おぱんちゅは古龍より強い   作:指ホチキス

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おぱんちゅは錆鋼龍より強い

ドンドルマの大老殿。

珍しく人が少ない内部では、鎮座する大長老が非常に嫌な顔をしていた。

 

眼下で暴れるのは、縄でぐるぐる巻きにされた幼女。

否、大長老は正体を知っている。これは、幼女に見える成人女性だ。

そのミノムシのような姿でビタンビタンと床を跳ねる幼女にしか見えないソレは、ギルド内でも相当な高位に座する大長老の、数少ない悩みの種だった。

 

 

(あん)…今度は何をしたんじゃ…」

「何もしてないよ!?ただちょっと転んだ拍子に近くにいたハンターに回復薬のビンぶん投げちゃったら、頭に直撃してピュッと血を出して気絶したからゲラゲラ笑っただけだって!!」

「……正気の沙汰では無いな」

「今更だってー…もーほどいてー?ボクの肌が傷付くんだけどー」

 

 

ごろんごろんと床を転がって跳ねる様を見て、一体誰がこの人物の素性を察せるというのだろう。

 

女の名を“杏”。職業はハンター兼ギルドナイト。

趣味は露出と悪戯という、変態だった。

 

器用に体のバネだけで立ち上がった杏を見て、大長老がため息を吐く。

 

 

「…今回もお主に依頼がある」

「んー何?また古龍でも来た?」

 

 

このドンドルマには、何故か定期的に古龍が襲撃してくる。

故に人々は迎撃用に戦闘に適した建物を築き、何時しか防衛線となり、そして現在では古龍が街へ被害を及ぼさないようにするための重要な要となっているのだ。

そして今回も、杏の予想通りである。

 

 

「そうだ」

「今回は何?クシャ?テオ?変わり種でナズチとか?」

「錆鋼龍だ」

「……ゴメンもう一回」

「錆鋼龍だ」

 

 

ぐったりとした様子で床に転がった杏が、暗い口調でぼそぼそと呟く。

 

 

「やだあ…超絶面倒な個体じゃん……」

 

 

錆鋼龍。俗称、錆びたクシャルダオラ。

体の金属質な鱗や甲殻が酸化して錆び、脱皮直前の赤茶けた錆に覆われた個体である。

脱皮前の硬い表皮によって自由に動けなくなるなどの特徴があるが、代わりに狂暴性が高い。

 

 

「もうじき飛来するらしい。頼んだぞ」

「準備する間も無しか…とんでもないなぁ、全く」

 

 

ビタンビタンと抗議に跳ねる杏だが、大長老は申し訳なさそうに息を吐くばかりだった。

杏は仕方がないと割り切るも、少し困り事があった。

 

今回はパーティーメンバーが仕事で不在な上、愛用する武器と防具を整備に出してしまい、使うことが出来ないのだ。

ソロで、しかも使い慣れていない装備で戦うのは少し辛い。

 

 

「……時間かかってもいい?」

「討伐、撃退出来るなら時間はいくらかかってもいい」

「しょうがないなぁ…受注してあげるよ」

 

 

杏は、大きくため息を吐いた。

 

 

「ただ、何しても怒らないでね」

 

 

大長老は、久しぶりに戦慄する。

杏がそういう時は、大体碌な事にならないからであった…

 

 

     ○○○

 

 

――――緊急クエスト 対錆鋼龍防衛作戦―――――

 

目的地 戦闘街

成功条件 錆鋼龍の討伐、又は撃退

失敗条件 報酬金が0になる、又は死亡 

特殊条件 無し

制限時間 無制限

報酬金 30300z

契約金 3100z

主なモンスター 不明

 

――――クエストを開始します――――

 

 

     ○○○

 

 

「さて」

 

 

キャンプ地点で武器の柄皮の確認をする。

防具は着用無し。身に着けるは黒の際どいショーツのみだ。

ブラなどいらない。胸は垂れるほど無いのだし、擦れる布も無いので乳首を保護する必要性もあまりない。

 

 

「よし」

 

 

よしどころではない。古龍を相手取るのであればハンター全員が「否だろバカ」と首を振るだろう。

杏は大きく伸びをした。

背負う武器はゲリョフランキスカ改。

クシャルには毒。常識だ。

 

 

「さーてと」

 

