仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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今後の展開は、漫画版の『魔獣編』の要素を含んでいます。
ネタバレもあると思うので、まだ見てない人は注意して下さい(´・ω・)

あとあとがきに、平ジェネの感想書いてます。
ネタバレありなんで、まだ見てない人は見ないでね





第91話 アタシとアンタだけの秘密だよ

「ゲルトルート! エルザマリア! ギーゼラァアッ!」

 

 

ユウリのお馴染みのスタイルは、この世界でも変わっていないようだ。

エルザマリアがマントになって背中に装備され、小型化されたギーゼラのシートに飛び乗る。

それとは別に、地面が割れて、そこから大きな体のゲルトルートが飛び出してきた。

いくら騎士や魔法少女の力が強いとはいえ、体格差は有利不利を決める重要な要素となる。

 

 

「ブチ潰さ・れ・ろッ!」

 

 

ユウリは妨害するためにマントを展開。

黒い線が伸びていき、その先端には動物の顔がくっついている。

エルザマリアの使い魔である『セバスチャンズ』である。鋭利な牙を光らせて、対象を食い尽くそうと飛んでいった。

 

 

「お任せあれです!」

 

 

まず動いたのは、なぎさだ。

どこからともなく可愛らしいバケツが現れ、それを振るうと大量のゼリービーンズが放られる。

これには龍騎のドラグケープと同質の力が纏わりついているようだ。

使い魔たちは標的を龍騎達からゼリービーンズに変更。それらをバクバクと口の中に入れていく。

 

ゼリービーンズの中には弱体化の魔法がたっぷりと詰まっている。

次々と勢いを失い地面に倒れていく使い魔たち。

さらになぎさはラッパの銃を抜いていた。銃口に収束していく霧のような物体。

気づけば銃口の前に大きな『綿菓子』が張り付いている。

 

 

「シュート!」

 

 

綿菓子の塊を発射すると、ゲルトルートの体に引っ付いた。

その状態で受ける突進。ゲルトルートの巨体から繰り出されたのだから、相当な衝撃だろうが、それを全て『綿』が吸収して龍騎達に伝わるダメージは限りなく抑えられる。

さらに発射されるシャボン玉。それがバチンとはじけると、すさまじい衝撃がゲルトルートを襲い、動きが鈍った。

 

 

「今です!」

 

 

すぐに三人が動いた。

オルタナティブはスラッシュダガーに炎を纏わせ、龍騎はドラグクローを。ゾルダはギガランチャーをブッ放し、ゲルトルートを吹き飛ばす。

どうやら炎が弱点らしい。すぐに全身に火が回り、魔女の悲鳴が聞こえる。

 

巻き起こる爆発。

なんだこんなものかと龍騎はホッとしたが、すぐにそれが間違いだと気づく。

ユウリはあえてまだ弱いゲルトルートを呼び出した。

それも全ては囮に使うためだ。

 

 

「ゴミ共! ユウリ様の肥やしとなれ!」

 

「ッ!」

 

 

爆炎を切り裂いてギーゼラが飛んでくる。

オルタナティブも、初めて見る攻撃パターンには対処できなかったのだろう。

突進を受けて吹き飛び、さらにユウリは龍騎の首を掴んで思い切り飛び上がった。

エルザマリアは今、翼に変形しており、ユウリは魔女結界の天井限界まで上昇していた。

 

 

「ドラゴンはさっき呼んでたよなァ! まだ出せない筈だ!」

 

 

首から手を離せば、龍騎は落ちていくしかない。

しかしユウリは飛べる。落下していく龍騎を蹴り、撃ち、また掴んで上に昇る。

 

 

「こんの!」

 

 

抵抗しなければと龍騎は思った。

殴る事はできずとも、掌底か何かで突き飛ばすことはしなければと。

 

 

「真司……ッ!」「うッッ!」

 

 

だがユウリは変身魔法を発動。美穂になり、『女優・ユウリ様』を発動させる。

 

 

「どうして助けに来てくれなかったの?」

 

 

LIAR・HEARTSの記憶を刺激する。

この世界――、時間では真司と美穂はわかり合う事ができなかった。

その想いが胸に刺さる。たとえそれがユウリだと分かっていても、腕に入る力が弱くなってしまった。だからユウリはニヤリと笑うのだ。

両足を揃えて龍騎の胴に叩き込み、そのまま一気に地面まで落としてみせる。

 

 

「がは――ッ!」

 

 

小さなクレーターができた。

ユウリはバク宙で龍騎から離れ、追撃の弾丸を発射していく。

しかし弾丸にぶつかる弾丸。ゾルダが銃口を向け、さらにユウリの眉間を狙っていた。

 

 

「俺はその女でも撃てるぞ」

 

「あ、そう。じゃあこれは?」

 

 

変身魔法。ユウリは北岡秀一に変身した。

 

 

「ンなッ!」

 

 

ゾルダの手が止まる。

 

 

「ど、どうしたんですか秀一!」

 

「やられた! 撃てない! 他のヤツならともかくッ、俺の美しい顔を撃つなんて、俺にはとてもできない!」

 

「言ってろよ! 俺がボコボコにしてやる!」

 

 

龍騎は立ち上がるが、すぐにゾルダが龍騎の尻を撃った。

 

 

「いったぁああ! 何するんだよ!」

 

「こっちの台詞だ! やめろバカ! 訴えるぞ!」

 

「ふ、ふたりとも落ち着くのですっ! 今はぷんすかしてる場合じゃ!」

 

 

そこで足元に広がる魔法陣。

 

 

「あ」「あ」「あ」

 

 

北岡秀一(ユウリ)が中指を立てて舌を出した。

 

 

「イル・トリアンゴロ!」

 

「「ぎゃあああああああああ!」」

 

 

爆発が巻き起こり、龍騎とゾルダが吹き飛んでいく。

だがユウリはすぐに目を細めた。なぎさがいない。

どこに? 決まってる。オルタナティブが助けたのだ。

後ろを見ると、アクセルベント・シャドウモーメントにより加速しているオルタナティブを見た。その脇にはなぎさが抱えられている。

 

 

「クソ!」

 

 

回し蹴り。捉えた筈だが、それは残像。

オルタナティブはユウリの真横に回っていた。

 

 

「なぎさ」

 

 

それは一瞬の出来事。しかしなぎさには世界がスローになった気がした。

北岡秀一が溶けたと思えば、そこに『母』が立っていた。

ゲルトルートと戦っている時に、ユウリは既にエリーでなぎさの『中』を視ていたのだ。

 

 

「良い子になれって言ったでしょう?」

 

「お母さん!」

 

 

なぎさはラッパを持つ右手ではなく、左手を伸ばした。

しかしユウリは確かにリベンジャーの銃口をなぎさに向けていた。

 

 

「うぶッ!」

 

 

だがそれよりも早く、オルタナティブの肘がユウリの腹部に入った。

蹴り飛ばす。オルタナティブは足を振ったが、ユウリは既に後ろに飛んでいた。

着地地点にはギーゼラが先回りしており、ユウリはシートに着地する。

 

 

「落ち着いてください、なぎささん。アレはユウリです。貴女の母親ではない」

 

「そう――、ですね。そうでした。ごめんなさい。分かってた筈なのに……」

 

 

なぎさはシュンとして俯く。

その悲しげな表情を見て、オルタナティブは小さくため息をついた。

 

 

「ユウリさん。どうやら貴女にはおしおきが必要のようだ」

 

「ハハハハ! 甘やかしてばかりは駄目。時にはピリリとした刺激もないと!」

 

 

ユウリは地面に落ちていた一枚のカードを撃った。アドベントで魔女を呼び出す。

それはまるで着ぐるみ。緑のワンピースの胴体が現れ、ユウリはそこへ入った。

さらに腕が、脚が被さり、最後には大きなピンクのウサギの頭部が顔を覆う。

 

 

「ツバメはどこにいる? どの塔から飛び降りる? 泡になって消えた少女は美味しいかい? 王様の灰はどこに埋もれてる? 腐ったリンゴはどこに落ちる?」

 

 

立ち耳の魔女・キャンディ。

首に巻いたリボンがエルザマリアになっていた。

 

 

「ある時は愛されず、ある時は過剰に愛される」

 

 

魔法少女の願いは、時間軸によって変わる時がある。

因果律により、だいたいは同じ願いだが、たとえば鹿目まどかは、ある時は猫を助けるために魔法少女になり、ある時はケーキを生み出すために魔法少女になった。

なぎさもそうだ。ある時は――。またある時は……。

 

 

「お前は、どれを本物にしたい――?」

 

 

ユウリは暁美ほむらが嫌いだった。

彼女のやって来た事はエリーを通して知っている。

時間を戻すという事は、そこで得た全てをウソにするということだ。

ユウリにはそれが許せなかった。

 

 

「苦いピーマンも、大人になればそれが美味しくなるって言うじゃん?」

 

「………」

 

「死んで見る甘い夢も。それはそれで」

 

 

なぎさは指を鳴らした。

するとお菓子の魔女の使い魔である『ピョートル』が大量に召喚されてユウリへ向かっていく。

それを見て、ユウリはギーゼラのアクセルグリップを捻った。

大きなウサギがバイクに乗って突っ込んでくる光景はシュールではあるが、その勢いは本物だ。

 

さらにそこでウサギがピンクから青色に染まり、長い耳が『口』になる。

それを使ってピョートルを食い、轢き殺し、ユウリは近づいてくる。

さらにエルザマリアが動く。無数の黒い枝が伸び、なぎさ達を刺し殺そうと試みる。

 

 

「先生――……、裕くんを呼んでください」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

「分かりました」『ファイナルベント』

 

 

既にバイク形態になったサイコローグが走ってくる。

飛び乗るオルタナティブ。同時になぎさも、シャルロッテへ変身して大口をあける。

 

 

「裕くん! 少し我慢するのです。かぷーッ!」

 

 

シャルロッテはサイコローグの足先、つまりサイコローダーの車体後ろに噛み付いた。

そのままオルタナティブはデッドエンドを発動。高速回転するバイクだが、シャルロッテが追加されたことによって、長い体がまるで鞭のように武器となる。

デッドエンドのリーチを拡大させる技。これが二人の複合ファイナルベント・『ブラックエンド』だ。

黒い旋風は、向かってきたエルザマリアを弾き飛ばし、オルタナティブは一気に加速する。

 

 

「―――」

 

 

ギーゼラとサイコローダーがぶつかり合い、爆発が起きる。

激突の間際、一度シャルロッテの体当たりが入ったため、勝ったのはオルタナティブだった。

 

 

「――ゥッ!」

 

 

キャンディのきぐるみが燃えている。

しかし外側の魔女が死のうが、それが鎧になってくれて中のユウリは無傷であった。

脱ぎ捨てる魔女。一方でシャルロッテはなぎさに戻り、地面に着地する。

 

 

「なぎさは、全てを本物にします」

 

 

にらみ合う二人。ユウリは呆れたようにため息をつく。

 

 

「それは、逃げだ。アタシは逃げない」

 

「なぎさはそうは思いません。それに――」

 

 

なぎさは人差し指を真上に向ける。

 

 

「見つけました」

 

 

目を見開くユウリ。

そもそも、いくら爆発を受けたとはいえ、さすがに龍騎とゾルダは立ち上がっている。

この今は、ゲームであってゲームではない。キュゥべえ達が与えた恩恵のひとつ。テレパシーを使って、既に作戦は遂行されていた。

 

といっても簡単だ。

始めにそれを口にしたのは下宮だった。彼はゲームを見ていたし、記憶していた。

だからこそユウリが暁美ほむらを殺すために、大量のグリーフシードをストックしていた事に気づいていた。

それを――、利用する。

 

 

「北岡さん!」「分かってる! ごちゃごちゃ言うな!」

 

 

ギガキャノンからプラズマ弾が発射され、天井に突き刺さっているドラグアローの矢に触れた。

すさまじい爆発が起こり、魔女結界が震動する。

天井に――、それはそれは大きな穴が開いた。それこそが下宮の狙いだったのである。

ユウリは大量のグリーフシードを魔女結界の中に保管している。それを使い――

 

 

「今です! さやか!」

 

 

飛び出した青。美樹さやかは穴に向かって跳躍した。

 

 

「くッ!」

 

 

何を狙っているかは知らないが、余計な事をされては困る。

ユウリはリベンジャーを向けて発砲を行った。見事なエイム能力。弾丸はさやかの肩を撃つと、勢いを殺して墜落させる。

 

 

「任せろ」

 

 

だが、前に出た男がいた。

その男、ゾルダ。美樹さやかを抱きとめると、そこで光が迸る。

 

 

「あ」

 

 

パートナー契約の完了。さやかのマントに牛の紋章が刻まれる。

ゾルダは記憶を取り戻している。だからか、すぐに新カードが生まれた。

 

 

「なるほど」

 

 

頭の中に入ってくる能力。

ゾルダはさやかを『捨てる』と――

 

 

「ぶへぇ!」

 

 

