おぱんちゅは古龍より強い   作:指ホチキス

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Twitterにて皇我リキ様(@ougariki)よりファンアートを頂きました。


【挿絵表示】


諸事情()により顔回りを映しているそうです。


おぱんちゅは未知の龍より強い

暑い季節が終わり、程よい涼しさが大老殿の床に滲む。

風情ある月が見える季節になり、

 

 

「ねぇねぇ!寒いと乳首勃つよね!!…おい無視か!?おっま、いいんだな!?やるぞ!やっちゃうぞ!?」

 

 

相も変わらず、風情も常識も良識も無い声が響いていた。

現在、杏はパンツ以外を脱ぎ捨てて自らの体に潤滑液を塗りたくり、床をすいすいと滑っている。

大の字に体を広げてわしゃわしゃと動き回る姿は、正直とても気持ちが悪かった。

 

 

「杏」

「ちょっと待って!今無視したハンターのケツを狙う事に忙しい!!」

 

 

大老殿で最も権威ある大長老の呼びかけを断る理由が、あんまりにもあんまりだった。

暫くして逃げていたベテランハンターのケツが二本指突きによって撃沈し、杏が満足そうな顔で大長老の前へと滑ってきた。

 

―――勢い余ってクエスト受付のテーブルの下まで滑ってしまうが。

 

 

「ッ!!?」

「おっとっと、ごめんなさーい」

 

 

逆の向きに腕と足をわしゃわしゃして動く杏に、クエスト受付の女性は叫びかけ、大長老は若干引きながら話し掛ける。

 

 

「実はお主に依頼したい事があってな」

 

 

そう言って大長老はギルドより報告された奇怪な出来事を話し始める。

 

 

「どうも最近、砂漠で機械の龍が出没するらしいのだ」

「はぃ?」

 

 

機械の龍という事は、体組織が鋼龍のように金属質だという事だろうか?

いや、それでは機械とは言わない。機械とは動かない限りただの物体であり機械では無いのだ。

では機械の龍とは、言葉通りの意味なのか?

 

 

「杏にはそれを調査して欲しい」

「いやダァあああああ!!!絶対めんどくさいやつじゃあああああああん!!!」

 

 

喚き散らして地面に寝転がって暴れ出す杏。

後半からはぬるぬるブレイクダンスに切り替わり、喚き散らしながら踊るとかいう訳の分からない事を始めるが、訳が分からないのは今に始まった事では無い。

 

 

「隕石でも降らない限り、ボクは動かないぃいいいいい!」

「あ、雪山に隕石が降ってきたので調査に行って欲しいと丁度依頼が来ているわ」

「ふむ、では機械の龍は別の者に頼む。杏にはそちら側を頼もうか」

 

 

受付の女性からの声に、アレだけ騒しかった杏が一瞬で真顔になる。

 

 

「…マジで言ってんの?」

 

 

     ○○○

 

 

――――スーパーソニック―――――

 

 

目的地 雪山

成功条件 隕石の調査

失敗条件 報酬金が0になる、又は死亡 

特殊条件 無し

制限時間 35分

報酬金 28200z

契約金 2900z

主なモンスター 不明

 

 

 

――――クエストを開始します――――

 

 

     ○○○

 

 

「さて」

 

 

ホットドリンクを一気飲み。

吐く息は白く、乳首も絶賛硬くなるほどの気温の中で、杏は大きく息を吸った。

 

 

「さっむ!!」

 

 

飛行船に謎の落下物が接触。

一時的にだが揺れたせいでキャンプに行くはずがエリア7にポイされてしまったのだ。

とりあえず目の前の、自らをここに落とした原因である落下物、謎の甲殻に触れる。

 

 

「あっつ!!」

 

 

シュウシュウと降る雪が触れた瞬間に蒸発しているのだから見て分かるが、やはり熱い。

表面が灼けているので、火を使う竜との戦闘でもあったのだろうか?