 

ポーチの中をゴソゴソと漁り、“粉の入った小瓶”を取り出し易い場所に、そして折り畳み式の小さなタルの折り畳み部分を確認する。

 

杏の戦い方はレンキンスタイル。

この時代では、未だ発展途上の闘い方だった。

 

タルに物質を入れ、マカ麹という物体の性質を変化させる粉をぶち込んでタルを振る。

振った熱により反応した物質は性質が変化し、色々な事に使うことが出来る。

 

そんなスタイルを使いこなす者は少なく、大老殿でもレンキンタルを扱えるのは杏だけであった。

 

 

「ヤッバイテンション上がってきたぞ…!!」

 

 

静まり返った街で、たった一人で狩りに挑む。

その事に興奮している訳では無い。

静まり返った街で、誰一人に咎められる事無く露出が出来る。

その解放感に、身を震わせた。

 

既に錆鋼龍は戦闘街に襲撃してきている。

証拠に雨は降っていないが、天候は悪く、強風だ。

 

 

「んま、今回は何しても怒らないって言ったからね」

 

 

ポーチに入っているそれらを指で触りながら、撃退エリアへ足を進める。

緊張感は無い。

杏には、負けない自信があった。

 

 

     ○○○

 

 

永きを生きた錆鋼龍は、様々な狩人を見てきた。

屈強な人間の男が強靭な装備を身に着け、肉厚な大剣を背負って挑んできたこともあった。

華奢な人間の女が起動を損ねさせずとも十分な硬さを持った装備に身を包み、華やかな双剣を向けてきたこともあった。

時には、戯れに遭遇した人間の子を殺めたこともあった。

 

ただ―――

 

戯れで死んでしまう筈の人間の子が、防具どころか何も身に着けず、そして武器を向けてくる光景には流石に困惑するしかなかった。

何のつもりかは分からない。

ただ、一撃で死んでしまう程度の存在をいちいち気に留める事は無い。

すぐに死ぬ程度の存在に、苛立ちを叩き付けるようにして鼻息を噴き出した。

 

……ガンッ

 

しかしその奇妙な人間は死ななかった。

見えぬ筈の鼻息を揺れるように躱し、明確に首を断ち切るような動きで剣を叩き付けてきたのだ。

 

―――ソレを矮小な存在では無く、敵だと認識した。

 

 

     ○○○

 

 

……オイオイオイ、硬くなぁい!?

 

錆鋼龍の表皮は永い時を経て硬質化した、最終的な状態のようなものだ。

脱皮直後は柔らかい筈だが、逆に脱皮直前は最も硬い。

お陰で、刃もまともに通ってはくれやしなかった。

 

 

「くっそ…錆びた奴とは一度も戦った事無いけどこんな違うかぁ…!?」

 

 

正面より吐き出される空気弾を踊るようなステップで躱して距離を縮め、前足に右、左と剣を叩き付ける。

硬い岩を打つような感覚に指が痺れ、若干表面を削るのが目に見えた。

刃から滴った毒が付着するのが見えるが、傷には至っていないせいで未だ効果は無い。

 

前足で振り払うように攻撃されたので、スライディングするように体を横にして回避。

 

 

「…っ、おっとぉ」

 

 

体重が軽いせいなのか、風によって体勢が崩れたのでバックステップ。

距離が出来たのでまず一回目。

 

折り畳みタルを展開。

若干汚れた布切れとマカ麹をぶち込んだ。

 

 

「使い古したパンツのリサイクルに役立てゴラァ!!」

 

 

その布は、杏が履いていたパンツの切れ端。

それは、恋人がいなく、性的欲求の強い杏の被害者だった。

 

まずはレンキン速振薬の生成。

薬品とはいえ、これは液体では無く固体、それも粉だ。

タルの内部に付着して発熱性が上昇し、そしてどういう訳か重量が軽減される。

それによって反応しやすく、タルが振りやすくなるという利点があるのだ。

更に、その粉には疲労が軽減する効果が含まれている。

 

しかしその反応をさせるには、結構振らなければいけない。

当然、その間は隙だらけである。

 

 

「グォァ!」

 

 

挑発にもとれるその行為に、錆鋼龍は空気弾を吐き出した。

しかし杏はタルを抱えるようにして前転して回避。

必死に振り続ける。

 

