」

 

「ッ、巴さんを?」

 

「もちろん。愛おしいでしょう?」

 

「まさか。変な事を言わないで」

 

「もちろん。男女のソレとは違うかもしれないけど、貴女、巴さんが好きでしょ? 好きになってきているでしょ? 違うとは言わせないわ。だって貴女、朝起きたらまず巴さんに会える事が嬉しいって思ってるでしょ。いつもピリピリしてたあの人が笑ってくれるのが嬉くなってるでしょ。あの人と一緒にご飯を食べるのを幸福と感じ始めているでしょ?」

 

 

焔はウーロン茶から氷を取り出した。

するとどうだ、その氷が削れていき、マミの人形になったではないか。

焔はそれを一気に握り潰してバラバラにした。

 

 

「でもね、忘れたの? アイツは敵よ」

 

「………」

 

「アイツがいるからまどかが魔法少女になろうとしてしまう。現に美樹さやかだってそうだったじゃない。あのバカ女さえいなければ、もっと私達の戦いは上手くいったのに」

 

「………」

 

「ほら、嫌な顔してる。いいじゃない、巴マミなんて最低よ。アイツがいたからゲームが生まれたと言ってもいいかもしれない。現にこのゲームだって、マミがいたからまどかが魔法少女になったんじゃない。あいつ、両親と一緒に死んでおけばよかっ――」

 

 

バシャリと、ウーロン茶が焔に掛かった。

グラスを掴んでいるほむらは、ハッとして、ばつが悪そうに目を逸らす。

 

 

「ごめんなさい」

 

「……いいのよ。癇癪を起こすのは私らしいわ」

 

 

一瞬だった。黒い炎が焔を包み、ウーロン茶が蒸発する。濡れた髪が一瞬で乾く。

 

 

「まだ自分を傷つけるクセは直ってないのね。まあ大丈夫よ、ニンゲンはそう簡単に変われないものだから」

 

 

弱いのよ。そう、弱いの。

だからこんな場所まで私の中に作ってしまう。

時間の中に時間を作ってしまう。

 

 

「そうでしょ? 私」

 

 

焔がカウンターの向こうを覗き込むと、壁にもたれかかっている女が一人見えた。

ほむらは知っている。焔も知っている。ホムラの魔法によって呼び出された、『ほむ姉』と呼ばれていた固体である。

 

彼女はこの『あけみ屋』を作った。

正確には店があった場所はこのイチリンソウの花畑ではないし、増築してもっと巨大な施設になっていたが、そんな違いは些細なものでしかない。

いずれにせよ重要なのは、この建物が今、このイチリンソウの花畑。

つまりほむらの精神を象徴する場所にあると言うことだ。

 

 

「ほむ姉は、まどかを救う事を諦めてしまった」

 

 

そしたら、時間から出られなくなってしまった。

だから他のほむら達が頑張れるように店を作った。他のほむらが頑張れるように、応援する側に回ったのだ。

つまりそれはループにおけるほむらが、同一ではないと言う証明。

所謂『かもしれない』世界が続き、無数のほむら達が生まれた可能性だ。

 

 

「クワガタほむらだっけ? どんな時間軸だったのか、気にならない? 何をどうしたらクワガタとして生きる人生を歩むのかしら?」

 

「いろいろあるわ。私はそれを否定したくない」

 

「……フフ」

 

 

気づけば、ほむ姉が消えていた。

 

 

「ここには沢山のほむらが遊びに来ていた。まどかを救う事に疲れた私達は、ここで慰めあい、美味しいものを食べて、またループを戦っていく」

 

「そんな時もあったわね」

 

「皆、性格はバラバラ。暁美たむらって娘が一番オリジナルの貴女に近かったかも。ああ、でもね、一つだけ共通点があったわ」

 

 

部屋が、暗くなっていく。

 

 

「それは皆、まどかが大好きだってこと」

 

 

明かりが消えた。

 

 

「笑っちゃう」

 

「……なぜ?」

 

