おぱんちゅは古龍より強い   作:指ホチキス

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この小説の地文は独特すぎる。


おぱんちゅは炎妃龍より強い

季節は巡り、刺さるような寒さを大老殿の石畳でも感じるようになった。

寒冷期は竜達も活発に動くことも少なく、休暇を取るハンターも少なくない。

繁殖期に比べてガラリと空いたフロアを、冷え切った寒風が吹き抜けてゆく。

そんな竜人族でも首にマフラーを巻くような季節に成れど、相も変わらずの格好が一名。

 

 

「さっむ!くっそボクの何が間違ってるというんだ…!?」

 

 

四肢の末端を朱に染めた幼女の皮を被る何かが、大老殿で騒いでいた。

頭がおかしなバカは、たとえ寒冷期になろうとも着衣という常識を認めることが無い。

 

 

     ○○○

 

 

「寒くてやだね―――!!そう思うよなお前らぁ!!」

 

 

冷たいタイルを裸足でベタベタと走り回る杏。

しかし誰もいない大老殿にはその声が空しく響くだけであった。

 

 

「……大長老、アイツらは?」

「皆揃って休暇じゃ。この時期は依頼も回って来ぬのでこの機会にと」

「この時期じゃないと、娯楽に金使う機会無いもんなぁ…」

 

 

大老殿の受注は、狩人が自由に選ぶ集会場に比べて指名依頼が多い。

クエストが舞い込むと、受付が危険性と難易度を鑑みて、大老殿にいるハンターをクエスト受付職員が指名する。

自分で選ぶより適正な難易度のクエストを受けられるシステムだ。

 

自由受注も可能なのだが、身の丈に合わぬクエストを受ける事で命に関わる危険な目に合ったり、遠出した割に簡単で報酬が少なかったと言う事もある。

それにより、大老殿には、狩人が依頼を自ら受けずに指名待ちで待機しているという訳だ。

 

そういう意味で言えば、杏が大老殿にいるのは“指名できない高難度依頼の片付け”の為であるのだが。

杏は悲しげにタイルへと大の字に倒れる。

 

 

「つっめて!!乳首冷えるわこれ!!」

 

 

受付からの悲しげな目に晒されている事に気付いているのかいないのか。

そんなうつ伏せに転がる杏の尻に、外から入ってきた一羽の白い鳥が留まる。

丸い尻に容赦なく食い込む鳥の爪。

 

 

「ぉ゛!?いだだだだっぁああああ!!!?しり!おしりもげりゅ!!もぎもぎされりゅ!!!」

「えーっと…杏、我慢しなさい」

「耐える!耐えるねボク!!おっぱい揉ませてくれたらもっと耐えちゃうかな!!」

 

 

受付のお姉さん、狂人の言葉を完全に無視。

結構大きな鳥をそっと持ち上げて脚に結ばれていた手紙を取ると、少しの逡巡の後―――

 

――――冷ややかな目で杏の尻にそっと降ろした。

 

 

「んっぬ゛ぉおおおおお゛!?」

 

 

食い込む鳥の爪(二度目)。

悶える杏をよそに、受付のお姉さんは紙に目を通す。

 

 

「えぇっと…?我らの団の団長からです。あの人は学術院に戻らずどこをほっつき歩いて……………大長老様、これちょっとマズいかもしれませんわ」

「ふむ、読んでくれ」

「“ラティオ活火山近隣にて緊急性が認められる炎王龍狩猟を頼まれ、ギルド規定128-5に拠り火山奥地にて我らのハンターが討伐する。しかし突如姿を現した炎妃龍によって飛行船が一部損壊。我らのハンターは痛手を負い、近郊から動けないでいる。我らの団団長として契約金の支払いと炎王龍の素材を追加報酬に臨時依頼を発注す”との事です」

「…なるほど。杏、行け」

 

 

大長老の即断であった。

 

 

○○○

 

 

――――臨時クエスト 炎妃ry

 

 

○○○

 

 

