春の風が頬を撫で、大長老は大太刀の鞘を撫でる。
普段ならばハンターの声が聞こえる大老殿は、静まり返っていた。
「…さて」
大長老の眼前を囲むようにして立つハンター達が、大長老の厳格な声に背筋を正す。
ただ、姿勢は正せても、大長老の眼前にあるそれに対する奇妙な物に向ける目は正せなかった。
ハンター達の中心。
そこでは、パンツ一丁の少女が首ブリッジをしていた。
腕を組んで見事な反りを見せるそれは、威厳すら感じさせ。
「申し開きはあるか?」
「無いね!!」
問いかけに対し、ブリッジの足がガバァと開いた。
大老殿専属ハンター兼ギルドナイト所属、杏。
たった今、その肩書きに、“先日の猥褻事件の犯人”が追加されたところである。
事件発生は昨晩未明。
酒に酔った杏が、近くを通りがかった男性ハンターの股に突如手を突っ込み、暴言を吐いて心を傷つけたという。
目撃証言多数。自白は3秒であった。
「ふむ…そうか」
「ボクはショタみたいでかわいいね!って言っただけだよ!?褒めたのになんで!?」
「成程、理解した。故に裁きはお主らに任せよう」
「お!?やるかお前ら!?縄を取り出してどうした!亀甲縛りか!!?感じちゃうぞ…って手足ぐるぐるに縛っちゃうの?これじゃ縄抜け出来ないしそこからの階段転がしはらめぇぇえええええええ―――…!!!!」
仲間の無念を晴らすべく、大老殿のベテランハンターによって、中央広場へと繋がる長い階段に転げ落とされる杏。
今日も今日とて、異常者が一名の大老殿である。
○○○
「さて」
さも平然と縄抜けをしてブリッジのままカサカサと階段を登ってきて帰ってきた杏を見て、大長老が改めてと口を開く。
「貴殿に依頼がある」
その言葉に、意味もなくブリッジのまま跳ねるという気持ち悪い動きをしていた杏が真面目な顔をして近寄ってくる。
当然、ブリッジのまま、だが。
「はぁ…何?どうせまた面倒なのでしょ?」
その言葉に、大長老が皺の刻まれた顔を苦渋で歪める。
「ギルドクエスト管理局からの指名依頼である」
「えー…ギルドクエストォ?かったる…」
端的に言えば、ギルドクエストとは未知の樹海の調査を行うクエストである。
出現する竜の強さから高難易度のものが多く、加えて報酬と環境は最悪。
普通のハンターにとっては、あんまりにもなクエストである。
それでも、杏は断れない。
大長老が杏の事を、“貴殿”と呼んだから。
「ボクの兼業に依頼ね」
杏が貴殿と呼ばれたとき。
それは“ギルドナイトである杏に”依頼という事だ。
「未知の樹海の上空で、快晴にも関わらず雷鳴が轟いたそうでな。原因を取り除いて欲しいらしい」
「……晴れてるのに雷鳴?それって…」
「十中八九、幻獣だとワシは思う」
「かえりゅ!ボクかえりゅぅううううう!!!」
幻獣、キリン。
ケルビのような骨格だが、その特異性から分類は古龍。
生態は未だ良く分かっておらず、その広い目撃範囲と危険性から警戒度も高い。
「やだぁあああ!!幻獣なんて相手したくなぁあああいいいい!!あぁあああああ!!」
杏は、キリンの危険性をよく知っている。
大老殿の床を転げ回って周りの人をドン引きさせるぐらい駄々を捏ねるが、結果は変わらない。
最終的にビタンビタンとうつ伏せで跳ね回って奇声を発し、どうにかこうにか精神を落ち着けた杏は、苦渋に満ちた顔で立ち上がり、クエスト受付からクエスト用紙を受け取った。
「もういぃ…ボクの好きなようにやらせてもらぅ…」
不穏な言葉が聞こえたが、大長老は止められない。
こればっかりは、同情によるものだった。