前傾姿勢になり、突進を始めようとする錆鋼龍に、杏はまず動きを止めた。

次の動きを読まれないようにするためである。

冷静に、距離を詰められる間に左右のどちらかに避ければよいのだ。

 

そして横を通り抜けた錆鋼龍を尻目に、タルの横を開けて内部に空気を取り入れる。

これで、反応完了。

レンキン速振薬、もといパンツ粉によってタルを振り易くなった。

 

 

「よっしゃ次はコイツだ!」

 

 

ポイっと性欲の被害者となったパンツの切れ端を放り込んで、麹と反応させようとする杏。

しかし錆鋼龍も、その行為に対して何も感じない訳では無い。

軋むような音を上げる翼を広げ、宙に飛んだのだ。

 

 

「おっふ…風つっよ」

 

 

顔に吹き付ける風に、速い瞬きを続ける。

パンツ粉によって扱いやすくなったタルを振る動きはやめず、しかし錆鋼龍の動作からは目を逸らさない。

拭き付ける風が地肌を撫で、思わず体を震わせた。

 

 

「ん…」

 

 

寒さでは無く、快感で、だが。

強烈な肺から繰り出される猛烈な空気弾が、連続で繰り出される。

 

躱し方は読まれない様に一定にしない。

跳ねる、スライド、ステップ、前転―――

洗練された動きとは真逆な動きだが、効果はある。

実際に、当の錆鋼龍も若干の戸惑いを見せていた。

 

そして、それが出来上がる。

 

 

「喰らえオラァ!!」

 

 

タルの蓋を開けて空気を取り込めば、繊維に熱を秘めた麹が絡み、麹同士が擦れることによって入ってきた酸素と反応して発火。

跳ねるような動きで飛び出したパンツが、杏を目で追っていた錆鋼龍の顔面にヒットした。

そして、

 

――――ドォンッ!!

 

着弾した衝撃によって、パンツが爆裂。

錆鋼龍の顔に、強烈な衝撃と焼ける痛みが襲う。

揺さぶられた三半規管が平衡感覚を狂わせ、翼の制御が乱れた。

墜落した所を狙い撃つように、杏が片手剣を抜く。

 

ガイン、ガインッ!!

 

 

「硬い…!硬すぎない!?」

 

 

表面を削る事しか出来ない剣に、杏はため息を吐いた。

パンツを喰らった場所は錆が若干だが弾け、下の銀色の皮膚が露出している。

威力から考えて、どうやら剣よりレンキンバズーカ(パンツバズーカ)の方が役立ちそうだ。

 

―――鍛冶屋の鍛えた剣が、性欲の被害者である哀れなパンツの切れ端に敗北した瞬間だった。

 

タルにパンツをぶち込み、振ることに専念する。

二つまでなら振る感覚が分かるので、哀れな性欲の被害者たちを次々に反応させていく。

 

タルから飛び出していく、燃えたパンツ。

未だ立てずにいる錆鋼龍に当たるたびに爆発し、焦げた匂いを残して散っていくパンツ。

哀愁を漂わせながら、爆発後に燃えて消えていくパンツ。

 

―――その光景は、誰が見ても正気を疑う光景だった。

 

暫くすると頭を振り、飛びずさる様にバックステップによって距離を取る錆鋼龍。

その先で、杏を睨むその瞳は激情を帯び、吊り上がる目。

 

 

「オ゛ォオオオオオオ――――ッ!!!!」

 

 

黒き風を纏い、風貌に激昂を滲ませる錆鋼龍。

何時しかぽつりぽつりと降り始めた雨が地と、そして龍と狩人を濡らす。

その強風に乗る様に翼を広げて滑空する錆鋼龍に、杏は笑った。

 

 

「ボクのパンツは雨程度じゃ防げないよ…ッ!」

 

 

眼前に迫る錆鋼龍に、杏は振っていたタルの蓋を開ける。

雨は水だが、滝のように常時火を濡らす訳では無い。

空気が入り込むと同時に、跳ねるように飛んだパンツ。

その繊維に絡んだ麹は酸素と反応して燃え、そして、濡れても熱が消える事は無い。

濡れては乾き、濡れては乾き、そして燃え。

 

