仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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新しいライダーもお披露目されましたな(´・ω・)
新しい時代でも頑張っていきますので、よろしくですぞ!



第96話 かっこいいよ! ほむらちゃん!

 

 

トークベントを使った。

 

 

『他人の人生を変えるのが怖かったと貴方は言ったわね。私もそうよ。望んでいたのだけれど……、怖かった』

 

 

それは今もだ。だが、怖いけど――……、皆がいるから進んでいける。

 

 

『今度こそ変えるわ。変えてみせるわ』

 

 

 

見滝原を模した街があった。

ビルの果て、聳え立つのは青いギリシャ彫刻のような女性だ。

神々しい衣で身を包み、頭には糸車の魔女を冠にしている。

憂いの表情を浮かべた女。その頭部の中にゼノバイターは埋め込まれていた。

 

瘴気が充満する空間は心地良い。

しかしそれでも、ゼノバイターは激しい苛立ちを覚えていた。

暁美ほむらの表情が、今まで見たどんな顔よりも希望に輝いていたからだ。

 

 

「レガーレヴァスタアリア!」

 

 

始まりはマミだった。彼女が腕を前に出すと、大量のリボンや糸が伸び、周囲に張り巡らされる。

それらはビルに巻きつき、それは街灯に巻きつき、『足場』の役割を果たすのだ。

 

 

「レールプラス!」

 

 

さらにマミはリボンや糸に『移動魔法』を付与する。これにより、リボンはレールとなる。

次々に着地していく魔法少女。すると糸に置いた足が自動で滑り、高速でディザスターへと近づいていく。

前方に障害物があるのならば、別の糸に飛び乗り、魔法少女達は――

 

 

「ぶべらびちょッッ!!」

 

 

美樹さやか。看板に激突し、墜落。

 

 

「ダッセぇ」

「浅はかね美樹さやか」

「修行ですわねさやかさん」

「さやか! かっこわるいのです!」

 

 

冷めた目で通り過ぎていく杏子とほむら。

さやかよりもずっと後輩なのに、涼しげな表情でレールの上をいく仁美。

呆れた表情のなぎさ。さやかはプルプルと震えながら顔を起こし、真っ赤になった顔面を素早く治療してみせた。

 

 

「言葉のマシンガン止めろ! まどか! マミさん! 励まして! あたし褒めて伸びるタイプだから!」

 

「がんばって! さやかちゃんなら絶対にできるよ!」

 

「ファイトよ美樹さん! 何よ少しぶつかったくらい! 看板くらいじゃあなたの才能は止まらないわ!」

 

「よっしゃぁあああああ!!」

 

 

さやかは奮い立つと、ドドドドドドと音がするほどの勢いで全力ダッシュ。

地面を走り、すぐに糸の上を滑るマミたちに追いついてみせる。

 

 

「す、すごいわ美樹さん! なんてスピードなの!」

 

「ほらね! 褒めてのびるタイプですから! なあ、おい! 聞こえてるか鬼畜弁護士! アンタに言ってるぞ!!」

 

『……はーーーーい』

 

「お、なんだそのふざけた返事は! なあ、なあって!」

 

『はーー? はーーーいって言ってんじゃーーん。はーーー? はーーー?』

 

「あ、ウザいな! 凄いウザいな! なあ、なあって!!」

 

 

テレパシーでギャーギャーやり取りしながら、さやかは尚も全力疾走。

レールを無視して先頭を突っ走る。

 

 

「美樹さん! 糸を張った意味がないわ!」

 

「いいんですマミさん! あたしコッチの方が性に合ってるんで!」

 

「っす――いや! いや! そうよ! それでいいのよ貴女は! ええ! そう! だから、ね! やっちゃって!」

 

 

糸を張ったのは空を飛べない者たちへの配慮。

さらに移動になるべく体力や魔力を消費しないためだ。

魔力はやはり攻撃や魔法に使いたい。まあ、だが、さやかは考えるより行動したほうがいいタイプだろう。

そうこうしている内に、危惧していた通り、大技が飛んでくる。

 

 

「下らねぇ! 終わるのはテメェら人間ッ! ただそれだけだ!」

 

 

ディザスターの目が光ると、大量の光弾が空間に浮かび上がり、すぐさま発射されていく。

青黒いエネルギー弾を見て、一同は怯んだように息を呑むが、誰も止まることはなかった。もちろん、それは暁美ほむらもだ。

 

 

(怖い――ッ! けどッ!)

 

 

前だけを見る。

すると桃色の光。まどかが生み出したバリアが、しっかりと光弾を受け止めてみせる。

すぐさま銃声。マミの弾丸が、杏子の槍が、さやかのサーベルが、なぎさのシャボン玉が、仁美の光弾がディザスターの弾丸に命中して相殺していく。

 

 

「バアアアアアカ! それは囮だっちゅうのッッ!」

 

 

ディザスターの髪が伸び、まどか達に触れようと迫る。

糸車の魔女の力が宿った髪は、触れるだけで生命エネルギーを容赦なく吸い取ってしまう。つまり触れただけで死に至る即死攻撃。

髪先は束ね、槍状になっている。次々と迫る槍は、光弾を打ち破ったことで安心しているまどか達へと容赦なく――

 

 

「借りるわよ! (ホムラ)ッ!」

 

 

ほむらが叫ぶと、腕に盾が生まれる。

ギミックが作動。するとディザスター視点で、一瞬でほむら達の姿が消え去った。

 

 

「何ッ!? ――って、うごォオッ!」

 

 

体の至る所が爆発を起こす。ゼノバイターはすぐにそれがほむらの仕業であると理解、頭部(コックピット)の壁を殴りつける。

ディザスターの肉体は硬い。ほむらの爆弾程度では何の問題もないが――連発されると話は別だ。

気づけば、マミの糸が増えている。

周囲、三百六十度。糸やリボン。そしてその上に立つ魔法少女。

 

 

「ハァアアアアア!!」

 

 

光の矢が連続でディザスターの胸辺りに直撃していく。

すぐに膝部分で爆発。マミの弾丸だ。

おっと、背中に剣が刺さる。さやかの剣が飛んできた。

ああ、杏子は目を狙っているのか。槍が刺さる。もちろんシャボンや光弾も。

 

 

「うざってぇ連中だぜ! でも悲しいよな? 俺様には通用しない!」

 

 

ディザスターはビルの屋上にてロケットランチャーを構えるほむらを睨みつけた。

口が光り、すぐに青黒いレーザーが発射される。

 

 

「クロックアップ!」

 

 

ほむらのスピードが上がり、一瞬でビルからいなくなる。

レーザーが直撃し、蒸発するように消滅するビル。一方でほむらは受身を取って地面を転がる。

 

 

「!」

 

 

気づけばすぐそこに、追撃の光弾。

 

 

「あぁ!?」

 

 

ディザスターは直撃を確信した。

しかしほむらが一瞬で消滅すると、光弾は地面にぶつかって爆発を起こす。

どうやら時間停止を使ったようだ。

 

 

(砂切れを待つか……? いや、つうかそもそもおかしいだろ)

 

 

ディザスターは、この世界では『ほむら』として認識されるはずだ。

ならば時間停止中も、ほむらなのだから動けるはず。

にも関わらず……、何故?

 

 

「ゴァアッ! ツォオ!?」

 

 

かぼちゃ型の爆弾がディザスターの全身に貼りつき、爆発する。

時間停止の件は、暁美ほむらの魔法形態が悪魔と記憶操作に変わったことにカラクリがあった。

その実、ほむらは記憶操作を使い、ディザスターの思考を侵食していた。時間が止まれば、自分がほむらである事を『忘れる』ように設定する。

ほむらを忘れることは、ほむらで無くなることだ。だからディザスターは動けない。

それはまさにイツトリの力と同じである。

 

 

(とはいえ……ッ!)

 

 

イツトリならば、たとえば『攻撃』や『防御』を忘れさせる事ができるかもしれないが、ほむらにそんな事はできない。

時間停止を通せるだけであって、砂の問題もある。運命(ゆういち)との戦いを経て、その量はあと僅かだ。

ほむらはそこで、ディザスターが拳を振り上げているのが見えた。狙いは足元にいた杏子だ。

 

 

(まずい――ッ!)

 

 

盾を作動させようとは思ったが、時間を止めても今ほむらが立っている位置から杏子を助けに行くことは不可能だ。

焦る。焦るが――唇を噛んだ。大丈夫だ。それは無責任で曖昧な『投げ』ではない。

 

 

(大丈夫よ! ねえ、そうでしょう!?)

 

 

それは確固たる信頼である。

 

 

(みんなッ!)

 

 

死ね、と、ディザスターが吼えた。

杏子に拳が迫り、彼女は避けられないと目を見開く。

しかしそこで魔法名を叫ぶ声。巨大な盾が杏子の前に現れ、拳を受け止めた。

 

 

「鹿目まどかァア! うぜぇな! ブチ割ってやる!」

 

 

確かに、その盾はすぐに砕かれた。

しかし拳が杏子を捉えることはなかった。マミが伸ばしたリボンが杏子を絡めとり、引き上げることで拳のルートから外れたのだ。

 

 

「助かったマミ!」

 

「ええ! みんな! コッチは大丈夫だから――ッ!」

 

 

テレパシーを使い、脳内で指示を飛ばす。

疾走する青が一番はじめに応えた。地面にめり込んだ拳に近づき、跳躍、腕を駆け上がっていく。

ディザスターは鼻を鳴らす。接近とは阿呆の極みであると笑うのだ。

髪を動かし、即死の束をさやかへ向かわせる。

 

 

「「ナメんじゃねぇ!!」」

 

 

さやかとディザスターの言葉が重なる。

近づいてやる。近づかせない。二つの意思がぶつかり合い、火花を散らすのだ。

さやかが跳んだ。魔法陣を足場にして空中ジャンプ。迫る毛の槍は、剣で切り裂き、時にはまどかのシールドが防ぎ――

だが限界もある。気づけば前方には大量の槍。

 

 

「ウォオオオオオ!!」

 

 

さやかが叫ぶ。魔法のアレンジ技。参考にしたのはナイトのファイナルベントだった。

白いマントで己を包み、ドリルの様な形状となって突き進む!

 

 

「ダル・セーニョ!!」

 

 

上昇していくさやか。さらになぎさも魔法を付与させる。

スフレ・ハイエンス。対象の重力影響を弱体化させる魔法である。これによりさやかのジャンプ力はより高まる。

目障りだ。止めなければ。ディザスターは巨大な腕を動かした。

しかしすぐに意識がさやかから外れる。空中に浮遊するまどかの体が光り輝いた。

おお見よ。背後に瞬く巨大な水瓶座。

 

 

「スターライトアロー!!」

 

 

翼が生えた水瓶が出現し、激しい水流を発射した。

ディザスターは掌でそれを受け止める。確かに流れは強いが、所詮は水、そこまでの脅威では――

 

 

「な、なに!」

 

 

掌で受け止めた水は勢いを失い、地面に落ちる。

その水が集まり、オクタヴィアに変わっていく。そして水が増えるたび、その姿が大きく、大きくなっていく。

それに気づいたのか。先行していたアビスやシザースも水を追加する。

気づけば、あっというまにオクタヴィアはディザスターと変わらないほどに巨大化していた。

 

 

「ブ チ 割 れ」

 

 

さやかの命令を受け、オクタヴィアは巨大な大剣を振り下ろした。

これは受けられない。ディザスターはすぐに両手を上に出し、掌で剣を挟み止めた。

白刃取り。オクタヴィアも力を込めて両断しようと試みる。もちろんディザスターも抵抗していく。

しかし、いずれにせよこれで時間は稼げた。

さやかは既に、ディザスターの顎下に位置を取っていた。

 

 

『ユニオン』『シュートベント』

 

 

魔法陣を足場にして、踏ん張る。

さやかは叫び、装備したギガランチャーを思い切り突き上げ、ディザスターの顎に突き刺した。そして発射。

爆発が巻き起こり、弾丸が顎に風穴を開ける。発射の反動は魔法陣が吸収してくれたようだ。

維持にも魔力を使うので、さやかはさっさとギガランチャーを投げ捨てて、顎の穴に飛び込む。

 

 

「アァ! くそったれェッ!」

 

 

ディザスターは異物感を感じ、不快感に吼えた。

瘴気が溢れる。力が上がり、両手で挟んでいた剣を握りつぶしてみせる。

すぐさま地面を踏みしめ、渾身のストレートを放った。

それはオクタヴィアの装甲を打ち破ると、肉体を貫通させて、一撃で消滅させてみせる。

一方で体内。イチリンソウの花畑だった場所には、現在同じサイズのヒガンバナが咲き乱れている。

それを踏み蹴散らしながら、さやかは走った。というのも前方に蹲るホムラを見つけたからだ。

向こうもさやかに気づいたのか、少し不安そうに、少し嬉しげに笑う。

 

 

「美樹さん……!」

 

「ほらっ、行こう!」

 

 

さやかが手を伸ばした。

 

 

「いいんですか?」

 

「当たり前でしょ! ほら、掴まって!」

 

「は、はい!」

 

 

ホムラもまた、腕を伸ばすが――

 

 

「ンマァー、チョロチョロと目障りなクソガキだなマジでテメェらはよォオ!」

 

 

天井が割れた。すると破片と共にゼノバイターが降ってきた。

さやかは一瞬立ち止まるが、すぐに走り出す。これは好都合だ。

コックピットを離れたということは、ディザスターの動きが止まっているということではないか。

 

まどか達が攻撃をしているのだろう。爆発の震動を感じる。

ここで時間を稼げれば。いや、倒してしまえばいいのだ。さやかは二刀流で向かっていく。

同じくゼノバイターもトンファーブレードを二刀流にして向かっていった。

仕掛けたのはゼノバイター。左のトンファーを、上から下へ振り下ろす。

さやかは右手に持った剣を盾にして、それを受け止めるが――

 

 

「――ぁ! ぐぁあッッ!!」

 

 

凄まじい衝撃だ。それもその筈、見た目は通常状態ではあるが、現在のゼノバイターはリボーン態。さらに通常ならば肉体が崩壊しているほどの瘴気を内包しているのだ。

当然それだけステータスは上昇している。攻撃を受け止めたさやかも気づいただろう。

ただ攻撃を防いだだけで、右腕から鎖骨に亀裂が走る。さらに腕が痺れ、感覚が消えた。

怯んだのは僅か一秒ほど。しかしそれだけあれば十分だった。気づけばさやかの腹部にゼノバイターの脚がめり込んでいる。

 

 

「カハ――ッ!」

 

 

一瞬だった。さやかは地面をえぐりながら吹き飛び、大量のヒガンバナを撒き散らしながら壁に激突する。

 

 

「美樹さんッッ!」

 

「ノックアウトだ、クソ女。オメェも聞いたようなホムラちゃんよ。アイツの骨が砕ける音、内臓が破裂する音」

 

 

ゼノバイターは、へたり込むホムラの前髪を乱暴に掴むと耳元に顔を持っていく。

 

 

「ましてやオメェ、ココに来たのが美樹さやかとはな。お笑いだぜェ」

 

「うあ゛ぁッ!」

 

「分かってんだろ! なぁ! オイ! あんだけ仲悪かった美樹だ! だからあんだけ簡単にくたばったんだよ! はじめからテメェを助けるモチベーションが低かったんだ!!」

 

 

ホムラは髪を掴まれている痛みと、耳元に響く大声に苦悶の表情を浮かべた。

そして表情を歪めた女がもう一人。それは外にいた暁美ほむらだ。

現在、全ての暁美は繋がっている。ホムラへの言葉は、ほむらへの言葉なのだ。

 