飛行船より上の高度で?まさかぁ…

 

 

「でもそれじゃないと超高いところから落下してきたことになるんだよなぁ」

 

 

なんて言っていると、夜空で何かが煌めいた。

流れ星だろうか。赤い流れ星は縁起が良いものではない気もするが…

 

ザシュッ

 

 

「あっぶなぁ!?」

 

 

なんて考えていると、先程の灼けた甲殻が二つ、目の前に降って来た。

もしかしてこれは甲殻では無くて隕石なのだろうか。

取り敢えず固く締まった雪へ深く刺さったそれに、ポーチから取り出したパンツを被せると、布が焦げて黒くなっていく。

 

何故そんな事をしたのかは杏自身でもわからないが、人生の余裕とかそんな感じである。

 

 

「っとまた流れ星かぁ」

 

 

今度は随分と大きい。

流れ星というかもっと大きな…

 

 

「…え?」

 

 

突如として遥か遠くで落下軌道に入っていた流れ星の軌道が、複雑なものへと変化する。

ただの流れ星ではない。

杏は確信し、思い切り叫んだ。

 

 

「ヤッベェUFO見ちゃった!!」

 

 

思わずパンツを脱いでUFOへ手を振る。

武器を持っていないという事をアピールするためだ。

別にテンション上がって脱いだとかではない。

 

 

「えっえっえっヤバい!なんか近づいてる気がするしヤバい!パナい!!」

 

 

語彙力が3ぐらいになった杏が、心なしか近づく赤い流星へM字開脚で仰け反る。

 

 

「ほら!人類の神秘!!」

 

 

それはもう最低だったが、そこで杏の眼に映る赤い流星が徐々に大きくなり、そして遂にすぐそばに着陸した。

銀色の体。

流線的で全体的に尖ったフォルムは、類を見ず。

 

 

「…人類の神秘に寄せられて遂に遭遇してしまった…!!」

「ゥ…リュイィイイイイイ!!!」

 

 

不名誉な言葉に抗議するよう龍は吼えた。

杏は敵意を察知してすぐさまパンツを手に取ると、それを頭上で振り回す。

 

 

「ほーら!危なくないパンツだよ!!ボク危なくない人類だよ!!」

 

 

どの人類が見ても、雪山で、全裸で、そしてパンツを振り回す人物は色々な意味で危険なのだが、龍はキッと奇行に走る人類を睨み付けた。

 

グイと体を捻り、不審なモノに龍は左前脚で薙ぐように爪を振るう。

 

 

「おっとぉ!?こっちは危なくないっつってんだるぉ!?」

 

 

平然とサイドステップで躱して龍の顔にパンツを投げつけた杏。

直後、その横に真上から足場へ杭のように突き立った銀の翼が、杏の驚きの顔を映していた。

 

 

「…マジであっぶねぇ…」

 

 

翼が頭頂部に当たらなかったのは、パンツで視界を遮ったお陰だろう。

しかし反応すら出来ない速度で攻撃を繰り出されたのはちょっとマズイ。

 

転がって距離を取ると、何をされたのか冷静に思い返す。

既に龍はパンツを振り払って唸っている。あまり時間は無い。

 

恐らくは翼の後ろから何かを噴出して勢いをブーストしているのだろう。

そう考えると、龍の次の攻撃に身構えた。

 

すると、まるでスラッシュアックスのように、突如として変形する銀の翼。

驚くより先に、それは来た。

掌を叩き付けるようして、変形した巨大な銀の翼が雪を舞い散らす。

杏は咄嗟に下がるが、更なる追撃が始まる。

 

その変形した翼の先から、何かが噴出し、まず杏を吹き飛ばした。

痺れにも似た嫌な不快感に、杏は龍属性エネルギーと判断。

軽い吐き気を催すが、龍の攻撃は止まらない。

一秒と掛からず翼が更に変形。

 

龍が力を込めるように体を捩り、次の瞬間には予想もつかないほどにランスにも似た形状の翼が“伸びた”。

 