すぐにそのカードを使用した。

 

 

『シュートベント』

 

 

シュートベント・ブルーシューター。

ギガランチャーか、ギガキャノンに、『ある能力』を付与するものだ。

現在ゾルダはギガキャノンを装備中なので、そちらに機能が追加される。

 

 

「うへ?」

 

 

倒れたさやかが、粒子となって、ギガキャノンの砲口のひとつに吸い込まれていった。

 

 

「うにょぉぉおおぉぉぉ!?」

 

 

そして完全に吸い込まれると、砲口が青く光る。

それは発射準備完了の合図。ゾルダがギガキャノンを発射すると、粒子が勢いよく飛び出してそれがさやかを形成した。

 

 

「いやッ、あたしの扱い雑すぎッ!」

 

 

さやかを発射する能力。分かりやすく言えば、人間大砲だ。

しかし風を纏ったさやかの勢いはバカにはできない。

猛スピードであり、周りの突風がユウリの妨害を全て弾き飛ばしていく。

 

 

「クソ! アタシのグリーフシードに触るな!!」

 

 

ユウリはエルザマリアを翼に変えようとしたが、そこで悲鳴が聞こえる。

サイコローグがユウリを掴み、投げ飛ばしたのだ。

 

 

『大人しくしてて』

 

「うガッ! テメェ……ッ!」

 

 

そうしていると、さやかが穴の中に入った。

そこには無の空間が広がっており、ユウリが用意していた大量のグリーフシードが山積みされている。

 

 

「作戦成功なのですっ!」

 

 

すぐにそこへシャルロッテも到着。なぎさに戻ると、さやかに駆け寄る。

 

 

「いいですか、気をしっかり持ってください。なぎさがサポートしますが、それでも限界はあります!」

 

「お、オッケー。どんと来いってんだ!」

 

「では行きます!」『ユニオン』『メモリーベント』

 

 

なぎさがさやかの頭に触れると、全ての記憶が駆け巡っていく。

 

 

「――ヵ!!」

 

 

さやかの顔が青白く染まり、直後ソウルジェムが急激な勢いで濁っていく。

そうだ。だからこそココを選んだ。ほぼ全てのゲームにおいてユウリが終盤まで生き残った場合、彼女は大量のグリーフシードを用意する。

それを使えば、さやかの浄化が間に合うのではないかと。

 

 

「ウァアアァアアァアアアアァア!!」

 

 

さやかは頭を抑えてうずくまる。

なぎさも弱体化で恐怖を抑えるが、それでも『さやかが魔女になる』という因果律は強力であった。

周囲にあったグリーフシードがすぐにガタガタと震え始める。

黒い霧のようなものがソウルジェムから噴射され、まるで吸引機のように吸い取っていく。

が、しかし、さやかはブルブルと震えて目を見開いている。

なぎさが恐怖を必死に押さえ込んでも、それを超える負が彼女を蝕んでいくのだ。

 

 

「がんばるのです……ッ、さやか!」

 

 

感覚としては夢に近い。

確かに思い出すという事は激しい恐怖を発生させるが、あくまでも今は今だ。

悪夢を見て廃人になったというケースは少ない。

 

痛みも――、思い出すことはできるが、再現されるわけではない。

昔、大きな怪我をした人も、その時の痛みを鮮明に思い出すのは不可能のはずだ。

それに事前情報だってテレパシーで伝えておいた。

今から酷い目に合いますよと言われておけば、ある程度の心構えもできているはず。

 

 

「でも、やっぱり……!」

 

 

なぎさは幻を見た。さやかを奈落の底へ引きずり込もうとするオクタヴィアの数々を。

それだけのループに魔女が絡みついている。それを振りほどく事は当然、簡単なことではない。

弱体化魔法による精神抑制くらいで防げる悲しみならば、さやかは魔女になっていない。

たとえ、ほむらに時間を戻されて無かった事になったとしても。たとえイツトリが忘れたとしても。

さやかにとっては全てが本物の痛みだった。本物の苦しみだった。

なぎさは必死に魔法を強めるが、それでもソウルジェムから排出される黒い霧の勢いが止まることはない。

 

 

「――ッ、さやかには分かる筈です!」

 

 

絶望したまま終わる? いや、違う。そんな存在なら、あの時、肩を並べることは無かった筈だ。

それに――、なぎさは歯を食いしばる。ふと頭によぎるサイコローグ――、ではなく香川『裕』太のこと。なぎさが彼によく話しかけているのは、歳が近いからだけではない。

名前に潜む深層心理。超えたいものがあった。

 

 

「なぎさは人を助ける事ができる魔法少女です! さやか、貴女はどうですか!?」

 

 

さやかの掠れる悲鳴が聞こえる。

周囲のグリーフシードは浄化に使われ、限界を迎えると弾かれるように離れていく。

既に半分くらいは消費されただろうか? しかしまださやかの闇が晴れる気配はない。

 

 

「―――」

 

 

美樹さやかは困惑していた。

それはまるで宇宙。真っ暗な脳内に無数の星が瞬いている。

それをよく見てみると、とても嫌な気持ちになった。憎悪、殺意、憤怒、胸にあるハートがドス黒い何かに染められる気がして、さやかはすぐに逃げ出した。

 

でも逃げた先にまた星がある。

星の中を見ると、やっぱり悲しくなって。さやかは震える事しかできなかった。

嫌だ。怖い。憎い。辛い。寂しい。星が消えれば、また新しい星。

 

 

「さやか……!」

 

 

グリーフシードは次々に浄化を終えて転がっていく。

しかしさやかはまだ震えていた。そこでなぎさは息を呑む。気づけば、全てのグリーフシードが浄化を終えていた。

にも――、かかわらず。さやかのソウルジェムは濁っていく。

 

 

「そんなッ、あんなにあったのに……!」

 

 

駄目なのか。なぎさの表情が焦りと恐怖に歪む。

どうやらなぎさの見立て通りとはいかないようだ。

さやかは一人で死のループを乗り越える事ができないらしい。

だが、ふと、二つの腕が伸びた。

 

 

「!」

 

 

美樹さやかは一人では乗り越えられない。

だがそもそもの話。なぎさは勘違いしている。美樹さやかは、一人ではない。

 

 

「さやかちゃん!」「さやかさん!」

 

 

まどかと仁美が、確かにそこにいた。まどかはさやかの右手を。仁美はさやかの左手をギュッと握り締める。それだけじゃない、仁美はグリーフシードを持っていた。

それを使って、濁ったさやかのソウルジェムを浄化している。

 

 

「がんばって! 負けないでッ、さやかちゃん!」

 

 

人は、100の賛辞や賞賛よりも、1の罵声や誹謗中傷の方が心に残ってしまう困った生き物だ。

マイナスは心を強く蝕み、破壊していく。

だがどうか覚えておいてほしい。

この世には――、それらのマイナスを吹き飛ばす『希望』たる存在があるのだという事を。

 

 

「悪いね――、まどか。何度も助けてもらっちゃって」

 

「!」

 

「仁美も、さんきゅ」

 

 

もちろん、まどかが精神を安定する魔法を追加でかけた事は確かだ。

だがそれよりも、もっと大きな『何か』が美樹さやかの心に灯ったのは事実なのである。

例えばそれは美樹さやかのプライド。

 

自分はどうありたい?

泣いてるまどかや、苦しんでいる仁美を救う自分。

そんなところにナルシズムを覚えることができた。

自分を愛することは必要な事だ。だから友人二人を前にして、ピーピー泣いてる姿は見せたくない。

 

 

「いい加減にしようよ――ッ、あたし! 何回魔女になってんのさ!!」

 

 

さやかは唇を噛んだ。血が出るほどに強く。皮肉にも、痛みが『今』を鮮明にしてくれる。

 

 

「過ぎた事をグヂグヂ引きずってても仕方ないっしょ!」

 

 

情けなくて笑えるぜ。黙れと言わんばかりにオクタヴィアの幻想がさやかの足を掴む。

魔女はさやかの太ももを掴み、腹を掴み、深淵へ引きずり込もうとしていた。

 

 

「ざけんなってッ! そこはなぁ! まだ恭介にも――ッ、触らせた事ないんだぞ!!」

 

 

やっぱり、どうしてもまどかや仁美の前じゃ、おちゃらけてしまう。

だが良いではないか。それが恐怖を軽くしてくれた。

 

 

「ひっこめ! 魔女ッッ!!」

 

 

するとどうだ。さやかの前に、一際輝く星が見えた。

そこを覗き込めば、女神が微笑んでくれていた。

 

 

「――ッ」

 

 

なぎさは困ったように笑う。少し不満そうな表情でもあった。

 

 

「羨ましいのです。なぎさにはできない事でした」

 

「そんなことないよ。ありがとう、なぎさちゃん」

 

「真実です。理由は――、なぎさにも分かるのですよ。お友達がいれば嬉しいのです」

 

 

なぎさは目の前で汗だくになりながらも、しっかりと笑っている美樹さやかを見た。

 

 

「怖い時も、傍にいれば強がれる人。なぎさにも、そんなお友達ができるですか?」

 

「うん必ず。わたしが一人目に立候補しちゃおっかな?」

 

「……ふふ、女神はひとたらしです」

 

「???」

 

 

そこで駆け寄ってくるジュゥべえ。

浄化が終わって転がっている大量のグリーフシードを手当たり次第に貪っていく。

頭には『アイムアフードファイター』と書かれたハチマキが巻かれていた。

 

 

『ガブガブッ! こいつぁ厳しい戦いになりそうだぜ!』

 

 

下宮と中沢が消滅した後、仁美は全てを思い出した。

排出された仁美達とまどか。中沢たちは再び引きずり込まれたが、まどかはどこに行ったのか?

それをシザースと共に探しに行ったのだ。

一方でオルタナティブとなぎさは別行動で、龍騎を探しに行った。そういう背景である。

 

 

「まどかはどこにいたのですか?」

 

「隣町の病院のベッドに飛ばされてた。わたし、この時間軸じゃ入院してたみたいだから」

 

「相変わらず――」

 

 

視線が移動する。そこにはあぐらをかいて笑っているさやかが見えた。

 

 

「変な事に巻き込まれるね、まどかって。やっぱあたしが守ってやらないと」

 

「だ、大丈夫なの? さやかちゃん」

 

「おー、そりゃもうばっちりよ!」

 

「とてもそうは見えないのです」

 

「ほっとけ! こんのぉッ!」

 

 

さやかは立ち上がると、なぎさに飛びかかり強引に撫でくりまわす。

どうやらラインを超えたようだ。さやかは円環の理の記憶を鮮明に持っている。

魔女を否定してくれた女神(まどか)の使者としての記憶が、『魔女になる』というルールを粉砕してくれたらしい。

 

 

「でもまさかあの状態からこんな事になるとはね。誰が予想したよ」

 

「ですですっ! なぎさはただ美味しいチーズが食べたかっただけなのに!」

 

「まッ! とにかくさやかちゃんもこうして無事復活したことですし……」

 

 

さやかはなぎさの肩を、まどかの肩を、仁美の肩を順番に叩くとニヤリと笑う。

 

 

「さっさとこんな薄暗い場所、抜け出しちゃいましょうや!」

 

 

四人は再び穴から魔女結界内へ飛び降りていく。

地面のほうに見えるのは、龍騎、ゾルダ、オルタナティブ。

そして仁美について着てもらっていたシザースが合流していた。

着地するまどか達。そこでユウリも初めて表情を大きく歪ませる。

魔女がいるとはいえ、基本的には8対1。さすがに勝てるものではない。

 

 

「もうやめてくれユウリちゃん! これ以上は無駄だろ!」

 

 

説得のつもりで龍騎が叫ぶ。だがしかし、それが逆に火をつけてしまったらしい。

ユウリの表情が確かな怒りに染まった。

 

 

「無駄? 無駄だと? ふざけんな! お前らはいいよな! 乗り越えて美談ッ! でもな! 違うんだよアタシは! このアタシ様はな! なあおい! 聞いてんのか! このユウリ様はな! このッ、世界が――! 良いんだ!!」

 

 

地団太を踏むユウリに何と声をかけていいのか、龍騎はさっぱり分からなかった。

するとこの魔女結界の中で、なにやらコチラに駆け寄ってくる人影を見つける。

 

 

「あいり! もうやめて!」

 

 

ユウリがそこにいた。

いや、正確には『飛鳥ユウリ』は、心配そうな表情で魔法少女のユウリを見つめていた。

 

 

「ユウリッ! 駄目でしょ! こんな所に来ちゃ!」

 

 

『飛鳥』を見つめるユウリの表情を、龍騎やまどかは一生忘れる事はないだろう。

それだけの必死を感じた。今までのユウリには無い、心が篭った表情だった。

あれだけ下卑た笑みを浮かべ、凶悪な言葉を口にしていたユウリも、今は気弱そうな表情で走り出している。

 

 

「ユウリ! いいの! 全部私に任せておけば上手くやるから!」

 

「でも私は……ッ!」

 

 

ユウリはなにやら、飛鳥の方に話しかけている。

龍騎はLIAR・HEARTSの記憶を思い出していた。

詳しくは知らないが、ユウリがポツリと言っていたのを覚えている。

 

 

『アタシは、この世界で絶対に守りたいものがある』

 

 

龍騎もそこまで鈍感ではない。

ユウリにとって、あの同じ顔をした少女『飛鳥』が、とても大きな存在だという事くらいは察することができた。

 

まどかはふと思った。

もしもユウリと、ちゃんと話をして、なんとかして飛鳥ユウリをThe・ANSWERの軸に引っ張ることができたなら、上手く協力できないだろうか?