「おぉい待って待って待って!?ボクの拒否権はどこにあるの!?」

「コラ!クエスト申請の紙書いてるんだから邪魔しないで!あぁほら文字間違えた!!」

「おっかしいねぇええ!!?その受注人って欄にボクの名前書かれてる気がするなアアアアア!!」

「あら、文字読めるの。偉いわね~よしよし」

「よっしゃもう何だって頑張っちゃうね!ボクなんでもやってやるね!!」

「じゃあここの本人証明って欄に拇印押してね~?」

「はーい♡」

「…これでよし。ほら、もう用済みだからさっさと行きなさい。Go!」

「うわあああ!!騙されたぁああああ!!!大人って汚い!汚いよ大人って!!」

「自主的に指印押したのだーれだ?」

「ボクだ!やっぱ大人って正しいわ!!全部ボクだわ!!うわああああ!!」

 

 

○○○

 

 

――――臨時クエスト 炎妃龍の討伐――――

 

 

目的地 ラティオ活火山

 

成功条件 炎妃龍の討伐、又は撃退

 

失敗条件 報酬金が0になる、又は死亡 

 

特殊条件 炎王龍の素材を報酬に追加。臨時クエストのためハンターズギルドの補助はギルド規定22-7に準ずる。また契約金は生じない。

 

制限時間 無制限

 

報酬金 36000z

 

契約金 0z

 

主なモンスター 不明

 

 

 

――――クエストを開始します――――

 

 

○○○

 

 

「全裸は正しい」

 

 

キャンプに到着して早々口から何かが飛び出した。常識は何処だろう。

ラティオ活火山に靴とポーチだけ身につけて降り立った正しさの塊は、大きく息を吸った。

 

 

「世界中の火山にいる服を着こんで汗水垂らすみなさ―――――ん!!」

 

 

どや顔で一拍。

 

 

「ボクは涼し――――――い!!!」

 

 

ポージングを決める杏。

気温が高いので汗ばんだ肌が照りを帯びて艶めかしく感じるのは気のせいだろうか。

 

 

「ほら!そこのガブラス!!見てみ!!これが人間の乳首だYO☆」

 

 

気のせいだろう。確実に。

むしろ気のせいであって欲しい。頼むから。

 

 

「なあなあお前ら、全裸に靴って需要あるよね!?へいへーい!ご機嫌いかがー!」

 

 

ガブラスが毒を吐きつけた。

反復横跳びしながらそれを交わした杏は、火山の奥を見て目を細める。

 

 

「…しっかしアレだなお前ら!!なんか火山熱いよね!?そうだよね!!?」

 

 

歩を進めるたびに、慣れぬ熱さが肌を刺した。

立ち昇る火山の熱気には、何か異質なものが含まれていることを感じ。

スッと真顔になると、ゆっくりとI字バランス。

 

 

「…なんかホントにおかしいYO」

 

 

イラッとくる語尾だが、本人はこれでも真面目モードなのだ。比較的。

更に歩を進めると、時折青い塵のようなものが目に入ってくるようになった。

見慣れない景色に驚きながら更に進み、肌が粟立ち始めたあたりで、ガチで帰ろうかと悩むも、我らの団にはお世話になったことも多々あるため、足を動かし続ける。

 

 

「…やっべこれは初体験なんだけど。童貞卒業しちゃったよ」

 

 

火山の中心に足を踏み入れた途端、叩きつけるような熱風。

青い火の粉が宙を舞い、喉を焦がさんとする熱気が肌を焼く。

これには杏も慌ててクーラードリンクを口に含んだ。

 

 

「んごぉっふ、ぶぇっはッ!?マッズ何これ!?」

 

 

無残に吐き出された液体には、可哀想な程雑に調合されたにが虫と氷結晶が形を残していた。

 

調合には性格が出るぞ!ハンター諸君!!