「チームメンバーは連れて行かんのか?」
「アイツら嫌い!!ボクを置いて娼館に行きやがったんだうわぁあああああああ!!!!」
叫びながら走り去っていく杏に、大長老は大きくため息を吐く。
嵐が過ぎ去った大老殿は、誰もが微妙な顔で動きを止めていた。
○○○
――――キリンの討伐―――――
目的地 未知の樹海
レベル 最低でも130以上だと推測
成功条件 原因の解明、また可能ならば原因の討伐狩猟。
失敗条件 報酬金ゼロ。又は死亡
特殊条件 ギルドナイト所属“杏”を指名
制限時間 無制限
契約金 2800z
報酬金 16800z
主なモンスター 未確認
入手装備傾向
武器 片手剣/双剣
防具 ドスシリーズB(胴)
――――クエストを開始します――――
○○○
「いやッフゥ!!」
飛行船より飛び降りた杏は、地が見えないほどに生い茂る樹海へと飛び込んだ。
肌に無駄な傷がつかない様に葉の多い木々をクッションに、軽く着地の勢いを軽減。
地面への着地は五点着地。そのまま衝撃を受け流すためにごろごろ転がる。
「ン゛ア―――!!?」
そしてその先で、茂みから突き出た枝が尻の割れ目に突き立った。
中々の勢いで転がっていたせいで、パンツが引っ掛かって破けてしまう。
尻穴を押さえて痛みに悶え、破けたパンツをいそいそとポーチに仕舞った。
「ぐ、ぐぬぅ…ボクのアナルが…切痔で痛みに慣らしといてよかった…」
誰も得をしない嫌な情報を呟きながら、全裸で未知の樹海に立つ。
周囲を見渡せば、遮蔽物も、ちょっとした凹凸すらない平坦なエリアだった。
「アァー!!解放感ッ!!!未知の樹海固有生命体の裸族って感じンゴォッ!!」
奇声を発する杏に警戒したのか、後ろからケルビに腰辺りをタックルされた。
少しふっ飛ばされ、地面に横たわる杏。
痛む腰と尻を押さえて全裸でプルプル震える様子は、どうしようもないぐらい惨めだった。
そして、ついでにとケルビに蹴飛ばされる。
それはもう、完全なオーバーキルであった。
「…うぅ…ヤダもう帰りたい…」
どうにか立ち上がって内股になりながらよろよろとケルビに近付き、鼻をペチペチ叩いて逃げさせると、周囲に何もいない事を確認して四つん這いになる。
「ぅあー…冷たいー…」
回復薬を半分ほど尻にかけて痛みが治まるのを無様な格好で待つ。
完全に人として終わっているなぁ…などと半べそで思っていれば、痛みが薄まってきた。
「よし…よし…?」
バリ…
耳に引っかかる、空気が弾ける音が走った。
異常な威圧感に対する怖気に背筋が凍り、そして物理的に毛が逆立って。
「ま、ズ―――ッ!!」
確認する間もなく、その場から弾けるように飛び退いた。
地が光り、空気が張り裂ける。
――――その瞬間、色と音が壊れた。
飛び退くようにして動いていた手足の痛みが脳へと伝わる。
聞き覚えのある嫌な雑音が耳に纏わりつき、視界は焼け付いた強烈な白の色が剥がれ落ちない。
「―――」
吠えた筈の自分の声すら聞こえない。
それでも、どうにかこうにか麻痺しかけている手は動いてくれた。
周囲をキラキラと舞う生命の粉塵の粉っぽい味が舌に乗り、肌を撫で、痛みが薄れていく。
焼け付いた白の色は徐々に薄れ、麻痺の治まった腕は豪崇剣【八重垣】の柄と盾をしっかりと掴んでいて。
「出やがったなアナル…じゃないわキリン…」
寸前まで考えていたことが咄嗟に口に出て、すごく恥ずかしくなった。
「ブルルゥ…」
言葉の意味は分からない筈なのに非常に激怒しているように見えるのは何故だろう。
それは思い込みですか?