正直、かなり安心していた。ユウリの人らしい表情を見て、気遣う心を見て、まどかは心に温かいものが宿るのを――

 

 

「だって、もう我慢できないの!!」

 

 

飛鳥は叫んだ。

そして見事な正拳突きにて、魔法少女ユウリの腹を突き破る。

 

 

「――え?」

 

 

ユウリはついつい笑ってしまった。そこから血が垂れる。

龍騎も、まどかも、オルタナティブでさえ沈黙していた。

いったい、何が起こったのか。誰にも意味が分からなかった。

 

 

「あれ? ユウリ、なんで……? うぷっ」

 

 

血が溢れる。腹に風穴が開いた。

ユウリは尚も咳き込みながら、戸惑いがちに飛鳥を見る。

その飛鳥ユウリは、嬉しそうに下卑た笑みを浮かべていた。

 

 

「自分だけが変身魔法を使えると思っていたか。愚かの一言にござる」

 

「え? え?」

 

「拙者。阿呆を見続けるのは、もう辛抱ならんゆえ」

 

 

ドロンと、音がした。

そして飛鳥ユウリは消え去り、そこに立っていたのは赤い装束に身を包んだ『忍者』であった。

 

 

「お初にお目にかかる参加者共。拙者は魔獣、名を鎖羅曼銅鑼(サラマンドラ)と申す」

 

 

腕を引き抜き、そのまま組んで、仁王立ち。

一方でユウリは血を流しながらヘラヘラ笑っていた。

 

 

「あれ? ウソ。ユウリは? あれ?」

 

「阿呆め。まだ分からぬか」

 

 

鎖羅曼銅鑼は口布をしているため、顔は目しかまともに見えないが、それでも目や声色から、鎖羅曼銅鑼は笑っている気がした。

 

 

「そもそもこの時間軸。始めから飛鳥ユウリなど生存しておらぬ。全ては拙者が化けていた偽者」

 

「え? へ? はは、何言ってんの――?」

 

「因果律。いや、そもそもゲーム運営のために飛鳥ユウリは邪魔でしかない。貴様が参戦派に。ましてや魔法少女になるために、どうあっても死んで貰わねば困るのだ」

 

 

ユウリはこのLIAR・HEARTSにおいて、飛鳥ユウリを守るために戦っていた。

しかしそんなものは、魔獣が作り上げた舞台設定でしかない。全ては暁美ほむらを抹殺するためにゲームに乗る戦士に仕立て上げるためだ。

 

 

「この時間軸の飛鳥ユウリは拙者が殺害した。フフフフ」

 

「………」

 

 

ユウリはゆっくりと、地面に倒れた。その途中、見下した目を見た。

 

 

「大切と口では言いつつも、幻想と気づかぬか。ほとほと阿呆なガキよ。まさに――、愚か」

 

「――ァ」

 

 

つまり全て、無駄だったと。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

ユウリのソウルジェムが崩壊していく。それはそれは――、深き、絶望。

 

 

「ちっぐっしょぉォォオオがぁぁあああアアア゛ア゛ッッ!!」

 

 

ニーブリューエンヘルツェン。

心臓の魔女は、生まれたばかりの体で地面を強く叩いた。

すると亀裂が走り、地面が割れる。穴の底には大量のグリーフシードとイーブルナッツが。

 

 

「まだこんな量を!」

 

 

オルタナティブが怯んだ様に口にする。それほどの覚悟がユウリにはあったという事だ。

けれどもそんなものはただの幻想でしかなかった。結局、魔法少女になる前と同じ。

利用され、悲しんで、苦しんで、世界に笑われる。

ああ、全部、クソ食らえ。

 

 

「アァアアアアアアァアア!!」

 

 

穴に落ちていった魔女。

すると、どす黒い光が発生して、怒り、焦燥、悲しみの声が聞こえてきた。

穴がもっと大きな穴に変わる。そこから出てきたのは、巨大な巨大な魔女だった。

怒りの咆哮は魔女結界をバラバラにして、一同を現実世界へ引きずり出す。

丁度そこでグリーフシードを取り込み終えたジュゥべえが降ってきた。

 

 

『くぁー! ユウリのヤツ。やっぱこの世界でも用意してやがったか』

 

 

真っ黒なシルエットはまさに巨大な『魔女』だ。

大きな魔女帽子は先端が渦巻いており、背中には巨大な魔法陣が展開している。

裾からは、棘の生えた触手が指のように五本ずつ垂れていた。

大量の魔女を強制的に自分の肉体へと変える。それは、ユウリシェフ自慢の一品。

ワルプルギス風。絶望を添えて。

 

 

『気をつけろ参加者共! "ヒュアデスの暁"だ! 前回のゲームじゃ王蛇ペアと、ナイトペアをあの世に送った大物よ!』

 

 

確かにそれは重大な情報ではあるが、参加者達は今、皆一点に――、鎖羅曼銅鑼を睨んでいた。

 

 

「ユウリちゃんは……、ずっと戦ってたんだぞ」

 

「そのようだな。実に薄っぺらい理由ではあったが」

 

「ずっと――、騙してたのか」

 

「気づけない者が愚かなのだ。己が抱えた信念ならば、裏に潜むものを見極めなければならぬ。おっと失礼した。貴様らもそれができなかったから何度も繰り返したのだな。阿呆のように」

 

 

グッと、強く、それは強く、龍騎は拳を握り締める。

 

 

「なんで裏切ったんだ。なんでバラすような事を……! どうして気持ちを踏みにじる様な事をッッ!!」

 

「拙者の好きな言葉は正々堂々。あの時点ではユウリが不利に見えるが、魔女を召喚すれば多勢に無勢。ならばと一つに纏めてやったのよ」

 

 

それはユウリ側にも言える。

龍騎達は力をつけている。シザースやまどか達も加わった状態では、いくら魔女を召喚しても勝ち目はないかもしれない。

だから強くしてやった。ヒュアデスの暁ならば、龍騎達に勝てるかもしれない。

 

 

「そういう事だ。城戸真司。フフフフ」

 

「お前ェエエエ……!」

 

 

怒りに震える拳ではあるが、対照的に鎖羅曼銅鑼は笑っていた。

 

 

「何度も見た光景だな城戸真司。守れず、怒り、そしてまた失う」

 

「ッ」

 

「まだ貴様らはそのサイクルから抜け出せていないのだ」

 

 

龍騎は反論できなかった。確かに――、そういう面はある。

今も何だかんだとユウリを見殺しにしてしまった。

戦いを止めたいと思っているのに、目の前で絶望させて、魔女にしてしまった。

悔しげに俯く龍騎、しかしその時、尻を蹴られる。

 

 

「な、なにすんだよ!」

 

 

ゾルダは龍騎の肩を掴み、引き寄せる。

 

 

「城戸。お前の悪い所だ。迷い過ぎてる」

 

「え?」

 

「あのな。なんのために生きてんだよ、お前」

 

 

その時、ヒュアデスが咆哮をあげて動き出した。

鎖羅曼銅鑼は笑いながら後ろへ下がっていく。

同時にアドベントを使用せずともマグナギガが現れ、ミサイルで射撃を行った。

構えるオルタナティブたち。その中で、ゾルダは龍騎を睨んでいた。

 

 

「なんで死んで諦める道じゃなくて、生きて戦う道を選んだかって聞いてるんだよ」

 

 

ゾルダそう言いながらバイザーでヒュアデスを撃った。

効いているのか効いちゃいないのかはサッパリだが、それでもゾルダはヒュアデスを――、ユウリを攻撃したのだ。

尤も、それはゲームに乗った参戦派としての一撃ではない。少なくとも今、ゾルダは龍騎の協力者だ。

 

つまり『協力派』として撃ったのだ。

痛みを与える覚悟、ココで『殺そう』とする覚悟。決して軽いものではない。

 

 

「どんな人間も間違える。だから弁護士や警察なんて職業が生まれる」

 

 

その言葉が聞こえたのか、シザースは少し顎を引く。

ゾルダは数々のループの中で、何度城戸真司を『頭が悪い軽いヤツ』と思っただろうか。このLIAR・HEARTSで抱えた病が、また過去とリンクする。

 

 

「お前はいつだって協力しようなんて綺麗事を言うが、いつも裏にあるものを考えようとはしなかった」

 

 

北岡は快楽目的で参加者を殺そうとしているのではない。

そうしなければ、北岡はどうしようもなかったのだ。だから戦う覚悟を決めた。

昔も、あの時も、今だって。

 

 

「でも、少なくとも俺は"あの日"、お前が正しいのかもしれないって思ったぞ」

 

 

改めて問う。

 

 

「ただ生きてればそれで良いのか? 違うだろうが。お前な、生きてるって事はただボーッとしてればいいわけじゃないのよ。もっと激しくないと駄目なんだよ」

 

 

全力で、時には醜く、それが分かっているからこそ龍騎はあの時、魔獣に宣戦布告をしたんじゃないのか?

みんなを助けたいという類の願いは、それは立派で綺麗なものかもしれない。

けれどもその道は、決して簡単じゃないと分かっていた。

だからこそ、傷つけたり苦しめるかもしれないと言っていたじゃないか。

 

 

「でもそれがお前のどうしても叶えたい願いだったからこそ、お前はその道を選んだんだろ!」

 

 

それこそ他者を犠牲にしてもと願った望みじゃないのか。

ゾルダはギガランチャーを呼び出し、それを迷わず撃った。

巨大な弾丸はヒュアデスに直撃し、後退させていく。

 

 

「いい加減にお前も、俺達と同じフィールドに立ってるって事を理解しろ! お前の叶えたい願いのために、どんな手を使っても、どんな汚い方法を使っても叶えてみろよ!」

 

「北岡さん……ッ」

 

「なんだ一度や二度の魔女化くらい。そうしてしまった事をウジウジ悩むより、ユウリが魔女になるだけの大きな存在がいた事を学習し、次に活かせばいい!」

 

 

それが城戸真司の選んだ道だ。

この時間軸のユウリは死なせる事になるかもしれないが、The・ANSWERに戻れば記憶継承で擬似的な蘇生ができる。

 

 

「それにお前ッ、そんなできた人間じゃないだろ。もっとサルみたいにキーキーうるさいヤツだったろ!」

 

「な、なんだよアンタ! 俺はただ――……」

 

 

ユウリを助けたかった。ユウリを救いたかった。

でもできなかった。なんで? 絶望してしまったからだ。

どうして絶望した。それは――。

 

 

「あぁ、そうだよな。先生」

 

 

龍騎は軽く礼をいうと、ゾルダの肩をポンポンと叩く。

 

 

「俺はもっと短気なヤツなんだ。慈しむとか、悲しむとか、そういうのはガラじゃない」

 

 

龍騎はまどかが目についた。

まどかは深刻な表情を浮かべていたが――、同時に『一人だけ』涙も流していた。

その雫はユウリの為のもの。そういう真司的に『綺麗』なものは、まどかが抱いてくれれば、それでいい。

事実、今、龍騎の胸にあるのは優しい感情よりも、もっと醜い――、それこそ自分勝手な『怒り』だった。

けれどもあえて言おう。

まどかがユウリのために泣くのなら、龍騎はユウリのために怒りを吼えようと。

 

 

「待てよ」

 

「!」

 

「ブチのめしてやる。覚悟しろよ魔獣」

 

 

後退していた鎖羅曼銅鑼は、背後に壁を感じた。

それはドラグレッダーの体だ。すぐに前転で距離をとる。

 

 

「良かろう。来い、城戸真司。拙者の魔獣忍法が貴様の息の根を止めてみせよう。フフフ!」

 

 

サイドに抜けていく龍騎と鎖羅曼銅鑼。

ドラグレッダーも龍騎のもとへ駆けつけ、二人は睨み合ったまま走っていく。

 

 

「瘴気手裏剣! シュラシュシュシュ!!」

 

 

どす黒い手裏剣が鎖羅曼銅鑼から無数に放たれた。

龍騎はそれをジャンプや、ドラグレッダーに弾いてもらう事で回避していく。

さらにそれだけではなく、デッキからカードを抜き取り、狙いを定める。

 

 

「グオオオオオオオオオオ!」

 

 

ドラグレッダーが吼え、炎弾が放たれる。

しかし鎖羅曼銅鑼は跳躍し、空中を回転することで炎を回避してみせる。

 

 

「ムッ!」

 

 

だが気づけば空中に天使。エンゼルオーダーにより、鏡を持った天使、イェゼレルが突進してきた。

猛スピード。だからこそ鎖羅曼銅鑼はあっという間にミラーワールドへ送られる。

 

 

「ほう、これが噂に聞く"みらぁわぁるど"か。なんと面妖な」

 

「ここなら被害も出さない。思う存分暴れて、お前をブッ倒せる!」

 

 

龍騎もすぐに、鎖羅曼銅鑼の前方に出現する。

 

 

「倒す? 阿呆め。噂には聞いているぞ。ゼノバイターに苦戦したようだな。だが拙者はヤツよりも強いぞ。忍法、瘴気隠れ!」

 

 

鎖羅曼銅鑼の体から黒い霧が吹き出てくる。

それは彼の姿を覆い隠し、文字通り『消して』みせた。

 

 

(ククク! 貴様の背後から、我が小刀で首を刎ね飛ばしてくれる)

 

 

鎖羅曼銅鑼はオロオロとする龍騎の後ろに迫る。気配を殺し、刀を思い切り横へ振るった。

一方の龍騎。鎖羅曼銅鑼を探していると、ふと地面を見る。

 

 

(お金だ!)