 

「んなっ!?」

 

 

かなりの距離があるにも関わらず、貫かんとする勢いでそれが来る。

慌てて背を向け、背負った片手剣で防御。

弾かれるようにして背を押され、体重の軽い杏は吹き飛ばされて雪山から滑落しかける。

 

 

「ぬぐ…ッ」

 

 

指を雪に刺し、勢いを殺してギリギリで留まれば、目の前の龍が伸びた片翼をそのままに動きを止めていて。

前脚の捩りを判断し、杏は即座に地に伏せた。

 

頭上を通り抜ける、変形した伸びる翼。

距離感を掴ませないそれは、次の瞬間には龍の背へと戻って更に変形。

噴出口が前を向いた。

 

 

「あんにゃろ…やってやるわゴラァ!!」

 

 

折り畳み式タルを展開、パンツをぶち込んでマカ麹を適当にぶち込んで―――

いる最中に龍が噴出口より散弾のようにエネルギーを炸裂させた。

 

 

「い゛ッ…!?」

 

 

何とか躱す事には成功するが、麹の配分を間違える杏。

パンツ剤を作るつもりが、このままでは訳も分からないものが出来上がるという見積もりに顔を引き攣らせる。

しかしそれでも振るしかない。

麹を自然に垂れ流して環境破壊など冗談ではすまないのだ。

このレンキンタルが開発される途中で一回それをやらかし、本気で問題になったこともある。

 

……ところでこれは一体何が出来上がるのだろう?

 

龍の動向を見ながら、杏は思案する。

性欲の末路である哀れなパンツが一体何に変化するのか。

 

そして、龍が動いた。

予備動作ほぼ無しで翼が変形。

噴出口から吹き出たエネルギーが勢いをブーストし、とんでもない速度で突きが放たれる。

杏がサイドステップで躱すと、回避先に合わせるようにして逆の翼を龍は放った。

 

それを更に反復横跳びの要領で回避。

その時、タルから突如として若干の熱を帯びた液体が隙間より溢れ出した。

あまりにも突然だったため、杏は思い切り狼狽する。

 

 

「うわぁあああああああ!!?」

 

 

そしてその奇声に、龍は若干引いたように首をすくめた。

杏も流石にパンツが液体になった事は確認したことが無く、タルからポタポタと垂れるパンツ液をどうしようかと戸惑う。

ひとまずペロリと舐めてみれば、

 

 

「…パンツ味だ」

 

 

間違っていなくはないが根本的に正しくは無い。確実に。

しかし呼吸が深くなるような感覚には覚えがあった。

杏の本来作ろうとしていた、パンツ剤である。

遂にパンツ剤は、飲みやすいパンツ液となったのだ。

 

 

「…こんな事故のような形で出来ちゃったか」

 

 

杏の目標としていた形となった速振薬、もといパンツ液をタル内から手ですくって飲めば、口に広がる正しくないパンツ味。

 

噴出口を後ろに向けて前傾姿勢の龍を警戒しつつ、杏はパンツと麹をタル内にぶち込んだ。

 

 

「ここからが本番だ…!」

 

 

龍は軽いステップで前に走ると同時、噴出口より凄まじい勢いでエネルギーを吹き出し、低空を高速で飛ぶという類を見ない行動をとった。

杏は驚くも、あくまで想定内。

既に反応済みのパンツバズーカを発射できる状態にし、僅かな龍と地面との隙間をスライディングで抜ける。

そして、本日一発目のパンツ。

 

 

「喰らえパンツ!!」

 

 

超至近距離でパンツを炸裂。

爆音に耳が痛むが、問題は無い。

龍の尻尾の付け根辺りにパンツが当たり、若干の機動を損ねさせるが、器用にも着地して振り返ると同時、更にもう一度、低空高速で接近される。

パンツの麹反応は間に合っていない。

なので、ただのパンツを顔に投げつけた。

 

