仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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ちょっと前半でLGBTを使った悪意ある表現があります。
これを含めて、全ての表現において差別を助長するつもりはありませんが、もしも不快に感じた方がいたらごめんなさい。

あと今回、なぎさちゃんの固有魔法が出てきますが、オリジナルです(´・ω・)


第90話 設定完了

 

 

透検事は気分が良かった。

今日は体調がいい。普段は小食の彼も、今日は昼食にラーメンと半チャーハンをペロリと美味しく頂いた。

 

馬鹿な男だと――、つくづく思う。

驕り、慢心、北岡秀一は法外な金額を請求してくる代わりに黒を白にしてみせる――。というのは有名な噂ではあるが、わざわざ痴漢裁判に手を出すとは。

あんなものは悪魔の証明だ。やっていない事を証明するのはほぼ不可能なのである。

ましてや唯一の目撃者で、犯人取り押さえた男性は、高校の教頭で評判もいい。

 

勝った。

透はニヤニヤしそうになるのを必死に堪えながら廊下を歩く。

すると前から見知った顔が歩いてきた。

 

 

「おや、これはこれは。今日はよろしくお願いします」

 

「よろしく。今日こそ勝てるといいわね」

 

 

それだけを言って女性はスタスタと歩き去る。

透は内心ムッとしていた。女性、最年少で裁判長へ。それは凄いとは思うが、どうにも鼻につく。今だってそうだ。今日こそは? 考えただけでムカムカしてくる。

 

別に今まで負け――、は、してきたが、それは自分が悪いのではなく全てあの悪徳弁護士の仕業であると思っている。

ヤツはどうにもおかしい。明らかな違法行為だが、なかなか証拠がつかめない。

だが今回ばかりはどうしようもない筈だ。

今回は勝てる。今回は確実だ。今回は。今回は……。

 

 

「―――」

 

 

数時間後。透は真っ白になって固まっていた。

証拠映像として提出されたものがモニタに映っているが、そこには男性同士が絡みあう濃厚でディープでズッポシな映像が映っていた♂

 

込み上げる吐き気。

透はハンカチで口を覆いながら考えていた。

一体、何を見せられているんだ――、と。

 

 

「北岡弁護士。これは?」

 

 

裁判長は涼しげな顔でモニタを凝視していた。

北岡はニヤリと笑うと、手を挙げる。

 

 

「ご覧の通り。セッ●スです。男性同士の。やり方をご説明しましょうか?」

 

「結構よ」「おや、それは残――」「知ってるから」「え?」

 

 

ま、まあいい。

北岡は咳払いを一つ。しかし口を開くよりも早く、透が手をあげた。

 

 

「い、意義あり! 本件とは何の関係も無い映像です!」

 

「は? そんなワケないでしょう。だってこれは立野さんのパソコンの中に入っていたんですから」

 

「な、なんですって……ッ?」

 

「ですから。こういう映像がたくさん。中には本人が行為に及んでいる映像もあります。撮るのが好きみたいで」

 

 

北岡は立ち上がると、指をパチンと鳴らした。

 

 

「つまり! 立野さんはご覧の通り、ゲイなんですよ! そんな彼がどうして女性のお尻を触るんですか?」

 

「そ、そんな筈は――」

 

 

資料をめくる。警察もパソコンは調べた筈だが――、そんな映像はどこにも……。

 

 

「隠しファイルですよ。ねえ立野さん」

 

「ひ、ひぃぃい!」

 

 

被告は北岡に触られると、ビクッと肩を震わせていた。目にはうっすらと涙が見える。

 

 

「……嫌がってませんか?」

 

「まさか。これは思い出し涙です。彼は自分の事を言い出せずに悩んでいた。日本は文化が遅れてる。周りに知られればきっと奇異の目で見られるだろうと。現に今、透さん。貴方は気持ち悪そうに口を押さえていた。あぁ、嘆かわしい。こういう時代遅れの人がいたり、面白がったりする人がいるから立野さんも苦しんでいる。ねえ? そうでしょう? ほら、頷いてる」

 

「い、いえ私は気持ち悪がってなど……!」

 

「またまた! ねえ裁判長。明らかに嫌悪してましたよねぇ?」

 

「そうね。露骨だったわ。謝罪しなさい」

 

「いや、裁判長! なんで私が――」

 

「謝りなさい」

 

「ですから裁判とは何の関係も――!」

 

「子供じゃないんだから謝りなさい」

 

「……大変、申し訳ありませんでした」

 

 

ビキビキと青筋を浮かべながらも、透は被告人に頭を下げた。

北岡は満足そうに頷くと、補足説明をペラペラと始める。

映像の日付は事件よりも前のもの。ゲイの人が恋人を探すサイトにも被告人の登録情報がある。

これらの事から、被告が犯人である可能性は低く――

 

 

「意義あり! 男性が好きでありながら、女性に性的魅力を見出す方もいます!」

 

「確かに。だが立野さんはそうじゃない」

 

「それを証明できますか? 北岡弁護士」

 

「パソコンに保管されている性的な画像は全て男性のものです。自宅にあるDVD等もでした。被告人に過去の痴漢履歴はありません」

 

「ですがッ、保存していないだけという可能性も!」

 

「悪魔の証明だ。ここを掘り下げても無駄なんだよなぁ」

 

 

イラつかせてくれる。

そもそも痴漢なんざまともに戦わず認めて示談に持っていけばいいだけなのに。

だが、まあいい。透は一旦クールダウン。今はなんとか回避しているようだが、そもそも透側には決定的な証拠がある。それは目撃者だ。

 

 

「証人喚問をお願いします」

 

 

法廷にやってきたのは、見滝原高校の教頭先生・三沢だった。

正義感が強く、生徒達からも慕われている。

そんな三沢が痴漢の現場を目撃し、さらに携帯のカメラで犯行を撮影していた事も後で分かった。

 

 

「ですよね、三沢さん」

 

「あのぉ、その事なんですけどぉ。私ぃ、実はちょっと勘違いしててぇ」

 

 

なんでギャルみたいな喋り方なんだ……。

透が不思議に思っていると、三沢は謝罪をはじめた。

 

 

「私ぃ、あの人がやったって言ったんですけどぉ、勘違いでぇ。犯人じゃないと思いますぅ。はぃ、まじでぇ。他の人が触ってるの見ましたぁ。なんかもっと若い人でしたぁ」

 

 

そう言って三沢は帰っていった。

透は頭を掻き毟る。だが、まだだ。まだ被害者本人の意見がある。

振り返ったら、立野がニヤニヤしながらお尻を触っていたらしい。

その意見に賭けるしか――

 

 

「岩瀬さん。分かっていますか。あなたの意見で何の罪もない人が痴漢の容疑をかけられようとしているんです。確かに立野さんには妻や子供はいませんが、両親はいます。友人がいます。その人達がどう思われるか。その人達からどう思われるか。もっとよく考えてください。もう一度聞きます。本当に立野さんが痴漢をしていたんですか? 貴方は彼のずっと隠していた性癖を暴露させました。その責任を背負えるんですか? もう一度聞きます。もう一度だけ聞きますよ? 貴女のお尻を触っていたのは、本当に――」

 

 

北岡は鋭い眼光で被害者を睨んだ。

被害者は涙目になって首を振っていた。

こうして、裁判が終わった。被告人の立野は無罪になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったわね。検事が悪いのよ。あんなに有利な状況で負けるなんて」

 

 

裁判後。

トボトボと歩いている被害者に、裁判長は声をかけた。

 

 

「相手が悪かったわ。北岡秀一は有名な男よ。過去には殺人鬼も強姦魔も無罪にしてる。痴漢なんて訳なかったようね」

 

 

どうやら裁判長は察していたようだ。

だったらと被害者は涙ぐむが、それよりも早く、裁判長は人差し指で唇を押さえた。

 

 

「強くなりなさい。そういう世界よ」

 

 

司法も割り切りである。

慈善事業ではないし、ましてや神に変わって真実を明らかにする存在でもないのだ。

ただ証拠を集め、それを提示する。それだけの仕事だ。

各々の心持は知らないが、基本的にはそれ以上でも以下でもない。

 

 

「でも、そうね……」

 

 

裁判長は空を指差す。

 

 

「神様は見ているかもしれないわ」

 

 

するとザワザワと声が聞こえる。なんでも被告人が通りすがりの女性に襲われたらしい。

よく分からないが、ボコボコにされたようで、担架で運ばれていた。

ポカンとしている女性を見て、裁判長は少しだけ唇を吊り上げる。

 

 

「ほらね。さあ、もう行きなさい。過ぎた事をクヨクヨとしていても仕方ないわ。こんな胸糞悪い日には焼肉にでも行って、高い肉をバカバカ食べて、お酒をガブガブ飲みなさい。度数が高ければ、まあだいたいの事は忘れていくものよ」

 

 

それだけを言い残し、裁判長は歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です先生」「お疲れ、秀一」

 

 

北岡の法律事務所では、シャンパングラスを打ち付けあう音が聞こえてきた。

 

 

「お疲れ様じゃないよ、めぐみ。あのさ、お前せっかく無罪勝ち取った人をボコボコにするか?」

 

「だって、女の敵は成敗しないと。大丈夫よ、私が秀一の関係者だなんて向こうは知らないだろうし」

 

 

工作員――、ではなく。

お手伝いの浅野(あさの)めぐみは、捏造された証拠を作るのが上手い。パソコンを少し弄れば、日付を変えることは簡単だ。

由良吾郎にも手伝ってもらって、今回も報酬金ゲットである。

 

 

「でも秀一も酷いわよね。LGBTを利用、捏造するなんて」

 

 

北岡にはもともとジュゥべえが、『ハンデ』としてミラーワールドの事を教えていた。

これを今回は利用したのである。ミラーワールドに入れる北岡は、被告を留置所から脱獄させる事なんて簡単である。もともと留置所にも何人か協力者はいるので、尚更容易であった。