 

 

100円が落ちていた。

龍騎はすぐに身を屈めると、それを拾おうと腕を伸ばす。

 

 

(何ッ! 回避しただと!?)

 

 

龍騎の上を通り抜ける刃。

鎖羅曼銅鑼は龍騎の身を屈めるスピードに息を呑んだ。

 

 

(な、なぜだ! なぜ拙者の気配が分かった! 馬鹿なッ、完全に消していた筈なのに!)

 

(って、何やってんだよ俺は! 今はお金とかどうでもいいだろ! しかも落ちてる100円なんて……!)

 

 

龍騎は自分が恥ずかしくなって立ち上がった。

そこでザザザと音がした。そちらを見ると、鎖羅曼銅鑼が後退していくのが見える。

 

 

「お前ッ!」

 

 

龍騎は拳を握り締めて走り出す。

鎖羅曼銅鑼は目を見開いて再び霧を発生させる。

 

 

(クソ、また消えるのか。とりあえず殴ってみるか!)

 

 

加速する龍騎。

鎖羅曼銅鑼は焦る。後ろに現れたらバレていた。

いや、確かに分かりやすいルートではあったか? ならば裏を突けばいい。

 

 

(裏!)

 

 

鎖羅曼銅鑼は龍騎の背後に現れる。

しかし分かっている。ここまでは龍騎とて把握しているのだろう。

ここからが鎖羅曼銅鑼の本領発揮だ。まだワープはできるのである。

 

 

(――と、思わせての前方)

 

 

鎖羅曼銅鑼は再び龍騎の前に現れる。その顔面に、龍騎の拳が叩き込まれた。

 

 

「おぐァあぁあああアアアア!」「お、まだ消えてなかったのか!」

 

 

鎖羅曼銅鑼は地面をバウンドしながら飛んでいく。

 

 

(おのれ城戸真司ッ! 裏の裏を読んでいたのか!!)

 

 

ならばと体勢を整える。次に発動するのは、魔獣忍法・分身の術。

鎖羅曼銅鑼の周囲に、無数の鎖羅曼銅鑼が出現していく。

分身体は本物と一切の違いはなく、全てが実体を持っているため、攻撃が可能なのである。

さらに鎖羅曼銅鑼は高速移動を開始、無数の分身体と共に龍騎の周りを囲んでいく。

 

 

「ハァアア!」「ぐぅッ!」

 

 

分身の一体が逆手に持った刀で龍騎を切り裂く。

胸の鎧から火花が上がり、龍騎はヨロヨロと後ろへ下がっていく。

しかしすぐに別の分身体の攻撃を受けて前のめりにフラついていく。

次々と分身が攻撃を仕掛けていく。地面を転がる龍騎。

これではいけないと、ストライクベントを発動させてドラグクローを装備した。

 

 

(くそ! どれが本物なんだ? ぜんぜん分からない!)

 

 

ならば考えるだけ無駄か。

龍騎は腰を落とし、次に迫る鎖羅曼銅鑼を見つけ出し、拳を伸ばした。

 

 

「オラアア!」「ガァアァアアア!」

 

 

本物の鎖羅曼銅鑼に叩き込まれたドラグクロー。本物は吹き飛び、地面を滑る。

 

 

(な、なぜだ! なぜ拙者が本物である事が分かった!)

 

(今のは偽者だったのか? 本物なのか? クソッ、分からない!)

 

(まさか――ッ、城戸真司は本物が拙者だと分かっているのか?)

 

(やっぱり適当に殴っても駄目か。もっと見極めないと……!)

 

(いや、ありえる。ヤツは阿呆だが戦闘においては類稀なる才能を見せる時があった。少し探ってみる必要があるな――ッ!)

 

 

鎖羅曼銅鑼が再び動き出した。

一方の龍騎は、殴り飛ばした鎖羅曼銅鑼がどれかも分かっていない。

そうこうしている内に、また攻撃が始まった。一撃目は受ける。しかし二撃目は受けない。それよりも早く、蹴りが届いたからだ。

 

 

「うがッッ!」

 

 

それは、本物の鎖羅曼銅鑼だった。

 

 

(これが本物なのか? 駄目だ。さっぱりだ!)

 

(ま、間違いない! 城戸真司は拙者のことを分かっている!)

 

 

鎖羅曼銅鑼は分身を消し去り、後退していく。双方は再び汗を浮かべながら睨み合う。

 

 

(な、なんだ突然。どうしてアイツ、分身を消したんだ?)

 

(ヤツに分身は通用しない。おのれ……ッ、まさかこんな実力を隠しもっていたとはッ!)

 

 

なにやらおかしな勘違いが生まれているが、龍騎にとってはチャンスである。

腰を落とし、構えるとドラグレッダーが周囲を旋回。口の中を赤く発光させる。

だがしかし、この動きはゲームを見ていた鎖羅曼銅鑼には分かる。

昇竜突破は、龍騎がよく使う炎を飛ばす技だ。炎弾は速いが動きは単純、避けられる筈だった。

 

 

(だが待て。今までの流れを見るに、油断は禁物)

 

 

サバイブに覚醒した事で、ある程度他の能力値も上がっている。

たとえば昇竜突破にホーミング機能がついていてもおかしくはない。

鎖羅曼銅鑼は始め右に転がって避けるつもりだった。

 

 

(しかし城戸真司はそれを読んでいる筈。ならば右ではなく――、左ッ! いや待て、先程は裏の裏をかいて失敗した。ならばあえて不動はどうか。避けると思わせておいて避けないという選択肢ならば、ヤツを確実に翻弄できる。待て、避けないなら、もし仮にヤツが愚直にまっすぐに炎弾を飛ばしてきたら直撃だ。それはまずい。ならばやはり安定の左。待て、待て。ヤツはドラグクローを右手に装備している。可動域を考えると右腕は当然右に動かしやすい。ヤツから見て右ということは、つまり拙者から見て左。左に転がるよりは右に転がればヤツの狙いをそらす事が――)

 

 

そこでハッとした。炎が目の前にあった。

 

 

「いかんッ、考えすぎ――ッ、グアアァァアア!」

 

 

鎖羅曼銅鑼は炎を真っ向から受け、地面を転がっていく。

 

 

「っしゃあ! 命中!」

 

「お、おのれぇえええッ! 拙者の慎重なる考察時間を考えていたか――ッ!」

 

 

痛みと熱が身に染み渡る。鎖羅曼銅鑼の中に駆ける確かな焦り。

このままでは――、死もありえる。どうやら手加減はココまでにしておいた方がいいのだろう。

殺意を、負を、瘴気を研ぎ澄ませると、どす黒いエネルギーが肉体を変質させていく。

 

 

「覚悟せよ龍騎! 貴様を抹殺する!」

 

 

ゲルニュート。

イモリ型のモンスターは、掌から粘着性の糸を飛ばして、龍騎の鎧に付着させる。

 

 

「うわッ、なんだこれ!」

 

 

そう思った時には龍騎は既に空中へ浮き上がっていた。

強制的に引き寄せられ、回し蹴りで吹き飛ばされる。

ゲルニュートは高速で走り出す。龍騎が拳を振るっても、ドロンと煙になって、空振りになってしまう。さらに本体は後ろへ回り、龍騎の背を蹴った。

 

龍騎は何とか反撃を行おうとするが、先程とは違ってスピードや、変わり身の術により、まったく触れられない。さらに斬撃が胴体に刻み付けられた。

赤黒い閃光が次々と龍騎の鎧に傷をつけていく。

気づけば足があった。龍騎はゲルニュートの蹴りを受けて地面を転がされてしまう。

 

 

「ぐあぁあッ!」「覚悟!」

 

 

ゲルニュートは、大きな十字型の手裏剣を取り出すと、それを思い切り投げつけた。

 

 

「魔獣忍法! 惨殺(ざんさつ)豪爆嵐(ごうばくらん)!」

 

 

手裏剣が光ると、小型化し、無数に分裂。

それぞれの刃は意思を持ったように動き回ると、龍騎を切り刻もうと飛来していく。

 

 

「むッ!?」

 

 

しかし、ドーム状のバリアが龍騎を包むと、次々と手裏剣を受け止めていく。

龍騎が何かをしたのか? ゲルニュートは身を乗り出して状況を確認する。

するとバリアの上に浮遊する天使と目が合った。

リバースレイエル。バリアに突き刺さった手裏剣が反射され、ゲルニュートに向かって飛んでいった。

 

 

「ヌッ! ォオオオオオオオオオオ!」

 

 

ゲルニュートはワープを行いながら手裏剣を回避していく。

その中で、まどかが翼を広げて龍騎のもとへ舞い降りた。

 

 

「大丈夫ッ? 真司さん!」

 

「ああ、サンキューまどかちゃん! 助かったよ」

 

「ユウリちゃんは、さやかちゃん達にお願いしてきたの」

 

 

まどかは確かに、ゲルニュートを睨んだ。

 

 

「怒ってるのは、真司さんだけじゃないよ」

 

「……ああ。そうだよな」

 

 

龍騎は確かに頷き、まどかの肩を叩いた。

 

 

「俺達はパートナーだ。アイツを一緒にブッ飛ばそう!」

 

「うんッ!」

 

 

並び立つ龍騎とまどか。

 

 

「覚悟しろよ、クソ野郎!」

 

 

集中するエネルギー。

激しい光が、炎が迸り、ゲルニュートも唸りながら二人を睨む。

 

 

【サバイブ】【アライブ】

 

 

龍騎サバイブは銃を構え、まどかアライブは神々しい弓を持って魔獣を睨んだ。

しかしゲルニュートは鼻を鳴らす。悪くないシチュエーションではある。

龍騎ペアを始末したともあれば、一気に地位を上げることができる。

 

 

「面白い」

 

 

ゲルニュートはニヤリと笑い、再び高速で走り出した。

そもそも、始めこそはペースを乱されて取り乱したが、上級魔獣の中でも選ばれしバッドエンドギアの一員。

 

 

「負ける気などせぬわ! 死に腐れ鹿目まどか!」

 

 

飛び上がると体を捻り、勢いをつけて瘴気がタップリと纏わりついた刃を振り下ろした。

まどかは動かない。動けない。あまりにも圧倒的なスピードだった。

刃はまどかの肩に命中すると、バキンと音を立てて砕け散る。

 

 

「おぇ?」

 

 

まどかは涼しげな顔でゲルニュートを見つめている。

まさか。そんな。ゲルニュートはすぐに煙と共に後ろへ移動し、手裏剣を連続でまどかにぶつけていく。

 

 

「シュシュシュシュ!!」

 

「………」

 

 

直撃していくが、まどかはなんの事はなく歩いていくし、手裏剣はむなしく地面に落ちていく。

ボワンと煙。ゲルニュートは一瞬でまどかの後ろへ回ると、胴体へ思い切り蹴りを打ち込んだ。

 

 

「おっちッ」

 

 

まるで鉄の塊を蹴ったようだった。痛いので、ゲルニュートは足を抱える。

 

 

「あぃ」

 

 

ゲルニュートの胴体にまどかの掌底が叩き込まれた。

すると円形の結界がゲルニュートを閉じ込め、さらに高速回転を開始。

平衡感覚を狂わせて、そのままボールは標的を閉じ込めたまま発射される。

 

 

「うあぁあぁあ!」

 

 

回転しながら吹き飛んでいくゲルニュート。

地面に叩きつけられ、初めて自分が倒れていることに気づいた。

立ち上がると、その口から火炎を発射してまどかを焼き尽くそうと試みる。

 

 

「………」

 

 

まどかは左腕を右へ払うことで、光のカーテンを引いて炎を遮断する。

一方でフリーになったまどかは弓を引いて光を収束させた。

激しい奔流の果て、発射された光の矢。それは炎を切り裂くと、ゲルニュートに直撃して桃色の炎を発生させた。

 