いいえ、たてがみが逆立っているからです。
「おぉおおお!!?」
宙より細い雷が落ちたかと思えば、凄まじい音を立ててその細い雷を線としてなぞるように太い雷が落ちる。
咄嗟に躱すも、肌には弾けるような痛みと痺れが走っていた。
飛び退き、ゴロゴロ転がって距離を保つ。
接近は危険すぎると判断し、まずは折りたたみ式のレンキンタルを取り出した。
汚れたパンツをぶち込んでマカ麹をタルの中に振りかけ、とりあえず適当に振る。
最近、杏はレンキン速振薬を新たな形にする事に成功した。
今まではパンツ粉、つまり空気よりも比重の軽い気体を、酸化することによって発生させる粉を生成してタルの振り易さを追求していたのだが、根本からそれを見直し、タルでは無く自身の連続運動に対する肺活量と筋力を一時的に強化する薬を作ってしまったのだ。
新たな速振薬の通称は、“パンツ剤”。
どうしようもないぐらい壊滅的センスだった。
見たことのない動きに警戒するように睨みつけて間合いを詰めないキリンに、ジリジリと後退りしながら作業を再開する。
「んっとォ…ッ」
ある程度振ったタルの中には、少量の粉が入っている。
これは、性質変化して粉薬になったパンツである。
粉薬として吸引してもまぁ効果はあるのだが、残さず吸うためにはタルの中にストローを突っ込んで吸うなどというギルドナイトが飛んできそうな絵面になるのでしない。
何より、とんでもなく咽る。
なので、微かに回復薬を入れた。
水に比べてほんの僅かに粘性があるので、タルの開け口を閉じて振れば、団子のような物が出来上がる。
そしてそのまま、迷いなく口に含んでパンツ剤をキメた。
深呼吸をして、息を止めて肺活量の確認。
―――苦しくなる事は無い。大丈夫そうだ。
ここで警戒しながらもキリンが攻撃を再開。
空より無数の雷が溢れるように落ちてくる。
「――――ッ!!?」
咄嗟にタルを抱えて全力で飛び跳ねて躱していく杏。
微かな間をおいて、先程まで自らがいた場所に雷が落ちる緊張感に、どうしようもないぐらい杏は高揚していた。
「ぐッ」
幾重にも降り注ぐ雷を掻い潜り、まずはパンツをぶち込んでタルを振る。
パンツバズーカをタル内に生成し、降り注ぐ雷をひたすら回避。
大きく回避しても体力は切れにくい。
やはりパンツをキメた効果は大きいのだ。
苛立ったようにキリンの蒼の角に雷が走り、赤い瞳に殺意が滲む。
その緊張感に、思わず乳首が勃った。
人は興奮すると、その感情がどのベクトルであれ体は同様の興奮を見せる。
つまりそんな感じだ。
「フッ、フッ…ッラァ!!」
ジグザグに動いて動きを読ませないようにしながら、走って接近。
パンツバズーカを近距離連続発射した。
キリンの表皮は非常に硬い。
武器を持ってきたはいいが、いくら斬れども斬れどもキリンには大きな傷を与えられない筈だ。
だからこそ、パンツの役目と言うもの。
ドッ、ドォン…ッ!!