 

後はいろいろ証拠を捏造すればいい。

適当にそっちの趣味の人を募集して映像を記録させた。

本人は嫌だだとか、そんな事をするくらいなら痴漢を認めるとほざいていたが、言葉巧みにねじ伏せてご覧の通りである。

 

 

「いけないのよ秀一。こんな事をして。本当のLGBTの人達が知ったら怒るわ」

 

「どうでもいいよ。いちゃもんつけてきたら全員死刑にしてやる」

 

「うわー、最悪。いつか地獄に落ちるわよ」

 

「ほっとけほっとけ。それより、吾郎ちゃんもありがとね」

 

「いえ。少し脅したら簡単に協力してくれました」

 

 

目撃者である三沢が意見を変えたのは、息子が傷害事件を起こし、妻が万引きの常習犯だった事が原因だった。

高校教師の、それも教頭の息子や妻が犯罪行為に手を染めている。

それを必死に隠していたようなので、その点を突いてみると、すんなりと協力してくれた。

 

 

「もうっ、秀一ったら! また吾郎くんを利用して! ダメよ! 彼は純粋で良い子なんだから! 貴方の悪さに巻き込まないで! 吾郎くんも断らないとダメよ!」

 

「いや……、自分は先生のお役に立つのが仕事なので」

 

「だってよめぐみ! はぁー、吾郎ちゃんは良いヤツだなぁ。ってかおい、やめろ! 吾郎ちゃんに抱きつくな!」

 

「あら嫉妬? でも残念ね。もう私は貴方の女には戻れないの。吾郎くんのたくましさが私を目覚めさせてくれたのよ」

 

「お前が俺の女だった時なんて、そもそも無いだろ! だいたい吾郎ちゃんから離れろって言うのは、お前がくっつくことによって汚れるからで――!」

 

「別に汚くないわよ私は!」

 

 

ギャーギャー言い合っていると、北岡の視界がブラックアウトした。

いけない。興奮しすぎたか。反射的に頭を抑える。

だがしかし視界はすぐにクリアになった。北岡は事務所ではない、夜の世界に立っていた。

目の前には大量の蟲が飛んでいる。

なんだこれは。口を開けると、そこから大量の蟲が飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

美樹さやかは目を覚ました。

はて、これはどうした事か。自室にいた筈なのに、気づけば上条家の中にいるじゃないか。

混乱は続く。辺りを見回してみると、なんだか廊下が荒れているような気が……。

 

 

「え、え? へ?」

 

 

とりあえず、目の前にある上条の部屋をノックする。が、しかし、反応はない。

ドアノブを回してみると、抵抗感。鍵が掛かっているようだ。

魔法少女の腕力なら簡単に破壊できるが、それはそれ、乙女のハート。状況分からぬ今、変な行動で上条に嫌われては困る。

 

とりあえずさやかは一度状況を把握するため、他の場所に向かった。

上条の両親に話を聞ければ、何か分かるかもしれない。

だが、さやかはすぐに悪臭に気づく。なんだろうか? 嫌な予感はしつつ、その臭いのもとを探ってみると、見つけてしまう。

上条の母が首を吊っていたのを。

 

 

「―――」

 

 

声が出なかった。

おまけに、その死体には激しい違和感があった。

全身に『薔薇』が突き刺さっており、両目も抉られて薔薇の花が埋め込まれている。

少なくともただの自殺死体ではない。まるで人の体で生け花をしたような猟奇的な光景に、さやかは思わず口を押さえる。

 

 

「美しいとは思わないか?」

 

 

気づく。部屋の隅にもたれ掛っていた異形に。

仮面舞踏会のゲストとも言える派手な格好。

薔薇が沢山あしらわれた帽子に、顔を覆うペルソナ。

色つき・『女帝』は、薔薇を一輪、指の間に挟み、その匂いを堪能している。

 

 

「お前の恐怖が伝わるぞ、美樹さやか。悪くない恐怖だ」

 

「な、な……!」

 

 

魔女?

さやかは一瞬そう思うが、こんなタイプは見たことが無い。

 

 

(あれ? 魔女じゃないのって、どこかで……)

 

 

そうしていると悲鳴が聞こえてきた。

ハッとして、振り返ると、廊下から上条が走ってくるのが見えた。

 

 

「恭介!?」

 

 

随分とやつれている。

何故、どうして? さやかはその時、脳に激しい熱を感じて思わずうずくまる。

思い出しそうで、思い出せない。なんだろうかこの記憶の奔流は。

そもそもココはどこ? いや、違う。この場所は知っている。

なぜここにいて――……、ああいや、ソレも知っているような。いや違う。そもそも……。

などと混乱している間にも上条は苦しんでいた。彼の前にやって来るのは、蝉堂と言う名の少年である。

 

 

「どうした上条くん。僕らは同じ志を持った仲間じゃないか」

 

「来るな! 来るなよッッ!! うぁぁああぁあぁあ!」

 

「ハハハハ! そんなに悔しいか。僕がコンクールでキミを打ち負かした事が!!」

 

 

そう、そうだ。さやかは知っている筈だ。

上条は大切なコンクールで実力を出せず、塞ぎ込んでしまった。

いや、駄目だ、何も思い出せない。

 

 

「だが安心してくれ」

 

 

その時、蝉堂の体が歪む。変形していく。

 

 

「お前はココで終わりだ」

 

 

蝉堂は取り込んだミラーモンスターへと変身する。

その名は『ソノラブーマ』。セミ型のモンスターである。

反射的にさやかは変身するが、既にソノラブーマは右手に剣を握っていた。

そして左手にはセミを模したヴァイオリンが。

ということは、やるべき事はただ一つ。演奏だ。

 

 

「タイトル、死に至る狂騒」

 

 

美しい演奏だ。

が、しかし、その音を聞いた瞬間、上条とさやかの鼓膜が破れる。

 

 

「あぐぁぁぁぁあ!!」

 

 

上条は両耳を押さえて廊下を転がった。

さやかも痛みと混乱から頭が真っ白になってしまった。

 

 

「フフハハハハハハ!! 恐怖しろ!」

 

 

ソノラブーマの口が伸び、倒れる上条の背に突き刺さった。

注入される毒液。上条の絶叫が響く。

 

 

「あうがぁぁぁッ! ひぃいぃいい!!」

 

 

ジュゥゥゥウっと音がして、上条の肉体が融解していく。

さやかは回復魔法で鼓膜を再生させ、ようやっと意識を取り戻したが、そこで聞こえるのは愛する人の断末魔だ。

 

 

「恭――……、介」

 

 

真っ青になり、震えるだけしかできない。

それはもう一瞬の出来事だった。皮膚はくずれ、肉がグズグズになり、むき出しの眼球がさやかを見つめている。

それもすぐに地に落ち、溶けて無くなった。

 

 

「フフフハハ! フハハハハハハハハハ!!」

 

 

訳が分からない。

 

 

「ぁ」

 

 

さやかは立ち尽くすだけ。上条は既に消え去った。

一方で楽しそうに笑うソノラブーマと女帝。こんなの知らない。こんなの見た事ない。

ましてや上条の死を、受け入れる事ができなかった。

目の前でドロドロになったのに。助けを求めた手がまだかろうじて残っていたのに。

血の痕が広がっているのに。

理解できない。

 

 

「なんで? え? 恭介は……?」

 

「ハハハハハハハハ!! 死んだ! 分からないのかクズッッ!!」

 

「うそ……、うそ!」

 

 

ガチガチと歯がぶつかる。思わず腰が抜け、さやかはブルブルと震え始めた。

だって、あまりにも一瞬だ。想い人が溶けて死んでしまった。あまりにもあっけない。

それだけではない。肉が溶けた音、骨が溶けた音、臓器が溶けた音。

その臭い。ましてや上条の母の死体が放つ悪臭に耐えられなかった。

 

うずくまり、胃液を吐き出す。

全身が寒い。この感情は間違いなく恐怖。

それはさやかにとってはマイナスの感情かもしれないが、魔獣たちにとっては最高のエネルギーとなる。さやかから発生する負が、明確な形となって浮き上がり、それが魔獣たちに吸収されていく。

 

 

「素晴らしい。良い絶望だ!!」

 

 

ましてや上条の放った絶望もある。

それを食らい、ソノラブーマは身震いするほどの喜びを覚えた。

 

 

「たまらん……!! やはりこの感覚! 魔獣は最高だな!」

 

「ええ、その通り。人の発生させる負の感情こそが、我らを高めるのだ」

 

 

女帝もまたワイングラスを取り出すと、絶望のエネルギーを集めてどす黒い液体を作る。

それを一気に飲み干すと、恍惚の表情を浮かべた。

やはり一般人よりも、参加者の放つエネルギーが美味いらしい。

だからもっと欲しくなる。ならばもっと搾り取ればいい。

まだ美樹さやかは生きているのだから。

 

 

「さあ、次はお前だ!!」

 

「!」

 

 

しかし、そこで耳鳴り。

一瞬だった。上条母の部屋にあった姿見から、ライドシューターが飛び出してきたのは。

 

 

「魔獣!!」

 

「!」

 

 

ライドシューターが開き、中からシザースが飛び出してくる。

どうやらミラーワールドを走行している中で、気配を感じ取ったらしい。

ライドシューターが家の壁を破壊していく中、シザースはまず女帝に掴みかかり、さやかから引き剥がした。

 

 

「須藤雅史! お前もこの世界に招かれたか」

 

 

組み合った女帝は体から花粉を噴射し、その風圧でシザースを吹き飛ばす。

煌く粒子は、仮面をすり抜けて呼吸器官を侵食する。

不快感が襲い、シザースはもちろん、さやかも咳き込み始めた。

 

とは言え、ただの人間よりはフィルターを通して耐えられているらしい。

シザースは咳き込みながらも立ち上がり、女帝にタックルを仕掛ける。

狙いはもちろん、近くにある姿見へ押し込め、ミラーワールドで戦うためだ。

しかし女帝はバラを一輪、鏡に向けて投げた。薔薇が刺さると、そのまま茨が伸びて鏡を覆う。

 