「それは間違いだからよ。貴女はそんなに立派じゃないし、強くない」

 

 

ほむらは変わりたいと言う欲望や、数多くのループで精神が壊れないように、擬似的な多重人格者になった。

弱い自分を作り、それを傷つける事で安心したり、少しでも壊れないように自分で調整する。

虐待された子供にイマジナリーフレンドが生まれたり、別人格が生まれたりするように、少しでも自分の心が壊れないように心が『ほむら』を生み出していく。

 

 

「私達は私であり、私は私達である」

 

 

ループされた時間軸も、一つと数えることができる。

一回目のほむらと、二回目のほむらは同じであり、別人である。

それもまた因果が齎した歪な軌跡と奇跡。

 

 

「でも違う。それは間違ってる」

 

「ッ?」

 

「私は神ではないわ。貴女は神に近づこうとしたけど、結局それは失敗したのよ」

 

 

焔の前にあるグラスにはウーロン茶が消えている。

代わりに、なみなみと注がれた闇があった。

 

 

「人間が絶対を語るなんて不可能よ」

 

「何を言っているの……? そもそも貴女は一体――ッ」

 

 

部屋は暗い。闇がそこにはあった。

気づけば床にはイチリンソウがいくつも咲いていた。

 

 

「本当は分かっているんでしょう? 貴女はまだ、自分自身に決着をつけてない」

 

「……ッッ」

 

「全ての暁美ほむらは、鹿目まどかを愛する。結構なルールね」

 

 

でもそんな絶対はありえない。機械でもない限り。

心を持った人間は、そんなに完璧に生きることが出来ない。

 

 

「でも……、暁美ほむらは完璧になりたかった。完全になりたかった。いっそ魔法で心さえも変えてしまえば良かったのに」

 

 

だからこそ作る必要があった。

全ての負を一点に集める存在。まどかへの不満、負の感情を具現する存在。

つまり。『まどかを好きにならない暁美ほむら』を自分の中に誕生させる必要があった。

それがどんな『裏』があるのかはどうでもいい。

大切なのは、まどかを切り捨てるための自分だ。そんなスケープゴート。

 

 

「まどかを諦める人生も、また一つの幸福」

 

「……やめて」

 

「どうして? 初めてじゃないでしょう? あなたは一度盾を落としてしまった。それが原因でまどかを忘れたじゃない!」

 

「そうかもしれない。けれど今は思い出している!」

 

「ええそうね。でもだったら思い出しなさい! 貴女が巴マミを憎悪したように、美樹さやかを手にかけたように、佐倉杏子を殺したいと渇望したように! 鹿目まどかを恨んだ日があった事を思い出しなさい!!」

 

「そんな時はないわ! 私がどれだけまどかに救われたと思っているの!」

 

「でも同じくらい苦しんだじゃない!!」

 

「!!」

 

 

焔は拳を強くカウンターに打ち付けた。

 

 

「ライアーハーツ! 貴女はユウリの言葉を信じてしまった! まどかの姿になったユウリを疑えなかった! それだけじゃない! ユウリにキスまでしてバカみたい!!」

 

「………」

 

 

頭を抑えるほむら。

ユウリがまどか? キス? よく分からない。よく思い出せない。

 

 

「はッ! いいわ! いい! 思い出さないで! だってそれは私だけの記憶!!」

 

 

焔は闇が入ったグラスを振るい、闇を壁にぶちまける。

そこからイチリンソウの花が咲いていく。

 

 

「私はこの世界で手塚を愛した! 貴女には理解できないだろうけど! まどかよりも、彼を選んだの!!」

 

 

勢いよく立ち上がる焔。椅子が後ろへ滑っていく。

その中で、ほむらは目を細めた。

 

 

「本当にそうなの?」

 

「なんですって?」

 

「また彼を、逃げのために使ったのではないの?」

 

「そう言うと思ったわ! でもね、私は貴女とは違う!!」

 

 

焔は胸を抑え、苦しげに唸る。

 

 