(月刊【狩りに生きる】より抜粋)

 

 

「いやふざけんな昨日のボク!お前絶対ぶん殴るからな!!」

 

 

過去を殴るという、結果的にパラドクスに挑戦状を叩きつける杏。

しかしながら、“既に戦闘は始まっている”。

警戒から敵対へと瞳を眇める炎妃龍。

信じられない事に、今の一連の奇行を“炎妃龍の目と鼻の先”で行なっていたのだ。

もはや非常識を超えた何かである。

飛びつくようなタックルを流れるように回避すると、杏は顔を引きつらせた。

 

 

「あっづ!?なんだこの炎!!?」

 

 

炎妃龍の翼から火花の様に溢れた青い炎。

正確に言えば翼の古い組織片なのだが、眩しく主張するそれらの見た目は青い火花と大差無い。

 

大地を焦がし、焼けた地を喰らう様に青の色が残る光景には美しさすら覚える。

が、今の杏に、美しさとかを感じる余裕は無い。

 

 

「ぐっ…負けてられるか!ほら!クッソ綺麗なピンクニップル!!」

 

 

あったらしい。代わりに知性は無いらしい。

胸を指で寄せて集めるように♡マークを作る杏。

正気の沙汰は無い。初めからだが。

折り畳みタルを組み上げると、いつも通りにパンツでレンキン速振薬を生成する。

全て事実だが正しくは無い。

 

相対する炎妃龍は喉を鳴らす。

鬣から溢れ落ちるは青と赤の火の粉。

その熱量に、周囲が歪んですら見える。

 

空気を震わせる程の大音量。

大凡、生物の喉から発せられたとは思えぬ“響き”が肌を叩いた。

火山に響くその音を真正面から受けた変態はニッコリと笑う。

 

 

「くらえ1パンツゥ!!」

 

 

高速シェイクによって生成したレンキンバズーカ、もといパンツ。

不意打ちにも近いその一撃を顔に当て、更なるパンツをぶち込みながらバックステップ。

 

 

「そいつは新品DA☆ZE!!」

 

 

新品と中古で威力が変わる事はない。

無意味を叫び散らしながら距離を保ち、円を描くように足運び。

 

対する炎妃龍はその激痛に混乱した。

早くもない。危険性を感じないほど薄く、軽そうな布に見合わない痛みを受けた事に、酷く困惑していた。

 

そして困惑は、敵意をより濃厚なものへと変化させる。

喉奥から漏れるは龍炎。

身をもって知れば骨まで焦がしかねない熱量の中で、それでも杏の奇行は止まらない。

 

炎妃龍の踏み込んだ前足は焼けた地を沈ませる。

踏み込んだと認識するにはあまりにも短い予備動作の次に、その大質量が高速軌道を開始した。

 

一歩。

 

龍の一歩目は、右前足だった。

 

───二歩目は、杏の目にすら視認できず。

右方から凄まじい速度で迫る尻尾を、辛うじて認識した。

竜が回転したと気がついたのは、尾を反射的に躱した直後。

 

青の色が、目の前に在った。

網膜を焼くような鮮烈な炎の眩しさが龍の口内を散っている。

 

龍と人の距離、一歩と無く。

炎が弾けた。

 

 

「はっはあ!甘いぞメスっ娘!」

 

 

爆発によって、顎を上へとかち上げられたのは炎妃龍。

───杏が龍の口内を見た瞬間には、既にパンツの準備は整っていた。

回転を認識すると同時、打ち上げパンツのセッティングを終え。

炎を吐き出す猶予すら与えず、パンツが炎妃龍の顔下にて爆発した。

 

ほんの5秒に満たぬ交錯を無傷で潜り抜けたのは全裸であり。

顔の煤を指で拭いながら、バックステップで距離を取る。

 

短く切り揃えられた黒髪が、熱風で靡いた。

焼けた地に、青の塵が舞い始める。

 

 

「…やっぱ甘くないかもこのメスっ娘」

 

 

翼より散った青の色が、地を這っていた。

咆哮など無く、ただただ気迫が増していく。

古龍特有の威圧感が肌を刺した。

嫌な感覚だ。敵意より、怒気が強い。

 