 

「何ッ!」

 

「小ざかしいマネだ! 私には通用しない!!」

 

 

女帝は蹴りでシザースに襲いかかる。

さらに注意をひきつけている間に、ソノラブーマが再びヴァイオリンをかき鳴らした。

轟音と凄まじい程の衝撃は、なんと上条家をバラバラに崩壊させて、シザースとさやかを瓦礫の中へ飲み込んでいく。

平衡感覚が狂う。とも思えば激しい圧迫感。そして引き上げられる感覚。

 

 

「貴様をココで殺してやる!!」

 

「ぐゥウウッ!!」

 

 

先に瓦礫から出てきたのは女帝だった。

そのまま瓦礫の中に腕を突っ込み、シザースを引き上げと、道路の方へと投げ飛ばして見せる。

ひ弱そうに見える女帝の腕だが、その力は凄まじく、シザースの体は簡単に浮き上がると一気に敷地外まで飛ばされてしまった。

 

アスファルトの上を二度ほど転がると、シザースはうめき声をあげて停止する。

しかし以前の女帝にはこの様な腕力は無かった筈だ。

先程さやかが発生させた絶望を力に変換させる事で、パワーアップしているようだ。

本当は完全に吸収して快楽へ変換したかったが、仕方ない。

これを繰り返し、魔獣はより高みを目指していく。

 

 

「シィイイイイ!!」

 

 

女帝は威嚇する様に唸り声をあげて走り出した。

その手には、束ねた鞭が見える。鞭は茨を模しており、無数の棘がついていた。

束ねた状態はまさに短鞭だ。それを振るうことで接近戦も可能になる。

 

 

「シャアア!!」

 

 

まずはハイキック。

立ち上がっていたシザースはバイザーを盾にする事で威力を殺したが、すぐに振るわれる鞭。

シザースの胴体から火花が散り、後ろへ下がっていく。

だがシザースも後退際にバイザーを真横に振るっていた。女帝の胴から火花が散り、両者は互いを睨みあい、腕を組み合う。

 

 

「この世界は一体何なんだ! お前達は何を企んでいる!?」

 

「人間風情に教える訳が無いだろう! 訳も分からぬままに死んでいけ!!」

 

 

女帝の唇が歪む。

しまったと思った時には、その口から花粉が発射されていた。

まるで火炎放射だ。毒々しい色の粒子を吸い込み、シザースは激しく咳き込んだ。

そうするとやはり、どうしても動きが鈍ってしまうのが人間だ。

女帝はシザースの肩にハイキックを打ち込むと、さらに薔薇を三本投擲し、茨をシザースの装甲へ突き刺していく。

刺さった薔薇は点滅を開始。すぐに爆発を起こし、シザースは道路を転がっていった。

 

 

「うぅッ!!」

 

 

シザースは爆煙を纏いながら地面を転がっていく。

このままではマズイ。デッキに手を伸ばすと、カードを抜き取った。

幸い爆煙がシザースの姿を隠してくれている。そこに紛れ、シザースはバイザーを開いた。

 

しかしそこで衝撃。

シザースの背中から火花が上がった。

振り返ると、そこには羽を広げて飛翔してきたソノラブーマが。

どうやら飛行して爪で奇襲してきたらしい。よろけたために、カードセットが中断されてしまう。

 

 

「色つきィ! 注意を怠るな! 騎士はカードを入れてこそだろうが!!」

 

「は、ハッ! 申し訳ありません蝉堂様……!」

 

「まあいい! 囲むぞ! コイツはココで殺す!!」

 

「ハッ! お任せを!!」

 

 

浮遊していたソノラブーマが再びシザースへ向かって突進していく。

どうにもシザースは飛行している相手が苦手だ。

マミのマスケット銃が使えればいいのだが、カードをセットしている時間を敵は与えてくれない。飛ぶハエを落とす勢いで腕を振るうが、ソノラブーマはそれを回避し、足裏で肩を叩く。

 

 

「クッ!」

 

 

そうしていると女帝が走ってくるではないか。

回し蹴りで牽制するものの、そこでソノラブーマの爪が背を抉った。

 

 

「下に見るなよ人間ッ! お前の死が確実に迫っている事を理解したほうがいい!」

 

 

シザースのバイザーをいなすと、ソノラブーマはV字状に爪を振るい、シザースの装甲を傷つける。

よろけた所に女帝の飛び蹴りが入る。体勢を崩したところへ、さらに女帝のヤクザキックが決まった。ハイヒールの鋭利な踵がシザースの胸を突く。

シザースは衝撃から大きく後退していき、仰向けに倒れた。

 

 

「終わりだ! 須藤ッ!」

 

 

女帝は鞭を取り出すと、それを伸ばし、シザースのデッキを打つために振るう。

 

 

「!?!!?」

 

 

しかしシャキン! と音がしたと思えば、女帝の鞭がバラバラに切断された。

 

 

「なにッ!?」

 

 

見えたのは倒れたシザースが一枚カードを抜いたと言うことだ。

唸りながら立ち上がると、バイザーが消滅し、二対の双剣が地面前方に突き刺さる。

 

 

「あれは、まさか……!」

 

 

女帝の隣に着地したソノラブーマ。間違いない。サバイブだ。

魔獣を殺すだけの能力。ソノラブーマもバカではない。

既にミスパイダー、ディスパイダー、テラバイターが死んだ。油断すれば、次は自分――?

 

 

「クククッ、ありえない! この蝉堂ッ、人を超越し、魔獣をも凌駕するぞ!!」

 

 

ソノラブーマの目が光った。

力の解放。するとセミの鳴き声が聞こえる。

ミンミン、シウシウ、ツクツクボーシ、カナカナカナ。

様々な『蝉』の声が重なりあい、不協和音を作り出す。

 

 

「シケーダ・ブザーズ!!」

 

 

激しい音波がシザースに襲いかかる。

衝撃、轟音、不協和音が精神を蝕み、カードをツバイに入れる前に妨害する。

 

 

「グゥッ!! これは――ッッ!!」

 

 

脳が音で埋め尽くされる。シザースは溜まらず耳を塞いだ。

騎士はカードを入れるワンアクションがタイムラグを生んでしまう。

どうやら蝉堂はそれを妨害することに特化した能力のようだ。

いくら硬い装甲に覆われていようとも、音はそれを越えて浸食していく。

 

さらにこの音は味方には文字通り『聞かない』らしい。

この複雑に重なり合う蝉の鳴き声の中を、女帝は駆け抜ける。

薔薇のポンポンを手に装備して、シザースのデッキを砕こうとターゲットを決めた。

 

しかし音が攻撃に変わらないだけで、音自体は聞こえているようだ。

だからこそエンジン音には、気づかなかった。

そうだ。だからこそ飛び出してきたサイコローダーに対処できなかったのだ。

 

 

「ぼげぇ」

 

「!!」

 

 

女帝から間抜けな声が絞り出された。

タイヤが思い切り脳天を擦っているので、そのせいだろう。

オルタナティブ・ゼロはそのまま地面に着地すると、シザースの前で急旋回。車体を停止させる。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、貴方は……!」

 

「オルタナティブゼロ。香川です」

 

「ッ、貴方が!」

 

 

須藤も話は聞いている。立ち上がると、礼を一つ。

 

 

「香川英行……!」

 

 

ユイデータが齎したイレギュラー。思わずソノラブーマも息を呑む。

 

 

「なぎさもいるのですよ! 忘れないでほしいのですよ!!」

 

 

オルタナティブの後ろにしがみついていたなぎさは、ピョコンと顔を出す。

そのままサイコローダーから飛び降りると、タタタタとシザースへ駆け寄った。

 

 

「あなたが15人目の」

 

「はい! わたしは百江なぎさ! よろしくお願いします!」

 

 

なぎさが回復魔法をかける中、アビソドンが空を翔け、ソノラブーマに向かっていく。

 

 

「?」

 

 

オルタナティブの動きが一瞬止まる。

アビソドン? なぜ彼がココに?

 

 

「???」

 

 

いや、いいのか。

おかしくないのか? オルタナティブは割り切ることに。

一方、回避のため、ソノラブーマは羽を広げて空に舞い上がるが、アビソドンもフォームチェンジ。シュモクモードに変わると無数の弾丸を発射してソノラブーマを射撃していく。

 

 

「瓦礫の中に美樹さんが!!」

 

「!」

 

 

シザースは走ってくるアビスと仁美に向かって叫んだ。

血相を変えて瓦礫に向かっていく仁美と、それを追いかけるアビス。

一方で激しい憎悪が空に散布される。

 

 

「下宮ァアア! 魔獣を裏切るとはなァ! 楽に死ねるとは思わない事だ!!」

 

「もはや魔獣気取りか蝉堂! 忘れた訳じゃないだろ、お前は人間だ!!」

 

「元な! お前らバカがいたおかげで! 今は魔獣のトップクラスだ!!」

 

 

ソノラブーマは迷わずに前進を選んだ。

銃弾を身に受けながらも、憎悪に笑い、スピードを上げる。

アビソドンもまたノコギリモードに変形すると、大きな刃を前にして標的へ突っ込んでいく。

ぶつかり合うモンスター達。閃光が迸り、先に地面に墜落したのはアビソドンの方だった。

 

 

「ぐあぁッ!!」

 

「ハーッハハハハ! 所詮はその程度か。まさしく雑『魚』だなッッ!!」

 

 

ソノラブーマは知っている。

さやかを助けようとしている仁美達。なぎさがシザースに回復魔法をかけている事。

オルタナティブが女帝と戦っている事。

それは良くない事だ。だから邪魔をすればいい。広がる音がそれを可能にしてくれる。

 

 

「不協和音に苦しめ! シケーダッ! ブザーズ!」

 

 

重なる蝉の鳴き声が参加者達を妨害していく。悲鳴が聞こえ、ソノラブーマは愉快だと笑う。

しかし、歯を食いしばって跳んだ者がいた。

なぎさだ。真ん中に穴が開いているラムネを口に咥えると、それを思い切り吹いてみる。

 

ラムネからピーッと音がなった。

フエラムネと言うお菓子である。するとどうだ。その音色がソノラブーマの不協和音をかき消したではないか。

 

 

「な、なに!?」

 

 

ただのお菓子が魔獣の攻撃を止めた?