「何が愛よ。何がまどかよ! 何が、何がッッ!!」

 

 

目を見開いた。

鬼気迫る表情の中に、どす黒い闇が視えた。

 

 

「何が悪魔よッ! 結局、貴女は失敗したのよ!!」

 

「やっぱり、貴女に円環の力が……」

 

 

ライアーハーツ終了時、天乃鈴音は剣でほむらの首を刈り取った。

だが魔法少女はソウルジェムを砕かれぬ限り死ぬことはない。

いずれにせよイツトリがいる以上、全てが忘れ去られ、ゲームは繰り返される。

 

しかし唯一、そのルールに対抗できる者がいる。

鹿目まどかのように概念の力を持つ、神の領域に足を踏み入れたものだ。

 

 

「人の記憶ッ! それは不完全な生命の象徴!」

 

 

不完全ではあるが、暁美ほむらはそれを所持していた。

そして鈴音の刃、『未来へ継続する』事実を纏った一撃が、暁美ほむらの一部を分断させた。

 

 

「あの時、私はゲームの外へ放り出された」

 

 

首だけのほむらはゲームの外へ。

体だけのほむらはイツトリによって傷を忘れ去られ、また暁美ほむらとなってゲームに戻った。

概念のほむらは、焔になる。同じくしてそこには、かねてよりほむらの奥底にあった別人格が混じっていた。

 

 

バカな嘘が、その人格を覚醒させたのかもしれない。

 

 

完璧な人間などいない。

絶対など存在しない。絶対に守ると誓った約束も、破ってしまうのが人間だ。

だから、ほむらの中にも存在していた。『鹿目まどか』を否定する『暁美ほむら』が。

 

それが暁美焔になる。

焔はもう、うんざりだった。まどかの為に戦うのも。まどかの為に振り回されるのも。

だって鹿目まどかさえいなければ、手塚の愛を受け入れる事ができたのに。

手塚を愛する事ができたのに。

 

 

「まどかは私を愛してくれない。だったら私を愛してくれる手塚で良かったじゃない! 彼だって友人を守れなかった事を、私を守ることで許されたつもりになっていた! その共依存は悪い事ではないでしょう!?」

 

「本当にそれでいいの……? 貴女だって、今、私の記憶を共有しているんでしょう?」

 

「ええ、でも私は手塚がいればそれで――……」

 

 

そこでほむらは首を振った。

こんなに苦しんだのは。こんなに傷ついたのは。こんなに迷ったのは、こんなに泣いたのは、こんなに戸惑ったのはこんなに躓いたのはこんなに消えたくなったのは――。

こんなに、死にたく、なったのは。

 

 

「全部ッ、鹿目まどかがいたからじゃない!!」

 

「だから貴女は――!」

 

「そうよ! 私は鹿目まどかを許さないし、否定してみせる!!」

 

 

全ての暁美ほむらが鹿目まどかを愛するのなら、逆に言えば鹿目まどかを愛さない暁美ほむらは、暁美ほむらではない。

 

 

「全暁美ほむらの中で唯一ッ! この私こそがッ、鹿目まどかを否定する存在となる!!」

 

 

素晴らしいじゃないか。ならば焔はその時、焔になれる。

 

 

「鹿目まどかを憎むほむらになる!!」

 

 

それがほむらでないと言うのなら、それで結構。

そうしたならば、その時、暁美ほむらの派生ではない。独立した存在へと昇華する筈だ。

だがそれは簡単な道じゃない。だからこそ抗う。だからこそ戦う。

 

 

「まずは主人格! お前を消し去ってやる! その体を! その存在をッ、私によこしなさいッッ!!」

 

 

焔が両手を広げると、世界が闇で染まる。

反射的に立ち上がるほむら。暗いのではない、闇なのだ。

自分の体はハッキリと見えるけど、周りは何も見えない。イチリンソウの輝きも消えうせ、全てが闇で覆いつくされる。

 

 

「人が神になろうだなんて。おこがましいとは思わないの?」

 

 