驚き、噴出口の制御が乱れた龍は、若干バランスを崩してその場に着地。

首を振り払うようにしてパンツを振り払う隙を狙うかと思って杏が接近すれば、龍は見えないままに大雑把な杏の方向に両翼の噴出口を向け、溜めの一拍を置き、そしてエネルギーを爆発させた。

 

鈍い砲音にも似た音が響き、龍の前方に高圧で噴き出された赤黒い粒子が雪を舞い上げる。

龍はパンツを振り払い、視界が晴れたところで頭上より爆発を受けた。

それもまた、パンツであった。

 

 

「やっりぃ!!」

 

 

龍のエネルギー爆発の瞬間に回避しながら斜め前方へ向けてパンツしていた杏。

パンツすべきタイミングと調整はミスらない、流石はパンツの熟練である。

既に杏は爆発を切り抜け、顔より煙を上げる龍の顔下を潜って胴下へ潜り込んでいた。

 

爆発により一瞬杏を見失った龍は、胴下でタルを振る杏に気がつかない。

そして満面の笑みで、杏はパンツを龍の胴にぶち込んだ。

 

一瞬浮き上がる様に龍の体が曲がり、口から微かな血液交じりの吐瀉物が漏れる。

内臓に良い衝撃が入ったのだろう。

 

運がよければもう一発行けるかとタルにパンツと麹をぶち込めば、予想以上の反撃が返ってきた。

龍は軽く飛び上がると同時、下に向けた噴出口から高圧でエネルギーを吹き出して一帯を削る。

 

 

「ひぃ…予想外すぎる」

 

 

龍の予備動作を察知し、回避行動にと咄嗟に杏が右腕で掴んだのは、龍の胸殻。

指先がチリチリと痛むのは、胸殻から龍属性エネルギーが漏れているせいだろう。

タルを抱えながら龍の腹にぴたりと張り付いて難を逃れた杏だったが、龍は胸殻に指が入った不快感から怒りを露わにする。

 

 

「リィイイイイ―――ッ!!」

 

 

ブワリと噴き出すは赤黒い龍属性の粒子。

頭部と翼の噴出孔から、感情の昂りによって制御下を離れた過剰エネルギーがゆらゆらと漏れて光る。

甲殻の隙間からは赤黒い光が漏れ、禍々しさを増したその姿に。

 

 

「やっぱ人類の神秘に寄せられた奴は一味も二味も違うぜ…!」

 

 

龍が着地すると同時に距離を取った杏は、興奮した様子で叫んだ。

望んでもいないのに股を広げられたという受け身の被害者である龍は、静かに事を起こす。

噴出孔から噴き出すエネルギーを利用して突き出した右翼は杏の左を塞ぎ、そのまま長く伸びた翼を振り回すようにして回転。

 

驚くべきはその速度。

杏の目ですら、捉えるのがやっとだった。

当然、回避などできるはずもなく。

 

インパクトの瞬間に背を向けることが限界だった。

 

 

「―――んが…ッ!!」

 

 

吹き飛んだ先は、雪が凍った硬い壁。

激痛と共に背から雪壁へめりこめば、更なる追撃にとエネルギーの弾が放たれる。

 

後方回避も、片手剣の盾も背にあるのでガードも不可能。

なので杏は、タルを構えた。

 

―――人として行動を恥じて欲しいところであるが、それはそれとして杏の動体視力はG級ハンターとして恥じないものである。

 

距離感が麻痺しかねない白の背景で、赤黒い弾が六発だと瞬時に判断。

手先の細かい動きで最も早く着弾しそうな弾を狙って、パンツした。

 

パンツの数は二つ。弾は六つ。

 

釣り合わない数でも、回避することは可能だと杏は知っていた。

弾は、全てが同じ場所に着弾するわけではない。

必要なのは、当たる数発を選び抜く能力だ。

 

 

「まずは一発…続けて二発じゃあ!!」

 

 