 

「ぇぁ」

 

 

これは――、まずい。

ゲルニュートは地面を転がって炎をかき消すと、ドロンと煙の中に隠れていく。

煙が晴れれば、ゲルニュートの姿はどこにもなかった。

それは彼が周囲の背景と同じ柄の布で体を覆い隠しているからだ。魔獣忍法、隠れ身の術。

 

だがここで動いたのは龍騎だった。

カードを抜いてツバイへセット。発動したのはアドベントだ。

ドラグランザーが出現して、地面に炎を吐き出していく。

地を伝い、あっという間に周囲は火の海に変わる。これは龍騎の炎なので、パートナーのまどかには何のダメージもない。一方で隠れていたゲルニュートが苦しむ声が聞こえた。

龍騎がそこへ銃を撃つと、背景に擬態していたゲルニュートに直撃して地面を転がっていく。

 

 

「あぁうぁぇ」

 

 

情けない声がゲルニュートから漏れた。

立ち上がった彼が見たのは、飛んでくる龍騎である。

 

 

「ウォオオ!」

 

 

既にソードベントは発動済みだ。

銃が展開して刃が出現、龍騎はそれを思い切り突き出した。

ゲルニュートは何とか腕をクロスさせてその一撃をガードしたが、龍騎の攻撃はまだ終わっていない。切り下ろし、切り払い、それでゲルニュートの防御が崩れた。

龍騎は体を前に出し、ショルダータックルを命中させる。

 

 

「お、おのれッッ!!」

 

 

ゲルニュートは後退しながらも無数のクナイを周囲の空間に出現させると、いっせいに龍騎へ飛ばして見せた。

だがそこで駆け寄るまどか。龍騎は彼女を掴むと、思い切り上に放り投げる。

 

まるでペアスケートのツイストリフトだ。

まどかは回転しながら空中に舞い上がり、同時に矢を連射した。

追尾する光の矢は、次々にクナイを蒸発させ、龍騎はその隙にインファイトに持ち込んでいく。

先程は圧倒できたはずなのに、今度はいくらゲルニュートが拳や蹴りを繰り出そうとも、全て龍騎に弾かれ、カウンターを受けていく。

 

 

「ば、馬鹿なァ。なぜぇぇ」

 

「こっちはな、怒ってるんだよ! お前にッッ!」

 

 

龍騎の炎纏う刃がゲルニュートを切り裂いた。

 

 

「あっつぅッ」

 

 

後退していくゲルニュート。

 

 

「ま、待て。ちょっと待て」

 

 

まどかが着地して、全速力で走りだす。

それを察知した龍騎が、お辞儀のようなポーズをとった。

体を折ることで、背中という『台』を作り出す。

するとまどかは龍騎の背の上を転がり、その勢いで思い切り脚を振るう。放たれたダブルキックは見事にゲルニュートに命中。

 

 

「ちょ、ちょっと待てって!」

 

 

ゲルニュートが怯んでいる間に、まどかは足裏を地面につけて立ち上がった。

そこで矢を発射。ゲルニュートに直撃したのを確認すると、思い切り身を低くしてしゃがみこんだ。

その後ろには龍騎が立っており、炎を纏わせた刃を思い切り振るう。

バーニングセイバー。まどかの頭上を通っていく炎の斬撃。

それもゲルニュートに直撃して強制的に後退させていく。

 

 

「まどかちゃん!」「うん! まかせて!」

 

 

スピードはまどかの方が速いので、追撃はお任せすることに。

龍騎が銃を投げると、まどかは龍騎狙いを把握して、それを受け取った。

そのまま翼を広げて飛行。あっという間にゲルニュートに追いつき、突進。

 

 

「ぐがッ! ま、待てって言ってるだろうが!」

 

 

さらに空中で旋回して突進。それでゲルニュートが膝をついた。

その隙にまどかは眼前に着地すると、思い切り銃を振るって刃を刻み込んでいく。

 

 

「真司さん!」

 

 

何度か攻撃したところで、まどかが銃を上に投げる。

すると前宙で飛び上がっていた龍騎がそれをキャッチ。

まどかはサイドに移動し、龍騎は落下と同時に刃を振り下ろした。

 

 

「待てってぇええええええ!」

 

「うるさいな! お前もう黙ってろ!」

 

「ぐぎゃあああああ!!」

 

 

ゲルニュートの肉体中央に刻まれる一本の残痕。大量の火花が噴出していく。

おっと、まだ終わらない。まどかがゲルニュートを蹴った。

足裏が直撃した瞬間、ゲルニュートは棺桶型の結界に閉じ込められる。

まどかは翼を広げ、飛翔する。龍騎は彼女の細い足首を掴んで、共に後ろへ下がっていく。

 

 

「輝け、天上の星々! 煌け、極光の円環ッ!」

 

 

手を離し、地面に着地する龍騎。

しかしまどかは空中に留まり、詠唱を開始する。

 

 

「我が示すのは理! 絶望を砕き、悪を滅する光とならん!」

 

 

まどかの背後に出現する11体の天使。

ゲルニュートは悲鳴に近い声をあげて棺桶を叩き始める。

魔獣のパワーがあればすぐにヒビは入った。いける。ゲルニュートは力をこめるが、同時に龍騎もカードを抜いていた。

 

 

【シュートベント】

 

 

銃からレーザーが発射され、まどかの棺桶を破壊する。

ゲルニュートにとってはプラス? 一瞬そう思ったが、そこへドラグランザーの炎が直撃した。

怯み、動きを止めていると、まどかの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がるのが見えた。

 

 

「祈りを絶望で終わらせたりしない、この一撃で貫いて! シューティングスターッッ!」

 

 

一勢に発射されていく天使たち。

ヤギが、魚が、ライオンが、次々にゲルニュートに直撃して通り過ぎていく。

 

 

「おぶっ! あべぇッ! あびっ! おへぇ! だからッ! ぐぎっ! 待ってて! 言って! おびゃぁ! あぁぁあ! おのれぇええ!」

 

 

そして最後はまどかが持っている射手座から、特大の光の矢が発射された。

 

 

「ぐあぁあぁああぁあぁあ!」

 

 

まともに食らい、ゲルニュートは手足をバタつかせながら吹き飛んだ。

全身から瘴気が噴き出ている。しかし流石はバッドエンドギア。

まともに食らったが、爆散はせず、鎖羅曼銅鑼に戻るだけに終わった。

しかしボロボロだ。瘴気が漏れ出ているという事は力を失っている証拠。倒せるかもしれない。龍騎達は頷き、前に出た。

 

 

「ま、魔獣忍法! 瘴気爆発」

 

 

魔獣とて意地があるらしい。全身から有害な瘴気を噴出し、さらに周囲に無数の従者を出現させる。

従者型はすぐにレーザーを発射。まどかや龍騎が防御を行う隙に、鎖羅曼銅鑼は煙に隠れて消滅した。

 

 

「待て!」

 

 

龍騎とまどかはすぐに従者型を撃破。

しかし辺りを見ても鎖羅曼銅鑼の姿は見えないし、気配もない。

 

 

「くそ! 逃げられた!」

 

 

追っても良いが、今はそれよりもヒュアデスと戦うさやか達が心配だ。

龍騎達は頷くと、そちらの方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァアアアアアアアアアア!!」

 

 

少し時間は戻って、そのさやか達。

ヒュアデスは怒りの咆哮をあげて血管の鞭を振るう。

 

 

『避けろ! アレ食らったら終わりだぞ!』

 

 

今回はあくまでもサポーター。ジュゥべえはなぎさの頭の上で説明を行う。

前回のゲームにおいてもそうだが、ヒュアデスの脅威は腕から伸びる血管だ。

あれを食らうと、ムカデの足のようにくっついている針が肉体へ進入していく。

そして時間経過と共に針は巨大化し、最終的には肉体を突き破って串刺しになるのだ。

 

針は鎧があってもおかまいなしに突き刺さり、進入してくる。

おまけに一度肉体の中に入ると、取り除くのはほぼ不可能である。

 

 

「なぎさの魔法で弱体化はできますか?」

 

『できるが、取り除いたわけじゃねぇからな。針がデカくなるのを遅らせるだけで、そりゃどうなのよって話』

 

 

肉体の中でだんだん大きくなる針。痛みもそれだけ継続してしまう。

 

 

『美樹のヤツも回復だけじゃどうしようもない。腹付近に針を打ち込まれたら、ソウルジェムを貫かれるぞ!』

 

「こ、怖いこと言わないでよ!」

 

 

さやかは鞭を回避しつつ、近くにあった自動販売機の前に降り立つ。

 

 

「すまぬ!」

 

 

蹴りを一発。自販機は壊れ、ボトボトとジュースが落ちてくる。

さやかはその中でミネラルウォーターを見つけると、すばやくキャップを開いて中の水をぶちまけた。

もちろん考えなしの行動ではない。ペットボトルの水を全て出し切ると、変化は起こった。水が変化し、一つのシルエットを形作る。

 

魔女だ。

これが円環の使者の能力でもある。

なぎさもそうだったが、魔女の力を使用することができるのだ。

なぎさが魔女に変身するのに対して、さやかは召喚である。

オクタヴィアが大剣を構え、そのままヒュアデスに向かって飛んでいった。

 

 

「よし! やったれ! あたし!」

 

 

巨大な魔女同士がぶつかり合い、戦闘が始まる。

しかしヒュアデスは大量の魔女の力を内包している。

血管だけではなく、衝撃派やエネルギー弾でオクタヴィアを怯ませると、一気に鞭で縛り上げる。

 

 

「うげ」

 

 

何とかしてオクタヴィアを操作するさやかだが、鞭で縛り上げられている以上、抜け出す事はできない。一応ゾルダが遠距離で攻撃を行ってくれるが、特に怯む様子もなし。

そうしていると、オクタヴィアがハリセンボンに。

 

 

「ひぃぃぃい!」

 

 

肩を出して青ざめるさやか。

だが、彼女達がわざわざまどかを龍騎のもとへ行かせたのには理由がある。

現在、シザースとオルタナティブは仁美を守るように立っていた。

その理由は、仁美ならば、あの触手を『何とかできる』からだ。

 

海香に連絡を入れ、状況を説明すると、対処できる魔法少女を紹介してもらった。

しかしその二人を召喚するのには大きな魔力を消費する。

さらに必要なのは集中力だ。仁美はまだまだ新米、魔法陣を練成するのに少し時間がかかっているらしい。

 

だからこそ、さやか達が足止めを行う。

オクタヴィアは水さえあれば、それを媒介にいくらでも呼び出せる。

さらにゾルダの射撃、なぎさのシャボン玉を用いて、仁美の演奏を邪魔しないようにする。

 

 

「――ッ」

 

 

仁美はフルートを演奏しながら目を細める。

さすがに怖い。あの絶望を固めて作ったヒュアデスを前にすれば自然と足が震える。

が、しかし、退く気はさらさらなかった。やっとさやか達と同じ舞台に立てたのだ。

こんなチャンス、絶対に無駄にはしたくない。

その想いが魔法陣を作り上げていく。フルートの演奏が終わると、二人の魔法少女が姿を見せた。

 

 

「………」

 

 

一人は天乃鈴音。

緋色にきらめく刃を手にしており、既に戦闘態勢である。

そしてもう一人は――、大きな魔力を使用して召喚しただけの大物。

 

 

「お初にお目にかかります。女神(デエス)の友人たちよ」

 

 

ペコリと頭を下げたのは、鎧に身を包んだ乙女だった。

 

 

「私はジャンヌ・ダルク。タルトと呼んで下さい」

 

「じゃ――ッ!?」

 

 

インキュベーターが、はるか過去から人類との繋がりがあった事はそれとなくは聞いていたが、まさかその本人がやってくるとは思わなかった。

言葉を失う仁美やシザース。ゾルダも唸り、すぐにテレパシーを発動する。

 

 

『おい聞いたかさやか! ジャンヌダルクだとよ!』

 

『……えぇ!? あのジャンヌが!?』

 

『ああ。そうだぞ。あのジャンヌだ!』

 

『そりゃびっくり! いやッ、まさかあのジャンヌがねぇ……!』

 

『……お前、ジャンヌダルク知らないだろ』

 

『バカにすんな! あのねセンセー! あたしもそこまでバカじゃないって! あれでしょ? ゲームのキャラクターでしょ!』

 

『……え?』『え』

 

 

あたし何か間違ってること言いました?