まどかも失敗した。

ほむらも失敗した。

 

 

「何が悪魔よ。愚かにも程があるわ」

 

 

焔の目だけが見えた。

そして何かが広がる音。そう、これは翼だ。

 

 

「生まれ変わったら賢く生きなさい。取捨選択こそが貴女に足りない物よ」

 

 

焔が魔法少女になった。

赤いリボンが揺らめき、その手には黒い『弓』が出現する。

弦を振り絞るが――、その姿は闇で覆われているので、ほむらには見えない。

それでいい、焔は矢をほむらに頭に向けて発射するつもりだった。

ザクロみたいに弾けてくれれば。そうしたら許せるかも。

 

 

「やめてください!!」

 

 

が、しかし。それよりも速く、銃弾が焔の弓を弾く。

 

 

「!!」

 

 

闇を照らすのはライト。安易な発想かもしれないが、暁美ホムラがランタンを抱えて現れた。

その手には銃が握られている。それでほむらを助けたのだろう。

焔は大きなため息をついて指を鳴らした。すると闇が消え去り、三人の暁美は、あけみ屋に戻ってくる。

 

 

「ッ、ありがとう」

 

「は、はい! どういたしまして!!」

 

 

ホムラは銃を焔に向けたまま、ほむらを守るように立つ。

 

 

「焔さん! 貴女は一つ、勘違いをしています!」

 

「ッ? なに?」

 

「私達は多重人格ではありません! あくまでも暁美ほむら。ただ一つの存在です!!」

 

「そう思いこんでいるだけでしょう? だったらこの三人は何なの!?」

 

「分かりませんか? 脳内会議と同じです!」

 

「違う!」

 

 

焔は走り、腕を伸ばす。

ホムラは気づいたが、自分は撃ちたくなかった。

だから首を掴まれ、壁に叩きつけられる。

 

 

「やめて!」

 

 

ほむらは叫ぶが、焔は首を振った。

 

 

「これはあくまでも共鳴よ! 私は確かに存在している!!」

 

「かもしません……ッ、でもそれは間違いです。私達は一つなので、一つになるべ――」

 

「黙れ屑! どんくさいお前がッッ何を語る!!」

 

 

焔のフックが、ホムラの頬に入った。

衝撃でホムラは大きくよろけ、座敷席の方へと倒れていく。

そこで入れ替わるようにほむらが、焔へ掴みかかっていった。

 

 

「また自分を傷つけるの!? それが嫌でッ、私は私を受け入れたじゃない!」

 

「違う! だからそれは暁美ほむらの意思でしょう!? 私は暁美焔! ほむらじゃないのよ!!」

 

 

腕を組み合った二人はもつれあい、そのまま戸をブチ破って外へ出て行く。

イチリンソウの中を二人は駆け抜け、花を散らしていった。

 

 

「私は貴女を消し去り、完全体になる! そして手塚と、私が愛した人達と一緒に暮らすの!」

 

「彼がそれを受け入れると思うの!?」

 

 

交差する脚と脚。

回し蹴りが互いを弾きあい、二人は地面を転がっていく。

 

 

「思うわ! だって彼は私を――……、受け入れてくれる!!」

 

「そろそろ気づきなさい! そろそろ前を見なさい!!」

 

 

共鳴。思い出していくライアーハーツ。

 

 

「ハッ! どうせまたまどかでしょ!? 貴女こそ気づけばいい!」

 

 

体を起こした焔は、弦を振り絞る。

闇が収束し、黒い弓矢が発射された。

 

 

「鹿目まどかは、私達を不幸にするわ!!」

 

「違う! まどかは希望よ!」

 

 

ほむらのマシンガンが矢をかき消した。

とは言え、弾丸はほむらが張った闇のシールドにかき消されていく。

 

 

「でしょうね! だって全てッ、私に押し付けた!!」

 

 

まどかだけを見るなら、まだ耐えられたけれども。

 

 

「この私にとっては絶望と同じよ!!」

 

 