一パンツで当たる筈だった初弾、そして二弾を相殺。

二パンツで三弾を相殺した。

 

爆風と舞い上がった雪に紛れ、素早く雪壁から身を離してしゃがみ込む。

そして頭上を通り抜けるは、龍のランスのような翼。

あまりにも周到な追撃に、杏は引きながらも迷わず翼を掴む。

 

既にタルの中にパンツと麹は入れた。

そしてやることは、当然一つ。

 

素早く折り畳まれた翼。

よって視界が悪く未だ気付かない龍の頭上へと運ばれた杏は、邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「…やぁ♡」

 

 

翼から手を離すと同時、翼が軽くなって違和から振り向いた竜の顔面に向け、タルを開いた。

爆音が響き、近距離爆破のせいでキンとした耳鳴りがするが、それより大きな収穫がある。

片目の甲殻が、若干爛れてくれた。

 

視界とは、戦闘において重要である。

五感の中でも、それが無ければ相当なハンデとなることは間違いない。

 

その半分を、龍は失った。

 

 

「リ、ァアアアア――――…」

 

 

龍の翼の噴出口から凄まじい勢いでエネルギーが吹き出る。

表面の雪を削り、一瞬にして遥か彼方へと飛んで見る見る小さくなる赤の光。

暫く急旋回して帰って来るかと身構えるが、どこかへと曲がって雪山の向こうへ消えて行ったのを見て脱力する。

 

 

「…ハァ」

 

 

ここはあの龍の縄張りではない。

逃げられたかとため息を吐いた。

 

 

「さて、どう報告したものかな」

 

 

あんな龍は見たことが無い。

龍属性エネルギーを扱うという事は、ただの飛竜でもない。

どこかの文献を漁れば、似たような存在が確認できるのだろうか。

 

 

「大長老も面倒なクエストをよこしたなぁ」

 

 

自分の発言が原因だという事を棚に上げて、周囲に落ちた甲殻を拾い上げる。

鈍い銀色。灼けた表面は、黒く煤けていて。

 

 

「ま、今回のクエストは隕石の調査だし。原因が分かっただけ良しか」

 

 

せめて討伐できれば、当分は働かずに済む休暇がもらえるというのに…

加えて残念ながら、帰る飛行船は無い。

ポッケ村に行くしかないかと、全裸でM字開脚しながらもう一度ため息を吐いた。

 

 

「ほーら人類の神秘だぞ!原因カムバック!!」

 

 

――――クエストを達成しました――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――耳が、異音を聞き取った。

急激に肌が泡立つような、ひりついた威圧感。

警戒から咄嗟に身を投げれば。

 

 

凄まじい、豪風と轟音。

音は掻き消え、瞼は上がらず。

背に凄まじい衝撃が走り、地が揺れ。

 

そして全てが均されたような、空白の数瞬が生じる。

 

 

杏が急いで振り返れば、大きく陥没した雪山の足場。

そして中心には、あの龍。

若干聞こえが悪くなった耳の違和に顔を顰めながら、杏は吐き捨てる。

 

 

「おまえ人類の神秘大好きかよ!!」

 

 

まったくもって不名誉である。

龍は無言のまま、噴射口を杏に向けた。

 

―――砲音が響く。

 

弾のように発射するのではなく、溜め、炸裂させれば前方向一帯を高圧のエネルギーが払う。

杏は躱しきれず、吹き飛ばされ。

 

そして龍は、動きを連結させていった。

炸裂させた勢いを利用して翼を変形し、ランスのような突きを両方で行う。

杏が地に足を付け、それをガード。

 

しかし龍はそれらが防がれても動じない。

前宙の動きで一回転し、掌のように広げた翼で杏を叩き潰した。

 

 

「い゛…!?」

 

 

ガードしきれない。

龍属性の痺れるような痛みに苛まれながら追撃を警戒して素早く動き、潰された痛みに呻く。

そして杏は、久しぶりにタルをパンツバズーカの状態から更に振ることにした。

 