深く息を吸うための、龍の始動。

ほんの僅かな腹と背の動きを見た瞬間に、全裸は龍に背を向けて全力で逃げ出した。

龍の貌は、口内より溢れた炎を纏い。

 

───判断能力と勘に違い無く、数秒後には背の焼ける感覚。

炎妃龍が僅かに俯いて吐き出した龍炎を用いて、薙ぎ払う様に顔を上げた。

 

 

 

「あじゃっじゃじゃじゃ!!?」

 

 

振り返れば、辛うじて避けた龍炎に次いで呼気から生じる熱波が来た。

頭を押されたようにバランスを崩し、受け身を取れば、凄まじい熱風がやってくる。

 

 

「ぐえー!!」

 

 

受け身すら間に合わず、横に転がっていく全裸。

 

 

「ぐぼぇ!!」

 

 

岩壁に激突して止まったと同時、翼の音が聞こえる。

滑らかな動作で仰向けの体勢から回避行動に移ろうとすれば、熱風が来てバランスを崩した。

暑いという表現では足らず、空気が“熱い”。

 

炎を口から吹き、龍は全裸に迫っていた。

クーラードリンクで冷えた体はあっという間に汗で濡れ、肌の焼ける感覚に全裸は顔を顰める。

土塗れのまま立ち上がって接近する竜から逃れ、全裸はポーチを漁り。

 

 

「おい見ろよ乳首が土に埋まっちゃっただろうが!陥没乳首だよこれ!陥没土首だよ!おっとこれは上手い事言っちゃったね3億ポイント!」

 

 

そうは言いつつクーラードリンクのコルクを抜いて頭から被り、熱中症の対策とする。

 

 

「うっお冷た!!冷たすぎて乳首が土の中からコンニチハ!!」

 

 

などと叫びながらも足と腕は止めない。

バズーカは既に準備完了。

なれば如何にしてその熱風と猛攻を潜り抜けるかが問題であり。

 

杏は、全身どころか表情すら脱力させて顔横にダブルピースを作った。

 

 

「脱力の構え!」

 

 

人体が気軽にしてはいけない顔を顕現させた全裸は、そのままふらりと龍へ接近する。

構えは無く、そのあまりの無防備さに、龍は前脚で全裸の首を刈り取るように動いた。

 

───龍は、前脚の表面を何か不快なものが通り抜けたように感じた。

汗で湿った体はぬめり、脱力した全身は流体にも似ている。

その身一つ。背面飛びのように、前脚の上を跳び抜けた。

 

龍は前脚を振り抜いた体勢で全裸を見る。

タルが、鼻先に向けられていた。

 

 

「肛門狙わないだけ優しいっしょ!!!」

 

 

鱗と甲殻に覆われた飛竜種に対して、ハンターは時折口腔や傷口を狙うことがある。

狙うには技術を持ち、かつ危険を潜り抜ける必要があるものの、それを踏まえた上で“無防備な肉”を狙う利は大きい。

古龍と言えど、そこに大差はない。

 

対する龍は瞬時に大きく胸を膨らませた。

火竜と違い、炎を“吐き続ける”ほどの肺活量は、全力で吐き出せば突風にも近い。

鼻から目前のタルへと吹き付けられた息は、パンツをタル内へと押し戻す。

 

 

「うぉおおおおお!?」

 

 

そして遅れて呼気に混ざるのは龍炎。

マカ麹が焼けないようにタルからパンツを掻き出しながら、全裸は龍の顎下へと身を投げ出した。

 

薄らと青い炎が既に地に広がっているが、先程被った自作クーラードリンクのおかげで皮膚が焼ける事はない。

かと言って、長居できるような快適さとは程遠いが。

 

 

「いっだぁ!肋骨ゴリっていったぞおぉい!!」

 

 

調合の雑さにより、氷結晶は粉では無く欠片となっている。

にが虫のエキスによって若干の粘性を得て体に貼り付いたそれらは、熱さへの感覚を鈍くした。

体内からでは無く、体外より冷やす液体。

非効率的ではあるが、この状況においてはそれが幸いした。

 