他に手を出しちゃおしまいだ。

全てを手に入れて幸せになるなんて許されない。それはほむら自身が許さなかった事。

いや、だから抗った。ホムラを受け入れて、ちゃんちゃん。

 

 

「でも、私は許さない」

 

 

焔は頭のリボンを外すと、それを強く掴む。

 

 

「貴女だって、私を受け入れたくはないでしょう? まどかに対する不満を凝縮した私を」

 

 

だってそれは『暁美ほむら』の崩壊に繋がる。

 

 

「自我を否定してまで生きる意味があると言うのかしら?」

 

 

焔は改めて赤いリボンを見つめた。

これは愛の証だ。だからこそ、その愛を上書きする。

全ての愛は暁美焔の物となる。それが幸福へ導く鍵になる。

 

分かっている。分かってるさ。

自分の事だ。どう生きたいのか。それは焔だってそうだ。呪い続ける人生はもう嫌なんだ。

でも鹿目まどかは大きすぎる。心を不安定にする存在は排除した方が楽に生きられる。

ほむらはそれを受け入れたみたいだけど、受け入れられない『ほむら』も存在していい。

 

 

「だから私はやり直すわ。私の最後のループ。それを今この世界で」

 

「!!」

 

「貴女のやり方は間違っていた。それを私が証明してあげる」

 

 

焔の背中から黒い翼が伸びていく。

空間に張り巡らされる黒。それは次々に広がっていき、世界を侵食していく。

この技。『侵食する黒き翼』。ほむらと焔が溶けていく。

 

 

「何をするつもりですか!!」

 

 

ホムラもそれを確認した。

イチリンソウの花畑が闇に飲み込まれていく。

いやそれだけじゃない。翼の中に手塚達の姿を見た。

 

 

「ココは私の世界。貴女は失敗したけれど、私は違う」

 

「ッッ」

 

「完璧なループを……」

 

 

やめて。

そう叫びたかったが、翼が世界を破壊していく。

崩れ落ちるイチリンソウ。ほむらは走り、ホムラへ駆け寄る。

 

 

「貴女は本気で――ッッ!!」

 

 

ホムラが手を伸ばす。その腕が闇に溶けていく。

精神が現実へ溶けていく。バラバラになる意識と世界。

ほむらは見た。ホムラは見た。暁美焔が嬉しそうに微笑んでいるのを。

 

 

「私の世界を作る」

 

 

そこで焔は気づいた。

なんだか翼が重い。嫌な感触がする。

 

 

「これは嫌なの」

 

 

焔は翼からまどかを排出した。

 

 

「彼女は彼女の好きな人と仲良くすればいいじゃない」

 

 

だから焔は、仁美も排出した。

 

 

「私の世界には要らないわ」

 

 

ほむらの闇が広がっていく。

 

 

「出会った事が間違いなのよ」

 

 

全てが闇に溶けていき、まどかと仁美は押し出されるように外の方へと消えていく。

一方で焔は闇の奥深く、さらにその深淵を目指した。

 

 

 

 






テセウスの船。

まどマギもライダーも脚本家が複数いるってところが面白いと思います。

たとえばファイズで言うと続編として評価が高い4号ですが、人によってはパラレルとして。人によっては完結編として評価している人がいます。
僕はそんなに気にしない方なんですが、アマゾンズだって完結編は別の人が担当するって分かった時には、それなりに賛否両論、いろんな意見を見かけました。

要するに井上さんじゃない巧は、そもそも巧なのか。
ジオウも今はいっぱいオリキャスの人が出てますが、脚本家の人は違います。
役者が同じなら本人なのか。それとも脚本家が同じならば本人なのか。
現に、役者さんは同じでも、ディケイド版の剣崎の評価は賛否両論です。

これはまどマギにも通ずるところがあって。
今はマギレコが盛り上がってますが、マギレコに虚淵さんはいません。
それは果たしてまどマギと言えるのか。


そこら辺の曖昧さが、どこか魅力的に思えてしまいますな(´・ω・)

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