タルを飛び出したパンツ、もとい繊維に付着したマカ麹が急激な酸化によって発火。
キリンの腹に直撃し、衝撃によって爆発した。
数歩よろけるキリン。
皮は僅かだが弾け、血と肉の赤色が露出した。
しかしその程度ではまだまだ足りないだろう。
近接は怖いので数歩バックステップ。
後ろ足で土を蹴って怒りをあらわにするキリンに、顔が引き攣った。
ギルドクエストの、未知の樹海の奴らは大抵録でもない。
予想外の事をされると厄介なのだが…
と、その場から大きく飛び退きタルを振る。
一拍置いて今までいた場所に落雷。
止まると危険だと判断し、緩急をつけてキリンを中心に回るように動く。
落雷のタイミングが掴めないのか、すこし戸惑ったように動きが鈍った。
隙を見せたならば即座に爆破。積極的にパンツをぶつけていこう。
タルの口を開ければ、発火して飛び出すパンツ。
が、キリンも理解が早い。
燃えるパンツを狙って落雷。
パンツが哀れにも黒焦げと化す。
「…マズいな」
マズい。非常にマズい。
キリンのパンツへの理解が早すぎる。
あの大長老ですら未だに理解してくれないというのに、キリンがほんの数分でパンツを理解できるなど…
……仲良くなれそうじゃねぇか…へへっ…
などと言ってる場合ではない。
緩んだ頬を締め直し、素早い動作でタルに“多量の”パンツと麹を投入。
中距離からのタルは全て落とされるだろう。近距離から撃つしかない。
なので、ポーチからとある丸薬を取り出した。
忍耐の丸薬を更に強化した丸薬。
それを口に入れ、大きく息を吐いた。
―――金剛身。
関節部が軋むような錯覚を得るほど、体が硬直する。
痛覚は麻痺し、表情すらうまく変えられず。
「あふっ」
無駄に硬くなった色んな箇所が風に撫でられ、思わず声が漏れた。
関節が簡単に動けば夜の世界で絶対売れる。
平然と歩を進めながらそんな事を思う。
そして、周囲に雷を落として接近を防いでいたキリンの体をがっちりホールド。
驚いたような震えが腕より伝わってくるが、気にしない。
振り落とそうともがくキリンに乗ると足で固定、腕はタルを持って硬い関節を必死に曲げて振る。
周囲には無数の落雷。
神秘的な白の色に青白い光が走る、神秘的な風貌のキリン。
そしてその上に全裸で跨ってタルを振る杏。
誰が見ても、常識を疑う光景だった。
そして杏は、タルの中から発熱したパンツを“取り出す”。
パンツを多量に入れると、パンツバズーカにならない。
それは、麹による性質変化が不完全になるからである。
飛び出してくれないし、何より衝撃によって爆発してくれない。
だが杏は、迷うことなくそのホカホカパンツのうち幾つかをキリンの顔に被せた。
流石にホカホカパンツを被せられた経験はないのか、先程より激しく暴れるキリン。
ここでホカホカパンツに異変が起きる。
性質変化が不完全だったホカホカパンツの繊維に付着したマカ麹が徐々に熱を高め、遂に燃え始めたのだ。
火を上げ始めたメラメラパンツに、流石のキリンも痛みから地面に頭を擦りつけて暴れる。
そんな風に暴れられては、“勝手にタルが振られてしまう”ではないか。
紐で袈裟懸けにしたタルの中に入った、パンツと麹が熱を伝えて来ている。
蓋を開ければ、すぐにパンツが飛び出すだろう。
だがまだ我慢だ。耐えろパンツ。
火が消え、パンツが無くなって視界が開けたことに一瞬だけ動きが止まるキリン。
そこを狙って、目の前の後頭部にパンツバズーカ(動詞)した。
爆発の衝撃によって勢い良く首が振られ、そのまま前転するようにして倒れるキリン。
脳震盪なのか、立ち上がる様子はない。
なので、先程のホカホカパンツを履かせることにした。
後脚に履かせてみれば、太腿とお尻がぱっつぱつで少し面白い。
尻尾が収まらないので半ケツとなったせいか、とてもビッチっぽい印象を得る。
……白の体と黒のパンツが色映えするなぁ。エッロ。
よろよろと立ち上がったキリンが、下半身の違和感に体を震わせている。
黒のパンツを履いたまま、嘶きながら踵を返して逃げていく尻を見て。
「うん。尻に火がついた」
諺では無く、言葉通りの事象が発生した。
キリンのホカホカパンツがメラメラパンツへと進化してしまい、悲鳴にも似た叫びを上げながら走って行くキリンを追う。
今日初めて尻に火がついたキリンの鳴き声を聞いたが、存外必死なんだなぁなんて他人事の感想を得た。
尻辺りを多少焦がす事には成功。
追撃にとタルにパンツを放り込む。
逃げるキリンは追われている事に気がついたのか、速度を緩めて振り向いた。
その瞬間、キリンから杏へと一直線状に雷が降り注ぐ。
閃光に目が眩み、咄嗟にサイドステップで回避。
その後も距離を保つために数度転がった。
が、その回避した先で雷が落ちる。
それは、杏の目と鼻の先だった。
経験による予測で落としてきたのだろうか?