股下を潜り抜けようとすれば、翼の動く音。

パンツを腹下に素早く二発撃ち込むと同時、それを聞き取った杏の動きは早い。即座に秘薬を口へ含んだ。

 

 

───体を捻れば軋む音。

龍の翼から零れ落ちた塵は、羽ばたきと回転によって全方位へと散らされた。

天へ飛び上がり、地へと反転。

 

勢いよく着地すれば、衝撃と共に全方位へ放たれた龍炎が地を舐める。

塵は青く鮮やかに燃え上がり、羽ばたきによって空気が送られた。

龍の周囲が青へ───

 

 

「おぉ…おおおおおおお!!!?」

 

 

閃光玉に遜色無い煌めきに、杏の体重では直立できない熱風。

全裸は龍から顔を逸らさずにバックステップで逃げる。

 

 

「あっづァ!!尻焦げる!!」

 

 

青い跡を残していた塵は龍炎によって大きく炎を上げ、時折弾ける様に揺れていた。

熱風は氷結晶の冷えすら関係無く、肌を焼いていく。

辛うじて十歩以上の距離を取ったところで“次”が来た。

 

翼の“腹”で羽ばたき、吐き出した炎と塵を更に広域へ。

返す翼の“背”で、二波が吹き荒れる。

強風によって燃え上がる塵は地を滑る様にエリア端へと動いていき。

 

 

「ぐわああああ!!このメス、ロリにも容赦ねぇえええ!!!」

 

 

炎に追われる様にして、杏はエリアからの撤退を余儀無くされた。

回復薬とクーラードリンクを両手に持ち、頭から浴びて体を冷ます。

 

 

「くっそ、褐色ロリになるぞこれ…」

 

 

青い龍炎の熱は皮膚に軽度の火傷を生じさせた。

鉄製の装備を身につけていたのなら、更に酷いことになっていただろう。

全裸の利点を最大限に活かし、回復薬と最後のクーラードリンクをペタペタと全身に塗っていく。

 

 

「追跡無し!ちょっと休憩!」

 

 

逃げてきた道を見て、追われていない事を確認。

回復薬の空き瓶にパンツを詰め込み、コルクで栓をした。

大きく息を吐いてポーチ内を整頓すると、適当な古布をマカ麹と共に樽の中に放り込んで適度にシェイクし、速振薬を生成する。

 

が、予想と違い、出来上がったのはレンキン活力薬。

それも、完全に液体である。

 

 

「おぼぼっぼぼぼ!?」

 

 

蓋を開けた瞬間に溢れたそれらを慌ながら手で掬って口に入れる様は、完全に原人のそれである。

大凡文化的とは言えないその様子だが、全裸は至って真面目であった。

 

 

「んぐ、熱が篭りすぎだこれ」

 

 

タル自体が熱されてしまい、反応がいつもと変わってしまっている。

とりあえず、レンキン活力剤を空いたビンに詰めておく。

仕方が無いのでどうにかこうにか頑張っていれば、バズーカを補充できたと同時に奇妙なものまで出来上がった。

 

 

「…どう使うのこれ」

 

 

“ペースト状の爆発物”を手に、全裸はスクワットする。

行動に意味は無く、むにむにと揉みながら奇妙な歩法でエリア復帰へと足を進める。

 

 

「おっぱいの感触だが!!うっわすっげなにこれー!!!」

 

 

そんな全裸の手の上で、小さく爆発が起きた。

 

 

「うぉおおおおおおおお!!!!?」

 

 

そのあまりの声量に、遠くに見えていた炎妃龍が、杏の方を向いて翼を動かした。

口に蓄えた炎を吐けば、その勢いに乗せる様にして青の塵。

ほぼ一直線上に伸びた青い道は、杏へ向かって迷いなく伸びていて。

 

 

「…あ、どもッス」

 

 