 

 

「なぎさのお友達を傷つける事は許しません」

 

 

いや、もちろんそんな訳はない。

これが、百江なぎさの固有魔法なのである。

 

 

「なぎさが全て止めます」

 

 

"弱体化"。それがなぎさの固有魔法である。

それなりに魔力を込めたので、音が音を弱め、わずかな不快感を覚えるだけに留めた。

そうしている間に、アビスがさやかを引き上げる。

 

 

「さやかさん!」「ッ、仁美……?」

 

 

さやかの目は虚ろだ。

当然か、好きな人が目の前で殺され、猟奇的な現場も見た。

今、さやかは不安定な状況だ。The・ANSWERから招かれているものの、事情を知らない彼女では混乱が激しい。ライアーハーツと記憶が混じりあい、混乱は加速していくばかり。

 

少なくともライアーハーツにおいて、さやかは上条のために戦った。

その上条が一瞬で死んだのだから、心が折れるのは無理もない。

現にソウルジェムが酷く淀んでいた。これはいけない、仁美はジュゥべえから貰ったグリーフシードを使用し、さやかの穢れを払う。

 

 

「でもこのままじゃ……!」

 

 

アビスの言うとおりである。

不安定な状態を何とかしなければ、さやかのソウルジェムは再び濁ってしまう。

なので仁美はコネクトを使用。とりあえず困った時は――、まず海香だ。

 

 

「ごきげんよう。あら……、また嫌な状況ね」

 

「実は――ッ!」

 

 

素早く事情を説明すると、海香は頷いた。

ピッタリの魔法少女がいるので、道を繋いでもらう。

すると魔法陣からクセ毛の女の子が飛び出してきた。

 

 

「う、海香ちゃん、これは一体――」

 

「二秒で説明するので、二秒で理解して」

 

 

未来の魔法少女、宇佐木(うさぎ)里美(さとみ)は、状況を把握すると、ぼんやりとしているさやかに魔法をかける。

ファンタズマ・ビスビーリオ。強力な洗脳魔法が、さやかを包み、強制的に冷静にさせる。

さやかは、ゆっくりと瞼を閉じてそのまま沈黙した。眠っている状態だと言う。

 

 

「仁美さんっ、ここお願いね!」

 

「中沢くんッ? どこへ!?」

 

「アイツを助けにいかないと!」

 

 

アビスは全速力で走り、アビソドンと戦っているソノラブーマのもとへ走る。

 

 

「おいお前っ! 俺と戦え!!」『ソードベント』

 

「ん?」

 

 

ソノラブーマはアビスセイバーの一振りを、羽を広げて飛翔することで回避する。

ならばとアビスはストライクベントのカードを引き抜いた。

しかしそれをバイザーへ噛ませようと言うところで、急降下からの蹴りを受け、地面に倒れてしまう。

 

 

「お前は……、そうか、アビス。中本くんだったか?」

 

「な・か・ざ・わ・だ!!」

 

「クハハハ! 失礼ッ! あまりにも印象が薄すぎて忘れてたよ!」

 

 

爪を向けられ、アビスは思わず一歩後ろへ下がる。

 

 

「下宮の引き立て役か? あー、噛ませ犬にはぴったりだ」

 

「な、なんだと!」

 

「魔獣の中でキミの名前を覚えてるヤツはいないんじゃないかなぁ? 弱すぎて覚えてない。そうだ、どのゲームでも惨めな役だった。僕なら情けなくて自殺してるね。クハハハハッ!!」

 

「……そうかよ。ああ、そうですか」

 

 

ガックリとうな垂れるアビス。

が、しかし、アビスはすぐに顔を上げた。

 

 

「でも俺は覚えてる。ミスシュピンネ、ミスパイダーだったよな?」

 

「!」

 

「アイツは俺が倒した」

 

 

もちろん一人では無いが……。

そこはあえて言わせないでほしい。今は。

 

 

「多分、アンタ達は嫌でも俺の名前を覚えると思うぜ」

 

「へぇ、なんでだろう?」

 

「決まってんだろ。魔獣を全滅させた男の名前になるからさ!」

 

「……ァー、弱い犬ほど、よく吼える」

 

 

双方、青筋が浮かんでいる。

そこで気づいた。いつのまにか辺りに無数のシャボン玉が浮遊しているではないか。

見れば、なぎさがお菓子の魔女であるシャルロッテを思わせる『ラッパ』を吹いており、そこか泡が発生しているようだ。

無数の泡は虹色の光を放っている。そして直後、泡が凄まじい音と共に弾けた。

 

 

「!!」

 

 

まるで爆弾でも爆発したような轟音だ。

しかも泡が割れた際、凄まじい衝撃波が発生してソノラブーマや女帝は思わず怯んでしまう。

バチンバチンと破裂音。衝撃で体が震え、視界がグラグラ揺れていく。

 

 

「チッ!!」

 

 

やっと爆発が止んだかと思えば、周囲にオルタナティブ達の姿はない。

どうやら撤退を選んだようだ。そもそもシャボン玉の爆発は衝撃と音が凄いだけで、ダメージは一切ない。

ソノラブーマは蝉堂に戻ると、近くの瓦礫に座り込んだ。

獲物を逃がした事は不快ではあるが、さやかの表情を思い出せば自然と笑みがこぼれてしまう。

ましてや上条のあの情けない死に顔。

 

 

「クハハハ、ウヒヒヒハハハ!!」

 

「傑作でしたわね。あの滑稽な人間の姿」

 

「その通りだ。見ろ、色つき。まだ恐怖のエネルギーが満ち満ちている」

 

 

大きく息を吸い込めば、絶望の香りが偽りの肺を満たしてくれる。

それが瘴気のエネルギーに変わっていくのだ。取り込んだ負を『快楽』に変換させる蝉堂。

一方で女帝は違っていた。味わう事はできないが、グッと我慢して、負のエネルギーを『力』に変換させる。

しかし良質なエネルギーだ。想い人を殺された美樹さやかの絶望は、魔獣にはよく染み渡る。

 

 

「オ」

 

 

すると、どうだ。

 

 

「ォォォオオオッォオオオ!!」

 

 

どうやら取り込んだ絶望のエネルギーが一定を超えたらしい。

メキメキと体が歪み、その姿が全く別のものへと変わっていく。

煌びやかで毒々しいドレスが弾け飛び、たくさんの棘があしらわれたボンテージへと変わる。

 

さらに頭部も変化し、顔の上半分はバラのブーケのように大量の花で覆われ、下半分はトラバサミのような無機質な『口』のみとなる。

魔獣の進化だ。より異形に近づき、悪趣味な姿に変わるが、それこそが魔獣にとっての『美』なのである。

 

 

「今は使えないバカ共が死んだおかげで、バッドエンドギアの席が空いている。しっかりと働けよ」

 

「ハッ! 必ずや参加者を始末してみせます!」

 

「結構。まずは逃げた者共を追え」

 

 

女帝は大きく頷くと、腕を前足代わりにして四足歩行で走り出した。

そのスピード。明らかに以前よりも速い。

蝉堂は歪んだ笑みを浮かべると、自らは星の骸へと帰還していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまく逃げ切れましたね」

 

 

オルタナティブは背後を確認するが、魔獣達が追ってくる気配はない。

サイコローダーに乗っているオルタナティブペア。ライドシューターに乗っているシザース。アビソドンに乗っているアビスペアと、眠っているさやか。

はてさて、これからどうしたものか。それを考えていると、さやかが目を覚ました。

 

 

「あ、あれ? 仁美っ? え――ッ、あたし……! な、なんで……」

 

 

混乱が酷い。

仁美がもう安全だという事を説明しても、さやかは目を泳がせていた。

 

 

「あれ? 仁美、変身してる? え? 魔法少女? あ、あれ? そっか。仁美も契約して……? ううん違う。違うよ。だってこれは転校生を殺すゲーム――? ち、ち、ちちち違う。だって転校生はッ、ほむらは仲間で……!」

 

「落ち着いてさやかさん。可哀想に……、記憶がまだ」

 

 

さやかもThe・ANSWERから連れて来られた事を察する。

必死になだめると、なんとか冷静さは取り戻したようだが、そうなると別の恐怖が湧き上がってくるというもの。

 

 

「そ、そうだ! ねえ仁美!! 恭介がッ、恭介がぁッ!」

 

 

事情を聞く。現れた魔獣、殺された上条。

 

 

「クソッッ!!」

 

 

アビスは苛立ちを隠しきれずに、掌を殴りつける。

しかしそれ以上にさやかの悲しみは深かった。

真っ青になり、唇を震わせ、目には大量の涙が見える。

見ちゃいられない。仁美はさやかを抱きしめると、頭を撫でて必死に落ち着かせる。

 

 

「落ち着いてさやかさん。大丈夫。上条くんは大丈夫なんです」

 

「え? え……? どッ、どういう事? 恭介ッ、生きてるの?」

 

「そ、それは……。ですが少なくとも完全に亡くなってはいませんわ」

 

「????」

 

 

仁美はさやかの震えを感じて、心が引き裂かれそうになるくらいの『痛み』を感じた。

駄目だ。耐えられない。これ以上さやかが苦しむのは嫌だった。だからこそ、提案する。

それはつまり美樹さやかの記憶を戻さないかというものだ。

幸いこの場にはシザースがいる。つまりメモリーベントを使えるということ。

それを直接的には伝えなかったが、ニュアンスをぶつけてみる。

だが賛同者はいなかった。シザースにしても、オルタナティブにしてもだ。

 