流石にこれには、杏も頬を引きつらせた。
ぎこちない動きでタルのシェイクを再開し、パンツのコンディションを保持しておく。
そして杏が踏み込んだ瞬間に、キリンは動いた。
接近されてはパンツを防げない事を、キリンはもう理解したらしい。
そんな理解力の早さも、強さに繋がっているのだろう。
今度はフェイントを混ぜて落雷。
回避する先を大雑把に捉えて雷を落としてきたのだ。
これに杏は、余計に動かされる。
パンツ剤の効果が薄れ始めているせいか、体力の消費が体感的に凄まじく早い。
仕方がないのでパンツバズーカをキリンに向けて放出。
当然のように雷で防がれるが、その隙にパンツ剤の作成に取り掛かる。
熱の感覚で反応具合が分かるので、回避しながらタルのシェイクを開始。
「ブル…」
「おおっとぉ!?」
ジグザグステップをしたキリンが、すれ違いざまに角で杏を薙いだ。
杏の向かって右にステップしたキリンは、杏への接近を極度に警戒していた。
それは不審な爆発物を投げられたこともそうだが、キリンは杏に恐怖を抱いている。
“全身肌色の生命体”を、キリンは未だ見た事が無かった。
未知の樹海に入るギルドに認められたハンターは、総じて真っ当で一般的な人間なので、装備を身に着けている。
だからこそキリンは、様々な装備の形を“人の甲殻”と認識して生きて来た。
しかし今、目の前にいるのは甲殻が全て剥げた状態の人がいる。
人目線で見れば、狩場に突然甲殻と鱗が全て剥げた火竜が乱入してくるようなものだ。それも相当強い個体が、だ。
その未知への恐怖は計り知れないだろう。
だからこそキリンは可能な限り接近を許さなかったのだが、ここでそろそろ直接的な攻撃を混ぜる事にした。
そしてキリンの角が、身を捩らせた杏の持っていたタルに当たった。
その衝撃で蓋が開き、パンツ剤(粉薬)が霧散する。
「ッ!?ゲッフ、ゴホゴッフォ!?」
「ゥ!?」
杏はパンツパウダーを吸い込んでしまい思い切り噎せ、キリンは口に入った異物と目の違和感に暴れ始めた。
杏はそれを見てすぐさまタルにヒビがない事を確認し、パンツをぶち込み、咳き込みながらも振る。
そしてキリンがもがくところに、そのままパンツバズーカした。
咄嗟にキリンが反応して雷を落とすも、目の違和感で上手く焦点が合わずに的外れな場所に落ちる。
そして、パンツが着弾した。
パンツはキリンの前脚の付け根に当たり、皮が裂けて血が舞う。
痛みに呻くキリンが、素早く立ち上がって突進し、杏がそれを躱してタルにパンツを放り込む。
そして、パンツ発射には距離が空いているので距離を詰めようと思ったそんな瞬間。
「ちょおまッ!?」
キリンが突然の急ターン。
踏み込んだ瞬間だっただけに、振り向きざまに下から掬い上げるような動きで繰り出される角の薙ぎが、ガードすらできない杏の横腹にめり込んだ。
しかし、杏は痛みに呻かない。
「あっぶな…」
脇腹に触れる角をがっつりホールド。
金剛身によって硬質化した腕にガッチリ固められ、動きを止めたキリンの鼻先で、杏は空いた片手でタルの口を開けた。
性質変化したパンツが飛び出し、顔を包むように爆発。
ガクンと前脚が曲がり、黒い煙を顔から上げながら、それでも完全には倒れない。
そして、キリンの角が青白く光る。
バリ…
空からではない。
地面一帯に、細い雷が走る。
その雷に足が痺れ、反応が遅れた。
バンッ!