ほむらは胸を、心臓を、ハートがある胸を掴んだ。

歯を食いしばる。否定しきれない自分がいるのだ。

それをゼノバイターも分かっている。分かっているからこそ笑い、ホムラの頭を乱暴に揺さぶった。

 

 

「わーッッてんのかーッ! なあ! ナアナアナア!! 本当は分かってんだろ? クソみたいな、お友達ごっこなんざ、すぐに破綻すらぁな? そりゃオメーのアホループが証明してんだよ!」

 

 

ゼノバイターは目を光らせ、レーザーを発射。

さやかが倒れているだろう場所に直撃させ、爆発が巻き起こった。

 

 

「美樹さ――ッ」

 

「まどかマギカを終わらせる!? 終わるわけねェだろ! 終わらねぇーんだよ! 憎悪の! 連鎖! 負のスパイラルは!」

 

「ッッ」

 

「魔獣は不滅だクソガキが! テメェらゴミ共は、バカみたいに争いあって、永遠に俺様たちのエネルギーを生成し続けるんだよ!」

 

 

ゼノバイターはホムラの顎を蹴り上げる。

それは自傷行為。ほむらはより強い痛みを胸に感じ、ホムラは地面に倒れる。

 

 

「下らない希望ッ、テメェは抱く資格もねぇエ!」

 

 

ゼノバイターはブレードトンファーの銃口を光らせる。

だがそこで――、肩を掴まれた。

 

 

「あン?」

 

 

振り返ると、そこには拳。

 

 

「―――」

 

 

美樹さやかが立っていた。

彼女の拳が、ゼノバイターの頬に叩き込まれる。

 

 

「アァ、やっぱ、その程度なんだよなァ」

 

 

しかしゼノバイターは不動であった。

怯みもせず、代わりにさやかの右手はボロボロである。

指がおかしな方向にひしゃげ、砕かれており、骨が皮膚を突き破っている。

 

 

「イキるだけイキって、おしまい。テメェはいつもそうだ。これからも、ずっと、雑魚のまま」

 

「あっそ」

 

 

さやかは無表情だ。無表情のまま、左手をコツンと軽く、ゼノバイターの腹部へ当てた。

 

 

「じゃ、こっちは?」

 

 

ユニオン。ストライクベント。

 

 

「お?」

 

 

ゼノバイターは腰をガッチリとホールドする牛の角を見た。

 

 

「おー……」

 

 

目からレーザーを発射してさやかへ直撃させる。

そのあまりの威力に、さやかの頭が吹き飛んだ。

しかしそれは一瞬。魔法陣が現れると、さやかの頭部が一瞬で再生される。

 

 

「あー、そうだったなテメェは」

 

 

そこで爆発音。

ギガホーンの砲口から爆発が巻き起こり、ゼノバイターははるか後方に吹き飛んでいく。

威力設定の上限を振り切っているのか、ギガホーンが爆発に耐えられずに崩壊。当然それを装備していたさやかの左腕は見るも無残な状態になっていた。

しかしそこで光が迸り、左腕が傷一つない状態に変わる。

自己再生魔法、『ダ・カーポ』。

 

 

「確かにあたしとほむらはバチバチだったけど――、それが全部じゃないから」

 

 

それはゼノバイターとホムラに向けた言葉であった。

さやかは鼻を鳴らすと、左手の中指を立ててゼノバイターを睨みつける。

 

 

「しょーもないアンタの物差しで、このスーパーウルトラ美少女魔法戦士の美樹さやか様を見下してんじゃないっての!!」

 

 

そして魔法陣。それを踏み蹴って、跳躍。

 

 

「アンタなんかにッ!」

 

「アァ……、クソ!」

 

 

ゼノバイターは爆煙を振り払いながら立ち上がる。

しかしすぐそこに、さやかがいた。急いでブレードトンファーを振るうが間に合わない。それよりも速く、さやかの剣が肩に入った。

 

 

「負けるッ、もんかァアア!!」

 

 

超高速の連撃。魔法で剣を強化しているのか、一撃を刻むたびに青い光が雫のように飛び散った。

ゼノバイターも当然反撃を用意するが、さやかはそれを全て器用に回避して、尚も剣を振るう。

とはいえ、そこはリボーン態。さやかの動きを見切るのも早かった。

一瞬の隙をついて、ゼノバイターは足裏をさやかの腹部にめり込ませる。

 

ゲームセット。

さやかのソウルジェムは一撃で粉々だ。ゼノバイターはそう思った。

が、しかし、足の感覚はまるで空を切ったように『軽い』。それは足に纏わりついた白いマントが理由だろう。

 

 

「ハァアアアアアアアアア!!」

 

 

残像。囮。本体はすでにバックステップで大きく後ろに距離を取っていた。

そして腰を落とし、さやかは魔力を脚の肉体強化と、剣の強化に注ぎ込む。

 

 

「まだまだッ!」

 

 

そして地面を蹴った。

まさにそれは一瞬だった。ゼノバイターですら、さやかが消えたと思った。

気づけばさやかは後ろにいて、地面を滑っている。そしてゼノバイターの腰には青い斬撃が刻まれている。

 

 

「こんなもんじゃないわよッッ!」

 

「グアアアァア!!」

 

 

斬撃が青い光を放出して、エネルギーのスプラッシュが巻き起こる。

高速で相手を斬りつけて怯ませた後、目にも止まらぬ刹那の一撃を叩き込む。

さやかの新必殺技、『プレスティッシモ・アジタート』。

最後の一撃は、円環の使者としての力も込められているため、相当な威力である。

ゼノバイターもダメージに声を漏らし、よろけて地面に倒れた。

 

 

「見たか! 本気のあたしッ!」

 

「アァァッ! クソッタレ!!」

 

 

しかし見たところダメージは負ったものの致命傷ではなく、ましてやそこまで状況が変わるほどのものでもない。

現にゼノバイターはすぐに立ち上がると、怒りに震え、地面を殴りつけてみせる。

 

 

「調子乗ってんじゃねーぞ美樹さやかァ。テメェのゴミみたいな火力じゃ俺様を倒すなんて夢のまた夢な・の・よォ。回復だって確かにウザってぇがよォ、ソウルジェムを砕けば再生能力なんざ意味がなくなる」

 

 

それを聞いて、さやかは少し後ずさる。

まさにその通りだ。全く、インキュベーターに文句を言いたいところである。なぜ一番の弱点が目立つお腹にあるのかと……。

 

 

「!」「!」

 

 

だがその時、凄まじい衝撃がヒガンバナの花畑を包んだ。

かつてない震動に異常事態と感じたのか、ゼノバイターは悔しげに首を振るう。

 

 

「クソ! テメェの始末は後だ! 後ッ!」

 

 

ゼノバイターは跳躍。天井を打ち破ると、コックピットに戻っていく。

穴はすぐにふさがった。さやかは安心したように胸をなでおろすと、ホムラに駆け寄っていく。

 

 

「見てよコレ。アイツ酷くない?」

 

「あ……」

 

 

さやかが差し伸べた手は、右手。

そこはまだ治療をしておらず、指が歪に折れ曲がり、青く腫れあがっていた。

 

 

「あぁ、ごめんごめん。引くよねコレは」

 

 

そう言って、さやかは手を治療する。

 

 

「痛覚遮断もしてなかったし、超痛かった」

 

「え? え……? ど、どうして?」

 

「あー、いや、だからさぁ。ほら、ねぇ、察してよそこは」

 

「え? え? えぇ?」

 

「つまりさ、こんな痛い思いをしても、アンタの為に頑張ってるってことなのよ」

 

 

さやかは感謝しろよと、ウインクを一つ。

 

 

「あんたも全部思い出したんでしょ、ほむら」

 

 

ほむら。ホムラは、俯く。

 

 

「……ええ。そうよ。思い出してる」

 

「なら、あの時、あたしが言ったこと覚えてる?」

 

 

いつのことなのか。ほむらには一つしか思い浮かばなかった。

前回のゲーム。さやかがワルプルギスに殺される間際の言葉だ。

暁美ほむらの世界にはアンタとまどかしかいないの? 彼女はそう言った。

 

 

「忘れようとしても、忘れられなかったわ……」

 

「そっか。んじゃま、大丈夫だ!」

 

 

そこでホムラは、ホムラらしくなる。

 

 

「だからお願いですっ!」

 

「へ?」

 

「今、私はゼノバイターの支配下から逃げ出すことができませんっ!」

 

 

見ればホムラのへたり込む膝が、ヒガンバナ咲く大地に埋め込まれている。

どうやら、ここからホムラを連れ出せばディザスターから円環の力を抜き取ることができる――そんな簡単な話ではないようだ。

 

 

「だから――ッ、だから、助けて!」

 

 

さやかは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに頷いた。

 

 

「おっけ。任せて。どうすればいい?」

 

「この檻を――ッ、どうか壊して!」

 

 

ホムラが手を前にかざすと、壁に穴があいた。

さやかは頷くと走り出し、穴に飛び込んで外へと脱出したのだった。

 

 

 

 

時間は少し戻る。

ゼノバイターがさやかと戦っている頃、ディザスターは行動を停止した。

しかし代わりに、体中から大量の使い魔、レイブンが湧き出てきたではないか。

その数に一同はギョッとするが、まどかは目を光らせて前に出た。レイブンが周囲に飛び立つ前ならば、何とかできる自信があったのだ。

まずはシールド。巨大な棺桶のようなバリアにディザスターを閉じ込める。体から出てきたレイブンたちも、全てそこへ閉じ込められた。

 

 

「はぁああああああああ!」

 

 

まどかが吼える。

魔力が高まり、彼女の体が発光する。ソウルジェム内で様々な魔法の計算が行われているのだろう。

まどかの背後に無数の星が現れ、次々に並びを変えて、最終的には射手座の形を取る。

 

 

「みんな大丈夫ッ! 使い魔はわたしが絶対にやっつけるから!」

 

 

まどかが手を天に向けてかざすと、ディザスターの頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 

 

「当たれッ!」

 

 

射手座の矢を発射。

魔法陣に命中させると、それがスイッチとなって光の雨が降りそそいでいく。

範囲攻撃・マジカルスコール。雨はシールドをすり抜けると、ディザスターの周りを飛び回っていたレイブン達を次々に撃墜させ、爆発させていく。

しかし今回は射手座の力を乗せた強化版だ。雨がひとしきり降り終わると、魔法陣が強い光を放つ。

 

 

「わたしの想いを乗せて――ッ、貫いて!」

 

 

すると魔法陣から巨大なレーザーが発射された。

桃色の光はディザスターを包み込むと、使い魔たちを蒸発させるように消滅させていく。

マジカルスコールの後に、強力な光線を発射する新技『プルウィア☆マギカ』である。

ディザスターの動きが止まる。しかし今までを見るに、またレイブンを生み出してしまうかもしれない。

ならばこの辺りで大きなダメージを与えておきたい。マミは抱えていた杏子に、ひとつ提案を。

 

 

「佐倉さん。合体必殺技って……、覚えてる?」

 

「覚え――いやでも……、あぁ、えっと」

 

 

覚えてはいる。杏子がまだマミの弟子だった時に、マミが提案したものだ。

杏子としては恥ずかしくてすぐに却下したが……。

 

 

「覚えてるよ。いつか、アンタのワガママに応えられるように、勉強もした……」

 

 

杏子は少しうんざりしたように言う。尤も、それを披露する前に喧嘩別れしてしまった訳だが。

 

 

「他の時間軸でもそうだったのかい?」

 

「ええ。貴女、なかなか素直になってくれないから。だから今は……」

 

「バカ。アタシはいつでも素直だよ」

 

 

二人は呆れたように笑い、そして頷いた。

 

 

「よし! じゃあ、一気に決めさせてもらうわよ!」

 

 

マミは無数のマスケット銃を召喚。

 

 

「当たりなさい!」

 

 

無限の魔弾がディザスターの肉体に命中していく。

そこで抱えられていた杏子も、祈るようなポーズをとる。すると赤い光がマミに纏わりついた。

 

 

「もう一発!」

 

 

マミは巨大な大砲を生み出すと、照準をディザスターの胸辺りに設定する。

 

 

「仕留めるわ! ティロ・ランツィア!」

 

 

大砲から発射されたのは弾丸ではなく、巨大な赤いアンカー。

鋭利な形状のソレは、ディザスターの胸に突き刺さると、柄頭(リング)が爆発。

大量の赤いリボンが放出され、自動的にディザスターに絡み付いていく。

 

それだけではい。

どうやら最初の無限の魔弾も、弾丸が変わっていたようだ。ディザスターに直撃していたのも、小型のアンカー。

それは命中後に周囲に飛び回り、設置される。

そこへ赤いリボンが連結。ディザスターはあっという間に拘束された。

 

 

「やったぁ! 成功よ佐倉さん!」

 

 

喜ぶマミを見て、杏子も少し悲しげに笑う。

 

 

「はは……、すげぇな。こんなことならもっと早く……」

 

 

杏子が何かを言おうとした時、テレパシーで連絡が入る。

ライア――手塚だ。その声色は穏やかなものではない。

 

 

『こちら手塚。落ち着いて聞いてくれ。このままだと全滅する』

 

 

どうやら今の衝撃を感じてゼノバイターがコックピットに戻ったようだ。

ライアはフォーチュンベントで未来を予知した。しかしそこで全滅の未来を視たらしい。それはライア一人では止めることができない威力の代物だった。

 

 

『やはりあの即死の髪が厄介だ。アイツはまだ本気じゃない。今からあの髪の精度が上がる』

 

 

話を聞いていく内に、一同は要点を理解する。

やはりあの頭の冠。糸車の魔女をなんとかしなければ。

 

 

『切り離しましょう』

 

 

オルタナティブの提案に一同は賛成する。

そこからテレパシーで素早く作戦を伝え合い、各々はそれぞれの行動に走る。

 

 

「そろそろよォ、遊びは終わりだぜ参加者共ォ!」

 

 

予知したとおりか。ディザスターは瘴気を高める。

拘束など意味はない。ディザスターの殺意に応えるようにして、空が瘴気の雲に覆われた。

光が消えていく。すると歪に輝く雲の中――。

 

 

「インフィニット・デスパーク!」

 

 

全身から、瘴気の雲から、青黒い雷が発生する。

激しいフラッシュで視界がおかしくなり、さらに雷のスピードには誰も対処できない。

まどかはシールドを全員に張るが、雷はそれをいとも簡単に破壊すると、対象を電撃で包み込んだ。

ダメージはもちろん。全ての参加者が異常に気づいただろう。

体が重い。瘴気が張り付き、不快感と痺れをもたらす。

 

 

「うぐッ!」

 

 

呪いの類だ。まどかはすぐにおとめ座を放とうとするが、上手く喋れない。

そうしていると、ディザスターの髪が伸びた。毛が束を作り、さらにディザスターは思い切り頭を振り回して毛束の鞭を参加者に向かわせる。

髪は器用に参加者の体に巻きついていき、一気に生命エネルギーを吸収する。

 

 

(勝った!)

 

 

が――!

しかし、これをライアは視ていた。だからこそ対策は考えていたのだ。

 

 

(なんだ!?)

 

 

ディザスターは異変に気づく。

髪の毛は確かに参加者に絡み付いている。

だが、どうしたことか。参加者は苦痛の表情は浮かべているものの、意識を失っているようには思えない。

少なくとも肉体に触れればアウトの代物なのに……?