さやかがゾルダたちの方に視線を移すと、隙が生まれてしまう。

一瞬だった。ビュオンと音がして鞭が疾走していたさやかを捉えた。

すさまじい衝撃だ。さやかは吹き飛び、仁美達の前に墜落する。

 

 

「ぎゃあああああ! し、死んだぁああああああ!」

 

 

転がるさやか。

一瞬ギョッとする一同だが、鈴音が無表情で歩いていく。

 

 

椿焔(つばきほむら)

 

 

ボウッと、掌に火の玉が現れる。

手をかざすと、それがさやかの肉体へ進入していった。

熱は感じない。むしろ体がポカポカと心地いい。

鈴音は炎の力を操る魔法少女だ。火の玉は攻撃ではなく、支援能力を持った魔法の塊。

さやかの肉体に宿った鈴音の炎は、まだ小さい針を焼き尽くし、消滅させてみせる。

 

 

「これで大丈夫」

 

「ど、どうも……!」

 

 

鈴音は火の玉を無数に飛ばして自分や、他の騎士と魔法少女の体内へ埋め込む。

そして淡々とした様子で浮遊するヒュアデスを睨んだ。

激しい魔力がビリビリと肌をさすが、鈴音は特に表情を変えずに跳ぶ。

 

 

「お先に」

 

「え? あッ、ちょっと!」

 

 

さやかは手を伸ばすが、鈴音は既に猛スピードでヒュアデスの前に迫っていた。

どうやら椿焔と呼ばれる火の玉を体内へ入れると、身体能力が増加するらしい。

一度地面を蹴れば、足裏から火を噴きながら空中へ舞い上がる。

 

 

「アアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ヒュアデスも迫る鈴音を確認したらしい。すぐさま後ろへ下がろうとする。

その時、鈴音の手に持っているカッターのような剣。その中央プレート内に変化が起きた。

プレートの中には紋章が表示されており、その周りに5つの小さな円が表示されている。

その中のひとつ、中央の円が光った。

 

 

炎舞(えんぶ)――ッ!」

 

 

鈴音は炎を操る魔法少女であり、5つの魔法技を使うことができる。

その一つ、炎舞。空中に次々と炎で形成された『剣』が出現していく。

出現場所は一見すればランダムに見えるが、ヒュアデスの後退位置に剣先が待ち構えており、次々に肉体へ刃が突き刺さっていく。

 

 

「ガアアアア!!」

 

 

刺さった剣は爆発。

ヒュアデスは、そこで改めて鈴音を敵と認識したようだ。

腕を伸ばして触手を縦横無尽に伸ばす。ワラワラとうごめく針、まさに巨大なムカデだ。

しかし鈴音は目を細めるだけで、真っ向から飛び込んでいった。

 

 

「ハァアアアア!!」

 

 

剣を振るい、迫る触手を焼き切ってみせる。

さらに鈴音は躊躇なく、触手の上に降り立った。

靴裏から容赦なく侵入していく数多の針。いくら体内にある炎で無効化できるとはいえ、不快感はあるだろうに。

だが鈴音は叫び、走る。

 

 

(ほたる)!」

 

 

魔法技の発動。剣から炎弾が発射される。

ヒュアデスはすぐに触手を振るって鈴音を吹き飛ばそうとするが、既に触手を伝って炎が迫っていた。

 

 

「アアアアアアアアア!」

 

 

ヒュアデスの全身に回る炎。

鈴音は止まらない。空中に浮遊している剣を掴むと、二刀流で触手を切り抜いていく。

ある程度進行が進むと、炎の剣を投げてヒュアデスに当てる。

さらに空中を舞い、別のところに浮遊している剣を掴んで再び二刀流となる。

 

そうやって空中を舞いながらヒュアデスを切り裂いていく。

ヒュアデスも鈴音を墜落させようとするが、スピードが速くて体の小さな鈴音をなかなか捉えることができない。

 

 

「す、すご……」

 

 

さやかはゴクリと喉を鳴らした。

円環の使者として、彼女は他の魔法少女よりも能力値は高くなっている。

しかしそれであったとしても、鈴音の『相手を倒す』という気迫には圧倒される。

学ぶものがあるかもしれない。さやかは鈴音の戦いに釘付けであった。

 

 

「おい!」「あで!」

 

 

しかし手刀が脳天を叩く。振り返ると、ゾルダが見えた。

 

 

「さいてー! センセー! 何すんの!」

 

「俺達も行くぞ。さっさとあのデカブツを撃ち落す」

 

 

ゾルダはそう言ってギガランチャーを撃つ。

さやかも頷くと、地面を駆けてヒュアデスへ向かっていく。

 

 

「我々も向かいましょうか」「ええ、分かりました」

 

 

オルタナティブもシザースも、椿焔の影響で身体能力が上がっている。

地面を蹴れば一気に空へと舞い上がっていく。

油断は禁物だが、それであっても針が無効化されるのは大きい。

人数もいるので、何とか優勢状態で進めていける筈だ。

 

 

「――ッ!」

 

 

鈴音は地面に着地。

剣を構えると、プレート中央にある紋章が別のものへと変わる。

すると緋色の刃が、マゼンタに変わった。

 

 

爪刃(そうじん)乱舞(らんぶ)!」

 

 

右から二番目の円が光る。

するとカッターの刃が折れるように、次々と刃が分離。

小型の刃の群れは意思をもったように飛行していき、ヒュアデスを切り裂いていく。

 

 

「ォオオオオオオオオ!!」

 

 

ヒュアデスは回転して刃を吹き飛ばすと、地面にいる鈴音を睨みつける。

頭部の前に魔法陣が広がり、そこから強力な魔力を纏った光弾が発射された。

弾速はまあまあ速い。鈴音は回避をやめて、また剣を構えた。

するとプレートの魔法陣が変わり、刃が黄色かかったオレンジになる。

 

 

鋼華(こうか)!」

 

 

小さな円が光ると、鈴音の体が鋼鉄に変わる。

もちろん防御力が上がり、光弾を真っ向から受け止めてみせた。

どうやら剣中央にあるプレートに表示されている紋章は、鈴音の意思で切り替えることができるらしい。

その紋章によって、鈴音の魔法形態が変わるようだ。

 

鈴音ははじめに使用していた紋章――、つまりに炎の力に戻すと、炎の剣を無数に発射してヒュアデスを攻撃していく。

それだけじゃない。無数の剣が次々とヒュアデスに突き刺さっていった。

見れば、ゾルダペアが複合ファイナルベントを使用している。

それだけではなく、オルタナティブの炎や、シザースの水流も追加され、ヒュアデスは悲鳴をあげていった。

 

 

「………」

 

 

しかし不思議なことに、仁美はそれを複雑な表情で見ていた。

それに気づいたのか、なぎさとタルトが仁美を見つめる。

 

 

「迷っているのですか? 仁美」

 

「というよりも……。いえ、もちろん迷っているところは迷ってますわ。もう一度確認なのですが、あれはユウリさん――、私は存じ上げませんが、参加者の方なんですわよね」

 

「はい。その通りです」

 

 

仁美としては本来、協力するべき相手だ。まだ仁美は記憶を取り戻していない。

そんな彼女にとって今まで出会ってきた魔法少女はほぼ全てが味方である。

もちろん敵の魔法少女がいる事は聞かされていたし、現にコルボー達とは戦った。

だがそれでも、ヒュアデスはユウリであり、それを倒すということの『重さ』がようやっと分かってきたようだ。

手が、足が、震えていく。

 

 

「殺す――、ですわよね?」

 

「……そうですね。そうなります。ですが仁美、勘違いしないでください。魔法少女は魔女になった時点で――、いえ、なる前から死んでいます」

 

 

ならば、生とは何か? それは北岡も先程、龍騎に向かって口にしていたことだ。

ただ立って息をしている事が、『生きている』のではないと、皆は既に分かっている。

 

 

「これからユウリは望む望まないに関係なく、ただ人を殺し、町を破壊するだけの存在になります。何かに復讐を望んでいたとしても、もはやそれが達成されたかどうかを知ることもなく、ただ生まれいくものを破壊し続けるだけの存在になるのです」

 

 

改めて、生きるとは?

もちろん答えには、まだたどり着いてはいないが――、それでに選択はした筈だ。

 

 

「そうですよね? 仁美?」

 

「そう、ですわね。ええ、ええ。その通りですわ。なぎさちゃん」

 

 

仁美は強く頷くと、隣で待機していたタルトを見つめる。

強い眼差しだった。どうやら改めて覚悟というものを決めたらしい。

そうだ。あくまでもタルトと鈴音は、仁美の魔法で呼び出された存在。

仁美も既にこの戦いには参加している。今から行うのは魔獣を消す作業ではない。

 

正真正銘。生きている。

生きていた魔法少女――、ユウリの殺害。同属殺しの罪を背負うということだ。

タルトも、気持ちを汲んで無言で頷き返す。

 

 

「もちろん。悲しみだけで終わらせるつもりはありませんわ。長いフールズゲームですもの、私は必ずユウリさんを救いますわ」

 

 

全ての人のために。ユウリのために。自分のために。

 

 

「そして、まどかさんのために」

 

 

そこでタルトは小さく笑った。

 

 

「感謝、畏敬、友情、親愛。損得を超えた絆があると――、私は大切な友人に教えてもらいました。女神にもそういった存在がいると分かり、安心しています」

 

「そんな、私はただ……」

 

「フフフ。そのしゃべり方、私の友人にそっくりです」

 

 

タルトは微笑む。

とはいえ、おしゃべりをしている余裕はない。

 

 

「オーケーです仁美。今はそれで――、十分です」

 

 

なぎさはそっと、仁美の手に触れた。

 

 

「ありがとうなぎさちゃん。今日は一緒に寝てくれますか?」

 

「もちろんです。仁美が望むならずっと傍にいます。あ、でも、中沢が嫉妬するかも」

 

「え? なんと?」

 

「い、いえ。中沢も探さないといけないのです」

 

「ええ、そうですわね。中沢くんと下宮くんを助けるためにも――、タルトさん。力を貸してください」

 

「了解しました。女神の友の頼みとあれば、必ず」

 

 

タルトは前に出ると、深く息を吸い込む。

するとどうだ。彼女の体からまばゆい光が漏れ始めた。

その輝きに、他の騎士や、ほかならぬヒュアデスが目を奪われる。

 

 

「これは……!」

 

 

目を見張る。タルトの手に、一本の大きな槍が出現した。

いや、違う。これは旗だ。するとタルトがなにやら呪文のようなものを口にする。

 

 

「A vaillans Drapeau riens impossible――!」

 

 

それは遠くにいるゾルダたちの耳にも届いた。どうやらテレパシーの類らしい。

 

 

「なにこれ!」

 

「フランス語だ! さやか! お前の悪口言ってるぞ!」

 

「んなワケねぇでしょ! アンタの悪口の可能性のほうがまだ高いわ! ってか何? センセーってばフランス語分かるの? すごいねっ」

 

「ちょっとだけな。フランス美女とお近づきになりたいから勉強した」

 

「ぁぁ、最低だこの人……」

 

 

ゾルダペアはおいておいて。タルトの詠唱が完了した。

彼女が口にしたのは、つまりこういう意味の言葉だ。

 

 

"勇敢なる旗にとって――、不可能なものはなし"。

 

 

タルトは大きく振りかぶると、手に持った旗を思い切り投げとばした。

 

 

光よ(ラ・リュミエール)!」

 

 

投げた旗は光を振りまきながら猛スピードでヒュアデスに向かっていく。

皆、感じる。そこに込められた規格外の魔力。なぎさの頭の上にいたジュゥべえは思わず、言葉を失い、目を細めた。

 

 

(マジかコイツ。はぁーん、流石は教科書に載るだけはあるな)

 

 

ヒュアデスも向かってくる高エネルギーに反応。バリアを三重に張って待ち構える。

だがどうだ。旗はなんの事はなく三枚に重なったバリアを打ち破り、そのままヒュアデスの心臓――、ユウリがいる場所を貫いた。

 

 

(まどかと同じ、因果が纏わりついてやがる。なるほど……)

 

 

ヒュアデスは悲鳴を上げて墜落していく。どうやら急所を的確に捉えたらしい。

 

 

(必殺技だろうが。たった一撃でヒュアデスをノックアウトか。まあ前回のゲームでもナイトサバイブのファイナルベントでくたばってたしな。いくら魔女を寄せ集めても、結局は肉の鎧にしかできない。本体やられりゃアウトってワケだな)

 

 

しかしそれにしても凄まじい力だ。

ジュゥべえはゴクリと喉を鳴らしてタルトを見つめた。

 

 

(コイツ確かまどかと一緒に逃げたんだよな。なるほど……、たった一人の護衛で魔獣に食い下がってたのが不思議だったが、こりゃ納得だぜ。ん? しかしコイツは今、未来にいるんだよな――?)