頭を狙っていたが、少しズレて勢いに乗っていた錆鋼龍の背中に着弾。

その威力に、錆鋼龍は高度を落とされ、地面を削るようにして滑った。

 

 

「ハッハッハァ!!ボクのパンツを舐めんなよ!!?」

 

 

雨に濡れて燃え切らずに残る焦げたパンツの切れ端が、どこか寂しげに笑ったような気がした。

ポイポイとタルの中に物言わぬ性欲の被害者たちをぶち込んでは振って準備をする杏。

しかし錆鋼龍も馬鹿ではない。

そのパンツの危険性に気がつき始めたのか、隙を見せない様に飛び、遠くから空気弾を吐き出すようになったのだ。

 

ある程度の差はあれど、発射するパンツの射程距離は短い。

距離を開けられては、狙撃は当然無理だし、着弾も出来ない。

 

舌打ちをしながら、杏はタルをどうにか脇に抱え、そのまま走り出した。

距離を詰めれば、パンツによってダメージを与えられる。

猛攻を避けきれば、奴を追いつめられるのだ―――!

 

 

「ぬん、ぬん、おっひょう!!」

 

 

地面を這うようにカーブしてくる空気弾をハードルのように跳んで躱し、後ろへとゆったり下がっていく錆鋼龍を追う。

タルは揺れるが、内部の熱は雨によって過度には上がらない。

 

飛び込む様にして距離を縮めてまず一撃。

雨にも負けず、風にも負けず、健気にもタルから燃えて飛び出した哀れなパンツの切れ端。

最後の雄姿を見せようとする哀れなパンツは、その危険性を理解した錆鋼龍が吐き出した空気弾によって空中で爆発。

哀れなパンツの切れ端の最期は、何の成果もあげられないあっけないものだった。

 

 

「うぅ…流石に正面からじゃ難しいか…んじゃこれならどうだァ!?」

 

 

パンツの切れ端を二つぶち込み、勢い良く振る。

そこに空気弾をぶつけてこようとする錆鋼龍に対し、ニヤリと笑った。

反動で僅かに動きを止めた錆鋼龍の足下に飛び込む。

上を向けば、強風で顔が歪むが、この近距離なら―――!!

 

 

「喰らえッ!!」

 

 

パンツをタルより花火のように撃ち上げた。

強風によって勢いは無くなってしまうが、それでも戻ってくるほどの勢いの弱さでは無い。

予測される爆風は片手剣の盾で防ぎ、そして着弾を確認。

体が震えるほどの衝撃と、耳が麻痺する轟音。

やはり近距離では、返って来る被害がひどい。

 

それでもパンツは、確かに錆鋼龍の動きを乱した。

腹下の錆びた皮を吹き飛ばし、銀色の皮が見える程の威力。

パンツを何度も喰らっては、流石の錆鋼龍と言えどただでは済まなかった。

 

翼の制御が乱れ、倒れた錆鋼龍。

杏は素早い動作でタルにパンツを入れ、振り、そして錆鋼龍の顔に発射した。

 

 

「グ、ァ…ッ!!」

 

 

爆発音とともに、初めて赤い色が弾ける。

偶然にもその時に爆発したパンツの色は紅だったが、勿論、パンツの色ではない。

それは、硬い皮に守られていた錆鋼龍の血だった。

 

じんわりと、雨に濡れて広がっていく血。

頬が割れたように血を流す錆鋼龍に、ようやくかと笑った。

しかし、まだ浅い。

硬さの目安が分かったのだ。次に狙うのは…脚がいいか。

 

脚ならば剣でも狙いやすい。

積極的にパンツをぶつけていこう。

 

立ち上がりに回転を入れて牽制する錆鋼龍から距離を取り、飛び上がるのをただ見ている訳も無く、素早く近寄ってパンツを撃ち込む。

怯ませることは出来なかったが、前脚の鱗は剥げた。

そして、苛立ったように錆鋼龍が大きく息を吸う。

 

それは、直感だった。

慌てた動きだった故に、ポーチ内から幾つものパンツの切れ端が地に落ちるが、気にすることは出来ない。

 

―――そして、それが吐き出される。

 

それは、黒い竜巻。

禍々しい、全てを吸い込むような黒の色。

それが、杏が今までいた場所にあった。

 