 

 

「!!」

 

 

雲が割れる。

それは『天使のはしご』と呼ばれる現象。暗闇の世界に、一筋の光が差し込む。

神々しい光だ。そして、そのはしごを降りる者がいた。

 

仁美が呼び出した魔法少女・タルトである。

タルト一人だけなのは、魔力消費を抑える為に呼び出す魔法少女を絞ったというのがあるが、理由はそれだけじゃない。

 

現在、タルトの姿が以前のものとは違っている。鎧の一部が剥がれ、胸部装甲の形状が変化。

全体的に軽装化しており、左腕のガントレットは一部が巨大化して浮遊し、盾のようになっている。

さらに腰周りには剣のような装飾品が二つ装備されていた。

鎧こそ剥がれたが、しかし魔力は増加。

これはタルトの強化魔法、『セカンドフォートレス』により変身した姿、"フォートレスフォーム"である。

 

 

「ご安心を女神(デエス)、この私が貴女に降りかかる全ての苦痛を無へと変えましょう!」

 

 

パワーアップしたことにより、固有魔法である『光』に『救済』が追加される。

気づけば周囲には光の羽がヒラヒラと舞い落ちており、どうやらそれが生命エネルギーの吸収を無効化しているようだ。

 

 

「ハァア゛ア゛アアア!!」

 

 

ディザスターが大口を開けると、そこから青黒いレーザーが発射される。

しかし浮遊しているタルトは左肩を前に出し、浮遊している盾を構えた。

すると盾の前に魔法陣が生まれ、レーザーを受け止める。

 

 

「ブッ潰れろ!!」

 

 

吼えるディザスター。

すると上空から巨大な隕石が飛来し、タルトを狙う。

問題はその大きさだ。巨大なビルの何倍もあろうほどの巨岩が見える。

だがタルトは怯まない。旗を生み出すと、それを真上に投げた。すると一直線に飛んでいった旗が雲をかき消し、さらなる光をタルトにもたらす。

タルトは光の剣を生み出すと、それを両手で掴んで、剣先を空へかざす。

すると降り注ぐ光が剣に吸収されていき、剣が大きく、長く、リーチがどんどん伸張していく。

それは星を越えて、(そら)へたどりつくほど。

 

 

極光よ(ラ・リュミエール・エクストリーム)!」

 

 

巨大な光の刃をタルトは思い切り振り下ろす。

それは巨大な隕石を、簡単に両断すると、光で包み込み、粒子化させてみせる。

が、しかし。そんな威力の剣をディザスターは腕一つで受け止めてみせた。グッと力を込めると、光の剣はバキンと音を立てて破壊される。

 

 

「んな――ッ!」

 

「覚えておけタルト。テメェの主である鹿目まどかの力が、円環の力が俺様を流れている」

 

 

ディザスターが目を光らせると、タルトの体が爆発を起こす。

ダメージを受け、怯むと、そこへディザスターの巨大な拳が直撃した。

 

 

「うぐうぁあ!」

 

 

タルトは吹き飛び、後ろにあったビルへ激突。崩壊していくビルの破片と共に地面へ墜落していく。

 

 

「フハハハ! 神の力が流れているんだ! 俺様は無敵なんだよォオ!」

 

 

ディザスターを中心にして凄まじい爆発が巻き起こった。

周囲のビルを吹き飛ばし、爆風で地面を抉り取りながら、衝撃は拡散する。

すぐに無数の悲鳴が聞こえてきたが――、同時に眩い光も感じた。思わず舌打ちをこぼすディザスター。

龍騎サバイブやライアサバイブが踏ん張って立っていたように、まどか、マミ、ほむらもまたアライブを発動させて爆風を撥ね退ける。

 

 

「上等だ。俺様もだいぶ馴染んできたことだしよォ」

 

 

確かに、空気が変わった。

先程まではディザスターを『操作』しているといった様子だったが、今は違う。ディザスターはなめらかに動き、そのまま両腕を地面についた。

クラウチングスタートの構えだ。まさかと思えば、ディザスターは地面を蹴って、一気に加速する。

 

 

(速い!)

 

 

そして巨体に似合わない動きをしてくる。

ディザスターは跳ねるようにジャンプをすると、体を捻り、飛び回し蹴りをほむらに仕掛けた。

避けられるものではない。ほむらは諦め、攻撃を受けて、それをスケイプジョーカーで無効化する。

しかし出現後、ほむらは目を見開いた。

ディザスターの口が、しっかりとほむらの方を向いていた。

口の中は当然、光り輝いている。

 

 

(まずい――ッ!)

 

 

しかしすぐにディザスターの後頭部が爆発。顔の向きが変わってレーザーはほむらを外れる。

見れば空中を浮遊する龍騎が、ドラグランザーに乗って銃を構えていた。

 

 

「助かったわ! 城戸真司!」

 

「ああ! でも油断しちゃ駄目だ!」

 

 

今、タルトがビルの残骸を吹き飛ばして姿を見せた。

虚心星原にはまだ光の羽が舞い落ちている。その間は即死の髪は効かないが、仁美とてタルトをいつまでも召喚はしていられない。

消える前に、糸車の魔女は破壊しなければならない。

 

 

「こんのォオオオオオ!」

 

 

アビスの命令を受けて、アビソドンが水流を発射する。

全身が濡れたところで、ライアはシュートベントを発動。電撃を発射するボルテッカーにより、赤紫の電撃がディザスターを包む。

そこへまどかの矢が、ほむらの矢が、龍騎の炎が交差する。

その中を、シャルロッテが猛スピードで飛び回る。

どうやら吹き飛ばされた仲間たちを回収して、背中に乗せているらしい。今も倒れたままのゾルダのところへやって来た。

 

 

「大丈夫ですか秀一!」

 

「無理だ! 無理無理!」

 

「諦めないでください! ほら、なぎさの背中に乗るのです!」

 

 

ゾルダは呻きながら立ちあがり、なんとかシャルロッテに掴まった。

いくら魔法で病気を押さえ込んでいるとはいえ、体に響くものはある。

 

 

「本当に大丈夫なのかよ……」

 

「大丈夫にするために動くのです!」

 

 

飛び立つシャルロッテ。それを見ていたのはマミだ。

そろそろいいだろうと思う。やはり糸車の魔女を、ディザスターから切り離すには、まずディザスターの動きを完全に停止させなければならない。

簡単な方法はやはり、超火力の技を当てるべきだ。

そこに選ばれたのはマミである。彼女はプリンピングを発動。名札に変身すると、合体するべき魔法少女へと向かう。

 

 

「私の力を貸します! どうか使ってください!!」

 

 

その相手とは――タルトである。

魔法少女の中でも強力な彼女と合体すれば、火力を跳ね上げることができるのではないか。そういう狙いだった。

もちろんタルトもそれを理解して、了解する。

しかしひとつだけ、大きな問題があった。

 

 

「女神のお師匠様を私のお洋服にするだなんて! とてもとても! 私にはおこがましいことですっ!」

 

「へ?」

 

「どうか私をお使いください! 女神のお師匠様っ!」

 

 

通常、プリンピングはマミが対象者の衣装となる技だ。

しかし、タルトの強い意思により、そのルールは捻じ曲げられる。

タルトにマミが装備されると、二人は光となって交わる。できあがったシルエットは『マミ』のものだった。

 

 

「え、えーっと!」

 

 

服のデザインはマミが決める。

創造していたデザインが没になったことで、急いでイマジネーションを働かせるのだ。

 

 

「じゃあ……、これ!!」

 

 

光が弾ける。

現れたマミを見て、シャルロッテの上にいた杏子は目を丸くする。

 

 

「な、なんだありゃあ」

 

「………」

 

 

隣にいたさやかは訝しげな表情を浮かべた。はて、どこかで見たような……?

一方でシャルロッテは興奮したようにマミの姿を褒めている。

 

 

「お、おぉ! 神々しいですマミ! まさにアレは! まさにまさにアレはーっっ!」

 

 

純白の衣装。王冠。膝まであるヘッドベール。金色のフリンジ。

そして背中には金色の矢の装飾。それはまさしく、究極たる『聖女』だった。

 

 

「ホーリーマミですっっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「スターライトアローッッ!」「来てッ! ベリアル!」

 

 

まどかが発射したのは、蠍座だ。

装甲に包まれた巨大なサソリ、バルビエルが二つのハサミと、鋭利な針がついた尾でディザスターを狙う。

一方でほむらも悪魔を召喚。巨大な角が特徴的な、炎に包まれたドラゴンが召喚され、ディザスターに襲い掛かる。

 

まずはバルビエルがディザスターの腕を挟みこんだ。しかし硬い、どれだけ力を込めようが切断には至らない。

次は尾を振るい、一瞬で針を胸に差し込んでみせる。

しかしこれも装甲を貫くにはいたらなかった。そうしていると翼を広げたベリアルが、手に持ったボウガンを構える。

矢先に炎が灯り、すぐに発射。しかしディザスターはバルビエルの腕をむしり取ると、それを盾にしてみせる。

燃え上がるサソリの腕を投げ捨てて、ディザスターはバルビエルの尾を掴むとベリアルの方へ投げ飛ばした。

ぶつかり、怯む二体。ディザスターはそこへレーザーを直撃させ、爆散させてみせる。

 

 

「どうだ見ろ! 悪魔も天使もくだらねぇ! 俺様は神だ! こんなモンッ、相手にもならねぇなァ、オイ! ハハハハハハ! ハーッハ――……」

 

 

そこでディザスターは笑みを消した。

天使と悪魔に気を取られている間に、いつの間にかまどかたちの姿が消えている。

はて? どこに消えたのか。ディザスターが周囲を確認すると――気づいた。なにやらチラチラと雪が舞い落ちてきているのが。

 

 

(雪――ッ?)

 

 

おかしい。そんな機能は設定されていないはずだ。

不思議に思い、掌に一粒の雪を乗せた。

すると掌が爆発を起こした。

 

 

「あ?」

 

 

別の雪が肩に触れた。肩が爆発した。雪が指に触れた。爆発が起こった。

雪はヒラリヒラリと、世界に降り注いでいく。

 

 

「か――ッッ!!」

 

 

ディザスターは理解する。コレは雪などではない。弾丸だ。

ティロフィナーレ・ホーリーナイト。現在、マミ達は上空高くに位置を取っていた。

マミの周囲を旋回しているのは金色のマスケット銃。そこから白いエネルギー弾が発射、一つの球体はすぐに三つに分裂して、雪のように舞い落ちていく。

特徴はその威力だ。一発が通常のティロフィナーレと同等である。それがざっと何百も。

凄まじい轟音が、衝撃が巻き起こる。もはやディザスターの悲鳴さえ聞こえない。

ビルは崩壊し、地形は抉れ、街が荒野に変わっていく。音、衝撃、白く染まる視界。ディザスターの、ゼノバイターの意識が一瞬だけ飛ぶ。

 

 

「クソったれ!」

 

 

すぐに首を振って意識を覚醒させる。

そこでディザスターは、巨大ななぎさの顔を見た。

 

 

「はぁー?」

 

 

違う。なぎさが巨大化しているんじゃない。ディザスターが小さくなっているのだ。

 

 

「捕らえましたよ。ゼノバイター……ッ!」

 

 

なぎさは汗を浮かべ、表情には疲労が見える。

どうやらそれなりに魔力を使ったらしい。だがディザスターが動きを止めている間に、しっかりと弱体化魔法を仕掛けておいた。

だからこそ、対象の姿が縮小し、透明なクロッシュの中に閉じ込められている。

 

 

「なんだこりゃぁ! 出せ! 出しやがれ!」

 

 

ガラスケースを殴りつける。衝撃が伝わっているのか、なぎさの表情が曇る。

しかし魔力を放出し、強度を上げる。一方でクロッシュは丸いテーブルの上。

ディザスターを囲むようにして、まどか、ほむら、マミ、さやか、杏子が座っていた。

マミは大量に魔力を消費したのか。合体が解除されて、アライブも解除されている。疲れているのか、呼吸も荒く、汗も浮かべている。

しかし、ディザスターの動きを止めるには合体魔法を撃つ必要がある。疲れを無視して、一同にアイコンタクトを送る。さらにテレパシー。

 

 

『佐倉さん。打ち合わせどおりお願いね』

 

『ああ、分かってる。自信はないけど任せろ』

 

『大丈夫フォローするわ。じゃあ皆、いくわよ……!』

 

 

頷きあう五人。

マミがつま先を地面に撃ちつけてリズムを取り、他の四人も真似をして呼吸を合わせる。

 

 

『せーっの……!』

 

 

そして、五人の声が重なった。

 

 

「ケーキ♪ ケーキ♪ まぁるいケーキ♪」

 

 

歌が始まった。時を同じくして、なぎさも円環権限にして魔女に変身。ベベからシャルロッテになって飛び立つ。

 

 

「まぁるいケーキはだぁれ?」

 

「ケーキはさやか?」

 

「ちぃーがぁう!」

 

 

さやかは顔を覆い隠すと――

 

 

「………」

 

 

間。

 

 

「………」

 

 

音楽のボリュームが小さく――……。

 

 

「………」『すいません。歌詞忘れました』

 

 

怒号。テレパシー内は大慌てである。

 

 

『どぉーしてさやかが忘れるんですッッ!!』

 

『そうよ! 美樹さん! 一番大事なところなのよ!』

 

『ありえないわ美樹さやか! 覚えていない杏子ならまだしも! あなたは記憶をッッ!』

 

 

さやかは自分に非があると思っているのか。顔を覆い隠したまま動かない。

しかしそうしている間にも、ディザスターは脱出を試みており、なぎさは苦しそうに呻く。

それを見ていたのか、仁美とまどかが慌ててフォローに入った。

 

 

『お、おちついてくださいまし! 人間ですものっ! ド忘れもしますわ! それよりも早くお歌の続きを!』

 

『そ、そうだよみんなっ! 仁美ちゃんの言うとおりだよ! あのね、さやかちゃん! さやかちゃんはラズベリーだよ!』

 

 

さやかはハッとすると、顔を上げて続きを歌う。

 

 

「あたしはラズベリー!」

 

 

すると、音楽が再び再生。さらにクロッシュの中にラズベリーが現れる。

 

 

「んだよコレ! うざってェ!」

 

 

ディザスターはラズベリーを踏み潰す。果汁や果肉が飛び散り、皿の中が赤く染まる。

なぎさの弱体化魔法のほかに、まどかとほむらの円環エネルギーを使用してディザスターを押さえ込んでいるため、まだ余裕はあった。

 

 

「まぁあるいケーキはあ・か・い! ケーキは杏子?」

 

 

するとパスを受けた杏子は、事前に聞いていた歌詞や、魔力操作を思い出し、言われたとおりに進行していく。

 

 

「ちーがーう! アーターシーは、りーんーご!」

 

 

次はりんごが皿の中に現れ、ディザスターに直撃する。

怯んでいる間に、杏子はパスを。

 

 

「まぁるいケーキはベベが好き。ケーキはマミ!」

 

 

マミは指でバツマークを作り、唇の前に持っていく。

 

 

「ちーがーう。私はチーズ」

 

 

チーズが皿の中に。ディザスターを押しつぶそうとするが、パンチで粉々に砕かれた。

 

 

「まぁるいケーキは、こーろがる。ケーキは暁美さん」

 

「違うわ。私はかぼちゃ。丸いケーキは甘いのよ」

 

 

テーブルを叩くほむら。かぼちゃがクロッシュの中にぶち込まれる。

 

 

『もっと楽しそうに歌えよ』

 

 

杏子の呼びかけを無視しようと思ったが、迷ったのか、やがてほむらは少しだけ唇を吊り上げてみる。

 