 

 

イツトリには勝てないのは分かるが……。

どうやって未来に存在を定着させたのかもあやふやな点がある。

 

 

(今回の事についてもそうだが、The・ANSWERのゲーム盤でもなんかチョロチョロしてるヤツがいるっぽいし。関係あんのかねぇ。今度また未来のゲーム版のログ精査してみっか……)

 

 

とにかくもう今はココにいる意味はない。

ジュゥべえが消えようとしたとき、とびきり大きな悲鳴が聞こえた。

 

 

「ァアアアアアアアアアアア!!」

 

『ッ、ヒュアデス! まだ生きてやがったか!』

 

 

全身をどす黒い炎に包まれながらも、ヒュアデスはまだ動いていた。

タルトはしっかりと左胸を貫いた。だからこそユウリは消えたが、どうやらまだ他の魔女の意識が残っているらしい。

自爆特攻を選んだようだ。せめて他の参加者を道連れにということなのだろう。

それだけの憎悪がある。当然か、絶望によって生み出された魔女を圧縮しているのだから。

 

 

「仁美!」

 

 

そこで跳んだのは鈴音だった。仁美の右隣に立つ。

 

 

「決めましょう。あんな哀れな存在を、これ以上存在させては駄目」

 

「ええ。そうですわね」

 

 

随分と悲しい咆哮だった。

 

 

「終わらせられるのは、私達だけよ」

 

 

頷く仁美。フルート・クラリスにありったけの魔力を込める。

 

 

「終わらせますわ」

 

 

魔法発動、『magia』。

効果は現在召喚している魔法少女から力を受け取り、大技を放つ必殺技である。

 

正面から見て、左に鈴音、右にタルト、中央に仁美。

動いたのは当時だった。鈴音が構えた剣に大量の炎が纏わりつき、まるで炎の柱のように伸びていく。それはタルトも同じだった。取り出したのは、『クロヴィスの剣』。

その柄頭を叩くと、剣に光が纏わりつき、リーチが拡大。光の剣は天を貫くのではないかというくらいに伸びていく。

 

そして仁美も、クラリスを両手でもち、剣のように天へ掲げた。すると虹色の光が空へ伸びていく。

まるでそれは三本の柱だ。リーチが格段に上がった炎の剣、虹の剣、光の剣。

三人は魔力を上げて、雄たけびをあげる。

 

一方でヒュアデスは正面から突っ込んでいく。

もはや思考などない。ただ目の前にいるものを殺すという歪な本能にとらわれたモンスターだ。

 

 

「ヤアアアアアアアアアアアアアア!」

「タアアアアアアアアアアアアアア!」

「ハアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

三者三様の刃。鈴音は右斜め上から、左斜め下に。

タルトは左斜め上から、右斜め下に。

そして仁美は上から下へ。斬痕はまさにアスタリスク。

三つの線が、しっかりとヒュアデスには刻まれていた。

 

 

「グガァアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ヒュアデスの暁は爆散して、蒸発していく。

 

 

「……さよなら。できればもう二度と」

 

「またいつでも呼んでください。遍くものを照らす、希望の光となります」

 

 

消えていく鈴音とタルト。

すると仁美は汗を浮かべてうずくまった。

 

 

「大丈夫ですか仁美ッ?」

 

「え、ええ。でも――、なぜでしょう。かなり疲れました」

 

 

ジュゥべえが説明を行う。原因はタルトと鈴音だ。

この二人はどうやら他の魔法少女の中でもとびきり強力らしい。

仁美のコネクトは何も未来から実際に魔法少女を呼んでいるわけじゃない。

ただゲートを通して情報を収集、そして仁美が魔法でアバターを作っているだけだ。

一応精神は完全にリンクしているため、本人といえばそうだが、あくまでもラジコンのようなものである。

 

 

『3Dプリンタみたいなもんだな。当然、再現するには材料がいる。材料はテメェの魔力だ仁美』

 

 

もちろん向こうが肩代わりもしてくれるが、それを差し引いてもタルトたちの力が凄まじいという事だった。今の仁美では長時間の召喚はできそうにもない。

 

 

『釣り合ってねーんだよ。もっと修行しな』

 

「……がんばりますわ」

 

 

そこで、まどか達も戻ってきた。一同は合流し、無事を確かめ合う。

 

 

「ユウリちゃんは?」

 

「倒しました」

 

「……そう」

 

 

まどかは一瞬シュンとしたが、すぐにさやかが肩を組んできたので、そちらに気を取られる。

 

 

「あわわ!」

 

「ほら、シュンとすんな! グジってても仕方ないぞ」

 

「う、うん。そうだねさやかちゃん。ありがと」

 

「分かればよろしい! んでさ、さっそくで悪いけど、改めて何がどうなってるのか教えてよ。ぶっちゃけなんか今混乱しててさ」

 

「いつもだろ」

 

「黙れ悪徳弁護士。いや、だからそもそもセンセーってのがどこの誰なのって話にもなるじゃん?」

 

 

円環の使者としての記憶がいろいろノイズになっているようだ。

ほむらがどうとか、悪魔がどうとか、そんなことが重要だったはずなのに。

気づけばフールズゲームだとか、いろいろ混じってきている。

 

 

「うん。実はね――」

 

 

まどかは事情を説明する。F・G、魔獣、虚心星原。ゾルダも一緒に内容を聞いていた。

 

 

「――って、事なんだ」

 

「なるほど。把握」

 

「うそだろ」

 

「うん正解。センセーの言うとおり、まだたぶん6%くらいしか理解してない。適当に頷いた。ごめんなさい」

 

 

こればかりは言い返せねぇ。さやかは無言で腕を組んでいた。

 

 

「まあでも、魔獣だのの事は分かったよ。そのふざけたヤツらをぶちのめしゃいいんでしょ?」

 

「それもありますが――」

 

 

なぎさはそこで、先程さやかが口にした単語を一つ抜き出す。

 

 

「この虚心星原。"悪魔"が大きく絡んでいると、なぎさは思っています」

 

「悪魔? 悪魔って……」

 

 

さやかが唸る。記憶をたどると――

 

 

「あー、はいはい。転校生。ほむらね」

 

「はい。改めて聞きたいのですが――」

 

 

またしばし情報交換。

内容は主に、仁美達がはじめにいた場所。つまり手塚のアパートでのことだ。

一緒にいた筈のマミたちはいったいどこに行ったのか?

逆になぜ、まどかや仁美は除外されたのかを考える。

 

 

『やれやれ』

 

 

そこでジュゥべえが前に出た。

 

 

「げ。まだいたの」

 

『おい美樹さやか。なんだよその言い草は。せっかく情報をくれてやろうと思ってたのによ』

 

「うそ、アンタ何か知ってんの?」

 

『んま。今回は確実に魔獣のちきしょう共がフェアじゃねぇからな。ルールを破った罰だ。オイラはお前ら寄りになってやるぜ』

 

 

その上で、ジュゥべえは情報を提示する。

 

 

『悪魔が生まれた時間軸がある』

 

「?」

 

『インキュベーターはそれを「叛逆の物語」と名づけた。そこで暁美ほむらは、鹿目まどかを忘れたくないと、もう一つのソウルジェムを生み出したのよ』

 

 

あまりにも美しく、濁りきった奇跡の誕生。

 

 

『暁美ほむらの能力は時間操作じゃない。記憶操作だ』

 

「は? 何言ってんの?」

 

『思い出せ美樹さやか。記憶を取り戻したなら思い出せるはずだ。アイツの武器はなんだった? 盾か? ちげぇよ。弓だ。黒いゆーみ!』

 

「……そう言われてみれば」

 

『ログみせたろか? あー、こりゃテラバイターっつうか、ワルクチのヤツもそれとなく触れてんな。まあ要するに、なんつうか……、暁美ほむらってのはかなり特殊なのよ』

 

 

ただ一つ言えることは、暁美ほむらの固有魔法は『時間停止』などではない。『記憶操作』にある。

だが前回のゲームの記憶が鮮明にある一同がそれはおかしいと思うのは無理もない。

どう考えても、暁美ほむらは盾を使って時間を止めていた。

 

 

『この矛盾ともいえる部分こそ、今回のポイントなのかもな。魔獣が狙ってるのはそんな矛盾を生み出した歪な奇跡よ。そしておそらく(ほむら)のヤツもそれを分かってる。というか、自覚してるな。アイツは今、二人になろうとしてる。たぶんだけどオイラの予想じゃ……、記憶操作をバリバリ使ってる筈だ。ここがLIAR・HEARTSって事は……、はいはい、なんとなく予想できたわ。どういう状況なのかは知らんけど』

 

「ちょっとジュゥべえ、一人で何納得してるんだよ」

 

『そういうなよ真司。オイラだって全部分かってるわけじゃねぇんだ』

 

 

別に状況自体は単純だ。

暁美焔がこの世界の主で、そこにある力を魔獣が狙ってますよというだけの話。

では焔の狙いはなんなのか?

 

 

『まあおそらく主人格というか――、コアである暁美ほむらの抹殺……』

 

 

そこで、話を聞いていたなぎさがピンときたらしい。

 

 

「あの、ぬいぐるみ……」

 

『お、それそれ。それだよ百江なぎさ。あとたぶんこれ情報的に、なぎさ、まどか、カスの三人しか分からんから、騎士達は黙っとけ』

 

「ん? カスって誰?」

 

『テメェだよ、さやか』

 

 

さやかがジュゥべえを追い掛け回している間に、なぎさとまどかは必死に考える。

大切なのは記憶だ。ジュゥべえがいう、叛逆の物語がポイントになっているなら、必死にその時のことを思い出す。

悪魔というのはなんとなく記憶にあった。だから、それを、もっと、もっと深く……。

 

 

「あの――、ぬいぐるみ」

 

「あっ、うん。分かる。アレは、えっと」

 

「あッ! 分かった! ナイトメア!」

 

 

ジュゥべえの耳を掴んでいたさやかが、ポンと声をあげる。

 

 

「そうです! ナイスですさやか!」

 

「流石さやかちゃん!」

 

「くぅー、やっぱあたし、大事なところでキメちゃいますか!」

 

 

しかし、目が丸くなる。

 

 

「で? そのナイトメアがなんなの?」

 

「で、ですから。えっと、あれがココにいると言うことはですね」

 

 

ナイトメアとは何か。それは――、暁美ほむらの深層心理の願望が作り上げた『敵』。

 

 

「フールの傍にいた固体は、魔獣に改造されていたのでしょうが、とにかくこの世界がなんであれ、ナイトメアが存在してる以上……。うぅぅう」

 

 

しかしそこでなぎさは真っ赤になって目を回し始める。

駄目だ。記憶がパンクしそうでフラフラしてきた。

なのでバトンタッチ。要点をまとめてオルタナティブへ話す。

すると少しの説明なのに、もう理解したようだ。いやむしろ、まだ混乱しているなぎさよりも早く答えにたどり着いたらしい。

オルタナティブは変身を解除すると、香川に戻り、メガネを整える。

 

 

「纏めます。かつて『叛逆の物語』という時間軸で、暁美さんは仮想世界のようなものを作り上げました。ナイトメアというのは、そこに存在する敵です。そのナイトメアが今この世界にいるという事は、この虚心星原がその仮想世界と同質のもの。あるいは、ナイトメアが仮想世界から抜け出して、魔獣に味方をしている事になります。ですが、あくまでもここはLIAR・HEARTSと呼ばれたフールズゲームの中の世界であり、前回のLIAR・HEARTSではナイトメアが登場していないことから、後者の可能性が非常に高いものと思われます。では逆に考え、なぜ魔獣がナイトメアを味方にする必要があったのか? これはあくまでも私の考えですが、魔獣はナイトメアを通じて仮想世界への鍵を作りたかったのではないでしょうか?」

 

 

つまりナイトメアは移動装置だ。

次に仮想世界を作った時に、魔獣側も進入できるようにするため。

という事はつまり、ほむらは――、焔は、再び仮想世界を作る気だった。

ソレが分かっていたからこそ、魔獣側も進入するためのチケットを用意したかった。

 

 

『まあザックリ、そんな感じだろうな』

 

 

ジュゥべえは大きく頷き、追加する。

 

 

『今現在、記憶操作の魔法は全て焔が持ってると見てる。あの女の狙いはおそらく――』

 

 

ジュゥべえはニヤリと笑い、後ろへ下がっていく。

 

 

『本気のごっこ遊びをするつもりだぜ。それこそ真実を塗り替えるほどのな』

 

「なんらかの影響で存在が別れ、主を決めようとしている……」

 

『だろうな。つまりこれは暁美ほむら同士の決闘。ま、後はお前らで何とかしてくれや。それじゃあ。チャオ』

 

 

消えるジュゥべえ。変身を解除する一同。

 

 

「しかしどうするのよ? 俺達側にはナイトメアだっけか? あれいないんだろ?」

 

 

香川が頷いた。

 

 

「北岡さんの言うとおりだ。もしも焔さんが、また仮想世界を作って引き篭もっているのなら、どうアプローチをかければいいのか……」

 

 

皆が話し合う中、まどかはギュッと胸を掴んで空を見上げた。

 

 

「ほむらちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーいっ! それじゃあ、自己紹介いってみよ?」

 

 

気を遣ってくれているのだろうが、逆にそれが苦しかった。

なんとか期待に応えなければならない。だから、ついつい緊張してしまう。

 

 

「あ、あのッ、あの、えっと、あの、その、暁美――、ほむらです。どッ、どどどどどうか、よろしくお願いします」

 

 