 

「オススメできません」

 

 

シザースがきっぱりと言った。

 

 

「え? な、なに? どうしたの仁美……」

 

 

不安そうなさやか。これではいけない。

仁美はとりあえずさやかに詳しい事は説明せずに、とにかく信じて欲しいと伝える。

 

 

「大丈夫。大丈夫ですから。私がついていますから。だからさやかさん……」

 

「う、うん。分かった」

 

 

さやかとしても仁美の存在は大きかったらしい。

全てを託して、『ローレライの旋律』を自分に使う。

魔法陣がさやかを包むと、すぐに意識を失い、寝息を立て始めた。

 

さて、話の続きだ。

シザースが躊躇した理由は簡単である。

何度も言われているように、さやかの魔女化に関する点だ。

 

因果律というものなのか。

ゲームを通してシザースの早期退場数が多かったように、『さやかが魔女になる』回数は、おそらく参加者の中でトップだろう。

 

 

「騎士はまだしも、全てを思い出すという事は、魔女になる際の記憶も思い出す事になります」

 

 

たとえそれが通り過ぎる記憶であったとしても、危険な事には変わりない。

確かに継承者にできればそれは心強いが、今彼らが持っているグリーフシードではとてもじゃないが足りないと思われる。

 

 

「もっとストックを作らなければ。足りませんでしたでは洒落になりません」

 

「それは……、そうですわね」

 

「そう言えば、百江さんはどういう状態なんでしょうか」

 

「あ、はい。なぎさはですね。一応は継承者になってます」

 

 

つまり覚えている側の人間だ。

しかしあくまでも途中参加としての恩恵なので、他とは扱いが少し異なる。

記憶を取り戻すためのメモリーベントは、香川が継承者にならなければ使えない。

 

 

「なぎさは少し特殊でして」

 

「特殊?」

 

「はいっ、というのもですねっ! 運命の日は知っていますか?」

 

 

ゲーム用語になっている言葉だ。

運命の日。つまりまどかが女神になった時間軸を指す単語である。

なぎさはその延長線にいる。まどかの側近としての記憶が強いのだ。

 

 

「実はそれはさやかもなのです!」

 

 

そこでなぎさはハッと表情を変えた。

そうか、それならばいけるかもしれない。

さやかが、なぎさと同じ位置に記憶を持っていくことが出来れば、一気に『割り切る』事ができる筈だ。

 

確かに絶望の記憶はあるだろうが、女神(まどか)の願いの下にある記憶まで着地できれば、魔女を封じ込める事ができるのではないか? なぎさは、そう思った。

他のメンバーにはいまいちピンと来ない話ではあるが、とにかく一定レベルまで耐えることができれば、あとはさやかが自力でなんとかできるのではないかという話。

しかしもちろん、その前に魔女化すればアウトだ。

 

 

「そしておそらく、さやかは耐えられません」

 

「ただそういう点では、僕に一つ良い考えがあります」

 

 

アビソドンが説明を行う。

成程、確かにそれならば可能性はあるかもしれない。

だがいずれにせよ、それは『今』ではないのだ。

 

 

「そ、そうですか」

 

 

仁美も記憶を取り戻す際の苦痛は知らない。偉そうな事は言えなかった。

 

 

「しかし、騎士は了解さえ取れれば記憶を戻せると」

 

「ええ。一応。といっても最悪の気分になるのでオススメしませんが」

 

「そ、そんなに……」

 

 

アビスは思わず喉を鳴らして肩を竦める。

しかし一方でオルタナティブが小さく手を挙げた。

 

 

「須藤さん。一つお願いがあるのですが」

 

「はい? なんでしょう」

 

「私の記憶を戻してもらいたいのですが」

 

 

思わず声が上がる。同時にブレーキをかけるシザースやアビソドン。

 

 

「聞けば騎士は魔法少女よりも負担が少ないようだ」

 

「いや、それはそうなんですが……」

 

「なぎさは賛成なのです。先生はそもそも記憶能力によって、擬似的な継承者とも言えます。もちろん他の人達に比べれば遥かに劣りますが、それでも耐えることはできると思います」

 

 

それに幸いにも仁美が傍にいる。

魔法少女の力があれば、心に迫る負担を少しは軽くする事が出来る。

 

 

「いずれにせよ魔獣戦において経験地が溜まるのは大きなアドバンテージになります。なぎさはやっぱり賛成なのですっ!」

 

「そ、そうですか? それでは――」

 

 

バイクを空き地に止める一同。

仁美はコネクトで、里美と海香を召喚。

なぎさも弱体化の魔法を使い、香川の恐怖心を鈍らせる。

 

 

「それでは雅史。お願いするのです!」

 

「え、ええ。では」

 

 

メモリーベントを使用。

香川の脳に、全てが叩き込まれた。

 

 

「………」

 

 

無表情。

 

 

「………」

 

 

無表情。

 

 

「………」

 

 

無言。無表情。

 

 

「………」

 

 

サイレント。無言でメガネをクイっと。

 

 

「終わりました。大丈夫です」

 

「えッ、凄い!」

 

 

中沢は思わず声に出す。

香川はピクリとも表情を変えず、乗り切ったではないか。

魔法少女のアシストがあれば意外となんとかなるものなのだろうか。

 

 

(これなら俺も、もしかしたら……!)

 

 

そこでなぎさが感想を尋ねた。

 

 

「どうでしたか先生」

 

「ええ、最悪の気分でした。生まれて初めて泣きそうになりましたよ」

 

「分かりにくいな!」

 

 

やはりアシストがあったとしても凄まじい不快感が襲ってきたようだ。

なによりも情報の塊を脳に叩き込まれるのだ。常人なら壊れている。

流石にジュゥべえもその当たりのケアはしてくれているようだが、キツイものはキツイ。

香川は大きなため息をつくと、頭を抑えて唸り始める。

 

 

「まず今までの人生が客観的に視えます」

 

 

須藤も頷いた。

はじめは、まるで他人のホームビデオを見るように自分の人生を振り返る。

おそらく自我が確立していないのが原因だろう。

なので小学生くらいから同調していき、印象に残っているイベントがサブリミナルのように高速で描写されていく。

 

 

「そろそろ死にませんか?」

 

「ええ。そうですね。まずは一度、軽く死にます」

 

 

意味不明な会話である。中沢は頭を抱えるしかない。

今までのループ、終わりは死だ。それを超えればまた新しい時間軸の記憶が生まれる。

そしてまた死。それを高速で繰り返す。

 

 

「脳が痺れます。体が重くなって、眠気に近い吐き気が襲ってきます」

 

「は、はぁ」

 

「嫌な記憶ばかりが過ぎる。暗闇に引きずりこまれる感覚です。そして――」

 

 

そこで香川はメガネをクイっと整えた。

 

 

「ココから先は、知らない方が幸せだと思います」

 

「えッ、いやッあの! 気になるんですが!!」

 

 

ゲームの設定として前回の時間軸がベースになるが、香川は序盤で魔獣に消されている。

とはいえ、記憶能力が働いているのかもっと前の時間軸の記憶も思い出せるようだ。

特にそれは、世界融合前の記憶であったとしても。

 

 

「ところで一つ気になる事があるのですが」

 

 

香川の疑問は、どうやら全く違うところにあるものらしい。

 

 

「なぜ中沢くん達はココへ?」

 

「え? 何故って? どういう事ですか?」

 

「いえ。私の記憶が確かなら、あなた達は鹿目さんの所へ向かったはずでは?」

 

「え? あれ?」

 

 

顔を見合わせる中沢と仁美。そう言われてみれば――……。

 

 

「あれ?」

 

 

まどかは――、どこへ?

 

 

『設定完了』

 

「!?」

 

 

声が聞こえた。歪み、嬉しそうな声が。

 

 

『歪んだ力はまだ残ってる。それはあまり好きじゃないの』

 

 

中沢が持っていたカードデッキから、まるで排出されるようにアビソドンのカードが飛び出してくる。それはすぐに下宮の姿に変わった。

それも、強制的に。

 

 

「なにッ!?」

 

『ようこそ、私の世界へ!』

 

 

ウキウキとした、嬉しそうな声だった。一瞬だった。中沢と下宮の姿が消えたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚心星原に送られた特定の参加者達。

彼――、城戸真司もまた選ばれた者の一人だった。

意識を取り戻した彼はすぐに異変に気づいた。パートナーであるまどかではなく、敵である筈のユウリが何の事なく隣を歩いているじゃないか。

 

 

『喋るな城戸真司。オイラの声は今、お前にしか聞こえていない』

 

 

戸惑っている間に話しかけてくれたのが助かった。

真司は小さく頷くと、ジュゥべえの声に耳を――、脳を傾ける。

伝えられたことは、中沢たちに教えた事とほぼ同じだ。The・ANSWERの軸とは違う。

もう一つの見滝原。

 

 

『暁美ほむらから分離した存在、焔が作り出した歪んだ世界』

 

 

思い出せ。思い出している筈だ。

意識をもっと深く――、そう、そうだ。ほら、思い出しただろう?