 

『キモイ笑顔だなぁ』

 

『う、うるさい』

 

 

首を振って、まどかを見た。

 

 

「ケーキはまどか?」

 

「ちぃがぁう。わたしはメロン」

 

 

メロンがクロッシュの中に。ディザスターは出現する果物を砕き、大量の果汁を浴びる。

しかしどうやらこの果汁も魔法の一部らしい。疲労感が募り、体が重くなって、動きが鈍くなる。

 

 

「メロンが割れたら甘い夢」

 

 

テレパシーで歌詞を伝えあい、一同は声を合わせる。

 

 

「今夜のお夢は苦いユメっ♪」

 

「お皿の上には猫の夢ッ♪」

 

「まるまる太って――」

 

 

ここで五人は立ち上がり、前に会った黒いテーブルクロスを掴む。

 

 

「召し上がれー!」

 

 

まどかたちは同時にテーブルクロスを引き抜いた。

合体魔法エピソードインクローチョ。ザ・ドリームエンド。なぎさの弱体化魔法を中心に、まどか達の力を合わせたものである。

クロッシュが壊れ、中から巨大なケーキの塔が出現する。それは中にディザスターを埋め込み、荒野に聳え立つ。

 

 

「クソがァアア!」

 

 

ディザスターはケーキから抜け出そうと力を込める。

不可能な話ではない。拘束魔法の構築に甘さは多く目立った。

さやかの歌詞忘れ、思い出していない杏子の付け焼刃。ホーリーナイト発動後のマミの疲労故、などなど。

 

だからこそスムーズに事を進めなければならない。ケーキは文字通り『塔』である。

ケーキの階層はそれぞれ坂で上ることが可能であり、一部はクリームが剥がれて『道』になっている。

もちろんこれは意図的に構築したものだ。道を用意したのは、全て騎士のためである。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

地面から飛び出したボルランページは、瞬く間に変形を行い、バイクに変わる。

飛び乗ったシザース。アクセルグリップを捻り、すぐにトップスピードへ。そのままケーキのタワーを駆け上がる。

最上層では、埋め込まれたディザスターの頭部が露出していた。

そこにあるのは糸車の魔女でできた冠。

 

 

「ォオオオオオオオオオ!」『ファイナルベント』

 

 

空中を泳ぎ、最上層へやって来たアビソドン。

その上に乗っていたアビスは飛び上がると、体を捻り、飛び回し蹴りを繰り出した。

脚に纏わりついた青い光が、軌跡を作る。

そこをなぞるようにして、アビソドンが巨大なノコギリを振るっていく。

アビスダイブ。糸車の魔女の右に刃が進入していく。さらにノコギリが回転。チェーンソーとなり、火花を散らしていく。

しかし、刃は僅かに進入しただけで、それで終わりだった。どれだけ削ろうとも、これ以上は進行できない。

 

 

【ファイナルベント】

 

 

左のほうではライアがエクソダイバーを発射していた。

さらに上空から飛来したエビルサンダーも合体し、巨大な雷鳥の翼が糸車の魔女に侵入する。

サバイブの恩恵だろう。アビスよりも攻撃は糸車の魔女を傷つけたが、切断とはいかない。

しかしそれでいい。アビスとライアはすぐに、ミラーモンスターを戻すと、糸車の魔女から撤退していく。

一方で大きくなっていくエンジン音。シザースが到着したのだ。バイクが跳ね上がり、車体が宙に舞い上がる。

 

 

「ハァアアアアアアア!」【ファイナルベント】

 

 

車体前方にある四本の刃が光り輝くと、金色のエネルギーが刃に纏わりつき、リーチを伸張させる。

シザースは巨大化したハサミを、アビスとライアが作った傷に差し込んだ。

事前にオルタナティブが糸車の魔女を観察、力が伝わり、切断しやすい場所にマーカーを打っておいてくれたのだ。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

シザースは叫び、アクセルグリップを捻る。

激しい抵抗感だが、捻れば捻るほどハサミは閉じていく。

 

 

「これもおまけだ!」

 

 

動いたのは二人。ゾルダはギガランチャーから弾丸を発射して、ハサミの左の刃に命中させる。

そしてシザースの後をついてきたオルタナティブもファイナルベントを発動。デッドエンドにて右の刃にぶつかっていく。

二つのエネルギーが加わり、刃が強引に進行。

 

結果――ジャキンと音がした。

 

切断の確定。糸車の魔女がディザスターから分離したのである。

しかし糸車の魔女にも自我があるのか。分離したと同時に浮遊。ケーキ上部に位置を取り、魔力と瘴気を解放する。

するとどうだ。瞬く間に糸が出現して、魔女のまわりに纏わりつく。

 

 

「今だよ真司さん!」【ユニオン】【ファイナルベント】

 

「ああ! 決めよう! まどかちゃん!」【ファイナルベント】

 

 

だが、ここで前に出たのは龍騎ペア。

まずはドラグランザーが炎と光に包まれると、その姿が龍騎の紋章に変わる。

紋章はまどかを通過すると、力を与えて消える。ドラグランザーの力を受け取ったまどかは目が緋色に輝き、結んだ髪が炎に変わっていた。

 

 

「フッ! ハァアアア……!!」

 

 

龍騎は両腕を前に出すと、激しく旋回させる。

いつもと違うのは周囲を飛び回るのがミラーモンスターではなく、まどかだということ。

火の粉を撒き散らしながらまどかは龍騎の周りを旋回、龍騎が地面を蹴って飛び上がると、自らも後をついていく。

 

さらに上昇中、まどかが通った場所に光の球体が生まれ、設置される。

これは『星』だ。球体の中央部には、それぞれ星座をかたどった紋章が見える。

ここでジャンプしていた龍騎が止まった。浮遊している彼の背後に構えるまどか。翼を広げると、背後にドラグランザーの幻影が現れる。

同じくして星の背後にも、それぞれ12体の天使の幻影が現れる。

 

 

「いっけぇええええ!」

 

 

まどかが両手を前に出すと、ドラグランザーが腕を前に出す。

すると浮遊していた12個の球体が発射される。まさに燃え滾る天使の流星、糸車の魔女は抵抗しようとすぐに糸を伸ばすが、はじめの星が糸に触れた瞬間、糸は一瞬で灰になり、そのまま本体へ直撃した。

 

爆発が起こる。

糸車の魔女が空中に打ち上げられ、そこへ二発目が直撃した。

次々と星が命中して、糸車の魔女が空に昇っていく。そして12発全てが撃ち終わると、まどかは弓を取り出して、弦を引き絞る。

指を離すと、弓から炎が拡散され、前にいる龍騎の周りを通過して、彼の前に集まっていく。

龍騎もそれを確認すると両足を前に出して、キックの体勢をとった。

そして、まどかが両手を龍騎の肩に添えた。すると背後にいるドラグランザーの幻影が目を光らせた。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ドラグランザーが吼え、口から炎を発射する。

それがまどか達を押し出し、龍騎と、その背中を押すまどかは、炎の弾丸となって発射された。

 

 

「「ダアアアアアアアアアアアアア!」」

 

 

声が重なる。

糸車の魔女は全ての糸を束ね、ドリル状にして龍騎へ向かわせるが、もはやそんな抵抗は何の意味もない。

龍騎とまどかは、緋色の軌跡を残しつつ、糸車の魔女に直撃。

複合ファイナルベント、ラストドラグーン。空が紅蓮の爆発で覆われる。

 

 

「むちゃくちゃだな……」

 

 

空高くで起こった爆発ではあるが、遅れて熱がやって来た。

ゾルダはうんざりしたように呟く。あんなもの、もしも対人戦で当てれば相手はどうあっても消し炭だ。

 

 

『魔獣や魔女にしか使わねぇよ』

 

「うぉ!」

 

 

ゾルダの足元のひょっこりと現れるジュゥべえ。

 

 

『逆に、だからアイツ等にあんな力が与えられたんだろうよ』

 

 

ゾルダは再び呆れたように鼻を鳴らした。

 

 

「もったいないねぇ」

 

 

それにしても、あんな高火力なファイナルベントを持っているなら最初から使えばいいのにと思う。

しかし見た目どおり、高威力ではあるが、負担も大きいらしい。

着地した龍騎はサバイブが解除され、地面に膝を着く。

まどかもへたり込み、疲労の表情を見せている。

 

 

「まずいな……」

 

 

ゾルダも正直、限界はきている。

一方でケーキに封印されていたディザスターがここで、拘束を破壊して解放される。

即死攻撃を失ったことで怒っているようだが、逆を言えばそれだけだ。一つの武器を失っただけにしかすぎない。

ティロフィナーレホーリーナイトをはじめ、数々の必殺技を身に受けていることから、流石にディザスターにも傷が目立ってきているが、まだ致命傷ではない。

 

 

「アァアアアアアア! ちくしょうがよォ! マックスブチギレたぜェエ!」

 

 

一同は目を見張る。

ディザスターの頭部から何かが飛び降りてきた。ゼノバイターだ。体からは瘴気が漏れ出ているが、それがディザスターに吸収されていくのを見ると、崩壊には至らないらしい。

さらに瘴気を吸収したディザスターは、僅かに回復しているのが分かった。傷が徐々に修復されていくようにも見える。

 

ゼノバイターは気だるげに肩を回しなが歩いていく。

大分世界には適応できたらしい。しかれども、チョロチョロされるのは非常に厄介だ。

そろそろ決めたい。それはお互いが思うところであった。

すぐにゼノバイターを取り囲む参加者達。しかしゼノバイターはノーモーションで体の至る所から青いレーザーを発射。

それが参加者達に直撃し、動きが鈍る。

 

 

「テメェらはご立派な奇跡を掲げやがるが――」

 

 

ゼノバイターはゾルダが放つ弾丸を真っ向から受けながら前進。

スムーズに脚を払うと、倒れたゾルダを思い切り蹴り飛ばす。

ボールのように軽々と飛んでいくゾルダ。地面に激突した瞬間に変身が解除され、北岡は地面を転がっていく。

さらにゼノバイターはブーメランを投擲。向かってきたオルタナティブとアビスの装甲に傷をつけると、追撃のレーザーを命中させて吹き飛ばす。

こちらも変身が解除された。それだけ耐久値も低くなっているのだ。

 

 

「この世界には、奇跡をも真っ黒に塗りつぶす絶対的なものがある!」

 

 

ゼノバイターは倒れた変身者へと向かうが、そこで杏子がスライドしてきた。

だが記憶を取り戻していない杏子などゼノバイターの相手にはならない。突き出した槍は全て見切られ、受け流され、気づけば腹部に拳がめり込んでいた。

 

 

「カハァ!」

 

「死ね、雑魚が!」

 

 

脳天を叩き割ろうとトンファーを振るう。

しかし桃色の光が杏子を守り、その隙にライアがゼノバイターに殴りかかる。

拳が交差していく。しかし怯まない。ライアの拳はしっかりとゼノバイターに届いたが、ゼノバイターは全く怯まずに立っていた。

 

 

「絶対はこの俺様だ! 俺様は神なんだ! お前達とはレベルが違うんだよ!」

 

 

ゼノバイターは足裏でライアを突き飛ばすと、指を鳴らす。

すると背後に立っていたディザスターが起動。目を光らせると、レーザーが発射されてライアが立っていた場所を破壊する。

スケイプジョーカーを使用したが――無駄だった。既に何度も見た技だ。出現と同時にブーメランを投げ、ライアに直撃させる。

 

 

「ぐぅゥッ!」

 

 

ライアは地面を転がり、そこでサバイブが解除された。

龍騎達は、まどか達よりも早くサバイブを使っており、瘴気の濃度も濃くなってきた。それゆえにだろう。

だからこそ、戦わなければならない面子は限られる。

 

 

「ゼノバイタァァア!」

 

 

拳が伸びる。掌が拳を受け止める。

にらみ合う悪魔ほむらと、ゼノバイター。

 

 

「間違い続けたのは――ッ!」

 

 

妖艶で華麗な衣装とは似つかわしくない走り方だった。

前のめりで、何かを探るように、ほむらは必死に走り出し、ゼノバイターへ迫る。

 

 

「今日のこの日のため!」

 

 

回し蹴りでゼノバイターを打つ。怯んだところで、さらに体を捻ってもう一発。

 

 

「迷い続けても諦めなかった意思は――ッッ!」

 

 

ゼノバイターは一旦回転しながら後退。そこでほむらは翼を広げ、黒い羽を弾丸のように発射した。

 

 

「前に――ッ、進む力なのだと!」

 

 

一方でゼノバイターもトンファーから銃弾を連射して、羽を全て打ち落とす。

ここでディザスターが吼えた。すると落雷が発生して、ほむらの周りに直撃していく。

悲鳴が聞こえた。一方でゼノバイターは腕をクロスに組み、エネルギーを収束させる。

十字型のエネルギーレーザー、魔皇十死砲。ほむらはそれを見て悪魔を召喚。

トリケラトプス型の盾を構えると、真っ向から受け止めてみせる。

しかしリボーン態の攻撃だ。悪魔の盾も震え、すぐに亀裂が走る。

 

 

「弱い犬ほどよく吼えるよなァ、暁美ほむら。テメェはまだアレか。言い訳をしてんのか」

 

 

一方でゼノバイターはエネルギーを込め続ける。

すぐに盾が砕け散る音が聞こえた。ほむらは悲鳴と共に吹き飛び、地面を擦る。

まずい。立たなければ。そう思ったときには、ゼノバイターに髪をつかまれ、強制的に引き起こされていた。

すぐに拳が飛んでくる。フックで頬を打たれた。裏拳で頬を打たれた。

膝が腹部にめり込む。骨が砕ける音が聞こえた。

だが次に聞こえたのはゼノバイターの悲鳴だ。見ればまどかの光の矢が背中に直撃していた。

 

 

「アァ! クソ!」

 

 

ゼノバイターは回し蹴りでほむらを弾き飛ばすと、まどかの方へと向かっていく。

一方でほむらは倒れると、咳き込みながら体を起こす。

赤い血が口から吐き出た。それを見て、ほむらの目に涙が滲む。

 

 

「なによ。なんなのよ……」

 

 

言い訳とゼノバイターは口にした。

刺さる部分もある。ほむらは涙を拭うが、なぜか雫は溢れるばかり。

 

 

「痛い……。あぁもう、最悪っ」

 

 

頭を掻き毟り、大きくうな垂れた。

死にたく――というか、消えたくなる。なんだか心の中にいろんな感情が渦巻いて、思わずエゴの塊を口にした。

 

 

「たすけてぇ……ッ!」

 

 

彼女は気づいていない。まどかを退けたゼノバイターが既にそこまで迫っていたことに。

そしてトンファーブレードを振り上げていたこと。そして、それがほむらの脳天を叩き割る前に、さやかと杏子が全速力で駆けつけ、武器を突き出していたことに全く気づかなかった。

 

 

「ガァアア!」

 

「え?」

 

 

悲鳴が聞こえたので、ほむらは顔をあげてみる。

さやかがサーベルを。杏子が槍を突き出して、ゼノバイターの胸に突き刺していた。

吹き飛ぶゼノバイター。さやか達は鬼気迫る表情でほむらを見る。

 

 

「ぼさっとしないで! ちゃんと助けてあげるから! さっさと立って!」

 

「分かってんのか! 今はアンタが頼りなんだよ、ほむら! ウジウジしてる暇があるなら戦えっつーの!」

 

「あ……、ごめんなさい!」

 

 