深く、深く頭を下げる。なるべく目を逸らしたかった。他の人が一勢に見てくるのが苦しかった。

早乙女先生が説明してくれている。心臓の病気。久しぶりの学校。

戸惑う事も多いからみんな助けてあげてね。

――以上。

 

 

「暁美さんってさ、前はどこの学校だったの?」

 

「前の学校は何部だったの? あ、待って。あてるね。えーっと、漫研? 科学?」

 

「長い髪だねぇ。でもなんで三つ編み? もっと良い髪型あるのに」

 

「あ、あのさ! 暁美さんって彼氏いるの?」

 

「こら、失礼だよ中沢くん。ねえ暁美さん」

 

 

どうしよう。何も喋れない。

ほむらが肩を竦めていると、大きな声が聞こえてきた。

 

 

「はいはいはい! 終わり終わり。良いだろどんな髪型だろうが、何部だろうが! 個人の自由だってのッ!」

 

 

生徒達を掻き分けたのは、一人のクラスメイトだった。

 

 

「そんな事よか。アンタ休み時間に薬のまねーと駄目なんだろ? 行こうぜ、ほむら」

 

 

佐倉杏子はニヤリと笑い、手を差し出してきた。

ほむらはどうしていいか分からず、固まっていると、強引に腕を掴まれて引きずられていった。

 

 

「悪いね。皆、悪いヤツじゃないんだけど、転校生って珍しくて」

 

「は、はぁ。いえっ、その、ごめんなさい。ありがとうございました」

 

「んー? なにさ。謝ったりお礼言ったり。忙しいヤツだなぁ」

 

「え? え? えぇ?」

 

「まあいいか。アタシ佐倉杏子。こう見えても保健委員なんだ。楽そうだから手あげたんだけど、まさかアンタみたいなのが来るとはね」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「だぁ、もうッ、冗談だっての。真に受けんなよ。あと緊張しすぎ。クラスメイトなんだから、もっと気楽にいこうぜ」

 

「え? でも、その……」

 

「いいからいいから、はい、ほら、杏子って呼んでみ?」

 

「き、ききききッ、ききききききき!!」

 

「おいおい、大丈夫かぁ? バグってんぞ? 仕方ねぇな。また今度いいよ」

 

 

杏子はニヤリと笑って、保健室の扉を開いた。

ほむらが薬を飲んでいる間、杏子は戸棚を開いて肝油をバクバク盗み食いしていた。

それが面白くて、ほむらは小さく笑った。

 

 

「じゃあ、この問題やってみようか」

 

 

意味が分からなかった。二つの意味で。

酷いと思う。二つの意味で。

まずは黒板に並んだ数字が何なのか、サッパリ分からなかった。手が震える。

 

酷いと思う。改めて。

数学の先生も事情を知ってる筈なのに、なんでこんな皆の前に出すような事を……。

 

 

「あぁ……、キミは休学してたんだっけな。誰かにノートを借りておくように」

 

 

案の定、席に返された。泣きそうだ。

ほむらが震えていると、何かが視界にフェードイン。

なんだこれは? ほむらが不思議に思っていると、ささやく声が聞こえてきた。

 

 

「くうかい?」

 

 

それはキャラメルである。杏子は、ほむらの左の席だった。

 

 

「気にすんな。アタシもさっぱりわからねぇ」

 

 

杏子はそう言ってバクバク弁当を食っていた。

その姿が面白くて、心がかなり楽になった。

ほむらは杏子からキャラメルをいただくと、小さくお礼を口にする。

すると、今度は右から何かがスッと差し出された。見ればそれはノート。

随分と綺麗な字だ。

 

 

「俺のでよければ」

 

「あっ、え? えッ?」

 

 

ほむらの右隣にいたのは、落ち着いた雰囲気の少年だった。

とはいえ、男の人とまともに会話をした事がないほむらとしては、どうしていいか分からなかった。とりあえずお礼を言って受け取ったが、どうにも苦手な雰囲気の人だった。

 

 

 

 

 

 

体育の時間は一番嫌いだった。

嫌な予感はしていたが、やっぱり倒れた。

やっぱりクスクス笑う声が聞こえてきた。

 

 

「準備体操だけで貧血ってヤバくない?」

「どんだけ脆いのよって話でしょ」

「バレーじゃ同じチームには来てほしくないよね」

 

 

木陰でほむらは大きなため息をついた。

こうしてパッとしないまま学校は終わり、ほむらは一人で寂しく帰路につく。

 

 

「はぁ」

 

 

これからどうすればいいんだろう?

弱い自分は何にもできない。勉強も、運動も、学校生活も不安でいっぱいだった。

コミュニケーション能力が酷いことは分かってる。直さないととは思うのだが――、どうにもいつも空回り。上手くいかないことだらけ。

 

 

(これからも皆に迷惑ばっかりかけて。いっぱい恥ずかしい想いするのかな? いじめられる? 嫌だ……。でも、もう、もしかしたら……)

 

 

そんなの嫌だ。

でもきっと、これからもずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずーっっと同じ毎日。

まるで、『悪夢』のような日々。

 

 

「え?」

 

 

ふと気づく。

なにやら街中なのに、クラシックが流れていた。

街灯が消えていく。陰でできたバレエダンサーが踊り始める。

ファンシーな音がした。空間にファスナーが出現し、そこからピョコンと顔を見せた化け物。

 

 

「ヒッ!」

 

 

化け物が落ちてきた。赤ちゃんをあやすガラガラのような音がした。

ほむらの前に現れたのは、『ナイトメア』だ。その目が、ジロリとほむらを睨む。

 

 

「い、いやぁあああ!」

 

 

ほむらは反射的に逃げ出すが、ナイトメアは飛行し、追いかけてくる。

そうしていると腕からぬいぐるみが飛んできた。パンダ、熊、狼、狐。

ぬいぐるみたちは縦横無尽にかけまわり、街灯を破壊する。ベンチを吹き飛ばす。

ほむらの後ろに落ちるなどなど。

 

爆風を感じてほむらは悲鳴を上げる。

なに? なんなの? どうして私がこんな目に? ほむらは泣き喚き、諦めたように崩れ落ちた。

まあ、どうせ、死にたいと思っていたし。これでいいのかもしれない。

ほむらはうずくまり、迫るミサイルを避けようともしない。

 

 

「!」

 

 

だが、銃声が聞こえた。

次々と弾丸がぬいぐるみのミサイルを撃ち落す。

それだけじゃない。抱き起こされる感覚があった。次の瞬間、また爆風を感じる。

ほむらは自分がどうなっているのかを理解した。黄色い髪の少女に、横抱きにされているのだ。

 

 

「間一髪ってところね」

 

 

その人が――、巴マミが笑いかけてくれた。

 

 

「かっこいい……」

 

 

自然に声が漏れた。マミはお姫様だっこでほむらを抱えたまま、着地。するとまた別の声が。

 

 

「おーい! 生きてるかほむらーッ!」

 

「え? え? えッ!?」

 

 

ワシャワシャと髪をなでられる。見れば、そこには佐倉杏子が立っていた。

 

 

「ははッ、いきなり秘密がバレちまったね」

 

 

杏子は拳を構え、それをほむらの前に出す。

 

 

「アタシとアンタだけの秘密だよ」

 

「え? え? え?」

 

「あー、もう! 拳を合わせるんだよ」

 

「言ってる場合? 来るわよ佐倉さん!」

 

 

マミはほむらを降ろすと、銃を構えた。

 

 

「ちッ、仕方ないか。ほむら、そこでちょっと待ってなよ」

 

 

そこで杏子とマミは跳び、ナイトメアに向かっていく。

 

 

「活躍、期待してるわね」

 

「おいおい、誰に言ってんのさ。マミも気合入れなよ!」

 

「ふふっ、了解!」

 

 

随分とあざやかな立ち回りだった。

接近戦の杏子、サポートのマミ。二人の活躍であっという間にナイトメアは指定ポイントだ。

 

 

「決めろよ!」「今よ!」

 

 

合図を受け、電子音。

 

 

『ファイナルベント』

 

 

飛び出してきた騎士・ライアがナイトメアを捉え、爆散させた。

戦い終えて戻ってくる三人。一番初めに前に出たのはライアだった。

 

 

「大丈夫か? 暁美」

 

「え? え? あ、あのっ、えっと、その」

 

「おいライア。変身解除しろよ。ほむらがビビッてんだろ」

 

「ああ、そうか。すまない」

 

 

ライアの鎧が砕ける。ほむらはハッとしたように目を見開いた。

というのも、現れた少年には見覚えがあったからだ。間違いない、隣の席である。

 

 

「改めて、手塚海之だ。よろしく」

 

 

差し出されたので、反射的に手をとった。

男の人の手をはじめて握ったかもしれない。ほむらはついつい赤面してしまう。

それに手塚は笑っていた。この人はこんな顔をするのか。

 

ほむらはなぜか目を逸らす事ができず、手塚をジッと見つめ続けていた。

 

 

 




平ジェネの感想書いてます。
ネタバレありなんで、見てない人はこのままバックしてください。
あと軽く悪いところも書いてるので、そういうのが嫌な人もバックしてくれよな(´・ω・)
























まずざっくり良いところ。

やはり今まではそれほど本格的には触れられてこなかったメタメタしい部分を取り上げたことでしょうか。

後はやはり、一番のポイントだと思うんですが、電王の復活でしょうな。
僕は電王と龍騎が平成ライダーの中で、トップに好きなので良太郎と、真司の新録はそれだけで満点の映画でしたね。
あとアギト、ゴースト、ディケイドっていう並びも、まさに俺得って感じでしたね(´・ω・)
他のライダーもライブラリとかで、本人ボイスだったのは大きなお友達としては嬉しい部分でした。

まあ特に電王なんですけど、僕が行った映画館では歓声があがってました。
事前にかなり匂わせる感じのことはあったんで、おそらく出るんだろうなとは思ってましたが、やはり実際にってなると感動しますよね。
あとまあ、U良太郎のままだったのは、いろいろ理由がありそうですが、僕はすごいそれが良かったと思ってます。

ぶっちゃけ最後のモモタロスの言葉で良太郎に言ったワケじゃなくて、大きなお友達と、役者さんに向けて言ってますよね。
そこで『ウソ』を司どるウラタロスだったって言うのは、何か大きなメッセージ性を感じるというか。


んで次は悪いところなんですけど。
ぶっちゃけダブル周りは、まあいろいろ言われても仕方ないかなって思います。
まあ今後っていう可能性もあるんですけど、まあまあまあ(´・ω・)

それと若干CGが今回微妙だったかなって思います。
あれわざとなんですかね? 最後のオールライダーキックはまあ良かったと思うんですが、アナザークウガの動きが微妙に感じました。

あとは、まあ悪いところって言うか若干予告詐欺だったかなって気もします。
キャッチコピーである仮面ライダーが好きだった人たちへ。っていうのは割とラスト周りだけで、他は普通にジオウとビルドの映画って感じでしたね。
まあワンポイントのエッセンスがあれば、それはそれでいいんでしょうが。


まとめとしては、平成ラストを飾るにふさわしかったんじゃないでしょうか。
メタ的なところなんですが、同じ事をやったウルトラマン、スーパー戦隊とは微妙に差別化できていたと思います。
まさにそれぞれの個性というのか。ウルトラマンが、実はウルトラマンはいるっていうのを強めたのに比べてライダーはどっちかっていうと、虚構かもしれないけど~的な感じにしたのは良い差別化だったと思います。
どちらかが良いとかではなくて、それぞれの答えみたいなものが象徴されている気がしました。

ライダーを構成するのは記憶。
まさにそうなんじゃないかなって思います。
コレ前にも書きましたが、やっぱり僕がライダーを見続けてる理由も当時感じたワクワクや感動を忘れたくないからって言うところもあると思うんですよ。
まあ、これそれこそ最近終わったグリッドマンとか、ウルトラマンもそうなんですけど、まだ僕が生まれてない時からやってたものがあって、それと一緒に成長していくのは親近感がわきますからね。

あんまりパッとしない一年であっても、そのライダーと一年育ったっていうのは立派なトロフィーみたいになると思います(´・ω・)


あとライダー達の新技も良かったですね。キバの鎖エフェクトはめちゃくちゃかっこよかったです。
龍騎のドラゴンライダーキックも見れましたし、圧倒的な安定感のある電王も見れましたから。


あと一番面白かったのはこれから敵にぶつかっていくぞっていう雰囲気の中、突如ドリフトで敵を轢き殺していくトライドロンと、「よっしゃ、いっちょやったるか!」って感じで敵を焼き殺していくドラグレッダーでした。
っていうか、ドラグレッダーっていまいち大きさ安定しないんですけど、龍騎を背中に乗せるっていうありそうでなかった光景をやってくれたのも良かったですね。


まあとりあえず、今はそんな感じですかね(´・ω・)b



あ、あとごめんなさい。
まだ映画見てない人もいると思うので、感想とかに映画のこと書くのはやめてください。まあこれはあくまでもボクの独り言ってことで。

よろしゅうたのんます(´・ω・)b


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