お前のパートナーは鹿目まどかではない。ユウリなんだ。

真司は全てを思い出し、小さく頷いた。

 

 

「ちょっと聞いてんの? 想い人がステーキでショック受けてるわけ?」

 

 

ジュゥべえの気配が消えた。そこでユウリが振り返る。

真司は異変を悟られないように曖昧な笑みを浮かべる。

それに心にズシリと来るショックは本物だった。

もうこの時間軸では美穂はいない。それは蓮もだ。二人とも死んだ。

本来、残っているのはもうライアペアと龍騎ペアのみなのだ。

 

 

「エリーが暁美ほむらを見失った。それだけじゃない、あの白いモザイク野郎共は何なのか? なんか知らないの? 城戸真司」

 

「いや……、俺は魔獣の事は何にも知らないよ。それよりこれからどうするんだっけ?」

 

「――グリーフシードのストックはもう十分。百回おかわりしてもまた沢山食べられる」

 

 

七日間のデスゲーム。ユウリは初めから後半戦に向けて力を蓄えてきた。

魔女を操れる技のデッキを使用して、使い魔を魔女に変えて殺害。

グリーフシードを確保するという行為を繰り返した。

おかげでストックは山のようにある。イーブルナッツで強制的に孵化させて襲わせるもよし。大技を連発して魔力回復に割り振るもよし。

 

ユウリとて状況はよく理解しているつもりだ。

LIAR・HEARTSの開催中、多くの参加者がほむらを襲ったが、皆返り討ちにあった。

もちろん協力者がいての事だろうが、ユウリとて慎重にいかなければ敗北する事は分かっている。

だからもっと注意して、感覚を研ぎ澄ませる。だからこそ感じていく違和感。

 

 

「何かがおかしい。アタシが理解していない何かが起きようとしている」

 

 

ゲームの演出じゃない。それこそ異物が紛れ込んだような感覚。

 

 

「………」

 

 

ふと、ユウリが立ち止まった。真司は思わず背中にぶつかってしまう。

 

 

「わ。どうしたのユウリちゃん」

 

「見て。ゾンビのお出まし」

 

「え?」

 

 

真司はユウリの人差し指の果てを見た。

ハッとして、息をのむ。そこにいたのは知り合いの姿だ。

北岡秀一。しかし真司がうろたえて停止していた理由は二つほど。

 

 

「おかしいな。ユウリ様、変なキノコでも食べたっけ?」

 

 

ユウリは目を細める。

北岡秀一が死んだ事を、彼女はエリーを通して知っていた。

もちろんそれは真司の記憶にもある。どうやって死んだかまでは分からないが、マミのパートナーとしては有名だったため、ユウリがマークしていたのだ。

少なくとも他人の空似ではない。確かに北岡は死んで、そして今、前を歩いているじゃないか。

 

あとはもう一つ。その様子である。

真司の印象にある姿とはまるで違う。親指をしゃぶり、大量のよだれを垂らしながら虚ろな目でフラフラと歩いている。

 

 

「マナーのなってないゾンビ。アタシなら出禁にしちゃう!」

 

 

ユウリは魔法少女へ変身すると、リベンジャーの銃口を北岡に向けた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよユウリちゃん! 物騒だな!」

 

 

真司は慌ててユウリの前に立つが、もう遅かった。

北岡は変身したユウリと、リベンジャーをしっかりと見ていた。

北岡は銃を知っている。出禁という単語の意味をまだ覚えている。

 

 

(銃を持っているヤツは出入り禁止になるんだ。銃は――、銃は……)

 

 

はて、銃とはなんだったか。

テレビのリモコンが無くなった事は覚えているのだが、エアコンの温度までは覚えていない。

今日は朝にパンを食べたから――、朝は何を食べたっけ?

そう言えば今日は何月何日なんだろうか。いけない。アメを舐めなくては垂れてきてしまう。

 

思い出した。銃は危ないものだ。

俺は命を狙われているんだ。蟲が今も頭を蠢いている。

痛い、気持ち悪い。もう嫌だ。出て行ってくれ。くそ、くそ。

あ、そういう事か。そうだ。蟲が銃なんだ。俺を殺すんだ。

アメが。待ってくれ。アメを舐めないと――

 

 

「アルツハイマーか。他にもいろいろちょっと混じってるな」

 

 

ユウリがエリーを使って調べさせた。一方で北岡はゾルダに変身していた。

今の彼にあるのは生を求めること。体を蝕む病は蟲と錯覚している。

大量のソレを体外へ放出するため、ゾルダはまず自分の体を撃った。

装甲に穴が開けば、そこから蟲が飛んでいってくれると思ったのだ。

 

 

「やめろ北岡さん! アンタ何やってんだ!」

 

 

しかし数発撃ったところで、龍騎が止めに入る。

北岡の病気は、この時間軸ではアルツハイマーを主としたものだった。

それは何となく理解したが――

 

 

「なんだお前は! お前も蟲か! 俺を殺すのか!」

 

「は? な、何を言って――、ぐあぁあ!」

 

 

銃声。マグナバイザーが龍騎の胴を射撃する。

衝撃を感じてよろけたところで、ゾルダの蹴りが飛んできた。

 

 

「よ、よせ! 北岡さん! 俺はアンタと戦うつもりはない!」

 

 

ゾルダは思う。北岡とは誰だ? 俺はゾルダ。

やはりコイツは蟲だ。蟲は――、脚が生えている。赤い虫だ。

恐ろしい害虫は駆除しなければならない。

 

皮肉なことに、騎士のことは脳に埋め込まれていた。

ジュゥべえがそう設定したのだろう。たとえどんなに病が進行していても、戦うための力は忘れない。

 

 

『シュートベント』

 

 

ギガランチャーが向けられ、迷いの無い弾丸が発射される。

戸惑うままの龍騎は、その攻撃をまともに受けてしまった。

 

 

「うが――ッ!」

 

 

息が止まる。全身の骨が軋む。

弾丸一発で低レベルの魔女ならば消し飛ばせる威力だ。

それを受けて龍騎の装甲はバラバラに。真司は地面を転がっていく。

 

 

「!」

 

 

すぐに立ち上がったが、二発目が既に迫っていた。

死んだ。一瞬そう思ったが、そこで真司を包む龍騎の紋章。

ついつい忘れてしまうものだ。スキルベント・ドラゴンハートにより、真司は弾丸を防御、さらに自動変身機能によって再び龍騎の装甲を獲得する。

 

 

「やるしかないのかよ! クソ!」

 

 

やむを得ない。龍騎は拳を握り締めてゾルダに向かって走る。

幸いギガランチャーには反動が存在し、次の弾丸が飛んでくるまではいくらかの余裕が出来る。

龍騎はその間に全力疾走。デッキからカードを引き抜き、ゾルダへ飛び込んでいく。

 

 

「ウラァア!」

 

 

飛び膝蹴り。タイミングは完璧だった。

事実、ゾルダもギガランチャーを構えるのが間に合わず、胴体でそれを受けてしまう。

だが――、その時だった。龍騎から悲鳴があがる。

ゾルダの体が光ったと思えば、足の裏が地面から離れ、後方に吹き飛んでいった。

 

墜落して地面を滑る龍騎。ここは隔離された時間軸。

獲得したカードも、本来とは微妙な違いがある。今のゾルダには特殊なガードベントがあった。

リフレクトアーマーは、所持しているだけで効果を発動できる。

打撃攻撃を受けた時に、相手を一度だけだが吹き飛ばせる。こうする事で再び有利な距離を作ることができるのだ。

事実、ゾルダはギガランチャーを構えなおし、砲口を龍騎に向けた。

 

 

「クソ!」

 

 

だが龍騎も手に持っていたカードをバイザーへ装填するだけの余裕はある。

コールベント。エンゼルオーダーによって、龍騎の前に巨大な盾を持った天使アカヤーが翼を広げる。

 

 

「!」

 

 

盾と弾丸がぶつかり合い、硬い音が耳を貫く。

しかし流石は鹿目まどかの防御力と言えばいいのか。

盾はゾルダの弾丸をしっかりと受け止め、無効化してみせる。

だが、ゾルダもまた目を光らせていた。グチャグチャになっていく脳内であったとしても、相手を殺すためのセンスは尚、研ぎ澄まされていくばかりだ。

ゾルダは龍騎の盾の弱点をすぐに見抜き、カードをバイザーへ装填する。

 

 

『アドベント』

 

 

龍騎の背後、少し離れたところにマグナギガが出現する。

巨大な盾は前方しか守れない。マグナギガはすぐにミサイルを発射して、龍騎の背を狙う。

 

 

「って、うわぁあ!」

 

 

龍騎が気配を感じた時には既にミサイルは放たれていた。

しかし上空から飛来する炎。ドラグレッダーの鳴き声が聞こえた。なつき度の関係により、主人の危機を察知したようだ。

炎弾はミサイルに直撃すると連鎖爆発を発生させて全滅させる。

 

 

「――ッ」

 

 

マグナギガは自らが積極的に動くモンスターではない。

それは世界が融合する前の世界でも同じだ。

では、どうやって獲物を仕留め、捕食していたのか。

それは簡単。獲物をウェルダンにした後、ゆっくりと歩いてステーキを召し上がるのだ。

 

だからこそマグナギガは重火器を使用して空中にいるドラグレッダーを撃ち落とそうと試みる。

ガトリング、レーザー。ドラグレッダーは硬い防御力を持つ腹部で抵抗するが、マグナギガはエンドオブワールドの爆風を耐える熱耐性を持っている。

このままの長期戦ではドラグレッダーがやや不利といったところか。

ならば早々に決着をつけなければならない。

 

龍騎は再び走り出し、ゾルダに駆け寄っていく。

不思議なことにゾルダは頭を抑えたまま停止していた。

好都合だ。つかみかかり、説得を行う。けれども返ってくるのは意味不明な返事ばかりだった。支離滅裂な内容の中に、唯一『蟲』という単語だけが聞き取れる。

 

 

「ぐッ、北岡さん……!」

 

 

そこで龍騎の腹部に衝撃。

ゾルダの膝が入った。後退していく龍騎に、次々と火花があがる。

 

 

「ウガァァ!」

 

 

ゾルダが撃った弾丸が原因だ。

騎士――、ライダーとしての本能が、人の部分を侵食していく。

まさに今のゾルダはキラーマシーンだ。止めるには――、どうすればいいのか。

 

 

「――ッ」

 

 

ずいぶんと皮肉なものだった。

とりあえず戦い、打ちのめし、気絶させる。

それが真っ先に浮かんでしまった。しかし北岡は病気だ。

一つの打撃が死に直結するかもしれない。

それが――、怖い。

 