吹き飛んだゼノバイターは倒れない。リボンが地面を貫き、四肢を絡め取ったからだ。

マミは呼吸を荒げながらもしっかりと立ち、ゼノバイターを睨んでいる。

 

 

「今よ! なぎさちゃん! 志筑さん!」

 

「了解なのです!」「はい!」

 

 

マミの声に応えて、なぎさと仁美が走ってくる。

さやか達も地面を蹴って、縛られているゼノバイターへ一撃を撃ち当てた。

 

 

「ハァー!」

 

 

しかし、ゼノバイターはため息ひとつ。

剣は、槍は、蹴りは、バトンは確かに届いたが、だからなんだというのか。

ゼノバイターが力を込めると、リボンは簡単に引きちぎれ、トンファーを振るえば瘴気のエネルギーが拡散して、さやか達は簡単に吹き飛んだ。

最早、今、ゼノバイターに通用するのは同じ力を持っているまどかとほむらだけだ。

まどかはダウン中であり、ほむらは心が折れかけている。

まあ尤も、今の一撃がほむらの魂に火を灯したようだが。

 

 

「――るな」

 

「は?」

 

「私の友達にッ! 触るなァアア!」

 

 

ほむらは悪魔を召喚。剣を持って走りだし、再びゼノバイターに斬りかかっていく。

 

 

「友達? アホが! 誰もテメェを好きになんてならねーよカスが!!」

 

 

剣をいなし、回し蹴りでほむらを吹き飛ばす。

しかしほむらはすぐに立ち上がった。また走り出そうとして――急ブレーキ。

悪魔を召喚すると、代わりにゼノバイターに向かわせて戦闘を任せる。そして本人は体をプルプルと震わせ、恥ずかしそうに叫んだ。

 

 

「そうよ! 分かってるわよ! バカ!!」

 

 

倒れているさやか達は思わず怯む。ほむららしくない表情に、ほむららしくない言い方だった。

 

 

「でも好きになってほしいでしょ! 友達になってほしいのよ! 言わせんな! アホ! 魔獣! バカ!!」

 

「ほむら……」

 

 

ほむらは涙をためながら、杏子を睨んだ。

 

 

「ねえ杏子! ごめんなさい! 今までごめんなさい! みんなも――ッ、本当にごめんなさい!」

 

 

どうしていいか分からないといった様子だった。

だがとにかく謝らなければならないと思って、ほむらは乱暴にブンブンと頭を下げる。

 

 

「なんか――ッ、いや! 本当に……! まどかが大事で! だって選ばないとワルプルギスがッ! あぁ、ごめんなさい。これも言い訳だわ。で、でも! だから!」

 

 

ほむらは真っ赤になって杏子を指差した。

 

 

「初めて見た時は絶対に無理だって思った! だって乱暴そうで、私をいじめそう! まどかにも乱暴しそうで、嫌い! 嫌いだった!」

 

「は!?」

 

「き、き、聞いて! でもなんだかそれって違ってて。ど、どう違うのかはイマイチ説明できないけれどッ! と、とととにかく! 今はたぶんっ、もしかしたら、一番信用してるのかも!」

 

「はぁ……」

 

「だからッ、好きなの!」

 

「はーッ!?」

 

「好き! す――ッ、好き!」

 

「も、もういいから!」

 

 

杏子は少し頬を赤くして、恥ずかしそうに目を逸らす。

 

 

「キモイ? 分かってるわよ! でも今日くらい聞いてよ! だから、あ――ッ、相棒とかがいたらいいなって思ったときに……、杏子の顔が出てきた時もあったわ。うん、絶対あった。でもそれは……、駄目で。だから――その、今だから、今だからこそ!」

 

 

そこでゼノバイターが悪魔を蹴散らし、向かってきた。

ほむらは怯えたように一歩、後ろへ下がった。しかし反対に、倒れている杏子が体を前に持っていく。

 

 

「ほむらァ! コレ使え!」

 

 

杏子は槍を投げて、再び地面に倒れた。

一方で宙を舞った槍は、ほむらの手にしっかりと収まる。

 

 

「あ、ありがとう! う、嬉しい!」

 

「は!? グアァア!」

 

 

反射的に、まず斜めに切りつける。

赤い斬撃がゼノバイターの青を侵食した。よろけた所を見て、ほむらは思い切り槍を前に突き出す。

 

 

「嬉しいから! 嬉しいよ! それは分かって!」

 

 

魔力が赤と黒の螺旋を描き、ゼノバイターは地面を滑って後方へ。

 

 

「ほむら、さっきから何言ってんだ?」

 

「だ、だって!」

 

「……まあ、でも、やるじゃんさ」

 

 

倒れた杏子はサムズアップを一つ。

ほむらも戸惑いがちにサムズアップを返した。

 

 

「追撃を忘れないで暁美さん!」

 

 

マミの声が聞こえ、ほむらはビクンと震える。

周りに設定されていくマスケット銃。マミを見ると、ウインクが返ってきた。

 

 

「アァ! クソ!」

 

 

ゼノバイターが腕を伸ばすとディザスターが起動する。

しかしその時、巨大な天使が現れ、ディザスターを抱きしめる。

まどかの拘束魔法だ。エンブレスヴェヴリヤー、問題はまどかが一歩でも動けば向こうかされること。

ゼノバイターは舌打ち交じりに、まどかの方へと向かう。

 

 

「と、巴さん! あのッ、わ、わわわわ私ッ、あれからいろいろ考えて――!」

 

 

ほむらはマスケット銃を一つ掴むと、銃口をまどかの方へ向かうゼノバイターに向けた。

 

 

「結論はッ、ぅや、やっぱり貴女が好きなんです!」

 

「あら!」

 

 

嬉しそうに微笑むマミ。

時を同じくして、ほむらの翼の一つが光った。

するとほむらの背後にマミに似た悪魔が召喚される。憤怒を司る『サタン』だ。

翼を広げると、倒れている杏子たちや、ほむら自身から『何か』を吸収し始める。

 

これはダメージ。

サタンの能力は、今まで仲間やほむらが受けた傷をダメージに変換できるというもの。

ほむらが引き金を引くと、巨大な黒い球体が発射される。

ゼノバイターが気配に気づいたときには、それが直撃している時だった。

ダウンこそしなかったが、あれだけの防御力を持つゼノバイターが確かに怯み、動きを完全に止める。

 

 

「好きなのにッ! 頭の中にいる巴さんはだいたい怒ってばかりで! ひ、酷いじゃないですか! いつもいつもいつも!」

 

 

ほむらは次々にマスケット銃を取って引き金をひいていく。

 

 

「わ、分かってます! 私、私ですよ! ええ、そりゃもう私っ!」

 

「グゥウ! テメェエ!」

 

「いつも怪しくて!」

 

「グアァア!」

 

「いつも無愛想で!」

 

「ダァア! クソ! おい止めろ!」

 

「でも少しは貴女も察してくれればいいのに!」

 

 

最後の銃を撃つ。

 

 

「師匠でしょ! なのになんで! どうしていつもッ!」

 

 

ゼノバイターは大きく吹き飛び、仰向けに倒れた。

一方でほむらは銃を投げ捨て、マミを睨む。

顔を真っ赤にさせている。何かを堪えているのだろう、プルプルと震えていた。

しかし涙は溢れ、ポロポロと垂れている。唇を噛むその姿を見て、マミは笑顔を消した。

そして、ゆっくりと呟く。

 

 

「じゃあ、笑顔で埋めましょう。貴女の中にいる私を、これから、時間はかかるかもしれないけど……」

 

 

それを聞いて、ほむらはコクコクと頷いた。

しかしその時、倒れているゼノバイターは指を鳴らす。

するとディザスターが天使を吸収し始めたではないか。

 

 

「なんで!」

 

「なんでだぁ? テメェの力だからだよ。鹿目まどか」

 

 

さらにココでまどかは気づいた。

ディザスターの修復がかなり進んでいた。もはや全ての傷が消えているようだ。

 

 

「終わりだ。世界ごとブチ壊してやる」

 

 

ゼノバイターは地面を蹴ると、一気にディザスターの頭部へ向かう。

焦ったまどかがシールドを張って妨害しようとするが、ゼノバイターはそれを簡単に粉砕して進んでいく。

ココで、ディザスターが動いた。

向かってくるゼノバイターを、叩き落とす。

 

 

「え゛!?」「ハァアア!?」

 

 

まどかから濁点交じりの声が漏れる。

それだけ驚いたから仕方ない。ディザスターがゼノバイターを受け入れるのではなく、拒絶した――?

もちろんそれはゼノバイターにとっても予想もしていなかったことだ。地面に叩きつけられた彼は気づく。ディザスターの顎に『穴』が開いていた。

 

 

「まさか!」

 

 

周りを確認する。

いつのまにか、美樹さやかの姿が消えているじゃないか。

 

 

「あンのクソ女がァアアア!!」

 

 

時間は少し巻き戻る。

ほむらがマスケット銃でゼノバイターを射撃している間に、さやかは再びディザスター内部に侵入していた。

ゼノバイターも、ある程度の遠隔操作はできたようだが、マスケット銃の威力が強すぎて全く気づかなかったようだ。

ヒガンバナの花畑にいたホムラは、さやかを見るなり、表情を変えた。

 

 

「美樹さん! どうして!」

 

「うん。ちょっちね」

 

「ココは瘴気が濃いですから! 逃げてください」

 

「大丈夫大丈夫。あたしは円環の使者だから、耐性は他の子よりも強いのよ。ソウルジェムもほら、センセーに持ってもらってて」

 

 

さやかはお腹を見せる。ソウルジェムは分離させて、外にいる北岡に持ってもらっていた。

 

 

「まあでも長居はできないから、さっさと本題ね」

 

 

ディザスターは既に回復しきっているようにも見える。

またこんな大きなものが動き出したら、流石に対処しきれない。

だからこそ外にいる香川が一計を案じる。

もしもディザスターの力の源が、円環の力であり、それをハッキングしているならば、同じ力を持つホムラが内部干渉で弱体化できないだろうかと。

 

 

「できる? できないなら無理しなくていいよ。あたしもココから出るわ」

 

「でき――……」

 

 

ホムラは沈黙する。

一度、何かを言いそうになって、やめる。

さやかは待った。ホムラは少し間をおいて、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「分からないんです。本当に、本当に……」

 

「そっか」

 

「それにコックピットに行くには、上に行かないと。私は今、動けなくて……」

 

 

確かに、ホムラの膝が地面に埋め込まれていた。

 

 

「………」

 

 

さやかも少し沈黙し、やがて口を開く。

 

 

「立ちたい?」

 

 

ホムラはハッとした様に停止する。

この質問の答えは、割とすぐに口にすることができた。

 

 

「はい。立ちたいです。でも立っていいのかって思ってます」

 

 

さやかは記憶を取り戻し、円環の使者であることを自覚した今を幸いだと思った。

この世界はあまりにも抽象的過ぎる。以前の自分ならば絶対にその意味が分からなかっただろう。

しかし今ならば、少しはホムラの気持ちを理解することができる。

そういう曖昧な世界で自分達は生きてきた。でも人間は意外と曖昧な生き物だ。

しかし、だからこそ、それを突破するには曖昧かもしれないけど、揺ぎ無いと思える答えを用意しなければと、つくづく思う。

 

 

「全てを水に流すことは……、難しいよね。アンタもあたしも、たとえバカって言われても、個人的にはそんな簡単な生き方なんてしてなかったでしょ」

 

 

全て本気だった。滑稽でも、愚かでも。

あの時の自分達には『それ』が全てだった。

 

 

「でも、あたし達は、どんな時間軸でも願いを持った。だから魔法少女になったんでしょ? たとえくだらない願いでも、バカみたいな願いでも、叶えたい願いがあったから魔法少女になったんだよ。違う?」

 

「いえ……、そうですね」

 

「でしょ。じゃ、ま、それってつまり、あたしたちは願いを持つことができる生き物ってわけ」

 

 

さやかは手を伸ばした。

 

 

「今のアンタの願いは、なに? ホムラ。キュゥべえじゃなくて、あたしに教えてよ」

 

 

ホムラのメガネの奥の瞳が光った。

 

 

「あたしは流せるよ。全てを水に」

 

「アタシも、流したいッ、です! だからお願いです美樹さん!」

 

 

ホムラも手を伸ばす。躊躇したように。

 

 

「私の手を取って! 私を赦して! 私をココから引き上げて!」

 

 

さやかはニヤリと笑う。

 

 

「よしきた! アンタの願いはエントロトロピカルをふにゃふにゃにゃ」

 

 

あんまり覚えてない。

さやかは、少し強引にホムラの手を取ると、一気に引き上げた。

するとホムラは意外と簡単に地面から剥がれ、さやかの前に立つ。その姿は魔女を思わせるアライブ状態であった。

ホムラのすぐ隣に魔法陣が現れると、そこから『博士』が出てくる。

 

 

「おぉ、何かちんまいが出てきた!」

 

「博士なの。よろしくなの、さやかちゃん」

 

 

博士は白衣の裾で隠れた手を上げる。よく見れば、手には何かコントローラーのようなものがあった。

 

 

「これをコックピットに突き刺せば、わたしが作ったハッキングプログラムが働いて、少しくらいならディザスターを操れるの」

 

「マジ? すごいじゃん! ッていうか、いつの間にそんなもん作ったの」

 

「……虚心星原(ここ)に囚われた時から、ずっと考えてたの」

 

 

さやかは両手を頭の後ろに回し、どうでもよさそうに笑う。

 

 

「難しい話は無し! 早く上にいくよ!」『ユニオン』『シュートベント』

 

 

さやかはギガキャノンを装備。最大出力で弾丸をぶっ放し、そのまま二人を担いでコックピットへと侵入していく。

そして今に戻る。博士の突き刺したコントローラーを操作して、ゼノバイターを叩き落としたのだ。

しかしすぐにゼノバイターは仕組みを理解。魔力と瘴気を解放して、博士のハッキングプログラムを破壊しようとする。

 

 

「ぐぅうう!」

 

「が、がんばれ!」

 

 

耐える博士。ホムラも辛そうに表情を歪める。

さやかは必死に二人の背中をさするが、そこでテレパシーが入った。

 

『美樹さやか。聞いて』

 

「え? ホムラ? あ、違う。ほむらか!」

 

『そうよ。貴女にも言わないといけない事があるの』

 

 

さやかはフッと笑う。杏子とマミの件は聞いていた。

さあ、ぶつけてごらんなさい。アンタの本音を――

 

 