会釈した杏の目の前で、龍炎が燃え上がった。

 

 

「うおおおお!!あづああああ!!!」

 

 

絶叫を上げ、瞬時に黙ると杏は青に紛れてエリア端を駆けていく。

子供と見間違える程の背丈は炎に上手く隠れ、龍の視線を掻い潜る。

近寄る隙が見えたと思ったならば、龍へ向かって尚駆けて。

 

跳び方は、キリンの様にジグザグと。

走り方は、前へ前へと地を蹴っていく。

 

龍は僅かに頭を揺らすと、前傾に構えた。

全裸と龍との距離、二十歩程度。

左右に揺れるそれに狙いを定め、炎妃龍が挙動を開始した。

 

両の前足で、地を踏み込む。

大地全てを背後へと蹴り飛ばしたかの様な錯覚に陥るほどの瞬発は、更に縮まった十歩と離れていない距離を瞬間のうちに詰め。

 

そして炎妃龍の突進は、“何にも当たらなかった”。

 

 

「だっはっは!正直だね!!」

 

 

ジグザグに急停止を織り交ぜて炎妃龍の狙いを逸らした全裸は、また龍との距離を詰め始めた。

勢いによって地を滑る龍は、疲労からかどこか動きが遅い。

 

タル内部にレンキンバズーカの元をぶち込んで勢い良く振る。

溢れ出した蒸気は龍炎の熱波に比べればぬるく、一周回って気持ち良くすら感じていた。

 

体温は上昇し続け、クーラードリンクでの体温調節も既に意味は無く。

汗の量が増え始めた事を自覚し、全裸は少しばかりの焦りを得た。

そんな状況で狙うは、龍にとって知覚外からのパンツ。

 

抱えたレンキンタルはフェイント。

 

それを警戒させるだけではないにしろ、注目させるためにより派手に、より大きな動作で注目を集める事が目的。

タルを右手で前に抱え、左手でポーチを漁る。

迷いなく掴むのは閃光玉と“ビン詰めのパンツ”。

龍の筋肉の動きと呼吸を観察し、タルを影としながら閃光玉を足元に落とした。

 

踏み出した左足は、閃光玉を龍の顔前へと蹴り飛ばす。

隙間だらけの素材玉内部に閉じ込められた光虫が、衝撃によって眩く輝いた。

この程度で怯む古龍ではない事は、全裸も重々承知している。

 

───閃光の中、全裸はパンツを捩じ込んだビンから手を離した。

タルの陰からほぼ垂直に落ちる瓶は走行する全裸から置いていかれるように股を抜け、“踵で蹴り上げられる”。

ビキ、と罅が入れば、内部へと空気が入り込み。

 

 

「おみょみょっくちょんまぅあ───!!」

 

 

人語ですらない何かを叫びながら全裸は足を縺れさせる事も無く走っていく。

龍の視線を下に向けさせれば、全裸は龍の視線を避けるかのように全力で横へと跳んだ。

当然、それを追うように龍が視線を動かして。

 

 

完璧な調整によって龍の頭上へと蹴り上げられたビンの中で、空気にマカ麹が反応してようやくパンツが燃え始める。

コルク栓によって密封されていたパンツは既にマカ麹によって変質しており、レンキンバズーカと呼ばれる状態になっていた。

空気が入り込めば燃焼を始め、やがて爆発する。

 

地を再度蹴って龍の体下に潜り込むと、杏はこれから起こる爆発から身を隠した。

タルを前に抱えたのも、動作を派手にしたのも、ビンが見えないように投げた閃光玉も、視線を集めるための奇声すら全てこの瞬間を作るためのものである。

 

 

───龍の頭にコツンと当たったビンは、その小さな衝撃で爆発した。

 

 

ビンのガラス片を爆発によって全方位に吹き飛ばし、パンツは使命を全うする。

炎妃龍の顔は甲殻が厚くない。

高速で飛ぶガラス片は顔中に深く刺さり、片目すら奪った。

知覚外から与えられた痛みに体を退け反らせた龍へ、全裸は追撃を始める。

 