一帯を走り抜けた雷に撃たれても痛みは無いが、マズイ事は起きている。
指が、四肢が、体が倒れたまま麻痺して動かない。
……エッチな事する気でしょう!タガの外れた獣みたいに!!獣みたいに!!
なんて冗談を言っている場合では無い。
前脚を上げ、勢いをつけて思い切り倒れ込んだ杏の背を踏みつけるキリン。
痛みは薄いが、衝撃に息が漏れた。
土とは言え、数センチは埋まった事を考えると相当な威力だろう。
……金剛身の効果が切れる前に麻痺が治らなければ本当にマズイ…!
雷に撃たれる轟音と閃光、そして踏みつけられる衝撃の中、必死に指を動かそうとする。
「う、ご…けッ!!」
痺れる体で咄嗟に前転回避して立ち上がる。
―――そしてその瞬間、アナルが何かをホールドした。
「…ぬっ…?」
硬質化した肛門括約筋が、若干入った何かを、しっかりと掴んでいる。
故意ではない。違和感から咄嗟に力が入ったら、何かをホールドしてしまっただけだ。
恐る恐る後ろを向けば、キリンの角が自らの尻に伸びていて。
キリンの突進に、タイミングと位置が合ってしまった結果がそこにあり。
「…んあー!そういう事ね!!」
とりあえず考える事を放棄した。
首を振り上げて体ごと持ち上げようとするキリンに対し、四股を踏んで耐える杏。
「っと!ボクのアナル舐めんなぁ!!?」
別にペロペロな意味では無い。
キリンも抜こうにもガッチリ嵌ってしまって抜けず、首を揺さぶって暴れる。
「お゛っ、ちょ、そっち拡がる拡がる拡がる!!?」
妙な角度でグリグリされては、いくら硬質化した肛門括約筋と言えど徐々に拡がる。
流石に大腸が硬質化しているかは分からないのでご遠慮願いたいのだが、力を抜いても一度嵌ってしまったものは抜けず。
しょうがないので、このままパンツ(動詞)する事にした。
「喰らえオラァ!!」
股の下からタルを差し込んで解放。
顔下からパンツされたキリンは、思わず動きを止める。
が、次はそのまま走り出し。
「ちょまままま!!?」
くの字のような反りで風を受ける杏。
が、杏もただやられているわけではない。
腰を捻ってキリンにパンツしようと―――
バキン
突如解放された杏が、キリンに勢いのまま蹴飛ばされて横ロールで転がる。
隙を見せじすぐにと立ち上がれば、尻に違和感が。
触れば、円型の断面がそこにはあり。
「…ついにボクのアナルはキリンの角より強くなってしまったか…」
キチガイは留まる事を知らないという事がよく分かる。
自らの角が無くなった事に、驚きというよりかは困惑を露わにするキリン。
そんなキリンに、尻に角が刺さったまま杏はタルを振り。
一発目は鼻に。
二発目は少しズレて首へ。
皮膚は焦げて爛れ、口から血を垂らすキリンに対し、杏は更にタルを振り。
「さよなら」
首の傷に、パンツを二発ぶつけた。
爆発でさらに傷は抉れ、焼け、静かに倒れるキリンに投げキッスを一つ。
そこで金剛身の効果が無くなり、自分で抜くには少し怖い鈍痛が尻に走り。
信号弾を撃ち上げて、回収に来た飛行船に対して全裸が全力で叫ぶ。
「アナルからキリンの角抜いてくれなぁああああああい!!?」
――――クエストを達成しました――――
あなりゅは幻獣より強いにしようかと迷いました。
素直に頭がおかしい。
小説を書き始めて二年以上経ちますが、肛門括約筋という単語を使ったのはこれが初めてです。