『初めて会った時ね。私、陰キャだから、陽キャっぽい貴女がマジで無理だった。結構グイグイ来てくれて、それはまあ嬉しかったけど。嬉しかった? うーん、嬉しかったかな。やっぱり、無理。何かまどかと凄い仲いいし。それも無理だった。でもまどかと仲がいいってことは凄くいい人なのかと思ったけど、考えてみればそれはまどかが凄く良い子だからであって、貴女が仲良くしてるっていうか、まどかが仲良くしてあげてるのかもって思って無理になったの。でもそう考えてる私も嫌で自己嫌悪。でも考えてみれば私にそんなことを思わせる方も悪いって思ったから、結論をいうと美樹さやか、貴女がすごく苦手だった。一瞬、貴女と仲良くなれば私も明るくなれるかなって思ったけど、別に私は明るくなれなくてもいいし、明るい私とか想像もできなかったから、別にまどかと平和にやれていればいいなって思ったから、やっぱりどうあっても結論は無理だった。しかも話を聞いてみれば、まどかの初恋の人って聞いて、は? なんなのコイツみたいな。凄く失礼なことをいうから始めにごめんなさい。でもやっぱりどれだけ考えても、え? 何様? みたいな。いや、貴女は悪くはないわ。全部、わたしの嫉妬なんだけど、嘘でしょ、みたいな。ごめんなさい。でもなんか凄い下品そうだし。なのになんか無駄に可愛いところが凄い腹立つし。貴女さ、私を見た時にだいたい綺麗とか可愛いとか褒めてくれるじゃない? でも、は? いや貴女も可愛いですけど、え? なんですか? 隠れ自慢ですか? 綺麗な転校生褒めてる地味なあたし実は可愛いんですよアピールですか? みたいな感じが凄いあの時の私には鼻についたっていうか、なんていうか、だからなんか無理だったの。いや、ごめんなさい。これは絶対に私が悪いんだけど、その後も上条恭介? 幼馴染いてアオハルでーすみたいな空気感とかマジで寒いし。っていうか私、何回か貴女にいじめられたし、いやいじめっていうか、そっちはたぶん弄りくらいに思ってたんだろうけど、そっちにその気がなくても、私が傷ついたからアレは弄りじゃなくていじめだし。だからちょっと心の中で酷い目にあえって思ったときもあったし。でもふとした時に優しくしてくれてなんだよお前ジャイアンかよふざけんなよって思ったし。ちょっと好きになるし。でもなんか青いっていうのがスカしてる感じがして嫌だし。まどかに近いし。私的にあなたの声が好きなのがまたちょっとムカつくし。やたら距離感近いし、勘違いするし、そのくせいつも私を否定するし。でもそれは私が悪いし。死んで欲しくないって思ったときにはいつも死んでるし。バカだし。助六だし。色的にチョコミントっぽくて私あんまり好きじゃないし。だから総合的にいうと無――』

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおい!」

 

『え?』

 

「多い! 想像以上に多いな! え? 嘘、あたしに対する闇の部分多くない!? どうする? 一回ここでガチめに喧嘩しておく!?」

 

『ちょっと褒めてるでしょ!』

 

「少なすぎるわ! 本当にちょっとじゃろがい!」

 

 

そんな風に思ってたのか! さやかはホムラの肩を掴むとブンブンと振り回す。

 

 

「おおおお落ち着いて美樹さん! 私じゃ……、いや私ですけど!」

 

『待って! 聞いて美樹さやか!』

 

 

時間もない。ほむらは大きく深呼吸。

 

 

『本当にごめんなさい。それは全部、私が悪いの。でも、でもッ!』

 

「!」

 

『でも! 喧嘩できる友達も――ッ、ほしいの……!』

 

 

遠慮なく言い合って。心を全部さらけ出して。

入院している時に見たテレビで、喧嘩してこその親友、なんてことを見かけたりもした。

喧嘩。それは嫌いだから言い合うんじゃなくて、本当にその人を思っているから感情をむき出しにしてしまう。

 

 

『そんな友達が……、いればいいなって』

 

 

もちろん喧嘩をしない親友もいるだろう。けれど、いろんな友人の形が欲しいのだ。

それに、さやかとはそんな関係でありたいと思った。

 

 

『だから、なって、ほしい……』

 

「しゃーない。ま! 面倒なアンタに付き合ってやれるのは世界でただ一人、この美樹さや――」

 

『志筑仁美、百江なぎさ』

 

「おい! なんでだよ! 聞けよ最後まで! ちょ、おい! ほむ――ッ!」

 

 

ほむらは仁美と、なぎさを見つめる。

仁美は少し戸惑いがちに、なぎさは全てを悟ったように頷いた。そしてほむらも頷き、口を開く。

 

 

「正直、貴女たち二人はよく分からないわ」

 

「え?」「へ?」

 

「まどかの友達のお嬢様と、白いヤツ。だから、ええ、終わり」

 

「「………」」

 

 

立ち尽くす仁美と、ゆっくりと歩き出すなぎさ。

彼女はそのままへたり込んでいる中沢のもとへと。

 

 

「納得がいかないのです! なぎさはッ、なぎさはーッ! 中沢ァアア!」

 

「ちょ! やめてなぎさちゃん! おれの髪を弄くらないで! やめてなぎさちゃん! 変なクリームをおれの髪に塗りたくるのはやめて! やめてなぎさちゃん! クリーム塗れの髪を弄って二本の角を作るのはやめて! おれは鬼さんじゃないよ! やめてなぎ――」

 

「だから!!」

 

 

ほむらは叫ぶ。だから。

 

 

「だからッ、これからもっと傍にいてよ! そしたら――ッ、分かるから!」

 

 

仁美となぎさは、それを聞いて少しポカンとしたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「もちろんですわ。ね? なぎさちゃん」

 

「ですっ! チーズでも食べながら、お互いのこと話ましょっ!」

 

 

ほむらは頷き、笑みを浮かべてお礼を言った。

しかし、ほむらが笑顔を浮かべるほど、不愉快になる男がいた。ゼノバイターは思い切り地面を殴りつけ、怒りに吼える。

最大の苛立ち、最大の憎悪がそこにはあった。何なんだ一体。先程から一体全体、自分は何を見せられているんだと。

 

 

「やめろやめろ! やめろってんだよォオ! あぁ駄目だ! 耳が腐る! マジでキメぇなテメェらは!」

 

 

その憎悪が魔力と瘴気を跳ね上げる。

悲鳴が聞こえた。ディザスターの口が開き、さやかが吐き出される。ホムラたちもまた悲鳴をあげ、下層のヒガンバナ畑に強制的に送られる。

しかしホムラは諦めなかった。博士が消えないように魔力を放出。博士もまたコントローラーのコードを伸ばし、穴が塞ぎきるまえにコックピットへ接続する。

 

何よりも暁美の想い。

邪神もまた暁美の一部だ。恐怖や負を必死に押さえ込み、克服しようとする。

その想いがコントローラーの、つまりは支配力の値になる。

だからこそ、ゼノバイターがディザスターに乗り込もうとするのを防ぐ。

再びディザスターを操り、跳んできたゼノバイターを叩き落した。

 

 

「ゴガァア!」

 

 

墜落したゼノバイターはまた怒りに震え、地面を殴りながら立ち上がる。

 

 

「そうじゃねぇ! そうじゃねぇだろ! なにやってんだよテメェらァア!」

 

 

ゼノバイターは両手を前に出し、訴えるように叫ぶ。

 

 

「もっとホレ! 殺しあえよ! いつもみてぇに歪んだ憎悪をぶつけあえよ! それがお前等だろ! それが騎士だろ! それが魔法少女だろ!!」

 

 

ゼノバイターは見る。悪魔ガープの姿を。

悪魔はほむらに弓を与え、ほむらはそれを引き絞る。

 

 

「だからそれが嫌だから戦ってんだろ! バカかお前は!」

 

 

指を離して闇の矢を発射する。

しかしゼノバイターは呆れたように首を回し、飛んできた矢を裏拳で簡単に弾き飛ばした。

 

 

「皆と仲良くしたいだけなのに! どうして邪魔するのよ! クソ! あぁもう!」

 

「決まってんだろ! 楽しいからだよ! テメェらが苦しむのは魔獣にとって極上のエンターテイメントなんだよ!」

 

「最低! 死ね! やって、まどか!」

 

「あ?」

 

 

ゼノバイターの斜め上。吹き飛ばされたほむらの矢が、結界に突き刺さっていた。

その結界の隣に浮遊するレイエル。彼女が目を開くと矢が反射され、ゼノバイターの肩に命中した。

 

 

「お?」

 

 

肩から煙が上がる。

 

 

(ありゃ?)

 

 

何かが、おかしい。

しかしその違和感は消し去らなければならない。ほむらが前から翼を広げ、まどかが後ろから翼を広げて突進してきたからだ。

スピードは速いが、真っ直ぐな突進だ。ゼノバイターは右へ逃げようとした。

 

しかし壁がある。まどかの結界だ。

なんのこれしきと壁を殴った。

壊れなかった。おかしい。壊れるはずだ。アライブ態であったとしても――なんてことを考えている時間はない。

左を見た。壁があった。殴った。斬った。壊れなかった。

壁が消えた。逃げようと思ったが、逃げられなかった。突進が当たった。

 

 

「うが――ッ!」

 

 

まどかは頭にシールドを纏わせ、ほむらは闇のエネルギーを纏わせ、攻撃力を上げて反動を防いでいた。

一方でゼノバイターの呼吸が止まる。おかしい。おかしい。これは、あれだ。

 

 

(クソイテェ……!)

 

 

まどかが体を右に捻った。ほむらが体を左に捻った。

それぞれの翼が思い切り振るわれ、ゼノバイターに直撃、大きく吹き飛ばす。

まどかとほむらはゼノバイターには目もくれず、互いの手を取り合う。

指を絡ませて繋ぐ手を見て、二人は笑顔を浮かべる。

 

 

「ごめんね。まどか」

 

「ふふっ、どうしてほむらちゃんが謝るの?」

 

「だって、いろいろ酷いことしたし……、それにもうまどか第一主義はやめるの」

 

「うん。わかった」

 

「それだけ?」

 

「うーん。本音を言えば、ちょっと残念かな?」

 

 

まどかは悪戯っぽく舌を出して笑う。

 

 

「でも、まどかだってそうでしょ?」

 

「え? 何が?」

 

「最高の友達がたくさんいる。今なら……、分かる気がするわ。その言葉の意味と、価値が」

 

 

天使と悪魔が指を絡ませ、笑いあっていた。

 

 

「ねえ、まどか。凄い重いこと言っていい?」

 

「うん! いいよ! 何でも言ってね!」

 

「一生、友達でいてくれる?」

 

「てへへっ、いいよ。一生一緒にいようね!」

 

 

ほむらは思い切り頷いた。顔を真っ赤にして、涙を浮かべて、満面の笑みで頷いた。

 

 

「ありがとう! 嬉しい! とっても嬉しい!!」

 

 

真司や中沢は嬉しそうに微笑むほむらを見て、安心したように笑う。

一方でゼノバイターは立ち上がり、ディザスターを確認した。

 

 

(やっぱ、そういうことかよ!!)

 

 

ディザスターの一部、端の方が変色している。

間違いない。腐っているのだ。

 

 

(俺様の手に入れた円環が、弱まっている! アイツが、何にいるホムラが外に出ることを望んでいやがるんだ!)

 

 

頭を抱える。この虚心星原が、暁美の世界が希望で満たされようとしている。

光りたる感情が、世界に蔓延る瘴気を浄化していく。魔獣にとっての猛毒が広がっていく。

 

 

「あってはならない! そんなことは、許されねぇんだよォオオ!」

 

 

ゼノバイターはトンファーを光らせて走る。

しかし銃声。弾丸が、剣が、槍が、シャボンが、光弾が直撃してゼノバイターは再び地面を転がっていく。

 

 

「みんな!」

 

 

ほむらが嬉しそうに叫ぶ。

マミが、さやかが、杏子が、なぎさが、仁美がフラつきながらも近づいてきてくれたのだ。

かつてない高揚感があった。ほむらは恥を忘れ、思わず叫んでいた。

 

 

「私と! 友達になって!」

 

「もちろんよ。むしろ友達以上になってみせるわ」

「ふっ! りょーかい! 感謝してよ、この超絶美少女美樹さやか様の友達になれるなんて光栄なことなんだから」

「しつけぇな。もうなってるっつぅの」

「おっけーです!」

「はい。末永くよろしくお願いしますわ」

 

 

輝く笑顔。しかしそこでまどかが指を唇の前にもっていく。

 

 

「でも忘れちゃ駄目だよほむらちゃん。みんなが、こう言ってくれるのはね、ほむらちゃんが今までやってきたことが正しいと思ってくれたからなんだよっ!」

 

「う、うん!」

 

「みんなを傷つけちゃ駄目。親しき仲にも礼儀あり!」

 

 

でもそれを思ってるからこそ、ちゃんとした自分になれる。

傷つけないためにはどうすればいいのか? もっと好きになってもらうにはどうすればいいのか?

自分を、相手を大切にするためにはどうすればいいのか?

 

 

「まどか、私がんばるわ!」

 

「うん。あとね、えーっとなんて言うか。だからわたしが言いたいのは――」

 

 

ほむらは少し固く受け止めたようだが、まどかが一番伝えたかったのは『正しいと思ってくれたこと』だ。

 

 

「ほむらちゃんが歩んできた道を、誇りに思ってね」

 

「……!!」

 

「いこっ! ほむらちゃん!」

 

「うん!」

 

 

まどかと手を繋いでほむらは羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

ゼノバイターは強烈な光を感じて顔をあげる。

すると、前からサソリの天使とドラゴンの悪魔がやって来るのが見える。

先ほど見た光景だ。バルビエルとベリアル。なんのことない、ディザスターでバラバラにしてやった。その程度の実力、ゼノバイターのままでも問題ない。

そう思ったとき、光が迸った。フラッシュの向こう側、悪魔と天使が一つになる。

 

 

「あぁ!?」

 

 

彼岸天使・スコルプベリアル。

ベリアルがバルビエルを鎧にしており、右腕にはツメが、左腕には尻尾が装備されている。

それはまさに一瞬の残光。スコルプベリアルが腕を振るうと、幾重もの斬撃がゼノバイターを刻み、その胸の中心にサソリの尻尾が突き刺さる。

 

 

「グアァア!?」

 

 

速く、強い痛みだった。

一撃を受けるたびに、何かが剥離していくような感覚。

気づけば、尻尾の針が突き刺さったまま、ベリアルは腕を振るい、ゼノバイターを空に放り投げる。

そこで堕天使は消滅。手足バタつかせながら上昇するゼノバイターが見たのは、手をつないで向かってくるまどかとほむらだった。

 

 

「全力で行くよほむらちゃん!」

 

「任せて! まどか!」

 

 

右にいたまどかは右の翼が巨大化しており、左にいたほむらは左の翼が巨大化している。

桃色掛かった白い片翼と、紫掛かった黒い片翼が、合わさり、光と闇の両翼となる。

合体魔法エピソーディオ・インクローチョ『アルティメットウイング』光と闇の羽をまい散らせながら、二人はエネルギーを纏って突進。

ゼノバイターは抵抗に、目からレーザーを発射するが、二人はそれを強引に突破してゼノバイターに直撃した。

 

 

「ウグァアアアアァゥ! ズゥゥウ!」

 

 

光と闇のエネルギーを受けて、ゼノバイターは斜め下へと墜落していく。

すぐに受身を取って立ち上がると、上空から降ってくるまどかが見えた。

 

 

「貴方ももう感じてるでしょ!」

 

 

まどかが手に持っていたのは蟹座の力で生み出したブレード。

文房具のハサミを二つに分解して、一方の刃を左手に。一方の刃を右手にもって二刀流になっていた。

両方の刃を振り下ろし、ゼノバイターはトンファーブレードでそれを防御。

すぐにまどかの腹部に向かって足裏を叩き込むが、まどかのお腹にはしっかりとシールドが張られている。

 

 

「円環の力は、わたしの力は絶望を望んで手に入れたものじゃない!」

 

「グアァアア!」

 

 

不動のまどかは、右の刃を斜めに振り下ろし、ゼノバイターを切り裂く。

続いて左の刃を横へ振るい、ゼノバイターを怯ませた。それを見て、まどかは両方の刃を横にして、抜き胴。

ゼノバイターがふらついていると、ほむらが弓を構えているのが見えた。

 

 

「返してもらうから! わたしの――ッ、わたしたちの希望!」

 

 

ほむらが手を離す。闇の矢がゼノバイターに直撃、トンファーが弾き飛ばされ、ゼノバイターは大きく後ろへ後退する。

そこには既にまどかが先回りしていた。両手をゼノバイターの腰へ押し当てるとゼノバイターが球体のバリアの中に閉じ込められ、回転。そのまま射出され、地面を滑る。

 

 

「返す? ふざけるな! これはもう俺様のものだ! 俺様だけのものなんだよ!」

 

「駄目よ! そんなの許さない!」

 

「アァ!?」

 

 

ゼノバイターが立ち上がると、ほむらが近づいてくるのが見える。

テンガロンハットを被ったコブラが背後に現れたかと思うと、ほむらの四肢が炎に包まれる。

 

 

「だって! もっと強くならなくちゃいけないもの!」

 

 

拳と拳がクロスした。

ゼノバイターの胴体に燃える拳が直撃し、ほむらの胴体に瘴気塗れの拳がぶつかる。

両者はわずかに地面を擦っただけで、またすぐに殴りあった。

そこで誰もが気づく。ほむらの力が確実に上がり、ゼノバイターの力が確実に下がっていることに。

 

 

「なんで! なぜだ! どうしたってこんな……! この俺様が――ッ! ゼノバイター様が!!」

 

「まだ分からないの!? だって、この世界がもう私の勝利を望んでいる。私が私の勝利を心からッ、真にッ、渇望してるからなのよ!」

 

 

ほむらの翼の全てが発光する。

マモンとは――即ち、ほむら自身。強欲な女はゼノバイターに一撃を食らわせるたびに円環のパワーを奪い取っていく。

 

 

「ははっ! あはは! あはははは!!」

 

 

ほむらは思わず笑ってしまった。

どうしたことだ。先ほどから、なんだろうか、この全身から湧き上がる未知なるエネルギーは?