 

「くらえオラァン!」

 

 

体下よりタルからパンツした。

言語とはとても難しいが、更にもう一度タルにパンツをぶち込んでパンツを狙う。

炎妃龍の腹下は数度のパンツによって皮膚と肉が剥げ、赤の色が青い甲殻を汚していた。

 

 

「…目が潰れたかな」

 

 

全裸の姿を追えていない龍を見て、行動を修正する。

タルの中に手を突っ込みながら体下から出れば、風圧によって地へと押し付けられた。

 

 

「あっぢゃぎゃぎゃぶべら!?」

 

 

青の塵が全身に乗り、その熱さに全裸は地を転がる。

火山地帯特有の煤の混ざった砂が、汗で濡れた全身に付着した。

 

距離にして、ほぼ密着状態。

上から来た風圧は、翼を強い力で動かしたという事。

 

 

「…やばくね?」

 

 

───炎妃龍が、地を離れた。

 

その巨体を回転させながら浮かせる負担に、ガラス片の刺さった翼からは古い組織片だけではなく、細かな肉片も一帯へと散らされる。

その量、龍の周囲に収まらず、果てにはエリア全域に青の色が乗り。

 

青の炎が、薄く地を染めた。

 

 

「やばああああああああ!!!!」

 

 

焦りを滲ませる全裸の言葉は、羽ばたきに飛ばされて。

炎妃龍の喉より溢れ出した龍炎が、体中に付着した血液を焼く。

龍の全身は、終ぞ龍炎を纏っていた。

 

 

“天から反転、地へと堕つ”。

 

 

龍を中心とした爆発と言えるであろう、衝撃と風圧が龍炎を撒き散らす。

薄く炎を上げていた青の塵は、赤の龍炎に触れた瞬間、青く激しく燃え上がった。

 

再度羽ばたけば、空気を送られた青の炎が更に燃え上がり。

対象を退かすための風ではなく、燃やし尽くすための風で炎が咲く。

溶岩の赤すら感じられないほど、一帯は青しか見えず。

 

 

「───正解は逃げないだよん、メスっこ」

 

 

人の活動などとても考えられないような青炎の中で、それでも全裸は立っていた。

炎に晒されるたびに体は火傷の様に赤くなるが、それだけに留まっている。

 

全裸の手には、小さな木の実にも似た、黄色い小さな球体が幾つも握られていた。

レンキン活力剤と、レンキンフエールの調合後の姿である。

液状のレンキン活力剤にタル内の結晶化したレンキンフエールを浸し、それを取り出しただけの丸薬擬き。

 

それを口に含むたび、徐々に体の火傷が癒えていく。

やがて青の炎に対し、その回復量が完全に上回った。

それが、マカ麹の奇蹟である。

 

対して炎妃龍の傷は焦げ、皮膚に護られていない肉と臓腑は激しい龍炎の熱に焼けていた。

重傷を越え、既に瀕死。

それでも、龍は喉から血と共に炎を溢す。

 

全裸は既に、龍の顔前にいた。

潰れた片目の死角から接近し、既にタルの開口部を向けていて。

 

 

「ばいばい」

 

 

爆発音が、弾けた。

衝撃に脳を揺らし、炎妃龍はゆっくりと地に伏せる。

最早立ち上がる気配は無く、徐々に呼吸は小さくなっていき。

 

全裸は目を閉じ、投げキッスを一つ。

龍に背を向けて青炎に生肉を翳した。

 

 

「…うわにっげェ!!」

 

 

龍炎で焼かれた肉など、体に入れて良いことなど殆どない。

若干舌の痺れを残し、肉を溶岩へと放り投げてキャンプへと足を進める。

 

 

「ボクのお肌真っ赤なんだけど…あっ団長じゃ───ん!!イサナ号乗せてよ!!暑くてさあ!ほら見ろよこの乳首いつもより赤くね!!?」

 

 

――――クエストを達成しました――――

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