龍騎の腕が震える。

しかしこのまま何もしないならば、殺されるのは龍騎のほうだ。

天使を呼ぶには――、まだ再生成まで時間がかかる。

つまり何もできない。龍騎の力に北岡を救うすべはない。

 

 

「………」

 

 

それでも――、それでもまどかならばきっと。

龍騎はデッキに手をかけ、サバイブのカードを抜き取ろうと意思を固める。

 

 

「!!」

 

 

しかしそこで背中から火花が散った。

よろけた所を、ゾルダに殴り飛ばされる。

フラつく龍騎。そこでさらに火花が散った。それだけじゃない。地面に何か模様が見える。

これは――、そう。魔法陣だ。

 

 

「パートナー同士は攻撃ができないだっけ? あれあれ? だったらコレはなんなのか」

 

 

龍騎は見た。三日月のように裂けた、ユウリの口を。

 

 

「城戸真司ィ! アタシの事はアソビだったってワ・ケ!」

 

 

箱の魔女エリーによる脳内ハッキングにより、ユウリは真実にたどり着いた。

そもそも始めから違和感はあったのだ。

 

 

『エリーが暁美ほむらを見失った。それだけじゃない、あの白いモザイク野郎共は何なのか? なんか知らないの? 城戸真司』

 

『いや……、俺は魔獣の事は何にも知らないよ。それよりこれからどうするんだっけ?』

 

 

初歩的なミスだった。

真司はしっかりと魔獣と口にしているが、ユウリにとってはそんな単語ははじめましてだ。

知ってますと言っているようなもの。気になってエリーで調べてみればコレだ。

繰り返されるループは既に知っていたが、まさにその先があったとは。

 

 

「イル・トリアンゴロ!」

 

 

魔法陣が爆発を起こす。吹き飛ぶ龍騎とゾルダ。

背中に衝撃が走り、視界がグラつく。そして華奢な腕が龍騎の体を引き起こした。

 

 

「うぐッ! ゆ、ユウリちゃん! やめてくれ――ッ!」

 

「こっちの台詞ッ! アタシはこの世界で満足してるんだ! 困るんだよこれ以上の勝手は!」

 

 

ハイキックが龍騎の頭部を打つ。

激しい眩暈。そこでユウリが跳躍で龍騎の背後に回りこむ。

そこで再び龍騎の全身から火花があがった。マグナギガが主人を攻撃したユウリを狙ったのだ。

しかしユウリは龍騎を盾にして、さらに臀部を蹴る。

 

 

「完璧に組み立てたコース料理の合間に、お菓子を食べられるのはゴメンなわけよ」

 

 

銃弾変更。炎の弾丸、レッドホットへ。

ユウリは銃口を倒れているゾルダへ向ける。

まずは余計なイレギュラーを排除する。そして暁美ほむらの抹殺。それでユウリの目的は達成される。

 

しかしその時、猛スピードでゾルダの前に龍騎が割り入った。

どうやらカードの再生成が完了したらしい。エンゼルオーダーにて、ハホヤーを呼び出す。

その効果は、庇う意思があればスピードが上昇するというもの。

だから龍騎はその身で炎の塊を受ける。

 

 

「ぐあぁッ!」

 

「ハハハハ! お行儀がいいこと。さっきまで戦ってたのに、なんでよ?」

 

 

龍騎は煙あがる中、ユウリをまっすぐに睨んだ。

 

 

「それが俺の、選んだ道なんだ……!」

 

「あ、そう。それは結構。でもアタシだって同じなわけで」

 

 

リベンジャーの銃口に魔法陣が浮かび上がる。

徐々に文字が追加され、巨大化していくソレ。イルトリアンゴロの力を圧縮しているのだ。

しかし龍騎は逃げない。たとえ起き上がったゾルダが、龍騎の背を撃とうが、それでも龍騎は退かなかった。

 

デッキから抜き取るガードベント。

それで弾丸を受け止めようというのだろう。

その様子を見てユウリは呆れたように笑う。

 

 

「お客様。アホなのは――、損ですよ」

 

 

向ける銃口。

 

 

「消えろ。イル・トリアンゴロッ!!」

 

 

引き金を引くと、磁力弾が発射されて龍騎へ向かう。

その時だった。巨大な『マカロン』が龍騎の前に出現したのは。

 

 

「は!?」

 

 

美味そう――、じゃない!

ユウリは目を見開いて停止する。

マカロンは弾丸をしっかりと受け止めたではないか。もちろんただのお菓子にそんな事は不可能である。

 

 

「真司! 生きてますか!」

 

「ッ、なぎさちゃん!」

 

 

白い魔法少女がヒラリと舞い降りる。

さらにエンジン音。サイコローダーに乗ったオルタナティブがゾルダの前に入った。

 

 

「ッ、誰?」

 

 

怪訝そうに眉を顰めるユウリ。知らない魔法少女と騎士だ。

一方で地面を蹴るなぎさ。勢いとは裏腹に、バックステップである。

 

 

「先生!」

 

「了解しました」

 

 

急ターン。

タイヤが地面をこする音が聞こえ、オルタナティブはユウリに突進していく。

 

 

「だから誰!?」

 

 

ユウリは反射的にマシンガンを両肩の上に出現させて連射するが、オルタナティブは身を屈めて構わず突っ込んでいく。

車体が跳ねた。タイヤがユウリの前髪を掠る。

 

 

「あっぶな! いや事故! これもう事故!!」

 

 

バイクが突っ込んでくる。

人間としての常識を刺激されたか、ユウリは慌てたように後退していく。

その隙になぎさはヨロヨロと立ち上がるゾルダを見つめた。

 

 

「なぎさにお任せあれです」

 

「え?」

 

「15人目としてお仕事はキッチリやるつもりなのです。えっへん」

 

 

なぎさは自慢げに笑うと、ゾルダをしっかりと指差した。

 

 

「まずは北岡秀一をお助けなのです。大丈夫、なぎさがしっかりやるので、サポートをお願いします」

 

「あ、ああ! わかった! 俺は何をすればいいッ?」

 

「なぎさは北岡という人をよく知らないのです。あの人を説得するのは――、お任せします」

 

 

なぎさの小さな体が動きだす。

タタタタと軽快に走り、ゾルダへ距離をつめていった。

しかし当然、銃弾が飛んでくる。するとなぎさは顔を手で覆い、擦り始めた。

ギョッとする龍騎、一瞬なぎさの顔が白塗りになったと思ったが、そうじゃない。

顔だけがなぎさが魔女になった際のシャルロッテを彷彿とさせるデザインに変わったのだ。

 

 

「蟲だ」

 

 

ゾルダがポツリと。

 

 

「魔女です」

 

「殺さないと」

 

「イメチェンしただけなのに、あんまりなのです」

 

 

スピードが上がる。

腕を振るい、なぎさは飛んできた弾丸を指で受け止める。

そして、ボリボリと。

 

 

「は?」

 

「ピーナッツかと思いました。そりゃもうペロリです」

 

 

加速するなぎさ。気づけば完全に魔女(シャルロッテ)に変身していた。

恵方巻きのような細長い姿。空を飛行し、ゾルダもカードを抜き取る。

 

 

『シュートベント』

 

 

ギガキャノンの弾丸が二つ、同時にシャルロッテに直撃する。

狙いはいいが――、命中させた安心感で、ゾルダは爆炎から小さなシルエットが飛び出してきたのに気づくのが遅れてしまった。

それはなぎさの別形態。『ベベ』と呼ばれたものだった。

魔女になっても同じだが、なぎさの固有魔法は弱体化である。

 

魔法少女は固有魔法を中心に能力や武器をアレンジすることができる。

たとえばマミが拘束魔法から、相手をしばるリボンを獲得し、さらに凶悪な犯人を抑止させる『銃』と派生したように、なぎさも一口に弱体化と言っても様々な用途に使い分けている。

 

その中のひとつが『擬態』である。

生き物は自分よりも弱いものを餌とし、食物連鎖で現したピラミッドの下には油断してしまうものだ。

ナナフシなどやタコなどは、それを利用して『回避』に使っているが、チョウチンアンコウやハナカマキリは、自らを弱いものとする事で油断を誘い、逆に相手を捕食する。

 

なぎさも同じだ。

かつてシャルロッテはマミを油断させて食い殺した事があるが、はじめから強そうな姿ではなく、かわいらしい姿で油断させていた。

それはさておき。現在、ベベとなったなぎさは、ゾルダの背後に着地して魔法少女の姿に戻る。

 

 

「フッ!」

 

 

掌底がゾルダの胴に命中する。

これは攻撃ではない。なぎさの目がギラリと光り、魔法が使用される。

 

 

「見えました」

 

 

ゾルダが回し蹴りを繰り出したときには、既になぎさは空中だった。

ヒラリと舞う小さな体。髪の毛がなびき、そこから見えたなぎさの表情は、どこか大人びているように思えた。

円環の果て、彼女が掴んだ役割。

 

 

「ヌーシャテル!」

 

 

魔法名を叫ぶと、ゾルダの体が発光する。

すると異変はすぐに起こった。ゾルダが呻き声をあげて苦しみ始めたではないか。

 

 

「ぐあぁあッ! な、なんだコレ……! あぐゥァッ!」

 

 

龍騎は息を呑むが、そこで気づく。

苦しんでいるには苦しんでいるが、やけに饒舌になっていくような……。

 

 

「今です真司! 北岡秀一の病気を弱体化させました!」

 

 

北岡も真司と同じ、The・ANSWERから虚心星原に招かれたものだ。

しかし虚心星原――、つまりLIAR・HEARTSにおいての北岡の病の進行が強すぎるため、リンクした時点で乗っ取られてしまった。

 