 

まどかは言っていた。

皆が味方をしてくれるのは、今までの行動を正しいと思ってくれたからだと。

それはつまり、同じ人間だからとか、同じ魔法少女だからとかではなく、『暁美ほむら』だったから。そういうことなんだろう。

 

だから奢ってはいけない。油断してはいけない。大罪に飲み込まれてはいけない。まどかはそういうことを伝えたいはずだ。

全ての行動は赦されない。悪魔であったとしても、善の道を行けばついて来てくれるものがおり、天使であっても悪に染まれば親しいものは離れていく。

そんなことは何も不思議なことではないのだ。要するにただ一言。好かれる人間になりなさいと。

じゃあ、どんな人間が好かれる?

どんな人間に人は惹かれると思う。

決まってる。暁美ほむらは自分の答えを持っていた。

 

 

「もっともっと強くなりたい!」

 

「グアァアア!」

 

 

ボディーブローが確かに入った。ゼノバイターは呻き声をあげながら、後退していく。

ほむらはチラリと周りを見た。いいぞ、その調子だと杏子だとか、真司が言っている。

 

 

「もっと可愛くなりたい!」

 

 

ほむらはにんまりと笑い回し蹴りを行った。

ハイキックはゼノバイターの頭部にクリティカルヒット。

 

 

「もっと賢くなりたい! もっと優しくなりたい!」

 

「グアァ!」「もっとッ!」

 

「ゲェエァ!」「もっとッッ!」

 

「クソ!」「もっとッッッ!」「オォオオオオオ!」

 

 

ほむらは大胆にも飛び上がり、ドロップキックでゼノバイターの胸を打つ!

 

 

「凄いわ! 希望の願いがッ、止まらない!」

 

 

轟々と燃える両足を受け、ゼノバイターは地面を激しく転がっていく。

 

 

「う、嘘だ! なんだよコレ! ァァアア! クソクソ! ムカツクぜェエ!」

 

「もっと皆に好きになってもらいたい! どうすればいいの?」

 

「ンンなモンンンンン! 知るかァアアアアアアアアアア!」

 

 

決まってる。

この馬鹿げたゲームを――ッ! 滅茶苦茶にしてやる。

ふざけた魔獣をブッ飛ばせばいい。そうしたらきっと――!

ああ、ああ、ああ。その時だった。まどかの笑顔が頭に浮かんだ。

 

 

「私はもっと格好よくッ! なりたいのよ!」

 

 

全てをゼノバイターに重ねてやろう。

 

 

「もォ――ッ!」

 

 

馬鹿な今まで。

 

 

「えェエエ!」

 

 

誰かを嫌いになろうとした気持ち。

 

 

「アアアアアアアアアッッ!」

 

 

嫌なこと。

 

 

「ガぁぁアア!!」

 

 

ワルプルギス。そして――

 

 

「れェエエエエエエエエッッッ!!」

 

 

フールズゲーム。

 

 

「おッリャアアアアアアアアアアアアア!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

右の拳に収束する炎は紅蓮の塊。雄雄しく燃え滾る、焔。

それをゼノバイターの顔面にブチ込んでやった。

腰の入ったストレート。ゼノバイターは左頬から黒煙と瘴気をあげて、放物線を描く。

 

 

「オゴォオオ!」

 

 

地面に激突。バウンド。ほむらは鼻を鳴らすと、拳を天高く掲げて見せた。

 

 

「かっこいいよ! ほむらちゃん!」

 

 

まどかの笑顔に、ほむらはウインクで返す。

 

 

「ふざけんなァアアアアアアアアアアアア!」

 

「!」

 

 

ゼノバイターは全身から瘴気をあげて吼えた。

それは魔獣にとって味わったことのない屈辱であった。様々な構築、作戦があったのに、それがすべて友情に繋がるのだけは我慢ならなかった。

だからこそもはや自壊で良い。どうなってもいいから、ほむらたちだけは今ココで殺す。

 

ゼノバイターの憎悪に応えるように、ディザスターもまた起動。

コントローラーを瘴気で塵に変えると、大口を開ける。ゼノバイターはそれを確認して跳躍。

ディザスター内部にもぐりこむと、一気にコックピットまで這い上がる。

両手を肉の壁につけ、埋め込ませる。そして邪神を発進させた。

 

 

「フルパワーだクソ共! 世界ごと全部破壊してやる!!」

 

 

ディザスターの顔の前に巨大な十字型の魔法陣が現れる。

そこへ収束していく魔力と瘴気。なるほど、かつてないパワーを感じた。空間が震え始め、空の向こうに亀裂が走る。

死の説得力があった。あれだけ調子に乗れていたほむらも、一気に青ざめる。

ココまで積み上げてきたものが、一瞬でグチャグチャにされる。それだけの恐怖と力が、ディザスターには感じられたのだ。

 

 

「怖い……」

 

 

思わず、声が出た。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

すると優しい声が返ってきた。

 

 

「みんな、傍にいるから」

 

 

まどかはほむらの隣で微笑んだ。

ほむらは周りを見て、少しポカンとしたが、すぐに頷いた。

 

 

「守りたい……! 守りたいの。だからッ、協力してまどか」

 

「うん! アレを壊そう!」

 

 

ほむらとまどかは、弓を並べ、同時に弦を引き絞る。

収束していく光と闇。しかしお互いはもう限界だった。アライブ態もそろそろ切れるし、なによりも魔力を使いすぎた。

しかしふと、楽になる。見ればソウルジェムの穢れが晴れていくではないか。不思議に思うと、頭の中にジュゥべえの声が聞こえてきた。

 

 

『イカ野郎のメチャクチャを許しちまったからな。運営としての詫びだ。一発分だけオイラが肩代わりしてやんよ』

 

『ありがとうジュゥべえ!』

 

『………』

 

『ほら! ほむらちゃんもお礼! ちゃんとありがとうが言える人は素敵だよ!』

 

『え? あぁ、あ、ありがとぅ。ジュゥべえ……』

 

『げー。気持ちワリーな暁美ほむら。テメェそんなキャラじゃねーだろ。死ね』

 

『最低ね。死ね』

 

『ほむらちゃん!』

 

『え? あぁ、ご、ごめんなさいまどか。つい』

 

 

だが、コレはデカイ。

魔力の解放。収束していく光と闇は、凄まじい量となり、眩い輝きを放つ。

怖い。怖いが、震えない。まどかが傍にいてくれる。みんなが傍にいてくれる。ほむらは尚も溢れる想いを魔力に変えて、矢に乗せていくのだ。

 

 

「殺してやるゼェエエエエエエエエ! 参加者ァアアアアア!」

 

「殺すだの絶望だの。そればっかり。酷く幼稚に見えるわ」

 

 

ほむらはフッと笑みを漏らす。

 

 

「ねえ、まどか。聞いて」

 

「うん?」

 

「私、あんな馬鹿なこと言わないわ。だって今はたくさんの夢があるから」

 

「どんな夢?」

 

「些細なものよ。例えば――志筑さんをもっと知りたいとか」

 

 

仁美は驚いたように眉を動かし、直後、笑みを浮かべる。

すると闇が、眩しくなっていく。

 

 

「百江さんには……、そうね、憧れてもらいたい」

 

 

なぎさは、にんまりと笑った。すると闇が一段と光り輝く。

 

 

「美樹さやかには嫉妬されたいかしら」

 

 

さやかはヤレヤレと首を振った。ほむらはフッと笑い、闇が強くなる。

 

 

「杏子には、認められたい」

 

 

杏子は座り込み、ポッキーをかじっていた。

ほむらの言葉を聞くと、ニヤリと笑った。闇はさらに強くなっていく。

 

 

「巴さんには、もっと褒めてもらいたい。フニャフニャになるまで」

 

 

マミもニヤリと笑う。闇が強くなれば、それだけ光も強く輝く。

 

 

「まどかの力になりたい」

 

「うん。じゃあ、まずはそれを一番最初に叶えよっか!」

 

 

他にも騎士と助け合いたいとか、神那ニコたちと一緒に戦いたいとかいろいろあるけど。

まずはやっぱり、まどかたちと一緒がいい。

ほむらは頷くと、まどかと呼吸を合わせた。

二人の光が交わる。

 

 

「くたばれェエエエエエエエエエエエエ! 星戒神・十死激烈波ァアアアアアアア!!」

 

 

ディザスターから青黒い十字が発射される。

一方でまどかとほむらは頷き、同時に手を離した。ほむらは目を閉じて笑う。その表情には焦りも、ましてや不安は欠片もない。

かつてないほどの安心感と充実感。

 

 

未知なる幸福、希望があったのだ。

 

 

――スターバースト。

それは矢ではなく、レーザーだ。光と闇は螺旋を描き、一つに交じり合って十字型の瘴気砲にぶつかる。

競り合いが始まった。眩い光で世界は覆いつくされる。

手塚はそれを見て、つくづく思う。闇が光を際立たせる。光は闇があるから、闇は光があるから。

彼女の中に、こんな輝きがあったのか。

今まで見たどんな光より、心を打った。

 

 

「ア――ッ、ぁぁあありえない!」

 

 

ディザスターは迫る螺旋を見て叫んだ。

 

 

「馬鹿なアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

螺旋は十字を破壊しながら突き進み、邪神を貫いた。

 

 

「ウォオ゛オ゛オ゛オオオオオオ!!」

 

 

コックピット内部が火花を上げはじめる。

激しい揺れだった。ディザスターの至る所が爆発をはじめ、腕が地面に落ち、外装が剥がれ落ちていく。

 

 

「馬鹿なァアア! そんなッ! そんなことがァアアア!」

 

 

まどかとほむらは、ゆっくりと弓を下ろす。

崩れ落ちる邪神。暁美の全てが暁美を祝福している。暁美の全てが勝利を望んでいる。

 

 

「嘘だ! 嘘だ嘘だッ! 嘘だァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

コックピットが火花で覆い尽くされた。

ホワイトアウト。直後、ディザスターが大爆発を起こし、粉々に消し飛ぶ。

 

 

「ギョェアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

内部にいたゼノバイターもまたはじけ飛び、首だけになったあと、それもまた粉々に消し飛んだ。

巻きあがる爆炎。ほむらはその中にホムラの幻影を見た。

二人は、頷き合う。『受け取った』と、理解したのはすぐだった。

 

 

「まどか……」

 

「いいよ。まだほむらちゃんが持ってて。どの道、フールに少し盗られてるから」

 

「でもッ」

 

「ほらほら、駄目だよ。言ったでしょ胸を張ってって。ほむらちゃんがわたしから力を抜き取ったおかげで今があるんだから」

 

「それは――……、ええ、そうね」

 

 

観念したのか。ほむらは頷き、変身を解除した。

まだもう少し、悪魔でいさせてもらうじゃないか。

まどかも変身を解除すると、ニッコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい力だったよ。いい物が見れた」

 

「!!」

 

 

爆炎が一気に収束する。

ハッとするまどかたち。そこに立っていたのは――

 

 

「アシナガ!」

 

 

魔獣、アシナガは手にダークオーブを持っており、ゼノバイターが死んだことで散布された瘴気を回収していた。

 

 

「魔獣は愛や友情をバカにしがちだが、神を殺していたのはいつだって心だった。口は嘘をつくが、心は嘘をつけない。たとえそれが歪なものであったとしても」

 

「ッッッ」

 

 

非常にマズイ展開であった。

もう誰も戦う力が残っていない。その状態で、攻撃が通用しないアシナガを倒すのは不可能だ。

しかしアシナガは瘴気を吸収し終えると、まどか達に背中を向ける。

 

 

「戦うのはやめておこう。ココはルールの外だ」

 

「え……?」

 

「ルールはコチラを守る檻でもある。ボクも破壊者や王様とは、まだ戦いたくない」

 

『………』

 

 

ジュゥべえはニヤリと笑う。賢い判断だと思った。

アシナガはそのまま消えていった。気づけば、空の向こうの亀裂は広がっていった。

暁美にとってこの世界は鳥かごだ。もっと広い世界を望んだのだから、もう必要ない。

ほら、空が割れて破片が落ちてきた。崩壊はもうすぐだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アァ、くそ! 本当に誰もいなかったんだな、この世界って」

 

 

杏子は不満げに厨房を蹴った。

せっかくお気に入りのラーメン屋にまで来て、なんで自分はやかんでお湯を沸かしているのやら。バカらしくなってしまう。

 

 

「まあでも、カップめんはまだ残ってて良かったよ。これで約束が守れる」

 

 

カウンターでは、まどかがニコニコと笑っていた。

空の向こうは完全に崩壊しており、まもなくココも崩れ落ちる。

 

 

『早くしろよ鹿目。ラーメンなんざ帰ってから食え』

 

『ごめんね。もうちょと待って』

 

 

ジュゥべえたちは外で待っている。

三分経った。杏子とまどかは並んで座り、カップ麺を啜り始める。

杏子のオススメの店があるから、一緒に行こう。そう約束したから、二人はココに座っているのだ。

 

 

「美味いな」「うん」

 

 

ズルズルズル。ズゾゾゾゾゾ。豪快に吸う音が聞こえてくる。

 

 

「なあ、アタシはどうなるんだ?」

 

「……杏子ちゃんは、この世界で、ほむらちゃんに再現された幻みたいなものらしくて」

 

「ふんふん」

 

「だから、一緒に消えちゃう」

 

「へぇ、そうなのかぁ」

 

 

ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ。ズルズル。

 

 

「――ッ、こんなこと、アレなんだけどさ」

 

「……うん」

 

「結構、楽しかったよ」

 

「うん」

 

「充実してた。一緒に戦うのも、悪くないかもな」

 

「そうだね。一人じゃできないことも、みんな一緒なら大丈夫。大丈夫……」

 

「ああ、かもな。恥ずかしくてあんま得意じゃないけど」

 

 

ズルズルズル……。

 

 

「なあ、まどか」

 

「ん?」

 

 

………。

 