マカ麹は、熱によって反応を変える。

かなり熱くすれば、妙な変化をする事もある不思議な物質なのだ。

 

速振薬、パンツ液の効果は切れてきている。

タルはいつもより重く感じるし、呼吸も切れやすい。

だが、龍を警戒しながら振っていれば、徐々にタルから粉が噴き出してくる。

 

 

「…きたか」

 

 

ある程度になれば、振らずとも粉が噴き出して来て。

 

 

「あークルわクルわ……」

 

 

鼻からその粉を吸い込めば、とろんとした顔になる杏。

決して危ない薬ではない。ただの、回復できるパンツの粉である。

 

龍は妙なものを見る目を向け、噴出口を後ろに向けて低空飛行で杏に襲い掛かった。

しかし杏は背を向け、逃げるように走る。

 

 

「この間はパンツ出来ないんだよボケゴラァ!!何攻撃してんの!?ルール違反だルール違反!!」

 

 

と、このように理不尽な事を零して。

しかしブシュブシュと粉を噴き出すタルを抱える杏の表情は、恍惚。

 

どういう訳か、マカ麹で最後に変化するのは“少しの間気分がよろしくなってしまう回復粉”。

これを知るギルド職員は全員が全員、流通を禁止していた。

それは現在の杏を見れば、当然だった。

 

 

「あは、うふふ…」

 

 

幸せそうな顔で笑う顔は、完全にヤバい人である。

そして最後に勢いよく粉が噴き出し、杏を包む。

ヤバい方のパンツ粉を全力で吸い込んだ杏は、満面の笑顔でパンツを頭に被った。

 

 

「うひゃひゃひゃ!!ちょ、見てこれ!!ヤバくね!?イカしてるっしょ!!?」

 

 

一時的に知能指数が劣る生命体になった杏は、本能からかタルにパンツをぶち込んだ。

振る動きも本能だろう。

何故なら今の動きは―――

 

 

「あひゃっひゃっひゃ!」

 

 

体全身を揺さぶる、人としてちょっとドン引きするものだったからだ。

流石の龍も、その不審行動には警戒するように距離を取る。

 

―――そして杏は、キチガイのまま走り出した。

 

関節をがくがくと揺らしながら全力疾走をする姿は、人が見たら悲鳴を上げかねない姿で。

龍はランス状の翼で杏を薙ぎ払おうとするが、しゃがんだり跳び跳ねたりして平然と接近。

 

 

「ボクの性欲アタック!!」

 

 

などと不規則言動が目立つ杏が、タルからパンツバズーカを繰り出した。

すぐさま麹とパンツを本能で再補充。

そして翼を畳む隙にパンツを背に喰らった龍は、前足を折って口から血を吐いた。

 

先程腹に受けたパンツが内臓に与えたダメージが、さらに悪化したのである。

そして追撃。スライディングで腹下に滑り込み、既に反応させたパンツを胸殻と腹にぶつけて後ろへと滑り抜けた。

 

 

「ル、ィォ゛…ッ!!?」

 

 

そのうちの一パンツで、胸殻が歪む。

噴出口から漏れていたエネルギーが微かに弱まり、それに気づいた杏がニッコリと笑った。

 

 

「そういう構造なんだ!すっげぇなお前!!」

 

 

分かった風に分かっていない杏が、更なる追撃を試みる。

頭までもを振りながら、タルを振り、ガクンガクンと動く杏。

 

 

「もう辛いんじゃないの!?ねぇ!?」

 

 

しかしそんな煽りも意味は無く、杏から距離を取りながら振り向いた龍の片目は、未だ強い生命力を感じさせた。

龍は、離れた場所で大きく胸殻より空気を吸い込む。

掠れた音を鳴らしてそんなに大きな隙を見せれば杏が黙っている筈もなく。

 

 

「おら見てみろ!これが人類だぞ人類!!」

 

 