先程落としたパンツを巻き上げ、風の刃によってあっという間にそれらをボロボロにしていく黒の竜巻に、杏は恐怖した。

巻き込まれては、確実に無事では済まないだろう。

距離を取るようにじりじりと動き、タルを振る事に専念するしかない。

 

と、竜巻を突っ切る様にして錆鋼龍が滑空してきた。

予想外の攻撃に、咄嗟に片手剣の盾を翳す。

 

―――硬質な音を立て、遥か後方へと吹き飛ばされる杏。

ゴロゴロと転がって衝撃を逃がすも、軋むような痛みにくぐもった声を漏らす。

 

 

「くぅ…」

 

 

パンツの切れ端を落としてしまったのは結構痛い。

あとどれぐらいだろうか?無駄撃ちには気をつけなければ。

 

立ち上がると錆鋼龍から目を逸らさずタルにパンツをぶち込み、麹を投入。

効果が切れ始めていたパンツ粉、もとい速振薬を補充し、更にパンツをぶち込んだ。

 

と、先程の一撃に味を占めたのか、今度は一転して近接攻撃を仕掛けて来る錆鋼龍。

こちらにとってはありがたい。

回転して鞭の様に叩き付けてきた尻尾を前転回避。尻にパンツを発射した。

 

尻を収めるのではなく、尻を爆破したパンツは哀しげな雰囲気で散っていく。

しかしその成果は大きい。

後脚が、ガクンと崩れたのだ。

衝撃にバランスを崩したのならありがたい。

 

銀色が露出した後脚に、飛び掛かって剣を叩き付けた。

多少硬いが、切り付ける事には成功。

毒が滲み、連撃を見舞えば傷の周りが薄っすらと青くなる。

 

ここでようやく、毒が効いてきたのだ。

 

立ち上がる頃には纏う風が弱まり、若干動きが鈍くなっている。

見れば後脚の出血が止まっていない。

あそこから徐々に体力を奪えるだろう。

 

しかしそれもほんの少しの間だ。

毒は時間で分解され、次第に効かなくなっていく。

チャンスは、今だ。

 

パンツをタルに入れ、素早く振る。

鈍った動きの振り向いた頭に狙い、パンツを発射した。

 

―――着弾。

 

 

「ゴッ…!!」

 

 

漏れるような息を吐き、意識が朦朧としているのかフラフラと動く錆鋼龍。

ここで杏は、追撃を開始した。

 

滑る様に近づき、首、前脚、腹、後脚の銀の部分を引き裂くようにして剣を刺していく。

勢いよく吹き出る血が、その傷が深い事を教えてくれていた。

傷口周りは青くなるほどに毒が染み、そして錆鋼龍から体力を奪っていく。

 

ここで錆鋼龍は痛みからか、大きく吠えた。

 

 

「グ、ォ、オ゛ォオオオォ―――ッ!!」

 

 

耳を塞がざるを得ない轟音。

右からこちら腹辺りに振り抜かれる前脚をバックステップで咄嗟に躱し、転がり、タルの中にパンツをぶち込む。

錆鋼龍は体力が無いのか、翼はだらりと下がり、飛ぶ事は当分無さそうだ。

 

しかし空気弾のキレは何段か増している。

躱すのに一苦労するほど速く、そして鋭い。

先程からどうにか紙一重で躱しているが、それでも細かな切り傷が肌に何本か走っている。

何時しか雨は豪雨へと変わり、体の体温を奪っていた。

 

 

「く、そぅッ!」

 

 

近付いてパンツを当てる事すら難しい。

パンツが一発当たるも、よろける事は無かった。

ただ、錆鋼龍の脚が震えているのを確認。

もう、立っている事すら辛そうだ。

 

あと少し―――あと少し―――!!

 

 

ガィンッ!!