 

「消えたくないんだ。アタシ」

 

「うん。わたしも、杏子ちゃんとこのままお別れは嫌だと思った」

 

 

杏子は少し申し訳なさそうに笑いながら、まどかを見た。

 

 

「連れてっておくれよ」

 

「うんっ! 一緒に帰ろう!」

 

 

まどかはスープを一気に飲み干すと、杏子の手をとって外に出た。

そしてシャルロッテの背中に飛び乗ると、空へ昇っていく。

 

 

「いいのか?」

 

 

北岡の問いかけに、ジュゥべえは無表情で遠くを見た。

 

 

『ま、いいんじゃね。もう今回は全部がメチャクチャだ。一個くらいメチャクチャが増えても仕方ねー』

 

「アイツはどうなる?」

 

『まあ、だから、コッチに来た参加者と同じになるんだ。要するにそこにいる佐倉杏子が、The・ANSWER軸にいる佐倉杏子に融合される』

 

「大丈夫なの?」

 

 

ほむらは思わずThe・ANSWERの杏子を想像してゾッとしてしまう。

メモリーベントを使うと全てを思い出すが、それとは違って、互いの記憶が交わるだけ。

しかしコチラの杏子に、The・ANSWERの杏子の記憶が混じるということは、それだけの苦痛が伴うはずだ。

 

 

「分かってる筈だ。鹿目も、佐倉杏子もな」

 

 

手塚が小さく呟いた。

ラーメン屋でお互いは何となく、理解していたはずだ。連れて行くリスクを。

杏子だってこの僅かな時間でまどかを何となく理解しただろう。そのまどかを嫌っている自分の姿も、何となく理解できるというものだ。

佐倉杏子はそこまで頭の悪い女ではない。

 

 

「それを分かった上で、アイツは着いてきたんだ」

 

「………」

 

 

ほむらは複雑な表情で頷いた。

とはいえ、悪い話ばかりではない。杏子が交わるということは、それだけ良心が芽生えるということだ。

今回の記憶が、佐倉杏子を仲間にできる鍵になりうる可能性が高くなる。本来、杏子は今回のように一緒に戦える魔法少女なのだ。

殺人ゲームを進める爆発力に選ばれただけであって、今のような姿が杏子なのだ。

それを取り戻せるかもしれない。ほむらには希望があった。今も杏子を見ると、まどかと楽しそうに話している。

 

 

「大変なこともあるでしょうけど、今は希望を見ておきましょう」

 

 

周りにいた人間は頷いた。

ジュゥべえはうんざりしたように上を見る。

 

 

『おい、なぎさ。あの上にある大きな穴、そう、あの光ってるのが出口だ。あそこに入れ。そしたらThe・ANSWERに戻れる』

 

「了解なのです!」

 

「あッ、その前に少しいいかな!」

 

 

真司が右手をあげて立ち上がる。しかしシャルロッテの上はバランスが悪いのか、落ちそうになっていた。

 

 

「立ち上がり方もバカなら、立った後もバカだな」

 

「うるさいな! アンタは黙ってろよ!」

 

 

北岡を黙らせて、真司はまどかの方へ移動する。

 

 

「どうしたの真司さん」

 

「いや、まどかちゃんじゃなくて、杏子ちゃんに言いたいことがあるんだ」

 

「ん? なにさ」

 

「キミは降りてくれ」

 

「え?」

 

「死なないと駄目だろ」

 

 

そこで真司は思い切り足を振るい、杏子を蹴り飛ばした。

 

 

「は?」

 

 

杏子の体が浮き上がり、シャルロッテから離れる。

 

 

「杏子ちゃん!!」

 

 

まどかは魔法少女へ変身。翼を広げてすぐに杏子を掴もうとするが――

そこで凄まじい抵抗感。振り返ると、マミが変身しており、まどかをリボンで縛っている。

 

 

「駄目よ鹿目さん! 危ないわ! もうすぐこの世界は崩れるのよ!」

 

「でも杏子ちゃんが! 離してマミさん! わたしは飛べるから!」

 

「だからよ! 佐倉さんを助けちゃうでしょ!」

 

「ッ!?」

 

「アイツは死なないと! 忘れたの! どれだけ私達を苦しめたか!」

 

「何を言って――」

 

「まどか。巴マミの言うとおりよ!」

 

 

ほむらは盾からロケットランチャーを取り出すと、それを発射して杏子を狙う。

 

 

「!」

 

 

杏子も変身。槍を盾に弾丸を受け止めるが――

 

 

「ぐあぁああああああ!」

 

 

爆発が起き、杏子は地面に叩きつけられる。

 

 

「みんな! どうしてッ!? なんで!!」

 

「佐倉杏子が嫌いだからに決まってるでしょ!」

 

「確かに杏子ちゃんは死ぬべきだけど! でも――ッ!」

 

 

は? まどかはゾッとして手で口を塞ぐ。今、なんて?

 

 

(まさか――ッ!)

 

 

まどかは杏子を見る。

倒れた彼女のそばに、人影が見えた。

シルヴィスは、激しい憎悪を表情に乗せて、まどかを睨んでいた。

 

 

「貴様等ァア……、調子に乗るのもいい加減にしてもらおうか」

 

「まさか貴女が――ッ!」

 

 

そう言えば、杏子はこの世界で両親と妹と、『祖母』と暮らしていたとか。

祖母? そんなものは聞いたことがない。

全て、合点がいった。シルヴィスが既に世界に紛れ込んでいたのだ。

 

 

「魔獣をココまでコケにしておいて、タダで帰ろうとはおこがましい」

 

「!」

 

 

そう言えば下宮は、シルヴィスの能力は強力な洗脳だといっていた。

まどかは中沢を見る。中沢はさやかと仁美と、楽しそうにおしゃべりをしている。

今、この今の状況でだ。誰も杏子を見ていない。

 

 

(乙女座で洗脳を解除すれば――ッ!)

 

 

スターライトアローを使う。まどかはそう思い、変身を解除した。

 

 

(ちが――ッ、わたしも操られてるの!?)

 

 

気づけば声が出ない。

そんな、そんな! ボロボロ涙が零れてきた。

 

 

「アタシはいいから! 逃げろまどか!」

 

 

杏子は泣いて沈黙しているまどかを見て、全てを理解した。

 

 

「本当のアタシは向こうにいるんだろ!?」

 

『でも! でもッッ!』

 

 

テレパシーなら使えた。まどかはコンタクトを取る。

 

 

「でもじゃねぇ! どうなんだジュゥべえ!」

 

『……まあ、お前の言うとおりだ』

 

「だったらいい! そのまま皆を連れて行け!!」

 

『ほーい』

 

『やめてジュゥべえ!』

 

「やめなくていい! まどか、いいか! 別にいいんだ。もう十分だ!」

 

 

杏子は笑ってみる。泣きそうだったが、まあ作り笑いくらいはできた。

 

 

「アンタが連れてってくれるって言ってくれただけでいいんだ!」

 

『嫌だ! わたしはやだよ!!』

 

「じゃあ……、だからッ、また新しい約束! 今度はアンタの番だ!」

 

 

シルヴィスは杏子の髪を掴んで引き起こすと、腹部を殴り、頬を打った。

それでも杏子はまどかだけを見て、叫ぶ。

 

 

「アタシを助けてくれ! また友達にしてくれ!」

 

『ッ!』

 

「向こうのアタシを助けてくれ! 絶対だぞ! 破ったら承知しねぇからな!」

 

『やだ! やだよ杏子ちゃん! 待ってて! 今助けるから!』

 

 

しかしジュゥべえはなぎさに指示を出し、どんどん空の穴へ向かう。

 

 

『待って! 待ってよジュゥべえ! ねえ離してマミさん! ねえ! やだ! やだよぉおッッ!』

 

 

そのまま、まどか達は穴の中に消えていった。

杏子は少し涙を浮かべ、ニヤリと笑う。

直後、腹に風穴が開いた。触手が皮膚を突き破っていたのだ。

 

 

「ガッ!」

 

 

口から血が溢れる。

振り返ると、触手はシルヴィスの腕が伸びてできたものだと分かった。

 

 

「楽に死ねると思うなよ」

 

 

メキメキとシルヴィスの姿が歪なものへ変わっていく。

落雷が落ちた。帯電した状態で、変形は尚も続く。

 

 

「痛覚遮断を洗脳で封じる。お前には地獄の苦しみを味わってもらう」

 

 

電球のような形だった。

シルヴィスジェリー。その正体はミラーモンスター、『ブロバジェル』の力を取り込んだ魔獣であった。

帯電するアームを構え、ゆっくりと杏子へ向かっていく。

 

 

(クソ――ッ、ここまでか……)

 

 

せめてもっとまともに死にたかった。

穴だらけの世界で、彼女はゆっくりと目を閉じる。

せめてこちらの世界のゆまたちと、再会できるように祈った。

 

 

穴だらけの、世界で

 

 

「!」

 

 

ブロバジェルは腕を杏子の腹部から引き抜くと、停止する。

倒れる杏子。おかしな音が聞こえる。

ビィュォン、ビィュォン、ビィュォン――

 

 

(なんだ?)

 

 

ビィュォンビィュォンビィュォン……

そこで異変が二つ。一つは倒れている杏子の向こうから、誰かがやって来るのが見えた。

腰が光っている。アレは――ベルト?

そしてもう一つ。杏子が死んでいた。腹に穴が開いていたのだから仕方ない。ソウルジェムも無いのだから仕方ない。

そうだ。杏子は『人間』だった。

 

 

(なんだッ、なぜ佐倉杏子が死――ッ)

 

 

カチッ!

ヴゥオオオオオオオオオオオオン!

 

 

「!?」

 

 

人影が、光と共に、その姿を変える。

それは騎士ではない。それは魔法少女ではない。それは魔獣でもない。

まるでそれは――……、神様のように神々しく。

だからだろうか。杏子のもとに現れたのは。

 

 

「ッ!」

 

 

ブロバジェルは雷光と共に消え去った。

イレギュラーには深入りしないほうがいい。

ディケイドとは違う。報告にあったジオウとも違う。全く正体不明の存在がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブワァアア!」

 

 

ビクンと震え、体を跳ね起こす

顔を触る。次は体を見る。腕を触る。

 

 

「な――ッ!」

 

「気づいたかい? 彼岸も朝には逆らえない」

 

 

ゼノバイターはしばし沈黙し、椅子に座っているアシナガを見た。

 

 

「なんで生きてる……!」

 

「一つは実験。拡散した瘴気さえ集めれば復元ができると分かった。まあ、破壊されてすぐだったのが幸いだったか……」

 

「お、おお! そうか!」

 

「ただ漏れ出た分も多い。キミ、前よりずっと弱くなったみたい」

 

「どうだっていい! これでまたクソッタレな鹿目たちをブッ殺せるチャンスが増えた!」

 

「まあ、でも、余計なことはするな。キミには糸を埋め込んである。ボクに逆らったり、ボクの意思一つでお前は終わりだ」

 

「……ッ、なにが目的だ」

 

 

アシナガはダークオーブを取り出す。

 

 

「ここに瘴気を集めてる。それを手伝ってくれ」

 

「瘴気?」

 

「ああ。負を活性化させるんだ」

 

 

アシナガはテレビを見ていた。

映っているのは過去のデータだ。暁美ほむらがワルプルギスに挑んだときのものだ。

どうにもアシナガはそれが引っかかっていた。なぜ、カウントダウンに3の文字がなかったのか。

そして何故、インキュベーターは3があったと答えたのか。

 

 

「ゼノバイター、後で報告を受けておけ。魔王と呼ばれる存在が現れたらしい」

 

「ハァ?」

 

 

虚心星原。魔王。亀裂。龍騎。ディケイド。

オーロラ。亀裂。別の世界として見られる。龍騎の世界。鹿目まどかの世界。

破壊。融合。お茶会世界。世界、世界? 世界――……。

 

 

「!!」

 

 

その時、アシナガは思わず椅子から立ち上がった。

 

 

「そういうことか……ッ?」

 

「あ? 何が?」

 

「シルヴィスが言っていた。また謎の存在が現れたらしい。そして佐倉杏子が人間に戻ったと」

 

「は? おいおいおい! 何言ってんださっきから!」

 

「魔法少女が人間に戻るということはありえるのか?」

 

「知るかよ! インキュベーターが何かしたんじゃねーのかよォ?」

 

(ゼノバイターは知らない。つまりアレは、ゼノバイターにとってもイレギュラーだったわけだ)

 

 

未知は未知。無い訳じゃない。知らないだけだ。

アシナガはニヤリと笑う。そういうことなのかもしれない。

 

 

「なるほど。だから……、3が無かったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは辛かったね。でも無事で本当に良かった」

 

「本当に、えらいことになっちもうたな……、本当、マジで……」

 

 

サキとニコに挟まれ、まどかは道を歩いていた。

無事に見滝原に戻れた彼女は、サキたちに事情を説明する。しかしその表情は暗かった。

 

 

「落ち込むなよ。仕方なかったことさ」

 

「でも……」

 

 

そこでまどかは目を見開く。

サキとニコも、彼女の視線を追って、すぐに立ち止まった。

佐倉杏子が前から歩いてきたのだ。

 

 

「杏――!」

 

 

走るまどか。しかしそこで立ち止まる。

これは虚心星原の佐倉杏子ではない。The・ANSWERにいる佐倉杏子だ。

今、話しかけていいのか。まどかが戸惑い、立ち尽くしていると、目の前に拳があった。

 

 

「!!」

 

 

まどかは殴られ、地面に倒れる。

ザワつきはじめる周りの人々。サキとニコもすぐにまどかへ駆け寄る。

 

 

「な、何を!」

 

「邪魔だって言ってんだろうが。だからだよ」

 

 

杏子はそれだけを言うと、さっさと歩き去った。

 

 

「だ、大丈夫かまどか!」

 

 

サキはすぐにハンカチでまどかの鼻を押さえる。

まどかは血を流しながら、しばらくは呆然としていたが、やがて大丈夫だと声をあげた。

 

 

「ねえキュゥべえ」

 

『どうしたんだい、まどか』

 

「杏子ちゃんにメモリーベントを使えば、虚心星原のことも思い出してくれるの」

 

『もちろんだよ。でも改めていうと、メモリーベントは対象の了解がなければ』

 

「わかってる。わかってるよ。ありがとね」

 

 

テレパシーを切るまどか。

 

 

「大丈夫。行こう、サキお姉ちゃん。ニコちゃん」

 

「だが……ッ、あぁ、いや。分かった」

 

 

サキはまどかの瞳の中に確かな決意を見た。

まどかは一度も振り返らず、まっすぐに前を向いて歩き出す。

 

 

(待っててね杏子ちゃん。わたし、諦めないから)

 

 

 

そして、それをビルの屋上で門矢士が観察していた。

 

 

「大変だねぇ」

 

 

拳を見る。何かを思い出すような。まあいい。士は腕時計を確認する。

 

 

「あと10秒ってところか。9……、8」

 

 

鹿目まどかを、ショーウインドーの中にいる白いドレスを着た少女が悲しげに見送っていた。

 

 

「さん、にぃ、いち」

 

 

士は、ニヤリと笑う。

 

 

「ボカン」

 

 

それはまさに一瞬。

刹那、空が、砕け散った。

そしてまた元通り。誰も、何も気づいていない。

 

 

 






エリザもいいけど、サキが沢城さんでも良かったよな? な? お前ら。
次回からは、特別編。プロローグは近いうちに更新予定。
結構、挑戦的な内容なので、温かい目で見ておくれやす(´・ω・)
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