ハイテンションが裏目に出て、M字ではなくV字開脚で騒ぎ出す杏。

そう言う意味で黙っていないのは、人類の恥である。

誰もがお前が人類を語るなと言いかねない発言をしていれば、龍は静かに口から息を吸った。

 

 

「ばっちこぉい!!お前の攻撃なんざパンツヘルメットの前には無力なんだよバァ――――カ!!」

「リュィイイイイイイ!!!」

 

 

弱まった噴出口から漏れるエネルギーは勢いを取り戻して、むしろ強さを増し。

それと同時に口から血を吐いた龍は、キッと杏を睨み付けた。

急接近からほぼノーモーションで、杭のように翼が上から迫る。

 

削音を立てて突き立った翼の横で、杏は大きく口を開けて笑った。

 

 

「甘いなァ!!」

 

 

パンツが龍の顔に着弾した。

 

反撃にと杭として使用した翼ではない、逆の翼をランスのように突き出す龍。

だが、それすら躱して杏はパンツを撃ち込んだ。

 

 

「まだ動くか…ッ!」

 

 

翼が素早く折り畳まれて変形、噴出口を杏の方向へ向け、爆破。

それをダックインで掻い潜った杏は、龍の腹下でパンツを二発。

 

 

「ゴフッ…リィ゛ァイイ゛イイイ!!!」

 

 

血を吐いて尚も、吠え、龍のその生命力は底が見えず。

翼を横に精一杯広げて牽制からぐるりと回転、そしてそのまま、龍は翼を折り畳んで全速力で飛んだ。

 

 

―――パンツの補充中に、咄嗟に翼を掴んでしまった、杏を乗せて。

 

 

「―――お゛おぉ゛お゛!!?」

 

 

風で顔が歪む。

下を見れば、感じたことのない速度で景色が変わっていく。

高い。凄まじく高い。

 

速振薬の無い今の状態では、呼吸も儘ならない。

チリチリとした龍属性が、肌を撫で。

そして黒くなり始めた視界の中で、それが見えた。

 

 

―――美しい吸い込まれそうな黒い空と、大きな白い月。

夜空を彩るは、夥しい数の星々。

飛行船では見えない、そんな高度でしか見れないその絶景に、杏は言葉を失って。

 

 

そして急速に下がっていく高度。

龍が急降下を始めたのだ。

先程よりも更に速く、景色が動く。

 

呼吸は止まり、黒かった視界が今度はどこか赤くなっていく。

そこで杏は、気がついた。

 

タルの中が、熱い。

 

余りの速度に、タルの中がシェイクされたのだろう。

しかしこの高さでパンツしては、流石に着地が不可能だ。

体勢が定まらないし、何より何処へ放り投げられるのかが分からない。

しかしこのままだと、落下に巻き込まれて無事では済まない。

 

つまり、ギリギリのタイミングでパンツしなければならないのだ。

 

急降下により、視界はレッドアウトしかけている。気絶する危険性もある。

それでも、生き残る方法などそれしかない。

 

 

「あぁああああああ!!!」

「リュィイイイイイ!!!」

 

 

互いの叫びを引き、赤い彗星が雪山へ迫る。

 

そして、

 

 

雪山に再度空白の数瞬が訪れた。

 

 

 

―――ゆったりと動くのは、放り出されて雪壁にめり込んだ杏。

後頭部から黒い煙を上げ、顔から落下して潰れた顔の龍を見て、杏はフラフラと投げキッスを一つ。

 

 

「人類の神秘が大好きなお前をボクは忘れないからなァ!!!」

 

 

―――フリーハントを終了しました―――




ブラックアウト
急上昇で血液が上に登りにくくなり、視界が黒くなっていく症状。
レッドアウト
急降下で血液が上に溜まり、視界が赤くなる症状。

本来スーパーソニックは密林のクエストです。
が、未知の龍の名前が解ってるわけないだろ!
という事でクエスト名を借りております。
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