 

 

「あッ!?」

 

 

油断していたのか、躱す際に引っ掛かるようにして空気弾に剣が持っていかれてしまった。

弾き飛ばされた剣は、壁に叩き付けられ、そして割れてしまう。

残る盾では、傷を抉るに適さない。

 

―――こうなれば、もう頼るのはパンツしか無かった。

 

 

「ぐぬぅううああああ!!」

 

 

肩の筋肉が疲労してきているのか、軋みを上げているが気にしている余裕はない。

パンツをタルにぶち込み、ただひたすらに振る。

 

手探りで確認した残るパンツの切れ端は、タルの中身を含めて4つ。

外す訳にはいかない。

 

しかしここで、錆鋼龍の雰囲気が変わった。

纏う風は黒の色を取り戻し、瞳は激情を押し殺した冷静さを宿す。

生物の死に際は、最も危険な時間帯。

ここからが、錆鋼龍の本気モードだった。

 

 

「やってやるよ…ッ!!」

 

 

振るわれる腕を潜り、吐き出された空気弾を躱して接近。

しかし纏う風に近付くことが出来ず、バックステップでタイミングを計る。

 

唾のようにノーモーションで吐かれる空気弾を掻い潜り、回転して尻尾を叩き付けようとする錆鋼龍の動きに合わせて横にスライド。

尻尾の届かぬ範囲から、翼に向けてパンツを発射。

豪雨にも負けず、翼に着弾した二つのパンツは立派にその役目を果たして散っていく。

 

そして翼がボロボロとなるも、錆鋼龍は怯まない。

杏は引き攣った顔でタルにパンツをぶち込んだ。

 

対する錆鋼龍は前傾姿勢。つまり突進が来る。

 

躱すことは出来ない。

 

故に勢い良くタルを振り、そのタルを腹に抱えて当たるインパクトの瞬間に後ろへ飛ぶ。

そして、衝撃が背から抜ける痛みに呻きながら蓋を開いた。

 

前に伸びた頭に、パンツが着弾、爆発する。

どこかからゴキリと嫌な音がしたが、口から血を零しながら未だ錆鋼龍の動きには死が見えない。

―――そして、濁った音を立てながら息を吸い込む錆鋼龍。

 

禍々しい黒の竜巻が、豪雨の中に放たれた。

 

水を巻き上げ、湿った土を巻き上げ、パンツの燃えカスを巻き上げ、全てをズタズタにしていく。

吸い込まれそうな風に、足に力を入れて耐え忍ぶしかない。

そして最悪な事に、豪雨と竜巻によって錆鋼龍を見失った。

 

……何処だ?何処にいる…?

 

視界は非常に悪い。

耳は風と雨の音しか聞こえない。

匂いは鉄の匂いと、そして濡れた土の匂いが充満している。

肌の感覚は雨に強く打たれて麻痺。

特徴的な気配は、グシャグシャの五感が邪魔して分からない。

 

そして―――

 

それは、あの時と同じだった。

動かなかった筈の翼を動かし、竜巻の向こうから落ちるように滑空してきた錆鋼龍。

その速度は目に追う事すら困難で。

生身で喰らえば弾けてしまいそうな威力の滑空に、杏は―――

 

 

 

 

 

既に、タルの蓋を向けていた。

 

 

「喰らえぇああああァッ!!!」

 

 

発射された最後のパンツに、とてつもない速度で突っ込む錆鋼龍。

頭に当たったパンツはまるで顔を包むようにして爆破。

そのまま制御を失った錆鋼龍は、壁に叩き付けられた。

 

凄まじい音と衝撃に、戦闘街が誇る壁に大きなヒビが入る。

 

 

―――しかしそれでも、錆鋼龍は起き上がった。

片目は血で濁り、翼の骨格や足が折れ曲がっていても。

それでも錆鋼龍は、立ち上がる。

 

杏を見据えて震える口を開け、途切れ途切れに息を吸い、血が混ざる空気で肺を満たし、そして―――

 

 

「…じゃあね」

 

 

全裸の杏が放った、黒のパンツが轟音を立てて竜巻を吐こうとした顔で爆破。

ゆっくりと、そしてグラリと体が揺れ、重い音を立てて錆鋼龍が斃れた。

 

杏が晴れていく空を見上げ、濡れた裸体のラインを艶やかに指でなぞる。

腰、腹、胸、鎖骨、首、顎、そして唇へと触れ。

 

 

「あぁ、楽しかったよ」

 

 

投げキッスを動かない錆鋼龍にすると踵を返し、大老殿へと歩いて戻る。

しばらく歩き、そして大老殿へと続く階段を一歩一歩上がり、そして奥に座する大長老と目を合わせた。

そして、その幼い裸体を晒すように大きく手を広げ。

腹から、堂々と一言発した。

 

 

「―――ボクのパンツは古龍をも殺す」

 

 

――――クエストを達成しました――――




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