だが今、なぎさが病を弱体化させたおかげで、進行が止まり、かつ症状が和らいだ。

これによりThe・ANSWER軸の北岡が優先されていくのである。

そもそも、『北岡秀一が病に犯されている』という事実は変わりないが、病状は違う。

だからこそThe・ANSWER軸が優先権を得れば、現在の病が上書きされていくのだ。

 

 

「ですがコレは応急処置です!」

 

 

今、北岡は不安定だ。

The・ANSWER軸と、LIAR・HEARTS軸の北岡がぶつかりあっている。

 

 

「ひとつに纏めるには、メモリーベントによる記憶継承を行う必要があるのですっ!」

 

 

そこで龍騎もピンときた。

だから先程なぎさは、龍騎に説得を頼んだのだ。

メモリーベントは相手が思い出すことを受け入れなければ発動ができない。

 

 

「よ、ようし! 任せろ!」

 

 

龍騎はすぐに頭を抑えているゾルダへ駆け寄っていく。

 

 

「北岡さん聞こえるか!」

 

「アァ!? だ、誰だお前! っていうか、俺はなんでこんな――、ぅうぅう!」

 

「アンタとにかくこのままじゃヤバイんだよ! どれくらいヤバイかっていうと……、とにかくすっごいヤバイんだ!」

 

「クソ! なんなんだ! おいやめろ、俺に触るな!」

 

「いや、や! そうはいかない! とにかく北岡さん! 今は俺を信じてくれ。すっげぇ苦しくなるかもしれないけど、楽になれるから! ほら、これ、これメモリーベントって言うんだけど、これ使えば思い出してなんとかなるから!」

 

 

龍騎も焦っているのだろう。意味不明な説得である。

そしてゾルダも今はそれどころではない。先程まで裁判が終わって秘書たちと酒を飲んでいた筈なのに、気づけば今は騎士に変身して見知らぬ場所にいる。

 

いやそれだけじゃない。この頭の中に小さな蟲がたくさん詰まって、動き回っているような不快感。そればかりか、知らない記憶が頭の中に流れ込んでくる。目の前にいる騎士は誰なのか。パートナーがマミ? いや、そんな魔法少女は知らない。

 

そもそも魔法少女とはなんだったか?

だめだ。蟲がいる。いや違う。蟲はいない。

これは幻聴だ。なぜ幻聴を見る? アルツハイマーは薬? いや、聞かなかった。

おかしい。何かがおかしい。五郎ちゃんはなぜ糸で唇を縫っているのか?

記憶が違う。誰だ? 俺は誰なんだ?

 

 

「北岡さん!」

 

 

その時、頭の中にいる蟲が散った気がした。うるさく響く男の声。

誰だコレは? そういえば楽になると言っていたか。

ゾルダは一瞬そう考え――、そして今までの言葉を思い出し、意味を理解していく。

 

よく分からないが、とにかく楽になるのならどうでもよかった。

思い出すとか、苦しくなるとか言われた気がしたが、どうでも良かった。

ゾルダは一刻も早くこの最低な状況から抜け出さなければならない。

優雅で気品に満ち溢れた男が、指を千歳飴と勘違いして一心不乱にしゃぶっていた記憶を、今すぐ抹消しなければならない。

 

だから半ば適当に頷いた。

どうでもいいから、早くしてくれ。

それを聞くと、龍騎は頷いてカードを発動させる。

 

 

『メモリーベント』

 

 

ゾルダの頭の中に、いつか聞いたことのある妖精の声が響いた。

 

 

『全て思い出すか? 北岡秀一』

 

 

契約書をよく見ないのは詐欺に引っかかるヤツの特徴だ。

しかし今のゾルダにそこまで考える余裕はなかった。

だから、頷く。

 

 

「―――」

 

 

宇宙が頭の中に広がった。

まばゆい銀河。果てしなく続く星の先に広がるアンドロメダ。

ゾルダの脳に、全てが流れ込んでくる。

 

 

「う――ッ! ガァアアアアアアア!!」

 

 

それは今のゾルダには耐えられるものではない。

が、しかし、すぐになぎさが滑り込んでくる。

 

 

「カマンベール!」

 

 

光のカーテンがゾルダを包むと、悲鳴が止まる。

恐怖心や不安を弱体化させ、精神を安定させる魔法だ。

それもまた、なぎさが15人目として選ばれた理由であろう。

 

 

「なぎさや、まどかの魔法があれば、多くの人の拒絶反応を抑えることができます」

 

 

円環の理の使者として在る記憶。

なぎさには、シャルロッテとして多くの人を殺した記憶があった。

知らぬ罰としても、消えぬ罪だ。その贖罪がゲームの参加者として選ばれたことならば、喜んで前に進もう。

 

 

「本当のなぎさは、たくさんの人をお助けできるのです……!」

 

 

少しだけ声が震えた。

ふと、緑色の腕が伸びる。ゾルダの拳が龍騎の頬を打った。

 

 

「うげぇ!」

 

 

倒れる龍騎と、反対に立ち上がるゾルダ。

なぎさは不安げに肩を竦める。記憶継承が終わったのだろうか?

その上でゾルダは攻撃を――?

 

 

「アホかお前はぁあ!」

 

「ッ!?!?」

 

 

ゾルダは頭を抑えながら、嗚咽を漏らしていた。

 

 

「さいっあくの気分だ! こんなのになるならもっと先に言っとけよ! だいたいなんだあの説得は! あんなもんで心が揺れるわけないだろ!」

 

 

ゾルダは龍騎を睨む。

 

 

「城戸。お前なぁ、そういう所だぞ! お前はそういうところが詰めが甘いんだ!」

 

「ッ、先生! 思い出したんだな!」

 

「そうしたんだろうが! だいたい何寝てんだ。俺がこんなに苦しんでるのに、いい気なもんだな!」

 

「アンタに殴られたからだろ!」

 

 

龍騎は立ち上がってゾルダに掴みかかろうとするが、ヒラリとかわされ尻を蹴られる。

再び前のめりになって転がる龍騎を放置して、ゾルダはなぎさに近づいていく。

 

 

「俺の病気はどうなってるッ?」

 

「既にキュゥべえから聞いてます。今の貴方は――」

 

 

因果律により、北岡は高確率で病に蝕まれるとあるが、現在の北岡は前回のゲームで患ったものと同質である。さらにその病は融合前の世界、龍騎の世界と呼ばれたところで起きたライダーバトルでも患っている。

要するに放置しておけば、やがて死ぬ事にはかわりない。

 

 

「ですが、なぎさがいれば大丈夫です」

 

 

なぎさの魔法により、北岡の病状が悪化するスピードは限りなく抑えられている。

 

 

「もちろん……、有限ではないのですが、少なくともゲーム中くらいは問題ないかと」

 

「なるほどな」

 

「あと、なぎさがやられてしまうと魔法が消えてしまうので、できれば守ってくれると嬉しいのです」

 

「………」

 

 

ゾルダは少し気だるげに何度か頷くと、なぎさの頭をポンポンと叩いた。

子供に救われるのは癪に障るが、まあそれはそれだ。

 

 

「おい、さっさと立て城戸」

 

「いやッ、だからアンタなぁ!」

 

「さっさと協力して、ココを抜け出すぞ」

 

「ッ! 協力してくれるのか!」

 

「あのなぁ。お前、俺をなんだと思ってんのよ。全部思い出した上で、まだ戦いを続けるバカがどこに――」

 

 

い、いかん。たくさん頭に浮かんできた。

ゾルダは小さく首を振って言葉を切る。

 

 

「と、とにかくだな。俺は他の野蛮な連中とは違うんだよ。馴れ合うのは好きじゃないが、何を優先するべきかくらいは分かる。スーパー弁護士は間違えないんだ」

 

 

それに――、ゾルダには思うところがあった。

思い出すのは主に前回のゲームだが、全てを思い出した人間にはそれぞれ印象に残っている出来事がある。

中でも北岡は、融合前の世界――、龍騎の世界での出来事を強く記憶に残していた。

 

 

「グダグダ醜く生きてたって、仕方ないしな。少なくともお前らに協力してれば病気は抑えててくれるんだろ?」

 

「別にそういう脅しのつもりじゃ――」

 

「いいって。そっちのほうが色々、俺も割り切れる」

 

 

そこで悲鳴が聞こえた。ユウリが地面にへばりついている。

 

 

「クソ! なんでッ!」

 

 

はじめはオルタナティブを圧倒していたが、徐々に押され始め、今は攻撃を当てることすら難しくなっていた。

するとオルタナティブは指で頭を指し示す。

 

 

「覚えてしまうんですよ。私は全てをね」

 

「はぁ? 意味不明だわッ!」

 

 

しかし穏やかな状況ではない事くらいは分かる。

改めて周りを見てみれば、なにやら龍騎とゾルダが並び立っているではないか。

協力するのならば、つまりユウリVS龍騎、ゾルダ、なぎさ、オルタナティブというあまにも不利な状況。さしものユウリ様も、これには冷や汗が垂れる。

 

 

「なーんて。うっそー」

 

 

魔女狩りのユウリはニヤリと笑う。

ヒラヒラと舞い落ちてくるのは大量のカード。

絵柄にはそれぞれ一枚一枚魔女が記載されている。

 

 

「ストックは既にてんこ盛り」

 

 

気づけば、周囲の景色がまったく違うものに変わっている。

広大な魔女空間。ユウリはまだ余裕だった。

 

 

(最悪――……、奥の手もある。アタシはこの世界を守るんだ)

 

 

一方で、龍騎達にも引けない理由はある。はじめに前に出たのは、なぎさだった。

 

 

「行きましょう。先生、真司、秀一」

 

 

なぎさを中心にして並び立つ騎士たち。

 

 

「まずは、ユウリを攻略します」

 

 

なぎさはチラリと、遠くの方で隠れているさやかを見た。

さやかも汗を浮かべながら、確かに頷いた。

 

 

 






なぎさちゃんのために石を貯めておいたんだがよぉ、ちぃとも当たらねぇんだよあのゲームはよぉ(´;ω;`)
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